神明神社
神明神社(しんめいじんじゃ)は、天照大御神を主祭神とし、伊勢神宮内宮(三重県伊勢市)を総本社とする神社である。神明社(しんめいしゃ)、神明宮(しんめいぐう)、皇大神社(こうたいじんじゃ)、天祖神社(てんそじんじゃ)などともいい、通称として「お伊勢さん」と呼ばれることが多い。
概要
[編集]神社本庁によると日本全国に約5千社あるとされているが、一説には約1万8,000社ともいう。一方、岡田荘司らによれば、祭神で全国の神社を分類すれば、伊勢信仰に分類される神社は、全国2位(4425社)であるという。
祭神の天照大御神(あまてらすおおみかみ)は、太陽を神格化した神であり、皇室の祖神(皇祖神)とされているため、農耕儀礼と密接に結びつき広く信仰を集めた。古代においては国家祭祀の斎場として、律令国家の代表者たる天皇のみが奉幣を許され、皇后、皇太子であっても臨時の奏聞が必要とされたが[1]、平安時代中期に入り朝廷が衰微し荘園制が成立すると、神税など古代において伊勢神宮を支えた経済基盤が動揺したため、伊勢神宮の神主らが、御師となって武士団などの荘園の在地領主層に対して神宮への祈願を取り次いだり、神宮の神威を説くなどの働きかけを行なったことで、在地領主による神領(御厨)の寄進が行われた[2]。その結果、御厨として寄進された土地に、伊勢神宮の祭神が勧請されるようになり、神領を中心に神明神社が分布することとなった。御厨に勧請されることで成立した神明神社として、仁科神明宮(仁科御厨[3])、神明社(榛谷御厨[4])、天津神明宮(東条御厨[5])などが挙げられるが、芝大神宮のように、御厨に存する神明神社であるものの、御厨成立以前から成立していたとされる神明神社もあり[注 1]、これらは御師の活動拠点となっていた場所に成立した神明神社と考えられている[6]。御師の東国の出先機関には、御師が配り歩いた御祓(神宮大麻)が一時的に安置されるなどしたため、そこに宗教的意義が見出され、神明社へと展開した事例もあった[7]。
中世後期には、御師の檀那が上級武士層からさらに広い範囲に広がって、庶民層にも伊勢信仰が及ぶようになり[8]、特に京都を中心に、伊勢の神が飛来したなどと称して、神領でない場所にも伊勢が勧請される事例が増え(そのようにして成立した神明神社は、「今神明」「飛神明」などと呼ばれる)[9]、神明神社はさらに広範囲に分布した。京都宇治の神明神社などがその例に当たる[9]。そして、伊勢信仰は近世に至るとさらに盛んになり、全国的かつ中小農民も含む広い階層に及ぶようになった[10]が、特に天照大御神が太陽神であることや、伊勢御師が檀那に農業との関連が深い神宮暦を配ったことなどもあって[11]、国家鎮守のほかに農業神としても信仰されるようになり、小平神明宮のように、新田開発の際にその地の鎮守神として伊勢神宮が勧請されることが増え、神明神社はさらに増加していった。
その祭事はほぼ伊勢神宮と同じであり、神使も鶏である。鳥居の形は主に「神明鳥居」であり、素朴な形式で全体的に直線的である。建築様式は神明造であることが多い。
なお、「神明」という言葉は天照大御神のことを指すほか、単に「神」という意味でも用いられる。例えば「天地神明に誓う」の「神明」は後者の意味である。明治時代に全国の神社の調査が行われたが、その神社の氏子に神社の祭神について質問した所、氏子も何の神が祭られているかを知らず、「神」というつもりで「神明」と答えたら、天照大御神を祀る神明神社ということにされたという例も少なくない。また、明治時代には、それまで「神明宮」という名称であった神明神社が、「伊勢神宮」と重なる「宮」という字を用いるのを避け、「天祖神社」や「神明社」などへと名称を変更することが多発した[12]。
全国の主な神明社・神明神社・大神宮
[編集]岡田荘司らにより伊勢信仰に分類される神社は中部地方に多く、鎌倉期の伊勢神宮の所領とほぼ一致する。
アマテラスを主祭神とする神社
[編集]北海道
[編集]東北地方
[編集]- 神明宮- 青森県五所川原市
- 御嶽山御嶽神明社 - 岩手県一関市
- 神明神社 - 岩手県奥州市胆沢区小山
- 櫻岡大神宮 - 宮城県仙台市青葉区
- 木間塚神明社 - 宮城県遠田郡美里町
- 神明社 - 宮城県白石市
- 土崎神明社 - 秋田県秋田市土崎港中央
- 大館神明社 - 秋田県大館市中神明町
- 扇田神明社 - 秋田県大館市比内町扇田
- 角館總鎭守神明社 - 秋田県仙北市角館町岩瀬
- 五城目神明社 - 秋田県南秋田郡五城目町:境内に十三騎神社がある
- 神明神社 - 山形県山形市:日本七神明?
- 神明神社 - 福島県会津若松市
- 開成山大神宮 - 福島県郡山市(通称:東北のお伊勢さま)
関東地方
[編集]- 神明神社 - 茨城県潮来市
- 神明宮 - 栃木県栃木市旭町
- 所澤神明社 - 埼玉県所沢市宮本町
- 神明宮 - 埼玉県草加市
- 神明神社 - 埼玉県飯能市
- 神明神社 - 埼玉県上尾市
- 神明神社 (上尾市向山)
- 神明神社 - 埼玉県久喜市
- 神明神社 - 埼玉県幸手市
- 神明神社 (さいたま市見沼区蓮沼)
- 神明神社 (さいたま市見沼区南中丸)
- 神明神社 (さいたま市見沼区御蔵)
- 神明神社 (さいたま市桜区)
- 神明社 (さいたま市岩槻区)
- 神明社 (さいたま市北区)
- 神明神社 (三郷市)
- 神明神社 (朝霞市)
- 神明神社 (ふじみ野市苗間)
- 神明神社 (ふじみ野市亀久保)
- 神明神社 (羽生市)
- 神明社 (加須市川口)
- 意富比神社 - 千葉県船橋市宮本(通称:船橋大神宮)
- 神明神社 - 千葉県船橋市薬円台
- 神明社 - 千葉県柏市塚崎
- 鎌数伊勢大神宮 - 千葉県旭市
- 天津神明宮 - 千葉県鴨川市
- 東京大神宮 - 東京都千代田区富士見
- 芝大神宮(芝神明宮)- 東京都港区芝大門:日本七神明
- 六本木天祖神社(龍土神明宮)- 東京都港区六本木
- 元神明宮 - 東京都港区三田
- 石浜神社 - 東京都荒川区南千住
- 小石川大神宮 - 東京都文京区小石川
- 駒込天祖神社(駒込神明宮)- 東京都文京区本駒込
- 深川神明宮 - 東京都江東区森下
- 神明神社 - 東京都世田谷区船橋
- 神明社 - 東京都世田谷区祖師谷
- 神明社 - 東京都世田谷区上祖師谷
- 高円寺天祖神社 - 東京都杉並区高円寺南
- 阿佐ヶ谷神明宮 - 東京都杉並区阿佐谷北
- 神明天祖神社 - 東京都杉並区南荻窪
- 梅田神明宮 - 東京都足立区梅田
- 高砂天祖神社 - 東京都葛飾区高砂
- 奥戸天祖神社 - 東京都葛飾区奥戸
- 天祖神社 - 東京都葛飾区新小岩
- 天祖神社 - 東京都葛飾区東新小岩
- 天祖神社 - 東京都葛飾区東新小岩4丁目
- 堀切天祖神社 -東京都葛飾区堀切
- 牛込柳町天祖神社 -東京都新宿区原町
- 小平神明宮 - 東京都小平市小川町
- 神明社- 東京都東久留米市南町
- 神明社- 東京都東久留米市中央町
- 大麻止乃豆乃天神社 - 東京都稲城市大丸の境内社
- 伊勢山皇大神宮 - 神奈川県横浜市西区
- 菅田神明社 - 神奈川県横浜市神奈川区菅田町
- 神明社 - 神奈川県横浜市神奈川区三枚町
- 神明社 - 神奈川県横浜市保土ケ谷区神戸町
- 日吉神社 - 神奈川県横浜市港北区日吉
- 切割神明社 - 神奈川県横浜市旭区南本宿町
- 春の木神明社 - 神奈川県横浜市旭区東希望が丘
- 神明神社 - 神奈川県川崎市高津区下作延
- 神明神社 - 神奈川県川崎市宮前区有馬[13]。白幡八幡大神が兼務
- 神明神社 - 神奈川県鎌倉市台
- 甘縄神明神社 - 神奈川県鎌倉市長谷
- 神明大神宮 - 神奈川県相模原市緑区橋本
- 皇大神宮 - 神奈川県藤沢市鵠沼 通称:神明宮・烏森神社
- 伊勢原大神宮 - 神奈川県伊勢原市
- 神明神社 - 神奈川県中郡大磯町
中部地方
[編集]- 神明神社 - 新潟県糸魚川市
- 神明神社 - 新潟県妙高市
- 徳市神明社 - 富山県高岡市
- 神明宮 - 富山県砺波市鷹栖
- 神明宮 - 富山県砺波市中央町
- 神明宮 - 富山県南砺市城端
- 神明社 - 富山県南砺市福野
- 神明社 - 富山県中新川郡上市町
- 金沢神明宮 - 石川県金沢市:日本七神明
- 神明神社 - 福井県福井市宝永
- 神明神社 - 福井県勝山市
- 飯部磐座神社 - 福井県越前市
- 仁科神明宮 - 長野県大町市:日本七神明、神明造りでは日本最古で、本殿、釣屋、中門(前殿)は国宝
- 岡神明神社 - 長野県長野市
- 神明社 - 長野県佐久市岩村田
- 大神宮神社 - 長野県佐久市岩村田
- 矢原神明宮 - 長野県安曇野市穂高(旧称:伊勢神明社)
- 潮神明宮 - 長野県安曇野市明科東川手
- 田沢神明宮 - 長野県安曇野市豊科田沢
- 会田御厨神明宮 - 長野県松本市会田
- 麻績神明宮 - 長野県東筑摩郡麻績村
- 刈谷沢神明宮 - 長野県東筑摩郡筑北村
- 神明神社 - 岐阜県各務原市鵜沼三ツ池町
- 神明神社 - 岐阜県瑞浪市大湫町
- 神明神社 - 岐阜県可児市東帷子
- 宮谷神明宮 - 岐阜県下呂市萩原町
- 神明神社 - 岐阜県下呂市幸田
- 神明神社 - 岐阜県下呂市小坂町
- 神明神社 - 岐阜県下呂市金山町岩瀬
- 神明神社 - 岐阜県飛騨市河合町
- 天照皇大神社 - 静岡県伊東市
- 伊勢神明社 - 静岡県静岡市駿河区
- 稲荷神明宮 - 静岡県島田市
- 神明宮 (掛川市仁藤) - 静岡県掛川市仁藤に位置する旧村社
- 神明宮 (掛川市大渕) - 静岡県掛川市大渕に位置する旧無格社
- 須倍神社 - 静岡県浜松市浜名区
- 蒲神明宮 - 静岡県浜松市中央区
- 神明宮 - 静岡県浜松市中央区篠原町
- 牟呂神富神明社 - 愛知県豊橋市神野新田町ソノ割20に位置する旧村社
- 湊町神明社 - 愛知県豊橋市湊町
- 安久美神戸神明社 - 愛知県豊橋市八町通(通称:豊橋神明社)
- 東田神明宮 - 愛知県豊橋市御園町
- 大岩神明宮 - 愛知県豊橋市大岩町
- 神明宮 - 愛知県岡崎市樫山町
- 神明宮 - 愛知県岡崎市木下町
- 神明宮 - 愛知県岡崎市大高味町
- 神明宮 - 愛知県岡崎市一色町
- 神明宮 - 愛知県岡崎市中伊西町
- 愛知神明社 - 愛知県名古屋市中川区愛知町
- 高畑神明社 - 愛知県名古屋市中川区高畑
- 岡田神明社 - 愛知県知多市
- 神明社 - 愛知県清須市
- 神明社 - 愛知県長久手市
- 神明社 - 愛知県西春日井郡豊山町
- 神明社 - 愛知県瀬戸市落合町
- 神明社 - 愛知県常滑市
近畿地方
[編集]- 神明神社 - 三重県志摩市阿児町神明
- 神明神社 - 三重県鳥羽市相差町
- 神明神社 - 三重県四日市市川島町
- 朝日神明宮 - 京都府京都市下京区:日本七神明
- 神明神社 - 京都府京都市下京区
- 高松神明神社 - 京都府京都市中京区
- 日向大神宮 - 京都府京都市山科区:日本七神明、通称:東山神明宮
- 皇大神社 - 京都府福知山市
- 神明神社 - 京都府宇治市宇治神明(通称:神明皇大神宮)
- 皇大神宮社 - 京都府宇治市広野町
- 朝日神明社 - 大阪府大阪市此花区春日出中
- 神明神社 - 大阪府大阪市大正区鶴町
- 皇大神宮 - 大阪府大阪市城東区今福南
- 露天神社(合祀:難波神明宮)- 大阪府大阪市北区曽根崎:日本七神明
- 神明神社 - 大阪府堺市堺区
- 小浜皇大神社 - 兵庫県宝塚市
- 神明神社 - 兵庫県小野市
- 皇大神宮社 - 兵庫県西宮市
- 皇大神社 - 奈良県奈良市平松町
- 皇大神社 - 奈良県奈良市四条大路4丁目
- 阿紀神社 - 奈良県宇陀市(旧称:阿貴宮・神戸大神宮、通称:神戸明神)
- 神明神社 - 奈良県桜井市下り尾
- 神明神社 - 和歌山県和歌山市
中国地方
[編集]四国地方
[編集]- 神明社 - 徳島県徳島市中常三島町
- 神明神社 - 徳島県徳島市南田宮
- 磐境神明神社 - 徳島県美馬市穴吹町口山
- 東雲神社 - 愛媛県松山市丸之内 松山大神宮を合祀。
- 神明神社 - 愛媛県四国中央市川之江町
九州地方
[編集]- 天照皇大神宮 - 福岡県糟屋郡久山町
- 矢留大神宮 - 福岡県柳川市矢留町
- 伊勢宮神社 - 長崎県長崎市伊勢町 長崎三社のひとつ。(通称:伊勢宮)
- 長崎大神宮 - 長崎県長崎市栄町
- 山王神社 (長崎市) - 長崎県長崎市坂本 一本柱鳥居。(別称:浦上皇大神宮)
- 熊本大神宮 - 熊本県熊本市中央区
- 新開大神宮 - 熊本県熊本市南区
- 宮原三神宮 - 熊本県八代郡氷川町
- 男成神社 - 熊本県上益城郡山都町
- 中津大神宮 - 大分県中津市二ノ丁
- 神明神社 - 鹿児島県鹿児島市宇宿(別称:宇宿神明神社・鹿児島えびす神社)
アマテラス以外を主祭神とする神社
[編集]- 高根町神明神社 - 千葉県船橋市高根町
- 金杉神明社 - 千葉県船橋市金杉
- 神明宮 - 静岡県掛川市大渕
- 神明宮 - 静岡県掛川市仁藤
- 神明神社 - 愛知県知多郡南知多町篠島:伊勢神宮御遷宮の際、御古材が下賜され20年ごとに遷宮が行われる。
- 天岩戸神社 - 京都府福知山市:市内の皇大神社の奥宮とされる。
- 幣立神社 - 熊本県上益城郡山都町
海外の神明神社
[編集]- ハワイ大神宮 - アメリカ合衆国ハワイ州オアフ島ホノルル
- ヒロ大神宮 - アメリカ合衆国ハワイ州ハワイ島ヒロ
- 南洋神社 - パラオ共和国コロール州コロール島コロール
- ペリリュー神社 - パラオ共和国ペリリュー州ペリリュー島
- サンマリノ神社 - サンマリノ共和国セラヴァッレ
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 西垣晴次『お伊勢参り』岩波新書(1983),28頁
- ^ 河合正治「伊勢神宮と武家社会」『伊勢信仰Ⅰ』雄山閣(1985)),80-83頁
- ^ 由緒・祭神, 仁科神明宮 2021年5月6日閲覧。
- ^ “神明社御由緒”. 神明社 2021年5月6日閲覧。
- ^ 天津神明宮, 一般社団法人鴨川市観光協会 2021年5月6日閲覧。
- ^ 河合正治「伊勢神宮と武家社会」『伊勢信仰Ⅰ』雄山閣(1985),80-81頁
- ^ 西垣晴次『お伊勢参り』岩波新書(1983),162-164頁
- ^ 西垣晴次『お伊勢参り』岩波新書(1983),114頁
- ^ a b 瀬田勝哉「伊勢の神をめぐる病と信仰」『伊勢信仰Ⅰ』雄山閣(1985),290-291頁
- ^ 新城常三『社寺と交通』至文堂(1960),144頁
- ^ 西垣晴次『お伊勢参り』岩波新書(1983),156-157頁
- ^ 「天祖神社をたずねる」, 駒込天祖神社 2021年11月29日閲覧。
- ^ 稲毛惣社 白幡八幡大神