世界三大レース
世界三大レース(せかいさんだいレース、Triple Crown of Motorsport)とは、モナコグランプリ、インディ500、ル・マン24時間レースという3つの自動車レースに対する伝統的な呼称である。
概要
[編集]今日世界三大レースに数えられるレースは、いずれもモータースポーツの歴史とほぼ等しい長い歴史と高い人気を持つ。現在では
- モナコGP = F1世界選手権
- インディ500 = インディカー・シリーズ
- ル・マン24時間レース = FIA 世界耐久選手権
の看板レースを担っている。
これらのレースは、それぞれが大きく異なる特徴を持つ。
モナコグランプリ
[編集]- 開催地 - モンテカルロ市街地コース(3.34 km)/モナコ公国・モンテカルロ
- 初開催 - 1929年
- 市街地レースの元祖にして、F1ドライバーたちが揃って「選手権で最も重要なレース」と称するレース。シケインやタイトコーナーが連続するテクニカルコースでは、F1においてすら決勝レースの平均速度が150 km/h程度である。また、道幅が狭くエスケープゾーンも少ないため些細なミスも許されない。ゆえにセーフティーカーの出動率が52%にも達する。ドライバーの技量も大きく問われる難しいレースであり、「モナコでの一勝は、他のレースでの三勝に匹敵する」と言われる。さらにF1のサーキット中最もオーバーテイクが難しいと言われ、予選での速さが重要になる。
インディ500
[編集]- 開催地 - インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(2.5 miles)/アメリカ合衆国・インディアナポリス
- 初開催 - 1911年
- 観客動員数40万人を誇るアメリカ最大のモータースポーツイベント。決められた距離を走るスプリントレースながら総走行距離が500マイル(約806 km)と非常に長く、ドライバーはその中を350 km/hを超える速さで走り続ける。クラッシュが度々起こるため何度もレースがリスタートされることや、フルコースコーション中の一斉ピットワーク、ストレート、ターンを問わずに続くサイド・バイ・サイド、ドラフティング(スリップストリーム)を駆使したオーバーテイクなどによって頻繁に順位が入れ替わる。そのため最終周の残り数メートルまで誰が勝つか分からないエンターテイメント性に富んだレースが展開される。
ル・マン24時間レース
[編集]- 開催地 - サルト・サーキット(13.629 km)/フランス・ル・マン
- 初開催 - 1923年
- 耐久レースのなかでは最も長い歴史をもち、「世界最高の草レース」と呼ばれることもある。世界各国で行われる耐久レースのほとんどはル・マンのフォーマットに準じている。サルト・サーキットは長距離の高速サーキットで、かつコースのほとんどに公道を利用しているため路面はバンプが険しく、シャシとエンジンへの負担が大きい。さらに夕方、夜間、日中と移り変わるコンディションの中で走らなければならない。そのためマシンには高い速度と優れた信頼性、ドライバーには集中力はもちろん、環境の変化に対応する力と相互のチームワークが求められる。
各レースの比較
[編集]モナコGP | インディ500 | ル・マン24時間 | |
---|---|---|---|
主催団体 | 国際自動車連盟(FIA) | IndyCar | フランス西部自動車クラブ(ACO) |
決勝レースの 開催時期 |
5月中旬から下旬 (決勝は日曜日) |
戦没者追悼記念週間 (メモリアルウィーク)の日曜日 (5月最終月曜日の前日) |
1年で日照時間が 最も長い土曜日から日曜日 (例年は6月中旬) |
出走台数 | コンストラクター数×2台 | 33台 | 最大55台 |
スポット参戦 | 不可 (リザーブドライバーの代走は可) |
可 | 可 |
スタート方式 | 2列スタンディングスタート | 3列ローリングスタート | ル・マン式スタート(1969年まで) 2列ローリングスタート(1971年から) |
使用するマシン | 各チームが選手権向けに 開発したフォーミュラ1カー |
インディカー・シリーズで使用される ものと同じフォーミュラカー |
シャシーメーカーや乗用車メーカーが開発、購入した プロトタイプレーシングカーまたはGTレーシングカー |
レース距離/周回数 | 260km/78周 | 500マイル/200周 | - |
レース時間 | 1時間40分-2時間 | 3時間前後 | 24時間 (土曜日の現地時間16時~翌日16時) |
周回平均速度:最高速度 (およその値) |
160km/h:280km/h | 220mph(354km/h):230mph(370km/h) | 240km/h:330km/h |
車両一台あたりの ドライバー人数 |
1人 | 1人 | 3人 |
主な記録
[編集]2024年時点の主な記録。
複数レース勝者
[編集]この「世界三大レース」を語る上で最もよく取り上げられるのは、複数のレースを勝利したドライバーについての記録である。これが重んじられるのは、前述の通り3レースがそれぞれ異なる性質であり、ドライバーに要求される技術も変わってくるためである。
ドライバー
[編集]この3レース全てを制覇したドライバーはグラハム・ヒルのみで、他、3レース中2レースを制したドライバーが7名いる。この内、ヒルがモナコで挙げた5勝、A.J.フォイトがインディ500で挙げた4勝は、それぞれのレースで当時の史上最多勝記録となるものであった。
三大レース中の複数のレースにおいて優勝を同年中に達成した例としては、1967年にフォイトがインディ500とル・マンの両方で優勝した例があるのみである。
2024年現在、この8名のドライバーの内、現役のレースドライバーはフェルナンド・アロンソのみである(ファン・パブロ・モントーヤ、アロンソ、フォイトを除く5名は故人)。
ドライバー | モナコGP優勝 | インディ500優勝 | ル・マン優勝 |
---|---|---|---|
タツィオ・ヌヴォラーリ | 1932年 | - | 1933年 |
モーリス・トランティニアン | 1955年、1958年 | - | 1954年 |
A.J.フォイト | - | 1961年、1964年、1967年、1977年 | 1967年 |
ブルース・マクラーレン | 1962年 | - | 1966年 |
グラハム・ヒル | 1963年、1964年、1965年、1968年、1969年 | 1966年 | 1972年 |
ヨッヘン・リント | 1970年 | - | 1965年 |
ファン・パブロ・モントーヤ | 2003年 | 2000年、2015年 | - |
フェルナンド・アロンソ | 2006年、2007年 | - | 2018年、2019年 |
コンストラクター
[編集]この3レース全てを制覇したコンストラクター(車体製造者)はマクラーレンのみである。合併など存続をした組織を含めるとメルセデスも含まれる。
コンストラクター | モナコGP優勝 | インディ500優勝 | ル・マン優勝 |
---|---|---|---|
プジョー | - | 1913年、1916年、1919年 | 1992年、1993年、2009年 |
メルセデス | 1935年、1936年、1937年、2013年、2014年、 2015年、2016年、2019年 |
1915年[注釈 1] | 1952年、1989年[注釈 2] |
ブガッティ | 1929年、1930年、1931年、1933年 | - | 1937年、1939年 |
アルファロメオ | 1932年、1934年、1950年 | - | 1931年、1932年、1933年、1934年 |
マセラティ | 1948年、1956年、1957年 | 1939年、1940年 | - |
フェラーリ | 1952年、1955年、1975年、1976年、1979年、 1981年、1997年、1999年、2001年、2017年、 2024年 |
- | 1949年、1954年、1958年、1960年、1961年、 1962年、1963年、1964年、1965年、2023年、 2024年 |
ロータス[注釈 3] | 1960年、1961年、1968年、1969年、1970年、 1974年、1987年 |
1965年 | - |
マクラーレン | 1984年、1985年、1986年、1988年、1989年、 1990年、1991年、1992年、1993年、1998年、 2000年、2002年、2005年、2007年、2008年 |
1972年、1974年、1976年 | 1995年 |
ルノー | 2004年、2006年 | - | 1978年[注釈 4] |
最多勝・連勝
[編集]モナコGPの最多勝記録はアイルトン・セナ(6勝)が持ち、これに5勝のグラハム・ヒル、ミハエル・シューマッハ、4勝のアラン・プロストが続き、彼らを含め、2勝以上を挙げたドライバーの数は計17名に上る。連勝記録については、セナが持つ5連勝という記録に対して続くのはヒル(1963年-1965年)、プロスト(1984年-1986年)、ニコ・ロズベルグ(2013年-2015年)が持つ3連勝という記録であり、セナの記録がやや突出したものとなっている。
インディ500の最多勝記録は4勝で4名が並び(現役のドライバーはエリオ・カストロネベスのみ)、3勝を挙げたドライバーも6名に及ぶ。2勝以上を挙げたドライバーは計21名に上る。連勝記録は少なく、2連勝を達成した6名のみであり、3連勝以上を達成したドライバーは存在しない。
ル・マン24時間レースにおける最多勝記録はトム・クリステンセンが持つ9勝であり、クリステンセンが2005年に7勝目を挙げる以前はジャッキー・イクスが1982年までに樹立した通算6勝が最多勝記録であった。現在ではこれに5勝のデレック・ベル、フランク・ビエラ、エマニュエル・ピロの3名が続き、4勝のドライバーは4名を数える[1]。連勝記録としてはクリステンセンが2000年-2005年に達成した6連勝が突出したものとなっており、2番手以下は3連勝で8名(ウルフ・バーナート、オリビエ・ジャンドビアン、アンリ・ペスカロロ、ピロ、ビエラ、マルコ・ヴェルナー、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴)が並ぶ。
分類 | モナコGP | インディ500 | ル・マン | |||
---|---|---|---|---|---|---|
ドライバー | ||||||
最多勝 | 6 | アイルトン・セナ 1987年、1989年、1990年、1991年、1992年、 1993年 |
4 | A.J.フォイト 1961年、1964年、1967年、1977年 アル・アンサー 1970年、1971年、1978年、1987年 リック・メアーズ 1979年、1984年、1988年、1991年 エリオ・カストロネベス 2001年、2002年、2009年、2021年 |
9 | トム・クリステンセン 1997年、2000年、2001年、2002年、2003年、 2004年、2005年、2008年、2013年 |
連勝 | 5 | アイルトン・セナ 1989年-1993年 |
2 | ウィルバー・ショウ 1939年-1940年 モーリ・ローズ 1947年-1948年 ビル・ブコビッチ 1953年-1954年 アル・アンサー 1970年-1971年 エリオ・カストロネベス 2000年-2001年 ジョセフ・ニューガーデン 2023年-2024年 |
6 | トム・クリステンセン 2000年-2005年 |
コンストラクター | ||||||
最多勝 | 15 | マクラーレン 1984年、1985年、1986年、1988年、1989年、 1990年、1991年、1992年、1993年、1998年、 2000年、2002年、2005年、2007年、2008年 |
24 | ダラーラ[注釈 5] 1998年、1999年、2001年、2002年、2005年、 2006年、2007年、2008年、2009年、2010年、 2011年、2012年、2013年、2014年、2015年、 2016年、2017年、2018年、2019年、2020年、 2021年、2022年、2023年、2024年 |
19 | ポルシェ 1970年、1971年、1976年、1977年、1979年、 1981年、1982年、1983年、1984年、1985年、 1986年、1987年、1994年、1996年、1997年、 1998年、2015年、2016年、2017年 |
連勝 | 6 | マクラーレン 1988年-1993年 |
20 | ダラーラ[注釈 5] 2005年-2024年 |
7 | ポルシェ 1981年-1987年 |
日本勢の成績
[編集]ドライバー
[編集]日本人ドライバーで世界三大レース優勝者はこれまで6名(ル・マン5名、インディ1名)となっている。
年 | ドライバー | マシン | チーム | チームメイト |
---|---|---|---|---|
ル・マン24時間レース | ||||
1995年 | 関谷正徳 | マクラーレン F1 GTR | 国際開発レーシング | ヤニック・ダルマス J.J.レート |
2004年 | 荒聖治 | アウディ・R8 | アウディスポーツジャパン・チーム郷 | トム・クリステンセン リナルド・カペッロ |
2018年 | 中嶋一貴 | トヨタ・TS050 HYBRID | トヨタ・ガズー・レーシング | セバスチャン・ブエミ フェルナンド・アロンソ |
2019年 | ||||
2020年 | セバスチャン・ブエミ ブレンドン・ハートレイ | |||
2021年 | 小林可夢偉 | トヨタ・GR010 HYBRID | マイク・コンウェイ ホセ・マリア・ロペス | |
2022年 | 平川亮 | セバスチャン・ブエミ ブレンドン・ハートレイ | ||
インディ500 | ||||
2017年 | 佐藤琢磨 | ダラーラ( ホンダ) | アンドレッティ・オートスポーツ | |
2020年 | レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング |
これまでF1に参戦してきた日本人ドライバーは、いずれもモナコGPを優勝しておらず、2011年に小林可夢偉が記録した5位が決勝レースの最高成績となっている。また、世界三大レースの3つ全てに出走経験がある日本人ドライバーは中野信治のみである。
-
日本人で(アジア人としても)初めてインディ500を制した佐藤琢磨
-
日本人で初めて日本のコンストラクター(トヨタ)でル・マン24時間耐久レースを制した中嶋一貴
-
日本人で2人目の日本のコントラクター(トヨタ)でル・マン24時間レースを制した小林可夢偉
コンストラクター
[編集]日本のコンストラクター(車体製造者)としては、これまでル・マンで2メーカーが優勝している。
年 | コンストラクター | マシン | チーム | ドライバー |
---|---|---|---|---|
ル・マン24時間レース | ||||
1991年 | マツダ | マツダ・787B | マツダスピード | フォルカー・ヴァイドラー ジョニー・ハーバート ベルトラン・ガショー |
2018年 | トヨタ | トヨタ・TS050 HYBRID | トヨタ・ガズー・レーシング | セバスチャン・ブエミ 中嶋一貴 フェルナンド・アロンソ |
2019年 | ||||
2020年 | セバスチャン・ブエミ 中嶋一貴 ブレンドン・ハートレイ | |||
2021年 | トヨタ・GR010 HYBRID | マイク・コンウェイ 小林可夢偉 ホセ・マリア・ロペス | ||
2022年 | セバスチャン・ブエミ ブレンドン・ハートレイ 平川亮 |
モナコGPにおいては2006年にホンダ・レーシング・F1チームが記録した4位が最高位である(ドライバーはルーベンス・バリチェロ)。インディ500にはコンストラクターとして参戦した例がない。
エンジンサプライヤー
[編集]エンジンサプライヤー(エンジン製造者)としては以下の通り。なお、ル・マン24時間はコンストラクターでの優勝と同じ場合は割愛する。
モナコGP | インディ500 |
---|---|
ホンダ(1987年-1992年、2021年)[注釈 6] 無限ホンダ(1996年) |
トヨタ(2003年) ホンダ(2004年-2012年、2014年、2016年-2017年、2020年-2022年)[注釈 7] |
注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “Track Record” (英語). フランス西部自動車クラブ. 2024年6月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月26日閲覧。