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「闇サイト殺人事件」の版間の差分

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{{半保護}}
{{半保護}}
{{実名|可
{{複数の問題
| 説明 = 主題である闇サイト殺人事件及び[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の加害者
| 大言壮語 = 2017年6月
| 名前 = [[堀慶末]]([[死刑囚]])
| 観点 = 2017年6月
| 理由 = 実名で自身が関与した事件に関する著書を出版しており
| 独自研究 = 2017年6月
}}
| 雑多な内容の箇条書き = 2017年6月
{{実名|否|説明=本事件の加害者であるKTおよび「山下」}}
| 内容過剰 = 2017年6月}}
{{暴力的}}
{{性的}}
{{混同|自殺サイト殺人事件|x1=2005年に発生した}}
{{画像提供依頼|事件現場(殺害現場)の写真(位置座標付きで、現場の様子・雰囲気などがよくわかる写真)|date=2021年9月|依頼ページ=Portal:日本の都道府県/愛知県/画像提供依頼|cat=愛西市}}
{{画像提供依頼|事件現場(死体遺棄現場)の写真(位置座標付きで、現場の様子・雰囲気などがよくわかる写真)|date=2021年9月|依頼ページ=Portal:日本の都道府県/岐阜県/画像提供依頼|cat=瑞浪市}}
{{Infobox 事件・事故
{{Infobox 事件・事故
| 名称 = 闇サイト殺人事件
|名称=闇サイト殺人事件
|正式名称=
| 画像 =
|画像={{Location map+|Japan zoom Aichi and Gifu|width=|caption=事件現場|places=
| 脚注 =
{{Location map~|Japan zoom Aichi and Gifu|lat_deg=35|lat_min=10|lat_sec=20.8|lat_dir=N|lon_deg=136|lon_min=57|lon_sec=51.8|lon_dir=E|position=right|background=#FFF|label=拉致現場}}
| 場所 = {{Flagicon|JPN}}[[愛知県]][[名古屋市]][[千種区]]
{{Location map~|Japan zoom Aichi and Gifu|lat_deg=35|lat_min=09|lat_sec=51.4|lat_dir=N|lon_deg=136|lon_min=42|lon_sec=44.9|lon_dir=E|position=left|background=#FFF|label=殺害現場}}
| 緯度度 = |緯度分 = |緯度秒 =
{{Location map~|Japan zoom Aichi and Gifu|lat_deg=35|lat_min=19|lat_sec=51.7|lat_dir=N|lon_deg=137|lon_min=17|lon_sec=14.2|lon_dir=E|position=top|background=#FFF|label=死体遺棄現場}}
| 経度度 = |経度分 = |経度秒 =
}}
| 日付 = [[2007年]]([[平成]]19年)
|脚注=
| 時間 =
|場所= {{JPN}}:[[愛知県]]および[[岐阜県]]
| 開始時刻 = [[8月24日]]午後10時頃
* 拉致現場 - 愛知県[[名古屋市]][[千種区]][[春里町 (名古屋市)|春里町]]2丁目4番地の1付近の路上{{Efn2|name="拉致現場"|[[名古屋地方裁判所|名古屋地裁]] (2009) によれば、拉致現場は「春里町2丁目4番地の1先路上」{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。この現場は、被害者A宅から徒歩1分ほどの地点で{{Sfn|大崎善生|2016|p=230}}、A宅まで数十&nbsp;[[メートル|m]]離れたマンション前の道路であり<ref>『[[朝日新聞]]』2007年9月25日名古屋朝刊第二社会面30頁「容疑者立ち会わせ実況見分 拉致殺害事件、1カ月 【名古屋】」([[朝日新聞名古屋本社]])</ref>、[[名古屋市立自由ヶ丘小学校]]{{Sfn|大崎善生|2016|p=74}}(Aの母校)の目の前でもあった{{Sfn|大崎善生|2016|p=230}}。事件当時は「千種区[[自由ケ丘 (名古屋市)|自由ケ丘]]」と報道されていた<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。周辺は[[自由ヶ丘駅]]([[名古屋市営地下鉄名城線]])から徒歩10分程度の、住宅・団地が並ぶ高台の道で、事件当時から街灯が整備されていたため、地元では「安全な道」とされていたが<ref name="小椋由紀子2007"/>、夜間になると人通りはほとんどなく、拉致されたところを目撃した人もいなかった<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊1">『中日新聞』2007年8月28日夕刊一面1頁「女性拉致殺害 1週間 女性を物色 3容疑者 名古屋市内、車で」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1207頁</ref>。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}
| 終了時刻 = [[8月25日]]午前1時頃
* 殺害現場 - 愛知県[[愛西市]][[内佐屋町]]西新田39番1{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}(屋外駐車場){{Efn2|name="殺害現場"|殺害現場(愛西市内佐屋町西新田)は<ref name="中日新聞2007-08-27"/>、[[国道155号]]沿いにあるレストランの屋外駐車場(レストランの建物から国道を隔てた場所にある第二駐車場)の奥だった{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}。2016年時点で、駐車場の敷地のうち、半分は産業廃棄物処理場となっている{{Sfn|大崎善生|2016|p=19}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-27">『[[中日新聞]]』2007年8月27日朝刊第12版一面1頁「路上で女性拉致、殺害 第2の犯行も計画 闇サイトで知り合う 男3人を逮捕 遺棄容疑で愛知県警 強殺でも追及」([[中日新聞社]]) - 『中日新聞』[[新聞縮刷版|縮刷版]] 2007年(平成19年)8月号1133頁</ref>
| 時間帯 =
* 死体遺棄現場 - 岐阜県[[瑞浪市]]稲津町小里(山林){{Efn2|name="死体遺棄現場"|死体遺棄現場の山林(岐阜県瑞浪市稲津町小里)は、「{{ウィキ座標|35|19|50.2|N|137|17|14.2|E|オプション|御料林橋}}<!--「御料林橋」の位置座標は、『ゼンリン住宅地図 岐阜県瑞浪市 2018.12』(ISBN:978-4432466405)149頁より確認可能。-->」北東に位置する<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。この場所は、[[岐阜県道33号瑞浪上矢作線]]から20&nbsp;m程度入った場所<ref name="中日新聞2007-08-26"/> ないし、「([[恵那市]]との境界にある)山林の東の[[小里川ダム]]に通じる県道(33号)のバイパス道路を上って行き、「{{ウィキ座標|35|19|38.46|N|137|17|15.64|E||川折大橋}}」<!--<ref>{{Cite book|和書|title=岐阜県道路地図|publisher=[[昭文社]]|year=2019|page=32|author=(発行人)黒田茂夫|authorlink=黒田茂夫|edition=4版5刷|series=[[県別マップル]]|isbn=978-4398626547|NCID=BB18699119|id={{国立国会図書館書誌ID|025968417}}・{{全国書誌番号|22515784}}|chapter=瑞浪 (1:30000)|volume=21}}</ref>-->の手前から工事用に造られた脇道を[[小里川]]に向かって70~80メートル入った場所」<!--(丸括弧内を除き原文ママ引用)-->で<ref name="毎日新聞 遺棄現場">『毎日新聞』2007年8月27日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:工事用の脇道、深夜車少なく--遺棄現場」(毎日新聞中部本社 記者:小林哲夫)</ref>、鎖により車両の侵入が禁止されていた[[林道]]の脇だった{{Sfn|集刑|2012|p=110}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
| 概要 = [[インターネット]]上の[[闇サイト]]「闇の職業安定所」で集まった男3人組(うち1人は[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件|強盗殺人の余罪]]あり)が、[[強盗]]目的で通りすがりの女性を拉致し、金品を奪って殺害し遺体を遺棄した。
|緯度度= |緯度分= |緯度秒=
| 手段 = [[ハンマー]]で殴る、首を絞める
|経度度= |経度分= |経度秒=
| 攻撃人数 = 3人
| 標的 = 通りすがりの会社員女性
|標的= 帰宅途中[[OL|女性会社員]]<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>
|日付= [[2007年]]([[平成]]19年)[[8月]]
| 死亡 = 1人
|時間=
| 犯人 = 闇サイトで集まった男3人組
|開始時刻= [[8月24日|24日]]23時10分ごろ(拉致){{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}
| 動機 = [[強盗]]
|終了時刻= [[8月25日|25日]]1時ごろ(殺害){{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}
| 謝罪 = 2名はあり(いずれも反省はなし)、1名はなし
|時間帯= [[UTC+9]]
| 賠償 = 主犯格1人は[[日本における死刑|死刑]]([[日本における被死刑執行者の一覧|執行済み]])<br>2人は[[無期刑|無期]][[懲役]](うち1人は[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件|強盗殺人の余罪]]が判明し、同事件の裁判で死刑判決を受け上告中)
|概要= [[インターネット]]の[[闇サイト]]で知り合った男3人が、互いに[[共謀]]した上で、夜道で帰宅途中の女性を拉致して金品を奪い、殺害することを計画<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。名古屋市千種区内で帰宅途中の被害者Aを拉致し、金品を奪った上で殺害した<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
|懸賞金=
|原因=
|手段=
* (拉致の手段)道を尋ねるふりをして被害者を車内に押し込む<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>
* (殺害の手段)腕や綿ロープで首を絞める・金槌で頭部を殴る・顔面に粘着テープを巻いたり、ビニール袋を被せたりして窒息させる{{Sfn|集刑|2012|pp=111-112}}
|攻撃側人数= 3人
|凶器= 綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋{{Sfn|集刑|2012|p=112}}・[[槌|金槌]](重量約580&nbsp;[[グラム|g]]){{Sfn|集刑|2012|p=117}}
|死亡= 1人
|負傷=
|行方不明=
|被害者= 会社員女性A(当時31歳・千種区春里町2丁目在住)<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
|損害=
|犯人= 男3人('''KT'''・'''[[堀慶末]]'''・'''「山下」''')<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
|容疑= [[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取罪]]・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁罪]]・強盗殺人罪・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄罪]]・[[窃盗罪|窃盗未遂罪]](3人共通){{Sfn|集刑|2012|p=98}}、[[強盗・強制性交等罪|強盗強姦未遂]]・[[住居侵入罪|建造物侵入]](「山下」のみ){{Sfn|名古屋高裁|2011}}
|動機=
* (拉致の動機)手っ取り早く楽して金を手に入れるため{{Sfn|集刑|2012|pp=98-99}}
* (殺害の動機)口封じ{{Sfn|集刑|2012|p=111}}
|関与= 男「杉浦」(本事件前に「山下」が起こした建造物侵入・窃盗未遂事件にのみ関与)<ref name="毎日新聞2007-11-21"/>
|防御=
|対処= 加害者3人を愛知県警が[[逮捕 (日本法)|逮捕]]<ref name="中日新聞2007-08-27"/>・名古屋地検が[[起訴]]<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="中日新聞2007-10-06"/>
|謝罪=
* KT - 死刑執行直前に謝罪の言葉を述べた{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|pp=135, 137-140}}
* 堀 - 公判で謝罪の意を示したが、無期懲役確定後に'''強盗殺人の余罪'''('''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]''')が判明<ref name="中日新聞2012-08-23"/>
* 「山下」 - 公判で謝罪したが<ref name="中日新聞2009-02-03"/>、死刑を免れた直後に無反省な態度を見せた<ref name="FNN 2009-03-18"/>{{Sfn|コトバンク|2016}}
|補償=
|賠償=
|刑事訴訟=
* KT - 死刑([[控訴]]取り下げにより[[確定判決|確定]]/[[日本における被死刑執行者の一覧|執行済み]])<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
* 堀慶末 - 無期懲役<ref name="中日新聞2015-06-25"/>(後に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]で死刑が確定)<ref name="中日新聞2019-07-20"/>
* 「山下」 - 無期懲役<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
|少年審判=
|海難審判=
|民事訴訟=
|影響=
|遺族会=
|被害者の会=
|管轄=
* [[愛知県警察]][[刑事部|捜査一課]]・[[千種警察署]]<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
* [[名古屋地方検察庁]]<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="中日新聞2007-10-06"/>
}}
}}
'''闇サイト殺人事件'''(やみサイトさつじんじけん)とは、[[2007年]]([[平成]]19年)[[8月24日]] - [[8月25日|25日]]にかけて[[日本]]の[[愛知県]][[名古屋市]]周辺で発生した[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]などの事件<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。[[インターネット]]の'''[[闇サイト]]'''で知り合った男3人組が、女性Aを[[拉致]]・[[監禁]]のちに[[殺人|殺害]]した。


男3人組('''KT'''・'''[[堀慶末]]'''・'''「山下」''')は闇サイト「闇の職業安定所」<ref group="注" name="闇の職安"/>で出会い、犯罪によって金を得る目的で[[共謀]]。8月24日深夜に名古屋市[[千種区]]内の路上で、帰宅途中だった会社員女性A(当時31歳)を拉致し、自動車内に監禁<ref name="闇サイト冒頭陳述">『中日新聞』2008年9月26日朝刊28頁「千種拉致殺害 冒頭陳述要旨」(中日新聞社)</ref>。翌25日未明にかけ、同県[[愛西市]]内の屋外駐車場で、被害者Aを脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、金品を奪ったほか、Aの顔面に粘着テープを何重にも巻きつけたり、[[槌|金槌]]で数十回にわたり頭部を殴打するなどして殺害<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。その後、3人はAの死体を[[岐阜県]][[瑞浪市]]内の山中に遺棄し<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、奪ったキャッシュカードで預金の引き出しを図ったが、Aが生前に教えた暗証番号は虚偽だったため、引き出しには失敗{{Sfn|集刑|2012|p=98}}。3人はさらなる犯罪を計画していたが、加害者の1人(「山下」)が解散後に[[自首]]したことで事件が発覚した<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨">『中日新聞』2009年3月19日朝刊ラジオ番組表面29頁「千種拉致殺害事件 名古屋地裁判決の要旨」(中日新聞社)</ref>。
'''闇サイト殺人事件'''(やみサイトさつじんじけん)とは、[[2007年]]([[平成]]19年)[[8月24日]]に[[愛知県]][[名古屋市]][[千種区]]内で発生した[[強盗致死傷罪|強盗殺人]][[事件]]である。'''愛知女性拉致殺害事件'''(あいちじょせいらちさつがいじけん)とも呼称される。


{{TOC limit|3}}
[[インターネット]]の[[闇サイト]]で見ず知らずの者たちが犯行グループを結成したことが注目され、その犯行の残虐性や犯人たちの反省のない態度から、殺害された被害者が1人でありながら第一審では実行犯3人全員に[[死刑]]が[[求刑]]され<ref group="中日" name="chunichi20090120"/>、うち2人に求刑通り死刑[[判決 (日本法)|判決]]、もう1人に[[無期刑|無期]][[懲役]]判決が言い渡された<ref group="中日" name="chunichi20090318"/>。そのうちの1人は自ら[[控訴]]を取り下げ死刑が[[確定判決|確定]]し<ref group="中日" name="chunichi20090415"/>、死刑執行されるに至った<ref group="中日" name="chunichi20150626"/><ref group="法務省" name="moj20150625"/>。死刑判決を受けたもう1人は控訴審で、第一審では無期懲役判決だった残りの1人(無期懲役確定)同様無期懲役に減軽され<ref group="中日" name="chunichi20110413"/>、[[最高裁判所 (日本)|最高裁]]で検察側の[[上告]]棄却により確定したが<ref group="中日" name="chunichi20120714"/>、その直後に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件|強盗殺人の余罪]]があることが判明し<ref group="中日" name="chunichi20120804">『[[中日新聞]]』2012年8月3日夕刊1面「『闇サイト殺人』 C受刑者ら 14年前夫婦殺害の疑い 愛知県警、逮捕へ」<br>『中日新聞』2012年8月4日朝刊1面「『闇サイト』C受刑者逮捕 碧南の夫婦強殺容疑 愛知県警、ほか2人も」</ref>、同事件の裁判で改めて死刑判決を受け<ref group="中日" name="chunichi20151216">『[[中日新聞]]』2015年12月16日朝刊1面 「夫婦強殺 C被告に死刑 妻殺害 共謀を認定 碧南の事件 裁判員判決」</ref><ref group="中日" name="chunichi20161109">『中日新聞』2016年11月9日朝刊31面「C被告 二審も死刑『主導的立場』碧南強殺で判決」<br>同面「『当然』『両親は戻らぬ』 ◇◇(碧南事件の被害者夫婦の姓)さん長男・次男 / 「判決重く響く」闇サイト事件・○○(本事件の被害者女性の姓)さん母」</ref>、最高裁に[[上告]]中である<ref group="中日" name="chunichi20161110">『中日新聞』2016年11月10日朝刊31面「死刑のC被告、最高裁に上告 碧南強殺」</ref>。


== 概要 ==
== 概要 ==
加害者らはいずれも闇サイトで出会った当時から{{Efn2|「山下」は『[[中日新聞]]』宛の手紙で、このように共犯者たちと互いに虚勢の張り合いを続けた末に自制心が働かなくなった旨を述べている<ref name="中日新聞2007-12-26"/>。}}、互いの素性を知らないまま、偽名を使っていたり、相手から馬鹿にされないように「[[暴力団]]に関係していた」と虚勢を張ったり<ref group="注" name="エスカレート"/>、虚実ないまぜに過去の犯罪歴を自慢し合ったりした<ref group="注" name="山田麻紗子"/><ref>『中日新聞』2009年3月19日朝刊第二社会面30頁「ニュース前線 千種拉致殺害 闇の接点 きずな裂く 下された極刑 重い警告」(中日新聞社 社会部記者:北島忠輔)</ref>。それが次第にエスカレートし<ref group="注" name="エスカレート"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}、最終的には強盗殺人を起こすに至った。
=== 死刑囚・受刑者 ===
殺害実行犯の男3人は3人はいずれも犯行当時金に困っており、金目当ての犯行だった<ref group="報道" name="asahi20070827"/>。3人は互いに虚勢を張ったり、虚実ない交ぜの過去の犯罪を自慢し合ったりしていた<ref group="書籍" name="oosaki_p207-211"/><ref group="報道" name="asahi20120805">『朝日新聞』2012年8月5日朝刊名古屋版37面「犯行、仕事独立の翌年か 碧南夫婦殺害、C容疑者」</ref><ref group="中日">『中日新聞』2009年3月19日朝刊30面「ニュース前線 千種拉致殺害 闇の接点きずな裂く 下された極刑重い警告」</ref>。


加害者3人は、[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取]]・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁]]・強盗殺人・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄]]・[[窃盗罪|窃盗未遂]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}などの罪状で[[起訴]]された。本事件では、殺害された被害者は1人であるため、[[裁判|刑事裁判]]では、[[被告人]]3人に[[日本における死刑|死刑]]を適用することの是非が争点となった。3人には当時、粗暴犯で有罪に処された[[前科]]はなかった<ref group="注" name="KT前科"/><ref group="注" name="堀前科"/><ref group="注" name="山下前科"/>が、[[検察官]]は、犯行の残忍さ・被害者遺族の処罰感情の峻烈さ<ref name="読売新聞2009-01-21">『[[読売新聞]]』2009年1月21日中部朝刊社会面29頁「闇サイト殺人3被告に死刑求刑 検察「残虐の責任等しい」 名古屋地裁=中部」([[読売新聞中部支社]])</ref>・計画性の高さ・社会的影響の大きさなどを考慮し<ref>『中日新聞』2009年1月19日朝刊第一社会面35頁「千種拉致殺害 3被告に死刑求刑へ 名古屋地検『社会的影響大きい』」(中日新聞社)</ref>、3人にいずれも死刑を[[求刑]]<ref name="中日新聞2009-01-20">『中日新聞』2009年1月20日夕刊一面1頁「千種拉致殺害 3被告に死刑求刑 検察『更生の可能性ない』」(中日新聞社)</ref>。しかし最終的に、1人 ('''KT''') は死刑が[[確定判決|確定]]した(2015年に[[日本における被死刑執行者の一覧|死刑執行]])一方、残る2人('''[[堀慶末]]'''および、事件直後に自首した'''「山下」''')は[[懲役#無期懲役|無期懲役]]が確定した<ref name="中日新聞2015-06-25"/>。ただし、堀は本事件で無期懲役が確定した後、'''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]'''(発生:[[1998年]])などの余罪が判明し、同事件の刑事裁判で[[2019年]]([[令和]]元年)に死刑が確定している<ref name="中日新聞2019-07-20">『中日新聞』2019年7月20日朝刊第11版第一社会面35頁「碧南強殺、死刑確定へ 闇サイト殺人 被害者の母『すっきりした気持ち』」(中日新聞社 記者:宮畑譲)</ref>。
;死刑囚K
: 犯行当時36歳、[[愛知県]][[豊明市]]在住の『[[朝日新聞]]』[[新聞拡張団|新聞拡張員]]<ref group="中日" name="chunichi20070827"/>。[[群馬県]]出身で幼少期に両親が離婚して親類宅を転々とし、成人後に愛知県で定職に就いた一方で、闇サイトで違法に収入も得ており、事件当時は[[詐欺]]などの罪で受けた有罪判決の[[執行猶予]]期間中だった<ref group="中日" name="chunichi20150626"/>。勤務先の新聞販売店によれば、出来高払いで『朝日新聞』の勧誘をしていたが、休みがちで支払われる給料も低く、また事件数日前からは「仕事中に足をくじいた」と欠勤していた<ref group="報道" name="asahi20070827"/>。A・C両名に対しては「過去に2人殺したことがある。(出身地の)[[群馬県]]に2人の遺体を埋めた。人を殺すのは平気だ。[[ゴキブリ]]を叩き殺すのと同じだ」と語っていた<ref group="書籍" name="oosaki_p207-211"/>。
: 2009年(平成21年)3月18日、第一審・[[名古屋地方裁判所]]で死刑判決を受け、即日[[名古屋高等裁判所]]に[[控訴]]したが<ref group="中日" name="chunichi20090318"/>、同年4月13日に自ら控訴を取り下げ、死刑が確定した<ref group="中日" name="chunichi20090415"/>。[[2015年]](平成27年)6月25日、[[法務省]]([[上川陽子]][[法務大臣]])の死刑執行命令により、[[名古屋拘置所]]で死刑が執行された(没年44歳)<ref group="中日" name="chunichi20150626"/><ref group="法務省" name="moj20150625">{{Cite web |date=2015-06-25 |title=法務大臣臨時記者会見の概要 |url=http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html |publisher=[[法務省]]([[上川陽子]][[法務大臣]]) |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713053622/http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html |archivedate=2017-07-13 }}</ref>。
;受刑者A
: 犯行当時40歳、[[本籍]]愛知県[[津島市]]の無職<ref group="中日" name="chunichi20070827"/>。7月に派遣会社を辞めてからホームレス状態で、使われた車の中で寝泊まりすることもあり<ref group="書籍" name="oosaki_p202-203"/>、殺害場所の[[愛西市]]内で勤務していたこともあった<ref group="報道" name="asahi20070827"/>。K・C両名に対し、「地元の[[石川県]]では詐欺や恐喝で名が知られていた」「[[出会い系サイト]]で知り合った女性を[[強姦]]し、それをネタに50万円脅した」などと語っていた<ref group="書籍" name="oosaki_p207-211"/>。犯行翌日に「[[死刑]]になりたくないから」と[[自首]]し逮捕され、他の2人も逮捕されるきっかけとなった<ref group="中日" name="chunichi20070827"/><ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>
: 共犯2人とともに死刑が求刑されたが<ref group="中日" name="chunichi20090120"/>、2009年の第一審・名古屋地裁では無期懲役判決を受けた<ref group="中日" name="chunichi20090318"/>。自らは有期懲役刑を<ref group="中日" name="chunichi20090325"/>、検察側も死刑を求めてそれぞれ控訴したが<ref group="中日" name="chunichi20090328"/>、2011年4月12日の控訴審・名古屋高裁で双方とも棄却され<ref group="中日" name="chunichi20110413"/>、その後双方とも上告せず確定した<ref group="中日" name="chunichi20110423"/>。現在は無期懲役刑により服役中。
;受刑者・被告人C
: 犯行当時32歳、本事件での逮捕当時は名古屋市[[東区 (名古屋市)|東区]]在住の無職<ref group="中日" name="chunichi20070827"/>。本事件以前に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]<ref group="注" name="hekinan">この項目ではCについては「A」と表記されている。</ref>など2つの強盗殺人・同未遂事件を起こし逃亡中だった。AとはKが加わる以前の8月上旬から闇サイトで金目当ての犯罪仲間を募集する書き込みをきっかけに連絡を取り合っていた<ref group="中日" name="chunichi20080926"/>。事件当時、東区内のマンションで女性と同居していたが、同居女性によれば警察に出頭を求められる直前まで一緒にいたものの「変わった様子はなかった」といい、同居女性曰く以前は仕事をしていたという<ref group="報道" name="asahi20070827"/>。実際、後の碧南事件の裁判では当時の仕事仲間らとともに犯行に及んだことが明らかになっている。Aに対し「親族(父と兄)が[[暴力団]]員だ。兄は強盗殺人を起こし、無期懲役で服役している。自分も傷害事件で懲役2年執行猶予3年である」と話しており<ref group="書籍" name="oosaki_p202-203">大崎、2016 p.202-203</ref><ref group="報道" name="asahi20120805"/><ref group="中日" name="chunichi20120805"/>、また後に発覚する碧南事件については沈黙していたが<ref group="報道" group="報道" name="asahi20120805"/>、この言葉が碧南事件のことを指すのかは不明ではあるものの「自分も一線を越えたことがある」とも話していた<ref group="中日" name="chunichi20120805"/>。
: 2009年の第一審・名古屋地裁ではK同様に死刑判決を受けたが<ref group="中日" name="chunichi20090318"/>、死刑回避を求めて控訴した<ref group="中日" name="chunichi20090325"/>。2011年の控訴審・名古屋高裁判決で第一審の死刑判決が[[取消し|破棄]]され、無期懲役判決を受けた<ref group="中日" name="chunichi20110423"/>。その後、[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二小法廷にて[[2012年]](平成24年)[[7月11日]]付で検察側の上告棄却決定がなされ、本事件については無期懲役判決が確定した<ref group="中日" name="chunichi20120714"/>。
: その後は無期懲役刑により服役中だったが、最高裁判決からわずか1か月後の8月3日、[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の容疑者として、同事件の共犯2人とともに再逮捕され<ref group="中日" name="chunichi20120804"/>、同月24日に強盗殺人容疑で起訴された<ref group="中日" name="chunichi20120825"/>。翌2013年1月にはさらに、2006年に起こした別の強盗殺人未遂事件でも逮捕され<ref group="中日" name="chunichi20130116"/>、翌2月に強盗殺人未遂容疑で追起訴された<ref group="中日" name="chunichi20130207"/>。これらの事件の刑事裁判では第一審・名古屋地裁([[裁判員制度|裁判員裁判]]、2015年12月15日)で死刑判決を受け<ref group="中日" name="chunichi20151216"/>、名古屋高裁に控訴するも2016年11月8日に控訴棄却され<ref group="中日" name="chunichi20161109"/>、2017年時点では最高裁に上告中である<ref group="中日" name="chunichi20161110"/>。
: 現時点では被告人であると同時に、本事件における無期懲役刑の受刑者として服役中でもあるが、今後最高裁で上告が棄却されるか、自ら上告を取り下げた場合は死刑が確定し、無期懲役刑の執行は検察官の「刑執行取止指揮書」の指揮により停止される<ref group="書籍" name="impact2016">{{Cite book |和書 |author=年報・死刊廃止編集委員会 |title=死刑と憲法 年報・死刑廃止2016 |publisher=[[インパクト出版会]] |date=2016-10-10 |pages=194-195 |isbn=978-4755402692 }}</ref><ref group="中日" name="chunichi20120825"/>。その場合、懲役刑の受刑者に科されていた労役作業はなくなるが、死刑囚として面会や手紙のやり取りの相手は親族などに制限され、拘置所独房で死刑執行を待つこととなる<ref group="書籍" name="impact2016"/>。


本事件は、インターネット上の掲示板を通じて集まった加害者らが利欲目的で、初めて顔を合わせてからわずか数日後に{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}、それまで面識のない帰宅途中のごく普通の女性会社員を拉致・監禁し、惨殺した事件として{{Sfn|集刑|2012|p=114}}、大きく報道された{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。また、その犯行手口から{{Sfn|集刑|2012|p=114}}、社会に「いつ誰でも同じような被害に遭うかもしれない」という大きな衝撃・恐怖感・不安感を与え{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}、加害者3人への極刑を求める世論が沸き上がった{{Sfn|コトバンク|2016}}。被害者Aの母親は加害者3人への極刑適用を求めた[[署名]]活動を行い、事件発生から5年間で33万人以上の署名を集めた{{Sfn|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}ほか、[[法務大臣]]・[[検事総長]]への請願や、犯罪被害者遺族への支援拡大を求める活動などを行っている<ref name="中日新聞2015-06-25 社会"/>。
=== 犯行まで ===
2007年(平成19年)8月24日午後10時頃、名古屋市[[千種区]][[自由ヶ丘 (名古屋市)|自由ヶ丘]]の路上を歩いていた31歳女性(同区在住)を、男3人は道を尋ねるふりをして、[[強盗]]目的で車内に[[拉致]]しシートの床に押し込んだ<ref group="中日" name="chunichi20070827">『[[中日新聞]]』2007年8月27日朝刊1面「路上で女性拉致殺害 第2の犯行も計画 闇サイトで知り合う 男3人を逮捕 遺棄容疑で愛知県警 強殺でも追及」同日25面「素性知らぬ『仲間』共謀 拉致強殺逮捕の3人 「弱い女性」狙う 身勝手、死刑恐れ自首」</ref><ref group="中日">『中日新聞』2008年9月25日夕刊11面「千種拉致殺害 闇サイト悪意つなぐ 見知らぬ3人結託 冒頭陳述『誰でもいい』凶行 罪なすり付け合い」</ref>。犯行グループ3人は日常生活で面識はなく、知り合って犯行を行うきっかけとなったのは[[携帯電話]]サイト「闇の職業安定所」という犯罪者を募集する闇サイトであり<ref group="中日" name="chunichi20070827"/>、初めて顔を合わせてからわずか3日後の犯行であった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の△△(被害者女性の母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=『[[産経新聞]]』 |publisher=[[産経新聞社]] |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170619112630/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}</ref>。


事件発生直後、『[[中日新聞]]』『[[読売新聞]]』『[[毎日新聞]]』はそれぞれ[[社説]]で、インターネットの匿名性が反社会的行為に悪用される危険性{{Efn2|『毎日新聞』は社説 (2007) で、インターネット犯罪の特性として、匿名性(身元特定の困難さ・証拠の残りにくさ)に加え、短期間に不特定多数と連携することが可能な点や、顔が見えないことでやり取りに抵抗感が薄れ、虚実ないまぜになって意見や主張がエスカレートする点を指摘している<ref name="毎日新聞 社説"/>。}}や、本事件以前から[[サイバー犯罪|インターネットを利用した犯罪]]が続出していた{{Efn2|本事件の約4年前から、インターネットで[[殺し屋]]を依頼する事件が目立っていた<ref name="毎日新聞 社説"/>。2003年(平成15年)10月には[[滋賀県]]でインターネットを利用した殺人依頼の事件が発覚したほか、2005年(平成17年)4月には名古屋市[[中川区]]で、同年12月には[[長野県]][[松本市]]で殺人事件(それぞれ加害者がインターネットで被害者の殺害を依頼し、第三者が実行した事件)が発生した<ref name="ネットで共犯募集">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第二社会面24頁「闇サイト 凶行またも ネットで共犯募集 増加」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1158頁</ref>。また、2003年末 - 2004年(平成16年)初めには主犯格が携帯電話のサイトで共犯者を募った連続強盗事件(愛知・[[三重県|三重]]・[[静岡県|静岡]]の3県で発生)が、2007年5月には三重県[[亀山市]]の女子中学生が誘拐される事件(犯人の1人がインターネットで運転手役を手配した)が発生していた<ref name="ネットで共犯募集"/>。}}ことなどを指摘し、違法情報への対策(法規制・摘発の強化など){{Efn2|『中日新聞』は「(ウェブサイトの運営)業者に通信記録の保存を義務付けるなど、法規制の強化が必要だが、法規制は言論の自由や個人のプライバシーを侵害しかねない側面もある。司法・行政・有識者らでプロジェクトチームを作り、監視社会を招かずに凶悪犯罪を防止できる方法を練る必要がある」と<ref name="中日新聞2007 社説"/>、『読売新聞』は「サイト運営に責任を持つ管理者が、問題情報の自主的な削除を積極的に進めるべき」とそれぞれ指摘した<ref name="読売新聞 社説"/>。}}の必要性を訴えた<ref name="毎日新聞 社説">『毎日新聞』2007年8月29日東京朝刊内政面5頁「社説:携帯サイト殺人」(毎日新聞東京本社) 匿名化の行き過ぎ見直す時」(毎日新聞東京本社)</ref><ref name="中日新聞2007 社説">『中日新聞』2007年8月29日朝刊社説・発言面7頁「社説 女性拉致殺害 凶悪犯罪招いた匿名性」(中日新聞社)</ref><ref name="読売新聞 社説">『読売新聞』2007年8月29日東京朝刊三面3頁「[社説]愛知女性殺人 闇サイトの実態を徹底解明せよ」(読売新聞東京本社)</ref>。また、『中日新聞』 (2009) は社説で、本事件を「現代社会の[[体感治安]]の悪化を物語った事件」と評している<ref>『中日新聞』2009年3月19日朝刊オピニオン面7頁「社説 闇サイト殺人 死刑判決はやむを得ぬ」(中日新聞社)</ref>。
この闇サイトで、Aが8月17日に「派遣社員やってます。何かやりませんか。組みませんか」と投稿<ref group="中日" name="chunichi20070915"/><ref group="中日" name="chunichi20080926"/>し、その投稿を見たKは<ref group="中日" name="chunichi20070827"/>、「以前は[[振り込め詐欺|オレオレ詐欺]]をメーンにしていたのですが、貧乏すぎて強盗でもしたいくらい」とメールを返信した<ref group="中日" name="chunichi20080926"/>。これに加え、CもAの投稿にメールを返信し<ref group="中日" group="中日" name="chunichi20070827"/>、Kも含めて3人で連絡を取り合うようになった<ref group="中日" name="chunichi20080926"/>。


[[名古屋テレビ放送]](メ〜テレ)が2012年(平成24年)1月9日、開局50周年記念番組『[[ドデスカ!]][[アップ!|UP!]]増刊号』の番組内で、[[東海地方]]の「心に残るニュース50選」を放送するため、「事件&事故」部門でアンケートを集計したところ、本事件は8位に入っている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nagoyatv.com/jimoto_ouendan/120109.html |title=メ〜テレ50年特別番組 ドデスカ!UP!増刊号 地元応援団宣言! |access-date=2022-11-07 |publisher=[[名古屋テレビ放送]] |date=2012-01-09 |quote=8位 2007年 名古屋・闇サイト事件 女性殺害 |website=名古屋テレビ【メ~テレ】 |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20221023151327/https://www.nagoyatv.com/jimoto_ouendan/120109.html |archive-date=2022-10-23}}</ref>。
当初は「民家や店を狙った強盗をやろう」という話であり<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>、Aが同年[[中日新聞社]]に送った手記及び公判資料では、事件の3日前の8月21日にK・C両名と知り合ったが<ref group="書籍" name="oosaki_p207-211">大崎、2016 p.207-211</ref>、その当初は[[パチンコ店]]の常連客や<ref group="書籍" name="oosaki_p207-211"/>、Cが行きつけだった[[ダーツ]][[喫茶店|カフェ]]を襲う計画だった<ref group="報道" name="asahi20120805"/>。常連客と以前から面識があったCが「財布に100万円くらい入っているのを確認している」と提案したため、尾行して帰宅時に押し入る予定だったが、実際に尾行したところ住んでいるマンション周辺に[[防犯カメラ]]が多かったため断念し<ref group="書籍" name="oosaki_p216-">大崎、2016 p.216</ref>、その後ダーツバーもA・K両名で襲撃しようと試みたが、当時は小中学校の夏休みであり、オーナーの子ども達が店に泊まりに来ている可能性があり、顔を見られるおそれがあることから断念し<ref group="書籍" name="oosaki_p207-211"/>、女性を拉致する計画に変わった<ref group="中日" name="chunichi20120805">『中日新聞』2012年8月5日朝刊35面「碧南夫婦強殺『金持っている人狙う』パチンコ関係者 C容疑者ら把握」「『事件後帰郷無口に』Y容疑者(碧南事件でのCの共犯のひとり)の両親話す 闇サイト事件当初パチンコ店狙う C容疑者『一線越えたことある』」</ref>。その後、メールのやり取りや実際に顔を合わせるうちに「金を持っている女を拉致し、カードを奪って引き出そう」と、話がエスカレートした<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>。ターゲットについてはまずキャバクラ嬢が挙がったが、Kが「キャバクラ嬢はホストクラブに通っているのが多いから金を持っていない。ソープ嬢の方がいい」という意見が出て、これに対してはAから「ソープ嬢を襲うのは[[名駅]]・[[栄 (名古屋市)|栄]]のどちらかになるが、どちらも渋滞に巻き込まれやすく、車での逃走ルートがきつい」と<ref group="書籍" name="oosaki_p227">大崎、2016 p.227</ref>、暴力団組員の親族であるCからも「ソープ嬢は経験上抵抗が激しい。それに必ずヤクザがバックについているため、(手を出せば)ヤクザに狙われる」と、風俗嬢を襲うことに抵抗を示した<ref group="書籍" name="oosaki_p217">大崎、2016 p.217</ref><ref group="書籍" name="oosaki_p227"/>。その後、Cが若いOLを拉致することを提案した<ref group="書籍" name="oosaki_p227"/>。Kは「今日は24日の金曜日。あす25日が給料日なので、普通は今日出勤しているはずだからちょうどいい」「ストッキングをはいているような感じで、ブランド品などは持っていない、黒髪で、あまり派手ではない地味な感じのOLだったらたくさん貯金があるだろう。しばらく拉致・監禁して、ある程度まとまった金を引き出せる」と賛成し<ref group="書籍" name="oosaki_p227"/>、その上で「ATMで引き出せるのは1日50万円までだから、今日中に暗証番号を知れば、4日連続で計200万円引き出せる」「ターゲットに家族がいると通報されるおそれがあるから、一人暮らしのOLがいい」と具体的な計画を提案した<ref group="書籍" name="oosaki_p227"/>。口座の[[暗証番号]]を聞き出し、預金を引き出した上で殺害することにし、8月24日に決行することにした<ref group="中日" name="chunichi20070915"/><ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。


== 事件前の経緯 ==
[[被害者]]の女性は偶然見かけただけという[[通り魔]]的犯行であった<ref group="中日">『中日新聞』2009年3月18日朝刊30面「被害者1人の死刑争点 千種拉致殺害きょう判決 名古屋地裁」</ref>。
本事件の加害者である'''「山下」'''(当時40歳・「山下」は偽名/本名のイニシャル「K・K」)は{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}、事件の8年ほど前から[[日本の携帯電話|携帯電話]]で闇サイトを利用し続けていた<ref name="中日新聞2007-09-15"/>。「山下」は本事件以前に、闇サイトを利用した別の詐欺事件を起こし<ref name="毎日新聞2009-03-14">『毎日新聞』2009年3月14日中部朝刊社会面23頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/上 意思疎通なき寄せ集め集団」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、[[2005年]](平成17年)7月にはオレオレ詐欺事件に関与したとして{{Sfn|中尾幸司|2009|p=54}}、[[詐欺罪]]で{{Efn2|インターネット上の掲示板を利用した報酬金目当ての仕事で、通帳1通およびキャッシュカード1枚を詐取したとして、詐欺罪に問われた{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 3 被告人Y3(「山下」)の個別情状}}。}}、懲役1年2月・[[執行猶予]]4年に処された{{Efn2|「山下」は『[[中日新聞]]』宛の手紙で、本事件以前に闇サイトを使った詐欺などの犯罪を3件犯していたことや、闇サイトで共犯者を募った理由を「多人数なら1人よりもやれることが広がり、互いに名前や身分を証す必要もない」と述べている<ref name="中日新聞2007-12-26"/>。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 3 被告人Y3(「山下」)の個別情状}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=各被告人の個別情状について}}。また、'''KT'''(本事件当時{{年数|1971|3|9|2007|8|24}}歳)<ref name="中日新聞2007-08-27"/> も2006年(平成18年)3月{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 1 被告人Y1(KT)の個別情状}}、闇サイトを悪用した詐欺事件で{{Efn2|インターネット上の掲示板を利用した報酬金目当ての仕事で、偽造運転免許証を使い、通帳を1日に連続して5件詐取したとして、偽造有印公文書行使、有印私文書偽造、同行使、詐欺未遂、詐欺の罪に問われた{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 1 被告人Y1(KT)の個別情状}}。}}<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>、懲役3年・執行猶予5年に処された{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 1 被告人Y1(KT)の個別情状}}が、両者とも金欲しさから、闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。


一方、本事件後に夫婦殺害事件の余罪が判明した'''堀 慶末'''(本事件当時32歳)は2007年3月、同居女性の金を遣い込んだことが露見し、激怒した彼女によって家を追い出された{{Sfn|堀慶末|2019|pp=114-115}}。その後、堀は別の知人女性宅で同居していたが、先述の女性への[[借金]]{{Efn2|借金の合計額は計440万円<ref name="中日新聞2012-08-23"/>。}}の返済手段を求め、ネットサーフィンをしていたところ{{Sfn|堀慶末|2019|pp=115-117}}、携帯電話の闇サイト<ref name="中日新聞2007-08-27 夕刊"/>「'''闇の職業安定所'''」(以下「闇の職安」){{Efn2| name="闇の職安"|加害者3人が知り合うきっかけとなった「闇の職業安定所」は<ref name="中日新聞2007-08-27 夕刊"/>、犯罪の仲間や協力者を募る目的で利用されていたウェブサイト<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。事件発覚後の2007年8月27日朝までに閉鎖されていることが判明した<ref name="中日新聞2007-08-27 夕刊">『中日新聞』2007年8月27日夕刊E版第一社会面13頁「千種・拉致殺害 『闇の職安』サイト閉鎖 事件と関連、確認へ」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1173頁</ref>。}}を見つけ、同サイトの[[電子掲示板|掲示板]]に投稿するようになった{{Sfn|堀慶末|2019|p=117}}(同年6月ごろ){{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}。堀はまず、借金および[[未払金]]回収の仕事を募集する書き込みを見て、投稿主と接触したが、無報酬に終わったため、自ら掲示板に「名古屋周辺で何か仕事はないか」と仕事募集の投稿をした{{Sfn|堀慶末|2019|pp=118-119}}。
=== 犯行当日 ===
事件3日前の8月21日に3人は[[豊川市]]内の[[ファミリーレストラン]]で落ち合った<ref group="中日" name="chunichi20080926"/>。後述の事務所荒らしのためAは同市内の[[ホームセンター]]で、後に凶器に用いられる[[ハンマー]]や[[ドライバー]]などの道具を調達していた<ref group="中日" name="chunichi20070831"/>。ただし、[[大崎善生]]の著書『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』』([[角川書店]])によれば、ハンマーはCが入手し、包丁は後述のDが万引きし、粘着テープはAが購入し、犯行に使われた車([[日産・リバティ]])・ロープ・手錠はAの持ち物だった<ref group="書籍" name="oosaki_p221">大崎、2016 p.221</ref>。AはK・C両名と継続的に連絡を取っており、その後3人で集まった会合で、女性を拉致して強盗することを決めた。Kはこの際、「女を[[覚醒剤|シャブ]]漬けにして[[風俗店]]に売り飛ばすのはどうか」「金を奪ったら殺せばいい」などと主張した他、盗みより手荒な手段で金品を奪うことも提案、Cがこれを支持し、Aも同調したため、最終的に惨劇に繋がった<ref group="中日" name="chunichi20070830"/>。


同年7月、堀の投稿に「山下」が反応し{{Efn2|同年8月4日、「山下」は堀に対し「いくら(金が)必要か」と質問し、堀から「ガッツリいきたい」と返信されたことを受け、「組んでみないか」と誘った{{Sfn|大崎善生|2016|pp=200-201}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}、2人で会う寸前まで話が進んだが、その後は堀の都合がつかず{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}、いったん連絡は途絶えた{{Sfn|堀慶末|2019|p=120}}。一方で「山下」は同月ごろ、[[人材派遣会社]]{{Efn2|「山下」は詐欺事件で逮捕された前科事件以降、人材派遣会社で派遣社員として働いていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。}}を辞めて住む場所を失い{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}、借金の取り立てから逃れるため<ref>『読売新聞』2007年9月1日中部朝刊社会面35頁「[闇サイト殺人](上)脱落トリオ、意気投合 一気に凶暴化(連載)=中部」(読売新聞中部支社)</ref>、車内で路上生活を送っていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}。その際に用いていた車(および犯行に用いた車)である[[日産・リバティ]]{{Efn2|name="リバティ"|犯行に用いた車(リバティ)は2006年4月ごろに盗難情報が出されていた<ref>『中日新聞』2007年9月1日夕刊第一社会面11頁「伝わる 凶行の無念 千種の拉致殺害、車公開」(中日新聞社)</ref>。「山下」はそのリバティのナンバープレートを、かつて自身が所有していたスターレット(2003年8月ごろに購入)のナンバープレートに付け替えて利用していた<ref name="朝日新聞2007-08-30">『朝日新聞』2007年8月30日名古屋朝刊第一社会面35頁「闇サイト、常習的に利用 以前にも仲間募る 「山下」容疑者 愛知・拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。}}は、かつて闇サイトを利用した盗難保険金詐欺に加担した際、依頼主から仕事の謝礼として受け取ったものだった{{Sfn|大崎善生|2016|p=221}}。また、この詐欺に加担した際、依頼主の男から車内での[[練炭]]自殺を装ってリバティを燃やし、処分することも提案されていたが{{Efn2|「山下」は当初、自殺志願者(大学生)が車内で練炭自殺した後で、ガソリンなどを用いて車を燃やそうとしていたが、途中で気まぐれを起こし、大学生を街に置き去りにして姿を消した{{Sfn|大崎善生|2016|p=222}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|pp=221-222}}、後に本犯行で使用した綿[[ロープ]]と[[手錠]]は、そのために用意されたものだった{{Sfn|堀慶末|2019|p=131}}。
実行犯となったKら3人以外にも第4の男D(犯行当時29歳)も「闇の職業安定所」で知り合って行動を共にしており<ref group="報道" name="asahi20070828"/>、女性拉致事件の前日(8月23日)にはAとともに[[長久手町|長久手市]]内の事務所に窃盗目的で侵入したが、途中で怖くなったAがDを見捨てて一人で逃げ出し、はぐれたDは土地勘がない上に所持金が200円程度しかなかった上、犯罪を繰り返すことに嫌気が差していたため、これを転機にと女性拉致事件直前の時間に[[名東警察署]]に[[110番通報]]で[[自首]]して[[建造物侵入罪|建造物侵入未遂]]容疑で緊急逮捕された<ref group="報道" name="asahi20070828"/><ref group="中日" name="chunichi20070830">『中日新聞』2007年8月30日朝刊35面「K、C両容疑者 事務所荒らしは拒否 『考え方違う』拉致強盗を強行」</ref>。なおこの事務所荒らしについてK・Cは「あなた達とは考え方も方法も違う」と参加しなかった<ref group="中日" name="chunichi20070830"/>。


=== 8月21日 ===
3人はKを除き素性を知られないよう互いに偽名を名乗り<ref group="中日" name="chunichi20070827"/><ref group="中日" name="chunichi20070831">『中日新聞』2007年8月31日朝刊37面「千種の女性拉致 『窃盗用』工具凶器に 事務所荒らし後も車内に 殺害に流用」</ref><ref group="報道" name="asahi20070827">『朝日新聞』2007年8月27日朝刊名古屋版1面「闇サイト、3人の接点 遺棄容疑で逮捕 名古屋・千種の女性殺害」<br>『朝日新聞』2007年8月27日朝刊35面「『闇の職安』3人共謀 愛知の強殺『拉致、女性狙う』遺棄容疑で逮捕」</ref>、8月24日午後7時過ぎから「金持ちが住んでいそう」という理由で千種区内で車を使って女性を物色した<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>。同日午後10時頃、名古屋市千種区で帰宅途中の自宅から僅か100m近くの路上をひとりで歩く女性を見つけ<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>、数十m尾行した後、Cが「すみません」と声をかけ、いきなり口をふさいで車に連れ込み<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>、[[手錠]]をかけて拉致して約6万2000円と[[キャッシュカード]]2枚などを奪った<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>。さらに[[包丁]]で被害者を脅して、キャッシュカードの[[暗証番号]]を聞き出し、暗証番号をなかなか言わない被害者に対し、5分間のカウントダウンをして脅した<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。監禁中、3人は被害者に対し足に包丁を突き刺す真似をしながら「この包丁は100円ショップの包丁で切れ味が悪いんだよ。死ぬまでに最低5、6回は刺さないと死ねないかな」と執拗に脅していた<ref group="中日" name="chunichi20071006"/>。この際Aは被害者を[[強姦]]しようとしたが未遂に終わった<ref group="中日" name="chunichi20080926">『中日新聞』2008年9月26日朝刊28面「千種拉致殺害 冒頭陳述要旨」</ref>。その様子を見ていたK・C両名は被害者が落ち着きを失い、今にも逃走を図りそうになったと判断した<ref group="中日" name="chunichi20080926"/>。その後、既に被害者から聞き出した暗証番号が実は嘘だったとは思わず本当だと思い込み、直ちに被害者を殺害することにした<ref group="中日" name="chunichi20080926"/>。
2007年8月16日、「山下」は「闇の職安」の東海版に、「刑務所を出所したばかりだ。[[東海地方]]で一緒に何か組んでやらないか」と投稿した{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}。この投稿に対し、まず「杉浦」(当時29歳・偽名)が返信した{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}ほか、同月20日には堀(当時32歳)が「こづかい稼ぎですが、(人を)拉致して金を出させます(預金引き出し)」という[[電子メール|メール]](捜査報告書より)を送信{{Sfn|集刑|2012|p=116}}。また、同日にはKTも「以前は[[振り込め詐欺|オレオレ詐欺]]をメインにしていたが、貧乏すぎて強盗でもしたい」というメールを送信した{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}。なお、この時には「山下」「杉浦」だけでなく、堀も「田中」の偽名を用いていたが{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}、KTは本名を名乗っていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}。


この3人以外にもいくつかの反応があったが、「山下」はこの3人を選んで返信し{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}、翌日(2007年8月21日)9時には、堀の住居{{Efn2|堀は逮捕当時、名古屋市[[東区 (名古屋市)|東区]][[泉 (名古屋市)|泉]]一丁目のマンションに居住していた{{Sfn|集刑|2012|p=91}}。}}の近くにあったファミリーレストランで堀と初めて対面した{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}。そこで、両者は互いに脚色を交えながら自己紹介を行った上で、「山下」の運転するリバティで愛知県[[豊川市]]へ移動{{Efn2|大崎善生 (2016) は、この時の経路について、名古屋市内 - 豊川市の自動車による所要時間は[[東名高速道路]]経由で約30分、一般道経由で約1時間である旨を指摘した上で、「11時30分ごろに豊川市に到着したという記録があるので、一般道経由で移動したのだろう」と指摘した{{Sfn|大崎善生|2016|p=203}}が、堀は自著『鎮魂歌』 (2019) で「高速道路経由で豊川へ向かった」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=122}}。}}し、「杉浦」と合流した{{Sfn|大崎善生|2016|p=203}}。そして、3人で犯罪計画について話し合いつつ{{Efn2|この時、「杉浦」は「このままでは2日後(8月23日)にアパートを追い出されてしまうので、早く現金が欲しい。金庫破りかパチンコ屋(への事務所荒らし)が良いのではないか」と発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|pp=203-204}}。}}、「山下」がメールでKTに「今三人で会議中なんですけど、金庫破りか 金持ってる人を拉致って引き出す計画です」(捜査報告書より)と相談したところ、KTは「拉致はターゲットを探すのが大変ですから 金庫ですかね」{{Efn2|捜査報告書によれば、この時点ではKTはむしろ拉致計画に消極的な姿勢を示していたとされる{{Sfn|集刑|2012|p=116}}。}}{{Sfn|集刑|2012|p=116}}「金庫破りや事務所荒らしは下見が必要だから、夜間金庫か、パチンコ屋の景品交換所を襲う方が良い」などと返信した{{Sfn|大崎善生|2016|p=204}}。そのメールを見せられた堀は、自身が通っているパチンコ店([[キング観光]]サウザンド[[栄 (名古屋市)|栄]][[東新町 (名古屋市)|東新町]]店){{Efn2|名古屋市中区[[新栄]]{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}。}}の常連客で、常に大金を持ち歩いていた男性を同店駐車場で待ち伏せて襲撃し、財布や鞄を奪う強盗を提案{{Sfn|大崎善生|2016|pp=204-205}}。堀はその常連客と顔見知りだった{{Sfn|堀慶末|2019|p=124}}ため、「自分はバックアップに専念するので、襲撃は2人(「山下」と「杉浦」)でやってほしい」と持ち掛け、2人もその案に賛同した{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}。そのため用いる道具として{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}、「山下」が既に入手していた綿ロープと手錠に加え{{Sfn|集刑|2012|p=109}}、近くのホームセンターで堀が[[槌|金槌]]と軍手を購入{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}。綿ロープと手錠に加え、この時に購入した金槌(重量約580&nbsp;[[グラム|g]]){{Sfn|集刑|2012|p=117}}と、購入先であるホームセンターのレジ袋<ref name="中日新聞2007-08-31">『中日新聞』2007年8月31日朝刊第12版第一社会面37頁「千種の女性拉致 「窃盗用」工具 凶器に 事務所荒らし後も車内に 殺害に流用」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1353頁</ref><ref name="朝日新聞2007-08-29夕刊"/>{{Sfn|堀慶末|2019|p=158}}が、後に殺人事件の凶器として用いられた{{Sfn|大崎善生|2016|p=221}}。
[[8月25日]]午前1時頃、3人は「生かして帰すと顔を見られるし、車の[[ナンバープレート]]からも足がつく」という理由で<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>、犯行が露見するのを恐れて[[愛西市]][[佐屋町]]の[[駐車場]]で被害者を殺害した<ref group="中日" name="chunichi20080926"/><ref group="中日" name="chunichi20070915"/><ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。その殺害方法はまさに「惨殺」というものであり、まずKが腕で被害者の首を絞めた後、Cはマスクのようにした[[ガムテープ]]を口と鼻に貼り、その上から手で押さえて被害者の鼻をつまみ、息ができないようにした<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。被害者を早く殺して金を手に入れたいと思ったCは金槌を取り出し、被害者の頭を3発殴打した<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。その後ロープを被害者の首に巻き、片方をAが、もう片方をCが持って引っ張ったがうまく絞められなかったので、その後Cが1人で首を絞めた<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。その間、被害者は「殺さないって言ったじゃない」「お願い、助けて」「死にたくない」「お願い、話を聞いて」と、途切れ途切れに絞り出すような最後の言葉を発したが、それを聞いても誰も躊躇することなく「まだ生きてやがる」と3人の行動はますますエスカレートして行き<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>、。顔面の縦横にガムテープを23周ぐるぐる巻きにし、頭から[[ビニール袋]]をかぶせ、その首元から頭にかけてガムテープで8周まわして留め、その後、Kはロープで被害者の首を絞めた<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。それでもおさまらずKは、既に痙攣し始めている被害者の頭に30回から40回金槌を振り下ろして殺害した<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。死因は窒息死だった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。


3人はその後、高速道路経由で名古屋市内へ移動し、「キング観光」の地下駐車場で標的の常連客を待ち伏せ、[[レクサス]]に乗って帰宅しようとする標的を尾行{{Sfn|大崎善生|2016|pp=205-206}}。居宅を特定した上で{{Sfn|大崎善生|2016|p=206}}、この常連客を金槌で襲撃するなどして拉致し、キャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し、現金を引き出すといった計画の実行を試みたが{{Sfn|集刑|2012|pp=116-117}}、途中でレクサスを見失ったため、失敗した{{Sfn|大崎善生|2016|p=206}}。このため、「山下」はその旨をKTにメールで報告した際、同日21 - 22時ごろに[[金山駅 (愛知県)|金山駅]]で合流する約束を取り付けた上で、その間に堀の知人宅([[天白区]][[平針]]方面の豪邸){{Efn2|この住宅は、かつて堀が増築の仕事で外壁工事をした家だった{{Sfn|堀慶末|2019|p=126}}。この家に向かう途中、「杉浦」がそれに用いるマイナスドライバーを2本万引きし、同宅周辺でも空き巣に入れそうな家を物色したが、いずれも失敗している{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}。}}に空き巣に入る計画を立てたが、飼い犬が鳴いていたため侵入できずに終わった{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}。結局、「杉浦」はアパートから退去するため、KTとの合流を待たず電車で帰宅{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}。KTは22時ごろに原付で金山駅に到着し{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}、合流した堀や「山下」と互いに虚実ないまぜの自己紹介をし合いつつ、「自分は広域[[暴力団]]の元構成員で、[[覚醒剤]]や[[拳銃]]を入手できるルートを持っている。大金を得るには覚醒剤を仕入れ、売人を雇って売りさばく秘密組織を作ったり、女性を拉致して覚醒剤中毒にさせ、[[風俗店|風俗]]に売り飛ばせば良い」などといった趣旨の提案をした{{Sfn|大崎善生|2016|p=208}}。また、堀から(ホームセンターで購入した)金槌と軍手を見せられた際、「こんなハンマーで(頭を)叩くと、死んでしまわないか」「(標的に)顔を見られたら'''殺すのか'''」などと問いかけたが、堀や「山下」はそれに異を唱えず同調した{{Efn2|この時、金槌を見せられたKTの「そんなもんでぶったたいたら死んじゃいませんか」という問いかけに対し、堀は「まあ、仕方ないですかね」と、「山下」も「まあ、そうでしょうね」とそれぞれ答えている(捜査報告書より){{Sfn|集刑|2012|p=118}}。しかし、堀は自著 (2019) で「ハンマーは殺すつもりで購入したわけではなく、この時の自身の発言は迎合気味の発言に過ぎない。もし最初から殺人を考えていたなら、ハンマーより殺傷力の高い包丁を選んでいただろう」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=128}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|pp=208-209}}{{Sfn|堀慶末|2019|pp=127-128}}。
被害者を殺害後、3人は遺体を[[岐阜県]][[瑞浪市]]稲津町小里の「御料林橋」北東の山林に埋めて逃走した<ref group="中日" name="chunichi20070827"/>。なお、運転はA、拉致は後部座席のK・C両名が分担して行い、怯える女性を2人で挟んで座り、Kが中心となって、後述の事務所荒らしのためにAが用意したハンマーで殺害した<ref group="中日" name="chunichi20070827"/><ref group="中日" name="chunichi20070831"/>。


=== 8月22日 ===
被害者は3人がかりのために手足の自由を奪われ、抵抗することもできずに虫けらのように殺されていった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。捜査に当たった警察も、後に裁判では検察もその残虐さを「[[生き埋め]]と同じだ」と形容した<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。被害者の母親は「親として、我が子をこのような形で亡くすことほど辛く苦しいことはない。娘も同じ思いです」とコメントしている<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。被害者は生前、親しい人に「一番の親不孝は親より先に死ぬことだから私は絶対にそんなことはしない」と語っていたといい、これについて触れた母親は「ですから、薄れゆく意識の中で1人残していく私のことを心配していたのではないかと思うと、胸が苦しくなります」と語った<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。また、Kが殺害行為は「[[ゴキブリ]]を殺すのと一緒で、仕事感覚」と発言したことについても母親は触れ「裁判を通して、身勝手な欲のために何の関係も落ち度もない人の命を簡単に奪えるほど、善悪に対する根本的な考えが一般の人とは違うということを知った」とも語った<ref group="報道" group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。
翌日(2007年8月22日)、KT・堀・「山下」の3人は、前日から考えていたパチンコの常連客襲撃と、KTが提案した偽装[[養子縁組]]の子役の男からの取り立て{{Efn2|その子役はKTから報酬を払われたが、役目を果たさずに逃げたため、KTが振り込んだ金を回収しようとしていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=209}}。彼は2007年8月より数か月前、居宅のアパート([[日進市]])から[[東京]]へ引っ越していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=214}}が、後に口座の売買で逮捕された{{Sfn|堀慶末|2019|p=136}}。}}を並行して行おうとしていたが、後者は失敗{{Sfn|大崎善生|2016|pp=209-210}}。昼ごろ、「山下」は[[TSUTAYA]](名古屋市[[緑区 (名古屋市)|緑区]][[鳴海町|鳴海]])の駐車場でKTと落ち合い、「杉浦」が来るのを待った{{Sfn|大崎善生|2016|p=210}}。この間、2人は虚構の犯罪歴を互いに自慢しつつ談笑していた{{Efn2|name="8月22日"|2007年8月22日、KTは「山下」に対し、「自分は過去に2人ほど殺して(出身地の)[[群馬県|群馬]]に埋めたことがある」「人を殺すのは[[ゴキブリ]]を叩き殺すのと同じだ」などと発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=210}}。KTは第9回公判<ref name="公判について"/>(2008年11月26日)でも、堀の弁護人からの被告人質問で、「警察からの取り調べに対し、『2人ほど埋めたことがある』と話した」と供述したが、愛知県警は「そのような事実は把握していない」とコメントしている<ref>『中日新聞』2008年11月27日朝刊第一社会面35頁「『他にも2人埋めた』 千種拉致殺害 公判でKT被告」(中日新聞社)</ref>。}}ほか、KTは「山下」が[[手錠]]を見せてきたところ、「手錠の爪を折らなければ、鍵をかけていても簡単に外される」と言い、ペンチで手錠の爪を折った{{Sfn|大崎善生|2016|p=210}}。しかし、約束の時間になっても「杉浦」は来なかったため、2人は携帯電話の[[出会い系サイト]]を検索し、サイトを用いて[[援助交際]]している人妻を呼び出して現金を奪ったり、そのことを種に脅迫したりすることを考えたが、これも思うようにいかず、断念している{{Sfn|大崎善生|2016|p=211}}。


2人は同日16時ごろ、堀の待つパチンコ店へ移動し、地下駐車場で(前日と同じ常連客を)待ち伏せ、[[千種区]]内の高級マンション{{Efn2|しかし、このマンションは実際には常連客の居宅ではなく、会社の事務所だった{{Sfn|堀慶末|2019|p=132}}。}}まで尾行に成功したが、KTがマンションの駐車場を確認したところ、[[防犯カメラ]]が多数設置されていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=211}}。その旨を報告された堀は「それでは無理だろう」と発言したが、KTは「どうせ顔を見られるなら、(常連客の)部屋に侵入して殺してしまおう」と提案{{Sfn|大崎善生|2016|pp=211-212}}。堀・「山下」の両者ともそれに異を唱えなかった{{Efn2|「山下」は、「(常連客を最後は殺してしまえば良いなどという言葉を聞いて)半信半疑の気持ちではあったが、KTの話をまったくの冗談だとは思わず、半分は『実際に人を殺すことになるかもしれない』という気持ちを持っていた」と述べている{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}が、マンションはセキュリティが厳重だったため、襲撃計画はいったん見送った上で、18時ごろに「杉浦」と先述のTSUTAYA駐車場で合流した{{Sfn|大崎善生|2016|p=212}}。KTは遅れてきた「杉浦」に苛立ちを露わにしつつも{{Sfn|大崎善生|2016|p=213}}、「'''パチンコ店常連客を襲うんだったら、最悪は殺してしまうことになるかもしれない'''が、それでもいいか」「これは3人の総意なんだ」などと告げた{{Sfn|集刑|2012|pp=118-119}}が、「杉浦」は「強盗殺人は、([[法定刑]]が)[[無期刑|無期]]か死刑しかないから、やりたくない」と拒否した(捜査報告書より){{Sfn|集刑|2012|p=119}}。このため、KTから「「山下」が入手している他人名義のクレジットカード{{Efn2|そのクレジットカードは、かつて「山下」が勤務していた会社の社長の息子宛てに届いた書留を、「山下」が本人を装って受け取っていたものだった{{Sfn|大崎善生|2016|p=213}}。}}で買い物をしてみろ」と提案され、[[コンビニエンスストア]]で煙草2箱を購入してきた{{Sfn|大崎善生|2016|p=213}}。これにより、カードが使えることが分かったため、[[ドン・キホーテ (企業)|ドン・キホーテ]]で金のネックレスを購入して換金しようとしたが、それ以降はカードが使えなかったため、失敗した{{Sfn|大崎善生|2016|p=214}}。
=== 事件の発覚・逮捕 ===
女性を殺害した翌日の8月25日午後1時になり、容疑者のうち仲間を集めた張本人であるAが<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>、第2の犯行を計画していたK・C両名を裏切るような形で[[愛知県警察|愛知県警本部]]に犯行をほのめかす電話をしたために事件が発覚し<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>、名古屋市[[緑区 (名古屋市)|緑区]]内で[[逮捕]]された<ref group="報道" name="asahi20070828"/>。その後携帯電話の通信記録などからK・C両名が割り出され、Kは同日午後7時10分に、Cも午後10時頃にそれぞれ逮捕された<ref group="報道" name="asahi20070828">『朝日新聞』2007年8月28日朝刊名古屋版31面「犯行防げた可能性『第4の男』出頭後の捜査焦点 名古屋・女性拉致殺人」<br>『朝日新聞』2007年8月28日朝刊39面「闇サイト『第4の男』直前、別容疑で逮捕 愛知・拉致殺害」</ref><ref group="中日" name="chunichi20070827"/>。


4人は同日22時ごろ<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、堀が常連として通っていたダーツバー(名古屋市[[中川区]]){{Efn2|同店は1日の売上が20 - 30万円におよび、閉店後には店長が1人でバックヤードで仮眠していたため、そこを襲う計画だった{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}。ただし同日(2007年8月22日)は定休日だったため、同店に向かう当初はあくまで下見目的だった{{Sfn|堀慶末|2019|p=136}}ほか、堀は「自分は顔が割れているので、実行役はできない」として{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}、見張り役・運転手役を引き受けた{{Sfn|堀慶末|2019|p=136}}。}}を襲撃することを計画し{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}、経営者宅の下見などを行ったが、隣家の電気が点いていたため、「人目につく」と判断し、同日の襲撃{{Efn2|KTが店内の様子を見たところ、エアコンの室外機が回っていたため、KTは「中に店主がいるかもしれない。今襲おうか」と提案していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}。}}は断念した<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
Aが警察に事件に関与したことを話した理由は、金欲しさに無辜なる女性を拉致・惨殺しておきながら「[[死刑]]になりたくないから」という、{{誰範囲2|date=2017年7月|あまりにも身勝手}}なものだった<ref group="中日" name="chunichi20070827"/><ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。


=== 8月23日 ===
警察署で事件後、被害者の母親と伯母(母親の姉)が霊安室で初めて会った被害者の遺体は[[ブルーシート]]に包まれていて、首から上だけが出ている状態だった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。顔には何か所も青痣が広がっており、ぱんぱんにむくんでいたという<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。眉間や左頬、顎には傷があり、髪はまるで糊付けでもしたかのようにばりばりに固まって、大量の出血を想像させるものだった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。その左側頭部にはガーゼがあててあり、傷口が隠してあった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。あまりにも惨たらしい遺体の姿を見て、母親は強く抱きしめると痛いのではないかと思い、そっとなでることしかできなかったという<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。母親は2016年12月17日に[[犯罪被害者支援弁護士フォーラム]]が開いたシンポジウムで「当時のことはあまりよく覚えていませんが、後に姉(伯母)から『もうお母さんがいるから大丈夫よ。安心して。もう怖くないからね』と言いながら、そっとなでていたと聞いたという<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。しかし、母親がはっきり覚えているのは、頬をつけたときの娘の遺体の頬の異常な冷たさだったといい、これについては「亡くなったという現実を突きつけられたショックが、記憶としてとどまったのかもしれない。警察署では顔の部分だけしか見ていなかったが、[[司法解剖]]を終え、物言わぬ姿で帰宅した娘の両手首に内出血のような青痣が残っていた。娘の唯一の自慢は、父親譲りのきれいな手だったが、その手が無残に変色し腫れているのを見ると、娘の恐怖が伝わってくるようで、何とも言えない悲しみに襲われたのを覚えている」と語った<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。後に担当刑事に「手錠をかけられているだけであのように変色するものなのですか」と尋ねたところ、刑事は「抵抗が激しいとなります」と答えたという<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。母親は娘の顔の青痣を少しでも隠してあげたいと思い、姉と2人で[[死化粧]]をしてあげたが、母親曰く「解剖の痕を隠すように頭を覆った綿のようなものが綿帽子に見え、死装束が[[白無垢]]に見えた」というように、白無垢をまとった花嫁のようだったという<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。
このように次々と犯罪計画が失敗に終わったことに加え、それまで下っ端扱いされていたことも相まって、「杉浦」は不満を爆発させた{{Sfn|大崎善生|2016|p=216}}が、KTは「だったら若い女を拉致・監禁してキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出して金を引き出そう。最後は殺してしまえば良い」などと提案し、堀と「山下」もそれに賛同した{{Sfn|大崎善生|2016|p=217}}。この時の話し合いでは、[[風俗嬢]]([[キャバクラ]]嬢・[[ソープランド|ソープ]]嬢)が候補に上がったが、前者はKTが「金を持っていなさそう」と反対し、後者も「山下」が「拉致する場所は[[名駅]]か[[栄 (名古屋市)|栄]]になる。車での逃走が難しい」と、堀も「ソープ嬢はバックに暴力団がついているから、父と兄が暴力団員である自分としては賛成できない」と難色を示した{{Sfn|大崎善生|2016|p=217}}。


その後、KTや堀はそれぞれ帰宅し、「山下」と「杉浦」が2人きりになったが、「杉浦」は自分と考えが違い{{Efn2|「杉浦」はすぐに金を手に入れたがっていた一方で殺人には消極的だったため、秘密組織を結成して長期的に儲ける手段や、殺人を提案してくるKTに反発していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=218}}。}}、自分を見下したような態度を取ってくるKTを嫌い、「KTを外し、堀を含む3人で組みたい」と言い出した{{Efn2|その旨を「山下」から電話で伝えられた堀は、「KTが持っているという覚醒剤・拳銃入手のルートは手放したくないが、すぐに金を手に入れようとする2人の計画にはいつでも協力する」と応じている{{Sfn|大崎善生|2016|p=218}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=218}}。翌日(8月23日)昼ごろ、「山下」は堀と落ち合った際に「ダーツバーの店長が売上金を持ち歩いているので、それを襲おう」と提案され、店長宅を下見しに行った上で襲撃することを約束し合ったが、堀を自宅に送り届けた後で翻意{{Sfn|大崎善生|2016|p=219}}。堀との約束を反故にし、「杉浦」と名古屋市[[瑞穂区]]内で落ち合い、かつて自身が住んでいた[[瀬戸市]]へ向かう途中、給油のために立ち寄った[[尾張旭市]]のガソリンスタンドを「後で襲おう」と決めた{{Sfn|大崎善生|2016|p=219}}。その後、強盗に用いる道具を用意するため{{Efn2|この時、犯行計画を話し合う中で「粘着テープが必要になる」と考えた堀は、「山下」に対し、メールで粘着テープの入手方法を依頼した{{Sfn|集刑|2012|p=109}}。}}、「山下」は20時ごろに名古屋市[[守山区]]内のコンビニで粘着テープを購入したほか、「杉浦」は20時30分ごろに瀬戸市内の[[ジャスコ]]で{{Sfn|大崎善生|2016|p=219}}、包丁(刃体の長さ約18.6&nbsp;[[センチメートル|cm]])を万引きした{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 6 8月23日から24日未明にかけて、被告人Y3〈「山下」〉がA〈「杉浦」〉と2人だけで行動した状況等}}。そして、[[スギ薬局]](瀬戸市)で店から出てくる店員を包丁で脅す強盗を企てたが、結局閉店時刻までに襲撃のタイミングを掴むことができず、先述のガソリンスタンドも23時に閉店していた{{Efn2|かつて「山下」が瀬戸市に住んでいた時期は、このガソリンスタンドは24時間営業だった{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。}}ため、どちらも強盗に入ることはできなかった{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。
=== 逮捕後 ===
[[朝日新聞名古屋本社]]販売部は、事件を報じる記事で「取引先である新聞販売所がセールスの業務を委託した会社の従業員(K)がこのような事件を起こしたことは、大変遺憾です。今後このようなことがないよう、あらためて関係先に人事管理の徹底などを行います」とのコメントを出した<ref group="報道" name="asahi20070827"/>。


そこで、「山下」はかつて勤めていた会社{{Efn2|水道工事会社<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>。}}の事務所([[愛知郡 (愛知県)|愛知郡]][[長久手市|長久手町]]{{Efn2|現:[[長久手市]]。}})の手提げ金庫を狙い、この事務所に侵入することを決意{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。8月24日0時15分ごろ{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}、「杉浦」が1階出入口のガラスをドライバーで破り<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊">『中日新聞』2007年8月28日夕刊一面1頁「「山下」容疑者 事件前夜 別の男と窃盗未遂 同じサイトで知り合う」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1207頁</ref>、事務所の1階北東出入口内側ドアの施錠を外し、建物内に侵入した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。そして、中にあった机の引き出しを開けるなどして金品を物色したが{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}、そこでも金庫は見つけられなかった{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。「山下」は、年長者である自分に対する「杉浦」の態度を「生意気だ」と受け取っていたこともあって、「杉浦」を事務所に残したまま、リバティ<ref group="注" name="リバティ"/>で逃走した{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。その後、土地勘のない場所に1人残された「杉浦」は{{Efn2|当時、「杉浦」は所持金が200円程度しかなく<ref name="中日新聞2007-08-30">『中日新聞』2007年8月30日朝刊第12版第一社会面35頁「KT、堀両容疑者 事務所荒らしは拒否 「考え方違う」 拉致強盗を決行」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1301頁</ref>、自分の携帯電話も「山下」の車(リバティ)のダッシュボードに忘れていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=221}}。}}、24日0時55分ごろ<ref name="朝日新聞2007-08-29">『朝日新聞』2007年8月29日名古屋朝刊第一社会面27頁「3容疑者、拉致後は場当たり行動 殺害後スコップ盗む 名古屋・拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>、自ら公衆電話(名古屋市[[名東区]]内)から110番して[[自首]]{{Efn2|「杉浦」は自首の理由について、「途中で「山下」が逃げたため、馬鹿らしくなった」と述べた<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/> ほか、「犯罪を繰り返すことに嫌気が差していたため、『これを転機に』と自首を決意した」とする報道もある<ref name="朝日新聞2007-08-28">『朝日新聞』2007年8月28日東京朝刊第一社会面39頁「闇サイト「第4の男」 直前、別容疑で逮捕 愛知・拉致殺害」([[朝日新聞東京本社]])</ref>。}}<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>。「杉浦」は同日3時20分ごろ<ref name="朝日新聞2007-08-29"/>、[[住居侵入罪|建造物侵入]]・[[窃盗罪|窃盗未遂]]容疑で<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>、[[名東警察署]]に[[緊急逮捕]]された<ref name="朝日新聞2007-08-29"/>。「杉浦」は取り調べに対し、「『闇の職安』を通じて1週間前に知り合った共犯者(=「山下」)がいる」という旨を自供していたが<ref name="朝日新聞2007-08-28"/>、名東署から「『闇の職安』を使った事件があった」という旨が特捜本部に知らされたのは、本事件の発生後(8月27日)だった{{Efn2|後に窃盗未遂・強盗予備などの罪に問われた「杉浦」は、自身の被告人質問で、「あなたの対応次第では、本事件(拉致殺害事件)を防げたのでは」と質問された際、「そんな事件を起こすとは思っていなかった」と述べた<ref name="毎日新聞2007-11-13"/> ほか、有罪判決確定後に『[[週刊現代]]』([[講談社]])記者からの取材に対し、「8月26日に(「山下」・KT・堀の)3人が逮捕されたことを留置場内で知った際、『まさか本当に強盗殺人をやるなんて』と驚いた」と述べている{{Sfn|週刊現代|2009|p=167}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>。
本事件の[[報道]]で「犯罪の温床」と大きく取り上げられた闇サイト「闇の職業安定所」は[[8月27日]]に閉鎖されたことが判明した<ref group="中日">『中日新聞』2007年8月27日夕刊13面「千種・拉致殺害 『闇の職安』サイト閉鎖 事件と関連、確認へ」</ref>。


その後、「杉浦」は建造物侵入・窃盗未遂の罪で[[名古屋地方裁判所|名古屋地裁]]に[[起訴]]され<ref>『朝日新聞』2007年10月15日名古屋夕刊第一社会面11頁「事務所荒らしの起訴事実認める 拉致「第4の男」初公判 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>、後に薬局の強盗を計画した強盗予備罪でも追起訴された<ref name="毎日新聞2007-11-13"/>。「杉浦」は同年11月12日に「犯行はいずれも未遂だが、多大な被害が生じた可能性は高い」として[[懲役]]2年を[[求刑]]され<ref name="毎日新聞2007-11-13">『毎日新聞』2007年11月13日中部朝刊社会面29頁「事務所荒らし:愛知・女性拉致殺害の被告と建造物侵入、被告に懲役2年求刑--名地裁」(毎日新聞中部本社 記者:岡崎大輔)</ref>、同月20日に名古屋地裁(寺澤真由美裁判官)で懲役2年・[[執行猶予]]3年の有罪判決を受けた<ref name="毎日新聞2007-11-21">『毎日新聞』2007年11月21日中部朝刊社会面23頁「事務所荒らし:「闇サイト」被告と共謀、被告に有罪判決--名地裁」(毎日新聞中部本社 記者:岡崎大輔)</ref>。
また、被害者の女性は趣味のブログを公開しており、ブログのコメント欄には被害者に対する哀悼のコメントが書き込まれた<ref group="注">外部リンク「被害者女性のブログ」参照</ref>。


== 事件当日 ==
被害者の母親は[[マスコミュニケーション|マスコミ]]宛に「もう少しで自宅に着けたのに」「[[犯人]]を絶対に許せない」という趣旨の手記を寄せた、後に姉とともに容疑者らを極刑にするために陳情書の署名を集めるホームページを設立し、2007年[[10月1日]]に10万人、2008年[[12月18日]]に目標の30万人を超える署名を集め、最終的に33万2806人の署名が集まった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。海外に住む[[日本人]]や[[外国人]]の署名もあったという。なお、被害者の母親は容疑者3人全員の極刑を求めている<ref group="注" name="sign">外部リンク「被害者遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」参照</ref>。
{{Maplink2|frame=yes|zoom=10|frame-width=500|frame-height=375|text=拉致現場({{Color box2|#5E74F3}})<ref group="注" name="拉致現場"/>・殺害現場({{Color box2|#FF0000}})<ref group="注" name="殺害現場"/>・死体遺棄現場({{Color box2|#800000}})<ref group="注" name="死体遺棄現場"/>の位置関係
|type=point|coord={{coord|35|10|20.8|N|136|57|51.8|E}}|marker-color=5E74F3
|type2=point|coord2={{coord|35|09|51.4|N|136|42|44.9|E}}|marker-color2=FF0000
|type3=point|coord3={{coord|35|19|51.7|N|137|17|14.2|E}}|marker-color3=800000
}}
=== 殺害の共謀成立 ===
「山下」はいったんは「杉浦」と2人だけで犯行を犯そうとしたものの、「やはり、KTや堀は犯罪経験が豊富そうだから、それを利用したい」と思い直した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 7 被告人Y3(「山下」)が被告人Y1(KT)及び被告人Y2(堀)と再び組むに至った経緯}}。同日1時ごろ、「山下」はKT宛てに謝罪のメールを送信。これを受け、KTは堀に対し、「山下」について「使えるうちは使いますか」などと伝え、これを受けた堀は「山下」と直接電話で話をした後、KTに対し、「これで山下さんも下見や情報がどれだけ大事か分かったと思うので、(中略)使うとかじゃなく仲間としていいのではと思いますが…甘いですかね?とりあえず明日一緒に行きます」などというメールを送信した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 7 被告人Y3(「山下」)が被告人Y1(KT)及び被告人Y2(堀)と再び組むに至った経緯}}。KTも堀の意見に賛同し、24日午後に再び3人で会うことになった{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 7 被告人Y3(「山下」)が被告人Y1(KT)及び被告人Y2(堀)と再び組むに至った経緯}}。


「山下」は同日13時ごろに堀を自宅まで迎えに行ったほか、15時ごろにKTと鳴海のTSUTAYAで落ち合った{{Sfn|大崎善生|2016|pp=224-225}}。その上で、3人で新たな犯罪計画について話し合ったが、「山下」はリバティ<ref group="注" name="リバティ"/>の車内で「杉浦」の盗んだ包丁を見せ、「これなら人やれますよね」(=この包丁なら人を殺せるか?という趣旨)などと発言した{{Efn2|大崎善生 (2016) は「これに対し、KTと堀は無言でうなずいた」と{{Sfn|大崎善生|2016|p=225}}、堀 (2019) は「当時、自分とKTは『どうでも良い』というような態度を取っていたように思う」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=145}}。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 8 8月24日の△△△駐車場での状況等}}。堀が「今週中に30万円ぐらいどうしても必要だ」と発言したところ、それに対しKTが「それならば、今日中になんとかしなければいけない」と、前日に出た女性を拉致し、キャッシュカードと現金を奪う計画を改めて出した上で{{Sfn|大崎善生|2016|p=225}}、拉致した女性について「最後は殺しちゃうけど、いいよね」と確認したところ、2人とも「いいですよ」などと言って了承した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 8 8月24日の△△△駐車場での状況等}}。[[名古屋高等裁判所|名古屋高裁]] (2011) は、このように'''堀と「山下」がKTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に承諾する返事をした時点(24日15時ごろ)をもって、「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した」'''と[[事実認定|認定]]している{{Efn2|name="殺害共謀時刻"|[[名古屋地方裁判所|名古屋地裁]] (2009) は、3人が謀議を終えてファミリーレストランを退店した24日19時過ぎごろを「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した時刻」として認定しているが、名古屋高裁 (2011) は「原判決(名古屋地裁)の認定には誤りがあるが、被害者を拉致する前の時点でさほど時間的な隔たりはなく、その間、より詳細な謀議がなされただけであることなどに照らすと、この点は判決に影響を及ぼすものとはいえない。」と判示し、堀・「山下」それぞれの弁護人の「殺害現場で共謀が成立した」という主張をいずれも退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。また、死体遺棄の共謀が成立した時刻についても同様の理由で「原判決の認定(24日19時ごろ)は誤りで、実際には同日15時ごろと言えるが、殺害の合意の中には当然、殺害後に死体を遺棄する事も含まれていると考えられるため、その方法・場所などが具体的に決まっていなかったことなど、各被告人が指摘する事情は共謀の成立の妨げにはならず、判決に影響をおよぼす事実誤認とは認められない」と判示し、弁護人の「殺害後に死体遺棄の共謀が成立した」という主張を退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
闇サイトでA・K・Cの3人と知り合ったが、拉致殺害事件直前に離脱したDは建造物侵入・窃盗未遂の罪に問われ、2007年10月15日に[[名古屋地方裁判所]]で開かれた初公判で起訴事実を「間違いない」と認めた<ref group="報道">『朝日新聞』2007年10月15日夕刊11面「事務所荒らしの起訴事実認める 拉致『第4の男』初公判【名古屋】」</ref>。同年11月20日、[[窃盗罪|窃盗未遂]]・[[強盗罪|強盗予備]]などの罪で名古屋地裁([[寺沢真由美]]裁判官)は「手段を選ばず、金を取る強い執着があり積極的に犯行に及んだが、自首した後は捜査に協力した」として、Dに[[懲役]]2年・[[執行猶予]]3年(求刑懲役2年)の有罪判決を言い渡した<ref group="報道">『朝日新聞』2007年11月21日朝刊27面「事務所荒らし、男に有罪判決 名古屋・千種、強殺被告と犯行【名古屋】」</ref><ref group="書籍" name="oosaki_p322/>。


さらに犯行計画を練るため<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、3人は名古屋市[[北区 (名古屋市)|北区]]内のファミリーレストランへ入店し{{Sfn|大崎善生|2016|p=225}}、計画について話し合った{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。先述の理由で風俗嬢は候補から外された一方{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}、堀は[[OL]]の拉致を提案<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=145}}。その標的は、「黒髪で地味そうな(多額の貯金をしていそうなため)女性で、年齢は20歳代後半 - 30歳代前半ほど」とされた{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}ほか、KTは「今日(8月24日・金曜日)なら給料日{{Efn2|民間企業の多くは25日を給料日としているが、同日が土曜日・日曜日の場合は、その直前の金曜日に給与が振り込まれる場合が多いため{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=26}}。}}になるだろうし、しばらく拉致・監禁すれば、ある程度まとまった金を引き出せる{{Efn2|KTは「今日拉致して暗証番号を聞き出せば、(ATMで引き出せる金額は1日50万円までであるため)今日から月曜日までに200万円を引き出せるだろう」と発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。預金の引き出しを「月曜日まで」と決めた理由は、標的を監禁した際、その標的が出勤してこないことを職場の人間などが気にかけ、警察に連絡する可能性を想定したためである{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}。}}だろう。標的は(家族と同居していると、家族がすぐに警察に届ける虞があるため)1人暮らしが良い。1人暮らしなら、その部屋に居座って監禁することもできる」と提案した{{Sfn|大崎善生|2016|pp=227-228}}。
=== 2016年12月の講演 ===
被害者の母親は本事件の被害者遺族として各地の講演で死刑の必要性を訴え続けてきた<ref group="報道" name="sankei20161215">{{Cite news |title=「望むのは死刑だけ」 闇サイト殺人遺族、日弁連の死刑廃止宣言に憤り 17日にシンポジウム(1/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-12-15 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161215/afr1612150036-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20170619113814/http://www.sankei.com/affairs/news/161215/afr1612150036-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}<br>{{Cite news |title=「望むのは死刑だけ」 闇サイト殺人遺族、日弁連の死刑廃止宣言に憤り 17日にシンポジウム(2/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-12-15 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161215/afr1612150036-n2.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20170619113836/http://www.sankei.com/affairs/news/161215/afr1612150036-n2.html |archivedate=2017-06-19 }}</ref>。「事件のことを話すと娘のむごい姿につながり辛い」という母親が事件を語り続けてきたのは「被害者の現状を知ってもらいたい」「でも、娘が亡くなったことを無駄にしたくない」という思いからである<ref group="報道" name="sankei20161215"/>。


次いで、堀は監禁場所として、名東区[[高針]]のアパートを提案したが{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}、その部屋はかつて堀が起こした[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の共犯者である元仕事仲間の部屋だった{{Efn2|この時、その碧南事件の共犯者は堀から「3日ぐらい部屋を使わせてほしい」と頼まれると、「今は電気料金を滞納して電気を止められている。友人の家で寝泊まりしているので、電気代を肩代わりしてくれるなら使っても良い」と応じた{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}ものの、実際には犯行で使用されることはなかった。}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}。次いで、KTは「闇の職安」で[[現金自動預払機]] (ATM) から預金を引き出す「出し子」を探したが、ふさわしい人材が見つからなかったため、「山下」が引き出しを行うことになった{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}。そして、拉致場所について相談し、堀の提案通り、高級住宅街の多い[[名古屋市営地下鉄東山線]]の沿線([[覚王山]]・[[一社]]・[[上社 (名古屋市)|上社]]・[[本郷 (名古屋市)|本郷]]方面)に決まった{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}。また、KTは「山下」に対し、被害者が騒ぐといけないので、「車の中でレイプはしないで下さい」「監禁した後は、一緒に寝泊まりしてくださって結構ですから」と言い、「山下」もそれを了承した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 9 8月24日□□□店での状況等}}。
2016年12月17日、被害者の母親は[[犯罪被害者支援弁護士フォーラム]]が[[東京都]][[千代田区]]の星陵会館ホールで開いたシンポジウムで基調講演した<ref group="報道" name="sankei20161215"/>。講演で母親は「人はどのような人でも最低限の道徳心を持ち合わせていると思っていたが、それは大きな誤りで、きれいごとでは済まされない、どうしようもない人間が存在することを認識する必要がある」「加害者の更生という未来の不確定なことを前提にして裁くのではなく、まじめに生きている人を守ることを優先して裁く司法であってほしい」と語った<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。この中では[[日本弁護士連合会]](日弁連)が10月に「2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきだ」との宣言を採択したことについても触れ、「3万7000人の全[[弁護士]]に対し賛成は546人、全弁護士の1.4%にすぎない」「裁判で見た[[弁護人]]は被告人の刑を軽くするためならどんな方法もいとわない共犯者として映った。正義感など何も感じられない。弁護人は敵にしか見えなかった。しかし、[[全国犯罪被害者の会]](あすの会)の総会に出席して、被害者に寄り添う弁護士の方々の話を聞き、こんな弁護士もいるのかととても驚いた。そして感動し、元気をもらった」とも語った。なお、死刑廃止宣言に対しては『[[産経新聞]]』のインタビューで「遺族のことを全く考えていない」と憤っており、宣言で「国民は弁護士のほとんどが死刑廃止を求めていると捉えてしまうのではないか」と懸念するコメントを寄せた<ref group="報道" name="sankei20161215"/>。


こうして、3人は19時過ぎに話し合いを終え、レストランを退店<ref group="注" name="殺害共謀時刻"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。通行中のOL(20歳代後半 - 30歳代)を拉致して金品を奪い、犯行の発覚を阻止するために殺害して、死体を遺棄する旨の犯行計画が決められた<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
そして講演では「死刑反対を唱える方々は、自分や自分の大切な人は絶対に犯罪に巻き込まれないとの前提の上で物事を考えているのではないか。想像力の欠如か、あるいはすべてが他人事か。今や誰に降りかかってくるかもしれない世の中であり、きれいごとでは社会秩序は守れない」と日弁連や[[死刑存廃問題|死刑廃止論者]]の主張を批判し、「死刑制度の廃止を目指す前に人権擁護大会でやっていただきたいのは、被害者やその家族の人権や処遇を、被疑者や被告人同様に[[憲法]]に明記していただくように働きかけていただくこと」とも語った<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。また、[[瀬戸内寂聴]]が死刑廃止を求める日弁連のシンポジウムに寄せたメッセージの中で、犯人の死刑を望む、もしくは死刑制度に賛成する犯罪被害者及び被害者遺族らを「殺したがるバカども」と罵倒し<ref group="報道">{{Cite news|title=「殺したがるばかどもと戦って」 瀬戸内寂聴さんの発言に犯罪被害者ら反発「気持ち踏みにじる言葉だ」 日弁連シンポで死刑制度批判(1/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20170619114048/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}<br>{{Cite news|title=「殺したがるばかどもと戦って」 瀬戸内寂聴さんの発言に犯罪被害者ら反発「気持ち踏みにじる言葉だ」 日弁連シンポで死刑制度批判(2/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n2.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20170619114055/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n2.html |archivedate=2017-06-19 }}</ref>、大きな非難を浴びたが<ref group="報道">{{Cite news|title=寂聴さん、死刑巡る発言を謝罪 「お心を傷つけた方々には、心底お詫びします」 |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-10-14 |url=http://www.sankei.com/west/news/161014/wst1610140029-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20170619114300/http://www.sankei.com/west/news/161014/wst1610140029-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}<br>{{Cite news|title=日弁連が謝罪…瀬戸内さん「殺したがるばかども」発言で 「被害者への配慮なかった」 |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070065-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170619114513/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070065-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}<br>{{Cite news|title=【浪速風】なぜ被害者より加害者を(10月11日) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-10-11 |url=http://www.sankei.com/west/news/161011/wst1610110022-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20170619115158/http://www.sankei.com/west/news/161011/wst1610110022-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}<br>{{Cite news|title=【主張】死刑廃止宣言 国民感情と乖離している(1/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-10-11 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170619115427/http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}<br>{{Cite news|title=【主張】死刑廃止宣言 国民感情と乖離している(2/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2016-10-11 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n2.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170619115432/http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n2.html |archivedate=2017-06-19 }}</ref>、それに対しては「(なぜ死刑制度に賛成する我々被害者遺族が)『殺したがるバカども』と罵倒されなければならないのでしょうか。この言葉は(実際に人を殺した)加害者に向けるべき言葉ではないでしょうか」と真っ向から反論した<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。


=== 拉致 ===
母親は「彼らに謝罪を望んだことは一度もない。死刑しかない」といい、[[法務大臣]]が交代する度に「きちんと執行する人か」とその経歴や発言に注目したという<ref group="報道" name="sankei20161215"/>。また「嫌なことを思い出してほしくない」と娘の墓前に報告はしていないと言い、「私の中で区切りがつくとしたら、3人がこの世からいなくなったとき」とも語っている<ref group="報道" name="sankei20161215"/>。
{{Maplink2|frame=yes|type=point|zoom=13|frame-width=300|coord={{coord|35|10|20.8|N|136|57|51.8|E}}|text={{ウィキ座標|35|10|20.8|N|136|57|51.8|E|region:JP-23|name=闇サイト殺人事件・被害者Aを拉致した現場付近|拉致現場周辺の地図}}:愛知県名古屋市千種区[[春里町 (名古屋市)|春里町]]2丁目4番地の1付近の路上<ref group="注" name="拉致現場"/>{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}}}
[[File:Chikusa 20210921-02.jpg|thumb|拉致現場付近(千種区春里町2丁目4番地の1)の路上。2021年9月撮影。]]
[[File:Chikusa 20210921-03.jpg|thumb|上記地点を逆方向から撮影した写真。]]
ファミリーレストランを退店後、3人は「山下」の運転する車(リバティ<ref group="注" name="リバティ"/>)で標的の物色を開始{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。KTと堀は互いに軍手を嵌め{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}、KTが2列目シートの助手席側に{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}、堀が運転席側にそれぞれ座り{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}、拉致する標的が車の左方にいた場合はKTが、右方にいた場合は堀がそれぞれ拉致を実行することになった{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。そして、拉致した女性をKTと堀の足元(2列目シートの床上)に横向きに座らせる{{Efn2|そのため、2列目シートの足元の空間を広くするため、助手席は限界まで前に出し、その足元に軍手と金槌を置いた{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。包丁は運転席のドアポケットに、金槌はホームセンターの袋に入った状態で座席の下に入れていた{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。}}こととなった{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。また、堀は粘着テープを15&nbsp;cm程度にちぎったものを4枚重ね合わせ、口を塞ぐための特殊なテープを作って用意していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。


その状態で、3人はATMで預金を下ろした後のOLを狙い{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}、まずは覚王山・本山付近に向かい、その後は一社・本郷などへ移動しつつ、女性を物色した{{Efn2|堀 (2019) は「実際に5、6人の男女の後をつけるなどした」と述べている{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 10 □□□店を出てから、被害者を発見するまでの状況等}}。「山下」は通行中の女性15、16人ほどの女性に目をつけ、実際に5、6人の女性の後をつけるなどした{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。}}が、いずれも周囲に対向車や通行人がいたり、タイミングが合わなかったりしたことから、拉致には至らなかった{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 10 □□□店を出てから、被害者を発見するまでの状況等}}。やがて夜が更け、通行人の数も少なくなっていた中、堀が「今まで回った中では、[[本山駅 (愛知県)|本山(駅周辺)]]と覚王山が良い。街灯が少なくて道が暗いし、道幅も狭いから拉致しやすい」と提案したため、覚王山から本山へ向かうことになった{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。なお、被害者女性A(当時31歳)の自宅(名古屋市千種区[[春里町 (名古屋市)|春里町]]2丁目)<ref name="中日新聞2007-08-27"/> があった市営住宅の最寄り駅は、[[自由ヶ丘駅]]([[名古屋市営地下鉄名城線|地下鉄名城線]])だった<ref name="小椋由紀子2007">『中日新聞』2007年8月28日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致殺害 駅近く『安全な道』 同時刻の拉致現場 団地から子供の声」(中日新聞社 記者:社会部・小椋由紀子) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1205頁</ref> が、Aは通勤で東山線を利用しており{{Sfn|大崎善生|2016|p=173}}、普段利用していた駅は東山線の駅である[[本山駅 (愛知県)|本山駅]]{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}<ref>『中日新聞』2007年9月7日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致 逃げる気配感じ殺害 K容疑者、弁護士会見 3人が直接関与」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号309頁</ref>(東山線と名城線の乗換駅)だった<ref name="小椋由紀子2007"/>。また、Aは8月末に当時の勤務先<ref name="中日新聞2007-09-14"/>(名古屋市[[中区 (名古屋市)|中区]][[栄 (名古屋市)|栄]])<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/> を退職し、料理関係の仕事に転職する予定だったが、そのための送別会などにより、帰りが遅くなることが多かった{{Efn2|Aは普段、19時30分ごろに帰宅していた<ref name="中日新聞2007-08-27 社会2">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第一社会面25頁「殺されたAさん 進む結婚話、暗転 2人暮らしの母悲し」 - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1159頁</ref>。}}<ref name="中日新聞2007-09-14"/>。
2017年(平成29年)現在は全員の刑が確定(Kは死刑執行)されたことから署名活動は終了したが、その後無期懲役が確定したCが後述の[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]<ref group="注" name="hekinan"/>で主犯として再逮捕され、その後一・二審で改めて死刑判決を受け上告中であること、また講演などの情報を告知する目的から、ホームページの更新自体は継続している<ref group="注" name="sign"/>。同年8月24日に事件発生から10年を迎えるに当たり、被害者の母親は各報道機関の取材に応じた<ref group="中日" name="chunichi20170823">{{Cite news |url=http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017082402000062.html |title=闇サイト殺人から10年 娘の死、母は語り続ける |date=2017-08-24 |newspaper=『中日新聞』朝刊1面 |publisher=中日新聞社 |accessdate=2017-08-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170823200535/http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017082402000062.html |archivedate=2017-08-24 }}<br>{{Cite news |url=http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000241.html |title=犯罪温床 闇サイト今も 名古屋女性殺害10年 母語り続け |date=2017-08-24 |newspaper=『東京新聞』夕刊社会面 |publisher=中日新聞社 |accessdate=2017-08-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170824125445/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000241.html |archivedate=2017-08-24 }}<br>{{Cite news |url=http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000235.html |title=闇サイト事件10年 犯罪情報 ネット深く|date=2017-08-24 |newspaper=『東京新聞』夕刊社会面 |publisher=中日新聞社 |accessdate=2017-08-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170824125446/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000235.html |archivedate=2017-08-24 }}</ref><ref group="報道" name="asahi20170823">{{Cite news |url=http://www.asahi.com/articles/ASK8P5408K8POIPE01H.html |title=闇サイト殺人10年、母は語る「娘の死を無駄にしない」 |date=2017-08-23 |newspaper=『朝日新聞デジタル』 |publisher=朝日新聞社 |accessdate=2017-08-23 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170823044925/http://www.asahi.com/articles/ASK8P5408K8POIPE01H.html |archivedate=2017-08-23 }}</ref><ref group="報道" name="mainichi20170823">{{Cite news |url=https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0824/mai_170824_8199073567.html |title=闇サイト殺人10年:母「娘思い出さない日は一日もない」 |date=2017-08-24 |newspaper=『毎日新聞』([[BIGLOBEニュース]]にて閲覧) |publisher=毎日新聞社 |accessdate=2017-08-24 |archiveurl=https://megalodon.jp/2017-0824-2159-38/https://news.biglobe.ne.jp:443/domestic/0824/mai_170824_8199073567.html |archivedate=2017-08-24 }}<br>{{Cite news |url=https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170824-00000006-mai-soci |title=闇サイト殺人10年:母「娘思い出さない日は一日もない」 |date=2017-08-24 |newspaper=『毎日新聞』([[Yahoo!ニュース]]にて閲覧) |publisher=毎日新聞社 |accessdate=2017-08-24 |archiveurl=https://archive.is/LH2Ch |archivedate=2017-08-24 }}</ref><ref group="報道" name="abema20170823">{{Cite news |url=https://abematimes.com/posts/2837747 |title=「あっという間の10年だった」名古屋闇サイト殺人事件の遺族にAbemaTVがロングインタビュー |date=2017-08-23 |newspaper=『[[AbemaTIMES]]』 |publisher=[[AbemaTV]] |accessdate=2017-08-23 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170823044859/https:/abematimes.com/posts/2837747 |archivedate=2017-08-23 }}</ref>。

同日23時ごろ、「山下」は春里町2丁目付近で{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}、被害者Aが車の前方から歩いてきたところを発見{{Sfn|堀慶末|2019|p=149}}。Aの見た目は標的の条件に合致していたため{{Sfn|大崎善生|2016|p=230}}、3人ともAを拉致することを決めた{{Efn2|まず、Aの姿を見た「山下」が「あれどう」などといったところ、堀も賛同した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=149}}。「山下」は車をUターンさせてAを尾行し、Aの母校でもあった[[名古屋市立自由ヶ丘小学校|自由ヶ丘小学校]]<ref group="注" name="拉致現場"/>の専用歩道橋(校舎と道路を隔てた先にある運動場を結ぶ歩道橋)の付近でAを追い抜くと、約10&nbsp;m先にあったマンションの駐車場前(道路の左側)で停車し、Aを待ち伏せた{{Sfn|大崎善生|2016|pp=8-9}}。この停車地点が、拉致現場(春里町2丁目4番地の1付近の路上)である<ref group="注" name="拉致現場"/>{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。

23時10分ごろ{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}、Aが車の右脇を通り過ぎた際、堀が後部ドアを開けて降車<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。堀はAに道を尋ねるふりをして、背後から近づき、Aが立ち止まったところ、口を右手で塞ぎ<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、左手でAの腹部辺りを押さえ、背後から抱きかかえるようにした{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。そして、Aをリバティの後部座席(運転席側)のスライドドアから車内に押し込み、KTも車内からAを車内に押し込むようにして{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}、Aを拉致・監禁した{{Sfn|集刑|2012|p=98}}。そして、堀はAの右手に手錠を掛け、予め口を塞ぐために用意してあった粘着テープをAの口に貼り付け、完全に抵抗できない状態にした{{Sfn|集刑|2012|p=111}}上で、シート下の床に座らせた{{Efn2|またこの時、車外から目撃されないよう、Aにシャツとタオルを掛けていた<ref name="検察側冒頭陳述要旨"/>。}}<ref name="検察側冒頭陳述要旨">『[[毎日新聞]]』2008年9月26日中部朝刊社会面25頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 3被告、争う姿勢--初公判 検察側冒頭陳述要旨」([[毎日新聞中部本社]])</ref>。3人はそのまま、Aを乗せたまま車を走らせ、人目に付かない場所まで連行した<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。

「山下」は当初、Aを堀の用意した部屋へ拉致するため、高針方面へ車を走らせたが、KTが「人気のない方へ行け」と指示{{Sfn|大崎善生|2016|p=231}}。「山下」は[[国営木曽三川公園|木曽三川公園]]方面へ向かうことに決め{{Efn2|この時、堀は「山下」に対し、[[自動車ナンバー自動読取装置|Nシステム]]がある幹線道路を避けるよう指示している{{Sfn|大崎善生|2016|p=232}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=150}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=233}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=150}}、[[広小路通 (名古屋市)|広小路通]]([[主要地方道]][[愛知県道60号名古屋長久手線|名古屋長久手線]])から[[愛知県道200号名古屋甚目寺線|県道名古屋甚目寺線]](通称「外堀通り」)に出て西進した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。しかし拉致から約15分後{{Sfn|大崎善生|2016|p=233}}、[[国道155号]]を南進していたところ、Aが「吐きそう」と訴えたため、「車内で吐かれたくない」と思った「山下」は車を停められる場所を探し{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}、国道沿いのレストラン屋外駐車場に至った{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}。その場所が、殺害現場となった屋外駐車場([[愛西市]][[内佐屋町]]西新田39番1)で<ref group="注" name="殺害現場"/>{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}、到着時刻は8月25日0時ごろだった{{Efn2|到着後、KTはカーナビの光が車外に漏れることを恐れ、「山下」に命じてリバティのエンジンを切らせている(カーナビを切るにはエンジンを止める必要があったため){{Sfn|大崎善生|2016|pp=234-235}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}。

=== 殺害 ===
{{Maplink2|frame=yes|type=point|zoom=13|frame-width=300|coord={{coord|35|09|51.4|N|136|42|44.9|E}}|text={{ウィキ座標|35|09|51.4|N|136|42|44.9|E|region:JP-23|name=闇サイト殺人事件・被害者Aを殺害した現場付近|殺害現場周辺の地図}}:愛知県愛西市内佐屋町西新田39番1{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}(屋外駐車場)<ref group="注" name="殺害現場"/><ref name="中日新聞2007-08-27"/>|marker-color=FF0000}}
翌日(8月25日)0時過ぎ{{Efn2|名古屋地裁 (2009) によれば、3人がAから金品を奪った時刻は、24日23時10分ごろ - 25日0時45分ごろまでの間である{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。}}、3人は屋外駐車場(同県[[愛西市]])に駐車したリバティ<ref group="注" name="リバティ"/>の車内で<ref name="闇サイト事件の経過"/>、Aから現金(約62,033円)や、キャッシュカードなど40点が入った白いハンドバッグ(時価合計15,440円相当)を奪った{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。その上で、Aに、キャッシュカードの暗証番号を教えるよう迫った<ref name="闇サイト事件の経過">『中日新聞』2009年3月18日夕刊第二社会面14頁「事件の経過」(中日新聞社)</ref>、この時に「山下」がAに対しわいせつ行為を行ったため、KTはそれを不快に思っている{{Efn2|KTと堀はAを拉致した直後、Aに対し「騒がなければ命の保証はする」「体が目的じゃないから安心して」などと発言していた{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=236}}。Aがなかなか暗証番号を言おうとしなかったため{{Sfn|集刑|2012|p=111}}、堀は「山下」に命じて運転席のドアポケットにあった包丁を取らせ、それを受け取ると{{Sfn|堀慶末|2019|p=153}}、その包丁(刃体の長さ約18.6&nbsp;cm)を示しながら{{Efn2|この時、堀はAを「この包丁は100円ショップで買ったもので切れ味が悪いから、5、6回は刺さないと死ねないぞ」などと脅迫している{{Sfn|大崎善生|2016|p=238}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=153}}。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}、「本当に帰れなくなっちゃうよ」「5分で(暗証番号を)思い出さないと刺しちゃうぞ」など、暗証番号を明かさなければ殺害する旨を告げて脅迫{{Sfn|集刑|2012|p=111}}。しかし、5分経過してもAが暗証番号を口にしなかったため、KTが堀に「2、3回刺せ」と命じたところ{{Sfn|大崎善生|2016|p=239}}、堀はAの太腿を刺そうとする姿勢を見せたり{{Efn2|包丁の刃先をAの太腿に向けた上で、上下に振って突き刺す真似をした{{Sfn|大崎善生|2016|p=239}}ほか、太腿を包丁の腹で叩いたりした{{Sfn|集刑|2012|p=119}}。}}、怒りを示しながら「いい加減にしゃべれ。みんないらついているから早くしゃべれ」などと脅した{{Efn2|この時、恐怖で強く戦慄するAの姿について{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}、KTは交際相手に宛てた手紙で「[[マグニチュード]]10?」などと書いている<ref name="毎日新聞2008-12-20"/>。}}{{Sfn|集刑|2012|p=111}}。

結果、Aは虚偽の暗証番号として4桁の{{Sfn|集刑|2012|p=98}}「2960」を述べた{{Efn2|この時、3人は被害者を執拗に脅迫していたことから、「このような状況で嘘をつくはずはない」と考えていた<ref>『中日新聞』2008年10月10日朝刊第二社会面34頁「ニュース前線 千種闇サイト殺人 命賭しうその暗証番号 『母に家を』夢守る Aさん、内緒で貯金」(中日新聞社)</ref>。実際、堀もKTとの会話で「あれだけおびえていたから、嘘ではないだろう」と話していた{{Sfn|堀慶末|2019|p=154}}。また、Aは預金額についても、実際(800万円以上)とは異なる額(40万円)を述べている{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=28}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}。それを聞き、KTが運転席の「山下」に口頭で番号を伝え{{Sfn|堀慶末|2019|p=153}}、「山下」は0時45分、自身の携帯電話でその「2960」の番号を打って発信履歴を残した{{Efn2|name="2960への異論"|KTおよび堀は、後の供述で「Aが言った4桁の番号は『2960』ではない」と述べていたが、「山下」の携帯電話には「2960」への発信履歴(時刻:0時45分)が残っている{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}。一方、堀は自著 (2019) で、「Aが言葉にした番号は『2960』ではない。「山下」はKTが口にした番号を携帯電話の発信履歴に残したが、軽度の知的障害 (IQ:65) である「山下」が携帯電話を打つ際に押し間違えたか、KTが口にした番号を聞き間違えた、あるいは捜査機関が捏造した可能性がある。殺害が決まっているわけでもないのに、『2960』という語呂合わせをするのは不自然だ」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=166-167}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}。その後、堀はKTとともに喫煙のため車外に出た{{Sfn|大崎善生|2016|p=241}}。

KTと堀は、Aから真実の暗証番号を聞き出したと思い込み、口封じのためにAの殺害を決意した{{Sfn|集刑|2012|p=111}}。一方、「山下」はKTと堀が車外に出た隙に乗じ、車内でAを強姦しようと{{Efn2|「山下」は第一審の公判で、Aを強姦しようとした動機について「Aの態度から『小生意気な女』と思い、その鼻をへし折ってやろうと思ったからだ」と主張したが、名古屋地裁 (2009) は、KTや堀に一度は制止されながらも再び強姦未遂行為に及んだことから、「「山下」は自己の性欲から、強姦の強い犯意に基づいて姦淫行為に及ぼうとした」と認定{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。これに対し、「山下」は控訴審で事実誤認を主張したが、名古屋高裁 (2011) は「「山下」はKTや堀に止められ、戒められながらも、2度にわたり被害者を姦淫しようとした。その経緯などに照らせば、自らが捜査段階で供述した通り、『自己の性欲から強姦の強い犯意に基づいて姦淫行為に及ぼうとした』と優に認められる。第一審における「山下」の供述は、合理的な理由なく捜査段階から供述を変遷させるものであって信用できない」として、訴えを退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。|name="強盗強姦未遂動機"}}、Aに覆いかぶさって服を脱がせようとしたり、スカートの裾をまくりあげるようにしたり、スカートのベルトを外そうとしたりしたほか、抵抗したAの顔面を平手打ちした{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。しかし、Aの悲鳴に気づいたKTらに制止されたため、未遂に終わっている{{Efn2|名古屋地検は冒頭陳述 (2008) で、「Aが「山下」に強姦されそうになったことで冷静さを失い、今にも逃走を図りそうになったと判断したため、(KTと堀はAの)殺害を決意した」と述べている<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。名古屋地裁 (2009) によれば、「山下」はKTたちが車外に出た際、1回目の強姦未遂行為におよんだが、Aが「きゃー」と悲鳴を上げたため、少なくともKTが車内に戻り、「山下」を止めて諌めた{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第3 争点に対する判断 > 3 殺害の実行行為の順序等}}。2人は「山下」がAの強姦を諦めたものと思い、再び車外で今後のことについて相談などを始めたが、KTが「やっちゃおうか」などと提案したところ、堀は「ロープありますよ」などと言った{{Efn2|堀は自著 (2019) で、「自分が『暗証番号は嘘ではないだろう』と発言したところ、KTが『殺そうか』と言った。自分は車内に綿ロープがあったことを思い出し、その存在をKに教えた」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=154}}。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。すると、KTは「腕で絞めます」などと言ったが、「山下」が再び強姦未遂行為におよんだため、Aが悲鳴を上げた{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。しかし、これに気づいたKTが堀よりも一足早く車内に戻って制止したため、「山下」は2列目シートからいったん車外に出て、その後、運転席に戻った{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。

まず、KTがAの背後から、頸部に自身の腕を回して絞め付けた{{Efn2|この時、堀と「山下」はAの手足を押さえていた{{Sfn|集刑|2012|p=120}}。}}が、失敗したため、堀は綿ロープをAの頸部に巻きつけ、その片端を「山下」に渡し、2人で両端を持って絞め上げた{{Sfn|集刑|2012|pp=111-112}}。しかし、両者の位置関係からうまく首を絞めることができず{{Efn2|2人の角度が180°にならず、うまく力が入らなかったため{{Sfn|大崎善生|2016|p=245}}。なお、堀は自著 (2019) で「(首にロープを掛け、両端を引っ張り合う行為が)かつて自身が碧南事件で被害者を殺害した際の記憶をフラッシュバックさせ、自分は激しい恐慌状態に陥った」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=156-157}}。}}、堀は「ハンマー入れましょうか」と言い、準備していた金槌で殴打することをKTと「山下」に告げた{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。そして、綿ロープで首を絞めるのをやめ、金槌を取り出してAの頭部を強い力で3回連続して殴打した{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。しかし、それらの殴打によって返り血が車内に飛び散り、自身の口にも入ったことを気持ち悪く思った堀は、殴打を3回でやめている{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。

一方、Aは堀によって頭部を金槌で殴打され、力が一気に抜けたような感じになったが、しばらくしてから「殺さないで、殺さないって言ったじゃない」「お願いします、殺さないで、死にたくない」などと必死で命乞いをした{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。しかし、堀はそのような懇願を無視し、KTとともに、Aの顔面および頭部に粘着テープを数十回横方向に巻きつけ、その上からさらに縦方向に貼り付けた{{Efn2|ガムテープ{{Sfn|大崎善生|2016|p=245}}(粘着テープ)を巻きつけた回数は、冒頭陳述によれば31周とされている<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。大崎善生 (2016) は、「縦横合わせて23巻きにした上、頭からレジ袋を被せ、袋の口を塞ぐようにガムテープを8周巻いた」と述べている{{Sfn|大崎善生|2016|p=245}}。}}{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。これにより、Aは呼吸困難になったが、粘着テープの隙間から「フーン、フーン」とかろうじて呼吸をしていたため、それに気づいたKTと堀は、Aの頭部にビニール袋{{Sfn|集刑|2012|p=112}}(金槌を購入したホームセンターのレジ袋)<ref name="中日新聞2007-08-31"/><ref name="朝日新聞2007-08-29夕刊"/>{{Sfn|堀慶末|2019|p=158}}を被せて頸部まで覆い、その上から頸部・頭部に粘着テープを横方向に多数回巻きつけた{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。そして、最後にKTがAの頸部に綿ロープを巻きつけて絞め付けた上、頭部を金槌で約30回殴打し、Aを殺害した{{Sfn|集刑|2012|p=112}}(殺害時刻:8月25日1時ごろ){{Efn2|KTが脈を取り、Aの死亡を確認した{{Sfn|堀慶末|2019|p=159}}。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。死因は頸部圧迫、もしくは鼻口閉塞による窒息死である{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 11 本件各犯行態様等}}。

=== 死体遺棄・預金引き出し未遂 ===
{{Maplink2|frame=yes|type=point|zoom=11|frame-width=300|coord={{coord|35|19|51.7|N|137|17|14.2|E}}|text={{ウィキ座標|35|19|51.7|N|137|17|14.2|E|region:JP-21|name=闇サイト殺人事件・被害者Aの遺体が遺棄された現場付近|死体遺棄現場周辺の地図}}:[[岐阜県]][[瑞浪市]]稲津町小里の山林<ref group="注" name="死体遺棄現場"/><ref name="中日新聞2007-08-27"/><ref name="毎日新聞 遺棄現場"/>([[岐阜県道33号瑞浪上矢作線]]付近)<ref name="中日新聞2007-08-26"/>|marker-color=800000}}
その後、堀はAの遺体をリバティの3列目の席に移動させ{{Efn2|その3列目の席は、「山下」の生活用品などが散乱していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=247}}。}}、上からタオルや荷物などを被せて隠した上で、車内に飛散したAの返り血を拭き取った{{Sfn|大崎善生|2016|p=247-248}}。その後、3人でAから奪った現金62,000円を分け合い{{Efn2|まず6万円を3等分し、残る2,000円はガソリン代として「山下」が受け取った{{Sfn|大崎善生|2016|p=248}}。}}、[[稲沢市]]内の自動販売機で、堀の体に付いた返り血を洗い流すためのペットボトル入りの水を購入したほか、[[一宮市]]のドン・キホーテで「山下」が3人分の着替え用の衣服を購入{{Efn2|「山下」は預金の引き出しのために変装の必要があったほか、KTと堀は返り血を著しく浴びていたため{{Sfn|大崎善生|2016|p=248}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=248}}。その後{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 12 死体遺棄に至る経緯及びその後の状況等}}、3人は2時56分ごろ、[[小牧市]]内のATMで、Aから奪った[[中京銀行]]のキャッシュカードを使い、[[大垣共立銀行]]ネットプラザ支店の口座から{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}、預金(検察官の上告趣意書によれば合計約890万円){{Efn2|預金(合計約890万円)は、Aが自分を女手一つで育ててくれた母親Bへの感謝から、自分が家を買うことを決意し、母親に内緒で月20万円弱の手取り給与の中から、毎月10万円程度を貯金していたものだった{{Sfn|集刑|2012|p=113}}が、KTは銀行の取引明細書でその金額を知った際、「この金を資金にして覚醒剤を仕入れ、それを売買する組織を作ろう」と発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=250}}。事件後、娘Aが貯金していた理由を知った母Bは、「娘の願い通りに使おう」と考え、事件発生時まで母子2人で30年間暮らしていた市営住宅から新築の分譲住宅に引っ越した<ref>『中日新聞』2010年8月8日朝刊第一社会面31頁「ニュース前線 闇サイト殺人あすから控訴審 夢守った娘 新居で誓う母」(中日新聞社 社会部記者:赤川肇)</ref>。}}{{Sfn|集刑|2012|p=113}}を引き出そうとしたが、取り扱い時間外だったため、失敗した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。そのため、死体を遺棄しようということになり、遺棄場所を話し合った上で、岐阜県内の山へ捨てに行くことになった{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 12 死体遺棄に至る経緯及びその後の状況等}}。

3人はリバティで、[[中央自動車道]]の[[瑞浪インターチェンジ]]から[[岐阜県道33号瑞浪上矢作線|岐阜県道33号]]([[山岡町|山岡]]方面)を経由し、山道に入り{{Sfn|大崎善生|2016|p=249}}、岐阜県瑞浪市稲津町小里の山林<ref group="注" name="死体遺棄現場"/><ref name="中日新聞2007-08-27"/>([[林道]]脇){{Sfn|集刑|2012|p=110}}に向かった。その途中、瑞浪市稲津町にあった資材置き場からスコップ2本を入手し{{Efn2|スコップを盗んだ時期について、堀 (2019) は「高速道路を下りてから、KTが『埋めるために使う道具が必要だ』と言ったので、通り道にあった資材置き場のようなところ(遺棄現場から車で10分ほど)で盗んだ」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=160}}。}}{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 12 死体遺棄に至る経緯及びその後の状況等}}、同日4時40分ごろ、Aの死体を遺棄した{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}。まず、KTが堀とともにスコップを使い、Aの遺体をトランクから下ろすと、「山下」に対し、「怪しまれるといけないから離れていろ」と言い、現場から離れさせた{{Sfn|大崎善生|2016|p=249}}。2人は遺体をガードレールのすぐ先に投げ捨てると、その上から土を掛け{{Sfn|大崎善生|2016|p=249}}、Aの遺体を遺棄した{{Efn2|堀は自著 (2019) で、「KTはAの遺体を遺棄した後、数分間にわたり遺体に向かって手を合わせていた。KTはその間、自身なりに自身の行為を反省・後悔して、Aに詫びていたのだろう」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=161-162}}。}}{{Sfn|集刑|2012|p=114}}。この時、堀は以前、手錠を見せられた際に素手で触ったことを思い出し{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 12 死体遺棄に至る経緯及びその後の状況等}}、自分の[[指紋]]が付着している可能性を考え{{Sfn|集刑|2012|p=114}}、手錠を拭くなどしている{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(争点に対する判断)第2 前提事実等 > 12 死体遺棄に至る経緯及びその後の状況等}}。「山下」はKTの指示を受けて遺棄現場を離れ、いったん道の駅{{Efn2|遺棄現場付近には、[[道の駅おばあちゃん市・山岡]](小里川ダムに隣接)がある<ref name="毎日新聞 遺棄現場"/>。}}に向かったが、4時49分にKTもしくは堀から電話で「終わったから迎えに来てくれ」との連絡を受け、迎えに戻った{{Sfn|大崎善生|2016|p=249}}。

そして、Aから奪った中京銀行のキャッシュカードで預金の引き出しを図り、同日9時10分ごろに同行知立支店([[愛知県]][[知立市]]){{Efn2|堀 (2019) は、「山下」は[[岡崎市|岡崎]]方面の道に詳しかったので、岐阜県の林道を抜けて岡崎方面に向かおうとした」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=162}}。}}で預金の引き出しを試みたが、「山下」が先述の「2960」および(KTから電話で聞いた)「2946」の暗証番号を入力しても合致しなかった{{Sfn|大崎善生|2016|p=250}}。次いで同日10時35分 - 36分ごろ{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(罪となるべき事実)}}、「山下」は名古屋市[[南区 (名古屋市)|南区]]内のコンビニのATMで[[UFJ銀行]](現:[[三菱UFJ銀行]])のカードなどを使用し、「2960」や被害者Aの生年月日に由来する番号を利用して引き出しを試みたが、いずれも失敗に終わった{{Sfn|大崎善生|2016|pp=250-251}}。このように、預金の引き出しができなかったため、3人は同日夜、再び[[名駅]]付近で女性を拉致し、暗証番号を聞き出した上で殺害することを決め、解散した{{Efn2|堀はKTや「山下」と別れた後、KTに対し「お疲れ様でしたm(_)m」という内容のメールを送信していた{{Sfn|集刑|2012|p=114}}ほか、事件後の「山下」の疲弊した様子から「自首するのではないか」と感じ、帰宅後にはKTに「「山下」は大丈夫か?」といったメールを送っていた{{Sfn|堀慶末|2019|p=163}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=251}}。

== 捜査 ==
しかし、「山下」は2人と別れ、「有松ジャンボリー」{{Efn2|「有松ジャンボリー」は、名古屋市緑区[[南陵 (名古屋市)|南陵]]601番地にある大型ショッピングセンター(スーパーマーケット「[[フィールコーポレーション|フィール]]」などが入居している)<ref>{{Cite web|和書|url=https://feel-corp.jp/store/nagoya/midori/store-156.html|title=有松ジャンボリー <nowiki>|</nowiki> 店舗情報|accessdate=2021-03-14|publisher=[[フィールコーポレーション]]|website=FEEL フレッシュフーズ フィール|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210314121510/https://feel-corp.jp/store/nagoya/midori/store-156.html|archivedate=2021-03-14}}</ref>。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=252}}(名古屋市緑区)<ref name="中日新聞2007-08-26"/> の駐車場で仮眠を取ろうとしたが、13時30分に自ら[[愛知県警察]]本部の電話番号へ電話を掛け{{Sfn|大崎善生|2016|p=252}}、「女性を拉致して金を奪い、岐阜県に埋めた」と話し<ref name="中日新聞2007-08-26">『中日新聞』2007年8月26日朝刊第12版第一社会面37頁「千種で声掛け拉致、愛西で殺害 女性遺体 瑞浪で発見 死体遺棄容疑 男3人逮捕へ 愛知県警」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1123頁</ref>、[[自首]]{{Efn2|name="自首動機"|「山下」は捜査段階で「自首しようか自殺しようか考えていた」と述べたほか<ref name="毎日新聞2008-12-12"/>、自首した動機について、『中日新聞』宛の手紙で「死刑が怖かったわけではなく、善と悪の心の葛藤があり、(自首した時に)善の部分が出た」と<ref name="中日新聞2007-12-26">『中日新聞』2007年12月26日朝刊第一社会面27頁「千種の女性拉致殺害 本紙に手紙 「山下」被告 『何となく流されて…』 『発覚の恐れ少ない』 闇サイト悪用の犯罪 過去にも3度」(中日新聞社)</ref>、公判では「『殺さないで』と言ったAの最後の言葉が頭から離れず、KTや堀の犯行後の発言にも腹が立っていたからだ」と供述した<ref name="中日新聞2008-12-12"/>。名古屋高裁 (2011) は、「山下」が自首した動機について「KTや堀に対する不満などの気持ちから『一蓮托生で警察に突き出そう』などという気持ちもあったが、反省悔悟の情もあったことや、自首が本件事案の解明に一定の寄与をしたことは否定できない」と判示している{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。これを受け、応対した当直の警察官は、電話の主である男(=「山下」)に対し、その場に留まっているよう伝えた<ref name="中日新聞2007-08-26"/>。「山下」は14時17分<ref name="読売新聞2007-08-27社会">『読売新聞』2007年8月27日東京朝刊第一社会面39頁「女性殺害遺棄事件 凶行は互いに偽名、直前に顔合わせ 闇サイト絡みまた」([[読売新聞東京本社]])</ref>、[[緑警察署 (愛知県)|緑警察署]]から派遣された警察官7人に身柄を拘束され、緑署で約15分間の事情聴取を受けた後、機動捜査隊に連れられて遺棄現場を案内{{Sfn|大崎善生|2016|pp=252-253}}。同日19時10分ごろ、「山下」の自供通り、Aの遺体が下半身に土を被せられた状態で発見された<ref>『朝日新聞』2007年8月26日名古屋朝刊第一総合面1頁「「女性拉致、金奪い殺害」男ら供述 岐阜山中から遺体 3人に逮捕状請求 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。

また、「山下」が「2人の共犯者(KTおよび堀)がいる」という旨を明かしたため、県警はその2人の居宅を特定した{{Efn2|県警は「山下」が知っていたKTの携帯電話番号から、KTの居宅を特定したほか、「山下」が事件前に何度も堀を迎えに行っていたため、堀の居宅も特定された<ref name="中日新聞2007-08-29"/>。}}上で、3人が決めていた同日の「第2の犯行計画」を利用し<ref name="中日新聞2007-08-29"/>、19時10分ごろ<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>、自宅から出かけようとしていたKTの身柄を確保<ref name="中日新聞2007-08-29">『中日新聞』2007年8月29日朝刊第12版一面1頁「女性拉致殺害 愛知県警 自首容疑者の供述で 「第2の犯行」利用し逮捕」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1223頁</ref> し、KTを[[任意同行]]させた<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>。また、「山下」に命じて堀宛てのメールを送信させ、同日22時ごろに堀の自宅マンション前で落ち合う約束を取り付け、約束の時間に自宅から出てきた堀を張り込んでいた捜査員が取り押さえ<ref name="中日新聞2007-08-29"/>、任意同行させた<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>。3人とも、「自分たちは闇サイトで知り合い、金を奪う目的で通りがかりの女性を狙った。顔を見られたので殺した」と供述したため<ref name="読売新聞2007-08-27"/>、愛知県警は[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄]]事件として、[[刑事部|捜査一課]]および[[千種警察署]]の<ref name="中日新聞2007-08-27"/>[[捜査本部|特別捜査本部]](特捜本部)を設置<ref name="読売新聞2007-08-27">『[[読売新聞]]』2007年8月27日中部朝刊一面1頁「女性拉致・殺害 男3人遺棄容疑逮捕 手錠、ハンマー殴打 愛知県警=中部」([[読売新聞中部支社]])</ref>。県警特捜本部は翌日(8月26日)0時に事件発生を発表し、4時過ぎ<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>、KT・堀・「山下」の3人を、死体遺棄容疑の[[被疑者]]として[[逮捕 (日本法)|逮捕]]<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。翌8月27日に[[名古屋地方検察庁]]へ3人の身柄を[[送致|送検]]した<ref>『朝日新聞』2007年8月27日名古屋夕刊第一社会面13頁「「翌日も拉致計画」 容疑者3人、金に困り犯行か 愛知・女性殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。

2007年9月14日、名古屋地検は被疑者3人を死体遺棄罪で[[名古屋地方裁判所]]へ[[起訴]]<ref name="朝日新聞2007-09-15">『朝日新聞』2007年9月15日名古屋朝刊第一社会面35頁「首謀、ともに否定 強殺容疑などで3人を再逮捕 名古屋・女性拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。同日、特捜本部は被疑者3人を強盗殺人・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁]]・[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取]]の各容疑で再逮捕し<ref name="中日新聞2007-09-15">『中日新聞』2007年9月15日朝刊第12版第一社会面37頁「女性拉致殺人 愛知県警 強殺で3容疑者再逮捕 「謝罪の気持ちない」」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号663頁</ref>、名古屋地検は10月5日にそれらの罪で被疑者3人を追起訴した<ref name="中日新聞2007-10-06">『中日新聞』2007年10月6日朝刊第一社会面35頁「Aさんを執拗に脅迫 名古屋拉致殺害の3被告 強殺などで追起訴」(中日新聞社)</ref>。また、「山下」については、Aの遺族から逮捕後に[[強盗・強制性交等罪|強盗強姦未遂]]の罪で告訴があり、地検も「その事実が認定できる証拠がある」と判断したため、同罪でも追起訴した<ref name="中日新聞2007-10-06"/>。

KTは捜査段階で、「人を殺した以上、金を払ったり、謝ったりしても、責任を取ったことにはならない。それが犯罪者である自分のルールである」{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 1 被告人Y1(「KT」)の個別情状}}「自分は他人が作った法律ではなく、作ったルールに従って生きる。殺人に抵抗感はない」と供述した<ref group="注" name="8月22日"/><ref>『読売新聞』2008年12月2日中部朝刊第三社会面31頁「闇サイト殺人地裁公判 KT被告「殺人に抵抗ない」 逮捕段階で供述=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。また、KTは逮捕から数日後に「山下」が自首したことを知らされたが、これを恨み、別の警察署の留置場にいた「山下」に対し、脅迫めいた内容の手紙{{Efn2|name="脅迫手紙"|「私の知人、友人などが、もし「山下」さんのところへ面会など、手紙など、失礼、無礼があったらお許しください」などといった内容の手紙{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 1 被告人Y1(「KT」)の個別情状}}。}}を送った<ref>『朝日新聞』2008年12月2日名古屋朝刊第三社会面29頁「事件仲間脅す?逮捕の後に手紙 闇サイト事件被告 名古屋地裁 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref> ほか、弁護人に対し、「「山下」がAを乱暴しようとしておきながら、自首して責任を逃れる態度は不満だ」と述べていた<ref>『中日新聞』2007年9月7日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致 逃げる気配感じ殺害 KT容疑者弁護士会見 3人が直接関与」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号309頁</ref>。


== 刑事裁判 ==
== 刑事裁判 ==
=== 公判前整理手続 ===
容疑者3名は2007年9月14日に当初の逮捕容疑の[[死体遺棄罪]]で起訴され<ref group="書籍" name="oosaki_p322">大崎、2016 p.322</ref>、これに加えて[[強盗致死傷罪|強盗殺人罪]]・[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利目的略取罪]]・[[逮捕監禁罪]]で同日に[[再逮捕]]された<ref group="中日" name="chunichi20070915">『中日新聞』2007年9月15日朝刊37面「女性拉致殺人『謝罪の気持ちない』愛知県警 強殺で3容疑者再逮捕」</ref>。3人とも容疑を認める一方、「反省はしていない」「謝罪するつもりはない」などと、この時点では反省の色を微塵も見せていなかった<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>。なお、3人は[[消費者金融]]から数十万円から数千万円の借金を抱えており、「闇の職業安定所」をKは10年ほど前から、Aは8年ほど前から、Cはこの年の6月頃からそれぞれ利用していた<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>。被害者女性を狙った理由については「真面目で金を持っていそうだったから」と供述した<ref group="中日" name="chunichi20070915"/>。
本事件の[[審級|第一審]]における[[事件記録符号|事件番号]]は、'''平成21年(わ)第1863号'''・'''平成21年(わ)第2010号'''・'''平成21年(わ)第2130号'''で、審理は[[名古屋地方裁判所]]刑事第6部(裁判長は[[近藤宏子]]、陪席裁判官は野口卓志・酒井孝之の両名)に係属した{{Sfn|名古屋地裁|2009}}。同地裁における3[[被告人]]の[[公判前整理手続]]は、2007年12月27日に第1回手続が開かれた<ref>『中日新聞』2007年12月27日夕刊第一社会面13頁「3被告 罪状認否せず 千種・拉致殺害 公判前整理手続き開始」(中日新聞社)</ref>。その後、2008年(平成20年)3月11日(第2回) - 9月22日(第8回)にかけて手続が行われ{{Efn2|第7回手続<ref name="公判について"/>(2008年7月31日)で初公判の期日が指定され<ref>『中日新聞』2008年8月1日朝刊第二社会面34頁「千種の拉致殺害 来月25日初公判」(中日新聞社)</ref>、最後の第8回手続<ref name="公判について"/>(9月22日)で公判(全18回)の詳細な日程が決められた<ref>『中日新聞』2008年9月23日朝刊第三社会面25頁「判決は3月18日 千種区の拉致殺害」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="公判について">{{Cite web|和書|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page006.html|title=公判について|accessdate=2021-03-15|publisher=被害者Aの遺族によるウェブページ|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200224115718/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page006.html|archivedate=2020-02-24}}</ref>、争点は3被告人の共謀が成立した時期などに絞られた<ref name="中日新聞2008-09-25"/>。


公判前整理手続を行わない場合、起訴 - 初[[公判]]の期間は3週間 - 1か月半とされるが、本事件では起訴から初公判まで約1年を要したため<ref name="中日新聞2008-09-25 夕刊">『中日新聞』2008年9月25日夕刊第二社会面10頁「千種拉致殺害 被害者 被告とも苦悩 長引いた公判前手続き」(中日新聞社)</ref>、被害者Aの母親Bは、手続き中の2008年3月3日に当時の[[鳩山邦夫]][[法務大臣]]へ、公判の早期開始などを訴える手紙を郵送した([[#被害者遺族の活動|後述]])<ref name="中日新聞2008-03-04"/>。
その後、3人は10月5日、営利略取、逮捕監禁、強盗殺人の罪で、Aはさらに[[強盗強姦罪|強盗強姦未遂]]の罪で追起訴された<ref group="中日" name="chunichi20071006">『中日新聞』2007年10月6日朝刊35面「○○(被害者女性の実名)さんを執拗に脅迫 名古屋拉致殺害の3被告 強殺などで追起訴」</ref>。


一方、KTは起訴後、精神不安から体調を崩し、自室で[[縊死|首吊り]][[自殺]]を図ったほか、「山下」も体調を崩し、精神安定剤を必要とするようになった<ref name="中日新聞2008-09-25 夕刊"/>。
刑事裁判では、裁判官の「被害者が1人である本件では死刑選択がやむを得ないと言えるほど悪質な要素があったとはいえない」、弁護人の「被害者が1人で死刑になった事件に比べると、この事件はそれほど酷い事件ではない」など、司法の世界ではごくごく当たり前だという文言が被害者遺族の心を傷つけ<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>、被害者の母親は『[[毎日新聞]]』の取材に対し「私にとって最大の二次被害は司法の世界にあった」と語った<ref group="報道" name="mainichi20170823"/>。


=== 第一審(名古屋地裁) ===
=== 第一審 ===
{{See also|永山基準#被害者1人で死刑が確定した事例}}
: [[2008年]](平成20年)[[9月25日]]に[[名古屋地方裁判所]]で初[[公判]]が開かれた。公判中[[被告人]]3名はお互いに罪をなすりつけ合い、特に「殺害方法の順番が違う」と主張したAと「共犯者が違う供述をしている」と主張したKの間でそれが顕著で、反省の態度は見られなかった<ref group="中日">『中日新聞』2008年9月25日夕刊11面「千種拉致殺害 闇サイト悪意つなぐ 見知らぬ3人結託 冒頭陳述『誰でもいい』凶行 罪なすり付け合い」</ref>。
本事件は殺害された被害者が1人であるため、刑事裁判では[[量刑]](被告人3人に死刑を適用することが妥当か否か)が最大の焦点となった<ref>『中日新聞』2009年3月18日朝刊第二社会面30頁「被害者1人の死刑焦点 千種拉致殺害 名古屋地裁」(中日新聞社)</ref>。
: 2008年11月5日に開かれた第5回公判では、Aへの被告人質問で3被告に脅されても正しくない[[キャッシュカード]]の[[暗証番号]]を教えるなど、被害者が最後まで生きる希望を失っていなかった様子が明らかになった<ref group="報道" name="mainichi20081106">『[[毎日新聞]]』2008年11月6日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page018.html 闇サイト殺人公判 殺害過程詳細に証言--被告人質問]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。愛西市内の駐車場の車内で、Cが包丁を手に「いいかげんしゃべれ」とすごんだのに対し被害者は「2960」と答え、Kが再び聞いたが、被害者は同じ番号を伝えた<ref group="報道" name="mainichi20081106"/>。Aが携帯電話で「2960」を押し発信履歴を残した直後、3人は被害者を殺害したが、8時間半後に銀行で暗証番号が虚偽だと気づいた<ref group="報道" name="mainichi20081106"/>。被害者は父を幼少時に31歳で白血病により亡くし、母と2人で生きてきたが<ref group="中日" name="chunichi20081208"/>、この預金は母の夢だった「マイホーム資金」だったと思われる<ref group="報道" name="mainichi20081106"/>。「命をとられてまで、嘘をつくはずはないと思った」とAは法廷で語ったが、3人は被害者の「夢」までは奪い取れなかった<ref group="報道" name="mainichi20081106"/>。
: 2008年11月7日の第6回公判ではAに対する被告人質問が行われ、Aは「[[サスペンス]]劇場を見ている感じだった。自分は見ているだけだった」などと供述し、K・C両名に「お前らが悪い」などと声を荒らげ、裁判官が静止する場面もあった<ref group="報道">『[[名古屋テレビ放送|メ~テレ]]』ニュース2008年11月7日付「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page019.html 闇サイト裁判で殺害現場は『サスペンス劇場』]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。
: 2008年11月27日の第9回公判でKへの被告人質問があり、Cの弁護人が「3被告が出会った当初『過去に人を殺したことがあった』{{Refnest|group="注"|後述のようにCには実際に強盗殺人の余罪があったことが後に判明している。}}と話したか」と問うと、Kは「『2人ほど埋めたことがある』と警察官には話した」と答え、「実際にやったのか」と追及されると「はい」と答えた一方で「殺害行為には関わっていない」などと話したが、それ以上のことについては具体的な話はなかった<ref group="中日" name="chunichi20081127">『中日新聞』2008年11月27日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page022.html 他にも2人埋めた]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。なおこのようにKが殺人の「余罪」について語ったことについて、愛知県警は「そのような事実は把握していない」という<ref group="中日" name="chunichi20081127"/>。
: 2008年12月1日の第10回公判でKは被告人質問で、昨年8月26日に逮捕された後、別の警察署の留置所にいたAに宛てて脅迫めいた手紙を送ったと述べた<ref group="報道" name="asahi20081202"/>。Kは手紙の内容について「『知人が面会などで失礼をすることがあれば許してください』と書いた」と説明し、Aに危害を加えることを示唆する文章だったと語った<ref group="報道" name="mainichi20081202"/>。KはAが自首したことを逮捕数日後に知らされ「正直頭に来た。(Aを)ぶっ殺してやろうかと思った」という<ref group="報道" name="asahi20081202">『[[朝日新聞]]』2008年12月2日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page023.html 事件仲間脅す? 逮捕後の手紙]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。
:: また駐車場に停めた車の中で被害者の首を絞めた際には、Aがこれまでの公判で「車外から戻ったらK・C両名が首を絞めていた。やむを得ず自分も加わった」と述べていたのに対し、KはAも車内にいたと述べた。また、Kが逮捕後の取調べで「人を殺すことに全く抵抗感がない」などと供述していたことが明らかになり、公判で引用された調書によるとKは「私が作ったルールに従って生きるだけで、他人が作った法律に縛られて生きようとは思わない」とも供述したという<ref group="報道" name="yomiuri20081202">『[[読売新聞]]』2008年12月2日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page023.html 「殺人に抵抗ない」逮捕段階で供述]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。
::Kは「Cが被害者から[[銀行]]の[[キャッシュカード]]の暗証番号(実際には前述の通り嘘だった)を聞き出した後、『もうやっちゃいましょうか』と殺害を提案した」と述べた<ref group="報道" name="mainichi20081202">『[[毎日新聞]]』2008年12月2日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page023.html 暗証番号確認後、C被告が殺害を提案]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。Kは「首を絞めます」と応じたが、Cは「暗証番号が本当かどうか分からない」と思ったため、まずは失神させようとしたというが、被害者がAに強姦されそうになり大声を上げたため「殺すしかない」と考えたという<ref group="報道" name="mainichi20081202"/>。Aが「外で[[たばこ]]を吸っていて、車に戻ったら首を絞めていた」と主張しているのに対して、Kは「Aは運転席にいた」と反論した<ref group="報道" name="mainichi20081202"/>。
: 2008年12月3日の第11回公判ではCは被告人質問で「Cが殺害を提案した」と主張するKの証言に反論し「Kが突然『首を絞める』と殺害を提案してきた」と主張し、これに対しAは「Kが首を絞めた時は車の外にいた」と主張したが、K・C両名は「運転席にいた」と証言したため、殺害状況や発言を巡って3被告の食い違いが目立った<ref group="報道" name="mainichi20081204"/>。Cは「拉致して金を奪うことは決まっていたが、殺すという話は出ていない」「(Kから殺害を提案され)なぜかと思ったが、反対はしていない」と述べた<ref group="報道" name="mainichi20081204">『[[毎日新聞]]』2008年12月4日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page024.html 公判で3被告 証言食い違い]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。
: 2008年12月8日の第13回公判では、証人として初出廷した母親らが「死刑判決を望む」と語った<ref group="中日" name="chunichi20081208">『中日新聞』2008年12月9日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page026.html 千種拉致殺害『3被告に死刑を』 名古屋地裁で母ら証言]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。被害者女性の交際相手の男性は「被害者が被告らに伝えた偽の暗証番号『2960』は『憎むわ』という意味だと思う」と証言し、その根拠として「被害者が数字の語呂合わせをよくしていた」と話した<ref group="中日" name="chunichi20081208"/>。
: 2008年12月11日の第14回公判ではAへの被告人質問が行われ、遺族への謝罪についてAは被害者への心境を質問されると「お気の毒」、被害者が殺害された理由を「運が悪かった」などと淡々と述べ、まるで反省の色が感じられなかったため、検察官が「人ごとのように聞こえる」とたしなめた<ref group="報道">『[[読売新聞]]』2008年12月12日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page027.html 被害者に『お気の毒』 A被告、反省の言葉なし]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。またAは「申し訳ないことをしたという気持ちはある。でも、遺族が納得できない謝罪は意味がない」と供述し、遺族が死刑を望んでいることに対して「死刑なら死刑で構いません」と言い「包丁があるなら今、(遺族に)刺してもらってもいい」と述べた<ref group="中日" name="chunichi20081212">『中日新聞』2008年12月12日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page027.html A被告『死刑でも構わぬ』 千種拉致殺害公判]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>。その後、近藤宏子裁判長から真意を問われると「開き直っているのではない」と返答し「自分の命を差し出してもいいという意味か」との裁判長の問いに「そうです」と答え、自首した経緯については「『殺さないで』と言った被害者の最後の言葉が頭から離れず、犯行後のK・Cの発言にも腹が立ったから」と説明した<ref group="中日" name="chunichi20081212"/>。検察側が事件の責任を問うとAは「自分が首謀者で、Kは主犯だ」と話した<ref group="中日" name="chunichi20081212"/>。
: また、Kは交際相手に対して手紙を出していたことが2008年12月19日の第16回公判で明らかになり、その中には拉致後の車中で被害者が吐き気を訴えたことに触れ「車酔いしてたら、背中とかに汗かくんだよ。芝居の上手い彼女(笑)。嘘吐き姉ちゃん。嘘なら俺の方が上手だぜ」「食えねえ女だ」など<ref group="報道" name="mainichi20081220">『[[毎日新聞]]』2008年12月20日朝刊「[http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page029.html 被害者中傷…被告が事件後、知人に手紙]」(「遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト」より引用)</ref>、また被害者が包丁で脅されて震えていた場面は「がったがた。[[マグニチュード]]10?」などと表現するなど<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>、被害者を中傷し遺族の感情を逆なでするような内容が見られた。また事件については「仕事」と表現されており「『仕事』(8月21日~8月25日)をちゃんと覚えておこう」とも書かれていた<ref group="報道" name="mainichi20081220"/>。
: [[2009年]](平成21年)[[1月20日]]に論告求刑公判で[[検察官|検察側]]は「被害者の命乞いを無視して殺害した方法は、生き埋めにしたのとほかならず、地獄の苦しみを味わわせた」「当初から強盗殺人の計画を練っており、なんら躊躇もなく犯罪に及んだ」「社会全体を震撼させた凶悪事件で、模倣性の強さも他の事件の比ではない」「自己の利欲目的達成のために他人の生命を軽視する根深い犯罪性向と反社会性があり、今後改善更生の可能性は認められない」などとして[[被告人]]3名に死刑を[[求刑]]した<ref group="中日" name="chunichi20090120">『中日新聞』2009年1月20日夕刊1面「千種拉致殺害」3被告に死刑求刑 検察『更生の可能性ない』<br>『中日新聞』2009年1月21日朝刊27面「千種拉致殺害 『人の所業でない』死刑求刑の検察が非難」</ref>。この中で検察側は「遺族の母親の切望に応えることこそ法に課された使命ともいうべきである」「被告人らの死刑を望む遺族らの意思は被告人3名の量刑を決めるにあたって最大限に考慮されなければならない」と述べており<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>、また「面識のない人間が(闇サイトがきっかけで)集まり、極めて短時間で殺害まで計画するなど、人の所業とは考えられない」と3人を厳しく非難し、自首したAについても「反省しておらず、刑を減軽するのにはあたらない」とした<ref group="中日" name="chunichi20090120"/>。
: 同年2月3日に弁護側の最終弁論が開かれ、Aは声を震わせながら「被害者女性のお母さんの意見陳述は胸に刺さりました。被害者女性のご冥福をお祈りいたします。申し訳ございませんでした」と、Cも泣きながら「被害者の夢や希望を奪って、遺族に苦しみを与えてしまった。申し訳ない」と遺族の座る傍聴席に頭を下げ、それぞれ謝罪した<ref group="中日" name="chunichi20090203"/>。その一方で、第一審で死刑が確定したKは「特に申し上げることはない」とだけ述べた<ref group="中日" name="chunichi20090203"/>。被害者女性の母親は「謝罪を受け入れる気持ちはないので、素直に聞けなかった」と語っており<ref group="中日" name="chunichi20090203"/>、また後述のようにAが判決後に反省のない態度を見せたこと、Cに至っては[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件|強盗殺人の余罪]]を本事件の裁判で無期懲役が確定するまで自供せず隠し続けていたことから、どちらも「真摯な反省」とは認めていない<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。Kの弁護人は最高裁の死刑判決の判例([[永山則夫連続射殺事件#永山基準|永山基準]])を挙げ「計画性のなさや殺害された被害者数が一人であり、殺害方法も他の死刑事件と比べて残虐性が低い」として無期懲役か有期懲役を求め、Cの弁護人は「殺害方法の主導はKで、CはKの指示に従っていた。(実際にはこの時点でも余罪を隠蔽していることが後に明らかとなるが)矯正不可能とは言えず生きて罪の償いをさせるのが相当」と述べ、Aの弁護人は「(実際には死刑回避のためであり、反省の色などないにも関わらず)良心の呵責の耐えきれず自首した」とした上で「反省に基づかない自首は刑の減軽に値する事情ではない」とする検察側の意見に反論し、結審した<ref group="中日" name="chunichi20090203">『中日新聞』2009年2月3日朝刊27面「A、C両被告 初の謝罪 名地裁公判 千種拉致殺害が結審」</ref>。
: 同年[[3月18日]]午前10時開廷の[[判決 (日本法)|判決]]公判([[近藤宏子]][[裁判長]])では、主文を後回しにするかたちで同日正午過ぎに強盗殺人罪の[[主犯]]格の被告人K・Cの両名に「悪質性の高い種類の犯行で、社会の安全にとって重大な脅威であり、厳罰をもって臨む必要性が誠に高い」「Aを含め3人の刑事責任については、犯行の経緯や状況に関して『量刑上、特に刑種の選択を分かつほどの差異を設けるべき事情はない」「被害者が1人であることや(この時点で判明している限りでは)粗暴犯の前科がないことなどを考慮しても、極刑をもって臨むことはやむを得ない」として死刑、強盗強姦未遂罪の主犯であるAには「犯罪の発覚、逮捕が困難であるこの種の犯罪で、自首したことにより共犯者の逮捕や、その後に起こり得た犯罪も抑止した。極刑をもって臨むには躊躇を覚える」として[[無期刑|無期]][[懲役]]の判決が言い渡された<ref group="中日" name="chunichi20090318">『中日新聞』2009年3月18日夕刊1面「千種殺害2人に死刑 名地裁判決 『無慈悲で凄惨』自首の1人は無期」「思い果たせず『つらい』○○(被害者女性の実名)さん母親会見」「犯罪の予防へ厳罰 解説」<br>『[[東京新聞]]』2009年3月18日夕刊1面「闇サイト殺人2人に死刑 女性拉致監禁 自首の一人は無期 名古屋地裁判決『無慈悲で残虐』」<br>『中日新聞』2009年3月19日朝刊1面「千種拉致殺害『悪質性重大な脅威』名地裁異例の2被告死刑判決」<br>『東京新聞』2009年3月19日朝刊31面「闇サイト殺人判決 娘の命の証残せなかった 1人無期 母『納得できない』」</ref>。[[日本弁護士連合会]](日弁連)によれば、把握している確定判決の統計では、1人殺害に対して複数被告に死刑判決が言い渡されたのは1988年に最高裁で2被告に死刑判決が出た[[福岡病院長殺人事件]]以来2件目であった<ref group="中日" name="chunichi20090318"/>。
: Aに無期懲役が言い渡された理由は判決によれば「死刑になりたくなかったから」というあまりにも身勝手な理由で[[捜査機関]]へ出頭したことを「自首」と認定し、その上でそれを酌量理由と認めて罪一等軽減したというものであった<ref group="注">極刑でもおかしくない罪状であっても自首が認定され死刑求刑に対し無期懲役が言い渡された事件に[[夕張保険金殺人事件]]の実行犯などがいる一方、[[オウム真理教事件]]([[坂本堤弁護士一家殺害事件]]などの実行犯)の[[岡崎一明]]や[[大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件]]の主犯の1人(3つの事件のうち1つについて自首が認定された)などのように自首が認定されたにもかかわらず、それが刑の減軽理由とは認められず求刑通り死刑判決が言い渡された例もある。Aの場合は「自己保身」が目的の自首という点で岡崎のケースと酷似している。</ref><ref group="中日" name="chunichi20090318"/>。被害者の母親は開廷前、報道陣に対し「3人とも死刑になることを望んでいます」と語っていたがその思いは果たせず、判決後の記者会見でも涙を見せ「娘の生きた証を残すために戦ってきた。だけど3人全員の死刑ではなかった。今、とてもつらいです」「自首したら助かるのか。1人が死刑でも納得できません」「人を殺して『ごめんなさい』と自首すれば自分の命は守れるなんて日本の司法はおかしい。娘の生きた証を残すことができなかった」と声を絞り出しつつ語り、また被害者と交際していた当時[[大学院]]生の男性も会見に同席し「ゼロに近い判決。力及ばず、被害者に申し訳ない。公判を通じ被告らに反省の態度が見られなかったこともつらかった」と悔しさをにじませた<ref group="中日" name="chunichi20090318"/>。
:: 判決後、公判の中で唯一反省の言葉がなかったKは珍しく傍聴席に一礼して法廷を後にした一方、丁重に振る舞っていたはずのCはその日に限り挨拶どころか傍聴席を見向きもせずに退廷した<ref group="書籍" name="oosaki_p339-341">大崎、2016 p.339-341</ref>。[[大崎善生]]はこれについて「Cの本性が垣間見えた瞬間だった」と表現している<ref group="書籍" name="oosaki_p339-341"/>。また、大崎は「司法は『殺害された被害者数が1人なら原則として死刑を回避する』永山基準というモンスターに囚われて多くの被害者遺族を苦しめてきた。[[永山則夫]]の犯行当時と現代では、価値観も経済も道徳観も何もかも違う。しかし裁判は判例至上主義のように、永山基準に戻っていく。まるでモンスターに鷲掴みされているかのようだ」と表現した<ref group="書籍" name="oosaki_p341-343">大崎、2016 p.341-343</ref>。この1人の被害者に対して2人に死刑が言い渡されるという異例の判決は「一人の女性裁判長が永山基準に挑んだ」としてマスコミも大きく取り上げ話題になった<ref group="書籍" name="oosaki_p341-343"/>。法曹界出身者からは「厳しすぎる不当判決」という意見が多かった一方、識者や学者らは判決の勇気を讃えた<ref group="書籍" name="oosaki_p341-343"/>。
:: 地元紙の『[[中日新聞]]』は翌3月19日朝刊の[[社説]]で「被害者一人の事件では異例(の判決)だが、むごい手口や被害者の無念さ、遺族の悲嘆を思えば、やむを得ぬ判決だ」とし<ref group="中日">『中日新聞』2009年3月19日朝刊7面社説発言欄「闇サイト殺人 死刑判決はやむを得ぬ」</ref>、また同じく[[中日新聞社]]発行の『[[東京新聞]]』も朝刊1面のコラム「筆洗」にて「過去の裁判では被告に前科がなく、被害者が一人の場合、死刑の適用を回避する流れがあった。だが殺された側からすると、何人かは意味がない。誰もがかけがえのない命である」「どうやら、被害者の人数が(死刑選択にあたって)決定的な要素とはいえない」と主張した<ref group="中日">『東京新聞』2009年3月19日朝刊1面コラム「筆洗」</ref>。一方で『東京新聞』には「被害者の命より、自首した被告(死刑判決を免れたA)の命が重いのが残念だ。自首をすれば死刑を免れる。自首が『評価』されるという悪しき前例を作った判決だからだ。事件の残忍性、凶悪性から見て、三人全員が死刑になってもなんら不思議ではない。ご遺族の気持ちを思うと、なおさら疑問に感じる」という投書が寄せられた<ref group="中日">『東京新聞』2009年3月26日朝刊5面社説発言欄「闇サイトの判決に疑問」</ref>。
: 無期懲役の地裁判決が言い渡されたAは判決後に記者との面会に応じたが、その際にAの口から最初に出た言葉は「会いたいんだったら、まず金を持って来い。差し入れは現金じゃ」という言葉だった<ref group="書籍" name="oosaki_p341-343"/>。Aは『[[中日新聞]]』記者との面会中「3人とも同じ刑になるのかな、と思っていた。主犯のKと同じ判決だったら控訴するつもりだった。自首が認められ、助かった」と語り<ref group="中日" name="chunichi20090320"/>、また別の記者に対しては自分が一連の惨劇の元凶であり、「誰のせいで」凄惨な事件が起きたかということなど完全に棚に上げて「誰のおかげで事件が解決したかとの思いだったから満足している。今でも悪いことはばれなきゃいいという気持ちは変わらない」と語り、逮捕当時同様微塵も反省の色を見せていなかった<ref group="中日" name="chunichi20090320">『中日新聞』2009年3月20日朝刊35面「千種拉致殺害 自首評価に『助かった』本紙記者面会 無期判決でA被告」</ref><ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。
: 死刑判決を受けたKは[[名古屋高等裁判所]]に即日[[控訴]]し<ref group="中日" name="chunichi20090318"/>、Cの弁護人と無期懲役判決を受けたAの弁護人も判決から6日後の3月24日に控訴した<ref group="中日" name="chunichi20090325">『中日新聞』2009年3月25日朝刊32面「2被告の弁護側控訴」</ref>。また、[[名古屋地方検察庁]]もAの無期懲役は量刑不当であるとした上で「判決内容を十分に検討した上」で[[3月27日]]に控訴した<ref group="中日" name="chunichi20090328">『中日新聞』2009年3月28日朝刊38面「検察側も控訴」</ref>。
: なお、即日控訴したKはその後、同年[[4月13日]]に自ら控訴を取り下げ、死刑が確定した<ref group="中日" name="chunichi20090415">『中日新聞』2009年4月15日朝刊1面「K被告の死刑確定へ 千種拉致殺害 控訴を取り下げ」</ref>。
:: Kの[[国選弁護人]]2人は4月27日にKの精神状態などを理由に控訴取り下げは無効として名古屋高裁に申し立て<ref group="中日">『中日新聞』2009年4月28日朝刊27面「控訴取り下げ『無効』拉致殺害、K被告 弁護人が申し立て」</ref>、控訴審期日指定を申し立てたが、翌年9月9日付で名古屋高裁(下山保男裁判長)に棄却された<ref group="中日">『中日新聞』2010年9月11日朝刊39面「闇サイト殺人K死刑囚 控訴取り下げ有効 高裁決定」</ref>。弁護側はこれを不服として9月13日付で名古屋高裁の別の裁判部に異議申し立てをしたが<ref group="中日">『中日新聞』2010年9月14日朝刊28面「K死刑囚弁護人 控訴取り下げ異議 闇サイト殺人」</ref>、2011年2月10日付で名古屋高裁(志田洋裁判長)に棄却され、14日付で最高裁に特別抗告した<ref group="中日">『中日新聞』2011年2月16日朝刊27面「闇サイト死刑囚 弁護人異議棄却 名高裁」</ref>。3月2日に最高裁第三小法廷([[那須弘平]]裁判長)は控訴取り下げは有効と判断し弁護人の特別抗告を棄却した<ref group="中日">『中日新聞』2011年3月8日朝刊33面「K死刑囚の控訴取り下げ有効 最高裁が決定」</ref>。


[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]が1983年(昭和58年)7月に[[永山則夫連続射殺事件|連続4人射殺事件]]の上告審判決で示した死刑選択基準「'''[[永山基準]]'''」では<ref>『毎日新聞』2009年3月16日中部朝刊社会面22頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/下 被告の父も「極刑相当」」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、'''結果の重大性ことに殺害された被害者の数'''、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、[[前科]]、犯行後の情状」といった事情を総合的に考慮し、「'''その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される'''」と判示されている<ref name="永山基準">{{Cite 判例検索システム|法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二小法廷|裁判種別=判決|事件番号=昭和56年(あ)第1505号|事件名=窃盗、殺人、強盗殺人、同未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件|裁判年月日=[[1983年]](昭和58年)7月8日|判例集=『最高裁判所刑事判例集』(刑集)第37巻6号609頁|判示事項=一・死刑選択の許される基準 二・無期懲役を言い渡した控訴審判決が検察官の上告により量刑不当として破棄された事例|裁判要旨=一・死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であつて、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される。二・先の犯行の発覚をおそれ、あるいは金品の強取するため、残虐、執拗あるいは冷酷な方法で、次々に四人を射殺し、遺族の被害感情も深刻である等の不利な情状(判文参照)のある本件においては、犯行時の年齢(一九歳余)、不遇な生育歴、犯行後の獄中結婚、被害の一部弁償等の有利な情状を考慮しても、第一審の死刑判決を破棄して被告人を無期懲役に処した原判決は、甚だしく刑の量定を誤つたものとして破棄を免れない。|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50235|ref=}} - 「'''[[永山基準]]'''」を示した[[永山則夫連続射殺事件|連続4人射殺事件]]の最高裁判決
=== 控訴審(名古屋高裁) ===
* 判決内容:控訴審判決(無期懲役)を破棄し、審理を東京高等裁判所へ差し戻し
: A・Cの名古屋高裁([[下山保男]]裁判長)での控訴審初公判は[[2010年]](平成22年)8月9日に開かれ、検察側は「Aは闇サイトで働きかけて犯罪者集団を結成し、犯行でも重要な役割を果たした中心的人物。自首を最大限考慮しても死刑を回避する事情には当たらない」と、改めて全員への死刑適用(Cの控訴棄却及びAへの第一審判決破棄)を求めた一方、弁護側はCについては「他人に同調しやすい性格。反省の態度は顕著で、生きて償わせるべきだ」として無期懲役を、Aについては犯行直後の自首を考慮し、さらに減軽して有期懲役とするように求めた<ref group="中日">『中日新聞』2010年8月10日朝刊30面「闇サイト殺人 検察『2被告死刑に』 名高裁控訴審第1回公判 弁護側は減軽求める」</ref>。
* [[最高裁判所裁判官]]:[[大橋進 (法曹)|大橋進]]([[裁判長]])・[[木下忠良]]・[[塩野宜慶]]・[[宮崎梧一]]・[[牧圭次]]
: 10月18日の第3回公判では被告人質問が開かれ、第一審で死刑判決を受けたCは「償いを悩み続けてきたが(死刑は)ある意味で楽な選択。私にとって極刑は無期懲役」と語り、弁護人から[[知的障害]]を指摘されているAは遺族への気持ちを問われ「申し訳ありませんでした」と答えたものの、他の質問ではチグハグな答えが目立った<ref group="中日" name="chunichi20101019"/>。被害者の母親は検察側証人として出廷し、「真面目に生きてきた娘が標的にされた。厳しく裁くことが真面目に生きる人を守ることになる」と訴え、両名への死刑適用を求めた<ref group="中日" name="chunichi20101019">『中日新聞』2010年10月19日朝刊32面「『生きて一生償いたい』闇サイト殺人控訴審でC被告」</ref>。
* [[被告人]]:[[永山則夫]]</ref>。同判決では、「ことに」と強調した上で被害者数に言及しているため、同判決後の刑事裁判では殺害された被害者が1人の場合、大半で懲役刑が選択されていた<ref name="法学セミナー">{{Cite journal|和書|journal=[[法学セミナー]]|title=ロー・フォーラム 裁判と争点 被害者1人、異例の死刑判決 闇サイト殺人で名古屋地裁|volume=54|page=139|date=2009-06-01|url=https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/5038.html|issue=6|publisher=[[日本評論社]]|id={{国立国会図書館書誌ID|10216473}}}} - 通巻第654号。</ref>。
: 控訴審公判は12月3日に4回目で結審し、最終弁論で検察側は「弁護側の心理鑑定は一部の裁判記録だけを前提にしたもの」として信用性を疑問視し、既に死刑確定したKを含め3人全員への極刑を求める被害者の母親ら被害者遺族の感情も挙げた上で両被告への死刑適用を求めた<ref group="中日" name="chunichi20101204"/>。一方、「両被告ともに攻撃性はうかがえない」とした心理鑑定結果が証拠採用されている弁護側は「ともに集団でないと凶悪犯罪を想定しにくい」と述べ、Cについては「穏やかで犯罪性は低い(臨床心理士の評価)。集団の特性で意思とは無関係に凶悪化した。改悛の情は顕著であり、苦しみながら償う機会を与えてほしい」として無期懲役を、Aについては「軽度の[[知的障害]]があり、どこまで認知した犯行か疑問(臨床心理士の評価)。犯行は場当たり的で従属的であり、自首の成立を除いても死刑は許されない」として有期懲役適用を求めて結審した<ref group="中日" name="chunichi20101204">『中日新聞』2010年12月4日朝刊38面「闇サイト殺人 2被告の控訴審結審 名高裁 弁護側『償う機会を』」「極刑なら『娘に報告』母親、遺影持たず傍聴」</ref>。
:: [[大崎善生]]は著書『いつかの夏』の中で、後に強盗殺人の余罪が判明したCを「稀代の殺人鬼」「人を殺すことを何とも思わない、3度の強盗殺人と強盗殺人未遂を繰り返した悪魔のような男」「あの(凶器の)ハンマーを購入した(実際に購入したのはA)のも、被害者を車に引きずり込んだのも、手錠をかけたのも、ガムテープで口を塞いだのも、真っ先に被害者の頭にハンマーを打ち下ろしたのも、無慈悲に息も絶え絶えの被害者の頭を粘着テープで23周もグルグル巻きにしたのも、被害者の遺体を荷物同然に肩に担いで放り投げたのも、すべてCである」「『何も感じずに無抵抗の女性にハンマーを打ち下ろし、後はお疲れさま。財布にいくらある?』矯正の可能性などあるわけがない。世に放てば4度目、5度目の強盗殺人を繰り返すだけだろう」と表現したが、そのCについて弁護側の犯罪鑑定人は心理テストの結果として「優しい性格」「犯罪に親和性はない」「矯正の可能性がある」などと平然と被害者遺族の前で表現し、判決もそのように弁護人が言った通りに反映されてしまった<ref group="書籍" name="oosaki_p358-360"/>。また、控訴審から弁護側証人として犯罪鑑定人(50代の女性大学教員)が出廷したことについても「Cの性格は穏やかで素直でお人好し。愛情に飢えている。そして犯罪に親和性がない。矯正の可能性が十分にある」「Cは弁護人や鑑定人に向かって『自分がいかに取り返しのつかないことをしたか、どうやって償えばいいか、毎日苦しんでいる』などと、気持ち悪くなるほどに白々しい反省の弁を述べている。それを真に受けた鑑定人や弁護人が、Cの言葉を滔々と代弁する」などと表現し、「本当に(Cに)殺意があるなら被害者を3発も殴る必要はないはずということで、鑑定人はCの殺意を否定した。しかし実際に被害者は死んでいる。死んでいるのだから殺意はあるだろうと思うのが被害者遺族の当然の思いだ。殺意がないからこそ3発も打ち下ろしたとか、30発になったとかいう言葉を、遺族は法廷で唇を噛みしめながら聞いていなければならない。一般常識の感覚と法曹界の定義との乖離はこれほどに大きい」「『自分にとって一瞬で終わる死刑よりも、一生かかって償わなければならない無期懲役の方がはるかに厳しい罪なので、その重い方で償いたい』などという言葉を真に受ける姿など、被害者遺族が弁護人という職人たちの人間性を疑いたくなるのも頷ける」と綴った<ref group="書籍" name="oosaki_p346-351"/>。
: 判決日時は当初は翌[[2011年]](平成23年)3月25日を予定していたが、3月10日付で[[4月12日]]に延期された<ref group="中日">『中日新聞』2011年3月11日朝刊31面「闇サイト殺人 二審判決延期 来月12日に」</ref>。
: 4月12日の判決公判で、名古屋高裁(下山保男裁判長)はAに対し地裁の判決を支持(双方の控訴を棄却)、Cに対し地裁の死刑判決を破棄して、両名に無期懲役の判決を言い渡した<ref group="中日" name="chunichi20110413">『中日新聞』2011年4月13日朝刊1面「闇サイト殺人 2被告に無期懲役 名高裁判決 C被告死刑破棄 『模倣性高いといえず』」「被害者1人判例を踏襲 破棄、より丁寧な説明を」<br>『中日新聞』2011年4月13日朝刊30面「闇サイト殺人『誰のための裁判か』○○(被害者女性の実名)さん母、無念 名高裁判決『被害者目線なかった』」「悪質性を過小評価([[土本武司]]元最高検検事の話)」</ref>。判決理由は「ネットを通じて知り合った素性を知らない者同士の犯行は意思疎通の不十分さから失敗に終わりやすく、携帯電話やメールの履歴という痕跡が残るため、発覚が困難とも考えがたい」とした上で、犯行の計画・実行でのKとの重要度の差や、A・C両名の前歴{{Refnest|group="注"|後述の[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]に主犯として関与していたことはまだ発覚しておらず、Cはこの時点で判明している前科は交通関係の[[罰金]]前科のみであり「これまでの生活歴を見ても、本件のほかに凶悪犯罪への傾向を示すものは見当たらないことに照らせば、犯罪成功は強いとはいえず矯正可能性もあると考えられる。殺害された被害者が1名である本件において、死刑の選択がやむを得ないというほど他の量刑要素が悪質であるとは断じがたい」とした<ref group="書籍" name="oosaki_p346-351"/>。}}から更生の余地があるものと判断し、「利欲目的のみで何の落ち度もない被害者を殺害した残虐な犯行で社会的影響も大きいが、死刑選択がやむを得ないほど悪質とは言えない」という理由からである<ref group="中日" name="chunichi20110413"/>。しかし、それでもなおCに対しては「自らが行った行為に対し、正面から向き合って真摯に反省しているとまではいえない」と厳しい文言が添えられていた<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。
:: 大崎は「下山保男裁判長による判決は誠に被害者感情を無視しているというしかない。第一審の判決では闇サイトに集う短絡性や危険性に触れ、これから増えていくだろうインターネットでの犯罪を予防する意味でも厳罰が必要という考えだったが、控訴審によると『そうでもない』という見解になる。第一審における闇サイトへの警鐘をほぼ全否定している」と批判、また「殺害の様態が残虐性を増したのは、被告人らが想像したよりも被害者が簡単に絶命しなかったため、殺害の手段を次々に変えた側面がある」という控訴審判決の評価に対しては「被害者が頑張ったから犯人たちはやむを得ず残虐化していったというのである。そしてこれは最初から残虐な殺し方をした犯行よりも罪が軽いということらしい」「一体だれのための裁判なのだろう。これでは被害者遺族を何度も苦しめるだけではないか。どうして殺人犯の矯正の可能性などを考慮する必要があるのだろう。Cには明るい未来があって、いつか矯正して社会に復帰するということなのか。殺された被害者に未来などない」「(裁判所は)'''被害者の数だけを1人、2人、3人と気にするが、殺された側にとっては人数の問題ではない。命は命だ'''」「'''ただ殺された人数によって刑を決める'''」と批判した<ref group="書籍" name="oosaki_p346-351"/>。また、Cの法廷での態度についても「ただ一人、裁判官たちの心証を良くするために、思ってもいない謝罪の言葉を投げ続け、頭をぺこぺこ下げ、終始うつむきがちに反省の意を示す。死刑だけは免れたいというCの戦術に、犯罪心理鑑定人も裁判官も弁護人も、すべてが嵌められている。被害者の母親にはそうとしか思えない。娘の頭に580gものハンマーを3度も打ち下ろした男に、どうして優しいとか攻撃性がないとか言えるのだろう。心の底から怒りが込み上げてくる」と非難した<ref group="書籍" name="oosaki_p346-351"/>。
:: 被害者の母親は判決後に会見し「被害者の目線からは何も見てもらえなかった。誰のための裁判なのか」「被害者が1人でも2人でも、命に変わりはない」「(この時点で判明している前歴から矯正の可能性に言及したことについて)どうして加害者に明るい未来を見せてあげるのか。娘はもう二度と見ることができないというのに」「娘の命より被告の命のほうが重たいと言われたようでとてもつらい」「願いがかなったときだけ娘に報告しようと思っていた。こんな結果は報告できない」と語った<ref group="中日" name="chunichi20110413"/>。また、被害者が生前、[[囲碁]]を習うために通っていた[[名古屋市]][[中区 (名古屋市)|中区]]内の[[喫茶店]]のマスターはこの判決に「どうしてそうなったのか理解できない」と語り、判決を知った囲碁仲間からは「本当に悲しい」「正義が消えた」などというメールが寄せられたという<ref group="中日" name="chunichi20110413"/>。また控訴審の傍聴席には犯罪被害者自助グループのメンバーの姿もあり、前月に最高裁で[[少年死刑囚|犯行当時少年3人の死刑が確定]]した[[大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件]]の被害者遺族(同事件で殺害された若者の父親)は「被害者のお母さんにかける言葉が見つからない。死刑判決だけを支えに頑張ってきたのに」と思いやった<ref group="中日" name="chunichi20110413"/>。
:: 元[[最高検察庁]][[検察官|検事]]の[[土本武司]]は「全体として悪質性を強調すべき事件の特色を過小評価し、極刑を回避したきらいがある。死刑と無期懲役では天と地ほどの差がある。一審が死刑だったCを無期懲役とした理由で、高裁はCの矯正可能性を強調しているが、将来の可能性を過大評価すべきではない。Aの自首も犯行後の情状であり、過度に重視すべきではない。高裁は[[永山則夫連続射殺事件#永山基準|永山基準]]基準に引きずられた印象だ」とこの判決を批判した上、中日新聞社会部記者の[[加藤文]]も「事件は一つ一つ事情が異なり、[[永山則夫連続射殺事件#永山基準|永山基準]]も絶対的な指針ではない」「認定した事実はほぼ変わらないのになぜ、Cの量刑を死刑から無期懲役に変えたのか。高裁は、殺害時の役割でKとは差があった点などを挙げたが、より丁寧に判断理由を説明すべきだったのではないか」と判決に疑問を呈した<ref group="中日" name="chunichi20110413"/>。この控訴審は「弁護人をはじめとした法律家が知恵を絞ってCの死刑判決を減軽しようとする。要するにそれだけのための裁判である。そこには永山基準というモンスターがいて、法曹界の既得権益があり、素人たちには破られてはならない既成概念があった。裁判所はそれを守ることに固執し、弁護団と見事に利害が一致した」<ref group="書籍" name="oosaki_p346-351">大崎、2016 p.346-351</ref>「検察官を除くほぼ全員で被告人を減軽しようとする裁判」(大崎)そのものであり、被害者や遺族は完全に蚊帳の外に置かれていた<ref group="書籍" name="oosaki_p358-360"/>。
: Aについては「最高検と協議して精査したが、上告理由を見いだせなかった」として検察側が[[上告]]を断念したため無期懲役が確定し、Cについては名古屋高裁の「被害者1人の本件は死刑の選択がやむを得ないほど悪質とはいえない」とする判決理由に対し「(死刑選択基準を示した)[[永山則夫連続射殺事件#永山基準|永山基準]]や[[光市母子殺害事件]]の2008年・[[広島高等裁判所|広島高裁]]差し戻し控訴審判決{{Refnest|group="注"|この時点ではまだ弁護側が最高裁上告中のため未確定。翌年上告棄却で死刑が確定した([[少年死刑囚]])。}}の判例に違反する」として[[名古屋高等検察庁]]が最高裁判所に上告した<ref group="中日" name="chunichi20110423">『中日新聞』2011年4月23日朝刊35面「闇サイト殺人1人上告 名高検 自首踏まえ1人断念」</ref><ref group="中日">『中日新聞』2011年4月25日夕刊13面「闇サイト殺人上告 名高検 C被告の死刑破棄で」</ref><ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。控訴審判決の疑問点を箇条書きにした文書を高検に提出しり、この日も新たに181人分の署名を提出した被害者の母親は「2人について上告して最後まで闘ってほしかった。(Aの無期懲役確定について)どんなに悔しくても従うしかない」「『3人が死刑になったら報告する』と娘に約束したが、これで何も報告できないんだなあと思った」と語り、この時点では「署名活動は続ける」と語った<ref group="中日" name="chunichi20110423"/>。
:: Cは第一審で死刑判決を受けていた上、後に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]<ref group="注" name="hekinan"/>の一・二審でも死刑判決を受けたため、この事件の裁判は結果的に一連の事件の引き金を引いた「全ての元凶」であるAだけが死刑判決を免れるという、被害者遺族にとってはこの上ない最悪の結末となってしまった。またCは死刑から無期懲役に減軽された途端、それまでの被害者遺族に対し謝罪の手紙を送りたいという申し出もなくなり、何も言ってこなくなったという<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。被害者の母親はこの反省のないCの態度に加え、Cが碧南事件で再逮捕されるまでこれらの余罪を隠していたことについて「本気で反省し、謝罪する気があったらこれまでに犯した犯行を自供していたはず」と非難している<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。


[[司法研修所]]の報告 (2012) によれば、1970年度(昭和45年度)以降に判決が宣告され、1980年度(昭和55年度) - 2009年度(平成21年度)の30年間に死刑か無期懲役が確定した死刑求刑事件(全346件)について調査したところ、'''死刑宣告に当たっては被害者の数が最も大きな要素となっている'''ことが報告されている{{Sfn|司法研修所|2012|pp=108-109}}。先述した346件のうち、'''死亡した被害者が1人で死刑が求刑された事件は100件'''(殺人48件+強盗殺人52件)であるが、うち'''死刑確定は32件'''('''全体の32%'''/殺人で18人〈38%〉・強盗殺人で14人〈27%〉)となっている{{Sfn|司法研修所|2012|p=109}}。その内訳は、'''事前に被害者を殺害することを計画した上で実行した事例'''([[身代金]]目的の[[誘拐]]殺人{{Efn2|name="身代金目的誘拐殺人"|例:[[名古屋女子大生誘拐殺人事件]]<ref>『中日新聞』1987年7月9日夕刊一面1頁「木村の死刑確定 最高裁が上告棄却 ○○さん誘拐殺人 『冷酷、同情の余地なし』」(中日新聞社) - [[名古屋女子大生誘拐殺人事件]]の関連記事。同事件の死刑囚である[[木村修治]](1995年に死刑執行)は生前、実名で著書『本当の自分を生きたい。』(インパクト出版会)を発刊している。</ref>・日立女子中学生誘拐殺人事件<ref>{{Cite news|title=中学生誘拐殺人のW死刑囚が死亡 東京拘置所|newspaper=日本経済新聞|date=2013-06-24|url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2400Z_U3A620C1CC0000/|publisher=日本経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200827140503/https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2400Z_U3A620C1CC0000/|archivedate=2020年8月27日}}</ref>・[[泰州くん誘拐殺人事件]]<ref>『中日新聞』1998年11月19日夕刊一面1頁「3死刑囚の刑を執行 名古屋拘置所 ××(日建土木保険金殺人事件の死刑囚の実名)死刑囚ら 氏名除き初公表」(中日新聞社)</ref> など。ただし、[[司ちゃん誘拐殺人事件]]・[[甲府信金OL誘拐殺人事件]]など、誘拐の当初から被害者を殺害することまでは計画していなかった事例の場合、無期懲役が選択されている。}}および[[保険金殺人]]、'''高度な計画性を有する強盗殺人'''{{Efn2|例:[[東村山署警察官殺害事件]](1976年)<ref>『読売新聞』1995年5月27日東京朝刊一面1頁「東京と大阪の拘置所で3人の死刑執行 東京・深川の男児誘拐殺人犯ら」(読売新聞東京本社) - [[東村山署警察官殺害事件]](1976年)の死刑囚が刑を執行されたことを伝える記事。</ref>・[[北九州市病院長殺害事件]](1979年)など<ref>『朝日新聞』1996年7月12日西部朝刊第14版第二社会面26頁「病院長殺人事件 2人の死刑執行 関係者等胸中複雑 一人の死に報い重すぎる/残忍、同情の余地なし」(朝日新聞西部本社) - [[北九州市病院長殺害事件]](1979年)の関連記事。</ref>。}}){{Efn2|これら以外の事例として、殺害された被害者数が1人でも、殺害行為の高度な計画性が重視されて死刑を適用された事例として、[[JT女性社員逆恨み殺人事件]]がある{{Sfn|司法研修所|2012|pp=112-113}}。}}や、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した事例{{Efn2|司法研修所 (2012) によれば、調査対象になった事件のうち、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した10件(殺人5件+強盗殺人5件)はいずれも死刑が確定している{{Sfn|司法研修所|2012|pp=110, 113}}。殺人事件としては[[東京都北区幼女殺害事件]](1979年)<ref name="読売新聞1999-09-10">『読売新聞』1999年9月10日東京夕刊一面1頁「東京、福岡、仙台で3人に死刑執行」(読売新聞東京本社)</ref>・川口バラバラ殺人事件{{Sfn|読売新聞社会部|2009|p=165}}(1999年)など。強盗殺人事件では[[福岡県直方市強盗殺人事件]](1980年)<ref>『読売新聞』1990年12月15日東京朝刊第一社会面31頁「最高裁が死刑判決文に誤記 犯行間隔を1年違い 異例の『訂正判決』へ」(読売新聞東京本社)</ref>・[[福島女性飲食店経営者殺害事件]](1990年)<ref name="読売新聞1999-09-10"/>・[[福山市独居老婦人殺害事件]](1992年)など<ref>『読売新聞』2009年3月3日東京朝刊第二社会面34頁「[死刑]選択の重さ(6)極刑抑制の流れ変わる」(読売新聞東京本社)</ref> がある。}}などがある{{Efn2|その他の事例では、わいせつ・姦淫目的の[[誘拐]]殺人3件([[群馬女子高生誘拐殺人事件]]・[[奈良小1女児殺害事件]]<ref name="江東a">{{Cite news|title=江東マンション神隠し殺人事件 【神隠し公判】姦淫の有無は量刑に影響しない 検察側論告(6) (2/4ページ)|newspaper=[[MSN]][[産経新聞|産経ニュース]]|date=2009-01-26|url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n2.htm|publisher=産業経済新聞社|language=ja|page=2|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090129051130/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n2.htm|archivedate=2009年2月10日}} - [[江東マンション神隠し殺人事件]](2009年に無期懲役が確定)の論告求刑公判で、検察官が被告人に死刑を求刑した際の論告要旨の一部。</ref><ref name="江東c"/>・[[三島女子短大生焼殺事件]]<ref name="江東c">{{Cite news|title=江東マンション神隠し殺人事件 【神隠し公判】「自身の生命で罪を償わせるべき」 検察側論告(7完) (1/3ページ)|newspaper=MSN産経ニュース|date=2009-01-26|url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261555022-n1.htm|publisher=産業経済新聞社|language=ja|page=1|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090210141740/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261555022-n1.htm|archivedate=2009年2月10日}}</ref><ref name="江東b">{{Cite news|title=江東マンション神隠し殺人事件 【神隠し公判】姦淫の有無は量刑に影響しない 検察側論告(6) (3/4ページ)|newspaper=MSN産経ニュース|date=2009-01-26|url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n3.htm|publisher=産業経済新聞社|language=ja|page=3|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090129051130/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n3.htm|archivedate=2009年2月10日}}</ref>)などがある。}}{{Sfn|司法研修所|2012|pp=110-115}}。また、「(被害者1人の)強盗殺人事件の場合は死刑選択に当たり、当初から被害者の殺害を計画・決意していたことに加え、犯行動機、具体的な犯行の計画性の程度、犯行の社会的影響、被告人の前科・余罪などといった犯情・一般情状などを総合して判断されているようだ」と報告されている{{Sfn|司法研修所|2012|p=115}}。
=== 上告審(最高裁) ===
: [[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二小法廷([[千葉勝美]]裁判長)は[[2012年]](平成24年)[[7月11日]]付の決定で検察側に対し上告[[棄却]]の決定をし、Cの無期懲役が確定した<ref group="中日" name="chunichi20120714">『中日新聞』2012年7月14日朝刊31面「闇サイト殺人 C被告無期確定へ 最高裁 『関与に差』高裁支持 母遺影に報告できず」</ref>。被害者の母はこの決定を知り、自宅の仏壇の前で泣き崩れ、「娘は命を奪われたのに、被告は望み通り生き永らえる。裁判所は自分の身に置き換えて判断したのか。刑をいかに軽くするかが中心で、被害者の存在はどこにもなかった」「『どうして』という思いと、娘に何もできなかった申し訳ない気持ちでいっぱい。過去の判例を元に、被害者の数で量刑を判断しただけだった」と無念の胸の内を語った<ref group="中日" name="chunichi20120714"/>。大崎は「裁判に被害者遺族の気持ちは反映されなかった。ただ殺された人数によって刑を決める、あの永山基準というモンスターの法則に則っただけだ」「死刑を逃れて勝ち誇り、薄笑いを浮かべるCの顔が(被害者の母親の脳裏に)浮かぶ」「娘は命を奪われ、その命を奪った男は生きながらえる」と表現した<ref group="書籍">大崎、2016 p.351-352</ref>。
: この事件の裁判で被害者の母親の心に残ったのは「娘の無念を晴らせなかった悔しさと、司法に対する不信感だけ」であった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/>。しかしその直後、母親も予想だにしていなかった「ありえない奇跡」が起こった<ref group="書籍">大崎、2016 p.356</ref>。


==== 初公判から ====
== 死刑囚・受刑者のその後 ==
3被告人の初公判は、2008年9月25日に開かれた<ref name="中日新聞2008-09-25">『中日新聞』2008年9月25日夕刊一面1頁「千種拉致殺害 3被告 起訴事実認める 名地裁初公判 細部では争う姿勢」(中日新聞社)</ref>。3被告人とも、起訴事実のうち被害者Aの殺害については認めたが<ref name="中日新聞2008-09-25"/>、それぞれ「殺害を主導したのは自分ではない」<ref name="読売新聞2008-09-26 一面"/>「殺害の計画性はない」と主張<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>。以下のように争った。
控訴を自ら取り下げ死刑が確定したKは、一時は判決を「受け入れた」にも関わらずその後[[再審]]請求の準備をするなど生への執着を見せていたが、[[2015年]](平成27年)6月25日、[[名古屋拘置所]]で死刑が執行された(没年44歳)<ref group="中日" name="chunichi20150626">『中日新聞』2015年6月25日夕刊1面「闇サイト殺人 死刑執行 女性拉致、K死刑囚」「共犯2人は無期懲役に」「区切りだが、娘は帰ってこない」<br>『中日新聞』2015年6月25日夕刊11面「『殺人 罪悪感ない』 K死刑囚、公判前面会で」「3人極刑求め法相らに請願 ○○(被害者女性の実名)さんの母」<br>『中日新聞』2015年6月26日朝刊1面「闇サイト事件 死刑執行」「娘に報告しない 心晴れぬ○○(被害者女性の実名)さん母」<br>『中日新聞』2015年6月26日朝刊30面「K死刑囚『再審望む』闇サイト事件 見えなかった本心」「有害サイト規制進まず」</ref><ref group="報道">{{Cite news|title=「闇サイト殺人事件」のK死刑囚の死刑執行 第3次安倍内閣で初(1/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2015-06-25 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n1.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170619112826/http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n1.html |archivedate=2017-06-19 }}<br>{{Cite news|title=「闇サイト殺人事件」のK死刑囚の死刑執行 第3次安倍内閣で初(2/2ページ) |newspaper=『産経新聞』 |publisher=産経新聞社 |date=2015-06-25 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n2.html |accessdate=2017-06-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170619112840/http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n2.html |archivedate=2017-06-19 }}</ref><ref group="法務省" name="moj20150625"/>。Kは逮捕後に『[[中日新聞]]』記者の取材に対し「罪悪感を感じない」と発言しており、本事件の裁判では無期懲役が確定したA・Cを「言い逃ればかりしている」と批判する一方で、自らも遺族への謝罪について問われると「根本的な考えが普通の人とは違う」「人を殺すことや泥棒、詐欺をすることは悪いこととは思わない」などと述べており、全く反省の色を見せておらず、控訴を取り下げた際も当時取材した関係者によれば「淡々としていた」という<ref group="中日" name="chunichi20150626"/>。初公判前に拘置所で自殺を図ったこともあるというKが凶行に走った動機、控訴を自ら取り下げて死刑判決を「受け入れた」理由については、最期まで明らかにされなかった<ref group="中日" name="chunichi20150626"/>。死刑判決後Kは「自分は死刑になって当然」とも語る一方で「やってしまったことは仕方がない」とも開き直るなど、拘置所関係者曰く「本心を掴みづらいタイプだった」という<ref group="中日" name="chunichi20150626"/>。また、Kは生前、[[参議院議員]]の[[福島瑞穂]]が実施したアンケートに対しては「私は人殺しですが、鬼ではなく人間です。それだけは忘れないでください」と、収容先の名古屋拘置所に対する不満を訴えていた<ref group="報道">『朝日新聞』2015年6月25日夕刊名古屋版9面「遺族、極刑求め署名 闇サイト殺人、一審判決『残虐』」</ref>。
{| class="wikitable" style="width:90%;font-size:90%"
|+争点表
!
!検察官の主張
!KT(および弁護人)の主張
!堀側の主張
!「山下」側の主張
|-
!罪状認否<ref name="毎日新聞2008-09-25"/>
|
|詳細が一部異なる<ref name="毎日新聞2008-09-25">『毎日新聞』2008年9月25日中部夕刊政治面1頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人、初公判 3被告、起訴事実認める」(毎日新聞中部本社 記者:式守克史、秋山信一)</ref>
|「Aに手錠をかけた」という点は事実ではない<ref name="毎日新聞2008-09-25"/>
|殺害方法の順番が異なる<ref name="毎日新聞2008-09-25"/>
|-
!計画性
|{{nowrap|3被告人の間で、'''事前に殺害に関する合意があった'''<ref>『毎日新聞』2009年3月17日東京夕刊社会面8頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 死刑、適否どう判断 3被告あす判決」([[毎日新聞東京本社]] 記者:秋山信一)</ref>。}}<br/>周到な計画性まではなかったが、元から無差別に通りがかりの女性を狙うことを決めており、刑事責任を軽くする要因にはならない<ref name="朝日新聞2009-03-17">『朝日新聞』2009年3月17日名古屋朝刊第二社会面34頁「計画性・役割どう判断 死刑か回避か焦点 闇サイト殺人、あす判決 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社 記者:岩波精)</ref>。
| colspan="3" |虚勢を張り合う中で起きた<ref group="注" name="エスカレート"/>'''偶発的な犯行'''であり、殺害方法や場所も決めていなかった。'''計画性は認められない'''<ref>『読売新聞』2009年3月16日中部朝刊社会面31頁「3被告死刑求刑の闇サイト殺人、18日判決 「被害者1人」どう判断=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。
|-
!強盗殺人などの{{nowrap|共謀の成立時期}}<ref name="読売新聞2008-09-26 一面">『読売新聞』2008年9月26日中部朝刊一面1頁「闇サイト殺人初公判 3被告、罪状認める 関与の度合い争う=中部」(読売新聞中部支社)</ref>
|事件当日15時ごろ{{Efn2|同日、検察官は共謀時期について、公判前整理手続きでは行っていなかった主張(当日夜のレストランで共謀が成立したとする旨)を行ったが、弁護人および近藤裁判長から指摘を受け、撤回した<ref name="読売新聞2008-09-26"/>。}}<ref name="読売新聞2008-09-26">『読売新聞』2008年9月26日中部朝刊社会面35頁「闇サイト殺人検察冒陳 「死にたくない」哀願無視 残忍な経緯、明らかに=中部」(読売新聞中部支社)</ref>、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に堀と「山下」が賛同した時点<ref name="検察側冒頭陳述要旨"/>
|共謀の成立 - ファミリーレストランを出て車に乗り込んだ時<ref name="闇サイト冒頭陳述" />。(堀からハンマーを見せられ「顔を見られたら殺すのか」と発言したのは)冗談交じりの発言に過ぎない<ref name="毎日新聞2008-09-25 社会">『毎日新聞』2008年9月25日中部夕刊社会面9頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人初公判 虚勢張り計画増長 3被告、互いに前歴語り」(毎日新聞中部本社)</ref>。'''当初は強盗殺人までは考えていなかった'''が、2人が殺人まで考えていると聞き、「強盗の誘いを断れば、自分が襲われる」と思い、承諾したような返事をした<ref name="中日新聞2008-11-20">『中日新聞』2008年11月20日朝刊第一社会面31頁「強殺 当初考えず KT被告が主張 千種拉致殺害公判」(中日新聞社)</ref>。<br/>殺意 - 確定的ではなく、最悪を想定した未必的なもの。金槌による殴打は確実に殺害するためではなく、Aが長い間苦しまないようにするため<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>
|'''殺害現場で共謀が成立'''した<ref name="闇サイト冒頭陳述" />。(左のKTの発言に対し)「そうですね」と応じたのは、その場限りでの発言だ<ref name="毎日新聞2008-09-25 社会"/>。
|(左のKTの発言に対し)「仕方ないでしょう」と応じたのは見栄を張るためで、当時は殺人まで犯すつもりはなかった<ref name="毎日新聞2008-09-25 社会" />。
|-
! rowspan="2" |犯行への{{nowrap|関与の程度}}<ref name="読売新聞2008-09-26 一面" />
| rowspan="2" |特定の誰かが主導したわけではなく、3人がいずれも重要な役割を果たしており<ref name="読売新聞2008-09-26 2" />、'''刑事責任は同等'''<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>。
| colspan="2" |Aの首を絞めていた時点で、「山下」は運転席にいた<ref name="毎日新聞2008-12-04"/>。
| rowspan="2" |首謀者は『闇の職安」で呼びかけた自分だが、3人は同格<ref name="毎日新聞2009-01-20" />。主犯はKT<ref name="中日新聞2008-12-12"/> で、'''KTと堀の責任は自分より重い'''<ref name="読売新聞2008-12-12">『読売新聞』2008年12月12日中部朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 被告「お気の毒」 被害者への反省の言葉なし 名古屋地裁=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。<br />(殺害行為には)KTと堀がAの首を絞めるなど殺害行為をしていたため、やむを得ず加わった<ref name="闇サイト冒頭陳述" /> が、それまでは車の外にいた<ref name="毎日新聞2008-12-04">『毎日新聞』2008年12月4日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:公判で3被告、証言食い違い--名古屋地裁」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。
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|分け前は平等で、(自分たち3人は)同格だった<ref name="毎日新聞2009-01-20"/><br/>堀がAから暗証番号を聞き出した後、「もうやっちゃいましょうか』と自分に殺害を提案してきたが、「まだ暗証番号が本当なのかわからない」と思い、首を絞めて失神させようとした<ref name="毎日新聞2008-12-02">『毎日新聞』2008年12月2日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:暗証番号確認後、堀被告が殺害を提案--名古屋地裁」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。しかし「山下」がAを襲い、騒がれる恐れがあったため、殺害せざるを得なくなった<ref name="読売新聞2008-09-26 2">『読売新聞』2008年9月26日中部朝刊社会面35頁「闇サイト殺人公判 「責任の差」焦点(解説)=中部」(読売新聞中部支社 記者:松田晋一郎)</ref>。
|KTが犯行を主導していた<ref name="毎日新聞2009-01-20"/><br/>KTから「素手で殺害する」と言われ、犯行への加担を決意した<ref name="読売新聞2008-09-26 2" /> が、それまでは拉致して金を奪うことはともかく、「殺す」という話は出ていなかったし、殺害を提案された際には疑問を感じたが、反対はしなかった<ref name="毎日新聞2008-12-04"/>。
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!量刑判断における{{nowrap|被告人側の事情}}<ref name="読売新聞2008-09-26 一面"/>
|預金の引き出しに失敗したことから、次の強盗殺人を計画するなど、犯罪性向と反社会性が根深い<ref name="毎日新聞2009-01-20">『毎日新聞』2009年1月20日中部夕刊社会面7頁「愛知・女性拉致殺害:3被告に死刑求刑 「無差別に拉致・殺害」--名地裁公判」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一、式守克史)</ref>。3被告人の刑事責任は同等で<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>、「山下」の自首も反省に基づくものではなく、刑の減軽には値しない<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。
|(弁護人)幼少期から安定した生活を送れず、社会への適応が困難だった<ref name="毎日新聞2009-02-03"/>。<br/>計画性がない点、被害者が2人である点や、殺害方法も(他の死刑事件と比較すると)残虐性が低い{{Efn2|KTの弁護人は「殺害方法は残虐だが、死に至らない被害者Aに恐怖感を覚えたためで、殺害は偶発的なものだ」と主張した<ref name="朝日新聞2009-02-03">『朝日新聞』2009年2月3日名古屋朝刊第二社会面22頁「闇サイト殺人、弁護側「死刑回避を」 名古屋地裁 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。}}点などに照らし、無期懲役か有期懲役が妥当だ<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。
|(本人)KTが30回以上、Aの頭部を殴打したのを見て「もういいんじゃないか」と言ったが、KTは殴るのをやめなかった<ref>『中日新聞』2008年12月6日朝刊第二社会面34頁「堀被告、涙声で供述 千種拉致殺害 公判で状況説明」(中日新聞社)</ref>。<br/>(弁護人)性格は柔和で犯罪性向は低く<ref name="毎日新聞2009-02-03"/>、犯行を深く反省している<ref name="毎日新聞2008-09-26"/>。矯正不可能とはいえず、生きて罪の償いをさせるべきだ<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。
|(弁護人)犯行は従属的<ref name="朝日新聞2009-02-03"/>。自首は事件直後、良心の呵責に耐えきれず行ったもので<ref name="中日新聞2009-02-03"/>、「山下」の自首によって捜査が容易になった<ref name="朝日新聞2009-02-03"/>。法廷での発言はともかく、心底では反省している<ref name="毎日新聞2009-02-03"/>。
|}
一方、第2回公判(2008年10月10日)および第4回公判<ref name="公判について"/>(2008年10月31日)に証人として出廷した「杉浦」は、「KTがグループに加わって以降、強盗殺人の話が出るようになった」と証言した<ref>『毎日新聞』2008年10月11日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 「計画で殺人の可能性感じた」--公判証言」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref><ref>『中日新聞』2008年10月31日夕刊第一社会面15頁「窃盗未遂の男 「KTが主導」 千種拉致公判」(中日新聞社)</ref>。


被告人3人は当初、いずれも被害者Aや遺族への謝罪の弁を述べず、KTは自身の交際相手に対し、Aを侮辱したり、事件を「仕事」と形容したりする内容の手紙を書いたが、その手紙についてKTは「犯行時の正直な気持ちを書くよう求められてそう書いた」と説明した<ref name="毎日新聞2008-12-20">『毎日新聞』2008年12月20日中部朝刊社会面27頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト公判 「嘘吐き」被害者中傷 被告が事件後、知人に手紙」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。「山下」は第6回公判<ref name="公判について"/>(11月7日)で、KT・堀の両被告人に対し、「(被告人としてこの場にいるのは)お前らのせいだ」と暴言を吐き<ref name="毎日新聞2009-03-14"/><ref>『中日新聞』2008年11月8日朝刊第一社会面35頁「「山下」被告が暴言 千種拉致殺害公判」(中日新聞社)</ref>、第14回公判(12月11日)の被告人質問{{Efn2|同日の被告人質問で、「山下」の弁護人は反省の言葉を引き出そうとしたが、「山下」は被害者への心境などについて「お気の毒。Aは運が悪かったから殺された」と<ref name="読売新聞2008-12-12"/>、反省の念について「申し訳ないことをしたという思いはあるが、遺族が納得できない謝罪は意味がない。死刑で構わないし、遺族に包丁で刺してもらってもいい」と発言した<ref name="中日新聞2008-12-12"/>。}}の際、検察官から「(被害者への心境などについての質問に対する答えが)他人事のように聞こえる」と指摘されたり<ref name="読売新聞2008-12-12"/>、近藤裁判長からも「開き直っているのか」とたしなめられたりしていた<ref name="中日新聞2008-12-12">『中日新聞』2008年12月12日朝刊第一社会面29頁「『死刑でも構わぬ』 千種拉致殺害公判 「山下」被告が供述」(中日新聞社)</ref>。また、堀は証言の際に涙を見せたが、近藤から「他人のせいばかりにして、本当に反省しているのですか」と厳しく問い質される場面があった<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。
一度は無期懲役判決が確定したCだったが、本事件で収監中の2012年(平成24年)[[8月3日]]に、14年前(本事件の9年前)の[[1998年]](平成10年)6月に愛知県[[碧南市]]で夫婦が殺害され現金約6万円を奪われた強盗殺人事件の主犯として、同事件の[[共犯]]の男X・Y(事件当時Cの仕事仲間。共に本事件とは無関係)と共に強盗殺人罪で[[逮捕#再逮捕|再逮捕]]され<ref group="中日" name="chunichi20120804"/>、本事件発生から5年にあたる同月24日に起訴された<ref group="中日" name="chunichi20120825">『中日新聞』2012年8月25日朝刊社会面33面「碧南夫婦強殺 3人起訴」</ref>。さらにC・X両名は闇サイト事件発生前年の2006年(平成18年)に名古屋市[[守山区]][[脇田町 (名古屋市)|脇田町]]で高齢女性が首を絞められて現金を奪われた強盗殺人未遂事件<ref group="中日">『中日新聞』2006年7月21日朝刊30面「建築会社かたり69歳女性宅強盗 守山、2人組逃走」</ref>にも関与したとして、翌[[2013年]](平成25年)[[1月16日]]に再逮捕<ref group="中日" name="chunichi20130116">『中日新聞』2013年1月16日夕刊社会面15面「闇サイト C容疑者再逮捕 06年、守山の強殺未遂 愛知県警」</ref>、同年2月6日に追起訴された<ref group="中日" name="chunichi20130207">『中日新聞』2013年2月7日朝刊社会面31面「名古屋の強盗でも起訴 闇サイト事件、C被告ら」</ref>。これにより、本事件控訴審及び上告審の裁判官や犯罪心理鑑定士の「犯罪傾向は進んでいない。犯罪の親和性は低い」とした判断が誤りだったことが明らかとなった<ref group="報道" name="sankei20161218_koen"/><ref group="書籍" name="oosaki_p358-360"/>。無期懲役という壁の向こうに消えかけたと思われていた「稀代の殺人鬼」「人を殺すことを何とも思わない、3度の強盗殺人と強盗殺人未遂を繰り返した悪魔のような男」(大崎)であるCだが、ついに追い詰められた<ref group="書籍" name="oosaki_p358-360">大崎、2016 p.358-360</ref>。[[2017年]](平成29年)現在、Cはそれらの事件の裁判の第一審・名古屋地裁([[景山太郎]]裁判長、[[裁判員制度|裁判員裁判]]、2015年12月15日)及び<ref group="中日" name="chunichi20151216"/>、控訴審・名古屋高裁([[山口裕之 (裁判官)|山口裕之]]裁判長、2016年11月8日)で死刑判決を受け<ref group="中日" name="chunichi20161109"/>、最高裁に上告中である<ref group="中日" name="chunichi20161110"/>。
{{see|碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件}}
{{see|碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件#名古屋市守山区高齢女性強盗殺人未遂事件}}
''※なお、上記項目ではC・X・Yをそれぞれ「A」「B」「C」と表記している。''


一方、第13回公判<ref name="公判について"/>(2008年12月8日)では、同日以前から3被告人への極刑適用を求めた[[署名]]運動を行っていたAの母親B([[#被害者遺族の活動|後述]])および、Aと交際していた男性Cが証人として出廷し、Bは「同種の犯罪を抑止するため、3人への[[日本における死刑|死刑]]を臨む」と陳述<ref name="中日新聞2008-12-09">『中日新聞』2008年12月9日朝刊第三社会面25頁「千種拉致殺害 『3被告に死刑を』 名地裁 初出廷の母ら証言 偽番号 『「憎むわ」の意味』」(中日新聞社)</ref>。また、BおよびCは、Aが3人に伝えた虚偽の暗証番号「2960」<ref group="注" name="2960への異論"/>の意味{{Efn2|Cは2007年9月24日、情状証人として名古屋地検から事情聴取を受けた際、担当検事から「2960」のことを聞き出し、「『2960』は『憎むわ』という意味だろう」と話した{{Sfn|大崎善生|2016|pp=317-318}}。名古屋地検はBに対し、公判までその意味を他言しないよう口止めしていた<ref name="毎日新聞2009-03-15"/>。}}について、「Aは生前、よく数字の語呂合わせをしていた。『憎むわ』の意味だと思う」と証言した<ref name="中日新聞2008-12-09"/><ref>『毎日新聞』2008年12月9日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:偽口座「2960」は「憎むわ」--母証言「娘が気持ち込めた」」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一、式守克史)</ref>。加えて、KTおよび「山下」の父親は、それぞれ息子に対する量刑について「被害者や遺族に申し訳ない。極刑が妥当」と述べた<ref name="毎日新聞2008-12-20"/><ref name="毎日新聞2008-12-12">『毎日新聞』2008年12月12日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:公判で自首の被告「死刑でもかまわない」--名古屋地裁」(毎日新聞中部本社 記者:式守克史、秋山信一)</ref>。
== 刑事裁判の判決文 ==
* '''{{Cite 判例検索システム |法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二小法廷 |事件番号=平成23年(あ)844号 |事件名=営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂被告事件 |裁判年月日=2012年(平成24年)7月11日 |判例集=[[判例集|最高裁判所裁判集刑事編(集刑)]]第308号91頁 |判示事項=被害者1名の強盗殺人等の事案につき無期懲役の量刑が維持された事例(名古屋闇サイト殺人事件) |裁判要旨= |url=http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82564 }}'''
** 判決内容:検察側上告棄却
** 裁判官:[[千葉勝美]](裁判長)・[[竹内行夫]]・[[須藤正彦]]


検察官は[[裁判員制度]]{{Efn2|第一審判決後の2009年5月以降に起訴された事件が裁判員制度の対象。}}を意識した<ref name="朝日新聞2009-03-17"/> ほか、2008年12月に施行された[[被害者参加制度]]を先取りする形で{{Efn2|名古屋地検は、Aの母Bと連絡を取る担当検事を配置し、裁判記録の意味・公判前整理手続(非公開)の進捗状況について説明した<ref name="中日新聞2009-03-19 社会">『中日新聞』2009年3月19日朝刊第一社会面31頁「千種拉致殺害 “被害者参加”の実質的な訴訟に 母ら「無念さ言えた」」(中日新聞社)</ref>。B本人は「証人尋問や意見陳述で、無念の気持ちなど、伝えたいことを言えた」と、Bの代理人弁護士も「論告はBの心情を十分に汲み取った内容で、(本人が)被害者参加制度で訴訟に参加した場合と同等の効果があっただろう」と回顧している<ref name="中日新聞2009-03-19 社会"/>。}}<ref name="毎日新聞2009-03-15">『毎日新聞』2009年3月15日中部朝刊社会面25頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/中 被害者の「無念」代弁」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、法廷で被害者Aの写真を映し出す{{Efn2|名古屋地検が遺族に提案して行ったもので、同地検の次席検事・飯倉立也はその意図について「写真を用いることで、被害者の実情・人となりをできるだけ正確に明らかにすることを狙った」と説明した<ref name="朝日新聞2009-01-26">『朝日新聞』2009年1月26日東京朝刊第一社会面31頁「(人を裁く 第4部 被害者の姿:1)無念「見せる」法廷に 生々しい再現、時に残虐」(朝日新聞東京本社 連載担当記者:市川美亜子、岩田清隆、岩波精、上野嘉之、大島大輔、[[河原理子]]、河原田慎一、中井大助、[[金井和之]]=[[ベルリン]]、真鍋弘樹=[[ニューヨーク]])</ref>。同時期に[[東京地方裁判所|東京地裁]]で審理が行われた[[江東マンション神隠し殺人事件]]の公判でも、被害者の遺族から要望を受けた[[東京地方検察庁|東京地検]]により、法廷のディスプレイに証拠(切断され、下水道に流された被害者の肉片・骨片の実物の写真)や、マネキンを用いた切断シーンの再現が映されたりした<ref name="朝日新聞2009-01-26"/>。}}など、視覚的に訴える立証に力を入れた<ref name="朝日新聞2009-03-17"/>。また、遺族が集めた極刑を求める署名(当時30万件以上)については、証拠採用はされなかったが、検察官が冒頭陳述・証人尋問・論告で繰り返しその存在について言及し、処罰感情の強さを強調した<ref name="朝日新聞2009-03-17"/>。
== 関連書籍 ==

* {{Cite book |和書 |author=[[大崎善生]] |title=いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件 |publisher=[[角川書店]] |date=2016-11-30 |isbn=978-4041025222 }}
==== 3人に死刑求刑 ====
*: 被害者女性の生涯に寄り添いながら事件に迫る長編[[ノンフィクション]]。本書の題名は、被害者が生前心から愛した[[GLAY]]の曲「いつかの夏に耳をすませば」に由来する<ref group="書籍" name="oosaki">大崎、2016 p.374</ref>。
2009年(平成21年)1月20日に開かれた第17回公判で<ref name="公判について"/>、検察官の[[論告]][[求刑]]が行われ、被告人3人はいずれも死刑を求刑された<ref name="中日新聞2009-01-20"/>。

同日の論告で、検察官は「3人は被害者Aを拉致する以前から、金を奪うために拉致・殺害の合意形成をしていた」と指摘した上で、闇サイトを悪用した犯罪について「共犯者が集まりやすく、共犯者同士が個人情報を秘匿するため、発覚が困難だ。模倣性も高く{{Efn2|名古屋地検は「模倣性の高さ」の根拠として、本事件に前後して闇サイトを通じて仲間を募った犯罪例や、[[通り魔]]による無差別犯罪が増加し、それぞれ社会的問題になっている点を挙げた<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。後者(通り魔による無差別犯罪)の例として、2008年には[[土浦連続殺傷事件]]・[[秋葉原通り魔事件]]が発生している。}}、厳罰で臨む必要がある」と主張した<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>。また、犯行態様については「Aの命乞いを無視し、肉体的激痛や精神的恐怖心を加えながら殺害した方法は、[[生き埋め]]と変わらない残虐な殺害方法だ。3被告人はいずれも、自己の利欲目的を達成するため、一体となって計画に基づいた犯行を遂行した上で、何ら躊躇もなく残忍な犯行におよんでおり、犯行への酌量の余地は認められない。3人は他人の生命を軽視する犯罪性向・反社会性が根深く、犯行後も同様の強盗殺人を実行しようとしたことや、反省のない態度を取っている{{Efn2|検察官は、本文で述べたようにKTが被害者Aを愚弄する内容の手記を書いていたことのほか、堀が刑務所から出所できることを前提とした手記を書いていたことや、「山下」が法廷で「自首したことを後悔している」「謝罪の気持ちはない」などと発言した点を指摘した<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。}}ことなどに照らせば、更生可能性{{Efn2|name="更生可能性"|名古屋地裁 (2009) は、被告人の更生可能性についての判断を示さなかった<ref name="中日新聞2009-03-19 3">『中日新聞』2009年3月19日朝刊三面3頁「核心 千種拉致殺害で死刑判決 模倣抑止へ断罪 ネットの闇へ危機感」(中日新聞社 社会部記者:北島忠輔)</ref>。}}は認められない。被害者Aの遺族(母親B・伯母D)や関係者(元交際相手の男性C)が3人への極刑を求めていることも当然である」と訴えた<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。

その上で、「本事件は面識のなかった3人が、携帯電話のサイトで知り合い、帰宅途中の女性を無差別に狙い、残酷な方法で殺害した犯行で、社会に大きな衝撃を与え震撼させた。『永山基準』に照らしても、事案の重大性・凶悪性は明白で、利欲目的で被害者を略取・殺害した本犯行は、身代金目的誘拐殺人(殺害された被害者が1人で、被告人にさしたる前科がない場合でも、最高裁で死刑が確定した事例が多数存在)<ref group="注" name="身代金目的誘拐殺人"/>{{Sfn|集刑|2012|p=107}}の場合と罪質に変わりはない{{Efn2|上告趣意書で、検察官は「身代金目的拐取・被拐取者殺害事案と本件とでは、被拐取者の安否に関する家族等第三者の憂慮に乗じてその第三者から財物を奪おうとするのか、被拐取者本人からそのキャッシュカードを利用して財物を奪おうとするかの違いこそあれ、家族等の憂慮あるいは本人の恐怖心につけ込んで、本人の手元にはない大金を得ようとし、その大金を得る又は得る目途が立つと、後は用済みとして、口封じのために被拐取者を殺害してしまうというもので、犯罪の冷酷さ、卑劣さにおいて、両者に隔たりはない。(中略)本件は、殺害された被害者が1名にとどまるとはいえ、十分に極刑に相当し得る事案である。」と述べている{{Sfn|集刑|2012|pp=106-107}}。}}。被害者が1人でも、罪責が重大な場合は死刑を選択すべきだ」と主張<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。その根拠として、本事件を「過去の事例ではくくれないケース」と位置づけた上で、最高裁で被告人への無期懲役判決が「[[少年犯罪|被告人が犯行時、少年]]だったことを過大に評価した」として破棄された[[光市母子殺害事件]]の上告審判決{{Efn2|name="光市上告審判決"}}を引用し、「殺害された被害者の数や犯行時の年齢など、『永山基準』で示された9項目の要素のうち、1つが際立って悪質とは言えない場合でも、犯行形態などを総合的に考慮し、死刑選択が妥当だ」と訴えた<ref>『読売新聞』2009年1月21日中部朝刊社会面29頁「闇サイト殺人 異例の3人死刑求刑 総合的考慮の結果(解説)=中部」(読売新聞中部支社 記者:松田晋一郎)</ref>。そして、「KTと堀の刑事責任に差異はない。「山下」の自首も心からの反省悔悟によるものとは認められず<ref group="注" name="自首動機"/>、過度に有利な情状とすべきではない」と主張し、「犯した罪の報いを正当に受けることを社会に示すため、被告人3人には極刑をもって臨むほかない」と結論づけた<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。

==== 最終弁論・結審 ====
同年2月2日に開かれた第18回公判で<ref name="公判について"/>、3被告人の弁護人による最終弁論が行われ、結審した<ref name="中日新聞2009-02-03">『中日新聞』2009年2月3日朝刊第一社会面27頁「堀、「山下」両被告 初の謝罪 名地裁公判 千種拉致殺害が結審」(中日新聞社)</ref>。最終弁論で、3被告人の弁護人はいずれも「犯行グループは互いの意思疎通が不十分な寄せ集めの集団による、場当たり的な犯行だ。事前に具体的な殺害方法・場所も決めておらず、殺害は突発的なものだ。綿密な計画性はなく、被害者が1人の死刑確定事件と比べて特段に悪質ともいえない。検察官は『体感治安を悪化させた』と主張するが、闇サイトを悪用した事件は本事件が初ではない」と主張し<ref name="毎日新聞2009-02-03">『毎日新聞』2009年2月3日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:弁護側「計画性ない」 死刑回避求める--名地裁最終弁論」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、死刑回避を求めた<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。

最終意見陳述で、堀は「極刑を受け入れる覚悟はできている」、「山下」は「開き直ったような発言は売り言葉に買い言葉で、本心ではない」とそれぞれ述べ<ref name="読売新聞2009-02-03">『読売新聞』2009年2月3日中部朝刊第二社会面28頁「闇サイト事件結審 弁護側、死刑回避を求める 名古屋地裁=中部」(読売新聞中部支社)</ref>、初めて被害者遺族に謝罪した一方、KTは「特に申し上げることはない」と話した<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。

==== 2人に死刑・1人に無期懲役宣告 ====
2009年3月18日に第一審の判決公判が開かれ<ref name="中日新聞2009-03-18"/>、名古屋地裁刑事第6部{{Sfn|名古屋地裁|2009}}(近藤宏子裁判長)は'''被告人3人のうち、KTおよび堀の2人を死刑に、残る「山下」を無期懲役に処す判決'''を言い渡した{{Sfn|名古屋地裁|2009}}<ref name="中日新聞2009-03-18">『中日新聞』2009年3月18日夕刊一面1頁「千種殺害2被告に死刑 名地裁判決 『無慈悲で凄惨』 自首の1人は無期」(中日新聞社)</ref><ref name="中日新聞2009-03-19">『中日新聞』2009年3月19日朝刊一面1頁「千種拉致殺害 『悪質性重大な脅威』 名地裁 異例の2被告死刑判決」(中日新聞社)</ref>。[[日本弁護士連合会]](日弁連)が把握していた[[確定判決]]の統計によれば、1983年に最高裁で「永山基準」が示されて以降、殺害された被害者が1人の殺人事件で死刑が確定した事例は、当時計25件あったが<ref>『毎日新聞』2009年3月19日中部朝刊政治面1頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人・死刑判決 ネット犯罪厳罰」(毎日新聞 記者:秋山信一)</ref>、うち複数の被告人に死刑判決が言い渡され確定した事例は、[[北九州市病院長殺害事件]](1988年に最高裁で被告人2人の死刑が確定)のみだった<ref>『中日新聞』2009年3月18日夕刊第二社会面14頁「千種拉致殺害判決 被害者1人 死刑複数確定は1件」(中日新聞社)</ref><ref>『[[東京新聞]]』2009年3月18日夕刊一面1頁「闇サイト殺人 2人死刑 女性拉致監禁 自首の1人は無期 名古屋地裁判決 『無慈悲で残虐』」([[中日新聞東京本社]])</ref>。

名古屋地裁 (2009) は、犯罪事実について「3人は互いに強盗などの様々な犯罪を計画した末、事前に預貯金の貯えがありそうな女性通行人を拉致・監禁した上でキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出した上で最終的に殺害することを計画した上で犯行におよんだ」と[[事実認定|認定]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}。その上で、各事実について以下のように認定した。
{| class="wikitable" style="width:100%;font-size:90%"
|+名古屋地裁 (2009) の判示
!争点
! colspan="5" |判示事項
|-
!{{nowrap|殺害の共謀が成立した時期}}
| colspan="5" |3人が謀議を終え、ファミリーレストランを退店した'''8月24日の19時ごろ'''をもって、殺害および死体遺棄の共謀が成立したと認められる<ref group="注" name="殺害共謀時刻" />{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
|-
!計画性
| colspan="5" |被害者を拉致した後の'''殺害方法などは、具体的・詳細には計画されてはいなかった'''が、方法は成り行きに任せざるを得ない部分があった<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。実際に、事前に詳細な定めがなくても十分遂行可能な客観的状況もあった上{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}、'''「通行中の女性を物色して襲い、最終的には殺害する」という点は当初の計画通りに実行されており<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>、計画的な犯行というには十分である'''{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。'''より綿密な計画が立てられていた事案より有利に斟酌すべき事情は認められない'''<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨">『読売新聞』2009年3月19日東京朝刊19頁「闇サイト殺人事件判決の要旨」(読売新聞東京本社)</ref>。<br/>殺害行為が残虐性を増したのは、意図的に残虐な方法が取られたというより、むしろ殺害に手間取った結果である。当初から敢えて意図的に残虐な方法を取った場合と比較すると、悪質性の程度に多少の差はあるが、3人はそれぞれ残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為におよんだため、この点については特に酌むべき事情はない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|-
!犯罪の性質・態様
| colspan="5" |一連の犯行は、手っ取り早く楽をして金を手に入れたいという強い利欲目的のみに基づき、全く関係のない、通りがかりの一般市民を殺害するという犯罪を、インターネット上の掲示板を通じて形成された犯罪集団が{{Sfn|集刑|2012|pp=98-99}}、短期間で計画・遂行したという点に特色がある{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>この種の犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく危険であり{{Efn2|名古屋地裁 (2009) は「インターネットを通じて形成された集団による犯罪は、素性を知らない者同士が互いに虚勢を張り<ref group="注" name="エスカレート"/>、悪知恵を出し合うことで、1人では行えなかった凶悪・巧妙な犯罪が実行可能となる危険性を持つが、本事件はそれがまさに現実化したものだ」と指摘した<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。}}、匿名性の高い集団によって行われるため、発覚・逮捕も困難{{Efn2|名古屋地裁 (2009) は「(インターネットを通じて形成された犯罪集団は)匿名性が高く、仮に犯行後、集団が解消され、それぞれが連絡手段を絶ってしまえば、犯罪者を発見・逮捕することは著しく困難になると予想される」と指摘した<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。}}で、模倣される恐れも高いという極めて悪質性の高い種類の犯行である。このような犯罪は社会の安全にとって重大な脅威というほかなく、厳罰をもって臨む必要性が誠に高い{{Sfn|集刑|2012|p=99}}。<br/>3人とも、被害者Aの必死の命乞いにも耳を貸さず、無慈悲・凄惨かつ残虐な方法で殺害を遂げており、戦慄を禁じ得ない<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨" />。Aの遺族が極刑を望んでいることも当然だ<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨" />。
|-
! rowspan="4" |3被告人の主従関係
| rowspan="4" |KTが最も積極的だったが、堀や「山下」もKTが有する知識・経験を頼りにし、'''互いに互いを利用し合って集団で犯罪を行うことで、自らの利欲目的を満たそうとする'''側面が強かったと認められる<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。そのような犯行の経緯・状況を考えれば、'''3被告人の間に量刑上、特に刑種の選択を分かつほどの差異を設けるべき事情は認められない'''<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
! colspan="2" |3被告人の役割
!情状
!{{nowrap|量刑およびその理由}}
|-
!KT
|殺害行為にて果たした役割は、計画段階において他の2人(堀・「山下」)より大きく、実行行為の際にも最も積極的におよんでいる<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
|事件後、自身なりに犯行を顧みる姿勢も見せているが、自首した「山下」に対し、脅迫めいた内容の手紙<ref name="脅迫手紙" group="注" /> を送ったり、知り合いを介して被害者Aを中傷したとも受け取れる表現を用いた文章を掲載・公開するなど、真摯な反省な態度を見せているとは到底言い難い{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 1 被告人Y1(「KT」)の個別情状}}。
| rowspan="2" |'''2人とも死刑を選択'''{{Sfn|集刑|2012|p=99}}。<br/>結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯行後の情状などを考慮すれば、殺害された被害者が1人であることや、2人とも粗暴犯による前科がない{{Efn2|name="KT前科"|KTの前科は詐欺罪による執行猶予付きの1犯で、本事件当時はその猶予期間中だったが、それ以外の前科は交通関係の罰金前科のみだった{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 1 被告人Y1(「KT」)の個別情状}}([[#事件前の経緯]]を参照)。}}{{Efn2|name="堀前科"|堀の前科は交通関係の罰金前科2犯のみだった{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。}}こと、2人にとって有利に斟酌すべき諸事情などを考慮しても、2人に対し極刑をもって臨むことはやむを得ない{{Sfn|集刑|2012|p=99}}。
|-
!堀
|当初から様々な犯行計画を積極的に提案し、特に「人を拉致して強盗をする」という計画を当初から提案していた。被害者Aを最も執拗に脅迫し、殺害の実行行為でもKTに次いで積極的に行っている<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
|事件後、自身なりに反省・謝罪の意思を持ち、言葉や反省文・謝罪文などに表しているが、Aを殺害した点については、恐怖心からKTや「山下」を止められなかったという気持ちの方が強く、真摯な反省の態度を示しているとまで見ることはできない{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 2 被告人Y2(堀)の個別情状}}。
|-
!{{nowrap|「山下」}}
|殺害行為自体についての関与の程度は、結果的に他の2人より低かったが、これはおそらく、運転席に座っていたという座席の位置関係の影響とも考えられ、殺害行為に消極的だったということは到底できない{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 3 被告人Y3(「山下」)の個別情状}}。<br/>3人が集まる原因となった投稿をしたほか、(未遂ながら)被害者Aへの性的暴行にもおよんでおり、Aに与えた精神的・肉体的苦痛は極めて大きい<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
|公判でAに対する気持ちや謝罪の気持ちを聞かれても、無責任で心無い言葉を述べたり、審理中にKTと視線を飛ばし合ったり、自身の被告人質問中に怒鳴り立てるなど、粗暴で無思慮な行動を取っている。このような行動からすると、最終陳述で自身なりに真剣な姿勢で反省の言葉を述べるに至ったことを考慮しても、なお、各犯行について十分な反省をしているとは言い難い{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 3 被告人Y3(「山下」)の個別情状}}。
|
'''無期懲役を選択'''<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。<br/>犯行後、短時間で自首したことにより、捜査機関は初めて犯行を把握し、他2人の逮捕・事件解決に至ったことは明らかである<ref group="注" name="自首動機"/>。(インターネットを通じて集まった集団による)本事件の特殊性を鑑みれば、「山下」が'''犯行後に短期間で自首して事件解決に貢献し、その後に起こり得た犯罪を阻止した'''{{Efn2|name="自首による解決"|第一審で証人として出廷した愛知県警捜査一課の警部(事件の捜査を担当)は<ref name="中日新聞2008-11-06"/>、第5回公判(2008年11月5日)<ref name="公判について"/> における証人尋問で「仮に「山下」が自ら警察に通報しなくても、「山下」とともに窃盗未遂事件を起こした「杉浦」が既に逮捕されていたことなどから、3人が捜査線上に浮上し、検挙することは可能だった」と証言した<ref name="中日新聞2008-11-06">『中日新聞』2008年11月6日朝刊第一社会面37頁「通報なし検挙 警察側「可能」 千種拉致殺害公判」(中日新聞社)</ref> が、名古屋地裁 (2009) は、「「山下」の自首は、KTらに腹を立てたことが動機と言えるが、もし自首しなかった場合、捜査は相当難航し、次の犯行が行われた可能性が否定できない」と指摘した<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。}}点は量刑上、特に有利な事情として評価することができる{{Efn2|『[[読売新聞]]』 (2009) は社説で、「名古屋地裁は、3人の間に明確な上下関係が存在しない中、自首した1人(「山下」)のみを無期懲役、ほか2人を死刑とした。これは、「山下」の自首が事件解決につながったことを評価した結果だ。もしこれがなければ、結びつきの薄かった3人を警察が割り出すことは難しかっただろう」と指摘している<ref>『読売新聞』2009年3月19日東京朝刊三面3頁「[社説]闇サイト殺人 自首が死刑と無期を分けた」(読売新聞東京本社)</ref>。}}。「山下」の刑事責任は極めて重大だが、この点を鑑みれば、極刑をもって臨むことは躊躇せざるを得ず、無期懲役に処すことが相当である<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
|}

KTの弁護人は即日[[控訴]]した<ref name="中日新聞2009-03-19"/> ほか、堀・「山下」それぞれの弁護人{{Efn2|ただし、「山下」の弁護人は「検察が控訴しなければ、(控訴は)取り下げる」と表明していた<ref>『読売新聞』2009年3月25日中部朝刊社会面39頁「闇サイト殺人、2被告が控訴=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。}}<ref>『中日新聞』2009年3月25日朝刊第二社会面32頁「2被告の弁護人控訴」(中日新聞社)</ref>、KT本人も同年3月24日付で[[名古屋高等裁判所]]へ控訴した<ref>『中日新聞』2009年3月25日夕刊第二社会面12頁「KT被告も控訴」(中日新聞社)</ref>。一方、名古屋地検も「山下」を無期懲役とした第一審判決を不服として、同月27日付で控訴した<ref>『中日新聞』2009年3月28日朝刊第二社会面38頁「検察側も控訴」(中日新聞社)</ref>。本判決は全国紙が一面トップで取り上げるなど、高い注目を集めた{{Sfn|福田ますみ|2011|p=170}}が、司法の専門家や[[法学者|刑法学者]]からは「異例の厳しい判断」との見方が少なくなかった一方、新聞各紙の[[社説]]は判決を概ね支持する内容だった{{Efn2|『[[毎日新聞]]』『[[朝日新聞]]』『[[日本経済新聞]]』は「死刑制度がある以上、大方が支持するものだろう」と、『[[東京新聞]]』は「被害者1人の事件では異例だが、手口や被害者の無念さ、遺族の悲嘆を思えばやむを得ない」と評価したほか、『[[産経新聞]]』は「社会常識に沿ったごく自然で当然の判断と評価できる。(5月から始まる裁判員制度を控え)裁判員にとって、多大な影響を及ぼす意義ある妥当な判決だろう」と評価した<ref name="毎日新聞2009-03-22">『毎日新聞』2009年3月22日東京朝刊解説面6頁「社説ウォッチング:闇サイト殺人判決 死刑制度前提に容認」(毎日新聞東京本社 論説委員:森嶋幹夫)</ref>。その上で、「永山基準」については産経が「最高裁は26年の前の基準を見直し、裁判員が納得できる明確な死刑基準を示す時だ」、毎日も「通り魔的犯行や児童虐待などが増加・横行する現在、従来の量刑基準は見直しを迫られている。社会を挙げて刑罰論議を深めるべきだ」と主張した一方、『[[読売新聞]]』は「死刑か無期懲役か、プロの裁判官も苦悩する判断」、日経は「明快な基準は事実上不可能であり、個別の事件と真剣に向き合って判断するしかない」と指摘した<ref name="毎日新聞2009-03-22"/>。}}{{Sfn|福田ますみ|2011|p=172}}。

==== KTの死刑確定 ====
しかし、被告人KTは2009年4月13日付で自ら控訴を取り下げたため<ref name="中日新聞2009-04-15">『中日新聞』2009年4月15日朝刊一面1頁「KT被告の死刑確定へ 千種拉致殺害 控訴を取り下げ」(中日新聞社)</ref>、同日付でKTの死刑が[[確定判決|確定]]した{{Efn2|最高裁第一小法廷([[澤田竹治郎]]裁判長)は1949年(昭和24年)6月16日の判決[事件番号:昭和24年(れ)第857号 収録文献:[[刑集]] 第3巻7号1082頁]で、「被告人が控訴を取り下げた場合、弁護人の控訴も効力を失う」という判断を示している<ref>{{Cite 判例検索システム|事件番号=昭和24年(れ)第857号|裁判年月日=1949年(昭和24年)6月16日|法廷名=最高裁判所第一小法廷|裁判形式=判決|判例集=[[刑集]] 第3巻7号1082頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55507|事件名=殺人、死体遺棄、死体損壊被告事件|判示事項=被告人の控訴權と辯護人の控訴自立權|裁判要旨=辯護人は、固有の獨立した上訴權を有するものではなく、被告人の上訴權をその明示した意思に反しない限り、行使し得るに過ぎないものであること、舊刑訴法第三七八條の規定の明文と同第三七九條の規定の明文とを對照し且つ辯護人には上訴の放棄は勿論その取下をも認めなかつた立法の趣旨に照し、明白なところであるから、辯護人の控訴申立權は、被告人の控訴權の存續を前提とするものと解すべきである。從つて、前記辯護人の控訴、申立も亦た右被告人の控訴取下により消滅し、存續するを得ないものといわねばならぬ。}}
* 最高裁判所裁判官:[[澤田竹治郎]](裁判長)・[[真野毅]]・[[齋藤悠輔]]
* 判決主文:本件上告を棄却する。</ref>。しかし、最高裁第二小法廷([[大西勝也]]裁判長)は1995年(平成7年)6月28日付の決定で、第一審で死刑判決を受け控訴したものの、後に判決の衝撃や公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ、苦痛から逃れることを目的に控訴を取り下げた事例([[藤沢市母娘ら5人殺害事件]])について、「自己の権利を守る能力を著しく制限されていた状態での控訴取り下げは無効」とする判断を示している<ref>{{Cite 判例検索システム|事件番号=平成6年(し)第173号|裁判年月日=1995年(平成7年)6月28日|法廷名=最高裁判所第二小法廷|裁判形式=決定|判例集=刑集 第49巻6号785頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50166|事件名=訴訟終了宣言決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告|判示事項=死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効とされた事例|裁判要旨=死刑判決の言渡しを受けた被告人が、その判決に不服があるのに、死刑判決の衝撃及び公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ、その影響下において、苦痛から逃れることを目的として控訴を取り下げたなどの判示の事実関係の下においては、被告人の控訴取下げは、自己の権利を守る能力を著しく制限されていたものであって、無効である。}} - [[藤沢市母娘ら5人殺害事件]]の[[判例]]
* 最高裁判所裁判官:[[大西勝也]]・[[中島敏次郎]]・[[根岸重治]]・[[河合伸一]]
* 決定主文:原決定及び原原決定を取り消す。本件を東京高等裁判所に差し戻す。</ref>。}}<ref name="法務省2015">{{Cite press release|和書|title=法務大臣臨時記者会見の概要 平成27年6月25日(木)|publisher=[[法務省]]([[法務大臣]]:[[上川陽子]])|date=2015-06-25|url=http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180209182204/http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html|archivedate=2018-02-09}}</ref>([[#関連項目]]も参照)。取り下げの理由について、KTは「殺したければ早く殺せ」という思いがあったことや、「インターネットや週刊誌などで、自身の交際相手を誹謗中傷する記事が掲載され、彼女が精神的につらい旨を訴えてきている。これ以上裁判を続けて彼女に迷惑を掛けられないと思った」などという旨を述べている{{Sfn|名古屋高裁|2010}}。

同月24日付で、名古屋地検の検察官から[[名古屋拘置所]]長宛に、判決が同月13日に確定した旨の「死刑判決確定通知書」が送付され、名古屋拘置所処遇部長は同月27日、KTに死刑判決の確定を告知した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=4}}。しかし、第一審でKTの[[国選弁護制度|国選]][[弁護人]]を務めていた弁護士2人<ref name="中日新聞2009-04-28"/>(藏冨恒彦{{Efn2|name="藏冨恒彦"|藏冨恒彦(2017年4月8日に59歳で死去)<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.shadan-aisei.jp/news/2017/1704.pdf|title=愛整ニュース No.61 通巻348号|accessdate=2021-03-21|publisher=[愛知県柔道整復師会 https://www.shadan-aisei.jp/]|date=2017-04-26|format=PDF|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321150303/https://www.shadan-aisei.jp/news/2017/1704.pdf|archivedate=2021-03-21}}</ref> は、[[愛知県弁護士会]]に所属していた弁護士<ref>{{Cite news|title=「昼休み」で弁護士と容疑者の面会拒否は違法 名古屋地裁|newspaper=[[日本経済新聞]]|date=2010-07-13|url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG13046_T10C10A7CC1000/|accessdate=2021-03-21|publisher=[[日本経済新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321145902/https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG13046_T10C10A7CC1000/|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。}}・福井秀剛{{Efn2|name="福井秀剛"|福井秀剛は愛知県弁護士会所属の弁護士<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.aiben.jp/page/library/kaihou/1801keiji.html|title=会報「SOPHIA」 平成18年1月号より , 刑事弁護人日記(28) 我が身を弁護する|accessdate=2021-03-21|publisher=[[愛知県弁護士会]]|author=福井秀剛|date=2006-01|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200806183004/https://www.aiben.jp/page/library/kaihou/1801keiji.html|archivedate=2021-03-21}}</ref>。}})<ref name="中日新聞2009-08-13"/> は同日(2009年4月27日){{Efn2|同日、KTは本事件の控訴審における私選弁護人として、藏冨・福井の両名を選任する旨の「弁護人選任届」に署名押印した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=4}}。}}、「KTは控訴取り下げの能力を十分に理解しないまま、控訴を取り下げている。これはKT本人の真意に基づくものではなく、無効である」と主張し<ref name="中日新聞2009-04-28">『中日新聞』2009年4月28日朝刊第一社会面27頁「控訴取り下げ『無効』 拉致殺害、KT被告 弁護人が申し立て」(中日新聞社)</ref>、控訴審における審理を求める旨の期日指定申立書を提出した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=4}}。弁護人による訴えの根拠は、「KTは控訴を取り下げた時点で、死刑判決後の[[拘禁反応]]などによる朦朧状態にあり、自己の権利を守る能力を欠いていた。また、『もし自分が控訴を取り下げても、弁護人がした控訴は存続し、判決は確定しない』という重大な錯誤に基づいて取り下げに至った」というものだった{{Sfn|名古屋高裁|2010}}。

しかし、名古屋高裁刑事第2部{{Sfn|名古屋高裁|2010}}([[下山保男]]裁判長)は[[2010年]](平成22年)9月9日付で、弁護人が求めていた控訴審期日指定の申し立てを退ける[[裁判#裁判の形式|決定]]を出した<ref>『中日新聞』2010年9月11日朝刊第一社会面39頁「闇サイト殺人 KT死刑囚 控訴取り下げ有効 高裁決定」(中日新聞社)</ref>。その決定要旨は、「KTは控訴取り下げ前から、自ら死刑を受け入れる旨を述べていたほか、取り下げの経緯の概要については記憶しているし、取り下げに至った経緯・理由も短絡的とはいえ、一応了解可能なものだった。また、取り下げ後の[[精神鑑定]]の結果からみても、意識変容を伴う朦朧状態など、自己の権利を守る能力が著しく制限された状態ではなかった」というものだった{{Sfn|名古屋高裁|2010}}。弁護人は同決定を不服として、同月13日付で名古屋高裁の別の裁判部に異議を申し立てた{{Efn2|また、同年11月15日付で異議申立理由補充書を提出した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}。}}<ref>『中日新聞』2010年9月14日朝刊第二社会面28頁「KT死刑囚弁護人 控訴取り下げ異議 闇サイト殺人」(中日新聞社)</ref> が、同高裁(志田洋裁判長)は[[2011年]](平成23年)2月10日付の決定{{Efn2|平成22年(け)第16号{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}。}}で異議申し立てを棄却<ref name="中日新聞2011-02-16">『中日新聞』2011年2月16日朝刊第三社会面27頁「闇サイト死刑囚 弁護人異議棄却 名高裁」(中日新聞社)</ref>。弁護人は同月14日付で[[抗告#特別抗告|特別抗告]]したが<ref name="中日新聞2011-02-16"/>、同月3月2日付で[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第三[[小法廷]]([[那須弘平]]裁判長)が抗告を棄却する決定を出した{{Efn2|最高裁第三小法廷 (2011) は、弁護人2人(藏冨・福井)から提出された特別抗告申立書(2011年2月14日付)について、「具体的な抗告理由の記載がなく、抗告提起期間内に理由書の提出もないので、申立ては不適法である」とした{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}。}}ため、控訴取り下げを有効とする原決定が確定した<ref>『中日新聞』2011年3月8日朝刊第一社会面33頁「KT死刑囚本人の控訴取り下げ有効 最高裁が決定」(中日新聞社)</ref>。

=== 控訴審 ===
このようにKTが自ら控訴を取り下げたため、[[名古屋高等裁判所]]における控訴審は堀と「山下」の両被告人についてのみ審理されることとなった<ref name="中日新聞2010-08-10"/>。控訴審の事件番号は'''平成21年(う)第219号'''で、審理は刑事第2部(裁判長は[[下山保男]]、陪席裁判官は柴田厚司・松井修)に係属した{{Sfn|名古屋高裁|2011}}。

第一審判決後、臨床心理士の山田麻紗子{{Efn2|name="山田麻紗子"|山田麻紗子(2017年時点で日本福祉大学の客員研究所員)は同年、『中日新聞』の取材に対し、「互いの『馬鹿にされたくない』という気持ちが行動をエスカレートさせた。1人では起こり得なかった事件だ。3人はいずれも、職を失うなどして社会から孤立し、犯罪を踏みとどまらせる人間関係や地位を持っていなかった」と指摘している<ref name="集団暴走">『中日新聞』2017年8月24日朝刊第11版第二社会面28頁「「典型的な集団暴走事件」」(中日新聞社)</ref>。}}([[日本福祉大学]][[准教授]])が<ref name="中日新聞2010-09-25">『中日新聞』2010年9月25日朝刊第三社会面35頁「『集団同調性が影響』 闇サイト殺人 名高裁控訴審 心理士が分析」(中日新聞社)</ref><ref name="読売新聞2010-09-25">『読売新聞』2010年9月25日中部朝刊名古屋市内版29頁「闇サイト殺人 心理鑑定で証人尋問=愛知」(読売新聞中部支社)</ref>、両被告人の弁護人から依頼を受け<ref name="読売新聞2010-09-25"/>、犯罪心理鑑定を実施した<ref name="中日新聞2010-08-10"/>。これは、被告人の性格や、犯行に至る心理状況などを分析する鑑定で<ref name="中日新聞2010-08-10"/>、2被告人との面会や公判記録などから、性格・行動傾向・生い立ち・事件状態の心理状態の変遷を分析したものである<ref>『毎日新聞』2010年7月10日中部朝刊社会面24頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 弁護側独自に2被告を心理鑑定 証拠採用請求へ」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。2被告人の弁護人側は、その結果を控訴審で証拠として提出した<ref name="中日新聞2010-08-10"/>。

控訴審は[[2010年]](平成22年)8月9日に初公判が開かれ<ref name="中日新聞2010-08-09">『中日新聞』2010年8月9日夕刊一面1頁「闇サイト殺人 検察『全員死刑』を主張 名高裁で控訴審初公判」(中日新聞社)</ref>、第4回公判(12月3日)で結審した<ref name="中日新聞2010-12-04">『中日新聞』2010年12月4日朝刊第二社会面38頁「闇サイト殺人 2被告の控訴審結審 名高裁 弁護人『償う機会を』」(中日新聞社)</ref>。
{| class="wikitable" style="width:90%;font-size:90%"
|+控訴審における争点表
!
!弁護人の控訴理由{{Efn2|「山下」については検察官の控訴理由に関する答弁も含む。}}
!{{nowrap|検察官の答弁{{Efn2|「山下」については控訴理由も含む。}}}}
!名古屋高裁 (2011) の判断
|-
!{{nowrap|両被告人について}}
|原判決が「8月24日19時ごろにファミリーレストランを出た時点で、(KTも含めた3人の)殺害および死体遺棄の共謀が成立した」と認定した点は明らかな事実誤認で、前者はAを拉致する前、後者はAを殺害した後だ{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
* 堀の弁護人 - 殺害の共謀成立はAからキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、堀がリバティ車外で喫煙していたところ、同じく喫煙していたKTからAを殺害しようとしていることを聞かされた時点{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}
* 「山下」の弁護人 - 殺害の共謀成立は「山下」が喫煙のため車外に出た後で車内に戻ったところ、KTと堀が殺害行為に着手しているのを見た時点{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}
山田の評価 - 金に困るなど、同質的な3人による同調行動が事件につながったもので、2被告人とも攻撃性は窺えない<ref name="中日新聞2010-09-25"/>。
|山田による鑑定は、一部の裁判記録だけを前提にしており、信用性が疑問視される{{Efn2|検察官は控訴審で、「弁護側が実施した心理鑑定は、「山下」の『良心の呵責から自首した』という言葉を鵜呑みにしたに過ぎない」と指摘した<ref>『毎日新聞』2010年12月4日中部朝刊社会面25頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 検察、改めて死刑主張--名古屋高裁結審」(毎日新聞中部本社 記者:沢田勇)</ref>。}}<ref name="中日新聞2010-12-04"/>。「山下」の自首は刑の減軽に値せず<ref name="中日新聞2010-08-10"/>、3人の極刑を求めるAの母Bらの遺族感情からも、死刑をもって臨むほかない<ref name="中日新聞2010-12-04"/>。
|殺害および死体遺棄の共謀成立時刻は、原判決とは異なり「8月24日の15時ごろ」と認めるのが相当だが、それらの共謀は被害者Aを拉致する前に成立していたため、論旨はいずれも認められない<ref group="注" name="殺害共謀時刻"/>{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
|-
!堀について
|
* 法令違反の主張 - 訴訟手続に法令違反がある{{Efn2|堀の弁護人は以下のように、名古屋地裁 (2009) の法令違反を主張した。
# 原判決は「堀の金槌による殴打は、(ア)KTが被害者Aの首を絞めた行為と、(イ)KTおよび堀がAの首を綿ロープで絞めた行為の間に行われた」と認定したことが、原審では検察官も被告人らも、「殴打は(ア)および(イ)の行為の後に行われた」という主張をしていたにも拘らず、名古屋地裁 (2009) は当事者に何ら注意喚起せず、当事者の主張と異なる認定をした。よって、原審の訴訟手続きには釈明義務違反の違法(判決に影響をおよぼす)がある{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
# KTおよび「山下」それぞれの検察官調書のうち、原審公判供述との相反部分について、[[:b:刑事訴訟法第321条|刑事訴訟法第321条]]1項2号後段の特信性の要件を満たさないのに、原判決はその要件があるとして証拠採用し、事実認定に用いた(この訴訟手続きには、判決に影響をおよぼすことが明らかな法令違反がある){{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
:しかし、名古屋高裁 (2011) は以下のように指摘し、論旨をいずれも退けた。
# 原審で、(ア)(イ)のいずれも、各当事者が殺害行為の順序について主張の立証に立証を尽くした以上、裁判所が、当事者の主張を踏まえて証拠を検討した結果、殺害行為の順序について当事者の主張とは異なる事実認定をしたからといって、そのことが不意打ちとは言えず、訴訟手続きに法令違反はない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
# KTや「山下」の検察官調書は、いずれも事件直後の記憶が鮮明な時期の供述で、その内容も詳細かつ理路整然としているが、公判段階における供述にはいずれも重要部分などに矛盾点がみられる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
* 事実誤認の主張 - 堀・「山下」の両者が、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉を承諾した事実はなく、もしその前提に立って考えても、堀が会話の内容を認識せず、KTの言葉に適当に相槌を打った可能性もあるため、その時点では共謀は認められない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。また、殺害現場に停めたリバティ車内に金槌・包丁・綿ロープがあったことは殺害の共謀の間接事実にはならない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。Aに片手錠を掛けた事実はなく、殺害行為の順序{{Efn2|name="殺害行為の順序"|原判決が(1)KTがAの首を絞める(2)堀がAの側頭部を金槌で3回殴打する(3)堀が頸部に綿ロープを巻き付け、KTとともに引っ張り合ったと認定した点について、堀は「(2)は(3)の後に行われた」と主張{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。しかし、名古屋高裁 (2011) は「(KTを含め)3人とも、捜査段階・原審公判でいずれも原判決と認定に沿う供述(特段不自然不合理な点はない)をしているが、それらを裏付ける客観的証拠はない。KTが行っていない金槌による殴打行為がされた時期について、記憶違いをしている可能性は否定できないが、(2)と(3)の先後関係が各被告人の刑事責任に差異を生じさせるとはいえず、この誤りは判決に影響しない」と判示し、堀の論旨を退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}も異なる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
* 量刑不当の論旨 - 原判決の量刑(死刑)は重過ぎて不当で、無期懲役刑が相当{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}
** 第一審判決後に謝罪文を書いており、改悛の情が顕著で、生きて罪を償わせるべきだ{{Efn2|name="堀の謝罪"|堀は第一審判決後に遺族宛に謝罪の手紙(控訴審で証拠採用)を書いたが、受け取りを拒否されていた<ref name="読売新聞2010-08-10"/>。謝罪の手紙を書こうとしたのは3人の中で唯一だったが、控訴審判決後には一転して遺族への連絡は途絶えた<ref name="中日新聞2012-08-23">『中日新聞』2012年8月23日朝刊第一社会面31頁「98年碧南夫婦強殺 07年闇サイト殺人 借金かさみ凶行か 堀容疑者 周辺『無口で穏やか』 法廷で"したたか”謝罪」「堀慶末容疑者と事件の経緯」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="読売新聞2010-08-10"/>。
** 山田の評価 - 自己主張より同調を選びがちだが、[[集団心理|集団の特性]]がなければ凶悪犯罪は想定しにくい<ref name="中日新聞2010-09-25"/>。穏やかで犯罪性は低い<ref name="中日新聞2010-12-04"/>。
|{{nowrap|原判決の量刑(死刑)は正当で、控訴は棄却されるべきだ<ref name="中日新聞2010-08-10">『中日新聞』2010年8月10日朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 検察『2被告死刑に』 名高裁控訴審第1回公判 弁護側は減軽求める」(中日新聞社)</ref>。}}
|
* 法令違反の論旨 - 認められない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
* 事実誤認の論旨 - 堀が「殺しちゃうけど」というKTの言葉を承諾したことは明らか{{Efn2|名古屋高裁 (2011) は、「原判決の判断に沿うKTや「山下」の供述は、不利益な事実を認める内容にも拘らず相互に一致しており、2人ともその点について捜査・原審公判を通じて一貫している。実際に堀も殺害行為に加わっていることに照らせば、堀の主張は信用できない」と判示した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}で、会話の内容を認識していなかった疑いもない{{Efn2|名古屋高裁 (2011) は、「堀がKTや「山下」とともに車内にいる中、KTから意思確認の目的で『最後は殺しちゃう』と問いかけられ、それに対し堀が『やりましょう』あるいは『そのとおりやる気でいます』と答えて承諾の意を伝えており、「山下」もそのやり取りを明確に記憶していること、その後の堀の行動などに照らせば、会話の内容を認識していなかった疑いは認められない」と判示した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。凶器が手元にあったこと自体が、「拉致した女性を最終的に殺す」という会話の真実味を高めるもので、殺害の共謀の間接事実になる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。殺害行為の順序に関する認定には誤りがあるが、それが判決に影響をおよぼす(各被告人の刑事責任に差異を生じさせる)とは認められない<ref group="注" name="殺害行為の順序"/>{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
* 量刑不当の論旨 - '''無期懲役を選択'''([[#2被告人に無期懲役を宣告|後述]])。
|-
!「山下」について
|原判決の量刑(無期懲役)は重過ぎて不当で、有期懲役刑が相当{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
* 強姦しようとしたのは性欲目的ではなく、被害者Aの鼻をへし折ろうとしたためだ<ref name="強盗強姦未遂動機" group="注" />{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
* 投稿は強盗殺人の目的ではなく、堀らに比べて役割は従属的であり、真摯に反省もしている<ref name="読売新聞2010-08-10"/>。
* 山田の評価 - 軽度の知的障害や、面接時の「サスペンスドラマを見ているようだった」という発言から、どこまで認知して犯行におよんだか疑問で、攻撃性は窺えない<ref name="中日新聞2010-09-25"/>。
|原判決の量刑(無期懲役)は軽過ぎて不当で、死刑が相当{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
* 「山下」は共犯者らに働きかけて犯罪者集団を結成し、各犯行でも不可欠かつ重要な役割を果たした中心的人物であり、単独で強盗強姦未遂<ref name="強盗強姦未遂動機" group="注" /> に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗未遂に及んでいるため、刑事責任はKTや堀より重い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。自首についても、自己保身目的で反省は窺えない<ref name="読売新聞2010-08-10">『読売新聞』2010年8月10日中部朝刊社会面31頁「闇サイト殺人控訴審 初公判 検察側、改めて死刑主張=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。
|論旨はいずれも採用できず、(原審と同じく)'''無期懲役を選択'''([[#2被告人に無期懲役を宣告|後述]])。
|}

==== 2被告人に無期懲役を宣告 ====
2011年(平成23年)4月12日の第5回公判{{Efn2|控訴審判決公判は当初、2011年3月25日に予定されていたが、同月10日になって延期が発表された<ref>『中日新聞』2011年3月11日朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人 二審判決延期 来月12日に」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="公判について"/> で判決が宣告された<ref name="中日新聞2011-04-13"/>。名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)は'''原判決のうち、堀を死刑とした部分を破棄し、堀を無期懲役に処す'''判決を言い渡した{{Sfn|名古屋高裁|2011}}。また、'''「山下」については原判決(無期懲役)を支持'''し、検察官と弁護人の双方からなされていた控訴をいずれも棄却する判決を言い渡した<ref name="中日新聞2011-04-13">『中日新聞』2011年4月13日朝刊一面1頁「闇サイト殺人 2被告に無期懲役 名高裁判決 堀被告死刑破棄 「模倣性高いといえず」」(中日新聞社)</ref>。

名古屋高裁 (2011) は、両被告人からなされていた法令違反および事実誤認の主張をいずれも退け([[#控訴審|前述]])、情状についても原判決と同様の趣旨を認定した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}一方、量刑について検討した。
{| class="wikitable" style="width:90%;font-size:90%"
|+
!
!原判決の判断
! colspan="4" |名古屋高裁 (2011) の判断
|-
!事件の性質
|インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく、匿名性が高いため、発見も困難であり、模倣性が高い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。本件は、まさにこの種の犯罪が持つ危険性が現実化したもので、社会の安全に与える影響も大きく、一般予防の必要性も誠に高い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
| colspan="4" |インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は、素性を知っている者同士による共犯事案に比べ、意思疎通の不十分さなどから、犯行が失敗に終わりやすい側面もある{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>また、携帯電話の通話・メールの履歴と言った痕跡が残るため、格段に犯罪者の発見などが困難であるとも言い難く、原判決が言うほど「検挙困難で模倣性が高い犯罪」ともいえない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>本件においては大まかな犯行計画は立てられていたが、その計画は綿密なものではなく、さほど巧妙とまではいえず、原判決が指摘するほど「犯罪の巧妙化につながりやすい」とはいえない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>以上より、原判決が「本件の特色」として指摘する点を強調し、他の強盗殺人などの事案より特に厳罰をもって臨む必要性が高いとしている点は相当ではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|-
!{{nowrap|殺害方法の残虐性}}
|殺害方法が残虐さを増したのは、殺害に手間取った結果とはいえ、3人とも残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為に及んでいるため、より綿密詳細な計画を立て、意図的に残虐な方法を取った事案ほど有利に斟酌すべきではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
| colspan="4" |死刑は選択に当たり、格別慎重を期するべき究極の刑罰であることに鑑みれば、原判決は、死刑選択の当否の最終手段として各般の情状を総合考慮する際、「殺害方法などについて詳細な計画を定めておらず、当初から意図的に残虐な方法を取ったものではない」という点も考慮に入れるべきなのに、総合考慮をする前に、(左のように)その点を総合考慮の枠外としており、その点は是認できない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|-
! rowspan="3" |役割の軽重
| rowspan="3" |計画段階・殺害の実行行為の場面とも、KTが最も重要な役割を果たしたが、堀・「山下」の両被告人とも、KTの知識経験等を積極的に利用し、自らの利欲目的を満たそうと主体的な判断をした{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。その上で、前者は犯罪計画の提案・被害者への脅迫および殺害行為を積極的に行ったほか、後者もサイトへの投稿で人を集め、強姦行為にまで着手した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>3人の間に刑種選択を分かつほどの役割の軽重の差異は見いだせない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
!被告人
!役割
! colspan="2" |量刑およびその理由
|-
!堀
| rowspan="2" |殺害行為に関しては、「KTが主犯で2人が従属的だった」と言えるほど役割に大きな差はないが、'''2人ともKTの「拉致した女性を最終的に殺害する」という提案に安易に応じた側面があり、殺害の共謀が成立する前からそのような意思を有していたとはいえない'''{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。特に「山下」は運転席に座っていたという位置関係の影響もあったが、殺害行為への直接的な関与の度合いはKT・堀の両者より低い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>このように、'''両被告人が殺害行為に関して果たした役割には、KTとの間に差がある'''ことは否定できず、原判決がその点を考慮せずに「3人の間に刑種の選択を分かつほどの役割の軽重の差異は認められない」と断じたことは相当ではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|'''死刑→無期懲役'''。<br/>犯行の大筋の決定などに大きな影響を与え、被害者の殺害(量刑判断に当たり最も重要な点)についてもKTに次いで積極的な役割を果たしてはいるが、その役割はKTと全く同等にまで見ることはできない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
| rowspan="2" |2被告人とも、本件ではさしたる躊躇もなく、強盗殺人などという重大凶悪な事件に加担しているため、犯罪への抵抗感が希薄であることは否定できない。しかし、'''2人とも粗暴犯・凶悪犯の前科はなく<ref group="注" name="堀前科"/>{{Efn2|name="山下前科"|「山下」の前科は詐欺罪などによる執行猶予付きの1犯で、本事件当時はその猶予期間中だったが、他の前科は交通関係の罰金前科1犯のみだった{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 3 被告人Y3(「山下」)の個別情状}}([[#事件前の経緯]]を参照)。}}、これまでの生活歴を見ても、本件以外に凶悪犯罪への傾向を示すものは見当たらない'''ことなどに照らせば'''、犯罪性向が強いとはいえず、矯正可能性もある'''<ref group="注" name="更生可能性"/>と考えられる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>以上の全体情状に個別情状を併せて検討し、死刑が選択に格別慎重を期すべき究極の刑罰であることを考慮すれば、'''殺害された被害者が1名である本件では、死刑の選択がやむを得ないと言えるほどほかの量刑要素が悪質とは断じ難く'''、死刑に処すことにはなお躊躇を覚えざるを得ない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。そのため、無期懲役に処して終生、被害者の冥福を祈らせて贖罪に当たらせることが相当である。
|-
!{{nowrap|「山下」}}
|'''無期懲役(原判決と同じ)'''。<br/>サイトへの投稿によって事件のきっかけを作るなどしたほか、殺害行為の一部を分担したが、前者についてはKT・堀の両者が主体的な判断で「山下」からの誘いに応じた点や、当初は3人とも殺人を全く考えていなかったことなどに照らせば、この点は、強盗殺人を中心とする本件の量刑判断において殊更に重要な事情ではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>また単独で強盗強姦未遂に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗などの犯行におよんではいるが、殺害行為についてはKT・堀より関与の度合いは低い上、犯行後に自首して事件解決に一定の寄与をするなどした<ref group="注" name="自首による解決"/>点は、量刑に当たって相応の評価がされるべきだ{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|}
名古屋地裁 (2009) が[[サイバー犯罪|インターネット犯罪]]の危険性・模倣性を重視した一方<ref name="中日新聞2009-03-18"/>、名古屋高裁 (2011) はその判断の枠組を否定し、2人に重大前科や詳細な殺害計画がない点などを挙げた上で、(「永山基準」が示されて以降、死刑判決が宣告された事件の多くは被害者が複数の場合に限られてきた)従来の判例を踏襲する形で、極刑を回避した<ref>『中日新聞』2011年4月13日朝刊一面1頁「被害者1人 判例を踏襲 破棄、より丁寧な説明を」(中日新聞社 社会部記者:加藤文)</ref>。[[前田雅英]]([[東京都立大学 (2020-)|首都大学東京]]法科大学院教授)は「本件で問題になった『闇サイトの悪用』は、実際の犯罪行為から判断すれば、罪を重くすべき決定的な要素ではなく、『痕跡が残るため、発見は困難ではない』とした名古屋高裁の判断に一定の合理性がある。殺害された人数などから、死刑とするには特段の事情が必要な事件で、控訴審判決は従来の死刑選択基準にかなったものだ」と評価した一方{{Sfn|福田ますみ|2011|p=175}}、[[土本武司]](元[[最高検察庁]]検事)は「全体として悪質性を強調すべき事件の特色を過小評価し、『永山基準』に引きずられる形で極刑を回避した感が否めない。名古屋高裁が死刑回避の情状として挙げた『堀の更生可能性』<ref group="注" name="更生可能性"/>『「山下」の犯行後の自首』は過大評価すべきでない」と指摘した<ref name="中日新聞2011-04-13 社会"/>。

宇田幸生(犯罪被害者支援弁護士フォーラム会員・[[愛知県弁護士会]]){{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020}}は、「犯行は(預金の引き出しに失敗するなど)さほど巧妙ではなく、被害者が簡単に絶命しなかったため、殺害の手段を次々に変えた結果、殺害態様が残虐になった」として死刑を回避した同判決について、「被害者Aが預金を必死に守ろうと、虚偽の暗証番号を告げたことで犯行は失敗に終わった。そして、Aは最後まで生きることを諦めなかったため、凄惨な方法で殺害された」{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|pp=179-181}}「第一審判決が指摘した(インターネットを通じた犯行グループによる)犯罪の特殊性を重視しないならば、自首による犯罪発覚の効果もそこまで重視すべきではないとの考えもできるが、控訴審判決はその点について言及しなかった」{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|p=183}}と評した上で、「名古屋高裁は『被害者数が1名の場合には死刑を回避する』という結論ありきで判決を宣告したのではないか?」と指摘している{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|pp=181-183}}。

==== 判決確定 ====
[[名古屋高等検察庁]]は、堀を無期懲役とした控訴審判決を不服として、同月25日付で[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]へ[[上告]]した{{Efn2|上告趣意書提出は2011年9月22日、答弁書提出は2012年3月15日<ref name="公判について"/>。}}<ref>『中日新聞』2011年4月25日夕刊第一社会面13頁「闇サイト殺人上告 名高検 堀被告の死刑破棄で」(中日新聞社)</ref>。一方、「山下」については上告を断念し<ref>『中日新聞』2011年4月23日朝刊第一社会面35頁「闇サイト殺人1人上告 名高検 自首踏まえ1人断念」(中日新聞社)</ref>、「山下」も上告期限(2011年4月26日)までに上告しなかったため、無期懲役が確定した<ref>『読売新聞』2011年4月28日東京朝刊第三社会面37頁「「闇サイト」判決が確定」(読売新聞東京本社)</ref>。

検察官は、上告趣意書(提出:2011年9月22日付)<ref name="公判について"/> で「控訴審判決は、永山判決(「永山基準」を示した判決)<ref name="永山基準"/> や、[[光市母子殺害事件]]の差戻し判決{{Efn2|name="光市上告審判決"|2006年(平成18年)6月20日の最高裁第三小法廷判決{{Sfn|集刑|2012|p=103}}。同判決は、「'''犯行自体に関連する量刑要素を評価した上で、特に酌量すべき事情がない限りは死刑を選択するほかない'''」と判示したもの{{Sfn|集刑|2012|p=105}}で、検察官は堀の控訴審判決に対する上告趣意書で「堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決は、結果の重大さ・悲惨さや、動機に酌むべき余地がない点、犯行が計画的である点、遺族の処罰感情の強さ、社会的影響の大きさなどの諸情状を軽視し、殺害された被害者が1人であることを過大に評価している」と指摘した{{Sfn|集刑|2012|p=127}}。}}を始めとする、最高裁の[[判例]]が示した死刑適用基準に反するほか、罪刑均衡および一般見地のいずれから見ても、著しい量刑不当であり、破棄しなければ著しく正義に反する」と主張した{{Sfn|集刑|2012|p=127}}。しかし、最高裁第二[[小法廷]]([[千葉勝美]]裁判長)は[[2012年]](平成24年)7月11日付で、堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決を支持し、検察官の上告を[[棄却]]する決定を出した{{Sfn|最高裁|2012}}<ref>『中日新聞』2012年7月14日朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人 堀被告無期確定へ 最高裁 「関与に差」高裁支持」(中日新聞社)</ref> ため、同年7月18日付で堀の無期懲役が確定した{{Sfn|名古屋地裁|2015|p=21}}。しかし、堀は同年8月3日に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]](1998年発生)の被疑者として、強盗殺人容疑で共犯者の男2人(同事件当時の仕事仲間)とともに愛知県警に逮捕された<ref>『中日新聞』2012年8月4日朝刊一面1頁「「闇サイト」堀受刑者逮捕 碧南の夫婦強殺容疑」(中日新聞社)</ref>。その後、同事件および強盗殺人未遂事件1件の被告人として起訴され、[[2019年]]([[令和]]元年)8月に死刑が確定している<ref name="中日新聞2019-08-10">『中日新聞』2019年8月10日朝刊第14版第三社会面27頁「碧南夫婦強殺で死刑確定 最高裁 闇サイト事件の堀被告」(中日新聞社)</ref>。
{{Main|碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件}}

== 加害者の経歴 ==
加害者3人は仕事が長続きせず<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、事件当時は[[消費者金融]]から数十万円 - 数千万円の借金を抱え<ref name="中日新聞2007-09-15"/>、金に困っていた{{Efn2|『中日新聞』 (2007) は社説で、「加害者3人(当時30 - 40歳代)と同じ世代には、思うような就職先が見つからず、派遣など不安定な非正規雇用を転々とした者が少なくない。3人の犯行は弁護の余地のない悪質なものだが、その背景には、努力しても不利な待遇から抜け出せず、格差が広がる(生活基盤が崩れ、将来を絶望した者による犯罪の続発が懸念される)日本の現状を指摘する識者もいる」と指摘した<ref name="中日新聞2007 社説"/>。}}<ref name="中日新聞2007-08-27"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=208}}。
{{See also|堀慶末}}

=== KT ===
{{Infobox 犯罪者
|名前='''K・T'''
|画像=
|画像サイズ=
|画像説明=
|出生名=
|生年月日={{生年月日と年齢|1971|3|9|no}}{{Sfn|年報・死刑廃止|2020|p=263}}
|出生地={{JPN}}・[[群馬県]][[高崎市]]<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}
|失踪=
|没年月日={{死亡年月日と没年齢|1971|3|9|2015|6|25}}<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
|死没地=[[名古屋拘置所]]<ref name="中日新聞2015-06-25"/>({{JPN}}・愛知県名古屋市[[東区 (名古屋市)|東区]][[白壁]])
|死因=[[縊死]]([[絞首刑]])
|遺体発見=
|墓地=
|記念碑=
|住居={{JPN}}・愛知県[[豊明市]]栄町西大根<ref name="朝日新聞2007-08-27">『朝日新聞』2007年8月27日名古屋朝刊第一総合面1頁「闇サイト、3人の接点 遺棄容疑で逮捕 名古屋・千種の女性殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>
|国籍=
|別名=
|民族=
|市民権=
|教育=
|出身校=
|職業=[[新聞拡張団|新聞勧誘員]]<ref name="朝日新聞2007-08-27"/>
|雇用者=セールス会社([[朝日新聞]]販売所が業務委託)<ref name="朝日新聞2007-08-27"/>
|所属=
|動機=手っ取り早く、楽をして金を手に入れるため{{Sfn|集刑|2012|pp=98-99}}
|罪名=[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取罪]]・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁罪]]・[[強盗致死傷罪|強盗殺人罪]]・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄罪]]・[[窃盗罪|窃盗未遂罪]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}
|有罪判決=[[日本における死刑|死刑]] - 名古屋地裁刑事第6部{{Sfn|名古屋地裁|2009}}:2009年3月18日宣告<ref name="中日新聞2009-03-18"/>
|刑罰=死刑(絞首刑:[[日本における被死刑執行者の一覧|執行済み]])<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
|犯罪者現況=
|国={{JPN}}
|都道府県=愛知県
|現場=
|標的=帰宅途中の[[OL|女性会社員]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}
|死者=1人
|負傷者=
|凶器=綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋・金槌{{Sfn|集刑|2012|p=98}}
|逮捕日=2007年8月26日(当時{{年数|1971|3|9|2007|8|26}}歳)<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
|収監場所=
|配偶者=
|両親=
|子=
|署名=
}}
本事件で2009年に死刑が確定し、2015年に死刑を執行された元[[死刑囚]]'''KT'''は[[1971年]]([[昭和]]46年)[[3月9日]]生まれ{{Sfn|年報・死刑廃止|2020|p=263}}(事件当時{{年数|1971|3|9|2007|8|24}}歳){{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}、[[群馬県]][[高崎市]]出身<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}。

小学生のころに両親が離婚し、当初は母親の実家に引き取られたが、次に長距離運転手だった父親に引き取られる{{Sfn|中尾幸司|2009|p=53}}。[[児童虐待|父親から暴力を振るわれ]]、学校でも[[いじめ]]を受けるような環境で生育した<ref name="サイゾー2"/>。また、[[群発頭痛]]の持病があり<ref name="サイゾー2"/>、16歳のころから激しい[[頭痛]]に悩まされたが、治療費が高額なために十分な治療を受けられず<ref name="毎日新聞2008-09-26">『毎日新聞』2008年9月26日中部朝刊社会面25頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 3被告、争う姿勢--初公判」(毎日新聞中部本社 記者:式守克史)</ref>、中学卒業後には[[暴走族]]に所属した{{Sfn|中尾幸司|2009|p=53}}。成人後も頭痛の持病に悩まされ、職が長続きしなかった<ref name="サイゾー2">{{Cite news|title=深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.601 被害者と加害者の両視点で描く東海テレビの力作 闇サイト事件を劇映画化『おかえり ただいま』|newspaper=[[サイゾー|日刊サイゾー]]|date=2020-09-18|author=長野辰次|url=https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry_2.html|accessdate=2021-03-20|publisher=株式会社サイゾー|page=2|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320151041/https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry_2.html|archivedate=2021年3月20日}}</ref>。

[[1989年]]([[平成]]元年)<ref name="朝日新聞2007-08-27 社会">『朝日新聞』2007年8月27日名古屋朝刊第一社会面31頁「互いに偽名、素性知らず「女性狙い、金奪おう」 名古屋・女性殺害 3容疑者 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>、地元・高崎市内の[[工業高等学校|工業高校]]を卒業<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会">『毎日新聞』2007年8月27日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:「携帯サイト」殺人、面識ない女性襲う--仲間内でも偽名使い」(毎日新聞中部本社 記者:桜井平、松岡洋介)</ref>。[[人材派遣会社]]などに登録したが、実際に仕事に就いた形跡はなく<ref name="読売新聞2007-09-01">『読売新聞』2007年9月1日中部朝刊社会面35頁「[闇サイト殺人](上)脱落トリオ、意気投合 一気に凶暴化(連載)=中部」(読売新聞中部支社 連載担当記者:山下昌一、譜久村真樹、半田真由子)</ref>、上京後には[[暴力団]]関係の仕事をするようになった{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}。その後、名古屋にたどり着く{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}までの間に、[[東京都]]内の[[新聞販売店]]・愛知県内の人材派遣会社など、仕事を転々とした<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>。また、事件の10年ほど前(1997年ごろ)から携帯電話で闇サイトを利用していたとされる{{Efn2|KTは、堀や「山下」と出会った「闇の職安」について、「風俗関係の知人女性を希望者に紹介したり、事件の5年前から小遣い稼ぎに利用していた」と述べている<ref name="中日新聞2008-11-20"/>。}}<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="朝日新聞2007-09-15"/>。

[[2006年]](平成18年)9月から[[豊明市]]内の新聞販売店に入社し、会社の寮に住み込む<ref name="闇からの凶行 上">『朝日新聞』2007年8月30日名古屋朝刊第一社会面35頁「(闇からの凶行 女性拉致殺人事件:上)職続かず、転落の3人【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。『[[朝日新聞]]』のセールススタッフとして<ref name="闇からの凶行 上"/>、新聞勧誘員の仕事をしていたが、勤務態度はあまり良くなく{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}、「仕事を休みがちだった」という報道もされている<ref name="朝日新聞2007-08-27 社会"/><ref name="闇からの凶行 上"/>。事件前の手取り収入も少なく{{Efn2|月給は出来高払い(約100,000円)で、約40,000円の寮費が天引きされていた<ref name="闇からの凶行 上"/>。}}<ref name="闇からの凶行 上"/>、交際相手の女性から時々小遣いを貰うなどして生活していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}。また、勤務先の社長に対し「父が亡くなり、天涯孤独の身だ」と嘘を吐いたり{{Efn2|2007年1月、Kは勤務先の社長に対し「父が亡くなった」と話したが、実際には父親(事件当時71歳)は群馬県内で存命していた<ref name="闇からの凶行 上"/>。}}、同社に提出した履歴書にも虚偽事項を記載したりしていた<ref name="闇からの凶行 上"/>。弁護人を務めていた福井秀剛<ref group="注" name="福井秀剛"/>は、KTの人物像について「かなり見栄っ張り、人前では強気なことを言う」と評し、自身はKTの言いたいこと(被害者や遺族への謝罪の心情など)を理解できたが、KT本人はそれを直接的に言葉にすることはなかったという旨を述べている{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=138}}。

KTは[[#事件前の経緯|先述]]のように、闇サイトを悪用した別の詐欺事件で[[執行猶予]]付き有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトの閲覧・投稿を続けていた<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。

==== 国家賠償請求訴訟 ====
第一審でKTの国選弁護人を務めていた弁護士2人{{Sfn|名古屋地裁|2013|pp=3-4}}(藏冨恒彦<ref group="注" name="藏冨恒彦"/>と福井)は、KTによる控訴取り下げ後の2009年4月 - 6月にかけ<ref name="中日新聞2009-08-13"/>、控訴取り下げへの異議申し立ての打ち合わせなどのため<ref name="中日新聞2013-02-20"/>、KTと拘置所職員の立ち会いなしで面会する「弁護士面会」を[[名古屋拘置所]]に申請したが、拘置所側は「死刑確定直後で心情安定のため、立ち会いが必要だ」として、立ち会いの伴う「一般面会」しか認めなかった<ref name="中日新聞2009-08-13">『中日新聞』2009年8月13日朝刊第三社会面24頁「千種拉致殺害 立ち会いなし接見できず 弁護人『違法』と提訴」(中日新聞社)</ref>。2人はこれを違法として、2009年8月12日付で、名古屋地裁に[[国家賠償請求権|国家賠償請求訴訟]][事件番号:平成21年(ワ)第4801号、請求額:120万円]を提訴{{Sfn|名古屋地裁|2013|pp=4-5}}。その後、2010年11月4日には同様に、無立会の面会を認められなかったことを違法として、死刑囚KTに対し慰謝料などを支払う国賠訴訟[事件番号:平成22年(ワ)第7629号]を提起し、先の訴訟と併せ{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}、[[被告]](国)に対し2,700万円の支払いを求めていた<ref name="中日新聞2013-02-20"/>。

名古屋地裁民事第3部(德永幸藏裁判長){{Sfn|名古屋地裁|2013}}は[[2013年]](平成25年)2月19日、「拘置所長が裁量権を濫用した」として、原告側の訴えを認め<ref name="中日新聞2013-02-20">『中日新聞』2013年2月20日朝刊第二社会面24頁「接見立ち会い違法 闇サイト死刑囚、国に勝訴 名地裁判決」(中日新聞社)</ref>、国に対し145万2,000円の賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した{{Efn2|名古屋地裁 (2013) は「裁判を続けたいと望む死刑囚には、弁護人と単独で面会する法的権利がある。1回はKTの精神状態が不安定で、職員の同席が必要だったが、24回は違法と認定できる」と判示した<ref name="中日新聞2013-02-20"/>。}}<ref>『読売新聞』2013年2月20日東京朝刊第三社会面37頁「接見に職員立ち会い「違法」 名古屋地裁 国に145万円賠償命令」(読売新聞東京本社)</ref>。[[2014年]](平成26年)3月13日<ref name="中日新聞2014-03-14"/>、名古屋高裁民事第3部([[長門栄吉]]裁判長){{Efn2|長門栄吉は2011年(平成23年)8月13日以降、定年退官(2014年5月30日)まで名古屋高裁部総括判事を務めていた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge2057/|title=長門 栄吉 <nowiki>|</nowiki> 裁判官|accessdate=2021-03-20|publisher=新日本法規出版|website=新日本法規WEBサイト|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320101746/https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge2057/|archivedate=2021-03-20}}</ref>。裁判所ウェブサイト (2014) によれば、2010年4月1日時点では長門と山崎秀尚・眞鍋美穂子・片山博仁の各裁判官が名古屋高裁の民事第3部を担当していた<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.courts.go.jp/nagoya-h/saiban/tanto/saibankan/index.html|title=名古屋高等裁判所 担当裁判官一覧(平成25年11月2日現在)|accessdate=2021-03-20|publisher=最高裁判所|date=2013-11-02|website=裁判所|quote=民事第3部 長門栄吉,山崎秀尚,眞鍋美穂子,片山博仁|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131214140752/http://www.courts.go.jp/nagoya-h/saiban/tanto/saibankan/index.html|archivedate=2011-03-22|url-status=dead|url-status-date=2021-03-20}}</ref>。}}は第一審に続き、拘置所長の対応を「裁量権を逸脱・濫用したもので違法」と認め、国に対し計145万2,000円の支払いを命じる控訴審判決{{Efn2|賠償総額は第一審と同様だが、KTへの支払額を増やすなど、配分のみを変更<ref name="中日新聞2015-04-25"/>。}}を宣告した<ref name="中日新聞2014-03-14">『中日新聞』2014年3月14日朝刊第一社会面31頁「面会立ち会い 再び国が敗訴 闇サイト死刑囚訴訟」(中日新聞社)</ref>。原告側は上告したが、[[2015年]](平成27年)4月22日付で最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)が上告を退ける決定を出したため、控訴審判決が確定した<ref name="中日新聞2015-04-25">『中日新聞』2015年4月25日朝刊第一社会面35頁「面会に立ち会い国の敗訴が確定 闇サイト死刑囚訴訟」(中日新聞社)</ref>。

==== 死刑執行 ====
KTは死刑確定後、弁護人の福井や支援者2人(うち1人は親族)と連絡を取り合っていた一方{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=140}}、[[再審]]請求の準備も行っていた{{Efn2|愛知県弁護士会が2015年3月、名古屋拘置所に収監されていた死刑確定者11人を実施したアンケート(全員が回答)によれば、再審請求をしていなかったのはKTを含む3人のみだった{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|pp=135-136}}。村上満宏はその理由について、弁護人2人が国賠訴訟に追われていたことや、再審請求事由(罪状認定の誤りや、無罪の主張など)を満たしづらい面があった旨などを示唆している{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=136}}。}}{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|pp=138-139}}。2011年6月20日 - 8月31日に[[福島瑞穂]]([[参議院]][[日本の国会議員|議員]])が、[[日本における死刑囚|死刑確定者]]120人(2011年6月20日時点)を対象に実施したアンケート{{Efn2|2011年12月時点で新たな死刑確定者にも同様のアンケートを送付している{{Sfn|フォーラム90|2012|p=10}}。}}{{Sfn|フォーラム90|2012|pp=10-12}}に対し、死刑囚KTは「(自身が収監されている)名古屋拘置所では現在、所長が我々の生活処遇を勝手に厳格化している。国会で[[法務大臣]]にこの問題を追及してほしい。自分は人殺しだが、鬼ではなく人間だ」と訴えていた{{Sfn|フォーラム90|2012|pp=93-94}}。

KTは2015年6月25日8時25分{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}、法務大臣の[[上川陽子]]{{Efn2|この死刑執行は、上川が法務大臣として発した初の死刑執行命令だった<ref name="法務省2015"/>。}}が発した死刑執行命令により、収監先の[[名古屋拘置所]]で[[日本における被死刑執行者の一覧|死刑を執行された]]({{没年齢|1971|3|9|2015|6|25}}){{Efn2|死亡確認は8時37分(死刑執行から12分後){{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}。その後、同日9時30分に名古屋拘置所から元弁護人の福井に連絡がなされ{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}、遺骨や遺品は福井を通じて支援者に引き取られた{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=139}}。}}<ref name="中日新聞2015-06-25">『中日新聞』2015年6月25日夕刊一面1頁「闇サイト殺人 死刑執行 女性拉致、KT死刑囚」(中日新聞社)</ref>。[[日本弁護士連合会]](日弁連)は同日、村越進会長名義で死刑執行に抗議する声明を出した<ref>{{Cite press release|和書|title=死刑執行に強く抗議し、改めて死刑執行を停止し、死刑制度の廃止についての全社会的議論を求める会長声明|publisher=[[日本弁護士連合会]](日弁連、会長:村越進)|date=2015-06-25|url=https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150625.html|language=ja|accessdate=2018-02-08|archivedate=2018-02-08|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180208135110/https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150625.html}}</ref>。

弁護士の福井秀剛<ref group="注" name="福井秀剛"/>(第一審でKTの国選弁護人を担当)は、同年7月26日に開催された死刑執行への抗議集会で、KTの最期の言葉(下記)を引用し、その最期について「拘置所の職員から『立派な最期だった』と聞いた」{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=137}}「KTは自分の犯したことと向き合っていた」と証言している{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}。
{{Quotation|こうなることは分かっていました。被害者のお母さん、おばさん、付き合っていた彼、友人、会社の同僚に対して、命を以て償います。|死刑囚KT|{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=137}}}}
一方、同月8日に開催された抗議集会では、死刑廃止論者である弁護士2人([[安田好弘]]・[[村上満宏]])がそれぞれ「KTは控訴を取り下げなければ、堀と同様に控訴審で無期懲役に軽減されていた可能性が高い」と指摘している{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|pp=126-134}}。また、福井とともにKTの国選弁護人を務めていた藏冨恒彦<ref group="注" name="藏冨恒彦"/>は同日の集会に対し、以下のようなメッセージを寄せている{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}。
# 国賠の間隙をぬって執行されたようで、理不尽さを感じる。
# 控訴を取り下げなければ、共犯者堀とのバランス上、明らかに無期懲役相当事案であり、死刑執行を急ぐ必要はないはずである。
# KT氏より古い死刑確定事案は多数あるはずで、何故、今回なのか理解しがたいものがある。
# 処遇が難しい死刑確定者なので、執行を急いだのであろうか?それなら余りにも理不尽ではないか?

=== 「山下」 ===
2011年に無期懲役が確定した加害者'''「山下」'''(事件当時40歳){{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}は[[1966年]](昭和41年)生まれ{{Sfn|名古屋高裁|2011}}、[[石川県]][[金沢市]]出身{{Efn2|逮捕直前は「愛知県小牧市在住」と自称したほか<ref name="中日新聞2007-08-26"/>、逮捕直後には「本籍地は愛知県[[津島市]]」と報道されていた<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。}}<ref name="読売新聞2007-09-01"/><ref name="道誤った臆病者">『毎日新聞』2007年8月31日中部朝刊社会面31頁「闇の連鎖:携帯サイト殺人事件/上 道誤った臆病者」(毎日新聞中部本社 連載担当記者:米川直己、桜井平、松岡洋介、加藤潔、影山哲也)</ref>{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。「山下」は「闇の職安」<ref group="注" name="闇の職安"/>で用いていた偽名であり、本名のイニシャルは「'''K・K'''」である{{Sfn|大崎善生|2016|pp=200-201}}。2019年(令和元年)6月29日時点で{{Efn2|事件について取材した立花江里香宛ての手紙が書かれた日付{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=196}}。}}{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=196}}、刑務所に服役中である{{Efn2|「山下」は公判中、名古屋拘置所に拘置されていたが<ref name="毎日新聞2010-08-08">『毎日新聞』2010年8月8日中部朝刊社会面27頁「愛知・女性拉致殺害:あすから控訴審 1審判決から1年半、被害者母「早く確定を」」(毎日新聞中部本社 記者:沢田勇)</ref>、2011年6月1日(無期懲役刑確定後)に拘置所から[[名古屋刑務所]]へ移送され、同年8月8日にはさらに別の刑務所(2017年時点で服役中の刑務所、所在地は不明)へ移送された{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=174}}。}}{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=168}}。

子供のころに[[腎臓病]]を罹患したことが原因でいじめを受け、高校進学後からその反動で[[不良行為少年|不良]]として[[非行]]に走るようになり、[[少年鑑別所]]に収監されたこともあった{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。高校を出た後{{Efn2|『読売新聞』『朝日新聞』では「高校中退」<ref name="読売新聞2007-09-01"/><ref name="闇からの凶行 上"/>、『毎日新聞』では「高校卒業」と報道されている<ref name="道誤った臆病者"/>。}}、[[富山県]][[富山市]]内で<ref name="闇からの凶行 上"/>、大手警備会社に就職して7年間勤務した<ref name="道誤った臆病者"/>。[[1999年]](平成11年)8月、[[住宅ローン]]を組み、愛知県[[瀬戸市]]内の分譲マンションを購入<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊">『読売新聞』2007年8月27日東京夕刊第一社会面19頁「愛知の闇サイト殺人 多額借金で夜逃げ 車で生活、1週間前に共犯募る」(読売新聞東京本社)</ref>。妻・子供4人と共に暮らしていたが<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、このころ(事件の8年ほど前)から携帯電話で闇サイトを利用し始め<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="朝日新聞2007-09-15"/>、「闇の職安」を通じて入手した偽の[[運転免許証]]を用いて、[[振り込め詐欺]]用の銀行口座を開設・販売していた<ref name="中日新聞2007-08-27 社会">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第一社会面25頁「拉致強殺 逮捕の3人 素性知らぬ「仲間」共謀 「弱い女性」狙う 身勝手、死刑恐れ自首」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1159頁</ref>。[[2000年]](平成12年)ごろ以降は、愛知県内の運送会社を転々とした{{Efn2|2000年末から4か月ほど、豊明市内の<ref name="闇からの凶行 上"/> 運送会社に勤めていたが、その際に「実家の父が病気」と言い<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、毎月4 - 5万円を<ref name="闇からの凶行 上"/> 会社から借金<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。約30万円を返済しないまま<ref name="闇からの凶行 上"/>、行方をくらました<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。}}<ref name="闇からの凶行 上"/> が、各社に提出していた履歴書には、多くの虚偽記載があった{{Efn2|実際には高校を中退していたにも拘らず「卒業」と書いていたり、勤務年数を偽ったりなど<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。}}<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。

その後、金に困るようになり、住宅ローン<ref name="読売新聞2007-09-01"/>・税金を滞納したため、[[2002年]](平成14年)には瀬戸市などにマンションの部屋を差し押さえられた<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。2002年12月、瀬戸市内の運送会社{{Efn2|人材派遣会社を通じて就職した<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。同社の社長は『毎日新聞』の取材に対し、当時の「山下」について、「当時の月給は約30万円だったが、ローンを抱えて生活は苦しく、身なりも綺麗ではなかった」と証言した<ref name="道誤った臆病者"/>}}に就職し<ref name="道誤った臆病者"/>、会社が借り上げたアパートに住み始めたが<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>、それから数か月後には妻子に逃げられ<ref name="道誤った臆病者"/>、妻と離婚した<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。その後、[[2003年]](平成15年)8月ごろに[[トヨタ・スターレット]]<ref group="注" name="リバティ"/>を<ref name="朝日新聞2007-08-30"/>、当時の職場(瀬戸市内の会社)を通し、毎月の給与から代金を天引きする形で購入<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。しかし[[2004年]](平成16年)5月ごろ、荷物を積んだトラックを駐車場に放置したまま、会社に出勤しなくなり<ref name="闇からの凶行 上"/>、車とともに夜逃げした{{Efn2|この時、会社を通じて購入した車の借金を踏み倒した上、会社から支給された携帯電話を持ち去った<ref name="道誤った臆病者"/>。また同年、瀬戸市などによって再び部屋を差し押さえられた<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。}}<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。その後は同県[[尾張旭市]]の運送会社に勤めたが、そこでも給料を前借していたほか、他に警備会社・運送会社を転々とし<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、遺体遺棄現場となった[[瑞浪市]]周辺に住んでいたり<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>、殺害現場付近の愛西市で勤務していた時期もあった<ref name="朝日新聞2007-08-27 社会"/>。[[#事件前の経緯|先述]]したように詐欺事件で執行猶予付きの有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。事件直前、「仕事が嫌になった」と無断欠勤し、車中で路上生活を始めたが、その前の約1年間は、派遣工として月10 - 20万円の収入を得て生活していた{{Sfn|名古屋地裁|2009|loc=(量刑の理由) 第3 個別の情状等 > 3 被告人Y3(「山下」)の個別情状}}。

逮捕後は「犯行場面の幻影を見て眠れなくなった」と精神安定剤を服用するようになり、曖昧な受け答えをするようになった{{Sfn|福田ますみ|2011|p=174}}。第一審でKTと堀が死刑を宣告された一方、自身は唯一死刑を免れる形となった際には、[[フジニュースネットワーク|FNN]]記者との面会で以下のように発言している<ref name="FNN 2009-03-18"/>。
{{Quotation|「自首したことが認められたことについてはよかったと思う。3人一緒に死刑だと思っていたから驚いた。誰のおかげで事件が解決したのかという思いだったから、満足している。〔A〕(被害者の実名)さんの前に、何人も物色しているんだから、彼女になったのは、運が悪かったからなんだって。今でも悪いことは、ばれなきゃいいという気持ちは変わらない。でも、生かしてもらえてよかった。ありがたい」|被告人「山下」|<ref name="FNN 2009-03-18">{{Cite news|title=名古屋闇サイト拉致・殺害事件 無期懲役判決の「山下」被告に反省の態度見られず|newspaper=[[FNNニュース]]|date=2009-03-18|url=http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00151385.html|publisher=[[フジニュースネットワーク]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090321002804/http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00151385.html|archivedate=2009年3月21日}}</ref><ref>{{Cite news|title=名古屋闇サイト拉致・殺害事件 無期懲役判決の「山下」被告に反省の態度見られず|newspaper=[[Yahoo!ニュース]]|date=2009-03-18|url=http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20090318/20090318-00000385-fnn-soci.html|publisher=フジニュースネットワーク|language=ja|archiveurl=https://megalodon.jp/2009-0319-1039-47/headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20090318/20090318-00000385-fnn-soci.html|archivedate=2009年3月21日}}</ref>}}

== 影響 ==
事件現場となった自由ヶ丘学区は、千種区内で最も犯罪件数が少ない学区だったため、本事件は地元住民にも大きな衝撃を与えた<ref name="中日新聞2007-09-01"/>。事件後(8月26日以降)、拉致現場となった自由ヶ丘小学校周辺<ref group="注" name="拉致現場"/>{{Efn2|名古屋土木事務所は、同校周囲の街灯3基を光量の多いものに取り換えることを決め<ref name="中日新聞2007-09-01"/>、追加の街灯・防犯カメラも設置された<ref name="中日新聞2017-08-25 社会">『中日新聞』2017年8月25日朝刊第11版第三社会面30頁「ニュース前線 闇サイト殺人10年 女性記者 現場を歩く 夜道の恐怖 いまも胸に」(中日新聞社 記者:小椋由紀子)</ref>。また、現場付近にある[[名古屋市立名古屋商業高等学校|名古屋商業高校]]は、校庭の照明(通常は20時で消灯)を翌朝まで点灯するよう変更した<ref name="中日新聞2007-09-01"/>。}}では、地元の自主防犯パトロール隊が巡回の頻度を増やした{{Efn2|それまでは月1回だったものを、8月26日 - 9月2日まで毎晩実施したほか、その後も週2回に増やした<ref name="中日新聞2007-09-01"/> が、事件の記憶の風化により、2017年8月時点では事件前と同じ月1回に減少している<ref name="中日新聞2017-08-25 社会"/>。}}ほか、周辺3[[交番]]と地元住民の連絡協議会で、再発防止対策が話し合われた<ref name="中日新聞2007-09-01">『中日新聞』2007年9月1日朝刊市民版22頁「千種・拉致殺害から1週間 再発防止へ対策進む パトロール強化、照明時間の延長 犯罪少ないはずが… 住民ら衝撃大きく」(中日新聞社 記者:島崎諭生)</ref>。また、[[千種警察署]]が管内(千種区内)の[[名古屋市営地下鉄]]([[名古屋市交通局]])の全10駅の出入口に「キケンが迫る 夜の一人歩き」と書いた啓発ポスターを掲示した<ref name="中日新聞2007-09-01"/> ほか、名古屋市交通局の協力を得て、それら10駅(3路線){{Efn2|[[今池駅 (愛知県)|今池駅]]・[[池下駅]]・[[覚王山駅]]・[[本山駅 (愛知県)|本山駅]]・[[東山公園駅 (愛知県)|東山公園駅]]・[[星ヶ丘駅 (愛知県)|星ヶ丘駅]]・[[茶屋ヶ坂駅]]・[[自由ヶ丘駅]]・[[名古屋大学駅]]・[[吹上駅 (愛知県)|吹上駅]]<ref name="中日新聞2008-02-07"/>。}}で、駅から徒歩で帰宅する女性向けに防犯ブザーの貸し出しを開始した<ref name="中日新聞2008-02-07">『中日新聞』2008年2月7日朝刊市民版16頁「地下鉄駅からのひとり歩き 防犯ブザー 女性に貸与 Aさん拉致殺害事件受け 千種区内10駅に設置」(中日新聞社 記者:弓削雅人)</ref>。

また、被害者Aが生前に「なるぅ」のハンドルネームで運営していた[[ブログ]]([[#外部リンク]]参照)には事件後、知人らによって追悼のコメントが多数投稿された{{Efn2|一方、匿名の投稿者らによる中傷コメントや、事件を揶揄するコメントも投稿されたが、それらのコメントは削除された<ref name="闇の接点 下">2007年8月30日朝刊第12版第一社会面35頁「女性拉致殺害事件 闇の接点 下 モラル破る匿名性 迫られるネット規制」(中日新聞社 記者:北島忠輔、太田鉄弥) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1301頁</ref>。}}<ref name="朝日新聞2007-08-29夕刊">『朝日新聞』2007年8月29日名古屋夕刊第一社会面9頁「レジ袋かぶせ犯行 手口も場当たり的 名古屋・女性拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref><ref>『中日新聞』2007年8月28日夕刊E版第一社会面15頁「女性拉致殺害 Aさん 3月開設 ブログに込めた願いかなわず… 怒り、嘆き 知人ら次々書き込み」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1221頁</ref>。

[[警察庁]]は事件後、2008年度(平成20年度)からインターネット上の違法・有害情報を監視する「[[サイバーパトロール]]」を民間委託し{{Efn2|それ以前は各都道府県やボランティア団体の一部によってパトロールが実施されていたが、警察は捜査中心でパトロールに充てられる人員が不足していたほか、ボランティアも有料サイトの閲覧ができないデメリットがあった<ref name="中日新聞2007-09-04"/>。そのため、監視業務を1つの民間団体・法人に委託し、有料サイトにも登録するなどして、積極的な情報収集に乗り出すことにした<ref name="中日新聞2007-09-04"/>。}}、監視体制を強化する方針を決めた<ref name="中日新聞2007-09-04">『中日新聞』2007年9月4日夕刊E版第一社会面11頁「闇サイト 監視強化 来年度から 警察庁、民間に委託」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号187頁</ref>。

=== 被害者遺族の活動 ===
被害者Aの母親Bは事件後、8月28日(Aの通夜が営まれた日)に、「犯人たちを絶対に許さない」とする報道各社向けの手記を発表{{Efn2|これは、マスコミからの取材に追われたBが、警察に「マスコミが付きまとわないようにしてもらえないか」と相談したところ、警察から「お母さんのコメントを貰うまでは難しいでしょう。文章にして私に渡してくれれば、私の方からマスコミに渡します」と提案されたことに応じて書いたものだった{{Sfn|大崎善生|2016|pp=292-293}}。}}<ref>『中日新聞』2007年8月29日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致殺害事件 Aさんの母 手記を公開 何の落ち度もない娘に…絶対に、絶対に、許しません。」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1253頁</ref>。その後、「日本の法律では、過去の例からも1人を殺しただけでは死刑にならない。被害者が2人以上でないと死刑は難しい」という内容の手紙が届いたが、具体的に何をすべきか迷っていたところ、当時住んでいた市営住宅の棟長から「死刑嘆願の[[署名]]活動を考えている」と伝えられたことをきっかけに{{Sfn|小倉孝保|2011|p=85}}、9月には加害者3人への死刑適用を求める署名活動の開始を決意<ref name="中日新聞2007-09-14">『中日新聞』2007年9月14日朝刊第12版第一社会面33頁「女性拉致殺害 3人きょう再逮捕 強殺、逮捕監禁容疑 愛知県警 Aさん母語る ただ犯人が憎い 「3人死刑」署名活動も」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号607頁</ref>。初公判までに30万人分の署名{{Efn2|署名数は2008年12月18日に30万人(当初目標)に到達{{Sfn|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}。}}を集めることを目標に<ref>『中日新聞』2007年12月9日朝刊第二社会面38頁「母も街頭で署名活動 千種・女性拉致殺害」(中日新聞社)</ref>、同月中旬から署名活動を開始した{{Efn2|Aの元交際相手である男性Cや、Bの姉(Aの伯母)であるDも署名活動に積極的に協力した{{Sfn|大崎善生|2016|pp=313-314}}。署名活動に対しては「人殺しを募るなんて」という批判もあったが<ref>『中日新聞』2009年3月17日朝刊第一社会面27頁「ニュース前線 千種拉致殺害 あす判決 亡きAさん思い母が詩 空見上げればあなたが」(中日新聞社 社会部記者:長田弘己)</ref>、街頭での署名活動の際に激励の言葉を掛けられたり{{Sfn|大崎善生|2016|p=313}}、郵送で送られてきた署名用紙に「お母さんは1人じゃない」「私が裁判員なら死刑を主張する」などの言葉が綴られていた<ref name="中日新聞2008-09-24"/>。『読売新聞』社会部 (2009) は「署名に添えられた手紙の多くには、ネットを通じて形成された犯罪者集団が見ず知らずの市民を殺害したことに対する、切迫した不安感が滲んでいた」と述べている{{Sfn|読売新聞社会部|2009|p=207}}。}}<ref name="中日新聞2007-09-23">『中日新聞』2007年9月23日朝刊第一社会面29頁「女性拉致殺害 母、娘しのぶHP 『もう一度抱きしめたい』」(中日新聞社)</ref> ほか、報道機関の取材に積極的に協力したり{{Efn2|Bは「(遺族として取材に応じることに抵抗はあったが)自分が表に出ることで、娘のことを覚えていてもらえる」と考え、マスコミからの取材に積極的に応じてきた<ref>『読売新聞』2008年8月24日中部朝刊第二社会面32頁「闇サイト殺人1年 進まぬ法規制 「娘の死、無駄にしないで」=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=304}}、ホームページ([[#外部リンク]]を参照、同月22日に設立)を通じて署名活動への協力を呼びかけたりした<ref name="中日新聞2007-09-23"/>。同月27日以降は名古屋市の繁華街(名駅・栄)でも署名活動を実施し{{Efn2|Dは初めて街頭で署名活動を行った9月27日、(ホームページに送られてきたメールの処理のために来れなかった)Bに対し、「(同日に署名に賛同した人々のうち)約半分は事件を知っていたが、もう半分はこの署名活動を通じて初めて事件を知った」と話している{{Sfn|大崎善生|2016|p=313}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|pp=312-313}}、初公判直前(2008年9月時点)で284,000人分の署名を集め<ref name="中日新聞2008-09-24">『中日新聞』2008年9月24日朝刊第一社会面27頁「ニュース前線 千種・拉致殺害 あす初公判 母『傍聴怖いが真実を』 署名28万人 元気と勇気」(中日新聞社 記者:加藤弘二)</ref>、2012年8月25日{{Efn2|事件からちょうど5年の日<ref name="読売新聞2015-06-26"/>。}}に終了するまでに、332,806名分の署名が集まった{{Efn2|署名は日本国内だけでなく、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]や[[スイス]]、[[ニュージーランド]]といった海外から郵送されたものもあった{{Sfn|読売新聞社会部|2009|p=206}}。また[[地下鉄サリン事件]]([[オウム真理教事件]])の実行犯である[[広瀬健一]]([[オウム真理教|教団]]元幹部:2009年に死刑確定、2018年に死刑執行)の弁護人を務めていた弁護士の田瀬英敏([[第二東京弁護士会]]所属)も、自身の弁護士事務所の職員全員とともに署名を行ったが、田瀬はその理由について「広瀬は教祖([[麻原彰晃|松本智津夫]])の[[マインドコントロール]]下で犯行におよんでおり、一貫して罪を悔いているため、死刑は重すぎると思ったが、本事件の犯人たちは誰から指示されたわけでもなく凶悪な犯行におよんだ。死刑が言い渡されなければ、女性が夜道を歩くことが命賭けになってしまう」と述べている{{Sfn|読売新聞社会部|2009|pp=208-209}}。}}{{Sfn|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}<ref name="読売新聞2015-06-26">『読売新聞』2015年6月26日中部朝刊社会面31頁「闇サイト殺人 被害者母「一つの区切り」 極刑求め活動=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。また、第一審の第13回公判<ref name="公判について"/>(2008年12月8日)<ref name="中日新聞2008-12-09"/>、控訴審の第3回公判(2010年10月18日)ではそれぞれ証人として出廷し、被告人らへの死刑適用を求めた<ref>『中日新聞』2010年10月19日朝刊第三社会面32頁「『生きて一生償いたい』 闇サイト事件 控訴審で堀被告」(中日新聞社)</ref>。

また、Bは当時の[[鳩山邦夫]][[法務大臣]]や{{Efn2|公判の早期開始や、インターネット上の有害サイトの法規制、(凶悪犯罪に対し厳罰を下すことで犯罪の抑止力を発揮するための)法改正・法整備を求める手紙(2008年3月3日付)<ref name="中日新聞2008-03-04"/>。その後、鳩山は同月6日付でBに対し「『凶悪犯罪に対する厳罰が犯罪の抑止力になる』という考えは同感だ。インターネットを使った犯罪など、新しい類型の犯罪を考える必要もある」という趣旨の返信を送っている<ref>『中日新聞』2008年3月11日朝刊第一社会面35頁「千種拉致殺害 母の手紙 法相返信 サイト対策に理解」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="中日新聞2008-03-04">『中日新聞』2008年3月4日朝刊第一社会面35頁「千種の拉致殺害 Aさんの母 法相あてに直訴の手紙 始まらぬ公判 有害サイト放置」(中日新聞社)</ref>、[[検事総長]]に対し、それぞれ請願の手紙を送ったほか<ref name="中日新聞2015-06-25 社会"/>、平成23年度版『犯罪被害者白書』に手記を寄せた<ref>{{Cite book|和書|title=犯罪被害者白書 平成23年度|publisher=[[内閣府]]|date=2011-06-01|pages=16-17|url=https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2011/html/gaiyou/part3/c5.html|format=html|accessdate=2021-03-21|id={{NDLJP|3492287}}|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321132525/https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2011/html/gaiyou/part3/c5.html|archivedate=2021-03-21}}</ref><ref>{{Cite news|title=「被害者1人でも死刑を」署名活動した母親 死刑容認派は8割|newspaper=産経ニュース|date=2015-06-25|url=https://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250053-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=1|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321133652/https://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250053-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref><ref>『産経新聞』2015年6月25日東京朝刊社会面「名古屋闇サイト殺人死刑執行 母親の執念、署名30万超」([[産経新聞東京本社]])</ref>。また、「緒あしす」{{Efn2|「NPO法人 犯罪被害当事者ネットワーク 緒あしす」(2000年9月に、東海地方で初めての犯罪被害者自助グループとして設立)<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.oasis2000.com/about.html|title=緒あしすとは|accessdate=2021-03-21|publisher=NPO法人 犯罪被害当事者ネットワーク 緒あしす|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321130734/http://www.oasis2000.com/about.html|archivedate=2021-03-21}}</ref>。}}や「[[殺人事件被害者遺族の会|宙の会]]」{{Efn2|Bは2012年3月に「宙の会」へ入会し、同年以降は[[豊明母子4人殺害事件]](2004年9月9日に愛知県豊明市で発生・[[未解決事件|未解決]])の被害者遺族とともに<ref>『毎日新聞』2012年9月3日中部朝刊社会面21頁「愛知・豊明の放火殺人:未解決のまま8年 罪償って 思いは同じ 「闇サイト」被害者母がビラ」(毎日新聞中部本社 記者:岡大介、沢田勇)</ref>、同事件の発生日に情報提供を呼びかけるビラを配布する活動を行っている<ref name="中日新聞2015-06-25 社会"/>。Bが「宙の会」に入会したきっかけは、自身が犯人3人への死刑を求める署名活動を行っていた際に豊明事件の被害者遺族から協力を受けたことである<ref>{{Cite news|和書 |title=「深く傷ついた身を、さらに削られる覚悟がいる」 それでも遺族が事件を語るのは… |newspaper=[[中日新聞]] |date=2024-09-15 |author=編集委員・加藤美喜 |url=https://www.chunichi.co.jp/article/958158 |access-date=2024-10-06 |publisher=[[中日新聞社]] |language=ja |archive-url=https://web.archive.org/web/20241006122107/https://www.chunichi.co.jp/article/958158 |archive-date=2024年10月6日}}</ref>。}}といった犯罪被害者の自助団体{{Efn2|自助グループのメンバーの1人として、[[大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件]](1994年)の被害者遺族(「[[長良川]]事件」の被害者の父親)がいる<ref name="中日新聞2011-04-13 社会">『中日新聞』2011年4月13日朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 「誰のための裁判か」 Aさん母、無念 名高裁判決 「被害者目線なかった」」(中日新聞社)</ref>。}}に参加したり、犯罪被害者遺族の支援拡大を訴え、講演{{Efn2|2022年8月時点で、全国各地で100回以上の講演活動を行った<ref name="中日新聞2022-08-25"/>ほか、「事件を若い人にも知ってほしい」とインターネット上での討論会にも参加した<ref>『中日新聞』2017年8月24日朝刊第11版一面1頁「闇サイト殺人10年 「社会を変えたい」 娘の死 母は語り続ける」(中日新聞社 記者:塚田真裕)</ref>。}}などの活動を行っている<ref name="中日新聞2015-06-25 社会">『中日新聞』2015年6月25日夕刊第一社会面11頁「3人極刑求め法相らに請願 Aさんの母」(中日新聞社)</ref>。以下は主張・希望の概要である。
* 「加害者の更生という未来の不確定なことを前提にして裁くのではなく、まじめに生きている人を守ることを優先して裁く司法であってほしい」<ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/7/|accessdate=2022-02-01|publisher=産業経済新聞社|page=7|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220201142725/https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/7/|archivedate=2022年2月1日}}</ref>
* 死刑制度は存置すべきで、[[日本弁護士連合会]](日弁連)が2016年10月7日に採択した「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」とする宣言{{Efn2|同宣言で、日弁連は死刑制度の代替として[[終身刑]]を提案しているが、Bは「被害者遺族も払っている税金を使って加害者を生かす制度(死刑制度に代わる終身刑)は必要ない」と述べている<ref>『毎日新聞』2016年12月18日東京朝刊東京都内地方版27頁「シンポジウム:死刑巡り 遺族「制度存置を」 /東京」(毎日新聞東京本社)</ref>。}}<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html|title=死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言|accessdate=2021-03-22|publisher=[[日本弁護士連合会]]|date=2016-10-07|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210322121001/https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html|archivedate=2021-03-22}}</ref><ref>{{Cite news|title=日弁連がついに「死刑廃止」宣言を採択 野次や声援飛び交うなか…福井市の人権擁護大会|newspaper=産経ニュース|date=2016-10-07|url=https://www.sankei.com/article/20161007-2B5L4NX7OBPXVGAGUN5WP25L7Q/|accessdate=2022-02-01|publisher=産業経済新聞社|page=1|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220201143856/https://www.sankei.com/article/20161007-2B5L4NX7OBPXVGAGUN5WP25L7Q/|archivedate=2022年2月1日}}</ref> には反対。死刑反対論者は、自分や大切な人がいつ犯罪に巻き込まれるかもしれないということを想像すべきだ<ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/10/|accessdate=2022-02-01|publisher=産業経済新聞社|page=10|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220201142727/https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/10|archivedate=2022年2月1日}}</ref><ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/11/|accessdate=2022-02-01|publisher=産業経済新聞社|page=6|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220201142716/https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/11/|archivedate=2022年2月1日}}</ref>。
* 裁判官は(殺害された)被害者の数だけでなく、犯罪内容を見て裁くべきだ<ref>『中日新聞』2014年1月24日朝刊市民版16頁「「娘の事件忘れないで」 闇サイト事件の遺族講演 守山署」(中日新聞社)</ref><ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/8/|accessdate=2022-02-01|publisher=産業経済新聞社|page=8|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220201142719/https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/8/|archivedate=2022年2月1日}}</ref><ref>『毎日新聞』2017年9月15日中部朝刊愛知地方版21頁「にじ:司法の常識 /愛知」(毎日新聞中部本社 記者:金寿英)</ref>。
* 被疑者や被告人だけでなく、被害者やその家族の[[人権]]や処遇を[[日本国憲法|憲法]]に明記すること{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|p=207}}。
* 有害サイトの規制強化が必要<ref name="朝日新聞2018-06-15"/>。
* 子供のうちからネットの危険性を教えることで、(同種犯罪の)抑止に繋がってほしい<ref name="中日新聞2022-08-25"/>。
また、「加害者3人からの謝罪は望んでいない」と明言し{{Efn2|「更生を望んでいない」という理由について、Bは[[小倉孝保]]の取材に対し、「もし犯人たちが本気で謝罪してきたら、人間らしさを取り戻して『悪い人』から『良い人』になってしまう。そうすると、『良い人』である娘との距離が近くなってしまい、娘がまた怖い思いをするのではないかと思うから」と述べている{{Sfn|小倉孝保|2011|pp=89-90}}。}}<ref name="中日新聞2009-02-03"/>、堀が本事件の刑事裁判で自身に謝罪<ref group="注" name="堀の謝罪"/>した一方、それ以前の余罪(碧南事件など)を自供せず隠していたこと{{Efn2|堀は自著 (2019) で、本事件で逮捕された際に碧南事件などの余罪を自供しなかった理由を「余罪について追及されなかったから」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=167-168}}ほか、碧南事件の公判では「(自分の)子供が離れていくのが怖かった」と述べている<ref>『朝日新聞』2015年12月4日名古屋朝刊第一社会面35頁「「子が離れるのが怖かった」 自白しなかった理由答える 碧南事件 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。Bは堀が碧南事件などで再逮捕・起訴されたことに関し、「本当に反省していたなら、碧南事件についても自供していたはずだ」と指摘している<ref>『中日新聞』2012年8月25日朝刊第一社会面35頁「碧南夫婦強殺 3人起訴 「死刑求めたい」 Aさんの母」(中日新聞社)</ref>。}}や、「山下」が第一審判決後に「悪いことはばれなきゃいい」と発言したことを厳しく批判している<ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/6/|accessdate=2022-02-01|publisher=産業経済新聞社|page=6|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220201142641/https://www.sankei.com/article/20161224-NBJKHISW2VM4XFNKFCRJI2IZJQ/6/|archivedate=2022年2月1日}}</ref>。

=== 類似事件 ===
[[2017年]](平成29年)に発覚した'''[[座間9人殺害事件]]'''は、[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|会員制交流サイト (SNS) ]]に自殺願望を書き込んだ若者たちが標的にされた{{Efn2|name="エスカレート"|[[森井昌克]]([[神戸大学]]大学院教授・情報通信工学)は、「インターネット上では、本当の自分が知られていないので気が大きくなり、虚勢がエスカレートする」と、[[碓井真史]]([[新潟青陵大学]][[教授]]・社会心理学)は、「インターネットの場合、『自殺したい』など、現実社会では言いにくいことでも話せる上、そのような話が具体的になった際にもブレーキがかからず、エスカレートしやすい。集団だと特にその傾向が出て、現実世界では考え付かないような行動に走ることがある」と指摘している<ref>『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第二社会面24頁「闇サイト 凶行またも 匿名、ふくらむ虚勢」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1158頁</ref>。}}<ref name="中日新聞2019-04-16"/>。

[[2018年]](平成30年)6月には、[[静岡県]][[藤枝市]]の山中で女性看護師の遺体が発見される事件が発生したが<ref name="中日新聞2019-04-16">『中日新聞』2019年4月26日朝刊県内版12頁「平成の事件簿 愛知 (中) ネット 犯罪防ぐ対策不可欠」(中日新聞社 記者:河北彬光)</ref>、同事件はインターネットの掲示板で知り合った男3人{{Efn2|同事件では、拉致を主導したとされる男(事件後に自殺)が、被疑者死亡のまま殺人・死体遺棄・営利目的略取・逮捕監禁の各容疑で[[書類送検]]された<ref>{{Cite news|title=看護師殺害 自殺の男を書類送検 殺人、死体遺棄など4容疑 静岡|newspaper=[[産経新聞|産経ニュース]]|date=2018-10-16|url=https://www.sankei.com/region/news/181016/rgn1810160026-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=[[産業経済新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122645/https://www.sankei.com/region/news/181016/rgn1810160026-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>(後に[[不起訴処分]])<ref>{{Cite news|title=看護師殺害、男を不起訴 拉致主導役 静岡地検|newspaper=産経ニュース|date=2018-10-18|url=https://www.sankei.com/affairs/news/181018/afr1810180039-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122723/https://www.sankei.com/affairs/news/181018/afr1810180039-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。また、共犯の男2人も殺人容疑については不起訴処分となり<ref>{{Cite news|title=看護師遺棄、殺人容疑で再逮捕の男2人を不起訴|newspaper=[[朝日新聞デジタル]]|date=2018-09-26|url=https://www.asahi.com/articles/ASL9V5D8PL9VUTPB00Z.html|accessdate=2021-03-21|publisher=[[朝日新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321123110/https://www.asahi.com/articles/ASL9V5D8PL9VUTPB00Z.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>、1人(営利略取罪・逮捕監禁罪で起訴)は懲役4年の刑が確定<ref>{{Cite news|title=看護師拉致で懲役4年確定 営利略取と監禁の28歳男|newspaper=産経ニュース|date=2019-01-07|url=https://www.sankei.com/affairs/news/190107/afr1901070006-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321123621/https://www.sankei.com/affairs/news/190107/afr1901070006-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。もう1人は営利目的略取・逮捕監禁・詐欺・死体遺棄の罪に問われ<ref>{{Cite news|title=ネットで集まった男たちの凶行 2つの公判でも真相分からぬまま|newspaper=産経ニュース|date=2019-02-16|author=石原颯(産経新聞静岡支局)|url=https://www.sankei.com/premium/news/190216/prm1902160010-n3.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=3|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321124029/https://www.sankei.com/premium/news/190216/prm1902160010-n3.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>、懲役7年の刑を言い渡されている<ref>{{Cite news|title=浜松看護師遺棄・被告に懲役7年判決 静岡地裁浜松支部|newspaper=産経ニュース|date=2019-02-15|url=https://www.sankei.com/affairs/news/190215/afr1902150006-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122452/https://www.sankei.com/affairs/news/190215/afr1902150006-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。}}が被害者の女性を拉致し、遺体を山中に遺棄した事件として、本事件との共通性が指摘されている<ref name="朝日新聞2018-06-15">{{Cite news|title=「全てが娘と重なる」 闇サイト被害者の母が胸中語る|newspaper=朝日新聞デジタル|date=2018-06-15|author=松本龍三郎|url=https://www.asahi.com/articles/ASL6G4TNSL6GUTIL021.html|accessdate=2021-03-21|publisher=朝日新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321121201/https://www.asahi.com/articles/ASL6G4TNSL6GUTIL021.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref><ref>{{Cite news|title=【特集】闇サイト 消えない“不条理” 「ダークウェブ」を絶て|newspaper=共同通信|date=2018-07-03|author=柴田友明|url=https://this.kiji.is/386759807099110497|accessdate=2021-03-21|agency=[[共同通信社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122015/https://this.kiji.is/386759807099110497|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。[[渋井哲也]]は、SNSが従来の闇サイトの代わりとして、特殊詐欺や強盗などの共犯者を募る場として悪用されている旨を指摘している<ref name="中日新聞2022-08-25">『中日新聞』2022年8月25日朝刊第12版第一社会面29頁「名古屋 闇サイト殺人15年 「闇の求人」今も SNS温床 事件続く」(土屋晴康、塚田真裕)「講演続けるBさん 娘を忘れてほしくない」(斉藤和音)(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2022年(令和4年)8月号837頁。</ref>。

== 事件を題材にした作品など ==
=== 書籍 ===
元刑務官の河村龍一は、「凶悪犯罪の抑止力として[[刑法 (日本)|刑法]][[厳罰化]]を強く訴える」として、2013年9月に『闇サイト殺人事件の遺言 <small>「一人だけなら死刑にならない」日本の安全神話が崩壊する</small>』([[ごま書房新社VM|ごま書房新社]])を出版している<ref>{{Cite book|和書|title=闇サイト殺人事件の遺言 <small>「一人だけなら死刑にならない」日本の安全神話が崩壊する</small>|publisher=[[ごま書房新社VM|ごま書房新社]]|date=2013-09-13|author=河村龍一|edition=|isbn=978-4341085636|NCID=BB15609120|id={{国立国会図書館書誌ID|024803366}}・{{全国書誌番号|32980698}}}}</ref>。

[[大崎善生]](作家)は2014年(平成26年)以降、本事件に関するノンフィクションを執筆するため、Aの母親Bへのインタビュー{{Efn2|Bは当初、大崎からの取材を断っていたが、その後は全面的に協力するようになった<ref name="東京新聞2017-04-23"/>。}}を継続的に行い、2016年(平成28年)11月30日に[[角川書店]]から被害者Aの生い立ちや、母Bとともに生きた31年間の生涯などを描いたノンフィクション『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』を出版した{{Efn2|大崎は2017年に「取材のきっかけは、事件当時にAの顔写真を見て『こんな普通の子が…』と思ったことだ。母1人子1人の生い立ちなどを知って引き込まれていった。地域は徐々に日常を取り戻しつつあるが、同様の事件はいつでも起こり得る。被害者の『命の闘い』を忘れてはならない」<ref>『中日新聞』2017年8月25日第三社会面30頁「命の闘い忘れるな」(作家・[[大崎善生]]の話)</ref>「事件ものとしてではなく、母娘の物語として描いた。静かに家族のことを書く方が、事件がより鮮明になるのではないかという気がした」と述べている<ref>『読売新聞』2017年1月17日東京朝刊文化面12頁「「いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件」 大崎善生さん 静かに 母娘の物語」(読売新聞東京本社 文化部記者:十時武士)</ref>。}}<ref name="東京新聞2017-04-23">『東京新聞』2017年4月23日朝刊読書第二面8頁「書く人 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 作家・大崎善生さん(59) 被害女性の人生残す」(中日新聞東京本社 記者:森本智之)</ref>。

また、加害者の1人である堀慶末は2019年8月に碧南事件で死刑が確定したが<ref name="中日新聞2019-08-10"/>、その直前(2019年5月)には[[インパクト出版会]]から自身の半生や本事件・碧南事件などを回顧した著書『鎮魂歌』(書名の読み:レクイエム)を出版している{{Sfn|堀慶末|2019|p=243}}。[[日本放送協会]] (NHK) の「事件の涙」取材班は、遺族の事件後の動向を取材したり、立花江里香([[NHK名古屋放送局]]報道部)が無期懲役刑で服役している「山下」と文通を行うなどして、堀の死刑確定後(2020年2月)に[[新潮社]]から『娘を奪われたあの日から ―名古屋闇サイト殺人事件・遺族の12年―』を出版した{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020}}。

=== 映像作品 ===
[[東海テレビ放送]]の[[ドキュメンタリー]]チーム{{Efn2|ドキュメンタリーチームは2006年から司法関連のドキュメンタリー番組を相次いで制作しており、本作はその第5弾<ref name="読売新聞2009-04-11">『読売新聞』2009年4月11日中部朝刊愛知県版第二地方面22頁「裁判とどう向き合うか あす東海テレビでドキュメンタリー=愛知」(読売新聞中部支社)</ref>。『裁判長のお弁当』(2007年)が[[ギャラクシー賞|ギャラクシー大賞]]を受賞<ref name="読売新聞2009-04-11"/>。また、2006年には[[名張毒ぶどう酒事件]]を題材とした『「重い扉」~名張毒ぶどう酒事件の45年~』(第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品)が<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.fujitv.co.jp/b_hp/fnsaward/15th/06-204.html|title=第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『「重い扉」~名張毒ぶどう酒事件の45年~』 (東海テレビ)|accessdate=2021-03-20|publisher=[[フジテレビジョン]]|date=2006-07-08|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201001084921/https://www.fujitv.co.jp/b_hp/fnsaward/15th/06-204.html|archivedate=2021-03-20}}</ref>、2008年には同じく名張事件を題材にした『黒と白~自白・名張毒ぶどう酒事件の闇~』や、[[光市母子殺害事件]]の弁護団に焦点を当てた『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』(2008年)が制作され、ともに「日本民間放送連盟賞」(中部・北陸地区審査会)の1位を受賞している<ref>{{Cite press release|和書|title=『日本民間放送連盟賞』 中部・北陸地区審査会 報道部門・教養部門ダブルで1位!|publisher=[[東海テレビ放送]]|date=2008-07-04|url=https://www.tokai-tv.com/press/pdf/2008/080704_01.pdf|format=PDF|language=ja|accessdate=2021-03-20|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320153905/https://www.tokai-tv.com/press/pdf/2008/080704_01.pdf|archivedate=2021-03-20}}</ref>。}}は2008年夏以降、[[裁判員制度]]開始(2009年5月)を控え、本事件の被害者Aの母親Bのほか、同じ東海地方で発生した凶悪事件の被害者遺族{{Efn2|[[半田保険金殺人事件]](1983年)の被害者の兄および、[[大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件]](1994年・「長良川事件」)の被害者の父親<ref>『朝日新聞』2009年4月10日名古屋夕刊ポップ6頁「死刑―被害者遺族の思いは 12日、東海テレビ放送 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社 記者:増田愛子)</ref>。}}を取材し、2009年4月12日にドキュメンタリー番組『罪と罰 -娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父-』を放送した<ref name="読売新聞2009-04-11"/>(ナレーター:[[藤原竜也]])<ref name="罪と罰">{{Cite web|和書|url=https://www.tokai-tv.com/tsumibatsu/|title=罪と罰 ―娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父―|accessdate=2021-03-20|publisher=[[東海テレビ放送]]|date=2009-04-12|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320143219/https://www.tokai-tv.com/tsumibatsu/|archivedate=2021-03-20}}</ref>。
* 東海テレビは同番組放送以降も、被害者Aの母親Bを継続取材し、「事件前の母娘の物語」を再現したドキュメンタリードラマ『Home(ホーム) 東海テレビ開局60周年記念 ドキュメンタリードラマ』[プロデューサー:[[阿武野勝彦]](東海テレビ)、監督・脚本:齊藤潤一(東海テレビ)、助監督・ドキュメンタリー取材:繁澤かおる]<ref name="Home">{{Cite web|和書|url=https://www.tokai-tv.com/home/|title=Home(ホーム) 東海テレビ開局60周年記念 ドキュメンタリードラマ|accessdate=2021-03-20|publisher=東海テレビ放送|date=2018-12-25|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320145138/https://www.tokai-tv.com/home/|archivedate=2021-03-20}}</ref> を2018年12月25日19時00分 - 21時00分に放送<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.tokai-tv.com/ichioshi/|title=いちおし番組|accessdate=2021-03-20|publisher=東海テレビ放送|date=2019-01|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320150127/https://www.tokai-tv.com/ichioshi/|archivedate=2021-03-20}}</ref>。同作では被害者Aを[[佐津川愛美]](子供時代:[[矢崎由紗]])が、母親Bを[[斉藤由貴]]が演じた<ref name="Home"/>。その後、同番組を再構成した[[映画]]作品『おかえり ただいま』([[映画監督|監督]]:齊藤潤一)が<ref>{{Cite news|title=深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.601 被害者と加害者の両視点で描く東海テレビの力作 闇サイト事件を劇映画化『おかえり ただいま』|newspaper=[[サイゾー|日刊サイゾー]]|date=2020-09-18|author=長野辰次|url=https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry.html|accessdate=2021-03-20|publisher=株式会社サイゾー|page=1|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320151042/https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry.html|archivedate=2021年3月20日}}</ref>、2020年9月19日から劇場公開された<ref name="映画化">{{Cite news|title=カネ欲しさに見知らぬ女性を拉致・殺害…「死刑囚」の生い立ちを追って 名古屋闇サイト殺人事件が映画化|newspaper=弁護士ドットコムニュース|date=2020-09-11|author=編集部・吉田緑|url=https://www.bengo4.com/c_23/n_11676/|accessdate=2021-03-20|publisher=[[弁護士ドットコム]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320142155/https://www.bengo4.com/c_23/n_11676/|archivedate=2021年3月20日}}</ref>。
;その他テレビ番組
* 『[[テレメンタリー]]2008 ネット社会に潜む“闇” ~名古屋・女性拉致殺害事件~』[制作局:[[名古屋テレビ放送]](メ~テレ)] - 2008年2月12日に[[テレビ朝日系列]]で放送<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.tv-asahi.co.jp/telementary_archives/contents/backnumber/0225/|title=ネット社会に潜む闇~名古屋・女性拉致殺害事件~2008年2月11日放送~|accessdate=2021-06-06|publisher=[[テレビ朝日]]|date=2008-02-11|website=[[テレメンタリー]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210606142601/https://www.tv-asahi.co.jp/telementary_archives/contents/backnumber/0225/|archivedate=2021-06-06}}</ref>。ディレクター:酒井千絵、プロデューサー:赤地龍也ほか(ナレーション:[[屋良有作]])<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.bpcj.or.jp/search/show_detail.php?program=143522|title=検索結果 テレメンタリー2008 ネット社会に潜む“闇” ~名古屋・女性拉致殺害事件~|accessdate=2021-06-06|publisher=[[放送ライブラリー]]|date=2008-02-12|website=[https://www.bpcj.or.jp/ 放送ライブラリ公式ページ]|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210606130949/https://www.bpcj.or.jp/search/show_detail.php?program=143522|archivedate=2021-06-06}} - 同番組は、[[放送ライブラリー]]([[神奈川県]][[横浜市]][[中区 (横浜市)|中区]])の視聴ブースにて番組ID「201232」を入力することで視聴が可能。</ref>。
* 『[[NNNドキュメント]]'09 カネとイノチ 名古屋 闇サイト殺人事件の580日』[制作・放送局:[[中京テレビ放送]] (CTV) ] - 2009年3月30日(29日深夜)に放送<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.ntv.co.jp/document/back/200903.html|title=バックナンバー|accessdate=2021-06-06|publisher=[[日本テレビ放送網]]|date=2009-03-29|website=[[NNNドキュメント]]|quote=2009年3月29日(日)/30分枠 25:55~ カネとイノチ 名古屋 闇サイト殺人事件の深層|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210606142814/https://www.ntv.co.jp/document/back/200903.html|archivedate=2021-06-06}}</ref>。構成:渡辺祐史、制作:上原淳ほか(語り:[[小山茉美]])<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.bpcj.or.jp/search/show_detail.php?program=143649|title=検索結果 NNNドキュメント’09 カネとイノチ 名古屋 闇サイト殺人事件の580日|accessdate=2021-06-06|publisher=放送ライブラリー|date=2009-03-30|website=放送ライブラリ公式ページ|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210606130952/https://www.bpcj.or.jp/search/show_detail.php?program=143649|archivedate=2021-06-06}} - 同番組は、放送ライブラリー(神奈川県横浜市中区)の視聴ブースにて番組ID「203473」を入力することで視聴が可能。</ref>。
* 『テレメンタリー2009 裁きの瞬間(とき) ~「闇サイト」殺人事件に判決~』(制作局:メ~テレ) - 2009年5月2日にテレビ朝日系列で放送<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.tv-asahi.co.jp/telementary_archives/contents/backnumber/0291/|title=裁きの瞬間~『闇サイト』女性殺害事件に判決~2009年4月27日放送~|accessdate=2021-06-06|publisher=テレビ朝日|date=2008-02-11|website=テレメンタリー|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210606142550/https://www.tv-asahi.co.jp/telementary_archives/contents/backnumber/0291/|archivedate=2021-06-06}}</ref>。ディレクター:酒井千絵、プロデューサー:早川健一ほか(ナレーション:[[鈴木弘子]]、声:[[最上嗣生]]、声:[[川田紳司]])<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.bpcj.or.jp/search/show_detail.php?program=161827|title=検索結果 テレメンタリー2009 裁きの瞬間(とき) ~「闇サイト」殺人事件に判決~|accessdate=2021-06-06|publisher=放送ライブラリー|date=2009-05-02|website=放送ライブラリ公式ページ|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210606130955/https://www.bpcj.or.jp/search/show_detail.php?program=161827|archivedate=2021-06-06}} - 同番組は、放送ライブラリー(神奈川県横浜市中区)の視聴ブースにて番組ID「204830」を入力することで視聴が可能。</ref>。
* 『[[ザ!世界仰天ニュース]]』(制作:[[日本テレビ放送網|日本テレビ]]、放送:[[日本テレビ系列]]) - 2017年5月23日放送分にて、本事件を題材にした「史上最低最悪の男達に殺された娘」が放送された<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20170523_05.html|title=史上最低最悪の男達に殺された娘|accessdate=2021-03-20|publisher=[[日本テレビ放送網]]|date=2017-05-23|website=[[ザ!世界仰天ニュース]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201202015041/https://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20170523_05.html|archivedate=2020-12-02}}</ref>。
* 『実録!マサカの衝撃事件』(製作:[[ディ・コンプレックス|ディコンプレックス]]・[[TBSテレビ|TBS]]、放送:[[ジャパン・ニュース・ネットワーク|TBS系列局]]) - 2017年10月9日放送<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.tbs.co.jp/program/masaka_jiken20171009.html|title=実録!マサカの衝撃事件|accessdate=2021-03-20|publisher=[[TBSテレビ]]|date=2017-10-09|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320143925/http://www.tbs.co.jp/program/masaka_jiken20171009.html|archivedate=2021-03-20}}</ref>。
* 『事件の涙 Human Crossroads』[制作:[[日本放送協会]] (NHK) 、放送:[[NHK総合テレビジョン]]] - 2017年12月27日に放送。語り:[[長塚圭史]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92894/2894203/|title=事件の涙 Human Crossroads|accessdate=2018-09-01|publisher=[[日本放送協会]]|date=2017-12-27|website=[[NHK総合テレビジョン]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180901131604/https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92894/2894203/|archivedate=2018-09-01|url-status=dead|url-status-date=2021-03-20}}</ref>。
* 『[[NHKニュースおはよう日本]]』[制作:日本放送協会 (NHK) 、放送:NHK総合テレビジョン] - 2019年7月27日放送分「けさのクローズアップ」にて、「“闇サイト殺人事件” 娘を奪われた遺族の思い」と題し本事件が取り上げられた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2019/07/0727.html|title=けさのクローズアップ “闇サイト殺人事件” 娘を奪われた遺族の思い|accessdate=2019-11-16|publisher=日本放送協会|date=2019-07-27|website=[[NHKニュースおはよう日本]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20191116022459/https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2019/07/0727.html|archivedate=2019-11-16|url-status=dead|url-status-date=2021-03-20}}</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
{{Notelist2|20em}}
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
=== 出典 ===
{{Reflist|20em}}
'''以下の出典において、記事名に本事件当事者及び[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の被害者遺族の実名が使われている場合、この箇所を本項目で用いているその人物の仮名及び伏字とする。'''

;[[中日新聞]]([[東京新聞]])の出典
== 参考文献 ==
{{Reflist|group="中日"}}
'''本事件における刑事裁判の[[判決 (日本法)|判決]]文・[[裁判#裁判の形式|決定]]'''
;その他の報道出典
* [[審級|第一審]]判決 - {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|名古屋地裁|2009}}|事件番号=平成21年(わ)第1863号・平成21年(わ)第2010号・平成21年(わ)第2130号|裁判年月日=2009年(平成21年)3月18日|裁判所=[[名古屋地方裁判所]]|法廷=刑事第6部|裁判形式=判決|判例集=LLI/DB 判例秘書登載【判例番号】:L06450230|事件名=[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取]]、[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁]]、[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]、[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄]]、[[窃盗罪|窃盗未遂]]各被告事件、[[強盗・強制性交等罪|強盗強姦未遂]]、[[住居侵入罪|建造物侵入]]各被告事件|判示事項=【判示事項】「闇の職業安定所」なるインターネット上の掲示板を見たり、書き込みをするなどしていた被告人3名が、共謀の上、金銭を得る目的で、帰宅途中の会社勤めの若い女性を営利目的で略取し、自動車内にら致監禁して金品を強取し、暴行脅迫を加え、殺害して死体を遺棄し、被告人Y3が、前記犯行の際に、加えて被害者を強姦しようとし、かつ、被告人が他の共犯者と共に、別に建造物侵入、窃盗未遂の犯行を行った営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂等各被告事件について、被告人Y1及び同Y2を死刑に処し、被告人Y3につき自首を考慮し、無期懲役に処した事例 (判例秘書) }} - 収録データベース:『判例秘書BASIC』は、[[東京都立図書館#東京都立中央図書館|東京都立中央図書館]]・[[東京都立図書館#東京都立多摩図書館|東京都立多摩図書館]]・[[世田谷区立図書館|世田谷区立中央図書館]]・世田谷区立経堂図書館・[[府中市立図書館 (東京都)|府中市立中央図書館]]で閲覧可能。世田谷区立経堂図書館を除き、複写が可能([https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/lib_info_tokyo/public/internet/ 参照:2020年12月時点])。
{{Reflist|group="報道"}}
** [[裁判官]]:[[近藤宏子]]([[裁判長]])・野口卓志・酒井孝之
;書籍出典
** [[被告人]]:KT(本文中「Y1」)・[[堀慶末]](本文中「Y2」)・「山下」(本文中「Y3」)
{{Reflist|group="書籍"}}
** [[判決 (日本法)|判決]][[主文]]:被告人Y1及び被告人Y2'ことY2を[[日本における死刑|死刑]]に処する。被告人Y3’ことY3を[[懲役#無期懲役|無期懲役]]に処する。被告人Y3’ことY3に対し、[[未決勾留]]日数中370日をその刑に算入する。([[求刑]]:被告人3名に対し、いずれも死刑)
;法務省発表
** [[検察官]]:川原幸夫・海津祐司
{{Reflist|group="法務省"}}
** 各被告人の[[弁護人]]
*** KTの[[国選弁護制度|国選]]弁護人:藏冨恒彦(主任)・福井秀剛
*** 堀の国選弁護人:渥美雅康(主任)・中山弦
*** 「山下」の国選弁護人:萱垣建(主任)・都築真琴
* [[控訴]]審判決 - {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|名古屋高裁|2011}}|事件番号=平成21年(う)第219号|裁判年月日=[[2011年]]([[平成]]23年)4月12日|裁判所=[[名古屋高等裁判所]]|法廷=刑事第2部|裁判形式=判決|事件名=営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂、強盗強姦未遂、建造物侵入各被告事件|判例集=『[[TKC]]ローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25670946|判示事項=|裁判要旨=インターネットの[[電子掲示板|掲示板]]を利用して集まった被告人らが、帰宅途中の被害女性を自動車内に押し込んで逮捕監禁し、暴行を加えて現金及びキャッシュカードを強取し、脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、同女を殺害してその死体を遺棄するなどした営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、強盗強姦未遂の事案において、殺害された被害者が1名である本件において、死刑の選択がやむを得ないと言えるほど他の量刑要素が悪質であるとは断じがたいことなどから、被告人A(堀慶末)を死刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、他方で、被告人B(「山下」)を無期懲役に処した原判決の量刑は結論において相当であるとして、原判決中、被告人Aに関する部分を破棄し、被告人Aを無期懲役に処した事例。 (TKC) }}
** 裁判官:[[下山保男]](裁判長)・柴田厚司・松井修
** 被告人
*** 堀慶末 - 営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂(求刑および原判決の[[量刑]]:死刑)
*** 「山下」 - 同上および強盗強姦未遂、建造物侵入(求刑:死刑/原判決の量刑:無期懲役)
** 判決主文の要旨:原判決([[名古屋地方裁判所|名古屋地裁]]:2009年3月18日)のうち、堀に関する部分を破棄([[自判]])。堀を無期懲役に処し、原審における[[未決勾留]]日数370日を刑期に算入。被告人「山下」と検察官の控訴をいずれも[[棄却]]
** 検察官
*** [[名古屋地方検察庁]]検察官:玉岡尚志 - 被告人「山下」に対し控訴し、控訴趣意書を作成
*** [[名古屋高等検察庁]]検察官:白井玲子・工藤恭裕 - 両被告人の控訴趣意書に対する答弁書を記載・提出、被告人「山下」に対する控訴趣意書を提出
** 被告人の弁護人
*** 堀の弁護人:長谷川龍伸(主任弁護人)・夏目武志・稲垣高志 - 控訴趣意書を連名作成
*** 「山下」の弁護人:成田龍一(主任弁護人)・金井正成・磯貝隆博 - 控訴趣意書を連名作成、および検察官の控訴趣意書に対する答弁書を連名作成
* 堀慶末(検察官が[[上告]])の上告審決定 - {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|最高裁|2012}}|事件番号=平成23年(あ)第844号|裁判年月日=[[2012年]](平成24年)7月11日|法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二[[小法廷]]|裁判形式=決定|判例集=集刑 第308号91頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82564|事件名=営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂被告事件|判示事項=被害者1名の強盗殺人等の事案につき無期懲役の量刑が維持された事例(名古屋闇サイト殺人事件)}}
** [[裁判#裁判の形式|決定]]主文:本件上告を棄却する。
** [[最高裁判所裁判官]]:[[千葉勝美]](裁判長)・[[竹内行夫]]・[[須藤正彦]]
** 収録文献 - {{Cite journal|和書|journal=最高裁判所裁判集 刑事|year=2012|title=平成24年7月11日決定 平成23年(あ)第844号|issue=308|pages=91-127|publisher=最高裁判所|ref={{SfnRef|集刑|2012}}|NCID=|id={{国立国会図書館書誌ID|000000086900}}・{{全国書誌番号|00092589}}}}:『最高裁判所裁判集 刑事』(集刑)2012年5月 - 10月号。検察官の上告趣意書が収録されている。
'''死刑囚KTの控訴審公判期日申立て事件(控訴取下げに対する異議申し立て)'''
* {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|名古屋高裁|2010}}|事件番号=事件番号は不明(TKCには未記載)<!--原典『高等裁判所刑事裁判速報集』(平成22年)号ならば記載されている可能性あり-->|裁判年月日=[[2010年]](平成22年)9月9日|裁判所=名古屋高等裁判所|法廷=刑事第2部|裁判形式=決定|判例集=『高等裁判所刑事裁判速報集』(平成22年)号123頁、『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25501106|事件名=控訴審における公判期日指定申立て事件|裁判要旨=死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効であることを理由にしてなされた公判期日指定の申立てに対し、被告人の行った控訴取下げを有効と認めて決定で控訴終了宣言がなされた事例。}}
** 決定主文:本件控訴は、平成21年4月13日取下げにより終了したものである。
** 申立人:死刑囚KTの弁護人
'''死刑囚KTおよび弁護人による[[国家賠償請求訴訟]]'''
* {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|名古屋地裁|2013}}|事件番号=平成21年(ワ)第4801号・平成22年(ワ)第7629号|裁判年月日=[[2013年]](平成25年)2月19日|裁判所=名古屋地方裁判所|法廷=民事第3部|裁判形式=判決|判例集=裁判所ウェブサイト掲載判例|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=83184|事件名=損害賠償請求事件|判示事項=1 刑事事件の第一審で死刑判決を受け,控訴した後にこれを取り下げ,当該取下げの無効を主張する者(以下「控訴の取下げの効力を争う死刑確定者」という。)と弁護人との面会に際し,拘置所長が立会いなしの面会を認めなかった措置について,刑訴法440条の趣旨に照らせば,控訴の取下げの効力を争う死刑確定者にも,弁護人選任権が保障され,弁護人と立会人なくして面会する法的利益が認められるとして,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。 2 上記1の措置の違法を主張する国家賠償請求訴訟のための訴訟代理人弁護士との立会いなしの面会を認めなかった拘置所長の措置について,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。}}
** 判決内容:原告の請求(賠償金:2,700万円)のうち、計145万2,000円の支払いを命じる
** 裁判官:德永幸藏(裁判長)・光野哲治・荻野文則
** [[原告]]:死刑囚KTおよび藏冨恒彦・福井秀剛(死刑囚KTの第一審における国選弁護人)
** [[被告]]:日本国
'''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]における[[堀慶末]]への判決文・決定文'''
* 第一審判決 - {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|名古屋地裁|2015}}|事件番号=平成24年(わ)第1701号・平成25年(わ)第156号|裁判年月日=[[2015年]](平成27年)12月15日|裁判所=[[名古屋地方裁判所]]|法廷=刑事第4部|裁判形式=判決|判例集=裁判所ウェブサイト掲載判例、『D1-Law.com』([[第一法規]]法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28240367|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85860|事件名=住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件|判示事項=被告人が、共犯者2名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して夫婦を殺害した住居侵入、強盗殺人と、その8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入、強盗殺人未遂の事案につき、死刑に処した事例|裁判要旨=}}
** [[判決 (日本法)|判決]][[主文]]:被告人を[[日本における死刑|死刑]]に処する。(求刑:同/被告人側控訴)
** [[裁判官]]:[[景山太郎]](裁判長)・小野寺健太・石井美帆
** 被告人:堀慶末(本事件の無期懲役刑で受刑中)
** 検察官・弁護人
*** [[名古屋地方検察庁]]検察官:川島喜弘・武井聡士・天日崇博
*** 堀被告人の弁護人:神谷明文(主任弁護人)・[[村上満宏]]・水野紀孝
'''主な参考書籍'''
* {{Cite book|和書|title=いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件|publisher=[[角川書店]]|date=2016-11-30|ref={{SfnRef|大崎善生|2016}}|author=大崎善生|authorlink=大崎善生|url=https://www.kadokawa.co.jp/product/321409000110/|edition=単行本版・初版第1刷発行|isbn=978-4041025222|NCID=BB22771898|id={{国立国会図書館書誌ID|027728705}}・{{全国書誌番号|22826969}}}}
* {{Cite book|和書|title=鎮魂歌|publisher=インパクト出版会|date=2019-05-25|ref={{SfnRef|堀慶末|2019}}|author=堀慶末|authorlink=堀慶末|editor=(発行人:深田卓)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/282|edition=第1刷発行|pages=|isbn=978-4755402968|NCID=BB28731557|id={{国立国会図書館書誌ID|029669758}}・{{全国書誌番号|23252937}}}}(書名の読み:レクイエム) - 堀の自著。「第13回 大道寺幸子・[[島田事件|赤堀政夫]]基金死刑囚表現展」特別賞受賞作。
* {{Cite book|和書|title=娘を奪われたあの日から 名古屋闇サイト殺人事件・遺族の12年|publisher=[[新潮社]]|date=2020-02-25|ref={{SfnRef|NHK「事件の涙」取材班|2020}}|author=NHK「事件の涙」取材班|authorlink=日本放送協会|url=https://www.shinchosha.co.jp/book/353141/|isbn=978-4103531418|NCID=BB3002967X|id={{国立国会図書館書誌ID|030248948}}・{{全国書誌番号|23350276}}}} - 執筆者は板垣淑子・立花江里香(ともに同書出版時点で[[NHK名古屋放送局]]報道部に所属)。
'''その他書籍'''
* {{Cite book|和書 |title=絶望裁判 平成「凶悪事件&異常犯罪」傍聴ファイル |publisher=[[小学館]] |date=2009-07-21 |pages=52-56 |ref={{SfnRef|中尾幸司|2009}} |author=中尾幸司 |edition=初版第1刷発行 |isbn=978-4093798020 |NCID=BA9102197X |chapter=第一章 シリアルキラー&異常殺人――常識を覆す動機とその手口―― > 愛知・名古屋市「闇の職安サイト」殺人事件 |id={{国立国会図書館書誌ID|000010411622}}・{{全国書誌番号|21634750}}}}
* {{Cite book|和書|title=死刑|publisher=[[中央公論新社]](発行人:[[浅海保]])|date=2009-10-30|pages=205-212|ref={{SfnRef|読売新聞社会部|2009}}|author=読売新聞社会部|authorlink=読売新聞|edition=再版発行(初版:2009年10月10日)|isbn=978-4120040634|NCID=BA91632135|id={{国立国会図書館書誌ID|000010590428}}・{{全国書誌番号|21690683}}|chapter=第四章 償いの意味 命の償いを求めた三二万人の署名}} - 『読売新聞』で2008年10月 - 2009年6月にかけて連載された4部構成の特集記事「死刑」を大幅加筆して書籍化したもの。該当部分の原典は2009年6月6日東京朝刊一面1頁「[死刑]償いの意味(1)闇サイト殺人 「極刑を」32万人署名」。
* {{Cite book|和書|title=ゆれる死刑 アメリカと日本|publisher=[[岩波書店]]|date=2011-12-08|pages=83-91|ref={{SfnRef|小倉孝保|2011}}|author=小倉孝保|authorlink=小倉孝保|url=https://www.iwanami.co.jp/book/b262702.html|edition=第1刷発行|isbn=978-4000254144|NCID=BB0772265X|chapter=第3章 遺された者の思い > 「二九六〇」に報いるために|id={{国立国会図書館書誌ID|023208592}}・{{全国書誌番号|22036181}}}}
* {{Cite book|和書|title=裁判員裁判における量刑評議の在り方について|publisher=[[法曹会]]|date=2012-10-20|ref={{SfnRef|司法研修所|2012}}|editor=司法研修所|editor-link=司法研修所|url=https://www.hosokai.or.jp/item/annai/data/201210.html|edition=第1版第1刷発行|isbn=978-4908108198|NCID=BB10590091|id={{国立国会図書館書誌ID|024032494}}・{{全国書誌番号|024032494}}|series=司法研究報告書|volume=63|issue=3}} - 司法研究報告書第63輯第3号(書籍番号:24-18)。「事件一覧表」には、1980年度 - 2009年度の30年間に死刑か無期懲役が確定した死刑求刑事件全346件の概要が掲載されているが、闇サイト事件の共犯者KT(2009年4月18日に死刑確定)は345番として掲載されている。
** 協力研究員 - [[井田良]]([[慶應義塾大学]]大学院教授)
** 研究員 - [[大島隆明]]([[金沢地方裁判所]]所長判事 / 委嘱時:[[横浜地方裁判所]]判事)・園原敏彦([[札幌地方裁判所]]判事 / 委嘱時:[[東京地方裁判所]]判事)・辛島明([[広島高等裁判所]]判事 / 委嘱時:[[大阪地方裁判所]]判事)
* {{Cite book|和書|title=死刑囚90人 とどきますか、獄中からの声|publisher=[[インパクト出版会]]|date=2012-05-23|ref={{SfnRef|フォーラム90|2012}}|author=死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90|editors=(編集委員:可知亮、国分葉子、高田章子、中井厚、深瀬暢子、[[安田好弘]]、深田卓 / 協力=[[福島瑞穂|福島みずほ]]事務所、死刑廃止のための大道寺幸子基金)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/208|pages=93-94|edition=発行|isbn=978-4755402241|NCID=BB09377869|id={{国立国会図書館書誌ID|023615338}}・{{全国書誌番号|22127584}}}}
* {{Cite book|和書|title=死刑囚監房から 年報・死刑廃止2015|publisher=インパクト出版会|date=2015-10-10|ref={{SfnRef|年報・死刑廃止|2015}}|author=年報・死刑廃止編集委員会|editor=(編集委員:岩井信・可知亮・笹原恵・島谷直子・高田章子・永井迅・安田好弘・深田卓) / (協力:死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90・死刑廃止のための大道寺幸子基金・深瀬暢子・国分葉子・岡本真菜)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/246|pages=126-141,241|edition=第1刷発行|isbn=978-4755402616|NCID=BB19673314|id={{国立国会図書館書誌ID|026759091}}・{{全国書誌番号|22671713}}}}
* {{Cite Kotobank|闇サイト殺人事件|encyclopedia=[[知恵蔵]](金谷俊秀:2016年)|accessdate=2021-03-21|ref={{SfnRef|コトバンク|2016}}}}
* {{Cite book|和書|title=死刑賛成弁護士|publisher=[[文藝春秋]]|date=2020-07-20|pages=173-185,198-208|ref={{SfnRef|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020}}|author=犯罪被害者支援弁護士フォーラム|url=https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166612741|edition=第1刷発行|series=[[文春新書]]|isbn=978-4166612741|NCID=BB31540047|id={{国立国会図書館書誌ID|030501887}}・{{全国書誌番号|23419451}}|issue=1274}}
* {{Cite book|和書|title=コロナ禍のなかの死刑 年報・死刑廃止2020|publisher=インパクト出版会|date=2020-10-10|ref={{SfnRef|年報・死刑廃止|2020}}|author=年報・死刑廃止編集委員会|editor=(編集委員:岩井信・可知亮・笹原恵・島谷直子・高田章子・永井迅・安田好弘・深田卓) / (協力:死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90・死刑廃止のための大道寺幸子基金・深瀬暢子・国分葉子・岡本真菜)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/300|edition=第1刷発行|isbn=978-4755403064|NCID=BC03101691|id={{国立国会図書館書誌ID|030661462}}・{{全国書誌番号|23468950}}}}
'''雑誌'''
* {{Cite journal|和書|journal=[[週刊現代]]|title=シリーズルポ 事件の深淵 “第4の実行犯”が激白 名古屋「闇サイト殺人」の真相 後編 「主犯」K被告・38歳 死刑逃れの卑劣 大反響!Aさんを惨殺した3被告と行動をともにした男が明かす「全貌」|volume=51|date=2009-03-21|issue=11|pages=166-169|publisher=[[講談社]]|NCID=|id={{国立国会図書館書誌ID|10170346}}|ref={{SfnRef|週刊現代|2009}}}} - 2009年3月21日号(通巻2515号)
* {{Cite journal|和書|journal=[[中央公論]]|author=[[福田ますみ]]|title=特集 大震災で忘れ去られたニュース 闇サイト殺人控訴審判決と「永山基準」の行方|volume=127|date=2011-12-10|url=https://chuokoron.jp/chuokoron/backnumber/116749.html|issue=2|pages=170-175|publisher=[[中央公論新社]]|ref={{SfnRef|福田ますみ|2011}}}} - 2012年1月号(通巻1535号)


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]
* '''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]''' - 本事件より9年前(1998年)、堀が別の男2人とともに起こした強盗殺人事件。
* [[ドラム缶女性焼殺事件]] - 同じ名古屋市千種区で発生した、複数人の共犯者に死刑が求刑された拉致・強盗殺人事件。
* [[前科]]
* [[群馬女子高生誘拐殺人事件]]・[[千葉小3女児殺害事件]]・[[池袋暴走事故 (2019年)|池袋暴走事故]] - 本事件と同じく、死亡した被害者の遺族が加害者への厳罰適用を求めて[[署名]]活動を行った事件。
* [[累犯]]
* [[サイバー犯罪]](インターネット犯罪)
* [[殺人事件被害者遺族の会]](宙の会)
* [[シリアルキラー]](連続殺人)
* [[日本における死刑囚の一覧 (2000年代)]]
** [[日本における被死刑執行者の一覧]]
* [[ルフィ広域強盗事件]]

'''「[[永山基準]]」が示された1983年以降、殺害された被害者数が1人だったが、最高裁で死刑判決が確定した事件'''

※(発生年:死刑確定年)と表記。無期懲役刑に処された[[前科]]があるもの、[[身代金]][[誘拐]]・[[保険金殺人]]は含まない。いずれも第一審判決は無期懲役だった(控訴審で死刑に)。
* [[JT女性社員逆恨み殺人事件]](1997年:2004年) - 殺人前科あり(懲役10年)。同事件で懲役刑を受けて出所後、強姦した女性を恐喝したことで被害届を出されて逮捕され、再び服役。しかし、警察に通報した被害者側の対応を[[逆恨み]]し、[[お礼参り]]におよんだ(高度な計画性に基づく犯行)。
* [[名古屋市中区栄スナックバー経営者殺害事件]](2002年:2007年) - 殺人前科あり(懲役15年)。前科は単純殺人ではあるが、死刑に処された強盗殺人事件と経緯・手口が酷似した犯行だった。
* [[三島女子短大生焼殺事件]](2002年:2008年) - 殺人前科・利欲目的・高度な計画性のいずれもないが、被害者を強姦した上で、口封じのために残虐な方法で殺害した。その残虐性や、「[[覚醒剤]]を打つために邪魔になった」という身勝手な殺害動機、被告人に少年時代から強盗致傷・[[覚醒剤取締法]]違反など複数の前科がある点が重視された。
* [[渋谷駅駅員銃撃事件|横浜中華料理店主射殺事件]](2004年:2011年) - 殺人前科はないが、強盗致傷2回を含め10回以上の前科があった。また強盗殺人1件以外にも被害者に回復不能かつ重篤な後遺症を負わせた強盗殺人未遂・[[現住建造物等放火罪|現住建造物等放火未遂]]の余罪がある点、服役中から犯罪計画を練っていた(=計画性が高い)点、[[銃社会|銃を使用した犯行である点]]が重視された。
'''死刑判決を受けた被告人が控訴を自ら取り下げたため、弁護人が控訴取下げの無効を主張して裁判所に異議を申し立てた事件'''
* [[藤沢市母娘ら5人殺害事件]]([[警察庁広域重要指定事件|警察庁広域重要指定]]112号事件) - [[1995年]](平成7年)に最高裁が、弁護人による控訴取り下げへの異議申し立てを認め、控訴審の公判が再開された事例。しかし、死刑判決は控訴審・上告審でも支持されて確定し、死刑執行(2007年)に至った。
* [[ピアノ騒音殺人事件]] - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑は未だに執行されていない。
* [[マブチモーター社長宅殺人放火事件]](警察庁広域重要指定124号事件) - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑囚は刑を執行されることなく病死した。
* [[奈良小1女児殺害事件]] - 本事件と同じく、控訴取り下げへの異議申し立ては退けられ、後に死刑囚の刑が執行された。
* [[寝屋川市中1男女殺害事件]] - 藤沢事件と同じく、[[大阪高等裁判所|大阪高裁]]がいったんは控訴取り下げを無効とする決定を出したが、検察官が異議を申し立てたところ、原決定は取り消された。その後、本人が2度目の控訴取り下げを行い、そちらについては最高裁が有効とする決定を出している。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{Cite web |title=被害者女性のブログ |publisher=被害者女性 |date=2007-08-06 |url=http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/ |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713052339/http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/ |archivedate=2017-07-13 }}
* {{Cite web|和書|url=http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/|title=なごやんの食道楽記|accessdate=2021-03-22|publisher=[[FC2]]|author=本事件の被害者女性A|date=2007年8月6日(事件前の最終更新日)|website=[[FC2ブログ]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200115071341/http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/|archivedate=2020-01-15}} - 被害者Aが生前に更新していたブログ。
* {{Cite web |title=被害者遺族による極刑陳情書への署名を募っていたサイト|publisher=被害者女性の母親 |date=2012-07-26 |url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/ |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713051954/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/ |archivedate=2017-07-13 }}
* {{Cite web|和書|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/|title=被害者遺族極刑陳情書への署名を募っていたサイト)|accessdate=2021-03-20|publisher=本事件被害者女性Aの母親B|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200220140843/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/|archivedate=2021-03-20|ref={{SfnRef|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}}}
** {{Cite web |title=Cと闇サイト事件・夫婦強殺事件・強殺未遂事件 |publisher=被害者女性の母親 |date=2016-11-08 |url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713051946/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html |archivedate=2017-07-13 }}
** {{Cite web|和書|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html|title=と闇サイト事件・夫婦強殺事件・強殺未遂事件|accessdate=2021-03-12|publisher=女性Aの母親B|date=2019-07-19|website=本事件の被害者遺族によるウェブページ|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200220052827/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html|archivedate=2020-02-20}} - 本事件の加害者である堀慶末が3つの強盗殺人・同未遂事件を起こし、碧南事件で死刑が確定するまでの経緯が記録されている。
** {{Cite web|和書|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html|title=報道に宛てた手記(抜粋)|accessdate=2021-03-20|publisher=女性Aの母親B|date=2007-09-11|website=本事件の被害者遺族によるウェブページ|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200223122641/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html|archivedate=2021-03-20}}
*** Cの出生から碧南事件・本事件など3つの強盗殺人・同未遂事件を起こし逮捕されるまでの経緯及び、その後の刑事裁判の経緯が記録されている。
** {{Cite web |title=報道に宛てた手記(抜粋) |publisher=被害者女性の母親 |date=2007-09-11 |url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713052219/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html |archivedate=2017-07-13 }}
** {{Cite news|title=報道に宛てた手記(抜粋)|newspaper=[[中京テレビNewsリアルタイム]]|date=2007-09-10|url=http://www.ctv.co.jp/realtime/20070914/|publisher=[[中京テレビ放送]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20071115131153/http://www.ctv.co.jp/realtime/20070914/|archivedate=2007年9月15日}}
* {{Cite web |title=真実 前略、名古屋拘置所より |publisher=本事件の死刑囚K |date=2009-02-19 |url=http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/ |accessdate=2017-05-23 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090226053033/http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/? |archivedate=2009-02-26 }}
* {{Cite web|和書|url=http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/b|title=真実 前略、名古屋拘置所より|accessdate=2017-05-23|publisher=死刑囚KT|date=2009-02-19|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090226053033/http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/?|archivedate=2009-02-26}} - 元死刑囚KTが知人に依頼し、名古屋拘置所から手紙を出して設立させたブログ。現在は閉鎖されており、アーカイブからのみ閲覧可能。
* {{Cite news|title=「痙攣している頭に30回もハンマーを」…娘を殺された母が死刑廃止派弁護士に、あえてむごい娘の死を語った理由【闇サイト殺人事件】|newspaper=[[ニコニコニュース|ニコニコニュースオリジナル]]|date=2017-10-04|url=https://originalnews.nico/45811|accessdate=2021-03-22|publisher=[[ドワンゴ]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320134236/https://originalnews.nico/45811|archivedate=2021年3月20日}} - 被害者Aの母親Bが死刑制度存置派の弁護士(山田廣・酒井宏幸・髙橋正人・上谷さくら)および廃止派の弁護士(小川原優之・岩井信)、[[青木理]]([[ジャーナリスト]])、[[森達也]]([[映画監督]])、[[ヒートウェイヴ|山口洋]]([[ミュージシャン]])とともに参加した、死刑制度について考える討論会(司会:[[ジョー横溝]]、「TOKYO1351」と[[ニコニコ動画]]が共同で2017年9月9日に開催)。
** Kが知人に依頼し名古屋拘置所から手紙を出して設立したブログ。2017年現在は閉鎖されており、アーカイブからのみ閲覧可能。
* {{Cite web |title=書籍紹介『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 |publisher=[[角川書店]] |date=2016-11-30 |url=http://shoten.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=321409000110 |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713051653/http://shoten.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=321409000110 |archivedate=2017-07-13 }}


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2024年11月20日 (水) 14:34時点における最新版

闇サイト殺人事件
闇サイト殺人事件の位置(愛知県・岐阜県内)
拉致現場
拉致現場
殺害現場
殺害現場
死体遺棄現場
死体遺棄現場
事件現場
場所

日本の旗 日本愛知県および岐阜県

標的 帰宅途中の女性会社員[13]
日付 2007年平成19年)8月
24日23時10分ごろ(拉致)[1]25日1時ごろ(殺害)[1] (UTC+9)
概要 インターネット闇サイトで知り合った男3人が、互いに共謀した上で、夜道で帰宅途中の女性を拉致して金品を奪い、殺害することを計画[13]。名古屋市千種区内で帰宅途中の被害者Aを拉致し、金品を奪った上で殺害した[13]
攻撃手段
  • (拉致の手段)道を尋ねるふりをして被害者を車内に押し込む[13]
  • (殺害の手段)腕や綿ロープで首を絞める・金槌で頭部を殴る・顔面に粘着テープを巻いたり、ビニール袋を被せたりして窒息させる[14]
攻撃側人数 3人
武器 綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋[15]金槌(重量約580 g[16]
死亡者 1人
被害者 会社員女性A(当時31歳・千種区春里町2丁目在住)[5]
犯人 男3人(KT堀慶末「山下」[5]
容疑 営利略取罪逮捕監禁罪・強盗殺人罪・死体遺棄罪窃盗未遂罪(3人共通)[17]強盗強姦未遂建造物侵入(「山下」のみ)[18]
動機
  • (拉致の動機)手っ取り早く楽して金を手に入れるため[19]
  • (殺害の動機)口封じ[20]
関与者 男「杉浦」(本事件前に「山下」が起こした建造物侵入・窃盗未遂事件にのみ関与)[21]
対処 加害者3人を愛知県警が逮捕[5]・名古屋地検が起訴[22][23]
謝罪
刑事訴訟
  • KT - 死刑(控訴取り下げにより確定執行済み[29]
  • 堀慶末 - 無期懲役[29](後に碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件で死刑が確定)[30]
  • 「山下」 - 無期懲役[29]
  • 管轄
  • 愛知県警察捜査一課千種警察署[5]
  • 名古屋地方検察庁[22][23]
  • テンプレートを表示

    闇サイト殺人事件(やみサイトさつじんじけん)とは、2007年平成19年)8月24日 - 25日にかけて日本愛知県名古屋市周辺で発生した強盗殺人などの事件[5]インターネット闇サイトで知り合った男3人組が、女性Aを拉致監禁のちに殺害した。

    男3人組(KT堀慶末「山下」)は闇サイト「闇の職業安定所」[注 4]で出会い、犯罪によって金を得る目的で共謀。8月24日深夜に名古屋市千種区内の路上で、帰宅途中だった会社員女性A(当時31歳)を拉致し、自動車内に監禁[13]。翌25日未明にかけ、同県愛西市内の屋外駐車場で、被害者Aを脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、金品を奪ったほか、Aの顔面に粘着テープを何重にも巻きつけたり、金槌で数十回にわたり頭部を殴打するなどして殺害[13]。その後、3人はAの死体を岐阜県瑞浪市内の山中に遺棄し[13]、奪ったキャッシュカードで預金の引き出しを図ったが、Aが生前に教えた暗証番号は虚偽だったため、引き出しには失敗[17]。3人はさらなる犯罪を計画していたが、加害者の1人(「山下」)が解散後に自首したことで事件が発覚した[31]

    概要

    加害者らはいずれも闇サイトで出会った当時から[注 5]、互いの素性を知らないまま、偽名を使っていたり、相手から馬鹿にされないように「暴力団に関係していた」と虚勢を張ったり[注 6]、虚実ないまぜに過去の犯罪歴を自慢し合ったりした[注 7][33]。それが次第にエスカレートし[注 6][34]、最終的には強盗殺人を起こすに至った。

    加害者3人は、営利略取逮捕監禁・強盗殺人・死体遺棄窃盗未遂[17]などの罪状で起訴された。本事件では、殺害された被害者は1人であるため、刑事裁判では、被告人3人に死刑を適用することの是非が争点となった。3人には当時、粗暴犯で有罪に処された前科はなかった[注 8][注 9][注 10]が、検察官は、犯行の残忍さ・被害者遺族の処罰感情の峻烈さ[35]・計画性の高さ・社会的影響の大きさなどを考慮し[36]、3人にいずれも死刑を求刑[37]。しかし最終的に、1人 (KT) は死刑が確定した(2015年に死刑執行)一方、残る2人(堀慶末および、事件直後に自首した「山下」)は無期懲役が確定した[29]。ただし、堀は本事件で無期懲役が確定した後、碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件(発生:1998年)などの余罪が判明し、同事件の刑事裁判で2019年令和元年)に死刑が確定している[30]

    本事件は、インターネット上の掲示板を通じて集まった加害者らが利欲目的で、初めて顔を合わせてからわずか数日後に[38]、それまで面識のない帰宅途中のごく普通の女性会社員を拉致・監禁し、惨殺した事件として[39]、大きく報道された[38]。また、その犯行手口から[39]、社会に「いつ誰でも同じような被害に遭うかもしれない」という大きな衝撃・恐怖感・不安感を与え[38]、加害者3人への極刑を求める世論が沸き上がった[28]。被害者Aの母親は加害者3人への極刑適用を求めた署名活動を行い、事件発生から5年間で33万人以上の署名を集めた[40]ほか、法務大臣検事総長への請願や、犯罪被害者遺族への支援拡大を求める活動などを行っている[41]

    事件発生直後、『中日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』はそれぞれ社説で、インターネットの匿名性が反社会的行為に悪用される危険性[注 11]や、本事件以前からインターネットを利用した犯罪が続出していた[注 12]ことなどを指摘し、違法情報への対策(法規制・摘発の強化など)[注 13]の必要性を訴えた[42][44][45]。また、『中日新聞』 (2009) は社説で、本事件を「現代社会の体感治安の悪化を物語った事件」と評している[46]

    名古屋テレビ放送(メ〜テレ)が2012年(平成24年)1月9日、開局50周年記念番組『ドデスカ!UP!増刊号』の番組内で、東海地方の「心に残るニュース50選」を放送するため、「事件&事故」部門でアンケートを集計したところ、本事件は8位に入っている[47]

    事件前の経緯

    本事件の加害者である「山下」(当時40歳・「山下」は偽名/本名のイニシャル「K・K」)は[48]、事件の8年ほど前から携帯電話で闇サイトを利用し続けていた[22]。「山下」は本事件以前に、闇サイトを利用した別の詐欺事件を起こし[49]2005年(平成17年)7月にはオレオレ詐欺事件に関与したとして[50]詐欺罪[注 14]、懲役1年2月・執行猶予4年に処された[注 15][51][52]。また、KT(本事件当時36歳)[5] も2006年(平成18年)3月[53]、闇サイトを悪用した詐欺事件で[注 16][49]、懲役3年・執行猶予5年に処された[53]が、両者とも金欲しさから、闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた[49]

    一方、本事件後に夫婦殺害事件の余罪が判明した堀 慶末(本事件当時32歳)は2007年3月、同居女性の金を遣い込んだことが露見し、激怒した彼女によって家を追い出された[54]。その後、堀は別の知人女性宅で同居していたが、先述の女性への借金[注 17]の返済手段を求め、ネットサーフィンをしていたところ[55]、携帯電話の闇サイト[56]闇の職業安定所」(以下「闇の職安」)[注 4]を見つけ、同サイトの掲示板に投稿するようになった[57](同年6月ごろ)[58]。堀はまず、借金および未払金回収の仕事を募集する書き込みを見て、投稿主と接触したが、無報酬に終わったため、自ら掲示板に「名古屋周辺で何か仕事はないか」と仕事募集の投稿をした[59]

    同年7月、堀の投稿に「山下」が反応し[注 18][58]、2人で会う寸前まで話が進んだが、その後は堀の都合がつかず[61]、いったん連絡は途絶えた[62]。一方で「山下」は同月ごろ、人材派遣会社[注 19]を辞めて住む場所を失い[48]、借金の取り立てから逃れるため[64]、車内で路上生活を送っていた[48]。その際に用いていた車(および犯行に用いた車)である日産・リバティ[注 20]は、かつて闇サイトを利用した盗難保険金詐欺に加担した際、依頼主から仕事の謝礼として受け取ったものだった[67]。また、この詐欺に加担した際、依頼主の男から車内での練炭自殺を装ってリバティを燃やし、処分することも提案されていたが[注 21][69]、後に本犯行で使用した綿ロープ手錠は、そのために用意されたものだった[70]

    8月21日

    2007年8月16日、「山下」は「闇の職安」の東海版に、「刑務所を出所したばかりだ。東海地方で一緒に何か組んでやらないか」と投稿した[48]。この投稿に対し、まず「杉浦」(当時29歳・偽名)が返信した[58]ほか、同月20日には堀(当時32歳)が「こづかい稼ぎですが、(人を)拉致して金を出させます(預金引き出し)」というメール(捜査報告書より)を送信[71]。また、同日にはKTも「以前はオレオレ詐欺をメインにしていたが、貧乏すぎて強盗でもしたい」というメールを送信した[58]。なお、この時には「山下」「杉浦」だけでなく、堀も「田中」の偽名を用いていたが[58]、KTは本名を名乗っていた[61]

    この3人以外にもいくつかの反応があったが、「山下」はこの3人を選んで返信し[58]、翌日(2007年8月21日)9時には、堀の住居[注 22]の近くにあったファミリーレストランで堀と初めて対面した[61]。そこで、両者は互いに脚色を交えながら自己紹介を行った上で、「山下」の運転するリバティで愛知県豊川市へ移動[注 23]し、「杉浦」と合流した[73]。そして、3人で犯罪計画について話し合いつつ[注 24]、「山下」がメールでKTに「今三人で会議中なんですけど、金庫破りか 金持ってる人を拉致って引き出す計画です」(捜査報告書より)と相談したところ、KTは「拉致はターゲットを探すのが大変ですから 金庫ですかね」[注 25][71]「金庫破りや事務所荒らしは下見が必要だから、夜間金庫か、パチンコ屋の景品交換所を襲う方が良い」などと返信した[76]。そのメールを見せられた堀は、自身が通っているパチンコ店(キング観光サウザンド東新町店)[注 26]の常連客で、常に大金を持ち歩いていた男性を同店駐車場で待ち伏せて襲撃し、財布や鞄を奪う強盗を提案[78]。堀はその常連客と顔見知りだった[79]ため、「自分はバックアップに専念するので、襲撃は2人(「山下」と「杉浦」)でやってほしい」と持ち掛け、2人もその案に賛同した[77]。そのため用いる道具として[77]、「山下」が既に入手していた綿ロープと手錠に加え[80]、近くのホームセンターで堀が金槌と軍手を購入[77]。綿ロープと手錠に加え、この時に購入した金槌(重量約580 g[16]と、購入先であるホームセンターのレジ袋[81][82][83]が、後に殺人事件の凶器として用いられた[67]

    3人はその後、高速道路経由で名古屋市内へ移動し、「キング観光」の地下駐車場で標的の常連客を待ち伏せ、レクサスに乗って帰宅しようとする標的を尾行[84]。居宅を特定した上で[85]、この常連客を金槌で襲撃するなどして拉致し、キャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し、現金を引き出すといった計画の実行を試みたが[86]、途中でレクサスを見失ったため、失敗した[85]。このため、「山下」はその旨をKTにメールで報告した際、同日21 - 22時ごろに金山駅で合流する約束を取り付けた上で、その間に堀の知人宅(天白区平針方面の豪邸)[注 27]に空き巣に入る計画を立てたが、飼い犬が鳴いていたため侵入できずに終わった[88]。結局、「杉浦」はアパートから退去するため、KTとの合流を待たず電車で帰宅[88]。KTは22時ごろに原付で金山駅に到着し[88]、合流した堀や「山下」と互いに虚実ないまぜの自己紹介をし合いつつ、「自分は広域暴力団の元構成員で、覚醒剤拳銃を入手できるルートを持っている。大金を得るには覚醒剤を仕入れ、売人を雇って売りさばく秘密組織を作ったり、女性を拉致して覚醒剤中毒にさせ、風俗に売り飛ばせば良い」などといった趣旨の提案をした[89]。また、堀から(ホームセンターで購入した)金槌と軍手を見せられた際、「こんなハンマーで(頭を)叩くと、死んでしまわないか」「(標的に)顔を見られたら殺すのか」などと問いかけたが、堀や「山下」はそれに異を唱えず同調した[注 28][92][93]

    8月22日

    翌日(2007年8月22日)、KT・堀・「山下」の3人は、前日から考えていたパチンコの常連客襲撃と、KTが提案した偽装養子縁組の子役の男からの取り立て[注 29]を並行して行おうとしていたが、後者は失敗[97]。昼ごろ、「山下」はTSUTAYA(名古屋市緑区鳴海)の駐車場でKTと落ち合い、「杉浦」が来るのを待った[98]。この間、2人は虚構の犯罪歴を互いに自慢しつつ談笑していた[注 30]ほか、KTは「山下」が手錠を見せてきたところ、「手錠の爪を折らなければ、鍵をかけていても簡単に外される」と言い、ペンチで手錠の爪を折った[98]。しかし、約束の時間になっても「杉浦」は来なかったため、2人は携帯電話の出会い系サイトを検索し、サイトを用いて援助交際している人妻を呼び出して現金を奪ったり、そのことを種に脅迫したりすることを考えたが、これも思うようにいかず、断念している[101]

    2人は同日16時ごろ、堀の待つパチンコ店へ移動し、地下駐車場で(前日と同じ常連客を)待ち伏せ、千種区内の高級マンション[注 31]まで尾行に成功したが、KTがマンションの駐車場を確認したところ、防犯カメラが多数設置されていた[101]。その旨を報告された堀は「それでは無理だろう」と発言したが、KTは「どうせ顔を見られるなら、(常連客の)部屋に侵入して殺してしまおう」と提案[103]。堀・「山下」の両者ともそれに異を唱えなかった[注 32]が、マンションはセキュリティが厳重だったため、襲撃計画はいったん見送った上で、18時ごろに「杉浦」と先述のTSUTAYA駐車場で合流した[105]。KTは遅れてきた「杉浦」に苛立ちを露わにしつつも[106]、「パチンコ店常連客を襲うんだったら、最悪は殺してしまうことになるかもしれないが、それでもいいか」「これは3人の総意なんだ」などと告げた[107]が、「杉浦」は「強盗殺人は、(法定刑が)無期か死刑しかないから、やりたくない」と拒否した(捜査報告書より)[108]。このため、KTから「「山下」が入手している他人名義のクレジットカード[注 33]で買い物をしてみろ」と提案され、コンビニエンスストアで煙草2箱を購入してきた[106]。これにより、カードが使えることが分かったため、ドン・キホーテで金のネックレスを購入して換金しようとしたが、それ以降はカードが使えなかったため、失敗した[95]

    4人は同日22時ごろ[13]、堀が常連として通っていたダーツバー(名古屋市中川区[注 34]を襲撃することを計画し[34]、経営者宅の下見などを行ったが、隣家の電気が点いていたため、「人目につく」と判断し、同日の襲撃[注 35]は断念した[13]

    8月23日

    このように次々と犯罪計画が失敗に終わったことに加え、それまで下っ端扱いされていたことも相まって、「杉浦」は不満を爆発させた[109]が、KTは「だったら若い女を拉致・監禁してキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出して金を引き出そう。最後は殺してしまえば良い」などと提案し、堀と「山下」もそれに賛同した[110]。この時の話し合いでは、風俗嬢キャバクラ嬢・ソープ嬢)が候補に上がったが、前者はKTが「金を持っていなさそう」と反対し、後者も「山下」が「拉致する場所は名駅になる。車での逃走が難しい」と、堀も「ソープ嬢はバックに暴力団がついているから、父と兄が暴力団員である自分としては賛成できない」と難色を示した[110]

    その後、KTや堀はそれぞれ帰宅し、「山下」と「杉浦」が2人きりになったが、「杉浦」は自分と考えが違い[注 36]、自分を見下したような態度を取ってくるKTを嫌い、「KTを外し、堀を含む3人で組みたい」と言い出した[注 37][111]。翌日(8月23日)昼ごろ、「山下」は堀と落ち合った際に「ダーツバーの店長が売上金を持ち歩いているので、それを襲おう」と提案され、店長宅を下見しに行った上で襲撃することを約束し合ったが、堀を自宅に送り届けた後で翻意[112]。堀との約束を反故にし、「杉浦」と名古屋市瑞穂区内で落ち合い、かつて自身が住んでいた瀬戸市へ向かう途中、給油のために立ち寄った尾張旭市のガソリンスタンドを「後で襲おう」と決めた[112]。その後、強盗に用いる道具を用意するため[注 38]、「山下」は20時ごろに名古屋市守山区内のコンビニで粘着テープを購入したほか、「杉浦」は20時30分ごろに瀬戸市内のジャスコ[112]、包丁(刃体の長さ約18.6 cm)を万引きした[113]。そして、スギ薬局(瀬戸市)で店から出てくる店員を包丁で脅す強盗を企てたが、結局閉店時刻までに襲撃のタイミングを掴むことができず、先述のガソリンスタンドも23時に閉店していた[注 39]ため、どちらも強盗に入ることはできなかった[114]

    そこで、「山下」はかつて勤めていた会社[注 40]の事務所(愛知郡長久手町[注 41])の手提げ金庫を狙い、この事務所に侵入することを決意[114]。8月24日0時15分ごろ[1]、「杉浦」が1階出入口のガラスをドライバーで破り[115]、事務所の1階北東出入口内側ドアの施錠を外し、建物内に侵入した[1]。そして、中にあった机の引き出しを開けるなどして金品を物色したが[1]、そこでも金庫は見つけられなかった[114]。「山下」は、年長者である自分に対する「杉浦」の態度を「生意気だ」と受け取っていたこともあって、「杉浦」を事務所に残したまま、リバティ[注 20]で逃走した[114]。その後、土地勘のない場所に1人残された「杉浦」は[注 42]、24日0時55分ごろ[117]、自ら公衆電話(名古屋市名東区内)から110番して自首[注 43][115]。「杉浦」は同日3時20分ごろ[117]建造物侵入窃盗未遂容疑で[115]名東警察署緊急逮捕された[117]。「杉浦」は取り調べに対し、「『闇の職安』を通じて1週間前に知り合った共犯者(=「山下」)がいる」という旨を自供していたが[118]、名東署から「『闇の職安』を使った事件があった」という旨が特捜本部に知らされたのは、本事件の発生後(8月27日)だった[注 44][115]

    その後、「杉浦」は建造物侵入・窃盗未遂の罪で名古屋地裁起訴され[121]、後に薬局の強盗を計画した強盗予備罪でも追起訴された[119]。「杉浦」は同年11月12日に「犯行はいずれも未遂だが、多大な被害が生じた可能性は高い」として懲役2年を求刑され[119]、同月20日に名古屋地裁(寺澤真由美裁判官)で懲役2年・執行猶予3年の有罪判決を受けた[21]

    事件当日

    地図
    拉致現場(   )[注 1]・殺害現場(   )[注 2]・死体遺棄現場(   )[注 3]の位置関係

    殺害の共謀成立

    「山下」はいったんは「杉浦」と2人だけで犯行を犯そうとしたものの、「やはり、KTや堀は犯罪経験が豊富そうだから、それを利用したい」と思い直した[122]。同日1時ごろ、「山下」はKT宛てに謝罪のメールを送信。これを受け、KTは堀に対し、「山下」について「使えるうちは使いますか」などと伝え、これを受けた堀は「山下」と直接電話で話をした後、KTに対し、「これで山下さんも下見や情報がどれだけ大事か分かったと思うので、(中略)使うとかじゃなく仲間としていいのではと思いますが…甘いですかね?とりあえず明日一緒に行きます」などというメールを送信した[122]。KTも堀の意見に賛同し、24日午後に再び3人で会うことになった[122]

    「山下」は同日13時ごろに堀を自宅まで迎えに行ったほか、15時ごろにKTと鳴海のTSUTAYAで落ち合った[123]。その上で、3人で新たな犯罪計画について話し合ったが、「山下」はリバティ[注 20]の車内で「杉浦」の盗んだ包丁を見せ、「これなら人やれますよね」(=この包丁なら人を殺せるか?という趣旨)などと発言した[注 45][126]。堀が「今週中に30万円ぐらいどうしても必要だ」と発言したところ、それに対しKTが「それならば、今日中になんとかしなければいけない」と、前日に出た女性を拉致し、キャッシュカードと現金を奪う計画を改めて出した上で[124]、拉致した女性について「最後は殺しちゃうけど、いいよね」と確認したところ、2人とも「いいですよ」などと言って了承した[126]名古屋高裁 (2011) は、このように堀と「山下」がKTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に承諾する返事をした時点(24日15時ごろ)をもって、「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した」認定している[注 46][104]

    さらに犯行計画を練るため[13]、3人は名古屋市北区内のファミリーレストランへ入店し[124]、計画について話し合った[63]。先述の理由で風俗嬢は候補から外された一方[63]、堀はOLの拉致を提案[13][63][125]。その標的は、「黒髪で地味そうな(多額の貯金をしていそうなため)女性で、年齢は20歳代後半 - 30歳代前半ほど」とされた[127]ほか、KTは「今日(8月24日・金曜日)なら給料日[注 47]になるだろうし、しばらく拉致・監禁すれば、ある程度まとまった金を引き出せる[注 48]だろう。標的は(家族と同居していると、家族がすぐに警察に届ける虞があるため)1人暮らしが良い。1人暮らしなら、その部屋に居座って監禁することもできる」と提案した[129]

    次いで、堀は監禁場所として、名東区高針のアパートを提案したが[130]、その部屋はかつて堀が起こした碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件の共犯者である元仕事仲間の部屋だった[注 49][127]。次いで、KTは「闇の職安」で現金自動預払機 (ATM) から預金を引き出す「出し子」を探したが、ふさわしい人材が見つからなかったため、「山下」が引き出しを行うことになった[130]。そして、拉致場所について相談し、堀の提案通り、高級住宅街の多い名古屋市営地下鉄東山線の沿線(覚王山一社上社本郷方面)に決まった[130]。また、KTは「山下」に対し、被害者が騒ぐといけないので、「車の中でレイプはしないで下さい」「監禁した後は、一緒に寝泊まりしてくださって結構ですから」と言い、「山下」もそれを了承した[131]

    こうして、3人は19時過ぎに話し合いを終え、レストランを退店[注 46][132]。通行中のOL(20歳代後半 - 30歳代)を拉致して金品を奪い、犯行の発覚を阻止するために殺害して、死体を遺棄する旨の犯行計画が決められた[13]

    拉致

    地図
    拉致現場周辺の地図:愛知県名古屋市千種区春里町2丁目4番地の1付近の路上[注 1][1]
    拉致現場付近(千種区春里町2丁目4番地の1)の路上。2021年9月撮影。
    上記地点を逆方向から撮影した写真。

    ファミリーレストランを退店後、3人は「山下」の運転する車(リバティ[注 20])で標的の物色を開始[132]。KTと堀は互いに軍手を嵌め[132]、KTが2列目シートの助手席側に[133]、堀が運転席側にそれぞれ座り[132]、拉致する標的が車の左方にいた場合はKTが、右方にいた場合は堀がそれぞれ拉致を実行することになった[133]。そして、拉致した女性をKTと堀の足元(2列目シートの床上)に横向きに座らせる[注 50]こととなった[133]。また、堀は粘着テープを15 cm程度にちぎったものを4枚重ね合わせ、口を塞ぐための特殊なテープを作って用意していた[132]

    その状態で、3人はATMで預金を下ろした後のOLを狙い[132]、まずは覚王山・本山付近に向かい、その後は一社・本郷などへ移動しつつ、女性を物色した[注 51]が、いずれも周囲に対向車や通行人がいたり、タイミングが合わなかったりしたことから、拉致には至らなかった[134]。やがて夜が更け、通行人の数も少なくなっていた中、堀が「今まで回った中では、本山(駅周辺)と覚王山が良い。街灯が少なくて道が暗いし、道幅も狭いから拉致しやすい」と提案したため、覚王山から本山へ向かうことになった[132]。なお、被害者女性A(当時31歳)の自宅(名古屋市千種区春里町2丁目)[5] があった市営住宅の最寄り駅は、自由ヶ丘駅地下鉄名城線)だった[6] が、Aは通勤で東山線を利用しており[135]、普段利用していた駅は東山線の駅である本山駅[130][136](東山線と名城線の乗換駅)だった[6]。また、Aは8月末に当時の勤務先[137](名古屋市中区[138] を退職し、料理関係の仕事に転職する予定だったが、そのための送別会などにより、帰りが遅くなることが多かった[注 52][137]

    同日23時ごろ、「山下」は春里町2丁目付近で[140]、被害者Aが車の前方から歩いてきたところを発見[141]。Aの見た目は標的の条件に合致していたため[2]、3人ともAを拉致することを決めた[注 53][141]。「山下」は車をUターンさせてAを尾行し、Aの母校でもあった自由ヶ丘小学校[注 1]の専用歩道橋(校舎と道路を隔てた先にある運動場を結ぶ歩道橋)の付近でAを追い抜くと、約10 m先にあったマンションの駐車場前(道路の左側)で停車し、Aを待ち伏せた[142]。この停車地点が、拉致現場(春里町2丁目4番地の1付近の路上)である[注 1][1]

    23時10分ごろ[1]、Aが車の右脇を通り過ぎた際、堀が後部ドアを開けて降車[13]。堀はAに道を尋ねるふりをして、背後から近づき、Aが立ち止まったところ、口を右手で塞ぎ[13]、左手でAの腹部辺りを押さえ、背後から抱きかかえるようにした[140]。そして、Aをリバティの後部座席(運転席側)のスライドドアから車内に押し込み、KTも車内からAを車内に押し込むようにして[140]、Aを拉致・監禁した[17]。そして、堀はAの右手に手錠を掛け、予め口を塞ぐために用意してあった粘着テープをAの口に貼り付け、完全に抵抗できない状態にした[20]上で、シート下の床に座らせた[注 54][143]。3人はそのまま、Aを乗せたまま車を走らせ、人目に付かない場所まで連行した[13]

    「山下」は当初、Aを堀の用意した部屋へ拉致するため、高針方面へ車を走らせたが、KTが「人気のない方へ行け」と指示[144]。「山下」は木曽三川公園方面へ向かうことに決め[注 55][147][146]広小路通主要地方道名古屋長久手線)から県道名古屋甚目寺線(通称「外堀通り」)に出て西進した[140]。しかし拉致から約15分後[147]国道155号を南進していたところ、Aが「吐きそう」と訴えたため、「車内で吐かれたくない」と思った「山下」は車を停められる場所を探し[8]、国道沿いのレストラン屋外駐車場に至った[8]。その場所が、殺害現場となった屋外駐車場(愛西市内佐屋町西新田39番1)で[注 2][1]、到着時刻は8月25日0時ごろだった[注 56][8]

    殺害

    地図
    殺害現場周辺の地図:愛知県愛西市内佐屋町西新田39番1[1](屋外駐車場)[注 2][5]

    翌日(8月25日)0時過ぎ[注 57]、3人は屋外駐車場(同県愛西市)に駐車したリバティ[注 20]の車内で[149]、Aから現金(約62,033円)や、キャッシュカードなど40点が入った白いハンドバッグ(時価合計15,440円相当)を奪った[1]。その上で、Aに、キャッシュカードの暗証番号を教えるよう迫った[149]、この時に「山下」がAに対しわいせつ行為を行ったため、KTはそれを不快に思っている[注 58][150]。Aがなかなか暗証番号を言おうとしなかったため[20]、堀は「山下」に命じて運転席のドアポケットにあった包丁を取らせ、それを受け取ると[151]、その包丁(刃体の長さ約18.6 cm)を示しながら[注 59][1]、「本当に帰れなくなっちゃうよ」「5分で(暗証番号を)思い出さないと刺しちゃうぞ」など、暗証番号を明かさなければ殺害する旨を告げて脅迫[20]。しかし、5分経過してもAが暗証番号を口にしなかったため、KTが堀に「2、3回刺せ」と命じたところ[153]、堀はAの太腿を刺そうとする姿勢を見せたり[注 60]、怒りを示しながら「いい加減にしゃべれ。みんないらついているから早くしゃべれ」などと脅した[注 61][20]

    結果、Aは虚偽の暗証番号として4桁の[17]「2960」を述べた[注 62][154]。それを聞き、KTが運転席の「山下」に口頭で番号を伝え[151]、「山下」は0時45分、自身の携帯電話でその「2960」の番号を打って発信履歴を残した[注 63][154]。その後、堀はKTとともに喫煙のため車外に出た[160]

    KTと堀は、Aから真実の暗証番号を聞き出したと思い込み、口封じのためにAの殺害を決意した[20]。一方、「山下」はKTと堀が車外に出た隙に乗じ、車内でAを強姦しようと[注 64]、Aに覆いかぶさって服を脱がせようとしたり、スカートの裾をまくりあげるようにしたり、スカートのベルトを外そうとしたりしたほか、抵抗したAの顔面を平手打ちした[140]。しかし、Aの悲鳴に気づいたKTらに制止されたため、未遂に終わっている[注 65][1]。名古屋地裁 (2009) によれば、「山下」はKTたちが車外に出た際、1回目の強姦未遂行為におよんだが、Aが「きゃー」と悲鳴を上げたため、少なくともKTが車内に戻り、「山下」を止めて諌めた[161]。2人は「山下」がAの強姦を諦めたものと思い、再び車外で今後のことについて相談などを始めたが、KTが「やっちゃおうか」などと提案したところ、堀は「ロープありますよ」などと言った[注 66][140]。すると、KTは「腕で絞めます」などと言ったが、「山下」が再び強姦未遂行為におよんだため、Aが悲鳴を上げた[140]。しかし、これに気づいたKTが堀よりも一足早く車内に戻って制止したため、「山下」は2列目シートからいったん車外に出て、その後、運転席に戻った[140]

    まず、KTがAの背後から、頸部に自身の腕を回して絞め付けた[注 67]が、失敗したため、堀は綿ロープをAの頸部に巻きつけ、その片端を「山下」に渡し、2人で両端を持って絞め上げた[14]。しかし、両者の位置関係からうまく首を絞めることができず[注 68]、堀は「ハンマー入れましょうか」と言い、準備していた金槌で殴打することをKTと「山下」に告げた[15]。そして、綿ロープで首を絞めるのをやめ、金槌を取り出してAの頭部を強い力で3回連続して殴打した[15]。しかし、それらの殴打によって返り血が車内に飛び散り、自身の口にも入ったことを気持ち悪く思った堀は、殴打を3回でやめている[15]

    一方、Aは堀によって頭部を金槌で殴打され、力が一気に抜けたような感じになったが、しばらくしてから「殺さないで、殺さないって言ったじゃない」「お願いします、殺さないで、死にたくない」などと必死で命乞いをした[15]。しかし、堀はそのような懇願を無視し、KTとともに、Aの顔面および頭部に粘着テープを数十回横方向に巻きつけ、その上からさらに縦方向に貼り付けた[注 69][15]。これにより、Aは呼吸困難になったが、粘着テープの隙間から「フーン、フーン」とかろうじて呼吸をしていたため、それに気づいたKTと堀は、Aの頭部にビニール袋[15](金槌を購入したホームセンターのレジ袋)[81][82][83]を被せて頸部まで覆い、その上から頸部・頭部に粘着テープを横方向に多数回巻きつけた[15]。そして、最後にKTがAの頸部に綿ロープを巻きつけて絞め付けた上、頭部を金槌で約30回殴打し、Aを殺害した[15](殺害時刻:8月25日1時ごろ)[注 70][1]。死因は頸部圧迫、もしくは鼻口閉塞による窒息死である[140]

    死体遺棄・預金引き出し未遂

    その後、堀はAの遺体をリバティの3列目の席に移動させ[注 71]、上からタオルや荷物などを被せて隠した上で、車内に飛散したAの返り血を拭き取った[167]。その後、3人でAから奪った現金62,000円を分け合い[注 72]稲沢市内の自動販売機で、堀の体に付いた返り血を洗い流すためのペットボトル入りの水を購入したほか、一宮市のドン・キホーテで「山下」が3人分の着替え用の衣服を購入[注 73][168]。その後[169]、3人は2時56分ごろ、小牧市内のATMで、Aから奪った中京銀行のキャッシュカードを使い、大垣共立銀行ネットプラザ支店の口座から[1]、預金(検察官の上告趣意書によれば合計約890万円)[注 74][170]を引き出そうとしたが、取り扱い時間外だったため、失敗した[1]。そのため、死体を遺棄しようということになり、遺棄場所を話し合った上で、岐阜県内の山へ捨てに行くことになった[169]

    3人はリバティで、中央自動車道瑞浪インターチェンジから岐阜県道33号山岡方面)を経由し、山道に入り[173]、岐阜県瑞浪市稲津町小里の山林[注 3][5]林道脇)[12]に向かった。その途中、瑞浪市稲津町にあった資材置き場からスコップ2本を入手し[注 75][169]、同日4時40分ごろ、Aの死体を遺棄した[1]。まず、KTが堀とともにスコップを使い、Aの遺体をトランクから下ろすと、「山下」に対し、「怪しまれるといけないから離れていろ」と言い、現場から離れさせた[173]。2人は遺体をガードレールのすぐ先に投げ捨てると、その上から土を掛け[173]、Aの遺体を遺棄した[注 76][39]。この時、堀は以前、手錠を見せられた際に素手で触ったことを思い出し[169]、自分の指紋が付着している可能性を考え[39]、手錠を拭くなどしている[169]。「山下」はKTの指示を受けて遺棄現場を離れ、いったん道の駅[注 77]に向かったが、4時49分にKTもしくは堀から電話で「終わったから迎えに来てくれ」との連絡を受け、迎えに戻った[173]

    そして、Aから奪った中京銀行のキャッシュカードで預金の引き出しを図り、同日9時10分ごろに同行知立支店(愛知県知立市[注 78]で預金の引き出しを試みたが、「山下」が先述の「2960」および(KTから電話で聞いた)「2946」の暗証番号を入力しても合致しなかった[171]。次いで同日10時35分 - 36分ごろ[1]、「山下」は名古屋市南区内のコンビニのATMでUFJ銀行(現:三菱UFJ銀行)のカードなどを使用し、「2960」や被害者Aの生年月日に由来する番号を利用して引き出しを試みたが、いずれも失敗に終わった[177]。このように、預金の引き出しができなかったため、3人は同日夜、再び名駅付近で女性を拉致し、暗証番号を聞き出した上で殺害することを決め、解散した[注 79][179]

    捜査

    しかし、「山下」は2人と別れ、「有松ジャンボリー」[注 80][181](名古屋市緑区)[10] の駐車場で仮眠を取ろうとしたが、13時30分に自ら愛知県警察本部の電話番号へ電話を掛け[181]、「女性を拉致して金を奪い、岐阜県に埋めた」と話し[10]自首[注 81][5]。これを受け、応対した当直の警察官は、電話の主である男(=「山下」)に対し、その場に留まっているよう伝えた[10]。「山下」は14時17分[184]緑警察署から派遣された警察官7人に身柄を拘束され、緑署で約15分間の事情聴取を受けた後、機動捜査隊に連れられて遺棄現場を案内[185]。同日19時10分ごろ、「山下」の自供通り、Aの遺体が下半身に土を被せられた状態で発見された[186]

    また、「山下」が「2人の共犯者(KTおよび堀)がいる」という旨を明かしたため、県警はその2人の居宅を特定した[注 82]上で、3人が決めていた同日の「第2の犯行計画」を利用し[187]、19時10分ごろ[184]、自宅から出かけようとしていたKTの身柄を確保[187] し、KTを任意同行させた[184]。また、「山下」に命じて堀宛てのメールを送信させ、同日22時ごろに堀の自宅マンション前で落ち合う約束を取り付け、約束の時間に自宅から出てきた堀を張り込んでいた捜査員が取り押さえ[187]、任意同行させた[184]。3人とも、「自分たちは闇サイトで知り合い、金を奪う目的で通りがかりの女性を狙った。顔を見られたので殺した」と供述したため[188]、愛知県警は強盗殺人死体遺棄事件として、捜査一課および千種警察署[5]特別捜査本部(特捜本部)を設置[188]。県警特捜本部は翌日(8月26日)0時に事件発生を発表し、4時過ぎ[184]、KT・堀・「山下」の3人を、死体遺棄容疑の被疑者として逮捕[5]。翌8月27日に名古屋地方検察庁へ3人の身柄を送検した[189]

    2007年9月14日、名古屋地検は被疑者3人を死体遺棄罪で名古屋地方裁判所起訴[190]。同日、特捜本部は被疑者3人を強盗殺人・逮捕監禁営利略取の各容疑で再逮捕し[22]、名古屋地検は10月5日にそれらの罪で被疑者3人を追起訴した[23]。また、「山下」については、Aの遺族から逮捕後に強盗強姦未遂の罪で告訴があり、地検も「その事実が認定できる証拠がある」と判断したため、同罪でも追起訴した[23]

    KTは捜査段階で、「人を殺した以上、金を払ったり、謝ったりしても、責任を取ったことにはならない。それが犯罪者である自分のルールである」[191]「自分は他人が作った法律ではなく、作ったルールに従って生きる。殺人に抵抗感はない」と供述した[注 30][192]。また、KTは逮捕から数日後に「山下」が自首したことを知らされたが、これを恨み、別の警察署の留置場にいた「山下」に対し、脅迫めいた内容の手紙[注 83]を送った[193] ほか、弁護人に対し、「「山下」がAを乱暴しようとしておきながら、自首して責任を逃れる態度は不満だ」と述べていた[194]

    刑事裁判

    公判前整理手続

    本事件の第一審における事件番号は、平成21年(わ)第1863号平成21年(わ)第2010号平成21年(わ)第2130号で、審理は名古屋地方裁判所刑事第6部(裁判長は近藤宏子、陪席裁判官は野口卓志・酒井孝之の両名)に係属した[195]。同地裁における3被告人公判前整理手続は、2007年12月27日に第1回手続が開かれた[196]。その後、2008年(平成20年)3月11日(第2回) - 9月22日(第8回)にかけて手続が行われ[注 84][99]、争点は3被告人の共謀が成立した時期などに絞られた[199]

    公判前整理手続を行わない場合、起訴 - 初公判の期間は3週間 - 1か月半とされるが、本事件では起訴から初公判まで約1年を要したため[200]、被害者Aの母親Bは、手続き中の2008年3月3日に当時の鳩山邦夫法務大臣へ、公判の早期開始などを訴える手紙を郵送した(後述[201]

    一方、KTは起訴後、精神不安から体調を崩し、自室で首吊り自殺を図ったほか、「山下」も体調を崩し、精神安定剤を必要とするようになった[200]

    第一審

    本事件は殺害された被害者が1人であるため、刑事裁判では量刑(被告人3人に死刑を適用することが妥当か否か)が最大の焦点となった[202]

    最高裁判所が1983年(昭和58年)7月に連続4人射殺事件の上告審判決で示した死刑選択基準「永山基準」では[203]、「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状」といった事情を総合的に考慮し、「その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される」と判示されている[204]。同判決では、「ことに」と強調した上で被害者数に言及しているため、同判決後の刑事裁判では殺害された被害者が1人の場合、大半で懲役刑が選択されていた[205]

    司法研修所の報告 (2012) によれば、1970年度(昭和45年度)以降に判決が宣告され、1980年度(昭和55年度) - 2009年度(平成21年度)の30年間に死刑か無期懲役が確定した死刑求刑事件(全346件)について調査したところ、死刑宣告に当たっては被害者の数が最も大きな要素となっていることが報告されている[206]。先述した346件のうち、死亡した被害者が1人で死刑が求刑された事件は100件(殺人48件+強盗殺人52件)であるが、うち死刑確定は32件全体の32%/殺人で18人〈38%〉・強盗殺人で14人〈27%〉)となっている[207]。その内訳は、事前に被害者を殺害することを計画した上で実行した事例身代金目的の誘拐殺人[注 85]および保険金殺人高度な計画性を有する強盗殺人[注 86][注 87]や、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した事例[注 88]などがある[注 89][222]。また、「(被害者1人の)強盗殺人事件の場合は死刑選択に当たり、当初から被害者の殺害を計画・決意していたことに加え、犯行動機、具体的な犯行の計画性の程度、犯行の社会的影響、被告人の前科・余罪などといった犯情・一般情状などを総合して判断されているようだ」と報告されている[223]

    初公判から

    3被告人の初公判は、2008年9月25日に開かれた[199]。3被告人とも、起訴事実のうち被害者Aの殺害については認めたが[199]、それぞれ「殺害を主導したのは自分ではない」[224]「殺害の計画性はない」と主張[225]。以下のように争った。

    争点表
    検察官の主張 KT(および弁護人)の主張 堀側の主張 「山下」側の主張
    罪状認否[226] 詳細が一部異なる[226] 「Aに手錠をかけた」という点は事実ではない[226] 殺害方法の順番が異なる[226]
    計画性 3被告人の間で、事前に殺害に関する合意があった[227]
    周到な計画性まではなかったが、元から無差別に通りがかりの女性を狙うことを決めており、刑事責任を軽くする要因にはならない[228]
    虚勢を張り合う中で起きた[注 6]偶発的な犯行であり、殺害方法や場所も決めていなかった。計画性は認められない[229]
    強盗殺人などの共謀の成立時期[224] 事件当日15時ごろ[注 90][230]、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に堀と「山下」が賛同した時点[143] 共謀の成立 - ファミリーレストランを出て車に乗り込んだ時[13]。(堀からハンマーを見せられ「顔を見られたら殺すのか」と発言したのは)冗談交じりの発言に過ぎない[231]当初は強盗殺人までは考えていなかったが、2人が殺人まで考えていると聞き、「強盗の誘いを断れば、自分が襲われる」と思い、承諾したような返事をした[232]
    殺意 - 確定的ではなく、最悪を想定した未必的なもの。金槌による殴打は確実に殺害するためではなく、Aが長い間苦しまないようにするため[13]
    殺害現場で共謀が成立した[13]。(左のKTの発言に対し)「そうですね」と応じたのは、その場限りでの発言だ[231] (左のKTの発言に対し)「仕方ないでしょう」と応じたのは見栄を張るためで、当時は殺人まで犯すつもりはなかった[231]
    犯行への関与の程度[224] 特定の誰かが主導したわけではなく、3人がいずれも重要な役割を果たしており[233]刑事責任は同等[225] Aの首を絞めていた時点で、「山下」は運転席にいた[234] 首謀者は『闇の職安」で呼びかけた自分だが、3人は同格[225]。主犯はKT[183] で、KTと堀の責任は自分より重い[235]
    (殺害行為には)KTと堀がAの首を絞めるなど殺害行為をしていたため、やむを得ず加わった[13] が、それまでは車の外にいた[234]
    分け前は平等で、(自分たち3人は)同格だった[225]
    堀がAから暗証番号を聞き出した後、「もうやっちゃいましょうか』と自分に殺害を提案してきたが、「まだ暗証番号が本当なのかわからない」と思い、首を絞めて失神させようとした[236]。しかし「山下」がAを襲い、騒がれる恐れがあったため、殺害せざるを得なくなった[233]
    KTが犯行を主導していた[225]
    KTから「素手で殺害する」と言われ、犯行への加担を決意した[233] が、それまでは拉致して金を奪うことはともかく、「殺す」という話は出ていなかったし、殺害を提案された際には疑問を感じたが、反対はしなかった[234]
    量刑判断における被告人側の事情[224] 預金の引き出しに失敗したことから、次の強盗殺人を計画するなど、犯罪性向と反社会性が根深い[225]。3被告人の刑事責任は同等で[225]、「山下」の自首も反省に基づくものではなく、刑の減軽には値しない[26] (弁護人)幼少期から安定した生活を送れず、社会への適応が困難だった[237]
    計画性がない点、被害者が2人である点や、殺害方法も(他の死刑事件と比較すると)残虐性が低い[注 91]点などに照らし、無期懲役か有期懲役が妥当だ[26]
    (本人)KTが30回以上、Aの頭部を殴打したのを見て「もういいんじゃないか」と言ったが、KTは殴るのをやめなかった[239]
    (弁護人)性格は柔和で犯罪性向は低く[237]、犯行を深く反省している[240]。矯正不可能とはいえず、生きて罪の償いをさせるべきだ[26]
    (弁護人)犯行は従属的[238]。自首は事件直後、良心の呵責に耐えきれず行ったもので[26]、「山下」の自首によって捜査が容易になった[238]。法廷での発言はともかく、心底では反省している[237]

    一方、第2回公判(2008年10月10日)および第4回公判[99](2008年10月31日)に証人として出廷した「杉浦」は、「KTがグループに加わって以降、強盗殺人の話が出るようになった」と証言した[241][242]

    被告人3人は当初、いずれも被害者Aや遺族への謝罪の弁を述べず、KTは自身の交際相手に対し、Aを侮辱したり、事件を「仕事」と形容したりする内容の手紙を書いたが、その手紙についてKTは「犯行時の正直な気持ちを書くよう求められてそう書いた」と説明した[155]。「山下」は第6回公判[99](11月7日)で、KT・堀の両被告人に対し、「(被告人としてこの場にいるのは)お前らのせいだ」と暴言を吐き[49][243]、第14回公判(12月11日)の被告人質問[注 92]の際、検察官から「(被害者への心境などについての質問に対する答えが)他人事のように聞こえる」と指摘されたり[235]、近藤裁判長からも「開き直っているのか」とたしなめられたりしていた[183]。また、堀は証言の際に涙を見せたが、近藤から「他人のせいばかりにして、本当に反省しているのですか」と厳しく問い質される場面があった[49]

    一方、第13回公判[99](2008年12月8日)では、同日以前から3被告人への極刑適用を求めた署名運動を行っていたAの母親B(後述)および、Aと交際していた男性Cが証人として出廷し、Bは「同種の犯罪を抑止するため、3人への死刑を臨む」と陳述[244]。また、BおよびCは、Aが3人に伝えた虚偽の暗証番号「2960」[注 63]の意味[注 93]について、「Aは生前、よく数字の語呂合わせをしていた。『憎むわ』の意味だと思う」と証言した[244][247]。加えて、KTおよび「山下」の父親は、それぞれ息子に対する量刑について「被害者や遺族に申し訳ない。極刑が妥当」と述べた[155][182]

    検察官は裁判員制度[注 94]を意識した[228] ほか、2008年12月に施行された被害者参加制度を先取りする形で[注 95][246]、法廷で被害者Aの写真を映し出す[注 96]など、視覚的に訴える立証に力を入れた[228]。また、遺族が集めた極刑を求める署名(当時30万件以上)については、証拠採用はされなかったが、検察官が冒頭陳述・証人尋問・論告で繰り返しその存在について言及し、処罰感情の強さを強調した[228]

    3人に死刑求刑

    2009年(平成21年)1月20日に開かれた第17回公判で[99]、検察官の論告求刑が行われ、被告人3人はいずれも死刑を求刑された[37]

    同日の論告で、検察官は「3人は被害者Aを拉致する以前から、金を奪うために拉致・殺害の合意形成をしていた」と指摘した上で、闇サイトを悪用した犯罪について「共犯者が集まりやすく、共犯者同士が個人情報を秘匿するため、発覚が困難だ。模倣性も高く[注 97]、厳罰で臨む必要がある」と主張した[225]。また、犯行態様については「Aの命乞いを無視し、肉体的激痛や精神的恐怖心を加えながら殺害した方法は、生き埋めと変わらない残虐な殺害方法だ。3被告人はいずれも、自己の利欲目的を達成するため、一体となって計画に基づいた犯行を遂行した上で、何ら躊躇もなく残忍な犯行におよんでおり、犯行への酌量の余地は認められない。3人は他人の生命を軽視する犯罪性向・反社会性が根深く、犯行後も同様の強盗殺人を実行しようとしたことや、反省のない態度を取っている[注 98]ことなどに照らせば、更生可能性[注 99]は認められない。被害者Aの遺族(母親B・伯母D)や関係者(元交際相手の男性C)が3人への極刑を求めていることも当然である」と訴えた[35]

    その上で、「本事件は面識のなかった3人が、携帯電話のサイトで知り合い、帰宅途中の女性を無差別に狙い、残酷な方法で殺害した犯行で、社会に大きな衝撃を与え震撼させた。『永山基準』に照らしても、事案の重大性・凶悪性は明白で、利欲目的で被害者を略取・殺害した本犯行は、身代金目的誘拐殺人(殺害された被害者が1人で、被告人にさしたる前科がない場合でも、最高裁で死刑が確定した事例が多数存在)[注 85][251]の場合と罪質に変わりはない[注 100]。被害者が1人でも、罪責が重大な場合は死刑を選択すべきだ」と主張[35]。その根拠として、本事件を「過去の事例ではくくれないケース」と位置づけた上で、最高裁で被告人への無期懲役判決が「被告人が犯行時、少年だったことを過大に評価した」として破棄された光市母子殺害事件の上告審判決[注 101]を引用し、「殺害された被害者の数や犯行時の年齢など、『永山基準』で示された9項目の要素のうち、1つが際立って悪質とは言えない場合でも、犯行形態などを総合的に考慮し、死刑選択が妥当だ」と訴えた[253]。そして、「KTと堀の刑事責任に差異はない。「山下」の自首も心からの反省悔悟によるものとは認められず[注 81]、過度に有利な情状とすべきではない」と主張し、「犯した罪の報いを正当に受けることを社会に示すため、被告人3人には極刑をもって臨むほかない」と結論づけた[35]

    最終弁論・結審

    同年2月2日に開かれた第18回公判で[99]、3被告人の弁護人による最終弁論が行われ、結審した[26]。最終弁論で、3被告人の弁護人はいずれも「犯行グループは互いの意思疎通が不十分な寄せ集めの集団による、場当たり的な犯行だ。事前に具体的な殺害方法・場所も決めておらず、殺害は突発的なものだ。綿密な計画性はなく、被害者が1人の死刑確定事件と比べて特段に悪質ともいえない。検察官は『体感治安を悪化させた』と主張するが、闇サイトを悪用した事件は本事件が初ではない」と主張し[237]、死刑回避を求めた[26]

    最終意見陳述で、堀は「極刑を受け入れる覚悟はできている」、「山下」は「開き直ったような発言は売り言葉に買い言葉で、本心ではない」とそれぞれ述べ[254]、初めて被害者遺族に謝罪した一方、KTは「特に申し上げることはない」と話した[26]

    2人に死刑・1人に無期懲役宣告

    2009年3月18日に第一審の判決公判が開かれ[255]、名古屋地裁刑事第6部[195](近藤宏子裁判長)は被告人3人のうち、KTおよび堀の2人を死刑に、残る「山下」を無期懲役に処す判決を言い渡した[195][255][256]日本弁護士連合会(日弁連)が把握していた確定判決の統計によれば、1983年に最高裁で「永山基準」が示されて以降、殺害された被害者が1人の殺人事件で死刑が確定した事例は、当時計25件あったが[257]、うち複数の被告人に死刑判決が言い渡され確定した事例は、北九州市病院長殺害事件(1988年に最高裁で被告人2人の死刑が確定)のみだった[258][259]

    名古屋地裁 (2009) は、犯罪事実について「3人は互いに強盗などの様々な犯罪を計画した末、事前に預貯金の貯えがありそうな女性通行人を拉致・監禁した上でキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出した上で最終的に殺害することを計画した上で犯行におよんだ」と認定[17]。その上で、各事実について以下のように認定した。

    名古屋地裁 (2009) の判示
    争点 判示事項
    殺害の共謀が成立した時期 3人が謀議を終え、ファミリーレストランを退店した8月24日の19時ごろをもって、殺害および死体遺棄の共謀が成立したと認められる[注 46][104]
    計画性 被害者を拉致した後の殺害方法などは、具体的・詳細には計画されてはいなかったが、方法は成り行きに任せざるを得ない部分があった[260]。実際に、事前に詳細な定めがなくても十分遂行可能な客観的状況もあった上[38]「通行中の女性を物色して襲い、最終的には殺害する」という点は当初の計画通りに実行されており[260]、計画的な犯行というには十分である[38]より綿密な計画が立てられていた事案より有利に斟酌すべき事情は認められない[260]
    殺害行為が残虐性を増したのは、意図的に残虐な方法が取られたというより、むしろ殺害に手間取った結果である。当初から敢えて意図的に残虐な方法を取った場合と比較すると、悪質性の程度に多少の差はあるが、3人はそれぞれ残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為におよんだため、この点については特に酌むべき事情はない[38]
    犯罪の性質・態様 一連の犯行は、手っ取り早く楽をして金を手に入れたいという強い利欲目的のみに基づき、全く関係のない、通りがかりの一般市民を殺害するという犯罪を、インターネット上の掲示板を通じて形成された犯罪集団が[19]、短期間で計画・遂行したという点に特色がある[38]
    この種の犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく危険であり[注 102]、匿名性の高い集団によって行われるため、発覚・逮捕も困難[注 103]で、模倣される恐れも高いという極めて悪質性の高い種類の犯行である。このような犯罪は社会の安全にとって重大な脅威というほかなく、厳罰をもって臨む必要性が誠に高い[261]
    3人とも、被害者Aの必死の命乞いにも耳を貸さず、無慈悲・凄惨かつ残虐な方法で殺害を遂げており、戦慄を禁じ得ない[260]。Aの遺族が極刑を望んでいることも当然だ[260]
    3被告人の主従関係 KTが最も積極的だったが、堀や「山下」もKTが有する知識・経験を頼りにし、互いに互いを利用し合って集団で犯罪を行うことで、自らの利欲目的を満たそうとする側面が強かったと認められる[31]。そのような犯行の経緯・状況を考えれば、3被告人の間に量刑上、特に刑種の選択を分かつほどの差異を設けるべき事情は認められない[31] 3被告人の役割 情状 量刑およびその理由
    KT 殺害行為にて果たした役割は、計画段階において他の2人(堀・「山下」)より大きく、実行行為の際にも最も積極的におよんでいる[31] 事件後、自身なりに犯行を顧みる姿勢も見せているが、自首した「山下」に対し、脅迫めいた内容の手紙[注 83] を送ったり、知り合いを介して被害者Aを中傷したとも受け取れる表現を用いた文章を掲載・公開するなど、真摯な反省な態度を見せているとは到底言い難い[191] 2人とも死刑を選択[261]
    結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯行後の情状などを考慮すれば、殺害された被害者が1人であることや、2人とも粗暴犯による前科がない[注 8][注 9]こと、2人にとって有利に斟酌すべき諸事情などを考慮しても、2人に対し極刑をもって臨むことはやむを得ない[261]
    当初から様々な犯行計画を積極的に提案し、特に「人を拉致して強盗をする」という計画を当初から提案していた。被害者Aを最も執拗に脅迫し、殺害の実行行為でもKTに次いで積極的に行っている[31] 事件後、自身なりに反省・謝罪の意思を持ち、言葉や反省文・謝罪文などに表しているが、Aを殺害した点については、恐怖心からKTや「山下」を止められなかったという気持ちの方が強く、真摯な反省の態度を示しているとまで見ることはできない[262]
    「山下」 殺害行為自体についての関与の程度は、結果的に他の2人より低かったが、これはおそらく、運転席に座っていたという座席の位置関係の影響とも考えられ、殺害行為に消極的だったということは到底できない[51]
    3人が集まる原因となった投稿をしたほか、(未遂ながら)被害者Aへの性的暴行にもおよんでおり、Aに与えた精神的・肉体的苦痛は極めて大きい[31]
    公判でAに対する気持ちや謝罪の気持ちを聞かれても、無責任で心無い言葉を述べたり、審理中にKTと視線を飛ばし合ったり、自身の被告人質問中に怒鳴り立てるなど、粗暴で無思慮な行動を取っている。このような行動からすると、最終陳述で自身なりに真剣な姿勢で反省の言葉を述べるに至ったことを考慮しても、なお、各犯行について十分な反省をしているとは言い難い[51]

    無期懲役を選択[31]
    犯行後、短時間で自首したことにより、捜査機関は初めて犯行を把握し、他2人の逮捕・事件解決に至ったことは明らかである[注 81]。(インターネットを通じて集まった集団による)本事件の特殊性を鑑みれば、「山下」が犯行後に短期間で自首して事件解決に貢献し、その後に起こり得た犯罪を阻止した[注 104]点は量刑上、特に有利な事情として評価することができる[注 105]。「山下」の刑事責任は極めて重大だが、この点を鑑みれば、極刑をもって臨むことは躊躇せざるを得ず、無期懲役に処すことが相当である[31]

    KTの弁護人は即日控訴した[256] ほか、堀・「山下」それぞれの弁護人[注 106][266]、KT本人も同年3月24日付で名古屋高等裁判所へ控訴した[267]。一方、名古屋地検も「山下」を無期懲役とした第一審判決を不服として、同月27日付で控訴した[268]。本判決は全国紙が一面トップで取り上げるなど、高い注目を集めた[269]が、司法の専門家や刑法学者からは「異例の厳しい判断」との見方が少なくなかった一方、新聞各紙の社説は判決を概ね支持する内容だった[注 107][271]

    KTの死刑確定

    しかし、被告人KTは2009年4月13日付で自ら控訴を取り下げたため[272]、同日付でKTの死刑が確定した[注 108][275]#関連項目も参照)。取り下げの理由について、KTは「殺したければ早く殺せ」という思いがあったことや、「インターネットや週刊誌などで、自身の交際相手を誹謗中傷する記事が掲載され、彼女が精神的につらい旨を訴えてきている。これ以上裁判を続けて彼女に迷惑を掛けられないと思った」などという旨を述べている[276]

    同月24日付で、名古屋地検の検察官から名古屋拘置所長宛に、判決が同月13日に確定した旨の「死刑判決確定通知書」が送付され、名古屋拘置所処遇部長は同月27日、KTに死刑判決の確定を告知した[277]。しかし、第一審でKTの国選弁護人を務めていた弁護士2人[278](藏冨恒彦[注 109]・福井秀剛[注 110][282] は同日(2009年4月27日)[注 111]、「KTは控訴取り下げの能力を十分に理解しないまま、控訴を取り下げている。これはKT本人の真意に基づくものではなく、無効である」と主張し[278]、控訴審における審理を求める旨の期日指定申立書を提出した[277]。弁護人による訴えの根拠は、「KTは控訴を取り下げた時点で、死刑判決後の拘禁反応などによる朦朧状態にあり、自己の権利を守る能力を欠いていた。また、『もし自分が控訴を取り下げても、弁護人がした控訴は存続し、判決は確定しない』という重大な錯誤に基づいて取り下げに至った」というものだった[276]

    しかし、名古屋高裁刑事第2部[276]下山保男裁判長)は2010年(平成22年)9月9日付で、弁護人が求めていた控訴審期日指定の申し立てを退ける決定を出した[283]。その決定要旨は、「KTは控訴取り下げ前から、自ら死刑を受け入れる旨を述べていたほか、取り下げの経緯の概要については記憶しているし、取り下げに至った経緯・理由も短絡的とはいえ、一応了解可能なものだった。また、取り下げ後の精神鑑定の結果からみても、意識変容を伴う朦朧状態など、自己の権利を守る能力が著しく制限された状態ではなかった」というものだった[276]。弁護人は同決定を不服として、同月13日付で名古屋高裁の別の裁判部に異議を申し立てた[注 112][285] が、同高裁(志田洋裁判長)は2011年(平成23年)2月10日付の決定[注 113]で異議申し立てを棄却[286]。弁護人は同月14日付で特別抗告したが[286]、同月3月2日付で最高裁判所第三小法廷那須弘平裁判長)が抗告を棄却する決定を出した[注 114]ため、控訴取り下げを有効とする原決定が確定した[287]

    控訴審

    このようにKTが自ら控訴を取り下げたため、名古屋高等裁判所における控訴審は堀と「山下」の両被告人についてのみ審理されることとなった[288]。控訴審の事件番号は平成21年(う)第219号で、審理は刑事第2部(裁判長は下山保男、陪席裁判官は柴田厚司・松井修)に係属した[18]

    第一審判決後、臨床心理士の山田麻紗子[注 7]日本福祉大学准教授)が[290][291]、両被告人の弁護人から依頼を受け[291]、犯罪心理鑑定を実施した[288]。これは、被告人の性格や、犯行に至る心理状況などを分析する鑑定で[288]、2被告人との面会や公判記録などから、性格・行動傾向・生い立ち・事件状態の心理状態の変遷を分析したものである[292]。2被告人の弁護人側は、その結果を控訴審で証拠として提出した[288]

    控訴審は2010年(平成22年)8月9日に初公判が開かれ[293]、第4回公判(12月3日)で結審した[294]

    控訴審における争点表
    弁護人の控訴理由[注 115] 検察官の答弁[注 116] 名古屋高裁 (2011) の判断
    両被告人について 原判決が「8月24日19時ごろにファミリーレストランを出た時点で、(KTも含めた3人の)殺害および死体遺棄の共謀が成立した」と認定した点は明らかな事実誤認で、前者はAを拉致する前、後者はAを殺害した後だ[104]
    • 堀の弁護人 - 殺害の共謀成立はAからキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、堀がリバティ車外で喫煙していたところ、同じく喫煙していたKTからAを殺害しようとしていることを聞かされた時点[104]
    • 「山下」の弁護人 - 殺害の共謀成立は「山下」が喫煙のため車外に出た後で車内に戻ったところ、KTと堀が殺害行為に着手しているのを見た時点[104]

    山田の評価 - 金に困るなど、同質的な3人による同調行動が事件につながったもので、2被告人とも攻撃性は窺えない[290]

    山田による鑑定は、一部の裁判記録だけを前提にしており、信用性が疑問視される[注 117][294]。「山下」の自首は刑の減軽に値せず[288]、3人の極刑を求めるAの母Bらの遺族感情からも、死刑をもって臨むほかない[294] 殺害および死体遺棄の共謀成立時刻は、原判決とは異なり「8月24日の15時ごろ」と認めるのが相当だが、それらの共謀は被害者Aを拉致する前に成立していたため、論旨はいずれも認められない[注 46][104]
    堀について
    • 法令違反の主張 - 訴訟手続に法令違反がある[注 118][296]
    • 事実誤認の主張 - 堀・「山下」の両者が、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉を承諾した事実はなく、もしその前提に立って考えても、堀が会話の内容を認識せず、KTの言葉に適当に相槌を打った可能性もあるため、その時点では共謀は認められない[104]。また、殺害現場に停めたリバティ車内に金槌・包丁・綿ロープがあったことは殺害の共謀の間接事実にはならない[104]。Aに片手錠を掛けた事実はなく、殺害行為の順序[注 119]も異なる[104]
    • 量刑不当の論旨 - 原判決の量刑(死刑)は重過ぎて不当で、無期懲役刑が相当[38]
      • 第一審判決後に謝罪文を書いており、改悛の情が顕著で、生きて罪を償わせるべきだ[注 120][297]
      • 山田の評価 - 自己主張より同調を選びがちだが、集団の特性がなければ凶悪犯罪は想定しにくい[290]。穏やかで犯罪性は低い[294]
    原判決の量刑(死刑)は正当で、控訴は棄却されるべきだ[288]
    • 法令違反の論旨 - 認められない[296]
    • 事実誤認の論旨 - 堀が「殺しちゃうけど」というKTの言葉を承諾したことは明らか[注 121]で、会話の内容を認識していなかった疑いもない[注 122][104]。凶器が手元にあったこと自体が、「拉致した女性を最終的に殺す」という会話の真実味を高めるもので、殺害の共謀の間接事実になる[104]。殺害行為の順序に関する認定には誤りがあるが、それが判決に影響をおよぼす(各被告人の刑事責任に差異を生じさせる)とは認められない[注 119][104]
    • 量刑不当の論旨 - 無期懲役を選択後述)。
    「山下」について 原判決の量刑(無期懲役)は重過ぎて不当で、有期懲役刑が相当[38]
    • 強姦しようとしたのは性欲目的ではなく、被害者Aの鼻をへし折ろうとしたためだ[注 64][38]
    • 投稿は強盗殺人の目的ではなく、堀らに比べて役割は従属的であり、真摯に反省もしている[297]
    • 山田の評価 - 軽度の知的障害や、面接時の「サスペンスドラマを見ているようだった」という発言から、どこまで認知して犯行におよんだか疑問で、攻撃性は窺えない[290]
    原判決の量刑(無期懲役)は軽過ぎて不当で、死刑が相当[38]
    • 「山下」は共犯者らに働きかけて犯罪者集団を結成し、各犯行でも不可欠かつ重要な役割を果たした中心的人物であり、単独で強盗強姦未遂[注 64] に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗未遂に及んでいるため、刑事責任はKTや堀より重い[38]。自首についても、自己保身目的で反省は窺えない[297]
    論旨はいずれも採用できず、(原審と同じく)無期懲役を選択後述)。

    2被告人に無期懲役を宣告

    2011年(平成23年)4月12日の第5回公判[注 123][99] で判決が宣告された[299]。名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)は原判決のうち、堀を死刑とした部分を破棄し、堀を無期懲役に処す判決を言い渡した[18]。また、「山下」については原判決(無期懲役)を支持し、検察官と弁護人の双方からなされていた控訴をいずれも棄却する判決を言い渡した[299]

    名古屋高裁 (2011) は、両被告人からなされていた法令違反および事実誤認の主張をいずれも退け(前述)、情状についても原判決と同様の趣旨を認定した[38]一方、量刑について検討した。

    原判決の判断 名古屋高裁 (2011) の判断
    事件の性質 インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく、匿名性が高いため、発見も困難であり、模倣性が高い[38]。本件は、まさにこの種の犯罪が持つ危険性が現実化したもので、社会の安全に与える影響も大きく、一般予防の必要性も誠に高い[38] インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は、素性を知っている者同士による共犯事案に比べ、意思疎通の不十分さなどから、犯行が失敗に終わりやすい側面もある[38]
    また、携帯電話の通話・メールの履歴と言った痕跡が残るため、格段に犯罪者の発見などが困難であるとも言い難く、原判決が言うほど「検挙困難で模倣性が高い犯罪」ともいえない[38]
    本件においては大まかな犯行計画は立てられていたが、その計画は綿密なものではなく、さほど巧妙とまではいえず、原判決が指摘するほど「犯罪の巧妙化につながりやすい」とはいえない[38]
    以上より、原判決が「本件の特色」として指摘する点を強調し、他の強盗殺人などの事案より特に厳罰をもって臨む必要性が高いとしている点は相当ではない[38]
    殺害方法の残虐性 殺害方法が残虐さを増したのは、殺害に手間取った結果とはいえ、3人とも残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為に及んでいるため、より綿密詳細な計画を立て、意図的に残虐な方法を取った事案ほど有利に斟酌すべきではない[38] 死刑は選択に当たり、格別慎重を期するべき究極の刑罰であることに鑑みれば、原判決は、死刑選択の当否の最終手段として各般の情状を総合考慮する際、「殺害方法などについて詳細な計画を定めておらず、当初から意図的に残虐な方法を取ったものではない」という点も考慮に入れるべきなのに、総合考慮をする前に、(左のように)その点を総合考慮の枠外としており、その点は是認できない[38]
    役割の軽重 計画段階・殺害の実行行為の場面とも、KTが最も重要な役割を果たしたが、堀・「山下」の両被告人とも、KTの知識経験等を積極的に利用し、自らの利欲目的を満たそうと主体的な判断をした[38]。その上で、前者は犯罪計画の提案・被害者への脅迫および殺害行為を積極的に行ったほか、後者もサイトへの投稿で人を集め、強姦行為にまで着手した[38]
    3人の間に刑種選択を分かつほどの役割の軽重の差異は見いだせない[38]
    被告人 役割 量刑およびその理由
    殺害行為に関しては、「KTが主犯で2人が従属的だった」と言えるほど役割に大きな差はないが、2人ともKTの「拉致した女性を最終的に殺害する」という提案に安易に応じた側面があり、殺害の共謀が成立する前からそのような意思を有していたとはいえない[38]。特に「山下」は運転席に座っていたという位置関係の影響もあったが、殺害行為への直接的な関与の度合いはKT・堀の両者より低い[38]
    このように、両被告人が殺害行為に関して果たした役割には、KTとの間に差があることは否定できず、原判決がその点を考慮せずに「3人の間に刑種の選択を分かつほどの役割の軽重の差異は認められない」と断じたことは相当ではない[38]
    死刑→無期懲役
    犯行の大筋の決定などに大きな影響を与え、被害者の殺害(量刑判断に当たり最も重要な点)についてもKTに次いで積極的な役割を果たしてはいるが、その役割はKTと全く同等にまで見ることはできない[38]
    2被告人とも、本件ではさしたる躊躇もなく、強盗殺人などという重大凶悪な事件に加担しているため、犯罪への抵抗感が希薄であることは否定できない。しかし、2人とも粗暴犯・凶悪犯の前科はなく[注 9][注 10]、これまでの生活歴を見ても、本件以外に凶悪犯罪への傾向を示すものは見当たらないことなどに照らせば、犯罪性向が強いとはいえず、矯正可能性もある[注 99]と考えられる[38]
    以上の全体情状に個別情状を併せて検討し、死刑が選択に格別慎重を期すべき究極の刑罰であることを考慮すれば、殺害された被害者が1名である本件では、死刑の選択がやむを得ないと言えるほどほかの量刑要素が悪質とは断じ難く、死刑に処すことにはなお躊躇を覚えざるを得ない[38]。そのため、無期懲役に処して終生、被害者の冥福を祈らせて贖罪に当たらせることが相当である。
    「山下」 無期懲役(原判決と同じ)
    サイトへの投稿によって事件のきっかけを作るなどしたほか、殺害行為の一部を分担したが、前者についてはKT・堀の両者が主体的な判断で「山下」からの誘いに応じた点や、当初は3人とも殺人を全く考えていなかったことなどに照らせば、この点は、強盗殺人を中心とする本件の量刑判断において殊更に重要な事情ではない[38]
    また単独で強盗強姦未遂に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗などの犯行におよんではいるが、殺害行為についてはKT・堀より関与の度合いは低い上、犯行後に自首して事件解決に一定の寄与をするなどした[注 104]点は、量刑に当たって相応の評価がされるべきだ[38]

    名古屋地裁 (2009) がインターネット犯罪の危険性・模倣性を重視した一方[255]、名古屋高裁 (2011) はその判断の枠組を否定し、2人に重大前科や詳細な殺害計画がない点などを挙げた上で、(「永山基準」が示されて以降、死刑判決が宣告された事件の多くは被害者が複数の場合に限られてきた)従来の判例を踏襲する形で、極刑を回避した[300]前田雅英首都大学東京法科大学院教授)は「本件で問題になった『闇サイトの悪用』は、実際の犯罪行為から判断すれば、罪を重くすべき決定的な要素ではなく、『痕跡が残るため、発見は困難ではない』とした名古屋高裁の判断に一定の合理性がある。殺害された人数などから、死刑とするには特段の事情が必要な事件で、控訴審判決は従来の死刑選択基準にかなったものだ」と評価した一方[301]土本武司(元最高検察庁検事)は「全体として悪質性を強調すべき事件の特色を過小評価し、『永山基準』に引きずられる形で極刑を回避した感が否めない。名古屋高裁が死刑回避の情状として挙げた『堀の更生可能性』[注 99]『「山下」の犯行後の自首』は過大評価すべきでない」と指摘した[302]

    宇田幸生(犯罪被害者支援弁護士フォーラム会員・愛知県弁護士会[303]は、「犯行は(預金の引き出しに失敗するなど)さほど巧妙ではなく、被害者が簡単に絶命しなかったため、殺害の手段を次々に変えた結果、殺害態様が残虐になった」として死刑を回避した同判決について、「被害者Aが預金を必死に守ろうと、虚偽の暗証番号を告げたことで犯行は失敗に終わった。そして、Aは最後まで生きることを諦めなかったため、凄惨な方法で殺害された」[304]「第一審判決が指摘した(インターネットを通じた犯行グループによる)犯罪の特殊性を重視しないならば、自首による犯罪発覚の効果もそこまで重視すべきではないとの考えもできるが、控訴審判決はその点について言及しなかった」[305]と評した上で、「名古屋高裁は『被害者数が1名の場合には死刑を回避する』という結論ありきで判決を宣告したのではないか?」と指摘している[306]

    判決確定

    名古屋高等検察庁は、堀を無期懲役とした控訴審判決を不服として、同月25日付で最高裁判所上告した[注 124][307]。一方、「山下」については上告を断念し[308]、「山下」も上告期限(2011年4月26日)までに上告しなかったため、無期懲役が確定した[309]

    検察官は、上告趣意書(提出:2011年9月22日付)[99] で「控訴審判決は、永山判決(「永山基準」を示した判決)[204] や、光市母子殺害事件の差戻し判決[注 101]を始めとする、最高裁の判例が示した死刑適用基準に反するほか、罪刑均衡および一般見地のいずれから見ても、著しい量刑不当であり、破棄しなければ著しく正義に反する」と主張した[312]。しかし、最高裁第二小法廷千葉勝美裁判長)は2012年(平成24年)7月11日付で、堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決を支持し、検察官の上告を棄却する決定を出した[313][314] ため、同年7月18日付で堀の無期懲役が確定した[315]。しかし、堀は同年8月3日に碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件(1998年発生)の被疑者として、強盗殺人容疑で共犯者の男2人(同事件当時の仕事仲間)とともに愛知県警に逮捕された[316]。その後、同事件および強盗殺人未遂事件1件の被告人として起訴され、2019年令和元年)8月に死刑が確定している[317]

    加害者の経歴

    加害者3人は仕事が長続きせず[318]、事件当時は消費者金融から数十万円 - 数千万円の借金を抱え[22]、金に困っていた[注 125][5][89]

    KT

    K・T
    生誕 (1971-03-09) 1971年3月9日[319]
    日本の旗 日本群馬県高崎市[138][320]
    死没 (2015-06-25) 2015年6月25日(44歳没)[29]
    名古屋拘置所[29]日本の旗 日本・愛知県名古屋市東区白壁
    死因 縊死絞首刑
    住居 日本の旗 日本・愛知県豊明市栄町西大根[321]
    職業 新聞勧誘員[321]
    雇用者 セールス会社(朝日新聞販売所が業務委託)[321]
    罪名 営利略取罪逮捕監禁罪強盗殺人罪死体遺棄罪窃盗未遂罪[17]
    刑罰 死刑(絞首刑:執行済み[29]
    動機 手っ取り早く、楽をして金を手に入れるため[19]
    有罪判決 死刑 - 名古屋地裁刑事第6部[195]:2009年3月18日宣告[255]
    日本の旗 日本
    都道府県 愛知県
    標的 帰宅途中の女性会社員[17]
    死者 1人
    凶器 綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋・金槌[17]
    逮捕日
    2007年8月26日(当時36歳)[5]
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    本事件で2009年に死刑が確定し、2015年に死刑を執行された元死刑囚KT1971年昭和46年)3月9日生まれ[319](事件当時36歳)[58]群馬県高崎市出身[138][320]

    小学生のころに両親が離婚し、当初は母親の実家に引き取られたが、次に長距離運転手だった父親に引き取られる[322]父親から暴力を振るわれ、学校でもいじめを受けるような環境で生育した[323]。また、群発頭痛の持病があり[323]、16歳のころから激しい頭痛に悩まされたが、治療費が高額なために十分な治療を受けられず[240]、中学卒業後には暴走族に所属した[322]。成人後も頭痛の持病に悩まされ、職が長続きしなかった[323]

    1989年平成元年)[324]、地元・高崎市内の工業高校を卒業[138]人材派遣会社などに登録したが、実際に仕事に就いた形跡はなく[318]、上京後には暴力団関係の仕事をするようになった[320]。その後、名古屋にたどり着く[320]までの間に、東京都内の新聞販売店・愛知県内の人材派遣会社など、仕事を転々とした[138]。また、事件の10年ほど前(1997年ごろ)から携帯電話で闇サイトを利用していたとされる[注 126][22][190]

    2006年(平成18年)9月から豊明市内の新聞販売店に入社し、会社の寮に住み込む[325]。『朝日新聞』のセールススタッフとして[325]、新聞勧誘員の仕事をしていたが、勤務態度はあまり良くなく[61]、「仕事を休みがちだった」という報道もされている[324][325]。事件前の手取り収入も少なく[注 127][325]、交際相手の女性から時々小遣いを貰うなどして生活していた[61]。また、勤務先の社長に対し「父が亡くなり、天涯孤独の身だ」と嘘を吐いたり[注 128]、同社に提出した履歴書にも虚偽事項を記載したりしていた[325]。弁護人を務めていた福井秀剛[注 110]は、KTの人物像について「かなり見栄っ張り、人前では強気なことを言う」と評し、自身はKTの言いたいこと(被害者や遺族への謝罪の心情など)を理解できたが、KT本人はそれを直接的に言葉にすることはなかったという旨を述べている[326]

    KTは先述のように、闇サイトを悪用した別の詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトの閲覧・投稿を続けていた[49]

    国家賠償請求訴訟

    第一審でKTの国選弁護人を務めていた弁護士2人[327](藏冨恒彦[注 109]と福井)は、KTによる控訴取り下げ後の2009年4月 - 6月にかけ[282]、控訴取り下げへの異議申し立ての打ち合わせなどのため[328]、KTと拘置所職員の立ち会いなしで面会する「弁護士面会」を名古屋拘置所に申請したが、拘置所側は「死刑確定直後で心情安定のため、立ち会いが必要だ」として、立ち会いの伴う「一般面会」しか認めなかった[282]。2人はこれを違法として、2009年8月12日付で、名古屋地裁に国家賠償請求訴訟[事件番号:平成21年(ワ)第4801号、請求額:120万円]を提訴[329]。その後、2010年11月4日には同様に、無立会の面会を認められなかったことを違法として、死刑囚KTに対し慰謝料などを支払う国賠訴訟[事件番号:平成22年(ワ)第7629号]を提起し、先の訴訟と併せ[284]被告(国)に対し2,700万円の支払いを求めていた[328]

    名古屋地裁民事第3部(德永幸藏裁判長)[330]2013年(平成25年)2月19日、「拘置所長が裁量権を濫用した」として、原告側の訴えを認め[328]、国に対し145万2,000円の賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した[注 129][331]2014年(平成26年)3月13日[332]、名古屋高裁民事第3部(長門栄吉裁判長)[注 130]は第一審に続き、拘置所長の対応を「裁量権を逸脱・濫用したもので違法」と認め、国に対し計145万2,000円の支払いを命じる控訴審判決[注 131]を宣告した[332]。原告側は上告したが、2015年(平成27年)4月22日付で最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)が上告を退ける決定を出したため、控訴審判決が確定した[335]

    死刑執行

    KTは死刑確定後、弁護人の福井や支援者2人(うち1人は親族)と連絡を取り合っていた一方[336]再審請求の準備も行っていた[注 132][339]。2011年6月20日 - 8月31日に福島瑞穂参議院議員)が、死刑確定者120人(2011年6月20日時点)を対象に実施したアンケート[注 133][341]に対し、死刑囚KTは「(自身が収監されている)名古屋拘置所では現在、所長が我々の生活処遇を勝手に厳格化している。国会で法務大臣にこの問題を追及してほしい。自分は人殺しだが、鬼ではなく人間だ」と訴えていた[342]

    KTは2015年6月25日8時25分[343]、法務大臣の上川陽子[注 134]が発した死刑執行命令により、収監先の名古屋拘置所死刑を執行された(44歳没)[注 135][29]日本弁護士連合会(日弁連)は同日、村越進会長名義で死刑執行に抗議する声明を出した[345]

    弁護士の福井秀剛[注 110](第一審でKTの国選弁護人を担当)は、同年7月26日に開催された死刑執行への抗議集会で、KTの最期の言葉(下記)を引用し、その最期について「拘置所の職員から『立派な最期だった』と聞いた」[346]「KTは自分の犯したことと向き合っていた」と証言している[343]

    こうなることは分かっていました。被害者のお母さん、おばさん、付き合っていた彼、友人、会社の同僚に対して、命を以て償います。 — 死刑囚KT、[343][346]

    一方、同月8日に開催された抗議集会では、死刑廃止論者である弁護士2人(安田好弘村上満宏)がそれぞれ「KTは控訴を取り下げなければ、堀と同様に控訴審で無期懲役に軽減されていた可能性が高い」と指摘している[347]。また、福井とともにKTの国選弁護人を務めていた藏冨恒彦[注 109]は同日の集会に対し、以下のようなメッセージを寄せている[343]

    1. 国賠の間隙をぬって執行されたようで、理不尽さを感じる。
    2. 控訴を取り下げなければ、共犯者堀とのバランス上、明らかに無期懲役相当事案であり、死刑執行を急ぐ必要はないはずである。
    3. KT氏より古い死刑確定事案は多数あるはずで、何故、今回なのか理解しがたいものがある。
    4. 処遇が難しい死刑確定者なので、執行を急いだのであろうか?それなら余りにも理不尽ではないか?

    「山下」

    2011年に無期懲役が確定した加害者「山下」(事件当時40歳)[48]1966年(昭和41年)生まれ[18]石川県金沢市出身[注 136][318][348][63]。「山下」は「闇の職安」[注 4]で用いていた偽名であり、本名のイニシャルは「K・K」である[60]。2019年(令和元年)6月29日時点で[注 137][349]、刑務所に服役中である[注 138][352]

    子供のころに腎臓病を罹患したことが原因でいじめを受け、高校進学後からその反動で不良として非行に走るようになり、少年鑑別所に収監されたこともあった[63]。高校を出た後[注 139]富山県富山市内で[325]、大手警備会社に就職して7年間勤務した[348]1999年(平成11年)8月、住宅ローンを組み、愛知県瀬戸市内の分譲マンションを購入[353]。妻・子供4人と共に暮らしていたが[318]、このころ(事件の8年ほど前)から携帯電話で闇サイトを利用し始め[22][190]、「闇の職安」を通じて入手した偽の運転免許証を用いて、振り込め詐欺用の銀行口座を開設・販売していた[354]2000年(平成12年)ごろ以降は、愛知県内の運送会社を転々とした[注 140][325] が、各社に提出していた履歴書には、多くの虚偽記載があった[注 141][318]

    その後、金に困るようになり、住宅ローン[318]・税金を滞納したため、2002年(平成14年)には瀬戸市などにマンションの部屋を差し押さえられた[353]。2002年12月、瀬戸市内の運送会社[注 142]に就職し[348]、会社が借り上げたアパートに住み始めたが[353]、それから数か月後には妻子に逃げられ[348]、妻と離婚した[318]。その後、2003年(平成15年)8月ごろにトヨタ・スターレット[注 20][66]、当時の職場(瀬戸市内の会社)を通し、毎月の給与から代金を天引きする形で購入[353]。しかし2004年(平成16年)5月ごろ、荷物を積んだトラックを駐車場に放置したまま、会社に出勤しなくなり[325]、車とともに夜逃げした[注 143][353]。その後は同県尾張旭市の運送会社に勤めたが、そこでも給料を前借していたほか、他に警備会社・運送会社を転々とし[318]、遺体遺棄現場となった瑞浪市周辺に住んでいたり[184]、殺害現場付近の愛西市で勤務していた時期もあった[324]先述したように詐欺事件で執行猶予付きの有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた[49]。事件直前、「仕事が嫌になった」と無断欠勤し、車中で路上生活を始めたが、その前の約1年間は、派遣工として月10 - 20万円の収入を得て生活していた[51]

    逮捕後は「犯行場面の幻影を見て眠れなくなった」と精神安定剤を服用するようになり、曖昧な受け答えをするようになった[355]。第一審でKTと堀が死刑を宣告された一方、自身は唯一死刑を免れる形となった際には、FNN記者との面会で以下のように発言している[27]

    「自首したことが認められたことについてはよかったと思う。3人一緒に死刑だと思っていたから驚いた。誰のおかげで事件が解決したのかという思いだったから、満足している。〔A〕(被害者の実名)さんの前に、何人も物色しているんだから、彼女になったのは、運が悪かったからなんだって。今でも悪いことは、ばれなきゃいいという気持ちは変わらない。でも、生かしてもらえてよかった。ありがたい」 — 被告人「山下」、[27][356]

    影響

    事件現場となった自由ヶ丘学区は、千種区内で最も犯罪件数が少ない学区だったため、本事件は地元住民にも大きな衝撃を与えた[357]。事件後(8月26日以降)、拉致現場となった自由ヶ丘小学校周辺[注 1][注 144]では、地元の自主防犯パトロール隊が巡回の頻度を増やした[注 145]ほか、周辺3交番と地元住民の連絡協議会で、再発防止対策が話し合われた[357]。また、千種警察署が管内(千種区内)の名古屋市営地下鉄名古屋市交通局)の全10駅の出入口に「キケンが迫る 夜の一人歩き」と書いた啓発ポスターを掲示した[357] ほか、名古屋市交通局の協力を得て、それら10駅(3路線)[注 146]で、駅から徒歩で帰宅する女性向けに防犯ブザーの貸し出しを開始した[359]

    また、被害者Aが生前に「なるぅ」のハンドルネームで運営していたブログ#外部リンク参照)には事件後、知人らによって追悼のコメントが多数投稿された[注 147][82][361]

    警察庁は事件後、2008年度(平成20年度)からインターネット上の違法・有害情報を監視する「サイバーパトロール」を民間委託し[注 148]、監視体制を強化する方針を決めた[362]

    被害者遺族の活動

    被害者Aの母親Bは事件後、8月28日(Aの通夜が営まれた日)に、「犯人たちを絶対に許さない」とする報道各社向けの手記を発表[注 149][364]。その後、「日本の法律では、過去の例からも1人を殺しただけでは死刑にならない。被害者が2人以上でないと死刑は難しい」という内容の手紙が届いたが、具体的に何をすべきか迷っていたところ、当時住んでいた市営住宅の棟長から「死刑嘆願の署名活動を考えている」と伝えられたことをきっかけに[365]、9月には加害者3人への死刑適用を求める署名活動の開始を決意[137]。初公判までに30万人分の署名[注 150]を集めることを目標に[366]、同月中旬から署名活動を開始した[注 151][372] ほか、報道機関の取材に積極的に協力したり[注 152][374]、ホームページ(#外部リンクを参照、同月22日に設立)を通じて署名活動への協力を呼びかけたりした[372]。同月27日以降は名古屋市の繁華街(名駅・栄)でも署名活動を実施し[注 153][375]、初公判直前(2008年9月時点)で284,000人分の署名を集め[370]、2012年8月25日[注 154]に終了するまでに、332,806名分の署名が集まった[注 155][40][376]。また、第一審の第13回公判[99](2008年12月8日)[244]、控訴審の第3回公判(2010年10月18日)ではそれぞれ証人として出廷し、被告人らへの死刑適用を求めた[379]

    また、Bは当時の鳩山邦夫法務大臣[注 156][201]検事総長に対し、それぞれ請願の手紙を送ったほか[41]、平成23年度版『犯罪被害者白書』に手記を寄せた[381][382][383]。また、「緒あしす」[注 157]や「宙の会[注 158]といった犯罪被害者の自助団体[注 159]に参加したり、犯罪被害者遺族の支援拡大を訴え、講演[注 160]などの活動を行っている[41]。以下は主張・希望の概要である。

    • 「加害者の更生という未来の不確定なことを前提にして裁くのではなく、まじめに生きている人を守ることを優先して裁く司法であってほしい」[389]
    • 死刑制度は存置すべきで、日本弁護士連合会(日弁連)が2016年10月7日に採択した「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」とする宣言[注 161][391][392] には反対。死刑反対論者は、自分や大切な人がいつ犯罪に巻き込まれるかもしれないということを想像すべきだ[393][394]
    • 裁判官は(殺害された)被害者の数だけでなく、犯罪内容を見て裁くべきだ[395][396][397]
    • 被疑者や被告人だけでなく、被害者やその家族の人権や処遇を憲法に明記すること[398]
    • 有害サイトの規制強化が必要[399]
    • 子供のうちからネットの危険性を教えることで、(同種犯罪の)抑止に繋がってほしい[387]

    また、「加害者3人からの謝罪は望んでいない」と明言し[注 162][26]、堀が本事件の刑事裁判で自身に謝罪[注 120]した一方、それ以前の余罪(碧南事件など)を自供せず隠していたこと[注 163]や、「山下」が第一審判決後に「悪いことはばれなきゃいい」と発言したことを厳しく批判している[404]

    類似事件

    2017年(平成29年)に発覚した座間9人殺害事件は、会員制交流サイト (SNS) に自殺願望を書き込んだ若者たちが標的にされた[注 6][406]

    2018年(平成30年)6月には、静岡県藤枝市の山中で女性看護師の遺体が発見される事件が発生したが[406]、同事件はインターネットの掲示板で知り合った男3人[注 164]が被害者の女性を拉致し、遺体を山中に遺棄した事件として、本事件との共通性が指摘されている[399][413]渋井哲也は、SNSが従来の闇サイトの代わりとして、特殊詐欺や強盗などの共犯者を募る場として悪用されている旨を指摘している[387]

    事件を題材にした作品など

    書籍

    元刑務官の河村龍一は、「凶悪犯罪の抑止力として刑法厳罰化を強く訴える」として、2013年9月に『闇サイト殺人事件の遺言 「一人だけなら死刑にならない」日本の安全神話が崩壊する』(ごま書房新社)を出版している[414]

    大崎善生(作家)は2014年(平成26年)以降、本事件に関するノンフィクションを執筆するため、Aの母親Bへのインタビュー[注 165]を継続的に行い、2016年(平成28年)11月30日に角川書店から被害者Aの生い立ちや、母Bとともに生きた31年間の生涯などを描いたノンフィクション『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』を出版した[注 166][415]

    また、加害者の1人である堀慶末は2019年8月に碧南事件で死刑が確定したが[317]、その直前(2019年5月)にはインパクト出版会から自身の半生や本事件・碧南事件などを回顧した著書『鎮魂歌』(書名の読み:レクイエム)を出版している[418]日本放送協会 (NHK) の「事件の涙」取材班は、遺族の事件後の動向を取材したり、立花江里香(NHK名古屋放送局報道部)が無期懲役刑で服役している「山下」と文通を行うなどして、堀の死刑確定後(2020年2月)に新潮社から『娘を奪われたあの日から ―名古屋闇サイト殺人事件・遺族の12年―』を出版した[419]

    映像作品

    東海テレビ放送ドキュメンタリーチーム[注 167]は2008年夏以降、裁判員制度開始(2009年5月)を控え、本事件の被害者Aの母親Bのほか、同じ東海地方で発生した凶悪事件の被害者遺族[注 168]を取材し、2009年4月12日にドキュメンタリー番組『罪と罰 -娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父-』を放送した[420](ナレーター:藤原竜也[424]

    • 東海テレビは同番組放送以降も、被害者Aの母親Bを継続取材し、「事件前の母娘の物語」を再現したドキュメンタリードラマ『Home(ホーム) 東海テレビ開局60周年記念 ドキュメンタリードラマ』[プロデューサー:阿武野勝彦(東海テレビ)、監督・脚本:齊藤潤一(東海テレビ)、助監督・ドキュメンタリー取材:繁澤かおる][425] を2018年12月25日19時00分 - 21時00分に放送[426]。同作では被害者Aを佐津川愛美(子供時代:矢崎由紗)が、母親Bを斉藤由貴が演じた[425]。その後、同番組を再構成した映画作品『おかえり ただいま』(監督:齊藤潤一)が[427]、2020年9月19日から劇場公開された[428]
    その他テレビ番組

    脚注

    注釈

    1. ^ a b c d e f 名古屋地裁 (2009) によれば、拉致現場は「春里町2丁目4番地の1先路上」[1]。この現場は、被害者A宅から徒歩1分ほどの地点で[2]、A宅まで数十 m離れたマンション前の道路であり[3]名古屋市立自由ヶ丘小学校[4](Aの母校)の目の前でもあった[2]。事件当時は「千種区自由ケ丘」と報道されていた[5]。周辺は自由ヶ丘駅名古屋市営地下鉄名城線)から徒歩10分程度の、住宅・団地が並ぶ高台の道で、事件当時から街灯が整備されていたため、地元では「安全な道」とされていたが[6]、夜間になると人通りはほとんどなく、拉致されたところを目撃した人もいなかった[7]
    2. ^ a b c d 殺害現場(愛西市内佐屋町西新田)は[5]国道155号沿いにあるレストランの屋外駐車場(レストランの建物から国道を隔てた場所にある第二駐車場)の奥だった[8]。2016年時点で、駐車場の敷地のうち、半分は産業廃棄物処理場となっている[9]
    3. ^ a b c d 死体遺棄現場の山林(岐阜県瑞浪市稲津町小里)は、「御料林橋」北東に位置する[5]。この場所は、岐阜県道33号瑞浪上矢作線から20 m程度入った場所[10] ないし、「(恵那市との境界にある)山林の東の小里川ダムに通じる県道(33号)のバイパス道路を上って行き、「川折大橋」の手前から工事用に造られた脇道を小里川に向かって70~80メートル入った場所」で[11]、鎖により車両の侵入が禁止されていた林道の脇だった[12]
    4. ^ a b c 加害者3人が知り合うきっかけとなった「闇の職業安定所」は[56]、犯罪の仲間や協力者を募る目的で利用されていたウェブサイト[5]。事件発覚後の2007年8月27日朝までに閉鎖されていることが判明した[56]
    5. ^ 「山下」は『中日新聞』宛の手紙で、このように共犯者たちと互いに虚勢の張り合いを続けた末に自制心が働かなくなった旨を述べている[32]
    6. ^ a b c d e 森井昌克神戸大学大学院教授・情報通信工学)は、「インターネット上では、本当の自分が知られていないので気が大きくなり、虚勢がエスカレートする」と、碓井真史新潟青陵大学教授・社会心理学)は、「インターネットの場合、『自殺したい』など、現実社会では言いにくいことでも話せる上、そのような話が具体的になった際にもブレーキがかからず、エスカレートしやすい。集団だと特にその傾向が出て、現実世界では考え付かないような行動に走ることがある」と指摘している[405]
    7. ^ a b 山田麻紗子(2017年時点で日本福祉大学の客員研究所員)は同年、『中日新聞』の取材に対し、「互いの『馬鹿にされたくない』という気持ちが行動をエスカレートさせた。1人では起こり得なかった事件だ。3人はいずれも、職を失うなどして社会から孤立し、犯罪を踏みとどまらせる人間関係や地位を持っていなかった」と指摘している[289]
    8. ^ a b KTの前科は詐欺罪による執行猶予付きの1犯で、本事件当時はその猶予期間中だったが、それ以外の前科は交通関係の罰金前科のみだった[191]#事件前の経緯を参照)。
    9. ^ a b c 堀の前科は交通関係の罰金前科2犯のみだった[38]
    10. ^ a b 「山下」の前科は詐欺罪などによる執行猶予付きの1犯で、本事件当時はその猶予期間中だったが、他の前科は交通関係の罰金前科1犯のみだった[51]#事件前の経緯を参照)。
    11. ^ 『毎日新聞』は社説 (2007) で、インターネット犯罪の特性として、匿名性(身元特定の困難さ・証拠の残りにくさ)に加え、短期間に不特定多数と連携することが可能な点や、顔が見えないことでやり取りに抵抗感が薄れ、虚実ないまぜになって意見や主張がエスカレートする点を指摘している[42]
    12. ^ 本事件の約4年前から、インターネットで殺し屋を依頼する事件が目立っていた[42]。2003年(平成15年)10月には滋賀県でインターネットを利用した殺人依頼の事件が発覚したほか、2005年(平成17年)4月には名古屋市中川区で、同年12月には長野県松本市で殺人事件(それぞれ加害者がインターネットで被害者の殺害を依頼し、第三者が実行した事件)が発生した[43]。また、2003年末 - 2004年(平成16年)初めには主犯格が携帯電話のサイトで共犯者を募った連続強盗事件(愛知・三重静岡の3県で発生)が、2007年5月には三重県亀山市の女子中学生が誘拐される事件(犯人の1人がインターネットで運転手役を手配した)が発生していた[43]
    13. ^ 『中日新聞』は「(ウェブサイトの運営)業者に通信記録の保存を義務付けるなど、法規制の強化が必要だが、法規制は言論の自由や個人のプライバシーを侵害しかねない側面もある。司法・行政・有識者らでプロジェクトチームを作り、監視社会を招かずに凶悪犯罪を防止できる方法を練る必要がある」と[44]、『読売新聞』は「サイト運営に責任を持つ管理者が、問題情報の自主的な削除を積極的に進めるべき」とそれぞれ指摘した[45]
    14. ^ インターネット上の掲示板を利用した報酬金目当ての仕事で、通帳1通およびキャッシュカード1枚を詐取したとして、詐欺罪に問われた[51]
    15. ^ 「山下」は『中日新聞』宛の手紙で、本事件以前に闇サイトを使った詐欺などの犯罪を3件犯していたことや、闇サイトで共犯者を募った理由を「多人数なら1人よりもやれることが広がり、互いに名前や身分を証す必要もない」と述べている[32]
    16. ^ インターネット上の掲示板を利用した報酬金目当ての仕事で、偽造運転免許証を使い、通帳を1日に連続して5件詐取したとして、偽造有印公文書行使、有印私文書偽造、同行使、詐欺未遂、詐欺の罪に問われた[53]
    17. ^ 借金の合計額は計440万円[25]
    18. ^ 同年8月4日、「山下」は堀に対し「いくら(金が)必要か」と質問し、堀から「ガッツリいきたい」と返信されたことを受け、「組んでみないか」と誘った[60]
    19. ^ 「山下」は詐欺事件で逮捕された前科事件以降、人材派遣会社で派遣社員として働いていた[63]
    20. ^ a b c d e f 犯行に用いた車(リバティ)は2006年4月ごろに盗難情報が出されていた[65]。「山下」はそのリバティのナンバープレートを、かつて自身が所有していたスターレット(2003年8月ごろに購入)のナンバープレートに付け替えて利用していた[66]
    21. ^ 「山下」は当初、自殺志願者(大学生)が車内で練炭自殺した後で、ガソリンなどを用いて車を燃やそうとしていたが、途中で気まぐれを起こし、大学生を街に置き去りにして姿を消した[68]
    22. ^ 堀は逮捕当時、名古屋市東区一丁目のマンションに居住していた[72]
    23. ^ 大崎善生 (2016) は、この時の経路について、名古屋市内 - 豊川市の自動車による所要時間は東名高速道路経由で約30分、一般道経由で約1時間である旨を指摘した上で、「11時30分ごろに豊川市に到着したという記録があるので、一般道経由で移動したのだろう」と指摘した[73]が、堀は自著『鎮魂歌』 (2019) で「高速道路経由で豊川へ向かった」と述べている[74]
    24. ^ この時、「杉浦」は「このままでは2日後(8月23日)にアパートを追い出されてしまうので、早く現金が欲しい。金庫破りかパチンコ屋(への事務所荒らし)が良いのではないか」と発言していた[75]
    25. ^ 捜査報告書によれば、この時点ではKTはむしろ拉致計画に消極的な姿勢を示していたとされる[71]
    26. ^ 名古屋市中区新栄[77]
    27. ^ この住宅は、かつて堀が増築の仕事で外壁工事をした家だった[87]。この家に向かう途中、「杉浦」がそれに用いるマイナスドライバーを2本万引きし、同宅周辺でも空き巣に入れそうな家を物色したが、いずれも失敗している[88]
    28. ^ この時、金槌を見せられたKTの「そんなもんでぶったたいたら死んじゃいませんか」という問いかけに対し、堀は「まあ、仕方ないですかね」と、「山下」も「まあ、そうでしょうね」とそれぞれ答えている(捜査報告書より)[90]。しかし、堀は自著 (2019) で「ハンマーは殺すつもりで購入したわけではなく、この時の自身の発言は迎合気味の発言に過ぎない。もし最初から殺人を考えていたなら、ハンマーより殺傷力の高い包丁を選んでいただろう」と述べている[91]
    29. ^ その子役はKTから報酬を払われたが、役目を果たさずに逃げたため、KTが振り込んだ金を回収しようとしていた[94]。彼は2007年8月より数か月前、居宅のアパート(日進市)から東京へ引っ越していた[95]が、後に口座の売買で逮捕された[96]
    30. ^ a b 2007年8月22日、KTは「山下」に対し、「自分は過去に2人ほど殺して(出身地の)群馬に埋めたことがある」「人を殺すのはゴキブリを叩き殺すのと同じだ」などと発言していた[98]。KTは第9回公判[99](2008年11月26日)でも、堀の弁護人からの被告人質問で、「警察からの取り調べに対し、『2人ほど埋めたことがある』と話した」と供述したが、愛知県警は「そのような事実は把握していない」とコメントしている[100]
    31. ^ しかし、このマンションは実際には常連客の居宅ではなく、会社の事務所だった[102]
    32. ^ 「山下」は、「(常連客を最後は殺してしまえば良いなどという言葉を聞いて)半信半疑の気持ちではあったが、KTの話をまったくの冗談だとは思わず、半分は『実際に人を殺すことになるかもしれない』という気持ちを持っていた」と述べている[104]
    33. ^ そのクレジットカードは、かつて「山下」が勤務していた会社の社長の息子宛てに届いた書留を、「山下」が本人を装って受け取っていたものだった[106]
    34. ^ 同店は1日の売上が20 - 30万円におよび、閉店後には店長が1人でバックヤードで仮眠していたため、そこを襲う計画だった[34]。ただし同日(2007年8月22日)は定休日だったため、同店に向かう当初はあくまで下見目的だった[96]ほか、堀は「自分は顔が割れているので、実行役はできない」として[34]、見張り役・運転手役を引き受けた[96]
    35. ^ KTが店内の様子を見たところ、エアコンの室外機が回っていたため、KTは「中に店主がいるかもしれない。今襲おうか」と提案していた[34]
    36. ^ 「杉浦」はすぐに金を手に入れたがっていた一方で殺人には消極的だったため、秘密組織を結成して長期的に儲ける手段や、殺人を提案してくるKTに反発していた[111]
    37. ^ その旨を「山下」から電話で伝えられた堀は、「KTが持っているという覚醒剤・拳銃入手のルートは手放したくないが、すぐに金を手に入れようとする2人の計画にはいつでも協力する」と応じている[111]
    38. ^ この時、犯行計画を話し合う中で「粘着テープが必要になる」と考えた堀は、「山下」に対し、メールで粘着テープの入手方法を依頼した[80]
    39. ^ かつて「山下」が瀬戸市に住んでいた時期は、このガソリンスタンドは24時間営業だった[114]
    40. ^ 水道工事会社[115]
    41. ^ 現:長久手市
    42. ^ 当時、「杉浦」は所持金が200円程度しかなく[116]、自分の携帯電話も「山下」の車(リバティ)のダッシュボードに忘れていた[67]
    43. ^ 「杉浦」は自首の理由について、「途中で「山下」が逃げたため、馬鹿らしくなった」と述べた[115] ほか、「犯罪を繰り返すことに嫌気が差していたため、『これを転機に』と自首を決意した」とする報道もある[118]
    44. ^ 後に窃盗未遂・強盗予備などの罪に問われた「杉浦」は、自身の被告人質問で、「あなたの対応次第では、本事件(拉致殺害事件)を防げたのでは」と質問された際、「そんな事件を起こすとは思っていなかった」と述べた[119] ほか、有罪判決確定後に『週刊現代』(講談社)記者からの取材に対し、「8月26日に(「山下」・KT・堀の)3人が逮捕されたことを留置場内で知った際、『まさか本当に強盗殺人をやるなんて』と驚いた」と述べている[120]
    45. ^ 大崎善生 (2016) は「これに対し、KTと堀は無言でうなずいた」と[124]、堀 (2019) は「当時、自分とKTは『どうでも良い』というような態度を取っていたように思う」と述べている[125]
    46. ^ a b c d 名古屋地裁 (2009) は、3人が謀議を終えてファミリーレストランを退店した24日19時過ぎごろを「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した時刻」として認定しているが、名古屋高裁 (2011) は「原判決(名古屋地裁)の認定には誤りがあるが、被害者を拉致する前の時点でさほど時間的な隔たりはなく、その間、より詳細な謀議がなされただけであることなどに照らすと、この点は判決に影響を及ぼすものとはいえない。」と判示し、堀・「山下」それぞれの弁護人の「殺害現場で共謀が成立した」という主張をいずれも退けた[104]。また、死体遺棄の共謀が成立した時刻についても同様の理由で「原判決の認定(24日19時ごろ)は誤りで、実際には同日15時ごろと言えるが、殺害の合意の中には当然、殺害後に死体を遺棄する事も含まれていると考えられるため、その方法・場所などが具体的に決まっていなかったことなど、各被告人が指摘する事情は共謀の成立の妨げにはならず、判決に影響をおよぼす事実誤認とは認められない」と判示し、弁護人の「殺害後に死体遺棄の共謀が成立した」という主張を退けた[104]
    47. ^ 民間企業の多くは25日を給料日としているが、同日が土曜日・日曜日の場合は、その直前の金曜日に給与が振り込まれる場合が多いため[128]
    48. ^ KTは「今日拉致して暗証番号を聞き出せば、(ATMで引き出せる金額は1日50万円までであるため)今日から月曜日までに200万円を引き出せるだろう」と発言していた[63]。預金の引き出しを「月曜日まで」と決めた理由は、標的を監禁した際、その標的が出勤してこないことを職場の人間などが気にかけ、警察に連絡する可能性を想定したためである[127]
    49. ^ この時、その碧南事件の共犯者は堀から「3日ぐらい部屋を使わせてほしい」と頼まれると、「今は電気料金を滞納して電気を止められている。友人の家で寝泊まりしているので、電気代を肩代わりしてくれるなら使っても良い」と応じた[127]ものの、実際には犯行で使用されることはなかった。
    50. ^ そのため、2列目シートの足元の空間を広くするため、助手席は限界まで前に出し、その足元に軍手と金槌を置いた[132]。包丁は運転席のドアポケットに、金槌はホームセンターの袋に入った状態で座席の下に入れていた[133]
    51. ^ 堀 (2019) は「実際に5、6人の男女の後をつけるなどした」と述べている[134]。「山下」は通行中の女性15、16人ほどの女性に目をつけ、実際に5、6人の女性の後をつけるなどした[133]
    52. ^ Aは普段、19時30分ごろに帰宅していた[139]
    53. ^ まず、Aの姿を見た「山下」が「あれどう」などといったところ、堀も賛同した[140]
    54. ^ またこの時、車外から目撃されないよう、Aにシャツとタオルを掛けていた[143]
    55. ^ この時、堀は「山下」に対し、Nシステムがある幹線道路を避けるよう指示している[145][146]
    56. ^ 到着後、KTはカーナビの光が車外に漏れることを恐れ、「山下」に命じてリバティのエンジンを切らせている(カーナビを切るにはエンジンを止める必要があったため)[148]
    57. ^ 名古屋地裁 (2009) によれば、3人がAから金品を奪った時刻は、24日23時10分ごろ - 25日0時45分ごろまでの間である[1]
    58. ^ KTと堀はAを拉致した直後、Aに対し「騒がなければ命の保証はする」「体が目的じゃないから安心して」などと発言していた[140]
    59. ^ この時、堀はAを「この包丁は100円ショップで買ったもので切れ味が悪いから、5、6回は刺さないと死ねないぞ」などと脅迫している[152][151]
    60. ^ 包丁の刃先をAの太腿に向けた上で、上下に振って突き刺す真似をした[153]ほか、太腿を包丁の腹で叩いたりした[108]
    61. ^ この時、恐怖で強く戦慄するAの姿について[154]、KTは交際相手に宛てた手紙で「マグニチュード10?」などと書いている[155]
    62. ^ この時、3人は被害者を執拗に脅迫していたことから、「このような状況で嘘をつくはずはない」と考えていた[156]。実際、堀もKTとの会話で「あれだけおびえていたから、嘘ではないだろう」と話していた[157]。また、Aは預金額についても、実際(800万円以上)とは異なる額(40万円)を述べている[158]
    63. ^ a b KTおよび堀は、後の供述で「Aが言った4桁の番号は『2960』ではない」と述べていたが、「山下」の携帯電話には「2960」への発信履歴(時刻:0時45分)が残っている[154]。一方、堀は自著 (2019) で、「Aが言葉にした番号は『2960』ではない。「山下」はKTが口にした番号を携帯電話の発信履歴に残したが、軽度の知的障害 (IQ:65) である「山下」が携帯電話を打つ際に押し間違えたか、KTが口にした番号を聞き間違えた、あるいは捜査機関が捏造した可能性がある。殺害が決まっているわけでもないのに、『2960』という語呂合わせをするのは不自然だ」と述べている[159]
    64. ^ a b c 「山下」は第一審の公判で、Aを強姦しようとした動機について「Aの態度から『小生意気な女』と思い、その鼻をへし折ってやろうと思ったからだ」と主張したが、名古屋地裁 (2009) は、KTや堀に一度は制止されながらも再び強姦未遂行為に及んだことから、「「山下」は自己の性欲から、強姦の強い犯意に基づいて姦淫行為に及ぼうとした」と認定[140]。これに対し、「山下」は控訴審で事実誤認を主張したが、名古屋高裁 (2011) は「「山下」はKTや堀に止められ、戒められながらも、2度にわたり被害者を姦淫しようとした。その経緯などに照らせば、自らが捜査段階で供述した通り、『自己の性欲から強姦の強い犯意に基づいて姦淫行為に及ぼうとした』と優に認められる。第一審における「山下」の供述は、合理的な理由なく捜査段階から供述を変遷させるものであって信用できない」として、訴えを退けた[38]
    65. ^ 名古屋地検は冒頭陳述 (2008) で、「Aが「山下」に強姦されそうになったことで冷静さを失い、今にも逃走を図りそうになったと判断したため、(KTと堀はAの)殺害を決意した」と述べている[13]
    66. ^ 堀は自著 (2019) で、「自分が『暗証番号は嘘ではないだろう』と発言したところ、KTが『殺そうか』と言った。自分は車内に綿ロープがあったことを思い出し、その存在をKに教えた」と述べている[157]
    67. ^ この時、堀と「山下」はAの手足を押さえていた[162]
    68. ^ 2人の角度が180°にならず、うまく力が入らなかったため[163]。なお、堀は自著 (2019) で「(首にロープを掛け、両端を引っ張り合う行為が)かつて自身が碧南事件で被害者を殺害した際の記憶をフラッシュバックさせ、自分は激しい恐慌状態に陥った」と述べている[164]
    69. ^ ガムテープ[163](粘着テープ)を巻きつけた回数は、冒頭陳述によれば31周とされている[13]。大崎善生 (2016) は、「縦横合わせて23巻きにした上、頭からレジ袋を被せ、袋の口を塞ぐようにガムテープを8周巻いた」と述べている[163]
    70. ^ KTが脈を取り、Aの死亡を確認した[165]
    71. ^ その3列目の席は、「山下」の生活用品などが散乱していた[166]
    72. ^ まず6万円を3等分し、残る2,000円はガソリン代として「山下」が受け取った[168]
    73. ^ 「山下」は預金の引き出しのために変装の必要があったほか、KTと堀は返り血を著しく浴びていたため[168]
    74. ^ 預金(合計約890万円)は、Aが自分を女手一つで育ててくれた母親Bへの感謝から、自分が家を買うことを決意し、母親に内緒で月20万円弱の手取り給与の中から、毎月10万円程度を貯金していたものだった[170]が、KTは銀行の取引明細書でその金額を知った際、「この金を資金にして覚醒剤を仕入れ、それを売買する組織を作ろう」と発言していた[171]。事件後、娘Aが貯金していた理由を知った母Bは、「娘の願い通りに使おう」と考え、事件発生時まで母子2人で30年間暮らしていた市営住宅から新築の分譲住宅に引っ越した[172]
    75. ^ スコップを盗んだ時期について、堀 (2019) は「高速道路を下りてから、KTが『埋めるために使う道具が必要だ』と言ったので、通り道にあった資材置き場のようなところ(遺棄現場から車で10分ほど)で盗んだ」と述べている[174]
    76. ^ 堀は自著 (2019) で、「KTはAの遺体を遺棄した後、数分間にわたり遺体に向かって手を合わせていた。KTはその間、自身なりに自身の行為を反省・後悔して、Aに詫びていたのだろう」と述べている[175]
    77. ^ 遺棄現場付近には、道の駅おばあちゃん市・山岡(小里川ダムに隣接)がある[11]
    78. ^ 堀 (2019) は、「山下」は岡崎方面の道に詳しかったので、岐阜県の林道を抜けて岡崎方面に向かおうとした」と述べている[176]
    79. ^ 堀はKTや「山下」と別れた後、KTに対し「お疲れ様でしたm(_)m」という内容のメールを送信していた[39]ほか、事件後の「山下」の疲弊した様子から「自首するのではないか」と感じ、帰宅後にはKTに「「山下」は大丈夫か?」といったメールを送っていた[178]
    80. ^ 「有松ジャンボリー」は、名古屋市緑区南陵601番地にある大型ショッピングセンター(スーパーマーケット「フィール」などが入居している)[180]
    81. ^ a b c 「山下」は捜査段階で「自首しようか自殺しようか考えていた」と述べたほか[182]、自首した動機について、『中日新聞』宛の手紙で「死刑が怖かったわけではなく、善と悪の心の葛藤があり、(自首した時に)善の部分が出た」と[32]、公判では「『殺さないで』と言ったAの最後の言葉が頭から離れず、KTや堀の犯行後の発言にも腹が立っていたからだ」と供述した[183]。名古屋高裁 (2011) は、「山下」が自首した動機について「KTや堀に対する不満などの気持ちから『一蓮托生で警察に突き出そう』などという気持ちもあったが、反省悔悟の情もあったことや、自首が本件事案の解明に一定の寄与をしたことは否定できない」と判示している[38]
    82. ^ 県警は「山下」が知っていたKTの携帯電話番号から、KTの居宅を特定したほか、「山下」が事件前に何度も堀を迎えに行っていたため、堀の居宅も特定された[187]
    83. ^ a b 「私の知人、友人などが、もし「山下」さんのところへ面会など、手紙など、失礼、無礼があったらお許しください」などといった内容の手紙[191]
    84. ^ 第7回手続[99](2008年7月31日)で初公判の期日が指定され[197]、最後の第8回手続[99](9月22日)で公判(全18回)の詳細な日程が決められた[198]
    85. ^ a b 例:名古屋女子大生誘拐殺人事件[208]・日立女子中学生誘拐殺人事件[209]泰州くん誘拐殺人事件[210] など。ただし、司ちゃん誘拐殺人事件甲府信金OL誘拐殺人事件など、誘拐の当初から被害者を殺害することまでは計画していなかった事例の場合、無期懲役が選択されている。
    86. ^ 例:東村山署警察官殺害事件(1976年)[211]北九州市病院長殺害事件(1979年)など[212]
    87. ^ これら以外の事例として、殺害された被害者数が1人でも、殺害行為の高度な計画性が重視されて死刑を適用された事例として、JT女性社員逆恨み殺人事件がある[213]
    88. ^ 司法研修所 (2012) によれば、調査対象になった事件のうち、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した10件(殺人5件+強盗殺人5件)はいずれも死刑が確定している[214]。殺人事件としては東京都北区幼女殺害事件(1979年)[215]・川口バラバラ殺人事件[216](1999年)など。強盗殺人事件では福岡県直方市強盗殺人事件(1980年)[217]福島女性飲食店経営者殺害事件(1990年)[215]福山市独居老婦人殺害事件(1992年)など[218] がある。
    89. ^ その他の事例では、わいせつ・姦淫目的の誘拐殺人3件(群馬女子高生誘拐殺人事件奈良小1女児殺害事件[219][220]三島女子短大生焼殺事件[220][221])などがある。
    90. ^ 同日、検察官は共謀時期について、公判前整理手続きでは行っていなかった主張(当日夜のレストランで共謀が成立したとする旨)を行ったが、弁護人および近藤裁判長から指摘を受け、撤回した[230]
    91. ^ KTの弁護人は「殺害方法は残虐だが、死に至らない被害者Aに恐怖感を覚えたためで、殺害は偶発的なものだ」と主張した[238]
    92. ^ 同日の被告人質問で、「山下」の弁護人は反省の言葉を引き出そうとしたが、「山下」は被害者への心境などについて「お気の毒。Aは運が悪かったから殺された」と[235]、反省の念について「申し訳ないことをしたという思いはあるが、遺族が納得できない謝罪は意味がない。死刑で構わないし、遺族に包丁で刺してもらってもいい」と発言した[183]
    93. ^ Cは2007年9月24日、情状証人として名古屋地検から事情聴取を受けた際、担当検事から「2960」のことを聞き出し、「『2960』は『憎むわ』という意味だろう」と話した[245]。名古屋地検はBに対し、公判までその意味を他言しないよう口止めしていた[246]
    94. ^ 第一審判決後の2009年5月以降に起訴された事件が裁判員制度の対象。
    95. ^ 名古屋地検は、Aの母Bと連絡を取る担当検事を配置し、裁判記録の意味・公判前整理手続(非公開)の進捗状況について説明した[248]。B本人は「証人尋問や意見陳述で、無念の気持ちなど、伝えたいことを言えた」と、Bの代理人弁護士も「論告はBの心情を十分に汲み取った内容で、(本人が)被害者参加制度で訴訟に参加した場合と同等の効果があっただろう」と回顧している[248]
    96. ^ 名古屋地検が遺族に提案して行ったもので、同地検の次席検事・飯倉立也はその意図について「写真を用いることで、被害者の実情・人となりをできるだけ正確に明らかにすることを狙った」と説明した[249]。同時期に東京地裁で審理が行われた江東マンション神隠し殺人事件の公判でも、被害者の遺族から要望を受けた東京地検により、法廷のディスプレイに証拠(切断され、下水道に流された被害者の肉片・骨片の実物の写真)や、マネキンを用いた切断シーンの再現が映されたりした[249]
    97. ^ 名古屋地検は「模倣性の高さ」の根拠として、本事件に前後して闇サイトを通じて仲間を募った犯罪例や、通り魔による無差別犯罪が増加し、それぞれ社会的問題になっている点を挙げた[35]。後者(通り魔による無差別犯罪)の例として、2008年には土浦連続殺傷事件秋葉原通り魔事件が発生している。
    98. ^ 検察官は、本文で述べたようにKTが被害者Aを愚弄する内容の手記を書いていたことのほか、堀が刑務所から出所できることを前提とした手記を書いていたことや、「山下」が法廷で「自首したことを後悔している」「謝罪の気持ちはない」などと発言した点を指摘した[35]
    99. ^ a b c 名古屋地裁 (2009) は、被告人の更生可能性についての判断を示さなかった[250]
    100. ^ 上告趣意書で、検察官は「身代金目的拐取・被拐取者殺害事案と本件とでは、被拐取者の安否に関する家族等第三者の憂慮に乗じてその第三者から財物を奪おうとするのか、被拐取者本人からそのキャッシュカードを利用して財物を奪おうとするかの違いこそあれ、家族等の憂慮あるいは本人の恐怖心につけ込んで、本人の手元にはない大金を得ようとし、その大金を得る又は得る目途が立つと、後は用済みとして、口封じのために被拐取者を殺害してしまうというもので、犯罪の冷酷さ、卑劣さにおいて、両者に隔たりはない。(中略)本件は、殺害された被害者が1名にとどまるとはいえ、十分に極刑に相当し得る事案である。」と述べている[252]
    101. ^ a b 2006年(平成18年)6月20日の最高裁第三小法廷判決[310]。同判決は、「犯行自体に関連する量刑要素を評価した上で、特に酌量すべき事情がない限りは死刑を選択するほかない」と判示したもの[311]で、検察官は堀の控訴審判決に対する上告趣意書で「堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決は、結果の重大さ・悲惨さや、動機に酌むべき余地がない点、犯行が計画的である点、遺族の処罰感情の強さ、社会的影響の大きさなどの諸情状を軽視し、殺害された被害者が1人であることを過大に評価している」と指摘した[312]
    102. ^ 名古屋地裁 (2009) は「インターネットを通じて形成された集団による犯罪は、素性を知らない者同士が互いに虚勢を張り[注 6]、悪知恵を出し合うことで、1人では行えなかった凶悪・巧妙な犯罪が実行可能となる危険性を持つが、本事件はそれがまさに現実化したものだ」と指摘した[260]
    103. ^ 名古屋地裁 (2009) は「(インターネットを通じて形成された犯罪集団は)匿名性が高く、仮に犯行後、集団が解消され、それぞれが連絡手段を絶ってしまえば、犯罪者を発見・逮捕することは著しく困難になると予想される」と指摘した[260]
    104. ^ a b 第一審で証人として出廷した愛知県警捜査一課の警部(事件の捜査を担当)は[263]、第5回公判(2008年11月5日)[99] における証人尋問で「仮に「山下」が自ら警察に通報しなくても、「山下」とともに窃盗未遂事件を起こした「杉浦」が既に逮捕されていたことなどから、3人が捜査線上に浮上し、検挙することは可能だった」と証言した[263] が、名古屋地裁 (2009) は、「「山下」の自首は、KTらに腹を立てたことが動機と言えるが、もし自首しなかった場合、捜査は相当難航し、次の犯行が行われた可能性が否定できない」と指摘した[260]
    105. ^ 読売新聞』 (2009) は社説で、「名古屋地裁は、3人の間に明確な上下関係が存在しない中、自首した1人(「山下」)のみを無期懲役、ほか2人を死刑とした。これは、「山下」の自首が事件解決につながったことを評価した結果だ。もしこれがなければ、結びつきの薄かった3人を警察が割り出すことは難しかっただろう」と指摘している[264]
    106. ^ ただし、「山下」の弁護人は「検察が控訴しなければ、(控訴は)取り下げる」と表明していた[265]
    107. ^ 毎日新聞』『朝日新聞』『日本経済新聞』は「死刑制度がある以上、大方が支持するものだろう」と、『東京新聞』は「被害者1人の事件では異例だが、手口や被害者の無念さ、遺族の悲嘆を思えばやむを得ない」と評価したほか、『産経新聞』は「社会常識に沿ったごく自然で当然の判断と評価できる。(5月から始まる裁判員制度を控え)裁判員にとって、多大な影響を及ぼす意義ある妥当な判決だろう」と評価した[270]。その上で、「永山基準」については産経が「最高裁は26年の前の基準を見直し、裁判員が納得できる明確な死刑基準を示す時だ」、毎日も「通り魔的犯行や児童虐待などが増加・横行する現在、従来の量刑基準は見直しを迫られている。社会を挙げて刑罰論議を深めるべきだ」と主張した一方、『読売新聞』は「死刑か無期懲役か、プロの裁判官も苦悩する判断」、日経は「明快な基準は事実上不可能であり、個別の事件と真剣に向き合って判断するしかない」と指摘した[270]
    108. ^ 最高裁第一小法廷(澤田竹治郎裁判長)は1949年(昭和24年)6月16日の判決[事件番号:昭和24年(れ)第857号 収録文献:刑集 第3巻7号1082頁]で、「被告人が控訴を取り下げた場合、弁護人の控訴も効力を失う」という判断を示している[273]。しかし、最高裁第二小法廷(大西勝也裁判長)は1995年(平成7年)6月28日付の決定で、第一審で死刑判決を受け控訴したものの、後に判決の衝撃や公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ、苦痛から逃れることを目的に控訴を取り下げた事例(藤沢市母娘ら5人殺害事件)について、「自己の権利を守る能力を著しく制限されていた状態での控訴取り下げは無効」とする判断を示している[274]
    109. ^ a b c 藏冨恒彦(2017年4月8日に59歳で死去)[279] は、愛知県弁護士会に所属していた弁護士[280]
    110. ^ a b c 福井秀剛は愛知県弁護士会所属の弁護士[281]
    111. ^ 同日、KTは本事件の控訴審における私選弁護人として、藏冨・福井の両名を選任する旨の「弁護人選任届」に署名押印した[277]
    112. ^ また、同年11月15日付で異議申立理由補充書を提出した[284]
    113. ^ 平成22年(け)第16号[284]
    114. ^ 最高裁第三小法廷 (2011) は、弁護人2人(藏冨・福井)から提出された特別抗告申立書(2011年2月14日付)について、「具体的な抗告理由の記載がなく、抗告提起期間内に理由書の提出もないので、申立ては不適法である」とした[284]
    115. ^ 「山下」については検察官の控訴理由に関する答弁も含む。
    116. ^ 「山下」については控訴理由も含む。
    117. ^ 検察官は控訴審で、「弁護側が実施した心理鑑定は、「山下」の『良心の呵責から自首した』という言葉を鵜呑みにしたに過ぎない」と指摘した[295]
    118. ^ 堀の弁護人は以下のように、名古屋地裁 (2009) の法令違反を主張した。
      1. 原判決は「堀の金槌による殴打は、(ア)KTが被害者Aの首を絞めた行為と、(イ)KTおよび堀がAの首を綿ロープで絞めた行為の間に行われた」と認定したことが、原審では検察官も被告人らも、「殴打は(ア)および(イ)の行為の後に行われた」という主張をしていたにも拘らず、名古屋地裁 (2009) は当事者に何ら注意喚起せず、当事者の主張と異なる認定をした。よって、原審の訴訟手続きには釈明義務違反の違法(判決に影響をおよぼす)がある[296]
      2. KTおよび「山下」それぞれの検察官調書のうち、原審公判供述との相反部分について、刑事訴訟法第321条1項2号後段の特信性の要件を満たさないのに、原判決はその要件があるとして証拠採用し、事実認定に用いた(この訴訟手続きには、判決に影響をおよぼすことが明らかな法令違反がある)[296]
      しかし、名古屋高裁 (2011) は以下のように指摘し、論旨をいずれも退けた。
      1. 原審で、(ア)(イ)のいずれも、各当事者が殺害行為の順序について主張の立証に立証を尽くした以上、裁判所が、当事者の主張を踏まえて証拠を検討した結果、殺害行為の順序について当事者の主張とは異なる事実認定をしたからといって、そのことが不意打ちとは言えず、訴訟手続きに法令違反はない[296]
      2. KTや「山下」の検察官調書は、いずれも事件直後の記憶が鮮明な時期の供述で、その内容も詳細かつ理路整然としているが、公判段階における供述にはいずれも重要部分などに矛盾点がみられる[296]
    119. ^ a b 原判決が(1)KTがAの首を絞める(2)堀がAの側頭部を金槌で3回殴打する(3)堀が頸部に綿ロープを巻き付け、KTとともに引っ張り合ったと認定した点について、堀は「(2)は(3)の後に行われた」と主張[104]。しかし、名古屋高裁 (2011) は「(KTを含め)3人とも、捜査段階・原審公判でいずれも原判決と認定に沿う供述(特段不自然不合理な点はない)をしているが、それらを裏付ける客観的証拠はない。KTが行っていない金槌による殴打行為がされた時期について、記憶違いをしている可能性は否定できないが、(2)と(3)の先後関係が各被告人の刑事責任に差異を生じさせるとはいえず、この誤りは判決に影響しない」と判示し、堀の論旨を退けた[104]
    120. ^ a b 堀は第一審判決後に遺族宛に謝罪の手紙(控訴審で証拠採用)を書いたが、受け取りを拒否されていた[297]。謝罪の手紙を書こうとしたのは3人の中で唯一だったが、控訴審判決後には一転して遺族への連絡は途絶えた[25]
    121. ^ 名古屋高裁 (2011) は、「原判決の判断に沿うKTや「山下」の供述は、不利益な事実を認める内容にも拘らず相互に一致しており、2人ともその点について捜査・原審公判を通じて一貫している。実際に堀も殺害行為に加わっていることに照らせば、堀の主張は信用できない」と判示した[104]
    122. ^ 名古屋高裁 (2011) は、「堀がKTや「山下」とともに車内にいる中、KTから意思確認の目的で『最後は殺しちゃう』と問いかけられ、それに対し堀が『やりましょう』あるいは『そのとおりやる気でいます』と答えて承諾の意を伝えており、「山下」もそのやり取りを明確に記憶していること、その後の堀の行動などに照らせば、会話の内容を認識していなかった疑いは認められない」と判示した[104]
    123. ^ 控訴審判決公判は当初、2011年3月25日に予定されていたが、同月10日になって延期が発表された[298]
    124. ^ 上告趣意書提出は2011年9月22日、答弁書提出は2012年3月15日[99]
    125. ^ 『中日新聞』 (2007) は社説で、「加害者3人(当時30 - 40歳代)と同じ世代には、思うような就職先が見つからず、派遣など不安定な非正規雇用を転々とした者が少なくない。3人の犯行は弁護の余地のない悪質なものだが、その背景には、努力しても不利な待遇から抜け出せず、格差が広がる(生活基盤が崩れ、将来を絶望した者による犯罪の続発が懸念される)日本の現状を指摘する識者もいる」と指摘した[44]
    126. ^ KTは、堀や「山下」と出会った「闇の職安」について、「風俗関係の知人女性を希望者に紹介したり、事件の5年前から小遣い稼ぎに利用していた」と述べている[232]
    127. ^ 月給は出来高払い(約100,000円)で、約40,000円の寮費が天引きされていた[325]
    128. ^ 2007年1月、Kは勤務先の社長に対し「父が亡くなった」と話したが、実際には父親(事件当時71歳)は群馬県内で存命していた[325]
    129. ^ 名古屋地裁 (2013) は「裁判を続けたいと望む死刑囚には、弁護人と単独で面会する法的権利がある。1回はKTの精神状態が不安定で、職員の同席が必要だったが、24回は違法と認定できる」と判示した[328]
    130. ^ 長門栄吉は2011年(平成23年)8月13日以降、定年退官(2014年5月30日)まで名古屋高裁部総括判事を務めていた[333]。裁判所ウェブサイト (2014) によれば、2010年4月1日時点では長門と山崎秀尚・眞鍋美穂子・片山博仁の各裁判官が名古屋高裁の民事第3部を担当していた[334]
    131. ^ 賠償総額は第一審と同様だが、KTへの支払額を増やすなど、配分のみを変更[335]
    132. ^ 愛知県弁護士会が2015年3月、名古屋拘置所に収監されていた死刑確定者11人を実施したアンケート(全員が回答)によれば、再審請求をしていなかったのはKTを含む3人のみだった[337]。村上満宏はその理由について、弁護人2人が国賠訴訟に追われていたことや、再審請求事由(罪状認定の誤りや、無罪の主張など)を満たしづらい面があった旨などを示唆している[338]
    133. ^ 2011年12月時点で新たな死刑確定者にも同様のアンケートを送付している[340]
    134. ^ この死刑執行は、上川が法務大臣として発した初の死刑執行命令だった[275]
    135. ^ 死亡確認は8時37分(死刑執行から12分後)[343]。その後、同日9時30分に名古屋拘置所から元弁護人の福井に連絡がなされ[343]、遺骨や遺品は福井を通じて支援者に引き取られた[344]
    136. ^ 逮捕直前は「愛知県小牧市在住」と自称したほか[10]、逮捕直後には「本籍地は愛知県津島市」と報道されていた[5]
    137. ^ 事件について取材した立花江里香宛ての手紙が書かれた日付[349]
    138. ^ 「山下」は公判中、名古屋拘置所に拘置されていたが[350]、2011年6月1日(無期懲役刑確定後)に拘置所から名古屋刑務所へ移送され、同年8月8日にはさらに別の刑務所(2017年時点で服役中の刑務所、所在地は不明)へ移送された[351]
    139. ^ 『読売新聞』『朝日新聞』では「高校中退」[318][325]、『毎日新聞』では「高校卒業」と報道されている[348]
    140. ^ 2000年末から4か月ほど、豊明市内の[325] 運送会社に勤めていたが、その際に「実家の父が病気」と言い[318]、毎月4 - 5万円を[325] 会社から借金[318]。約30万円を返済しないまま[325]、行方をくらました[318]
    141. ^ 実際には高校を中退していたにも拘らず「卒業」と書いていたり、勤務年数を偽ったりなど[318]
    142. ^ 人材派遣会社を通じて就職した[353]。同社の社長は『毎日新聞』の取材に対し、当時の「山下」について、「当時の月給は約30万円だったが、ローンを抱えて生活は苦しく、身なりも綺麗ではなかった」と証言した[348]
    143. ^ この時、会社を通じて購入した車の借金を踏み倒した上、会社から支給された携帯電話を持ち去った[348]。また同年、瀬戸市などによって再び部屋を差し押さえられた[353]
    144. ^ 名古屋土木事務所は、同校周囲の街灯3基を光量の多いものに取り換えることを決め[357]、追加の街灯・防犯カメラも設置された[358]。また、現場付近にある名古屋商業高校は、校庭の照明(通常は20時で消灯)を翌朝まで点灯するよう変更した[357]
    145. ^ それまでは月1回だったものを、8月26日 - 9月2日まで毎晩実施したほか、その後も週2回に増やした[357] が、事件の記憶の風化により、2017年8月時点では事件前と同じ月1回に減少している[358]
    146. ^ 今池駅池下駅覚王山駅本山駅東山公園駅星ヶ丘駅茶屋ヶ坂駅自由ヶ丘駅名古屋大学駅吹上駅[359]
    147. ^ 一方、匿名の投稿者らによる中傷コメントや、事件を揶揄するコメントも投稿されたが、それらのコメントは削除された[360]
    148. ^ それ以前は各都道府県やボランティア団体の一部によってパトロールが実施されていたが、警察は捜査中心でパトロールに充てられる人員が不足していたほか、ボランティアも有料サイトの閲覧ができないデメリットがあった[362]。そのため、監視業務を1つの民間団体・法人に委託し、有料サイトにも登録するなどして、積極的な情報収集に乗り出すことにした[362]
    149. ^ これは、マスコミからの取材に追われたBが、警察に「マスコミが付きまとわないようにしてもらえないか」と相談したところ、警察から「お母さんのコメントを貰うまでは難しいでしょう。文章にして私に渡してくれれば、私の方からマスコミに渡します」と提案されたことに応じて書いたものだった[363]
    150. ^ 署名数は2008年12月18日に30万人(当初目標)に到達[40]
    151. ^ Aの元交際相手である男性Cや、Bの姉(Aの伯母)であるDも署名活動に積極的に協力した[367]。署名活動に対しては「人殺しを募るなんて」という批判もあったが[368]、街頭での署名活動の際に激励の言葉を掛けられたり[369]、郵送で送られてきた署名用紙に「お母さんは1人じゃない」「私が裁判員なら死刑を主張する」などの言葉が綴られていた[370]。『読売新聞』社会部 (2009) は「署名に添えられた手紙の多くには、ネットを通じて形成された犯罪者集団が見ず知らずの市民を殺害したことに対する、切迫した不安感が滲んでいた」と述べている[371]
    152. ^ Bは「(遺族として取材に応じることに抵抗はあったが)自分が表に出ることで、娘のことを覚えていてもらえる」と考え、マスコミからの取材に積極的に応じてきた[373]
    153. ^ Dは初めて街頭で署名活動を行った9月27日、(ホームページに送られてきたメールの処理のために来れなかった)Bに対し、「(同日に署名に賛同した人々のうち)約半分は事件を知っていたが、もう半分はこの署名活動を通じて初めて事件を知った」と話している[369]
    154. ^ 事件からちょうど5年の日[376]
    155. ^ 署名は日本国内だけでなく、アメリカスイスニュージーランドといった海外から郵送されたものもあった[377]。また地下鉄サリン事件オウム真理教事件)の実行犯である広瀬健一教団元幹部:2009年に死刑確定、2018年に死刑執行)の弁護人を務めていた弁護士の田瀬英敏(第二東京弁護士会所属)も、自身の弁護士事務所の職員全員とともに署名を行ったが、田瀬はその理由について「広瀬は教祖(松本智津夫)のマインドコントロール下で犯行におよんでおり、一貫して罪を悔いているため、死刑は重すぎると思ったが、本事件の犯人たちは誰から指示されたわけでもなく凶悪な犯行におよんだ。死刑が言い渡されなければ、女性が夜道を歩くことが命賭けになってしまう」と述べている[378]
    156. ^ 公判の早期開始や、インターネット上の有害サイトの法規制、(凶悪犯罪に対し厳罰を下すことで犯罪の抑止力を発揮するための)法改正・法整備を求める手紙(2008年3月3日付)[201]。その後、鳩山は同月6日付でBに対し「『凶悪犯罪に対する厳罰が犯罪の抑止力になる』という考えは同感だ。インターネットを使った犯罪など、新しい類型の犯罪を考える必要もある」という趣旨の返信を送っている[380]
    157. ^ 「NPO法人 犯罪被害当事者ネットワーク 緒あしす」(2000年9月に、東海地方で初めての犯罪被害者自助グループとして設立)[384]
    158. ^ Bは2012年3月に「宙の会」へ入会し、同年以降は豊明母子4人殺害事件(2004年9月9日に愛知県豊明市で発生・未解決)の被害者遺族とともに[385]、同事件の発生日に情報提供を呼びかけるビラを配布する活動を行っている[41]。Bが「宙の会」に入会したきっかけは、自身が犯人3人への死刑を求める署名活動を行っていた際に豊明事件の被害者遺族から協力を受けたことである[386]
    159. ^ 自助グループのメンバーの1人として、大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件(1994年)の被害者遺族(「長良川事件」の被害者の父親)がいる[302]
    160. ^ 2022年8月時点で、全国各地で100回以上の講演活動を行った[387]ほか、「事件を若い人にも知ってほしい」とインターネット上での討論会にも参加した[388]
    161. ^ 同宣言で、日弁連は死刑制度の代替として終身刑を提案しているが、Bは「被害者遺族も払っている税金を使って加害者を生かす制度(死刑制度に代わる終身刑)は必要ない」と述べている[390]
    162. ^ 「更生を望んでいない」という理由について、Bは小倉孝保の取材に対し、「もし犯人たちが本気で謝罪してきたら、人間らしさを取り戻して『悪い人』から『良い人』になってしまう。そうすると、『良い人』である娘との距離が近くなってしまい、娘がまた怖い思いをするのではないかと思うから」と述べている[400]
    163. ^ 堀は自著 (2019) で、本事件で逮捕された際に碧南事件などの余罪を自供しなかった理由を「余罪について追及されなかったから」と述べている[401]ほか、碧南事件の公判では「(自分の)子供が離れていくのが怖かった」と述べている[402]。Bは堀が碧南事件などで再逮捕・起訴されたことに関し、「本当に反省していたなら、碧南事件についても自供していたはずだ」と指摘している[403]
    164. ^ 同事件では、拉致を主導したとされる男(事件後に自殺)が、被疑者死亡のまま殺人・死体遺棄・営利目的略取・逮捕監禁の各容疑で書類送検された[407](後に不起訴処分[408]。また、共犯の男2人も殺人容疑については不起訴処分となり[409]、1人(営利略取罪・逮捕監禁罪で起訴)は懲役4年の刑が確定[410]。もう1人は営利目的略取・逮捕監禁・詐欺・死体遺棄の罪に問われ[411]、懲役7年の刑を言い渡されている[412]
    165. ^ Bは当初、大崎からの取材を断っていたが、その後は全面的に協力するようになった[415]
    166. ^ 大崎は2017年に「取材のきっかけは、事件当時にAの顔写真を見て『こんな普通の子が…』と思ったことだ。母1人子1人の生い立ちなどを知って引き込まれていった。地域は徐々に日常を取り戻しつつあるが、同様の事件はいつでも起こり得る。被害者の『命の闘い』を忘れてはならない」[416]「事件ものとしてではなく、母娘の物語として描いた。静かに家族のことを書く方が、事件がより鮮明になるのではないかという気がした」と述べている[417]
    167. ^ ドキュメンタリーチームは2006年から司法関連のドキュメンタリー番組を相次いで制作しており、本作はその第5弾[420]。『裁判長のお弁当』(2007年)がギャラクシー大賞を受賞[420]。また、2006年には名張毒ぶどう酒事件を題材とした『「重い扉」~名張毒ぶどう酒事件の45年~』(第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品)が[421]、2008年には同じく名張事件を題材にした『黒と白~自白・名張毒ぶどう酒事件の闇~』や、光市母子殺害事件の弁護団に焦点を当てた『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』(2008年)が制作され、ともに「日本民間放送連盟賞」(中部・北陸地区審査会)の1位を受賞している[422]
    168. ^ 半田保険金殺人事件(1983年)の被害者の兄および、大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件(1994年・「長良川事件」)の被害者の父親[423]

    出典

    1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 名古屋地裁 2009, (罪となるべき事実).
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    7. ^ 『中日新聞』2007年8月28日夕刊一面1頁「女性拉致殺害 1週間 女性を物色 3容疑者 名古屋市内、車で」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1207頁
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    11. ^ a b c 『毎日新聞』2007年8月27日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:工事用の脇道、深夜車少なく--遺棄現場」(毎日新聞中部本社 記者:小林哲夫)
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    13. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 『中日新聞』2008年9月26日朝刊28頁「千種拉致殺害 冒頭陳述要旨」(中日新聞社)
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    434. ^ 検索結果 テレメンタリー2009 裁きの瞬間(とき) ~「闇サイト」殺人事件に判決~”. 放送ライブラリ公式ページ. 放送ライブラリー (2009年5月2日). 2021年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年6月6日閲覧。 - 同番組は、放送ライブラリー(神奈川県横浜市中区)の視聴ブースにて番組ID「204830」を入力することで視聴が可能。
    435. ^ 史上最低最悪の男達に殺された娘”. ザ!世界仰天ニュース. 日本テレビ放送網 (2017年5月23日). 2020年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月20日閲覧。
    436. ^ 実録!マサカの衝撃事件”. TBSテレビ (2017年10月9日). 2021年3月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月20日閲覧。
    437. ^ 事件の涙 Human Crossroads”. NHK総合テレビジョン. 日本放送協会 (2017年12月27日). 2018年9月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月1日閲覧。
    438. ^ けさのクローズアップ “闇サイト殺人事件” 娘を奪われた遺族の思い”. NHKニュースおはよう日本. 日本放送協会 (2019年7月27日). 2019年11月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月16日閲覧。

    参考文献

    本事件における刑事裁判の判決文・決定

    • 第一審判決 - 名古屋地方裁判所刑事第6部判決 2009年(平成21年)3月18日 LLI/DB 判例秘書登載【判例番号】:L06450230、平成21年(わ)第1863号・平成21年(わ)第2010号・平成21年(わ)第2130号、『営利略取逮捕監禁強盗殺人死体遺棄窃盗未遂各被告事件、強盗強姦未遂建造物侵入各被告事件』「【判示事項】「闇の職業安定所」なるインターネット上の掲示板を見たり、書き込みをするなどしていた被告人3名が、共謀の上、金銭を得る目的で、帰宅途中の会社勤めの若い女性を営利目的で略取し、自動車内にら致監禁して金品を強取し、暴行脅迫を加え、殺害して死体を遺棄し、被告人Y3が、前記犯行の際に、加えて被害者を強姦しようとし、かつ、被告人が他の共犯者と共に、別に建造物侵入、窃盗未遂の犯行を行った営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂等各被告事件について、被告人Y1及び同Y2を死刑に処し、被告人Y3につき自首を考慮し、無期懲役に処した事例 (判例秘書)」。 - 収録データベース:『判例秘書BASIC』は、東京都立中央図書館東京都立多摩図書館世田谷区立中央図書館・世田谷区立経堂図書館・府中市立中央図書館で閲覧可能。世田谷区立経堂図書館を除き、複写が可能(参照:2020年12月時点)。
      • 裁判官近藤宏子裁判長)・野口卓志・酒井孝之
      • 被告人:KT(本文中「Y1」)・堀慶末(本文中「Y2」)・「山下」(本文中「Y3」)
      • 判決主文:被告人Y1及び被告人Y2'ことY2を死刑に処する。被告人Y3’ことY3を無期懲役に処する。被告人Y3’ことY3に対し、未決勾留日数中370日をその刑に算入する。(求刑:被告人3名に対し、いずれも死刑)
      • 検察官:川原幸夫・海津祐司
      • 各被告人の弁護人
        • KTの国選弁護人:藏冨恒彦(主任)・福井秀剛
        • 堀の国選弁護人:渥美雅康(主任)・中山弦
        • 「山下」の国選弁護人:萱垣建(主任)・都築真琴
    • 控訴審判決 - 名古屋高等裁判所刑事第2部判決 2011年平成23年)4月12日 『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25670946、平成21年(う)第219号、『営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂、強盗強姦未遂、建造物侵入各被告事件』、“インターネットの掲示板を利用して集まった被告人らが、帰宅途中の被害女性を自動車内に押し込んで逮捕監禁し、暴行を加えて現金及びキャッシュカードを強取し、脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、同女を殺害してその死体を遺棄するなどした営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、強盗強姦未遂の事案において、殺害された被害者が1名である本件において、死刑の選択がやむを得ないと言えるほど他の量刑要素が悪質であるとは断じがたいことなどから、被告人A(堀慶末)を死刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、他方で、被告人B(「山下」)を無期懲役に処した原判決の量刑は結論において相当であるとして、原判決中、被告人Aに関する部分を破棄し、被告人Aを無期懲役に処した事例。 (TKC)”。
      • 裁判官:下山保男(裁判長)・柴田厚司・松井修
      • 被告人
        • 堀慶末 - 営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂(求刑および原判決の量刑:死刑)
        • 「山下」 - 同上および強盗強姦未遂、建造物侵入(求刑:死刑/原判決の量刑:無期懲役)
      • 判決主文の要旨:原判決(名古屋地裁:2009年3月18日)のうち、堀に関する部分を破棄(自判)。堀を無期懲役に処し、原審における未決勾留日数370日を刑期に算入。被告人「山下」と検察官の控訴をいずれも棄却
      • 検察官
        • 名古屋地方検察庁検察官:玉岡尚志 - 被告人「山下」に対し控訴し、控訴趣意書を作成
        • 名古屋高等検察庁検察官:白井玲子・工藤恭裕 - 両被告人の控訴趣意書に対する答弁書を記載・提出、被告人「山下」に対する控訴趣意書を提出
      • 被告人の弁護人
        • 堀の弁護人:長谷川龍伸(主任弁護人)・夏目武志・稲垣高志 - 控訴趣意書を連名作成
        • 「山下」の弁護人:成田龍一(主任弁護人)・金井正成・磯貝隆博 - 控訴趣意書を連名作成、および検察官の控訴趣意書に対する答弁書を連名作成
    • 堀慶末(検察官が上告)の上告審決定 - 最高裁判所第二小法廷決定 2012年(平成24年)7月11日 集刑 第308号91頁、平成23年(あ)第844号、『営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂被告事件』「被害者1名の強盗殺人等の事案につき無期懲役の量刑が維持された事例(名古屋闇サイト殺人事件)」。

    死刑囚KTの控訴審公判期日申立て事件(控訴取下げに対する異議申し立て)

    • 名古屋高等裁判所刑事第2部決定 2010年(平成22年)9月9日 『高等裁判所刑事裁判速報集』(平成22年)号123頁、『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25501106、事件番号は不明(TKCには未記載)、『控訴審における公判期日指定申立て事件』、“死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効であることを理由にしてなされた公判期日指定の申立てに対し、被告人の行った控訴取下げを有効と認めて決定で控訴終了宣言がなされた事例。”。
      • 決定主文:本件控訴は、平成21年4月13日取下げにより終了したものである。
      • 申立人:死刑囚KTの弁護人

    死刑囚KTおよび弁護人による国家賠償請求訴訟

    • 名古屋地方裁判所民事第3部判決 2013年(平成25年)2月19日 裁判所ウェブサイト掲載判例、平成21年(ワ)第4801号・平成22年(ワ)第7629号、『損害賠償請求事件』「1 刑事事件の第一審で死刑判決を受け,控訴した後にこれを取り下げ,当該取下げの無効を主張する者(以下「控訴の取下げの効力を争う死刑確定者」という。)と弁護人との面会に際し,拘置所長が立会いなしの面会を認めなかった措置について,刑訴法440条の趣旨に照らせば,控訴の取下げの効力を争う死刑確定者にも,弁護人選任権が保障され,弁護人と立会人なくして面会する法的利益が認められるとして,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。 2 上記1の措置の違法を主張する国家賠償請求訴訟のための訴訟代理人弁護士との立会いなしの面会を認めなかった拘置所長の措置について,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。」。
      • 判決内容:原告の請求(賠償金:2,700万円)のうち、計145万2,000円の支払いを命じる
      • 裁判官:德永幸藏(裁判長)・光野哲治・荻野文則
      • 原告:死刑囚KTおよび藏冨恒彦・福井秀剛(死刑囚KTの第一審における国選弁護人)
      • 被告:日本国

    碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件における堀慶末への判決文・決定文

    • 第一審判決 - 名古屋地方裁判所刑事第4部判決 2015年(平成27年)12月15日 裁判所ウェブサイト掲載判例、『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28240367、平成24年(わ)第1701号・平成25年(わ)第156号、『住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件』「被告人が、共犯者2名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して夫婦を殺害した住居侵入、強盗殺人と、その8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入、強盗殺人未遂の事案につき、死刑に処した事例」。
      • 判決主文:被告人を死刑に処する。(求刑:同/被告人側控訴)
      • 裁判官景山太郎(裁判長)・小野寺健太・石井美帆
      • 被告人:堀慶末(本事件の無期懲役刑で受刑中)
      • 検察官・弁護人

    主な参考書籍

    その他書籍

    雑誌

    関連項目

    永山基準」が示された1983年以降、殺害された被害者数が1人だったが、最高裁で死刑判決が確定した事件

    ※(発生年:死刑確定年)と表記。無期懲役刑に処された前科があるもの、身代金誘拐保険金殺人は含まない。いずれも第一審判決は無期懲役だった(控訴審で死刑に)。

    • JT女性社員逆恨み殺人事件(1997年:2004年) - 殺人前科あり(懲役10年)。同事件で懲役刑を受けて出所後、強姦した女性を恐喝したことで被害届を出されて逮捕され、再び服役。しかし、警察に通報した被害者側の対応を逆恨みし、お礼参りにおよんだ(高度な計画性に基づく犯行)。
    • 名古屋市中区栄スナックバー経営者殺害事件(2002年:2007年) - 殺人前科あり(懲役15年)。前科は単純殺人ではあるが、死刑に処された強盗殺人事件と経緯・手口が酷似した犯行だった。
    • 三島女子短大生焼殺事件(2002年:2008年) - 殺人前科・利欲目的・高度な計画性のいずれもないが、被害者を強姦した上で、口封じのために残虐な方法で殺害した。その残虐性や、「覚醒剤を打つために邪魔になった」という身勝手な殺害動機、被告人に少年時代から強盗致傷・覚醒剤取締法違反など複数の前科がある点が重視された。
    • 横浜中華料理店主射殺事件(2004年:2011年) - 殺人前科はないが、強盗致傷2回を含め10回以上の前科があった。また強盗殺人1件以外にも被害者に回復不能かつ重篤な後遺症を負わせた強盗殺人未遂・現住建造物等放火未遂の余罪がある点、服役中から犯罪計画を練っていた(=計画性が高い)点、銃を使用した犯行である点が重視された。

    死刑判決を受けた被告人が控訴を自ら取り下げたため、弁護人が控訴取下げの無効を主張して裁判所に異議を申し立てた事件

    • 藤沢市母娘ら5人殺害事件警察庁広域重要指定112号事件) - 1995年(平成7年)に最高裁が、弁護人による控訴取り下げへの異議申し立てを認め、控訴審の公判が再開された事例。しかし、死刑判決は控訴審・上告審でも支持されて確定し、死刑執行(2007年)に至った。
    • ピアノ騒音殺人事件 - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑は未だに執行されていない。
    • マブチモーター社長宅殺人放火事件(警察庁広域重要指定124号事件) - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑囚は刑を執行されることなく病死した。
    • 奈良小1女児殺害事件 - 本事件と同じく、控訴取り下げへの異議申し立ては退けられ、後に死刑囚の刑が執行された。
    • 寝屋川市中1男女殺害事件 - 藤沢事件と同じく、大阪高裁がいったんは控訴取り下げを無効とする決定を出したが、検察官が異議を申し立てたところ、原決定は取り消された。その後、本人が2度目の控訴取り下げを行い、そちらについては最高裁が有効とする決定を出している。

    外部リンク