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ナガレコウホネ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナガレコウホネ
ナガレコウホネ(栃木県佐野市)
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: スイレン目 Nymphaeales
: スイレン科 Nymphaeaceae
: コウホネ属 Nuphar
: ナガレコウホネ Nuphar × flumininalis
学名
Nuphar × flumininalis Shiga & Kadono, 2007[1][2]
和名
ナガレコウホネ

ナガレコウホネ(流れ河骨、学名: Nuphar × flumininalis[1][2])は、スイレン科コウホネ属[3]に属する植物コウホネシモツケコウホネ雑種である[4][5]

発見

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新種として記載される以前は、シモツケコウホネともども、栃木県産のコウホネとして扱われてきた[6]。最古の標本記録は1942年7月に栃木県河内郡明治村(現・上三川町)で採取されたものである[7]

新種として記載したのは志賀隆・角野康郎の両名で、2007年に発表した[2]。志賀らはシモツケコウホネの調査過程で、コウホネやシモツケコウホネに似ているが、そのどちらでもないコウホネ属植物があることを発見し、分析を行った結果、コウホネとシモツケコウホネの間で交雑した新種であると結論付け、ナガレコウホネと命名した[2]

特徴

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親種であるコウホネとシモツケコウホネの中間的な形態をとる[8]。葉は沈水葉(水面下にある)で[2]、やや幅広く[8]葉柄楕円形、葉柄の断面は中実である[9]。葉脈数は36 - 43である[9]

水中から10 cmほど茎をのばし、先端に直径3 - 5 cmほどの黄色い花を咲かせる[5]。花は4月から12月まで咲き続けるが、見頃は9月である[10]。花の柱頭盤は赤みを帯びる[8]雄蕊花粉を放出すると大きく反り返る[8]果実はシモツケコウホネと同じく赤紫色を呈する[8]

花粉稔性・結実率は低く、種子から栽培するのは困難であるが、栄養繁殖によって増殖することができる[11]河川改修のために移植を行ったところ、群落の面積が6倍に拡大した例がある[12]。また、コウホネやシモツケコウホネが繁茂しない、水位変動の激しい環境、例えば用水路にも適応できる[2]

分布

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ナガレコウホネは栃木県南部から群馬県北部にかけて、13か所の標本記録が残っている[6]。しかしながら2009年時点で自生が確認されたのは、栃木県佐野市から群馬県館林市にかけての地域、栃木県真岡市(2か所)、同県栃木市の4集団のみである[13]

流通株の産地特定

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志賀隆らの研究チームは、インターネット通販でシモツケコウホネ、ナガレコウホネ、ナガバベニコウホネ[注 1]として販売されていた植物を10株購入し、DNAを抽出してマイクロサテライト遺伝子型を決定した[15]。その結果、10株中9株がナガレコウホネであり[注 2]、いずれも佐野市の自生種のクローンであることが判明した[16]

この分析結果は2011年日本生態学会で発表されたほか、朝日新聞の全国版にも掲載された[17]。遺伝子型を調べれば、どこから採取したかを明らかにできることを示したこの研究が発表された後、シモツケコウホネやナガレコウホネの名称で販売する業者はなくなり、盗掘抑止効果が発現した[17]

保全状況評価と保護活動

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佐野市・菊沢川のナガレコウホネ群落

ナガレコウホネは栃木県のレッドデータブックで、絶滅危惧II類に指定されている[4][10]環境省のレッドデータブックでの指定は受けておらず、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)による保護対象ともなっていない[17]

佐野市の菊沢川では、「菊沢川の清流とコウホネを守る会」が保護活動を行っている[5][10]。同会は2007年のナガレコウホネ発見を機に発足し[12]、およそ30人の会員が、毎月川に入って藻を除去することでナガレコウホネを守っている[5]。菊沢川は佐野市内を流れる一級河川で、河川改修が行れた際に、ナガレコウホネの群落の一部が移植された[12]

栃木市の仲仕上町では、有志が赤渕川とナガレコウホネ[注 3]の保護活動を行っている[2]。保護団体の仲仕上みどりの里は自治会であり、栃木市立大宮南小学校の水辺の生き物調査にも協力している[19]。同市沼和田町では愛宕用水で2012年に発見され、以後有志による保護活動が行われていたが、平成27年9月関東・東北豪雨の復旧工事の過程で2016年に土砂とともに除去されてしまったため、有志が土砂の中からナガレコウホネの根を探し出し、元の自生地に植え戻した[20]

真岡市でも自治会が保全活動に取り組んでおり、真岡市当局は助成を行っている[21]

脚注

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注釈
  1. ^ アクアリウム業界では、ナガバベニコウホネの名称で流通するコウホネ属植物があるが、標準和名として認められていない[14]
  2. ^ シモツケコウホネやナガバベニコウホネとして販売されていた株もナガレコウホネと判定された[11]
  3. ^ 赤渕川でコカナダモなどの外来種の除去を行っていたところコウホネ属植物を発見し、栃木県立博物館の学芸部長に調査してもらったところ、コウホネとナガレコウホネであることが判明し、河川保護活動の意識が高まったという[18]
出典
  1. ^ a b 米倉 2013, p. 321.
  2. ^ a b c d e f g 有馬洋太郎 (2008年7月20日). “ナガレコウホネ”. 生物多様性農業支援センター. 2022年11月16日閲覧。
  3. ^ ナガレコウホネ”. 植物図鑑・Q&A. エバーグリーン株式会社. 2022年11月15日閲覧。
  4. ^ a b ナガレコウホネが川面に彩り 佐野の菊沢川で見頃”. 下野新聞 (2021年7月30日). 2022年11月14日閲覧。
  5. ^ a b c d 梅村武史 (2022年9月25日). “菊沢川彩る黄色い花、絶滅危惧「ナガレコウホネ」 佐野で今月末まで見頃”. 東京新聞. 2022年11月14日閲覧。
  6. ^ a b 志賀ほか 2013, p. 34.
  7. ^ 志賀ほか 2013, p. 40.
  8. ^ a b c d e 角野 2014, p. 49.
  9. ^ a b 志賀ほか 2013, p. 36.
  10. ^ a b c 下野新聞. “希少な花 水面を彩る 佐野 ナガレコウホネが見頃”. きたかんナビ. 2022年9月5日閲覧。
  11. ^ a b 志賀ほか 2013, p. 38.
  12. ^ a b c 栃木県県土整備部河川課. “菊沢川改修計画について〜ナガレコウホネの保全とモニタリング〜”. 多自然川づくり取り組み事例. 国土交通省水管理・国土保全局. 2022年11月16日閲覧。
  13. ^ 志賀ほか 2013, p. 34, 36.
  14. ^ 志賀ほか 2013, p. 35.
  15. ^ 志賀ほか 2013, pp. 35–37.
  16. ^ 志賀ほか 2013, pp. 37–38.
  17. ^ a b c 志賀ほか 2013, p. 39.
  18. ^ 専門家との連携による質の高い調査への取組”. 栃木県農地水多面的機能保全推進協議会. 2022年11月16日閲覧。
  19. ^ 体験活動”. 栃木市立大宮南小学校. 2022年11月16日閲覧。
  20. ^ 貴重なナガレコウホネ、土砂から捜し出して植え戻し 栃木の市民有志”. 下野新聞 (2016年3月27日). 2022年11月16日閲覧。 “Internet Archiveによる2016年3月29日時点のアーカイブページ。”
  21. ^ 基本目標2 自然や文化にふれあえるまち”. 真岡市. 2022年11月16日閲覧。

参考文献

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  • 角野康郎『ネイチャーガイド 日本の水草』文一総合出版、2014年9月、326頁。ISBN 978-4-8299-8401-7 
  • 志賀隆・横川昌史・兼子伸吾・井鷺裕司「全個体遺伝子型解析データに基づく絶滅危惧水生植物シモツケコウホネ Nuphar submersa とナガレコウホネ N.×fluminalis の市場流通株の種同定と産地特定」『保全生態学研究』第18巻第1号、日本生態学会、2013年、33-44頁、doi:10.18960/hozen.18.1_33NAID 110009687178 
  • 米倉浩司「2007年および2008年に発表された日本産植物の新学名」『植物研究雑誌』第88巻第5号、植物研究雑誌編集委員会、2013年、320-329頁、doi:10.51033/jjapbot.88_5_10466NAID 40019846546 

外部リンク

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