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フォイエルバッハの定理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フォイエルバッハの定理

幾何学において、フォイエルバッハの定理(フォイエルバッハのていり、: Feuerbach's theorem)は、三角形九点円内接円ないし傍接円接するという定理である[1]カール・フォイエルバッハの名を冠する。

主張

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三角形の辺の各中点、頂点と垂心の中点、三角形の頂点から対辺に降ろした垂線の足は共円である。この円を九点円という。

三角形の3辺に、内接する円を内接円という。三角形の3辺の1つと内部で接し、2つと外部で接する円を傍接円という。

三角形の九点円と、内接円または傍接円は接する。これをフォイエルバッハの定理という。内接円と九点円の接点は、フォイエルバッハ点と呼ばれる。

歴史

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カール・ヴィルヘルム・フォイエルバッハ
ウィルキンソンの提起した問題。垂心系を成す4点からなる4つの三角形の九点円は一致する。

フォイエルバッハの定理の歴史はジョン・スタージャン・マッカイ英語版の九点円に関する作品『History of the Nine-point Circle』に詳しい[2][3]

フォイエルバッハの定理は、1822年のカール・フォイエルバッハのモノグラフ『Eigenschaften einiger merkwiirdigen Punkte des geridlinigen Dreiecks』の§57で初めて証明された[4]。フォイエルバッハによる証明は九点円の中心と内心の距離を計算する方法による。1833年、ヤコブ・シュタイナーは、論文『Die geometrischen Con structionen, ausgefuhrt mittelst der geraden Linie und eines festen Kreises』の最後の脚注に、フォイエルバッハの功績を知らぬまま、定理について述べた[5]。1842年、オルリー・テルケムが解析的なフォイエルバッハの定理の証明を行った[6]初等幾何学的証明は、雑誌『Nouvelles Annales』における1850年のJ. Mentionの作品『Note sur le triangle rectiligne』で示された[7]。1854年に、W. H. レヴィが『The Lady's and Gentleman's Diary英語版』において、2つ目の初等的証明を示した[8]。同年同雑誌で、 T. T. ウィルキンソンは、垂心系英語版を成す4つの三角形の内接円と傍接円の延べ16円が、九点円に接するという問題を投げかけた[9][注釈 1]。これは、1855年の同雑誌で解決された[10]。1860年6月17日、ジョージ・サーモンは、『The Quarterly Journal of Pure and Applied Mathematics』で、フォイエルバッハの定理について、次の様に述べた[11]

" The following elementary theorems may interest some of the readers of the Quarterly Journal..."

同年11月27日、ジョン・ケイシーは、『Quarterly Journal』で、現在ケイシーの定理と呼ばれる定理を用いてフォイエルバッハの定理を示した[12]。ケイシーの書籍『Sequel to Euclid』にも、証明が示されている[13]

他に、C. Leudesdorf(1884)[14]サミュエル・ロバーツ英語版(1887)[15]ヴィクトル・テボー英語版(1910)[16]など多くの数学者が、フォイエルバッハの定理を独自に証明している[17]。日本では、澤山勇三郎が約20通りの証明をしたことで知られる[18][注釈 2]

証明

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フォイエルバッハの定理の証明にはさまざまなものが知られ、現代でも新たな証明が発見される[19]自動定理証明を用いるものも存在する[20]。マッカイの論文内でも、マッカイ自身やE. M. ラングレーなどによる、9つの証明が紹介されている。次の証明はケイシーの定理[21]、特にパーサーの定理を使うものである。

ABCについて、BC, CA, ABの中点をそれぞれD, E, FBC, CA, ABと内接円の接点をそれぞれX, Y, Zとする。

が計算できる。適切に符号を選ぶことで、

とすることができるため、ケイシーの定理の逆より、内接円と九点円は接する。同様にして傍接円と九点円が接することも証明できる。

一般化

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フォイエルバッハの定理の一般化・拡張もまた様々なものが知られている。

ロビンソン

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1857年、ジョン・ジョシュア・ロビンソンは『The Lady's and Gentleman's Diary』で次の定理を示した[22]

三角形の内接円及び傍接円の根心4つを取り、これら根心からなる三角形の内接円と傍接円の根心を取る。このような操作を繰り返して得られるすべての円は、最初の三角形の九点円に接する。

ハート

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ハートの定理

1862年、アンドルー・サール・ハートは、六円定理を九円定理に拡張するように、3辺が直線でなくともよいことを示した[23]

フォントネー

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フォントネーの定理

次の定理は、1880年にヴェイユ[24]、1889年にW. S. マッケイ[25]、1905年にジョルジュ・フォントネー[26]が示したものである。ハミルトン(Sir William R. Hamilton)も同様の結果を得ている[27]

Pとその等角共役点P'と三角形の外心共線ならば、P, P'垂足円は九点円に接する。

Pを内心か傍心とすればフォイエルバッハの定理となる。P, P'が外心と共線になるようなPマッケイ三次曲線上にある。

一般に、等角共役な2点P, P'の垂足円と九点円の2交点は、三角形の3頂点とそれぞれP, P'を通る直角双曲線の中心である[28]

ロジャース

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ロジャースの定理

1930年、レナード・ジェームズ・ロジャースは、『Mathematical Gazette』において、円錐曲線連合準円を用いて、一般化を行った[29]。1897年、V・ラマスワミ・エイヤールも、似た結果を導出している[30]

三角形の内接円錐曲線と、その円錐曲線と焦点を共有する外心を通る円錐曲線の連合準円は九点円に接する。

内接円錐曲線の2焦点が外心と共線であるとき、フォントネーの定理を得る[注釈 3]

荻野修作は、フォントネーの定理やロジャースの定理の拡張を2つ示している[31]。次はその1つ目の定理である。

三角形の外心と九点円の中心をそれぞれO, Nとする。焦点をP, Qとする内接円錐曲線Γについて、POQにおける等角共役線l, l'を書く。ΓΓ共焦点l, l'に接する円錐曲線の連合準円と、九点円の交点X, Yl, l'直極点である。さらに、直線NX, NYの成す角はl, l'の成す角の2倍の角に等しい。

l, l'の成す角が、0, 180度ならば、ロジャースの定理を得る。l, l'OP, OQに一致すれば、フランク・モーリーが著書『Inversive Geometry』で示した、フォントネーの定理の拡張になる[32]

ラオー

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次の定理は1917年、M. Bhimasena Rao(ラオー)がインド数学会英語版の雑誌『The Journal of the Indian Mathematical Society(JIMS)』で発表したものである[33]

Pとその等角共役点P'類似重心が共線ならば、それぞれP, P'を中心とする内接円錐曲線と辺の接点を通る円は九点円と接する。

Pを内心か傍心とすれば、フォイエルバッハの定理を得る。逸見伝三郎濱田隆資らは、この定理の拡張を示している[34]。また、P, P'が類似重心と共線になるようなPはグリーブ三次曲線K102上にある[35]

ラオーなどJIMSへの寄稿者はまた、他にもフォイエルバッハの定理に関する定理を多く残している[36]。次の定理はその一例[37]

Pの垂足円が九点円に接するときPAB + ∠PBC + ∠PCA = 90°

ブリカール

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1907年、ラウル・ブリカールは、『Nouvelles Annales de Mathématiques』において、有向直線を用いた拡張を発表した[38]

3対の平行な同じ向きの有向直線(A1, B1), (A2, B2), (A3, B3)について、(A1, A2, A3), (A1, B2, B3), (B1, A2, B3), (B1, B2, A3)に接する同じ向きの有向円は、ある一つの有向円に接する。

B1, B2, B3の成す三角形を中点三角形にすると、フォイエルバッハの定理を得る。

濱田

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1943年、濱田隆資根円を用いて拡張を行った[39]。2021年には、Tran Quang HungとNguyen Thi Thuy Duongも同様の定理を得ている[40]

任意の点P垂足三角形PaPbPcとする。BC, CA, ABの中点を中心とし、それぞれPa, Pb, Pcを通る円の根円は九点円に接する。

1925年、J. P. Gabbattは、一般に任意の点P, Qの辺に対する垂足を反転によって移すような、辺の中点を中心とする3円の根円と、九点円の2交点は、P, Qと外心を結ぶ直線の直極点であることを示した[41]。更に、3円の中心が、辺の中点以外(外心以外の垂足三角形の頂点)では成立しないことも示している。

グエンとレ

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2023年、Nguyen Ngoc GiangとLe Viet Anは3つの一般化を示した[42]。次の定理はその一つである。

ABCとその垂心でないかつ辺上、外接円上にない任意の点Pについて、PB, PCにおけるA直交射影を結ぶ直線をlaとして、lb, lcも同様に定義する。la, lb, lcから成る三角形の外接円は、Pの垂足円に接する。

モーリー

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1916年、フランク・モーリーは雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』において、三級曲線(任意の点から実あるいは虚の接線を3本引くことができる代数曲線)への拡張を発表した[43]

垂心系英語版を成す4点を結ぶすべての直線に接する、かつ2つの虚円点を通る三級曲線は、垂心系の作る三角形の九点円に接する。

マルグーズー

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1919年、マルグーズー(Malgouzou)は、三次曲線への拡張を示したが、複雑な手順を要しており、また、ハートの定理のように、直接的な拡張とはなっていない[44]

三次曲線Cと点Oについて、Oを通る直線lCと3点P, Q, Rで交わっているとする。今、

を満たす点Xが2つ存在する。lを動かしたとき、X軌跡は極円錐曲線と呼ばれる円錐曲線になる。さらにある定直線Lに極円錐曲線が接するようにOを動かしたとき、Oの軌跡はPoloconicと呼ばれる円錐曲線になる。Poloconicが円となるようなLは4つ存在するが、このときの4円は、一つの円に接する。

Cが3直線へ退化したとき、フォイエルバッハの定理を間接的に得る。

他に、ユークリッド空間[45]非ユークリッド平面双曲平面[46]ミンコフスキー平面[47])、ヒルベルト平面[48]、あるいは九点円錐曲線[49]などへの拡張なども示されている。

脚注

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注釈

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  1. ^ ABC垂心Hとすると、BCHの辺の各中点は、BC, BH, CHの各中点であるから、ABCBCHの九点円は一致する。同様にCAHABHの九点円も一致することが分かる。
  2. ^ 森本清吾による澤山の論文をまとめた書籍『澤山勇三郎全集』によれば、澤山は『東京物理学校雑誌』に発表した証明の中で、ケイシーの定理や解析幾何学を用いたものには番号を付けなかった。
  3. ^ 三角形の任意の内接円錐曲線の2つの焦点は等角共役の関係にある。円錐曲線とその2焦点を通る直線の連合準円は円錐曲線の補助円(Auxiliary Circle)となり、等角共役点を焦点とする内接円錐曲線の補助円は垂足円であることから従う。

出典

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  1. ^ Sherman 2021, pp. 44–46; Davis 1919.
  2. ^ Mackay 1892.
  3. ^ History of the Nine Point Circle”. 2024年12月14日閲覧。
  4. ^ Feuerbach & Buzengeiger 1822.
  5. ^ Steiner 1833, p. 110.
  6. ^ Terquem 1842.
  7. ^ Mention 1850.
  8. ^ Levy 1854.
  9. ^ Wilkinson 1854.
  10. ^ Wilkinson et al. 1855.
  11. ^ Salmon 1861.
  12. ^ Casey 1861.
  13. ^ Casey 1886, pp. 105–106.
  14. ^ Leudesdorf 1884.
  15. ^ Roberts 1887.
  16. ^ Thébault 1910.
  17. ^ Goormaghtigh 1926, p. 101.
  18. ^ 森本 1938, pp. 109–167; 澤山 1904.
  19. ^ Smarandache & Patrascu 2023.
  20. ^ Chou 1988.
  21. ^ Gonzalez 2011.
  22. ^ Mackay 1892, p. 24; Robinson 1857.
  23. ^ Mackay 1892, p. 27; Coolidge 1916.
  24. ^ Weill 1880.
  25. ^ M'Cay 1889.
  26. ^ Fontené 1905.
  27. ^ Gibbins 1935; 窪田 1932, p. 99.
  28. ^ Neville 1944.
  29. ^ Rogers 1930; Ayyangar 1930; Hilton & Neville 1930.
  30. ^ O'Connor, John J.; Robertson, Edmund F., “V Ramaswami Aiyar”, MacTutor History of Mathematics archive, University of St Andrews, https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Aiyar/ .
  31. ^ Shûsaku 1937.
  32. ^ Morley & Morley 1933, p. 198.
  33. ^ 窪田 1947, pp. 139–141; Henmi 1950; Naraniengar 1917.
  34. ^ 濱田 & 逸見 1950.
  35. ^ Gibert, Bernard. “K102”. Cubics in the Triangle Plane. 2024年12月3日閲覧。
  36. ^ Rao 1919, p. 7; Grace 1917; Rao 1918, p. 319.
  37. ^ Rao 1918, p. 319.
  38. ^ Bricard 1907; 窪田 1932, pp. 104–105.
  39. ^ Hamada 1943.
  40. ^ Tran & Nguyen 2021.
  41. ^ Gabbatt 1925a.
  42. ^ Nguyen & Le 2023.
  43. ^ Morley 1916; Richmond 1919; 窪田 1932, pp. 108–110.
  44. ^ Malgouzou 1919; 窪田 1932, pp. 110–111.
  45. ^ Avksentyev 2023; 五十嵐 et al. 2006.
  46. ^ Akopyan 2009.
  47. ^ Cao 2024.
  48. ^ Morton 2017.
  49. ^ Minevich & Morton 2015.

参考文献

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The Mathematical Gazette

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The Mathematical GazetteISSN 0025-5572)にはフォイエルバッハの定理を扱うものが数多く存在する。

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関連項目

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外部リンク

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