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「闇サイト殺人事件」の版間の差分

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{{半保護}}
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{{Notice|本項目事件および[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の加害者である被告人・堀慶末は実名で著書を出版しており[[WP:DP#B-2]]の「削除されず、伝統的に認められている例」に該当するため、例外的に実名を掲載しています。}}
{{Notice|本記事の主題である闇サイト殺人事件および[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の加害者である'''[[堀慶末]]'''([[死刑囚]])実名で自身が関与した事件に関する著書を出版しており[[WP:DP#B-2]]の「削除されず、伝統的に認められている例」に該当するため、実名を掲載しています。}}
{{注意|本事件の加害者であるKTおよび「山下」の実名は、現時点では[[WP:DP#B-2]]に抵触するため、記載しないでください。}}
{{暴力的}}
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{{性的}}
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{{Infobox 事件・事故
{{Infobox 事件・事故
|名称=闇サイト殺人事件
|名称=闇サイト殺人事件
|正式名称=
|画像={{Location map+|Japan zoom Tokai|width=|caption=事件現場|places=
{{Location map~|Japan zoom Tokai|lat_deg=35|lat_min=10|lat_sec=20.8|lat_dir=N|lon_deg=136|lon_min=57|lon_sec=51.8|lon_dir=E|position=bottom|background=#FFF|label=拉致現場}}
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}}
}}
|脚注=
|脚注=
|場所= {{JPN}}:[[愛知県]]および[[岐阜県]]
|場所={{JPN}}<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>
* 拉致現場 - 愛知県[[名古屋市]][[千種区]][[春里町 (名古屋市)|春里町]]2丁目の路上{{Efn2|name="拉致現場"|拉致現場(千種区春里町2丁目の路上)は、被害者A宅まで数十&nbsp;[[メートル|m]]離れたマンション前の道路<ref name="朝日新聞2007-09-25"/>(A宅まで徒歩1分ほどの距離){{Sfn|大崎善生|2016|p=230}}で、[[名古屋市立自由ヶ丘小学校]]{{Sfn|大崎善生|2016|p=74}}(かつてAが通学していた)の目の前でもあった{{Sfn|大崎善生|2016|p=230}}。事件当時は「千種区[[自由ケ丘 (名古屋市)|自由ケ丘]]」と報道されていたが<ref name="中日新聞2007-08-27"/>、[[名古屋地方検察庁|名古屋地検]]の冒頭陳述 (2008) によれば春里町である<ref name="闇サイト冒頭陳述"/><ref name="検察側冒頭陳述要旨">『[[毎日新聞]]』2008年9月26日中部朝刊社会面25頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 3被告、争う姿勢--初公判 検察側冒頭陳述要旨」([[毎日新聞中部本社]])</ref>。周辺は[[自由ヶ丘駅]]([[名古屋市営地下鉄名城線]])から徒歩10分程度の、住宅・団地が並ぶ高台の道で、事件当時から街灯が整備されていたため、地元では「安全な道」とされていたが<ref name="小椋由紀子2007"/>、夜間になると人通りはほとんどなく、拉致されたところを目撃した人もいなかった<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊1">『中日新聞』2007年8月28日夕刊一面1頁「女性拉致殺害 1週間 女性を物色 3容疑者 名古屋市内、車で」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1207頁</ref>。}}<ref name="朝日新聞2007-09-25"/>
:[[愛知県]][[名古屋市]][[千種区]][[春里町 (名古屋市)|春里町]]の住宅街路上(拉致現場)<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面">『中日新聞』2008年9月26日朝刊ラジオ愛知面28頁「千種拉致殺害 冒頭陳述要旨」</ref>
:愛知県[[愛西市]][[佐屋町 (愛西市)|佐屋町]]西新田、[[国道155号]]沿いの駐車場(殺害現場)<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1"/>
* 殺害現場 - 愛知県[[愛西市]][[佐屋町]]西新田(屋外駐車場){{Efn2|name="殺害現場"|殺害現場(愛西市佐屋町西新田)は<ref name="中日新聞2007-08-27"/>、[[国道155号]]沿いにあるレストラン屋外駐車場(レストランの建物から国道を隔てた場所にある第二駐車場)の奥だった{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-27">『[[中日新聞]]』2007年8月27朝刊第12版一1頁「路上で女性拉致、殺害 第2の犯行も計画 闇サイトで知り合う 男3人を逮捕 遺棄容疑で愛知県警 強殺でも追及」([[中日新聞社]]) - 『中日新聞』[[新聞縮刷版|縮刷版]] 2007年(平成19年)8月号1133頁</ref>
* 死体遺棄現場 - 岐阜県[[瑞浪市]]稲津町小里(山林){{Efn2|name="死体遺棄現場"|死体遺棄現場の山林(岐阜県瑞浪市稲津町小里)は、「{{ウィキ座標|35|19|50.2|N|137|17|14.2|E|オプション|御料林橋}}<!--「御料林橋」の位置座標は、『ゼンリン住宅地図 岐阜県瑞浪市 2018.12』(ISBN:978-4432466405)149頁より確認可能。-->」北東に位置する<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。この場所は、[[岐阜県道33号瑞浪上矢作線]]から20&nbsp;m程度入った場所<ref name="中日新聞2007-08-26"/>ないし、「([[恵那市]]との境界にある)山林の東の[[小里川ダム]]に通じる県道(33号)のバイパス道路を上って行き、「{{ウィキ座標|35|19|38.46|N|137|17|15.64|E|オプション|川折大橋}}」<!--<ref>{{Cite book|和書|title=岐阜県道路地図|publisher=[[昭文社]]|year=2019|page=32|author=(発行人)[[黒田茂夫]]|edition=4版5刷|series=[[県別マップル]]|isbn=978-4398626547|chapter=瑞浪 (1:30000)|volume=21}}</ref>-->の手前から工事用に造られた脇道を[[小里川]]に向かって70~80メートル入った場所」<!--(丸括弧内を除き原文ママ引用)-->で<ref name="毎日新聞 遺棄現場">『毎日新聞』2007年8月27日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:工事用の脇道、深夜車少なく--遺棄現場」(毎日新聞中部本社 記者:小林哲夫)</ref>、鎖により車両の侵入が禁止されていた[[林道]]の脇だった{{Sfn|集刑|2012|p=110}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
:[[岐阜県]][[瑞浪市]]稲津町小里の山中(死体遺棄現場)<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>
|緯度度= |緯度分= |緯度秒=
|緯度度= |緯度分= |緯度秒=
|経度度= |経度分= |経度秒=
|経度度= |経度分= |経度秒=
|標的= 帰宅途中の[[OL|女性会社員]]<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>
|日付=[[2007年]]([[平成]]19年)[[8月24日]] - [[8月25日]]
|日付= [[2007年]]([[平成]]19年)[[8月]]
|時間=
|時間=
|開始時刻=22時ごろ
|開始時刻= [[8月24日|24日]]2310分ごろ(拉致)<ref name="中日新聞2007-09-15"/>
|終了時刻=1時ごろ
|終了時刻= [[8月25日|25日]]1時ごろ(殺害)<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>
|時間帯=[[日本標準時]]〈JST・[[UTC+9]]
|時間帯= [[UTC+9]]
|概要=[[インターネット]]の[[闇サイト]]「闇の職業安定所」集まった男3人組(うち1人は[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]など連続強盗殺傷事件2件の余罪あり)が[[強盗]]目的通りすがりの女性を住宅街路上で拉致し、金品を奪っ殺害して遺体を山中に遺棄した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>。
|概要= [[インターネット]]の[[闇サイト]]で知り合った男3人が、互いに[[共謀]]した上、夜道で帰宅途中の女性を拉致して金品を奪い、殺害することを計画<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。名古屋市千種区内帰宅途中の被害者Aを拉致し、金品を奪った上で殺害した<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
|懸賞金=
|手段=[[ハンマー]]で殴る、首を絞める<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊29面"/><ref group="報道" name="東京新聞2009-03-19-朝刊22面"/>
|原因=
|武器=ハンマー・粘着テープ・ロープ<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>
|手段=
|攻撃側人数=3人
* (拉致の手段)道を尋ねるふりをして被害者を車内に押し込む<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>
|標的=夜道を1人で歩いていた「貯金をしていそうな」女性
* (殺害の手段)腕や綿ロープで首を絞める・金槌で頭部を殴る・顔面に粘着テープを巻いたり、ビニール袋を被せたりして窒息させる{{Sfn|集刑|2012|pp=111-112}}
|死亡=通りすがりの会社員女性A(事件当時31歳・千種区春里町在住)<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>
|攻撃側人数= 3人
|損害=現金約62,000円、キャッシュカード2枚<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/>
|凶器= 綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋{{Sfn|集刑|2012|p=112}}・[[槌|金槌]](重量約580&nbsp;[[グラム|g]]){{Sfn|集刑|2012|p=117}}
|犯人=闇サイトで集まった男3人組
|武器=
:男K(犯行当時36歳・2015年に44歳で死刑執行)<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊1面"/>
|兵器=
:堀慶末(犯行当時32歳・連続強盗殺傷事件の余罪あり)<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>
|死亡= 1人
:男X(犯行当時40歳・犯行後に[[自首]])<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>
|負傷=
|動機=[[強盗]]
|行方不明=
|謝罪=堀・Xは最終陳述で謝罪し<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/><ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部"/>、堀は謝罪文を[[被害者]]遺族に送るも<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-23"/>、いずれも遺族は認めていない<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(6/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n6.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024513/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n6.html }}</ref>。<br>Kは死刑執行まで謝罪しなかった<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>。
|被害者= 会社員女性A(当時31歳・千種区春里町2丁目在住)<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
|対処=[[愛知県警察]]が[[逮捕 (日本法)|逮捕]]<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/>・[[名古屋地方検察庁]]が[[起訴]]<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-10-06"/>
|損害=
|刑事訴訟=死刑囚Kは[[日本における死刑|死刑]]([[日本における被死刑執行者の一覧|執行済み]])<br>堀・X両受刑者は[[無期刑|無期]][[懲役]](うち堀は連続強盗殺傷事件の裁判で再び死刑判決を受け確定)
|犯人= 男3人('''KT'''・'''[[堀慶末]]'''・'''「山下」''')<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
|影響=堀は無期懲役が確定した直後に'''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]'''などで逮捕・起訴され、同事件の刑事裁判で死刑が確定した<ref group="報道" name="中日新聞2019-08-10"/>。<br>被害者の母親は「加害者全員への死刑適用」を求めて刑事裁判終結までの5年間で約33万筆の署名を集め、[[鳩山邦夫]][[法務大臣]]・[[但木敬一]][[検事総長]](いずれも当時)に対し請願の手紙を送った<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>。その後も犯罪被害者・遺族に対しての支援拡大・権利保護を求め、日本各地での講演活動など積極的な活動を行っている<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>。<br>作家・[[大崎善生]]が事件を題材にしたノンフィクション・『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』([[角川書店]])を出版した<ref group="報道" name="東京新聞2017-04-23"/>。
|容疑= [[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取罪]]・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁罪]]・強盗殺人罪・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄罪]]・[[窃盗罪|窃盗未遂罪]](3人共通){{Sfn|集刑|2012|p=98}}、[[強盗・強制性交等罪|強盗強姦未遂]]・[[住居侵入罪|建造物侵入]](「山下」のみ){{Sfn|名古屋高裁|2011}}
|遺族会=[[全国犯罪被害者の会]](あすの会)・[[殺人事件被害者遺族の会]](宙の会)
|動機=
|管轄=[[愛知県警察]](県警本部[[刑事部|捜査一課]]・[[千種警察署]])<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><br>[[名古屋地方検察庁]]・[[名古屋高等検察庁]]
* (拉致の動機)手っ取り早く楽して金を手に入れるため{{Sfn|集刑|2012|pp=98-99}}
* (殺害の動機)口封じ{{Sfn|集刑|2012|p=111}}
|関与= 男「杉浦」(本事件前に「山下」が起こした建造物侵入・窃盗未遂事件にのみ関与)<ref name="毎日新聞2007-11-21"/>
|防御=
|対処= 加害者3人を愛知県警が[[逮捕 (日本法)|逮捕]]<ref name="中日新聞2007-08-27"/>・名古屋地検が[[起訴]]<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="中日新聞2007-10-06"/>
|謝罪=
* KT - 死刑執行直前に謝罪の言葉を述べた{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|pp=135, 137-140}}
* 堀 - 公判で謝罪の意を示したが、無期懲役確定後に'''強盗殺人の余罪'''('''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]''')が判明<ref name="中日新聞2012-08-23"/>
* 「山下」 - 公判で謝罪したが<ref name="中日新聞2009-02-03"/>、死刑を免れた直後に無反省な態度を見せた<ref name="FNN 2009-03-18"/>{{Sfn|コトバンク|2016}}
|補償=
|賠償=
|刑事訴訟=
* KT - 死刑([[控訴]]取り下げにより[[確定判決|確定]]/[[日本における被死刑執行者の一覧|執行済み]])<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
* 堀慶末 - 無期懲役<ref name="中日新聞2015-06-25"/>(後に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]で死刑が確定)<ref name="中日新聞2019-07-20"/>
* 「山下」 - 無期懲役<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
|少年審判=
|海難審判=
|民事訴訟=
|影響=
|遺族会=
|被害者の会=
|管轄=
* [[愛知県警察]]([[刑事部|捜査一課]]・[[千種警察署]])<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
* [[名古屋地方検察庁]]<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="中日新聞2007-10-06"/>
}}
}}
'''闇サイト殺人事件'''(やみサイトさつじんじけん)とは、[[2007年]]([[平成]]19年)[[8月24日]] - [[8月25日|25日]]にかけて[[日本]]の[[愛知県]][[名古屋市]]周辺で発生した[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]などの事件<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。


[[インターネット]]の'''[[闇サイト]]'''「闇の職業安定所」<ref group="注" name="闇の職安"/>で知り合い、犯罪によって金を得る目的で[[共謀]]した男3人組('''KT'''・'''[[堀慶末]]'''・'''「山下」''')が、8月24日深夜に名古屋市[[千種区]]内の路上で、帰宅途中の会社員女性A(当時31歳)を[[拉致]]し、自動車内に[[監禁]]<ref name="闇サイト冒頭陳述">『中日新聞』2008年9月26日朝刊28頁「千種拉致殺害 冒頭陳述要旨」(中日新聞社)</ref>。翌25日未明にかけ、同県[[愛西市]]内の屋外駐車場で、被害者Aを脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、金品を奪ったほか、Aの顔面に粘着テープを何重にも巻きつけたり、[[槌|金槌]]で数十回にわたり頭部を殴打するなどして殺害し、死体を[[岐阜県]][[瑞浪市]]内の山中に遺棄した<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。その後、加害者3人は奪ったキャッシュカードで預金の引き出しを図ったが、Aが生前に教えた暗証番号は虚偽だったため、引き出しには失敗{{Sfn|集刑|2012|p=98}}。3人はさらなる犯罪を計画していたが、加害者の1人(「山下」)が解散後に[[自首]]したことで事件が発覚した<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨">『中日新聞』2009年3月19日朝刊ラジオ番組表面29頁「千種拉致殺害事件 名古屋地裁判決の要旨」(中日新聞社)</ref>。
'''闇サイト殺人事件'''(やみサイトさつじんじけん)とは、[[2007年]]([[平成]]19年)[[8月24日]]深夜 - [[8月25日]]未明に[[愛知県]]内で発生した[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄]][[事件]]<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="東京新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊24面"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/><ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>。

[[インターネット]]上の[[闇サイト]]「闇の職業安定所」で集まった男3人組が共謀し<ref group="報道" name="知恵蔵2016">{{Cite news |title=闇サイト殺人事件 |url=https://kotobank.jp/word/%E9%97%87%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6-890323 |newspaper=『[[知恵蔵]]2016』([[コトバンク]]) |publisher=[[朝日新聞出版]] |year=2016 |author=[[金谷俊秀]] |language=ja |accessdate=2017-12-04 |archivedate=2017-12-04 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171204154921/https://kotobank.jp/word/%E9%97%87%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6-890323 }}</ref>、[[愛知県]][[名古屋市]][[千種区]][[春里町 (名古屋市)|春里町]]の住宅街路上で<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、帰宅途中の会社員女性A(事件当時31歳)を拉致して同県[[愛西市]]内で殺害し、[[岐阜県]][[瑞浪市]]内の山中に遺体を遺棄した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/><ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.1"/>。


== 概要 ==
== 概要 ==
加害者らはいずれも闇サイトで出会った当時から{{Efn2|「山下」は『[[中日新聞]]』宛の手紙で、このように共犯者たちと互いに虚勢の張り合いを続けた末に自制心が働かなくなった旨を述べている<ref name="中日新聞2007-12-26"/>。}}、互いの素性を知らないまま、偽名を使っていたり、相手から馬鹿にされないように「[[暴力団]]に関係していた」と虚勢を張ったり<ref group="注" name="エスカレート"/>、虚実ないまぜに過去の犯罪歴を自慢し合ったりした<ref group="注" name="山田麻紗子"/><ref>『中日新聞』2009年3月19日朝刊第二社会面30頁「ニュース前線 千種拉致殺害 闇の接点 きずな裂く 下された極刑 重い警告」(中日新聞社 社会部記者:北島忠輔)</ref>。それが次第にエスカレートし<ref group="注" name="エスカレート"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}、最終的には強盗殺人を起こすに至った。
インターネット上の携帯電話用[[闇サイト]]「闇の職業安定所」で、過去に2件の[[シリアルキラー|連続]]強盗殺傷事件('''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]'''を参照)を起こした余罪のある者(堀慶末)を含め互いに面識のない男3人が集まり、金品を得る目的で[[共謀]]した<ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>。3人は互いに素性を知ることなく虚勢を張り合い<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>、犯罪計画を練った上で面識のない通行人の会社員女性を通り魔同然に強盗目的で拉致・車内で殺害し遺体を山中に遺棄した<ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>。事件後になって実行犯のうち1人(本文中X)が[[自首]]したことにより事件が発覚した<ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>。


本事件では殺害された被害者は1人で、[[裁判|刑事裁判]]では、[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取]]・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁]]・強盗殺人・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄]]・[[窃盗罪|窃盗未遂]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}などの[[被告人]]として[[起訴]]された加害者3人に対する[[日本における死刑|死刑]]適用の是非が争点となった。3人には当時、粗暴犯で有罪に処された[[前科]]はなかった<ref group="注" name="KT前科"/><ref group="注" name="堀前科"/><ref group="注" name="山下前科"/>が、[[検察官]]は、犯行の残忍さ・被害者遺族の処罰感情の峻烈さ<ref name="読売新聞2009-01-21">『[[読売新聞]]』2009年1月21日中部朝刊社会面29頁「闇サイト殺人3被告に死刑求刑 検察「残虐の責任等しい」 名古屋地裁=中部」([[読売新聞中部支社]])</ref>・計画性の高さ・社会的影響の大きさなどを考慮し<ref>『中日新聞』2009年1月19日朝刊第一社会面35頁「千種拉致殺害 3被告に死刑求刑へ 名古屋地検『社会的影響大きい』」(中日新聞社)</ref>、3人にいずれも死刑を[[求刑]]<ref name="中日新聞2009-01-20">『中日新聞』2009年1月20日夕刊一面1頁「千種拉致殺害 3被告に死刑求刑 検察『更生の可能性ない』」(中日新聞社)</ref>。しかし最終的に、1人 ('''KT''') は死刑が[[確定判決|確定]]した(2015年に[[日本における被死刑執行者の一覧|死刑執行]])一方、残る2人('''[[堀慶末]]'''および、事件直後に自首した'''「山下」''')は[[懲役#無期懲役|無期懲役]]が確定した<ref name="中日新聞2015-06-25"/>。ただし、堀は本事件で無期懲役が確定した後、'''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]'''(発生:[[1998年]])などの余罪が判明し、同事件の刑事裁判で[[2019年]]([[令和]]元年)に死刑が確定している<ref name="中日新聞2019-07-20">『中日新聞』2019年7月20日朝刊第11版第一社会面35頁「碧南強殺、死刑確定へ 闇サイト殺人 被害者の母『すっきりした気持ち』」(中日新聞社 記者:宮畑譲)</ref>。
[[名古屋地方裁判所]]で開かれた刑事裁判の第一審では[[被告人]]3人が互いに「主犯は相手だ」と主張するなど責任転嫁に終始したり<ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>、被害者を中傷する言動を取るなどした<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-20"/>。[[名古屋地方検察庁]]は「犯行の凶悪さ・被害者遺族の峻烈な処罰感情」などを踏まえて被告人3人全員に[[死刑]]を[[求刑]]した<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊13面"/>。殺害された被害者数が1人であることから、1983年の[[最高裁判所判例]]で示された死刑適用にあたっての判断基準とされる「[[永山基準]]」の下で死刑の適用可否が争点となったが<ref group="報道">『中日新聞』2009年3月18日朝刊第二社会面30頁「被害者1人の死刑焦点 千種拉致殺害きょう判決 名古屋地裁」</ref>、名古屋地裁は自首した被告人1人(本文中X)には[[無期懲役]]判決を適用したものの、残る2被告人(本文中K・堀慶末)には死刑[[判決 (日本法)|判決]]をそれぞれ言い渡した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>。3被告人全員が[[名古屋高等裁判所]]に[[控訴]]したが、うち1人(本文中K)は控訴を自ら取り下げたため死刑が[[確定判決|確定]]し<ref group="報道" name="中日新聞2009-04-15-朝刊1面"/>、2015年に[[日本における被死刑執行者の一覧|死刑を執行された]]<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.135"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/><ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>。


本事件は、インターネット上の掲示板を通じて集まった加害者らが利欲目的で、初めて顔を合わせてからわずか数日後に{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}、それまで面識のない帰宅途中のごく普通の女性会社員を拉致・監禁し、惨殺した事件として{{Sfn|集刑|2012|p=114}}、大きく報道された{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。また、その犯行手口から{{Sfn|集刑|2012|p=114}}、社会に「いつ誰でも同じような被害に合うかもしれない」」という大きな衝撃・恐怖感・不安感を与え{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}、加害者3人への極刑を求める世論が沸き上がった{{Sfn|コトバンク|2016}}。被害者Aの母親は加害者3人への極刑適用を求めた[[署名]]活動を行い、事件発生から5年間で33万人以上の署名を集めた{{Sfn|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}ほか、[[法務大臣]]・[[検事総長]]への請願や、犯罪被害者遺族への支援拡大を求める活動などを行っている<ref name="中日新聞2015-06-25 社会"/>。
控訴審・名古屋高裁では堀・X両被告人に無期懲役判決が言い渡され<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊28面"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊30面"/>、2012年までに相次いで確定した<ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>。最高裁で検察側の上告が棄却されたことにより無期懲役刑が確定した堀だったが<ref group="報道" name="中日新聞2012-07-14"/>、確定直後に過去の連続強盗殺傷事件の余罪が発覚したことで相次いで逮捕<ref group="報道" name="朝日新聞2012-08-03"/><ref group="報道" name="中日新聞2012-08-04"/><ref group="報道" name="中日新聞2013-01-16"/>・起訴され<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-25"/><ref group="報道" name="中日新聞2013-02-07"/>、それら余罪事件の刑事裁判にて2019年([[令和]]元年)8月に死刑が確定した<ref group="報道" name="中日新聞2019-08-10"/>。


事件発生直後、『[[中日新聞]]』『[[読売新聞]]』『[[毎日新聞]]』はそれぞれ[[社説]]で、インターネットの匿名性が反社会的行為に悪用される危険性{{Efn2|『毎日新聞』は社説 (2007) で、インターネット犯罪の特性として、匿名性(身元特定の困難さ・証拠の残りにくさ)に加え、短期間に不特定多数と連携することが可能な点や、顔が見えないことでやり取りに抵抗感が薄れ、虚実ないまぜになって意見や主張がエスカレートする点を指摘している<ref name="毎日新聞 社説"/>。}}や、本事件以前から[[サイバー犯罪|インターネットを利用した犯罪]]が続出していた{{Efn2|本事件の約4年前から、インターネットで[[殺し屋]]を依頼する事件が目立っていた<ref name="毎日新聞 社説"/>。2003年(平成15年)10月には[[滋賀県]]でインターネットを利用した殺人依頼の事件が発覚したほか、2005年(平成17年)4月には名古屋市[[中川区]]で、同年12月には[[長野県]][[松本市]]で殺人事件(それぞれ加害者がインターネットで被害者の殺害を依頼し、第三者が実行した事件)が発生した<ref name="ネットで共犯募集">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第二社会面24頁「闇サイト 凶行またも ネットで共犯募集 増加」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1158頁</ref>。また、2003年末 - 2004年(平成16年)初めには主犯格が携帯電話のサイトで共犯者を募った連続強盗事件(愛知・[[三重県|三重]]・[[静岡県|静岡]]の3県で発生)が、2007年5月には三重県[[亀山市]]の女子中学生が誘拐される事件(犯人の1人がインターネットで運転手役を手配した)が発生していた<ref name="ネットで共犯募集"/>。}}ことなどを指摘し、違法情報への対策(法規制・摘発の強化など){{Efn2|『中日新聞』は「(ウェブサイトの運営)業者に通信記録の保存を義務付けるなど、法規制の強化が必要だが、法規制は言論の自由や個人のプライバシーを侵害しかねない側面もある。司法・行政・有識者らでプロジェクトチームを作り、監視社会を招かずに凶悪犯罪を防止できる方法を練る必要がある」と<ref name="中日新聞2007 社説"/>、『読売新聞』は「サイト運営に責任を持つ管理者が、問題情報の自主的な削除を積極的に進めるべき」とそれぞれ指摘した<ref name="読売新聞 社説"/>。}}の必要性を訴えた<ref name="中日新聞2007 社説">『中日新聞』2007年8月29日朝刊社説・発言面7頁「社説 女性拉致殺害 凶悪犯罪招いた匿名性」(中日新聞社)</ref><ref name="読売新聞 社説">『読売新聞』2007年8月29日東京朝刊三面3頁「[社説]愛知女性殺人 闇サイトの実態を徹底解明せよ」(読売新聞東京本社)</ref><ref name="毎日新聞 社説">『毎日新聞』2007年8月29日東京朝刊内政面5頁「社説:携帯サイト殺人」(毎日新聞東京本社) 匿名化の行き過ぎ見直す時」(毎日新聞東京本社)</ref>。また、『中日新聞』 (2009) は社説で、本事件を「現代社会の[[体感治安]]の悪化を物語った事件」と評している<ref>『中日新聞』2009年3月19日朝刊オピニオン面7頁「社説 闇サイト殺人 死刑判決はやむを得ぬ」(中日新聞社)</ref>。
「携帯電話の闇サイトをきっかけに互いに面識のない男たちが共謀した特異な犯罪グループ」であることに加え、「何の落ち度もない被害者女性に対し無差別に牙を剥いたあまりにも無軌道な犯罪」であること、「加害者らに反省の態度が見られないこと」などが「度し難い犯罪」として日本社会を震撼させ強い衝撃を与えるとともに、犯行グループに対し極刑を求める世論が沸き上がった<ref group="報道" name="知恵蔵2016/>


== 事件前の経緯 ==
被害者の母親は加害者全員への死刑適用を求め、刑事裁判終結までの5年間で約33万筆の署名を集め、[[鳩山邦夫]]法務大臣・[[但木敬一]]検事総長(いずれも当時)に対し請願の手紙を送った<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>。その後も犯罪被害者・遺族に対する支援拡大・権利保護を求め、日本各地での講演活動など積極的な活動を行っている<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>。
本事件の加害者である'''「山下」'''(当時40歳・「山下」は偽名/本名のイニシャル「K・K」)は{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}、事件の8年ほど前から[[日本の携帯電話|携帯電話]]で闇サイトを利用し続けていた<ref name="中日新聞2007-09-15"/>。「山下」は本事件以前に、闇サイトを利用した別の詐欺事件を起こし<ref name="毎日新聞2009-03-14">『毎日新聞』2009年3月14日中部朝刊社会面23頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/上 意思疎通なき寄せ集め集団」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、[[2005年]](平成19年)7月には[[詐欺罪]]により、懲役1年2月・[[執行猶予]]4年の有罪に処された{{Efn2|「山下」は『[[中日新聞]]』宛の手紙で、本事件以前に闇サイトを使った詐欺などの犯罪を3件犯していたことや、闇サイトで共犯者を募った理由を「多人数なら1人よりもやれることが広がり、互いに名前や身分を証す必要もない」と述べている<ref name="中日新聞2007-12-26"/>。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=各被告人の個別情状について}}。また、'''KT'''(本事件当時{{年数|1971|3|9|2007|8|24}}歳)<ref name="中日新聞2007-08-27"/>も同様に、2006年(平成18年) - 2007年ごろに闇サイトを悪用した詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けたが、両者とも金欲しさから、闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。


一方、本事件後に夫婦殺害事件の余罪が判明した'''堀 慶末'''(本事件当時{{年数|1975|4|29|2007|8|24}}歳){{Efn2|堀慶末は[[1975年]](昭和50年)4月29日生まれ{{Sfn|集刑|2012|p=91}}。}}は2007年3月、同居女性の金を遣い込んだことが露見し、激怒した彼女によって家を追い出された{{Sfn|堀慶末|2019|pp=114-115}}。その後、堀は別の知人女性宅で同居していたが、先述の女性への[[借金]]{{Efn2|借金の合計額は計440万円<ref name="中日新聞2012-08-23"/>。}}の返済手段を求め、ネットサーフィンをしていたところ{{Sfn|堀慶末|2019|pp=115-117}}、携帯電話の闇サイト<ref name="中日新聞2007-08-27 夕刊"/>「'''闇の職業安定所'''」(以下「闇の職安」){{Efn2| name="闇の職安"|加害者3人が知り合うきっかけとなった「闇の職業安定所」は<ref name="中日新聞2007-08-27 夕刊"/>、犯罪の仲間や協力者を募る目的で利用されていたウェブサイト<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。事件発覚後の2007年8月27日朝までに閉鎖されていることが判明した<ref name="中日新聞2007-08-27 夕刊">『中日新聞』2007年8月27日夕刊E版第一社会面13頁「千種・拉致殺害 『闇の職安』サイト閉鎖 事件と関連、確認へ」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1173頁</ref>。}}を見つけ、同サイトの[[電子掲示板|掲示板]]に投稿するようになった{{Sfn|堀慶末|2019|p=117}}(同年6月ごろ){{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}。堀はまず、借金および[[未払金]]回収の仕事を募集する書き込みを見て、投稿主と接触したが、無報酬に終わったため、自ら掲示板に「名古屋周辺で何か仕事はないか」と仕事募集の投稿をした{{Sfn|堀慶末|2019|pp=118-119}}。
== 加害者 ==
インターネット上の携帯電話用[[闇サイト]]「闇の職業安定所」で知り合った加害者3人はいずれも[[消費者金融]]から数十万円 - 数千万円の借金を抱えており<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/>、金に困っていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>。


同年7月、堀の投稿に「山下」が反応し{{Efn2|同年8月4日、「山下」は堀に対し「いくら(金が)必要か」と質問し、堀から「ガッツリいきたい」と返信されたことを受け、「組んでみないか」と誘った{{Sfn|大崎善生|2016|pp=200-201}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}、2人で会う寸前まで話が進んだが、その後は堀の都合がつかず{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}、いったん連絡は途絶えた{{Sfn|堀慶末|2019|p=120}}。一方で「山下」は同月ごろ、[[人材派遣会社]]{{Efn2|「山下」は詐欺事件で逮捕された前科事件以降、人材派遣会社で派遣社員として働いていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。}}を辞めて住む場所を失い{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}、借金の取り立てから逃れるため<ref>『読売新聞』2007年9月1日中部朝刊社会面35頁「[闇サイト殺人](上)脱落トリオ、意気投合 一気に凶暴化(連載)=中部」(読売新聞中部支社)</ref>、車内で路上生活を送っていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}。その際に用いていた車(および犯行に用いた車)である[[日産・リバティ]]{{Efn2|name="リバティ"|犯行に用いた車(リバティ)は2006年4月ごろに盗難情報が出されていた<ref>『中日新聞』2007年9月1日夕刊第一社会面11頁「伝わる 凶行の無念 千種の拉致殺害、車公開」(中日新聞社)</ref>。「山下」はそのリバティのナンバープレートを、かつて自身が所有していたスターレット(2003年8月ごろに購入)のナンバープレートに付け替えて利用していた<ref name="朝日新聞2007-08-30">『朝日新聞』2007年8月30日名古屋朝刊第一社会面35頁「闇サイト、常習的に利用 以前にも仲間募る 「山下」容疑者 愛知・拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。}}は、かつて闇サイトを利用した盗難保険金詐欺に加担した際、依頼主から仕事の謝礼として受け取ったものだった{{Sfn|大崎善生|2016|p=221}}。
=== 元死刑囚K ===
本事件で死刑が確定した死刑囚Kは[[1971年]]([[昭和]]46年)3月9日<ref group="書籍" name="死刑囚90人">{{Harvtxt|インパクト出版会|2011|pages=94-95}}</ref><ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2017 p.196">{{Harvtxt|インパクト出版会|2017|p=196}}</ref>、[[群馬県]][[高崎市]]内で生まれ<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=226-227}}</ref><ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-27 中部朝刊社会面">『毎日新聞』2007年8月27日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:『携帯サイト』殺人、面識ない女性襲う--仲間内でも偽名使い」(記者:桜井平・松岡洋介、小林哲夫、影山哲也・式守克史)</ref>、[[2015年]](平成27年)6月25日に[[法務省]]([[法務大臣]]:[[上川陽子]])から発された死刑執行命令により[[収監]]先・[[名古屋拘置所]]にて死刑を執行された({{没年齢|1971|3|9|2015|6|25}})<ref name="法務省2015-06-25">{{Cite web |date=2015-06-25 |title=法務大臣臨時記者会見の概要 |url=http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html |publisher=[[法務省]]([[法務大臣]]:[[上川陽子]]) |accessdate=2017-11-26 |language=ja |archiveurl=http://web.archive.org/web/20171126025953/http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html |archivedate=2017-11-26 }}</ref><ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.135"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊1面">『中日新聞』2015年6月25日夕刊1面1頁「闇サイト殺人 死刑執行 女性拉致、K死刑囚」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面">『中日新聞』2015年6月25日夕刊第一社会面11頁「『殺人 罪悪感ない』K死刑囚 公判前面会で」</ref><ref group="報道" name="東京新聞2015-06-25-夕刊">『中日新聞』2015年6月25日夕刊第一社会面9頁「闇サイト事件 死刑執行 女性殺害のK死刑囚 07年、名古屋」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-26-朝刊1面">『中日新聞』2015年6月26日朝刊1面1頁「闇サイト殺人 死刑執行」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-26-朝刊30面">『中日新聞』2015年6月26日朝刊第二社会面30頁「K死刑囚 再審望む 闇サイト事件 見えなかった本心」</ref><ref group="報道" name="東京新聞2015-06-26-朝刊30面">『東京新聞』2015年6月26日朝刊第一社会面29頁「闇サイト事件 被害者の母『もう一度娘抱き締められたら…』」</ref>。


=== 8月21日 ===
Kは本事件当時36歳・愛知県[[豊明市]]在住の『[[朝日新聞]]』[[新聞拡張団|勧誘員]]だった<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>。
2007年8月16日、「山下」は「闇の職安」の東海版に、「刑務所を出所したばかりだ。[[東海地方]]で一緒に何か組んでやらないか」と投稿した{{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}。この投稿に対し、まず「杉浦」(当時29歳・偽名)が返信した{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}ほか、同月20日には堀(当時32歳)が「こづかい稼ぎですが、(人を)拉致して金を出させます(預金引き出し)」という[[電子メール|メール]](捜査報告書より)を送信{{Sfn|集刑|2012|p=116}}。また、同日にはKTも「以前は[[振り込め詐欺|オレオレ詐欺]]をメインにしていたが、貧乏すぎて強盗でもしたい」というメールを送信した{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}。なお、この時には「山下」「杉浦」だけでなく、堀も「田中」の偽名を用いていたが{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}、KTは本名を名乗っていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}。


この3人以外にもいくつかの反応があったが、「山下」はこの3人を選んで返信し{{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}、翌日(2007年8月21日)9時には、堀の住居{{Efn2|堀は逮捕当時、名古屋市[[東区 (名古屋市)|東区]][[泉 (名古屋市)|泉]]一丁目のマンションに居住していた{{Sfn|集刑|2012|p=91}}。}}の近くにあったファミリーレストランで堀と初めて対面した{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}。そこで、両者は互いに脚色を交えながら自己紹介を行った上で、「山下」の運転するリバティで愛知県[[豊川市]]へ移動{{Efn2|大崎善生 (2016) は、この時の経路について、名古屋市内 - 豊川市の自動車による所要時間は[[東名高速道路]]経由で約30分、一般道経由で約1時間である旨を指摘した上で、「11時30分ごろに豊川市に到着したという記録があるので、一般道経由で移動したのだろう」と指摘した{{Sfn|大崎善生|2016|p=203}}が、堀は自著『鎮魂歌』 (2019) で「高速道路経由で豊川へ向かった」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=122}}。}}し、「杉浦」と合流した{{Sfn|大崎善生|2016|p=203}}。そして、3人で犯罪計画について話し合いつつ{{Efn2|この時、「杉浦」は「このままでは2日後(8月23日)にアパートを追い出されてしまうので、早く現金が欲しい。金庫破りかパチンコ屋(への事務所荒らし)が良いのではないか」と発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|pp=203-204}}。}}、「山下」がメールでKTに「今三人で会議中なんですけど、金庫破りか 金持ってる人を拉致って引き出す計画です」(捜査報告書より)と相談したところ、KTは「拉致はターゲットを探すのが大変ですから 金庫ですかね」{{Efn2|捜査報告書によれば、この時点ではKTはむしろ拉致計画に消極的な姿勢を示していたとされる{{Sfn|集刑|2012|p=116}}。}}{{Sfn|集刑|2012|p=116}}「金庫破りや事務所荒らしは下見が必要だから、夜間金庫か、パチンコ屋の景品交換所を襲う方が良い」などと返信した{{Sfn|大崎善生|2016|p=204}}。そのメールを見せられた堀は、自身が通っているパチンコ店([[キング観光]]サウザンド[[栄 (名古屋市)|栄]][[東新町 (名古屋市)|東新町]]店){{Efn2|名古屋市中区[[新栄]]{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}。}}の常連客で、常に大金を持ち歩いていた男性{{Efn2|堀はその常連客と顔見知りだった{{Sfn|堀慶末|2019|p=124}}ため、「自分はバックアップに専念するので、襲撃は2人(「山下」と「杉浦」)でやってほしい」と述べていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}。}}を同店駐車場で待ち伏せて襲撃し、財布や鞄を奪う強盗を提案した{{Sfn|大崎善生|2016|pp=204-205}}。「山下」および「杉浦」もその案に賛成し、それに用いる道具として{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}、「山下」が既に入手していた綿ロープおよび手錠{{Efn2|「山下」はリバティを入手するきっかけとなった盗難保険金詐欺に加担した際、依頼主の男から車内での[[練炭]]自殺を装ってリバティを燃やし、処分することを提案された{{Sfn|大崎善生|2016|pp=221-222}}。「山下」はその仕事を引き受け{{Sfn|大崎善生|2016|p=222}}、2007年3月末ごろに犯行で使用された綿[[ロープ]]と[[手錠]]を自殺用に用意した{{Sfn|堀慶末|2019|p=131}}。そして名古屋市郊外に停車した車内で、自殺志願者(大学生)が車内で練炭自殺した後で、車をガソリンなどを用いて燃やそうとしたが、途中で気まぐれを起こし、大学生を名古屋市中区内に置き去りにして姿を消した{{Sfn|大崎善生|2016|p=222}}。}}に加え{{Sfn|集刑|2012|p=109}}、近くのホームセンターで堀が[[槌|金槌]]と軍手を購入{{Sfn|大崎善生|2016|p=205}}。綿ロープと手錠に加え、この時に購入した金槌(重量約580&nbsp;[[グラム|g]]){{Sfn|集刑|2012|p=117}}と、購入先であるホームセンターのレジ袋<ref name="中日新聞2007-08-31">『中日新聞』2007年8月31日朝刊第12版第一社会面37頁「千種の女性拉致 「窃盗用」工具 凶器に 事務所荒らし後も車内に 殺害に流用」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1353頁</ref><ref name="朝日新聞2007-08-29夕刊"/>{{Sfn|堀慶末|2019|p=158}}が、後に殺人事件の凶器として用いられた{{Sfn|大崎善生|2016|p=221}}。
幼い頃に両親が離婚したことや、持病の群発性頭痛を抱えたことで非行に走るようになる。少年時代は[[暴走族]]に所属し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>、[[1989年]]([[平成]]元年)には<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>地元・高崎市内の[[工業高等学校|工業高校]]を卒業後<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-27 中部朝刊社会面"/>、[[人材派遣会社]]などに登録した<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01">『読売新聞』2007年9月1日中部朝刊中部社会面35頁「[闇サイト殺人](上)脱落トリオ、意気投合 一気に凶暴化(連載)=中部」</ref>。このころは家族に対し「自動車関係の仕事をしている」と説明していたが、実際に仕事に就いた形跡はなく<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、上京後には暴力団関係の仕事をするようになった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>。


3人はその後、高速道路経由で名古屋市内へ移動し、「キング観光」の地下駐車場で標的の常連客を待ち伏せ、[[レクサス]]に乗って帰宅しようとする標的を尾行{{Sfn|大崎善生|2016|pp=205-206}}。居宅を特定した上で{{Sfn|大崎善生|2016|p=206}}、この常連客を金槌で襲撃するなどして拉致し、キャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し、現金を引き出すといった計画の実行を試みたが{{Sfn|集刑|2012|pp=116-117}}、途中でレクサスを見失ったため、失敗した{{Sfn|大崎善生|2016|p=206}}。このため、「山下」はその旨をKTにメールで報告した上で、同日21 - 22時ごろに[[金山駅 (愛知県)|金山駅]]で合流する約束を取り付けた上で、その間に堀の知人宅([[天白区]][[平針]]方面の豪邸){{Efn2|この住宅は、かつて堀が増築の仕事で外壁工事をした家だった{{Sfn|堀慶末|2019|p=126}}。この家に向かう途中、「杉浦」がそれに用いるマイナスドライバーを2本万引きし、同宅周辺でも空き巣に入れそうな家を物色したが、いずれも失敗している{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}。}}に空き巣に入る計画を立てたが、飼い犬が鳴いていたため侵入できずに終わった{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}。結局、「杉浦」はアパートから退去するため、KTとの合流を待たず電車で帰宅{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}。KTは22時ごろに原付で金山駅に到着し{{Sfn|大崎善生|2016|p=207}}、合流した堀や「山下」と互いに虚実ないまぜの自己紹介をし合いつつ、「自分は広域[[暴力団]]の元構成員で、[[覚醒剤]]や[[拳銃]]を入手できるルートを持っている。大金を得るには覚醒剤を仕入れ、売人を雇って売りさばく秘密組織を作ったり、女性を拉致して覚醒剤中毒にさせ、[[風俗店|風俗]]に売り飛ばせば良い」などといった趣旨の提案をした{{Sfn|大崎善生|2016|p=208}}。また、堀から(ホームセンターで購入した)金槌と軍手を見せられた際、「こんなハンマーで(頭を)叩くと、死んでしまわないか」「(標的に)顔を見られたら'''殺すのか'''」などと問いかけたが、堀や「山下」はそれに異を唱えず同調した{{Efn2|この時、金槌を見せられたKTの「そんなもんでぶったたいたら死んじゃいませんか」という問いかけに対し、堀は「まあ、仕方ないですかね」と、「山下」も「まあ、そうでしょうね」とそれぞれ答えている(捜査報告書より){{Sfn|集刑|2012|p=118}}。しかし、堀は自著 (2019) で「ハンマーは殺すつもりで購入したわけではなく、この時の自身の発言は迎合気味の発言に過ぎない。もし最初から殺人を考えていたなら、ハンマーより殺傷力の高い包丁を選んでいただろう」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=128}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|pp=208-209}}{{Sfn|堀慶末|2019|pp=127-128}}。
その後は[[東京都]]内の[[新聞販売店]]・愛知県内の人材派遣会社など仕事を転々としたが<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-27 中部朝刊社会面"/>、堀・Xと同様に仕事は長続きせず<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、各地を転々として名古屋にたどり着いた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>。また、事件の10年ほど前(1997年ごろ)から携帯電話で闇サイトを利用していた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-15"/>。


=== 8月22日 ===
求人誌を読んだことをきっかけに<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-27 中部朝刊社会面"/>、[[2006年]](平成18年)9月から[[愛知県]][[豊明市]]内の新聞販売店に入社し<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、就職後は『朝日新聞』セールススタッフとして<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面">『朝日新聞』2007年8月30日朝刊第一社会面35頁「(闇からの凶行 女性拉致殺人事件:上)職続かず、転落の3人【名古屋】」</ref>、寮に住み込みで<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>新聞勧誘員の仕事をしていたが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/><ref group="書籍" name="大崎2016 p.202">{{Harvtxt|大崎|2016|p=202}}</ref>、勤務態度はあまり良くなく<ref group="書籍" name="大崎2016 p.202"/>、仕事を休みがちだった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>。当時は交際相手の女性から時々小遣いをもらうなどして生活していたが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.202"/>、Kを知る関係者は『中日新聞』の取材に対し「寮付きの仕事とはいえ、給料は完全歩合制でKの月収は平均10万円前後だった。また夏場の外回りはきつく最近の営業成績は伸び悩んでいた」と証言した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>。同僚によればKは携帯電話の操作が好きで、使い方などを教えるほど詳しかったが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>、事件前には「出来高払いの月給から約4万円の寮費を差し引くと残りは6万円にしかならない」という状況にも拘らず携帯電話を2台所有して周囲を驚かせていた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>。
翌日(2007年8月22日)、KT・堀・「山下」の3人は、前日から考えていたパチンコの常連客襲撃と、KTが提案した偽装[[養子縁組]]の子役の男からの取り立て{{Efn2|その子役はKTから報酬を払われたが、役目を果たさずに逃げたため、KTが振り込んだ金を回収しようとしていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=209}}。彼は2007年8月より数か月前、居宅のアパート([[日進市]])から[[東京]]へ引っ越していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=214}}が、後に口座の売買で逮捕された{{Sfn|堀慶末|2019|p=136}}。}}を並行して行おうとしていたが、後者は失敗{{Sfn|大崎善生|2016|pp=209-210}}。昼ごろ、「山下」は[[カルチュア・コンビニエンス・クラブ|TSUTAYA]](名古屋市[[緑区 (名古屋市)|緑区]][[鳴海町|鳴海]])の駐車場でKTと落ち合い、「杉浦」が来るのを待った{{Sfn|大崎善生|2016|p=210}}。この間、2人は虚構の犯罪歴を互いに自慢しつつ談笑していた{{Efn2|name="8月22日"|2007年8月22日、KTは「山下」に対し、「自分は過去に2人ほど殺して(出身地の)[[群馬県|群馬]]に埋めたことがある」「人を殺すのは[[ゴキブリ]]を叩き殺すのと同じだ」などと発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=210}}。KTは第9回公判<ref name="公判について"/>(2008年11月26日)でも、堀の弁護人からの被告人質問で、「警察からの取り調べに対し、『2人ほど埋めたことがある』と話した」と供述したが、愛知県警は「そのような事実は把握していない」とコメントしている<ref>『中日新聞』2008年11月27日朝刊第一社会面35頁「『他にも2人埋めた』 千種拉致殺害 公判でKT被告」(中日新聞社)</ref>。}}ほか、KTは「山下」が[[手錠]]を見せてきたところ、「手錠の爪を折らなければ、鍵をかけていても簡単に外される」と言い、ペンチで手錠の爪を折った{{Sfn|大崎善生|2016|p=210}}。しかし、約束の時間になっても「杉浦」は来なかったため、2人は携帯電話の[[出会い系サイト]]を検索し、サイトを用いて[[援助交際]]している人妻を呼び出して現金を奪ったり、そのことを種に脅迫したりすることを考えたが、これも思うように行かず断念している{{Sfn|大崎善生|2016|p=211}}。


2人は同日16時ごろ、堀の待つパチンコ店へ移動し、地下駐車場で(前日と同じ常連客を)待ち伏せ、[[千種区]]内の高級マンション{{Efn2|しかし、このマンションは実際には常連客の居宅ではなく、会社の事務所だった{{Sfn|堀慶末|2019|p=132}}。}}まで尾行に成功したが、KTがマンションの駐車場を確認したところ、[[防犯カメラ]]が多数設置されていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=211}}。その旨を報告された堀は「それでは無理だろう」と発言したが、KTは「どうせ顔を見られるなら、(常連客の)部屋に侵入して殺してしまおう」と提案{{Sfn|大崎善生|2016|pp=211-212}}。堀・「山下」の両者ともそれに異を唱えなかった{{Efn2|「山下」は、「(常連客を最後は殺してしまえば良いなどという言葉を聞いて)半信半疑の気持ちではあったが、KTの話をまったくの冗談だとは思わず、半分は『実際に人を殺すことになるかもしれない』という気持ちを持っていた」と述べている{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}が、マンションはセキュリティが厳重だったため、襲撃計画はいったん見送った上で、18時ごろに「杉浦」と先述のTSUTAYA駐車場で合流した{{Sfn|大崎善生|2016|p=212}}。KTは遅れてきた「杉浦」に苛立ちを露わにしつつも{{Sfn|大崎善生|2016|p=213}}、「'''パチンコ店常連客を襲うんだったら、最悪は殺してしまうことになるかもしれない'''が、それでもいいか」「これは3人の総意なんだ」などと告げた{{Sfn|集刑|2012|pp=118-119}}が、「杉浦」は「強盗殺人は、([[法定刑]]が)[[無期刑|無期]]か死刑しかないから、やりたくない」と拒否した(捜査報告書より){{Sfn|集刑|2012|p=119}}。このため、KTから「「山下」が入手している他人名義のクレジットカード{{Efn2|そのクレジットカードは、かつて「山下」が勤務していた会社の社長の息子宛てに届いた書留を、「山下」が本人を装って受け取っていたものだった{{Sfn|大崎善生|2016|p=213}}。}}で買い物をしてみろ」と提案され、[[コンビニエンスストア]]で煙草2箱を購入してきた{{Sfn|大崎善生|2016|p=213}}。これにより、カードが使えることが分かったため、[[ドン・キホーテ]]で金のネックレスを購入して換金しようとしたが、それ以降はカードが使えなかったため、失敗した{{Sfn|大崎善生|2016|p=214}}。
事件発生年の2007年1月には勤務先の社長に「父親が亡くなった。天涯孤独の身だ」と語っていたが、Kの父親は当時群馬県内の故郷で存命しており<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、事件後には『朝日新聞』の取材に対し「遺族に申し訳ない」<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>「昨年(2006年)春に息子が1か月ほど帰郷したが、それからは音信不通だった。その前も4,5年ほど音信不通だった」と証言した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>。またKが勤務先に提出した履歴書には「地元の高校を卒業後に職を転々とし、東京都内の人材派遣会社に1997年から9年間勤務していた」と記載していたが、実際に派遣会社に在籍していた期間は2006年4月から3カ月間だけで<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、その派遣会社によればKは派遣先に愛知県を希望していたほか、父親に対しては「自動車関係で働く」と言い残していた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>。また2006年 - 2007年ごろには闇サイトを悪用した別の詐欺事件で[[執行猶予]]付き有罪判決を受けたが、その後も金欲しさから闇サイトの閲覧・投稿を続けていた<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14"/>。


4人は同日22時ごろ<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、堀が常連として通っていたダーツバー(名古屋市[[中川区]]){{Efn2|同店は1日の売上が20 - 30万円におよび、閉店後には店長が1人でバックヤードで仮眠していたため、そこを襲う計画だった{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}。ただし同日(2007年8月22日)は定休日だったため、同店に向かう当初はあくまで下見目的だった{{Sfn|堀慶末|2019|p=136}}ほか、堀は「自分は顔が割れているので、実行役はできない」として{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}、見張り役・運転手役を引き受けた{{Sfn|堀慶末|2019|p=136}}。}}を襲撃することを計画し{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}、経営者宅の下見などを行ったが、隣家の電気が点いていたため、「人目につく」と判断し、同日の襲撃{{Efn2|KTが店内の様子を見たところ、エアコンの室外機が回っていたため、KTは「中に店主がいるかもしれない。今襲おうか」と提案していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=215}}。}}は断念した<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
8月21日22時ごろに金山駅で堀・Xと出会った際には「自分は広域[[暴力団]]の構成員となり[[オレオレ詐欺]]集団のリーダー格として犯行を繰り返したり、[[偽装結婚]]・[[養子縁組]]のブローカーなどをしてきたが、オレオレ詐欺で逮捕され[[罰金]]1,500万円の刑に処された[[前科]]がある」と自己紹介したほか<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208">{{Harvtxt|大崎|2016|p=208}}</ref>「大金を得るには[[覚醒剤]]を仕入れて売人を雇い秘密組織を作って売りさばくのがいい。女性を拉致して覚醒剤中毒にした上で[[風俗店]]に売り飛ばそう」などと提案した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.206"/>。また8月22日、名古屋市緑区内のレンタルビデオ店でXと犯行の謀議をした際には「自分は過去に2人ほど殺して出身地の群馬県に埋めたことがある。まだ死体は見つかっていない。人を殺すのは平気だ。[[ゴキブリ]]をたたき殺すのと一緒だ。人を拉致したこともある」と発言していた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.210">{{Harvtxt|大崎|2016|p=210}}</ref>。


=== 8月23日 ===
本事件では第一審・名古屋地方裁判所([[近藤宏子]]裁判長)で2009年3月17日に名古屋地検の求刑通り堀とともに死刑判決を受け<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>、判決を不服として同日付で名古屋高裁へ控訴したが<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>、2009年4月13日付で自ら控訴を取り下げ、死刑判決が確定した<ref group="報道" name="中日新聞2009-04-15-朝刊1面"/>。
このように次々と犯罪計画が失敗に終わったことに加え、それまで下っ端扱いされていたことも相まって、「杉浦」は不満を爆発させた{{Sfn|大崎善生|2016|p=216}}が、KTは「だったら若い女を拉致・監禁してキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出して金を引き出そう。最後は殺してしまえば良い」などと提案し、堀と「山下」もそれに賛同した{{Sfn|大崎善生|2016|p=217}}。この時の話し合いでは、[[風俗嬢]]([[キャバクラ]]嬢・[[ソープランド|ソープ]]嬢)が候補に上がったが、前者はKTが「金を持っていなさそう」と反対し、後者も「山下」が「拉致する場所は[[名駅]]か[[栄 (名古屋市)|栄]]になる。車での逃走が難しい」と、堀も「ソープ嬢はバックに暴力団がついているから、父と兄が暴力団員である自分としては賛成できない」と難色を示した{{Sfn|大崎善生|2016|p=217}}。


その後、KTや堀はそれぞれ帰宅し、「山下」と「杉浦」が2人きりになったが、「杉浦」は自分と考えが違い{{Efn2|「杉浦」はすぐに金を手に入れたがっていた一方で殺人には消極的だったため、秘密組織を結成して長期的に儲ける手段や、殺人を提案してくるKTに反発していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=218}}。}}、自分を見下したような態度を取ってくるKTを嫌い、「KTを外し、堀を含む3人で組みたい」と言い出した{{Efn2|その旨を「山下」から電話で伝えられた堀は、「KTが持っているという覚醒剤・拳銃入手のルートは手放したくないが、すぐに金を手に入れようとする2人の計画にはいつでも協力する」と応じている{{Sfn|大崎善生|2016|p=218}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=218}}。翌日(8月23日)昼ごろ、「山下」は堀と落ち合った際に「ダーツバーの店長が売上金を持ち歩いているので、それを襲おう」と提案され、店長宅を下見しに行った上で襲撃することを約束し合ったが、堀を自宅に送り届けた後で翻意{{Sfn|大崎善生|2016|p=219}}。堀との約束を反故にし、「杉浦」と名古屋市[[瑞穂区]]内で落ち合い、かつて自身が住んでいた[[瀬戸市]]へ向かう途中、給油のために立ち寄った[[尾張旭市]]のガソリンスタンドを「後で襲おう」と決めた{{Sfn|大崎善生|2016|p=219}}。その後、強盗に用いる道具を用意するため{{Efn2|この時、犯行計画を話し合う中で「粘着テープが必要になる」と考えた堀は、「山下」に対し、メールで粘着テープの入手方法を依頼した{{Sfn|集刑|2012|p=109}}。}}、「山下」は20時ごろに名古屋市[[守山区]]内のコンビニで粘着テープを購入したほか、「杉浦」は20時30分ごろに瀬戸市内の[[ジャスコ]]で包丁(刃渡り18.6&nbsp;[[センチメートル|cm]])を万引きした{{Sfn|大崎善生|2016|p=219}}。そして、[[スギ薬局]](瀬戸市)で店から出てくる店員を包丁で脅す強盗を企てたが、結局閉店時刻までに襲撃のタイミングを掴むことができず、先述のガソリンスタンドも23時に閉店していた{{Efn2|かつて「山下」が瀬戸市に住んでいた時期は、このガソリンスタンドは24時間営業だった{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。}}ため、どちらも強盗に入ることはできなかった{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。
起訴後、初公判前に精神的な不安から体調を崩して[[名古屋拘置所]]内の自室で首吊り[[自殺]]を図ったが、拘置所職員がすぐに発見したため一命を取り留めた<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊10面"/>。しかしその後もめまいなど体調不良を訴えたため、初公判時は車いすで移動していた<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊10面"/>。2007年冬以降に『中日新聞』社会部記者・長田弘己と複数回面会して取材を受けていたが、長田との最初の面会の際には共犯の堀・Xを「言い逃ればかりしている」と批判しつつ、被害者遺族への謝罪について問われると「自分は根本的な考えが普通の人とは違う。血を吸っている蚊を叩いて殺したのと同じだ。罪悪感を感じない」と発言した上で「人を殺すことや泥棒、詐欺をすることは悪いこととは思わない」と言い切った<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>。初公判直前には『中日新聞』の取材に対し「(犯行は)覚悟の上でやったことなので罪に対して言い逃れすることはない」と語っており<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-朝刊 no.1"/>、死刑判決を受けた後は「自分は死刑になって当然だ」と反省の言葉を述べた一方で「やってしまったことは仕方がない」と開き直るなど、名古屋拘置所関係者によれば「本心を掴みづらいタイプ」だった<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-26-朝刊30面"/>。


そこで、8月23日23時50分ごろ<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊">『中日新聞』2007年8月28日夕刊一面1頁「「山下」容疑者 事件前夜 別の男と窃盗未遂 同じサイトで知り合う」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1207頁</ref>ないし8月24日0時過ぎ、「山下」はかつて勤めていた会社{{Efn2|水道工事会社<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>。}}の事務所([[愛知郡 (愛知県)|愛知郡]][[長久手市|長久手町]]{{Efn2|現:[[長久手市]]。}})の手提げ金庫を狙い、侵入を決意{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。「杉浦」が1階出入口のガラスをドライバーで破り<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>、2人とも窓ガラスを破って侵入した{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。しかし、そこでも金庫は見つけられず、「山下」は年長者である自分に対する「杉浦」の態度を「生意気だ」と受け取っていたこともあって、「杉浦」を事務所に残したまま、リバティ<ref group="注" name="リバティ"/>で逃走した{{Sfn|大崎善生|2016|p=220}}。その後、土地勘のない場所に1人残された「杉浦」は{{Efn2|当時、「杉浦」は所持金が200円程度しかなく<ref name="中日新聞2007-08-30">『中日新聞』2007年8月30日朝刊第12版第一社会面35頁「KT、堀両容疑者 事務所荒らしは拒否 「考え方違う」 拉致強盗を決行」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1301頁</ref>、自分の携帯電話も「山下」の車(リバティ)のダッシュボードに忘れていた{{Sfn|大崎善生|2016|p=221}}。}}、24日0時55分ごろ<ref name="朝日新聞2007-08-29">『朝日新聞』2007年8月29日名古屋朝刊第一社会面27頁「3容疑者、拉致後は場当たり行動 殺害後スコップ盗む 名古屋・拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>、自ら公衆電話(名古屋市[[名東区]]内)から110番して[[自首]]{{Efn2|「杉浦」は自首の理由について、「途中で「山下」が逃げたため、馬鹿らしくなった」と述べた<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>ほか、「犯罪を繰り返すことに嫌気が差していたため、『これを転機に』と自首を決意した」とする報道もある<ref name="朝日新聞2007-08-28">『朝日新聞』2007年8月28日東京朝刊第一社会面39頁「闇サイト「第4の男」 直前、別容疑で逮捕 愛知・拉致殺害」([[朝日新聞東京本社]])</ref>。}}<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>。「杉浦」は同日3時20分ごろ<ref name="朝日新聞2007-08-29"/>、[[住居侵入罪|建造物侵入]]・[[窃盗罪|窃盗未遂]]容疑で<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>、[[名東警察署]]に[[緊急逮捕]]された<ref name="朝日新聞2007-08-29"/>。「杉浦」は取り調べに対し、「『闇の職安』を通じて1週間前に知り合った共犯者(=「山下」)がいる」という旨を自供していたが<ref name="朝日新聞2007-08-28"/>、名東署から「『闇の職安』を使った事件があった」という旨が特捜本部に知らされたのは、本事件の発生後(8月27日)だった{{Efn2|後に窃盗未遂・強盗予備などの罪に問われた「杉浦」は、自身の被告人質問で、「あなたの対応次第では、本事件(拉致殺害事件)を防げたのでは」と質問された際、「そんな事件を起こすとは思っていなかった」と述べた<ref name="毎日新聞2007-11-13"/>ほか、有罪判決確定後に『[[週刊現代]]』([[講談社]])記者からの取材に対し、「8月26日に(「山下」・KT・堀の)3人が逮捕されたことを留置場内で知った際、『まさか本当に強盗殺人をやるなんて』と驚いた」と述べている{{Sfn|週刊現代|2009|p=167}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-28 夕刊"/>。
その後もKは公で心情を語ろうとせず「凶行に走った動機」「自ら控訴を取り下げ死刑判決を受け入れた理由」も最期まで自ら明らかにすることはなかったが<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>、死刑執行直前には[[再審]]請求の検討を始めたり<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-26-朝刊30面"/>、面会した弁護人へ拘置所内の処遇について注文を付けたりと<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-26-朝刊30面"/>、生きることへのこだわりを見せることもあった<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-26-朝刊30面"/>。


その後、「杉浦」は建造物侵入・窃盗未遂の罪で[[名古屋地方裁判所|名古屋地裁]]に[[起訴]]され<ref>『朝日新聞』2007年10月15日名古屋夕刊第一社会面11頁「事務所荒らしの起訴事実認める 拉致「第4の男」初公判 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>、後に薬局の強盗を計画した強盗予備罪でも追起訴された<ref name="毎日新聞2007-11-13"/>。「杉浦」は同年11月12日に「犯行はいずれも未遂だが、多大な被害が生じた可能性は高い」として[[懲役]]2年を[[求刑]]され<ref name="毎日新聞2007-11-13">『毎日新聞』2007年11月13日中部朝刊社会面29頁「事務所荒らし:愛知・女性拉致殺害の被告と建造物侵入、被告に懲役2年求刑--名地裁」(毎日新聞中部本社 記者:岡崎大輔)</ref>、同月20日に名古屋地裁(寺澤真由美裁判官){{Efn2|寺澤真由美は2006年(平成18年)6月 - 2010年(平成22年)3月、名古屋地裁・[[名古屋簡易裁判所|名古屋簡裁]]の判事を務めていた(2010年3月31日まで)<ref>{{Cite web|url=https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge3575/|title=寺澤 真由美 <nowiki>|</nowiki> 裁判官|accessdate=2021-03-20|publisher=[[新日本法規出版]]|website=新日本法規WEBサイト|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320054042/https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge3575/|archivedate=2021-03-20}}</ref>。裁判所ウェブサイト (2008) によれば、2008年1月21日時点で寺澤は「名古屋地方裁判所刑事第4部」B係(単独審)を担当していたほか、芦澤政治(部総括判事)・小川貴寛とともに同部の合議係を担当していた<ref>{{Cite web|url=http://www.courts.go.jp/nagoya/saiban/tanto/tisai_tanto.html|title=名古屋地方裁判所 担当裁判官一覧(平成20年1月21日現在)|accessdate=2021-03-20|publisher=最高裁判所|date=2008-01-21|website=裁判所|quote=名古屋地方裁判所刑事第4部 B係 寺澤真由美|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20080413010420/http://www.courts.go.jp/nagoya/saiban/tanto/tisai_tanto.html|archivedate=2008-04-13|deadlinkdate=2021-03-20}}</ref>。}}で懲役2年・[[執行猶予]]3年の有罪判決を受けた<ref name="毎日新聞2007-11-21">『毎日新聞』2007年11月21日中部朝刊社会面23頁「事務所荒らし:「闇サイト」被告と共謀、被告に有罪判決--名地裁」(毎日新聞中部本社 記者:岡崎大輔)</ref>。
なお2011年には[[参議院議員]]・[[福島瑞穂]]が当時拘置所に収監中だった死刑囚を対象にアンケート「死刑囚からあなたへ 2011」を実施したが、死刑囚Kは以下のように回答し<ref group="書籍" name="死刑囚90人"/>、収監先・名古屋拘置所への不満を訴えていた<ref group="報道">『朝日新聞』2015年6月25日夕刊名古屋版9頁「遺族、極刑求め署名 闇サイト殺人、一審判決『残虐』」</ref>。
{{Quotation|「どうか国会で、法相にナゴヤ(名古屋拘置所)はどうなっているのか問い質してください」「私は人殺しですが、鬼ではなく人間です。それだけは忘れないでください」|死刑囚K|<ref group="書籍" name="死刑囚90人"/>}}

=== 堀慶末 ===
{{詳細記事|碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件}}
本事件で無期懲役刑が確定したがその後[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]への関与が発覚し同事件で死刑判決が確定した加害者・'''堀 慶末'''(ほり よしとも)は[[1975年]](昭和50年)[[4月29日]]生まれ<ref group="書籍">{{Harvnb|堀慶末|2019|p=10}}</ref>・[[岐阜県]][[土岐市]]出身で<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>、本事件当時は32歳・名古屋市[[東区 (名古屋市)|東区]][[泉 (名古屋市)|泉]]一丁目在住の無職だった<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面" />。

堀は1998年6月28日深夜、当時同僚だった男2人(いずれも無期懲役が確定)と共謀して愛知県[[碧南市]]内でパチンコ店長夫婦を殺害し現金6万円などを奪った<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-04">『中日新聞』2012年8月4日朝刊1面1頁「『闇サイト』堀受刑者逮捕 碧南の夫婦強殺容疑 愛知県警、ほか2人も」</ref>('''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]''')<ref group="報道">『中日新聞』1998年7月5日朝刊第一社会面35頁「トランクに夫婦?遺体 碧南の行方不明 死後数日経過か」</ref>。さらにその8年後、本事件の前年となる[[2006年]](平成18年)7月20日には碧南事件の共犯のうち1人と再び共謀した上で高齢女性が一人暮らしをしていた名古屋市[[守山区]]内の住宅に押し入り、女性の首を絞めて重傷を負わせて現金25,000円などを奪った強盗殺人未遂事件を起こした<ref group="報道" name="中日新聞2006-07-21">『中日新聞』2006年7月21日朝刊第二社会面30頁「建築会社かたり69歳女性宅強盗 守山、2人組逃走」</ref>。

このように過去に2件の連続強盗殺傷事件を起こしていた堀の経歴から、[[大崎善生]]は著書『いつかの夏』で堀を以下のように非難している。
* 「稀代の殺人鬼。人を殺すことを何とも思わない、3度の強盗殺人と強盗殺人未遂を繰り返した悪魔のような男」<ref group="書籍" name="大崎2016 p.358-359"/>
* 「凶器のハンマーを購入したのも、被害者を車に引きずり込んだのも、手錠をかけたのも、ガムテープで口を塞いだのも、真っ先に被害者の頭にハンマーを打ち下ろしたのも、無慈悲に息も絶え絶えの被害者の頭を粘着テープで23周もグルグル巻きにしたのも、被害者の遺体を荷物同然に肩に担いで放り投げたのも、すべて堀だ」<ref group="書籍" name="大崎2016 p.358-359"/>
* 「『何も感じずに無抵抗の女性にハンマーを打ち下ろし、後はお疲れさま。財布にいくらある?』矯正の可能性などあるわけがない。世に放てば4度目、5度目の強盗殺人を繰り返すだけだろう」<ref group="書籍" name="大崎2016 p.358-359">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=358-359}}</ref>

堀は本事件の半年ほど前に失職した後、交際相手女性(飲食店勤務)を頼って<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>女性が住んでいたマンションに転がり込み<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/><ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、名古屋市[[中川区]]内の(後に犯行標的の候補に挙げた)ダーツバーに入り浸りつつ<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、ダーツのプロを目指していた<ref group="報道" name="朝日新聞2012-08-05">『朝日新聞』2012年8月5日朝刊名古屋版37頁「犯行、仕事独立の翌年か 碧南夫婦殺害、堀容疑者」</ref>。また堀は同店とは別に名古屋市中区内の複数のダーツ店にも出入りしており、チーム対抗のリーグ戦に参加する姿が愛好家の間で知られていたが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、その際に周囲には「以前は工場で働いていた」と話しており、金に困った様子は見られなかった一方で「半年ほど前に仕事を辞めていた」とする証言もあった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>。交際相手女性は堀が警察に出頭を求められる直前まで堀と一緒にいたが「以前は仕事をしていたと聞いていた。今は無職だというが特に変わった様子はない」と語っていた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>。

事件発生年の2007年6月、ネットサーフィンをしていた中で偶然「闇の職業安定所」を見つけて犯罪稼業に手を染めるようになったが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201">{{Harvtxt|大崎|2016|p=201}}</ref>、当時は交際相手の女性と同居して小遣いを貰って生活していた一方、複数の金融業者から厳しい取り立てに遭っていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.202"/>。8月21日午前、自宅近くのファミリーレストランでXと初対面した際には「父親と兄が[[暴力団]]員の関係者で、兄は強盗殺人事件を起こし、無期懲役で服役中だ。自分も傷害事件を起こし、懲役2年・[[執行猶予]]3年だ」と<ref group="書籍" name="大崎2016 p.203">{{Harvtxt|大崎|2016|p=203}}</ref>、虚実ないまぜの自己紹介をした<ref group="報道" name="朝日新聞2012-08-05"/><ref group="報道" name="中日新聞2012-08-23"/>。

堀が行きつけていた一方で犯行標的の候補に挙げられていたダーツバーの店長は『中日新聞』からの取材に対し「明るく人気者だった彼がなぜ…」と困惑した様子で語ったほか<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>、ダーツバーの店員は堀がゲーム後に携帯電話の画面をのぞき込んでいる姿を覚えており「(あの時は)サイト上に表示されるゲームの成績を見ていたのか、それとも闇サイトを見ていたのか…」と戸惑った<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>。堀が最後に中区内のダーツバーを訪れたのは、Xの闇サイトへの投稿に対しKとともに応じた8月17日ごろだった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>。

堀は本事件で逮捕された当時、「いつ(無期懲役確定後に判明した)連続強盗殺傷事件の余罪2件について追及されるか…」と怯えていたが、結局は判明しなかったばかりか余罪について捜査機関から追及されることもなかった<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.167-168"/>。堀は当時の捜査状況について「今更どうこう言っても仕方ないと思うが、もし余罪を追及されるようなきっかけが何かあれば自供していたかもしれないし、本事件の捜査段階で余罪2件が発覚していればその事実関係についてもっと正確に話せただろう。結果的に碧南事件で現場に遺留された枝豆の皮から採取したDNA型が自分や共犯者1人と一致したのだから、本事件捜査時にDNA型を採取されたにも拘らずその時点で碧南事件のことにつながらなかったことを残念に思う。もちろん当時自供しなかった自分にも当然非があるが、本事件で採取したDNA型から容易につながる碧南事件を見過ごした捜査機関にも責任があると思う」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.167-168">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=167-168}}</ref>。

本事件の刑事裁判では第一審・名古屋地裁で被告人Kとともに死刑判決を受けたが<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>、判決を不服として名古屋高裁へ控訴した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-25"/>。[[2011年]](平成23年)4月12日、控訴審・名古屋高裁([[下山保男]]裁判長)で死刑判決が[[取消し|破棄]]され被告人Xとともに無期懲役判決を受けた<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13"/>。[[名古屋高等検察庁]]が控訴審判決を不服として[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]へ[[上告]]したが<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-25"/>、最高裁第二[[小法廷]]([[千葉勝美]]裁判長)が[[2012年]](平成24年)7月11日付で検察側の上告を棄却する決定を出したため<ref group="報道" name="中日新聞2012-07-14"/>、本事件に関しては2012年7月18日付で無期懲役判決が確定した<ref group="裁判" name="名古屋地裁2015-12-15">[[#名古屋地裁判決(2015-12-15)|名古屋地裁判決(2015-12-15)]]</ref>。

無期懲役確定後は名古屋拘置所内で懲役刑受刑者として服役中だったが<ref group="報道" name="朝日新聞2012-08-03">『朝日新聞』2012年8月3日夕刊1面1頁「14年前夫婦殺した疑い 闇サイトの堀受刑者 愛知県警、ほか2人逮捕へ【名古屋】」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2012-08-04">『朝日新聞』2012年8月4日朝刊1面1頁「闇サイト、堀容疑者逮捕 愛知県警、ほか2人も 碧南の夫婦殺害【名古屋】」</ref>、2012年8月3日に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の被疑者として当時同僚だった男2人とともに強盗殺人罪で愛知県警に逮捕され<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-04"/>、本事件発生から5年となる2012年8月24日に強盗殺人罪で名古屋地検から名古屋地裁へ起訴された<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-25">『中日新聞』2012年8月25日朝刊第一社会面33頁「碧南夫婦強殺 3人起訴」「『死刑求めたい』Aさんの母」「『闇サイト』どう影響 堀被告公判で名地検言及か」「大変厳しい判決も 加藤克佳・名城大学教授(刑事訴訟法)」</ref>。さらに翌[[2013年]](平成25年)1月16日には夫婦殺害事件の共犯者1人とともに「2006年に名古屋市守山区内で起こした高齢女性への強盗殺人未遂事件にも関与した」として強盗殺人未遂罪などで再逮捕され<ref group="報道" name="中日新聞2013-01-16">『中日新聞』2013年1月16日夕刊第一社会面15頁「闇サイト 堀容疑者再逮捕 06年、守山の強殺未遂 愛知県警」「堀容疑者と事件の経緯」</ref>、2013年2月6日には強盗殺人未遂罪で名古屋地検から名古屋地裁へ追起訴された<ref group="報道" name="中日新聞2013-02-07">『中日新聞』2013年2月7日朝刊第一社会面31頁「名古屋の強盗でも起訴 闇サイト事件、堀被告ら」</ref>。

それら連続強盗殺傷事件で起訴された堀は第一審・名古屋地裁(裁判員裁判・[[景山太郎]]裁判長)で2015年12月15日に本事件の第一審以来となる死刑判決を受け<ref group="報道" name="中日新聞2015-12-16">『中日新聞』2015年12月16日朝刊1面 「夫婦強殺 堀被告に死刑 妻殺害 共謀を認定 碧南の事件 裁判員判決」「『闇サイト』切り離し審理 解説」</ref>、判決を不服として名古屋高裁に控訴したが<ref group="報道" name="中日新聞2015-12-18">『中日新聞』2015年12月18日朝刊第一社会面31頁「碧南強殺で死刑 堀被告側が控訴」</ref>、控訴審・名古屋高裁(山口裕之裁判長)でも2016年11月8日に死刑判決支持(控訴棄却)判決を受けた<ref group="報道" name="中日新聞2016-11-09">『中日新聞』2016年11月9日朝刊第一社会面31頁「堀被告 二審も死刑『主導的立場』碧南強殺で判決」</ref>。控訴審判決を不服として最高裁に上告したが、最高裁第二小法廷([[山本庸幸]]裁判長)にて2019年7月19日に開かれた上告審判決公判で上告を棄却する判決を受け<ref group="報道" name="中日新聞2019-07-20"/>、判決の訂正を求める申し立ても2019年8月7日付の同小法廷決定で棄却されたため正式に死刑が確定した<ref group="報道" name="中日新聞2019-08-10">『中日新聞』2019年8月10日朝刊第14版第三社会面27頁「碧南夫婦強殺で死刑確定 最高裁 闇サイト事件の堀被告」</ref><ref group="報道">{{Cite news|title=愛知夫婦強殺、死刑確定 最高裁、訂正申し立て棄却|newspaper=産経新聞|date=2019-08-09|url=https://www.sankei.com/affairs/news/190809/afr1908090026-n1.html|accessdate=2019-08-10|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190810121050/https://www.sankei.com/affairs/news/190809/afr1908090026-n1.html|archivedate=2019年8月10日}}</ref>。

堀は死刑確定直前の[[2019年]]([[令和]]元年)5月時点で[[名古屋拘置所]]に収監されており<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.243">{{Harvnb|堀慶末|2019|p=243}}</ref><!--←の記述は「2019年5月時点で名古屋拘置所に収監されている」=『鎮魂歌』(2019年5月発刊)243ページと関連付けられた記述です。出典を置き去りにして本文の日付などだけを書き換えないでください(日付を更新したければより新しい出典を探してください)。-->、現時点では連続強盗殺傷事件の被告人であると同時に本事件における無期懲役刑の受刑者として服役中でもあるが、死刑確定により今後、無期懲役刑の執行は[[刑法 (日本)|刑法]]第51条の規定に基づき検察官が行う「刑執行取止指揮書」の指揮により停止され<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2016">{{Harvtxt|インパクト出版会|2016|pp=194-195}}</ref>、その後は死刑囚として拘置所独房で死刑執行を待つこととなる<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2016"/>。
{{See also|#堀の余罪発覚}}

=== 受刑者X ===
無期懲役が確定した受刑者Xは[[1966年]](昭和41年)生まれ<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/>・[[石川県]][[金沢市]]出身<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/><ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/><ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>。事件当時は40歳・無職で<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>、逮捕直前は「愛知県[[小牧市]]在住」と自称したほか<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/>、逮捕直後には「本籍地は愛知県[[津島市]]」と報道されていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>。

子供のころに腎臓病を患ったことや軽度の知的障害を抱えていたことが原因で[[いじめ]]を受け、高校進学後からその反動で[[不良行為少年|不良]]として[[非行]]に走るようになり、[[少年鑑別所]]に収監されたこともあった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>。『中日新聞』宛てに送った手紙では「中学校時代にいじめを受けたことをきっかけに30年近く虚勢を張り続けながら生きてきた。自分の犯行を誘う投稿に集まってきた人物(K・堀・窃盗事件共犯者V)は『自分と同類項で金に困り、虚勢を張るような人間』で、そんな連中と虚勢を張り合った末に自制心が働かなくなった」と綴っていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26-手紙"/>。

高校中退後{{Refnest|group="注"|『読売新聞』では「高校中退」<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、『毎日新聞』では「高校卒業」と報道されている<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>。}}、[[富山県]][[富山市]]内で<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、大手警備会社に就職して7年間勤務した<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>。

[[1999年]](平成11年)8月には[[住宅ローン]]を組んで愛知県[[瀬戸市]]内の分譲マンションを購入し<ref group="報道" name="読売新聞2007-08-28 東京夕刊">『読売新聞』2007年8月27日東京夕刊第一社会面19頁「愛知の闇サイト殺人 多額借金で夜逃げ 車で生活、1週間前に共犯募る」</ref>、妻・子供4人と共に暮らしていたが<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、このころ(事件の8年ほど前)から既に携帯電話で闇サイトを利用し始めていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-15"/>。[[2000年]](平成12年)ごろからは愛知県内の運送会社を転々としており、同年末から4カ月ほど<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、豊明市内の運送会社に勤めていたが、その際に「実家の父が病気」と言っては<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、毎月4万円 - 5万円を<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>会社から借金し<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、計約30万円を返済しないまま<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>行方をくらました<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>。元同僚らはXの人物像について『朝日新聞』の取材に対し「勤務態度は真面目だった」と口をそろえたが、実際のXは「しばらく働いては突然姿を消す」という生活を続けており<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、本事件の発端となった「闇の職業安定所」を通じて偽の運転免許証を入手し<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>、その免許証を利用して振り込め詐欺用の銀行口座を設立・販売していた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>。また豊明市内の運送会社の上司らは『読売新聞』の取材に対し「口数は少なくおとなしいタイプで、自分から人を誘うようなタイプではなかった」と証言したが、Xは各社に提出していた履歴書にて高校を中退していたにも拘らず「卒業」としていたり、勤務年数を偽ったりなど多くの嘘を入り混ぜていた<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>。

その後、金に困るようになると住宅ローン<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>・税金を滞納したため、[[2002年]](平成14年)には瀬戸市などにマンションを差し押さえられた<ref group="報道" name="読売新聞2007-08-28 東京夕刊"/><ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>。マンションを差し押さえられた直後の2002年12月には<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>、人材派遣会社を通じて<ref group="報道" name="読売新聞2007-08-28 東京夕刊"/>瀬戸市内の運送会社に就職し<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/><ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>、会社が借り上げたアパートに住み始めたが<ref group="報道" name="読売新聞2007-08-28 東京夕刊"/>、同社の社長は『毎日新聞』の取材に対し「当時の月給は約30万円だったが、ローンを抱えて生活は苦しく身なりも綺麗ではなかった」と証言した<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>。入社数か月後の2003年にはそのような生活に嫌気が差したためか妻子がマンションから出ていき<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>、Xは妻と離婚した<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>。

[[2003年]](平成15年)8月ごろ<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊"/>、当時勤務していた瀬戸市内の運送会社を通して毎月の給与から代金を天引きする形で<ref group="報道" name="読売新聞2007-08-28 東京夕刊"/>、[[中古車]]販売店にて[[トヨタ・スターレット]]を購入したが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊"/>、[[2004年]](平成16年)5月ごろには駐車場に荷物を積んだトラックを放置したまま会社に出勤しなくなり<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊35面"/>、会社を通して購入した車の借金を踏み倒した上<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊"/>、車とともに夜逃げしたため瀬戸市などに再び部屋を差し押さえられた<ref group="報道" name="読売新聞2007-08-28 東京夕刊"/>。

その後、闇サイトを悪用した別の詐欺事件で検挙され<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14"/>、[[2005年]](平成17年)7月には[[詐欺罪]]により懲役1年2月・[[執行猶予]]4年の有罪判決を受けた[[前科]]があったが<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/>、その後も金欲しさから闇サイトの閲覧・投稿を続けていた<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14"/>。

瀬戸市から夜逃げした後には同県[[尾張旭市]]の運送会社に勤めたがそこでも給料を前借していたほか<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、他に警備会社・運送会社を転々とし<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、遺体遺棄現場となった[[瑞浪市]]周辺に住んでいたり<ref group="報道" name="読売新聞2007-08-27">『読売新聞』2007年8月27日東京朝刊第一社会面39頁「女性殺害遺棄事件 凶行は互いに偽名、直前に顔合わせ 闇サイト絡みまた」</ref>、殺害現場付近の愛西市で勤務していた時期もあった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>。詐欺事件で逮捕された後は派遣社員として働いていたが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>、事件直前の2007年7月に人材派遣会社を退職して住む場所も失っており<ref group="書籍" name="大崎2016 p.200"/>、借金の取り立てから逃れるため<ref group="報道" name="読売新聞2007-09-01"/>、無職で車上生活を続けていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/><ref group="書籍" name="大崎2016 p.200"/>。車上生活・犯行に使用していた乗用車[[日産・リバティ]]はかつて闇サイトを利用した盗難保険金詐欺に加担した際の謝礼として依頼主から受け取ったもので<ref group="書籍" name="大崎2016 p.221-222">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=221-222}}</ref>、2006年4月ごろに盗難情報が出されていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01-夕刊"/>。そのナンバープレートはかつて自分が乗っており、自身を使用者として登録されていたスターレットのものに付け替えていた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊"/>。

また同じく犯行に使用した手錠・ロープはその保険金詐欺依頼主から「もっと金が下りるかもしれない」と闇サイトで紹介された自殺願望者の自殺幇助の仕事を請け負った際、自殺願望者だった同志社大学の学生(当時)が用意していた物だったが、結局その学生が名古屋市郊外の空き地に駐車したリバティ車内で練炭自殺をしようとした際にXが突然気紛れを起こして未遂に終わらせた際に車内に残されていたもの{{Refnest|group="注"|当時の計画では「学生をリバティ車内で練炭自殺させ、リバティをガソリンで燃やして証拠隠滅を行う」予定だったが、その一帯は[[鉄道空白地帯]]だったことから「もしここで車を燃やしたら自分は帰る手段を失うから面倒だ」と考えたことに加え、その学生がまだ若かったことから「まだ死んでいくような年じゃないだろう」と気紛れを起こし、学生を再び乗車させて車を発進させ、学生が名古屋市中区内のパチンコ店でトイレを借りている間に置き去りにして逃走した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.221-222"/>。}}<ref group="書籍" name="大崎2016 p.221-222"/>。

8月21日22時<ref group="書籍" name="大崎2016 p.207">{{Harvtxt|大崎|2016|p=207}}</ref>、[[金山駅 (愛知県)|金山駅]]でK・堀と顔を合わせた際には「石川県出身で地元の暴力団に所属してオレオレ詐欺をしていたが、逮捕され広島の刑務所に服役していた」と語っていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>。

逮捕されてから2007年12月までに複数回にわたり『中日新聞』宛ての手紙を寄せたが、それらの手紙の中では犯行の経緯に関して以下のように述べている<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26-手紙">『中日新聞』2007年12月26日朝刊第一社会面27頁「千種の女性拉致殺害 本紙に手紙 X被告『何となく流されて…』 『発覚の恐れ少ない』 闇サイト悪用の犯罪 過去にも3度」</ref>
* 「なんとなく闇サイトに書き込んだら人が集まり、何となく流されていった」
* 「闇サイトで共犯者を募った理由は『多人数なら、1人よりもやれることが広がり、互いに名前や身分を明かす必要もない。犯罪が発覚する恐れも少ない』からだ」<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26-手紙"/>。
* 「共犯者のうち1人が非常に金に困っていたため、すぐに犯罪で金を得る行動に走った。当初は金庫破りなども計画したが、ある共犯者が『過去に殺人・拉致をしたことがある』とほのめかして『今回も女性を拉致して金を引き出そう』と提案したため、その意見に従い殺人という一線を越えてしまった。自分たち3人の罪は一列だと思う」<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26-手紙"/>
* 「犯行動機は金目的だ。(犯行後、愛知県警に電話で自首したことについて)死刑が怖かったわけではない。善と悪の心の葛藤があり、この時は善の部分が出た」<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26-手紙"/>
* 「犯した罪の責任は取る(刑事裁判で下された判決を受け入れる)。被害者遺族は自分に言いたいこともあるだろうが、私は口先だけの反省・謝罪をするつもりはない」<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26-手紙"/>

本事件の刑事裁判では第一審・名古屋地裁で名古屋地検から死刑を求刑されたものの<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊13面"/>、自首が有利な情状と認定されて罪一等を減ぜられ無期懲役判決を受けた<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>、その後自身・弁護人とも判決を不服として名古屋高裁へ控訴した一方<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-25"/>、名古屋地検も死刑回避判決を不服として同じ名古屋高裁へ控訴した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-28"/>。

しかし控訴審・名古屋高裁(2011年4月12日)では第一審・無期懲役判決が支持されて双方の控訴が棄却され<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13"/>、名古屋高検・被告人X側とも最高裁へ上告しなかったため、2011年4月27日付で無期懲役判決が確定し<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-28"/><ref name="上告断念"/>、2017年現在は無期懲役刑で[[刑務所]]に服役中である<ref group="報道" name="討論会1"/>。

== 被害者女性A ==
[[1976年]](昭和51年)[[7月20日]]生まれ<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=30}}</ref>({{没年齢|1976|7|20|2007|8|25}})。事件当時は母親と2人で後述の市営住宅に在住しており<ref group="書籍" name="大崎2016 p.8">{{Harvtxt|大崎|2016|p=8}}</ref>、[[名古屋鉄道]](名鉄)などが出資して大手企業と取引している[[人材派遣会社]]に派遣社員として勤務していた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊35面"/>。なお当時の自宅最寄り駅は[[名古屋市営地下鉄名城線]]・[[自由ヶ丘駅]]だったが<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=16}}</ref>、Aは通勤に[[名古屋市営地下鉄東山線]]を利用していたため<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=173}}</ref>、同線と名城線の乗換駅で自由ヶ丘駅の隣駅である[[本山駅 (愛知県)|本山駅]]を利用していた<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=6}}</ref>。2007年8月末で派遣先の会社を退職することとなっていたため事件当日の夕方には同僚が送別会を開いており<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-25">『中日新聞』2007年12月25日朝刊第一社会面29頁「ニュース前線 07年回顧 千種の女性拉致、殺害 『母とマイホーム』夢消え 『亡き父』と並ぶ娘の遺影」(記者:社会部・渡部圭)</ref>、通常は19時30分ごろに帰宅していたが、事件当日の24日夜は22時ごろに偶然現場を1人で歩いていたところを襲われた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>。

Aが1歳9か月だったころに父親が[[急性骨髄性白血病]]で死亡したため、その後は母親が女手一つで一人娘のAを育てつつ親族を頼って名古屋市内に移住し、幼稚園入園前の1980年(昭和55年)6月に事件当時母娘2人で住んでいた名古屋市千種区春里町(拉致現場と同じ住所)の市営住宅へ移り住んだ<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=42-58}}</ref>。<!--

1983年(昭和58年)春に[[名古屋市立自由ヶ丘小学校]]へ入学し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.74"/>、1989年(平成元年)春に同校を卒業して[[名古屋市立千種台中学校]]へ進学<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=97}}</ref>・1992年(平成4年)春には[[愛知県立天白高等学校]]へ進学した<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=107}}</ref>。高校卒業後の1995年(平成7年)春には[[愛知大学]]法学部に進学して名古屋キャンパス(当時は愛知県[[西加茂郡]][[三好町]]、現在の[[みよし市]]に所在)に通学したが<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=120-121}}</ref>、大学生活になじめなかったため進学から1年で退学した<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=127}}</ref>。-->大学中退を決断する直前にヴィジュアル系ロックバンド「[[GLAY]]」を知って熱中するようになり<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|p=126}}</ref>、事件後の2016年に[[角川書店]]が発売したAの半生をつづったノンフィクション『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』([[大崎善生]])は生前にAが心から愛したGLAYの曲「いつかの夏に耳をすませば」に由来している<ref group="書籍" name="大崎2016 p.374">{{Harvtxt|大崎|2016|p=374}}</ref>

2007年3月にウェブログ(ブログ)を開設して自ら訪れた飲食店を<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊15面"/>美しい写真・丁寧な文章で紹介しており<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-夕刊9面"/>、最後の更新となった2007年8月6日には「会社の食事会で中区のフランス料理店を訪れた。また行きたくなるようなお店だったので今度は親しい友人とまったり来たい」という内容で更新していた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊15面">『中日新聞』2007年8月28日夕刊第一社会面15頁「女性拉致殺害 ブログに込めた願いかなわず… Aさん、3月開設 怒り、嘆き 知人ら次々書き込み」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-夕刊9面"/>。また生前には名古屋市中区[[新栄]]の喫茶店で開かれていた[[囲碁]]会に参加しており「初段になる」という目標の下で熱心に対局に取り組んでいたほか<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-夕刊9面">『朝日新聞』2007年8月20日夕刊第一社会面9頁「絶たれた囲碁初段の夢 Aさん、事件前々日にも会参加 名古屋・女性殺害【名古屋】」</ref>、事件直前には囲碁を通じて知り合った男性と交際を開始し、殺害された8月25日にはデートの予定を入れていた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-夕刊9面"/>。

== 事件前の動向 ==
=== 加害者3人が接触 ===
2007年6月、ネットサーフィンをしていた堀は本事件の舞台となったインターネット上の携帯電話用闇サイト「闇の職業安定所」を知り、犯罪稼業に手を染めるようになった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>。堀は早速「闇の職安」で仕事を募ると未払金回収の仕事にありついたが、この時は相手にうまく逃げられて失敗して無報酬に終わり<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>、2007年7月に「何か仕事はないか」と金目的の犯罪仲間を募集する書き込みを投稿したところ<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、その投稿にXが反応した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>。

堀・Xは2人で[[電子メール]]を交換し合うようになり<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、2007年8月4日<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>、Xが堀に「いくら必要なんですか」と質問したところ、堀が「ガッツリいきたいです」と返信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.202"/>。これを受けたXは「『ガッツリ』ですか。強盗でもするならわかりますが」と答えた上で「自分と組んでみないか?」と誘い、実際に逢う寸前まで行ったが、都合が合わず延び延びになって以降は一時音信不通状態になっていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.202"/>。

2007年8月16日<ref group="書籍" name="大崎2016 p.200">{{Harvtxt|大崎|2016|p=200}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/>、Xは「闇の職安」東海版に「山下」という偽名を使い「刑務所から出てきたばかりで派遣をやっています。仕事はキツすぎ、給料安すぎで実に馬鹿馬鹿しい。東海地方で一緒に何か組んで(裏の仕事を)やりませんか」と<ref group="書籍" name="大崎2016 p.200"/>、犯罪仲間を募集する趣旨の書き込みをした<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>。翌17日<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>、この書き込みに男V{{Refnest|group="注"|Vは[[東京都]][[新宿区]]出身・同地[[本籍]]の住所不定無職<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋夕刊"/>。当時は愛知県[[豊川市]]で生活していた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.203"/>。}}(事件当時29歳、闇サイトでは「杉浦」という偽名を使用)が反応し<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/><ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>、「何か計画しているものはありますか?」と返信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>。

同月20日<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/>、「田中」という偽名を名乗っていた堀が「どうですか、まず一発やりますか?拉致して預金を引き出させる小遣い稼ぎです」という趣旨の電子メールを送信し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/>、同日にはこれに続いてKが「以前はオレオレ詐欺をメインにしていたのですが、貧乏過ぎて強盗でもしたいくらいです」などとメールを返信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/>。その後もXの投稿にはいくつかの反応があったが、Xは直感的にK・堀・Vの3人を選び出し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>、互いに連絡を取り合うようになった<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。

XがK・堀・Vの3人に対し自身が闇サイトで用いている「山下」の名は偽名であることを断った上で「山下40歳」「刑務所を出てから、派遣でセコく生活している」「オレオレ詐欺系の偽造・口座の売人をやっていた」という自己紹介の文言を送信したところ、堀はこれに対し同じく「田中」の偽名を使用した上で「32歳です。回収で無理して2か月前に刑務所を出所したばかりです」と返信した一方、Kは3人の中で唯一実名を名乗った上で「執行猶予中の36歳です」、Vは「杉浦(偽名)です。薬物事犯で逮捕歴が1度あります」とそれぞれ返信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.201"/>。

他の3人が偽名を名乗る中でKだけは本名を名乗っていたが、[[大崎善生]]はその理由を「“Kには『これから仲間になろうとする人に偽名は無礼だ』という実直さがあった”という見方もあるが、これにはKなりの深慮遠謀があった。“もし将来これが原因で捕まった時に偽名を使っていると、捜査機関から『最初から犯罪を確信していたのではないか』と推測されてしまうだろうが、本名ならば『まさか犯罪とは考えていなかったが、悪い奴らに引きずり込まれていった』と考えてくれるだろう、という悪知恵からだ”との見方もある」と推測している<ref group="書籍" name="大崎2016 p.202"/>。

堀は2007年8月21日9時ごろ、自身が在住していたマンション付近にある名古屋市東区泉のファミリーレストラン「[[デニーズ (日本)|デニーズ]]高岳店」で初めてXと顔を合わせ、そこでXに対し「父・兄が暴力団関係者だ。兄は強盗殺人を起こし無期懲役で服役中だ。自分も傷害で懲役2年食らったが、執行猶予がついた」などと自己紹介し、Xも「石川県の暴力団にいた。詐欺で実刑判決を受けた」などと脚色を交えつつ簡単な自己紹介をした<ref group="書籍" name="大崎2016 p.203"/>。堀はその後Xが運転するリバティに同乗して2人で移動し、11時30分ごろにVが待っていた同県豊川市内の[[パチンコ店]]「パチンコ豊川コロナ」へ到着した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.203"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>{{Refnest|group="注"|名古屋市内 - 豊川市内の自動車による移動時間は東名高速道路を経由すれば約30分、[[国道1号]]など一般道経由の場合は約1時間ほどの距離だが、1時間以上をかけて移動した記録から[[大崎善生]]は「おそらく一般道で移動しただろう」と推測した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.203"/>。Vは同日、レンタカーを使ってこのパチンコ店駐車場に来ていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>。}}。

堀・X・Vの3人はこの時点でまったく無計画に集まっていたが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.204"/>、その後豊川市内のファミリーレストラン「デニーズ豊川末広店」に移動して簡単な自己紹介をしあった後「これからどんなことをしようか?」と話し合った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.203"/>。Vは「このままでは2日後(8月23日)にアパートを追い出されてしまうのでその前にとにかく現金が必要だ。夜間金庫かパチンコ屋を狙うのがいいのではないか?」と提案した上で、堀・X両名に自分の知り合いで窃盗前科がある者の名前を挙げて「マイナスドライバーでガラスのドアを破り、閉店後の店内に侵入する方法を教えてもらっている」と話した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.204">{{Harvtxt|大崎|2016|p=204}}</ref>。これを受けてXはこの時点では面識はなかったものの「オレオレ詐欺のトップ」などと名乗っていたことから「犯罪経験が豊富だ」と判断していたKにメールで「金庫破りか、金を持っている人を拉致して預金を引き出す計画を3人で話し合っている。アドバイスが欲しい」と相談し、Kから「金庫破りや事務所荒らしをやるなら下見をしっかりした方がいい。夜間金庫かパチンコ屋の景品交換所を襲うのがいいのではないか?」と返信を受けた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.204"/>。堀・X・Vの3名はしばらくそのメールを眺めながら話し合った後、堀が「自分が通っている名古屋市内のパチンコ店には大金を持って勝負しに来ている常連客がいる。その常連客は財布の中にいつも100万円くらい入れているようだから、駐車場で車から降りてきたところを襲撃して怯んだ隙に財布・カバンを盗むのはどうだろうか?」と提案した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.204"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。これに対しX・V両名はともに賛成し、Xは「金属バットでやろうか?」と提案したが、堀は「それだと目立ちすぎるから別の凶器を使おう」と提案した上で「自分は(その標的の常連客に)顔を知られているのでバックアップはするが、実行犯は2人でやってほしい」とも答えた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.205">{{Harvtxt|大崎|2016|p=205}}</ref>。ほどなくしてKから「話し合って、結局何をすることになった?」というメールが入ったため、Xは「田中(堀)の提案で強盗をすることになった」と返信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.205"/>。

ファミリーレストランを出た3人はその付近にあるホームセンター「DCMカーマ豊川東店」に移動して犯罪に使う道具を購入することとなり<ref group="書籍" name="大崎2016 p.205"/>、堀はX・V両名を駐車場に待たせて1人で店内に向かい、軍手・後に本事件で凶器に使われたハンマーを購入した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.204"/>。3人はその後Xが運転するリバティに相乗りして[[東名高速道路]]を経由して名古屋市内に戻り、堀が言及した常連客がいた名古屋市中区[[新栄]]のパチンコ店「キング観光サウザンド栄東新町店」へ向かった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.205"/>。堀は、いつもの列・機種で遊んでいた標的の常連客男性を見つけ出すと、すぐに地下駐車場で待機していたリバティに戻り、Vに標的の遊んでいた台の番号を教えた上で地下駐車場に通じるエレベーターの出口で待ち伏せさせることにした<ref group="書籍" name="大崎2016 p.205"/><ref group="書籍" name="大崎2016 p.206">{{Harvtxt|大崎|2016|p=206}}</ref>。

16時、男性が大型のレクサスに乗車して家路に就いたため、Vは急いで車に戻り堀・Xとともにレクサスを尾行した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.206"/>。堀は「とにかく(標的の)家を突き止めよう。それから家に乗り込んで強盗に入り、現金・キャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出そう」と手はずを立て、X・V両名も同意していたが、突然尾行していたレクサスがラーメン屋の前で停車したため、Xが慌てて停車したところそのレクサスの後ろではなく前に停車してしまったため「これはまずい」と思ったためか、車を出して信号を左に曲がり、道を一周してラーメン屋の前に戻ったが、レクサスは既に用を済ませたためか姿を消しており、パチンコ屋の常連客を襲う計画は目標を見失う形で失敗に終わった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.206"/>。この失敗を受けてXはKに「途中まで尾行したが撒かれた。[[ナンバープレート|ナンバー]]は控えたので身元割り出し中だ。『今度4人で会わないか?』ということになったがどうだろう?」と送信し、Kは「[[東海旅客鉄道|JR東海]]・[[名古屋鉄道|名鉄]]・[[名古屋市営地下鉄]]の[[金山駅 (愛知県)|金山駅]]で21時 - 22時ぐらいに会おう」と返信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.206"/>。

その後、堀・X・Vの3人は「作戦を練り直そう」と名古屋市[[名東区]][[一社]]のファミリーレストラン「デニーズ一社店」に入り、Kとの待ち合わせ時間までまだ時間があったため、ファミリーレストランで犯行の謀議をすることとなった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.207">{{Harvtxt|大崎|2016|p=207}}</ref>。堀はその場で「[[天白区]][[平針]]方面には多くの邸宅が立ち並んでいるが、自分の知り合いがそこの大豪邸に住んでいる。その人物の家に空き巣に入ろう」と提案し、X・Vも賛成した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.207"/>。3人は早速、車で天白区方面に移動して堀が前述した大豪邸を見つけ、人の気配がないことを確かめると「鍵のかかっていない扉・窓がないか?」と探したが、家の中から猛烈な飼い犬の吠え声が周辺に甲高く響き渡ったため、犯行が露見することを恐れてその家を離れた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.207"/>。それ以降も3人は「空き巣に入れそうな家」を探して歩き、その途中でVがホームセンターでマイナスドライバーを2本万引きしてきたが、標的をなかなか見つけることができなかった上にKとの待ち合わせ時間が迫っていたため、犯行を断念して金山駅に向かった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.207"/>。

堀・X・Vの3人は金山駅でKを待っていたが、Vは「アパートの入居期限が切れるので、どうしても荷物を出さなければならない」として同駅で別れ、Kと合流することなくそのまま電車で帰宅した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.207"/>。22時ごろになってKが[[原動機付自転車]]で金山駅に到着し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.207"/>、その直後の22時過ぎごろになってK・堀・Xの3人は同市中区内の路上に駐車したリバティの車内で<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、様々な犯行計画について相談した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>。当時の状況はK曰く「はったりのかまし合い」、X曰く「虚勢の張り合い」という状況で<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>、それまでの犯罪歴などについて2時間ほど虚実ないまぜの犯罪自慢をしあっていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208">{{Harvtxt|大崎|2016|p=208}}</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2012-08-05"/><ref group="報道" name="中日新聞2012-08-23"/>。またKはさらに覚醒剤・[[拳銃]]の密輸・密売や「女性を拉致して覚醒剤中毒にし、風俗店に売り飛ばす」など「犯罪で金を得るための提案」をしたが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>、その際は結局「パチンコ店の常連客を襲う強盗が一番金になる」という話でまとまった<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。続いてXは、パチンコ店の常連客を襲撃する計画が失敗に終わったことなどを話し始め、これに対し堀がレジ袋の中からホームセンターで購入したハンマー・軍手の束を取り出してKに見せた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>。これに対し、Kは「軍手に滑り止めが付いていない」と指摘した上で「こんなハンマーで(人を)たたくと、死んでしまわないか?」とも発言したが、堀は「ああ、そうですね」と軽く返し、Kから「最後までやるのか?顔を見られたら殺すんでしょう?」と問われても<ref group="書籍" name="大崎2016 p.208"/>、「仕方ないですよね」と顔色一つ変えずに答え、Xも「その時はその時です」と同調した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.209">{{Harvtxt|大崎|2016|p=209}}</ref>。Kは「自分が手掛けた偽装養子縁組の子役の男が金を振り込んだにも拘らず役目を果たさず逃げた。その男を捕まえればある程度の金はすぐに手に入る」と提案したため「パチンコ店常連客の襲撃と並行してその男の襲撃を行う」ことで話がまとまり、この日は解散した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.209"/>。Kはそれまで主に詐欺を行っていたこともあり「強盗などの短絡的な方法ではなく詐欺組織のようなものを立ち上げてゆっくりと稼ごう」と考えていたが、堀が「今週中に30万円欲しい」と言ったほか、Vも「家賃が明後日までに払えないと追い出されてしまう」と言い、Xも金に困り切羽詰まっていた状態だったため、「見知らぬ者同士が見栄を張り合っているうちに、強盗殺人も辞さない方向へと向かっていく」という事態に陥っていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.209"/>。

2007年8月22日6時ごろ、Xはリバティで堀を自宅付近まで迎えに行った後、Kからメールで教えられた偽装養子縁組の子役の住所(男が養子縁組した母親役の家)へと向かったが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.209"/>、対応した養母から「息子はいない」と言われたため、堀・X両名は夕方に再び前述のパチンコ店で会う約束をして別れた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.210">{{Harvtxt|大崎|2016|p=210}}</ref>。

Xは同日昼ごろ、名古屋市緑区内のレンタルビデオ店駐車場でKと落ち合い、車内でVの合流を待ったが、その際にKがXに車内で「殺人の経験がある」とほのめかす話をしたり、Xも「レイプ・恐喝なら何度もやっている。女をさらうのは簡単なことだ」と自慢したりと、互いに虚勢を張り合うような会話をしていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.210"/>。またこの時、Xはあらかじめ持参したステンレス製の手錠をKに見せた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.210"/>。

しかし約束の時間になってもVが現れなかったため、K・X両名は「携帯電話の出会い系サイトを用い、援助交際をしている人妻を呼び出して現金を恐喝したり『援助交際していることをばらすぞ』と脅迫したりして金を得よう」と計画を立て、出会い系サイトで女性との接触に成功し「[[名鉄名古屋本線]]・[[栄生駅]]で待ち合わせたが、やってきた女性はK曰く「[[朝青龍明徳|朝青龍]]みたいな女」だったため、連絡を受けたXは「お帰りいただきましょう」と返信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.211">{{Harvtxt|大崎|2016|p=211}}</ref>。同日16時ごろ、K・X両名は堀が待っていたパチンコ店に移動して堀と合流し、3人で地下駐車場で常連客の待ち伏せを続けた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.211"/>。この日は常連客がエレベーターで駐車場まで降りレクサスで家路に就いたところを尾行し、その自宅と思われる千種区内の高級マンションまで気付かれることなく尾行するのに成功し、Kがリバティを降りてマンションの地下駐車場で様子を見に行ったが、駐車場には少なくとも5,6台の防犯カメラが設置されていたため、それを報告された堀は「それじゃあ無理ですね」と諦めたかのような発言をした<ref group="書籍" name="大崎2016 p.211"/>。しかしKは「常連客の部屋に乗り込んで殺してしまえばいい。どうせ顔を見られるのだから殺してしまった方が早いだろう」と語気を強めて主張し、この「強盗殺人の2度目の具体的な提案」に対し堀・Xともに異議を唱えなかったため、強盗殺人の共謀が成立したが<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=211-212}}</ref>、マンションの警備が厳重だったため襲撃計画はいったん中断し、再び緑区内のレンタルビデオ店駐車場に戻った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.212">{{Harvtxt|大崎|2016|p=212}}</ref>。

3人は18時過ぎに遅れてやってきたVと合流し、4人で初めて顔を合わせることとなった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.212"/>。この時はリバティ車内で「Xが運転し、Kが助手席・堀が2列目シートの運転席後・Vが助手席後ろ」にそれぞれ着席していたが、昼の待ち合わせから顔を見せなかったVに対しKは「自分は暴力団[[住吉連合]]の一員だ。オレオレ詐欺のトップをやっており群馬で2人殺したことがある」などといらだちを明らかにしながら告げた上で「これだけの人間を何時間も待たせて連絡もしないなんて指詰め物だぞ。お前は(暴力団)組織の人間じゃなかったんだろう」と迫った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.212"/>。その上でKはVに「パチンコ店の常連客は自宅に押し入って殺すことに決めたが、お前はどう思うんだ?」と迫り、堀も「やるのか、やらないのか」と畳みかけたが、これに対しVは「強盗殺人は[[法定刑]]が死刑か無期懲役しかないから嫌だ」と言い<ref group="書籍" name="大崎2016 p.212"/>、Kは「じゃあ直接手を下さなくてもいい。俺と堀がやる」と返した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.213">{{Harvtxt|大崎|2016|p=213}}</ref>。その後XはVに「嫌なら降りてもいいよ」と言ったが、Vは「人を殺すのは嫌だが、仲間外れにされるのも困る」と考えていたため「そんなことは(「嫌だ」とは)言っていないじゃないか」と反論したため、KがVに「Xが会社に勤めていた時、勤務先社長の息子宛に来た書留を自分が本人を装って受け取り、中身のクレジットカードを入手している。それを使って買い物ができるか確かめてみろ」と提案した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.213"/>。Vはその命令通りコンビニエンスストアへ向かい、Xが持っていた他人名義のクレジットカードでたばこ2箱を買うことに成功した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.213"/>。この時点では「最初に声を掛け、車を提供し、最年長でもある」Xが暫定的なリーダー格、2番手のKも「犯罪歴・歯切れの良さでXに肉薄している」、堀は「順位争いには興味を示さず、むしろ2番手・3番手に成り下がろうとしつつ犯罪のアイデアだけを淡々と提供し続けている」という「微妙な力関係」が生じており、最年少のVが下っ端という状況だった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.213"/>。

クレジットカードが使用可能だったことを受け、Kは「[[ドン・キホーテ]]に行き金のネックレスを購入して換金しよう」と提案した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.214">{{Harvtxt|大崎|2016|p=214}}</ref>。他の3人もこれに同意したため4人で中川区のドン・キホーテに向かい、金のネックレスを購入しようとしたがこれは失敗に終わった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.214"/>。「クレジットカードを照合する機械によって結果が違うのではないか?」と考えた4人は一宮市内のドン・キホーテに向かおうとしたが、その途中で「相性が良いと思われたコンビニ」を見つけたため、そこで再びたばこを買おうとしたがこれも失敗に終わったため、金のネックレスを購入して換金する計画は断念した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.214"/>。Kはその後、偽装養子縁組の子役が[[日進市]]内のアパートに在住していたことを受けそのアパートに向かうことになったが、アパートは既に引き払われた後だったため、Kが慌てて子役に連絡を取ったところ、子役は「引っ越してもう何カ月も前から東京にいる」とのことだった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.214"/>。

これを受けて同日22時ごろ<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、堀は「自分が常連として通っている中川区内のダーツバーは、閉店間際ならば1日の売り上げが現金20万円 - 30万円と置いてある。閉店後は店長がバックヤードにて1人で仮眠を取っているのでそこを襲うのはどうだろうか?」と提案した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.215">{{Harvtxt|大崎|2016|p=215}}</ref>。堀はこの時「自分は顔が知れているため直接手は下さず、車内での見張り役・運転手役をする」という条件を提示し、3人とも賛成したため標的のダーツバーに向かったが、この日は定休日だった<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=215-216}}</ref>。しかしKが1人で車を降りて様子を見に行ったところ、エアコンの室外機が回り人の気配があったことから「押し入って店主を殺し、金を奪おう」ということで話がまとまった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.215"/>。Vが殺人行為を拒絶しており堀も顔見知りであることから直接手を下せなかったため、襲撃実行犯はK・X両名ということとなったが、この時点で既に4人とも「互いに意味もない虚勢を張りつつ、引き返すこともできず、殺人も辞さない強盗殺人集団のようになり、狂気に支配された」状態に陥っていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.215"/>。しかしその中でもまだ冷静さを保っていた堀は「この時点ではまだ小中学校の夏休みだから、オーナーの子どもが休日に頻繁に店に泊まりに来ている。今日もいるかもしれない」(=子供を含めて2人殺さなくてはならなくなるかもしれない)と発言した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.216">{{Harvtxt|大崎|2016|p=216}}</ref>。同時に堀は「自分は店長と顔見知りだから実行役はできないが殺害するのなら話は別だ」とも発言したが、外の様子をうかがっていたKは「ダーツバーのすぐ後ろに照明の点いた木造アパートがあるから、店内で悲鳴を上げられるとそのアパートに筒抜けになる危険性がある」と指摘したため、このダーツバーの襲撃も断念することとなった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.216"/>。

日付が変わる直前の同日深夜、下っ端として扱われていたVは「昨日から2日間ずっとこうしているが何の稼ぎもない。大の大人が4人も揃ってるんだから逃げ腰にならずにすぐにやってしまえばいいじゃないか」と不満を爆発させ<ref group="書籍" name="大崎2016 p.216"/>、「住んでいるアパートの賃貸借契約期限が迫っている。契約更新の資金が欲しい」という理由からKら3人に対し「誰かを襲って金を奪い取ろう」と持ち掛けた<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。これに対しKは「だったら今から男でも女でも手あたり次第、誰彼構わずやってしまおう」と発言した上で「若い女を拉致して金・キャッシュカードを奪い、暗証番号を言わせれば結構な金が手に入る。女をどこかに監禁しておけばついでに[[輪姦]]できる。ヤバくなったら最後は殺してしまえばいい。俺は女を拉致して金を奪ったことがあるが今もばれていない」と発言した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.217">{{Harvtxt|大崎|2016|p=217}}</ref>。このKからの「通行人の女性を通り魔的に襲撃して殺害する強盗殺人」などの計画提案に対し<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、Vは言葉を濁したが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.217"/>、堀・X両名は賛同した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.217"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。その後、3人はターゲットについて話し合うこととなり、まずはキャバクラ嬢が候補に挙がったが、Kからは「キャバクラ嬢はホストクラブに通っているのが多いから金を持っていない。やるならソープ嬢の方がいい」という意見が出たが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.217"/>。しかしXが「キャバクラ嬢にせよソープ嬢にせよ、実行する場所は[[名駅]]・[[栄 (名古屋市)|栄]]になるが、車での逃走が難しい」と指摘した{{Refnest|group="注"|Xは「名駅・栄周辺で標的を拉致すると渋滞に巻き込まれる虞がある」と指摘していた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>。}}<ref group="書籍" name="大崎2016 p.217"/>。加えて堀は「風俗嬢はあまり金を持っていない」と指摘し<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、さらに自身の父・兄が暴力団関係者だったため「ソープ嬢は経験上抵抗が激しいし、バックには必ずヤクザが付いている」という理由で「風俗嬢をターゲットにする提案」には終始消極的な態度を示した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.217"/>。その後、堀はXにより自宅に送り届けたが別れ際に「明日やろう」と発言し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.218">{{Harvtxt|大崎|2016|p=218}}</ref>、Kも原付で帰宅したため残るはX・V両名となった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.218"/>。

Xと2人きりになったVは「空き巣でも強盗でもいいからすぐに金が欲しい」と考えていた一方で殺人には強い抵抗感を示していたため、「犯罪組織を結成して儲けよう。何かあれば最後は殺してしまえばいい」というKの考えとは相容れず、Kの態度も「自分を最初から見下している」と強く不満を抱いていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.218"/>。このことからVは「Kを外して自分と堀・X両名の計3人で組みたい」と考えており、これに多少共感していたXはその旨を堀に電話で伝えた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.218"/>。しかし堀は「Kが持っている覚醒剤・拳銃の密輸ルートを手放したくない」としてKとの関係解消について消極的な態度を示した一方で「それとは別の話」として単発即金になる2人の計画に対し「いつでも協力したい」と表明した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.218"/>。

=== 事件前日 ===
事件前日の2007年8月23日、VはXに「豊橋市内のスーパーマーケットを襲撃しないか?」と提案したが、Xは同日11時ごろにV宛のメールで「(強盗の)計画を立てていくには時間がかかりそうだ。堀と組んで3人でパチンコ店の常連客を襲おう」と提案したほか<ref group="書籍" name="大崎2016 p.218"/>、Xが堀に「Vが『すぐにでも強盗をして金を得たい』と言っている」と報告して堀から「参加する」と回答を得た<ref group="書籍" name="大崎2016 p.219">{{Harvtxt|大崎|2016|p=219}}</ref>。昼ごろ、Xは堀とリバティ車内で落ち合った際に堀から「ダーツバーの店長が売上金を持ち歩いているので、それを襲えばいい」と新たな犯罪計画を提案され、2人でそのダーツバー店長宅を下見に行き「襲撃する」と約束した上で堀を自宅に送り届けて別れたが「今度もどうせうまくいかないだろう」と考えたため、堀との約束を反故にしてVを呼び出し、名古屋市瑞穂区内のビデオ店で落ち合った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.219"/>。『中日新聞』2007年8月31日朝刊によれば、XはKにも事務所荒らしを持ちかけたが、Kは「(あなたたちとは)考え方が違う」などとして賛同せず、この日行われた事務所荒らしには加担しなかった<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-31-朝刊37面"/>。

Vはその場でXに「豊橋で狙っているスーパーがあるから一緒に強盗をやろう」と提案を受けたが「下見に時間がかかる」という理由からXがかつて住んでいた瀬戸市に向かい、その途中でXが尾張旭市内のガソリンスタンドに立ち寄って給油した際に「ここは24時間営業なので、後でここに押し入ろう」と提案した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.219"/>。給油後、Xは20時ごろに「強盗のための道具を用意しよう」と考えて名古屋市守山区内の[[ローソン]]で粘着テープを購入し、次いで20時30分ごろにはVが[[ジャスコ]](現:イオン)で刃渡り18.6cmの包丁を万引きして入手した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.219"/>。その後2人は[[スギ薬局]]で「店から出てくる店員を包丁で脅して強盗しよう」と目論んだが、店を訪れた際には店内には客が多数おいたため「どこの出口から店員が出てくるのか」さえ把握できず侵入の機会を掴めなかった挙句<ref group="書籍" name="大崎2016 p.219"/>、閉店間際まで待ってみてもますます客の数が増えたために襲撃を断念した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.220"/>。2人はその後前述のガソリンスタンドへ向かったが、同店はXが瀬戸市内に在住して利用していたころこそ24時間営業だったものの、その後は23時閉店に変更されていたため、結局このガソリンスタンドへ押し入る計画も失敗に終わった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.220">{{Harvtxt|大崎|2016|p=220}}</ref>。

犯罪計画が相次いで失敗に終わったことで「あまりの馬鹿馬鹿しさに頭にきた」VがXに対し言葉を荒げるなど反抗的な態度を取るようになり、車内の雰囲気が険悪になっていた中でXはレンタルビデオ店を見つけ、そこで万引きをさせようとVを店内に向かわせてビデオを万引きさせたが、中身は空だった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.220"/>。その状況の中でXは23時50分ごろ<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>、かつての勤務先<ref group="書籍" name="大崎2016 p.220"/>([[愛知郡 (愛知県)|愛知郡]][[長久手町]](現:[[長久手市]])内の水道工事会社事務所)<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>に手提げ金庫があったことを思い出してその事務所に向かった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.220"/>。日付が変わった2007年8月24日0時過ぎ、Vがドライバーで<ref group="書籍" name="大崎2016 p.220"/>、事務所1階入口のガラスを割り<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>、ドアの施錠を外してXとともに金品を窃取する目的で侵入したが目当ての金庫は見つからず、XはVが年少者にも拘らず自分に反抗的な態度を取ることに腹を立てたため、何も言わずにVを置き去りにしてそのまま車で現場を立ち去った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.220"/>。事務所に置き去りにされたVはしばらく「Xは人の気配でも感じてこの場を離れただけで、しばらくすれば戻ってくるだろうと考えつつ気配を潜めてXが戻ってくるのを待っていたが、いつまでもXが戻ってこないばかりか、Xが乗って去っていったリバティ車内に自分の携帯電話を忘れていたため、土地勘のない場所で1人取り残され連絡を取ることさえできなくなった<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=220-221}}</ref>。これに加えてVは当時所持金が200円程度しかなく<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>、「バカらしくなった」ことに加え<ref group="書籍" name="大崎2016 p.221-222"/>、犯罪を繰り返すことに嫌気が差していたこともあったため「これを転機に」と考え<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋朝刊"/>、翌8月24日0時55分<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋夕刊"/>、名古屋市名東区内の[[公衆電話]]から自ら110番通報して自首した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>。

その後、Vは公衆電話へ駆け付けた[[名東警察署]]員により身柄を確保されると3時20分<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋夕刊"/>、建造物侵入・窃盗未遂容疑で<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>、名東署に緊急逮捕された<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋朝刊">『朝日新聞』2007年8月28日朝刊1面1頁「『第4の男』拉致直前出頭 闇サイト仲間 共に事務所荒らし 【名古屋】」</ref>。Vは同署の取り調べに対し「闇サイトで1週間前(8月17日)『山下』を名乗っていた男(=共犯者X)に誘われて盗みに参加した。Xと共謀して数日間にわたり窃盗などの犯罪を繰り返した。8月21日には豊川市内でXに加えてK・『田中』(=堀)両名とも会った」などと供述した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋朝刊"/>。


== 事件当日 ==
== 事件当日 ==
{{Maplink2|frame=yes|zoom=10|frame-width=500|frame-height=375|text=拉致現場({{Color box2|#5E74F3}})<ref group="注" name="拉致現場"/>・殺害現場({{Color box2|#FF0000}})<ref group="注" name="殺害現場"/>・死体遺棄現場({{Color box2|#800000}})<ref group="注" name="死体遺棄現場"/>の位置関係
=== 拉致・殺人計画 ===
|type=point|coord={{coord|35|10|20.8|N|136|57|51.8|E}}|marker-color=5E74F3
Xは当時車上生活をしており車を持っていたため、K・堀と出会って以降はほぼ毎夜にわたりK・堀両名を同乗させて堀の自宅周辺の[[東区 (名古屋市)|東区]]や[[北区 (名古屋市)|北区]]・千種区などを中心に名古屋市内を走り回り、人気のない場所を1人で歩いている女性を探し続けていたが、そのような標的が明け方まで見つからない日々が続いたため「その度にK・堀をそれぞれ自宅周辺まで送り届け、夜になると再び2人を迎えに行く」ことを繰り返していた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>。
|type2=point|coord2={{coord|35|9|47.2|N|136|42|45.3|E}}|marker-color2=FF0000
|type3=point|coord3={{coord|35|19|51.7|N|137|17|14.2|E}}|marker-color3=800000
}}
=== 殺害の共謀成立 ===
一方、「山下」は同日1時、KT宛てに謝罪のメールを送信し、同日13時ごろに堀を自宅まで迎えに行ったほか、15時ごろにKTと鳴海のTSUTAYAで落ち合った{{Sfn|大崎善生|2016|pp=224-225}}。その上で、4人で新たな犯罪計画について話し合ったが、「山下」はリバティ<ref group="注" name="リバティ"/>の車内で「杉浦」の盗んだ包丁を見せ、「これなら人を刺せるか?」と問うている{{Efn2|大崎善生 (2016) は「これに対し、KTと堀は無言でうなずいた」と{{Sfn|大崎善生|2016|p=225}}、堀 (2019) は「当時、自分とKTは『どうでも良い』というような態度を取っていたように思う」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=145}}。}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=145}}。堀が「今週中に30万円ぐらいどうしても必要だ」と発言したところ、それに対しKTが「それならば、今日中になんとかしなければいけない」と、前日に出た女性を拉致し、キャッシュカードと現金を奪う計画を改めて出した上で、拉致した女性について「最後は殺しちゃうけど、いいよね」と確認したところ、2人ともそれに応じた{{Sfn|大崎善生|2016|p=225}}。[[名古屋高等裁判所|名古屋高裁]] (2011) は、このように'''堀と「山下」がKTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に承諾する返事をした時点(24日15時ごろ)をもって、「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した」'''と[[事実認定|認定]]している{{Efn2|name="殺害共謀時刻"|[[名古屋地方裁判所|名古屋地裁]] (2009) は、3人が謀議を終えてファミリーレストランを退店した24日19時過ぎごろを「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した時刻」として認定しているが、名古屋高裁 (2011) は「原判決(名古屋地裁)の認定には誤りがあるが、被害者を拉致する前の時点でさほど時間的な隔たりはなく、その間、より詳細な謀議がなされただけであることなどに照らすと、この点は判決に影響を及ぼすものとはいえない。」と判示し、堀・「山下」それぞれの弁護人の「殺害現場で共謀が成立した」という主張をいずれも退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。また、死体遺棄の共謀が成立した時刻についても同様の理由で「原判決の認定(24日19時ごろ)は誤りで、実際には同日15時ごろと言えるが、殺害の合意の中には当然、殺害後に死体を遺棄する事も含まれていると考えられるため、その方法・場所などが具体的に決まっていなかったことなど、各被告人が指摘する事情は共謀の成立の妨げにはならず、判決に影響をおよぼす事実誤認とは認められない」と判示し、弁護人の「殺害後に死体遺棄の共謀が成立した」という主張を退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。


さらに犯行計画を練るため<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、3人は名古屋市[[北区 (名古屋市)|北区]]内のファミリーレストランへ入店し{{Sfn|大崎善生|2016|p=225}}、計画について話し合った{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。先述の理由で風俗嬢は候補から外された一方{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}、堀は[[OL]]の拉致を提案<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=145}}。その標的は、「黒髪で地味そうな(多額の貯金をしていそうなため)女性で、年齢は20歳代後半 - 30歳代前半ほど」とされた{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}ほか、KTは「今日(8月24日・金曜日)なら給料日{{Efn2|民間企業の多くは25日を給料日としているが、同日が土曜日・日曜日の場合は、その直前の金曜日に給与が振り込まれる場合が多いため{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=26}}。}}になるだろうし、しばらく拉致・監禁すれば、ある程度まとまった金を引き出せる{{Efn2|KTは「今日拉致して暗証番号を聞き出せば、(ATMで引き出せる金額は1日50万円までであるため)今日から月曜日までに200万円を引き出せるだろう」と発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。預金の引き出しを「月曜日まで」と決めた理由は、標的を換金した際、その標的が出勤してこないことを職場の人間などが気にかけて警察に連絡する可能性を想定したためである{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}。}}だろう。標的は(家族と同居していると、家族がすぐに警察に届ける虞があるため)1人暮らしが良い。1人暮らしなら、その部屋に居座って監禁することもできる」と提案した{{Sfn|大崎善生|2016|pp=227-228}}。
一方で空き巣現場の事務所にVを置き去りにして逃げたXは2007年8月24日午前1時、Kに「Vは別れてメンバーから外した。行動しても失敗続きで収穫ゼロだ。自分も指名手配されるかもしれない。迷惑をかけて申し訳ない」などと複数回にわたり謝罪のメールを送信した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.224">{{Harvtxt|大崎|2016|p=224}}</ref>。KはXを許すつもりはなかったが、とりあえず堀に相談したところ「Vが『どうしても』ということでXも仕方なかったのだろう。ちゃんと謝罪させるから今回だけは許してほしい」と返信されたため、20分後にXから「Vと別行動した」ことを謝罪された際には堀とともに了解した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.224"/>。しかしK・堀の2人からしてみれば「強盗のような犯罪はある程度の人数がいた方がやりやすいし、Xは自動車を持っているから」という理由で共謀しているにすぎず「使えるだけ使って後はポイ捨てしよう」という認識でしかなく<ref group="書籍" name="大崎2016 p.224"/>、この件で3人の格差は「Kが事実上リーダー格>堀>Xが最下位」となった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.225">{{Harvtxt|大崎|2016|p=225}}</ref>。


次いで、堀は監禁場所として、名東区[[高針]]のアパートを提案したが{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}、その部屋はかつて堀が起こした[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の共犯者である元仕事仲間の部屋だった{{Efn2|この時、その碧南事件の共犯者は堀から「3日ぐらい部屋を使わせてほしい」と頼まれると、「今は電気料金を滞納して電気を止められている。友人の家で寝泊まりしているので、電気代を肩代わりしてくれるなら使っても良い」と応じた{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}ものの、実際には犯行で使用されることはなかった。}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=146}}。次いで、KTは「闇の職安」で[[現金自動預払機]] (ATM) から預金を引き出す「出し子」を探したが、ふさわしい人材が見つからなかったため、「山下」が引き出しを行うことになった{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}。そして、拉致場所について相談し、堀の提案通り、高級住宅街の多い[[名古屋市営地下鉄東山線]]の沿線([[覚王山]]・[[一社]]・[[上社 (名古屋市)|上社]]・[[本郷 (名古屋市)|本郷]]方面)に決まった{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}。
Xは13時ごろに堀を迎えに行くと15時にKと名古屋市緑区鳴海のレンタルビデオ店「[[TSUTAYA]]」へ向かい<ref group="書籍" name="大崎2016 p.225"/>、同店駐車場にリバティを駐車した<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。その後、3時10分ごろになってKが堀・Xと合流し<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07"/>、Xが車内でVと別行動したことを改めて2人に謝罪してから3人で新しい犯罪計画を話し合い始め、XがVに万引きさせた包丁を見せて「これがあれば人を殺せるか?」と聞くとK・堀は何も言わず頷いた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.225"/>。続いて堀が前夜と同じく「今週中にどうしても30万円ぐらい欲しい」と言うと、Kは「それならば今日中に何とかしなければならない。女性を拉致・監禁して現金・キャッシュカードを奪おう」とそれまでに数回話題になった計画を改めて持ち出した上で「最後は殺害しよう」と2人に提案すると、2人ともそれぞれ「いいぞ」と答えた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.225"/>。これにより3人は「力の弱い女性を襲い、クレジットカード・キャッシュカードなどのカード類・現金を奪って殺す」という強盗殺人の計画を立てた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>。


こうして、3人は19時過ぎに話し合いを終え、レストランを退店<ref group="注" name="殺害共謀時刻"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。通行中のOL(20歳代後半 - 30歳代)を拉致して金品を奪い、犯行の発覚を阻止するために殺害して、死体を遺棄する旨の犯行計画が決められた<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
その後3人は名古屋市北区内のファミリーレストラン「デニーズ黒川店」へ移動し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.225"/>、15時過ぎから4時間ほど滞在している間にお替り自由のコーヒーを注文したのみで4時間にわたり犯行計画を話し合った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.229">{{Harvtxt|大崎|2016|p=229}}</ref>。Kは当時「堀はいつも一歩引き下がる頭の良さがあるが、もしかしたら犯罪を犯して逮捕された後のことを計算に入れてそのような言動をしているのではないか?」と疑念を抱いており、Xのことも「自分が誘いをかけると乗ってくるからまるで『100円ライターのような男』だ。燃えている間に使えばいいが、人を疑ってかかるような目つき・時折浮かべる人を馬鹿にしたような薄笑いが好きになれないし、何より自分の方が年上なのに態度・口の利き方が腹立たしい」と内心嫌っていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>。ここでも本名を名乗ったのはKだけで、堀は「田中」、Xは「山下」とそれぞれ偽名を名乗ったため、3人は互いの素性どころか本名さえ知らないまま共謀していたが<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>、大崎は「それでも性格のようなものはおぼろげに掴みかけていたかもしれない」と推測した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.226-227"/>。


=== 拉致 ===
風俗嬢の拉致は堀が、名駅・栄近辺での拉致はXがそれぞれ反対して却下されたため、堀はそれに代わり「OLの拉致」を提案した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=227-228}}</ref>。Kは「今日は24日(金曜日)で明日(8月25日・土曜日)が給料日だ。普通は今日(給料が)出ているはずだからちょうどいいだろう」と賛同した上で「黒髪・ストッキングを履いているようなブランド品などを持っていない地味な感じのOLならば相当な貯金額があるだろうから、しばらく拉致・監禁すればある程度のまとまった金額を引き出せるはずだ」と述べた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>。その上でKは「[[現金自動支払い機]](ATM)だと1日に50万円までしか引き出せないから今日中に暗証番号を聞き出して50万円を引き出せば明日・明後日・明々後日と4日連続で合計200万円(50万円×4)は引き出せるだろう。仮に家族と同居しているOLだと家族がすぐ警察に届け出る恐れがあるから標的は1人暮らしのOLがいい。自分は過去にやったことがあるが、一人暮らしのOLの部屋に居座って監禁することもできる」と発言し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>、最終的に「通行中のOL風の女性(20歳代後半 - 30歳代程度の年齢)を拉致して金を奪った後、犯行の発覚を阻止するため被害者を殺害し遺体を遺棄する」という具体的な犯行の計画で共謀が成立した<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。
{{Maplink2|frame=yes|type=point|zoom=13|frame-width=300|coord={{coord|35|10|20.8|N|136|57|51.8|E}}|text={{ウィキ座標|35|10|20.8|N|136|57|51.8|E|region:JP-23|name=闇サイト殺人事件・被害者Aを拉致した現場付近|拉致現場周辺の地図|地図}}:愛知県名古屋市千種区[[春里町 (名古屋市)|春里町]]二丁目の路上<ref group="注" name="拉致現場"/><ref name="朝日新聞2007-09-25"/>}}
ファミリーレストランを退店後、3人は「山下」の運転する車(リバティ<ref group="注" name="リバティ"/>)で標的の物色を開始{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。KTと堀は互いに軍手を嵌め{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}、KTが2列目シートの助手席側に{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}、堀が運転席側にそれぞれ座り{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}、拉致する標的が車の左方にいた場合はKTが、右方にいた場合は堀がそれぞれ拉致を実行することになった{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。そして、拉致した女性をKTと堀の足元(2列目シートの床上)に横向きに座らせる{{Efn2|そのため、2列目シートの足元の空間を広くするため、助手席は限界まで前に出し、その足元に軍手と金槌を置いた{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。包丁は運転席のドアポケットに、金槌はホームセンターの袋に入った状態で座席の下に入れていた{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。}}こととなった{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。また、堀は粘着テープを15&nbsp;cm程度にちぎったものを4枚重ね合わせ、口を塞ぐための特殊なテープを作って用意していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。


その状態で、3人はATMで預金を下ろした後のOLを狙い、覚王山・一社・本郷などで15, 16人の女性を物色{{Efn2|堀 (2019) は「実際に5, 6人の男女の後をつけるなどした」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。通行中の女性計5人を追尾するなどして、襲撃の機会を窺った<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>が、いずれも周囲に対向車や通行人がいたことから、拉致には至らなかった{{Sfn|堀慶末|2019|p=147}}。やがて夜が更け、通行人の数も少なくなっていた中、堀が「今まで回った中では、[[本山駅 (愛知県)|本山(駅周辺)]]と覚王山が良い。街灯が少なくて道が暗いし、道幅も狭いから拉致しやすい」と提案したため、覚王山から本山へ向かうことになった{{Sfn|大崎善生|2016|p=229}}。なお、被害者女性A(当時31歳)の自宅(名古屋市千種区[[春里町 (名古屋市)|春里町]]2丁目)<ref name="中日新聞2007-08-27"/>があった市営住宅の最寄り駅は、[[自由ヶ丘駅]]([[名古屋市営地下鉄名城線|地下鉄名城線]])だった<ref name="小椋由紀子2007">『中日新聞』2007年8月28日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致殺害 駅近く『安全な道』 同時刻の拉致現場 団地から子供の声」(中日新聞社 記者:社会部・小椋由紀子) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1205頁</ref>が、Aは通勤で東山線を利用しており{{Sfn|大崎善生|2016|p=173}}、普段利用していた駅は東山線の駅である[[本山駅 (愛知県)|本山駅]]{{Sfn|大崎善生|2016|p=228}}<ref>『中日新聞』2007年9月7日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致 逃げる気配感じ殺害 K容疑者、弁護士会見 3人が直接関与」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号309頁</ref>(東山線と名城線の乗換駅)だった<ref name="小椋由紀子2007"/>。また、Aは8月末に当時の勤務先<ref name="中日新聞2007-09-14"/>(名古屋市[[中区 (名古屋市)|中区]][[栄 (名古屋市)|栄]])<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>を退職し、料理関係の仕事に転職する予定だったが、そのための送別会などにより、帰りが遅くなることが多かった{{Efn2|Aは普段、19時30分ごろに帰宅していた<ref name="中日新聞2007-08-27 社会2">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第一社会面25頁「殺されたAさん 進む結婚話、暗転 2人暮らしの母悲し」 - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1159頁</ref>。}}<ref name="中日新聞2007-09-14"/>。
堀は監禁目的の部屋を手配しようとして名古屋市名東区[[高針]]のアパートに住んでいた友人{{Refnest|group="注"|name="監禁部屋"|堀は自著『鎮魂歌』にて「監禁目的で部屋の提供を依頼した相手は碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件(1998年)・名古屋市守山区高齢女性強盗殺人未遂事件(2006年)の共犯者だった元同僚の男(無期懲役確定)である」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.146"/>。}}<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>に連絡を取り「3日くらい部屋を使わせてほしい」と相談したところ、その友人から「自分は現在電気代を滞納しているため電気の供給を止められており、友人の家で寝泊まりしているから自由に使ってよい」と返事を得た<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.146">{{Harvnb|堀慶末|2019|p=146}}</ref>。その上でそのアパートを「滞納していた電気代を肩代わりすること」を条件に2万円で借り受ける約束をしたが、Kは堀から「アパートには駐車場がない。部屋は電気代を払う必要がある上に1階の一番奥で、隣室の住民は神経質だ」などと聞かされたため「その部屋の使用を保留しておこう」と伝えたものの、堀・Xの2人にはKの意図が正確に伝わらなかったため、2人は「その部屋を使う」と思い込んでいた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>。なおXは「被害者を殺害した場合は[[バラバラ殺人|その死体をバラバラに切断して]]セメントで固めてから遺棄してはどうだろうか?」と提案したが、Kは「漫画や映画じゃないんだから」とたしなめて却下した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>。また、キャッシュカードを用いてATMから現金を引き出す「出し子」の手配をすることとなったため、Kが携帯電話から「闇の職安」にアクセスして募集したが、しばらく待っても出し子が確保できなかったために結局はXが自ら出し子を引き受けた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>。


同日23時ごろ<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、「山下」は千種区内の路上で、被害者Aが車の前方から歩いてきたところを発見{{Sfn|堀慶末|2019|p=149}}。Aの見た目は標的の条件に合致していたため{{Sfn|大崎善生|2016|p=230}}、3人ともAを拉致することを決め、車をUターンさせてAを追い抜き、約百数十メートル先の地点で停車して待ち伏せた{{Sfn|堀慶末|2019|p=149}}。約10分後<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>(23時10分ごろ)<ref name="中日新聞2007-09-15"/>、春里町<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>2丁目の路上<ref group="注" name="拉致現場"/><ref name="朝日新聞2007-09-25">『[[朝日新聞]]』2007年9月25日名古屋朝刊第二社会面30頁「容疑者立ち会わせ実況見分 拉致殺害事件、1カ月 【名古屋】」([[朝日新聞名古屋本社]])</ref>で、Aが車の右脇を通り過ぎた際、堀が後部ドアを開けて降車<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。堀はAに道を尋ねるふりをして、背後から近づき、Aが立ち止まったところ、口を右手で塞ぎ、身体を抱え込んで後部ドアから押し込み<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>、拉致・監禁した{{Sfn|集刑|2012|p=98}}。そして、堀はAの右手に手錠を掛け、予め口を塞ぐために用意してあった粘着テープをAの口に貼り付け、完全に抵抗できない状態にした{{Sfn|集刑|2012|p=111}}上で、シート下の床に座らせた{{Efn2|またこの時、車外から目撃されないよう、Aにシャツとタオルを掛けていた<ref name="検察側冒頭陳述要旨"/>。}}<ref name="検察側冒頭陳述要旨"/>。3人はそのまま、Aを乗せたまま車を走らせ、人目に付かない場所まで連行した<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
そして3人は拉致場所について話し合い、堀が「高級住宅街の多い[[名古屋市営地下鉄東山線]]沿線([[覚王山]]・[[一社]]・[[上社 (名古屋市)|上社]]・[[本郷 (名古屋市)|本郷]]方面)がいい」と提案したことですぐに話がまとまったが、[[覚王山駅]] - [[一社駅]]間に被害者Aが利用していた[[本山駅 (愛知県)|本山駅]]([[名古屋市営地下鉄名城線]]との乗換駅)があった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.227-228"/>。


「山下」は当初、Aを堀の用意した部屋へ拉致するため、高針方面へ車を走らせたが、KTが「人気のない方へ行け」と指示{{Sfn|大崎善生|2016|p=231}}。「山下」は[[国営木曽三川公園|木曽三川公園]]方面へ向かうことに決め{{Efn2|この時、堀は「山下」に対し、[[自動車ナンバー自動読取装置|Nシステム]]がある幹線道路を避けるよう指示している{{Sfn|大崎善生|2016|p=232}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=150}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=233}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=150}}、[[広小路通 (名古屋市)|広小路通]]から[[愛知県道200号名古屋甚目寺線]]に出て西進した{{Sfn|大崎善生|2016|p=232}}。しかし拉致から約15分後{{Sfn|大崎善生|2016|p=233}}、[[国道155号]]を南進していたところ、Aが「吐きそう」と訴えたため、「車内で吐かれたくない」と思った「山下」は車を停められる場所を探し{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}、国道沿いのレストラン屋外駐車場に至った{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}。その場所が、殺害現場となった[[愛西市]][[内佐屋町]]西新田の屋外駐車場で<ref group="注" name="殺害現場"/><ref name="中日新聞2007-08-27"/>、到着時刻は8月25日0時ごろだった{{Efn2|到着後、KTはカーナビの光が車外に漏れることを恐れ、「山下」に命じてリバティのエンジンを切らせている(カーナビを切るにはエンジンを止める必要があったため){{Sfn|大崎善生|2016|pp=234-235}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=234}}。
=== 被害者を拉致 ===
{{ウィキ座標|35|10|20.8|N|136|57|51.8|E|region:JP-23|name=闇サイト殺人事件・被害者Aを拉致した現場付近|拉致現場周辺の地図|地図}}:愛知県名古屋市千種区[[春里町 (名古屋市)|春里町]]二丁目の路上<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-25"/>
* この地点は「自宅まであと数十メートル(m)」<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-25"/>「自宅まで徒歩1分ほどの距離で、かつて通学していた小学校([[名古屋市立自由ヶ丘小学校]])<ref group="書籍" name="大崎2016 p.74">{{Harvtxt|大崎|2016|p=74}}</ref>の目の前」で<ref group="書籍" name="大崎2016 p.230"/>、信号機・歩道ともない片側1車線道路だった<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=149-150}}</ref>。
* 拉致現場周辺は[[名古屋市営地下鉄名城線]][[自由ヶ丘駅]]から徒歩10分程度の住宅・団地が並ぶ高台の道で、事件当時から街灯が整備されていたため地元では「安全な道」とされていたが<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-朝刊31面-小椋">『中日新聞』2007年8月28日朝刊第一社会面31頁「駅近く『安全な道』 同時刻の拉致現場 団地から子供の声」(記者:社会部・小椋由紀子)</ref>、夜間になると人通りはほとんどなく、拉致されたところを目撃した人もいなかった<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面"/>。
8月24日19時過ぎ、K・堀・Xの3人は食事をすることなくデニーズ黒川店を出るとXがリバティを運転し、軍手をはめたKが2列目後部座席左側(助手席後ろ)・同じく軍手をはめた堀が2列目後部座席右側(Xの座っていた運転席のすぐ後ろ)にそれぞれ座って拉致実行に備え<ref group="書籍" name="大崎2016 p.229"/>、車から左側にいる人を拉致する際にはK、右側の場合は堀が実行した上で、拉致した人物をK・堀の足元(2列目後部座席の床上)で横向きに座らせる計画だった<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.147-148">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=147-148}}</ref>。標的となる女性を拉致した際に2列目後部座席の足元空間が広くなるように無人の助手席(Kの前の席)を限界まで前に出し、その足元に軍手・ハンマーを用意したほか、堀が事前に粘着テープを15センチメートル(cm)程度ちぎって4枚に重ね合わせ、被害者の口を塞ぐための特殊なテープを作って用意しており<ref group="書籍" name="大崎2016 p.229"/>、他に粘着テープ・手錠・包丁・凶器のハンマーを用意していたが、包丁は運転席ドアポケット・ハンマーも座席下に放置していた{{Refnest|group="注"|堀は「この時点では包丁・ハンマーとも使う気がなかった」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.147-148"/>。}}<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.147-148"/>。


=== 殺害 ===
3人はOL風の女性を捜し出そうとリバティで名古屋市内を走り回り<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、「金持ちが住んでいそうだ」として千種区内を中心に物色し<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/>、まずは覚王山周辺にてATMで預金を下ろした後のOLを狙った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.229"/>。その後も3人は一社・本郷と回り15,16人程度の女性{{Refnest|group="注"|堀によれば「15,16人の通行人に目を付け実際に5,6人の男女(=男性も含めて)を尾行していた」<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.147-148"/>。}}を物色したが、いずれも対向車・通行人がいたため停車にまで至らず、うち2,3人は拉致実行寸前まで行ったが結局未遂に終わった{{Refnest|group="注"|堀は「自分は積極的に拉致を実行しようと意気込んではいなかったし、拉致そのものが『とんでもない行為だ』と感じて躊躇していたため『もうこんなことはやめて帰りたい』と考えていたが、K・Xの前でそんなことは言えなかったから通行人がいなったのに『やばい』と発言して拉致を実行しなかったこともあった。だからずるずると5,6人を狙うことになったが、失敗する度にK・Xから咎められるような表情をされ、Xからは舌打ちまでされたから『次は必ず実行しなければいけない』と思ってしまった」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.147-148"/>。}}<ref group="書籍" name="大崎2016 p.229"/>。
{{Maplink2|frame=yes|type=point|zoom=13|frame-width=300|coord={{coord|35|9|47.2|N|136|42|45.3|E}}|text={{ウィキ座標|35|9|47.2|N|136|42|45.3|E|region:JP-23|name=闇サイト殺人事件・被害者Aを殺害した現場付近|殺害現場周辺の地図|地図}}:愛知県愛西市内佐屋町西新田の屋外駐車場<ref group="注" name="殺害現場"/><ref name="中日新聞2007-08-27"/>|marker-color=FF0000}}
翌日(8月25日)0時過ぎ、3人は屋外駐車場(同県[[愛西市]])に駐車したリバティ<ref group="注" name="リバティ"/>の車内で、Aから現金(62,000円)や<ref name="闇サイト事件の経過"/>キャッシュカードの入ったハンドバッグを奪った{{Sfn|集刑|2012|p=98}}。その上で、Aに、キャッシュカードの暗証番号を教えるよう迫った<ref name="闇サイト事件の経過">『中日新聞』2009年3月18日夕刊第二社会面14頁「事件の経過」(中日新聞社)</ref>、この時に「山下」がAに対しわいせつ行為を行ったため、KTはそれを不快に思っている{{Efn2|KTはAを拉致した直後、Aに対し「体が目的ではない」と発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=236}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=236}}。Aがなかなか暗証番号を言おうとしなかったため{{Sfn|集刑|2012|p=111}}、堀は「山下」に命じて運転席のドアポケットにあった包丁を取らせ、それを受け取ると{{Sfn|堀慶末|2019|p=153}}、その包丁(刃体の長さ18.6&nbsp;cm)を示しながら{{Efn2|この時、堀はAを「この包丁は100円ショップで買ったもので切れ味が悪いから、5, 6回は刺さないと死ねないぞ」などと脅迫{{Sfn|大崎善生|2016|p=238}}{{Sfn|堀慶末|2019|p=153}}。}}、「本当に帰れなくなっちゃうよ」「5分で(暗証番号を)思い出さないと刺しちゃうぞ」など、暗証番号を明かさなければ殺害する旨を告げて脅迫{{Sfn|集刑|2012|p=111}}。しかし、5分経過してもAが暗証番号を口にしなかったため、KTが堀に「2, 3回刺せ」と命じたところ{{Sfn|大崎善生|2016|p=239}}、堀はAの太腿を刺そうとする姿勢を見せたり{{Efn2|包丁の刃先をAの太腿に向けた上で、上下に振って突き刺す真似をした{{Sfn|大崎善生|2016|p=239}}ほか、太腿を包丁の腹で叩いたりした{{Sfn|集刑|2012|p=119}}。}}、怒りを示しながら「いい加減にしゃべれ。みんないらついているから早くしゃべれ」などと脅した{{Efn2|この時、恐怖で強く戦慄するAの姿について{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}、KTは交際相手に宛てた手紙で「[[マグニチュード]]10?」などと書いている<ref name="毎日新聞2008-12-20"/>。}}{{Sfn|集刑|2012|p=111}}。


結果、Aは虚偽の暗証番号として4桁の{{Sfn|集刑|2012|p=98}}「2960」を述べた{{Efn2|この時、3人は被害者を執拗に脅迫していたことから、「このような状況で嘘をつくはずはない」と考えていた<ref>『中日新聞』2008年10月10日朝刊第二社会面34頁「ニュース前線 千種闇サイト殺人 命賭しうその暗証番号 『母に家を』夢守る Aさん、内緒で貯金」(中日新聞社)</ref>。実際、堀もKTとの会話で「あれだけおびえていたから、嘘ではないだろう」と話していた{{Sfn|堀慶末|2019|p=154}}。また、Aは預金額についても、実際(800万円以上)とは異なる額(40万円)を述べている{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=28}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}。それを聞き、KTが運転席の「山下」に口頭で番号を伝え{{Sfn|堀慶末|2019|p=153}}、「山下」は0時45分、自身の携帯電話でその「2960」の番号を打って発信履歴を残した{{Efn2|name="2960への異論"|KTおよび堀は、後の供述で「Aが言った4桁の番号は『2960』ではない」と述べていたが、「山下」の携帯電話には「2960」への発信履歴(時刻:0時45分)が残っている{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}。一方、堀は自著 (2019) で、「Aが言葉にした番号は『2960』ではない。「山下」はKTが口にした番号を携帯電話の発信履歴に残したが、軽度の知的障害 (IQ:65) である「山下」が携帯電話を打つ際に押し間違えたか、KTが口にした番号を聞き間違えた、あるいは捜査機関が捏造した可能性がある。殺害が決まっているわけでもないのに、『2960』という語呂合わせをするのは不自然だ」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=166-167}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=240}}。その後、堀はKTとともに喫煙のため車外に出ていたが{{Sfn|大崎善生|2016|p=241}}、Aから真実の暗証番号を聞き出したと思い込み、口封じのためにAの殺害を決意{{Efn2|堀は自著 (2019) で、「自分が『暗証番号は嘘ではないだろう』と発言したところ、KTが『殺そうか』と言った。自分は車内に綿ロープがあったことを思い出し、その存在をKに教えた」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=154}}。}}{{Sfn|集刑|2012|p=111}}。一方、その間に「山下」が車内でAを強姦しようとした{{Efn2|「山下」は第一審の公判で、Aを強姦しようとした動機について「Aの態度から『小生意気な女』と思い、その鼻をへし折ってやろうと思ったからだ」と主張したが、名古屋地裁 (2009) は「「山下」は自己の性欲から、強姦の強い範囲に基づいて姦淫行為に及ぼうとした」と認定{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。これに対し、「山下」は控訴審で事実誤認を主張したが、名古屋高裁 (2011) は「「山下」はKTや堀に止められ、戒められながらも、2度にわたり被害者を姦淫しようとした。その経緯などに照らせば、自らが捜査段階で供述した通り、『自己の性欲から強姦の強い範囲に基づいて姦淫行為に及ぼうとした』と優に認められる。第一審における「山下」の供述は、合理的な理由なく捜査段階から供述を変遷させるものであって信用できない」として、訴えを退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。|name="強盗強姦未遂動機"}}{{Efn2|名古屋地検は冒頭陳述 (2008) で、「Aが「山下」に強姦されそうになったことで冷静さを失い、今にも逃走を図りそうになったと判断したため、(KTと堀はAの)殺害を決意した」と述べている<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=242}}。まず、KTがAの背後から、頸部に自身の腕を回して絞め付けた{{Efn2|この時、堀と「山下」はAの手足を押さえていた{{Sfn|集刑|2012|p=120}}。}}が、失敗したため、堀は綿ロープをAの頸部に巻きつけ、その片端を「山下」に渡し、2人で両端を持って絞め上げた{{Sfn|集刑|2012|pp=111-112}}。しかし、両者の位置関係からうまく首を絞めることができず{{Efn2|2人の角度が180°にならず、うまく力が入らなかったため{{Sfn|大崎善生|2016|p=245}}。なお、堀は自著 (2019) で「(首にロープを掛け、両端を引っ張り合う行為が)かつて自身が碧南事件で被害者を殺害した際の記憶をフラッシュバックさせ、自分は激しい恐慌状態に陥った」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=156-157}}。}}、堀は「ハンマー入れましょうか」と言い、準備していた金槌で殴打することをKTと「山下」に告げた{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。そして、綿ロープで首を絞めるのをやめ、金槌を取り出してAの頭部を強い力で3回連続して殴打した{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。しかし、それらの殴打によって返り血が車内に飛び散り、自身の口にも入ったことを気持ち悪く思った堀は、殴打を3回でやめている{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。
やがて夜が更けて23時ごろになり、3人が「とにかく今日中に金が欲しい」と焦っていた中で堀が「今まで回った場所の中で本山・覚王山は街灯が少なく道が暗い上、道幅が狭いから拉致を実行しやすい」と言ったため、Xは覚王山・本山方面へ向かった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.229"/>。被害者女性Aを拉致する直前、堀はまず同居相手の女性から携帯電話で電子メールを受信したほか、母親から電話を着信したが、電話に出ようかどうか迷っている間に携帯電話のバッテリーが切れたため、結局母親からの電話に出ることはなかった<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.147-148"/>。堀は「母親からの電話は珍しく、ましてや深夜にかかってきたことは今まで一度もなかったから『もしかしたら急用かもしれない』と思ったが、バッテリー切れした上に電話で母親と会話するような雰囲気でもなかったから『これから自分は人を拉致しようとしている』と考えていたら電話のことはすぐに忘れた。逮捕後に『母親は虫の知らせのようなものを感じて急に電話を掛けたくなった』と知り、捜査員からもそのことを聞かされたが、今思えばあの時電話に出ていれば違った結果になっていたかもしれない」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.147-148"/>。


一方、Aは堀によって頭部を金槌で殴打され、力が一気に抜けたような感じになったが、しばらくしてから「殺さないで、殺さないって言ったじゃない」「お願いします、殺さないで、死にたくない」などと必死で命乞いをした{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。しかし、堀はそのような懇願を無視し、KTとともに、Aの顔面および頭部に粘着テープを数十回横方向に巻きつけ、その上からさらに縦方向に貼り付けた{{Efn2|ガムテープ{{Sfn|大崎善生|2016|p=245}}(粘着テープ)を巻きつけた回数は、冒頭陳述によれば31周とされている<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。大崎善生 (2016) では、「縦横合わせて23巻きにした上、頭からレジ袋を被せ、袋の口を塞ぐようにガムテープを8周巻いた」と述べている{{Sfn|大崎善生|2016|p=245}}。}}{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。これにより、Aは呼吸困難になったが、粘着テープの隙間から「フーン、フーン」とかろうじて呼吸をしていたため、それに気づいたKTと堀は、Aの頭部にビニール袋{{Sfn|集刑|2012|p=112}}(金槌を購入したホームセンターのレジ袋)<ref name="中日新聞2007-08-31"/><ref name="朝日新聞2007-08-29夕刊"/>{{Sfn|堀慶末|2019|p=158}}を被せて頸部まで覆い、その上から頸部・頭部に粘着テープを横方向に多数回巻きつけた{{Sfn|集刑|2012|p=112}}。そして、最後にKTがAの頸部に綿ロープを巻きつけて絞め付けた上、頭部を金槌で約30回殴打し、Aを窒息死させて殺害した{{Sfn|集刑|2012|p=112}}(殺害時刻:8月25日1時ごろ){{Efn2|KTが脈を取り、Aの死亡を確認した{{Sfn|堀慶末|2019|p=159}}。}}<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>。
それから10分後となる23時10分ごろ<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-10-06"/>、Xが前方に夜道を1人で歩いていた被害者女性Aがいるのを発見してK・堀に「あれどう?」と話しかけたところ、2人とも賛成した<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>。Aは当時地下鉄本山駅から徒歩で<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07"/>バス通りを歩いて自宅へ帰宅しようとしていたが、その外見特徴は「黒髪・地味目な服装で真面目そうな雰囲気・派手なブランド物を持っていない」と3人が求めていたすべての条件に合致していたため<ref group="書籍" name="大崎2016 p.230">{{Harvtxt|大崎|2016|p=230}}</ref>、Xは車をUターンさせてAの背後から近づいて追い抜き<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>、数十m<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/> - 百数十mほど先の路上に停車してAを待ち伏せた<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>。Aが車の右側(=堀が待ち伏せていた側)を通ることとなったため、堀はAが差し掛かってくるのを待ち伏せつつリバティのスライドドアを開ける準備をし続け<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>、Aがリバティの右脇を通り過ぎた際<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、Kが「今だ」と合図を出し、堀はリバティの後部ドアを開けて降車した<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>。堀は道を尋ねるふりをしつつ<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、Aに背後から「すみません」と声をかけつつ近づき、警戒するような態度だったAにさらに「すみません」と声をかけながら周囲に視線を走らせ<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>、Aが立ち止まったところで<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、背後からその口を右手で塞ぎ、左手でAの腹部を抱え込むようにして「車内で待ち構えていたKに預けるような感じで」<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>、Aの体を車内に後部ドアから押し込んだ<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。堀は身長180cmを超える大柄な体だった一方で被害者Aは身長155cmの痩せ型だったため抵抗することもままならず車内に放り込まれ、車内にいたKから羽交い絞めにされて抑圧されパニックに陥りつつも抵抗したが、Kによりテープで口を塞がれ頭からアロハシャツ・バスタオルを掛けられ、堀に手錠をかけられて抵抗を抑圧され、足を伸ばしてL字の体制で車内の床上に座らされた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.230"/>{{Refnest|group="注"|Aが押し込められた位置はKが座っていた助手席側の後部座席足元の床で<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01-夕刊"/>、K・堀両名が後部座席でAを挟むようにして座っていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-夕刊1面"/>。なお「この時、被害者Aに手錠をかけたのはK・堀のどちらか?」に関しては法廷で最後まで争われたが、判決では被告人Kの「自分はAを両手で取り押さえるのに必至で、物理的にも体制的にも無理があった」という証言が「信憑性がある」として採用され、「手錠は堀がかけた」と事実認定されている<ref group="書籍" name="大崎2016 p.230"/>。一方で堀は自著で「気が付いた時にはAこの片手に手錠がかかっていた。自分はもう片手にも手錠をかけようとしたが、Aが拒絶したためかけなかった」と述べてこの事実認定を否定する主張をしている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>。}}。この時、堀はKに「手錠をはめた手を後ろ手にできないか?」と尋ねたが、Kは「とにかく落ち着かせることが最優先だから、あまり嫌がることはやめよう」と却下した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.230"/>。
{{Maplink2|frame=yes|type=point|zoom=11|frame-width=300|coord={{coord|35|19|51.7|N|137|17|14.2|E}}|text={{ウィキ座標|35|19|51.7|N|137|17|14.2|E|region:JP-21|name=闇サイト殺人事件・被害者Aの遺体が遺棄された現場付近|死体遺棄現場周辺の地図|地図}}:[[岐阜県]][[瑞浪市]]稲津町小里の山林<ref group="注" name="死体遺棄現場"/><ref name="中日新聞2007-08-27"/><ref name="毎日新聞 遺棄現場"/>([[岐阜県道33号瑞浪上矢作線]]付近)<ref name="中日新聞2007-08-26"/>|marker-color=800000}}
その後、堀はAの遺体をリバティの3列目の席に移動させ{{Efn2|その3列目の席は、「山下」の生活用品などが散乱していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=247}}。}}、上からタオルや荷物などを被せて隠した上で、車内に飛散したAの返り血を拭き取った{{Sfn|大崎善生|2016|p=247-248}}。その後、3人でAから奪った現金62,000円を分け合い{{Efn2|まず6万円を3等分し、残る2,000円はガソリン代として「山下」が受け取った{{Sfn|大崎善生|2016|p=248}}。}}、[[稲沢市]]内の自動販売機で、堀の体に付いた返り血を洗い流すためのペットボトル入りの水を購入したほか、[[一宮市]]のドン・キホーテで「山下」が3人分の着替え用の衣服を購入{{Efn2|「山下」は預金の引き出しのために変装の必要があったほか、KTと堀は返り血を著しく浴びていたため{{Sfn|大崎善生|2016|p=248}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=248}}。そして、遺体を遺棄するに当たり、土建業者の物置小屋のような場所で見つけたスコップ2本を盗み出し{{Efn2|スコップを盗んだ時期について、堀 (2019) は「高速道路を下りてから、KTが『埋めるために使う道具が必要だ』と言ったので、通り道にあった資材置き場のようなところ(遺棄現場から車で10分ほど)で盗んだ」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=160}}。}}、[[中央自動車道]]の[[瑞浪インターチェンジ]]から[[岐阜県道33号瑞浪上矢作線|岐阜県道33号]]([[山岡町|山岡]]方面)を経由して山道に入り{{Sfn|大崎善生|2016|p=249}}、岐阜県瑞浪市稲津町小里の山林<ref group="注" name="死体遺棄現場"/><ref name="中日新聞2007-08-27"/>([[林道]]脇){{Sfn|集刑|2012|p=110}}に至った。そして同日4時49分ごろ{{Efn2|「山下」はトランクから遺体が降ろされた後、KTから「怪しまれるといけないから離れていろ」と言われ、遺棄現場を離れていったん道の駅{{Efn2|遺棄現場付近には、[[道の駅おばあちゃん市・山岡]](小里川ダムに隣接)がある<ref name="毎日新聞 遺棄現場"/>。}}に向かったが、4時49分にKTもしくは堀から「終わったから迎えに来てくれ」との電話を受けて迎えに戻った{{Sfn|大崎善生|2016|p=249}}。}}、KTと堀がスコップでAの遺体をトランクから下ろし、ガードレールのすぐ先に投げ捨て、その上から土を掛け{{Sfn|大崎善生|2016|p=249}}、Aの遺体を遺棄した{{Efn2|堀は遺体を遺棄した際、自分の[[指紋]]が手錠に付着していることを心配し、指紋を拭き取っていた{{Sfn|集刑|2012|p=114}}。一方、堀は自著 (2019) で、「KTはAの遺体を遺棄した後、数分間にわたり遺体に向かって手を合わせていた。KTはその間、自身なりに自身の行為を反省・後悔して、Aに詫びていたのだろう」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=161-162}}。}}{{Sfn|集刑|2012|p=114}}。


そして、Aから奪った[[中京銀行]]のキャッシュカードで預金(約800万円){{Efn2|この預金(検察官の上告趣意書によれば合計約890万円)は、Aが自分を女手一つで育ててくれた母親への感謝から、自分が家を買うことを決意し、母親に内緒で月20万円弱の手取り給与の中から、毎月10万円程度を貯金していたものだった{{Sfn|集刑|2012|p=113}}が、KTは銀行の取引明細書でその金額を知った際、「この金を資金にして覚醒剤を仕入れ、それを売買する組織を作ろう」と発言していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=250}}。事件後、娘Aが貯金していた理由を知った母Bは、「娘の願い通りに使おう」と考え、事件発生時まで母子2人で30年間暮らしていた市営住宅から新築の分譲住宅に引っ越した<ref>『中日新聞』2010年8月8日朝刊第一社会面31頁「ニュース前線 闇サイト殺人あすから控訴審 夢守った娘 新居で誓う母」(中日新聞社 社会部記者:赤川肇)</ref>。}}の引き出しを図り、同日9時10分ごろに同行知立支店([[愛知県]][[知立市]]){{Efn2|堀 (2019) は、「山下」は[[岡崎市|岡崎]]方面の道に詳しかったので、岐阜県の林道を抜けて岡崎方面に向かおうとした」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|p=162}}。}}で預金の引き出しを試みたが、「山下」が先述の「2960」および(KTから電話で聞いた)「2946」の暗証番号を入力しても合致しなかった{{Sfn|大崎善生|2016|p=250}}。次いで同日10時35分ごろ<ref name="検察側冒頭陳述要旨"/>、「山下」は名古屋市[[南区 (名古屋市)|南区]]内のコンビニのATMで[[UFJ銀行]](現:[[三菱UFJ銀行]])のカードなどを使用し、「2960」や被害者Aの生年月日に由来する番号を利用して引き出しを試みたが、いずれも失敗に終わった{{Sfn|大崎善生|2016|pp=250-251}}。このように、預金の引き出しができなかったため、3人は同日夜に再び[[名駅]]付近で女性を拉致して暗証番号を聞き出した上で殺害することを決めて解散した{{Efn2|堀はKTや「山下」と別れた後、KTに対し「お疲れ様でしたm(_)m」という内容のメールを送信していた{{Sfn|集刑|2012|p=114}}ほか、事件後の「山下」の疲弊した様子から「自首するのではないか」と感じ、帰宅後にはKTに「「山下」は大丈夫か?」といったメールを送っていた{{Sfn|堀慶末|2019|p=163}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=251}}。
このようにして被害者女性Aを拉致・車内に監禁した直後、XはAを人目に付かない場所に連行するため<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>、リバティを運転して[[東山通 (名古屋市)|東山通]]を経て堀が「監禁部屋」として手配していた友人のアパートがあった名東区高針方面へ走行したが、Kが気丈に振舞っていたAの態度を見て「抑え込む自信がない」と直感して「方向が逆だ。アパートに戻るのはまずい。Uターンして人気のない方へ行け」と指示した{{Refnest|group="注"|これに対し堀は「自分がドアを閉めるとほぼ同時にXが車を走らせたが、自分の感覚では監禁場所とは反対方向へ進んでいるようだったため、「方向が逆だ」と言ったが、それに対しKが『拉致したばかりの方向へ走ると拉致した瞬間を目撃していた人物がいる虞がある』ことを懸念して『戻るのはまずい』と言った」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>。}}<ref group="書籍" name="大崎2016 p.231">{{Harvtxt|大崎|2016|p=231}}</ref>。続いてKは「部屋はなしだ」(=用意していたアパートは使わない)と言い、堀はこれを受けてアパートを借りる約束をしていた友人<ref group="注" name="監禁部屋"/>にその場でキャンセルの連絡をしたが、Xは自分に何の相談もなく突然予定を変更されたことを不満に思いつつも「既に被害者を拉致した状態で仲間割れするとまずい」と思い怒りを抑えつつ、Kに「どこへ向かえばいい?」と質問した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.231"/>。これに対しKは「人気のないところに行け」と指示し<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.149-150"/>、さらにXがしていた自慢話を根拠に「お前がいつも女を連れ込んでいた(と自慢していた)山に行け」と指示したが、その自慢話はただの作り話だったためXは「いやー、すいません。実は…」と笑ってごまかした<ref group="書籍" name="大崎2016 p.231"/>。Xのこの発言にはKだけでなく堀も怒りの念を抱き、Xに「山に行け。あれだけ自慢していたじゃないか」と怒鳴りつけたが、Xは言葉を返すことができずへらへら笑っていた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.231"/>。

堀がXに「幹線道路は[[自動車ナンバー自動読取装置]](Nシステム)があるからまずい」と指示したため、Xは[[広小路通 (名古屋市)|広小路通]]・[[愛知県道200号名古屋甚目寺線]]([[外堀通 (名古屋市)|外堀通]])に出てそのまま西進したが、口をテープで塞がれていたAが「大声は出さないからテープを外してほしい」と訴えたため、上半身をK・下半身を堀がそれぞれ抑え込んだ状態ではあったが、「とにかくAを落ち着かせよう」と考えたKがその言葉に従った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.232">{{Harvtxt|大崎|2016|p=232}}</ref>。テープを外されたAが「私は帰れるんですか?何が目的なんですか?」とK・堀・Xに問いかけたところ、Kの意向を察した堀はKとともに2人で「騒がなければ命は保証する」「体が目的じゃないから安心して」とKと2人で優しく言葉をかけた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.232"/>。車を西進させていたXが[[庄内川]]に架かる豊公橋(県道200号)を渡ろうとした際に煙草を吸おうとしたが、Aが「私は煙草が嫌いだから消してほしい」といったため、K・堀の2人は「とにかく被害者の機嫌を取っておとなしくさせよう」と考えてXに「煙草を吸うな」と命じた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.233">{{Harvtxt|大崎|2016|p=233}}</ref>。この時、たばこを吸えなかったXは内心Aに「気の強い女だ。自分の立場が分かっているのか?」と憤ったが、前日の失敗から負い目を感じていたこともありK・堀の言葉に従うほかなく、[[国営木曽三川公園]]方面へ向かった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.233"/>。Aを拉致してから15分ほどが経過したころ、XはK・堀から「どこへ向かっている?」と聞かれて平然と「木曽三川公園方面だ。[[暴走族]]がたむろしていることが多いため警察が検問で巡回している」と答えたため、Kは「女を拉致していながら検問の多い場所を目指すとは、こいつ(X)は頭がおかしいのか?本当に使えない奴だ」と内心怒りの念を抱いが、堀が「その場所は相当田舎で、脇道に入ればほとんど真っ暗に近い」と発言したためその方面を目指すこととなった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.233"/>。Aは「大声を出さない」という言葉通りじっと静かにしていたが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.233"/>、もともと車にあまり強くなかったことに加えて閉塞感・車内の空気の悪さから「(車酔いして)吐きそう」と言い出したため「車内で吐かれたくない」と慌てたXは駐車できる場所を探して[[国道155号]]を南進し始めてから2,3分程度で到着した「レストラン天王」第二駐車場(建物から国道を隔てた場所)に駐車した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.234-235">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=234-235}}</ref>。被害者Aが車内で吐き気を訴えていたことについて、被告人Kは自身の交際相手女性宛の手紙で「(本当に)車酔いしてたら背中とかに汗かくんだよ。芝居の上手い彼女(笑)。嘘吐き(うそつき)姉ちゃん。嘘なら俺の方が上手だぜ」などと侮蔑的な表現をしていたほか、後述のように被害者Aが自身と堀から包丁で脅されて震えていた際の状況も「がったがた。[[マグニチュード]]10?」などと表現していた<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-20"/>。

=== 被害者を脅迫・殺害 ===
{{ウィキ座標|35|09|47.2|N|136|42|45.3|E|region:JP-23|name=闇サイト殺人事件・被害者Aを殺害した現場付近|殺害現場周辺の地図|地図}}:愛知県愛西市[[佐屋町 (愛西市)|佐屋町]]西新田<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>、「レストラン天王」第二駐車場<ref group="書籍" name="大崎2016 p.234-235"/>
* 拉致現場から西方約20キロメートル(km)<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01"/>・被害者女性Aの拉致現場となったA宅付近から約28km離れており、[[国道155号]]沿いにある<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>。
* 現場一帯はかつてXが暮らしていた津島市内の家にほど近かったため、Xはこの周辺に詳しかった<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01"/>。またこの駐車場はレストランの屋外駐車場だったが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊35面">『朝日新聞』2007年8月27日朝刊第一社会面35頁「『闇の職安』3人共謀 愛知の強殺『拉致、女性狙う』 遺棄容疑で逮捕」</ref>、事件直前はほとんど使われておらず、人通りも少なかったため近隣住民によれば「照明がなく、夜は真っ暗になる」場所だった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>。
2007年8月25日午前0時過ぎ、XはK・堀とともに被害者女性Aを拉致して殺害現場のレストラン第二駐車場(この時間帯、レストランは既に営業終了)に駐車した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.234-235"/>。Kは「カーナビの光が窓から外に漏れるからカーナビを切れ」とXに命令したが、カーナビを切るためにはエンジンを止めるほかなかったため、車内は暗くなりエアコンも停止した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.234-235"/>。

KがAの手錠をすぐ片手錠から両手錠に戻すと、3人はそれまでAの申し出に応じて車内で喫煙を見送っていたこともあってたばこを吸いに交互に車外に出た<ref group="書籍" name="大崎2016 p.234-235"/>。Xが運転席後ろ・Kが助手席後ろでそれぞれ床上にいたAの脚・頭を押さえつけていたところ、たばこを吸い終えて車内(運転席)に戻った堀がAの腿の辺りにあった白いハンドバッグを奪い、Aが「やめて!」と強い声で叫んで抵抗しても聞き入れずバッグの中身を確認し、財布の中にあった現金62,000円取り出してダッシュボードに入れ、さらに財布の中にあった[[中京銀行]]・三菱東京UFJ銀行(現:[[三菱UFJ銀行]])のキャッシュカード各1枚(合計2枚)・クレジットカード1枚([[アプラス]])を取り出し「ほら、カードが出てきたぞ」と嬉しそうに発言した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.234-235"/>。そして堀は中京銀行・三菱東京UFJ銀行それぞれのキャッシュカードの暗証番号をAに尋ねたが、Aは前者の際には黙ってうつむき、後者の際には「昔に作ったきりで暗証番号は覚えていない」と答えたため、さらにクレジットカードの暗証番号を尋ねたが「クレジットカードに暗証番号なんてあるの?」と逆に言い返された<ref group="書籍" name="大崎2016 p.234-235"/>。K・堀が普通のトーンで暗証番号を問い質した一方、Xが「誕生日を暗証番号にしているんじゃないのか?」と質問したが、Aは「誕生日なわけないじゃない」と嘲笑するように返した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.236-237">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=236-237}}</ref>。XはAの体をまさぐってスカートの中に手を入れようとしたり胸を触ろうとしたほか、顔を近づけて舐めようとして「早く番号を言え」と脅迫した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.236-237"/>。Kは「自分はAと『体が目的じゃない』と約束したのにXが破ろうとしている」と不快感を抱き、堀も「このままでは状況が悪くなる」とみてXに「俺と席を代われ」と命じて席を入れ替わったが、Xは運転席に戻ってもAに手を伸ばして乳房を触ろうとするなど猥褻行為を繰り返した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.236-237"/>。Aが「痛い!」「やめろ!触るな」と攻撃的に怒鳴りつけるようになったため、K・堀の2人が制止しつつ暗証番号を聞き出そうとしたが、Kが穏やかに「暗証番号を言えば命を保証してあげる」と聞き出そうとした一方、堀は「(本当の暗証番号を)教えたら命は保証するが嘘だったら殺す」と脅迫した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.236-237"/>。男3人により車内に監禁され、手錠をかけられ体を押さえつけられつつもAは毅然と「殺すなら殺せば?好きにすればいいじゃない」と言い放っていたが、大崎はこの時のAの心情を「懸命に生きるための手段を模索していたことだろう」と推測している<ref group="書籍" name="大崎2016 p.236-237"/>。

Aがなかなか口を割らないため、Kは「こいつにやらせちゃうぞ」(Xに強姦させるぞ)と脅迫した上で「レイプして覚醒剤漬けにするぞ」など、大崎が「おそらくAが最も恐れていること」「考えられる最悪の言葉」で脅迫しても効果はなく、3人はAを見張りつつ交代しながら喫煙目的で車外に出た<ref group="書籍" name="大崎2016 p.236-237"/>。AはKと2人きりになった際、「眼鏡をかけて車を運転していた汚い感じの男(X)には死んでも体を触られたりレイプされたりしたくないから、それだけは約束してほしい。自分には彼氏がいる」と懇願し、Kは「わかりました」と答えたが、K・堀が喫煙しようと車外に出た際、Aが恐れていた本人であるXが「この気の強い女の鼻っ柱をへし折ってやろう」と考え、運転席から2列目に移動して右手で手錠の鎖を掴み、左手でAの胸を触ろうとした<ref group="書籍" name="大崎2016 p.236-237"/>。Aが「触るな!」と大声・悲鳴を上げたのを聞いて堀・Kは慌てて車内に戻り、KがXに「そういうことはするなと決めているだろう!」と怒鳴りつけたため、Xは諦めて喫煙するため車外に出た<ref group="書籍" name="大崎2016 p.238-240">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=238-240}}</ref>。その後もAは「母親のためにマイホームを買ってあげたい」という夢のため貯金していた800万円以上の預金を{{Refnest|group="注"|Aは母親が幼少期に死亡した父親とともに「マイホームを持ちたい」と夢を語り合っていたことから、その夢を叶えようと、母親には秘密で銀行口座に数百万円の貯金をしていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-25"/>。}}「どうしても奪われるわけにはいかない」と考え、K・堀に暗証番号を頑なに教えようとしなかったため<ref group="書籍" name="大崎2016 p.238-240"/>、堀は運転席にいたXに「包丁を貸せ」と命じ、Vが万引きして入手した包丁(刃渡り約18.6cm)<ref group="報道" name="朝日新聞2007-10-06"/>を受け取るとAに突き付け「喋らないと刺すぞ」と脅し、Kも「この包丁は100円ショップで買った包丁だから切れ味が悪いぞ。5,6回は刺さないと死ねないだろうな。こいつ(堀)はキレると本当に刺すぞ」と加勢した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.238-240"/>。そして堀が「5分だけ待つ。それまでに言わないと刺すぞ」と脅迫してカウントダウンを開始したが、5分経過してもAは口を割らず、Kが「5分経ったから2,3回刺してしまえ」と堀に命じると、堀は包丁を逆手に持ち刃先をAの太腿に向けて上下に振り、包丁を突き刺す真似をしつつ「もう待てねえんだよ。みんないらついているから早く喋れ。殺すぞ」と脅した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.238-240"/>。

これに対しAは「2960(憎むわ)」という[[ダイイング・メッセージ]]が残された<ref>[https://bunshun.jp/articles/-/40264?page=2 (2ページ目)ガムテープで顔面ぐるぐる巻き、ハンマーで頭部40回殴打……“名古屋闇サイト殺人事件”被害女性が「どうしても守りたかったもの」 | 文春オンライン]</ref>虚偽の暗証番号を教え{{Refnest|group="注"|これに対し堀は「この時Aが言った虚偽の暗証番号は『2960』ではない。自分もKも捜査段階でそのように供述したが、実際にXの携帯電話にその数字が残されていたため反論できなかった。暗証番号を訊き出した際には運転席にいたXにはAの声はよく聞こえず、Kが口にした番号を携帯電話の発信履歴に残したのだろう。『語呂合わせ』についてもこの時点ではまだ殺害することまでは決まっていないのにそのようなことをするのは不自然だ。このこと自体は今更些末な問題だが、結局『Aが言った暗証番号=2960』とされた理由は経度の知的障害を有していたXが聞き間違い・もしくはボタンの押し間違いをしたか、捜査機関が捏造したかのどれかだろう」と主張している<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.165-167">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=165-167}}</ref>。}}<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-25"/><ref group="報道" name="毎日新聞2008-11-06"/>、「メモしろ」とKから命じられたXが2007年8月25日0時45分、慌てて携帯電話で「2960」へ発信し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.240-242">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=240-242}}</ref>、発信履歴を残した<ref group="報道" name="毎日新聞2008-11-06"/>。この直後、Kは堀と喫煙するため車外に出ると「あの数字(2960)は本物か?」と尋ね、堀から「体中震えて心底怯えながら言っていたから間違いないだろう」と返されたほか、逮捕後に3人とも「Aはとても嘘をつけるような状態ではなかった」と証言している<ref group="書籍" name="大崎2016 p.240-242"/>。そのため3人はこの時点で「既に本当の暗証番号を聞き出した」と思い込み<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、その暗証番号「2960」が正しいか否かそれ以上調べようとはせず、殺害方法に関して「首を絞めよう。車内のロープを使おうか、それとも首を絞めようか?」などと相談していた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.240-242"/>。その一方で3人は事前に具体的な殺害場所までは計画段階で決めていなかったため、K・堀両名は「Aをその場で殺害するかどうか」についても相談していた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07"/>。

一方でXはAと車内で2人きりとなったが「K・堀は自分に気を利かせてくれた」と思い込み、後部座席に下がりAの両腕にかけられた手錠の鎖を自分の方に引き付け「やらせろ。やらせたら無事に帰す」などと迫った。XはAを[[強姦]]しようと<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>Aに覆いかぶさったが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-10-06"/>、Aから怒鳴り返されたために逆上して右手で胸を触ろうとし、さらに激しく抵抗されるとスカートを脱がせようとしたが、叫ばれたため右手で顔面に平手打ちを浴びせた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.240-242"/>。このため結局はXによるAへの強姦行為は未遂に終わったが<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、その時Aが車内で大きな悲鳴を上げたため、車内に戻ったKがXを叱責すると自らAの背後に座ってAの髪留めを「自分の顔に傷がつく」という理由で外した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.240-242"/>。K・堀両名はXから強姦されそうになったAの目が回りを探るようになり「逃げ出そうとする雰囲気」を感じたため、この場で直ちにAを殺害することを決め<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-07"/>、KがAの首を右腕で絞めつけ始めた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.240-242"/>。Aは必死に暴れて抵抗したが脚を堀に押さえつけられ、さらに両手にかけられていた手錠をXに押さえつけられて抵抗を抑圧された<ref group="書籍" name="大崎2016 p.240-242"/>。数分後にAの体の力が抜け「もうすぐ失神する」という状態になったが、自分の腕がしびれてきたことでKが手を緩め、まだAに息があったため堀が「ハンマーを使おうか?」と聞き、Kも「頼む」と答えた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.243-244">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=243-244}}</ref>。

この時点でAは意識が朦朧として身動きできなかったが、堀はそのAの左側頭部にハンマーを力いっぱい振り下ろし、強烈な打撃によりリバティ天井部までAの血が飛び散った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.243-244"/>。Aはこの段階でも「『殺さない』と言ったじゃない。お願いだから殺さないで。死にたくない。話を聞いて」などと懇願したが{{Refnest|group="注"|大崎は「この時のAの言葉は単なる『命乞い』ではなく、絶望に取り囲まれつつもあきらめずに希望の意図を探り続け『まだ生きる道を探り、男たちを説得しようとしていた』Aの強い誇りがもたらしたものだ。Aは最期まで一度たりとも取り乱さず、一粒も涙も流さず、ハンマーで頭を叩き割られても耐え続けた」と形容している<ref group="書籍" name="大崎2016 p.244-245">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=244-245}}</ref>。また『毎日新聞』記者・秋山信一は2008年11月6日中部朝刊にて「被害者Aは被告人3人に脅されても『母親とともに夢見ていたマイホーム資金を守ろう』としたためか虚偽の暗証番号を教えるなど、最期まで生きる希望を失っていなかった」と述べている<ref group="報道" name="毎日新聞2008-11-06"/>。}}、堀はその言葉を聞き入れることなくさらに2発頭部にハンマーを振り下ろしたほか、Kも堀がハンマーを打ち下ろしやすいようAの体を前方に押し出した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.243-244"/>。だが「コンクリートを砕くハンマー」で<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>堀がAの顔を計5回殴ったにも拘らず<ref group="報道" name="毎日新聞2008-11-06"/>、Aがなかなか絶命しなかったためにKが苛立っていた中<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>、堀が助手席の背後ポケットに入っていた綿ロープを取り出してAの首に一重で巻き付け<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.156-157"/>。その端のうち片方をXに渡すと<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=245-247}}</ref>、Xも「ここでAを殺害することになった」と理解して犯行に加わった<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。しかし堀とXの角度が180度にならなかったため上手く力が入らなかったほか、頭部から著しく出血していたために血液でロープが滑ったため、Kも加えて3人で様々な角度に引っ張ってもうまく絞まらなかったため{{Refnest|group="注"|堀はこの時「Xと綿ロープを引っ張り合った時(碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件で被害者男性を殺めた際と同じ手口だったため)あの瞬間が壮絶にフラッシュバックして激しい恐慌状態に陥った」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.156-157"/>。}}<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>、Kが「それではだめだ」と言いつつ綿ロープをいったん引き取るとそれを2つ折りにしてAの首に回しかけ、輪になった部分に綿ロープの端を通して自らそれを引っ張った{{Refnest|group="注"|堀は「自分とXがKの指示に従い足を押さえつけ、さらに「息が漏れているからテープで止めろ」と言われたため粘着テープをAの口に貼り付けようとしたがうまくいかなかったため、テープの上から口を押さえた。その直後にKが『鼻から息が漏れている』と言ったため、自分が右手でAの口を塞ぎつつ左手で鼻をつまんだが、その直後に恐慌状態のまま被害者をハンマーで殴りつけた」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.157-159">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=157-159}}</ref>。}}<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.156-157">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=156-157}}</ref>。堀はAの顔面に口を塞ぐような形でガムテープを巻き付け始め、Aが最後の力を振り絞って発した「殺すなぁ」という言葉も無視してガムテープをAの顔面に縦横合わせて23回巻き付けると頭からレジ袋<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>(堀が凶器のハンマーを購入したホームセンターのレジ袋)<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-夕刊9面">『朝日新聞』2007年8月29日夕刊第一社会面9頁「レジ袋かぶせ犯行 手口も場当たり的 名古屋・女性拉致殺害 【名古屋】」</ref><ref group="報道">『朝日新聞』2007年8月29日夕刊第一社会面15頁「頭に凶器を買ったレジ袋 手口も場当たり的 名古屋・拉致殺害」</ref>を被せ、その口を塞ぐようにガムテープで8周(合計31周)巻き付けた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>。それでもAが咳き込んだため、Kが「まだ生きてやがる」と言いつつハンマーを持つと「脳に振動を伝えて早く絶命させよう」とAの頭部にタオルを置き、それを目標にハンマーを30発以上振り下ろし、堀が「もういいんじゃないの?」と言っても笑みを浮かべつつ、Aが絶命するまでハンマーを振り下ろした<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>。

なお殺害順序に関しては大崎『いつかの夏』では「Kが腕で首を絞める→堀がハンマーで殴る→堀・Xがロープで首を絞める→堀がガムテープを巻き付けるなどしてKが再びハンマーで殴る」という流れだったが、堀の自著『鎮魂歌』では「Kが腕で首を絞める→堀・Xが綿ロープで首を絞める→堀がハンマーで殴る→堀がガムテープを巻き付けるなどしてKが再びハンマーで殴る」という流れで描かれており、堀はその上で以下のように主張している<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.157-159"/>。
*「(自分がハンマーでAを殴打する前)Aの脚から手を離した直後に綿ロープを取り出した。ハンマーはロープで首を絞めた後、恐慌状態になっていた中で偶然座席下にあったものを手に取って恐慌状態でAの頭を殴りつけた」<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.157-159"/>
* 「うめき声を上げるAの息苦しそうな顔を始めてまともに見てしまったことで衝撃を受け『その場を何とかしたい』と思いつつハンマーを思わず手に取り、『気絶すればいいや』程度の気持ちで被害者Aの頭部を立て続けに3回殴打した。当時Aの頭の位置と天井の高さでは『ハンマーを思い切り振り下ろせるほどの高さ』ではなく、仮に本気でハンマーを振り下ろせば一撃でも致命傷になりかねない。そんな殴打を3回も行い、それが致命傷にならなかったことは逆に言えば『気絶すればいい』程度の気持ちで咄嗟に殴打した裏付けだ」<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.157-159"/>
* 「ハンマーでAの頭を3回目に殴打した際に血が飛んできた気がした(実際には自分の汗だった)ため咄嗟に叩くのをやめたところ、Kから「テープを巻いてくれ」と指示されたためAの顔に2人粘着テープを巻き付けた」<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.157-159"/>
* 「KがAの頭上にタオルを置いてハンマーで殴りつけた際には『何をするんだ!』と言いつつ近くにあった自分のシャツをかざし、血が自分に飛んでこないようにしたほかKの残虐な行為を見ないようにした」<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.157-159"/>
* 「Kは自分が『もうそれ以上やらなくてもいいだろう』と言っても憑かれたようにAの頭を数十回殴り続けた」<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.157-159"/>

やがてAは窒息死し<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>、Kが手を止めるとAの脚はしばらく痙攣していたが、やがて痙攣が止まった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>。Kが脈拍を図ると脈が感じられなくなっていたため「ちゃんと死んだよ。お疲れ様」と堀・Xに言い、3人で車外に出て喫煙した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.245-247"/>。

=== 死体遺棄 ===
{{ウィキ座標|35|19|49.5|N|137|17|16.4|E|region:JP-21|name=闇サイト殺人事件・被害者Aの遺体を遺棄した現場付近|死体遺棄現場周辺の地図|地図}}:[[岐阜県]][[瑞浪市]]稲津町小里<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>
* [[岐阜県道33号瑞浪上矢作線]]から20mほど入った地点で<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/>、「{{ウィキ座標|35|19|48.9|N|137|17|15.7|E|region:JP-21|name=|御料林橋|地図}}」から北東の山林内<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>([[廃道]]脇)<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>。『中日新聞』では「遺棄現場付近にはかつてXが車で訪れた観光施設があった」と報道されている<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01"/>。
被害者女性Aを殺害後、堀はAの死体をリバティの3列目後部座席(Xの生活用品などが散乱しごみ箱同然の状態だった場所)に置き、その上からタオル・荷物を置いて死体を隠した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=247-248}}</ref>。Kはリバティの窓を全開にしてXにエアコンを18度に設定させると、車内に飛散したAの血液を拭き取った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248"/>。すると堀が「(Aから奪ったキャッシュカードで)預金を下ろしに行こう」と提案したためK・Xとも同意し、XはK・堀をそれぞれ2列目後部座席に座らせた状態で殺害現場の駐車場を出た<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248"/>。3人はAから奪った現金62,000円を山分け(K・堀が各20,000円、Xはガソリン代として2000円多い22,000円)したが、堀が「Aの返り血を浴びて気持ち悪い。自販機に寄ってほしい」と言い出し、[[稲沢市]]内の自動販売機でペットボトル入りの水を購入して手に付着していた血液を洗い流した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248"/>。

Aの遺体を車内に積んだリバティはいったん同県[[一宮市]]方面に北上したが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-31-朝刊"/>、K・堀の2人は返り血を多く浴びていたため着替えの服を用意する必要があったことに加え、ATMで出し子として預金を引き出すXは変装する必要があったため、3人で一宮市内のドン・キホーテに立ち寄ってXがジャージ2着・Tシャツ・帽子・サングラスを購入した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248"/>。この時、堀はXに「防犯カメラに映るとまずいからドン・キホーテの駐車場に駐車するな」と指示し、Xにリバティを店近くの道路に路上駐車させている<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248"/>。その後、ガソリンスタンドでXがガソリン3,000円分を給油したが、Kが「土日(2007年8月25日=土曜日)は[[サークルK]]([[サークルKサンクス]]、現:[[ファミリーマート]])のATMでしか中京銀行のキャッシュカードが使えない」と発言したため、いったん「サークルK小牧下小針店(現:ファミリーマート小牧下小針店)」へ向かった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248"/>。同店でXがリバティを店から離れた場所に駐車すると帽子・サングラスで変装して中京銀行のキャッシュカードを利用して預金引き出しを試みたが、当時は取引時間外だったため失敗に終わった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.247-248"/>。その後も3人は人目につきにくいATMのある場所を探し回ろうとしたためか<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01"/>「[[小牧市]]付近から高速道路に入り、[[名古屋高速道路]]を南下して名古屋市内で[[国道19号]]に降りる」というように愛知県内を迷走し続けたが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-31-朝刊"/>、結局は現金を引き出せず<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01"/>、夜が明ける前に死体を遺棄しようとしたためか再び国道19号を北上し<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-31-朝刊"/>、[[中央自動車道]]・[[瑞浪インターチェンジ]]まで高速道路を利用した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>。

3人はAの死体を遺棄することに決め<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>、Kが「国有林などに遺体を遺棄したいがどこがいいか?」と堀・Xに尋ねたところ、2人とも岐阜県方面に詳しかったため{{Refnest|group="注"|大崎は「堀の意見で岐阜県内の山中に決まった」と記している一方<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>、堀は「自分とXの意見」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>。}}高速道路で岐阜県方面へ向かうことに決まった<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=160-161}}</ref>。Xは瑞浪ICで中央道を降りると[[岐阜県道33号瑞浪上矢作線]]を旧[[山岡町]](現:[[恵那市]])方面へ走行して[[国道363号]]に向かって山道に入ったが<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>、国道を1時間ほど走ってから林道に入ったところ、Kが「穴を掘るためのスコップなどが必要になる」と言い出した<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>。Xが途中で土木建設業者の物置小屋らしきものを見つけると、K・堀が2人でスコップ2本を盗み出して入手し<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249">{{Harvtxt|大崎|2016|p=249}}</ref>、山林に遺体を遺棄する際に使用した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-31-朝刊37面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面"/>。スコップを盗み出した資材置き場から約10分程度走行し<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>、やがて大きな白い橋が見えたところ<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>、堀が「車が1台通れる程度の脇道」を見つけ<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>、。K・堀がXに「ここで停車してくれ」と指示して停車させ<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>、Xが車をバックさせてその脇道に入った<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>。脇道は10メートルほど入ると立ち入り禁止になっておりそれ以上は車で入れなかったため、K・堀が降車して下見をしたところ周囲に草木が生い茂る斜面があったためそこに死体を遺棄することを決めて「ここに捨てよう」と告げた<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>。

3人は2007年8月25日4時40分ごろ<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-夕刊1面">『朝日新聞』2007年8月27日夕刊1面1頁「手錠・ハンマー複数用意 死体遺棄容疑者ら『別の拉致計画』 千種女性殺害 【名古屋】」</ref>、Aの死体を山中に遺棄した<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-26-朝刊28面"/>。堀がAの死体を担ぎ上げ、Kがスコップ2本を持つとXに「怪しまれないようにここから離れていろ」と指示してXをいったん道の駅へ向かわせ、ガードレールのすぐ先にAの遺体をゴミ同然に投げ捨てた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>。3人はスコップを使い遺体を地中に埋めようとしていたがた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面"/>、遺体が草に埋もれる形になっていたことに加え、堀は「早く息を終わらせたい」と考えていたため土・草を被せる作業が中途半端なままとなり{{Refnest|group="注"|堀は「仮に雨が降ったら土・草が流されて遺体が丸見えになっていたに違いない」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>。}}<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.160-161"/>、結局は遺体の下半身に少し土を被せただけで終わった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面"/>。この時、堀は素手でAの遺体にかかっていた手錠を触っていたことに気付いたため、投げ捨てる前に自分のシャツで指紋を拭き取った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>。遺体を遺棄した後、Kが遺体に手を合わせていたためそれを見た堀も手を合わせたが、Kは堀が声をかけるまで数分間手を合わせたまま動かなかった{{Refnest|group="注"|堀はこの理由について「その数分間、Kは彼なりに暴虐の限りを尽くしたような行為を反省あるいは後悔して被害者に詫びていたのだろう。隣にいた自分にその姿を見せるためだけの行為とは思えない」と述べている<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.161-162"/>。}}<ref group="書籍" name="鎮魂歌 p.161-162">{{Harvnb|堀慶末|2019|pp=161-162}}</ref>。

4時49分、XがKもしくは堀から「終わったから迎えに来てくれ」と電話を受けて遺棄現場に戻り2人を迎えに行くと<ref group="書籍" name="大崎2016 p.249"/>、Kが携帯電話で預金を下ろすべく中京銀行の店舗を調べて「中京銀行知立支店(愛知県知立市)に向かおう」と提案したが、KはAの遺品となったバッグを調べたところ銀行の取引明細書を見つけた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.250">{{Harvtxt|大崎|2016|p=250}}</ref>。その口座に800万円以上の残高が入っていたことを知った3人は歓声を上げたが、Kは「なんでこんな大金を持っているんだ?OLで800万円の貯金は多すぎる。あの女(A)は誰かの妾だったのか、それとも何かの裏金か?」と、大崎が「ゲスの勘繰り」と表現した発言をしたほか、「この金を資金にして少しずつ覚醒剤を仕入れ、それを売買する組織を作ろう」とも発言していた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.250"/>。その知立支店に向かう途中の7時30分ごろ、被害者Aの携帯電話に交際相手の男性から「おはよう。元気?」というメールが来たため、Xが「Aの生存を装って返信しよう」と提案するとKから「お前はバカか」と言い放たれた<ref group="書籍" name="大崎2016 p.252">{{Harvtxt|大崎|2016|p=252}}</ref>。

3人は開店前の中京銀行知立支店に到着すると路上で仮眠し、開店後の9時10分にXが変装してATMへ向かうとキャッシュカードをATMに入れて殺害前に聞き出した「2960」の暗証番号を押したが、何度試しても預金が引き出せなかったためいったんリバティに戻ってそのことを報告したところ、Kから「800万円の残高がある貯蓄預金を指定しろ」と指示された<ref group="書籍" name="大崎2016 p.250"/>。これを受けXは再びATMで貯蓄預金の口座を指定して暗証番号「2960」を打ったがこれも合致せず、Kに電話で問い合わせたところ「正しい暗証番号は『2946』ではないのか?」と指摘されたためそれも試してみたが失敗した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.250"/>。しかし3人は「まさか命を奪われるような状況で嘘をつけるわけがない」と考え、三菱東京UFJ銀行のキャッシュカード・アプラスのクレジットカードで引き出しを試みようとしており<ref group="書籍" name="大崎2016 p.250"/>、Aを殺害してから約8時間半後の<ref group="報道" name="毎日新聞2008-11-06"/>9時 - 11時ごろにかけ<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3">『中日新聞』2009年3月18日夕刊第二社会面14頁「事件の経過」</ref>、Xは名古屋市南区の「サークルK大江店」で変装して三菱東京UFJ銀行のカードを利用して預金の引き出しを試みた<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=250-251}}</ref>。しかし三菱東京UFJ銀行のカードでも「2960」は不一致だったため、Aの誕生日「1976年(昭和51年)7月20日」に注目して「5172」「0720」をそれぞれ試してみたがいずれも失敗に終わったばかりか、アプラスのキャッシュカードでも同じく失敗したため、それを聞かされたKは「仕方ない。800万円は諦めるしかないな」と言った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.251">{{Harvtxt|大崎|2016|p=251}}</ref>。このほかXは一宮市内のコンビニエンスストアも訪れ<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-07"/>、預金の引き出しを再度試したが暗証番号が合わず引き出しに失敗した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/>。

Aの預金を引き出せなかったため、Kは「今夜再び女性を拉致して暗証番号を訊き出し殺害しよう」と提案して堀・Xの2人から「21時以降なら大丈夫だ」などと了解を取り付けたが、この時には「名駅付近でソープ嬢を狙おう」という話になったものの堀も特に反対しなかった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.251"/>。3人は「[[東海旅客鉄道]](JR東海)・[[名古屋市営地下鉄]]・[[名古屋臨海高速鉄道]]の[[名古屋駅]]前に再び集まる」と約束した上で<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面"/>、同日の殺害計画は集合後に練るはずだったが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面"/>、Xは前述のようにKから「バカか」と言い放たれたことに加え、この時にKから「今度はレイプするな」と注意され、堀からも「今度はお前もやれ」と言われたために「俺が眠気をこらえてずっと車を運転してガソリン代を負担してやったのに、こいつらは後ろの席で呑気に寝てやがった」と強い不満を持った<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=251-252}}</ref>。一方で堀は事件後、第二の犯行に消極的な態度を取っていたX宛てに電子メールで「怖がっているんじゃないか?」などの趣旨の文言を送り付けていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-朝刊1面"/>。

Xはまず堀を今までと同じ場所で降車させ、次いで鳴海のTSUTAYAでKと別れた際に「有松ジャンボリー(名古屋市緑区南陵のスーパーマーケット)で仮眠が取れる」と教わったためそちらの駐車場に行き仮眠しようとしたが、脳裏から被害者を殺害した際の情景が離れず、Kと別れてから30分後に110番通報したが、この時はまともに取り合ってもらえなかったため電話を切った<ref group="書籍" name="大崎2016 p.252"/>。Kは同日朝、勤務先の社長に電話で「今日から2日間休んで27日に出勤します」と話していたが、社長によればその口ぶりは「動揺など少しも感じられないもの」だった<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面"/>。


== 捜査 ==
== 捜査 ==
しかし、KTは2人と別れ、「有松ジャンボリー」{{Efn2|「有松ジャンボリー」は、名古屋市緑区[[南陵 (名古屋市)|南陵]]601番地にある大型ショッピングセンター(スーパーマーケット「[[フィールコーポレーション|フィール]]」などが入居している)<ref>{{Cite web|url=https://feel-corp.jp/store/nagoya/midori/store-156.html|title=有松ジャンボリー <nowiki>|</nowiki> 店舗情報|accessdate=2021-03-14|publisher=[[フィールコーポレーション]]|website=FEEL フレッシュフーズ フィール|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210314121510/https://feel-corp.jp/store/nagoya/midori/store-156.html|archivedate=2021-03-14}}</ref>。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=252}}(名古屋市緑区)<ref name="中日新聞2007-08-26"/>の駐車場で仮眠を取ろうとしたが、13時30分に自ら[[愛知県警察]]本部の電話番号へ電話を掛け{{Sfn|大崎善生|2016|p=252}}、「女性を拉致して金を奪い、岐阜県に埋めた」と話し<ref name="中日新聞2007-08-26">『中日新聞』2007年8月26日朝刊第12版第一社会面37頁「千種で声掛け拉致、愛西で殺害 女性遺体 瑞浪で発見 死体遺棄容疑 男3人逮捕へ 愛知県警」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1123頁</ref>、[[自首]]{{Efn2|name="自首動機"|「山下」は捜査段階で「自首しようか自殺しようか考えていた」と述べたほか<ref name="毎日新聞2008-12-12"/>、自首した動機について、『中日新聞』宛の手紙で「死刑が怖かったわけではなく、善と悪の心の葛藤があり、(自首した時に)善の部分が出た」と<ref name="中日新聞2007-12-26">『中日新聞』2007年12月26日朝刊第一社会面27頁「千種の女性拉致殺害 本紙に手紙 「山下」被告 『何となく流されて…』 『発覚の恐れ少ない』 闇サイト悪用の犯罪 過去にも3度」(中日新聞社)</ref>、公判では「『殺さないで』と言ったAの最後の言葉が頭から離れず、KTや堀の犯行後の発言にも腹が立っていたからだ」と供述した<ref name="中日新聞2008-12-12"/>。名古屋高裁 (2011) は、「山下」が自首した動機について「KTや堀に対する不満などの気持ちから『一蓮托生で警察に突き出そう』などという気持ちもあったが、反省悔悟の情もあったことや、自首が本件事案の改名に一定の寄与をしたことは否定できない」と判示している{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。}}<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。これを受け、応対した当直の警察官は、電話の主である男(=「山下」)に対し、その場に留まっているよう伝えた<ref name="中日新聞2007-08-26"/>。「山下」は14時17分<ref name="読売新聞2007-08-27社会">『読売新聞』2007年8月27日東京朝刊第一社会面39頁「女性殺害遺棄事件 凶行は互いに偽名、直前に顔合わせ 闇サイト絡みまた」([[読売新聞東京本社]])</ref>、[[緑警察署 (愛知県)|緑警察署]]から派遣された警察官7人に身柄を拘束され、緑署で約15分間の事情聴取を受けた後、機動捜査隊に連れられて遺棄現場を案内{{Sfn|大崎善生|2016|pp=252-253}}。同日19時10分ごろ、「山下」の自供通り、Aの遺体が下半身に土を被せられた状態で発見された<ref>『朝日新聞』2007年8月26日名古屋朝刊第一総合面1頁「「女性拉致、金奪い殺害」男ら供述 岐阜山中から遺体 3人に逮捕状請求 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。
=== 事件発覚・遺体発見 ===
Xは[[日本電信電話]](NTT)の番号案内「104番」に電話を掛けて[[愛知県警察]]本部の電話番号を調べると2007年8月25日13時30分ごろ<ref group="書籍" name="大崎2016 p.252"/>、自ら県警本部へ「仲間3人で女性を車に拉致して現金などを奪った後、女性を殺害して岐阜県内に遺体を埋めた」と電話した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26">『[[中日新聞]]』2007年8月26日朝刊第一社会面37頁「千種で声掛け拉致、愛西で殺害 女性遺体 瑞浪で発見 死体遺棄容疑 愛知県警 男3人逮捕へ」</ref><ref group="報道" name="東京新聞2007-08-26">『[[東京新聞]]』2007年8月26日朝刊第一社会面29頁「3人『女性拉致 金奪い埋めた』 岐阜・山林から遺体」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-26">『[[朝日新聞]]』2007年8月26日朝刊1面1頁「『女性拉致、金奪い殺害』男ら供述 岐阜山中から遺体 3人に逮捕状請求 【名古屋】」</ref>。Xが名古屋市緑区内のショッピングセンターにいたことが判明したため、応対した当直の警察官はXに「その場に留まっていろ」と伝え<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/>、愛知県警[[緑警察署 (愛知県)|緑警察署]]パトカー2台・警察官7人が駆け付け<ref group="書籍" name="大崎2016 p.252"/>、機動捜査隊員らが14時15分ごろ<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-29-朝刊1面"/>、Xの身柄を確保した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>。警察官が到着した当時、Xは両足をリバティのハンドルの上に上げており、その態度は「反省とは程遠くふて腐れているような態度」だった<ref group="書籍" name="大崎2016 p.252"/>。


また、「山下」が「2人の共犯者(KTおよび堀)がいる」という旨を明かしたため、県警はその2人の居宅を特定した{{Efn2|県警は「山下」が知っていたKTの携帯電話番号から、KTの居宅を特定したほか、「山下」が事件前に何度も堀を迎えに行っていたため、堀の居宅も特定された<ref name="中日新聞2007-08-29"/>。}}上で、3人が決めていた同日の「第2の犯行計画」を利用し<ref name="中日新聞2007-08-29"/>、19時10分ごろ<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>、自宅から出かけようとしていたKTの身柄を確保<ref name="中日新聞2007-08-29">『中日新聞』2007年8月29日朝刊第12版一面1頁「女性拉致殺害 愛知県警 自首容疑者の供述で 「第2の犯行」利用し逮捕」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1223頁</ref>し、KTを[[任意同行]]させた<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>。また、「山下」に命じて堀宛てのメールを送信させ{{Efn2|この時、堀は既に身柄を確保されていた「山下」とメールで集合場所・犯行予定場所についてやり取りをしたが、「了解!」というメールを送っていた{{Sfn|集刑|2012|p=115}}。}}、同日22時ごろに堀の自宅マンション前で落ち合う約束を取り付け、約束の時間に自宅から出てきた堀を張り込んでいた捜査員が取り押さえ<ref name="中日新聞2007-08-29"/>、任意同行させた<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>。3人とも、「自分たちは闇サイトで知り合い、金を奪う目的で通りがかりの女性を狙った。顔を見られたので殺した」と供述したため<ref name="読売新聞2007-08-27"/>、愛知県警は[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄]]事件として、[[刑事部|捜査一課]]および[[千種警察署]]の<ref name="中日新聞2007-08-27"/>[[捜査本部|特別捜査本部]](特捜本部)を設置<ref name="読売新聞2007-08-27">『[[読売新聞]]』2007年8月27日中部朝刊一面1頁「女性拉致・殺害 男3人遺棄容疑逮捕 手錠、ハンマー殴打 愛知県警=中部」([[読売新聞中部支社]])</ref>。県警特捜本部は翌日(8月26日)0時に事件発生を発表し、4時過ぎ<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>、KT・堀慶末・「山下」の3人を、死体遺棄容疑の[[被疑者]]として[[逮捕 (日本法)|逮捕]]<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。翌8月27日に[[名古屋地方検察庁]]へ3人の身柄を[[送致|送検]]した<ref>『朝日新聞』2007年8月27日名古屋夕刊第一社会面13頁「「翌日も拉致計画」 容疑者3人、金に困り犯行か 愛知・女性殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。
その後、Xは緑署内で15分ほどの事情聴取を受け、機動捜査隊に連れられて遺棄現場を案内したことでAの遺体が発見された<ref group="書籍" name="大崎2016 p.253">{{Harvtxt|大崎|2016|p=253}}</ref>。遺体は服を着たままで下半身に土を被せられていたほか<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/>、両手に前で手錠がはめられテープを巻かれた状態だった<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>。また遺体の額 - 鼻・口にかけて布製粘着テープが何重にも巻かれて息ができない状態になっており、その上に透明の袋が被せられ、さらにテープが巻かれていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-朝刊1面"/>。


2007年9月14日、名古屋地検は被疑者3人を死体遺棄罪で[[名古屋地方裁判所]]へ[[起訴]]<ref name="朝日新聞2007-09-15">『朝日新聞』2007年9月15日名古屋朝刊第一社会面35頁「首謀、ともに否定 強殺容疑などで3人を再逮捕 名古屋・女性拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。同日、特捜本部は被疑者3人を強盗殺人・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁]]・[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取]]の各容疑で再逮捕し<ref name="中日新聞2007-09-15">『中日新聞』2007年9月15日朝刊第12版第一社会面37頁「女性拉致殺人 愛知県警 強殺で3容疑者再逮捕 「謝罪の気持ちない」」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号663頁</ref>、名古屋地検は10月5日にそれらの罪で被疑者3人を追起訴した<ref name="中日新聞2007-10-06">『中日新聞』2007年10月6日朝刊第一社会面35頁「Aさんを執拗に脅迫 名古屋拉致殺害の3被告 強殺などで追起訴」(中日新聞社)</ref>。また、「山下」については、Aの遺族から逮捕後に[[強盗・強制性交等罪|強盗強姦未遂]]の罪で告訴があり、地検も「その事実が認定できる証拠がある」と判断したため、同罪でも追起訴した<ref name="中日新聞2007-10-06"/>。
Xは[[千種警察署]]に身柄を移送され任意で事情聴取を受け続けた結果「女性から7万円・キャッシュカードを奪った。顔を見られたのでハンマーで顔を滅多打ちにして殺した」などと供述し<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-26"/>、「死刑になるのが怖いので[[自首]]した」<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-26"/>「自分は運転手役だった」とも供述した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-26"/>。またXが共犯者2人の存在を仄めかしたため<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-29-朝刊1面">『中日新聞』2007年8月29日朝刊1面1頁「女性拉致殺害 『第2の犯行』利用し逮捕 愛知県警 自首容疑者の供述で」</ref>、愛知県警捜査一課・千種署は<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/>、共犯者の捜査を開始してK・堀の住所を特定した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-29-朝刊1面"/>。


取り調べに対し、KTは「自分は他人が作った法律ではなく、作ったルールに従って生きる。殺人に抵抗感はない」と供述した<ref group="注" name="8月22日"/><ref>『読売新聞』2008年12月2日中部朝刊第三社会面31頁「闇サイト殺人地裁公判 KT被告「殺人に抵抗ない」 逮捕段階で供述=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。また、KTは逮捕から数日後に「山下」が自首したことを知らされたが、これを恨み、別の警察署の留置場にいた「山下」に対し脅迫めいた内容の手紙を送った<ref>『朝日新聞』2008年12月2日名古屋朝刊第三社会面29頁「事件仲間脅す?逮捕の後に手紙 闇サイト事件被告 名古屋地裁 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>ほか、弁護人に対し、「「山下」がAを乱暴しようとしておきながら、自首して責任を逃れる態度は不満だ」と述べていた<ref>『中日新聞』2007年9月7日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致 逃げる気配感じ殺害 KT容疑者弁護士会見 3人が直接関与」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号309頁</ref>。
愛知県警は住居特定後に「第二の犯行計画」を利用してK・堀両被疑者の身柄を相次いで確保した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-26"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-29-朝刊1面"/>。19時過ぎにXと合流しようと自宅からオートバイで出掛けようとしていたKを身柄確保し<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-29-朝刊1面"/>、同時にKが所持していたAのキャッシュカードを押収した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-夕刊1面"/>。また愛知県警はXに指示して堀宛てに「今夜は名駅なんで頑張りましょう」<ref group="書籍" name="大崎2016 p.253"/>「22時過ぎ、堀の自宅マンション前で落ち合う」という電子メールを送信させて捜査員を張り込ませ、約束の時間に自宅から出てきた堀を張り込んでいた捜査員がその場で取り押さえた<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-29-朝刊1面"/>。県警は同日付でK・堀・Xの被疑者3人に対しいずれも死体遺棄容疑で逮捕状を請求した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-26"/>。

=== 死体遺棄罪で逮捕 ===
愛知県警捜査一課・千種署は翌8月26日に特別捜査本部を設置してK・堀・Xの[[被疑者]]3人を「Aの遺体を山中に遺棄した死体遺棄容疑」で[[逮捕 (日本法)|逮捕]]した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面">『中日新聞』2007年8月27日朝刊1面1頁「路上で女性拉致殺害 第2の犯行も計画 闇サイトで知り合う 男3人を逮捕 遺棄容疑で愛知県警 強殺でも追及」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊24面">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第二社会面24頁「路上で女性拉致殺害 闇サイト凶行またも 匿名、ふくらむ虚勢」「ネットで共犯募集増加」「ネットで共犯を募った最近の主な事件」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊25面">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第一社会面25頁「素性知らぬ『仲間』共謀 拉致強殺逮捕の3人 『弱い女性』狙う 身勝手、死刑恐れ自首」「殺されたAさん 進む結婚話、暗転 2人暮らしの母悲し」</ref>。
* 取り調べに対し3人はいずれも逮捕容疑のほか「Aから金を奪って殺害したこと」についても認めた上で、動機を「金に困っていた」と供述した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面">『朝日新聞』2007年8月27日第一社会面31頁「互いに偽名、素性知らず『女性狙い、金奪おう』 名古屋・女性殺害3容疑者 【名古屋】」</ref>。加えて「真面目で貯金をしていそうだったから被害者Aを狙った。千種区内で標的を物色した理由は金持ちが住んでいそうだったからだ」と供述した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/>。
* また3人は「Aと面識はなかった。標的は誰でもよかった」「金を奪うなら弱い女性がいいと思った」「名古屋市内で犯行のための打ち合わせのようなことをした」と供述したほか、殺害方法について「ハンマーのようなもので頭を50回ぐらい殴った」と供述し、複数の凶器も発見された<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>。このことから特捜本部は「3人が事前に犯行を計画した上で金目当てに見ず知らずの女性を拉致・殺害した」と推測して強盗殺人容疑でも3人を追及したほか<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-朝刊1面"/>、運転手役だったXが過去に殺害現場付近の愛西市内で勤務していたことがあったため特捜本部は「Xが土地勘のある場所に向かった可能性がある」と推測して引き続き追及した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/>。
* 一方で3人は殺人にエスカレートした動機を「金を奪った後で生かして帰すと顔を見られることがある上、車のナンバープレートからも足がつく虞があったから殺した」と具体的に供述したが<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/>、事前に顔を隠そうとしていた者はいなかった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面"/>。
2007年8月27日までの愛知県警捜査一課・千種署の特捜本部による取り調べに対し、被疑者3人はAが拉致されている最中に「殺さないでください」と懇願したのを無視して凶器のハンマーで頭を滅多打ちにして殺害したことが判明した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-夕刊1面">『中日新聞』2007年8月27日夕刊1面1頁「女性拉致殺害 『殺さないで』無視 自首の男『声が頭離れず』」</ref>。また犯行時の役割は「最初に共犯者を募ったXより、呼びかけに応じたK・堀両被疑者の方が犯行において積極的な役割を果たしていた」という事実も判明したほか<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-朝刊1面">『中日新聞』2007年8月28日朝刊1面1頁「女性拉致殺害 計画に応じた2人主導 K容疑者、最初から殺意抱く」</ref>、犯行前に凶器・手錠・睡眠薬のようなものがそれぞれ事前に用意されていたため、最初から「女性から金を奪い、殺害して遺体を遺棄する」計画だったことが推測された<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-夕刊1面"/>。車内からは凶行に使われた粘着テープ・ハンマーなどが見つかった一方<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01-夕刊"/>、[[睡眠導入剤]]も発見されたが犯行に使われた形跡はなかった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-夕刊9面"/>。

同日、特捜本部は3人を[[名古屋地方検察庁]]へ[[送致|送検]]した一方<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-夕刊1面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-夕刊1面"/>、Aの遺体を司法解剖したところ「頭部を多数回ハンマーで殴られていたが死因は直接の窒息死である可能性が高い」と判明した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-朝刊1面"/>。

また同日には県警名東署から特捜本部に「『闇の職安』を使った事件があった」との情報提供があり<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-夕刊1面">『中日新聞』2007年8月28日夕刊1面1頁「女性拉致殺害 1週間女性を物色 3容疑者 名古屋市内、車で」「別の男と窃盗未遂 X容疑者 同じサイトで知り合う 事件前夜」</ref>、拉致殺害事件直前までXと行動を共にしていた男Vが建造物侵入未遂容疑で名東署に緊急逮捕されていたことが判明した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋朝刊"/>。Vは名東署の取り調べに対し闇サイトで知り合った共犯者の存在に言及していたことため、新聞報道では「愛知県警が拉致殺害事件発生前に犯行グループの存在を把握していた可能性があった」<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋朝刊"/>「Vからの供述次第ではK・堀・Xの3人を事件前に身柄を確保できた可能性があった」とそれぞれ指摘された<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋朝刊"/>。しかしこの時点で判明していた事実は「Vが逮捕された日はAが拉致・殺害されたのと同じ8月24日」の1点だけだったため、名東署幹部は『朝日新聞』の取材に対し「(第4の男=Vが)逮捕されているかどうかも言えないし、逮捕されていてもさらに他の共犯者がいるかもしれない」と述べて「Vが自首・逮捕された時間」「Vを逮捕した後の捜査内容・およびVの供述内容」「K・堀・Xの3人が行った拉致・殺害の謀議にVが参加していたかどうか」などの点については一切公表しなかった<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋朝刊31面">『朝日新聞』2007年8月28日朝刊第一社会頁「犯行防げた可能性 『第4の男』出頭後の捜査焦点 名古屋・女性拉致殺人【名古屋】」(記者:大島大輔)</ref>。

名東署は翌28日「拉致殺害事件の直前にXとともに事務所荒らしをしたVを24日3時20分に緊急逮捕していた」と報道機関に発表したが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋夕刊">『朝日新聞』2007年8月28日夕刊第一社会面9頁「X容疑者が呼びかけ 『第4の男』と盗み 拉致事件 【名古屋】」「『闇サイトの誘い』供述 『第4の男』窃盗未遂容疑 名東署が逮捕発表」</ref>、名東署長・杉本明彦(当時)は「Vは自分が逮捕された後でXらが拉致事件の計画を立てたことを知らず、署としても予想できなかった。時間的にも拉致事件の阻止は無理だった」と説明した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋夕刊"/>。

=== その後の捜査 ===
特捜本部はXの車から、事務所荒らしの際に入り口などをこじ開けて窃盗に使用されたとみられる多数の工具を発見・押収したほか、Xも取り調べに対しVが事務所荒らしの共犯だったことを認めた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-28-名古屋夕刊"/>。また3人は襲撃の道具を事前に用意していた一方で、標的を拉致した後の行動については3人それぞれの思惑が一致していなかったり、遺体を遺棄するのに使用したスコップは殺害後に遺体遺棄現場へ向かう途中で盗んで入手していたりと、場当たり的な犯行だったことも判明した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面">『朝日新聞』2007年8月29日朝刊第一社会面27頁「3容疑者、拉致後は場当たり的 殺害後スコップ盗む 名古屋・拉致殺害 【名古屋】」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊35面">『朝日新聞』2007年8月29日朝刊第一社会面35頁「『場当たり的』凶行が加速 顔隠さず、遺棄直前スコップ盗む 愛知・拉致殺害」</ref>。

また2007年8月29日までに特捜本部へ「2007年6月 - 7月ごろにも闇サイトで共犯者を募るXの投稿を見た」との情報が寄せられ、Xは取り調べに対し「以前から何度も闇サイトを利用して共犯者を募る投稿をしていた」とその事実を認める供述をした<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-30-朝刊">『朝日新聞』2007年8月30日朝刊第一社会面35頁「闇サイト、常習的に利用 以前にも仲間募る X容疑者 愛知・拉致殺害 【名古屋】」</ref>。なおK・堀両被疑者はX・V両被疑者から「事務所荒らしなどの方法で金品を得よう」と提案されたが、その話を後で知らされた際に「自分たちは考え方も方法も違う」として参加しなかったことが判明した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-30-朝刊35面">『中日新聞』2007年8月30日朝刊第一社会面35頁「K、堀両容疑者 事務所荒らしは拒否 『考え方違う』拉致強盗を強行」</ref>。2007年8月30日までの捜査によりKら被疑者3人の犯行前後の行動の全容が判明したほか<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-31-朝刊">『朝日新聞』2007年8月31日朝刊第一社会面35頁「暗証番号聞き出し殺害 車で愛知を迷走 名古屋・女性拉致の3容疑者 【名古屋】」</ref>、「ハンマーなどの凶器はもともとXが事務所荒らしをするためドライバーなどとともに購入した」と報道されたが<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-31-朝刊37面">『中日新聞』2007年8月31日朝刊第一社会面37頁「千種の女性拉致 『窃盗用』工具凶器に 事務所荒らし後も車内に 殺害に流用」</ref>、後に「実際にハンマーを購入したのは堀」と判明している<ref group="書籍" name="大崎2016 p.204"/>。

2007年8月31日までの捜査の結果「拉致・殺害行為は主にK・堀両被疑者が積極的に関与していた一方、運転手役だったXは殺害現場・遺体遺棄現場をそれぞれ自分で決めて他の2人を案内していた」と判明した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01">『中日新聞』2007年9月1日朝刊第一社会面39頁「女性拉致 3人で役割分担 X容疑者 殺害、遺棄現場へ案内」</ref>。K・堀両被疑者は殺害・遺棄現場ともに土地勘がなく、殺害現場に関してはXに行き先は特に(具体的な地名を挙げて)指示していなかったため、特捜本部は3人を「それぞれの役割を分担し、共謀して犯行に及んだ」と推測して引き続き追及した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01"/>。

『毎日新聞』2007年8月31日中部朝刊社会面記事にて[[福島章]]・[[上智大学]]名誉[[大学教授|教授]](犯罪心理学)は闇サイトの危険性について「1人では犯罪などできず、現実の世界では仲間も探せないような人間でもインターネットなら簡単に探せる。被疑者Xのように臆病な人間でも集団になれば凶悪犯罪をやる可能性もあるし、その仲間に引き込まれる可能性もある」と指摘した<ref group="報道" name="毎日新聞2007-08-31 中部朝刊">『毎日新聞』2007年8月31日中部朝刊社会面31頁「闇の連鎖:携帯サイト殺人事件/上 道誤った臆病者」(連載担当記者:米川直己・桜井平・松岡洋介・加藤潔・影山哲也)</ref>。

愛知県警は2007年9月1日に押収済みの犯行に使われた車(日産・リバティ)を公開したが、Aが押し込められた助手席側の後部座席足元付近には事件の凄惨さを裏付けるように血痕が残っていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-01-夕刊">『中日新聞』2007年9月1日夕刊第一社会面11頁「伝わる 凶行の無念 千種の拉致殺害、車公開」</ref>。強盗殺人容疑による再逮捕直前の2007年9月12日までの取り調べに対し、被疑者3人は「互いに面識がなく、虚勢を張り合って金目当ての犯行内容を謀議するうちに計画がエスカレートし『拉致して殺そう』と話し合った」などと供述した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-13">『朝日新聞』2007年9月13日朝刊第一社会面35頁「当初から殺害計画 3容疑者供述、あすにも再逮捕 名古屋・女性拉致 【名古屋】」</ref>。

==== Kの弁護人が記者会見 ====
2007年9月6日、被疑者Kが「一部報道に誤りがある」と主張したことを受け、Kの弁護人が名古屋市内で記者会見して「Kとの接見で聞き出した事件の経緯」を以下のように説明した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07">『中日新聞』2007年9月7日朝刊第一社会面31頁「女性拉致 逃げる気配感じ殺害 K容疑者、弁護士会見 3人が直接関与」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-07">『朝日新聞』2007年9月7日朝刊第一社会面35頁「『加担前に計画あった』主導を否定 K容疑者、弁護人会見 女性拉致殺害 【名古屋】」</ref>。
* Kは闇サイトを通じて犯行グループに加わったが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-07"/>、初めに被疑者Vを含め4人で会った8月22日時点では<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07"/>、「他の3人が強盗・強盗殺人をする相談をしていた」と主張し、強盗殺人を主導したことを否定している<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-07"/>。このうちVは「考え方の違い」により強盗殺人の計画から離脱したが、Kはその後残った堀・X両被疑者とともに犯行を決行した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-07"/>。
* 8月24日の事件当日は強盗殺人をすることが前提になっていたほか、Kは殺害の具体的な経緯・3人の殺害実行時の役割について説明し「3人とも殺害行為に直接関与した」と主張している<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07"/>。
* Kは「極刑になっても責任は償う被疑者Xが被害者女性Aを強姦しようとしながら自首して責任を逃れる態度は不満で納得できない」と話していた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-07"/>。

=== 実況見分 ===
愛知県警特捜本部は2007年9月8日に殺害現場・遺体遺棄現場などで被疑者を立ち会わせて実況見分を開始した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-09">『中日新聞』2007年9月9日朝刊第一社会面37頁「容疑者立ち会い 現場を実況見分 女性拉致殺害」</ref>。この日は捜査員が被疑者Xを捜査車両に乗せて殺害現場・着替えのシャツなどを購入したディスカウント店などを回ったほか、Xには遺体を車で運んだ際の行動を再現させて捜査員がその模様の写真を撮影した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-09"/>。この時点で3人全員が容疑を認めてはいたが各々の供述に矛盾があったため、特捜本部は翌9月9日以降も同様にK・堀両被疑者をそれぞれ別々に立ち会わせて裏付け捜査を進めた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-09"/>。

愛知県警特捜本部は事件発生から1か月となる2007年9月24日、被疑者堀を拉致現場などに立ち会わせて実況見分を行い、堀が被害者Aを視認した千種区の千種署自由ケ丘交番付近 - 拉致現場とされる春里町2丁目(A宅から数十メートル)・愛西市の殺害現場への経路などを確認した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-25">『朝日新聞』2007年9月25日朝刊第二社会面30頁「容疑者立ち会わせ実況見分 拉致殺害事件、1カ月 【名古屋】」</ref>。特捜本部は25日以降もK・X両被疑者をそれぞれ別々に現場に立ち会わせた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-25"/>。

=== 本事件前共犯者の刑事裁判 ===
本事件前日にXと共謀して事務所荒らしをした男Vは建造物侵入・窃盗未遂の罪に問われ、2007年10月15日に被告人Vの初公判が名古屋地裁で開かれた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-10-15">『朝日新聞』2007年10月15日夕刊第一社会面11頁「事務所荒らしの起訴事実認める 拉致『第4の男』初公判【名古屋】」</ref>。罪状認否でVは起訴事実を「間違いありません」と認め<ref group="報道" name="朝日新聞2007-10-15"/>、その後行われた被告人質問では「闇サイトで3人と知り合い強盗殺人の計画を話し合ったが、『人を殺すのは嫌だ』と思い計画から抜けた」と述べた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-11-13"/>。また「被告人V自身の対応次第では、その後Xらが起こした拉致・殺害事件を防ぐことはできたのではないか?」という質問に対しては「(当時はXらが)そんな事件を起こすとは思っていなかった」と述べた<ref group="報道" name="毎日新聞2007-11-13"/>。

論告求刑前に名古屋地検は<ref group="報道" name="朝日新聞2007-11-13"/>別の強盗予備罪についても被告人Vを追起訴し<ref group="報道" name="朝日新聞2007-11-13"/>、Vが薬局襲撃を計画していた同事件を含めて審理した<ref group="報道" name="毎日新聞2007-11-13"/>

2007年11月12日に論告求刑公判が開かれ、検察側(名古屋地検)は被告人Vに懲役2年を求刑した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-11-13">『朝日新聞』2007年11月13日朝刊第三社会面25頁「『第4の男』に懲役2年求刑 名古屋・女性拉致殺人関連【名古屋】」</ref><ref group="報道" name="毎日新聞2007-11-13">『毎日新聞』2007年11月13日中部朝刊社会面29頁「事務所荒らし:愛知・女性拉致殺害の被告と建造物侵入、被告に懲役2年求刑 名地裁」(記者:岡崎大輔)</ref>。検察側は論告で「犯行は計画的で刑事責任は軽くない。いずれも未遂だが多大な被害が生じた可能性は高い」と主張した一方<ref group="報道" name="毎日新聞2007-11-13"/>、弁護人側は「犯行直後に自首しており現在は反省している」と主張して執行猶予付きの判決を求めた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-11-13"/>。

2007年11月20日に判決公判が開かれ、名古屋地裁(寺沢真由美裁判官)は被告人Vに懲役2年・[[執行猶予]]3年(求刑:懲役2年)の判決を言い渡した<ref group="報道" name="毎日新聞2007-11-21">『毎日新聞』2007年11月21日中部朝刊社会面23頁「事務所荒らし:『闇サイト』被告と共謀、被告に有罪判決 名地裁」(記者:岡崎大輔)</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2007-11-21">『朝日新聞』2007年11月21日朝刊第一社会面27頁「事務所荒らし、男に有罪判決 名古屋・千種、強殺被告と犯行【名古屋】」</ref>。名古屋地裁は判決理由で量刑理由について以下のように述べた。
* 「闇サイトを利用して安易に金を得ようとした」<ref group="報道" name="毎日新聞2007-11-21"/>
* 「手段を選ばず金を奪う強い執着があり、積極的に犯行に及んだが、自首後は捜査に協力した」<ref group="報道" name="朝日新聞2007-11-21"/>


== 刑事裁判 ==
== 刑事裁判 ==
=== 起訴 ===
[[名古屋地方検察庁]]は2007年9月14日にK・堀・Xの被疑者3人をいずれも当初の逮捕容疑である死体遺棄罪で[[名古屋地方裁判所]]に[[起訴]]した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-15">『朝日新聞』2007年9月15日朝刊第一社会面35頁「首謀、ともに否定 強殺容疑などで3人を再逮捕 名古屋・女性拉致殺害【名古屋】」</ref>。また同日に愛知県警特捜本部は被疑者・被告人3人を[[強盗致死傷罪|強盗殺人]]・[[略取・誘拐罪|営利目的略取]]・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁]]の各容疑で再逮捕したが<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-15"/><ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15">『中日新聞』2007年9月15日朝刊第一社会面37頁「女性拉致殺人 『謝罪の気持ちない』 愛知県警 強殺で3容疑者再逮捕」</ref>、3人ともこの時点で「反省はしていない」「謝罪する気持ちはない」などと供述していた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-15"/>。また同日までの取り調べに対し被疑者3人はそれぞれ「犯行当日の謀議で女性を拉致・殺害することを決めた」と認めた一方、Kは「自分が堀・X・Vの謀議に加わった際には既に強盗殺人をすることが決まっていた」と供述したほか、Xも「当初は殺すことまでは想定していなかった」などと供述し、それぞれ殺害について主導的な役割を果たしたことを否認した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-15"/>。

名古屋地検は2007年10月5日付でK・堀・Xの3被告人を営利略取・逮捕監禁・強盗殺人の各罪状でいずれも名古屋地裁へ追起訴した<ref group="報道" name="中日新聞2007-10-06">『中日新聞』2007年10月6日朝刊第一社会面35頁「Aさんを執拗に脅迫 名古屋拉致殺害の3被告 強殺などで追起訴」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2007-10-06">『朝日新聞』2007年10月6日朝刊第一社会面27頁「女性拉致3被告、強盗殺人罪で追起訴 名古屋 【名古屋】」</ref>。またXについては逮捕後に被害者遺族から強盗強姦未遂罪で告訴されていたため「事実が認定できる証拠がある」として同日付でさらに同罪でも追起訴した<ref group="報道" name="中日新聞2007-10-06"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-10-06"/>。

=== 公判前整理手続 ===
=== 公判前整理手続 ===
[[名古屋地方裁判所]]刑事第6部([[近藤宏子]]裁判長){{Efn2|name="刑事第6部"|近藤は2007年4月以降、名古屋地裁刑事第6部で[[判事#部総括判事|部総括判事]]([[合議審|合議体]]の裁判長)を務めていた<ref name="毎日新聞2009-03-18"/>(2010年3月31日まで)<ref>{{Cite web|url=https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge1137/|title=近藤 宏子 <nowiki>|</nowiki> 裁判官|accessdate=2021-03-17|publisher=[[新日本法規出版]]|website=新日本法規WEBサイト|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210317125542/https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge1137/|archivedate=2021-03-17}}</ref>。裁判所ウェブサイト (2009) によれば、2008年12月1日時点では近藤と野口卓志・酒井孝之の各裁判官が「名古屋地方裁判所刑事第6部イ」合議係を担当していた<ref>{{Cite web|url=http://www.courts.go.jp/nagoya/saiban/tanto/tisai_tanto.html|title=名古屋地方裁判所 担当裁判官一覧(平成20年12月1日現在)|accessdate=2021-03-19|publisher=最高裁判所|date=2008-12-01|website=裁判所|quote=名古屋地方裁判所刑事第6部イ 合議係 近藤宏子,野口卓志,酒井孝之|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20090302151720/http://www.courts.go.jp/nagoya/saiban/tanto/tisai_tanto.html|archivedate=2009-03-02|deadlinkdate=2021-03-19}}</ref>。}}<ref name="毎日新聞2009-03-18">『毎日新聞』2009年3月18日中部夕刊社会面7頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人、2被告死刑 母、遺影を胸に涙」(毎日新聞中部本社 記者:飯田和樹、福島祥、中村かさね、木村文彦)</ref>における3[[被告人]]の第1回[[公判前整理手続]]は、2007年12月27日に開かれた<ref>『中日新聞』2007年12月27日夕刊第一社会面13頁「3被告 罪状認否せず 千種・拉致殺害 公判前整理手続き開始」(中日新聞社)</ref>。その後、2008年(平成20年)3月11日(第2回) - 9月22日(第8回)にかけて手続が行われ{{Efn2|第7回手続<ref name="公判について"/>(2008年7月31日)で初[[公判]]の期日が指定され<ref>『中日新聞』2008年8月1日朝刊第二社会面34頁「千種の拉致殺害 来月25日初公判」(中日新聞社)</ref>、最後の第8回手続<ref name="公判について"/>(9月22日)で公判(全18回)の詳細な日程が決められた<ref>『中日新聞』2008年9月23日朝刊第三社会面25頁「判決は3月18日 千種区の拉致殺害」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="公判について">{{Cite web|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page006.html|title=公判について|accessdate=2021-03-15|publisher=被害者Aの遺族によるウェブページ|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200224115718/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page006.html|archivedate=2020-02-24}}</ref>、争点は3被告人の共謀が成立した時期などに絞られた<ref name="中日新聞2008-09-25"/>。
[[名古屋地方裁判所]]([[近藤宏子]]裁判長)は2007年11月13日までに「3[[被告人]]の第1回[[公判前整理手続]]を2007年12月27日に開く」と決めた<ref group="報道">『中日新聞』2007年11月14日朝刊第二社会面28頁「千種拉致殺害 来月27日3被告の公判前整理手続き」</ref>。


2007年12月27日に公判前整理手続1回協議名古屋地裁(近藤宏子裁判長)た<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26">『中日新聞』20071226刊第社会面27頁「千種の女性拉致殺害 K、X両被告が罪状認める意向 あす公判前整理手続き」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2007-12-27">『中日新聞』2007年12月27日夕刊第一社会面13頁「3被告 罪状認否せず 千種・拉致殺害」</ref>。
公判前整理手続を行わない場合、起訴 - 初公判の期間は3週間 - 1か月半とされる、本事件は起訴ら初公判まで約1年を要しため<ref name="中日新聞2008-09-25 夕刊">『中日新聞』2008925刊第社会面10頁「千種拉致殺害 被害者 被告とも苦悩 長引いた公判前手続き」(中日新聞社)</ref>、被害者Aの母親Bは、手続き中の2008年3月3日に当時の[[鳩山邦夫]][[法務大臣]]へ、公判の早期開始などを訴える手紙を郵送した([[#被害者遺族の活動|後述]])<ref name="中日新聞2008-03-04"/>。
それまでの愛知県警・名古屋地検などによる取り調べ段階では被告人3人とも殺害の実行行為に加わったことを大筋で認めたが「事件を主導したのは誰か?」という点については言い分が異なっていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26"/>。被告人3人のうち堀が認否を明らかにしなかった一方でK・X両被告人は起訴事実を認める意向を示していたが<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-26"/>、同日の協議には3被告人全員が出席したものの起訴事実の認否は行われず約30分で「今後の協議日程・争点を明らかにするための証拠」などについて話し合われた<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-27"/>。


一方、KTは起訴後、精神不安から体調を崩し、自室で[[縊死|首吊り]][[自殺]]を図ったほか、「山下」も体調を崩し、精神安定剤を必要とするようになった<ref name="中日新聞2008-09-25 夕刊"/>。
以降「2008年3月11日に第2回・2008年4月14日に第3回・2008年5月13日に第4回・2008年6月3日に第5回・2008年6月30日に第6回・2008年7月31日に第7回・2008年9月22日に第8回」と<ref name="公判について">{{Cite web|title=第1回公判の概要(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page006.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-09-25|language=ja|accessdate=2018-01-26|archivedate=2018-01-26|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125143909/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page006.html}}</ref>、公判前整理手続が計8回行われ「どの証拠・証人を[[証拠調べ|調べる]]か・争点の絞り込み」などを続けてきた<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-朝刊 no.1">『中日新聞』2008年9月24日朝刊第一社会面27頁「千種・拉致殺害 あす初公判」</ref>。


=== 第一審 ===
2008年7月31日、名古屋地裁で行われた第7回公判前整理手続にて協議による調整の結果、K・堀・Xの3被告人の初公判を2008年9月25日に開くことが決定した<ref group="報道" name="中日新聞2008-08-01">『中日新聞』2008年8月1日朝刊第二社会面34頁「千種の拉致殺害 来月25日初公判」</ref><ref name="初公判決定">{{Cite web|title=初公判決定のご挨拶|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page013.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-09-25|language=ja|accessdate=2018-01-26|archivedate=2018-01-26|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180126183833/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page013.html}}</ref><ref name="初公判決定PDF">{{Cite web|title=初公判の日が決定しました!|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/080731.pdf|format=PDF|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-09-25|language=ja|accessdate=2018-01-28|archivedate=2018-01-28|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180128133303/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/080731.pdf}}</ref>。2008年9月22日の第8回公判前整理手続で「2008年9月25日に初公判を開き、計18回の公判で証人尋問・被告人質問など[[証拠調べ]]を行った上で、翌2009年1月20日に[[論告]][[求刑]]公判・同年3月18日に判決公判を開く」と具体的な公判日程が指定された<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-23">『中日新聞』2008年9月23日朝刊第三社会面25頁「判決は来年3月18日 千種区の拉致殺害」</ref>。
{{See also|永山基準#被害者1人で死刑が確定した事例}}
本事件の刑事裁判では、殺害された被害者が1人の事件であることから、被告人3人に死刑を適用することが妥当か否かが焦点となった<ref>『中日新聞』2009年3月18日朝刊第二社会面30頁「被害者1人の死刑焦点 千種拉致殺害 名古屋地裁」(中日新聞社)</ref>。


[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]が1983年(昭和58年)7月に[[永山則夫連続射殺事件|連続4人射殺事件]]の上告審判決で示した死刑選択基準「'''[[永山基準]]'''」では<ref>『毎日新聞』2009年3月16日中部朝刊社会面22頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/下 被告の父も「極刑相当」」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、'''結果の重大性ことに殺害された被害者の数'''、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、[[前科]]、犯行後の情状」といった事情を総合的に考慮し、「'''その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される'''」と判示されている<ref name="永山基準">{{Cite 判例検索システム|法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二小法廷|裁判種別=判決|事件番号=昭和56年(あ)第1505号|事件名=窃盗、殺人、強盗殺人、同未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件|裁判年月日=[[1983年]](昭和58年)7月8日|判例集=『最高裁判所刑事判例集』(刑集)第37巻6号609頁|判示事項=一・死刑選択の許される基準 二・無期懲役を言い渡した控訴審判決が検察官の上告により量刑不当として破棄された事例|裁判要旨=一・死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であつて、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される。二・先の犯行の発覚をおそれ、あるいは金品の強取するため、残虐、執拗あるいは冷酷な方法で、次々に四人を射殺し、遺族の被害感情も深刻である等の不利な情状(判文参照)のある本件においては、犯行時の年齢(一九歳余)、不遇な生育歴、犯行後の獄中結婚、被害の一部弁償等の有利な情状を考慮しても、第一審の死刑判決を破棄して被告人を無期懲役に処した原判決は、甚だしく刑の量定を誤つたものとして破棄を免れない。|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50235|ref=}} - 「'''[[永山基準]]'''」を示した[[永山則夫連続射殺事件|連続4人射殺事件]]の最高裁判決
=== 第一審・名古屋地裁 ===
* 判決内容:控訴審判決(無期懲役)を破棄し、審理を東京高等裁判所へ差し戻し
==== 初公判 ====
* [[最高裁判所裁判官]]:[[大橋進 (法曹)|大橋進]]([[裁判長]])・[[木下忠良]]・[[塩野宜慶]]・[[宮崎梧一]]・[[牧圭次]]
[[2008年]](平成20年)9月24日に名古屋地裁(近藤宏子裁判長)で被告人3人(K・堀・X)の初[[公判]]が開かれた<ref name="第1回公判">{{Cite web|title=第1回公判の概要(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page014.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-09-25|language=ja|accessdate=2018-01-26|archivedate=2018-01-26|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180126184325/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page014.html}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊1面">『中日新聞』2008年9月25日夕刊1面1頁「千種拉致殺害 3被告 起訴事実認める 名地裁初公判 細部では争う姿勢」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊10面">『中日新聞』2008年9月25日夕刊第二社会面10頁「千種拉致殺害 被害者 被告とも苦悩 長引いた公判前手続き」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊11面">『中日新聞』2008年9月25日夕刊第一社会面11頁「千種拉致殺害 闇サイト 悪意つなぐ 見知らぬ3人結託 冒頭陳述『誰でもいい』凶行 罪なすり付け合い」</ref>。名古屋地検(検察側)は冒頭陳述で「被告人3人が携帯電話でインターネット上の闇サイトに頻繁にアクセスして知り合った」とされる状況を指摘するとともに「Xは[[保険金詐欺]]・Kは虚偽の[[養子縁組]]などそれぞれ違法行為を計画したが、いずれも失敗に終わった。その上で被告人3人はファミリーレストランで犯行の謀議をして『OL風の女性を拉致して金を奪い殺す』などといった具体的な犯行計画を練るなど共謀を図った」と指摘した<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊1面"/>。
* [[被告人]]:[[永山則夫]]</ref>。同判決では、「ことに」と強調した上で被害者数に言及しているため、同判決後の刑事裁判では殺害された被害者が1人の場合、大半で懲役刑が選択されていた<ref name="法学セミナー">{{Cite journal|和書|journal=[[法学セミナー]]|title=ロー・フォーラム 裁判と争点 被害者1人、異例の死刑判決 闇サイト殺人で名古屋地裁|page=139|date=2009-06-01|url=https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/5038.html|issue=654|publisher=[[日本評論社]]}}</ref>。


[[司法研修所]]の報告 (2012) によれば、1970年度(昭和45年度)以降に判決が宣告され、1980年度(昭和55年度) - 2009年度(平成21年度)の30年間に死刑か無期懲役が確定した死刑求刑事件(全346件)について調査したところ、'''死刑宣告に当たっては被害者の数が最も大きな要素となっている'''ことが報告されている{{Sfn|司法研修所|2012|pp=108-109}}。先述した346件のうち、'''死亡した被害者が1人で死刑が求刑された事件は100件'''(殺人48件+強盗殺人52件)であるが、うち'''死刑確定は32件'''('''全体の32%'''/殺人で18人〈38%〉・強盗殺人で14人〈27%〉)となっている{{Sfn|司法研修所|2012|p=109}}。その内訳は、'''事前に被害者を殺害することを計画した上で実行した事例'''([[身代金]]目的の[[誘拐]]殺人{{Efn2|name="身代金目的誘拐殺人"|例:[[名古屋市女子大生誘拐殺人事件]]<ref>『中日新聞』1987年7月9日夕刊一面1頁「木村の死刑確定 最高裁が上告棄却 ○○さん誘拐殺人 『冷酷、同情の余地なし』」(中日新聞社) - [[名古屋市女子大生誘拐殺人事件]]の関連記事。同事件の死刑囚(1995年に死刑執行)は生前、実名で著書『本当の自分を生きたい。』(インパクト出版会)を発刊している。</ref>・日立女子中学生誘拐殺人事件<ref>{{Cite news|title=中学生誘拐殺人のW死刑囚が死亡 東京拘置所|newspaper=日本経済新聞|date=2013-06-24|url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2400Z_U3A620C1CC0000/|publisher=日本経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200827140503/https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2400Z_U3A620C1CC0000/|archivedate=2020年8月27日}}</ref>・[[泰州くん誘拐殺人事件]]<ref>『中日新聞』1998年11月19日夕刊一面1頁「3死刑囚の刑を執行 名古屋拘置所 ××(日建土木保険金殺人事件の死刑囚の実名)死刑囚ら 氏名除き初公表」(中日新聞社)</ref>など。}}および[[保険金殺人]]、'''高度な計画性を有する強盗殺人'''{{Efn2|例:[[東村山署警察官殺害事件]](1976年)<ref>『読売新聞』1995年5月27日東京朝刊一面1頁「東京と大阪の拘置所で3人の死刑執行 東京・深川の男児誘拐殺人犯ら」(読売新聞東京本社) - [[東村山署警察官殺害事件]](1976年)の死刑囚が刑を執行されたことを伝える記事。</ref>・[[北九州市病院長殺害事件]](1979年)など<ref>『朝日新聞』1996年7月12日西部朝刊第14版第二社会面26頁「病院長殺人事件 2人の死刑執行 関係者等胸中複雑 一人の死に報い重すぎる/残忍、同情の余地なし」(朝日新聞西部本社) - [[北九州市病院長殺害事件]](1979年)の関連記事。</ref>。}}){{Efn2|これら以外の事例として、殺害された被害者数が1人でも、殺害行為の高度な計画性が重視されて死刑を適用された事例として、[[JT女性社員逆恨み殺人事件]]がある{{Sfn|司法研修所|2012|pp=112-113}}。}}や、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した事例{{Efn2|司法研修所 (2012) によれば、調査対象になった事件のうち、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した10件(殺人5件+強盗殺人5件)はいずれも死刑が確定している{{Sfn|司法研修所|2012|pp=110, 113}}。殺人事件としては[[東京都北区幼女殺害事件]](1979年)<ref name="読売新聞1999-09-10">『読売新聞』1999年9月10日東京夕刊一面1頁「東京、福岡、仙台で3人に死刑執行」(読売新聞東京本社)</ref>・川口バラバラ殺人事件{{Sfn|読売新聞社会部|2009|p=165}}(1999年)など。強盗殺人事件では[[福岡県直方市強盗殺人事件]](1980年)<ref>『読売新聞』1990年12月15日東京朝刊第一社会面31頁「最高裁が死刑判決文に誤記 犯行間隔を1年違い 異例の『訂正判決』へ」(読売新聞東京本社)</ref>・[[福島女性飲食店経営者殺害事件]](1990年)<ref name="読売新聞1999-09-10"/>・[[福山市独居老婦人殺害事件]](1992年)など<ref>『読売新聞』2009年3月3日東京朝刊第二社会面34頁「[死刑]選択の重さ(6)極刑抑制の流れ変わる」(読売新聞東京本社)</ref>がある。}}などがある{{Efn2|その他の事例では、わいせつ・姦淫目的の[[誘拐]]殺人3件([[群馬女子高生誘拐殺人事件]]・[[奈良小1女児殺害事件]]<ref name="江東a">{{Cite news|title=江東マンション神隠し殺人事件 【神隠し公判】姦淫の有無は量刑に影響しない 検察側論告(6) (2/4ページ)|newspaper=[[MSN]][[産経新聞|産経ニュース]]|date=2009-01-26|url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n2.htm|publisher=産業経済新聞社|language=ja|page=2|archiveurl=http://web.archive.org/web/20090129051130/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n2.htm|archivedate=2009年2月10日}} - [[江東マンション神隠し殺人事件]](2009年に無期懲役が確定)の論告求刑公判で、検察官が被告人に死刑を求刑した際の論告要旨の一部。</ref><ref name="江東c"/>・[[三島女子短大生焼殺事件]]<ref name="江東b">{{Cite news|title=江東マンション神隠し殺人事件 【神隠し公判】姦淫の有無は量刑に影響しない 検察側論告(6) (3/4ページ)|newspaper=MSN産経ニュース|date=2009-01-26|url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n3.htm|publisher=産業経済新聞社|language=ja|page=3|archiveurl=http://web.archive.org/web/20090129051130/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261552021-n3.htm|archivedate=2009年2月10日}}</ref><ref name="江東c">{{Cite news|title=江東マンション神隠し殺人事件 【神隠し公判】「自身の生命で罪を償わせるべき」 検察側論告(7完) (1/3ページ)|newspaper=MSN産経ニュース|date=2009-01-26|url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261555022-n1.htm|publisher=産業経済新聞社|language=ja|page=1|archiveurl=http://web.archive.org/web/20090210141740/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090126/trl0901261555022-n1.htm|archivedate=2009年2月10日}}</ref>)などがある。}}{{Sfn|司法研修所|2012|pp=110-115}}。また、「(被害者1人の)強盗殺人事件の場合は死刑選択に当たり、当初から被害者の殺害を計画・決意していたことに加え、犯行動機、具体的な犯行の計画性の程度、犯行の社会的影響、被告人の前科・余罪などといった犯情・一般情状などを総合して判断されているようだ」と報告されている{{Sfn|司法研修所|2012|p=115}}。
続いて3被告人の[[弁護人]]もそれぞれ冒頭陳述を行い「ファミリーレストランでは殺害までの具体的な犯行計画は練っておらず、この時点では共謀は成立していない」と反論し、共謀が成立した時期などについてそれぞれ以下のように主張した<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊1面"/>。
* 被告人Kの弁護人 - 「ファミリーレストランを出て車に乗り込んだ時点」<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊1面"/>
* 被告人・堀の弁護人 - 「殺害現場で被害者Aからキャッシュカードの暗証番号を聞き出した時点で殺すことに同意した」<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊1面"/>
* 被告人Xの弁護人 - 「殺害行為にはK・堀両被告人が被害者Aの首を絞めるなどしていたためやむを得ず加わった。犯行後に警察に自首したことで新たな犯行を防ぐことができた」<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊1面"/>
罪状認否では被告人3人とも被害者Aの殺害自体は認めたが、それぞれ以下のように自身の刑事責任を一部否定する主張をした<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊11面"/>。
* 被告人K - 「共犯者が違う供述をしている」<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊11面"/>
* 被告人・堀 - 「被害者に手錠はかけていない」<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊11面"/>
* 被告人X - 「殺害方法の順序が違う」<ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-09-24-夕刊11面"/>、


==== 証拠調べ ====
==== 初公判から ====
3被告人の初公判は、名古屋地裁刑事第6部(近藤宏子裁判長)<ref group="注" name="刑事第6部" />で2008年9月25日に開かれた<ref name="中日新聞2008-09-25">『中日新聞』2008年9月25日夕刊一面1頁「千種拉致殺害 3被告 起訴事実認める 名地裁初公判 細部では争う姿勢」(中日新聞社)</ref>。3被告人とも、起訴事実のうち被害者Aの殺害については認めた<ref name="中日新聞2008-09-25"/>一方、「殺害を主導したのは自分ではない」<ref name="読売新聞2008-09-26 一面"/>「殺害の計画性はない」と主張<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>。以下のように争った。
===== 証人尋問 =====
{| class="wikitable" style="width:90%;font-size:90%"
2008年10月10日に第2回公判(証人尋問)が開かれ<ref group="報道" name="中日新聞2008-10-10">『中日新聞』2008年10月10日朝刊第二社会面34頁「ニュース前線 千種闇サイト殺人 命賭しうその暗証番号 『母に家を』 夢守る Aさん、内緒で預金」</ref><ref group="報道" name="毎日新聞2008-10-11">『毎日新聞』2008年10月10日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 『計画で殺人の可能性感じた』 公判証言」(記者:秋山信一)</ref><ref group="報道" name="時事通信2008-10-10">{{Cite news|title=「殺して捨てよう」と方針転換=直前まで一緒の男性証言-名古屋地裁|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page015.html|newspaper=時事通信(被害者遺族運営のホームページ)|publisher=時事通信社|date=2008-10-10|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163156/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page015.html}}</ref>、同日の公判では事件直前まで3人と行動を共にしていた男性V(執行猶予付き有罪判決が確定)が出廷し<ref group="報道" name="毎日新聞2008-10-11"/>、検察・弁護人側双方の証人として証言した<ref group="報道" name="時事通信2008-10-10"/>。
|+争点表
* 証人Vは「事件の3日前(8月21日)に堀・X両被告人と初めて顔を合わせたが、その時は『一緒に強盗しよう』と話をしただけで、殺害・女性拉致などに関連する話は全く出ていなかった。翌日(事件2日前の8月22日)に打ち合わせの場に戻るとKも新たに加わっていて、Kは『顔を見られてやばくなるくらいなら、殺して海に捨てよう』などと持ち掛けてきた。Kが主導権を握っているような感じだった」と証言した<ref group="報道" name="時事通信2008-10-10"/>。
!
* またこの際になされたとされる「殺害の提案」についてK・堀・Xの被告人は「冗談交じりで発言した」「見栄を張った」と主張したが、証人Vは「22日に4人で会った時『人を殺すかもしれない』と感じて『計画から外れよう』と思った」と証言した<ref group="報道" name="毎日新聞2008-10-11"/>。
!検察官の主張
第3回公判(2008年10月14日)でも引き続き証人尋問が行われ、K・堀両被告人それぞれの弁護人から反対尋問が行われた<ref>{{Cite web|title=第3回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page016.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-10-14|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163217/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page016.html}}</ref>。
!KT(および弁護人)の主張
!堀側の主張
!「山下」側の主張
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!罪状認否<ref name="毎日新聞2008-09-25"/>
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|詳細が一部異なる<ref name="毎日新聞2008-09-25">『毎日新聞』2008年9月25日中部夕刊政治面1頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人、初公判 3被告、起訴事実認める」(毎日新聞中部本社 記者:式守克史、秋山信一)</ref>
|「Aに手錠をかけた」という点は事実ではない<ref name="毎日新聞2008-09-25"/>
|殺害方法の順番が異なる<ref name="毎日新聞2008-09-25"/>
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!計画性
|{{nowrap|3被告人の間で、'''事前に殺害に関する合意があった'''<ref>『毎日新聞』2009年3月17日東京夕刊社会面8頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 死刑、適否どう判断 3被告あす判決」([[毎日新聞東京本社]] 記者:秋山信一)</ref>。}}<br/>周到な計画性まではなかったが、元から無差別に通りがかりの女性を狙うことを決めており、刑事責任を軽くする要因にはならない<ref name="朝日新聞2009-03-17">『朝日新聞』2009年3月17日名古屋朝刊第二社会面34頁「計画性・役割どう判断 死刑か回避か焦点 闇サイト殺人、あす判決 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社 記者:岩波精)</ref>。
| colspan="3" |虚勢を張り合う中で起きた<ref group="注" name="エスカレート"/>'''偶発的な犯行'''であり、殺害方法や場所も決めていなかった。'''計画性は認められない'''<ref>『読売新聞』2009年3月16日中部朝刊社会面31頁「3被告死刑求刑の闇サイト殺人、18日判決 「被害者1人」どう判断=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。
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!強盗殺人などの{{nowrap|共謀の成立時期}}<ref name="読売新聞2008-09-26 一面">『読売新聞』2008年9月26日中部朝刊一面1頁「闇サイト殺人初公判 3被告、罪状認める 関与の度合い争う=中部」(読売新聞中部支社)</ref>
|事件当日15時ごろ{{Efn2|同日、検察官は共謀時期について、公判前整理手続きでは行っていなかった主張(当日夜のレストランで共謀が成立したとする旨)を行ったが、弁護人および近藤裁判長から指摘を受け、撤回した<ref name="読売新聞2008-09-26"/>。}}<ref name="読売新聞2008-09-26">『読売新聞』2008年9月26日中部朝刊社会面35頁「闇サイト殺人検察冒陳 「死にたくない」哀願無視 残忍な経緯、明らかに=中部」(読売新聞中部支社)</ref>、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に堀と「山下」が賛同した時点<ref name="検察側冒頭陳述要旨"/>
|共謀の成立 - ファミリーレストランを出て車に乗り込んだ時<ref name="闇サイト冒頭陳述" />。(堀からハンマーを見せられ「顔を見られたら殺すのか」と発言したのは)冗談交じりの発言に過ぎない<ref name="毎日新聞2008-09-25 社会">『毎日新聞』2008年9月25日中部夕刊社会面9頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人初公判 虚勢張り計画増長 3被告、互いに前歴語り」(毎日新聞中部本社)</ref>。'''当初は強盗殺人までは考えていなかった'''が、2人が殺人まで考えていると聞き、「強盗の誘いを断れば、自分が襲われる」と思い、承諾したような返事をした<ref name="中日新聞2008-11-20">『中日新聞』2008年11月20日朝刊第一社会面31頁「強殺 当初考えず KT被告が主張 千種拉致殺害公判」(中日新聞社)</ref>。<br/>殺意 - 確定的ではなく、最悪を想定した未必的なもの。金槌による殴打は確実に殺害するためではなく、Aが長い間苦しまないようにするため<ref name="闇サイト冒頭陳述"/>
|'''殺害現場で共謀が成立'''した<ref name="闇サイト冒頭陳述" />。(左のKTの発言に対し)「そうですね」と応じたのは、その場限りでの発言だ<ref name="毎日新聞2008-09-25 社会"/>。
|(左のKTの発言に対し)「仕方ないでしょう」と応じたのは見栄を張るためで、当時は殺人まで犯すつもりはなかった<ref name="毎日新聞2008-09-25 社会" />。
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! rowspan="2" |犯行への{{nowrap|関与の程度}}<ref name="読売新聞2008-09-26 一面" />
| rowspan="2" |特定の誰かが主導したわけではなく、3人がいずれも重要な役割を果たしており<ref name="読売新聞2008-09-26 2" />、'''刑事責任は同等'''<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>。
| colspan="2" |Aの首を絞めていた時点で、「山下」は運転席にいた<ref name="毎日新聞2008-12-04"/>。
| rowspan="2" |首謀者は『闇の職安」で呼びかけた自分だが、3人は同格<ref name="毎日新聞2009-01-20" />。主犯はKT<ref name="中日新聞2008-12-12"/>で、'''KTと堀の責任は自分より重い'''<ref name="読売新聞2008-12-12">『読売新聞』2008年12月12日中部朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 被告「お気の毒」 被害者への反省の言葉なし 名古屋地裁=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。<br />(殺害行為には)KTと堀がAの首を絞めるなど殺害行為をしていたため、やむを得ず加わった<ref name="闇サイト冒頭陳述" />が、それまでは車の外にいた<ref name="毎日新聞2008-12-04">『毎日新聞』2008年12月4日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:公判で3被告、証言食い違い--名古屋地裁」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。
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|分け前は平等で、(自分たち3人は)同格だった<ref name="毎日新聞2009-01-20"/><br/>堀がAから暗証番号を聞き出した後、「もうやっちゃいましょうか』と自分に殺害を提案してきたが、「まだ暗証番号が本当なのかわからない」と思い、首を絞めて失神させようとした<ref name="毎日新聞2008-12-02">『毎日新聞』2008年12月2日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:暗証番号確認後、堀被告が殺害を提案--名古屋地裁」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。しかし「山下」がAを襲い、騒がれる恐れがあったため、殺害せざるを得なくなった<ref name="読売新聞2008-09-26 2">『読売新聞』2008年9月26日中部朝刊社会面35頁「闇サイト殺人公判 「責任の差」焦点(解説)=中部」(読売新聞中部支社 記者:松田晋一郎)</ref>。
|KTが犯行を主導していた<ref name="毎日新聞2009-01-20"/><br/>KTから「素手で殺害する」と言われ、犯行への加担を決意した<ref name="読売新聞2008-09-26 2" />が、それまでは拉致して金を奪うことはともかく、「殺す」という話は出ていなかったし、殺害を提案された際には疑問を感じたが、反対はしなかった<ref name="毎日新聞2008-12-04"/>。
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!量刑判断における{{nowrap|被告人側の事情}}<ref name="読売新聞2008-09-26 一面"/>
|預金の引き出しに失敗したことから、次の強盗殺人を計画するなど、犯罪性向と反社会性が根深い<ref name="毎日新聞2009-01-20">『毎日新聞』2009年1月20日中部夕刊社会面7頁「愛知・女性拉致殺害:3被告に死刑求刑 「無差別に拉致・殺害」--名地裁公判」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一、式守克史)</ref>。3被告人の刑事責任は同等で<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>、「山下」の自首も反省に基づくものではなく、刑の減軽には値しない<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。
|(弁護人)幼少期から安定した生活を送れず、社会への適応が困難だった<ref name="毎日新聞2009-02-03"/>。<br/>計画性がない点、被害者が2人である点や、殺害方法も(他の死刑事件と比較すると)残虐性が低い{{Efn2|KTの弁護人は「殺害方法は残虐だが、死に至らない被害者Aに恐怖感を覚えたためで、殺害は偶発的なものだ」と主張した<ref name="朝日新聞2009-02-03">『朝日新聞』2009年2月3日名古屋朝刊第二社会面22頁「闇サイト殺人、弁護側「死刑回避を」 名古屋地裁 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。}}点などに照らし、無期懲役か有期懲役が妥当だ<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。
|(本人)KTが30回以上、Aの頭部を殴打したのを見て「もういいんじゃないか」と言ったが、KTは殴るのをやめなかった<ref>『中日新聞』2008年12月6日朝刊第二社会面34頁「堀被告、涙声で供述 千種拉致殺害 公判で状況説明」(中日新聞社)</ref>。<br/>(弁護人)性格は柔和で犯罪性向は低く<ref name="毎日新聞2009-02-03"/>、犯行を深く反省している<ref name="毎日新聞2008-09-26"/>。矯正不可能とはいえず、生きて罪の償いをさせるべきだ<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。
|(弁護人)犯行は従属的<ref name="朝日新聞2009-02-03"/>。自首は事件直後、良心の呵責に耐えきれず行ったもので<ref name="中日新聞2009-02-03"/>、「山下」の自首によって捜査が容易になった<ref name="朝日新聞2009-02-03"/>。法廷での発言はともかく、心底では反省している<ref name="毎日新聞2009-02-03"/>。
|}
一方、第2回公判(2008年10月10日)および第4回公判<ref name="公判について"/>(2008年10月31日)に証人として出廷した「杉浦」は、「KTがグループに加わって以降、強盗殺人の話が出るようになった」と証言した<ref>『毎日新聞』2008年10月11日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 「計画で殺人の可能性感じた」--公判証言」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref><ref>『中日新聞』2008年10月31日夕刊第一社会面15頁「窃盗未遂の男 「KTが主導」 千種拉致公判」(中日新聞社)</ref>。


被告人3人は当初、いずれも被害者Aや遺族への謝罪の弁を述べず、KTは自身の交際相手に対し、Aを侮辱したり、事件を「仕事」と形容したりする内容の手紙を書いたが、その手紙についてKTは「犯行時の正直な気持ちを書くよう求められてそう書いた」と説明した<ref name="毎日新聞2008-12-20">『毎日新聞』2008年12月20日中部朝刊社会面27頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト公判 「嘘吐き」被害者中傷 被告が事件後、知人に手紙」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。また、第6回公判<ref name="公判について"/>(11月7日)で、「山下」はKT・堀の両被告人に対し、「(被告人としてこの場にいるのは)お前らのせいだ」と暴言を吐いたり<ref>『中日新聞』2008年11月8日朝刊第一社会面35頁「「山下」被告が暴言 千種拉致殺害公判」(中日新聞社)</ref><ref name="毎日新聞2009-03-14"/>、第14回公判(12月11日)の被告人質問{{Efn2|同日の被告人質問で、「山下」の弁護人は反省の言葉を引き出そうとしたが、「山下」は被害者への心境などについて「お気の毒。Aは運が悪かったから殺された」と<ref name="読売新聞2008-12-12"/>、反省の念について「申し訳ないことをしたという思いはあるが、遺族が納得できない謝罪は意味がない。死刑で構わないし、遺族に包丁で刺してもらってもいい」と発言した<ref name="中日新聞2008-12-12"/>。}}では検察官から「他人事のように聞こえる」と<ref name="読売新聞2008-12-12"/>、近藤裁判長からも「開き直っているのか」とたしなめられていた<ref name="中日新聞2008-12-12">『中日新聞』2008年12月12日朝刊第一社会面29頁「『死刑でも構わぬ』 千種拉致殺害公判 「山下」被告が供述」(中日新聞社)</ref>。また、堀は証言の際に涙を見せたが、近藤から「他人のせいばかりにして、本当に反省しているのですか」と厳しく問い質される場面があった<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。
続く第4回公判(2008年10月31日)では名古屋地検・弁護人・名古屋地裁の三者からそれぞれ最終的な尋問が行われ<ref name="第4回公判">{{Cite web|title=第4回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page017.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-10-31|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163233/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page017.html}}</ref>、証人Vは「グループ内部ではKが主導権を握っており、Kがグループに加わるまでは強盗殺人の話は出ていなかった」と改めて証言した<ref group="報道" name="中日新聞2008-10-31"/>。その上でVは「事件前に自身がXと2人だけで窃盗未遂事件を起こした点」について質問を受け「Kが自分に上から目線の話し方をしてくるなどの態度を取っており、それが気に入らなかった。『Kとは一緒に犯罪をしたくない』と思ったし、強盗殺人をするのも嫌だったからだ」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2008-10-31">『中日新聞』2008年10月31日夕刊第一社会面15頁「窃盗未遂の男 『Kが主導』 千種拉致公判」</ref>。


一方、第13回公判<ref name="公判について"/>(2008年12月8日)では、同日以前から3被告人への極刑適用を求めた[[署名]]運動を行っていたAの母親B([[#被害者遺族の活動|後述]])および、Aと交際していた男性Cが証人として出廷し、Bは「同種の犯罪を抑止するため、3人への[[日本における死刑|死刑]]を臨む」と陳述<ref name="中日新聞2008-12-09">『中日新聞』2008年12月9日朝刊第三社会面25頁「千種拉致殺害 『3被告に死刑を』 名地裁 初出廷の母ら証言 偽番号 『「憎むわ」の意味』」(中日新聞社)</ref>。また、BおよびCは、Aが3人に伝えた虚偽の暗証番号「2960」<ref group="注" name="2960への異論"/>の意味{{Efn2|Cは2007年9月24日、情状証人として名古屋地検から事情聴取を受けた際、担当検事から「2960」のことを聞き出し、「『2960』は『憎むわ』という意味だろう」と話した{{Sfn|大崎善生|2016|pp=317-318}}。名古屋地検はBに対し、公判までその意味を他言しないよう口止めしていた<ref name="毎日新聞2009-03-15"/>。}}について、「Aは生前、よく数字の語呂合わせをしていた。『憎むわ』の意味だと思う」と証言した<ref>『毎日新聞』2008年12月9日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:偽口座「2960」は「憎むわ」--母証言「娘が気持ち込めた」」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一、式守克史)</ref><ref name="中日新聞2008-12-09"/>。加えて、KTおよび「山下」の父親は、それぞれ息子に対する量刑について「被害者や遺族に申し訳ない。極刑が妥当」と述べた<ref name="毎日新聞2008-12-20"/><ref name="毎日新聞2008-12-12">『毎日新聞』2008年12月12日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:公判で自首の被告「死刑でもかまわない」--名古屋地裁」(毎日新聞中部本社 記者:式守克史、秋山信一)</ref>。
===== Xへの被告人質問 =====
第5回公判(2008年11月5日)は被告人Xの公判が分離して行われ<ref name="第4回公判"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-10-31"/>、証人尋問などが行われた<ref >{{Cite web|title=第5回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page018.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-11-05|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163231/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page018.html}}</ref>。同日は当時捜査を担当した愛知県警捜査一課の警部が「被告人Xとともに別の窃盗未遂容疑で起訴された証人Vがこの時点で既に逮捕されていたことなどを考慮すれば、仮に被告人Xが自ら警察に通報してこなかった場合でもK・堀・Xの3被告人が捜査線上に浮かび検挙することは可能だった」と証言した<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-06">『中日新聞』2008年11月6日朝刊第一社会面37頁「通報なし検挙 警察側『可能』 千種拉致殺害公判」</ref>。同日は被告人Xへの被告人質問も開始され<ref group="報道" name="読売新聞2008-11-06"/>、事件前の動向・殺害状況などが明らかになった<ref group="報道" name="毎日新聞2008-11-06"/>。
* 被告人Xは「犯行前は[[名古屋市営地下鉄東山線]]沿線の[[覚王山駅|覚王山]]・[[本山駅 (愛知県)|本山]]・[[一社駅|一社]]・[[本郷駅 (愛知県)|本郷]]各駅付近の高級住宅街でK・堀とともに通行人を物色し、帰宅途中の女性を執拗に狙った。ATMで金を下ろした女性などをほかにも15,16人車で追いかけたが周囲に人通りが多かったため手を出せず、本山駅近くで帰宅途中の被害者Aを襲撃した」などと明らかにした<ref group="報道" name="読売新聞2008-11-06">『読売新聞』2008年11月6日中部朝刊第二社会面34頁「名古屋の闇サイト殺人 『15人くらい追いかけた』 被告人質問で明かす=中部」</ref>。
* また被告人Xは「自分はK・堀とともに当初から『女性を拉致・監禁した上で金を奪って殺害する』計画を話していた」ことを明らかにした上で殺害時の様子も詳細に供述した<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-06"/>。被告人Xは暗証番号を被害者Aから聞き出した際の状況について「命を奪われてまで被害者Aが嘘をつくはずはないと思った」と述べたが、その暗証番号は虚偽だった<ref group="報道" name="毎日新聞2008-11-06">『毎日新聞』2008年11月6日中部朝刊社会面25頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人公判 殺害過程詳細に証言 被告人質問」(記者:秋山信一)</ref>。
第6回公判(2008年11月7日)でも前回に続き被告人Xへの被告人質問が行われた<ref name="第6回公判">{{Cite web|title=第6回公判の概要(闇サイト裁判で殺害現場は 「サスペンス劇場」)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page019.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ([[名古屋テレビ]]ニュース)|date=2008-11-07|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163323/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page019.html}}</ref>。被告人XはK・堀両被告人が殺害行為におよんでいた際に2人を傍観していたが<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-08">『中日新聞』2008年11月8日朝刊第一社会面35頁「X被告が暴言 千種拉致殺害公判」</ref>、その様子について以下のように述べた。
* 「サスペンス劇場や映画を見ているような感じだった。自分は見ているだけだった」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-11-08"/><ref group="報道" name="中日新聞2008-11-08"/><ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14">『毎日新聞』2009年3月14日中部朝刊社会面23頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/上 意思疎通なき寄せ集め集団」(記者:秋山信一)</ref><ref name="第6回公判"/>
* 「被告人Kはハンマーで被害者Aの頭を殴っているとき、笑みを浮かべていた」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-11-08"/>
* 「自分はいったん車外でたばこを吸っていたが、戻ってみるとK・堀両被告人が被害者Aの首を絞めていたので『あ、殺しちゃうんだな』と思った」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-11-08">『朝日新聞』2008年11月8日朝刊第二社会面34頁「『お前らのせいだ』被告が仲間なじる 闇サイト強殺公判【名古屋】」</ref>
* 「殺害を決めたのは自分ではない」<ref group="報道" name="読売新聞2008-11-08">『読売新聞』2008年11月8日中部朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人公判 名古屋地裁=中部」</ref>
なお被告人Xは被告人質問の途中で共に出廷していたK・堀両被告人に「こうやって雁首並べることになったのは、お前のせいだ」などと突然声を荒げた<ref group="報道" name="朝日新聞2008-11-08"/><ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14"/>。これに対し堀は下を向いた一方で被告人Kが被告人Xを睨み付けたため、Xは「がんをつけとんな」と畳みかけたが<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14"/>、その際には廷内が一時騒然となり<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-08"/>、裁判官が制止した<ref name="第6回公判"/>。また被告人Kは被告人Xの発言途中で体調を崩し退廷しようとしたが、その際に胸を押さえて床に倒れ込み刑務官に運び出された<ref group="報道" name="朝日新聞2008-11-08"/>。
第7回公判(2008年11月17日)では被告人Xに対し3被告人の各弁護人・検察官それぞれからの質問が行われ、Xへの被告人質問が終了したが、被告人Xは検察官から「自分の目の前で被害者Aが殺されるのを見てどう思ったか?」と質問されると「何も思いませんでした」と答えたため、被害者Aの母親は「前回の発言と合わせみて(Xには)『もはや人間性のかけらも残っていない』と感じた」と述べている<ref name="第7回公判">{{Cite web|title=第7回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page020.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-11-17|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163327/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page020.html}}</ref>。


また、検察官は[[裁判員制度]]{{Efn2|第一審判決後の2009年5月以降に起訴された事件が裁判員制度の対象。}}を意識した<ref name="朝日新聞2009-03-17"/>ほか、2008年12月に施行された[[被害者参加制度]]を先取りする形で{{Efn2|名古屋地検は、Aの母Bと連絡を取る担当検事を配置し、裁判記録の意味・公判前整理手続(非公開)の進捗状況について説明した<ref name="中日新聞2009-03-19 社会">『中日新聞』2009年3月19日朝刊第一社会面31頁「千種拉致殺害 “被害者参加”の実質的な訴訟に 母ら「無念さ言えた」」(中日新聞社)</ref>。B本人は「証人尋問や意見陳述で、無念の気持ちなど、伝えたいことを言えた」と、Bの代理人弁護士も「論告はBの心情を十分に汲み取った内容で、(本人が)被害者参加制度で訴訟に参加した場合と同等の効果があっただろう」と回顧している<ref name="中日新聞2009-03-19 社会"/>。}}<ref name="毎日新聞2009-03-15">『毎日新聞』2009年3月15日中部朝刊社会面25頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/中 被害者の「無念」代弁」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、法廷で被害者Aの写真を映し出す{{Efn2|名古屋地検が遺族に提案して行ったもので、同地検の次席検事・飯倉立也はその意図について「写真を用いることで、被害者の耳珠等・人となりをできるだけ正確に明らかにする狙いだった」と説明した<ref name="朝日新聞2009-01-26">『朝日新聞』2009年1月26日東京朝刊第一社会面31頁「(人を裁く 第4部 被害者の姿:1)無念「見せる」法廷に 生々しい再現、時に残虐」(朝日新聞東京本社 連載担当記者:市川美亜子、岩田清隆、岩波精、上野嘉之、大島大輔、[[河原理子]]、河原田慎一、中井大助、[[金井和之]]=[[ベルリン]]、真鍋弘樹=[[ニューヨーク]])</ref>。同時期に[[東京地方裁判所|東京地裁]]で審理が行われた[[江東マンション神隠し殺人事件]]の公判でも、被害者の遺族から要望を受けた[[東京地方検察庁|東京地検]]により、法廷のディスプレイに証拠(切断され、下水道に流された被害者の肉片・骨片の実物の写真)や、マネキンを用いた切断シーンの再現が映されたりした<ref name="朝日新聞2009-01-26"/>。}}など、視覚的に訴える立証に力を入れた<ref name="朝日新聞2009-03-17"/>。また、遺族が集めた極刑を求める署名(当時30万件以上)については、証拠採用はされなかったが、検察官が冒頭陳述・証人尋問・論告で繰り返しその存在について言及し、処罰感情の強さを強調した<ref name="朝日新聞2009-03-17"/>。
===== Kへの被告人質問 =====
第8回公判(2008年11月19日)より被告人Kへの被告人質問が開始され、被告人Kは以下のように証言した<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-20">『中日新聞』2008年11月20日朝刊第一社会面31頁「強殺、当初考えず K被告が主張 千種拉致殺害公判」</ref><ref name="第8回公判">{{Cite web|title=第8回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page021.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-11-19|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163328/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page021.html}}</ref>。
* 「堀・X両被告人と出会った直後に2人が既にハンマー・軍手などを用意していたのを見て『いきあたりばったりで人を殺そうとしているなんて…』と呆れた」<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-20"/>
* (2人が「殺人まで考えている」と聞き)「強盗の誘いを断ったら(自分が)襲われるかもしれないと思って承諾したような返事をした。当初は殺人の計画を考えていなかった」<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-20"/>
* (殺害時の状況について)「被告人Xが被害者Aを乱暴しようとして、被害者Aの様子がおかしくなったため殺害を決意した。堀と目配せをして自分が首を絞めた」<ref name="第8回公判"/>
* (堀・X両被告人と出会った闇サイト「闇の職安」について)「風俗関係の知人女性を希望者に紹介したり、事件の5年前から小遣い稼ぎに利用していた」<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-20"/>
第9回公判(2008年11月26日)でも引き続き被告人Kへの被告人質問が行われた<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-27">『中日新聞』2008年11月27日朝刊第一社会面35頁「『他にも2人埋めた』 千種拉致殺害 公判でK被告」</ref><ref name="第9回公判">{{Cite web|title=第9回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page022.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-11-26|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163331/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page022.html}}</ref>。
* 被告人・堀の弁護人が被告人Kに「堀・X両被告人と出会った当初、過去に人を殺したことがあったと話したか?」と質問したところ、被告人Kは「警察官には『2人ほど埋めたことがある』と話した」と答えた<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-27"/>。続いて「実際にやったのか?」と追及されると、Kは「はい」と答え「(その事件では)殺害行為には関わっていない」などと話したが、それ以上のことについては具体的な話はなく、愛知県警もそのような(被告人Kが本事件以前に殺人を犯していたという)事実は把握していなかった<ref group="報道" name="中日新聞2008-11-27"/>。
第10回公判(2008年12月1日)でも<ref name="第10回公判">{{Cite web|title=第10回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page023.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-12-01|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163334/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page023.html}}</ref>、引き続き被告人Kへの被告人質問が行われ<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-02"/><ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-02">『毎日新聞』2008年12月2日中部朝刊第一社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:暗証番号確認後、堀被告が殺害を提案 名古屋地裁公判」(記者:秋山信一)</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-02">『朝日新聞』2008年12月2日朝刊第三社会面29頁「事件仲間脅す?逮捕の後に手紙 闇サイト事件被告 名古屋地裁【名古屋】」</ref>、被告人Kは以下のように証言した。
* 「被告人・堀が被害者Aから銀行のキャッシュカードの暗証番号を聞き出してから自分に『もうやっちゃいましょうか』と殺害を提案した。それに対し自分は『首を絞める』と応じたが『暗証番号が本当かどうか分からない』と思ったので、まずは失神させようとした・しかし被害者Aが被告人Xに強姦されそうになり大声を上げたため『殺すしかない』と考えた」<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-02"/>。
* 「被告人Xは『外でたばこを吸っていて、車に戻ったら被告人Kが首を絞めていたのでやむを得ず自分も加わった』と主張していたが、被告人Xは殺害時には運転席にいた」<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-02"/><ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-02"/>。
* 「8月26日に逮捕された後、自分とは別の警察署に留置されていた被告人Xに『知人が面会などで失礼をすることがあれば許してください』などと記載された『被告人Xに危害を加えることを示唆する脅迫めいた手紙』を送った」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-02"/>。
** 「被告人Xが事件後に自首したことで事件が発覚したことを逮捕から数日後に知らされたので正直頭にきた。(Xを)ぶっ殺してやりたいと思った」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-02"/>
また同日は捜査段階における警察の調書も明らかにされ、被告人Kが逮捕後の取り調べに「自分は自分で作ったルールに従って生きるだけで『他人が作った法律に縛られて生きよう』とは思わない。人を殺すことに全く抵抗感はない」などと供述していたことが明らかになった<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-02">『読売新聞』2008年12月2日中部朝刊第三社会面31頁「闇サイト殺人地裁公判 K被告『殺人に抵抗ない』 逮捕段階で供述=中部」</ref>。


===== 堀への被告質問 =====
==== 3に死刑求刑 ====
2009年(平成21年)1月20日に開かれた第17回公判で<ref name="公判について"/>、検察官の[[論告]][[求刑]]が行われ、被告人3人はいずれも死刑を求刑された<ref name="中日新聞2009-01-20"/>。
第11回公判(2008年12月3日)では<ref name="第11回公判">{{Cite web|title=第11回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page024.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-12-03|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163411/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page024.html}}</ref>、堀・X両被告人に対する被告人質問が行われた<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-04">『毎日新聞』2008年12月4日中部朝刊第一社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:公判で3被告、証言食い違い 名古屋地裁」(記者:秋山信一)</ref>。
* 被告人・堀は「被告人Kは『堀が殺害を提案した』と証言しているが、それは違う。被告人Kが突然『首を絞める』と殺害を提案してきた」と反論した上で「(当初から)拉致して金を奪うことは決まっていたが(その時点では)『人を殺す』という話は出ていない。(殺害を提案され)『なぜか?』と思ったが、反対はしていない」と述べた<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-04"/>。
* また被告人Xの「被告人Kが首を絞めた時、自分は車の外にいた」という主張に対しK・堀両被告人はいずれも「被告人Xは殺害時、運転席にいた」と証言した<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-04"/>。
第12回公判(2008年12月5日)で<ref name="第12回公判">{{Cite web|title=第12回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page025.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-12-05|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163414/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page025.html}}</ref>、被告人・堀への被告人質問が行われたが、弁護人から殺害状況について質問されていた途中で涙を流す一面があった<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-06">『中日新聞』2008年12月6日朝刊第二社会面34頁「堀被告、涙声で供述 千種拉致殺害 公判で状況説明」</ref>。
* 被告人・堀は自身が被害者Aの頭をハンマーで3回殴打した際について「『血が飛んできた』と思ったのでそれ以上殴るのをやめた」と涙声で述べたが<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-06"/>、近藤裁判長から「他人のせいばかりにして本当に反省しているのか?」と厳しく問い質された<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14"/>。
* また被告人・堀は「自分が被害者Aの頭を殴った後で被告人Kが30回以上にわたって再び頭を殴打しているのを見た。(被害者Aの)むごたらしい顔を見て思わず『もういいんじゃないか』と言ったが、被告人Kは殴るのをやめなかった」と涙声で供述した<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-06"/>。


同日の論告で、検察官は「3人は被害者Aを拉致する以前から、金を奪うために拉致・殺害の合意形成をしていた」と指摘した上で、闇サイトを悪用した犯罪について「共犯者が集まりやすく、共犯者同士が個人情報を秘匿するため、発覚が困難だ。模倣性も高く{{Efn2|名古屋地検は「模倣性の高さ」の根拠として、本事件に前後して闇サイトを通じて仲間を募った犯罪例や、[[通り魔]]による無差別犯罪が増加し、それぞれ社会的問題になっている点を挙げた<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。後者(通り魔による無差別犯罪)の例として、2008年には[[土浦連続殺傷事件]]・[[秋葉原通り魔事件]]が発生している。}}、厳罰で臨む必要がある」と主張した<ref name="毎日新聞2009-01-20"/>。また、犯行態様については「Aの命乞いを無視し、肉体的激痛や精神的恐怖心を加えながら殺害した方法は、[[生き埋め]]と変わらない残虐な殺害方法だ。3被告人はいずれも、自己の利欲目的を達成するため、一体となって計画に基づいた犯行を遂行した上で、何ら躊躇もなく残忍な犯行におよんでおり、犯行への酌量の余地は認められない。3人は他人の生命を軽視する犯罪性向・反社会性が根深く、犯行後も同様の強盗殺人を実行しようとしたことや、反省のない態度を取っている{{Efn2|検察官は、本文で述たようにKTが被害者Aを愚弄する内容の手記を書いていたことのほか、堀が刑務所から出所できることを前提とした手記を書いていたことや、「山下」が法廷で「自首したことを後悔している」「謝罪の気持ちはない」などと発言した点を指摘した<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。}}ことなどに照らせば、更生可能性は認められない{{Efn2|name="更生可能性"|名古屋地裁 (2009) は、被告人の更生可能性についての判断を示さなかった<ref name="中日新聞2009-03-19 3">『中日新聞』2009年3月19日朝刊三面3頁「核心 千種拉致殺害で死刑判決 模倣抑止へ断罪 ネットの闇へ危機感」(中日新聞社 社会部記者:北島忠輔)</ref>。}}。被害者Aの遺族(母親B・伯母D)や関係者(元交際相手の男性C)が3人への極刑を求めていることも当然である」と訴えた<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。
===== 被害者遺族への証人尋問 =====
第13回公判(2008年12月8日)で<ref name="第13回公判">{{Cite web|title=第13回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page026.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-12-08|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163439/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page026.html}}</ref>証人尋問が行われ、検察側証人として初出廷した被害者の母親らが「死刑判決を望む」と語った<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-09">『中日新聞』2008年12月9日朝刊第三社会面25頁「千種拉致殺害 『3被告に死刑を』 名地裁 初出廷の母ら証言 偽番号 『「憎むわ」の意味』」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2008-12-09">『読売新聞』2008年12月9日中部朝刊第二社会面34頁「闇サイト殺人 娘の写真映し『酌量の余地なし』 母親が証人出廷=中部」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-09">『朝日新聞』2008年12月9日朝刊第一社会面27頁「偽りの暗証番号『2960』は『憎むわ』 千種区・闇サイト殺人事件公判【名古屋】」(記者:岩波精)</ref><ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-09">『毎日新聞』2008年12月9日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害 :偽口座『2960』は『憎むわ』 母証言『娘が気持ち込めた』」(記者:秋山信一・式守克史)</ref>。翌2009年5月から開始される[[裁判員制度]]を意識した名古屋地検は<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-09"/>、法廷の大画面に「被害者Aの誕生直後 - 社会人になるまでの半生」を写真で映しながら被害者遺族らへの質問をした<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-09"/>。証言は約2時間にわたったが<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-09"/>、この日は弁護人側からの反対尋問はなかった<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-09"/>。


その上で、「本事件は面識のなかった3人が、携帯電話のサイトで知り合い、帰宅途中の女性を無差別に狙い、残酷な方法で殺害した犯行で、社会に大きな衝撃を与え震撼させた。『永山基準』に照らしても、事案の重大性・凶悪性は明白で、利欲目的で被害者を略取・殺害した本犯行は、身代金目的誘拐殺人(殺害された被害者が1人で、被告人にさしたる前科がない場合でも、最高裁で死刑が確定した事例が多数存在)<ref group="注" name="身代金目的誘拐殺人"/>{{Sfn|集刑|2012|p=107}}の場合と罪質に変わりはない{{Efn2|上告趣意書で、検察官は「身代金目的拐取・被拐取者殺害事案と本件とでは、被拐取者の安否に関する家族等第三者の憂慮に乗じてその第三者から財物を奪おうとするのか、被拐取者本人からそのキャッシュカードを利用して財物を奪おうとするかの違いこそあれ、家族等の憂慮あるいは本人の恐怖心につけ込んで、本人の手元にはない大金を得ようとし、その大金を得る又は得る目途が立つと、後は用済みとして、口封じのために被拐取者を殺害してしまうというもので、犯罪の冷酷さ、卑劣さにおいて、両者に隔たりはない。(中略)本件は、殺害された被害者が1名にとどまるとはいえ、十分に極刑に相当し得る事案である。」と述べている{{Sfn|集刑|2012|pp=106-107}}。}}。被害者が1人でも、罪責が重大な場合は死刑を選択すべきだ{{Efn2|検察官は、「本事件は過去の事例ではくくれないケース」として、最高裁で被告人への無期懲役判決が「[[少年犯罪|被告人が犯行時、少年]]だったことを過大に評価した」として破棄された[[光市母子殺害事件]]の上告審判決を引用し、「殺害された被害者の数や犯行時の年齢など、『永山基準』で示された9項目の要素のうち、1つが際立って悪質とは言えない場合でも、犯行形態などを総合的に考慮し、死刑選択が妥当だ」と主張した<ref>『読売新聞』2009年1月21日中部朝刊社会面29頁「闇サイト殺人 異例の3人死刑求刑 総合的考慮の結果(解説)=中部」(読売新聞中部支社 記者:松田晋一郎)</ref>。}}。KTと堀の刑事責任に差異はなく、「山下」の自首も心からの反省悔悟によるものとは認められず<ref group="注" name="自首動機"/>、過度に有利な情状とすべきではない」と主張し、「犯した罪の報いを正当に受けることを社会に示すため、被告人3人には極刑をもって臨むほかない」と結論づけた<ref name="読売新聞2009-01-21"/>。
検察官からの質問に対し被害者Aの母親は以下のように涙ながらに証言した<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-09"/>。
* 「(これまでの公判の傍聴は)とてもつらかった。命乞いに耳を犯さない被告人3人に酌量の余地などない」<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-09"/>
* 「被告人3人は、それぞれ『自分は主導していない』などと主張して責任を押し付け合っているが、責任に軽重はなく同じ罪だ」<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-09"/>
* 「[[白血病]]により31歳で亡くなった夫(Aの父親)の代わりに、1人で子育てをしてきたのに、娘を守ってあげられなくて主人に申し訳ない」<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-09"/>
その上で被害者Aが被告人3人に虚偽の暗証番号を教えたことについて「(娘が口座に貯金していた理由は)『家を立てる』という約束を主人に代わって叶えるためこつこつ貯金していたのだろう。犯人たちには絶対に渡したくなかったのだろうと思う」と語った<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-09"/>。また被害者Aの母親が千種署の霊安室で娘の遺体と対面した際の状況について以下のように述べると傍聴席からすすり泣きが漏れた<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-09"/>。
* 「強く抱きしめてあげたかったが、顔が酷く変色していて『抱きしめたら痛がるんじゃないか』と思いできなかった」<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-09"/><ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-09"/>
* 「娘の遺体を棺に移す前に顔の傷を隠すため死に化粧をした」
証言の途中、3被告人はモニターの写真に目を向けたり目を閉じてうつむいたりしていた<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-09"/>。その上で、被害者Aの母親は(この時点までに集まった)極刑を求める297,000人の署名について質問されると以下のように証言した<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-09"/><ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-09"/>
* 「娘は殺されるために生まれてきたのではない」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-09"/>
* 「司法では、被害者が2人以上(殺され)ないと極刑は難しいのか。同種の犯罪を抑止する意味からも凶悪な罪を犯した3被告人に死刑を望む」<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-09"/><ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-09"/>。
また被害者Aと交際していた男性は「生前の被害者Aはよく数字の語呂合わせをしていたが、彼女が被告人らに『2960』と虚偽の暗証番号を伝えたのは『憎むわ』という意味だと思う」と証言した<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-09"/>。被害者Aの母親は閉廷後に名古屋市内で記者会見して「3被告人がはこれまでの公判で謝罪の言葉を述べていないが、見せかけの謝罪をされるよりはむしろない方がいい」と話した<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-09"/>。

===== その後の証拠調べ =====
第14回公判(2008年12月11日)で<ref name="第14回公判">{{Cite web|title=第14回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page027.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-12-11|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163420/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page027.html}}</ref>証拠調べが行われ<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12">『朝日新聞』2008年12月12日中部朝刊第二社会面34頁「『命ごいの声が頭に、葛藤し自首決めた』 名古屋・闇サイト殺人被告【名古屋】」</ref>、検察側からの証拠提出により被告人Xが取り調べに「自首しようか、自殺しようか考えていた」と供述していたことが判明した<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-12"/>。その後、被告人Xの公判が分離で行われ、情状面に関して<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12"/>被告人質問が行われた<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12">『中日新聞』2008年12月12日朝刊第一社会面29頁「『死刑でも構わぬ』 千種拉致殺害公判 X被告が供述」</ref>。被告人Xは弁護人から被害者遺族への謝罪を促されたが<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12"/>、被害者への気持ちを聞かれると以下のように述べただけだった<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-12"/>。
* 「お気の毒でかわいそう」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12"/>
* (被害者Aが殺害された理由について)「運が悪かった」<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>
* 「表現の仕方がわからない。『ご愁傷さま』だったらもっと腹が立つでしょう。自分にはそういう表現しかできない」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12"/><ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>
弁護人は再三にわたり反省の言葉を引き出そうとしたが<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>、被告人Xは上記のような言葉を淡々と述べたため検察官から「他人事のように聞こえる」と窘められた<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>。その上で被告人Xは弁護人から「申し訳ないという気持ちはあるか?」などと問われると<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-12">『毎日新聞』2008年12月12日中部朝刊社会頁「公判で自首の被告『死刑でもかまわない』」(記者:式守克史・秋山信一)</ref>「その気持ちはあるが、被害者遺族が納得できない謝罪は意味がない」と供述したほか<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12"/>、Aの母親ら被害者遺族が死刑を望んでいることについて問われると以下のように述べた。
* 「死刑なら死刑で構わない。生きることに未練はない」<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>
* 「(ここに)包丁があるなら今、(遺族に)刺してもらってもいい」<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12"/><ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-14"/>(=「自分の命を差し出してもいい」という意味)<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12"/>
* 「私にも子供がいるので逆の立場ならそう思う」<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12"/><ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12">『読売新聞』2008年12月12日中部朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 被告『お気の毒』 被害者への反省の言葉なし 名古屋地裁=中部」</ref>
近藤裁判長は被告人Xに「開き直っているのか?」<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12"/>「何を被害者に伝えるべきか、苦しくて考えたくないのではないか?」と発言の真意を問うたが<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12"/><ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>、Xは「開き直っているのではない」<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12"/>「逃げているのかもしれません」などと返答した<ref group="報道" name="朝日新聞2008-12-12"/><ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>。一方で被告人Xは「自分の刑事責任はK・堀両被告人より比較的軽い」と改めて主張し、K・堀両被告人について「(責任は)自分より重いと思う。反省してない」と述べた<ref group="報道" name="読売新聞2008-12-12"/>。
* (犯行後に自首した経緯)「被害者Aが最期に言った『殺さないで』という言葉が頭から離れず、犯行後のK・堀両被告人の発言にも腹が立っていたためだ」<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12"/><ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-12"/>
* (検察官から事件の責任を問われて)「自分が首謀者で被告人Kが主犯だ」<ref group="報道" name="中日新聞2008-12-12"/>。
検察官は「被告人Xの父親が『親としてどう謝っていいか分からない。極刑の処罰を受けさせてほしい』と証言していた」と明かした<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-12"/>。

第15回公判(2008年12月17日)で被告人・堀に対し情状面に関する被告人質問が行われ、堀は以下のように返答した<ref name="第15回公判">{{Cite web|title=第15回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page028.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-12-17|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163422/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page028.html}}</ref>。
* 「手記で『償い』という言葉を何度も書いているが、どう償っていくつもりか?」という質問に対し「極刑が償いになるのか?自分を苦しめていくことが償いだと思う」<ref name="第15回公判"/>
** 被害者Aの母親は「その手記の中の『外に出る…』との言葉の意味は『社会に出る』という意味だ」と感想を述べており、近藤裁判長から「堀の言う『償い』は楽だと思うか?」という言葉に対し「そうは思わない」と答えている<ref name="第15回公判"/>。
* 「被害者遺族・関係者の『憎むわ』という暗証番号の意味を聞いて辛く思ったが『もっともだろう』とは思わない」<ref name="第15回公判"/>。
* 「『共犯者に付いていった』という意識で犯行を実行しており、共犯者に対する恐怖から殺害を止める事ができなかった。仮に殺害を止めた場合は特に被告人Xが怖かった」と発言したが、被害者Aの母親は「罪を他の二人に押し付ける供述に聞こえた」と批判している<ref name="第15回公判"/>。
* (犯行後に共犯者へ送った)「お疲れ様です」というメールについて「意味はそのまま言葉通りで『被害者Aを拉致・殺害して遺体を遺棄した一連の行為』に対しての言葉だった」<ref name="第15回公判"/>

第16回公判(2008年12月19日)では被告人Kに対する被告人質問・および被告人Kの父親に対する証人尋問が行われた<ref name="第16回公判">{{Cite web|title=第16回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page029.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-12-19|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163425/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page029.html}}</ref>。
* 同日、被告人Kが自身の交際相手女性宛てに被害者Aを「嘘吐き(うそつき)姉ちゃん」「食えねえ女だ」などと中傷していたほか、事件を「仕事」と表現した内容の手紙を渡していたことが明かされた<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-20">『毎日新聞』2008年12月20日中部朝刊社会頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト公判 『嘘吐き』被害者中傷 被告が事件後、知人に手紙」(記者:秋山信一)</ref>。被告人Kはその手紙の内容・意図を「(交際相手から)『犯行時の正直な気持ちを書きなさい』と言われたためだ。(自分の行為は)頭を下げるとか、文章にして詫びるとかで許される行為ではない。『判決に恭順する』ということで納得していただきたい」と述べた<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-20"/>。
* また同日、検察側が被告人Kの父親(当時70歳代)に証人尋問で「どんな刑が適切か」と質問すると、弁護人が「既に被害者遺族が死刑を求める意見を陳述しているのに続いて加害者の親族まで死刑を求める意見を発すれば情状面で不利になる」という懸念から「意見を求めるのは不適切だ」と異議を唱えたが、近藤裁判長は弁護人の異議を退けて被告人Kの父親に発言を許可した<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-16">『毎日新聞』2009年3月16日中部朝刊社会面22頁「曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/下 被告の父も『極刑妥当』」(記者:秋山信一)</ref>。被告人Kの父親は息子への量刑について「被害者や遺族にはどんなに謝っても謝りきれない。極刑が妥当だと思います」と述べた<ref group="報道" name="毎日新聞2008-12-20"/>。

==== 3被告人に死刑求刑 ====
[[2009年]](平成21年)1月20日に第17回・[[論告]][[求刑]]公判が開かれ<ref name="第17回公判">{{Cite web|title=第17回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page030.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2009-01-20|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163443/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page030.html}}</ref>、検察側(名古屋地検)は被告人3人(K・堀・X)にいずれも死刑を求刑した<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊1面">『中日新聞』2009年1月20日夕刊1面1頁「千種拉致殺害 3被告に死刑求刑 検察『更生の余地ない』」</ref><ref group="報道" name="東京新聞2009-01-20">『東京新聞』2009年1月20日夕刊第一社会面9頁「名古屋の拉致殺害 3被告に死刑求刑 地裁で検察側 『社会全体を震撼』」「被害者母『命で償って』 求刑前に陳述 涙で悲しみ訴え」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2009-01-21">『中日新聞』2009年1月20日朝刊第一社会面27頁「千種拉致殺害 『人の所業でない』 死刑求刑の検察が非難」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2009-01-20-夕刊17面">『読売新聞』2009年1月20日東京夕刊第一社会面17頁「闇サイト強盗殺人 3被告に死刑求刑/名古屋地裁公判」</ref>。
同日はまず論告に先立って被害者遺族(Aの母親)が意見陳述して以下のように述べた<ref name="意見陳述書概略">{{Cite web|title=意見陳述書概略|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/090120ikenntinnzyutu.pdf|format=PDF|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2009-01-20|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125144042/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/090120ikenntinnzyutu.pdf}}</ref>。
* 「どれほど怖い思いをしても最期まで生きることを諦めなかった娘を誇りに思う。女手一つで育ててきたたった1人の娘を奪われたまま、私の時間は止まっている」<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊13面">『中日新聞』2009年1月20日夕刊第一社会面13頁「千種拉致殺害 母『命で償って』 3被告求刑公判 法廷で涙の陳述」</ref>
* 「娘だけでなく自分も一緒に殺されたようなものだ」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊29面">『読売新聞』2009年1月21日中部朝刊第一社会面29頁「闇サイト殺人3被告に死刑求刑 検察『残虐の責任等しい』 名古屋地裁=中部」</ref>
* 「(これまでの公判で明らかになった、殺害の態様・公判での被告人の態度に触れ)被告人らが述べる反省の態度・償いの気持ちは口先だけで、矯正の余地は見い出せない。3被告人への死刑を求める」<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊13面"/>
これに続き、論告で検察側は「極めて安易に拉致・殺害を計画し、約4時間にわたって名古屋市内を徘徊して襲撃対象の女性を執拗に探した。高い計画性に基づく犯行だ」と主張した上で<ref group="報道" name="読売新聞2009-03-16"/>、情状面に関して以下のように主張した。
* 「『楽をして金銭を得たい』という自己中心的・低劣な動機・犯行経緯であり、酌量の余地は全くない」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面">『読売新聞』2009年1月21日中部朝刊解説面11頁「闇サイト殺人論告要旨」</ref>
* 「被害者の命乞いを無視した挙句に地獄の苦しみを味わわせて殺害した」<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-21"/>
* 「被害者に肉体的激痛・精神的恐怖心を加えながら『生き埋めにしたのと他ならない残虐な方法』で殺害した行為はまさに鬼畜の所業だ。殺害後は利欲的動機の赴くまま死体の処分より預金の引き出しを優先し、失敗すると死体をゴミ同然に遺棄した。人命の尊厳を一顧だにしておらず戦慄を覚えずにはいられない」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
* 「自己の利欲目的達成のため他人の生命を軽視する根深い犯罪性向・反社会性がある」<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-21"/><ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
その上で、各被告人の矯正可能性については以下のようにそれぞれ指弾した上で「3被告人とも犯行後に同様の強盗殺人事件を実行しようとしており、根深い犯罪性向・人間性の欠如が乏しく、今後矯正の可能性は全くない」と断罪した<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>。
* 被告人K - 「被害者Aを『嘘吐き姉ちゃん』『喰えねえ女だな』などと愚弄する表現をしており、謝罪・反省は上辺だけだ」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
* 被告人・堀 - 「刑務所から出所できることを前提とした手記があり、その身勝手さには言葉もない」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
* 被告人X
** 「K・堀両被告人を『正社員』、自身を『正社員に従う見習い』に喩えたり、殺害時の様子を『サスペンス劇場を見ているようだった』と表現しているほか、法廷でK・堀両被告人に対し『こうなったのはお前らのせいじゃ』と声を荒げている」<ref group="報道" name="読売新聞2009-03-16"/>
** 「『自首したことを後悔しています』『謝罪の気持ちはない』などと放言する有様で反省していない」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
これに加えて「面識がなかった3人がインターネットの闇サイトをきっかけに犯罪目的で集まった上に極めて短期間で殺害まで計画するなど、人の所業とは考えられない。社会全体を震撼させた凶悪犯罪で模倣性の強さは他事件の比ではない」と述べ<ref group="報道" name="中日新聞2009-01-20-夕刊1面"/>、さらに「極刑を求める署名が30万人近く集まったのはその社会全体が感じた恐怖の表れである。一般予防・社会防衛の観点からも峻厳な処罰をもって臨むしかない」と主張した<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>。

また被害者の無念や遺族・関係者の処罰感情については以下のように表現・主張した<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>。
* 「被害者Aが死の直前に金を奪われないように考えて口にした虚偽の暗証番号『2960』は“『被告人を憎む』という意味を込めて遺した”と解釈できる。その無念の思いを察すると悲しく痛ましい」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
* 「被害者Aの母親・伯母や交際相手をはじめ被害者遺族・関係者らが一様に死刑判決を強く望むことは当然の感情であり、その切望に応えることこそ法に課された使命だ。その意思は量刑面において最大限に考慮されねばならない」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>。
そして1983年に[[最高裁判所判例]]として示された死刑選択基準「[[永山基準]]」についても言及し、以下のように主張した上で死刑を求めた<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>。
「これまでは『殺害された被害者の数』が重視されてきたが、それは『考慮すべき要素の1つ』として挙げたものにすぎず、被害者より被告人の数が多い場合であっても罪質・結果の重大性などに照らして刑事責任が重大な場合は死刑を選択すべきだ」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
* 「3被告人は一体となって計画に基づき犯行を遂行した。K・堀両被告人の刑事責任に差異はないほか、犯行後に自首した被告人Xもその動機を『両被告人の言動に腹が立った』と供述していることから『心からの反省悔悟の情によるもの』とは認められない。被告人Xの自首は刑の軽減が認められる事情とは認められない」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
* 「死刑が『究極の刑罰』だとしても、犯した罪の報いを正当に受けることを社会に示すことが被害者や遺族・および国民から司法に対する信頼を得るものであり、被告人3人に対してはいずれも死刑をもって臨むほかない」<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/>
『読売新聞』2009年1月21日中部朝刊([[読売新聞中部支社]])記者・松田晋一郎は被告人3人への死刑求刑について「殺害された被害者が1人の事件としては極めて異例だが、名古屋地検が動機・殺害方法の悪質さや極刑を求める被害者遺族の処罰感情などを総合的に考慮した結果だ」と解説した<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊29面解説">『読売新聞』2009年1月21日中部朝刊第一社会面29頁「闇サイト殺人 異例の3被告死刑求刑 総合的考慮の結果(解説)=中部」</ref>。


==== 最終弁論・結審 ====
==== 最終弁論・結審 ====
2009年2月2日に第18回公判が開かれて結審し<ref name="第18回公判">{{Cite web|title=第18回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page031.html|publisher=害者遺族運営ホームページ|date=2009-02-02|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163446/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page031.html}}</ref>、弁護人側の最終弁論が行われた<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03">『中日新聞』2009年2月3日朝刊第一社会面27頁「堀、X両被告 初の謝罪 名地裁公判 千種拉致殺害が結審」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03">『読売新聞』2009年2月3日東京朝刊第三社会面29頁「闇サイト 3被告が死刑回避求め結審/古屋地裁」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部">『読売新聞』2009年2月3日中部朝刊第二社会面28頁「闇サイト事件 弁護側、死刑回避を求める 名古屋地裁=中部」</ref>。
年2月2日に開かれた第18回公判<ref name="公判について"/>、3告人の弁護人による最終弁論が行われ、結審した<ref name="中日新聞2009-02-03">『中日新聞』2009年2月3日朝刊第一社会面27頁「堀、「山下」両被告 初の謝罪 名地裁公判 千種拉致殺害が結審」(中日新聞社)</ref>。最終弁論で、3被告人の弁護人はいずれも「犯行グループは互いの意思疎通が不十分な寄せ集めの集団による、場当たり的な犯行だ。事前に具体的な殺害方法・場所も決めておらず、殺害は突発的なものだ。綿密な計画性はなく、被害者が1人の死刑確定事件と比べて特段に悪質ともいえない。検察官は『体感治安を悪化させた』と主張するが、闇サイトを悪用した事件は本事件が初ではない」と主張し<ref name="毎日新聞2009-02-03">『毎日新聞』2009年2月3日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致害:弁護側「計画性ない」 死刑回避求める--名地裁最終弁論(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>、死刑回避を求めた<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。


最終意見陳述で<ref name="読売新聞2009-02-03">『読売新聞』2009年2月3日中部朝刊第二社会面28頁「闇サイト事件結審 弁護側、死刑回避を求める 名古屋地裁=中部」(読売新聞中部支社)</ref>、堀と「山下」は初めて被害者遺族に謝罪した{{Efn2|堀は「極刑を受け入れる覚悟はできている」、「山下」は「開き直ったような発言は売り言葉に買い言葉で、本心ではない」とそれぞれ述べた<ref name="読売新聞2009-02-03"/>。}}一方、KTは「特に申し上げることはない」と話した<ref name="中日新聞2009-02-03"/>。
3被告人の弁護人はいずれも「殺害された被害者数が1人である上に虚勢を張り合う中で起きた偶発的犯行で、殺害方法・場所も事前には決めておらず高い計画性はなかった。過去の判例と比較しても死刑を選択する場合に該当しない」としていずれも死刑回避を求めた<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/>。
* 被告人Kの弁護人
** 「両親の離婚・持病などが原因で社会適応が困難だった」<ref group="報道" name="読売新聞2009-03-16"/>
** 「永山基準と照らし合わせると本事件は計画性が低く、殺害された被害者数が1人であり殺害方法も他の死刑事件と比べて残虐性は低い。無期懲役か有期懲役の選択が妥当だ」<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/>
* 被告人・堀の弁護人 - 「殺害行為を主導したのは被告人Kで、堀はその指示に従っており関与の度合いが低い。改悛の情は顕著で『矯正不可能』とは言えず、(懲役刑で)生きて罪の償いをさせることが相当だ」<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/>
* 被告人Xの弁護人
** 「被告人Xが事件直後に警察に電話した行為は『良心の呵責に耐え切れなかったため自首した』と認められる」
** 「検察側は論告で反省に基づかない自首は刑の減軽に値する事情ではない」と主張した点に対し<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/>、「被告人Xの自首により、捜査が容易になった」と反論<ref group="報道" name="読売新聞2009-03-16"/>


==== 2人に死刑・1人に無期懲役宣告 ====
その後、被告人3人は最終意見陳述で以下のように述べた<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/><ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部"/>。
2009年3月18日に第一審の判決公判が開かれ<ref name="中日新聞2009-03-18"/>、名古屋地裁刑事第6部<ref group="注" name="刑事第6部"/><ref name="毎日新聞2009-03-18"/>(近藤宏子裁判長)は'''被告人3人のうち、KTおよび堀の2人を死刑に、残る「山下」を無期懲役に処す判決'''を言い渡した<ref name="中日新聞2009-03-18">『中日新聞』2009年3月18日夕刊一面1頁「千種殺害2被告に死刑 名地裁判決 『無慈悲で凄惨』 自首の1人は無期」(中日新聞社)</ref><ref name="中日新聞2009-03-19">『中日新聞』2009年3月19日朝刊一面1頁「千種拉致殺害 『悪質性重大な脅威』 名地裁 異例の2被告死刑判決」(中日新聞社)</ref>。[[日本弁護士連合会]](日弁連)が把握していた[[確定判決]]の統計によれば、1983年に最高裁で「永山基準」が示されて以降、殺害された被害者が1人の殺人事件で死刑が確定した事例は、当時計25件あったが<ref>『毎日新聞』2009年3月19日中部朝刊政治面1頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人・死刑判決 ネット犯罪厳罰」(毎日新聞 記者:秋山信一)</ref>、うち複数の被告人に死刑判決が言い渡され確定した事例は、[[北九州市病院長殺害事件]](1988年に最高裁で被告人2人の死刑が確定)のみだった<ref>『中日新聞』2009年3月18日夕刊第二社会面14頁「千種拉致殺害判決 被害者1人 死刑複数確定は1件」(中日新聞社)</ref><ref>『[[東京新聞]]』2009年3月18日夕刊一面1頁「闇サイト殺人 2人死刑 女性拉致監禁 自首の1人は無期 名古屋地裁判決 『無慈悲で残虐』」([[中日新聞東京本社]])</ref>。
* 被告人・堀は、検察側の論告で「手記で『刑務所から出所できることを前提にしたような表現』をしている」と非難を受けていたが<ref group="報道" name="読売新聞2009-01-21-中部朝刊11面"/><ref group="報道" name="読売新聞2009-03-16">『読売新聞』2009年3月16日中部朝刊第一社会面31頁「3被告死刑求刑の闇サイト殺人、18日判決 『被害者1人』どう判断=中部」</ref>、この公判では「死刑判決が下されれば受け止める覚悟はできている」と述べ<ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部"/>、泣きながら「被害者の夢・希望を奪って遺族に苦しみを負わせてしまった。申し訳ない」と述べつつ、被害者遺族が座る傍聴席へ頭を下げた<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/>。
* 被告人Xは被告人質問で被害者に対し「お気の毒」「運が悪かった」などと語っていたが、その発言の真意を「開き直ってしまったが『売り言葉に買い言葉』であり、本心ではない」と釈明した上で<ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部"/>、声を震わせつつ<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/>、「(被害者Aの)お母さんの意見陳述は胸に刺さりました。被害者Aさんのご冥福をお祈りします。すみませんでした」と一礼した<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/>。
* 一方で被告人Kは「特に申し上げることはない」と述べただけだった<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/><ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部"/>。


名古屋地裁 (2009) は、犯罪事実について「3人は互いに強盗などの様々な犯罪を計画した末、事前に預貯金の貯えがありそうな女性通行人を拉致・監禁した上でキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出した上で最終的に殺害することを計画した上で犯行におよんだ」と[[事実認定|認定]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}。その上で、各事実について以下のように認定した。
==== 第一審判決 ====
{| class="wikitable" style="width:90%;font-size:90%"
2009年3月18日に開かれた第19回公判(判決公判)にて判決が言い渡され<ref name="第19回公判">{{Cite web|title=第19回公判の概要|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page032.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2009-03-18|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163458/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page032.html}}</ref><ref name="判決の要旨">{{Cite web|title=判決の要旨|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page033.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2009-03-18|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163540/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page033.html}}</ref>、名古屋地裁(近藤宏子裁判長)はK・堀両被告人には求刑通り死刑判決を、被告人Xに対しては無期懲役判決(求刑:死刑)をそれぞれ言い渡した<ref name="第19回公判"/><ref name="無念の判決">{{Cite web|title=無念の判決|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page002.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2009-03-27|language=ja|accessdate=2018-01-26|archivedate=2018-01-26|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180126162000/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page002.html}}</ref><ref name="判決の要旨">{{Cite web|title=判決の要旨|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page033.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2009-03-18|language=ja|accessdate=2017-08-17|archivedate=2017-08-17|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163540/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page033.html}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面">『中日新聞』2009年3月18日夕刊1面1頁「千種殺害2被告に死刑 名地裁判決 『無慈悲で凄惨』 自首の1人は無期」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-4">『中日新聞』2009年3月18日夕刊第二社会面14頁「千種拉致殺害判決 傍聴券求め最多の670人」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊15面-1">『中日新聞』2009年3月18日夕刊第一社会面15頁「千種拉致殺害判決 3被告厳しく断罪 廷内で三者三様 傍聴席に顔向けず」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊15面-2">『中日新聞』2009年3月18日夕刊第一社会面15頁「千種拉致殺害判決 被告ら真の姿見えず 本紙記者と面会」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊29面">『中日新聞』2009年3月19日朝刊ラジオ愛知面29頁「千種拉致殺害事件 名古屋地裁判決の要旨」</ref><ref group="報道" name="東京新聞2009-03-19-朝刊22面">『中日新聞』2009年3月19日朝刊第二運動面22頁「闇サイト殺害事件 名古屋地裁判決要旨」</ref>。
|+名古屋地裁 (2009) の判示
!争点
! colspan="4" |判示事項
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!{{nowrap|殺害の共謀が成立した時期}}
| colspan="4" |3人が謀議を終え、ファミリーレストランを退店した'''8月24日の19時ごろ'''をもって、殺害および死体遺棄の共謀が成立したと認められる<ref group="注" name="殺害共謀時刻" />{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
|-
!計画性
| colspan="4" |被害者を拉致した後の殺害方法などは、'''具体的・詳細には計画されてはいなかった'''が、方法は成り行きに任せざるを得ない部分があった<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。実際に、事前に詳細な定めがなくても十分遂行可能な客観的状況もあった上{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}、「通行中の女性を物色して襲い、最終的には殺害する」という点は当初の計画通りに実行されており<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>、'''計画的な犯行というには十分である'''{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。'''より綿密な計画が立てられていた事案より有利に斟酌すべき事情は認められない'''<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨">『読売新聞』2009年3月19日東京朝刊19頁「闇サイト殺人事件判決の要旨」(読売新聞東京本社)</ref>。<br/>殺害行為が残虐性を増したのは、意図的に残虐な方法が取られたというより、むしろ殺害に手間取った結果である。当初から敢えて意図的に残虐な方法を取った場合と比較すると、悪質性の程度に多少の差はあるが、3人はそれぞれ残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為におよんだため、この点については特に酌むべき事情はない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|-
!犯罪の性質・態様
| colspan="4" |一連の犯行は、手っ取り早く楽をして金を手に入れたいという強い利欲目的のみに基づき、全く関係のない、通りがかりの一般市民を殺害するという犯罪を、インターネット上の掲示板を通じて形成された犯罪集団が{{Sfn|集刑|2012|pp=98-99}}、短期間で計画・遂行したという点に特色がある{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>この種の犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく危険であり{{Efn2|名古屋地裁 (2009) は「インターネットを通じて形成された集団による犯罪は、素性を知らない者同士が互いに虚勢を張り<ref group="注" name="エスカレート"/>、悪知恵を出し合うことで、1人では行えなかった凶悪・巧妙な犯罪が実行可能となる危険性を持つが、本事件はそれがまさに現実化したものだ」と指摘した<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。}}、匿名性の高い集団によって行われるため、発覚・逮捕も困難{{Efn2|名古屋地裁 (2009) は「(インターネットを通じて形成された犯罪集団は)匿名性が高く、仮に犯行後、集団が解消され、それぞれが連絡手段を絶ってしまえば、犯罪者を発見・逮捕することは著しく困難になると予想される」と指摘した<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。}}で、模倣される恐れも高いという極めて悪質性の高い種類の犯行である。このような犯罪は社会の安全にとって重大な脅威というほかなく、厳罰をもって臨む必要性が誠に高い{{Sfn|集刑|2012|p=99}}。<br/>3人とも、被害者Aの必死の命乞いにも耳を貸さず、無慈悲・凄惨かつ残虐な方法で殺害を遂げており、戦慄を禁じ得ない<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨" />。Aの遺族が極刑を望んでいることも当然だ<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨" />。
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! rowspan="4" |3被告人の主従関係
| rowspan="4" |KTが最も積極的だったが、堀や「山下」もKTが有する知識・経験を頼りにし、'''互いに互いを利用し合って集団で犯罪を行うことで、自らの利欲目的を満たそうとする'''側面が強かったと認められる<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。そのような犯行の経緯・状況を考えれば、'''3被告人の間に量刑上、特に刑種の選択を分かつほどの差異を設けるべき事情は認められない'''<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
! colspan="2" |3被告人の役割
!{{nowrap|量刑およびその理由}}<ref group="注" name="更生可能性"/>
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!KT
|殺害行為にて果たした役割は、計画段階において他の2人(堀・「山下」)より大きく、実行行為の際にも最も積極的におよんでいる<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
| rowspan="2" |'''2人とも死刑を選択'''{{Sfn|集刑|2012|p=99}}。<br/>結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯行後の情状などを考慮すれば、殺害された被害者が1人であることや、2人とも粗暴犯による前科がない{{Efn2|name="KT前科"|KTの前科は詐欺罪による執行猶予付きの1犯([[#事件前の経緯]]を参照){{Sfn|集刑|2012|p=99}}。}}{{Efn2|name="堀前科"|堀の前科は交通関係の罰金前科2犯のみだった{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。}}こと、2人にとって有利に斟酌すべき諸事情などを考慮しても、2人に対し極刑をもって臨むことはやむを得ない{{Sfn|集刑|2012|p=99}}。
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!堀
|当初から様々な犯行計画を積極的に提案し、特に「人を拉致して強盗をする」という計画を当初から提案していた。被害者Aを最も執拗に脅迫し、殺害の実行行為でもKTに次いで積極的に行っている<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
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!{{nowrap|「山下」}}
|殺害の実行行為については、結果的に他の2人よりは関与の程度は低いが、3人が集まる原因となった投稿をしたほか、(未遂ながら)被害者Aへの性的暴行にもおよんでおり、Aに与えた精神的・肉体的苦痛は極めて大きい<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
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'''無期懲役を選択'''<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。<br/>犯行後、短時間で自首したことにより、捜査機関は初めて犯行を把握し、他2人の逮捕・事件解決に至ったことは明らかである<ref group="注" name="自首動機"/>。(インターネットを通じて集まった集団による)本事件の特殊性を鑑みれば、「山下」が'''犯行後に短期間で自首して事件解決に貢献し、その後に起こり得た犯罪を阻止した'''{{Efn2|name="自首による解決"|第一審で証人として出廷した愛知県警捜査一課の警部(事件の捜査を担当)は<ref name="中日新聞2008-11-06"/>、第5回公判(2008年11月5日)<ref name="公判について"/>における証人尋問で「仮に「山下」が自ら警察に通報しなくても、「山下」とともに窃盗未遂事件を起こした「杉浦」が既に逮捕されていたことなどから、3人が捜査線上に浮上し、検挙することは可能だった」と証言した<ref name="中日新聞2008-11-06">『中日新聞』2008年11月6日朝刊第一社会面37頁「通報なし検挙 警察側「可能」 千種拉致殺害公判」(中日新聞社)</ref>が、名古屋地裁 (2009) は、「「山下」の自首は、KTらに腹を立てたことが動機と言えるが、もし自首しなかった場合、捜査は相当難航し、次の犯行が行われた可能性が否定できない」と指摘した<ref name="読売新聞2009-03-19 判決要旨"/>。}}点は量刑上、特に有利な事情として評価することができる{{Efn2|『[[読売新聞]]』 (2009) は社説で、「名古屋地裁は、3人の間に明確な上下関係が存在しない中、自首した1人(「山下」)のみを無期懲役、ほか2人を死刑とした。これは、「山下」の自首が事件解決につながったことを評価した結果だ。もしこれがなければ、結びつきの薄かった3人を警察が割り出すことは難しかっただろう」と指摘している<ref>『読売新聞』2009年3月19日東京朝刊三面3頁「[社説]闇サイト殺人 自首が死刑と無期を分けた」(読売新聞東京本社)</ref>。}}。「山下」の刑事責任は極めて重大だが、この点を鑑みれば、極刑をもって臨むことは躊躇せざるを得ず、無期懲役に処すことが相当である<ref name="中日新聞2009-03-18 判決要旨" />。
|}


KTの弁護人は即日[[控訴]]した<ref name="中日新聞2009-03-19"/>ほか、堀・「山下」それぞれの弁護人{{Efn2|ただし、「山下」の弁護人は「検察が控訴しなければ、(控訴は)取り下げる」と表明していた<ref>『読売新聞』2009年3月25日中部朝刊社会面39頁「闇サイト殺人、2被告が控訴=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。}}<ref>『中日新聞』2009年3月25日朝刊第二社会面32頁「2被告の弁護人控訴」(中日新聞社)</ref>、KT本人も同年3月24日付で[[名古屋高等裁判所]]へ控訴した<ref>『中日新聞』2009年3月25日夕刊第二社会面12頁「KT被告も控訴」(中日新聞社)</ref>。一方、名古屋地検も「山下」を無期懲役とした第一審判決を不服として、同月27日付で控訴した<ref>『中日新聞』2009年3月28日朝刊第二社会面38頁「検察側も控訴」(中日新聞社)</ref>。本判決は全国紙が一面トップで取り上げるなど、高い注目を集めた{{Sfn|福田ますみ|2011|p=170}}が、司法の専門家や[[法学者|刑法学者]]からは「異例の厳しい判断」との見方が少なくなかった一方、新聞各紙の[[社説]]は判決を概ね支持する内容だった{{Efn2|『[[毎日新聞]]』『[[朝日新聞]]』『[[日本経済新聞]]』は「死刑制度がある以上、大方が支持するものだろう」と、『[[東京新聞]]』は「被害者1人の事件では異例だが、手口や被害者の無念さ、遺族の悲嘆を思えばやむを得ない」と評価したほか、『[[産経新聞]]』は「社会常識に沿ったごく自然で当然の判断と評価できる。(5月から始まる裁判員制度を控え)裁判員にとって、多大な影響を及ぼす意義ある妥当な判決だろう」と評価した<ref name="毎日新聞2009-03-22">『毎日新聞』2009年3月22日東京朝刊解説面6頁「社説ウォッチング:闇サイト殺人判決 死刑制度前提に容認」(毎日新聞東京本社 論説委員:森嶋幹夫)</ref>。その上で、「永山基準」については産経が「最高裁は26年の前の基準を見直し、裁判員が納得できる明確な死刑基準を示す時だ」、毎日も「通り魔的犯行や児童虐待などが増加・横行する現在、従来の量刑基準は見直しを迫られている。社会を挙げて刑罰論議を深めるべきだ」と主張した一方、『[[読売新聞]]』は「死刑か無期懲役か、プロの裁判官も苦悩する判断」、日経は「明快な基準は事実上不可能であり、個別の事件と真剣に向き合って判断するしかない」と指摘した<ref name="毎日新聞2009-03-22"/>。}}{{Sfn|福田ますみ|2011|p=172}}。
名古屋地裁は[[判決理由]]で「3被告人はいずれも強い利欲目的・計画性の下で殺害行為を実行した」と[[事実認定|認定]]した上で「インターネットの闇サイトを通じて知り合った3人が通りがかりの市民の生命を奪った凶悪犯罪で模倣される危険性が高く、一般予防の見地からも刑事責任は誠に重い」と指摘した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/>。その上で殺害行為については「命乞いをする被害者を無視して殺害行為を続けた犯行態様は無慈悲・凄惨・残虐である」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/>。


==== KTの死刑確定 ====
また3被告人それぞれの役割については以下のように認定し「3被告人の刑事責任は犯行の経緯・状況に関して、量刑上特に刑種の選択を分かつほどの差異を設けるべき事情はない」とした<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面">『中日新聞』2009年3月19日朝刊1面1頁「千種拉致殺害 『悪質性重大な脅威』 名地裁 異例の2被告死刑判決」</ref>。
しかし、被告人KTは2009年4月13日付で、自ら控訴を取り下げた{{Efn2|控訴取り下げの理由について、KTは「殺したければ早く殺せ」という思いがあったことのほか、「インターネットや週刊誌などで、自身の交際相手を誹謗中傷する記事が掲載され、彼女が精神的につらい旨を訴えてきている。これ以上裁判を続けて彼女に迷惑を掛けられないと思った」などと述べている{{Sfn|名古屋高裁|2010}}。}}<ref name="中日新聞2009-04-15">『中日新聞』2009年4月15日朝刊一面1頁「KT被告の死刑確定へ 千種拉致殺害 控訴を取り下げ」(中日新聞社)</ref>ため、同日付で死刑が[[確定判決|確定]]した{{Efn2|最高裁第一小法廷([[澤田竹治郎]]裁判長)は1949年(昭和24年)6月16日の判決[事件番号:昭和24年(れ)第857号 収録文献:[[刑集]] 第3巻7号1082頁]で、「被告人が控訴を取り下げた場合、弁護人の控訴も効力を失う」という判断を示している<ref>{{Cite 判例検索システム|事件番号=昭和24年(れ)第857号|裁判年月日=1949年(昭和24年)6月16日|法廷名=最高裁判所第一小法廷|裁判形式=判決|判例集=[[刑集]] 第3巻7号1082頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55507|事件名=殺人、死体遺棄、死体損壊被告事件|判示事項=被告人の控訴權と辯護人の控訴自立權|裁判要旨=辯護人は、固有の獨立した上訴權を有するものではなく、被告人の上訴權をその明示した意思に反しない限り、行使し得るに過ぎないものであること、舊刑訴法第三七八條の規定の明文と同第三七九條の規定の明文とを對照し且つ辯護人には上訴の放棄は勿論その取下をも認めなかつた立法の趣旨に照し、明白なところであるから、辯護人の控訴申立權は、被告人の控訴權の存續を前提とするものと解すべきである。從つて、前記辯護人の控訴、申立も亦た右被告人の控訴取下により消滅し、存續するを得ないものといわねばならぬ。}}
* 被告人K - 「最も積極的に殺害の実行行為に及んだ」
* 最高裁判所裁判官:[[澤田竹治郎]](裁判長)・[[真野毅]]・[[齋藤悠輔]]
* 被告人・堀 - 「『人を拉致・監禁し強盗を行う』という計画を当初から提案していた」<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>
* 判決主文:本件上告を棄却する。</ref>。しかし、最高裁第二小法廷([[大西勝也]]裁判長)は1995年(平成7年)6月28日付の決定で、第一審で死刑判決を受け控訴したものの、後に判決の衝撃や公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ、苦痛から逃れることを目的に控訴を取り下げた事例([[藤沢市母娘ら5人殺害事件]])について、「自己の権利を守る能力を著しく制限されていた状態での控訴取り下げは無効」とする判断を示している<ref>{{Cite 判例検索システム|事件番号=平成6年(し)第173号|裁判年月日=1995年(平成7年)6月28日|法廷名=最高裁判所第二小法廷|裁判形式=決定|判例集=刑集 第49巻6号785頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50166|事件名=訴訟終了宣言決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告|判示事項=死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効とされた事例|裁判要旨=死刑判決の言渡しを受けた被告人が、その判決に不服があるのに、死刑判決の衝撃及び公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ、その影響下において、苦痛から逃れることを目的として控訴を取り下げたなどの判示の事実関係の下においては、被告人の控訴取下げは、自己の権利を守る能力を著しく制限されていたものであって、無効である。}} - [[藤沢市母娘ら5人殺害事件]]の[[判例]]
* 被告人X - 「闇サイトへの書き込みで共犯者を集め、被害者に対し性的暴行を加えようとした」<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>
* 最高裁判所裁判官:[[大西勝也]]・[[中島敏次郎]]・[[根岸重治]]・[[河合伸一]]
その一方で名古屋地裁は「今回のような犯罪は犯罪者の発覚・逮捕が困難」と指摘して「悪質性が高い犯罪だからこそ、被告人Xが犯行後短時間で自首して共犯者の逮捕に協力したことでその後に起こり得た犯罪を阻止したことは量刑上有利な事情である」と評価した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>。その上で被告人Xに対しては「極刑をもって臨むには躊躇いを覚える」として死刑から罪一等を減じ無期懲役を選択した一方、残るK・堀両被告人には「死刑は『人命を奪う究極の刑罰』であり慎重に適用されなければならないが、殺害された被害者が1人であること・粗暴犯の前科がないことといった情状を考慮しても極刑をもって臨むことはやむを得ない」と結論付けた<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>。
* 決定主文:原決定及び原原決定を取り消す。本件を東京高等裁判所に差し戻す。
</ref>。}}<ref name="法務省2015">{{Cite press release|title=法務大臣臨時記者会見の概要 平成27年6月25日(木)|publisher=[[法務省]]([[法務大臣]]:[[上川陽子]])|date=2015-06-25|url=http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180209182204/http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00669.html|archivedate=2018-02-09}}</ref>([[#関連項目]]も参照)。名古屋地検の検察官は同月24日付で、[[名古屋拘置所]]長に対し、KTの死刑判決が同月13日に確定した旨の「死刑判決確定通知書」を送付{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=4}}。これを受け、名古屋拘置所処遇部長は同月27日、KTに死刑判決の確定を告知した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=4}}。


しかし、第一審でKTの[[国選弁護制度|国選]][[弁護人]]を務めていた弁護士2人<ref name="中日新聞2009-04-28"/>(藏冨恒彦{{Efn2|name="藏冨恒彦"|藏冨恒彦(2017年4月8日に59歳で死去)<ref>{{Cite web|url=https://www.shadan-aisei.jp/news/2017/1704.pdf|title=愛整ニュース No.61 通巻348号|accessdate=2021-03-21|publisher=[愛知県柔道整復師会 https://www.shadan-aisei.jp/]|date=2017-04-26|format=PDF|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321150303/https://www.shadan-aisei.jp/news/2017/1704.pdf|archivedate=2021-03-21}}</ref>は、[[愛知県弁護士会]]に所属していた弁護士<ref>{{Cite news|title=「昼休み」で弁護士と容疑者の面会拒否は違法 名古屋地裁|newspaper=[[日本経済新聞]]|date=2010-07-13|url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG13046_T10C10A7CC1000/|accessdate=2021-03-21|publisher=[[日本経済新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321145902/https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG13046_T10C10A7CC1000/|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。}}・福井秀剛{{Efn2|name="福井秀剛"|福井秀剛は愛知県弁護士会所属の弁護士<ref>{{Cite web|url=https://www.aiben.jp/page/library/kaihou/1801keiji.html|title=会報「SOPHIA」 平成18年1月号より , 刑事弁護人日記(28) 我が身を弁護する|accessdate=2021-03-21|publisher=[[愛知県弁護士会]]|author=福井秀剛|date=2006-01|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200806183004/https://www.aiben.jp/page/library/kaihou/1801keiji.html|archivedate=2021-03-21}}</ref>。}})<ref name="中日新聞2009-08-13"/>は同日(2009年4月27日){{Efn2|同日、KTは本事件の控訴審における私選弁護人として、藏冨・福井の両名を選任する旨の「弁護人選任届」に署名押印した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=4}}。}}、「KTは控訴取り下げの効果を十分に理解せず、あるいは理解する能力を欠いた状態で取り下げに至った」として{{Efn2|その訴えの根拠として、弁護人は「KTは控訴を取り下げた時点で、死刑判決後の[[拘禁反応]]などによる朦朧状態にあり、自己の権利を守る能力を欠いていた。また、『もし自分が控訴を取り下げても、弁護人がした控訴は存続し、判決は確定しない』という重大な錯誤に基づいて取り下げに至った」と訴えた{{Sfn|名古屋高裁|2010}}。しかし、名古屋高裁 (2010) は決定要旨で、「KTは取り下げ前から、自ら死刑を受け入れる旨を述べていたほか、取り下げの経緯の概要については記憶しているし、控訴取り下げに至った経緯・理由も短絡的とはいえ、一応了解可能なものだった。また、取り下げ後の[[精神鑑定]]の結果からみても、意識変容を伴う朦朧状態など、自己の権利を守る能力が著しく制限された状態ではなかった」と指摘し、訴えを退けた{{Sfn|名古屋高裁|2010}}。}}、「取り下げは真意に基づくものではなく、無効である」と主張し<ref name="中日新聞2009-04-28">『中日新聞』2009年4月28日朝刊第一社会面27頁「控訴取り下げ『無効』 拉致殺害、KT被告 弁護人が申し立て」(中日新聞社)</ref>、控訴審における審理を求める旨の期日指定申立書を提出した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=4}}。しかし、名古屋高裁刑事第2部{{Efn2|name="刑事第2部"|下山保男は2009年(平成21年)5月22日以降、定年退官(2012年6月5日)まで名古屋高裁部総括判事を務めていた<ref>{{Cite web|url=https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge1419/|title=下山 保男 <nowiki>|</nowiki> 裁判官|accessdate=2021-03-19|publisher=新日本法規出版|website=新日本法規WEBサイト|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210319155306/https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge1419/|archivedate=2021-03-19}}</ref>。裁判所ウェブサイト (2011) によれば、2010年4月1日時点では下山と高橋裕・柴田厚司・松井修の各裁判官が名古屋高裁の刑事第2部を担当していた<ref>{{Cite web|url=http://www.courts.go.jp/nagoya-h/saiban/tanto/index.html|title=名古屋高等裁判所 担当裁判官一覧(平成22年4月1日現在)|accessdate=2021-03-19|publisher=最高裁判所|date=2010-04-01|website=裁判所|quote=刑事第2部 下山保男,高橋裕,柴田厚司,松井修|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20110322192534/http://www.courts.go.jp/nagoya-h/saiban/tanto/index.html|archivedate=2011-03-22|deadlinkdate=2021-03-19}}</ref>。このうち、高橋を除く3裁判官が本事件の審理を担当した{{Sfn|名古屋高裁|2011}}。}}([[下山保男]]裁判長)は[[2010年]](平成22年)9月9日付で、弁護人が求めていた控訴審期日指定の申し立てを退ける[[裁判#裁判の形式|決定]]を出した<ref>『中日新聞』2010年9月11日朝刊第一社会面39頁「闇サイト殺人 KT死刑囚 控訴取り下げ有効 高裁決定」(中日新聞社)</ref>。弁護人は同決定を不服として、同月13日付で名古屋高裁の別の裁判部に異議を申し立てた{{Efn2|また、同年11月15日付で異議申立理由補充書を提出した{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}。}}<ref>『中日新聞』2010年9月14日朝刊第二社会面28頁「KT死刑囚弁護人 控訴取り下げ異議 闇サイト殺人」(中日新聞社)</ref>が、同高裁(志田洋裁判長)は[[2011年]](平成23年)2月10日付の決定{{Efn2|平成22年(け)第16号{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}。}}で異議申し立てを棄却<ref name="中日新聞2011-02-16">『中日新聞』2011年2月16日朝刊第三社会面27頁「闇サイト死刑囚 弁護人異議棄却 名高裁」(中日新聞社)</ref>。弁護人は同月14日付で[[抗告#特別抗告|特別抗告]]した<ref name="中日新聞2011-02-16"/>が、同月3月2日付で[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第三[[小法廷]]([[那須弘平]]裁判長)が抗告を棄却する決定を出した{{Efn2|最高裁第三小法廷 (2011) は、弁護人2人(藏冨・福井)から提出された特別抗告申立書(2011年2月14日付)について、「具体的な抗告理由の記載がなく、抗告提起期間内に理由書の提出もないので、申立ては不適法である」とした{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}。}}ため、「控訴取り下げは有効」とする原決定が確定した<ref>『中日新聞』2011年3月8日朝刊第一社会面33頁「KT死刑囚本人の控訴取り下げ有効 最高裁が決定」(中日新聞社)</ref>。
[[日本弁護士連合会]](日弁連)が把握している確定判決の統計では「1983年に最高裁から「永山基準」が示されて以降、殺害された被害者数1人の殺人事件で複数の被告人に死刑判決が言い渡された事例は1988年に最高裁で被告人2人に対する死刑判決が確定した[[福岡病院長殺人事件]](1979年11月に[[福岡県]][[北九州市]]で発生・1996年に死刑執行)以来2件目」であった<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-1">『中日新聞』2009年3月18日夕刊第二社会面14頁「千種拉致殺害判決 被害者1人 死刑複数確定は1件」</ref>。『中日新聞』2009年3月18日夕刊は「『永山基準』はあくまで『死刑適用の可否を判断する枠組みを羅列したもの』にすぎず、具体的に『被害者の数が何人以上なら死刑を選択すべき』と明記されているわけではないが、死刑求刑事件では殺害された被害者数が1人の場合に死刑を回避する傾向が強かった。これまでは曖昧な『永山基準』を『法曹界でのみ通用するイメージ』で補ってきたが、今年5月以降には[[裁判員制度]]が開始される。『死刑と無期懲役の差』は一般市民にとってはあまりにも大きく、このままでは[[裁判員]]らに対し混乱を引き起こしかねない」と懸念する内容の記事を掲載した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊14面-3"/>。


=== 控訴審 ===
公判中に唯一被告人3人の中で反省の言葉を述べなかった被告人Kは死刑判決を受けた後、珍しく傍聴席に一礼してから退廷した一方、同じく死刑判決を受けた被告人・堀は挨拶どころか傍聴席を見向きもせずに退廷した<ref group="書籍" name="大崎2016 p.339-341">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=339-341}}</ref>。[[大崎善生]]は当時の堀の態度について「それまで丁重に振る舞っていたはずの堀はその日に限り傍聴席を見ず退廷した。堀の本性が垣間見えた瞬間だった」と表現している<ref group="書籍" name="大崎2016 p.339-341"/>。
このようにKTが自ら控訴を取り下げたため、[[名古屋高等裁判所]]における控訴審は堀と「山下」の両被告人についてのみ審理されることとなった<ref name="中日新聞2010-08-10"/>。第一審判決後、臨床心理士の山田麻紗子{{Efn2|name="山田麻紗子"|山田麻紗子(2017年時点で日本福祉大学の客員研究所員)は同年、『中日新聞』の取材に対し、「互いの『馬鹿にされたくない』という気持ちが行動をエスカレートさせた。1人では起こり得なかった事件だ。3人はいずれも、職を失うなどして社会から孤立し、犯罪を踏みとどまらせる人間関係や地位を持っていなかった」と指摘している<ref name="集団暴走">『中日新聞』2017年8月24日朝刊第11版第二社会面28頁「「典型的な集団暴走事件」」(中日新聞社)</ref>。}}([[日本福祉大学]][[准教授]])が<ref name="中日新聞2010-09-25">『中日新聞』2010年9月25日朝刊第三社会面35頁「『集団同調性が影響』 闇サイト殺人 名高裁控訴審 心理士が分析」(中日新聞社)</ref><ref name="読売新聞2010-09-25">『読売新聞』2010年9月25日中部朝刊名古屋市内版29頁「闇サイト殺人 心理鑑定で証人尋問=愛知」(読売新聞中部支社)</ref>、両被告人の弁護人から依頼を受け<ref name="読売新聞2010-09-25"/>、犯罪心理鑑定{{Efn2|被告人の性格や、犯行に至る心理状況などを分析する鑑定<ref name="中日新聞2010-08-10"/>。2被告人との面会や公判記録などから、性格・行動傾向・生い立ち・事件状態の心理状態の変遷を分析したもの<ref>『毎日新聞』2010年7月10日中部朝刊社会面24頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 弁護側独自に2被告を心理鑑定 証拠採用請求へ」(毎日新聞中部本社 記者:秋山信一)</ref>。}}を実施<ref name="中日新聞2010-08-10"/>。2被告人の弁護人側はその結果を控訴審で証拠として提出した<ref name="中日新聞2010-08-10"/>。


名古屋高裁刑事第2部<ref name="刑事第2部" group="注" />{{Sfn|名古屋高裁|2011}}([[下山保男]]裁判長)における控訴審初公判は、[[2010年]](平成22年)8月9日に開かれた<ref name="中日新聞2010-08-09">『中日新聞』2010年8月9日夕刊一面1頁「闇サイト殺人 検察『全員死刑』を主張 名高裁で控訴審初公判」(中日新聞社)</ref>。
===== 判決後 =====
{| class="wikitable" style="width:90%;font-size:90%"
被害者の母親は開廷前に報道陣へ「3人とも死刑になることを望んでいます」と話していたがその思いは果たせず、判決後の記者会見では涙を見せつつ以下のように述べ<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面-no.2">『中日新聞』2009年3月18日夕刊1面1頁「千種殺害2被告に死刑 名地裁判決 思い果たせず『つらい』 Aさん母親会見」</ref><ref group="報道" name="東京新聞2009-03-19 朝刊31面"/>、死刑が適用されなかった被告人Xについては「もし社会に戻ったら同じ罪を犯すのではないか」と不安の心境を述べた<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19 朝刊31面"/>。
|+控訴審における争点表
* 「K・堀両被告人に対し死刑判決が言い渡されたことは当然だと思う」<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19 朝刊31面"/>。
!
* 「娘の生きた証を残すために戦ってきたが、(被告人Xが死刑回避されたため)3人全員の死刑ではなかった。今はとてもつらい」<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-18-夕刊1面-no.2"/>
!弁護人の控訴理由{{Efn2|「山下」については検察官の控訴理由に関する答弁も含む。}}
* 「日本の司法では1人殺したくらいなら『ごめんなさい』と自首すれば、自分の命は守れるなんておかしい」<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19 朝刊31面">『中日新聞』2009年3月19日朝刊第一社会面31頁「千種拉致殺害 究極の選択私なら 裁判員候補ら“判決” 『死刑と言えるか』声も」「”被害者参加”の実質的な訴訟に 母ら『無念さ言えた』」「『自首すれば死刑はないのか』 『納得できない』母会見」</ref><ref group="報道" name="東京新聞2009-03-19 朝刊31面"/>、声を絞り出しつつ無念の思いを語った<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19 朝刊31面"/>。
!{{nowrap|検察官の答弁{{Efn2|「山下」については控訴理由も含む。}}}}
また、被害者が生前交際していた当時大学院生の男性も会見に同席して「ゼロに近い判決。力及ばず被害者に申し訳ない。公判を通じて被告人らに反省の態度が見られなかったこともつらかった」と述べ、Aの母親と同様に悔しさをにじませた<ref group="報道" name="東京新聞2009-03-19 朝刊31面">『東京新聞』2009年3月19日朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人判決 娘の命の証 残せなかった 1人無期 母『納得できない』」</ref>。
!名古屋高裁 (2011) の判断
|-
!{{nowrap|両被告人について}}
|原判決が「8月24日19時ごろにファミリーレストランを出た時点で、(KTも含めた3人の)殺害および死体遺棄の共謀が成立した」と認定した点は明らかな事実誤認で、前者はAを拉致する前、後者はAを殺害した後だ{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
* 堀の弁護人 - 殺害の共謀成立はAからキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、堀がリバティ車外で喫煙していたところ、同じく喫煙していたKTからAを殺害しようとしていることを聞かされた時点{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}
* 「山下」の弁護人 - 殺害の共謀成立は「山下」が喫煙のため車外に出た後で車内に戻ったところ、KTと堀が殺害行為に着手しているのを見た時点{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}
山田の評価 - 金に困るなど、同質的な3人による同調行動が事件につながったもので、2被告人とも攻撃性は窺えない<ref name="中日新聞2010-09-25"/>。
|山田による鑑定は、一部の裁判記録だけを前提にしており、信用性が疑問視される{{Efn2|検察官は控訴審で、「弁護側が実施した心理鑑定は、「山下」の『良心の呵責から自首した』という言葉を鵜呑みにしたに過ぎない」と指摘した<ref>『毎日新聞』2010年12月4日中部朝刊社会面25頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 検察、改めて死刑主張--名古屋高裁結審」(毎日新聞中部本社 記者:沢田勇)</ref>。}}<ref name="中日新聞2010-12-04"/>。「山下」の自首は刑の減軽に値せず<ref name="中日新聞2010-08-10"/>、3人の極刑を求めるAの母Bらの遺族感情からも、死刑をもって臨むほかない<ref name="中日新聞2010-12-04"/>。
|殺害および死体遺棄の共謀成立時刻は、原判決とは異なり「8月24日の15時ごろ」と認めるのが相当だが、それらの共謀は被害者Aを拉致する前に成立していたため、論旨はいずれも認められない<ref group="注" name="殺害共謀時刻"/>{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
|-
!堀について
|
* 法令違反の主張 - 訴訟手続に法令違反がある{{Efn2|堀の弁護人は以下のように、名古屋地裁 (2009) の法令違反を主張した。
:# 原判決は「堀の金槌による殴打は、(ア)KTが被害者Aの首を絞めた行為と、(イ)KTおよび堀がAの首を綿ロープで絞めた行為の間に行われた」と認定したことが、原審では検察官も被告人らも、「殴打は(ア)および(イ)の行為の後に行われた」という主張をしていたにも拘らず、名古屋地裁 (2009) は当事者に何ら注意喚起せず、当事者の主張と異なる認定をした。よって、原審の訴訟手続きには釈明義務違反の違法(判決に影響をおよぼす)がある{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
:# KTおよび「山下」それぞれの検察官調書のうち、原審公判供述との相反部分について、[[:b:刑事訴訟法第321条|刑事訴訟法第321条]]1項2号後段の特信性の要件を満たさないのに、原判決はその要件があるとして証拠採用し、事実認定に用いた(この訴訟手続きには、判決に影響をおよぼすことが明らかな法令違反がある){{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
:しかし、名古屋高裁 (2011) は以下のように指摘し、論旨をいずれも退けた。
:# 原審で、(ア)(イ)のいずれも、各当事者が殺害行為の順序について主張の立証に立証を尽くした以上、裁判所が、当事者の主張を踏まえて証拠を検討した結果、殺害行為の順序について当事者の主張とは異なる事実認定をしたからといって、そのことが不意打ちとは言えず、訴訟手続きに法令違反はない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
:# KTや「山下」の検察官調書は、いずれも事件直後の記憶が鮮明な時期の供述で、その内容も詳細かつ理路整然としているが、公判段階における供述にはいずれも重要部分などに矛盾点がみられる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
* 事実誤認の主張 - 堀・「山下」の両者が、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉を承諾した事実はなく、もしその前提に立って考えても、堀が会話の内容を認識せず、KTの言葉に適当に相槌を打った可能性もあるため、その時点では共謀は認められない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。また、殺害現場に停めたリバティ車内に金槌・包丁・綿ロープがあったことは殺害の共謀の間接事実にはならない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。Aに片手錠を掛けた事実はなく、殺害行為の順序{{Efn2|name="殺害行為の順序"|原判決が(1)KTがAの首を絞める(2)堀がAの側頭部を金槌で3回殴打する(3)堀が頸部に綿ロープを巻き付け、KTとともに引っ張り合ったと認定した点について、堀は「(2)は(3)の後に行われた」と主張{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。しかし、名古屋高裁 (2011) は「(KTを含め)3人とも、捜査段階・原審公判でいずれも原判決と認定に沿う供述(特段不自然不合理な点はない)をしているが、それらを裏付ける客観的証拠はない。KTが行っていない金槌による殴打行為がされた時期について、記憶違いをしている可能性は否定できないが、(2)と(3)の先後関係が各被告人の刑事責任に差異を生じさせるとはいえず、この誤りは判決に影響しない」と判示し、堀の論旨を退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}も異なる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
* 量刑不当の論旨 - 原判決の量刑(死刑)は重過ぎて不当で、無期懲役刑が相当{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}
** 第一審判決後に謝罪文を書いており、改悛の情が顕著で、生きて罪を償わせるべきだ{{Efn2|name="堀の謝罪"|堀は第一審判決後に遺族宛に謝罪の手紙(控訴審で証拠採用)を書いたが、受け取りを拒否されていた<ref name="読売新聞2010-08-10"/>。謝罪の手紙を書こうとしたのは3人の中で唯一だったが、控訴審判決後には一転して遺族への連絡は途絶えた<ref name="中日新聞2012-08-23">『中日新聞』2012年8月23日朝刊第一社会面31頁「98年碧南夫婦強殺 07年闇サイト殺人 借金かさみ凶行か 堀容疑者 周辺『無口で穏やか』 法廷で"したたか”謝罪」「堀慶末容疑者と事件の経緯」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="読売新聞2010-08-10"/>。
** 山田の評価 - 自己主張より同調を選びがちだが、[[集団心理|集団の特性]]がなければ凶悪犯罪は想定しにくい<ref name="中日新聞2010-09-25"/>。穏やかで犯罪性は低い<ref name="中日新聞2010-12-04"/>。
|{{nowrap|原判決の量刑(死刑)は正当で、控訴は棄却されるべきだ<ref name="中日新聞2010-08-10">『中日新聞』2010年8月10日朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 検察『2被告死刑に』 名高裁控訴審第1回公判 弁護側は減軽求める」(中日新聞社)</ref>。}}
|
* 法令違反の論旨 - 認められない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人B(堀)の控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の論旨について}}。
* 事実誤認の論旨 - 堀が「殺しちゃうけど」というKTの言葉を承諾したことは明らか{{Efn2|名古屋高裁 (2011) は、「原判決の判断に沿うKTや「山下」の供述は、不利益な事実を認める内容にも拘らず相互に一致しており、2人ともその点について捜査・原審公判を通じて一貫している。実際に堀も殺害行為に加わっていることに照らせば、堀の主張は信用できない」と判示した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}で、会話の内容を認識していなかった疑いもない{{Efn2|名古屋高裁 (2011) は、「堀がKTや「山下」とともに車内にいる中、KTから意思確認の目的で『最後は殺しちゃう』と問いかけられ、それに対し堀が『やりましょう』あるいは『そのとおりやる気でいます』と答えて承諾の意を伝えており、「山下」もそのやり取りを明確に記憶していること、その後の堀の行動などに照らせば、会話の内容を認識していなかった疑いは認められない」と判示した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。凶器が手元にあったこと自体が、「拉致した女性を最終的に殺す」という会話の真実味を高めるもので、殺害の共謀の間接事実になる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。殺害行為の順序に関する認定には誤りがあるが、それが判決に影響をおよぼす(各被告人の刑事責任に差異を生じさせる)とは認められない<ref group="注" name="殺害行為の順序"/>{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=被告人両名の控訴趣意中、事実誤認の論旨について}}。
* 量刑不当の論旨 - '''無期懲役を選択'''([[#2被告人に無期懲役を宣告|後述]])。
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!「山下」について
|原判決の量刑(無期懲役)は重過ぎて不当で、有期懲役刑が相当{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
* 強姦しようとしたのは性欲目的ではなく、被害者Aの鼻をへし折ろうとしたためだ<ref name="強盗強姦未遂動機" group="注" />{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
* 投稿は強盗殺人の目的ではなく、堀らに比べて役割は従属的であり、真摯に反省もしている<ref name="読売新聞2010-08-10"/>。
* 山田の評価 - 軽度の知的障害や、面接時の「サスペンスドラマを見ているようだった」という発言から、どこまで認知して犯行におよんだか疑問で、攻撃性は窺えない<ref name="中日新聞2010-09-25"/>。
|原判決の量刑(無期懲役)は軽過ぎて不当で、死刑が相当{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
* 「山下」は共犯者らに働きかけて犯罪者集団を結成し、各犯行でも不可欠かつ重要な役割を果たした中心的人物であり、単独で強盗強姦未遂<ref name="強盗強姦未遂動機" group="注" />に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗未遂に及んでいるため、刑事責任はKTや堀より重い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。自首についても、自己保身目的で反省は窺えない<ref name="読売新聞2010-08-10">『読売新聞』2010年8月10日中部朝刊社会面31頁「闇サイト殺人控訴審 初公判 検察側、改めて死刑主張=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。
|論旨はいずれも採用できず、(原審と同じく)'''無期懲役を選択'''([[#2被告人に無期懲役を宣告|後述]])。
|}
控訴審は12月3日の第4回公判で結審した<ref name="中日新聞2010-12-04">『中日新聞』2010年12月4日朝刊第二社会面38頁「闇サイト殺人 2被告の控訴審結審 名高裁 弁護人『償う機会を』」(中日新聞社)</ref>。


====== 被告人・堀の発言 ======
==== 2被告人に無期懲役を宣告 ====
2011年(平成23年)4月12日の第5回公判{{Efn2|控訴審判決公判は当初、2011年3月25日に予定されていたが、同月10日になって延期が発表された<ref>『中日新聞』2011年3月11日朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人 二審判決延期 来月12日に」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="公判について"/>で判決が宣告された<ref name="中日新聞2011-04-13"/>。名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)<ref name="刑事第2部" group="注" />は'''原判決のうち、堀を死刑とした部分を破棄し、堀を無期懲役に処す'''判決を言い渡した{{Sfn|名古屋高裁|2011}}。また、'''「山下」については原判決(無期懲役)を支持'''し、検察官と弁護人の双方からなされていた控訴をいずれも棄却する判決を言い渡した<ref name="中日新聞2011-04-13">『中日新聞』2011年4月13日朝刊一面1頁「闇サイト殺人 2被告に無期懲役 名高裁判決 堀被告死刑破棄 「模倣性高いといえず」」(中日新聞社)</ref>。
「判決公判前から死刑判決を受けることを覚悟していた」被告人・堀は判決後に拘置先・[[名古屋拘置所]]内で弁護人と面会したが、弁護人と面会した際は「死刑判決を受けたことを理解できないほど落胆していた」様子で涙ぐんでいた<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-18 中部朝刊27面"/>。さらにその後、判決言い渡しから約4時間後には名古屋拘置所内で『毎日新聞』記者と約15分間にわたり面会した<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-18 中部朝刊27面">『毎日新聞』2009年3月19日中部朝刊社会面27頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人判決 堀被告『死刑の言葉重い』 落ち込み、涙ぐむ」(記者:式守克史、木村文彦、中村かさね)</ref>。被告人・堀は死刑判決言い渡し直後の心境について「想定はしていたが、それでも(死刑判決の)言葉は重かった」と述べた上で、判決の事実認定について「犯行の経緯など細かい部分で自分の供述と他の2被告人(K・X)の供述が食い違ったが、それは自分が不利になる部分だ。判決は『被告人・堀の供述には信憑性がない』と認定されているが、それは納得できない」と不満をのぞかせた<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-18 中部朝刊27面"/>。


名古屋高裁 (2011) は、両被告人からなされていた法令違反および事実誤認の主張をいずれも退け([[#控訴審|前述]])、情状についても原判決と同様の趣旨を認定した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}一方、量刑について検討した。
その上で「刑罰の[[厳罰化]]の潮流」についても言及して「(判決は)余計に納得できるものでなくてはならない。納得した上で死刑に処されるのなら何も言わないが真実がねじ曲げられている。(本判決は『闇サイトを悪用した事件の悪質性』を厳しく指弾したが)自分は闇サイトを使い始めてからまだ2カ月ぐらいで、長期にわたって使っていたK・X両被告人とは違う」と主張した一方、「事件があまりにも大きすぎるので細かい部分については争っても仕方がないと思った。被害者遺族には申し訳ない気持ちで、反省についても毎日考えている」と語った<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-18 中部朝刊27面"/>。
{| class="wikitable" style="width:90%;font-size:90%"
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!原判決の判断
! colspan="4" |名古屋高裁 (2011) の判断
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!事件の性質
|インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく、匿名性が高いため、発見も困難であり、模倣性が高い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。本件は、まさにこの種の犯罪が持つ危険性が現実化したもので、社会の安全に与える影響も大きく、一般予防の必要性も誠に高い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
| colspan="4" |インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は、素性を知っている者同士による共犯事案に比べ、意思疎通の不十分さなどから、犯行が失敗に終わりやすい側面もある{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>また、携帯電話の通話・メールの履歴と言った痕跡が残るため、格段に犯罪者の発見などが困難であるとも言い難く、原判決が言うほど「検挙困難で模倣性が高い犯罪」ともいえない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>本件においては大まかな犯行計画は立てられていたが、その計画は綿密なものではなく、さほど巧妙とまではいえず、原判決が指摘するほど「犯罪の巧妙化につながりやすい」とはいえない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>以上より、原判決が「本件の特色」として指摘する点を強調し、他の強盗殺人などの事案より特に厳罰をもって臨む必要性が高いとしている点は相当ではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|-
!{{nowrap|殺害方法の残虐性}}
|殺害方法が残虐さを増したのは、殺害に手間取った結果とはいえ、3人とも残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為に及んでいるため、より綿密詳細な計画を立て、意図的に残虐な方法を取った事案ほど有利に斟酌すべきではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
| colspan="4" |死刑は選択に当たり、格別慎重を期するべき究極の刑罰であることに鑑みれば、原判決は、死刑選択の当否の最終手段として各般の情状を総合考慮する際、「殺害方法などについて詳細な計画を定めておらず、当初から意図的に残虐な方法を取ったものではない」という点も考慮に入れるべきなのに、総合考慮をする前に、(左のように)その点を総合考慮の枠外としており、その点は是認できない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|-
! rowspan="3" |役割の軽重
| rowspan="3" |計画段階・殺害の実行行為の場面とも、KTが最も重要な役割を果たしたが、堀・「山下」の両被告人とも、KTの知識経験等を積極的に利用し、自らの利欲目的を満たそうと主体的な判断をした{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。その上で、前者は犯罪計画の提案・被害者への脅迫および殺害行為を積極的に行ったほか、後者もサイトへの投稿で人を集め、強姦行為にまで着手した{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>3人の間に刑種選択を分かつほどの役割の軽重の差異は見いだせない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
!被告人
!役割
! colspan="2" |量刑およびその理由
|-
!堀
| rowspan="2" |殺害行為に関しては、「KTが主犯で2人が従属的だった」と言えるほど役割に大きな差はないが、'''2人ともKTの「拉致した女性を最終的に殺害する」という提案に安易に応じた側面があり、殺害の共謀が成立する前からそのような意思を有していたとはいえない'''{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。特に「山下」は運転席に座っていたという位置関係の影響もあったが、殺害行為への直接的な関与の度合いはKT・堀の両者より低い{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>このように、'''両被告人が殺害行為に関して果たした役割には、KTとの間に差がある'''ことは否定できず、原判決がその点を考慮せずに「3人の間に刑種の選択を分かつほどの役割の軽重の差異は認められない」と断じたことは相当ではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|'''死刑→無期懲役'''。<br/>犯行の大筋の決定などに大きな影響を与え、被害者の殺害(量刑判断に当たり最も重要な点)についてもKTに次いで積極的な役割を果たしてはいるが、その役割はKTと全く同等にまで見ることはできない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
| rowspan="2" |2被告人とも、本件ではさしたる躊躇もなく、強盗殺人などという重大凶悪な事件に加担しているため、犯罪への抵抗感が希薄であることは否定できない。しかし、'''2人とも粗暴犯・凶悪犯の前科はなく<ref group="注" name="堀前科"/>{{Efn2|name="山下前科"|「山下」の前科は詐欺罪による執行猶予付きの1犯で、本事件当時はそ猶予期間中だった([[#事件前の経緯]]を参照){{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。}}、これまでの生活歴を見ても、本件以外に凶悪犯罪への傾向を示すものは見当たらない'''ことなどに照らせば'''、犯罪性向が強いとはいえず、矯正可能性もある'''<ref group="注" name="更生可能性"/>と考えられる{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>以上の全体情状に個別情状を併せて検討し、死刑が選択に格別慎重を期すべき究極の刑罰であることを考慮すれば、'''殺害された被害者が1名である本件では、死刑の選択がやむを得ないと言えるほどほかの量刑要素が悪質とは断じ難く'''、死刑に処すことにはなお躊躇を覚えざるを得ない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。そのため、無期懲役に処して終生、被害者の冥福を祈らせて贖罪に当たらせることが相当である。
|-
!{{nowrap|「山下」}}
|'''無期懲役(原判決と同じ)'''。<br/>サイトへの投稿によって事件のきっかけを作るなどしたほか、殺害行為の一部を分担したが、前者についてはKT・堀の両者が主体的な判断で「山下」からの誘いに応じた点や、当初は3人とも殺人を全く考えていなかったことなどに照らせば、この点は、強盗殺人を中心とする本件の量刑判断において殊更に重要な事情ではない{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。<br/>また単独で強盗強姦未遂に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗などの犯行におよんではいる{{Efn2|そのため、「山下」側の「自首の点を評価し、有期懲役にすることが相当」という主張を退けた{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。}}が、殺害行為についてはKT・堀より関与の度合いは低い上、犯行後に自首して事件解決に一定の寄与をするなどした<ref group="注" name="自首による解決"/>点は、量刑に当たって相応の評価がされるべきだ{{Efn2|宇田幸生(犯罪被害者支援弁護士フォーラム会員・[[愛知県弁護士会]]){{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020}}は、「犯行は(預金の引き出しに失敗するなど)さほど巧妙ではなく、被害者が簡単に絶命しなかったため、殺害の手段を次々に変えた結果、殺害態様が残虐になった」として死刑を回避した名古屋高裁 (2011) の控訴審判決について、「被害者Aが預金を必死に守ろうと、虚偽の暗証番号を告げたことで犯行は失敗に終わった。そして、Aは最後まで生きることを諦めなかったため、凄惨な方法で殺害された」{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|pp=179-181}}「第一審判決が指摘した(インターネットを通じた犯行グループによる)犯罪の特殊性を重視しないならば、自首による犯罪発覚の効果もそこまで重視すべきではないとの考えもできるが、控訴審判決はその点について言及しなかった」と指摘した{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|p=183}}上で、「名古屋高裁は『被害者数が1名の場合には死刑を回避する』という結論ありきで判決を宣告したのではないか?」と評価している{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|pp=181-183}}。}}{{Sfn|名古屋高裁|2011|loc=検察官の控訴趣意及び被告人両名の控訴趣意中、量刑不当の論旨(被告人D〈「山下」〉につき量刑事情に関する事実誤認の主張を含む。)について}}。
|}
名古屋地裁 (2009) が[[サイバー犯罪|インターネット犯罪]]の危険性・模倣性を重視した<ref name="中日新聞2009-03-18"/>一方、名古屋高裁 (2011) はその判断の枠組を否定し、2人に重大前科や詳細な殺害計画がない点などを挙げた上で、(「永山基準」が示されて以降、死刑判決が宣告された事件の多くは被害者が複数の場合に限られてきた)従来の判例を踏襲する形で、極刑を回避した{{Efn2|[[前田雅英]]([[東京都立大学 (2020-)|首都大学東京]]法科大学院教授)は「本件で問題になった『闇サイトの悪用』は、実際の犯罪行為から判断すれば、罪を重くすべき決定的な要素ではなく、『痕跡が残るため、発見は困難ではない』とした名古屋高裁の判断に一定の合理性がある。殺害された人数などから、死刑とするには特段の事情が必要な事件で、控訴審判決は従来の死刑選択基準にかなったものだ」と評価した{{Sfn|福田ますみ|2011|p=175}}一方、[[土本武司]](元[[最高検察庁]]検事)は「全体として悪質性を強調すべき事件の特色を過小評価し、『永山基準」に引きずられる形で極刑を回避した感が否めない。名古屋高裁が死刑回避の情状として挙げた『堀の更生可能性』『『山下」の犯行後の自首』は過大評価すべきでない」と指摘した<ref name="中日新聞2011-04-13 社会"/>。また、井口文彦(『[[産経新聞]]』編集長)は、名古屋高裁が「動機に酌量の余地はなく、(犯行は)残虐で無慈悲」と指摘しながら、「被害者が1人の事件で、死刑がやむを得ないと言えるほど悪質とは断じ難い」として、堀の死刑判決を破棄した(および、最高裁が「死刑にすべき特段の事情はない」としてその判断を是認した)ことについて、「被害者1人事件への死刑適用を回避するための言い訳としか思えない」「最高裁が言う『特段の事情』とは何なのか」と指摘した上で、「最高裁は、残虐で冷酷な犯行の中身より、『被害者が1人』との理由を優先して死刑を回避する司法の官僚主義が、市井から不信感を呼んでいることを認識すべきだ。被害者の数で死刑(適用の可否)を考える人数主義は、裁判員制度の精神と相容れない」と述べている<ref>『[[産経新聞]]』2012年8月14日大阪夕刊スポーツ面「【西論】編集長・井口文彦 最高裁報告と裁判員制度 「数」で死刑を考えるな」([[産経新聞大阪本社]])</ref>。}}<ref>『中日新聞』2011年4月13日朝刊一面1頁「被害者1人 判例を踏襲 破棄、より丁寧な説明を」(中日新聞社 社会部記者:加藤文)</ref>。


====== 被告人Xの発言 ======
==== 判決確定 ====
[[名古屋高等検察庁]]は、堀を無期懲役とした控訴審判決を不服として、同月25日付で[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]へ[[上告]]した{{Efn2|上告趣意書提出は2011年9月22日、答弁書提出は2012年3月15日<ref name="公判について"/>。}}<ref>『中日新聞』2011年4月25日夕刊第一社会面13頁「闇サイト殺人上告 名高検 堀被告の死刑破棄で」(中日新聞社)</ref>。一方、「山下」については上告を断念し<ref>『中日新聞』2011年4月23日朝刊第一社会面35頁「闇サイト殺人1人上告 名高検 自首踏まえ1人断念」(中日新聞社)</ref>、「山下」も上告期限(2011年4月26日)までに上告しなかったため、無期懲役が確定した<ref>『読売新聞』2011年4月28日東京朝刊第三社会面37頁「「闇サイト」判決が確定」(読売新聞東京本社)</ref>。
判決当日の2009年3月18日、被告人Xは名古屋拘置所内で[[フジニュースネットワーク]](FNN)記者と面会した<ref group="報道" name="FNN-2009-03-18">{{Cite news |title=名古屋闇サイト拉致・殺害事件 無期懲役判決のX被告に反省の態度見られず |url=http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00151385.html |newspaper=[[東海テレビ]]|publisher=[[FNNニュース]] |date=2009-03-18 |language=ja|accessdate=2017-11-28 |archivedate=2009-03-20 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20090321002804/http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00151385.html }}</ref><ref group="報道" name="Yahoo-FNN-2009-03-18">{{Cite news |title=名古屋闇サイト拉致・殺害事件 無期懲役判決のX被告に反省の態度見られず |url=http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20090318/20090318-00000385-fnn-soci.html |newspaper=東海テレビ|publisher=FNNニュース、[[Yahoo!ニュース]]掲載記事 |date=2009-03-18 |language=ja|accessdate=2017-11-28 |archivedate=2009-03-19 |archiveurl=https://megalodon.jp/2009-0319-1039-47/headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20090318/20090318-00000385-fnn-soci.html }}</ref>。被告人Xは公判中こそ殊勝なそぶりを見せていたが<ref group="報道" name="知恵蔵2016"/>、死刑判決を免れた直後のこの面会で「『3人一緒に死刑になる』と予想していたから驚いたが、自首したことが認められたことについてはよかったと思う。『誰のおかげで事件が解決したのか』という思いだったから<ref group="注">事件の発端となった闇サイトへの書き込みを行ったのは、本文で述べられている通りX自身である。</ref>満足している。被害者Aの前に何人も物色しているんだから、彼女になったのは『運が悪かったから』だ。今でも『悪いことはばれなきゃいい』という気持ちは変わらない。生かしてもらえてよかった。ありがたい」と発言し、同日の[[FNNニュース]]([[フジテレビ系列]]:中京圏では[[東海テレビ放送]]にて放送)ではこの発言が取り上げられ「反省の態度見られず」と報道されたほか<ref group="報道" name="FNN-2009-03-18"/><ref group="報道" name="Yahoo-FNN-2009-03-18"/>、翌2009年3月19日にフジテレビ系列で放送された「[[情報プレゼンター とくダネ!]]」(司会者:[[小倉智昭]])では本事件について取り上げたニュースにて被告人Xの発言が取り上げられ、出演者から判決への賛否の声が上がった<ref group="報道" name="J-CAST 2009-03-19">{{Cite news |title=殺人バレそうなら自首すりゃOK? 死刑か無期か微妙な線引き |url=https://www.j-cast.com/tv/2009/03/19037917.html |newspaper=J-CASTニュース|publisher=[[ジェイ・キャスト]] |date=2009-03-19 |language=ja|accessdate=2017-11-28 |archivedate=2017-11-28 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20171128083715/https://www.j-cast.com/tv/2009/03/19037917.html }}</ref>。


検察官は、上告趣意書(提出:2011年9月22日付)<ref name="公判について"/>で「控訴審判決は、永山判決(「永山基準」を示した判決)<ref name="永山基準"/>や、[[光市母子殺害事件]]の差戻し判決{{Efn2|2006年(平成18年)6月20日・最高裁第三小法廷判決{{Sfn|集刑|2012|p=103}}。同判決は、「'''犯行自体に関連する量刑要素を評価した上で、特に酌量すべき事情がない限りは死刑を選択するほかない'''」と判示したもの{{Sfn|集刑|2012|p=105}}で、検察官は闇サイト事件における堀の控訴審判決に対する上告趣意書で「堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決は、結果の重大さ・悲惨さや、動機に酌むべき余地がない点、犯行が計画的である点、遺族の処罰感情の強さ、社会的影響の大きさなどの諸情状を軽視し、殺害された被害者が1人であることを過大に評価している」と指摘した{{Sfn|集刑|2012|p=127}}。}}を始めとする、最高裁の[[判例]]が示した死刑適用基準に反するほか、罪刑均衡および一般見地のいずれから見ても、著しい量刑不当であり、破棄しなければ著しく正義に反する」と主張した{{Sfn|集刑|2012|p=127}}。しかし、最高裁第二[[小法廷]]([[千葉勝美]]裁判長)は[[2012年]](平成24年)7月11日付で、堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決を支持し、検察官の上告を[[棄却]]する決定を出した{{Sfn|最高裁|2012}}<ref>『中日新聞』2012年7月14日朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人 堀被告無期確定へ 最高裁 「関与に差」高裁支持」(中日新聞社)</ref>ため、同年7月18日付で堀の無期懲役が確定した{{Sfn|名古屋地裁|2015|p=21}}。しかし、堀は同年8月3日に'''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]'''(1998年発生)の被疑者として、強盗殺人容疑で共犯者の男2人(同事件当時の仕事仲間)とともに愛知県警に逮捕された<ref>『中日新聞』2012年8月4日朝刊一面1頁「「闇サイト」堀受刑者逮捕 碧南の夫婦強殺容疑」(中日新聞社)</ref>。その後、同事件および強盗殺人未遂事件1件の被告人として起訴され、[[2019年]]([[令和]]元年)8月に死刑が確定している{{Efn2|堀は碧南事件などの被告人として、2015年(平成27年)12月15日に名古屋地裁刑事第4部([[景山太郎]]裁判長){{Sfn|名古屋地裁|2015}}で死刑を宣告された<ref>『中日新聞』2015年12月16日朝刊一面1頁「夫婦強殺 堀被告に死刑 妻殺害 共謀を認定 碧南の事件 裁判員判決」(中日新聞社)</ref>。同判決を不服として控訴した<ref>『中日新聞』2015年12月18日朝刊第一社会面31頁「碧南強殺で死刑 堀被告側が控訴」(中日新聞社)</ref>が、[[2016年]](平成28年)11月8日には名古屋高裁刑事第1部{{Sfn|名古屋高裁|2016}}(山口裕之裁判長)で控訴棄却の判決を言い渡された<ref>『中日新聞』2016年11月9日朝刊第一社会面31頁「堀被告 二審も死刑 「主導的立場」 碧南強殺で判決」(中日新聞社)</ref>。その後、2019年7月19日に最高裁第二小法廷([[山本庸幸]]裁判長)で上告棄却の判決を受け{{Sfn|最高裁第二小法廷|2019}}<ref name="中日新聞2019-07-20"/>、同判決に対する訂正申立も、同小法廷による同年8月7日付の決定で棄却された{{Sfn|最高裁第二小法廷|2019.8}}<ref name="中日新聞2019-08-10"/>。}}<ref name="中日新聞2019-08-10">『中日新聞』2019年8月10日朝刊第14版第三社会面27頁「碧南夫婦強殺で死刑確定 最高裁 闇サイト事件の堀被告」(中日新聞社)</ref>。
また被告人Xは2009年3月19日に『中日新聞』記者と面会した際に「『自分も含めて3人とも同じ刑になる』と思っており、被告人Kと同じ判決だったら控訴するつもりだった。自首が認められて助かった」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-20">『中日新聞』2009年3月20日朝刊第一社会面35頁「千種拉致殺害 自首評価に『助かった』 本紙記者面会 無期判決でX被告」</ref>。一方で「判決理由で『自分が被害者Aに乱暴しようとしたことが殺害の契機になった』という事実認定がなされた点は違う。殺害までの経緯などの事実認定は検察側の主張通りになっており納得できない。(自身が控訴するか否かは明言しなかったが)検察側が控訴するなら最後まで戦うしかない」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-20"/>。


==== 控訴 ====
== 加害者の経歴 ==
加害者3人は事件当時、[[消費者金融]]から数十万円 - 数千万円の借金を抱え<ref name="中日新聞2007-09-15"/>、金に困っていた{{Efn2|『中日新聞』 (2007) は社説で、「加害者3人(当時30 - 40歳代)と同じ世代には、思うような就職先が見つからず、派遣など不安定な非正規雇用を転々とした者が少なくない。3人の犯行は弁護の余地のない悪質なものだが、その背景には、努力しても不利な待遇から抜け出せず、格差が広がる(生活基盤が崩れ、将来を絶望した者による犯罪の続発が懸念される)日本の現状を指摘する識者もいる」と指摘した<ref name="中日新聞2007 社説"/>。}}<ref name="中日新聞2007-08-27"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=208}}。
判決後、被告人Kの[[弁護人]]は「闇サイトを介して形成された犯罪集団の危険性・模倣性を不当に重く量刑事情として解釈している」とコメントし<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-18 中部朝刊1面">『毎日新聞』2009年3月19日中部朝刊政治面1頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人・死刑判決 ネット犯罪には厳罰」(記者:秋山信一)</ref>、同日付で死刑判決を不服として[[名古屋高等裁判所]]に[[控訴]]した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊1面"/>。一方で被告人Kは収監先・名古屋拘置所に戻って弁護人と面会して弁護人から控訴する旨を聞かされたが、報道関係者との面会後に拘置所職員に対し「現在は弁護人が控訴の申立をしているはずだが、法廷で被害者Aの母親の顔を見たら『とても自分では公訴できない』と思った。今日面会した報道関係者に仲介をお願いしたが、(被害者遺族からも自分に言いたいことがあるだろうから)被害者遺族に直接会って謝罪したい。それが済んだら控訴を取り下げる」などと述べた<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。また同日夜には居室内で箸の先端を尖らせていたため「自殺の危険性がある」として保護室に収容されたが、その際の拘置所職員による事情聴取に対しては「死刑判決は最初から受け入れているし自殺するつもりはない。弁護人が控訴したが後で取り下げる」と述べた<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。
{{See also|堀慶末}}
=== KT ===
{{Infobox 犯罪者
|名前='''K・T'''
|画像=
|画像サイズ=
|画像説明=
|出生名=
|生年月日={{生年月日と年齢|1971|3|9|no}}{{Sfn|年報・死刑廃止|2020|p=263}}
|出生地={{JPN}}・[[群馬県]][[高崎市]]<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}
|失踪=
|没年月日={{死亡年月日と没年齢|1971|3|9|2015|6|25}}<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
|死没地=[[名古屋拘置所]]<ref name="中日新聞2015-06-25"/>({{JPN}}・愛知県名古屋市[[東区 (名古屋市)|東区]][[白壁]])
|死因=[[縊死]]([[絞首刑]])
|遺体発見=
|墓地=
|記念碑=
|住居={{JPN}}・愛知県[[豊明市]]栄町西大根<ref name="朝日新聞2007-08-27">『朝日新聞』2007年8月27日名古屋朝刊第一総合面1頁「闇サイト、3人の接点 遺棄容疑で逮捕 名古屋・千種の女性殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>
|国籍=
|別名=
|民族=
|市民権=
|教育=
|出身校=
|職業=[[新聞拡張団|新聞勧誘員]]<ref name="朝日新聞2007-08-27"/>
|雇用者=セールス会社([[朝日新聞]]販売所が業務委託){{Efn2|[[朝日新聞名古屋本社]]販売部は、取引先である新聞販売所からセールス業務を委託されていた会社に勤務していたKTが本事件に関与したことを受け、「改めて関係先に人事管理の徹底などを求めていく」とするコメントを出した<ref name="朝日新聞2007-08-27"/>。}}<ref name="朝日新聞2007-08-27"/>
|所属=
|動機=手っ取り早く、楽をして金を手に入れるため{{Sfn|集刑|2012|pp=98-99}}
|罪名=[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取罪]]・[[逮捕・監禁罪|逮捕監禁罪]]・[[強盗致死傷罪|強盗殺人罪]]・[[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄罪]]・[[窃盗罪|窃盗未遂罪]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}
|有罪判決=[[日本における死刑|死刑]] - 名古屋地裁刑事第6部<ref group="注" name="刑事第6部"/>:2009年3月18日宣告<ref name="中日新聞2009-03-18"/>
|刑罰=死刑(絞首刑/[[日本における被死刑執行者の一覧|執行済み]])<ref name="中日新聞2015-06-25"/>
|犯罪者現況=
|国={{JPN}}
|都道府県=愛知県
|現場=
|標的=帰宅途中の[[OL|女性会社員]]{{Sfn|集刑|2012|p=98}}
|死者=1人
|負傷者=
|凶器=綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋・金槌{{Sfn|集刑|2012|p=98}}
|逮捕日=2007年8月26日(当時{{年数|1971|3|9|2007|8|26}}歳)<ref name="中日新聞2007-08-27"/>
|収監場所=
|配偶者=
|両親=
|子=
|署名=
}}
本事件で2009年に死刑が確定し、2015年に死刑を執行された元[[死刑囚]]'''KT'''は[[1971年]]([[昭和]]46年)[[3月9日]]生まれ{{Sfn|年報・死刑廃止|2020|p=263}}(事件当時{{年数|1971|3|9|2007|8|24}}歳){{Sfn|大崎善生|2016|p=201}}・[[群馬県]][[高崎市]]出身<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}。


小学生のころに両親が離婚し、父親から暴力を振るわれ、学校でも[[いじめ]]を受けるような環境で生育した<ref name="サイゾー2"/>。また16歳のころから激しい[[頭痛]]に悩まされ、治療費が高額なために十分な治療を受けられず{{Efn2|成人後も持病([[群発頭痛]])のため、職が長続きしなかった<ref name="サイゾー2">{{Cite news|title=深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.601 被害者と加害者の両視点で描く東海テレビの力作 闇サイト事件を劇映画化『おかえり ただいま』|newspaper=[[サイゾー|日刊サイゾー]]|date=2020-09-18|author=長野辰次|url=https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry_2.html|accessdate=2021-03-20|publisher=株式会社サイゾー|page=2|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320151041/https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry_2.html|archivedate=2021年3月20日}}</ref>。}}<ref name="毎日新聞2008-09-26">『毎日新聞』2008年9月26日中部朝刊社会面25頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人 3被告、争う姿勢--初公判」(毎日新聞中部本社 記者:式守克史)</ref>、[[暴走族]]に所属した{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}。[[1989年]]([[平成]]元年)<ref name="朝日新聞2007-08-27 社会">『朝日新聞』2007年8月27日名古屋朝刊第一社会面31頁「互いに偽名、素性知らず「女性狙い、金奪おう」 名古屋・女性殺害 3容疑者 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>、地元・高崎市内の[[工業高等学校|工業高校]]を卒業<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会">『毎日新聞』2007年8月27日中部朝刊社会面23頁「愛知・女性拉致殺害:「携帯サイト」殺人、面識ない女性襲う--仲間内でも偽名使い」(毎日新聞中部本社 記者:桜井平、松岡洋介)</ref>。[[人材派遣会社]]などに登録した{{Efn2|このころ、KTは家族に対し「自動車関係の仕事をしている」と説明していた<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。}}が、実際に仕事に就いた形跡はなく<ref name="読売新聞2007-09-01">『読売新聞』2007年9月1日中部朝刊社会面35頁「[闇サイト殺人](上)脱落トリオ、意気投合 一気に凶暴化(連載)=中部」(読売新聞中部支社 連載担当記者:山下昌一、譜久村真樹、半田真由子)</ref>、上京後には[[暴力団]]関係の仕事をするようになった{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}。その後、[[東京都]]内の[[新聞販売店]]・愛知県内の人材派遣会社など、仕事を転々としたが<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>、堀や「山下」と同様に、仕事は長続きせず<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、各地を転々として名古屋にたどり着いた{{Sfn|大崎善生|2016|p=226}}。また、事件の10年ほど前(1997年ごろ)から携帯電話で闇サイトを利用していたとされる{{Efn2|KTは、堀や「山下」と出会った「闇の職安」について、「風俗関係の知人女性を希望者に紹介したり、事件の5年前から小遣い稼ぎに利用していた」と述べている<ref name="中日新聞2008-11-20"/>。}}<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="朝日新聞2007-09-15"/>。
2009年3月24日付で被告人・堀の弁護人は死刑判決を、被告人Xの弁護人も無期懲役判決をそれぞれ不服としてそれぞれ名古屋高裁へ控訴したほか<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-25">『中日新聞』2009年3月25日朝刊第二社会面32頁「2被告の弁護人控訴」</ref>、被告人K自身も同日付で名古屋高裁に控訴した<ref group="報道">『中日新聞』2009年3月25日夕刊第二社会面12頁「K被告も控訴」</ref>。同日及び翌日(2009年3月25日)、被告人Kは名古屋拘置所で報道関係者と面会したほか、翌々日(3月26日)には交際相手と面会したが、それぞれ面会相手に対し使用できる物品を制限されたことに対する不満を記載した文書を出した<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。


[[2006年]](平成18年)9月から[[豊明市]]内の新聞販売店に入社し{{Efn2|入社のきっかけは「求人誌を読んだこと」<ref name="毎日新聞2007-08-27 社会"/>あるいは「携帯電話の求人サイトを見たこと」とされる<ref name="闇からの凶行 上"/>。}}、会社の寮に住み込む<ref name="闇からの凶行 上">『朝日新聞』2007年8月30日名古屋朝刊第一社会面35頁「(闇からの凶行 女性拉致殺人事件:上)職続かず、転落の3人【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。『[[朝日新聞]]』のセールススタッフとして<ref name="闇からの凶行 上"/>、新聞勧誘員の仕事をしていたが、勤務態度はあまり良くなかった{{Efn2|KTは仕事を休みがちだった<ref name="闇からの凶行 上"/><ref name="朝日新聞2007-08-27 社会"/>。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}。また、事件前の手取り収入は少なく{{Efn2|月給は出来高払い(約100,000円)で、約40,000円の寮費が天引きされていた<ref name="闇からの凶行 上"/>。}}<ref name="闇からの凶行 上"/>、交際相手の女性から時々小遣いを貰うなどして生活していた{{Sfn|大崎善生|2016|p=202}}。また、勤務先の社長に対し「父が亡くなり、天涯孤独の身だ」と嘘を吐いたり{{Efn2|2007年1月、Kは勤務先の社長に対し「父が亡くなった」と話したが、実際には父親(事件当時71歳)は群馬県内で存命していた<ref name="闇からの凶行 上"/>。}}、同社に提出した履歴書にも虚偽記載{{Efn2|「地元の高校を卒業した後、職を転々とし、1997年(平成9年)から9年間、東京都内の人材派遣会社に在籍した」と記載していたが、実際にその会社に在籍していたのは2006年4月から3か月間のみだった<ref name="闇からの凶行 上"/>。}}がなされていた<ref name="闇からの凶行 上"/>。
一方で名古屋地検も死刑ではなく無期懲役判決を受けた被告人Xについて2009年3月27日付で量刑不当を理由に名古屋高裁に控訴した<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-28">『中日新聞』2009年3月28日朝刊第二社会面38頁「検察側も控訴」</ref>。


KTは[[#事件前の経緯|先述]]のように、闇サイトを悪用した別の詐欺事件で[[執行猶予]]付き有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトの閲覧・投稿を続けていた<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。
=== 被告人Kの死刑確定 ===
被告人Kは2009年4月6日に「2日前から頭痛がする」と申し立てて医師から頭痛の診断を受け、同年4月8日・10日にもそれぞれ診察を受けて頭痛対症薬を変更されるなどしたが、精神障害を疑われることはなかったほか異常な言動は見られなかった<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。Kは4月10日(金曜日)午前中に報道関係者と面会して事件内容などについて質問を受け、公訴を維持した場合を前提に回答したが、その際にも特に異常な言動はなかった<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。同日夜、被告人Kは名古屋拘置所職員に「控訴を取り下げたい」という旨を申し出、対応した職員から「なぜ担当職員がいない時間に申し出た?」と問われると「来週月曜日に担当職員へ改めて申し出る」と返答した{{Refnest|group="注"|死刑囚K本人は「担当職員不在時間帯」控訴取り下げを希望する旨を申し立てた理由に関して名古屋高裁の事実取り調べに対し「イライラしていたのか、何か些細なことで言い争いになったのかはよくわからないが、対応した拘置所職員が来てくだらないことを言ったから頭にきて『面倒くさい』と思ったから『控訴取り下げの書類を持ってこい』と言った」などと供述した<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。}}。Kは手紙への返信・読書をしつつ土日を過ごすと2009年4月13日(月曜日)に控訴取下申立書を作成・提出して控訴を取り下げたため{{Refnest|group="注"|死刑囚K本人は控訴取り下げ理由に関して名古屋高裁の事実取り調べに対し「『殺したければ早く殺せ』という思いがあったし、現時点で当時のことを考えるとインターネット上・週刊誌上で自分の交際相手を誹謗中傷する記事が掲載され、交際相手が精神的につらい旨を訴えてきた。『もうこれ以上彼女に迷惑をかけられない』と考え、別れるきっかけづくりに控訴を取り下げた」などと供述した<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。}}<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>、弁護人の控訴は効力を失い、被告人Kの死刑判決が[[確定判決|確定]]することとなった<ref group="報道" name="中日新聞2009-04-15-朝刊1面">『中日新聞』2009年4月15日朝刊1面1頁「K被告の死刑確定へ 千種拉致殺害 控訴を取り下げ」</ref>。


控訴取り下げ後の2009年4月15日、死刑囚Kは報道関係者との面会で「控訴取り下げは自分の判断だ。自分はもともと名古屋高裁で争うつもりはなかった。死んで罪を償うことしかできない」などと発言したほか、翌16日には別の報道関係者に対し控訴取り下げ理由を「今回の判決に関しては[[判検交流]]されているため『このまま裁判を続けてもしょうがない』と思った。また被害者遺族が死刑を望んでいたため、自分も『死をもって償うしかない』と思った」などと発言し、同日には東京都内の法律事務所宛てに「控訴を取り下げたので間もなく死刑確定者になる」などと記載した文書を送付した<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。

しかし第一審で被告人Kの[[国選弁護制度|国選弁護人]]を務めていた<ref group="報道" name="中日新聞2009-04-28"/>弁護士2人(蔵冨恒彦・福井秀剛)は<ref group="報道" name="中日新聞2009-08-13"/>「被告人Kは控訴取り下げの効果を十分に理解せず、あるいは理解する能力を欠いていた精神状態だったため、控訴取り下げは真意に基づいていない」などと主張して2009年4月27日付で控訴取り下げの無効確認・控訴審の開廷を名古屋高裁に申し立てた<ref group="報道" name="中日新聞2009-04-28">『中日新聞』2009年4月28日朝刊第一社会面27頁「控訴取り下げ『無効』 拉致殺害、K被告 弁護人が申し立て」</ref>。同日、弁護人は死刑囚Kと面会して「本件被告事件の弁護人に選任する」旨の弁護人選任届に署名押印させた<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)"/>。

2010年9月9日付で名古屋高裁(下山保男裁判長)は弁護人が求めていた控訴審期日指定の申し立てを棄却して控訴取り下げを有効とする決定を出した<ref group="裁判" name="名古屋高裁(2010-09-09)">[[#名古屋高裁決定(2010-09-09)|名古屋高裁決定(2010-09-09)]]</ref><ref group="報道" name="中日新聞2010-09-11">『中日新聞』2010年9月11日朝刊第一社会面39頁「闇サイト殺人 K死刑囚 控訴取り下げ有効 高裁決定」</ref>。弁護人はこの決定を不服として名古屋高裁の別の裁判部に異議を申し立てたが<ref group="報道" name="中日新聞2010-09-14">『中日新聞』2010年9月14日朝刊第二社会面28頁「K死刑囚弁護人 控訴取り下げ異議 闇サイト殺人」</ref>、名古屋高裁(志田洋裁判長)は2011年2月10日付で異議申し立てを棄却する決定をした<ref group="報道" name="中日新聞2011-02-16">『中日新聞』2011年2月16日朝刊第一社会面39頁「闇サイト死刑囚 弁護人異議棄却 名高裁」</ref>。

弁護人は決定を不服として2011年2月14日付で最高裁へ[[特別抗告]]したが<ref group="報道" name="中日新聞2011-02-16"/>、最高裁第三小法廷([[那須弘平]]裁判長)は2011年3月2日付で控訴取り下げを有効と判断して弁護人の特別抗告を棄却する決定を出した<ref group="報道" name="中日新聞2011-03-08">『中日新聞』2011年3月8日朝刊第一社会面33頁「K死刑囚本人の控訴取り下げ有効 最高裁が決定」</ref>。

=== 控訴審・名古屋高裁 ===
堀・X両被告人の弁護人は第一審判決後にそれぞれ心理鑑定を実施した<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-06">『読売新聞』2010年8月6日中部朝刊第一社会面25頁「闇サイト殺人 9日控訴審 Aさん母『娘失った思い、再び訴えたい』=中部」(間野勝文)</ref>。一方で被告人・堀は第一審判決後に「被害者遺族に謝罪文を送りたい」と申し出たが、被害者Aの母親はこれを拒絶した<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-06"/>。堀は控訴中の2009年5月下旬に名古屋拘置所で『読売新聞』記者との面会取材に応じ「判決直後は2日ぐらい食事が取れなかった」と明かした上で被害者遺族による加害者への死刑適用を求める署名活動について「『別に気にしていない』というより『当たり前なんだろうな』と思った。(署名した人々は)遺族への同情で署名したのだと思う」と話した<ref group="報道" name="読売新聞2009-06-06">『読売新聞』2009年6月6日東京朝刊1面・第一社会面39頁「[死刑]償いの意味(1)闇サイト殺人 『極刑を』32万人署名(連載)」 - データベース「ヨミダス歴史館」では統合</ref>。

[[名古屋高等裁判所]]([[下山保男]]裁判長)は[[2010年]](平成22年)6月14日までに残る堀・X両被告人について控訴審初公判開廷日時を「2010年8月9日」に指定した<ref group="報道">『中日新聞』2010年6月15日朝刊第三社会面29頁「8月に2被告控訴審」</ref><ref group="報道">『読売新聞』2010年6月15日中部朝刊第二社会面32頁「闇サイト殺人控訴審=中部」</ref><ref group="報道">『朝日新聞』2010年6月15日朝刊尾張知多版第一地方面33頁「第1回公判、8月9日に 闇サイト殺人控訴審 /愛知県」</ref>。

堀・X両被告人は2010年7月に名古屋拘置所内でそれぞれ『毎日新聞』記者との面会取材に応じ、それぞれ以下のように発言した<ref group="報道" name="毎日新聞2010-08-08">『毎日新聞』2010年8月8日中部朝刊社会面27頁「愛知・女性拉致殺害:あすから控訴審 1審判決から1年半、被害者母『早く確定を』」(記者:沢田勇)</ref>。
* 被告人・堀の発言 - 「死刑執行されれば自分の苦しみは一瞬で終わる。苦しみながら生きていくことも極刑と言えるのではないか?死刑判決が支持されれば受け入れざるを得ないが、自分が死刑執行されるというイメージが湧かない」<ref group="報道" name="毎日新聞2010-08-08"/>
* 被告人Xの発言 - 「(控訴審直前だが心境は)特にない。もう事件から3年が経過するがまだ裁判が終わらず疲れる。(控訴審では再び死刑適用可否が焦点となるが)今は『死刑になっても構わない』と思うが心境が変わるかもしれない。(被害者Aに対する気持ちは)自分でもわからない」<ref group="報道" name="毎日新聞2010-08-08"/>

==== 控訴審初公判 ====
2010年8月9日、名古屋高裁(下山保男裁判長)で堀・X両被告人の控訴審初公判が開かれた<ref name="控訴審第1回公判">{{Cite web|title=第二審・第1回公判の概要(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page034.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2010-08-09|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125144327/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page034.html}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2010-08-09-夕刊1面">『中日新聞』2010年8月9日夕刊1面1頁「闇サイト殺人 検察『全員死刑』を主張 名高裁で控訴審初公判」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2010-08-09-夕刊13面">『中日新聞』2010年8月9日夕刊第一社会面13頁「闇サイト事件 犯罪性の判別難しく 識者『取り締まり再構築を』」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10">『中日新聞』2010年8月10日朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 検察『2被告死刑に』 名高裁控訴審第1回公判 弁護側は減軽求める」「『まったく心に響かない』母、被告側の“償い”批判」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10">『読売新聞』2010年8月10日中部朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人控訴審 初公判 検察側、改めて死刑主張=中部」</ref>。

被告人Xの無期懲役判決に対し控訴した検察側([[名古屋高等検察庁]])は控訴趣意書にて以下のように主張した。
* 「第一審判決は自首を重視して被告人Xへの死刑適用を回避したが、Xの自首は自己保身目的であり反省はうかがえない」<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>
* 「被告人Xは闇サイトで働きかけて犯罪者集団を結成し、犯行でも重要な役割を果たした中心的人物だ。自首を最大限に情状として考慮しても死刑を回避する事情には当たらず、第一審・無期懲役判決は量刑不当で死刑が相当である」<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>
また検察側は死刑判決を不服として控訴した被告人・堀についても答弁書で「死刑を選択した第一審判決は正当であり被告人・堀とその弁護人の控訴は棄却されるべきだ」と主張した<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>。

一方で堀・X両被告人の弁護人は以下のように主張してそれぞれ量刑の軽減を求めたほか、「第一審判決後に犯罪心理鑑定を実施し被告人の性格・犯行に至る心理状況などを分析した」と述べ、その結果を証拠として採用するよう名古屋高裁に請求した<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。名古屋高裁も証拠採用を行ったため、検察側は心理鑑定の信用性を争う方針を決めた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。
* 被告人・堀の弁護人 - 控訴趣意書にて「堀は他人に同調しやすい性格で、反省の態度は顕著だ。生きて罪を償わせるべきだ」と述べ死刑判決破棄・無期懲役の適用を求めた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。
* 被告人Xの弁護人 - 「闇サイトに投降した投書は強盗殺人をする意思はなく、堀や死刑囚Kに比べると役割は従属的だ。真摯に反省している」と主張した<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>。その上で「被告人Xは軽度の知的障害があり、現実を吟味する力が弱く、犯行時は従属的な立場だった」と述べて有期懲役の適用を求めた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。
また同日には被告人・堀が遺族宛に書いたものの受け取りを拒否された謝罪文などについても証拠採用が決定された<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>。弁護人はこの謝罪文・反省文を法廷で朗読し<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>、「被告人・堀は命の尊さ・被害者遺族の苦しみを重く受け止めている」<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>「堀は死刑以外の“償い”を模索している。死刑で苦しむのは一瞬であり、被害者遺族の苦しみを背負わせるべきだ」と訴えた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。
その一方で、検察側証人として被害者Aの母親に対し証人尋問が行われることも決まった<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>。

被告人・堀は入廷時に法廷へ一礼したほか、人定質問のため証言台に向かう際<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>、傍聴列の最前列にいた被害者遺族へ頭を下げた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。一方で被告人Xは被害者遺族に頭を下げず、公判中も目を左右に動かしたり空中を見つめたりしていた<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>。

閉廷後の記者会見で被害者Aの母親は以下のように述べた上で、今後の心境について「死刑判決を下していただけるよう裁判官に思いを精一杯訴えたい」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。
* 第一審で法廷に持ち込んでいたAの遺影をこの日持ってこなかったことを明かし「(娘には)怖かった事件のことを早く忘れてほしいから」と述べた<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>。
* 「『この裁判のために加害者の性格など分析したところでどういう意味があるのか?』と言いたい」と述べ<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>、「心理鑑定の結果・反省の態度」を根拠に死刑回避を訴えた被告人2人・弁護人らの態度を厳しく批判した<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。
* 被告人・堀に対し「刑を軽くしたいがために謝罪のふりをしているとしか受け止められない」と批判した上で<ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>、「謝罪の気持ちがあるなら被害者遺族の求めに合わせた償いをすべきだ。(死刑囚Kと同様に)控訴を取り下げて、死刑判決を受け入れることが最低限の謝罪の表し方だ」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/>。また『読売新聞』の取材に対し控訴審判決直前の2011年4月には「堀の謝罪文は『謝罪を受け入れるつもりはない』と受け取りを拒否したのに、弁護人により聞くしかない状態で強制的に聞かされた。穏やかな気持ちで聞けるはずがなかった」と述べた<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09"/>。
* 被告人Xに対しては「無期懲役でも重いと感じているのか。唖然とする」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-10"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-08-10"/>。

==== 控訴審の証拠調べ ====
2010年9月24日に控訴審第2回公判が開かれ<ref name="控訴審第2回公判">{{Cite web|title=第二審・第2回公判の概要(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page035.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2010-09-24|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125144344/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page035.html}}</ref>、第一審判決後に両被告人の弁護人からそれぞれ依頼を受けて両被告人の心理鑑定を行った[[臨床心理士]]・[[山田麻紗子]](当時・[[日本福祉大学]]准教授)が弁護人側証人として出廷した<ref group="報道" name="中日新聞2010-09-25">『中日新聞』2010年9月25日朝刊第三社会面35頁「『集団同調性が影響』 闇サイト殺人 名高裁控訴審 心理士が分析」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2010-09-25">『読売新聞』2010年9月25日中部朝刊名古屋市内版29頁「闇サイト殺人 心理鑑定で証人尋問=中部」</ref>。

山田は心理テストの結果などを根拠に<ref group="報道" name="読売新聞2010-09-25"/>、以下のように述べて「両被告人とも攻撃性はうかがえない」と説明した<ref group="報道" name="中日新聞2010-09-25"/>。
* 被告人・堀の性格<ref group="報道" name="読売新聞2010-09-25"/>
** 「自己主張より同調を選びがちだが、集団の特性がなければ凶悪犯罪を起こすことは想定しにくい」<ref group="報道" name="中日新聞2010-09-25"/>
** 「堀の人格は穏やかで攻撃性はそれほど強くない」<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09"/>
** 「堀に粗暴性・凶悪性は見当たらない」<ref group="報道" name="読売新聞2010-09-25"/>
* 被告人Xの性格 - 面接で「(殺害時の様子は)サスペンスドラマを見ているようだった」と発言した点<ref group="報道" name="中日新聞2010-09-25"/>、および軽度の知的障害・発達障害の存在を挙げた上で以下のように言及し、量刑の軽減を求めた弁護人側の主張に沿う証言をした<ref group="報道" name="読売新聞2010-09-25"/>。
** 「どこまで認知して犯行に及んだか疑問だ」<ref group="報道" name="中日新聞2010-09-25"/>
** 「K・堀両被告人に追従して行動した側面が強い」<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09"/>
一方で検察側は「鑑定書に記載された犯行経緯が第一審判決の事実認定とは異なる」と指摘し、鑑定結果の信用性について疑問を呈した<ref group="報道" name="読売新聞2010-09-25"/>。

2010年10月18日に控訴審第3回公判が開かれ、証人尋問・被告人質問が行われた<ref name="控訴審第3回公判">{{Cite web|title=第二審・第3回公判の概要(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page036.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2010-10-18|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125144348/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page036.html}}</ref>。同日は検察側証人として被害者Aの母親が出廷し、両被告人への死刑適用を求めた<ref group="報道" name="中日新聞2010-10-19">『中日新聞』2010年10月19日朝刊第三社会面32頁「『生きて一生償いたい』 闇サイト殺人 控訴審で堀被告」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19">『読売新聞』2010年10月19日中部朝刊第二社会面32頁「闇サイト控訴審 堀被告『生きて償いたい』 被害者の母『死刑求める』=中部」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2010-10-19">『朝日新聞』2010年10月19日朝刊第一社会面32頁「遺族、2被告の死刑判決求める 『受け入れて』 闇サイト殺人控訴審 【名古屋】」(記者:上田真由美)</ref>。

被害者Aの母親は証人尋問の冒頭で裁判の傍聴を続けてきた理由を「娘1人だけ痛かったり怖かったりしたのがかわいそうで、少しでも共有してあげたかった」と説明した上で以下のように述べ、両被告人への死刑を求めた。
{{Quotation|(下山保男裁判長に対し死刑を望む旨で訴えた言葉)「私はある日突然、見知らぬ3人の男たちによって、たった1人の家族である娘を惨殺され、亡くしました。そのことにより仕事を辞め、30年住んだ住居を去り、署名活動で多額の費用を使いました。娘はまじめに生きてきただけなのに、31歳という若さで強制的に人生を閉じられ、夢や希望、未来の全てを奪われてしまいました。片や、罪を犯した者は3食税金で食べさせてもらい、体調が悪いと(医師に)診てもらい、裁判では1人(の被告人)に2人や2人の国選弁護人をつけてもらい、犯罪心理鑑定と手厚い弁護を受け、挙げ句に好き勝手な言動で遺族の心を逆なでする始末。娘の最後の言葉に耳を貸さずに命を奪ったのに、自らの命は守ろうとして叶えてもらいます。これってとてもおかしなことに思います」|被害者Aの母親|<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.9"/>}}
* 「まったく落ち度もない娘がなぜ惨殺されなければならなかったのかわからず、今も死を受け入れられない」<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>
* 「Aが生前『お母さんに家を買ってあげたい』と言っていたので、第一審判決後に『その夢を叶えてあげよう』と考え、被告人らが奪おうとしていた娘の預金を住宅購入に充てて引っ越した」<ref group="報道" name="朝日新聞2010-10-19"/>
* 「真面目に生きてきた娘が標的にされた。厳しく裁くことが真面目に生きる人を守ることにつながる」<ref group="報道" name="中日新聞2010-10-19"/>
* 「両被告人は反省しているならば死刑判決を受け入れるべきだ」<ref group="報道" name="朝日新聞2010-10-19"/>
* 「控訴審初公判で弁護団が読み上げた被告人・堀の謝罪文は刑の軽減を狙うためだけのものだ」
* 「被告人Xの自首は反省・後悔に基づくものではない」<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>
その後被告人質問が行われ<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>、被告人・堀は「死刑を受け入れるべきかどうか償いを悩み続けてきたが、死ぬことはある意味で楽な選択で、私にとって極刑は無期懲役だ」と述べ<ref group="報道" name="中日新聞2010-10-19"/>、「一生苦しみながら罪を償わせていただきたい」と述べた<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>。また被告人Xは被害者遺族への気持ちを問われ「申し訳ありませんでした」と答えた<ref group="報道" name="中日新聞2010-10-19"/>。これに加えて被告人Xから弁護人に出された「被害者Aさんのご冥福をお祈りします」と記された手紙が証拠採用されたが<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>、被告人Xは弁護人から謝罪・反省の気持ちについて詳しく述べるよう求められても<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>、ちぐはぐな受け答えが目立った<ref group="報道" name="中日新聞2010-10-19"/>。

また被告人・堀の母親が同日初めて証人出廷し<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>、弁護人側証人として証言した<ref group="報道" name="朝日新聞2010-10-19"/>。堀の母親は被害者Aや母親への心境を問われ「本当に申し訳ございません」と謝罪したほか、第一審で息子が死刑判決を受けたことについて「頭の中が真っ白になった。『(Aさんの)お母様も娘さんを亡くされた時はこういう気持ちだったのか』と思った」と述べ<ref group="報道" name="読売新聞2010-10-19"/>、息子に対しては「生き永らえながら罪を償ってほしい」と話したが<ref group="報道" name="朝日新聞2010-10-19"/>、被害者Aの母親は公判後に「償ってもらえる方法は1つしかない」として堀とその母親の発言に反論した<ref group="報道" name="中日新聞2010-10-19"/>。

2010年12月3日に控訴審第4回公判が開かれて結審した<ref name="控訴審第4回公判">{{Cite web|title=第二審・第4回公判の概要(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page037.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2010-12-03|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125144355/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page037.html}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04">『中日新聞』2010年12月4日朝刊第二社会面38頁「闇サイト殺人 2被告の控訴審結審 名高裁 弁護人『償う機会を』」「極刑なら『娘に報告』 母親、遺影もたず傍聴」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04">『読売新聞』2010年12月4日中部朝刊第二社会面38頁「闇サイト殺人 控訴審が結審 3月25日判決=中部」</ref>。

検察側は最終弁論で以下のように主張して「2被告人とも死刑をもって臨むしかない」と訴え、改めて「被告人・堀への死刑判決支持(控訴棄却判決)」「被告人Xにも死刑判決(第一審・無期懲役判決を破棄)」をそれぞれ言い渡すよう求めた<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>。
* 弁護人の依頼により行われた犯罪心理鑑定の結果について<ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>、以下のように信用性を疑問視する見解を示した<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/><ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09"/>。
** 「一部の裁判記録だけを前提にしたものだ」<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/>
** 「『被告人・堀の人格は穏やか』などと鑑定されているが、証拠価値・信用性は極めて乏しい」<ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>
その上で「被害者遺族は既に死刑が確定している死刑囚Kを含めて加害者3人全員への死刑適用を求める意向を示しており、その意向は量刑判断で最大限に考慮すべきだ」と主張したほか<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/><ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09"/>、被告人Xの自首についても「反省は認められず、過大評価はできない」と主張した<ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>。
一方で2被告人側の弁護人は「感情に流されず理性的な判断を」と主張していずれも死刑回避を訴え<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/>、堀の弁護人は無期懲役・被告人Xの弁護人は有期懲役刑をそれぞれ適用するよう求めた<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>。
* 被告人・堀の弁護人
** 「集団の特性で堀の意思とは無関係に凶悪化した犯行。積極性は認められない」<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/>
** 「心理鑑定の結果によれば加害者3人の中で、堀が一番犯罪性向が薄い」<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09"/>
** 「堀は控訴審で謝罪・反省の言葉を繰り返している」と言及し<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09">『読売新聞』2011年4月9日中部朝刊特報面30頁「2被告 死刑か回避か 闇サイト殺人控訴審 12日判決 名古屋高裁=中部」</ref>、「堀の改悛の情は顕著だ。苦しみながら、生涯をかけて償う機会を与えてほしい」と訴えた<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>。
* 被告人Xの弁護人
** 「Xは心理鑑定の結果によればK・堀両被告人に比べて犯行で果たした役割が低い」<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-09"/>
* 「被害者1人の他の強盗殺人事件と比べると、極刑がやむを得ないとは言えない」<ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>
* 「Xの犯行は場当たり的・従属的で、自首の成立を除いても死刑適用は許されない」<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/><ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>。
堀の弁護人は閉廷直前に「堀自身が『最後に遺族への謝罪の気持ちを述べたい』と希望している」として最終陳述を求めたが、下山裁判長はこれを認めなかった<ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>。被害者Aの母親は閉廷後に「娘を『殺され損』にはしたくない。堀・X両被告人には『金目的で殺した責任を取れ』と言いたい」と話した<ref group="報道" name="読売新聞2010-12-04"/>。

名古屋高裁は控訴審判決公判期日を当初は[[2011年]](平成23年)3月25日に指定していたが<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-04"/>、同年3月10日付で予定期日を2011年4月12日に変更した<ref group="報道">『中日新聞』2011年3月11日朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人 二審判決延期 来月12日に」</ref>。

==== 控訴審判決 ====
2011年4月12日に控訴審判決公判が開かれ、名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)は被告人・堀の第一審・死刑判決を破棄して無期懲役判決を言い渡したほか、被告人Xについても第一審・無期懲役判決を支持(検察側・被告人側双方の控訴を棄却)した<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12">[[#名古屋高裁判決(2011-04-12)|名古屋高裁判決(2011-04-12)]]</ref><ref name="怒りの判決">{{Cite web|title=死刑の判断基準である永山基準はもう変えるべきです。人数で命の重さは量れません!―怒りの判決 |url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page003.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2011-04-12|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125143841/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page004.html}}</ref><ref name="控訴審第5回公判">{{Cite web|title=第二審・第5回公判の概要(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page038.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2011-04-12|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125144359/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page038.html}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13">『中日新聞』2011年4月13日朝刊1面1頁「闇サイト殺人 2被告に無期懲役 名高裁判決 堀被告死刑破棄 『模倣性高いといえず』」「被害者1人判例を踏襲 破棄、より丁寧な説明を」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊28面">『中日新聞』2011年4月13日朝刊特報面28頁「闇サイト殺人判決要旨」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊30面">『中日新聞』2011年4月13日朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人『誰のための裁判か』○○(被害者女性の実名)さん母、無念 名高裁判決『被害者目線なかった』」「悪質性を過小評価([[土本武司]]元最高検検事の話)」</ref>。

名古屋高裁は判決理由で以下のように事実認定を行った。
* (犯行の動機・様態について)「強い利欲目的のみに基づいた犯行動機に酌量の余地はまったくない。手段・方法を変えつつ被害者殺害に向けた行動を取り続けた挙句、何の落ち度もない被害者の必死の命乞いにも耳を貸すことなく殺害を遂げたことを併せ考えると、殺害の様態は無慈悲・凄惨であって残虐というほかない。本事件は衝撃的な事件として大きく報道され、社会に『いつ誰でも本件同様の被害に遭うかもしれない』という大きな衝撃・恐怖感・不安感を与えた」と事実認定した<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/>。
* (情状面に関して)
** 「被告人・堀は本犯行当時32歳で交通関係の罰金前科2件以外に前科はなく、両親・元交際相手らが刑の軽減を求める嘆願書を提出しているが、拉致・殺害の具体的な計画立案、実行行為ともに死刑囚Kに次いで積極的な役割を果たしている。大筋で各事実を認め、堀なりに反省の言葉を述べ反省文を書くなどしているが、殺害の共謀成立時期などに関して信用しがたい供述をしており、自らがした行為に対し正面から向き合って真摯に反省しているとまでは言えない」<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/>
** 「被告人Xは詐欺罪で有罪に処された執行猶予中、被害者に対する強姦未遂も含めて本件犯行に及んだ。捜査・第一審公判では犯行を認めたものの、第一審公判では被害者に対する気持ち・謝罪の気持ちを聞かれても無責任で心無い言葉を述べるなど、十分な反省をしているとは認めがたい言動もある」<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/>
* 一方で「インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士の犯行は意思疎通の不十分さから失敗に終わりやすく、携帯電話・メールの履歴で痕跡が残るため発覚が困難とも考え難い。第一審が指摘するように『逮捕が困難で模倣性が高い』とはいえず、他の強盗殺人などと比べて過度に強調して厳罰で臨むのは相当ではない」と指摘した<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊28面"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊30面"/>。その上で殺害時の堀・X両被告人の役割については「第一審では『死刑囚Kと同等の役割』と判断されたが、本件では死刑囚Kの提案に被告人2人が安易に応じた面があり、殺害の共謀成立前から『被害者を殺害する』という明確な意思を有していたとは言えない。殺害行為に当たって果たした両被告人の役割にも死刑囚Kとは差があることは否定できず、両被告人とも犯罪に対する抵抗感が希薄であることは否定できないが、いずれも本件のほかに凶悪犯罪への傾向を示すものは見当たらないことから犯罪性向が強いとはいえず、矯正可能性があると考えられる」と認定した<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊28面"/>。
** 被告人Xによる犯行後の自首については「その動機の中には死刑囚Kや被告人・堀に対する不満などの気持ちから『一蓮托生で警察に突き出そう』などという気持ちもあったが、反省悔悟の情もあったこと・自首が本事件解決に対し一定の寄与をしたことは否定できない」と認定した<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/>。
** 「殺害の態様が残虐性を増したのは、被告人らが想像していたよりも、被害者が簡単に絶命しなかったため、むしろ殺害に手間取り、殺害手段を次々に変えた結果であり、当初から意図的に残虐な方法を取った場合と比較すれば、悪質性の程度に多少の差がある」と認定した<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/><ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.8"/>。
以上の面から量刑に関して死刑選択基準として[[最高裁判所判例]]・[[永山基準]]を引用し「殺害された被害者が1人である本件では、死刑選択がやむを得ないと言えるほど悪質な要素があったとはいえない」と結論付けた<ref group="裁判" name="名古屋高裁2011-04-12"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-13-朝刊28面"/>。また、X側の有期懲役刑への減軽の主張に対しては、Xが単独で被害者Aを2回強姦しようとしたことに触れ、「自首を考慮しても有期懲役刑にするのは適切でない」と退けた。

===== 控訴審判決後 =====
被害者Aの母親は2011年4月19日、[[最高検察庁]][[検事総長]]・笠間治雄と[[名古屋高等検察庁]]検事長・藤田昇三の両名に対し「堀・X両被告人への控訴審判決を不服としていずれも[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]への[[上告]]を求める」陳情書を提出した<ref group="報道">『中日新聞』2011年4月19日朝刊第二社会面30頁「Aさんの母が上告求め陳述書 闇サイト殺人」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-19-夕刊">『中日新聞』2011年4月19日夕刊第一社会面11頁「母が上告求め陳情書を提出 闇サイト殺人」</ref>。Aの母親は同日、『中日新聞』の取材に対し「殺害された被害者が1人の事件は量刑相場で刑の重さが決まっており、極刑回避の理由は後付けだと感じた。検察にはどうしても上告してほしい」と話した<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-19-夕刊"/>。

名古屋高検は2011年4月22日、被告人・堀に対しては無期懲役判決を不服として最高裁に上告することを発表した一方<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-22-夕刊">『中日新聞』2011年4月22日夕刊第一社会面13頁「名高検 闇サイト殺人上告へ」</ref>、被告人Xに関しては上告を断念する方針を決めた<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-22-夕刊"/><ref group="報道" name="中日新聞2011-04-23">『中日新聞』2011年4月23日朝刊第一社会面35頁「闇サイト殺人1人上告 名高検 自首踏まえ1人は断念」</ref>。名古屋高検次席検事・野々上尚は『中日新聞』の取材に対し「控訴審判決は『殺害された被害者数が1人の本件は、死刑選択がやむを得ないほど悪質とは言えない』と述べているが、堀の死刑判決破棄は永山基準・および[[光市母子殺害事件]]の差し戻し控訴審判決(2008年)といった判例にいずれも違反する。一方で被告人Xについては犯行後に自首した点などを踏まえて最高検と協議・精査したが、[[日本国憲法|憲法]]違反・判例違反など適法な上告理由を見出せなかった」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-23"/>。被害者Aの母親は同日までに控訴審判決の疑問点を箇条書きにした文書を作成して高検に提出したが、被告人Xへの上告が断念されることとなったことを受け「2人について上告して最後まで闘ってほしかったが、(被告人Xの無期懲役確定について)どんなに悔しくても従うしかない。『3人が死刑になったら報告する』と娘に約束したが『これで何も報告できないんだな』と思った」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-23"/>。

名古屋高検は2011年4月25日付で被告人・堀への無期懲役判決を不服として最高裁に上告した一方<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-25">『中日新聞』2011年4月25日夕刊第一社会面13頁「闇サイト殺人 名高検 堀被告の死刑破棄で」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2011-04-26">『読売新聞』2011年4月26日東京朝刊第一社会面37頁「闇サイト事件 検察が上告=中部」</ref>、名古屋高検・被告人X側ともに被告人Xについて控訴期限となる2011年4月26日までに最高裁へ上告しなかったため、被告人Xは同日付で無期懲役判決が確定した<ref group="報道" name="読売新聞2011-04-28">『読売新聞』2011年4月28日東京朝刊第三社会頁「『闇サイト』判決が確定」</ref><ref name="上告断念">{{Cite web|title=上告断念|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page004.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2011-04-22|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180125143841/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page004.html}}</ref>。

=== 上告審・最高裁第二小法廷 ===
名古屋高等検察庁は2011年9月22日付で[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二[[小法廷]]([[千葉勝美]]裁判長)へ上告趣意書を提出した一方、2012年3月15日には被告人・堀の弁護人から答弁書が提出された<ref name="公判について"/>。

==== 堀の無期懲役確定====
最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は[[2012年]](平成24年)7月11日付で「控訴審の『殺害された被害者が1名である本件において、死刑の選択がやむを得ないといえるほど他の量刑要素が悪質であるとは断じ難い』という判断が誤りであるとはいえない」などの決定理由から、被告人・堀への控訴審・無期懲役判決を支持して検察側の上告を棄却する[[三行決定|決定]]を出した<ref group="裁判" name="最高裁2012-07-11">[[#最高裁第二小法廷決定(2012-07-11)|最高裁第二小法廷決定(2012-07-11)]]</ref><ref name="上告棄却">{{Cite web|title=上告棄却|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page040.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2012-07-15|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163029/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page040.html}}</ref><ref name="上告棄却報道">{{Cite web|title=上告棄却(報道より)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page041.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2012-07-13|language=ja|accessdate=2018-01-25|archivedate=2018-01-25|archiveurl=http://web.archive.org/web/20170817163627/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page041.html}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2012-07-14">『中日新聞』2012年7月14日朝刊第一社会面31頁「闇サイト殺人 堀被告無期確定へ 最高裁 『関与に差』高裁支持」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2012-07-14">『読売新聞』2012年7月14日東京朝刊第二社会面38頁「闇サイト殺人 被害者母 無念の涙 無期懲役確定へ 『娘に報告できない』」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2012-07-14-中部1面">『読売新聞』2012年7月14日中部朝刊1面1頁「闇サイト殺人 無期確定へ 被害者1人 最高裁、死刑回避」</ref><ref group="報道" name="読売新聞2012-07-14-中部38面">『読売新聞』2012年7月14日中部朝刊第一社会面29頁「闇サイト殺人 『極刑を』思い届かず 遺影なで母悔し涙=中部」</ref>。同決定により被告人・堀は2012年7月18日付で無期懲役判決が確定した<ref group="裁判" name="名古屋地裁2015-12-15"/>。

== 死刑囚・受刑者のその後 ==
=== 死刑囚K ===
==== 国家賠償請求訴訟 ====
==== 国家賠償請求訴訟 ====
第一審で被告人Kの国選弁護人を務めていた<ref group="報道" name="中日新聞2009-04-28"/>弁護士2人(蔵冨恒彦・福井秀剛)は<ref group="報道" name="中日新聞2009-08-13"/>、死刑囚K収監先・[[名古屋拘置所]]に対それぞれ(蔵冨が2009年4月・福井が同年6月)死刑囚Kと拘置所職員の立ち会いなしで面会できる「弁護士面会」を申請したが、名古屋拘置所はこの申請を退け「死刑確定直後で心情安定のため立ち会いがいるなどの理由から拘置所職員が立ち会う「一般面会」しか認めなかった<ref group="報道" name="中日新聞2009-08-13"/>。また控訴取り下げ以降、[[原告]]弁護人2人は立ち会いなしの「弁護士面会」を計14回わたりめたが、名古屋拘置所側は「既決囚だからできない」「心情把握ためいが必要」など理由かいずも認めなかった一方<ref group="報道" name="中日新聞2010-11-27"/>、それらは別に1回の面会についも同様断られたが時は実際は立ち会いなで面会できた<ref group="報道" name="中日新聞2010-11-27"/>。
第一審でKTの国選弁護人を務めていた弁護士2人{{Sfn|名古屋地裁|2013|pp=3-4}}(藏冨恒彦<ref group="" name="藏冨恒彦"/>・福井秀剛<ref group="" name="福井秀剛"/>)は、KTによる控訴取り下げ後の2009年4月 - 6月にかけ<ref name="中日新聞2009-08-13"/>、控訴取り下げへ異議申立ての打ち合わせなどのため<ref name="中日新聞2013-02-20"/>、KTと拘置所職員の立ち会いなしで面会る「弁護士面会」を[[名古屋拘置所]]に申請したが、拘置所は「死刑確定直後で心情安定のため立ち会いが必要だとして、立ち会いの伴う「一般面会」しか認めなかった<ref name="中日新聞2009-08-13">『中日新聞』2009年8月13日朝刊第三社会面24頁「千種拉致殺害 立ち会いなし接見できず 弁護人『違法』と提訴(中日新聞社)</ref>。2人はこれ違法として、2009年8月12日付で、名古屋地裁[[国家賠償請訴訟]][事件番号:平成21年(ワ)第4801号/請求額:120万円]を提訴{{Sfn|名古屋地裁|2013|pp=4-5}}。そ後、2010年11月4日には同様に、無立会の面会を認められなかったを違法とし、死刑囚KT対し慰謝料などを支払う国賠訴訟[事件番号:平成22年(ワ)第7629号]を提起し訴訟と併せ{{Sfn|名古屋地裁|2013|p=5}}、[[被告]](国)2,700万円の支払いを求めていた<ref name="中日新聞2013-02-20"/>。


名古屋地裁民事第3部(德永幸藏裁判長){{Sfn|名古屋地裁|2013}}は[[2013年]](平成25年)2月19日、「拘置所長が裁量権を濫用した」として、原告側の訴えを認め<ref name="中日新聞2013-02-20">『中日新聞』2013年2月20日朝刊第二社会面24頁「接見立ち会い違法 闇サイト死刑囚、国に勝訴 名地裁判決」(中日新聞社)</ref>、国に対し145万2,000円の賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した{{Efn2|名古屋地裁 (2013) は「裁判を続けたいと望む死刑囚には、弁護人と単独で面会する法的権利がある。1回はKTの精神状態が不安定で、職員の同席が必要だったが、24回は違法と認定できる」と判示した<ref name="中日新聞2013-02-20"/>。}}<ref>『読売新聞』2013年2月20日東京朝刊第三社会面37頁「接見に職員立ち会い「違法」 名古屋地裁 国に145万円賠償命令」(読売新聞東京本社)</ref>。[[2014年]](平成26年)3月13日<ref name="中日新聞2014-03-14"/>、名古屋高裁民事第3部([[長門栄吉]]裁判長){{Efn2|長門栄吉は2011年(平成23年)8月13日以降、定年退官(2014年5月30日)まで名古屋高裁部総括判事を務めていた<ref>{{Cite web|url=https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge2057/|title=長門 栄吉 <nowiki>|</nowiki> 裁判官|accessdate=2021-03-20|publisher=新日本法規出版|website=新日本法規WEBサイト|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320101746/https://www.sn-hoki.co.jp/judge/judge2057/|archivedate=2021-03-20}}</ref>。裁判所ウェブサイト (2014) によれば、2010年4月1日時点では長門と山崎秀尚・眞鍋美穂子・片山博仁の各裁判官が名古屋高裁の民事第3部を担当していた<ref>{{Cite web|url=http://www.courts.go.jp/nagoya-h/saiban/tanto/saibankan/index.html|title=名古屋高等裁判所 担当裁判官一覧(平成25年11月2日現在)|accessdate=2021-03-20|publisher=最高裁判所|date=2013-11-02|website=裁判所|quote=民事第3部 長門栄吉,山崎秀尚,眞鍋美穂子,片山博仁|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20131214140752/http://www.courts.go.jp/nagoya-h/saiban/tanto/saibankan/index.html|archivedate=2011-03-22|deadlinkdate=2021-03-20}}</ref>。}}は第一審に続き、拘置所長の対応を「裁量権を逸脱・濫用したもので違法」と認め、国に対し計145万2,000円の支払いを命じる控訴審判決{{Efn2|賠償総額は第一審と同様だが、KTへの支払額を増やすなど、配分のみを変更<ref name="中日新聞2015-04-25"/>。}}を宣告した<ref name="中日新聞2014-03-14">『中日新聞』2014年3月14日朝刊第一社会面31頁「面会立ち会い 再び国が敗訴 闇サイト死刑囚訴訟」(中日新聞社)</ref>。原告側は上告したが、[[2015年]](平成27年)4月22日付で最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)が上告を退ける決定を出したため、控訴審判決が確定した<ref name="中日新聞2015-04-25">『中日新聞』2015年4月25日朝刊第一社会面35頁「面会に立ち会い国の敗訴が確定 闇サイト死刑囚訴訟」(中日新聞社)</ref>。
これを受けて蔵冨・福井両弁護士は2009年8月12日付で「再審請求中の死刑囚でも弁護士面会が認められているのだから控訴取り下げに異議を申し立てている被告人Kは当然認められるべきだ。名古屋拘置所の対応は違法である」と訴え、国に対し計120万円の賠償を求める[[国家賠償請求権|国家賠償請求訴訟]]を名古屋地裁に提起した<ref group="報道" name="中日新聞2009-08-13">『中日新聞』2009年8月13日朝刊第三社会面24頁「千種拉致殺害 立ち会いなし接見できず 弁護人『違法』と提訴」</ref>。死刑囚K本人も2010年11月4日付で「再審請求の準備などでは既決囚でも立会人なしの弁護士面会が認められている。拘置所側の対応は違法だ」などの理由から、原告弁護人2人に続き国に慰謝料など計840万円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を同地裁に提起した<ref group="報道" name="中日新聞2010-11-27">『中日新聞』2010年11月27日朝刊第一社会面39頁「闇サイト事件 接見妨害で賠償請求 『立会人なし拒否は違法』 K死刑囚が国提訴」</ref>。


2011年6月20日 - 8月31日に[[福島瑞穂]]([[参議院]][[日本の国会議員|議員]])が、死刑確定者120人(2011年6月20日時点)を対象に実施したアンケート{{Efn2|2011年12月時点で新たな死刑確定者にも同様のアンケートを送付している{{Sfn|フォーラム90|2012|p=10}}。}}{{Sfn|フォーラム90|2012|pp=10-12}}に対し、死刑囚KTは「(自身が収監されている)名古屋拘置所では現在、所長が我々の生活処遇を勝手に厳格化している。国会で[[法務大臣]]にこの問題を追及してほしい。自分は人殺しだが、鬼ではなく人間だ」と訴えていた{{Sfn|フォーラム90|2012|pp=93-94}}。
2010年12月21日に損害賠償請求訴訟の第1回[[口頭弁論]]公判が名古屋地裁で開かれ、[[被告]](日本国)側は答弁書で原告側の請求を棄却するよう求めたほか、立会人なしで面会できた面会1回については「職員が『未決囚と弁護人の面会』と誤認した」と説明した<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-21">『中日新聞』2010年12月21日夕刊第一社会面11頁「接見妨害訴訟 国が棄却求める 名地裁口頭弁論」</ref>。死刑囚Kの代理人も務めていた弁護人は閉廷後「提訴は本人の意思だ。『刑事手続き上の防御権を侵害された』との思いからだろう」と話した<ref group="報道" name="中日新聞2010-12-21"/>。


==== 死刑執行 ====
名古屋地裁(徳永幸蔵裁判長)は2013年2月19日、原告(死刑囚K・弁護人2人)の訴えを一部認めて被告(国)に対し計145万円の賠償を命じる判決を言い渡した<ref group="報道" name="中日新聞2013-02-20">『中日新聞』2013年2月20日朝刊第二社会面28頁「接見立ち会い違法 闇サイト死刑囚、国に勝訴 名地裁判決」</ref>。同地裁は「裁判を続けたいと望む死刑囚には弁護人と単独で面会する法的権利がある。死刑囚Kの精神状態が不安定で職員の同席が必要だった時は提訴された25回のうち1回だけで、それ以外の24回についてはすべて立ち会いは違法である」と認定し、原告側が求めた計2,700万円の損害賠償額のうち145万円を認めた<ref group="報道" name="中日新聞2013-02-20"/>。
死刑囚KTは控訴を取り下げて死刑を確定させた後、一転して[[再審]]請求を検討していた{{Efn2|フォーラム90 (2012) によれば、KTは2011年3月に再審請求した{{Sfn|フォーラム90|2012|p=93}}とされるが、『中日新聞』 (2015) では「最近、再審請求の検討を始めていた」と報道されている<ref name="中日新聞2015-06-26"/>。}}<ref name="中日新聞2015-06-26">『中日新聞』2015年6月26日朝刊第二社会面30頁「KT死刑囚「再審望む」 闇サイト事件 見えなかった本心」(中日新聞社)</ref>が、2015年6月25日8時25分{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}、[[法務大臣]]・[[上川陽子]]{{Efn2|この死刑執行は、上川法務大臣にとって初の死刑執行命令だった<ref name="法務省2015"/>。上川は後に、[[市川一家4人殺害事件]](1992年発生)の死刑囚([[少年死刑囚|事件当時19歳]])を含む[[再審]]請求中の死刑囚2人や<ref>『[[千葉日報]]』2017年12月20日朝刊一面1頁「市川一家4人殺害 元少年の死刑執行 永山元死刑囚以来20年ぶり 再審請求中、群馬3人殺害も」(千葉日報社)</ref>、[[オウム真理教事件]]で死刑が確定した[[オウム真理教|教団]]元教祖の[[麻原彰晃]]ら、計15人(うち13人は麻原以下、オウム事件の死刑囚)の死刑執行を命じた<ref>{{Cite news|title=上川法相「1カ月2度の死刑執行初めて」 24日に署名|newspaper=[[朝日新聞デジタル]]|date=2018-07-26|author=浦野直樹|author2=北沢拓也|url=https://www.asahi.com/articles/ASL7V43J0L7VUTIL022.html|accessdate=2021-03-13|publisher=[[朝日新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210313081750/https://www.asahi.com/articles/ASL7V43J0L7VUTIL022.html|archivedate=2021年3月13日}}</ref>。上川が(麻原らオウム事件の死刑囚13人の死刑執行を命令した)2018年7月までに、自身の在任中に死刑執行を担当した死刑囚の人数(計16人)は、1989年(平成元年)11月から一時中断していた死刑執行が再開された1993年(平成5年)3月以降および<ref>{{Cite news|title=【社会】上川法相、執行最多の16人に|newspaper=[[東京新聞]]|date=2018-07-26|url=https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018072602000283.html|edition=夕刊|publisher=[[中日新聞東京本社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180726081231/https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018072602000283.html|archivedate=2018年7月26日}}</ref>、法務省が死刑執行に関する情報公開を行うようになった1998年(平成10年)10月以降では、1人の法務大臣として最多となっている<ref>{{Cite news|title=【オウム死刑執行】上川陽子法相「身勝手な教義の下、二度の無差別テロ」 2日前の24日に命令書署名|newspaper=[[産経新聞|産経ニュース]]|date=2018-07-26|url=https://www.sankei.com/affairs/news/180726/afr1807260016-n1.html|accessdate=2021-03-13|publisher=[[産業経済新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201106093640/https://www.sankei.com/affairs/news/180726/afr1807260016-n1.html|archivedate=2020年11月6日}}</ref>。}}が発した死刑執行命令により、収監先の[[名古屋拘置所]]で[[日本における被死刑執行者の一覧|死刑を執行された]](44歳没){{Efn2|死亡確認は8時37分(死刑執行から12分後){{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}。その後、同日9時30分に名古屋拘置所から元弁護人の福井に連絡がなされ、遺品・遺骨などは全て福井に引き渡された(遺体は翌26日14時30分に火葬){{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}。}}<ref name="中日新聞2015-06-25">『中日新聞』2015年6月25日夕刊一面1頁「闇サイト殺人 死刑執行 女性拉致、KT死刑囚」(中日新聞社)</ref>。[[日本弁護士連合会]](日弁連)は同日、村越進会長名義で死刑執行に抗議する声明を出した<ref>{{Cite press release|title=死刑執行に強く抗議し、改めて死刑執行を停止し、死刑制度の廃止についての全社会的議論を求める会長声明|publisher=[[日本弁護士連合会]](日弁連、会長:村越進)|date=2015-06-25|url=https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150625.html|language=ja|accessdate=2018-02-08|archivedate=2018-02-08|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180208135110/https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150625.html}}</ref>。


弁護士の福井秀剛<ref group="注" name="福井秀剛"/>(第一審でKTの国選弁護人を担当)は同年7月26日、[[静岡県]][[静岡市]][[葵区]]で開催された「上川陽子法務大臣の地元で死刑執行に抗議する集い」で、KTの最期について「死刑執行の直前、KTは被害者Aや彼女の遺族、および友人らに対し『命を以て償います』と言い残し、取り乱すことなく立派に死刑執行を受け入れた。KTは最期まで自分の犯したことと向き合っていた」と証言している{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|pp=135, 137-140}}。一方、同集会では福井とともにKTの国選弁護人を務めていた藏冨恒彦<ref group="注" name="藏冨恒彦"/>弁護士は「国家賠償請求訴訟の間隙を縫って執行されたようで理不尽さを感じる。KTは控訴を取り下げなければ、共犯者(堀)とのバランス上は明らかに無期懲役相当事案であり、死刑執行を急ぐ必要はないはずだ。KTより先に死刑が確定した死刑囚は多数いるはずで、なぜ今回執行されたのか理解しがたいものがある。処遇が難しい死刑確定者なので執行を急いだとすれば、あまりにも理不尽ではないか?」と{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|p=135}}、死刑廃止論者である弁護士2人([[安田好弘]]・[[村上満宏]]{{Efn2|村上は後に、碧南事件の第一審で堀の弁護人(主任弁護人:神谷武文)を務めている{{Sfn|名古屋地裁|2015}}。}})も「KTは控訴を取り下げなければ、堀と同様に控訴審で無期懲役に軽減されていた可能性が高い」と指摘している{{Sfn|年報・死刑廃止|2015|pp=126-137}}。
2014年3月14日に名古屋高裁(長門栄吉裁判長)で控訴審判決が言い渡され、同高裁は被告・国に計145万2000円の支払いを命じる判決を言い渡した<ref group="報道" name="中日新聞2014-03-14">『中日新聞』2014年3月14日朝刊第一社会面31頁「面会立ち会い 再び国が敗訴 闇サイト死刑囚訴訟」</ref>。名古屋高裁は第一審に続き「面会の職員立ち会いは拘置所長が裁量権を逸脱・乱用したもので違法だ」と認定し賠償総額を維持した上で、同判決では原告死刑囚Kへの支払額を増やすなど配分のみを変更した<ref group="報道" name="中日新聞2015-04-25"/>。原告(死刑囚K・弁護士2人)側は控訴審判決を不服として最高裁に上告したが、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)が2015年4月22日付で原告側の上告を棄却する決定を出したため、名古屋高裁判決が確定した<ref group="報道" name="中日新聞2015-04-25">『中日新聞』2015年4月25日朝刊第一社会面35頁「面会に立ち会い国の敗訴が確定 闇サイト死刑囚訴訟」</ref>。


==== 死刑囚Kの刑執行 ====
=== 「山下」 ===
2011年に無期懲役が確定した加害者'''「山下」'''(事件当時40歳){{Sfn|大崎善生|2016|p=200}}は[[1966年]](昭和41年)生まれ{{Sfn|名古屋高裁|2011}}・[[石川県]][[金沢市]]出身{{Efn2|逮捕直前は「愛知県[[小牧市]]在住」と自称したほか<ref name="中日新聞2007-08-26"/>、逮捕直後には「本籍地は愛知県[[津島市]]」と報道されていた<ref name="中日新聞2007-08-27"/>。}}<ref name="読売新聞2007-09-01"/><ref name="道誤った臆病者">『毎日新聞』2007年8月31日中部朝刊社会面31頁「闇の連鎖:携帯サイト殺人事件/上 道誤った臆病者」(毎日新聞中部本社 連載担当記者:米川直己、桜井平、松岡洋介、加藤潔、影山哲也)</ref>{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。「山下」は「闇の職安」<ref group="注" name="闇の職安"/>で用いていた偽名であり、本名のイニシャルは「'''K・K'''」である{{Sfn|大崎善生|2016|pp=200-201}}。2019年(令和元年)6月29日時点で{{Efn2|事件について取材した立花江里香宛ての手紙が書かれた日付{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=196}}。}}{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=196}}、「山下」は刑務所に服役中である{{Efn2|「山下」は公判中、名古屋拘置所に拘置されていた<ref name="毎日新聞2010-08-08">『毎日新聞』2010年8月8日中部朝刊社会面27頁「愛知・女性拉致殺害:あすから控訴審 1審判決から1年半、被害者母「早く確定を」」(毎日新聞中部本社 記者:沢田勇)</ref>が、2011年6月1日(無期懲役刑確定後)に拘置所から[[名古屋刑務所]]へ移送され、同年8月8日にはさらに別の刑務所(2017年時点で服役中の刑務所/所在地は不明)へ移送された{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=174}}。}}{{Sfn|NHK「事件の涙」取材班|2020|p=168}}。
[[2015年]](平成27年)6月25日8時25分<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.135">{{Harvtxt|インパクト出版会|2015|p=135}}</ref>、[[法務省]]([[法務大臣]]:[[上川陽子]])の死刑執行命令により[[収監]]先・[[名古屋拘置所]]で死刑囚K({{没年齢|1971|3|9|2015|6|25}})の[[日本における被死刑執行者の一覧|死刑が執行された]]<ref name="法務省2015-06-25"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/><ref group="報道" name="東京新聞2015-06-26-朝刊30面"/><ref group="報道">{{Cite news|title=「闇サイト殺人事件」のK死刑囚の死刑執行 第3次安倍内閣で初(1/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2015-06-25 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n1.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201025259/http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n1.html }}</ref><ref group="報道">{{Cite news|title=「闇サイト殺人事件」のK死刑囚の死刑執行 第3次安倍内閣で初(2/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2015-06-25 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n2.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201025306/http://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250013-n2.html }}</ref>。


子供のころに[[腎臓病]]を罹患したことが原因でいじめを受け、高校進学後からその反動で[[不良行為少年|不良]]として[[非行]]に走るようになり、[[少年鑑別所]]に収監されたこともあった{{Sfn|大崎善生|2016|p=227}}。高校を出た後{{Efn2|『読売新聞』『朝日新聞』では「高校中退」<ref name="読売新聞2007-09-01"/><ref name="闇からの凶行 上"/>、『毎日新聞』では「高校卒業」と報道されている<ref name="道誤った臆病者"/>。}}、[[富山県]][[富山市]]内で<ref name="闇からの凶行 上"/>、大手警備会社に就職して7年間勤務した<ref name="道誤った臆病者"/>。[[1999年]](平成11年)8月、[[住宅ローン]]を組み、愛知県[[瀬戸市]]内の分譲マンションを購入<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊">『読売新聞』2007年8月27日東京夕刊第一社会面19頁「愛知の闇サイト殺人 多額借金で夜逃げ 車で生活、1週間前に共犯募る」(読売新聞東京本社)</ref>。妻・子供4人と共に暮らしていたが<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、このころ(事件の8年ほど前)から携帯電話で闇サイトを利用し始め<ref name="中日新聞2007-09-15"/><ref name="朝日新聞2007-09-15"/>、「闇の職安」を通じて入手した偽の[[運転免許証]]を用いて、[[振り込め詐欺]]用の銀行口座を開設・販売していた<ref name="中日新聞2007-08-27 社会">『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第一社会面25頁「拉致強殺 逮捕の3人 素性知らぬ「仲間」共謀 「弱い女性」狙う 身勝手、死刑恐れ自首」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1159頁</ref>。[[2000年]](平成12年)ごろ以降は、愛知県内の運送会社を転々とした{{Efn2|2000年末から4か月ほど、豊明市内の<ref name="闇からの凶行 上"/>運送会社に勤めていたが、その際に「実家の父が病気」と言い<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、毎月4 - 5万円を<ref name="闇からの凶行 上"/>会社から借金<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。約30万円を返済しないまま<ref name="闇からの凶行 上"/>、行方をくらました<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。}}<ref name="闇からの凶行 上"/>が、各社に提出していた履歴書には、多くの虚偽記載があった{{Efn2|実際には高校を中退していたにも拘らず「卒業」と書いていたり、勤務年数を偽ったりなど<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。}}<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。
死刑執行から12分後の8時37分にKの死亡が確認され、9時30分になって名古屋拘置所から第一審でKの国選弁護人を担当した弁護士・福井秀剛に連絡が寄せられた<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.135"/>。Kの遺骨・遺品などはすべて福井に引き渡されることが取り決められ、Kの遺体は翌6月26日14時30分に火葬された<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.135"/>。


その後、金に困るようになり、住宅ローン<ref name="読売新聞2007-09-01"/>・税金を滞納したため、[[2002年]](平成14年)には瀬戸市などにマンションの部屋を差し押さえられた<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。2002年12月、瀬戸市内の運送会社{{Efn2|人材派遣会社を通じて就職した<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。同社の社長は『毎日新聞』の取材に対し、当時の「山下」について、「当時の月給は約30万円だったが、ローンを抱えて生活は苦しく、身なりも綺麗ではなかった」と証言した<ref name="道誤った臆病者"/>}}に就職し<ref name="道誤った臆病者"/>、会社が借り上げたアパートに住み始めたが<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>、それから数か月後には妻子に逃げられ<ref name="道誤った臆病者"/>、妻と離婚した<ref name="読売新聞2007-09-01"/>。その後、[[2003年]](平成15年)8月ごろに[[トヨタ・スターレット]]<ref group="注" name="リバティ"/>を<ref name="朝日新聞2007-08-30"/>、当時の職場(瀬戸市内の会社)を通し、毎月の給与から代金を天引きする形で購入<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。しかし[[2004年]](平成16年)5月ごろ、荷物を積んだトラックを駐車場に放置したまま、会社に出勤しなくなり<ref name="闇からの凶行 上"/>、車とともに夜逃げした{{Efn2|この時、会社を通じて購入した車の借金を踏み倒した上、会社から支給された携帯電話を持ち去った<ref name="道誤った臆病者"/>。また同年、瀬戸市などによって再び部屋を差し押さえられた<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。}}<ref name="読売新聞2007-08-28 夕刊"/>。その後は同県[[尾張旭市]]の運送会社に勤めたが、そこでも給料を前借していたほか、他に警備会社・運送会社を転々とし<ref name="読売新聞2007-09-01"/>、遺体遺棄現場となった[[瑞浪市]]周辺に住んでいたり<ref name="読売新聞2007-08-27社会"/>、殺害現場付近の愛西市で勤務していた時期もあった<ref name="朝日新聞2007-08-27 社会"/>。[[#事件前の経緯|先述]]したように詐欺事件で執行猶予付きの有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた<ref name="毎日新聞2009-03-14"/>。
福井は2015年7月26日に[[江崎ホール]]([[静岡県]][[静岡市]][[葵区]])で行われた「上川陽子法務大臣の地元で死刑執行に抗議する集い」にて「Kは死刑執行の直前に『こうなることは分かっていました。被害者のお母さん・おばさん・付き合っていた彼・友人・会社の同僚に対し命を以て償います』と言い残しており、特に取り乱す様子もなく立派だった。最後まで自分の犯したことと向き合っており、被害者のご遺族や関係者に対する想いというものを持っていた」と証言した<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.135"/><ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.137-140">{{Harvtxt|インパクト出版会|2015|pp=137-140}}</ref>。


逮捕後は「犯行場面の幻影を見て眠れなくなった」と精神安定剤を服用するようになり、曖昧な受け答えをするようになった{{Sfn|福田ますみ|2011|p=174}}。第一審でKTと堀が死刑を宣告された一方、自身は唯一死刑を免れる形となった際には、[[フジニュースネットワーク|FNN]]記者との面会で以下のように発言している{{Efn2|また、翌19日には『中日新聞』記者との面会でも「KTと同じ判決だったら控訴するつもりだったが、自首が認められ、助かった」と述べている<ref>『中日新聞』2009年3月20日朝刊第一社会面35頁「千種拉致殺害 自首評価に『助かった』 本紙記者面会 無期判決で「山下」被告」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="FNN 2009-03-18"/>。
===== 死刑執行への反応 =====
{{Quotation|「自首したことが認められたことについてはよかったと思う。3人一緒に死刑だと思っていたから驚いた。誰のおかげで事件が解決したのかという思いだったから、満足している。A(被害者の実名)さんの前に、何人も物色しているんだから、彼女になったのは、運が悪かったからなんだって。今でも悪いことは、ばれなきゃいいという気持ちは変わらない。でも、生かしてもらえてよかった。ありがたい」|被告人「山下」|<ref name="FNN 2009-03-18">{{Cite news|title=名古屋闇サイト拉致・殺害事件 無期懲役判決の「山下」被告に反省の態度見られず|newspaper=[[FNNニュース]]|date=2009-03-18|url=http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00151385.html|publisher=[[フジニュースネットワーク]]|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20090321002804/http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00151385.html|archivedate=2009年3月21日}}</ref><ref>{{Cite news|title=名古屋闇サイト拉致・殺害事件 無期懲役判決の「山下」被告に反省の態度見られず|newspaper=[[Yahoo!ニュース]]|date=2009-03-18|url=http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20090318/20090318-00000385-fnn-soci.html|publisher=フジニュースネットワーク|language=ja|archiveurl=https://megalodon.jp/2009-0319-1039-47/headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20090318/20090318-00000385-fnn-soci.html|archivedate=2009年3月21日}}</ref>}}
上川は死刑執行後の記者会見で「誠に身勝手な理由から尊い人命を奪った極めて残忍な犯行で、被害者・遺族にとっては無念この上ない事件だ」と指摘した上で「死刑は裁判所が慎重な審理を尽くした上で言い渡すものだ。慎重にも慎重な検討を経た上で死刑執行命令を出した」と発表した<ref name="法務省2015-06-25"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊1面"/><ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊11面"/>。


== 影響 ==
死刑執行を受けて被害者Aの母親は以下のようにコメントした。
事件現場となった自由ヶ丘学区は、千種区内で最も犯罪件数が少ない学区だったため、本事件は地元住民にも大きな衝撃を与えた<ref name="中日新聞2007-09-01"/>。事件後(8月26日以降)、拉致現場となった[[名古屋市立自由ヶ丘小学校]]周辺<ref group="注" name="拉致現場"/>{{Efn2|名古屋土木事務所は、同校周囲の街灯3基を光量の多いものに取り換えることを決め<ref name="中日新聞2007-09-01"/>、追加の街灯・防犯カメラも設置された<ref name="中日新聞2017-08-25 社会">『中日新聞』2017年8月25日朝刊第11版第三社会面30頁「ニュース前線 闇サイト殺人10年 女性記者 現場を歩く 夜道の恐怖 いまも胸に」(中日新聞社 記者:小椋由紀子)</ref>。また、現場付近にある[[名古屋市立名古屋商業高等学校|名古屋商業高校]]は、校庭の照明(通常は20時で消灯)を翌朝まで点灯するよう変更した<ref name="中日新聞2007-09-01"/>。}}では、地元の自主防犯パトロール隊が巡回の頻度を増やした{{Efn2|それまでは月1回だったものを、8月26日 - 9月2日まで毎晩実施したほか、その後も週2回に増やした<ref name="中日新聞2007-09-01"/>が、事件の記憶の風化により、2017年8月時点では事件前と同じ月1回に減少している<ref name="中日新聞2017-08-25 社会"/>。}}ほか、周辺3[[交番]]と地元住民の連絡協議会で、再発防止対策が話し合われた<ref name="中日新聞2007-09-01">『中日新聞』2007年9月1日朝刊市民版22頁「千種・拉致殺害から1週間 再発防止へ対策進む パトロール強化、照明時間の延長 犯罪少ないはずが… 住民ら衝撃大きく」(中日新聞社 記者:島崎諭生)</ref>。また、[[千種警察署]]が管内(千種区内)の[[名古屋市営地下鉄]]([[名古屋市交通局]])の全10駅の出入口に「キケンが迫る 夜の一人歩き」と書いた啓発ポスターを掲示した<ref name="中日新聞2007-09-01"/>ほか、名古屋市交通局の協力を得て、それら10駅(3路線){{Efn2|[[今池駅 (愛知県)|今池駅]]・[[池下駅]]・[[覚王山駅]]・[[本山駅 (愛知県)|本山駅]]・[[東山公園駅 (愛知県)|東山公園駅]]・[[星ヶ丘駅 (愛知県)|星ヶ丘駅]]・[[茶屋ヶ坂駅]]・[[自由ヶ丘駅]]・[[名古屋大学駅]]・[[吹上駅 (愛知県)|吹上駅]]<ref name="中日新聞2008-02-07"/>。}}で、駅から徒歩で帰宅する女性向けに防犯ブザーの貸し出しを開始した<ref name="中日新聞2008-02-07">『中日新聞』2008年2月7日朝刊市民版16頁「地下鉄駅からのひとり歩き 防犯ブザー 女性に貸与 Aさん拉致殺害事件受け 千種区内10駅に設置」(中日新聞社 記者:弓削雅人)</ref>。
* 「娘を殺した死刑囚が生きていると思うだけで、事件のことばかり考えてしまっていた。遅すぎたぐらいとはいえ一つの区切りになったが娘は帰ってこない」<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-25-夕刊1面"/>
* 「事件のことを娘に思い出させたくないので娘には報告しない。もう一度娘を抱きしめられたらどれほど幸せか」<ref group="報道">『中日新聞』2015年6月26日朝刊1面1頁「娘に報告しない 心晴れぬAさん母」(記者:社会部・池田悌一)</ref>


また、被害者Aが生前に「なるぅ」のハンドルネームで運営していた[[ブログ]]([[#外部リンク]]参照)には事件後、知人らによって追悼のコメントが多数投稿された{{Efn2|一方、匿名の投稿者らによる中傷コメントや、事件を揶揄するコメントも投稿されたが、それらのコメントは削除された<ref name="闇の接点 下">2007年8月30日朝刊第12版第一社会面35頁「女性拉致殺害事件 闇の接点 下 モラル破る匿名性 迫られるネット規制」(中日新聞社 記者:北島忠輔、太田鉄弥) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1301頁</ref>。}}<ref name="朝日新聞2007-08-29夕刊">『朝日新聞』2007年8月29日名古屋夕刊第一社会面9頁「レジ袋かぶせ犯行 手口も場当たり的 名古屋・女性拉致殺害 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref><ref>『中日新聞』2007年8月28日夕刊E版第一社会面15頁「女性拉致殺害 Aさん 3月開設 ブログに込めた願いかなわず… 怒り、嘆き 知人ら次々書き込み」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1221頁</ref>。
一方で[[日本弁護士連合会]](日弁連)は同日に村越進会長名義で死刑執行に抗議する声明を出した<ref name="日弁連死刑執行抗議声明">{{Cite press release|title=死刑執行に強く抗議し、改めて死刑執行を停止し、死刑制度の廃止についての全社会的議論を求める会長声明 |publisher=[[日本弁護士連合会]](日弁連、会長:村越進) |date=2015-06-25 |url=https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150625.html |language=ja|accessdate=2018-02-08 |archivedate=2018-02-08 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20180208135110/https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2015/150625.html }}</ref>。


[[警察庁]]は事件後、2008年度(平成20年度)からインターネット上の違法・有害情報を監視する「サイバーパトロール」を民間委託し{{Efn2|それ以前は各都道府県やボランティア団体の一部によってパトロールが実施されていたが、警察は捜査中心でパトロールに充てられる人員が不足していたほか、ボランティアも有料サイトの閲覧ができないデメリットがあった<ref name="中日新聞2007-09-04"/>。そのため、監視業務を1つの民間団体・法人に委託し、有料サイトにも登録するなどして、積極的な情報収集に乗り出すことにした<ref name="中日新聞2007-09-04"/>。}}、監視体制を強化する方針を決めた<ref name="中日新聞2007-09-04">『中日新聞』2007年9月4日夕刊E版第一社会面11頁「闇サイト 監視強化 来年度から 警察庁、民間に委託」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号187頁</ref>。
また第一審にて福井とともにKの国選弁護人を務めた弁護士・蔵冨恒彦は「精神的に波があり、投げやりな時と『生きたい』との思いが強い時があった。死刑執行は早すぎる。共犯者(堀)が控訴審で無期懲役になっており、Kの判決も間違っていた可能性がある」とコメントしたほか<ref group="報道" name="中日新聞2015-06-26-朝刊30面"/>、2015年7月8日に[[参議院]][[議員会館]]で開かれた「上川陽子法相による死刑執行に抗議する集会」では蔵冨ら弁護士3人が以下のように死刑執行を批判する発言をした<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.126-137"/>。
* 蔵冨のメッセージ - 「国家賠償請求訴訟の間隙を縫って執行されたようで理不尽さを感じる。控訴を取り下げなければ共犯者・堀とのバランス上は明らかに無期懲役相当事案であり、死刑執行を急ぐ必要はないはずだ。Kより先に死刑が確定した死刑囚は多数いるはずで、なぜ今回執行されたのか理解しがたいものがある。『処遇が難しい死刑確定者なので執行を急いだ』とすればあまりにも理不尽ではないか?」<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.135"/>
* 死刑廃止論者である弁護士2人([[安田好弘]]・[[村上満宏]])の発言 - 「Kは控訴を取り下げていなければ堀と同様に控訴審で無期懲役に軽減されていた可能性が高い」<ref group="書籍" name="年報・死刑廃止2015 p.126-137">{{Harvtxt|インパクト出版会|2015|pp=126-137}}</ref>


=== 余罪発覚 ===
=== 被害者遺族活動 ===
被害者Aの母親Bは事件後、8月28日(Aの通夜が営まれた日)に、「犯人たちを絶対に許さない」とする報道各社向けの手記を発表{{Efn2|これは、マスコミからの取材に追われたBが、警察に「マスコミが付きまとわないようにしてもらえないか」と相談したところ、警察から「お母さんのコメントを貰うまでは難しいでしょう。文章にして私に渡してくれれば、私の方からマスコミに渡します」と提案されたことに応じて書いたものだった{{Sfn|大崎善生|2016|pp=292-293}}。}}<ref>『中日新聞』2007年8月29日朝刊第12版第一社会面31頁「女性拉致殺害事件 Aさんの母 手記を公開 何の落ち度もない娘に…絶対に、絶対に、許しません。」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1253頁</ref>。その後、「日本の法律では、過去の例からも1人を殺しただけでは死刑にならない」という内容の手紙が届いたことを機に{{Sfn|大崎善生|2016|p=301}}、9月には加害者3人への死刑適用を求める[[署名]]活動の開始を決意<ref name="中日新聞2007-09-14">『中日新聞』2007年9月14日朝刊第12版第一社会面33頁「女性拉致殺害 3人きょう再逮捕 強殺、逮捕監禁容疑 愛知県警 Aさん母語る ただ犯人が憎い 「3人死刑」署名活動も」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)9月号607頁</ref>。初公判までに30万人分の署名{{Efn2|署名数は2008年12月18日に30万人(当初目標)に到達{{Sfn|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}。}}を集めることを目標に<ref>『中日新聞』2007年12月9日朝刊第二社会面38頁「母も街頭で署名活動 千種・女性拉致殺害」(中日新聞社)</ref>、同月中旬から署名活動を開始した{{Efn2|Aの元交際相手である男性Cや、Bの姉(Aの伯母)であるDも署名活動に積極的に協力した{{Sfn|大崎善生|2016|pp=313-314}}。署名活動に対しては「人殺しを募るなんて」という批判もあったが<ref>『中日新聞』2009年3月17日朝刊第一社会面27頁「ニュース前線 千種拉致殺害 あす判決 亡きAさん思い母が詩 空見上げればあなたが」(中日新聞社 社会部記者:長田弘己)</ref>、街頭での署名活動の際に激励の言葉を掛けられたり{{Sfn|大崎善生|2016|p=313}}、郵送で送られてきた署名用紙に「お母さんは1人じゃない」「私が裁判員なら死刑を主張する」などの言葉が綴られていた<ref name="中日新聞2008-09-24"/>。また、『読売新聞』社会部 (2009) は「署名に添えられた手紙の多くには、ネットを通じて形成された犯罪者集団が見ず知らずの市民を殺害したことに対する、切迫した不安感が滲んでいた」と述べている{{Sfn|読売新聞社会部|2009|p=207}}。}}<ref name="中日新聞2007-09-23">『中日新聞』2007年9月23日朝刊第一社会面29頁「女性拉致殺害 母、娘しのぶHP 『もう一度抱きしめたい』」(中日新聞社)</ref>ほか、報道機関の取材に積極的に協力したり{{Efn2|Bは「(遺族として取材に応じることに抵抗はあったが)自分が表に出ることで、娘のことを覚えていてもらえる」と考え、マスコミからの取材に積極的に応じてきた<ref>『読売新聞』2008年8月24日中部朝刊第二社会面32頁「闇サイト殺人1年 進まぬ法規制 「娘の死、無駄にしないで」=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。}}{{Sfn|大崎善生|2016|p=304}}、ホームページ([[#外部リンク]]を参照、同月22日に設立)を通じて署名活動への協力を呼びかけたりした<ref name="中日新聞2007-09-23"/>。同月27日以降は名古屋市の繁華街(名駅・栄)でも署名活動を実施し{{Efn2|Dは初めて街頭で署名活動を行った9月27日、(ホームページに送られてきたメールの処理のために来れなかった)Bに対し、「(同日に署名に賛同した人々のうち)約半分は事件を知っていたが、もう半分はこの署名活動を通じて初めて事件を知った」と話している{{Sfn|大崎善生|2016|p=313}}。}}{{Sfn|大崎善生|2016|pp=312-313}}、初公判直前(2008年9月時点)で284,000人分の署名を集め<ref name="中日新聞2008-09-24">『中日新聞』2008年9月24日朝刊第一社会面27頁「ニュース前線 千種・拉致殺害 あす初公判 母『傍聴怖いが真実を』 署名28万人 元気と勇気」(中日新聞社 記者:加藤弘二)</ref>、2012年8月25日{{Efn2|事件からちょうど5年の日<ref name="読売新聞2015-06-26"/>。}}に終了するまでに、332,806名分の署名が集まった{{Efn2|署名は日本国内だけでなく、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]や[[スイス]]、[[ニュージーランド]]といった海外から郵送されたものもあった{{Sfn|読売新聞社会部|2009|p=206}}。また[[地下鉄サリン事件]]([[オウム真理教事件]])の実行犯である[[広瀬健一]]([[オウム真理教|教団]]元幹部 / 2009年に死刑確定・2018年に死刑執行)の弁護人を務めていた弁護士の田瀬英敏([[第二東京弁護士会]]所属)も、自身の弁護士事務所の職員全員とともに署名を行ったが、田瀬はその理由について「広瀬は教祖([[麻原彰晃|松本智津夫]])による[[マインドコントロール]]下で犯行におよんでおり、一貫して罪を悔いているため、死刑は重すぎると思ったが、本事件の加害者は誰から指示されたわけでもなく凶悪な犯行におよんだ。死刑が言い渡されなければ、女性が夜道を歩くことが命賭けになってしまう」と述べている{{Sfn|読売新聞社会部|2009|pp=208-209}}。}}{{Sfn|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}<ref name="読売新聞2015-06-26">『読売新聞』2015年6月26日中部朝刊社会面31頁「闇サイト殺人 被害者母「一つの区切り」 極刑求め活動=中部」(読売新聞中部支社)</ref>。また、第一審の第13回公判<ref name="公判について"/>(2008年12月8日)<ref name="中日新聞2008-12-09"/>、控訴審の第3回公判(2010年10月18日)ではそれぞれ証人として出廷し、被告人らへの死刑適用を求めた<ref>『中日新聞』2010年10月19日朝刊第三社会面32頁「『生きて一生償いたい』 闇サイト事件 控訴審で堀被告」(中日新聞社)</ref>。
堀は2012年7月18日付で本事件の無期懲役が確定したが<ref group="裁判" name="名古屋地裁2015-12-15"/>、その直後(2012年8月)に[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]の被疑者として当時同僚だった男2人とともに強盗殺人罪で愛知県警に逮捕され<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-04"/>、同月中に強盗殺人罪で名古屋地裁へ起訴された<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-25"/>。さらに堀と夫婦殺害事件の共犯1人の計2人は翌2013年にも別の強盗殺人未遂事件(2006年)への関与が判明したため再逮捕<ref group="報道" name="中日新聞2013-01-16"/>・追起訴された<ref group="報道" name="中日新聞2013-02-07"/>。


また、Bは当時の[[鳩山邦夫]][[法務大臣]]や{{Efn2|公判の早期開始や、インターネット上の有害サイトの法規制、(凶悪犯罪に対し厳罰を下すことで犯罪の抑止力を発揮するための)法改正・法整備を求める手紙(2008年3月3日付)<ref name="中日新聞2008-03-04"/>。その後、鳩山は同月6日付でBに対し「『凶悪犯罪に対する厳罰が犯罪の抑止力になる』という考えは同感だ。インターネットを使った犯罪など、新しい類型の犯罪を考える必要もある」という趣旨の返信を送っている<ref>『中日新聞』2008年3月11日朝刊第一社会面35頁「千種拉致殺害 母の手紙 法相返信 サイト対策に理解」(中日新聞社)</ref>。}}<ref name="中日新聞2008-03-04">『中日新聞』2008年3月4日朝刊第一社会面35頁「千種の拉致殺害 Aさんの母 法相あてに直訴の手紙 始まらぬ公判 有害サイト放置」(中日新聞社)</ref>、[[検事総長]]に対し、それぞれ請願の手紙を送ったほか<ref name="中日新聞2015-06-25 社会"/>、平成23年度版『犯罪被害者白書』に手記を寄せた<ref>{{Cite book|和書|title=犯罪被害者白書 平成23年度|publisher=[[内閣府]]|date=2011-06-01|pages=16-17|url=https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2011/html/gaiyou/part3/c5.html|format=html|accessdate=2021-03-21|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321132525/https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2011/html/gaiyou/part3/c5.html|archivedate=2021-03-21}}</ref><ref>{{Cite news|title=「被害者1人でも死刑を」署名活動した母親 死刑容認派は8割|newspaper=産経ニュース|date=2015-06-25|url=https://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250053-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=1|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321133652/https://www.sankei.com/affairs/news/150625/afr1506250053-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref><ref>『産経新聞』2015年6月25日東京朝刊社会面「名古屋闇サイト殺人死刑執行 母親の執念、署名30万超」([[産経新聞東京本社]])</ref>。また、「緒あしす」{{Efn2|「NPO法人 犯罪被害当事者ネットワーク 緒あしす」(2000年9月に、東海地方で初めての犯罪被害者自助グループとして設立)<ref>{{Cite web|url=http://www.oasis2000.com/about.html|title=緒あしすとは|accessdate=2021-03-21|publisher=NPO法人 犯罪被害当事者ネットワーク 緒あしす|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321130734/http://www.oasis2000.com/about.html|archivedate=2021-03-21}}</ref>。}}や「[[殺人事件被害者遺族の会|宙の会]]」{{Efn2|Bは2012年3月に「宙の会」へ入会し、同年以降は[[愛知豊明母子4人殺人放火事件]](2004年9月9日に愛知県豊明市で発生・[[未解決事件|未解決]])の被害者遺族とともに<ref>『毎日新聞』2012年9月3日中部朝刊社会面21頁「愛知・豊明の放火殺人:未解決のまま8年 罪償って 思いは同じ 「闇サイト」被害者母がビラ」(毎日新聞中部本社 記者:岡大介、沢田勇)</ref>、同事件の発生日に情報提供を呼びかけるビラを配布する活動を行っている<ref name="中日新聞2015-06-25 社会"/>。}}といった犯罪被害者の自助団体{{Efn2|自助グループのメンバーの1人として、[[大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件]](1994年)の被害者遺族(「[[長良川]]事件」被害者の父親」)がいる<ref name="中日新聞2011-04-13 社会">『中日新聞』2011年4月13日朝刊第二社会面30頁「闇サイト殺人 「誰のための裁判か」 Aさん母、無念 名高裁判決 「被害者目線なかった」」(中日新聞社)</ref>。}}に参加したり、犯罪被害者遺族の支援拡大を訴え、講演{{Efn2|2017年8月時点で、全国各地で60回以上の講演活動を行ったほか、「事件を若い人にも知ってほしい」とインターネット上での討論会にも参加した<ref>『中日新聞』2017年8月24日朝刊第11版一面1頁「闇サイト殺人10年 「社会を変えたい」 娘の死 母は語り続ける」(中日新聞社 記者:塚田真裕)</ref>。}}などの活動を行っている<ref name="中日新聞2015-06-25 社会">『中日新聞』2015年6月25日夕刊第一社会面11頁「3人極刑求め法相らに請願 Aさんの母」(中日新聞社)</ref>。以下は主張・希望の概要である。
それらの事件で一・二審とも死刑判決を受けた堀は2019年7月19日に最高裁第二小法廷(山本庸幸裁判長)にて開かれた上告審判決公判で上告を棄却する判決を受け<ref group="報道" name="中日新聞2019-07-20">『中日新聞』2019年7月20日朝刊第11版第一社会面35頁「碧南強殺、死刑確定へ 最高裁、堀被告の上告棄却」</ref><ref group="報道" name="産経新聞2019-07-19">{{Cite news|title=愛知夫婦強殺、無期受刑者に異例の死刑確定へ 最高裁|newspaper=産経新聞|date=2019-07-19|url=https://www.sankei.com/affairs/news/190719/afr1907190043-n1.html|accessdate=2019-07-19|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190719114203/https://www.sankei.com/affairs/news/190719/afr1907190043-n1.html|archivedate=2019-07-19}}</ref>、同判決の訂正を求める申し立ても2019年8月7日付の同小法廷決定で棄却されたため正式に死刑が確定した<ref group="報道" name="中日新聞2019-08-10"/>。
* 「加害者の更生という未来の不確定なことを前提にして裁くのではなく、まじめに生きている人を守ることを優先して裁く司法であってほしい」<ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/affairs/news/161224/afr1612240001-n7.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=7|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321141543/https://www.sankei.com/affairs/news/161224/afr1612240001-n7.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>
* 死刑制度は存置すべきで、[[日本弁護士連合会]](日弁連)が2016年10月7日に採択した「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」とする宣言{{Efn2|同宣言で、日弁連は死刑制度の代替として[[終身刑]]を提案しているが、Bは「被害者遺族も払っている税金を使って加害者を生かす制度(死刑制度に代わる終身刑)は必要ない」と述べている<ref>『毎日新聞』2016年12月18日東京朝刊東京都内地方版27頁「シンポジウム:死刑巡り 遺族「制度存置を」 /東京」(毎日新聞東京本社)</ref>。}}<ref>{{Cite web|url=https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html|title=死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言|accessdate=2021-03-22|publisher=[[日本弁護士連合会]]|date=2016-10-07|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210322121001/https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html|archivedate=2021-03-22}}</ref><ref>{{Cite news|title=日弁連がついに「死刑廃止」宣言を採択 野次や声援飛び交うなか…福井市の人権擁護大会|newspaper=産経ニュース|date=2016-10-07|url=https://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070076-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=1|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321155011/https://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070076-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>には反対。
* 裁判官は(殺害された)被害者の数だけでなく、犯罪内容を見て裁くべきだ<ref>『中日新聞』2014年1月24日朝刊市民版16頁「「娘の事件忘れないで」 闇サイト事件の遺族講演 守山署」(中日新聞社)</ref><ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/affairs/news/161224/afr1612240001-n8.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=8|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321142109/https://www.sankei.com/affairs/news/161224/afr1612240001-n8.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref><ref>『毎日新聞』2017年9月15日中部朝刊愛知地方版21頁「にじ:司法の常識 /愛知」(毎日新聞中部本社 記者:金寿英)</ref>。
* 被疑者や被告人だけでなく、被害者やその家族の[[人権]]や処遇を[[日本国憲法|憲法]]に明記すること{{Sfn|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020|p=207}}。
* 有害サイトの規制強化が必要<ref name="朝日新聞2018-06-15"/>。
また、「加害者3人からの謝罪は望んでいない」と明言し<ref name="中日新聞2009-02-03"/>、堀が本事件の刑事裁判で自身に謝罪<ref group="注" name="堀の謝罪"/>した一方、それ以前の余罪(碧南事件など)を自供せず隠していたこと{{Efn2|堀は自著 (2019) で、本事件で逮捕された際に碧南事件などの余罪を自供しなかった理由を「余罪について追及されなかったから」と述べている{{Sfn|堀慶末|2019|pp=167-168}}ほか、碧南事件の公判では「(自分の)子供が離れていくのが怖かった」と述べている<ref>『朝日新聞』2015年12月4日名古屋朝刊第一社会面35頁「「子が離れるのが怖かった」 自白しなかった理由答える 碧南事件 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社)</ref>。Bは堀が碧南事件などで再逮捕・起訴されたことに関し、「本当に反省していたなら、碧南事件についても自供していたはずだ」と指摘している<ref>『中日新聞』2012年8月25日朝刊第一社会面35頁「碧南夫婦強殺 3人起訴 「死刑求めたい」 Aさんの母」(中日新聞社)</ref>。}}や、「山下」が第一審判決後に「悪いことはばれなきゃいい」と発言したことを厳しく批判している<ref>{{Cite news|title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族のBさん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…|newspaper=産経ニュース|date=2016-12-24|url=https://www.sankei.com/affairs/news/161224/afr1612240001-n6.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=6|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321143234/https://www.sankei.com/affairs/news/161224/afr1612240001-n6.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。


=== 類似事件 ===
{{詳細記事|碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件}}
[[2017年]](平成29年)に発覚した'''[[座間9人殺害事件]]'''は、[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|会員制交流サイト (SNS) ]]に自殺願望を書き込んだ若者たちが標的にされた{{Efn2|name="エスカレート"|[[森井昌克]]([[神戸大学]]大学院教授・情報通信工学)は、「インターネット上では、本当の自分が知られていないので気が大きくなり、虚勢がエスカレートする」と、[[碓井真史]]([[新潟青陵大学]][[教授]]・社会心理学)は、「インターネットの場合、『自殺したい』など、現実社会では言いにくいことでも話せる上、そのような話が具体的になった際にもブレーキがかからず、エスカレートしやすい。集団だと特にその傾向が出て、現実世界では考え付かないような行動に走ることがある」と指摘している<ref>『中日新聞』2007年8月27日朝刊第12版第二社会面24頁「闇サイト 凶行またも 匿名、ふくらむ虚勢」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 2007年(平成19年)8月号1158頁</ref>。}}<ref name="中日新聞2019-04-16"/>。


[[2018年]](平成30年)6月には、[[静岡県]][[藤枝市]]の山中で女性看護師の遺体が発見される事件が発生したが<ref name="中日新聞2019-04-16">『中日新聞』2019年4月26日朝刊県内版12頁「平成の事件後 愛知 (中) ネット 犯罪防ぐ対策不可欠」(中日新聞社 記者:河北彬光)</ref>、同事件はインターネットの掲示板で知り合った男3人{{Efn2|同事件では、拉致を主導したとされる男(事件後に自殺)が、被疑者死亡のまま殺人・死体遺棄・営利目的略取・逮捕監禁の各容疑で[[書類送検]]された<ref>{{Cite news|title=看護師殺害 自殺の男を書類送検 殺人、死体遺棄など4容疑 静岡|newspaper=[[産経新聞|産経ニュース]]|date=2018-10-16|url=https://www.sankei.com/region/news/181016/rgn1810160026-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=[[産業経済新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122645/https://www.sankei.com/region/news/181016/rgn1810160026-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>(後に[[不起訴処分]])<ref>{{Cite news|title=看護師殺害、男を不起訴 拉致主導役 静岡地検|newspaper=産経ニュース|date=2018-10-18|url=https://www.sankei.com/affairs/news/181018/afr1810180039-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122723/https://www.sankei.com/affairs/news/181018/afr1810180039-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。また、共犯の男2人も殺人容疑については不起訴処分となり<ref>{{Cite news|title=看護師遺棄、殺人容疑で再逮捕の男2人を不起訴|newspaper=[[朝日新聞デジタル]]|date=2018-09-26|url=https://www.asahi.com/articles/ASL9V5D8PL9VUTPB00Z.html|accessdate=2021-03-21|publisher=[[朝日新聞社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321123110/https://www.asahi.com/articles/ASL9V5D8PL9VUTPB00Z.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>、1人(営利略取罪・逮捕監禁罪で起訴)は懲役4年の刑が確定<ref>{{Cite news|title=看護師拉致で懲役4年確定 営利略取と監禁の28歳男|newspaper=産経ニュース|date=2019-01-07|url=https://www.sankei.com/affairs/news/190107/afr1901070006-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321123621/https://www.sankei.com/affairs/news/190107/afr1901070006-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。もう1人は営利目的略取・逮捕監禁・詐欺・死体遺棄の罪に問われ<ref>{{Cite news|title=ネットで集まった男たちの凶行 2つの公判でも真相分からぬまま|newspaper=産経ニュース|date=2019-02-16|author=石原颯(産経新聞静岡支局)|url=https://www.sankei.com/premium/news/190216/prm1902160010-n3.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|page=3|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321124029/https://www.sankei.com/premium/news/190216/prm1902160010-n3.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>、懲役7年の刑を言い渡されている<ref>{{Cite news|title=浜松看護師遺棄・被告に懲役7年判決 静岡地裁浜松支部|newspaper=産経ニュース|date=2019-02-15|url=https://www.sankei.com/affairs/news/190215/afr1902150006-n1.html|accessdate=2021-03-21|publisher=産業経済新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122452/https://www.sankei.com/affairs/news/190215/afr1902150006-n1.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。}}が被害者の女性を拉致し、遺体を山中に遺棄した事件として、本事件との共通性が指摘されている<ref name="朝日新聞2018-06-15">{{Cite news|title=「全てが娘と重なる」 闇サイト被害者の母が胸中語る|newspaper=朝日新聞デジタル|date=2018-06-15|author=松本龍三郎|url=https://www.asahi.com/articles/ASL6G4TNSL6GUTIL021.html|accessdate=2021-03-21|publisher=朝日新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321121201/https://www.asahi.com/articles/ASL6G4TNSL6GUTIL021.html|archivedate=2021年3月21日}}</ref><ref>{{Cite news|title=【特集】闇サイト 消えない“不条理” 「ダークウェブ」を絶て|newspaper=共同通信|date=2018-07-03|author=柴田友明|url=https://this.kiji.is/386759807099110497|accessdate=2021-03-21|agency=[[共同通信社]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210321122015/https://this.kiji.is/386759807099110497|archivedate=2021年3月21日}}</ref>。


== 事件を題材にした作品など ==
=== 書籍 ===
[[大崎善生]](作家)は2014年(平成26年)以降、本事件に関するノンフィクションを執筆するため、Aの母親Bへのインタビュー{{Efn2|Bは当初、大崎からの取材を断っていたが、その後は全面的に協力するようになった<ref name="東京新聞2017-04-23"/>。}}を継続的に行い、2016年(平成28年)11月30日に[[角川書店]]から被害者Aの生い立ちや、母Bとともに生きた31年間の生涯などを描いたノンフィクション『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』を出版した{{Efn2|大崎は2017年に「取材のきっかけは、事件当時にAの顔写真を見て『こんな普通の子が…』と思ったことだ。母1人子1人の生い立ちなどを知って引き込まれていった。地域は徐々に日常を取り戻しつつあるが、同様の事件はいつでも起こり得る。被害者の『命の闘い』を忘れてはならない」<ref>『中日新聞』2017年8月25日第三社会面30頁「命の闘い忘れるな」(作家・[[大崎善生]]の話)</ref>「事件ものとしてではなく、母娘の物語として描いた。静かに家族のことを書く方が、事件がより鮮明になるのではないかという気がした」と述べている<ref>『読売新聞』2017年1月17日東京朝刊文化面12頁「「いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件」 大崎善生さん 静かに 母娘の物語」(読売新聞東京本社 文化部記者:十時武士)</ref>。}}<ref name="東京新聞2017-04-23">『東京新聞』2017年4月23日朝刊読書第二面8頁「書く人 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 作家・大崎善生さん(59) 被害女性の人生残す」(中日新聞東京本社 記者:森本智之)</ref>。


また、加害者の1人である堀慶末は2019年8月に碧南事件で死刑が確定したが<ref name="中日新聞2019-08-10"/>、その直前(2019年5月)には[[インパクト出版会]]から自身の半生や本事件・碧南事件などを回顧した著書『鎮魂歌』(書名の読み:レクイエム)を出版している{{Sfn|堀慶末|2019|p=243}}。
== 事件後 ==
[[朝日新聞名古屋本社]]販売部は事件を報じる記事で「取引先である新聞販売所がセールスの業務を委託した会社の従業員(K)が、このような事件を起こしたことは大変遺憾だ。今後このようなことがないよう改めて関係先に人事管理の徹底などを行います」とのコメントを出した<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊31面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-27-朝刊35面"/>。


=== 映像作品 ===
また事件後の8月27日朝には3人が知り合うきっかけとなった闇サイト「闇の職業安定所」が閉鎖されていたことが判明したが、この時点でも複数の類似サイトがあったため、愛知県警特捜本部は「閉鎖されたサイトは実際に3人が使用したものかどうか?」の点を確認した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-27-夕刊13面">『中日新聞』2007年8月27日夕刊第一社会面13頁「千種・拉致殺害 『闇の職安』サイト閉鎖 事件と関連、確認へ」</ref>。「闇の職安」管理人が『朝日新聞』の取材に対し「犯罪を連想させるワード約80個を禁止ワードとして設定し、抵触する投稿は削除していたが、『仲間募集』とだけ書かれた場合などは投稿があっただけの段階では対処できない。『警察からの要請があれば通信記録を提出する』など警察が関与することは明記していたが、それでも今回のようなことが起こるのならば閉鎖しかないと考えた」と答えた<ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-31-朝刊35面">『朝日新聞』2007年8月31日朝刊第一社会面35頁「(闇からの凶行 女性拉致殺人事件:下)サイト、もうけ話の巣【名古屋】」</ref>。
[[東海テレビ放送]]のドキュメンタリーチーム{{Efn2|ドキュメンタリーチームは2006年から司法関連のドキュメンタリー番組を相次いで制作しており、本作はその第5弾<ref name="読売新聞2009-04-11">『読売新聞』2009年4月11日中部朝刊愛知県版第二地方面22頁「裁判とどう向き合うか あす東海テレビでドキュメンタリー=愛知」(読売新聞中部支社)</ref>。『裁判長のお弁当』(2007年)が[[ギャラクシー賞|ギャラクシー大賞]]を受賞<ref name="読売新聞2009-04-11"/>。また、2006年には[[名張毒ぶどう酒事件]]を題材とした『「重い扉」~名張毒ぶどう酒事件の45年~』(第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品)が<ref>{{Cite web|url=https://www.fujitv.co.jp/b_hp/fnsaward/15th/06-204.html|title=第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『「重い扉」~名張毒ぶどう酒事件の45年~』 (東海テレビ)|accessdate=2021-03-20|publisher=[[フジテレビジョン]]|date=2006-07-08|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201001084921/https://www.fujitv.co.jp/b_hp/fnsaward/15th/06-204.html|archivedate=2021-03-20}}</ref>、2008年には同じく名張事件を題材にした『黒と白~自白・名張毒ぶどう酒事件の闇~』や、[[光市母子殺害事件]]の弁護団に焦点を当てた『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』(2008年)が制作され、ともに「日本民間放送連盟賞」(中部・北陸地区審査会)の1位を受賞している<ref>{{Cite press release|title=『日本民間放送連盟賞』 中部・北陸地区審査会 報道部門・教養部門ダブルで1位!|publisher=[[東海テレビ放送]]|date=2008-07-04|url=https://www.tokai-tv.com/press/pdf/2008/080704_01.pdf|format=PDF|language=ja|accessdate=2021-03-20|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320153905/https://www.tokai-tv.com/press/pdf/2008/080704_01.pdf|archivedate=2021-03-20}}</ref>。}}は2008年夏以降、[[裁判員制度]]開始(2009年5月)を控え、本事件の被害者Aの母親Bのほか、同じ東海地方で発生した凶悪事件の被害者遺族{{Efn2|[[名古屋保険金殺人事件]](1983年)の被害者の兄および、[[大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件]](1994年・「長良川事件」)の被害者の父親<ref>『朝日新聞』2009年4月10日名古屋夕刊ポップ6頁「死刑―被害者遺族の思いは 12日、東海テレビ放送 【名古屋】」(朝日新聞名古屋本社 記者:増田愛子)</ref>。}}を取材し、2009年4月12日にドキュメンタリー番組『罪と罰 -娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父-』を放送した<ref name="読売新聞2009-04-11"/>(ナレーター:[[藤原竜也]])<ref name="罪と罰">{{Cite web|url=https://www.tokai-tv.com/tsumibatsu/|title=罪と罰 ―娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父―|accessdate=2021-03-20|publisher=[[東海テレビ放送]]|date=2009-04-12|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320143219/https://www.tokai-tv.com/tsumibatsu/|archivedate=2021-03-20}}</ref>。

* 東海テレビは同番組放送以降も、被害者Aの母親Bを継続取材し、「事件前の母娘の物語」を再現したドキュメンタリードラマ『Home(ホーム) 東海テレビ開局60周年記念 ドキュメンタリードラマ』[プロデューサー:[[阿武野勝彦]](東海テレビ)、監督・脚本:齊藤潤一(東海テレビ)、助監督・ドキュメンタリー取材:繁澤かおる]<ref name="Home">{{Cite web|url=http://tokai-tv.com/home/|title=Home(ホーム) 東海テレビ開局60周年記念 ドキュメンタリードラマ|accessdate=2021-03-20|publisher=東海テレビ放送|date=2018-12-25|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320145138/https://www.tokai-tv.com/home/|archivedate=2021-03-20}}</ref>を2018年12月25日19時00分 - 21時00分に放送<ref>{{Cite web|url=https://www.tokai-tv.com/ichioshi/|title=いちおし番組|accessdate=2021-03-20|publisher=東海テレビ放送|date=2019-01|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320150127/https://www.tokai-tv.com/ichioshi/|archivedate=2021-03-20}}</ref>。同作では被害者Aを[[佐津川愛美]](子供時代:[[矢崎由紗]])が、母親Bを[[斉藤由貴]]が演じた<ref name="Home"/>。その後、同番組を再構成した[[映画]]作品『おかえり ただいま』([[映画監督|監督]]:齊藤潤一)が<ref>{{Cite news|title=深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.601 被害者と加害者の両視点で描く東海テレビの力作 闇サイト事件を劇映画化『おかえり ただいま』|newspaper=[[サイゾー|日刊サイゾー]]|date=2020-09-18|author=長野辰次|url=https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry.html|accessdate=2021-03-20|publisher=株式会社サイゾー|page=1|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320151042/https://www.cyzo.com/2020/09/post_253068_entry.html|archivedate=2021年3月20日}}</ref>、2020年9月19日から劇場公開された<ref name="映画化">{{Cite news|title=カネ欲しさに見知らぬ女性を拉致・殺害…「死刑囚」の生い立ちを追って 名古屋闇サイト殺人事件が映画化|newspaper=弁護士ドットコムニュース|date=2020-09-11|author=編集部・吉田緑|url=https://www.bengo4.com/c_23/n_11676/|accessdate=2021-03-20|publisher=[[弁護士ドットコム]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320142155/https://www.bengo4.com/c_23/n_11676/|archivedate=2021年3月20日}}</ref>。
=== 防犯活動 ===
;その他テレビ番組
本事件をきっかけに地域住民から「被害者Aと同様に地下鉄駅から徒歩などで帰宅する女性が安心して帰宅できるようにしてほしい」という声が上がったため、千種署は[[名古屋市交通局]]の協力を得て千種区内の[[名古屋市営地下鉄]][[名古屋市営地下鉄東山線|東山線]]・[[名古屋市営地下鉄名城線|名城線]]・[[名古屋市営地下鉄|桜通線]]の3路線全10駅に{{Refnest|group="注"|[[今池駅 (愛知県)|今池駅]]・[[池下駅|池下]]・[[覚王山駅|覚王山]]・[[本山駅 (愛知県)|本山]]・[[東山公園駅 (愛知県)|東山公園]]・[[星ヶ丘駅 (愛知県)|星が丘]]・[[茶屋ヶ坂駅|茶屋ヶ坂]]・[[自由ヶ丘駅|自由ヶ丘]]・[[名古屋大学駅|名古屋大学]]・[[吹上駅 (愛知県)|吹上]]の計10駅<ref group="報道" name="中日新聞2008-02-07"/>。}}[[防犯ブザー]]を1駅5個ずつ設置し利用者への貸し出しを開始した<ref group="報道" name="中日新聞2008-02-07">『中日新聞』2008年2月7日朝刊名古屋市民版16頁「地下鉄駅からのひとり歩き 防犯ブザー 女性に貸与 Aさん拉致殺害事件受け 千種区内10駅に設置」(記者:弓削雅人)</ref>。
* 『[[ザ!世界仰天ニュース]]』(制作:[[日本テレビ放送網|日本テレビ]]、放送:[[日本テレビ系列]]) - 2017年5月23日放送分にて、本事件を題材にした「史上最低最悪の男達に殺された娘」が放送された<ref>{{Cite web|url=https://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20170523_05.html|title=史上最低最悪の男達に殺された娘|accessdate=2021-03-20|publisher=[[日本テレビ放送網]]|date=2017-05-23|website=[[ザ!世界仰天ニュース]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201202015041/https://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20170523_05.html|archivedate=2020-12-02}}</ref>。

* 『実録!マサカの衝撃事件』(製作:[[ディ・コンプレックス|ディコンプレックス]]・[[TBSテレビ|TBS]]、放送:[[ジャパン・ニュース・ネットワーク|TBS系列局]]) - 2017年10月9日放送<ref>{{Cite web|url=http://www.tbs.co.jp/program/masaka_jiken20171009.html|title=実録!マサカの衝撃事件|accessdate=2021-03-20|publisher=[[TBSテレビ]]|date=2017-10-09|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320143925/http://www.tbs.co.jp/program/masaka_jiken20171009.html|archivedate=2021-03-20}}</ref>。
また現場付近の地下鉄本山駅周辺では、事件後に近隣住民らが街灯増設・[[防犯カメラ]]新設を実施したほか<ref group="報道" name="中日新聞2017-08-25"/>、自主的な防犯パトロールを強化した<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-28-朝刊31面-小椋"/><ref group="報道" name="中日新聞2017-08-25"/>。事件10年が経過した2017年8月に被害者Aが拉致された場所と同じ夜道を歩いた『中日新聞』記者・小椋由紀子は同月25日朝刊記事にて「今も現場周辺の夜道は決して明るいとは言えないが、事件当時はもっと闇が濃かった」と述べた<ref group="報道" name="中日新聞2017-08-25">『中日新聞』2017年8月25日第三社会面30頁「ニュース前線 闇サイト殺人10年 女性記者現場を歩く 理不尽な夜道 今も胸に」(記者:小椋由紀子)</ref>。その一方で時間の経過とともに住民らの間でも事件の記憶が風化し、防犯パトロールの頻度が減ったほか、拉致現場への献花も数年前に途絶えていた<ref group="報道" name="中日新聞2017-08-25"/>。地区のパトロール隊長を務める70歳代男性は小椋の取材に対し「今も月1回『もう事件が起きないように』という気持ちで巡回に出掛けているが、正直辛いことを考え続けるのは苦しい」と打ち明けた<ref group="報道" name="中日新聞2017-08-25"/>。
* 『事件の涙 Human Crossroads』[制作:[[日本放送協会]] (NHK) 、放送:[[NHK総合テレビジョン]]] - 2017年12月27日に放送。語り:[[長塚圭史]]<ref>{{Cite web|url=https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92894/2894203/|title=事件の涙 Human Crossroads|accessdate=2018-09-01|publisher=[[日本放送協会]]|date=2017-12-27|website=[[NHK総合テレビジョン]]|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180901131604/https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92894/2894203/|archivedate=2018-09-01|deadlinkdate=2021-03-20}}</ref>。

* 『[[NHKニュースおはよう日本]]』[制作:日本放送協会 (NHK) 、放送:NHK総合テレビジョン] - 2019年7月27日放送分「けさのクローズアップ」にて、「“闇サイト殺人事件” 娘を奪われた遺族の思い」と題し本事件が取り上げられた<ref>{{Cite web|url=https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2019/07/0727.html|title=けさのクローズアップ “闇サイト殺人事件” 娘を奪われた遺族の思い|accessdate=2019-11-16|publisher=日本放送協会|date=2019-07-27|website=[[NHKニュースおはよう日本]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20191116022459/https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2019/07/0727.html|archivedate=2019-11-16|deadlinkdate=2021-03-20}}</ref>。
== 被害者遺族の活動 ==
事件で愛娘を失い1人遺された被害者Aの母親は2007年8月28日付で「犯人たちに対する憤りで胸が張り裂けそうだ。絶対に許せない」という趣旨の手記を公開し<ref group="報道" name="中日新聞2007-08-29-朝刊31面">『中日新聞』2007年8月29日朝刊第一社会面31頁「Aさんの母 手記を公開 『何の落ち度もない娘に…絶対に、絶対に、許しません。』」「遺影には笑顔 悲しみの通夜」</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊27面"/><ref group="報道" name="朝日新聞2007-08-29-朝刊35面"/>、2007年9月11日付で報道陣向けに「拉致されてから駐車場で命を奪われるまでの娘の恐怖と苦しみを思うと可哀想で居たたまれない。できることならもう一度『大丈夫だからね』と言って娘を抱きしめてあげたい気持ちだ」という手記を出した<ref name="手記">{{Cite web|title=報道に宛てた手記(抜粋)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2007-09-11|language=ja|accessdate=2018-01-28|archivedate=2018-01-28|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180128133902/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html}}</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2007-09-12">『朝日新聞』2007年9月12日朝刊第二社会面26頁「『身体中に怒り』被害女性の母が手記 名古屋・千種の拉致殺害 【名古屋】」</ref><ref group="報道" name="中京テレビ2007-09-10">{{Cite news|title=報道に宛てた手記(抜粋)|url=http://www.ctv.co.jp/realtime/20070914/|newspaper=[[中京テレビNewsリアルタイム]]|publisher=[[中京テレビ放送]]|date=2007-09-10|language=ja|accessdate=2018-01-28|archivedate=2007-09-15|archiveurl=http://web.archive.org/web/20071115131153/http://www.ctv.co.jp/realtime/20070914/}}</ref>。

また作家・[[大崎善生]]は2014年から本事件に関するノンフィクションを執筆するため毎月のように名古屋に通い被害者Aの母親にインタビューをした<ref group="報道" name="東京新聞2017-04-23"/>。Aの母親は最初こそ大崎の取材を断ったものの、その後は全面的に協力するようになり、大崎は2016年11月30日に[[角川書店]]から被害者Aの生い立ち・母とともに生きた31年間の生涯などを描いたノンフィクション『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』を出版した<ref group="報道" name="東京新聞2017-04-23">『東京新聞』2017年4月23日朝刊読書第二面8頁「書く人 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 作家・大崎善生さん(59) 被害女性の人生残す」(記者:森本智之)</ref>。大崎は事件から10年が経過した2017年に『中日新聞』の取材に対し「取材のきっかけは事件当時にAさんの顔写真を見て『こんな普通の子が…』と思ったことだ。母1人子1人の生い立ちなどを知って引き込まれていった。地域は徐々に日常を取り戻しつつあるが、同様の事件はいつでも起こり得る。被害者の『命の闘い』を忘れてはならない」とコメントした<ref group="報道">『中日新聞』2017年8月25日第三社会面30頁「命の闘い忘れるな」(作家・[[大崎善生]]の話)</ref>。

=== 法務大臣宛へ直訴の手紙 ===
Aの母親は2008年3月3日に[[鳩山邦夫]]法務大臣(当時)宛に「本事件の公判の早期開始・インターネット上の有害サイトへの法規制」を求める手紙を郵送した<ref name="鳩山宛手紙">{{Cite web|title=鳩山法務大臣に宛てた手紙|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page009.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-03-03|language=ja|accessdate=2018-01-28|archivedate=2018-01-28|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180128134100/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page009.html}}</ref><ref name="鳩山宛手紙PDF">{{Cite web|title=鳩山法務大臣に宛てた手紙(PDF版)|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/letter.pdf|format=PDF|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-03-03|language=ja|accessdate=2018-01-28|archivedate=2018-01-28|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180128134208/http://www2.odn.ne.jp:80/rie_isogai/letter.pdf}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2008-03-04">『中日新聞』2008年3月4日朝刊第一社会面35頁「千種の拉致殺害 Aさんの母 法相あてに直訴の手紙 始まらぬ公判 有害サイト放置」</ref>。便箋6枚にわたるその手紙の概要は「今回の事件は冤罪の可能性がないのは明白で、事実認定が極めて困難なケースでもないのに、なぜ(事件から半年以上が経過した当時)初公判までに時間がかかり過ぎているのか?3被告人の接点は闇サイトにあり、事件後も闇サイトの関わる事件が後を絶たないことを憂慮している。闇サイトに法規制をかけることで(本事件のような)悲劇を防いでほしい」というものだった<ref group="報道" name="中日新聞2008-03-04"/>。

これを受けて鳩山は2008年3月6日付でAの母親に返信の手紙を送った<ref name="鳩山返信">{{Cite web|title=鳩山法務大臣のお返事|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page010.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2008-03-06|language=ja|accessdate=2018-01-28|archivedate=2018-01-28|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180128134121/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page010.html}}</ref><ref group="報道" name="中日新聞2008-03-11">『中日新聞』2008年3月11日朝刊第一社会面35頁「千種拉致殺害 母の手紙 法相返信 サイト対策に理解」</ref>。鳩山は「事件について個別のケースについて考慮されておらず『加害者寄りではないか』という司法への批判がある。自分の立場としては『凶悪犯罪に対する厳罰が犯罪の抑止力になる』というお考えには全く同感だ。インターネットを使った犯罪など新しい類型の犯罪を考えなければならない」という考えを示した<ref group="報道" name="中日新聞2008-03-11"/>。

=== 加害者3人への死刑を求めた署名活動 ===
また被害者Aの母親は事件から約1か月となった2007年9月22日にホームページを設立し、愛娘を失った悲しみ・命を奪った加害者3人への怒りなどの心情を吐露した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-23">『中日新聞』2007年9月23日朝刊第一社会面29頁「女性拉致殺害 母、娘しのぶHP 『もう一度抱きしめたい』」</ref>。ホームページには笑顔を浮かべた生前のAの遺影を掲載した上で、事件後に報道陣に出した手記を掲載した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-23"/><ref name="手記"/>。その上で「『人の命を奪うことがいかに重い罪になるか』を多くの人に知ってもらい、同じような犯罪をなくしたい」として「同月中旬以降は遺族一同、被疑者3人への死刑(極刑)を求める署名活動を開始し、被告人3人が強盗殺人罪で起訴されたことに合わせて名古屋地裁に1回目の署名提出をする」ことを明かした上で陳情書への署名を訴えた<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-23"/>。署名活動開始のきっかけは2007年9月12日に事件を知った人物から「日本の司法では過去の判例(永山基準など)から見ると1人を殺害しただけではほとんど死刑にならない」と指摘する内容の手紙が送られてきたことだった<ref group="書籍">{{Harvtxt|大崎|2016|pp=301-302}}</ref>{{Refnest|group="注"|『読売新聞』では「同じような境遇を持つ全国の犯罪被害者・子を持つ親たちから届いた手紙の中にあった1通の手紙」とされている<ref group="報道" name="読売新聞2008-08-24">『読売新聞』2008年8月24日中部朝刊第二社会面32頁「闇サイト殺人1年 進まぬ法規制 『娘の死、無駄にしないで』=中部」</ref>。}}。

極刑を求める署名活動に関しては「人殺しを募るなんて」などという批判の声もあったが<ref group="報道" name="中日新聞2009-03-19-朝刊">『中日新聞』2009年3月17日朝刊第一社会面27頁「ニュース前線 千種拉致殺害あす判決 亡きAさん思い母が詩 空見上げればあなたが」(記者:社会部・長田弘己)</ref>、被害者Aの母親に共感する声が多く、事件発生から約1年となる2008年8月17日までに約281,400人分の署名が集まった<ref group="報道" name="読売新聞2008-08-24"/>。
Aの母親・叔母は2007年10月23日に名古屋地検を訪れ、それまでに集まった約15万人の署名を事件を担当していた検察官に手渡した<ref group="報道" name="中日新聞2007-10-24">『中日新聞』2007年10月24日朝刊第一社会面29頁「千種の拉致殺害 『極刑を』15万人の怒り 母親ら署名提出」</ref>。このほかインターネット上のみならず名古屋市内の街頭でも署名活動が行われた。
* 2007年9月27日 - 30日までの4日間、Aの母親・伯母(母親の姉)ら被害者遺族一同が[[名古屋駅]]・[[名鉄名古屋駅]]などの近くで署名活動を実施した<ref group="報道" name="中日新聞2007-09-28">『中日新聞』2007年9月28日朝刊第三社会面33頁「『拉致殺害許せない』 遺族ら極刑求め名駅で署名」</ref>。
* Aの母親は2007年12月8日にAの伯母・友人ら約20人とともに初めて街頭に立ち、名古屋市[[中区 (名古屋市)|中区]][[栄 (名古屋市)|栄]]で署名活動を行った<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-09">『中日新聞』2007年12月9日朝刊第二社会面38頁「母も街頭で署名活動 千種・女性拉致殺害」</ref>。この時点までに署名は約22万人分集まっていた<ref group="報道" name="中日新聞2007-12-09"/>。
* 2008年4月5日 - 6日、Aの母親ら遺族・友人など計5人が名古屋市中区栄で事件後3回目の街頭署名活動を行った<ref group="報道" name="中日新聞2008-04-06">『中日新聞』2008年4月6日朝刊名古屋市民版22頁「Aさん拉致、殺害 3被告の極刑へ 母親が街頭署名」</ref>。それまでに集まった署名の数は合計263,000人分に上っており、Aの母親は『中日新聞』の取材に対し「事件から7カ月以上過ぎても犯人らが憎い思いは変わらない。これからも署名活動を続ける」と語った<ref group="報道" name="中日新聞2008-04-06"/>。

論告求刑公判を間近に控えた2008年12月18日には目標数として掲げていた30万人分の署名が集まった<ref name="30万人署名達成">{{Cite web|title=30万人の署名達成有難うございます!|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page005.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2009-01-01|language=ja|accessdate=2018-01-26|archivedate=2018-01-26|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180126174249/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page005.html}}</ref>。これらの署名は被告人・弁護人側の不同意により証拠採用されなかったが、30万人到達に先立つ2008年12月8日の証人尋問では名古屋地検が最初に提出された署名の写真を映像で映し出したほか、裁判官から「その前日までに集まった署名数はいくつか」(約297,000人分の署名数)と質問された<ref name="30万人署名達成"/>。Aの母親は「裁判官に署名を直接見ていただくことはできなかったが公判記録として残すことができた。賛同してくださった皆様の声を司法に届けることができ、検察官の配慮に大変感謝している」と述べた<ref name="30万人署名達成"/>。

署名数は第一審判決公判当日の2009年3月18日にちょうど32万人に達し<ref group="報道" name="読売新聞2009-06-06"/>、2009年5月13日には約6万人の署名が[[名古屋高等検察庁]]に追加提出された(提出総数:321,122人分)<ref group="報道" name="中日新聞2009-05-14">『中日新聞』2009年5月14日朝刊第二社会面28頁「Aさんの母が署名6万人追加 千種拉致殺害」</ref>。

しかしその後は風化の影響から署名数は頭打ちになり、署名活動を手伝う友人が「どんな事件だったっけ?」と尋ねられたこともあった<ref group="報道" name="毎日新聞2010-08-08"/>。集まった署名数は2011年4月の控訴審判決直前時点で329,000人<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-09">『中日新聞』2011年4月9日朝刊臨時ニュース1面30頁「娘に誓った『報告』必ず 『闇サイト殺人』 12日控訴審判決 〇〇さん 3人全員極刑望む」</ref>・控訴審判決後には合計32万9878人分となっており<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-19-夕刊"/>、被告人Xの無期懲役が確定することとなっても継続されたが<ref group="報道" name="中日新聞2011-04-23"/>、堀に対する上告が棄却されて刑事裁判がすべて終結したことにより、署名活動は2012年8月25日付(最終総数:332,806人分)で終了した<ref name="ホーム">{{Cite web|title=ホーム|publisher=被害者遺族運営のホームページ|date=2012-07-26|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/|language=ja|accessdate=2017-07-13|archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713051954/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/|archivedate=2017-07-13}}</ref>。しかしサイトの更新自体は署名活動終了後の2018年12月時点でも各種イベント・活動の報告などで継続されているほか、堀の余罪事件の動向を追ったページも作成されている([[#外部リンク]]参照)。

==== 加害者らへの反応 ====
前述のように堀・X両被告人は第一審の最終弁論公判で初めて被害者遺族に対する謝罪の弁を述べたが、Aの母親は閉廷後に「謝罪を受け入れる気持ちはないので素直に聞けなかった」と語り<ref group="報道" name="中日新聞2009-02-03"/><ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部"/>、改めて死刑判決を望む旨を表明した<ref group="報道" name="読売新聞2009-02-03-中部"/>。Aの母親は2017年時点でも死刑囚Kを含めた加害者3人全員を以下のように非難しており、両被告人の謝罪をいずれも受け入れていない<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/>。
* 「身勝手な欲のために何の関係も落ち度もない人の命を簡単に奪えるような者たちで『殺害行為は仕事感覚』『ゴキブリを殺すのと一緒だ』などと発言している。『善悪に対する根本的な考えが一般の人とは違う』ということを知った」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.7">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(7/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n7.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024521/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n7.html }}</ref>
* 「人間としての最低限の道徳心さえ持ち合わせておらず、きれいごとでは済まされないどうしようもない人間」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.7"/>
なお被告人Xはこの公判の4日後(2009年2月6日)に名古屋拘置所で『毎日新聞』中部報道センター記者・秋山信一と面会したが、秋山から「謝罪は本心からか」と問われると「答える必要はない」と突っぱねた<ref group="報道" name="毎日新聞2009-04-07">『毎日新聞』2009年4月7日東京朝刊解説面9頁「記者の目:闇サイト殺人、X被告1審無期懲役判決=秋山信一(中部報道センター)」</ref>。また被害者Aが犠牲になったことについては「運が悪かったから狙われたんだ。16人(後を)付けて(Aが)17番目。17分の1の確率だ」と投げやりに吐き捨てたほか<ref group="報道" name="毎日新聞2009-03-18-9面">『毎日新聞』2009年3月18日東京夕刊社会面9頁「愛知・女性拉致殺害:闇サイト殺人・名古屋地裁判決 母、遺影胸に涙 席立てず、放心」</ref>、前述のように判決後の面会では無反省な態度と受け取れる発言をした<ref group="報道" name="FNN-2009-03-18"/><ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/>。

また第一審判決後には3被告人のうち堀のみが弁護人を通じて「謝罪文を送りたい」と申し出たが、Aの母親は「自分は被告人らが死刑を受け入れることしか望んでおらず謝罪・反省は望んでいない。堀は控訴を取り下げていないのに心から謝罪しようとしているとは思えない」として謝罪を拒否した<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-08"/>。堀は控訴審判決で死刑から無期懲役になると一転して遺族へ連絡を取ろうとしなくなり<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-23">『中日新聞』2012年8月23日朝刊第一社会面31頁「98年碧南夫婦強殺 07年闇サイト殺人 借金かさみ凶行か 堀容疑者 周辺『無口で穏やか』 法廷で"したたか”謝罪」</ref>、控訴審判決前のような「謝罪の手紙を送りたい」という申し出もしなくなった<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/>。また堀が連続強盗殺傷事件の余罪を本事件で無期懲役が確定するまで自白せず隠していたことから<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-25"/><ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/>、被害者Aの母親は堀を以下のように強く非難している。
* 「(本事件の犯人3人の中で)一番嘘が多かった」<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-25"/>
* 「3人の中で最もしたたかで図太く見えた」<ref group="報道" name="中日新聞2012-08-23"/>
* 「もし本気で反省し、謝罪する気があったらこれまでに犯した犯行を自供していたはずだ」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/>
* 「裁判では『生きて償う』と繰り返していた。『人の命は簡単に奪っておきながら自分の命は大事』ということで、全く反省していない」<ref group="報道">{{Cite news|title=「自分の命は大事で全く反省していない」 闇サイト殺人事件遺族が会見|newspaper=毎日新聞|date=2019-07-21|author=駒木智一|url=https://mainichi.jp/articles/20190719/k00/00m/040/461000c|accessdate=2019-07-19|publisher=毎日新聞社|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190721142003/https://mainichi.jp/articles/20190719/k00/00m/040/461000c|archivedate=2019年7月21日}}</ref>
またその堀への死刑適用を回避した名古屋高裁・最高裁の裁判官や「犯罪傾向は進んでおらず、犯罪の親和性は低い」と評価した犯罪心理鑑定士についても「なぜ強盗殺人という重大事件を犯して4年近く経っても反省できないような人物を『更生の可能性がある』と判断できたのかわからない」と批判している<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/>。

=== 講演活動・討論会への参加など ===
また被害者Aの母親は「犯罪被害の当事者になって『被告人の権利・更生は考えるのに、大切な命を奪われた被害者遺族の立場・負担への配慮は足りない』という司法制度の矛盾・疑問に初めて気づかされた」として<ref group="報道" name="中日新聞2010-08-08"/>、犯罪被害者団体の集会・手記などで<ref group="報道" name="中日新聞2009-08-26">『中日新聞』2009年5月14日朝刊第三社会面31頁「闇サイト殺人から2年 母○○さんが心境 『事件の風化辛い』 死刑回避納得できず」</ref><ref group="報道" name="中日新聞2010-08-08">『中日新聞』2010年8月8日朝刊第一社会面31頁「ニュース前線 闇サイト殺人あすから控訴審 夢守った娘 新居で誓う母」(記者:社会部・赤川肇)</ref>犯罪被害者の権利確立などを訴え続けている<ref name="活動報告">{{Cite web|title=イベント・活動報告|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page008.html|publisher=被害者遺族運営のホームページ|accessdate=2018-01-28|language=ja|archivedate=2018-01-28|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180128133905/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page008.html}}</ref>。被害者Aの母親は『読売新聞』の取材に対し「犯罪被害者遺族としてマスメディアの取材に応じることについて抵抗感はあったが、その度に『自分が表に出ることで娘のことを(社会に)覚えてもらえる』と言い聞かせつつ社会的に活動してきた」と述べているほか<ref group="報道" name="読売新聞2008-08-24"/>、『産経新聞』記者・滝口亜希は「Aの母親は『事件のことを話すと娘のむごい姿につながりつらいが、娘が亡くなったことを無駄にしたくない。被害者の現状を知ってもらいたい』という思いから活動を続けている」と述べている<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-15 p.1">{{Cite news |title=「望むのは死刑だけ」 闇サイト殺人遺族、日弁連の死刑廃止宣言に憤り 17日にシンポジウム(1/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-15 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161215/afr1612150036-n1.html |author=滝口亜希 |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201021555/http://www.sankei.com/affairs/news/161215/afr1612150036-n1.html }}</ref>。

Aの母親は2019年7月19日に碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件で堀の死刑が確定することとなったことを受けて記者会見した際に「堀の名前を聞く度に事件や娘のことを思い出すのがつらかったが、堀の死刑が確定することでその機会も減るから安どしている。だが事件や娘のことを忘れられたくないので、犯罪被害者支援などを訴える講演活動などは今後も継続する」と述べている<ref group="報道" name="中日新聞2019-07-20 02">『中日新聞』2019年7月20日朝刊第11版第一社会面35頁「碧南強殺、死刑確定へ 闇サイト殺人 被害者の母『すっきりした気持ち』」(記者:宮畑譲)</ref>。

==== 講演会における発言 ====
Aの母親は2016年12月17日に[[東京都立日比谷高等学校|星陵会館ホール]]([[東京都]][[千代田区]])にて開かれた「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」のシンポジウムに出席した際に基調講演を行い、事件の詳細・死刑制度の必要性などを語った<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.1">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(1/11ページ) |newspaper=[[産経新聞]]|publisher=[[産業経済新聞社]] |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n1.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024406/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n1.html }}</ref>。<!--

<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.2">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(2/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n2.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024415/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n2.html }}</ref>
<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.3">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(3/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n3.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024420/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n3.html }}</ref>

<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.5">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(5/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n5.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024509/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n5.html }}</ref>-->

Aの母親は同講演にて「『死刑反対』と軽々しく口に出してほしくない」という理由から凄惨な殺害の状況についてもあえて詳細に言及したほか<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.4">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(4/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n4.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024503/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n4.html }}</ref>、堀の余罪発覚<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/>・加害者3人の無反省な態度などに関しても言及した<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.6"/><ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.7"/>。その上で「最大の二次被害は司法の世界にあった。裁判官の『被害者が1人である本件では死刑選択がやむを得ないと言えるほど悪質な要素があったとはいえない』、弁護人の『被害者が1人で死刑になった事件に比べるとこの事件はそれほどひどい事件ではない』など『司法の世界ではごくごく当たり前の文言』に大きく傷つけられた。司法は『加害者の更生』という未来の不確定なことを前提にして裁くのではなく『まじめに生きている人を守ること』を優先して裁いてほしい」と訴えた上で<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.7"/>、以下のように「法曹界における量刑相場などの感覚と一般感覚の乖離の大きさ」を指摘した<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.9">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(9/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n9.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024825/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n9.html }}</ref>。
* 「『被害者の数を重要視する裁判官こそ人の命を軽んじているのではないか』とさえ思った」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.8">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(8/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n8.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024816/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n8.html }}</ref>
* 「裁判官の『殺害の態様が残虐性を増したのは、被告人らが想像しているよりも被害者が簡単に絶命しなかったため、殺害手段を次々に変えた結果である』という言葉は『残虐になったのはAがさっさと死ななかったせいだ』と言われているような気がした。(加害者らは殺害方法の残虐性に関係なく、最終的には金品目的で被害者を殺害することを決めていたため)どんな方法でもよかったのだ」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.8"/>
そして死刑廃止論者や、2016年10月7日の人権擁護大会にて「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」とする宣言案を採択した[[日本弁護士連合会]](日弁連)<ref name="日弁連死刑廃止宣言採択">{{Cite press release|title=死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言 |publisher=日本弁護士連合会(日弁連) |date=2016-10-07 |url=https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html|language=ja|accessdate=2018-02-07 |archivedate=2018-02-07 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180207154330/https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html }}</ref><ref name="日弁連死刑廃止宣言採択PDF">{{Cite press release|title=死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言 |publisher=日本弁護士連合会(日弁連) |date=2016-10-07 |url=https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/civil_liberties/data/2016_1007_03.pdf |format=PDF|language=ja|accessdate=2018-02-07 |archivedate=2018-02-07 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180207154616/https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/civil_liberties/data/2016_1007_03.pdf }}</ref>{{Refnest|group="注"|日弁連はこの講演会に先立つ2016年10月7日に死刑廃止の立場を初めて明確にする形で同宣言案を賛成多数で採択した<ref group="報道" name="日弁連死刑廃止宣言採択 p.1">{{Cite news|title=日弁連がついに「死刑廃止」宣言を採択 野次や声援飛び交うなか…福井市の人権擁護大会(1/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070076-n1.html |language=ja|accessdate=2018-02-07 |archivedate=2018-02-07 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180207153612/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070076-n1.html }}</ref><ref group="報道" name="日弁連死刑廃止宣言採択 p.2">{{Cite news|title=日弁連がついに「死刑廃止」宣言を採択 野次や声援飛び交うなか…福井市の人権擁護大会(2/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070076-n2.html |language=ja|accessdate=2018-02-07 |archivedate=2018-02-07 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180207153618/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070076-n2.html }}</ref>。その採択は大会に出席した弁護士786人で行われ「賛成546人・反対96人・棄権144人」で可決されたが<ref group="報道" name="日弁連死刑廃止宣言採択 p.1"/><ref group="報道" name="日弁連死刑廃止宣言採択 p.2"/>、Aの母親は「賛成人数は全弁護士37,000人の1.4%に過ぎない」と指摘したほか<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.9"/>、『産経新聞』も2015年1月に[[内閣府]]が実施した[[世論調査]]で死刑容認派が80%以上に上った調査結果に言及して<ref group="報道">{{Cite news|title=【主張】死刑廃止宣言 国民感情と乖離している(1/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-11 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n1.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201021707/http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n1.html }}</ref>「日弁連は強制加入団体である一方、採決人数・賛成票はいずれも弁護士全体(=日弁連の総会員数)から見て一握りに過ぎない」と指摘している<ref group="報道">{{Cite news|title=【主張】死刑廃止宣言 国民感情と乖離している(2/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-11 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n2.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201021713/http://www.sankei.com/affairs/news/161012/afr1610120001-n2.html }}</ref>。}}、および同大会に寄せたビデオメッセージにて「(死刑廃止に向けて)殺したがるバカどもと戦ってください」と発言した[[瀬戸内寂聴]]{{Refnest|group="注"|その人権擁護大会には「あすの会」のメンバー・犯罪被害者を支援する弁護士らが出席していた中で瀬戸内がシンポジウムに寄せたビデオメッセージが再生され<ref group="報道" name="殺したがるバカども発言">{{Cite news|title=「殺したがるばかどもと戦って」 瀬戸内寂聴さんの発言に犯罪被害者ら反発「気持ち踏みにじる言葉だ」 日弁連シンポで死刑制度批判(1/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n1.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201021603/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n1.html }}</ref>、「あすの会」顧問を務める[[弁護士]]・[[岡村勲]]が「死刑制度に賛成する犯罪被害者・被害者遺族らを罵倒した発言だ」<ref group="報道" name="岡村勲">{{Cite news|title=「殺したがるばかどもと戦って」 瀬戸内寂聴さんの発言に犯罪被害者ら反発「気持ち踏みにじる言葉だ」 日弁連シンポで死刑制度批判(2/2ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n2.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201021606/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070012-n2.html }}</ref>、犯罪被害者支援に取り組む弁護士が「被害者遺族のいる前でこんな内容のビデオを流した常識を疑いたい」とそれぞれ非難した<ref group="報道" name="瀬戸内謝罪"/>。また犯罪被害者支援の関係者・インターネット上からも大きな非難の声が上がり<ref group="報道" name="瀬戸内謝罪">{{Cite news|title=寂聴さん、死刑巡る発言を謝罪 「お心を傷つけた方々には、心底お詫びします」 |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-14 |url=http://www.sankei.com/west/news/161014/wst1610140029-n1.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-06-20 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170620193647/http://www.sankei.com/west/news/161014/wst1610140029-n1.html |deadlink=2017年12月 }}</ref>、日弁連が翌7日に「犯罪被害者への配慮を欠いていた」と謝罪したほか<ref group="報道" name="日弁連謝罪">{{Cite news|title=日弁連が謝罪…瀬戸内さん「殺したがるばかども」発言で 「被害者への配慮なかった」 |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-07 |url=http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070065-n1.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201023150/http://www.sankei.com/west/news/161007/wst1610070065-n1.html }}</ref>、瀬戸内本人も10月14日付『朝日新聞』朝刊に掲載されたエッセーにて謝罪した<ref group="報道" name="瀬戸内謝罪"/>。}}<ref group="報道" name="殺したがるバカども発言"/><ref group="報道">{{Cite news|title=【浪速風】なぜ被害者より加害者を(10月11日) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-10-11 |url=http://www.sankei.com/west/news/161011/wst1610110022-n1.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20170619115158/http://www.sankei.com/west/news/161011/wst1610110022-n1.html }}</ref>に対しては以下のように言及した。
* (瀬戸内の発言について)「(なぜ死刑制度に賛成する自分たち犯罪被害者遺族が)『殺したがるバカども』と罵倒されなければならないのか?その言葉は(実際に人を殺した)加害者に向けるべき言葉ではないのか?」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.4"/>
* 「死刑反対を唱える方々は『自分や自分の大切な人は絶対に犯罪に巻き込まれない』という前提で考えているのではないか?きれいごとでは社会秩序は守れない」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.10">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(10/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n10.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024840/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n10.html }}</ref>
「日弁連は人権擁護大会で死刑廃止宣言より先に『被疑者・被告人と同様に“犯罪被害者・家族の人権・処遇”を憲法に明記すること』を働きかけるべきだ。『死んだ者には人権はない』などと奪われた命の尊さを否定しないでほしい」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.11">{{Cite news |title=【死刑制度廃止論】闇サイト殺人遺族の○○(被害者女性Aの母親の実名)さん基調講演詳報 「被害者が1人でも、私にとってはかけがえのない大切な娘」 残忍な殺害状況も子細に…(11/11ページ) |newspaper=産経新聞|publisher=産業経済新聞社 |date=2016-12-18 |url=http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n11.html |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201024844/http://www.sankei.com/affairs/news/161218/afr1612180005-n11.html }}</ref>
* 「死刑廃止論者は自分の愛する家族の命を奪った加害者にも『死刑反対』と言えるのか?と問いかけたい」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.11"/>
* 「(自分が本事件の)裁判で見た弁護人は『被告人の刑を軽くするためならどんな方法もいとわない共犯者』(=敵)として映り、正義感など何も感じられなかった。しかし『[[全国犯罪被害者の会]]』(あすの会)総会に出席した際には犯罪被害者を支援する弁護士の方々の話を聞いて『こんな弁護士もいるのか!』と感動した」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.10"/>
** 「弁護人の仕事は『被告人に真実を語らせ、その罪に見合う刑罰が科せられるよう働く』ことだと思っていたが、実際には死刑の可能性がある被告人に[[黙秘権]]行使を勧めるなどしている。そのような弁護人の訴訟戦術で刑が軽くなった被告人は犯した罪と向き合おうとしないのではないのか?」<ref group="報道" name="産経新聞2016-12-18 p.11"/>

==== 討論会 ====
またAの母親は2017年9月9日に犯罪被害・死刑制度などについて考える会「TOKYO1351」と[[ニコニコ動画]]が共同で開催した「死刑を考える討論会」(司会:[[ジョー横溝]])に出席し、死刑制度存置派・廃止派の各弁護士・識者ら(弁護士の高橋正人・ジャーナリストの[[青木理]]、映画監督の[[森達也]]ら)とともに参加して死刑制度に関する討論を行った<ref group="報道" name="討論会1">{{Cite news|title=「痙攣している頭に30回もハンマーを」…娘を殺された母が死刑廃止派弁護士に、あえてむごい娘の死を語った理由【闇サイト殺人事件】(1/5ページ)|url=http://originalnews.nico/45811|newspaper=ニコニコニュース|publisher=ドワンゴ|date=2017-10-04|language=ja|accessdate=2018-01-26|archivedate=2018-01-26|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180126183404/http://originalnews.nico/45811}}</ref>。

==== 事件発生から10年を迎えて ====
Aの母親は2017年8月24日に事件発生から10年を迎えたことを受けて報道各社のインタビューに応じ<ref group="報道" name="中日新聞2017-08-23">『中日新聞』2017年8月24日朝刊1面1頁「闇サイト殺人10年 娘の死を母は語り続ける」(記者:塚田真裕)</ref><ref group="報道" name="中日新聞電子版2017-08-23">{{Cite news |url=http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017082402000062.html |title=闇サイト殺人から10年 娘の死、母は語り続ける |date=2017-08-24 |newspaper=中日新聞|edition=朝刊1面 |publisher=中日新聞社 |author=塚田真裕 |language=ja|accessdate=2017-08-24 |archivedate=2017-08-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170823200535/http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017082402000062.html }}</ref><ref group="報道" name="東京新聞電子版2017-08-23 no.1">{{Cite news |url=http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000241.html |title=犯罪温床 闇サイト今も 名古屋女性殺害10年 母語り続け |date=2017-08-24 |newspaper=東京新聞|edition=夕刊社会面 |publisher=中日新聞社 |author=塚田真裕 |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201023949/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000241.html }}</ref><ref group="報道" name="東京新聞電子版2017-08-23 no.2">{{Cite news |url=http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000235.html |title=闇サイト事件10年 犯罪情報 ネット深く|date=2017-08-24 |newspaper=東京新聞|edition=夕刊社会面 |publisher=中日新聞社 |author1=中尾吟|author2=市川泰之 |language=ja|accessdate=2017-12-01 |archivedate=2017-12-01 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20171201023954/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017082402000235.html }}</ref><ref group="報道" name="朝日新聞2017-08-23">『朝日新聞』2017年8月22日夕刊第二社会面6頁「『世の中変わったよ』いつか娘に 闇サイト殺人10年、司法問い続ける母 【名古屋】」(記者:松本龍三郎、杉浦達朗)</ref>、増加・複雑化・巧妙化する[[サイバー犯罪]](インターネット犯罪)の取り締まり強化・新法制定の必要性を訴えた<ref group="報道" name="毎日新聞2017-08-23 no.1">{{Cite news |url=https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0824/mai_170824_8199073567.html |title=闇サイト殺人10年:母「娘思い出さない日は一日もない」 |date=2017-08-24 |newspaper=毎日新聞([[BIGLOBEニュース]]にて閲覧) |publisher=毎日新聞社 |language=ja|accessdate=2017-08-24 |archivedate=2017-08-24 |archiveurl=https://megalodon.jp/2017-0824-2159-38/https://news.biglobe.ne.jp:443/domestic/0824/mai_170824_8199073567.html }}</ref>。

== テレビ番組 ==
* {{Cite episode |url=http://www.tokai-tv.com/tsumibatsu/|title=罪と罰 ―娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父―|network=[[フジテレビ系列]]|station=[[東海テレビ放送]]|airdate=2009-04-12|accessdate=2018-12-21|language=ja|archivedate=2018-12-21|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181221083511/http://www.tokai-tv.com/tsumibatsu/}}
** 2009年5月の裁判員制度開始を控え、本事件被害者の母親を含め東海地方で発生した凶悪犯罪の被害者遺族3人(ほか[[名古屋保険金殺人事件]]・[[大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件]]両事件の被害者遺族)を取材したドキュメンタリー。ナレーター・[[藤原竜也]]。2009年4月12日16時00分 - 16時55分に東海テレビにて放送。
* {{Cite episode|url=http://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20170523_05.html|title=史上最低最悪の男達に殺された娘 |series=[[ザ!世界仰天ニュース]]|network=[[日本テレビ系列]]|station=[[日本テレビ放送網]]|date=2017-05-23|language=ja|accessdate=2018-09-01|archivedate=2018-09-01|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180901130647/http://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20170523_05.html}}
* {{Cite episode|url=http://www.tbs.co.jp/program/masaka_jiken20171009.html|title=実録!マサカの衝撃事件|network=[[TBS系列]]|station=[[TBSテレビ]] |airdate=2017-10-09|language=ja|accessdate=2018-09-01|archivedate=2018-09-01|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180901130715/http://www.tbs.co.jp/program/masaka_jiken20171009.html }}
* {{Cite episode|url=https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92894/2894203/|title=事件の涙 Human Crossroads|network=[[日本放送協会]]|station=[[NHK総合テレビジョン]]|airdate=2017-12-27|language=ja|accessdate=2018-09-01|archivedate=2018-09-01|archiveurl=http://web.archive.org/web/20180901131604/https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92894/2894203/}}
* {{Cite episode|url=http://tokai-tv.com/home/|title=Home(ホーム) 東海テレビ開局60周年記念 ドキュメンタリードラマ|network=フジテレビ系列|station=東海テレビ放送|airdate=2018-12-25|language=ja|accessdate=2018-12-21|archivedate=2018-12-21|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181221083259/http://tokai-tv.com/home/}}
** 2009年に放送されたドキュメンタリー『罪と罰』以降も被害者の母親を継続取材した東海テレビが制作・放送する「事件前の母娘の物語」を再現したドキュメンタリードラマ。2018年12月25日19時00分 - 21時00分に東海テレビにて放送。
** 被害者の母親:[[斉藤由貴]]・被害者:[[佐津川愛美]](子供時代:[[矢崎由紗]])
** プロデューサー:阿武野勝彦(東海テレビ)、監督・脚本:斉藤潤一(東海テレビ)、助監督・ドキュメンタリー取材:繁澤かおる
* {{Cite episode|url=https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2019/07/0727.html|title=けさのクローズアップ “闇サイト殺人事件” 娘を奪われた遺族の思い|series=[[おはよう日本]]|network=日本放送協会|station=NHK総合テレビジョン|airdate=2019-07-27|language=ja|accessdate=2019-11-16|archivedate=2019-11-16|archiveurl=https://web.archive.org/web/20191116022459/https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2019/07/0727.html}}


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
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{{Reflist|group="注"}}

=== 出典 ===
=== 出典 ===
{{Reflist|4}}
'''※以下の出典において、記事名に本事件・[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]それぞれの当事者の実名が使われている場合、その箇所を本項目で用いているその人物の仮名及び伏字で表記する。ただし被告人・堀慶末は実名で著書を出版しているため例外的に実名で表記する。'''

'''刑事裁判判決文・決定文からの出典'''

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'''書籍出典'''

{{Reflist|group="書籍"|30em}}

'''各種報道出典'''

{{Reflist|group="報道"}}

'''その他各種出典'''

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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
=== 刑事裁判の判決文・決定文 ===
'''本事件における刑事裁判の[[判決 (日本法)|判決]]文・[[裁判#裁判の形式|決定]]'''
* {{Cite 判例検索システム |裁判所=[[名古屋高等裁判所]]刑事第2部 |裁判形式=判決 |事件番号=平成21年(う)第219号 |事件名=営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂、強盗強姦未遂、建造物侵入各被告事件 |裁判年月日=2011年(平成23年)4月12日 |判例集=『[[TKC]]ローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25670946 |判示事項= |裁判要旨= |url= |ref=古屋高裁判決(2011-04-12)}}
* 控訴審判決 - {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|名古屋高裁|2011}}|事件番号=平成21年(う)第219号|裁判年月日=[[2011年]]([[平成]]23年)4月12日|裁判所=[[名古屋高等裁判所]]|法廷=刑事第2部|裁判形式=判決|事件=[[略取・誘拐罪#処罰類型|営利略取]][[逮捕監禁罪|逮捕監禁]][[強盗致死傷罪|強盗殺人]][[死体損壊・遺棄罪|死体遺棄]][[窃盗罪|窃盗未遂]][[強盗・強制性交等罪|強盗強姦未遂]][[住居侵入罪|建造物侵入]]各被告事件|判例集=『[[TKC]]ローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25670946|判示事項=|裁判要旨=インターネットの[[電子掲示板|掲示板]]を利用して集まった被告人らが、帰宅途中の被害女性を自動車内に押し込んで逮捕監禁し、暴行を加えて現金及びキャッシュカードを強取し、脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、同女を殺害してその死体を遺棄するなどした営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、強盗強姦未遂の事案において、殺害された被害者が1である本件において、死刑の選択がやむを得ないと言えるほど他の量刑要素が悪質であるとは断じがたいことなどから、被告人A(堀慶末)を死刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、他方で、被告人B(「山下」)を無期懲役に処した原判決の量刑は結論において相当であるとして、原判決中、被告人Aに関する部分を破棄し、被告人Aを無期懲役に処した事例。 (TKC) }}
** [[裁判官]]:[[下山保男]]([[裁判長]])・[[柴田厚司]]・[[松井修 (裁判官)|松井修]]
** 判決内容:被告人・堀は原審の死刑判決を破棄、被告人Xの検察側・被告人側双方の控訴棄却によりいずれも無期懲役(求刑:死刑)
** 被告人
<div style="border: 1px solid #aaa; margin-left: 25px; padding: 2px; background: #eee; font-size: 90%;">
*** [[堀慶末]] - 営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂([[求刑]]および原判決の[[量刑]]:[[日本における死刑|死刑]])
インターネットの掲示板を利用して集まった被告人らが、帰宅途中の被害女性を自動車内に押し込んで逮捕監禁し、暴行を加えて現金及びキャッシュカードを強取し、脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、同女を殺害してその死体を遺棄するなどした営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、強盗強姦未遂の事案において、殺害された被害者が1名である本件において、死刑の選択がやむを得ないと言えるほど他の量刑要素が悪質であるとは断じがたいことなどから、被告人A(堀慶末)を死刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、他方で、被告人B(同X)を無期懲役に処した原判決の量刑は結論において相当であるとして、原判決中、被告人Aに関する部分を破棄し、被告人Aを無期懲役に処した事例。
*** 「山下」 - 同上および強盗強姦未遂、建造物侵入(求刑:死刑/原判決の量刑:[[懲役#無期懲役|無期懲役]])
</div>
** [[判決 (日本法)|判決]][[主文]]の要旨:原判決([[名古屋地方裁判所|名古屋地裁]]:2009年3月18日)のうち、堀に関する部分を破棄([[自判]])。堀を無期懲役に処し、原審における[[未決勾留]]日数370日を刑期に算入。被告人「山下」と検察官の控訴をいずれも棄却
:* [[裁判官]]:[[下山保男]]([[裁判長]])・[[柴田厚司]]・[[松井修 (裁判官)|松井修]]
:* [[検察官]]・[[弁護人]]
** [[検察官]]
:** [[名古屋地方検察庁]]検察官:玉岡尚志被告人Xに対する控訴趣意書を作成
*** [[名古屋地方検察庁]]検察官:玉岡尚志 - 被告人「山下」に対し控訴し、控訴趣意書を作成
:** [[名古屋高等検察庁]]検察官:白井玲子・工藤恭裕両被告人の控訴趣意書に対する答弁書を記載・提出、被告人Xに対する控訴趣意書を提出
*** [[名古屋高等検察庁]]検察官:白井玲子・工藤恭裕 - 両被告人の控訴趣意書に対する答弁書を記載・提出、被告人「山下」に対する控訴趣意書を提出
:** 被告人堀の弁護人:長谷川龍伸(主任弁護人)・夏目武志・稲垣高志控訴趣意書を連名作成
** 被告人の[[弁護人]]
*** 堀の弁護人:長谷川龍伸(主任弁護人)・夏目武志・稲垣高志 - 控訴趣意書を連名作成
:** 被告人Xの弁護人:成田龍一(主任弁護人)・金井正成・磯貝隆博控訴趣意書を連名作成、検察の控訴趣意書に対する答弁書を連名作成
*** 「山下」の弁護人:成田龍一(主任弁護人)・金井正成・磯貝隆博 - 控訴趣意書を連名作成、および検察の控訴趣意書に対する答弁書を連名作成
* 堀慶末(検察官が上告)の上告審決定 - {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|最高裁|2012}}|事件番号=平成23年(あ)第844号|裁判年月日=[[2012年]](平成24年)7月11日|法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二[[小法廷]]|裁判形式=決定|判例集=集刑 第308号91頁|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82564|事件名=営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂被告事件|判示事項=被害者1名の強盗殺人等の事案につき無期懲役の量刑が維持された事例(名古屋闇サイト殺人事件)}}
* {{Cite 判例検索システム |裁判所=[[名古屋高等裁判所]]刑事第2部 |裁判形式=決定 |事件番号= |事件名=控訴審における公判期日指定申立て事件 |裁判年月日=2010年(平成22年)9月9日 |判例集=『高等裁判所刑事裁判速報集』(平成22年)号123頁、『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25501106 |判示事項= |url= |ref=名古屋高裁決定(2010-09-09)}}
** 決定主文:本件上告を棄却する。
<div style="border: 1px solid #aaa; margin-left: 25px; padding: 2px; background: #eee; font-size: 90%;">
# 死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効であることを理由にしてなされた公判期日指定の申立てに対し、被告人の行った控訴取下げを有効と認めて決定で控訴終了宣言がなされた事例。
</div>
:* 決定内容:死刑囚Kの控訴取り下げは有効
:* 申立人:弁護人
* {{Cite 判例検索システム |法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二小法廷 |裁判形式=決定 |事件番号=平成23年(あ)第844号 |事件名=営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂各被告事件 |裁判年月日=2012年(平成24年)7月11日 |判例集=[[判例集|『最高裁判所裁判集刑事編』(集刑)]]第308号91頁、裁判所ウェブサイト掲載判例 |判示事項=被害者1名の強盗殺人等の事案につき無期懲役の量刑が維持された事例(名古屋闇サイト殺人事件) |裁判要旨= |url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82564 |ref=最高裁第二小法廷決定(2012-07-11)}}
** 決定内容:検察側上告棄却(被告人・堀の無期懲役判決確定)
** [[最高裁判所裁判官]]:[[千葉勝美]](裁判長)・[[竹内行夫]]・[[須藤正彦]]
** [[最高裁判所裁判官]]:[[千葉勝美]](裁判長)・[[竹内行夫]]・[[須藤正彦]]
** 収録文献 - {{Cite journal|和書|journal=最高裁判所裁判集 刑事|year=2012|title=平成24年7月11日決定 平成23年(あ)第844号|issue=308|pages=91-127|publisher=最高裁判所|ref={{SfnRef|集刑|2012}}}}:『最高裁判所裁判集 刑事』(集刑)2012年5月 - 10月号。検察官の上告趣意書が収録されている。
* {{Cite 判例検索システム |裁判所=[[名古屋地方裁判所]]刑事第4部 |事件番号=平成24年(わ)第1701号/平成25年(わ)第156号 |裁判形式=判決 |事件名=住居侵入,強盗殺人,強盗殺人未遂被告事件([[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]) |裁判年月日=2015年(平成27年)12月15日 |判例集=裁判所ウェブサイト掲載判例、『D1-Law.com』([[第一法規]]法情報総合データベース)判例体系 ID:28240367 |判示事項= |裁判要旨= |url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85860 |ref=名古屋地裁判決(2015-12-15)}}
'''死刑囚KTの控訴審公判期日申立て事件(控訴取下げに対する異議申し立て)'''
** 判決内容:死刑(求刑:同、被告人側控訴)
* {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|名古屋高裁|2010}}|事件番号=事件番号は不明(TKCには未記載)<!--原典『高等裁判所刑事裁判速報集』(平成22年)号ならば記載されている可能性あり-->|裁判年月日=[[2010年]](平成22年)9月9日|裁判所=名古屋高等裁判所|法廷=刑事第2部|裁判形式=決定|判例集=『高等裁判所刑事裁判速報集』(平成22年)号123頁、『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25501106|事件名=控訴審における公判期日指定申立て事件|裁判要旨=死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効であることを理由にしてなされた公判期日指定の申立てに対し、被告人の行った控訴取下げを有効と認めて決定で控訴終了宣言がなされた事例。}}
** 決定主文:本件控訴は、平成21年4月13日取下げにより終了したものである。
** 申立人:死刑囚KTの弁護人
'''死刑囚KTおよび弁護人による[[国家賠償請求訴訟]]'''
* {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|名古屋地裁|2013}}|事件番号=平成21年(ワ)第4801号・平成22年(ワ)第7629号|裁判年月日=[[2013年]](平成25年)2月19日|裁判所=名古屋地方裁判所|法廷=民事第3部|裁判形式=判決|判例集=裁判所ウェブサイト掲載判例|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=83184|事件名=損害賠償請求事件|判示事項=1 刑事事件の第一審で死刑判決を受け,控訴した後にこれを取り下げ,当該取下げの無効を主張する者(以下「控訴の取下げの効力を争う死刑確定者」という。)と弁護人との面会に際し,拘置所長が立会いなしの面会を認めなかった措置について,刑訴法440条の趣旨に照らせば,控訴の取下げの効力を争う死刑確定者にも,弁護人選任権が保障され,弁護人と立会人なくして面会する法的利益が認められるとして,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。 2 上記1の措置の違法を主張する国家賠償請求訴訟のための訴訟代理人弁護士との立会いなしの面会を認めなかった拘置所長の措置について,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。}}
** 判決内容:原告の請求(賠償金:2,700万円)のうち、計145万2,000円の支払いを命じる
** 裁判官:德永幸藏(裁判長)・光野哲治・荻野文則
** [[原告]]:死刑囚KTおよび藏冨恒彦・福井秀剛(死刑囚KTの第一審における[[国選弁護制度|国選]]弁護人)
** [[被告]]:日本国
'''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]における[[堀慶末]]への判決文・決定文'''
* 第一審判決 - {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|名古屋地裁|2015}}|事件番号=平成24年(わ)第1701号・平成25年(わ)第156号|裁判年月日=[[2015年]](平成27年)12月15日|裁判所=[[名古屋地方裁判所]]|法廷=刑事第4部|裁判形式=判決|判例集=裁判所ウェブサイト掲載判例、『D1-Law.com』([[第一法規]]法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28240367|url=http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85860|事件名=住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件|判示事項=被告人が、共犯者2名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して夫婦を殺害した住居侵入、強盗殺人と、その8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入、強盗殺人未遂の事案につき、死刑に処した事例|裁判要旨=}}
** [[判決 (日本法)|判決]][[主文]]:被告人を[[日本における死刑|死刑]]に処する。(求刑:同/被告人側控訴)
** [[裁判官]]:[[景山太郎]](裁判長)・小野寺健太・石井美帆
** [[裁判官]]:[[景山太郎]](裁判長)・小野寺健太・石井美帆
** 被告人:堀慶末(本事件の無期懲役刑で受刑中)
** 被告人:堀慶末(本事件の無期懲役刑で受刑中)
** [[検察官]][[弁護人]]
** 検察官・弁護人
*** [[名古屋地方検察庁]]検察官:川島喜弘・武井聡士・天日崇博
*** [[名古屋地方検察庁]]検察官:川島喜弘・武井聡士・天日崇博
*** 堀被告人の弁護人:神谷明文(主任弁護人)・[[村上満宏]]・水野紀孝
*** 堀被告人の弁護人:神谷明文(主任弁護人)・[[村上満宏]]・水野紀孝
* 控訴審判決 - {{Cite 判例検索システム|ref={{SfnRef|名古屋高裁|2016}}|事件番号=平成28年(う)第44号|裁判年月日=[[2016年]](平成28年)11月8日|裁判所=[[名古屋高等裁判所]]|法廷=刑事第1部|裁判形式=判決|判例集=『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28244446|事件名=住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件|判示事項=被告人が、共犯者2名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して夫婦を殺害した住居侵入、強盗殺人と、その8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入、強盗殺人未遂の事案につき、被告人を死刑とした原判決が維持され、控訴が棄却された事例。 (D1-Law.com) |裁判要旨=}}
<div style="border: 1px solid #aaa; margin-left: 25px; padding: 2px; background: #eee; font-size: 90%;">
** 判決主文:本件控訴を棄却する。(死刑とした第一審判決を支持/被告人側は上告)
被告人が、共犯者2名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して夫婦を殺害した住居侵入、強盗殺人と、その8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入、強盗殺人未遂の事案につき、死刑に処した事例。
** 裁判官:[[山口裕之 (裁判官)|山口裕之]](裁判長)・田邊三保子・出口博章
</div>
** 被告人:堀慶末

* 上告審判決 - {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|最高裁第二小法廷|2019}}|事件番号=平成28年(あ)第1889号|裁判年月日=[[2019年]]([[令和]]元年)7月19日|法廷名=[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第二[[小法廷]]|裁判形式=判決|判例集=集刑 第326号193頁、『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28273496|url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88952|事件名=住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件|判示事項=死刑の量刑が維持された事例(愛知の夫婦強盗殺人等事件)|裁判要旨=}}
=== 国家賠償請求訴訟の判決文 ===
** 判決主文:本件上告を棄却する。
* {{Cite 判例検索システム |裁判所=[[名古屋地方裁判所]]民事第3部 |裁判形式=判決 |事件番号=平成21年(ワ)第4801号,平成22年(ワ)第7629号 |事件名=損害賠償請求事件 |裁判年月日=2013年(平成25年)2月19日 |判例集=裁判所ウェブサイト掲載判例 |判示事項= |url=https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=83184 }}
** [[最高裁判所裁判官]]:[[山本庸幸]](裁判長)・[[菅野博之]]・[[三浦守]]・[[草野耕一]]
<div style="border: 1px solid #aaa; margin-left: 25px; padding: 2px; background: #eee; font-size: 90%;">
* 上告審判決に対する訂正申立の棄却決定 - {{Cite 判例検索システム|Ref={{SfnRef|最高裁第二小法廷|2019.8}}|事件番号=令和1年(み)第5号|裁判年月日=2019年(令和元年)8月7日|法廷名=最高裁判所第二小法廷|裁判形式=決定|判例集=『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28273501|事件名=住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件}}
# 刑事事件の第一審で死刑判決を受け,控訴した後にこれを取り下げ,当該取下げの無効を主張する者(以下「控訴の取下げの効力を争う死刑確定者」という。)と弁護人との面会に際し,拘置所長が立会いなしの面会を認めなかった措置について,刑訴法440条の趣旨に照らせば,控訴の取下げの効力を争う死刑確定者にも,弁護人選任権が保障され,弁護人と立会人なくして面会する法的利益が認められるとして,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。
** 決定主文:本件申立(判決訂正の申立)を棄却する。
# 上記1の措置の違法を主張する国家賠償請求訴訟のための訴訟代理人弁護士との立会いなしの面会を認めなかった拘置所長の措置について,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。
** 最高裁判所裁判官:山本庸幸(裁判長)・菅野博之・三浦守・草野耕一
</div>
'''書籍'''
:* 判決内容:死刑囚Kに対する792,000円・弁護士両名に対する99,000円+61,000円などの賠償金支払い命令
* {{Cite book|和書|title=死刑|publisher=[[中央公論新社]](発行人:[[浅海保]])|date=2009-10-30|pages=205-212|ref={{SfnRef|読売新聞社会部|2009}}|author=[[読売新聞]]社会部|edition=再版発行(初版:2009年10月10日)|isbn=978-4120040634|chapter=第四章 償いの意味 命の償いを求めた三二万人の署名}} - 『読売新聞』で2008年10月 - 2009年6月にかけて連載された4部構成の特集記事「死刑」を大幅加筆して書籍化したもの。該当部分の原典は2009年6月6日東京朝刊一面1頁「[死刑]償いの意味(1)闇サイト殺人 「極刑を」32万人署名」。
:* [[原告]]:死刑囚K(該当文中「原告X1」)、蔵冨恒彦・福井秀剛両弁護士([[愛知県弁護士会]]所属で被告人Kの第一審弁護人を担当した弁護士、該当文中「原告X2及び原告X3」)
* {{Cite book|和書|title=裁判員裁判における量刑評議の在り方について|publisher=[[法曹会]]|date=2012-10-20|ref={{SfnRef|司法研修所|2012}}|editor=[[司法研修所]]|url=https://www.hosokai.or.jp/item/annai/data/201210.html|edition=第1版第1刷発行|isbn=978-4908108198|series=司法研究報告書|volume=63|issue=3}} - 司法研究報告書第63輯第3号(書籍番号:24-18)。「事件一覧表」には、1980年度 - 2009年度の30年間に死刑か無期懲役が確定した死刑求刑事件全346件の概要が掲載されているが、闇サイト事件の共犯者KT(2009年4月18日に死刑確定)は345番として掲載されている。
:* [[被告]]:[[日本国]]
** 協力研究員 - [[井田良]]([[慶應義塾大学]]大学院教授)

** 研究員 - [[大島隆明]]([[金沢地方裁判所]]所長判事 / 委嘱時:[[横浜地方裁判所]]判事)・園原敏彦([[札幌地方裁判所]]判事 / 委嘱時:[[東京地方裁判所]]判事)・辛島明([[広島高等裁判所]]判事 / 委嘱時:[[大阪地方裁判所]]判事)
=== 書籍 ===
* {{Cite book|和書|title=死刑囚90人 とどきますか、獄中からの声|publisher=[[インパクト出版会]]|date=2012-05-23|ref={{SfnRef|フォーラム90|2012}}|author=死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90|editor=(編集委員:可知亮、国分葉子、高田章子、中井厚、深瀬暢子、[[安田好弘]]、深田卓 / 協力=[[福島瑞穂|福島みずほ]]事務所、死刑廃止のための大道寺幸子基金)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/208|pages=93-94|edition=発行|isbn=978-4755402241}}
* {{Cite book |和書 |author=[[大崎善生]] |title=いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件|url=http://shoten.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=321409000110|publisher=[[角川書店]]|date=2016-11-30|edition=初版発行|isbn=978-4041025222 |ref={{SfnRef|大崎|2016}} }}
* {{Cite book|和書|title=死刑囚監房から 年報・死刑廃止2015|publisher=インパクト出版会|date=2015-10-10|ref={{SfnRef|年報・死刑廃止|2015}}|author=年報・死刑廃止編集委員会|editor=(編集委員:岩井信・可知亮・笹原恵・島谷直子・高田章子・永井迅・安田好弘・深田卓) / (協力:死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90・死刑廃止のための大道寺幸子基金・深瀬暢子・国分葉子・岡本真菜)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/246|pages=126-141, 241|edition=第1刷発行|isbn=978-4755402616}}
** 被害者女性Aの生涯に寄り添いながら事件に迫る長編[[ノンフィクション]]。『[[小説 野性時代]]』2016年2月号 - 10月号に掲載された作品を加筆・修正した上で単行本化した。
* {{Cite Kotobank|闇サイト殺人事件|[[知恵蔵]](金谷俊秀:2016年)|accessdate=2021-03-21|ref={{SfnRef|コトバンク|2016}}}}
* {{Cite book |和書 |author=死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90 |title=死刑囚90人 とどきますか、獄中からの声 |publisher=[[インパクト出版会]] |date=2012-05-23 |isbn=978-4755402241 |ref={{SfnRef|インパクト出版会|2011}} }}
* {{Cite book|和書|title=いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件|publisher=[[角川書店]]|date=2016-11-30|ref={{SfnRef|大崎善生|2016}}|author=[[大崎善生]]|url=https://www.kadokawa.co.jp/product/321409000110/|edition=単行本版・初版第1刷発行|isbn=978-4041025222}}
* {{Cite book |和書 |author=年報・死刑廃止編集委員会 |title=死刑囚監房から 年報・死刑廃止2015 |publisher=インパクト出版会 |date=2015-10-10 |pages=126-141,241 |isbn=978-4755402616 |ref={{SfnRef|インパクト出版会|2015}} }}
* {{Cite book|和書|title=鎮魂歌|publisher=インパクト出版会|date=2019-05-25|ref={{SfnRef|堀慶末|2019}}|author=[[堀慶末]]|editor=(発行人:深田卓)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/282|edition=第1刷発行|pages=|isbn=978-4755402968}}(書名の読み:レクイエム) - 堀の自著。「第13回 大道寺幸子・[[島田事件|赤堀政夫]]基金死刑囚表現展」特別賞受賞作。
* {{Cite book |和書 |author=年報・死刑廃止編集委員会 |title=死刑と憲法 年報・死刑廃止2016 |publisher=インパクト出版会 |date=2016-10-10 |pages=194-195 |isbn=978-4755402692 |ref={{SfnRef|インパクト出版会|2016}} }}
* {{Cite book|和書|title=娘を奪われたあの日から 名古屋闇サイト殺人事件・遺族の12年|publisher=[[新潮社]]|date=2020-02-25|ref={{SfnRef|NHK「事件の涙」取材班|2020}}|author=[[日本放送協会|NHK]]「事件の涙」取材班|url=https://www.shinchosha.co.jp/book/353141/|isbn=978-4103531418}} - 執筆者は板垣淑子・立花江里香(ともに同書出版時点で[[NHK名古屋放送局]]報道部に所属)。
* {{Cite book |和書 |author=年報・死刑廃止編集委員会 |title=ポピュリズムと死刑 年報・死刑廃止2017 |publisher=インパクト出版会 |date=2017-10-15 |isbn=978-4755402807 |ref={{SfnRef|インパクト出版会|2017}} }}
* {{Cite book|和書|title=死刑賛成弁護士|publisher=[[文藝春秋]]|date=2020-07-20|pages=173-185頁, 198-208頁|ref={{SfnRef|犯罪被害者支援弁護士フォーラム|2020}}|author=犯罪被害者支援弁護士フォーラム|url=https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166612741|edition=第1刷発行|series=[[文春新書]]|isbn=978-4166612741|issue=1274}}
* {{Cite book|和書|author=堀慶末|title=鎮魂歌|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/282|publisher=インパクト出版会|date=2019-05-25|edition=第1刷発行|editor=(発行人:深田卓)|pages=|isbn=978-4755402968|ref={{SfnRef|堀慶末|2019}}}}(書名の読み:レクイエム)
* {{Cite book|和書|title=コロナ禍のなかの死刑 年報・死刑廃止2020|publisher=インパクト出版会|date=2020-10-10|ref={{SfnRef|年報・死刑廃止|2020}}|author=年報・死刑廃止編集委員会|editor=(編集委員:岩井信・可知亮・笹原恵・島谷直子・高田章子・永井迅・安田好弘・深田卓) / (協力:死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90・死刑廃止のための大道寺幸子基金・深瀬暢子・国分葉子・岡本真菜)|url=http://impact-shuppankai.com/products/detail/300|edition=第1刷発行|isbn=978-4755403064}}
** 本事件および[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]で死刑判決を受けた加害者・堀慶末による著書。第13回大道寺幸子・[[島田事件|赤堀政夫]]基金死刑囚表現展特別賞受賞作。
'''雑誌'''
* {{Cite journal|和書|journal=[[週刊現代]]|title=シリーズルポ 事件の深淵 “第4の実行犯”が激白 名古屋「闇サイト殺人」の真相 後編 「主犯」K被告・38歳 死刑逃れの卑劣 大反響!Aさんを惨殺した3被告と行動をともにした男が明かす「全貌」|volume=51|date=2009-03-21|issue=11|pages=166-169|publisher=[[講談社]]|ref={{SfnRef|週刊現代|2009}}}} - 通号2515
* {{Cite journal|和書|journal=[[中央公論]]|author=[[福田ますみ]]|title=特集 大震災で忘れ去られたニュース 闇サイト殺人控訴審判決と「永山基準」の行方|volume=127|date=2011-12-10|url=https://chuokoron.jp/chuokoron/backnumber/116749.html|issue=2|pages=170-175|publisher=[[中央公論新社]]|ref={{SfnRef|福田ますみ|2011}}}} - 2012年1月号(通巻1535号)


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* '''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]''' - 本事件より9年前(1998年)、堀が別の男2人とともに起こした強盗殺人事件。
* '''[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]''' - 本事件より9年前(1998年)、堀が別の男2人とともに起こした強盗殺人事件。
* [[ドラム缶女性焼殺事件]] - 同じ名古屋市千種区で発生した、複数人の共犯者に死刑が求刑された拉致・強盗殺人事件。
* [[ドラム缶女性焼殺事件]] - 同じ名古屋市千種区で発生した、複数人の共犯者に死刑が求刑された拉致・強盗殺人事件。
* [[千葉小3女児殺害事件]] - 本事件と同じく被害者遺族が加害者への死刑の適用を求めて署名を行った殺人事件。
* [[群馬女子高生誘拐殺人事件]]・[[千葉小3女児殺害事件]]・[[東池袋自動車暴走死傷事故]] - 本事件と同じく、死亡した被害者遺族が加害者への厳罰適用を求めて[[署名]]活動を行った事件。
* [[闇サイト]]
* [[闇サイト]]
* [[サイバー犯罪]](インターネット犯罪)
* [[サイバー犯罪]](インターネット犯罪)
* [[シリアルキラー]](連続殺人)
* [[シリアルキラー]](連続殺人)
* [[累犯]]
* [[累犯]]
'''「[[永山基準]]」が示された1983年以降、殺害された被害者数が1人だったが、最高裁で死刑判決が確定した事件'''


※(発生年 / 死刑確定年)と表記。無期懲役刑に処された[[前科]]があるもの、[[身代金]][[誘拐]]・[[保険金殺人]]は含まない。いずれも第一審判決は無期懲役だった(控訴審で死刑に)。
'''「永山基準」が示されて以降に殺害された被害者数が1人だったが最高裁で死刑判決が確定した事件'''
* [[JT女性社員逆恨み殺人事件]](1997年 / 2004年) - 殺人前科あり(懲役10年)。同事件で懲役刑を受けて出所後、強姦した女性を恐喝したことで被害届を出されて逮捕され、再び服役。しかし、警察に通報した被害者側の対応を[[逆恨み]]し、[[お礼参り]]におよんだ(高度な計画性に基づく犯行)。

* [[名古屋市中区栄スナックバー経営者殺害事件]](2002年 / 2007年) - 殺人前科あり(懲役15年)。前科は単純殺人ではあるが、死刑に処された強盗殺人事件と経緯・手口が酷似した犯行だった。
※無期懲役刑に処された[[前科]]があるもの、[[身代金]][[誘拐]]・[[保険金殺人]]は含まない。
* [[三島女子短大生焼殺事件]](2002年 / 2008年) - 殺人前科・利欲目的・高度な計画性のいずれもないが、被害者を強姦した上で、口封じのために残虐な方法で殺害した。その残虐性や、「[[覚醒剤]]を打つために邪魔になった」という身勝手な殺害動機、被告人に少年時代から強盗致傷・[[覚醒剤取締法]]違反など複数の前科がある点が重視された。
* [[JT女性社員逆恨み殺人事件]] - 殺人前科あり。同事件で懲役刑を受けて出所後、強姦した女性を恐喝したことで被害届を出されて逮捕されて再び服役し、その[[逆恨み]]から[[お礼参り]]に及んだ高度な計画性に基づく犯行。
* [[渋谷駅駅員銃撃事件|横浜中華料理店主射殺事件]](2004年 / 2011年) - 殺人前科はないが、強盗致傷2回を含め10回以上の前科があった。また強盗殺人1件以外にも被害者に回復不能かつ重篤な後遺症を負わせた強盗殺人未遂・[[現住建造物等放火罪|現住建造物等放火未遂]]の余罪がある点、服役中から犯罪計画を練っていた(=計画性が高い)点、[[銃社会|銃を使用した犯行である点]]が重視された。
* [[三島女子短大生焼殺事件]] - 殺人前科・利欲目的・高度な計画性のいずれもなし。
* [[名古屋市中区栄スナックバー経営者殺害事件]] - 殺人前科あり・強盗殺人。前科は単純殺人ではあるが死刑に処された強盗殺人事件と経緯・手口が酷似した犯行。
* [[渋谷駅駅員銃撃事件|横浜中華街料理店主射殺事件]] - 殺人前科なし。強盗殺人1件以外にも強盗殺人未遂・放火の余罪あり、[[銃社会|銃を使用した犯行]]。

'''死刑判決を受けた被告人が控訴を自ら取り下げたため、弁護人が控訴取下げの無効を主張して裁判所に異議を申し立てた事件'''
'''死刑判決を受けた被告人が控訴を自ら取り下げたため、弁護人が控訴取下げの無効を主張して裁判所に異議を申し立てた事件'''
* [[藤沢市母娘ら5人殺害事件]]([[警察庁広域重要指定事件|警察庁広域重要指定]]112号事件) - 控訴取り下げへの異議申し立てが最高裁で認められ控訴審公判が再開された結局は死刑判決支持されて確定し刑執行に至った。
* [[藤沢市母娘ら5人殺害事件]]([[警察庁広域重要指定事件|警察庁広域重要指定]]112号事件) - [[1995年]](平成7年)に最高裁が、弁護人による控訴取り下げへの異議申し立て認め控訴審公判が再開された事例。しかし、死刑判決は控訴審・上告審でも支持されて確定し、死刑執行(2007年)に至った。
* [[ピアノ騒音殺人事件]] - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが死刑は未だに執行されていない。
* [[ピアノ騒音殺人事件]] - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが死刑は未だに執行されていない。
* [[マブチモーター社長宅殺人放火事件]](警察庁広域重要指定124号事件) - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑を執行されることなく病死した。
* [[マブチモーター社長宅殺人放火事件]](警察庁広域重要指定124号事件) - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑囚は刑を執行されることなく病死した。
* [[奈良小1女児殺害事件]] - 本事件と同様に控訴取り下げへの異議申し立て退けられ後に死刑囚の刑が執行された。
* [[奈良小1女児殺害事件]] - 本事件と同じく、控訴取り下げへの異議申し立て退けられ後に死刑囚の刑が執行された。
* [[寝屋川市中1男女殺害事件]] - 藤沢事件と同じく、[[大阪高等裁判所|大阪高裁]]がいったんは控訴取り下げを無効とする決定を出したが、検察官が異議を申し立てたところ、原決定は取り消された。
* [[寝屋川市中1男女殺害事件]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{Cite web |title=被害者遺族が極刑陳情書へ署名を募っていたサイト |publisher=被害者女性Aの母親 |date=2012-07-26 |url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/ |language=ja |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713051954/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/ |archivedate=2017-07-13 }}
* {{Cite web|url=http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/|title=なごやん食道楽記|accessdate=2021-03-22|publisher=[[FC2]]|author=本事件の被害者女性A|date=2007年8月6日(事件前の最終更新日)|website=[[FC2ブログ]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200115071341/http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/|archivedate=2020-01-15}} - 被害者Aが生前に更新していたブログ。
** {{Cite web |title=堀と闇サイト事件・夫婦強殺事件・強殺未遂事件 |publisher=被害者女性Aの母親 |date=2016-11-08 |url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html |language=ja |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713051946/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html |archivedate=2017-07-13 }}
* {{Cite web|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/|title=(被害者遺族が極刑陳情書への署名を募っていたサイト)|accessdate=2021-03-20|publisher=本事件被害者女性Aの母親B|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200220140843/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/|archivedate=2021-03-20|ref={{SfnRef|極刑陳情書への署名を募っていたサイト}}}}
** {{Cite web|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html|title=堀と闇サイト事件・夫婦強殺事件・強殺未遂事件|accessdate=2021-03-12|publisher=女性Aの母親B|date=2019-07-19|website=本事件の被害者遺族によるウェブページ|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200220052827/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page039.html|archivedate=2020-02-20}} - 本事件の加害者である堀慶末が3つの強盗殺人・同未遂事件を起こし、碧南事件で死刑が確定するまでの経緯が記録されている。
*** 本事件加害者・堀慶末の出生から[[碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件]]・本事件など3つの強盗殺人・同未遂事件、逮捕・起訴後の刑事裁判の経緯が記録されている。
** {{Cite web |title=報道に宛てた手記(抜粋) |publisher=被害者女性Aの母親 |date=2007-09-11 |url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html |language=ja |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713052219/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html |archivedate=2017-07-13 }}
** {{Cite web|url=http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html|title=報道に宛てた手記(抜粋)|accessdate=2021-03-20|publisher=女性Aの母親B|date=2007-09-11|website=本事件の被害者遺族によるウェブページ|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200223122641/http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/page007.html|archivedate=2021-03-20}}
* {{Cite web |title=被害者女性のブログ「なごやんの食|publisher=被害者女性A(「なるぅ」名義) |date=2007-08-06 |url=http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/ |language=ja |accessdate=2017-07-13 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170713052339/http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/ |archivedate=2017-07-13 }}
** {{Cite news|title=に宛てた手(抜粋)|newspaper=[[中京テレビNewsリアルタイム]]|date=2007-09-10|url=http://www.ctv.co.jp/realtime/20070914/|publisher=[[中京テレビ放送]]|language=ja|archiveurl=http://web.archive.org/web/20071115131153/http://www.ctv.co.jp/realtime/20070914/|archivedate=2007年9月15日}}
* {{Cite web |title=真実 前略、名古屋拘置所より |publisher=元死刑囚K |date=2009-02-19 |url=http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/ |language=ja |accessdate=2017-05-23 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090226053033/http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/? |archivedate=2009-02-26 }}
* {{Cite web|url=http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/b|title=真実 前略、名古屋拘置所より|accessdate=2017-05-23|publisher=元死刑囚KT|date=2009-02-19|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090226053033/http://blog.livedoor.jp/kanda_tsukasa/?|archivedate=2009-02-26}} - 元死刑囚KTが知人に依頼し、名古屋拘置所から手紙を出して設立させたブログ。現在は閉鎖されており、アーカイブからのみ閲覧可能。
* {{Cite news|title=「痙攣している頭に30回もハンマーを」…娘を殺された母が死刑廃止派弁護士に、あえてむごい娘の死を語った理由【闇サイト殺人事件】|newspaper=[[ニコニコニュース|ニコニコニュースオリジナル]]|date=2017-10-04|url=https://originalnews.nico/45811|accessdate=2021-03-22|publisher=[[ドワンゴ]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210320134236/https://originalnews.nico/45811|archivedate=2021年3月20日}} - 被害者Aの母親Bが死刑制度存置派の弁護士(山田廣・酒井宏幸・髙橋正人・上谷さくら)および廃止派の弁護士(小川原優之・岩井信)、[[青木理]]([[ジャーナリスト]])、[[森達也]]([[映画監督]])、[[ヒートウェイヴ|山口洋]]([[ミュージシャン]])とともに参加した、死刑制度について考える討論会(司会:[[ジョー横溝]]、「TOKYO1351」と[[ニコニコ動画]]が共同で2017年9月9日に開催)。
** 元死刑囚Kが知人に依頼して名古屋拘置所から手紙を出し設立したブログ。現在は閉鎖されておりアーカイブからのみ閲覧可能。


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2021年5月13日 (木) 14:25時点における版

闇サイト殺人事件
闇サイト殺人事件の位置(愛知県・岐阜県内)
拉致現場
拉致現場
殺害現場
殺害現場
死体遺棄現場
死体遺棄現場
事件現場
場所

日本の旗 日本愛知県および岐阜県

標的 帰宅途中の女性会社員[5]
日付 2007年平成19年)8月
24日23時10分ごろ(拉致)[13]25日1時ごろ(殺害)[5] (UTC+9)
概要 インターネット闇サイトで知り合った男3人が、互いに共謀した上で、夜道で帰宅途中の女性を拉致して金品を奪い、殺害することを計画[5]。名古屋市千種区内で帰宅途中の被害者Aを拉致し、金品を奪った上で殺害した[5]
攻撃手段
  • (拉致の手段)道を尋ねるふりをして被害者を車内に押し込む[5]
  • (殺害の手段)腕や綿ロープで首を絞める・金槌で頭部を殴る・顔面に粘着テープを巻いたり、ビニール袋を被せたりして窒息させる[14]
攻撃側人数 3人
武器 綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋[15]金槌(重量約580 g[16]
死亡者 1人
被害者 会社員女性A(当時31歳・千種区春里町2丁目在住)[4]
犯人 男3人(KT堀慶末「山下」[4]
容疑 営利略取罪逮捕監禁罪・強盗殺人罪・死体遺棄罪窃盗未遂罪(3人共通)[17]強盗強姦未遂建造物侵入(「山下」のみ)[18]
動機
  • (拉致の動機)手っ取り早く楽して金を手に入れるため[19]
  • (殺害の動機)口封じ[20]
関与者 男「杉浦」(本事件前に「山下」が起こした建造物侵入・窃盗未遂事件にのみ関与)[21]
対処 加害者3人を愛知県警が逮捕[4]・名古屋地検が起訴[13][22]
謝罪
刑事訴訟
  • KT - 死刑(控訴取り下げにより確定執行済み[28]
  • 堀慶末 - 無期懲役[28](後に碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件で死刑が確定)[29]
  • 「山下」 - 無期懲役[28]
  • 管轄
  • 愛知県警察捜査一課千種警察署[4]
  • 名古屋地方検察庁[13][22]
  • テンプレートを表示

    闇サイト殺人事件(やみサイトさつじんじけん)とは、2007年平成19年)8月24日 - 25日にかけて日本愛知県名古屋市周辺で発生した強盗殺人などの事件[4]

    インターネット闇サイト「闇の職業安定所」[注 4]で知り合い、犯罪によって金を得る目的で共謀した男3人組(KT堀慶末「山下」)が、8月24日深夜に名古屋市千種区内の路上で、帰宅途中の会社員女性A(当時31歳)を拉致し、自動車内に監禁[5]。翌25日未明にかけ、同県愛西市内の屋外駐車場で、被害者Aを脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、金品を奪ったほか、Aの顔面に粘着テープを何重にも巻きつけたり、金槌で数十回にわたり頭部を殴打するなどして殺害し、死体を岐阜県瑞浪市内の山中に遺棄した[5]。その後、加害者3人は奪ったキャッシュカードで預金の引き出しを図ったが、Aが生前に教えた暗証番号は虚偽だったため、引き出しには失敗[17]。3人はさらなる犯罪を計画していたが、加害者の1人(「山下」)が解散後に自首したことで事件が発覚した[30]

    概要

    加害者らはいずれも闇サイトで出会った当時から[注 5]、互いの素性を知らないまま、偽名を使っていたり、相手から馬鹿にされないように「暴力団に関係していた」と虚勢を張ったり[注 6]、虚実ないまぜに過去の犯罪歴を自慢し合ったりした[注 7][32]。それが次第にエスカレートし[注 6][33]、最終的には強盗殺人を起こすに至った。

    本事件では殺害された被害者は1人で、刑事裁判では、営利略取逮捕監禁・強盗殺人・死体遺棄窃盗未遂[17]などの被告人として起訴された加害者3人に対する死刑適用の是非が争点となった。3人には当時、粗暴犯で有罪に処された前科はなかった[注 8][注 9][注 10]が、検察官は、犯行の残忍さ・被害者遺族の処罰感情の峻烈さ[34]・計画性の高さ・社会的影響の大きさなどを考慮し[35]、3人にいずれも死刑を求刑[36]。しかし最終的に、1人 (KT) は死刑が確定した(2015年に死刑執行)一方、残る2人(堀慶末および、事件直後に自首した「山下」)は無期懲役が確定した[28]。ただし、堀は本事件で無期懲役が確定した後、碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件(発生:1998年)などの余罪が判明し、同事件の刑事裁判で2019年令和元年)に死刑が確定している[29]

    本事件は、インターネット上の掲示板を通じて集まった加害者らが利欲目的で、初めて顔を合わせてからわずか数日後に[37]、それまで面識のない帰宅途中のごく普通の女性会社員を拉致・監禁し、惨殺した事件として[38]、大きく報道された[37]。また、その犯行手口から[38]、社会に「いつ誰でも同じような被害に合うかもしれない」」という大きな衝撃・恐怖感・不安感を与え[37]、加害者3人への極刑を求める世論が沸き上がった[27]。被害者Aの母親は加害者3人への極刑適用を求めた署名活動を行い、事件発生から5年間で33万人以上の署名を集めた[39]ほか、法務大臣検事総長への請願や、犯罪被害者遺族への支援拡大を求める活動などを行っている[40]

    事件発生直後、『中日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』はそれぞれ社説で、インターネットの匿名性が反社会的行為に悪用される危険性[注 11]や、本事件以前からインターネットを利用した犯罪が続出していた[注 12]ことなどを指摘し、違法情報への対策(法規制・摘発の強化など)[注 13]の必要性を訴えた[43][44][41]。また、『中日新聞』 (2009) は社説で、本事件を「現代社会の体感治安の悪化を物語った事件」と評している[45]

    事件前の経緯

    本事件の加害者である「山下」(当時40歳・「山下」は偽名/本名のイニシャル「K・K」)は[46]、事件の8年ほど前から携帯電話で闇サイトを利用し続けていた[13]。「山下」は本事件以前に、闇サイトを利用した別の詐欺事件を起こし[47]2005年(平成19年)7月には詐欺罪により、懲役1年2月・執行猶予4年の有罪に処された[注 14][48]。また、KT(本事件当時36歳)[4]も同様に、2006年(平成18年) - 2007年ごろに闇サイトを悪用した詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けたが、両者とも金欲しさから、闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた[47]

    一方、本事件後に夫婦殺害事件の余罪が判明した堀 慶末(本事件当時32歳)[注 15]は2007年3月、同居女性の金を遣い込んだことが露見し、激怒した彼女によって家を追い出された[50]。その後、堀は別の知人女性宅で同居していたが、先述の女性への借金[注 16]の返済手段を求め、ネットサーフィンをしていたところ[51]、携帯電話の闇サイト[52]闇の職業安定所」(以下「闇の職安」)[注 4]を見つけ、同サイトの掲示板に投稿するようになった[53](同年6月ごろ)[54]。堀はまず、借金および未払金回収の仕事を募集する書き込みを見て、投稿主と接触したが、無報酬に終わったため、自ら掲示板に「名古屋周辺で何か仕事はないか」と仕事募集の投稿をした[55]

    同年7月、堀の投稿に「山下」が反応し[注 17][54]、2人で会う寸前まで話が進んだが、その後は堀の都合がつかず[57]、いったん連絡は途絶えた[58]。一方で「山下」は同月ごろ、人材派遣会社[注 18]を辞めて住む場所を失い[46]、借金の取り立てから逃れるため[60]、車内で路上生活を送っていた[46]。その際に用いていた車(および犯行に用いた車)である日産・リバティ[注 19]は、かつて闇サイトを利用した盗難保険金詐欺に加担した際、依頼主から仕事の謝礼として受け取ったものだった[63]

    8月21日

    2007年8月16日、「山下」は「闇の職安」の東海版に、「刑務所を出所したばかりだ。東海地方で一緒に何か組んでやらないか」と投稿した[46]。この投稿に対し、まず「杉浦」(当時29歳・偽名)が返信した[54]ほか、同月20日には堀(当時32歳)が「こづかい稼ぎですが、(人を)拉致して金を出させます(預金引き出し)」というメール(捜査報告書より)を送信[64]。また、同日にはKTも「以前はオレオレ詐欺をメインにしていたが、貧乏すぎて強盗でもしたい」というメールを送信した[54]。なお、この時には「山下」「杉浦」だけでなく、堀も「田中」の偽名を用いていたが[54]、KTは本名を名乗っていた[57]

    この3人以外にもいくつかの反応があったが、「山下」はこの3人を選んで返信し[54]、翌日(2007年8月21日)9時には、堀の住居[注 20]の近くにあったファミリーレストランで堀と初めて対面した[57]。そこで、両者は互いに脚色を交えながら自己紹介を行った上で、「山下」の運転するリバティで愛知県豊川市へ移動[注 21]し、「杉浦」と合流した[65]。そして、3人で犯罪計画について話し合いつつ[注 22]、「山下」がメールでKTに「今三人で会議中なんですけど、金庫破りか 金持ってる人を拉致って引き出す計画です」(捜査報告書より)と相談したところ、KTは「拉致はターゲットを探すのが大変ですから 金庫ですかね」[注 23][64]「金庫破りや事務所荒らしは下見が必要だから、夜間金庫か、パチンコ屋の景品交換所を襲う方が良い」などと返信した[68]。そのメールを見せられた堀は、自身が通っているパチンコ店(キング観光サウザンド東新町店)[注 24]の常連客で、常に大金を持ち歩いていた男性[注 25]を同店駐車場で待ち伏せて襲撃し、財布や鞄を奪う強盗を提案した[71]。「山下」および「杉浦」もその案に賛成し、それに用いる道具として[69]、「山下」が既に入手していた綿ロープおよび手錠[注 26]に加え[75]、近くのホームセンターで堀が金槌と軍手を購入[69]。綿ロープと手錠に加え、この時に購入した金槌(重量約580 g[16]と、購入先であるホームセンターのレジ袋[76][77][78]が、後に殺人事件の凶器として用いられた[63]

    3人はその後、高速道路経由で名古屋市内へ移動し、「キング観光」の地下駐車場で標的の常連客を待ち伏せ、レクサスに乗って帰宅しようとする標的を尾行[79]。居宅を特定した上で[80]、この常連客を金槌で襲撃するなどして拉致し、キャッシュカードを奪って暗証番号を聞き出し、現金を引き出すといった計画の実行を試みたが[81]、途中でレクサスを見失ったため、失敗した[80]。このため、「山下」はその旨をKTにメールで報告した上で、同日21 - 22時ごろに金山駅で合流する約束を取り付けた上で、その間に堀の知人宅(天白区平針方面の豪邸)[注 27]に空き巣に入る計画を立てたが、飼い犬が鳴いていたため侵入できずに終わった[83]。結局、「杉浦」はアパートから退去するため、KTとの合流を待たず電車で帰宅[83]。KTは22時ごろに原付で金山駅に到着し[83]、合流した堀や「山下」と互いに虚実ないまぜの自己紹介をし合いつつ、「自分は広域暴力団の元構成員で、覚醒剤拳銃を入手できるルートを持っている。大金を得るには覚醒剤を仕入れ、売人を雇って売りさばく秘密組織を作ったり、女性を拉致して覚醒剤中毒にさせ、風俗に売り飛ばせば良い」などといった趣旨の提案をした[84]。また、堀から(ホームセンターで購入した)金槌と軍手を見せられた際、「こんなハンマーで(頭を)叩くと、死んでしまわないか」「(標的に)顔を見られたら殺すのか」などと問いかけたが、堀や「山下」はそれに異を唱えず同調した[注 28][87][88]

    8月22日

    翌日(2007年8月22日)、KT・堀・「山下」の3人は、前日から考えていたパチンコの常連客襲撃と、KTが提案した偽装養子縁組の子役の男からの取り立て[注 29]を並行して行おうとしていたが、後者は失敗[92]。昼ごろ、「山下」はTSUTAYA(名古屋市緑区鳴海)の駐車場でKTと落ち合い、「杉浦」が来るのを待った[93]。この間、2人は虚構の犯罪歴を互いに自慢しつつ談笑していた[注 30]ほか、KTは「山下」が手錠を見せてきたところ、「手錠の爪を折らなければ、鍵をかけていても簡単に外される」と言い、ペンチで手錠の爪を折った[93]。しかし、約束の時間になっても「杉浦」は来なかったため、2人は携帯電話の出会い系サイトを検索し、サイトを用いて援助交際している人妻を呼び出して現金を奪ったり、そのことを種に脅迫したりすることを考えたが、これも思うように行かず断念している[96]

    2人は同日16時ごろ、堀の待つパチンコ店へ移動し、地下駐車場で(前日と同じ常連客を)待ち伏せ、千種区内の高級マンション[注 31]まで尾行に成功したが、KTがマンションの駐車場を確認したところ、防犯カメラが多数設置されていた[96]。その旨を報告された堀は「それでは無理だろう」と発言したが、KTは「どうせ顔を見られるなら、(常連客の)部屋に侵入して殺してしまおう」と提案[98]。堀・「山下」の両者ともそれに異を唱えなかった[注 32]が、マンションはセキュリティが厳重だったため、襲撃計画はいったん見送った上で、18時ごろに「杉浦」と先述のTSUTAYA駐車場で合流した[100]。KTは遅れてきた「杉浦」に苛立ちを露わにしつつも[101]、「パチンコ店常連客を襲うんだったら、最悪は殺してしまうことになるかもしれないが、それでもいいか」「これは3人の総意なんだ」などと告げた[102]が、「杉浦」は「強盗殺人は、(法定刑が)無期か死刑しかないから、やりたくない」と拒否した(捜査報告書より)[103]。このため、KTから「「山下」が入手している他人名義のクレジットカード[注 33]で買い物をしてみろ」と提案され、コンビニエンスストアで煙草2箱を購入してきた[101]。これにより、カードが使えることが分かったため、ドン・キホーテで金のネックレスを購入して換金しようとしたが、それ以降はカードが使えなかったため、失敗した[90]

    4人は同日22時ごろ[5]、堀が常連として通っていたダーツバー(名古屋市中川区[注 34]を襲撃することを計画し[33]、経営者宅の下見などを行ったが、隣家の電気が点いていたため、「人目につく」と判断し、同日の襲撃[注 35]は断念した[5]

    8月23日

    このように次々と犯罪計画が失敗に終わったことに加え、それまで下っ端扱いされていたことも相まって、「杉浦」は不満を爆発させた[104]が、KTは「だったら若い女を拉致・監禁してキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出して金を引き出そう。最後は殺してしまえば良い」などと提案し、堀と「山下」もそれに賛同した[105]。この時の話し合いでは、風俗嬢キャバクラ嬢・ソープ嬢)が候補に上がったが、前者はKTが「金を持っていなさそう」と反対し、後者も「山下」が「拉致する場所は名駅になる。車での逃走が難しい」と、堀も「ソープ嬢はバックに暴力団がついているから、父と兄が暴力団員である自分としては賛成できない」と難色を示した[105]

    その後、KTや堀はそれぞれ帰宅し、「山下」と「杉浦」が2人きりになったが、「杉浦」は自分と考えが違い[注 36]、自分を見下したような態度を取ってくるKTを嫌い、「KTを外し、堀を含む3人で組みたい」と言い出した[注 37][106]。翌日(8月23日)昼ごろ、「山下」は堀と落ち合った際に「ダーツバーの店長が売上金を持ち歩いているので、それを襲おう」と提案され、店長宅を下見しに行った上で襲撃することを約束し合ったが、堀を自宅に送り届けた後で翻意[107]。堀との約束を反故にし、「杉浦」と名古屋市瑞穂区内で落ち合い、かつて自身が住んでいた瀬戸市へ向かう途中、給油のために立ち寄った尾張旭市のガソリンスタンドを「後で襲おう」と決めた[107]。その後、強盗に用いる道具を用意するため[注 38]、「山下」は20時ごろに名古屋市守山区内のコンビニで粘着テープを購入したほか、「杉浦」は20時30分ごろに瀬戸市内のジャスコで包丁(刃渡り18.6 cm)を万引きした[107]。そして、スギ薬局(瀬戸市)で店から出てくる店員を包丁で脅す強盗を企てたが、結局閉店時刻までに襲撃のタイミングを掴むことができず、先述のガソリンスタンドも23時に閉店していた[注 39]ため、どちらも強盗に入ることはできなかった[108]

    そこで、8月23日23時50分ごろ[109]ないし8月24日0時過ぎ、「山下」はかつて勤めていた会社[注 40]の事務所(愛知郡長久手町[注 41])の手提げ金庫を狙い、侵入を決意[108]。「杉浦」が1階出入口のガラスをドライバーで破り[109]、2人とも窓ガラスを破って侵入した[108]。しかし、そこでも金庫は見つけられず、「山下」は年長者である自分に対する「杉浦」の態度を「生意気だ」と受け取っていたこともあって、「杉浦」を事務所に残したまま、リバティ[注 19]で逃走した[108]。その後、土地勘のない場所に1人残された「杉浦」は[注 42]、24日0時55分ごろ[111]、自ら公衆電話(名古屋市名東区内)から110番して自首[注 43][109]。「杉浦」は同日3時20分ごろ[111]建造物侵入窃盗未遂容疑で[109]名東警察署緊急逮捕された[111]。「杉浦」は取り調べに対し、「『闇の職安』を通じて1週間前に知り合った共犯者(=「山下」)がいる」という旨を自供していたが[112]、名東署から「『闇の職安』を使った事件があった」という旨が特捜本部に知らされたのは、本事件の発生後(8月27日)だった[注 44][109]

    その後、「杉浦」は建造物侵入・窃盗未遂の罪で名古屋地裁起訴され[115]、後に薬局の強盗を計画した強盗予備罪でも追起訴された[113]。「杉浦」は同年11月12日に「犯行はいずれも未遂だが、多大な被害が生じた可能性は高い」として懲役2年を求刑され[113]、同月20日に名古屋地裁(寺澤真由美裁判官)[注 45]で懲役2年・執行猶予3年の有罪判決を受けた[21]

    事件当日

    地図
    拉致現場(   )[注 1]・殺害現場(   )[注 2]・死体遺棄現場(   )[注 3]の位置関係

    殺害の共謀成立

    一方、「山下」は同日1時、KT宛てに謝罪のメールを送信し、同日13時ごろに堀を自宅まで迎えに行ったほか、15時ごろにKTと鳴海のTSUTAYAで落ち合った[118]。その上で、4人で新たな犯罪計画について話し合ったが、「山下」はリバティ[注 19]の車内で「杉浦」の盗んだ包丁を見せ、「これなら人を刺せるか?」と問うている[注 46][120]。堀が「今週中に30万円ぐらいどうしても必要だ」と発言したところ、それに対しKTが「それならば、今日中になんとかしなければいけない」と、前日に出た女性を拉致し、キャッシュカードと現金を奪う計画を改めて出した上で、拉致した女性について「最後は殺しちゃうけど、いいよね」と確認したところ、2人ともそれに応じた[119]名古屋高裁 (2011) は、このように堀と「山下」がKTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に承諾する返事をした時点(24日15時ごろ)をもって、「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した」認定している[注 47][99]

    さらに犯行計画を練るため[5]、3人は名古屋市北区内のファミリーレストランへ入店し[119]、計画について話し合った[59]。先述の理由で風俗嬢は候補から外された一方[59]、堀はOLの拉致を提案[5][59][120]。その標的は、「黒髪で地味そうな(多額の貯金をしていそうなため)女性で、年齢は20歳代後半 - 30歳代前半ほど」とされた[121]ほか、KTは「今日(8月24日・金曜日)なら給料日[注 48]になるだろうし、しばらく拉致・監禁すれば、ある程度まとまった金を引き出せる[注 49]だろう。標的は(家族と同居していると、家族がすぐに警察に届ける虞があるため)1人暮らしが良い。1人暮らしなら、その部屋に居座って監禁することもできる」と提案した[123]

    次いで、堀は監禁場所として、名東区高針のアパートを提案したが[124]、その部屋はかつて堀が起こした碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件の共犯者である元仕事仲間の部屋だった[注 50][121]。次いで、KTは「闇の職安」で現金自動預払機 (ATM) から預金を引き出す「出し子」を探したが、ふさわしい人材が見つからなかったため、「山下」が引き出しを行うことになった[124]。そして、拉致場所について相談し、堀の提案通り、高級住宅街の多い名古屋市営地下鉄東山線の沿線(覚王山一社上社本郷方面)に決まった[124]

    こうして、3人は19時過ぎに話し合いを終え、レストランを退店[注 47][125]。通行中のOL(20歳代後半 - 30歳代)を拉致して金品を奪い、犯行の発覚を阻止するために殺害して、死体を遺棄する旨の犯行計画が決められた[5]

    拉致

    地図
    拉致現場周辺の地図:愛知県名古屋市千種区春里町二丁目の路上[注 1][1]

    ファミリーレストランを退店後、3人は「山下」の運転する車(リバティ[注 19])で標的の物色を開始[125]。KTと堀は互いに軍手を嵌め[125]、KTが2列目シートの助手席側に[126]、堀が運転席側にそれぞれ座り[125]、拉致する標的が車の左方にいた場合はKTが、右方にいた場合は堀がそれぞれ拉致を実行することになった[126]。そして、拉致した女性をKTと堀の足元(2列目シートの床上)に横向きに座らせる[注 51]こととなった[126]。また、堀は粘着テープを15 cm程度にちぎったものを4枚重ね合わせ、口を塞ぐための特殊なテープを作って用意していた[125]

    その状態で、3人はATMで預金を下ろした後のOLを狙い、覚王山・一社・本郷などで15, 16人の女性を物色[注 52][125]。通行中の女性計5人を追尾するなどして、襲撃の機会を窺った[5]が、いずれも周囲に対向車や通行人がいたことから、拉致には至らなかった[126]。やがて夜が更け、通行人の数も少なくなっていた中、堀が「今まで回った中では、本山(駅周辺)と覚王山が良い。街灯が少なくて道が暗いし、道幅も狭いから拉致しやすい」と提案したため、覚王山から本山へ向かうことになった[125]。なお、被害者女性A(当時31歳)の自宅(名古屋市千種区春里町2丁目)[4]があった市営住宅の最寄り駅は、自由ヶ丘駅地下鉄名城線)だった[7]が、Aは通勤で東山線を利用しており[127]、普段利用していた駅は東山線の駅である本山駅[124][128](東山線と名城線の乗換駅)だった[7]。また、Aは8月末に当時の勤務先[129](名古屋市中区[130]を退職し、料理関係の仕事に転職する予定だったが、そのための送別会などにより、帰りが遅くなることが多かった[注 53][129]

    同日23時ごろ[5]、「山下」は千種区内の路上で、被害者Aが車の前方から歩いてきたところを発見[132]。Aの見た目は標的の条件に合致していたため[2]、3人ともAを拉致することを決め、車をUターンさせてAを追い抜き、約百数十メートル先の地点で停車して待ち伏せた[132]。約10分後[5](23時10分ごろ)[13]、春里町[5]2丁目の路上[注 1][1]で、Aが車の右脇を通り過ぎた際、堀が後部ドアを開けて降車[5]。堀はAに道を尋ねるふりをして、背後から近づき、Aが立ち止まったところ、口を右手で塞ぎ、身体を抱え込んで後部ドアから押し込み[5]、拉致・監禁した[17]。そして、堀はAの右手に手錠を掛け、予め口を塞ぐために用意してあった粘着テープをAの口に貼り付け、完全に抵抗できない状態にした[20]上で、シート下の床に座らせた[注 54][6]。3人はそのまま、Aを乗せたまま車を走らせ、人目に付かない場所まで連行した[5]

    「山下」は当初、Aを堀の用意した部屋へ拉致するため、高針方面へ車を走らせたが、KTが「人気のない方へ行け」と指示[133]。「山下」は木曽三川公園方面へ向かうことに決め[注 55][136][135]広小路通から愛知県道200号名古屋甚目寺線に出て西進した[134]。しかし拉致から約15分後[136]国道155号を南進していたところ、Aが「吐きそう」と訴えたため、「車内で吐かれたくない」と思った「山下」は車を停められる場所を探し[9]、国道沿いのレストラン屋外駐車場に至った[9]。その場所が、殺害現場となった愛西市内佐屋町西新田の屋外駐車場で[注 2][4]、到着時刻は8月25日0時ごろだった[注 56][9]

    殺害

    地図
    殺害現場周辺の地図:愛知県愛西市内佐屋町西新田の屋外駐車場[注 2][4]

    翌日(8月25日)0時過ぎ、3人は屋外駐車場(同県愛西市)に駐車したリバティ[注 19]の車内で、Aから現金(62,000円)や[138]キャッシュカードの入ったハンドバッグを奪った[17]。その上で、Aに、キャッシュカードの暗証番号を教えるよう迫った[138]、この時に「山下」がAに対しわいせつ行為を行ったため、KTはそれを不快に思っている[注 57][139]。Aがなかなか暗証番号を言おうとしなかったため[20]、堀は「山下」に命じて運転席のドアポケットにあった包丁を取らせ、それを受け取ると[140]、その包丁(刃体の長さ18.6 cm)を示しながら[注 58]、「本当に帰れなくなっちゃうよ」「5分で(暗証番号を)思い出さないと刺しちゃうぞ」など、暗証番号を明かさなければ殺害する旨を告げて脅迫[20]。しかし、5分経過してもAが暗証番号を口にしなかったため、KTが堀に「2, 3回刺せ」と命じたところ[142]、堀はAの太腿を刺そうとする姿勢を見せたり[注 59]、怒りを示しながら「いい加減にしゃべれ。みんないらついているから早くしゃべれ」などと脅した[注 60][20]

    結果、Aは虚偽の暗証番号として4桁の[17]「2960」を述べた[注 61][143]。それを聞き、KTが運転席の「山下」に口頭で番号を伝え[140]、「山下」は0時45分、自身の携帯電話でその「2960」の番号を打って発信履歴を残した[注 62][143]。その後、堀はKTとともに喫煙のため車外に出ていたが[149]、Aから真実の暗証番号を聞き出したと思い込み、口封じのためにAの殺害を決意[注 63][20]。一方、その間に「山下」が車内でAを強姦しようとした[注 64][注 65][150]。まず、KTがAの背後から、頸部に自身の腕を回して絞め付けた[注 66]が、失敗したため、堀は綿ロープをAの頸部に巻きつけ、その片端を「山下」に渡し、2人で両端を持って絞め上げた[14]。しかし、両者の位置関係からうまく首を絞めることができず[注 67]、堀は「ハンマー入れましょうか」と言い、準備していた金槌で殴打することをKTと「山下」に告げた[15]。そして、綿ロープで首を絞めるのをやめ、金槌を取り出してAの頭部を強い力で3回連続して殴打した[15]。しかし、それらの殴打によって返り血が車内に飛び散り、自身の口にも入ったことを気持ち悪く思った堀は、殴打を3回でやめている[15]

    一方、Aは堀によって頭部を金槌で殴打され、力が一気に抜けたような感じになったが、しばらくしてから「殺さないで、殺さないって言ったじゃない」「お願いします、殺さないで、死にたくない」などと必死で命乞いをした[15]。しかし、堀はそのような懇願を無視し、KTとともに、Aの顔面および頭部に粘着テープを数十回横方向に巻きつけ、その上からさらに縦方向に貼り付けた[注 68][15]。これにより、Aは呼吸困難になったが、粘着テープの隙間から「フーン、フーン」とかろうじて呼吸をしていたため、それに気づいたKTと堀は、Aの頭部にビニール袋[15](金槌を購入したホームセンターのレジ袋)[76][77][78]を被せて頸部まで覆い、その上から頸部・頭部に粘着テープを横方向に多数回巻きつけた[15]。そして、最後にKTがAの頸部に綿ロープを巻きつけて絞め付けた上、頭部を金槌で約30回殴打し、Aを窒息死させて殺害した[15](殺害時刻:8月25日1時ごろ)[注 69][5]

    その後、堀はAの遺体をリバティの3列目の席に移動させ[注 70]、上からタオルや荷物などを被せて隠した上で、車内に飛散したAの返り血を拭き取った[156]。その後、3人でAから奪った現金62,000円を分け合い[注 71]稲沢市内の自動販売機で、堀の体に付いた返り血を洗い流すためのペットボトル入りの水を購入したほか、一宮市のドン・キホーテで「山下」が3人分の着替え用の衣服を購入[注 72][157]。そして、遺体を遺棄するに当たり、土建業者の物置小屋のような場所で見つけたスコップ2本を盗み出し[注 73]中央自動車道瑞浪インターチェンジから岐阜県道33号山岡方面)を経由して山道に入り[159]、岐阜県瑞浪市稲津町小里の山林[注 3][4]林道脇)[12]に至った。そして同日4時49分ごろ[注 75]、KTと堀がスコップでAの遺体をトランクから下ろし、ガードレールのすぐ先に投げ捨て、その上から土を掛け[159]、Aの遺体を遺棄した[注 76][38]

    そして、Aから奪った中京銀行のキャッシュカードで預金(約800万円)[注 77]の引き出しを図り、同日9時10分ごろに同行知立支店(愛知県知立市[注 78]で預金の引き出しを試みたが、「山下」が先述の「2960」および(KTから電話で聞いた)「2946」の暗証番号を入力しても合致しなかった[162]。次いで同日10時35分ごろ[6]、「山下」は名古屋市南区内のコンビニのATMでUFJ銀行(現:三菱UFJ銀行)のカードなどを使用し、「2960」や被害者Aの生年月日に由来する番号を利用して引き出しを試みたが、いずれも失敗に終わった[165]。このように、預金の引き出しができなかったため、3人は同日夜に再び名駅付近で女性を拉致して暗証番号を聞き出した上で殺害することを決めて解散した[注 79][167]

    捜査

    しかし、KTは2人と別れ、「有松ジャンボリー」[注 80][169](名古屋市緑区)[10]の駐車場で仮眠を取ろうとしたが、13時30分に自ら愛知県警察本部の電話番号へ電話を掛け[169]、「女性を拉致して金を奪い、岐阜県に埋めた」と話し[10]自首[注 81][4]。これを受け、応対した当直の警察官は、電話の主である男(=「山下」)に対し、その場に留まっているよう伝えた[10]。「山下」は14時17分[172]緑警察署から派遣された警察官7人に身柄を拘束され、緑署で約15分間の事情聴取を受けた後、機動捜査隊に連れられて遺棄現場を案内[173]。同日19時10分ごろ、「山下」の自供通り、Aの遺体が下半身に土を被せられた状態で発見された[174]

    また、「山下」が「2人の共犯者(KTおよび堀)がいる」という旨を明かしたため、県警はその2人の居宅を特定した[注 82]上で、3人が決めていた同日の「第2の犯行計画」を利用し[175]、19時10分ごろ[172]、自宅から出かけようとしていたKTの身柄を確保[175]し、KTを任意同行させた[172]。また、「山下」に命じて堀宛てのメールを送信させ[注 83]、同日22時ごろに堀の自宅マンション前で落ち合う約束を取り付け、約束の時間に自宅から出てきた堀を張り込んでいた捜査員が取り押さえ[175]、任意同行させた[172]。3人とも、「自分たちは闇サイトで知り合い、金を奪う目的で通りがかりの女性を狙った。顔を見られたので殺した」と供述したため[177]、愛知県警は強盗殺人死体遺棄事件として、捜査一課および千種警察署[4]特別捜査本部(特捜本部)を設置[177]。県警特捜本部は翌日(8月26日)0時に事件発生を発表し、4時過ぎ[172]、KT・堀慶末・「山下」の3人を、死体遺棄容疑の被疑者として逮捕[4]。翌8月27日に名古屋地方検察庁へ3人の身柄を送検した[178]

    2007年9月14日、名古屋地検は被疑者3人を死体遺棄罪で名古屋地方裁判所起訴[179]。同日、特捜本部は被疑者3人を強盗殺人・逮捕監禁営利略取の各容疑で再逮捕し[13]、名古屋地検は10月5日にそれらの罪で被疑者3人を追起訴した[22]。また、「山下」については、Aの遺族から逮捕後に強盗強姦未遂の罪で告訴があり、地検も「その事実が認定できる証拠がある」と判断したため、同罪でも追起訴した[22]

    取り調べに対し、KTは「自分は他人が作った法律ではなく、作ったルールに従って生きる。殺人に抵抗感はない」と供述した[注 30][180]。また、KTは逮捕から数日後に「山下」が自首したことを知らされたが、これを恨み、別の警察署の留置場にいた「山下」に対し脅迫めいた内容の手紙を送った[181]ほか、弁護人に対し、「「山下」がAを乱暴しようとしておきながら、自首して責任を逃れる態度は不満だ」と述べていた[182]

    刑事裁判

    公判前整理手続

    名古屋地方裁判所刑事第6部(近藤宏子裁判長)[注 84][183]における3被告人の第1回公判前整理手続は、2007年12月27日に開かれた[186]。その後、2008年(平成20年)3月11日(第2回) - 9月22日(第8回)にかけて手続が行われ[注 85][94]、争点は3被告人の共謀が成立した時期などに絞られた[189]

    公判前整理手続を行わない場合、起訴 - 初公判の期間は3週間 - 1か月半とされるが、本事件では起訴から初公判まで約1年を要したため[190]、被害者Aの母親Bは、手続き中の2008年3月3日に当時の鳩山邦夫法務大臣へ、公判の早期開始などを訴える手紙を郵送した(後述[191]

    一方、KTは起訴後、精神不安から体調を崩し、自室で首吊り自殺を図ったほか、「山下」も体調を崩し、精神安定剤を必要とするようになった[190]

    第一審

    本事件の刑事裁判では、殺害された被害者が1人の事件であることから、被告人3人に死刑を適用することが妥当か否かが焦点となった[192]

    最高裁判所が1983年(昭和58年)7月に連続4人射殺事件の上告審判決で示した死刑選択基準「永山基準」では[193]、「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状」といった事情を総合的に考慮し、「その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される」と判示されている[194]。同判決では、「ことに」と強調した上で被害者数に言及しているため、同判決後の刑事裁判では殺害された被害者が1人の場合、大半で懲役刑が選択されていた[195]

    司法研修所の報告 (2012) によれば、1970年度(昭和45年度)以降に判決が宣告され、1980年度(昭和55年度) - 2009年度(平成21年度)の30年間に死刑か無期懲役が確定した死刑求刑事件(全346件)について調査したところ、死刑宣告に当たっては被害者の数が最も大きな要素となっていることが報告されている[196]。先述した346件のうち、死亡した被害者が1人で死刑が求刑された事件は100件(殺人48件+強盗殺人52件)であるが、うち死刑確定は32件全体の32%/殺人で18人〈38%〉・強盗殺人で14人〈27%〉)となっている[197]。その内訳は、事前に被害者を殺害することを計画した上で実行した事例身代金目的の誘拐殺人[注 86]および保険金殺人高度な計画性を有する強盗殺人[注 87][注 88]や、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した事例[注 89]などがある[注 90][212]。また、「(被害者1人の)強盗殺人事件の場合は死刑選択に当たり、当初から被害者の殺害を計画・決意していたことに加え、犯行動機、具体的な犯行の計画性の程度、犯行の社会的影響、被告人の前科・余罪などといった犯情・一般情状などを総合して判断されているようだ」と報告されている[213]

    初公判から

    3被告人の初公判は、名古屋地裁刑事第6部(近藤宏子裁判長)[注 84]で2008年9月25日に開かれた[189]。3被告人とも、起訴事実のうち被害者Aの殺害については認めた[189]一方、「殺害を主導したのは自分ではない」[214]「殺害の計画性はない」と主張[215]。以下のように争った。

    争点表
    検察官の主張 KT(および弁護人)の主張 堀側の主張 「山下」側の主張
    罪状認否[216] 詳細が一部異なる[216] 「Aに手錠をかけた」という点は事実ではない[216] 殺害方法の順番が異なる[216]
    計画性 3被告人の間で、事前に殺害に関する合意があった[217]
    周到な計画性まではなかったが、元から無差別に通りがかりの女性を狙うことを決めており、刑事責任を軽くする要因にはならない[218]
    虚勢を張り合う中で起きた[注 6]偶発的な犯行であり、殺害方法や場所も決めていなかった。計画性は認められない[219]
    強盗殺人などの共謀の成立時期[214] 事件当日15時ごろ[注 91][220]、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉に堀と「山下」が賛同した時点[6] 共謀の成立 - ファミリーレストランを出て車に乗り込んだ時[5]。(堀からハンマーを見せられ「顔を見られたら殺すのか」と発言したのは)冗談交じりの発言に過ぎない[221]当初は強盗殺人までは考えていなかったが、2人が殺人まで考えていると聞き、「強盗の誘いを断れば、自分が襲われる」と思い、承諾したような返事をした[222]
    殺意 - 確定的ではなく、最悪を想定した未必的なもの。金槌による殴打は確実に殺害するためではなく、Aが長い間苦しまないようにするため[5]
    殺害現場で共謀が成立した[5]。(左のKTの発言に対し)「そうですね」と応じたのは、その場限りでの発言だ[221] (左のKTの発言に対し)「仕方ないでしょう」と応じたのは見栄を張るためで、当時は殺人まで犯すつもりはなかった[221]
    犯行への関与の程度[214] 特定の誰かが主導したわけではなく、3人がいずれも重要な役割を果たしており[223]刑事責任は同等[215] Aの首を絞めていた時点で、「山下」は運転席にいた[224] 首謀者は『闇の職安」で呼びかけた自分だが、3人は同格[215]。主犯はKT[171]で、KTと堀の責任は自分より重い[225]
    (殺害行為には)KTと堀がAの首を絞めるなど殺害行為をしていたため、やむを得ず加わった[5]が、それまでは車の外にいた[224]
    分け前は平等で、(自分たち3人は)同格だった[215]
    堀がAから暗証番号を聞き出した後、「もうやっちゃいましょうか』と自分に殺害を提案してきたが、「まだ暗証番号が本当なのかわからない」と思い、首を絞めて失神させようとした[226]。しかし「山下」がAを襲い、騒がれる恐れがあったため、殺害せざるを得なくなった[223]
    KTが犯行を主導していた[215]
    KTから「素手で殺害する」と言われ、犯行への加担を決意した[223]が、それまでは拉致して金を奪うことはともかく、「殺す」という話は出ていなかったし、殺害を提案された際には疑問を感じたが、反対はしなかった[224]
    量刑判断における被告人側の事情[214] 預金の引き出しに失敗したことから、次の強盗殺人を計画するなど、犯罪性向と反社会性が根深い[215]。3被告人の刑事責任は同等で[215]、「山下」の自首も反省に基づくものではなく、刑の減軽には値しない[25] (弁護人)幼少期から安定した生活を送れず、社会への適応が困難だった[227]
    計画性がない点、被害者が2人である点や、殺害方法も(他の死刑事件と比較すると)残虐性が低い[注 92]点などに照らし、無期懲役か有期懲役が妥当だ[25]
    (本人)KTが30回以上、Aの頭部を殴打したのを見て「もういいんじゃないか」と言ったが、KTは殴るのをやめなかった[229]
    (弁護人)性格は柔和で犯罪性向は低く[227]、犯行を深く反省している[230]。矯正不可能とはいえず、生きて罪の償いをさせるべきだ[25]
    (弁護人)犯行は従属的[228]。自首は事件直後、良心の呵責に耐えきれず行ったもので[25]、「山下」の自首によって捜査が容易になった[228]。法廷での発言はともかく、心底では反省している[227]

    一方、第2回公判(2008年10月10日)および第4回公判[94](2008年10月31日)に証人として出廷した「杉浦」は、「KTがグループに加わって以降、強盗殺人の話が出るようになった」と証言した[231][232]

    被告人3人は当初、いずれも被害者Aや遺族への謝罪の弁を述べず、KTは自身の交際相手に対し、Aを侮辱したり、事件を「仕事」と形容したりする内容の手紙を書いたが、その手紙についてKTは「犯行時の正直な気持ちを書くよう求められてそう書いた」と説明した[144]。また、第6回公判[94](11月7日)で、「山下」はKT・堀の両被告人に対し、「(被告人としてこの場にいるのは)お前らのせいだ」と暴言を吐いたり[233][47]、第14回公判(12月11日)の被告人質問[注 93]では検察官から「他人事のように聞こえる」と[225]、近藤裁判長からも「開き直っているのか」とたしなめられていた[171]。また、堀は証言の際に涙を見せたが、近藤から「他人のせいばかりにして、本当に反省しているのですか」と厳しく問い質される場面があった[47]

    一方、第13回公判[94](2008年12月8日)では、同日以前から3被告人への極刑適用を求めた署名運動を行っていたAの母親B(後述)および、Aと交際していた男性Cが証人として出廷し、Bは「同種の犯罪を抑止するため、3人への死刑を臨む」と陳述[234]。また、BおよびCは、Aが3人に伝えた虚偽の暗証番号「2960」[注 62]の意味[注 94]について、「Aは生前、よく数字の語呂合わせをしていた。『憎むわ』の意味だと思う」と証言した[237][234]。加えて、KTおよび「山下」の父親は、それぞれ息子に対する量刑について「被害者や遺族に申し訳ない。極刑が妥当」と述べた[144][170]

    また、検察官は裁判員制度[注 95]を意識した[218]ほか、2008年12月に施行された被害者参加制度を先取りする形で[注 96][236]、法廷で被害者Aの写真を映し出す[注 97]など、視覚的に訴える立証に力を入れた[218]。また、遺族が集めた極刑を求める署名(当時30万件以上)については、証拠採用はされなかったが、検察官が冒頭陳述・証人尋問・論告で繰り返しその存在について言及し、処罰感情の強さを強調した[218]

    3人に死刑求刑

    2009年(平成21年)1月20日に開かれた第17回公判で[94]、検察官の論告求刑が行われ、被告人3人はいずれも死刑を求刑された[36]

    同日の論告で、検察官は「3人は被害者Aを拉致する以前から、金を奪うために拉致・殺害の合意形成をしていた」と指摘した上で、闇サイトを悪用した犯罪について「共犯者が集まりやすく、共犯者同士が個人情報を秘匿するため、発覚が困難だ。模倣性も高く[注 98]、厳罰で臨む必要がある」と主張した[215]。また、犯行態様については「Aの命乞いを無視し、肉体的激痛や精神的恐怖心を加えながら殺害した方法は、生き埋めと変わらない残虐な殺害方法だ。3被告人はいずれも、自己の利欲目的を達成するため、一体となって計画に基づいた犯行を遂行した上で、何ら躊躇もなく残忍な犯行におよんでおり、犯行への酌量の余地は認められない。3人は他人の生命を軽視する犯罪性向・反社会性が根深く、犯行後も同様の強盗殺人を実行しようとしたことや、反省のない態度を取っている[注 99]ことなどに照らせば、更生可能性は認められない[注 100]。被害者Aの遺族(母親B・伯母D)や関係者(元交際相手の男性C)が3人への極刑を求めていることも当然である」と訴えた[34]

    その上で、「本事件は面識のなかった3人が、携帯電話のサイトで知り合い、帰宅途中の女性を無差別に狙い、残酷な方法で殺害した犯行で、社会に大きな衝撃を与え震撼させた。『永山基準』に照らしても、事案の重大性・凶悪性は明白で、利欲目的で被害者を略取・殺害した本犯行は、身代金目的誘拐殺人(殺害された被害者が1人で、被告人にさしたる前科がない場合でも、最高裁で死刑が確定した事例が多数存在)[注 86][241]の場合と罪質に変わりはない[注 101]。被害者が1人でも、罪責が重大な場合は死刑を選択すべきだ[注 102]。KTと堀の刑事責任に差異はなく、「山下」の自首も心からの反省悔悟によるものとは認められず[注 81]、過度に有利な情状とすべきではない」と主張し、「犯した罪の報いを正当に受けることを社会に示すため、被告人3人には極刑をもって臨むほかない」と結論づけた[34]

    最終弁論・結審

    同年2月2日に開かれた第18回公判で[94]、3被告人の弁護人による最終弁論が行われ、結審した[25]。最終弁論で、3被告人の弁護人はいずれも「犯行グループは互いの意思疎通が不十分な寄せ集めの集団による、場当たり的な犯行だ。事前に具体的な殺害方法・場所も決めておらず、殺害は突発的なものだ。綿密な計画性はなく、被害者が1人の死刑確定事件と比べて特段に悪質ともいえない。検察官は『体感治安を悪化させた』と主張するが、闇サイトを悪用した事件は本事件が初ではない」と主張し[227]、死刑回避を求めた[25]

    最終意見陳述で[244]、堀と「山下」は初めて被害者遺族に謝罪した[注 103]一方、KTは「特に申し上げることはない」と話した[25]

    2人に死刑・1人に無期懲役宣告

    2009年3月18日に第一審の判決公判が開かれ[245]、名古屋地裁刑事第6部[注 84][183](近藤宏子裁判長)は被告人3人のうち、KTおよび堀の2人を死刑に、残る「山下」を無期懲役に処す判決を言い渡した[245][246]日本弁護士連合会(日弁連)が把握していた確定判決の統計によれば、1983年に最高裁で「永山基準」が示されて以降、殺害された被害者が1人の殺人事件で死刑が確定した事例は、当時計25件あったが[247]、うち複数の被告人に死刑判決が言い渡され確定した事例は、北九州市病院長殺害事件(1988年に最高裁で被告人2人の死刑が確定)のみだった[248][249]

    名古屋地裁 (2009) は、犯罪事実について「3人は互いに強盗などの様々な犯罪を計画した末、事前に預貯金の貯えがありそうな女性通行人を拉致・監禁した上でキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出した上で最終的に殺害することを計画した上で犯行におよんだ」と認定[17]。その上で、各事実について以下のように認定した。

    名古屋地裁 (2009) の判示
    争点 判示事項
    殺害の共謀が成立した時期 3人が謀議を終え、ファミリーレストランを退店した8月24日の19時ごろをもって、殺害および死体遺棄の共謀が成立したと認められる[注 47][99]
    計画性 被害者を拉致した後の殺害方法などは、具体的・詳細には計画されてはいなかったが、方法は成り行きに任せざるを得ない部分があった[250]。実際に、事前に詳細な定めがなくても十分遂行可能な客観的状況もあった上[37]、「通行中の女性を物色して襲い、最終的には殺害する」という点は当初の計画通りに実行されており[250]計画的な犯行というには十分である[37]より綿密な計画が立てられていた事案より有利に斟酌すべき事情は認められない[250]
    殺害行為が残虐性を増したのは、意図的に残虐な方法が取られたというより、むしろ殺害に手間取った結果である。当初から敢えて意図的に残虐な方法を取った場合と比較すると、悪質性の程度に多少の差はあるが、3人はそれぞれ残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為におよんだため、この点については特に酌むべき事情はない[37]
    犯罪の性質・態様 一連の犯行は、手っ取り早く楽をして金を手に入れたいという強い利欲目的のみに基づき、全く関係のない、通りがかりの一般市民を殺害するという犯罪を、インターネット上の掲示板を通じて形成された犯罪集団が[19]、短期間で計画・遂行したという点に特色がある[37]
    この種の犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく危険であり[注 104]、匿名性の高い集団によって行われるため、発覚・逮捕も困難[注 105]で、模倣される恐れも高いという極めて悪質性の高い種類の犯行である。このような犯罪は社会の安全にとって重大な脅威というほかなく、厳罰をもって臨む必要性が誠に高い[251]
    3人とも、被害者Aの必死の命乞いにも耳を貸さず、無慈悲・凄惨かつ残虐な方法で殺害を遂げており、戦慄を禁じ得ない[250]。Aの遺族が極刑を望んでいることも当然だ[250]
    3被告人の主従関係 KTが最も積極的だったが、堀や「山下」もKTが有する知識・経験を頼りにし、互いに互いを利用し合って集団で犯罪を行うことで、自らの利欲目的を満たそうとする側面が強かったと認められる[30]。そのような犯行の経緯・状況を考えれば、3被告人の間に量刑上、特に刑種の選択を分かつほどの差異を設けるべき事情は認められない[30] 3被告人の役割 量刑およびその理由[注 100]
    KT 殺害行為にて果たした役割は、計画段階において他の2人(堀・「山下」)より大きく、実行行為の際にも最も積極的におよんでいる[30] 2人とも死刑を選択[251]
    結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯行後の情状などを考慮すれば、殺害された被害者が1人であることや、2人とも粗暴犯による前科がない[注 8][注 9]こと、2人にとって有利に斟酌すべき諸事情などを考慮しても、2人に対し極刑をもって臨むことはやむを得ない[251]
    当初から様々な犯行計画を積極的に提案し、特に「人を拉致して強盗をする」という計画を当初から提案していた。被害者Aを最も執拗に脅迫し、殺害の実行行為でもKTに次いで積極的に行っている[30]
    「山下」 殺害の実行行為については、結果的に他の2人よりは関与の程度は低いが、3人が集まる原因となった投稿をしたほか、(未遂ながら)被害者Aへの性的暴行にもおよんでおり、Aに与えた精神的・肉体的苦痛は極めて大きい[30]

    無期懲役を選択[30]
    犯行後、短時間で自首したことにより、捜査機関は初めて犯行を把握し、他2人の逮捕・事件解決に至ったことは明らかである[注 81]。(インターネットを通じて集まった集団による)本事件の特殊性を鑑みれば、「山下」が犯行後に短期間で自首して事件解決に貢献し、その後に起こり得た犯罪を阻止した[注 106]点は量刑上、特に有利な事情として評価することができる[注 107]。「山下」の刑事責任は極めて重大だが、この点を鑑みれば、極刑をもって臨むことは躊躇せざるを得ず、無期懲役に処すことが相当である[30]

    KTの弁護人は即日控訴した[246]ほか、堀・「山下」それぞれの弁護人[注 108][255]、KT本人も同年3月24日付で名古屋高等裁判所へ控訴した[256]。一方、名古屋地検も「山下」を無期懲役とした第一審判決を不服として、同月27日付で控訴した[257]。本判決は全国紙が一面トップで取り上げるなど、高い注目を集めた[258]が、司法の専門家や刑法学者からは「異例の厳しい判断」との見方が少なくなかった一方、新聞各紙の社説は判決を概ね支持する内容だった[注 109][260]

    KTの死刑確定

    しかし、被告人KTは2009年4月13日付で、自ら控訴を取り下げた[注 110][262]ため、同日付で死刑が確定した[注 111][265]#関連項目も参照)。名古屋地検の検察官は同月24日付で、名古屋拘置所長に対し、KTの死刑判決が同月13日に確定した旨の「死刑判決確定通知書」を送付[266]。これを受け、名古屋拘置所処遇部長は同月27日、KTに死刑判決の確定を告知した[266]

    しかし、第一審でKTの国選弁護人を務めていた弁護士2人[267](藏冨恒彦[注 112]・福井秀剛[注 113][271]は同日(2009年4月27日)[注 114]、「KTは控訴取り下げの効果を十分に理解せず、あるいは理解する能力を欠いた状態で取り下げに至った」として[注 115]、「取り下げは真意に基づくものではなく、無効である」と主張し[267]、控訴審における審理を求める旨の期日指定申立書を提出した[266]。しかし、名古屋高裁刑事第2部[注 116]下山保男裁判長)は2010年(平成22年)9月9日付で、弁護人が求めていた控訴審期日指定の申し立てを退ける決定を出した[274]。弁護人は同決定を不服として、同月13日付で名古屋高裁の別の裁判部に異議を申し立てた[注 117][276]が、同高裁(志田洋裁判長)は2011年(平成23年)2月10日付の決定[注 118]で異議申し立てを棄却[277]。弁護人は同月14日付で特別抗告した[277]が、同月3月2日付で最高裁判所第三小法廷那須弘平裁判長)が抗告を棄却する決定を出した[注 119]ため、「控訴取り下げは有効」とする原決定が確定した[278]

    控訴審

    このようにKTが自ら控訴を取り下げたため、名古屋高等裁判所における控訴審は堀と「山下」の両被告人についてのみ審理されることとなった[279]。第一審判決後、臨床心理士の山田麻紗子[注 7]日本福祉大学准教授)が[281][282]、両被告人の弁護人から依頼を受け[282]、犯罪心理鑑定[注 120]を実施[279]。2被告人の弁護人側はその結果を控訴審で証拠として提出した[279]

    名古屋高裁刑事第2部[注 116][18]下山保男裁判長)における控訴審初公判は、2010年(平成22年)8月9日に開かれた[284]

    控訴審における争点表
    弁護人の控訴理由[注 121] 検察官の答弁[注 122] 名古屋高裁 (2011) の判断
    両被告人について 原判決が「8月24日19時ごろにファミリーレストランを出た時点で、(KTも含めた3人の)殺害および死体遺棄の共謀が成立した」と認定した点は明らかな事実誤認で、前者はAを拉致する前、後者はAを殺害した後だ[99]
    • 堀の弁護人 - 殺害の共謀成立はAからキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、堀がリバティ車外で喫煙していたところ、同じく喫煙していたKTからAを殺害しようとしていることを聞かされた時点[99]
    • 「山下」の弁護人 - 殺害の共謀成立は「山下」が喫煙のため車外に出た後で車内に戻ったところ、KTと堀が殺害行為に着手しているのを見た時点[99]

    山田の評価 - 金に困るなど、同質的な3人による同調行動が事件につながったもので、2被告人とも攻撃性は窺えない[281]

    山田による鑑定は、一部の裁判記録だけを前提にしており、信用性が疑問視される[注 123][286]。「山下」の自首は刑の減軽に値せず[279]、3人の極刑を求めるAの母Bらの遺族感情からも、死刑をもって臨むほかない[286] 殺害および死体遺棄の共謀成立時刻は、原判決とは異なり「8月24日の15時ごろ」と認めるのが相当だが、それらの共謀は被害者Aを拉致する前に成立していたため、論旨はいずれも認められない[注 47][99]
    堀について
    • 法令違反の主張 - 訴訟手続に法令違反がある[注 124][287]
    • 事実誤認の主張 - 堀・「山下」の両者が、KTの「最後は殺しちゃうけど、いいよね」という言葉を承諾した事実はなく、もしその前提に立って考えても、堀が会話の内容を認識せず、KTの言葉に適当に相槌を打った可能性もあるため、その時点では共謀は認められない[99]。また、殺害現場に停めたリバティ車内に金槌・包丁・綿ロープがあったことは殺害の共謀の間接事実にはならない[99]。Aに片手錠を掛けた事実はなく、殺害行為の順序[注 125]も異なる[99]
    • 量刑不当の論旨 - 原判決の量刑(死刑)は重過ぎて不当で、無期懲役刑が相当[37]
      • 第一審判決後に謝罪文を書いており、改悛の情が顕著で、生きて罪を償わせるべきだ[注 126][288]
      • 山田の評価 - 自己主張より同調を選びがちだが、集団の特性がなければ凶悪犯罪は想定しにくい[281]。穏やかで犯罪性は低い[286]
    原判決の量刑(死刑)は正当で、控訴は棄却されるべきだ[279]
    • 法令違反の論旨 - 認められない[287]
    • 事実誤認の論旨 - 堀が「殺しちゃうけど」というKTの言葉を承諾したことは明らか[注 127]で、会話の内容を認識していなかった疑いもない[注 128][99]。凶器が手元にあったこと自体が、「拉致した女性を最終的に殺す」という会話の真実味を高めるもので、殺害の共謀の間接事実になる[99]。殺害行為の順序に関する認定には誤りがあるが、それが判決に影響をおよぼす(各被告人の刑事責任に差異を生じさせる)とは認められない[注 125][99]
    • 量刑不当の論旨 - 無期懲役を選択後述)。
    「山下」について 原判決の量刑(無期懲役)は重過ぎて不当で、有期懲役刑が相当[37]
    • 強姦しようとしたのは性欲目的ではなく、被害者Aの鼻をへし折ろうとしたためだ[注 64][37]
    • 投稿は強盗殺人の目的ではなく、堀らに比べて役割は従属的であり、真摯に反省もしている[288]
    • 山田の評価 - 軽度の知的障害や、面接時の「サスペンスドラマを見ているようだった」という発言から、どこまで認知して犯行におよんだか疑問で、攻撃性は窺えない[281]
    原判決の量刑(無期懲役)は軽過ぎて不当で、死刑が相当[37]
    • 「山下」は共犯者らに働きかけて犯罪者集団を結成し、各犯行でも不可欠かつ重要な役割を果たした中心的人物であり、単独で強盗強姦未遂[注 64]に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗未遂に及んでいるため、刑事責任はKTや堀より重い[37]。自首についても、自己保身目的で反省は窺えない[288]
    論旨はいずれも採用できず、(原審と同じく)無期懲役を選択後述)。

    控訴審は12月3日の第4回公判で結審した[286]

    2被告人に無期懲役を宣告

    2011年(平成23年)4月12日の第5回公判[注 129][94]で判決が宣告された[290]。名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)[注 116]原判決のうち、堀を死刑とした部分を破棄し、堀を無期懲役に処す判決を言い渡した[18]。また、「山下」については原判決(無期懲役)を支持し、検察官と弁護人の双方からなされていた控訴をいずれも棄却する判決を言い渡した[290]

    名古屋高裁 (2011) は、両被告人からなされていた法令違反および事実誤認の主張をいずれも退け(前述)、情状についても原判決と同様の趣旨を認定した[37]一方、量刑について検討した。

    原判決の判断 名古屋高裁 (2011) の判断
    事件の性質 インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は凶悪化・巧妙化しやすく、匿名性が高いため、発見も困難であり、模倣性が高い[37]。本件は、まさにこの種の犯罪が持つ危険性が現実化したもので、社会の安全に与える影響も大きく、一般予防の必要性も誠に高い[37] インターネットを通じて知り合った素性を知らない者同士による犯罪は、素性を知っている者同士による共犯事案に比べ、意思疎通の不十分さなどから、犯行が失敗に終わりやすい側面もある[37]
    また、携帯電話の通話・メールの履歴と言った痕跡が残るため、格段に犯罪者の発見などが困難であるとも言い難く、原判決が言うほど「検挙困難で模倣性が高い犯罪」ともいえない[37]
    本件においては大まかな犯行計画は立てられていたが、その計画は綿密なものではなく、さほど巧妙とまではいえず、原判決が指摘するほど「犯罪の巧妙化につながりやすい」とはいえない[37]
    以上より、原判決が「本件の特色」として指摘する点を強調し、他の強盗殺人などの事案より特に厳罰をもって臨む必要性が高いとしている点は相当ではない[37]
    殺害方法の残虐性 殺害方法が残虐さを増したのは、殺害に手間取った結果とはいえ、3人とも残虐な方法であることを十分に承知しながら実行行為に及んでいるため、より綿密詳細な計画を立て、意図的に残虐な方法を取った事案ほど有利に斟酌すべきではない[37] 死刑は選択に当たり、格別慎重を期するべき究極の刑罰であることに鑑みれば、原判決は、死刑選択の当否の最終手段として各般の情状を総合考慮する際、「殺害方法などについて詳細な計画を定めておらず、当初から意図的に残虐な方法を取ったものではない」という点も考慮に入れるべきなのに、総合考慮をする前に、(左のように)その点を総合考慮の枠外としており、その点は是認できない[37]
    役割の軽重 計画段階・殺害の実行行為の場面とも、KTが最も重要な役割を果たしたが、堀・「山下」の両被告人とも、KTの知識経験等を積極的に利用し、自らの利欲目的を満たそうと主体的な判断をした[37]。その上で、前者は犯罪計画の提案・被害者への脅迫および殺害行為を積極的に行ったほか、後者もサイトへの投稿で人を集め、強姦行為にまで着手した[37]
    3人の間に刑種選択を分かつほどの役割の軽重の差異は見いだせない[37]
    被告人 役割 量刑およびその理由
    殺害行為に関しては、「KTが主犯で2人が従属的だった」と言えるほど役割に大きな差はないが、2人ともKTの「拉致した女性を最終的に殺害する」という提案に安易に応じた側面があり、殺害の共謀が成立する前からそのような意思を有していたとはいえない[37]。特に「山下」は運転席に座っていたという位置関係の影響もあったが、殺害行為への直接的な関与の度合いはKT・堀の両者より低い[37]
    このように、両被告人が殺害行為に関して果たした役割には、KTとの間に差があることは否定できず、原判決がその点を考慮せずに「3人の間に刑種の選択を分かつほどの役割の軽重の差異は認められない」と断じたことは相当ではない[37]
    死刑→無期懲役
    犯行の大筋の決定などに大きな影響を与え、被害者の殺害(量刑判断に当たり最も重要な点)についてもKTに次いで積極的な役割を果たしてはいるが、その役割はKTと全く同等にまで見ることはできない[37]
    2被告人とも、本件ではさしたる躊躇もなく、強盗殺人などという重大凶悪な事件に加担しているため、犯罪への抵抗感が希薄であることは否定できない。しかし、2人とも粗暴犯・凶悪犯の前科はなく[注 9][注 10]、これまでの生活歴を見ても、本件以外に凶悪犯罪への傾向を示すものは見当たらないことなどに照らせば、犯罪性向が強いとはいえず、矯正可能性もある[注 100]と考えられる[37]
    以上の全体情状に個別情状を併せて検討し、死刑が選択に格別慎重を期すべき究極の刑罰であることを考慮すれば、殺害された被害者が1名である本件では、死刑の選択がやむを得ないと言えるほどほかの量刑要素が悪質とは断じ難く、死刑に処すことにはなお躊躇を覚えざるを得ない[37]。そのため、無期懲役に処して終生、被害者の冥福を祈らせて贖罪に当たらせることが相当である。
    「山下」 無期懲役(原判決と同じ)
    サイトへの投稿によって事件のきっかけを作るなどしたほか、殺害行為の一部を分担したが、前者についてはKT・堀の両者が主体的な判断で「山下」からの誘いに応じた点や、当初は3人とも殺人を全く考えていなかったことなどに照らせば、この点は、強盗殺人を中心とする本件の量刑判断において殊更に重要な事情ではない[37]
    また単独で強盗強姦未遂に、「杉浦」とともに建造物侵入・窃盗などの犯行におよんではいる[注 130]が、殺害行為についてはKT・堀より関与の度合いは低い上、犯行後に自首して事件解決に一定の寄与をするなどした[注 106]点は、量刑に当たって相応の評価がされるべきだ[注 131][37]

    名古屋地裁 (2009) がインターネット犯罪の危険性・模倣性を重視した[245]一方、名古屋高裁 (2011) はその判断の枠組を否定し、2人に重大前科や詳細な殺害計画がない点などを挙げた上で、(「永山基準」が示されて以降、死刑判決が宣告された事件の多くは被害者が複数の場合に限られてきた)従来の判例を踏襲する形で、極刑を回避した[注 132][298]

    判決確定

    名古屋高等検察庁は、堀を無期懲役とした控訴審判決を不服として、同月25日付で最高裁判所上告した[注 133][299]。一方、「山下」については上告を断念し[300]、「山下」も上告期限(2011年4月26日)までに上告しなかったため、無期懲役が確定した[301]

    検察官は、上告趣意書(提出:2011年9月22日付)[94]で「控訴審判決は、永山判決(「永山基準」を示した判決)[194]や、光市母子殺害事件の差戻し判決[注 134]を始めとする、最高裁の判例が示した死刑適用基準に反するほか、罪刑均衡および一般見地のいずれから見ても、著しい量刑不当であり、破棄しなければ著しく正義に反する」と主張した[304]。しかし、最高裁第二小法廷千葉勝美裁判長)は2012年(平成24年)7月11日付で、堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決を支持し、検察官の上告を棄却する決定を出した[305][306]ため、同年7月18日付で堀の無期懲役が確定した[307]。しかし、堀は同年8月3日に碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件(1998年発生)の被疑者として、強盗殺人容疑で共犯者の男2人(同事件当時の仕事仲間)とともに愛知県警に逮捕された[308]。その後、同事件および強盗殺人未遂事件1件の被告人として起訴され、2019年令和元年)8月に死刑が確定している[注 135][316]

    加害者の経歴

    加害者3人は事件当時、消費者金融から数十万円 - 数千万円の借金を抱え[13]、金に困っていた[注 136][4][84]

    KT

    K・T
    生誕 (1971-03-09) 1971年3月9日[317]
    日本の旗 日本群馬県高崎市[130][318]
    死没 (2015-06-25) 2015年6月25日(44歳没)[28]
    名古屋拘置所[28]日本の旗 日本・愛知県名古屋市東区白壁
    死因 縊死絞首刑
    住居 日本の旗 日本・愛知県豊明市栄町西大根[319]
    職業 新聞勧誘員[319]
    雇用者 セールス会社(朝日新聞販売所が業務委託)[注 137][319]
    罪名 営利略取罪逮捕監禁罪強盗殺人罪死体遺棄罪窃盗未遂罪[17]
    刑罰 死刑(絞首刑/執行済み[28]
    動機 手っ取り早く、楽をして金を手に入れるため[19]
    有罪判決 死刑 - 名古屋地裁刑事第6部[注 84]:2009年3月18日宣告[245]
    日本の旗 日本
    都道府県 愛知県
    標的 帰宅途中の女性会社員[17]
    死者 1人
    凶器 綿ロープ・粘着テープ・ビニール袋・金槌[17]
    逮捕日
    2007年8月26日(当時36歳)[4]
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    本事件で2009年に死刑が確定し、2015年に死刑を執行された元死刑囚KT1971年昭和46年)3月9日生まれ[317](事件当時36歳)[54]群馬県高崎市出身[130][318]

    小学生のころに両親が離婚し、父親から暴力を振るわれ、学校でもいじめを受けるような環境で生育した[320]。また16歳のころから激しい頭痛に悩まされ、治療費が高額なために十分な治療を受けられず[注 138][230]暴走族に所属した[318]1989年平成元年)[321]、地元・高崎市内の工業高校を卒業[130]人材派遣会社などに登録した[注 139]が、実際に仕事に就いた形跡はなく[322]、上京後には暴力団関係の仕事をするようになった[318]。その後、東京都内の新聞販売店・愛知県内の人材派遣会社など、仕事を転々としたが[130]、堀や「山下」と同様に、仕事は長続きせず[322]、各地を転々として名古屋にたどり着いた[318]。また、事件の10年ほど前(1997年ごろ)から携帯電話で闇サイトを利用していたとされる[注 140][13][179]

    2006年(平成18年)9月から豊明市内の新聞販売店に入社し[注 141]、会社の寮に住み込む[323]。『朝日新聞』のセールススタッフとして[323]、新聞勧誘員の仕事をしていたが、勤務態度はあまり良くなかった[注 142][57]。また、事件前の手取り収入は少なく[注 143][323]、交際相手の女性から時々小遣いを貰うなどして生活していた[57]。また、勤務先の社長に対し「父が亡くなり、天涯孤独の身だ」と嘘を吐いたり[注 144]、同社に提出した履歴書にも虚偽記載[注 145]がなされていた[323]

    KTは先述のように、闇サイトを悪用した別の詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトの閲覧・投稿を続けていた[47]

    国家賠償請求訴訟

    第一審でKTの国選弁護人を務めていた弁護士2人[324](藏冨恒彦[注 112]・福井秀剛[注 113])は、KTによる控訴取り下げ後の2009年4月 - 6月にかけ[271]、控訴取り下げへの異議申し立ての打ち合わせなどのため[325]、KTと拘置所職員の立ち会いなしで面会する「弁護士面会」を名古屋拘置所に申請したが、拘置所側は「死刑確定直後で心情安定のため、立ち会いが必要だ」として、立ち会いの伴う「一般面会」しか認めなかった[271]。2人はこれを違法として、2009年8月12日付で、名古屋地裁に国家賠償請求訴訟[事件番号:平成21年(ワ)第4801号/請求額:120万円]を提訴[326]。その後、2010年11月4日には同様に、無立会の面会を認められなかったことを違法として、死刑囚KTに対し慰謝料などを支払う国賠訴訟[事件番号:平成22年(ワ)第7629号]を提起し、先の訴訟と併せ[275]被告(国)に対し2,700万円の支払いを求めていた[325]

    名古屋地裁民事第3部(德永幸藏裁判長)[327]2013年(平成25年)2月19日、「拘置所長が裁量権を濫用した」として、原告側の訴えを認め[325]、国に対し145万2,000円の賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した[注 146][328]2014年(平成26年)3月13日[329]、名古屋高裁民事第3部(長門栄吉裁判長)[注 147]は第一審に続き、拘置所長の対応を「裁量権を逸脱・濫用したもので違法」と認め、国に対し計145万2,000円の支払いを命じる控訴審判決[注 148]を宣告した[329]。原告側は上告したが、2015年(平成27年)4月22日付で最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)が上告を退ける決定を出したため、控訴審判決が確定した[332]

    2011年6月20日 - 8月31日に福島瑞穂参議院議員)が、死刑確定者120人(2011年6月20日時点)を対象に実施したアンケート[注 149][334]に対し、死刑囚KTは「(自身が収監されている)名古屋拘置所では現在、所長が我々の生活処遇を勝手に厳格化している。国会で法務大臣にこの問題を追及してほしい。自分は人殺しだが、鬼ではなく人間だ」と訴えていた[335]

    死刑執行

    死刑囚KTは控訴を取り下げて死刑を確定させた後、一転して再審請求を検討していた[注 150][337]が、2015年6月25日8時25分[338]法務大臣上川陽子[注 151]が発した死刑執行命令により、収監先の名古屋拘置所死刑を執行された(44歳没)[注 152][28]日本弁護士連合会(日弁連)は同日、村越進会長名義で死刑執行に抗議する声明を出した[343]

    弁護士の福井秀剛[注 113](第一審でKTの国選弁護人を担当)は同年7月26日、静岡県静岡市葵区で開催された「上川陽子法務大臣の地元で死刑執行に抗議する集い」で、KTの最期について「死刑執行の直前、KTは被害者Aや彼女の遺族、および友人らに対し『命を以て償います』と言い残し、取り乱すことなく立派に死刑執行を受け入れた。KTは最期まで自分の犯したことと向き合っていた」と証言している[23]。一方、同集会では福井とともにKTの国選弁護人を務めていた藏冨恒彦[注 112]弁護士は「国家賠償請求訴訟の間隙を縫って執行されたようで理不尽さを感じる。KTは控訴を取り下げなければ、共犯者(堀)とのバランス上は明らかに無期懲役相当事案であり、死刑執行を急ぐ必要はないはずだ。KTより先に死刑が確定した死刑囚は多数いるはずで、なぜ今回執行されたのか理解しがたいものがある。処遇が難しい死刑確定者なので執行を急いだとすれば、あまりにも理不尽ではないか?」と[338]、死刑廃止論者である弁護士2人(安田好弘村上満宏[注 153])も「KTは控訴を取り下げなければ、堀と同様に控訴審で無期懲役に軽減されていた可能性が高い」と指摘している[344]

    「山下」

    2011年に無期懲役が確定した加害者「山下」(事件当時40歳)[46]1966年(昭和41年)生まれ[18]石川県金沢市出身[注 154][322][345][59]。「山下」は「闇の職安」[注 4]で用いていた偽名であり、本名のイニシャルは「K・K」である[56]。2019年(令和元年)6月29日時点で[注 155][346]、「山下」は刑務所に服役中である[注 156][349]

    子供のころに腎臓病を罹患したことが原因でいじめを受け、高校進学後からその反動で不良として非行に走るようになり、少年鑑別所に収監されたこともあった[59]。高校を出た後[注 157]富山県富山市内で[323]、大手警備会社に就職して7年間勤務した[345]1999年(平成11年)8月、住宅ローンを組み、愛知県瀬戸市内の分譲マンションを購入[350]。妻・子供4人と共に暮らしていたが[322]、このころ(事件の8年ほど前)から携帯電話で闇サイトを利用し始め[13][179]、「闇の職安」を通じて入手した偽の運転免許証を用いて、振り込め詐欺用の銀行口座を開設・販売していた[351]2000年(平成12年)ごろ以降は、愛知県内の運送会社を転々とした[注 158][323]が、各社に提出していた履歴書には、多くの虚偽記載があった[注 159][322]

    その後、金に困るようになり、住宅ローン[322]・税金を滞納したため、2002年(平成14年)には瀬戸市などにマンションの部屋を差し押さえられた[350]。2002年12月、瀬戸市内の運送会社[注 160]に就職し[345]、会社が借り上げたアパートに住み始めたが[350]、それから数か月後には妻子に逃げられ[345]、妻と離婚した[322]。その後、2003年(平成15年)8月ごろにトヨタ・スターレット[注 19][62]、当時の職場(瀬戸市内の会社)を通し、毎月の給与から代金を天引きする形で購入[350]。しかし2004年(平成16年)5月ごろ、荷物を積んだトラックを駐車場に放置したまま、会社に出勤しなくなり[323]、車とともに夜逃げした[注 161][350]。その後は同県尾張旭市の運送会社に勤めたが、そこでも給料を前借していたほか、他に警備会社・運送会社を転々とし[322]、遺体遺棄現場となった瑞浪市周辺に住んでいたり[172]、殺害現場付近の愛西市で勤務していた時期もあった[321]先述したように詐欺事件で執行猶予付きの有罪判決を受けて以降も、金欲しさから闇サイトへの投稿・閲覧を続けていた[47]

    逮捕後は「犯行場面の幻影を見て眠れなくなった」と精神安定剤を服用するようになり、曖昧な受け答えをするようになった[352]。第一審でKTと堀が死刑を宣告された一方、自身は唯一死刑を免れる形となった際には、FNN記者との面会で以下のように発言している[注 162][26]

    「自首したことが認められたことについてはよかったと思う。3人一緒に死刑だと思っていたから驚いた。誰のおかげで事件が解決したのかという思いだったから、満足している。A(被害者の実名)さんの前に、何人も物色しているんだから、彼女になったのは、運が悪かったからなんだって。今でも悪いことは、ばれなきゃいいという気持ちは変わらない。でも、生かしてもらえてよかった。ありがたい」 — 被告人「山下」、[26][354]

    影響

    事件現場となった自由ヶ丘学区は、千種区内で最も犯罪件数が少ない学区だったため、本事件は地元住民にも大きな衝撃を与えた[355]。事件後(8月26日以降)、拉致現場となった名古屋市立自由ヶ丘小学校周辺[注 1][注 163]では、地元の自主防犯パトロール隊が巡回の頻度を増やした[注 164]ほか、周辺3交番と地元住民の連絡協議会で、再発防止対策が話し合われた[355]。また、千種警察署が管内(千種区内)の名古屋市営地下鉄名古屋市交通局)の全10駅の出入口に「キケンが迫る 夜の一人歩き」と書いた啓発ポスターを掲示した[355]ほか、名古屋市交通局の協力を得て、それら10駅(3路線)[注 165]で、駅から徒歩で帰宅する女性向けに防犯ブザーの貸し出しを開始した[357]

    また、被害者Aが生前に「なるぅ」のハンドルネームで運営していたブログ#外部リンク参照)には事件後、知人らによって追悼のコメントが多数投稿された[注 166][77][359]

    警察庁は事件後、2008年度(平成20年度)からインターネット上の違法・有害情報を監視する「サイバーパトロール」を民間委託し[注 167]、監視体制を強化する方針を決めた[360]

    被害者遺族の活動

    被害者Aの母親Bは事件後、8月28日(Aの通夜が営まれた日)に、「犯人たちを絶対に許さない」とする報道各社向けの手記を発表[注 168][362]。その後、「日本の法律では、過去の例からも1人を殺しただけでは死刑にならない」という内容の手紙が届いたことを機に[363]、9月には加害者3人への死刑適用を求める署名活動の開始を決意[129]。初公判までに30万人分の署名[注 169]を集めることを目標に[364]、同月中旬から署名活動を開始した[注 170][370]ほか、報道機関の取材に積極的に協力したり[注 171][372]、ホームページ(#外部リンクを参照、同月22日に設立)を通じて署名活動への協力を呼びかけたりした[370]。同月27日以降は名古屋市の繁華街(名駅・栄)でも署名活動を実施し[注 172][373]、初公判直前(2008年9月時点)で284,000人分の署名を集め[368]、2012年8月25日[注 173]に終了するまでに、332,806名分の署名が集まった[注 174][39][374]。また、第一審の第13回公判[94](2008年12月8日)[234]、控訴審の第3回公判(2010年10月18日)ではそれぞれ証人として出廷し、被告人らへの死刑適用を求めた[377]

    また、Bは当時の鳩山邦夫法務大臣[注 175][191]検事総長に対し、それぞれ請願の手紙を送ったほか[40]、平成23年度版『犯罪被害者白書』に手記を寄せた[379][380][381]。また、「緒あしす」[注 176]や「宙の会[注 177]といった犯罪被害者の自助団体[注 178]に参加したり、犯罪被害者遺族の支援拡大を訴え、講演[注 179]などの活動を行っている[40]。以下は主張・希望の概要である。

    • 「加害者の更生という未来の不確定なことを前提にして裁くのではなく、まじめに生きている人を守ることを優先して裁く司法であってほしい」[385]
    • 死刑制度は存置すべきで、日本弁護士連合会(日弁連)が2016年10月7日に採択した「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」とする宣言[注 180][387][388]には反対。
    • 裁判官は(殺害された)被害者の数だけでなく、犯罪内容を見て裁くべきだ[389][390][391]
    • 被疑者や被告人だけでなく、被害者やその家族の人権や処遇を憲法に明記すること[392]
    • 有害サイトの規制強化が必要[393]

    また、「加害者3人からの謝罪は望んでいない」と明言し[25]、堀が本事件の刑事裁判で自身に謝罪[注 126]した一方、それ以前の余罪(碧南事件など)を自供せず隠していたこと[注 181]や、「山下」が第一審判決後に「悪いことはばれなきゃいい」と発言したことを厳しく批判している[397]

    類似事件

    2017年(平成29年)に発覚した座間9人殺害事件は、会員制交流サイト (SNS) に自殺願望を書き込んだ若者たちが標的にされた[注 6][399]

    2018年(平成30年)6月には、静岡県藤枝市の山中で女性看護師の遺体が発見される事件が発生したが[399]、同事件はインターネットの掲示板で知り合った男3人[注 182]が被害者の女性を拉致し、遺体を山中に遺棄した事件として、本事件との共通性が指摘されている[393][406]

    事件を題材にした作品など

    書籍

    大崎善生(作家)は2014年(平成26年)以降、本事件に関するノンフィクションを執筆するため、Aの母親Bへのインタビュー[注 183]を継続的に行い、2016年(平成28年)11月30日に角川書店から被害者Aの生い立ちや、母Bとともに生きた31年間の生涯などを描いたノンフィクション『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』を出版した[注 184][407]

    また、加害者の1人である堀慶末は2019年8月に碧南事件で死刑が確定したが[316]、その直前(2019年5月)にはインパクト出版会から自身の半生や本事件・碧南事件などを回顧した著書『鎮魂歌』(書名の読み:レクイエム)を出版している[410]

    映像作品

    東海テレビ放送のドキュメンタリーチーム[注 185]は2008年夏以降、裁判員制度開始(2009年5月)を控え、本事件の被害者Aの母親Bのほか、同じ東海地方で発生した凶悪事件の被害者遺族[注 186]を取材し、2009年4月12日にドキュメンタリー番組『罪と罰 -娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父-』を放送した[411](ナレーター:藤原竜也[415]

    • 東海テレビは同番組放送以降も、被害者Aの母親Bを継続取材し、「事件前の母娘の物語」を再現したドキュメンタリードラマ『Home(ホーム) 東海テレビ開局60周年記念 ドキュメンタリードラマ』[プロデューサー:阿武野勝彦(東海テレビ)、監督・脚本:齊藤潤一(東海テレビ)、助監督・ドキュメンタリー取材:繁澤かおる][416]を2018年12月25日19時00分 - 21時00分に放送[417]。同作では被害者Aを佐津川愛美(子供時代:矢崎由紗)が、母親Bを斉藤由貴が演じた[416]。その後、同番組を再構成した映画作品『おかえり ただいま』(監督:齊藤潤一)が[418]、2020年9月19日から劇場公開された[419]
    その他テレビ番組

    脚注

    注釈

    1. ^ a b c d e 拉致現場(千種区春里町2丁目の路上)は、被害者A宅まで数十 m離れたマンション前の道路[1](A宅まで徒歩1分ほどの距離)[2]で、名古屋市立自由ヶ丘小学校[3](かつてAが通学していた)の目の前でもあった[2]。事件当時は「千種区自由ケ丘」と報道されていたが[4]名古屋地検の冒頭陳述 (2008) によれば春里町である[5][6]。周辺は自由ヶ丘駅名古屋市営地下鉄名城線)から徒歩10分程度の、住宅・団地が並ぶ高台の道で、事件当時から街灯が整備されていたため、地元では「安全な道」とされていたが[7]、夜間になると人通りはほとんどなく、拉致されたところを目撃した人もいなかった[8]
    2. ^ a b c d 殺害現場(愛西市内佐屋町西新田)は[4]国道155号沿いにあるレストランの屋外駐車場(レストランの建物から国道を隔てた場所にある第二駐車場)の奥だった[9]
    3. ^ a b c d 死体遺棄現場の山林(岐阜県瑞浪市稲津町小里)は、「御料林橋」北東に位置する[4]。この場所は、岐阜県道33号瑞浪上矢作線から20 m程度入った場所[10]ないし、「(恵那市との境界にある)山林の東の小里川ダムに通じる県道(33号)のバイパス道路を上って行き、「川折大橋」の手前から工事用に造られた脇道を小里川に向かって70~80メートル入った場所」で[11]、鎖により車両の侵入が禁止されていた林道の脇だった[12]
    4. ^ a b c 加害者3人が知り合うきっかけとなった「闇の職業安定所」は[52]、犯罪の仲間や協力者を募る目的で利用されていたウェブサイト[4]。事件発覚後の2007年8月27日朝までに閉鎖されていることが判明した[52]
    5. ^ 「山下」は『中日新聞』宛の手紙で、このように共犯者たちと互いに虚勢の張り合いを続けた末に自制心が働かなくなった旨を述べている[31]
    6. ^ a b c d e 森井昌克神戸大学大学院教授・情報通信工学)は、「インターネット上では、本当の自分が知られていないので気が大きくなり、虚勢がエスカレートする」と、碓井真史新潟青陵大学教授・社会心理学)は、「インターネットの場合、『自殺したい』など、現実社会では言いにくいことでも話せる上、そのような話が具体的になった際にもブレーキがかからず、エスカレートしやすい。集団だと特にその傾向が出て、現実世界では考え付かないような行動に走ることがある」と指摘している[398]
    7. ^ a b 山田麻紗子(2017年時点で日本福祉大学の客員研究所員)は同年、『中日新聞』の取材に対し、「互いの『馬鹿にされたくない』という気持ちが行動をエスカレートさせた。1人では起こり得なかった事件だ。3人はいずれも、職を失うなどして社会から孤立し、犯罪を踏みとどまらせる人間関係や地位を持っていなかった」と指摘している[280]
    8. ^ a b KTの前科は詐欺罪による執行猶予付きの1犯(#事件前の経緯を参照)[251]
    9. ^ a b c 堀の前科は交通関係の罰金前科2犯のみだった[37]
    10. ^ a b 「山下」の前科は詐欺罪による執行猶予付きの1犯で、本事件当時はそ猶予期間中だった(#事件前の経緯を参照)[37]
    11. ^ 『毎日新聞』は社説 (2007) で、インターネット犯罪の特性として、匿名性(身元特定の困難さ・証拠の残りにくさ)に加え、短期間に不特定多数と連携することが可能な点や、顔が見えないことでやり取りに抵抗感が薄れ、虚実ないまぜになって意見や主張がエスカレートする点を指摘している[41]
    12. ^ 本事件の約4年前から、インターネットで殺し屋を依頼する事件が目立っていた[41]。2003年(平成15年)10月には滋賀県でインターネットを利用した殺人依頼の事件が発覚したほか、2005年(平成17年)4月には名古屋市中川区で、同年12月には長野県松本市で殺人事件(それぞれ加害者がインターネットで被害者の殺害を依頼し、第三者が実行した事件)が発生した[42]。また、2003年末 - 2004年(平成16年)初めには主犯格が携帯電話のサイトで共犯者を募った連続強盗事件(愛知・三重静岡の3県で発生)が、2007年5月には三重県亀山市の女子中学生が誘拐される事件(犯人の1人がインターネットで運転手役を手配した)が発生していた[42]
    13. ^ 『中日新聞』は「(ウェブサイトの運営)業者に通信記録の保存を義務付けるなど、法規制の強化が必要だが、法規制は言論の自由や個人のプライバシーを侵害しかねない側面もある。司法・行政・有識者らでプロジェクトチームを作り、監視社会を招かずに凶悪犯罪を防止できる方法を練る必要がある」と[43]、『読売新聞』は「サイト運営に責任を持つ管理者が、問題情報の自主的な削除を積極的に進めるべき」とそれぞれ指摘した[44]
    14. ^ 「山下」は『中日新聞』宛の手紙で、本事件以前に闇サイトを使った詐欺などの犯罪を3件犯していたことや、闇サイトで共犯者を募った理由を「多人数なら1人よりもやれることが広がり、互いに名前や身分を証す必要もない」と述べている[31]
    15. ^ 堀慶末は1975年(昭和50年)4月29日生まれ[49]
    16. ^ 借金の合計額は計440万円[24]
    17. ^ 同年8月4日、「山下」は堀に対し「いくら(金が)必要か」と質問し、堀から「ガッツリいきたい」と返信されたことを受け、「組んでみないか」と誘った[56]
    18. ^ 「山下」は詐欺事件で逮捕された前科事件以降、人材派遣会社で派遣社員として働いていた[59]
    19. ^ a b c d e f 犯行に用いた車(リバティ)は2006年4月ごろに盗難情報が出されていた[61]。「山下」はそのリバティのナンバープレートを、かつて自身が所有していたスターレット(2003年8月ごろに購入)のナンバープレートに付け替えて利用していた[62]
    20. ^ 堀は逮捕当時、名古屋市東区一丁目のマンションに居住していた[49]
    21. ^ 大崎善生 (2016) は、この時の経路について、名古屋市内 - 豊川市の自動車による所要時間は東名高速道路経由で約30分、一般道経由で約1時間である旨を指摘した上で、「11時30分ごろに豊川市に到着したという記録があるので、一般道経由で移動したのだろう」と指摘した[65]が、堀は自著『鎮魂歌』 (2019) で「高速道路経由で豊川へ向かった」と述べている[66]
    22. ^ この時、「杉浦」は「このままでは2日後(8月23日)にアパートを追い出されてしまうので、早く現金が欲しい。金庫破りかパチンコ屋(への事務所荒らし)が良いのではないか」と発言していた[67]
    23. ^ 捜査報告書によれば、この時点ではKTはむしろ拉致計画に消極的な姿勢を示していたとされる[64]
    24. ^ 名古屋市中区新栄[69]
    25. ^ 堀はその常連客と顔見知りだった[70]ため、「自分はバックアップに専念するので、襲撃は2人(「山下」と「杉浦」)でやってほしい」と述べていた[69]
    26. ^ 「山下」はリバティを入手するきっかけとなった盗難保険金詐欺に加担した際、依頼主の男から車内での練炭自殺を装ってリバティを燃やし、処分することを提案された[72]。「山下」はその仕事を引き受け[73]、2007年3月末ごろに犯行で使用された綿ロープ手錠を自殺用に用意した[74]。そして名古屋市郊外に停車した車内で、自殺志願者(大学生)が車内で練炭自殺した後で、車をガソリンなどを用いて燃やそうとしたが、途中で気まぐれを起こし、大学生を名古屋市中区内に置き去りにして姿を消した[73]
    27. ^ この住宅は、かつて堀が増築の仕事で外壁工事をした家だった[82]。この家に向かう途中、「杉浦」がそれに用いるマイナスドライバーを2本万引きし、同宅周辺でも空き巣に入れそうな家を物色したが、いずれも失敗している[83]
    28. ^ この時、金槌を見せられたKTの「そんなもんでぶったたいたら死んじゃいませんか」という問いかけに対し、堀は「まあ、仕方ないですかね」と、「山下」も「まあ、そうでしょうね」とそれぞれ答えている(捜査報告書より)[85]。しかし、堀は自著 (2019) で「ハンマーは殺すつもりで購入したわけではなく、この時の自身の発言は迎合気味の発言に過ぎない。もし最初から殺人を考えていたなら、ハンマーより殺傷力の高い包丁を選んでいただろう」と述べている[86]
    29. ^ その子役はKTから報酬を払われたが、役目を果たさずに逃げたため、KTが振り込んだ金を回収しようとしていた[89]。彼は2007年8月より数か月前、居宅のアパート(日進市)から東京へ引っ越していた[90]が、後に口座の売買で逮捕された[91]
    30. ^ a b 2007年8月22日、KTは「山下」に対し、「自分は過去に2人ほど殺して(出身地の)群馬に埋めたことがある」「人を殺すのはゴキブリを叩き殺すのと同じだ」などと発言していた[93]。KTは第9回公判[94](2008年11月26日)でも、堀の弁護人からの被告人質問で、「警察からの取り調べに対し、『2人ほど埋めたことがある』と話した」と供述したが、愛知県警は「そのような事実は把握していない」とコメントしている[95]
    31. ^ しかし、このマンションは実際には常連客の居宅ではなく、会社の事務所だった[97]
    32. ^ 「山下」は、「(常連客を最後は殺してしまえば良いなどという言葉を聞いて)半信半疑の気持ちではあったが、KTの話をまったくの冗談だとは思わず、半分は『実際に人を殺すことになるかもしれない』という気持ちを持っていた」と述べている[99]
    33. ^ そのクレジットカードは、かつて「山下」が勤務していた会社の社長の息子宛てに届いた書留を、「山下」が本人を装って受け取っていたものだった[101]
    34. ^ 同店は1日の売上が20 - 30万円におよび、閉店後には店長が1人でバックヤードで仮眠していたため、そこを襲う計画だった[33]。ただし同日(2007年8月22日)は定休日だったため、同店に向かう当初はあくまで下見目的だった[91]ほか、堀は「自分は顔が割れているので、実行役はできない」として[33]、見張り役・運転手役を引き受けた[91]
    35. ^ KTが店内の様子を見たところ、エアコンの室外機が回っていたため、KTは「中に店主がいるかもしれない。今襲おうか」と提案していた[33]
    36. ^ 「杉浦」はすぐに金を手に入れたがっていた一方で殺人には消極的だったため、秘密組織を結成して長期的に儲ける手段や、殺人を提案してくるKTに反発していた[106]
    37. ^ その旨を「山下」から電話で伝えられた堀は、「KTが持っているという覚醒剤・拳銃入手のルートは手放したくないが、すぐに金を手に入れようとする2人の計画にはいつでも協力する」と応じている[106]
    38. ^ この時、犯行計画を話し合う中で「粘着テープが必要になる」と考えた堀は、「山下」に対し、メールで粘着テープの入手方法を依頼した[75]
    39. ^ かつて「山下」が瀬戸市に住んでいた時期は、このガソリンスタンドは24時間営業だった[108]
    40. ^ 水道工事会社[109]
    41. ^ 現:長久手市
    42. ^ 当時、「杉浦」は所持金が200円程度しかなく[110]、自分の携帯電話も「山下」の車(リバティ)のダッシュボードに忘れていた[63]
    43. ^ 「杉浦」は自首の理由について、「途中で「山下」が逃げたため、馬鹿らしくなった」と述べた[109]ほか、「犯罪を繰り返すことに嫌気が差していたため、『これを転機に』と自首を決意した」とする報道もある[112]
    44. ^ 後に窃盗未遂・強盗予備などの罪に問われた「杉浦」は、自身の被告人質問で、「あなたの対応次第では、本事件(拉致殺害事件)を防げたのでは」と質問された際、「そんな事件を起こすとは思っていなかった」と述べた[113]ほか、有罪判決確定後に『週刊現代』(講談社)記者からの取材に対し、「8月26日に(「山下」・KT・堀の)3人が逮捕されたことを留置場内で知った際、『まさか本当に強盗殺人をやるなんて』と驚いた」と述べている[114]
    45. ^ 寺澤真由美は2006年(平成18年)6月 - 2010年(平成22年)3月、名古屋地裁・名古屋簡裁の判事を務めていた(2010年3月31日まで)[116]。裁判所ウェブサイト (2008) によれば、2008年1月21日時点で寺澤は「名古屋地方裁判所刑事第4部」B係(単独審)を担当していたほか、芦澤政治(部総括判事)・小川貴寛とともに同部の合議係を担当していた[117]
    46. ^ 大崎善生 (2016) は「これに対し、KTと堀は無言でうなずいた」と[119]、堀 (2019) は「当時、自分とKTは『どうでも良い』というような態度を取っていたように思う」と述べている[120]
    47. ^ a b c d 名古屋地裁 (2009) は、3人が謀議を終えてファミリーレストランを退店した24日19時過ぎごろを「殺害(および死体遺棄)の共謀が成立した時刻」として認定しているが、名古屋高裁 (2011) は「原判決(名古屋地裁)の認定には誤りがあるが、被害者を拉致する前の時点でさほど時間的な隔たりはなく、その間、より詳細な謀議がなされただけであることなどに照らすと、この点は判決に影響を及ぼすものとはいえない。」と判示し、堀・「山下」それぞれの弁護人の「殺害現場で共謀が成立した」という主張をいずれも退けた[99]。また、死体遺棄の共謀が成立した時刻についても同様の理由で「原判決の認定(24日19時ごろ)は誤りで、実際には同日15時ごろと言えるが、殺害の合意の中には当然、殺害後に死体を遺棄する事も含まれていると考えられるため、その方法・場所などが具体的に決まっていなかったことなど、各被告人が指摘する事情は共謀の成立の妨げにはならず、判決に影響をおよぼす事実誤認とは認められない」と判示し、弁護人の「殺害後に死体遺棄の共謀が成立した」という主張を退けた[99]
    48. ^ 民間企業の多くは25日を給料日としているが、同日が土曜日・日曜日の場合は、その直前の金曜日に給与が振り込まれる場合が多いため[122]
    49. ^ KTは「今日拉致して暗証番号を聞き出せば、(ATMで引き出せる金額は1日50万円までであるため)今日から月曜日までに200万円を引き出せるだろう」と発言していた[59]。預金の引き出しを「月曜日まで」と決めた理由は、標的を換金した際、その標的が出勤してこないことを職場の人間などが気にかけて警察に連絡する可能性を想定したためである[121]
    50. ^ この時、その碧南事件の共犯者は堀から「3日ぐらい部屋を使わせてほしい」と頼まれると、「今は電気料金を滞納して電気を止められている。友人の家で寝泊まりしているので、電気代を肩代わりしてくれるなら使っても良い」と応じた[121]ものの、実際には犯行で使用されることはなかった。
    51. ^ そのため、2列目シートの足元の空間を広くするため、助手席は限界まで前に出し、その足元に軍手と金槌を置いた[125]。包丁は運転席のドアポケットに、金槌はホームセンターの袋に入った状態で座席の下に入れていた[126]
    52. ^ 堀 (2019) は「実際に5, 6人の男女の後をつけるなどした」と述べている[126]
    53. ^ Aは普段、19時30分ごろに帰宅していた[131]
    54. ^ またこの時、車外から目撃されないよう、Aにシャツとタオルを掛けていた[6]
    55. ^ この時、堀は「山下」に対し、Nシステムがある幹線道路を避けるよう指示している[134][135]
    56. ^ 到着後、KTはカーナビの光が車外に漏れることを恐れ、「山下」に命じてリバティのエンジンを切らせている(カーナビを切るにはエンジンを止める必要があったため)[137]
    57. ^ KTはAを拉致した直後、Aに対し「体が目的ではない」と発言していた[139]
    58. ^ この時、堀はAを「この包丁は100円ショップで買ったもので切れ味が悪いから、5, 6回は刺さないと死ねないぞ」などと脅迫[141][140]
    59. ^ 包丁の刃先をAの太腿に向けた上で、上下に振って突き刺す真似をした[142]ほか、太腿を包丁の腹で叩いたりした[103]
    60. ^ この時、恐怖で強く戦慄するAの姿について[143]、KTは交際相手に宛てた手紙で「マグニチュード10?」などと書いている[144]
    61. ^ この時、3人は被害者を執拗に脅迫していたことから、「このような状況で嘘をつくはずはない」と考えていた[145]。実際、堀もKTとの会話で「あれだけおびえていたから、嘘ではないだろう」と話していた[146]。また、Aは預金額についても、実際(800万円以上)とは異なる額(40万円)を述べている[147]
    62. ^ a b KTおよび堀は、後の供述で「Aが言った4桁の番号は『2960』ではない」と述べていたが、「山下」の携帯電話には「2960」への発信履歴(時刻:0時45分)が残っている[143]。一方、堀は自著 (2019) で、「Aが言葉にした番号は『2960』ではない。「山下」はKTが口にした番号を携帯電話の発信履歴に残したが、軽度の知的障害 (IQ:65) である「山下」が携帯電話を打つ際に押し間違えたか、KTが口にした番号を聞き間違えた、あるいは捜査機関が捏造した可能性がある。殺害が決まっているわけでもないのに、『2960』という語呂合わせをするのは不自然だ」と述べている[148]
    63. ^ 堀は自著 (2019) で、「自分が『暗証番号は嘘ではないだろう』と発言したところ、KTが『殺そうか』と言った。自分は車内に綿ロープがあったことを思い出し、その存在をKに教えた」と述べている[146]
    64. ^ a b c 「山下」は第一審の公判で、Aを強姦しようとした動機について「Aの態度から『小生意気な女』と思い、その鼻をへし折ってやろうと思ったからだ」と主張したが、名古屋地裁 (2009) は「「山下」は自己の性欲から、強姦の強い範囲に基づいて姦淫行為に及ぼうとした」と認定[37]。これに対し、「山下」は控訴審で事実誤認を主張したが、名古屋高裁 (2011) は「「山下」はKTや堀に止められ、戒められながらも、2度にわたり被害者を姦淫しようとした。その経緯などに照らせば、自らが捜査段階で供述した通り、『自己の性欲から強姦の強い範囲に基づいて姦淫行為に及ぼうとした』と優に認められる。第一審における「山下」の供述は、合理的な理由なく捜査段階から供述を変遷させるものであって信用できない」として、訴えを退けた[37]
    65. ^ 名古屋地検は冒頭陳述 (2008) で、「Aが「山下」に強姦されそうになったことで冷静さを失い、今にも逃走を図りそうになったと判断したため、(KTと堀はAの)殺害を決意した」と述べている[5]
    66. ^ この時、堀と「山下」はAの手足を押さえていた[151]
    67. ^ 2人の角度が180°にならず、うまく力が入らなかったため[152]。なお、堀は自著 (2019) で「(首にロープを掛け、両端を引っ張り合う行為が)かつて自身が碧南事件で被害者を殺害した際の記憶をフラッシュバックさせ、自分は激しい恐慌状態に陥った」と述べている[153]
    68. ^ ガムテープ[152](粘着テープ)を巻きつけた回数は、冒頭陳述によれば31周とされている[5]。大崎善生 (2016) では、「縦横合わせて23巻きにした上、頭からレジ袋を被せ、袋の口を塞ぐようにガムテープを8周巻いた」と述べている[152]
    69. ^ KTが脈を取り、Aの死亡を確認した[154]
    70. ^ その3列目の席は、「山下」の生活用品などが散乱していた[155]
    71. ^ まず6万円を3等分し、残る2,000円はガソリン代として「山下」が受け取った[157]
    72. ^ 「山下」は預金の引き出しのために変装の必要があったほか、KTと堀は返り血を著しく浴びていたため[157]
    73. ^ スコップを盗んだ時期について、堀 (2019) は「高速道路を下りてから、KTが『埋めるために使う道具が必要だ』と言ったので、通り道にあった資材置き場のようなところ(遺棄現場から車で10分ほど)で盗んだ」と述べている[158]
    74. ^ 遺棄現場付近には、道の駅おばあちゃん市・山岡(小里川ダムに隣接)がある[11]
    75. ^ 「山下」はトランクから遺体が降ろされた後、KTから「怪しまれるといけないから離れていろ」と言われ、遺棄現場を離れていったん道の駅[注 74]に向かったが、4時49分にKTもしくは堀から「終わったから迎えに来てくれ」との電話を受けて迎えに戻った[159]
    76. ^ 堀は遺体を遺棄した際、自分の指紋が手錠に付着していることを心配し、指紋を拭き取っていた[38]。一方、堀は自著 (2019) で、「KTはAの遺体を遺棄した後、数分間にわたり遺体に向かって手を合わせていた。KTはその間、自身なりに自身の行為を反省・後悔して、Aに詫びていたのだろう」と述べている[160]
    77. ^ この預金(検察官の上告趣意書によれば合計約890万円)は、Aが自分を女手一つで育ててくれた母親への感謝から、自分が家を買うことを決意し、母親に内緒で月20万円弱の手取り給与の中から、毎月10万円程度を貯金していたものだった[161]が、KTは銀行の取引明細書でその金額を知った際、「この金を資金にして覚醒剤を仕入れ、それを売買する組織を作ろう」と発言していた[162]。事件後、娘Aが貯金していた理由を知った母Bは、「娘の願い通りに使おう」と考え、事件発生時まで母子2人で30年間暮らしていた市営住宅から新築の分譲住宅に引っ越した[163]
    78. ^ 堀 (2019) は、「山下」は岡崎方面の道に詳しかったので、岐阜県の林道を抜けて岡崎方面に向かおうとした」と述べている[164]
    79. ^ 堀はKTや「山下」と別れた後、KTに対し「お疲れ様でしたm(_)m」という内容のメールを送信していた[38]ほか、事件後の「山下」の疲弊した様子から「自首するのではないか」と感じ、帰宅後にはKTに「「山下」は大丈夫か?」といったメールを送っていた[166]
    80. ^ 「有松ジャンボリー」は、名古屋市緑区南陵601番地にある大型ショッピングセンター(スーパーマーケット「フィール」などが入居している)[168]
    81. ^ a b c 「山下」は捜査段階で「自首しようか自殺しようか考えていた」と述べたほか[170]、自首した動機について、『中日新聞』宛の手紙で「死刑が怖かったわけではなく、善と悪の心の葛藤があり、(自首した時に)善の部分が出た」と[31]、公判では「『殺さないで』と言ったAの最後の言葉が頭から離れず、KTや堀の犯行後の発言にも腹が立っていたからだ」と供述した[171]。名古屋高裁 (2011) は、「山下」が自首した動機について「KTや堀に対する不満などの気持ちから『一蓮托生で警察に突き出そう』などという気持ちもあったが、反省悔悟の情もあったことや、自首が本件事案の改名に一定の寄与をしたことは否定できない」と判示している[37]
    82. ^ 県警は「山下」が知っていたKTの携帯電話番号から、KTの居宅を特定したほか、「山下」が事件前に何度も堀を迎えに行っていたため、堀の居宅も特定された[175]
    83. ^ この時、堀は既に身柄を確保されていた「山下」とメールで集合場所・犯行予定場所についてやり取りをしたが、「了解!」というメールを送っていた[176]
    84. ^ a b c d 近藤は2007年4月以降、名古屋地裁刑事第6部で部総括判事合議体の裁判長)を務めていた[183](2010年3月31日まで)[184]。裁判所ウェブサイト (2009) によれば、2008年12月1日時点では近藤と野口卓志・酒井孝之の各裁判官が「名古屋地方裁判所刑事第6部イ」合議係を担当していた[185]
    85. ^ 第7回手続[94](2008年7月31日)で初公判の期日が指定され[187]、最後の第8回手続[94](9月22日)で公判(全18回)の詳細な日程が決められた[188]
    86. ^ a b 例:名古屋市女子大生誘拐殺人事件[198]・日立女子中学生誘拐殺人事件[199]泰州くん誘拐殺人事件[200]など。
    87. ^ 例:東村山署警察官殺害事件(1976年)[201]北九州市病院長殺害事件(1979年)など[202]
    88. ^ これら以外の事例として、殺害された被害者数が1人でも、殺害行為の高度な計画性が重視されて死刑を適用された事例として、JT女性社員逆恨み殺人事件がある[203]
    89. ^ 司法研修所 (2012) によれば、調査対象になった事件のうち、無期懲役刑の仮釈放中に殺人および強盗殺人を再犯した10件(殺人5件+強盗殺人5件)はいずれも死刑が確定している[204]。殺人事件としては東京都北区幼女殺害事件(1979年)[205]・川口バラバラ殺人事件[206](1999年)など。強盗殺人事件では福岡県直方市強盗殺人事件(1980年)[207]福島女性飲食店経営者殺害事件(1990年)[205]福山市独居老婦人殺害事件(1992年)など[208]がある。
    90. ^ その他の事例では、わいせつ・姦淫目的の誘拐殺人3件(群馬女子高生誘拐殺人事件奈良小1女児殺害事件[209][210]三島女子短大生焼殺事件[211][210])などがある。
    91. ^ 同日、検察官は共謀時期について、公判前整理手続きでは行っていなかった主張(当日夜のレストランで共謀が成立したとする旨)を行ったが、弁護人および近藤裁判長から指摘を受け、撤回した[220]
    92. ^ KTの弁護人は「殺害方法は残虐だが、死に至らない被害者Aに恐怖感を覚えたためで、殺害は偶発的なものだ」と主張した[228]
    93. ^ 同日の被告人質問で、「山下」の弁護人は反省の言葉を引き出そうとしたが、「山下」は被害者への心境などについて「お気の毒。Aは運が悪かったから殺された」と[225]、反省の念について「申し訳ないことをしたという思いはあるが、遺族が納得できない謝罪は意味がない。死刑で構わないし、遺族に包丁で刺してもらってもいい」と発言した[171]
    94. ^ Cは2007年9月24日、情状証人として名古屋地検から事情聴取を受けた際、担当検事から「2960」のことを聞き出し、「『2960』は『憎むわ』という意味だろう」と話した[235]。名古屋地検はBに対し、公判までその意味を他言しないよう口止めしていた[236]
    95. ^ 第一審判決後の2009年5月以降に起訴された事件が裁判員制度の対象。
    96. ^ 名古屋地検は、Aの母Bと連絡を取る担当検事を配置し、裁判記録の意味・公判前整理手続(非公開)の進捗状況について説明した[238]。B本人は「証人尋問や意見陳述で、無念の気持ちなど、伝えたいことを言えた」と、Bの代理人弁護士も「論告はBの心情を十分に汲み取った内容で、(本人が)被害者参加制度で訴訟に参加した場合と同等の効果があっただろう」と回顧している[238]
    97. ^ 名古屋地検が遺族に提案して行ったもので、同地検の次席検事・飯倉立也はその意図について「写真を用いることで、被害者の耳珠等・人となりをできるだけ正確に明らかにする狙いだった」と説明した[239]。同時期に東京地裁で審理が行われた江東マンション神隠し殺人事件の公判でも、被害者の遺族から要望を受けた東京地検により、法廷のディスプレイに証拠(切断され、下水道に流された被害者の肉片・骨片の実物の写真)や、マネキンを用いた切断シーンの再現が映されたりした[239]
    98. ^ 名古屋地検は「模倣性の高さ」の根拠として、本事件に前後して闇サイトを通じて仲間を募った犯罪例や、通り魔による無差別犯罪が増加し、それぞれ社会的問題になっている点を挙げた[34]。後者(通り魔による無差別犯罪)の例として、2008年には土浦連続殺傷事件秋葉原通り魔事件が発生している。
    99. ^ 検察官は、本文で述たようにKTが被害者Aを愚弄する内容の手記を書いていたことのほか、堀が刑務所から出所できることを前提とした手記を書いていたことや、「山下」が法廷で「自首したことを後悔している」「謝罪の気持ちはない」などと発言した点を指摘した[34]
    100. ^ a b c 名古屋地裁 (2009) は、被告人の更生可能性についての判断を示さなかった[240]
    101. ^ 上告趣意書で、検察官は「身代金目的拐取・被拐取者殺害事案と本件とでは、被拐取者の安否に関する家族等第三者の憂慮に乗じてその第三者から財物を奪おうとするのか、被拐取者本人からそのキャッシュカードを利用して財物を奪おうとするかの違いこそあれ、家族等の憂慮あるいは本人の恐怖心につけ込んで、本人の手元にはない大金を得ようとし、その大金を得る又は得る目途が立つと、後は用済みとして、口封じのために被拐取者を殺害してしまうというもので、犯罪の冷酷さ、卑劣さにおいて、両者に隔たりはない。(中略)本件は、殺害された被害者が1名にとどまるとはいえ、十分に極刑に相当し得る事案である。」と述べている[242]
    102. ^ 検察官は、「本事件は過去の事例ではくくれないケース」として、最高裁で被告人への無期懲役判決が「被告人が犯行時、少年だったことを過大に評価した」として破棄された光市母子殺害事件の上告審判決を引用し、「殺害された被害者の数や犯行時の年齢など、『永山基準』で示された9項目の要素のうち、1つが際立って悪質とは言えない場合でも、犯行形態などを総合的に考慮し、死刑選択が妥当だ」と主張した[243]
    103. ^ 堀は「極刑を受け入れる覚悟はできている」、「山下」は「開き直ったような発言は売り言葉に買い言葉で、本心ではない」とそれぞれ述べた[244]
    104. ^ 名古屋地裁 (2009) は「インターネットを通じて形成された集団による犯罪は、素性を知らない者同士が互いに虚勢を張り[注 6]、悪知恵を出し合うことで、1人では行えなかった凶悪・巧妙な犯罪が実行可能となる危険性を持つが、本事件はそれがまさに現実化したものだ」と指摘した[250]
    105. ^ 名古屋地裁 (2009) は「(インターネットを通じて形成された犯罪集団は)匿名性が高く、仮に犯行後、集団が解消され、それぞれが連絡手段を絶ってしまえば、犯罪者を発見・逮捕することは著しく困難になると予想される」と指摘した[250]
    106. ^ a b 第一審で証人として出廷した愛知県警捜査一課の警部(事件の捜査を担当)は[252]、第5回公判(2008年11月5日)[94]における証人尋問で「仮に「山下」が自ら警察に通報しなくても、「山下」とともに窃盗未遂事件を起こした「杉浦」が既に逮捕されていたことなどから、3人が捜査線上に浮上し、検挙することは可能だった」と証言した[252]が、名古屋地裁 (2009) は、「「山下」の自首は、KTらに腹を立てたことが動機と言えるが、もし自首しなかった場合、捜査は相当難航し、次の犯行が行われた可能性が否定できない」と指摘した[250]
    107. ^ 読売新聞』 (2009) は社説で、「名古屋地裁は、3人の間に明確な上下関係が存在しない中、自首した1人(「山下」)のみを無期懲役、ほか2人を死刑とした。これは、「山下」の自首が事件解決につながったことを評価した結果だ。もしこれがなければ、結びつきの薄かった3人を警察が割り出すことは難しかっただろう」と指摘している[253]
    108. ^ ただし、「山下」の弁護人は「検察が控訴しなければ、(控訴は)取り下げる」と表明していた[254]
    109. ^ 毎日新聞』『朝日新聞』『日本経済新聞』は「死刑制度がある以上、大方が支持するものだろう」と、『東京新聞』は「被害者1人の事件では異例だが、手口や被害者の無念さ、遺族の悲嘆を思えばやむを得ない」と評価したほか、『産経新聞』は「社会常識に沿ったごく自然で当然の判断と評価できる。(5月から始まる裁判員制度を控え)裁判員にとって、多大な影響を及ぼす意義ある妥当な判決だろう」と評価した[259]。その上で、「永山基準」については産経が「最高裁は26年の前の基準を見直し、裁判員が納得できる明確な死刑基準を示す時だ」、毎日も「通り魔的犯行や児童虐待などが増加・横行する現在、従来の量刑基準は見直しを迫られている。社会を挙げて刑罰論議を深めるべきだ」と主張した一方、『読売新聞』は「死刑か無期懲役か、プロの裁判官も苦悩する判断」、日経は「明快な基準は事実上不可能であり、個別の事件と真剣に向き合って判断するしかない」と指摘した[259]
    110. ^ 控訴取り下げの理由について、KTは「殺したければ早く殺せ」という思いがあったことのほか、「インターネットや週刊誌などで、自身の交際相手を誹謗中傷する記事が掲載され、彼女が精神的につらい旨を訴えてきている。これ以上裁判を続けて彼女に迷惑を掛けられないと思った」などと述べている[261]
    111. ^ 最高裁第一小法廷(澤田竹治郎裁判長)は1949年(昭和24年)6月16日の判決[事件番号:昭和24年(れ)第857号 収録文献:刑集 第3巻7号1082頁]で、「被告人が控訴を取り下げた場合、弁護人の控訴も効力を失う」という判断を示している[263]。しかし、最高裁第二小法廷(大西勝也裁判長)は1995年(平成7年)6月28日付の決定で、第一審で死刑判決を受け控訴したものの、後に判決の衝撃や公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ、苦痛から逃れることを目的に控訴を取り下げた事例(藤沢市母娘ら5人殺害事件)について、「自己の権利を守る能力を著しく制限されていた状態での控訴取り下げは無効」とする判断を示している[264]
    112. ^ a b c 藏冨恒彦(2017年4月8日に59歳で死去)[268]は、愛知県弁護士会に所属していた弁護士[269]
    113. ^ a b c 福井秀剛は愛知県弁護士会所属の弁護士[270]
    114. ^ 同日、KTは本事件の控訴審における私選弁護人として、藏冨・福井の両名を選任する旨の「弁護人選任届」に署名押印した[266]
    115. ^ その訴えの根拠として、弁護人は「KTは控訴を取り下げた時点で、死刑判決後の拘禁反応などによる朦朧状態にあり、自己の権利を守る能力を欠いていた。また、『もし自分が控訴を取り下げても、弁護人がした控訴は存続し、判決は確定しない』という重大な錯誤に基づいて取り下げに至った」と訴えた[261]。しかし、名古屋高裁 (2010) は決定要旨で、「KTは取り下げ前から、自ら死刑を受け入れる旨を述べていたほか、取り下げの経緯の概要については記憶しているし、控訴取り下げに至った経緯・理由も短絡的とはいえ、一応了解可能なものだった。また、取り下げ後の精神鑑定の結果からみても、意識変容を伴う朦朧状態など、自己の権利を守る能力が著しく制限された状態ではなかった」と指摘し、訴えを退けた[261]
    116. ^ a b c 下山保男は2009年(平成21年)5月22日以降、定年退官(2012年6月5日)まで名古屋高裁部総括判事を務めていた[272]。裁判所ウェブサイト (2011) によれば、2010年4月1日時点では下山と高橋裕・柴田厚司・松井修の各裁判官が名古屋高裁の刑事第2部を担当していた[273]。このうち、高橋を除く3裁判官が本事件の審理を担当した[18]
    117. ^ また、同年11月15日付で異議申立理由補充書を提出した[275]
    118. ^ 平成22年(け)第16号[275]
    119. ^ 最高裁第三小法廷 (2011) は、弁護人2人(藏冨・福井)から提出された特別抗告申立書(2011年2月14日付)について、「具体的な抗告理由の記載がなく、抗告提起期間内に理由書の提出もないので、申立ては不適法である」とした[275]
    120. ^ 被告人の性格や、犯行に至る心理状況などを分析する鑑定[279]。2被告人との面会や公判記録などから、性格・行動傾向・生い立ち・事件状態の心理状態の変遷を分析したもの[283]
    121. ^ 「山下」については検察官の控訴理由に関する答弁も含む。
    122. ^ 「山下」については控訴理由も含む。
    123. ^ 検察官は控訴審で、「弁護側が実施した心理鑑定は、「山下」の『良心の呵責から自首した』という言葉を鵜呑みにしたに過ぎない」と指摘した[285]
    124. ^ 堀の弁護人は以下のように、名古屋地裁 (2009) の法令違反を主張した。
      1. 原判決は「堀の金槌による殴打は、(ア)KTが被害者Aの首を絞めた行為と、(イ)KTおよび堀がAの首を綿ロープで絞めた行為の間に行われた」と認定したことが、原審では検察官も被告人らも、「殴打は(ア)および(イ)の行為の後に行われた」という主張をしていたにも拘らず、名古屋地裁 (2009) は当事者に何ら注意喚起せず、当事者の主張と異なる認定をした。よって、原審の訴訟手続きには釈明義務違反の違法(判決に影響をおよぼす)がある[287]
      2. KTおよび「山下」それぞれの検察官調書のうち、原審公判供述との相反部分について、刑事訴訟法第321条1項2号後段の特信性の要件を満たさないのに、原判決はその要件があるとして証拠採用し、事実認定に用いた(この訴訟手続きには、判決に影響をおよぼすことが明らかな法令違反がある)[287]
      しかし、名古屋高裁 (2011) は以下のように指摘し、論旨をいずれも退けた。
      1. 原審で、(ア)(イ)のいずれも、各当事者が殺害行為の順序について主張の立証に立証を尽くした以上、裁判所が、当事者の主張を踏まえて証拠を検討した結果、殺害行為の順序について当事者の主張とは異なる事実認定をしたからといって、そのことが不意打ちとは言えず、訴訟手続きに法令違反はない[287]
      2. KTや「山下」の検察官調書は、いずれも事件直後の記憶が鮮明な時期の供述で、その内容も詳細かつ理路整然としているが、公判段階における供述にはいずれも重要部分などに矛盾点がみられる[287]
    125. ^ a b 原判決が(1)KTがAの首を絞める(2)堀がAの側頭部を金槌で3回殴打する(3)堀が頸部に綿ロープを巻き付け、KTとともに引っ張り合ったと認定した点について、堀は「(2)は(3)の後に行われた」と主張[99]。しかし、名古屋高裁 (2011) は「(KTを含め)3人とも、捜査段階・原審公判でいずれも原判決と認定に沿う供述(特段不自然不合理な点はない)をしているが、それらを裏付ける客観的証拠はない。KTが行っていない金槌による殴打行為がされた時期について、記憶違いをしている可能性は否定できないが、(2)と(3)の先後関係が各被告人の刑事責任に差異を生じさせるとはいえず、この誤りは判決に影響しない」と判示し、堀の論旨を退けた[99]
    126. ^ a b 堀は第一審判決後に遺族宛に謝罪の手紙(控訴審で証拠採用)を書いたが、受け取りを拒否されていた[288]。謝罪の手紙を書こうとしたのは3人の中で唯一だったが、控訴審判決後には一転して遺族への連絡は途絶えた[24]
    127. ^ 名古屋高裁 (2011) は、「原判決の判断に沿うKTや「山下」の供述は、不利益な事実を認める内容にも拘らず相互に一致しており、2人ともその点について捜査・原審公判を通じて一貫している。実際に堀も殺害行為に加わっていることに照らせば、堀の主張は信用できない」と判示した[99]
    128. ^ 名古屋高裁 (2011) は、「堀がKTや「山下」とともに車内にいる中、KTから意思確認の目的で『最後は殺しちゃう』と問いかけられ、それに対し堀が『やりましょう』あるいは『そのとおりやる気でいます』と答えて承諾の意を伝えており、「山下」もそのやり取りを明確に記憶していること、その後の堀の行動などに照らせば、会話の内容を認識していなかった疑いは認められない」と判示した[99]
    129. ^ 控訴審判決公判は当初、2011年3月25日に予定されていたが、同月10日になって延期が発表された[289]
    130. ^ そのため、「山下」側の「自首の点を評価し、有期懲役にすることが相当」という主張を退けた[37]
    131. ^ 宇田幸生(犯罪被害者支援弁護士フォーラム会員・愛知県弁護士会[291]は、「犯行は(預金の引き出しに失敗するなど)さほど巧妙ではなく、被害者が簡単に絶命しなかったため、殺害の手段を次々に変えた結果、殺害態様が残虐になった」として死刑を回避した名古屋高裁 (2011) の控訴審判決について、「被害者Aが預金を必死に守ろうと、虚偽の暗証番号を告げたことで犯行は失敗に終わった。そして、Aは最後まで生きることを諦めなかったため、凄惨な方法で殺害された」[292]「第一審判決が指摘した(インターネットを通じた犯行グループによる)犯罪の特殊性を重視しないならば、自首による犯罪発覚の効果もそこまで重視すべきではないとの考えもできるが、控訴審判決はその点について言及しなかった」と指摘した[293]上で、「名古屋高裁は『被害者数が1名の場合には死刑を回避する』という結論ありきで判決を宣告したのではないか?」と評価している[294]
    132. ^ 前田雅英首都大学東京法科大学院教授)は「本件で問題になった『闇サイトの悪用』は、実際の犯罪行為から判断すれば、罪を重くすべき決定的な要素ではなく、『痕跡が残るため、発見は困難ではない』とした名古屋高裁の判断に一定の合理性がある。殺害された人数などから、死刑とするには特段の事情が必要な事件で、控訴審判決は従来の死刑選択基準にかなったものだ」と評価した[295]一方、土本武司(元最高検察庁検事)は「全体として悪質性を強調すべき事件の特色を過小評価し、『永山基準」に引きずられる形で極刑を回避した感が否めない。名古屋高裁が死刑回避の情状として挙げた『堀の更生可能性』『『山下」の犯行後の自首』は過大評価すべきでない」と指摘した[296]。また、井口文彦(『産経新聞』編集長)は、名古屋高裁が「動機に酌量の余地はなく、(犯行は)残虐で無慈悲」と指摘しながら、「被害者が1人の事件で、死刑がやむを得ないと言えるほど悪質とは断じ難い」として、堀の死刑判決を破棄した(および、最高裁が「死刑にすべき特段の事情はない」としてその判断を是認した)ことについて、「被害者1人事件への死刑適用を回避するための言い訳としか思えない」「最高裁が言う『特段の事情』とは何なのか」と指摘した上で、「最高裁は、残虐で冷酷な犯行の中身より、『被害者が1人』との理由を優先して死刑を回避する司法の官僚主義が、市井から不信感を呼んでいることを認識すべきだ。被害者の数で死刑(適用の可否)を考える人数主義は、裁判員制度の精神と相容れない」と述べている[297]
    133. ^ 上告趣意書提出は2011年9月22日、答弁書提出は2012年3月15日[94]
    134. ^ 2006年(平成18年)6月20日・最高裁第三小法廷判決[302]。同判決は、「犯行自体に関連する量刑要素を評価した上で、特に酌量すべき事情がない限りは死刑を選択するほかない」と判示したもの[303]で、検察官は闇サイト事件における堀の控訴審判決に対する上告趣意書で「堀に無期懲役を言い渡した控訴審判決は、結果の重大さ・悲惨さや、動機に酌むべき余地がない点、犯行が計画的である点、遺族の処罰感情の強さ、社会的影響の大きさなどの諸情状を軽視し、殺害された被害者が1人であることを過大に評価している」と指摘した[304]
    135. ^ 堀は碧南事件などの被告人として、2015年(平成27年)12月15日に名古屋地裁刑事第4部(景山太郎裁判長)[309]で死刑を宣告された[310]。同判決を不服として控訴した[311]が、2016年(平成28年)11月8日には名古屋高裁刑事第1部[312](山口裕之裁判長)で控訴棄却の判決を言い渡された[313]。その後、2019年7月19日に最高裁第二小法廷(山本庸幸裁判長)で上告棄却の判決を受け[314][29]、同判決に対する訂正申立も、同小法廷による同年8月7日付の決定で棄却された[315][316]
    136. ^ 『中日新聞』 (2007) は社説で、「加害者3人(当時30 - 40歳代)と同じ世代には、思うような就職先が見つからず、派遣など不安定な非正規雇用を転々とした者が少なくない。3人の犯行は弁護の余地のない悪質なものだが、その背景には、努力しても不利な待遇から抜け出せず、格差が広がる(生活基盤が崩れ、将来を絶望した者による犯罪の続発が懸念される)日本の現状を指摘する識者もいる」と指摘した[43]
    137. ^ 朝日新聞名古屋本社販売部は、取引先である新聞販売所からセールス業務を委託されていた会社に勤務していたKTが本事件に関与したことを受け、「改めて関係先に人事管理の徹底などを求めていく」とするコメントを出した[319]
    138. ^ 成人後も持病(群発頭痛)のため、職が長続きしなかった[320]
    139. ^ このころ、KTは家族に対し「自動車関係の仕事をしている」と説明していた[322]
    140. ^ KTは、堀や「山下」と出会った「闇の職安」について、「風俗関係の知人女性を希望者に紹介したり、事件の5年前から小遣い稼ぎに利用していた」と述べている[222]
    141. ^ 入社のきっかけは「求人誌を読んだこと」[130]あるいは「携帯電話の求人サイトを見たこと」とされる[323]
    142. ^ KTは仕事を休みがちだった[323][321]
    143. ^ 月給は出来高払い(約100,000円)で、約40,000円の寮費が天引きされていた[323]
    144. ^ 2007年1月、Kは勤務先の社長に対し「父が亡くなった」と話したが、実際には父親(事件当時71歳)は群馬県内で存命していた[323]
    145. ^ 「地元の高校を卒業した後、職を転々とし、1997年(平成9年)から9年間、東京都内の人材派遣会社に在籍した」と記載していたが、実際にその会社に在籍していたのは2006年4月から3か月間のみだった[323]
    146. ^ 名古屋地裁 (2013) は「裁判を続けたいと望む死刑囚には、弁護人と単独で面会する法的権利がある。1回はKTの精神状態が不安定で、職員の同席が必要だったが、24回は違法と認定できる」と判示した[325]
    147. ^ 長門栄吉は2011年(平成23年)8月13日以降、定年退官(2014年5月30日)まで名古屋高裁部総括判事を務めていた[330]。裁判所ウェブサイト (2014) によれば、2010年4月1日時点では長門と山崎秀尚・眞鍋美穂子・片山博仁の各裁判官が名古屋高裁の民事第3部を担当していた[331]
    148. ^ 賠償総額は第一審と同様だが、KTへの支払額を増やすなど、配分のみを変更[332]
    149. ^ 2011年12月時点で新たな死刑確定者にも同様のアンケートを送付している[333]
    150. ^ フォーラム90 (2012) によれば、KTは2011年3月に再審請求した[336]とされるが、『中日新聞』 (2015) では「最近、再審請求の検討を始めていた」と報道されている[337]
    151. ^ この死刑執行は、上川法務大臣にとって初の死刑執行命令だった[265]。上川は後に、市川一家4人殺害事件(1992年発生)の死刑囚(事件当時19歳)を含む再審請求中の死刑囚2人や[339]オウム真理教事件で死刑が確定した教団元教祖の麻原彰晃ら、計15人(うち13人は麻原以下、オウム事件の死刑囚)の死刑執行を命じた[340]。上川が(麻原らオウム事件の死刑囚13人の死刑執行を命令した)2018年7月までに、自身の在任中に死刑執行を担当した死刑囚の人数(計16人)は、1989年(平成元年)11月から一時中断していた死刑執行が再開された1993年(平成5年)3月以降および[341]、法務省が死刑執行に関する情報公開を行うようになった1998年(平成10年)10月以降では、1人の法務大臣として最多となっている[342]
    152. ^ 死亡確認は8時37分(死刑執行から12分後)[338]。その後、同日9時30分に名古屋拘置所から元弁護人の福井に連絡がなされ、遺品・遺骨などは全て福井に引き渡された(遺体は翌26日14時30分に火葬)[338]
    153. ^ 村上は後に、碧南事件の第一審で堀の弁護人(主任弁護人:神谷武文)を務めている[309]
    154. ^ 逮捕直前は「愛知県小牧市在住」と自称したほか[10]、逮捕直後には「本籍地は愛知県津島市」と報道されていた[4]
    155. ^ 事件について取材した立花江里香宛ての手紙が書かれた日付[346]
    156. ^ 「山下」は公判中、名古屋拘置所に拘置されていた[347]が、2011年6月1日(無期懲役刑確定後)に拘置所から名古屋刑務所へ移送され、同年8月8日にはさらに別の刑務所(2017年時点で服役中の刑務所/所在地は不明)へ移送された[348]
    157. ^ 『読売新聞』『朝日新聞』では「高校中退」[322][323]、『毎日新聞』では「高校卒業」と報道されている[345]
    158. ^ 2000年末から4か月ほど、豊明市内の[323]運送会社に勤めていたが、その際に「実家の父が病気」と言い[322]、毎月4 - 5万円を[323]会社から借金[322]。約30万円を返済しないまま[323]、行方をくらました[322]
    159. ^ 実際には高校を中退していたにも拘らず「卒業」と書いていたり、勤務年数を偽ったりなど[322]
    160. ^ 人材派遣会社を通じて就職した[350]。同社の社長は『毎日新聞』の取材に対し、当時の「山下」について、「当時の月給は約30万円だったが、ローンを抱えて生活は苦しく、身なりも綺麗ではなかった」と証言した[345]
    161. ^ この時、会社を通じて購入した車の借金を踏み倒した上、会社から支給された携帯電話を持ち去った[345]。また同年、瀬戸市などによって再び部屋を差し押さえられた[350]
    162. ^ また、翌19日には『中日新聞』記者との面会でも「KTと同じ判決だったら控訴するつもりだったが、自首が認められ、助かった」と述べている[353]
    163. ^ 名古屋土木事務所は、同校周囲の街灯3基を光量の多いものに取り換えることを決め[355]、追加の街灯・防犯カメラも設置された[356]。また、現場付近にある名古屋商業高校は、校庭の照明(通常は20時で消灯)を翌朝まで点灯するよう変更した[355]
    164. ^ それまでは月1回だったものを、8月26日 - 9月2日まで毎晩実施したほか、その後も週2回に増やした[355]が、事件の記憶の風化により、2017年8月時点では事件前と同じ月1回に減少している[356]
    165. ^ 今池駅池下駅覚王山駅本山駅東山公園駅星ヶ丘駅茶屋ヶ坂駅自由ヶ丘駅名古屋大学駅吹上駅[357]
    166. ^ 一方、匿名の投稿者らによる中傷コメントや、事件を揶揄するコメントも投稿されたが、それらのコメントは削除された[358]
    167. ^ それ以前は各都道府県やボランティア団体の一部によってパトロールが実施されていたが、警察は捜査中心でパトロールに充てられる人員が不足していたほか、ボランティアも有料サイトの閲覧ができないデメリットがあった[360]。そのため、監視業務を1つの民間団体・法人に委託し、有料サイトにも登録するなどして、積極的な情報収集に乗り出すことにした[360]
    168. ^ これは、マスコミからの取材に追われたBが、警察に「マスコミが付きまとわないようにしてもらえないか」と相談したところ、警察から「お母さんのコメントを貰うまでは難しいでしょう。文章にして私に渡してくれれば、私の方からマスコミに渡します」と提案されたことに応じて書いたものだった[361]
    169. ^ 署名数は2008年12月18日に30万人(当初目標)に到達[39]
    170. ^ Aの元交際相手である男性Cや、Bの姉(Aの伯母)であるDも署名活動に積極的に協力した[365]。署名活動に対しては「人殺しを募るなんて」という批判もあったが[366]、街頭での署名活動の際に激励の言葉を掛けられたり[367]、郵送で送られてきた署名用紙に「お母さんは1人じゃない」「私が裁判員なら死刑を主張する」などの言葉が綴られていた[368]。また、『読売新聞』社会部 (2009) は「署名に添えられた手紙の多くには、ネットを通じて形成された犯罪者集団が見ず知らずの市民を殺害したことに対する、切迫した不安感が滲んでいた」と述べている[369]
    171. ^ Bは「(遺族として取材に応じることに抵抗はあったが)自分が表に出ることで、娘のことを覚えていてもらえる」と考え、マスコミからの取材に積極的に応じてきた[371]
    172. ^ Dは初めて街頭で署名活動を行った9月27日、(ホームページに送られてきたメールの処理のために来れなかった)Bに対し、「(同日に署名に賛同した人々のうち)約半分は事件を知っていたが、もう半分はこの署名活動を通じて初めて事件を知った」と話している[367]
    173. ^ 事件からちょうど5年の日[374]
    174. ^ 署名は日本国内だけでなく、アメリカスイスニュージーランドといった海外から郵送されたものもあった[375]。また地下鉄サリン事件オウム真理教事件)の実行犯である広瀬健一教団元幹部 / 2009年に死刑確定・2018年に死刑執行)の弁護人を務めていた弁護士の田瀬英敏(第二東京弁護士会所属)も、自身の弁護士事務所の職員全員とともに署名を行ったが、田瀬はその理由について「広瀬は教祖(松本智津夫)によるマインドコントロール下で犯行におよんでおり、一貫して罪を悔いているため、死刑は重すぎると思ったが、本事件の加害者は誰から指示されたわけでもなく凶悪な犯行におよんだ。死刑が言い渡されなければ、女性が夜道を歩くことが命賭けになってしまう」と述べている[376]
    175. ^ 公判の早期開始や、インターネット上の有害サイトの法規制、(凶悪犯罪に対し厳罰を下すことで犯罪の抑止力を発揮するための)法改正・法整備を求める手紙(2008年3月3日付)[191]。その後、鳩山は同月6日付でBに対し「『凶悪犯罪に対する厳罰が犯罪の抑止力になる』という考えは同感だ。インターネットを使った犯罪など、新しい類型の犯罪を考える必要もある」という趣旨の返信を送っている[378]
    176. ^ 「NPO法人 犯罪被害当事者ネットワーク 緒あしす」(2000年9月に、東海地方で初めての犯罪被害者自助グループとして設立)[382]
    177. ^ Bは2012年3月に「宙の会」へ入会し、同年以降は愛知豊明母子4人殺人放火事件(2004年9月9日に愛知県豊明市で発生・未解決)の被害者遺族とともに[383]、同事件の発生日に情報提供を呼びかけるビラを配布する活動を行っている[40]
    178. ^ 自助グループのメンバーの1人として、大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件(1994年)の被害者遺族(「長良川事件」被害者の父親」)がいる[296]
    179. ^ 2017年8月時点で、全国各地で60回以上の講演活動を行ったほか、「事件を若い人にも知ってほしい」とインターネット上での討論会にも参加した[384]
    180. ^ 同宣言で、日弁連は死刑制度の代替として終身刑を提案しているが、Bは「被害者遺族も払っている税金を使って加害者を生かす制度(死刑制度に代わる終身刑)は必要ない」と述べている[386]
    181. ^ 堀は自著 (2019) で、本事件で逮捕された際に碧南事件などの余罪を自供しなかった理由を「余罪について追及されなかったから」と述べている[394]ほか、碧南事件の公判では「(自分の)子供が離れていくのが怖かった」と述べている[395]。Bは堀が碧南事件などで再逮捕・起訴されたことに関し、「本当に反省していたなら、碧南事件についても自供していたはずだ」と指摘している[396]
    182. ^ 同事件では、拉致を主導したとされる男(事件後に自殺)が、被疑者死亡のまま殺人・死体遺棄・営利目的略取・逮捕監禁の各容疑で書類送検された[400](後に不起訴処分[401]。また、共犯の男2人も殺人容疑については不起訴処分となり[402]、1人(営利略取罪・逮捕監禁罪で起訴)は懲役4年の刑が確定[403]。もう1人は営利目的略取・逮捕監禁・詐欺・死体遺棄の罪に問われ[404]、懲役7年の刑を言い渡されている[405]
    183. ^ Bは当初、大崎からの取材を断っていたが、その後は全面的に協力するようになった[407]
    184. ^ 大崎は2017年に「取材のきっかけは、事件当時にAの顔写真を見て『こんな普通の子が…』と思ったことだ。母1人子1人の生い立ちなどを知って引き込まれていった。地域は徐々に日常を取り戻しつつあるが、同様の事件はいつでも起こり得る。被害者の『命の闘い』を忘れてはならない」[408]「事件ものとしてではなく、母娘の物語として描いた。静かに家族のことを書く方が、事件がより鮮明になるのではないかという気がした」と述べている[409]
    185. ^ ドキュメンタリーチームは2006年から司法関連のドキュメンタリー番組を相次いで制作しており、本作はその第5弾[411]。『裁判長のお弁当』(2007年)がギャラクシー大賞を受賞[411]。また、2006年には名張毒ぶどう酒事件を題材とした『「重い扉」~名張毒ぶどう酒事件の45年~』(第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品)が[412]、2008年には同じく名張事件を題材にした『黒と白~自白・名張毒ぶどう酒事件の闇~』や、光市母子殺害事件の弁護団に焦点を当てた『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』(2008年)が制作され、ともに「日本民間放送連盟賞」(中部・北陸地区審査会)の1位を受賞している[413]
    186. ^ 名古屋保険金殺人事件(1983年)の被害者の兄および、大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件(1994年・「長良川事件」)の被害者の父親[414]

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    参考文献

    本事件における刑事裁判の判決文・決定

    • 控訴審判決 - 名古屋高等裁判所刑事第2部判決 2011年平成23年)4月12日 『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25670946、平成21年(う)第219号、『営利略取逮捕監禁強盗殺人死体遺棄窃盗未遂強盗強姦未遂建造物侵入各被告事件』、“インターネットの掲示板を利用して集まった被告人らが、帰宅途中の被害女性を自動車内に押し込んで逮捕監禁し、暴行を加えて現金及びキャッシュカードを強取し、脅迫してキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後、同女を殺害してその死体を遺棄するなどした営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、強盗強姦未遂の事案において、殺害された被害者が1名である本件において、死刑の選択がやむを得ないと言えるほど他の量刑要素が悪質であるとは断じがたいことなどから、被告人A(堀慶末)を死刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、他方で、被告人B(「山下」)を無期懲役に処した原判決の量刑は結論において相当であるとして、原判決中、被告人Aに関する部分を破棄し、被告人Aを無期懲役に処した事例。 (TKC)”。
      • 裁判官下山保男裁判長)・柴田厚司松井修
      • 被告人
        • 堀慶末 - 営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂(求刑および原判決の量刑死刑
        • 「山下」 - 同上および強盗強姦未遂、建造物侵入(求刑:死刑/原判決の量刑:無期懲役
      • 判決主文の要旨:原判決(名古屋地裁:2009年3月18日)のうち、堀に関する部分を破棄(自判)。堀を無期懲役に処し、原審における未決勾留日数370日を刑期に算入。被告人「山下」と検察官の控訴をいずれも棄却
      • 検察官
        • 名古屋地方検察庁検察官:玉岡尚志 - 被告人「山下」に対し控訴し、控訴趣意書を作成
        • 名古屋高等検察庁検察官:白井玲子・工藤恭裕 - 両被告人の控訴趣意書に対する答弁書を記載・提出、被告人「山下」に対する控訴趣意書を提出
      • 被告人の弁護人
        • 堀の弁護人:長谷川龍伸(主任弁護人)・夏目武志・稲垣高志 - 控訴趣意書を連名作成
        • 「山下」の弁護人:成田龍一(主任弁護人)・金井正成・磯貝隆博 - 控訴趣意書を連名作成、および検察官の控訴趣意書に対する答弁書を連名作成
    • 堀慶末(検察官が上告)の上告審決定 - 最高裁判所第二小法廷決定 2012年(平成24年)7月11日 集刑 第308号91頁、平成23年(あ)第844号、『営利略取、逮捕監禁、強盗殺人、死体遺棄、窃盗未遂被告事件』「被害者1名の強盗殺人等の事案につき無期懲役の量刑が維持された事例(名古屋闇サイト殺人事件)」。
      • 決定主文:本件上告を棄却する。
      • 最高裁判所裁判官千葉勝美(裁判長)・竹内行夫須藤正彦
      • 収録文献 - 「平成24年7月11日決定 平成23年(あ)第844号」『最高裁判所裁判集 刑事』第308号、最高裁判所、2012年、91-127頁。 :『最高裁判所裁判集 刑事』(集刑)2012年5月 - 10月号。検察官の上告趣意書が収録されている。

    死刑囚KTの控訴審公判期日申立て事件(控訴取下げに対する異議申し立て)

    • 名古屋高等裁判所刑事第2部決定 2010年(平成22年)9月9日 『高等裁判所刑事裁判速報集』(平成22年)号123頁、『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット) 文献番号:25501106、事件番号は不明(TKCには未記載)、『控訴審における公判期日指定申立て事件』、“死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効であることを理由にしてなされた公判期日指定の申立てに対し、被告人の行った控訴取下げを有効と認めて決定で控訴終了宣言がなされた事例。”。
      • 決定主文:本件控訴は、平成21年4月13日取下げにより終了したものである。
      • 申立人:死刑囚KTの弁護人

    死刑囚KTおよび弁護人による国家賠償請求訴訟

    • 名古屋地方裁判所民事第3部判決 2013年(平成25年)2月19日 裁判所ウェブサイト掲載判例、平成21年(ワ)第4801号・平成22年(ワ)第7629号、『損害賠償請求事件』「1 刑事事件の第一審で死刑判決を受け,控訴した後にこれを取り下げ,当該取下げの無効を主張する者(以下「控訴の取下げの効力を争う死刑確定者」という。)と弁護人との面会に際し,拘置所長が立会いなしの面会を認めなかった措置について,刑訴法440条の趣旨に照らせば,控訴の取下げの効力を争う死刑確定者にも,弁護人選任権が保障され,弁護人と立会人なくして面会する法的利益が認められるとして,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。 2 上記1の措置の違法を主張する国家賠償請求訴訟のための訴訟代理人弁護士との立会いなしの面会を認めなかった拘置所長の措置について,裁量権を逸脱濫用した違法があるとした事例。」。
      • 判決内容:原告の請求(賠償金:2,700万円)のうち、計145万2,000円の支払いを命じる
      • 裁判官:德永幸藏(裁判長)・光野哲治・荻野文則
      • 原告:死刑囚KTおよび藏冨恒彦・福井秀剛(死刑囚KTの第一審における国選弁護人)
      • 被告:日本国

    碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件における堀慶末への判決文・決定文

    • 第一審判決 - 名古屋地方裁判所刑事第4部判決 2015年(平成27年)12月15日 裁判所ウェブサイト掲載判例、『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28240367、平成24年(わ)第1701号・平成25年(わ)第156号、『住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件』「被告人が、共犯者2名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して夫婦を殺害した住居侵入、強盗殺人と、その8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入、強盗殺人未遂の事案につき、死刑に処した事例」。
      • 判決主文:被告人を死刑に処する。(求刑:同/被告人側控訴)
      • 裁判官景山太郎(裁判長)・小野寺健太・石井美帆
      • 被告人:堀慶末(本事件の無期懲役刑で受刑中)
      • 検察官・弁護人
    • 控訴審判決 - 名古屋高等裁判所刑事第1部判決 2016年(平成28年)11月8日 『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28244446、平成28年(う)第44号、『住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件』「被告人が、共犯者2名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して夫婦を殺害した住居侵入、強盗殺人と、その8年後に同共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的で民家に侵入して1名を殺害しようとした住居侵入、強盗殺人未遂の事案につき、被告人を死刑とした原判決が維持され、控訴が棄却された事例。 (D1-Law.com)」。
      • 判決主文:本件控訴を棄却する。(死刑とした第一審判決を支持/被告人側は上告)
      • 裁判官:山口裕之(裁判長)・田邊三保子・出口博章
      • 被告人:堀慶末
    • 上告審判決 - 最高裁判所第二小法廷判決 2019年令和元年)7月19日 集刑 第326号193頁、『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28273496、平成28年(あ)第1889号、『住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件』「死刑の量刑が維持された事例(愛知の夫婦強盗殺人等事件)」。
    • 上告審判決に対する訂正申立の棄却決定 - 最高裁判所第二小法廷決定 2019年(令和元年)8月7日 『D1-Law.com』(第一法規法情報総合データベース)判例体系 判例ID:28273501、令和1年(み)第5号、『住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件』。
      • 決定主文:本件申立(判決訂正の申立)を棄却する。
      • 最高裁判所裁判官:山本庸幸(裁判長)・菅野博之・三浦守・草野耕一

    書籍

    雑誌

    関連項目

    永山基準」が示された1983年以降、殺害された被害者数が1人だったが、最高裁で死刑判決が確定した事件

    ※(発生年 / 死刑確定年)と表記。無期懲役刑に処された前科があるもの、身代金誘拐保険金殺人は含まない。いずれも第一審判決は無期懲役だった(控訴審で死刑に)。

    • JT女性社員逆恨み殺人事件(1997年 / 2004年) - 殺人前科あり(懲役10年)。同事件で懲役刑を受けて出所後、強姦した女性を恐喝したことで被害届を出されて逮捕され、再び服役。しかし、警察に通報した被害者側の対応を逆恨みし、お礼参りにおよんだ(高度な計画性に基づく犯行)。
    • 名古屋市中区栄スナックバー経営者殺害事件(2002年 / 2007年) - 殺人前科あり(懲役15年)。前科は単純殺人ではあるが、死刑に処された強盗殺人事件と経緯・手口が酷似した犯行だった。
    • 三島女子短大生焼殺事件(2002年 / 2008年) - 殺人前科・利欲目的・高度な計画性のいずれもないが、被害者を強姦した上で、口封じのために残虐な方法で殺害した。その残虐性や、「覚醒剤を打つために邪魔になった」という身勝手な殺害動機、被告人に少年時代から強盗致傷・覚醒剤取締法違反など複数の前科がある点が重視された。
    • 横浜中華料理店主射殺事件(2004年 / 2011年) - 殺人前科はないが、強盗致傷2回を含め10回以上の前科があった。また強盗殺人1件以外にも被害者に回復不能かつ重篤な後遺症を負わせた強盗殺人未遂・現住建造物等放火未遂の余罪がある点、服役中から犯罪計画を練っていた(=計画性が高い)点、銃を使用した犯行である点が重視された。

    死刑判決を受けた被告人が控訴を自ら取り下げたため、弁護人が控訴取下げの無効を主張して裁判所に異議を申し立てた事件

    • 藤沢市母娘ら5人殺害事件警察庁広域重要指定112号事件) - 1995年(平成7年)に最高裁が、弁護人による控訴取り下げへの異議申し立てを認め、控訴審の公判が再開された事例。しかし、死刑判決は控訴審・上告審でも支持されて確定し、死刑執行(2007年)に至った。
    • ピアノ騒音殺人事件 - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑は未だに執行されていない。
    • マブチモーター社長宅殺人放火事件(警察庁広域重要指定124号事件) - 控訴取り下げへの異議申し立ては退けられたが、死刑囚は刑を執行されることなく病死した。
    • 奈良小1女児殺害事件 - 本事件と同じく、控訴取り下げへの異議申し立ては退けられ、後に死刑囚の刑が執行された。
    • 寝屋川市中1男女殺害事件 - 藤沢事件と同じく、大阪高裁がいったんは控訴取り下げを無効とする決定を出したが、検察官が異議を申し立てたところ、原決定は取り消された。

    外部リンク