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マーシャル語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マーシャル語
Kajin M̧ajeļ または Kajin Majõl
話される国 マーシャル諸島の旗 マーシャル諸島
ナウルの旗 ナウル
話者数 43,900人(1979年)
言語系統
オーストロネシア語族
表記体系 ラテン文字
公的地位
公用語 マーシャル諸島の旗 マーシャル諸島
統制機関 統制なし
言語コード
ISO 639-1 mh
ISO 639-2 mah
ISO 639-3 mah
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マーシャル語(マーシャル語: Kajin M̧ajeļ(新正書法)または Kajin Majõl(旧正書法))は、オーストロネシア語族マレー・ポリネシア語派に属する言語である。主な話者はマーシャル諸島の人々である。国内の約44,000人が話し、国外にはナウルアメリカ合衆国に約6,600人の話者が存在する。2つの方言があり、西側はラリック方言、東側はラタック方言である。

分類

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マーシャル語はオーストロネシア語族マレー・ポリネシア語派大洋州諸語ミクロネシア諸語に属する言語である[1]。言語学的には他のミクロネシア諸語であるチューク語キリバス語コスラエ語ナウル語ポンペイ語に近い。特にマーシャル語とポンペイ語は33%の語彙が類似している。

他のミクロネシア語族と同様、ミクロネシアの中でマーシャル語は同じ大洋州諸語に属するヤップ州ヤップ語ポリネシア諸語に属するポンペイ州カピンガマランギ語ヌクオロ語との関連性は低い。また、パラオパラオ語マリアナ諸島チャモロ語との関連性も低い。マックス・プランク進化人類学研究所[2]および語彙統計学研究[3]も概ねこれを支持している。

方言

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マーシャル諸島には34の環礁があり、西のラリック列島と東のラタック列島の2つの列島に分かれている。この2つの列島ではそれぞれラリック方言ラタック方言が話されており、主に語彙の面で異なるが相互理解が可能である[1]。ラリック列島のウジェラング環礁は「異質なところがある」と報告されているが、1980年以降は無人島となっている[4]

ラタック方言とラリック方言では、二重子音で始まる語幹の扱い方が音声学的に異なる。ラタック方言では子音を区切るために母音を挿入するのに対し、ラリック方言では子音の前に母音を挿入する(あるいは母音の前で介入子音/j/を発音するがこれは綴りには現れない)。例えば、語幹 kkure「遊ぶ」は、ラリック方言では ikkure、ラタック方言では kukure のように表される[5]

地位

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アメリカ疾病予防管理センター主催のCOVID-19予防に関するマーシャル語のポスター

マーシャル語はマーシャル諸島の公用語であり、現在も活発に使われている。1979年にはマーシャル諸島で43,900人がマーシャル語を話していた。ナウルアメリカといった他の国にも話者がおり、マーシャル語を話す人の数は49,550人となっている。ポンペイ語、チューク語と並んで、マーシャル語は数万人の話者を持つミクロネシアの言語の中でも際立って話されている[6]。また、マーシャル語の辞書と少なくとも2つの聖書翻訳が出版されている。

発音

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子音

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マーシャル語には多くの子音があり、各子音には何らかの二次調音(硬口蓋化軟口蓋化唇音化)がある[7]。硬口蓋化された子音は「軽子音」、軟口蓋化または唇音化された子音は「重子音」とされる[8]。この対比はゲール語の狭子音・広子音、ロシア語の軟音・硬音、また日本語の拗音・平音に類するものである。軽子音はより弛緩した調音であると考えられている[8]

マーシャル語の子音の音素は次のとおり[9]

主要調音 両唇音 歯音 硬口蓋音 軟口蓋音
副次調音 pal. vel. pal. vel. lab. plain lab.
鼻音 m /mʲ/ /mˠ/ n /n̪ʲ/ ņ /n̪ˠ/ ņw /n̪ˠʷ/   /ŋ/ n̄w /ŋʷ/
破裂音 p /pʲ/ b /bˠ/ j /t̪ʲ/ t /t̪ˠ/     k /k/ kw /kʷ/
R音   r /r̪ʲ/ d /r̪ˠ/ dw /r̪ˠʷ/    
接近音   l /l̪ʲ/ ļ /l̪ˠ/ ļw /l̪ˠʷ/ y /j/ h or ʔ /ɰ/ w /w/

母音

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マーシャル語の母音体系は音素が4母音のvertical vowel system英語版であり、各母音には子音環境に応じた異音がいくつか存在する[10]

マーシャル語の母音 発音 正書法
広さ 音素 非円唇 円唇 非円唇 円唇
前舌 後舌 前舌 後舌
狭母音 (close) /ɨ/ [i] [ɯ] [u] i u
広めの狭母音 (near-close) /ɘ/ [ɪ] [ɤ]
(long)
[ʊ] i (or ę) o ū (or ü)
半広母音 (open-mid) /ɜ/ [e] [ʌ]
(short)
[o] e (or ) ō (or ü)
広母音 (open) /ɐ/ [ɛ] [ɑ] [ɔ] a ā (or ä)

音韻の歴史的変化

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オーストロネシア祖語からマーシャル語までの子音の変化[11]
オーストロネシア祖語 *mp *mp,ŋp *p *m *m,ŋm *k *ŋk *y *w *t *s,nj *ns,j *j *nt,nd *d,R *l *n
ミクロネシア祖語 *p *pʷ *f *m *mʷ *k *x *y *w *t *T *s *S *Z *c *r *l *n
マーシャル語 /pʲ/ /pˠ/ /j/ /mʲ/ /mˠ/ /k, kʷ/ [∅] /ŋ, ŋʷ/ /j/ /w/ /tʲ/ /tʲ/ /tˠ/ /tˠ/ [∅] /rʲ/ /rˠ, rʷ/ /lʲ, lˠ, lʷ/ /nʲ, nˠ, nʷ/ /nʲ/

マーシャル語の子音は、ミクロネシア祖語の母音環境の影響を受けて分裂してきた。ミクロネシア祖語の*k *ŋ *rは、2音節で他の母音が非円唇となる場合を除いて*oの隣や*uの隣で唇音化する。*lと*nは通常は硬口蓋化される。隣接する音節に狭母音がない場合、*aの前、(時々)*oの前で軟口蓋化または唇音化される。唇音化の仕方は*k *ŋ *rと同様。

正書法

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マーシャル語はラテン文字で表記され、2種類の正書法が存在する[12]。「古い」正書法は宣教師によって導入されたものである[12]。この表記法はマーシャル語の発音を表記するのには正確性に欠け、実際の発音と表記の不一致が目立つが、現在新聞や看板などにおいて幅広く用いられている[13]。最近までこれに競合する表記法は存在しなかった[13]

「新しい」正書法は若者や子供の間で特に人気が高まっている[12]。「古い」正書法と比較し、マーシャル語の発音をより正確に表記できる。現在出版されているマーシャル語-英語辞典でも用いられているのがこちらの正書法である[12][13]

以下に、現在政府が推奨している(新しい正書法の)24文字のアルファベットを挙げる。

A Ā B D E I J K L Ļ M N Ņ O Ō P R T U Ū W
a ā b d e i j k l ļ m n ņ o ō p r t u ū w
マーシャル語正書法における子音表記[14]
両唇音 舌頂音 舌背音
硬口蓋音 軟口蓋音 硬口蓋音 軟口蓋音 円唇音 (平音) 円唇音
破裂音 p b(w) j t k k(w)
鼻音 m m̧(w) n ņ ņ(w) n̄(w)
流音 l d ļ r ļ(w) r(w)
わたり音 e/i/- - w/-
マーシャル語正書法における母音表記[14]
非円唇 円唇
前舌 後舌
i ū u
中央 e ō o
ā a

文法

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人称代名詞

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マーシャル語の人称代名詞[15]
人称 主格/強調 目的格

1人称 n̄a
2人称 kwe eok
3人称 e

1人称抱合 kōj
1人称除外 kōm
2人称 kom̧ (Ralik)kom̧i (Ratak)
3人称 er

形態論

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名詞は数、性、格による変化を起こさない[16]。名詞は動詞化され、動詞は明確な形態学的マーカーなしに名詞化されることもある:

Je-n al al in pālle.
1pl.in.agr-should sing.trans song of be.covered
「私達はアメリカの曲を歌うべきだ。」

マーシャル語には名詞修飾語に従う決定詞と指示詞がある[17]。これらは数を区別し、複数の場合は人間と非人間の区別も表す[18]

統語論

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マーシャル語は多くのミクロネシア諸語と同様に動詞述語文名詞述語文がある[19]。動詞述語文では動詞を伴いSVO型で表される:

E-j kajan̄jan̄ kita.
3rdS-PRES play guitar.
「彼はギターを弾く」 (Willson 2002)

一方、名詞述語文では主部と述部が共に名詞句となる:

Nuknuk eo e-aibujuij.
Dress DET 3rdS-beautiful.
「そのドレスは美しい」 (Willson 2002)

脚注

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  1. ^ a b Willson (2002, 1.1 General background)
  2. ^ Glottolog - Micronesian”. 2021年3月15日閲覧。
  3. ^ R. D. Gray et al. Language Phylogenies Reveal Expansion Pulses and Pauses in Pacific Settlement. Science 23 January 2009: Vol. 323. no. 5913, pp. 479 - 483[1]
  4. ^ “Marshall Islands Nuclear Claims Tribunal: In the Matter of the People of Enewetak”. International Legal Materials 39 (5): 1214–1233. (2000). doi:10.1017/S0020782900008640. 
  5. ^ Marshallese-English Dictionary: kukure”. www.trussel2.com. 2021年3月15日閲覧。
  6. ^ Willson (2008:6–7)
  7. ^ Willson (2003:1)
  8. ^ a b Abo et al. (1976, 4. The Sounds of Marshallese)
  9. ^ Choi (1992:14)
  10. ^ Willson (2003:2)
  11. ^ Bender, Byron W. (2003). “Proto-Micronesian Reconstructions: 1”. Oceanic Linguistics 42 (1): 4, 5. doi:10.2307/3623449. JSTOR 3623449. 
  12. ^ a b c d Miller (2010:x)
  13. ^ a b c Rudiak-Gould (2004:6)
  14. ^ a b Rudiak-Gould (2004:7–8)
  15. ^ Willson (2008:18)
  16. ^ Willson (2008:15)
  17. ^ Willson (2008:16)
  18. ^ Willson (2008:17)
  19. ^ Willson (2002, 3.2 Morphosyntax)

出典

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関連文献

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外部リンク

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