スッタニパータ
スッタニパータ Sutta Nipata | ||
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訳者 | 中村元ほか | |
発行日 | 1984-05-16 | |
発行元 | 岩波書店など | |
ジャンル | 聖典 | |
言語 | パーリ語 | |
形態 | 文庫本など | |
コード |
ISBN 4-00-333011-0 ISBN 4-00-007007-X | |
ウィキポータル 仏典 | ||
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『スッタニパータ』(巴: Sutta Nipāta)は、セイロン(スリランカ)に伝えられた、いわゆる南伝仏教のパーリ語経典(原始仏典)の小部に収録された経のこと。
「スッタ」(Sutta)はパーリ語で「経」の意[注 1]、「ニパータ」(Nipāta)は「集まり」の意、あわせて『経集』の意となり、『南伝大蔵経』のようなパーリ語経典日本語訳の漢訳題名でも、この名が採用されている[1]。
文字通り古い経を集めたものであり、その一部に対応する漢訳経典としては『義足経』(大正蔵198)がある[2]。第4章と第5章に対する註釈として、サーリプッタ(舎利弗)の作と伝承される同じく小部に収録されている『義釈』がある[3]。
構成
[編集]『スッタニパータ』は、以下の全5章から成る。
- 第1章 - 蛇(Uraga-vagga)
- 第2章 - 小(Cūḷa-vagga)
- 第3章 - 大(Mahā-vagga)
- 第4章 - 八(Aṭṭhaka-vagga)
- 第5章 - 彼岸道(Pārāyana-vagga)
内容
[編集]『ダンマパダ』は初学者が学ぶ入門用テキストであるのに対し、『スッタニパータ』はかなり高度な内容を含んでいるため、必ずしも一般向けではない。
有名な「犀の角のようにただ独り歩め」というフレーズは、ニーチェにも影響を与えた[4]。
南方の上座部仏教圏では、この経典のなかに含まれる「慈経」、「宝経」、「勝利の経」などが、日常的に読誦されるお経として、一般にも親しまれている。
現代の事情にそぐわない内容も含まれているが、悩み相談に応用可能な内容も多い[5][6]。
2021年、京都大学こころの未来研究センターの熊谷誠慈准教授(仏教学)はスッタニパータをAIに学習させた「ブッダボット」を発表した[6][7][5]。
成立
[編集]最初期に編纂された最古の仏典のひとつとされ、対応する漢訳は一部を除いて存在しない(第4章『八つの詩句』/支謙訳:仏説義足経(大正蔵198))。現代では日本語訳として『南伝大蔵経』の中におさめられている。ただし、『スッタニパータ』の中にも、新旧の編纂のあとが見られ、パーリ語の文法に対応しないインド東部の方言と推測されるマガダ語とみられる用語が含まれていることから、仏典の中でも最古層に位置づけられている。
また『スッタニパータ』の注釈書として、文献学的に『スッタニパータ』と同時代に成立したと考えられている『ニッデーサ』(義釈)が伝えられている。『スッタニパータ』の第4章と第5章のそれぞれに大義釈と小義釈が存在することから、この部分がもっとも古く、元は独立した経典だったと考えられている。
第4,5章最古層説
[編集]20世紀前半にリス・デイヴィッズ[8]や、Bimala Churn Law[9] は、スッタニパータの中でも4,5章は特に古いと考えた。以下の理由による。
- 小部内の注釈書義釈(ニッデーサ)はほぼ4,5章のみの注釈である。1-3章はその後にまとめられた可能性がある。
- 紀元前のパーリ語仏典中に、4章「アッタカヴァッガ」、5章「パーラーヤナ」などという書名の引用はあるが、「スッタニパータ」という書名の引用はない[注 2]。
前田惠學は4,5章について、
- 古代ヴェーダ語の語形が現れることが多い。
- 使われているヴァッタという韻律は古い。
の点からも4,5章はスッタニパータの中でも最古層であると主張した[11]。
この説はその後、1-3章と4,5章に使われる述語の違いなどからも確認され、現在定説となっている[10]。なお4章と5章のどちらが古いかについては定説はない。
日本への伝来
[編集]スッタニパータ全体の漢訳は存在しないため、日本に伝来することもなかった。近代に入り以下の翻訳がある。
- 立花俊道 訳「諸経要集」『国訳大蔵経 経部第11巻』国民文庫刊行会、1935年(原著1927年) 。
- 荻原雲来 訳『釈迦牟尼聖訓集 : 巴利文スツタニパータ』大東出版社、1935年。
- 水野弘元 訳「経集」『南伝大蔵経』 小部経典2、大蔵出版、1939年。
- 渡辺照宏 訳「スッタニパータ」『世界の大思想』 II-2、河出書房、1969年。
- 中村元 訳『ブッダのことば』岩波文庫、1984年。ワイド版1991年
刊行書誌
[編集]日本語訳
[編集]- 正田大観『ブッダその真実のおしえ スッタニパータ第四章 和訳と注解』シーアンドシー出版、2000年2月。ISBN 4-434-00065-9。
- 正田大観『ブッダのまなざし スッタニパータ第四章・第五章 和訳と注解』 上、アムリタ書房、2001年9月。ISBN 4-434-01296-7。スッタニパータの第四章「八つの偈」の和訳と注解。
- 正田大観『ブッダのまなざし スッタニパータ第四章・第五章 和訳と注解』 下、アムリタ書房、2001年9月。ISBN 4-434-01296-7。スッタニパータの第五章「彼岸への道」の和訳と注解。
- 『ブッダのことば スッタニパータ』中村元 訳、岩波文庫[12]、1984年5月。ISBN 4-00-333011-0 。
- 『ブッダのことば スッタニパータ』中村元 訳、岩波書店〈ブッダのことばシリーズ〉、1984年5月。ISBN 4-00-001989-9 。単行版
- 『ブッダのことば スッタニパータ』中村元 訳、ワイド版岩波文庫、1991年1月。ISBN 4-00-007007-X 。
- 『ブッダの教え スッタニパータ』宮坂宥勝 [13]訳著、法蔵館、2002年10月。ISBN 4-8318-7235-0。
- 元版「スッタニパータ」『世界の大思想 第2期 第2(仏典)』河出書房新社、1969年。オンデマンド版2005年
- 「スッタニパータ(釈尊のことば)」『原始仏典七 ブッダの詩Ⅰ』梶山雄一ほか 編集委員、講談社、1986年7月。ISBN 4-06-180677-7。他は「ダンマパダ(真理のことば)」を収録
- 新編『スッタニパータ 釈尊のことば 全現代語訳』荒牧典俊・本庄良文・榎本文雄 訳、講談社学術文庫、2015年4月。ISBN 4-0629-2289-4 。
- 『スッタニパータ ブッダの言葉』今枝由郎 訳、光文社〈古典新訳文庫〉、2022年3月。ISBN 4-334-75459-7。
関連文献
[編集]- アルボムッレ・スマナサーラ『慈経 ブッダの「慈しみ」は愛を越える』日本テーラワーダ仏教協会 編・出版〈「パーリ仏典を読む」シリーズ 1〉、2003年11月。ISBN 4-902092-01-8。
- 石川佾男『釈尊の問いかけ スッタ・ニパータ随想』第三文明社〈レグルス文庫 50〉、1975年。
- 小池龍之介『超訳 ブッダの言葉』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年2月。ISBN 978-4-88759-958-1 。
- 辻本鉄夫『経集概説(スッタニパータがいせつ)』顕真学苑出版部、1931年。
- 中村元『原始仏典』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2011年3月。ISBN 978-4-480-09367-7 。講話の新版
- 毎田周一『澄む月のひかりに スッタ・ニパータ』中山書房、1964年。
- 毎田周一「スッタ・ニパータ研究(未定稿)」『毎田周一全集 第1巻』同 刊行会、1969年。
- 由木義文『釈尊の生き方に学ぶ スッタニパータ法談』大法輪閣、1984年9月。ISBN 4-8046-1073-1。
- 渡辺照宏『法句経(真理の言葉) スッタニパータ』筑摩書房〈著作集 第5巻 仏教聖典 Ⅰ〉、1982年4月。
- 羽矢辰夫『ゴータマ・ブッダのメッセージ 「スッタニパータ」私抄』大蔵出版、2011年
- 今枝由郎『新編 スッタニパータ 日常語訳 ブッダの〈智恵の言葉〉』トランスビュー、2014年。ISBN 4798701459
英訳
[編集]- Buddha's Teachings - Being The Sutta Nipata Or Discourse Collection. Lord Chalmers (Paperback ed.). Chalmers Press. (March 15, 2007). ISBN 978-1-4067-5627-2
- Friedrich Max Müller, ed (November 29, 2000) [1881]. The Sacred Books of the East: Volume 10. Part 2. The Sutta-nipâta. Viggo Fausböll. Adamant Media Corporation. ISBN 1-4021-8582-0 - facsimile reprint of a 1881 edition by the Clarendon Press, Oxford.
- Sutta Nipata: Or Dialogues And Discourses Of Gotama Buddha. Mutu Coomara Swamy (Paperback ed.). Kessinger Publishing, LLC. (April 10, 2007). ISBN 1-4325-4552-3
- The Group of Discourses (Sutta-Nipata). I. K. R. Norman (Paperback (with notes) ed.). Oxford: Pali Text Society. (2001). ISBN 0-86013-303-6
- The Rhinoceros Horn and Other Early Buddhist Poems: The Group of Discourses (Sutta-Nipata, Vol 1). K. R. Norman, I.B. Horner, Walpola Rahula (Paperback (without notes) ed.). Oxford: Pali Text Society. (2001). ISBN 0-86013-154-8
- The Sutta-Nipata: A New Translation from the Pali Canon. H. Saddhatissa. London: RoutledgeCurzon. (January 17, 1995). ISBN 0-7007-0181-8
パーリ語原典
[編集]- Dines Andersen, Helmer Smith, ed (1990) [1913]. Suttanipāta. Pali Text Society. ISBN 0-86013-177-7
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ WEB南伝大蔵経目録 p.12
- ^ 原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究 - 中央学術研究所
- ^ 『パーリ上座部の経蔵に収載される “声聞の所説”の権威性を巡って』 - 清水俊史
- ^ 川鍋征行「ニーチェの仏教理解」『比較思想研究 』第8巻 p.44
- ^ a b “ブッダで悩みを解決、仏教対話AI「ブッダボット」の開発 -伝統知と人工知能の融合-”. 京都大学. 2022年7月10日閲覧。
- ^ a b 株式会社インプレス (2021年3月29日). “京都大ら、仏教を学習したAIが助言してくれる「ブッダボット」”. PC Watch. 2022年7月10日閲覧。
- ^ “悩みに答えるAIブッダ、幸せのヒントに…京大など開発中:地域ニュース”. 読売新聞オンライン (2021年8月4日). 2022年7月10日閲覧。
- ^ Rhys Davids "Buddhist India" G.P. Putnam's Sons, New York 1903 (中村了昭訳『仏教時代のインド』大東出版社 1984)
- ^ B.C.Law "A History of Pali Literature" Trubner, London 1933
- ^ a b 並川孝儀 『スッタニパータ 仏教最古の世界』 岩波書店 2008
- ^ 前田惠學 『原始仏教聖典の成立史研究』 山喜房仏書林 1964
- ^ 旧訳版『ブッダのことば スッタニパータ』初版は1958年
- ^ 再編訳著に『今日を生きるブッダのことば 『スッタニパータ』篇』春秋社、2008年。ISBN 4-393-13365-X。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 正田大観 (2007年3月17日). “スッタニパータ”. クリシュナムルティ学友会. 2009年11月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年1月4日閲覧。
- “Sacred Books of the East, Vol. 10: The Dhammapada and Sutta Nipata Index” (英語). Internet Sacred Text Archive. 2012年2月4日閲覧。