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[[ファイル:Colours of Health (4877352097).jpg|thumb|様々な野菜]]
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'''野菜'''(やさい、{{lang-en-short|vegetable}})とは、あまり加工せずにおもに[[副食]]として利用される[[草本性]]の[[栽培植物]]のこと、またはその可食部のことである。蔬菜(そさい)や菜(さい)、青物(あおもの)ともよばれる。ただし、「野菜」は慣用的な用語であり、国や分野によって含まれる植物はやや異なるため、「野菜」を明確に定義することはできない。食用とする部位は[[葉]]や[[茎]]、[[根]]、[[つぼみ]]、[[花]]、[[果実]]、[[種子]]などさまざまであり、一般的にはこれに応じて[[果菜|果菜類]]([[果実]]や[[種子]]を利用)、[[葉菜類]]([[葉]]や[[地上茎]]、[[花]]を利用)、[[根菜類]]([[根]]や[[地下茎]]を利用)に分けられる。また、香りや辛味が強い[[#香辛野菜|香辛野菜]]、[[カロテン]]含量が多い[[緑黄色野菜]]などがある。
'''野菜'''(やさい、{{lang-en-short|vegetable}})は、食用の[[草本|草本植物]]の総称<ref name="kenkoueiyougakuyougojiten_p636">『健康・栄養学用語辞典』中央法規出版 p.636 2012年</ref>。水分が多い草本性で食用となる[[植物]]を指す<ref>バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアン編『世界の食用植物文化図鑑』(柊風舎) 140ページ</ref>。主に[[葉]]や[[根]]、[[茎]]([[地下茎]]を含む)、[[花]]・[[蕾|つぼみ]]・[[果実]]を副食として食べるものをいう。

野菜は一般的に貯蔵性が低く時期が限られたものであったが、栽培技術の発展によって日本ではおもな野菜は一年中供給されるようになっている。近年では[[化学肥料]]・[[農薬]]を使用しない[[有機野菜]]に対する需要もあり、高度に管理された[[野菜工場]]も見られるようになった。野菜の中には、生食するものや、煮るもの、焼くもの、漬物にするものなどがある。一般的に、野菜は柔軟多汁で低[[カロリー]]、[[ビタミン]]や[[ミネラル]]、[[食物繊維]]に富むものが多いが、[[豆|マメ類]]や[[イモ類]]は[[デンプン]]や[[タンパク質]]を多く含む。また、[[ポリフェノール]]など人の健康に有用と考えられている物質を含み、[[生活習慣病]]予防などで重要視されている。


== 定義 ==
== 定義 ==
おもに[[副食]]([[主食]]や[[間食]]ではない)として、無加工または低加工で利用される[[草本]]性の栽培植物またはその可食部は、'''野菜'''とよばれる<ref name="飛騨2009">{{Cite book|author=飛騨健一|translator=|year=2009|chapter=野菜として利用する栽培植物|editor=石井龍一・岩槻邦男・竹中 明夫・土橋豊・長谷部光泰・矢原徹一・和田正三|title=植物の百科事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-17137-2|pages=341–346}}</ref><ref name="コトバンク_野菜1">{{Cite Kotobank|word=野菜|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-06-15}}</ref><ref name="大森2012">{{cite book|author=|year=2012|chapter=|editor=大森正英|title=健康・栄養学用語辞典|publisher=中央法規出版|isbn=978-4805836026|page=636}}</ref>。蔬菜や菜、青物ともよばれる<ref name="コトバンク_野菜1" /><ref name="大森2012"/><ref name="コトバンク_野菜2" /><ref name="食料の百科事典_p18">『食料の百科事典』丸善 p.18 2001年</ref><ref name="最新農業技術事典_p874">農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』農山漁村文化協会 p.1542 2006年</ref><ref name="sosai_p1">斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.1 1991年</ref>。
[[ファイル:Gronsaker (1).jpg|thumb|left|並べられた野菜。]]


ただし、「野菜」は慣用的な用語であり、国や分野によって野菜に含まれる植物はやや異なるため、明確な[[定義]]はできない<ref name="飛騨2009" /><ref name="食料の百科事典_p30">{{cite book|author=|year=2001|chapter=|editor=五十嵐脩|title=食料の百科事典|publisher=丸善出版|isbn=978-4621049396|page=30}}</ref><ref name="最新農業技術事典_p1542">{{cite book|author=|year=2006|chapter=|editor=農業・生物系特定産業技術研究機構|title=最新農業技術事典|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540051630|page=1542}}</ref>。たとえば[[メロン]]や[[スイカ]]、[[イチゴ]]は甘く、一般的に間食に利用されるために消費分野では[[果物]]として扱われるが、草本に実ることから、日本の生産分野では野菜として扱われる<ref name="飛騨2009" /><ref name="大森2012" /><ref name="=野菜類の区分" /><ref name="hokuriku">{{Cite web|和書|url=https://web.archive.org/web/20170513213559/https://www.maff.go.jp/hokuriku/kids/question/green03.html|title=すいか、メロン、いちごは野菜か果実か|publisher=北陸農政局|accessdate=2024-07-17}}</ref><ref name="食料の百科事典_p30" /><ref name="yasaiengeidaijiten_p1">野菜園芸大事典編集委員会編『野菜園芸大事典』養賢堂 p.1</ref>。そのため、これらは特に「果実的野菜」や「果物的果菜」とよばれることがある<ref name="飛騨2009" /><ref name="=野菜類の区分">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1205/05a.html|title=野菜の区分について教えてください。|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2022-12-22}}</ref>。また、[[サツマイモ]]や[[ジャガイモ]]などイモ類は副食とされる際には野菜であるが、主食や加工品原料とされることも多く、野菜とは分けて扱われることもある<ref name="大森2012"/><ref name="谷野1996" /><ref name="野菜の定義" />。[[豆|マメ類]]や[[トウモロコシ]]の未熟な果実・種子([[サヤエンドウ]]、[[スイートコーン]]など)は野菜として扱われるが、完熟したものは[[穀物]]として扱われることが多い<ref name="飛騨2009" />。ただし、完熟したものであっても、副食に用いられる場合は野菜として扱われる<ref name="谷野1996" />。[[コメ]]は日本においては最も重要な主食であるが、ヨーロッパでは付け合せなどにも使われるため、野菜として扱われることがある<ref name="谷野1996" />。また、[[タラノキ]]や[[サンショウ]]は草ではなく[[木本植物]]であるが、副食に使われるため野菜として扱われることがある<ref name="最新農業技術事典_p1542" />。
野菜は一般には食用の[[草本|草本植物]]をいう<ref name="kenkoueiyougakuyougojiten_p636"/>。ただし、野菜の明確な[[定義]]づけは難しい問題とされている<ref name="syokuryounohyakkajiten_p30">『食料の百科事典』丸善 p.30 2001年</ref><ref name="saishinnougyougijutsujiten_p1542">農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』農山漁村文化協会 p.1542 2006年</ref>。たとえばイネとトウモロコシは、日本においてはイネは野菜ではなく穀物であり、トウモロコシは野菜であると同時に穀物である。


栽培植物である「野菜」に対して、同様に利用される野生植物は「[[山菜]]」とよばれる<ref name="飛騨2009" /><ref name="コトバンク_山菜">{{Cite Kotobank|word=山菜|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|accessdate=2024-07-13}}</ref><ref name="山菜のすすめ">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/joho/0511_joho01.html|title=山菜のすすめ|website=|publisher=農畜産業振興機構|accessdate=2024-08-10}}</ref>。一般的に、山菜は野菜に比べて栽培効率が悪いため栽培されてこなかったが、近年になって地域産品の需要や販路が拡大しており、それに伴って栽培されている例も多い([[アシタバ]]、[[フキ]]、[[ウド]]、[[タラノキ]]、[[ワラビ]]、[[ゼンマイ]]など)<ref name="飛騨2009" /><ref name="コトバンク_山菜" /><ref name="山菜のすすめ" />。現在市場に流通している山菜の多くは栽培品であり<ref name="飛騨2009" />、これらを野菜として扱うこともある<ref name="米安1996">{{Cite journal|author=米安晟|year=1996|title=日本の野菜|journal=日本食生活学会誌|volume=7|issue=2|pages=7-14|doi=10.2740/jisdh.7.2_7}}</ref><ref name="芦澤1992">{{Cite journal|author=芦澤正和|year=1992|title=1. 野菜|journal=化学と生物|volume=27|issue=10|pages=663–671|doi=10.1271/kagakutoseibutsu1962.30.735}}</ref><ref name="最新農業技術事典_p1542"/><ref name="yasaiengeidaijiten_p1"/>。
[[園芸学]]上において野菜とは「副食物として利用する草本類の総称」をいう<ref name="alic-yasaibook1">{{Cite web|和書|url=https://web.archive.org/web/20160305071029/https://vegetable.alic.go.jp/yasaibook/pdf/c01.pdf|title=野菜ブック chapter1 野菜と私たちの生活・健康|publisher=農畜産業振興機構|accessdate=2013-04-16}}</ref>。例えば[[イチゴ]]、[[スイカ]]、[[メロン]]は[[園芸|園芸分野]]では野菜として扱われ<ref name="syokuryounohyakkajiten_p30"/><ref name="hokuriku">{{Cite web|和書|url=https://web.archive.org/web/20170513213559/https://www.maff.go.jp/hokuriku/kids/question/green03.html|title=すいか、メロン、いちごは野菜か果実か|publisher=北陸農政局|accessdate=2013-04-05}}</ref>、[[農林水産省]]「野菜生産出荷統計」でもイチゴ、スイカ、メロンは「果実的野菜」([[果菜]])として野菜に分類されている<ref name="alic-yasaibook1"/>。青果市場ではこれらは[[果物]](果実部)として扱われ<ref name="hokuriku"/><ref name="yasaiengeidaijiten_p1">野菜園芸大事典編集委員会編『野菜園芸大事典』養賢堂 p.1</ref>、[[厚生労働省]]の「国民栄養調査」<ref name="alic-yasaibook1"/>や[[日本食品標準成分表]]でも「果実類」で扱われている<ref name="syokuryounohyakkajiten_p30"/><ref name="kenkoueiyougakuyougojiten_p636"/>。また、日本食品標準成分表において「野菜類」とは別に「いも類」として扱われているもの(食品群としては「いも及びでん粉類」に分類)は一般には野菜として扱われている<ref name="kenkoueiyougakuyougojiten_p636"/><ref name="alic-yasaibook1"/>。また、[[ゼンマイ]]や[[ツクシ]]といった[[山菜]]については野菜に含めて扱われることもあり<ref name="saishinnougyougijutsujiten_p1542"/><ref name="yasaiengeidaijiten_p1"/>、[[木|木本性]]の植物である[[タラノキ|タラの芽]]や[[サンショウ]]の葉も野菜の仲間として扱われることがある<ref name="saishinnougyougijutsujiten_p1542"/>。さらに、日本食品標準成分表において[[種実類]]に分類される[[ヒシ]]なども野菜として取り扱われる場合がある<ref name="kenkoueiyougakuyougojiten_p636"/>。


日本では、[[菌類]]([[シイタケ]]、[[エノキタケ]]、[[ナメコ]]など)も野菜に含めることがある<ref name="米安1996" /><ref name="斎藤1996">{{cite book|author=斎藤隆|year=1996|chapter=|editor=|title=新版 蔬菜園芸|publisher=文永堂出版|isbn=978-4830040818|page=31}}</ref><ref name="特定野菜等の対象産地の選定状況" />。また、日本では[[藻類]]([[海苔]]、[[ワカメ]]、[[ヒジキ]]など)の利用が多く、野菜とは別に扱われているが、他の国では野菜に含めていることが多い<ref name="飛騨2009" />。
日本では慣用的に'''[[蔬菜]]'''(そさい)と同義語となっている<ref name="syokuryounohyakkajiten_p18">『食料の百科事典』丸善 p.18 2001年</ref><ref name="saishinnougyougijutsujiten_p874">農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』農山漁村文化協会 p.1542 2006年</ref><ref name="sosai_p1">斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.1 1991年</ref>。ただし、「蔬菜」は[[明治|明治時代]]に入ってから栽培作物を指して用いられるようになった語で<ref name="yasaiengeidaijiten_p1"/><ref name="sosai_p1"/>、本来は栽培されたものではない野菜や山菜などと厳密な区別があった<ref name="sosai_p2">斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.2 1991年</ref>。しかし、その後、山菜等も[[栽培]]されるようになった結果としてこれらの厳密な区別が困難になったといわれ<ref name="sosai_p2"/>、「野菜」と「蔬菜」は学問的にも全く同義語として扱われるようになっている<ref name="sosai_p2"/>。そして、「蔬菜」の「蔬」の字が[[常用漢字]]外であることもあって一般には「野菜」の語が用いられている<ref>野菜園芸大事典編集委員会編『野菜園芸大事典』養賢堂 p.1参照</ref>。なお、野菜は'''青物'''(あおもの)とも呼ばれる<ref name="kenkoueiyougakuyougojiten_p636"/>。京浜急行には「[[青物横丁駅]]」がある。

古くは、副食として用いる草本植物を「[[蔬菜]](または菜、蔬)」と総称し、そのうち野生のものを「野菜」、栽培されるものを「園菜(園蔬、圃菜)」とよんでいた<ref name="米安1996" /><ref name="コトバンク_野菜1" /><ref name="コトバンク_野菜2">{{Cite Kotobank |word=野菜 |encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典 |accessdate=2024-06-15}}</ref>。しかし、その後は園菜の語は使われなくなり、やがて現在と同様に栽培されるものが「野菜」とよばれるようになり、また野生のものは「山菜」とよばれるようになった<ref name="コトバンク_野菜2" />。ただし、[[官公庁]]などでの公式的な表現では、栽培されるものは「蔬菜」とよばれていた<ref name="コトバンク_野菜1" /><ref name="yasaiengeidaijiten_p1" /><ref name="sosai_p1" />。しかし第二次世界大戦後に「蔬菜」の「蔬」が[[常用漢字]]外となったことから官公庁でも「野菜」の語が用いられるようになった<ref>野菜園芸大事典編集委員会編『野菜園芸大事典』養賢堂 p.1参照</ref>。

[[英語]]の "vegetable" は、[[ラテン語]]の ''vegetabilis''(活力を与える)に由来する<ref name="コトバンク_野菜2" />。

== 分類 ==
=== 食用部位による分類 ===
[[ファイル:Vegetables 0006.JPG|thumb|120px|果菜類の野菜]]
[[ファイル:Rau - Vegetables.jpg|thumb|120px|葉菜類の野菜]]
[[ファイル:Root vegetables, 2007.jpg|thumb|120px|根菜類の野菜]]
野菜は食用とする部位の違いに基づいて分類されることがあり、[[果実]]や[[種子]]を食用部位とするものを'''[[果菜類]]'''、地上茎を食用部位とするものを'''茎菜類'''、[[葉]]や[[葉柄]]を食用部位とするものを'''[[葉菜類]]'''、[[花序]]や[[花]]を食用部位とするものを'''花菜類'''、[[根]]や[[地下茎]]を食用部位とするものを'''[[根菜|根菜類]]'''とよぶ<ref name="nihonsyokuhindaijiten_p104">杉田浩一編『日本食品大事典』医歯薬出版 p.104 2008年</ref><ref name="sosai_p30">斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.30 1991年</ref><ref name="野菜区分">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1205/05a.html|title=野菜の区分について教えてください。|publisher=農林水産省|accessdate=2024-07-20}}</ref>。ただし、葉や茎、花は分けずに利用されることも多く、茎菜類や花菜類は、広義の葉菜類または葉茎菜類にまとめられることが多い<ref name="alic-yasaibook1"/><ref name="飛騨2009" /><ref name="=野菜類の区分" />。
; [[果菜類]]<span style="font-weight:400;">(実もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}{{sfn|金子美登|2012|p=236}}、成り物野菜ともいう)</span>
: [[果実]]や[[種子]]を食用部位とする野菜<ref name="飛騨2009" />。[[インゲンマメ]]などの[[豆|マメ類]]や[[トウモロコシ]]の未成熟果は副菜に利用され野菜(果菜)として扱われるが、成熟した果実や種子は主食や加工品原料に使われることが多いため、「マメ類」や「穀類」として野菜とは分けて扱われることも多い<ref name="飛騨2009" /><ref name="日本標準商品分類" />。
; [[葉菜類]]<span style="font-weight:400;">(葉もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}{{sfn|金子美登|2012|p=236}})</span>
: 狭義には[[葉]]を食用部位とする野菜のことであるが、[[アスパラガス]]や[[ウド]]など地上茎を食用部とする茎菜類(茎もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}})や、[[ブロッコリー]]や[[ミョウガ]]など[[花芽]]・[[花]]を食用部とする花菜類を含めて広義の葉菜類または'''葉茎菜類'''とすることが多い<ref name="飛騨2009" /><ref name="野菜区分" /><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.soumu.go.jp/main_content/000294475.pdf |title=日本標準商品分類(平成2年6月改定) |access-date=2023/02/13 |publisher=総務省}}</ref>。また、[[カイワレダイコン]]や[[モヤシ]]のように芽生えの茎葉を利用するものは、とくに[[スプラウト]](新芽野菜、発芽野菜)とよばれる<ref name="コトバンク_スプラウト">{{Cite Kotobank|word=スプラウト|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-07-08}}</ref><ref>{{cite book|author=|year=2017|chapter=スプラウト野菜を作ってみよう|editor=主婦の友社|title=野菜づくりに失敗しないための知恵とコツ|publisher=主婦の友社|isbn=9784074235452|page=160}}</ref>。
; [[根菜類]]<span style="font-weight:400;">(根もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}{{sfn|金子美登|2012|p=236}})</span>
: 地中にある[[根]]や[[地下茎]]([[根茎]]、[[球茎]]、[[塊茎]]、[[鱗茎]])を食用部位とする野菜<ref name="飛騨2009" />。[[サツマイモ]]、[[ジャガイモ]]、[[タロイモ]]([[サトイモ]]など)、[[ヤムイモ]]([[ヤマノイモ]]など)、[[キャッサバ]]などは[[主食]]や加工品原料に使われることが多いため、「イモ類」として野菜とは分けて扱われることがある<ref name="野菜の定義" /><ref name="石井2009">{{Cite book|author=石井龍一|translator=|year=2009|chapter=野菜として利用する栽培植物|editor=石井龍一・岩槻邦男・竹中明夫・土橋豊・長谷部光泰・矢原徹一・和田正三|title=植物の百科事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-17137-2|pages=341–346}}</ref>。[[タマネギ]]や[[ニンニク]]、[[ラッキョウ]]は地中にできるため根菜として扱われることもあるが、可食部である鱗茎の主体は特殊化した葉(鱗茎葉)であり、葉菜類(葉茎菜類)として扱われることも多く<ref name="日本標準商品分類" /><ref name="=野菜類の区分" />、また[[ネギ]]や[[ニラ]]など他の[[ネギ属]]野菜と合わせてネギ類<ref name="養賢堂2004" />や鱗茎菜類<ref name="米安1996" />として他と分けられることもある。

[[果菜類]](および花菜類)では花を咲かせることが必要である。一方、[[葉菜類]]や[[根菜類]]では花茎が伸びて花芽が形成される([[抽苔]]とよばれる)と、食用部分の品質が低下する<ref name="コトバンク_野菜2" />。そのため、このような野菜は抽台しにくい品種や抽苔しにくい季節に栽培される<ref name="コトバンク_野菜2" />。

{{Clear}}

=== 系統分類学による分類 ===
系統分類学における区分では、野菜はさまざまな[[科 (分類学)|科]]に属する<ref name="飛騨2009" />。ただし、[[アブラナ科]]、[[マメ科]]、[[ウリ科]]、[[ナス科]]、[[キク科]]、[[セリ科]]などいくつかの科が特に多くの野菜を含む。以下に、一般的な被子植物の科の配列に沿って野菜を含むおもな科を列記している<ref name="養賢堂2004" /><ref name="YList" /><ref name="米倉2019">{{Cite book|author=米倉浩司|title=新維管束植物分類表|publisher=北隆館|year=2019|pages=|isbn=978-4-8326-1008-8}}</ref>。同じ科に属する野菜は、味や栄養価が似ていることが多く、栽培方法にも共通点が見られる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}。

* [[ハゴロモモ科]](ジュンサイ科):[[ジュンサイ]]
* [[サトイモ科]]:[[タロイモ]]([[サトイモ]]、[[ハスイモ]]など)
* [[オモダカ科]]:[[クワイ]]など
* [[ヤマノイモ科]]:[[ヤムイモ]]([[ナガイモ]]、[[ヤマノイモ]]など)
* [[ユリ科]]:[[ユリ根]]など
* [[キジカクシ科]]:[[アスパラガス]]など
* [[ヒガンバナ科]]:[[タマネギ]]、[[ネギ]]、[[ワケギ]]、[[ニラ]]、[[リーキ]]、[[ニンニク]]、[[ラッキョウ]]など
* [[ショウガ科]]:[[ショウガ]]、[[ウコン]]、[[ミョウガ]]など
* [[イネ科]]:[[タケノコ]]、[[トウモロコシ]](スイートコーン)など
* [[ハス科]]:[[ハス]]([[レンコン]])
* [[マメ科]]:[[インゲンマメ]]、[[エンドウ]]、[[ダイズ]]([[枝豆]])、[[ソラマメ]]、[[ラッカセイ]]、[[リョクトウ]](緑豆もやし)など
* [[バラ科]]:[[イチゴ]]、[[ウメ]]{{efn2|name="ウメ"|ウメの果実は、副食に用いられるため野菜ともされるが、木に実るため[[果物]]として扱われることもある<ref name="谷野1996">{{Cite journal|author=谷野陽|year=1996|title=世界の野菜, 日本の野菜|journal=日本調理科学会誌|volume=29|issue=3|pages=224-233|doi=10.11402/cookeryscience1995.29.3_224}}</ref>。}}など
* [[ウリ科]]:[[キュウリ]]、[[シロウリ]]、[[スイカ]]、[[カボチャ]]、[[ズッキーニ]]、[[ニガウリ]]、[[トウガン]]など
* [[ミソハギ科]]:[[ヒシ]]
* [[ミカン科]]:[[サンショウ]]など
* [[トウダイグサ科]]:[[キャッサバ]]など。
* [[アオイ科]]:[[オクラ]]、[[モロヘイヤ]]など
* [[アブラナ科]]:[[キャベツ]]、[[ブロッコリー]]、[[カリフラワー]]、[[ハクサイ]]、[[コマツナ]]、[[ミズナ]]、[[タアサイ]]、[[チンゲンサイ]]、[[菜花]]、[[カブ]]、[[ダイコン]]、[[クレソン]]、[[ワサビ]]など
* [[ヒユ科]]:[[ホウレンソウ]]、[[オカヒジキ]]、[[ビート (植物)|ビート]]、[[スイスチャード]]など
* [[タデ科]]:[[ヤナギタデ]]、[[ルバーブ]]など
* [[ハマミズナ科]]:[[ツルナ]]、[[アイスプラント]]など
* [[ツルムラサキ科]]:[[ツルムラサキ]]など
* [[ヒルガオ科]]:[[サツマイモ]]、[[クウシンサイ]](ヨウサイ)など
* [[ナス科]]:[[ナス]]、[[トマト]]、[[ピーマン]]、[[パプリカ]]、[[トウガラシ]]、[[シシトウガラシ]]、[[ジャガイモ]]など
* [[シソ科]]:[[シソ]](大葉)、[[エゴマ]]、[[バジル]]など
* [[キク科]]:[[レタス]]、[[シュンギク]]、[[ゴボウ]]、[[食用菊]]、[[アーティチョーク]]、[[チコリ]]、[[トレビス]]、[[エンダイブ]]、[[スイゼンジナ]]、[[フキ]]、[[ヤーコン]]など
* [[ウコギ科]]:[[ウド]]、[[タラノキ]]など
* [[セリ科]]:[[ニンジン]]、[[セロリ]]、[[パセリ]]、[[セリ]]、[[ミツバ]]、[[アシタバ]]、[[パクチー]]、[[フェンネル]]など

=== 香辛野菜 ===
[[ファイル:2020-04-12 19 00 28 Jalapeno, red pepper, onion and parsley on a paper plate in the Franklin Farm section of Oak Hill, Fairfax County, Virginia.jpg|thumb|right|200px|タマネギ、パセリ、トウガラシ]]
野菜の中には香りや辛味が強く、少量が料理に添えられたり調味に使われるものがあり、'''[[香辛野菜]]'''(香辛菜)ともよばれる<ref name="=野菜類の区分" /><ref name="コトバンク_香味野菜">{{Cite Kotobank|word=香味野菜|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-07-20}}</ref>。[[薬味]]や[[ハーブ]]とよばれるものもある<ref name="コトバンク_薬味">{{Cite Kotobank|word=薬味|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-08}}</ref><ref name="コトバンク_ハーブ">{{Cite Kotobank|word=ハーブ|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-08}}</ref>。[[サンショウ]]、[[クレソン]]、[[カイワレダイコン]]などがある<ref name="斎藤1996" /><ref name="日本標準商品分類" /><ref name="芦澤1992">{{Cite journal|author=芦澤正和|year=1992|title=1. 野菜|journal=化学と生物|volume=27|issue=10|pages=663–671|doi=10.1271/kagakutoseibutsu1962.30.735}}</ref>。

=== 緑黄色野菜と淡色野菜 ===
[[ファイル:Brocoli 03.jpg|thumb|right|200px|緑黄色野菜かつ西洋野菜である[[ブロッコリー]]]]
日本では、可食部の[[カロテン]]含有量に基づいて、野菜を[[緑黄色野菜]]と[[淡色野菜]]に分類することがある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}{{sfn|講談社編|2013|p=236}}。日本の[[厚生労働省]]では「原則として可食部100[[グラム]] (g) 当たりの[[カロテン]]含量が600[[マイクログラム]] (µg) 以上の野菜」を'''緑黄色野菜'''と定義している<ref name="kenkouyougo">{{Cite web|和書|url=https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-037.html|title=健康用語辞典 緑黄色野菜|publisher=厚生労働省|accessdate=2013-04-05}}</ref><ref name="alic-yasaibook1"/><ref name="緑黄色野菜">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/2208/01.html|title=緑黄色野菜とはどのようなものですか。|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-10}}</ref>。緑黄色野菜は色が濃い野菜が多く、[[ホウレンソウ]]、[[ニンジン]]、[[カボチャ]]などがその代表例である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。[[トマト]]や[[ピーマン]]などは、この基準に入らないが、食べる回数や量が多いことから緑黄色野菜とみなされている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}{{sfn|講談社編|2013|p=236}}。また、緑黄色野菜以外の野菜は、'''淡色野菜'''とよばれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。

=== 西洋野菜と中国野菜 ===
日本において、[[明治時代]]以降に[[欧米]]から導入された野菜は、'''西洋野菜'''(洋菜)とよばれる<ref name="nihonsyokuhindaijiten_p104">杉田浩一編『日本食品大事典』医歯薬出版 p.104 2008年</ref><ref name="コトバンク_西洋野菜">{{Cite Kotobank|word=西洋野菜|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-26}}</ref>。また、日本において[[1970年代]]以降に中国から導入され普及した野菜は'''[[中国野菜]]'''とよばれる<ref name="nihonsyokuhindaijiten_p104"/><ref name="コトバンク_中国野菜">{{Cite Kotobank|word=中国野菜|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-26}}</ref>。

西洋野菜には[[ブロッコリー]]、[[カリフラワー]]、[[キャベツ]]など、中国野菜には[[チンゲンサイ]]や[[パクチョイ]]、[[タアサイ]]などがある<ref name="nihonsyokuhindaijiten_p104" /><ref name="コトバンク_西洋野菜" /><ref name="コトバンク_中国野菜" />。

=== 旬による分類 ===
近年では、おもな野菜は一年中供給されているが、本来は野菜は時期が限られ旬がはっきりしたものであった。日本では、その旬によっておもな野菜が以下のようによばれることがある。ただし、このような分類は一貫したものではなく、同一の野菜が異なる季節に分類されていることもある<ref name="春夏秋冬の季節野菜">{{Cite web|和書|author=いまむらゆい|date=2024-08-02|url=https://life-stories.co.jp/manap/season-yasai/|title=春夏秋冬の季節野菜を紹介!|website=Manap|publisher=Life Stories|accessdate=2024-08-13}}</ref><ref name="カレー">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://housefoods.jp/data/curryhouse/recipe/vegetable_curry.html|title=【野菜カレーレシピ】|website=|publisher=ハウス食品グループ|accessdate=2024-08-13}}</ref><ref name="コトバンク_夏野菜" /><ref name="コトバンク_秋野菜" /><ref name="コトバンク_冬野菜" />。

* '''春野菜''' - [[春キャベツ]]、[[菜花]]、[[スナップエンドウ]]、[[フキノトウ]]、[[ウド]]、[[新タマネギ]]、[[アスパラガス]]、[[タケノコ]]など<ref name="春夏秋冬の季節野菜" /><ref name="カレー" /><ref name="コトバンク_春野菜">{{Cite Kotobank|word=春野菜|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-07-27}}</ref>。
* '''[[夏野菜]]''' - [[トマト]]、[[ナス]]、[[ピーマン]]、[[シシトウガラシ]]、[[シソ]](大葉)、[[枝豆]]、[[サヤインゲン]]、[[キュウリ]]、[[ズッキーニ]]、[[トウガン]]、[[オクラ]]、[[トウモロコシ]]、[[ニンニク]]、[[ニラ]]など<ref name="春夏秋冬の季節野菜" /><ref name="カレー" /><ref name="コトバンク_夏野菜">{{Cite Kotobank|word=夏野菜|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-07-27}}</ref>。
* '''秋野菜''' - [[サツマイモ]]、[[ジャガイモ]]、[[シュンギク]]、[[レンコン]]、[[ナガイモ]]、[[キノコ]]類など<ref name="春夏秋冬の季節野菜" /><ref name="カレー" /><ref name="コトバンク_秋野菜">{{Cite Kotobank|word=秋野菜|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-07-27}}</ref>。
* '''冬野菜''' - [[キャベツ]]、[[ブロッコリー]]、[[カリフラワー]]、[[ハクサイ]]、[[コマツナ]]、[[ホウレンソウ]]、[[ダイコン]]、[[サトイモ]]など<ref name="春夏秋冬の季節野菜" /><ref name="カレー" /><ref name="コトバンク_冬野菜">{{Cite Kotobank|word=冬野菜|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-07-27}}</ref>。

=== 高原野菜 ===
[[ファイル:Tsumagoi Cabbage&Asamayama.JPG|thumb|right|200px|[[嬬恋村]](群馬県)におけるキャベツ栽培]]
日本において、夏でも涼しい標高1,000メートル前後の[[高原]]で栽培される野菜は、'''高原野菜'''(こうげんやさい)または'''高冷地野菜'''(こうれいちやさい)とよばれる<ref name="コトバンク_高原野菜">{{Cite Kotobank |word=高原野菜 |encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典 |accessdate=2024-07-20}}</ref>。高原野菜の利点は、夏の平地では栽培が難しい野菜を独占的に栽培できるところにあるが、栽培期間が短く、通常は年1作のみである<ref name="コトバンク_高原野菜" />。代表的なものとして、[[レタス]]、[[ハクサイ]]、[[キャベツ]]などがある<ref>{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.ja-yatugatake.iijan.or.jp/product_guide/index.html|title=夏の高原野菜|website=|publisher=JA長野八ヶ岳|accessdate=2024-07-20}}</ref>。明治半ばに、長野県の[[軽井沢]]において[[避暑]]に訪れる外国人客向けとして栽培が始まり、大正末期から東京など大都市に出荷されるようになった<ref name="コトバンク_高原野菜" />。
{{-}}


== 代表的な野菜 ==
== 代表的な野菜 ==
下表には、FAOSTAT([[国際連合食糧農業機関]]のデータベース)において世界生産量が100万トン以上のもの(2022年)<ref name="FAOSTAT" />、および日本における[[指定野菜]](***; 消費量が多く、収穫量と出荷量が毎年調査される)と[[特定野菜]](**; 指定野菜に準ずる野菜)<ref name="野菜の収穫量及び出荷量">{{Cite web|和書|author=|date=2024|url=https://www.stat.go.jp/library/faq/faq07/faq07a06.html|title=07A-Q06 野菜の収穫量及び出荷量|website=|publisher=総務省統計局|accessdate=2024-06-01}}</ref><ref name="指定野菜">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0410/02.html|title=指定野菜について教えてください|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-07-26}}</ref><ref name="特定野菜等の対象産地の選定状況">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/chushi/seisan/vegetable/tokutei.html|title=特定野菜等の対象産地の選定状況|website=|publisher=中国四国農政局|accessdate=2024-07-18}}</ref>を記している([[#野菜生産出荷安定法|下記参照]])。下表の中で[[メロン]]、[[スイカ]]、[[イチゴ]]はふつう[[果物]]として扱われるが、[[草本]]に実るため日本の生産分野では野菜(果実的野菜、果物的果菜)として扱われている<ref name="野菜の定義" />。また、[[豆|マメ類]]や[[トウモロコシ]]の完熟品、[[イモ類]]([[ジャガイモ]]、[[サツマイモ]]、[[ヤムイモ]]など)は主食や加工品原材料に利用されることも多く、野菜とは別に扱われることもある<ref name="谷野1996">{{Cite journal|author=谷野陽|year=1996|title=世界の野菜, 日本の野菜|journal=日本調理科学会誌|volume=29|issue=3|pages=224-233|doi=10.11402/cookeryscience1995.29.3_224}}</ref><ref name="野菜の定義">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.alic.go.jp/content/000093223.pdf|title=野菜の定義について|website=|publisher=独立行政法人 農畜産業振興機構|accessdate=2024-07-17}}</ref>([[#定義|上記参照]])。
{|style="width:98%;" class="wikitable"

下表は、[[果菜]]、[[葉菜]](茎菜、花菜を含む)、[[根菜]]、[[菌類]]の順で表記してある。ただし、同一の植物種の別の器官(葉と根など)が食用とされることもある([[ダイコン]]など)。

{| class="wikitable" style="font-size:small"
! style="text-align:center; " colspan="6"|代表的な野菜
! style="text-align:center; " colspan="6"|代表的な野菜
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! style="" |画像
! style="" |画像
! style="" |名前<ref name="飛騨2009" /><ref name="養賢堂2004">{{Cite book|author=|translator=|year=2004|chapter=|editor=山崎耕宇, 久保祐雄, 西尾敏彦, 石原邦|title=新編 農学大事典|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0354-7|pages=515–564}}</ref>
! style="" |名前(学名)
! style="" |分類<ref name="YList">{{Cite web|和書|author=米倉浩司・梶田忠|date=2007–|url=http://ylist.info/index.html|title=YList|website=「植物和名ー学名インデックスYList」(YList)|publisher=|accessdate=2024-07-12}}</ref>
! style="" |食用部位
! style="" |原産地
! style="" |食用部位<ref name="養賢堂2004" />
! style="" |類縁種
! style="" |原産地<ref name="養賢堂2004" />
! style="" |世界生産量<br>(100万トン;2012)<ref>{{cite web|url=http://faostat.fao.org/site/567/DesktopDefault.aspx?PageID=567#ancor |title=FAOSTAT Query page |accessdate=2015-09-16}} Aggregate data: may include official, semi-official or estimated data</ref>
! style="" |2022年世界生産量<br />(100万トン)<ref name="FAOSTAT">{{cite web|url=https://www.fao.org/faostat/en/#data/QCL|title=FAOSTAT Query page, Crops and livestock products|accessdate=2024-07-14}}</ref>
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|-
| [[File:Tomato je.jpg|125px]] || [[トマト]]*** || [[ナス科]]<br />{{Snamei||Solanum lycopersicum}} || 果実 || [[南米]] || 186.1
| [[File:CabbageBG.JPG|125px]] || [[キャベツ]]<br>''Brassica oleracea'' || 葉、腋芽、茎、花 || ヨーロッパ || キャベツ、[[赤キャベツ]]、[[コールラビ]]、[[ケール]]、[[メキャベツ]]、[[カリフラワー]]、[[ブロッコリー]]、[[カイラン]]
|style="text-align:right"|70.1
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|-
| [[File:Aubergine.jpg|125px]] || [[ナス]]*** || ナス科<br />{{Snamei||Solanum melongena}} || 果実 || [[南アジア]] || 59.3
| [[File:Turnip 2622027.jpg|125px]] || [[カブ]]<br>''Brassica rapa'' || 塊茎、葉 || アジア ||カブ、[[ルタバガ]]、[[ハクサイ]]、[[チンゲンサイ]]、[[ノザワナ]]、[[コマツナ]]、[[アブラナ]]([[菜の花]])、[[ミズナ]]、[[タアサイ]]
|style="text-align:right"|
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| [[File:Capsicum annuum (8307305118).jpg|125px]] || [[トウガラシ]]、[[シシトウガラシ]]**、[[ピーマン]]***、[[パプリカ]]など || ナス科<br />{{Snamei||Capsicum annuum}} || 果実 || [[中米]] || 41.8{{efn2|name="含乾燥"|乾燥品を含む。}}
| [[File:Daikon.Japan.jpg|125px]] || [[ダイコン]]<br>''Raphanus sativus'' || 根、葉、種子鞘、種子油、芽 || 東南アジア || ダイコン、[[ハツカダイコン]](ラディッシュ)
|style="text-align:right"|
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|-
| [[File:7carrots.jpg|125px]] || [[ニンジン]]<br>''Daucus carota'' || 塊根 || イラン || ニンジ
| [[File:Cucumber from Denmark.jpg|125px]] || [[キュウリ]]*** || [[ウリ科]]<br />{{Snamei||Cucumis sativus}} || 果実 || 南アジア || 94.7{{efn2|name="キュウリ"|[[ガーキ]]({{Snamei||Cucumis anguria}})を含む。}}
|style="text-align:right"|36.9<ref group=n name=carrot>ニンジンとカブの合算</ref>
|-
|-
| [[File:Cantaloupe.jpg|125px]] || [[メロン]]**{{efn2|name="果実的野菜"|甘いため、消費分野では「果物」として扱われるが、草本に実るため、日本の生産分野では「野菜」(果実的野菜、果物的果菜)として扱われる。}}、[[マクワウリ]]、[[シロウリ]]など || ウリ科<br />{{Snamei||Cucumis melo}} || 果実 || [[アフリカ]] || 28.5
| [[File:Arctium lappa 2006.10.14 11.01.25-pa140017.jpg|75px]] || [[ゴボウ]]<br>''Arctium lappa'' || 塊根 || ユーラシア ||ゴボウ
|style="text-align:right"|
|-
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| [[File:Kropsla herfst.jpg|125px]] || [[レタス]]<br>''Lactuca sativa'' || 葉、茎、種子油 || エジプト || レタス、[[ステムレタス]]
| [[File:FvfMexicoPampanga1620 34.JPG|125px]] || [[スイカ]]**{{efn2|name="果実的野菜"}} || ウリ科<br />{{Snamei||Citrullus lanatus}} || 果実 || アフリカ || 99.9
|style="text-align:right"|24.9
|-
|-
| [[File:68 - CIMG2744.jpg|125px]] || [[ニガウリ]]**{{Fontsize|small|(ツルレイシ、ゴーヤ)}} || ウリ科<br />{{Snamei||Momordica charantia}} || 果実 || 熱帯アジア ||
| [[File:Bohne z01.JPG|125px]] || [[インゲンマメ]]<br>''Phaseolus vulgaris''<br>''Phaseolus coccineus''<br>''Phaseolus lunatus'' || 種子、鞘 || 中央アメリカおよび南アメリカ || インゲンマメ、[[ベニバナインゲン]]、[[リママメ]]
|style="text-align:right"|44.6<ref group=n name=dry>乾物及び生野菜の合算</ref>
|-
|-
| [[File:PumpkinVariety.jpg|125px]] || [[カボチャ]]**、[[ズッキーニ]]など || ウリ科<br />{{Snamei||Cucurbita}} spp.{{efn2|name="カボチャ"|[[セイヨウカボチャ]]({{Snamei||Cucurbita maxima}})、[[ニホンカボチャ]]({{Snamei||Cucurbita moschata}})、[[ペポカボチャ]]({{Snamei||Cucurbita pepo}})、[[クロダネカボチャ]]({{Snamei||Cucurbita ficifolia}})など数種を含み、また[[ズッキーニ]]はペポカボチャの1品種である<ref name="養賢堂2004" />}} || 果実 || 中米から南米 || 22.8{{efn2|name="カボチャ統計"|カボチャなどウリ類 (pumpkins, squash and gourds) の総計とされている。}}
| [[File:Tuinboon zaden in peul.jpg|125px]] || [[ソラマメ]]<br>''Vicia faba'' || 種子、鞘 || 北アフリカ<br>西南アジアから南アジア || ソラマメ
|style="text-align:right"|
|-
|-
| [[File:Phaseolus vulgaris, the common green bean.JPG|125px]] || [[インゲンマメ]]([[サヤインゲン]]**など) || [[マメ科]]<br />{{Snamei||Phaseolus vulgaris}} || 果実、種子、葉<ref name="Yamaguchi1985マメ">{{cite book|author=Yamaguchi, M.|translator=高橋和彦ら|year=1985|chapter=21.1.1 豆類|title=世界の野菜|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0237-3|pages=246–250}}</ref> || 中米 || 29.6{{efn2|name="含乾燥"}}
| [[File:NCI peas in pod.jpg|125px]] || [[エンドウマメ]]<br>''Pisum sativum'' || 種子、鞘、芽 || 地中海から中東 || エンドウマメ、[[スナップエンドウ]]
|style="text-align:right"|28.9<ref group=n name=dry/>
|-
|-
| [[File:Guisantes - en - Vainas (8454321298).jpg|125px]] || [[エンドウ]]([[サヤエンドウ]]**、[[グリーンピース]]**など) || マメ科<br />{{Snamei||Pisum sativum}} || 果実、種子、スプラウト<ref name="Yamaguchi1985マメ" /> || [[地中海沿岸]]から[[中東]] || 35.1{{efn2|name="含乾燥"}}
| [[File:Various types of potatoes for sale.jpg|125px]] || [[ジャガイモ]]<br>''Solanum tuberosum'' || 塊茎 || 南アメリカ || ジャガイモ
|style="text-align:right"|365.4
|-
|-
| [[File:CDC edamame.jpg|125px]] || [[ダイズ]]([[枝豆]]**など) || マメ科<br />{{Snamei||Glycine max}} || 果実、種子、[[スプラウト]]<ref name="Yamaguchi1985マメ" /> || [[中国]] || 34.8{{efn2|name="含乾燥"}}
| [[File:Aubergine.jpg|125px]] || [[ナス]]<br>''Solanum melongena'' || 果実 || 南アジアおよび東アジア || ナス
|style="text-align:right"|48.4
|-
|-
| [[File:Tomato je.jpg|125px]] || [[]]<br>''Solanum lycopersicum'' || 果実 || リカ || トマト
| [[File:Baqla.jpg|125px]] || [[ソラ]]** || マメ科<br />{{Snamei||Vicia faba}} || 種子<ref name="Yamaguchi1985マメ" /> || [[北リカ]]から[[西アジア]] || 7.7{{efn2|name="含乾燥"}}
|style="text-align:right"|161.8
|-
|-
| [[File:Ogórki...jpg|125px]] || [[キュウリ]]<br>''Cucumis sativus'' || 果実 || 南アジア || キュウリ
| [[File:Lady's fingers (Okra) in Chennai.JPG|125px]] || [[オクラ]]** || [[アオイ科]]<br />{{Snamei||Abelmoschus esculentus}} || 果実 || 東北フリカ || 11.2
|style="text-align:right"|65.1
|-
|-
| [[File:Fraises 2 Luc Viatour.jpg|125px]] || [[イチゴ]]**{{efn2|name="果実的野菜"}}(オランダイチゴ) || [[バラ科]]<br />{{Snamei||Fragaria x ananassa}} || 果実 || [[オランダ]]{{efn2|name="オランダイチゴ"|南米西部原産のチリーイチゴ({{Snamei||Fragaria chiloensis}})と北米東部原産のバージニアイチゴ({{Snamei||Fragaria virginiana}})の種間雑種に由来する。}} || 9.5
| [[File:Pumpkins Hancock Shaker village 2418.jpg|125px]] || [[カボチャ]]<br>''Cucurbita spp.'' || 果実、花 || メソアメリカ || カボチャ、[[ズッキーニ]]|| style="text-align:right"|24.6
|-
|-
| [[File:Palaintains of Salem Tamil Nadu.jpg|125px]] || リョウリバナナ<ref name="Yamaguchi1985リョウリバナナ">{{cite book|author=Yamaguchi, M.|translator=高橋和彦ら|year=1985|chapter=16.1 リョウリバナナ|title=世界の野菜|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0237-3|pages=170–175}}</ref>([[プランテン]]など) || [[バショウ科]]<br />{{Snamei||Musa × paradisiaca}} など || 果実、茎葉<ref name="Yamaguchi1985リョウリバナナ" /> || [[東南アジア]]<ref name="Yamaguchi1985リョウリバナナ" /> || 44.1{{efn2|name="バナナ"|果物用のバナナは135.1(百万トン)。}}
| [[File:Onions.jpg|125px]] || [[タマネギ]]<br>''Allium cepa'' || 球根, 葉 || アジア || タマネギ、[[ネギ]]、[[ワケギ]]、[[エシャロット]]
|style="text-align:right"|87.2<ref group=n name=dry/>
|-
|-
| [[File:Batar kinur.jpg|125px]] || [[トウモロコシ]](スイートコーン**など) || [[イネ科]]<br />{{Snamei||Zea mays}} || 果実 || 中米または南米 || 9.8{{efn2|name="トウモロコシ"|生鮮品の量であり、乾燥品(穀類として扱われる)の量は1163.4(百万トン)。}}
| [[File:Garlic.jpg|125px]] || [[ニンニク]]<br>''Allium sativum'' || 球根 || アジア || ニンニク
|style="text-align:right"|24.8
|-
|-
| [[File:ほうれん草 2014-02-27 22-16.jpg|125px]] || [[ホウレンソウ]]*** || [[ヒユ科]]<br />{{Snamei||Spinacia oleracea}} || 葉 || 西南アジアから[[中央アジア]] || 33.1
| [[File:Red capsicum and cross section.jpg|125px]] || [[トウガラシ]]<br>''Capsicum annuum'' || 果実 || 南北アメリカ || トウガラシ、[[ピーマン]]、[[パプリカ]]、[[シシトウ]]
|style="text-align:right"|34.5<ref group=n name=dry/>
|-
|-
| [[File:Choux 01.jpg|125px]] || [[キャベツ]]***、[[カリフラワー]]**、[[ブロッコリー]]**など || [[アブラナ科]]<br />{{Snamei||Brassica oleracea}} || 葉、[[腋芽]]、茎、花芽 || 地中海沿岸域 || 72.6{{efn2|name="キャベツ"|キャベツの生産量}}<br />26.0{{efn2|name="カリフラワー"|カリフラワーとブロッコリーの生産量合計}}
| [[File:Espinac 5nov.JPG|125px]]||[[ホウレンソウ]]<br>''Spinacia oleracea''||葉||中央アジアから西南アジア||ホウレンソウ
|style="text-align:right"|21.7
|-
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| [[File:ChineseCabbage.jpg|125px]] || [[ハクサイ]]***、[[コマツナ]]**、[[ミズナ]]**、[[チンゲンサイ]]**など<br />※[[カブ]]と同種 || [[アブラナ科]]<br />{{Snamei||Brassica rapa}} || 茎葉、花芽 || [[ヨーロッパ]]西南部から西南アジア ||
| [[File:Taro corms 2.jpg|125px]] || [[サトイモ]]<br>''Colocasia esculenta'' || 塊茎、葉柄 || 東南アジア ||サトイモ、[[タロイモ]]、[[タイモ]]
|style="text-align:right"|
|-
|-
| [[File:Dioscorea polystachya (batatas).jpg|125px]] || [[ヤムイモ]]<br>''Dioscorea spp.'' || 茎 || アフリカ熱帯地域 ||ヤムイモ、[[ヤマノイモ]]
| [[File:Lettuce mix.jpg|125px]] || [[レタス]]*** || [[キク科]]<br />{{Snamei||Lactuca sativa}} || 茎 || 地中海沿岸から中近東 || 27.1{{efn2|name="レタス"|[[チコリー]]との合計}}
|style="text-align:right"|59.5
|-
|-
| [[File:4649 - Carciofi al mercato di Ortigia, Siracusa - Foto Giovanni Dall'Orto, 20 marzo 2014.jpg|125px]] || [[アーティチョーク]] || キク科<br />{{Snamei||Cynara scolymus}} || 花芽 || 地中海沿岸域 || 1.5
| [[File:Ipomoea batatas 006.JPG|125px]] || [[サツマイモ]]<br>''Ipomoea batatas'' || 塊根, 葉, 苗条 || 中央アメリカおよび南アメリカ ||サツマイモ
|style="text-align:right"|108.0
|-
|-
| [[File:Fuki no tou (Petasites japonicus) , フキノトウ - panoramio.jpg|125px]] || [[フキ]]** || キク科<br />{{Snamei||Petasites japonicus}} || [[葉柄]]、花茎<ref name="コトバンク_フキ">{{Cite Kotobank|word=フキ|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|accessdate=2024-06-28}}</ref> || 日本 ||
| [[File:Manihot esculenta dsc07325.jpg|125px]]||[[キャッサバ]]<br>''Manihot esculenta''|| 塊茎 || 南アメリカ || キャッサバ
|-
|style="text-align:right"|269.1
| [[File:Glebionis coronaria 4.jpg|125px]] || [[シュンギク]]<ref name="養賢堂2004" />** || キク科<br />{{Snamei||Glebionis coronaria}} || 茎葉<ref name="養賢堂2004" /> || 地中海沿岸域 ||
|-
| [[File:Mitsuba.jpg|125px]] || [[ミツバ]]<ref name="養賢堂2004" /><ref name="コトバンク_ミツバ">{{Cite Kotobank|word=ミツバ|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-06-23}}</ref>** || セリ科<br />{{Snamei||Cryptotaenia canadensis}} || 茎葉、根<ref name="コトバンク_ミツバ" />|| 日本 ||
|-
| [[File:Céleri.jpg|125px]] || [[セロリ]]<ref name="養賢堂2004" /><ref name="コトバンク_セロリ">{{Cite Kotobank|word=セロリ|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|accessdate=2024-06-23}}</ref>** || セリ科<br />{{Snamei||Apium graveolens}} || 茎葉、根{{efn2|name="セルリアック"|根用の品種は[[セルリアック]]とよばれる<ref>{{Cite book|author=|translator=|year=2004|chapter=セルリアック|editor=山崎耕宇, 久保祐雄, 西尾敏彦, 石原邦|title=新編 農学大事典|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0354-7|page=536}}</ref>。}}、種子<ref name="養賢堂2004" /><ref name="コトバンク_セロリ" /> || 地中海沿岸域 ||
|-
| [[File:Asparagas_display.jpg|125px]] || [[アスパラガス]]** || [[キジカクシ科]]<br />{{Snamei||Asparagus officinalis}} || 茎 || 南ヨーロッパ || 8.8
|-
| [[File:Mioga.jpg|125px]] || [[ミョウガ]]** || [[ショウガ科]]<br />{{Snamei||Zingiber mioga}} || [[花芽]]、茎 || アジア東部 ||
|-
| [[File:Cebolleta-rafax.jpg|125px]] || [[ネギ]]***、[[ニラ]]**、[[リーキ]]、[[ワケギ]]**など || [[ヒガンバナ科]]<br />{{Snamei||Allium}} spp. || 葉 || 中国など || 2.1
|-
| [[File:Onions.jpg|125px]] || [[タマネギ]]***、[[エシャロット]]{{efn2|name="エシャロット"|エシャロット(エシャレット<ref name="日本標準商品分類" />、シャレット<ref name="米安1996" />、シャロット<ref name="YList" />)は、本来はタマネギの1変種({{Snamei||Allium cepa}} var. ''aggregatum'')であるが<ref name="YList" />、日本ではラッキョウを軟白栽培したものがエシャロットとよばれている<ref name="コトバンク_エシャロット">{{Cite Kotobank|word=エシャロット|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-06-07}}</ref>。}} || ヒガンバナ科<br />{{Snamei||Allium cepa}} || [[鱗茎]] || 中央アジア || 115.5
|-
| [[File:Allium sativum - Garlic 02.jpg|125px]] || [[ニンニク]]** || ヒガンバナ科<br />{{Snamei||Allium sativum}} || 鱗茎、茎葉 || 中央アジア || 29.1
|-
| [[File:Allium chinense Rakkyo.JPG|125px]] || [[ラッキョウ]]** || ヒガンバナ科<br />{{Snamei||Allium chinense}} || 鱗茎 || インドから中国 ||
|-
| [[File:Daikon.Japan.jpg|125px]] || [[ダイコン]]***([[カイワレダイコン]]を含む)、[[ハツカダイコン]](ラディッシュ) || [[アブラナ科]]<br />{{Snamei||Raphanus sativus}} || [[根]]、葉、[[スプラウト]] || ヨーロッパ ||
|-
| [[File:CSA-Tokyo-Turnips.jpg|125px]] || [[カブ]]**<br />※[[ハクサイ]]、[[ミズナ]]、[[コマツナ]]、[[チンゲンサイ]]などと同種 || [[アブラナ科]]<br />{{Snamei||Brassica rapa}} || 根([[胚軸]])、葉 || ヨーロッパ西南部から西南アジア || 42.2{{efn2|name="ニンジンとカブ"|ニンジンとカブの生産量合計値である。}}
|-
| [[File:7carrots.jpg|125px]] || [[ニンジン]]*** || [[セリ科]]<br />{{Snamei||Daucus carota}} || 根、葉 || 中央アジア || 42.2{{efn2|name="ニンジンとカブ"}}
|-
| [[File:Arctium1.jpg|125px]] || [[ゴボウ]]** || [[キク科]]<br />{{Snamei||Arctium lappa}} || 根、葉 || [[ユーラシア]] ||
|-
| [[File:Ipomoea batatas 006.JPG|125px]] || [[サツマイモ]]** || [[ヒルガオ科]]<br />{{Snamei||Ipomoea batatas}} || 根 || 中南米 || 86.4
|-
| [[File:Manihot esculenta dsc07325.jpg|125px]] || [[キャッサバ]] || [[トウダイグサ科]]<br />{{Snamei||Manihot esculenta}} || 根 || 中南米 || 330.4
|-
| [[File:Picture of many potatoes.jpg|125px]] || [[ジャガイモ]]*** || [[ナス科]]<br />{{Snamei||Solanum tuberosum}} || [[地下茎]] || 南米 || 374.7
|-
| [[File:Lotus_root.jpg|125px]] || [[ハス]]([[レンコン]]**) || [[ハス科]]<br />{{Snamei||Nelumbo nucifera}} || 地下茎 || 中国または[[エジプト]] ||
|-
| [[File:Starr 070730-7885 Colocasia esculenta.jpg|125px]] || [[タロイモ]]([[サトイモ]]***、[[ハスイモ]]など) || [[サトイモ科]]<br />{{Snamei||Colocasia}} spp. など{{efn2|name="タロイモ"|サトイモ属以外の {{Snamei||Xanthosoma}}、クワズイモ属({{Snamei||Alocasia}})、キルトスペルマ属({{Snamei||Cyrtosperma}})などのものもタロイモとよばれることがある<ref name="コトバンク_タロイモ1">{{Cite Kotobank|word=タロイモ|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|accessdate=2024-06-07}}</ref>。}} || 地下茎、[[葉柄]] || 東南アジアなど || 17.7
|-
| [[File:Nagaimo.Japan.JPG|125px]] || [[ヤムイモ]]([[ヤマノイモ]]**{{efn2|name="ヤマノイモ"|日本の作物統計などではヤマノイモの名でまとめられているが<ref name="日本標準商品分類">{{Cite web|author=|date=|url=https://www.soumu.go.jp/main_content/000294475.pdf|title=農産食品|website=[https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/syouhin/2index.htm 日本標準商品分類(平成2年6月改定)]|publisher=総務省|accessdate=2023-01-21}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=41|title=夏の旬野菜ヤマノイモ|website=とれたて大百科|publisher=JAグループ|accessdate=2024-06-06}}</ref>、日本で栽培されているものはほとんどナガイモ({{Snamei||Dioscorea polystachya}})であり、狭義のヤマノイモ(自然薯、{{Snamei||Dioscorea japonica}})の多くは野生品である<ref name="コトバンク_ヤマノイ">{{Cite Kotobank|word=ヤマノイモ|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|accessdate=2024-06-06}}</ref>。}}、[[ナガイモ]]など) || [[ヤマノイモ科]]<br />{{Snamei||Dioscorea}} spp. || 地下茎(担根体{{efn2|name="担根体"|ヤマノイモ属の「イモ」は、維管束の配列や発生過程から地下茎が肥大したもの([[塊茎]])と考えられているが、葉を付けず全面に根を生じるため典型的な塊茎とは異なる<ref name="岩佐1980ダイジョ">{{cite book|author=岩佐俊吉|year=1980|chapter=45. ダイジョ|editor=農林水産省熱帯農業研究センター|title=熱帯の野菜|publisher=養賢堂|isbn=|pages=190–201}}</ref><ref name="土橋2019">{{cite book|author=土橋豊|year=2019|chapter=球根|editor=園芸学会|title=最新園芸・植物用語集|publisher=淡交社|isbn=978-4473042668|page=81–83}}</ref><ref name="寺林2013">{{cite journal|author=寺林進|year=2013|title=生薬の基原, 特に薬用部位および基原植物の学名について|journal=日本東洋医学雑誌|volume=64|pages=67-77|doi=10.3937/kampomed.64.67}}</ref><ref name="熊沢1979担根体">{{cite book|author=熊沢正夫|year=1979|chapter=担根体|editor=|title=植物器官学|publisher=裳華房|isbn=978-4785358068|pages=166−171}}</ref>。そのため、担根体ともよばれるが<ref name="土橋2019" /><ref name="寺林2013" /><ref name="熊沢1979担根体" />、[[ヒカゲノカズラ綱]]の[[イワヒバ属]]や[[ミズニラ属]]に見られる[[担根体]]とは異なる構造である<ref name="Iwasa2013担根体">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=担根体|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=883}}</ref>。}}) || 世界の熱帯域 || 88.2
|-
| [[File:Zingiber officinale (Zingiberaceae).jpg|125px]] || [[ショウガ]]** || [[ショウガ科]]<br />{{Snamei||Zingiber officinale}} || 地下茎、葉 || 不明 || 4.8
|-
| [[File:Lentinula edodes 20101113 c.jpg|125px]] || [[シイタケ]]** || [[ツキヨタケ科]]<ref name="MycoBank">{{Cite web|url=https://www.mycobank.org/|title=The MycoBank|publisher=Robert, V., Stegehuis, G. & Stalpers, J. |accessdate=2024-07-26}}</ref><br />{{Snamei||Lentinula edodes}} || [[子実体]] || 東アジアから東南アジア ||
|}
|}
{{reflist|group=n}}


== 分類 ==
== 歴史 ==
=== 野菜の誕生 ===
[[ファイル:Vegetables.jpg|right|thumb|200px|多種多様な野菜。]]
[[人類]]による[[農耕]]は、約1万年前に始まったと考えられている<ref name="山本2005">{{Cite journal|author=山本明歩|year=2005|title=農耕起源論についての一考察|journal=文明研究|volume=22|issue=|pages=87–100|doi=}}</ref><ref name="青葉1981b">{{cite book|author=青葉高|year=1981|chapter=第二章 野生植物と作物の違い|title=野菜: 在来品種の系譜|publisher=法政大学出版局|isbn=978-4588204319|pages=17–39}}</ref><ref name="養賢堂2004a">{{Cite book|author=|translator=|year=2004|chapter=|editor=山崎耕宇, 久保祐雄, 西尾敏彦, 石原邦|title=新編 農学大事典|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0354-7|pages=1–2}}</ref>。[[中近東]]では、このころ[[オオムギ]]や[[コムギ]]とともに、[[エンドウ]]や[[ヒラマメ]]の栽培が始まった<ref name="竹西1999">{{Cite journal|author=竹西真弓, 松井順子 & 増田芳雄|year=1999|title=食品資源としてのマメ科植物|journal=人間環境科学|volume=8|issue=|pages=103-136|crid=1050564287974188800}}</ref>。また紀元前6000–5000年ごろに[[タマネギ]]などの栽培が始まったとされるが、多くの野菜は紀元前1000年以降に成立したと考えられている<ref name="青葉1981b" />。<!--野菜類にはエネルギー源やタンパク質に富むものが少なく、栄養源としてはそこまで必要性が高くない<ref name="石毛2013" />。そのため、古くは食べられる[[野草]]を採集してくることも多く、作物としての野菜類の比重は高くなかったと考えられている。-->20世紀前半に、[[ニコライ・ヴァヴィロフ|バビロフ]](N. I. Vavilov)はさまざまな情報から野菜を含む栽培植物の起源地を推定し、その多くが[[中国]]、[[インド]]から[[東南アジア]]、[[中央アジア]]、[[近東]]、[[地中海沿岸]]、[[アフリカ]]([[サヘル]]地帯および[[エチオピア高原]])、[[中米]]、[[南米]](主に[[アンデス山脈]])の8地域を起源としていると考えた<ref name="養賢堂2004b">{{Cite book|author=|translator=|year=2004|chapter=|editor=山崎耕宇, 久保祐雄, 西尾敏彦, 石原邦|title=新編 農学大事典|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0354-7|pages=443–444}}</ref>(下表)。この説は現在でも主要な点は受け入れられているが、疑問視される点もある<ref name="養賢堂2004b" />。また主食の栽培については、[[四大文明]]などで見られた穀物の「種子農業」の他に、[[ヤムイモ]]や[[タロイモ]]、[[バナナ]](これらは現在、野菜として扱われることもある)の株分けなどによる「栄養体農業」(根菜農耕)も古い起源をもつと考えられ、これが最古の農業とする意見もある<ref name="養賢堂2004a" /><ref name="山本2005" />。


{| class="wikitable" style="font-size:small"
=== 需要部位による分類 ===
|+バビロフによる栽培植物の8大中心地<ref name="養賢堂2004b" /><ref>{{cite book|author=斎藤隆|year=2010|chapter=|editor=|title=蔬菜園芸の事典(普及版)|publisher=朝倉書店|isbn=9784254410334|pages=10-12}}</ref>
野菜は食用とする部位(需要部位)の違いから、一般に根を食用部位とする'''[[根菜|根菜類]]'''、地下あるいは地上の茎を食用部位とする'''茎菜類'''、葉や[[葉柄]]を食用部位とする'''[[葉菜類]]'''、[[花序]]や[[花弁]]を食用部位とする'''花菜類'''、未熟果や熟果を食用部位とする'''果菜類'''に分けられる<ref name="nihonsyokuhindaijiten_p104">杉田浩一編『日本食品大事典』医歯薬出版 p.104 2008年</ref><ref name="sosai_p30">斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.30 1991年</ref><ref name="heya sodan 1205">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1205/05a.html|title=消費者相談 ジャガイモは根菜類と区分されているようですが、そのほかの野菜類の区分はどのようになっているのか教えてください。|publisher=農林水産省|accessdate=2013-04-16}}</ref>。
!地域
!代表的な栽培植物
|-
|[[中国]](西部から中部)|| [[ダイズ]]、[[アズキ]]、[[モモ]]、[[ハクサイ]]、[[ソバ]]など
|-
|[[インド]]から[[東南アジア]] || [[イネ]]、[[サトウキビ]]、[[バナナ]]、[[ココヤシ]]、[[タロイモ]]、[[キュウリ]]、[[ナス]]など
|-
|[[中央アジア]] || [[タマネギ]]、[[ソラマメ]]、[[リンゴ]]、[[西洋ナシ]]、[[ホウレンソウ]]、[[ダイコン]]、[[ブドウ]]など
|-
|[[近東]]([[小アジア]]から[[カスピ海]]東方) || [[コムギ]]、[[オオムギ]]、[[ライムギ]]、[[ニンジン]]など
|-
|[[地中海沿岸]] || [[オリーブ]]、[[アスパラガス]]、[[エンドウ]]、[[ヒヨコマメ]]、[[キャベツ]]、[[サトウダイコン]]、[[レタス]]など
|-
|[[アフリカ]]([[サヘル]]地帯および[[エチオピア高原]]) || [[モロコシ]]、[[オクラ]]、[[コーヒー]]、[[ゴマ]]など
|-
|[[中米]] || [[トウモロコシ]]、[[インゲンマメ]]、[[ニホンカボチャ]]、[[トウガラシ]]、[[サツマイモ]]など
|-
|[[南米]](主に[[アンデス山脈]]) || [[パイナップル]]、[[ラッカセイ]]、[[セイヨウカボチャ]]、[[キャッサバ]]、[[トマト]]、[[トウガラシ]]、[[ジャガイモ]]など
|}


* 根菜類(根もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}{{sfn|金子美登|2012|p=236}})
** [[ダイコン]]、[[カブ]]、[[ラディッシュ]]、[[ニンジン]]、[[ゴボウ]]、[[レンコン]]、[[ジャガイモ]]{{sfn|金子美登|2012|p=236}}、[[サトイモ]]{{sfn|金子美登|2012|p=236}}、[[サツマイモ]]、[[ヤマイモ]]、[[百合根]]、[[クワイ]]、[[ビーツ]]、[[ヤーコン]]、[[ニンニク]]{{sfn|金子美登|2012|p=236}}、[[ショウガ]]{{sfn|金子美登|2012|p=236}}など。


野生植物が野菜となっていく過程では、野菜として望ましい特徴をもつものが選抜されていった<ref name="青葉1981b" />。近縁の野生植物と比べ、野菜は食用部位が発達しており、[[果菜類]]では[[果実]]が、[[葉茎菜類]]では茎葉が、[[根菜類]]は[[根]]や[[地下茎]]が大きくなっている<ref name="青葉1981b" />。最初期の栽培[[トウモロコシ]]は長さ数センチメートルほどで各果実("粒")も小さく不整列であったが、時代を追って現在のように全体も各果実も大型で整列したものへと変わっていったことが知られている<ref>{{Cite journal|author=田中正武|year=1975|title=トウモロコシの祖先種探索行とその起原をめぐって|journal=化学と生物|volume=13|issue=6|pages=383-391|doi=10.1271/kagakutoseibutsu1962.13.383}}</ref>。また、短期間で収穫できるように成長が速く、さらに芽生え、成長、結実が揃っているものが望まれ、品種改良されていった<ref name="青葉1981b" />([[#育種]]参照)。
* 茎菜類(茎もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}})
** [[タマネギ]]{{efn2|name="葉もの"|葉もの野菜にグループ分けされることもある{{sfn|金子美登|2012|p=236}}。}}、[[アスパラガス]]、[[ウド]]など。


=== 日本における歴史 ===
* 葉菜類(葉もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}{{sfn|金子美登|2012|p=236}})
[[フキ]]、[[セリ]]、[[ミツバ]]、[[ウド]]など、日本原産の野菜も存在するが、ほとんどの野菜は[[日本列島]]の外で栽培化された後に持ち込まれたものである<ref name="米安1996" /><ref name="青葉1981z">{{cite book|author=青葉高|year=1981|chapter=わが国の野菜の渡来経路|title=野菜: 在来品種の系譜|publisher=法政大学出版局|isbn=978-4588204319|page=309}}</ref>。
** [[キャベツ]]、[[コマツナ]]、[[ミズナ]]、[[ハクサイ]]、[[チンゲンサイ]]、[[タアサイ]]、[[レタス]]、[[シュンギク]]、[[チコリ]]、[[トレビス]]、[[エンダイブ]]、[[ホウレンソウ]]、[[ハクサイ]]、[[ニラ]]、[[ネギ]]、[[ワケギ]]、[[ミツバ]]、[[モロヘイヤ]]、[[パセリ]]、[[ミツバ]]、[[シソ]]、[[クウシンサイ]]、[[ツルムラサキ]]など。


その移入の歴史は古く、[[縄文時代]]の遺跡である[[福井県]]の[[鳥浜貝塚]]において、[[リョクトウ]]、[[エゴマ]]、[[シソ]]などの果実・種子が出土し、縄文時代前期(約6000年前)には栽培されていたと考えられている<ref name="吉川2016">{{Cite journal|author=吉川昌伸, 吉川純子, 能城修一, 工藤雄一郎, 佐々木由香, 鈴木三男, ... & 鯵本眞友美|year=2016|title=福井県鳥浜貝塚周辺における縄文時代草創期から前期の植生史と植物利用|journal=植生史研究|volume=24|issue=2|pages=69-82|doi=10.34596/hisbot.24.2_69}}</ref><ref name="山田1995">{{Cite journal|author=山田悟郎 & 椿坂恭代|year=1995|title=大陸から伝播してきた栽培植物|journal=北の歴史・文化交流事業 研究報告|volume=|issue=|pages=107-133|url=https://www.utm.utoronto.ca/~crawfor7/gcrawford_site/Japanese_Palaeoethnobotany_files/Crops%20from%20the%20Continent.pdf}}</ref>。この発見は、[[弥生時代]]の稲作伝来以前からすでに農耕が行われていたこと、および縄文時代にすでに遠隔地で栽培化されていた野菜(リョクトウやエゴマ、シソはインドから東南アジア原産)が伝来するほどの広範囲な交流があったことを示唆している<ref>{{Cite web|和書|author=|date=|url=http://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/fukui/07/kenshi/T1/2a3-02-02-03-02.htm|title=三 遺跡の語る日本海文化|website=『福井県史』通史編1 原始・古代|publisher=福井県|accessdate=2024-07-28}}</ref>。また、鳥浜遺跡では[[ゴボウ]]も報告されている<ref name="吉川2016" />。ゴボウは、中国では古くから薬用として利用されていたが、日本で野菜として栽培化されたと考えられており、10世紀には日本の文献に見られるようになる<ref name="養賢堂2004" />。
* 果菜類(実もの野菜{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}{{sfn|金子美登|2012|p=236}}、成り物野菜ともいう)
** [[トマト]]、[[ナス]]、[[カボチャ]]、[[ニガウリ]]、[[トウガン]]、[[シロウリ]]、[[ピーマン]]、[[パプリカ]]、[[シシトウガラシ]]、[[キュウリ]]、[[ズッキーニ]]、[[オクラ]]、[[スイカ]]{{sfn|金子美登|2012|p=236}}、[[イチゴ]]{{sfn|金子美登|2012|p=236}}、[[トウモロコシ]]{{sfn|金子美登|2012|p=236}}など。


1世紀ごろまでには[[ゴマ]]、[[サトイモ]]、[[ニンニク]]、[[ラッキョウ]]、[[ヤマイモ]]、[[トウガン]]などが伝来しており、[[古墳時代]]には[[ナス]]、[[キュウリ]]、[[ササゲ]]、[[ネギ]]が伝来した<ref>{{cite book|author=斎藤隆|year=2010|chapter=|editor=|title=蔬菜園芸の事典(普及版)|publisher=朝倉書店|isbn=9784254410334|page=13}}</ref>。
* 花菜類
** [[ミョウガ]]{{efn2|name="葉もの"}}、[[カリフラワー]]{{efn2|name="葉もの"}}、[[ブロッコリー]]{{efn2|name="葉もの"}}、[[食用菊]]、[[アーティチョーク]]など。


[[古事記]]や[[日本書紀]]には[[カブ]]や[[ダイコン]]、[[セリ]]、[[ニラ]]、[[アズキ]]、[[ダイズ]]、[[マクワウリ]]、[[ハス]]、[[タケノコ]]の、[[万葉集]]には[[ジュンサイ]]、[[ヒシ]]、[[タデ]]などの記述が存在する<ref name="松浦1992">{{Cite journal|author=松浦美由紀 & 池添博彦|year=1992|title=古事記の食物文化考|journal=帯広大谷短期大学紀要|volume=29|issue=|pages=43-54|doi=10.20682/oojc.29.0_43}}</ref><ref name="池添1996">{{Cite journal|author=池添博彦|year=1996|title=日本書紀の食文化考|journal=帯広大谷短期大学紀要|volume=33|issue=|pages=35-48|doi=10.20682/oojc.33.0_35}}</ref><ref name="高橋1990">{{Cite journal|author=高橋まち子 & 池添博彦|year=1990|title=万葉集の食物文化考 I 植物性の食について|journal=帯広大谷短期大学紀要|volume=27|issue=|pages=43-57|doi=10.20682/oojc.27.0_43}}</ref>。このほか、現代ではあまり食用にはされない水葱(なぎ、現代の[[ミズアオイ]]や[[コナギ]])や羊蹄(しのね、現代の[[ギシギシ]])、蕃菜(現代の[[アサザ]])などが食用とされていた<ref>『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』p204-205 2003年3月20日初版第1刷 小学館</ref><ref name="高橋1990" />。万葉集には[[レタス]]も「萵苣」(わきょ/ちしゃ)の名で記されている(結球性のレタスは明治時代になってからの伝来)<ref>主婦の友社編 『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、148頁。ISBN 978-4-07-273608-1</ref><ref name="高橋1990" />。
なお、日本ではこのほかの分類法として総務省「日本標準商品分類」では根菜類、葉茎菜類、果菜類の3つに分類され<ref name="heya sodan 1205"/><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.soumu.go.jp/main_content/000294475.pdf |title=日本標準商品分類(平成2年6月改定) |access-date=2023/02/13 |publisher=総務省}}</ref>、農林水産省「野菜生産出荷統計」では根菜類、葉茎菜類、果菜類、果実的野菜、香辛野菜の5つに分類されている<ref name="alic-yasaibook1"/>。


[[江戸時代]]に入り、経済が成長すると野菜の需要も高まり、特に一大消費地である[[江戸]]の周辺では大量の野菜が栽培され都市へ運び込まれるようになった。[[小松菜]]や[[練馬大根]]などのように、地名をつけブランド化する野菜が現れ始めたのもこのころである<ref>「ヴィジュアル日本生活史 江戸の料理と食生活」p68-69 原田信男編著 小学館 2004年6月20日第1版第1刷</ref>。こうした傾向は江戸に限ったことではなく、[[京野菜]]や[[加賀野菜]]をはじめ、各地で特色ある野菜が開発され定着したのも江戸時代のことであった。また[[ニンジン]]や[[ホウレンソウ]]、[[ジャガイモ]]、[[サツマイモ]]も江戸時代に伝来し、江戸時代後期には野菜の種類は著しく増加した<ref name="コトバンク_野菜2" />。
=== 科による分類 ===
植物学的に属する科に注目すると、その野菜の特徴がみえてくる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}。同じ科どうしの野菜であれば、見た目や味、栄養価が似ているほか、栽培する上での基本的な育ち方が似通っている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=218}}。
* [[アブラナ科]]
** [[キャベツ]]、[[コマツナ]]、[[ハクサイ]]、[[タアサイ]]、[[チンゲンサイ]]、[[ブロッコリー]]、[[カリフラワー]]、[[ダイコン]]、[[カブ]]、[[ミズナ]]、[[菜花]]など。
* [[セリ科]]
** [[ニンジン]]、[[セロリ]]、[[パセリ]]、[[ミツバ]]、[[アシタバ]]、[[フェンネル|フローレンスフェンネル]]など。
* [[ウリ科]]
** [[キュウリ]]、[[カボチャ]]、[[スイカ]]、[[ニガウリ]]、[[ズッキーニ]]、[[トウガン]]、[[シロウリ]]など。
* [[ヒガンバナ科]][[ネギ亜科]]
** [[タマネギ]]、[[ネギ]]、[[ワケギ]]、[[ニラ]]、[[ニンニク]]、[[ラッキョウ]]、[[リーキ]]など。
* [[ナス科]]
** [[ナス]]、[[トマト]]、[[ピーマン]]、[[パプリカ]]、[[トウガラシ]]、[[シシトウガラシ]]、[[ジャガイモ]]など。
* [[マメ科]]
** [[インゲン]]、[[エンドウ]]、[[枝豆]]([[ダイズ]])、[[ラッカセイ]]など。
* [[アオイ科]]
** [[オクラ]]、[[モロヘイヤ]]など。
* [[キク科]]
** [[レタス]]、[[シュンギク]]、[[ゴボウ]]、[[食用菊]]、[[アーティチョーク]]、[[チコリ]]、[[トレビス]]、[[エンダイブ]]、[[金時草]]、[[ヤーコン]]など。
* [[ショウガ科]]
** [[ショウガ]]、[[ミョウガ]]など。
* [[ヒルガオ科]]
** [[サツマイモ]]、[[クウシンサイ]]など。
* [[シソ科]]
** [[シソ]](大葉)、[[エゴマ]]など。
* [[イネ科]]
** [[トウモロコシ]]、[[タケノコ]]など。
* [[キジカクシ科]]
** [[アスパラガス]]
* [[サトイモ科]]
** [[サトイモ]]、[[ハスイモ]]など。
* [[ヒユ科]]
** [[ホウレンソウ]]、[[オカヒジキ]]、[[ビート (植物)|ビート]]、[[スイスチャード]]など
* [[ゴマ科]]
** [[ゴマ]]


[[明治時代]]に入ると[[文明開化]]の潮流とともに、[[タマネギ]]や[[トマト]]、[[キャベツ]]をはじめとする[[西洋野菜]]が多く流入した<ref name="コトバンク_野菜2" />。また[[第二次世界大戦]]後では、1975年以降にさまざまな[[中国野菜]]が伝来し、日本の野菜はより多様なものとなった<ref name="コトバンク_野菜2" /><ref name="コトバンク_中国野菜" />。
=== 品種 ===
同じ野菜名であっても、種類によってはさまざまな[[品種 (分類学)|品種]]が作られているものもあり、個々に品種名がつけられている。品種名には、産地の名前が由来となっているもの、地域で特別に名付けたもの、品種改良を行った人物や種苗会社が名付けたものなどさまざまである{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。品種名がそのまま商品名(商標名)となったり、同じ品種でも産地によって異なる商標名になることもあり、地域の特産品になるとブランド名として独自の名前をつけることもある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。


== 育種 ==
野菜には[[雑種第一代|'''F<sub>1</sub>品種'''(雑種第一代)]]とよばれるものがある。F<sub>1</sub>品種は、異なる品種を人工的に交配して、病気に強い・形が揃いやすい・栽培期間が短いなどの長所となる特性を持たせたもので、流通している野菜の多くはF<sub>1</sub>品種だといわれている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。F<sub>1</sub>品種の特性は一代限りのため、種を取って翌年栽培しても一代目と同じ特性の野菜には育たない。そのため、F<sub>1</sub>品種は種苗会社が種を作り、栽培[[農家]]が毎年その種を購入する必要がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。
[[#歴史|上記]]のように、野生植物から野菜になる過程でより望ましいものが選抜され、また長い栽培の歴史の中でより利用価値が高い品種([[栽培品種]])が作出されてきた('''[[育種]]''')<ref name="コトバンク_育種">{{Cite Kotobank|word=育種|encyclopedia=|accessdate=2024-08-03}}</ref>。現在では、野菜が供給される際には、生産者、流通・加工業者、消費者(摂食者)の間を流通することになるが、それぞれにとって望ましい性質がある<ref name="阿部2003">{{cite book|author=阿部一博|year=2003|chapter=野菜の生産・利用特性|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=1–7}}</ref>。生産者にとっては栽培が容易であり(病虫害や環境変化への耐性)、生産量が多く、高価で一定の形状であることが望ましい<ref name="阿部2003" />。流通・加工業者にとっては、流通が容易で貯蔵性が高いこと、安価で大量に安定的に入手できること、高価に販売できることが望ましい<ref name="阿部2003" />。消費者にとっては、新鮮で外観、栄養成分、食味が良く、安全であり、安価であることが望ましい<ref name="阿部2003" />。このようなさまざまな要望に応える形で、さまざまな品種改良が行われている。


[[ファイル:聖護院大根 (32408391074).jpg|thumb|right|200px|在来品種である聖護院大根]]
'''固定種'''や'''在来種'''とよばれる野菜は、長い年月をかけて優良な個体から種を取り、特性を固定していくことでできた品種である。遺伝的にも安定しており、地方によっては多くの固定種が作り継がれていった{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。現在、地方の[[伝統野菜]]とよばれている品種は、こうした受け継がれて栽培されたことによって、その地域の在来種となったものである{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。
遺伝的変異体の入手には、栽培したものの中からの選抜、他の地域からの導入、人為的な交雑、[[倍数性|倍数化]]、[[突然変異]]の誘起などがある<ref name="鈴木2020" /><ref name="山岸2003">{{cite book|author=山岸博|year=2003|chapter=野菜の品種改良|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=191–211}}</ref><ref name="山岸2012">{{cite book|author=山岸真澄|year=2012|chapter=品種の成り立ちと改良|editor=鈴木正彦|title=園芸学の基礎|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540111051|pages=165–178}}</ref>。また近年では、特定の[[遺伝子]]を改変(外来遺伝子の挿入、既存遺伝子の編集など)による品種も作出されている<ref>{{Cite web|和書|author=|date=2020-08-03|url=https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/fukyu/episode/episode_list/135850.html|title=《こぼれ話10》ゲノム編集で健康によいトマトが誕生|website=|publisher=生研支援センター|accessdate=2024-07-27}}</ref>([[#遺伝子組換え作物|下記参照]])。これらを元に、優良な個体から種子を取ることを繰り返し、特性を固定していくことで遺伝的に均一な品種が作出され、このような品種は'''固定品種'''(固定種)とよばれる<ref name="トーホク" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。また、特定の地域で長年維持されてきた品種は'''在来品種'''(在来種{{efn2|name="在来種"|在来種は、(人間による移入ではなく)その地域に自然分布していた生物種を意味することもある<ref name="コトバンク_在来種">{{Cite Kotobank|word=在来種|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|accessdate=2024-07-22}}</ref>。}}、地方品種)とよばれる<ref name="コトバンク_在来品種">{{Cite Kotobank|word=在来品種|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-08-03}}</ref><ref name="山口2015">{{Cite journal|author=山口創|year=2015|title=在来品種の顕在化プロセスと展開課題|journal=環境情報科学論文集|volume=29|issue=|pages=83-88|doi=10.11492/ceispapers.ceis29.0_83}}</ref><ref name="トーホク" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。一般的に、在来品種は近代的な育種の対象とはならなかったため、遺伝的多様性が残っている<ref name="コトバンク_在来品種" />。在来品種の中には、[[京野菜]]や[[加賀野菜]]など、地域ブランド化されている例もある<ref name="山口2015" />。


現在、日本で流通している野菜の多くは、[[雑種第一代|'''F<sub>1</sub>品種'''(一代雑種、雑種第一代、交配種、ハイブリッド品種)]]である<ref name="山岸2003" /><ref name="山岸2012" /><ref name="トーホク">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://tohokuseed.co.jp/topic/F1-hinsyu.html|title=F1品種って、どんな品種|website=|publisher=株式会社 トーホク|accessdate=2024-07-31}}</ref>{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。日本におけるF<sub>1</sub>品種の普及は1955年ごろから始まり、21世紀には[[キク科]]や[[マメ科]]を除いて栽培される野菜の多くはF<sub>1</sub>品種となっている<ref name="桝田2003" /><ref name="吉川2004">{{Cite web|和書|author=吉川宏昭|date=2004-01|url=https://www.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20040149.pdf|title=野菜と育種 一代雑種育種とは|website=|publisher=タキイ種苗|accessdate=2024-08-06}}</ref>。F<sub>1</sub>品種は、それぞれほぼ純系だが互いにやや遠縁な両親の間の交雑による第一代目雑種のことであり、両親の長所を併せもち、[[雑種強勢]]により大きさ、耐性、収量などの点で両親をしのぐことがあると同時に、個体どうしがよくそろっている<ref name="山岸2012" /><ref name="鈴木2020">{{cite book|author=鈴木栄・山田哲也|year=2020|chapter=品種および育種法|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|pages=12–21}}</ref><ref name="コトバンク_F1品種">{{Cite Kotobank|word=F1品種|encyclopedia=知恵蔵|accessdate=2024-07-27}}</ref><ref name="コトバンク_一代雑種">{{Cite Kotobank|word=一代雑種|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-27}}</ref>。ただし、このような最適な組み合わせを見出すためには多数の試行が必要である<ref name="トーホク" />。自殖性(自家受精を行う)の野菜では雑種を得ることが難しいが、[[雄蕊]]の葯を除去(除雄)したり雄性不稔の遺伝的性質を付与するなどして、F<sub>1</sub>品種を得ることが行われている<ref name="コトバンク_一代雑種" /><ref name="桝田2003">{{cite book|author=桝田正治|year=2003|chapter=種苗生産|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=97–119}}</ref>。ただし、F<sub>1</sub>品種の特性は一代限りであり、第二代目以降ではふつう雑種強勢が失われ、また特性が不ぞろいになるため、F<sub>1</sub>品種から[[種子]]を取って翌年栽培しても一代目と同じ特性の野菜には育たない<ref name="コトバンク_一代雑種" />。そのため、F<sub>1</sub>品種では種苗会社が種子を生産し、栽培[[農家]]が毎年その種子を購入する必要がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。
=== 緑黄色野菜と淡色野菜 ===
野菜は栄養面で見ると、可食部分の[[カロテン]]含有量の違いによって[[緑黄色野菜]]と[[淡色野菜]]に分けられる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}{{sfn|講談社編|2013|p=236}}。日本の[[厚生労働省]]では「原則として可食部100g当たり[[カロテン]]含量が600μg以上の野菜」<ref name="kenkouyougo">{{Cite web|和書|url=https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-037.html|title=健康用語辞典 緑黄色野菜|publisher=厚生労働省|accessdate=2013-04-05}}</ref><ref name="alic-yasaibook1"/>を[[緑黄色野菜]]と定義している。緑黄色野菜は色が濃い野菜が多く、[[ホウレンソウ]]、[[ニンジン]]、[[カボチャ]]などがその代表例である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。[[トマト]]や[[ピーマン]]などは、この基準に入らないが、食べる回数や量が多いことから緑黄色野菜とみなされている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}{{sfn|講談社編|2013|p=236}}。また、緑黄色野菜以外の野菜は、淡色野菜である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。


同一の野菜において、さまざまな[[栽培品種]]が作出されていることがある。品種名には、産地の名前が由来となっているもの、地域で特別に名付けたもの、品種改良を行った人物や種苗会社が名付けたものなどさまざまである{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。品種名がそのまま商品名(商標名)となったり、同じ品種でも産地によって異なる商標名になることもあり、地域の特産品になるとブランド名として独自の名前をつけることもある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=219}}。
=== 西洋野菜と中国野菜 ===
日本において[[明治時代]]以降に[[欧米]]から導入された[[ブロッコリー]]などを西洋野菜(洋菜)という<ref name="nihonsyokuhindaijiten_p104">杉田浩一編『日本食品大事典』医歯薬出版 p.104 2008年</ref>。また、日本において中国から[[1970年代]]以降に導入され普及した[[チンゲンサイ]]や[[パクチョイ]]などを[[中国野菜]]という<ref name="nihonsyokuhindaijiten_p104"/>。


=== 高原野菜 ===
== 生産 ==
=== 世界 ===
夏でも涼しい標高1,000メートル前後の[[高原]]で栽培される野菜類を'''高原野菜'''(こうげんやさい)または'''高冷地野菜'''(こうれいちやさい)という。明治以降、長野県の[[軽井沢]]において[[避暑]]に訪れる外国人客向けとして栽培が始まった。その後各地に広まり、ハクサイやキャベツ、レタスなど、40を超える種類の野菜が高原野菜として栽培されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://kotobank.jp/word/高原野菜 |title=コトバンク 高原野菜(デジタル大辞泉、世界大百科事典 第2版、大辞林 第三版) |accessdate=2017-03-13 }}</ref>。
{{multiple image
| total_width = 250
| direction = vertical
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Yunnan farmland 07.JPG
| caption1 = 中国の農場
| image2 = Aalu (Hindi- आलू) (4218062297).jpg
| caption2 = インドのジャガイモ農場
| image3 = John Deere tractor between cabbage rows.jpg
| caption3 = アメリカ合衆国のキャベツ農場
}}
下表では、2021年における野菜生産量が多い国を列記している<ref name="FAObook">{{cite book|author=FAO|year=2023|chapter=Tables 17, 51|editor=|title=World Food and Agriculture – Statistical Yearbook 2023|publisher=FAO|isbn=978-92-5-138262-2|pages=|url=https://openknowledge.fao.org/handle/20.500.14283/cc8166en}}</ref>。生産量が最も多い国は[[中華人民共和国]]であり、一国で世界の半分以上の生産量があった。2位以下は[[インド]]、[[アメリカ合衆国]]、[[トルコ]]、[[ナイジェリア]]、[[エジプト]]の順となっている。野菜耕地面積も、中国が飛び抜けて広い。一方、単位面積当たりの野菜の収穫量が多い国は、[[ウズベキスタン]]、[[大韓民国]]、[[スペイン]]などである。


{| class="wikitable" style="font-size:small"
== 食材 ==
|+野菜生産量上位国(2021年)<ref name="FAObook" />
[[ファイル:Paris - Monop' de Bercy Village.jpg|thumb|[[スーパーマーケット]]に並んだ野菜。]]
|-
! 国 !! 栽培面積 <br>(1,000ヘクタール) !! 単収(トン/ha) !! 生産量 <br>(1,000トン)
|-
| style="text-align:left"|[[中華人民共和国]] || 23,394 || 25.7 || 602,344
|-
| style="text-align:left"|[[インド]] || 8,897 || 15.5 || 137,988
|-
| style="text-align:left"|[[アメリカ合衆国]] || 829 || 33.7 || 27,917
|-
| style="text-align:left"|[[トルコ]] || 677 || 39.4 || 26,646
|-
| style="text-align:left"|[[ナイジェリア]] || 4,142 || 3.8 || 15,795
|-
| style="text-align:left"|[[エジプト]] || 639 || 24.4 || 15,571
|-
| style="text-align:left"|[[メキシコ]] || 695 || 21.2 || 14,747
|-
| style="text-align:left"|[[ロシア]] || 490 || 27.6 || 13,544
|-
| style="text-align:left"|[[スペイン]] || 338 || 40.0 || 13,536
|-
| style="text-align:left"|[[インドネシア]] || 1,198 || 10.9 || 13,010
|-
| style="text-align:left"|[[イタリア]] || 332 || 34.5 || 11,441
|-
| style="text-align:left"|[[ベトナム]] || 1,003 || 10.7 || 10,741
|-
| style="text-align:left"|[[ウズベキスタン]] || 222 || 46.6 || 10,348
|-
| style="text-align:left"|[[日本]] || 370 || 27.5 || 10,177
|-
| style="text-align:left"|[[ウクライナ]] || 461 || 21.6 || 9,959
|-
| style="text-align:left"|[[大韓民国]] || 230 || 42.5 || 9,769
|-
| style="text-align:left"|[[イラン]] || 323 || 28.9 || 9,331
|-
| style="text-align:left"|[[ブラジル]] || 350 || 24.5 || 8,572
|-
| style="text-align:left"|[[アルジェリア]] || 301 || 25.4 || 7,652
|-
| style="text-align:left"|[[バングラデシュ]] || 709 || 10.3 || 7,318
|-
| style="text-align:left"|[[パキスタン]] || 584 || 12.1 || 7,074
|-class="sortbottom"
| style="text-align:left"|'''世界総計''' || '''58,034''' || '''19.9''' || '''1,154,598'''
|}


=== 日本 ===
野菜には[[旬]]があるが、近年では[[品種]]改良・[[作型]]の改良([[ビニールハウス|ハウス]]栽培など)・[[輸入]]野菜の増加によって、旬以外の時期でも[[市場]]に年間を通して[[供給]]されるようになった{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。またこれらの影響か、近年の野菜の[[味]]は昔よりも薄くなったと感じている人もいる。需要形態が変化してきており、カット野菜(切断されて部分的に販売される野菜)や冷凍野菜も利用されるようになっている<ref name="alic-yasaibook1"/>。ただし、カット野菜は切断面が大きい分、野菜の呼吸量も大きくなるため、品質の落ちるスピードも速くなってしまうという難点がある<ref name="tabemonotokenkouomoshirozatsugaku_p195"> 落合敏監修 『食べ物と健康おもしろ雑学』 p.195 梧桐書院 1991年</ref>。
日本における野菜{{efn2|name="野菜生産量"|イモ類、マメ類を除く}}の生産量は1980年ごろをピークとして年々減少しており、2020年には1150万トンほどであった<ref name="食料需給表" />。1960–1970年代には野菜自給率はほぼ100%であったが、次第に減少している<ref name="食料需給表" /><ref name="野菜の自給率" />。家計消費用の野菜においては国産割合がほぼ100%であるが、加工・業務用の野菜における国産割合は約7割となっている<ref name="野菜の自給率">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-05.html|title=その3:野菜の自給率|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-08}}</ref>。作付面積は減少しているが、全農業作付面積に占める割合は13–14%ほどでほぼ一定である<ref name="作物統計調査" />。産出額は1980年代から2兆数千億円でほぼ一定している<ref name="年次別農業総産出額" />。また、1人あたりの野菜供給量も1980年代までは 300 g/日 以上あったが、2020年には 244 g/日まで減少している<ref name="食料需給表" /><ref name="野菜の自給率" />。


{| class="wikitable" style="font-size:small"
古来食材としては、野菜類はどの文化圏においても副菜としての性格が強く、[[主食]]は[[コメ]]や[[コムギ]]といった炭水化物を摂取するための穀物であり、またタンパク質に富む[[食肉|肉]]や[[魚]]が[[ごちそう]]として扱われるのに比べ、野菜類がメインとなることは少なかった。野菜類がメインとなる場合も、[[うま味]]を供給する肉や魚、[[油]]や[[調味料]]と組み合わせて使用されることが常である<ref name="名前なし-1">『世界の食べもの 食の文化地理』p238 石毛直道 講談社学術文庫 2013年5月9日第1刷</ref>。また野菜類の作物としての比重も高くなく、古代にはこうした野菜類は栽培するのではなく、食べられる[[野草]]を採集してくることも多かった。これは野菜類にエネルギー源やタンパク質に富むものが少なく、栄養源としてはそこまで必要性が高くなかったことによる<ref>『世界の食べもの 食の文化地理』p237 石毛直道 講談社学術文庫 2013年5月9日第1刷</ref>。やがて生活が豊かになるにつれて食生活に彩りを添えるために各種栽培野菜の開発が各地で進められていくが、野草採集も食糧供給源としては存続し、現代においても[[山菜]]として食卓をにぎわせている。
|+日本における野菜{{efn2|name="野菜生産量"|イモ類、マメ類を除く}}生産量、輸入量、自給率、作付面積、産出額の推移
|-
! 年 !! 生産量<br />(1,000トン)<ref name="食料需給表">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00500300&tstat=000001017950|title=食料需給表|website=e-Stat|publisher=|accessdate=2024-08-08}}</ref> !! 輸入量<br />(1,000トン)<ref name="食料需給表" /> !! 自給率<br />(%)<ref name="食料需給表" /> !! 作付延べ面積 (ha)<br />[全作付延べ面積に<br />占める割合 (%)]<ref name="作物統計調査">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002008248|title=耕地の利用状況の推移|website=e-Stat|publisher=|accessdate=2024-08-08}}</ref> !! 産出額 (億円)<br />[農業総産出額に<br />占める割合 (%)]<ref name="年次別農業総産出額">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002068165|title=年次別農業総産出額及び生産農業所得|website=e-Stat|publisher=|accessdate=2024-08-08}}</ref> !! 1人当たり供給量<br />(g/日)<ref name="食料需給表" />
|-
|1960 || 11,742 || 16 || 100 || 811,600[10] || 1,741[9]|| 273.1
|-
|1970 || 15,328 || 98 || 99 || 838,100[13]|| 7,400[16]|| 316.2
|-
|1980 || 16,634 || 495 || 97 || 761,500[13]|| 19,037[19]|| 309.4
|-
|1990 || 15,845 || 1,551 || 91 || 735,900[14]|| 25,880[23]|| 297
|-
|2000 || 13,704 || 3,124 || 81 || 619,500[14]|| 21,139[23]|| 280.6
|-
|2010 || 11,730 || 2,783 || 81 || 547,900[13]|| 22,485[28]|| 241.5
|-
|2020 || 11,511 || 2,987 || 80 || {{efn2|name="作付面積"|2016年度}}521,300[13]|| 22,520[25]|| 244.2
|}


[[宗教]]・[[文化的]]理由もしくは[[主義]]として[[肉食]]を避ける人は、一般に[[菜食主義|菜食主義者]]と呼ばれるが、これは「野菜のみを食べる人」という意味ではない。菜食主義者の食事においてもメインとなるものは[[エネルギー]]源となる[[炭水化物]]を多く含む穀物や[[イモ]]類、および[[タンパク質]]に富む[[豆]]類であり、野菜は副菜としての位置づけにあることには変わりがない<ref name="名前なし-1"/>。


{{Anchors|野菜生産出荷安定法}}日本では、野菜農業の健全な発展と消費の安定のため、'''[[野菜生産出荷安定法]]'''(野菜法)によって、主な野菜について生産および出荷の安定と価格の安定を図っている<ref name="野菜法">{{Cite web|和書|url=https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000000103|title=野菜生産出荷安定法|website=e-Gov 法令検索|publisher=|access-date=2024-08-18}}</ref><ref name="alic野菜法">{{Cite web|和書|url=https://www.alic.go.jp/content/000116808.pdf|title=I 野菜生産出荷安定法|publisher=独立行政法人 農畜産業振興機構|website=|access-date=2024-01-23 }}</ref>。そのため、主な野菜について、一定の生産地域の生産および出荷の近代化を計画的に推進するとともに、その価格が著しく低落した場合の生産者補給金の交付、あらかじめ締結した契約に基づき野菜の確保を要する場合における交付金の交付等の措置を定めている<ref name="alic野菜法" /><ref name="alic野菜価格安定制度">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.alic.go.jp/y-kofu/yagyomu02_000002.html|title=野菜価格安定制度の概要|website=|publisher=独立行政法人 農畜産業振興機構|accessdate=2024-08-19}}</ref>。生産者補給金は、補償基準額(平均価格の9割)を下回った場合(最低基準額あり)に、出荷数量に応じて、最大で差額の90%が補填される<ref name="alic野菜価格安定制度" />。ただし、指定産地で生産されたものであること、登録出荷団体を通じてまたは登録生産者が出荷したものであること、指定された市場等へ一定の出荷期間内に出荷されものであることなどの要件を満たしている必要がある<ref name="alic野菜価格安定制度" />。この法律が適用される野菜は'''指定野菜'''とよばれ、[[トマト]]、[[ナス]]、[[ピーマン]]、[[キュウリ]]、[[キャベツ]]、[[ハクサイ]]、[[レタス]]、[[ホウレンソウ]]、[[ネギ]]、[[タマネギ]]、[[ダイコン]]、[[ニンジン]]、[[ジャガイモ]]、[[サトイモ]]の14品目が指定されており、また2026年にはこれに[[ブロッコリー]]が加わる<ref name="alic野菜法" /><ref name="NHK">{{Cite web|和書|date=2-24-01-22|url=https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20240122/1000101301.html|title=ブロッコリー 国民生活に重要な「指定野菜」に追加へ 農水省|website=首都圏NEWS WEB|publisher=NHK|access-date=2024-08-18}}</ref>。指定野菜の出荷量は、野菜全体の約7割を占めている<ref name="alic特定野菜">{{Cite web|和書|date=2020-12|url=https://www.alic.go.jp/content/001184326.pdf|title=特定野菜の生産・流通・消費動向|website=|publisher=独立行政法人農畜産業振興機構|accessdate=2024-08-18}}</ref>。また、特定産地における、指定野菜に準ずる35品目の野菜(野菜全体の作付面積の37%、出荷量の23%を占める)では、販売価格が平均価格の8割を下回るとその差額の80%が補填される<ref name="alic特定野菜" /><ref name="alic野菜価格安定制度" />。このような野菜は'''特定野菜'''とよばれ、[[シシトウガラシ]]、[[カボチャ]]、[[スイカ]]、[[メロン]](温室メロンを除く)、[[ニガウリ]]、[[枝豆]]、[[グリーンピース]]、[[サヤインゲン]]、[[サヤエンドウ]]、[[ソラマメ]](乾燥品を除く)、[[オクラ]]、[[イチゴ]]、[[スイートコーン]]、[[ブロッコリー]]、[[カリフラワー]]、[[コマツナ]]、[[ミズナ]]、[[チンゲンサイ]]、[[ミツバ]]、[[セロリ]]、[[シュンギク]]、[[フキ]]、[[アスパラガス]]、[[ミョウガ]]、[[ニラ]]、[[ワケギ]]、[[ニンニク]]、[[ラッキョウ]]、[[カブ]]、[[ゴボウ]]、[[サツマイモ]]、[[ヤマノイモ]]{{efn2|name="ヤマノイモ"}}、[[レンコン]]、[[ショウガ]]、[[シイタケ]](生)の35品目が指定されている<ref name="alic特定野菜" /><ref name="特定野菜等の対象産地の選定状況" />。
なお、[[主食]]となる[[穀物]]は野菜に含めないことが多いが、それを主食としない[[文化圏]]では野菜として扱われることがある。たとえば、穀物である[[トウモロコシ]]は日本などでは野菜に含まれ、欧米でも[[米]]が野菜に含まれることがある。


=== 調理法 ===
== 栽培 ==
=== 繁殖 ===
野菜は、洗う、切るといった下ごしらえを調理の直前に行うのが基本である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}。根付き野菜は、水につけて洗うことによって根元付近に付着した泥が落ちやすくなる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}。[[灰汁]]が強い野菜の場合は、下処理として水や酢水、焼き[[ミョウバン]]水などにつけて[[灰汁抜き]]をする{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}。キュウリやオクラ、ニガウリのように、塩をまぶして揉むことで食感が良くなる野菜もある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}。野菜を切るときは食べやすく味や食感を考えて、[[輪切り]]、[[角切り]](さいの目切り)、[[千切り]]、[[千六本]]、[[小口切り]]、[[拍子切り]]、[[短冊切り]]、[[半月切り]]、[[いちょう切り]]、[[かつらむき]]、[[みじん切り]]、[[くし形切り]]、[[細切り]]、[[斜め切り]]、[[乱切り]]、[[ささがき]]など、料理に合わせたさまざまな切り方がある<ref>{{Cite web |title=Harvard Health |url=https://www.health.harvard.edu/promotions/harvard-health-publications/the-harvard-medical-school-6-week-plan-for-healthy-eating |website=www.health.harvard.edu |access-date=2023-02-14 |language=en}}</ref>{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=223}}{{sfn|講談社編|2013|pp=245&ndash;247}}。
野菜の多くは[[種子]]によって増やす('''種子繁殖''')が、一部の野菜では種イモなどを用いて増やす('''[[栄養繁殖]]''')<ref name="細川2020" />。種子は一般に貯蔵・輸送が容易であり、病原体フリーであり、ふつう繁殖効率がよい<ref name="細川2020" />。ただし、貯蔵が難しい種子や、植物体あたりの種子数が少なく繁殖効率がよくない植物もあり、このような場合は種子繁殖は向かない<ref name="細川2020" />。種子は基本的に病原体フリーであるが、病原体が種子に侵入することもあり、生産された種子や輸入された種子は徹底的な抜き打ち検査が行われている<ref name="細川2020" />。栄養繁殖は初期段階が省略され初期成長が早く、遺伝的に均一で親と同一であることが利点となる<ref name="細川2020" />。ただし[[#育種|上記]]のように、現在では種子繁殖であっても遺伝的には均一であることが多い(固定品種、F<sub>1</sub>品種)。


成熟した[[種子]]は休眠状態にあり、ふつう保存が可能であるが、[[ワサビ]]のように乾燥すると発芽能を失う難貯蔵性種子 (リカルシトラント型種子、recalcitrant seed) もある<ref name="細川2020">{{cite book|author=細川宗孝|year=2020|chapter=繁殖方法|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|pages=22–31}}</ref><ref name="近藤2012">{{cite book|author=近藤哲也|year=2012|chapter=種子と発芽|editor=鈴木正彦|title=園芸学の基礎|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540111051|pages=16–26}}</ref>。また貯蔵可能な普通種子(オーソドックス型種子、orthodox seed) の中では、[[ダイズ]]のような大型の種子は一般的に種子寿命が短いが、[[トマト]]や[[オクラ]]のように乾燥状態では100年以上保存可能なものがある<ref name="細川2020" /><ref name="桝田2003" /><ref name="近藤2012" />。遺伝子資源の保存として、さまざまな研究機関が種子の保存事業を行なっている<ref name="細川2020" />。
[[サラダ]]などで生で食べる野菜は、加熱で失われやすい[[ビタミン]]などを効率よく摂ることができる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。生野菜のみずみずしさ、香り、爽やかな歯ごたえは加熱野菜では得られない魅力がある{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。一方、野菜を加熱調理にも特有のおいしさがあり、加熱によって失われる栄養素もあるが、かさが減ることで食べる量でカバーできるので、結果的に加熱した方が多くの栄養を摂ることができる{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。


[[ファイル:Starr 070906-8903 Brassica oleracea var. botrytis.jpg|thumb|right|200px|セルトレイで育苗されている[[カリフラワー]]の苗]]
焼く場合は直火・[[オーブン]]・[[フライパン]]で焼くなど方法があり、野菜表面の水分が抜けて素材の旨味も凝縮されて、かさも減るため生野菜よりも多く摂ることができる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。蒸すと野菜が元来持つ旨味や栄養分を損なわずに加熱できる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。[[油炒め]]は、[[脂溶性ビタミン]]の[[ビタミンA]]や[[ビタミンD]]の吸収率を上げる調理法で、短時間で炒めると[[ビタミンC]]の損失量も少なくなる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。煮る場合は、煮汁まで食べたほうが栄養を無駄なく摂取できる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。油で揚げると野菜の水分が適度に抜けて甘味が出る{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。クセの強い野菜は油で揚げると食べやすくなるため、[[山菜]]や苦味のある野菜に向いている調理法である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。茹でるときは、[[葉野菜]]はたっぷりの湯を沸騰させて短時間で茹で上げるようにする{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=225}}。[[根菜]]は水から入れてじっくりと加熱し、[[デンプン]]質が多い[[芋類]]は、加熱に時間をかけることによって[[糖質]]がふえて甘くなる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=225}}。[[電子レンジ]]は、固めの野菜でも短時間で加熱調理できる方法で、野菜全体をラップに包んで水分が抜けて乾燥するのを防ぐ{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。電子レンジで加熱すると、ガスレンジで加熱するよりも短時間で火が通り、ビタミンの損失が少なく済むというメリットがある{{sfn|講談社編|2013|p=241}}。
[[ダイコン]]や[[ニンジン]]などの[[直根類]]では、移植することによって食用部となる主根が変形してしまうため圃場に直接播種されるが、その他の野菜は一定期間本圃とは異なる場所で苗として育てられてから本圃に移植されることが多い<ref name="近藤2012" />。この育苗の部分は産業的に分離しており、苗を購入することもできる<ref name="細川2020" />。育苗の利点は、集約的に管理できるため温度変化、乾燥、降雨、強風、病害虫などから幼植物を保護しやすいこと、不良苗の淘汰ができること、本圃の占有期間を短くできることなどがある<ref name="近藤2012" />。育苗にはポットやそれを連結した[[セルトレイ]] (plug tray) が用いられ、特に後者では土入れ、播種、育成、定植が集約的に自動化可能になっている<ref name="細川2020" />。この播種の自動化のため、種子の大きさを揃え、また発芽率を高めるためにコーティングをした種子(ペレット種子、コート種子、コーティング種子、pelleted seed)も開発されている<ref name="細川2020" /><ref name="桝田2003" />。また、種子が揃って発芽することも重要であり、それぞれの野菜種において、種子の休眠を打破して一斉に発芽する技術が開発されている<ref name="桝田2003" /><ref name="細川2020" />。吸水のコントロールによって発芽を揃える方法は、種子プライミング (seed conditioning) とよばれ、[[浸透圧]]によって吸水を制限するするオズモプライミング (osmotic conditioning) と、[[毛管ポテンシャル]]によって吸水を制限するマトリックプライミング (matric conditioning) がある<ref name="細川2020" />。
{{-}}


=== 作型 ===
野菜に含まれるビタミン・ミネラル類の中でも、調理で最も失われやすい栄養素は[[ビタミンC]]である{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。ビタミンCは水溶性ビタミンであり、水にさらす時間が長いほど減少してしまう{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。例えばニンジンを千切りにして水に5分さらすと、ビタミンCが30%ほど減少する{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。また、ゆで時間が長くなるほどビタミンCの損失量が多くなる{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。野菜を煮るときは、野菜を大きめに切ったほうがビタミンCは失われにくくなる{{sfn|講談社編|2013|p=240}}。体内で必要に応じてビタミンAに変化するカロテンは、脂溶性ビタミンであっるため、油で調理することでより吸収されやすくなる{{sfn|講談社編|2013|p=240}}。緑色が濃い緑黄色野菜を色鮮やかに仕上げるには、加熱時間を短くして、酢などは食べる直前に加えるなどの配慮が必要になる{{sfn|講談社編|2013|p=240}}。野菜のえぐみ、渋み、苦味などのアクは、灰分、有機酸、タンニン、アルカノイドなどである{{sfn|講談社編|2013|p=241}}。野菜によってアクに違いがあり単純ではないが、大半は水溶性のため、茹でたり、水にさらすことによって減らすことができる{{sfn|講談社編|2013|p=241}}。ホウレンソウのようにアクが強いものは、下茹でや電子レンジ加熱後に水にさらしてアク抜きしてから使われる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。
野菜は本来決まった時期([[旬]])にしか収穫できないものであったが、近年では[[品種]]改良や栽培管理技術の発展([[ビニールハウス|ハウス]]栽培など)、輸送技術の発展による遠隔地からの出荷などによって、おもな野菜は一年中供給されるように'''周年栽培'''されている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}<ref name="吉田2020a">{{cite book|author=吉田裕一|year=2020|chapter=野菜(花き)の基本的な形態と生理生態的特性|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|pages=52–60}}</ref><ref name="コトバンク_作型">{{Cite Kotobank|word=作型|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典 |accessdate=2024-08-12}}</ref>。したがって、ある時期に出荷された野菜は、他の時期に出荷された同じ種類の野菜とは品種、栽培地、栽培管理の方法などが異なる<ref name="コトバンク_作型" />。季節、品種、適用技術の組み合わせによって類型化された栽培体系は'''[[作型]]'''とよばれる<ref name="吉田2020a" /><ref name="コトバンク_作型" />。


基本的に一年中露地栽培が可能な[[葉菜類]]や[[根菜類]]では、作型はその播種期によって、春播き、夏播き、秋播き、冬播き(または収穫期によって春穫り、夏穫り、秋穫り、冬穫り)に分けられることが多い<ref name="吉田2020a" />。一方、ハウスやトンネルを用いて周年栽培が可能となる[[果菜類]]では、以下のように分けられることが多い<ref name="吉田2020a" /><ref name="鈴木2012a" /><ref name="コトバンク_作型" />。
[[漬物]]は調味料で味をつけるとともに、野菜から水気を引き出し、保存性を増すことができる調理法である{{sfn|講談社編|2013|pp=248&ndash;250}}。低塩分で手軽につくれる[[浅漬け]]、野菜に塩を振って重石して保存性を高める[[塩漬け]]、精米の副産物のぬかを微生物で発酵させて野菜を漬け込んだ[[ぬか漬け]]、酢・水・砂糖を煮溶かした甘酢に漬け込んだ[[甘酢漬け]]、ハーブやスパイスで香り付けした酢に漬け込んだ[[ピクルス]]などがある{{sfn|講談社編|2013|pp=248&ndash;250}}。


* '''[[促成栽培]]''': 収穫時期を早めるため、全生育期間をトンネルやハウス内で栽培する。
=== 野菜料理 ===
* '''半促成栽培''': 生育前半はトンネルなどで栽培し、生育後半に被覆をとって露地で栽培する。
'''野菜料理''' とは、'''野菜'''を主体とした料理である。調理法は[[温野菜]]、[[生野菜]]にわけられ、'''肉料理'''、'''魚料理'''などに対置して使われる。野菜も他の食材と同じく、基本的には火を通すなど何らかの加工をして食用とするものであった。このため、[[おひたし]]や[[和え物]]、[[炒め物]]([[野菜炒め]])、[[煮物]]、[[蒸す|蒸し物]]、[[揚げる|揚げ物]]([[天ぷら]]など)など様々な調理法が開発された。こうした加熱法のほか、野菜の調理において非常に重要だったものは[[漬物]]としての利用である。多くの野菜、特に葉物野菜は日持ちがしないが、[[塩]]などで漬け込み漬物とすれば非常に長持ちするため、[[保存食]]として価値が高く、世界各国において様々な野菜の漬物が考案された<ref>『世界の食べもの 食の文化地理』p239-241 石毛直道 講談社学術文庫 2013年5月9日第1刷</ref>。こうした加工利用に比べ、野菜の生での食用が一般化したのはかなり遅い時代のことだった。とりわけ日本においては、肥料に[[下肥]]を用いていたこともあり、加熱等の加工処理が必須だったために野菜の生食は非常に遅れ、一般家庭において野菜の生食である[[サラダ]]が一般化したのは[[1970年代]]中期を待たねばならなかった。
* '''早熟栽培''': 温床で育てた苗を露地に定植し、場合によってしばらくトンネルで被覆した後に被覆をとって栽培する。
* '''[[露地栽培]]'''(普通栽培): 全生育期間を露地で栽培する。
* '''[[抑制栽培]]''': 収穫時期を遅くするため、冷涼地で栽培(高冷地抑制栽培)、暖地で播種・定植期を遅らせて栽培(暖地抑制栽培)、生育後半をハウス内で栽培(ハウス抑制栽培)する。


=== 施設栽培 ===
== 栄養価および機能性成分の効果 ==
[[ガラス]]や[[プラスチック]]フィルムなどで被覆された環境で作物を栽培することは、'''施設栽培'''とよばれる<ref name="鈴木2012a">{{cite book|author=鈴木正彦|year=2012|chapter=栽培環境とその制御|editor=鈴木正彦|title=園芸学の基礎|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540111051|pages=136–144}}</ref><ref name="吉田2020">{{cite book|author=吉田裕一|year=2020|chapter=施設栽培|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|pages=32–40}}</ref>。施設栽培にはさまざまな程度のものがあるが(下表)、一般的に気象の影響を受けにくく、また人為的な温度や湿度の制御が可能である。施設栽培は、栽培時期の拡大、病害虫や気象変動からの保護、生産性や品質の向上を目的としている<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />。日本では、施設栽培は極めて一般的であり、野菜栽培においてガラス温室が 811 ha、プラスチックハウスが 33,079 ha、雨よけハウスが 6,639 ha、トンネルが 38,364 ha に達した(2009年)<ref name="吉田2020" />。
食物に含まれる栄養素の中でも重要な[[タンパク質]]、[[脂質]]、[[炭水化物]]、[[ビタミン]]、[[ミネラル]]は五大栄養素とよばれ、中でも野菜はビタミンとミネラルを手軽に摂取しやすい食材である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。品種改良が進んだ現代の野菜も、本来の生育時期は決まっており、その野菜の特性と栽培地の環境の中で自然に収穫を迎えたものが旬となる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。本来の旬の時期に収穫した野菜は、もっとも味がよくなり、栄養価も高くなる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。例えば、冬場に旬の時期を迎えるホウレンソウは、夏に収穫したものではビタミンC量が3分の1程度しかない{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。


{| class="wikitable" style="font-size:small"
野菜の多くは[[無機塩類]]やビタミン類、[[食物繊維]]のほかに、[[抗酸化物質]]を含む[[ファイトケミカル]](フィトケミカル)が豊富で、免疫力を上げて体内を浄化する働きがあり、癌予防を含めた各種[[健康]]維持に役立っている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。ファイトケミカルとは、植物に含まれる色素や香り、灰汁などに含まれる植物自体が有害な物から防御するための物質で、[[ポリフェノール]]類、[[フラボノール]]、[[カテキン]]などが相当する{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
|+施設栽培に使用される施設<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />
{| class="wikitable"
|+野菜の代表的な栄養素
!style="width:6em;" |栄養素
!特徴
!多く含まれる主な野菜
!style="width:3em;" |備考
|-
|-
! 施設 !! 形態や材質
|[[ビタミンA]]
|カロテン類として含まれている脂溶性ビタミンで、体内でビタミンAに変換される。食用油と一緒に摂ると吸収力が上がる。抗酸化作用があり、皮膚や粘膜を健康に保つ働きがある。
|ニンジン、ホウレンソウ、アシタバ、ニラ、タアサイ、シュンギク、モロヘイヤ、西洋カボチャ、タカナ、ダイコン・カブの葉などの緑黄色野菜。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| [[温室|ガラス温室]] || [[鉄骨]]や[[アルミ]]の外部骨格と、[[ガラス]]の外張りで構成されている。ふつう暖房による加温能をもつ。ガラスは[[可視光]]の透過率、保温能、耐久性に優れているが、[[紫外線]]透過能を欠く。[[台風]]などによる被害が大きく、近年では軽量で耐久性が高いフッ素フィルムが利用されることが多い。
|[[ビタミンB1]]
|炭水化物(糖質)をエネルギーに変えるのを助ける水溶性ビタミンの1種。不足すると糖質代謝が低下して、疲労の原因になる。神経のはたらきを正常に保つ。
|枝豆、ニンニク、モロヘイヤ、ラッカセイ、グリーンピース、ソラマメなど。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| {{Nowrap|[[ビニールハウス|プラスチックハウス]]}}<br />(ハウス) || [[鉄パイプ]]の外部骨格と、プラスチックフィルムの外張りで構成されている。プラスチックフィルムとしては農業用[[ポリ塩化ビニル]]フィルム(農ビ)、農業用[[ポリエチレン]]フィルム(農ポリ)、農業用[[ポリオレフィン]]系フィルム(農PO)、農業用[[酢酸ビニル]]フィルム(農酢ビ)などがある。農ポリは紫外線から[[赤外線]]まで広く透過するため、保温性に劣る。農ビは赤外線透過率が低く、保温力が大きいが、劣化が速く破れやすいことから、近年では農POが増えている。ふつう加温能を欠く。
|[[ビタミンB2]]
|糖質、脂質、タンパク質の代謝を助けて、エネルギーに変えるのを助ける。タンパク質の合成を助けて細胞の成長を促す働きがあり、皮膚や粘膜の健康維持を助ける。
|ブロッコリー、シソ、ホウレンソウ、モロヘイヤ、トウガラシ、アシタバ、パセリ、クレソン、バジル、メキャベツなど。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| 雨よけハウス || プラスチックハウスにおける天井部のみを被覆している。降雨による着果不良や実割れなどの障害を回避するために利用される。
|[[ビタミンB6]]
|タンパク質をアミノ酸に分解や合成する働きを助け、筋肉や血液を作るために不可欠なビタミン。女性ホルモンのエストロゲンの代謝にも必要とされる。
|赤ピーマン、モロヘイヤ、ニンニク、トウガラシ、バジル、パセリ、カブの葉など。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| トンネル || 簡易なアーチ状のパイプや竹材の外部骨格とプラスチックフィルムから構成されており、内部で通常姿勢の人が作業できない大きさである。ふつう結露しにくいフィルムが利用される。[[不織布]]や[[寒冷紗]]が用いられることもある。保温、遮光、風雨からの保護、病虫害防除のために利用される。
|[[ビタミンC]]
|抗酸化作用があるほか、タンパク質やコラーゲンの生成を助けて、風邪予防や肌を健康に保つ働きがある。
|ブロッコリー、ジャガイモ、赤ピーマン、黄ピーマン、パセリ、ケール、メキャベツ、菜花、カブの葉、カリフラワーなど。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| [[マルチング|マルチ]] || 土壌表面を[[稲わら]]やプラスチックフィルムで覆う。地温の調節、雑草や病虫害防除、土壌水分や団粒構造保持、肥料や土壌の流出防止などの効果がある。黒色の[[ポリエチレン]]フィルムの利用が多いが、[[アブラムシ]]が嫌う紫外線を反射する銀色のフィルムや、雑草抑制のため除草剤を混入したフィルムを利用することもある。また近年では、生分解性のフィルムも使用される。
|[[ビタミンK]]
|血液凝固促進作用があるタンパク質を作るのを助ける脂溶性ビタミンの1種。またカルシウムを取り込む働きがあり、丈夫な骨を作るのを助ける。ビタミンK1(フィロキノン)とビタミンK2(メナキノン類)の2種類がある。
|カブ・ダイコンの葉、モロヘイヤ、アシタバ、ツルムラサキ、ケール、パセリ、シソ、ホウレンソウ、ヨメナ、バジルなど。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| べたがけ || 寒冷紗や不織布などで作物を直接覆うこと。低温や風害、害虫の侵入を防ぐ。簡単な支柱を設置して作物から浮かせて覆うこともあり、「浮きがけ」とよばれる。
|[[カリウム]]
|}
|細胞内の水分量を調節して、腎臓でナトリウムの排出作用がある。高血圧予防やむくみ予防、筋肉の働きを調整する。

|ミツバ、サトイモ、パセリ、ホウレンソウ、枝豆、ケールなど。
一般的に、施設栽培では外気から遮断されているため、[[気温]]や[[地温]]が高めになるだけではなく、[[湿度]]、対流、[[二酸化炭素]]量などに影響する<ref name="鈴木2012a" />。高温時期には、温度上昇を抑えるために遮光することもある<ref name="吉田2020" />。[[イチゴ]]などでは日長処理のため、赤色光を多く含む低照度(20–100[[ルックス]])の照射が行われることがある<ref name="吉田2020" />。厳冬期には保温のため換気回数が減るが、そうすると施設内の二酸化炭素濃度が低下し光合成速度が極端に低下しやすいため、二酸化炭素施肥をすることがある<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />。また、堆肥の利用は、二酸化炭素発生源としての役割ももつ<ref name="吉田2020" />。施設内の土壌水分は、灌水に依存しているため低くなりやすい<ref name="鈴木2012a" />。また土壌中の肥料養分は降雨によって地下に流亡することがなく、地表からの水分蒸発に伴って肥料養分も地表に移動・蓄積し、このような塩分集積が問題になることもある<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />。施設栽培においては、均一な灌水と湿度上昇抑制を可能とする点滴灌水が一般的になりつつある<ref name="吉田2020" />。また、これと液肥を組み合わせることで、養水分を過不足なく与えて塩分集積を抑えることができる<ref name="吉田2020" />。温室やハウス内には訪花昆虫がいないため、受粉が必要な場合は、受粉用昆虫を放したり、人工受粉を行う<ref name="鈴木2012a" />。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}

施設栽培では、被覆資材によって透過光に違いがあり、使い分けられている<ref name="鈴木2012a" />。[[赤外線]]は熱となるため、透過率がよいと昼は暖まりやすいが夜は保温しづらくなる。そのため、ハウス外張りに赤外線を通す資材を使い、夜間に張る内張りに赤外線を反射する資材を使うことで保温性を高めることがある<ref name="鈴木2012a" />。[[ナス]]などでは、[[果実]]の着色に[[紫外線]]が必要であるため、紫外線を透過する資材が必要である<ref name="鈴木2012a" />。一方で[[ホウレンソウ]]や[[レタス]]、[[ニラ]]では[[近紫外線]](波長 200–300 nm)がない方が成長がよい<ref name="鈴木2012a" />。また、[[ミツバチ]]は近紫外線がないと行動が不活発となるため、[[イチゴ]]や[[メロン]]などミツバチによって[[送粉]]されるものでは近紫外線が必要となる<ref name="鈴木2012a" />。逆に、一部の害虫も近紫外線で活発になるため、近紫外線を遮断してこのような害虫の活動を抑えることもある<ref name="鈴木2012a" />。同様に、一部の病原菌は近紫外線がないと[[胞子]]形成など生殖が抑制されるため、紫外線カットフィルムによって防除することがある<ref name="鈴木2012a" />。

[[ファイル:Leafy Greens Hydroponics.jpg|thumb|right|200px|薄膜水耕による葉菜類の栽培]]
[[ビニールハウス|プラスチックハウス]]や[[温室]]での栽培が普及するとともに、土壌を使わずに培養液(水に[[肥料]]を溶かしたもの)を用いた'''[[養液栽培]]'''(soilless culture)が発達してきた<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />。土壌の代わりに[[礫]]、[[砂]]、[[軽石]]、[[ピートモス]]、[[ロックウール]]などを用いる[[固形培地耕]]と、ウレタンなどの少量の支持材のみで固形培地をほとんど用いない[[水耕]] (hydropnics) がある<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />。水耕の中には、比較的深い水深の培養液を用いる[[湛液型水耕|湛液水耕]] (DFT)、浅い水深の培養液を用いる[[薄膜水耕]] (NFT)、根に培養液を噴霧する噴霧耕がある<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />。特に、[[トマト]]や[[イチゴ]]栽培で利用されている<ref name="吉田2020" />。培養液の組成・濃度は、種や生育段階、日々の気象条件によって大きく変動する<ref name="吉田2020" />。養液栽培では培地や培養液の滅菌が容易で不足した成分もすぐに添加できる<ref name="鈴木2012a" />。養液栽培では、培養液を循環再利用する循環式(閉鎖式)と循環しない掛け流し式(開放式)があり、前者では培養液の組成変更や根からの分泌物による成長阻害、病原菌が侵入した際の急速な蔓延が、後者では廃液量がそれぞれ問題になる<ref name="鈴木2012a" /><ref name="吉田2020" />。

{{multiple image
| total_width = 400
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| caption_align = left
| image1 = Tomato_P5260299b.jpg
| caption1 = 管理されたトマト栽培
| image2 = 桑の水耕栽培をされているストリームさんにて (37776549804).jpg
| caption2 = 人工光型植物工場
}}
施設栽培の究極の形として、'''[[植物工場]]''' (plant factory) がある<ref name="鈴木2012a" /><ref name="堀内2020">{{cite book|author=堀内尚美|year=2020|chapter=植物工場|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|page=11}}</ref>。植物工場とは、一定の機密性を保持した施設内で、環境・生育のモニタリングを基礎とした高度な生育予想と高度な環境制御を行うことにより、季節や天候に左右されない作物の周年・計画生産ができる栽培施設のことである<ref name="鈴木2012a" /><ref name="堀内2020" />。環境制御において、植物地下部では養液によって管理し、地上部では温度、湿度、光、二酸化炭素濃度を制御する<ref name="堀内2020" />。日本においては、2020年現在で約400箇所の商業施設での事業化が進んでおり、[[レタス]]など[[葉菜類]]を中心に、また[[トマト]]や[[イチゴ]]で多収化・周年化を実現している<ref name="堀内2020" />。植物工場の中には、半閉鎖環境で太陽光を利用した太陽光型植物工場と、閉鎖環境で人工光のみを利用する人工光型植物工場がある<ref name="鈴木2012a" /><ref name="堀内2020" />。トマトやイチゴでは栄養成長と生殖成長を同時に連続して行い、強光が必要であるため、太陽光型植物工場で多段栽培が行われている<ref name="堀内2020" />。一方、レタスなどの葉菜類では生育期間が比較的短く、[[LED]]などの人工光源を設置した多段ベッドで密植栽培すると単収が飛躍的に大きくなるため、人工光型植物工場で生産されている<ref name="堀内2020" />。植物工場の利点は天候に左右されず、連作障害や病害虫発生がほとんどないことから、計画生産、安定雇用、無農薬栽培、高付加価値産物の生産、省力・自動化が可能な点にある<ref name="鈴木2012a" /><ref name="堀内2020" />。また培養液の循環利用では、環境負荷が小さい<ref name="堀内2020" />。立地条件を選ばないため、土壌汚染地や海上でも可能であり、今後の食糧生産を支える存在として期待されている<ref name="堀内2020" />。一方で、課題は建築・ランニングコストが膨大になる点である<ref name="鈴木2012a" /><ref name="堀内2020" />。

=== 病虫害・雑草 ===
野菜の栽培では、病害や害虫が問題となる<ref name="増田2012">{{cite book|author=増田税|year=2012|chapter=病気の防除と防御機構|editor=鈴木正彦|title=園芸学の基礎|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540111051|pages=145–149}}</ref><ref name="伴戸2012">{{cite book|author=伴戸久徳|year=2012|chapter=害虫の防除と防御機構|editor=鈴木正彦|title=園芸学の基礎|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540111051|pages=149–152}}</ref>。これに対する防除方法として、下表のようなものがある。

{| class="wikitable" style="font-size:small"
|+病虫害に対する主な防除方法<ref name="増田2012" />
|-
|-
! 区分 !! おもな防除方法
|[[カルシウム]]
|骨や歯の主成分で、発育や骨粗鬆症予防に重要なミネラル。脳内神経伝達物質を放出するため、不足するとイライラするといわれている。
|コマツナ、モロヘイヤ、パセリ、シソ、ツルムラサキ、エンドウ、ゴマ、ダイズなど。
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| 耕種的防除 ||
|[[鉄分]]
* 抵抗性品種の利用
|血液中のヘモグロビンを構成し、全身の酸素を送る働きがある。不足すると、疲れやすくなり、動悸、息切れ、食欲不振の症状が出る。
* 栽培管理の改善(適切な施肥、[[輪作]]、混作、圃場衛生の改善、栽植密度の改善など)
|コマツナ、レタス、枝豆、ホウレンソウ、シソ、パセリ、コンニャク、ソラマメなど。
* 障壁植物の利用
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
|-
|-
| 生物的防除 ||
|[[食物繊維]]
* 土着天敵の利用
|体内で消化されない炭水化物で、腸の働きを活発にさせる働きがある。便秘予防、血糖値の急上昇の抑制、コレステロールの吸収を抑える働きがある。
* 対抗植物の利用([[センチュウ]]に対する[[マリーゴールド]]など)
|ゴボウ、グリーンピース、モロヘイヤ、コンニャク、ダイズ、ケール、ラッキョウ、エンドウ、インゲンなど。
|-
|{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}
| 物理的防除 ||
* 圃場全体、入り口、畝、植物、果実などの被覆・袋がけ
* 光の利用(アルミ蒸着フィルムの[[マルチング|マルチ]]による[[紫外線]]反射、紫外線カットフィルム、防蛾灯など)
* わら巻きや粗皮削りによる越冬病害虫防御
* 熱利用(湯による種子、土壌消毒など)
|-
| [[農薬]]による防除 ||
* 化学農薬([[殺菌剤 (農薬その他)|殺菌剤]]、[[殺虫剤]]など)
* [[天敵農薬]]([[チリカブリダニ]]剤、[[コレマンアブラバチ]]剤など)
* [[微生物農薬]](バーティシリウム・レカニ剤、バチルス・ズブチリス剤、[[BT剤]]、弱毒ウイルス製剤など)
* [[フェロモン]]剤の利用(雌雄の交信撹乱による交尾阻害)
|}
|}


=== 食物繊維 ===
==== 病害 ====
野菜栽培では、[[菌類]]、[[細菌]]、[[ウイルス]]による病害が問題になる<ref name="増田2012" />。病害防除にはふつう農薬が使われるが、現代では減農薬が課題となっており、適切な農薬の適量の散布のためには、病害診断が重要である<ref name="増田2012" />。また、農薬による防除以外の方法を併用して総合的に防除することが重要とされる<ref name="増田2012" />。多くの殺菌剤の作用機作は病原菌の代謝阻害であるが、殺菌剤の過使用は耐性菌の出現につながり、問題となっている<ref name="増田2012" />。植物自身の抵抗性を高める農薬である抵抗性誘導剤は、病原菌に直接作用しないため耐性菌が出現しにくく、近年注目されているが、予防的なものであり治療効果は低い<ref name="増田2012" />。生物農薬は「環境に優しい」とされるが、効果が安定しない<ref name="増田2012" />。ほとんど病徴を示さない弱毒ウイルスを感染させることで、強毒性のものを含むそのウイルス群に対する耐性を付与することができ(人間におけるワクチン接種と類似した考え)、日本ではそのようなトマト苗が長年使われている<ref name="増田2012" />。
[[ヒト]]の[[消化管]]は自力では[[デンプン]]や[[グリコーゲン]]以外の多くの[[多糖類]]を消化できないが、[[大腸]]内の[[腸内細菌]]が[[嫌気的|嫌気]][[発酵]]することによって、一部が[[酪酸]]や[[プロピオン酸]]のような[[短鎖脂肪酸|短鎖]][[脂肪酸]]に変換されてエネルギー源として吸収される。野菜に含まれる食物繊維の大半が[[セルロース]]であり、人間のセルロース利用能力は意外に高く、粉末にしたセルロースであれば腸内細菌を介してほぼ100%分解利用されるとも言われている。デンプンは約4kcal/g のエネルギーを産生するが、食物繊維は腸内細菌による醗酵分解によってエネルギーを産生し、その値は一定でないが、有効エネルギーは0~2kcal/gであると考えられている。また、食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で19g/日以上、成人女性で17g/日以上である<ref name="摂取基準">{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4h.pdf 「日本人の食事摂取基準」(2010年版)厚生労働省]}}</ref>。食物繊維は、大腸内で腸内細菌によりヒトが吸収できる分解物に転換されることから、食後長時間を経てから体内にエネルギーとして吸収される特徴を持ち、エネルギー吸収の平準化に寄与している。


=== ファイトケミカル ===
==== 害虫 ====
[[ファイル:Phytoseiulus persimilis.png|thumb|right|150px|生物農薬として利用される[[チリカブリダニ]]]]
野菜に含まれるファイトケミカル(フィトケミカル)には、ポリフェノール類と[[カロテノイド]]類がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
吸汁や食害、病原菌を伝播することで野菜に対して害を与える[[害虫]]として、[[昆虫]]、[[ダニ]]、[[センチュウ]]などがある<ref name="伴戸2012" />。害虫に対する農薬([[殺虫剤]])としては、下表のようなものがある<ref name="増田2012" />。このような殺虫剤は広く使われているが、その多用は土着天敵を含む生物相を貧弱にし、害虫発生を増加させたり、薬剤耐性害虫の出現を招いたりする<ref name="増田2012" />。そのため、殺虫剤以外のさまざまな防除法を組み合わせ、環境負荷を低減しつつ害虫の個体数を制御すること('''[[総合的有害生物管理]]'''、IPM)が目指され、特に天敵を利用した生物的防除の重要性が認識されている<ref name="増田2012" />。このような天敵の中には、製品化されたものもあり、[[天敵農薬]]とよばれる<ref name="増田2012" />。また、天敵の利用には、植生を含めた周辺環境の整備が重要である<ref name="増田2012" />。植物は、害虫の食害を受けた際に特殊な物質([[植食者誘導性植物揮発性物質]]、HIPV)を放出し、これによって食害した害虫の天敵を誘引することがあるが、これを生物学的防除に利用することも試みられている<ref name="増田2012" />。


{| class="wikitable" style="font-size:small"
'''ポリフェノール類'''は化学構造上の分類で、[[フェノール基]]に[[水酸基]](OH)が2つ以上たくさんついている物質のことをいう。植物の色素やアクとよばれている苦味成分のほとんどはポリフェノールである{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。光合成によって生成されるといわれ、光の当たる部分には特にたくさん含有されている{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。含有している野菜としては、赤タマネギ、紅芋、ダイズなどがよく知られる{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。ポリフェノールの主たる機能は[[抗酸化物質|抗酸化作用]]であり、がん予防や血中コレステロールの酸化を防いで動脈硬化を予防する働きがあるとされる{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。ポリフェノール類の生理作用は個々の物質によって異なるさまざまな作用があり、その効用は数時間内といわれる{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
|+殺虫剤のタイプと特徴<ref name="増田2012" />
* [[アントシアニン]] - [[紫キャベツ]]、[[紫芋]]、[[赤ジソ]]、[[インゲンマメ]]などに含まれる野菜の赤紫色や青紫色の色素成分で、抗酸化作用や目の働きによいといわれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
|-
* [[イソフラボン]] - ダイズなどに含まれる。女性ホルモンに似た働きをし、骨粗鬆症予防、更年期障害によいといわれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
! タイプ !! 特徴
* [[セサミン]] - ゴマなどに含まれる。血中コレステロールを下げる働きがあるとされる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
|-
* [[ショウガオール]] - ショウガに含まれる辛味成分で、抗菌作用、食欲増進作用がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
|消化中毒剤 || 植物に付着し、これが害虫に摂食されることで取り込まれ、殺虫効果を発揮する。
* [[カテキン]] - 殺菌作用がある{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
|-
* [[ルテイン]] - 毛細血管を強化する{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
|接触剤 || 害虫体表に付着・吸収されて殺虫効果を発揮する。
|-
|燻蒸剤 || 気化させて害虫の呼吸器系から取り込まれて殺虫効果を発揮する。
|-
|浸透移行性剤 || 体表または土壌から植物体内に取り込ませ、これが害虫に摂食されて殺虫効果を発揮する。
|}


==== 雑草 ====
'''カロテノイド類'''は、主として植物に含まれている赤色から黄色の色素成分で、[[カロテン]]類と[[キサントフィル]]類に分けられる。基本的に植物だけが作り出せる成分である{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。カロテン類には、[[αカロテン]]、[[βカロテン]]、[[γカロテン]]、[[リコペン]](リコピン)などがあり、人間の体内で[[レチノール]]という物質に変換されて[[ビタミンA]]として作用する{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。レチノールに変換されないカロテン類は、抗酸化作用を発揮する{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。また、キサントフィル類には[[アントシアニン]]、[[ルテイン]]、[[アスタキサンチン]]、[[クリプトキサンチン]]、[[カプサイシン]]などがあり、これらはビタミンAとして働かないが、抗酸化作用を発揮して、がん予防や老化防止に役立つと考えられている{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。
耕地など人間によって撹乱された場所に生育し、栽培植物に害を与える植物は[[雑草]]とよばれる<ref name="荒木2012">{{cite book|author=荒木肇|year=2012|chapter=雑草の生態と防除、コンパニオンプランツとバンカープランツ、アレロパシー作用とその利用|editor=鈴木正彦|title=園芸学の基礎|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540111051|pages=152–156}}</ref>。雑草は作物より短期間で発芽、成長、繁殖し、光や養分を巡って作物と競争することで害を与え、また病虫害の発生源ともなる<ref name="荒木2012" />。雑草の生育速度や養分吸収能は一般的に作物よりも大きいため、作物の収量低下を引き起こす<ref name="荒木2012" />。雑草は多量の種子を生産し、種子は早熟性で発芽可能期間が長いため、完全に除去することは難しい<ref name="荒木2012" />。雑草の化学的防除としては、[[除草剤]]や生育抑制剤の利用がある<ref name="荒木2012" />。除草剤は光合成経路など生理代謝を阻害して枯死させるものであり、[[イネ科]]雑草や[[双子葉類]]雑草いずれかに効果があるものと、両方に効果があるものがある<ref name="荒木2012" />。除草剤の中には、土壌表面に施用して雑草の種子や芽生えに吸収される土壌処理剤と、雑草の茎葉に施用して吸収される茎葉処理剤があり、さらに後者には接触した組織のみを枯死させる接触型と吸収されて全体を枯死させる吸収移行型(全草型)がある<ref name="荒木2012" />。農薬以外には、手作業や道具、機械による土壌表面の撹乱や耕起、[[マルチング|マルチ]](上記参照)などの物理的防除、作物や被覆植物(緑肥植物など)を成長させて畝間の照度を下げる生物的防除がある<ref name="荒木2012" />。また、作物には影響がないが雑草を阻害する[[アレロパシー]]作用をもつ植物を導入し、雑草防除に用いることもある<ref name="荒木2012" />。
* [[リコペン]] - トマト、[[スイカ]]、[[金時人参]]などに含まれる赤色色素成分でカロテンの1種。抗酸化作用がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[カプサイシン]] - 赤トウガラシ、赤ピーマンなどに含まれ、抗酸化作用がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[ルテイン]] - ホウレンソウ、コマツナ、[[ケール]]などの緑黄色野菜に含まれる黄色の色素成分。抗酸化作用が高く、眼病予防にも良いといわれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[クリプトキサンチン]] - 赤ピーマンに含まれるオレンジ色の色素成分。[[柑橘類]]、[[カキノキ|カキ]]、[[パパイヤ]]、[[アンズ]]などの果物にも含まれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。


==== コンパニオンプランツ ====
'''イオウ化合物'''は、[[アメリカ国立癌研究所]] (NCI) が中心となって研究した[[デザイナーフーズ計画|デザイナーズフーズ]]の上位に、ニンニクやキャベツ、タマネギがランクされたことから注目されるようになった生理機能成分で、特有の臭いを発する{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
[[ファイル:KarottenZwiebeln 266.JPG|thumb|right|200px|タマネギとニンジンの混植]]
* [[硫化アリル]] - [[ネギ]]、[[タマネギ]]、[[ニラ]]、[[ラッキョウ]]などに共通して含まれる刺激臭のある成分で、ビタミンB1の吸収を助け、炭水化物の代謝を活発にする働きがある。また、血液の粘度を下げる働きがあるといわれ、血栓を予防するともいわれている{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
混植することで主作物の生育を助長したり、病害虫の発生・被害を低下させる植物は、'''[[コンパニオンプランツ]]'''とよばれる<ref name="荒木2012" />。[[ヒガンバナ]]の[[鱗茎]]には猛毒[[アルカロイド]]である[[リコリン]]が含まれており、混植による[[ネズミ]]や[[モグラ]]対策として古くから利用されてきた<ref name="荒木2012" />。また、[[ネギ]]や[[ニラ]]の[[根圏]]には、{{Snamei||Barkholderia gladioli}} や {{Snamei||Pseudomonas florescens}} が生育しており、ウリ類のつる割病菌やトマトの根腐萎凋病菌などに対する[[抗生物質]]を分泌するため、混植するとこれら病原菌の増殖を抑えることができる<ref name="荒木2012" />。主作物と[[根圏]]が一致することが重要であり、ネギは[[ウリ科]]作物([[キュウリ]]、[[ユウガオ]]、[[スイカ]]、[[メロン]]、[[カボチャ]]など)と、ニラは[[ナス科]]作物([[トマト]]、[[ナス]]、[[ピーマン]]、[[ジャガイモ]]など)と混植すると効果的とされる<ref name="荒木2012" />。
** [[アリシン]] - 硫化アリルの一種でニンニクやネギ臭の素になる成分{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。生ニンニクには[[アイリン]]という無臭成分が含まれているが、空気に触れるとアリシンに変化する{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。ビタミンB1の吸収を助け、血栓予防、貧血予防、血中コレステロール値の上昇の抑制のほか、強力な抗酸化作用が知られている{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
* [[イソチオシアネート]] - キャベツ、ブロッコリーなどアブラナ科野菜に特異的に含まれる臭い成分{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。遺伝子が傷ついた細胞増殖の抑制、発がん性物質の活性化の抑制、抗菌作用のほか、女性ホルモンと似たような働きをすると言われている{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。


=== がん予防の可能性 ===
==== バンカープランツ ====
圃場への侵入を妨害するなどして[[害虫]]の飛来や[[雑草]]侵入を低下させたり、土着天敵の住みかになるなどして病害虫の被害を低下させる植物は、'''[[バンカープランツ]]'''とよばれる<ref name="荒木2012" />。バンカープランツは、主作物と害虫が共通しないこと、水や栄養、光を巡って主作物とあまり競合しないこと、雑草化しないことなどを留意して選択される<ref name="荒木2012" />。[[ナス]]などの圃場周囲に[[ムギ]]類や[[ソルゴー]]など伸長性のある植物を栽培することで[[アブラムシ]]類や[[アザミウマ]]類の侵入が抑制され、またアブラムシの土着天敵([[テントウムシ]]、[[クサカゲロウ]]、[[ヒラタアブ]]など)の住みかとなって被害を軽減する<ref name="荒木2012" />。作業用通路と作物の間に[[エンバク]]や[[コスモス]]、[[ヒマワリ]]を栽培し、雑草侵入を防ぐこともある<ref name="荒木2012" />。また、2006年以降の[[残留農薬等に関するポジティブリスト制度|ポジティブリスト制]]では、作物ごとの登録農薬使用が厳格に決められており、異なる作物の間に高く伸長するバンカープランツを植栽することで、対象以外の農薬が飛散することを防ぐことがある<ref name="荒木2012" />。
野菜は、[[果物]]とともに癌予防の可能性が大きいものとされている<ref name="ganjohosci">{{Cite web|和書|url=https://web.archive.org/web/20100504132612/http://ganjoho.ncc.go.jp/public/pre_scr/prevention/evidence_based.html|title=日本人のためのがん予防法:現状において推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法|author=国立がんセンターがん対策情報センター|date=2009-02-25|accessdate=2009年12月1日}}</ref><ref>WHO technical report series 916. ''Diet, nutrition and the prevention of chronic diseases'', 2003 & IARC monograph on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume83, ''Tobacco Smoke and Involuntary Smoking'', 2004</ref>。


== 流通 ==
野菜などで変異原性物質Trp-P-1(3-amino-1,4-di-methyl-5H-pyrido[4,3-b]indole)に対して抗[[変異原性]]を示すものは次のようなものがある<ref>[https://doi.org/10.11428/jhej1987.48.637 植物性食品抽出成分の抗変異原活性]、小原 章裕ほか、日本家政学会誌、Vol.48 (1997) No.7</ref>。
日本において、野菜は以下のような経路で流通しており、カッコ内は2005年の推計量(万トン)を示している<ref name="藤島2016">{{Cite journal|author=藤島廣二, 周暁東, 宋暁凱, 曹斌, 原温久, 山藤篤, ... & 香月敏孝|year=2016|title=日本における青果物流通システムと卸売市場の役割|journal=東京聖栄大学紀要|volume=8|issue=|pages=53-58|crid=1520290884850323328}}</ref>。国産野菜 (1500) の多く (1000) は、生産者から直接または[[卸売市場]]を通して[[八百屋]]や[[スーパーマーケット]]など[[小売業者]]に流通し、ここから最終消費者に渡る (640)<ref name="藤島2016" />。この過程の一部 (260)、および生産者からの一部 (300) は加工業者・業務用需要者([[外食産業]]など)に流通し、そこから直接(外食など)または小売店を経て(加工品など)最終消費者に渡る (560)<ref name="藤島2016" />。また国産野菜の一部 (200) は、小売業者などを介さず、自給・贈答・直売などの形で最終消費者に渡る<ref name="藤島2016" />。一方、輸入生鮮野菜 (100) も同様に、直接または卸売市場を経て小売業者に流通して最終消費者に渡るもの (20) と、加工業者・業務用需要者を経るもの (80) がある<ref name="藤島2016" />。輸入野菜においては加工野菜の比率が高く (300)、小売業者 (100) または加工業者・業務用需要者 (200) を経て最終消費者に渡る<ref name="藤島2016" />。このように、最終的に消費者に渡った時点で、非生鮮品(加工品、外食品など)は生鮮品よりも多くなっている(2005年時点)<ref name="藤島2016" />。
* 抗変異原性++++:[[ダイコン]](葉)、[[キクナ]]、[[アスパラガス]]、[[ピーマン]]、[[キュウリ]]
* 抗変異原性+++:[[ニラ]]、[[ハクサイ]]、[[ゴボウ]]
* 抗変異原性++:[[ネギ]]、[[ホウレンソウ]]、[[パセリ]]、[[レタス]]、[[ズイキ]]、[[ニンジン]]、[[ショウガ]]、[[サツマイモ]]、[[ハツカダイコン|ラディッシュ]]、[[ナス]]、[[キャベツ]]、[[ブロッコリー]]、[[シイタケ]]
* 抗変異原性+:[[チンゲンサイ]]、[[コマツナ]]、[[セロリ]]、[[レンコン]]、[[カブ]]、[[ダイコン]](根)、[[オクラ]]、[[ウリ]]


収穫した農作物の貯蔵・品質管理全般のことは、'''[[ポストハーベスト]]''' (postharvest) とよばれる<ref name="馬場2020">{{cite book|author=馬場正|year=2020|chapter=ポストハーベストテクノロジー|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|pages=42–51}}</ref>。農作物は収穫後も生きており、[[呼吸]]による成分の消費や[[蒸散]]による乾燥が進行する<ref name="馬場2020" /><ref name="稲葉2003a">{{cite book|author=稲葉昭次|year=2003|chapter=野菜の収穫後の生理|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=152–170}}</ref>。また、[[トマト]]や[[マスクメロン]]の[[果実]]は[[クリマクテリック型果実|クライマクテリック型果実]] (climacteric fruit) とよばれ、エチレン生成を引き金として[[呼吸]]が急速に上昇、老化する<ref name="馬場2020" />。これらを抑えるための重要な環境因子は、[[温度]]、[[湿度]]、ガス環境である<ref name="馬場2020" />。品質を維持するために最も効果的であるのは低温であり、呼吸や蒸散が抑えられ、エチレンも減少する<ref name="馬場2020" />。農産物が生産現場から消費に至る全過程を通じて低温に管理されている状態が望まれ、これは'''[[コールドチェーン]]'''(低温流通技術、cold-chain)とよばれるが、現状では必ずしも確立していないこともある<ref name="馬場2020" /><ref name="稲葉2003b" /><ref name="萩原2020a">{{cite book|author=萩原勲|year=2020|chapter=園芸と園芸生産|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|pages=2–10}}</ref>。湿度が高ければ蒸散が抑えられるが、微生物が繁殖しやすくなり腐敗が問題になる<ref name="馬場2020" />。ガス環境では、低[[酸素]]・高[[二酸化炭素]]条件にすると、呼吸やエチレン生成が抑えられる<ref name="馬場2020" />。ただし、貯蔵中に低温が原因となる生理障害や呼吸による二酸化炭素濃度上昇に起因する生理障害が起こることがあり、注意を要する<ref name="馬場2020" />。
野菜などで変異原性物質NIHP(2-ヒドロキシ-3-(1-N-ニトロソインドリル)-プロピオン酸)に対して抗[[変異原性]]を示すものは次のようなものがある。
* 抗変異原性++++:[[トマト]]、[[タマネギ]]
* 抗変異原性+++:[[ナス]]、[[キャベツ]]、[[ブロッコリー]]、[[ニンジン]]、[[ダイコン]](根)、[[エノキ]]、[[シメジ]]
* 抗変異原性++:[[アスパラガス]]、[[シイタケ]]
* 抗変異原性+:[[コマツナ]]、[[トウガラシ]]


野菜の呼吸活性は、収穫直後に最も高い。そのため、収穫した野菜を迅速に冷却して呼吸・蒸散を抑える'''予冷''' (precooling) を行う<ref name="馬場2020" /><ref name="稲葉2003b" />。日本で行われている主な予冷方式としては、以下の3つがある<ref name="馬場2020" /><ref name="稲葉2003b" />。
[[キャベツ]]、[[ブロッコリー]]、[[ゴボウ]]、[[ナス]]、[[ショウガ]]等に強い抗[[変異原性]]があることが知られている。加えて、[[エストラゴン]]、[[オレガノ]]、[[ギョウジャニンニク]]、[[シロザ]]、[[タイム (植物)|タイム]]、[[ツクシ]]、[[フキノトウ]]、[[モミジガサ]]、[[レモンバーム]]の野菜類9種にもTrp-P-1に対して強い抗変異原性があり、[[キク科]]、[[シソ科]]、[[アブラナ科]]、[[セリ科]]の植物に抗変異原性があるものが多い<ref>上田成子, 桑原祥浩, 平位信子 ほか、「[https://doi.org/10.3136/nskkk1962.38.507 野菜類およびキノコ類の抗変異原性について]」 『日本食品工業学会誌』 1991年 38巻 6号 p.507-514, {{doi|10.3136/nskkk1962.38.507}}</ref>。
* 強制通風冷却 (forced-air cooling): 冷風を段ボール箱などに吹き付けて冷却する。設備費は安いが、冷却に時間(12–24時間)がかかる。
* 差圧通風冷却 (static-pressure air cooling): 冷凍機は強制通風と同じであるが、ファンによって圧力差を形成して段ボール箱内に冷風が流入するようにする。強制通風に比べて短時間(4–8時間)で冷却できるが、作業面積が小さくなる。
* 真空冷却 (vacuum cooling): 庫内を減圧して生産物の水を蒸発させ、その気化熱で冷却する。設備費は高いが、短時間(20–30分)で冷却できる。水分が蒸発しやすい葉菜類で多く使われる。


農作物は、工業製品とは異なり大きさや品質などはばらばらであるが、一定の基準に従って'''選別'''される<ref name="馬場2020" />。日本では、世界的に類を見ないほど厳しい基準で選別が行われている<ref name="馬場2020" />。曲がり具合や着色程度などの見た目の評価は「等級」とよばれ、目視で判別されていたが、近年ではカメラで得られた画像を解析することで自動的に選別することも多い<ref name="馬場2020" /><ref name="稲葉2003b" />。また、このような外観的基準のみではなく、光センサーを用いて[[糖度]]や内部変色などの情報も利用されるようになっている<ref name="馬場2020" /><ref name="稲葉2003b">{{cite book|author=稲葉昭次|year=2003|chapter=流通機構|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=170–177}}</ref>。
2007年11月1日、[[世界がん研究基金]]と[[アメリカがん研究協会]]によって7000以上の研究を根拠に「食べもの、栄養、運動とがん予防<ref>{{cite book|author=World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research|url=https://web.archive.org/web/20150503204125/http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-cup/second-expert-report |title=Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective|year= 2007|publisher=Amer. Inst. for Cancer Research|isbn= 978-0972252225}} 日本語要旨:[https://web.archive.org/web/20160402133013/https://www.wcrf.org/sites/default/files/SER-SUMMARY-(Japanese).pdf 食べもの、栄養、運動とがん予防]、[[世界がん研究基金]]と[[米国がん研究機構]]</ref>」が報告されている。(詳細は「[[食生活指針]]」を参照のこと)


野菜の品質管理においては、プラスチックフィルムによる包装が重要な働きをもつ<ref name="馬場2020" /><ref name="稲葉2003b" />。一般的な食品包装では水分やガスの出入りが少ないフィルムが利用されるが、野菜は生きているため、適度な水分・ガス透過性がないと、品質劣化を助長することになる<ref name="馬場2020" />。材質としては、[[ポリプロピレン]] (PP) や[[ポリエチレン]] (PE)、[[ポリスチレン]] (PS)、[[ポリ塩化ビニル]] (PVC) がある<ref name="馬場2020" />。ポリプロピレンは透過性、ヒートシール性(熱による接着)、強度において優れているが、水蒸気透過性が低いため曇りが生じて中が見えにくくなる<ref name="馬場2020" />。これを解決するため、フィルムに界面活性剤(食品添加物として認可されているもの)を練りこんだフィルムもつくられている<ref name="馬場2020" />。また、ガス透過性を上げるため、ポリプロピレンフィルムにレーザーによって微細な孔を開けたものも開発されている<ref name="馬場2020" />。このようなプラスチックフィルムは我々の生活に深く入り込んでいるが、一方で廃プラスチックの流れもあり、今後のさまざまな利用形式が検討されている<ref name="馬場2020" />。
=== 生活習慣病予防 ===
野菜は果物とともに[[アルカリ性食品]]に分類されている<ref>小池五郎、「[https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.71.410 食品の酸性・アルカリ性について]」『日本釀造協會雜誌』 1976年 71巻 6号 p.410-413, {{doi|10.6013/jbrewsocjapan1915.71.410}}</ref>。(詳細は、[[酸性食品とアルカリ性食品]]を参照)


近年では、剥皮、成形切断、洗浄した生の野菜が流通しており、'''[[カット野菜]]'''とよばれる{{sfn|講談社編|2013|p=234}}<ref name="阿部2003" /><ref name="稲葉2003b" /><ref name="alic-yasaibook1" />。カット野菜には、外食産業や給食施設など業務用、および少量で包装した消費者用がある<ref name="阿部2003" />。用途別も多様であり、生食用や煮物、天ぷらなど加熱加工用がある。近年需要が増加しており、カット野菜に適する品種が選定されている例もある<ref name="阿部2003" />。カット野菜は切断ストレスを受けているため[[微生物]]に対する抵抗性が低く、また呼吸量が大きく栄養成分の低下や変色が起こりやすい<ref name="阿部2003" /><ref name="稲葉2003b" />{{sfn|講談社編|2013|p=234}}<ref name="落合1991">{{cite book|author=|year=1991|chapter=|editor=落合敏|title=食べ物と健康おもしろ雑学|publisher=梧桐書院|isbn=978-4340020096|page=195}}</ref>。その品質保持のために、[[次亜塩素酸]]などでの洗浄、不活ガス充填などの処理が行われ、低温保管されている<ref name="阿部2003" /><ref name="稲津2021">{{Cite journal|author=稲津康弘|year=2021|title=生野菜の洗浄殺菌|journal=日本食品微生物学会雑誌|volume=38|issue=3|pages=107-117|doi=10.5803/jsfm.38.107}}</ref>。
[[腎臓]]に障害がなく[[カリウム]]を摂取しても問題がなければ、カリウムを豊富に含む野菜や[[果物]]の摂取を増やすことにより[[血圧]]の降圧が期待できる<ref>久代登志男、「[https://doi.org/10.3143/geriatrics.47.123 高齢者高血圧治療のこつ]」『日本老年医学会雑誌』 2010年 47巻 2号 P.123-126, {{doi|10.3143/geriatrics.47.123}}</ref>。


== 調理 ==
[[21世紀における国民健康づくり運動]](健康日本21)では、望ましい野菜の摂取量は成人1人1日あたり350g以上とされている<ref>[https://www.kenkounippon21.gr.jp/ 健康日本21]</ref><ref>[https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/pdf/all.pdf 21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)について 報告書-厚生労働省]</ref><ref name="alic-yasaibook1"/>。日本人の平均ではこの目標に対して8割程度の摂取量にとどまっており、若年層においては7割~6割程度にとどまっている状況にある<ref name="alic-yasaibook1"/><ref name=kokumin>[https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000020qbb.html 平成22年国民健康・栄養調査結果の概要]</ref>。平成24年の調査では20歳以上の日本人の平均野菜摂取量は、286.5g/人日であった<ref>[https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h24-houkoku.html 平成24年度『国民健康・栄養調査』]、厚生労働省</ref>。所得と生活習慣等に関する状況の調査においては、所得が高いほど野菜摂取量が多く、所得が低いほど野菜摂取量が低い傾向が見られた<ref name=kokumin/>。
野菜を主とする[[料理]]は、'''野菜料理'''とよばれる<ref name="調理の基本大図鑑">{{cite book|author=|year=1998|chapter=野菜料理|editor=辻調理師専門学校 & エコール・キュリネール東京・国立|title=調理の基本大図鑑: BistroMarche|publisher=講談社|isbn=978-4062082242|pages=339–388}}</ref>。また、野菜は[[付け合せ]]や[[薬味]]として利用されることも多い<ref name="コトバンク_薬味" /><ref name="コトバンク_付け合せ">{{Cite Kotobank|word=付け合せ|encyclopedia=和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典|accessdate=2024-08-11}}</ref><ref name="ハウス">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://housefoods.jp/data/curryhouse/cook/lesson/curry_sidedish.html|title=カレーのつけ合わせ・副菜レシピ20選 カレーに合う味や食感も解説|website=|publisher=ハウス食品|accessdate=2024-08-11}}</ref><ref name="macaroni">{{Cite web|和書|author=かやのゆみこ|date=2024-05-18|url=https://macaro-ni.jp/41572|title=ハンバーグの付け合わせはどうする?10種の野菜別簡単レシピ25選|website=|publisher=macaroni|accessdate=2024-08-11}}</ref><ref name="セゾン">{{Cite web|和書|author=MICHIKO|date=2024-04-05|url=https://life.saisoncard.co.jp/health/medicalcare/post/kurashiselect35/|title=香りを食べる!野菜ソムリエがすすめる夏の薬味野菜3種「みょうが・しょうが・しそ」|website=|publisher=セゾン|accessdate=2024-08-11}}</ref>。


[[ファイル:Peeled Ginger (6314755173).jpg|thumb|right|200px|ショウガの皮むき]]
== 生産 ==
[[ファイル:Shock blanched vegetables in cold water (1041479893).jpg|thumb|right|200px|下ゆでしたブロッコリー]]
野菜の下ごしらえは、ふつう洗うことに始まる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方">{{cite book|author=|year=1998|chapter=野菜の扱い方|editor=辻調理師専門学校 & エコール・キュリネール東京・国立|title=調理の基本大図鑑: BistroMarche|publisher=講談社|isbn=978-4062082242|pages=443–464}}</ref>。野菜の種類や形により、流水・ため水・ぬるま湯、手洗い・たわし・ふきんなどを使い分ける<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />。根付き野菜は、水につけて洗うことによって根元付近に付着した泥が落ちやすくなる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}。下ごしらえは多様であり、[[へた]]など不要部を取る、皮をむく、[[種子]]を取る、水や塩水につけるなど野菜によってそれぞれ異なる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />。切った野菜を水につけると吸水してシャキッとした新鮮さが得られるが、塩をまぶして揉むことで脱水させてしんなりとした食感を得ることもある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}<ref name="阿部2003" />。下ゆでをする際には、[[葉菜]]はたっぷりの湯を沸騰させてから短時間で茹で上げるようにするが、[[根菜]]は水から入れてじっくりと加熱し、[[デンプン]]質が多い[[芋類]]は、加熱に時間をかけることによって[[単糖]]・[[二糖]]がふえて甘くなる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=225}}<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />。特に緑色の素である[[クロロフィル]]は壊れやすいため、加熱時間の短縮などが必要となる{{sfn|講談社編|2013|p=240}}([[#色素|下記参照]])。ゆで上がった野菜のさまし方には、水で急激にひやす、水に落とさず[[ざる]]などにあげてでさます、ゆで汁につけたままさます、などがある<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />。[[電子レンジ]]を用いると、固めの野菜でも短時間で加熱できるが、野菜全体をラップで包んで水分が抜けることを防ぐ{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。電子レンジで加熱すると、ガスレンジで加熱するよりも短時間で火が通り、ビタミンの損失が少なく済むというメリットがある{{sfn|講談社編|2013|p=241}}。[[灰汁]](あく)が強い野菜の場合は、下処理として水や熱湯にさらしたり、これに[[酢]]や[[重曹]]、[[ミョウバン]]、[[糠]]などを加えて[[灰汁抜き]]をする{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=222}}{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />{{sfn|講談社編|2013|p=241}}。乾燥野菜([[切り干し大根]]、[[かんぴょう]]、[[大豆]]など)は、水やお湯などで柔らかくもどす<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />。

野菜を切るときは食べやすさ、食感、味、見た目を考えて、[[輪切り]]、[[半月切り]]、[[いちょう切り]]、[[色紙切り]]、[[短冊切り]]、[[かつらむき]]、[[千切り]]、[[千六本]]、[[角切り]](さいの目切り)、[[あられ切り]]、[[みじん切り]]、[[小口切り]]、[[拍子切り]]、[[くし形切り]]、[[細切り]]、[[斜め切り]]、[[乱切り]]、[[ささがき]]など、料理に合わせたさまざまな[[食材の切り方一覧|切り方]]がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=223}}{{sfn|講談社編|2013|pp=245&ndash;247}}<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />。また、野菜の色合いなどを生かした切り方として[[飾り切り]]があり、切り違い、たちばなむき、蛇腹、矢羽根、六方むき、より切り、蛇かご、網けん、花切りなど知られる<ref name="調理の基本大図鑑_扱い方" />。

野菜は生食するものから、[[焼く (調理)|焼く]]、[[炒める]]、[[煮る]]、[[蒸す]]、[[揚げる]]ものなどがある<ref name="調理の基本大図鑑" />。

[[サラダ]]などで生で食べる野菜は、加熱で失われやすい[[ビタミン]]などを効率よく摂ることができる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。生野菜のみずみずしさ、香り、爽やかな歯ごたえは加熱野菜では得られない魅力がある{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。一方、ゆでた野菜をサラダにすることもある<ref name="調理の基本大図鑑" />。野菜を加熱したものにも特有のおいしさがあり、加熱によって失われる栄養素もあるが、かさが減ることで食べる量が多くなり、結果的に加熱した方が多くの栄養を摂ることができることもある{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。日本では、ゆでた野菜を和え衣で和えたさまざまな[[和え物]](ごま和え、酢味噌和え、[[ぬた]]など)があり、材料の水をよくきること、冷ましてから、食べる直前に和えることがポイントとされる<ref name="調理の基本大図鑑" />。ゆでた野菜を[[だし汁]]に浸して味付けしたものは[[おひたし]]とよばれる<ref name="調理の基本大図鑑" />。

[[ファイル:Stir-fried vegetables, in Toyokawa, Aichi (2015-08-12).jpg|thumb|right|200px|野菜炒め]]
野菜を[[焼く (調理)|焼く]]場合は、網や串で焼く直火焼きと、[[オーブン]]や鉄板で焼く間接焼きがあり、いずれも野菜表面の水分が抜けて素材の旨味も凝縮されて、かさも減るため生野菜よりも多く摂ることができる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}<ref name="調理の基本大図鑑" />。野菜を焼く場合、干からびないようにあらかじめ下煮をしておいたり、針うちや隠し包丁などで火を通りやすくすることが重要とされる<ref name="調理の基本大図鑑" />。[[ナス]]や[[サトイモ]]は、串焼きにしたものに味噌をかけて[[田楽]]とすることもある<ref name="調理の基本大図鑑" />。

野菜を[[炒める]]場合は、一般的に短時間に火を通すことで栄養成分を壊さずに野菜の風味や色を引き立たせることができるとされる<ref name="調理の基本大図鑑" />。[[脂溶性ビタミン]]の[[ビタミンA]](実際にはその前駆体である[[カロテノイド]])や[[ビタミンD]]の吸収率を上げる調理法であり、短時間で炒めると[[ビタミンC]]の損失量も少なくなる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}{{sfn|講談社編|2013|p=240}}。材料の大きさを切りそろえ、火の通りにくいものから炒める<ref name="調理の基本大図鑑" />。材料を下ゆでしたり油通ししてから炒めることもある<ref name="調理の基本大図鑑" />。[[きんぴらごぼう]]や[[ソテー]]、[[野菜炒め]]、[[五目炒め]]などがある<ref name="調理の基本大図鑑" />。

野菜を[[煮る]]料理としては、ゆっくり煮て味を含ませる[[含め煮]]、濃い味付けで煮る[[煮しめ]]や[[うま煮]]、油で加熱してから煮る[[油煮]]、炒めてから煮る[[ラタトゥイユ]]、少量の煮汁で蒸すように煮る[[プレゼ]]などがある<ref name="調理の基本大図鑑" />。[[ニンジン]]や[[タマネギ]]、[[カブ]]を水、[[バター]]、[[砂糖]]などで煮汁がなくなるまで煮あげたものは[[グラッセ]]とよばれる<ref name="調理の基本大図鑑" />。野菜を[[蒸す]]こともあり、旨味や栄養分を損なわずに加熱できる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。野菜を柔らかくゆでてから裏ごしし、[[バター]]、[[牛乳]]、[[生クリーム]]などを加えたものは[[ピューレ]]とよばれ、[[グリーンピース]]、[[ニンジン]]、[[ジャガイモ]]などが使われる<ref name="調理の基本大図鑑" />。[[インド]]などでは、豆を煮てスープやカレーなどにしたものの消費量が多く、重要なタンパク質源となっている<ref name="吉田2010">{{Cite journal|author=吉田真美|year=2010|title=料理書からみた世界の豆料理の調理特性 インドの豆料理|journal=豆類時報|volume=58|issue=|pages=24-28|crid=1522825130909715712}}</ref>。[[ジャガイモ]]を茹でてつぶしたものに、野菜や[[ハム]]を混ぜて[[マヨネーズ]]で味付けしたものは、[[ポテトサラダ]]とよばれる<ref name="コトバンク_ポテトサラダ">{{Cite Kotobank|word=ポテトサラダ|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-08-11}}</ref>。

野菜の揚げ方には、そのまま揚げる[[素揚げ]]、[[小麦粉]]をまぶして揚げる[[唐揚げ]]、衣をつけて揚げる衣揚げ([[天ぷら]])、[[パン粉]]をつけて揚げる[[フライ (料理)|フライ]]などがある<ref name="調理の基本大図鑑" />。野菜の衣揚げは、[[精進揚げ]]ともよばれる<ref name="調理の基本大図鑑" />。野菜の色を生かすために、ふつうやや低温で揚げる<ref name="調理の基本大図鑑" />。油で揚げると、野菜の水分が適度に抜けて甘味が出る{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。クセの強い野菜は油で揚げると食べやすくなるため、[[山菜]]や苦味のある野菜に向いている調理法である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=224}}。[[ジャガイモ]]を切って油で揚げたものは、[[フライドポテト]]、フレンチフライ、フレンチポテトとよばれ、[[付け合せ]]や[[ファーストフード]]店で一般的である<ref name="コトバンク_フライドポテト">{{Cite Kotobank |word=フライドポテト |encyclopedia=和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典 |accessdate=2024-08-11}}</ref>。[[サトイモ]]や[[ナス]]は、揚げたものにかけ汁をかけて[[揚げ出し]]とすることもある<ref name="調理の基本大図鑑" />。また、茹でてつぶした[[ジャガイモ]]に[[タマネギ]]や[[ひき肉]]などを加えてフライにしたものは、[[コロッケ]]とよばれる<ref name="調理の基本大図鑑" />。

=== 加工食品 ===
野菜は保存性が良くないため、加工品にして保存性を高めることがあり、またこれによって生食とは異なった食味をつくりだすこともある<ref name="阿部2003" />。

==== 漬け物 ====
[[ファイル:Tsukemono by clanchou in Hakone, Kanagawa.jpg|thumb|right|200px|漬物]]
生野菜に[[食塩]]などを加えて保存することによって水分を除き、保存性が増すとともに特有の風味がある'''[[漬物]]'''をつくることは世界中で行われており、特に日本では漬物の生産量や種類が多い{{sfn|講談社編|2013|pp=248&ndash;250}}<ref name="阿部2003" /><ref>『世界の食べもの 食の文化地理』p239-241 石毛直道 講談社学術文庫 2013年5月9日第1刷</ref>。熟成期間や漬け床の成分により、素材への浸透や成分変化、[[微生物]]による[[発酵]]の有無などに多様性がある<ref name="阿部2003" />。低塩分(2–5%)では、素材野菜の風味を保ちながら、野菜の自己消化により[[糖]]や[[アミノ酸]]が増加し、旨味が形成される<ref name="阿部2003" />。このような漬け物には、ハクサイ漬け、野沢菜漬け、ナス漬け、キュウリ漬けなどがある<ref name="阿部2003" />。高塩分(5–10%)の発酵漬け物では、微生物が産生する[[乳酸]]や[[アルコール]]によって特有の風味が形成される<ref name="阿部2003" />。このような漬け物には、[[沢庵漬け]]、[[すぐき漬け]]、[[柴漬け]]などがある<ref name="阿部2003" />。さらに高塩分(13–18%)であると野菜の自己消化や微生物の増殖が抑制されるため、保存性が高くなり、二次加工の原料となる<ref name="阿部2003" />。このような原料を水で脱塩して調味料を加えることによって、この調味料の味を主体とした漬け物となり、例として[[福神漬け]]や[[奈良漬け]]がある<ref name="阿部2003" />。近年では[[浅漬け]]や低塩漬け物の需要が大きいが、これらは腐敗に弱いため、品質保持のための低温や包装殺菌が行われている<ref name="阿部2003" />。ほかにも、精米の副産物であるぬか([[糠]])を微生物で発酵させて野菜を漬け込んだ[[ぬか漬け]]や、[[酢]]・水・[[砂糖]]を煮溶かした[[甘酢]]に漬け込んだ[[甘酢漬け]]などもある{{sfn|講談社編|2013|pp=248&ndash;250}}。また、[[トウガラシ]]と[[ハクサイ]]などを用いた[[キムチ]]、[[キャベツ]]を用いた[[ザワークラウト]]、[[キュウリ]]などを用いた[[ピクルス]]など他国由来の漬け物の利用も近年では多くなっている<ref name="阿部2003" /><ref name="調理の基本大図鑑" />{{sfn|講談社編|2013|pp=248&ndash;250}}。

{{Clear}}

==== 缶・瓶詰め・レトルト ====
[[ファイル:Star Cross and Dei Fratelli Cans.jpg|thumb|right|200px|トマトジュースやトマトソースの缶詰]]
[[タケノコ]]、[[スイートコーン]]、[[アスパラガス]]、[[トマト]]などを原料とした缶・瓶詰めも多い<ref name="阿部2003" />。多くは水煮であるが、トマトは世界的に利用されており、固形トマト、[[トマトペースト]]、[[トマトピューレ]]、[[トマトケチャップ]]、[[チリソース]]、[[トマトジュース]]など様々な形態のものがある<ref name="阿部2003" />。トマトジュースのように野菜を原料としたジュースは、[[野菜ジュース]]とも総称される<ref name="コトバンク_野菜ジュース">{{Cite Kotobank|word=野菜ジュース|encyclopedia=栄養・生化学辞典|accessdate=2024-08-06}}</ref>。また、ラミネートフィルムなどを利用した[[レトルト食品]]も多くなり、さまざまな野菜がレトルトの[[カレー]]や[[シチュー]]などで利用されている<ref name="阿部2003" />。

{{Clear}}

==== 乾燥野菜 ====
[[ファイル:Minakuchi Kanpyō (Dried gourd).jpg|thumb|right|200px|かんぴょう]]
[[かんぴょう]](干瓢; [[ユウガオ]]の果実を原料とする)や[[切り干し大根]]、[[干し椎茸]]などの乾燥野菜は、日本では古くから利用されていた<ref name="阿部2003" />。これらの乾燥には天日乾燥が用いられることもあるが、日本では近年は衛生面の問題から人工乾燥されることが多い<ref name="阿部2003" />。

{{Clear}}

==== 冷凍食品 ====
[[ファイル:Frozen Vegetables.jpg|thumb|right|200px|さまざまな冷凍野菜]]
近年では冷凍食品の製造・消費が増加しており、冷凍食品における野菜の利用も多くなっている<ref name="阿部2003" />。野菜の冷凍食品には、解凍後に調理食品の原料となる素材品と、そのままあるいは解凍後に簡単な調理操作で食される調理品・半調理品がある<ref name="阿部2003" />。素材品は前処理・短時間の加熱処理(ブランチング)したものを凍結、包装するが、調理品・半調理品は原料に味付けなどを施してから凍結、包装する<ref name="阿部2003" />。[[日本冷凍食品協会]]では、冷凍食品は前処理を行ったのちに急速凍結し、包装したものを-18°C以下で保存するものとしている<ref name="冷凍食品">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.reishokukyo.or.jp/frozen-foods/qanda/qanda1/|title=冷凍食品の基礎知識|website=|publisher=日本冷凍食品協会|accessdate=2024-07-31}}</ref>。また、凍結した野菜を減圧乾燥した[[フリーズドライ]]野菜は、素材の原型・風味を保持し、復元性が良いことから、[[インスタント食品]]などで広く使われている<ref name="阿部2003" />。
{{-}}

== 成分 ==
多くの野菜は重量比で90–95%の水を含み、また[[ビタミン]]や[[ミネラル|ミネラル(無機塩類)]]、[[食物繊維]]に富む<ref name="大谷2003">{{cite book|author=大谷貴美子|year=2003|chapter=野菜の食品・栄養特性|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=7–22}}</ref><ref name="飛騨2009" /><ref name="青葉1981a">{{cite book|author=青葉高|year=1981|chapter=食品としての野菜|title=野菜: 在来品種の系譜|publisher=法政大学出版局|isbn=978-4588204319|pages=11–16}}</ref><ref name="コトバンク_野菜2" /><ref name="alic-yasaibook1">{{Cite web|和書|url=https://web.archive.org/web/20160305071029/https://vegetable.alic.go.jp/yasaibook/pdf/c01.pdf|title=野菜ブック chapter1 野菜と私たちの生活・健康|publisher=農畜産業振興機構|accessdate=2024-07-17}}</ref>{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。野菜はふつう低[[カロリー]]であるが、[[イモ類]]や[[豆|マメ類]]は[[デンプン]]や[[タンパク質]]を多く含む<ref name="青葉1981a" /><ref name="食品成分データベース" />。[[宗教]]・[[文化的]]理由もしくは[[主義]]として[[肉食]]を避ける人は、一般に[[菜食主義|菜食主義者]]と呼ばれるが、菜食主義者の食事においても[[主食]]となるものは[[エネルギー]]源となる[[炭水化物]]を多く含む穀物やイモ類、および[[タンパク質]]に富むマメ類であり、多くの野菜は副菜としての位置づけにあることには変わりがない<ref name="石毛2013">{{cite book|author=石毛直道|year=2013|chapter=|editor=|title=世界の食べもの 食の文化地理|publisher=講談社学術文庫|isbn=978-4062921718|page=238}}</ref>。


植物が病虫害や[[紫外線]]から防御するために生成する物質は、[[ファイトケミカル]](フィトケミカル)とよばれ、[[ポリフェノール]]類、[[フラボノール]]、[[カテキン]]などがある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}<ref name="コトバンク_フィトケミカル" />。野菜の中にはファイトケミカルを多く含むものもおり、[[癌]]や[[生活習慣病]]予防の観点から注目されている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
[[File:Vegetable Shop in Meppadi.jpg|thumb|インドの八百屋]]
[[File:Veggies.jpg|thumb|アメリカのスーパーに並ぶ野菜]]
[[File:VegetablesSupermarket.jpg|thumb|カナダのスーパーに並ぶ野菜]]
2010年度における野菜の最大生産国は[[中華人民共和国]]であり、一国で世界の半分以上の生産量があった。2位は[[インド]]で、以下[[アメリカ合衆国]]、[[トルコ]]、[[イラン]]、[[エジプト]]の順となっている。中国は世界で最も野菜畑の面積が広いが、野菜の反収が最も高い国は[[スペイン]]と[[大韓民国]]である。<ref>{{cite web |url=http://www.fao.org/docrep/018/i3107e/i3107e.PDF |title=Table 27 Top vegetable producers and their productivity |work=FAO Statistical Yearbook 2013 |publisher=Food and Agriculture Organization of the United Nations |page=165 |accessdate=2015-09-14}}</ref>


{| class="sortable wikitable" style="text-align:right"
{| class="wikitable" style="font-size:small"
|+代表的な野菜の成分(可食部 100 g あたり; 処理は生、ゆで、油炒めなどさまざま)<ref name="食品成分データベース">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://fooddb.mext.go.jp/index.pl|title=食品成分データベース|website=|publisher=文部科学省|accessdate=2024-08-02}}</ref>{{efn2|name="Tr"|微量(Tr; 最小記載量の1/10以上1/2未満)は0としている。}}
!rowspan="2" |野菜
!rowspan="2" |[[カロリー]]<br />(kcal)
!rowspan="2" |水分<br />(g)
!rowspan="2" |[[タンパク質]]<br />(g)
!rowspan="2" |[[脂質]]<br />(g)
!rowspan="2" |[[炭水化物]]<br />(g)
!colspan="4" |[[ミネラル]]
!colspan="8" |[[ビタミン]]
|-
|-
![[カリウム|K]]<br />(mg)
! 国 !! 栽培面積 <br>(1,000ヘクタール) !! 反収 <br>(1,000kg/ha) !! 生産量 <br>(1,000トン)
![[カルシウム|Ca]]<br />(mg)
![[マグネシウム|Mg]]<br />(mg)
![[鉄|Fe]]<br />(mg)
![[ビタミンA|A]]<br />(µg)<br />{{efn2|name="RAE"}}
![[ビタミンE|E]]<br />(mg)
![[ビタミンK|K]]<br />(µg)
![[ビタミンB1|B<sub>1</sub>]]<br />(mg)
![[ビタミンB2|B<sub>2</sub>]]<br />(mg)
![[ビタミンB6|B<sub>6</sub>]]<br />(mg)
![[葉酸]]<br />(µg)
![[ビタミンC|C]]<br />(mg)
|-
|-
|[[トマト]]{{efn2|name="トマト成分"|赤色トマト/果実/生}}||20||94.0||0.7||0.1||4.7||210||7||9||0.2||45|| 1.1||4||0.05||0.02||0.08||22||15
| style="text-align:left"|[[中華人民共和国]] || 23,458 || 230 || 539,993
|-
|-
|[[ナス]]{{efn2|name="ナス成分"|なす/果実/ゆで}}||17||94.0||1.0||0.1||4.5||180||20||16||0.3||8||0.3||10||0.04||0.04||0.03||22||1
| style="text-align:left"|[[インド]] || 7,256 || 138 || 100,045
|-
|-
|[[ピーマン]]{{efn2|name="ピーマン成分"|青ピーマン/果実/油炒め}}||54||89.0||0.9||4.3||5.4||200||11||11||0.7||35||0.9||21||0.03||0.03||0.20||27||79
| style="text-align:left"|[[アメリカ合衆国]] || 1,120 || 318 || 35,609
|-
|-
|[[パプリカ]]{{efn2|name="パプリカ成分"|黄ピーマン/果実/生}}||28||92.0||0.8||0.2||6.6||200||8||10||0.3||17||2.5||3||0.04||0.03||0.26||54||150
| style="text-align:left"|[[トルコ]] || 1,090 || 238 || 25,901
|-
|-
|[[キュウリ]]{{efn2|name="キュウリ成分"|きゅうり/果実/生}}||13||95.4||1.0||0.1||3.0||200||26||15||0.3||28||0.3||34||0.03||0.03||0.05||25||14
| style="text-align:left"|[[イラン]] || 767 || 261 || 19,995
|-
|-
|[[スイカ]]{{efn2|name="スイカ成分"|すいか/赤肉種/生}}||41||89.6||0.6||0.1||9.5||120||4||11||0.2||69||0.1||0||0.03||0.02||0.07||3||10
| style="text-align:left"|[[エジプト]] || 755 || 251 || 19,487
|-
|-
|[[カボチャ]]{{efn2|name="カボチャ成分"|ニホンカボチャ/果実/ゆで}}||55||84.0||1.9||0.1||13.3||350||18||15||0.5||92||4.3||27||0.06||0.03||0.12||75||16
| style="text-align:left"|[[イタリア]] || 537 || 265 || 14,201
|-
|-
|[[サヤインゲン]]{{efn2|name="サヤインゲン成分"|さやいんげん/若ざや/ゆで}}||24||91.7||1.8||0.2||5.5||270||53||22||0.7||48||0.6||51||0.06||0.10||0.07||53||6
| style="text-align:left"|[[ロシア]] || 759 || 175 || 13,283
|-
|-
|[[グリーンピース]]{{efn2|name="グリーンピース成分"|(えんどう類)/グリーンピース/ゆで}}||99||72.2||8.3||0.2||18.5||340||32||39||2.2||36||3.2||31||0.29||0.14||0.09||70||16
| style="text-align:left"|[[スペイン]] || 348 || 364 || 12,679
|-
|-
|[[ダイズ]]{{efn2|name="ダイズ成分"|えだまめ/ゆで}}||118||72.1||11.5||6.1||8.9||490||76||72||2.5||24||8.6||33||0.24||0.13||0.08||260||15
| style="text-align:left"|[[メキシコ]] || 681 || 184 || 12,515
|-
|-
|[[オクラ]]{{efn2|name="オクラ成分"|おくら/果実/ゆで}}||25||89.4||2.1||0.1||7.6||280||90||51||0.5||44||1.3||66||0.09||0.09||0.08||110||7
| style="text-align:left"|[[ナイジェリア]] || 1,844 || 64 || 11,830
|-
|-
|[[トウモロコシ]]{{efn2|name="トウモロコシ成分"|スイートコーン/未熟種子/ゆで}}||95||75.4||3.5||1.7||18.6||290||5||38||0.8||4||1.0||0||0.12||0.10||0.12||86||6
| style="text-align:left"|[[ブラジル]] || 500 || 225 || 11,233
|-
|-
|[[ブロッコリー]]{{efn2|name="ブロッコリー成分"|ブロッコリー/花序/ゆで}}||30||89.9||3.9||0.4||5.2||210||41||17||0.9||69||3.1||190||0.06||0.09||0.14||120||55
| style="text-align:left"|[[日本]] || 407 || 264 || 10,746
|-
|-
|[[カリフラワー]]{{efn2|name="カリフラワー成分"|カリフラワー/花序/ゆで}}||26||91.5||2.7||0.1||5.1||220||23||13||0.7||1||0.6||31||0.05||0.05||0.13||88||53
| style="text-align:left"|[[インドネシア]] || 1,082 || 90 || 9,780
|-
|-
|[[キャベツ]]{{efn2|name="キャベツ成分"|キャベツ類/結球葉/生}}||23||92.9||1.2||0.1||5.2||190||42||14||0.3||3||0.1||79||0.04||0.03||0.10||66||38
| style="text-align:left"|[[大韓民国]] || 268 || 364 || 9,757
|-
|-
|[[ハクサイ]]{{efn2|name="ハクサイ成分"|はくさい/漬物/塩漬}}||17||92.1||1.5||0.1||3.3||240||39||12||0.4||1||0.2||61||0.04||0.03||0.08||59||29
| style="text-align:left"|[[ベトナム]] || 818 || 110 || 8,976
|-
|-
|[[コマツナ]]{{efn2|name="コマツナ成分"|こまつな/葉/ゆで}}||14||94.0||1.6||0.1||3.0||140||150||14||2.1||260||1.6||320||0.04||0.06||0.06||86||21
| style="text-align:left"|[[ウクライナ]] || 551 || 162 || 8,911
|-
|-
|[[ホウレンソウ]]{{efn2|name="ホウレンソウ成分"|ほうれんそう/葉/通年/ゆで}}||23||91.5||2.6||0.5||4.0||490||69||40||0.9||450||3.1||320||0.05||0.11||0.08||110||19
| style="text-align:left"|[[ウズベキスタン]] || 220 || 342 || 7,529
|-
|-
|[[レタス]]{{efn2|name="レタス成分"|レタス/土耕栽培/結球葉/生}}||11||95.9||0.6||0.1||2.8||200||19||8||0.3||20||0.5||29||0.05||0.03||0.05||73||5
| style="text-align:left"|[[フィリピン]] || 718 || 88 || 6,299
|-
|-
|[[フキ]]{{efn2|name="フキ成分"|ふきのとう/花序/ゆで}}||31||89.2||2.5||0.1||7.0||440||46||33||0.7||22||2.4||69||0.06||0.08||0.07||83||3
| style="text-align:left"|[[フランス]] || 245 || 227 || 5,572
|-
|-class="sortbottom"
|[[シュンギク]]{{efn2|name="シュンギク成分"|しゅんぎく/葉/ゆで}}||25||91.1||2.7||0.5||4.5||270||120||24||1.2||440||2.1||460||0.05||0.08||0.06||100||5
| style="text-align:left"|'''世界総計''' || '''55,598''' || '''188''' || '''1,044,380'''
|-
|[[セロリ]]{{efn2|name="セロリ成分"|セロリ/葉柄/生}}||12||94.7||0.4||0.1||3.6||410||39||9||0.2||4||0.2||10||0.03||0.03||0.08||29||7
|-
|[[パセリ]]{{efn2|name="パセリ成分"|パセリ/葉/生}}||34||84.7||4.0||0.7||7.8||1000||290||42||7.5||620||4.1||850||0.12||0.24||0.27||220||120
|-
|[[アスパラガス]]{{efn2|name="アスパラガス成分"|アスパラガス/若茎/ゆで}}||25||92.0||2.6||0.1||4.6||260||19||12||0.6||30||1.7||46||0.14||0.14||0.08||180||16
|-
|[[ミョウガ]]{{efn2|name="ミョウガ成分"|みょうが/花穂/生}}||11||95.6||0.9||0.1||2.6||210||25||30||0.5||3||1.4||20||0.05||0.05||0.07||25||2
|-
|[[ネギ]]{{efn2|name="ネギ成分"|葉ねぎ/葉/生}}||29||90.5||1.9||0.3||6.5||260||80||19||1.0||120||0.9||110||0.06||0.11||0.13||100||32
|-
|[[タマネギ]]{{efn2|name="タマネギ成分"|たまねぎ/りん茎/油いため}}||100||80.1||1.4||5.9||12.0||210||24||11||0.2||0||2.8||7||0.04||0.02||0.22||21||9
|-
|[[ラッキョウ]]{{efn2|name="ラッキョウ成分"|らっきょう/甘酢漬}}||117||67.5||0.4||0.3||29.4||9||11||1||1.8||0||0.2||1||0||0||0.02||0||0
|-
|[[ダイコン]]{{efn2|name="ダイコン成分"|だいこん/根/皮つき/生}}||15||94.6||0.5||0.1||4.1||230||24||10||0.2||0||0||0||0.02||0.01||0.04||34||12
|-
|[[ニンジン]]{{efn2|name="ニンジン成分"|にんじん/根/皮つき/生}}||35||89.1||0.7||0.2||9.3||300||28||10||0.2||720||0.4||17||0.07||0.06||0.10||21||6
|-
|[[ゴボウ]]{{efn2|name="ゴボウ成分"|ごぼう/根/ゆで}}||50||83.9||1.5||0.2||13.7||210||48||40||0.7||0||0.6||0||0.03||0.02||0.09||61||1
|-
|[[サツマイモ]]{{efn2|name="サツマイモ成分"|さつまいも/塊根/皮なし/蒸し}}||131||65.6||1.2||0.2||31.9||480||36||24||0.6||2||1.5||0||0.11||0.04||0.27||50||29
|-
|[[ジャガイモ]]{{efn2|name="ジャガイモ成分"|じゃがいも/塊茎/皮なし/蒸し}}||76||78.8||1.9||0.3||18.1||420||5||24||0.6||0||0.1||0||0.08||0.03||0.22||21||11
|-
|[[サトイモ]]{{efn2|name="サトイモ成分"|さといも/球茎/水煮}}||52||84.0||1.5||0.1||13.4||560||14||17||0.4||0||0.5||0||0.06||0.02||0.14||28||5
|-
|[[ナガイモ]]{{efn2|name="ナガイモ成分"|ながいも/塊根/生}}||64||82.6||2.2||0.3||13.9||430||17||17||0.4||0||0.2||0||0.10||0.02||0.09||8||6
|-
|[[レンコン]]{{efn2|name="レンコン成分"|れんこん/根茎/ゆで}}||66||81.9||1.3||0.1||16.1||240||20||13||0.4||0||0.6||0||0.06||0||0.07||8||18
|-
|[[ショウガ]]{{efn2|name="ショウガ成分"|しょうが/根茎/皮なし/生}}||28||91.4||0.9||0.3||6.6||270||12||27||0.5||0||0.9||0||0.03||0.02||0.13||8||2
|}
|}


=== ミネラル ===
野菜は一般的に貯蔵性が高くないため、[[農家]]が自給的に生産して余剰分を市場に供給することが多く、商業的に生産される場合は消費地の近くで生産されることが多かった。しかし都市の急速な拡大によって都市近郊の野菜生産地が都市化していったことや、輸送手段・貯蔵手段の発達によって遠隔地でも野菜栽培が採算に乗るようになったことから、野菜生産は都市から離れた地域でも行われるようになった。また、葉や実を利用し貯蔵性が低い関係上供給はその植物の収穫期に限定され、旬が短く時期によって左右されたものが野菜生産であった。その後、[[温室]]や[[ビニールハウス]]などの技術革新によって野菜は一年中供給されるようになった。
==== カリウム ====
[[カリウム]] (K) は[[細胞]]内の主要な電解質であり、細胞外の[[ナトリウム]] (Na) とともに細胞[[浸透圧]]や[[水素イオン指数|pH]]を調節し、また[[神経]]や[[筋肉]]の機能にも重要な働きをもつ<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準m1" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。カリウムは、ナトリウムの尿中排泄を促す<ref name="食事摂取基準m1" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。また、カリウム摂取増が血圧低下、脳卒中予防につながることが示唆されている<ref name="食事摂取基準m1" /><ref>{{Cite journal|author=久代登志男|year=2010|title=高齢者高血圧治療のこつ|journal=日本老年医学会雑誌|volume=47|issue=2|pages=123-126|doi=10.3143/geriatrics.47.123}}</ref>。成人のカリウム所要量は 2 g/日 とされているが、平均摂取量は 2.3 g であり、ふつうの食事をしていれば欠乏することはない<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準m1">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586565.pdf|title=多量ミネラル|website=「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-08-03}}</ref><ref name="栄養素等摂取状況">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.mhlw.go.jp/content/000711006.pdf|title=第1部 栄養素等摂取状況調査の結果|website=令和元年国民健康・栄養調査報告|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-08-03}}</ref>。ただし、[[高血圧症]]患者に投与される[[利尿薬|降圧利尿剤]]によりカリウムの排出が高まると、対ナトリウム相対不足(Na/K比が2以下であることが望ましいとされる)が起こり、[[心筋梗塞]]や[[脳卒中]]の可能性が高まる<ref name="大谷2003" />。一方で[[腎臓病]]などによる乏尿時には[[高カリウム血症]]となることがあり、カリウム制限が必要となる<ref name="大谷2003" />。そのため、低カリウムの野菜([[レタス]]、[[ホウレンソウ]])も商品化されている<ref name="高橋2020">{{cite book|author=高橋さくら|year=2020|chapter=低カリウム農作物の生産|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|page=21}}</ref>。カリウムが多い野菜としては、[[フダンソウ]]、[[パセリ]]、[[ヨメナ]]、[[フキノトウ]]、[[ユリネ]]などがあるが<ref name="大谷2003" />、干し[[ズイキ]]や[[切り干し大根]]、干し[[ワラビ]]、[[ドライトマト]]など乾燥品には特に多い<ref name="食品成分データベース" />。野菜中のカリウムは、茹でこぼすことによって容易に減らすことができる<ref name="大谷2003" />。


==== カルシウム ====
近年では、巨大なハウスを造りコンピュータ制御でその中の環境をコントロールし高い生産性・採算性で野菜を生産するオランダのような国が出現している<ref>[https://web.archive.org/web/20160715104217/http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/249071.html NHK「野菜はもっと安くなる?オランダに学ぶ農業」]</ref>。オランダはトマトを、本場であるイタリア向けも含めてヨーロッパ各地に大量に輸出するほどになっている。
[[カルシウム]] (Ca) は[[骨]]や[[歯]]の材料であり、[[血液凝固]]や[[神経]]・[[筋肉]]の機能維持、[[酵素]]の補因子として重要な働きをもつ<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準m1" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。カルシウム欠乏は、[[骨粗鬆症]]、[[高血圧]]、[[動脈硬化]]を招くことがある<ref name="食事摂取基準m1" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。日本では成人のカルシウム推奨量は 660–800 mg/日 とされているが(12–14歳で 812–991 mg/日)、平均摂取量は 505 mg であり、推奨量を満たしていない栄養素となっている<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準m1" /><ref name="栄養素等摂取状況" />。一方でカルシウムの過剰摂取(3000 mg/日以上)による障害として、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、軟組織の石灰化、泌尿器系結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などが知られているが、[[サプリメント]]の使用などがなければふつうこの量には達しない<ref name="食事摂取基準m1" />。日本では摂取量の20%ほどを野菜から得ているが、野菜の中には生体内では利用不可能な形のカルシウム([[シュウ酸カルシウム]])を多く含むものもいる([[ホウレンソウ]]など)<ref name="大谷2003" />。利用可能なカルシウムが多い野菜としては、葉[[トウガラシ]]、[[コマツナ]]、[[モロヘイヤ]]、[[シソ]]、[[カブ]]葉、[[ダイコン]]葉などがある<ref name="大谷2003" />。


==== マグネシウム ====
また最近では、野菜を[[植物工場]]で生産する事例も、まだ生産量は少ないものの徐々に増えてきている。閉じた空間、害虫や雑菌の影響が少ない空間において、LED照明やコンピュータで制御された空調や養液補給などによって、気候・天候の影響をほぼ受けずに安定的に野菜を生産する方式である。雑菌や害虫が少ないため[[無農薬栽培]]が可能で、栄養価や規格の統一も容易であるなど利点も多いが、生産コストが高く採算を取るのが難しいなど課題も多く残っている<ref>「2020-2021 日経キーワード」p160-161 日経HR編集部編著 日経HR社 2019年12月4日第1刷</ref>。
[[マグネシウム]] (Mg) は、ヒト体内では約60%が[[骨]]に含まれるが、[[細胞膜]]の透過性や[[筋収縮]]、[[神経]]伝達に関与し、またエネルギー代謝に関わる[[酵素]]の要素として重要な働きをもつ<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準m1" />。マグネシウムが欠乏すると、吐き気、嘔吐、眠気、脱力感、筋肉の痙攣、ふるえ、食欲不振などの症状が生じる<ref name="食事摂取基準m1" />。マグネシウム必要量は 4.5 mg/kg体重/日とされるが、平均摂取量は 247 mg/日でありほぼ必要量は満たしている<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準m1" /><ref name="栄養素等摂取状況" />。ただしマグネシウム不足は[[虚血性心疾患]]の可能性を増すことが示されており、特に[[カルシウム]]との相対比(Ca/Mg比)を2以下にすることが重要とされる<ref name="大谷2003" />。したがって、カルシウム摂取量を増加させるためには、マグネシウム摂取量を増加させる必要がある<ref name="大谷2003" />。日本ではマグネシウム摂取において[[豆|マメ類]]を含む野菜は約21%寄与しているが、特にマグネシウム量が多い野菜には、[[ラッカセイ]]、葉[[トウガラシ]]、[[フダンソウ]]、[[シソ]]、[[バジル]]、[[ホウレンソウ]]などがある<ref name="大谷2003" />。


== 歴史 ==
==== ====
ヒトの体内で、[[鉄]] (Fe) の約70%は[[赤血球]]中の[[ヘモグロビン]]に含まれるが、そのほかに[[筋肉]]、[[血清]]、[[カタラーゼ]]や[[パーオキシダーゼ]]などの[[酵素]]の構成要素として存在し、さまざまな生体機能に関わっている<ref name="大谷2003" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。食品中に含まれる鉄には[[ヘム鉄]]と非ヘム鉄があり、利用効率はヘム鉄の方が高いが、植物に含まれる鉄は非ヘム鉄である<ref name="大谷2003" />。日本人の鉄推奨量は 7.5–11 mg/日とされるが、平均摂取量は 7.6 mg/日であり、そのうち約28%を野菜から得ている<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準m2">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586568.pdf|title=微量ミネラル|website=「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-08-03}}</ref><ref name="栄養素等摂取状況" />。鉄含量が多い野菜として、[[パセリ]]、[[ヨモギ]]、[[ヨメナ]]、[[フダンソウ]]、[[ツマミナ]]などがある<ref name="大谷2003" />。非ヘム鉄の吸収効率は、[[ビタミンC]]や[[タンパク質]]摂取によって上昇し、[[茶]]の[[カテキン]]や[[ポリフェノール]]によって低下することが知られている<ref name="大谷2003" />。
現代において世界で栽培される野菜の多くは、[[中国]]、[[インド]]から[[東南アジア]]、[[中央アジア]]、[[近東]]、[[地中海]]岸、[[アフリカ]]([[サヘル]]地帯及び[[エチオピア高原]])、[[中央アメリカ]]、南米の[[アンデス]]山脈の8地域を起源としている。これらの地域は農耕文明の発祥地と重なっている。また、もともとの生息域が広く、栽培化地域が複数にまたがっている野菜も多い。中国においてはハクサイ、ネギ、ゴボウが、インドから東南アジアにおいてはキュウリやナス、サトイモ、中央アジアではダイコン、ニンジン、タマネギ、ホウレンソウ、ソラマメなどが栽培化されている。近東地域ではレタスやニンジンやタマネギが栽培化されている。地中海岸は野菜の一大起源地であり、キャベツやエンドウマメ、アスパラガスや[[セロリ]]が栽培化されている。アフリカのサヘルからエチオピア高原にかけては、[[ササゲ]]や[[オクラ]]などが栽培化された。中央アメリカにおいてはインゲンマメやサツマイモ、カボチャが栽培化された。南アメリカ・アンデスにおいては、トマトとジャガイモ、それにトウガラシやピーマン、カボチャの栽培化が行われた<ref>「蔬菜園芸の事典(普及版)」p10-12 斎藤隆 朝倉書店 2010年10月30日普及版第1刷</ref>。こうした中心地のほか、世界各地で野草採集から発展した独自の野菜が栽培されており、各地独特の食文化の重要な要素となっている。


=== 日本における歴史 ===
=== ビタミン ===
[[ビタミン]]とは、微量であるが生体に必須であり、自身で合成できないため外界からの摂取が必要な[[有機化合物]]のことである<ref name="大谷2003" />。ヒトに必要なビタミンとしてはおよそ13種類が知られており、脂溶性ビタミン([[ビタミンA]]、[[ビタミンE|E]]、[[ビタミンD|D]]、[[ビタミンK|K]])と水溶性ビタミン([[ビタミンB1|ビタミンB<sub>1</sub>]], [[ビタミンB2|B<sub>2</sub>]]、[[ビタミンB6|B<sub>6</sub>]]、[[ビタミンB12|B<sub>12</sub>]]、[[ナイアシン]]、[[パントテン酸]]、[[葉酸]]、[[ビオチン]]、[[ビタミンC]])がある<ref name="大谷2003" />。野菜は、重要なビタミン源となっている。
日本においては、[[フキ]]や[[ウド]]、[[ミツバ]]などのように日本原産の野菜も存在するが、ほとんどの野菜は[[日本列島]]の外で栽培化されたものが持ち込まれたものである。


==== ビタミンA ====
その移入の歴史は古く、すでに[[縄文時代]]の遺跡である[[福井県]]の[[鳥浜貝塚]]においては、ゴボウ、カブ、アブラナ、[[リョクトウ]]、[[エゴマ]]、[[シソ]]などの種子が出土し、栽培されていたと考えられている。この発見は[[弥生時代]]の稲作伝来以前からすでに農耕が開始されていたこと、および縄文時代にすでにはるかな遠隔地で栽培化されていた野菜(カブやアブラナは地中海沿岸、エゴマやシソやリョクトウはインド原産)が伝来しており、大陸をはじめとする広範囲な移動がすでに行われていたことを示した<ref>[http://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/fukui/07/kenshi/T1/2a3-02-02-03-02.htm 「福井県史 通史編」第三章 コシ・ワカサと日本海文化] - [[福井県文書館]] 2016年8月24日閲覧</ref>。
[[ファイル:All-trans-Retinol.svg|thumb|right|150px|ビタミンA(レチノール)]]
[[ビタミンA]]とよばれる物質にはいくつか(A<sub>1</sub>系、A<sub>2</sub>系など)があるが、狭義には[[レチノール]]を指す<ref name="大谷2003" />。植物はレチノールをもたないが、生体内でビタミンAに変換される物質([[プロビタミンA]])である[[β-カロテン]]を多く含む([[#カロテノイド|下記参照]])は重要なプロビタミンAである<ref name="大谷2003" />。そのため、食品のビタミンA効力は、レチノールとβ-カロテン効力を合計したものとされている<ref name="大谷2003" />。ビタミンAは[[視覚]]に重要な物質であり、また[[皮膚]]や[[粘膜]]の代謝、[[免疫]]機構の維持に重要な働きをもつ<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準v1">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586561.pdf|title=脂溶性ビタミン|website=「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-08-03}}</ref>{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。レチノールとしての過剰摂取には毒性があるが、プロビタミンAであるβ-カロテンでは過剰摂取の問題は起きないとされる<ref name="大谷2003" />。日本人成人のビタミンA推奨量は 650–900 μgRAE/日{{efn2|name="RAE"|レチノール活性当量を示す。}}であるが<ref name="食事摂取基準v1" />、平均摂取量は 534 μgRAE/日である<ref name="栄養素等摂取状況" />。2002年の時点では、摂取量の57.3%を緑黄色野菜から摂取しているとされる<ref name="大谷2003" />。野菜の中では、[[シソ]]や[[モロヘイヤ]]、[[ニンジン]]、[[トウガラシ]]、[[パセリ]]などに多い<ref name="大谷2003" />。


{{Clear}}
このほか、1世紀ごろまでにはゴマ、サトイモ、ニンニク、[[ラッキョウ]]、ヤマイモ、[[トウガン]]などがすでに伝来しており、[[古墳時代]]にはナス、キュウリ、ササゲ、ネギが伝来した<ref>「蔬菜園芸の事典(普及版)」p13 斎藤隆 朝倉書店 2010年10月30日普及版第1刷</ref>。


==== ビタミンE ====
[[古事記]]や[[日本書紀]]にはカブや[[ニラ]]の、万葉集では水葱(なぎ、現代の[[ミズアオイ]]や[[コナギ]])や[[ジュンサイ]]、[[ヒシ]]、[[セリ]]、瓜([[マクワウリ]])などの記述が存在する。このほか、現代ではあまり野菜としては使用されない水葱や羊蹄(しのね、現代の[[ギシギシ]])なども使用されていた<ref>『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』p204-205 2003年3月20日初版第1刷 小学館</ref>。
[[ファイル:Alpha-Tocopherol Structural Formulae V.1.svg|thumb|right|200px|ビタミンE<sub>1</sub>(α-トコフェロール)]]
[[ビタミンE]]としてはいくつかの[[トコフェロール]]などがあり、[[脂溶性]]の[[抗酸化物質]]として働き、生体膜の安定化や損傷防止にはたらいている<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準v1" />。日本人成人のビタミンE目安量は 5–7 mg/日、平均摂取量は 6.9 mg/日であり、一般的な食事をしている場合は欠乏することはないとされるが<ref name="食事摂取基準v1" /><ref name="栄養素等摂取状況" />、不飽和脂肪酸の摂取量が多いとビタミンEの必要量が増加する<ref name="食事摂取基準v1" /><ref name="大谷2003" />。コムギやコメの胚芽、植物油に多いが、野菜では[[トウガラシ]]、[[ラッカセイ]]、[[モロヘイヤ]]、[[カボチャ]]などに多い<ref name="大谷2003" />。一方で[[アルファルファ]]や[[インゲンマメ]]には、ビタミンEの利用効率を低下させる物質が含まれることが知られている<ref name="大谷2003" />。


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その後も日本に伝来した野菜があり、[[レタス]]も[[8世紀]]には「萵苣」(わきょ/ちしゃ)という名前で日本に伝来している(玉状のものは明治になってからの伝来)<ref>主婦の友社編 『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、148頁。ISBN 978-4-07-273608-1</ref>。


==== ビタミンK ====
[[江戸時代]]に入り、平和が続き経済が成長すると野菜の需要も高まり、特に一大消費地である[[江戸]]の周辺では大量の野菜が栽培され都市へ運び込まれるようになった。小松菜や練馬大根などのように、地名をつけブランド化する野菜が現れ始めたのもこのころのことである<ref>「ヴィジュアル日本生活史 江戸の料理と食生活」p68-69 原田信男編著 小学館 2004年6月20日第1版第1刷</ref>。
[[ファイル:Phylloquinone structure.svg|thumb|right|150px|ビタミンK<sub>1</sub>(フィロキノン)]]
[[ビタミンK]]には、[[フィロキノン]](ビタミンK<sub>1</sub>)や[[メナキノン]](ビタミンK<sub>2</sub>)などいくつかの物質が知られている<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準v1" />。生体内にはビタミンK依存性タンパク質が多くあり、特に[[血液凝固]]に重要な働きをもつ<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準v1" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。ビタミンK目安量は日本人成人で 150 µg/日 とされるが、摂取量は 250 µg/日であり、また一般的に[[腸内細菌]]によってビタミンK<sub>2</sub>が合成されるため、欠乏症は起こりにくい<ref name="大谷2003" /><ref name="栄養素等摂取状況" /><ref name="食事摂取基準v1" />。ビタミンK<sub>1</sub>は緑葉野菜に多く含まれ、特に[[パセリ]]、[[シソ]]、[[モロヘイヤ]]、[[アシタバ]]、[[バジル]]などに多い<ref name="大谷2003" />。


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こうした傾向は江戸に限ったことではなく、[[京野菜]]や[[加賀野菜]]をはじめ、各地で特色ある野菜が開発され定着したのも江戸時代のことであった。[[明治時代]]に入ると[[文明開化]]の潮流とともにタマネギやトマト、キャベツをはじめとする西洋野菜が多く流入し、日本の野菜はより多様なものとなった。


==== ビタミンB<sub>1</sub> ====
[[スーパーマーケット]]では外観を重視し、変形が見られるものは「規格外」として取り扱わず、「訳あり」などとして格安で売られるか、採算が取れないと農家が判断し廃棄されることもあった。消費者の意識が過度に美観を重視する姿勢から変化していることもあり、外観を規格に合わせるための栽培法を止める試みもある<ref>{{Cite web|和書|title=規格外の野菜・果物=安い、は古い?|url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210709/k10013129011000.html|website=NHKニュース|accessdate=2021-07-10|last=日本放送協会}}</ref>。
[[ファイル:Thiamin.svg|thumb|right|150px|ビタミンB<sub>1</sub>(チアミン)]]
[[ビタミンB1|ビタミンB<sub>1</sub>]]は最初に発見されたビタミンであり、チアミンともよばれ、[[糖代謝]]のさまざまな[[酵素]]の[[補酵素]]となり、また[[神経]]のはたらきを正常に保つ<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準v2">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586563.pdf|title=水溶性ビタミン|website=「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-08-03}}</ref>{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。ビタミンB<sub>1</sub>欠乏症として、[[脚気]]や[[ウェルニッケ脳症]]が知られている<ref name="食事摂取基準v2" />。ビタミンB<sub>1</sub>推奨量は、日本人成人で 0.9–1.4 mg/日 とされ、平均摂取量は 0.95 mg/日 である<ref name="食事摂取基準v2" /><ref name="栄養素等摂取状況" />。日本人のビタミンB<sub>1</sub>摂取の13.7%は野菜からとされる(2002年)<ref name="大谷2003" />。野菜では、[[ラッカセイ]]、[[グリーンピース]]、[[エダマメ]]、[[ソラマメ]]、[[豆苗]]などに多い<ref name="大谷2003" />。また一部の[[魚介類]]や[[ワラビ]]、[[ゼンマイ]]などはビタミンB<sub>1</sub>分解酵素をもつことが知られている<ref name="大谷2003" />。


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== 野菜の安全性 ==
野菜は人間が長年かけて改良し続けて、長い間食べ続けられてきた植物なので、それなりに安全性は確保できていると考えてもよい{{sfn|講談社編|2013|p=232}}。しかし、野菜の安全性に関してまだ結論が出ていないこともたくさんあり{{sfn|講談社編|2013|p=235}}、新しく作り出された野菜の品種や[[遺伝子組み換え作物]]などは、必ずしも安全性が確かめられているわけではなく、未知のリスクの可能性も指摘されている{{sfn|講談社編|2013|p=232}}。なるべく健康的な食生活を送るためにも、なるべく多くの種類の野菜を適量摂ることが、今最も安全な野菜の食べ方といわれている{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。


==== ビタミンB<sub>2</sub> ====
野菜を生産するうえで、人間以外の昆虫などの動物から受ける被害を抑止する目的で[[農薬]]が使用されるが、農薬の残存化学物質は人間にとっても癌などのリスクがあるので好ましいものではない{{sfn|講談社編|2013|p=232}}。農薬を使用しなければ、地球上の人類を養うだけの農作物の生産量は確保できないと言われており、農薬を正しく用いる農法がふつう一般に行われている(これを慣行栽培という){{sfn|講談社編|2013|p=233}}。先進国のように農薬の製造や使用が適正に規制されている国では、[[癌]]を含む疾病のリスクについて、農薬を正しく使用している限りは害はないと考えてもよいといわれている{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。しかし、農薬が適正に使用されていない状況でつくられた野菜については、人体に害はないという前提条件が崩れてしまう{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。しばしば「野菜には[[残留農薬]]の危険があるから、よく洗ってから食べる」という意見も見かけられ、ていねいな水洗いや加熱調理が野菜についている残留農薬を減らすことになるのは間違いではないが、先進諸国において野菜を洗うことによって農薬の害が低減するといった科学的根拠のある研究結果はほとんど発表されていない{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。
[[ファイル:Riboflavin v2.svg|thumb|right|150px|ビタミンB<sub>2</sub>(リボフラビン)]]
[[ビタミンB2|ビタミンB<sub>2</sub>]]はリボフラビンであり、生体内ではほとんどがフラビン酵素の[[補酵素]]として[[フラビンモノヌクレオチド]](FMA)または[[フラビンアデニンジヌクレオチド]](FAD)として存在する<ref name="大谷2003" />。フラビン酵素は、[[ミトコンドリア]]の[[電子伝達系]]、過酸化脂質の代謝など生体内の重要な[[酸化還元反応]]にはたらいており、ビタミンB<sub>2</sub>が不足すると、眼、口唇、舌、皮膚、神経などに症状が現れ、成長阻害が生じる<ref name="大谷2003" /><ref name="食事摂取基準v2" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。また他のビタミンの代謝にも関わり、ビタミンB<sub>2</sub>の不足は[[ビタミンB6|ビタミンB<sub>6</sub>]]や[[ナイアシン]]の欠乏をもたらす<ref name="大谷2003" />。ビタミンB<sub>2</sub>推奨量は日本人成人で 1.0–1.7 mg/日、摂取量は 1.19 mg/日 とされる<ref name="食事摂取基準v2" /><ref name="栄養素等摂取状況" />。摂取量の12.6%は野菜から得ているとされる(2002年)<ref name="大谷2003" />。ビタミンB<sub>2</sub>は、野菜では[[モロヘイヤ]]、[[シソ]]、[[ヨモギ]]、葉[[トウガラシ]]などに多い<ref name="大谷2003" />。


{{Clear}}
野菜の安全性で注目されるのようになったものに、原則として農薬や化学肥料を使わずに栽培された[[有機農産物]]('''[[有機野菜]]''')がある{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。有機野菜は栽培法による分類で、日本のJAS法では厳密な規定により認定を受けたものだけが有機野菜と表示することができるため、流通量が極めて少ないのが現状である{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。有機野菜は農薬が残留している可能性は低いが、残留農薬がゼロであることまでは保証していない{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。有機野菜の特徴は「安心して食べられる」という点において一般に高い評価を得ているが、科学的根拠のある研究結果はほとんどない{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。


==== ビタミンC ====
有機野菜に変わって増えてきたものに、農林水産省(農水省)のガイドラインに示されている'''無農薬野菜'''と'''減農薬野菜'''がある{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。農水省のガイドラインは、第三者による認定を必要とせず、違反しても罰則規定がないので、本当に無農薬かどうかまではわからないという問題が指摘されている{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。また農水省とは別に、各自治体や生産者団体が独自にガイドラインを設けて、無農薬・減農薬生産と表示をしているケースもある{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。農水省のガイドラインは平成16年4月に改定され、無農薬野菜と減農薬野菜という分類が'''特別栽培野菜'''という表記に統一されている{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。
[[ファイル:Ascorbic acid.svg|thumb|right|150px|ビタミンC(アスコルビン酸)]]
[[ビタミンC]]は、[[壊血病]]を改善する物質(抗壊血病 anti-scorbutic)という意味で[[アスコルビン酸]]ともよばれる<ref name="大谷2003" />。ビタミンCは生体内では[[陰イオン]]の形で存在し、これが酸化されて生じるモノデヒドロアスコルビン酸は反応性が高いため、生体内で生じる[[活性酸素]]と反応してこれを不活性化する<ref name="大谷2003" />。また、さまざまな[[酸化還元反応]]に関与し、[[コラーゲン]]合成、[[コレステロール]]から[[胆汁酸]]の生成、[[チロシン]]代謝、[[鉄]]吸収、解毒、[[免疫]]増強などにはたらく<ref name="大谷2003" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。日本人成人に対するビタミンC推奨量は 100 mg/日 とされ、平均摂取量は 99 mg/日である<ref name="食事摂取基準v2" /><ref name="栄養素等摂取状況" />。摂取量の28.9%を緑黄色野菜から、25.7%をそれ以外の野菜から得ている(2002年)<ref name="大谷2003" />。ビタミンCが多い野菜は、[[パプリカ]]、[[メキャベツ]]、[[菜花]]、[[パセリ]]、[[ブロッコリー]]などである<ref name="大谷2003" />。[[ホウレンソウ]]は、旬である冬季に収穫されたものに比べて、夏に収穫されたものではビタミンC量が3分の1程度しかないことが知られている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}(他の成分はほとんど変わりない<ref name="食品成分データベース" />)。ビタミンCは水溶性であり、水にさらす時間が長いほど減少してしまい、例えばニンジンを千切りにして水に5分さらすと、ビタミンCが30%ほど減少する{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。また、ゆで時間が長くなるほどビタミンCの損失量が多くなる{{sfn|講談社編|2013|pp=238, 239}}。野菜を煮るときは、野菜を大きめに切ったほうがビタミンCは失われにくくなる{{sfn|講談社編|2013|p=240}}。


{{Clear}}
世帯の野菜消費量が少なくなるなかで、外食産業を中心に利便性を考えてあらかじめ下処理された野菜である'''[[カット野菜]]'''の生産量が増えてきている{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。カット野菜は手軽で便利というメリットがある反面、丸のままの野菜よりもカット工程などが増えるので、雑菌に触れやすく傷みやすい性質上、多くは[[次亜塩素酸ナトリウム]]溶液で殺菌してある{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。その後は水洗いしてあるので、食べる人の健康を害するほど残留していないが、とても傷みやすいことには変わりないので、消費期限を厳守して封を開けたら早めに使い切ることが肝要になる{{sfn|講談社編|2013|p=234}}。


=== 食物繊維 ===
'''放射線照射野菜'''で知られるものに、発芽防止目的で使用されている[[ジャガイモ]]がある。放射線を当てた食品が放射能を持つことはなく、健康に害を与えるようなこともないとされている{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。ジャガイモの芽に含まれるアルカロイド (PGA) による食中毒リスク、輸入スパイスに付着する病原菌リスク、食品保存に使われる燻蒸の発がん性リスクを軽減するために用いられているのが放射線照射である{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。また放射線を当てることによって殺菌効果が高められるため、食品が腐りにくくなるという特徴もある{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。
[[ファイル:Cellulose Structural Formula V1.svg|thumb|right|150px|セルロース]]
[[ファイル:Pektin1.svg|thumb|right|150px|ペクチン]]
[[ヒト]]の消化酵素で分解できない食品成分のことを、[[食物繊維]]という<ref name="e-食物繊維">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html|title=食物繊維|website=e-ヘルスネット|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-07-19}}</ref><ref name="辻1990">{{Cite journal|author=辻啓介|year=1990|title=食物繊維|journal=繊維学会誌|volume=46|issue=10|pages=453-457|doi=10.2115/fiber.46.10_P453}}</ref>。植物の[[細胞壁]]成分などとして存在し、水に溶けない不溶性食物繊維としては[[セルロース]]や[[ヘミセルロース]]などがあり、水に溶ける水溶性食物繊維としては[[ペクチン]]や[[グルコマンナン]]などがある<ref name="e-食物繊維" />。食物繊維は便通を整え、また過剰な[[脂質]]や[[糖]]、[[ナトリウム]]などを吸着して体外に排出する働きがある<ref name="e-食物繊維" />{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=221}}。野菜としては、[[サツマイモ]]、[[切り干し大根]]、[[カボチャ]]、[[ゴボウ]]、[[タケノコ]]、[[ブロッコリー]]、[[モロヘイヤ]]、[[インゲンマメ]]、[[アズキ]]などに食物繊維が多い<ref name="清水2021">{{Cite web|和書|author=清水純|date=2021|url=https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html|title=食物繊維の必要性と健康|website=e-ヘルスネット|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-07-19}}</ref>。厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で 21 g/日以上、成人女性で 18 g/日以上とされている<ref name="清水2021" />。

一方で、[[大腸]]内の[[腸内細菌]]が、一部の食物繊維を分解することが知られている<ref name="内藤2024">{{Cite web|和書|author=内藤裕二(監修)|date=2024-02-07|url=https://bio-three.jp/contents/dietary-fiber.html|title=食物繊維が腸内細菌に与える影響とは?手軽に摂るコツや便秘解消以外の効果も解説|website=|publisher=アリナミン製薬株式会社|accessdate=2024-07-20}}</ref><ref name="太陽化学">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.taiyokagaku.com/lab/health/phgg_pickup05/|title=腸の健康と短鎖脂肪酸の関係性~短鎖脂肪酸を増やす水溶性食物繊維~|website=|publisher=太陽化学株式会社|accessdate=2024-07-20}}</ref>。このように食物繊維は腸内細菌の栄養源となり、腸内細菌の組成に大きく影響する<ref name="内藤2024" />。このような分解によって生じる[[酪酸]]、[[プロピオン酸]]、[[酢酸]]などの[[短鎖脂肪酸]]は、腸内環境の安定化に寄与することが示唆されている<ref name="太陽化学" />。この反応には食物からの[[ビタミンB1|ビタミンB<sub>1</sub>]]供給が重要であることが知られているが、一方で腸内細菌がビタミンB<sub>1</sub>、[[ビタミンB2|B<sub>2</sub>]]、[[ビタミンB3|B<sub>3</sub>]]、[[ビタミンB5|B<sub>5</sub>]]、[[ビタミンB6|B<sub>6</sub>]]、[[ビタミンB7|B<sub>7</sub>]]、[[葉酸]]、[[ビタミンB12|B<sub>12</sub>]]、[[ビタミンK]]などを生成することも知られている<ref name="國澤">{{Cite web|和書|author=國澤純|date=2023-12-20|url=https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/041500053/121200249/|title=新しい「腸活」3つの戦略 腸内細菌が作り出す物質にも着目|website=|publisher=日経BP|accessdate=2024-07-20}}</ref><ref name="腸内細菌学会">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://bifidus-fund.jp/keyword/kw073.shtml|title=腸内細菌によるビタミン産生|website=|publisher=腸内細菌学会|accessdate=2024-07-20}}</ref>。

{{Clear}}

=== ファイトケミカル ===
一般的に、ファイトケミカル(フィトケミカル、phytochemicals)とは植物に含まれる[[二次代謝産物]](広義には[[一次代謝産物]]を含む)の総称であり、[[紫外線]]や[[害虫]]防御のための色素、香り、苦味、あくなどの成分となるものがよく知られている<ref name="村上2015">{{Cite journal|author=村上明|year=2015|title=ファイトケミカルがもつ off-target 効果の意義 機能性と潜在的副作用の観点から|journal=化学と生物|volume=53|issue=5|pages=305-312|doi=10.1271/kagakutoseibutsu.53.305}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=|date=2021-03|url=https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2020-SP-03.html|title=ファイトケミカル生成原理とその活用のための研究開発戦略 ~未利用植物資源から革新的価値を創出する学術基盤の創成~|website=|publisher=国立研究開発法人科学技術振興機構|accessdate=2024-08-06}}</ref><ref name="コトバンク_フィトケミカル">{{Cite Kotobank|word=フィトケミカル|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-20}}</ref>。[[ポリフェノール]]や[[カロテノイド]]、[[イオウ]]化合物、[[テルペン]]、[[グルカン]]などがあり、これらの中には抗酸化能による[[活性酸素]]の除去や[[免疫力]]向上などをもたらすものがあると考えられている{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}<ref name="コトバンク_フィトケミカル" /><ref name="コトバンク_ファイトケミカル">{{Cite Kotobank|word=ファイトケミカル|encyclopedia=知恵蔵mini(ニッポニカ)|accessdate=2024-08-06}}</ref>。

==== ポリフェノール ====
[[ファイル:Peonidin.png|thumb|right|150px|ペオニジン(アントシアニンの一種)]]
[[ファイル:Isoflavone acsv.svg|thumb|right|150px|イソフラボン]]
[[ファイル:6-Shogaol Structural Formula V1.svg|thumb|right|150px|ショウガオール]]
[[ファイル:(+)-Catechin.svg|thumb|right|150px|(+)-カテキン]]
[[ポリフェノール]]とは、複数の[[フェノール]]性[[ヒドロキシ基]]をもつ物質のことである<ref name="コトバンク_ポリフェノール1">{{Cite Kotobank|word=ポリフェノール|encyclopedia=化学辞典 第2版|accessdate=2024-08-02}}</ref>。[[アントシアン]]や[[フラボノイド]]などの色素、[[灰汁]](あく)の苦味成分となる[[タンニン]]などはポリフェノールである{{sfn|講談社編|2013|p=230}}<ref name="阿部2003b" /><ref name="コトバンク_ポリフェノール2">{{Cite Kotobank|word=ポリフェノール|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-08-02}}</ref>。ヒトにとってポリフェノールの主な機能は[[抗酸化物質|抗酸化作用]]であり、[[がん]]予防や血中[[コレステロール]]の酸化を防いで[[動脈硬化]]を予防する働きがあるとされる{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。そのほかにも個々の物質によって異なる生理作用があるが、その効用は数時間内といわれる{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。

* [[アントシアニン]]:[[紫キャベツ]]、[[紫芋]]、[[赤ジソ]]、[[インゲンマメ]]などに含まれる紫色の色素であり、抗酸化作用をもち、また目の働きによいともいわれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[イソフラボン]]:[[ダイズ]]などに含まれる。[[女性ホルモン]]に似た働きをし、[[骨粗鬆症]]予防、[[更年期障害]]によいといわれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[ショウガオール]]:[[ショウガ]]に含まれる辛味成分で、抗菌作用、食欲増進作用がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[カテキン]]:[[茶]]に多いが、[[インゲンマメ]]や[[レンコン]]にも含まれる<ref name="コトバンク_カテキン">{{Cite Kotobank|word=カテキン|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-08}}</ref>。殺菌作用がある{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。

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==== カロテノイド ====
[[ファイル:Lycopene.svg|thumb|right|150px|リコペン]]
[[ファイル:Luteine - Lutein.svg|thumb|right|150px|ルテイン]]
[[ファイル:Cryptoxanthin.svg|thumb|right|150px|クリプトキサンチン]]
[[ファイル:Kapsaicyna.svg|thumb|right|150px|カプサイシン]]
[[カロテノイド]](カロチノイド)は、基本的に植物のみが生成できる赤色から黄色の色素であり、炭素と水素のみからなる[[カロテン]](カロチン)と、酸素を含む[[キサントフィル]]に分けられる{{sfn|講談社編|2013|p=230}}<ref name="コトバンク_カロチノイド">{{Cite Kotobank|word=カロチノイド|encyclopedia=日本大百科全書(ニッポニカ)|accessdate=2024-07-08}}</ref>。カロテンには、[[α-カロテン]]、[[β-カロテン]]、[[γ-カロテン]]、[[リコペン]](リコピン)などがあり、多くは人間の体内で[[ビタミンA]]([[レチノール]])に変換されるため、プロビタミンAともよばれる{{sfn|講談社編|2013|p=230}}<ref name="大谷2003" /><ref name="阿部2003b">{{cite book|author=阿部一博|year=2003|chapter=野菜の嗜好特性|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=22–36}}</ref>。植物内にはβ-カロテンが最も多く、2分子のレチノールに転換され(他のカロテノイドは1分子)、転換効率は50%ほどとされる<ref name="大谷2003" />。レチノールに変換されないカロテン類は、抗酸化作用を発揮する{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。また、キサントフィルには[[アントシアニン]]、[[ルテイン]]、[[カプサイシン]]などがあり、これらはビタミンAとしては働かないが、抗酸化作用を発揮し、がん予防や老化防止に役立つと考えられている<ref name="阿部2003b" />{{sfn|講談社編|2013|p=230}}。カロテノイドは脂溶性であり油に溶けるが、油に溶けたものの方が結晶形のカロテノイドよりも吸収効率が良いため、油を用いて調理した方がよいとされる<ref name="阿部2003b" />。

* [[リコペン]]:[[トマト]]、[[スイカ]]、[[金時人参]]などに含まれる赤色のカロテン。ビタミンA能はないが、抗酸化作用がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}<ref name="コトバンク_カロチノイド" />。
* [[ルテイン]]:[[ホウレンソウ]]、[[コマツナ]]、[[ケール]]などの緑黄色野菜に含まれる黄色のキサントフィル。抗酸化作用が高く、眼病予防にも良いといわれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[β-クリプトキサンチン|クリプトキサンチン]]:赤ピーマンなどに含まれるオレンジ色のキサントフィル。[[柑橘類]]、[[カキノキ|カキ]]、[[パパイヤ]]、[[アンズ]]などの果物にも含まれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。
* [[カプサイシン]]:赤[[トウガラシ]]、[[パプリカ]]などに含まれ、抗酸化作用がある{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=220}}。

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==== イオウ化合物 ====
[[ファイル:Diallyl sulfide.svg|thumb|right|150px|硫化アリル]]
[[ファイル:Ethylisothiocyanat.svg|thumb|right|150px|イソチオシアン酸エチル]]
[[アメリカ国立癌研究所]] (NCI) が中心となって研究した[[デザイナーフーズ計画|デザイナーズフーズ]]の上位に、[[ニンニク]]や[[タマネギ]]、[[キャベツ]]がランクされたことから、これらの野菜に含まれる特有の臭いと生理活性をもつイオウ化合物が注目されるようになった{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。

* [[硫化アリル]]:[[ネギ]]、[[タマネギ]]、[[ニラ]]、[[ラッキョウ]]など[[ヒガンバナ科]][[ネギ属]]に共通して含まれる刺激臭のある成分で、[[ビタミンB1|ビタミンB<sub>1</sub>]]の吸収を助け、[[炭水化物]]の代謝を活発にする働きがある。また、血液の粘度を下げる働きがあるといわれ、血栓を予防するともいわれている{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
** [[アリシン]]:硫化アリルの一種であり、ニンニクやネギ臭の素になる成分{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。生ニンニクには[[アイリン]]という無臭成分が含まれているが、空気に触れるとアリシンに変化する{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。ビタミンB1の吸収を助け、血栓予防、貧血予防、血中コレステロール値の上昇の抑制のほか、強力な抗酸化作用が知られている{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。
* [[イソチオシアネート]]:[[キャベツ]]、[[ブロッコリー]]など[[アブラナ科]]野菜に特異的に含まれる臭い成分{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。遺伝子が傷ついた細胞増殖の抑制、発がん性物質の活性化の抑制、抗菌作用のほか、女性ホルモンと似たような働きをすると言われている{{sfn|講談社編|2013|p=231}}。

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=== 機能性成分 ===
近年では「食と健康」に対する関心が高まり、健康の維持・回復、[[がん]]や[[生活習慣病]]予防に関して野菜の生理的機能が注目されている<ref name="大東2003">{{cite book|author=大東肇|year=2003|chapter=野菜の成分と健康|editor=矢澤進|title=図説 野菜新書|publisher=朝倉書店|isbn=978-4-254-41024-2|pages=36–50}}</ref>。

食品は発がんにつながるものを含む一方で、野菜の摂取が発がんのリスクを低減させることも示唆されている<ref name="大東2003" /><ref name="ganjohosci">{{Cite web|和書|url=https://web.archive.org/web/20100504132612/http://ganjoho.ncc.go.jp/public/pre_scr/prevention/evidence_based.html|title=日本人のためのがん予防法:現状において推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法|author=国立がんセンターがん対策情報センター|date=2009-02-25|accessdate=2009年12月1日}}</ref><ref>WHO technical report series 916. ''Diet, nutrition and the prevention of chronic diseases'', 2003 & IARC monograph on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume83, ''Tobacco Smoke and Involuntary Smoking'', 2004</ref>。がん予防効果が期待できる成分として、[[ビタミン]]、[[食物繊維]]、[[カロテノイド]]、[[ポリフェノール]]、[[テルペノイド]]、[[イオウ]]化合物、[[インドール]]系化合物などがしばしば取り上げられている(ただし、これらが確実に有効と実証されているわけはない)<ref name="大東2003" />。1990年代に、[[米国]]では食によるがん予防を目的とした[[デザイナーフーズ計画]]が発足し、それまでの調査・研究を総合的に評価した<ref name="大東2003" />。その結果、がん予防効果があると最も期待される野菜として[[キャベツ]]、[[ダイズ]]、[[ニンジン]]、[[セロリ]]、[[パースニップ]]、[[ショウガ]]、[[ニンニク]]などが、次点として[[ブロッコリー]]、[[カリフラワー]]、[[メキャベツ]]、[[トマト]]、[[ナス]]、[[ピーマン]]、[[タマネギ]]などが挙げられている<ref name="大東2003" />。また、[[世界がん研究基金]]と[[アメリカがん研究協会]]は、7000以上の研究を根拠に「食べもの、栄養、運動とがん予防<ref>{{cite book|author=World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research|url=https://web.archive.org/web/20150503204125/http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-cup/second-expert-report |title=Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective|year= 2007|publisher=Amer. Inst. for Cancer Research|isbn= 978-0972252225}} 日本語要旨:[https://web.archive.org/web/20160402133013/https://www.wcrf.org/sites/default/files/SER-SUMMARY-(Japanese).pdf 食べもの、栄養、運動とがん予防]、[[世界がん研究基金]]と[[米国がん研究機構]]</ref>」を報告しており、この中で野菜の摂取を推奨している(詳細は「[[食生活指針]]」を参照)。

[[活性酸素]]の過剰な産出や蓄積は[[がん]]、[[心筋梗塞]]、[[糖尿病]]、[[脳浮腫]]、[[自己免疫疾患]]など[[生活習慣病]]の引き金となることが示されている<ref name="大東2003" />。このような反応に対する抗酸化物質源として、野菜が注目されている<ref name="大東2003" />。野菜がもつ[[抗酸化物質]]として、[[ビタミン]]([[ビタミンC|C]], [[ビタミンE|E]])、[[ポリフェノール]]、[[カロテノイド]]、[[タンニン]]、[[リグナン]]などがある<ref name="大東2003" />。また、[[免疫]]活性の維持・強化に野菜が有効な可能性も示されている<ref name="大東2003" />。[[21世紀における国民健康づくり運動]](健康日本21)では、望ましい野菜の摂取量は成人1人1日あたり 350 g 以上とされている<ref>[https://www.kenkounippon21.gr.jp/ 健康日本21]</ref><ref>[https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/pdf/all.pdf 21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)について 報告書-厚生労働省]</ref><ref name="alic-yasaibook1"/>。日本人の平均ではこの目標に対して8割程度の摂取量にとどまっており、特に若年層においては7割から6割程度である<ref name="alic-yasaibook1"/><ref name=kokumin>[https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000020qbb.html 平成22年国民健康・栄養調査結果の概要]</ref>。2012年(平成24年)の調査では20歳以上の日本人の平均野菜摂取量は、286.5 g/日であった<ref>[https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h24-houkoku.html 平成24年度『国民健康・栄養調査』]、厚生労働省</ref>。所得と生活習慣等に関する状況の調査においては、所得が低いほど野菜摂取量が低い傾向が見られた<ref name=kokumin/>。

野菜は、[[果物]]とともに[[アルカリ性食品]]に分類されている<ref name="青葉1981a" /><ref>小池五郎、「[https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.71.410 食品の酸性・アルカリ性について]」『日本釀造協會雜誌』 1976年 71巻 6号 p.410-413, {{doi|10.6013/jbrewsocjapan1915.71.410}}</ref>(詳細は、[[酸性食品とアルカリ性食品]]を参照)。

=== 嗜好性成分 ===
野菜は、種類によって望まれる色や香気、味、食感があり、これらのもととなる成分も重要な品質要素である<ref name="阿部2003b" />。これらは栄養成分としては関わりないこともあるが、上記のような栄養成分と一致することもある。

==== 色 ====
野菜の主な色素は[[クロロフィル]]、[[カロテノイド]]、[[アントシアニン]]であり、これらが緑色、黄色、赤色、紫色などそれぞれの野菜の色調をつくりだしている<ref name="阿部2003b" />。

[[クロロフィル]]は緑色を呈する[[光合成色素]]であり、[[ホウレンソウ]]や[[ブロッコリー]]などの緑色野菜の色の素となっている<ref name="阿部2003b" />。クロロフィルは加熱、[[酸]]、[[アルカリ]]、強光に対して不安定である<ref name="阿部2003b" />。野菜加工品の緑色保持には、[[炭酸ナトリウム]]などによって弱アルカリ性にすることがよく行われている<ref name="阿部2003b" />。また短時間の熱処理([[ブランチング]])を行うことによって、クロロフィルが[[クロロフィリド]]になり、野菜の緑色が鮮やかになる<ref name="阿部2003b" />。野菜をゆでると[[有機酸]]が溶け出して酸性になり、クロロフィル中の[[マグネシウム]]が外れて緑褐色の[[フェオフィチン]]になってしまうが、[[食塩]]を加えることによってこれを抑えることができる<ref name="阿部2003b" />。また、[[漬物]]では酸性化してクロロフィルが分解、褐色化するが、漬け込む前の軽いブランチング、マグネシウムを含む未精製塩の使用、[[銅]]の添加などで緑色保持を図ることがある<ref name="阿部2003b" />。

[[カロテノイド]](カロチノイド)は一般に熱に対して安定であり、調理・加工によって著しく変色・退色することはない。カロテノイドは、[[ビタミンA]]の原料(プロビタミンA)や[[抗酸化物質]]として重要である(上記参照)。

[[アントシアニン]]は青色、紫色、赤色を示す色素であり、一般的に[[アルカリ性]]では青色、[[酸性]]では赤色を呈する<ref name="阿部2003b" />。アントシアニンは、加熱によって著しく退色する<ref name="阿部2003b" />。またアントシアニンは[[ポリフェノール]]の一群であり、[[酵素]]的に変性して野菜が褐変することがある<ref name="阿部2003b" />(下記参照)。しかし[[金属]]と錯体を形成すると安定化するため、[[鉄]]や[[ミョウバン]]を加えたり[[鉄鍋]]で調理することによって色を保つことがある<ref name="阿部2003b" />。

アントシアニンや[[クロロゲン酸]]などの[[ポリフェノール]]、[[ジャガイモ]]の[[チロシン]]などは、[[ポリフェノール酸化酵素]]によって[[酸化]]されて変色することがあり、この変色は酵素的褐変とよばれる<ref name="阿部2003b" />。また加工過程や貯蔵中に、アミノ化合物([[アミノ酸]]など)とカルボニル化合物([[ブドウ糖]]など)が結合して褐色の物質([[メラノイジン]])を生成することもあり、非酵素的褐変とよばれる<ref name="阿部2003b" />。[[切り干し大根]]は当初は白色であるが、保存中に褐色化し、これには酵素的褐変と非酵素的褐変の両方が関わっている<ref name="阿部2003b" />。

==== 香気成分 ====
香気は味とともの食品の重要な品質要因であり、特にその食品の香気を特徴づける物質をキーコンパウンドという<ref name="阿部2003b" /。ただし、単一の物質が香気全体を規定することは少なく、ふつういくつかの物質が複合的に関わっている<ref name="阿部2003b" />。野菜では、[[アルコール]]類、[[有機酸]]、[[エステル]]類、[[アルデヒド]]、[[ケトン]]類、[[イオウ]]化合物、[[テルペン]]類などが主な香気成分である<ref name="阿部2003b" />。しかし近年では、消費者の嗜好変化に合わせて、[[シュンギク]]、[[トマト]]、[[キュウリ]]、[[ニンジン]]、[[セロリ]]などにおいて香気が弱い品種や栽培法が用いられるようになっている<ref name="阿部2003b" />。

==== 味覚成分 ====
野菜の中で[[甘味]]が品質要因となるものとして、[[トマト]]、[[カボチャ]]、[[ブロッコリー]]、[[カリフラワー]]、[[ネギ]]、[[タマネギ]]、[[ニンニク]]、[[ニンジン]]、[[クワイ]]、[[レンコン]]、[[ユリネ]]などがある<ref name="阿部2003b" />。おもな甘味成分は[[単糖類]]や[[少糖類]]であり、また[[グリシン]]、[[アラニン]]、[[セリン]]、[[テアニン]]、[[ベタイン]]などの[[アミノ酸]]も甘味を呈する<ref name="阿部2003b" />。[[タマネギ]]を炒めると甘味が生じるのは、辛味成分である[[ジアリルジスルフィド]](下記参照)が分解されて[[ショ糖]]の50–70倍の甘味を呈する[[プロピルメルカプタン]]が生成されるためである<ref name="阿部2003b" />。[[サツマイモ]]は、ゆっくりと加熱したほうが[[β-アミラーゼ]]活性が強くなり、[[デンプン]]が分解されて甘味が強くなる<ref name="阿部2003b" />。実[[エンドウ]]や[[エダマメ]]([[ダイズ]])、[[スイートコーン]]は、収穫後短時間で糖類などが変化し食味が低下するため、すぐに低温貯蔵または加工処理を行う<ref name="阿部2003b" />。

[[酸味]]のもととなるのは、[[無機酸]]や[[有機酸]]による[[水素イオン]]である<ref name="阿部2003b" />。野菜において酸味が重要であることは少ないが、[[イチゴ]]や[[トマト]]の酸味成分は[[クエン酸]]や[[リンゴ酸]]などの有機酸である<ref name="阿部2003b" />。

野菜における[[旨味]]成分は、おもに遊離[[アミノ酸]]であり、特に[[グルタミン酸]]や[[アスパラギン酸]](この名は[[アスパラガス]]に由来する<ref name="コトバンク_アスパラギン酸">{{Cite Kotobank|word=アスパラギン酸|encyclopedia=食の医学館|accessdate=2024-08-05}}</ref>)、[[アラニン]]、[[ロイシン]]などが旨みを呈する<ref name="阿部2003b" />。[[キノコ]]類は野菜に含まれることもあるが、[[有機酸]]、遊離アミノ酸、[[糖アルコール]]などの旨み成分が多い<ref name="阿部2003b" />。

[[辛味]]とは、[[口腔]]全体に感じられる痛感であり、いくつかの野菜がそれぞれ異なる成分による辛味を呈する<ref name="阿部2003b" />。[[アブラナ科]]の野菜([[ダイコン]]、[[ワサビ]]、[[セイヨウワサビ]]、[[カラシナ]]など)は[[グルコシノレート]]類([[カラシ油配糖体]])を含み、これに[[酵素]]である[[ミロシナーゼ]]が働くと辛味成分である[[イソチオシアネート]]([[カラシ油]])が生成される<ref name="阿部2003b" /><ref name="ルーラル_辛味成分">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=10982|title=辛味成分|website=農業技術事典|publisher=ルーラル電子図書館|accessdate=2024-08-05}}</ref>。[[トウガラシ]]([[ナス科]])は、[[アミノ酸]]である[[バリン]]、[[フェニルアラニン]]および[[ロイシン]]を前駆体として[[カプサイシン]]などの[[カプサイシノイド]]を生成する<ref name="阿部2003b" /><ref name="ルーラル_辛味成分" />。[[タマネギ]]や[[ニンニク]]、[[ニラ]]、[[ネギ]]など[[ネギ属]]([[ヒガンバナ科]])の辛味成分は、[[ジアリルジスルフィド]]のような[[イオウ]]化合物であり、その香気とも関わっている<ref name="阿部2003b" /><ref name="ルーラル_辛味成分" />。[[ショウガ]]や[[ウコン]]([[ショウガ科]])では[[ショウガオール]]のような[[グアヤコール]]化合物、[[ミント|ハッカ]]や[[タイム (植物)|タイム]]([[シソ科]])では[[メントール]]のような[[テルペン]]類([[精油]])が辛味成分となる<ref name="阿部2003b" />。

==== 食感 ====
食物を食べる際に舌や口腔内壁で感じる触覚(舌ざわり、歯ごたえ、口あたりなど)は食感(テクスチャー)とよばれる<ref name="阿部2003b" />。食品を評価する上で、食感は外観・色・味・香気などとともに重要な品質要因であるが、個人差も大きく、客観的な評価や数値化が難しい<ref name="阿部2003b" />。特に野菜は種類によって特有の食感があるが、一般的に水や[[多糖類]]が大きく影響する<ref name="阿部2003b" />。

野菜の多くは水分量が多く、その食感に大きく関わる<ref name="阿部2003b" />。特に[[葉菜類]]では水分量の変動が大きく、不適切な貯蔵などによって容易に水分が失われて萎れてしまう(萎ちょう)<ref name="阿部2003b" />。[[植物細胞]]は[[細胞壁]]に囲まれているため、水につけることによって細胞内に水が侵入して膨圧が生じ、軽い萎ちょうから復活、シャキッとした新鮮さが得られる<ref name="阿部2003b" />。一方、切断した野菜に塩をふるなどすると、細胞内の水が流出してしんなりとする<ref name="阿部2003b" />。

[[イモ類]]や[[豆|マメ類]]は[[デンプン]]を多く含むが、デンプンは直鎖状の[[アミロース]]と分枝が多い[[アミロペクチン]]からなり、アミロースとアミロペクチンの量比は食感に影響する<ref name="阿部2003b" />。[[ヤマノイモ]]類をすりおろすと、粘液物質である[[マンナン]]や[[ムチン]]が出て、また空気が含まれることで特徴的な食感が生じる<ref name="阿部2003b" />。野菜をゆでると[[組織 (生物学)|組織]]が柔らかくなるが、これは細胞間をつないでいる[[ペクチン]]が溶けて細胞間の結合がゆるむためである<ref name="阿部2003b" />。一方、[[ゴボウ]]や[[レンコン]]を[[酢]]水でゆがくとペクチンが安定化し、サクサクとした食感になる<ref name="阿部2003b" />。またペクチンは[[カルシウム]]などの2価イオンが結合することで架橋され、これは[[ダイコン]]漬物のパリパリとした食感に関わっていることがある<ref name="阿部2003b" />。

=== 有害物質 ===
野菜には好ましくない物質や[[有害物質]]が含まれていることもあり、基本的にこれらの物質は調理・加工の過程で除去される<ref name="阿部2003b" />。

好ましくない色、[[渋味]]、[[えぐ味]]、[[苦味]]の原因となる物質は、[[灰汁]](あく)と総称される<ref name="阿部2003b" />。灰汁の中には、風味を損なうだけではなく、有害なものもある<ref name="阿部2003b" />。[[ワラビ]]や[[ゼンマイ]]、[[フキ]]、[[ウド]]などいわゆる[[山菜]]として扱われるものは、一般的に灰汁が多い<ref name="阿部2003b" />。野菜の灰汁としては、[[無機塩]]、[[有機塩]]、[[有機酸]]、[[タンニン]]、[[サポニン]]、[[アルカロイド]]、[[配糖体]]、[[テルペン]]などがある<ref name="阿部2003b" />{{sfn|講談社編|2013|p=241}}。無機塩は含有量が1.5%になると灰汁を強く感じ、特に[[カリウム]]塩が多いと不快に感じるという<ref name="阿部2003b" />。有機酸の一種である[[シュウ酸]]は[[ホウレンソウ]]などに多く、[[カルシウム]]や[[マグネシウム]]の吸収を阻害し、また[[腎臓結石]]の原因ともなる<ref name="阿部2003b" />。一般的な灰汁抜きの手法は、ゆでてから水にさらすことや、ゆで水に[[塩]]、[[酢]]、[[糠]]、灰汁、[[ミョウバン]]、[[炭酸ナトリウム]]、[[重曹]]、[[ミカン]]の皮などを加えることが行われる<ref name="阿部2003b" />。

上記のように、さまざまな野菜の成分について有効性が示唆されているが、これらの成分の極端な摂取が害に働くこともある<ref name="大東2003" />。例えば辛味成分である[[トウガラシ]]の[[カプサイシン]]は[[脂質代謝]]を亢進し、体脂肪低下などにつながる可能性があるが、一方でその刺激性のため[[腹痛]]や[[下痢]]、ときには[[潰瘍]]を誘発する<ref name="大東2003" />。同じく辛味成分である[[アブラナ科]]植物の[[イソチオシアネート]]は、[[発がん]]抑制や[[血圧]]降下作用をもたらす可能性があるが、一方で[[悪心]]、[[嘔吐]]、腹痛を引き起こし、[[腎臓]]障害や[[甲状腺]]における[[ヨウ素]]取り込み阻害をもたらすことがある<ref name="大東2003" />。

野菜の中には有害物質を含むものもある<ref name="阿部2003b" />。特に[[ジャガイモ]]の[[芽]]に多く含まれる[[アルカロイド]]である[[ソラニン]]はよく知られており、調理の際に芽や緑色の皮は除去される<ref name="阿部2003b" />。また[[ワラビ]]は[[プタキロシド]]、[[ツワブキ]]は[[ピロリジンアルカロイド]]などの[[発がん]]性の可能性がある物質を含んでおり、調理によってこれらの物質は除去・不活性化される必要がある<ref name="大東2003" />。[[ホウレンソウ]]などには[[硝酸塩]]や[[亜硝酸塩]]が比較的多いが、これらはゆでてから冷水で洗うことで減少する<ref name="阿部2003b" />。また[[ニンジン]]や[[キュウリ]]には[[アスコルビン酸酸化酵素]]が含まれ、[[ビタミンC]]を酸化してしまう<ref name="阿部2003b" />。一部の野菜は、[[タンパク質分解酵素]]に対する阻害物質を含む<ref name="大東2003" />。

== 安全性 ==
野菜は、人間によって長年にわたって改良され、食べ続けられてきたものであるため、安全性は確保できていると考えられている{{sfn|講談社編|2013|p=232}}。しかし、野菜の安全性に関してまだ結論が出ていないことも多く{{sfn|講談社編|2013|p=235}}、新しく作り出された野菜の品種などは必ずしも安全性が確かめられているわけではなく、未知のリスクの可能性も指摘されている{{sfn|講談社編|2013|p=232}}。健康的な食生活を送るためにも、なるべく多くの種類の野菜を適量摂ることが、安全な野菜の食べ方とされている{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。

[[ファイル:農村日常 (52415479863).jpg|thumb|right|200px|農薬散布]]
野菜を生産するうえで、病虫害や雑草を抑止する目的で[[農薬]]が使用されるが、農薬の残存化学物質は人間にとっても[[癌]]などのリスクがあるので好ましいものではない{{sfn|講談社編|2013|p=232}}。しかし、農薬を使用しなければ、地球上の人類を養うだけの農作物の生産量は確保できないとされており、農薬を正しく用いる農法が一般に行われている{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。先進国のように農薬の製造や使用が適正に規制されている国では、農薬を正しく使用している限りは癌を含む疾病のリスクはないと考えてよいとされている{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。しかし、農薬が適正に使用されていない状況でつくられた野菜は、人体に害を及ぼす可能性がある{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。しばしば「野菜には[[残留農薬]]の危険があるから、よく洗ってから食べる」という意見があり、ていねいな水洗いや加熱調理が野菜についている残留農薬を減らすことになるのは間違いではないが、先進諸国において野菜を洗うことによって農薬の害が低減するといった科学的根拠となる研究結果はほとんどない{{sfn|講談社編|2013|p=233}}。

野菜の安全性に関して注目されるものに、原則として[[農薬]]や[[化学肥料]]を使わずに栽培([[有機栽培]])された野菜('''[[有機野菜]]'''、オーガニック野菜)がある{{sfn|講談社編|2013|p=233}}<ref name="カゴメ">{{Cite web|和書|author=|date=2024-03-28|url=https://www.kagome.co.jp/vegeday/store/201702/6292.html|title=有機野菜と無農薬野菜、オーガニック野菜の正しい見分け方まとめ|website=|publisher=カゴメ|accessdate=2024-07-20}}</ref>。有機食品市場は世界で拡大しており、日本では2022年に2,240億円、2009年と比較して1.7倍に拡大している<ref name="有機農産物って何?">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/index-47.pdf|title=有機農産物って何?|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-10}}</ref><ref name="有機農業をめぐる事情">{{Cite web|和書|author=|date=2024-05-31|url=https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/index-97.pdf|title=有機農業をめぐる事情|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-10}}</ref>。有機野菜は栽培法による分類であり、日本の[[JAS法]]では厳密な規定により認定を受けたものだけが有機野菜と表示することができる{{sfn|講談社編|2013|p=233}}<ref name="カゴメ" />。有機野菜は「安全で高品質」といったイメージがあるが、これを支持する明確な研究結果はほとんどない{{sfn|講談社編|2013|p=234}}<ref name="日笠2012">{{Cite journal|author=日笠志津, 根岸由紀子, 奥崎政美, 成田国寛 & 辻村卓|year=2012|title=栽培条件 (有機栽培と慣行栽培) の違いによるコマツナ・ホウレンソウの栄養成分と官能特性|journal=日本食生活学会誌|volume=23|issue=1|pages=26-32|doi=10.2740/jisdh.23.26}}</ref><ref name="堀田1999">{{Cite journal|author=堀田博|year=1999|title=有機栽培と慣行栽培農産物の品質上の差異|journal=日本食品科学工学会誌|volume=46|issue=6|pages=428-435|doi=}}</ref>。2006年に日本で制定された「有機農業の推進に関する法律」では、化学肥料、農薬、遺伝子組換えを利用しないこととともに、農業生産に由来する環境負荷をできる限り低減することが重視されている<ref name="萩原2020">{{cite book|author=萩原勲・澤登早苗|year=2020|chapter=有機農業|editor=荻原勲|title=図説 園芸学 第2版|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254410402|page=71}}</ref><ref name="">{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/|title=【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-xx}}</ref>。

また、日本では[[有機栽培]]と一般的な栽培(慣行栽培)の中間的なものとして、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」があったが、これらの表現は生産者によって定義が異なり、消費者に誤解を与えやすいという理由で、2004年に表示が禁止された{{sfn|講談社編|2013|p=234}}<ref name="カゴメ" /><ref>{{Cite web|和書|author=|date=2008|url=https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/tokusai_qa.pdf|title=特別栽培農産物に係る表示ガイドライン Q&A|website=|publisher=農林水産省消費・安全局表示・規格課|accessdate=2024-07-20}}</ref>。[[農林水産省]]のガイドラインでは、有機栽培と慣行栽培の中間的な栽培様式(農薬、化学肥料の使用量が規定の5割以下に制限されている)によって生産された野菜は、'''特別栽培野菜'''としている{{sfn|講談社編|2013|p=234}}<ref name="カゴメ" />。また慣行栽培であっても、残留農薬量は無毒性量(有害な影響が見られない最大量)の1/100以下と規定されている<ref name="カゴメ" />。

[[ファイル:Sprouted potatoes of salem.jpg|thumb|right|200px|芽を出したジャガイモ(有毒)]]
'''[[食品照射|放射線照射野菜]]'''で知られるものに、発芽防止目的で使用されている[[ジャガイモ]]がある。放射線を当てた食品が放射能をもつことはなく、健康に害を与えるようなこともないとされている{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。ジャガイモの芽に含まれる[[アルカロイド]] (PGA) による食中毒リスク、輸入スパイスに付着する病原菌リスク、食品保存に使われる燻蒸の発がん性リスクを軽減するために、放射線照射が用いられている{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。また、放射線を当てることによって殺菌効果が高められるため、食品が腐りにくくなるという利点もある{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。

[[ファイル:World map GMO production.svg|thumb|right|200px|世界各国の遺伝子組換え作物栽培面積(2019年){{legend|#803300|1000万ヘクタール以上}}{{legend|#D45500|5万–1000万ヘクタール}}{{legend|#FF9955|5万ヘクタール未満}}{{legend|#b9b9b9|なし}}]]
{{Anchors|遺伝子組換え作物}}'''[[遺伝子組換え作物]]'''とは、別の生物の[[遺伝子]]を導入することによってつくられた作物である<ref name="遺伝子組換え農作物">{{Cite web|和書|author=|date=2020-06|url=https://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/attach/pdf/GM1-1.pdf|title=「遺伝子組換え農作物」について|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-05}}</ref><ref name="山岸2012" />。遺伝子組換え作物は、それを食べた人の遺伝子に影響を与えることはない{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。遺伝子がつくる物質は[[タンパク質]]であるため、そのタンパク質が人の健康に害を及ぼすかどうかが、遺伝子組換え作物の安全性の評価となる{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。害虫抵抗性遺伝子組換えトウモロコシであるスターリンク(StarLink)は、「そのタンパク質が[[アレルギー]]の原因となる可能性」を否定できるだけのデータが不十分であったため、米国内の飼料用に限って利用されていたが、2000年に食料用や輸出品への混入が確認され大きな問題となった<ref name="スターリンク">{{Cite web|和書|author=|date=2008-06-01|url=https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/098/mgzn09809.html|title=GMO情報: スターリンクの悲劇 ~8年後も残るマイナスイメージ~|website=|publisher=独立行政法人農業環境技術研究所|accessdate=2024-07-21}}</ref>。遺伝子組換え作物の必要性については意見が分かれるところであるが、その食品としての安全性について現段階では害は認められていない{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。ただし、食品としての安全性とは別に、遺伝子組換え作物の導入による[[生物多様性]]への影響が懸念されることもある<ref name="遺伝子組換え農作物" />。2020年現在、日本では、海外で生産された遺伝子組換え作物である[[飼料]]用の[[トウモロコシ]]、油糧用の[[ダイズ]]、[[セイヨウアブラナ|ナタネ]]などが輸入・利用されているが、日本で栽培されてる遺伝子組換え作物は[[青いバラ (サントリーフラワーズ)|青いバラ]]と[[ムーンダスト|青いカーネーション]]だけであり、遺伝子組換え野菜は栽培されていない<ref name="鈴木2020" /><ref name="遺伝子組換え農作物" />。海外では、日持ち性を向上させた[[トマト]]、[[ウイルス]]抵抗性のトマトや[[ジャガイモ]]などが流通している<ref name="鈴木2020" />。また2010年代には、[[CRISPR/Cas9|クリスパー/キャスナイン]]を用いた[[ゲノム編集]]によってその生物の特定の遺伝子に変異を起こさせることが可能になり、これを利用した'''ゲノム編集作物'''<ref>{{Cite web|和書|author=|date=2020-03|url=https://www.mhlw.go.jp/content/000828324.pdf|title=新しいバイオテクノロジーで作られた食品について|website=|publisher=厚生労働省|accessdate=2024-08-06}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.naro.go.jp/laboratory/nias/introduction/chart/0502/index.html|title=ゲノム編集作物開発グループ|website=|publisher=農研機構|accessdate=2024-08-06}}</ref>が開発され、実用化されている<ref name="神奈川県衛生研究所">{{Cite web|和書|author=大森清美|date=2023-09|url=https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/005_databox/0504_jouhou/0601_eiken_news/files/eiken_news218.htm|title=『ゲノム編集食品』ってなに?『遺伝子組換え食品』とはどう違うの?|website=衛研ニュース|publisher=神奈川県衛生研究所|accessdate=2024-08-05}}</ref>。遺伝子組換え作物とは異なり外来遺伝子を含まないことから、日本ではゲノム編集作物は規制対象外で安全性審査は不要とされているが、遺伝子組換え作物と同じ扱いとしている国もある<ref name="神奈川県衛生研究所" />。日本では2024年現在、ゲノム編集野菜として、[[γ-アミノ酪酸|GABA]]含量を高めたトマトが市販されている<ref name="神奈川県衛生研究所" />。


{{Clear}}
'''[[遺伝子組み換え作物]]'''は[[遺伝子]]操作によってつくられた野菜であるが、それを食べた人の遺伝子に影響を与えるようなことはない{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。遺伝子がつくる物質はタンパク質であるため、そのタンパク質が人の健康に害を及ぼすかどうかが、遺伝子組み換え作物の安全性の評価となる{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。遺伝子組み換え作物のタンパク質が人の健康を害するという研究結果はほとんどなく、[[スターリンク]]というトウモロコシのタンパク質が[[アレルギー]]を起こす可能性があるという研究があるため、スターリンクについては食品として許可されていないのが現状である{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。遺伝子組み換え作物については、大企業の利益になっても一般市民の利益は何もないという指摘もあるため、遺伝子組み換え作物の必要性について意見が分かれるところであるが、その安全性について現段階では害は認められていないことから安全であるといわれている{{sfn|講談社編|2013|p=235}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 注釈 ===
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== 参考文献 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[野菜の一覧]] / [[果菜類]] / [[葉菜類]] / [[根菜類]] / [[芋]] / [[豆]] / [[果物]] / [[ベリー]] / [[種実類]] / [[穀物]]
{{Commonscat|Vegetables}}
* [[農産物]] / [[遺伝子組換え作物]]
* [[野菜の一覧]]
* [[有機農家]] / [[有機農業]] / [[有機農産物]] / [[残留農薬]]
* [[農産物]]
* [[農林水産省]] / (独)[[農畜産業振興機構]]
* [[果物]]
* [[野菜生産出荷安定法]] … 生産量が多い指定野菜、特定野菜などを安定して供給するための法律。
* [[:Category:野菜料理|野菜料理]]
* [[農業協同組合]] / [[農産物直売所]] / [[中央卸売市場]] / [[八百屋]]
* [[遺伝子組み換え作物]]
* [[家庭菜園]]
* 生産・流通
** [[有機農家]]
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** [[中央卸売市場]]
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** [[野菜生産出荷安定法]] ‐ 生産量が多い指定野菜などを安定して供給するための法律。
* 野菜に関連するトピック
* 野菜に関連するトピック
** [[ど根性野菜]] / [[野菜ソムリエ]] / [[野菜嫌い]] / [[8月31日]](野菜の日)
** [[家庭菜園]]
** [[ベジタブル&フルーツマイスター]]
** [[ど根性野菜]]
** [[野菜嫌い]]
** [[農林水産省]]
** (独)[[農畜産業振興機構]]
** [[8月31日]] - 野菜の日
* 品種改良前の野菜もしくは陸上の未栽培の植物食品
** [[救荒植物]]
** [[がん予防研究]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Vegetables}}
* [http://www.alic.go.jp/vegetable/index.html 野菜に関する紹介]([[独立行政法人]][[農畜産業振興機構]])
* {{Cite Kotobank|word=野菜|encyclopedia=|accessdate=2024-07-20}}
* [https://web.archive.org/web/20041215012128/http://www.vegefund.com/ 野菜の情報](独立行政法人農畜産業振興機構)
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.alic.go.jp/content/000093223.pdf|title=主な野菜の主要な分類の比較|website=|publisher=独立行政法人農畜産業振興機構|accessdate=2022-12-22}}
* {{PaulingInstitute|jp/mic/food-beverages/fruit-vegetables|果実及び野菜}}
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.alic.go.jp/vegetable/index.html|title=野菜|website=|publisher=[[独立行政法人]][[農畜産業振興機構]]|accessdate=2024-08-10}}
* {{Kotobank}}
*[https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/index.html 野菜のページ] - 農林水産省
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/index.html|title=野菜のページ|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-10}}
*[http://www.hinshu2.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM110.aspx?MOSS=1 品種登録データ検索] - 農林水産省
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.hinshu2.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM110.aspx?MOSS=1|title=品種登録データ検索|website=|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-10}}
* {{Cite web|和書|author=|date=|url=https://www.gene.affrc.go.jp/databases-traditional_varieties.php|title=在来品種データベース|website=|publisher=農業生物資源ジーンバンク|accessdate=2024-08-10}}
*[https://web.archive.org/web/20051231220701/http://mogu.pupu.jp/ 野菜もぐもぐ]
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2024年10月22日 (火) 12:12時点における最新版

様々な野菜

野菜(やさい、: vegetable)とは、あまり加工せずにおもに副食として利用される草本性栽培植物のこと、またはその可食部のことである。蔬菜(そさい)や菜(さい)、青物(あおもの)ともよばれる。ただし、「野菜」は慣用的な用語であり、国や分野によって含まれる植物はやや異なるため、「野菜」を明確に定義することはできない。食用とする部位はつぼみ果実種子などさまざまであり、一般的にはこれに応じて果菜類果実種子を利用)、葉菜類地上茎を利用)、根菜類地下茎を利用)に分けられる。また、香りや辛味が強い香辛野菜カロテン含量が多い緑黄色野菜などがある。

野菜は一般的に貯蔵性が低く時期が限られたものであったが、栽培技術の発展によって日本ではおもな野菜は一年中供給されるようになっている。近年では化学肥料農薬を使用しない有機野菜に対する需要もあり、高度に管理された野菜工場も見られるようになった。野菜の中には、生食するものや、煮るもの、焼くもの、漬物にするものなどがある。一般的に、野菜は柔軟多汁で低カロリービタミンミネラル食物繊維に富むものが多いが、マメ類イモ類デンプンタンパク質を多く含む。また、ポリフェノールなど人の健康に有用と考えられている物質を含み、生活習慣病予防などで重要視されている。

定義

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おもに副食主食間食ではない)として、無加工または低加工で利用される草本性の栽培植物またはその可食部は、野菜とよばれる[1][2][3]。蔬菜や菜、青物ともよばれる[2][3][4][5][6][7]

ただし、「野菜」は慣用的な用語であり、国や分野によって野菜に含まれる植物はやや異なるため、明確な定義はできない[1][8][9]。たとえばメロンスイカイチゴは甘く、一般的に間食に利用されるために消費分野では果物として扱われるが、草本に実ることから、日本の生産分野では野菜として扱われる[1][3][10][11][8][12]。そのため、これらは特に「果実的野菜」や「果物的果菜」とよばれることがある[1][10]。また、サツマイモジャガイモなどイモ類は副食とされる際には野菜であるが、主食や加工品原料とされることも多く、野菜とは分けて扱われることもある[3][13][14]マメ類トウモロコシの未熟な果実・種子(サヤエンドウスイートコーンなど)は野菜として扱われるが、完熟したものは穀物として扱われることが多い[1]。ただし、完熟したものであっても、副食に用いられる場合は野菜として扱われる[13]コメは日本においては最も重要な主食であるが、ヨーロッパでは付け合せなどにも使われるため、野菜として扱われることがある[13]。また、タラノキサンショウは草ではなく木本植物であるが、副食に使われるため野菜として扱われることがある[9]

栽培植物である「野菜」に対して、同様に利用される野生植物は「山菜」とよばれる[1][15][16]。一般的に、山菜は野菜に比べて栽培効率が悪いため栽培されてこなかったが、近年になって地域産品の需要や販路が拡大しており、それに伴って栽培されている例も多い(アシタバフキウドタラノキワラビゼンマイなど)[1][15][16]。現在市場に流通している山菜の多くは栽培品であり[1]、これらを野菜として扱うこともある[17][18][9][12]

日本では、菌類シイタケエノキタケナメコなど)も野菜に含めることがある[17][19][20]。また、日本では藻類海苔ワカメヒジキなど)の利用が多く、野菜とは別に扱われているが、他の国では野菜に含めていることが多い[1]

古くは、副食として用いる草本植物を「蔬菜(または菜、蔬)」と総称し、そのうち野生のものを「野菜」、栽培されるものを「園菜(園蔬、圃菜)」とよんでいた[17][2][4]。しかし、その後は園菜の語は使われなくなり、やがて現在と同様に栽培されるものが「野菜」とよばれるようになり、また野生のものは「山菜」とよばれるようになった[4]。ただし、官公庁などでの公式的な表現では、栽培されるものは「蔬菜」とよばれていた[2][12][7]。しかし第二次世界大戦後に「蔬菜」の「蔬」が常用漢字外となったことから官公庁でも「野菜」の語が用いられるようになった[21]

英語の "vegetable" は、ラテン語vegetabilis(活力を与える)に由来する[4]

分類

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食用部位による分類

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果菜類の野菜
葉菜類の野菜
根菜類の野菜

野菜は食用とする部位の違いに基づいて分類されることがあり、果実種子を食用部位とするものを果菜類、地上茎を食用部位とするものを茎菜類葉柄を食用部位とするものを葉菜類花序を食用部位とするものを花菜類地下茎を食用部位とするものを根菜類とよぶ[22][23][24]。ただし、葉や茎、花は分けずに利用されることも多く、茎菜類や花菜類は、広義の葉菜類または葉茎菜類にまとめられることが多い[25][1][10]

果菜類(実もの野菜[26][27]、成り物野菜ともいう)
果実種子を食用部位とする野菜[1]インゲンマメなどのマメ類トウモロコシの未成熟果は副菜に利用され野菜(果菜)として扱われるが、成熟した果実や種子は主食や加工品原料に使われることが多いため、「マメ類」や「穀類」として野菜とは分けて扱われることも多い[1][28]
葉菜類(葉もの野菜[26][27]
狭義にはを食用部位とする野菜のことであるが、アスパラガスウドなど地上茎を食用部とする茎菜類(茎もの野菜[26])や、ブロッコリーミョウガなど花芽を食用部とする花菜類を含めて広義の葉菜類または葉茎菜類とすることが多い[1][24][29]。また、カイワレダイコンモヤシのように芽生えの茎葉を利用するものは、とくにスプラウト(新芽野菜、発芽野菜)とよばれる[30][31]
根菜類(根もの野菜[26][27]
地中にある地下茎根茎球茎塊茎鱗茎)を食用部位とする野菜[1]サツマイモジャガイモタロイモサトイモなど)、ヤムイモヤマノイモなど)、キャッサバなどは主食や加工品原料に使われることが多いため、「イモ類」として野菜とは分けて扱われることがある[14][32]タマネギニンニクラッキョウは地中にできるため根菜として扱われることもあるが、可食部である鱗茎の主体は特殊化した葉(鱗茎葉)であり、葉菜類(葉茎菜類)として扱われることも多く[28][10]、またネギニラなど他のネギ属野菜と合わせてネギ類[33]や鱗茎菜類[17]として他と分けられることもある。

果菜類(および花菜類)では花を咲かせることが必要である。一方、葉菜類根菜類では花茎が伸びて花芽が形成される(抽苔とよばれる)と、食用部分の品質が低下する[4]。そのため、このような野菜は抽台しにくい品種や抽苔しにくい季節に栽培される[4]

系統分類学による分類

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系統分類学における区分では、野菜はさまざまなに属する[1]。ただし、アブラナ科マメ科ウリ科ナス科キク科セリ科などいくつかの科が特に多くの野菜を含む。以下に、一般的な被子植物の科の配列に沿って野菜を含むおもな科を列記している[33][34][35]。同じ科に属する野菜は、味や栄養価が似ていることが多く、栽培方法にも共通点が見られる[26]

香辛野菜

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タマネギ、パセリ、トウガラシ

野菜の中には香りや辛味が強く、少量が料理に添えられたり調味に使われるものがあり、香辛野菜(香辛菜)ともよばれる[10][36]薬味ハーブとよばれるものもある[37][38]サンショウクレソンカイワレダイコンなどがある[19][28][18]

緑黄色野菜と淡色野菜

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緑黄色野菜かつ西洋野菜であるブロッコリー

日本では、可食部のカロテン含有量に基づいて、野菜を緑黄色野菜淡色野菜に分類することがある[39][40]。日本の厚生労働省では「原則として可食部100グラム (g) 当たりのカロテン含量が600マイクログラム (µg) 以上の野菜」を緑黄色野菜と定義している[41][25][42]。緑黄色野菜は色が濃い野菜が多く、ホウレンソウニンジンカボチャなどがその代表例である[39]トマトピーマンなどは、この基準に入らないが、食べる回数や量が多いことから緑黄色野菜とみなされている[39][40]。また、緑黄色野菜以外の野菜は、淡色野菜とよばれる[39]

西洋野菜と中国野菜

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日本において、明治時代以降に欧米から導入された野菜は、西洋野菜(洋菜)とよばれる[22][43]。また、日本において1970年代以降に中国から導入され普及した野菜は中国野菜とよばれる[22][44]

西洋野菜にはブロッコリーカリフラワーキャベツなど、中国野菜にはチンゲンサイパクチョイタアサイなどがある[22][43][44]

旬による分類

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近年では、おもな野菜は一年中供給されているが、本来は野菜は時期が限られ旬がはっきりしたものであった。日本では、その旬によっておもな野菜が以下のようによばれることがある。ただし、このような分類は一貫したものではなく、同一の野菜が異なる季節に分類されていることもある[45][46][47][48][49]

高原野菜

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嬬恋村(群馬県)におけるキャベツ栽培

日本において、夏でも涼しい標高1,000メートル前後の高原で栽培される野菜は、高原野菜(こうげんやさい)または高冷地野菜(こうれいちやさい)とよばれる[51]。高原野菜の利点は、夏の平地では栽培が難しい野菜を独占的に栽培できるところにあるが、栽培期間が短く、通常は年1作のみである[51]。代表的なものとして、レタスハクサイキャベツなどがある[52]。明治半ばに、長野県の軽井沢において避暑に訪れる外国人客向けとして栽培が始まり、大正末期から東京など大都市に出荷されるようになった[51]

代表的な野菜

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下表には、FAOSTAT(国際連合食糧農業機関のデータベース)において世界生産量が100万トン以上のもの(2022年)[53]、および日本における指定野菜(***; 消費量が多く、収穫量と出荷量が毎年調査される)と特定野菜(**; 指定野菜に準ずる野菜)[54][55][20]を記している(下記参照)。下表の中でメロンスイカイチゴはふつう果物として扱われるが、草本に実るため日本の生産分野では野菜(果実的野菜、果物的果菜)として扱われている[14]。また、マメ類トウモロコシの完熟品、イモ類ジャガイモサツマイモヤムイモなど)は主食や加工品原材料に利用されることも多く、野菜とは別に扱われることもある[13][14]上記参照)。

下表は、果菜葉菜(茎菜、花菜を含む)、根菜菌類の順で表記してある。ただし、同一の植物種の別の器官(葉と根など)が食用とされることもある(ダイコンなど)。

代表的な野菜
画像 名前[1][33] 分類[34] 食用部位[33] 原産地[33] 2022年世界生産量
(100万トン)[53]
トマト*** ナス科
Solanum lycopersicum
果実 南米 186.1
ナス*** ナス科
Solanum melongena
果実 南アジア 59.3
トウガラシシシトウガラシ**、ピーマン***、パプリカなど ナス科
Capsicum annuum
果実 中米 41.8[注 2]
キュウリ*** ウリ科
Cucumis sativus
果実 南アジア 94.7[注 3]
メロン**[注 4]マクワウリシロウリなど ウリ科
Cucumis melo
果実 アフリカ 28.5
スイカ**[注 4] ウリ科
Citrullus lanatus
果実 アフリカ 99.9
ニガウリ**(ツルレイシ、ゴーヤ) ウリ科
Momordica charantia
果実 熱帯アジア
カボチャ**、ズッキーニなど ウリ科
Cucurbita spp.[注 5]
果実 中米から南米 22.8[注 6]
インゲンマメサヤインゲン**など) マメ科
Phaseolus vulgaris
果実、種子、葉[56] 中米 29.6[注 2]
エンドウサヤエンドウ**、グリーンピース**など) マメ科
Pisum sativum
果実、種子、スプラウト[56] 地中海沿岸から中東 35.1[注 2]
ダイズ枝豆**など) マメ科
Glycine max
果実、種子、スプラウト[56] 中国 34.8[注 2]
ソラマメ** マメ科
Vicia faba
種子[56] 北アフリカから西アジア 7.7[注 2]
オクラ** アオイ科
Abelmoschus esculentus
果実 東北アフリカ 11.2
イチゴ**[注 4](オランダイチゴ) バラ科
Fragaria x ananassa
果実 オランダ[注 7] 9.5
リョウリバナナ[57]プランテンなど) バショウ科
Musa × paradisiaca など
果実、茎葉[57] 東南アジア[57] 44.1[注 8]
トウモロコシ(スイートコーン**など) イネ科
Zea mays
果実 中米または南米 9.8[注 9]
ホウレンソウ*** ヒユ科
Spinacia oleracea
西南アジアから中央アジア 33.1
キャベツ***、カリフラワー**、ブロッコリー**など アブラナ科
Brassica oleracea
葉、腋芽、茎、花芽 地中海沿岸域 72.6[注 10]
26.0[注 11]
ハクサイ***、コマツナ**、ミズナ**、チンゲンサイ**など
カブと同種
アブラナ科
Brassica rapa
茎葉、花芽 ヨーロッパ西南部から西南アジア
レタス*** キク科
Lactuca sativa
茎葉 地中海沿岸域から中近東 27.1[注 12]
アーティチョーク キク科
Cynara scolymus
花芽 地中海沿岸域 1.5
フキ** キク科
Petasites japonicus
葉柄、花茎[58] 日本
シュンギク[33]** キク科
Glebionis coronaria
茎葉[33] 地中海沿岸域
ミツバ[33][59]** セリ科
Cryptotaenia canadensis
茎葉、根[59] 日本
セロリ[33][60]** セリ科
Apium graveolens
茎葉、根[注 13]、種子[33][60] 地中海沿岸域
アスパラガス** キジカクシ科
Asparagus officinalis
南ヨーロッパ 8.8
ミョウガ** ショウガ科
Zingiber mioga
花芽、茎 アジア東部
ネギ***、ニラ**、リーキワケギ**など ヒガンバナ科
Allium spp.
中国など 2.1
タマネギ***、エシャロット[注 14] ヒガンバナ科
Allium cepa
鱗茎 中央アジア 115.5
ニンニク** ヒガンバナ科
Allium sativum
鱗茎、茎葉 中央アジア 29.1
ラッキョウ** ヒガンバナ科
Allium chinense
鱗茎 インドから中国
ダイコン***(カイワレダイコンを含む)、ハツカダイコン(ラディッシュ) アブラナ科
Raphanus sativus
、葉、スプラウト ヨーロッパ
カブ**
ハクサイミズナコマツナチンゲンサイなどと同種
アブラナ科
Brassica rapa
根(胚軸)、葉 ヨーロッパ西南部から西南アジア 42.2[注 15]
ニンジン*** セリ科
Daucus carota
根、葉 中央アジア 42.2[注 15]
ゴボウ** キク科
Arctium lappa
根、葉 ユーラシア
サツマイモ** ヒルガオ科
Ipomoea batatas
中南米 86.4
キャッサバ トウダイグサ科
Manihot esculenta
中南米 330.4
ジャガイモ*** ナス科
Solanum tuberosum
地下茎 南米 374.7
ハスレンコン**) ハス科
Nelumbo nucifera
地下茎 中国またはエジプト
タロイモサトイモ***、ハスイモなど) サトイモ科
Colocasia spp. など[注 16]
地下茎、葉柄 東南アジアなど 17.7
ヤムイモヤマノイモ**[注 17]ナガイモなど) ヤマノイモ科
Dioscorea spp.
地下茎(担根体[注 18] 世界の熱帯域 88.2
ショウガ** ショウガ科
Zingiber officinale
地下茎、葉 不明 4.8
シイタケ** ツキヨタケ科[71]
Lentinula edodes
子実体 東アジアから東南アジア

歴史

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野菜の誕生

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人類による農耕は、約1万年前に始まったと考えられている[72][73][74]中近東では、このころオオムギコムギとともに、エンドウヒラマメの栽培が始まった[75]。また紀元前6000–5000年ごろにタマネギなどの栽培が始まったとされるが、多くの野菜は紀元前1000年以降に成立したと考えられている[73]。20世紀前半に、バビロフ(N. I. Vavilov)はさまざまな情報から野菜を含む栽培植物の起源地を推定し、その多くが中国インドから東南アジア中央アジア近東地中海沿岸アフリカサヘル地帯およびエチオピア高原)、中米南米(主にアンデス山脈)の8地域を起源としていると考えた[76](下表)。この説は現在でも主要な点は受け入れられているが、疑問視される点もある[76]。また主食の栽培については、四大文明などで見られた穀物の「種子農業」の他に、ヤムイモタロイモバナナ(これらは現在、野菜として扱われることもある)の株分けなどによる「栄養体農業」(根菜農耕)も古い起源をもつと考えられ、これが最古の農業とする意見もある[74][72]

バビロフによる栽培植物の8大中心地[76][77]
地域 代表的な栽培植物
中国(西部から中部) ダイズアズキモモハクサイソバなど
インドから東南アジア イネサトウキビバナナココヤシタロイモキュウリナスなど
中央アジア タマネギソラマメリンゴ西洋ナシホウレンソウダイコンブドウなど
近東小アジアからカスピ海東方) コムギオオムギライムギニンジンなど
地中海沿岸 オリーブアスパラガスエンドウヒヨコマメキャベツサトウダイコンレタスなど
アフリカサヘル地帯およびエチオピア高原 モロコシオクラコーヒーゴマなど
中米 トウモロコシインゲンマメニホンカボチャトウガラシサツマイモなど
南米(主にアンデス山脈 パイナップルラッカセイセイヨウカボチャキャッサバトマトトウガラシジャガイモなど


野生植物が野菜となっていく過程では、野菜として望ましい特徴をもつものが選抜されていった[73]。近縁の野生植物と比べ、野菜は食用部位が発達しており、果菜類では果実が、葉茎菜類では茎葉が、根菜類地下茎が大きくなっている[73]。最初期の栽培トウモロコシは長さ数センチメートルほどで各果実("粒")も小さく不整列であったが、時代を追って現在のように全体も各果実も大型で整列したものへと変わっていったことが知られている[78]。また、短期間で収穫できるように成長が速く、さらに芽生え、成長、結実が揃っているものが望まれ、品種改良されていった[73]#育種参照)。

日本における歴史

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フキセリミツバウドなど、日本原産の野菜も存在するが、ほとんどの野菜は日本列島の外で栽培化された後に持ち込まれたものである[17][79]

その移入の歴史は古く、縄文時代の遺跡である福井県鳥浜貝塚において、リョクトウエゴマシソなどの果実・種子が出土し、縄文時代前期(約6000年前)には栽培されていたと考えられている[80][81]。この発見は、弥生時代の稲作伝来以前からすでに農耕が行われていたこと、および縄文時代にすでに遠隔地で栽培化されていた野菜(リョクトウやエゴマ、シソはインドから東南アジア原産)が伝来するほどの広範囲な交流があったことを示唆している[82]。また、鳥浜遺跡ではゴボウも報告されている[80]。ゴボウは、中国では古くから薬用として利用されていたが、日本で野菜として栽培化されたと考えられており、10世紀には日本の文献に見られるようになる[33]

1世紀ごろまでにはゴマサトイモニンニクラッキョウヤマイモトウガンなどが伝来しており、古墳時代にはナスキュウリササゲネギが伝来した[83]

古事記日本書紀にはカブダイコンセリニラアズキダイズマクワウリハスタケノコの、万葉集にはジュンサイヒシタデなどの記述が存在する[84][85][86]。このほか、現代ではあまり食用にはされない水葱(なぎ、現代のミズアオイコナギ)や羊蹄(しのね、現代のギシギシ)、蕃菜(現代のアサザ)などが食用とされていた[87][86]。万葉集にはレタスも「萵苣」(わきょ/ちしゃ)の名で記されている(結球性のレタスは明治時代になってからの伝来)[88][86]

江戸時代に入り、経済が成長すると野菜の需要も高まり、特に一大消費地である江戸の周辺では大量の野菜が栽培され都市へ運び込まれるようになった。小松菜練馬大根などのように、地名をつけブランド化する野菜が現れ始めたのもこのころである[89]。こうした傾向は江戸に限ったことではなく、京野菜加賀野菜をはじめ、各地で特色ある野菜が開発され定着したのも江戸時代のことであった。またニンジンホウレンソウジャガイモサツマイモも江戸時代に伝来し、江戸時代後期には野菜の種類は著しく増加した[4]

明治時代に入ると文明開化の潮流とともに、タマネギトマトキャベツをはじめとする西洋野菜が多く流入した[4]。また第二次世界大戦後では、1975年以降にさまざまな中国野菜が伝来し、日本の野菜はより多様なものとなった[4][44]

育種

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上記のように、野生植物から野菜になる過程でより望ましいものが選抜され、また長い栽培の歴史の中でより利用価値が高い品種(栽培品種)が作出されてきた(育種[90]。現在では、野菜が供給される際には、生産者、流通・加工業者、消費者(摂食者)の間を流通することになるが、それぞれにとって望ましい性質がある[91]。生産者にとっては栽培が容易であり(病虫害や環境変化への耐性)、生産量が多く、高価で一定の形状であることが望ましい[91]。流通・加工業者にとっては、流通が容易で貯蔵性が高いこと、安価で大量に安定的に入手できること、高価に販売できることが望ましい[91]。消費者にとっては、新鮮で外観、栄養成分、食味が良く、安全であり、安価であることが望ましい[91]。このようなさまざまな要望に応える形で、さまざまな品種改良が行われている。

在来品種である聖護院大根

遺伝的変異体の入手には、栽培したものの中からの選抜、他の地域からの導入、人為的な交雑、倍数化突然変異の誘起などがある[92][93][94]。また近年では、特定の遺伝子を改変(外来遺伝子の挿入、既存遺伝子の編集など)による品種も作出されている[95]下記参照)。これらを元に、優良な個体から種子を取ることを繰り返し、特性を固定していくことで遺伝的に均一な品種が作出され、このような品種は固定品種(固定種)とよばれる[96][97]。また、特定の地域で長年維持されてきた品種は在来品種(在来種[注 19]、地方品種)とよばれる[99][100][96][97]。一般的に、在来品種は近代的な育種の対象とはならなかったため、遺伝的多様性が残っている[99]。在来品種の中には、京野菜加賀野菜など、地域ブランド化されている例もある[100]

現在、日本で流通している野菜の多くは、F1品種(一代雑種、雑種第一代、交配種、ハイブリッド品種)である[93][94][96][97]。日本におけるF1品種の普及は1955年ごろから始まり、21世紀にはキク科マメ科を除いて栽培される野菜の多くはF1品種となっている[101][102]。F1品種は、それぞれほぼ純系だが互いにやや遠縁な両親の間の交雑による第一代目雑種のことであり、両親の長所を併せもち、雑種強勢により大きさ、耐性、収量などの点で両親をしのぐことがあると同時に、個体どうしがよくそろっている[94][92][103][104]。ただし、このような最適な組み合わせを見出すためには多数の試行が必要である[96]。自殖性(自家受精を行う)の野菜では雑種を得ることが難しいが、雄蕊の葯を除去(除雄)したり雄性不稔の遺伝的性質を付与するなどして、F1品種を得ることが行われている[104][101]。ただし、F1品種の特性は一代限りであり、第二代目以降ではふつう雑種強勢が失われ、また特性が不ぞろいになるため、F1品種から種子を取って翌年栽培しても一代目と同じ特性の野菜には育たない[104]。そのため、F1品種では種苗会社が種子を生産し、栽培農家が毎年その種子を購入する必要がある[97]

同一の野菜において、さまざまな栽培品種が作出されていることがある。品種名には、産地の名前が由来となっているもの、地域で特別に名付けたもの、品種改良を行った人物や種苗会社が名付けたものなどさまざまである[97]。品種名がそのまま商品名(商標名)となったり、同じ品種でも産地によって異なる商標名になることもあり、地域の特産品になるとブランド名として独自の名前をつけることもある[97]

生産

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世界

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中国の農場
インドのジャガイモ農場
アメリカ合衆国のキャベツ農場

下表では、2021年における野菜生産量が多い国を列記している[105]。生産量が最も多い国は中華人民共和国であり、一国で世界の半分以上の生産量があった。2位以下はインドアメリカ合衆国トルコナイジェリアエジプトの順となっている。野菜耕地面積も、中国が飛び抜けて広い。一方、単位面積当たりの野菜の収穫量が多い国は、ウズベキスタン大韓民国スペインなどである。

野菜生産量上位国(2021年)[105]
栽培面積
(1,000ヘクタール)
単収(トン/ha) 生産量
(1,000トン)
中華人民共和国 23,394 25.7 602,344
インド 8,897 15.5 137,988
アメリカ合衆国 829 33.7 27,917
トルコ 677 39.4 26,646
ナイジェリア 4,142 3.8 15,795
エジプト 639 24.4 15,571
メキシコ 695 21.2 14,747
ロシア 490 27.6 13,544
スペイン 338 40.0 13,536
インドネシア 1,198 10.9 13,010
イタリア 332 34.5 11,441
ベトナム 1,003 10.7 10,741
ウズベキスタン 222 46.6 10,348
日本 370 27.5 10,177
ウクライナ 461 21.6 9,959
大韓民国 230 42.5 9,769
イラン 323 28.9 9,331
ブラジル 350 24.5 8,572
アルジェリア 301 25.4 7,652
バングラデシュ 709 10.3 7,318
パキスタン 584 12.1 7,074
世界総計 58,034 19.9 1,154,598

日本

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日本における野菜[注 20]の生産量は1980年ごろをピークとして年々減少しており、2020年には1150万トンほどであった[106]。1960–1970年代には野菜自給率はほぼ100%であったが、次第に減少している[106][107]。家計消費用の野菜においては国産割合がほぼ100%であるが、加工・業務用の野菜における国産割合は約7割となっている[107]。作付面積は減少しているが、全農業作付面積に占める割合は13–14%ほどでほぼ一定である[108]。産出額は1980年代から2兆数千億円でほぼ一定している[109]。また、1人あたりの野菜供給量も1980年代までは 300 g/日 以上あったが、2020年には 244 g/日まで減少している[106][107]

日本における野菜[注 20]生産量、輸入量、自給率、作付面積、産出額の推移
生産量
(1,000トン)[106]
輸入量
(1,000トン)[106]
自給率
(%)[106]
作付延べ面積 (ha)
[全作付延べ面積に
占める割合 (%)][108]
産出額 (億円)
[農業総産出額に
占める割合 (%)][109]
1人当たり供給量
(g/日)[106]
1960 11,742 16 100 811,600[10] 1,741[9] 273.1
1970 15,328 98 99 838,100[13] 7,400[16] 316.2
1980 16,634 495 97 761,500[13] 19,037[19] 309.4
1990 15,845 1,551 91 735,900[14] 25,880[23] 297
2000 13,704 3,124 81 619,500[14] 21,139[23] 280.6
2010 11,730 2,783 81 547,900[13] 22,485[28] 241.5
2020 11,511 2,987 80 [注 21]521,300[13] 22,520[25] 244.2


日本では、野菜農業の健全な発展と消費の安定のため、野菜生産出荷安定法(野菜法)によって、主な野菜について生産および出荷の安定と価格の安定を図っている[110][111]。そのため、主な野菜について、一定の生産地域の生産および出荷の近代化を計画的に推進するとともに、その価格が著しく低落した場合の生産者補給金の交付、あらかじめ締結した契約に基づき野菜の確保を要する場合における交付金の交付等の措置を定めている[111][112]。生産者補給金は、補償基準額(平均価格の9割)を下回った場合(最低基準額あり)に、出荷数量に応じて、最大で差額の90%が補填される[112]。ただし、指定産地で生産されたものであること、登録出荷団体を通じてまたは登録生産者が出荷したものであること、指定された市場等へ一定の出荷期間内に出荷されものであることなどの要件を満たしている必要がある[112]。この法律が適用される野菜は指定野菜とよばれ、トマトナスピーマンキュウリキャベツハクサイレタスホウレンソウネギタマネギダイコンニンジンジャガイモサトイモの14品目が指定されており、また2026年にはこれにブロッコリーが加わる[111][113]。指定野菜の出荷量は、野菜全体の約7割を占めている[114]。また、特定産地における、指定野菜に準ずる35品目の野菜(野菜全体の作付面積の37%、出荷量の23%を占める)では、販売価格が平均価格の8割を下回るとその差額の80%が補填される[114][112]。このような野菜は特定野菜とよばれ、シシトウガラシカボチャスイカメロン(温室メロンを除く)、ニガウリ枝豆グリーンピースサヤインゲンサヤエンドウソラマメ(乾燥品を除く)、オクライチゴスイートコーンブロッコリーカリフラワーコマツナミズナチンゲンサイミツバセロリシュンギクフキアスパラガスミョウガニラワケギニンニクラッキョウカブゴボウサツマイモヤマノイモ[注 17]レンコンショウガシイタケ(生)の35品目が指定されている[114][20]

栽培

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繁殖

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野菜の多くは種子によって増やす(種子繁殖)が、一部の野菜では種イモなどを用いて増やす(栄養繁殖[115]。種子は一般に貯蔵・輸送が容易であり、病原体フリーであり、ふつう繁殖効率がよい[115]。ただし、貯蔵が難しい種子や、植物体あたりの種子数が少なく繁殖効率がよくない植物もあり、このような場合は種子繁殖は向かない[115]。種子は基本的に病原体フリーであるが、病原体が種子に侵入することもあり、生産された種子や輸入された種子は徹底的な抜き打ち検査が行われている[115]。栄養繁殖は初期段階が省略され初期成長が早く、遺伝的に均一で親と同一であることが利点となる[115]。ただし上記のように、現在では種子繁殖であっても遺伝的には均一であることが多い(固定品種、F1品種)。

成熟した種子は休眠状態にあり、ふつう保存が可能であるが、ワサビのように乾燥すると発芽能を失う難貯蔵性種子 (リカルシトラント型種子、recalcitrant seed) もある[115][116]。また貯蔵可能な普通種子(オーソドックス型種子、orthodox seed) の中では、ダイズのような大型の種子は一般的に種子寿命が短いが、トマトオクラのように乾燥状態では100年以上保存可能なものがある[115][101][116]。遺伝子資源の保存として、さまざまな研究機関が種子の保存事業を行なっている[115]

セルトレイで育苗されているカリフラワーの苗

ダイコンニンジンなどの直根類では、移植することによって食用部となる主根が変形してしまうため圃場に直接播種されるが、その他の野菜は一定期間本圃とは異なる場所で苗として育てられてから本圃に移植されることが多い[116]。この育苗の部分は産業的に分離しており、苗を購入することもできる[115]。育苗の利点は、集約的に管理できるため温度変化、乾燥、降雨、強風、病害虫などから幼植物を保護しやすいこと、不良苗の淘汰ができること、本圃の占有期間を短くできることなどがある[116]。育苗にはポットやそれを連結したセルトレイ (plug tray) が用いられ、特に後者では土入れ、播種、育成、定植が集約的に自動化可能になっている[115]。この播種の自動化のため、種子の大きさを揃え、また発芽率を高めるためにコーティングをした種子(ペレット種子、コート種子、コーティング種子、pelleted seed)も開発されている[115][101]。また、種子が揃って発芽することも重要であり、それぞれの野菜種において、種子の休眠を打破して一斉に発芽する技術が開発されている[101][115]。吸水のコントロールによって発芽を揃える方法は、種子プライミング (seed conditioning) とよばれ、浸透圧によって吸水を制限するするオズモプライミング (osmotic conditioning) と、毛管ポテンシャルによって吸水を制限するマトリックプライミング (matric conditioning) がある[115]

作型

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野菜は本来決まった時期()にしか収穫できないものであったが、近年では品種改良や栽培管理技術の発展(ハウス栽培など)、輸送技術の発展による遠隔地からの出荷などによって、おもな野菜は一年中供給されるように周年栽培されている[39][117][118]。したがって、ある時期に出荷された野菜は、他の時期に出荷された同じ種類の野菜とは品種、栽培地、栽培管理の方法などが異なる[118]。季節、品種、適用技術の組み合わせによって類型化された栽培体系は作型とよばれる[117][118]

基本的に一年中露地栽培が可能な葉菜類根菜類では、作型はその播種期によって、春播き、夏播き、秋播き、冬播き(または収穫期によって春穫り、夏穫り、秋穫り、冬穫り)に分けられることが多い[117]。一方、ハウスやトンネルを用いて周年栽培が可能となる果菜類では、以下のように分けられることが多い[117][119][118]

  • 促成栽培: 収穫時期を早めるため、全生育期間をトンネルやハウス内で栽培する。
  • 半促成栽培: 生育前半はトンネルなどで栽培し、生育後半に被覆をとって露地で栽培する。
  • 早熟栽培: 温床で育てた苗を露地に定植し、場合によってしばらくトンネルで被覆した後に被覆をとって栽培する。
  • 露地栽培(普通栽培): 全生育期間を露地で栽培する。
  • 抑制栽培: 収穫時期を遅くするため、冷涼地で栽培(高冷地抑制栽培)、暖地で播種・定植期を遅らせて栽培(暖地抑制栽培)、生育後半をハウス内で栽培(ハウス抑制栽培)する。

施設栽培

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ガラスプラスチックフィルムなどで被覆された環境で作物を栽培することは、施設栽培とよばれる[119][120]。施設栽培にはさまざまな程度のものがあるが(下表)、一般的に気象の影響を受けにくく、また人為的な温度や湿度の制御が可能である。施設栽培は、栽培時期の拡大、病害虫や気象変動からの保護、生産性や品質の向上を目的としている[119][120]。日本では、施設栽培は極めて一般的であり、野菜栽培においてガラス温室が 811 ha、プラスチックハウスが 33,079 ha、雨よけハウスが 6,639 ha、トンネルが 38,364 ha に達した(2009年)[120]

施設栽培に使用される施設[119][120]
施設 形態や材質
ガラス温室 鉄骨アルミの外部骨格と、ガラスの外張りで構成されている。ふつう暖房による加温能をもつ。ガラスは可視光の透過率、保温能、耐久性に優れているが、紫外線透過能を欠く。台風などによる被害が大きく、近年では軽量で耐久性が高いフッ素フィルムが利用されることが多い。
プラスチックハウス
(ハウス)
鉄パイプの外部骨格と、プラスチックフィルムの外張りで構成されている。プラスチックフィルムとしては農業用ポリ塩化ビニルフィルム(農ビ)、農業用ポリエチレンフィルム(農ポリ)、農業用ポリオレフィン系フィルム(農PO)、農業用酢酸ビニルフィルム(農酢ビ)などがある。農ポリは紫外線から赤外線まで広く透過するため、保温性に劣る。農ビは赤外線透過率が低く、保温力が大きいが、劣化が速く破れやすいことから、近年では農POが増えている。ふつう加温能を欠く。
雨よけハウス プラスチックハウスにおける天井部のみを被覆している。降雨による着果不良や実割れなどの障害を回避するために利用される。
トンネル 簡易なアーチ状のパイプや竹材の外部骨格とプラスチックフィルムから構成されており、内部で通常姿勢の人が作業できない大きさである。ふつう結露しにくいフィルムが利用される。不織布寒冷紗が用いられることもある。保温、遮光、風雨からの保護、病虫害防除のために利用される。
マルチ 土壌表面を稲わらやプラスチックフィルムで覆う。地温の調節、雑草や病虫害防除、土壌水分や団粒構造保持、肥料や土壌の流出防止などの効果がある。黒色のポリエチレンフィルムの利用が多いが、アブラムシが嫌う紫外線を反射する銀色のフィルムや、雑草抑制のため除草剤を混入したフィルムを利用することもある。また近年では、生分解性のフィルムも使用される。
べたがけ 寒冷紗や不織布などで作物を直接覆うこと。低温や風害、害虫の侵入を防ぐ。簡単な支柱を設置して作物から浮かせて覆うこともあり、「浮きがけ」とよばれる。

一般的に、施設栽培では外気から遮断されているため、気温地温が高めになるだけではなく、湿度、対流、二酸化炭素量などに影響する[119]。高温時期には、温度上昇を抑えるために遮光することもある[120]イチゴなどでは日長処理のため、赤色光を多く含む低照度(20–100ルックス)の照射が行われることがある[120]。厳冬期には保温のため換気回数が減るが、そうすると施設内の二酸化炭素濃度が低下し光合成速度が極端に低下しやすいため、二酸化炭素施肥をすることがある[119][120]。また、堆肥の利用は、二酸化炭素発生源としての役割ももつ[120]。施設内の土壌水分は、灌水に依存しているため低くなりやすい[119]。また土壌中の肥料養分は降雨によって地下に流亡することがなく、地表からの水分蒸発に伴って肥料養分も地表に移動・蓄積し、このような塩分集積が問題になることもある[119][120]。施設栽培においては、均一な灌水と湿度上昇抑制を可能とする点滴灌水が一般的になりつつある[120]。また、これと液肥を組み合わせることで、養水分を過不足なく与えて塩分集積を抑えることができる[120]。温室やハウス内には訪花昆虫がいないため、受粉が必要な場合は、受粉用昆虫を放したり、人工受粉を行う[119]

施設栽培では、被覆資材によって透過光に違いがあり、使い分けられている[119]赤外線は熱となるため、透過率がよいと昼は暖まりやすいが夜は保温しづらくなる。そのため、ハウス外張りに赤外線を通す資材を使い、夜間に張る内張りに赤外線を反射する資材を使うことで保温性を高めることがある[119]ナスなどでは、果実の着色に紫外線が必要であるため、紫外線を透過する資材が必要である[119]。一方でホウレンソウレタスニラでは近紫外線(波長 200–300 nm)がない方が成長がよい[119]。また、ミツバチは近紫外線がないと行動が不活発となるため、イチゴメロンなどミツバチによって送粉されるものでは近紫外線が必要となる[119]。逆に、一部の害虫も近紫外線で活発になるため、近紫外線を遮断してこのような害虫の活動を抑えることもある[119]。同様に、一部の病原菌は近紫外線がないと胞子形成など生殖が抑制されるため、紫外線カットフィルムによって防除することがある[119]

薄膜水耕による葉菜類の栽培

プラスチックハウス温室での栽培が普及するとともに、土壌を使わずに培養液(水に肥料を溶かしたもの)を用いた養液栽培(soilless culture)が発達してきた[119][120]。土壌の代わりに軽石ピートモスロックウールなどを用いる固形培地耕と、ウレタンなどの少量の支持材のみで固形培地をほとんど用いない水耕 (hydropnics) がある[119][120]。水耕の中には、比較的深い水深の培養液を用いる湛液水耕 (DFT)、浅い水深の培養液を用いる薄膜水耕 (NFT)、根に培養液を噴霧する噴霧耕がある[119][120]。特に、トマトイチゴ栽培で利用されている[120]。培養液の組成・濃度は、種や生育段階、日々の気象条件によって大きく変動する[120]。養液栽培では培地や培養液の滅菌が容易で不足した成分もすぐに添加できる[119]。養液栽培では、培養液を循環再利用する循環式(閉鎖式)と循環しない掛け流し式(開放式)があり、前者では培養液の組成変更や根からの分泌物による成長阻害、病原菌が侵入した際の急速な蔓延が、後者では廃液量がそれぞれ問題になる[119][120]

管理されたトマト栽培
人工光型植物工場

施設栽培の究極の形として、植物工場 (plant factory) がある[119][121]。植物工場とは、一定の機密性を保持した施設内で、環境・生育のモニタリングを基礎とした高度な生育予想と高度な環境制御を行うことにより、季節や天候に左右されない作物の周年・計画生産ができる栽培施設のことである[119][121]。環境制御において、植物地下部では養液によって管理し、地上部では温度、湿度、光、二酸化炭素濃度を制御する[121]。日本においては、2020年現在で約400箇所の商業施設での事業化が進んでおり、レタスなど葉菜類を中心に、またトマトイチゴで多収化・周年化を実現している[121]。植物工場の中には、半閉鎖環境で太陽光を利用した太陽光型植物工場と、閉鎖環境で人工光のみを利用する人工光型植物工場がある[119][121]。トマトやイチゴでは栄養成長と生殖成長を同時に連続して行い、強光が必要であるため、太陽光型植物工場で多段栽培が行われている[121]。一方、レタスなどの葉菜類では生育期間が比較的短く、LEDなどの人工光源を設置した多段ベッドで密植栽培すると単収が飛躍的に大きくなるため、人工光型植物工場で生産されている[121]。植物工場の利点は天候に左右されず、連作障害や病害虫発生がほとんどないことから、計画生産、安定雇用、無農薬栽培、高付加価値産物の生産、省力・自動化が可能な点にある[119][121]。また培養液の循環利用では、環境負荷が小さい[121]。立地条件を選ばないため、土壌汚染地や海上でも可能であり、今後の食糧生産を支える存在として期待されている[121]。一方で、課題は建築・ランニングコストが膨大になる点である[119][121]

病虫害・雑草

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野菜の栽培では、病害や害虫が問題となる[122][123]。これに対する防除方法として、下表のようなものがある。

病虫害に対する主な防除方法[122]
区分 おもな防除方法
耕種的防除
  • 抵抗性品種の利用
  • 栽培管理の改善(適切な施肥、輪作、混作、圃場衛生の改善、栽植密度の改善など)
  • 障壁植物の利用
生物的防除
物理的防除
  • 圃場全体、入り口、畝、植物、果実などの被覆・袋がけ
  • 光の利用(アルミ蒸着フィルムのマルチによる紫外線反射、紫外線カットフィルム、防蛾灯など)
  • わら巻きや粗皮削りによる越冬病害虫防御
  • 熱利用(湯による種子、土壌消毒など)
農薬による防除

病害

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野菜栽培では、菌類細菌ウイルスによる病害が問題になる[122]。病害防除にはふつう農薬が使われるが、現代では減農薬が課題となっており、適切な農薬の適量の散布のためには、病害診断が重要である[122]。また、農薬による防除以外の方法を併用して総合的に防除することが重要とされる[122]。多くの殺菌剤の作用機作は病原菌の代謝阻害であるが、殺菌剤の過使用は耐性菌の出現につながり、問題となっている[122]。植物自身の抵抗性を高める農薬である抵抗性誘導剤は、病原菌に直接作用しないため耐性菌が出現しにくく、近年注目されているが、予防的なものであり治療効果は低い[122]。生物農薬は「環境に優しい」とされるが、効果が安定しない[122]。ほとんど病徴を示さない弱毒ウイルスを感染させることで、強毒性のものを含むそのウイルス群に対する耐性を付与することができ(人間におけるワクチン接種と類似した考え)、日本ではそのようなトマト苗が長年使われている[122]

害虫

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生物農薬として利用されるチリカブリダニ

吸汁や食害、病原菌を伝播することで野菜に対して害を与える害虫として、昆虫ダニセンチュウなどがある[123]。害虫に対する農薬(殺虫剤)としては、下表のようなものがある[122]。このような殺虫剤は広く使われているが、その多用は土着天敵を含む生物相を貧弱にし、害虫発生を増加させたり、薬剤耐性害虫の出現を招いたりする[122]。そのため、殺虫剤以外のさまざまな防除法を組み合わせ、環境負荷を低減しつつ害虫の個体数を制御すること(総合的有害生物管理、IPM)が目指され、特に天敵を利用した生物的防除の重要性が認識されている[122]。このような天敵の中には、製品化されたものもあり、天敵農薬とよばれる[122]。また、天敵の利用には、植生を含めた周辺環境の整備が重要である[122]。植物は、害虫の食害を受けた際に特殊な物質(植食者誘導性植物揮発性物質、HIPV)を放出し、これによって食害した害虫の天敵を誘引することがあるが、これを生物学的防除に利用することも試みられている[122]

殺虫剤のタイプと特徴[122]
タイプ 特徴
消化中毒剤 植物に付着し、これが害虫に摂食されることで取り込まれ、殺虫効果を発揮する。
接触剤 害虫体表に付着・吸収されて殺虫効果を発揮する。
燻蒸剤 気化させて害虫の呼吸器系から取り込まれて殺虫効果を発揮する。
浸透移行性剤 体表または土壌から植物体内に取り込ませ、これが害虫に摂食されて殺虫効果を発揮する。

雑草

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耕地など人間によって撹乱された場所に生育し、栽培植物に害を与える植物は雑草とよばれる[124]。雑草は作物より短期間で発芽、成長、繁殖し、光や養分を巡って作物と競争することで害を与え、また病虫害の発生源ともなる[124]。雑草の生育速度や養分吸収能は一般的に作物よりも大きいため、作物の収量低下を引き起こす[124]。雑草は多量の種子を生産し、種子は早熟性で発芽可能期間が長いため、完全に除去することは難しい[124]。雑草の化学的防除としては、除草剤や生育抑制剤の利用がある[124]。除草剤は光合成経路など生理代謝を阻害して枯死させるものであり、イネ科雑草や双子葉類雑草いずれかに効果があるものと、両方に効果があるものがある[124]。除草剤の中には、土壌表面に施用して雑草の種子や芽生えに吸収される土壌処理剤と、雑草の茎葉に施用して吸収される茎葉処理剤があり、さらに後者には接触した組織のみを枯死させる接触型と吸収されて全体を枯死させる吸収移行型(全草型)がある[124]。農薬以外には、手作業や道具、機械による土壌表面の撹乱や耕起、マルチ(上記参照)などの物理的防除、作物や被覆植物(緑肥植物など)を成長させて畝間の照度を下げる生物的防除がある[124]。また、作物には影響がないが雑草を阻害するアレロパシー作用をもつ植物を導入し、雑草防除に用いることもある[124]

コンパニオンプランツ

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タマネギとニンジンの混植

混植することで主作物の生育を助長したり、病害虫の発生・被害を低下させる植物は、コンパニオンプランツとよばれる[124]ヒガンバナ鱗茎には猛毒アルカロイドであるリコリンが含まれており、混植によるネズミモグラ対策として古くから利用されてきた[124]。また、ネギニラ根圏には、Barkholderia gladioliPseudomonas florescens が生育しており、ウリ類のつる割病菌やトマトの根腐萎凋病菌などに対する抗生物質を分泌するため、混植するとこれら病原菌の増殖を抑えることができる[124]。主作物と根圏が一致することが重要であり、ネギはウリ科作物(キュウリユウガオスイカメロンカボチャなど)と、ニラはナス科作物(トマトナスピーマンジャガイモなど)と混植すると効果的とされる[124]

バンカープランツ

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圃場への侵入を妨害するなどして害虫の飛来や雑草侵入を低下させたり、土着天敵の住みかになるなどして病害虫の被害を低下させる植物は、バンカープランツとよばれる[124]。バンカープランツは、主作物と害虫が共通しないこと、水や栄養、光を巡って主作物とあまり競合しないこと、雑草化しないことなどを留意して選択される[124]ナスなどの圃場周囲にムギ類やソルゴーなど伸長性のある植物を栽培することでアブラムシ類やアザミウマ類の侵入が抑制され、またアブラムシの土着天敵(テントウムシクサカゲロウヒラタアブなど)の住みかとなって被害を軽減する[124]。作業用通路と作物の間にエンバクコスモスヒマワリを栽培し、雑草侵入を防ぐこともある[124]。また、2006年以降のポジティブリスト制では、作物ごとの登録農薬使用が厳格に決められており、異なる作物の間に高く伸長するバンカープランツを植栽することで、対象以外の農薬が飛散することを防ぐことがある[124]

流通

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日本において、野菜は以下のような経路で流通しており、カッコ内は2005年の推計量(万トン)を示している[125]。国産野菜 (1500) の多く (1000) は、生産者から直接または卸売市場を通して八百屋スーパーマーケットなど小売業者に流通し、ここから最終消費者に渡る (640)[125]。この過程の一部 (260)、および生産者からの一部 (300) は加工業者・業務用需要者(外食産業など)に流通し、そこから直接(外食など)または小売店を経て(加工品など)最終消費者に渡る (560)[125]。また国産野菜の一部 (200) は、小売業者などを介さず、自給・贈答・直売などの形で最終消費者に渡る[125]。一方、輸入生鮮野菜 (100) も同様に、直接または卸売市場を経て小売業者に流通して最終消費者に渡るもの (20) と、加工業者・業務用需要者を経るもの (80) がある[125]。輸入野菜においては加工野菜の比率が高く (300)、小売業者 (100) または加工業者・業務用需要者 (200) を経て最終消費者に渡る[125]。このように、最終的に消費者に渡った時点で、非生鮮品(加工品、外食品など)は生鮮品よりも多くなっている(2005年時点)[125]

収穫した農作物の貯蔵・品質管理全般のことは、ポストハーベスト (postharvest) とよばれる[126]。農作物は収穫後も生きており、呼吸による成分の消費や蒸散による乾燥が進行する[126][127]。また、トマトマスクメロン果実クライマクテリック型果実 (climacteric fruit) とよばれ、エチレン生成を引き金として呼吸が急速に上昇、老化する[126]。これらを抑えるための重要な環境因子は、温度湿度、ガス環境である[126]。品質を維持するために最も効果的であるのは低温であり、呼吸や蒸散が抑えられ、エチレンも減少する[126]。農産物が生産現場から消費に至る全過程を通じて低温に管理されている状態が望まれ、これはコールドチェーン(低温流通技術、cold-chain)とよばれるが、現状では必ずしも確立していないこともある[126][128][129]。湿度が高ければ蒸散が抑えられるが、微生物が繁殖しやすくなり腐敗が問題になる[126]。ガス環境では、低酸素・高二酸化炭素条件にすると、呼吸やエチレン生成が抑えられる[126]。ただし、貯蔵中に低温が原因となる生理障害や呼吸による二酸化炭素濃度上昇に起因する生理障害が起こることがあり、注意を要する[126]

野菜の呼吸活性は、収穫直後に最も高い。そのため、収穫した野菜を迅速に冷却して呼吸・蒸散を抑える予冷 (precooling) を行う[126][128]。日本で行われている主な予冷方式としては、以下の3つがある[126][128]

  • 強制通風冷却 (forced-air cooling): 冷風を段ボール箱などに吹き付けて冷却する。設備費は安いが、冷却に時間(12–24時間)がかかる。
  • 差圧通風冷却 (static-pressure air cooling): 冷凍機は強制通風と同じであるが、ファンによって圧力差を形成して段ボール箱内に冷風が流入するようにする。強制通風に比べて短時間(4–8時間)で冷却できるが、作業面積が小さくなる。
  • 真空冷却 (vacuum cooling): 庫内を減圧して生産物の水を蒸発させ、その気化熱で冷却する。設備費は高いが、短時間(20–30分)で冷却できる。水分が蒸発しやすい葉菜類で多く使われる。

農作物は、工業製品とは異なり大きさや品質などはばらばらであるが、一定の基準に従って選別される[126]。日本では、世界的に類を見ないほど厳しい基準で選別が行われている[126]。曲がり具合や着色程度などの見た目の評価は「等級」とよばれ、目視で判別されていたが、近年ではカメラで得られた画像を解析することで自動的に選別することも多い[126][128]。また、このような外観的基準のみではなく、光センサーを用いて糖度や内部変色などの情報も利用されるようになっている[126][128]

野菜の品質管理においては、プラスチックフィルムによる包装が重要な働きをもつ[126][128]。一般的な食品包装では水分やガスの出入りが少ないフィルムが利用されるが、野菜は生きているため、適度な水分・ガス透過性がないと、品質劣化を助長することになる[126]。材質としては、ポリプロピレン (PP) やポリエチレン (PE)、ポリスチレン (PS)、ポリ塩化ビニル (PVC) がある[126]。ポリプロピレンは透過性、ヒートシール性(熱による接着)、強度において優れているが、水蒸気透過性が低いため曇りが生じて中が見えにくくなる[126]。これを解決するため、フィルムに界面活性剤(食品添加物として認可されているもの)を練りこんだフィルムもつくられている[126]。また、ガス透過性を上げるため、ポリプロピレンフィルムにレーザーによって微細な孔を開けたものも開発されている[126]。このようなプラスチックフィルムは我々の生活に深く入り込んでいるが、一方で廃プラスチックの流れもあり、今後のさまざまな利用形式が検討されている[126]

近年では、剥皮、成形切断、洗浄した生の野菜が流通しており、カット野菜とよばれる[130][91][128][25]。カット野菜には、外食産業や給食施設など業務用、および少量で包装した消費者用がある[91]。用途別も多様であり、生食用や煮物、天ぷらなど加熱加工用がある。近年需要が増加しており、カット野菜に適する品種が選定されている例もある[91]。カット野菜は切断ストレスを受けているため微生物に対する抵抗性が低く、また呼吸量が大きく栄養成分の低下や変色が起こりやすい[91][128][130][131]。その品質保持のために、次亜塩素酸などでの洗浄、不活ガス充填などの処理が行われ、低温保管されている[91][132]

調理

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野菜を主とする料理は、野菜料理とよばれる[133]。また、野菜は付け合せ薬味として利用されることも多い[37][134][135][136][137]

ショウガの皮むき
下ゆでしたブロッコリー

野菜の下ごしらえは、ふつう洗うことに始まる[138][139]。野菜の種類や形により、流水・ため水・ぬるま湯、手洗い・たわし・ふきんなどを使い分ける[139]。根付き野菜は、水につけて洗うことによって根元付近に付着した泥が落ちやすくなる[138]。下ごしらえは多様であり、へたなど不要部を取る、皮をむく、種子を取る、水や塩水につけるなど野菜によってそれぞれ異なる[138][139]。切った野菜を水につけると吸水してシャキッとした新鮮さが得られるが、塩をまぶして揉むことで脱水させてしんなりとした食感を得ることもある[138][91]。下ゆでをする際には、葉菜はたっぷりの湯を沸騰させてから短時間で茹で上げるようにするが、根菜は水から入れてじっくりと加熱し、デンプン質が多い芋類は、加熱に時間をかけることによって単糖二糖がふえて甘くなる[140][139]。特に緑色の素であるクロロフィルは壊れやすいため、加熱時間の短縮などが必要となる[141]下記参照)。ゆで上がった野菜のさまし方には、水で急激にひやす、水に落とさずざるなどにあげてでさます、ゆで汁につけたままさます、などがある[139]電子レンジを用いると、固めの野菜でも短時間で加熱できるが、野菜全体をラップで包んで水分が抜けることを防ぐ[142]。電子レンジで加熱すると、ガスレンジで加熱するよりも短時間で火が通り、ビタミンの損失が少なく済むというメリットがある[143]灰汁(あく)が強い野菜の場合は、下処理として水や熱湯にさらしたり、これに重曹ミョウバンなどを加えて灰汁抜きをする[138][142][139][143]。乾燥野菜(切り干し大根かんぴょう大豆など)は、水やお湯などで柔らかくもどす[139]

野菜を切るときは食べやすさ、食感、味、見た目を考えて、輪切り半月切りいちょう切り色紙切り短冊切りかつらむき千切り千六本角切り(さいの目切り)、あられ切りみじん切り小口切り拍子切りくし形切り細切り斜め切り乱切りささがきなど、料理に合わせたさまざまな切り方がある[144][145][139]。また、野菜の色合いなどを生かした切り方として飾り切りがあり、切り違い、たちばなむき、蛇腹、矢羽根、六方むき、より切り、蛇かご、網けん、花切りなど知られる[139]

野菜は生食するものから、焼く炒める煮る蒸す揚げるものなどがある[133]

サラダなどで生で食べる野菜は、加熱で失われやすいビタミンなどを効率よく摂ることができる[142]。生野菜のみずみずしさ、香り、爽やかな歯ごたえは加熱野菜では得られない魅力がある[146]。一方、ゆでた野菜をサラダにすることもある[133]。野菜を加熱したものにも特有のおいしさがあり、加熱によって失われる栄養素もあるが、かさが減ることで食べる量が多くなり、結果的に加熱した方が多くの栄養を摂ることができることもある[146]。日本では、ゆでた野菜を和え衣で和えたさまざまな和え物(ごま和え、酢味噌和え、ぬたなど)があり、材料の水をよくきること、冷ましてから、食べる直前に和えることがポイントとされる[133]。ゆでた野菜をだし汁に浸して味付けしたものはおひたしとよばれる[133]

野菜炒め

野菜を焼く場合は、網や串で焼く直火焼きと、オーブンや鉄板で焼く間接焼きがあり、いずれも野菜表面の水分が抜けて素材の旨味も凝縮されて、かさも減るため生野菜よりも多く摂ることができる[142][133]。野菜を焼く場合、干からびないようにあらかじめ下煮をしておいたり、針うちや隠し包丁などで火を通りやすくすることが重要とされる[133]ナスサトイモは、串焼きにしたものに味噌をかけて田楽とすることもある[133]

野菜を炒める場合は、一般的に短時間に火を通すことで栄養成分を壊さずに野菜の風味や色を引き立たせることができるとされる[133]脂溶性ビタミンビタミンA(実際にはその前駆体であるカロテノイド)やビタミンDの吸収率を上げる調理法であり、短時間で炒めるとビタミンCの損失量も少なくなる[142][141]。材料の大きさを切りそろえ、火の通りにくいものから炒める[133]。材料を下ゆでしたり油通ししてから炒めることもある[133]きんぴらごぼうソテー野菜炒め五目炒めなどがある[133]

野菜を煮る料理としては、ゆっくり煮て味を含ませる含め煮、濃い味付けで煮る煮しめうま煮、油で加熱してから煮る油煮、炒めてから煮るラタトゥイユ、少量の煮汁で蒸すように煮るプレゼなどがある[133]ニンジンタマネギカブを水、バター砂糖などで煮汁がなくなるまで煮あげたものはグラッセとよばれる[133]。野菜を蒸すこともあり、旨味や栄養分を損なわずに加熱できる[142]。野菜を柔らかくゆでてから裏ごしし、バター牛乳生クリームなどを加えたものはピューレとよばれ、グリーンピースニンジンジャガイモなどが使われる[133]インドなどでは、豆を煮てスープやカレーなどにしたものの消費量が多く、重要なタンパク質源となっている[147]ジャガイモを茹でてつぶしたものに、野菜やハムを混ぜてマヨネーズで味付けしたものは、ポテトサラダとよばれる[148]

野菜の揚げ方には、そのまま揚げる素揚げ小麦粉をまぶして揚げる唐揚げ、衣をつけて揚げる衣揚げ(天ぷら)、パン粉をつけて揚げるフライなどがある[133]。野菜の衣揚げは、精進揚げともよばれる[133]。野菜の色を生かすために、ふつうやや低温で揚げる[133]。油で揚げると、野菜の水分が適度に抜けて甘味が出る[142]。クセの強い野菜は油で揚げると食べやすくなるため、山菜や苦味のある野菜に向いている調理法である[142]ジャガイモを切って油で揚げたものは、フライドポテト、フレンチフライ、フレンチポテトとよばれ、付け合せファーストフード店で一般的である[149]サトイモナスは、揚げたものにかけ汁をかけて揚げ出しとすることもある[133]。また、茹でてつぶしたジャガイモタマネギひき肉などを加えてフライにしたものは、コロッケとよばれる[133]

加工食品

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野菜は保存性が良くないため、加工品にして保存性を高めることがあり、またこれによって生食とは異なった食味をつくりだすこともある[91]

漬け物

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漬物

生野菜に食塩などを加えて保存することによって水分を除き、保存性が増すとともに特有の風味がある漬物をつくることは世界中で行われており、特に日本では漬物の生産量や種類が多い[150][91][151]。熟成期間や漬け床の成分により、素材への浸透や成分変化、微生物による発酵の有無などに多様性がある[91]。低塩分(2–5%)では、素材野菜の風味を保ちながら、野菜の自己消化によりアミノ酸が増加し、旨味が形成される[91]。このような漬け物には、ハクサイ漬け、野沢菜漬け、ナス漬け、キュウリ漬けなどがある[91]。高塩分(5–10%)の発酵漬け物では、微生物が産生する乳酸アルコールによって特有の風味が形成される[91]。このような漬け物には、沢庵漬けすぐき漬け柴漬けなどがある[91]。さらに高塩分(13–18%)であると野菜の自己消化や微生物の増殖が抑制されるため、保存性が高くなり、二次加工の原料となる[91]。このような原料を水で脱塩して調味料を加えることによって、この調味料の味を主体とした漬け物となり、例として福神漬け奈良漬けがある[91]。近年では浅漬けや低塩漬け物の需要が大きいが、これらは腐敗に弱いため、品質保持のための低温や包装殺菌が行われている[91]。ほかにも、精米の副産物であるぬか()を微生物で発酵させて野菜を漬け込んだぬか漬けや、・水・砂糖を煮溶かした甘酢に漬け込んだ甘酢漬けなどもある[150]。また、トウガラシハクサイなどを用いたキムチキャベツを用いたザワークラウトキュウリなどを用いたピクルスなど他国由来の漬け物の利用も近年では多くなっている[91][133][150]

缶・瓶詰め・レトルト

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トマトジュースやトマトソースの缶詰

タケノコスイートコーンアスパラガストマトなどを原料とした缶・瓶詰めも多い[91]。多くは水煮であるが、トマトは世界的に利用されており、固形トマト、トマトペーストトマトピューレトマトケチャップチリソーストマトジュースなど様々な形態のものがある[91]。トマトジュースのように野菜を原料としたジュースは、野菜ジュースとも総称される[152]。また、ラミネートフィルムなどを利用したレトルト食品も多くなり、さまざまな野菜がレトルトのカレーシチューなどで利用されている[91]

乾燥野菜

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かんぴょう

かんぴょう(干瓢; ユウガオの果実を原料とする)や切り干し大根干し椎茸などの乾燥野菜は、日本では古くから利用されていた[91]。これらの乾燥には天日乾燥が用いられることもあるが、日本では近年は衛生面の問題から人工乾燥されることが多い[91]

冷凍食品

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さまざまな冷凍野菜

近年では冷凍食品の製造・消費が増加しており、冷凍食品における野菜の利用も多くなっている[91]。野菜の冷凍食品には、解凍後に調理食品の原料となる素材品と、そのままあるいは解凍後に簡単な調理操作で食される調理品・半調理品がある[91]。素材品は前処理・短時間の加熱処理(ブランチング)したものを凍結、包装するが、調理品・半調理品は原料に味付けなどを施してから凍結、包装する[91]日本冷凍食品協会では、冷凍食品は前処理を行ったのちに急速凍結し、包装したものを-18°C以下で保存するものとしている[153]。また、凍結した野菜を減圧乾燥したフリーズドライ野菜は、素材の原型・風味を保持し、復元性が良いことから、インスタント食品などで広く使われている[91]

成分

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多くの野菜は重量比で90–95%の水を含み、またビタミンミネラル(無機塩類)食物繊維に富む[154][1][155][4][25][39]。野菜はふつう低カロリーであるが、イモ類マメ類デンプンタンパク質を多く含む[155][156]宗教文化的理由もしくは主義として肉食を避ける人は、一般に菜食主義者と呼ばれるが、菜食主義者の食事においても主食となるものはエネルギー源となる炭水化物を多く含む穀物やイモ類、およびタンパク質に富むマメ類であり、多くの野菜は副菜としての位置づけにあることには変わりがない[157]

植物が病虫害や紫外線から防御するために生成する物質は、ファイトケミカル(フィトケミカル)とよばれ、ポリフェノール類、フラボノールカテキンなどがある[39][158]。野菜の中にはファイトケミカルを多く含むものもおり、生活習慣病予防の観点から注目されている[39]

代表的な野菜の成分(可食部 100 g あたり; 処理は生、ゆで、油炒めなどさまざま)[156][注 22]
野菜 カロリー
(kcal)
水分
(g)
タンパク質
(g)
脂質
(g)
炭水化物
(g)
ミネラル ビタミン
K
(mg)
Ca
(mg)
Mg
(mg)
Fe
(mg)
A
(µg)
[注 23]
E
(mg)
K
(µg)
B1
(mg)
B2
(mg)
B6
(mg)
葉酸
(µg)
C
(mg)
トマト[注 24] 20 94.0 0.7 0.1 4.7 210 7 9 0.2 45 1.1 4 0.05 0.02 0.08 22 15
ナス[注 25] 17 94.0 1.0 0.1 4.5 180 20 16 0.3 8 0.3 10 0.04 0.04 0.03 22 1
ピーマン[注 26] 54 89.0 0.9 4.3 5.4 200 11 11 0.7 35 0.9 21 0.03 0.03 0.20 27 79
パプリカ[注 27] 28 92.0 0.8 0.2 6.6 200 8 10 0.3 17 2.5 3 0.04 0.03 0.26 54 150
キュウリ[注 28] 13 95.4 1.0 0.1 3.0 200 26 15 0.3 28 0.3 34 0.03 0.03 0.05 25 14
スイカ[注 29] 41 89.6 0.6 0.1 9.5 120 4 11 0.2 69 0.1 0 0.03 0.02 0.07 3 10
カボチャ[注 30] 55 84.0 1.9 0.1 13.3 350 18 15 0.5 92 4.3 27 0.06 0.03 0.12 75 16
サヤインゲン[注 31] 24 91.7 1.8 0.2 5.5 270 53 22 0.7 48 0.6 51 0.06 0.10 0.07 53 6
グリーンピース[注 32] 99 72.2 8.3 0.2 18.5 340 32 39 2.2 36 3.2 31 0.29 0.14 0.09 70 16
ダイズ[注 33] 118 72.1 11.5 6.1 8.9 490 76 72 2.5 24 8.6 33 0.24 0.13 0.08 260 15
オクラ[注 34] 25 89.4 2.1 0.1 7.6 280 90 51 0.5 44 1.3 66 0.09 0.09 0.08 110 7
トウモロコシ[注 35] 95 75.4 3.5 1.7 18.6 290 5 38 0.8 4 1.0 0 0.12 0.10 0.12 86 6
ブロッコリー[注 36] 30 89.9 3.9 0.4 5.2 210 41 17 0.9 69 3.1 190 0.06 0.09 0.14 120 55
カリフラワー[注 37] 26 91.5 2.7 0.1 5.1 220 23 13 0.7 1 0.6 31 0.05 0.05 0.13 88 53
キャベツ[注 38] 23 92.9 1.2 0.1 5.2 190 42 14 0.3 3 0.1 79 0.04 0.03 0.10 66 38
ハクサイ[注 39] 17 92.1 1.5 0.1 3.3 240 39 12 0.4 1 0.2 61 0.04 0.03 0.08 59 29
コマツナ[注 40] 14 94.0 1.6 0.1 3.0 140 150 14 2.1 260 1.6 320 0.04 0.06 0.06 86 21
ホウレンソウ[注 41] 23 91.5 2.6 0.5 4.0 490 69 40 0.9 450 3.1 320 0.05 0.11 0.08 110 19
レタス[注 42] 11 95.9 0.6 0.1 2.8 200 19 8 0.3 20 0.5 29 0.05 0.03 0.05 73 5
フキ[注 43] 31 89.2 2.5 0.1 7.0 440 46 33 0.7 22 2.4 69 0.06 0.08 0.07 83 3
シュンギク[注 44] 25 91.1 2.7 0.5 4.5 270 120 24 1.2 440 2.1 460 0.05 0.08 0.06 100 5
セロリ[注 45] 12 94.7 0.4 0.1 3.6 410 39 9 0.2 4 0.2 10 0.03 0.03 0.08 29 7
パセリ[注 46] 34 84.7 4.0 0.7 7.8 1000 290 42 7.5 620 4.1 850 0.12 0.24 0.27 220 120
アスパラガス[注 47] 25 92.0 2.6 0.1 4.6 260 19 12 0.6 30 1.7 46 0.14 0.14 0.08 180 16
ミョウガ[注 48] 11 95.6 0.9 0.1 2.6 210 25 30 0.5 3 1.4 20 0.05 0.05 0.07 25 2
ネギ[注 49] 29 90.5 1.9 0.3 6.5 260 80 19 1.0 120 0.9 110 0.06 0.11 0.13 100 32
タマネギ[注 50] 100 80.1 1.4 5.9 12.0 210 24 11 0.2 0 2.8 7 0.04 0.02 0.22 21 9
ラッキョウ[注 51] 117 67.5 0.4 0.3 29.4 9 11 1 1.8 0 0.2 1 0 0 0.02 0 0
ダイコン[注 52] 15 94.6 0.5 0.1 4.1 230 24 10 0.2 0 0 0 0.02 0.01 0.04 34 12
ニンジン[注 53] 35 89.1 0.7 0.2 9.3 300 28 10 0.2 720 0.4 17 0.07 0.06 0.10 21 6
ゴボウ[注 54] 50 83.9 1.5 0.2 13.7 210 48 40 0.7 0 0.6 0 0.03 0.02 0.09 61 1
サツマイモ[注 55] 131 65.6 1.2 0.2 31.9 480 36 24 0.6 2 1.5 0 0.11 0.04 0.27 50 29
ジャガイモ[注 56] 76 78.8 1.9 0.3 18.1 420 5 24 0.6 0 0.1 0 0.08 0.03 0.22 21 11
サトイモ[注 57] 52 84.0 1.5 0.1 13.4 560 14 17 0.4 0 0.5 0 0.06 0.02 0.14 28 5
ナガイモ[注 58] 64 82.6 2.2 0.3 13.9 430 17 17 0.4 0 0.2 0 0.10 0.02 0.09 8 6
レンコン[注 59] 66 81.9 1.3 0.1 16.1 240 20 13 0.4 0 0.6 0 0.06 0 0.07 8 18
ショウガ[注 60] 28 91.4 0.9 0.3 6.6 270 12 27 0.5 0 0.9 0 0.03 0.02 0.13 8 2

ミネラル

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カリウム

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カリウム (K) は細胞内の主要な電解質であり、細胞外のナトリウム (Na) とともに細胞浸透圧pHを調節し、また神経筋肉の機能にも重要な働きをもつ[154][159][160]。カリウムは、ナトリウムの尿中排泄を促す[159][160]。また、カリウム摂取増が血圧低下、脳卒中予防につながることが示唆されている[159][161]。成人のカリウム所要量は 2 g/日 とされているが、平均摂取量は 2.3 g であり、ふつうの食事をしていれば欠乏することはない[154][159][162]。ただし、高血圧症患者に投与される降圧利尿剤によりカリウムの排出が高まると、対ナトリウム相対不足(Na/K比が2以下であることが望ましいとされる)が起こり、心筋梗塞脳卒中の可能性が高まる[154]。一方で腎臓病などによる乏尿時には高カリウム血症となることがあり、カリウム制限が必要となる[154]。そのため、低カリウムの野菜(レタスホウレンソウ)も商品化されている[163]。カリウムが多い野菜としては、フダンソウパセリヨメナフキノトウユリネなどがあるが[154]、干しズイキ切り干し大根、干しワラビドライトマトなど乾燥品には特に多い[156]。野菜中のカリウムは、茹でこぼすことによって容易に減らすことができる[154]

カルシウム

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カルシウム (Ca) はの材料であり、血液凝固神経筋肉の機能維持、酵素の補因子として重要な働きをもつ[154][159][160]。カルシウム欠乏は、骨粗鬆症高血圧動脈硬化を招くことがある[159][160]。日本では成人のカルシウム推奨量は 660–800 mg/日 とされているが(12–14歳で 812–991 mg/日)、平均摂取量は 505 mg であり、推奨量を満たしていない栄養素となっている[154][159][162]。一方でカルシウムの過剰摂取(3000 mg/日以上)による障害として、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、軟組織の石灰化、泌尿器系結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などが知られているが、サプリメントの使用などがなければふつうこの量には達しない[159]。日本では摂取量の20%ほどを野菜から得ているが、野菜の中には生体内では利用不可能な形のカルシウム(シュウ酸カルシウム)を多く含むものもいる(ホウレンソウなど)[154]。利用可能なカルシウムが多い野菜としては、葉トウガラシコマツナモロヘイヤシソカブ葉、ダイコン葉などがある[154]

マグネシウム

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マグネシウム (Mg) は、ヒト体内では約60%がに含まれるが、細胞膜の透過性や筋収縮神経伝達に関与し、またエネルギー代謝に関わる酵素の要素として重要な働きをもつ[154][159]。マグネシウムが欠乏すると、吐き気、嘔吐、眠気、脱力感、筋肉の痙攣、ふるえ、食欲不振などの症状が生じる[159]。マグネシウム必要量は 4.5 mg/kg体重/日とされるが、平均摂取量は 247 mg/日でありほぼ必要量は満たしている[154][159][162]。ただしマグネシウム不足は虚血性心疾患の可能性を増すことが示されており、特にカルシウムとの相対比(Ca/Mg比)を2以下にすることが重要とされる[154]。したがって、カルシウム摂取量を増加させるためには、マグネシウム摂取量を増加させる必要がある[154]。日本ではマグネシウム摂取においてマメ類を含む野菜は約21%寄与しているが、特にマグネシウム量が多い野菜には、ラッカセイ、葉トウガラシフダンソウシソバジルホウレンソウなどがある[154]

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ヒトの体内で、 (Fe) の約70%は赤血球中のヘモグロビンに含まれるが、そのほかに筋肉血清カタラーゼパーオキシダーゼなどの酵素の構成要素として存在し、さまざまな生体機能に関わっている[154][160]。食品中に含まれる鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、利用効率はヘム鉄の方が高いが、植物に含まれる鉄は非ヘム鉄である[154]。日本人の鉄推奨量は 7.5–11 mg/日とされるが、平均摂取量は 7.6 mg/日であり、そのうち約28%を野菜から得ている[154][164][162]。鉄含量が多い野菜として、パセリヨモギヨメナフダンソウツマミナなどがある[154]。非ヘム鉄の吸収効率は、ビタミンCタンパク質摂取によって上昇し、カテキンポリフェノールによって低下することが知られている[154]

ビタミン

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ビタミンとは、微量であるが生体に必須であり、自身で合成できないため外界からの摂取が必要な有機化合物のことである[154]。ヒトに必要なビタミンとしてはおよそ13種類が知られており、脂溶性ビタミン(ビタミンAEDK)と水溶性ビタミン(ビタミンB1, B2B6B12ナイアシンパントテン酸葉酸ビオチンビタミンC)がある[154]。野菜は、重要なビタミン源となっている。

ビタミンA

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ビタミンA(レチノール)

ビタミンAとよばれる物質にはいくつか(A1系、A2系など)があるが、狭義にはレチノールを指す[154]。植物はレチノールをもたないが、生体内でビタミンAに変換される物質(プロビタミンA)であるβ-カロテンを多く含む(下記参照)は重要なプロビタミンAである[154]。そのため、食品のビタミンA効力は、レチノールとβ-カロテン効力を合計したものとされている[154]。ビタミンAは視覚に重要な物質であり、また皮膚粘膜の代謝、免疫機構の維持に重要な働きをもつ[154][165][160]。レチノールとしての過剰摂取には毒性があるが、プロビタミンAであるβ-カロテンでは過剰摂取の問題は起きないとされる[154]。日本人成人のビタミンA推奨量は 650–900 μgRAE/日[注 23]であるが[165]、平均摂取量は 534 μgRAE/日である[162]。2002年の時点では、摂取量の57.3%を緑黄色野菜から摂取しているとされる[154]。野菜の中では、シソモロヘイヤニンジントウガラシパセリなどに多い[154]

ビタミンE

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ビタミンE1(α-トコフェロール)

ビタミンEとしてはいくつかのトコフェロールなどがあり、脂溶性抗酸化物質として働き、生体膜の安定化や損傷防止にはたらいている[154][165]。日本人成人のビタミンE目安量は 5–7 mg/日、平均摂取量は 6.9 mg/日であり、一般的な食事をしている場合は欠乏することはないとされるが[165][162]、不飽和脂肪酸の摂取量が多いとビタミンEの必要量が増加する[165][154]。コムギやコメの胚芽、植物油に多いが、野菜ではトウガラシラッカセイモロヘイヤカボチャなどに多い[154]。一方でアルファルファインゲンマメには、ビタミンEの利用効率を低下させる物質が含まれることが知られている[154]

ビタミンK

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ビタミンK1(フィロキノン)

ビタミンKには、フィロキノン(ビタミンK1)やメナキノン(ビタミンK2)などいくつかの物質が知られている[154][165]。生体内にはビタミンK依存性タンパク質が多くあり、特に血液凝固に重要な働きをもつ[154][165][160]。ビタミンK目安量は日本人成人で 150 µg/日 とされるが、摂取量は 250 µg/日であり、また一般的に腸内細菌によってビタミンK2が合成されるため、欠乏症は起こりにくい[154][162][165]。ビタミンK1は緑葉野菜に多く含まれ、特にパセリシソモロヘイヤアシタババジルなどに多い[154]

ビタミンB1

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ビタミンB1(チアミン)

ビタミンB1は最初に発見されたビタミンであり、チアミンともよばれ、糖代謝のさまざまな酵素補酵素となり、また神経のはたらきを正常に保つ[154][166][160]。ビタミンB1欠乏症として、脚気ウェルニッケ脳症が知られている[166]。ビタミンB1推奨量は、日本人成人で 0.9–1.4 mg/日 とされ、平均摂取量は 0.95 mg/日 である[166][162]。日本人のビタミンB1摂取の13.7%は野菜からとされる(2002年)[154]。野菜では、ラッカセイグリーンピースエダマメソラマメ豆苗などに多い[154]。また一部の魚介類ワラビゼンマイなどはビタミンB1分解酵素をもつことが知られている[154]

ビタミンB2

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ビタミンB2(リボフラビン)

ビタミンB2はリボフラビンであり、生体内ではほとんどがフラビン酵素の補酵素としてフラビンモノヌクレオチド(FMA)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)として存在する[154]。フラビン酵素は、ミトコンドリア電子伝達系、過酸化脂質の代謝など生体内の重要な酸化還元反応にはたらいており、ビタミンB2が不足すると、眼、口唇、舌、皮膚、神経などに症状が現れ、成長阻害が生じる[154][166][160]。また他のビタミンの代謝にも関わり、ビタミンB2の不足はビタミンB6ナイアシンの欠乏をもたらす[154]。ビタミンB2推奨量は日本人成人で 1.0–1.7 mg/日、摂取量は 1.19 mg/日 とされる[166][162]。摂取量の12.6%は野菜から得ているとされる(2002年)[154]。ビタミンB2は、野菜ではモロヘイヤシソヨモギ、葉トウガラシなどに多い[154]

ビタミンC

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ビタミンC(アスコルビン酸)

ビタミンCは、壊血病を改善する物質(抗壊血病 anti-scorbutic)という意味でアスコルビン酸ともよばれる[154]。ビタミンCは生体内では陰イオンの形で存在し、これが酸化されて生じるモノデヒドロアスコルビン酸は反応性が高いため、生体内で生じる活性酸素と反応してこれを不活性化する[154]。また、さまざまな酸化還元反応に関与し、コラーゲン合成、コレステロールから胆汁酸の生成、チロシン代謝、吸収、解毒、免疫増強などにはたらく[154][160]。日本人成人に対するビタミンC推奨量は 100 mg/日 とされ、平均摂取量は 99 mg/日である[166][162]。摂取量の28.9%を緑黄色野菜から、25.7%をそれ以外の野菜から得ている(2002年)[154]。ビタミンCが多い野菜は、パプリカメキャベツ菜花パセリブロッコリーなどである[154]ホウレンソウは、旬である冬季に収穫されたものに比べて、夏に収穫されたものではビタミンC量が3分の1程度しかないことが知られている[39](他の成分はほとんど変わりない[156])。ビタミンCは水溶性であり、水にさらす時間が長いほど減少してしまい、例えばニンジンを千切りにして水に5分さらすと、ビタミンCが30%ほど減少する[146]。また、ゆで時間が長くなるほどビタミンCの損失量が多くなる[146]。野菜を煮るときは、野菜を大きめに切ったほうがビタミンCは失われにくくなる[141]

食物繊維

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セルロース
ペクチン

ヒトの消化酵素で分解できない食品成分のことを、食物繊維という[167][168]。植物の細胞壁成分などとして存在し、水に溶けない不溶性食物繊維としてはセルロースヘミセルロースなどがあり、水に溶ける水溶性食物繊維としてはペクチングルコマンナンなどがある[167]。食物繊維は便通を整え、また過剰な脂質ナトリウムなどを吸着して体外に排出する働きがある[167][160]。野菜としては、サツマイモ切り干し大根カボチャゴボウタケノコブロッコリーモロヘイヤインゲンマメアズキなどに食物繊維が多い[169]。厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で 21 g/日以上、成人女性で 18 g/日以上とされている[169]

一方で、大腸内の腸内細菌が、一部の食物繊維を分解することが知られている[170][171]。このように食物繊維は腸内細菌の栄養源となり、腸内細菌の組成に大きく影響する[170]。このような分解によって生じる酪酸プロピオン酸酢酸などの短鎖脂肪酸は、腸内環境の安定化に寄与することが示唆されている[171]。この反応には食物からのビタミンB1供給が重要であることが知られているが、一方で腸内細菌がビタミンB1B2B3B5B6B7葉酸B12ビタミンKなどを生成することも知られている[172][173]

ファイトケミカル

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一般的に、ファイトケミカル(フィトケミカル、phytochemicals)とは植物に含まれる二次代謝産物(広義には一次代謝産物を含む)の総称であり、紫外線害虫防御のための色素、香り、苦味、あくなどの成分となるものがよく知られている[174][175][158]ポリフェノールカロテノイドイオウ化合物、テルペングルカンなどがあり、これらの中には抗酸化能による活性酸素の除去や免疫力向上などをもたらすものがあると考えられている[39][158][176]

ポリフェノール

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ペオニジン(アントシアニンの一種)
イソフラボン
ショウガオール
(+)-カテキン

ポリフェノールとは、複数のフェノールヒドロキシ基をもつ物質のことである[177]アントシアンフラボノイドなどの色素、灰汁(あく)の苦味成分となるタンニンなどはポリフェノールである[178][179][180]。ヒトにとってポリフェノールの主な機能は抗酸化作用であり、がん予防や血中コレステロールの酸化を防いで動脈硬化を予防する働きがあるとされる[181]。そのほかにも個々の物質によって異なる生理作用があるが、その効用は数時間内といわれる[181]

カロテノイド

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リコペン
ルテイン
クリプトキサンチン
カプサイシン

カロテノイド(カロチノイド)は、基本的に植物のみが生成できる赤色から黄色の色素であり、炭素と水素のみからなるカロテン(カロチン)と、酸素を含むキサントフィルに分けられる[178][183]。カロテンには、α-カロテンβ-カロテンγ-カロテンリコペン(リコピン)などがあり、多くは人間の体内でビタミンAレチノール)に変換されるため、プロビタミンAともよばれる[178][154][179]。植物内にはβ-カロテンが最も多く、2分子のレチノールに転換され(他のカロテノイドは1分子)、転換効率は50%ほどとされる[154]。レチノールに変換されないカロテン類は、抗酸化作用を発揮する[178]。また、キサントフィルにはアントシアニンルテインカプサイシンなどがあり、これらはビタミンAとしては働かないが、抗酸化作用を発揮し、がん予防や老化防止に役立つと考えられている[179][178]。カロテノイドは脂溶性であり油に溶けるが、油に溶けたものの方が結晶形のカロテノイドよりも吸収効率が良いため、油を用いて調理した方がよいとされる[179]

イオウ化合物

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硫化アリル
イソチオシアン酸エチル

アメリカ国立癌研究所 (NCI) が中心となって研究したデザイナーズフーズの上位に、ニンニクタマネギキャベツがランクされたことから、これらの野菜に含まれる特有の臭いと生理活性をもつイオウ化合物が注目されるようになった[181]

機能性成分

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近年では「食と健康」に対する関心が高まり、健康の維持・回復、がん生活習慣病予防に関して野菜の生理的機能が注目されている[184]

食品は発がんにつながるものを含む一方で、野菜の摂取が発がんのリスクを低減させることも示唆されている[184][185][186]。がん予防効果が期待できる成分として、ビタミン食物繊維カロテノイドポリフェノールテルペノイドイオウ化合物、インドール系化合物などがしばしば取り上げられている(ただし、これらが確実に有効と実証されているわけはない)[184]。1990年代に、米国では食によるがん予防を目的としたデザイナーフーズ計画が発足し、それまでの調査・研究を総合的に評価した[184]。その結果、がん予防効果があると最も期待される野菜としてキャベツダイズニンジンセロリパースニップショウガニンニクなどが、次点としてブロッコリーカリフラワーメキャベツトマトナスピーマンタマネギなどが挙げられている[184]。また、世界がん研究基金アメリカがん研究協会は、7000以上の研究を根拠に「食べもの、栄養、運動とがん予防[187]」を報告しており、この中で野菜の摂取を推奨している(詳細は「食生活指針」を参照)。

活性酸素の過剰な産出や蓄積はがん心筋梗塞糖尿病脳浮腫自己免疫疾患など生活習慣病の引き金となることが示されている[184]。このような反応に対する抗酸化物質源として、野菜が注目されている[184]。野菜がもつ抗酸化物質として、ビタミンC, E)、ポリフェノールカロテノイドタンニンリグナンなどがある[184]。また、免疫活性の維持・強化に野菜が有効な可能性も示されている[184]21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)では、望ましい野菜の摂取量は成人1人1日あたり 350 g 以上とされている[188][189][25]。日本人の平均ではこの目標に対して8割程度の摂取量にとどまっており、特に若年層においては7割から6割程度である[25][190]。2012年(平成24年)の調査では20歳以上の日本人の平均野菜摂取量は、286.5 g/日であった[191]。所得と生活習慣等に関する状況の調査においては、所得が低いほど野菜摂取量が低い傾向が見られた[190]

野菜は、果物とともにアルカリ性食品に分類されている[155][192](詳細は、酸性食品とアルカリ性食品を参照)。

嗜好性成分

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野菜は、種類によって望まれる色や香気、味、食感があり、これらのもととなる成分も重要な品質要素である[179]。これらは栄養成分としては関わりないこともあるが、上記のような栄養成分と一致することもある。

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野菜の主な色素はクロロフィルカロテノイドアントシアニンであり、これらが緑色、黄色、赤色、紫色などそれぞれの野菜の色調をつくりだしている[179]

クロロフィルは緑色を呈する光合成色素であり、ホウレンソウブロッコリーなどの緑色野菜の色の素となっている[179]。クロロフィルは加熱、アルカリ、強光に対して不安定である[179]。野菜加工品の緑色保持には、炭酸ナトリウムなどによって弱アルカリ性にすることがよく行われている[179]。また短時間の熱処理(ブランチング)を行うことによって、クロロフィルがクロロフィリドになり、野菜の緑色が鮮やかになる[179]。野菜をゆでると有機酸が溶け出して酸性になり、クロロフィル中のマグネシウムが外れて緑褐色のフェオフィチンになってしまうが、食塩を加えることによってこれを抑えることができる[179]。また、漬物では酸性化してクロロフィルが分解、褐色化するが、漬け込む前の軽いブランチング、マグネシウムを含む未精製塩の使用、の添加などで緑色保持を図ることがある[179]

カロテノイド(カロチノイド)は一般に熱に対して安定であり、調理・加工によって著しく変色・退色することはない。カロテノイドは、ビタミンAの原料(プロビタミンA)や抗酸化物質として重要である(上記参照)。

アントシアニンは青色、紫色、赤色を示す色素であり、一般的にアルカリ性では青色、酸性では赤色を呈する[179]。アントシアニンは、加熱によって著しく退色する[179]。またアントシアニンはポリフェノールの一群であり、酵素的に変性して野菜が褐変することがある[179](下記参照)。しかし金属と錯体を形成すると安定化するため、ミョウバンを加えたり鉄鍋で調理することによって色を保つことがある[179]

アントシアニンやクロロゲン酸などのポリフェノールジャガイモチロシンなどは、ポリフェノール酸化酵素によって酸化されて変色することがあり、この変色は酵素的褐変とよばれる[179]。また加工過程や貯蔵中に、アミノ化合物(アミノ酸など)とカルボニル化合物(ブドウ糖など)が結合して褐色の物質(メラノイジン)を生成することもあり、非酵素的褐変とよばれる[179]切り干し大根は当初は白色であるが、保存中に褐色化し、これには酵素的褐変と非酵素的褐変の両方が関わっている[179]

香気成分

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香気は味とともの食品の重要な品質要因であり、特にその食品の香気を特徴づける物質をキーコンパウンドという[179]。野菜では、アルコール類、有機酸エステル類、アルデヒドケトン類、イオウ化合物、テルペン類などが主な香気成分である[179]。しかし近年では、消費者の嗜好変化に合わせて、シュンギクトマトキュウリニンジンセロリなどにおいて香気が弱い品種や栽培法が用いられるようになっている[179]

味覚成分

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野菜の中で甘味が品質要因となるものとして、トマトカボチャブロッコリーカリフラワーネギタマネギニンニクニンジンクワイレンコンユリネなどがある[179]。おもな甘味成分は単糖類少糖類であり、またグリシンアラニンセリンテアニンベタインなどのアミノ酸も甘味を呈する[179]タマネギを炒めると甘味が生じるのは、辛味成分であるジアリルジスルフィド(下記参照)が分解されてショ糖の50–70倍の甘味を呈するプロピルメルカプタンが生成されるためである[179]サツマイモは、ゆっくりと加熱したほうがβ-アミラーゼ活性が強くなり、デンプンが分解されて甘味が強くなる[179]。実エンドウエダマメダイズ)、スイートコーンは、収穫後短時間で糖類などが変化し食味が低下するため、すぐに低温貯蔵または加工処理を行う[179]

酸味のもととなるのは、無機酸有機酸による水素イオンである[179]。野菜において酸味が重要であることは少ないが、イチゴトマトの酸味成分はクエン酸リンゴ酸などの有機酸である[179]

野菜における旨味成分は、おもに遊離アミノ酸であり、特にグルタミン酸アスパラギン酸(この名はアスパラガスに由来する[193])、アラニンロイシンなどが旨みを呈する[179]キノコ類は野菜に含まれることもあるが、有機酸、遊離アミノ酸、糖アルコールなどの旨み成分が多い[179]

辛味とは、口腔全体に感じられる痛感であり、いくつかの野菜がそれぞれ異なる成分による辛味を呈する[179]アブラナ科の野菜(ダイコンワサビセイヨウワサビカラシナなど)はグルコシノレート類(カラシ油配糖体)を含み、これに酵素であるミロシナーゼが働くと辛味成分であるイソチオシアネートカラシ油)が生成される[179][194]トウガラシナス科)は、アミノ酸であるバリンフェニルアラニンおよびロイシンを前駆体としてカプサイシンなどのカプサイシノイドを生成する[179][194]タマネギニンニクニラネギなどネギ属ヒガンバナ科)の辛味成分は、ジアリルジスルフィドのようなイオウ化合物であり、その香気とも関わっている[179][194]ショウガウコンショウガ科)ではショウガオールのようなグアヤコール化合物、ハッカタイムシソ科)ではメントールのようなテルペン類(精油)が辛味成分となる[179]

食感

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食物を食べる際に舌や口腔内壁で感じる触覚(舌ざわり、歯ごたえ、口あたりなど)は食感(テクスチャー)とよばれる[179]。食品を評価する上で、食感は外観・色・味・香気などとともに重要な品質要因であるが、個人差も大きく、客観的な評価や数値化が難しい[179]。特に野菜は種類によって特有の食感があるが、一般的に水や多糖類が大きく影響する[179]

野菜の多くは水分量が多く、その食感に大きく関わる[179]。特に葉菜類では水分量の変動が大きく、不適切な貯蔵などによって容易に水分が失われて萎れてしまう(萎ちょう)[179]植物細胞細胞壁に囲まれているため、水につけることによって細胞内に水が侵入して膨圧が生じ、軽い萎ちょうから復活、シャキッとした新鮮さが得られる[179]。一方、切断した野菜に塩をふるなどすると、細胞内の水が流出してしんなりとする[179]

イモ類マメ類デンプンを多く含むが、デンプンは直鎖状のアミロースと分枝が多いアミロペクチンからなり、アミロースとアミロペクチンの量比は食感に影響する[179]ヤマノイモ類をすりおろすと、粘液物質であるマンナンムチンが出て、また空気が含まれることで特徴的な食感が生じる[179]。野菜をゆでると組織が柔らかくなるが、これは細胞間をつないでいるペクチンが溶けて細胞間の結合がゆるむためである[179]。一方、ゴボウレンコン水でゆがくとペクチンが安定化し、サクサクとした食感になる[179]。またペクチンはカルシウムなどの2価イオンが結合することで架橋され、これはダイコン漬物のパリパリとした食感に関わっていることがある[179]

有害物質

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野菜には好ましくない物質や有害物質が含まれていることもあり、基本的にこれらの物質は調理・加工の過程で除去される[179]

好ましくない色、渋味えぐ味苦味の原因となる物質は、灰汁(あく)と総称される[179]。灰汁の中には、風味を損なうだけではなく、有害なものもある[179]ワラビゼンマイフキウドなどいわゆる山菜として扱われるものは、一般的に灰汁が多い[179]。野菜の灰汁としては、無機塩有機塩有機酸タンニンサポニンアルカロイド配糖体テルペンなどがある[179][143]。無機塩は含有量が1.5%になると灰汁を強く感じ、特にカリウム塩が多いと不快に感じるという[179]。有機酸の一種であるシュウ酸ホウレンソウなどに多く、カルシウムマグネシウムの吸収を阻害し、また腎臓結石の原因ともなる[179]。一般的な灰汁抜きの手法は、ゆでてから水にさらすことや、ゆで水に、灰汁、ミョウバン炭酸ナトリウム重曹ミカンの皮などを加えることが行われる[179]

上記のように、さまざまな野菜の成分について有効性が示唆されているが、これらの成分の極端な摂取が害に働くこともある[184]。例えば辛味成分であるトウガラシカプサイシン脂質代謝を亢進し、体脂肪低下などにつながる可能性があるが、一方でその刺激性のため腹痛下痢、ときには潰瘍を誘発する[184]。同じく辛味成分であるアブラナ科植物のイソチオシアネートは、発がん抑制や血圧降下作用をもたらす可能性があるが、一方で悪心嘔吐、腹痛を引き起こし、腎臓障害や甲状腺におけるヨウ素取り込み阻害をもたらすことがある[184]

野菜の中には有害物質を含むものもある[179]。特にジャガイモに多く含まれるアルカロイドであるソラニンはよく知られており、調理の際に芽や緑色の皮は除去される[179]。またワラビプタキロシドツワブキピロリジンアルカロイドなどの発がん性の可能性がある物質を含んでおり、調理によってこれらの物質は除去・不活性化される必要がある[184]ホウレンソウなどには硝酸塩亜硝酸塩が比較的多いが、これらはゆでてから冷水で洗うことで減少する[179]。またニンジンキュウリにはアスコルビン酸酸化酵素が含まれ、ビタミンCを酸化してしまう[179]。一部の野菜は、タンパク質分解酵素に対する阻害物質を含む[184]

安全性

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野菜は、人間によって長年にわたって改良され、食べ続けられてきたものであるため、安全性は確保できていると考えられている[195]。しかし、野菜の安全性に関してまだ結論が出ていないことも多く[196]、新しく作り出された野菜の品種などは必ずしも安全性が確かめられているわけではなく、未知のリスクの可能性も指摘されている[195]。健康的な食生活を送るためにも、なるべく多くの種類の野菜を適量摂ることが、安全な野菜の食べ方とされている[196]

農薬散布

野菜を生産するうえで、病虫害や雑草を抑止する目的で農薬が使用されるが、農薬の残存化学物質は人間にとってもなどのリスクがあるので好ましいものではない[195]。しかし、農薬を使用しなければ、地球上の人類を養うだけの農作物の生産量は確保できないとされており、農薬を正しく用いる農法が一般に行われている[197]。先進国のように農薬の製造や使用が適正に規制されている国では、農薬を正しく使用している限りは癌を含む疾病のリスクはないと考えてよいとされている[197]。しかし、農薬が適正に使用されていない状況でつくられた野菜は、人体に害を及ぼす可能性がある[197]。しばしば「野菜には残留農薬の危険があるから、よく洗ってから食べる」という意見があり、ていねいな水洗いや加熱調理が野菜についている残留農薬を減らすことになるのは間違いではないが、先進諸国において野菜を洗うことによって農薬の害が低減するといった科学的根拠となる研究結果はほとんどない[197]

野菜の安全性に関して注目されるものに、原則として農薬化学肥料を使わずに栽培(有機栽培)された野菜(有機野菜、オーガニック野菜)がある[197][198]。有機食品市場は世界で拡大しており、日本では2022年に2,240億円、2009年と比較して1.7倍に拡大している[199][200]。有機野菜は栽培法による分類であり、日本のJAS法では厳密な規定により認定を受けたものだけが有機野菜と表示することができる[197][198]。有機野菜は「安全で高品質」といったイメージがあるが、これを支持する明確な研究結果はほとんどない[130][201][202]。2006年に日本で制定された「有機農業の推進に関する法律」では、化学肥料、農薬、遺伝子組換えを利用しないこととともに、農業生産に由来する環境負荷をできる限り低減することが重視されている[203][204]

また、日本では有機栽培と一般的な栽培(慣行栽培)の中間的なものとして、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」があったが、これらの表現は生産者によって定義が異なり、消費者に誤解を与えやすいという理由で、2004年に表示が禁止された[130][198][205]農林水産省のガイドラインでは、有機栽培と慣行栽培の中間的な栽培様式(農薬、化学肥料の使用量が規定の5割以下に制限されている)によって生産された野菜は、特別栽培野菜としている[130][198]。また慣行栽培であっても、残留農薬量は無毒性量(有害な影響が見られない最大量)の1/100以下と規定されている[198]

芽を出したジャガイモ(有毒)

放射線照射野菜で知られるものに、発芽防止目的で使用されているジャガイモがある。放射線を当てた食品が放射能をもつことはなく、健康に害を与えるようなこともないとされている[196]。ジャガイモの芽に含まれるアルカロイド (PGA) による食中毒リスク、輸入スパイスに付着する病原菌リスク、食品保存に使われる燻蒸の発がん性リスクを軽減するために、放射線照射が用いられている[196]。また、放射線を当てることによって殺菌効果が高められるため、食品が腐りにくくなるという利点もある[196]

世界各国の遺伝子組換え作物栽培面積(2019年)
  1000万ヘクタール以上
  5万–1000万ヘクタール
  5万ヘクタール未満
  なし

遺伝子組換え作物とは、別の生物の遺伝子を導入することによってつくられた作物である[206][94]。遺伝子組換え作物は、それを食べた人の遺伝子に影響を与えることはない[196]。遺伝子がつくる物質はタンパク質であるため、そのタンパク質が人の健康に害を及ぼすかどうかが、遺伝子組換え作物の安全性の評価となる[196]。害虫抵抗性遺伝子組換えトウモロコシであるスターリンク(StarLink)は、「そのタンパク質がアレルギーの原因となる可能性」を否定できるだけのデータが不十分であったため、米国内の飼料用に限って利用されていたが、2000年に食料用や輸出品への混入が確認され大きな問題となった[207]。遺伝子組換え作物の必要性については意見が分かれるところであるが、その食品としての安全性について現段階では害は認められていない[196]。ただし、食品としての安全性とは別に、遺伝子組換え作物の導入による生物多様性への影響が懸念されることもある[206]。2020年現在、日本では、海外で生産された遺伝子組換え作物である飼料用のトウモロコシ、油糧用のダイズナタネなどが輸入・利用されているが、日本で栽培されてる遺伝子組換え作物は青いバラ青いカーネーションだけであり、遺伝子組換え野菜は栽培されていない[92][206]。海外では、日持ち性を向上させたトマトウイルス抵抗性のトマトやジャガイモなどが流通している[92]。また2010年代には、クリスパー/キャスナインを用いたゲノム編集によってその生物の特定の遺伝子に変異を起こさせることが可能になり、これを利用したゲノム編集作物[208][209]が開発され、実用化されている[210]。遺伝子組換え作物とは異なり外来遺伝子を含まないことから、日本ではゲノム編集作物は規制対象外で安全性審査は不要とされているが、遺伝子組換え作物と同じ扱いとしている国もある[210]。日本では2024年現在、ゲノム編集野菜として、GABA含量を高めたトマトが市販されている[210]

脚注

[編集]

注釈

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  1. ^ ウメの果実は、副食に用いられるため野菜ともされるが、木に実るため果物として扱われることもある[13]
  2. ^ a b c d e 乾燥品を含む。
  3. ^ ガーキンCucumis anguria)を含む。
  4. ^ a b c 甘いため、消費分野では「果物」として扱われるが、草本に実るため、日本の生産分野では「野菜」(果実的野菜、果物的果菜)として扱われる。
  5. ^ セイヨウカボチャCucurbita maxima)、ニホンカボチャCucurbita moschata)、ペポカボチャCucurbita pepo)、クロダネカボチャCucurbita ficifolia)など数種を含み、またズッキーニはペポカボチャの1品種である[33]
  6. ^ カボチャなどウリ類 (pumpkins, squash and gourds) の総計とされている。
  7. ^ 南米西部原産のチリーイチゴ(Fragaria chiloensis)と北米東部原産のバージニアイチゴ(Fragaria virginiana)の種間雑種に由来する。
  8. ^ 果物用のバナナは135.1(百万トン)。
  9. ^ 生鮮品の量であり、乾燥品(穀類として扱われる)の量は1163.4(百万トン)。
  10. ^ キャベツの生産量
  11. ^ カリフラワーとブロッコリーの生産量合計
  12. ^ チコリーとの合計
  13. ^ 根用の品種はセルリアックとよばれる[61]
  14. ^ エシャロット(エシャレット[28]、シャレット[17]、シャロット[34])は、本来はタマネギの1変種(Allium cepa var. aggregatum)であるが[34]、日本ではラッキョウを軟白栽培したものがエシャロットとよばれている[62]
  15. ^ a b ニンジンとカブの生産量合計値である。
  16. ^ サトイモ属以外の Xanthosoma、クワズイモ属(Alocasia)、キルトスペルマ属(Cyrtosperma)などのものもタロイモとよばれることがある[63]
  17. ^ a b 日本の作物統計などではヤマノイモの名でまとめられているが[28][64]、日本で栽培されているものはほとんどナガイモ(Dioscorea polystachya)であり、狭義のヤマノイモ(自然薯、Dioscorea japonica)の多くは野生品である[65]
  18. ^ ヤマノイモ属の「イモ」は、維管束の配列や発生過程から地下茎が肥大したもの(塊茎)と考えられているが、葉を付けず全面に根を生じるため典型的な塊茎とは異なる[66][67][68][69]。そのため、担根体ともよばれるが[67][68][69]ヒカゲノカズラ綱イワヒバ属ミズニラ属に見られる担根体とは異なる構造である[70]
  19. ^ 在来種は、(人間による移入ではなく)その地域に自然分布していた生物種を意味することもある[98]
  20. ^ a b イモ類、マメ類を除く
  21. ^ 2016年度
  22. ^ 微量(Tr; 最小記載量の1/10以上1/2未満)は0としている。
  23. ^ a b レチノール活性当量を示す。
  24. ^ 赤色トマト/果実/生
  25. ^ なす/果実/ゆで
  26. ^ 青ピーマン/果実/油炒め
  27. ^ 黄ピーマン/果実/生
  28. ^ きゅうり/果実/生
  29. ^ すいか/赤肉種/生
  30. ^ ニホンカボチャ/果実/ゆで
  31. ^ さやいんげん/若ざや/ゆで
  32. ^ (えんどう類)/グリーンピース/ゆで
  33. ^ えだまめ/ゆで
  34. ^ おくら/果実/ゆで
  35. ^ スイートコーン/未熟種子/ゆで
  36. ^ ブロッコリー/花序/ゆで
  37. ^ カリフラワー/花序/ゆで
  38. ^ キャベツ類/結球葉/生
  39. ^ はくさい/漬物/塩漬
  40. ^ こまつな/葉/ゆで
  41. ^ ほうれんそう/葉/通年/ゆで
  42. ^ レタス/土耕栽培/結球葉/生
  43. ^ ふきのとう/花序/ゆで
  44. ^ しゅんぎく/葉/ゆで
  45. ^ セロリ/葉柄/生
  46. ^ パセリ/葉/生
  47. ^ アスパラガス/若茎/ゆで
  48. ^ みょうが/花穂/生
  49. ^ 葉ねぎ/葉/生
  50. ^ たまねぎ/りん茎/油いため
  51. ^ らっきょう/甘酢漬
  52. ^ だいこん/根/皮つき/生
  53. ^ にんじん/根/皮つき/生
  54. ^ ごぼう/根/ゆで
  55. ^ さつまいも/塊根/皮なし/蒸し
  56. ^ じゃがいも/塊茎/皮なし/蒸し
  57. ^ さといも/球茎/水煮
  58. ^ ながいも/塊根/生
  59. ^ れんこん/根茎/ゆで
  60. ^ しょうが/根茎/皮なし/生

出典

[編集]
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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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