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カナダの[[ブリティッシュコロンビア州]]<ref>{{Cite web|url=https://www.vicnews.com/news/increased-coronavirus-cases-spark-b-c-wide-burning-restrictions/|title=Increased coronavirus cases spark B.C.-wide burning restrictions|author=Jennifer Smith|work=Victoria News|publisher=Black Press Group|date=2020-3-26|accessdate=2020-4-15}}</ref>や、米国の[[サウスカロライナ州]]<ref>{{Cite web|url=https://www.foxcarolina.com/news/state-foresters-burning-ban-in-effect-for-all-sc-counties-until-further-notice/article_8d99a4ea-797f-11ea-a773-af1fb9eb054c.html|title=State Forester's Burning Ban in effect for all SC counties until further notice|author=Dal Kalsi|work=FOX Carolina|publisher=Meredith Corporation|date=2020-4-8|accessdate=2020-5-3}}</ref>、[[アイダホ州]]<ref>{{Cite web|url=https://idahonews.com/news/coronavirus/idaho-deq-enacts-voluntary-burn-ban-amid-respiratory-concerns-during-covid-19|title=Idaho officials enacts voluntary burn ban amid respiratory concerns during COVID-19|work=IdahoNews|publisher=Sinclair Broadcast Group|date=2020-4-14|accessdate=2020-5-3}}</ref>といった地域では、新型コロナウイルス感染症の被害軽減策として[[野焼き]]や[[キャンプファイヤー]]などの屋外燃焼行為を禁止した。 |
カナダの[[ブリティッシュコロンビア州]]<ref>{{Cite web|url=https://www.vicnews.com/news/increased-coronavirus-cases-spark-b-c-wide-burning-restrictions/|title=Increased coronavirus cases spark B.C.-wide burning restrictions|author=Jennifer Smith|work=Victoria News|publisher=Black Press Group|date=2020-3-26|accessdate=2020-4-15}}</ref>や、米国の[[サウスカロライナ州]]<ref>{{Cite web|url=https://www.foxcarolina.com/news/state-foresters-burning-ban-in-effect-for-all-sc-counties-until-further-notice/article_8d99a4ea-797f-11ea-a773-af1fb9eb054c.html|title=State Forester's Burning Ban in effect for all SC counties until further notice|author=Dal Kalsi|work=FOX Carolina|publisher=Meredith Corporation|date=2020-4-8|accessdate=2020-5-3}}</ref>、[[アイダホ州]]<ref>{{Cite web|url=https://idahonews.com/news/coronavirus/idaho-deq-enacts-voluntary-burn-ban-amid-respiratory-concerns-during-covid-19|title=Idaho officials enacts voluntary burn ban amid respiratory concerns during COVID-19|work=IdahoNews|publisher=Sinclair Broadcast Group|date=2020-4-14|accessdate=2020-5-3}}</ref>といった地域では、新型コロナウイルス感染症の被害軽減策として[[野焼き]]や[[キャンプファイヤー]]などの屋外燃焼行為を禁止した。 |
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== 罹患して死亡した主な著名人 == |
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* [[3月15日]] - [[ビットリオ・グレゴッティ]]、[[イタリア]]の[[建築家]]。 |
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* 3月15日 - [[ルチア・ボゼー]]、イタリアの[[女優]]。 |
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* [[3月25日]] - [[マーク・ブラム]]、[[アメリカ合衆国]]の[[俳優]]。 |
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* 3月25日 - {{仮リンク|フロイド・カルドス|en|Floyd Cardoz}}、[[インド]]出身のアメリカ合衆国のインド料理[[シェフ]]。 |
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* [[3月26日]] - [[宗像直美]]、日本出身の[[ブラジル]]の[[指揮者]]。 |
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* 3月26日 - [[マリア・テレサ・デ・ボルボン=パルマ]]、旧[[パルマ公国]][[公女]]。 |
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* [[3月29日]] - [[志村けん]]、日本の[[コメディアン]]、[[お笑いタレント]]、[[司会者]]。 |
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* 3月29日 - {{仮リンク|ジョー・デフィー|en|Joe Diffie}}、アメリカ合衆国のミュージシャン。 |
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* [[3月31日]] - [[ウォレス・ルーニー]]、アメリカ合衆国の[[ミュージシャン]]。 |
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* [[4月1日]] - {{仮リンク|テレンス・マクナリー|en|Terrence McNally}}、アメリカ合衆国の[[劇作家]]。 |
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* 4月1日 - {{仮リンク|アダム・シュレシンジャー|en|Adam Schlesinger}}、アメリカ合衆国のミュージシャン。 |
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* 4月1日 - {{仮リンク|エリス・マルサリス|en|Ellis Marsalis Jr.}}、アメリカ合衆国の[[ジャズ]][[ピアニスト]]。 |
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* 4月1日 - {{仮リンク|バッキー・ピザレリ|en|Bucky Pizarelli}}、アメリカ合衆国のミュージシャン。 |
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* [[4月2日]] - [[セルジオ・ロッシ]]、イタリアの[[シューズ]][[デザイナー]]。 |
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* 4月2日 - {{仮リンク|パトリシア・ボスワース|en|Patricia Bosworth}}、イタリアの女優、[[ジャーナリスト]]。 |
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* [[4月4日]] - [[トム・デンプシー]]、アメリカ合衆国の[[アメリカンフットボール]]選手。 |
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* [[4月5日]] - {{仮リンク|リー・フィエロ|en|Lee Fierro}}、アメリカ合衆国の女優。 |
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* [[4月7日]] - [[ハル・ウィルナー]]、アメリカ合衆国の[[テレビ]][[プロデューサー]]。 |
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* 4月7日 - [[アレン・ガーフィールド]]、アメリカ合衆国の俳優。 |
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* 4月7日 - {{仮リンク|ジョン・プライン|en|John Prine}}、アメリカ合衆国のミュージシャン。 |
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* [[4月8日]] - {{仮リンク|リック・メイ|en|Rick May}}、アメリカ合衆国の[[声優]]。 |
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* [[4月9日]] - [[岡田公伸]]、日本の[[テレビプロデューサー]]、[[毎日放送]][[取締役]]。 |
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* [[4月11日]] - [[ジョン・ホートン・コンウェイ]]、[[イギリス]]の[[数学者]]。 |
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* [[4月13日]] - [[アン・サリヴァン (アニメーター)|アン・サリヴァン]]、アメリカ合衆国の[[アニメーター]]。 |
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* [[4月15日]] -[[アレン・ダヴィオー]]、アメリカ合衆国の[[映画]][[撮影監督]]。 |
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* 4月15日 - {{仮リンク|リー・コニッツ|en|Lee Konitz}}、アメリカ合衆国のミュージシャン。 |
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* [[4月16日]] - [[ルイス・セプルベダ]]、[[チリ]]の小説家。 |
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* [[4月19日]] - [[スティーヴ・ダルコウスキー]]、アメリカ合衆国の[[野球選手]]。 |
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* 4月19日 - [[松下三郎]]、日本の[[柔道家]]。 |
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* [[4月21日]] - [[立石義雄]]、日本の[[実業家]]。 |
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* 4月21日 - {{仮リンク|岡崎照幸|en|Teruyuki Okazaki}}、日本の[[空手家]]。アメリカ在住。 |
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* [[4月23日]] - [[岡江久美子]]、日本の[[女優]]、[[タレント]]、司会者。 |
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* 4月23日 - [[和田周]]、日本の[[俳優]]、声優、[[劇作家]]。 |
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* 4月23日 - [[フレッド・ザ・ゴッドソン]]、アメリカ合衆国の[[ラッパー]]。 |
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* 4月24日 - [[岡本行夫]]、日本の外交評論家。[[実業家]]。元[[外交官]]。[[内閣総理大臣補佐官]] |
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* [[4月30日]] - {{仮リンク|オスカー・チャベス|en|Óscar Chávez}}、[[メキシコ]]の歌手。 |
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* 4月30日 - [[善竹富太郎]]、日本の狂言師。大蔵流。 |
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* [[5月3日]] - [[デイブ・グリーンフィールド]]、イギリスの[[キーボーディスト]]、[[ストラングラーズ]]のメンバー。 |
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* 5月3日 - {{仮リンク|モハメッド・ベン・オマル|en|Mohamed Ben Omar}}、[[ニジェール]]の[[政治家]]。 |
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* [[5月4日]] - {{仮リンク|ドラガン・ヴチッチ|en|Dragan Vučić}}、[[北マケドニア]]の歌手。 |
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* [[5月8日]] - {{仮リンク|ロイ・ホーン|en|Siegfried & Roy}}、アメリカ合衆国の[[マジシャン]]。 |
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など、他多数。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
2020年5月10日 (日) 10:02時点における版
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新型コロナウイルス感染症 (2019年) | |
---|---|
Symptoms of coronavirus disease 2019 (COVID-19) | |
概要 | |
症状 | 発熱、咳嗽、呼吸困難 |
原因 | 2019新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) |
診断法 | PCR法 |
分類および外部参照情報 |
新型コロナウイルス感染症 (2019年)(しんがたコロナウイルスかんせんしょう (2019ねん) 、英: Novel Coronavirus disease 2019[2], COVID-19[3])は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトに感染することによって発症する感染症。日本では単に「新型コロナウイルス感染症」と呼ばれ[4]、感染症法に基づいて強制入院などの措置を取ることができる指定感染症(二類感染症相当)に指定された[4]ほか、新型インフルエンザ等対策特別措置法上も期限付きで「新型インフルエンザ等」とみなされることとなった[5]。
2019年11月22日に中華人民共和国湖北省武漢市で初めて検出された新興感染症であり[6]、以降世界各地で感染が拡大(パンデミック)している[7][8][9]。
名称
2020年1月9日、世界保健機関(WHO)により中国武漢市における肺炎の集団発生に関する声明[10]が出されると、日本の厚生労働省検疫所はウェブサイト上で「武漢肺炎」の症例として記述している[11]。
同月2月1日、「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」の執行により[12][4]、法令において「新型コロナウイルス感染症」と定められた。厚生労働省[13]や日本感染症学会[14]もこれに準じている。
同年2月11日、世界保健機関(WHO)がCOVID-19(コヴィッド19[15][16][17]またはコビッド19[18][19])と命名した[20][21][22][23][24]。COVIDとは“Coronavirus disease”(コロナウイルス疾患)の略称で、19は最初にウイルスが発見された2019年を表している[25][20]。WHOは、ヒトに感染する新たな感染症やウイルスの名称に地域、人名、動物や食品名、特定の文化や産業名を、含むべきではないとしており[26][27][28][29]、この命名について、固有の地名などと関連付けることで起こる特定の集団へのスティグマを防ぐよう考慮したと説明した[30]。日本においては「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」などと併記される場合もある[31][32][33][34][35][36]。
中華民国(台湾) の衛生福利部疾病管制署では、COVID-19の簡称として「武漢肺炎」の呼称を公的文書で使用しているほか[37]、香港や韓国、日本などの一部報道においても「武漢肺炎」や「武漢熱」などの表記が用いられている[38][39][40][41]。また麻生太郎財務大臣[42]や米国のマイク・ポンペオ国務長官[43]など、各国の政治家の間でも発生源となった地名(中国や武漢)を含めて呼ぶべきとの意見が出ている。
病理
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病原体
SARS-CoV-2(サーズコロナウイルス2[44])に感染することによって発症する[3]。
感染経路
感染経路としては、ウイルスが付着した手で鼻や目や口を触ることによる接触感染と、咳やくしゃみによる飛沫感染がある[45]。
空気感染は確認されていないが、エアロゾルを発生する医療処置がなされた際には、感染に関与する可能性が指摘されている[46]。中華人民共和国の衛生当局は、飛沫感染・接触感染に加えて「閉鎖された環境で長時間、高濃度のウイルスの粒子を吸った場合」のエアロゾル感染も追加した[47]。
気道が主要のウイルス伝播経路になるとみられるが、SARSコロナウイルス感染と同様、消化管および粘膜組織(結膜など)もウイルスの体内侵入方法である可能性がある[48]。
宿主細胞受容体
SARS-CoV-2は、SARSコロナウイルスと同じく宿主細胞のアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体に結合して感染するとみられている[49]。ACE2受容体は気管支、肺、心臓、腎臓、消化器等に発現している[50]。Human Protein AtlasによればACE2受容体は腸や腎臓に多く発現している[51]。
通常、ACE2受容体は刺激されるとアンジオテンシンIIを分解することで血圧上昇のためのレニン・アンジオテンシン系(RA系)を阻害するが、このRA系阻害作用は臓器の保護に重要な可能性がある[52][53][54]。SARSコロナウイルスではマウスでの動物実験においてACE2受容体の発現を減少させるとされ[55]、新型コロナウイルス感染症の患者の血漿においてもアンジオテンシンIIが高いレベルにあるという情報がある[56]。そのため、新型コロナウイルス感染症の治療においてRA系の阻害が提案されている[57][56]。
なお、高血圧患者は新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいとされる[58]。
症状と徴候
症状[46] | % |
---|---|
発熱 | 87.9 |
空咳 | 67.7 |
倦怠感・だるさ | 38.1 |
痰 | 33.4 |
嗅覚障害・味覚障害[59] | 30 - 66 |
息切れ | 18.6 |
筋肉痛・関節痛 | 14.8 |
のどの痛み | 13.9 |
頭痛 | 13.6 |
悪寒 | 11.4 |
吐き気・嘔吐 | 5.0 |
鼻づまり | 4.8 |
下痢 | 3.7 - 31[60] |
喀血 | 0.9 |
結膜充血 | 0.8 |
初期症状
症状は特異的ではなく、症状のないもの(無症候性)から重症の肺炎、死亡まで幅広い。典型的な症状・徴候としては発熱、空咳、疲労、喀痰、息切れ、咽頭痛、頭痛、下痢などがある(表参照)[46]。くしゃみ、鼻水、のどの痛みなどの上気道症状は少ない[61]。WHOの進藤奈邦子シニアアドバイザーは、この病気は下気道に親和性が強く、排ウイルスのピークは発症日から3、4日後くらいと報告している[62]。
初期症状は、風邪とそっくりであるために、発症早期の段階では区別が困難である[63]。感染から潜伏期間(推定2日間-14日間)を経た後に、微熱発熱と風邪症状が約1週間続く。2020年1月25日時点での中国では、初期症状は、肺炎に特有の発熱や咳だけとは限らず、下痢や吐き気、頭痛や全身のだるさなど、消化器系や神経系の症状の場合もあり、早期の診断を難しくしていると伝えられた[64]。また特に発症早期の場合は発熱が必ずしも現れるわけではないため、発熱検知装置だけで検出できない可能性がある[65]。
一方、2月14日の横浜での緊急シンポジウムで、国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長は、現在は「軽微な呼吸器症状を見極め、感染者を早期に見つけることが重要な時期」として以下のように述べた[62]。
2020年3月30日、日本耳鼻咽喉科学会は、新型コロナウイルス感染症で嗅覚(におい)や味覚(あじ)の低下があるとの報道を受け、「嗅覚や味覚の障害は(中略)必ずしも新型コロナウイルスだけが原因ではなく、また、新型コロナウイルス感染症による嗅覚や味覚の障害は自然に治ることが多く、特効薬もない」として、2週間は出来るだけ不要不急の外出を控え毎日体温を測り様子を見るよう、声明を出した[66]。
進行症状
二次的な細菌性肺炎もあるが、感染後1 - 2週間以内に発症した肺炎はウイルス性のものが多いと見られている[67]。
重症化すると急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や急性肺障害(ALI)などを起こし[68]、人工呼吸適応となる場合が多い[69]。
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潜伏期間
潜伏期間については、世界保健機関(WHO)は2日間から10日間[70]、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2日間から14日間[71]とそれぞれ推定している。
暫定推定値1 - 12.5日間、平均5日程度。ただし極少数ながらそれ以上の潜伏期間例報告もある。[要出典]
ある感染者の発症(1次症例)から、2次感染者の発症(2次症例)までの「発症間隔」は、SARSの 5.3 - 19日に対して、本症は 3.5 - 5.9日と見られており、潜伏期間に感染能力を持つ可能性が指摘されている[72]。
合併症
約1週間の初期症状期に回復しない場合は、高熱、気管支炎、肺炎の初期症状などが併発してくる。重症例では、呼吸不全が起こる。また、血液に乗ってウイルスが体内に拡散され、肝不全、腎不全、心不全、脳炎もしくは中枢神経系感染、多臓器不全などを引き起こすことが確認されている[73][74][75]。
中国本土ではウイルス性脳炎や髄膜炎疑い症例が報告されており、日本では2020年3月7日に山梨県で髄膜炎の発症が初めて報告された[76]。髄膜炎徴候患者の髄液を採取してPCR検査したところ陽性だった[76]。
ウイルス株についての相違点
中国からの報告
2020年3月、このウイルス(中国内外の103例)を北京大学など中国の研究チームが遺伝子解析した結果、コウモリ由来のウイルスに近く古くからあるとみられるS型(全体の3割)と毒性の強弱は不明だが頻度が高いとみられるL型(全体の7割。武漢市の流行では大半を占めるが、市外の流行では現在は減少傾向にある)という塩基配列の異なる2つの型に分類できることが分かった[77][78][79][80]。
患者の多くは片方の型にしか感染していないものの両方の型に感染した例も確認されており、ウイルスに一度感染し症状が治っても別の型に「再感染する」と言う報道もあるが[77][79]。再感染の可能性および原因については議論があり今後の研究・検討を要する[81]。
2020年3月23日の時点では以下の事が判明している。本ウイルスの主要な株はL型(L亜型)とS型(S亜型)に分かれる[82][83]。ウイルスのRNAの第28,144番目の塩基の違いにより指定されるアミノ酸がロイシン(L型)かセリン(S型)かによって区別される[84]。
L型
中国武漢市での初期流行ではL型が支配的[84]。当初の報告ではL型はより攻撃的で、より急速に蔓延するとされていた[注 1]。そのため、流行対策による人的介入のため選択圧が掛かり割合的に減少したと見られている[83]。ただし、後に「感染力が強い」と言う点については修正され、「頻度が高い」に表現が改められている[85]。
S型
進化的に古く、変異前(先祖型)のものと見られている。攻撃性が低いため選択圧が弱く、相対的に割合が増加したと見られる[82][83]。
イギリス・ケンブリッジ大学などからの報告
2020年4月のイギリス・ケンブリッジ大学などによる報告では、このウイルスはA、B、Cの3つの型に分けられるとした。Aは中国のコウモリ由来のウイルスに近く、中国や日本の感染者でも見つかったが、米国やオーストラリアの感染者が多かった。Aから変異したBが武漢市を中心として中国や近隣諸国で爆発的に増えたとみられ、欧米などに飛び火した例は少なかった。Bから変異したCはイタリア、フランス、英国など欧州で多かった[86][87]。
日本バイオデータからの報告
株式会社日本バイオデータによる査読前論文では、ウイルスのRNA配列のうち第8782番目、第28144番目、第29095番目の塩基に着目し、本ウイルスをTCC、TCT、CTCの3つの型に分類した[88]。TCCおよびTCTは中国のグループの示すS型、イギリスのグループが示すA型に相当する。またCTCは中国のグループが示すL型、イギリスのグループが示すB型およびC型に相当する。
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鑑別診断
他のウイルス性気道感染症、細菌性肺炎その他から外観所見上は鑑別が難しいのでレントゲン画像または肺CT画像による。病変は中国の81症例中、無症候の時期の病変は、片側性、multifocal(多発斑状)、すりガラス状陰影が優位であり、発症後1週間以内では両側性やすりガラス状陰影が卓越、びまん性が優位となる。発症後1週間を越えるとコンソリデーションや混在病変が優位となる[89]。
病変は末梢に分布しやすく、リング状陰影(reversed halo sign)は特徴的である。胸水やリンパ節腫脹は少ないが有る[89]。
免疫抑制下では易感染でありニューモシスチス肺炎との鑑別が重要である[90]。
検査
COVID-19臨床検査には、ウイルスの存在を検出する方法と、抗体を検出する方法がある。ウイルスのウイルスの存在診断にはPCR検査法があり、日本では新型コロナウイルスの遺伝子領域からオープンリーディングフレーム(ORF)1aとスパイクタンパク質を検出する2-step RT-PCR 法(2ステップ逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法)またはリアルタイム one-step RT-PCR 法(TaqMan プローブ法)が使用される[91]。その他に補助的な検査として、血液検査やコンピュータ断層撮影を用いた画像検査などを用いる。
治療法
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治療薬候補
2020年1月末の時点で各国の暫定的な治療指針はあっても、確立された治療法はなく[92]、解熱や鎮痛や鎮咳などの対症療法のみが行われている[92]。医学界・製薬業界では、次の両面戦略を進めている[93][94][95][96]。
- 過去のSARS、MERS、エボラ出血熱、エイズウイルス(HIV)等のウイルスに有効であった既存の薬剤や、実際のMERSやこのSARS-CoV-2に、試験管レベルで有効な薬剤を網羅的に探索する研究(スクリーニング)などで候補薬剤を探して、転用(適応拡大)する。COVID-19での臨床研究が個々に進める。
- 新技術を頼りに、かつてないスピードでワクチン(→ #ワクチンの開発)や抗体医薬(→ #抗体医薬の開発)その他の新薬を開発する。
2020年3月17日に、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版」が作成された[97]
2020年4月現在、日本において有望と注目されている主な薬剤は以下である(五十音順)[98][99][100][101][注 2]
- イベルメクチン(MSD製造・マルホ販売の駆虫薬ストロメクトール)
- インターフェロン
- クロロキン(リン酸クロロキン (抗マラリア薬)・アルビドール (抗インフルエンザ薬)・完治患者の血漿)または ヒドロキシクロロキン(プラケニル)
- シクレソニド(帝人ファーマのオルベスコ)
- トシリズマブ(中外製薬のアクテムラ)
- ナファモスタットメシル酸塩(日医工のフサン)
- ファビピラビル(富士フイルム富山化学の 抗インフルエンザ薬アビガン)[注 4]
- レムデシビル(ギリアド・サイエンシズのGS-5734)
- ロピナビル・リトナビル(アッヴィのカレトラ配合錠):抗HIV薬;プロテアーゼ阻害剤
- 武田薬品工業の高免疫グロブリン製剤 TAK-888(3月18日に開発着手発表)
レムデシビルは2020年5月1日、アメリカ食品医薬品局による緊急時使用許可(EUA)を取得し[103]、それを受けて日本でも2020年(令和2年)5月7日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で、医薬品医療機器等法の特例承認を許可された[104][105]。
中国の当初の処方
医学論文誌『ランセット』に掲載された、中国の2020年1月2日までに発症した41人の患者の研究報告によれば[106]、38人(93%)の患者に抗インフルエンザ薬のオセルタミビル(タミフル)を処方した。さらに、9人(22%)の患者に副腎皮質ホルモンが全身[注 5]投与された。
中華人民共和国国家衛生健康委員会(NHC)は1月23日公表の指針で、暫定的に抗HIV薬リトナビル(カレトラ)、その効果を補強する経口抗ウイルス薬サキナビル(インビラーゼ)およびアルファインターフェロンのネブライザーによる投与を推奨した[107][108]。
また、中華人民共和国国家衛生健康委員会(NHC)は「対新型コロナウイルス肺炎診療方案(第7版)」の中で、「十.治療 (二)一般治療 3.鼻カニューラ、酸素マスク、経鼻ハイフロー酸素療法など、効果的な酸素療法をタイムリーに実施。条件があえば、電気分解式水素ガス吸入器(H2/O2:66.6%/33.3%)を加えて治療をする(原文は中国語)」と水素ガス吸入療法いた治療方法の提案を発表している[109]。
既存薬探索
中国での探索研究
2020年1月25日、中国の20以上の機関からなる研究グループは、有効な可能性のある薬剤等のスクリーニング(探索)を行った結果、候補物質30種類を発見したと発表した[110]。そのリストには、インジナビル、サキナビル、ロピナビル、カルフィルゾミブ、リトナビル、その他12の抗HIV薬、また、サンズコン(山豆根)などの漢方薬、イタドリ(虎杖)などの天然物も含まれている。
1月29日、中国科学院(CAS)の軍事医学科学院および武漢病毒研究所(WIV)の共同研究により、本ウイルス阻害効果がまずまずよい(fairly good)既存薬を3種類発見したと報道された[111]。すなわち、RNAポリメラーゼ阻害剤レムデシビル[112][113][114][115]、クロロキン および リトナビル である。それらは臨床使用承認申請手続中と述べた。
そのレムデシビル、また、I型インターフェロン、ロシアの抗ウイルス剤トリアザビリン(Triazavirin)[116][117]の試験はその時期に始まった。
北欧での探索研究
ノルウェー科学技術大学のPetter I. Andersenらは、人体に対して安全で薬効範囲の広い120種類の抗ウイルス薬からなるデータベースを作成し、本ウイルス疾患の治療に有効な可能性のある31種類の薬剤を以下のように例示されている (2020年2月12日第6版)。
- 抗感染症薬の ダルババンシン[118](Dalbavancin)(米国商品名 DALVANCE[119]、欧州商品名 XYDALBA)(ラクオリア創薬、アイルランドのアラガン社(旧社名:Actavis)、カナダ・米国などに拠点をもつCorrevio Pharma社(旧社名:Cardiome Pharma)[120])[121]、
- 抗生物質のテイコプラニン[122](Teicoplanin)(沢井製薬)、
- 抗生物質 モネンシン、
- 抗菌薬 オリタバンシン[123](Oritavancin)(Melinta Therapeutics の Orbactiv)、
- 催吐薬及び抗原虫薬 エメチン
- RNAポリメラーゼ阻害剤 レムデシビル(上記)、抗HIV薬 ロピナビル(上記)、抗HIV薬 リトナビル(上記)、
- 抗マラリア剤 クロロキン、抗マラリア剤かつ全身性・皮膚エリテマトーデス治療薬 ヒドロキシクロロキン
- 抗インフルエンザ薬 アルビドール(下記)。
なお、「2019-nCoV(SARS-CoV-2)の処方に目的変更(repurposing[124])が可能かもしれない」とある[125] — preprints.org、 DOI 10.20944/preprints201910.0144.v6
ロピナビル・リトナビル(抗HIV薬;プロテアーゼ阻害剤)の合剤
ロピナビル・リトナビル(商品はこれらの成分からなる合剤である。商品名 カレトラ(Kaletra)配合錠またはアルビア(Aluvia);略称 LPV/r)は、上記のように中国での初期の治療から広く用いられている(→ #中国での探索研究)。ロピナビルとリトナビルはどちらもHIV感染症に対するHAART療法に用いられ、プロテアーゼを阻害する作用を持つ。
2020年2月26日の日本感染症学会の文書でも、現時点で日本での入手可能性や有害事象等の観点を考慮した抗ウイルス薬の選択肢として筆頭に名前が上がっている[126]。日本の症例報告レベルでも有効とする報告がみられる一方[127][128]、復旦大学のチームが2020年1月から2月に行ったロピナビル・リトナビル投与群52例を含む134例の比較臨床試験の結果、「症状緩和やウイルス除去促進の影響が見られなかった」と報告した[129]。また、同様の時期に行われた、中国 首都医科大学など多くの医療機関の共同研究でも、計199例で半数にロピナビル・リトナビルを投与する無作為化対照非盲検試験を行った結果、「重度の患者では標準治療を超える利益(benefit)は観察されなかった」と報告した。[130]。
時系列
米製薬会社アッヴィは2020年1月26日、中国保健当局からの要請でアルビアを試験的に使用していることを明らかにした[107]。アルビアは、冷蔵不要という特徴がある[131]。
2月2日、タイ保健省はバンコクの病院で中国人女性旅行客(70代)の患者に対し、本剤と抗インフルエンザ薬オセルタミビル (oseltamivir)(商品名 タミフル等)の併用によって、投与後48時間以内にコロナウイルスが消失したと発表した[132][133][134]。
2月4日、浙江大学教授李蘭娟研究チームはロピナビルとリトナビルは大きな効果はなく、しかも副作用があると述べた[135]。(→#アビドルとダルナビル)
2月10日、上海市公共衛生臨床センターの 陈军凌云(Chen Jun LY)らは、134症例中52例が経口LPV/r治療、34例は経口 アビドール治療、残り48例は抗ウイルス薬を不使用(なお、全例でインターフェロン-α2b スプレーと対症療法は実施)で、結果、両方の薬剤とも、症状緩和の効果もウイルス除去促進の効果も見つからず、有効性についてさらなる調査が必要と結論づけた[136][129]。
3月3日、杏林大学医学部付属病院のグループは症例研究で、LPV/rを投与しても呼吸状態が増悪したことを説明し、上記復旦大学チームの報告書[129]を引いて、「LPV/r は中国からの報告ではウイルス量の低下、症状の改善には影響を与えておらず、COVID-19肺炎への過度な期待は難しい」と考察した[137]。
3月3日、国際医療福祉大学熱海病院のチームは、無症状から高熱と肺炎に増悪した患者に LPV/r を投与して治療を行ったところ、投与から2日後に解熱など好転し、入院後20日間でPCR検査で陰性化し退院したと報告した[138][127]。「本例に限って言えばカレトラは好意的に評価できる。酸素化低下などの重症化の徴候を待たず、肺炎の診断を得た時点で早期に治療介入を行うことで、重症化の阻止、致命率の低下ができるかもしれない」と考察している。
3月10日、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院のグループは、入院4日目に低酸素血症と全身倦怠感の増悪があり急性肺傷害に移行する懸念があった患者にLPV/rを投与したところ、投与2日目には解熱鎮痛薬なしでも発熱しない状態になったと報告した[139][128]。これは、有効性の高い対象症例であった可能性と、投与時期が的確であった可能性があると考察している。
3月18日、中国で行われたCOVID-19を対象としてLPV/rを投与する臨床試験の結果が報告されたが、LPV/rの有効性を示すことができなかった[130]。
副作用
ロピナビル・リトナビル配合剤「カレトラ」の副作用として膵炎、高血糖,糖尿病の悪化、出血性関節症、肝機能障害,肝炎、徐脈性不整脈、中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群,多形紅斑がある[140]。また、ピモジド、エルゴタミン、ミダゾラムなどの薬剤を服用中の患者には併用禁忌である[140]。
また、リトナビル単剤の副作用は、錯乱、痙攣発作、脱水、高血糖、糖尿病、肝炎、肝不全、過敏症、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、突発性出血性関節症、アナフィラキシーなどがある[141]。また、下記の薬剤を服用中の患者には併用禁忌である[141]。キニジン、ベプリジル、フレカイニド、プロパフェノン、アミオダロン、ピモジド、ピロキシカム、アンピロキシカム、エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン等。
レムデシビル (抗エボラ出血熱薬)
時系列
2020年1月23日、米国の製薬大手ギリアド・サイエンシズは、エボラ出血熱治療の実験薬 レムデシビル(開発コード GS-5734、商品名ベクルリー)[142]がこの治療で有効かどうかを検証中であると表明した[143]。レムデシビルはコンゴのエボラ出血熱の治療法を緊急に見い出すために2019年に精力的に臨床試験が行われていた4種類の薬剤のうちのひとつで、試験の結果、エボラ出血熱の患者生存率改善効果を示した[144]。
1月31日の、米ワシントン州2019-nCoV症例調査チーム[145]の報告[146]「2019年の新規コロナウイルスの米国での最初の症例」(直訳)によれば、以下のように上記レムデシビルの効果があったという。
2月2日、中国当局にレムデシビルの臨床試験申請が受理された。さっそく2月3日には北京の中日友好医院により武漢で臨床試験が開始された[147]。軽・中等度の肺炎を発症した患者のうち最大270人が無作為に選ばれ、二重盲検とプラセボ対照の試験に参加[148]。同年4月に結果が出る予定[149]。
同社は進行中の臨床試験外の緊急治療(コンパッショネート使用)を目的にレムデシビルを提供している。日本国内でも2月22日、加藤勝信厚生労働大臣が、患者に対し2月中にもレムデシビルの投与を開始し、3月にもレムデシビルの承認を目指した臨床試験を始める考えを示した[150][151]。
中国を視察した世界保健機関(WHO)の担当者が24日、レムデシビルは「現時点で本当に治療効果があるとみられる唯一の薬」と発言した[152]。ある製薬会社担当者の意見では「緊急性を考えて特例扱いだとしても、最短でも2020年内の承認だろう」という。
2月26日、ギリアド・サイエンシズは、レムデシビルのふたつの第III相試験の治験届がFDAに受理されたと発表した[149][153]。この治験で、世界各国から重度約400人、中等度約600人の被験者で3月にも開始し、順調なら4月にも結果が出る[150]。3月11日、数百人のCOVID-19患者が本剤で治療を受けた[154][155]。アメリカ合衆国保健福祉省はその前週、日本の重症患者に未承認薬のコンパッショネート使用の一環としてレムデシビルを提供するため、同省公衆衛生局士官部隊が、在日米国大使館、日本の厚生労働省、ギリアドと協力していると発表している。
4月10日、レムデシビルのコンパッショネート使用例61例の報告が掲載された[156]。
5月1日に米国FDAによる緊急時使用許可を取得し[103]、それを受けて日本でも特例承認される見込みである[105]。
ファビピラビル (アビガン)
抗インフルエンザ薬のファビピラビル(商品名 アビガン錠; 中国語: 法維拉韋)は富山化学工業が開発し、神奈川県が国家戦略特別区域で2013年から開発に協力してきた[157][158]。2016年に「浙江海正薬業股份有限公司(Zhejiang Hisun Pharmaceutical)」に中華人民共和国におけるライセンスを導出済[159]。2020年3月現在、日本では、「他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品」であり、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する本剤の投与経験はない[160]。
中国ではCOVID-19に対する治療選択肢の1つとして挙げられている[161]。中国科学技術部は2月15日、ファビピラビルをCOVID-19治療の臨床試験を実施していると発表[162]。比較的高い治療効果と副作用が少ないとされた(ただし、日本では後述するように副作用が報告されている)(治験番号 ChiCTR2000029548[163])。2月18日、国家薬監局は、ファビピラビル[164]の販売を許可した[165]。
2020年2月22日、厚生労働大臣加藤勝信は「アビガンが効くということになれば、全国に展開をして治療に使っていきたい」「効果があると考えられている他の治療薬の使用も並行して考えていく」と述べた[166][167]。アビガンは新型インフルエンザ治療薬として日本国内で製造され、約200万人分が備蓄されている。神奈川県知事黒岩祐治は、アビガンの人道的使用と臨床試験の早期開始を国に提言した[168][169]。
2020年1月28日、販売元の富士フイルム富山化学は、本ウイルスへの効果の検証に取り組んでいないが[170]、日本でも治験(非盲検試験)が開始され[171][172]、2月22日から日本の医療機関で本疾患の患者にアビガンの投与が始まった[151]。
3月17日、中国政府はファビピラビルが有効であったと発表した[161]。ファビピラビルはロピナビル・リトナビルとの非盲検比較試験において、ウイルス排出期間を短縮し(4日 vs. 11日)、X線画像の改善率を高め(91.43% vs. 62.22%)、さらに安全性にも問題がなかった(後に論文は撤回された)[173]。
4月、ドイツ政府がアビガン数百万セットを大量購入すると報道された[174][175]。
副作用
注意 本剤は動物実験において初期胚の致死および催奇形性(サル、マウス、ラット、ウサギ)が確認されており、胎児への曝露の危険性があり、妊婦への投与は禁忌である[164]。本剤は精液中へ移行するので、その危険性について十分に説明し、投与期間中及び投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は必ずコンドームを着用する[164]。
痛風、高尿酸血症の患者では、症状が悪化するおそれがある[164]。国内臨床試験では副作用が501例中100例(19.96%)に認められ、血中尿酸増加24例(4.79%)、下痢24例(4.79%)、好中球数減少9例(1.80%)、AST(GOT)増加9例(1.80%)、ALT(GPT)増加8例(1.60%)等であった[164]。
重大な副作用としては、他の抗インフルエンザウイルス薬 (類薬)で、ショック、アナフィラキシー、肺炎、劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、急性腎障害、白血球・好中球・血小板減少、意識障害、譫妄、幻覚、妄想、痙攣等の精神神経症状、出血性大腸炎などが報告されている[164]。
シクレソニド (吸入ステロイド;喘息治療薬)
シクレソニド[176](商品名 オルベスコ(帝人ファーマ)[177]、Covis Pharma[178]のAlvesco)は気管支喘息を適応症として承認済の吸入ステロイド薬である[179][180][181]。
- 時系列
2020年2月19日、国立感染症研究所村山庁舎コロナウイルス研究室は基礎実験でシクレソニド(オルベスコ)が強い抗ウイルス活性を有すると報告した。他の吸入ステロイドには同様の抗ウイルス効果が見られず、シクレソニド特有の作用と考えられた。本知見をもとに神奈川県立足柄上病院のチームはCOVID-19患者3名への投与治療をすぐに行った。その結果、3例とも2日ほどで状態が好転、という著しい効果があったとする症例報告を3月2日、日本感染症学会のサイトで以下内容で発表した[182][183]。
- クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」に乗り合わせたCOVID-19陽性者で、肺炎が増悪中の患者3名にシクレソニドを投与したところ、良好な結果が得られた。うち2例は咽頭ぬぐいPCR検査でまだ陽性のため、吸入量を増量して継続中。
- COVID-19は(多くの報告のとおり)初期が軽症でも発症後7-10日で急速に悪化する印象。シクレソニドの投与時期は、重症化する前の、感染早期〜中期あるいは肺炎初期が望ましい。
- ウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待される。
- 本ウイルスが肺胞上皮細胞で増殖し、肺障害を引き起こしながら、同時に肺胞マクロファージ等に感染し局所の炎症を起こすと推定され、それに対しシクレソニドの持つ抗ウイルス作用と抗炎症作用が、重症化しつつある肺傷害の治療に有効であることが期待されている。
- COVID-19に対し広く投与されているロピナビル/リトナビル(カレトラ錠)(略号 LPV/r)[184]対シクレソニドの比較
- in vitro(試験管レベルでの研究)でウイルス増殖防止効果は同等以上、
- 肺胞到達時の組織濃度は数十倍、
- 副作用は前者が「下痢,吐き気,嘔吐,腹痛等」で高齢者における薬物動態については十分な検討がなされていない[184]。後者は添付文書に副作用の記載はあるが、未熟児・新生児から高齢者まで広く用いられる安全な薬剤で、報告時点までで同院で有害事象はなかった。
- 価格は前者が 1,289.6円/日、後者は1キット2,169円(同院の1,200μg/日処方で)と安価。
— 日本感染症学会、COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例
- この3例のみの症例数で効果を論じることはできないので、今後症例の蓄積と検討が望まれる。
3月2日に韓国パスツール研究所などのチームが発表(→ #韓国での探索研究)したCOVID-19有効薬剤候補の中にも、本剤シクレソニドが含まれていた。候補はMERSコロナウイルス株を使ったスクリーニング研究で得られたもの。
3月6日、国立感染症研究所は、上記3症例について「シクレソニドが、ウイルスの遺伝情報を担うリボ核酸(RNA)の複製を阻害した」との見方を示した。また、MERSで抗ウイルス作用を示したとのデータがあったと述べた[185]。
3月9日に厚生労働省健康局結核感染症課より要請を受け、帝人ファーマと親会社の帝人は翌10日、オルベスコの供給体制を(本剤使用中の気管支喘息患者への安定供給を確保した上で)2万本分確保すると発表した[186][187][188]。オルベスコは海外のメーカーから導入していて帝人の一存では増産できないが、メーカーと協議しながら確保していく[186]。
3月10日、日本環境感染学会は「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第2版改訂版 ver.2.1)」を公開し[189]、治療に関する説明の中に、3月2日の前版にはなかった本剤に関する記載を追加した(下線部)[190]。
治療・予防(ワクチン) 新型コロナウイルス感染症(COVID- 19) に対して、現在、有効性が証明された治療法はありません。ただし、抗HIV薬のロピナビル/リトナビル、抗インフルエンザ薬のアビガン、エボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビル、および吸入ステロイドの喘息治療薬であるシクレソニドなどが治療薬の候補として挙がっており、今後の検証によって効果が証明されれば治療薬として用いられる可能性があると思われます。
— 日本環境感染学会、 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第2版改訂版 ver.2.1)
3月12日に掲載された国立感染症研究所松山州徳らの審査前論文によれば、シクレソニドはコロナウイルスのもつ非構造タンパク質であるNSP15に作用してウイルスのRNA複製を抑制する[191]。したがって、シクレソニドはコロナウイルスであるMERSまたはCOVID-19の患者の治療の候補薬となる。
3月16日の時点で、オルベスコで治療を受けているCOVID-19の患者は、10人程度であった[192]。
3月20日、韓国のパスツール研究所のSangeun JeonらのチームはbioRxivサイト(未査読論文掲載サイト)に、「直訳:FDA承認済み医薬品からのSARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬候補の特定)」と題する論文を掲載した[193][194]。同研究所は既にMERS株でのスクリーニング結果を発表していた(→ # 韓国での探索研究)。発表によれば、同研究所は「COVID-19の治療にアルベスコ(シクロソニド)が有効である」と判断した。同研究所では本ウイルスSARS-CoV-2を入手してスクリーニングで24種の薬剤を抽出した。これらは、レムデシビル、カレトラおよびクロロキンと同等かそれ以上の抗ウイルス活性を細胞実験で確認した。特に、シクレソニドの安全性、薬効、関連する海外の症例、および韓国国内での同剤の販売状況をレビューした結果、シクレソニドを「最も実現可能な医薬品(most feasible medication)」に選んだ。また、シクレソニドと並んでサナダムシ駆虫薬ニクロサミド(富士フイルム和光純薬、関東化学などが販売)(別名 ニクロシド)[195]にも注目した。
3月22日、国立感染症研究所の松山州徳室長は次のことを明らかにした[196]。
- 同研究所では2年前から、MERSに効く薬を1,200種の薬剤ライブラリからスクリーニング研究を実施し、シクレソニドが有効である可能性を見つけていた。
- 今回新型コロナウイルスに感染させた細胞にシクレソニドを作用させる実験を行ったところ、ウイルス量は100分の1程度にまで減った。
- シクレソニドはウイルスの増殖を抑えると同時に、炎症を抑える効果もあると思われる。
3月23日、国立国際医療研究センターは、肺炎症状のないCOVID-19患者を対象として、シクレソニドの臨床試験(特定臨床研究)を早期に始める予定でプロトコール検討中であることを明らかにした[197][198][199]。(なお、同時期に、肺炎があり参加条件を満たす患者はレムデシビルの国際共同臨床試験に参加させる。一方、肺炎があるが当該条件を満たさない患者には、ファビピラビル(富士フイルム富山化学のアビガン)、ナファモスタットメシル酸塩(日医工のフサン)での臨床試験を検討中、と述べた。)
3月29日、韓国パスツール研究所は、Alvesco(オルベスコ)をCOVID-19軽症患者141例に投与する臨床試験を韓国で実施すると発表した[200][201]。韓国FDAは、通常30日かかる承認を特別に申請の翌日に行った。
3月30日(日本時間)、ユネスコが開催した世界127カ国の閣僚級やWHOの専門家等が出席したテレビ会議で、韓国科学技術情報通信部は、シクレソニドおよびニクロサミドがCOVID-19に効果があったという事実を共有した[202]。
3月31日の日本集中治療医学会の報告[203]によれば、体外式膜型人工肺(ECMO)によるCOVID-19治療対象患者(の一部)である21例のうち43%の9例の治療でシクレソニド(オルベスコ)投与。ちなみに、同じ統計で、ファビピラビル(アビガン)は38%の8例、リン酸クロロキンは5%の1例、カレトラは95%の21例(※ 母集団は厳密に同一ではない模様)。
4月14日に、インドのガウタムブッダ大学のチームが、未査読論文サイトに発表したところによれば、彼らはSARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro)[204]を標的に、FDAの承認市販薬化合物からヒトの抗ウイルスおよび抗菌特性を備えたものを文献調査で12種選び、それらをコンピュータシミュレーションで仮想スクリーニングにかけて候補を探した。その結果最強のリファンピシン(抗生物質)の次に有望な薬剤として出てきたのは、シクレソニドであった[205]。リファンピシンとシクレソニドは、参照用化合物として使用した、COVID-19治療によく使われてきたカレトラの成分2剤(ロピナビルとリトナビル)よりも、Mproとの結合親和性に優れていた。
4月14日、帝人ファーマは、COVID-19への取り組みの一環で、本剤の「追加的な供給の実現に向けた協議を輸入先とおこなって」いることを公表した[206]。
4月18日の日本感染症学会の学術講演会「COVID-19 シンポジウム ―私たちの経験と英知を結集して―」[207]で、シクレソニドの観察研究の4月8日時点中間報告が紹介された。それによれば、国内24施設から85症例が登録された。そのうち死亡は2例、また、投与後に気管挿管が必要になった悪化例は3例にとどまった。座長の土井洋平教授(藤田医科大学)は「シクレソニドは抗炎症効果と抗ウイルス作用をあわせもつ。幅広い年齢層に使われてきたので、安全に使えることが大きい」と期待感を示した[208]。
国立国際医療研究センターでも、肺炎のない比較的軽症のCOVID-19患者をシクレソニド7日間吸入群と非吸入群にランダムに割り付け8日目の肺炎発症割合を検討する、という形の特定臨床試験が行われている[209]。
副作用
感染症患者の症状を増悪するおそれがある[210]。588例中45例(7.7%)に副作用がみられ、血管浮腫等過敏症、発疹、そう痒、呼吸困難、味覚異常、AST(GOT)およびALT(GPT)の増加、尿中蛋白、動悸、気管支痙攣などが報告されている[210]。また、ウサギの動物実験で副腎皮質ステロイド剤に共通した催奇形作用が、ラットの動物実験で乳汁への移行が報告されている[210]。
日本産科婦人科学会では、4月7日時点で「本薬剤は喘息の妊婦にも有益性投与が認められています。しかしながら保険適用外である点に加えてまだ十分なエビデンスが無く、副作用の問題や高度の全身管理が必要であるため酸素投与が必要となった重症例には本人と家族に十分なInformed Consentのうえ呼吸器科や救命救急科医師の意見を求めたうえで投与を検討してください.」としている[211]。なお、2020年4月現在、COVID-19の各治療薬の添付文書では、妊娠中の安全性について、本剤オルベスコ、カレトラ、フォイバン、フサン、プラケニル、ストロメクトールは「有益性投与」で、アビガンは「禁忌(不可)」とされている[212]。
ウミフェノビル(抗インフルエンザ薬)
ウミフェノビル(Umifenovir、アルビドルまたはアルビドール; Arbidol、アビドル; Abidol)は中国とロシアで使用されている抗インフルエンザ薬である。
2020年2月4日、浙江大学教授李蘭娟の研究チームは、細胞実験で、ウミフェノビルとダルナビル(Darunavir)の2種類の薬剤がコロナウイルスを効果的に阻害するのに有効であると発表した[135]。この報道により米株先物取引が急伸した[213]。
- 李教授によれば、前臨床試験(preliminary tests)の in vitro 細胞実験で、アビドル(Abidol)とダルナビル(Darunavir)の2種類の薬剤がこのウイルスを阻害するのに有効であることが分かった。
- 李教授は、新たに感染した患者の緊急治療を強化しようという望みをかけて、中国東部の浙江省から中国中央の湖北省に医療従事者を連れてきた。
- 李教授は、現在使用されている 抗HIV薬ロピナビル・リトナビル錠(商品名Kelizhi[214])(前述カレトラ配合錠に相当)はあまり大きな効果はなく、しかも副作用が複数あると述べた。
- 李教授は、2つの新薬を、コロナウイルスによる新型肺炎の国家衛生健康委員会の治療プログラムに含めることを推奨した。
- チームの別の研究者、陳作炳(Chen Zuobing)は、2つの薬は医学的指導なしに服用すべきではない、と釘をさした。
- 浙江大学医学院附属第一医院の副理事長 (deputy president) でもある陳作炳は、この2つの薬は浙江省でこのウイルスに感染した患者たちの治療に使用されてきており、次の段階で、有効性で劣っているほかの薬に取って代わるだろうと述べた[135]。
なお中国語の阿比多尔をラテン文字表記した際の混乱があり、当初はインドで販売されている鎮痛薬の商品名Abidol[215]であるとする報道も見られたが、中国当局は阿比多尔が抗ウイルス薬であると主張していることから、正しくはウミフェノビルの商品名Arbidolであると考えられる[216]。
2020年2月18日、中国政府の専門家チームは、本ウイルスの診療ガイドラインを新たに発表し、抗インフルエンザ薬の「アルビドール」を治療薬として加えた[47]。
完治患者の血漿
中国の公式の「新型コロナウィルス肺炎診療方案」では、2020年2月18日の試行第6版から、病状の進行が比較的に早い重症(severe)または重篤(critically ill)な患者向けに、回復者血漿療法が追加された[217][218][219]。
2020年3月27日、中国・南方科技大学第二附属医院などのチームは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を併発した重症COVID-19患者5例に対して、COVID-19から回復した患者より採取した中和抗体を含む回復期血漿を投与して有効であったと報告した[220][221]。それによれば、COVID-19の回復例(ドナー)5例(18~60歳)から、回復期血漿を採取し、採取当日中に各患者に投与した。投与のタイミングは入院後10~22日目であった。その結果、4例で投与後3日以内に体温が正常化した。投与後12日で全例のウイルス量が陰性化した。投与後12日目に4例でARDSが軽快した。投与後2週間以内に3例が人工呼吸器から離脱した。体外式膜型人工肺(ECMO)使用は1例で、投与後5日めに離脱した。
アメリカや日本でも臨床試験が開始されることになった[222][223]。
漢方薬 (清肺排毒湯)
2020年1月27日、中国国家中医薬管理局は本疾患の予防と治療のための中医薬(漢方薬)の効果的処方を発見するための臨床研究を開始し[224]、山西省、河北省、黒竜江省、陝西省で漢方薬の清肺排毒湯(中国語 清肺排毒汤)での治療の臨床的観察とデータ分析を行った。臨床的に有効なデータ214件により、2月6日、国家衛生健康委員会と国家中医薬管理局は共同で全国に、清肺排毒湯の使用を勧告する文書を発行した。発表されている効果は以下のとおり。
2月19日の中国国家中医薬管理局の発表[225]によると、10省57指定医療機関で701例を投与して観察した結果、130例(19%)が治癒して退院、51例(7%)が症状が消失し、268例(38%)で症状が改善し、212例(30%)は症状が安定し悪化しなかったという[225]。
そのうち351症例が詳しく分析され、うち112人の患者の体温が37.3°Cを超えていたところ、服薬1日後で51.8%、服薬6日後で94.6%の患者が平熱に戻り、また、咳症状214人のうち46.7%が服用して短期に改善した[226]。
また、だるさや吐き気、のどの痛みなどの症状にも顕著な治療効果が見られた。351例の中でひとりも、軽度の患者も普通の患者は重篤にはなっていないという[227]。
効果100%ではないものの約半数以上の改善がみられることから、中国国家衛生健康委員会と国家中医薬管理局は2月6日、清肺排毒湯の使用を推奨するむね中国全土に通達した[228]。
2月19日付、国民健康衛生委員会発行の「新型コロナウイルス肺炎の診断と治療(試行6版)」[229]とその解説[230][231][232]によれば、以下のとおり。
一般的な処方“清肺排毒湯”は臨床治療期間中に推奨される。軽度、一般的、重度、重大、および回復期間の臨床症状がえられた。推奨される処方と投与量、および投与方法は、3つの側面から説明されている。
2月21日の中国国務院の記者会見で、全国6万例以上の症例で西洋医学に漢方薬を併用して結果良好と以下のように発表された。
漢方薬の併用により、臨床症状が消えるまでが2日間短縮、平熱への解熱が1.7日間短縮、入院日数は2.2日間短縮、CT画像は22%改善され、臨床治癒率はが33%改善、重症化率は27.4%減少、リンパ球は70%増加したという[233]。
清肺排毒湯を処方された患者たちのインタビューが2月23日に記事になり国家中医薬管理局のサイトに掲載された[234]。
なお、日本では、漢方薬と中医薬を同じものだと認識しているが、中国当局は、漢方薬と中医薬は厳密には別の物であると認識しているため留意が必要である。
リン酸クロロキン・ヒドロキシクロロキン
2020年2月18日、中国政府の専門家チームは、抗マラリア薬の「リン酸クロロキン」と抗インフルエンザ薬の「アルビドール」を本疾患の治療薬候補として発表した[47]。このうちリン酸クロロキンは「特効薬ではないが検討に値する」「ウイルス検査で陰性になるのが早いほか、副作用も大きくない」という。北京市や広東省などの病院に入院する患者に対する臨床試験で症状の改善を確認した。15日の会議で臨床試験の対象拡大で一致した[235][236]。
ヒドロキシクロロキン(商品名 プラケニル)は全身性エリテマトーデス治療薬として承認されている。日本でCOVID-19患者2例に投与し、有効であったと報告されている[237]。
副作用と禁忌
一方で、リン酸クロロキンの副作用として強い心臓毒性があり、キニジン様作用が発現し、致死性不整脈、心臓に還流する血液量が不十分な循環虚脱となり、心停止に至ることが報告されている[238][239]。また2〜4年連用すると網膜が変性し失明に至る慢性毒性もある[238]。日本では1971年よりクロロキン網膜症事件が薬害事件として社会問題となって訴訟が起こり、日本の製薬会社は製造を中止した[240][241]。日本ではクロロキンの製造・販売は禁止されている[238]。
また、ヒドロキシクロロキンにも網膜障害が発現する副作用があるほか、黄斑変性も報告されており、網膜症や黄斑症患者への投与は禁忌である[242]。さらにキニーネ過敏症、グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症、ポルフィリン症、乾癬、肝機能障害、腎機能障害、胃腸障害、神経系障害、血液障害、SLE網膜症などの患者や、妊婦への投与には十分に注意し、本剤の投与は安全性及び有効性について十分な知識とエリテマトーデスの治療経験をもつ医師のもとでのみ実施されるべきであるとされている[242]。
アジスロマイシン
抗生物質のアジスロマイシン(商品名 ジスロマックまたはアジスロシン)はヒドロキシクロロキンと併用すると上気道からのウイルス消失効果がより高い可能性があるという研究が3月20日にフランスの大学病院研究所(I.H.U.)[243]地中海感染症院などの研究チームから発表された[244][245]。
SARS-CoV-2ウイルスは細胞内のウイルスRNA認識受容体MDA5/RIG-Iを阻害してI型インターフェロン生産を抑制することなどにより免疫応答を逃れる可能性がある[246]。アジスロマイシンはin vitroにおいてウイルス誘発性インターフェロン産出を促すことにより抗ウイルス作用を発揮し、ライノウイルスに対して効果のあることが見つかっていた[247][248]。
カモスタットおよびナファモスタット (セリンプロテアーゼ阻害剤)
ドイツの研究によればセリンプロテアーゼ阻害剤のカモスタットはin vitroにおいてSARS-CoV-2が細胞へと侵入する際に使われる宿主側酵素のTMPRSS2プロテアーゼを阻害するため、新型コロナウイルスに効果のある可能性がある[249][250]。SARSコロナウイルスでは動物実験においてカモスタット単独投与の効果が確認されており[251]、その用量をヒトに当てはめると日本で既に承認されている量でも効果のある可能性がある[252]。東京大学大学院医学系研究科は新型コロナウイルス感染症患者に対するカモスタット投与の臨床研究を計画している[253]。
また中国の研究によればセリンプロテアーゼ阻害剤のナファモスタットはVero E6細胞においてSARS-CoV-2の感染を防いだものの、その50%効果濃度 (EC50値) は高めの22.50μMとなっている[254]。東京大学医科学研究所は新型コロナウイルス患者に対しナファモスタットの試験投与を行う予定となっている[255]。
日本ではカモスタットは慢性膵炎や術後逆流性食道炎に、ナファモスタットは膵炎や播種性血管内凝固症候群などに対して保険適用されている[256][257]。
カモスタットおよびナファモスタットの副作用として、ショック、アナフィラキシー様症状などのアレルギー、過敏症、高カリウム血症、低ナトリウム血症、血小板や白血球減少、肝機能障害、黄疸などが報告されている[258][259]。
トシリズマブ (抗IL-6抗体;リウマチ・膠原病・血管炎治療薬)
トシリズマブ(Tocilizumab (英語版))(中外製薬のアクテムラ[260])(ロシュのActemra/RoActemra)は、強力なIL-6阻害薬である。
2020年3月4日、中華人民共和国国家衛生健康委員会はトシリズマブのCOVID-19患者に対する投与を認可し[261]、医療規定の標準治療に組み込んだ[262]。
3月5日、中国科学技術大学附属第一医院(安徽省立医院)と安徽富陽第二人民病院のチームは、2020年2月5日から2月14日のあいだ、COVID-19重症患者20例に、通常の治療に加えてトシリズマブを投与して分析した結果を、未査読論文サイトに発表した[263]。それによれば、その結果、20人の患者のうち15人(75.0%)は摂取酸素量が減り、1人の患者は酸素療法も不要となった。CTスキャンにより、19人の患者(90.5%)で肺の病変の濁りは消えた。目立った副作用はなかった。19人の患者(90.5%)はトシリズマブによる治療後平均13.5日で退院し、残りも良好に回復中と述べられている。
また、イタリアでも、COVID-19重症患者2人に対しトシリズマブの投与が行われ、これにより24時間で症状が改善した[264]。この投与は在コッリ病院会社及びIRCCS財団国立がん研究所の協力によってコトゥーニョ病院の患者に対し行われた[264]。
3月24日、ロシュは、重症COVID-19での入院患者330例を対象に、Actemra/RoActemraの第III相臨床試験を実施すると発表した[265]。
4月8日、中外製薬はCOVID-19を対象としたアクテムラの第3相臨床試験の実施に向け、治験届を提出した[266]。
4月9日、中国科学技術大学附属第一医院らのチームは、IL-6受容体を標的とした薬剤トシリズマブによる治療したCOVID-19重症患者2名の末梢血単核細胞を分析した結果、過剰に活性化された炎症性免疫応答は減弱していた一方、抗ウイルス免疫応答は保たれたことを未査読論文サイトに報告した[267]。
4月15日のMedical Tribuneの記事によれば、COVID-19の主な死因に免疫システムの暴走、すなわち「サイトカインストーム」で肺の細胞が壊れるARDS(急性呼吸窮迫症候群)がある。ARDSの予後不良例でIL-6、IL-8などの炎症性バイオマーカーの値が高いことがある。トシリズマブはIL-6の働きを阻害し、炎症反応を抑えるため期待されているという[268]。
サリルマブ(関節リウマチ薬)
関節リウマチ薬のヒト型抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体である、サリルマブ(Sarilumab(英語版))(サノフィのケブザラ[269])がある。これも、トシリズマブと同様、免疫システムの暴走を抑えてCOVID-19重症患者の治療に有効ではないかと期待されている[268]。
4月2日、サノフィは、重症COVID-19患者を対象としたケブザラ(サリルマブ)の臨床試験の一環として、米国外で第1例の患者に投与したことを発表した[270]。本試験は、イタリア、スペイン、ドイツ、フランス、カナダ、ロシアおよび米国で実施している。
ルキソリチニブ(JAK阻害薬;血液疾患治療薬)
ルキソリチニブ(商品名 ジャカビ)はJAK阻害薬であり、真性多血症などの治療薬である。サイトカインストームを伴うCOVID-19患者におけるジャカビを評価するため臨床試験が計画されている[271]。
カリウムおよびナトリウム補充療法
審査前論文ではあるものの中国温州の病院の報告によれば、多くのCOVID-19患者が尿からのカリウムイオン (K+) 排出によって軽度〜重度の低カリウム血症を起こしており、カリウム補充療法は回復傾向の患者で良い反応を示したとされる[272]。
また日本感染症学会に報告された症例において低ナトリウム血症が報告されており、その場合に電解質輸液剤による補液が行われている[273]。
なおSARSにおいても低カリウム血症および低ナトリウム血症が報告されていた[274]。
酸水素混合吸入
酸水素混合吸入は中国においてCOVID-19の治療に使われている[275][276]。
2020年2月5日、上海潓美医療科技の酸水素吸入器 (水素66.66%/酸素33.33%) が武漢中央病院、武漢大学中南医院などの病院へと届けられ、使用されるようになった[275]。この酸水素吸入器は慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、喘息、気管支拡張症、気道狭窄などに向けて開発されていた[275]。
2月17日、中国非公立医療機構協会 (CNMIA)がこの酸水素吸入器を推奨し[275][277]、3月3日、中華人民共和国国家衛生健康委員会(NHC)はガイドライン第七版で酸水素吸入器を標準治療に組み込んだ[276][262]。ただし二重盲検比較試験は行われておらず論争も起きている[275][276]。
ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬
新型コロナウイルス感染症の患者の血漿では著しく高いレベルのアンジオテンシンIIが確認されており[278]、それによる障害を防ぐためにアンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB) を使うことがインドマハラシュトラ保健大学の Mrudula Phadke 教授から提案された[278][279](#宿主細胞受容体も参照)。ARBにはテルミサルタン、ロサルタンなどがある[279]。
欧州製薬団体連合会 (EFPIA)は、降圧剤であるアンジオテンシンII生成を阻害するアンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACE阻害剤) の効果の検証を含む治療法の特定を、会員企業に求めている[280]。
ACEI又はARBの静脈内投与がACE2受容体の発現を増やし重症化リスクを高める可能性があるとする仮説も存在する[281]が、中国におけるCOVID-19患者のメタアナリシスの審査前論文によれば65歳以上の高血圧患者におけるARBの服用者は重症化リスクが有意に低かったとされる[282]。
リコンビナントACE2
ヒト組み換え可溶性ACE2はin vitroにおいてSARS-CoV-2の細胞への感染を阻害することが見つかっている[283][284]。SARSでの研究ではマウスでの動物実験においてアンジオテンシンIIの分解を行うリコンビナント(組み換え)ACE2の投与がSARSの重症化を防ぐことが見つかっている[285]。
ヒト組み換え可溶性ACE2にはApeiron Biologics製の「APN01」が存在し[283]、既に第II相臨床試験を開始している[286]。また、日本の医薬基盤・健康・栄養研究所は量産可能なバクテリア由来のACE2様酵素「B38-CAP」を発見し、それが新型コロナウイルス患者の重症化抑制に使える可能性のあることを発表した[287][288]。
メプラズマブ(抗CD147抗体)
ACE2以外のウイルス受容体としてCD147が関与している可能性が示唆されている。抗CD147抗体であるメプラズマブによりウイルス陰性化までの期間が短縮されたと報告された(2020年3月26日現在、査読前論文であるため解釈に注意が必要)[289]。
BCGワクチン
ハーバード大学医学大学院国際保健リサーチコア教授メガン・マリーは3月13日、BCGワクチンの再接種によって上気道感染症が減った報告や、trained immunity(訓練免疫状態)[注 7]によるオフターゲット効果の可能性にも触れ、BCGワクチンのCOVID-19への効果の研究価値があると述べた[291][292]。BCG接種状況[293][294]と世界のCOVID-19感染率の類似が指摘されている[295][296]。
オランダの研究チームは医療従事者にBCGワクチン接種を行う者1000人を募集したと『サイエンス』誌が3月23日に掲載した[297]。このグループはBCGが血液のエピジェネティックを変化させるという仮説を人間で確かめることを目的としている[290]。
マウントサイナイ医科大学助教授アニー・スパローは、2016年のWHOのシステマティック・レビューでもBCGワクチンのオフターゲット効果[注 8]の有効性が報告されているとし[298]、BCGワクチンが医療従事者を救う可能性については研究する価値があると3月24日に述べた[299][292]。
マードック・チルドレンズ研究所はBCGワクチンが免疫力を高め、SARS-CoV-2にも効果のある可能性があるとして臨床試験することを発表したと3月27日に報じられた[300]。
大阪大学名誉教授(免疫動態学)の宮坂昌之は、BCG投与で、結核ではない感染症が子供で減ることがわかってきており、BCGの刺激によって自然免疫が強化されたことが考えられると述べた[292]。
副反応と注意喚起
BCGワクチン接種での副反応も報告されており、重篤例としてリンパ節炎や骨髄炎などの播種性BCG感染症の発症や、重症複合型免疫不全症(SCID)や慢性肉芽腫症などの先天性免疫不全症(原発性免疫不全症候群)では重症化することが多い[301]。またアナフィラキシーや皮膚結核様病変も報告されている[302]。
4月3日、日本ワクチン学会は「『新型コロナウイルスによる感染症に対してBCGワクチンが有効ではないか』という仮説は、いまだその真偽が科学的に確認されたものではなく、現時点では否定も肯定も、もちろん推奨もされない。」「定期接種としての乳児へのBCGワクチンの安定供給が影響を受ける事態は避けなければならない。」などの見解を示した[303]。
日本小児科学会も同日にBCGは新生児や乳児を対象に接種が行われており、成人を対象とした知見は十分ではない、また、結核菌の既罹患者やBCG菌に対する免疫を有する者に接種した場合、強い接種局所反応などの副反応が出現する可能性もあると発表した[304]。
厚生労働省も「BCGワクチンは、乳児の定期接種のために製造されており、メーカーが出荷できる量は出生数と同程度で、余剰はありません。」と発信した[305]。
4月10日、BCGを扱っていない日本の医療機関において、BCGワクチンを新型コロナウイルス感染症の予防のために接種を希望した成人に、誤って全量注射し、発熱やじんましん、血尿などの健康被害が出ていたことが報告された[306]。BCGは腕に塗ったBCG溶液のうち微量だけ体内に入れる方式で、説明文書には「絶対に注射してはならない」と記載されている[306]。
経皮接種用の濃厚なワクチンであり、もし皮内等に注射すると強い局所反応を呈するので、絶対に注射してはならない。 — 日本ビーシージー製造株式会社 乾燥BCGワクチン添付文書
VPM1002(BCGワクチンベースのワクチン)
マックス・プランク研究所は3月21日、BCGワクチンをベースにしたワクチン候補であるVPM1002が、SARS-CoV-2の感染に対して有効かどうかドイツの病院で高齢者と医療従事者を対象に第III相試験に入ることを発表した[307]。VPM1002は、ステファン・H・E・カウフマンのグループが結核ワクチンとして開発したもので、従来の標準的なBCGワクチンよりも安全で、結核や癌に効果があるとされる[307]。このワクチンは現在インドで第III相の治験がされており、2020年半ばに完了予定で、SARS-CoV-2に特化したワクチンが開発されるまでの間の利用が期待されている[307]。Vakzine Project Management(VPM)と世界最大級のワクチンメーカーであるインド血清研究所(Serum Institute of India )と共同で開発する[307]。
イベルメクチン(駆虫薬)
2020年4月4日、オーストラリア南東部メルボルンのモナッシュ大学の研究チームは、イベルメクチン(Ivermectin)(MSD社、マルホ社のストロメクトール)が、実験の結果、本ウイルスの抑制に効果があったと発表した。1回量のイベルメクチンで本ウイルスの複製を48時間以内に止めることができた。今後臨床試験を行い、できるだけ早くCOVID-19の治療薬に応用したいとしている[308][309]。
2020年4月19日、ユタ大学の研究チームは、169病院においてイベルメクチンを用いずに治療した704人の死亡率が8.5%(人工呼吸器を使用した重症者に限れば21.3%)であるのに対し、イベルメクチンを投与した704人の死亡率が1.4%(重症者に限れば7.3%)と低いことを発表した[310][311][312]。
- Leon Caly, Julian D. Druce, Mike G. Catton, David A. Jans, Kylie M. Wagstaff: "The FDA-approved drug ivermectin inhibits the replication of SARS-CoV-2 invitro", Antiviral Research 178 (2020) 104787.
イベルメクチンは、数々の業績をあげて2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞した化学者で北里大学特別栄誉教授の大村 智により開発された[313]。
なお、重大な副作用に、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(いずれも頻度不明)がある[314]。
リファンピシン(抗生物質)
2020年4月14日に、インドのガウタム ブッダ大学のチームが、未査読論文サイトに発表したところによれば、彼らはSARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro)を標的に、FDAの承認市販薬化合物からヒトの抗ウイルスおよび抗菌特性を備えたものを文献調査で12種選び、それらをコンピュータシミュレーションで仮想スクリーニングにかけて候補を探した。その結果最も有望な薬剤として出てきたのは、結核の治療で定評のある、抗生物質のリファンピシン(第一三共のリファジン[315])(Rifampicin(英語版))であった。そしてリファンピシンがCOVID-19の治療に使えるかもしれないと提案した[205]。
コンピューター創薬
タンパク質間相互作用(PPI)に関する原理的な知見として、相互作用を生じるふたつのタンパク質などは、それらの一部同士が空間的に合致する(嵌まる)形であることが多いことが分かっている。この原理を利用して、本ウイルスSARS-CoV-2の立体構造に対して、既知のあらゆるタンパク質の立体構造をいろいろ当ててみてどこかが嵌まらないかとしらみつぶしに調べることで、抗SARS-CoV-2薬の候補となるタンパク質群を発見するアプローチが可能である。しかしこれには膨大な計算量が必要になる。そこで、1台のコンピュータだけでなく多数のコンピュータで分散して計算させることが、発見の近道となる。世界中から無償ボランティアを募集してコンピュータを自動的に借りながら発見作業を進めるというオープンなプロジェクトが、いくつかスタートしている。
こうしたプロジェクトには世界の誰でも参加して自分のパソコンで薬剤発見に貢献できる[316]。インストールしたプログラムアプリがデータを自動的にダウンロードして解析してサーバに次々報告する。参加者はインストールと必要に応じて設定を行えばよい[317]。
その代表的なものとして、2020年2月末、セントルイス・ワシントン大学に拠点を持つ分散コンピューティングプロジェクトのFolding@home(FAH、フォールディング・アット・ホーム)では、本ウイルスへの取り組みの基盤を提供し、個人・企業が所有するパソコンの余剰パワーの提供を募集した[318]。
グレッグ・ボウマン博士は「近い将来に最も期待がかかるのは、いずれかの部位に結合できる既存の薬剤を見つけられるかどうかだ」と述べた[318]。NVIDIAやGitHubなどIT大手、redditのパソコン・ゲーム愛好家グループなど2週間で40万人以上が専用アプリをダウンロードした[318]。3月25日、Folding@homeの演算能力は約1.5エクサFLOPSに達した[319]。TOP500の上位100スーパーコンピュータの合算を上回る能力を獲得し、これまでの数千倍長いタンパク質を対象とするシミュレーションが可能となっている。
ビタミンC
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重症患者における高濃度ビタミンC点滴が武漢大学中南医院で第II相臨床試験中となっている[320][321][322]。
亜鉛
COVID-19患者に対する亜鉛の静脈内投与がオーストラリアのメルボルンにあるオースティン病院で臨床試験されている[323][324]ものの、エビデンスはまだ無く、安全かも分かっていない[323]。
亜鉛イオンには抗ウイルス作用があり、この作用はウイルスのポリタンパク質プロセシングを阻害することなどによるものとされている[325]。
人工サーファクタント
イスラエル工科大学は新生児呼吸窮迫症候群 (RDS) のために開発されたサーファクタント補充療法を改良し、そのSARS-CoV-2に対する治験を計画している[326][327]。
埼玉県立循環器・呼吸器病センターによれば、COVID-19が感染するために使用するACE2は肺において主にII型肺胞上皮細胞で発現しているため、SARS-CoV-2ではその細胞への感染によって肺サーファクタントの産生が阻害されて肺胞体積低下に陥ると推察している[328]。
新規治療薬、予防薬の開発
この節の加筆が望まれています。 |
本感染症の感染拡大を受けて、
などを緊急に開発しようという取り組みが複数はじまった。
ワクチンの開発
ノババックス社
2020年1月21日、米国の感染症薬メーカー、ノババックス (Novavax Inc.) は、本ウイルスの感染予防のためのワクチンの開発をはじめたと語った[329][330]。
感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)
感染症流行対策イノベーション連合 (CEPI; Coalition for Epidemic Preparedness Innovations)はノルウェー政府、インド政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、および公益信託団体ウェルカム・トラストの出資によって2017年にダボス会議(スイス)にて発足した、公的機関、民間機関、慈善団体および市民団体の間でのグローバルな協働体である[331]。日本の厚生労働省も創設に関わり2017年より拠出を行ってきた[332]。
2020年1月23日、CEPIは以下3研究チームがワクチン開発に向けた作業を開始し、少なくとも1種類のワクチンの臨床試験を6月までに開始すると発表した[333][332]。また、夏にも人へ臨床試験を行い、ワクチン承認は早ければ年内になるとも述べた[334]。
- 米医薬品・ワクチン開発のモデルナ(Moderna, Inc.)(英語) (MRNA.O)とアメリカ国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID)の連携、
- 製薬会社イノビオ・ファーマシューティカルズ(Inovio Pharmaceuticals, Inc.) (INO.O)、
- 豪クイーンズランド大学のチーム。
この他、米Vir Biotechnology社もワクチン開発計画に加わり、SARSやMERSの生存者から同定されたモノクローナル抗体(mAbs)が本ウイルスに有効かどうか調べる[335]。
イノビオはMERSの最も先進的なワクチン候補 INO-4700をもっており[336]、ウイルスのDNA塩基配列が公表されて3時間以内にウイルスをデザインできた。CEPIから最大900万ドル(約9億8000万円)の助成金を受け、2020年初夏にも中東・アフリカ現地での第II相臨床試験に入る予定[337][338]で、大規模な臨床試験は年末までに中国で行いたいという[339]。
2月3日、英グラクソ・スミスクライン(GSK)はパンデミックワクチンで確立されたアジュバント(抗原性補強剤)の基盤技術を提供するためにCEPIの協働に参加すると発表した[340]。
2月25日、モデルナは開発中のCOVID-19のワクチンを、ヒトに投与する安全性試験(第I相試験)向けに米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)に出荷した。ヒトへの臨床試験は2カ月以内の開始を見込むが、一般に入手できるようになるには1年半かかる可能性があるという[341]。
中国・ロシア
2020年1月26日、中国CDC(疾病管理予防センター)の関係者は、ワクチンの開発を開始したと語った[342]。1月29日、広州のロシア領事館は新型コロナウイルスのゲノムが中国からロシアに提供され、中露がワクチンの共同開発に着手したと発表した[343]。
(上記と同じものかどうかは分からないが)開発したワクチンの治験開始が3月17日に中国で承認され、陳薇をリーダーとする中国人民解放軍軍事科学院軍事医学研究院の研究者らが治験を開始[344]。3月18日に中国中央電視台も報道した[345]。
3月23日、軍事科学院軍事医学研究院生物工程研究所と康希諾生物(CanSino Biologics)は、独自に開発した新型コロナウイルスワクチン(アデノウイルス媒体)の108人への第1期臨床試験を開始すると報道した[346]。プロジェクト責任者は陳薇(Chen Wei)少将で、複製欠陥型ヒト5型アデノウイルスを媒体とし、新型ウイルスのS抗原を作る[346]。感染予防のため、陳薇チーム7人はすでに接種済みである[346]。陳薇少将はウイルスのワクチンの研究で博士号を取得しており、これまでに抗SARSウイルス製剤やエボラ出血熱のワクチン開発に成功したと発表されている[345]。
ジョンソン・エンド・ジョンソン社
2020年1月29日、米医薬品・日用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、COVID-19 ワクチンの開発に着手したと発表した。エボラ出血熱のワクチン開発に利用した技術を応用する。このワクチンは現在、コンゴ民主共和国とルワンダで投与されている[143]。「すでに多数の研究者をワクチン開発に投入しており、1ヶ月以内には何らかの成果が出せると確信している。世界市場に向けた量産体制はすでに整っているので、ワクチンが完成すれば、1年以内に億単位の出荷が可能」という[347]。
サノフィ社
2020年2月18日、フランスのサノフィは、米国保健福祉省(HHS)の生物医学先端研究開発局(BARDA)と協力して、COVID-19 のための遺伝子組換えワクチンの速やかな開発を目指すと発表した[348]。
アンジェス・大阪大学・タカラバイオ
2020年3月5日、大阪大学発の創薬企業アンジェスは、本ウイルスのワクチンを大阪大学と共同で開発し、タカラバイオが製造すると発表した[349][350]。DNAプラスミド技術を活かしDNAワクチンという種類とするので、他の方法のワクチンよりも短期間に製造工程が作れるという。
抗体医薬の開発
リジェネロン社
2020年2月4日、米国厚生省(保健福祉省; HHS)は、米製薬大手リジェネロン・ファーマシューティカルズと提携し、本ウイルス感染症の治療のためのモノクローナル抗体の開発を行っていると発表した。HHSによると、リジェネロンはコンゴ民主共和国内で発生したエボラ出血熱の試験薬を開発する際に使用された技術と同様の技術を使用するという[351][352]。同社は2月6日、同治療法が数カ月以内には一部の患者に使える可能性が大きいと発表した。その治療法には、コンパッショネート使用(未承認薬の人道的使用)が適用されるかもしれないという[353]。
トランスクロモソミックス社
2020年2月27日、医薬品開発の「Trans Chromosomics(トランスクロモソミックス)」社[354](鳥取県米子市)は、独自の抗体作製技術などを活用し、本ウイルスの治療用の抗体医薬(ヒト型モノクローナル抗体)の作製に着手すると発表した[355]。同社は、鳥取大学発の創薬ベンチャーである「カイオム・バイオサイエンス」社[356]の共同研究先[357]。
その他治療薬の開発
ファイザー社
2020年3月2日に米国の製薬会社ファイザーが明らかにした情報によれば、本ウイルスを抑制する可能性のある抗ウイルス性化合物を同定し、第三者機関と検査を進めている。同年3月末までに検査終了、2020年末までに臨床試験開始を目指す[358]。
武田薬品工業
2020年3月4日、武田薬品工業は、本疾患に対して、2019年に買収したアイルランドの大手製薬会社シャイアーが持っていた血液由来の医薬品技術で治療薬を開発すると発表した[359]。免疫機能を高める治療薬「TAK-888」を作るとされ、これは回復した患者の血漿から採取した病原体特異的な抗体を濃縮したもので、これを投与すると患者の免疫系の活性が高まり、回復の可能性が高まることが期待できるという[360]。すでに米国やアジア、欧州の規制当局と調整を進めている。9カ月から18カ月程度で治験を終える計画としている。
新型コロナに対する治療薬ではギリアドのレムデシビル、アッヴィのカレトラ、富士フイルムのアビガンなどの有効性が指摘されてきたが、いずれも既存薬の応用で、新規開発を表明したのは武田薬品が初となる[359]。
当症状の禁忌薬
3月17日、世界保健機関(WHO)の報道官は、本ウイルス感染の疑いがある場合、医師の助言なしに抗炎症薬「イブプロフェン」を服用しないよう注意を促した。抗炎症作用の少ない「アセトアミノフェン」服用が望ましいとしていたが[361]、3月20日に「通常の副作用以外に、症状を悪化させるという報告はなかった」ことから「控えることを求める勧告はしない」とし、先の発表を事実上撤回した[362]。そのため、3月20日時点において禁忌薬に指定されている薬品は存在しない。ただし、ロキソニンなどのNSAIDSはサイトカインストームを起こし肺炎の可能性を上げるリスクは肯定もされていないが否定もされていない状況であるため、可能なら使わないほうが無難といえる。一般的な副作用を防ぐという観点も含め、解熱剤としての第一選択はアセトアミノフェンをと考えるのが現時点では妥当なところである(もちろん副作用のためアセトアミノフェンが使えない患者も存在する)。
医療機器
人工呼吸器
新型コロナウイルスは急性呼吸窮迫症候群や肺炎をもたらし、肺にダメージを与える[363]。治療法がまだない現状では、重篤化した場合に人工呼吸器が必要不可欠な医療機器となる[363]。イギリスの呼吸器疾患・救命救急医ラハルデブ・サーカーは「集中治療室に入った患者の死亡率は50―60%と推測される」とし、重篤患者に人工呼吸器を使用できなければ「数時間で死に至る」と言う[364]。米国の人工呼吸器メーカーであるベンテック・ライフ・システムズのキプルCEOは「ワクチンが開発されるまでのあいだ、命を救うために人工呼吸器の供給に注力せざるをえない」と述べる[364]。
WHOは3月1日、各国に人工呼吸器の確保を求めた[365]。
中国
中国の医療機器メーカー北京誼安医療系統は1月20日以来、24時間体制・3交代制で、研究開発部門のスタッフまでも生産ラインで働き、対応している。誼安医療は外国からの注文殺到で、昨年の数倍の売上高を見込んでいる[366]。
また、北京誼安医療はバルブやタービンといった主要コンポーネントをスイス、米国、オランダから輸入しており、パンデミックによるサプライチェーンの途絶えで困難な状況もある[364]。
イタリア
3月6日、イタリア政府は医療機器企業シアレ・エンジニアリング・インターナショナル・グループ(ボローニャ)に協力を求めた[364]。陸軍技術者も同社の生産管理者と協力し、通常月間生産量160台のところ、4カ月で2000台の生産を目指す。[364]。
エミリアロマーニャ州の医師チームは、1台の人工呼吸器から2人の患者に酸素を供給する方法を開発した[364]。
3Dプリンター事業のイシンノーバ(Isinnova)は、ロンバルディア州にあるガルドーネ・バル・トロンピア病院の元医長レナート・ファベロの提案で、3Dプリント技術を使ったシュノーケリングマスクと人工呼吸器をつなぐ医療用バルブの試作に成功した[367]。イシンノーバはこのバルブの特許権を取得したが、設計図を公開している[367]。また、イシンノーバが使用したのは仏デカトロン社製のシュノーケリング用マスクで、デカトロンは協力に前向きで、すぐにマスクの設計図を提供したという[367]。
イギリス
イギリスでは、NHSに成人用人工呼吸器が5000人分、子ども用900人分が備蓄されている[368]。英国政府は予備人工呼吸器を約8000台に積み増し、NHSは数週間で1万2000台弱まで増やすと述べた[364]。
3月15日、イギリス政府は人工呼吸器またはそのコンポーネントの供給に関して企業に支援を要請した[368]。7つのF1チームはユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、イノベートUK、ハイ・バリュー・マニュファクチャリング・カタパルトと提携し取り組むとした[368]。ほか、ロールス・ロイス、ジャガーランドローバー、エアバスなども要請を受けた[368]。コングロマリットであるマクラーレン・グループは、簡易人工呼吸器の設計を検討し、また日産自動車は、既存の人工呼吸器メーカーの支援に向けて他社と協調する[364]。
3月20日、マット・ハンコック英保健相は「生産可能な台数はすべて必要になるし、買い上げる」と述べた[364]。
3月27日、家電メーカーダイソンが、政府の依頼を受けて10日間で設計した新型人工呼吸器CoVentを開発したと発表した[369]。新型コロナウイルス感染症の患者に特化して対応できるもので、4月初めまでに使用態勢が整う[369]。政府からの注文は1万台で、この他ダイソンは各国に5000台を寄付するとしている[369]。
掃除機や芝刈り機のメーカーのジーテック(Gtech)も2種類の人工呼吸器試作品を政府に提出して審査を受けている[369]。
アメリカ合衆国
米国には16万台の人工呼吸器があり、さらに国家戦略備品として1万2700台があるが、3月22日、トランプ大統領はフォード、ゼネラルモーターズ、テスラによる人工呼吸器製造を要請した[363]。GMはベンテック・ライフ・システムズと提携し、テスラはメドトロニックとの提携を発表した[363][370]。テスラは一時閉鎖していたニューヨーク州の太陽電池工場を再稼働させて人工呼吸器を組み立てるという[371]。また、既存メーカーから購入した数百台の人工呼吸器をニューヨーク市の病院に寄付した[371]。フォードは「危機を前に国を支えるために力を合わせることが不可欠だ。そうすることでこれまでにも増して強くなる」と述べた[363]。
これに先立ち、3月18日にトランプ大統領は、緊急時に政府が産業界を直接的に統制できる権限を付与する国防生産法を発動した[372][373][371]。
3月27日、トランプ米大統領は国防生産法に基づき、GMに人工呼吸器の生産を正式に命令した[371]。GMは同日、医療機器メーカーと組んで生産を始めると表明、トヨタ自動車も人工呼吸器メーカーの増産を支援すると発表した[371]。これにより、GMには連邦政府の発注を優先する義務が生じる[371]。GMはインディアナ州の電子部品工場に呼吸器の生産設備を導入し、4月から月間1万台のペースで生産する[371]。トヨタは人工呼吸器のメーカー2社と連携して部品供給や物流を支援し、また3Dプリンターで医療用の簡易フェースガードを生産し、マスクの生産準備も進めている[371]。
全米病院協会は、旧式の人工呼吸器の復活や、麻酔機器の転用を検討している[364]。国防総省から同協会へ2000台の人工呼吸器が寄贈された[364]。
オランダ(フィリップス)
オランダ電機大手フィリップスは3月22日、人工呼吸器の製造を今後約2カ月で倍増、9月までに4倍にすると発表した[374]。フィリップスは現在、週千台生産している[374]。ドイツのドレーゲルとも連携する[374]。
スイス(ハミルトン)
スイスの医療機器メーカー、ハミルトン・ボナドゥーツ株式会社は、感染拡大が最も深刻なイタリアに優先的に製品を届けており、2020年3月現在昨年1年分の販売台数1500~2000台が1カ月で売れるという[375]。クローズドループ制御換気機能のある最新世代の人工呼吸器の価格は約6万フラン(約670万円)[375]。
ハミルトンCEOヴィーランドは「スイスには現在、合計1000~1200台の人工呼吸器がある。もしイタリア同様に感染状況が深刻になれば、需要は絶対に満たせないだろう」と述べた[375]。
スイスのハミルトンの昨年の生産台数は1万5000台だったが、今年は約2万1000台を目指す。ハミルトンは年間10億ドル以上の規模の人工呼吸器のグローバル市場で、売上高シェア約4分の1を占める[364]。
ハミルトンはルーマニア工場で人工呼吸器用ホースを製造しているが、「重要な医療機器」を理由として数週間ルーマニア当局によって出荷が止められるという問題も発生したが、政府を通じて解決した[364]。
ドイツ
ドイツでは、感染拡大が始まる前に各病院が約2万台の人工呼吸器を保有していたが、連邦政府はドレーゲルベルクに1万台を発注した[364]。
レーベンスタイン・メディカル・イノベーションのフランス支社長クリストフ・ヘンツェは、フランスにおける需要は、通常は年間約1000―1500台だが、現在では週に数百台まで増加しているという[364]。
日本
日本政府では経済産業省で人工呼吸器を3000台確保している[376]。
3月25日、旭化成は同社傘下の米国ゾールメディカルが米国内の部品メーカーから供給を受け増産し、現在の生産数の約25倍となる月1万台の生産を目指す[377][378]。
3月27日、広島大学トランス レーショナルリサーチセンターの木阪智彦准教授と国立病院機構新潟病院の石北直之医師は、3Dプリンターによる人工呼吸器代用装置のデータを無償提供すると発表した[379][380]。この装置は電気制御の必要がない[379]。
3月29日、西村康稔経済財政再生相は人工呼吸器増産に向けた調整を開始すると発表した[376]。
体外式膜型人工肺(ECMO)
防護具(PPE)
飛沫感染や接触感染を防ぐために個人用防護具(personal protective equipment,PPE)が各種ある。保護衣(ガウン、エプロン)、マスク(N95マスク、サージカルマスク)、ゴーグル、フェイスシールド、手袋、帽子(キャップ)、シューカバーなど[382]。
予後
初期の報告では重症化率が32%、死亡率が15%と高いものであったが[61]、症例の集積に伴い、現在では重症化率、死亡率はそれより低いことが判明している。WHOからの報告では軽症~中等症例が約80%、重症例が13.8%、重篤例が6.1%とされている[46]。死者の多くは、高血圧、糖尿病、免疫系を損なう心血管疾患など、他の疾患を併せ持っていた[384]。また、免疫系の過剰反応であるサイトカインストームによる重篤化するケースもある[385]。死亡に至った初期症例によると、疾病の判明から死亡までの中央値は14日であり、6日から41日までの幅があった[386]。
致死率・罹患率
2020年現在の流行では致死率が時間とともに変化し、疾患が診断可能になるまで進行した感染者の割合が不明なため、感染による全体的な死亡率と罹患率も不明である[387][388]。致命率(致死率)は、感染者数に占める死者の割合で、2020年現在のように感染が流行している段階では、感染者数値が変動するのに応じて致死率も変動する(例えば2月6日時点で武漢の致死率4.1%、湖北省以外の地域0.17%[389]。2月17日時点で武漢の致死率3.2%[389]。2月18日時点で湖北省以外の地域の致死率は0.63%[389]など、これは治療中の重症患者が死亡するケースが増えているためとみられる[389])。
予備調査では2%から3%の致死率が得られている[390]。WHOの予備調査で致命率は3%程度と推定[391]。[要出典]
3月6日、厚生労働省は「最悪の場合、発症者は人口の1割を超える」とする流行シナリオを公表した[392][393]。そのシナリオは次のピーク時の医療需要の目安 (1日あたり)の式によって表される[393]。
なお、各地によってピーク期が異なるため、全国の人口で計算することや単純に各自治体が算出するピークの数値を足し合わせることは、不適切な取扱いとなることに留意する必要がある[393]。また、この式は今後変更される可能性がある[393]。
- 外来患者数:(0-14歳人口)×0.18/100+(15-64歳人口) ×0.29/100+(65歳以上人口) ×0.51/100
- 入院患者数:(0-14歳人口)×0.05/100+(15-64歳人口)×0.02/ 100+(65歳以上人口) ×0.56/100
- 重症者数:(0-14歳人口)×0.002/100+(15-64歳人口) ×0.001/100+(65歳以上人口) ×0.018/100
ピーク時は、感染が拡大した時点から概ね3か月後に到来すると推計されている[393]。ただし、公衆衛生対策を行うことで、ピークが下がるとともに後ろ倒しされる[393]。
3月11日、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の長官ファウチ (Anthony S. Fauci) は中国を含めたデータから致死率は約3%だが、無症状患者もいるので実際の感染者はさらに多く、約1%と推定している[394]。[要出典]
3月12日、イギリスは最悪シナリオの罹患率はドイツの70%を上回る80% (全国民における割合)に設定して計画すると発表した[395]。
3月30日医学誌ランセットに発表した論文でICLの研究者は致死率(訳文では死亡率)を0.66%とした[396][397]。これ未確定例を含む場合で、感染確定例の死亡率は1.38%だった[396]。年齢別では80歳以上の死亡率は7.8%、50歳以上で入院確率が大幅に高くなり死亡率も高まり、40歳未満では0.16%、9歳未満の死亡率は0.00161%であった[397]。
致死率は、感染者が最終的には死亡か快復かで確定する。今後、どのように致死率が推移するか不明であるが、2020年5月1日現在の全世界の感染者の事象確定者が死亡 233,792人、診断された症例数3,276,373人であり致死率7.1%となる[398]。 同データベースを元にした日本の場合の致死率は3.1%(430/14,088)である。
WHOは、SARSについて当初は致死率は4%だとしていたが、最終的に致死率は9.6%と発表した[399]。
-
確認されている感染者と死亡者の比(国別)
-
COVID-19による進行中の致死率(国別)
他のウイルス感染症との比較
致死率 | 備考 | |
---|---|---|
スペインインフルエンザ (スペイン風邪) (H1N1型)[400] |
2-2.5%[401] またはそれ以上 (日本:2%[注 9]) |
1918-1919年流行。 患者数:世界人口の25-33%または5億人[402] 死者:4,000万~1億人 (世界人口8億人)[402] (日本:患者2300万人、死亡者38万~45万人)[402] 第一波は感染性は高かったが致死性ではなかった。 第二波は10倍の致死率。15~35歳の若年者層において最多の致死となり死亡例の99%が65歳以下だった[402]。 |
アジアインフルエンザ (アジアかぜ) (H2N2亜型) |
0.5%[401] (日本:0.02%[注 10]) |
1956-1957年流行。 中華人民共和国の貴州省・雲南省で発生し、世界へ伝播した[403]。 死者:200万人 (世界人口28.5億人)[401] (日本:罹患300万人、死者5,700人)[403] |
エボラ出血熱 (アフリカ) |
80-90% (ウイルスによって異なる[404]) |
アフリカで1976年から度々流行[404]。 軍隊により封じ込め、住民を外出させないことで収束したこともある[401]。 2014年にギニア・リベリア・シエラレオネ・マリ・ナイジェリアで大流行[404]。 2018年以降はコンゴ民主共和国北キヴ州・イトゥリ州で大流行、2019年7月WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」に指定した[404]。 予防:流行地域へ旅行しない。動物や患者に触れない。洞窟に入らない[404]。 モノネガウイルス目フィロウイルス科エボラウイルス属 (コウモリ由来のウイルス) |
高病原性鳥インフルエンザウイルス (H5N1型) |
30-80%[401] (または56%[405]-60%[400]) |
|
季節性インフルエンザ | 0.1% | [406][389] |
新型インフルエンザ (H1N1型) |
0.1%以下[401] (日本:0.001%、70歳以上は0.03%[406]) |
2009年流行。 死者:2万人 (世界人口68億人)[401] 「日本における2009年新型インフルエンザ」も参照。 |
風邪 (ヒトコロナウイルス229E、OC43、NL63、HKU1) | 不明 (非常に低い) | 人類全体に蔓延しており感染数は70億人とも推計され、風邪症候群の10〜15% (流行期35%) の原因を占める[407]。 ニドウイルス目コロナウイルス科 (ヒトコロナウイルス229E、OC43、NL63、HKU1の4種)[407] |
SARS (重症急性呼吸器症候群) |
9.6%[408]-11%[409] | 2002-2003年流行[408]。 ニドウイルス目コロナウイルス科 (コウモリ由来のウイルス) 致死率は24歳未満では1%未満、25〜44歳で6%、45〜64歳で15%、65歳以上で50%以上[408] |
MERS (中東呼吸器症候群) |
35% | 2012年から流行[410]。 ニドウイルス目コロナウイルス科 (ヒトコブラクダ由来ウイルス) |
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) |
不明。 以下、推定致死率。 *0.1-1% (米保健省ブレット・ジロワー次官補)[411][412] *0.66%(ICL)[396][397] *1%以下[413][412] *1% (NIAID[394]) *2-3% (予備調査[390]) |
2020年現在流行中。 ニドウイルス目コロナウイルス科 (コウモリ由来ウイルス) |
また、CDCはインフルエンザ・パンデミック重度指数 (Pandemic severity index, PSI) を作成している。
カテゴリー | 致命率 | 例 |
---|---|---|
1 | 0.1% 以下 | 季節性インフルエンザ、豚インフルエンザ[415][416] |
2 | 0.1–0.5% | アジアかぜ、香港かぜ |
3 | 0.5–1% | |
4 | 1.0%–2.0% | |
5 | 2.0% 以上 | スペインかぜ |
患者回復後のウイルス陽転化現象
この節の加筆が望まれています。 |
中国武漢の病院でPCR検査により診断されたCOVID-19患者に対して、PCRと血液、血清の診断の詳細を調べる研究があった。39例中15例が治療後も腸管や血液にウイルスを有していた。また、同病院の16例の研究で、0日めに口腔サンプルが陰性でも5日めに肛門サンプルが陽性化したのが4例あり、また、血清検査では治療直後陰性が治療5日後に検査すると陽転化するものが多かったという[417]。
一方、PCR検査で陽性反応が出て入院し、その後の検査で陰性となり症状も落ち着いたため退院したが、最初の発症から2週間以上経過して再び検査で陽性となったケースも出てきており、ウイルスの再活性化か別の型などの再感染の可能性が指摘されている[418][419][420][421]。今後の研究が待たれる。
医療機関の対応方法
医療学会
(注意:以下のガイドライン、対応策は随時改訂されるので、最新情報の確認が必要)
2020年2月4日、日本透析医学会は透析例への対応策[422]を発表した。
2月6日、日本産科婦人科学会が妊産婦への対応策[423]を発表した。
2月12日、日本環境感染学会は、「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第1版)」を公開した[424]。
2月16日、日本臨床腫瘍学会は、がん患者への対応を発表した。「明らかなエビデンスはないものの、米国CDC のガイダンス(2020年1月30日付)では、がんの罹患は重症化リスクの一つであるとされて」いる、また、「免疫抑制状態もリスク因子とされている」と記載されている[425]。
2月17日、日本医師会は、COVID-19への医療機関が講じるべき対応策の見直しを[426]配下の各医師会に通知し特設サイト にも掲載した[427]。要点は以下のとおり。
— 日本医師会、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策の見直しについて(R02.2.17)」(PDF) - 新型コロナウイルス関連感染症 都道府県医師会宛て通知
- 「新型インフルエンザ等発生時の診療継続計画作りの手引き」(2013年8月31日) [428]も参照し院内感染を防ぎ診療継続計画を見直すこと[429]。
- 今後、PCR検査は原因不明の肺炎で重症化が疑われる事例が主体となる。
- 特に、高齢者/糖尿病・心不全・透析・呼吸器疾患(COPD等)などの基礎疾患のある人/免疫抑制薬、抗がん薬等の使用者/妊婦 など高リスク例への対応に注意し、速やかに帰国者・接触者相談センター(外部リンク直・厚労省案内サイト)に相談すること。
2月26日、日本感染症学会は「COVID-19に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第1版」を公表した。要点は以下のとおり[126]。
- 概ね50歳未満の患者では肺炎を発症しても自然経過の中で治癒する例が多いため、必ずしも抗ウイルス薬を投与せずとも経過を観察してよい。
- 概ね50歳以上の患者では重篤な呼吸不全を起こす可能性が高く、死亡率も高いため、低酸素血症を呈し酸素投与が必要となった段階で抗ウイルス薬の投与を検討する。
- 糖尿病・心血管疾患・慢性肺疾患、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等のある患者においても上記2に準じる。
- 年齢にかかわらず、酸素投与と対症療法だけでは呼吸不全が悪化傾向にある例では抗ウイルス薬の投与を検討する。
— 日本感染症学会、「COVID-19に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第1版」(PDF)
- 抗ウイルス薬の選択としては、現時点で日本での入手可能性や有害事象等の観点より、ロピナビル・リトナビル(カレトラ®配合錠)、ファビピラビル(アビガン錠)を提示する。
- 他に使用できる可能性のある抗ウイルス薬には、レムデシビル、インターフェロン、クロロキン などがあるが、それらの効果や併用効果に関しては今後の知見が待たれる。
院内感染ほか
2月7日、武漢大学病院で検出された感染者のうち4割は、同大学病院で院内感染したと発表された[430]。患者138人のうち41%(57人)が院内感染で、17人が入院患者、40人が医療スタッフだった[431]。
韓国でも慶尚北道の病院で院内感染が発生した[432][431]。
日本の病院でも、牧田総合病院(東京都大田区)[433]、相模原中央病院[434]、相模原協同病院[435]、済生会有田病院(和歌山県湯浅町)[436]、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市[437])などで院内感染が発生し、一時的に休診となった。
オンライン診療
病院での感染(院内感染)のおそれがあるため、厚生労働省は2月28日、オンライン診療の手続きを簡略化した[438]。
オンライン診療が認められるのは複数回受診しているかかりつけ医で同じ薬を処方してもらう場合などに限られる[438]。
オンライン診療の手順としては、スマートフォンのテレビ電話を通じて、かかりつけの医師の診察を受け、問診を受けると薬の処方箋が薬局に送られる[438]。薬局での服薬指導もスマートフォンで受けることができ、その後、薬が自宅に配送される[438]。
公衆衛生施策上の対応
社会的距離戦略
ジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生学部のBruce Y. Leeは感染拡大を抑えるための社会的距離戦略として以下を列挙する[439]。(上記と重複するものもある)
- できるだけ家から出ない
- 2m以内に近づかない
- 体を密着させない
- 部屋、エレベーターのなかでも距離を置く
- 握手、ハグ、キスをしない(日本人のようなお辞儀など代わりになる方法を探す)
- 職場、学校、映画館、スポーツイベントを避ける(在宅勤務、遠隔授業、インターネット視聴などに切り替える)
- 食料品店やコインランドリーは空いている時間に行く
- ラッシュアワーを避ける(満員電車を避ける)
- ペン、押しボタン、ドアノブなど、多くの人が触れたものには触らない。触った場合は、すぐによく手を洗う。ペンは携帯する。
- 会議、集会、ハッピーアワーのバーを避ける。感染していないという確証が得られる人とだけ、少人数で集まる。
トイレおよび飲食品の管理
中国疾病予防管理センターは2020年2月15日、新型コロナウイルスには感染経路が複数あり、(例えばノロウイルスのように)糞口・経口感染することが「急速な感染の一因だと考えることができる」と論文で発表している[440]。
非接触サービス、リモートワーク
中国の外食産業は新型コロナウイルスへの対策として非接触化を進めており、非接触配達サービスや非接触レストランが登場している[441]。
会社業務などではリモートワーク (テレワーク・在宅勤務) の推進が行われている[442][443]。仕事や学業を効率化し、会議なども最小化してメールでできること(特に連絡事項)はすべてメールやチャットを使用し、自宅でできる仕事は自宅で行う対策が取られる。
また遠隔接客ロボットも登場している[444]。
集団感染・スーパー・スプレッダー
この節は世界的観点から説明されていない可能性があります。 (2020年3月) |
厚生労働省は2020年3月1日、これまでの日本の集団感染(クラスター)事例にスポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テントなどがあったとし、換気が悪く、人が密集して過ごす空間、不特定多数の人が接触する場所に行くことを避けるよう勧告した[445]。
集団感染の事例としては、さっぽろ雪まつりでの屋台[446]、住宅設備展示会(北海道北見市)[447]、病院(東京[433]、相模原市[434][435]、和歌山県湯浅町での院内感染[436]、大阪のライブハウス[448] [449][450]、ライブバー(北海道)[451]、名古屋市ではスポーツクラブ(感染36人)と福祉施設(感染45人)でクラスターが発生した[452]。
3月3日には、日本の集団感染9件では、そこからつながりのある感染者数が80人以上になることがわかった[447]。これは調査対象となった感染者260人のうち約30%を占める[447]。
韓国での感染者の行動履歴の事例では、はじめにキリスト教会で集団感染が発生し、うち一人が老人福祉施設の食堂で食事をして5人が感染。さらにその福祉施設会員の感染が病院で確認され、さらにその病院で院内感染が発生した[453]。
10人以上への感染拡大の感染源となった患者をスーパー・スプレッダーという[454]。韓国のMERS流行では特定の数名がスーパースプレッダーで、1人から86人に感染させた患者もいた[455]。
日本での新型コロナウイルス感染者の8割は他人に感染させていないが、残りの2割が1人以上の人に感染させており、1人から9人へ感染させた事例(屋形船)や、1人から12人へ感染させた事例(スポーツジム)もある[456]。感染症専門医忽那賢志もスーパースプレッダーにならないためには密集空間を避けるべきだとしている[455]。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は3月9日、これまで集団感染が確認された場所は、1.換気の悪い密閉空間[注 11]、2.多くの人が密集、3.近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声という3つが重なった場であり、このような場所を避けるよう勧告した[457]。同会議は集団感染を防ぐために以下を強く推奨した[457]。
3月12日、第一種感染症指定医療機関である都立駒込病院の今村顕史感染症科長は、現在の日本の状況では流行を抑えるために一番重要なのはクラスター(感染集団)対策であるとする[392]。クラスターの中で複数の人に感染を広げている人が見つかったら、徹底的に接触者(濃厚接触者)を調べるとする[392]。ジムに通っていた陽性者で、濃厚接触者数が約1400人となった例があった[392]。
3月19日に専門家会議は、現状は持ちこたえているが、あるとき突然爆発的に患者が急増(オーバーシュート)して、医療が提供できなくなれば、強硬なロックダウン措置(都市封鎖・店舗閉鎖・外出自粛など)を取らざるを得なくなると懸念した[458]。その上で引き続き、集団感染 (クラスター)の早期発見、重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保を維持し、また各地域は感染状況に応じて、密閉空間でのイベントや集会(3つの条件の重なる場所)など感染リスクの高いものは徹底的に回避しながら、感染が拡大していない地域においては感染リスクの低い活動から徐々に解除することもありえるとした[458]。
上記までの見解を踏まえ、新型コロナウィルス厚生労働省対策本部では、リスク要因の一つである「換気の悪い密閉空間」を改善するため、多数の人が利用する商業施設等においてどのような換気を行えば良いのかについて、有識者の意見を聴取しつつ、文献、国際機関の基準、国内法令基準等を考察し、推奨される換気の方法として、「「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法」を取りまとめた。
3月28日、新型コロナウイルス感染症対策本部より、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が発表され、この中で感染者を抑えること、医療提供体制や社会機能を維持することが重要であり、「三つの密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けること、疫学調査等によるクラスター発生の封じ込めが推進された[459]。なお、この三つの密のある空間を「3密」「集近閉」[460]と表現され[461]、広報されている[462]。
集団免疫
日本の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は3月2日に「感染症のなかには、大多数の人々が感染することによって、感染の連鎖が断ち切られ、感染していない人を保護する仕組みが機能できる」として集団免疫の考えに言及した[463]。
集団免疫は、市中感染が拡大する以前の隔離政策、またワクチンがない場合の対策として見なされている[463]。
東京大学名誉教授で獣医師の唐木英明は「新型コロナ騒動は、集団免疫を得るまでは終わらない。そうであれば、厳しい対策により感染者をゼロに近づけようと努力するのではなく、ドイツや英国に倣つて、医療崩壊を起こさないように注意しながら、ある程度の感染を容認して、集団免疫を得ることを考えるべきではないだろうか。そんなことをしたら死亡者が増える、という反対がある。しかし、感染の速度に関わらず、感染者が国民の最低60%にならないと新型コロナ問題は終わらないのだ。重症者の治療法を早期に確立して、死亡率を低下させることが最重要の課題である。」と指摘している[463]。
イギリスでの集団免疫についての議論
3月12日に英国政府は集団免疫で対策すると表明した[463]。
3月14日、イギリスの科学者は「社会距離戦略の即時実施提言」を発表し、政府の対応は不十分で、もっと厳しい「社会距離戦略」を速やかに実施すれば、国内の感染拡大を劇的に遅らせ、数万人の命を救うと主張した(3月16日迄に501人署名)[464][465]。また現時点で『集団免疫』を追求するのは有効ではないとした[465]。バーミンガム大学のウィレム・ファン・シャイク教授(微生物学)は、集団免疫の効果を目指すには、国内だけで3600万人が感染し回復しなくてはならないが、その人的コストの予測は不可能で、数万人から数十万人が死亡するとし、「NHSがパンクしてしまわないよう、数百万人の感染が長期間にわたり散発的に起きるように流行期間を引き伸ばすしかない」と述べた[465]。
イギリス保健省は「集団感染は、我々の行動計画の一部ではなく、感染症流行の自然な副産物だ。人命を救い、最も弱い立場の人たちを守り、NHSの負担を軽減することが、私たちの目標だ」とし、「感染対策はすでに封じ込めフェーズを過ぎて、感染拡大を遅らせる段階にきている」「今後数カ月の間に国内の免疫力がどういうレベルになるか、予測できている」と反論した[465]。
都市封鎖 (ロックダウン)
世界各国で感染拡大を抑えるために外出を制限する都市封鎖(ロックダウン)政策が取られた。
医薬品を使わない介入 (NPI)・集団感染緩和策
厚生労働省によれば、ウイルスなどによる感染対策の原則としては、
- (病原体を)持ち込まない
- (病原体を)持ち出さない
- (病原体を)拡げない
の3つがある[472]。
新型インフルエンザなどのウイルスによる感染対策には、医薬品による対策と、医薬品を使わない対策がある[473][474]。
- 医薬品による対策 (Pharmaceutical measures)とは、ワクチン、抗ウイルス薬など医薬品を用いた対策のことである。
- 医薬品を使わない対策・介入(Nonpharmaceutical Interventions, NPIs)は、集団感染緩和策(Community Mitigation)とも呼ばれ、以下の対策、予防が含まれる[475]。
- 学校、職場、イベント、集会など日頃集団が密集するような空間で、相互に間隔を置く。
- 閉鎖 (Closures)
- 学校、職場、イベント、スポーツ、宗教的な集会、フェスティバル、会議など人が集まる場所の閉鎖。
- 検疫の強化、水際対策
- 個人レベルでの予防対策
- (2020年日本での感染例から厚労省は、密集した空間などでクラスターが発生したため、換気を良くする、お互いの距離を1〜2mあける、近距離での会話や高唱を避けるよう勧告した)
新型ウイルスに対して人間は免疫を持っていないので感染が拡大するが、ワクチンが使用できない場合はNPIsは感染を制御する有効な方法とされる[475]。これまでの疫学解析で、最も有効な対策の組み合わせを最適なタイミングで実施することでかなりの程度被害が抑えられる[473]。
パンデミック発生リスクのフェーズが3から4(効率的なヒト-ヒト感染の発生)になった段階[476] で、サーベイランス(監視調査)中心の対策から、
- 早期封じ込め(rapid containment)
- 早期対応(early response)
- 被害の最小化(mitigation)
といった戦略が段階的に検討され、さまざまな対策が実施される[473]。
参考:Nonpharmaceutical Interventions (NPIs)、Community Mitigation Guidelines(CDC)
大気質の改善
PM2.5などによる大気質の悪化は、呼吸器や循環器などの様々な疾患のリスクを上昇させることが知られており、新型コロナウイルス感染症に対しても同様に悪影響があると考えられている[477]。
カナダのブリティッシュコロンビア州[478]や、米国のサウスカロライナ州[479]、アイダホ州[480]といった地域では、新型コロナウイルス感染症の被害軽減策として野焼きやキャンプファイヤーなどの屋外燃焼行為を禁止した。
脚注
注釈
- ^ "L type, which might be more aggressive and spread more quickly." doi:10.1093/nsr/nwaa036 の"ABSTRACT"より。
- ^ 日本感染症学会が、2月26日、抗ウイルス薬の選択として、以下を呈示した。
- ^ 日本の厚生労働省医薬・生活衛生局に相当。
- ^ 2月に入り中国国家薬監局[注 3]はファビピラビル(アビガン錠)を承認した[102]
- ^ 原文のsystematicはsystemicの間違い。
- ^ ラッセル音のこと。気管や気管支に異常があると、胸部聴診の際に聴こえる異常な肺音。→UMIN:患者状態項目 > 呼吸器症状の「肺雑音」を参照。
- ^ 西川伸一訳による[290]
- ^ 「分子標的薬などで本来の標的(on-target)とは異なる別の分子(off-target)を阻害,あるいは活性化してしまう効果」off-target効果実験医学online.
- ^ 日本の死者45万人を患者2300万人で割ると、0.01956...となり四捨五入で0.02.[402]。
- ^ 日本の死者5,700人を感染者300万人で割ると、0.0019...となる[403]。
- ^ 専門家会議の見解における「換気の悪い密閉空間」とは、一般的な建築物の空気環境の基準を満たしていないことを指すものと考えられる。その意味では、ビル管理法の基準に適合させるために必要とされる換気量(一人あたり必要換気量約 30m3 毎時)を満たせば、「換気の悪い密閉空間」には当てはまらないと考えられる。→「商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について」の「P.4」を参照。厚生労働省2020年3月30日
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関連項目
- 2019新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)
- 感染/感染症/伝染病
- 輸入感染症
- 感染経路
- 感染管理
- パンデミック
- 社会的スティグマ#社会的スティグマの事例
外部リンク
- Coronavirus disease 2019 - 世界保健機関(WHO)
- Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) - アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)WHO公式情報特設ページ - WHO神戸センター
- 新型コロナウイルス感染症について - 厚生労働省
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報について - 国立感染症研究所
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について - 国立国際医療研究センター
- 新型コロナウイルス感染症 - 日本医師会
- 新型コロナウイルス感染症 - 日本感染症学会
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について - 日本環境感染学会
- 新型コロナウィルス関連情報特設サイト - 日本疫学会
- 新型コロナウィルス関連情報特設サイト - 日本公衆衛生学会
- 新型コロナウイルス(covid-19)感染症対応 - 日本臨床衛生検査技師会
- COVID-19情報特設サイト - 東京都臨床工学技士会