コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

大臣病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

大臣病(だいじんびょう)とは、与党国会議員国務大臣のポストに執着すること[1]

概要

[編集]

議院内閣制における国務大臣は、各種許認可や補助金交付等の強大な権限を持つ。政治家にとって大臣の職は権威の象徴であり、旧大蔵省などの重要な省庁の所管大臣として就任すれば、議員自身の政界における重みも増し、政治資金の調達などに大きな転換期となることもあり得る。逆に、本来大臣になっていていいはずのキャリアで大臣になれないでいることは、周囲から鼎の軽重を問われることにもなる。またごく一部の時期を除き自由民主党が衆参ともに多数派を占めてきたとは言え大多数は総理・総裁はおろか派閥領袖にもなれなかった自民党議員たちにとっては、政治家生活のなかで大臣ポストを経験することが、おおむね議員引退後に受ける叙勲において三権の長経験者以外の在職年数の長い(もしくは国務大臣を経験した)国会議員が受章対象となる勲一等旭日大綬章旭日大綬章)の受章とともに一つのステータス、ひいては死後においても選挙区内で「地元の功労者」として名前が残るバロメータとして国務大臣就任を志向する自民党議員は多い。

戦後において、常に選挙のたびに落選の危機感に苛まれる非自民党系議員とは異なり、「ジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)」の3つのバン(三バン)に守られ選挙も楽勝で当選回数を重ねる自民党系議員は昭和・平成・令和問わず相当数おり、国務大臣就任を志向する議員も数多い。

こうしたことから1955年保守合同によって誕生した自由民主党長期政権下の組閣内閣改造では、大臣の選任は概ね各派閥間の均衡を目的としたいわゆる「派閥の論理」で行われた[1]。その結果、大臣在任期間を1年程度として内閣改造によって大臣を頻繁に代えることが常態化し、長期に渡って政策に取り組むことが困難な大臣に代わって官僚が実権を握ることになった。

佐藤内閣までは能力が今一つと判断されれば大臣になれないまま引退する自民党国会議員が少なからずいたが、田中角栄内閣以降は自民党国会議員が当選回数を重ねれば大臣にほぼ就任できるシステムが確立されることになった[2]。当選回数が衆議院議員で5回、参議院議員で3回以上が大臣の資格の条件(大臣適齢期・入閣適齢期)とされ、大臣に就任していない自民党国会議員は「大臣待望組」「入閣待望組」「大臣待機組」「入閣待機組」と呼ばれた。大臣病対策の大臣ポストとしては歴代首相があまり重視せず権限が少ない伴食大臣(自治大臣法務大臣総務庁長官科学技術庁長官行政管理庁長官環境庁長官北海道開発庁長官沖縄開発庁長官国土庁長官総理府総務長官国家公安委員会委員長など)に充てられることが多かった。

しかし、1994年以降の政治改革によって、首相権限強化と派閥影響力停滞によって序列によらない閣僚の抜擢採用(俗にサプライズ人事と言われるもの)が多くなり、自民党の場合は下野していた野党時代(1993年-1994年、2009年-2012年)があったため、必ずしもこの条件に当てはまれば大臣になれるというものではない。事実、2024年1月時点の自民党国会議員のうち、上記の条件から更に当選回数を重ねた衆議院当選6回以上の未入閣議員は11人、参議院当選4回以上の未入閣議員も5人おり、これに上記条件に当てはまる衆院5回、参院3回の議員を加えた総数は61人にのぼる。

しかしながら、2014年の第2次安倍改造内閣発足前後には、これらの議員をかつてのように「入閣待望組」とマスメディアが呼称しており、文字通り入閣を待望する議員も存在するとされる[3]

現職の自由民主党国会議員の当選回数別大臣就任人数

[編集]
衆議院議員

(当選9-12回、14回以上の政治家は全員大臣経験がある、参議院議員経験者には「議員名(参○回)」)

当選回数 大臣経験者 大臣未経験者
13 2名
1986年初当選
石破茂
村上誠一郎
1名
1986年初当選
逢沢一郎
8 14名
2000年初当選
小渕優子
上川陽子
小泉龍司
後藤茂之
松島みどり
山口壮
2003年初当選
井上信治
江藤拓
加藤勝信
坂本哲志
谷公一
古川禎久
2004年初当選
柴山昌彦
森山裕(参1期)
1名
2003年初当選
長島昭久
7 11名
2003年初当選
西銘恒三郎
葉梨康弘
宮下一郎
山際大志郎
城内実
2004年初当選
寺田稔
2005年初当選
稲田朋美
永岡桂子
赤澤亮正
阿部俊子
平将明
2名
2003年初当選
御法川信英
2005年初当選
丹羽秀樹
6 7名
2005年初当選
木原稔
伊藤忠彦[4]
坂井学[5]
武藤容治[6]
2009年初当選
齋藤健
小泉進次郎
伊東良孝[7]
10名
2005年初当選
赤間二郎[8]
石原宏高[9]
上野賢一郎[10]
木原誠二[11]
鈴木馨祐[12]
関芳弘[13]
田中良生[14]
平口洋[15]
松本洋平
2009年初当選
橘慶一郎[16]
5 4名
2012年初当選
小林鷹之
堀内詔子
牧島かれん
山下貴司
43名
2012年初当選42名
2013年
初当選1名
4 1名
2014年初当選
加藤鮎子
8名
2012年初当選4名
2014年初当選3名
2016年初当選1名
3 なし 10名
2009年初当選1名
2017年初当選8名
2020年初当選1名
2 2名
2021年初当選2名
林芳正(参5期)
島尻安伊子(参2期)
27名
2017年初当選1名
2021年
初当選22名
中西健治(参2期)
2023年
初当選4名
1 なし 14名
2024年初当選14名
参議院議員

(当選7回以上の政治家は全員大臣経験がある、衆議院議員経験者には「議員名(衆○回)」)

当選回数 大臣経験者 大臣未経験者
6 1名
1989年初当選
尾辻秀久
1名
1992年初当選
山崎正昭[17]
5 3名
1995年初当選
武見敬三
橋本聖子
1998年初当選
鶴保庸介
2名
1998年初当選
桜井充
2003年初当選
関口昌一
4 9名
2001年初当選
有村治子
岡田直樹
野上浩太郎
野村哲郎
松山政司
2004年初当選
末松信介
松村祥史
山谷えり子(衆1期)
山本順三
1名
2004年初当選
松下新平
3 8名 
1998年初当選
浅尾慶一郎(衆3期)
2007年初当選
森まさこ
衛藤晟一(衆4期)
三原じゅん子
2010年初当選
片山さつき(衆1期)
猪口邦子(衆1期)
宮沢洋一(衆3期)
福岡資麿(衆1期)
20名
2007年初当選
石井準一
佐藤信秋
佐藤正久
西田昌司
古川俊治
牧野京夫
山田俊男
2010年初当選
長谷川岳
大家敏志
上野通子
中西祐介
青木一彦
石井浩郎
磯崎仁彦
渡辺猛之
藤川政人
2013年初当選
北村経夫
宮本周司
江島潔[18]
2014年初当選
阿達雅志
2 1名
2016年初当選1名
自見英子
36名
2012年初当選1名
2013年初当選24名
2016年初当選11名
山田宏(衆2期)
1 なし 30名
2019年初当選7名
三浦靖(衆1期)
2021年初当選1名
比嘉奈津美(衆2期)
2022年初当選20名
船橋利実(衆2期)
中田宏[19](衆4期)
2023年初当選2名

参考文献

[編集]
  • 政権構想研究会『平成28年入閣待望組便覧』(第1版)政権構想研究会、2015年。ISBN 9784907529697 

脚注

[編集]
  1. ^ a b 塩田潮「まるわかり政治語事典」(平凡社)P29
  2. ^ 安倍首相は、毒にも薬にもならない改造をすべきでない 産経新聞 2014年8月31日
  3. ^ 入閣待望組に焦りの色…適齢期多数、女性枠増か YOMIURI ONLINE 2014年08月31日 09時48分
  4. ^ 伊藤忠彦”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  5. ^ 坂井学”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  6. ^ 武藤容治”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  7. ^ 伊藤良孝”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  8. ^ あかま二郎”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  9. ^ 石原宏高”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  10. ^ うえの賢一郎”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  11. ^ 木原誠二”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  12. ^ 鈴木馨祐”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  13. ^ 関芳弘”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  14. ^ 田中良生”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  15. ^ 平口洋”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  16. ^ 橘慶一郎”. 自由民主党. 2023年10月11日閲覧。
  17. ^ 参議院議長
  18. ^ 4月の補欠選挙で初当選
  19. ^ 4月に繰り上げ当選

関連項目

[編集]