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「クライシス・オン・インフィニット・アース」の版間の差分

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『'''クライシス・オン・インフィニット・アース'''』(Crisis on Infinite Earths)、1985年から1986年にかけて[[DCコミックス]]から版された[[クロスオーバー作品|クロスオーバー]]のストーリー展開及びコミのタイトルある
『'''クライシス・オン・インフィニット・アース'''』(原題:Crisis on Infinite Earths)とは[[DCコミックス]]から刊行された[[アメリカン・コミック]]作品である。ライターはマーブ・ウルフマン、[[ペンシラー]]はジョージ・ぺレス。初は1985年4月から1986年3月にかけて全12号のマキシシリーズ<ref group=†>号数限定で発行されるいわゆるリミテッドシリーズのうち、比較的長いものを指す。</ref>として刊行された。本作は同名の[[クロスオーバー作品|クロスオーバーイベント]]の中核でありプロト要素のいくつかはDC他誌のタイイン号<ref group=†>クロスオーバー参加号。</ref>も扱われた。何度も再版が行われており、2015年には[[ヴィレッジブックス]]から日本語版単行本が刊行された

== 概要 ==
『クライシス』の刊行当時、DC作品の背景世界は一種の[[多元宇宙論|多元宇宙]](DCマルチバース)とされており、多くの[[平行宇宙]]が相互に交流する複雑な状況にあった。作者{{仮リンク|マーブ・ウルフマン|en|Marv Wolfman}}はこの設定が読者にとって理解しにくいと考え、マルチバースに替えて新しい単一のユニバースを作りたいと望み、そのために本作『クライシス』を書いた。本作の刊行に先立って、ウルフマンは1982年7月に『ニュー・ティーン・タイタンズ』誌上でキーパーソンである'''{{仮リンク|モニター (DCコミックス)|label=モニター|en|Monitor (comics)}}'''を登場させ、ストーリー上の準備を整えた。作画の{{仮リンク|ジョージ・ペレス|en|George Pérez}}は当初から名前が上がっていたわけではなかったが、本作の企画に強い意気込みを見せ、後にもっとも楽しい仕事の一つだったと語っている。

『クライシス』の発端では、モニターの対極である邪悪な存在'''{{仮リンク|アンチモニター|en|Anti-Monitor}}'''が出現し、DCマルチバースを構成している平行地球を次々に破壊していく。モニターはマルチバースのヒーローたちを組織しようとするが、その途上で命を落とす。一方で[[ブレイニアック (DCコミックス)|ブレイニアック]]はヴィラン集団と共謀し、破壊を免れた地球を支配しようとする。しかし、最終的にヒーローとヴィランは{{仮リンク|スペクター (DCコミックス)|label=スペクター|en|Spectre (character)}}の仲介で手を結ぶ。アンチモニターはカル=L<ref group=†>平行地球アース2のスーパーマン。</ref>、スーパーボーイ・プライム、アレクサンダー・ルーサー・Jrらによって打倒され、マルチバースの代わりに単一の地球が誕生するところで本作は幕を閉じる。『クライシス』では多くのキャラクターが死亡しており、数百名の死者の中にはDCの象徴に数えられる[[スーパーガール (DCコミックス)|スーパーガール]]やバリー・アレン(二代目[[フラッシュ (DCコミックス)|フラッシュ]])なども含まれる。

『クライシス』はDC社のベストセラーとなり、コミックス批評家は本作の雄大な構想と劇的な展開を高く評価した。アメリカのコミック界で大規模クロスオーバーが一般的になったのは本作の功績だと考えられており、DCユニバース全体を[[リブート (作品展開)|リブート]]させたのも本作である。{{仮リンク|ジェフ・ジョーンズ (作家)|en|Geoff Johns|label=ジェフ・ジョーンズ}}による『[[インフィニット・クライシス]]』(2005 - 2006年)および{{仮リンク|グラント・モリソン|en|Grant Morrison}}による『{{仮リンク|ファイナル・クライシス|en|Final Crisis}}』(2008 - 2009年)が刊行されると、本作と合わせて「クライシス」三部作と呼ばれるようになった。

== 刊行の履歴 ==
=== 刊行 ===
『クライシス・オン・インフィニット・アース』の刊行は、1984年6月にDC社のコミックブックに掲載されたジョルダノのコラム「Meanwhile...」で告知された。ジョルダノは読者に対し、DCのコミックス全体を巻き込む「奇妙な事件」が起こると予告した。またこれがDCの50周年記念イベントであり、同社にとって新しいキャラクター、新しいコミック作品につながる「大きな踏み台」になるだろうと宣言した<ref name="monitoringthepast" />。本作は「生き残る世界がある。死んでゆく世界がある。何もかもが変わる ("Worlds will live, worlds will die and nothing will ever be the same")」というキャッチコピーで宣伝された<ref name="30reasons">{{Cite web|url=https://www.thestar.com.my/lifestyle/books/news/2015/04/07/30-reasons-crisis-on-infinite-earths-defined-comics-forever/|title=30 reasons ‘Crisis On Infinite Earths’ defined comics forever|accessdate=20 March 2018|last=Rahan|first=Kaleon|date=April 7, 2015|website=The Star Online}}</ref><ref name="timeandtime">{{Cite web|url=http://comicsalliance.com/dc-comics-reboot-history/|title=Time and Time Again: The Complete History of DC's Retcons and Reboots|accessdate=21 March 2018|last=Sims|first=Chris|date=June 8, 2011|website=[[ComicsAlliance]]}}</ref>。本作の刊行は1985年4月に始まり、翌年3月までに12号が発行された<ref name="visual" />。

=== タイイン ===
クロスオーバー開始の数年前から、DC社のコミックでは本作の前兆が描かれていた<ref name="ignabsoluterev" />。『ニュー・ティーン・タイタンズ』で登場したモニターはその一例である<ref name="auto" />。ジョルダノ、ウルフマン、レン・ウェインは1983年1月3日付けのメモで、編集者やライターに自作でモニターを2回使うように、ただし直接姿を見せないようにと指示を下した。
{{Quote|このシリーズはDCユニバース全体にわたるものなので、すべての編集者とライターはプロジェクトへの協力をお願いします。来年中にモニターという名のキャラクターを作品中で2回使って下さい。}}
これが本作の伏線となった<ref name="monitoringthepast" /><ref name="auto" />。『クライシス』のタイインはDCのレギュラー誌で行われ、DC社が刊行する大半のコミック誌上でクロスオーバーと直接関係する出来事が描かれた<ref>{{Cite magazine2}}</ref>。クロスオーバー参加が明示されている号を以下に挙げる。これらの表紙にはDC50周年のロゴとともに「Special ''Crisis'' Cross-Over」と書かれたバナーが印刷されていた。
{{col-begin}}
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* ''All-Star Squadron'' #50–56
* ''Amethyst'' (vol. 2) #13
* ''DC Comics Presents'' #86–88
* ''The Fury of Firestorm'' #41–42
* ''[[グリーンランタン|Green Lantern]]'' (vol. 2) #194—195; #198
* ''Infinity, Inc.'' #18—24; ''Annual'' #1
* ''[[ジャスティス・リーグ|Justice League of America]]'' #244–245; ''Annual'' #3
* ''[[リージョン・オブ・スーパーヒーローズ|Legion of Super-Heroes]]'' #18
{{col-2}}
* ''The Losers Special'' #1
* ''[[ティーン・タイタンズ|The New Teen Titans]]'' (vol. 2) #13–15
* ''The Omega Men'' #26; #31–33
* ''[[スーパーマン|Superman]]'' #414–415
* ''[[スワンプシング|Swamp Thing]]'' #46
* ''Warlord'' #97
* ''[[ワンダーウーマン|Wonder Woman]]'' #327–329
* ''Legends of the DC Universe : Crisis on Infinite Earths'' #1
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== あらすじ ==
== あらすじ ==
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マルチバースを監視する'''モニター'''は衛星基地でこの現象の解決策を模索していた。モニターは'''ハービンジャー'''に命じて分身を作り出させ、様々な時間軸や場所へ向かいヒーローやヴィランを集め巨大な機械「振動装置」の防衛を任せる。しかし、ハービンジャーの分身の一体がシャドウデーモンに憑りつかれてしまう。
マルチバースを監視する'''モニター'''は衛星基地でこの現象の解決策を模索していた。モニターは'''ハービンジャー'''に命じて分身を作り出させ、様々な時間軸や場所へ向かいヒーローやヴィランを集め巨大な機械「振動装置」の防衛を任せる。しかし、ハービンジャーの分身の一体がシャドウデーモンに憑りつかれてしまう。


バットマンがジョーカーと対峙していたある夜、ボロボロになった姿の'''フラッシュ'''が現れ助けを求めるが、すぐに消滅する。「アース1」と「アース2」の地球が反物質の影響で異常気象や災害が起き始めた頃、再びバットマンの前にフラッシュが現れるが、すぐに消滅する。一方、モニターの衛星基地ではパライアが現れ、目の前でモニターがハービンジャーに殺される瞬間を見届けるのだった。
[[バットマン]][[ジョーカー (バットマン)|ジョーカー]]と対峙していたある夜、ボロボロになった姿の'''[[フラッシュ (DCコミックス)|フラッシュ]]'''が現れ助けを求めるが、すぐに消滅する。「アース1」と「アース2」の地球が反物質の影響で異常気象や災害が起き始めた頃、再びバットマンの前にフラッシュが現れるが、すぐに消滅する。一方、モニターの衛星基地ではパライアが現れ、目の前でモニターがハービンジャーに殺される瞬間を見届けるのだった。


洗脳が解け意識を取り戻したハービンジャーと事態が呑み込めないパライアに、モニターからの録画メッセージが流れ、自身の死によって生まれるエネルギーで「振動装置」を起動させ、「アース1」と「アース2」をネザーバースに移した事が語られる。ネザーバースに同時に存在する惑星同士が干渉し合い崩壊するのを防ぐため、ハービンジャーとパライア、「アース3」を生き延びモニターが育てていた'''アレキサンダー・ルーサー・Jr'''は再びヒーローやヴィランを集める。
洗脳が解け意識を取り戻したハービンジャーと事態が呑み込めないパライアに、モニターからの録画メッセージが流れ、自身の死によって生まれるエネルギーで「振動装置」を起動させ、「アース1」と「アース2」をネザーバースに移した事が語られる。ネザーバースに同時に存在する惑星同士が干渉し合い崩壊するのを防ぐため、ハービンジャーとパライア、「アース3」を生き延びモニターが育てていた'''アレキサンダー・ルーサー・Jr'''は再びヒーローやヴィランを集める。
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反物質宇宙でマルチバースを監視する'''アンチモニター'''はサイコパイレートとレッドトルネード、フラッシュを拉致していた。アンチモニターはレッドトルネードとサイコパイレートの能力を使って「アース4」「アースS」「アースX」で奔走するヒーロー達を戦わせ混乱に陥れる。ハービンジャーが能力を使い切って「アース4」「アースS」「アースX」もネザーバースに移しサイコパイレートの洗脳から切り離すが、ネザーバースに同時に存在する「アース1」「アース2」に加え「アース4」「アースS」「アースX」も干渉し合い崩壊する危機は避けられなかった。ヒーロー達はアンチモニターと戦うため反物質宇宙へ向かう決意を固める。
反物質宇宙でマルチバースを監視する'''アンチモニター'''はサイコパイレートとレッドトルネード、フラッシュを拉致していた。アンチモニターはレッドトルネードとサイコパイレートの能力を使って「アース4」「アースS」「アースX」で奔走するヒーロー達を戦わせ混乱に陥れる。ハービンジャーが能力を使い切って「アース4」「アースS」「アースX」もネザーバースに移しサイコパイレートの洗脳から切り離すが、ネザーバースに同時に存在する「アース1」「アース2」に加え「アース4」「アースS」「アースX」も干渉し合い崩壊する危機は避けられなかった。ヒーロー達はアンチモニターと戦うため反物質宇宙へ向かう決意を固める。


アレキサンダーの能力で反物質宇宙への空間を開き、パライアに導かれアンチモニターの要塞へ向かう。そこで反物質で惑星が消滅した際に発生する[[エネルギー]]を集める機械を発見し、'''スーパーガール'''が自らの命と引き換えにアンチモニターの[[外骨格]]と共に破壊する。エネルギー体となったアンチモニターは逃亡した後に新しい外骨格を再構成すると、次に「反物質砲」でネザーバースを消滅させようとする。拉致されていたフラッシュが隙をついてサイコパイレートの能力を使いアンチモニターの部下を洗脳させて内乱を起こす。さらにフラッシュは「反物質砲」の内部を疾走し反物質の流れを逆転させ破壊するが、そのスピードは[[時空]]を超えフラッシュの肉体は消滅する。
アレキサンダーの能力で反物質宇宙への空間を開き、パライアに導かれアンチモニターの要塞へ向かう。そこで反物質で惑星が消滅した際に発生する[[エネルギー]]を集める機械を発見し、'''[[スーパーガール (架空の人物)|スーパーガール]]'''が自らの命と引き換えにアンチモニターの[[外骨格]]と共に破壊する。エネルギー体となったアンチモニターは逃亡した後に新しい外骨格を再構成すると、次に「反物質砲」でネザーバースを消滅させようとする。拉致されていたフラッシュが隙をついてサイコパイレートの能力を使いアンチモニターの部下を洗脳させて内乱を起こす。さらにフラッシュは「反物質砲」の内部を疾走し反物質の流れを逆転させ破壊するが、そのスピードは[[時空]]を超えフラッシュの肉体は消滅する。


その頃、地球では隔離や避難誘導が進み混乱は収まりつつあった。アレキサンダー、ハービンジャー、パライアは代表して国連へ赴き、地球で何が起こっていたのかを世界中に説明する。そこへ[[ブレイニアック (DCコミックス)|ブレイニアック]]と[[レックス・ルーサー]]がヴィランを集め「アース4」「アースS」「アースX」を占拠したと宣言し、ヒーロー達はキッド・フラッシュとジェイ・ギャリックの協力でコズミック・トレッドミルを使って各地へ向かう。しかしさらにスペクターが現れ、アンチモニターが再び蘇り「時の暁」で宇宙そのものを再構築しようとしていることが明かされる。
その頃、地球では隔離や避難誘導が進み混乱は収まりつつあった。アレキサンダー、ハービンジャー、パライアは代表して国連へ赴き、地球で何が起こっていたのかを世界中に説明する。そこへ[[ブレイニアック (DCコミックス)|ブレイニアック]]と[[レックス・ルーサー]]がヴィランを集め「アース4」「アースS」「アースX」を占拠したと宣言し、ヒーロー達はキッド・フラッシュとジェイ・ギャリックの協力でコズミック・トレッドミルを使って各地へ向かう。しかしさらにスペクターが現れ、アンチモニターが再び蘇り「時の暁」で宇宙そのものを再構築しようとしていることが明かされる。
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ヒーロー達はアンチモニターがいる「時の暁」へ向かい、ヴィラン達はタイムトラベルで過去へ遡りマルチバースと反物質宇宙を生むきっかけとなった事件を阻止しようとする。しかし、ヴィラン達の作戦は失敗してしまい、アンチモニターが宇宙の起源に触れた瞬間、5つの地球は1つの「ニューアース」へと生まれ変わる。「時の暁」から戻ったヒーロー達は記憶を保っていたものの、いくつかの現実は消滅してしまっていた。そして消滅したエネルギーを得てさらに巨大化したアンチモニターが再び「ニューアース」も消滅させるため反物質宇宙へと取り込む。
ヒーロー達はアンチモニターがいる「時の暁」へ向かい、ヴィラン達はタイムトラベルで過去へ遡りマルチバースと反物質宇宙を生むきっかけとなった事件を阻止しようとする。しかし、ヴィラン達の作戦は失敗してしまい、アンチモニターが宇宙の起源に触れた瞬間、5つの地球は1つの「ニューアース」へと生まれ変わる。「時の暁」から戻ったヒーロー達は記憶を保っていたものの、いくつかの現実は消滅してしまっていた。そして消滅したエネルギーを得てさらに巨大化したアンチモニターが再び「ニューアース」も消滅させるため反物質宇宙へと取り込む。


ヒーロー達は再びアンチモニターの要塞へと向かい、発狂したサイコパイレートと残されていたフラッシュのコスチュームを発見する。フラッシュの死に戸惑いながらも激闘の末にアンチモニターを倒すが、地球へ戻ろうとした隙を突いてアンチモニターはワンダーウーマンを殺害する。「アース2」のスーパーマンはスーパーボーイ・プライムと共に反物質宇宙に残り時間を稼ぎ、アレキサンダーを通じて静観していた[[ダークサイド (DCコミックス)|ダークサイド]]が援護射撃を行い、アンチモニターの外骨格を破壊する。エネルギー体となって再び突撃してきたアンチモニターを、スーパーマンは渾身の一撃で粉砕する。
ヒーロー達は再びアンチモニターの要塞へと向かい、発狂したサイコパイレートと残されていたフラッシュのコスチュームを発見する。フラッシュの死に戸惑いながらも激闘の末にアンチモニターを倒すが、地球へ戻ろうとした隙を突いてアンチモニターは[[ワンダーウーマン]]を殺害する。「アース2」のスーパーマンはスーパーボーイ・プライムと共に反物質宇宙に残り時間を稼ぎ、アレキサンダーを通じて静観していた[[ダークサイド (DCコミックス)|ダークサイド]]が援護射撃を行い、アンチモニターの外骨格を破壊する。エネルギー体となって再び突撃してきたアンチモニターを、スーパーマンは渾身の一撃で粉砕する。


== 登場人物 ==
== 登場人物 ==
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== 書誌情報 ==
== 書誌情報 ==
=== 原語版 ===
* ''Crisis on Infinite Earths'' (1998年12月、 {{ISBN2|1-56389-434-3}})ハードカバー版、(2001年1月、{{ISBN2|1-56389-750-4}})トレード・ペーパーバック版。リミテッド・シリーズ本編全12号を収録。表紙イラストはジョージ・ぺレスと{{仮リンク|アレックス・ロス|en|Alex Ross}}による新作。
* ''Crisis on Infinite Earths: The Absolute Edition''(2005年11月、{{ISBN2|1-4012-0712-X}})箱入りハードカバー版。第1巻には本編が収録され、第2巻ではスクリプト、コメンタリー、レトロスペクティブ{{訳語疑問点|date=2018年4月}}、および本作に関する「{{仮リンク|オフィシャルDCインデックス|en|Official DC Index}}」シリーズ<ref group=†>特定タイトルのあらすじや書誌情報を集めたガイド本。コミックブック形式で刊行された。</ref>が再録された。
* ''Crisis on Infinite Earths Deluxe Edition''(2015年10月、{{ISBN2|1401258417}})シリーズ本編と全2号の『ヒストリー・オブ・DCユニバース』のほか、ボーナスが収録された。
* ''Crisis on Infinite Earths Companion Deluxe Edition Vol. 1''(2018年11月、{{ISBN2|1401274595}})本編と同時に発行されたタイイン号の集成。
=== 翻訳版 ===
=== 翻訳版 ===
*'''クライシス・オン・インフィニット・アース''' (2015年)
*'''クライシス・オン・インフィニット・アース''' (2015年)
:[[ヴィレッジブックス]]刊<ref>{{cite web|url=https://villagebooks.net/books/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B9/ |title=クライシス・オン・インフィニット・アース |accessdate=2015}}</ref>。ISBN 978-4864912204
:[[ヴィレッジブックス]]刊<ref>{{cite web|url=https://villagebooks.net/books/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B9/ |title=クライシス・オン・インフィニット・アース |accessdate=2015}}</ref>。ISBN 978-4864912204
:翻訳は石川裕人、御代しおり、松澤慶香による。
=== 原語版 ===

*Crisis on Infinite Earths (hardcover) ISBN 1-56389-434-3
== 制作の背景 ==
*Crisis on Infinite Earths (softcover) ISBN 1-5638-9750-4
=== 経緯 ===
*Crisis on Infinite Earths: The Absolute Edition ISBN 1-4012-0712-X
[[DCコミックス]]は[[バットマン]]、[[スーパーマン]]、[[ワンダーウーマン]]などのスーパーヒーロー作品で知られるコミック出版社で<ref name="ignbestcharacters">{{Cite web|url=http://www.ign.com/articles/the-top-25-heroes-of-dc-comics|title=The Top 25 Best Heroes of DC Comics|accessdate=18 March 2018|last=Schedeen|first=Jesse|date=November 19, 2013|website=[[IGN]]|publisher=[[Ziff Davis]]}}</ref>、1935年2月の ''New Fun: The Big Comic Magazine'' から始まる長い歴史を持っている<ref name="monitoringthepast">{{Cite web|url=http://www.english.ufl.edu/imagetext/archives/v6_2/friedenthal/|title=Monitoring the Past: DC Comics' Crisis on Infinite Earths and the Narrativization of Comic Book History|accessdate=18 March 2018|last=Friedenthal|first=Andrew J.|date=2011|website=ImageTexT}}</ref>。DC社のコミックブックのほとんどはDCユニバースと呼ばれる[[シェアードワールド|シェアード・ワールド]]を舞台にしている(DC傘下の[[インプリント]]である{{仮リンク|ベルティゴ (アメリカのコミックレーベル)|label=ベルティゴ|en|Vertigo (DC Comics)}}<ref name="ignvertigo">{{Cite web|url=http://www.ign.com/articles/2016/04/22/between-the-panels-dc-needs-to-take-vertigo-back-to-its-roots|title=Between the Panels: DC Needs to Take Vertigo Back to its Roots|accessdate=23 March 2018|last=Schedeen|first=Jesse|date=April 22, 2016|website=[[IGN]]|publisher=[[Ziff Davis]]}}</ref>やヤング・アニマル<ref name="cbryounganimal">{{Cite web|url=https://www.cbr.com/dc-young-animal-relaunch/|title=DC’s Young Animal Imprint Gets Major Revamp in March|accessdate=23 March 2018|last=Cohen|first=Jason|date=December 14, 2017|website=[[Comic Book Resources]]}}</ref>の刊行物の一部も含む)。これにより、プロット要素やキャラクター、背景設定をコミックタイトル間で[[クロスオーバー作品|クロスオーバー]]させることが可能となっている<ref name="cbrrebirth">{{Cite web|url=https://www.cbr.com/exclusive-geoff-johns-details-rebirth-plan-seeks-to-restore-legacy-to-dc-universe/|title=EXCLUSIVE: Geoff Johns Details “Rebirth” Plan, Seeks to Restore Legacy to DC Universe|accessdate=23 March 2018|last=Ching|first=Albert|date=February 18, 2016|website=[[Comic Book Resources]]}}</ref>。しかし、DCユニバースという概念はDC社のライターがコンティニュイティ<ref group=†>[[:en:continuity]]、作中世界の設定の一貫性。</ref>を保つ上で障害となってきた。同じ世界を描いているはずのコミックタイトルそれぞれで起きる出来事が矛盾しがちだったのである。その解決策として、DCユニバースが多数の平行世界の集合体({{仮リンク|DCマルチバース|en|DC Multiverse}})の一部であるというアイディアが生まれた。これを作品中で初めて用いたのは、『[[フラッシュ (DCコミックス)|フラッシュ]]』第123号(1961年9月)のストーリー「[[2つの世界のフラッシュ]] (''The Flash of Two Worlds'')」である。この号では{{仮リンク|アメリカン・コミックスのシルバーエイジ|label=シルバーエイジ|en|Silver Age of Comic Books}}当時のフラッシュであるバリー・アレンが{{仮リンク|アメリカン・コミックスのゴールデンエイジ|label=ゴールデンエイジ|en|Golden Age of Comic Books}}期のフラッシュであるジェイ・ギャリックと初めて顔を合わせた<ref name="denofgeekflash">{{Cite web|url=http://www.denofgeek.com/us/books-comics/the-flash/239939/the-flash-crisis-on-infinite-earths-and-what-it-means-for-dc-superhero-tv-and-movies|title=The Flash, Crisis on Infinite Earths, and What it Means for DC Superhero TV and Movies|accessdate=20 March 2018|last=Cecchini|first=Mike|date=December 10, 2014|website=[[Den of Geek]]}}</ref><ref name="15brutal">{{Cite web|url=https://www.cbr.com/killer-crises-the-15-most-brutal-deaths-in-every-dc-crisis/|title=Killer Crises: The 15 Most BRUTAL Deaths In Every DC Crisis|accessdate=19 March 2018|last=Cohen|first=Jason|date=June 22, 2017|website=[[Comic Book Resources]]}}</ref>。
*Crisis on Infinite Earths Deluxe Edition ISBN 1-4012-5841-7

DCマルチバースの概念は後に拡張され、平行地球が乱立する状況となった。たとえば、シルバーエイジ版のDCヒーローが住む地球は「アース1」、ゴールデンエイジ版の地球は「アース2」とされた<ref name="visual" />。<!--1963年の作品「クライシス・オン・アース1 ! (''Crisis on Earth-One!'')」以来、DC社はマルチバースに関わる大きなクロスオーバーに「クライシス」の語を使い始めた<ref name="downey20180118">{{Cite web|url=https://www.cbr.com/tim-king-dc-crisis-theory/|title=Tom King May Be Working on DC's First Post-Rebirth Crisis|accessdate=March 10, 2018|last=Downey|first=Meg|date=January 18, 2018|website=[[Comic Book Resources]]|language=en-US}}</ref>。-->年月とともに平行地球は新しくいくつも創り出された。ライターが{{仮リンク|プロットデバイス|label=プロット上の仕掛け|en|Plot device}}として考案したものもあれば、DCが他の出版社から権利を取得したキャラクターの故郷として設定されたものもあった。結果的にDCマルチバースは「収拾のつかない大混乱」となった<ref name="visual" />。この時期DC社のコミックブックは競合する[[マーベルコミックス|マーベル・コミックス]]に売り上げで差を付けられていた<ref name="nerd">{{Cite book|last=Weldon|first=Glen|title=The Caped Crusade: Batman and the Rise of Nerd Culture|url=https://www.amazon.com/Caped-Crusade-Batman-Rise-Culture/dp/1476756694|date=2016|accessdate=10 September 2017|publisher=[[Simon & Schuster]]|isbn=978-1-4767-5669-1}}</ref>。またジャーナリストのクリス・シムズはウェブメディア『コミックスアライアンス』で以下のように論評した。「{{interp|DCが本作を刊行した}}本当の動機は … DCマルチバースが過去の遺産を引きずっていたためだった。マルチバースには、「イマジナリー・ストーリーズ」<ref group=†>人気キャラクターを本来とは異なる設定で用いた外伝的なストーリー。[[:en:Imaginary Stories]]参照。</ref>や、DCがライバル社から引き取ったゴールデンエイジ期のキャラクターのイメージがまとわりついていた。一方でマーベルは現代的に見えた。…そして二社を並べると、一目でわかる相違点があった。マーベルには統一感があったのだ<ref name="ca208">{{Cite web|url=http://comicsalliance.com/ask-chris-208-crisis-infinite-earth/|title=Ask Chris #208: Crisis on Infinite Earths is Basically a Mess|accessdate=20 March 2018|last=Sims|first=Chris|date=August 22, 2014|website=[[ComicsAlliance]]}}</ref>」

コミックブックライターのマーブ・ウルフマンは{{仮リンク|アメリカン・コミックスのブロンズエイジ|label=ブロンズエイジ|en|Bronze Age of Comic Books}}期に『ウィアード・ウオー・テイル』や『[[ティーン・タイタンズ|ニュー・ティーン・タイタンズ]]』でDC読者の支持を得た<ref name="visual" />。『ニュー・ティーン・タイタンズ』の作画を担当した{{仮リンク|ジョージ・ぺレス|en|George Pérez}}も同時期に人気を得始めた<ref name="STP">{{Cite web|url=https://surrealtimepress.com/2015/03/27/five-things-to-keep-in-mind-while-you-read-infinity-gauntlet-part-3/|title=Five Things To Keep In Mind While You Read Infinity Gauntlet – Part 3|accessdate=January 11, 2018|last=Mitchell|first=B|date=March 25, 2015|website=Surreal Time Press}}</ref>。ペレスは1984年にDCと専属契約を結び、後に契約を1年間延長した<ref name="CI94">{{Cite magazine2}}</ref>。『ニュー・ティーン・タイタンズ』はDC社としてはヒットしたが<ref name="visual" />、売り上げではマーベルに及んでいなかった<ref name="nerd" />。ウルフマンはその理由がDCマルチバースにあると考えるようになり、「[[2つの世界のフラッシュ]]」を「悪夢」の始まりとみなした<ref name="monitoringthepast" />。マルチバースは新規読者には分かりにくく<ref name="intempol" />、ライターにとってもコンティニュイティの破綻を作り出す元凶であった<ref name="monitoringthepast" />。ウルフマンは『ニュー・ティーン・タイタンズ』第21号(1982年7月)で、一見すると悪役に見える謎めいたキャラクター、モニターを登場させた。これが『クライシス・オン・インフィニット・アース』への布石となった<ref name="auto" />。

=== 企画・制作 ===
[[ファイル:Marv_Wolfman_(2007).jpg|右|サムネイル|本作の原作者マーブ・ウルフマン(2007年)。]]
DCの創業50周年が近づく中<ref name="visual">{{Cite book|title=DC Comics Year By Year A Visual Chronicle|year=2010|publisher=[[Dorling Kindersley]]|isbn=978-0-7566-6742-9}}</ref>、ウルフマンはDCユニバースを単純化して新規読者を得るために本作『クライシス・オン・インフィニット・アース』を構想した<ref name="intempol">{{Cite web|url=http://intemblog.blogspot.com/2009/10/crisis-on-infinite-comics-interview.html|title=Crisis on Infinite Comics: Interview with Marv Wolfman|accessdate=18 March 2018|last=Figueiredo|first=Claudio|date=October 12, 2009|website=Intempol}}</ref>。ウルフマンが1981年に本作をDCに売り込んだとき<ref name="backissue30">{{Cite journal|last=Greeberger|first=Robert|date=August 2015|title=Crisis at 30: A Look Back at the Most Influential Crossover in Comics History|journal=[[Back Issue!]]|issue=82}}</ref>、彼はそれがDCユニバースを根底から覆すものだということを認識していた<ref name="villagewolfman">{{Cite web|url=https://www.villagevoice.com/2011/08/31/marv-wolfman-on-whats-got-to-die-for-a-new-dc-world-to-live/|title=Marv Wolfman on What’s Got To Die For a New DC World To Live|accessdate=18 March 2018|last=Siegel|first=Harry|date=August 31, 2011|website=[[The Village Voice]]}}</ref>。「私も、DCスタッフも、これがどれほど大きな企画か初めから分かっていました。分からなかったのは、売り上げがどれくらいになるか、そもそも少しでも売れるのかということです。しかし、DCは進んでリスクを取りました。その頃私はDCには思い切った処置が必要だと思っていましたし、彼らにもそれが分かっていたのです<ref name="comicconinter">{{Cite web|url=http://www.comicon.com/2017/08/01/interviewing-marv-wolfman-on-new-teen-titans-and-crisis-on-infinite-earths-at-london-film-and-comic-con/|title=Interviewing Marv Wolfman On New Teen Titans And Crisis On Infinite Earths At London Film And Comic Con|accessdate=18 March 2018|last=MacNamee|first=Oliver|date=August 1, 2017|website=ComicCon.com}}</ref>」
このクロスオーバー企画はDCの社長ジェネット・カーン、ポール・レヴィッツ、副社長で総編集長のディック・ジョルダノ、その他編集員らが出席した会議において具体化され、練られていった<ref name="Back34">{{Cite journal|last=Eury|first=Michael|date=June 2009|title=When Worlds Collided! Behind the Scenes of ''Crisis on Infinite Earths''|journal=[[Back Issue!]]|issue=34|pages=34–39|publisher=[[TwoMorrows Publishing]]}}</ref>。

本編の刊行の前年には土台作りが行われた<ref name="auto">''Crisis on Infinite Earths: Absolute Edition''</ref>。企画の初期にはDCユニバースに属するキャラクターのリストが作られた<ref name="Back34" />。DCが{{仮リンク|チャールトン・コミックス|en|Charlton Comics}}などから取得したキャラクターもこの時マルチバースの一部になっていた<ref name="30reasons" />。作者ウルフマンによると、すべてのDCキャラクターをファンに陳列することも本作の狙いの一つだった<ref name="comicconinter" />。本作は多くのキャラクターが死んだことで悪名高い<ref name="15brutal" />。死亡者は数百人に上り、その中で特に重要なキャラクターとしてはバリー・アレンが挙げられる。ウルフマンによれば彼自身はアレンの死を望んでいなかったが、アレンに面白みが欠けると評価していたDC社がこれを求めた。そこでウルフマンは、アレンが興味深いキャラクターになれば死は撤回されると考え、時間を駆け抜けて消滅するという劇的な最期を与えた<ref>{{Cite web|url=http://www.wtv-zone.com/silverager/interviews/wolfman.shtml|title=Marv Wolfman interview|accessdate=20 March 2018|last=B.D.S.|date=2008|website=The WTV Zone}}</ref>。ウルフマンは本作が末永く記憶される作品になるよう願っていた。彼の発言によればDCのコンティニュイティを整理することに関心を見せたライターは数多くいたが、自分がぜひ手掛けたかったのだという<ref name="monitoringthepast" />。

ペレスが語ったところでは、当初DCは彼が本作の作画を担当したがるとは考えていなかった<ref name="syfyperez">{{Cite web|url=http://www.syfy.com/syfywire/watch-comics-legend-george-perez-on-crisis-on-infinite-earths|title=Comics legend George Perez on DC's Crisis on Infinite Earths|accessdate=18 March 2018|last=Avila|first=Mike|date=June 28, 2017|website=[[SyFy]] Wire}}</ref>。しかし彼は本作の企画に強い意気込みを覚え、ウルフマンと再びコンビを組むのが楽しみだったという。DCが本作の成功を確信していなかったことはペレスを発奮させた<ref name="syfyperez"/>。また彼は「可能な限りあらゆるキャラクターを描きたい」と望んでおり、この先二度と機会が来ないようなマイナーなキャラクターを描くことに関心をそそられていたため、本作の作画は人生で一番と言っていいほど楽しかったと述べている<ref name="syfyperez"/>。ペレスは本作に専念するために『ニュー・ティーン・タイタンズ』の作画を一時降板した<ref>"George Pérez signs contract with DC, Takes leave of absence from ''Titans''," ''The Comics Journal'' #92 (August 1984), p. 16.</ref>。当初本作の[[インカー]]を務めていたジョルダノはDCの副社長と総編集長を兼務していたため締切りを破りがちで、編集調整役のパット・バスティエンヌはジョルダノの反対を押し切ってジェリー・オルドウェイと交代させた<ref name="Back34" />。

== 評価 ==
それほど宣伝が行われず<ref name="gerber" />、DCにも本作が成功するという確信はなかったにもかかわらず、『クライシス・オン・インフィニット・アース』はベストセラーとなった<ref name="monitoringthepast" />。ライターのスティーブ・ガーバーは本作について以下のように述べている。「事実上なんの販促もなかった … 何枚のチラシが配られた? 窓に貼られたポスターが何枚あった? 報道にどれだけの情報が流された? 記者たちはマーブ・ウルフマンやジョージ・ペレスからどれだけ話を聞き出した?<ref name="gerber">{{Cite news|title=Steve Gerber (part 2)|newspaper=[[Comics Interview]]|date=September 1986|last=Zimmerman|first=Dwight Jon|publisher=[[Fictioneer Books]]|pages=6–19|work=[[Comics Interview]]|issue=38}}</ref>」

ヒラリー・ゴールドスタインは[[IGN]]で本作は「DCコミックスの決定的な転換点」であり、同社の救世主となったと評した。またDCユニバースを単純化しようというウルフマンのアイディアは大胆かつ前例がなく、物語のスケールは大きく、ストーリーはやや古さを感じさせながらも「素晴らしい」とした。さらに、ペレスのよく描きこまれた作画を賞賛し、ほかのどんな作画家もペレスほど見事な仕事をできなかっただろうと述べ、本作に「必読」の評価を与えた<ref name="ignabsoluterev">{{Cite web|url=http://www.ign.com/articles/2006/01/07/crisis-on-infinite-earths-the-absolute-edition-review|title=Crisis on Infinite Earths: The Absolute Edition Review|accessdate=20 March 2018|last=Goldstein|first=Hilary|date=January 6, 2006|website=[[IGN]]|publisher=[[Ziff Davis]]}}</ref>。同じくIGNのライターであるジェシー・シェディーンは本作をDC社のクロスオーバー作品のベストに数え、やはり革新的かつ劇的な作品だと評した<ref name="ignbestcrossovers">{{Cite web|url=http://www.ign.com/articles/2015/01/28/ranking-dcs-15-event-comics-from-best-to-worst|title=Ranking DC's 15 Event Comics|accessdate=20 March 2018|last=Schedeen|first=Jesse|date=January 28, 2015|website=[[IGN]]|publisher=[[Ziff Davis]]}}</ref>。

マーク・バクストンは『コミックブック・リソーシズ』において本作をクロスオーバーコミックの単独ベストに挙げ、これほど大規模で野心的なクロスオーバーは他にないと述べた。「世界設定に影響を与えることに及び腰になるクロスオーバーイベントがある一方で、『クライシス』は平然とそれをやった」バクストンは本作がDCユニバースを丸ごと扱ったことを賞賛し、DC社の50周年にふさわしいイベントだったとした<ref name="cbrgreatest">{{Cite web|url=https://www.cbr.com/the-greatest-crossover-events-in-marvel-dc-comics-history/|title=The Greatest Crossover Events in Marvel & DC Comics History|accessdate=21 March 2018|last=Buxton|first=Marc|date=June 11, 2016|website=[[Comic Book Resources]]}}</ref>。『ナーディスト・ニュース』は本作の核心をなす出来事の多く(スーパーガールやバリー・アレンの死など)がDCの歴史において象徴的な節目となったことを指摘した<ref name="dccucrisis">{{Cite web|url=https://nerdist.com/the-dan-cave-batman-v-superman-crisis-on-infinite-earths-dc-comics/|title=Is the DC Cinematic Universe Heading Towards Crisis on Infinite Earths|accessdate=22 March 2018|last=Casey|first=Dan|date=March 30, 2016|website=[[Nerdist News|Nerdist]]}}</ref>。

全ての批評が好意的だったわけではない。クリス・シムズは本作の構成が雑然としていると述べ、「絵に描いたような「見た目第一、中身は二の次」の作品」だという評価を与えた。シムズはウルフマンとペレスのコンビにはもっと優れた作品があると述べているが、本作の革新性は認めている。「コミックの歴史上、宇宙全体に危機が迫ったのはこれが初めてだった」<ref name="ca208">{{Cite web|url=http://comicsalliance.com/ask-chris-208-crisis-infinite-earth/|title=Ask Chris #208: Crisis on Infinite Earths is Basically a Mess|accessdate=20 March 2018|last=Sims|first=Chris|date=August 22, 2014|website=[[ComicsAlliance]]}}</ref>。

== 商品展開 ==
ウルフマンによる小説版『クライシス・オン・インフィニット・アース』はペレスとアレックス・ロスの表紙でiBooksから刊行された。同作はオリジナル版と同じ出来事を主にバリー・アレンの視点から描くもので、アレンがいない場面は三人称視点で書かれている。またキャラクターの独白や、ストーリーを現代化するための改変(携帯電話の使用など)のように随所でディテールが追加されている<ref name="denofgeeknovel">{{Cite web|url=http://www.denofgeek.com/us/books-comics/crisis-on-infinite-earths-novelization-1985-book-review/38148/crisis-on-infinite-earths-novelization-1985-book-review|title=Crisis on Infinite Earths Novelization (1985), Book Review|accessdate=22 March 2018|last=LaMonica|first=Bridget|date=December 21, 2012|website=[[Den of Geek]]}}</ref>。

ウィズキッズ社は2008年に『DCヒーロークリックス』(コレクティブルミニチュアゲーム)ラインでアンチモニターを中心とするパックを発売した。目がLEDで点灯するアンチモニターの大型フィギュアに数個の小型フィギュアとマップが付属するものだった。同年、シネストロ・コァを題材とする限定バリアント版パックが[[コミコン・インターナショナル|サンディエゴ・コミコン]]と[[Gen Con|Gen Con Indy]]において販売された<ref name="io9antimonitor">{{Cite web|url=https://io9.gizmodo.com/391073/anti-monitor-exclusive-is-a-crisis-at-infinite-cons|title=Anti-Monitor Exclusive Is a Crisis at Infinite Cons|accessdate=22 March 2018|last=Grabianowski|first=Dan|date=May 16, 2008|website=[[iO9]]|publisher=[[Gizmodo Media Group]]}}</ref>。

== 後の作品への影響 ==
本作はアメリカのコミック界で初めての大規模クロスオーバーではないが{{refnest|マーベルの『[[シークレット・ウォーズ]]』(1984年)は本作『クライシス』に1年先行していた<ref name="cbrgreatest"/>。|group=†}}、それを慣行化させた作品だと広く認められている<ref name="syfytheflashcrisis">{{Cite web|url=http://www.syfy.com/syfywire/grant-gustin-says-the-flash-hopes-to-reach-crisis-on-infinite-earths|title=Grant Gustin Says The Flash Hopes to Reach Crisis on Infinite Earths|accessdate=22 March 2018|last=Siegel|first=Lucas|date=July 27, 2017|website=[[Syfy]] Wire}}</ref>。コミック史家マシュー・K・マニングは本作がそれ以降の同規模のクロスオーバーに先鞭をつけたと書いている。アンドリュー・J・フリーデンタールは以下のように書いた。「『クライシス』は二大スーパーヒーローコミック出版社(DCコミックスとマーベル・コミックス)に教えてくれた。数十年にわたって積み上げられた多くの物語が形作るコンティニュイティを使えば、長年の読者を惹きつけて大金を稼ぐことができるような、一貫性のあるメタテキスト的な[[タペストリー]]を織り上げることができるのだ」

本作が成功を収めたことで、DCはその後「夏のクロスオーバー」を繰り返し実施するようになった。例としては『{{仮リンク|インベージョン!|en|Invasion! (DC Comics)}}』(1988 - 1989年)、『{{仮リンク|アーマゲドン2001|en|Armageddon 2001}}』(1991年)、『{{仮リンク|ゼロアワー: クライシス・イン・タイム|en|Zero Hour: Crisis in Time}}』(1994年)、『{{仮リンク|アイデンティティ・クライシス (コミック)|label=アイデンティティ・クライシス|en|Identity Crisis}}』(2004年)がある。これらの中では本作『クライシス』の出来事も言及されている<ref name="briefhistory">{{Cite web|url=https://www.cbr.com/a-brief-history-of-time-unpacking-dcs-reboots-relaunches-retcons/|title=A Brief History Of Time: Unpacking DC’s Reboots, Relaunches & Retcons|accessdate=22 March 2018|last=Bondurant|first=Tom|date=June 7, 2016|website=[[Comic Book Resources]]}}</ref>。後年のクロスオーバーの一つ『{{仮リンク|コンバージェンス (DCコミックス)|label=コンバージェンス|en|Convergence (comics)}}』(2015年)第2期(タイインシリーズ)はかなりの程度まで本作を下敷きにしており、作中ではDCのスーパーヒーローたちが『クライシス』の時代に遡る。『コンバージェンス』のライターたちは『クライシス』時のDCが刺激的だと発言している<ref name="ignconvergence">{{Cite web|url=http://www.ign.com/articles/2015/02/18/dcs-convergence-writers-and-artists-on-returning-to-crisis-on-infinite-earths|title=DC's Convergence Writers and Artists on Returning to Crisis on Infinite Earths|accessdate=22 March 2018|last=Schedeen|first=Jesse|date=February 18, 2015|website=[[IGN]]|publisher=[[Ziff Davis]]}}</ref>。

本作はDCに直ちに大きな影響を与え、同社の歴史は大きく「クライシス以前 (Pre-Crisis)」「クライシス以後 (Post-Crisis)」に分けられるようになった<ref name="syfyperez" />。ウルフマンとペレスは再びチームを組んでリミテッドシリーズ「ヒストリー・オブ・DCユニバース」を描き、再定義されたDCユニバースの歴史を総括した<ref name="visual" />。クライシス後、DC社のキャラクターの多くは歴史が[[リブート (作品展開)|リブート]]された。[[ワンダーウーマン]]のコミックシリーズはペレス、ワイン、グレッグ・ポッターらによってまったく新しく立ち上げられた<ref>{{Cite journal|last=[[Andy Mangels|Mangels, Andy]]|author=[[Andy Mangels|Mangels, Andy]]|date=January 1, 1989|title=Triple Threat The George Pérez Interview|journal=Amazing Heroes|issue=156|page=30|publisher=[[Fantagraphics Books]]}}</ref>。[[スーパーマン (架空の人物)|スーパーマン]]については、まず{{仮リンク|ジョン・バーン (漫画家)|en|John Byrne (comics)|label=ジョン・バーン}}によるリミテッドシリーズ『[[マン・オブ・スティール (コミック)|マン・オブ・スティール]]』でオリジンが語りなおされた。その時点で400号を超えていたレギュラー誌『スーパーマン』は『アドベンチャーズ・オブ・スーパーマン』に改題され、代わりに『スーパーマン』新シリーズが第1号から刊行され始めた<ref name="visual" />。[[バットマン]]はほとんど大規模リブートの影響を受けず、シリーズが再編されることもなかった。ただ、[[フランク・ミラー]]の『[[バットマン: イヤーワン]]』によりオリジンが現代化されただけだった<ref name="nerd" />。そのほかには、死んだバリー・アレンに代わってウォーリー・ウェストが[[フラッシュ]]となり、[[ジャスティス・リーグ]]のメンバーが変更され、DCが{{仮リンク|フォーセット・パブリケーションズ|label=フォーセット|en|Fawcett Publications}}やチャールトンなどから取得したキャラクターがDCユニバースに組み入れられた<ref name="30reasons" /><ref name="ca12">{{Cite web|url=http://comicsalliance.com/crisis-on-infinite-earths-dc-comics-facts/|title=12 Facts You May Not Have Known About Crisis on Infinite Earths|accessdate=23 March 2018|last=Cereno|first=Benito|date=June 1, 2016|website=[[ComicsAlliance]]}}</ref>。新しいDCユニバースにおけるキャラクターの再定義は1989年まで続き、[[グリーンランタン]]、[[ホークマン]]、ブラック・オーキッド、[[スーサイド・スクワッド]]らが軒並みリブートされた<ref name="visual" /><ref name="briefhistory" />。

テレビドラマシリーズ『[[ARROW/アロー]]』に始まったクロスオーバー世界「アローバース」においても本作『クライシス』は何度か言及されている。『[[THE FLASH/フラッシュ]]』の第1話では、10年後の日付がついた新聞の一面に書かれた「フラッシュ行方不明、クライシス中の失踪」という大見出しが映された。同作でフラッシュ(バリー・アレン)を演じている[[グラント・ガスティン]]は『クライシス・オン・インフィニット・アース』がシリーズの最終エピソードになると発言している。「10年は続けなきゃ、そこまでたどり着かないね。可能性はあるってことだ。そうなったら楽しいだろうな」<ref name="syfytheflashcrisis" />

DCの歴史上、マルチバースのアイディアは何度も再利用されてきた<ref name="syfytheflashcrisis" />。2014年にジェフ・ジョーンズは2大出版社の映画版設定世界である[[DCエクステンデッド・ユニバース]]と[[マーベル・シネマティック・ユニバース]]の違いについて以下のように語った。「我々DCの実写作品はマルチバースだと考えています。テレビ版のDC世界と映画版のDC世界が別個に存在しているということです。そうすることで、それぞれのクリエーターが可能な限り最高の作品を生み出し、最高のストーリーを伝え、最高の世界を作り出すのを妨げないようにしているのです。誰もが自分のヴィジョンを持っていて、どうしても世に出したいと思っているのですから。… マーベルとは単にアプローチが異なるのです<ref>{{Cite web|url=https://www.buzzfeed.com/jarettwieselman/the-man-at-the-center-of-dcs-tv-multiverse|title=The Man At The Center Of DC’s TV Multiverse|accessdate=October 30, 2014|last=Wieselman|first=Jarett|date=October 23, 2014|website=[[BuzzFeed]]|work=[[BuzzFeed]]}}</ref>」

=== 続編 ===
『クライシス・オン・インフィニット・アース』は後に「クライシス」三部作と呼ばれるようになった作品の第一部である<ref name="visual" />。第二部『[[インフィニット・クライシス]]』はジェフ・ジョーンズ(原作)とフィル・ヒメネス、ペレス、アイヴァン・レイス、ジェリー・オルドウェイら(作画)の手により2005年10月から2006年6月にかけて7号にわたって刊行された<ref name="infiniteroundup">{{Cite web|url=https://comicbookroundup.com/comic-books/reviews/dc-comics/infinite-crisis|title=Infinite Crisis Comic Series Reviews|accessdate=23 March 2018|publisher=[[Comic Book Roundup]]}}</ref>。同作では、『クライシス・オン・インフィニット・アース』の結末でポケット次元に閉じ込められたカル=L、アレクサンダー・ルーサー、スーパーボーイ・プライムらが通常宇宙に復帰する。ルーサーは狂気に陥り、アンチモニターの死骸を用いてマルチバースを再創造しようとする。『クライシス・オン・インフィニット・アース』が破棄したDCマルチバースは『インフィニット・クライシス』において復元された<ref name="visual" />。


三部作の最終作『{{仮リンク|ファイナル・クライシス|en|Final Crisis}}』<ref name="visual" />は208年5月に始まり、2009年1月に完結した<ref name="finalroundup">{{Cite web|url=https://comicbookroundup.com/comic-books/reviews/dc-comics/final-crisis|title=Final Crisis Comics Series Reviews|accessdate=23 March 2018|publisher=[[Comic Book Roundup]]}}</ref>。原作は{{仮リンク|グラント・モリソン|en|Grant Morrison}}<ref name="morrisonexit">{{Cite web|url=https://www.newsarama.com/2053-grant-morrison-final-crisis-exit-interview-part-1.html|title=Grant Morrison: Final Crisis Exit Interview, Part 1|accessdate=23 March 2018|last=Brady|first=Matt|date=January 28, 2009|website=[[Newsarama]]}}</ref>、作画はJ・G・ジョーンズ、カルロス・パセコ、マルコ・ルーディ、ダグ・マーンケによる<ref name="cbrjgjones">{{Cite web|url=https://www.cbr.com/j-g-jones-apologizes-for-unfinished-final-crisis-work/|title=J.G. Jones Apologizes For Unfinished Final Crisis Work|accessdate=23 March 2018|last=Renaud|first=Jeffrey|date=October 21, 2008|website=[[Comic Book Resources]]}}</ref>。『ファイナル・クライシス』ではダークサイドが地球に現れ、現実を転覆するための戦いを開始する。それはライブラによるマルチバース征服計画の一部であった。ジャスティス・リーグとグリーンランタン・コァは力を合わせ、来たるべき大攻撃を阻止するために必死の抵抗を試みる。
== 脚注 ==
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==脚注==
=== 注釈 ===
<references group="†"/>
=== 出典 ===
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [https://www.dccomics.com/graphic-novels/crisis-on-infinite-earths-1985/crisis-on-infinite-earths CRISIS ON INFINITE EARTHS] - DCコミックス公式{{en icon}}
* {{Comicbookdb|type=title|id=47|title=Crisis on Infinite Earths}}
* {{Comicbookdb|type=title|id=47|title=Crisis on Infinite Earths}}


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2018年4月10日 (火) 15:54時点における版

Crisis on Infinite Earths
出版情報
出版社DCコミックス
掲載間隔月刊
形態リミテッド・シリーズ
掲載期間1985年4月 - 1986年3月
話数12
主要キャラモニター英語版
ハービンジャー英語版
パライア英語版
アレキサンダー・ルーサー・Jr英語版
スーパーマン
スーパーガール
フラッシュ
サイコパイレート英語版
アンチモニター英語版
製作者
ライターマーヴ・ウルフマン
ペンシラージョージ・ペレス
インカーディック・ジョルダーノ
ジェリー・オードウェイ
マイク・デカーロ
レタラージョン・コスタンザ
着色アンソニー・トリン
トム・ジウコ
カール・ガフォード
製作者マーヴ・ウルフマン
ジョージ・ペレス
編集者マーヴ・ウルフマン

クライシス・オン・インフィニット・アース』(原題:Crisis on Infinite Earths)とはDCコミックスから刊行されたアメリカン・コミック作品である。ライターはマーブ・ウルフマン、ペンシラーはジョージ・ぺレス。初版は1985年4月から1986年3月にかけて全12号のマキシシリーズ[† 1]として刊行された。本作は同名のクロスオーバーイベントの中核であり、プロット要素のいくつかはDC他誌のタイイン号[† 2]でも扱われた。何度も再版が行われており、2015年にはヴィレッジブックスから日本語版単行本が刊行された。

概要

『クライシス』の刊行当時、DC作品の背景世界は一種の多元宇宙(DCマルチバース)とされており、多くの平行宇宙が相互に交流する複雑な状況にあった。作者マーブ・ウルフマン英語版はこの設定が読者にとって理解しにくいと考え、マルチバースに替えて新しい単一のユニバースを作りたいと望み、そのために本作『クライシス』を書いた。本作の刊行に先立って、ウルフマンは1982年7月に『ニュー・ティーン・タイタンズ』誌上でキーパーソンであるモニター英語版を登場させ、ストーリー上の準備を整えた。作画のジョージ・ペレス英語版は当初から名前が上がっていたわけではなかったが、本作の企画に強い意気込みを見せ、後にもっとも楽しい仕事の一つだったと語っている。

『クライシス』の発端では、モニターの対極である邪悪な存在アンチモニター英語版が出現し、DCマルチバースを構成している平行地球を次々に破壊していく。モニターはマルチバースのヒーローたちを組織しようとするが、その途上で命を落とす。一方でブレイニアックはヴィラン集団と共謀し、破壊を免れた地球を支配しようとする。しかし、最終的にヒーローとヴィランはスペクター英語版の仲介で手を結ぶ。アンチモニターはカル=L[† 3]、スーパーボーイ・プライム、アレクサンダー・ルーサー・Jrらによって打倒され、マルチバースの代わりに単一の地球が誕生するところで本作は幕を閉じる。『クライシス』では多くのキャラクターが死亡しており、数百名の死者の中にはDCの象徴に数えられるスーパーガールやバリー・アレン(二代目フラッシュ)なども含まれる。

『クライシス』はDC社のベストセラーとなり、コミックス批評家は本作の雄大な構想と劇的な展開を高く評価した。アメリカのコミック界で大規模クロスオーバーが一般的になったのは本作の功績だと考えられており、DCユニバース全体をリブートさせたのも本作である。ジェフ・ジョーンズ英語版による『インフィニット・クライシス』(2005 - 2006年)およびグラント・モリソン英語版による『ファイナル・クライシス』(2008 - 2009年)が刊行されると、本作と合わせて「クライシス」三部作と呼ばれるようになった。

刊行の履歴

刊行

『クライシス・オン・インフィニット・アース』の刊行は、1984年6月にDC社のコミックブックに掲載されたジョルダノのコラム「Meanwhile...」で告知された。ジョルダノは読者に対し、DCのコミックス全体を巻き込む「奇妙な事件」が起こると予告した。またこれがDCの50周年記念イベントであり、同社にとって新しいキャラクター、新しいコミック作品につながる「大きな踏み台」になるだろうと宣言した[1]。本作は「生き残る世界がある。死んでゆく世界がある。何もかもが変わる ("Worlds will live, worlds will die and nothing will ever be the same")」というキャッチコピーで宣伝された[2][3]。本作の刊行は1985年4月に始まり、翌年3月までに12号が発行された[4]

タイイン

クロスオーバー開始の数年前から、DC社のコミックでは本作の前兆が描かれていた[5]。『ニュー・ティーン・タイタンズ』で登場したモニターはその一例である[6]。ジョルダノ、ウルフマン、レン・ウェインは1983年1月3日付けのメモで、編集者やライターに自作でモニターを2回使うように、ただし直接姿を見せないようにと指示を下した。

このシリーズはDCユニバース全体にわたるものなので、すべての編集者とライターはプロジェクトへの協力をお願いします。来年中にモニターという名のキャラクターを作品中で2回使って下さい。

これが本作の伏線となった[1][6]。『クライシス』のタイインはDCのレギュラー誌で行われ、DC社が刊行する大半のコミック誌上でクロスオーバーと直接関係する出来事が描かれた[7]。クロスオーバー参加が明示されている号を以下に挙げる。これらの表紙にはDC50周年のロゴとともに「Special Crisis Cross-Over」と書かれたバナーが印刷されていた。

あらすじ

突如として地球が消滅していく。人々が成す術もなく逃げ惑う中、パライアは「自分の罪だ」と嘆き姿を消す。この現象はマルチバースの全ての地球で起きていた。「アース3」ではアレキサンダー・ルーサー反物質によって自分たちの世界が消滅していることに気付いていたが、有効な対策を見つけられず幼い子供をロケットで異なる次元へ逃がすのがやっとだった。「アース3」に現れたパライアは消滅する様子を見届け再び姿を消す。

マルチバースを監視するモニターは衛星基地でこの現象の解決策を模索していた。モニターはハービンジャーに命じて分身を作り出させ、様々な時間軸や場所へ向かいヒーローやヴィランを集め巨大な機械「振動装置」の防衛を任せる。しかし、ハービンジャーの分身の一体がシャドウデーモンに憑りつかれてしまう。

バットマンジョーカーと対峙していたある夜、ボロボロになった姿のフラッシュが現れ助けを求めるが、すぐに消滅する。「アース1」と「アース2」の地球が反物質の影響で異常気象や災害が起き始めた頃、再びバットマンの前にフラッシュが現れるが、すぐに消滅する。一方、モニターの衛星基地ではパライアが現れ、目の前でモニターがハービンジャーに殺される瞬間を見届けるのだった。

洗脳が解け意識を取り戻したハービンジャーと事態が呑み込めないパライアに、モニターからの録画メッセージが流れ、自身の死によって生まれるエネルギーで「振動装置」を起動させ、「アース1」と「アース2」をネザーバースに移した事が語られる。ネザーバースに同時に存在する惑星同士が干渉し合い崩壊するのを防ぐため、ハービンジャーとパライア、「アース3」を生き延びモニターが育てていたアレキサンダー・ルーサー・Jrは再びヒーローやヴィランを集める。

反物質宇宙でマルチバースを監視するアンチモニターはサイコパイレートとレッドトルネード、フラッシュを拉致していた。アンチモニターはレッドトルネードとサイコパイレートの能力を使って「アース4」「アースS」「アースX」で奔走するヒーロー達を戦わせ混乱に陥れる。ハービンジャーが能力を使い切って「アース4」「アースS」「アースX」もネザーバースに移しサイコパイレートの洗脳から切り離すが、ネザーバースに同時に存在する「アース1」「アース2」に加え「アース4」「アースS」「アースX」も干渉し合い崩壊する危機は避けられなかった。ヒーロー達はアンチモニターと戦うため反物質宇宙へ向かう決意を固める。

アレキサンダーの能力で反物質宇宙への空間を開き、パライアに導かれアンチモニターの要塞へ向かう。そこで反物質で惑星が消滅した際に発生するエネルギーを集める機械を発見し、スーパーガールが自らの命と引き換えにアンチモニターの外骨格と共に破壊する。エネルギー体となったアンチモニターは逃亡した後に新しい外骨格を再構成すると、次に「反物質砲」でネザーバースを消滅させようとする。拉致されていたフラッシュが隙をついてサイコパイレートの能力を使いアンチモニターの部下を洗脳させて内乱を起こす。さらにフラッシュは「反物質砲」の内部を疾走し反物質の流れを逆転させ破壊するが、そのスピードは時空を超えフラッシュの肉体は消滅する。

その頃、地球では隔離や避難誘導が進み混乱は収まりつつあった。アレキサンダー、ハービンジャー、パライアは代表して国連へ赴き、地球で何が起こっていたのかを世界中に説明する。そこへブレイニアックレックス・ルーサーがヴィランを集め「アース4」「アースS」「アースX」を占拠したと宣言し、ヒーロー達はキッド・フラッシュとジェイ・ギャリックの協力でコズミック・トレッドミルを使って各地へ向かう。しかしさらにスペクターが現れ、アンチモニターが再び蘇り「時の暁」で宇宙そのものを再構築しようとしていることが明かされる。

ヒーロー達はアンチモニターがいる「時の暁」へ向かい、ヴィラン達はタイムトラベルで過去へ遡りマルチバースと反物質宇宙を生むきっかけとなった事件を阻止しようとする。しかし、ヴィラン達の作戦は失敗してしまい、アンチモニターが宇宙の起源に触れた瞬間、5つの地球は1つの「ニューアース」へと生まれ変わる。「時の暁」から戻ったヒーロー達は記憶を保っていたものの、いくつかの現実は消滅してしまっていた。そして消滅したエネルギーを得てさらに巨大化したアンチモニターが再び「ニューアース」も消滅させるため反物質宇宙へと取り込む。

ヒーロー達は再びアンチモニターの要塞へと向かい、発狂したサイコパイレートと残されていたフラッシュのコスチュームを発見する。フラッシュの死に戸惑いながらも激闘の末にアンチモニターを倒すが、地球へ戻ろうとした隙を突いてアンチモニターはワンダーウーマンを殺害する。「アース2」のスーパーマンはスーパーボーイ・プライムと共に反物質宇宙に残り時間を稼ぎ、アレキサンダーを通じて静観していたダークサイドが援護射撃を行い、アンチモニターの外骨格を破壊する。エネルギー体となって再び突撃してきたアンチモニターを、スーパーマンは渾身の一撃で粉砕する。

登場人物

モニター (Monitor)
惑星オアの衛星から生まれたアンチモニターの対となる存在。マルチバースの出来事を記録しながら、アンチモニターを阻止するため対策を練っていた。
ハービンジャー (Harbinger)
モニターのサポート役として活躍する女性。海難事故で漂流していたところをモニターに救われ、その恩に応えるべく能力を与えられて育つ。
アレキサンダー・ルーサー・Jr (Alexander Luthor Jr.)
消滅した「アース3」の生き残り。「アース3」から脱出した際に反物質の影響を受け身体が正物質反物質で構成されており、次元に干渉する能力を持つ。
パライア (Pariah)
危機が訪れる場所に現れる科学者。宇宙の起源を探るため反物質を使った実験で自身の惑星を破壊してしまい、アンチモニターを目覚めさせてしまう。
アンチモニター (Anti-Monitor)
惑星クワードの衛星から生まれたモニターの対となる存在。パライアの事故で生じたエネルギーで目覚め、反物質でマルチバースを次々と消滅させていく。

書誌情報

原語版

  • Crisis on Infinite Earths (1998年12月、 ISBN 1-56389-434-3)ハードカバー版、(2001年1月、ISBN 1-56389-750-4)トレード・ペーパーバック版。リミテッド・シリーズ本編全12号を収録。表紙イラストはジョージ・ぺレスとアレックス・ロスによる新作。
  • Crisis on Infinite Earths: The Absolute Edition(2005年11月、ISBN 1-4012-0712-X)箱入りハードカバー版。第1巻には本編が収録され、第2巻ではスクリプト、コメンタリー、レトロスペクティブ[訳語疑問点]、および本作に関する「オフィシャルDCインデックス英語版」シリーズ[† 4]が再録された。
  • Crisis on Infinite Earths Deluxe Edition(2015年10月、ISBN 1401258417)シリーズ本編と全2号の『ヒストリー・オブ・DCユニバース』のほか、ボーナスが収録された。
  • Crisis on Infinite Earths Companion Deluxe Edition Vol. 1(2018年11月、ISBN 1401274595)本編と同時に発行されたタイイン号の集成。

翻訳版

  • クライシス・オン・インフィニット・アース (2015年)
ヴィレッジブックス[8]ISBN 978-4864912204
翻訳は石川裕人、御代しおり、松澤慶香による。

制作の背景

経緯

DCコミックスバットマンスーパーマンワンダーウーマンなどのスーパーヒーロー作品で知られるコミック出版社で[9]、1935年2月の New Fun: The Big Comic Magazine から始まる長い歴史を持っている[1]。DC社のコミックブックのほとんどはDCユニバースと呼ばれるシェアード・ワールドを舞台にしている(DC傘下のインプリントであるベルティゴ英語版[10]やヤング・アニマル[11]の刊行物の一部も含む)。これにより、プロット要素やキャラクター、背景設定をコミックタイトル間でクロスオーバーさせることが可能となっている[12]。しかし、DCユニバースという概念はDC社のライターがコンティニュイティ[† 5]を保つ上で障害となってきた。同じ世界を描いているはずのコミックタイトルそれぞれで起きる出来事が矛盾しがちだったのである。その解決策として、DCユニバースが多数の平行世界の集合体(DCマルチバース英語版)の一部であるというアイディアが生まれた。これを作品中で初めて用いたのは、『フラッシュ』第123号(1961年9月)のストーリー「2つの世界のフラッシュ (The Flash of Two Worlds)」である。この号ではシルバーエイジ英語版当時のフラッシュであるバリー・アレンがゴールデンエイジ英語版期のフラッシュであるジェイ・ギャリックと初めて顔を合わせた[13][14]

DCマルチバースの概念は後に拡張され、平行地球が乱立する状況となった。たとえば、シルバーエイジ版のDCヒーローが住む地球は「アース1」、ゴールデンエイジ版の地球は「アース2」とされた[4]。年月とともに平行地球は新しくいくつも創り出された。ライターがプロット上の仕掛けとして考案したものもあれば、DCが他の出版社から権利を取得したキャラクターの故郷として設定されたものもあった。結果的にDCマルチバースは「収拾のつかない大混乱」となった[4]。この時期DC社のコミックブックは競合するマーベル・コミックスに売り上げで差を付けられていた[15]。またジャーナリストのクリス・シムズはウェブメディア『コミックスアライアンス』で以下のように論評した。「[DCが本作を刊行した]本当の動機は … DCマルチバースが過去の遺産を引きずっていたためだった。マルチバースには、「イマジナリー・ストーリーズ」[† 6]や、DCがライバル社から引き取ったゴールデンエイジ期のキャラクターのイメージがまとわりついていた。一方でマーベルは現代的に見えた。…そして二社を並べると、一目でわかる相違点があった。マーベルには統一感があったのだ[16]

コミックブックライターのマーブ・ウルフマンはブロンズエイジ英語版期に『ウィアード・ウオー・テイル』や『ニュー・ティーン・タイタンズ』でDC読者の支持を得た[4]。『ニュー・ティーン・タイタンズ』の作画を担当したジョージ・ぺレス英語版も同時期に人気を得始めた[17]。ペレスは1984年にDCと専属契約を結び、後に契約を1年間延長した[18]。『ニュー・ティーン・タイタンズ』はDC社としてはヒットしたが[4]、売り上げではマーベルに及んでいなかった[15]。ウルフマンはその理由がDCマルチバースにあると考えるようになり、「2つの世界のフラッシュ」を「悪夢」の始まりとみなした[1]。マルチバースは新規読者には分かりにくく[19]、ライターにとってもコンティニュイティの破綻を作り出す元凶であった[1]。ウルフマンは『ニュー・ティーン・タイタンズ』第21号(1982年7月)で、一見すると悪役に見える謎めいたキャラクター、モニターを登場させた。これが『クライシス・オン・インフィニット・アース』への布石となった[6]

企画・制作

本作の原作者マーブ・ウルフマン(2007年)。

DCの創業50周年が近づく中[4]、ウルフマンはDCユニバースを単純化して新規読者を得るために本作『クライシス・オン・インフィニット・アース』を構想した[19]。ウルフマンが1981年に本作をDCに売り込んだとき[20]、彼はそれがDCユニバースを根底から覆すものだということを認識していた[21]。「私も、DCスタッフも、これがどれほど大きな企画か初めから分かっていました。分からなかったのは、売り上げがどれくらいになるか、そもそも少しでも売れるのかということです。しかし、DCは進んでリスクを取りました。その頃私はDCには思い切った処置が必要だと思っていましたし、彼らにもそれが分かっていたのです[22]」 このクロスオーバー企画はDCの社長ジェネット・カーン、ポール・レヴィッツ、副社長で総編集長のディック・ジョルダノ、その他編集員らが出席した会議において具体化され、練られていった[23]

本編の刊行の前年には土台作りが行われた[6]。企画の初期にはDCユニバースに属するキャラクターのリストが作られた[23]。DCがチャールトン・コミックス英語版などから取得したキャラクターもこの時マルチバースの一部になっていた[2]。作者ウルフマンによると、すべてのDCキャラクターをファンに陳列することも本作の狙いの一つだった[22]。本作は多くのキャラクターが死んだことで悪名高い[14]。死亡者は数百人に上り、その中で特に重要なキャラクターとしてはバリー・アレンが挙げられる。ウルフマンによれば彼自身はアレンの死を望んでいなかったが、アレンに面白みが欠けると評価していたDC社がこれを求めた。そこでウルフマンは、アレンが興味深いキャラクターになれば死は撤回されると考え、時間を駆け抜けて消滅するという劇的な最期を与えた[24]。ウルフマンは本作が末永く記憶される作品になるよう願っていた。彼の発言によればDCのコンティニュイティを整理することに関心を見せたライターは数多くいたが、自分がぜひ手掛けたかったのだという[1]

ペレスが語ったところでは、当初DCは彼が本作の作画を担当したがるとは考えていなかった[25]。しかし彼は本作の企画に強い意気込みを覚え、ウルフマンと再びコンビを組むのが楽しみだったという。DCが本作の成功を確信していなかったことはペレスを発奮させた[25]。また彼は「可能な限りあらゆるキャラクターを描きたい」と望んでおり、この先二度と機会が来ないようなマイナーなキャラクターを描くことに関心をそそられていたため、本作の作画は人生で一番と言っていいほど楽しかったと述べている[25]。ペレスは本作に専念するために『ニュー・ティーン・タイタンズ』の作画を一時降板した[26]。当初本作のインカーを務めていたジョルダノはDCの副社長と総編集長を兼務していたため締切りを破りがちで、編集調整役のパット・バスティエンヌはジョルダノの反対を押し切ってジェリー・オルドウェイと交代させた[23]

評価

それほど宣伝が行われず[27]、DCにも本作が成功するという確信はなかったにもかかわらず、『クライシス・オン・インフィニット・アース』はベストセラーとなった[1]。ライターのスティーブ・ガーバーは本作について以下のように述べている。「事実上なんの販促もなかった … 何枚のチラシが配られた? 窓に貼られたポスターが何枚あった? 報道にどれだけの情報が流された? 記者たちはマーブ・ウルフマンやジョージ・ペレスからどれだけ話を聞き出した?[27]

ヒラリー・ゴールドスタインはIGNで本作は「DCコミックスの決定的な転換点」であり、同社の救世主となったと評した。またDCユニバースを単純化しようというウルフマンのアイディアは大胆かつ前例がなく、物語のスケールは大きく、ストーリーはやや古さを感じさせながらも「素晴らしい」とした。さらに、ペレスのよく描きこまれた作画を賞賛し、ほかのどんな作画家もペレスほど見事な仕事をできなかっただろうと述べ、本作に「必読」の評価を与えた[5]。同じくIGNのライターであるジェシー・シェディーンは本作をDC社のクロスオーバー作品のベストに数え、やはり革新的かつ劇的な作品だと評した[28]

マーク・バクストンは『コミックブック・リソーシズ』において本作をクロスオーバーコミックの単独ベストに挙げ、これほど大規模で野心的なクロスオーバーは他にないと述べた。「世界設定に影響を与えることに及び腰になるクロスオーバーイベントがある一方で、『クライシス』は平然とそれをやった」バクストンは本作がDCユニバースを丸ごと扱ったことを賞賛し、DC社の50周年にふさわしいイベントだったとした[29]。『ナーディスト・ニュース』は本作の核心をなす出来事の多く(スーパーガールやバリー・アレンの死など)がDCの歴史において象徴的な節目となったことを指摘した[30]

全ての批評が好意的だったわけではない。クリス・シムズは本作の構成が雑然としていると述べ、「絵に描いたような「見た目第一、中身は二の次」の作品」だという評価を与えた。シムズはウルフマンとペレスのコンビにはもっと優れた作品があると述べているが、本作の革新性は認めている。「コミックの歴史上、宇宙全体に危機が迫ったのはこれが初めてだった」[16]

商品展開

ウルフマンによる小説版『クライシス・オン・インフィニット・アース』はペレスとアレックス・ロスの表紙でiBooksから刊行された。同作はオリジナル版と同じ出来事を主にバリー・アレンの視点から描くもので、アレンがいない場面は三人称視点で書かれている。またキャラクターの独白や、ストーリーを現代化するための改変(携帯電話の使用など)のように随所でディテールが追加されている[31]

ウィズキッズ社は2008年に『DCヒーロークリックス』(コレクティブルミニチュアゲーム)ラインでアンチモニターを中心とするパックを発売した。目がLEDで点灯するアンチモニターの大型フィギュアに数個の小型フィギュアとマップが付属するものだった。同年、シネストロ・コァを題材とする限定バリアント版パックがサンディエゴ・コミコンGen Con Indyにおいて販売された[32]

後の作品への影響

本作はアメリカのコミック界で初めての大規模クロスオーバーではないが[† 7]、それを慣行化させた作品だと広く認められている[33]。コミック史家マシュー・K・マニングは本作がそれ以降の同規模のクロスオーバーに先鞭をつけたと書いている。アンドリュー・J・フリーデンタールは以下のように書いた。「『クライシス』は二大スーパーヒーローコミック出版社(DCコミックスとマーベル・コミックス)に教えてくれた。数十年にわたって積み上げられた多くの物語が形作るコンティニュイティを使えば、長年の読者を惹きつけて大金を稼ぐことができるような、一貫性のあるメタテキスト的なタペストリーを織り上げることができるのだ」

本作が成功を収めたことで、DCはその後「夏のクロスオーバー」を繰り返し実施するようになった。例としては『インベージョン!英語版』(1988 - 1989年)、『アーマゲドン2001英語版』(1991年)、『ゼロアワー: クライシス・イン・タイム英語版』(1994年)、『アイデンティティ・クライシス英語版』(2004年)がある。これらの中では本作『クライシス』の出来事も言及されている[34]。後年のクロスオーバーの一つ『コンバージェンス英語版』(2015年)第2期(タイインシリーズ)はかなりの程度まで本作を下敷きにしており、作中ではDCのスーパーヒーローたちが『クライシス』の時代に遡る。『コンバージェンス』のライターたちは『クライシス』時のDCが刺激的だと発言している[35]

本作はDCに直ちに大きな影響を与え、同社の歴史は大きく「クライシス以前 (Pre-Crisis)」「クライシス以後 (Post-Crisis)」に分けられるようになった[25]。ウルフマンとペレスは再びチームを組んでリミテッドシリーズ「ヒストリー・オブ・DCユニバース」を描き、再定義されたDCユニバースの歴史を総括した[4]。クライシス後、DC社のキャラクターの多くは歴史がリブートされた。ワンダーウーマンのコミックシリーズはペレス、ワイン、グレッグ・ポッターらによってまったく新しく立ち上げられた[36]スーパーマンについては、まずジョン・バーン英語版によるリミテッドシリーズ『マン・オブ・スティール』でオリジンが語りなおされた。その時点で400号を超えていたレギュラー誌『スーパーマン』は『アドベンチャーズ・オブ・スーパーマン』に改題され、代わりに『スーパーマン』新シリーズが第1号から刊行され始めた[4]バットマンはほとんど大規模リブートの影響を受けず、シリーズが再編されることもなかった。ただ、フランク・ミラーの『バットマン: イヤーワン』によりオリジンが現代化されただけだった[15]。そのほかには、死んだバリー・アレンに代わってウォーリー・ウェストがフラッシュとなり、ジャスティス・リーグのメンバーが変更され、DCがフォーセット英語版やチャールトンなどから取得したキャラクターがDCユニバースに組み入れられた[2][37]。新しいDCユニバースにおけるキャラクターの再定義は1989年まで続き、グリーンランタンホークマン、ブラック・オーキッド、スーサイド・スクワッドらが軒並みリブートされた[4][34]

テレビドラマシリーズ『ARROW/アロー』に始まったクロスオーバー世界「アローバース」においても本作『クライシス』は何度か言及されている。『THE FLASH/フラッシュ』の第1話では、10年後の日付がついた新聞の一面に書かれた「フラッシュ行方不明、クライシス中の失踪」という大見出しが映された。同作でフラッシュ(バリー・アレン)を演じているグラント・ガスティンは『クライシス・オン・インフィニット・アース』がシリーズの最終エピソードになると発言している。「10年は続けなきゃ、そこまでたどり着かないね。可能性はあるってことだ。そうなったら楽しいだろうな」[33]

DCの歴史上、マルチバースのアイディアは何度も再利用されてきた[33]。2014年にジェフ・ジョーンズは2大出版社の映画版設定世界であるDCエクステンデッド・ユニバースマーベル・シネマティック・ユニバースの違いについて以下のように語った。「我々DCの実写作品はマルチバースだと考えています。テレビ版のDC世界と映画版のDC世界が別個に存在しているということです。そうすることで、それぞれのクリエーターが可能な限り最高の作品を生み出し、最高のストーリーを伝え、最高の世界を作り出すのを妨げないようにしているのです。誰もが自分のヴィジョンを持っていて、どうしても世に出したいと思っているのですから。… マーベルとは単にアプローチが異なるのです[38]

続編

『クライシス・オン・インフィニット・アース』は後に「クライシス」三部作と呼ばれるようになった作品の第一部である[4]。第二部『インフィニット・クライシス』はジェフ・ジョーンズ(原作)とフィル・ヒメネス、ペレス、アイヴァン・レイス、ジェリー・オルドウェイら(作画)の手により2005年10月から2006年6月にかけて7号にわたって刊行された[39]。同作では、『クライシス・オン・インフィニット・アース』の結末でポケット次元に閉じ込められたカル=L、アレクサンダー・ルーサー、スーパーボーイ・プライムらが通常宇宙に復帰する。ルーサーは狂気に陥り、アンチモニターの死骸を用いてマルチバースを再創造しようとする。『クライシス・オン・インフィニット・アース』が破棄したDCマルチバースは『インフィニット・クライシス』において復元された[4]

三部作の最終作『ファイナル・クライシス[4]は208年5月に始まり、2009年1月に完結した[40]。原作はグラント・モリソン英語版[41]、作画はJ・G・ジョーンズ、カルロス・パセコ、マルコ・ルーディ、ダグ・マーンケによる[42]。『ファイナル・クライシス』ではダークサイドが地球に現れ、現実を転覆するための戦いを開始する。それはライブラによるマルチバース征服計画の一部であった。ジャスティス・リーグとグリーンランタン・コァは力を合わせ、来たるべき大攻撃を阻止するために必死の抵抗を試みる。

脚注

注釈

  1. ^ 号数限定で発行されるいわゆるリミテッドシリーズのうち、比較的長いものを指す。
  2. ^ クロスオーバー参加号。
  3. ^ 平行地球アース2のスーパーマン。
  4. ^ 特定タイトルのあらすじや書誌情報を集めたガイド本。コミックブック形式で刊行された。
  5. ^ en:continuity、作中世界の設定の一貫性。
  6. ^ 人気キャラクターを本来とは異なる設定で用いた外伝的なストーリー。en:Imaginary Stories参照。
  7. ^ マーベルの『シークレット・ウォーズ』(1984年)は本作『クライシス』に1年先行していた[29]

出典

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外部リンク