「タルボサウルス」の版間の差分
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{{Expand English|Tarbosaurus|date=2017年6月}} |
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{{生物分類表 |
{{生物分類表 |
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|名称 = タルボサウルス |
| 名称 = タルボサウルス |
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| fossil_range = [[中生代]][[後期白亜紀|白亜紀後期]]、{{fossil range|70}}<small>[[カンパニアン]]にも生息していた可能性あり<ref name="Mortimer 2004">{{cite web|last=Mortimer |first=M |title=Tyrannosauroidea |work=The Theropod Database |year=2004 |url=http://archosaur.us/theropoddatabase/Tyrannosauroidea.html#Tyrannosaurusrex |accessdate=2007-08-21 |url-status=dead |archiveurl=https://web.archive.org/web/20130929074932/http://archosaur.us/theropoddatabase/Tyrannosauroidea.html |archivedate=2013-09-29 }}</ref></small> |
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|fossil_range = [[中生代]][[白亜紀]]後期, {{fossilrange|70}} |
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| 画像キャプション = [[岡山理科大学]]によるレプリカ |
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|地質時代 = [[白亜紀]]後期 |
| 地質時代 = [[中生代]][[白亜紀]]後期 (約7,000万年前) |
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| ドメイン = [[真核生物]] {{sname||Eukaryota}} |
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|省略 = 恐竜上目 |
| 省略 = 恐竜上目 |
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|目 = [[竜盤類|竜盤目]] {{sname||Saurischia}} |
| 目 = [[竜盤類|竜盤目]] {{sname||Saurischia}} |
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| 目階級なし = [[真竜盤類]] {{sname||Eusaurischia}} |
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| 亜目 = [[獣脚類|獣脚亜目]] {{sname||Theropoda}} |
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| [[新獣脚類]] {{sname||Neotheropoda}} |
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| [[アヴェロストラ|鳥吻類]] {{sname||Averostra}}}} |
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| 下目 = [[テタヌラ類|堅尾下目]] {{sname||Tetanurae}} |
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|学名 = '''''Tarbosaurus'''''<br/>{{AUY|[[w:Evgeny Maleev|Maleev]]|1955}} |
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| [[鳥獣脚類]] {{sname||Avetheropoda}} |
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|下位分類名 = [[種 (分類学)|種]] |
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| [[コエルロサウルス類]] {{sname||Coelurosauria}}}} |
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|下位分類 = |
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| 小目階級なし = [[ティラノ盗類]] {{sname||Tyrannoraptora}} |
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*''T. bataar'' {{AUY|Maleev|1955}}([[タイプ (分類学)|模式種]]) |
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| 上科 = [[絶滅|†]][[ティラノサウルス上科]] {{sname||Tyrannosauridea}} |
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| 上科階級なし = {{生物分類表/階級なし複数 |
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| [[汎ティラノサウルス類]] {{sname||Pantyrannosauria}} |
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| [[真ティラノサウルス類]] {{sname||Eutyrannosauria}}}} |
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| 科 = [[ティラノサウルス科]] {{sname||Tyrannosauridae}} |
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| 属 = '''タルボサウルス属''' {{snamei||Tarbosaurus}} |
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| 学名 = '''''Tarbosaurus'''''<br/>{{AUY|[[w:Evgeny Maleev|Maleev]]|1955}} |
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| 下位分類名 = [[種 (分類学)|種]] |
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| 下位分類 = |
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*''T. bataar'' ({{AUY|Maleev|1955}})<small>([[タイプ (分類学)|模式種]]、[[ティラノサウルス]]から再分類)</small> |
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| シノニム = |
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|title=<small>属のシノニム</small> |
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|''Shanshanosaurus'' <br>({{AUY|Dong|1977}}) |
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|''Maleevosaurus'' <br>({{AUY|Carpenter|1992}}) |
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|''Jenghizkhan'' <br>({{AUY|Olshevsky|1995}}) |
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||''?[[ラプトレックス|Raptorex]]'' <br>({{AUY|Sereno|2009}}) |
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}} |
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|title=<small>種のシノニム</small> |
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|''[[ティラノサウルス|Tyrannosaurus]] bataar'' <br>{{AUY|Maleev|1955}} |
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|''[[ゴルゴサウルス|Gorgosaurus]] novojilovi'' <br>{{AUY|Maleev|1955}} |
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|''Tarbosaurus efremovi'' <br>{{AUY|Maleev|1955}} |
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|''Gorgosaurus lancinator'' <br>{{AUY|Maleev|1955}} |
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|''Deinodon novojilovi'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''Deinodon lancinator'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''[[アウブリソドン|Aublysodon]] lancinator'' <br><small>(Maleev, 1955) Charig, 1967</small> |
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|''Aublysodon novojilovi'' <br><small>(Maleev, 1955) Charig, 1967</small> |
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|''Shanshanosaurus huoyanshanensis'' <br>{{AUY|Dong|1977}} |
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|''Tyrannosaurus efremovi'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''Tarbosaurus novojilovi'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''Aublysodon huoyanshanensis'' <br>({{AUY|Dong|1977}}) |
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|''[[アルバートサウルス|Albertosaurus]] novojilovi'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''Maleevosaurus novojilovi'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''Jenghizkhan bataar'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''Tyrannosaurus novojilovi'' <br>({{AUY|Maleev|1955}}) |
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|''?[[ラプトレックス|Raptorex kriegsteini]]'' <br>({{AUY|Sereno|2009}}) |
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'''タルボサウルス'''(''Tarbosaurus'')は[[ |
'''タルボサウルス'''([[学名]]: '''{{snamei|Tarbosaurus}}'''、「恐れさせるトカゲ」の意)は、[[後期白亜紀]]の終わりごろである約7,000万年前の[[アジア]]に生息した、[[ティラノサウルス科]]の[[獣脚類]]の[[恐竜]]の属。化石は[[モンゴル国|モンゴル]]から発見されており、[[中国]]の一部からも断片的なものが発見されている。 |
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数多くの種が命名されたものの、1999年以降の古生物学者はタルボサウルス・バタール(''Tarbosaurus bataar'')のみを有効とみなしている。本種は北アメリカの[[ティラノサウルス]]属のアジアにおける代表種とみなす研究者もおり、この場合タルボサウルス属は余分となる。タルボサウルスとティラノサウルスが[[シノニム]]でないとしても、少なくとも両者は近縁属であると考えられる。同じくモンゴルから産出した[[アリオラムス]]はかつてタルボサウルスに最も近縁な親戚と考えられていたが、[[キアンゾウサウルス]]が発見されて[[アリオラムス族]]に記載されたことで反証が示された。 |
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== 概要 == |
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[[竜盤類|竜盤目]] - [[獣脚類|獣脚亜目]] - [[ティラノサウルス科]]に属する。[[学名|属名]]は「警告するトカゲ」を意味する。生息地域における生態系の頂点に君臨し、草食恐竜を捕食していたと考えられている。国内では[[国立科学博物館]]の本館玄関ホールと東海大学自然史博物館に展示された標本が有名。 |
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大半のティラノサウルス科のように、タルボサウルスは巨大な二足歩行の捕食動物であり、体重は最大5トンで60本もの歯が生えていた。下顎には独特の固定機構がある。体格に見合わないほど小さな2本指の前肢はティラノサウルス科によく知られる特徴であるが、タルボサウルスの前肢は体格と比べてその中でも最小であった。 |
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全長10 - 12メートル、体重4 - 5トンと同科のティラノサウルスに並ぶサイズで、白亜紀の[[東アジア]]では最大級の獣脚類。 |
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タルボサウルスは水路が交叉する湿潤な[[氾濫原]]に生息していた。この環境においてタルボサウルスは[[頂点捕食者]]であり、おそらく[[ハドロサウルス科]]の[[サウロロフス]]や[[竜脚類]]の[[ネメグトサウルス]]のような大型恐竜を捕食していた。タルボサウルスは多数の化石標本が知られており、完全な頭骨と骨格も複数ある。これらの化石により、[[系統学]]や頭骨の機構、脳の構造に焦点を当てた科学研究が可能となっている。 |
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[[1946年]]に当時の[[ソビエト連邦]]と[[モンゴル人民共和国]]の合同調査団が発見し<ref>Maleev, Evgeny A. (1955). "Giant carnivorous dinosaurs of Mongolia". Doklady Akademii Nauk SSSR. 104 (4): 634–637.</ref>、[[1960年代]]に[[中華人民共和国]]でも発見された<ref>Dong Zhiming (1977). "On the dinosaurian remains from Turpan, Xinjiang". Vertebrata PalAsiatica (in Chinese). 15: 59–66.</ref>。 |
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<gallery> |
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ファイル:Tarbosaurus080eue.jpg|頭骨 |
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ファイル:MEPAN_tarbosaurus_bataar.jpg|全身骨格 |
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ファイル:TarbosaurusDB.jpg|想像図 |
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ファイル:Tarbosaurus Scale.svg|人間との大きさ比較 |
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</gallery> |
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== 記載 == |
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== ティラノサウルス・レックスとの関係 == |
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[[File:Tarboscale.svg|left|thumb|各成長段階を代表する標本の大きさ比較]] |
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[[北アメリカ]]で発見された[[ティラノサウルス|ティラノサウルス・レックス]]に非常によく似ているため、ティラノサウルス属の別種もしくはティラノサウルス・レックスそのものではないかとも言われる。実際にはティラノサウルスよりも前肢の[[比率]]が小さい。また頭骨にも明確な相違が存在する{{Sfn|ヘインズ|チェンバーズ|2006|p=124}}。 |
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ティラノサウルスよりもわずかに小型であるものの、タルボサウルスはティラノサウルス科で最大のものの1つであり、最大の個体は全長10 - 12メートルであった<ref name=maleev1955b>{{cite journal |last=Maleev |first=E. A. |others=translated by F. J. Alcock |year=1955 |title=New carnivorous dinosaurs from the Upper Cretaceous of Mongolia |journal=Doklady Akademii Nauk SSSR |volume=104 |issue=5 |pages=779–783 |url=http://www.paleoglot.org/files/Maleev_55b.pdf}}</ref>。完全に成長しきった個体の体重はティラノサウルスの体重に匹敵するかわずかに軽いと考えられ、約4 - 5トンとよく推定される<ref name=G.S.Paul2010>Paul, G.S., 2010, ''The Princeton Field Guide to Dinosaurs'', Princeton University Press.</ref><ref name="molnar2002">{{cite journal |last1=Valkenburgh |first1=B. |last2=Molnar |first2=R. E. |year=2002 |title=Dinosaurian and mammalian predators compared |journal=Paleobiology |issn=0094-8373 |doi=10.1666/0094-8373(2002)028<0527:DAMPC>2.0.CO;2 |volume=28 |issue=4 |pages=527–543|url=https://zenodo.org/record/890154 }}</ref>。 |
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知られているタルボサウルスの最大の頭骨は1.3メートルを超え、ティラノサウルスを除くどのティラノサウルス科よりも大型である<ref name=holtz2004/>。頭骨はティラノサウルスのものと同様に上下に高いが、特に後側では幅広でなかった。頭骨が後側で広がっていないことは、タルボサウルスの目が直接前方を向いていなかったことを意味し、ティラノサウルスの[[立体視]]はタルボサウルスでは成立していなかったことになる。頭骨には大きな孔が開いており、軽量化に役立っていた。顎には58 - 64本の歯が並び、これはわずかにティラノサウルスよりも多い一方、[[ゴルゴサウルス]]や[[アリオラムス]]のようなティラノサウルス科の属よりは少なかった。大半の歯の断面は楕円形をなすが、上顎の先端に生えた[[前上顎骨]]歯の断面はD字型であり、この[[異歯性]]はティラノサウルス科の特徴である。[[上顎骨]]歯は最長で歯冠が85ミリメートルに達した。[[歯骨]]では、歯骨の後方と関節する[[角骨]]の外側表面の縁により、タルボサウルスとアリオラムスに特有の固定機構が生み出されていた。他のティラノサウルス科にはこの縁がなく、下顎は前者のものよりも柔軟性が高かった<ref name=hurumsabath2003>{{cite journal |last1=Hurum |first1=Jørn H. |last2=Sabath |first2=Karol |year=2003 |title=Giant theropod dinosaurs from Asia and North America: Skulls of ''Tarbosaurus bataar'' and ''Tyrannosaurus rex'' compared |journal=Acta Palaeontologica Polonica |volume=48 |issue=2 |pages=161–190 |url=http://www.app.pan.pl/archive/published/app48/app48-161.pdf }}</ref>。 |
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古生物学のジャーナル『Acta Palaeontologica Polonica』の記事(外部リンク参照)によれば、{{仮リンク|フィリップ・J・カリー|en|Philip J. Currie}}とジュン・フルム (Jřrn H. Hurum)、{{仮リンク|カロル・サバト|en|Karol Sabath}}は、系統解析をもとにタルボサウルスとティラノサウルスは別属と考えるべきであるとしている。 |
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[[File:Tarbosaurus Steveoc86.jpg|thumb|成体および亜成体のタルボサウルスとヒトの大きさ比較]] |
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ティラノサウルス科は体型においては多様性に乏しく、タルボサウルスも例外ではなかった。頭はS字型の首に支えられ、長い尾を含む他の脊柱は水平に保持されていたタルボサウルスの前肢は小さく、ティラノサウルス科の中でも体格に対する比率では最少である。前肢は鉤爪の生えた2本の指がそれぞれに備わり、近縁属と同様に鉤爪のない第3[[中手骨]]も複数の標本で確認されている。また、ホルツの研究したタルボサウルスの標本における第2中手骨の長さが第1中手骨の長さの2倍未満であり、他のティラノサウルス科の第2中手骨は第1中手骨の約2倍の長さであったことから、タルボサウルスは他のティラノサウルス科よりも指 IV-I の退化が進んでいると彼は提唱した<ref name="Holtz_in_Carpenter2001">Carpenter K, Tanke D.H. & Skrepnick M.W. (2001), ''Mesozoic Vertebrate Life'' (Indiana University Press, {{ISBN2|0-253-33907-3}}), p. 71.</ref>。また、タルボサウルスの第3中手骨は比率として[[アルバートサウルス]]や[[ダスプレトサウルス]]のような他のティラノサウルス科よりも短く、通常第3中手骨は第1中手骨よりも長いが、ホルツが研究したタルボサウルスの標本では第3中手骨が第1中手骨よりも短かった<ref name=holtz2004>{{cite book |last=Holtz |first=Thomas R., Jr. |year=2004 |chapter=Tyrannosauroidea |editor1-last=Weishampel |editor1-first=David B. |editor2-last=Dodson |editor2-first=Peter |editor3-last=Osmólska |editor3-first=Halszka |title=The Dinosauria |edition=Second |publisher=University of California Press |location=Berkeley |isbn=978-0-520-24209-8 |page=124}}</ref>。 |
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前肢とは対照的に3本の指が前へ伸びた後肢は長く太く、二本足で体を支えていた。長い尾は頭部と胴部の[[カウンターウェイト]]として作用し、重心は腰の上にあった<ref name=maleev1955b/><ref name=holtz2004/>。 |
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2012年5月、アメリカのオークションにモンゴルから密輸されたこの種の骨格化石が出品され、105万ドルで落札されている。その際はティラノサウルスとして扱われていた<ref>{{Cite news |title=8000万円で落札のティラノサウルス化石、密輸理由に差し押さえ |newspaper=AFPBB News |date=2012-06-29 |url=http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2887001/9191381 |agency=[[フランス通信社]] |accessdate=2017-06-03}}</ref>。 |
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== 発見と命名 == |
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[[File:Tarbosaurus skull.jpg|thumb|left|ホロタイプの頭骨 PIN 551-1。[[モスクワ]]の古生物学博物館]] |
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{{脚注ヘルプ}} |
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1946年、[[ソビエト連邦]]と[[モンゴル]]による合同遠征がモンゴル[[ウヌムゴビ県]]の[[ゴビ砂漠]]で行われ、巨大な獣脚類の頭骨と複数の椎骨が[[ネメグト層]]で発見された。1955年にソ連の古生物学者{{仮リンク|エフゲニー・マレーエフ|en|Evgeny Maleev}}は、この標本を、彼が命名した新種ティラノサウルス・バタール(''Tyrannosaurus bataar'')の[[基準標本]] (PIN 551-1)に指定した<ref name=maleev1955a/>。種小名は[[モンゴル語]]で「英雄」を意味する баатар/''baatar'' のスペルミスである<ref name=hurumsabath2003/>。同年にマレーエフは新たな獣脚類の3つの頭骨を記載・命名し、これらを1948年と1949年に行われた同じ発掘調査で発見された骨格とそれぞれ関連づけた。この最初の標本 PIN 551-2 は ''Tarbosaurus efremovi'' と命名され、属名は古代ギリシャ語で「恐怖」「不安」「畏怖」「崇拝」を意味する ''τάρβος''/''tarbos'' と「トカゲ」を意味する ''σαυρος''/''sauros'' に由来し<ref name=liddellscott>{{cite book |last1=Liddell |first1=Henry G. |last2=Scott |first2=Robert |year=1980 |title=Greek–English Lexicon |edition=Abridged |publisher=Oxford University Press |location=Oxford |isbn=978-0-19-910207-5 |url-access=registration |url=https://archive.org/details/lexicon00lidd }}</ref>、種小名はロシアの古生物学者兼SF作家の[[イワン・エフレーモフ]]にちなむ。他の2つの標本 PIN 553-1 と PIN 552-2 は北アメリカの[[ゴルゴサウルス]]の新種 ''Gorgosaurus lancinator'' と ''G. novojilovi'' に分類された。これら3つの標本は全て最初の標本より小さかった<ref name=maleev1955b/>。 |
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{{Reflist}} |
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[[File:TarbosaurusP1050352.jpg|thumb|''Gorgosaurus lancinator'' のホロタイプ標本 PIN 553-1 のキャスト(雄型)。[[デスポーズ]]を取っている]] |
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{{仮リンク|アナトリー・コンスタンティノヴィッチ・ロジェストヴェンスキー|en|Anatoly Konstantinovich Rozhdestvensky}}による1965年の論文では、マレーエフの標本を異なる成長段階にある同じ種であると解釈し、彼はさらに北アメリカのティラノサウルスとは別の動物であると考えた。彼は1955年に記載された全ての標本と新しい化石を含めた分類群タルボサウルス・バタールを新設した<ref name=rozhdestvensky1965>{{cite journal |last=Rozhdestvensky |first=Anatoly K. |year=1965 |title=Growth changes in Asian dinosaurs and some problems of their taxonomy |journal=Paleontological Journal |volume=3 |pages=95–109}}</ref>。マレーエフ自身を含め<ref name=maleev1974>{{cite journal |last=Maleev |first=Evgeny A. |year=1974 |title=Gigantic carnosaurs of the family Tyrannosauridae |journal=The Joint Soviet-Mongolian Paleontological Expedition Transactions |volume=1 |pages=132–191}}</ref>後の論文執筆者はロジェストヴェンスキーの解析に同意したが、タルボサウルス・バタールではなく ''Tarbosaurus efremovi'' の名前を使う研究者もいた<ref name=barsbold1983>{{cite journal |last=Barsbold |first=Rinchen |year=1983 |title=Carnivorous dinosaurs from the Cretaceous of Mongolia |journal=The Joint Soviet-Mongolian Paleontological Expedition Transactions |volume=19 |pages=5–119}}</ref>。アメリカの古生物学者[[ケネス・カーペンター (古生物学者)|ケネス・カーペンター]]は1992年に標本を再調査した。彼はマレーエフの当初の発表通りに標本がティラノサウルスに属すると結論付け、マレーエフが ''Gorgosaurus novojilovi'' と命名した標本を除いて全てをティラノサウルス・バタールに纏めた。カーペンターは ''Gorgosaurus novojilovi'' の標本はティラノサウルス科の小型独立属を代表すると考え、 ''Maleevosaurus novojilovi'' と命名した<ref name=carpenter1992/>。ジョージ・オルシェヴスキーは1995年にティラノサウルス・バタールに[[チンギス・カン]]にちなんだ新しい属名ジェンギスカン(''Jenghizkhan'')をつけた一方、''Tarbosaurus efremovi'' と ''Maleevosaurus novojilovi'' を認め、これらをネメグト層から産出した同時代の独立した3属とした<ref name=olshevskyford1995>{{cite journal |last1=Olshevsky |first1=George |last2=Ford |first2=Tracy L. |year=1995 |title=The origin and evolution of the tyrannosaurids, part 1 |language=Japanese |journal=Dinosaur Frontline |volume=9 |pages=92–119}}</ref>。後に1999年の研究ではマレエヴォサウルスが幼体のタルボサウルスとして再分類された<ref name=carr1999>{{cite journal |doi=10.1080/02724634.1999.10011161 |last=Carr |first=Thomas D. |year=1999 |title=Craniofacial ontogeny in Tyrannosauridae (Dinosauria, Coelurosauria) |journal=Journal of Vertebrate Paleontology |volume=19 |issue=3 |pages=497–520 |url=http://www.vertpaleo.org/publications/jvp/19-497-520.cfm}}</ref>。1999年以降に発表された全ての研究ではたった1つの種だけが認められており、どの論文でもタルボサウルス・バタール<ref name=holtz2004/><ref name=currieetal2003/><ref name=xuetal2004>{{cite journal |author1=Xu Xing |last2=Norell |first2=Mark A. |author3=Kuang Xuewen |author4=Wang Xiaolin |author5=Zhao Qi |author6=Jia Chengkai |year=2004 |title=Basal tyrannosauroids from China and evidence for protofeathers in tyrannosauroids |journal=Nature |doi=10.1038/nature02855 |pmid=15470426 |volume=431 |issue=7009 |pages=680–684|bibcode=2004Natur.431..680X }}</ref>あるいはティラノサウルス・バタールと呼称されている<ref name=carretal2005/>。 |
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[[File:U.S. Immigration and Customs Enforcement (ICE) officials return a Tarbosaurus bataar skeleton to the government of Mongolia during a repatriation ceremony May 6, 2013, at a Manhattan hotel in New York 130506-H-ZZ999-007.jpg|thumb|left|2013年にアメリカからモンゴルへ送還された盗掘標本]] |
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1940年代の最初のロシアモンゴル遠征の後、[[ポーランド]]とモンゴルのゴビ砂漠への合同遠征が1963年から1971年まで行われ、ネメグト層から産出したタルボサウルスの新たな標本を含む数多くの新しい化石が発見された<ref name=hurumsabath2003/>。[[日本]]とモンゴルの研究者が参加した遠征が1993年から1998年に行われた<ref name=watabesuzuki2000>{{cite journal |last1=Watabe |first1=Masato |last2=Suzuki |first2=Shigeru |year=2000 |title=Cretaceous fossil localities and a list of fossils collected by the Hayashibara Museum of Natural Sciences and Mongolian Paleontological Center Joint Paleontological Expedition (JMJPE) from 1993 through 1998 |journal=Hayashibara Museum of Natural Sciences Research Bulletin |volume=1 |pages=99–108}}</ref>ほか、[[カナダ]]の古生物学者[[フィリップ・J・カリー]]が協力した私的遠征が21世紀の転換期にあり、これらによりさらなるタルボサウルスの化石が発見・収集された<ref name=currie2001>{{cite book |last=Currie |first=Philip J. year=2001 |chapter=Nomadic Expeditions, Inc., report of fieldwork in Mongolia, September 2000. |title=Alberta Palaeontological Society, Fifth Annual Symposium, Abstract Volume |publisher=Mount Royal College |location=Calgary |pages=12–16}}</ref><ref name=currie2002>{{cite book |last=Currie |first=Philip J. |year=2002 |chapter=Report on fieldwork in Mongolia, September 2001. |title=Alberta Palaeontological Society, Sixth Annual Symposium, 'Fossils 2002,' Abstract Volume |publisher=Mount Royal College |location=Calgary |pages=8–12}}</ref>。30を超える標本が知られており、15を超える頭骨や複数の頭骨以降の完全骨格もある<ref name=holtz2004/>。 |
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タルボサウルスの化石はモンゴルと中国のゴビ砂漠付近でのみ発見されており、両国ともタルボサウルス化石の輸出を禁じているが、私的コレクターに強奪された標本もある<ref>{{cite news |last=Switek |first=Brian |date=19 May 2012 |title=Stop the Tarbosaurus Auction! |work=Wired |url=https://www.wired.com/wiredscience/2012/05/stop-the-tarbosaurus-auction/}}</ref>。2012年5月20日に[[ニューヨーク]]で開催されたイベントで Heritage Auctions が発行したカタログに疑惑が浮上し、100万ドルの密輸取引が発覚した。モンゴルの法律により、ゴビ砂漠で発見される標本は全て適切なモンゴルの機関が保管しており、カタログに掲載されたタルボサウルス・バタールが盗掘されたものであることに疑いはなかった。モンゴル大統領と多くの古生物学者が売買に異議を唱え、間一髪で調査が入り、標本がゴビ砂漠でしか発見されないもので、正当な所有権はモンゴルにあることが確認された<ref>{{cite web |last=Switek |first=Brian |title=The Million Dollar Dinosaur Scandal |publisher=Slate.com |url=http://www.slate.com/articles/health_and_science/science/2013/01/tarbosaurus_bataar_smuggling_case_dinosaur_fossil_dealers_steal_bones_from.html |accessdate=21 August 2013}}</ref>。[[:en:United States v. One Tyrannosaurus Bataar Skeleton|裁判]]で盗掘者エリック・プロコピは違法密輸の罪を認め、タルボサウルスの標本は2013年にモンゴルへ戻され、[[スフバートル広場]]に一時展示された<ref>{{cite news |last=Parry |first=Wynne |date=May 7, 2013 |title=Mongolia gets stolen dinosaur back |newspaper=Mother Nature Network |url=http://www.mnn.com/earth-matters/wilderness-resources/stories/mongolia-gets-stolen-dinosaur-bones-back |accessdate=21 August 2013}}</ref>。プロコピはパートナーやイングランドの商業ハンター仲間クリストファー・ムーアと共に恐竜を販売していた<ref>{{Cite web|url=https://www.newyorker.com/magazine/2013/01/28/bones-of-contention-2|title=Bones of Contention|last=Williams|first=Paige|date=January 28, 2013|website=The New Yorker|access-date=2017-09-09}}</ref>。この事件を経て、タルボサウルス・バタールの複数の骨格を含め数十のモンゴル産恐竜がモンゴルへ戻された<ref>{{Cite web|url=https://www.newyorker.com/tech/elements/the-black-market-for-dinosaurs|title=The Black Market for Dinosaurs|last=Williams|first=Paige|date=June 7, 2014|website=The New Yorker|access-date=2017-09-09}}</ref>。 |
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== 参考文献 == |
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* {{Cite book|和書 |
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=== シノニム === |
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|author = ティム・ヘインズ |
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[[File:Shanshanosaurus headden.jpg|thumb|''Shanshanosaurus huoyanshanensis'' として記載された IVPP V4878 の断片]] |
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|author2 = ポール・チェンバーズ |
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中国の古生物学者は1960年代中頃に中国の[[新疆ウイグル自治区]][[ピチャン県]]{{仮リンク|スバシ累層|en|Subashi Formation}}で小型獣脚類の断片骨格 IVPP V4878 を発見した。1977年に[[董枝明]]がこの標本を記載して新属新種 ''Shanshanosaurus huoyanshanensis'' と命名した<ref name=dong1977>{{cite journal |author=Dong Zhiming |year=1977 |title=On the dinosaurian remains from Turpan, Xinjiang |language=Chinese |journal=Vertebrata PalAsiatica |volume=15 |pages=59–66}}</ref>。1988年に[[グレゴリー・ポール]]がシャンシャノサウルスをティラノサウルス科として認め、[[アウブリソドン]]に分類した<ref name=paul1988>{{cite book |last=Paul |first=Gregory S. |year=1988 |title=Predatory Dinosaurs of the World |publisher=Simon & Schuster |location=New York |page=464}}</ref>。後に董とカリーは標本を再調査し、より大型のティラノサウルス科の種の幼体とみなした。二人は特定の属に分類することを控えたが、可能性としてタルボサウルスを提案した<ref name=curriedong2001>{{cite journal |last1=Currie |first1=Philip J. |author2=Dong Zhiming |year=2001 |title=New information on ''Shanshanosaurus huoyanshanensis'', a juvenile tyrannosaurid (Theropoda, Dinosauria) from the Late Cretaceous of China |journal=Canadian Journal of Earth Sciences |doi=10.1139/cjes-38-12-1729 |volume=38 |issue=12 |pages=1729–1737|bibcode=2001CaJES..38.1729C }}</ref>。 |
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|others = [[椿正晴]](訳)、[[群馬県立自然史博物館]](監修) |
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|title = よみがえる恐竜・古生物 |
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''Albertosaurus periculosus''、''Tyrannosaurus luanchuanensis''、''Tyrannosaurus turpanensis''、[[チンカンコウサウルス|''Chingkankousaurus fragilis'']]は the Dinosauria 第2版ではタルボサウルスのジュニアシノニムと考えられていたが、ブルサッテらは2013年に[[チンカンコウサウルス]]を[[疑問名]]と評価した<ref name=holtz2004/><ref>Brusatte, Hone and Xu, 2013. Phylogenetic revision of Chingkankousaurus fragilis, a forgotten tyrannosauroid from the Late Cretaceous of China. in Parrish, Molnar, Currie and Koppelhus (eds.). Tyrannosaurid Paleobiology. Indiana University Press. 1-13.</ref>。 |
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|year = 2006 |
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|publisher = [[SBクリエイティブ|ソフトバンククリエイティブ]] |
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1976年に{{仮リンク|セルゲイ・クルザノフ|en|Sergei Kurzanov}}が命名した[[アリオラムス]]は、モンゴルのわずかに古い堆積層から産出した別のティラノサウルス科の属であり<ref name=kurzanov1976>{{cite journal |last=Kurzanov |first=Sergei M. |year=1976 |title=A new Late Cretaceous carnosaur from Nogon−Tsav, Mongolia |language=Russian |journal=The Joint Soviet-Mongolian Paleontological Expedition Transactions |volume=3 |pages=93–104}}</ref>、タルボサウルスに極めて近縁であると複数の解析で結論付けられている<ref name=hurumsabath2003/><ref name=currieetal2003/>。アリオラムスは成体として記載されたが、長く上下に低い頭骨は幼体のティラノサウルス科の特徴である。これにより、カリーはアリオラムスが幼体のタルボサウルスに相当する可能性があると推論したが、歯の本数が多いことと鼻先の突起の列からはそうでないことが示唆される、と注記した<ref name=currie2003/>。 |
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|isbn = 4-7973-3547-5 |
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|ref = {{SfnRef|ヘインズ|チェンバーズ|2006}} |
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== 分類 == |
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}} |
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[[File:Tarbosaurus and Tyrannosaurus.jpg|thumb|一般的なタルボサウルス(A)とティラノサウルス(B)の頭骨の違いを示すダイアグラム]] |
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タルボサウルスは[[獣脚類|獣脚亜目]]ティラノサウルス科ティラノサウルス亜科に分類される。この亜科に分類されるほかの属には、北アメリカのティラノサウルスや[[ダスプレトサウルス]]<ref name=carretal2005>{{cite journal |last1=Carr |first1=Thomas D. |last2=Williamson |first2=Thomas E. |last3=Schwimmer |first3=David R. |year=2005 |title=A new genus and species of tyrannosauroid from the Late Cretaceous (middle Campanian) Demopolis Formation of Alabama |journal=Journal of Vertebrate Paleontology |doi=10.1671/0272-4634(2005)025[0119:ANGASO]2.0.CO;2 |volume=25 |issue=1 |pages=119–143 }}</ref>、おそらくモンゴルの属であるアリオラムスがいる<ref name=hurumsabath2003/><ref name=currieetal2003>{{cite journal |last1=Currie |first1=Philip J. |last2=Hurum |first2=Jørn H. |last3=Sabath |first3=Karol |year=2003 |title=Skull structure and evolution in tyrannosaurid phylogeny |journal=Acta Palaeontologica Polonica |volume=48 |issue=2 |pages=227–234 |url=http://www.app.pan.pl/archive/published/app48/app48-227.pdf }}</ref>。本亜科に属する動物は[[アルバートサウルス]]よりもティラノサウルスに近縁であり、アルバートサウルス亜科より大きなプロポーションの頭骨や長い大腿骨を持つ頑強な体つきで知られる<ref name=holtz2004/>。 |
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タルボサウルス・バタールは元々ティラノサウルスとして記載され<ref name=maleev1955a>{{cite journal |last=Maleev |first=Evgeny A. |year=1955 |title=Giant carnivorous dinosaurs of Mongolia |journal=Doklady Akademii Nauk SSSR |volume=104 |issue=4 |pages=634–637}}</ref>、この位置付けを支持する後の研究もある<ref name=carretal2005/><ref name=carpenter1992>{{cite book |last=Carpenter |first=Ken. |year=1992 |chapter=Tyrannosaurids (Dinosauria) of Asia and North America |editor1-last=Mateer |editor1-first=Niall J. |editor2-last=Peiji |editor2-first=Chen |title=Aspects of Nonmarine Cretaceous Geology |publisher=China Ocean Press |location=Beijing |pages=250–268}}</ref>。本属を姉妹群として独立した属のまま扱う研究者もいる<ref name=holtz2004/>。2003年の頭骨の系統解析では、他のティラノサウルス亜科には見られない負荷を分散するための頭骨の機構がアリオラムスとタルボサウルスに共通していたため、アリオラムスが最も近縁と断定された。実証されていたなら、両属の関係はタルボサウルスをティラノサウルスのシノニムとする考えに対する反証となり、アジアと北アメリカで独立にティラノサウルス亜科の系統が進化したことを示唆していたであろう<ref name=hurumsabath2003/><ref name=currieetal2003/>。知られているアリオラムスの2つの標本は幼体の特徴を示している一方、歯の本数が多い(76 - 78本)ことと鼻先に沿った骨の隆起が独特な列をなすことから、タルボサウルスの幼体ではない可能性が高い<ref name=currie2003>{{cite journal|last=Currie |first=Philip J. |year=2003 |title=Cranial anatomy of tyrannosaurids from the Late Cretaceous of Alberta |journal=Acta Palaeontologica Polonica |volume=48 |issue=2 |pages=191–226 |url=http://app.pan.pl/acta48/app48-191.pdf |url-status=dead |archiveurl=https://web.archive.org/web/20070621123000/http://app.pan.pl/acta48/app48-191.pdf |archivedate=2007-06-21 }}</ref>。 |
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より昔のティラノサウルス亜科の恐竜 ''[[リトロナクス]]'' が発見されたことで、タルボサウルスとティラノサウルスの近い関係がさらに明らかになり、リトロナクスが[[カンパニアン]]の[[ズケンティラヌス]]と[[マーストリヒチアン]]のティラノサウルスおよびタルボサウルスからなる系統群の姉妹群であることが判明した。リトロナクスの更なる研究からは、アジアのティラノサウルス上科が適応放散の一例であることも示唆された<ref>{{Cite journal|title=Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans |journal=PLOS ONE |volume=8 |issue=11 |pages=e79420 |date=2013-11-06 |doi=10.1371/journal.pone.0079420 |pmid=24223179 |pmc = 3819173|last1=Loewen |first1=Mark A |last2=Irmis |first2=Randall B |last3=Sertich |first3=Joseph J. W |last4=Currie |first4=Philip J |last5=Sampson |first5=Scott D |bibcode = 2013PLoSO...879420L}}</ref>。 |
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[[File:Tarbosaurus baatar skeleton.jpg|thumb|組み立てられた成体の骨格]] |
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[[File:Tarbosaurus specimen MPC-D 100 66.png|thumb|幼体標本の化石]] |
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以下はローウェンらが2013年に行った系統解析に基づく[[クラドグラム]]<ref name=Loewen13>{{cite journal |last1=Loewen |first1=M. A. |last2=Irmis |first2=R. B. |last3=Sertich |first3=J. J. W. |last4=Currie |first4=P. J. |last5=Sampson |first5=S. D. |editor-last=Evans |editor-first=David C. |year=2013 |title=Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans |journal=[[PLoS ONE]] |doi=10.1371/journal.pone.0079420 |volume=8 |issue=11 |pages=e79420 |ref={{sfnRef|Loewen ''et al.''|2013}} |pmid=24223179 |pmc=3819173|bibcode=2013PLoSO...879420L }}</ref>。 |
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{{clade| style=font-size:100%; line-height:100% |
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|label1=[[ティラノサウルス科]] |
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|1={{clade |
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|1={{clade |
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|1=''[[ゴルゴサウルス|Gorgosaurus libratus]]'' |
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|2=''[[アルバートサウルス|Albertosaurus sarcophagus]]'' }} |
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|label2=[[ティラノサウルス亜科]] |
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|2={{clade |
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|1=[[ダイナソーパーク累層]]のティラノサウルス科 |
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|2={{clade |
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|1=''[[ダスプレトサウルス|Daspletosaurus torosus]]'' |
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|2={{clade |
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|1=''[[ダスプレトサウルス|Daspletosaurus horneri]]'' |
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|2={{clade |
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|1=''[[テラトフォネウス|Teratophoneus curriei]]'' |
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|2={{clade |
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|1=''[[ビスタヒエヴェルソル|Bistahieversor sealeyi]]'' |
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|2={{clade |
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|1=''[[リトロナクス|Lythronax argestes]]'' |
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|2={{clade |
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|1=''[[ティラノサウルス|Tyrannosaurus rex]]'' |
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|2={{clade |
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|1='''''Tarbosaurus bataar''''' |
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|2=''[[ズケンティラヌス|Zhuchengtyrannus magnus]]'' }} }} }} }} }} }} }} }} }} }} |
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== 古生物学 == |
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[[File:Tarbosaurus and Saurolophus by durbed.jpg|thumb|left|[[サウロロフス]]を襲うタルボサウルス]] |
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他の大型ティラノサウルス科の何属かがそうであるように、タルボサウルスの化石は比較的豊富で保存状態も良い。事実、ネメグト層から収集された全ての化石の四分の一がタルボサウルスのものである<ref name=jerzykiewiczrussell1991/>。タルボサウルスは北アメリカのティラノサウルス科ほど完全には研究されていない<ref name=hurumsabath2003/>ものの、その生物学的観点に即した結論を導くことは可能である。 |
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[[File:Tarbosaurus and Deinocheirus.jpg|thumb|400px|[[デイノケイルス]]を襲う二頭のタルボサウルス]] |
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2001年に{{仮リンク|ブルース・ロスチャイルド|en|Bruce Rothschild}}らは獣脚類の[[疲労骨折]]と腱断裂、および行動を示唆する証拠を調べる研究を発表した。疲労骨折は特別な症状ではなく繰り返される外傷によって生じるため、他のタイプの症状よりも普段の行動で起こる可能性が高い。研究で調査されたタルボサウルスの足の骨18本のうち疲労骨折が見つかったものはなかったが、手の骨10本のうち1本が1ヶ所に疲労骨折を患っていた。足の疲労骨折は走行中や移動中に生じうる一方、手の疲労骨折は足に見られるものよりも特別な行動があったことを示唆しており、もがく獲物と接触して生じた可能性が高い。一般に、疲労骨折や腱断裂が存在することは、死体漁りよりも捕食行動をベースにした食性であったことを示す<ref name="rothschild-dino">Rothschild, B., Tanke, D. H., and Ford, T. L., 2001, Theropod stress fractures and tendon avulsions as a clue to activity: In: Mesozoic Vertebrate Life, edited by Tanke, D. H., and Carpenter, K., Indiana University Press, p. 331-336.</ref>。 |
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2012年にオルニトミモサウルス類の[[デイノケイルス]]のホロタイプ標本の腹肋骨断片2つに噛み跡があると報告された。噛み跡の形状と大きさはネメグト層産の既知の最大の捕食動物であるタルボサウルスの歯に合致する。摂食の際についた跡は様々で、刺し傷、抉れた溝、筋、歯の断片、およびこれらの組み合わさったものが確認されている。噛み跡はおそらく攻撃行動ではなく摂食行動を示しており、噛み跡が体のほかの部位で発見されないことはタルボサウルスが内臓を重視していた事実を示唆している。タルボサウルスの噛み跡はハドロサウルス科や竜脚類の化石でも断定されているが、他の獣脚類に噛み跡が残っている化石記録は少ない<ref>{{cite journal |last1=Bell |first1=P. R. |last2=Currie |first2=P. J. |last3=Lee |first3=Y. N. |year=2012 |title=Tyrannosaur feeding traces on ''Deinocheirus'' (Theropoda:?Ornithomimosauria) remains from the Nemegt Formation (Late Cretaceous), Mongolia |journal=Cretaceous Research |doi=10.1016/j.cretres.2012.03.018 |volume=37 |pages=186–190 |url=https://www.academia.edu/1900689}}</ref>。また、本属の歯のエナメル質の同素体解析によっても、タルボサウルスは針葉樹林にて竜脚類([[ネメグトサウルス]]など)やハドロサウルス科([[サウロロフス]]など)を獲物としていた事が示されている<ref>Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology |
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Volume 537, 1 January 2020, 109190 |
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Diet preferences and climate inferred from oxygen and carbon isotopes of tooth enamel of Tarbosaurus bataar (Nemegt Formation, Upper Cretaceous, Mongolia) |
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Author links open overlay panel(KrzysztofOwocki:2019)</ref>。 |
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=== 頭骨の機構 === |
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[[File:Tarbosaurus MPC-D 100 60 skull (front).jpg|thumb|upright|正面から見た頭骨]] |
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タルボサウルスの頭骨は2003年に初めて完全に記載された。研究者はタルボサウルスと北アメリカのティラノサウルス科の重要な相違点を記しており、その多くは噛む際の頭骨にかかる負荷の処理に関連している。上顎が物体を噛む際、力は上顎の歯を持つ主要な[[上顎骨]]を介して周囲の頭骨へ送られる。北アメリカのティラノサウルス科では、この力は上顎骨から鼻先の癒合した[[鼻骨]]へ向かい、鼻骨は骨の支柱により[[涙骨]]と後方で固く繋がっていた。これらの支柱が骨を互いに固定しているため、力は鼻骨から涙骨へ送られたと示唆されている<ref name=hurumsabath2003/>。 |
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タルボサウルスには骨の支柱がなく、鼻骨と涙骨の繋がりも弱かった。その代わりタルボサウルスは上顎骨の後方への突起が大きく発達し、涙骨で構成される鞘の内側に合致していた。この突起は北アメリカのティラノサウルス科では薄い骨の板になっている。大きな後方への突起から、タルボサウルスでは上顎骨から涙骨へより直接的に力が送られたことが示唆されている。また、タルボサウルスの涙骨は[[前頭骨]]と[[前前頭骨]]に固定されていた。上顎骨、涙骨、前頭骨、前前頭骨の発達した繋がりにより、上顎全体が強度を増していた<ref name=hurumsabath2003/>。 |
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タルボサウルスと北アメリカの親戚におけるもう一つの大きな相違点は、タルボサウルスの下顎がより強固であることである。北アメリカのティラノサウルス科を含め多くの獣脚類で下顎骨後方と歯骨前方が幾分柔軟であったが、タルボサウルスは[[角骨]]の表面の隆起からなる固定機構を持ち、歯骨の後方で正方形の突起と関節していた<ref name=hurumsabath2003/>。 |
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タルボサウルスの強固な頭骨は、後期白亜紀の北アメリカの大部分には生息しなかった、ネメグト層から産出する巨大な[[ティタノサウルス科]]竜脚類を狩るための適応であるという仮説もある。また、頭骨機構の相違点はティラノサウルス科の系統も左右する。タルボサウルス型の頭骨内関節はモンゴル産のアリオラムスにも見られ、ティラノサウルスではなくアリオラムスがタルボサウルスに最も近縁であることが示唆されている。それゆえ、タルボサウルスとティラノサウルスの類似点はその巨大な体躯に関連して[[平行進化]]で独立に発達した可能性がある<ref name=hurumsabath2003/>。 |
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また、眼窩はティラノサウルスと異なり前方を向いてなかった<ref name=savelievalifanov2005/><ref>{{Cite book|和書 |title=講談社の動く図鑑MOVE 恐竜2 最新研究 |date=2020-02-20 |isbn=9784065186671 |publisher=講談社 |page=34}}</ref>(詳細は「脳の構造」節を参照)。 |
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=== 噛合力と捕食行動 === |
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タルボサウルスが捕食者かつ[[スカベンジャー]]であった証拠があり、これは[[サウロロフス]]の遺骸に発見された化石化した噛み跡として確認できる<ref>{{cite journal |last1=Switek |first1=Brian |title=Tarbosaurus: A Predator and a Scavenger With a Delicate Bite |url=https://www.smithsonianmag.com/science-nature/tarbosaurus-a-predator-and-a-scavenger-with-a-delicate-bite-75898021/ |website=Smithsonian Magazine |accessdate=11 November 2018|doi=10.4202/app.2009.0133 }}</ref>。タルボサウルスの咬合力は約3万5600 - 4万4500ニュートンとされ、おそらくティラノサウルスのように骨を噛み砕くことができた<ref>{{cite book|last1=Therrien |first1=Francois |last2=Henderson |first2=Donald M. |last3=Ruff |first3=Christopher B. |chapter=Bite me: Biomechanical models of theropod mandibles and implications for feeding behavior |title=The Carnivorous Dinosaurs |publisher=Indiana University Press |editor=Kenneth Carpenter |date=January 2005 |pages=179–237 |chapter-url=https://www.researchgate.net/publication/259010793 |accessdate=11 November 2018}}</ref>。 |
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=== 脳の構造 === |
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[[File:Tarbosaurus profile.jpg|thumb|横から見た頭骨と首]] |
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1948年にソ連とモンゴルの研究者が発見したタルボサウルスの頭骨(PIN 553-1、元々は ''Gorgosaurus lancinator'')には頭蓋内腔が保存されていた。この空洞の内側に{{仮リンク|エンドキャスト|en|Endocast}}と呼ばれる石膏の型を取り、マレーエフはタルボサウルスの脳の形状の予備的な観察に成功した<ref name=maleev1965>{{cite journal |last=Maleev |first=Evgeny A. |year=1965 |title=On the brain of carnivorous dinosaurs |language=Russian |journal=Paleontological Journal |volume=2 |pages=141–143}}</ref>。さらに新しい[[ポリウレタン]]のゴム型により、タルボサウルスの脳構造と機能の詳細な研究が可能となった<ref name=savelievalifanov2005>{{cite journal |last1=Saveliev |first1=Sergei V. |last2=Alifanov |first2=Vladimir R. |year=2005 |title=A new study of the brain of the predatory dinosaur ''Tarbosaurus bataar'' (Theropoda, Tyrannosauridae) |journal=Paleontological Journal |doi=10.1134/S0031030107030070 |volume=41 |issue=3 |pages=281–289}}</ref>。 |
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タルボサウルスの頭蓋内構造はティラノサウルスのものに似ており<ref name=brochu2000>{{cite journal |last=Brochu |first=Christopher A. |year=2000 |title=A digitally-rendered endocast for ''Tyrannosaurus rex'' |journal=Journal of Vertebrate Paleontology |doi=10.1671/0272-4634(2000)020[0001:ADREFT]2.0.CO;2 |volume=20 |issue=1 |pages=1–6 |url=http://www.bioone.org/perlserv/?request=get-toc&issn=0272-4634&volume=20&issue=1}}</ref>、相違点は[[三叉神経]]や[[副神経]]といったいくつかの[[脳神経]]根の位置だけであった。ティラノサウルス科の脳は[[鳥類]]よりも[[ワニ]]など非鳥類型爬虫類のものに似ていた。全長12メートルのタルボサウルスの脳の合計容積はわずか184立方センチメートルと推定されている<ref name=savelievalifanov2005/>。 |
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[[嗅球]]と[[末端神経]]および[[嗅覚神経]]は大きく、ティラノサウルスと同様にタルボサウルスの嗅覚が鋭敏であったことが示唆されている。鋤鼻球は大きく、嗅球とは区別される。嗅球は当初、フェロモンを感知するのに使用された発達した[[鋤鼻器]]を示唆するものとして提唱された。これはタルボサウルスが複雑な交尾行動を取っていたことを暗示する可能性があった<ref name=savelievalifanov2005/>しかし、鋤鼻球は現生のどの[[主竜類]]にも存在しないため、他の研究者が断定に異議を唱えた<ref name="alio">{{cite journal | last1 = Bever | first1 = G.S. | last2 = Brusatte | first2 = S.L. | last3 = Carr | first3 = T.D. | last4 = Xu | first4 = X. | last5 = Balanoff | first5 = A.M. | last6 = Norell | first6 = M.A. | title = The Braincase Anatomy of the Late Cretaceous Dinosaur ''Alioramus'' (Theropoda: Tyrannosauroidea) | journal = Bulletin of the American Museum of Natural History | volume = 376 | pages = 1–72 | date = 2013 | doi = 10.1206/810.1 | hdl = 2246/6422 }}</ref>。 |
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[[聴覚神経]]もまた大きく、優れた聴覚を示唆しており、これは聴覚コミュニケーションと空間認識に役立った可能性がある。この神経は[[前庭]]部位も発達しており、優れたバランス感覚と調整能力が暗示されている。対照的に、視力に関する神経と脳の構造は小型で発達していなかった。爬虫類の視覚処理に関与する中脳は、 視神経と眼球運動を制御する動眼神経と同様に、タルボサウルスでは非常に小さかった。目が前方に面してある程度の立体視も可能であったティラノサウルスと違い、他のティラノサウルス科に典型的な狭い頭骨を持つタルボサウルスの目は主に横側に面していた。このことから、タルボサウルスは視力ではなく嗅覚と聴覚に頼っていたことが示唆されている<ref name=savelievalifanov2005/>。ただし、現行のタルボサウルスの標本の“成体”とされる標本の多くが、実際には全長9メートル前後の亜成体と目されており、これを真に成体である全長12メートルのティラノサウルスと比較するのはいささか無理がある(詳しくは[[ティラノサウルス]]の項を参照)。 |
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=== 生活史 === |
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[[File:Tarbosaurus specimen MPC-D 100 7.jpg|thumb|幼体標本の化石]] |
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タルボサウルスの大半の標本は成体か亜成体の個体であり、幼体のものは非常に珍しい。しかし、2006年には長さ290ミリメートルの完全な頭骨を持つ幼体の骨格が発見され、タルボサウルスの生活史の情報がもたらされた。この個体はおそらく2,3歳で死亡した。成体の頭骨と比較して幼体の頭骨は構造が弱く、歯は薄く、幼体と成体で食べ物の好みを変えて異なる年齢のグループとの競争を避けていたことが示唆されている<ref name="tsuihiji2011">{{Cite journal |doi=10.1080/02724634.2011.557116 |volume=31 |issue=3 |pages=497–517 |last1=Tsuihiji |first1=Takanobu |last2=Watabe |first2=Mahito |last3=Tsogtbaatar |first3=Khishigjav |last4=Tsubamoto |first4=Takehisa |last5=Barsbold |first5=Rinchen |last6=Suzuki |first6=Shigeru |last7=Lee |first7=Andrew H. |last8=Ridgely |first8=Ryan C. |last9=Kawahara |first9=Yasuhiro |last10=Witmer |first10=Lawrence M. |date=2011-05-01 |title=Cranial Osteology of a Juvenile Specimen of Tarbosaurus bataar (Theropoda, Tyrannosauridae) from the Nemegt Formation (Upper Cretaceous) of Bugin Tsav, Mongolia |journal=Journal of Vertebrate Paleontology }}</ref>。タルボサウルスの幼体の[[強膜輪]]の調査から、幼体が夜行性あるいは薄明に行動していた可能性が示唆されている。成体のタルボサウルスも夜行性であったかは、化石証拠がないため現状明らかでない<ref>{{Cite journal|url=http://www.smithsonianmag.com/science-nature/tiny-tarbosaurus-shows-how-tyrants-grew-up-172586326/ |title=Tiny Tarbosaurus Shows How Tyrants Grew Up | Science | Smithsonian |journal=Journal of Vertebrate Paleontology |volume=31 |issue=3 |pages=497–517 |doi=10.1080/02724634.2011.557116 |date=2011-05-16 |accessdate=2017-06-06|last1=Tsuihiji |first1=Takanobu |last2=Watabe |first2=Mahito |last3=Tsogtbaatar |first3=Khishigjav |last4=Tsubamoto |first4=Takehisa |last5=Barsbold |first5=Rinchen |last6=Suzuki |first6=Shigeru |last7=Lee |first7=Andrew H |last8=Ridgely |first8=Ryan C |last9=Kawahara |first9=Yasuhiro |last10=Witmer |first10=Lawrence M }}</ref>。 |
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=== 皮膚の印象化石と足跡 === |
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Bugiin Tsav 産地の以前盗掘者に破壊された大型骨格から、皮膚の印象化石が発見された。この印象化石が示すウロコは直径2.4ミリメートルで、互いに重なっておらず、骨格が破壊を受けたため正確な位置は評価できないものの胸に関連した領域に位置していた<ref name="currie_03">{{cite journal |last1=Currie |first1=Philip J. |last2=Badamgarav |first2=Demchig |last3=Koppelhus |first3=Eva B. |year=2003 |title=The First Late Cretaceous Footprints from the Locality in the Gobi of Mongolia |journal=Ichnos |doi=10.1080/10420940390235071 |volume=10 |pages=1–12}}</ref><ref> {{Cite web |title=Theropoda: Pregiudizi di pelle nell'evoluzione dei tyrannosauridi |url=https://theropoda.blogspot.com/2017/06/pregiudizi-di-pelle-nellevoluzione-dei.html |website=Theropoda |date=07 giugno 2017 |access-date=2023-09-14 |first=Andrea |last=Cau}}</ref>。また、タルボサウルスの化石の一つからは喉袋が知られており、繁殖期のディスプレイに用いた可能性がある<ref>{{cite book |last=Carpenter |first=K. |editor-last1=Currie |editor-first1=P.J. |editor-last2=Padian |editor-first2=K. |title=Encyclopedia of Dinosaurs |publisher=Academic Press |location=San Diego, CA |date=1997 |pages=766–768 |chapter=Tyrannosauridae |isbn=978-0-12-226810-6 }}</ref><ref>{{cite book |last=Carpenter |first=K. |date=1999 |title=Eggs, Nests, and Baby Dinosaurs: A Look at Dinosaur Reproduction |location=Bloomington, IN |publisher=Indiana University Press |pages=60–61 |isbn=0-253-33497-7}}</ref><ref>{{cite book |editor=マイケル・J・ベントン他 |year=2010 |title=生物の進化大図鑑 |page=324 |isbn=978-4-309-25238-4}}</ref><ref>{{Cite book|和書 |date= 2023/1/14 |title= ナショナル ジオグラフィック 世界一美しい恐竜図鑑 |author= ライリー・ブラック |publisher= 日経ナショナル ジオグラフィック |page=91 |isbn= 9784863135550}}</ref>とされるが、標本がどこから得られたものか・現在どこにあるのかは不明で、未検証の不確かなものである<ref>{{Cite web |title=The anecdotal Tarbosaurus throat skin |url=https://incertaesedisblog.wordpress.com/2019/10/06/the-anecdotal-tarbosaurus-throat-skin/ |website=Incertae Sedis |date=2019-10-06 |access-date=2023-09-13 |language=en}}</ref>。Mikhailovは、この喉袋の標本についてネメグト層のもので、Kurzanovによって発見されたが収集はされなかったと述べた<ref> {{Cite web |title=Tyrannosauroidea |url=https://www.theropoddatabase.com/Tyrannosauroidea.html |website=www.theropoddatabase.com |access-date=2023-09-13}}</ref>。 |
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2003年に[[フィリップ・J・カリー]]らはおそらくタルボサウルスのものである2つの足跡をネメグト層から報告した。この足跡は自然の型であり、すなわち足跡そのものではなく足跡を埋めた砂岩が保存されていたということである。この足跡には Bugiin Tsav で発見されたものに似た、広い領域の皮膚の印象化石が保存されていた。また、足が地面に押し込まれた際にウロコが残した垂直方向に平行な滑った痕跡も確認されている。足跡は長さ61センチメートルで、大型個体のものである。別の大型の足跡も発見されているが、侵食に影響され詳細は読み取れない<ref name="currie_03"/>。 |
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== 古生態学 == |
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[[File:Cretaceous-aged dinosaur fossil localities of Mongolia.PNG|thumb|left|モンゴルの白亜紀の恐竜化石産地。タルボサウルスはエリアAで収集された(左)]] |
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知られているタルボサウルスの化石の大多数はモンゴル南部[[ゴビ砂漠]]の[[ネメグト層]]から発見された。この地層は[[放射年代測定]]が行われたことは無いが、化石証拠の動物相からは、約7000万年前<ref name="sullivan2006">Sulliban, R.M. (2006). "A taxonomic review of the Pachycephalosauridae (Dinosauria: Ornithischia)." Pp. 347-366 in Lucas, S.G. and Sullivan, R.M. (eds.), ''Late Cretaceous vertebrates from the Western Interior.'' New Mexico Museum of Natural History and Science Bulletin 3.</ref><ref name=gradsteinetal2005>{{cite book |last=Gradstein |first=Felix M. |author2=Ogg, James G.|author3=and Smith, Alan G. |year=2005 |title=A Geologic Time Scale 2004 |location=Cambridge |publisher=Cambridge University Press |pages=500pp |isbn=978-0-521-78142-8}}</ref>の[[後期白亜紀]]の終わり頃である前期[[マーストリヒチアン]]に堆積したと示唆されている<ref name=jerzykiewiczrussell1991>{{cite journal |last1=Jerzykiewicz |first1=Tomasz |last2=Russell |first2=Dale A. |year=1991 |title=Late Mesozoic stratigraphy and vertebrates of the Gobi Basin |journal=Cretaceous Research |doi=10.1016/0195-6671(91)90015-5 |volume=12 |issue=4 |pages=345–377}}</ref>。シャンシャノサウルスが発見された{{仮リンク|スバシ累層|en|Subashi Formation}}もマーストリヒチアンである<ref name=shenmateer1992>{{cite book |last1=Shen |first1=Y.B. |last2=Mateer |first2=Niall J. |editor1-last=Mateer |editor1-first=Niall J. |editor2-last=Peiji |editor2-first=Chen |year=1992 |title=Aspects of Nonmarine Cretaceous Geology |chapter=An outline of the Cretaceous System in northern Xinjiang, western China |publisher=China Ocean Press |location=Beijing |pages=49–77}}</ref>。 |
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タルボサウルスが主に発見されるネメグト層は、保存されている巨大な水路と土壌堆積物から、下に位置する[[バルン・ゴヨト層]]や[[ジャドフタ層]]よりも遥かに湿潤な気候であったことが示唆されている。しかし、{{仮リンク|カリシェ|en|Caliche (mineral)}}堆積物があることから、少なくとも周期的な干ばつがあったことが示唆されてもいる。堆積物は大型河川の水路と[[氾濫原]]に堆積した。この層の岩の[[単層]]から干潟と浅い湖の存在も示唆されている。また、堆積物から豊かな生息域であったことが分かり、巨大な白亜紀の恐竜を維持できる多様な食物に溢れていたことが示されている<ref>Novacek, M. (1996). Dinosaurs of the Flaming Cliffs. Bantam Doubleday Dell Publishing Group Inc. New York, New York. {{ISBN2|978-0-385-47775-8}}</ref>。より古いジャドフタ層から産出したティラノサウルス科の未同定の化石はタルボサウルスの化石に非常に似ており、ネメグト層よりも古く乾燥した生態系にもタルボサウルスが生息していたことを示唆する可能性がある<ref name="Mortimer 2004"/>。 |
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[[File:TarbosaurusDB.jpg|thumb|後期白亜紀のモンゴルでのタルボサウルスの復元図]] |
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ネメグト層では[[軟体動物]]の化石も産出しており、魚類やカメといった他の水生動物も多様性に富んでいる<ref name=jerzykiewiczrussell1991/>。ワニには貝を砕くことに適した歯を持つ{{仮リンク|シャモスクス|en|Shamosuchus}}が複数種いた<ref name=efimov1983>{{cite journal |last=Efimov |first=Mikhail B. |year=1983 |title=Revision of the fossil crocodiles of Mongolia |language=Russian |journal=The Joint Soviet-Mongolian Paleontological Expedition Transactions |volume=24 |pages=76–95}}</ref>。[[哺乳類]]化石はネメグト層では非常に希少であるが、[[エナンティオルニス類]]の{{仮リンク|グリニア|en|Gurilynia}}や{{仮リンク|ヘスペロルニス目|en|Hesperornithes}}の{{仮リンク|ジュディノルニス|en|Judinornis}}、現生[[カモ目]]の初期の属である{{仮リンク|テヴィオルニス|en|Teviornis}}など数多くの鳥類が発見されている。数多くの恐竜もネメグト層から記載されており、[[アンキロサウルス科]]の[[サイカニア]]、[[パキケファロサウルス科]]の[[プレノケファレ]]<ref name=jerzykiewiczrussell1991/>などがいる。最大の捕食動物であったタルボサウルスは[[サウロロフス]]や[[バルスボルディア]]といった大型ハドロサウルス科、あるいは[[ネメグトサウルス]]や[[オピストコエリカウディア]]といった竜脚類を捕食していた可能性が高い<ref name=hurumsabath2003/>。成体は[[ティラノサウルス科]]の[[アリオラムス]]、[[トロオドン科]]({{仮リンク|ボロゴヴィア|en|Borogovia}}、{{仮リンク|トチサウルス|en|Tochisaurus}}、[[ザナバザル]])、[[オヴィラプトロサウルス類]]([[エルミサウルス]]、[[ネメグトマイア]]、[[リンチェニア]])、基盤的[[ティラノサウルス上科]]の[[バガラアタン]]などの小型獣脚類との競争はほぼなかったであろう。植物食の可能性もある巨大な[[テリジノサウルス]]や、[[アンセリミムス]]や[[ガリミムス]]、巨大な[[デイノケイルス]]といった[[オルニトミモサウルス類]]は肉食であったとしても小型の獲物だけを食べていたため、タルボサウルスとの競争関係にはなかった。しかし、他の大型ティラノサウルス科や[[コモドオオトカゲ]]と同様に、幼体や亜成体のタルボサウルスは小型獣脚類と巨大な成体との間の生態的地位を埋めていたことであろう<ref name=holtz2004/>。 |
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== 出典 == |
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{{Reflist|2}} |
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{{獣脚類}} |
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== 関連項目 == |
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*[[アリオラムス]] - 近縁の属。同属とされることもある。 |
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*[[ティラノサウルス]] |
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*[[アルバートサウルス]] |
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*[[ナノティラヌス]] |
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*[[ダスプレトサウルス]] |
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*[[ズケンティラヌス]] - 同時期に生息していた肉食恐竜。タルボサウルスよりも巨大。 |
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*[[ティラノサウルス科]] |
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*[[恐竜]] |
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*[[恐竜の一覧]] |
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*[[絶滅した動物一覧#白亜紀]] |
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== 外部リンク == |
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{{Commons|Category:Tarbosaurus}} |
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*[https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/dic/Tarbosaurus.html タルボサウルス・バタール] - [[福井県立恐竜博物館]] |
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*[http://app.pan.pl/ Acta Palaeontologica Polonica] |
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**{{Wayback |url=http://app.pan.pl/acta48/48-227EN.htm |title=Skull structure and evolution in tyrannosaurid dinosaurs: Acta Palaeontologica Polonica 48 (2), 2003: 227-234(Philip J. Currie, Jřrn H. Hurum, and Karol Sabath) |date=20041025195629}} |
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**:[http://www.dino-pantheon.com/backyard/news/20030703skull_t-rex.html (和訳)ティラノサウルス科恐竜の頭蓋構造と進化 7.03.03] |
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**{{Wayback |url=http://app.pan.pl/acta48/48-161EN.htm |title=Giant theropod dinosaurs from Asia and North America: Skulls of Tarbosaurus bataar and Tyrannosaurus rex compared: Acta Palaeontologica Polonica 48 (2), 2003: 161-190(Jřrn H. Hurum and Karol Sabath) |date=20040711051330}} |
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**:[http://www.dino-pantheon.com/backyard/news/20030703tarbovst-rex.html (和訳)アジアと北アメリカ産の大型獣脚類:Tarbosaurus bataar とTyrannosaurus rex 頭蓋の比較 7.03.03] |
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{{DEFAULTSORT:たるほさうるす}} |
{{DEFAULTSORT:たるほさうるす}} |
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[[Category:ティラノサウルス科]] |
[[Category:ティラノサウルス科]] |
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[[Category:ティラノサウルス亜科]] |
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[[Category:アジアの恐竜]] |
[[Category:アジアの恐竜]] |
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[[Category:マーストリヒチアンの生物]] |
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[[Category:モンゴル産の化石]] |
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[[Category:1955年に記載された化石分類群]] |
2024年12月18日 (水) 06:57時点における最新版
タルボサウルス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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岡山理科大学によるレプリカ
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
中生代白亜紀後期 (約7,000万年前) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Tarbosaurus Maleev, 1955 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
属のシノニム
種のシノニム
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種 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
タルボサウルス(学名: Tarbosaurus、「恐れさせるトカゲ」の意)は、後期白亜紀の終わりごろである約7,000万年前のアジアに生息した、ティラノサウルス科の獣脚類の恐竜の属。化石はモンゴルから発見されており、中国の一部からも断片的なものが発見されている。
数多くの種が命名されたものの、1999年以降の古生物学者はタルボサウルス・バタール(Tarbosaurus bataar)のみを有効とみなしている。本種は北アメリカのティラノサウルス属のアジアにおける代表種とみなす研究者もおり、この場合タルボサウルス属は余分となる。タルボサウルスとティラノサウルスがシノニムでないとしても、少なくとも両者は近縁属であると考えられる。同じくモンゴルから産出したアリオラムスはかつてタルボサウルスに最も近縁な親戚と考えられていたが、キアンゾウサウルスが発見されてアリオラムス族に記載されたことで反証が示された。
大半のティラノサウルス科のように、タルボサウルスは巨大な二足歩行の捕食動物であり、体重は最大5トンで60本もの歯が生えていた。下顎には独特の固定機構がある。体格に見合わないほど小さな2本指の前肢はティラノサウルス科によく知られる特徴であるが、タルボサウルスの前肢は体格と比べてその中でも最小であった。
タルボサウルスは水路が交叉する湿潤な氾濫原に生息していた。この環境においてタルボサウルスは頂点捕食者であり、おそらくハドロサウルス科のサウロロフスや竜脚類のネメグトサウルスのような大型恐竜を捕食していた。タルボサウルスは多数の化石標本が知られており、完全な頭骨と骨格も複数ある。これらの化石により、系統学や頭骨の機構、脳の構造に焦点を当てた科学研究が可能となっている。
記載
[編集]ティラノサウルスよりもわずかに小型であるものの、タルボサウルスはティラノサウルス科で最大のものの1つであり、最大の個体は全長10 - 12メートルであった[2]。完全に成長しきった個体の体重はティラノサウルスの体重に匹敵するかわずかに軽いと考えられ、約4 - 5トンとよく推定される[3][4]。
知られているタルボサウルスの最大の頭骨は1.3メートルを超え、ティラノサウルスを除くどのティラノサウルス科よりも大型である[5]。頭骨はティラノサウルスのものと同様に上下に高いが、特に後側では幅広でなかった。頭骨が後側で広がっていないことは、タルボサウルスの目が直接前方を向いていなかったことを意味し、ティラノサウルスの立体視はタルボサウルスでは成立していなかったことになる。頭骨には大きな孔が開いており、軽量化に役立っていた。顎には58 - 64本の歯が並び、これはわずかにティラノサウルスよりも多い一方、ゴルゴサウルスやアリオラムスのようなティラノサウルス科の属よりは少なかった。大半の歯の断面は楕円形をなすが、上顎の先端に生えた前上顎骨歯の断面はD字型であり、この異歯性はティラノサウルス科の特徴である。上顎骨歯は最長で歯冠が85ミリメートルに達した。歯骨では、歯骨の後方と関節する角骨の外側表面の縁により、タルボサウルスとアリオラムスに特有の固定機構が生み出されていた。他のティラノサウルス科にはこの縁がなく、下顎は前者のものよりも柔軟性が高かった[6]。
ティラノサウルス科は体型においては多様性に乏しく、タルボサウルスも例外ではなかった。頭はS字型の首に支えられ、長い尾を含む他の脊柱は水平に保持されていたタルボサウルスの前肢は小さく、ティラノサウルス科の中でも体格に対する比率では最少である。前肢は鉤爪の生えた2本の指がそれぞれに備わり、近縁属と同様に鉤爪のない第3中手骨も複数の標本で確認されている。また、ホルツの研究したタルボサウルスの標本における第2中手骨の長さが第1中手骨の長さの2倍未満であり、他のティラノサウルス科の第2中手骨は第1中手骨の約2倍の長さであったことから、タルボサウルスは他のティラノサウルス科よりも指 IV-I の退化が進んでいると彼は提唱した[7]。また、タルボサウルスの第3中手骨は比率としてアルバートサウルスやダスプレトサウルスのような他のティラノサウルス科よりも短く、通常第3中手骨は第1中手骨よりも長いが、ホルツが研究したタルボサウルスの標本では第3中手骨が第1中手骨よりも短かった[5]。
前肢とは対照的に3本の指が前へ伸びた後肢は長く太く、二本足で体を支えていた。長い尾は頭部と胴部のカウンターウェイトとして作用し、重心は腰の上にあった[2][5]。
発見と命名
[編集]1946年、ソビエト連邦とモンゴルによる合同遠征がモンゴルウヌムゴビ県のゴビ砂漠で行われ、巨大な獣脚類の頭骨と複数の椎骨がネメグト層で発見された。1955年にソ連の古生物学者エフゲニー・マレーエフは、この標本を、彼が命名した新種ティラノサウルス・バタール(Tyrannosaurus bataar)の基準標本 (PIN 551-1)に指定した[8]。種小名はモンゴル語で「英雄」を意味する баатар/baatar のスペルミスである[6]。同年にマレーエフは新たな獣脚類の3つの頭骨を記載・命名し、これらを1948年と1949年に行われた同じ発掘調査で発見された骨格とそれぞれ関連づけた。この最初の標本 PIN 551-2 は Tarbosaurus efremovi と命名され、属名は古代ギリシャ語で「恐怖」「不安」「畏怖」「崇拝」を意味する τάρβος/tarbos と「トカゲ」を意味する σαυρος/sauros に由来し[9]、種小名はロシアの古生物学者兼SF作家のイワン・エフレーモフにちなむ。他の2つの標本 PIN 553-1 と PIN 552-2 は北アメリカのゴルゴサウルスの新種 Gorgosaurus lancinator と G. novojilovi に分類された。これら3つの標本は全て最初の標本より小さかった[2]。
アナトリー・コンスタンティノヴィッチ・ロジェストヴェンスキーによる1965年の論文では、マレーエフの標本を異なる成長段階にある同じ種であると解釈し、彼はさらに北アメリカのティラノサウルスとは別の動物であると考えた。彼は1955年に記載された全ての標本と新しい化石を含めた分類群タルボサウルス・バタールを新設した[10]。マレーエフ自身を含め[11]後の論文執筆者はロジェストヴェンスキーの解析に同意したが、タルボサウルス・バタールではなく Tarbosaurus efremovi の名前を使う研究者もいた[12]。アメリカの古生物学者ケネス・カーペンターは1992年に標本を再調査した。彼はマレーエフの当初の発表通りに標本がティラノサウルスに属すると結論付け、マレーエフが Gorgosaurus novojilovi と命名した標本を除いて全てをティラノサウルス・バタールに纏めた。カーペンターは Gorgosaurus novojilovi の標本はティラノサウルス科の小型独立属を代表すると考え、 Maleevosaurus novojilovi と命名した[13]。ジョージ・オルシェヴスキーは1995年にティラノサウルス・バタールにチンギス・カンにちなんだ新しい属名ジェンギスカン(Jenghizkhan)をつけた一方、Tarbosaurus efremovi と Maleevosaurus novojilovi を認め、これらをネメグト層から産出した同時代の独立した3属とした[14]。後に1999年の研究ではマレエヴォサウルスが幼体のタルボサウルスとして再分類された[15]。1999年以降に発表された全ての研究ではたった1つの種だけが認められており、どの論文でもタルボサウルス・バタール[5][16][17]あるいはティラノサウルス・バタールと呼称されている[18]。
1940年代の最初のロシアモンゴル遠征の後、ポーランドとモンゴルのゴビ砂漠への合同遠征が1963年から1971年まで行われ、ネメグト層から産出したタルボサウルスの新たな標本を含む数多くの新しい化石が発見された[6]。日本とモンゴルの研究者が参加した遠征が1993年から1998年に行われた[19]ほか、カナダの古生物学者フィリップ・J・カリーが協力した私的遠征が21世紀の転換期にあり、これらによりさらなるタルボサウルスの化石が発見・収集された[20][21]。30を超える標本が知られており、15を超える頭骨や複数の頭骨以降の完全骨格もある[5]。
タルボサウルスの化石はモンゴルと中国のゴビ砂漠付近でのみ発見されており、両国ともタルボサウルス化石の輸出を禁じているが、私的コレクターに強奪された標本もある[22]。2012年5月20日にニューヨークで開催されたイベントで Heritage Auctions が発行したカタログに疑惑が浮上し、100万ドルの密輸取引が発覚した。モンゴルの法律により、ゴビ砂漠で発見される標本は全て適切なモンゴルの機関が保管しており、カタログに掲載されたタルボサウルス・バタールが盗掘されたものであることに疑いはなかった。モンゴル大統領と多くの古生物学者が売買に異議を唱え、間一髪で調査が入り、標本がゴビ砂漠でしか発見されないもので、正当な所有権はモンゴルにあることが確認された[23]。裁判で盗掘者エリック・プロコピは違法密輸の罪を認め、タルボサウルスの標本は2013年にモンゴルへ戻され、スフバートル広場に一時展示された[24]。プロコピはパートナーやイングランドの商業ハンター仲間クリストファー・ムーアと共に恐竜を販売していた[25]。この事件を経て、タルボサウルス・バタールの複数の骨格を含め数十のモンゴル産恐竜がモンゴルへ戻された[26]。
シノニム
[編集]中国の古生物学者は1960年代中頃に中国の新疆ウイグル自治区ピチャン県スバシ累層で小型獣脚類の断片骨格 IVPP V4878 を発見した。1977年に董枝明がこの標本を記載して新属新種 Shanshanosaurus huoyanshanensis と命名した[27]。1988年にグレゴリー・ポールがシャンシャノサウルスをティラノサウルス科として認め、アウブリソドンに分類した[28]。後に董とカリーは標本を再調査し、より大型のティラノサウルス科の種の幼体とみなした。二人は特定の属に分類することを控えたが、可能性としてタルボサウルスを提案した[29]。
Albertosaurus periculosus、Tyrannosaurus luanchuanensis、Tyrannosaurus turpanensis、Chingkankousaurus fragilisは the Dinosauria 第2版ではタルボサウルスのジュニアシノニムと考えられていたが、ブルサッテらは2013年にチンカンコウサウルスを疑問名と評価した[5][30]。
1976年にセルゲイ・クルザノフが命名したアリオラムスは、モンゴルのわずかに古い堆積層から産出した別のティラノサウルス科の属であり[31]、タルボサウルスに極めて近縁であると複数の解析で結論付けられている[6][16]。アリオラムスは成体として記載されたが、長く上下に低い頭骨は幼体のティラノサウルス科の特徴である。これにより、カリーはアリオラムスが幼体のタルボサウルスに相当する可能性があると推論したが、歯の本数が多いことと鼻先の突起の列からはそうでないことが示唆される、と注記した[32]。
分類
[編集]タルボサウルスは獣脚亜目ティラノサウルス科ティラノサウルス亜科に分類される。この亜科に分類されるほかの属には、北アメリカのティラノサウルスやダスプレトサウルス[18]、おそらくモンゴルの属であるアリオラムスがいる[6][16]。本亜科に属する動物はアルバートサウルスよりもティラノサウルスに近縁であり、アルバートサウルス亜科より大きなプロポーションの頭骨や長い大腿骨を持つ頑強な体つきで知られる[5]。
タルボサウルス・バタールは元々ティラノサウルスとして記載され[8]、この位置付けを支持する後の研究もある[18][13]。本属を姉妹群として独立した属のまま扱う研究者もいる[5]。2003年の頭骨の系統解析では、他のティラノサウルス亜科には見られない負荷を分散するための頭骨の機構がアリオラムスとタルボサウルスに共通していたため、アリオラムスが最も近縁と断定された。実証されていたなら、両属の関係はタルボサウルスをティラノサウルスのシノニムとする考えに対する反証となり、アジアと北アメリカで独立にティラノサウルス亜科の系統が進化したことを示唆していたであろう[6][16]。知られているアリオラムスの2つの標本は幼体の特徴を示している一方、歯の本数が多い(76 - 78本)ことと鼻先に沿った骨の隆起が独特な列をなすことから、タルボサウルスの幼体ではない可能性が高い[32]。
より昔のティラノサウルス亜科の恐竜 リトロナクス が発見されたことで、タルボサウルスとティラノサウルスの近い関係がさらに明らかになり、リトロナクスがカンパニアンのズケンティラヌスとマーストリヒチアンのティラノサウルスおよびタルボサウルスからなる系統群の姉妹群であることが判明した。リトロナクスの更なる研究からは、アジアのティラノサウルス上科が適応放散の一例であることも示唆された[33]。
以下はローウェンらが2013年に行った系統解析に基づくクラドグラム[34]。
ティラノサウルス科 |
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古生物学
[編集]他の大型ティラノサウルス科の何属かがそうであるように、タルボサウルスの化石は比較的豊富で保存状態も良い。事実、ネメグト層から収集された全ての化石の四分の一がタルボサウルスのものである[35]。タルボサウルスは北アメリカのティラノサウルス科ほど完全には研究されていない[6]ものの、その生物学的観点に即した結論を導くことは可能である。
2001年にブルース・ロスチャイルドらは獣脚類の疲労骨折と腱断裂、および行動を示唆する証拠を調べる研究を発表した。疲労骨折は特別な症状ではなく繰り返される外傷によって生じるため、他のタイプの症状よりも普段の行動で起こる可能性が高い。研究で調査されたタルボサウルスの足の骨18本のうち疲労骨折が見つかったものはなかったが、手の骨10本のうち1本が1ヶ所に疲労骨折を患っていた。足の疲労骨折は走行中や移動中に生じうる一方、手の疲労骨折は足に見られるものよりも特別な行動があったことを示唆しており、もがく獲物と接触して生じた可能性が高い。一般に、疲労骨折や腱断裂が存在することは、死体漁りよりも捕食行動をベースにした食性であったことを示す[36]。
2012年にオルニトミモサウルス類のデイノケイルスのホロタイプ標本の腹肋骨断片2つに噛み跡があると報告された。噛み跡の形状と大きさはネメグト層産の既知の最大の捕食動物であるタルボサウルスの歯に合致する。摂食の際についた跡は様々で、刺し傷、抉れた溝、筋、歯の断片、およびこれらの組み合わさったものが確認されている。噛み跡はおそらく攻撃行動ではなく摂食行動を示しており、噛み跡が体のほかの部位で発見されないことはタルボサウルスが内臓を重視していた事実を示唆している。タルボサウルスの噛み跡はハドロサウルス科や竜脚類の化石でも断定されているが、他の獣脚類に噛み跡が残っている化石記録は少ない[37]。また、本属の歯のエナメル質の同素体解析によっても、タルボサウルスは針葉樹林にて竜脚類(ネメグトサウルスなど)やハドロサウルス科(サウロロフスなど)を獲物としていた事が示されている[38]。
頭骨の機構
[編集]タルボサウルスの頭骨は2003年に初めて完全に記載された。研究者はタルボサウルスと北アメリカのティラノサウルス科の重要な相違点を記しており、その多くは噛む際の頭骨にかかる負荷の処理に関連している。上顎が物体を噛む際、力は上顎の歯を持つ主要な上顎骨を介して周囲の頭骨へ送られる。北アメリカのティラノサウルス科では、この力は上顎骨から鼻先の癒合した鼻骨へ向かい、鼻骨は骨の支柱により涙骨と後方で固く繋がっていた。これらの支柱が骨を互いに固定しているため、力は鼻骨から涙骨へ送られたと示唆されている[6]。
タルボサウルスには骨の支柱がなく、鼻骨と涙骨の繋がりも弱かった。その代わりタルボサウルスは上顎骨の後方への突起が大きく発達し、涙骨で構成される鞘の内側に合致していた。この突起は北アメリカのティラノサウルス科では薄い骨の板になっている。大きな後方への突起から、タルボサウルスでは上顎骨から涙骨へより直接的に力が送られたことが示唆されている。また、タルボサウルスの涙骨は前頭骨と前前頭骨に固定されていた。上顎骨、涙骨、前頭骨、前前頭骨の発達した繋がりにより、上顎全体が強度を増していた[6]。
タルボサウルスと北アメリカの親戚におけるもう一つの大きな相違点は、タルボサウルスの下顎がより強固であることである。北アメリカのティラノサウルス科を含め多くの獣脚類で下顎骨後方と歯骨前方が幾分柔軟であったが、タルボサウルスは角骨の表面の隆起からなる固定機構を持ち、歯骨の後方で正方形の突起と関節していた[6]。
タルボサウルスの強固な頭骨は、後期白亜紀の北アメリカの大部分には生息しなかった、ネメグト層から産出する巨大なティタノサウルス科竜脚類を狩るための適応であるという仮説もある。また、頭骨機構の相違点はティラノサウルス科の系統も左右する。タルボサウルス型の頭骨内関節はモンゴル産のアリオラムスにも見られ、ティラノサウルスではなくアリオラムスがタルボサウルスに最も近縁であることが示唆されている。それゆえ、タルボサウルスとティラノサウルスの類似点はその巨大な体躯に関連して平行進化で独立に発達した可能性がある[6]。
また、眼窩はティラノサウルスと異なり前方を向いてなかった[39][40](詳細は「脳の構造」節を参照)。
噛合力と捕食行動
[編集]タルボサウルスが捕食者かつスカベンジャーであった証拠があり、これはサウロロフスの遺骸に発見された化石化した噛み跡として確認できる[41]。タルボサウルスの咬合力は約3万5600 - 4万4500ニュートンとされ、おそらくティラノサウルスのように骨を噛み砕くことができた[42]。
脳の構造
[編集]1948年にソ連とモンゴルの研究者が発見したタルボサウルスの頭骨(PIN 553-1、元々は Gorgosaurus lancinator)には頭蓋内腔が保存されていた。この空洞の内側にエンドキャストと呼ばれる石膏の型を取り、マレーエフはタルボサウルスの脳の形状の予備的な観察に成功した[43]。さらに新しいポリウレタンのゴム型により、タルボサウルスの脳構造と機能の詳細な研究が可能となった[39]。
タルボサウルスの頭蓋内構造はティラノサウルスのものに似ており[44]、相違点は三叉神経や副神経といったいくつかの脳神経根の位置だけであった。ティラノサウルス科の脳は鳥類よりもワニなど非鳥類型爬虫類のものに似ていた。全長12メートルのタルボサウルスの脳の合計容積はわずか184立方センチメートルと推定されている[39]。
嗅球と末端神経および嗅覚神経は大きく、ティラノサウルスと同様にタルボサウルスの嗅覚が鋭敏であったことが示唆されている。鋤鼻球は大きく、嗅球とは区別される。嗅球は当初、フェロモンを感知するのに使用された発達した鋤鼻器を示唆するものとして提唱された。これはタルボサウルスが複雑な交尾行動を取っていたことを暗示する可能性があった[39]しかし、鋤鼻球は現生のどの主竜類にも存在しないため、他の研究者が断定に異議を唱えた[45]。
聴覚神経もまた大きく、優れた聴覚を示唆しており、これは聴覚コミュニケーションと空間認識に役立った可能性がある。この神経は前庭部位も発達しており、優れたバランス感覚と調整能力が暗示されている。対照的に、視力に関する神経と脳の構造は小型で発達していなかった。爬虫類の視覚処理に関与する中脳は、 視神経と眼球運動を制御する動眼神経と同様に、タルボサウルスでは非常に小さかった。目が前方に面してある程度の立体視も可能であったティラノサウルスと違い、他のティラノサウルス科に典型的な狭い頭骨を持つタルボサウルスの目は主に横側に面していた。このことから、タルボサウルスは視力ではなく嗅覚と聴覚に頼っていたことが示唆されている[39]。ただし、現行のタルボサウルスの標本の“成体”とされる標本の多くが、実際には全長9メートル前後の亜成体と目されており、これを真に成体である全長12メートルのティラノサウルスと比較するのはいささか無理がある(詳しくはティラノサウルスの項を参照)。
生活史
[編集]タルボサウルスの大半の標本は成体か亜成体の個体であり、幼体のものは非常に珍しい。しかし、2006年には長さ290ミリメートルの完全な頭骨を持つ幼体の骨格が発見され、タルボサウルスの生活史の情報がもたらされた。この個体はおそらく2,3歳で死亡した。成体の頭骨と比較して幼体の頭骨は構造が弱く、歯は薄く、幼体と成体で食べ物の好みを変えて異なる年齢のグループとの競争を避けていたことが示唆されている[46]。タルボサウルスの幼体の強膜輪の調査から、幼体が夜行性あるいは薄明に行動していた可能性が示唆されている。成体のタルボサウルスも夜行性であったかは、化石証拠がないため現状明らかでない[47]。
皮膚の印象化石と足跡
[編集]Bugiin Tsav 産地の以前盗掘者に破壊された大型骨格から、皮膚の印象化石が発見された。この印象化石が示すウロコは直径2.4ミリメートルで、互いに重なっておらず、骨格が破壊を受けたため正確な位置は評価できないものの胸に関連した領域に位置していた[48][49]。また、タルボサウルスの化石の一つからは喉袋が知られており、繁殖期のディスプレイに用いた可能性がある[50][51][52][53]とされるが、標本がどこから得られたものか・現在どこにあるのかは不明で、未検証の不確かなものである[54]。Mikhailovは、この喉袋の標本についてネメグト層のもので、Kurzanovによって発見されたが収集はされなかったと述べた[55]。
2003年にフィリップ・J・カリーらはおそらくタルボサウルスのものである2つの足跡をネメグト層から報告した。この足跡は自然の型であり、すなわち足跡そのものではなく足跡を埋めた砂岩が保存されていたということである。この足跡には Bugiin Tsav で発見されたものに似た、広い領域の皮膚の印象化石が保存されていた。また、足が地面に押し込まれた際にウロコが残した垂直方向に平行な滑った痕跡も確認されている。足跡は長さ61センチメートルで、大型個体のものである。別の大型の足跡も発見されているが、侵食に影響され詳細は読み取れない[48]。
古生態学
[編集]知られているタルボサウルスの化石の大多数はモンゴル南部ゴビ砂漠のネメグト層から発見された。この地層は放射年代測定が行われたことは無いが、化石証拠の動物相からは、約7000万年前[56][57]の後期白亜紀の終わり頃である前期マーストリヒチアンに堆積したと示唆されている[35]。シャンシャノサウルスが発見されたスバシ累層もマーストリヒチアンである[58]。
タルボサウルスが主に発見されるネメグト層は、保存されている巨大な水路と土壌堆積物から、下に位置するバルン・ゴヨト層やジャドフタ層よりも遥かに湿潤な気候であったことが示唆されている。しかし、カリシェ堆積物があることから、少なくとも周期的な干ばつがあったことが示唆されてもいる。堆積物は大型河川の水路と氾濫原に堆積した。この層の岩の単層から干潟と浅い湖の存在も示唆されている。また、堆積物から豊かな生息域であったことが分かり、巨大な白亜紀の恐竜を維持できる多様な食物に溢れていたことが示されている[59]。より古いジャドフタ層から産出したティラノサウルス科の未同定の化石はタルボサウルスの化石に非常に似ており、ネメグト層よりも古く乾燥した生態系にもタルボサウルスが生息していたことを示唆する可能性がある[1]。
ネメグト層では軟体動物の化石も産出しており、魚類やカメといった他の水生動物も多様性に富んでいる[35]。ワニには貝を砕くことに適した歯を持つシャモスクスが複数種いた[60]。哺乳類化石はネメグト層では非常に希少であるが、エナンティオルニス類のグリニアやヘスペロルニス目のジュディノルニス、現生カモ目の初期の属であるテヴィオルニスなど数多くの鳥類が発見されている。数多くの恐竜もネメグト層から記載されており、アンキロサウルス科のサイカニア、パキケファロサウルス科のプレノケファレ[35]などがいる。最大の捕食動物であったタルボサウルスはサウロロフスやバルスボルディアといった大型ハドロサウルス科、あるいはネメグトサウルスやオピストコエリカウディアといった竜脚類を捕食していた可能性が高い[6]。成体はティラノサウルス科のアリオラムス、トロオドン科(ボロゴヴィア、トチサウルス、ザナバザル)、オヴィラプトロサウルス類(エルミサウルス、ネメグトマイア、リンチェニア)、基盤的ティラノサウルス上科のバガラアタンなどの小型獣脚類との競争はほぼなかったであろう。植物食の可能性もある巨大なテリジノサウルスや、アンセリミムスやガリミムス、巨大なデイノケイルスといったオルニトミモサウルス類は肉食であったとしても小型の獲物だけを食べていたため、タルボサウルスとの競争関係にはなかった。しかし、他の大型ティラノサウルス科やコモドオオトカゲと同様に、幼体や亜成体のタルボサウルスは小型獣脚類と巨大な成体との間の生態的地位を埋めていたことであろう[5]。
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