「ロシアによるウクライナ4州の併合宣言」の版間の差分
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2022年10月14日 (金) 09:39時点における版
ロシア連邦によるウクライナ東部・南部4州の一方的併合 | |||||||
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2022年ロシアのウクライナ侵攻中 | |||||||
青色で着色された部分が併合宣言の対象 破線内はロシア軍の占領地域 破線外はウクライナ側の支配地域 | |||||||
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衝突した勢力 | |||||||
ウクライナ |
ロシアによるウクライナ4州の併合宣言(ロシアによるウクライナ4しゅうのへいごうせんげん)は、2022年ロシアのウクライナ侵攻下の同年9月30日、ロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチンが行った、ウクライナ東部・南部4州(ドネツク州、ルガンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)の併合宣言である[4]。
この併合はロシア連邦議会によって承認され、プーチン大統領は翌10月5日、これら4州をロシア連邦に編入するための「条約」の批准法案と国内法改正案に署名し、ロシア連邦としての法的手続きを完了した[5]。
ウクライナ政府やそれを支援する西側諸国だけでなく、複数の第三国、国際連合事務総長などは、併合宣言に先立つロシア占領下のウクライナでの2022年の併合住民投票実施が発表された段階から、4州のウクライナからの分離やロシア編入を認めないことを表明してきた。併合手続き時点で、2022年ウクライナ夏季の反転攻勢により4州の一部地域はウクライナ軍が奪還しており[5]、ロシア連邦軍や親ロシア派勢力の実効支配は4州全域には及んでいない。
概要
ロシア占領下のウクライナ4州で2022年9月23日から27日にかけて実施された「住民投票」では、ロシア編入への賛成が各州とも90%前後だったと発表されたが、ロシア側が「選挙管理委員会」を運営し、兵士や警官が戸別訪問に同行して投票を求めるなど公正とは言い難い方法だった[6][7]。
ロシアのプーチン大統領は9月29日、4州のウクライナからの「独立」を一方的に承認する大統領令に署名[8]。翌9月30日には首都モスクワのクレムリンで[9]およそ40分間の演説を行い[10]、投票結果について、4州住民が「あり得る唯一の選択をした」と発言[9]。「(併合は)数百万の人々の意思であり、ルガンスク、ドネツク、へルソン、ザポロジエ(ザポリージャ)に住む人々は永遠にわれわれの同胞となる」などと主張し[4]、演説後に同4州の親露派代表(ドネツクのデニス・プシーリン、ルガンスクのレオニード・パセチニク、ヘルソンのヴォロディミール・サルド、ザポリージャのエフゲニー・バリツキー)との間でそれぞれの地域をロシアが「併合」することを定めた「条約」を結んだ[4]。30日夕方には赤の広場の集会で演説し、「ウクライナをつくったのはロシア」「住民が投票によって歴史的な祖国であるロシアと一緒になることを選んだ。おかえりなさい」などと語った[11]。
タス通信によると、ロシア憲法裁判所は10月2日にこの併合条約を合憲と判断しており、ロシア連邦の地方区分としては、同国がウクライナ侵攻直前に独立を承認した「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」はその名称のまま、他の2州は州とする[12]。ロシアの国内法では領土の併合には「外国からの要請」が必要と定められており、住民投票における質問項目は、「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」ではロシアへの編入に賛成するか、他の2州では独立国になったうえでロシアへの編入に賛成するかだった[7]。
ロシア側当局者によると、併合対象地域の面積は11万3000平方キロメートルで、編入により「ロシア国民」が500万~600万人増える[7]。ウクライナ政府は2021年時点で、4州の人口をドネツィク州は約410万人、ルハンスク州は約210万人、へルソン州は約100万人、ザポリージャ州は約160万人と推計していた[13]が、その後は戦火による死亡や域外避難、ロシアによる拉致などにより変動しているとみられる。ロシアは住民投票や併合宣言前から、ザポリージャ州とへルソン州で住民のロシア国籍取得手続きを簡素化したり、ロシア・ルーブルを通貨として流通させたりするなど占領地のロシア化政策を進めてきた[14]。
ロシア政府によると、ムィコラーイウ州でロシア軍が占領している一部地域も、へルソン州の併合地に含まれると解釈している[15]。
ウクライナの対応
ウクライナ政府は、2014年のロシアによるクリミアの併合を含めて法的効力を認めておらず、東南部への反攻作戦を継続している。ウクライナ保安庁は併合宣言前の段階で、「住民投票」に協力した4000人を特定しており刑事訴追を進めると発表している[16][17]。
ウクライナの大統領ウォロディミル・ゼレンスキーは今回の行動を猛烈に批判し[18]、対抗処置として、北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を進めることを表明した[19]。ゼレンスキー大統領は、ウクライナは事実上NATOの同盟国であり、これを「法的な形にすることを申請する」と説明した[11]。
10月4日にはプーチン大統領との和平交渉は「不可能」であるとする法令に署名した[20]。ゼレンスキー大統領は「ロシアとの交渉の用意はあるが、別の大統領とだ」と発言したほか、この法令はウクライナ国家安全保障・国防会議が所管し、親ロシア派地方当局によるロシア編入に向けた動きを規制する狙いもあると報道されている[21]。
ロシア連邦憲法は2020年の改正で領土割譲を禁じており、日本の慶応大学准教授である鶴岡路人は、併合宣言によりロシアにとって和平合意は不可能になるとの見解を示した[22]。
国際社会の反応
国際連合
国際連合の事務総長アントニオ・グテーレスは29日、「併合のためのいかなる決定も法的な価値を持たず[23]」、国連憲章と国際法違反であると非難した[10]。
併合宣言後の同日、国際連合安全保障理事会では、ウクライナ4州における「住民投票」を非難し、それを根拠としたロシアへの併合を認めないとする決議案がアメリカ合衆国とアルバニアにより提出され10カ国が賛成したが、ロシアの拒否権発動で否決された(中華人民共和国、インド、ブラジル、ガボンが棄権)[11][4]。
10月12日、国連総会の緊急特別会合で、ロシアによるウクライナ4州併合は無効だとする決議が143か国の賛成により採択された[24]。
G7
主要国7か国(G7)外相は「最も強い言葉で非難する」という共同声明を発表[11]、併合を断じて容認しない旨を表明した[4]。
NATO
NATO事務総長イェンス・ストルテンベルグは、侵攻以来「最も深刻なエスカレーション」であると批判した[4]。ウクライナからの加盟申請については中欧・東欧のNATO加盟9か国が10月2日に支持声明を発表したが、全ての加盟国の同意を得るのは困難とみられ、ストルテンベルグも、ウクライナの自衛支援が優先課題という見解を示している[25]。
各国
- アメリカ合衆国 - 宣言前の9月29日、アメリカ合衆国大統領ジョー・バイデンは「ウクライナの主権領土を自分たちのものだとするロシアの言い分を決して、決して、決して認めない」と述べた[9]。併合宣言を受けて対ロシア制裁を拡大し[4][26]、9月30日発表分では、ロシア連邦中央銀行総裁エリヴィラ・ナビウリナやロシア連邦議会議員ら約280人の資産凍結・金融取引制限などを盛り込んだ[27]。バイデン政権は10月4日にはウクライナへの追加軍事支援(6億2500万ドル相当)を発表した[28]。
- フランス - エマニュエル・マクロン大統領は9月30日、併合宣言を違法と非難し、ウクライナが「ロシアの侵略に立ち向かい、全領土で完全な主権を回復するため」支援すると声明した[29]。
- イタリア - 9月の国政選挙で勝利した「イタリアの同胞」党首ジョルジャ・メローニは10月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議し、併合宣言は「法的にも政治的にも価値はない」と効力を否定した[28]。
脚注
出典
- ^ “Putin signs decrees paving way for annexing Ukraine territories of Kherson and Zaporizhzhia”. The Guardian (2022年9月30日). 1 October 2022閲覧。
- ^ “Putin annexes four regions of Ukraine in major escalation of Russia’s war”. The Guardian (2022年9月30日). 1 October 2022閲覧。
- ^ “Ukraine applies for Nato membership after Russia annexes territory”. The Guardian (2022年9月30日). 1 October 2022閲覧。
- ^ a b c d e f g h “ロシアの4州「併合」宣言をG7非難、ウクライナはNATO加盟申請”. ロイター. (2022年10月1日)
- ^ a b 露「4州併合」法成立 ウクライナは8集落奪還『産経新聞』朝刊2022年10月6日1面(2022年10月10日閲覧)
- ^ 【焦点】ウクライナ「住民投票」疑義消えぬ「賛成多数」軍の圧力下 投票の指摘『毎日新聞』朝刊2022年9月29日2面(2022年10月10日閲覧)
- ^ a b c 露編入「住民投票」反露派を選管排除 警察官伴い自宅訪問「圧力」か『産経新聞』朝刊2022年9月24日2面(2022年10月12日閲覧)
- ^ ウクライナ南部2州「独立承認」露大統領 一方的に署名『読売新聞』夕刊2022年9月30日1面(2022年10月10日閲覧)
- ^ a b c “ロシア、ウクライナ4州の「編入」を一方的に宣言 ウクライナはNATO加盟申請を発表”. BBC. (2022年9月30日)
- ^ a b “プーチン大統領 ウクライナ4州の併合 一方的に宣言か”. NHK. (2022年9月30日)
- ^ a b c d NATO ウクライナ、加盟申請 ロシア「併合」に対抗 全30カ国の合意課題『日本経済新聞』夕刊2022年10月1日1面(2022年10月11日閲覧)
- ^ 「併合」法案 議会に提出 プーチン氏 憲法裁は合憲判断『日本経済新聞』朝刊2022年10月3日(国際面)2022年10月12日閲覧
- ^ 親露派住民投票「クリミア再現」狙い/併合後の戦闘激化 欧米懸念『読売新聞』朝刊2022年9月24日2面
- ^ 「露国籍取得を簡素化 ウクライナ2州 支配強化狙う」『毎日新聞』朝刊2022年5月27日(国際面)2022年10月12日閲覧
- ^ 4州「併合条約」プーチン大統領署名『東京新聞』朝刊2022年10月6日(国際面)2022年10月10日閲覧
- ^ 「ウクライナ 住民投票関与4000人訴追」『読売新聞』2022年9月25日2面
- ^ 【解説】ウクライナ「裏切り者は必ず捕まえる」ロシア協力者摘発(油井'sVIEW) NHK(2022年9月27日)2022年10月10日閲覧
- ^ “ロシア・プーチン大統領、ウクライナ4州の併合を宣言”. 日テレ. (2022年9月30日)
- ^ “一方的にウクライナ4州を“併合宣言” プーチン氏 式典で国歌を熱唱”. テレビ朝日. (2022年10月1日)
- ^ 「プーチン大統領とは交渉せず、ゼレンスキー大統領が法令に署名」ロイター(2022年10月4日)2022年10月10日閲覧
- ^ プーチン氏と交渉「不可能」に ウクライナ法令施行『毎日新聞』朝刊2022年10月6日(国際面)2022年10月11日閲覧
- ^ 鶴岡路人氏 慶応大准教授(国際安全保障)和平への道閉ざす併合宣言『朝日新聞』朝刊2022年10月2日(国際面)2022年10月10日閲覧
- ^ “ロシア 今夜 ウクライナ4州併合表明か 国際社会の非難強まる”. NHK. (2022年9月30日)
- ^ “ウクライナ4州「併合」は違法で無効 国連総会がロシア軍撤退求める決議案採択 反対はロシア、北朝鮮など5カ国”. 東京新聞. (2022年10月13日)
- ^ 「ウクライナのNATO加盟 中・東欧9カ国が支持表明」『産経新聞』朝刊2022年10月4日(国際面)2022年10月10日閲覧
- ^ “米大統領「決して認めない」 ロシアのウクライナ4州併合発表で”. TBS NEWS DIG. (2022年10月1日)
- ^ 米、対露制裁を拡大「併合」非難 議員ら資産凍結『読売新聞』夕刊2022年10月1日1面
- ^ a b 米欧、4州奪還へ追加支援/ウクライナ「併合」認めず ロシアの核威嚇警戒『日本経済新聞』朝刊2022年10月6日(国際面)2022年10月12日閲覧
- ^ フランス大統領府は9月30日、ロシアによるウクライナ4州の違法な併合を断固非難するマクロン大統領の声明を発表しました。駐日フランス大使館(2022年10月3日更新)2022年10月13日閲覧
- ^ “岸田首相がゼレンスキー氏と電話会談、ロシアによる併合「強く非難」…日本の支援に深い感謝”. 読売新聞. (2022年9月30日)
- ^ “ロシアは「重大な国際法違反」 4州の併合容認せず―トルコ”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2022年10月1日). 2022年10月1日閲覧。
- ^ a b ウクライナ「住民投票」締め切り/ロシア 4州併合強行へ/親ロ国の一部も非難『東京新聞』朝刊2022年9月28日(国際面)