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エウストレプトスポンディルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エウストレプトスポンディルス
Eustreptospondylus
生息年代: 165–161 Ma
組み立てられたホロタイプ標本
地質時代
中期ジュラ紀カロビアン
(1億6500万年前から1億6100万年前)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Sauriscia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
階級なし : テタヌラ類 Tetanurae
: メガロサウルス科 Megarosauridae
亜科 : エウストレプトスポンディルス亜科 Eustreptospondylinae Paul1988
: エウストレプトスポンディルス属 Eustreptospondylus
学名
Eustreptospondylus
Walker,1964
シノニム

Magnosaurus oxoniensis (Walker, 1964) Rauhut 2003

エウストレプトスポンディルス学名 Eustreptospondylus 「真のストレプトスポンディルス」の意味)は、メガロサウルス科恐竜であり、中期ジュラ紀カロビアン期(1億6500万年前から1億6100万年前)に現在のイングランド南部(イギリス)に生息していた。この当時ヨーロッパは一連の離島であった(地殻運動のため海底が隆起し、低地が水没していたので)。海岸線で死体や海洋生物を漁っていた可能性がある[1]

エウストレプトスポンディルスの主な化石は1870年に発見され、最初は他の属のものとされ、1964年に独自の属として分離された。成体では体長6メートルほどであった。二足歩行の肉食動物で、尾がやや硬直していた。典型的な獣脚類であり、後肢は強力で前肢は小さかった。

発見と命名

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フォン・ヒューネによる1923年のStreptospondylus cuvieri(現在のエウストレプトスポンディルス)の復元骨格

1870年イングランド、オックスフォードのすぐ北にあるSummertown Brick Pitの作業員により、獣脚類の骨格が発見された。この化石は地元の本屋ジェームズ·パーカーの手に渡った。パーカーは化石をオックスフォード大学の教授であるジョン・フィリップスen)のところへ持っていった。フィリップスは1871年にこの化石を記載したものの命名はしなかった[2]。1871年の時点ではこの化石は既知の大型獣脚類の化石としては最も完全であった。ヨーロッパのジュラ紀の大型獣脚類としては現在でも最も完全である。1890年、化石はオックスフォード大学が購入し、アーサー・スミス・ウッドワードによりメガロサウルス・バックランディMegalruosaus bucklandのものとされた。1905年および1906年にフランツ・ノプシャ男爵(en)はこの骨格を別の種に分類した。ストレプトスポンディルス・クヴィエリ(Streptospondylus cuvieri) は最初に現在では失われたバトニアン期の椎骨に基づき1842年にリチャード・オーウェン卿により記載された種である。[3]。これはストレプトスポンディルスStreptospondylus)属のタイプ種であるフランスで発見された種 Streptospondylus altdorfensisの明確な近縁種であるという理由で、ノプシャはこの特徴を持つイギリスの化石の全がストレプトスポンディルス属の1つの種に包含されると判断した。そのため必然的にS. cuvieriという名前になった[4][5]。とはいえ、情報の乏しい化石に基づく種により完全標本を関連付けることは、混乱した状況を生む結果となった。ドイツの古生物学フリードリヒ・フォン・ヒューネはストレプトスポンディルス属の名前を認める一方でメガロサウルスの種Megalosaurus cuvieriであるとも考え、さらに混乱が加わった[6]

1964年アリック・ウォーカーen)はオックスフォードの標本は明らかに独自の属、種であると判断し、エウストレプトスポンディルス・オクソニエンシス(Eustreptospondylus oxoniensis)と命名した。属名はストレプトスポンディルス(Streptospondylus)から派生していて、直訳すると良く曲がる背骨という意味になる。Streptospondylus自体はは曲がる背骨という意味で、この恐竜の胴椎がワニの典型である前腔型(procoelous)ではなく逆の後腔型(opisthocoelous)であることにちなむものであるが、エウストレプトスポンディルスの意味としてはむしろ"真のストレプトスポンディルス"である。種小名は発見地のオックスフォードにちなむ[7]

現在の骨格復元図

ホロタイプ標本OUM J13558オックスフォード累層en )の Stewartby部層のカロビアン海成層から発見された。この標本は頭骨を含むかなり完全な骨格で構成されている。欠損している主な部分は鼻骨頬骨、下顎の後端、前肢の下部、尾の先である。亜成体の個体のものである。ホロタイプ以外で唯一のエウストレプトスポンディルスのものとされる標本OUMNH J.29775は左腸骨である。ホロタイプは1924年に完全に剖出され、直立に近い姿勢で展示された。21世紀初頭に胴体を水平にした姿勢に変更されている。

2000年、 Oliver Walter Mischa Rauhutはエウストレプトスポンディルスと既知のメガロサウルス科のメガロサウルス属と呼ばれているものを区別する特徴が骨盤に関するわずかな違い(恥骨の"足"の部分がより上方まで癒合しているかどうか)に過ぎないことに気づき[8]、2003年にこれらが同属であると提案し、Magnosaurus oxoniensisとした。[9]。2010年にグレゴリー・ポールen)は Streptospondylus altdorfensisは独自の種であるとみなした[10] 。双方の意見ともあまり受け入れられていない。

1906年、ノプシャにより初めてエウストレプトスポンディルスの化石の種の詳細な記載が行われた。2008年にRudyard Sadleirらにより 最新の記載が発表されている[11]

1964年、ウォーカーはフランスで発見された化石に基づきエウストレプトスポンディルスの第2の種Eustreptospondylus divesensisを命名している[7]。この種は1977年に別属ピヴェテアウサウルスPiveteausaurus)として分離された。

特徴

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魚竜を食べるエウストレプトスポンディルス

タイプ標本の個体は亜成体であり、Paul(1988)に拠れば体長4.63 m、体重218 gと推定される[12]。また、Paul(2010)の推定では成体では体長6 m、体重500 kgほどである[10]

オックスフォード大学自然史博物館に展示されるウォーキングwithダイナソーで使用されたパペットの頭部[13]

Sadleirによりエウストレプトスポンディルスと近縁種を識別する特徴が複数確立されている。涙骨の角に浅いくぼみがあり、小さな孔が貫通している。後眼窩骨下部の分岐部の後ろ側の角に溝がある。鱗状骨の外側に外側側頭窓の上部後部の側面を覆う、よく発達した垂れたフランジがある。第十頸椎の全面下側に明瞭な窪みがある。頸椎にも胴椎にもキールがない[11] 。2012年、Matthew Carranoはさらに特徴を加えた。恥骨が接続している腸骨の脚が前後幅と同程度の横幅である。腸骨後部の刃状突起(縁の薄くなっている部分)と外側刃状突起の下縁部がほぼ水平で上向きになっていて、骨の全長に渡って表面の露出を形成し、内側刃状突起の内面が「短い棚」を形成する。この棚が尾の筋肉「短尾大腿筋」の付着領域となる[14]

Sadleirはまたマグノサウルス・ネテルコンベンシス(Magnosaurus nethercombensis)とエウストレプトスポンディルスを識別する特徴を複数発見した。歯を裏から補強する歯間プレートは高さよりも前後の長さの方が長い。これはM. nethercombensisの逆である。上側から見ると恥骨が股関節の下縁の横方向により狭い部分を形成しているように見える。後方から見ると、大腿骨の内側の上部が真直ぐである。脛骨の上部の脛骨突起にはその外側を前方と下方に向かう隆起が無い。[11]

エウストレプトスポンディルス頭骨は側面から見てやや尖っており、平行に向いた大きな鼻腔がある。涙骨に角上の突起がない。頭蓋天井は比較的分厚い。顎の前方がやや幅広で高い。上顎にも下顎には歯は残されていなかったが、歯槽のサイズから下顎の第3歯は細長かったと推定される。キールはないが前方の胴椎には下側に1対のhypapophysisがあり、Streptospondylus altdorfensisと同様である。

分類

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Walker(1964)ではエウストレプトスポンディルスはメガロサウルス科Megalosauridae)に分類された。エウストレプトスポンディルス科(Eustreptospondylidae)として分離されたこともあるが[15]、現在ではメガロサウルスの内の エウストレプトスポンディルス亜科(Eustreptospondylinae)とされることが一般的である。

下記の分岐図はCarrano e.a.[14]による分岐学的解析に基づくメガロサウルス上科Megalosauroidea)でのエウストレプトスポンディルスの進化的な位置づけを示したものである[14]

メガロサウルス上科Megalosauroidea

ピアトニツキーサウルス科Piatnitzkysauridae

Megalosauria

ストレプトスポンディルスStreptospondylus

スピノサウルス科Spinosauridae

megalosaurid
Eustreptospondylinae

エウストレプトスポンディルス

Megalosaurinae

ドゥリアヴェナトルDuriavenator

メガロサウルスMegalosaurus

トルヴォサウルスTorvosaurus

Afrovenatorinae

アフロヴェナトルAfrovenator

ドゥベレウイッロサウルスDubreuillosaurus

マグノサウルスMagnosaurus

レシャノサウルスLeshansaurus

ピヴェテアウサウルスPiveteausaurus

大衆文化においての扱い

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エウストレプトスポンディルスはBBCの『ウォーキングwithダイナソー』のエピソード3"Cruel Sea"に登場し、リオプレウロドンの獲物の一つとなっている。またこのエピソードでは浅瀬の短い距離を泳いで渡る姿も描かれている。『プライミーバル』の小説Fire and Waterにも登場し、ジュラ紀中期での最強の捕食者として扱われ、ここでも小島を泳いで渡る姿が描かれている。2000年、デイヴィッド・マーティルとダレン・ナイシュはタイプ標本が亜成体のものであるということが理解されず結果として島嶼化した生物として描かれていると指摘している[16]。エウストレプトスポンディルスの化石の発見された海成層は、テレーンの大きさからは当時のロンドン-ブラバント地塊の西岸から離れたところに位置していたと推定される。

脚注

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  1. ^ Benton, Michael J. (2012). Prehistoric Life. Edinburgh, Scotland: Dorling Kindersley. p. 260. ISBN 978-0-7566-9910-9. http://www.dk.com 
  2. ^ Phillips, J., 1871, Geology of Oxford and the Valley of the Thames. 529 pp
  3. ^ Owen, R. (1842). "Report on British fossil reptiles". Report of the British Association for the Advancement of Science 11: 60–204
  4. ^ Nopcsa, F., 1905, "Notes on British dinosaurs. Part III: Streptospondylus", Geological Magazine 5: 289-293
  5. ^ Nopcsa, F., 1906, "Zur Kenntnis des Genus Streptospondylus", Beiträge zur Paläontologie und Geologie Österreich-Ungarns und des Orients: Mitteilungen des Geologischen und Paläontologischen Institutes der Universität Wien 19: 59-83
  6. ^ Huene, F. von, 1926, "The carnivorous Saurischia in the Jura and Cretaceous formations, principally in Europe", Revista del Museo de La Plata, 29: 1-167
  7. ^ a b Walker, A. D. (1964). “Triassic reptiles from the Elgin area: Ornithosuchus and the origin of carnosaurs”. [[w:Philosophical Transactions of the Royal Society B|]] 248 (744): 53–134. Bibcode1964RSPTB.248...53W. doi:10.1098/rstb.1964.0009. 
  8. ^ Rauhut (2000), “The interrelationships and evolution of basal theropods (Dinosauria, Saurischia)”, Ph.D. Dissertation (Univ. Bristol [U.K.]): pp. 1–440 
  9. ^ Rauhut (2003). “The interrelationships and evolution of basal theropod dinosaurs”. Special Papers in Palaeontology 69: 1–213. 
  10. ^ a b Paul, G.S., 2010, The Princeton Field Guide to Dinosaurs, Princeton University Press p. 89
  11. ^ a b c R. Sadleir, P.M. Barrett and H.P. Powell, 2008, The anatomy and systematics of Eustreptospondylus oxoniensis, a theropod dinosaur from the Middle Jurassic of Oxfordshire, England, Monograph of the Palaeontological Society, 160(627) 82 pp
  12. ^ Paul, Gregory S. (1988). Predatory Dinosaurs of the World. [[w:Simon & Schuster|]]. pp. 287–288. ISBN 0-671-61946-2 
  13. ^ http://www.oum.ox.ac.uk/learning/pdfs/dinosaur.pdf
  14. ^ a b c M.T. Carrano, R.B.J. Benson, and S.D. Sampson, 2012, "The phylogeny of Tetanurae (Dinosauria: Theropoda)", Journal of Systematic Palaeontology 10(2): 211-300
  15. ^ S.M. Kurzanov, 1989, "O proiskhozhdenii i evolyutsii infraotryada dinozavrov Carnosauria", Paleontologicheskiy Zhurnal 1989(4): 3-14
  16. ^ Martill, D.M. & Naish, D., 2000, Walking With Dinosaurs: the Evidence, BBC Worldwide, London

参照

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