アブデーロス
アブデーロス(古希: Ἄβδηρος, Abdēros)は、ギリシア神話の人物である。長音を省略してアブデロスとも表記される。ロクリス地方の都市オプースの出身[1][2]。ヘーラクレースに仕える少年で、ヘーラクレースの難行の1つであるトラーキアの王ディオメーデースの人喰い馬を捕らえる冒険に同行した[1][3][4]。トラーキア地方の都市アブデーラはアブデーロスの名前に由来する[4]。
神話
[編集]アブデーロスの系譜伝承については諸説ある。ピンダロスによると海神ポセイドーンとナーイアスのトローニアーとの子[5]、アポロドーロスによるとヘルメース神の子という[1]。他にもトロイア戦争で戦ったパトロクロスの兄弟(したがってメノイティオスの子)[6]、エリノスの子とする説もある[2]。
アポロドーロスによると、ヘーラクレースはトラーキアまで航海し、ディオメーデース王に仕える人喰い馬の馬飼いたちを力で従わせたのち、馬を海岸まで引いて行った。これに対してディオメーデース王がビストーン人の軍勢を率いて追いかけて来た。このときアブデーロスはヘーラクレースに馬の護衛を命じられたが、人喰い馬を押さえることができず、大地の上を引きずられて死んでしまった。ヘーラクレースはディオメーデース王を殺すとアブデーロスを埋葬し、墓の近くに都市アブデーラを創建した[1]。
しかし、アブデーロスの死については人喰い馬に食い殺されたとする伝承が一般的である[4][7][8]。ピロストラトスによると、アブデーロスは人喰い馬に食い殺されるが、ヘーラクレースは人喰い馬からアブデーロスの身体を奪い返す[7]。12世紀の詩人ヨハネス・ツェツェースは、ヘーラクレースがディオメーデースと戦っている間にアブデーロスが人喰い馬によってバラバラに引き裂かれて食い殺されたので、アブデーロスのためにアブデーラを創建したとしている[8]。
ヒュギーヌスは、ヘーラクレースによってディオメーデースおよび人喰い馬もろともに殺されたとしている[9]。さらに異説によると、アブデーロスはアテーナイ王テーセウスに殺されたという[10]。
脚注
[編集]- ^ a b c d アポロドーロス、2巻5・8。
- ^ a b “ツェツェース『キリアデス』2巻299行-308行”. Theoi Project. 2022年5月12日閲覧。
- ^ ピロストラトス『ヘーローイコス』26。
- ^ a b c ストラボーン、7巻8・43。
- ^ ピンダロス断片52b『パイアン』第2歌。
- ^ “プトレマイオス・ヘパイスティオン、39”. Tertullian Project. 2022年5月12日閲覧。
- ^ a b “ピロストラトス『エイコネス』2巻25・1”. ToposText. 2022年5月12日閲覧。
- ^ a b “ツェツェース『キリアデス』2巻304行-306行”. Theoi Project. 2022年5月12日閲覧。
- ^ ヒュギーヌス、30話。
- ^ “プトレマイオス・ヘパイスティオン、12”. Tertullian Project. 2022年5月12日閲覧。
参考文献
[編集]- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1994年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照夫訳、講談社学術文庫(2005年)
- ピロストラトス『英雄が語るトロイア戦争』内田次信訳、平凡社ライブラリー(2008年)
- ピンダロス『祝勝歌集/断片選』内田次信訳、京都大学学術出版会(2001年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)