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アレース

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アルキッペーから転送)
アレース
Ἄρης
戦いの神
紀元前約320年のギリシアの原物を摸したローマのルドビシのアレス英語版。紀元17世紀にはベルニーニによる修復が加えられている。
ローマ国立博物館所蔵。
信仰の中心地 トラーキア
住処 オリュムポス
武器 槍, 楯
シンボル オオカミ, イノシシ, 啄木鳥, 雄鶏, トネリコ
配偶神 アプロディーテー(恋人)
ゼウス, ヘーラー
兄弟 アテーナー, アポローン, アルテミス, ヘーパイストス, ヘルメース, ディオニューソス, エイレイテュイア, ヘーベー
子供 エロース, ポボス, デイモス, ハルモニアー, アンテロース
ローマ神話 マールス
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アレースもしくはアーレースΑΡΗΣArēsἌρης, Ārēs)は、ギリシア神話に登場するで、戦を司る[1]ゼウスヘーラーの息子[2][3][4][5][1]オリュンポス十二神の一柱[1]。アイオリス方言ではアレウスもしくはアーレウスἌρευςAreus)とも。日本語では長母音を省略してアレスとも呼ばれる[1]ローマ神話マールスと同一視され、火星とも結びつけられた[6]

聖獣はオオカミイノシシで聖鳥は啄木鳥雄鶏。聖樹はトネリコ

本来は戦闘時の狂乱を神格化したもので、恩恵をもたらす神というより荒ぶる神として畏怖された[7]。戦争における栄誉や計略を表すアテーナーに対して、戦場での狂乱と破壊の側面を表す[7]

概要

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戦いの神でありながら人間であるディオメーデースに敗北したほか(アテーナーがディオメーデースの支援をしていたが)、英雄ヘーラクレースからは半死半生の目に遭わされている[8]。また、巨人の兄弟アローアダイ(オートスとエピアルテース)により青銅の壺の中に13か月間幽閉されるなど、神話ではいいエピソードがない[1]。これはアレースの好戦的な神格がギリシア人にとって不評だったこと、主にギリシアにとって蛮地であるトラーキアで崇拝されていたことによる[7]

基本的に神々の中では嫌われているが、愛人のアプロディーテーや従者と子供達、そして彼が引き起こした戦争が冥界の住人を増やすことから、冥界の王・ハーデースとは交友がある。

戦場では普段は徒歩だが、場合によっては黄金の額帯を付けた足の速い4頭の神馬に戦車を引かせ、青銅の鎧を着込んで両手に巨大な槍を持ち、戦場を駆け巡った[7]

トロイア戦争では、地面に倒れた際にその体は7エーカーもの土地を覆ったとされる[7]

係累

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ヘーパイストスの妻であるアプロディーテーを恋人とし、ポボス(フォボス、敗走)とデイモス(恐慌)の兄弟、娘ハルモニアー(調和)の父となった[1]エロースをアレースとアプロディーテーの子に加える説もあるが、これは元々関係のなかったアプロディーテーとエロースを関連付けるために作られたものである[1]。他にも、アマゾーンをはじめとする多くの蛮族の父である[1]

また、エリスエニューオーも彼の従者であり一般的には妹とされているが[1]、姉や妻とされることも多く、また特にエニューオーは母や娘とされていることもある。

神話

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ポセイドーンの息子の1人・ハリロティオスがアレースの娘アルキッペーを犯し、激怒したアレースはハリロティオスを撲殺した[1]ポセイドーンは激怒し、アレースを神々の裁判にかけることを主張し、それを認められた[1]。こうしてアレースの丘で世界初の裁判が開かれることになった[1]。アレースは情状酌量の余地があるとして無罪となり、これ以降重大事件の裁判がアレースの丘で行われるようになった[7]

コリントスシーシュポスはゼウスの怒りを買い、死神タナトスによって冥界へ連行されようとしていたが、シーシュポスはタナトスを騙して監禁し、地上の人間が死ななくなったため、アレースは彼を救い出した[9]

怪物テューポーンがゼウスの王権を奪おうと攻撃し、神々は変身してエジプトへ逃げた時、アポローンは鷹に、ヘルメースはコウノトリに、アレースは魚に、アルテミスは猫に、ディオニューソスは山羊に、ヘーラクレースは子鹿に、ヘーパイストスは雄牛に、レートーはトガリネズミに変身した[10]

アレースとピュレーネー[11](またはペロピアー[12])の息子キュクノスをヘーラクレースが殺した際、アレースが息子の死を怒りヘーラクレースと闘おうとしたが、ゼウスはそれを良しとせず二人の間に雷を落とし闘いを止めた[11][12][13]

ホメーロス風讃歌』「アレース讃歌(第8番)」では槍の使い手であり、黄金の兜と青銅の鎧と楯をまとい、火を吐く馬どもの戦車を操り天空を巡り(火星のこと)、オリュンポスや都市を護り、人間たちに光と武勇を与え、強い力でもって勝利と平和をもたらす神であり、掟の女神テミスの支援者であり、勝利の女神ニーケーの父であると歌われている。

命名

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ローマ神話マールスに相当し[1]、また火星と同一視される。このため黄道上に位置し火星とよく似た赤い輝きを放つ天体であるさそり座のα星はアンタレス[注 1]と呼ばれる[14][15]。火星の衛星フォボスダイモスはアレースの子の名から採られている。

脚注

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注釈

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  1. ^ ギリシア語で「火星に似たもの」を意味する"Άντάρης"に由来。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル 『ギリシア・ローマ神話事典』 大修館書店
  2. ^ ヘーシオドス『神統記』921。
  3. ^ ホメーロス『イリアス』5巻888-898。
  4. ^ アポロドーロス『ギリシア神話』1巻3。
  5. ^ ヒュギーヌス『神話集』序文。
  6. ^ 『ホメーロス風讃歌』「アレース讃歌(第8番)」。
  7. ^ a b c d e f フェリックス・ギラン 『ギリシア神話』 青土社
  8. ^ バーナード・エヴスリン『ギリシア神話小事典』ヘーラクレースの頁。
  9. ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』英雄たち編 ベレロポーンとコリントスの英雄たち。
  10. ^ アントーニーヌス・リーベラーリス変身物語集』第28話。
  11. ^ a b アポロドーロス『ギリシャ神話』2巻5・11。
  12. ^ a b アポロドーロス『ギリシャ神話』2巻7・7。
  13. ^ ヒュギーヌス『神話集』 31 ヘラクレスの付随的功業。
  14. ^ Paul Kunitzsch; Tim Smart (2006). A Dictionary of Modern star Names: A Short Guide to 254 Star Names and Their Derivations. Sky Pub. Corp.. p. 52. ISBN 978-1-931559-44-7 
  15. ^ Jim Kaler. “Antares”. STARS. 2018年4月4日閲覧。

参考文献

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  • ヘシオドス『神統記』廣川洋一 訳 岩波文庫
  • ホメロス『イリアス』松平千秋 訳 岩波文庫
  • ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』 松田治青山照男 訳 講談社学術文庫
  • 『ホメーロスの諸神讃歌』 沓掛良彦訳 ちくま学芸文庫(2004年)
  • アントニーヌス・リーベラーリス『メタモルフォーシス ギリシア変身物語集』安村典子訳 講談社文芸文庫
  • フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳 青土社
  • マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル『ギリシア・ローマ神話事典』 大修館書店
  • 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店