シマリ
シマリは囲碁用語のひとつで、隅にすでに打った石(小目・星・目ハズシ・高目など)の周辺に打ち、隅の地を確保する手をいう。動詞としては「シマる」という言い方をする。下図黒1がシマリの一例である。
隅を自陣として効率よく確保すると共に、周辺への展開、相手への攻撃の拠点ともなるので、その価値は極めて高い。このため序盤の非常に早い時期に打たれることが普通である。シマリを妨害する手は「カカリ」といい、当然シマリ同様の価値を持つ。どちらかといえばシマリは守備の手、カカリは接触戦に持ち込む攻撃の手と見ることができる。
小目からのシマリ
[編集]「a」の小ゲイマジマリが最もよく打たれる。堅実に隅の地を10目程度確保し、ほとんど侵入のスキがない。「b」の一間ジマリは右辺に影響力が強いが、上辺に迫られると侵入の余地を残す。「c」の大ゲイマジマリは小ゲイマに比べて大きく地を確保できるが、やや侵入のスキがある。「d」の二間ジマリは中央を意識したシマリ方で、やや特殊な打ち方とされてきたが、人工知能がこのシマリを多用することから、プロ棋士の間でも使用例が増えている。
星からのシマリ
[編集]星からシマる場合には「a」の大ゲイマ、「b」の小ゲイマがよく打たれる。また「c」「d」は中央を意識したシマリ方である。
小目と異なり、星からは「a」「b」などにシマっても「e」の三々、「f」のツケなどで隅の地を荒らされる余地が残る(その代わり黒は中央に強い勢力を築くことができるので、白の立場で侵入の時期は慎重に選ぶ必要がある)。隅の地を完全に確保するなら、「a」「b」からさらに「g」あたりに一手加える必要がある。また、下図黒1のように隅の地を確保する手も「シマリ」と表現されることがある。
目ハズシからのシマリ
[編集]目ハズシからは「a」にシマるのが最も普通で、小目からの小ゲイマジマリと同型になる。「b」「c」への高いシマリは中央に働かせるシマり方で、隅には侵入の余地が残る。「d」はやや特殊なシマリだが、「e」または「f」へさらに一手かければ大きく隅を確保できる。「d」から「e」に三手かけるシマり方を「トーチカ」と称する。「f」へ直接シマる手も打たれており、大橋拓文はこの手を「タイガージマリ」と名づけている[1]。
高目からのシマリ
[編集]高目からは「a」にシマることが多く、小目からの一間高ジマリと同型になる。「b」は中央に働かせたシマリ。
三々からのシマリ
[編集]三々からは一手で隅を確保しているため、シマリは他の着点に比べてさほどに急がない。シマるなら「a」「b」「c」あたりに展開する。
シマリを省略する
[編集]江戸時代までは隅の着点は小目が中心であり、まずシマって隅を確保、その後で辺へ展開するという手順が正統とされていた。しかし昭和に入って呉清源・木谷實らにより、隅を星・三々などによって一手で済ませ、足早に辺を占拠するスタイルが案出された(新布石)。三連星などがこのスタイルの代表的な布石である。
小目からはシマリを打ってから辺へ展開するのが常識であったが、1970年代からは「中国流」布石が登場し、シマリを省いて辺へ回り、カカリを迎え撃って戦うという手法が編み出された。この影響からミニ中国流、小林流など、シマリを打たずに辺へ先着するスタイルが次々登場している。また近年では互いにシマリ合うよりも、カカリを優先して積極的に戦いに持ち込むケースが多くなっている。もちろん現在でもシマリの価値が高いことは変わりがないが、その優先順位については考え方が変化してきている。
参考図書
[編集]- 石田芳夫『シマリの技法―最強囲碁塾』河出書房新社
出典
[編集]- ^ 「囲碁AI時代の新布石法」大橋拓文著 マイナビ刊(2017)