サイクルトレイン
サイクルトレインとは自転車を鉄道車両内に、輪行状態ではなく解体せずに持ち込むことができるサービスである。なお路線バスにおける同様のサービスを、サイクルバスという。
概説
[編集]自転車を解体することなく列車内に持ち込むことができるという点で、解体して専用の袋に詰めて持ち込む輪行とは異なる。解体が困難なシティサイクルなどでも持ち込むことが可能で、出発地から近くの駅まで自転車で移動し、その自転車を持ち込んで列車に乗車し、目的地の近くの駅で下車してすぐに自転車に乗り移動することができる。
日本では近年、地方の中小私鉄が利用促進のために実施している例が増えているが、大手私鉄でも、近畿日本鉄道(当時)の伊賀線、養老線(それぞれ伊賀鉄道、養老鉄道として分離後も継続)吉野線や、名古屋鉄道の蒲郡線、西尾線の一部で期間を定めて行っていた。現在でも西武多摩川線や近鉄山田線、鳥羽線、志摩線等通年実施に踏み切った例がある。
実施日・実施時間が概ね平日の昼間や土・休日などの閑散日・時間帯に限定されている場合が多い。また実施している路線であっても、階段がある等の理由で一部の駅では利用できない場合がある。運賃とは別に持ち込み手荷物料を収受する事業者と、手荷物料を収受しない事業者がある。事前申し込みが必要な場合もある。これらの取扱いは鉄道事業者や路線によってそれぞれ異なっている。
欧州諸国(特にドイツ)では自転車を車内に持ち込むことができる事例が広範にあり、坂道を走るケーブルカーにそのような事例が多い。
2023年に国土交通省はサイクルトレイン・サイクルバス導入の事例集[1]を発表した。 以下に挙げている路線・事業者の一覧では、日本国内の事例のみについて記している。
実施している、または実施したことのある鉄道会社
[編集]主に国土交通省の「サイクルバス・サイクルトレイン導入の手引き」[2]に基づく
常時実施されている路線
[編集]JR各社
[編集]- 東日本旅客鉄道(JR東日本)
- 水郡線・2021年5月1日から10月17日までと同年11月27日から2022年3月27日までの土休日。
- 上菅谷駅から磐城棚倉駅および上菅谷駅から常陸太田駅の区間。輪行袋を使わずに乗車できるのは上菅谷駅、常陸大子駅、常陸大宮駅、磐城棚倉駅、常陸太田駅の5駅となっている。持ち込み料金は無料だが、Webで事前登録が必要[3][4]。
- 2022年4月から通年で本格実施。磐城石川駅まで延長[5]。
- 総武本線・内房線・外房線・成田線
- 2018年1月よりサイクルスペース付きの専用車両「BOSO BICYCLE BASE」を使用した臨時列車において自転車を持ち込むことができる[6][7][8]。
- 久留里線 木更津駅から久留里駅まで、菜久留トレインと称し、B.B.BASE鹿野山の乗り継ぎのみ[9]。
- 常磐線
- 2023年10月1日から12月17日までの土曜休日(一部除く)上下2本づつで実施。「 いばらきデスティネーションキャンペーン」期間の限定実施。
- 上野駅とナショナルサイクルルート「つくば霞ヶ浦りんりんロード」のゲートウェイ施設プレイアトレ土浦のある土浦駅でのみ乗降可能。乗車には輪行バッグの携行が必須である他、上野駅は公園改札口のみが利用可能。首都圏のJR線定期列車では初めての実施であった。
- 2024年6月より土休日の上下2本づつで通年化。専用Webサイトでの予約が必要[10]。
- JR西日本(きのくに線)紀勢本線[11][12]
- 2021年12月1日(御坊駅から紀伊田辺駅間は2022年4月1日)から実施。
- 御坊駅から新宮駅間(全駅対象)における普通列車が対象。持ち込み料金や事前予約は不要だが、自転車の固定具が必須。
- 2022年10月1日からは同区間を運行するくろしおもくろしおサイクルとして白浜駅・串本駅・紀伊勝浦駅・新宮駅の4駅間における乗降のみ利用可能となった(一部除外日あり)[13]。
- 普通列車は2022年まで平日9時以降(土・休日はすべて)が対象だったが、2023年からは朝通学混雑列車以外が対象となっている(朝通学混雑列車も日曜・休日・学校の長期休暇期間は対象となっている)。
- 2023年8月21日からは和歌山駅から御坊駅までの間を事前予約制で一列車3台までの実験サービスが開始する[14]。
- JR東海の新宮駅-紀伊長島駅間でも2024年10月5日から2025年2月24日の土日祝、普通全列車を対象に試験サービスが行われる[15]。
- JR西日本山陽本線 宇野線
- ラ・マル・ド・ボァ ラ・マルせとうちおよび、ラ・マルしまなみのみ。利用には全席グリーン指定席の上に先着で無料で発行される専用切符が必要。
北海道・東北
[編集]- 津軽鉄道 津軽鉄道線
- 弘南鉄道
- 三陸鉄道
- 由利高原鉄道
- 秋田内陸縦貫鉄道
- 阿武隈急行
- 福島交通 飯坂線
- 平日
- (下り)福島発 9時30分-13時50分、(上り)飯坂温泉発 10時55分-15時30分
- 土日祝日
- (下り)福島発 9時32分-13時50分、(上り)飯坂温泉発 10時55分-15時30分
- 平日
- 会津鉄道 会津線
関東
[編集]- 関東鉄道
- 野岩鉄道 会津鬼怒川線
- 上毛電鉄 上毛線
- 上信電鉄 上信線
- 東武鉄道
- 西武鉄道
- 秩父鉄道 秩父本線
- 小湊鉄道
- いすみ鉄道
- 終日、全区間にて実施。持ち込み料210円。
- 御岳登山鉄道 全線 260円
甲信越
[編集]東海・北陸
[編集]- 伊豆箱根鉄道 駿豆線
- 伊豆急行 伊豆急行線
- 養老鉄道 養老線
- 長良川鉄道
- 豊橋鉄道 渥美線
- 近畿日本鉄道 山田線・鳥羽線・志摩線[27]
- 三岐鉄道 三岐線
- 四日市あすなろう鉄道
- 伊賀鉄道 伊賀線
- あいの風とやま鉄道
- あいの風とやま鉄道線 あいの風サイクルトレイン 1000円 運行日限定 要予約
- 富山地方鉄道
- 万葉線 高岡駅から越ノ潟駅 3月16日から11月30日 要予約、アイトラムのみ
- 北陸鉄道
- 石川線 2000年7月25日より開始[31]。全駅で利用可能で実施期間は3月20日から11月30日(12月1日から3月19日は除く)。雨天中止。平日は下りが野町駅 9時15分 - 15時32分発、上りは鶴来駅 9時11分 - 15時30分発の列車、土・休日は終日すべての電車で実施・持ち込み料は無料。ただし、自転車の持ち込みは列車の進行方向の2両目となる。
- 浅野川線 北鉄金沢駅と内灘駅のみ利用可能でこれ以外の駅では乗降できない。3月16日から11月30日(12月1日から3月15日は除く)。雨天中止。平日は下りが北鉄金沢駅 9時01分 - 15時24分発、上りは内灘駅 9時01分 - 15時24分発の列車、土・休日は終日すべての電車で実施・持ち込み料は無料。ただし、自転車の持ち込みは列車の進行方向の2両目となる。
- 明知鉄道
近畿
[編集]- 近江鉄道 本線(彦根駅を除く)、多賀線
- 平日の9時から16時と土・休日の終日(年末年始は除く)で実施。持ち込み料は無料。
- 信楽高原鐵道 信楽線
- 近畿日本鉄道 田原本線[32]
- 京都丹後鉄道
- 水間鉄道 水間線
中国・四国
[編集]- 一畑電車
- 終日、全区間にて実施。持ち込み料300円(5枚綴りの回数券あり)。
- 井原鉄道
- 伊予鉄道
- 郊外線のみ。イベント開催日を除く土・日・祝日に終日実施。持ち込み料は280円。予約はできず、1列車につき先着10台までとなっている。
- 土佐くろしお鉄道
九州
[編集]- 西日本鉄道
- 松浦鉄道 西九州線
- 島原鉄道
- 熊本電気鉄道
- 全線。平日・土曜日は9時から15時30分まで、日曜・祝日は終日。ただし、列車に多人数の団体が乗車している場合や悪天候時は利用を断られることもある。持ち込み料は無料。
- くま川鉄道
- 全線。自転車1台につき、乗車券とは別に手廻料金260円が必要。くま川鉄道への連絡が必要。朝夕の利用者の多い時間帯は同乗できない場合があるとされるが、駅での混雑時でなければ確認でも乗れるようである。
- 肥薩おれんじ鉄道
廃止路線での過去の実施例
[編集]以下の会社では自社線での自転車の持ち込みが可能であった。
- 西大寺鉄道
- 戦前から自転車の持ち込み(客車のデッキや気動車の荷台等に積載)が有料で認められており、自転車用の定期券も存在した。
- 鹿島鉄道
- 平日の9時30分から15時まで、土・休日の終日で実施。列車内に自転車を1台まで無料で持ち込むことができた。
臨時列車でのみ実施
[編集]期間を設けての実施
[編集]通年実施に移行したものや冬期のみ休止のものは「常時実施されている路線」の節も参照。
試験的に実施
[編集]- 福岡市営地下鉄 箱崎線
- アルピコ交通 上高地線
- 名古屋鉄道 西尾線(西尾~吉良吉田)及び蒲郡線の一部
- 長野電鉄 屋代線(2012年廃線)
- 2010年7月の1か月間、社会実験として昼間の時間帯にサイクルトレインを運用した。
- 四国旅客鉄道
- 西日本旅客鉄道
イベントに合わせた実施
[編集]沿線で行われるイベントに合わせて列車が設定されるケース。イベントの参加・不参加と列車の利用申し込みは別々。
- 「サイクルタウン香川 自転車ワールドフェスタ2008」に合わせた実施
- 特定非営利活動法人「シクロツーリズムしまなみ」の主催するツアーに合わせた実施
- 「Station Ride in 南房総」に合わせた実施
イベントと一体で実施
[編集]列車の運行がサイクリングイベントと一体となっているケース。イベントの参加と共に利用可能で、サイクルトレインのみの利用はできない。
- 「秩父サイクルトレイン」においての実施
- 「東京・南会津サイクルトレイン」においての実施
- 2002年に始まり2010年6月までに計14回開催されているイベント。日本で初めて「首都圏からサイクリングフィールドまでサイクルトレインを運転する」というコンセプトで企画された。
- 「ながとブルーオーシャンライド」においての実施
- ながとブルーオーシャンライド・mini2023(2023年3月)
- ながとブルーオーシャンライドwith秋吉台2023(2023年10月)
- ながとブルーオーシャンライド・mini2024(2024年3月)
脚注
[編集]- ^ サイクルトレイン・サイクルバス - 国土交通省 自転車活用推進本部
- ^ サイクルトレイン・サイクルバス導入の手引き
- ^ 『スイスイ走ろう、ぐんぐん行こう。「水郡線サイクルトレイン」実証実験を行います!』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道水戸支社、2021年3月19日 。2022年1月8日閲覧。
- ^ 『「水郡線サイクルトレイン」の実証実験を延長します! 〜さらにご利用しやすく、対象列車を拡大します〜』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道水戸支社、2021年9月7日 。2022年1月8日閲覧。
- ^ 『「水郡線サイクルトレイン」を通年で実施します! 〜実証実験を終了し、さらに便利に使いやすくなります〜』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道水戸支社、2022年2月18日 。2023年5月18日閲覧。
- ^ “房総でのサイクリングをより気軽にお楽しみいただける新しい列車の概要について” (PDF). JR東日本千葉支社 (2017年8月25日). 2017年8月27日閲覧。
- ^ “BBBASE JR東日本旅客鉄道株式会社 千葉支社”. JR東日本千葉支社 (2017年8月25日). 2017年8月27日閲覧。
- ^ 【千葉県】B.B.BASEが久留里線へ乗り継ぐ「菜久留トレイン」を運行 Cycle sport
- ^ 「常磐線サイクルトレイン」サービスを通年で実施します!~自転車そのまま持ち込み OK!~ - JR東日本
- ^ 『きのくに線「サイクルトレイン2022」通年実施します!!』(PDF)(プレスリリース)西日本旅客鉄道、2021年11月24日 。2022年3月13日閲覧。
- ^ 『きのくに線「サイクルトレイン2022」がさらに進化します!!』(プレスリリース)西日本旅客鉄道、2022年3月23日 。2022年4月6日閲覧。
- ^ 「きのくに線サイクルトレイン」の新サービス 特急「くろしおサイクル」スタート!! (PDF) - 西日本旅客鉄道株式会社 2022年8月31日
- ^ ついに!和歌山駅まで!!「きのくに線サイクルトレインプラス」実証実験スタート JR西日本
- ^ 紀勢本線での定期列車によるサイクルトレイン運行の実証実験について - JR東海
- ^ “自転車輸送サービス”. 秋田内陸縦貫鉄道. 2023年5月13日閲覧。
- ^ “2021年7月1日(木)から3か月間「西武多摩川線サイクルトレイン」の実証実験を行います!” (PDF). 西武鉄道 (2021年6月10日). 2022年2月19日閲覧。
- ^ 『2021年10月1日(金)から西武多摩川線サイクルトレインは本実施へ!』(PDF)(プレスリリース)西武鉄道、2021年9月21日 。2022年2月19日閲覧。
- ^ “西武多摩川線サイクルトレイン ご利用案内 :西武鉄道Webサイト”. 西武鉄道. 2022年2月19日閲覧。
- ^ “サイクルトレイン本格運用について”. 伊豆箱根鉄道. 2017年8月30日閲覧。
- ^ “伊豆急 - おすすめ電車旅<観光・海・リゾート・温泉> サイクルトレイン”. 伊豆急. 2019年6月15日閲覧。
- ^ 『養老鉄道サイクルトレイン』(プレスリリース)養老鉄道株式会社 。2023年10月7日閲覧。
- ^ 『養老鉄道レンタサイクル』(プレスリリース)養老鉄道株式会社 。2023年10月7日閲覧。
- ^ 『サイクリング列車&輪行袋貸出』(プレスリリース)長良川鉄道株式会社 。2023年10月7日閲覧。
- ^ “豊橋鉄道 渥美線「サイクルトレイン」を通年実施”. 鉄道ホビダス 最新鉄道情報. (2011年9月14日)
- ^ “渥美線サイクルトレインの平日試験運行開始について”. 豊橋鉄道株式会社. 2017年8月30日閲覧。
- ^ 『サイクルトレインのご利用案内』(PDF)(プレスリリース)近畿日本鉄道株式会社、2022年8月 。2022年10月5日閲覧。
- ^ 『サイクルパス』(プレスリリース)三岐鉄道株式会社 。2023年10月7日閲覧。
- ^ 『八王子線でサイクルトレイン運行中‼』(プレスリリース)四日市あすなろう鉄道株式会社、2022年1月25日 。2023年10月7日閲覧。
- ^ 『サイクルトレインご利用下さい』(PDF)(プレスリリース)伊賀鉄道株式会社 。2023年10月7日閲覧。
- ^ “石川線100周年・浅野川線90周年記念ページ”. 北陸鉄道. 2017年3月27日閲覧。
- ^ 『近鉄田原本線におけるサイクルトレインの運行について』(PDF)(プレスリリース)近畿日本鉄道株式会社、2022年9月12日 。2022年10月5日閲覧。
- ^ 金利昭、中島一貴「地方鉄道への自転車持ち込みに関する事例調査:サイクルトレインの普及に向けて」(PDF)『国際交通安全学会誌』23(4)、国際交通安全学会、1998年10月、258-265頁、2023年11月6日閲覧。
- ^ “列車の旅とサイクリング!臨時列車「夏のニセコ満喫号」運転!!” (PDF). JR北海道 (2010年7月28日). 2023年11月6日閲覧。
- ^ 世相風俗観察会『現代世相風俗史年表:1945-2008』河出書房新社、2009年3月。ISBN 9784309225043。
- ^ 鉄道車両内への自転車持ち込みに関するモデル事業調査報告書 - 交通エコロジー・モビリティ財団作成、日本財団図書館収載。
- ^ 【アルピコ交通】上高地線電車 平成26年3月15日(土)ダイヤ改正のお知らせ アルピコ交通公式ホームページ
- ^ "西尾線および蒲郡線の一部で「サイクルトレイン」を試験的に実施 ~3月1日(木)~5月31日(木)の間、列車に自転車を持ち込むことが可能になります~" (Press release). 名古屋鉄道. 31 January 2007. 2014年10月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月7日閲覧。
- ^ 予土線サイクルトレイン(混乗試験)の実施期間延長について JR四国
- ^ 予土線サイクルトレイン 予土県境地域連携実行委員会
- ^ えひめ・しまなみリンリントレイン JR四国
- ^ 鳥取うみなみサイクルトレイン JR西日本
- ^ サイクルトレイン運行のお知らせ 高松琴平電気鉄道公式ホームページ
- ^ 「Station Ride in 南房総」の開催に合わせサイクルトレインを運転! (PDF) - JR東日本千葉支社ニュースリリース2013年10月18日
- ^ 駿河台大学天野宏司研究室編 (2008年4月1日). “「秩父サイクルトレイン」アンケート結果報告書” (PDF). 秩父サイクルトレイン実行委員会. 2016年11月8日閲覧。
- ^ 天野宏司「サイクルトレインの成立と展開 : 秩父サイクルトレインの分析を通じて」『駿河台大学論叢』第39号、2009年、161-182頁。
- ^ ながとブルーオーシャンライド・mini2023イベントレポート 長門市観光ナビ ななび
- ^ ながとブルーオーシャンライドwith秋吉台2023 SPORTS ENTRY
- ^ ながとブルーオーシャンライド・mini2024 長門市観光ナビ ななび
外部リンク
[編集]- サイクルバス・サイクルトレイン 国土交通省 自転車活用推進本部
- サイクルトレインをはじめませんか 国土交通省鉄道局
- サイクルトレイン全国MAP、自転車を分解せずに列車に乗せてらくらくサイクリング - BicycleClub
- 「シクロツーリズムしまなみ」
- 秩父市公式サイト「秩父観光なび」
- 東京・南会津サイクルトレイン実行委員会による紹介ページ - archive.today(2013年4月27日アーカイブ分)