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オーストロネシア語族

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
南島諸語から転送)
オーストロネシア語族
原郷台湾
話される地域東南アジア沿海部、オセアニアマダガスカル台湾
言語系統広範に見られる語族
下位言語
ISO 639-2 / 5map
ISO 639-5map

東南アジア周辺の言語分布

大洋州周辺の言語分布
  アドミラルティ諸島諸語&ヤップ語
  St Matthias
  西大洋州諸語&中部メラネシア諸語
  テモツ諸語
  南東ソロモン諸語
  南大洋州諸語
  ミクロネシア諸語
  フィジー・ポリネシア諸語
黒の円は北西の限界地でスンダスラウェシ諸語パラオ語チャモロ語である。緑の円の中の黒い円はパプア諸語を表している。
オーストロネシア語族の拡散。台湾からフィリピン、インドネシア、太平洋、インド洋へと拡散した

オーストロネシア語族(オーストロネシアごぞく)は、台湾から東南アジア島嶼部太平洋の島々、マダガスカルに広がる語族である。アウストロネシア語族とも。日本語では南島語族とも訳される。台湾諸語が言語学的にもっとも古い形を保っているとされる。

かつてはマレー・ポリネシア語族と呼ばれていたが、台湾諸語との類縁性が証明され、オーストロネシア語族と呼ぶようになった。

考古学的な証拠と併せて、オーストロネシア語族は、台湾から、東南アジアからフィリピンインドネシアマレー半島に南下し、西暦 5 世紀にインド洋を越えてマダガスカル島に達し、さらに東の太平洋の島々やニュージーランドへ拡散したとされる。パプアニューギニアへの拡散は北側沿岸の低地へ限定された。

概要

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オーストロネシア語族は1000前後の言語[注釈 1]から構成され、西はマダガスカルから東はイースター島、南はニュージーランドから北は台湾までと非常に広く分布している。おそらく6000年ほど前に、オーストロネシア祖語から分岐を開始した。

地域別状況

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インドネシア

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話者数が最も多いのはインドネシアで、国語と定められているインドネシア語マレー語をもとにして人工的に作られた言語である。各地域にはジャワ語スンダ語マドゥラ語ミナンカバウ語バリ語ブギス語マカッサル語アチェ語などが分布しているが、インドネシア語はこれらマレー系諸言語の新しい共通語として制定された。マレー語がインドネシアの共通語となった歴史的背景としては 15 世紀から 16 世紀初頭にかけてマレー半島南岸に繁栄したマラッカ王国の影響が挙げられる。マラッカ王国からイスラームが広がり、その言語が商業用語としても広く用いられたからである。 ジャワ語の母語話者数は圧倒的だがジャワ語を国語に選定すると、マジョリティのジャワ人の優位性を助長すること、難解な敬語表現の学習の難しさ、また敬語を重視するのは新国家で謳う自由平等にふさわしくないということなどで採用されなかった。

マレーシア

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マレーシアの国語はバハサ・マレーシア(マレーシア語)で、この国で話されている標準的なマレー語をマレーシア語として2007年に制定したものである。従来の「マレー語」は広義ではインドネシア語を含むことがあるが、国名を入れたことにより区別が明確になった。 マレーシア語とインドネシア語は極めて共通する部分が多いと言われる。しかし植民地時代の宗主国言語の違いによる借用語の違いや、インドネシア語制定以前から話していた母語であるジャワ語、ブタウィ語など地方語の流入により、両国で実際に使われる言葉では非共通の部分も多い。

フィリピン

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フィリピンの共通語はルソン島南部のマレー系言語であるタガログ語だが、フィリピンも各地域にセブアノ語イロコス語パンガシナン語などマレー系言語が分布している。なお、タガログ語は、マニラ首都圏などルソン島中南部一帯で話されているものを標準化し、1987年フィリピン語として英語とともに公用語として憲法に定められた。

インドシナ半島

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マレー系言語はインドシナ半島にも分布する。古くからチャンパ王国を建国したチャム族の言語チャム語である。チャンパ王国はベトナムに滅ぼされたが、民族としてのチャム族はベトナム中部からカンボジアに今も存続している。

マダガスカル

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アフリカ東部のマダガスカルにまでマレー系言語が分布しているのは驚くべきことだが、これは海洋民族であるマレー系民族の移住によるものである。距離が遠く離れているにもかかわらず、マダガスカル語(マラガシー語)とマレー語との言語学的な親縁関係は強いとされる。マダガスカルのマレー系民族(マラガシー人種)は人種的にはアフリカ黒人のバンツー民族混血していて、言語にもその影響が見られる。

台湾

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オーストロネシア語族の祖形を残す台湾原住民中国語では高山族、日本語では高砂族)諸部族の言語はアタヤル語(タイヤル語)群、ツォウ語群パイワン語群に大別され、このうちパイワン語群に属するアミ語の話者が10万人前後と最も多く、その他の言語の話者は数千人以下である。現代の台湾人は殆どが人口の対部分である原住民と混血されているが、台湾政府によって中国語(主に北京語台湾語)の使用が殆どであり、原住民言語は消滅する傾向がある。しかし近年原住民言語の語学教育が学校で行われている。

その他

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太平洋のオーストロネシア語族(海洋系)はニューギニア北部沿岸地域の言語から派生した。メラネシア系とポリネシア系に大別され、前者から後者が派生した。メラネシア系は中部太平洋のソロモン諸島ニューヘブリディーズ諸島バヌアツ)、フィジーなどに分布し、ポリネシア系はアメリカ合衆国のハワイ諸島、チリイースター島サモアトンガニュージーランドに分布する。ニュージーランドのポリネシア系原住民マオリ族の言語がオーストロネシア語族の南限となる。

分類

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言語学的な分類は言語学者によって諸説あるが、ここでは有力な分類[1][2]を紹介する。なお、どの分類でもオーストロネシア語族はまず台湾諸語マレー・ポリネシア語派の2つに分けて考えられる。ただし最新の系統解析では台湾諸語は側系統群である。

台湾諸語

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マレー・ポリネシア語派

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フィリピン諸語

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フィリピン諸語[注釈 2]は、北は台湾沖の蘭嶼から、南はボルネオ北部まで分布している。

サマ・バジャウ諸語

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サマ・バジャウ諸語英語版スールー諸島やボルネオ島に住むバジャウ族英語版の言語であり、研究者によってはフィリピン諸語と同じグループに分類されることもある。

ボルネオ諸語

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ボルネオ諸語英語版は主にボルネオ島北部に分布する言葉であるが、マダガスカル語もこのグループに属する。

中核マレー・ポリネシア語群

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中核マレー・ポリネシア語群はオーストロネシア語族最大のグループであり、海南島スマトラ島からハワイ諸島イースター島まで分布している。

特徴

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これらの言語には非常に多様性があり、一般化は難しいが、およそ次のようなことが言える。

  • 音韻論的には、音節構造は比較的単純であり、子音母音(語末子音もあるが、一部言語では脱落した)からなる言語が多い。ただし台湾やメラネシアの言語では子音の種類がかなり多く多重子音もあって、これは古い特徴に由来する可能性がある。母音は4-5個程度。
  • 接辞接頭辞接尾辞接中辞)が単語の派生あるいは文法的機能に関わる。特に単語の内部に挿入される接中辞が特徴的である(現在はこれらの接辞が化石化した言語も多い)。また畳語がよく用いられる。
  • 統語的性質からはほぼ3つのグループに分けられる。そのうちの1つ(フィリピン・グループ)は、動詞が文頭に来る語順が基本であり、またの用い方に関して部分的に能格言語的な性格を示す(「焦点」と呼ばれる)。
  • 一人称双数・複数には、包括形排他形(相手を含むかどうかの区別)がある。
  • 時制はないがの区別はある。

話者の遺伝子

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オーストロネシア語族に関連する遺伝子として、Y染色体ハプログループO1aがあげられる。しかし、Y染色体ハプログループはすべての遺伝子を表すものではなく、ごく一部の遺伝子を表すものである。O1a系統は台湾先住民に66.3%[3]-89.6%[4]ニアス島で100%[4]など、東南アジアの半島、島嶼部、オセアニアにも高頻度であり、オーストロネシア語族との関連が想定される[5]。またO2a2*系統(xO2a2b-M7, O2a2c1-M134) もオーストロネシア語族と関連しており、スマトラ島のトバ人に55.3%, トンガに41.7%, フィリピンに25.0%観察される[4]

mtDNAハプログループハプログループB4a1a台湾からポリネシアまで広域)、ハプログループE島嶼部東南アジアが中心)が関連している。

日本語との関連

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日本語の文法は朝鮮語との類似性が高いが、母音の音韻体系はオーストロネシア語族との類似性が少しある。日本語のこのような特徴は朝鮮半島から南下した言語集団と南方系の言語集団が縄文時代日本列島で出会い、混交したからであるとする説が唱えられている。しかし、この説は未だに確実な根拠はなく、オーストロネシア語族と日本語がお互い関係あるという説は広く受けられている説ではない。オーストロネシア語族との類似性は偶然の一致だと考えられている[6]

脚注

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注釈

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  1. ^ エスノローグ第 14 版では 1236 言語。
  2. ^ 上位にスールー・フィリピン語群がつくこともある。
  3. ^ ニューギニア西北部の言語と海洋系に分かれ、メラネシアやポリネシアの諸言語は海洋系に所属する。

出典

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  1. ^ Merritt Ruhlen, A Guide to the World Languages, Vol. 1, Stanford University Press
  2. ^ Austronesian Basic Vocabulary Database - based on the study : Greenhill, S.J., Blust. R, & Gray, R.D. (2008). The Austronesian Basic Vocabulary Database: From Bioinformatics to Lexomics. Evolutionary Bioinformatics, 4:271-283
  3. ^ Cristian Capelli et al 2001, A Predominantly Indigenous Paternal Heritage for the Austronesian-Speaking Peoples of Insular Southeast Asia and Oceania
  4. ^ a b c Karafet, T. M.; Hallmark, B.; Cox, M. P.; Sudoyo, H.; Downey, S.; Lansing, J. S.; Hammer, M. F. (2010). "Major East-West Division Underlies Y Chromosome Stratification across Indonesia". Molecular Biology and Evolution 27 (8): 1833–44. doi:10.1093/molbev/msq063. PMID 20207712.
  5. ^ 崎谷満『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史』(勉誠出版、2009年)
  6. ^ 角林文雄「隼人 : オーストロネシア系の古代日本部族」京都産業大学日本文化研究所紀要 3, *15-31, 1998-03

関連項目

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外部リンク

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