セメレー
セメレー(古希: Σεμέλη, Semelē)は、ギリシア神話に登場する女性である。長母音を省略してセメレとも表記される。テーバイの王カドモスとその妻ハルモニアーの娘で、アウトノエー、アガウエー、イーノー、ポリュドーロス、イリュリオスと兄弟。ゼウスの子ディオニューソスの母。元はプリュギアやトラーキアで信仰されたゼメロー(プリュギア語で「大地」の意[1])という大地の女神だったと考えられている[2]。
神話
[編集]ゼウスは密かに人間の姿をとってセメレーのもとに通い、セメレーは身重となった。このことを聞きつけたヘーラーは、嫉妬心を燃やした。ヘーラーはセメレーのかつての乳母ベロエーに身をやつし、セメレーに近づいてこうそそのかした。「最近は神の名を騙って若い娘を誑かす男が横行している。相手が本当にゼウス様なのかどうか、本当の姿を見せてくれるよう言いなさい」。セメレーはこの忠告に従い、ゼウスに「愛の証に私の願いを一つ聞いてほしい」と持ちかける。ゼウスが「ステュクス川に誓って必ず叶える」と約束すると、セメレーはゼウスに神としての真の威光を見せるよう迫った。雷火をまとった神の本性を現せば、生身の人間の体では耐えきれず、たちどころに焼け死んでしまう。ゼウスは約束したことを後悔したが、ステュクス川にかけた誓いは神といえど背けない絶対的なものであった。ゼウスは変身を解いたが、セメレーはまばゆい灼熱の閃光に焼かれて絶命した(あるいは、正体を明かすように迫ったが、ゼウスがこれを聞き入れないので、セメレーは本当の姿を示さない限り寝室に入ることを許さないようにし、ついに怒ったゼウスが雷光に包まれた真の姿を現し、セメレーは雷光に当たって焼け死んでしまった、とする話もある)。
セメレーの胎児は神の血を引いていたため焼死を免れており、この子をヘルメースが取り上げ、ゼウスの大腿のなかに縫い込んだ。この時胎児は6ヶ月であり、さらに3ヶ月後に誕生したのがディオニューソスである。ディオニューソスは、このために「二度生まれた者」「二つの門の子」などと呼ばれる。
古代ギリシアの地にディオニューソスの信仰が確立され、神の座を占めるようになったとき、彼はレルネーの底なし沼を通ってタルタロスに下った。ディオニューソスは、ギンバイカの木をペルセポネーに贈り、これと引き替えに母親のセメレーを連れ戻した。ディオニューソスから神性を分け与えられたセメレーは女神となった。セメレーはトロイゼーンのアルテミスの神殿に入り、そこから天に昇った。ディオニューソスは、他の死者たちがセメレーを嫉妬したり、憤慨したりしないように、母の名前を改め、テュオーネーとして神々に紹介したという。また、テュオーネーはヒュアデスの一柱の名でもある。
系図
[編集]ギャラリー
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ティントレット『ユピテルとセメレ』1545年 ナショナル・ギャラリー所蔵
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ジャック・ブランチャード『ユピテルとセメレ』1632年 ダラス美術館所蔵
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ピーテル・パウル・ルーベンス『セメレの死』1640年頃 ベルギー王立美術館所蔵
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ルカ・フェラーリ『ユピテルとセメレ』1654年 カステルヴェッキオ美術館所蔵
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パオロ・パガーニ『ユピテルとセメレ』1693年 ブルノのモラヴィア美術館所蔵
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セバスティアーノ・リッチ『ユピテルとセメレ』1695年 ウフィツィ美術館所蔵
セメレーを題材とする作品
[編集]- マラン・マレのオペラ『セメレ』(1709年初演)
- ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルのオラトリオ『セメレ』(1744初演)