ポリュドーロス
ポリュドーロス(古希: Πολύδωρος, Polydōros, ラテン語: Polydorus)は、ギリシア神話の人物である。ラテン語ではポリュドールス。長母音を省略してポリュドロス、ポリュドルスとも表記される。主に、
のほか数名が知られている。以下に説明する。
カドモスの子
[編集]このポリュドーロスは、テーバイの王カドモスとハルモニアーの子で、アウトノエー、イーノー、セメレー、アガウエー[1]、イリュリオスと兄弟[2]。ニュクテウスの娘ニュクテーイスとの間にラブダコスをもうけた[3]。カドモスがイリュリアに去った後にテーバイの王となった[3][4]。
系図
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プリアモスの子
[編集]このポリュドーロスは、ホメーロスによれば、トロイアの王プリアモスとペーダソスの王アルテースの娘ラーオトエーとの子で、リュカーオーンと兄弟[5]。後世の伝承ではプリアモスとヘカベーの子とされる[6][7][8]。このポリュドーロスはホメーロス以来、プリアモスの最年少の息子とされ、様々な伝承が生まれたが、その多くは悲劇的な死を遂げたとされる。
ホメーロス
[編集]ホメーロスによると、ポリュドーロスはヘカベーの子ではなかったが、プリアモスのお気に入りの息子だった。このためポリュドーロスはトロイア人で一番の俊足の持ち主だったが、プリアモスによってトロイア戦争に参加することを止められていた。しかしパトロクロスの死後、アキレウスが戦場に復帰してトロイア軍を殺戮したときに、ポリュドーロスも戦場で戦い、アキレウスの脇を走り去ったときにアキレウスに追われ、背後から槍を投げられて殺された。死の直前、ポリュドーロスは傷口からこぼれた内臓を腹に戻そうとして手でつかみ、そのまま絶命したという[9]。
エウリーピデース
[編集]エウリーピデースの悲劇『ヘカベー』によると、トロイア戦争がはじまったとき、ポリュドーロスは幼い子供であり、プリアモスによって莫大な財産とともにトラーキアのケルソネーソスの王ポリュメーストールのもとに送られ、養育された。ポリュドーロスはトロイア戦争が続いている間は、ポリュメーストールのもとで成長した。しかしトロイアが滅亡すると、ポリュメーストールによって殺されて、財産を奪われ、遺体は海に捨てられた。死後、ポリュドーロスは亡霊となって捕虜となった母ヘカベーの夢に現れた。ポリュクセネーが殺された後に海岸でポリュドーロスの遺体が発見され、ポリュドーロスの遺体がヘカベーのところに運ばれると、ヘカベーはアガメムノーンに訴えてポリュメーストールに復讐を果たした[7]。
オウィディウスやウェルギリウスでも同様の物語であるが、海岸でポリュドーロスの遺体を発見するのはヘカベーとなっている[10]。なお、ウェルギリスではトロイアを旅立ったアイネイアースがトラーキアを訪れた際、ポリュドーロスが亡霊となって現れ、トラーキアを去るように忠告している[11]。
ヒュギーヌス
[編集]ヒュギーヌスによると、ポリュメーストールの妻はプリアモスの娘イーリオネーであり、トロイア戦争がはじまったとき、赤子だったポリュドーロスはプリアモスによってイーリオネーのところに送られた。そこでイーリオネーはもしものときのために、ポリュドーロスをポリュメーストールとの間に生まれた子デーイピュロスと入れ替えて育てた。その後、トロイアが滅亡すると、ギリシア軍はポリュメーストールに使者を送り、莫大な報酬と引き換えにポリュドーロスを殺すことを要求した。そこでポリュメーストールは自分の息子をポリュドーロスと思って殺した。
後にポリュドーロスが成長したとき、両親について神託に質問すると、両親はすでに死んでいると告げられた。ポリュドーロスがそのことをイーリオネーに問いただすと、イーリオネーはすべてを話し、ポリュドーロスはイーリオネーの助言に従ってポリュメーストールを殺したという[12]。
クレーテーのディクテュス
[編集]クレーテーのディクテュスによると、ポリュドーロスは赤子のうちにポリュメーストールのところに送られて養育された。しかしトロイア戦争がはじまると、大アイアースはポリュメーストールを攻撃した。するとポリュメーストールはすぐに降伏し、和睦のためにポリュドーロスを差し出した[13]。ポリュドーロスを得たギリシア軍は、オデュッセウス、ディオメーデース、メネラーオスをトロイアに派遣し、ポリュドーロスと引き換えにヘレネーを取り戻す交渉をした[14]。しかしアイネイアースが敵意をあらわにした発言をしたために交渉は決裂し[15]、ポリュドーロスはトロイア人が城壁から見ることができる場所で石打ちにされて殺された[16]。
系図
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ヒッポメドーンの子
[編集]このポリュドーロスは、テーバイ攻めの七将の1人ヒッポメドーンと[17][18]、エラトスの娘エウアニッペーの子[18]。エピゴノイの1人として、父の世代が果たせなかったテーバイ攻略を成し遂げた[17][18]。ただしアポロドーロスではエピゴノイに含まれていない[19]。
その他の人物
[編集]脚注
[編集]- ^ アポロドーロス、3巻4・2。
- ^ アポロドーロス、3巻5・4。
- ^ a b アポロドーロス、3巻5・5。
- ^ パウサニアース、9巻5・3。
- ^ 『イーリアス』21巻、22巻。
- ^ アポロドーロス、3巻12・5。
- ^ a b エウリーピデース『ヘカベー』。
- ^ クレタのディクテュス、2巻27。
- ^ 『イーリアス』20巻。
- ^ オウィディウス『変身物語』13巻。
- ^ ウェルギリウス『アエネーイス』3巻。
- ^ ヒュギーヌス、109話。
- ^ クレタのディクテュス、2巻18。
- ^ クレタのディクテュス、2巻20。
- ^ クレタのディクテュス、2巻26。
- ^ クレタのディクテュス、12巻27。
- ^ a b パウサニアース、2巻20・5。
- ^ a b c ヒュギーヌス、71話。
- ^ アポロドーロス、3巻7・2。
- ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.175a。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)7・29。