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日本のチョウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本のチョウは、日本に生息するチョウ及び記録されたことのあるチョウの一覧。チョウは世界に7科約18800種が知られ、日本からは320種余りが記録されている。このうち日本に生息するチョウは、昔からの在来種に、近年定着したと判断される偶産種や外来種を加えると、5科約250種である。内訳は、在来種が231種、偶産種から定着した種が13種、定着した外来種が2種である。ただし、過去には南西諸島の島々に10年以上連続して発生し定着したと思われた種が、なぜか消滅してしまったという例もあり、定着したと判断することはしばしば困難である。また、他の生物群同様、研究者の見解の違いにより種数が異なることもある。なお日本の固有種は18種あり、生息する種(外来種は除く)のうち固有種の占める割合は約7%となる。

凡例:偶産種とは、自然に移入してきたもの(いわゆる迷チョウ)で日本に定着していないとされる種とする。最近の趨勢に従って、外来種とは人為的な移入種のことのみとする[1]。偶産種および外来種のうち、その後定着したと思われるものには(定着)と付記した[2]

アゲハチョウ上科 Papilionoidea

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アゲハチョウ科 Papilionidae

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ウスバシロチョウ亜科 Parnassiinae

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  Luehdorfia puziloi inexpecta,本州産亜種

アゲハチョウ亜科 Papilioninae

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 Graphium doson perillus,八重山産亜種
   Atrophaneura alcinous yakushimana,屋久島産亜種
   Atrophaneura alcinous loochoona,沖縄産亜種
   Atrophaneura alcinous miyakoensis,宮古島産亜種
  Papilio (Achilides) dehaanii tokaraensis,トカラ産亜種
  Papilio (Achilides) ryukyuensis ryukyuensis,沖縄産亜種
Papilio (Menelaides) protenor liukiuensis,八重山産亜種

セセリチョウ科 Hesperiidae

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アオバセセリ亜科 Coeliadinae

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  Choaspes benjaminii formosana, 台湾産亜種

チャマダラセセリ亜科 Pyrginae

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       Pyrgus maculatus shikokuensis,四国産亜種

アカセセリ亜科 Hesperiinae

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       Carterocephalus palaemon akaishianus,南アルプス産亜種

シロチョウ科 Pieridae

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コバネシロチョウ亜科 Dismorphinae

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モンキチョウ亜科 Coliadinae

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      Colias (Colias) palaeno sugitanii,飛騨産亜種

シロチョウ亜科 Pierinae

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   Anthocharis cardamines hayashii,南アルプス産亜種
      Artogeia canidia canidia,中国産亜種,偶産種

シジミチョウ科 Lycaenidae

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アシナガシジミ亜科 Miletinae

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ウラギンシジミ亜科 Curetinae

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ミドリシジミ亜科 Theclinae

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   Spindasis takanonis ohkuranis,関東中部産亜種
   Spindasis takanonis takanonis,近畿中国地方産亜種
    Fixsenia iyonis kibiensis,中国地方産亜種
    Fixsenia iyonis surugaensis,中部地方産亜種
     Japonica onoi mizobei
Neozephyrus taxila japonicus,本州・四国・九州産亜種
      Chrysozephyrus ataxus yakushimaensis,屋久島産亜種
   Quercusia fujisana latimarginata,九州産亜種

ベニシジミ亜科 Lycaeninae

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ヒメシジミ亜科 Polyommatinae

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 Pseudozizeeria maha okinawae,南西諸島産亜種
Everes (Everes) lacturnus rieyi,タイ産亜種
  Celastrina sugitanii kyushuensis,九州産亜種
 Lycaeides subsolanus yaginus,関東・中部産亜種
 Lycaeides subsolanus yarigadakeanus,北アルプス産亜種
Shijimiaeoides divina asonis,九州産亜種
Maculinea teleius kazamoto,本州・九州産亜種
Maculinea teleius hakusanensis,白山産亜種

タテハチョウ科 Nymphalidae

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テングチョウ亜科 Libytheinae

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 Libythea (Libythea) celtis amamiana,奄美・沖縄産亜種
 Libythea (Libythea) celtis yayeyamana,八重山産亜種

マダラチョウ亜科 Danainae

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フタオチョウ亜科 Caraxinae

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イシガケチョウ亜科 Marpesiinae

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Cyrestis thyodamas mabella,南西諸島産亜種

コムラサキ亜科 Apaturinae

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Hestina assimilis assimilis,大陸産亜種,外来種(定着)

カバタテハ亜科 Byblinae

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ヒョウモンチョウ亜科 Argynninae

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  Brenthis daphne rabdia,関東・中部産亜種
 Brenthis ino tigroides,本州産亜種
  Speyeria (Mesoacidalia) aglaja fortuna,本州産亜種

スミナガシ亜科 Pseudoergolinae

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Dichorragia nesimachus ishigakianus,南西諸島産亜種

イチモンジチョウ亜科 Limenitinae

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  Neptis rivularis insularum,本州産亜種
  Neptis rivularis tadamiensis,奥只見産亜種

ヒョウモンモドキ亜科 Melitaeinae

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ヒオドシチョウ亜科 Nymphalinae

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Aglais urticae esakii,本州産亜種
Kaniska canace shima,南西諸島産亜種
Nymphalis vau-album samurai,本州産亜種

ジャノメチョウ亜科 Satyrinae

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  Coenonympha hero neoperseis,札幌産亜種
 Oeneis norana sugitanii,八ヶ岳産亜種
 Erebia ligea takanonis,本州産亜種
Erebia niphonica yakeishidakeana,焼石岳産亜種
Erebia niphonica niphonica,本州産亜種
Ypthima motschulskii motschulskii,中国産亜種
  Mycalesis madjicosa madjicosa,八重山産亜種
Lethe diana mikuraensis,伊豆諸島産亜種
 Lopinga achine achinoides,本州産亜種
Lasiommata deidamia interrupta,本州・四国産亜種

モルフォチョウ亜科 Morphinae

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概説

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日本にはアゲハチョウ科、シロチョウ科、セセリチョウ科、シジミチョウ科、タテハチョウ科の5科が生息し、中南米固有のシャクガモドキ科、中南米を中心に熱帯地方に分布するシジミタテハ科は分布しない。なお現在はタテハチョウ科に含まれるマダラチョウ亜科、ジャノメチョウ亜科、テングチョウ亜科は、以前は独立の科とされていたこともあった。またシャクガモドキ科とセセリチョウ科は、それぞれ1科で独立した上科とされ、残りを含むアゲハチョウ上科の3上科とされることもあるが、ごく最近のより多くの遺伝子による分子系統解析研究ではシャクガモドキ科、セセリチョウ科もアゲハチョウ上科にふくまれるとする説が出されている。

日本の固有種は、ギフチョウ、オキナワカラスアゲハ、ヤマトスジグロシロチョウ、リュウキュウウラナミジャノメ、ヤエヤマウラナミジャノメ、マサキウラナミジャノメ、リュウキュウヒメジャノメ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒメウラギンヒョウモン、アサマイチモンジ、ウラキンシジミ、フジミドリシジミ、エゾミドリシジミ、ミヤマカラスシジミ、オガサワラシジミ、オガサワラセセリ、アサヒナキマダラセセリの18種とされる。また、ヒサマツミドリシジミ、キリシマミドリシジミ、フタオチョウが、それぞれ国外の個体群とは独立した別種であるとする見解もある[3][4]。これを認めると21種となる。分布の内訳は、南西諸島の固有種が6(または7)種、小笠原に2種と、ほぼ半数が島に棲む蝶である。

日本の蝶の研究は専門家だけでなく全国各地の多くの愛好家の活躍によって進められ、各地のチョウ相や、幼虫の食草といった基本的な生態は1960年代から70年代には概ね明らかにされた。木元(1979)は白水(1965)[5]による都道府県および主な離島の計70地域の分布表を用いて区系生物地理学的観点から類似度を比較した。その結果、日本のチョウ相には概ね4つの地域性(1.北海道、2.東北地方~中部地方、3.西日本(関東地方から四国、九州、屋久島まで)、4.トカラ以南の南西諸島型)が認められるとした。そして、九州と屋久島との間(三宅線として知られる分布境界線に相当)で若干の相違があるものの九州も屋久島もともに西日本型に含まれ、さらに大きな違いが屋久島と、トカラ列島以南の間にあるとした[6]。一方、福田(2020)は、南西諸島の蝶相は奄美大島より北と奄美大島以南とで大きく異なるとした。屋久島と奄美大島の間に位置するトカラ列島の蝶相は、金井·守山(2018)にまとめられている[7]が、それを踏まえて福田(2020)は、蝶の分布境界線として古くから九州と屋久島の間に想定されている三宅線についても検討をしている。そして木元(1979)と同様、福田(2020)も、三宅線の北と南で蝶相に変化が認められるものの、それよりも屋久島以北と奄美大島以南とで大きく異なると結論している[8]。なお旧北区と東洋区の分布境界線とされる渡瀬線については、海底地形をも考慮して厳密にトカラ列島の悪石島と小宝島との間とされることが多いが、より漠然と屋久島と奄美大島の間の七島灘とされることもあり、木元(1979)、福田(2020)の結論は後者の意味での渡瀬線がチョウにおいても分布境界線となっていることを示している。

生息環境による類別としては、とくに高山帯に棲むものが高山蝶と呼ばれる。高山蝶とは学問的に定義された用語ではなく、愛好家の間で生まれ広まった言葉で、一般に北海道の高山帯に生息する5種(アサヒヒョウモン・ウスバキチョウ・ダイセツタカネヒカゲ、クモマベニヒカゲ、カラフトルリシジミ)、本州では中部山岳地帯の高山帯に棲む9種(タカネヒカゲ、タカネキマダラセセリ、ミヤマモンキチョウ・ミヤマシロチョウ、クモマツマキチョウ、クモマベニヒカゲ、ベニヒカゲ、コヒオドシ、オオイチモンジ)とされる。高山蝶の由来として、氷期には今より低い地域にも広く生息していたが、間氷期の訪れとともに寒冷な高山に遺存したものとされ、富士山に高山蝶が生息しない理由もこれにより説明される。これら高山蝶の多くはユーラシア大陸北部や北アメリカの冷温帯から亜寒帯では平地に生息し、北極を取り巻くように広く分布(周極分布)するものもいる[9][10][11]

その他の、特定の環境に伴うチョウ相として、草原のチョウや雑木林のチョウが注目されている。どちらも自然に対する人間の働きかけにより維持されてきた環境であり、それがこの数十〜100年で激減し、その影響でその環境に依存してきたチョウたちも激減していることが理由である[12][13][14]

日本の温暖多雨な気候では、草原、草地は遷移が進めば森林に変わってしまうが、人が放牧や草刈り、火入れなど、手を入れて遷移を止めることで維持されてきた[14]。そのような環境を好むチョウとして、オオルリシジミ、ヒメシジミ、ミヤマシジミ、アサマシジミ、ゴマシジミ、オオゴマシジミ、クロシジミ、チャマダラセセリ、ヒメチャマダラセセリ、ホシチャバネセセリ、ギンイチモンジセセリ、スジグロチャバネセセリ、ツマグロキチョウ、ヒメシロチョウ、オオウラギンヒョウモン、ギンボシヒョウモン、ジャノメチョウ、ヒメヒカゲ、ヒョウモンチョウ、ヒョウモンモドキ、コヒョウモンモドキ、ウスイロヒョウモンモドキなどがいる[11][14]。雑木林は、シイやカシの常緑広葉樹林が潜在植生とされる関東地方以西では、コナラ、クヌギのような落葉広葉樹からなる薪炭林として定期的に伐採や下草刈りされて維持されてきた。日本の国蝶として人気の高いオオムラサキ[15]をはじめ、ゴマダラチョウ、スミナガシ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲや、クヌギやコナラを食樹とするミドリシジミの仲間、ギフチョウなどが生息する。しかし第二次世界大戦後、高度経済成長期の生活や産業構造の変化、それに続く都市化や人口の高齢化により、草地や雑木林の、蝶の生息環境としての劣化、分断、消失が進み、そこに生息していた多くの種が数を減らし、生存を脅かされている。

  • 渡り

アサギマダラは、日本全国本州の高原地帯から亜熱帯の南の島の海辺まで広く分布するが、1980年代から全国の愛好家の努力と協力により、毎年春には南から北へ秋には北から南へ季節的な移動をすることが明らかにされた。はっきりした証明はされていないが、イチモンジセセリなどでも季節的な移動を示唆する観察例がある[16]。南西諸島では夏にはほとんど見かけないムラサキツバメの成虫が、小さな集団で冬を越していることが知られ、北から越冬のために渡ってくるのではないかと推測されている。遇産種の中にもリュウキュウムラサキやヤエヤマムラサキのように、毎年多くの個体が目撃される種類がある[17]

  • 分布の北上、偶産種の定着

在来種のタテハモドキやツマグロヒョウモン、ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、イシガケチョウ、アオタテハモドキなどが国内での分布を北へ広げていると言われている。ツマムラサキマダラ、ヒメアサギマダラ、クロテンシロチョウ、ベニモンアゲハ、クロボシシジミ、クロマダラソテツシジミ、ウスキシロチョウ、ウスアオオナガウラナミシジミは北限が台湾以南だったものが、北へ分布を拡大した結果、日本のチョウ相に加わったものである。現在は偶産種とされるカバタテハ、ルリマダラ、シロウラナミシジミ、ヤエヤマムラサキなど毎年にように発生しているものの中から今後、日本国内に定着するものが出てくることが予想される。中には、実は人間が介在したことで定着できたと推測されるケースがある。クロマダラソテツシジミの場合は、自発的に分布が広がっただけでなく、中国でソテツの植栽が増加したことで個体数が増え、南西諸島へも多く飛来するようになったとの推測がある[8]。同様なことは、ウスキシロチョウの定着の原因として、食樹のナンバンサイカチの栽培が沖縄や奄美で流行り食樹が増えたためという推測がある[8]。近年奄美や沖縄での記録が増えているシロウラナミシジミは幼虫がショウガ科やカンナの蕾を摂食するが、花期の長いショウガ科の外来種ハナシュクシャに大きく依存している。しかし耐寒性がないためハナシュクシャはあっても冬は寒くて蕾がつかない奄美大島では、蕾のある秋までしか生存できないと言われる[18]

脚注

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  1. ^ 2005年に外来生物法が施行されるまでは、在来種以外のものは人為的移入種と自然移入種とを区別せずに外来種と呼ぶのが一般的であった。今でも区別せずに呼ぶ人がいるので注意が必要
  2. ^ 定着しているかどうかの判断は福田晴夫ほか(2020)の解説を参考にした
  3. ^ Yu-Feng Hsu, Jia-Yuan Liang and Chih-Wei Huang 2020 Butterfly Fauna of Taiwan vol.4: Lycaenidae. Forestry Bureau C.O.A
  4. ^ E.F.A. Toussaint et al.(2015) Comparative molecular species delimitation in the charismatic Nawab butterflies (Nymphalidae, Charaxinae, Polyura). Molecular phylogenetics and evolution, 91:194-209.
  5. ^ 白水隆 1965 日本の蝶 : 原色図鑑、北隆館
  6. ^ 木元新作 1979 南の島の生きものたち―島の生物地理学. 共立出版
  7. ^ 金井賢一、守山泰司 2018 トカラ列島のチョウ類. 鹿児島県立博物館研究報告(37): 19-30.
  8. ^ a b c 福田晴夫 2020 チョウが語る自然史―南九州・琉球をめぐって―. 南方新社.
  9. ^ 朝日純一 2019 高山蝶の分布とその起源 サハリンから見た日本産高山蝶. 昆虫と自然 (54) : 14-18.
  10. ^ 白井和伸 2019 高山蝶の分布とその起源 - 南アルプスの高山蝶について. 昆虫と自然 (54) : 19-22.
  11. ^ a b 長野県 指定希少野生動植物と特別指定希少野生動植物 https://mobidrive.com/sharelink/p/7mCvV6oTGiO52d6IzmokjT4GtCJOTtPH8JPHD4vKKs0z
  12. ^ 清邦彦 1988 富士山にすめなかった蝶たち 築地書館
  13. ^ 守山弘 1988 自然を守るとはどういうことか 農山漁村文化協会
  14. ^ a b c 須賀丈・岡本透・丑丸敦史 2019 草地と日本人【増補版】縄文人からつづく草地利用と生態系. 築地書館
  15. ^ 小林隆人 2010 オオムラサキの衰退要因と保全への提言 pp.123-134. In 石井実監修 日本の昆虫の衰亡と保護. 北隆館
  16. ^ 日浦勇 1973 海をわたる蝶. 蒼樹書房
  17. ^ 福田晴夫ほか 2020 増補改訂第2版 昆虫の図鑑 ∸採集と標本のつくり方∸ 南方新社
  18. ^ 金井賢一 2022 2021年も奄美大島でシロウラナミシジミが発生 SATSUMA (169) 64.

参考文献

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  • 監修 日高敏隆、解説 藤井恒、写真 海野和男今森光彦、『フィールド図鑑 チョウ』、東海大学出版会、1984年
  • 猪又敏男(編・解説)、松本克臣(写真)『蝶』山と溪谷社〈新装版山溪フィールドブックス〉、2006年6月。ISBN 4-635-06062-4 
  • 福田晴夫ほか『増補改訂第2版 昆虫の図鑑 ∸採集と標本のつくり方∸』、南方新社、2020年

関連項目

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