コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

コウホネ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コウホネ
1. コウホネ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: スイレン目 Nymphaeales
: スイレン科 Nymphaeaceae
: コウホネ属 Nuphar
: コウホネ N. japonica
学名
Nuphar japonica DC. (1821)[1][2][3]
シノニム
和名
コウホネ (河骨[4]、川骨[5]、萍蓬草[6])、カワホネ (河骨[4]、川骨[5]、骨蓬[7]、加波保禰[8])、センコツ (川骨)[9]、コッポウ (骨蓬)[10]、タイコノブチ (太鼓桴)[11]、ヤマバス[12]

コウホネ(河骨、学名: Nuphar japonica[注 1])はスイレン科コウホネ属に属する水草の1種である。底泥中を横に這う地下茎からを伸ばし、ふつう水面より上に葉を立ち上げるが (抽水葉; 図1)、水面に浮かべる浮水葉をつけることもある。また水中の沈水葉は細長い。夏になると、長い花柄の先に直径3–5センチメートルほどの黄色いを咲かせる(図1)。日本固有種ともされ、北海道から九州の浅い池や沼に生育する。

「コウホネ (河骨)」の名の由来は、底泥中を這う白い地下茎が骨のように見えるためとされることが多い (異説もある)。この地下茎を乾燥させたものは川骨(せんこつ)とよばれ、生薬とされる。

特徴

[編集]

多年生水生植物であり、高さは水深によって異なる[14][15]地下茎 (根茎) は白くて太く肥大しており、直径1–3センチメートル (cm)、水底の泥中を横に這い、茶褐色の葉痕があり、古い部分は黒褐色をしている[14][2][13][3]。根茎の先端部から葉柄が束生し、葉には沈水葉と水上葉があるが、流水域では沈水葉だけをつけることもある[14][16]。沈水葉の葉柄は短く、葉身は細長く 10–50 × 6–18 cm、薄い膜質で葉縁は波打つ[14][13][16]。水上葉の葉柄は長く、直径 3–9(–14)ミリメートル (mm)、葉身は狭卵形から長楕円形、(12–)20–50 × (5–)10–20 cm、基部は矢じり形、葉脈は羽状で側脈は18–44対、革質で表面は無毛、光沢がある濃緑色、裏面は若いときに少し毛がある[14][2][13][16][3][17][18][19] (下図2a)。北日本のコウホネは沈水葉、水上葉ともに細長く、本州中部以南のコウホネの葉は短い長卵形である傾向がある[16]。水深の浅い場所では水上葉は鋭角に立ち上がって抽水葉になるが (図1, 2a)、深い場所では浮水葉となる[2][13] (下図2b)。ただし流水域では、沈水葉のみをつけることもある[13]。冬季には水上葉は枯れ、水中葉のみを残す。

2a. 抽水葉と花
2b. 浮水葉とつぼみ

花期は6–10月、長い花柄 (直径 3–6 mm) が地下茎から生じて水上へ伸び、その先端に直径 3–5 cm で上向きに咲く黄色いカップ状のを1個つける[2][3][13][14][15][20] (図1, 2c, d)。数日開花し、雌性先熟 (雌しべが成熟した後に雄しべが成熟する)[13]萼片は5枚、黄色 (まれに橙色で特に開花後期に著しい; 下記参照) で大きく花弁状[3][13][20] (図2d)。花弁は多数、黄色く、萼片の半分以下の長さ[3][20][15] (図2c)。雄しべも多数、は長さ 3–8 mm、花糸は葯の1–2倍長[2][3][20] (図2d)。雌しべは1個、多数 (9–17個) の心皮からなり、柱頭盤はふつう黄色、直径 5–7 mm、深く切れ込んで星形[3][13] (図2c, d)。

2c. 花: 多数の花弁が見える
2d. 花

花が終わると黄色だった萼片は緑色が強くなり、果実期も残る[2][20][21]果実液果、緑色でつぼ形、長さ 3–6 cm、水中でくずれて多数 (26–130個) の種子を放出する[2][3][14][21]。種子は倒卵形で長径 5–6 mm、褐色、種皮はなめらかある[2][21]染色体数は 2n = 34[2]

分布・生態

[編集]

日本北海道 (南西部)、本州四国九州に分布する[2][3][14][21]韓国沿海州サハリンからも報告されているが[1][13]、これらは疑問視され、日本固有種ともされる[2][3]

水深が浅く泥深い湖沼や河川、水路に生育する[14][20][21][16]

保全状況評価

[編集]

コウホネは日本全体としては絶滅危惧等に指定されていないが、河川改修、圃場整理などによって激減し、下記のように地域によっては絶滅危惧種に指定されている[22][23]。以下は2022年現在の各都道府県におけるレッドデータブックの統一カテゴリ名での危急度を示している[22] (※埼玉県東京都神奈川県では、季節や地域によって指定カテゴリが異なるが、下表では埼玉県は全県のカテゴリ、東京都・神奈川県では最も危惧度の高いカテゴリを示している)。

コウホネの変種であるナガバコウホネ (下記参照) は、千葉県で絶滅危惧I類に指定されている[24]。またコウホネが関わる雑種 (下記参照) であるナガレコウホネ (シモツケコウホネとの雑種) は栃木県で絶滅危惧II類に[25]、サイジョウコウホネ (オグラコウホネとの雑種) は広島県で準絶滅危惧種、佐賀県で絶滅危惧II類に[26]それぞれ指定されている。

人間との関わり

[編集]

生薬

[編集]

池沼の泥中にある肥大した地下茎 (根茎) を掘り上げ、細根を切り捨て、根茎を縦割りにして天日乾燥もしくは火力乾燥したものは川骨せんこつとよばれ[14][27]日本薬局方に収録された生薬である[12][28]鎮咳去痰利尿消炎、浄血、止血強壮、解熱などの作用があるとされ[14][12]、解熱、鎮痛を目的とした漢方方剤である調栄湯ちょうえいとう治打撲一方ちだぼくいっぽうに配合される[27]。含有成分としては、アルカロイドであるヌファリジンやヌファラミンなどが知られている[29]

食用

[編集]

アイヌ民族はコウホネをカパト (kapato) とよび[30]、地下茎をアク抜き・乾燥したものを保存食とし、水で戻して汁の実として利用した[31]

なお、北海道空知総合振興局樺戸郡かばとぐんの名称はこれに由来する[30][32]

3a. 水盆に生けたコウホネ
3b. 三つ河骨みつこうほね

鑑賞

[編集]

コウホネは、庭園の池などで観賞用に栽培されることがある[14]。またアクアリウムで沈水葉を鑑賞対象とすることもある[33]

コウホネは生け花に使用されることもある[34] (図3a)。

家紋

[編集]

日本の家紋の中には、コウホネの葉を模した紋として、丸い円の中にコウホネの葉を1枚だけ配した「丸輪に一河骨まるわにひとつこうほね」や、コウホネの葉を3枚放射状に配した「三つ河骨みつこうほね」などさまざまなものがある[19][35][36] (図3b)。

文化

[編集]

「河骨」は夏の季語であり、下記のような俳句がある[37]

河骨の 終にひらかぬ 花盛り
河骨の 金鈴ふるふ 流れかな

花言葉は「崇高」「秘められた愛情」「その恋は危険」[18][38][34]

名称

[編集]

「コウホネ」の名は、川辺に生え、白い地下茎が白骨のように見えることから、「河の骨」の意でこの名がついたとされることが多い[15][19][20][39]。ただしコウホネが初出する文献である『本草和名』(918年) では[40]、「骨蓬」という名を引き、その和訓として加波保祢 (カハホネ) を充てている。このことから、骨蓬の音便によってこの名が生まれたとみるべきともされる[41]

別名として、カワホネ[12]、ヤマバス[12]、タイコノブチ[11]などがある。

分類

[編集]

種内分類群

[編集]

コウホネの中には以下のような種内分類群が知られているが、分類学的に分けないこともある[2][3][13][42]。他に園芸用として Nuphar japonica "variegata" とよばれるものが流通している[3]

コウホネの種内分類群[2][3][13][43]
  • ナガバコウホネ Nuphar japonica var. stenophylla Miki (1937)
    沈水葉が細長く、長さが幅の3–4倍ある。
  • ベニコウホネ Nuphar japonica f. rubrotincta (Casp.) Kitam. (1962)
    = Nuphar japonica subsp. rubrotincta (Casp.) Makino; Nuphar japonica var. rubrotinctum (Casp.) Ohwi (1965); Nuphar japonicum var. crenatum subvar. rubrotinctum Casp. (1865)
    萼片が黄色から橙赤色になり、雄しべも赤味を帯びる。園芸品由来であると考えられている[3]。ベニコウホネの中には、"gigantea" とよばれるものも流通している[3]

雑種

[編集]

日本にはコウホネ属の種が複数分布しており、その中で最も分布域が広いコウホネは、さまざまな種との雑種をつくる。下記以外にも、サイコクヒメコウホネはコウホネとヒメコウホネオグラコウホネの間の複雑な交雑に起源すると考えられている[2]

コウホネと他種との雑種[2][16][43]
  • ナガレコウホネ Nuphar × fluminalis Shiga & Kadono (2007)
    コウホネとシモツケコウホネの雑種。シモツケコウホネにくらべて葉がやや幅広く、柱頭盤がやや赤味を帯び、花粉放出後の雄しべが著しく反り返る。果実はシモツケコウホネと同様に赤紫色。栃木県にみられる。
  • ホッカイコウホネ Nuphar × hokkaiensis Shiga & Kadono (2007)
    コウホネとネムロコウホネの雑種。水深が深い場所では浮水葉をつけるが、浅い場所では抽水葉が混在する。開花後、雄しべが著しく反り返る。集団によっては花粉稔性の回復が見られる (交雑起源の種分化の進行)。北海道に見られる。
  • サイジョウコウホネ Nuphar × saijoensis (M.Shimoda) Padgett & M.Shimoda (2003)
    コウホネとオグラコウホネ (ベニオグラコウホネ) の雑種。葉は小型 (12–24 × 7–15 cm) で卵形に近く、長さ:幅が2を超えることはなく、葉裏に毛が多い。柱頭盤の形態には変異が大きいが、いずれも赤味を帯びる。花粉稔性は50%前後。広島県西条盆地から報告されたが、本州・九州の他地域からも見つかっている。

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ Nuphar japonicum と表記されていたこともある[13]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d Nuphar japonica”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年8月22日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 志賀隆 (2015). “コウホネ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 46–48. ISBN 978-4582535310 
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Padgett, D. J. (2007). “A monograph of Nuphar (Nymphaeaceae)”. Rhodora 109 (937): 1-95. doi:10.3119/0035-4902(2007)109[1:AMONN]2.0.CO;2. 
  4. ^ a b 河骨」『デジタル大辞泉』https://kotobank.jp/word/%E6%B2%B3%E9%AA%A8コトバンクより2021年8月27日閲覧 
  5. ^ a b 川骨」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E5%B7%9D%E9%AA%A8コトバンクより2021年8月27日閲覧 
  6. ^ 萍蓬草」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E8%90%8D%E8%93%AC%E8%8D%89コトバンクより2021年8月22日閲覧 
  7. ^ 骨蓬」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E9%AA%A8%E8%93%ACコトバンクより2021年8月27日閲覧 
  8. ^ 加波保禰」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E5%8A%A0%E6%B3%A2%E4%BF%9D%E7%A6%B0コトバンクより2021年8月27日閲覧 
  9. ^ 川骨」『漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典』https://kotobank.jp/word/%E5%B7%9D%E9%AA%A8コトバンクより2021年8月27日閲覧 
  10. ^ 骨蓬」『精選版 日本国語大辞典』https://kotobank.jp/word/%E9%AA%A8%E8%93%ACコトバンクより2021年8月27日閲覧 
  11. ^ a b 太鼓桴」『精選版 日本国語大辞典』https://kotobank.jp/word/%E5%A4%AA%E9%BC%93%E6%A1%B4コトバンクより2021年8月27日閲覧 
  12. ^ a b c d e NTS薬用植物辞典編集委員会 (編) (2016). 薬用植物辞典. エヌティーエス. p. 220. ISBN 978-4-86043-416-8 
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m 角野康郎 (1994). “コウホネ”. 日本水草図鑑. 文一総合出版. p. 112. ISBN 978-4829930342 
  14. ^ a b c d e f g h i j k l 馬場篤 (1996). 薬草500種―栽培から効用まで. 誠文堂新光社. p. 53. ISBN 978-4416496183 
  15. ^ a b c d 金田初代 (2013). 季節・生育地でひける 野草・雑草の事典530種. 西東社. p. 211. ISBN 978-4791619696 
  16. ^ a b c d e f 角野康郎 (2014). “コウホネ属”. 日本の水草. 文一総合出版. pp. 40–49. ISBN 978-4829984017 
  17. ^ 大嶋敏昭 (2005). 花色でひける山野草の名前がわかる事典 自然の野山や高山に咲く山野草523種. 成美堂出版. p. 123. ISBN 978-4415029795 
  18. ^ a b 主婦と生活社 (編) (2007). 野山で見つける草花ガイド. 主婦と生活社. p. 104. ISBN 978-4391134254 
  19. ^ a b c 大嶋敏昭 (監修) (2002). 花色でひける山野草・高山植物 自然の野山や高山に咲く416種. 成美堂出版. p. 164. ISBN 978-4415019062 
  20. ^ a b c d e f g 山田孝彦・山津京子 (2013). 万葉歌とめぐる野歩き植物ガイド 夏〜初秋. 太郎次郎社エディタス. p. 127. ISBN 978-4811807621 
  21. ^ a b c d e 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 (2018). 増補改訂 草木の種子と果実: 形態や大きさが一目でわかる. 誠文堂新光社. p. 271. ISBN 978-4416518748 
  22. ^ a b コウホネ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月21日閲覧。
  23. ^ 大場達之 (2009). “コウホネ”. 千葉県の保護上重要な野生生物 -千葉県レッドデータブック- 植物・菌類編(2009年改訂版). pp. 172. https://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/p-mokuji.html 
  24. ^ ナガバコウホネ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月21日閲覧。
  25. ^ ナガレコウホネ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月21日閲覧。
  26. ^ サイジョウコウホネ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月21日閲覧。
  27. ^ a b 伊沢凡人・会田民雄『カラー版薬草図鑑』家の光協会、108頁。 
  28. ^ 「日本薬局方」ホームページ”. 厚生労働省. 2021年8月28日閲覧。
  29. ^ コウホネ”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース. 2021年8月22日閲覧。
  30. ^ a b 近世の蝦夷地と須部都太(スベツブト)”. 月形町. 月形歴史物語. 月形町. 2018年4月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年4月30日閲覧。
  31. ^ アイヌ生活文化再現マニュアル 秋から冬へ[1] (日本語)
  32. ^ アイヌ語地名リスト オニシベ~キタ P31-40P”. アイヌ語地名リスト. 北海道 環境生活部 アイヌ政策推進室 (2007年). 2017年10月19日閲覧。
  33. ^ 吉野敏 (2005). “コウホネ”. 世界の水草728種図鑑. エムピージェー. p. 132. ISBN 978-4895125345 
  34. ^ a b GreenSnap編集部 (2020年8月24日). “コウホネの花言葉”. GreenSnap. 2021年8月28日閲覧。
  35. ^ 河骨”. 日本の家紋. 2021年8月27日閲覧。
  36. ^ 河骨(こうほね)”. 家紋一覧. 米原仏具店. 2021年4月23日閲覧。
  37. ^ 河骨”. きごさい歳時記. 2021年8月27日閲覧。
  38. ^ コウホネ”. Chills Laboratory. 2021年8月28日閲覧。
  39. ^ 牧野富太郎 (原著) (2017). 新分類 牧野日本植物図鑑. 北隆館. p. 156. ISBN 978-4832610514 
  40. ^ 磯野直秀 (2009). “資料別・草木名初見リスト”. 慶應義塾大学日吉紀要 自然科学 (45): 69-94. NAID 120001413964. 
  41. ^ 塚本洋太郎 (1994). 園芸植物大事典. 小学館. p. 841. ISBN 978-4093051118 
  42. ^ GBIF Secretariat (2021年). “Nuphar japonica”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年7月23日閲覧。
  43. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “BG Plants 和名−学名インデックス(YList)”. 2021年8月28日閲覧。

外部リンク

[編集]