Nano-JASMINE
Nano-JASMINE | |
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エンジニアリングモデル | |
所属 | 国立天文台 |
公式ページ | 国立天文台JASMINEプロジェクト |
状態 | 打ち上げ断念 |
目的 | 位置天文学 |
観測対象 | 恒星 |
計画の期間 | 2年 |
打上げ機 | 当初予定:ツィクロン4 |
打上げ日時 | 当初予定:2011年8月 |
物理的特長 | |
本体寸法 | 508x508x512mm |
質量 | 約35kg |
姿勢制御方式 | 3軸制御 |
軌道要素 | |
周回対象 | 地球 |
軌道 | 太陽同期軌道(予定) |
搭載望遠鏡 | |
口径 | 5cm |
焦点距離 | 1.67m |
観測波長帯 | zwバンド |
Nano-JASMINE(ナノ・ジャスミン、Japan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration)とは、日本の国立天文台が開発していた人工衛星である。重量35kgの超小型衛星で、太陽同期軌道から恒星の天球上での位置を測定することを目的とする。
2010年にフライトモデルは完成し2011年8月に打ち上げる計画であったが、情勢悪化等でロケット側の都合がつかなくなり、代替ロケットを模索していたが2023年までに打ち上げを断念した[1]。
概要
[編集]Nano-JASMINE は日本で最初の位置天文衛星を目指した衛星であり、大気の影響を受けない宇宙空間から恒星の位置を高い精度で測定し、恒星までの距離(年周視差に基づく)や固有運動を明らかにすることを目的としていた。
順調に打ち上げられれば1989年に欧州宇宙機関が打ち上げたヒッパルコス衛星に続く世界2番目の位置天文衛星となる予定であったが、2013年12月に欧州宇宙機関がヒッパルコス衛星の後継機であるガイア衛星を打ち上げたため、この時点では世界で3番目の位置天文衛星となる見込みであった。日本で計画されているJASMINEシリーズの最初の一機と位置づけられており、将来的に打ち上げが予定されているより大型の「小型JASMINE」や「JASMINE」に向けて技術の検証を行うことが目標の1つとなっていた[2]。
衛星本体はミッション部を国立天文台JASMINE検討室と京都大学理学部、バス部と地上局を東京大学中須賀研究室が担当して共同で開発され[3]、費用はおよそ1億円である。
計画
[編集]目的
[編集]Nano-JASMINE は日本の位置天文衛星の技術検証としての位置づけとともに、科学的成果も期待されていた。小型衛星であるため欧州宇宙機関のガイア衛星に比べて観測精度はかなり劣るが、ガイア衛星では観測困難な明るい星でも観測可能であるため、貴重な観測データが得られると期待されており、最終的にはガイア衛星のデータとNano-JASMINEのデータをまとめた統合カタログを作成することになっていた[4]。
Nano-JASMINEは重量35kgの小型衛星だが、重量1400kgのヒッパルコスと同程度の観測精度を持っている。ヒッパルコスが観測した恒星の位置情報は、恒星の固有運動のため次第に不正確になりつつある。Nano-JASMINEはこれを再び精確なものに更新することが期待されていた。また、ヒッパルコスのデータと組み合わせると、従来より一桁高い精度で恒星の運動を決定できると考えられていた[5]。
設計
[編集]本体
[編集]衛星は一辺50cmの立方体で、35kgの質量がある。
- スピン周期:地球周回周期に同期させ約100分[3]
- 通信[6]
- 通信周波数帯:Sバンド
- アップリンク:1kbps
- ダウンリンク:100kbps、10kbps(セーフモード)
- アンテナ:バックファイヤヘリカル式、主(地球指向)・副2基
Nano-JASMINE には超小型衛星としては高い姿勢制御・温度制御の精度が要求される[7]。
望遠鏡
[編集]- 光学系
- 主鏡口径:5.3cm
- 焦点距離:1.67m
- 視野角:0.5°×0.56°
- ビーム混合鏡による2視野同時観測、相対角99.5°
- 全アルミ合金製、表面に金とクロム蒸着
- 検出器:完全空乏裏面照射型CCD[8]
- モジュール寸法:12×12×17cm
- 質量:1.7kg
99.5度離れた2つの開口部から2方向を同時に観測する方法はヒッパルコス衛星(相対角約60°)やガイア衛星(相対角約106°)でも採用されている方法である[9]。地上からの可視時間が5%程度であることからダウンリンク時には星像を中心に5×9px程度がオンボードでクロップされる[9]。
運用
[編集]地上局は以下の通り[8]。ダウンリンクには国立天文台水沢VLBI観測所にある電波天文用のアンテナを使用し、天文観測の合間に1回20分程度の通信を朝と夕方に1日数回運用する予定だった[10][11]。
- 東京大学 3mアンテナ:コマンドのアップリンク・テレメトリのダウンリンク
- 国立天文台 水沢VLBI観測所10mアンテナ:データのダウンリンク
- スウェーデン宇宙公社 キルナ局:ダウンリンク(初期運用時のみ)
打ち上げ計画の変遷
[編集]当初は2011年8月にブラジルのアルカンタラ射場からウクライナ製のツィクロン(サイクロン)-4ロケットで打ち上げられる予定だったが[12]ロケット側と射場側の財政問題でスケジュール延期が続いていた[13]。この打ち上げは新型ロケットの試験飛行を兼ねるため、無料で提供されることとなっていた[5]。2014年5月の情報では、打ち上げは2015年第二四半期となっていたが、ウクライナ情勢の影響を受けさらに不透明さが増していた[14]。衛星は2010年には組み立てが完了したが、東京大学で保管された状態のままであった[15]。
2015年に入りガイア衛星の研究チームが本ミッションへの支援を申し出、欧州宇宙機関が無償で打ち上げを行うことになった[16]。2018年12月時点で打ち上げは2022年とされていた。
しかし、衛星の製造から年月が経過し、劣化が進んだことや、小型JASMINEの開発に注力することから打ち上げは断念された。フライトモデル実機が地上局となる予定だった国立天文台水沢VLBI観測所の敷地内にある奥州宇宙遊学館に寄贈され常設展示品となり[1][17]、エンジニアリングモデルが岐阜かかみがはら航空宇宙博物館にて展示されている[18][19]。
脚注
[編集]- ^ a b “天の川銀河の謎解きに挑む ジャスミン計画|特別講演会@奥州宇宙遊学館 2023.7.22”. 国立天文台. 2024年12月1日閲覧。
- ^ “日本初の位置天文観測衛星「ナノジャスミン」、2011年8月打ち上げ”. AstroArts (2010年4月13日). 2010年5月7日閲覧。
- ^ a b c “Nano-JASMINEから小型JASMINEへ|天文月報 2018 年 7 月”. 日本天文学会. 2024年12月5日閲覧。
- ^ “「Nano-JASMINEサイエンス検討会」報告”. 国立天文台ニュース2015年6月号 (国立天文台): 7. (2015-06) .
- ^ a b 大塚実 (2010年4月16日). “日本初の位置天文学衛星「Nano-JASMINE」 - 2011年の打ち上げが正式決定”. マイナビジャーナル 2010年5月7日閲覧。
- ^ “Nano-JASMINE フライトモデル開発につ いて|2011/1/5-7 宇宙科学シンポジウム P3-184”. JAXA. 2024年12月6日閲覧。
- ^ “観測のしくみ”. 東京大学ISSL. 2010年5月7日閲覧。
- ^ a b “超小型位置天文衛星nano-JASMINE|宇宙科学シンポジウム 2011年 P3-185”. JAXA. 2024年12月3日閲覧。
- ^ a b c 山田 良透『超小型位置天文衛星Nano-JASMINE のデータ解析』宇宙航空研究開発機構(JAXA)、2016年4月15日 。
- ^ “小型天文衛星「Nano-JASMINE」―観測データの取得から利活用まで―|情報処理 Vol.56 No.7 July 2015”. 京都大学. 2024年12月3日閲覧。
- ^ “SKAに向けた水沢10m電波望遠鏡の対応|VLBI懇談会「SKA時代のVLBIサイエンス」検討会@国立天文台 2018年7月22日-23日”. NICT. 2024年12月3日閲覧。
- ^ “打ち上げ情報”. 東京大学ISSL (2010年2月). 2015年11月28日閲覧。
- ^ “JASMINEホームページ - ニュース”. JASMINE. 2010年1月1日閲覧。
- ^ PROJECT STATUS - ウェイバックマシン(2015年10月3日アーカイブ分)
- ^ “宙に浮く日本初の位置天文衛星 国際情勢が翻弄”. 日本経済新聞. (2014年5月17日) 2014年5月21日閲覧。
- ^ “小型JASMINE計画”. 光学赤外線天文連絡会 (2015年9月15日). 2015年11月27日閲覧。
- ^ “令和 5 年度 事業報告書 令和 5 年 4 月 1 日から令和 6 年 3 月 31 日 特定非営利活動法人 イーハトーブ宇宙実践センター”. 奥州宇宙遊学館. 2024年12月6日閲覧。
- ^ “「Nano-JASMINE衛星」を展示します”. 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館. (2023年6月22日) 2023年10月14日閲覧。
- ^ “空宙博(そらはく)に「Nano-JASMINE衛星」を展示します - 岐阜県公式ホームページ(航空宇宙産業課)”. www.pref.gifu.lg.jp. 2024年12月1日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 「天の川の立体地図作り」に小さな衛星が挑む理由2014年3月15日 三菱電機DSPACEコラム