2022年のロシアの実業家不審死
本項、2022年のロシアの実業家不審死(2022ねんのロシアのじつぎょうかふしんし)では、2022年(令和4年)に複数のロシア関係の実業家が変死し、一部の情報源がその事件が不可解な状況下で起きたことを示唆している事例について説明する[1][2][3][4]。
分析
[編集]2022年6月3日、オランダのNOSニュース・ネットワークは、「今年初めからロシアの億万長者達(多くが石油およびガス産業)が相次いで異常な状況下で死亡しているのが発見された」「最初(の死者)はロシアのエネルギー大手ガスプロムの輸送部門責任者である60歳のレオニード・シュルマンで、1月30日にレニングラード地方の別荘の浴室で死亡しているのが発見された。遺体のそばには遺書があった」と報じた[4]。2022年7月6日、CNNポルトガルは、この件について「クレムリン(ロシア政府)と直接的または間接的なつながりを持つ億万長者達が、年初から奇妙な筋書きで死亡していることが判明した」と説明した[5]。CNNはまた、「2014年から2017年の間に、クレムリンに近い38人のロシア人実業家とオリガルヒが不可解または疑わしい状況で死亡した」と結論付けたUSAトゥデイの以前の調査にも言及している[5]。
死亡したロシア人実業家の友人や家族は概して、彼らが自殺や場合によっては彼らの妻と子供も殺すことは「考えられない」とみており、不可解な死について独立した調査を要求している[4]。両親と妹がリョレト・デ・マルで死亡しているのが発見された時にスペインにいなかったセルゲイ・プロトセーニャの息子は、父親は加害者ではなく(「私の父は殺人者ではない」)、他の誰かによって両親と妹は殺害されたと語った[4] 。プロトセーニャは、ガス大手ノヴァテクの元CEOであり、同社は彼は「本当の家庭的な男性」だったとし、スペイン当局に徹底的かつ公平な調査を行うよう求める声明を発表した[4] 。
2022年のロシアのウクライナ侵攻開始時にロシアを離れ、自由ロシア軍団に加わったウクライナ出身のガスプロムバンク元副社長イーゴリ・ヴォロブエフは[6][7]、ザ・インサイダーとLiga.netのインタビューで一連の事件について言及[4][8]。ガスプロムやノヴァテクの経営陣の不審死が全て自殺という発表であることに疑義があるという記者に対し、「どうしたんですか?元下院議員で元FSB大佐のゲンナジー・グドコフ氏は、これが国有企業のトップと何らかの関係を持った上での決着であることを否定していない」と述べ、死亡者を直接には知っていないとしながらもウラジスラフ・アバエフとセルゲイ・プロトセーニャの件について理解している限りのことを説明している。いずれの件においても自殺という話を信じられず、自殺の演出であると思っていると話している[9]。
- ウラジスラフ・アバエフはガスプロムの初代副社長で、死亡時にはロシアの第一副首相の代理人であった。アバエフは「もうアキモフ(社長)やミレル(会長)のために働くことはできない」と公言、副会長であるウラジミール・リスキンに報告している。リスキンはガスプロムバンクで人事と銀行のVIP顧客向けの特別サービスを担当しており、アバレフは彼らの口座や収入情報にアクセスできる立場にあったという。「マスコミの皆さんは、なぜこのようなことが行われたのか、理解してください。ガスプロムバンクからの痛手を逸らすため。控えめに言ってもスキャンダルだからです」とヴォロブエフはこのことを説明している。
- セルゲイ・プロトセーニャはリュレッド・ダ・マールの別荘で死亡しているが、ロシアからの移民が多いところであるという。
ロシア連邦政府を批判する実業家のビル・ブロウダーは、プーチンはイエスマンにはならないと彼が考える重要業界の有力なビジネスリーダーの処刑を個人的に命じ、彼らの後任を死や暴力の脅威で脅している」との意見を述べた[10]。
死亡者リスト
[編集]氏名 | 役職 | 死亡日 | 遺体発見場所 | 状況 |
---|---|---|---|---|
レオニード・シュルマン | ガスプロムの輸送部門責任者[11][12][13][5][4] | 2022年1月30日 | レニングラード州の邸宅の浴室[4] | 遺体の横から遺書が発見された[4] |
イーゴリ・ノソフ | 極東・北極圏開発公社(KRDV)社長[14] | 2022年2月8日 | モスクワ | 脳卒中を起こしたと報じられている[15] |
アレクサンドル・チュラコフ | ガスプロムの金融証券部門副理事[11][13][5][4] | 2022年2月25日 | サンクトペテルブルクの邸宅のガレージ[4] | 遺体から遺書が発見された[4] |
ミハイル・ワトホード | 実業家[13][16][5][4] | 2022年2月28日 | サリーの邸宅のガレージ[4] | 英当局は犯罪の証拠を発見していない[4] |
バシリー・メルニコフ | 医薬品会社メドストムのCEO兼オーナー[13][5][4] | 2022年3月23日 | ニジニ・ノヴゴロドのアパート[4] | 妻と二人の息子は彼の傍で死亡しているのが発見された[4] |
ウラジスラフ・アバエフ | ガスプロムバンクの元副社長[13][5][17] | 2022年4月18日 | モスクワの高級アパート[4] | 妻と13歳の娘は彼の傍で死亡しているのが発見された[18][4] |
セルゲイ・プロトセーニャ | ノヴァテクの元副会長[19][4] | 2022年4月19日 | スペインのリュレッド・ダ・マールの邸宅の庭[4] | 邸宅内から暴力を受けた痕のある妻と娘の遺体が発見された。当局は2人を殺害した後、自殺した家庭内暴力事件とみている[20][18][4] |
アンドレイ・クルコフスキー | ガスプロムが所有するエストサドクのスキーリゾート「クラスナヤ・ポリャナ」のゼネラルディレクター[5][17] | 2022年5月2~3日 | ソチ[5]の アチプセ要塞付近の崖[17] | アチプセ要塞へのハイキング中に崖から転落したと報じられた[17] |
アレクサンドル・スボティン | ルクオイルの取締役[21][5] | 2022年5月8~9日 | モスクワ郊外の呪術師の自宅地下室[19][4] | 当時アルコールと薬物の影響下にあったスボティンの「二日酔いを和らげる」儀式後に心臓発作で死亡したとされているが、批評家は「ヒキガエルの毒」で毒殺されたと主張している[22][4] |
ユリ・ヴォロノフ | ガスプロムの下請企業「アストラ・シッピング」のCEO[5] | 2022年7月4日 | レニングラード州サンクトペテルブルクのプール[23][5] | 頭には銃創があり、遺体の横から銃が発見された[5] |
ダン・ラポポート | 実業家[24] | 2022年8月14日 | ワシントンD.C.の高級アパート | 自宅アパートから転落死したと報じられた[24] |
ラビル・マガノフ | ルクオイル会長[5] | 2022年9月1日 | モスクワのクレムリン病院の窓の下[25] | 報道によると、心臓病とうつ病で入院し、その後「窓から転落した」[25] |
イヴァン・ペチョーリン | 極東・北極圏開発公社の航空部門幹部[14] | 2022年9月10日[26][27] | ウラジオストクから160kmのベレゴヴォエ | ウラジオストクのイグナチェフ岬で溺死し[28]、2日後にベレゴヴォエで遺体が発見された[27]
自分のボートから転落[29] |
ウラジミール・スンゴルキン [ru] | コムソモリスカヤ・プラウダ編集長 | 2022年9月14日[30] | ハバロフスク地方ロシチノ村 | 報道によると、昼食に向かう途中で脳卒中を起こし、窒息死[30] |
アナトリー・ゲラシチェンコ[ru] | モスクワ航空研究所元所長[31] | 2022年9月21日[32][33] | モスクワ[32][33] | 研究所内の階段から転落[32][33] |
パヴェル・プチェルニコフ | ロシア鉄道子会社「デジタル・ロジスティックス」の最高経営者[34][35] | 2022年9月28日[35] | モスクワのアパート[34][35] | 自宅アパートのバルコニーで銃で自殺したと報じられる[34][35] |
パヴェル・アントフ | 食肉加工業[36]、ロシア・ウラジーミル州の議員[36] | 2022年12月24日[36] | インド東部オディシャ州のホテル[36][37] | アントフの誕生日をホテルで祝っていた時、アントフはオディシャ州ラヤガダのホテルの3階の窓から転落した[37][38]。その数日前には、アントフの同行者も同じホテルで死亡した[38]。 |
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ “A Wave of Mystery Suicides of Russian Gazprom Executives” (英語). Warsaw Institute (2022年4月24日). 6 July 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月29日閲覧。
- ^ Rahman, Khaleda (2022年4月27日). “Russian oligarch deaths were not suicide, says gas exec who fled country” (英語). Newsweek. 29 July 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月29日閲覧。
- ^ Deutsche, Welle. “Mysterious series of deaths among Russian oligarchs | DW | 07.05.2022” (英語). DW.COM. 6 July 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y Iris de Graaf (3 June 2022). “Mysterieuze reeks 'zelfmoorden' onder Russische oligarchen [Mysterious series of 'suicides' among Russian oligarchs]” (オランダ語). NOS.nl. オリジナルの1 September 2022時点におけるアーカイブ。 1 September 2022閲覧. "...een grimmige reeks aan Russische miljardairs, velen uit de olie- en gassector, die onder ongebruikelijke omstandigheden dood zijn aangetroffen sinds begin dit jaar. Het begon op 30 januari, toen de 60-jarige Leonid Sjoelman, hoofd transport van de Russische energiegigant Gazprom, dood werd aangetroffen in de badkamer van zijn buitenhuis in de regio Leningrad. Naast zijn lichaam lag een afscheidsbrief."
- ^ a b c d e f g h i j k l m n “Yet another Russian tycoon found dead under mysterious circumstances. Found in the pool at home” (ポルトガル語). CNN Portugal. オリジナルの9 July 2022時点におけるアーカイブ。 2022年7月9日閲覧。
- ^ “Former Gazprombank executive Igor Volobuev joins the Freedom to Russia Legion within the Ukrainian Armed Forces”. Novaya Gazeta (11 June 2022). 11 June 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。12 June 2022閲覧。
- ^ “'I could not be part of this crime': the Russians fighting for Ukraine”. The Guardian (14 June 2022). 27 June 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。14 June 2022閲覧。
- ^ “Вице-президент "Газпромбанка" Игорь Волобуев уехал в Украину, собрался вступить в тероборону и назвал смерть топ-менеджера Аваева убийством” [Igor Volobuyev, Vice-President of Gazprombank, left for Ukraine, was about to join the defence and called the death of top manager Avayev a murder] (ロシア語). The Insider (26 April 2022). 5 July 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。1 September 2022閲覧。
- ^ “Интервью | "Я участвовал в войне". История вице-президента Газпромбанка, который сбежал из России”. Liga.net (2022年4月26日). 2022年12月27日閲覧。
- ^ “Russia's millionaires dying in 'epidemic of murder' to fund Vladimir Putin's war in Ukraine, says campaigner”. ABC News (2022年10月3日). 2022年10月3日閲覧。
- ^ a b 編集部, TNL JP (2022年4月25日). “一家心中?相次ぐロシア大富豪と家族の死 プーチン氏の取り巻き関与を露SNSは示唆”. The News Lens Japan. 2022年10月3日閲覧。
- ^ “ロシア人実業家の死亡報道止まらず、1月以降8人 いずれも自殺か事故の可能性”. CNN.co.jp. 2022年10月3日閲覧。
- ^ a b c d e “At least five Russian businessmen have died by apparent suicide in just three months” (英語). CNN. オリジナルの6 July 2022時点におけるアーカイブ。 2022年7月9日閲覧。
- ^ a b “ロシア公社幹部、遺体で発見 社長も、不審死相次ぐ”. 時事ドットコム. 2022年10月3日閲覧。
- ^ “A Kremlin ally died falling down the stairs, report says — the latest in a series of unexplained deaths among prominent Russians”. Business Insider. 2022年10月4日閲覧。
- ^ “Mikhail Watford: Ukrainian oligarch's death investigated by Surrey Police” (英語). BBC. オリジナルの9 July 2022時点におけるアーカイブ。 2022年7月9日閲覧。
- ^ a b c d “The death of the Russian oligarchs” (トルコ語). CNN Türk. オリジナルの9 July 2022時点におけるアーカイブ。 2022年7月9日閲覧。
- ^ a b “ロシア人実業家の自殺報道相次ぐ、3カ月で少なくとも5人”. CNN.co.jp. 2022年10月2日閲覧。
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- ^ Sánchez, Guillem (28 April 2022). “La conexión del crimen de Lloret de Mar con Rusia” (スペイン語). elperiodico 2 September 2022閲覧. "Sergey se había colgado de una barandilla exterior. [...] Los agentes creen que primero golpeó con el dorso del hacha en la cabeza de las víctimas y, una vez inconscientes, las mató con un cuchillo."
- ^ “"Toad poison" hangover treatment reportedly kills Russian oil executive at the house of a "shaman" near Moscow” (英語). CBS News. オリジナルの9 July 2022時点におけるアーカイブ。 2022年7月9日閲覧。
- ^ “やはり「プーチンを裏切った」代償? 止まらないロシア富豪の「奇怪な死」の連鎖”. Newsweek日本版 (2022年9月23日). 2022年10月3日閲覧。
- ^ “ロシア最大の民営石油会社議長、転落死…「エネルギー業界の大物」5人目の死去”. 中央日報. 2022年10月3日閲覧。
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- ^ a b “Topman Russisch gas- en oliebedrijf Lukoil komt om het leven 'na val uit raam'” [Top man of Russian gas and oil company Lukoil dies 'after falling from a window'] (オランダ語). NOS.nl (1 September 2022). 1 September 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。1 September 2022閲覧。
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- ^ “Putin ally falls into the sea, adding to list of mysterious deaths suffered by Russian energy bosses”. Business Insider (September 13, 2022). September 13, 2022閲覧。
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- ^ a b c “У Москві застрелився топменеджер дочірньої фірми «Російських залізниць» Павло Пчельников”. Судово-юридична газета (29 September 2022). 29 September 2022閲覧。
- ^ a b c d Helen Bourdain (28 September 2022). “На росії раптово загинув топ-менеджер РЖД Пчельніков: подробиці”. StopCor. 29 September 2022閲覧。
- ^ a b c d “ロシア人富豪、ホテルで転落死 「ウクライナ侵攻批判の書き込み」浮上も否定”. BBCニュース 2023年1月1日閲覧。
- ^ a b “侵攻批判のロシア富豪、インドで死亡 同行者の死亡直後(写真=AP)”. 日本経済新聞 (2022年12月28日). 2023年1月1日閲覧。
- ^ a b 浩, 森 (2022年12月28日). “ロシアの議員がインドで不審死 プーチン政権批判?”. イザ!. 2023年1月1日閲覧。
外部リンク
[編集]- 「プーチンがウクライナに侵攻して以来死亡したすべてのロシア当局者の完全なリスト」- ニューズウィークのジュリア・カルボナロ (2022-04-22)
- 「ロシア新興財閥の相次ぐ死亡、一部で暗殺を疑う声 5人のオリガルヒが家族を殺した後自殺と報道」 - 日刊スポーツ(2022年4月23日)
- 特殊部隊しか持っていない銃で副社長が一家心中…ロシアで「民間人のあからさまな不審死」が相次ぐワケ 池上彰「わざと証拠を残すのはソ連時代からの伝統的手口」 - PRESIDENT Online(2022年7月25日)
- 「オリガルヒ〝不審死〟続出のウラ側 安全保障専門家が指摘『プーチンの指示とみて間違いない』」 - 東スポWEB(2022年9月5日)
- “Suspicious Russian Deaths: Is Putin Killing Oligarchs?”. YouTube. TLDR News EU (26 September 2022). 2022年10月4日閲覧。