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ホーラー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
季節の正しい移り変わりを司る3柱のホーライと人間社会の秩序を司る3柱のホーライ (エドワード・ポインター/画、1896)

ホーラーὭρα, Hōrā)とは、ギリシア神話に登場する時間女神で、季節秩序を司る。

なお、ホーラーは単数形で、複数形ではホーライὯραι, Hōrai)という。いずれも時間の意味。また、季節女神とも意訳される。

概説

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ゼウステミスの三人の娘で、運命の三女神モイライの姉妹とされる[1][2][3]。古くは気象的性格を持つ女神たちで、雨を降らせることで花を開花させ、果実を実らせたので、春と夏の季節を象徴した[4]。やがてホーラーたちは季節の規則正しい巡りと自然の秩序を司る女神と見なされるようになったが、季節そのものと混同された[5][4]ホメーロスにおいては天界と地上を結ぶ雲の門の番人であり、ヘーラー戦車から馬を外したりと、神々がオリュンポスから戦車に乗って外出する際、天界の門の雲を掻き分ける[6]アプロディーテーキュプロス島に上陸するとホーラーたちが彼女を着飾らせ、オリュンポス山に連れて行った[7]。ゼウスが人間を破滅させるため、パンドーラーを地上へ送った時、ホーラーたちは彼女の頭を花飾りのついた冠で縁どりした[8]。神々の宴会でホーラーたちはカリスたちの仲間になって踊る[9]。ホーラーたちは生まれたばかりのヘルメースの保護者であり[10][11]ディオニューソスがゼウスの太股から生れた時、彼を引きうけた[12]。また、ヘーラーを養育したのは彼女たちであった[9][13]。ヘーラーあるいはアプロディーテーの侍女であり、ディオニューソス、ペルセポネーデーメーテールアポローンなどにも従う。それゆえ彼女達は、花あるいは植物を手にした優雅な三人の美しい乙女の姿で表される[5]

ホーラーたちはアテーナイアルゴリスオリュムピア、そして特にコリントスで敬われた[4]

名前一覧

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3姉妹の名前については諸説ある。

ヘーシオドスの『神統記』やアポロドーロスによれば、エウノミアー、ディケー、エイレーネーという[14][2]

# ホーライ 紹介
1 エウノミアー Εὐνομία Eunomia 秩序の女神とされる。
2 ディケー Δίκη Dice 正義の女神とされる。
人類を見守り、人類が不正を働いた時にはこれをゼウスに訴えるという。
後世の神話の女神アストライアーローマ神話ユースティティアと同一視される。
3 エイレーネー Εἰρήνη Irene 平和を司り、ローマ神話のパークスと同一視される。

古代のギリシア人は一年を春分から秋分に至る半年と残余の秋冬の半年に分ち、アテーナイで二つの季節のホーライ(タローとカルポー)を置いたが、後には春夏秋の三季節に分ち、アッティカではタロー(芽生え)、アウクソー(生長)、カルポー(結実)という三柱のホーライになっている[15]。主に自然と季節を司り、植物の芽生え、生長、結実の3階段を象徴する。春夏秋の三季節と結びついている。

# ホーライ 紹介
1 タロー Θαλλώ Thallo 春の女神とされる。開花・芽生えを象徴する。
2 アウクソー Αὐξώ Auxo 夏の女神とされる。生長を象徴する。
3 カルポー Καρπώ Carpo 秋の女神とされる。結実・収穫を象徴する。

ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『ギリシャ神話集』(Fabulae 183)に登場する大地の豊饒を象徴する3柱のホーライ。

# ホーライ 紹介
1 エウポリアー Ευπορία Euporia 潤沢・豊饒の女神とされる。
2 オルトシアー Ορθωσία Orthosia 繁栄の女神とされる。
3 ペルーサー Φέρουσα Pherusa 本質・実り多き者を象徴する女神とされる。

古代ギリシアの詩人ノンノスの『ディオニューソス譚』では太陽神ヘーリオスの娘で[16]、春夏秋冬の四季を司る4人姉妹とされる[17]。一説にヘーリオスと月の女神セレーネーの娘であり、ヘーラーに仕える4人の侍女とされる[18]

# ホーライ 紹介
1 エイアー Ειαρ Eiar 春の女神とされる。象徴物は花。
2 テーロース Θερος Theros 夏の女神とされる。象徴物は穀物。
3 プティノポローン Φθινοφωρον Phthinophoron 秋の女神とされる。象徴物は葡萄・蔦。
4 ケイモーン Χειμων Cheimon 冬の女神とされる。象徴物は雪・オリーヴ。
アポローンと12柱のホーライ』(ゲオルク・フリードリヒ・ケルスティング/画、1822)

ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『ギリシャ神話集』(Fabulae 183)より再び12柱のホーライを挙げる。1年の月数あるいは1日の時間帯を象徴している。また1日の時間の巡りを司り、太陽神の馬車を仕立ててその日光が世界を照らしに行くのを助けている。

# ホーライ 紹介
1 アウゲー Αυγή Auge 暁の女神とされる。
2 アナトレー Ανατολή Anatole 日の出の女神とされる。
3 ムーシケー Μουσική Mousike 芸術の女神とされる。
4 ギュムナスティケー Γυμναστίκή Gymnastike 体育の女神とされる。
5 ニュンペー Νυμφή Nymphe 水浴の女神とされる。
6 メセンブリアー Μεσημβρία Mesembria 真昼の女神とされる。
7 スポンデー Σπονδή Sponde 献酒の女神とされる。
8 エレテー Ελήτή Elete 祈りの女神とされる。
9 アクテー Ακτή Akte 餐宴の女神とされる。
10 ヘスペリス Έσπερίς Hesperis 黄昏の女神とされる。
11 デュシス Δύσις Dysis 日没の女神とされる。
12 アルクトス Άρκτος Arktos 夜空の女神とされる。

脚注

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  1. ^ ヘーシオドス、901行-902行。
  2. ^ a b アポロドーロス、1巻3・1。
  3. ^ ヒュギーヌス、序文。
  4. ^ a b c フェリックス・ギラン『ギリシア神話』164頁。
  5. ^ a b 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』263頁。
  6. ^ 『イーリアス』5巻750行, 8巻393行。
  7. ^ 『ホメーロス風讃歌』第6歌「アプロディーテー讃歌」2行。
  8. ^ ヘーシオドス『仕事と日』69行。
  9. ^ a b フェリックス・ギラン『ギリシア神話』167頁。
  10. ^ フィロストラトス『エイコネス』1巻26行。
  11. ^ フィロストラトス『ティアナのアポロニウスの生涯』5巻15行。
  12. ^ ノンノス『ディオニューソス譚』8巻33行。
  13. ^ パウサニアス、2巻13・3。
  14. ^ ヘーシオドス、902行。
  15. ^ 『土居光知著作集〈第3巻〉文学と伝説の伝播・交流』(土居光知/著、岩波書店、1977年)、第291頁。
  16. ^ ノンノス『ディオニューソス譚』12巻1行。
  17. ^ ノンノス『ディオニューソス譚』38巻268行。
  18. ^ スミュルナのコイントス『トロイア戦記』10巻334-336行。

参考文献

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関連項目

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