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'''ゲンゴロウ'''('''ナミゲンゴロウ |
'''ゲンゴロウ'''('''ナミゲンゴロウ・オオゲンゴロウ'''などの別名あり、''Cybister japonicus''、並源五郎)は、[[甲虫類|コウチュウ目]][[ゲンゴロウ類|ゲンゴロウ科]][[ゲンゴロウ亜科]][[ゲンゴロウ属]]の[[水生昆虫]]<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158">{{Harvnb|森|北山|2002|pages=157-158}}</ref>。 |
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ゲンゴロウ類の代表種である本種はかつて[[日本]]では[[長野県]]・[[東北地方]]の一部など地方により[[昆虫食|食用にされる]]ほど高密度で生息し、秋に他産する生息池の水を落とした際には多数採集できたが<ref group="書籍" name="内山2007 p.52"/>、生息環境破壊・[[外来種|侵略的外来種]]の侵入・乱獲などにより[[2019年]]現在は絶滅が危惧される昆虫となっている<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>。 |
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== 分布 == |
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[[日本]]各地([[北海道]]・[[本州]]・[[四国]]・[[九州]])と[[朝鮮半島]]、[[台湾]]、[[中華人民共和国|中国]]、[[シベリア]]に分布し、[[垂直分布]]範囲も幅広い<ref name="mori_kitayama2002_p.157-158"/>。 |
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== 名称 == |
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日本では[[池]]や[[水田]]が身近であり、そこに棲む本種は[[1950年代]]ごろまでは日本各地の池や水田に普通に生息していた<ref name="mori2014_p.56-59">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=56-59}}</ref><ref name="uchiyama2007">{{Harvnb|内山|2007}}</ref>。そのようなこともあり、「田んぼの昆虫」といえば本種と[[タガメ]]が代表格として挙げられたほか<ref name="uchiyama2013">{{Harvnb|内山|2013}}</ref>、小学校の教科書でも身近な昆虫として扱われていたように<ref name="uchiyama2007"/>、本種は昔から親しまれてきたが、近年水田の農地改良による餌生物の減少や生息地の分断、池沼の埋め立て、護岸により幼虫が蛹になるために上陸することができないこと、[[農薬]]、[[水質汚染]]、[[ため池]]における[[ブラックバス]]や[[アメリカザリガニ]]の無差別放流などで全国的に激減し、かなりの珍品になってしまった<ref name="uchiyama2013"/>。現在、[[近畿地方]]以西の[[西日本]]の大半では山里の池沼に行かないとその姿を見ることはできず<ref name="uchiyama2007"/>、本種は山間部の人里にほど近い場所で、自然が保たれている池沼に見られる程度で、「本種を探す」意気込みがないと見つけにくくなっている<ref name="mori2014_p.56-59"/>。 |
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本種は単に「ゲンゴロウ」という和名ではあるが[[ゲンゴロウ類]](ゲンゴロウ科)の総称と区別しにくいため<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/><ref group="書籍" name="内山2013 p.112"/>、特に普通種だった本種を指す場合はゲンゴロウ類全体と区別できるよう「タダゲンゴロウ」「ナミゲンゴロウ」と呼称されていたが、後述のように生息数が激減しているために近年では「オオゲンゴロウ」「ホンゲンゴロウ」などの名称で呼ばれるようになっている<ref group="書籍" name="都築2003 p.142">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=142}}</ref>。またそれらの別名を略して「タダゲン」「ナミゲン」<ref group="書籍" name="都築2003 p.142"/>「オオゲン」「ホンゲン」などの愛称で呼ばれることも多い<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/><ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>。 |
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また一部地方では[[ヘビトンボ]]の幼虫と同じく本種幼虫を'''孫太郎虫'''(まごたろうむし)と呼称する場合がある<ref group="書籍">{{Cite web|title=『精選版 日本国語大辞典』孫太郎虫(まごたろうむし)|url=https://kotobank.jp/word/%E5%AD%AB%E5%A4%AA%E9%83%8E%E8%99%AB-136016|website=コトバンク|publisher=[[朝日新聞社]]|language=ja|accessdate=2019-02-28|archivedate=2019-02-28|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190228155736/https://kotobank.jp/word/%E5%AD%AB%E5%A4%AA%E9%83%8E%E8%99%AB-136016}}</ref>。 |
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[[1950年代]]から[[1970年代]]初めにかけて[[ベンゼンヘキサクロリド|BHC]]や[[ピレスロイド]]系、[[パラチオン]]など、強毒性[[農薬]]の使用で大きなダメージを受け、その災禍を免れて生き残ったゲンゴロウも水田の[[乾田]]化により、水田への水張から[[土用干し]]までの期間の短縮が行われた結果、[[田植え]]後に産卵され孵化した幼虫は上陸前に水がなくなって乾燥死してしまうようになったため、水田ではゲンゴロウの生活史をカバーできなくなった<ref name="uchiyama2007"/>。また、都市近郊だけでなく山間部の水田でも[[畔]]のコンクリート化が行われ、畔の草の中で暮らしていた[[バッタ]]や[[カエル]]が姿を消すとともに、ゲンゴロウや[[ヘイケボタル]]などは蛹化するために上陸して潜る場所を失っていった<ref name="uchiyama2007"/>。現在では恵まれた環境の池を除けば、水田の横の素掘りの溝が残っているような棚田でしか生息できなくなったが、その溝も[[圃場整備]]が進み消えつつある<ref name="uchiyama2007"/>。 |
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このほかかつて食用に用いていた長野県では'''トウクロウ'''という[[方言]]で呼ばれたほか<ref group="論文" name="長野県の伝統食"/>、[[新潟県]]の方言では成虫を[[ガムシ]]とともに「ガメ」「ガメムシ」「ガマ」「ワッパムシ」など、幼虫を「キイキムシ」と呼称した<ref group="その他" name="魚沼市"/>。 |
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そして、最近ではブラックバスによる食害が本種の減少に拍車をかけており、実際に秋田県で駆除のために捕獲された[[オオクチバス]]の胃から本種成虫や[[ガムシ]]、[[オオコオイムシ]]などが出てきている<ref name="uchiyama2007"/>。また、[[アメリカザリガニ]]による食害や、[[1990年代]]以降に[[ペット]]としての需要が高まったことで業者やマニアによる無秩序な採集により、残った生息地でも生息地の破壊による絶滅及び個体数の激減が起きている<ref name="uchiyama2007"/>。 |
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== 分布 == |
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かつては[[長野県]]や[[東北地方]]の一部など、地方によっては食用にされるほど高密度で生息し、他産する生息池の水を秋に落とした際には多数採集できた<ref name="uchiyama2007"/>、ゲンゴロウ類の代表種である本種も[[2017年]]現在は{{絶滅危惧II類|image=none}}に指定されている<ref name="rdb2017_VU">{{Cite web |title=環境省第4次レッドリスト(2012)昆虫類 |publisher=[[環境省]] |date=2012-08-28 |url=http://www.env.go.jp/press/files/jp/21555.pdf#page=7 |page=7 |format=PDF |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702230730/http://www.env.go.jp/press/files/jp/21555.pdf#page=7 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。生息地の消滅、個体数の減少の度合いは[[多摩地域]]での[[1970年代]]の記録が最後の記録とされている[[東京都]]<ref>{{Cite web |title=東京都の重要な野生生物種(本土部)解説版を作成 |publisher=[[東京都]] |date=2013-05-21 |url=http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/05/20n5l200.htm |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624162723/http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/05/20n5l200.htm |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}<br>{{Cite web |title=『レッドデータブック東京2013』ゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ) |publisher=[[東京都]] |url=http://tokyo-rdb.jp/kohyou.php?serial=1253 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624180038/http://tokyo-rdb.jp/kohyou.php?serial=1253 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref><ref>{{Cite news |title=都内のゲンゴロウ絶滅 ニホンヤモリも危惧種に |newspaper=『[[IZA|iza]]』(イザ!) |publisher=[[産業経済新聞社]] |date=2010-06-30 |url=http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/topics/410290/ |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20100702021940/http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/topics/410290/ |archivedate=2010-07-02 }}</ref>、[[神奈川県]]{{Refnest|group="注釈"|県内で最後まで確実に生息していたのは[[厚木市]][[上荻野]]のため池であるが、[[1990年代]]初めに行われた改修工事により絶滅し、その後の記録はない。農薬の大量使用とほぼ時期を同じくしてほとんどの地域から絶滅しており、県内の池沼に本種が生息可能な環境は残っていない<ref>{{Cite web |title=『神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006』 |publisher=[[神奈川県]] |date=2006-07-08 |url=http://conservation.jp/tanzawa/rdb/rdblists/detail?spc=535 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624162958/http://conservation.jp/tanzawa/rdb/rdblists/detail?spc=535 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。}}、[[千葉県]]{{Refnest|group="注釈"|[[清澄山]]([[1983年]])の記録が一番新しい。生息環境の大部分が消失した県北部での生息確認は難しいが、[[房総丘陵]]地帯に生息している可能性はある<ref>{{Cite web |title=レッドデータブック2011年版 |format=PDF |publisher=[[千葉県]] |date=2011-04-26 |url=http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/rdb-2011re/rdb-201108insect.pdf#page=79 |page=269 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170301005527/http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/rdb-2011re/rdb-201108insect.pdf#page=79 |archivedate=2017年3月1日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。}}、[[滋賀県]]で[[絶滅]]{{Refnest|group="注釈"|ため池の管理放棄や護岸工事で産卵場所となる水草が減ったこと、アメリカザリガニなど外来種による捕食、幼虫時に生息する水田で餌となるオタマジャクシなどが減っているのが原因。県内では1990年代の確認が最後とされている<ref>{{Cite news |title=ゲンゴロウ、湖国「絶滅」 滋賀県レッドデータブック |newspaper=『[[京都新聞]]』 |date=2016年5月23日22時20分 |url=http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20160523000165 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20160523165627/http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20160523000165 |archivedate=2016年5月23日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。}}、また[[大阪府]]{{Refnest|group="注釈"|府内唯一の産地として<ref name="大阪RDB"/>、[[茨木市]]北部の湿地が知られていたが、[[1991年]]、野尻湖昆虫グループ([[大阪市立自然史博物館]]に事務所所在)の調査による生息確認を最後に<ref>『[[読売新聞]]』1991年9月17日大阪朝刊第二社会面26面「ゲンゴロウ絶滅の危機 西日本では大阪府で1匹確認 野尻湖昆虫グループが調査」</ref>、その生息地が消滅した<ref name="大阪RDB"/>。このことにより、翌[[1992年]]以降、府内では確実な生息記録が確認されていない<ref name="大阪RDB">{{Cite book |publisher=大阪府環境農林水産部緑の環境整備室=大阪府における保護上重要な野生生物 大阪府レッドデータブック |date=2000-03 |locatino=大阪府 |NCID=BA47163920 }}</ref>。}}、[[和歌山県]]{{Refnest|group="注釈"|1990年頃には、旧[[本宮町 (和歌山県)|本宮町]](現[[田辺市]])皆地が、県内における唯一の確実な生息地になってしまったが、その後同地も、生息地改修工事のために環境が激変し絶滅した<ref name="wakayama_rdb2012_p122">{{Cite web |title=レッドデータブック2012年改訂版 |format=PDF |publisher=[[和歌山県]] |date=2012-10-15 |url=http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf#page=16 |page=122 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624164725/http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf#page=16 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。[[かつらぎ町]]にも本種の生息地があったが、近年圃場整備のための大規模な改修工事がなされ、絶滅が危惧されている<ref name="wakayama_rdb2012_p122"/>。}}、[[佐賀県]]{{Refnest|group="注釈"|1992年までは4産地([[佐賀郡]][[富士町 (佐賀県)|富士町]]杉山、[[東松浦郡]][[浜玉町]]鳥巣、[[東松浦郡]][[七山村]][[樫原湿原]]、[[神崎郡]][[脊振村]]一谷)が知られていたが、脊振村の産地では1993年から翌1994年にかけて生息池が埋め立てられて絶滅しており、他の産地も個体数が少ない上に池にゴミなどが投げ込まれている<ref name="saga_rl2012_p114"/>。}}<ref name="saga_rl2012_p114"/>などでも絶滅したとみられ、そして[[群馬県]]では群馬県希少野生動植物の種の保護に関する[[条例]]により「特定県内希少野生動植物種」に指定され採集禁止となるなど<ref>{{Cite web |title=特定県内希少野生動植物種の指定の案について縦覧しています |publisher=[[群馬県]] |date=2015-06-05 |url=http://www.pref.gunma.jp/04/e2300349.html |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624164806/http://www.pref.gunma.jp/04/e2300349.html |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、同じレッドデータブック記載種であるタガメを凌ぐ深刻さである。同様に後述する近縁種も減少が著しく、マルコガタノゲンゴロウのように本種以上に危機的状況に晒されている種もある。一方で[[青森県]]、[[秋田県]]などの[[東北地方]]や長野県・[[山梨県]]・[[新潟県]]など一部の地域においてはまだ多産地が残っており、平地の沼や水田でも本種の姿を見ることができる場合がある<ref name="uchiyama2007"/>。 |
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[[日本]]本土各地([[北海道]]・[[本州]]・[[四国]]・[[九州]])・[[朝鮮半島]]([[大韓民国]]・[[朝鮮民主主義人民共和国]])・[[中華人民共和国]](中国)・[[台湾]]<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>・[[ロシア連邦]][[シベリア]]南部<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>に分布するが<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>、[[南九州|九州南部]]ではより南方に生息するコガタノゲンゴロウが優占しており、近縁種のフチトリゲンゴロウ・ヒメフチトリゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウが生息する[[南西諸島]]には分布しない<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>。大韓民国(韓国)では[[1991年]]にゲンゴロウの[[切手]]が発行されている<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>。 |
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元来は[[亜熱帯]]から分布を拡大した南方系の種類で<ref group="書籍" name="市川2010 p.4">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=4}}</ref>、南方種群の代表格である本種はゲンゴロウ属として最も北方まで分布している<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>。[[日本列島]]には南方種群である本種などゲンゴロウ属のほか[[ゲンゴロウモドキ属]]([[シャープゲンゴロウモドキ]]など)も生息しているが<ref group="書籍" name="市川2010 p.5">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=5}}</ref>、ゲンゴロウモドキ属は[[ユーラシア大陸]]から分布を拡大し<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>、[[亜寒帯]](冷帯)のシベリア方面から日本へ進出してきた北方種群であるため<ref group="書籍" name="市川2010 p.4"/>、日本列島は北方・南方のゲンゴロウ類両種群が混在する地域となっており、日本におけるナミゲンゴロウの分布北限である北海道などでは本種とゲンゴロウモドキ属の種(ゲンゴロウモドキ・エゾゲンゴロウモドキ)が同じ池に生息していることもある<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>。 |
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本種は和名がゲンゴロウ科全般を指す場合と区別しにくいため、特に本種を指す場合は「タダゲンゴロウ」「ナミゲンゴロウ」「オオゲンゴロウ」「ホンゲンゴロウ」、またこれらを略して「タダゲン」「ナミゲン」「オオゲン」「ホンゲン」などの愛称で呼ばれることが多い<ref name="mori_kitayama2002_p.157-158"/><ref name="mori2014_p.56-59"/>。 |
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[[ヒルムシロ]]・[[ヒシ]]・[[コウホネ]]・[[ミクリ]]・[[ヒツジグサ]]<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>・[[オモダカ]]<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>・[[ジュンサイ]]<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>など[[水生植物]]が豊富な止水域環境を好み<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>、やや水深のある[[池沼]]<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>・[[ため池]]・[[田|水田]]および水田脇の水たまり・休耕田<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>・[[湿地]]<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>・流れの緩やかな[[用水路]]などに生息する<ref group="書籍" name="都築2003 p.141">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=141}}</ref>。 |
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[[垂直分布]]範囲も幅広く<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>平野部 - 山間部にかけて生息するが<ref group="RDB" name="RDB-2014"/><ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>、後述のように平野部ではほぼ絶滅している<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>。 |
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== 特徴 == |
== 特徴 == |
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成虫の体は全長34 - 42mmの比較的平たい卵形で<ref name=" |
成虫の体は全長34 - 42mmの比較的平たい卵形で<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>、世界各地のゲンゴロウ類で最大級の部類に入る<ref group="書籍" name="都築2003 p.140"/>。体色は緑色か暗褐色で光沢があり<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>、光加減で緑色に輝くが<ref group="書籍" name="内山2013 p.112"/>♀は細かいしわが多数あるため<ref group="書籍" name="海野1999 p.6">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|page=6}}</ref>光沢が弱くなる<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。頭楯・前頭両側・上唇・前胸背および上翅側縁部は黄色 - 淡黄褐色で、この上翅の黄色帯は肩部を除き側縁には達せず翅端に向かって徐々に細くなり、翅端部には不明瞭な雲状紋がある<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。頭部は前頭両側の黄色部の内方に浅いくぼみがあり、前胸背は♂では前縁部に点刻がある他は滑沢だが、♀では全面的にしわがある<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。上翅には3条の点刻列があり、♂では滑らかだが♀では翅端部以外に密なしわがある<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。触角・口枝は黄褐色、脚は黄褐色から赤褐色で、符節はやや暗色になる<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。雌雄とも後脚付節には両側に遊泳毛がある<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。腹面は黄色から黄褐色で光沢が強く、前胸腹板突起・後胸内方・後基節内方は黒色である<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。♂の交尾器中央片先端部は単純で急に細くなる<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。 |
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幼虫は細長い紡錘形で体長は63.7 - 77.9mm |
幼虫は細長い紡錘形の体形で<ref group="論文" name="上手2008 p.129">{{Harvnb|上手|2008|page=129}}</ref>体長は63.7 - 77.9mmである<ref group="論文" name="上手2008 p.138-139"/>。幼虫は6対の単眼・細長い<ref group="論文" name="上手2008 p.129"/>9節の触角<ref group="論文" name="上手2008 p.138-139">{{Harvnb|上手|2008|pages=138-139}}</ref>・鎌形の大顎<ref group="論文" name="上手2008 p.129"/>・9節の小顎ひげ・4節の下唇ひげを持つほか、各脚の[[関節肢|腿節・脛節・跗節(フ節)]]と腹部第7・8節に遊泳毛を持つ<ref group="論文" name="上手2008 p.137">{{Harvnb|上手|2008|page=137}}</ref>。背面は灰褐色あるいは黄褐色で黒斑点が散在し、中胸部 - 腹部第8節の中央部に白色条線を持つ<ref group="論文" name="上手2008 p.138-139"/>。中胸部 - 腹部第8節の両端には黒色帯があるが硬化した部分以外は不明瞭で、側面・腹面は白色 - 灰白色である<ref group="論文" name="上手2008 p.138-139"/>。頭部・前胸および腹部第7・8節の硬化した部分は黄褐色あるいは暗褐色を帯びた白色 - 灰白色で、脚は黄褐色である<ref group="論文" name="上手2008 p.138-139"/>。頭部は亜方形でゲンゴロウ属各種の幼虫は頭楯の前縁がW字型に切れ込むが、中でも本種は切れ込みの両端の隆起が他種に比べて強い<ref group="論文" name="上手2008 p.138-139"/>。 |
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== 生態 == |
== 生態 == |
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成虫は主に[[ため池]]など水深の深い場所に好んで生息する一方で水田・放棄水田など浅い水域では繁殖期を除いて確認できないことが多い<ref group="書籍" name="都築2003 p.143-144">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|pages=143-144}}</ref>。これは水田・放棄水田など水深の浅い水域には[[サギ]]・[[カラス]]など鳥類をはじめ天敵が多いため、それら天敵から身を守るためと考えられる<ref group="書籍" name="都築2003 p.144"/>。一方で幼虫はため池・放棄水田のどちらでも確認できるため<ref group="書籍" name="都築2003 p.144"/>、水生植物が多数茂る山里の池では成虫・幼虫ともに観察できる<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>。 |
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[[ヒルムシロ]]、[[オモダカ]]などの[[水生植物]]が豊富な[[池沼]]や[[放棄水田]]、[[湿地]]に生息する<ref name="mori_kitayama2002_p.157-158"/>。 |
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谷津田に隣接してため池があるような場所では繁殖目的で池と水田を往復する成虫の生態を観察することができる<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>。 |
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[[成虫]]は活動期の春から秋頃(水温が25度前後に上昇する4月頃から)に交尾し<ref name="unno1999"/>、♀成虫は[[ホテイアオイ]]、[[オモダカ]]類、[[コナギ]]、[[セリ]]、[[コウホネ]]、[[カンガレイ]]、[[ヒルムシロ]]など、直径5mm前後で内部がスポンジ状になった<ref name="unno1999"/>、いわゆる[[水田雑草]]を含む[[水草]]の茎に直径約2 - 4mmの円形の噛み傷を付け<ref name="unno1999"/>、茎内部の組織内に1、2個[[産卵]]する<ref name="ichikawa2010">{{Harvnb|市川|北添|2010}}</ref><ref name="unno1999">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|pages=6-11}}</ref><ref name="mori_kitayama2002_p.157-158"/>。♀成虫は飼育下で餌を十分に与えられている場合、1シーズンに約30個 - 60個産卵するが、飼育密度が高いと♀1匹あたりの産卵数、孵化率が目減りする<ref name="mori2014_p.56-59"/>。♀の腹端には出し入れできる左右に扁平な[[産卵管]]があり、それを噛み傷に挿し込み産卵する<ref name="ichikawa2010"/>。ただし、[[イネ]]の茎は表面が固すぎるのと、ストロー状で産み付けた卵が茎の中にとどまらないことから、イネの茎には産卵しないようである<ref name="ichikawa2010"/>。植物組織が腐敗して繊維だけになっても卵は孵化できるため、植物組織内に産卵するのは、魚などの天敵に捕食されるのを避けるためだと考えられる<ref name="uchiyama2007"/>。 |
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=== 成虫 === |
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卵は幅約1mm、長さ約13mmの細長い形で、産卵後約2週間程度で[[孵化]]する<ref name="unno1999"/>。[[幼虫]]は細長い体をしており、孵化直後の1齢幼虫は体長約25mm(卵の全長の約2倍)で、脱皮して体長約40mmの2齢幼虫に変態し、さらにもう1回脱皮して体長約60mmの3齢幼虫(終齢幼虫)に変態する<ref name="ichikawa2010"/>。脱皮は水中で行い、まず胸部の背中側が中心から割れ、その割れ目が前後に広がるとともに幼虫の胸部・頭部が抜け殻から抜け出し、最後に腹部が抜けて脱皮完了となる<ref name="ichikawa2010"/>。終齢幼虫(3齢幼虫)は成虫の体長のほぼ2倍(上陸直前では胴径約1cm、体長約8cm)にまで成長する<ref name="unno1999"/><ref name="ichikawa2010"/>。頭部には外部からも目立ち小動物の捕獲に適した鎌状に長く伸びた鋭い大顎が発達しているが、これは成虫と違い、ほぼ完全に生きた獲物の捕食に依存して成長するために発達した、獲物の捕獲に特殊化した器官である<ref name="unno1999"/>。幼虫期間は孵化から上陸まで約40日間だが、水温が低かったり、エサが不足すると長期化する<ref name="ichikawa2010"/>。また、幼虫期間中に生息地の田んぼなどの水が干上がると乾燥死する<ref name="ichikawa2010"/>。 |
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成虫は「水の抵抗の少ない流線型の体型」「効率よく水を掻くことのできるようにブラシ状の毛の生えた長く太い後脚」「水中で呼吸するための空気を溜めることができる構造」など「遊泳に非常に適した体の構造」を持つため、水生昆虫の中でも特に遊泳能力に優れており、獲物を求めて2本の後脚を同時に動かし、ボートのオールを漕ぐように活発に泳ぎ回る<ref group="書籍" name="市川2010 p.10">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=10}}</ref>。タガメ・タイコウチなどが植物の繁茂する水際域を生活圏としている反面、本種は水際だけでなく水草の少ない池の中央部なども日常的な生活圏としている<ref group="書籍" name="都築2003 p.142"/>。 |
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成虫は[[肉食動物|肉食性]]であるがタガメの前脚・消化液ほど強力な武器を持たないため、生きた魚類などを捕食することはあまり得意ではない<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>。そのため健康な子ブナ・ドジョウなどを襲って捕食する力はなく<ref group="書籍" name="内山2007 p.56"/>、幼虫とは異なり死んで間もなかったり弱ったりした小魚などの小動物・昆虫を摂食することが多いが<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>、メダカなどの小魚・ヤゴ<ref group="書籍" name="市川2010 p.14"/>・動きの鈍い獲物・水面に落下した昆虫などは生きていても捕食することができる<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>。 |
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幼虫は非常に凶暴なプレデターで、動くものなら何でも襲って捕らえ、激しく共食いをする<ref name="uchiyama2013"/><ref name="mori2014_p.56-59"/>。1齢幼虫は主に[[ミジンコ]]や[[アカムシ]]、[[ボウフラ]]、[[イトトンボ]]類のヤゴなどを、2齢幼虫・3齢幼虫は[[ホウネンエビ]]、[[ドジョウ]]や[[メダカ]]、[[キンギョ]]などの[[小魚]]や[[オタマジャクシ]]類、[[ヤゴ]]などの[[水生昆虫]]類、小さな[[カエル]]類、水面に落ちた昆虫類、飼育下では[[バッタ]]や[[コオロギ]]などの[[昆虫]]類を食べる<ref name="ichikawa2010"/>。飼育下ではコオロギなどの昆虫類を与えないと羽化率(成虫まで育つ割合)が低くなるようである<ref name="ichikawa2010"/>。 |
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* 成虫は爪のある前脚・中脚で弱った小魚・甲殻類・水生小動物などの獲物を捕獲し、強力な顎で肉をかじって食べる<ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>。 |
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* また本種を含む大型のゲンゴロウ類(ゲンゴロウ属・[[ゲンゴロウモドキ属]]など)と小型のゲンゴロウ類(シマゲンゴロウ・ハイイロゲンゴロウなど)を同じ水槽で飼育すると、小型のゲンゴロウ類はナミゲンゴロウなどに捕食されてしまう<ref group="書籍" name="市川2010 p.14">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=14}}</ref><ref group="書籍" name="内山2007 p.56"/>。 |
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* 成虫は餌の匂いに非常に敏感であり、水面に落ちた昆虫や傷ついた[[魚]]の匂いなどを感じ取ると遠くから集まってくる<ref group="書籍" name="市川2010 p.14"/>。顎の力は非常に強く、口から消化液を吐き出して獲物を溶かしながら齧り取る<ref group="書籍" name="市川2010 p.14"/>。 |
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夜間は活発に飛び回り、水系間を移動したり(正の[[走光性]]により)[[水銀灯]]などの灯火などにも飛来したりするが、いったん上陸してからでないと飛翔できない<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190">{{Harvnb|森|北山|2002|pages=189-190}}</ref>。内山りゅうは「初めてナミゲンゴロウの野生個体を目にした島根県山間部の池ではナミゲンゴロウ・クロゲンゴロウ・[[ガムシ]]・[[タイコウチ]]・[[ミズカマキリ]]など多様な水生昆虫が観察できるが、5月初旬にはこれらの水生昆虫が忽然と姿を消し、9月初旬ごろから再び姿が見られるようになった。その4か月に及ぶ空白の時期は水温が高くなるため『水温の低い深い場所に移動しているのではないか?』と思い池の深い場所を探してみてもゲンゴロウたちはいなかった一方、ゲンゴロウなどが街頭に飛来したり幼虫類が水田で確認できたりしたことから『少なくともゲンゴロウたちはその場所では季節に応じて生活場所を移動している。“越冬に適した深い池”と“繁殖・摂餌などに適した水田など浅い水域”を使い分けている』と推測した」と述べている<ref group="書籍" name="内山2013 p.115">{{Harvnb|内山|2013|page=115}}</ref>。 |
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[[大顎]]は[[注射針]]状になっており、獲物に食いつくと獲物を麻痺させる[[毒]]と[[消化液]]を同時に体内に注入し、体液と、消化されて液状化した筋肉や内臓などの組織を毒と消化液の注入に使われた大顎内の管から吸収し、口の入り口の毛で固形物を[[ろ過]]して除き、消化管に飲み込む<ref name="unno1999"/>。このため、幼虫自身の体の大きさに比べて比較的大きい獲物まで瞬時に麻痺させて捕食することができる上、幼虫に咬まれると、ヒトの指でも消化液による組織の[[壊死]]を起こしたり、それによる重症の[[蜂窩織炎]]にまで至る症例が報告されているので、安易に素手を近づけることは極めて危険である。 |
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成虫で[[越冬]]する<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>。成虫は水生昆虫の中でも長寿命であり飼育下では約2年 - 3年生き、長いものでは約6年近くにわたって生きた記録もある<ref group="書籍" name="都築2003 p.140">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=140}}</ref>。野生個体の越冬に関して詳しい生態は判明していないが<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>、市川憲平は[[内山りゅう]]の『今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち』(2007年・[[山と渓谷社]])にて「おそらく水中の枯葉の下・泥の中などで冬眠しているようだ」と考察しており<ref group="書籍" name="内山2007 p.59">{{Harvnb|内山|2007|page=59}}</ref>、都築裕一は「湧水などがあり真冬でも(少なくとも水面以外は)凍らない池沼などを選んでいるようだ。自分たちの調査では水面が完全に凍結した山間部のため池で氷のすぐ下の水中にて活動している姿を観察した。[[ミズカマキリ]]と同じように多数の個体が集まって越冬することも多いようだ」と述べている<ref group="書籍" name="都築2003 p.142"/>。屋内飼育下では特別な処置がなくとも問題がないため「はっきりとした越冬行動は持たない」とする見方もある<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>。 |
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水中に適応したゲンゴロウでも、一生全てを水中で過ごすわけではなく、成熟した終齢幼虫は孵化から約40日ほど経つと、日没後約1, 2時間後に上陸する<ref name="ichikawa2010"/>。上陸が近づくと、幼虫は餌に見向きもしなくなり、飼育下では飼育容器の中を泳ぎ周り、出たがる様子を見せる<ref name="unno1999"/>。適当な場所を見つけると固くなった頭部と胸部をスコップのように使って土中に潜り<ref name="ichikawa2010"/>、直径4cmほどの球形の[[蛹室]]を形成し、約8日 - 10日間の[[前蛹]]期を経て、約25分間の脱皮で[[蛹化]]する<ref name="ichikawa2010"/>。飼育環境では、斜面が土であればかなりの角度でも登ることがわかっている<ref name="uchiyama2013"/>。なお、蛹化に際してはあまり水際から離れない場所の土に潜る<ref name="uchiyama2013"/>。[[蛹]]は蛹化後約10日 - 2週間後に約2時間の脱皮で[[羽化]]し<ref name="ichikawa2010"/>、羽化後1週間前後経過すると地上に這い出してくる<ref name="unno1999"/>。新成虫は8月 - 10月に出現する<ref name="mori_kitayama2002_p.157-158"/>。 |
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多くの水生昆虫は飛翔行動前に体を乾かして体温を上昇させるために上陸して甲羅干しを行う習性があるが、タガメ以外の[[水生カメムシ類]](水生半翅目)の多くが日常的な甲羅干しを必要としないのに対しゲンゴロウ類など水生甲虫類の場合は[[ミズカビ]]発生を防ぐなど飛翔目的以外のため日常的に甲羅干しをよく行い<ref group="書籍" name="都築2003 p.146"/>、長い時では約2時間ほどにおよぶ<ref group="書籍" name="内山2007 p.57">{{Harvnb|内山|2007|page=57}}</ref>。甲羅干しは日光浴<ref group="書籍" name="内山2007 p.56"/>・体温調節・[[殺菌]]のためと考えられており<ref group="書籍" name="市川2010 p.40"/>、飼育下でこの行動を阻害すると<ref group="書籍" name="都築2003 p.146"/>体表<ref group="書籍" name="内山2007 p.56"/>・後脚付け根部分に[[ミズカビ]]が発生したり<ref group="書籍" name="都築2003 p.146"/>、水生菌による[[感染症]]を起こしやすくなる<ref group="書籍" name="市川2010 p.40">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=40}}</ref>。 |
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成虫は、水の抵抗の少ない流線型の体型、効率よく水を掻くことのできるようにブラシ状の毛の生えた長く太い後脚、水中での呼吸用の空気を溜めることのできる構造など、遊泳に非常に適した体の構造を持つ<ref name="ichikawa2010"/>。このため水生昆虫の中でも特に遊泳能力に優れており、獲物を求めて活発に泳ぎ回る<ref name="ichikawa2010"/>。2本の後脚を同時に動かし、ボートのオールを漕ぐように上手に泳ぐ<ref name="ichikawa2010"/>。 |
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成虫は魚のような鰓呼吸ではなく他の陸上昆虫と同様に[[空気]][[呼吸]]をするが、'''プラストロン呼吸'''と呼ばれる独特の呼吸方法を取る<ref group="書籍" name="内山2007 p.56"/><ref group="書籍" name="内山2013 p.112"/>。成虫は[[気門]]が腹部の背側に開いており、尾端から気泡として水中に突出させて上翅と腹部背面の間にあるわずかな空間に新鮮な空気を貯蔵し、水中で翅の下にある腹部の気門<ref group="書籍" name="市川2010 p.13"/>(尾端に近い気門)<ref group="書籍" name="市川2010 p.13"/>から酸素を吸収する<ref group="書籍" name="市川2010 p.13">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=13}}</ref>。この気泡内の[[酸素]][[分圧]](酸素濃度)が下がり[[二酸化炭素]]分圧が上がると、水中に二酸化炭素が溶け出して逆に[[酸素]]が気泡の空気中に入り込む<ref group="書籍" name="市川2010 p.13"/>。このためいったん翅の下に空気を取り込んで潜水すると、そこに元々含まれていた量以上の酸素を得て長く潜水活動をすることができる<ref group="書籍" name="市川2010 p.13"/>。酸素消費量が少ない冬季はガス交換のため水中に上がってくる頻度が低下する一方<ref group="書籍" name="市川2010 p.13"/>、水温が高く水中酸素溶存量が少ない垣は頻繁に水面でガス交換を行う<ref group="書籍" name="内山2007 p.56"/>。 |
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成虫は幼虫と同様[[肉食動物|肉食性]]であり、爪のある前脚と中脚で、弱った小魚や甲殻類・水生小動物などの獲物を捕獲し、強力な顎で肉をかじって食べる<ref name="mori2014_p.56-59"/>。餌は幼虫とは異なり、死んで間もなかったり弱った小魚などの小動物や昆虫を摂食することが多いが、飢えている場合は共食いすることもあり、健康な個体を捕食する例も確認されている<ref name="ichikawa2010"/>。また、小型のゲンゴロウ類とナミゲンゴロウを同じ水槽で飼育すると、小型のゲンゴロウ類はナミゲンゴロウに捕食されてしまう<ref name="ichikawa2010"/>。匂いに非常に敏感であり、水面に落ちた昆虫や傷ついた[[魚]]の匂いなどを感じ取ると、遠くから集まってくる<ref name="ichikawa2010"/>。顎の力は非常に強く、口から消化液を吐き出して獲物を溶かしながら齧り取る<ref name="ichikawa2010"/>。 |
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自然下における成虫の天敵は[[ブラックバス]]([[オオクチバス]])・[[アメリカザリガニ]]・[[ウシガエル]]・[[コイ]]など侵略的外来種のほか<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>、在来種でも[[サギ]]・[[ツル]]<ref group="書籍" name="内山2007 p.56">{{Harvnb|内山|2007|page=56}}</ref>・[[カラス]]<ref group="書籍" name="都築2003 p.144"/>など鳥類・[[ナマズ]]がいる<ref group="書籍" name="市川2010 p.38-39"/>。幼虫はイモリ・水生昆虫類などに捕食されるほか<ref group="書籍" name="西原2008 p.12">{{Harvnb|西原|2008|page=12}}</ref>、3齢幼虫では成虫時の天敵に加えて[[タガメ]]・[[タイコウチ]]がいるが、タガメ・タイコウチ・ナマズはゲンゴロウと同様に水田から姿を消したため、現在はブラックバスなど外来種とサギが主な成虫の天敵となっている<ref group="書籍" name="市川2010 p.38-39">{{Harvnb|市川|北添|2010|pages=38-39}}</ref>。[[新潟県]][[佐渡島]]では[[第二次世界大戦]]前に「[[シャープゲンゴロウモドキ]]の成虫が[[トキ]]に捕食されていた」という記録がある<ref group="書籍" name="西原2008 p.12"/>。 |
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夜間は活発に飛び回り、水系間を移動するのに使われたり、また灯火などにも飛来する<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190">{{Harvnb|森|北山|2002|page=189-190}}</ref>。飛翔に関してはいったん上陸してからでないと飛び立てない<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。 |
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身の危険を感じると頭部と胸部の間から白濁した臭い液体を分泌させるが、人間がこの液体を舐めるとかなり苦く感じることから「天敵の鳥類に襲われて捕食されそうになった際に逃げる手段」「近くの仲間に危険を知らせる警戒フェロモンのような働きをしている」などと考察されている<ref group="書籍" name="都築2003 p.144"/>。 |
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成虫で[[越冬]]し<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>、成虫は水生昆虫の中でも寿命が長く、飼育下では約3年程度生きる場合もある<ref name="unno1999"/>。越冬についてはよくわかっておらず、凍結した水面のすぐ下で活動しているのが観察されているケースもある<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。屋内での飼育下では特別な処置がなくとも問題がないため、はっきりとした越冬行動は持たないとする見方もある<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。 |
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==== 繁殖活動 ==== |
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よく水から陸上に上がって甲羅干し行動をとるが、これは体温調節・[[殺菌]]・[[飛翔]]の準備などのためだと考えられており、飼育下でこの行動を阻害すると、[[ミズカビ]]類などの水生菌による[[感染症]]を起こしやすくなる<ref name="ichikawa2010"/>。 |
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成熟した成虫は冬季を除いて頻繁に交尾するが<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>、市川憲平は[[内山りゅう]]の『今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち』(2007年・[[山と渓谷社]])にて「産卵期は4月中旬・下旬ごろに始まり約2か月間続く。5月中旬になると水田・溝などで幼虫の姿が観察できるようになる」と述べている一方<ref group="書籍" name="内山2007 p.59"/>、都築裕一は「産卵に至るのは6月 - 8月ごろの夏季に限られている」と述べている<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>。交尾行動は昼夜を問わず頻繁に行われるがゲンゴロウの産卵には温度以外に日照時間が大きな条件となっており、水温が25℃以上あっても日照時間が12時間以下の場合は♀が産卵行動に至らず、日照時間が13時間を超える場合に産卵する<ref group="書籍" name="都築2003 p.149"/>。 |
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♂の前脚 |
♂の前脚[[跗節]]には一部が扁平に拡大して下面にいくつかの[[吸盤]]があり、[[交尾]]に際してはこれで♀の背面に吸着する<ref group="書籍" name="市川2010 p.16">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=16}}</ref>。また、♂の背面が滑らかなのに対して♀の背面には細かいしわや溝があり、これも交尾に際して♂が掴まりやすくするのに関係した適応と考えられる<ref group="書籍" name="市川2010 p.12">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=12}}</ref>。 |
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♂は少しでも多くの子孫を残そうと1匹でも多くの♀と交尾しようとするが、メ |
♂は少しでも多くの子孫を残そうと1匹でも多くの♀と交尾しようとするが<ref group="書籍" name="市川2010 p.16"/>、♀はタガメとは違い産卵の度に交尾する必要はなく交尾後数か月間にわたり体内の貯精嚢(受精嚢)内に♂の精子を活性を保ったまま貯め込むことができ<ref group="書籍" name="都築2003 p.150">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=150}}</ref>、2回も交尾すれば体内に蓄えられた精子でそのシーズンに産むほとんどの卵を受精させることができる{{Refnest|group="注釈"|飼育下では1度しか交尾しなかった♀がシーズン後半に未受精卵を産むようになった<ref group="書籍" name="市川2010 p.16"/>。}}ことに加え、交尾中は後述のように十分な酸素を取り込むことができないことから、交尾後時間の経っていない♀は♂が近づくと水草や水底の枯葉の下などに逃げようとする<ref group="書籍" name="市川2010 p.16"/>。これに対して♂は前脚の吸盤を♀の背中に付着させ、逃げられないように重なる<ref group="書籍" name="市川2010 p.16"/>。交尾そのものの時間は短いが、♂が♀を捕まえている時間は10分ほど - 2時間超とばらつきが大きく<ref group="書籍" name="都築2003 p.149"/>、市川憲平・北添伸夫が14回の交尾時間を測定したところ交尾時間の平均は162分であった<ref group="書籍" name="市川2010 p.17">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=17}}</ref>。♂は長い時間をかけて、♀の交尾器内に精包を作るが、長い交尾中は大抵の場合♂が上になるため♀は腹端を通して新しい空気を間接的に取り入れなければならない<ref group="書籍" name="市川2010 p.17"/>。雌雄ともに腹端を水面上に出せる場合もあるが<ref group="書籍" name="市川2010 p.17"/>、♀は大抵の場合交尾中に呼吸器を水面に出すこともままならず十分な酸素を取り込むことができないため窒息死する場合があり<ref group="書籍" name="都築2003 p.149">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=149}}</ref>、繁殖期に♀の死亡率が上昇する<ref group="書籍" name="市川2010 p.17"/>。都築裕一らの観察によれば、実際に死亡した♀の遺体をいつまでも離さず交尾を強いる♂の姿が観察されている<ref group="書籍" name="都築2003 p.149"/>。 |
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成虫は活動期の春 - 秋ごろ(水温が25℃前後に上昇する4月ごろから)に交尾し<ref group="書籍" name="海野1999 p.8">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|page=8}}</ref>、♀成虫はいわゆる[[水田雑草]]を含む水生植物の茎に直径約2 - 4mmの円形の噛み傷を付け<ref group="書籍" name="海野1999 p.8"/>、長い産卵管を噛み傷に挿入して<ref group="書籍" name="都築2003 p.150"/>茎内部の組織内に1,2個[[産卵]]する<ref group="書籍" name="市川2010 p.22-23">{{Harvnb|市川|北添|2010|pages=22-23}}</ref><ref group="書籍" name="海野1999 p.8"/><ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>。この時♀成虫が選ぶ植物は「茎表面があまり固くなく、中にスポンジ状の組織が詰まっているか中央の空洞が狭い種類の[[水草]]」で<ref group="書籍" name="市川2010 p.52"/>、茎の直径は5mm前後を好む<ref group="書籍" name="海野1999 p.8"/>。都築裕一は本種が内部がスポンジ状になった水草を好む理由を「長い産卵管を植物の茎に突き刺す際に都合がよいため」と考察している<ref group="書籍" name="都築2003 p.152"/>。 |
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成虫は[[空気]][[呼吸]]であり、翅の下に空気を溜めている。しばしばこの空気の一部を尾端から気泡として水中に突出させているのが観察され、この気泡内の空気中の空気の[[酸素]][[分圧]]が下がり[[二酸化炭素]]分圧が上がると、水中に二酸化炭素が溶け出して逆に[[酸素]]が気泡の空気中に入り込む。このため、いったん翅の下に空気を取り込んで潜水すると、そこに元々含まれていた以上の酸素を得て長く潜水活動をすることができる<ref name="ichikawa2010"/>。 |
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* 池では[[コウホネ]]・[[カンガレイ]]などに産卵する<ref group="書籍" name="内山2007 p.60"/>。 |
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* 水田・湿地では[[オモダカ]]類<ref group="書籍" name="海野1999 p.8"/><ref group="書籍" name="内山2007 p.60"/>([[ヘラオモダカ]]など)<ref group="書籍">{{Harvnb|関|2012|p=225}}</ref>・[[コナギ]]・[[セリ]]などに産卵する<ref group="書籍" name="内山2007 p.60"/>。なお市川憲平・北添伸夫の調査によれば[[タガラシ]]・コナギは若い茎に産卵するほか、[[ヒルムシロ科|フトヒルムシロ]]・セリの茎は齧って穴を開けたものの産卵しなかった<ref group="書籍" name="市川2010 p.52"/>。 |
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* [[ホテイアオイ]]の浮嚢・[[トチカガミ]]の葉など一部が広がって内部がスポンジ状になっている植物には次々と産卵する<ref group="書籍" name="市川2010 p.52"/>。 |
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* [[イネ]]の茎は「表面が固すぎること」「中空(ストロー状)で産み付けた卵が茎の中に留まらないこと」から産卵しない<ref group="書籍" name="市川2010 p.22-23"/>。市川・北添の調査によればイネ([[コシヒカリ]])の茎は♀成虫が齧ることすらなく、[[古代米]]の茎は穴を開けたものの産卵しなかったが、茎内部が中空な植物でも卵が落下するほどのスペースがなければ産卵することが判明した<ref group="書籍" name="市川2010 p.52">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=52}}</ref>。 |
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♀成虫は飼育下で餌を十分に与えられている場合、1シーズンに約30個 - 60個産卵するが、飼育密度が高いと♀1匹あたりの産卵数・孵化率が目減りする<ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>。♀の腹端には出し入れできる左右に扁平な[[産卵管]]があり、それを噛み傷に挿し込み産卵する<ref group="書籍" name="市川2010 p.22-23"/>。植物組織が腐敗して繊維だけになっても卵は孵化できるため、植物組織内に産卵する理由は「卵が魚などの天敵に捕食されることを避けるため」と考えられる<ref group="書籍" name="内山2007 p.60">{{Harvnb|内山|2007|page=60}}</ref>。 |
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== 飼育 == |
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[[File:飼育下でのゲンゴロウ.JPG|thumb|飼育下でのゲンゴロウ。クリルを食べている。]] |
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=== 卵・幼虫 === |
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[[File:ゲンゴロウ終齢幼虫 2013-08-05 18-20.JPG|thumb|飼育下でのゲンゴロウ終齢幼虫]] |
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[[File:ゲンゴロウ終齢幼虫の頭部拡大 2013-08-05 18-25.JPG|thumb|終齢幼虫の頭部拡大]] |
[[File:ゲンゴロウ終齢幼虫の頭部拡大 2013-08-05 18-25.JPG|thumb|終齢幼虫の頭部拡大]] |
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卵は幅約1mm・長さ約13mmの細長い形で、水温28℃の場合産卵後約2週間程度で[[孵化]]する<ref group="書籍" name="海野1999 p.8"/>。[[幼虫]]は細長い体をしており、孵化直後の1齢幼虫は体長約25mm(卵の全長の約2倍)で脱皮して体長約40mmの2齢幼虫に変態し、さらにもう1回脱皮して体長約60mmの3齢幼虫(終齢幼虫)に変態する<ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29">{{Harvnb|市川|北添|2010|pages=28-29}}</ref>。幼虫も成虫と同じく水面上に尾部の呼吸器(尾端にある気門)を水面上に突き出して呼吸するが、水深が浅い場所では水底から尾部を突き出して呼吸するものの、基本的には水中の水草に掴まって呼吸する<ref group="書籍" name="市川2010 p.23">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=23}}</ref>。また幼虫は腹部の尾部に生えている長い毛束を用いて泳ぐが<ref group="書籍" name="市川2010 p.23"/>、成虫と異なり泳ぎはあまり上手くない<ref group="書籍" name="市川2010 p.23"/><ref group="書籍" name="市川2018 p.68"/>。 |
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[[ペット]]として[[ペットショップ]]などで販売されている<ref name="unno1999"/>。丈夫で長寿な昆虫であるため、飼育は容易な種類である<ref name="mori2014_p.56-59"/>。 |
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脱皮は水中で行い、まず胸部の背中側が中心から割れ、その割れ目が前後に広がるとともに幼虫の胸部・頭部が抜け殻から抜け出し、最後に腹部が抜けて脱皮完了となる<ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29"/>。終齢幼虫(3齢幼虫)は成虫の体長のほぼ2倍(上陸直前では胴径約10mm・体長約80mm)にまで成長する<ref group="書籍" name="海野1999 p.10"/><ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29"/>。 |
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ナミゲンゴロウの場合、大型の飼育ケース(幅約40cm)の場合は5, 6匹、幅約60cmの観賞魚用大型水槽の場合は7, 8匹程度が飼育可能数の目安である<ref name="unno1999"/>。さらに多頭飼育することも可能ではあるが、水がすぐに汚れるため推奨されない<ref name="unno1999"/>。日本本土に生息するナミゲンゴロウの場合、保温装置は特に必要ない<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。 |
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幼虫期間は孵化 - 上陸まで約40日間だが、水温が低かったりエサが不足すると長期化するほか、幼虫期間中に生息地の田んぼなどの水が干上がると乾燥死する<ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29"/>。また幼虫は[[イモムシ]]型の体形をしているため、後述のような獰猛な性格とは裏腹に外敵からの攻撃に対しては無防備であり、同一容器で複数飼育すれば共食いが起きるほか<ref group="書籍" name="都築2003 p.153">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=153}}</ref>、貪欲な食欲を持つ一方で移動能力に乏しいため<ref group="書籍" name="森2014 p.140"/>、幼虫が成長するためにはその食欲を満たすだけの大量の生き物が同所的に集中して生息している必要がある<ref group="書籍" name="内山2013 p.114"/>。 |
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成虫は[[刺身]]や[[煮干し]]・[[熱帯魚]]用の冷凍[[赤虫]]・[[ヨーロッパイエコオロギ]]などの昆虫類を弱らせたもの、[[ミールワーム]]などを与えるが<ref name="unno1999"/>、[[クリル]]([[熱帯魚]]餌用の乾燥[[オキアミ]])は[[タンパク質]]の含有量が多く特によいようである<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。また、死んだ[[エビ]]なども食べる<ref name="unno1999"/>。生きた[[ミナミヌマエビ]]や[[イシマキガイ]]を水槽に入れておくと、ゲンゴロウの食べカスを食べてくれるので便利で、増殖した場合は幼虫の餌にもなる。体表や後脚に[[ミズカビ]]が生えるのを防いだり<ref name="ichikawa2010"/>、飛翔行動前に体を乾かすために甲羅干しを行う習性があるので、水面上に少なくとも10cmぐらいの空間ができるように水を入れ、[[流木]]や[[ヘゴ]]の支柱などを水面上に先端が突き出るように立て、甲羅干しができるような足場を作る<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。水質安定や足場としての目的と、本来の生息域が[[水草]]の豊富な環境であるため、[[オオカナダモ]]などの水草も入れるのが望ましい<ref name="unno1999"/>。肉食性が故に水が汚れやすいので、濾過装置の設置が望ましいが、この場合でも水質が悪化した場合は水替えが必要である<ref name="unno1999"/><ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。直射日光は避ける<ref name="unno1999"/>。 |
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幼虫も肉食性ではあるが成虫と異なり非常に凶暴なプレデターで<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>、脱皮の前後1日以外は大変旺盛な食欲を発揮し<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>、動くものならなんでも頭部の鋭い[[大顎]]で襲って捕食するばかりか<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>同種間でも激しく共食いをする<ref group="書籍" name="内山2013 p.114"/><ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>。その凶暴性から英語では''Water Tiger''(水中の[[トラ]])・''Water Devil''(水中の[[悪魔]])と呼ばれるほか<ref group="書籍" name="都築2003 p.141"/>、日本でも凶暴性・体躯が[[ムカデ]]を連想させることから「田のムカデ」<ref group="書籍" name="市川2018 p.68"/>「水ムカデ」とも呼ばれる<ref group="書籍" name="西原2008 p.10">{{Harvnb|西原|2008|page=10}}</ref>。 |
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ゲンゴロウ類の成虫は[[タガメ]]などとは異なり、いわゆる[[肉食動物|プレデター]]ではなく[[腐肉食|スカベンジャー]]であり、生きた他のゲンゴロウや魚を積極的に襲うことは少ない<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/><ref name="unno1999"/>。そのため、複数飼育や他種ゲンゴロウ類、[[ドジョウ]]・[[メダカ]]などほかの淡水魚との混泳も可能だが、長期間餌を切らしたり、弱っていたりすると小型種や弱った個体、行動の鈍い魚などは食べられてしまうこともあるため、注意する<ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。 |
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* 1齢幼虫 - 主に[[ミジンコ]]・[[アカムシ]]([[ユスリカ]]の幼虫)・[[ボウフラ]]・[[イトトンボ]]類のヤゴなどを食べる<ref group="書籍" name="市川2010 p.26-27"/>。 |
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* 2齢幼虫・3齢幼虫 - [[ホウネンエビ]]・[[小魚]]([[ドジョウ]]・[[メダカ]]・[[キンギョ]]など)・[[オタマジャクシ]]および小さな[[カエル]]類・[[水生昆虫]]類([[ヤゴ]]など)水面に落ちた昆虫類を食べる<ref group="書籍" name="市川2010 p.26-27">{{Harvnb|市川|北添|2010|pages=26-27}}</ref>。 |
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飼育下では[[バッタ]]・[[コオロギ]]などの[[昆虫]]類を与えないと羽化率(成虫まで育つ割合)が低下する<ref group="書籍" name="市川2010 p.26-27"/>。なお都築裕一は「自然下の繁殖地で成虫を捕獲するためにマグロの刺身を仕掛けて設置したところ、しばらくしてゲンゴロウの幼虫が寄ってきて摂食した」という観察記録から「幼虫は動きだけでなく成虫と同様に餌の匂いにも反応するようだ」と推測している<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>。幼虫はかつて(タガメなどと同様に)[[養魚場]]を荒らす[[害虫]]とされていた一方<ref group="RDB" name="富山県"/>、様々な[[感染症]]を媒介する[[衛生害虫]]である[[カ]]の幼虫ボウフラを捕食する[[益虫]]としての側面もある。 |
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幼虫は自然下の浅い水域では植物の茎などに逆さまに掴まり、目の前を通る獲物を待ち伏せして捕食する<ref group="書籍" name="内山2013 p.114"/>。幼虫の大顎はタガメ幼虫の前脚よりかなり小さいため自分より大きな獲物を捕らえることは難しいが、一度獲物を捕まえれば逃すことはなく、強力な消化液で確実に仕留められるようになっている<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>。大顎は[[注射針]]状になっており、生きた獲物に鋭い大顎で食いつくと獲物を麻痺させる[[毒]]・[[消化液]]を大顎内の管から同時に体内に注入して<ref group="書籍" name="海野1999 p.9">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|page=9}}</ref>、獲物の体液・消化されて液状化した筋肉・内臓などの組織を注入に使われた大顎内の管から吸収して口の入り口の毛で固形物を[[ろ過]]して除き、液体化した組織を消化管に飲み込む<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/>。これを'''[[消化#体外消化|体外消化]]'''と呼ぶが<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>、顎で獲物の肉を齧り取って食べる成虫とは異なり[[タガメ]]など[[水生カメムシ類]]に近い摂餌方法で<ref group="書籍" name="市川2018 p.68">{{Harvnb|市川|2018|page=68}}</ref>、幼虫に食べられた獲物の死骸は骨・皮しか残らない<ref group="書籍" name="西原2008 p.10"/>。幼虫に噛まれると非常に強い痛みを感じるため<ref group="書籍" name="市川2018 p.68"/><!--ヒトの指でも消化液による組織の[[壊死]]を起こしたり、それによる重症の[[蜂窩織炎]]にまで至る症例が報告されているので-->、安易に素手を近づけることは<!--極めて危険である。-->控えるべきである<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/>。 |
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幼虫は生き餌専食であるため成虫に比べて飼育が厄介で、共食いを防ぐため1匹ずつ分けて単独で飼わなければならないほか、餌も生きた獲物を用意しなければならない<ref name="unno1999"/>。1齢幼虫には[[ボウフラ]]や[[アカムシ]]を、2・3齢幼虫には[[小魚]]や[[オタマジャクシ]]、[[ヨーロッパイエコオロギ]]などを与える<ref name="unno1999"/>。[[多摩動物公園]]昆虫園では、ナミゲンゴロウの成虫、幼虫ともに、養殖した[[コオロギ]]を与えて飼育することで好結果を得たと発表されている<ref>{{Cite journal |論文 |author=細井文雄 |date=1994-10 |title=コオロギだけで育ったゲンゴロウ |publisher=[[東京動物園協会]] |journal=インセクタリゥム |volume=31 |issue=10 |pages= |issn=0910-5204 }}</ref>。また足場には[[オオカナダモ]]など足場になる水草を、脱皮の障害にならない程度に入れ、水深は5cm程度にする<ref name="unno1999"/>。なお、幼虫は大型である上に毒牙を持つため噛まれると危険なので、取り扱いには注意する<ref name="unno1999"/>。[[脱皮]]が近い時期に幼虫を落とすなどして強いショックを与えると脱皮できずに死亡する恐れがあるため、世話をする際は必ず熱帯魚用のサランネットなどで幼虫を受け止める必要がある<ref name="unno1999"/>。幼虫も成虫同様水の汚れが激しく、食べ残しはピンセットで取り除く必要があるほか、濾過装置がない場合、水の汚れが著しい場合は毎日水を全量交換する必要がある<ref name="unno1999"/><ref name="mori_kitayama2002_p.189-190"/>。 |
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=== 蛹化・羽化 === |
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また本種は土中で蛹化するため、3齢幼虫の飼育時には柔らかくて粘りがあり、[[アリ]]などの[[小動物]]・[[微生物]]が混入していない湿った土や[[ピートモス]]、[[クワガタムシ]]飼育用の[[昆虫マット]]などで陸地を作るか、土の入った容器に幼虫を移すなどして上陸させる必要がある<ref name="unno1999"/>。餌を食べなくなってから1日 - 2日間の間に上陸させないと蛹化できずに死亡する。土・ピートモスは水を含ませ手で握ったときにわずかに水滴が落ちる程度の水分量がよい<ref name="unno1999"/>。また、幼虫は土に潜るのがそれほど得意ではないため、土の固さは指を差し込んでみて、簡単に指が沈み込む程度に柔らかいのが好ましい<ref name="unno1999"/>。 |
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水中に適応したゲンゴロウでも一生の全てを水中で過ごすわけではなく、成熟した終齢幼虫は孵化から約40日ほど経つと日没後約1, 2時間後に上陸する<ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29"/>。野生下で上陸が始まるのは6月下旬 - 7月初めごろで<ref group="書籍" name="内山2007 p.59"/>、蛹化直前の幼虫(体長約80mm)は上陸が近づくと餌に見向きもしなくなり、飼育下では飼育容器の中を泳ぎ周り出たがる様子を見せる<ref group="書籍" name="海野1999 p.10">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|page=10}}</ref>。適当な場所を見つけると固くなった頭部と胸部をスコップのように使って土中に潜り<ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29"/>、直径40mmほどの球形の[[蛹室]]を形成してから<ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29"/>蛹室内で[[前蛹]]になる<ref group="書籍" name="都築2003 p.153"/>。幼虫が潜った後の地表にはほとんど痕跡が残らないため、幼虫が潜った場所を特定することは困難となる<ref group="書籍" name="市川2010 p.28-29"/>。蛹化に際しては水際から20cm - 30cm程度の土中などあまり水際から離れない場所の土に潜るほか、内山りゅうの記録によれば飼育環境では斜面が土であればかなりの角度でも登ることが判明している<ref group="書籍" name="内山2013 p.114">{{Harvnb|内山|2013|page=114}}</ref>。 |
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蛹室内で約10日間の前蛹期を経て<ref group="書籍" name="都築2003 p.153"/>、地中に潜ってから約8日 - 10日後に脱皮して[[蛹化]]する<ref group="書籍" name="市川2010 p.30-31">{{Harvnb|市川|北添|2010|pages=30-31}}</ref>。蛹化する際は2齢幼虫が3齢幼虫へ脱皮する際と同様に頭部・胸部の背中側の中央が割れ、中から真っ白な蛹の頭部・胸部が現れ、蛹化開始から約25分後に腹部が幼虫の抜け殻から抜け出して蛹化完了となる<ref group="書籍" name="市川2010 p.30-31"/>。 |
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羽化後5日から1週間程度は蛹室に留まり、その後地上に這い出して活動を開始する<ref name="unno1999"/>。活動開始後は水を入れた飼育ケースに移して飼育するが、羽化直後の新成虫は体が完全に硬化していないため、他のゲンゴロウとともに飼育すると捕食される恐れがある<ref name="unno1999"/>。そのため、体が完全に硬化するまでは単独飼育し、エサを十分に与えて約10日後、翅を軽く触ってみて硬くなったのが確認できれば、他の個体とともに飼育しても問題ない<ref name="unno1999"/>。 |
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[[蛹]]は蛹化後約10日 - 2週間後に約2時間の脱皮で[[羽化]]する<ref group="書籍" name="海野1999 p.11">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|page=11}}</ref>。幼虫が土に潜ってから羽化するまでは約20日間で<ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>、羽化直前の蛹を観察すると複眼・大顎の部分が黒く変色するほか、前日には脚が赤っぽく色づいている<ref group="書籍" name="海野1999 p.11"/>。羽化に際してはまず脚を少しずつ動かしながら腹部を動かしてうつぶせの姿勢になり、腹部の皮の襞が伸びて余分な皮が腹部後ろに集まる<ref group="書籍" name="市川2010 p.32-33">{{Harvnb|市川|北添|2010|pages=32-33}}</ref>。その後翅が伸び始めるとともに体幅が広がり、頭部・胸部の背中側の殻が割れて成虫の頭部が現れ、約2時間以上をかけて翅を伸ばしつつ蛹の殻を脱ぎ捨てると最後に脚が抜け出して羽化完了となる<ref group="書籍" name="市川2010 p.32-33"/>。羽化直後の新成虫は真っ白な色をしているが、羽化完了から約2時間後には淡褐色に変色し、その後は徐々に色が濃くなり翌日には緑色 - 暗褐色の体色になる<ref group="書籍" name="市川2010 p.32-33"/>。 |
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羽化直後の新成虫はまだ体が柔らかく外敵から身を守れないため体が硬化するまでしばらく地中に留まり<ref group="書籍" name="市川2010 p.32-33"/>、羽化後1週間前後経過すると地上に這い出してくる<ref group="書籍" name="海野1999 p.11"/>。羽化直後の新成虫は体表が水を弾くためか、しばらくは水中にうまく潜れず[[ミズスマシ科|ミズスマシ]]のように水面を泳ぎ回ることがある<ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>。新成虫は野生下では8月初め<ref group="書籍" name="内山2007 p.59"/> - 10月にかけて出現し<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.157-158"/>、間もなく池に移動して11月初旬ごろまで活動するが<ref group="書籍" name="内山2007 p.59"/>、新成虫の繁殖は来年以降に持ち越される<ref group="書籍" name="市川2010 p.53"/>。 |
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== 分類 == |
== 分類 == |
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本種は{{仮リンク|デヴィッド・シャープ|en|David Sharp (entomologist)|title=デヴィッド・シャープ (昆虫学者)}}に |
本種は1873年に{{仮リンク|デヴィッド・シャープ|en|David Sharp (entomologist)|title=デヴィッド・シャープ (昆虫学者)}}が九州で採集された個体に基づき ''Cybister japonicus'' として記載したが<ref group="その他" name="魚沼市">{{Cite press release||title=魚沼市農村環境計画|chapter=地域内の環境評価|volume=2|url=http://www.city.uonuma.niigata.jp/docs/2015012500439/file_contents/noukankeikaku-02.pdf|pages=22-23|format=PDF|publisher=[[新潟県]][[魚沼市]]|date=2015-01-25|language=ja|accessdate=2019-03-22|archivedate=2019-03-22|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190322105913/http://www.city.uonuma.niigata.jp/docs/2015012500439/file_contents/noukankeikaku-02.pdf}}</ref>、2007年にその学名は「 ''Cybister chinensis'' のシノニムである」とされた<ref group="論文">{{Cite journal |論文 |author1=Nilsson, A.N. |author2=Petrov, P.N |date=2011年8月29日 |title=On the identity of Cybister chinensis Motschulsky, 1854 (Coleoptera: Dytiscidae), |publisher=Nabu Press |journal=Koleopterologische Rundschau |volume=77 |pages=43-48 |issn=0075-6547 |url=https://www.zobodat.at/pdf/KOR_77_2007_0043-0048.pdf |language=en |accessdate=2019年2月26日 |archivedate=2019-02-26 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190225164820/https://www.zobodat.at/pdf/KOR_77_2007_0043-0048.pdf}}</ref>。そのため[[ITIS]]の登録データにおいても「''C. japonicus'' は ''C. chinensis'' のシノニムである」とされている<ref group="論文"> |
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{{ITIS|ID=815150|taxon=''Cybister chinensis''|accessdate=2019-02-26}}</ref>。 |
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== 保全状況 == |
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日本では[[池]]・水田が身近であり、そこに棲む本種は[[1950年代]]ごろまでは日本各地の池・水田に普通に生息していたことから<ref group="書籍" name="森2014 p.56-59">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=56-59}}</ref><ref group="書籍" name="内山2007 p.52"/>平地 - 丘陵の良好な水辺環境の[[指標生物|指標種]]とされており<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>、1978年に実施された分布調査で本種は[[栃木県]]・[[山梨県]]・[[奈良県]]など8府県で特定昆虫として取り上げられている<ref group="その他" name="魚沼市"/>。「田んぼの昆虫」といえば本種と[[タガメ]]が代表格として挙げられたほか<ref group="書籍">{{Harvnb|内山|2013|page=4}}</ref><ref group="書籍" name="内山2013 p.112">{{Harvnb|内山|2013|page=112}}</ref>、1980年代ごろまでは小学校の教科書でも身近な昆虫として扱われており<ref group="書籍" name="内山2007 p.52"/>、長野県・東北地方など一部地域では食用とした{{Refnest|group="注釈"|長野県では現在の[[上小地域]]([[上田市]]・[[小県郡]][[長和町]])・[[佐久地域]]([[佐久市]]・[[北佐久郡]][[立科町]])・[[諏訪地域]]([[岡谷市]]・[[諏訪市]]・[[茅野市]]・[[諏訪郡]][[下諏訪町]])・[[上伊那地域]]([[上伊那郡]][[辰野町]]・[[南箕輪村]]・[[宮田村]])などでゲンゴロウ(方言:トウクロウ)を塩炒り・煮付けで食用としていた記録が確認されており<ref group="論文" name="長野県の伝統食">{{Cite web |title=長野県の伝統食における野生動植物利用 |journal=長野県環境保全研究所研究報告 |author=浦山佳恵 |publisher=[[長野県]] |year=2018 |issue=14 |pages=29-32 |url=https://www.pref.nagano.lg.jp/kanken/johotekyo/kenkyuhokoku/hozen/documents/kh14_6.pdf |format=PDF |language=ja |accessdate=2019-02-28 |archivedate=2019-02-28 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624174529/http://www.konchukan.net/pdf/kiberihamushi/Vol33_1/kiberihamushi_33_1.pdf }}</ref>、秋田県でも「ゲンゴロウを[[救荒食物]]として食べた」「現在の[[横手市]]で食されていた」などの記録がある<ref group="論文">{{Cite web |title=秋田県における昆虫食の実態と普及の可能性 |journal=秋田県立大学学生自主研究研究成果 |author1=鈴木虎太郎 |author2=齊藤功晃 |author3=渡部岳陽 |author4=阿部誠 |publisher=[[秋田県立大学]] |date=2018-06 |page=3 |url=https://akita-pu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=833&item_no=1&page_id=13&block_id=21 |language=ja |accessdate=2019-02-28 |archivedate=2019-02-28 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190228165203/https://akita-pu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=833&item_no=1&page_id=13&block_id=21 }}</ref>。}}ほか[[民間療法]]で薬用としても用いられていたほど日本人にとって身近な昆虫だった<ref group="書籍" name="都築2003 p.139">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=139}}</ref>。都築裕一は「漢字で『源五郎』と書くまるで人名のような和名が大変親しみやすい印象を与えており『他の水生昆虫の名前を知らなくても“ゲンゴロウ”の名前は知っている』人も多い。かつてゲンゴロウを食用としていた地域の人の話では『硬い前翅を取り除いて食べたがかなり苦く、食べるのが辛かった』ということだ」と記している<ref group="書籍" name="都築2003 p.139"/>。 |
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本種が属するゲンゴロウ属 ''Cybister'' は、ゲンゴロウ科の中でも大型で、最も水中生活に適した一群である<ref name="mori_kitayama2002_p.152-153">{{Harvnb|森|北山|2002|pages=152-153}}</ref>。体形は卵型で、前胸腹板突起の先端は鋭くとがり、♂の前足符節は第1節から第3節が楕円形に広がり吸盤状になっている<ref name="mori_kitayama2002_p.152-153"/>。後脚は太短く、遊泳に適している<ref name="mori_kitayama2002_p.152-153"/>。 |
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しかし近年は「生息域開発(宅地造成<ref group="書籍" name="西原2008 p.14"/>・ゴルフ場造成・老朽化ため池改修事業)・[[圃場整備]]による生息環境破壊」「農法の変化・[[農薬]]による死滅」<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>「生活排水・工業排水などの流入による[[水質汚染]]」「休耕田・放棄水田の増加」などにより激減し<ref group="書籍" name="西原2008 p.14"/>、平野部ではほぼ絶滅した上に残存した中山間部の良好な里山環境でも「生息地開発」「侵略的外来種の侵入」「採集圧の影響」を多大に受け絶滅寸前に陥り、[[環境省]]の[[レッドデータブック (環境省)|レッドデータブック]]では「全国的に激減しており、特に[[西日本]]ではわずかで[[太平洋側]]各県の生息地数はわずか数ヶ所にまで減少。[[南関東]]では絶滅」と評価されている<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>。水生昆虫類はタガメなど多くの種類が激減しているが、内山りゅうは「本種は特に著しく減少している印象だ」と述べており<ref group="書籍" name="内山2013 p.112"/>、現在の本種はかなりの珍品となってしまった<ref group="書籍" name="都築2003 p.139"/><ref group="RDB" name="RDB-2014"/>。 |
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世界に100種余りの種が知られ、7亜属に分けられる<ref name="mori_kitayama2002_p.152-153"/>。日本には本種を含め7種が分布するが、近年はいずれの種も減少傾向にある<ref name="mori_kitayama2002_p.152-153"/>。 |
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現在は「山間部の人里にほど近い場所にあり、自然が保たれている池沼」で見られる程度で「本種を探す」意気込みがないと発見は困難であり<ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>、特に[[西日本]]<ref group="書籍" name="内山2007 p.64"/>([[近畿地方]]以西)の大半では山里の池沼に行かなければその姿を見ることはできない<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>。 |
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*'''クロゲンゴロウ ''C. brevis Aubé, 1838''''' |
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* 本種を始めゲンゴロウ類は生息域となる水辺環境(本種の場合は池沼・水田など)がまとまって存在することが個体群存続に必要だが<ref group="書籍" name="西原2008 p.7">{{Harvnb|西原|2008|page=7}}</ref>、池沼の開発および灯火・ゴルフ場造成は本種の生息域を破壊する<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>。 |
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: [[日本]]([[本州]]・[[四国]]・[[九州]])、[[中華人民共和国|中国]]、[[朝鮮半島]]に分布する<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154">{{Harvnb|森|北山|2002|pages=153-154}}</ref>。水生植物の豊富な<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>、浅い[[ため池]]や[[休耕田]]、水田脇の堀上などに生息する<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。幼虫は5月 - 8月に見られ、新成虫は8月 - 9月に出現し、成虫で越冬する<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。 |
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* 本種・タガメは有機的な汚染には強いが<ref group="書籍" name="都築2003 p.144">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=144}}</ref>[[農薬]]・洗剤など化学的な汚染には弱く<ref group="書籍" name="都築2003 p.64">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=64}}</ref>、[[1950年代]] - [[1960年代]]<ref group="書籍" name="内山2007 p.65">{{Harvnb|内山|2007|page=65}}</ref>、[[1970年代]]初めにかけて強毒性農薬([[ベンゼンヘキサクロリド|BHC]]・[[ピレスロイド]]系・[[パラチオン]]など)が<ref group="書籍" name="内山2007 p.52">{{Harvnb|内山|2007|page=52}}</ref>空中散布を含めて大量に使用されたため<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>大きなダメージを受けた<ref group="書籍" name="内山2007 p.52"/><ref group="書籍" name="内山2007 p.65"/>。 |
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: 体長20 - 25mmで、背面は緑色あるいは褐色を帯びた黒色で光沢がある<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。頭部はかなり密に点刻され、頭楯・上唇は黄褐色から赤褐色で、前頭両側に浅いくぼみがある<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。前胸は小さな点刻としわをまばらに備え、前縁部にやや密な点刻横列を有する<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。上翅には3条の点刻列を有し、翅端前方には小さな黄褐色紋があるが、個体によっては不明瞭である<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。触角・口枝は黄褐色から暗褐色、前脚・中脚は黄褐色から赤褐色、♀の前符節・腿節基半・中符節は暗色、後脚は暗褐色で、転節と脛節基半は赤褐色である<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。腹面は黒から暗赤褐色で、腹部第3 - 4 節の両端に黄褐小紋を具え、♂の交尾器中央片は単純で、先端部は小さく突出する<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。 |
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** 本種を含めた多くの水生昆虫は多くの種が初夏 - 夏場に新成虫と旧成虫の世代交代がなされるが、その時期に農薬を散布されると新成虫・旧成虫ともに多くが死滅する<ref group="書籍" name="森2014 p.52">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|page=52}}</ref>。旧成虫だけが死滅して新成虫が生き残ったとしても農薬に汚染された水生動物を食べれば死に直結する<ref group="書籍" name="森2014 p.52"/>。 |
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: 危機的状況にある種が多いゲンゴロウ属の中では最も多くみられる種類であるが<ref>{{Harvnb|内山|2013|page=120}}</ref>、本種も2017年現在は{{準絶滅危惧|image=none}}となっており<ref>{{Cite web |title=環境省第4次レッドリスト(2012)昆虫類 |publisher=環境省 |date=2012-08-28 |url=http://www.env.go.jp/press/files/jp/21555.pdf#page=13 |page=13 |format=PDF |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702230730/http://www.env.go.jp/press/files/jp/21555.pdf#page=13 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、都府県レベルでも多くの地域で[[絶滅危惧種]]及び準絶滅危惧種に指定されている<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。 |
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** 1970年代以降は農薬の毒性・効果持続性ともに低下したものの1990年代ごろからは「人間に対する毒性は弱いがゲンゴロウ類に対しては毒性が強い」殺虫剤が田植えと同時期に使用されるようになった<ref group="書籍" name="市川2010 p.44">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=44}}</ref>。市川憲平は「その影響かどうかは不明だが、それとほぼ同時期からコシマゲンゴロウなどの小型種を含めたゲンゴロウ類が急速に減少している」と指摘している<ref group="書籍" name="市川2010 p.44"/>。 |
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** これに加え、本種やタガメは[[水銀灯]]などの街灯設置により街灯の光に誘引されて発生地から離れ戻れなくなることで死亡する個体も多く、これも個体数原因の重大な要因である<ref group="RDB" name="徳島県2001"/>。 |
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* その災禍を免れて生き残ったゲンゴロウも圃場整備による水田の[[乾田]]化・水田脇の水たまりの消失により<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>水田への水張<ref group="書籍" name="内山2007 p.65"/> - [[土用干し]](中干し、6月下旬)<ref group="書籍" name="市川2010 p.45"/>までの期間が短縮された結果、[[田植え]]後に産卵され孵化した幼虫は上陸前に水がなくなって乾燥死してしまうようになったため、水田ではゲンゴロウの生活史をカバーできなくなった<ref group="書籍" name="内山2007 p.65"/>。 |
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** かつては4月上旬から水[[苗代]]に稲の種籾を蒔いて苗を生育させた上で手植えを行っており、ナミゲンゴロウ・カエルなどが水苗代を繁殖場所として利用していたが、[[田植機]]が普及すると稲の苗をビニールハウスの苗箱の中で栽培するようになったために水苗代は姿を消し、水田に水が張られるのは4月下旬以降となった<ref group="書籍" name="市川2010 p.45">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=45}}</ref>。水苗代が利用できなくなったことに加えて後述のように「冬でも水が涸れない素掘りの溝」が失われたことからナミゲンゴロウの繁殖場所が奪われていった<ref group="書籍" name="市川2010 p.45"/>。 |
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* ため池の管理放棄・放棄水田の植生遷移も本種の生存を脅かしているほか<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>、殺虫剤のみならず水田に生える稲以外のすべての植物・畔の草を水田雑草として駆除するため水田に除草剤が散布されると、その水田ではゲンゴロウ類の産卵床となるオモダカ・コナギなどの水草が枯死するため、そのような水田では殺虫剤が使用されなくてもゲンゴロウは繁殖できなくなる<ref group="書籍" name="市川2010 p.44"/>。 |
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** また都市近郊だけでなく山間部の水田でも[[畔]]のコンクリート化が行われ、畔の草の中で暮らしていた[[バッタ]]・[[カエル]]が姿を消すとともにゲンゴロウ・[[ヘイケボタル]]などは蛹化するために上陸して潜る場所を失っていった<ref group="書籍" name="内山2007 p.65"/>。現在では恵まれた環境の池を除けば「水田の横に素掘りの溝が残っているような棚田」でしか生息できなくなったが、その溝も圃場整備が進み消えつつある<ref group="書籍" name="内山2007 p.65"/>。 |
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*** 水辺と陸の間に位置する水田の畔など岸辺は本種の幼虫が蛹になるために非常に重要な場所であり、畦のコンクリート化・水田全体を囲む波板の存在などがそれを阻害する要因となっている<ref group="書籍" name="内山2013 p.114"/>。 |
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*** 都築裕一らは本種が激減した要因として「タガメなど水生カメムシ類([[半翅目]])は不完全変態で蛹化のための上陸を必要としないのに対し、ゲンゴロウなど水生甲虫類は完全変態のため蛹化には土の陸上部分が必要である。ゴムシート張りのため池・コンクリート護岸の池沼では仮に汚染されていない水・豊富な餌があっても本種は全く繁殖できない。このように繁殖場所の消滅がそのまま種の絶滅に直結する可能性が高い」と指摘している<ref group="書籍" name="都築2003 p.142"/>。 |
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** 過疎化・高齢化・[[減反政策]]により増加した休耕田・放棄水田は水が溜まれば一時的にはゲンゴロウの生息地となるが、水はけの悪い場所を除くと1年 - 2年程度で乾燥してしまうため全体としては水辺環境自体の減少につながる<ref group="書籍" name="西原2008 p.15">{{Harvnb|西原|2008|page=15}}</ref>。ため池も定期的な水抜きで泥を流し出したり堤の草刈りをしたりなどの管理がなされなくなれば泥が溜まり、樹木に覆われて暗くなることで生き物が生息しにくくなる<ref group="書籍" name="西原2008 p.15"/>。 |
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** 圃場整備・用水路のコンクリート化だけでなく河川改修により[[氾濫原]]・後背[[湿地]]が消滅したり地下水が汚染されたりすることもゲンゴロウ類の生息地破壊につながるほか、様々な環境悪化が複合的に組み合わさったことで生息地が分断される現象も発生している<ref group="書籍" name="西原2008 p.14">{{Harvnb|西原|2008|page=14}}</ref>。 |
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* 生息地に侵入した[[ブラックバス]]([[オオクチバス]]など)・[[アメリカザリガニ]]・[[ウシガエル]]といった侵略的外来種や放逐された[[コイ]]<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>による食害も本種の減少に拍車をかけており、実際に秋田県で駆除のために捕獲された[[オオクチバス]]の胃から本種成虫や[[ガムシ]]・[[オオコオイムシ]]など水生昆虫が出てきている<ref group="書籍" name="内山2007 p.65"/>。 |
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** 西原昇吾は「かつて教科書などで水生生物の代表格として挙げられていたタガメ・ゲンゴロウなど水生昆虫が取り上げられなくなり、逆に外来種であるアメリカザリガニが代表種として取り上げられたことが増えたことは水辺環境の危機的状況を映し出している」と評した上で<ref group="書籍" name="西原2008 p.17"/>、「アメリカザリガニが侵略的外来種であることがほとんど認識されておらず、幼稚園・小学校で学校教材として利用までされていることは大問題だ」と指摘している<ref group="書籍" name="西原2008 p.17">{{Harvnb|西原|2008|page=17}}</ref>。 |
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** その上で西原はゲンゴロウ類保護の提言の1つとして「オオクチバスが侵入してしまったため池では3年間は継続して水抜き・駆除を行うこと」「アメリカザリガニは学校教材・ペットとして扱うべきではない。1日も早く[[特定外来生物]]に指定すべきだ」と述べている<ref group="書籍" name="西原2008 p.44">{{Harvnb|西原|2008|page=44}}</ref>。 |
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* また[[1990年代]]以降に[[カブトムシ]]・[[クワガタムシ]]類と同様にゲンゴロウ類も[[ペット]]としての需要が高まったことで、特に高価に売買される希少な種類を中心に<ref group="書籍" name="西原2008 p.19">{{Harvnb|西原|2008|page=19}}</ref>業者・マニアによる無秩序な採集により<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>個体群の再生産能力を上回る採集圧・捕獲圧の悪影響を受けており<ref group="RDB" name="岐阜RDB">{{Cite web |title=ゲンゴロウ |publisher=[[岐阜県]] |date= |url=https://www.pref.gifu.lg.jp/kurashi/kankyo/shizenhogo/c11265/konchu017.html |language=ja |accessdate=2019-03-01 |archivedate=2019-03-01 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190228161233/https://www.pref.gifu.lg.jp/kurashi/kankyo/shizenhogo/c11265/konchu017.html }}</ref>、残った生息地でも生息地の破壊による絶滅・個体数の激減が起きている<ref group="書籍" name="西原2008 p.19"/>。 |
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** 無秩序な採集者(乱獲者)の中には1度に100頭単位で捕獲する者・限られた場所で何度も徹底して捕獲する者がいることからその地域の希少種を絶滅に追い込むだけでなく、最終目的で水辺に何度も踏み込むことで泥をかき回し、水生植物を痛めつけたことで水辺環境が悪化した例もある<ref group="書籍" name="西原2008 p.19"/>。各地域で出されている昆虫目録・レッドデータブックで希少生物の生息地が公表されるとそれが「採集のための案内」となってしまうほか、インターネット上で貴重な生息地の情報が拡散されることも問題となっている<ref group="書籍" name="西原2008 p.19"/>。 |
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** 一部の愛好者の間ではチョウ・ホタルなどと同様にゲンゴロウ類の放流も行われているが、他地域のゲンゴロウを人為的に移入することは遺伝子攪乱の要因となる<ref group="書籍" name="西原2008 p.19"/>。西原昇吾は「今後は[[トキ]]・[[コウノトリ]]のようにゲンゴロウ類でも絶滅・激減した地域や再生された生息地で飼育個体を放流する『野生復帰』が行われる可能性があるが、その際には他地域のものではなくその地域の個体を放流すべきだ」と提言している<ref group="書籍" name="西原2008 p.45">{{Harvnb|西原|2008|page=45}}</ref>。 |
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[[1991年]]の[[レッドデータブック (環境省)|環境省レッドリスト]]には記載されていなかった本種も[[2000年]]・[[2007年]]の改訂で{{準絶滅危惧|image=none}}に指定された後<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>、[[2019年]]現在は([[2012年]]改訂版){{絶滅危惧II類|image=none}}に指定されているほか<ref group="RDB" name="RDB-2018_VU">{{Harvnb|環境省|2018|page=23}}</ref><ref group="RDB" name="RDB-2014">{{Harvnb|環境省|生物多様性センター|2015|page=249}}</ref>、以下のように多くの都道府県別レッドリストで「絶滅種」もしくは「絶滅の危険性が高い高位の絶滅危惧種(I類からII類)」などに選定されている<ref group="書籍" name="内山2013 p.115"/>。生息地の消滅・個体数の減少の度合いは以下のように同じレッドデータブック記載種であるタガメと並ぶ深刻さである。 |
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*'''トビイロゲンゴロウ ''C. sugillatus Erichson, 1834''''' |
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* レッドリスト・レッドデータブックで[[絶滅]]種とされている都道府県 - [[東京都]]<ref group="RDB" name="東京都"/>{{Refnest|group="注釈"|[[東京都区部]](23区内)およびその周辺では[[1940年代]]<ref group="RDB" name="東京都"/>、[[多摩地域]]でも[[1970年代]]の記録が最後の記録とされており、2010年のレッドリスト改訂で絶滅種となった<ref group="RDB" name="東京都">{{Cite press release |title=『レッドデータブック東京2013』ゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ) |publisher=[[東京都]] |url=http://tokyo-rdb.jp/kohyou.php?serial=1253 |language=ja |accessdate=2019-02-26 |archivedate=2019-02-26 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190226070537/http://tokyo-rdb.jp/kohyou.php?serial=1253 }}</ref><ref group="RDB">{{Cite press release |title=東京都の重要な野生生物種(本土部)解説版を作成 |publisher=[[東京都]] |date=2013-05-21 |url=http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/05/20n5l200.htm |language=ja |accessdate=2017-06-24 |archivedate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624162723/http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/05/20n5l200.htm|deadurldate=2017年9月 }}</ref><ref group="報道">{{Cite news |title=都内のゲンゴロウ絶滅 ニホンヤモリも危惧種に |newspaper=[[IZA|iza]](イザ!) |publisher=[[産業経済新聞社]] |date=2010-06-30 |url=http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/topics/410290/ |language=ja |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20100702021940/http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/topics/410290/ |archivedate=2010-07-02 }}</ref>。}}・[[神奈川県]]<ref group="RDB" name="神奈川県"/>{{Refnest|group="注釈"|農薬の大量使用とほぼ時期を同じくしてほとんどの地域から絶滅しており、県内で最後まで確実に生息していた[[厚木市]][[上荻野]]のため池で[[1990年代]]初めに行われた改修工事により絶滅してからは記録されておらず、県内の池沼に本種が生息可能な環境は残っていないことから絶滅したと考えられる<ref group="RDB" name="神奈川県">{{Cite press release |title=神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006 |publisher=[[神奈川県]] |date=2006-07-08 |url=http://conservation.jp/tanzawa/rdb/rdblists/detail?spc=535 |language=ja|accessdate=2019-03-19|archivedate=2019-03-19|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190319150016/http://conservation.jp/tanzawa/rdb/rdblists/detail?spc=535}}</ref>。}}・[[千葉県]]<ref group="RDB" name="千葉県"/>{{Refnest|group="注釈"|[[清澄山]]([[1983年]])の記録が最新のものとなっており、生息環境の大部分が消失した県北部での生息確認は難しいが[[房総丘陵]]地帯に生息している可能性がある<ref group="RDB" name="千葉県">{{Cite press release |title=レッドデータブック2011年版 |format=PDF |publisher=[[千葉県]] |date=2011-04-26 |url=http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/rdb-2011re/rdb-201108insect.pdf#page=79|page=269|language=ja|accessdate=2019-03-22|archivedate=2019-03-22|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190321153055/http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/rdb-2011re/rdb-201108insect.pdf#page=79}}</ref>。}}・[[滋賀県]]<ref group="報道" name="滋賀絶滅"/>{{Refnest|group="注釈"|県内では1990年代の確認が最後とされており2016年の改訂で絶滅種となった<ref group="報道" name="滋賀絶滅"/>。「ため池の管理放棄や護岸工事で産卵場所となる水草の減少」「アメリカザリガニなど外来種による捕食」「幼虫時に生息する水田で餌となるオタマジャクシなどが減少したこと」が絶滅の原因とされる<ref group="報道" name="滋賀絶滅">{{Cite news |title=ゲンゴロウ、湖国「絶滅」 滋賀県レッドデータブック |newspaper=[[京都新聞]] |publisher=京都新聞社 |date=2016年5月23日22時20分 |url=http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20160523000165 |language=ja|accessdate=2017-06-24|archivedate=2016-05-23|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160523165627/http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20160523000165|deadurldate=2017年9月 }}</ref>。この改訂を受けて滋賀県の地方紙『[[京都新聞]]』(京都新聞社)は2016年6月22日に[[社説]]で「生物多様性の喪失に対するゲンゴロウからの警鐘」などと表現した<ref group="報道">{{Cite news |title=社説 ゲンゴロウ絶滅 生き物とどう共存する |url=https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20160620_3.html |newspaper=京都新聞 |publisher=京都新聞社 |date=2016-06-22 |language=ja |accessdate=2019-03-05 |archivedate=2019年3月5日 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190305150838/https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20160620_3.html }}</ref>。}}・[[鹿児島県]]<ref group="RDB" name="鹿児島県"/>{{Refnest|group="注釈"|1940年代には川内市(現:[[薩摩川内市]])の池沼で多数採集されていたほか1973年にも[[姶良郡]][[隼人町]](現:[[霧島市]])朝日池で6個体が採集されたが、島嶼部では1959年に[[屋久島]]([[熊毛郡 (鹿児島県)|熊毛郡]][[屋久島町]]安房)で、本土でも1990年に[[湧水町立吉松小学校|吉松町立吉松小学校]](当時の姶良郡[[吉松町]]。現:姶良郡[[湧水町]])内の溝で1個体が採集されたのを最後に採集・生息記録がなく<ref group="RDB" name="鹿児島2003">{{Harvnb|鹿児島県|2003|page=170}}</ref>、2014年改訂のレッドリストでは「絶滅種」となっている<ref group="RDB" name="鹿児島県">{{Cite web |title=レッドリスト(平成26年改訂) > 昆虫類 |publisher=[[鹿児島県]] |date=2014年5月7日 |url=http://www.pref.kagoshima.jp/ad04/kurashi-kankyo/kankyo/yasei/reddata/animal-list5.html |language=ja |accessdate=2019-03-05 |archivedate=2019年3月5日 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190305145400/http://www.pref.kagoshima.jp/ad04/kurashi-kankyo/kankyo/yasei/reddata/animal-list5.html }}</ref>。}} |
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: [[南西諸島]]([[トカラ列島]]の[[中之島 (鹿児島県)|中之島]]及び[[宝島 (鹿児島県)|宝島]]・[[奄美諸島]]・[[伊平屋島]]・[[伊是名島]]・[[久米島]]・[[池間島]]・[[石垣島]]・[[西表島]]・[[与那国島]]・[[南大東島]])、海外では[[台湾]]、[[中華人民共和国|中国]]、[[東南アジア]]、[[ネパール]]、[[インド]]、[[スリランカ]]、[[チベット]]、[[フィリピン]]に分布する<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。水生植物の多い池沼や放棄水田、堀上などに生息する。 |
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* 近年は生息が確認できず絶滅した可能性が高い府県 - [[富山県]]<ref group="RDB" name="富山県">{{Cite press release |title=富山県の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブックとやま2012- |url=http://www.pref.toyama.jp/cms_pfile/00013513/01037492.pdf#page=127 |page=121 |format=PDF |publisher=[[富山県]] |date=2012-08-31 |language=ja |accessdate=2019-03-06 |archivedate=2019年3月6日 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190306155227/http://www.pref.toyama.jp/cms_pfile/00013513/01037492.pdf }}</ref>{{Refnest|group="注釈"|富山県水生昆虫研究会が1995年に実施した生息状況調査では石川県との県境付近の[[小矢部市]]・[[西礪波郡]][[福光町]](現:[[南砺市]])など県内数か所で生息が確認されたが、2012年時点のレッドデータブックでは「現在はいずれの生息地でも再確認されていない」として「絶滅危惧I類」に指定され絶滅が危惧されている<ref group="RDB" name="富山県"/>。}}・[[大阪府]]<ref group="RDB" name="大阪府"/>{{Refnest|group="注釈"|府内唯一の産地として<ref group="RDB" name="大阪府"/>[[茨木市]]北部の湿地が知られていたが、[[1991年]]に「野尻湖昆虫グループ」([[大阪市立自然史博物館]]に事務所所在)の調査による生息確認を最後に<ref group="報道">『[[読売新聞]]』1991年9月17日大阪朝刊第二社会面26面「ゲンゴロウ絶滅の危機 西日本では大阪府で1匹確認 野尻湖昆虫グループが調査」</ref>その生息地が消滅した<ref group="RDB" name="大阪府"/>。このため府内では翌[[1992年]]以降確実な生息記録が確認されていない<ref group="RDB" name="大阪府">{{Cite book|和書|title=大阪府における保護上重要な野生生物 大阪府レッドデータブック |date=2000-03 |publisher=[[大阪府]]環境農林水産部緑の環境整備室 |page=170 |locatino=大阪府 |NCID=BA47163920 }}</ref>。}}・[[和歌山県]]<ref group="RDB" name="和歌山県2012"/>{{Refnest|group="注釈"|1990年ごろには旧[[東牟婁郡]][[本宮町 (和歌山県)|本宮町]]皆地(現:[[田辺市]]皆地)が「県内における唯一の確実な生息地」になってしまったが、その後同地も生息地改修工事により環境が激変したため絶滅した<ref group="RDB" name="和歌山県2012">{{Harvnb|和歌山県|2012|page=16}}</ref>。[[伊都郡]][[かつらぎ町]]にも本種の生息地があったが近年に圃場整備のための大規模な改修工事がなされ、2012年版県内レッドデータブックで「絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)」に指定されており絶滅が危惧されている<ref group="RDB" name="和歌山県2012"/>。}}・[[徳島県]]<ref group="RDB" name="徳島県2001"/><ref group="RDB" name="徳島県RDB"/>{{Refnest|group="注釈"|県内ではかつて普通種だったが2001年発行のレッドデータブックで「県内で生息が確認されているのはわずか1か所のみと、産地が非常に局地的で個体数も少ない」として「絶滅危惧I類」に指定されており<ref group="RDB" name="徳島県2001">{{Cite book|和書|title=徳島県の絶滅のおそれのある野生生物-徳島県版レッドデータブック-|author=[[徳島県]]版レッドデータブック掲載種選定作業委員会|publisher=徳島県環境生活部環境政策課|date=2001-03-31|edition=初版|chapter=6 昆虫類|page=160}}</ref>、さらに2013年改訂版レッドデータブックで「近年確認されていない」として「絶滅危惧IA類」に指定され絶滅が危惧されている<ref group="RDB" name="徳島県RDB">{{Cite press release|title=徳島県版レッドデータブック(レッドリスト)(※当該ページ内のPDFファイル「3.昆虫類<改訂:平成25年>」に記載)|publisher=[[徳島県]]|year=2013|url=https://www.pref.tokushima.lg.jp/kankyo/kankoubutu/red_date.html/|language=ja|accessdate=2019-03-22|archivedate=2019-03-22|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190322112744/https://www.pref.tokushima.lg.jp/kankyo/kankoubutu/red_date.html/}}</ref>。}}・[[香川県]]<ref group="RDB" name="香川県">{{Cite book|和書|chapter=ゲンゴロウ|title=香川県レッドデータブック|publisher=[[香川県]]|author=出嶋利明|date=2004-03|page=281}}</ref><ref group="RDB" name="香川県2004">{{Cite press release|title=ゲンゴロウ 香川県レッドデータブック|publisher=[[香川県]]|author=出嶋利明|date=2004-03|url=http://www.pref.kagawa.jp/kankyo/shizen/rdb/data/rdb1518.htm|language=ja|accessdate=2019-03-22|archivedate=2019-03-22|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190322115439/http://www.pref.kagawa.jp/kankyo/shizen/rdb/data/rdb1518.htm}}</ref>{{Refnest|group="注釈"|県内ではかつて普通種だったが強力な農薬の使用で激減し、1980年代には全く姿が見られなくなった<ref group="RDB" name="香川県2004"/>。1990年代になり県東部・[[大川郡]][[白鳥町 (香川県)|白鳥町]](現:[[東かがわ市]])の1箇所で生息が確認されたが、1999年以降の5年間は同地でも生息が確認されておらず2004年3月刊行のレッドデータブックでは「絶滅危惧I類(CR+EN)」に指定され絶滅が危惧されている<ref group="RDB" name="香川県2004"/>。}}・[[愛媛県]]<ref group="RDB" name="愛媛県">{{Cite press release|title=ゲンゴロウ 愛媛県レッドデータブック2014|publisher=[[愛媛県]]|date=2014-10|url=https://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/05_03_001740_1.html|author=渡部晃平|language=ja|accessdate=2019-03-22|archivedate=2019-03-22|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190322110921/https://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/05_03_001740_1.html}}</ref>{{Refnest|group="注釈"|県内では過去に[[北宇和郡]][[鬼北町]]で記録されたほか、1990年代に[[温泉郡]][[中島町 (愛媛県)|中島町]](現:[[松山市]])・[[上浮穴郡]][[久万高原町]]で生息が確認されていたが、その後既知生息地で実施された調査では発見されておらず、県内の生息地も確認できないことから「絶滅危惧1類(CR+EN)」に指定されており絶滅が危惧される<ref group="RDB" name="愛媛県"/>。}}・[[福岡県]]<ref group="RDB" name="福岡県2014"/>{{Refnest|group="注釈"|県内では1940年代 - 1960年にかけて現在の[[田川市]]・[[北九州市]]<ref group="RDB" name="福岡県2014"/>[[若松区]]<ref group="RDB" name="福岡県2001">{{Cite press release |title=ゲンゴロウ 福岡県レッドデータブック2001 |publisher=[[福岡県]] |date=2001-03 |url=http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/kankyo/rdb/rdbs/detail/200100786 |language=ja |accessdate=2019-02-26 |archivedate=2019-02-26 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190226063409/http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/kankyo/rdb/rdbs/detail/200100786 }}</ref>・[[福岡市]]・[[朝倉郡]][[東峰村]]・[[うきは市]]で記録されていたが、1960年に[[浮羽郡]][[吉井町 (福岡県)|吉井町]]吉井(現:うきは市)で採集されてからは記録がなく、2014年版県内レッドデータブックで「絶滅危惧IA類」に指定されており絶滅が危惧される<ref group="RDB" name="福岡県2014">{{Cite press release |title=ゲンゴロウ 福岡県レッドデータブック2014 |publisher=[[福岡県]] |date=2014-08 |url=http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/kankyo/rdb/rdbs/detail/201400122 |language=ja |accessdate=2019-02-26 |archivedate=2019-02-26 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190226063416/http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/kankyo/rdb/rdbs/detail/201400122 }}</ref>。}}・[[佐賀県]]<ref group="RDB" name="佐賀県2003 p.34">{{Cite press release |title=佐賀県レッドリスト2003 |format=PDF |publisher=[[佐賀県]] |date=2004-03 |url=http://www.pref.saga.lg.jp/kiji00314125/3_14125_42525_up_msx4zw3p.pdf#page=7|page=34|language=ja|accessdate=2019-03-19|archivedate=2019-03-19|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190319141821/http://www.pref.saga.lg.jp/kiji00314125/3_14125_42525_up_msx4zw3p.pdf}}</ref>{{Refnest|group="注釈"|1992年までは4産地([[佐賀郡]][[富士町 (佐賀県)|富士町]]杉山・[[東松浦郡]][[浜玉町]]鳥巣・東松浦郡[[七山村]][[樫原湿原]]・[[神埼郡]][[脊振村]]一谷)が知られていたが、[[脊振山地]]にあった脊振村一谷(現:[[神埼市]]脊振町服巻一谷)の産地では1993年から翌1994年にかけて生息池が埋め立てられて絶滅しており、他の産地も個体数が少ない上に池にゴミなどが投げ込まれている状態で、2003年版県レッドデータブックでは「越滅危惧I類種」に指定されており絶滅が危惧される<ref group="RDB" name="佐賀県2003 p.34"/>。}} |
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: 体長18 - 25mmで、クロゲンゴロウと似ているが、体形はクロゲンゴロウよりやや細い卵型で、背面は緑色か黒褐色で光沢がある<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。頭部は細かく極めてまばらな点刻があり、頭楯は黒く、上唇は黄褐色から赤褐色で、前頭両側と複眼内縁部に浅いくぼみがある<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。前胸は前縁部と側縁部にやや密な点刻の列があるが、クロゲンゴロウよりまばらで、上翅にはクロゲンゴロウ同様3条の点刻の列があるが、個体差があるが前胸背側辺がオレンジ色(黄褐色)がかっている<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。触角・口枝は黄褐色から暗褐色、前脚・中脚は暗赤褐色、♂の前符節・前転節・中転節・腿節はやや淡い色で、後脚は暗褐色である<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。腹面は黒から暗赤褐色で、腹部第3節及び第4節の両端部に黄褐色の小さな紋があり、後胸腹板外方にはクロゲンゴロウよりかなり目立つしわがある<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。♂の交尾器中央片は先端部が細長く伸び、クロゲンゴロウとは大きく異なる<ref name="mori_kitayama2002_p.153-154"/>。 |
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* [[条例]]で採集などが禁止されている県 - [[群馬県]]<ref group="条例" name="群馬採集禁止"/>{{Refnest|group="注釈"|県内では中部・利根沼田地域の各1カ所で生息が確認されているが、開発行為により生息可能な湖沼・水田が激減しているほか収集・販売目的の捕獲、生息地における朽木・落葉の回収により個体数が減少しており県レッドリストで「絶滅危惧I類」に指定されている<ref group="RDB">{{Cite press release |title=RDB |publisher=[[群馬県]] |date= |url=https://www.pref.gunma.jp/contents/000340657.pdf#page=2 |language=ja |accessdate=2019-02-19 |archivedate=2019-02-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190219145638/https://www.pref.gunma.jp/contents/000340657.pdf }}</ref>。2015年8月11日より<ref group="条例">{{Cite press release |title=希少野生動植物の種の保護に関すること |publisher=[[群馬県]] |date=2015-08-11 |url=http://www.pref.gunma.jp/04/e2300356.html |language=ja |accessdate=2019-02-19 |archivedate=2019-02-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190219144546/http://www.pref.gunma.jp/04/e2300356.html }}</ref>「群馬県希少野生動植物の種の保護に関する[[条例]]」に基づき「特定県内希少野生動植物種」に指定され許可なく捕獲・採取・殺傷・損傷するなどの行為が禁止されている<ref group="条例" name="群馬採集禁止">{{Cite press release |title=群馬県希少野生動植物の種の保護に関する条例 |publisher=[[群馬県]] |date=2015-08-11 |url=https://www.pref.gunma.jp/contents/000339611.pdf#page=2 |language=ja |accessdate=2019-02-19 |archivedate=2019-02-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190219145953/https://www.pref.gunma.jp/contents/000339611.pdf }}</ref><ref group="条例">{{Cite press release |title=特定県内希少野生動植物種の指定の案について縦覧しています |publisher=[[群馬県]] |date=2015-06-05 |url=http://www.pref.gunma.jp/04/e2300349.html|language=ja|accessdate=2019-03-19|archivedate=2019-03-19|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190319151209/http://www.pref.gunma.jp/04/e2300349.html}}</ref>。}}・[[長崎県]]<ref group="条例" name="長崎採集禁止"/>{{Refnest|group="注釈"|全県で2017年(平成29年)3月28日より<ref group="条例">{{Cite press release |title=長崎県公報(平成29年3月28日) |publisher=[[長崎県]] |date=2017-03-28 |url=https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2017/03/1490662356.pdf#page=2 |language=ja |accessdate=2019-02-19 |archivedate=2019-02-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190219144920/https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2017/03/1490662356.pdf }}</ref>「長崎県未来につながる環境を守り育てる条例」に基づき「希少な野生動植物」に指定され捕獲・採取・殺傷・損傷するなどの行為が禁止されている<ref group="条例" name="長崎採集禁止">{{Cite press release |title=希少な野生動植物は捕獲・採取等が禁止されています。 |publisher=[[長崎県]] |date=2018-03-28 |url=https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2017/03/1521534277.pdf |language=ja |accessdate=2019-02-19 |archivedate=2019-02-19 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190219144704/https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2017/03/1521534277.pdf }}</ref>。}} |
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本種と同様に[[ゲンゴロウ属]]の近縁種も減少が著しく、特にマルコガタノゲンゴロウ・フチトリゲンゴロウは{{絶滅危惧IA類|image=none}}に指定されているほか[[2011年]]([[平成]]23年)[[4月1日]]より[[絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律]](種の保存法)に基づき[[国内希少野生動植物種]]にも指定されており、本種以上の危機的状況に晒されている。一方で北海道から<ref group="書籍" name="内山2007 p.64">{{Harvnb|内山|2007|page=64}}</ref>[[東北地方]]([[青森県]]・[[秋田県]]など)<ref group="書籍" name="内山2007 p.55">{{Harvnb|内山|2007|page=55}}</ref>・[[甲信越地方]](長野県・[[山梨県]]・[[新潟県]])など一部の地域においてはまだ多くの産地が残っており<ref group="書籍" name="内山2007 p.64"/>、平地の沼・水田でも本種の姿を見ることができる場合があるが<ref group="書籍" name="内山2007 p.55"/>、「東北地方・[[北陸地方]]の山間の池」「農薬が入り込まない[[谷津田]]奥のため池」「放棄水田」などの良好な残存生息域を含めて2000年以降の減少が著しい<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>。 |
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*'''コガタノゲンゴロウ ''C. tripunctatus orientalis Gschwendtner, 1931'', ''C. tripunctatus lateralis Fabricius, 1798''''' |
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: 日本([[本州]]・[[四国]]・[[九州]]・[[南西諸島]]・[[小笠原諸島]])、[[台湾]]、[[中華人民共和国|中国]]、[[朝鮮半島]]に分布する<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155">{{Harvnb|森|北山|2002|pages=154-155}}</ref>。水生植物の多い[[ため池]]や[[水路]]、[[水田]]などの止水域を主な生息地としている<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。 |
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: 体長24 - 29mmで、体形は長卵型で比較的平たく、背面は緑色か黒褐色で強い光沢がある<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。頭楯・上唇・前胸背・上翅側縁部はナミゲンゴロウと同様に黄色から黄褐色で、この上翅の黄色帯は側縁から側片に達し、翅端部で釣り針の先端のように広がる<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。頭部は細かくまばらに点刻され、前頭両側と複眼内縁部に浅いくぼみがある<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。前胸背は♂♀ともに前縁部・側縁部などに点刻があるほかは、なめらかで光沢があり、上翅には3条の点刻列があり、♂♀ともに滑沢で、上翅の長さは前胸の長さの5倍以上ある<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。触角・口枝は黄褐色、前脚・中脚は黄褐色で中符節は暗色となり、後脚は暗赤褐色である<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。腹面は暗赤褐色で光沢が強く、腹部第3節から第5節の側方に黄褐色の小さな紋があるが、♀では目立たない個体もある<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。♂の交尾器中央片は先端後方でややくびれ、先端部は二又状で丸みがあり、深く湾入している<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。 |
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: 本亜種 '''''C. tripunctatus tripunctatus 1795, Oriver''''' は[[アジア]]、アフリカ、オーストラリアの[[熱帯]]・[[亜熱帯]]・[[温帯]]域に極めて広い分布域を持つ種で、本亜種を含め7亜種に分類されている<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。 |
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: かつては日本各地の平地から低山地の水田、放棄水田、池沼などで普通に見られたようであるが<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>、特に平野部に生息していたようで、農薬の影響をより受けやすかった種と考えられ、農薬の大量使用とほぼ時期を同じくして多くの地域で絶滅しており<ref name="kanagawakogatano">{{Cite web |title=『神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006』 |publisher=[[神奈川県]] |date=2006-07-08 |url=http://conservation.jp/tanzawa/rdb/rdblists/detail?spc=534 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624180447/http://conservation.jp/tanzawa/rdb/rdblists/detail?spc=534 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、近年は本州などでは極めて稀な種となってしまった<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。全国的に減少傾向が著しく、2017年現在は{{絶滅危惧II類|image=none}}に指定されている上<ref name="rdb2017_VU"/>、各都道府県のレッドデータブックにも掲載されており<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>、[[神奈川県]]<ref name="kanagawakogatano"/>・[[長野県]]<ref>{{Cite news |title=「長野県版レッドリスト」改定、ゲンゴロウ2種を絶滅種に |newspaper=『[[産経新聞]]』 |publisher=産業経済新聞社 |date=2015-03-19 |url=http://www.sankei.com/region/news/150319/rgn1503190012-n1.html |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624175319/http://www.sankei.com/region/news/150319/rgn1503190012-n1.html |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>・[[愛知県]]<ref>{{Cite web |title=コガタノゲンゴロウ(レッドリストあいち2015) |publisher=[[愛知県]] |date=2015-01-22 |url=http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/yasei/rdb/zukan/sp06/ex_04.html |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624174833/http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/yasei/rdb/zukan/sp06/ex_04.html |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}<br>{{Cite web |title=コガタノゲンゴロウ(レッドリストあいち2015、本文PDF) |publisher=[[愛知県]] |format=PDF |date=2015-01-22 |url=http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/yasei/rdb/koncyu/animals_228.pdf |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624174844/http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/yasei/rdb/koncyu/animals_228.pdf |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>・[[和歌山県]]<ref>{{Cite web |title=レッドデータブック2012年改訂版 |format=PDF |publisher=[[和歌山県]] |date=2012-10-15 |url=http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf#page=8 |page=114 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624164725/http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf#page=8 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>・[[大阪府]]では絶滅したと考えられている<ref>{{Cite web |title=大阪府レッドリスト・大阪の生物多様性ホットスポット |publisher=[[大阪府]] |format=PDF |date=2016-07-21 |url=http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/21490/00148206/zentai.pdf#page=16 |page=14 |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702214328/http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/21490/00148206/zentai.pdf#page=16 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。[[京都府]]・[[兵庫県]]でも絶滅したと考えられていたが、兵庫県内では県西部のため池にて[[2010年]][[10月10日]]に♂1頭を採集したという報告があり<ref>{{Cite web |title=兵庫県西部と島根県東部におけるコガタノゲンゴロウの記録 |format=PDF |publisher=[http://www.konchukan.net/ NPO法人こどもとむしの会] |date=2011-12-25 |url=http://www.konchukan.net/pdf/kiberihamushi/Vol33_1/kiberihamushi_33_1.pdf |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624174529/http://www.konchukan.net/pdf/kiberihamushi/Vol33_1/kiberihamushi_33_1.pdf |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、京都府でも[[2009年]]に[[南山城村]]で再発見され、同村の[[相楽東部広域連合立笠置中学校]]が保護活動に取り組んでいる<ref>{{Cite web |date= |url=http://www.kyoto-be.ne.jp/kasagi-jhs/cms/?page_id=32 |title=コガタノゲンゴロウ復活プロジェクト |publisher=相楽東部広域連合立笠置中学校 |accessdate=2012-10-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20140726155149/http://www.kyoto-be.ne.jp/kasagi-jhs/cms/?page_id=32 |archivedate=2014年7月26日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。[[三重県]]では[[1984年]]に[[伊賀市]]で確認されて以降記録がなかったが、[[2011年]]11月8日に[[鳥羽市]]内の[[伊勢志摩国立公園]]内にある用水路で27年ぶりに再発見され、その後[[志摩市]][[阿児町]]の[[横山ビジターセンター]]で公開された<ref>{{Cite news |date=2011-12-06 |title=県内で27年ぶり確認 あすから志摩で公開 コガタノゲンゴロウ |newspaper=『[[中日新聞]]』朝刊三重総合面 |publisher=[[中日新聞社]] |page=19 }}</ref><ref>{{Cite news |date=2011-12-07 |url=http://iseshima.keizai.biz/headline/1267/ |title=絶滅危惧I類の「コガタノゲンゴロウ」、三重県で27年ぶりの発見 |newspaper=『[[伊勢志摩経済新聞]]』 |publisher=グローブ・データ |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624173858/https://iseshima.keizai.biz/headline/1267/ |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。南西諸島の水田や放棄水田などの水域では現在でも比較的多くみられる場所も残っており<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/><ref>{{Harvnb|内山|2013|page=116}}</ref>、灯火に飛来する姿も観察されている<ref name="mori_kitayama2002_p.154-155"/>。 |
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: [[鳥取県]]・[[愛媛県]]では各県の条例により採集禁止となっている<ref>{{Cite web |date=2017-06-04 |url=http://mushi-sha.life.coocan.jp/saishu-kinshi.html |title=採集禁止種 |publisher=[http://mushi-sha.life.coocan.jp/ むし社] |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624173640/http://mushi-sha.life.coocan.jp/saishu-kinshi.html |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。 |
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有効な保護対策としては以下のようなものが挙げられ<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>、[[新潟県]]では個体数が回復するなど<ref group="RDB" name="新潟RDB">{{Cite book |title=レッドデータブックにいがた 昆虫類・準絶滅危惧種 |author=新潟県環境生活部環境企画課 |publisher=[[新潟県]] |date=2008-04-01 |origdate=2001-03 |url=http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/rdb16_kontyu3.pdf#page=14 |language=ja |accessdate=2019-03-01 |archivedate=2019-03-01 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190301083527/http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/rdb16_kontyu3.pdf#page=14 }}</ref>その効果が一部で出始めているが<ref group="RDB" name="RDB-2014"/>、未だ絶滅の危機を回避するには至っていない。 |
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*'''マルコガタノゲンゴロウ ''C. lewisianus Sharp, 1873''''' |
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* 稲作における対策 - 無農薬および減農薬栽培・中干し期の水域確保もしくは夏季湛水・谷津田奥のため池再生・やや深い池の創出<ref group="RDB" name="RDB-2014"/> |
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: [[日本]]([[本州]]・[[九州]])、[[中華人民共和国|中国]]、[[インドシナ半島]]に分布する<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156">{{Harvnb|森|北山|2002|pages=155-156}}</ref>。ヒルムシロ・[[カンガレイ]]などの[[水生植物]]の生えた比較的大きな池沼に生息し<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>、特に棚田部があってから深くなるような沼を好む<ref name="akita_maruko"/>。ナミゲンゴロウとともに採集されることが多いが、本種の方がはるかに個体数が少ない<ref name="akita_maruko"/>。またクロゲンゴロウと混棲していることも多いが、泳ぎはクロゲンゴロウに比べて遅い<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。成虫で越冬するようだが冬季はほとんど採取できない<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。 |
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* その他対策 - 侵略的外来種のモニタリングと排除・コイの放逐防止・採集圧対策・系統保存<ref group="RDB" name="RDB-2014"/> |
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: 体長21 - 26mmで、体形は卵型で、コガタノゲンゴロウに似るが比較的厚みがある<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。背面は緑色か黒褐色で強い光沢がある<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。頭楯・前頭両側・上唇・前胸背・上翅側縁部は黄色で、上翅の黄色帯は側縁から側片に達し、翅端に向けて徐々に細くなる<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。頭部は細かくまばらに点刻され、前頭両側と複眼内縁部に浅いくぼみがある<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。前胸背は♂♀ともに前縁部・側縁部などに点刻があるが、それ以外は滑沢で、上翅には3条の点刻列があり、♂♀とも滑沢で翅端部には不明瞭な雲状紋があり、上翅の長さは前胸の長さの4.5倍以下である<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。触角は黄褐色、口枝も黄褐色で、口枝末節は暗色となる<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。足は黄褐色で、中符節・後脛節・後符節は暗褐色である<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。腹面はコガタノゲンゴロウと異なり、全体に黄色から、赤身のある黄褐色で、光沢が強く後胸前側板・後基節外方・各腹節側方は黒い<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。♂交尾器中央片の先端は、背面から見て2段構えになる<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。 |
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西原昇吾は「現在は研究者・学校・行政が中心となってゲンゴロウ類など環境指標種の生息状況調査が行われているが、地域の人々が地元の水辺環境を『地域の宝』と認識して保全活動を続けていくことが望ましい」と提言している<ref group="書籍" name="西原2008 p.45"/>。 |
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: 極めて稀な種類であり<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>、近年国内では[[青森県]]<ref>{{Cite web |title=青森県レッドデータブック(2010年改訂版) |format=PDF |publisher=[[青森県]] |date=2010-03-26 |url=http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kankyo/shizen/files/2010-0326-1213.pdf#page=26 |page=259 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624173512/http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kankyo/shizen/files/2010-0326-1213.pdf#page=26 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、[[秋田県]]<ref name="akita_maruko">{{Cite web |title=第6回 自然環境保全基礎調査 生物多様性調査・種の多様性調査(秋田県)報告書 |format=PDF |publisher=[[環境省]][[自然環境局]] [[生物多様性センター]] |date=2005-03 |url=http://www.biodic.go.jp/reports2/6th/todouhuken/akita/h16/h16_akita.pdf#page=60 |page=55 |accessdate=2017-07-02 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702114631/http://www.biodic.go.jp/reports2/6th/todouhuken/akita/h16/h16_akita.pdf#page=60 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}<br>{{Cite web |title=水生昆虫 |publisher=[[秋田市]] |url=http://www.edu.city.akita.akita.jp/mmdb/13/ikimono/rdb.htm |accessdate=2017-07-02 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702114616/http://www.edu.city.akita.akita.jp/mmdb/13/ikimono/rdbsui.htm |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、[[岩手県]]<ref name="iwate_rdb2014_maruko">{{Cite web |title=いわてレッドデータブック2014年版 |publisher=[[岩手県]] |date=2014-03 |url=http://www2.pref.iwate.jp/~hp0316/rdb/07konnchuu/0786.html |accessdate=2017-07-02 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702110440/http://www2.pref.iwate.jp/~hp0316/rdb/07konnchuu/0786.html |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>{{Refnest|group="注釈"|2002年に[[北上市]]の溜池で本県での生息が初めて確認されており、他に[[一関市]]で生息が確認されたが、一関市では[[ウシガエル]]の生息地侵入により絶滅したとみられる<ref name="iwate_rdb2014_maruko"/>。}}、[[山形県]]<ref>{{Cite web |title=山形県レッドリスト(鳥類・昆虫類)改訂について(2015年度改訂版) |format=PDF |publisher=[[山形県]] |date=2016-03 |url=http://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/050011/sizenkankyo/yamagatakenredlist/bird_insect_list_kaitei.pdf#page=5 |page=5 |accessdate=2017-07-02 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702113252/http://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/050011/sizenkankyo/yamagatakenredlist/bird_insect_list_kaitei.pdf#page=5 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}<br>{{Cite web |title=最上地方の湿原とため池における希少野生生物保全調査報告書 |format=PDF |publisher=山形県 |date=2011-09-26 |url=https://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/053001/joho/investigation/H21/2-1mogamic.pdf#page=3 |pages=3-4 |accessdate=2017-07-02 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702113244/https://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/053001/joho/investigation/H21/2-1mogamic.pdf#page=3 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}<br>{{Cite web |title=酒田市のため池群における希少野生生物保全調査報告書 |format=PDF |publisher=山形県 |date=2013-09-12 |url=https://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/053001/joho/investigation/H22/3-3sakatashitameike.pdf#page=4 |page=185 |accessdate=2017-07-02 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702113226/https://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/053001/joho/investigation/H22/3-3sakatashitameike.pdf#page=4 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、[[福島県]][[会津地方]]<ref>{{Cite news |title=「マルコガタノゲンゴロウ」展示 アクアマリンで繁殖目指す |newspaper=『[[福島民友|福島民友新聞]]』 |publisher=福島民友新聞社 |date=2011-10-05 |url=http://www.minyu-net.com/news/topic/1005/topic6.html |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20111006064244/http://www.minyu-net.com/news/topic/1005/topic6.html |archivedate=2011年10月6日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、[[新潟県]]、[[石川県]][[能登半島]]北部<ref>{{Cite web |title=いしかわレッドデータブック動物編2009 |format=PDF |publisher=[[石川県]] |date=2009-03 |url=http://www.pref.ishikawa.lg.jp/sizen/reddata/rdb_2009/4_ato/kennsaku2/documents/5-25marukogatanogengorou.pdf |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624165935/http://www.pref.ishikawa.lg.jp/sizen/reddata/rdb_2009/4_ato/kennsaku2/documents/5-25marukogatanogengorou.pdf |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、[[三重県]]<ref name="mie_rdB2015_p133">{{Cite web |title=三重県レッドデータブック2015 |format=PDF |publisher=[[三重県]] |date=2015-03 |url=http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000401552.pdf#page=15 |page=133 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624172731/http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000401552.pdf#page=15 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>{{Refnest|group="注釈"|[[1992年]]に[[磯部町 (三重県)|磯部町]](現・[[志摩市]])内にあった、水面の大半を[[ヒルムシロ]]類が覆いつくした池で春・秋の2回確認されたが、翌1993年以降はヒルムシロ類が消え、本種も確認できていないことから、絶滅したとみられている<ref name="mie_rdB2015_p133"/>。}}、[[和歌山県]]<ref name="wakayama_rdb2012_p114">{{Cite web |title=レッドデータブック2012年改訂版 |format=PDF |publisher=[[和歌山県]] |date=2012-10-15 |url=http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf#page=8 |page=114 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624164725/http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf#page=8 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>{{Refnest|group="注釈"|[[友ヶ島]]と[[湯浅町]]で採集記録があり、標本も現存しているが、1950年代および1960年代から50年以上発見例がないため絶滅したと考えられる<ref name="wakayama_rdb2012_p114"/>。}}<ref>{{Cite news|title=和歌山から消えた生き物編 1|newspaper=『[[朝日新聞]]』|publisher=[[朝日新聞社]]|author=[[内山りゅう]]([[ネイチャーフォト]])|date=2016-06-26|url=http://www.asahi.com/area/wakayama/articles/MTW20160226310610001.html|accessdate=2017-07-02|archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702103317/http://www.asahi.com/area/wakayama/articles/MTW20160226310610001.html|archivedate=2017年7月2日|deadurldate=2017年9月}}</ref>、[[佐賀県]]の各県に生息記録があるのみである<ref name="saga_rl2012_p114">{{Cite web |title=佐賀県レッドリスト2003 |format=PDF |publisher=[[佐賀県]] |date=2004-03 |url=http://www.pref.saga.lg.jp/kiji00314125/3_14125_42525_up_msx4zw3p.pdf#page=7 |page=34 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702115139/http://www.pref.saga.lg.jp/kiji00314125/3_14125_42525_up_msx4zw3p.pdf#page=7 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>{{Refnest|group="注釈"|過去に[[東松浦郡]][[七川村]]で記録があるが、確実な産地はない<ref name="saga_rl2012_p114"/>。}}。本属の中で最も絶滅の危機に瀕している種のひとつである。 |
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: 2017年現在は{{絶滅危惧IA類|image=none}}に指定されている<ref name="rdb2017_CR">{{Cite web |title=環境省第4次レッドリスト(2012)昆虫類 |publisher=[[環境省]] |date=2012-08-28 |url=http://www.env.go.jp/press/files/jp/21555.pdf#page=1 |page=1 |format=PDF |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702230730/http://www.env.go.jp/press/files/jp/21555.pdf#page=1 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。[[2011年]][[4月1日]]より[[国内希少野生動植物種]]指定を受け<ref name="env_2017">{{Cite web |title=国内希少野生動植物種一覧(2017年4月1日現在) |publisher=環境省 |url=http://www.env.go.jp/nature/kisho/domestic/list.html |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702230101/http://www.env.go.jp/nature/kisho/domestic/list.html |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref><ref name="env_20110315">{{Cite web |title=「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令の一部を改正する政令」について(お知らせ) |publisher=[[環境省]] |date=2011-03-15 |url=http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13611 |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702225938/http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13611 |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、捕獲・採取や譲渡(販売や譲渡など)は原則禁止されている<ref name="env_2017"/><ref name="env_20110315"/><ref name="asahi20110215">{{Cite news |title=ヨナグニマルバネクワガタなど5種、国内希少種に指定へ |date=2011-02-15 |newspaper=『[[朝日新聞]]』 |publisher=[[朝日新聞社]] |url=http://www.asahi.com/eco/TKY201102150533.html |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702225349/http://www.asahi.com/eco/TKY201102150533.html |archivedate=2017年7月2日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。また、それ以前から石川県においては石川県指定希少野生動植物種([[2006年]][[5月1日]])に指定され、生きている個体の捕獲、採取、殺傷又は損傷は原則として禁止されている。 |
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2018年1月時点では日本全国の動物園・水族館・昆虫館・博物館などの施設にて本種やタガメの飼育・繁殖・展示が行われているが<ref group="書籍">{{Harvnb|市川|2018|page=106}}</ref>、[[近親交配]]が進むと繁殖成功率が低くなることから<ref group="書籍" name="市川2018 p.4-5">{{Harvnb|市川|2018|pages=4-5}}</ref>、少ない個体数では長くて5年で繁殖できなくなってしまう<ref group="報道">{{Cite news |title=タガメ、ゲンゴロウ…消えた水生昆虫 博物館でも飼育や展示難しく (3/4ページ) |url=https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/150927/cpc1509270702001-n3.htm |newspaper=SankeiBiz |publisher=産業経済新聞社 |date=2015-09-27 |author1=桑波田仰太 |author2=和野康宏 |language=ja |accessdate=2019-02-24 |archivedate=2019-02-24 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190224114811/https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/150927/cpc1509270702001-n3.htm }}</ref>。[[琵琶湖博物館]]([[滋賀県]][[草津市]])では他府県産の個体を繁殖・展示し続けてきたが滋賀県下のゲンゴロウが既に絶滅しており野生個体の導入による血の入れ替えができなかったため<ref group="書籍" name="市川2018 p.4-5"/>、2015年9月1日から本種・タガメの生体展示を中止しており、他施設でも飼育・展示の継続が困難になることが懸念されている<ref group="報道">{{Cite news |title=タガメ、ゲンゴロウ…消えた水生昆虫 博物館でも飼育や展示難しく (1/4ページ) |url=https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/150927/cpc1509270702001-n1.htm |newspaper=SankeiBiz |publisher=産業経済新聞社 |date=2015-09-27 |author1=桑波田仰太 |author2=和野康宏 |language=ja |accessdate=2019-02-24 |archivedate=2019-02-24 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190224114802/https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/150927/cpc1509270702001-n1.htm }}</ref>。 |
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*'''フチトリゲンゴロウ ''C. limbatus Fabricius, 1775''''' |
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: 国内では[[南西諸島]]([[トカラ列島]][[宝島 (鹿児島県)|宝島]]・[[奄美諸島]]の各島・[[徳之島]]・[[沖永良部島]]・[[宮古島]]・[[石垣島]]・[[西表島]]・[[与那国島]])から記録されている<ref name="okinawa_rdb2017"/><ref name="pulex2016"/><ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。国外では[[台湾]]、[[中国]]、[[ベトナム]]、[[フィリピン]]、[[インドネシア]]、[[ネパール]]、[[インド]]、[[タイ王国]]などに分布する<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/><ref name="okinawa_rdb2017">{{Cite web |title=改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編- |format=PDF |publisher=[[沖縄県]] |date=2017-06-05 |url=http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/documents/konnchuurui.pdf#page=6 |page=358 |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624165628/http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/documents/konnchuurui.pdf#page=6 |archivedate=2017年6月24日 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>。水生植物が生えたかなり深い池沼・放棄水田にヒメフチトリゲンゴロウとともに生息するが、一般的に本種の方がかなり少ない<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。 |
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: 体長33 - 39mmで、体型は卵形で比較的厚い<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。背面は緑色を帯びた暗褐色で光沢があるが、♀では光沢が弱くなる<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。頭楯・上唇・前胸背・上翅の側縁部は黄色から淡黄褐色で、この上翅の黄色帯は肩部分を除き側縁に達せず、翅端部で釣り針の先端部のように広がる<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。頭部は前頭両側・複眼内縁部に浅いくぼみがある<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。前胸背は♂では前縁部に点刻がある他は滑沢だが、♀では中央部を除き強いしわがある<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。上翅には3条の点刻列を持ち、♂では滑らかだが、♀では翅端部と会合部を除き強いしわがある<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。触角・口枝は黄褐色で、前脚・中脚は黄褐色で中符節は暗褐色、後脚は暗赤褐色で、後脚符節には♂では両側に、♀では内側のみに遊泳毛を持つ<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。腹面は暗赤褐色で光沢が強く、前胸腹板突起・後胸腹板内方・後基節内方はより暗色となる<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。腹部第3節から第5節の側方に黄褐色紋をもつが、♀では不明瞭な個体も見られる<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。♂の交尾器中央片は先端後方でややくびれ、先端部は二又状で深く湾入する<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。 |
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: 西表島では1996年に採集された記録を最後に公な報告がなく<ref name="tokai_uc2011">{{Cite web |title=西表島におけるゲンゴロウ類の生息状況 |format=PDF |publisher=[[東海大学]]沖縄地域研究センター |author1=北野忠 |author2=唐真盛人 |author3=水谷晃 |date=2011-12-01 |url=http://www.orrc.u-tokai.ac.jp/images/Publication/PDF-publication%20study%20review/2010/Study%20Review%20Iriomote-2010-Kitano%20et%20al..pdf#page=5 |page=40 |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170702222200/http://www.orrc.u-tokai.ac.jp/images/Publication/PDF-publication%20study%20review/2010/Study%20Review%20Iriomote-2010-Kitano%20et%20al..pdf#page=5 |archivedate=2017年7月2日 |journal=東海大学沖縄地域研究センター所報 |volume=2010 |issn=2185-0011 |naid=40019261190 |pages=37-43 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、沖縄県内では1999年に宮古島で採集された個体を最後に<ref name="pulex2016">{{Cite web |title=PULEX(日本昆虫学会九州支部会報)No.95 2016.XII.31(九州大学農学部) |format=PDF |publisher=[[日本昆虫学会]]九州支部 |date=2016-12-29 |url=http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/entomology/Pulex/Pulex_No95.pdf#page=10 |page=693 |accessdate=2017-07-03 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624165628/http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/documents/konnchuurui.pdf#page=10 |archivedate=2017年6月24日 |journal=PULEX(日本昆虫学会九州支部会報) |issue=95 |issn=2185-0011 |naid=40019261190 |pages=37-43 |deadurldate=2017年9月 }}</ref>、その後17年間も発見例がないことから、すでに絶滅した可能性が高い<ref name="okinawa_rdb2017"/>。 |
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: 2017年現在は{{絶滅危惧IA類|image=none}}に指定されている<ref name="rdb2017_CR"/>。[[2011年]][[4月1日]]より[[国内希少野生動植物種]]指定を受け<ref name="env_2017"/><ref name="env_20110315"/>、捕獲・採取や譲渡(販売や譲渡など)は原則禁止されている<ref name="env_2017"/><ref name="env_20110315"/><ref name="asahi20110215"/>。 |
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=== 研究者・愛好家の考察 === |
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*'''ヒメフチトリゲンゴロウ ''C. rugosus MacLeay, 1833''''' |
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市川憲平・北添伸夫はゲンゴロウ類の保護活動・保護を重視した稲作などに関して以下のように考察・例示している<ref group="書籍" name="市川2010 p.46">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=46}}</ref>。 |
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: [[南西諸島]]([[奄美大島]]以南)、[[中華人民共和国|中国]]、[[東南アジア]]、[[インド]]、[[アッサム]]に分布する<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157">{{Harvnb|森|北山|2002|pages=156-157}}</ref>。水生植物の生えた池沼や放棄水田、湿地に生息するが稀な種類である<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。しかし前種フチトリゲンゴロウよりも生息地の幅は広く、かなり富栄養な浅い水域にもみられることがある<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。 |
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* 最も理想的な水田は「完全な無農薬で水田を耕さず、土用干し(中干し)もしない」自然農法の水田だが、この農法による稲作は稲が雑草に圧倒され収穫量が減るなどのデメリットが伴うため難しく、誰もがすぐにできる方法ではないだろう<ref group="書籍" name="市川2010 p.46"/>。しかしゲンゴロウ類の保護を観点に入れると「ゲンゴロウが産卵・孵化してから成虫が羽化するまで」の4月 - 7月ごろまでは減農薬・無農薬にして土用干しも控えめにし、畔際に素掘りの溝(ひよせ)を設けて土用干しの際にゲンゴロウ類などが逃げ込める場所を作ることから始めるとよい<ref group="書籍" name="市川2010 p.46"/>。 |
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: 体長27 - 33mmとフチトリゲンゴロウより小型で、体形は卵型で比較的厚みがある<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。背面は褐色か、緑色を帯びた黒で強い光沢があるが、♀では弱い<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。頭楯・上唇・前胸背・上翅の側縁部は黄色から淡黄褐色で、この上翅の黄色帯は肩部分を除き側縁に達せず、翅端部で釣り針の先端部のように広がる<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。頭部は前頭両側・複眼内縁部に浅いくぼみがある<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。前胸背は♂では前縁部に点刻がある他は滑沢だが、♀では中央部でやや弱くなるものの、全面に強いしわがある<ref name="mori_kitayama2002_p.155-156"/>。上翅には3条の点刻列を持ち、♂では滑らかだが、♀では翅端部を除き強いしわがある<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。触角・口枝は黄褐色で、前脚・中脚は黄褐色で中符節は暗褐色、後脚は黒色だが転節端部・腿節端部・脛節端部は黄褐色、後脚符節には♂では両側に、♀では内側のみに遊泳毛を持つ<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。腹面は黒色で光沢が強く、後胸腹板・後基節は中央部を除き黄色となる<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。腹部第1節から第5節の側方も黄色で、第1節の紋は内方に広がる<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。♂の交尾器中央片は先端後方でわずかにくびれ、先端部は二又状で浅く湾入する<ref name="mori_kitayama2002_p.156-157"/>。 |
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* [[千葉県]]では[[シャープゲンゴロウモドキ]]([[絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律|種の保存法]]により保護種指定)を保護するためにボランティア活動が行われており、生息地の休耕田を保全するため地元の小学生とともに「侵入したアメリカザリガニを駆除する」「畔を補修して一年じゅう水が涸れないようにする」などの活動が行われている<ref group="書籍" name="市川2010 p.47">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=47}}</ref>。 |
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: 2017年現在は{{絶滅危惧II類|image=none}}に指定されている<ref name="rdb2017_VU"/>。 |
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* [[石川県]]・[[鳥取県]]などシャープゲンゴロウモドキ・マルコガタノゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウなどを保護している県では採集禁止のほか、生息池へのブラックバス放流禁止・ブラックバス駆除などの活動が行われている<ref group="書籍" name="市川2010 p.47"/>。 |
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* 西日本でも数少ないナミゲンゴロウ生息地が残る[[広島県]][[尾道市]][[御調町]]ではナミゲンゴロウが生息できる自然環境を保全するため子供たちとともに水田の生き物探し・稲作体験などのイベント・生物保全活動を行っているほか、「[[全国農業協同組合中央会|JA]]尾道市環境農業研究会」「源五郎米研究会」により無農薬・減農薬による稲作が行われており、その水田で収穫された米・ナミゲンゴロウが生息する水田で収穫された米がそれぞれ「みつぎ健康米」「源五郎米」として販売されている<ref group="書籍" name="市川2010 p.48">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=48}}</ref>。 |
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** ゲンゴロウの減少の原因は稲作のあり方にあることが明らかだが、ゲンゴロウの保護を重視した農法を行う水田がすぐに増えるわけではないため、まずは消費者たちの間に「ゲンゴロウが生息できる水田で収穫された米を食べたい」という意識が広まっていくこと(=その米の需要が増大していくこと)が大切だろう<ref group="書籍" name="市川2010 p.57"/>。 |
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* ゲンゴロウ類の採集に最適な時期・場所は「稲刈りの終わった直後のため池(水田畔で羽化した新成虫がため池に移動するため)」だが、繁殖は来年に持ち越しとなるため同年中に繁殖させたければ4月ごろに池で水田に移動する前の成虫を採集する<ref group="書籍" name="市川2010 p.53">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=53}}</ref>。しかし個々人の採集がその地域に生息している個体群を絶滅に追いやってしまう可能性があるため、仮に法律・条例で採集が禁止されている種類・地方でなくとも乱獲しないよう注意すべきである<ref group="書籍" name="市川2010 p.53"/>。 |
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* 水田の生き物観察会を行うとヒメゲンゴロウ・ヒメガムシを見つけた方が「これはゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ)ですか?」と質問してくることがあるほか「ゲンゴロウの名前は知っているがナミゲンゴロウを実際に見たことはない」人が増えている<ref group="書籍" name="市川2010 p.57">{{Harvnb|市川|北添|2010|page=57}}</ref>。 |
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[[内山りゅう]]は自著『田んぼの生き物図鑑』(2013年・[[山と渓谷社]])にて「初めて野生のナミゲンゴロウを確認した島根県山間部の谷津田最上部に位置する池は谷から水が流れ込み、モリアオガエルのオタマジャクシが非常に多く生息していた」と述べた上で<ref group="書籍" name="内山2013 p.115"/>、『水生昆虫観察図鑑』(2014年・[[ピーシーズ]])に寄稿した記事「水生昆虫に思うこと…」では本種の暮らす環境に関して「1匹の幼虫が成虫までに成長するには膨大な数のオタマジャクシ・ヤゴなどを食べる必要があるが、それは即ち『ゲンゴロウの暮らす水田は多様な生き物で溢れかえるほど豊かな水田』ということだ。食欲旺盛でかつ移動能力の乏しいゲンゴロウの幼虫たちがいくら食べても食べ尽くせないほど豊富な生き物たちに囲まれた水田こそが『生物多様性に満ちた環境』だと思う」と述べている<ref group="書籍" name="森2014 p.140">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|page=140}}</ref>。 |
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森文俊は『水生昆虫観察図鑑』にて本種を含めた水生昆虫類の保護に関して以下のように指摘・提言している<ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>。 |
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* 本種は育成が容易な種であるため、各地の小中学校で地元産の個体を繁殖するなどの活動が拡大すれば種の保存につなげられるだろう<ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>。本種に限らず水生昆虫類の保護には「地元の小中学校で地元産の水生昆虫を累代繁殖させる」ような情操教育が必要だろう<ref group="書籍" name="森2014 p.53">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|page=53}}</ref>。 |
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* ゲンゴロウの飼育・繁殖に取り組んだことを通じて「自然下における豊かな生息環境」に思いを馳せるようになった<ref group="書籍" name="森2014 p.172-173"/>。水生昆虫たちは「幼虫たちの旺盛な食欲を満たす周辺の豊かな生物相」「産卵床となる無為性植物が豊富な水辺」「蛹化のために幼虫が上陸する優しい土質の岸辺」「成虫がゆったり生活できる静かで豊富な水」のいずれが欠けてもすぐに減少してしまう<ref group="書籍" name="森2014 p.172-173">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=172-173}}</ref>。 |
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* 水生昆虫たちは決して人里離れた山奥などではなく、人の管理が行き届きかつ(側溝・用水路のコンクリート化など)大規模な圃場整備がされていない水田とそれにつながる水路・ため池などの環境で生活している<ref group="書籍" name="森2014 p.172-173"/>。山奥にある放棄水田のような環境では植物が伸び放題になり、やがて水深は浅くなり湿地化することで水生昆虫が生きていける場ではなくなる<ref group="書籍" name="森2014 p.172-173"/>。 |
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** 圃場整備そのものは稲作の観点からある程度はやむを得なかろうが、ここ十数年の間に「本当に必要とは思えないような場所」まで圃場整備で開発されて水生昆虫たちの生息地が消滅したことを実感した<ref group="書籍" name="森2014 p.168">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|page=168}}</ref>。日本全国で「水生昆虫類の生息環境として最適で、人間の社会生活にあまり重要でない場所」にまで開発が及んでいることは悲しい限りだ<ref group="書籍" name="森2014 p.168"/>。 |
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* 「微生物・水生生物・それを餌とする鳥類」「周囲の植物相」のいずれも豊かな環境を残していくことが「本当の意味で『環境保全』になる」という意識が人々の間に高まってほしい<ref group="書籍" name="森2014 p.54">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=54}}</ref>。 |
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** 近年はビオトープにより水辺の自然を再現する事業が全国各地で行われているが「使われる植物が外来種」「生物保護のためより景観目的の石組み」など「一部の魚類・鳥類」のみに意識が向いたものが多く、「ゲンゴロウ幼虫が蛹化のために上陸できる柔らかい土の岸」「抽水植物がしっかり根付いた岸」など「水生昆虫たちにまで意識を向けた工法」が少ないことは残念だ<ref group="書籍" name="森2014 p.7">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=7}}</ref>。 |
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* 飼育に取り組む人々は飼育・繁殖を成功させるための基礎知識を身に着けるために事前にきちんと下調べをしてほしいし<ref group="書籍" name="森2014 p.8">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=8}}</ref>、入手方法もできればペットショップなどで購入するのではなく「自分の足で生息地に出かけて採集し、繁殖に必要な数だけ持ち帰る」ようにしてほしい<ref group="書籍" name="森2014 p.9">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=9}}</ref>。 |
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** 自分で採集した水生昆虫たちには思い入れがあるだろうから「大切にしたい」気持ちが芽生えるはずだし、「実際に生息地を見ることで飼育環境の参考にする」ことにもつながるだろう<ref group="書籍" name="森2014 p.9"/>。 |
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** 減少している水生昆虫たちは「愛玩用の存在」としてではなく「少しでも水生昆虫への思いを持って真面目に飼育・繁殖」してほしい<ref group="書籍" name="森2014 p.9"/>。 |
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** 採集ばかりでなくインターネットオークションで成体を入手することも積極的に行ったが、生体を売買することへの賛否の有無はともかく「水生昆虫を愛する人たちが全国各地にいる」ことを知ることができたことは喜ばしい<ref group="書籍" name="森2014 p.168"/>。1人でも多くの人に水生昆虫の存在を知ってもらえれば「存在そのものを知ることなく環境が開発されることで減少につながる」ことよりは意義があるだろう<ref group="書籍" name="森2014 p.168"/>。 |
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またゲンゴロウ類の自家繁殖・繁殖個体の販売を行っている関山恵太は『水生昆虫観察図鑑』に寄稿した記事「ゲンゴロウ繁殖の勧め」にて以下のように指摘・提言している<ref group="書籍" name="関山2014 p.146-148">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=146-148}}</ref>。 |
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* ゲンゴロウ類の場合は[[カブトムシ亜科|カブトムシ]]・[[クワガタムシ]]類やタガメと異なり繁殖個体(CB個体)の流通が少なく、愛好家が新たに入手する個体はほとんどが生息地から採取された野生個体(WC個体)である<ref group="書籍" name="関山2014 p.146-148"/>。その背景には「人工繁殖がタガメより複雑で手間・コストが多くかかる点」「野生個体が格安に取引されると繁殖個体販売は採算が合わない点」があるだろう<ref group="書籍" name="関山2014 p.146-148"/>。 |
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** 愛好家が増えることでゲンゴロウ類の生息する水辺環境への関心が高まることは大事だが、ゲンゴロウ類はほとんどの種が開発・環境悪化で減少傾向に歯止めがかからない状態にある<ref group="書籍" name="関山2014 p.146-148"/>。 |
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** 採集活動がその野生個体を消費し絶滅への追い打ちをかけている状況にあるため「小遣い稼ぎ目的の乱獲」は増えてほしくない<ref group="書籍" name="関山2014 p.146-148"/>。 |
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** 乱獲防止のために一部の地域・種は法律・条例で採集禁止措置が施されているが、愛好家の1人としては採集・飼育が楽しめなくなることは残念だ<ref group="書籍" name="関山2014 p.146-148"/>。 |
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* 多くの人々がゲンゴロウの飼育・繁殖を末永く楽しめるよう「今後は繁殖個体の作出・流通が増加して野生個体への依存を脱却できるようになってほしいし、そのためにゲンゴロウ類の繁殖に成功する人が1人でも増えてほしい」と願っている<ref group="書籍" name="関山2014 p.146-148"/>。 |
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* ゲンゴロウ類の繁殖は根気がいるので、累代が途絶えてしまう最大の原因は「飼育者自身が飼育に飽きてしまうこと」だろう<ref group="書籍" name="関山2014 p.151-152"/>。それを防ぐためにも同じく飼育・繁殖を楽しんでいる飼育仲間とつながりを持ち「飼育に関する情報交換」「繁殖個体の交換」「採集に同行する」などしてモチベーションを維持することが繁殖への成否を分けるほど重要な要素になるだろう<ref group="書籍" name="関山2014 p.151-152">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=151-152}}</ref>。1つの種類を系統保存するためには一個人よりも仲間とスクラムを組んだほうが有利だと思う<ref group="書籍" name="関山2014 p.151-152"/>。 |
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== 飼育 == |
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=== 飼育用水 === |
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ゲンゴロウ属に限らず水生昆虫の多くは一部種類を除き農薬・洗剤など化学的汚染はともかく有機的な汚染には強いものが多く、前述のように「化学的汚染がない自然の土の岸が残る水域」ならば淀んだ水域でも多数の水生昆虫がみられる<ref group="書籍" name="都築2003 p.42">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|pages=42}}</ref>。そのためナミゲンゴロウなどゲンゴロウ属の昆虫を飼育する際には観賞魚類ほど水質に神経質になる必要はなく、餌用魚類(メダカ・[[ワキン]]など)が状態よく飼育できる程度の水質ならば全く問題ないが、水を換える場合は地域・季節により水道水内の[[塩素]]濃度が変化するため、水道水100%の水は必ずしも安全とは保証できない<ref group="書籍" name="都築2003 p.42"/>。それに加え濾過装置内の濾過用バクテリア・餌用魚類が塩素で死滅するおそれがあること・水草に悪影響が出る可能性があることから水道水を直接飼育容器に入れることは避け、1日以上汲み置きした水を使うことが望ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.42"/>。 |
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水を汲み置く場合は可能な限り飼育容器と同じ場所で汲み置けば、飼育水と汲み置き水の温度がほぼ同じになり換水時の急激な温度変化を抑えることができる<ref group="書籍" name="都築2003 p.42"/>。換水は成虫の場合一度に全量行ってもよいが、ろ過装置用バクテリア・餌用魚類・水草に配慮すると一度に全体3分の1 - 2分の1程度を交換することが望ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.42"/>。 |
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なおカルキ抜き剤などは容量を間違えると水生昆虫に悪影響が出る可能性がある上、魚用の病気治療剤・コケ防止剤も多くのものが水生昆虫生体に影響を与えるため、都築裕一は「いずれも使用しない方が無難。もし使用する場合は直接メーカーに問い合わせて安全性を確認した上で使用すべき」と解説している<ref group="書籍" name="都築2003 p.42"/>。 |
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=== 成虫飼育 === |
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[[File:飼育下でのゲンゴロウ.JPG|thumb|飼育下でのゲンゴロウ。クリルを食べている。]] |
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[[ペット]]として[[ペットショップ]]などで販売されている<ref group="書籍" name="海野1999 p.6"/>。丈夫・長寿な昆虫であるため飼育は容易で<ref group="書籍" name="森2014 p.56-59"/>、本種を含むゲンゴロウ属の成虫は丈夫で生き餌を必要としないことから水生昆虫の飼育に初めて挑戦する初心者に最適の種類である<ref group="書籍" name="都築2003 p.140"/>。 |
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ナミゲンゴロウの場合は少なくとも幅45cm以上、できれば60cm以上の飼育容器で泳ぎ回るスペースを確保してゆったりと飼育することが適切であり、ある程度水深のあるため池などに好んで生息するため水深は20cm - 60cm程度確保することが望ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.143-144">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|pages=143-144}}</ref>。飼育容器には水槽・プラスチックケース・衣装ケースなどが使用できるが「水深を確保した上でゆったりと飼育する」観点ではガラスおよびアクリル製の水槽が最適とされる<ref group="書籍" name="都築2003 p.143-144"/>。 |
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ナミゲンゴロウの場合は大型の飼育ケース(幅約40cm)で5, 6匹、幅約60cmの観賞魚用大型水槽の場合は7, 8匹程度が飼育可能数の目安で、さらに多頭飼育することも可能ではあるが水がすぐに汚れるため推奨されない<ref group="書籍" name="海野1999 p.7"/>。日本本土に生息するナミゲンゴロウの場合は特に保温装置は必要ないが<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>、急激な水温の変化を防ぐため直射日光は避け、季節に合わせた日照時間を考えて昼夜の明暗がはっきりしており、かつゲンゴロウに不要なストレスを与えないため人の出入りが少ない静かな場所に容器を設置する<ref group="書籍" name="都築2003 p.56">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=56}}</ref>。そのような観点から考えると室内では直射日光が当たらない窓辺・風通しの良い廊下など、屋外では屋根付きのベランダ・テラス・直射日光の当たらない軒下などに飼育容器を設置することが好ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.56"/>。また繁殖行動には日照時間・温度などの要素が影響するため「昼は照明装置・日光などで適度の明るさを保ち、夜は真っ暗にする」「夏は暑く冬は寒くし、季節に合わせた温度管理をする」ことが望まれる<ref group="書籍" name="都築2003 p.56"/>。 |
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餌は[[煮干し]]・[[田作り]](いずれも醤油・食塩などによる味付けがされていないもの)など入手が容易で保存性が良いものを主に与え、摂食状態を観察しつつ数種類をローテーションで与えることが好ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.147">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=147}}</ref>。このほか以下のようなものが餌として使用できる。 |
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* [[クリル]]([[熱帯魚]]餌用の乾燥[[オキアミ]]) - [[タンパク質]]の含有量が多く<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>栄養価が高いことから<ref group="書籍" name="都築2003 p.148"/>特に推奨され<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>、実際に食いつきも良いが殻の部分が食べ残されやすく、容器内に破片が散らばるとミズカビ発生の原因になるため注意が必要である<ref group="書籍" name="都築2003 p.148">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=148}}</ref>。 |
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* [[熱帯魚]]用の冷凍[[赤虫]]・乾燥赤虫 - クリルと同様に食いつきがよいが食べ残すと水槽に散らばりミズカビ発生の原因になるため与える量を調節する<ref group="書籍" name="都築2003 p.148"/>。 |
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** 関山恵太は「釣具店で販売されている活赤虫を与えると直後に大量死したことがある。可能性の一つとして薬剤の残留が考えられる」と指摘している<ref group="書籍" name="関山2014 p.150"/>。 |
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* [[ヨーロッパイエコオロギ]]・[[ミールワーム]]など昆虫類 - 弱らせて与える<ref group="書籍" name="海野1999 p.7"/>。 |
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* 死んで間もない川魚や金魚<ref group="書籍" name="都築2003 p.148"/>・脂肪分の少ない赤身魚([[マグロ]]の赤身など)や[[イカ]]の[[刺身]]なども食べるが、すぐに体液が流出して水を白濁させ、水質悪化につながるため注意が必要である<ref group="書籍" name="都築2003 p.148"/>。 |
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* また[[タンクメイト]]として生きた[[ドジョウ]]などを飼育容器に入れておくとゲンゴロウの食べ残しを食べてくれるため水槽の掃除屋として役立つ<ref group="書籍" name="都築2003 p.148"/>。<!--[[ミナミヌマエビ]]・[[イシマキガイ]]を水槽に入れておくとゲンゴロウの食べカスを食べてくれるため便利で、増殖した場合は幼虫の餌にもなる。--> |
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体表<ref group="書籍" name="市川2010 p.40"/>・後脚の付け根に[[ミズカビ]]が生えてしまい水替えをしてもなかなか消えない場合は塩分濃度約0.5%程度の食塩水で数日間にわたり塩水浴をさせればミズカビが死滅する<ref group="書籍" name="都築2003 p.144">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=144}}</ref>。また水槽内には直接空気中の酸素を取り入れるため飼育容器の水面が油膜などで覆われないように注意すべきだが、ゲンゴロウ類は餌の肉質をかじり取って食べるために餌の破片が水中に散らばって水質が悪化しやすいため、水替えを頻繁に行ったり濾過装置を設置したりして水質の悪化を抑えることが望ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.144"/>。 |
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ミズカビ発生防止などの観点から甲羅干しができるように水面上に少なくとも10cmぐらいの空間ができるように水を入れ、[[流木]]・[[ヘゴ]]の支柱などを水面上に先端が突き出るように立てて「甲羅干しができるような足場」を作ることが望ましいが<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>、タガメより深い水深で飼育することが多いゲンゴロウの飼育容器に合った大型の流木は高価で入手が難しいため、中型の流木を釣り糸などで容器の縁から吊り下げ半分ほど水に浸かった状態で使うことで代用することもできる<ref group="書籍" name="都築2003 p.146">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=146}}</ref>。また飼育下では流木の下にできた隙間・ホテイアオイの根の下などに押し合うようにして集まっていることが多い{{Refnest|group="注釈"|天敵である鳥類などから身を隠す修正であるとともに、呼吸のために貯めた空気による浮力で体が水面に浮き上がることを抑えるためとされる<ref group="書籍" name="都築2003 p.146"/>。都築裕一はゲンゴロウがこの行動を取る理由を「物に掴まって体が浮くのを抑えるより、何かの下に潜って浮くのを抑えたほうが体力の消耗が少ないからだろう」と推測している<ref group="書籍" name="都築2003 p.146"/>。}}ため、飼育容器内には足場としての流木を利用するだけでなく、ゲンゴロウが体ごと潜り込めるような隙間を作ることが推奨される上、水草を入れる際もオオカナダモなど沈水植物を多く入れることで、ゲンゴロウが体ごと水草に引っかかるようにして水中で休めるような環境を作るとよい<ref group="書籍" name="都築2003 p.146"/>。 |
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水質安定・足場としての目的に加えて本来の生息域が[[水草]]の豊富な環境であるため、繁殖の有無を問わず飼育容器には水草も入れるのが望ましい<ref group="書籍" name="海野1999 p.7"/>。ただしペットショップ・観賞魚店でなどで購入した水草は残留薬物に注意する必要があるほか<ref group="書籍" name="関山2014 p.150"/>、♀は産卵期が近づくと頻繁に植物を齧り、細い水草をすぐボロボロにしてしまうため高価な水草を入れることは控えたほうが良い<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>。肉食性が故に水が汚れやすいため飼育容器には濾過装置の設置が望ましいが、その場合でも水質が悪化した場合は水替えが必要である<ref group="書籍" name="海野1999 p.5"/><ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>。 |
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ゲンゴロウ類の成虫は幼虫や[[タガメ]]などとは異なりいわゆる[[肉食動物|プレデター]]ではなく[[腐肉食|スカベンジャー]]であり、生きた他のゲンゴロウ・魚を積極的に襲うことは少ないため<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>、元気な個体同士が同種間で共食いすることは少ない<ref group="書籍" name="都築2003 p.143">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=143}}</ref>{{Refnest|group="注釈"|複数飼育した場合は稀に仲間の死体を食べる姿が観察されたり、食べられてバラバラになった死体が推定に沈んでいたりする場合があるが、これは「共食い」ではなく何らかの原因で弱ったり死亡したりした個体が食べられたものである場合が多い<ref group="書籍" name="都築2003 p.143"/>。}}。そのため自由に泳ぎ回ることができるスペースが確保できる場合はタガメなどと違い複数飼育が可能な水生昆虫である<ref group="書籍" name="都築2003 p.143"/>。また他種ゲンゴロウ類・小魚([[ドジョウ]]・[[メダカ]]など)との混泳も可能だが、長期間餌を切らしたり、弱っていたりすると小型種・弱った個体・行動の鈍い魚などは食べられてしまうこともあるため注意する<ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>。 |
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11月を過ぎるとゲンゴロウは活動が鈍るようになり餌の摂食量も減るため、そのような状態になったら飼育容器内に隠れ場所となる水草・流木などを多めに入れた上で容器を温度の安定した場所に移動して越冬させる<ref group="書籍" name="都築2003 p.148">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=148}}</ref>。ただしナミゲンゴロウは冬季でも完全な冬眠状態にはならず活動し続けているため様子を見ながら餌を与える必要があり、冬が開けて3月ごろになると活発に活動するようになるため再び餌を多めに与える<ref group="書籍" name="都築2003 p.148"/>。都築裕一は「自身の経験ではナミゲンゴロウの越冬・産卵の関係を考えると、産卵をうまく成功させるためにはタガメの場合とは違い一定期間は低温で飼育して越冬させる必要がある」と評価している<ref group="書籍" name="都築2003 p.148"/>。 |
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==== 人工繁殖 ==== |
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成虫の飼育は容易である反面、タガメなど水生カメムシ類(半翅目)と比較すると繁殖は難しい<ref group="書籍" name="都築2003 p.140"/>。 |
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前述のように♀は1回の交尾で数か月にわたり有精卵を生むことができる上<ref group="書籍" name="都築2003 p.150"/>、交尾中に呼吸もままならず窒息死してしまう場合があるため、複数飼育の場合でも成熟した♂は繁殖を狙わない場合♀と別容器で飼育することが望ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.149"/>。 |
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産卵床とする水草は[[ヘラオモダカ]]など[[オモダカ]]類・[[ホテイアオイ]](浮嚢部分に産卵する)など<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151"/>「植物内部がスカスカのスポンジ状になったもの」<ref group="書籍" name="都築2003 p.152"/>が使用できるが、細いと♀が噛み千切ったり、散乱してもかじられた部分から腐敗することがあるため、茎の太さは最低でも3mm - 4mm程度の直径が必要であり、5mm以上が推奨される<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|pages=150-151}}</ref>。都築裕一は産卵床植物の種類に関して以下のように考察した上で「いずれの植物でも蛍光灯程度の人工照明では植物そのものの長期育成が難しいため、産卵床に使う植物は小鉢に植えて屋外で栽培した上で屋外・飼育容器間をローテーションするなどの工夫が望ましい」と評価している<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151"/>。 |
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* 人工照明下では主にヘラオモダカ・ホテイアオイを利用している<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151"/>。都築らの経験の一例としてホテイアオイ1株から40近い幼虫を得た場合がある<ref group="書籍" name="都築2003 p.152"/>。 |
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* オモダカ及びその改良品種である[[クワイ]]なども産卵床として適しているが大きくなりすぎるため利用しにくい<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151"/>。 |
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* 他に利用可能な植物として[[フトイ]]・[[アサザ]]・[[コウホネ]]・[[スイレン科|スイレン類]]・[[コナギ]]など[[ミズアオイ科|ミズアオイ類]]を挙げているが、コウホネ・スイレン類・ミズアオイ類などは「強い照明を用いても産卵時にかじられた部分から溶けるように植物組織が腐敗し、卵が孵化するまで植物が持たないことが多いため利用を避けたほうが無難」と評価している<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151"/>。 |
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* また[[セリ]]などに関しては「茎が固いためにうまく産卵しないことがある」と評価している<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151"/>。この他熱帯魚用のバコパ・[[エキノドルス#アマゾンソードプラント|アマゾンソードプラント]]などのうち茎の太いものを利用することもできる<ref group="書籍" name="都築2003 p.152"/>。 |
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産卵された植物はそのまま繁殖用容器に入れておくと親成虫が植物ごと卵を齧って食べてしまったり、孵化直後の幼虫を捕食したりしてしまう可能性があるため、必ず親成虫と別々に管理する必要がある<ref group="書籍" name="都築2003 p.152"/>。ゲンゴロウの産卵はタガメと違いだらだらと続くため、親成虫を別容器に移すよりも植物ごと卵を別容器に移し替え、産卵用容器には新しい植物を入れることが望ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.152">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=152}}</ref>。産卵が確認できた植物はそのまま切り花のようにペットボトルを半分に切った容器など別容器に移動させておけば、孵化までの2週間ほどは枯れずに維持できる<ref group="書籍" name="都築2003 p.150-151"/>。 |
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孵化した幼虫は飼育容器壁面・水草などに掴まって水面から尾端の呼吸器を出している場合が多いため、孵化時期が近づいたら注意深く容器内を観察して別容器に移し替える<ref group="書籍" name="都築2003 p.153"/>。 |
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=== 幼虫飼育 === |
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[[File:ゲンゴロウ終齢幼虫 2013-08-05 18-20.JPG|thumb|飼育下でのゲンゴロウ終齢幼虫]] |
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幼虫は生き餌専食であるため成虫に比べて飼育が厄介で、共食いを防ぐため1匹ずつ分けて単独で飼育しなければならないほか<ref group="書籍" name="都築2003 p.153"/>、餌も生きた獲物を用意しなければならない<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/>。タガメの幼虫のように一斉に100頭近い幼虫が孵化するわけではないため比較的幼虫の管理はしやすいが、一通りの孵化が終わると1ペアから数十頭の幼虫が得られるため、その個別飼育にはそれなりの手間・労力を要する<ref group="書籍" name="都築2003 p.153"/>。 |
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* 1齢幼虫には主に[[ボウフラ]]<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/>・[[アカムシ]]・小さめのメダカ・川魚の稚魚・孵化直後の[[オタマジャクシ]]などを与える<ref group="書籍" name="都築2003 p.156">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=156}}</ref>。 |
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* 2・3齢幼虫には[[小魚]](メダカ・小さい[[和金]]・川魚)<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>・オタマジャクシ・[[ヨーロッパイエコオロギ]]などを与える<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/>。 |
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** 月刊[[昆虫学]][[専門雑誌]]『[[インセクタリウム]]』([[多摩動物公園]]昆虫愛好会会誌、[[財団法人]][[東京動物園協会]]発行)1994年10月号では「多摩動物公園昆虫園([[東京都]][[日野市]])ではナミゲンゴロウの成虫・幼虫ともに養殖した[[コオロギ]]を与えて飼育することで好結果を得た」と発表されている<ref group="論文">{{Cite journal |論文 |author=細井文雄 |date=1994年10月 |title=コオロギだけで育ったゲンゴロウ |publisher=[[東京動物園協会]] |journal=[[インセクタリウム]] |volume=31 |issue=10 |pages= |issn=0910-5204 |language=ja}}</ref>。 |
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* マグロなど赤身の刺身を代用食として利用することができるが、体液がすぐ水に溶けだすため水質の悪化が早く、かえって生き餌より手間がかかる<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>。 |
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* なおオタマジャクシは[[生物濃縮]]により農薬が蓄積されている場合があり、市川憲平は「無農薬で稲を栽培している水田以外で採集したオタマジャクシをタガメに与えると死亡する可能性がある」と指摘している<ref group="書籍">{{Harvnb|市川|2018|page=98}}</ref>。 |
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** 関山恵太は「成虫・幼虫を問わず水田脇などで採集された小魚・オタマジャクシなどには残留農薬が含まれており与えると死亡する危険性がある。観賞魚店で販売されているメダカなども魚病薬などゲンゴロウに有害な薬剤が残留している恐れがあるため、数日間はストックして体内の残留薬剤を排出させてから使用したほうがいい」と指摘している<ref group="書籍" name="関山2014 p.150">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|page=150}}</ref>。 |
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** また[[イモリ]]・[[サンショウウオ]]など[[有尾類]]の[[両生類]]も有毒である場合があり、実際に都築裕一は「飼育していたタガメ成虫にイモリ成体を与えたところ死亡した場合がある」と自身の失敗談を挙げつつ「死因が必ずしも毒のせいとは言えないが、念のため有尾類の両生類は成体・幼体を問わず水生昆虫の餌には使用しないほうが良い」と述べている<ref group="書籍" name="都築2003 p.53-54">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|pages=53-54}}</ref>。 |
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ナミゲンゴロウの幼虫を含め1齢・2齢幼虫の期間がそれぞれ1週間以上ある種類の場合、毎日餌を与えなくても1,2日おきに餌を与えれば餓死することはない<ref group="書籍" name="関山2014 p.149-150">{{Harvnb|森|渡部|関山|内山|2014|pages=149-150}}</ref>。 |
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ゲンゴロウは幼虫も比較的生育可能温度範囲が広いが、水温が低いと発育が遅れる反面、高すぎると水質悪化が早くなり死亡率も上昇するため、幼虫飼育時には極端な温度変化を避けて23℃ - 28℃の範囲を目安に維持する<ref group="書籍" name="都築2003 p.154"/>。飼育容器はプラケースなども使用可能だが餌の捕獲しやすさ・管理のしやすさなどの観点から小さめのプラスチックカップなどが推奨される<ref group="書籍" name="都築2003 p.154"/>。脱皮に必要な広さを考えると1齢幼虫では直径5cm、2齢幼虫では直径7cm、3齢幼虫では直径10cm程度の大きさが望ましいが、浅すぎる容器では幼虫が這い上がって脱走するリスクがあるため幼虫の体長に応じて5cm - 10cm程度の深さの容器を選び、容器に蓋をすることが推奨される<ref group="書籍" name="都築2003 p.154"/>。 |
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ゲンゴロウ幼虫は尾端の呼吸器から直接大気中の空気を体内に取り込んで呼吸するため、タガメほど水質悪化による窒息死は多くなく水質悪化には比較的強いが、2・3齢幼虫はともかく1齢幼虫では水面が汚れ・油膜などで覆われると窒息死しやすいため注意が必要である<ref group="書籍" name="都築2003 p.155">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=155}}</ref>。また水が汚れると体表にミズカビが生えて脱皮に失敗する場合もある<ref group="書籍" name="都築2003 p.155"/>。個別飼育が必要なゲンゴロウ幼虫はすべての幼虫を1頭ずつ濾過装置付きの飼育容器で飼育することはまず不可能だが、飼育頭数が少ない場合・設備面で余裕がある場合は底面フィルター・投げ込み式フィルターなど水流・水面の揺れが少ない濾過装置を使用した上で水草を多めに入れて飼育することもできる<ref group="書籍" name="都築2003 p.155"/>。いずれの場合でも水質悪化を防ぐため食べ残しはピンセットで取り除く必要があるほか<ref group="書籍" name="海野1999 p.5">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|page=5}}</ref><ref group="書籍" name="海野1999 p.7">{{Harvnb|海野|高嶋|筒井|1999|page=7}}</ref>、濾過装置がない場合・水の汚れが著しい場合は毎日水を全量交換する必要がある<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/><ref group="書籍" name="森・北山2002 p.189-190"/>。また薬品類については成虫以上に弱いため注意が必要である<ref group="書籍" name="都築2003 p.155"/>。 |
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水深は幼虫の体長に応じるが、「1齢幼虫で1cm程度、2齢幼虫で2cm、3齢幼虫で3cm程度」の水深ならば幼虫は脚を水底に着けた状態で呼吸器を水面上に出すことができる<ref group="書籍" name="都築2003 p.154">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=154}}</ref>。ただし水深が浅いとそれだけ水温変動・水質悪化が著しいため注意を要する<ref group="書籍" name="都築2003 p.154"/>。水深を深くすれば水質悪化を抑える場合ができるが、その場合は水草など足場が必要となる<ref group="書籍" name="都築2003 p.154"/>。足場用の水草としては有茎植物(1齢幼虫では[[カボンバ]]・[[マツモ]]など細めのもの、2・3齢幼虫では[[クロモ (水草)|クロモ]]・[[オオカナダモ]]など太めのもの)が適切である<ref group="書籍" name="都築2003 p.154"/>。水草を入れる場合は脱皮の障害にならない程度に入れ、水深は5cm程度にする<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/>。 |
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なお幼虫は大型である上に毒牙を持つため噛まれると危険であり取り扱いには注意が必要であるが、[[脱皮]]が近い時期に幼虫を落とすなどして強いショックを与えると脱皮できずに死亡するおそれがあるため、世話をする際は必ず熱帯魚用のサランネットなどで幼虫を受け止める必要がある<ref group="書籍" name="海野1999 p.9"/>。 |
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==== 蛹化・羽化時の管理 ==== |
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本種は土中で蛹化するため、3齢幼虫の飼育時には「柔らかくて粘りがあり、[[アリ]]などの[[小動物]]・[[微生物]]が混入していない湿った土」や[[ピートモス]]・[[クワガタムシ]]飼育用の[[昆虫マット]]などで飼育容器内に陸地を作るか、土の入った容器に幼虫を移すなどして上陸させる必要がある<ref group="書籍" name="海野1999 p.10"/>。使用する土は自然下から採取した場合はカビ・細菌を駆除するために必ず日光消毒を行う必要があるため、園芸用のピートモスなどを使用する方が簡単ではあるがどのような土でも複数回使い回せばカビが発生しやすいため毎回新しいものと交換するか、使用後は日光消毒を行ってから再度使用すべきである<ref group="書籍" name="都築2003 p.158">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=158}}</ref>。 |
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3齢幼虫が体長約80mmほどにまで成長して餌を食べなくなったところが上陸のタイミングであり、餌を食べなくなってから1日程度の間に上陸させないと蛹化できずに溺死するため、幼虫の体長・摂食量を注意深く観察しつつ上陸のタイミングを見計らう必要がある<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>。上陸させて一晩経過しても土に潜らない場合はまだ準備ができていない証であるため、再び水の入った飼育容器に戻して餌を与えて様子を見る<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>。土・ピートモスは水分が多すぎると柔らかすぎて蛹室が作れず、少なすぎると固すぎて幼虫がうまく潜れないため<ref group="書籍" name="都築2003 p.158"/>、「水を含ませ手で握ったときにわずかに水滴が落ちる程度」の水分量が好ましい<ref group="書籍" name="海野1999 p.10"/>。また幼虫は土に潜るのがそれほど得意ではないため、土の固さは「指を差し込んでみて簡単に指が沈み込む程度」の柔らかさが好ましく<ref group="書籍" name="海野1999 p.10"/>、土に潜ろうとしてもうまく潜れない場合は湿り具合を調節する必要がある<ref group="書籍" name="都築2003 p.156"/>。 |
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幼虫が土に潜ってから成虫へ羽化するまでには約20日間かかるが、個体差および温度などの条件によりさらに10日ほど要する場合がある<ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>。その間に蛹室内の様子を見ようと蛹室に穴を開けてしまうと土が崩れて羽化不全になったり乾燥死することが多い上にカビの発生率も上昇するため、不用意に蛹室の中を覗く行為は避けるべきである<ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>。観察・記録目的でやむを得ず中を見るときは土を崩さないように慎重に穴をあけ、観察後はプラスチック板などで蓋をすることが好ましい<ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>。激しい温度変化・蛹への振動などは羽化不全などの原因になるため、蛹化用容器の保管場所は「直射日光の当たらない温度の安定した場所」が適しており、羽化まではなるべく容器を動かしたり振動を与えたりしないようにする<ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>。 |
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羽化後は5日 - 1週間程度は蛹室に留まってから地上に這い出して活動を開始する<ref group="書籍" name="海野1999 p.11"/>。活動開始後は水を入れた飼育ケースに移して飼育するが、羽化直後の新成虫は体が完全に硬化していないため、他のゲンゴロウとともに飼育すると捕食されるおそれがある<ref group="書籍" name="海野1999 p.11"/><ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>。この「羽化直後の新成虫」が「共食いの少ないゲンゴロウにとって最も共食いが起きやすい時期」であり、実際に都築らは「羽化直後の新成虫を前年生まれの成虫を同居させたところ一晩で捕食され、本来は硬くて食べ残されるはずの腹部・前翅・後脚まできれいに食べつくされてしまった」と記録している<ref group="書籍" name="都築2003 p.159"/>。そのため羽化してから体が完全に硬化するまでは餌を十分に与えて単独で飼育し<ref group="書籍" name="海野1999 p.11"/>、活動開始から1 - 2週間程度経過してから<ref group="書籍" name="都築2003 p.159">{{Harvnb|都築|谷脇|猪田|2003|page=159}}</ref>翅を軽く触ってみて硬くなったことを確認してから他個体とともに飼育する<ref group="書籍" name="海野1999 p.11"/>。 |
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== 脚注 == |
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=== 出典 === |
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'''書籍出典''' |
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'''論文出典''' |
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'''環境省および各都道府県のレッドデータブック・レッドリスト''' |
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'''環境省''' |
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'''都道府県条例''' |
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'''報道記事''' |
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'''その他出典''' |
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== 参考文献 == |
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=== 環境省などの発表 === |
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* {{Citation |和書 |author=[[内山りゅう]] |title=今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち―[[タガメ]]・ゲンゴロウ・[[タニシ#マルタニシ|マルタニシ]]・[[トノサマガエル]]・[[ニホンイシガメ]]・[[メダカ]] |publisher=[[山と渓谷社|ヤマケイ情報箱]] |date=2007-05-01 |pages=51-68,160-163 |isbn=9784635062602 |ref={{Sfnref|内山|2007}} }} |
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* {{Cite book |和書 |title=レッドデータブック2014 昆虫類 |chapter=ゲンゴロウ (Cybister japonicus Sharp, 1873) |author1=[[環境省]]|author2=[[生物多様性センター]] |publisher=[[ぎょうせい]] |volume=5 |date=2015-02-01 |isbn=978-4324098998 |page=249 |url=https://ikilog.biodic.go.jp/rdbdata/files/envpdf/%E6%98%86%E8%99%AB%E9%A1%9E_247.pdf |format=PDF |language=ja |accessdate=2019-02-26 |archivedate=2019-02-26 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20190226012313/https://ikilog.biodic.go.jp/rdbdata/files/envpdf/%E6%98%86%E8%99%AB%E9%A1%9E_247.pdf |ref={{SfnRef|環境省|生物多様性センター|2015}}}} |
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* {{Citation |和書 |author=内山りゅう |title=田んぼの生き物図鑑 |publisher=山と渓谷社 |date=2013-03-05 |pages=112-115 |isbn=9784635062862 |ref={{Sfnref|内山|2013}} }} |
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* {{Cite press release|title=環境省レッドリスト2018昆虫類|publisher=[[環境省]]|date=2018-05-22|url=http://www.env.go.jp/press/files/jp/109278.pdf|page=23|format=PDF|language=ja|accessdate=2019-03-19|archivedate=2019-03-19|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190319133327/http://www.env.go.jp/press/files/jp/109278.pdf|ref={{Sfnref|環境省|2018}}}} |
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* {{Citation |和書 |author1=[[森正人 (生物学者)|森正人]] |author2=[[北山昭]] |title=図説 日本のゲンゴロウ |publisher=[[文一総合出版]] |date=1993-06-30 |pages=140-145,175-176 |isbn=9784829921593 }} |
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* {{Cite press release|title=保全上重要なわかやまの自然-和歌山県レッドデータブック-2012年改訂版|format=PDF|publisher=[[和歌山県]]|date=2012-10-15|url=https://www.pref.wakayama.lg.jp/bcms/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf#page=16|page=16|language=ja|accessdate=2019-03-22|archivedate=2019-03-22|archiveurl=http://web.archive.org/web/20190322112042/https://www.pref.wakayama.lg.jp/bcms/prefg/032000/032500/reddate2012/documents/konchuurui.pdf|ref={{Sfnref|和歌山県|2012}}}} |
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** {{Citation |和書 |author1=森正人 |author2=北山昭 |title=図説 日本のゲンゴロウ |edition=改訂 |publisher=文一総合出版 |date=2002-02-15 |pages=152-158,189-190 |isbn=9784829921593 |ref={{Sfnref|森|北山|2002}} }} |
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* {{Cite book|和書|title=鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編-鹿児島県レッドデータブック-|author=鹿児島県環境生活部環境保護課|publisher=財団法人:鹿児島県環境技術協会|location={{JPN}}・[[鹿児島県]][[鹿児島市]][[七ツ島 (鹿児島市)|七ツ島]]一丁目1番地5|date=2003-03|ISBN=4990158806|page=170|ref={{SfnRef|鹿児島県|2003}}}} |
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* {{Citation |和書 |author1=[[海野和男]] |author2=[[高嶋清明]] |author3=[[筒井学]] |title=水辺の虫の飼いかた―ゲンゴロウ・[[タガメ]]・[[ヤゴ]]ほか (虫の飼いかた・観察のしかた) |publisher=[[偕成社]] |date=1999-03-19 |pages=6-11 |isbn=4035275603 |ref={{Sfnref|海野|高嶋|筒井|1999}} }} |
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* {{Citation |和書 |author1=[[市川憲平]] |author2=[[北添伸夫]] |title=田んぼの生きものたち ゲンゴロウ |publisher=[[農山漁村文化協会]] |date=2010-03-20 |pages= |isbn=9784540101229 |ref={{Sfnref|市川|北添|2010}} }} |
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=== 関連書籍 === |
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* {{Citation |和書 |author1=[[森文俊]] |author2=[[渡部晃平]] |author3=[[関山恵太]] |author4=[[内山りゅう]] |title=水生昆虫観察図鑑 その魅力と楽しみ方 |publisher=[[ピーシーズ]] |date=2014-07-30 |pages= |isbn=9784862131096 |ref={{Sfnref|森|渡部|関山|内山|2014}} }} |
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* {{Cite book|和書|title=図説 日本のゲンゴロウ|author1=[[森正人 (生物学者)|森正人]]|author2=[[北山昭]]|publisher=[[文一総合出版]]|date=1993-06-30|edition=初版第1刷|pages=140-145,175-176|isbn=978-4829921593 }} |
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* {{Citation |1=論文 |author=[[上手雄貴]] |title=日本産ゲンゴロウ亜科幼虫概説 |publisher=[[ホシザキグリーン財団]] |url=http://www.green-f.or.jp/heya/hayashi/no11pdf/06kamite.PDF |date=2008-03 |format=PDF |accessdate=2017-06-24 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170624165151/http://www.green-f.or.jp/heya/hayashi/no11pdf/06kamite.PDF |archivedate=2017年6月24日 |journal=ホシザキグリーン財団研究報告 |issue=11 |issn=1343-0807 |pages=125-141 |ref={{Sfnref|上手|2008}} |deadurldate=2017年9月 }} |
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** {{Cite book|和書|title=図説 日本のゲンゴロウ|author1=森正人|author2=北山昭|edition=改訂|publisher=文一総合出版|date=2002-02-15|pages=152-158,189-190|isbn=978-4829921593|ref={{Sfnref|森|北山|2002}} }} |
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* {{Cite book|和書|title=水辺の虫の飼いかた ゲンゴロウ・[[タガメ]]・[[ヤゴ]]ほか|series=虫の飼いかた・観察のしかた|volume=6|author1=[[海野和男]]|author2=[[高嶋清明]]|author3=[[筒井学]]|publisher=[[偕成社]]|date=1999-03-19|edition=初版第1刷|pages=6-11|isbn=978-4035275602|ref={{Sfnref|海野|高嶋|筒井|1999}} }} |
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* {{Cite book|和書|title=水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル|publisher=[[データハウス]]|location={{JPN}}・[[東京都]][[新宿区]][[西新宿]]三丁目6番地4号|author1=都築裕一|author2=谷脇晃徳|author3=猪田利夫|date=1999-09-20|edition=初版第1刷|page=|ISBN=978-4887185333|ref={{SfnRef|都築|谷脇|猪田|1999}}}} |
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** {{Cite book|和書|title=改訂版 水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル|publisher=データハウス|author1=都築裕一|author2=谷脇晃徳|author3=猪田利夫|date=2000-06-20|edition=初版第1刷|pages=16-18,27-28,139-159,218-220|ISBN=978-4887185654|ref={{SfnRef|都築|谷脇|猪田|2000}}}} |
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*** {{Cite book|和書|title=普及版 水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル|publisher=データハウス|author1=[[都築裕一]]|author2=[[谷脇晃徳]]|author3=[[猪田利夫]]|date=2003-05-01|edition=初版第1刷|pages=16-18,27-28,139-159,218-220|ISBN=978-4887187160|ref={{SfnRef|都築|谷脇|猪田|2003}}}} - 「改訂版」をソフトカバー化して改めて発刊したもの。 |
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* {{Cite book|和書|title=田んぼの生き物図鑑|series=ヤマケイ情報箱|author=[[内山りゅう]]|publisher=[[山と渓谷社]]|date=2005-07-01|edition=初版第1刷|isbn=978-4635062596|ref={{Sfnref|内山|2013}} }} |
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** {{Cite book|和書|title=増補改訂新版 田んぼの生き物図鑑|author=内山りゅう|publisher=山と渓谷社|date=2013-03-05|edition=初版第1刷|pages=112-115|isbn=978-4635062862|ref={{Sfnref|内山|2013}} }} |
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* {{Cite book|和書|title=今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち [[タガメ]]・ゲンゴロウ・[[タニシ#マルタニシ|マルタニシ]]・[[トノサマガエル]]・[[ニホンイシガメ]]・[[メダカ]]|series=ヤマケイ情報箱|author=内山りゅう|publisher=山と渓谷社|date=2007-06-05|edition=初版第1刷|pages=51-68,160-163|isbn=978-4635062602|ref={{Sfnref|内山|2007}} }} - 内山は編集・写真を担当、文の執筆は市川憲平。 |
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* {{Cite book|和書|title=よみがえれ ゲンゴロウの里|series=守ってのこそう!いのちつながる日本の自然|volume=1|author=[[西原昇吾]]|publisher=[[童心社]]|date=2008-11-28|edition=初版第1刷|ISBN=978-4494011582|ref={{SfnRef|西原|2008}}}} |
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* {{Cite book|和書|title=ゲンゴロウ|series=田んぼの生きものたち|author1=[[市川憲平]]|author2=[[北添伸夫]]|publisher=[[農山漁村文化協会]]|date=2010-03-20|edition=初版第1刷|pages= |isbn=978-4540101229|ref={{Sfnref|市川|北添|2010}} }} |
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* {{Cite book|和書|title=ポケット図鑑 田んぼの生き物400|author=[[関慎太郎]]|publisher=文一総合出版|date=2012-07-30|edition=初版第1刷|page=225|ISBN=978-4829983010|ref={{SfnRef|関|2012}}}} |
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* {{Cite book|和書|title=水生昆虫観察図鑑 その魅力と楽しみ方|author1=[[森文俊]]|author2=[[渡部晃平]]|author3=[[関山恵太]]|author4=[[内山りゅう]]|publisher=[[ピーシーズ]]|date=2014-07-30|edition=初版第1刷|pages=|isbn=978-4862131096|ref={{Sfnref|森|渡部|関山|内山|2014}} }} |
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* {{Cite book|和書|title=タガメとゲンゴロウの仲間たち|series=[[琵琶湖博物館]]ブックレット|volume=4|author=[[市川憲平]]|publisher=[[サンライズ出版]]|date=2018-03-27|edition=初版第1刷|ISBN=978-4883256341|ref={{SfnRef|市川|2018}}}} |
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=== 関連論文 === |
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* {{Cite journal|論文|author=[[上手雄貴]]|title=日本産ゲンゴロウ亜科幼虫概説|journal=ホシザキグリーン財団研究報告|issue=11|issn=1343-0807|pages=129-133,138-139|publisher=[[ホシザキグリーン財団]]|url=http://www.green-f.or.jp/hayashi/no11pdf/06kamite.PDF|date=2008年3月|format=PDF|language=ja|accessdate=2019-02-28|archivedate=2019年2月28日|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190228153811/http://www.green-f.or.jp/hayashi/no11pdf/06kamite.PDF|ref={{Sfnref|上手|2008}} }} |
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== 関連項目 == |
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* [[水生昆虫]] |
* [[水生昆虫]] |
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* [[ゲンゴロウ類]] |
* [[ゲンゴロウ類]] |
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* [[昆虫食]] |
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[[Category:ゲンゴロウ]] |
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[[Category: |
[[Category:昆虫食]] |
2019年3月23日 (土) 14:01時点における版
ナミゲンゴロウ ゲンゴロウ オオゲンゴロウ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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保全状況評価 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
絶滅危惧II類(環境省レッドリスト) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Cybister japonicus Sharp, 1873 Cybister chinensis Motschulsky, 1854 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ゲンゴロウ ナミゲンゴロウ オオゲンゴロウ ホンゲンゴロウ タダゲンゴロウ |
ゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ・オオゲンゴロウなどの別名あり、Cybister japonicus、並源五郎)は、コウチュウ目ゲンゴロウ科ゲンゴロウ亜科ゲンゴロウ属の水生昆虫[書籍 1]。
ゲンゴロウ類の代表種である本種はかつて日本では長野県・東北地方の一部など地方により食用にされるほど高密度で生息し、秋に他産する生息池の水を落とした際には多数採集できたが[書籍 2]、生息環境破壊・侵略的外来種の侵入・乱獲などにより2019年現在は絶滅が危惧される昆虫となっている[RDB 1]。
名称
本種は単に「ゲンゴロウ」という和名ではあるがゲンゴロウ類(ゲンゴロウ科)の総称と区別しにくいため[書籍 1][書籍 3]、特に普通種だった本種を指す場合はゲンゴロウ類全体と区別できるよう「タダゲンゴロウ」「ナミゲンゴロウ」と呼称されていたが、後述のように生息数が激減しているために近年では「オオゲンゴロウ」「ホンゲンゴロウ」などの名称で呼ばれるようになっている[書籍 4]。またそれらの別名を略して「タダゲン」「ナミゲン」[書籍 4]「オオゲン」「ホンゲン」などの愛称で呼ばれることも多い[書籍 1][書籍 5]。
また一部地方ではヘビトンボの幼虫と同じく本種幼虫を孫太郎虫(まごたろうむし)と呼称する場合がある[書籍 6]。
このほかかつて食用に用いていた長野県ではトウクロウという方言で呼ばれたほか[論文 1]、新潟県の方言では成虫をガムシとともに「ガメ」「ガメムシ」「ガマ」「ワッパムシ」など、幼虫を「キイキムシ」と呼称した[その他 1]。
分布
日本本土各地(北海道・本州・四国・九州)・朝鮮半島(大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国)・中華人民共和国(中国)・台湾[書籍 1]・ロシア連邦シベリア南部[書籍 7]に分布するが[書籍 1]、九州南部ではより南方に生息するコガタノゲンゴロウが優占しており、近縁種のフチトリゲンゴロウ・ヒメフチトリゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウが生息する南西諸島には分布しない[書籍 7]。大韓民国(韓国)では1991年にゲンゴロウの切手が発行されている[書籍 7]。
元来は亜熱帯から分布を拡大した南方系の種類で[書籍 8]、南方種群の代表格である本種はゲンゴロウ属として最も北方まで分布している[書籍 7]。日本列島には南方種群である本種などゲンゴロウ属のほかゲンゴロウモドキ属(シャープゲンゴロウモドキなど)も生息しているが[書籍 9]、ゲンゴロウモドキ属はユーラシア大陸から分布を拡大し[書籍 7]、亜寒帯(冷帯)のシベリア方面から日本へ進出してきた北方種群であるため[書籍 8]、日本列島は北方・南方のゲンゴロウ類両種群が混在する地域となっており、日本におけるナミゲンゴロウの分布北限である北海道などでは本種とゲンゴロウモドキ属の種(ゲンゴロウモドキ・エゾゲンゴロウモドキ)が同じ池に生息していることもある[書籍 7]。
ヒルムシロ・ヒシ・コウホネ・ミクリ・ヒツジグサ[書籍 7]・オモダカ[書籍 1]・ジュンサイ[RDB 1]など水生植物が豊富な止水域環境を好み[書籍 1]、やや水深のある池沼[RDB 1]・ため池・水田および水田脇の水たまり・休耕田[RDB 1]・湿地[書籍 1]・流れの緩やかな用水路などに生息する[書籍 10]。
垂直分布範囲も幅広く[書籍 1]平野部 - 山間部にかけて生息するが[RDB 1][書籍 10]、後述のように平野部ではほぼ絶滅している[RDB 1]。
特徴
成虫の体は全長34 - 42mmの比較的平たい卵形で[書籍 1]、世界各地のゲンゴロウ類で最大級の部類に入る[書籍 11]。体色は緑色か暗褐色で光沢があり[書籍 1]、光加減で緑色に輝くが[書籍 3]♀は細かいしわが多数あるため[書籍 12]光沢が弱くなる[書籍 1]。頭楯・前頭両側・上唇・前胸背および上翅側縁部は黄色 - 淡黄褐色で、この上翅の黄色帯は肩部を除き側縁には達せず翅端に向かって徐々に細くなり、翅端部には不明瞭な雲状紋がある[書籍 1]。頭部は前頭両側の黄色部の内方に浅いくぼみがあり、前胸背は♂では前縁部に点刻がある他は滑沢だが、♀では全面的にしわがある[書籍 1]。上翅には3条の点刻列があり、♂では滑らかだが♀では翅端部以外に密なしわがある[書籍 1]。触角・口枝は黄褐色、脚は黄褐色から赤褐色で、符節はやや暗色になる[書籍 1]。雌雄とも後脚付節には両側に遊泳毛がある[書籍 1]。腹面は黄色から黄褐色で光沢が強く、前胸腹板突起・後胸内方・後基節内方は黒色である[書籍 1]。♂の交尾器中央片先端部は単純で急に細くなる[書籍 1]。
幼虫は細長い紡錘形の体形で[論文 2]体長は63.7 - 77.9mmである[論文 3]。幼虫は6対の単眼・細長い[論文 2]9節の触角[論文 3]・鎌形の大顎[論文 2]・9節の小顎ひげ・4節の下唇ひげを持つほか、各脚の腿節・脛節・跗節(フ節)と腹部第7・8節に遊泳毛を持つ[論文 4]。背面は灰褐色あるいは黄褐色で黒斑点が散在し、中胸部 - 腹部第8節の中央部に白色条線を持つ[論文 3]。中胸部 - 腹部第8節の両端には黒色帯があるが硬化した部分以外は不明瞭で、側面・腹面は白色 - 灰白色である[論文 3]。頭部・前胸および腹部第7・8節の硬化した部分は黄褐色あるいは暗褐色を帯びた白色 - 灰白色で、脚は黄褐色である[論文 3]。頭部は亜方形でゲンゴロウ属各種の幼虫は頭楯の前縁がW字型に切れ込むが、中でも本種は切れ込みの両端の隆起が他種に比べて強い[論文 3]。
生態
成虫は主にため池など水深の深い場所に好んで生息する一方で水田・放棄水田など浅い水域では繁殖期を除いて確認できないことが多い[書籍 13]。これは水田・放棄水田など水深の浅い水域にはサギ・カラスなど鳥類をはじめ天敵が多いため、それら天敵から身を守るためと考えられる[書籍 14]。一方で幼虫はため池・放棄水田のどちらでも確認できるため[書籍 14]、水生植物が多数茂る山里の池では成虫・幼虫ともに観察できる[書籍 7]。
谷津田に隣接してため池があるような場所では繁殖目的で池と水田を往復する成虫の生態を観察することができる[書籍 7]。
成虫
成虫は「水の抵抗の少ない流線型の体型」「効率よく水を掻くことのできるようにブラシ状の毛の生えた長く太い後脚」「水中で呼吸するための空気を溜めることができる構造」など「遊泳に非常に適した体の構造」を持つため、水生昆虫の中でも特に遊泳能力に優れており、獲物を求めて2本の後脚を同時に動かし、ボートのオールを漕ぐように活発に泳ぎ回る[書籍 15]。タガメ・タイコウチなどが植物の繁茂する水際域を生活圏としている反面、本種は水際だけでなく水草の少ない池の中央部なども日常的な生活圏としている[書籍 4]。
成虫は肉食性であるがタガメの前脚・消化液ほど強力な武器を持たないため、生きた魚類などを捕食することはあまり得意ではない[書籍 10]。そのため健康な子ブナ・ドジョウなどを襲って捕食する力はなく[書籍 16]、幼虫とは異なり死んで間もなかったり弱ったりした小魚などの小動物・昆虫を摂食することが多いが[書籍 10]、メダカなどの小魚・ヤゴ[書籍 17]・動きの鈍い獲物・水面に落下した昆虫などは生きていても捕食することができる[書籍 10]。
- 成虫は爪のある前脚・中脚で弱った小魚・甲殻類・水生小動物などの獲物を捕獲し、強力な顎で肉をかじって食べる[書籍 5]。
- また本種を含む大型のゲンゴロウ類(ゲンゴロウ属・ゲンゴロウモドキ属など)と小型のゲンゴロウ類(シマゲンゴロウ・ハイイロゲンゴロウなど)を同じ水槽で飼育すると、小型のゲンゴロウ類はナミゲンゴロウなどに捕食されてしまう[書籍 17][書籍 16]。
- 成虫は餌の匂いに非常に敏感であり、水面に落ちた昆虫や傷ついた魚の匂いなどを感じ取ると遠くから集まってくる[書籍 17]。顎の力は非常に強く、口から消化液を吐き出して獲物を溶かしながら齧り取る[書籍 17]。
夜間は活発に飛び回り、水系間を移動したり(正の走光性により)水銀灯などの灯火などにも飛来したりするが、いったん上陸してからでないと飛翔できない[書籍 18]。内山りゅうは「初めてナミゲンゴロウの野生個体を目にした島根県山間部の池ではナミゲンゴロウ・クロゲンゴロウ・ガムシ・タイコウチ・ミズカマキリなど多様な水生昆虫が観察できるが、5月初旬にはこれらの水生昆虫が忽然と姿を消し、9月初旬ごろから再び姿が見られるようになった。その4か月に及ぶ空白の時期は水温が高くなるため『水温の低い深い場所に移動しているのではないか?』と思い池の深い場所を探してみてもゲンゴロウたちはいなかった一方、ゲンゴロウなどが街頭に飛来したり幼虫類が水田で確認できたりしたことから『少なくともゲンゴロウたちはその場所では季節に応じて生活場所を移動している。“越冬に適した深い池”と“繁殖・摂餌などに適した水田など浅い水域”を使い分けている』と推測した」と述べている[書籍 19]。
成虫で越冬する[書籍 18]。成虫は水生昆虫の中でも長寿命であり飼育下では約2年 - 3年生き、長いものでは約6年近くにわたって生きた記録もある[書籍 11]。野生個体の越冬に関して詳しい生態は判明していないが[書籍 18]、市川憲平は内山りゅうの『今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち』(2007年・山と渓谷社)にて「おそらく水中の枯葉の下・泥の中などで冬眠しているようだ」と考察しており[書籍 20]、都築裕一は「湧水などがあり真冬でも(少なくとも水面以外は)凍らない池沼などを選んでいるようだ。自分たちの調査では水面が完全に凍結した山間部のため池で氷のすぐ下の水中にて活動している姿を観察した。ミズカマキリと同じように多数の個体が集まって越冬することも多いようだ」と述べている[書籍 4]。屋内飼育下では特別な処置がなくとも問題がないため「はっきりとした越冬行動は持たない」とする見方もある[書籍 18]。
多くの水生昆虫は飛翔行動前に体を乾かして体温を上昇させるために上陸して甲羅干しを行う習性があるが、タガメ以外の水生カメムシ類(水生半翅目)の多くが日常的な甲羅干しを必要としないのに対しゲンゴロウ類など水生甲虫類の場合はミズカビ発生を防ぐなど飛翔目的以外のため日常的に甲羅干しをよく行い[書籍 21]、長い時では約2時間ほどにおよぶ[書籍 22]。甲羅干しは日光浴[書籍 16]・体温調節・殺菌のためと考えられており[書籍 23]、飼育下でこの行動を阻害すると[書籍 21]体表[書籍 16]・後脚付け根部分にミズカビが発生したり[書籍 21]、水生菌による感染症を起こしやすくなる[書籍 23]。
成虫は魚のような鰓呼吸ではなく他の陸上昆虫と同様に空気呼吸をするが、プラストロン呼吸と呼ばれる独特の呼吸方法を取る[書籍 16][書籍 3]。成虫は気門が腹部の背側に開いており、尾端から気泡として水中に突出させて上翅と腹部背面の間にあるわずかな空間に新鮮な空気を貯蔵し、水中で翅の下にある腹部の気門[書籍 24](尾端に近い気門)[書籍 24]から酸素を吸収する[書籍 24]。この気泡内の酸素分圧(酸素濃度)が下がり二酸化炭素分圧が上がると、水中に二酸化炭素が溶け出して逆に酸素が気泡の空気中に入り込む[書籍 24]。このためいったん翅の下に空気を取り込んで潜水すると、そこに元々含まれていた量以上の酸素を得て長く潜水活動をすることができる[書籍 24]。酸素消費量が少ない冬季はガス交換のため水中に上がってくる頻度が低下する一方[書籍 24]、水温が高く水中酸素溶存量が少ない垣は頻繁に水面でガス交換を行う[書籍 16]。
自然下における成虫の天敵はブラックバス(オオクチバス)・アメリカザリガニ・ウシガエル・コイなど侵略的外来種のほか[RDB 1]、在来種でもサギ・ツル[書籍 16]・カラス[書籍 14]など鳥類・ナマズがいる[書籍 25]。幼虫はイモリ・水生昆虫類などに捕食されるほか[書籍 26]、3齢幼虫では成虫時の天敵に加えてタガメ・タイコウチがいるが、タガメ・タイコウチ・ナマズはゲンゴロウと同様に水田から姿を消したため、現在はブラックバスなど外来種とサギが主な成虫の天敵となっている[書籍 25]。新潟県佐渡島では第二次世界大戦前に「シャープゲンゴロウモドキの成虫がトキに捕食されていた」という記録がある[書籍 26]。
身の危険を感じると頭部と胸部の間から白濁した臭い液体を分泌させるが、人間がこの液体を舐めるとかなり苦く感じることから「天敵の鳥類に襲われて捕食されそうになった際に逃げる手段」「近くの仲間に危険を知らせる警戒フェロモンのような働きをしている」などと考察されている[書籍 14]。
繁殖活動
成熟した成虫は冬季を除いて頻繁に交尾するが[書籍 10]、市川憲平は内山りゅうの『今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち』(2007年・山と渓谷社)にて「産卵期は4月中旬・下旬ごろに始まり約2か月間続く。5月中旬になると水田・溝などで幼虫の姿が観察できるようになる」と述べている一方[書籍 20]、都築裕一は「産卵に至るのは6月 - 8月ごろの夏季に限られている」と述べている[書籍 10]。交尾行動は昼夜を問わず頻繁に行われるがゲンゴロウの産卵には温度以外に日照時間が大きな条件となっており、水温が25℃以上あっても日照時間が12時間以下の場合は♀が産卵行動に至らず、日照時間が13時間を超える場合に産卵する[書籍 27]。
♂の前脚跗節には一部が扁平に拡大して下面にいくつかの吸盤があり、交尾に際してはこれで♀の背面に吸着する[書籍 28]。また、♂の背面が滑らかなのに対して♀の背面には細かいしわや溝があり、これも交尾に際して♂が掴まりやすくするのに関係した適応と考えられる[書籍 29]。
♂は少しでも多くの子孫を残そうと1匹でも多くの♀と交尾しようとするが[書籍 28]、♀はタガメとは違い産卵の度に交尾する必要はなく交尾後数か月間にわたり体内の貯精嚢(受精嚢)内に♂の精子を活性を保ったまま貯め込むことができ[書籍 30]、2回も交尾すれば体内に蓄えられた精子でそのシーズンに産むほとんどの卵を受精させることができる[注釈 1]ことに加え、交尾中は後述のように十分な酸素を取り込むことができないことから、交尾後時間の経っていない♀は♂が近づくと水草や水底の枯葉の下などに逃げようとする[書籍 28]。これに対して♂は前脚の吸盤を♀の背中に付着させ、逃げられないように重なる[書籍 28]。交尾そのものの時間は短いが、♂が♀を捕まえている時間は10分ほど - 2時間超とばらつきが大きく[書籍 27]、市川憲平・北添伸夫が14回の交尾時間を測定したところ交尾時間の平均は162分であった[書籍 31]。♂は長い時間をかけて、♀の交尾器内に精包を作るが、長い交尾中は大抵の場合♂が上になるため♀は腹端を通して新しい空気を間接的に取り入れなければならない[書籍 31]。雌雄ともに腹端を水面上に出せる場合もあるが[書籍 31]、♀は大抵の場合交尾中に呼吸器を水面に出すこともままならず十分な酸素を取り込むことができないため窒息死する場合があり[書籍 27]、繁殖期に♀の死亡率が上昇する[書籍 31]。都築裕一らの観察によれば、実際に死亡した♀の遺体をいつまでも離さず交尾を強いる♂の姿が観察されている[書籍 27]。
成虫は活動期の春 - 秋ごろ(水温が25℃前後に上昇する4月ごろから)に交尾し[書籍 32]、♀成虫はいわゆる水田雑草を含む水生植物の茎に直径約2 - 4mmの円形の噛み傷を付け[書籍 32]、長い産卵管を噛み傷に挿入して[書籍 30]茎内部の組織内に1,2個産卵する[書籍 33][書籍 32][書籍 1]。この時♀成虫が選ぶ植物は「茎表面があまり固くなく、中にスポンジ状の組織が詰まっているか中央の空洞が狭い種類の水草」で[書籍 34]、茎の直径は5mm前後を好む[書籍 32]。都築裕一は本種が内部がスポンジ状になった水草を好む理由を「長い産卵管を植物の茎に突き刺す際に都合がよいため」と考察している[書籍 35]。
- 池ではコウホネ・カンガレイなどに産卵する[書籍 36]。
- 水田・湿地ではオモダカ類[書籍 32][書籍 36](ヘラオモダカなど)[書籍 37]・コナギ・セリなどに産卵する[書籍 36]。なお市川憲平・北添伸夫の調査によればタガラシ・コナギは若い茎に産卵するほか、フトヒルムシロ・セリの茎は齧って穴を開けたものの産卵しなかった[書籍 34]。
- ホテイアオイの浮嚢・トチカガミの葉など一部が広がって内部がスポンジ状になっている植物には次々と産卵する[書籍 34]。
- イネの茎は「表面が固すぎること」「中空(ストロー状)で産み付けた卵が茎の中に留まらないこと」から産卵しない[書籍 33]。市川・北添の調査によればイネ(コシヒカリ)の茎は♀成虫が齧ることすらなく、古代米の茎は穴を開けたものの産卵しなかったが、茎内部が中空な植物でも卵が落下するほどのスペースがなければ産卵することが判明した[書籍 34]。
♀成虫は飼育下で餌を十分に与えられている場合、1シーズンに約30個 - 60個産卵するが、飼育密度が高いと♀1匹あたりの産卵数・孵化率が目減りする[書籍 5]。♀の腹端には出し入れできる左右に扁平な産卵管があり、それを噛み傷に挿し込み産卵する[書籍 33]。植物組織が腐敗して繊維だけになっても卵は孵化できるため、植物組織内に産卵する理由は「卵が魚などの天敵に捕食されることを避けるため」と考えられる[書籍 36]。
卵・幼虫
卵は幅約1mm・長さ約13mmの細長い形で、水温28℃の場合産卵後約2週間程度で孵化する[書籍 32]。幼虫は細長い体をしており、孵化直後の1齢幼虫は体長約25mm(卵の全長の約2倍)で脱皮して体長約40mmの2齢幼虫に変態し、さらにもう1回脱皮して体長約60mmの3齢幼虫(終齢幼虫)に変態する[書籍 38]。幼虫も成虫と同じく水面上に尾部の呼吸器(尾端にある気門)を水面上に突き出して呼吸するが、水深が浅い場所では水底から尾部を突き出して呼吸するものの、基本的には水中の水草に掴まって呼吸する[書籍 39]。また幼虫は腹部の尾部に生えている長い毛束を用いて泳ぐが[書籍 39]、成虫と異なり泳ぎはあまり上手くない[書籍 39][書籍 40]。
脱皮は水中で行い、まず胸部の背中側が中心から割れ、その割れ目が前後に広がるとともに幼虫の胸部・頭部が抜け殻から抜け出し、最後に腹部が抜けて脱皮完了となる[書籍 38]。終齢幼虫(3齢幼虫)は成虫の体長のほぼ2倍(上陸直前では胴径約10mm・体長約80mm)にまで成長する[書籍 41][書籍 38]。
幼虫期間は孵化 - 上陸まで約40日間だが、水温が低かったりエサが不足すると長期化するほか、幼虫期間中に生息地の田んぼなどの水が干上がると乾燥死する[書籍 38]。また幼虫はイモムシ型の体形をしているため、後述のような獰猛な性格とは裏腹に外敵からの攻撃に対しては無防備であり、同一容器で複数飼育すれば共食いが起きるほか[書籍 42]、貪欲な食欲を持つ一方で移動能力に乏しいため[書籍 43]、幼虫が成長するためにはその食欲を満たすだけの大量の生き物が同所的に集中して生息している必要がある[書籍 44]。
幼虫も肉食性ではあるが成虫と異なり非常に凶暴なプレデターで[書籍 10]、脱皮の前後1日以外は大変旺盛な食欲を発揮し[書籍 45]、動くものならなんでも頭部の鋭い大顎で襲って捕食するばかりか[書籍 10]同種間でも激しく共食いをする[書籍 44][書籍 5]。その凶暴性から英語ではWater Tiger(水中のトラ)・Water Devil(水中の悪魔)と呼ばれるほか[書籍 10]、日本でも凶暴性・体躯がムカデを連想させることから「田のムカデ」[書籍 40]「水ムカデ」とも呼ばれる[書籍 46]。
- 1齢幼虫 - 主にミジンコ・アカムシ(ユスリカの幼虫)・ボウフラ・イトトンボ類のヤゴなどを食べる[書籍 47]。
- 2齢幼虫・3齢幼虫 - ホウネンエビ・小魚(ドジョウ・メダカ・キンギョなど)・オタマジャクシおよび小さなカエル類・水生昆虫類(ヤゴなど)水面に落ちた昆虫類を食べる[書籍 47]。
飼育下ではバッタ・コオロギなどの昆虫類を与えないと羽化率(成虫まで育つ割合)が低下する[書籍 47]。なお都築裕一は「自然下の繁殖地で成虫を捕獲するためにマグロの刺身を仕掛けて設置したところ、しばらくしてゲンゴロウの幼虫が寄ってきて摂食した」という観察記録から「幼虫は動きだけでなく成虫と同様に餌の匂いにも反応するようだ」と推測している[書籍 45]。幼虫はかつて(タガメなどと同様に)養魚場を荒らす害虫とされていた一方[RDB 2]、様々な感染症を媒介する衛生害虫であるカの幼虫ボウフラを捕食する益虫としての側面もある。
幼虫は自然下の浅い水域では植物の茎などに逆さまに掴まり、目の前を通る獲物を待ち伏せして捕食する[書籍 44]。幼虫の大顎はタガメ幼虫の前脚よりかなり小さいため自分より大きな獲物を捕らえることは難しいが、一度獲物を捕まえれば逃すことはなく、強力な消化液で確実に仕留められるようになっている[書籍 45]。大顎は注射針状になっており、生きた獲物に鋭い大顎で食いつくと獲物を麻痺させる毒・消化液を大顎内の管から同時に体内に注入して[書籍 48]、獲物の体液・消化されて液状化した筋肉・内臓などの組織を注入に使われた大顎内の管から吸収して口の入り口の毛で固形物をろ過して除き、液体化した組織を消化管に飲み込む[書籍 48]。これを体外消化と呼ぶが[書籍 45]、顎で獲物の肉を齧り取って食べる成虫とは異なりタガメなど水生カメムシ類に近い摂餌方法で[書籍 40]、幼虫に食べられた獲物の死骸は骨・皮しか残らない[書籍 46]。幼虫に噛まれると非常に強い痛みを感じるため[書籍 40]、安易に素手を近づけることは控えるべきである[書籍 48]。
蛹化・羽化
水中に適応したゲンゴロウでも一生の全てを水中で過ごすわけではなく、成熟した終齢幼虫は孵化から約40日ほど経つと日没後約1, 2時間後に上陸する[書籍 38]。野生下で上陸が始まるのは6月下旬 - 7月初めごろで[書籍 20]、蛹化直前の幼虫(体長約80mm)は上陸が近づくと餌に見向きもしなくなり、飼育下では飼育容器の中を泳ぎ周り出たがる様子を見せる[書籍 41]。適当な場所を見つけると固くなった頭部と胸部をスコップのように使って土中に潜り[書籍 38]、直径40mmほどの球形の蛹室を形成してから[書籍 38]蛹室内で前蛹になる[書籍 42]。幼虫が潜った後の地表にはほとんど痕跡が残らないため、幼虫が潜った場所を特定することは困難となる[書籍 38]。蛹化に際しては水際から20cm - 30cm程度の土中などあまり水際から離れない場所の土に潜るほか、内山りゅうの記録によれば飼育環境では斜面が土であればかなりの角度でも登ることが判明している[書籍 44]。
蛹室内で約10日間の前蛹期を経て[書籍 42]、地中に潜ってから約8日 - 10日後に脱皮して蛹化する[書籍 49]。蛹化する際は2齢幼虫が3齢幼虫へ脱皮する際と同様に頭部・胸部の背中側の中央が割れ、中から真っ白な蛹の頭部・胸部が現れ、蛹化開始から約25分後に腹部が幼虫の抜け殻から抜け出して蛹化完了となる[書籍 49]。
蛹は蛹化後約10日 - 2週間後に約2時間の脱皮で羽化する[書籍 50]。幼虫が土に潜ってから羽化するまでは約20日間で[書籍 51]、羽化直前の蛹を観察すると複眼・大顎の部分が黒く変色するほか、前日には脚が赤っぽく色づいている[書籍 50]。羽化に際してはまず脚を少しずつ動かしながら腹部を動かしてうつぶせの姿勢になり、腹部の皮の襞が伸びて余分な皮が腹部後ろに集まる[書籍 52]。その後翅が伸び始めるとともに体幅が広がり、頭部・胸部の背中側の殻が割れて成虫の頭部が現れ、約2時間以上をかけて翅を伸ばしつつ蛹の殻を脱ぎ捨てると最後に脚が抜け出して羽化完了となる[書籍 52]。羽化直後の新成虫は真っ白な色をしているが、羽化完了から約2時間後には淡褐色に変色し、その後は徐々に色が濃くなり翌日には緑色 - 暗褐色の体色になる[書籍 52]。
羽化直後の新成虫はまだ体が柔らかく外敵から身を守れないため体が硬化するまでしばらく地中に留まり[書籍 52]、羽化後1週間前後経過すると地上に這い出してくる[書籍 50]。羽化直後の新成虫は体表が水を弾くためか、しばらくは水中にうまく潜れずミズスマシのように水面を泳ぎ回ることがある[書籍 51]。新成虫は野生下では8月初め[書籍 20] - 10月にかけて出現し[書籍 1]、間もなく池に移動して11月初旬ごろまで活動するが[書籍 20]、新成虫の繁殖は来年以降に持ち越される[書籍 53]。
分類
本種は1873年にデヴィッド・シャープが九州で採集された個体に基づき Cybister japonicus として記載したが[その他 1]、2007年にその学名は「 Cybister chinensis のシノニムである」とされた[論文 5]。そのためITISの登録データにおいても「C. japonicus は C. chinensis のシノニムである」とされている[論文 6]。
保全状況
日本では池・水田が身近であり、そこに棲む本種は1950年代ごろまでは日本各地の池・水田に普通に生息していたことから[書籍 5][書籍 2]平地 - 丘陵の良好な水辺環境の指標種とされており[RDB 1]、1978年に実施された分布調査で本種は栃木県・山梨県・奈良県など8府県で特定昆虫として取り上げられている[その他 1]。「田んぼの昆虫」といえば本種とタガメが代表格として挙げられたほか[書籍 54][書籍 3]、1980年代ごろまでは小学校の教科書でも身近な昆虫として扱われており[書籍 2]、長野県・東北地方など一部地域では食用とした[注釈 2]ほか民間療法で薬用としても用いられていたほど日本人にとって身近な昆虫だった[書籍 55]。都築裕一は「漢字で『源五郎』と書くまるで人名のような和名が大変親しみやすい印象を与えており『他の水生昆虫の名前を知らなくても“ゲンゴロウ”の名前は知っている』人も多い。かつてゲンゴロウを食用としていた地域の人の話では『硬い前翅を取り除いて食べたがかなり苦く、食べるのが辛かった』ということだ」と記している[書籍 55]。
しかし近年は「生息域開発(宅地造成[書籍 56]・ゴルフ場造成・老朽化ため池改修事業)・圃場整備による生息環境破壊」「農法の変化・農薬による死滅」[RDB 1]「生活排水・工業排水などの流入による水質汚染」「休耕田・放棄水田の増加」などにより激減し[書籍 56]、平野部ではほぼ絶滅した上に残存した中山間部の良好な里山環境でも「生息地開発」「侵略的外来種の侵入」「採集圧の影響」を多大に受け絶滅寸前に陥り、環境省のレッドデータブックでは「全国的に激減しており、特に西日本ではわずかで太平洋側各県の生息地数はわずか数ヶ所にまで減少。南関東では絶滅」と評価されている[RDB 1]。水生昆虫類はタガメなど多くの種類が激減しているが、内山りゅうは「本種は特に著しく減少している印象だ」と述べており[書籍 3]、現在の本種はかなりの珍品となってしまった[書籍 55][RDB 1]。
現在は「山間部の人里にほど近い場所にあり、自然が保たれている池沼」で見られる程度で「本種を探す」意気込みがないと発見は困難であり[書籍 5]、特に西日本[書籍 57](近畿地方以西)の大半では山里の池沼に行かなければその姿を見ることはできない[書籍 7]。
- 本種を始めゲンゴロウ類は生息域となる水辺環境(本種の場合は池沼・水田など)がまとまって存在することが個体群存続に必要だが[書籍 58]、池沼の開発および灯火・ゴルフ場造成は本種の生息域を破壊する[RDB 1]。
- 本種・タガメは有機的な汚染には強いが[書籍 14]農薬・洗剤など化学的な汚染には弱く[書籍 59]、1950年代 - 1960年代[書籍 60]、1970年代初めにかけて強毒性農薬(BHC・ピレスロイド系・パラチオンなど)が[書籍 2]空中散布を含めて大量に使用されたため[RDB 1]大きなダメージを受けた[書籍 2][書籍 60]。
- 本種を含めた多くの水生昆虫は多くの種が初夏 - 夏場に新成虫と旧成虫の世代交代がなされるが、その時期に農薬を散布されると新成虫・旧成虫ともに多くが死滅する[書籍 61]。旧成虫だけが死滅して新成虫が生き残ったとしても農薬に汚染された水生動物を食べれば死に直結する[書籍 61]。
- 1970年代以降は農薬の毒性・効果持続性ともに低下したものの1990年代ごろからは「人間に対する毒性は弱いがゲンゴロウ類に対しては毒性が強い」殺虫剤が田植えと同時期に使用されるようになった[書籍 62]。市川憲平は「その影響かどうかは不明だが、それとほぼ同時期からコシマゲンゴロウなどの小型種を含めたゲンゴロウ類が急速に減少している」と指摘している[書籍 62]。
- これに加え、本種やタガメは水銀灯などの街灯設置により街灯の光に誘引されて発生地から離れ戻れなくなることで死亡する個体も多く、これも個体数原因の重大な要因である[RDB 3]。
- その災禍を免れて生き残ったゲンゴロウも圃場整備による水田の乾田化・水田脇の水たまりの消失により[RDB 1]水田への水張[書籍 60] - 土用干し(中干し、6月下旬)[書籍 63]までの期間が短縮された結果、田植え後に産卵され孵化した幼虫は上陸前に水がなくなって乾燥死してしまうようになったため、水田ではゲンゴロウの生活史をカバーできなくなった[書籍 60]。
- ため池の管理放棄・放棄水田の植生遷移も本種の生存を脅かしているほか[RDB 1]、殺虫剤のみならず水田に生える稲以外のすべての植物・畔の草を水田雑草として駆除するため水田に除草剤が散布されると、その水田ではゲンゴロウ類の産卵床となるオモダカ・コナギなどの水草が枯死するため、そのような水田では殺虫剤が使用されなくてもゲンゴロウは繁殖できなくなる[書籍 62]。
- また都市近郊だけでなく山間部の水田でも畔のコンクリート化が行われ、畔の草の中で暮らしていたバッタ・カエルが姿を消すとともにゲンゴロウ・ヘイケボタルなどは蛹化するために上陸して潜る場所を失っていった[書籍 60]。現在では恵まれた環境の池を除けば「水田の横に素掘りの溝が残っているような棚田」でしか生息できなくなったが、その溝も圃場整備が進み消えつつある[書籍 60]。
- 過疎化・高齢化・減反政策により増加した休耕田・放棄水田は水が溜まれば一時的にはゲンゴロウの生息地となるが、水はけの悪い場所を除くと1年 - 2年程度で乾燥してしまうため全体としては水辺環境自体の減少につながる[書籍 64]。ため池も定期的な水抜きで泥を流し出したり堤の草刈りをしたりなどの管理がなされなくなれば泥が溜まり、樹木に覆われて暗くなることで生き物が生息しにくくなる[書籍 64]。
- 圃場整備・用水路のコンクリート化だけでなく河川改修により氾濫原・後背湿地が消滅したり地下水が汚染されたりすることもゲンゴロウ類の生息地破壊につながるほか、様々な環境悪化が複合的に組み合わさったことで生息地が分断される現象も発生している[書籍 56]。
- 生息地に侵入したブラックバス(オオクチバスなど)・アメリカザリガニ・ウシガエルといった侵略的外来種や放逐されたコイ[RDB 1]による食害も本種の減少に拍車をかけており、実際に秋田県で駆除のために捕獲されたオオクチバスの胃から本種成虫やガムシ・オオコオイムシなど水生昆虫が出てきている[書籍 60]。
- 西原昇吾は「かつて教科書などで水生生物の代表格として挙げられていたタガメ・ゲンゴロウなど水生昆虫が取り上げられなくなり、逆に外来種であるアメリカザリガニが代表種として取り上げられたことが増えたことは水辺環境の危機的状況を映し出している」と評した上で[書籍 65]、「アメリカザリガニが侵略的外来種であることがほとんど認識されておらず、幼稚園・小学校で学校教材として利用までされていることは大問題だ」と指摘している[書籍 65]。
- その上で西原はゲンゴロウ類保護の提言の1つとして「オオクチバスが侵入してしまったため池では3年間は継続して水抜き・駆除を行うこと」「アメリカザリガニは学校教材・ペットとして扱うべきではない。1日も早く特定外来生物に指定すべきだ」と述べている[書籍 66]。
- また1990年代以降にカブトムシ・クワガタムシ類と同様にゲンゴロウ類もペットとしての需要が高まったことで、特に高価に売買される希少な種類を中心に[書籍 67]業者・マニアによる無秩序な採集により[RDB 1]個体群の再生産能力を上回る採集圧・捕獲圧の悪影響を受けており[RDB 4]、残った生息地でも生息地の破壊による絶滅・個体数の激減が起きている[書籍 67]。
- 無秩序な採集者(乱獲者)の中には1度に100頭単位で捕獲する者・限られた場所で何度も徹底して捕獲する者がいることからその地域の希少種を絶滅に追い込むだけでなく、最終目的で水辺に何度も踏み込むことで泥をかき回し、水生植物を痛めつけたことで水辺環境が悪化した例もある[書籍 67]。各地域で出されている昆虫目録・レッドデータブックで希少生物の生息地が公表されるとそれが「採集のための案内」となってしまうほか、インターネット上で貴重な生息地の情報が拡散されることも問題となっている[書籍 67]。
- 一部の愛好者の間ではチョウ・ホタルなどと同様にゲンゴロウ類の放流も行われているが、他地域のゲンゴロウを人為的に移入することは遺伝子攪乱の要因となる[書籍 67]。西原昇吾は「今後はトキ・コウノトリのようにゲンゴロウ類でも絶滅・激減した地域や再生された生息地で飼育個体を放流する『野生復帰』が行われる可能性があるが、その際には他地域のものではなくその地域の個体を放流すべきだ」と提言している[書籍 68]。
1991年の環境省レッドリストには記載されていなかった本種も2000年・2007年の改訂で準絶滅危惧(NT)(環境省レッドリスト)に指定された後[RDB 1]、2019年現在は(2012年改訂版)絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)に指定されているほか[RDB 5][RDB 1]、以下のように多くの都道府県別レッドリストで「絶滅種」もしくは「絶滅の危険性が高い高位の絶滅危惧種(I類からII類)」などに選定されている[書籍 19]。生息地の消滅・個体数の減少の度合いは以下のように同じレッドデータブック記載種であるタガメと並ぶ深刻さである。
- レッドリスト・レッドデータブックで絶滅種とされている都道府県 - 東京都[RDB 6][注釈 3]・神奈川県[RDB 8][注釈 4]・千葉県[RDB 9][注釈 5]・滋賀県[報道 2][注釈 6]・鹿児島県[RDB 10][注釈 7]
- 近年は生息が確認できず絶滅した可能性が高い府県 - 富山県[RDB 2][注釈 8]・大阪府[RDB 12][注釈 9]・和歌山県[RDB 13][注釈 10]・徳島県[RDB 3][RDB 14][注釈 11]・香川県[RDB 15][RDB 16][注釈 12]・愛媛県[RDB 17][注釈 13]・福岡県[RDB 18][注釈 14]・佐賀県[RDB 20][注釈 15]
- 条例で採集などが禁止されている県 - 群馬県[条例 1][注釈 16]・長崎県[条例 4][注釈 17]
本種と同様にゲンゴロウ属の近縁種も減少が著しく、特にマルコガタノゲンゴロウ・フチトリゲンゴロウは絶滅危惧IA類 (CR)(環境省レッドリスト)に指定されているほか2011年(平成23年)4月1日より絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づき国内希少野生動植物種にも指定されており、本種以上の危機的状況に晒されている。一方で北海道から[書籍 57]東北地方(青森県・秋田県など)[書籍 7]・甲信越地方(長野県・山梨県・新潟県)など一部の地域においてはまだ多くの産地が残っており[書籍 57]、平地の沼・水田でも本種の姿を見ることができる場合があるが[書籍 7]、「東北地方・北陸地方の山間の池」「農薬が入り込まない谷津田奥のため池」「放棄水田」などの良好な残存生息域を含めて2000年以降の減少が著しい[RDB 1]。
有効な保護対策としては以下のようなものが挙げられ[RDB 1]、新潟県では個体数が回復するなど[RDB 22]その効果が一部で出始めているが[RDB 1]、未だ絶滅の危機を回避するには至っていない。
- 稲作における対策 - 無農薬および減農薬栽培・中干し期の水域確保もしくは夏季湛水・谷津田奥のため池再生・やや深い池の創出[RDB 1]
- その他対策 - 侵略的外来種のモニタリングと排除・コイの放逐防止・採集圧対策・系統保存[RDB 1]
西原昇吾は「現在は研究者・学校・行政が中心となってゲンゴロウ類など環境指標種の生息状況調査が行われているが、地域の人々が地元の水辺環境を『地域の宝』と認識して保全活動を続けていくことが望ましい」と提言している[書籍 68]。
2018年1月時点では日本全国の動物園・水族館・昆虫館・博物館などの施設にて本種やタガメの飼育・繁殖・展示が行われているが[書籍 69]、近親交配が進むと繁殖成功率が低くなることから[書籍 70]、少ない個体数では長くて5年で繁殖できなくなってしまう[報道 5]。琵琶湖博物館(滋賀県草津市)では他府県産の個体を繁殖・展示し続けてきたが滋賀県下のゲンゴロウが既に絶滅しており野生個体の導入による血の入れ替えができなかったため[書籍 70]、2015年9月1日から本種・タガメの生体展示を中止しており、他施設でも飼育・展示の継続が困難になることが懸念されている[報道 6]。
研究者・愛好家の考察
市川憲平・北添伸夫はゲンゴロウ類の保護活動・保護を重視した稲作などに関して以下のように考察・例示している[書籍 71]。
- 最も理想的な水田は「完全な無農薬で水田を耕さず、土用干し(中干し)もしない」自然農法の水田だが、この農法による稲作は稲が雑草に圧倒され収穫量が減るなどのデメリットが伴うため難しく、誰もがすぐにできる方法ではないだろう[書籍 71]。しかしゲンゴロウ類の保護を観点に入れると「ゲンゴロウが産卵・孵化してから成虫が羽化するまで」の4月 - 7月ごろまでは減農薬・無農薬にして土用干しも控えめにし、畔際に素掘りの溝(ひよせ)を設けて土用干しの際にゲンゴロウ類などが逃げ込める場所を作ることから始めるとよい[書籍 71]。
- 千葉県ではシャープゲンゴロウモドキ(種の保存法により保護種指定)を保護するためにボランティア活動が行われており、生息地の休耕田を保全するため地元の小学生とともに「侵入したアメリカザリガニを駆除する」「畔を補修して一年じゅう水が涸れないようにする」などの活動が行われている[書籍 72]。
- 石川県・鳥取県などシャープゲンゴロウモドキ・マルコガタノゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウなどを保護している県では採集禁止のほか、生息池へのブラックバス放流禁止・ブラックバス駆除などの活動が行われている[書籍 72]。
- 西日本でも数少ないナミゲンゴロウ生息地が残る広島県尾道市御調町ではナミゲンゴロウが生息できる自然環境を保全するため子供たちとともに水田の生き物探し・稲作体験などのイベント・生物保全活動を行っているほか、「JA尾道市環境農業研究会」「源五郎米研究会」により無農薬・減農薬による稲作が行われており、その水田で収穫された米・ナミゲンゴロウが生息する水田で収穫された米がそれぞれ「みつぎ健康米」「源五郎米」として販売されている[書籍 73]。
- ゲンゴロウの減少の原因は稲作のあり方にあることが明らかだが、ゲンゴロウの保護を重視した農法を行う水田がすぐに増えるわけではないため、まずは消費者たちの間に「ゲンゴロウが生息できる水田で収穫された米を食べたい」という意識が広まっていくこと(=その米の需要が増大していくこと)が大切だろう[書籍 74]。
- ゲンゴロウ類の採集に最適な時期・場所は「稲刈りの終わった直後のため池(水田畔で羽化した新成虫がため池に移動するため)」だが、繁殖は来年に持ち越しとなるため同年中に繁殖させたければ4月ごろに池で水田に移動する前の成虫を採集する[書籍 53]。しかし個々人の採集がその地域に生息している個体群を絶滅に追いやってしまう可能性があるため、仮に法律・条例で採集が禁止されている種類・地方でなくとも乱獲しないよう注意すべきである[書籍 53]。
- 水田の生き物観察会を行うとヒメゲンゴロウ・ヒメガムシを見つけた方が「これはゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ)ですか?」と質問してくることがあるほか「ゲンゴロウの名前は知っているがナミゲンゴロウを実際に見たことはない」人が増えている[書籍 74]。
内山りゅうは自著『田んぼの生き物図鑑』(2013年・山と渓谷社)にて「初めて野生のナミゲンゴロウを確認した島根県山間部の谷津田最上部に位置する池は谷から水が流れ込み、モリアオガエルのオタマジャクシが非常に多く生息していた」と述べた上で[書籍 19]、『水生昆虫観察図鑑』(2014年・ピーシーズ)に寄稿した記事「水生昆虫に思うこと…」では本種の暮らす環境に関して「1匹の幼虫が成虫までに成長するには膨大な数のオタマジャクシ・ヤゴなどを食べる必要があるが、それは即ち『ゲンゴロウの暮らす水田は多様な生き物で溢れかえるほど豊かな水田』ということだ。食欲旺盛でかつ移動能力の乏しいゲンゴロウの幼虫たちがいくら食べても食べ尽くせないほど豊富な生き物たちに囲まれた水田こそが『生物多様性に満ちた環境』だと思う」と述べている[書籍 43]。
森文俊は『水生昆虫観察図鑑』にて本種を含めた水生昆虫類の保護に関して以下のように指摘・提言している[書籍 5]。
- 本種は育成が容易な種であるため、各地の小中学校で地元産の個体を繁殖するなどの活動が拡大すれば種の保存につなげられるだろう[書籍 5]。本種に限らず水生昆虫類の保護には「地元の小中学校で地元産の水生昆虫を累代繁殖させる」ような情操教育が必要だろう[書籍 75]。
- ゲンゴロウの飼育・繁殖に取り組んだことを通じて「自然下における豊かな生息環境」に思いを馳せるようになった[書籍 76]。水生昆虫たちは「幼虫たちの旺盛な食欲を満たす周辺の豊かな生物相」「産卵床となる無為性植物が豊富な水辺」「蛹化のために幼虫が上陸する優しい土質の岸辺」「成虫がゆったり生活できる静かで豊富な水」のいずれが欠けてもすぐに減少してしまう[書籍 76]。
- 水生昆虫たちは決して人里離れた山奥などではなく、人の管理が行き届きかつ(側溝・用水路のコンクリート化など)大規模な圃場整備がされていない水田とそれにつながる水路・ため池などの環境で生活している[書籍 76]。山奥にある放棄水田のような環境では植物が伸び放題になり、やがて水深は浅くなり湿地化することで水生昆虫が生きていける場ではなくなる[書籍 76]。
- 「微生物・水生生物・それを餌とする鳥類」「周囲の植物相」のいずれも豊かな環境を残していくことが「本当の意味で『環境保全』になる」という意識が人々の間に高まってほしい[書籍 78]。
- 近年はビオトープにより水辺の自然を再現する事業が全国各地で行われているが「使われる植物が外来種」「生物保護のためより景観目的の石組み」など「一部の魚類・鳥類」のみに意識が向いたものが多く、「ゲンゴロウ幼虫が蛹化のために上陸できる柔らかい土の岸」「抽水植物がしっかり根付いた岸」など「水生昆虫たちにまで意識を向けた工法」が少ないことは残念だ[書籍 79]。
- 飼育に取り組む人々は飼育・繁殖を成功させるための基礎知識を身に着けるために事前にきちんと下調べをしてほしいし[書籍 80]、入手方法もできればペットショップなどで購入するのではなく「自分の足で生息地に出かけて採集し、繁殖に必要な数だけ持ち帰る」ようにしてほしい[書籍 81]。
- 自分で採集した水生昆虫たちには思い入れがあるだろうから「大切にしたい」気持ちが芽生えるはずだし、「実際に生息地を見ることで飼育環境の参考にする」ことにもつながるだろう[書籍 81]。
- 減少している水生昆虫たちは「愛玩用の存在」としてではなく「少しでも水生昆虫への思いを持って真面目に飼育・繁殖」してほしい[書籍 81]。
- 採集ばかりでなくインターネットオークションで成体を入手することも積極的に行ったが、生体を売買することへの賛否の有無はともかく「水生昆虫を愛する人たちが全国各地にいる」ことを知ることができたことは喜ばしい[書籍 77]。1人でも多くの人に水生昆虫の存在を知ってもらえれば「存在そのものを知ることなく環境が開発されることで減少につながる」ことよりは意義があるだろう[書籍 77]。
またゲンゴロウ類の自家繁殖・繁殖個体の販売を行っている関山恵太は『水生昆虫観察図鑑』に寄稿した記事「ゲンゴロウ繁殖の勧め」にて以下のように指摘・提言している[書籍 82]。
- ゲンゴロウ類の場合はカブトムシ・クワガタムシ類やタガメと異なり繁殖個体(CB個体)の流通が少なく、愛好家が新たに入手する個体はほとんどが生息地から採取された野生個体(WC個体)である[書籍 82]。その背景には「人工繁殖がタガメより複雑で手間・コストが多くかかる点」「野生個体が格安に取引されると繁殖個体販売は採算が合わない点」があるだろう[書籍 82]。
- 多くの人々がゲンゴロウの飼育・繁殖を末永く楽しめるよう「今後は繁殖個体の作出・流通が増加して野生個体への依存を脱却できるようになってほしいし、そのためにゲンゴロウ類の繁殖に成功する人が1人でも増えてほしい」と願っている[書籍 82]。
- ゲンゴロウ類の繁殖は根気がいるので、累代が途絶えてしまう最大の原因は「飼育者自身が飼育に飽きてしまうこと」だろう[書籍 83]。それを防ぐためにも同じく飼育・繁殖を楽しんでいる飼育仲間とつながりを持ち「飼育に関する情報交換」「繁殖個体の交換」「採集に同行する」などしてモチベーションを維持することが繁殖への成否を分けるほど重要な要素になるだろう[書籍 83]。1つの種類を系統保存するためには一個人よりも仲間とスクラムを組んだほうが有利だと思う[書籍 83]。
飼育
飼育用水
ゲンゴロウ属に限らず水生昆虫の多くは一部種類を除き農薬・洗剤など化学的汚染はともかく有機的な汚染には強いものが多く、前述のように「化学的汚染がない自然の土の岸が残る水域」ならば淀んだ水域でも多数の水生昆虫がみられる[書籍 84]。そのためナミゲンゴロウなどゲンゴロウ属の昆虫を飼育する際には観賞魚類ほど水質に神経質になる必要はなく、餌用魚類(メダカ・ワキンなど)が状態よく飼育できる程度の水質ならば全く問題ないが、水を換える場合は地域・季節により水道水内の塩素濃度が変化するため、水道水100%の水は必ずしも安全とは保証できない[書籍 84]。それに加え濾過装置内の濾過用バクテリア・餌用魚類が塩素で死滅するおそれがあること・水草に悪影響が出る可能性があることから水道水を直接飼育容器に入れることは避け、1日以上汲み置きした水を使うことが望ましい[書籍 84]。
水を汲み置く場合は可能な限り飼育容器と同じ場所で汲み置けば、飼育水と汲み置き水の温度がほぼ同じになり換水時の急激な温度変化を抑えることができる[書籍 84]。換水は成虫の場合一度に全量行ってもよいが、ろ過装置用バクテリア・餌用魚類・水草に配慮すると一度に全体3分の1 - 2分の1程度を交換することが望ましい[書籍 84]。
なおカルキ抜き剤などは容量を間違えると水生昆虫に悪影響が出る可能性がある上、魚用の病気治療剤・コケ防止剤も多くのものが水生昆虫生体に影響を与えるため、都築裕一は「いずれも使用しない方が無難。もし使用する場合は直接メーカーに問い合わせて安全性を確認した上で使用すべき」と解説している[書籍 84]。
成虫飼育
ペットとしてペットショップなどで販売されている[書籍 12]。丈夫・長寿な昆虫であるため飼育は容易で[書籍 5]、本種を含むゲンゴロウ属の成虫は丈夫で生き餌を必要としないことから水生昆虫の飼育に初めて挑戦する初心者に最適の種類である[書籍 11]。
ナミゲンゴロウの場合は少なくとも幅45cm以上、できれば60cm以上の飼育容器で泳ぎ回るスペースを確保してゆったりと飼育することが適切であり、ある程度水深のあるため池などに好んで生息するため水深は20cm - 60cm程度確保することが望ましい[書籍 13]。飼育容器には水槽・プラスチックケース・衣装ケースなどが使用できるが「水深を確保した上でゆったりと飼育する」観点ではガラスおよびアクリル製の水槽が最適とされる[書籍 13]。
ナミゲンゴロウの場合は大型の飼育ケース(幅約40cm)で5, 6匹、幅約60cmの観賞魚用大型水槽の場合は7, 8匹程度が飼育可能数の目安で、さらに多頭飼育することも可能ではあるが水がすぐに汚れるため推奨されない[書籍 85]。日本本土に生息するナミゲンゴロウの場合は特に保温装置は必要ないが[書籍 18]、急激な水温の変化を防ぐため直射日光は避け、季節に合わせた日照時間を考えて昼夜の明暗がはっきりしており、かつゲンゴロウに不要なストレスを与えないため人の出入りが少ない静かな場所に容器を設置する[書籍 86]。そのような観点から考えると室内では直射日光が当たらない窓辺・風通しの良い廊下など、屋外では屋根付きのベランダ・テラス・直射日光の当たらない軒下などに飼育容器を設置することが好ましい[書籍 86]。また繁殖行動には日照時間・温度などの要素が影響するため「昼は照明装置・日光などで適度の明るさを保ち、夜は真っ暗にする」「夏は暑く冬は寒くし、季節に合わせた温度管理をする」ことが望まれる[書籍 86]。
餌は煮干し・田作り(いずれも醤油・食塩などによる味付けがされていないもの)など入手が容易で保存性が良いものを主に与え、摂食状態を観察しつつ数種類をローテーションで与えることが好ましい[書籍 87]。このほか以下のようなものが餌として使用できる。
- クリル(熱帯魚餌用の乾燥オキアミ) - タンパク質の含有量が多く[書籍 18]栄養価が高いことから[書籍 88]特に推奨され[書籍 18]、実際に食いつきも良いが殻の部分が食べ残されやすく、容器内に破片が散らばるとミズカビ発生の原因になるため注意が必要である[書籍 88]。
- 熱帯魚用の冷凍赤虫・乾燥赤虫 - クリルと同様に食いつきがよいが食べ残すと水槽に散らばりミズカビ発生の原因になるため与える量を調節する[書籍 88]。
- 関山恵太は「釣具店で販売されている活赤虫を与えると直後に大量死したことがある。可能性の一つとして薬剤の残留が考えられる」と指摘している[書籍 89]。
- ヨーロッパイエコオロギ・ミールワームなど昆虫類 - 弱らせて与える[書籍 85]。
- 死んで間もない川魚や金魚[書籍 88]・脂肪分の少ない赤身魚(マグロの赤身など)やイカの刺身なども食べるが、すぐに体液が流出して水を白濁させ、水質悪化につながるため注意が必要である[書籍 88]。
- またタンクメイトとして生きたドジョウなどを飼育容器に入れておくとゲンゴロウの食べ残しを食べてくれるため水槽の掃除屋として役立つ[書籍 88]。
体表[書籍 23]・後脚の付け根にミズカビが生えてしまい水替えをしてもなかなか消えない場合は塩分濃度約0.5%程度の食塩水で数日間にわたり塩水浴をさせればミズカビが死滅する[書籍 14]。また水槽内には直接空気中の酸素を取り入れるため飼育容器の水面が油膜などで覆われないように注意すべきだが、ゲンゴロウ類は餌の肉質をかじり取って食べるために餌の破片が水中に散らばって水質が悪化しやすいため、水替えを頻繁に行ったり濾過装置を設置したりして水質の悪化を抑えることが望ましい[書籍 14]。
ミズカビ発生防止などの観点から甲羅干しができるように水面上に少なくとも10cmぐらいの空間ができるように水を入れ、流木・ヘゴの支柱などを水面上に先端が突き出るように立てて「甲羅干しができるような足場」を作ることが望ましいが[書籍 18]、タガメより深い水深で飼育することが多いゲンゴロウの飼育容器に合った大型の流木は高価で入手が難しいため、中型の流木を釣り糸などで容器の縁から吊り下げ半分ほど水に浸かった状態で使うことで代用することもできる[書籍 21]。また飼育下では流木の下にできた隙間・ホテイアオイの根の下などに押し合うようにして集まっていることが多い[注釈 18]ため、飼育容器内には足場としての流木を利用するだけでなく、ゲンゴロウが体ごと潜り込めるような隙間を作ることが推奨される上、水草を入れる際もオオカナダモなど沈水植物を多く入れることで、ゲンゴロウが体ごと水草に引っかかるようにして水中で休めるような環境を作るとよい[書籍 21]。
水質安定・足場としての目的に加えて本来の生息域が水草の豊富な環境であるため、繁殖の有無を問わず飼育容器には水草も入れるのが望ましい[書籍 85]。ただしペットショップ・観賞魚店でなどで購入した水草は残留薬物に注意する必要があるほか[書籍 89]、♀は産卵期が近づくと頻繁に植物を齧り、細い水草をすぐボロボロにしてしまうため高価な水草を入れることは控えたほうが良い[書籍 18]。肉食性が故に水が汚れやすいため飼育容器には濾過装置の設置が望ましいが、その場合でも水質が悪化した場合は水替えが必要である[書籍 90][書籍 18]。
ゲンゴロウ類の成虫は幼虫やタガメなどとは異なりいわゆるプレデターではなくスカベンジャーであり、生きた他のゲンゴロウ・魚を積極的に襲うことは少ないため[書籍 18]、元気な個体同士が同種間で共食いすることは少ない[書籍 91][注釈 19]。そのため自由に泳ぎ回ることができるスペースが確保できる場合はタガメなどと違い複数飼育が可能な水生昆虫である[書籍 91]。また他種ゲンゴロウ類・小魚(ドジョウ・メダカなど)との混泳も可能だが、長期間餌を切らしたり、弱っていたりすると小型種・弱った個体・行動の鈍い魚などは食べられてしまうこともあるため注意する[書籍 18]。
11月を過ぎるとゲンゴロウは活動が鈍るようになり餌の摂食量も減るため、そのような状態になったら飼育容器内に隠れ場所となる水草・流木などを多めに入れた上で容器を温度の安定した場所に移動して越冬させる[書籍 88]。ただしナミゲンゴロウは冬季でも完全な冬眠状態にはならず活動し続けているため様子を見ながら餌を与える必要があり、冬が開けて3月ごろになると活発に活動するようになるため再び餌を多めに与える[書籍 88]。都築裕一は「自身の経験ではナミゲンゴロウの越冬・産卵の関係を考えると、産卵をうまく成功させるためにはタガメの場合とは違い一定期間は低温で飼育して越冬させる必要がある」と評価している[書籍 88]。
人工繁殖
成虫の飼育は容易である反面、タガメなど水生カメムシ類(半翅目)と比較すると繁殖は難しい[書籍 11]。
前述のように♀は1回の交尾で数か月にわたり有精卵を生むことができる上[書籍 30]、交尾中に呼吸もままならず窒息死してしまう場合があるため、複数飼育の場合でも成熟した♂は繁殖を狙わない場合♀と別容器で飼育することが望ましい[書籍 27]。
産卵床とする水草はヘラオモダカなどオモダカ類・ホテイアオイ(浮嚢部分に産卵する)など[書籍 92]「植物内部がスカスカのスポンジ状になったもの」[書籍 35]が使用できるが、細いと♀が噛み千切ったり、散乱してもかじられた部分から腐敗することがあるため、茎の太さは最低でも3mm - 4mm程度の直径が必要であり、5mm以上が推奨される[書籍 92]。都築裕一は産卵床植物の種類に関して以下のように考察した上で「いずれの植物でも蛍光灯程度の人工照明では植物そのものの長期育成が難しいため、産卵床に使う植物は小鉢に植えて屋外で栽培した上で屋外・飼育容器間をローテーションするなどの工夫が望ましい」と評価している[書籍 92]。
- 人工照明下では主にヘラオモダカ・ホテイアオイを利用している[書籍 92]。都築らの経験の一例としてホテイアオイ1株から40近い幼虫を得た場合がある[書籍 35]。
- オモダカ及びその改良品種であるクワイなども産卵床として適しているが大きくなりすぎるため利用しにくい[書籍 92]。
- 他に利用可能な植物としてフトイ・アサザ・コウホネ・スイレン類・コナギなどミズアオイ類を挙げているが、コウホネ・スイレン類・ミズアオイ類などは「強い照明を用いても産卵時にかじられた部分から溶けるように植物組織が腐敗し、卵が孵化するまで植物が持たないことが多いため利用を避けたほうが無難」と評価している[書籍 92]。
- またセリなどに関しては「茎が固いためにうまく産卵しないことがある」と評価している[書籍 92]。この他熱帯魚用のバコパ・アマゾンソードプラントなどのうち茎の太いものを利用することもできる[書籍 35]。
産卵された植物はそのまま繁殖用容器に入れておくと親成虫が植物ごと卵を齧って食べてしまったり、孵化直後の幼虫を捕食したりしてしまう可能性があるため、必ず親成虫と別々に管理する必要がある[書籍 35]。ゲンゴロウの産卵はタガメと違いだらだらと続くため、親成虫を別容器に移すよりも植物ごと卵を別容器に移し替え、産卵用容器には新しい植物を入れることが望ましい[書籍 35]。産卵が確認できた植物はそのまま切り花のようにペットボトルを半分に切った容器など別容器に移動させておけば、孵化までの2週間ほどは枯れずに維持できる[書籍 92]。
孵化した幼虫は飼育容器壁面・水草などに掴まって水面から尾端の呼吸器を出している場合が多いため、孵化時期が近づいたら注意深く容器内を観察して別容器に移し替える[書籍 42]。
幼虫飼育
幼虫は生き餌専食であるため成虫に比べて飼育が厄介で、共食いを防ぐため1匹ずつ分けて単独で飼育しなければならないほか[書籍 42]、餌も生きた獲物を用意しなければならない[書籍 48]。タガメの幼虫のように一斉に100頭近い幼虫が孵化するわけではないため比較的幼虫の管理はしやすいが、一通りの孵化が終わると1ペアから数十頭の幼虫が得られるため、その個別飼育にはそれなりの手間・労力を要する[書籍 42]。
- 1齢幼虫には主にボウフラ[書籍 48]・アカムシ・小さめのメダカ・川魚の稚魚・孵化直後のオタマジャクシなどを与える[書籍 45]。
- 2・3齢幼虫には小魚(メダカ・小さい和金・川魚)[書籍 45]・オタマジャクシ・ヨーロッパイエコオロギなどを与える[書籍 48]。
- マグロなど赤身の刺身を代用食として利用することができるが、体液がすぐ水に溶けだすため水質の悪化が早く、かえって生き餌より手間がかかる[書籍 45]。
- なおオタマジャクシは生物濃縮により農薬が蓄積されている場合があり、市川憲平は「無農薬で稲を栽培している水田以外で採集したオタマジャクシをタガメに与えると死亡する可能性がある」と指摘している[書籍 93]。
- 関山恵太は「成虫・幼虫を問わず水田脇などで採集された小魚・オタマジャクシなどには残留農薬が含まれており与えると死亡する危険性がある。観賞魚店で販売されているメダカなども魚病薬などゲンゴロウに有害な薬剤が残留している恐れがあるため、数日間はストックして体内の残留薬剤を排出させてから使用したほうがいい」と指摘している[書籍 89]。
- またイモリ・サンショウウオなど有尾類の両生類も有毒である場合があり、実際に都築裕一は「飼育していたタガメ成虫にイモリ成体を与えたところ死亡した場合がある」と自身の失敗談を挙げつつ「死因が必ずしも毒のせいとは言えないが、念のため有尾類の両生類は成体・幼体を問わず水生昆虫の餌には使用しないほうが良い」と述べている[書籍 94]。
ナミゲンゴロウの幼虫を含め1齢・2齢幼虫の期間がそれぞれ1週間以上ある種類の場合、毎日餌を与えなくても1,2日おきに餌を与えれば餓死することはない[書籍 95]。
ゲンゴロウは幼虫も比較的生育可能温度範囲が広いが、水温が低いと発育が遅れる反面、高すぎると水質悪化が早くなり死亡率も上昇するため、幼虫飼育時には極端な温度変化を避けて23℃ - 28℃の範囲を目安に維持する[書籍 96]。飼育容器はプラケースなども使用可能だが餌の捕獲しやすさ・管理のしやすさなどの観点から小さめのプラスチックカップなどが推奨される[書籍 96]。脱皮に必要な広さを考えると1齢幼虫では直径5cm、2齢幼虫では直径7cm、3齢幼虫では直径10cm程度の大きさが望ましいが、浅すぎる容器では幼虫が這い上がって脱走するリスクがあるため幼虫の体長に応じて5cm - 10cm程度の深さの容器を選び、容器に蓋をすることが推奨される[書籍 96]。
ゲンゴロウ幼虫は尾端の呼吸器から直接大気中の空気を体内に取り込んで呼吸するため、タガメほど水質悪化による窒息死は多くなく水質悪化には比較的強いが、2・3齢幼虫はともかく1齢幼虫では水面が汚れ・油膜などで覆われると窒息死しやすいため注意が必要である[書籍 97]。また水が汚れると体表にミズカビが生えて脱皮に失敗する場合もある[書籍 97]。個別飼育が必要なゲンゴロウ幼虫はすべての幼虫を1頭ずつ濾過装置付きの飼育容器で飼育することはまず不可能だが、飼育頭数が少ない場合・設備面で余裕がある場合は底面フィルター・投げ込み式フィルターなど水流・水面の揺れが少ない濾過装置を使用した上で水草を多めに入れて飼育することもできる[書籍 97]。いずれの場合でも水質悪化を防ぐため食べ残しはピンセットで取り除く必要があるほか[書籍 90][書籍 85]、濾過装置がない場合・水の汚れが著しい場合は毎日水を全量交換する必要がある[書籍 48][書籍 18]。また薬品類については成虫以上に弱いため注意が必要である[書籍 97]。
水深は幼虫の体長に応じるが、「1齢幼虫で1cm程度、2齢幼虫で2cm、3齢幼虫で3cm程度」の水深ならば幼虫は脚を水底に着けた状態で呼吸器を水面上に出すことができる[書籍 96]。ただし水深が浅いとそれだけ水温変動・水質悪化が著しいため注意を要する[書籍 96]。水深を深くすれば水質悪化を抑える場合ができるが、その場合は水草など足場が必要となる[書籍 96]。足場用の水草としては有茎植物(1齢幼虫ではカボンバ・マツモなど細めのもの、2・3齢幼虫ではクロモ・オオカナダモなど太めのもの)が適切である[書籍 96]。水草を入れる場合は脱皮の障害にならない程度に入れ、水深は5cm程度にする[書籍 48]。
なお幼虫は大型である上に毒牙を持つため噛まれると危険であり取り扱いには注意が必要であるが、脱皮が近い時期に幼虫を落とすなどして強いショックを与えると脱皮できずに死亡するおそれがあるため、世話をする際は必ず熱帯魚用のサランネットなどで幼虫を受け止める必要がある[書籍 48]。
蛹化・羽化時の管理
本種は土中で蛹化するため、3齢幼虫の飼育時には「柔らかくて粘りがあり、アリなどの小動物・微生物が混入していない湿った土」やピートモス・クワガタムシ飼育用の昆虫マットなどで飼育容器内に陸地を作るか、土の入った容器に幼虫を移すなどして上陸させる必要がある[書籍 41]。使用する土は自然下から採取した場合はカビ・細菌を駆除するために必ず日光消毒を行う必要があるため、園芸用のピートモスなどを使用する方が簡単ではあるがどのような土でも複数回使い回せばカビが発生しやすいため毎回新しいものと交換するか、使用後は日光消毒を行ってから再度使用すべきである[書籍 98]。
3齢幼虫が体長約80mmほどにまで成長して餌を食べなくなったところが上陸のタイミングであり、餌を食べなくなってから1日程度の間に上陸させないと蛹化できずに溺死するため、幼虫の体長・摂食量を注意深く観察しつつ上陸のタイミングを見計らう必要がある[書籍 45]。上陸させて一晩経過しても土に潜らない場合はまだ準備ができていない証であるため、再び水の入った飼育容器に戻して餌を与えて様子を見る[書籍 45]。土・ピートモスは水分が多すぎると柔らかすぎて蛹室が作れず、少なすぎると固すぎて幼虫がうまく潜れないため[書籍 98]、「水を含ませ手で握ったときにわずかに水滴が落ちる程度」の水分量が好ましい[書籍 41]。また幼虫は土に潜るのがそれほど得意ではないため、土の固さは「指を差し込んでみて簡単に指が沈み込む程度」の柔らかさが好ましく[書籍 41]、土に潜ろうとしてもうまく潜れない場合は湿り具合を調節する必要がある[書籍 45]。
幼虫が土に潜ってから成虫へ羽化するまでには約20日間かかるが、個体差および温度などの条件によりさらに10日ほど要する場合がある[書籍 51]。その間に蛹室内の様子を見ようと蛹室に穴を開けてしまうと土が崩れて羽化不全になったり乾燥死することが多い上にカビの発生率も上昇するため、不用意に蛹室の中を覗く行為は避けるべきである[書籍 51]。観察・記録目的でやむを得ず中を見るときは土を崩さないように慎重に穴をあけ、観察後はプラスチック板などで蓋をすることが好ましい[書籍 51]。激しい温度変化・蛹への振動などは羽化不全などの原因になるため、蛹化用容器の保管場所は「直射日光の当たらない温度の安定した場所」が適しており、羽化まではなるべく容器を動かしたり振動を与えたりしないようにする[書籍 51]。
羽化後は5日 - 1週間程度は蛹室に留まってから地上に這い出して活動を開始する[書籍 50]。活動開始後は水を入れた飼育ケースに移して飼育するが、羽化直後の新成虫は体が完全に硬化していないため、他のゲンゴロウとともに飼育すると捕食されるおそれがある[書籍 50][書籍 51]。この「羽化直後の新成虫」が「共食いの少ないゲンゴロウにとって最も共食いが起きやすい時期」であり、実際に都築らは「羽化直後の新成虫を前年生まれの成虫を同居させたところ一晩で捕食され、本来は硬くて食べ残されるはずの腹部・前翅・後脚まできれいに食べつくされてしまった」と記録している[書籍 51]。そのため羽化してから体が完全に硬化するまでは餌を十分に与えて単独で飼育し[書籍 50]、活動開始から1 - 2週間程度経過してから[書籍 51]翅を軽く触ってみて硬くなったことを確認してから他個体とともに飼育する[書籍 50]。
脚注
注釈
- ^ 飼育下では1度しか交尾しなかった♀がシーズン後半に未受精卵を産むようになった[書籍 28]。
- ^ 長野県では現在の上小地域(上田市・小県郡長和町)・佐久地域(佐久市・北佐久郡立科町)・諏訪地域(岡谷市・諏訪市・茅野市・諏訪郡下諏訪町)・上伊那地域(上伊那郡辰野町・南箕輪村・宮田村)などでゲンゴロウ(方言:トウクロウ)を塩炒り・煮付けで食用としていた記録が確認されており[論文 1]、秋田県でも「ゲンゴロウを救荒食物として食べた」「現在の横手市で食されていた」などの記録がある[論文 7]。
- ^ 東京都区部(23区内)およびその周辺では1940年代[RDB 6]、多摩地域でも1970年代の記録が最後の記録とされており、2010年のレッドリスト改訂で絶滅種となった[RDB 6][RDB 7][報道 1]。
- ^ 農薬の大量使用とほぼ時期を同じくしてほとんどの地域から絶滅しており、県内で最後まで確実に生息していた厚木市上荻野のため池で1990年代初めに行われた改修工事により絶滅してからは記録されておらず、県内の池沼に本種が生息可能な環境は残っていないことから絶滅したと考えられる[RDB 8]。
- ^ 清澄山(1983年)の記録が最新のものとなっており、生息環境の大部分が消失した県北部での生息確認は難しいが房総丘陵地帯に生息している可能性がある[RDB 9]。
- ^ 県内では1990年代の確認が最後とされており2016年の改訂で絶滅種となった[報道 2]。「ため池の管理放棄や護岸工事で産卵場所となる水草の減少」「アメリカザリガニなど外来種による捕食」「幼虫時に生息する水田で餌となるオタマジャクシなどが減少したこと」が絶滅の原因とされる[報道 2]。この改訂を受けて滋賀県の地方紙『京都新聞』(京都新聞社)は2016年6月22日に社説で「生物多様性の喪失に対するゲンゴロウからの警鐘」などと表現した[報道 3]。
- ^ 1940年代には川内市(現:薩摩川内市)の池沼で多数採集されていたほか1973年にも姶良郡隼人町(現:霧島市)朝日池で6個体が採集されたが、島嶼部では1959年に屋久島(熊毛郡屋久島町安房)で、本土でも1990年に吉松町立吉松小学校(当時の姶良郡吉松町。現:姶良郡湧水町)内の溝で1個体が採集されたのを最後に採集・生息記録がなく[RDB 11]、2014年改訂のレッドリストでは「絶滅種」となっている[RDB 10]。
- ^ 富山県水生昆虫研究会が1995年に実施した生息状況調査では石川県との県境付近の小矢部市・西礪波郡福光町(現:南砺市)など県内数か所で生息が確認されたが、2012年時点のレッドデータブックでは「現在はいずれの生息地でも再確認されていない」として「絶滅危惧I類」に指定され絶滅が危惧されている[RDB 2]。
- ^ 府内唯一の産地として[RDB 12]茨木市北部の湿地が知られていたが、1991年に「野尻湖昆虫グループ」(大阪市立自然史博物館に事務所所在)の調査による生息確認を最後に[報道 4]その生息地が消滅した[RDB 12]。このため府内では翌1992年以降確実な生息記録が確認されていない[RDB 12]。
- ^ 1990年ごろには旧東牟婁郡本宮町皆地(現:田辺市皆地)が「県内における唯一の確実な生息地」になってしまったが、その後同地も生息地改修工事により環境が激変したため絶滅した[RDB 13]。伊都郡かつらぎ町にも本種の生息地があったが近年に圃場整備のための大規模な改修工事がなされ、2012年版県内レッドデータブックで「絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)」に指定されており絶滅が危惧されている[RDB 13]。
- ^ 県内ではかつて普通種だったが2001年発行のレッドデータブックで「県内で生息が確認されているのはわずか1か所のみと、産地が非常に局地的で個体数も少ない」として「絶滅危惧I類」に指定されており[RDB 3]、さらに2013年改訂版レッドデータブックで「近年確認されていない」として「絶滅危惧IA類」に指定され絶滅が危惧されている[RDB 14]。
- ^ 県内ではかつて普通種だったが強力な農薬の使用で激減し、1980年代には全く姿が見られなくなった[RDB 16]。1990年代になり県東部・大川郡白鳥町(現:東かがわ市)の1箇所で生息が確認されたが、1999年以降の5年間は同地でも生息が確認されておらず2004年3月刊行のレッドデータブックでは「絶滅危惧I類(CR+EN)」に指定され絶滅が危惧されている[RDB 16]。
- ^ 県内では過去に北宇和郡鬼北町で記録されたほか、1990年代に温泉郡中島町(現:松山市)・上浮穴郡久万高原町で生息が確認されていたが、その後既知生息地で実施された調査では発見されておらず、県内の生息地も確認できないことから「絶滅危惧1類(CR+EN)」に指定されており絶滅が危惧される[RDB 17]。
- ^ 県内では1940年代 - 1960年にかけて現在の田川市・北九州市[RDB 18]若松区[RDB 19]・福岡市・朝倉郡東峰村・うきは市で記録されていたが、1960年に浮羽郡吉井町吉井(現:うきは市)で採集されてからは記録がなく、2014年版県内レッドデータブックで「絶滅危惧IA類」に指定されており絶滅が危惧される[RDB 18]。
- ^ 1992年までは4産地(佐賀郡富士町杉山・東松浦郡浜玉町鳥巣・東松浦郡七山村樫原湿原・神埼郡脊振村一谷)が知られていたが、脊振山地にあった脊振村一谷(現:神埼市脊振町服巻一谷)の産地では1993年から翌1994年にかけて生息池が埋め立てられて絶滅しており、他の産地も個体数が少ない上に池にゴミなどが投げ込まれている状態で、2003年版県レッドデータブックでは「越滅危惧I類種」に指定されており絶滅が危惧される[RDB 20]。
- ^ 県内では中部・利根沼田地域の各1カ所で生息が確認されているが、開発行為により生息可能な湖沼・水田が激減しているほか収集・販売目的の捕獲、生息地における朽木・落葉の回収により個体数が減少しており県レッドリストで「絶滅危惧I類」に指定されている[RDB 21]。2015年8月11日より[条例 2]「群馬県希少野生動植物の種の保護に関する条例」に基づき「特定県内希少野生動植物種」に指定され許可なく捕獲・採取・殺傷・損傷するなどの行為が禁止されている[条例 1][条例 3]。
- ^ 全県で2017年(平成29年)3月28日より[条例 5]「長崎県未来につながる環境を守り育てる条例」に基づき「希少な野生動植物」に指定され捕獲・採取・殺傷・損傷するなどの行為が禁止されている[条例 4]。
- ^ 天敵である鳥類などから身を隠す修正であるとともに、呼吸のために貯めた空気による浮力で体が水面に浮き上がることを抑えるためとされる[書籍 21]。都築裕一はゲンゴロウがこの行動を取る理由を「物に掴まって体が浮くのを抑えるより、何かの下に潜って浮くのを抑えたほうが体力の消耗が少ないからだろう」と推測している[書籍 21]。
- ^ 複数飼育した場合は稀に仲間の死体を食べる姿が観察されたり、食べられてバラバラになった死体が推定に沈んでいたりする場合があるが、これは「共食い」ではなく何らかの原因で弱ったり死亡したりした個体が食べられたものである場合が多い[書籍 91]。
出典
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- 鹿児島県環境生活部環境保護課『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編-鹿児島県レッドデータブック-』財団法人:鹿児島県環境技術協会、 日本・鹿児島県鹿児島市七ツ島一丁目1番地5、2003年3月、170頁。ISBN 4990158806。
関連書籍
- 森正人、北山昭『図説 日本のゲンゴロウ』(初版第1刷)文一総合出版、1993年6月30日、140-145,175-176頁。ISBN 978-4829921593。
- 森正人、北山昭『図説 日本のゲンゴロウ』(改訂)文一総合出版、2002年2月15日、152-158,189-190頁。ISBN 978-4829921593。
- 海野和男、高嶋清明、筒井学『水辺の虫の飼いかた ゲンゴロウ・タガメ・ヤゴほか』 6巻(初版第1刷)、偕成社〈虫の飼いかた・観察のしかた〉、1999年3月19日、6-11頁。ISBN 978-4035275602。
- 都築裕一、谷脇晃徳、猪田利夫『水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル』(初版第1刷)データハウス、 日本・東京都新宿区西新宿三丁目6番地4号、1999年9月20日。ISBN 978-4887185333。
- 都築裕一、谷脇晃徳、猪田利夫『改訂版 水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル』(初版第1刷)データハウス、2000年6月20日、16-18,27-28,139-159,218-220頁。ISBN 978-4887185654。
- 都築裕一、谷脇晃徳、猪田利夫『普及版 水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル』(初版第1刷)データハウス、2003年5月1日、16-18,27-28,139-159,218-220頁。ISBN 978-4887187160。 - 「改訂版」をソフトカバー化して改めて発刊したもの。
- 都築裕一、谷脇晃徳、猪田利夫『改訂版 水生昆虫完全飼育・繁殖マニュアル』(初版第1刷)データハウス、2000年6月20日、16-18,27-28,139-159,218-220頁。ISBN 978-4887185654。
- 内山りゅう『田んぼの生き物図鑑』(初版第1刷)山と渓谷社〈ヤマケイ情報箱〉、2005年7月1日。ISBN 978-4635062596。
- 内山りゅう『増補改訂新版 田んぼの生き物図鑑』(初版第1刷)山と渓谷社、2013年3月5日、112-115頁。ISBN 978-4635062862。
- 内山りゅう『今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち タガメ・ゲンゴロウ・マルタニシ・トノサマガエル・ニホンイシガメ・メダカ』(初版第1刷)山と渓谷社〈ヤマケイ情報箱〉、2007年6月5日、51-68,160-163頁。ISBN 978-4635062602。 - 内山は編集・写真を担当、文の執筆は市川憲平。
- 西原昇吾『よみがえれ ゲンゴロウの里』 1巻(初版第1刷)、童心社〈守ってのこそう!いのちつながる日本の自然〉、2008年11月28日。ISBN 978-4494011582。
- 市川憲平、北添伸夫『ゲンゴロウ』(初版第1刷)農山漁村文化協会〈田んぼの生きものたち〉、2010年3月20日。ISBN 978-4540101229。
- 関慎太郎『ポケット図鑑 田んぼの生き物400』(初版第1刷)文一総合出版、2012年7月30日、225頁。ISBN 978-4829983010。
- 森文俊、渡部晃平、関山恵太、内山りゅう『水生昆虫観察図鑑 その魅力と楽しみ方』(初版第1刷)ピーシーズ、2014年7月30日。ISBN 978-4862131096。
- 市川憲平『タガメとゲンゴロウの仲間たち』 4巻(初版第1刷)、サンライズ出版〈琵琶湖博物館ブックレット〉、2018年3月27日。ISBN 978-4883256341。
関連論文
- 上手雄貴「日本産ゲンゴロウ亜科幼虫概説」(PDF)『ホシザキグリーン財団研究報告』第11号、ホシザキグリーン財団、2008年3月、129-133,138-139、ISSN 1343-0807、 オリジナルの2019年2月28日時点におけるアーカイブ、2019年2月28日閲覧。