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重要文化的景観

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

重要文化的景観(じゅうようぶんかてきけいかん)は、日本景観計画区域または景観地区内にある文化的景観であって、都道府県または市町村が保存措置を講じているもののうち、特に重要なものとして文化財保護法第134条第1項の規定に基づき国(文部科学大臣)が選定した文化財である。

概要

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近年、開発によって地域の個性が失われていく中で、棚田里山といった人々の生活や風土に深く結びついた地域特有の景観の重要性が見直されるとともに、その保護の必要性が認識されるようになった。

このような流れを受けて、2004年6月9日に公布され、2005年4月1日に施行された改正文化財保護法では、第2条第1項に文化的景観を文化財の一領域として加え、同項第5号で「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」と、文化的景観が定義された。また、法執行上の規定として第8章(第134条 - 第141条)に重要文化的景観の選定、現状変更の規制等に関する規定が盛り込まれた。

同法第134条第1項においては、文部科学大臣は、都道府県または市町村の申出に基づき、都道府県または市町村が定める景観法に規定する景観計画区域または景観地区内にある文化的景観であって、保存計画の策定、条例による保護措置などの条件を備えたものの中から、特に重要なものを重要文化的景観に選定することができるとしている。

選定基準、申出の基準

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選定基準

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「重要文化的景観選定基準」[1]では、文化的景観を重要文化的景観に選定する場合の基準が、次のように定められている。

  • 1 地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された次に掲げる景観地のうち我が国民の基盤的生活又は生業の特色を示すもので典型的なもの又は独特のもの
    1. 水田畑地などの農耕に関する景観地
    2. 茅野・牧野などの採草・放牧に関する景観地
    3. 用材林・防災林などの森林の利用に関する景観地
    4. 養殖いかだ・海苔ひびなどの漁ろうに関する景観地
    5. ため池・水路・港などの水の利用に関する景観地
    6. 鉱山・採石場・工場群などの採掘・製造に関する景観地
    7. 道・広場などの流通・往来に関する景観地
    8. 垣根屋敷林などの居住に関する景観地
  • 2 前項各号に掲げるものが複合した景観地のうち我が国民の基盤的な生活又は生業の特色を示すもので典型的なもの又は独特なもの

選定の申出の基準

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重要文化的景観の選定の申出を行う都道府県、市町村が講じる必要がある、文化的景観の保存のための必要な措置に関する基準[2]が次のように定められている。

  1. 文化的景観保存計画を定めていること
  2. 景観法、文化財保護法、都市計画法自然公園法都市緑地法その他の法律に基づく条例で、文化的景観の保存のための必要な規制を定めていること
  3. 文化的景観の所有者又は権原に基づく占有者の氏名、住所等を把握していること

重要文化的景観一覧

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この法律に基づいて、2006年1月26日に、滋賀県近江八幡市の「近江八幡の水郷」が重要文化的景観第1号として選定され、以後、2024年10月現在で、合計73件が選定されている。なお、下記の選定日は官報告示日になる。

北海道・東北地方

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関東地方

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中部地方

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近畿地方

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中国地方

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四国地方

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九州・沖縄地方

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課題

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重要文化的景観を推進する文化庁は、全ての都道府県に選定地を設け、総数100件超えを目指しているが、重要伝統的建造物群保存地区日本遺産と比べると伸び悩みがあることは否めない。これは「景観」(本来は自然景観文化的空間)という抽象的なものを対象としているため(実際には建造物構造物など人工物を取り込んでの総合的な評価となっている)、その設定範囲の難しさに加え、電柱鉄塔や横切る高速道路などの生活インフラが景観疎外物となり選定されない厳しさがある。また、一般的な文化財のように国による「指定」ではなく、当該地からの申請による制度のため、地方の小さな自治体では申請のノウハウがなく、コンサルタントなどに依頼する予算の確保も困難となっている[4]

弊害

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令和5年台風第6号で被災した大分県の小鹿田焼の里では、復旧を急ぎたい窯元が文化財であることにより再建に際しての手続きの煩雑さと要する時間から「やめたいのが本心」という忌憚のない意見が出されている[5]。さらに小鹿田では文化財行政を所管する立場の市教育員会が正しい認識を持ち合わせず、家屋改修の申し出に対して誤った指導を行い、希望通りの施工が叶わなかったばかりか工費が嵩み不必要な出費を強いられる事態も発生している(後日示談が成立し差額は返還されたが再改修は出来ていない)[6]

その他

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  • 選定は市町村単位で行われるため、同一対象であっても四万十川や阿蘇のように複数自治体から個別に選定される。但し、選定後に同一対象を有する自治体間での連携は可能である(都道府県が仲介しても可)。
  • 世界遺産に求められる法的保護根拠として重要文化的景観が適用されており、三角浦の文化的景観が明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業の三角港で、長崎市外海の石積集落景観・佐世保市黒島の文化的景観・平戸島の文化的景観・五島市久賀島の文化的景観・小値賀諸島の文化的景観・新上五島町崎浦の五島石集落景観・天草市崎津集落﨑津と今富の文化的景観が長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産に、佐渡相川の鉱山及び鉱山町の文化的景観・佐渡西三川の砂金山由来の農山村景観が佐渡島の金山に用いられている。

脚注

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  1. ^ 平成17年文部科学省告示第46号
  2. ^ 重要文化的景観に係る選定及び届出等に関する規則(平成17年文部科学省令第10号)第1条第1項
  3. ^ 五島市久賀島の文化的景観”. 文化遺産オンライン. 文化庁. 2021年5月20日閲覧。
  4. ^ 読売新聞 2024年5月7日
  5. ^ 大雨被害で…重要文化的景観「やめたいのが本心」復旧で問題噴出 毎日新聞 2023年12月16日
  6. ^ 重要文化的景観、守るべきは何? 小鹿田焼窯元へ日田市が誤指導、藤原九大名誉教授に聞く 西日本新聞 2023年1月19日

参考文献

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  • 平成17年3月28日付16庁財第413号文化庁次長通知「文化財保護法の一部改正に伴う関係省令及び告示の整備等について」
  • 『月刊文化財』500号(2005年5月)「文化的景観の保護」第一法規

関連項目

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外部リンク

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