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「ジョーカー (映画)」の版間の差分

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『'''ジョーカー'''』(原題:''Joker'')は、[[DCコミックス]]「[[バットマン]]」シリーズに登場する[[ヴィラン]]である[[ジョーカー (バットマン)|ジョーカー]]をベースとした、[[2019年の映画|2019年]]の[[アメリカ合衆国の映画|アメリカ]]の[[スリラー映画|サイコスリラー映画]]。監督は[[トッド・フィリップス]]、脚本はフィリップスと[[スコット・シルヴァー]]が務め、[[ホアキン・フェニックス]]、[[ロバート・デ・ニーロ]]、[[ザジー・ビーツ]]、[[フランセス・コンロイ]]らが出演した。
『'''ジョーカー'''』(原題:''Joker'')は、[[DCコミックス]][[ジョーカー (バットマン)|同名のキャラクター]]をベースとした、[[2019年の映画|2019年]]の[[アメリカ合衆国の映画|アメリカ]]の[[スリラー映画|サイコスリラー映画]]。監督は[[トッド・フィリップス]]、脚本はフィリップスと[[スコット・シルヴァー]]が務め、[[ホアキン・フェニックス]]、[[ロバート・デ・ニーロ]]、[[ザジー・ビーツ]]、[[フランセス・コンロイ]]らが出演した。


興行収入は[[映画のレイティングシステム#R(Restricted)|R指定]]映画として初めて10億ドルを超えた。[[第76回ヴェネツィア国際映画祭]]でプレミア上映され[[金獅子賞]]を受賞、[[第92回アカデミー賞]]では、[[アカデミー作品賞|作品賞]]、[[アカデミー監督賞|監督賞]]、[[アカデミー脚色賞|脚色賞]]を含む最多11部門にノミネートされ、フェニックスが[[アカデミー主演男優賞|主演男優賞]]、[[ヒドゥル・グドナドッティル]]が作曲賞を受賞した。
興行収入は[[映画のレイティングシステム#R(Restricted)|R指定]]映画として初めて10億ドルを超えた。[[第76回ヴェネツィア国際映画祭]]でプレミア上映され[[金獅子賞]]を受賞、[[第92回アカデミー賞]]では、[[アカデミー作品賞|作品賞]]、[[アカデミー監督賞|監督賞]]、[[アカデミー脚色賞|脚色賞]]を含む最多11部門にノミネートされ、フェニックスが[[アカデミー主演男優賞|主演男優賞]]、[[ヒドゥル・グドナドッティル]]が作曲賞を受賞した。

2021年11月17日 (水) 11:09時点における版

ジョーカー
Joker
監督 トッド・フィリップス
脚本 トッド・フィリップス
スコット・シルヴァー
原作 ボブ・ケイン
(キャラクター創作)
ビル・フィンガー
(キャラクター創作)
ジェリー・ロビンソン
(キャラクター創作)
製作 トッド・フィリップス
ブラッドリー・クーパー
エマ・ティリンガー・コスコフ
製作総指揮 マイケル・E・ウスラン
ウォルター・ハマダ
アーロン・L・ギルバート
ジョセフ・ガーナー
リチャード・バラッタ
ブルース・バーマン
出演者 ホアキン・フェニックス
ロバート・デ・ニーロ
ザジー・ビーツ
フランセス・コンロイ
音楽 ヒドゥル・グドナドッティル[1]
撮影 ローレンス・シャー
編集 ジェフ・グロス
製作会社 DCフィルムズ
ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズ
ブロン・クリエイティブ
ジョイント・エフォート
配給 ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ
公開 アメリカ合衆国の旗日本の旗 2019年10月4日[2][3][4]
上映時間 122分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $55,000,000[5][6]
興行収入 $1,074,251,311[7]
アメリカ合衆国の旗 $335,451,311[8]
日本の旗 50.6億円(2020年1月時点)[9]
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ジョーカー』(原題:Joker)は、DCコミックス同名のキャラクターをベースとした、2019年アメリカサイコスリラー映画。監督はトッド・フィリップス、脚本はフィリップスとスコット・シルヴァーが務め、ホアキン・フェニックスロバート・デ・ニーロザジー・ビーツフランセス・コンロイらが出演した。

興行収入はR指定映画として初めて10億ドルを超えた。第76回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され金獅子賞を受賞、第92回アカデミー賞では、作品賞監督賞脚色賞を含む最多11部門にノミネートされ、フェニックスが主演男優賞ヒドゥル・グドナドッティルが作曲賞を受賞した。

本作は、「DCエクステンデッド・ユニバース」をはじめ、過去に製作された「バットマン」の映画ドラマアニメーションのいずれとも世界観を共有しない、完全に独立した映画である。ジョーカーのオリジンを描いた内容ではあるが、本作以前の映像作品に登場している、どのジョーカーの過去でもない。

ストーリー

1981年。財政難によって荒んだゴッサムシティで暮らすアーサー・フレックは、母親ペニーの「どんな時でも笑顔で」という言葉を胸に、アルバイトの大道芸人(ピエロ)の仕事に勤しんでいた。彼は発作的に笑い出してしまう病気のため定期的にカウンセリングを受け、大量の精神安定剤を手放せない自身の現状に苦しみながら、年老いた母を養って暮らしている。

アーサーには一流のコメディアンになるという夢があった。ネタを思いつけばノートに書き記し、尊敬する大物芸人マレー・フランクリンが司会を務めるトークショーが始まれば彼の横で脚光を浴びる自分の姿を夢想する。しかし現実は、仕事中に不良少年たちから鬱憤晴らし目的で暴行を受け、上司には厄介者扱いされまともに話も聞いてもらえない。アーサーを心から気にかけてくれるのは小人症の同僚ゲイリーだけだった。アーサーの生活は酷く困窮しており、ペニーは30年ほど前に自分を雇っていた街の名士トーマス・ウェインへと救済を求める手紙を何度も送っていたが、一向に返事は届かない。

ある日、アーサーは同僚のランドルから護身用にと半ば強引に渡された拳銃を小児病棟の慰問中に落としてしまい、上司からクビを宣告される。ランドルが保身のために嘘を吐いたことも分かり、絶望したアーサーが地下鉄に乗っていると、1人の女性が酔っ払ったスーツの男3人に絡まれていた。アーサーは見て見ぬふりをしようとするも発作が起きて笑いが止まらなくなり、気に障った3人から暴行を受けると、反射的に拳銃を取り出して全員を射殺してしまう。混乱と焦燥感に襲われ駅から駆け出すアーサーだが、次第に言い知れぬ高揚感が己を満たしていった。実は死んだ3人はウェイン証券に勤めるエリートであり、地下鉄殺人が貧困層から富裕層への復讐と報道される中、報道番組に出演したトーマスは顔を隠す犯人も貧困層も「ただのピエロだ」と嘲るコメントを発していた。

予算不足を理由にカウンセリングや薬の処方を打ち切られたアーサーは、意を決してかねてより視察していたクラブのステージに立つと、笑いの発作に悩まされながらも無事にやり遂げ、成果を上げることができた。加えて、地下鉄殺人の犯人を支持する市民の様子にアーサーは気分を上げ、同じアパートに住むシングルマザーのソフィーと仲を深める。

そんな中、帰宅したアーサーがペニーの書いた手紙を盗み見ると、そこには自分がトーマスの息子であるように書かれていた。アーサーに問い詰められたペニーは手紙の内容を認め、トーマスの頼みで距離を取ったことを明かす。真実を確かめるべくウェイン邸を訪ねたアーサーは、庭で遊んでいたトーマスの息子ブルースと出会う。手品で気をひき柵越しに話をしていると執事のアルフレッドが駆け寄ってきたので、隠し子の件を匂わせトーマスに会おうとするが、ペニーの妄想だと突っぱねられる。母を侮辱され逆上したアーサーは掴みかかるが、傍でこちらを見ているブルースに気付くと逃げるように帰宅する。アパート前はパトカーや救急車で騒然としており、中から出てきたのはストレッチャーに横たわり搬送されるペニーだった。アーサーは病院の前でギャリティ刑事とその相棒に話しかけられ、自分が地下鉄殺人の犯人だと目星をつけられていることを知る。

アーサーがソフィーと共に病院のベッドで眠る母に付き添っていると、病室のテレビではマレーのトークショーが放送されており、何と先のクラブのステージでネタを披露するアーサーの姿が映し出される。驚きつつも幸福感を抱くアーサーだったが、マレーは彼をジョーカーと呼び、ネタの拙さや立ち居振る舞いを馬鹿にして笑いをとっていた。憧れの人物が自分を「笑いもの」にする光景に、テレビを見つめるアーサーの表情は険しくなっていく。一方、街ではピエロの仮面を被った市民による抗議デモが頻発し、トーマスへも非難の声が上がっていた。

翌日、トーマスがサイレント映画「モダンタイムズ」を鑑賞している劇場の前では、やはり抗議デモが起こっていた。アーサーは劇場へ侵入しボーイに変装すると、トイレでトーマスが1人になったところを見計らって隠し子の件を聞き出そうする。しかしトーマスはアーサーが養子であり、ペニーとの肉体関係はなく、彼女は逮捕され入院したこともあると告げる。話を信じられないアーサーは激高し言葉をまくし立てるが、ペニーを「イカれた女」と呼ばれたことをきっかけに笑いの発作が起きてしまう。トーマスはアーサーを殴ると、息子に近付けば殺すと警告してその場を去っていく。

失意のアーサーのもとに、マレーのトークショーのスタッフから電話がかかってくる。話を聞くと、アーサーの映像を流した回の反響が凄く、翌週の番組に出演して欲しいのだという。自分を「笑いもの」にするつもりだと気付きつつも話を承諾したアーサーは、アーカム州立病院を訪れて事務員にペニーの過去のカルテを確認してもらっていた。事務員はペニーに酷い妄想障害があり、自分の子供の健康を害したことで有罪になったことを読み上げると、カルテを渡すには本人の署名が必要だとアーサーに告げる。アーサーはカルテを強奪して中身を読み進め、トーマスの話が真実であること、自分がペニーの恋人によって酷い虐待をされていたこと、虐待する恋人をペニーが止めなかった理由が「虐待されても笑っているから」だったことを知る。全てに絶望したアーサーは大声でむせび泣き、笑い崩れた。

ずぶ濡れの姿でアパートへ帰りソフィーの部屋へと入るアーサーだが、出会ったソフィーはまるで初対面であるかのように怯えている。アーサーはソフィーとの仲を深めることなどできておらず、これまで過ごした2人の日々は全てアーサーの妄想だったのだ。自分の部屋に移り笑い続けるアーサーは、アパートに帰ってくる前の出来事を回想する。ペニーの病室に佇み、悲劇だと思っていた自分の人生が実は喜劇だと気付いたと語ると、アーサーはペニーの顔に枕を押し付け窒息死させていた。

明くる日、アーサーは自宅でマレーとの会話を想定した一人芝居を演じることで、番組の最中に拳銃自殺するためのリハーサルを行う。

迎えた放送当日、自宅で髪を緑に染め上げピエロのメイクを施すアーサーの元に、ペニーの死を悼んだゲイリーとランドルが訪問してくる。しかし、ランドルはアーサーが地下鉄殺人の犯人であることに感づいており、拳銃の出所について証言の口裏合わせをするため来訪したに過ぎなかった。アーサーは隙をついてランドルを惨殺すると、ゲイリーにマレーの番組に出演することと、唯一優しく接してくれたことへの感謝を伝え、彼を無事に帰す。

ピエロのメイクを完成させたアーサーはアパートを出て踊りながらジョーカー・ステアーズを下っていく。しかし、やって来ていたギャリティ刑事とその相棒から逃げるため地下鉄へ駆け込むと、そこは偶然にもこれからデモに向かうピエロで溢れかえっていた。刑事たちは電車内で掴み合いになると無実の市民を誤射してピエロたちの暴行を受ける事態に陥り、アーサーを逃がしてしまう。無事にスタジオに到着したアーサーは、控え室で対面したマレーに自分のメイクは昨今の情勢とは全くの無関係であることを告げ、「自分を本名ではなくジョーカーと紹介してほしい」と頼む。

間もなく生放送が始まった。出番になり登場したアーサーだが、マレーに新ネタを披露して欲しいと頼まれ取り出したノートを見ると、1人で行っていたリハーサルとは違う行動を取り始める。まず地下鉄殺人の犯人であることを告白すると、続いて社会の不条理を主張し始めた。マレーに全ての人間が最低なわけではないと反論されたアーサーは「僕を笑い者にしようとしてるマレーもあいつらと同じだ」と非難する。怒りに身を任せてマレーを射殺したアーサーは、逃げ出す観客をよそにテレビカメラの前でステップを踏み、マレーの決め台詞「That's life!(それが人生!)」を真似しようとするも寸前で放送は中断し、その場で逮捕されてしまう。

アーサーの凶行をきっかけに街のいたるところで暴動が起きる中、パトカーで護送されるアーサーがその光景を美しいと表現した直後、パトカーに暴徒の乗った車が激突する。街では富裕層の人々が悪辣な暴行を受けており、家族で舞台を鑑賞していたトーマスは騒動を避けるべく路地へと逃げ込むが、それを見ていた1人の暴徒によって妻と共に射殺され、息子のブルースだけが生き残った。パトカーのボンネットで気絶から目覚めたアーサーはその場に立ち上がると、自らの血で口元のメイクをグラスゴースマイルのように変えた後、周囲を囲むピエロ姿の暴徒たちがあげる歓喜の声に両手を広げ受け止める。

場面は変わり、ノーメイクのアーサーが手錠を付け煙草を吸いながら精神分析を受けていた。「ジョークを思いついた」と笑う彼にカウンセラーはそれを話すよう頼むが、アーサーは「理解できないさ」と断り、代わりにフランク・シナトラの『That's Life』を口ずさむ。部屋から出たアーサーは廊下に血の足跡をベッタリ残して歩を進め、突き当りの窓際で陽光に照らされながら踊り始める。すぐに病院の職員に見つかると、アーサーは右へ左へと逃げ回るのだった。

キャスト

アーサー・フレック / ジョーカー
演 - ホアキン・フェニックス、日本語吹替 - 平田広明[10][11]
精神的な問題や貧困に苦しみながらも、スタンダップコメディアンを目指している道化師。認知症気味の母の面倒を見る心優しい男だが、自分の意思に関係なく突然笑いだしてしまう病気を患っており、また妄想と現実の区別もつかなくなってきている。自身の辛い境遇から精神のバランスを崩し、次第に常軌を逸した行動を取っていく。
マレー・フランクリン
演 - ロバート・デ・ニーロ、日本語吹替 - 野島昭生[10][11]
人気トーク番組「マレー・フランクリン・ショー」の司会者。アーサーが憧れている。
ソフィー・デュモンド
演 - ザジー・ビーツ、日本語吹替 - 種市桃子[10][11]
アーサーと同じアパートに住むシングルマザーの女性。
ペニー・フレック
演 - フランセス・コンロイ、日本語吹替 - 滝沢ロコ[10][11]
アーサーの母親。認知症気味で体が少し不自由。若い頃はゴッサム随一の大富豪のウェイン家にメイドとして仕えていたとアーサーに語り、トーマス・ウェインなら自分たちを助けてくれると信じている。
トーマス・ウェイン英語版
演 - ブレット・カレン、日本語吹替 - 菅生隆之[11]
ゴッサムシティの名士。政界に進出し市議会議員となるが、医療制度の解体を推し進めたことなどをきっかけに、困窮する貧困層からバッシングを受けている。
ギャリティ刑事
演 - ビル・キャンプ、日本語吹替 - 高岡瓶々[11]
ゴッサム市警の刑事。
バーク刑事
演 - シェー・ウィガム、日本語吹替 - 山岸治雄[11]
ゴッサム市警の刑事。
ランドル
演 - グレン・フレシュラー、日本語吹替 - ボルケーノ太田[11]
アーサーの同僚の道化師。暴行を受けたアーサーに半ば強引に拳銃を貸し与える。
ゲイリー
演 - リー・ギル、日本語吹替 - 越後屋コースケ[11]
アーサーの同僚の道化師。小人症で他の同僚に身長をネタにからかわれる。アーサー曰く、彼に優しく接する唯一の存在。原作においてジョーカーのずっと昔の相棒であるギャギーというヴィランが元ネタ。
ジーン・アフランド
演 - マーク・マロン英語版、日本語吹替 - 唐沢龍之介[11]
「マレー・フランクリン・ショー」のプロデューサー。
アルフレッド・ペニーワース
演 - ダグラス・ホッジ英語版、日本語吹替 - 田中美央[11]
トーマス・ウェインの執事。
ブルース・ウェイン
演 - ダンテ・ペレイラ=オルソン英語版
トーマスの息子。原作である『バットマン』の主人公。原作では両親を目の前で喪った悲しみから、成人後にコウモリのコスチュームを纏って犯罪者に立ち向かうクライムファイターとなる。
カール
演 - ブライアン・タイリー・ヘンリー、日本語吹替 - 武田太一[11]
アーカム州立病院の事務員。

製作

背景

監督を務めたトッド・フィリップスは本作がアメリカの社会格差を風刺する作品として話題を集めたのを認めつつ、映画の超目標はあくまでもアーサー・フレックという個人がいかにしてジョーカーという悪役へ変遷するかを描く人物研究めいた作品であるとコメントしている。この構想を立てたフィリップスはスコット・シルヴァーと共におよそ1年をかけて脚本を執筆した。脚本は「タクシードライバー」「キング・オブ・コメディ」などマーティン・スコセッシ監督・ロバート・デ・ニーロ主演の作品群に影響を受け、原作コミックから大きく逸脱する内容に完成したが、配給のワーナー・ブラザースは特別な指摘を示さなかった。作品の舞台は原作コミックに共通するゴッサム・シティであり、時代背景は70年代から80年代を彷彿とさせる様相を見せているが明確な定義づけはなされず、フィリップス、マーク・フリードバーグエドウィン・リベラらによって1981年のニューヨークをモチーフに創造された架空の都市である[12]

キャスティング

ジョーカーことアーサー・フレックには個性派俳優として知られるホアキン・フェニックスがキャスティングされた。当初はスコセッシが監督し、彼の盟友であるレオナルド・ディカプリオがキャスティングされる構想もあったが、実際にメガホンを取ったフィリップスは脚本の執筆段階からフェニックスを意識してジョーカーのイメージを手がけ、彼以外起用は考えられないとコメントしている[13]。ジョーカーに次いで重要な役どころとなるマレー・フランクリンにはロバート・デ・ニーロが起用された。トーマス・ウェイン役にはドナルド・トランプの物真似で有名なアレック・ボールドウィンが検討されたが、最終的にブレット・カレンに決まった。

新たなジョーカーの創造

本作の主人公であるジョーカーDCコミックスアメリカンコミックバットマン」に登場するスーパーヴィランで、主人公のバットマンブルース・ウェイン)の対極に位置づけられる最悪の悪役として、ビル・フィンガー、ボブ・ケイン、ジェリー・ロビンソンによって創造された。彼に関する明確なオリジンは確立されておらず、またジョーカー自身が狂人であるため語る度に変化していると設定されている。最も有名なエピソードとして「元々は売れないコメディアンで、強盗を犯したところをバットマンから逃げる途中に化学薬品の溶液に落下し、白い肌、赤い唇、緑の髪、常に笑みをたたえる裂けた口の姿に変貌した」がパブリックイメージとして浸透している。本作ではこのオリジンないし、原作コミックや他のメディアミックス作品などとの関連性は撤廃され、一部を踏襲しながらも、脚本を手がけたトッド・フィリップススコット・シルヴァーによって、ゴッサム・シティで母と暮らす「アーサー・フレック」というまったく新たなオリジンが定義されたが、同時に本作のジョーカーを「信用できない語り部」とする事で、このオリジンが真実であるかどうかは全くの不明というコミックの設定も踏襲している。
ジョーカーの姿は原作コミックや映像作品が有する「白い肌」「緑の髪」「赤く笑ったように裂けた唇」といった特徴が本作の彼にも踏襲されているが、先述のオリジンでは意図せず発現したこれらはすべて、コメディアンを志すジョーカーことアーサーが自ら手がけたメイクとして描かれている。衣装は原作やこれまで幾多の俳優が演じたジョーカーのスーツ姿が踏襲されたが、カラーリングは一新され、赤系統色のジャケットが特徴的なファッションが定着した。ジョーカーを演じるにあたってフェニックスは撮影開始3ヶ月前には80kg以上あった体重を「1日をりんご1個と少量の野菜のみで過ごす」過酷な食量制限によって58kgまで減量した[14]

撮影

2018年9月より、ニューヨーク市内で撮影がスタートした[15]。ロケ地となったのはブルックリンチャーチ・アベニュー駅ブロンクスベッドフォード・パーク・ブールバード駅ブルックリン9番街駅の廃プラットホームでは暴力シーンの撮影も行われた。クイーンズのアストリアにあるファースト・セントラル・セービングス・バンクなどである。ニュージャージー州ジャージーシティでも撮影が行われ、ニューアーク・アベニューが一時閉鎖されてのロケが行われた。10月にはニューアーク、11月には郡道501号での撮影が行われた[16][17]

公開

当初、日本での公開は11月の予定だったが、後に10月4日に日米同時公開に変更となった[3]。日本でのキャッチコピーは「本当の悪は笑顔の中にある」[18]

評価

興行成績

10月4日に公開され、アメリカでは公開初日からの3日間で9,620万2,337ドルを記録[19]

R指定作品として、全世界での興行成績において、『デッドプール2』が保持していた7億8,500万ドルの世界記録を塗り替え、10億ドルを超え[20]、1位を記録[21]

日本では、10月4日に全国359スクリーンで公開され、土日2日間で動員35万6000人、興行収入5億4800万円で週末動員ランキングで1位を獲得し、初日から3日間では、動員49万8071人、興行収入7億5566万8700円を記録した[22][23][24]

10月8日までの5日間で10億2,241万3,800円を記録した[25]

興行収入が2019年12月15日に50億円を突破した[20]

評論

興行的には大成功を収めた一方で、ストーリーラインがマーティン・スコセッシ作品の「タクシー・ドライバー」「キング・オブ・コメディ」のコピーである点、暴力や殺人を美化する内容、精神疾患に関する問題ある描写から、評論家による作品への評価は賛否両論となった。Rotten Tomatoesによれば、高評価をつけたのは503件の評論のうち347件の69%、平均して10点満点中7.28点である[26]Metacriticによれば、58件の評論のうち高評価は32件、賛否混在は15件、低評価は11件で、平均して100点満点中59点という平均的評価にとどまっている[27]

受賞

カテゴリ 対象 結果
アカデミー賞 作品賞 ノミネート
監督賞 トッド・フィリップス ノミネート
主演男優賞 ホアキン・フェニックス 受賞
脚色賞 トッド・フィリップス
スコット・シルバー
ノミネート
衣装デザイン賞 マーク・ブリッジス ノミネート
作曲賞 ヒドゥル・グドナドッティル 受賞
撮影賞 ローレンス・シャー ノミネート
編集賞 ジェフ・グロス ノミネート
音響編集賞 ノミネート
録音賞 ノミネート
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 ノミネート
英国アカデミー賞 作品賞 ノミネート
監督賞 トッド・フィリップス ノミネート
主演男優賞 ホアキン・フェニックス 受賞
脚色賞 トッド・フィリップス
スコット・シルバー
ノミネート
キャスティング賞 受賞
撮影賞 ノミネート
編集賞 ノミネート
美術賞 ノミネート
音響賞 ノミネート
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 ノミネート
作曲賞 ヒドゥル・グドナドッティル 受賞
ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門) ノミネート
監督賞 トッド・フィリップス ノミネート
主演男優賞 (ドラマ部門) ホアキン・フェニックス 受賞
作曲賞 ヒドゥル・グドナドッティル 受賞
日本アカデミー賞 最優秀外国作品賞 受賞
全米映画俳優組合賞 主演男優賞 ホアキン・フェニックス 受賞
ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞 受賞
放送映画批評家協会賞[28][29] 作品賞 ノミネート
主演男優賞 ホアキン・フェニックス 受賞
脚色賞 トッド・フィリップス
スコット・シルバー
ノミネート
作曲賞 ヒドゥル・グドナドッティル 受賞
美術賞 ノミネート
撮影賞 ローレンス・シャー ノミネート
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 ノミネート
グラミー賞 最優秀スコア・サウンドトラック ヒドゥル・グドナドッティル 受賞
最優秀編曲(インストゥルメンタル/アカペラ) ノミネート

脚注

出典

  1. ^ Hildur Gudnadottir to Score Todd Phillips’ ‘Joker’ Origin Movie”. Film Music Reporter. 20 September 2018閲覧。
  2. ^ McClintock, Pamela; Kit, Borys (June 18, 2018). “'Joker' Origin Movie Lands Fall 2019 Release Date”. The Hollywood Reporter. https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/joker-origin-pic-lands-fall-2019-release-date-1128203 July 18, 2018閲覧。 
  3. ^ a b “俺の人生は悲劇? いや、喜劇だ「ジョーカー」日米同時公開! ポスター&特報も披露”. 映画.com. (2019年5月10日). https://eiga.com/news/20190510/3/ 2019年5月10日閲覧。 
  4. ^ “DC新作『ジョーカー』10.4日米同時公開!”. シネマトゥデイ. (2019年5月10日). https://www.cinematoday.jp/news/N0108541 2019年5月10日閲覧。 
  5. ^ Kit, Borys (June 13, 2018). “Warner Bros. Shifts DC Strategy Amid Executive Change-Up” (英語). The Hollywood Reporter. https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/joker-batman-suicide-squad-movie-plans-making-sense-dcs-moves-1119489 June 15, 2018閲覧。 
  6. ^ 2019年後半の成功作・失敗作”. シネマトゥデイ. 2020年6月4日閲覧。
  7. ^ Joker (2019)” (英語). Box Office Mojo. 2020年1月31日閲覧。
  8. ^ Joker (2019)” (英語). Box Office Mojo. 2020年1月31日閲覧。
  9. ^ 2019年 (令和元年) 全国映画概況” (PDF). 日本映画製作者連盟. 2020年1月31日閲覧。
  10. ^ a b c d “『ジョーカー』来年1月ソフト発売!日本語吹替版は平田広明がアーサー役”. シネマトゥデイ. (2019年12月6日). https://www.cinematoday.jp/news/N0112792 2019年12月6日閲覧。 
  11. ^ a b c d e f g h i j k l “ジョーカー”. ふきカエル大作戦!!. (2019年12月23日). https://www.fukikaeru.com/?p=13026 2019年12月23日閲覧。 
  12. ^ Jr, Mike Fleming (August 22, 2017). “The Joker Origin Story On Deck: Todd Phillips, Scott Silver, Martin Scorsese Aboard WB/DC Film”. Deadline. https://deadline.com/2017/08/the-joker-origin-movie-todd-phillips-martin-scorsese-scott-silver-batman-dc-universe-1202154053/ August 23, 2017閲覧。 
  13. ^ Masters, Kim; Kit, Borys (September 1, 2017). “The Joker Movie: Warner Bros. Wants Class, Cachet and Maybe Leonardo DiCaprio” (英語). The Hollywood Reporter. https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/leonardo-dicaprio-joker-movie-warner-bros-wants-actor-role-1034392 September 5, 2017閲覧。 
  14. ^ “「脚本通りに撮るだけでは、生きた『ジョーカー』はできなかった」ホアキン・フェニックス ロングインタビュー【前編】”. Movie Walker (MOVIE WALKER). (2019年10月5日). https://moviewalker.jp/news/article/207579/ 2020年2月26日閲覧。 
  15. ^ D'Alessandro, Anthony (August 27, 2018). “Alec Baldwin Joins Todd Phillips’ ‘Joker’”. Deadline. https://deadline.com/2018/08/joker-movie-todd-phillips-alec-baldwin-thomas-wayne-batman-father-1202452962/ August 28, 2018閲覧。 
  16. ^ McNary, Dave (October 10, 2018). “'Joker' Movie Extras Reportedly Denied Break, Locked in Subway Cars”. Variety. October 24, 2018時点のオリジナルよりアーカイブOctober 23, 2018閲覧。
  17. ^ MacDonald, Terrence T. (September 21, 2018). “'Joker,' Joaquin Phoenix film about Batman nemesis, to film in N.J. locations”. NJ.com. September 22, 2018時点のオリジナルよりアーカイブSeptember 21, 2018閲覧。
  18. ^ 狂気の連続!DC新作『ジョーカー』予告編&ポスター公開”. シネマトゥデイ (2019年8月29日). 2020年2月1日閲覧。
  19. ^ Weekend Box Office Results for October 4-6, 2019” (英語). Box Office Mojo. 2019年10月13日閲覧。
  20. ^ a b 『ジョーカー』1月9日に劇場公開終了へ ─ 国内興収50億円突破、世界ランキング第3位に”. THE RIVER (2019年12月17日). 2019年12月18日閲覧。
  21. ^ “「ジョーカー」の興行成績、R指定作品として歴代1位に”. CNN.co.jp. (2019年10月28日). https://www.cnn.co.jp/showbiz/35144496.html 2020年7月10日閲覧。 
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外部リンク