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* [[シケリアのディオドロス|ディオドロス]]『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年) |
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* [[パウサニアス]]『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年) |
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* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』[[松田治]]・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年) |
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* [[ヘシオドス]]『[[神統記]]』[[廣川洋一]]訳、岩波文庫(1984年) |
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2021年11月15日 (月) 10:31時点における版
ヒュドラー(古希: Ὕδρᾱ, Hýdrā)は、ギリシア神話に登場する怪物である。長母音を省略してヒュドラとも表記される。
テューポーンとエキドナの子で、オルトロス、ケルベロス、キマイラ[1]、また一説にネメアーの獅子[2]、不死の百頭竜(ラードーン)[3]、プロメーテウスの肝臓を喰らう不死のワシ[3]、スピンクス[4]、パイア[5]、金羊毛の守護竜と兄弟[6]。
トレミーの48星座のうちの1つであるうみへび座(海蛇座、Hydra)はヒュドラーのことである。
概説
ヒュドラーはギリシア神話を代表する怪物の1つで、ヘーラクレースによって退治された。これはヘーラクレースの12の功業の1つとして知られている。ヒュドラーとは古典ギリシア語で水蛇を意味するが、神話ではアルゴリス地方のレルネーに住む怪物のことを指し[注釈 1]、ヘーシオドスによれば女神ヘーラーがヘーラクレースに対する恨みの感情から育てたとされる[8]。
ヒュドラーは巨大な胴体に9つの首を持つ大蛇の姿をしていたが[9][10]、首の数については100とする説もある[11]。もっとも、パウサニアースはヒュドラーの頭はもともとは1つだったと考えており、ロドス島のカメイロス出身の詩人ペイサンドロスが恐ろしさを強調するために多頭の姿で描いたと述べている[12][注釈 2]。ヘーシオドスはヒュドラーの姿については触れていない。後代の絵画などでは前足と後ろ足、翼を持った姿で表される事もある。
ヒュドラーは不死身の生命力を持っており、9つの首のうち8つの首は倒すことが出来るが、すぐに傷口から新しい2本の首が生えてきたとされる[9][11]。加えて中央の首は不死だった[9]。ヒュドラーは猛毒の恐ろしさでも有名で、ヒュドラーの毒を含んだ息を吸っただけで人が死ぬほどだった。またヒュドラーが寝た場所は猛毒が残っているために、その場所を通った者はさらに苦しんで死ななければならなかった[10]。しかも猛毒は解毒することが出来なかった[12]。そのためヘーラクレースはヒュドラーを退治した後にその毒を鏃に塗って用いたが、その矢傷は不治であり、決して癒えることがなかった。そのことが後にケイローンやポロスのような善良なケンタウロス族だけでなく、ヘーラクレース自身を死に追いやったと伝えられている。
神話
ヘーラクレースのヒュドラー退治
神話によればヒュドラーはアルゴリス地方のレルネーの沼地に住み、しばしば人里を荒して回った[9]。このためミュケーナイ王エウリュステウスはヘーラクレースにヒュドラーの退治を命じた。これはネメアーの獅子退治に続く2番目の難行となった[9][11][10]。
ヘーラクレースはヒュドラーの吐く毒気にやられないように、口と鼻を布で覆いながらヒュドラーの住むレルネーの沼地へとやって来た。そしてヒュドラーの巣に火矢を打ち込み、ヒュドラーに立ち向かった。しかしヒュドラーの首を棍棒で叩き潰しても、傷口からすぐに2つの首が再生し、倒せば倒すほど首が増えてしまうことにヘーラクレースは気が付いた。
ヘーラクレースは甥のイオラーオスに助けを求めた。イオラーオスは首の傷口を松明の炎で焼き焦がす方法を思いつき、次々に傷口を焼いて再生するのを防いだ。ヒュドラーを殺すには、真ん中にある1つの不死身の首を何とかしなければならなかったが、ヘーラクレースはその首を切断し、巨大な岩の下敷きにして倒した[9][注釈 3]。そしてヒュドラーはうみへび座となった。一説によると、ヘーラクレースの死を願うヘーラーはこの戦いで、彼の足を切らせるために化け蟹・カルキノスを送り込んだという。しかしヘーラクレースは怒ってこれを踏み潰してしまっていた。そしてこの蟹がかに座となった[14]。
しかし、エウリュステウスは、この苦行は一人で行われなかったため達成されなかったと言い渡し、12の功業の中には入れなかった[9][15]。
ヒュドラーの毒
戦いの後、ヘーラクレースはアテーナーの助言に従い[10]、ヒュドラーの体を切り裂いて猛毒を含んだ胆汁を取り出し、自分の矢に塗ってその後の戦いに用いた[9][10][12][13]。ヘーラクレースの膂力とヒュドラーの毒の力でヘーラクレースの矢は一撃必殺の武器となった。
その威力を最初に知らしめたのは第4の難行、エリュマントスの猪の生け捕りである。ヘーラクレースはエリュマントス山に向かう途中、ケンタウロス族との間にトラブルを起こし戦いとなった。ヘーラクレースはヒュドラーの毒を塗った矢を放ち、ケンタウロス族を倒しながらペロポネーソス半島の東南端のマレアー岬に追い詰めた。さらにケンタウロス族の賢者ケイローンのもとに逃げ込んだケンタウロス族を討とうとした。ところがヘーラクレースの放った矢はエラトスの腕を貫通してケイローンに当たってしまった。ケイローンは酷く苦しんだが、ケイローンの薬も効果はなく、不死ゆえに死ぬことも出来なかった。またヘーラクレースをもてなしたポロスは彼の矢の威力に驚いて矢を手に取ったが、手を滑らせた拍子に鏃が脚を傷つけ、ヒュドラーの毒で死んでしまった[16]。
後にケイローンは毒の苦痛に耐えきれず、プロメーテウスが解放された際に不死を返上することで苦痛から解放された[17]。
さらに後、ヘーラクレースは妻デーイアネイラを攫おうとしたネッソスをヒュドラーの毒を塗った矢で射殺した。ネッソスは死に際にデーイアネイラに、「自分の血は媚薬の効果がある。夫が心変わりしそうになったら彼の衣服に塗るといい」と吹き込んだ。デーイアネイラは後にそれを実行したが、ネッソスの血には矢を通してヒュドラーの毒が混じっていたためヘーラクレースの体を蝕み、ヘーラクレースは癒されぬ苦痛に耐えかね、我が身を焼き尽くすことを選んだ。こうしてヘーラクレース自身もヒュドラーの毒によって人間としての生に終止符を打つことになった[18][19]。
ギャラリー
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ルーカス・クラナッハ『ヘラクレスとヒュドラ』(1537年以降)アントン・ウルリッヒ公爵美術館所蔵
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フランシスコ・デ・スルバラン『ヒュドラと戦うヘラクレス』(1634年)プラド美術館所蔵
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ギュスターヴ・モロー『ヘラクレスとレルナのヒュドラ』(1876年-1880年)個人蔵
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16世紀頃のミラノで使用された兜の上部に付ける紋章のような役割を果たす像
系図
脚注
注釈
出典
- ^ ヘーシオドス『神統記』309行-332行。
- ^ アポロドーロス、2巻5・1。
- ^ a b アポロドーロス、2巻5・11。
- ^ アポロドーロス、3巻5・8。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)1・2。
- ^ ヒュギーヌス、151話。
- ^ ヘーシオドス、313行。
- ^ ヘーシオドス、314行-315行。
- ^ a b c d e f g h アポロドーロス、2巻5・2。
- ^ a b c d e ヒュギーヌス、30話。
- ^ a b c シケリアのディオドーロス、4巻11・5。
- ^ a b c パウサニアース、2巻37・4。
- ^ a b シケリアのディオドーロス、4巻11・6。
- ^ エラトステネス『星座論』11話。
- ^ アポロドーロス、2巻5・11。
- ^ アポロドーロス、2巻5・4。
- ^ アポロドーロス、2巻5・11。
- ^ アポロドーロス、2巻7・7。
- ^ ソポクレース『トラーキースの女たち』。
- ^ ラムスデン 1997, p. 199.
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア悲劇II ソポクレス』ちくま文庫(1986年)
- ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- ラムスデン, ロビン 著、知野龍太 訳『ナチス親衛隊軍装ハンドブック』原書房、1997年。ISBN 978-4562029297。
関連項目
- ラミアー - ブルガリア の伝承ではヒュドラーに似た大蛇として登場する。
- ヤマタノオロチ
- 九頭竜
- ヒュドラ (クトゥルフ神話)
- 父なるダゴンと母なるヒュドラ
外部リンク
- エラトステネスの星座物語 11. かに座