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「技術的特異点」の版間の差分

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'''技術的特異点'''(ぎじゅつてきとくいてん、英語:''Technological Singularity'')とは、テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうとされる、未来に関する仮説。<ref>[http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%81%AF%E8%BF%91%E3%81%84%E2%80%95%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E3%81%8C%E7%94%9F%E5%91%BD%E3%82%92%E8%B6%85%E8%B6%8A%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%8D-%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%84%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%AB-ebook/dp/B009QW63BI シンギュラリティは近いー人類が生命を超越するとき](レイ・カーツワイル)参考文献と同内容の電子書籍版であるがタイトルは原題に近い訳に変更されている。</ref>。人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事<ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/130005085749 人工知能の研究開発をどう進めるか 技術的特異点(シンギュラリティ)を見据えて](東京大学大学院工学系研究科 堀 浩一)</ref><ref>[http://ci.nii.ac.jp/naid/110009851254 人類とICTの未来:シンギュラリティまで30年?:2.シンギュラリティと人工知能の将来](公立はこだて未来大学 松原 仁)</ref>と説明されることも少なくない。 単に'''シンギュラリティ'''(''Singularity'')ともいう。[[未来研究]]において、正確かつ信頼できる、人類の技術開発の歴史から推測され得る未来モデルの限界点を指す。
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{{複数の問題|出典の明記=2019年10月|独自研究=2023年5月|精度=2023年5月|一次資料=2023年5月}}
'''技術的特異点'''(ぎじゅつてきとくいてん、{{lang-en|technological singularity}}〈テクノロジカル・シンギュラリティ〉)または'''シンギュラリティ''' ({{lang|en|singularity}}) とは、[[科学技術]]が急速に「[[進化#生物学以外での「進化」概念|進化]]」・変化することで[[人間]]の[[生活]]も決定的に変化する「[[未来]]」を指す言葉{{Sfn|中島|2018|p=95}}{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=519-521}}{{Efn2|以下は人工知能研究開発者・[[中島秀之]]の論文からの引用{{Sfn|中島秀之|2018|p=95}}。
{{Quotation|シンギュラリティというのは[[数学]]用語で,[[関数 (数学)|関数]]の値が定まらない[[特異点_(数学)|特異点]]のことだ. … [[カーツワイル]]の呼ぶシンギュラリティが数学的な意味で正しいものだとすれば(そうは思えないのだが),シンギュラリティ以降は現在の我々の知的営みは残らないことになるし,その後を考えることも無駄だということだ. … 本稿ではカーツワイルの定義に従って議論を進めよう.{{Quote|特異点とはなにか。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来のことだ(レイ・カーツワイル:シンギュラリティは近い─人類が[[生命]]を[[超越]]するとき(Kindle の位置,No.249-250)Kindle 版).}}}}
}}。[[発明家]]にして[[思想家]]の[[レイ・カーツワイル]]{{Sfn|カーツワイル|2007|p=奥付}}によれば特異点とは、[[技術]]的「[[成長]]」が[[指数関数]]的に続く中で[[人工知能]]が「人間の[[知能]]を大幅に凌駕する」時点であり{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=37-38}}、すなわち「[[哲学]]的、[[宗教]]的[[伝統]]」における「[[神性|神の概念]]」への「進化」であり{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=519-521}}、これを推進することは「[[本質]]的に[[スピリチュアリティ#「スピリチュアル・ビジネス」|スピリチュアルな事業]]」だと言う{{Sfn|カーツワイル|2007|p=521}}。その意味で、「[[意識]]」とは「[[真実]]」とされる{{Sfn|カーツワイル|2007|p=520}}。特異点では「われわれが[[超越]]性(トランセンデンス)──人々が[[スピリチュアリティ]]と呼ぶものの主要な意味──に遭遇する」のであり{{Sfn|カーツワイル|2007|p=518}}、「特異点に到達すれば、われわれの[[生物]]的な身体と脳が抱える[[超人|限界を超えること]]が可能になり、[[超越主義|運命を超えた力]]を手にすることになる」ともカーツワイルは述べている{{Sfn|カーツワイル|2007|p=19}}{{Efn2|{{詳細記事|[[技術的特異点#レイ・カーツワイル]]}}}}。


==概要==
== 概要 ==
技術的特異点は、[[汎用人工知能]]([[:en:artificial general intelligence|AGI, artificial general intelligence]])<ref>山川宏, 市瀬龍太郎, 井上智洋、「[https://cir.nii.ac.jp/crid/1520853832263715712 汎用人工知能が技術的特異点を巻き起こす]」『電子情報通信学会誌』2015年 98巻 3号 p.238-243, {{ISSN|2188-2355}}</ref>、「[[強いAIと弱いAI|強い人工知能]]」、人間の[[知能増幅]]などが可能となったときに起こると言われる出来事である。自律的に作動する優れた機械的知性が一度でも創造されると、機械的知性が自らバージョンアップを[[再帰的|繰り返し]]、人間には想像が及ばないほど優秀な[[超知能]]が誕生するという[[技術哲学]]的な主張である。その人智を越えた機械的知性は文字通り人間の理解の及ばない原理で動作し、設計され、更に高度な知性を生み出していくかもしれない。
'''技術的特異点'''は、[[汎用人工知能]]([[:en:artificial general intelligence]] AGI)によって起こるとされている出来事である<ref>
[http://ci.nii.ac.jp/naid/110009917775 汎用人工知能が技術的特異点を巻き起こす](電子情報通信学芸誌)
山川 宏 市瀬 龍太郎 井上 智洋
Vol.98 No.3pp.238-243
発行日:2015/03/01
Online ISSN:2188-2355
Print ISSN:0913-5693
種別:オピニオン
専門分野:
キーワード:
</ref>。あるいは、「[[強いAIと弱いAI|強い人工知能]]」や人間の知能増幅が可能となったとき出現する。[[フューチャリスト]]らによれば、特異点の後では科学技術の進歩を支配するのは人類ではなく強い人工知能や[[ポストヒューマン (人類進化)|ポストヒューマン]]であり、従ってこれまでの人類の傾向に基づいた人類技術の進歩予測は通用しなくなると考えられている。


[[レイ・カーツワイル]]は自著『ポスト・ヒューマン誕生:コンピュータが人類の知性を超えるとき』にて[[哲学]]や[[宗教]]を根拠とした上で、「[[進化#生物学以外での「進化」概念|進化]]」は「[[指数関数]]的」に「[[神性|神の概念]]」へと向かっており、それが特異点をもたらすと述べている{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=519-521}}。彼は、
この概念は、数学者[[ヴァーナー・ヴィンジ]]と発明者でフューチャリストの[[レイ・カーツワイル]]により初めて提示された。彼らは、[[意識]]を解放することで人類の科学技術の進展が生物学的限界を超えて加速すると予言した。意識の解放を実現する方法は、人間の脳を直接コンピュータネットワークに接続し計算能力を高めることだけに限らない。それ以前に、ポストヒューマンやAI([[人工知能]])の形成する文化が現生人類には理解できないものへと加速度的に変貌していくのである。カーツワイルはこの加速度的変貌が[[ムーアの法則]]に代表される技術革新の指数関数的傾向に従うと考え、[[収穫加速の法則]](Law of Accelerating Returns)と呼んだ。
{{Quotation|したがって、人間の思考をその[[生物]]としての制約から解放することは、[[本質]]的に[[スピリチュアリティ#「スピリチュアル・ビジネス」|スピリチュアルな事業]]であるとも言える。}}
としている{{Sfn|カーツワイル|2007|p=521}}。また同書で彼は、特異点が[[サイエンス・フィクション|SF]]や[[ファンタジー]]に似ていることを強調し、次の通り述べている{{Sfn|カーツワイル|2007|p=10}}。
{{Quotation|
わたしはよく、[[アーサー・C・クラーク]]の[[クラークの三法則|第三の法則]]を思い起こす。「十分に進んだ[[テクノロジー]]は、[[魔法]]と区別がつかない」というものだ。[[J・K・ローリング]]の[[ハリー・ポッター]]を、こうした観点から考えてみよう。たんなるおとぎ話かもしれないが、これからほんの数十年先に実在する世の中を、けっこうまともに描いたものかもしれない。{{Sfn|カーツワイル|2007|p=10}}
}}
{{Main|技術的特異点#レイ・カーツワイル}}
{{See2|AIにまつわる[[哲学#哲学への批判|哲学・思想等への批判]]は「[[人工知能#批判]]」を}}
特異点の到来時期の予測は、[[21世紀]]中ごろ~[[22世紀]]以降など様々だが、特異点を[[収穫加速の法則]]と結びつけて2005年に論じたレイ・カーツワイルの影響により、[[2045年]]説が注目されている。2012年以降、[[ディープラーニング]]の急速な普及と共に広く議論されるようになり、「'''[[2045年問題]]'''」とも呼ばれる。2016年以降、ビジネスでもディープラーニングやチャットAIが普及していき、[[技術哲学]]的・[[科学哲学]]的には世界で大きく注目されるようになった。端的には、[[人工知能]]が[[人類]]の[[知能]]を超える転換点と言われる事がある<ref>{{Cite web |title=シンギュラリティ|大塚商会 |url=https://mypage.otsuka-shokai.co.jp/contents/business-oyakudachi/words/singularity.html |website=mypage.otsuka-shokai.co.jp |access-date=2024-09-08 |language=ja}}</ref>。


== 略歴 ==
特異点を肯定的に捉えその実現のために活動する人々がいる一方、特異点は危険で好ましくなくあってはならないと考える人々もいる。実際に特異点を発生させる方法や、特異点の影響、人類を危険な方向へ導くような特異点をどう避けるかなどが議論されている。
技術的特異点と同様の考え方や概念は、[[科学技術]]が注目され始めた19世紀頃から存在していた。技術的特異点が技術哲学者・科学哲学者・評論家などから注目されたきっかけは、数学者かつSF作家の[[ヴァーナー・ヴィンジ]]と、発明者かつ[[未来学|未来派]]の[[レイ・カーツワイル]]の膨大な資料調査と主張だった。彼らは、[[意識]]の解放によって科学技術の進展が生物学的限界を超えて加速する、と予言した。カーツワイルはこの加速的変化が「[[ムーアの法則]]」などの指数関数的な技術革新に従うと考え、これを「[[収穫加速の法則]]」(Law of Accelerating Returns)と呼んだ。未来派([[フューチャリスト]]ら)いわく、技術的特異点の後では科学技術の進歩は[[強いAIと弱いAI|強い人工知能]]や[[ポストヒューマン (人類進化)|ポストヒューマン]]([[ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来|ホモ・デウス]])によって支配されることになり、よって従来の人類の傾向に基づく技術進歩予測は通用しなくなるという。


[[汎用人工知能|AGI(汎用人工知能)]]ではなく人間を技術的に改良したポストヒューマンが登場するシナリオが実現した場合、特異点とは、新たな[[人類の進化]]の瞬間であるとも捉えられる。[[ポストヒューマン (人類進化)|ポストヒューマン]]登場の端緒は史上初の人間の脳の技術的高速化であり、その方法は[[サイボーグ]]化や[[精神転送]]などだと言われる。
== アイディアの歴史 ==
技術的特異点のアイディアは少なくとも19世紀半ばまで遡る。
1847年、Primitive Expounder の編集者である R. Thornton は、当時、四則演算可能な機械式計算機が発明されたことに因んで、冗談半分に次のように書いている<ref>
{{Citation
| last = Thornton
| first = Richard
| title = The Expounder of Primitive Christianity
| place = Ann Arbor, Michigan
| year = 1847
| volume = 4
| page = 281
| url = http://books.google.com/?id=ZM_hAAAAMAAJ&dq=%22Primitive%20Expounder%22%20thornton%201847&pg=PA281#v=onepage&q=thinking%20machine&f=false
}}</ref>。
{{quotation|… そのような機械を使えば、学者は精神を酷使することなくただクランクを回すだけで問題の答を捻り出せてしまう訳で、これが学校にでも持ち込まれたなら、それこそ計算不能なほどの弊害を齎すでしょう。いわんや、そのような機械がおおいに発展し、自らの欠陥を正す方策を思いつくこともないまま、人智の理解を超えた概念を捻り出すようになったとしたら!}}


AGIもポストヒューマンも、単純にどちらかが選択されて実現されるわけではなく、両方とも実現される可能性がある。
1951年、[[アラン・チューリング]]は人間を知的能力において凌駕する機械について述べている<ref>A M Turing, ''Intelligent Machinery, A Heretical Theory'', 1951, reprinted ''Philosophia Mathematica'' (1996) 4(3): 256-260 doi:10.1093/philmat/4.3.256 [http://philmat.oxfordjournals.org/content/4/3/256.full.pdf]</ref>。
{{quotation|機械が思考する方法がひとたび確立したならば、我らの如きひ弱な力はすぐに追い抜いて行くだろう。… 従って何らかの段階で、丁度[[サミュエル・バトラー]]が[[エレホン]]([[:en:Erehwon]])の中で描いたように、機械が実権を握ることになると考えねばなるまい。}}


一度でも技術的特異点が起きると、自律的に自己強化し続けるAI(あるいはポストヒューマン)が現れ、技術の進歩が超加速度的になり、人間の文明は極端に変化するため、それ以前の歴史的出来事全ての重大さが0に見えるほどになる<ref name="Singularity hypotheses">{{cite book|title=Singularity hypotheses: A Scientific and Philosophical Assessment|date=2012|publisher=Springer|isbn=9783642325601|pages=1-2|location=Dordrecht}}</ref>。詳しくは[[超知能|ASI(人工超知能)]]を参照のこと。特異点という名付けは、技術の進歩速度が数学的または物理的な[[特異点 (数学)|特異点]]に似ているからだという。
1958年5月、[[スタニスワフ・ウラム]]は[[ジョン・フォン・ノイマン]]との会話に言及して次のように書いている<ref>Ulam, S., Tribute to John von Neumann, Bulletin of the American Mathematical Society, vol 64, nr 3, part 2, May, 1958, p1-49.</ref>。

技術的特異点が起きる可能性については賛否両論がある。多くの人々がこの予測を肯定的に捉え、その実現に向けて活動している。一方、技術的特異点は人類にとって危険であり、回避すべきと考える人もいる。そもそも、技術的特異点など到来しないとする懐疑的な立場もある。様々な立場が存在する中で、技術的特異点を発生させる方法やその社会的影響、それを理想的な形で迎える方法などが論じられている。また、特異点が近づくに連れてAIを開発・運用する集団とそれ以外とで経済格差が顕在化すると予測されており、それを緩和するための[[ベーシック・インカム]]や「誰でも受け取れる」「ユニバーサル・ベーシック・インカム」の導入が議論されている<ref>{{Cite web|和書|title=人工知能が経済格差と貧困を激化する|url=http://www.newsweekjapan.jp/tanaka/2016/10/post-8_2.php|accessdate=2017年11月23日(木)|date=2016年10月26日(水)17時40分|publisher=[[NewsWeek]]日本版 田中秀臣 街角経済学|location=|isbn=|pages=}}</ref><ref>{{cite journal|和書|author =牧野司|title=シンギュラリティは近い 世界の課題をテクノロジで克服するには|url=https://doi.org/10.14955/amr.0170222a|publisher=特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター|journal=赤門マネジメント・レビュー|volume=16|issue=3|doi=10.14955/amr.0170222a|pages=161-165|accessdate=2019-7-17|date=2017}}</ref>。2010年代後半からは、ディープラーニングの産業応用や報道によって、一般に認知される概念になった。2045年問題という名称でも知られる。

[[収穫加速の法則]]を根拠とする指数関数的な技術進歩は、技術的特異点の以前でも社会を変化させると言う。プレ・シンギュラリティ的な動きは既に起きているという概念の証拠として、例えば以下が挙げられている。

* 2014年にはジェレミー・リフキンが自著『限界費用ゼロ社会』を発表し、[[反資本主義|資本主義の凋落]]と[[モノのインターネット|IoT]]の普及による[[共有経済]]の将来を説いた。
* 2015年9月の国連サミットで「[[持続可能な開発のための2030アジェンダ]]」が採択され、[[持続可能な開発目標]](SDGs)が国際目標となった。これの目標も、IoTによる共有経済の実現だと言われる。


;例題:電子回路と生物の動作速度の差
:技術的特異点のインパクトの説明例として、電子回路と生物の動作速度の差がある。生物の頭脳に比べて電子回路は、100万倍以上速く動作し、体調不良などの動作不良が頻発せずに安定した最高のパフォーマンスを発揮する。つまり生身の人間に比べて、電子回路で実現される頭脳([[ポストヒューマン (人類進化)|ポストヒューマン]])は、計り知れないほど高い知能を獲得することになる。

:また、電子回路で実現される頭脳は生物の頭脳よりも機能の変更・拡張が容易であり、その頭脳が自分自身を改良し続けることで、電子回路による頭脳の爆発的「進化」が起きる。そして電子回路と生物の両方の特徴を持つ技術によって、生物的な特徴・環境適応力も爆発的に強化される。[[遺伝子工学]]、[[ナノテクノロジー]]、[[ロボット工学]]などの進化が極めて顕著となる。

:電子回路による頭脳の進化は[[研究開発]]をも爆発的に加速させ、生身の人間が想像できる水準(無限のエネルギー、不老不死、宇宙進出、光速の壁の突破など)を遥かに超えて、高度な社会問題が次々と解決される。レイ・カーツワイルの見積もりによれば、[[ナノテクノロジー]]を最大限に活用した知能は、生身の人間の頭脳の1兆倍の1兆倍も有能である<ref name=":4" />。このスケールの知能(ポストヒューマン)から見ると、技術的特異点以前に築かれた人類文明の機能は0に等しいように見える。

:未だに技術進歩が緩やかな[[2010年代]]では、この超知能は遠い将来(数万年後)に実現されそうに思えるが、技術的特異点後の爆発的な技術進化を踏まえると、超知能の実現に必要な計算能力は、21世紀後半には普及価格帯である約1000ドル以下(約十数万円以下)で購入可能になる、と大まかに推測できる。

:以上により、技術的特異点による社会的インパクトはあらゆる[[サイエンス・フィクション|SF]]作品すらも超えて、人間には全く想像できない規模になると言われている。

== 主要な論者 ==
=== レイ・カーツワイル ===
レイ・カーツワイルはアメリカの[[発明家]]、[[思想家]]、[[未来学者]]である{{Sfn|カーツワイル|2007|p=奥付}}。彼は2005年に『ポスト・ヒューマン誕生』 ''The Singularity Is Near'' を出版し、「特異点は近い」と宣言した。([[邦訳]]を監修したのは、[[比較文学]]や[[アメリカ文学]]などを専攻する[[井上健 (比較文学者)|井上健]]〈東京大学名誉教授〉{{Sfn|カーツワイル|2007|p=奥付}})。カーツワイルは『ポスト・ヒューマン誕生』の序章(プロローグ)で、彼が文明と宇宙の未来について考察するようになった時期は『[[スピリチュアル]]・マシーン』([[1999年]])を出版して以降だと述べている{{Sfn|カーツワイル|2007|p=8}}。『ポスト・ヒューマン誕生』の「私は特異点論者(シンギュラリタリアン)だ」という章で彼は、特異点とスピリチュアルな物事との深い関連性を主張している{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=519-521}}。
{{Quotation|
「[[スピリチュアル]]」と呼ばれるものこそ[[超越]]性の真の意味だと考える向きもあるが、じつは[[汎神論|超越性は現実世界のすべてのレベルに見ることができる]]。 … <br>
「[[スピリチュアリティ]]」のもうひとつの含意は「[[魂]]をもつ」ということで、いうなれば、「[[意識]]がある」ということだ。「個人性」の土台である意識は、多くの[[哲学]]的、[[宗教]]的[[伝統]]において、[[真実]]を意味すると考えられている。一般的な[[仏教]]の[[存在論]]では、むしろ[[主観]]的──すなわち意識的な──経験こそが究極の真実だとされており、物理的または客観的現象は[[マーヤー]]([[幻覚|幻影]])だと考えられている。 … ありとあらゆる[[一神教]]の伝統において、[[唯一神|神]]はその全てを有し、しかもいっさいが[[無限]]である──無限の知識、無限の知性、無限の美、無限の創造性、無限の愛をもつ──と説かれてきた。

もちろん、[[加速主義|加速しながら進んでいく]][[進化#生物学以外での「進化」概念|進化]]でさえ、無限のレベルに達することはとうていできない。しかし、[[指数関数]]的に急激な[[進歩]]をとげながら、進化は確実にその方向へ進んでいる。進化は、神のような極致に達することはできないとしても、[[神性|神の概念]]に向かって厳然と進んでいるのだ。

したがって、人間の思考をその生物としての制約から解放することは、[[本質]]的に[[スピリチュアリティ#「スピリチュアル・ビジネス」|スピリチュアルな事業]]であるとも言える。{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=519-521}}
}}
また前掲書でカーツワイルは、特異点によってもたらされる未来世界の説明として、次の寸劇を描いている{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=485-486}}。
{{Quotation|
'''モリー二〇〇七''':では、宇宙がエポック6(われわれの知能の非生物的部分が宇宙へ広がる段階)になると、どういうことになるの? … わたし、まだエポック6の宇宙がどんなふうか想像しようとしてるんだけど。

'''[[ティモシー・リアリー]]''':宇宙は鳥みたいに飛んでいるだろう。

'''モリー二〇〇七''':でも、どこを飛んでいるの? 宇宙は全てなのでは?

'''リアリー''':その質問は、片手の[[拍手]]はどんな音、と訊いているようなものだな。

'''モリー二〇〇七''':ふうん。じゃあ、特異点は最初から[[禅]]の[[導師]]の[[神秘主義|心の中]]にあったのね。{{Sfn|カーツワイル|2007|pp=485-486}}
}}
{{See also|[[#経済史学からの批判|経済史学からの批判]]|[[#宗教批判的観点からの批判|宗教批判的観点からの批判]]}}
カーツワイルは自分の説明を成功させるため、ムーアの法則を元に[[収穫加速の法則]]を考え出した。彼の著作は、2012年以降の[[ディープラーニング]]の普及と共に注目された。技術的特異点という概念は1980年代以前からヴァーナー・ヴィンジが提唱しており、カーツワイルはそうした過去の傾向や議論をまとめたと言える。

カーツワイルによれば、「技術的特異点」とは「100兆の極端に遅い結合(シナプス)しかない人間の脳の限界を、人間と機械が統合された文明によって超越する」瞬間である<ref name=":0">レイ・カーツワイル, ポスト・ヒューマン誕生 - コンピュータが人類の知性を超えるとき, NHK出版, pp33, 2007.</ref>。これはカーツワイルが言う、進化の6つのエポックにおける「エポック5」と同義である<ref name=":0" />。電子計算機(コンピュータ)の発明以前から同様の主張はあったが、2005年にレイ・カーツワイルが発表した『[[ポストヒューマン (人類進化)|ポスト・ヒューマン]]誕生:コンピュータが人類の知性を超えるとき』(原題 ''The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology'')において、宇宙・生命・科学技術の歴史を述べる技術哲学的な主張として整理された。[[未来研究]](フューチャリズム)では、[[テクノロジー史|科学技術の歴史]]から推測できる、未来モデルの適用限界点と言われる。

2045年は「汎用人工知能(AGI)が人類史上初めて出現する年」または「汎用人工知能(AGI)が人類史上初めて人間よりも賢くなる年」であると言うのは、一般人の誤解だとも言われる。カーツワイルの予想では、そのような出来事は[[2029年]]頃に起こり、[[2045年]]頃には、広く普及可能な価格である1000ドルのコンピューターの演算能力がおよそ人間の脳の100億倍([[ペタ]][[FLOPS]])になり、この時期に技術的特異点によって人間の能力と社会が根底から覆って変容する<ref name=":1" />。カーツワイルによれば、人類の進化として最も理想的な形で技術的特異点を迎える場合、「[[GNR革命]]」の進行により、人類の知性は機械の知性と完全に融合し、人類がポスト・ヒューマンに進化する。 ただし平木敬の推測によれば、そもそも人間の脳の処理能力は[[ゼタ]](100万ペタ)FLOPS級である<ref>[https://www.youtube.com/watch?v=ok-3jrUftK0 2017/03/17 平木敬教授 最終講義「計算機を創る」]</ref>。

[[2016年]]頃から[[モノのインターネット|IoT]]や人工知能が広まったことで、カーツワイルの「仮説」に関する議論が活発化した。2017年12月29日にEテレに出演した際、彼は「自らを改良し続ける人工知能が生まれること。それが(端的に言って)シンギュラリティーだ」と発言した。

カーツワイルによれば、技術的特異点では<ins>人間性の増強</ins>が起こり、同時に<ins>技術が人間的な精巧さと柔軟さに追いつき、大幅に抜き去る</ins>が、<ins>人類と技術が敵対するようなイメージは大間違い</ins>だという。さらに、[[人間]]は[[テクノロジー]]上に自分の[[意識]]を移す時が来る<ref>{{Cite web |title=シンギュラリティとは?2045年問題や社会への影響について解説|Udemy メディア |url=https://udemy.benesse.co.jp/data-science/ai/singularity.html |website=Udemy メディア |access-date=2024-08-16 |language=ja}}</ref>という。{{関連記事|ポストヒューマン (人類進化)}}

=== ヴァーナー・ヴィンジ ===
ヴィンジが特異点について描いた作品には、その発生(『マイクロチップの魔術師』)、先延ばし(The Peace Warの「Bobble」)、抹消の試み(Marooned in Realtime)があり、特異点は「機械が人間の役に立つふりをしなくなること」と定義されている。

=== ヒューゴ・デ・ガリス ===
[[遺伝的アルゴリズム]]や、[[国際電気通信基礎技術研究所]](ATR)での[[人工脳]]の研究者であるヒューゴ・デ・ガリスの予測では、特異点は21世紀後半に来て、人間の知能に対しAIが1兆の1兆倍(10の24乗倍)になる<ref name="transcendence">{{citation|title=映画『トランセンデンス』公開記念 WIREDスペシャルページ「2045年、人類はトランセンデンスする?」 |url=http://wired.jp/special/transcendence/}}</ref>。

=== 齊藤元章 ===
[[2014年]]、[[PEZY Computing]]代表の[[齊藤元章]]によれば、[[スーパーコンピュータ]]の加速度的な性能向上によって[[エクサスケールコンピュータ|エクサスケール・コンピューティング]]が実現{{Efn2|2020年3月に[[分散型]]コンピューティングを行う[[Folding@home]]プロジェクトが世界で初めてexaFLOPSの壁を突破した。}}されると、大規模なシミュレーションが可能になるので次々と難解な社会問題が解決され始め、プレ・シンギュラリティ(前特異点または社会的特異点)という社会的な変化が明確化する。その後は莫大な[[計算資源]]に基づく特化型AIによって、人類の大部分が「不労・[[不老不死|不老]]」を選ぶことすら可能になるという<ref name=ja.catalyst>[https://web.archive.org/web/20170805060401/http://ja.catalyst.red/articles/saito-watanabe-talk-9/ プレシンギュラリティ到来まで「あと5年」-シンギュラリティ-#09] CATALYST</ref><ref name=":2" />。

PEZY Computingの起業者であり、スーパーコンピュータや汎用人工知能(AGI)の研究開発者でもある齊藤元章の2014年の自著『エクサスケールの衝撃』によれば、スーパーコンピュータ「京」の100倍程度の性能(1エクサフロップス)を持つ次世代スーパーコンピュータの実用化と普及により、プレ・シンギュラリティ(社会的特異点)が2025年までに起きる<ref name=ja.catalyst /><ref name=":4">エクサスケールの衝撃 次世代スーパーコンピュータが壮大な新世界の扉を開く 齊藤元章</ref>。プレ・シンギュラリティでは「[[GNR革命]]」が始まり、肉体と技術の融合、現実を超えるVR、核融合炉による無限のエネルギー、無償の衣食住、不老不死などが実現し、それらは早ければ2020年から市場に影響してくると言う<ref>[https://seminar.jp.fujitsu.com/public/seminar/view/5426 【経営者様・経営幹部様向】時代を先取る経営トップセミナー(東京開催) 開催概要:開催日時 2017年04月20日、プレシンギュラリティ(社会的特異点)と経営環境の激変] 富士通</ref>。齊藤元章は、2014年時点ではPEZY Computingの開発プロジェクトがプレ・シンギュラリティを実現すると考えていたが、その後の予想以上に急速なAI研究を見て、2016年をプレ・シンギュラリティ元年と捉えるようになった<ref>http://www.nira.or.jp/pdf/201708report.pdf</ref>。プレ・シンギュラリティでは多数の天才・奇才・異才が人類文明を想像できないほど高度化させる、と予測している<ref>齊藤元章 『エクサスケールの衝撃』 PHP研究所、2014年、506-518頁。</ref>。例えば、人類は生きるための労働から解放されて創作活動に専念し、ネット上の集合知を通じて、現在の「芸術」を超越した芸術的・独創的なものや新しい価値観を生み出し得るという。人類文明が直面する問題も、プレ・シンギュラリティ以後は多数の天才が高度なテクノロジーと集合知で解決していくと予測している。(余談だが、彼は2017年12月5日に[[詐欺罪]]容疑で逮捕された<ref name="nikkei20171205">{{Cite news|title=「スパコン」ベンチャー社長逮捕 助成金詐取容疑|newspaper=日本経済新聞|date=2017-12-05|url=https://web.archive.org/web/20171205194654/https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24265320V01C17A2CC0000/|accessdate=2017-12-05}}</ref>。2020年3月25日、詐欺罪と法人税法違反(脱税)の罪で東京地裁から懲役5年の実刑判決を受けた<ref>{{Cite news|url=https://web.archive.org/web/20200326191431/https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57202170V20C20A3CC1000/ |title=スパコン助成金詐取 前社長に懲役5年判決、東京地裁|newspaper=日本経済新聞|date=2020-03-25|accessdate=2020-04-10}}</ref>。)

[[松田卓也]]と小林秀章(セーラー服おじさん)は未来の人類を「動物園にいる動物」「大きな屋敷に住んでいる猫」と呼んだ<ref>https://hillslife.jp/innovation/2019/07/16/singularity-and-superintelligence/</ref>。また、日本トランスヒューマニスト協会はマイクロチップを埋め込む人を募集した<ref>https://www.asahi.com/articles/ASM1044TRM10PLBJ002.html</ref>。

=== ユルゲン・シュミットフーバー ===
1995年以来、[[ルガーノ]]のスイス人工知能研究所(IDSIA)の研究員であり、特に時系列データを扱う機械学習に必要な[[長・短期記憶|LSTM]]理論の考案者の一人として知られる。

2018年2月のインタビューでは、人間と機械の融合の可能性や、[[宇宙空間]]に対するAIの適応可能性を述べ、「いずれにせよ、我々の知っているいわゆる「人間」という存在はあまり重要ではなくなるだろう。この先、何もかもが変わる。そして「古典的な人間」が支配していた文明社会は、この先数十年のうちに終焉を迎えることになるだろう。」とポストヒューマン登場の可能性を強く支持している<ref>{{Cite web|和書|title=「人間は既にサイボーグのような存在」 スイスAI研究所シュミットフーバー氏に聞くAIの未来|url=https://www.swissinfo.ch/jpn/business/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E7%9F%A5%E8%83%BD_-%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AF%E6%97%A2%E3%81%AB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AA%E5%AD%98%E5%9C%A8--%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9ai%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E6%B0%8F%E3%81%AB%E8%81%9E%E3%81%8Fai%E3%81%AE%E6%9C%AA%E6%9D%A5/43870860|website=SWI swissinfo.ch|accessdate=2019-12-19|language=ja|first=Samuel|last=Schlaefli}}</ref>。

== アイディア ==
=== アイディアの歴史 ===
技術的特異点に類似したアイディアは少なくとも19世紀半ばまで遡るが<ref>
{{Citation
| last = Thornton
| first = Richard
| title = The Expounder of Primitive Christianity
| place = Ann Arbor, Michigan
| year = 1847
| volume = 4
| page = 281
| url = https://books.google.co.jp/books?id=ZM_hAAAAMAAJ&dq=%22Primitive+Expounder%22+thornton+1847&pg=PA281&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q=thinking%20machine&f=false
}}</ref><ref>A M Turing, ''Intelligent Machinery, A Heretical Theory'', 1951, reprinted ''Philosophia Mathematica'' (1996) 4(3): 256-260 {{doi|10.1093/philmat/4.3.256}}</ref>、技術的な文脈で「特異点」という言葉を最初に使ったのは[[ジョン・フォン・ノイマン]]とされる<ref>The Technological Singularity by Murray Shanahan, (MIT Press, 2015), page 233</ref>。1958年5月、[[スタニスワフ・ウラム]]はノイマンとの会話に言及して次のように書いている<ref>Ulam, S., Tribute to John von Neumann, Bulletin of the American Mathematical Society, vol 64, nr 3, part 2, May, 1958, p1-49.</ref>。
{{quotation|あるとき、進歩が速まる一方の技術と生活様式の変化が話題となり、どうも人類の歴史において何か本質的な特異点が近づきつつあって、それを越えた先では我々が知るような人間生活はもはや持続不可能になるのではないかという話になった。}}
{{quotation|あるとき、進歩が速まる一方の技術と生活様式の変化が話題となり、どうも人類の歴史において何か本質的な特異点が近づきつつあって、それを越えた先では我々が知るような人間生活はもはや持続不可能になるのではないかという話になった。}}


1965年、統計家 I. J. Good は、人類を超えた知能による世界への影響強調し、より特異点に迫るシナリオを描いた。
1965年、統計家 I. J. Good は、人類を超えた知能世界を変える特異点シナリオを描いた。


{{quotation|超知的マシンを、いかなる賢い人もはるかに凌ぐ知的なマシンであるとする。そのようなマシンの設計も知的活動に他ならないので、超知的マシンはさらに知的なマシンを設計できるだろう。それによって間違いなく知能の爆発的発展があり、人類は置いていかれるだろう。従って、最初の超知的マシンが人類の最後の発明となる。}}
{{quotation|超知的マシンを、いかなる賢い人もはるかに凌ぐ知的なマシンであるとする。そのようなマシンの設計も知的活動に他ならないので、超知的マシンはさらに知的なマシンを設計できるだろう。それによって間違いなく知能の爆発的発展があり、人類は置いていかれるだろう。従って、最初の超知的マシンが人類の最後の発明となる。}}


ジェラルド・S・ホーキンズは、著書『宇宙へのマインドステップ』(白揚社、1988年2月。原著1983年8月)の中で「マインドステップ」の観念を明確にし、方法論または世界観に起きた劇的で不可逆な変化であるとした。彼は、人類史の5つのマインドステップと発生した「新しい世界観」に伴う技術を示した(彫像、筆記、数学、印刷、望遠鏡、ロケット、コンピュータ、ラジオ、テレビ……)く、「個々の発明は[[集合精神 (サイエンス・フィクション)|集合精神]]を現実に近づけ、段階をひとつ上ると人類と宇宙の関係の理解が深まる。マインドステップの間隔は短くなってきている。人はその加速に気づかないではいられない」ホーキンズは経験に基づいてマインドステップ方程式を定量化し、今後のマインドステップの発生時期を明らかにした。次のマインドステップは2021年で、その後2つのマインドステップが2053年までに来るとしている。そして技術的観点を超越し次のように推測した。
ジェラルド・S・ホーキンズは『宇宙へのマインドステップ』(白揚社、1988年2月。原著1983年8月)で「マインドステップ」という概念をし、それは方法論世界観に起きた劇的で不可逆な変化であるとした。彼は、人類史の5つのマインドステップそこに発生した「新しい世界観」および技術を示した(彫像、筆記、数学、印刷、望遠鏡、ロケット、コンピュータ、ラジオ、テレビ等)いわく、「個々の発明は[[集合精神 (サイエンス・フィクション)|集合精神]]を現実に近づけ、段階をひとつ上ると人類と宇宙の関係の理解が深まる。マインドステップの間隔は短くなってきている。人はその加速に気づかないではいられない」ホーキンズは自分の経験によってマインドステップを定量的に方程式化し、今後のマインドステップの発生時期を述べた。次のマインドステップは2021年で、その後2つのマインドステップが2053年までに来ると言う。そして技術的観点を超越し次のように推測した。


{{quotation|マインドステップは……一般に、新たな人類の展望、ミームやコミュニケーションに関する発明、次のマインドステップまでの(計算可能ではあるが)長い待機期間を伴う。マインドステップは本当に予期されることはなく、初期段階では抵抗がある。将来、我々も不意打ちを食らうかもしれない。我々は今は想像もできない発見や概念に取り組まざるをえなくなるかもしれないのだ。}}
{{quotation|マインドステップは……一般に、新たな人類の展望、ミームやコミュニケーションに関する発明、次のマインドステップまでの(計算可能ではあるが)長い待機期間を伴う。マインドステップは本当に予期されることはなく、初期段階では抵抗がある。将来、我々も不意打ちを食らうかもしれない。我々は今は想像もできない発見や概念に取り組まざるをえなくなるかもしれないのだ。}}


特異点概念は数学者であり作家でもある[[ヴァーナー・ヴィンジ]]によって大いに普及した。ヴィンジは1980年代特異点について語りはじめ、[[OMNI|オムニ誌]]の1983年1月号で初めて印刷物の形で内容を発表した。彼は後に1993年のエッセイ "The Coming Technological Singularity" の中でその概念をまとめた(ここには、よく引用される「30年以内に私は超人間的な知能を作成する技術的な方法を持ち、直後に人の時代は終わるだろう」という一文を含んでいる)。
特異点という概念は数学者で作家[[ヴァーナー・ヴィンジ]]が広めた。ヴィンジは1980年代から特異点について語り、それを初めて印刷物として発表したのは[[オムニ (雑誌)|オムニ誌]]の1983年1月号だった。彼は後に1993年のエッセイ "The Coming Technological Singularity" でその概念をまとめた(こは、よく引用される「30年以内に私たちは超人間的な知能を作成する技術的な方法を持ち、直後に人の時代は終わるだろう」という一文を含んでいる)。


ヴィンジは、[[トランスヒューマニズム|超人的]]な知能が、彼らを作成した人間よりも速く自らの精神を強化することができるであろうと書いている。「''人より偉大な知能が進歩を先導する時、その進行はもっとずっと急速になるだろう''」とヴィンジは言う。自己を改良する知性のフィードバックループは短期間で大幅な技術の進歩を生み出すと彼は予測している。
ヴィンジは、[[トランスヒューマニズム|超人的]]な知能が、彼らを作成した人間よりも速く自らの精神を強化することができるであろうと書いている。「人より偉大な知能が進歩を先導する時、その進行はもっとずっと急速になるだろう」とヴィンジは言う。自己を改良する知性のフィードバックループは短期間で大幅な技術の進歩を生み出すと彼は予測している。


== 超人間的知性の創造 ==
=== 超人間的知性の創造 ===
[[ヴァーナー・ヴィンジ]]は、考えられうる人類を超える知性を創造する方法として、以下の4つを挙げている<ref>[https://www-rohan.sdsu.edu/faculty/vinge/misc/singularity.html The Coming Technological Singularity. 2008年3月14日]</ref>。
人類を超える知性を創造する方法は、人間の脳の[[知能増幅]]と[[人工知能]]の2つに分類される。
*超人間的知性を持ったAIの開発
*巨大コンピュータネットワークの「目覚め」による超人間的知性の獲得
*[[ブレイン・マシン・インタフェース]]による人間の強化
*[[バイオテクノロジー]]による人間の生物的知性の増強


他には向知性薬([[向精神薬]]の一種)、[[精神転送]]、AIアシスタントなどが提案されている。[[ジョージ・ダイソン (科学者)|ジョージ・ダイソン]]の『Darwin Among the Machines』によると、複雑な[[コンピュータネットワーク]]や大きな[[ニューラルネットワーク]]は知性([[群知能]])を生み出し得る。
人間の知能増進の方法として考えられる手法は様々である。[[バイオテクノロジー]]、向知性薬([[向精神薬]]の一種)、AIアシスタント、脳とコンピュータを直結するインターフェイス([[ブレイン・マシン・インタフェース]])、[[精神転送]]などがそれである。
劇的に寿命を延ばす技術、[[人体冷凍保存]]、分子レベルの[[ナノテクノロジー]]などがあれば、より進歩した未来の知能増進医療を受けることができる。さらに増進した知能から得られる技術として不死や人体改造を受けられる可能性も出てくる。


精神転送は、人間の知性をデジタル化してコピーするという、人工知能の代替的な作り方である。脳の詳細な情報を得る[[電脳化]]技術が精神転送に繋がると言う。
特異点到達に積極的な組織は、その方法として人工知能を選ぶことが最も一般的である。例えば、Singularity Institute(特異点研究所)は、2005年に出版した "Why Artificial Intelligence?" の中で、その選択理由を明らかにしている。


特異点到達に積極的な組織は、その方法としてAIを選ぶことが多い。Singularity Institute(特異点研究所)は、2005年の出版物"Why Artificial Intelligence?"でその理由を説明している。
[[ジョージ・ダイソン (科学者)|ジョージ・ダイソン]]は、自著 ''Darwin Among the Machines'' の中で、十分に複雑な[[コンピュータネットワーク]]が[[群知能]]を作り出すかもしれず、将来の改良された計算資源によってAI研究者が知性を持つのに十分な大きさの[[ニューラルネットワーク]]を作成することを可能にするかもしれないという考えを示した。[[精神転送]]は人工知能を作る別の手段として提案されているもので、新たな知性をプログラミングによって創造するのではなく、既存の人間の知性をデジタル化してコピーすることを意味する。


== カーツワイルの収穫加速の法則 ==
=== 収穫加速の法則 ===
[[ファイル:ParadigmShiftsFrr15Events.jpg|thumb|right|250px|人類史上のパラダイムシフトとなった重要な出来事を、15の独立したリストで示した[[両対数グラフ]]<ref>リストはカール・セーガン、ポール・D・ボイヤー、ブリタニカ百科事典、アメリカ自然史博物館、アリゾナ大学他。レイ・カーツワイル編集。</ref>。]]
[[ファイル:ParadigmShiftsFrr15Events.jpg|thumb|right|250px|人類史上のパラダイムシフトとなった重要な出来事を、15の独立したリストで示した[[両対数グラフ]]<ref>リストはカール・セーガン、ポール・D・ボイヤー、ブリタニカ百科事典、アメリカ自然史博物館、アリゾナ大学他。レイ・カーツワイル編集。</ref>。]]


[[レイ・カーツワイル]]は歴史研究の結果、技術的進歩指数関数的成長パターンにたがっいると結論付け、特異点が迫ってという説の根拠としている。これを「[[収穫加速の法則]]」(The Law of Accelerating Returns)と呼ぶ。彼は集積回路指数関数的細密化してきているという[[ムーアの法則]]一般化し、集積回路が生まれる遥か以前の技術も同じ法則にしたがっているとた。
[[レイ・カーツワイル]]は歴史研究の結果、技術的進歩指数関数的成長しており特異点がいという「[[収穫加速の法則]]」(The Law of Accelerating Returns)を結論的に主張した。彼は[[ムーアの法則]](集積回路指数関数的細密化元に、集積回路以前の技術も同じ法則にっていると述べた。


彼によれば、ある技術が限界に近づくとたな技術が代替するように生まれてく[[パラダイムシフト]]がますます一般化し、「技術革新が加速されて重大なものとなり、人類の歴史に断裂を引き起こす」と予測している(カーツワイル、2001年)。カーツワイルは特異点が21世紀末までに起きると確信しており、その時期を2045年いる(カーツワイル、2005年)。彼が予想しているのは特異点に向けた緩やかな変化であり、ヴィンジらが想定する自己改造する超知性による急激な変化とは異なる。この違い「ソフトな離陸」(soft takeoff)と「ハードな離陸」(hard takeoff)という用語で表すこともる。
の予測によれば、ある技術が限界に近づくと代替的に新技術が生まれるので[[パラダイムシフト]]がより一般化し、「技術革新が加速されて重大なものとなり、人類の歴史に断裂を引き起こす」(カーツワイル、2001年)。は特異点が21世紀末までに──つまり2045年に──起きると確信しており、それはヴィンジら想定違って緩やかな変化である。この違い「ソフトな離陸」(soft takeoff)と「ハードな離陸」(hard takeoff)とも言われる。


カーツワイルがこの法則を提案する以前、多くの[[社会学者]][[人類学者]]は社会文化の発展を論じる[[社会理論]]を構築してきた。[[ルイス・H・モーガン]]、[[レスリー・ホワイト]][[ゲルハルト・レンスキ]]らは文明の発展の原動力は技術の進歩であしているモーガンのいう社会的発展の三段階は技術的マイルストーンによって分けられている。ホワイトは特定の発明ではなく、エネルギー制御方法(ホワイトが化の最重要機能と呼ぶもの)によって文化の度合いを測った。彼のモデルは[[宇宙文明#カルダシェフの定義|カルダシェフの文明階梯]]の考え方を生むこととなった。レンキはもっと現代的な手法を採用し、社会の保有する情報量を進歩の度合いとした。
カーツワイルがこの法則を提案する以前、[[社会学者]][[人類学者]]ら([[ルイス・H・モーガン]]、レスリー・ホワイト、ゲルハルト・レンスキなど)が、技術進歩を文明の発展の原動力とす社会理論を構築してきた彼ら技術的マイルストーンエネルギー制御方法や情報量などで明発展の度合いを測った。{{関連記事|宇宙文明#カール・セーガンによるカルダシェフ・スケール定義|カルダシェフケール}}


1970年代末以降、[[アルビン・トフラー]]([[未来の衝撃]]の著者、[[ダニエル・ベル]]、および[[ジョンネイスビッツ]]は、[[脱工業化社会]]に関する理からアプローチしいるが、その考え方は特異点近傍や特異点後の社会の考え方類似して。彼らは工業化社会の時代が終わりつつあり、サービスと情報が工業と製品に取って代わると考えた。
1970年代末以降、[[アルビン・トフラー]](未来の衝撃の著者))、[[ダニエル・ベル]]、ジョンネイスビッツは、[[脱工業化社会]]おり、そは特異点や特異点後の社会という思想い。彼らは工業化社会が終わりつつあり、工業と製品はサービスと情報に取って代わられると考えた。


=== 進化の6つのエポック ===
逆に、Theodore Modis と Jonathan Huebner は技術革新の加速が止まっただけではなく、現在減速していると主張した。John Smart は彼らの結論を批判している[http://accelerating.org/articles/huebnerinnovation.html]。また、カーツワイルが理論構築のために過去の出来事を恣意的に選別したという批判もある。
未来学者であるレイ・カーツワイルは、宇宙における情報の進化は6つの段階を経るとし、'''進化の6つのエポック'''と名付けている<ref>レイ・カーツワイル, ポスト・ヒューマン誕生 - コンピュータが人類の知性を超えるとき, NHK出版, pp28, 2007.</ref>。収穫加速の法則はその一部であり、エポック5は技術的特異点である。


{{Quotation|進化は間接的に作用する。ある能力が生み出され、その能力を用いて次の段階へと発展する。
== 特異点の妥当性と安全性 ==
多くの特異点論者はナノテクノロジーが人間性に対する最も大きな危険のひとつであると考えている。このため、彼らは人工知能をナノテクノロジーよりも先行させるべきだとする。Foresight Institute などは分子ナノテクノロジーを擁護し、ナノテクノロジーは特異点以前に安全で制御可能となるし、有益な特異点をもたらすのに役立つと主張している。


;エポック1 物理と化学
友好的人工知能の支持者は、特異点が潜在的に極めて危険であることを認め、人間に対して好意的なAIを設計することでそのリスクを排除しようと考えている。[[アイザック・アシモフ]]の[[ロボット工学三原則]]は、人工知能搭載ロボットが人間を傷つけることを抑止しようという意図によるものである。ただし、アシモフの小説では、この法則の抜け穴を扱うことが多い。
原子構造の情報


;エポック2 生物
[[ソフトバンク]]社社長の[[孫正義]]は、シンギュラリティ実現の年度を「2018年前後」と予想し、単純労働は人工知能に任せ、人類は好きなことに専念できると好意的に予想した<ref>https://softbankworld.com/ SoftBank World 2015(公式サイト)</ref><ref>http://cyclestyle.net/article/2015/08/01/25914.html 孫正義社長「2018年前後にシンギュラリティは訪れる」ソフトバンクワールド2015 その3 (CYCLE)</ref><ref>http://robotstart.info/2015/07/30/news179.html 【総力特集】SoftBank World 2015レポート~その1「基調講演:情報革命で、今日、次の世界へ。」(ロボスタドットインフォ-ロボット情報WEBマガジン-)</ref>。
DNAの情報


;エポック3 脳
=== 危険性 ===
ニューラル・パターンの情報
考えられうる超人間的知性の中には、人類の生存や繁栄と共存できない目的をもつものもあるかもしれない。例えば、知性の発達とともに人間にはない感覚、感情、感性が生まれる可能性がある。AI研究者フーゴ・デ・ガリスは、AIが人類を排除しようとし、人類はそれを止めるだけの力を持たないかもしれないと言う。他によく言われる危険性は、分子ナノテクノロジーや遺伝子工学に関するものである。これらの脅威は特異点支持者と批判者の両方にとって重要な問題である。[[ビル・ジョイ]]は[[WIRED (雑誌)|WIRED]]で、その問題をテーマとして ''Why the future does't need us''(何故未来は我々を必要としないのか)を書いた(2000年)。[[オックスフォード大学]]の哲学者[[ニック・ボストロム]]は人類の生存に対する特異点の脅威についての論文 ''Existential Risks''(存在のリスク)をまとめた(2002年)。ボストロムは、『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies(超知能:道筋、危険、戦略)』の著者でもある。


;エポック4 テクノロジー
[[スティーブン・ホーキング]](宇宙物理学)は、人類の能力を超える人工知能が人類を滅ぼしかねない危険性があり、生物学的進化に制約される人類が人工知能の発達に対抗することは困難だと考えており<ref>2014年12月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙</ref><ref>http://www.nikkei.com/article/DGXMZO80435640T01C14A2000000/ 日本経済新聞</ref>、[[国際連合機関|国連代表部]]と[[国際連合機関|国際連合地域間犯罪司法研究所]]が主催した会議でも懸念を表明した<ref>http://gizmodo.com/experts-warn-un-panel-about-the-dangers-of-artificial-s-1736932856</ref><ref>https://www.youtube.com/watch?v=W9N_Fsbngh8</ref>。この国連の会議では、ニック・ボストロムも、特に人間の能力をはるかに超える人工知能を制御する方法は未解決であり、解決のための研究の必要性を訴えている<ref>http://gizmodo.com/experts-warn-un-panel-about-the-dangers-of-artificial-s-1736932856</ref><ref>https://www.youtube.com/watch?v=W9N_Fsbngh8</ref>。
ハードウェアとソフトウェアの設計情報


;エポック5 テクノロジーと人間の知能の融合
ホーキングは、2015年5月12日にロンドンで開催されたツァイトガイスト2015でも、人工知能が「100年以内に人間の文明を終わらせる」可能性を指摘した<ref>http://www.techtimes.com/articles/53180/20150514/robots-will-overtake-human-intelligence-within-100-years-warns-stephen-hawking.htm TECH TIMES</ref>。ホーキングはまた、2014年でも、マックス・テグマーク(物理学)、フランク・ウィルチェック、スチュワート・ラッセルらとともに、人工知能に関する理解が一般に浸透していない問題を指摘した<ref>http://www.huffingtonpost.com/stephen-hawking/artificial-intelligence_b_5174265.html Transcending Complacency on Superintelligent Machines(ハフィントンポスト)</ref><ref>http://gizmodo.com/experts-warn-un-panel-about-the-dangers-of-artificial-s-1736932856</ref>。
生命のあり方(人間の知能も含む)が、人間の築いたテクノロジー(指数関数的に進化する)の基盤に統合される


;エポック6 宇宙が覚醒する
[[ハーバード・ロー・スクール]]と[[ヒューマン・ライツ・ウォッチ]]は、完全な自律兵器の開発・運用を国際的に禁止するべきだと2015年4月の報告書で要求した<ref>http://www.techtimes.com/articles/53180/20150514/robots-will-overtake-human-intelligence-within-100-years-warns-stephen-hawking.htm TECH TIMES</ref>。
宇宙の物質とエネルギーのパターンに、知能プロセスが充満する}}


=== プレ・シンギュラリティ(前特異点/社会的特異点) ===
=== ネオ・ラッダイトの見方 ===
現実の動向は予測以上に急速だとも言われる。2014年に[[ロッキード・マーティン]]社の研究チームは、超小型の実用的な核融合炉を10年後(2024年)までに実現すると発表した。[[テスラモーターズ]]CEOの[[イーロン・マスク]]は、2017年に人間の脳とAIとの接続を研究開発する[[ベンチャー|スタートアップ]]「ニューラリンク」を起業した<ref>[http://jp.wsj.com/articles/SB11885338817628184768404583049302022843788 テスラCEOが新会社、脳とコンピューター融合へ] ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 記事:2017年 3月 28日</ref>。
一部の人々は、先端技術の開発を許すことは危険すぎると主張し、そのような発明をやめさせようと主張している。ユナボマーと呼ばれたアメリカの連続爆弾魔[[セオドア・カジンスキー]]は、技術によって上流階級が簡単に人類の多くを抹殺できるようになるかもしれないと言う。一方、AIが作られなければ十分な技術革新の後で人類の大部分は家畜同然の状態になるだろうとも主張している。カジンスキーの言葉は[[ビル・ジョイ]]の記事およびレイ・カーツワイルの最近の本に書かれている。カジンスキーは特異点に反対するだけでなくネオ・ラッダイト運動をサポートしている。多くの人々は特異点には反対するが、[[ラッダイト運動]]のように現在の技術を排除しようとはしない。


2017年の報道によれば、齊藤元章が示したように日本の産業界では、プレ・シンギュラリティ以降は機械のみが[[経営]]を行う純粋機械化経済に移行する([[第4次産業革命]]が到来する)のであり、そのための具体的な施策が行われ始めている<ref name=":2">https://web.archive.org/web/20170714232859/https://www.fujitsu.com/jp/group/fjm/mikata/column/fjm4/001.html</ref>。
カジンスキーだけでなく、ジョン・ザーザンやデリック・ジェンセンといった反文明理論家の多くはエコアナーキズム主義を唱える。それは、技術的特異点を機械制御のやりたい放題であるとし、工業化された文明以外の野性的で妥協の無い自由な生活の損失であるとする。[[地球解放戦線]](ELF)や[[Earth First!]]といった環境問題に注力するグループも基本的には特異点を阻止すべきと考えている。


== 時期の予測 ==
[[共産主義]]者は[[唯物史観|史的唯物論]]に立っているため、特異点を基本的に容認し、[[集合意識|意識の共有]]に肯定的でAIロボットの反乱を階級の認識と考えている。
ヴィンジは1993年のエッセイで、技術的特異点の到来は2005年~2030年と予想した。齊藤元章は、2030年より前だと言う。カーツワイルは、コンピューターの知性が人間を超える時期は2020年代と予想している。
一方、特異点によって未来の雇用機会が奪われることを心配する人々がいるが、[[ラッダイト運動]]者の恐れは現実とはならず、産業革命以後には職種の成長があった。経済的には特異点後の社会はそれ以前の社会よりも豊かとなる。特異点後の未来では、一人当たりの労働量は減少するが、一人当たりの富は増加する。


{{quote|・人間の知能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピューターでは10年以内に、パーソナル・コンピュータ程度のサイズの装置ではその次の10年以内に得られる。'''2020年代半ば'''までに、人間の知能をモデル化した有効なソフトウェアが開発される。
== 技術的特異点に関する誤解 ==
カーツワイルが想定する2045年の技術的特異点を「コンピューターの知性が人間を超えること」とする報道が一部メディアで見られるが、カーツワイルはコンピューターの知性が人間を超える時期を2020年代と予想しており、誤解である。


{{quotation|人間の知能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピューターでは10年以内に、パーソナル・コンピュータ程度のサイズの装置ではその次の10年以内に得られる。'''2020年代半ば'''までに、人間の知能をモデル化した有効なソフトウェアが開発される。
* ハードとソフトの両方が人間の知能を完全に模倣できるようになれば、'''2020年代'''の終わりまでには、コンピューターが[[チューリングテスト]]に合格できるようになり、コンピュータの知能が生物としての人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。ポスト・ヒューマン誕生 P.40、レイ・カーツワイル著、2005年}}{{Efn2|以下はカーツワイルの自著の内容:「人間の知能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピューターでは10年以内に、パーソナル・コンピュータ程度のサイズの装置ではその次の10年以内に得られる。2020年代半ばまでに、人間の知能をモデル化した有効なソフトウェアが開発される。」「ハードとソフトの両方が人間の知能を完全に模倣できるようになれば、2020年代の終わりまでには、コンピューターがチューリングテストに合格できるようになり、コンピュータの知能が生物としての人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。」(『ポスト・ヒューマン誕生』p.40、2005年)。<br>カーツワイルが想定する2045年の世界のシナリオは、<ins>1000ドルのコンピューターが人間の脳の100億倍の演算能力を持ち、技術的特異点への土台ができている</ins>、というものであり、コンピューター一台が人間(人類)の知能を超えた瞬間に激変が起きるとは言っていない
}}


カーツワイルの予想によると、2030年代初期には、コンピュータの計算能力は人類の生物的知能と同等になり、2045年には、1000ドルのコンピューターの演算能力がおよそ人間の脳の100億倍(10ペタ[[FLOPS]])になって、つまり技術的特異点への土台が十分に生まれていることになり、この時期に人間の能力と社会が根底から覆り変容する<ref name=":1">カーツワイル p.151</ref>。カーツワイルの予測を元に、技術的特異点は「[[2045年問題]]」とも言われる<ref>2045年問題 松田卓也 (著)</ref>。
・ハードとソフトの両方が人間の知能を完全に模倣できるようになれば、'''2020年代'''の終わりまでには、コンピューターがチューリングテストに合格できるようになり、コンピュータの知能が生物としての人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。
<br>
<br>
ポスト・ヒューマン誕生 P.40、レイ・カーツワイル著、2005年}}


特異点を予測する論者たちの中には、21世紀半ば~22世紀半ばという予測が多い<ref>[http://memo7.sblo.jp/article/16576836.html 「マース=ガロー・ポイント」: 七左衛門のメモ帳] Kevin Kelly による "The Maes-Garreau Point" の日本語を掲載。</ref>。しかし技術的特異点の概念自体は認めながらも、その実現は遠い将来だと考える[[ゴードン・ベル]]のような識者もいる。
カーツワイルが想定する2045年の世界のシナリオは端的に言えば「1000ドルのコンピューターの演算能力がおよそ10ペタ[[FLOPS]]の人間の脳の100億倍にもなり、技術的特異点に至る知能の土台が十分に生まれているだろう」というもので、コンピューター1台が人間一人あるいは人類全体の知能(100億人分の知能)を超えた瞬間に激変が起きることを意味していない。
{{Main|人工知能の歴史}}


== 実現に向けた技術開発の動向 ==
== キリスト教終末論との関係 ==
{{複数の問題|出典の明記=2019年10月|独自研究=2023年5月|精度=2023年5月|一次資料=2023年5月|section=1}}
技術的特異点の概念は、キリスト教終末論から影響を受けていると言われており、評論家や神学者の中には、技術的特異点の概念を信仰と同一視する者も居る。
2006年の[[ディープラーニング]]の発明により、ニューラルネットワークの深層化が可能になった。2012年にはディープラーニングによる画像認識手法が高性能を示し、世界的に社会実装が急進した。その後は[[神経科学]]と[[機械学習]]の統合で、[[汎用人工知能|AGI(汎用人工知能)]]の開発競争が起きた。現在は産官学で、人工知能への期待が高まっている。
WIRED誌創刊者のケヴィン・ケリーは、技術的特異点とキリスト教における[[携挙]]との類似性を指摘している<ref>http://memo7.sblo.jp/article/34660929.html</ref>。携挙とは、[[福音派]]における終末思想であり、[[ナザレのイエス]](キリスト)が再臨する際に、死を経由せず直接の天国へ導かれるという思想である。

=== AI研究の進捗状況 ===
==== 1956年 - 2000年 AI研究の開始→2度のブームと冬の時代→インターネットの民間への開放 ====
1956年の[[ダートマス会議]]により、学術界に人工知能分野が創設された。その時代においても、ディープラーニングの先駆け──すなわちCNNの先駆的な[[ネオコグニトロン]]やLeNet等──は提案されていたが、実用性は手書き文字認識などに限られていた。

AIブームは二度(1950年代の[[推論]]と[[探索]]、1980年代の[[エキスパートシステム]])起きたが、ブームの度に致命的な理論的限界が指摘されたため、投資も行われなくなりAI研究自体が停滞していた。また、計算機(コンピュータ)の性能はAIに必要な水準を大幅に下回り、通信網も学習用データセットも貧弱だったため、(たとえ理論的に完成されていたとしても)産業応用にはほど遠かった。

1980年代後半~1990年代中頃、人間の曖昧さや環境適応能力を模倣する[[ニューロファジィ]]等の特化型AIが盛んに研究開発・産業応用され、バズワード化した。白物家電製品においてもニューロファジィを売りにする程だった。だが当時はインターネットやコンピュータの性能もデータも不十分で、現実世界の複雑さに対応できず、期待されたほどの効果は得られなかった。理論的にも[[ファジィ集合]]と深層学習が組み合わせられない[[ニューラルネットワーク]]には、常に学習の難しさが付き纏った。1990年代のニューラルネットワークは非線形分離が可能だったが、過学習や勾配消失問題などが起きやすく、チューニングしても充分な性能は得られなかった。扇情的に売り出され盛んに研究開発が行われたが、応用は極めて限定的な産業に留まっていた。

1995年からインターネットが民間へ開放されて、通信量が増加していった。後にインターネットは、AIの学習用データセット収集基盤として重要になる。インターネットと強力なコンピュータの発達と支援があって大規模化が可能となり、ディープラーニングも実証実験と実用化が可能になった。

==== 2000年 - 2012年 インターネットの普及→ディープラーニングの発明→第3次AIブームの発生 ====
2000年代ではムーアの法則的なコンピュータの性能向上、そしてインターネットの普及により、計算資源の制約が減ってAI研究が好転し始めた。

2000年には制限ボルツマンマシンやコントラスティブ・ダイバージェンスの提案、それに基づく2006年のディープラーニングの発明、2010年以降のインターネットを利用した[[ビッグデータ]]収集環境の整備、2012年のGPU利用による大規模ディープラーニングの発展、同年のGoogleのディープラーニングを使った画像認識などにより、AI研究が各国から再注目され始めた。

この社会現象は'''第3次人工知能ブーム'''と呼ばれる。その後、ディープラーニングの研究と普及が加速し、レイ・カーツワイルが2005年に広めた概念「技術的特異点」が急に世界的な注目を浴びた。

==== 2012年以降 ディープラーニングの普及→汎用AIの開発競争 ====
{{複数の問題|出典の明記=2019年10月|独自研究=2023年5月|一次資料=2023年5月|雑多=2023年5月|section=1}}
2012年以降、AIへの投資が産官学で増え、特異点を引き起こすとされる汎用AIの研究と、既存AIのビジネス転用が活発に議論され始めた。

ディープラーニングの研究と普及で、[[汎用人工知能|AGI(汎用人工知能)]]を研究開発するプロジェクトは[[Google DeepMind]]を筆頭に、Vicarious、IBM Cortical Learning Center、全脳アーキテクチャ、PEZY ComputingのNSPU開発、OpenCog、GoodAI、NNAISENSE、IBM [[SyNAPSE]]、Numenta等が立ち上げられた。これらの研究開発では、脳のリバースエンジニアリングによる[[神経科学]]と[[機械学習]]の組み合わせが有望とされている<ref>http://wba-initiative.org/1653/</ref>。結果として、ディープラーニングを超える汎用性を持つ理論──例えばHTM(Hierarchical Temporal Memory)理論やCLS(Complementary Learning Systems)理論の更新版等──が提唱され始めた。また機械学習の高速化のために、CPU、GPU、FPGA、TPUよりも高い計算性能を持つ[[量子コンピュータ]]や[[アナログ計算機]]の導入も検討され始めた。

上記で実現が目指されているAGIの多くは、技術的限界のため全脳アーキテクチャ方式に基づいている。この方式は、脳の各機能ユニットを工学的に再現し、情報統合を行うことで疑似的な汎用性を目指す。ただしこれは、原子・分子レベルで脳を再現する全脳[[エミュレータ|エミュレーション]]方式に比べて、高度な情報統合(コネクトームなど)を不得手とする。

よってそれは脳の[[シミュレーション]]の範囲に留まり、人間的な感性が必要な創造的な仕事や繊細な作業は、全脳エミュレーション方式よりも不得意とされる。しかし、機械の動作速度は非常に高速であり、生物的な人間の脳を全側面で超える働きをする可能性が高い。人間の脳の規模における原子・分子レベルでの物理シミュレーションには膨大な計算資源が必要であり、理論的に完全な汎用性の実現には数十年単位の時間が必要だと考えられている<ref>[https://www.slideshare.net/HiroshiYamakawa/2013-1219ss, 全脳アーキテクチャ勉強会 第1回(山川) 2013.12.22]</ref>。

2017年頃から、実験的な量子コンピュータのクラウドサービスが展開されつつあり、このようなサービスの発達と普及で2020年代にはニューラルネットワークの学習が高速化されると見込まれる。

2015年以降、特化型AIの影響が企業動向を変えるほど広まった。2018年8月31日、原油高が大きな負担となっていたJALがNECに開発を依頼し、AI支援による旅客システムを導入し、約50年続けてきた人間の経験に基づく旅客システム運用を廃止したことで、空席をほぼ0に減らすことに成功し、利益率を大幅に上げた<ref>{{Cite news|title=JAL、想定超すAI効果 新システムで一転増益も|url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34784730Q8A830C1000000/|accessdate=2018-08-31|language=ja-JP|work=日本経済新聞 電子版}}</ref>。この事例はディープラーニング以降のAIが社会的に絶大に影響する事例と言え、未来の学びも一変するとされる<ref>[https://www.gizmodo.jp/2019/12/preferred-networks-ibm-mugendai.html 今起きているのは「計算」の大革命。コンピューター教育を変えるかもしれない「計算パラダイム」の考え方とは] ギズモード・ジャパン 2019.12.24.</ref>。

2021年6月、グーグルの研究者らが機械学習を用いてAI用チップのフロアプランを作成したところ、設計にかかる時間は人間の1/1000であり、設計されたチップの主要な指数(消費電力・性能など)は、人間が設計したもの以上だった<ref>[http://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13701 計算機科学:人工知能がコンピューターチップの設計をスピードアップ] Nature 2021.6.10.</ref>。

2022年、AIによる画像生成ブームが起こった<ref>[https://signal.diamond.jp/articles/-/1403 「これは世界を変える」 画像生成AIブームの火付け役が見いだした、その可能性] ダイヤモンド・オンライン 2022.9.7 {{要購読}}</ref>。

2022年10月、DeepmindのAlphaTensorは、深層学習プログラム用の行列乗算を高速化するアルゴリズム改良版を発見し<ref>[https://gigazine.net/news/20221006-deepmind-alphatensor/ 最強将棋AIが新境地へ、DeepMindのAI「AlphaTensor」が50年以上停滞していた行列乗算アルゴリズムの改良に成功] GIGAZINE 2022.10.6.</ref>、それを受けて数学者はより高速な行列乗算プログラムを発表した<ref>{{Cite tweet|user=lotz84_ |number=1580353636424888320 |title=この前DeepMindが出した行列掛け算アルゴリズムを解くAIに対抗して人間がもっと速いアルゴリズムを作ってきたwww |accessdate=2022-11-30}}</ref>。

2022年11月30日、従来のシステムよりも人間らしい回答を返す[[ChatGPT]]が公開され、一か月未満で世界的に流行し始めた<ref>{{Cite web|和書|title=超話題の人工知能ChatGPTに“小説”や“詩”を書いてもらい、“プログラム”は実行してみた |url=https://ascii.jp/elem/000/004/116/4116274/ |website=ASCII.jp |access-date=2023-04-02 |language=ja |last=ASCII}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=AI「ChatGPT」とは プログラミング 小説執筆 学校の宿題もできるの? {{!}} NHK {{!}} News Up |url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221209/k10013917101000.html |website=NHKニュース |access-date=2023-04-02 |last=日本放送協会}}</ref>。「メディアアーティスト」である[[落合陽一]]によれば、AI関連技術が予想を遥かに超える速度で更新され続けるため、技術的特異点は2025年に来る可能性がある<ref>{{Citation|title=【落合陽一のシンギュラリティ論】シンギュラリティは2025年に来る/ディフュージョンモデルの衝撃/知的ホワイトカラーが没落する/最新版デジタルネイチャー/音楽と論文が数秒でできる|url=https://www.youtube.com/watch?v=j2TbvmXN_Y4|language=ja-JP|access-date=2023-04-02}}</ref>。

== 議論の紛糾 ==
{{See also|[[#AI研究開発からの批判|AI研究開発からの批判]]|[[#指数関数的観点からの批判|指数関数的観点からの批判]]}}
人工知能ブームに伴い、人類と人工知能の関係や「シンギュラリティ」(特異点)について多様な主張や報道が行われ、期待が高まっているが、[[2045年]]に到来するとの予測が主張されている技術的特異点には、その根拠について多くの問題点が指摘されている。
;指摘の例
;{{雑多な内容の箇条書き|date=2024年10月10日}}

* [[2020年]]頃に[[ムーアの法則]]は限界に達すると言われており、その後の[[コンピュータ]]の性能向上速度は不明である。従来型のコンピュータを大幅に上回る性能を期待して考案された[[量子コンピュータ]]や[[光コンピューティング|光コンピュータ]]は、未だ初歩的な研究段階に留まっており、実用性については不明瞭である。
** [[東浩紀]]は「けれどもカーツワイルの本を実際に読んでみると、その根拠はかなり薄弱であることに気がつく。彼の[[未来学|未来予測]]を支えているのは、[[情報技術]]の進歩はどんどん速度を増しているのであり、同じ傾向はこれからも続く、したがってあと40年もすれば驚くほど[[コンピュータ]]の力は増しているはずだ、というただそれだけの[[直観|直感]]にすぎないからだ」と[[指摘]]している<ref>{{Cite web |title=(3ページ目)落合陽一、ハラリは「夢想的で危険」東浩紀が斬る“シンギュラリティ”論に潜む“選民思想” |url=https://bunshun.jp/articles/-/53514?page=3 |website=文春オンライン |access-date=2024-08-16 |language=ja |first=東 |last=浩紀}}</ref>。
* [[人工知能]]への大きな期待とは裏腹に、[[ビジネスモデル]]の構築が進んでいない。特に現行の[[人工知能]]では高品質で偏りがなく整理された[[ビッグデータ]]を前提としているため、実環境からの十分なデータ収集が困難であることも多く、[[人工知能]]を導入できない状況が発生している<ref name=":3">{{Cite web|和書|title=世界的に遅れているAI開発--原因はデータ不足? |url=https://japan.zdnet.com/article/35127807/ |website=ZDNet Japan |date=2018-11-05 |access-date=2023-04-02 |language=ja}}</ref>。また、[[人工知能]]開発を担える人材の少なさもビジネス応用の遅れに繋がっている<ref name=":3" />。[[人間]]と比較して[[人工知能]]の学習に必要なデータの量が多すぎる問題を解決する必要がある。
** 技術的特異点の前提にある[[収穫加速の法則]]は、前提として現実世界からのデータ収集の限界によって制限され得る。例えば、[[技術革新]]に必要な物理現象の発見や新素材開発などには物理的な観測や実験が必要で、多大な費用と時間がかかる。この物理的限界が高速化され続けなければ、収穫加速の法則も続かない。第3次人工知能ブームの火付け役であり、大部分の雇用を奪うほどの社会的インパクトが予想された[[ディープラーニング]]の段階でも、有用なデータの不足が懸念されている<ref>{{Cite web|和書|title=ディープラーニングはすでに限界に達しているのではないか?【前編】 {{!}} 人工知能ニュースメディア AINOW|url=https://ainow.ai/2019/02/18/161998/|website=AINOW|date=2019-02-17|accessdate=2019-06-24|language=ja}}</ref>。
** [[2026年]]には[[大規模言語モデル|大規模言語モデル(LLM)]]の学習に使えるデータが枯渇するとの予測がある。従って、省データ化のためのアルゴリズムの改良と併せて、投入する学習データについても合成データを用意するなどの新たな対応が迫られている<ref>{{Cite web |title=2026年までにAIのトレーニングに使うデータが枯渇する「データ不足問題」とは? - GIGAZINE |url=https://gigazine.net/news/20231108-run-out-data-train-ai/ |website=gigazine.net |date=2023-11-08 |access-date=2024-08-30 |language=ja}}</ref>。
* 人工知能が[[指数関数]]的に高性能化しても物理的な世界は──極端な複雑さ・倫理・社会構造の変化速度の限界・限りある資源量などにより──指数関数的に発展しない可能性がある。少なくとも人工知能を用いる方法では、計算量オーダーの大きさに起因する難問は解決されないことが判明している(そもそも人工知能アルゴリズムの実行自体がそのような難問である<ref>{{Cite web |title=AIの進歩は頭打ちに? このままでは「膨大な計算量」が壁になるという研究結果が意味すること |url=https://wired.jp/2020/07/28/prepare-artificial-intelligence-produce-less-wizardry/ |website=WIRED.jp |date=2020-07-28 |access-date=2024-01-25 |language=ja-JP |first=Condé |last=Nast}}</ref>)。
** エネルギー消費の問題としては、[[人工知能]]を実行する[[データセンター]]は人間の脳の消費エネルギーとは比較にならないほど膨大な[[電力]]を消費し、大きな環境負荷も発生させる事が分かっている。将来にわたって加速する[[人工知能]]の大規模化に伴い、[[電力]]需要も社会的に容認できないほど大きく増加する可能性がある<ref>{{Cite web |title=AIのエネルギー消費に関する雑感(その1) – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute |url=https://ieei.or.jp/2022/07/expl220701/?doing_wp_cron=1701176128.7189400196075439453125 |website=ieei.or.jp |access-date=2023-11-28 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=AIのエネルギー消費に関する雑感(その2) – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute |url=https://ieei.or.jp/2022/07/expl220705/?doing_wp_cron=1701176785.1953361034393310546875 |website=ieei.or.jp |access-date=2023-11-28 |language=ja}}</ref>。[[Google|グーグル]]出身者らが[[東京]]に設立した[[ベンチャー|スタートアップ企業]]「サカナAI」は計算量や消費電力の問題を解決するために、大手企業が軒並み推進する重厚長大な[[大規模言語モデル]]とは逆のアプローチである、比較的小さいAIを連携させて高効率に必要な機能を実現する手法の研究開発を進めている<ref>{{Cite web |title=グーグル出身者ら設立の「サカナAI」、NTTが出資…日本発で海外巨大ITに対抗 |url=https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240123-OYT1T50276/ |website=読売新聞オンライン |date=2024-01-24 |access-date=2024-01-25 |language=ja}}</ref>。
* 人間の脳には[[デジタル]]的な機構の他に、[[アナログ計算機|アナログ]]で[[カオス理論|カオス]]な機構も備わっており、普及している[[ディープラーニング]]よりも遥かに複雑である。そのため、複数種類のタスクを統合的に扱える人間と同等以上の[[人工知能]]の開発は、構造の複雑さゆえに進まない可能性がある。そもそも、[[カオス理論|カオス]]的な機構は計算自体が困難である{{Efn2|例えば、[[アナログ]]で[[カオス理論|カオス]]な現象を扱う気象予測は、最新の[[スーパーコンピュータ]]を投入し続けてようやく予測精度の向上が達成される分野である。}}。
** [[合原一幸]]は[[技術的特異点#AI研究開発からの批判|後述]]する通り、[[人間]]の[[脳]]が持つ[[カオス理論|カオス]]的な機構の[[コンピュータ|デジタルコンピュータ]]による計算が極めて難しいことを指摘している。
* 人間に設計された[[人工知能]]などの機構は本質的に他律システムであり、設計の範囲内でしか動作できず、自発的な判断・行動を行っているわけではないため、過去の事例に制限されている<ref>{{Cite web |title=人間より有能なAIの存在は「幻想」に過ぎない |url=https://toyokeizai.net/articles/-/132415 |website=東洋経済オンライン |date=2016-08-29 |access-date=2023-12-03 |language=ja}}</ref>。他律システムは設計の範囲外にある未知の状況には対応できず、時間が経過するとともに設計当初からの環境の変化に沿わない不適切な処理を繰り返すようになる可能性がある(であるからこそ人間によるシステムの管理や更新が必要となる)。他律システムの限界を超越する新しい[[システム論]]([[オートポイエーシス]]など)で議論が続いているが、誰に設計されるわけでもなく[[地球]]上に登場し、未知の[[環境]]変化にも適応しながら[[進化]]を遂げた[[生命]]が持つような真の自律性をコード化できるかは不明である。ただし、人間も物理現象に従う他律システムだと考えられ得る。
** [[西垣通]]が『AI原論』などの書籍で、他者により設計される(つまり他者に律される)[[人工知能]]が真の自律性を獲得することはなく、技術的特異点の端緒となる再帰的な人工知能の「改良」の機能についても他者により行われた設計の範囲内でしか動作できないため、再帰的な「改良」後に意味のある動作が保たれる保証がないことや、人工知能に頼り切ると社会の硬直化を含む様々な問題が生じる可能性があることを指摘している<ref>{{Cite web |title=講談社選書メチエ AI原論―神の支配と人間の自由 |url=https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784062586757 |website=紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア |access-date=2023-12-02 |language=ja}}</ref>。併せて[[西垣通]]は、[[汎用人工知能]]で人間を完全に代替する方向性ではなく、特化型人工知能と人間が共働する方向性を模索するべきと主張している<ref>{{Cite web |title=人間より有能なAIの存在は「幻想」に過ぎない |url=https://toyokeizai.net/articles/-/132415 |website=東洋経済オンライン |date=2016-08-29 |access-date=2023-12-04 |language=ja}}</ref>。
*[[中島秀之]]は「[[人工知能|AI]]は加速するが特異点はやって来ない」という文書の中で初期値の問題,身体性の問題を挙げている{{sfn|中島秀之|2018|p=95-97}}。
**初期値の問題:[[脳]]は[[動的平衡|動的非平衡]]計算装置である。[[コンピュータ]]と異なり,電源を切ってから再起動するというわけにはいかない。脳のモデルをコンピュータ内に再現するには,初期値として,ある瞬間の脳の活動状況(ニューロンの興奮状態のほか,血流やホルモン濃度なども関係する)を写し取らねばならない。そのような技術は今のところ存在しない。
**身体性の問題:脳は単独で存在しているのではない。目や耳を含む感覚器官のみならず体全体で世界とつながっている。最近では、幼児の手足の運動と言語形成の関係や、内臓の状態が精神活動に影響を与えているという研究などもある。これらをどうするのか。


== 妥当性についての批判 ==
{{複数の問題|出典の明記=2019年10月|独自研究=2023年5月|section=1}}
=== 否定論からの批判 ===
AIの進歩によっては、技術的特異点のような事象は発生しないという説もある。また識者らの中には、技術的特異点の概念は認めつつもその現実化は不可避ではないという説、特異「点」と呼べるような特定の一点は存在しないという説も存在する。

==== AI研究開発からの批判 ====
{{see also|モラベックのパラドックス}}
[[生命情報科学]]者・[[神経科学]]者の[[合原一幸]]の編著『人工知能はこうして創られる』によれば、AIの急激な発展に伴って「技術的特異点、シンギュラリティ」の思想や哲学が一部で論じられているが、特異点と言っても「[[数学]]」的な話ではない{{sfn|合原|牧野|金山|河野|2017|p=34}}。合原が言うには、
{{Quotation|「そもそもシンギュラリティと関係した議論における『人間の[[脳]]を超える』という[[言明]]自体がうまく[[定義]]できていない」{{sfn|合原|牧野|金山|河野|2017|p=38}}。}}
確かに、脳を「デジタル[[情報処理システム]]」として捉える観点から見れば、シンギュラリティは起こり得るかもしれない{{sfn|合原|牧野|金山|河野|2017|p=42}}。しかし実際の脳はそのような単純なシステムではなく、[[デジタル]]と[[アナログ]]が融合した「[[ハイブリッド]]系」であることが、脳[[神経科学]]の観察結果で示されている{{sfn|合原|牧野|金山|河野|2017|p=42}}。合原によると、[[神経]]膜では様々な「[[ノイズ]]」が存在し、このノイズ付きのアナログ量によって脳内の[[ニューロン]]の「[[カオス理論|カオス]]」が生み出されているため、このような状況をデジタルで記述することは「極めて困難」と考えられている{{sfn|合原|牧野|金山|河野|2017|pp=46-47}}。

[[弱いAI]]に関する研究結果が、[[強いAI]](汎用人工知能)にそのまま適用可能であるか否かについては議論がある。哲学者の[[ヒューバート・ドレイファス]]<ref>『純粋人工知能批判--コンピュータは思考を獲得できるか』</ref> や物理学者の[[ロジャー・ペンローズ]]のように、現行の人工知能研究には根本的な欠陥があり、既存の手法を踏襲することによっては強いAIは実現不可能であると考える学者も存在している<ref>{{Citation | last = Clocksin|first=William |date=Aug 2003 |title=Artificial intelligence and the future|journal=[[Philosophical Transactions of the Royal Society A]] |pmid=12952683 |volume=361 |issue=1809 |pages=1721-1748 |doi=10.1098/rsta.2003.1232 |postscript=.}}</ref>。

ロータスデベロップメントの創業者の[[ミッチ・ケイパー]]は、2029年までに[[チューリング・テスト]]に合格する人工知能が開発されるという予測に反対し、カーツワイルと2万ドルを賭けている<ref>http://longbets.org/1/</ref>。

==== 生物学からの批判 ====
カーツワイルは、生物学的な脳機能を理解していないという批判がある。彼は、人間の脳がシミュレーション可能になる時期を人間のゲノムの数から見積っている。しかし、生物のゲノムは半導体のトランジスターと同等とみなすことはできず、脳の構造や成長を無視していると、生物学者の[[ポール・ザカリー・マイヤーズ]]は批判している<ref>[http://scienceblogs.com/pharyngula/2010/08/17/ray-kurzweil-does-not-understa/ Ray Kurzweil does not understand the brain] ScienceBlogs. 2010.08.17.</ref>。

==== 物理的観点からの批判 ====
あらゆる指数関数的成長には限界がある。限られた期間内では指数関数的振る舞いを見せる現象は──化学物質の反応、細胞分裂や生物の個体数などが──存在するが、遅かれ早かれ指数関数的現象は、必要な資源基盤(化学物質や食物など)を消耗し、停滞・崩壊する。テクノロジーの発展が、一般的な指数関数的現象と異なると考える理由は無い。つまり、指数関数的成長には指数関数的入力が必要だが、現実世界でそれは不可能である。一般的に成長現象は[[シグモイド曲線]]を取り、急激な成長期と停滞期(崩壊期)が存在する<ref>{{Cite book |author= 武田修三郎 |year= 2011|title= 崩壊するエネルギー文明:再点検|publisher= 宣伝会議|page= 21-29|id= |isbn=978-4-88335-255-5|quote=}}</ref>。

宗教家であり思想史家である{{仮リンク|ジョン・マイケル・グリア|en|John_Michael_Greer|preserve=1}}は、テクノロジーの発展は、未来に向かって一直線に進んでいくものではなく、[[ツリー状]]に広がっていくものであると述べている<ref>{{Cite book |first= John|author= John Michael Greer |year= 2015|title= After Progress: Reason and Religion at the End of the Industrial Age|publisher= New Society Publishers|page= 128-130|id= |isbn=|quote=}}</ref>。半世紀前の未来予想では、[[宇宙旅行]]をも含む輸送技術の爆発的発達が予想されていたが、その後は輸送技術の進歩が停滞した。一方、21世紀現在の情報技術の爆発的発達と普及は、以前は一般的に予想されていなかった。同様に、近年の情報処理技術の発達もいずれどこかで限界となり、現代の人々が全く予想もできなかった新しい技術が発展すると考えられている。

また、どれほど優れた知性(思考)であっても、それだけでは問題を解決できない<ref>http://memo7.sblo.jp/article/20584487.html</ref>。すなわち、優秀なAIであれ知能強化された人間であれ、実世界の現象を観察・実験し、モデルを検証しなければ、現実世界の問題を解決できない。しかしその時間的限界を定めるのは、思考の時間ではなく、対象物の物理的変化(細胞分裂や素粒子の反応)に要する時間であるため、超越的知性の存在だけは特異点と呼べるような変化は起こらないのではないかという批判がある。

==== 経済学からの批判 ====
物理学的・技術的に可能でも、経済・社会・法律的な要請によって普及していない技術も存在する。たとえば[[超音速旅客機]]は1960年代に実用化されたが、採算が取れないため、2016年時点でも商業飛行は無い。同様に、研究室ではAGI(汎用人工知能)が実現できたとしても、経済合理性の問題があって社会で普及できず、特異点発生に必要な超越的知性が不十分になり得る。

マーティン・フォードは『トンネルの中の光:オートメーション、テクノロジーの加速と未来の経済』で<ref name="thelightsinthetunnel">Ford, Martin, ''[http://www.thelightsinthetunnel.com/ The Lights in the Tunnel: Automation, Accelerating Technology and the Economy of the Future]'', Acculant Publishing, 2009, ISBN 978-1-4486-5981-4</ref>、「テクノロジーのパラドックス」を示している。いわく、技術的特異点の発生前に、ほとんどのルーチンワークが自動化されるだろう。何故ならルーチンワークの自動化に必要な技術は、技術的特異点よりも簡単だからだ。ルーチンワークの自動化は莫大な失業を発生させ、消費者の[[有効需要]]を下げ、結果的に技術への投資を低下させるだろう。そうなると、技術的特異点の実現は遠ざかることになる。産業革命期のような大規模な[[産業構造の転換]]と新産業による失業者の吸収は未だ起きておらず、慢性的な高失業率が続いており、この傾向は短期的には変わる気配を見せていない<ref name="nytimes">{{cite news| url=http://www.nytimes.com/2011/03/05/science/05legal.html | work=The New York Times | first=John | last=Markoff | title=Armies of Expensive Lawyers, Replaced by Cheaper Software | date=2011-03-04}}</ref>。

一般的に、技術革新に対する投資の見返りは次第に低下していくことが示されている<ref>{{Cite web|和書|url= http://mogaku.moo.jp/pdf/academic_journal/ohtani2.pdf|title=Joseph.A.Tainterの『崩壊』に関する考察 |accessdate=2016-04-10}}</ref><ref name="university">Tainter, Joseph (1988) "[http://monoskop.org/images/a/ab/Tainter_Joseph_The_Collapse_of_Complex_Societies.pdf The Collapse of Complex Societies] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20150607230212/http://monoskop.org/images/a/ab/Tainter_Joseph_The_Collapse_of_Complex_Societies.pdf |date=2015年6月7日}}" (Cambridge University Press)</ref>。Theodore Modis と Jonathan Huebner は技術革新の加速が止まっただけではなく、現在減速していると主張した。John Smart は彼らの結論を批判している<ref>{{Cite web |title=Measuring Innovation in an Accelerating World: Review of "A Possible Declining Trend for Worldwide Innovation," Heubner, TF&SC 2005 |url=https://accelerating.org/articles/huebnerinnovation.html |website=accelerating.org |access-date=2024-01-12}}</ref>。また、カーツワイルは理論構築のために過去の出来事を恣意的に選別した、という批判もある。

==== 経済史学からの批判 ====
[[経済史学]]者の杉浦勢之によると、カーツワイルは[[レトリック]]([[修辞技法]]・美辞麗句)を駆使している{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。もし100年や1000年先の未来を語った場合、人々の実感や想像をかき立てるのは難しい{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。しかし語る内容が[[近未来]](2045年)なら、それは現在の世代のほとんどがまだ生きている時代であり、いくらか迫真性がある{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。そして、[[行動経済学]]者ジョージ・エインズリーの「[[双曲割引]]」説によれば、人間は遠い将来よりも近い将来で得られるものに、より高い[[価値]]を置く{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。つまり、近未来にシンギュラリティが来ると人々に言えば、《近未来に賭けたい》・《[[投資]]して[[リターン]]([[利益]])を得たい》といった誘惑が広まり得る{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。この場合、何が正しいのか、[[数学]]的に正確か等の検証は、重視されていない{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。

杉浦が言うには、シンギュラリティ論のレトリックは、[[宗教家]]が使っているものと同類である{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。[[使徒]][[パウロ]]の[[説教]]のようなシンギュラリティ論に従えば、約束された「来るべき時」は──または[[神の国]]の到来は、[[審判の日]]は──間近に迫ってきている{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。その「時」は不可避にやって来るものであり、「特異点」である{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。このように[[預言]]([[予言]])する論は、近現代に至るまで[[思想家]]たちを惹きつけており、その典型例は、[[共産主義]]社会の到来を預言した[[カール・マルクス]]や、[[民族共同体]]の勝利を預言した[[ナチス]][[法学]]者[[カール・シュミット]]である{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。

経営者であるカーツワイルは、テクノロジー発展の先に「不死」を預言している{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。これは一見すると奇妙だが、彼を現代の「預言者」と捉えれば説明がつく{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。カーツワイルは、「テクノロジー」を「神」のように扱うレトリックによって、数学や[[自然科学]]からの批判を無意味化しているのである{{Sfn|杉浦|2017|p=11}}。古代から続く預言者やシンギュラリティ論者に対する批判として、{{quotation|「かれらは、理解することの純粋な喜びや、[[臨床]]的な視線の中立とは無縁なのだ」}}という[[レジス・ドブレ]]の批判が援用されている{{Sfn|杉浦|2017|p=12}}。

==== 指数関数的観点からの批判 ====
『[[WIRED (雑誌)|WIRED]]』誌創刊者のケヴィン・ケリーは、カーツワイルの示した[[指数関数]]的グラフが、指数関数的であるからこそ特異点に到達できないことを批判している<ref name="Kevin Kelly"/>。
{{quotation|[[数学]]的な特異点という概念は[[幻想]]である。{{Interp|中略}} 世界の主な出来事が指数関数的割合で発生していることを示す、「特異点へのカウントダウン」というグラフを見てみよう。それは数百万年の[[歴史]]にわたって、[[レーザー]]のようにきれいな[[直線]]を描いて突進している。

しかし、そのグラフを30年前で止めずに現在まで延ばすと、何か奇妙なことが見えてくる。カーツワイルのファンであり評論家でもある[[ケヴィン・ドラム]]は、「ワシントンマンスリー」(Washington Monthly)に書いた記事で、このグラフを30年前で止めずにピンクの部分を追加して、現在まで延長した。驚いたことに、それは今現在が特異点であることを示唆している。さらに不思議なことは、そのグラフに沿ってほとんど全ての時点で、同じ見解が正しいように思われる。

もしも、[[ベンジャミン・フランクリン]](昔のカーツワイルみたいな人)が1800年に同じグラフを描いたとしたら、フランクリンのグラフも、そのときの「たった今」の時点で、特異点が発生していることを示すだろう。同じことは[[ラジオ]]の発明のとき、あるいは[[都市]]の出現のとき、あるいは歴史のどの時点でも起こるだろう。グラフは直線であって、その「[[曲率]]」すなわち増加率はグラフ上のどこでも同じなのだから。{{Interp|中略}}

すなわち、指数関数的増加の中にいる限り、時間軸に沿ったどの点においても、特異点は「近い」ということだ。特異点とは、指数関数的増加を過去にさかのぼって観察するときに、いつでも現れる幻影に過ぎない。グラフは[[宇宙]]の始まりに向かって、正確に指数関数的増加をさかのぼっているから、これは何百万年にもわたって、特異点はまもなく起ころうとしていることになる!言い換えれば、特異点はいつも近い。今までいつも「近い」ままであったし、将来もいつも「近い」のだ。<ref name="Kevin Kelly"/>}}

==== 心理学・認知科学からの批判====
[[心理学]]者・[[認知科学]]者である[[スティーブン・ピンカー]]は以下のように述べている<ref name="spectrum.ieee.org"/>。
{{Quotation|技術的特異点が到達すると信じる理由は、まったく無い。人間の頭の中で未来の姿を想像できたとしても、それが実現する見込が高いこと、あるいはそもそも実現可能であるということの証明にはならない。[[ドーム型都市]]、[[ジェットパック]]による通勤、[[海底都市|水中都市]]、超高層建築や[[原子力自動車|核駆動自動車]]といったもの、これらは全て私が子供だったころ、未来の想像において当たり前に実現されているはずのものだったが、ついに現実にはならなかった。本当に機能するテクノロジーは、人類のあらゆる問題を解決する魔法のランプなどではない。<ref name="spectrum.ieee.org">{{cite web|url=http://spectrum.ieee.org/computing/hardware/tech-luminaries-address-singularity |title=Tech Luminaries Address Singularity - IEEE Spectrum |publisher=Spectrum.ieee.org |accessdate=2011-09-09}}</ref>}}

==== 宗教批判的観点からの批判 ====
技術的特異点の概念は、キリスト教[[終末論]]から影響を受けていると言われており、評論家や神学者の中には、技術的特異点の概念を[[信仰]]と同一視する者も居る。ケヴィン・ケリーは、技術的特異点とキリスト教における[[携挙]]([[ラプチャー]] “rapture”)との類似性を指摘している<ref name="Kevin Kelly"/>。
{{Quotation|携挙というのは、[[キリスト]]が再臨するとき、全ての[[信者]]は普通の生活からいきなり空中に持ち上げられて、[[死]]を経由せずに天の[[不死]][[不滅]]の世界へ導かれることである。この特異な出来事によって、改良された[[身体]]、永遠の[[知恵]]で満たされた完全な[[知性]]ができる。そして、それは「近い将来」に起こることになっている。そのような期待は、技術の携挙、つまり特異点とほとんど同じである<ref name="Kevin Kelly">http://memo7.sblo.jp/article/34660929.html</ref>。}}


科学ジャーナリストの[[ジョン・ホーガン]] も、技術的特異点を信仰であるとみなしている。
科学ジャーナリストの[[ジョン・ホーガン]] も、技術的特異点を信仰であるとみなしている。


{{quotation|現実を見よう。技術的特異点は、科学的なビジョンというよりは宗教である。SF作家のケン・マクラウドは「たちの携挙(the rapture for nerds)」という名前を授けている。つまり、終末であり、イエスが現れ信仰者を天国へと導き、罪人を後に残していく瞬間である。このような超越的なものを願う理由は、完全に理解可能である。個人としても種としても、我々は致死的に重大な問題に直面している。たとえば、テロ、核拡散、人口過剰、貧困、飢餓、環境破壊、気候変動、資源枯渇やエイズなどである。エンジニアと科学者は、我々がこれらの世界の問題に立ち向かい、解決策を発見することを支援するべきなのであって、技術的特異点のような夢想的、疑似科学的ファンタジーに浸るべきではない。<ref name="Horgan 2008">{{cite paper | last = Horgan | first = John | authorlink = John Horgan (American journalist) | title = The Consciousness Conundrum | year = 2008 | url = http://spectrum.ieee.org/biomedical/imaging/the-consciousness-conundrum/0 | accessdate = 2008-12-17}}</ref>}} }}
{{quotation|現実を見よう。技術的特異点は、科学的なビジョンというよりは宗教である。SF作家のケン・マクラウドは「コンピューーマニアたちの携挙(the rapture for nerds)」という名前を授けている。つまり、歴史の終末であり、イエスが現れ信仰者を天国へと導き、罪人を後に残していく瞬間である。このような超越的なものを願う理由は、完全に理解可能である。個人としても種としても、我々は致死的に重大な問題に直面している。たとえば、テロ、核拡散、人口過剰、貧困、飢餓、環境破壊、気候変動、資源枯渇やエイズなどである。エンジニアと科学者は、我々がこれらの世界の問題に立ち向かい、解決策を発見することを支援するべきなのであって、技術的特異点のような夢想的、疑似科学的ファンタジーに浸るべきではない。<ref name="Horgan 2008">{{cite paper | last = Horgan | first = John | authorlink = John Horgan (American journalist) | title = The Consciousness Conundrum | year = 2008 | url = http://spectrum.ieee.org/biomedical/imaging/the-consciousness-conundrum/0 | accessdate = 2008-12-17}}</ref>}}


宗教家である[[ジョン・マイケル・グリア]]も同様の見方をしている。
ジョン・マイケル・グリアも同様の見方をしている。
{{quotation|…技術的特異点の概念全体は、関連する科学分野の専門家から激しく、そして適切に批判されている。けれども、あまり言及されることは無いが、カーツワイルの技術的特異点の物語は科学理論などではない。むしろそれは、[[ジョン・ダービ]]による[[携挙]]の神学理論を、SFの言葉で書き直した複製である。
{{quotation|…技術的特異点の概念全体は、関連する科学分野の専門家から激しく、そして正しく批判されている。けれども、あまり言及されることは無いが、カーツワイルの技術的特異点の物語は[[科学理論]]などではない。むしろそれは、[[ジョン・ダービ]]による[[携挙]]の神学理論を、SFの言葉で書き直した複製である。
技術的特異点は、単にキリストの再臨をテクノロジー的にリメイクしたものに過ぎない。超知性的コンピューターが神の役割を担っているのである。}}
技術的特異点は、単にキリストの再臨をテクノロジー的にリメイクしたものに過ぎない。超知性的コンピューターが神の役割を担っているのである。<ref>{{Cite book |first= John|author= John Michael Greer |year= 2012|title= Apocalypse|publisher= quercusbooks|page= 171-3,179|id= |isbn= 978-1-78087-040-3|quote=}}</ref>}}


思想史研究者である[[アニー・レイヴィ]]も同様の批判を加えている{{要出典|date=2024年9月}}。
== フィクションでの描写 ==
{{quotation|もちろん我々は我々自身の能力を超えた技術を作ってきた。それゆえ、我々は我々の能力を超えた知能を作ることができるだろうし、一部は既に実現されているとさえ言えるだろう。けれども、ひとたび我々の知性を超えた人工知能が実現しさえすれば、ただちに超越者が生み出され、あらゆる問題の最終的解決がもたらされると信じるためには、相当な論理的飛躍を受け入れなければならない。
フィクションでの特異点の描写は4つに分類される。
その表層的なテクノロジー的装いを剥ぎ取ってみれば、中にあるのは古くからある終末論そのものである。すなわち、我々の生きている間に、何らかの超越者が地上に降臨し、全ての現世的問題からの解放と永遠の命をもたらすという信条なのだ。…このような新たな終末論が、近年の経済危機以後、急速に蔓延したのは決して偶然ではない。すなわち、現代の解決不可能な諸問題から眼を背けさせ、来世において救済を授けるという現実逃避としての役割を担っていると言える。}}
* AIと技術的に増幅された人類(ただし、AIよりも劣っていることが多い):『[[HALO (ビデオゲームシリーズ)|HALO]]』
* AIと元のままの人類(「ローカルな特異点」と呼ばれることがある):『[[マトリックス (映画)|マトリックス]]』、『[[ターミネーター (映画)|ターミネーター]]』の[[スカイネット]]
* 生物学的に進化した人類
* 技術的に増幅された人類


==== 認識論的観点からの批判 ====
特異点アイデアを開拓した[[ヴァーナー・ヴィンジ]]の物語に加えて、何人かの他のSF作家は主題が特異点に関係する話を書いている。特筆すべき著者として、[[ウィリアム・ギブスン]]、[[グレッグ・イーガン]]、[[グレッグ・ベア]]、[[ブルース・スターリング]]などが挙げられる。特異点は[[サイバーパンク]]小説のテーマのひとつである。再帰的な自己改良を行うAIとしては[[ウィリアム・ギブスン]]の『[[ニューロマンサー]]』に登場する同名のAIが有名である。[[アーサー・C・クラーク]]の『[[幼年期の終り]]』、[[アイザック・アシモフ]]の『最後の質問』(短編)、[[ジョン・W・キャンベル]]の『最終進化』(短編)なども古典ともいうべき作品ながら技術的特異点を扱っていると言える。[[ディストピア]]色が強いものとしては、[[ハーラン・エリスン]]の古典的短編『おれには口がない、それでもおれは叫ぶ』がある。日本の作品では、『[[火の鳥 (漫画)|火の鳥]]』において政治の一切を電子頭脳が管理する世界が描かれている。『[[攻殻機動隊]]』では、[[ウェットウェア]]が遍在し[[人工意識]]が発生しはじめた世界を描いており、[[山本弘 (作家)|山本弘]]による『[[サイバーナイト]]』の[[小説化|ノヴェライズ]]には、人類によって作られた人工知能MICAが、バーサーカーと呼ばれる機械生命体([[フレッド・セイバーヘーゲン]]の[[バーサーカー (セイバーヘーゲン)|バーサーカー]]シリーズに由来)を取り込み特異点 (作中では「ブレイクスルー」と表現) を越える、というくだりがある。また、[[山口優 (作家)|山口優]]による『シンギュラリティ・コンクェスト 女神の誓約』(第11回[[日本SF新人賞]]受賞作)は、技術的特異点の克服をテーマにしている。芥川賞作家である[[円城塔]]の「Self-Reference ENGINE」はAIが再帰的に進歩を続けた結果大きく変質した後の世界(特異点後の世界)を描いている。[[長谷敏司]]の『[[BEATLESS]]』では、社会の様々な営みが人工知能群によって自動化され、文明における人間の立ち位置が変化しつつある世界が描かれている。
ケリーが言うには、仮に人間が特異点に入ったとしても、それを認識することは特異点の中では不可能であり、後から振り返ることで認識できる<ref name="Kevin Kelly"/>。
{{quotation|特異点に代表されるような技術の変化は、特異点に代表される(というのは不正確だが)ような変化の「内部」からでは全く認識できないと思う。ある水準から次の水準への転換は、新しい水準にある高い視点から、すなわち、そこに到達した後でしか見ることができない。


[[神経細胞]]との比較において、頭脳は特異点のようなものである。低い部分からは見えないし想像もできない。神経細胞の視点から見れば、脳へ通報するための少数の神経細胞から多数の神経細胞への活動は、神経細胞の集合による、ゆっくりとした連続的でなめらかな道程のように見えるだろう。そこには途絶の感覚、[[携挙]]の感覚はない。その[[不連続]]は逆方向に見たときにのみ知ることができる。
技術的特異点を扱った初めての短編は、[[フレドリック・ブラウン]]が1954年に書いた『回答』であろう。


言語は文字と同様に、ある種の特異点である。しかし、その2つへ向かう行程は、その習得者には連続的であって感知できない。友人から聞いたおもしろい話を思い出した。十万年前に原始人たちが、たき火のまわりに座って最後の肉のかけらを口の中で噛みながら、喉の音でおしゃべりしていた。一人がこう言った。
また近年の潮流としては、[[ケン・マクラウド]]らイギリスの新世代作家たちが、「[[スペースオペラ|ニュー・スペースオペラ]]」と呼ばれる「特異点に到着した人類社会」を舞台とした作品群を執筆している。


「おい、みんな、俺たちは話しているぞ!」<br>
=== 映画とテレビ ===
「話している、ってどういうことだ?おまえ、その骨は食べ終わったのか?」<br>
人類よりも賢いAIが登場する映画の最も早い例として『[[地球爆破作戦]]』(''Colossus: The Forbin Project'')がある。1969年の映画であり、米軍の[[スーパーコンピュータ]]が意識を持つようになって人類に平和を押し付けるという話である。『[[マトリックス (映画)|マトリックス]]』では、AIが人類を支配し鎮圧した世界が描かれている。『[[ターミネーター (映画)|ターミネーター]]』では、スカイネットと呼ばれるAIが意識を持ち、人類を根絶するために[[核兵器]]を使用する。
「俺たちは、お互いに話し合っている!言葉を使っているんだ。わからないのか?」<br>
「また、あの[[ワイン|ぶどうの何とか]]を飲み過ぎたんだな。」<br>
「今、俺たちがしていることだよ!」<br>
「何だって?」


組織の次の段階が始まるとき、現在の段階にいる間は新しい段階を把握できない。なぜならば、その認識は新しい段階において起こるはずだからである。全世界的な文化が出現する中で、新しい段階への転換は実際に起こっているが、その変化の途中では認識できない。{{Interp|中略}} 従って、私たちは次のようなことを予期することができる。今後数百年にわたって、生命が当たり前のように途切れることなく続いて、決して大変動はなく、その間ずっと新しいものが蓄積する。それはやがて私たちが、ある種の道具を手に入れたことに気づくまで続く。その道具を使って、何か新しい道具が存在することを認識し、さらに、その新しい道具はしばらく前にすでに出現していたことを認識するのである。
[[アニメ]]にもヴィンジとカーツワイルによって提案された特異点関連のテーマがある。『[[serial experiments lain]]』では、意識のダウンロードというトピックが扱われている。『[[バブルガムクライシス TOKYO2040]]』では、AIが現実を変更する強力な能力を持って出現する。『[[ゼーガペイン]]』では特異点後に人類が滅亡した後の世界を舞台としている。


私がこのことをエスター・ダイソンに話すと、彼女は、私たちが毎日特異点に近い経験をしていることを指摘した。<br>
2014年公開の映画『[[トランセンデンス]]』はまさに「技術的特異点」という意味の英語表現である。この映画では技術的特異点から先に技術の発展を進めさせないために、人類は全世界の電気エネルギーをシャットダウンする。
「それは目覚めである。後から振り返ると何が起こったのか理解できるが、夢の中にいるときには、目が覚めるかどうかわからない……」


今から千年後に、その時点のあらゆる11次元グラフは「特異点が近い」ことを示しているだろう。[[不死]]の存在、[[集合精神 (サイエンス・フィクション)|全世界的意識]]、その他、私たちが未来に期待することは、全て実現し、実在しているかもしれないが、それでも3006年の対数目盛のグラフは、やはり特異点が近づいていることを示すだろう。特異点は不連続な出来事ではない。それは非常にひずんだ[[:en:Extropy|エクストロピー]]的(進化し続ける)世界に織り込まれた連続体である。それは、生命と[[:en:Technium|テクニウム]]がますます速く進化するにつれて、私たちとともに移動する幻影である。<ref name="Kevin Kelly"/>}}
== 関連団体、その他 ==
* Singularity Institute for Artificial Intelligence
* Acceleration Studies Foundation
* Singularity University


=== 肯定論からの批判 ===
==脚注==
特異点は実現可能である、または不可避であると考える人々の中には、特異点後の出来事が人間への危険であると考えて、特異点実現のための活動を批判する者も居る。一方で多くの特異点論者は、ナノテクノロジーが人間性への最大の危険の一つだと考えており、AIをナノテクノロジーよりも先行させるべきだと主張している。ただしForesight Institute などは分子ナノテクノロジーを擁護し、ナノテクノロジーは特異点以前に安全で制御可能となるし、有益な特異点をもたらすのに役立つと主張している。
<references/>

友好的AIを支持する立場には、特異点が潜在的に巨大な危険であると認識し、人間へ好意的なAIを設計してその危険を排除しようという考えがある。[[アイザック・アシモフ]]の[[ロボット工学三原則]]は、人間を傷つけないAI搭載ロボットを意図しているが、アシモフの小説はこの法則の抜け穴を扱うことが多い。

==== 危険性 ====
超人的な知性が、人類の生存や繁栄と共存できない目的を持つ可能性も考えられている。例えば、機械的知性の発達で非人間的な感覚・感情・感性が生まれ得る。AI研究者[[ヒューゴ・デ・ガリス]]いわく、AIが人類排除を目指した場合、人類はそれを止められないかもしれない。他には分子ナノテクノロジーや遺伝子工学についての危険性がよく言われており、これらの問題は特異点支持者と批判者の両方に重要だと言う。[[ビル・ジョイ]]は[[WIRED (雑誌)|WIRED]]で、その問題をテーマとして Why the future doesn't need us(何故未来は我々を必要としないのか)を書いた(2000年)。[[オックスフォード大学]]の哲学者[[ニック・ボストロム]]は人類の生存に対する特異点の脅威についての論文 ''Existential Risks''(存在のリスク)をまとめた(2002年)。ボストロムは、『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies(超知能:道筋、危険、戦略)』の著者でもある。

宇宙物理学者[[スティーブン・ホーキング]]は、人類の能力を超えるAIが人類を滅ぼしかねない危険性があり、生物学的進化に制約される人類がAIの発達に対抗することは困難だと考えており<ref>2014年12月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙</ref><ref>https://www.nikkei.com/article/DGXMZO80435640T01C14A2000000/ 日本経済新聞</ref>、[[国際連合機関|国連代表部]]と[[国際連合機関|国際連合地域間犯罪司法研究所]]が主催した会議でも懸念を表明した<ref name="#1">http://gizmodo.com/experts-warn-un-panel-about-the-dangers-of-artificial-s-1736932856</ref><ref name="#2">https://www.youtube.com/watch?v=W9N_Fsbngh8</ref>。この国連の会議では、ニック・ボストロムも、特に人間の能力を超えるAIを制御する方法は未解決であり、解決のための研究の必要性を訴えている<ref name="#1"/><ref name="#2"/>。

ホーキングは、2015年5月12日にロンドンで開催されたツァイトガイスト2015でも、人工知能が「100年以内に人間の文明を終わらせる」可能性を指摘した<ref name="#3">http://www.techtimes.com/articles/53180/20150514/robots-will-overtake-human-intelligence-within-100-years-warns-stephen-hawking.htm TECH TIMES</ref>。ホーキングはまた、2014年でも、[[マックス・テグマーク]](物理学者)、[[フランク・ウィルチェック]](ノーベル物理学受賞者)、[[スチュワート・ラッセル]]らとともに、人工知能に関する理解が一般に浸透していない問題を指摘した<ref name="#1"/><ref>https://www.huffpost.com/entry/artificial-intelligence_b_5174265 Transcending Complacency on Superintelligent Machines(ハフィントンポスト)</ref>。

[[ハーバード・ロー・スクール]]と[[ヒューマン・ライツ・ウォッチ]]は、完全な自律兵器の開発・運用を国際的に禁止するべきだと2015年4月の報告書で要求した<ref name="#3"/>。

{{See also|[[人工知能#哲学とAI|哲学とAI]]|技術哲学|科学哲学|未来学|フィクションにおける人工知能|収穫加速の法則}}
{{See also|[[情報科学|情報科学/情報工学]]|[[#AI研究開発からの批判|AI研究開発からの批判]]|第四次産業革命|[[デジタルトランスフォーメーション|DX/デジタルトランスフォーメーション]]|情報格差|[[:en:social informatics|社会情報科学(英語版記事)]]}}

==== ネオ・ラッダイトの見方 ====
一部の人々の主張によると、先端技術の開発は危険過ぎるため、そのような発明はやめるべきである。ユナボマーと呼ばれたアメリカの連続爆弾魔[[セオドア・カジンスキー]]は、技術によって上流階級が簡単に人類の多くを抹殺できるようになるかもしれないと言う。一方でAIが作られなければ、十分な技術革新の後で人類の大部分は家畜同然になるだろうとも主張している。カジンスキーの言葉は[[ビル・ジョイ]]の記事およびレイ・カーツワイルの最近の本に書かれている。カジンスキーは特異点に反対し、ネオ・ラッダイト運動をサポートしている。多くの人々は特異点には反対するが、[[ラッダイト運動]]のように現在の技術を排除しようとはしない。

カジンスキーだけでなく、ジョン・ザーザンやデリック・ジェンセンといった反文明理論家の多くはエコアナーキズム主義を唱える。それは、技術的特異点を機械制御のやりたい放題であるとし、工業化された文明以外の野性的で妥協の無い自由な生活の損失であるとする。[[地球解放戦線]](ELF)や[[Earth First!]]といった環境問題に注力するグループも、基本的には特異点を阻止すべきと考えている。

一方、特異点によって未来の雇用機会が奪われることへの懸念はあるが、[[ラッダイト運動]]者の恐れは現実とはならず、産業革命以後には職種の成長があった。経済的には特異点後の社会はそれ以前の社会よりも豊かとなる、とも言われる。特異点後の未来では、一人当たりの労働量は減少するが、一人当たりの富は増加するとの説もある<ref name="inoue">[https://synodos.jp/opinion/economy/11503/ 機械が人間の知性を超える日をどのように迎えるべきか?――AIとBI 井上智洋 2014.12.16] SYNODOS</ref>。マクロ経済学の井上は、技術的失業、中産階級の消滅、雇用を機械に奪われる問題の解決策として、[[ベーシック・インカム]]を提唱している<ref name="inoue" />。

==== オバマ米大統領の問題提起 ====
『WIRED』US版の2016年11月号<ref>[http://wired.jp/special/2016/barack-obama/ バラク・オバマが伊藤穰一に語った未来への希望と懸念すべきいくつかのこと ≪ WIRED.jp]</ref> にて、[[アメリカ合衆国大統領|米大統領]]・[[バラク・オバマ]]と[[MITメディアラボ]]所長の[[伊藤穰一]]による対談が企画された。テーマは、AI、自律走行車、[[サイバーセキュリティー]]、'''シンギュラリティ'''である。

伊藤所長は、2016年はAIが[[コンピューター科学]]を超えて万人に重要となった年であると述べ、オバマ大統領は、今後コンピューターが多くの仕事を担うようになるにつれ、価値ある仕事への適切な対価について議論していくことが必要だと延べた。

オバマ大統領は、専用AIがあらゆる生活の場に進出したことにより、生産性や効率が格段に向上し、莫大な富と機会を生み出す一方で、特定の職業を消滅させ、格差拡大や賃金低下をもたらす可能性があると指摘した。一般の人が心配しているのは、シンギュラリティではなく、自分の仕事が機械に取られることだと言う。また、スキルが不要な[[サービス業]]だけでなく、コンピューターが対応可能な高スキルの職業も消える可能性があるという。伊藤所長が一例で挙げたベーシックインカムが人々に受け入れられるか、今後10~20年の間議論が続くと予想している。

研究活動に対する政府の役割としては、研究内容にあまり関与せず、予算で強く支援し、基礎研究と応用研究との対話をうながすことが重要だと言う。技術革新による問題の深刻化については、規制強化でなく、特定の人々に不利益をこうむらないような政府の関与であるべきである。[[国家安全保障チーム]]は、機械が人類を乗っ取ることではなく、現状のサイバーセキュリティーの延長として、システムへ侵入に対する対策が必要だと指摘した。

== シンギュラリティ後のシンギュラリティ ==
人間がポスト・ヒューマンを作れるなら、ポスト・ヒューマンも十分な時間と数があればさらなる上位種を作れるのではないか、それが繰り返されなければ神のような”何か”が生まれるのではないかと考える人もいる(シンギュラリティ後のシンギュラリティ)。 しかしカーツワイル等は、AIの能力で十分神の域に達すると考えているようである。

== フィクションでの描写 ==
{{See also|フィクションにおける人工知能#技術的特異点|[[人工知能#哲学とAI|哲学とAI]]|技術哲学}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
;学術論文
* [[レイ・カーツワイル]](著) [[井上健 (比較文学者)|井上健]](監訳) 『ポスト・ヒューマン誕生-コンピュータが人類の知性を超えるとき』 NHK出版 ISBN 978-4-14-081167-2 (<small>"''The Singularity is Near:When Humans Transcend Biology''"(ISBN 978-0143037880)の邦訳。英語の原題 『(技術的)特異点は近い:人類が生物学(的制約)を超える時』が示すように、この本の中心テーマになっているのは技術的特異点。分厚い本だが、技術的特異点がどういうものなのか、について科学的・技術的そして哲学的な観点まで含めた詳細な解説が書かれている。引用文献の数も多く一冊でかなりの情報量を持つ。)</small>
* {{Cite journal |和書
* [[:en:Andrey Korotayev|Andrey Korotayev]], Artemy Malkov, Daria Khaltourina, [http://www.scribd.com/doc/22584320/Korotayev-et-al-Introduction-to-Social-Macrodynamics-in-Japanese 丘雄二/訳「社会のマイクロダイナミクス:世界システムの成長とコンパクト・マクロモデル」情報社会学会誌 Vol.2 No.1]
|last = 杉浦
* ヴァーナー・ヴィンジ(著), [[向井淳]]訳, 『〈特異点〉とは何か?』, [[SFマガジン]][[2005年]]12月号 pp.60〜72, ([[w:Technological singularity#cite_note-vinge1993-4]]の翻訳。著作権表示と冒頭のオリジナル版についての1983年5月の記述は1993年3月の誤植)
|first = 勢之
|authorlink = 杉浦勢之
|title = 「経験」・「未来」・「天使」:「[[逓信省]]とは何であったか」を考えなければならない理由についてのいくつかの予備的考察
|date = 2017
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* {{Cite journal|和書|author=中島秀之 |date=2018-01 |url=https://doi.org/10.11517/jjsai.33.1_95 |title=レクチャーシリーズ「シンギュラリティとAI」〔第4回〕 AI は加速するが特異点はやって来ない |journal=人工知能 |ISSN=21882266 |publisher=人工知能学会 |volume=33 |issue=1 |pages=95-97 |doi=10.11517/jjsai.33.1_95 |CRID=1390285697604876672 |ref=harv}}

;学術書
* {{Cite book|和書
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** (<small>アマゾンジャパンの分類では「[[ビジネス]]・[[経済]] › [[情報技術|IT]]」の分野の書籍<ref>「[https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E8%AA%95%E7%94%9F-%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%81%8C%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E3%81%AE%E7%9F%A5%E6%80%A7%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%8D-%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%84%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%AB/dp/4140811676/ 本 › ビジネス・経済 › IT  レイ・カーツワイル 『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』]」</ref>。原著は2005年の"''The Singularity is Near: When Humans Transcend Biology''"(ISBN 978-0143037880)で、直訳すると『特異点は近い:人類が[[生物学]]〔[[生態]]〕を超える時』。<!--分厚い本だが、技術的特異点がどういうものなのか、について{{要出典|科学的・技術的そして哲学的な観点まで含めた詳細な解説が書かれている|date=2020年6月}}。引用文献の数も多く{{要出典|一冊でかなりの情報量を持つ|date=2020年6月}}。--></small>)

;その他
{{参照方法|date=2020年6月|section=1}}
* ヴァーナー・ヴィンジ(著)、[[向井淳]](訳) 『〈特異点〉とは何か?』、[[SFマガジン]]2005年12月号 p.60-72、(原文は https://www-rohan.sdsu.edu/faculty/vinge/misc/singularity.html )

== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[技術哲学]]
** [[特異点]]・[[シンギュラリティ]]([[:en:Singularity]])
** [[人工知能#哲学とAI|哲学とAI]]
* [[フィクションにおける人工知能]] - [[クラークの三法則]]
* [[超人思想]] - [[ポストヒューマン (人類進化)|ポストヒューマン]]
* [[社会進化論]]
* [[終末論]]
** [[加速主義]] - [[超越主義]] - [[ロマンティシズム]]/ロマン主義
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* [[人工知能]] - [[強いAIと弱いAI]]
* [[人工知能]] - [[強いAIと弱いAI]]
* [[超知能]]
* [[ポストヒューマン (人類進化)|ポストヒューマン]]
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* [[クラークの三法則]]
* [[終末論]] - [[携挙]]
* [[終末論法]] ([[:en:Doomsday argument]])
* [[終末論法]] ([[:en:Doomsday argument]])
* [[文明の終焉]] ([[:en:End of civilization]])
* [[文明の終焉]] ([[:en:End of civilization]])
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* [[テクノユートピア主義]] ([[:en:Techno-utopianism]])
* [[テクノユートピア主義]] ([[:en:Techno-utopianism]])
* [[ティッピングポイント]] ([[:en:Tipping point]])
* [[ティッピングポイント]] ([[:en:Tipping point]])
* [[ハンス・モラベック]]
* [[シミュレーテッドリアリティ]]
* [[シミュレーテッドリアリティ]]
* [[ビッグヒストリー]]
* [[未解決問題]]

; 関連団体
* [[:en:Machine Intelligence Research Institute]](Singularity Institute for Artificial Intelligence)
* [[:en:Acceleration Studies Foundation]]
* [[シンギュラリティ・ユニバーシティ]]
}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{Kotobank}}
いずれも英文
* {{Kotobank|シンギュラリティ}}
* [http://singularity.org/ The Singularity Institute for Artificial Intelligence]
* [https://www.su.org/ Singularity | Leading Innovation & Exponential Technology Education]
* [http://www.ssec.wisc.edu/~billh/g/mi.html The SSEC Machine Intelligence Project]
* [http://www.agiri.org/ The Artificial General Intelligence Research Institute]
* [https://www.ssec.wisc.edu/~billh/g/mi.html The SSEC Machine Intelligence Project]
* [http://www.kurzweilai.net/ KurzweilAI.net]
* [https://www.accelerationwatch.com/ Acceleration Watch]
* [http://www.accelerationwatch.com Acceleration Watch]
* [http://www.acceleratingfuture.com/michael Accelerating Future]
* [http://sl4.org/wiki The SL4 Wiki]
* [http://www.accelerando.org/_static/toughguide.html Singularity! A Tough Guide to the Rapture of the Nerds]
* [http://www-module.cs.york.ac.uk/skil/HistoricalPapers/licklider.pdf Man-Computer Symbiosis] - 1960年に発表された人間とコンピュータの共生の様子を論じた論文である。インターネットの思想の起源である。コンピュータと関係した技術的特異点論の基礎を作ったと考えられる。


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2024年12月21日 (土) 13:09時点における最新版

技術的特異点(ぎじゅつてきとくいてん、英語: technological singularity〈テクノロジカル・シンギュラリティ〉)またはシンギュラリティ (singularity) とは、科学技術が急速に「進化」・変化することで人間生活も決定的に変化する「未来」を指す言葉[1][2][注 1]発明家にして思想家レイ・カーツワイル[4]によれば特異点とは、技術的「成長」が指数関数的に続く中で人工知能が「人間の知能を大幅に凌駕する」時点であり[5]、すなわち「哲学的、宗教伝統」における「神の概念」への「進化」であり[2]、これを推進することは「本質的にスピリチュアルな事業」だと言う[6]。その意味で、「意識」とは「真実」とされる[7]。特異点では「われわれが超越性(トランセンデンス)──人々がスピリチュアリティと呼ぶものの主要な意味──に遭遇する」のであり[8]、「特異点に到達すれば、われわれの生物的な身体と脳が抱える限界を超えることが可能になり、運命を超えた力を手にすることになる」ともカーツワイルは述べている[9][注 2]

概要

[編集]

技術的特異点は、汎用人工知能AGI, artificial general intelligence[10]、「強い人工知能」、人間の知能増幅などが可能となったときに起こると言われる出来事である。自律的に作動する優れた機械的知性が一度でも創造されると、機械的知性が自らバージョンアップを繰り返し、人間には想像が及ばないほど優秀な超知能が誕生するという技術哲学的な主張である。その人智を越えた機械的知性は文字通り人間の理解の及ばない原理で動作し、設計され、更に高度な知性を生み出していくかもしれない。

レイ・カーツワイルは自著『ポスト・ヒューマン誕生:コンピュータが人類の知性を超えるとき』にて哲学宗教を根拠とした上で、「進化」は「指数関数的」に「神の概念」へと向かっており、それが特異点をもたらすと述べている[2]。彼は、

したがって、人間の思考をその生物としての制約から解放することは、本質的にスピリチュアルな事業であるとも言える。

としている[6]。また同書で彼は、特異点がSFファンタジーに似ていることを強調し、次の通り述べている[11]

わたしはよく、アーサー・C・クラーク第三の法則を思い起こす。「十分に進んだテクノロジーは、魔法と区別がつかない」というものだ。J・K・ローリングハリー・ポッターを、こうした観点から考えてみよう。たんなるおとぎ話かもしれないが、これからほんの数十年先に実在する世の中を、けっこうまともに描いたものかもしれない。[11]

特異点の到来時期の予測は、21世紀中ごろ~22世紀以降など様々だが、特異点を収穫加速の法則と結びつけて2005年に論じたレイ・カーツワイルの影響により、2045年説が注目されている。2012年以降、ディープラーニングの急速な普及と共に広く議論されるようになり、「2045年問題」とも呼ばれる。2016年以降、ビジネスでもディープラーニングやチャットAIが普及していき、技術哲学的・科学哲学的には世界で大きく注目されるようになった。端的には、人工知能人類知能を超える転換点と言われる事がある[12]

略歴

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技術的特異点と同様の考え方や概念は、科学技術が注目され始めた19世紀頃から存在していた。技術的特異点が技術哲学者・科学哲学者・評論家などから注目されたきっかけは、数学者かつSF作家のヴァーナー・ヴィンジと、発明者かつ未来派レイ・カーツワイルの膨大な資料調査と主張だった。彼らは、意識の解放によって科学技術の進展が生物学的限界を超えて加速する、と予言した。カーツワイルはこの加速的変化が「ムーアの法則」などの指数関数的な技術革新に従うと考え、これを「収穫加速の法則」(Law of Accelerating Returns)と呼んだ。未来派(フューチャリストら)いわく、技術的特異点の後では科学技術の進歩は強い人工知能ポストヒューマンホモ・デウス)によって支配されることになり、よって従来の人類の傾向に基づく技術進歩予測は通用しなくなるという。

AGI(汎用人工知能)ではなく人間を技術的に改良したポストヒューマンが登場するシナリオが実現した場合、特異点とは、新たな人類の進化の瞬間であるとも捉えられる。ポストヒューマン登場の端緒は史上初の人間の脳の技術的高速化であり、その方法はサイボーグ化や精神転送などだと言われる。

AGIもポストヒューマンも、単純にどちらかが選択されて実現されるわけではなく、両方とも実現される可能性がある。

一度でも技術的特異点が起きると、自律的に自己強化し続けるAI(あるいはポストヒューマン)が現れ、技術の進歩が超加速度的になり、人間の文明は極端に変化するため、それ以前の歴史的出来事全ての重大さが0に見えるほどになる[13]。詳しくはASI(人工超知能)を参照のこと。特異点という名付けは、技術の進歩速度が数学的または物理的な特異点に似ているからだという。

技術的特異点が起きる可能性については賛否両論がある。多くの人々がこの予測を肯定的に捉え、その実現に向けて活動している。一方、技術的特異点は人類にとって危険であり、回避すべきと考える人もいる。そもそも、技術的特異点など到来しないとする懐疑的な立場もある。様々な立場が存在する中で、技術的特異点を発生させる方法やその社会的影響、それを理想的な形で迎える方法などが論じられている。また、特異点が近づくに連れてAIを開発・運用する集団とそれ以外とで経済格差が顕在化すると予測されており、それを緩和するためのベーシック・インカムや「誰でも受け取れる」「ユニバーサル・ベーシック・インカム」の導入が議論されている[14][15]。2010年代後半からは、ディープラーニングの産業応用や報道によって、一般に認知される概念になった。2045年問題という名称でも知られる。

収穫加速の法則を根拠とする指数関数的な技術進歩は、技術的特異点の以前でも社会を変化させると言う。プレ・シンギュラリティ的な動きは既に起きているという概念の証拠として、例えば以下が挙げられている。


例題:電子回路と生物の動作速度の差
技術的特異点のインパクトの説明例として、電子回路と生物の動作速度の差がある。生物の頭脳に比べて電子回路は、100万倍以上速く動作し、体調不良などの動作不良が頻発せずに安定した最高のパフォーマンスを発揮する。つまり生身の人間に比べて、電子回路で実現される頭脳(ポストヒューマン)は、計り知れないほど高い知能を獲得することになる。
また、電子回路で実現される頭脳は生物の頭脳よりも機能の変更・拡張が容易であり、その頭脳が自分自身を改良し続けることで、電子回路による頭脳の爆発的「進化」が起きる。そして電子回路と生物の両方の特徴を持つ技術によって、生物的な特徴・環境適応力も爆発的に強化される。遺伝子工学ナノテクノロジーロボット工学などの進化が極めて顕著となる。
電子回路による頭脳の進化は研究開発をも爆発的に加速させ、生身の人間が想像できる水準(無限のエネルギー、不老不死、宇宙進出、光速の壁の突破など)を遥かに超えて、高度な社会問題が次々と解決される。レイ・カーツワイルの見積もりによれば、ナノテクノロジーを最大限に活用した知能は、生身の人間の頭脳の1兆倍の1兆倍も有能である[16]。このスケールの知能(ポストヒューマン)から見ると、技術的特異点以前に築かれた人類文明の機能は0に等しいように見える。
未だに技術進歩が緩やかな2010年代では、この超知能は遠い将来(数万年後)に実現されそうに思えるが、技術的特異点後の爆発的な技術進化を踏まえると、超知能の実現に必要な計算能力は、21世紀後半には普及価格帯である約1000ドル以下(約十数万円以下)で購入可能になる、と大まかに推測できる。
以上により、技術的特異点による社会的インパクトはあらゆるSF作品すらも超えて、人間には全く想像できない規模になると言われている。

主要な論者

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レイ・カーツワイル

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レイ・カーツワイルはアメリカの発明家思想家未来学者である[4]。彼は2005年に『ポスト・ヒューマン誕生』 The Singularity Is Near を出版し、「特異点は近い」と宣言した。(邦訳を監修したのは、比較文学アメリカ文学などを専攻する井上健〈東京大学名誉教授〉[4])。カーツワイルは『ポスト・ヒューマン誕生』の序章(プロローグ)で、彼が文明と宇宙の未来について考察するようになった時期は『スピリチュアル・マシーン』(1999年)を出版して以降だと述べている[17]。『ポスト・ヒューマン誕生』の「私は特異点論者(シンギュラリタリアン)だ」という章で彼は、特異点とスピリチュアルな物事との深い関連性を主張している[2]

スピリチュアル」と呼ばれるものこそ超越性の真の意味だと考える向きもあるが、じつは超越性は現実世界のすべてのレベルに見ることができる。 …
スピリチュアリティ」のもうひとつの含意は「をもつ」ということで、いうなれば、「意識がある」ということだ。「個人性」の土台である意識は、多くの哲学的、宗教伝統において、真実を意味すると考えられている。一般的な仏教存在論では、むしろ主観的──すなわち意識的な──経験こそが究極の真実だとされており、物理的または客観的現象はマーヤー幻影)だと考えられている。 … ありとあらゆる一神教の伝統において、はその全てを有し、しかもいっさいが無限である──無限の知識、無限の知性、無限の美、無限の創造性、無限の愛をもつ──と説かれてきた。

もちろん、加速しながら進んでいく進化でさえ、無限のレベルに達することはとうていできない。しかし、指数関数的に急激な進歩をとげながら、進化は確実にその方向へ進んでいる。進化は、神のような極致に達することはできないとしても、神の概念に向かって厳然と進んでいるのだ。

したがって、人間の思考をその生物としての制約から解放することは、本質的にスピリチュアルな事業であるとも言える。[2]

また前掲書でカーツワイルは、特異点によってもたらされる未来世界の説明として、次の寸劇を描いている[18]

モリー二〇〇七:では、宇宙がエポック6(われわれの知能の非生物的部分が宇宙へ広がる段階)になると、どういうことになるの? … わたし、まだエポック6の宇宙がどんなふうか想像しようとしてるんだけど。

ティモシー・リアリー:宇宙は鳥みたいに飛んでいるだろう。

モリー二〇〇七:でも、どこを飛んでいるの? 宇宙は全てなのでは?

リアリー:その質問は、片手の拍手はどんな音、と訊いているようなものだな。

モリー二〇〇七:ふうん。じゃあ、特異点は最初から導師心の中にあったのね。[18]

カーツワイルは自分の説明を成功させるため、ムーアの法則を元に収穫加速の法則を考え出した。彼の著作は、2012年以降のディープラーニングの普及と共に注目された。技術的特異点という概念は1980年代以前からヴァーナー・ヴィンジが提唱しており、カーツワイルはそうした過去の傾向や議論をまとめたと言える。

カーツワイルによれば、「技術的特異点」とは「100兆の極端に遅い結合(シナプス)しかない人間の脳の限界を、人間と機械が統合された文明によって超越する」瞬間である[19]。これはカーツワイルが言う、進化の6つのエポックにおける「エポック5」と同義である[19]。電子計算機(コンピュータ)の発明以前から同様の主張はあったが、2005年にレイ・カーツワイルが発表した『ポスト・ヒューマン誕生:コンピュータが人類の知性を超えるとき』(原題 The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology)において、宇宙・生命・科学技術の歴史を述べる技術哲学的な主張として整理された。未来研究(フューチャリズム)では、科学技術の歴史から推測できる、未来モデルの適用限界点と言われる。

2045年は「汎用人工知能(AGI)が人類史上初めて出現する年」または「汎用人工知能(AGI)が人類史上初めて人間よりも賢くなる年」であると言うのは、一般人の誤解だとも言われる。カーツワイルの予想では、そのような出来事は2029年頃に起こり、2045年頃には、広く普及可能な価格である1000ドルのコンピューターの演算能力がおよそ人間の脳の100億倍(ペタFLOPS)になり、この時期に技術的特異点によって人間の能力と社会が根底から覆って変容する[20]。カーツワイルによれば、人類の進化として最も理想的な形で技術的特異点を迎える場合、「GNR革命」の進行により、人類の知性は機械の知性と完全に融合し、人類がポスト・ヒューマンに進化する。 ただし平木敬の推測によれば、そもそも人間の脳の処理能力はゼタ(100万ペタ)FLOPS級である[21]

2016年頃からIoTや人工知能が広まったことで、カーツワイルの「仮説」に関する議論が活発化した。2017年12月29日にEテレに出演した際、彼は「自らを改良し続ける人工知能が生まれること。それが(端的に言って)シンギュラリティーだ」と発言した。

カーツワイルによれば、技術的特異点では人間性の増強が起こり、同時に技術が人間的な精巧さと柔軟さに追いつき、大幅に抜き去るが、人類と技術が敵対するようなイメージは大間違いだという。さらに、人間テクノロジー上に自分の意識を移す時が来る[22]という。

ヴァーナー・ヴィンジ

[編集]

ヴィンジが特異点について描いた作品には、その発生(『マイクロチップの魔術師』)、先延ばし(The Peace Warの「Bobble」)、抹消の試み(Marooned in Realtime)があり、特異点は「機械が人間の役に立つふりをしなくなること」と定義されている。

ヒューゴ・デ・ガリス

[編集]

遺伝的アルゴリズムや、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)での人工脳の研究者であるヒューゴ・デ・ガリスの予測では、特異点は21世紀後半に来て、人間の知能に対しAIが1兆の1兆倍(10の24乗倍)になる[23]

齊藤元章

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2014年PEZY Computing代表の齊藤元章によれば、スーパーコンピュータの加速度的な性能向上によってエクサスケール・コンピューティングが実現[注 3]されると、大規模なシミュレーションが可能になるので次々と難解な社会問題が解決され始め、プレ・シンギュラリティ(前特異点または社会的特異点)という社会的な変化が明確化する。その後は莫大な計算資源に基づく特化型AIによって、人類の大部分が「不労・不老」を選ぶことすら可能になるという[24][25]

PEZY Computingの起業者であり、スーパーコンピュータや汎用人工知能(AGI)の研究開発者でもある齊藤元章の2014年の自著『エクサスケールの衝撃』によれば、スーパーコンピュータ「京」の100倍程度の性能(1エクサフロップス)を持つ次世代スーパーコンピュータの実用化と普及により、プレ・シンギュラリティ(社会的特異点)が2025年までに起きる[24][16]。プレ・シンギュラリティでは「GNR革命」が始まり、肉体と技術の融合、現実を超えるVR、核融合炉による無限のエネルギー、無償の衣食住、不老不死などが実現し、それらは早ければ2020年から市場に影響してくると言う[26]。齊藤元章は、2014年時点ではPEZY Computingの開発プロジェクトがプレ・シンギュラリティを実現すると考えていたが、その後の予想以上に急速なAI研究を見て、2016年をプレ・シンギュラリティ元年と捉えるようになった[27]。プレ・シンギュラリティでは多数の天才・奇才・異才が人類文明を想像できないほど高度化させる、と予測している[28]。例えば、人類は生きるための労働から解放されて創作活動に専念し、ネット上の集合知を通じて、現在の「芸術」を超越した芸術的・独創的なものや新しい価値観を生み出し得るという。人類文明が直面する問題も、プレ・シンギュラリティ以後は多数の天才が高度なテクノロジーと集合知で解決していくと予測している。(余談だが、彼は2017年12月5日に詐欺罪容疑で逮捕された[29]。2020年3月25日、詐欺罪と法人税法違反(脱税)の罪で東京地裁から懲役5年の実刑判決を受けた[30]。)

松田卓也と小林秀章(セーラー服おじさん)は未来の人類を「動物園にいる動物」「大きな屋敷に住んでいる猫」と呼んだ[31]。また、日本トランスヒューマニスト協会はマイクロチップを埋め込む人を募集した[32]

ユルゲン・シュミットフーバー

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1995年以来、ルガーノのスイス人工知能研究所(IDSIA)の研究員であり、特に時系列データを扱う機械学習に必要なLSTM理論の考案者の一人として知られる。

2018年2月のインタビューでは、人間と機械の融合の可能性や、宇宙空間に対するAIの適応可能性を述べ、「いずれにせよ、我々の知っているいわゆる「人間」という存在はあまり重要ではなくなるだろう。この先、何もかもが変わる。そして「古典的な人間」が支配していた文明社会は、この先数十年のうちに終焉を迎えることになるだろう。」とポストヒューマン登場の可能性を強く支持している[33]

アイディア

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アイディアの歴史

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技術的特異点に類似したアイディアは少なくとも19世紀半ばまで遡るが[34][35]、技術的な文脈で「特異点」という言葉を最初に使ったのはジョン・フォン・ノイマンとされる[36]。1958年5月、スタニスワフ・ウラムはノイマンとの会話に言及して次のように書いている[37]

あるとき、進歩が速まる一方の技術と生活様式の変化が話題となり、どうも人類の歴史において何か本質的な特異点が近づきつつあって、それを越えた先では我々が知るような人間生活はもはや持続不可能になるのではないかという話になった。

1965年、統計家 I. J. Good は、人類を超えた知能が世界を変える特異点のシナリオを描いた。

超知的マシンを、いかなる賢い人もはるかに凌ぐ知的なマシンであるとする。そのようなマシンの設計も知的活動に他ならないので、超知的マシンはさらに知的なマシンを設計できるだろう。それによって間違いなく知能の爆発的発展があり、人類は置いていかれるだろう。従って、最初の超知的マシンが人類の最後の発明となる。

ジェラルド・S・ホーキンズは『宇宙へのマインドステップ』(白揚社、1988年2月。原著1983年8月)で、「マインドステップ」という概念を示し、それは方法論や世界観に起きた劇的で不可逆な変化であるとした。彼は、人類史の5つの「マインドステップ」とそこに発生した「新しい世界観」および技術を示した(彫像、筆記、数学、印刷、望遠鏡、ロケット、コンピュータ、ラジオ、テレビ等)。いわく、「個々の発明は集合精神を現実に近づけ、段階をひとつ上ると人類と宇宙の関係の理解が深まる。マインドステップの間隔は短くなってきている。人はその加速に気づかないではいられない」。ホーキンズは自分の経験によってマインドステップを定量的に方程式化し、今後のマインドステップの発生時期を述べた。次のマインドステップは2021年で、その後2つのマインドステップが2053年までに来ると言う。そして技術的観点を超越し、次のように推測した。

マインドステップは……一般に、新たな人類の展望、ミームやコミュニケーションに関する発明、次のマインドステップまでの(計算可能ではあるが)長い待機期間を伴う。マインドステップは本当に予期されることはなく、初期段階では抵抗がある。将来、我々も不意打ちを食らうかもしれない。我々は今は想像もできない発見や概念に取り組まざるをえなくなるかもしれないのだ。

特異点という概念は、数学者で作家のヴァーナー・ヴィンジが広めた。ヴィンジは1980年代から特異点について語り、それを初めて印刷物として発表したのはオムニ誌の1983年1月号だった。彼は後に1993年のエッセイ "The Coming Technological Singularity" で、その概念をまとめた(これは、よく引用される「30年以内に私たちは超人間的な知能を作成する技術的な方法を持ち、直後に人の時代は終わるだろう」という一文を含んでいる)。

ヴィンジは、超人的な知能が、彼らを作成した人間よりも速く自らの精神を強化することができるであろうと書いている。「人より偉大な知能が進歩を先導する時、その進行はもっとずっと急速になるだろう」とヴィンジは言う。自己を改良する知性のフィードバックループは、短期間で大幅な技術の進歩を生み出すと彼は予測している。

超人間的知性の創造

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ヴァーナー・ヴィンジは、考えられうる人類を超える知性を創造する方法として、以下の4つを挙げている[38]

他には向知性薬(向精神薬の一種)、精神転送、AIアシスタントなどが提案されている。ジョージ・ダイソンの『Darwin Among the Machines』によると、複雑なコンピュータネットワークや大きなニューラルネットワークは知性(群知能)を生み出し得る。

精神転送は、人間の知性をデジタル化してコピーするという、人工知能の代替的な作り方である。脳の詳細な情報を得る電脳化技術が精神転送に繋がると言う。

特異点到達に積極的な組織は、その方法としてAIを選ぶことが多い。Singularity Institute(特異点研究所)は、2005年の出版物"Why Artificial Intelligence?"でその理由を説明している。

収穫加速の法則

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人類史上のパラダイムシフトとなった重要な出来事を、15の独立したリストで示した両対数グラフ[39]

レイ・カーツワイルは歴史研究の結果、技術的進歩は指数関数的に成長しており特異点が近いという「収穫加速の法則」(The Law of Accelerating Returns)を結論的に主張した。彼はムーアの法則(集積回路の指数関数的な細密化)を元に、集積回路以前の技術も同じ法則に従っていると述べた。

彼の予測によれば、ある技術が限界に近づくと代替的に新技術が生まれるのでパラダイムシフトがより一般化し、「技術革新が加速されて重大なものとなり、人類の歴史に断裂を引き起こす」(カーツワイル、2001年)。彼は特異点が21世紀末までに──つまり2045年に──起きると確信しており、それはヴィンジらの想定と違って緩やかな変化である。この違いは「ソフトな離陸」(soft takeoff)と「ハードな離陸」(hard takeoff)とも言われる。

カーツワイルがこの法則を提案する以前は、社会学者人類学者ら(ルイス・H・モーガン、レスリー・ホワイト、ゲルハルト・レンスキなど)が、技術進歩を文明の発展の原動力とする社会理論を構築してきた。彼らは、技術的マイルストーンやエネルギー制御方法や情報量などで文明発展の度合いを測った。

1970年代末以降、アルビン・トフラー(『未来の衝撃』の著者))、ダニエル・ベル、ジョンネイスビッツらは、脱工業化社会を論じており、それは特異点や特異点後の社会という思想に近い。彼らは工業化社会が終わりつつあり、工業と製品はサービスと情報に取って代わられると考えた。

進化の6つのエポック

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未来学者であるレイ・カーツワイルは、宇宙における情報の進化は6つの段階を経るとし、進化の6つのエポックと名付けている[40]。収穫加速の法則はその一部であり、エポック5は技術的特異点である。

進化は間接的に作用する。ある能力が生み出され、その能力を用いて次の段階へと発展する。
エポック1 物理と化学

原子構造の情報

エポック2 生物

DNAの情報

エポック3 脳

ニューラル・パターンの情報

エポック4 テクノロジー

ハードウェアとソフトウェアの設計情報

エポック5 テクノロジーと人間の知能の融合

生命のあり方(人間の知能も含む)が、人間の築いたテクノロジー(指数関数的に進化する)の基盤に統合される

エポック6 宇宙が覚醒する
宇宙の物質とエネルギーのパターンに、知能プロセスが充満する

プレ・シンギュラリティ(前特異点/社会的特異点)

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現実の動向は予測以上に急速だとも言われる。2014年にロッキード・マーティン社の研究チームは、超小型の実用的な核融合炉を10年後(2024年)までに実現すると発表した。テスラモーターズCEOのイーロン・マスクは、2017年に人間の脳とAIとの接続を研究開発するスタートアップ「ニューラリンク」を起業した[41]

2017年の報道によれば、齊藤元章が示したように日本の産業界では、プレ・シンギュラリティ以降は機械のみが経営を行う純粋機械化経済に移行する(第4次産業革命が到来する)のであり、そのための具体的な施策が行われ始めている[25]

時期の予測

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ヴィンジは1993年のエッセイで、技術的特異点の到来は2005年~2030年と予想した。齊藤元章は、2030年より前だと言う。カーツワイルは、コンピューターの知性が人間を超える時期は2020年代と予想している。

・人間の知能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピューターでは10年以内に、パーソナル・コンピュータ程度のサイズの装置ではその次の10年以内に得られる。2020年代半ばまでに、人間の知能をモデル化した有効なソフトウェアが開発される。
  • ハードとソフトの両方が人間の知能を完全に模倣できるようになれば、2020年代の終わりまでには、コンピューターがチューリングテストに合格できるようになり、コンピュータの知能が生物としての人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。ポスト・ヒューマン誕生 P.40、レイ・カーツワイル著、2005年

[注 4]

カーツワイルの予想によると、2030年代初期には、コンピュータの計算能力は人類の生物的知能と同等になり、2045年には、1000ドルのコンピューターの演算能力がおよそ人間の脳の100億倍(10ペタFLOPS)になって、つまり技術的特異点への土台が十分に生まれていることになり、この時期に人間の能力と社会が根底から覆り変容する[20]。カーツワイルの予測を元に、技術的特異点は「2045年問題」とも言われる[42]

特異点を予測する論者たちの中には、21世紀半ば~22世紀半ばという予測が多い[43]。しかし技術的特異点の概念自体は認めながらも、その実現は遠い将来だと考えるゴードン・ベルのような識者もいる。

実現に向けた技術開発の動向

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2006年のディープラーニングの発明により、ニューラルネットワークの深層化が可能になった。2012年にはディープラーニングによる画像認識手法が高性能を示し、世界的に社会実装が急進した。その後は神経科学機械学習の統合で、AGI(汎用人工知能)の開発競争が起きた。現在は産官学で、人工知能への期待が高まっている。

AI研究の進捗状況

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1956年 - 2000年 AI研究の開始→2度のブームと冬の時代→インターネットの民間への開放

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1956年のダートマス会議により、学術界に人工知能分野が創設された。その時代においても、ディープラーニングの先駆け──すなわちCNNの先駆的なネオコグニトロンやLeNet等──は提案されていたが、実用性は手書き文字認識などに限られていた。

AIブームは二度(1950年代の推論探索、1980年代のエキスパートシステム)起きたが、ブームの度に致命的な理論的限界が指摘されたため、投資も行われなくなりAI研究自体が停滞していた。また、計算機(コンピュータ)の性能はAIに必要な水準を大幅に下回り、通信網も学習用データセットも貧弱だったため、(たとえ理論的に完成されていたとしても)産業応用にはほど遠かった。

1980年代後半~1990年代中頃、人間の曖昧さや環境適応能力を模倣するニューロファジィ等の特化型AIが盛んに研究開発・産業応用され、バズワード化した。白物家電製品においてもニューロファジィを売りにする程だった。だが当時はインターネットやコンピュータの性能もデータも不十分で、現実世界の複雑さに対応できず、期待されたほどの効果は得られなかった。理論的にもファジィ集合と深層学習が組み合わせられないニューラルネットワークには、常に学習の難しさが付き纏った。1990年代のニューラルネットワークは非線形分離が可能だったが、過学習や勾配消失問題などが起きやすく、チューニングしても充分な性能は得られなかった。扇情的に売り出され盛んに研究開発が行われたが、応用は極めて限定的な産業に留まっていた。

1995年からインターネットが民間へ開放されて、通信量が増加していった。後にインターネットは、AIの学習用データセット収集基盤として重要になる。インターネットと強力なコンピュータの発達と支援があって大規模化が可能となり、ディープラーニングも実証実験と実用化が可能になった。

2000年 - 2012年 インターネットの普及→ディープラーニングの発明→第3次AIブームの発生

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2000年代ではムーアの法則的なコンピュータの性能向上、そしてインターネットの普及により、計算資源の制約が減ってAI研究が好転し始めた。

2000年には制限ボルツマンマシンやコントラスティブ・ダイバージェンスの提案、それに基づく2006年のディープラーニングの発明、2010年以降のインターネットを利用したビッグデータ収集環境の整備、2012年のGPU利用による大規模ディープラーニングの発展、同年のGoogleのディープラーニングを使った画像認識などにより、AI研究が各国から再注目され始めた。

この社会現象は第3次人工知能ブームと呼ばれる。その後、ディープラーニングの研究と普及が加速し、レイ・カーツワイルが2005年に広めた概念「技術的特異点」が急に世界的な注目を浴びた。

2012年以降 ディープラーニングの普及→汎用AIの開発競争

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2012年以降、AIへの投資が産官学で増え、特異点を引き起こすとされる汎用AIの研究と、既存AIのビジネス転用が活発に議論され始めた。

ディープラーニングの研究と普及で、AGI(汎用人工知能)を研究開発するプロジェクトはGoogle DeepMindを筆頭に、Vicarious、IBM Cortical Learning Center、全脳アーキテクチャ、PEZY ComputingのNSPU開発、OpenCog、GoodAI、NNAISENSE、IBM SyNAPSE、Numenta等が立ち上げられた。これらの研究開発では、脳のリバースエンジニアリングによる神経科学機械学習の組み合わせが有望とされている[44]。結果として、ディープラーニングを超える汎用性を持つ理論──例えばHTM(Hierarchical Temporal Memory)理論やCLS(Complementary Learning Systems)理論の更新版等──が提唱され始めた。また機械学習の高速化のために、CPU、GPU、FPGA、TPUよりも高い計算性能を持つ量子コンピュータアナログ計算機の導入も検討され始めた。

上記で実現が目指されているAGIの多くは、技術的限界のため全脳アーキテクチャ方式に基づいている。この方式は、脳の各機能ユニットを工学的に再現し、情報統合を行うことで疑似的な汎用性を目指す。ただしこれは、原子・分子レベルで脳を再現する全脳エミュレーション方式に比べて、高度な情報統合(コネクトームなど)を不得手とする。

よってそれは脳のシミュレーションの範囲に留まり、人間的な感性が必要な創造的な仕事や繊細な作業は、全脳エミュレーション方式よりも不得意とされる。しかし、機械の動作速度は非常に高速であり、生物的な人間の脳を全側面で超える働きをする可能性が高い。人間の脳の規模における原子・分子レベルでの物理シミュレーションには膨大な計算資源が必要であり、理論的に完全な汎用性の実現には数十年単位の時間が必要だと考えられている[45]

2017年頃から、実験的な量子コンピュータのクラウドサービスが展開されつつあり、このようなサービスの発達と普及で2020年代にはニューラルネットワークの学習が高速化されると見込まれる。

2015年以降、特化型AIの影響が企業動向を変えるほど広まった。2018年8月31日、原油高が大きな負担となっていたJALがNECに開発を依頼し、AI支援による旅客システムを導入し、約50年続けてきた人間の経験に基づく旅客システム運用を廃止したことで、空席をほぼ0に減らすことに成功し、利益率を大幅に上げた[46]。この事例はディープラーニング以降のAIが社会的に絶大に影響する事例と言え、未来の学びも一変するとされる[47]

2021年6月、グーグルの研究者らが機械学習を用いてAI用チップのフロアプランを作成したところ、設計にかかる時間は人間の1/1000であり、設計されたチップの主要な指数(消費電力・性能など)は、人間が設計したもの以上だった[48]

2022年、AIによる画像生成ブームが起こった[49]

2022年10月、DeepmindのAlphaTensorは、深層学習プログラム用の行列乗算を高速化するアルゴリズム改良版を発見し[50]、それを受けて数学者はより高速な行列乗算プログラムを発表した[51]

2022年11月30日、従来のシステムよりも人間らしい回答を返すChatGPTが公開され、一か月未満で世界的に流行し始めた[52][53]。「メディアアーティスト」である落合陽一によれば、AI関連技術が予想を遥かに超える速度で更新され続けるため、技術的特異点は2025年に来る可能性がある[54]

議論の紛糾

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人工知能ブームに伴い、人類と人工知能の関係や「シンギュラリティ」(特異点)について多様な主張や報道が行われ、期待が高まっているが、2045年に到来するとの予測が主張されている技術的特異点には、その根拠について多くの問題点が指摘されている。

指摘の例
  • 2020年頃にムーアの法則は限界に達すると言われており、その後のコンピュータの性能向上速度は不明である。従来型のコンピュータを大幅に上回る性能を期待して考案された量子コンピュータ光コンピュータは、未だ初歩的な研究段階に留まっており、実用性については不明瞭である。
    • 東浩紀は「けれどもカーツワイルの本を実際に読んでみると、その根拠はかなり薄弱であることに気がつく。彼の未来予測を支えているのは、情報技術の進歩はどんどん速度を増しているのであり、同じ傾向はこれからも続く、したがってあと40年もすれば驚くほどコンピュータの力は増しているはずだ、というただそれだけの直感にすぎないからだ」と指摘している[55]
  • 人工知能への大きな期待とは裏腹に、ビジネスモデルの構築が進んでいない。特に現行の人工知能では高品質で偏りがなく整理されたビッグデータを前提としているため、実環境からの十分なデータ収集が困難であることも多く、人工知能を導入できない状況が発生している[56]。また、人工知能開発を担える人材の少なさもビジネス応用の遅れに繋がっている[56]人間と比較して人工知能の学習に必要なデータの量が多すぎる問題を解決する必要がある。
    • 技術的特異点の前提にある収穫加速の法則は、前提として現実世界からのデータ収集の限界によって制限され得る。例えば、技術革新に必要な物理現象の発見や新素材開発などには物理的な観測や実験が必要で、多大な費用と時間がかかる。この物理的限界が高速化され続けなければ、収穫加速の法則も続かない。第3次人工知能ブームの火付け役であり、大部分の雇用を奪うほどの社会的インパクトが予想されたディープラーニングの段階でも、有用なデータの不足が懸念されている[57]
    • 2026年には大規模言語モデル(LLM)の学習に使えるデータが枯渇するとの予測がある。従って、省データ化のためのアルゴリズムの改良と併せて、投入する学習データについても合成データを用意するなどの新たな対応が迫られている[58]
  • 人工知能が指数関数的に高性能化しても物理的な世界は──極端な複雑さ・倫理・社会構造の変化速度の限界・限りある資源量などにより──指数関数的に発展しない可能性がある。少なくとも人工知能を用いる方法では、計算量オーダーの大きさに起因する難問は解決されないことが判明している(そもそも人工知能アルゴリズムの実行自体がそのような難問である[59])。
    • エネルギー消費の問題としては、人工知能を実行するデータセンターは人間の脳の消費エネルギーとは比較にならないほど膨大な電力を消費し、大きな環境負荷も発生させる事が分かっている。将来にわたって加速する人工知能の大規模化に伴い、電力需要も社会的に容認できないほど大きく増加する可能性がある[60][61]グーグル出身者らが東京に設立したスタートアップ企業「サカナAI」は計算量や消費電力の問題を解決するために、大手企業が軒並み推進する重厚長大な大規模言語モデルとは逆のアプローチである、比較的小さいAIを連携させて高効率に必要な機能を実現する手法の研究開発を進めている[62]
  • 人間の脳にはデジタル的な機構の他に、アナログカオスな機構も備わっており、普及しているディープラーニングよりも遥かに複雑である。そのため、複数種類のタスクを統合的に扱える人間と同等以上の人工知能の開発は、構造の複雑さゆえに進まない可能性がある。そもそも、カオス的な機構は計算自体が困難である[注 5]
  • 人間に設計された人工知能などの機構は本質的に他律システムであり、設計の範囲内でしか動作できず、自発的な判断・行動を行っているわけではないため、過去の事例に制限されている[63]。他律システムは設計の範囲外にある未知の状況には対応できず、時間が経過するとともに設計当初からの環境の変化に沿わない不適切な処理を繰り返すようになる可能性がある(であるからこそ人間によるシステムの管理や更新が必要となる)。他律システムの限界を超越する新しいシステム論オートポイエーシスなど)で議論が続いているが、誰に設計されるわけでもなく地球上に登場し、未知の環境変化にも適応しながら進化を遂げた生命が持つような真の自律性をコード化できるかは不明である。ただし、人間も物理現象に従う他律システムだと考えられ得る。
    • 西垣通が『AI原論』などの書籍で、他者により設計される(つまり他者に律される)人工知能が真の自律性を獲得することはなく、技術的特異点の端緒となる再帰的な人工知能の「改良」の機能についても他者により行われた設計の範囲内でしか動作できないため、再帰的な「改良」後に意味のある動作が保たれる保証がないことや、人工知能に頼り切ると社会の硬直化を含む様々な問題が生じる可能性があることを指摘している[64]。併せて西垣通は、汎用人工知能で人間を完全に代替する方向性ではなく、特化型人工知能と人間が共働する方向性を模索するべきと主張している[65]
  • 中島秀之は「AIは加速するが特異点はやって来ない」という文書の中で初期値の問題,身体性の問題を挙げている[66]
    • 初期値の問題:動的非平衡計算装置である。コンピュータと異なり,電源を切ってから再起動するというわけにはいかない。脳のモデルをコンピュータ内に再現するには,初期値として,ある瞬間の脳の活動状況(ニューロンの興奮状態のほか,血流やホルモン濃度なども関係する)を写し取らねばならない。そのような技術は今のところ存在しない。
    • 身体性の問題:脳は単独で存在しているのではない。目や耳を含む感覚器官のみならず体全体で世界とつながっている。最近では、幼児の手足の運動と言語形成の関係や、内臓の状態が精神活動に影響を与えているという研究などもある。これらをどうするのか。


妥当性についての批判

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否定論からの批判

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AIの進歩によっては、技術的特異点のような事象は発生しないという説もある。また識者らの中には、技術的特異点の概念は認めつつもその現実化は不可避ではないという説、特異「点」と呼べるような特定の一点は存在しないという説も存在する。

AI研究開発からの批判

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生命情報科学者・神経科学者の合原一幸の編著『人工知能はこうして創られる』によれば、AIの急激な発展に伴って「技術的特異点、シンギュラリティ」の思想や哲学が一部で論じられているが、特異点と言っても「数学」的な話ではない[67]。合原が言うには、

「そもそもシンギュラリティと関係した議論における『人間のを超える』という言明自体がうまく定義できていない」[68]

確かに、脳を「デジタル情報処理システム」として捉える観点から見れば、シンギュラリティは起こり得るかもしれない[69]。しかし実際の脳はそのような単純なシステムではなく、デジタルアナログが融合した「ハイブリッド系」であることが、脳神経科学の観察結果で示されている[69]。合原によると、神経膜では様々な「ノイズ」が存在し、このノイズ付きのアナログ量によって脳内のニューロンの「カオス」が生み出されているため、このような状況をデジタルで記述することは「極めて困難」と考えられている[70]

弱いAIに関する研究結果が、強いAI(汎用人工知能)にそのまま適用可能であるか否かについては議論がある。哲学者のヒューバート・ドレイファス[71] や物理学者のロジャー・ペンローズのように、現行の人工知能研究には根本的な欠陥があり、既存の手法を踏襲することによっては強いAIは実現不可能であると考える学者も存在している[72]

ロータスデベロップメントの創業者のミッチ・ケイパーは、2029年までにチューリング・テストに合格する人工知能が開発されるという予測に反対し、カーツワイルと2万ドルを賭けている[73]

生物学からの批判

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カーツワイルは、生物学的な脳機能を理解していないという批判がある。彼は、人間の脳がシミュレーション可能になる時期を人間のゲノムの数から見積っている。しかし、生物のゲノムは半導体のトランジスターと同等とみなすことはできず、脳の構造や成長を無視していると、生物学者のポール・ザカリー・マイヤーズは批判している[74]

物理的観点からの批判

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あらゆる指数関数的成長には限界がある。限られた期間内では指数関数的振る舞いを見せる現象は──化学物質の反応、細胞分裂や生物の個体数などが──存在するが、遅かれ早かれ指数関数的現象は、必要な資源基盤(化学物質や食物など)を消耗し、停滞・崩壊する。テクノロジーの発展が、一般的な指数関数的現象と異なると考える理由は無い。つまり、指数関数的成長には指数関数的入力が必要だが、現実世界でそれは不可能である。一般的に成長現象はシグモイド曲線を取り、急激な成長期と停滞期(崩壊期)が存在する[75]

宗教家であり思想史家であるジョン・マイケル・グリア英語版は、テクノロジーの発展は、未来に向かって一直線に進んでいくものではなく、ツリー状に広がっていくものであると述べている[76]。半世紀前の未来予想では、宇宙旅行をも含む輸送技術の爆発的発達が予想されていたが、その後は輸送技術の進歩が停滞した。一方、21世紀現在の情報技術の爆発的発達と普及は、以前は一般的に予想されていなかった。同様に、近年の情報処理技術の発達もいずれどこかで限界となり、現代の人々が全く予想もできなかった新しい技術が発展すると考えられている。

また、どれほど優れた知性(思考)であっても、それだけでは問題を解決できない[77]。すなわち、優秀なAIであれ知能強化された人間であれ、実世界の現象を観察・実験し、モデルを検証しなければ、現実世界の問題を解決できない。しかしその時間的限界を定めるのは、思考の時間ではなく、対象物の物理的変化(細胞分裂や素粒子の反応)に要する時間であるため、超越的知性の存在だけは特異点と呼べるような変化は起こらないのではないかという批判がある。

経済学からの批判

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物理学的・技術的に可能でも、経済・社会・法律的な要請によって普及していない技術も存在する。たとえば超音速旅客機は1960年代に実用化されたが、採算が取れないため、2016年時点でも商業飛行は無い。同様に、研究室ではAGI(汎用人工知能)が実現できたとしても、経済合理性の問題があって社会で普及できず、特異点発生に必要な超越的知性が不十分になり得る。

マーティン・フォードは『トンネルの中の光:オートメーション、テクノロジーの加速と未来の経済』で[78]、「テクノロジーのパラドックス」を示している。いわく、技術的特異点の発生前に、ほとんどのルーチンワークが自動化されるだろう。何故ならルーチンワークの自動化に必要な技術は、技術的特異点よりも簡単だからだ。ルーチンワークの自動化は莫大な失業を発生させ、消費者の有効需要を下げ、結果的に技術への投資を低下させるだろう。そうなると、技術的特異点の実現は遠ざかることになる。産業革命期のような大規模な産業構造の転換と新産業による失業者の吸収は未だ起きておらず、慢性的な高失業率が続いており、この傾向は短期的には変わる気配を見せていない[79]

一般的に、技術革新に対する投資の見返りは次第に低下していくことが示されている[80][81]。Theodore Modis と Jonathan Huebner は技術革新の加速が止まっただけではなく、現在減速していると主張した。John Smart は彼らの結論を批判している[82]。また、カーツワイルは理論構築のために過去の出来事を恣意的に選別した、という批判もある。

経済史学からの批判

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経済史学者の杉浦勢之によると、カーツワイルはレトリック修辞技法・美辞麗句)を駆使している[83]。もし100年や1000年先の未来を語った場合、人々の実感や想像をかき立てるのは難しい[83]。しかし語る内容が近未来(2045年)なら、それは現在の世代のほとんどがまだ生きている時代であり、いくらか迫真性がある[83]。そして、行動経済学者ジョージ・エインズリーの「双曲割引」説によれば、人間は遠い将来よりも近い将来で得られるものに、より高い価値を置く[83]。つまり、近未来にシンギュラリティが来ると人々に言えば、《近未来に賭けたい》・《投資してリターン利益)を得たい》といった誘惑が広まり得る[83]。この場合、何が正しいのか、数学的に正確か等の検証は、重視されていない[83]

杉浦が言うには、シンギュラリティ論のレトリックは、宗教家が使っているものと同類である[83]使徒パウロ説教のようなシンギュラリティ論に従えば、約束された「来るべき時」は──または神の国の到来は、審判の日は──間近に迫ってきている[83]。その「時」は不可避にやって来るものであり、「特異点」である[83]。このように預言予言)する論は、近現代に至るまで思想家たちを惹きつけており、その典型例は、共産主義社会の到来を預言したカール・マルクスや、民族共同体の勝利を預言したナチス法学カール・シュミットである[83]

経営者であるカーツワイルは、テクノロジー発展の先に「不死」を預言している[83]。これは一見すると奇妙だが、彼を現代の「預言者」と捉えれば説明がつく[83]。カーツワイルは、「テクノロジー」を「神」のように扱うレトリックによって、数学や自然科学からの批判を無意味化しているのである[83]。古代から続く預言者やシンギュラリティ論者に対する批判として、

「かれらは、理解することの純粋な喜びや、臨床的な視線の中立とは無縁なのだ」

というレジス・ドブレの批判が援用されている[84]

指数関数的観点からの批判

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WIRED』誌創刊者のケヴィン・ケリーは、カーツワイルの示した指数関数的グラフが、指数関数的であるからこそ特異点に到達できないことを批判している[85]

数学的な特異点という概念は幻想である。[中略] 世界の主な出来事が指数関数的割合で発生していることを示す、「特異点へのカウントダウン」というグラフを見てみよう。それは数百万年の歴史にわたって、レーザーのようにきれいな直線を描いて突進している。

しかし、そのグラフを30年前で止めずに現在まで延ばすと、何か奇妙なことが見えてくる。カーツワイルのファンであり評論家でもあるケヴィン・ドラムは、「ワシントンマンスリー」(Washington Monthly)に書いた記事で、このグラフを30年前で止めずにピンクの部分を追加して、現在まで延長した。驚いたことに、それは今現在が特異点であることを示唆している。さらに不思議なことは、そのグラフに沿ってほとんど全ての時点で、同じ見解が正しいように思われる。

もしも、ベンジャミン・フランクリン(昔のカーツワイルみたいな人)が1800年に同じグラフを描いたとしたら、フランクリンのグラフも、そのときの「たった今」の時点で、特異点が発生していることを示すだろう。同じことはラジオの発明のとき、あるいは都市の出現のとき、あるいは歴史のどの時点でも起こるだろう。グラフは直線であって、その「曲率」すなわち増加率はグラフ上のどこでも同じなのだから。[中略]

すなわち、指数関数的増加の中にいる限り、時間軸に沿ったどの点においても、特異点は「近い」ということだ。特異点とは、指数関数的増加を過去にさかのぼって観察するときに、いつでも現れる幻影に過ぎない。グラフは宇宙の始まりに向かって、正確に指数関数的増加をさかのぼっているから、これは何百万年にもわたって、特異点はまもなく起ころうとしていることになる!言い換えれば、特異点はいつも近い。今までいつも「近い」ままであったし、将来もいつも「近い」のだ。[85]

心理学・認知科学からの批判

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心理学者・認知科学者であるスティーブン・ピンカーは以下のように述べている[86]

技術的特異点が到達すると信じる理由は、まったく無い。人間の頭の中で未来の姿を想像できたとしても、それが実現する見込が高いこと、あるいはそもそも実現可能であるということの証明にはならない。ドーム型都市ジェットパックによる通勤、水中都市、超高層建築や核駆動自動車といったもの、これらは全て私が子供だったころ、未来の想像において当たり前に実現されているはずのものだったが、ついに現実にはならなかった。本当に機能するテクノロジーは、人類のあらゆる問題を解決する魔法のランプなどではない。[86]

宗教批判的観点からの批判

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技術的特異点の概念は、キリスト教終末論から影響を受けていると言われており、評論家や神学者の中には、技術的特異点の概念を信仰と同一視する者も居る。ケヴィン・ケリーは、技術的特異点とキリスト教における携挙ラプチャー “rapture”)との類似性を指摘している[85]

携挙というのは、キリストが再臨するとき、全ての信者は普通の生活からいきなり空中に持ち上げられて、を経由せずに天の不死不滅の世界へ導かれることである。この特異な出来事によって、改良された身体、永遠の知恵で満たされた完全な知性ができる。そして、それは「近い将来」に起こることになっている。そのような期待は、技術の携挙、つまり特異点とほとんど同じである[85]

科学ジャーナリストのジョン・ホーガン も、技術的特異点を信仰であるとみなしている。

現実を見よう。技術的特異点は、科学的なビジョンというよりは宗教である。SF作家のケン・マクラウドは「コンピューターマニアたちの携挙(the rapture for nerds)」という名前を授けている。つまり、歴史の終末であり、イエスが現れ信仰者を天国へと導き、罪人を後に残していく瞬間である。このような超越的なものを願う理由は、完全に理解可能である。個人としても種としても、我々は致死的に重大な問題に直面している。たとえば、テロ、核拡散、人口過剰、貧困、飢餓、環境破壊、気候変動、資源枯渇やエイズなどである。エンジニアと科学者は、我々がこれらの世界の問題に立ち向かい、解決策を発見することを支援するべきなのであって、技術的特異点のような夢想的、疑似科学的ファンタジーに浸るべきではない。[87]

ジョン・マイケル・グリアも同様の見方をしている。

…技術的特異点の概念全体は、関連する科学分野の専門家から激しく、そして正しく批判されている。けれども、あまり言及されることは無いが、カーツワイルの技術的特異点の物語は科学理論などではない。むしろそれは、ジョン・ダービによる携挙の神学理論を、SFの言葉で書き直した複製である。 技術的特異点は、単にキリストの再臨をテクノロジー的にリメイクしたものに過ぎない。超知性的コンピューターが神の役割を担っているのである。[88]

思想史研究者であるアニー・レイヴィも同様の批判を加えている[要出典]

もちろん我々は我々自身の能力を超えた技術を作ってきた。それゆえ、我々は我々の能力を超えた知能を作ることができるだろうし、一部は既に実現されているとさえ言えるだろう。けれども、ひとたび我々の知性を超えた人工知能が実現しさえすれば、ただちに超越者が生み出され、あらゆる問題の最終的解決がもたらされると信じるためには、相当な論理的飛躍を受け入れなければならない。 その表層的なテクノロジー的装いを剥ぎ取ってみれば、中にあるのは古くからある終末論そのものである。すなわち、我々の生きている間に、何らかの超越者が地上に降臨し、全ての現世的問題からの解放と永遠の命をもたらすという信条なのだ。…このような新たな終末論が、近年の経済危機以後、急速に蔓延したのは決して偶然ではない。すなわち、現代の解決不可能な諸問題から眼を背けさせ、来世において救済を授けるという現実逃避としての役割を担っていると言える。

認識論的観点からの批判

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ケリーが言うには、仮に人間が特異点に入ったとしても、それを認識することは特異点の中では不可能であり、後から振り返ることで認識できる[85]

特異点に代表されるような技術の変化は、特異点に代表される(というのは不正確だが)ような変化の「内部」からでは全く認識できないと思う。ある水準から次の水準への転換は、新しい水準にある高い視点から、すなわち、そこに到達した後でしか見ることができない。

神経細胞との比較において、頭脳は特異点のようなものである。低い部分からは見えないし想像もできない。神経細胞の視点から見れば、脳へ通報するための少数の神経細胞から多数の神経細胞への活動は、神経細胞の集合による、ゆっくりとした連続的でなめらかな道程のように見えるだろう。そこには途絶の感覚、携挙の感覚はない。その不連続は逆方向に見たときにのみ知ることができる。

言語は文字と同様に、ある種の特異点である。しかし、その2つへ向かう行程は、その習得者には連続的であって感知できない。友人から聞いたおもしろい話を思い出した。十万年前に原始人たちが、たき火のまわりに座って最後の肉のかけらを口の中で噛みながら、喉の音でおしゃべりしていた。一人がこう言った。

「おい、みんな、俺たちは話しているぞ!」
「話している、ってどういうことだ?おまえ、その骨は食べ終わったのか?」
「俺たちは、お互いに話し合っている!言葉を使っているんだ。わからないのか?」
「また、あのぶどうの何とかを飲み過ぎたんだな。」
「今、俺たちがしていることだよ!」
「何だって?」

組織の次の段階が始まるとき、現在の段階にいる間は新しい段階を把握できない。なぜならば、その認識は新しい段階において起こるはずだからである。全世界的な文化が出現する中で、新しい段階への転換は実際に起こっているが、その変化の途中では認識できない。[中略] 従って、私たちは次のようなことを予期することができる。今後数百年にわたって、生命が当たり前のように途切れることなく続いて、決して大変動はなく、その間ずっと新しいものが蓄積する。それはやがて私たちが、ある種の道具を手に入れたことに気づくまで続く。その道具を使って、何か新しい道具が存在することを認識し、さらに、その新しい道具はしばらく前にすでに出現していたことを認識するのである。

私がこのことをエスター・ダイソンに話すと、彼女は、私たちが毎日特異点に近い経験をしていることを指摘した。
「それは目覚めである。後から振り返ると何が起こったのか理解できるが、夢の中にいるときには、目が覚めるかどうかわからない……」

今から千年後に、その時点のあらゆる11次元グラフは「特異点が近い」ことを示しているだろう。不死の存在、全世界的意識、その他、私たちが未来に期待することは、全て実現し、実在しているかもしれないが、それでも3006年の対数目盛のグラフは、やはり特異点が近づいていることを示すだろう。特異点は不連続な出来事ではない。それは非常にひずんだエクストロピー的(進化し続ける)世界に織り込まれた連続体である。それは、生命とテクニウムがますます速く進化するにつれて、私たちとともに移動する幻影である。[85]

肯定論からの批判

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特異点は実現可能である、または不可避であると考える人々の中には、特異点後の出来事が人間への危険であると考えて、特異点実現のための活動を批判する者も居る。一方で多くの特異点論者は、ナノテクノロジーが人間性への最大の危険の一つだと考えており、AIをナノテクノロジーよりも先行させるべきだと主張している。ただしForesight Institute などは分子ナノテクノロジーを擁護し、ナノテクノロジーは特異点以前に安全で制御可能となるし、有益な特異点をもたらすのに役立つと主張している。

友好的AIを支持する立場には、特異点が潜在的に巨大な危険であると認識し、人間へ好意的なAIを設計してその危険を排除しようという考えがある。アイザック・アシモフロボット工学三原則は、人間を傷つけないAI搭載ロボットを意図しているが、アシモフの小説はこの法則の抜け穴を扱うことが多い。

危険性

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超人的な知性が、人類の生存や繁栄と共存できない目的を持つ可能性も考えられている。例えば、機械的知性の発達で非人間的な感覚・感情・感性が生まれ得る。AI研究者ヒューゴ・デ・ガリスいわく、AIが人類排除を目指した場合、人類はそれを止められないかもしれない。他には分子ナノテクノロジーや遺伝子工学についての危険性がよく言われており、これらの問題は特異点支持者と批判者の両方に重要だと言う。ビル・ジョイWIREDで、その問題をテーマとして Why the future doesn't need us(何故未来は我々を必要としないのか)を書いた(2000年)。オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロムは人類の生存に対する特異点の脅威についての論文 Existential Risks(存在のリスク)をまとめた(2002年)。ボストロムは、『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies(超知能:道筋、危険、戦略)』の著者でもある。

宇宙物理学者スティーブン・ホーキングは、人類の能力を超えるAIが人類を滅ぼしかねない危険性があり、生物学的進化に制約される人類がAIの発達に対抗することは困難だと考えており[89][90]国連代表部国際連合地域間犯罪司法研究所が主催した会議でも懸念を表明した[91][92]。この国連の会議では、ニック・ボストロムも、特に人間の能力を超えるAIを制御する方法は未解決であり、解決のための研究の必要性を訴えている[91][92]

ホーキングは、2015年5月12日にロンドンで開催されたツァイトガイスト2015でも、人工知能が「100年以内に人間の文明を終わらせる」可能性を指摘した[93]。ホーキングはまた、2014年でも、マックス・テグマーク(物理学者)、フランク・ウィルチェック(ノーベル物理学受賞者)、スチュワート・ラッセルらとともに、人工知能に関する理解が一般に浸透していない問題を指摘した[91][94]

ハーバード・ロー・スクールヒューマン・ライツ・ウォッチは、完全な自律兵器の開発・運用を国際的に禁止するべきだと2015年4月の報告書で要求した[93]

ネオ・ラッダイトの見方

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一部の人々の主張によると、先端技術の開発は危険過ぎるため、そのような発明はやめるべきである。ユナボマーと呼ばれたアメリカの連続爆弾魔セオドア・カジンスキーは、技術によって上流階級が簡単に人類の多くを抹殺できるようになるかもしれないと言う。一方でAIが作られなければ、十分な技術革新の後で人類の大部分は家畜同然になるだろうとも主張している。カジンスキーの言葉はビル・ジョイの記事およびレイ・カーツワイルの最近の本に書かれている。カジンスキーは特異点に反対し、ネオ・ラッダイト運動をサポートしている。多くの人々は特異点には反対するが、ラッダイト運動のように現在の技術を排除しようとはしない。

カジンスキーだけでなく、ジョン・ザーザンやデリック・ジェンセンといった反文明理論家の多くはエコアナーキズム主義を唱える。それは、技術的特異点を機械制御のやりたい放題であるとし、工業化された文明以外の野性的で妥協の無い自由な生活の損失であるとする。地球解放戦線(ELF)やEarth First!といった環境問題に注力するグループも、基本的には特異点を阻止すべきと考えている。

一方、特異点によって未来の雇用機会が奪われることへの懸念はあるが、ラッダイト運動者の恐れは現実とはならず、産業革命以後には職種の成長があった。経済的には特異点後の社会はそれ以前の社会よりも豊かとなる、とも言われる。特異点後の未来では、一人当たりの労働量は減少するが、一人当たりの富は増加するとの説もある[95]。マクロ経済学の井上は、技術的失業、中産階級の消滅、雇用を機械に奪われる問題の解決策として、ベーシック・インカムを提唱している[95]

オバマ米大統領の問題提起

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『WIRED』US版の2016年11月号[96] にて、米大統領バラク・オバマMITメディアラボ所長の伊藤穰一による対談が企画された。テーマは、AI、自律走行車、サイバーセキュリティーシンギュラリティである。

伊藤所長は、2016年はAIがコンピューター科学を超えて万人に重要となった年であると述べ、オバマ大統領は、今後コンピューターが多くの仕事を担うようになるにつれ、価値ある仕事への適切な対価について議論していくことが必要だと延べた。

オバマ大統領は、専用AIがあらゆる生活の場に進出したことにより、生産性や効率が格段に向上し、莫大な富と機会を生み出す一方で、特定の職業を消滅させ、格差拡大や賃金低下をもたらす可能性があると指摘した。一般の人が心配しているのは、シンギュラリティではなく、自分の仕事が機械に取られることだと言う。また、スキルが不要なサービス業だけでなく、コンピューターが対応可能な高スキルの職業も消える可能性があるという。伊藤所長が一例で挙げたベーシックインカムが人々に受け入れられるか、今後10~20年の間議論が続くと予想している。

研究活動に対する政府の役割としては、研究内容にあまり関与せず、予算で強く支援し、基礎研究と応用研究との対話をうながすことが重要だと言う。技術革新による問題の深刻化については、規制強化でなく、特定の人々に不利益をこうむらないような政府の関与であるべきである。国家安全保障チームは、機械が人類を乗っ取ることではなく、現状のサイバーセキュリティーの延長として、システムへ侵入に対する対策が必要だと指摘した。

シンギュラリティ後のシンギュラリティ

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人間がポスト・ヒューマンを作れるなら、ポスト・ヒューマンも十分な時間と数があればさらなる上位種を作れるのではないか、それが繰り返されなければ神のような”何か”が生まれるのではないかと考える人もいる(シンギュラリティ後のシンギュラリティ)。 しかしカーツワイル等は、AIの能力で十分神の域に達すると考えているようである。

フィクションでの描写

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参考文献

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学術論文
  • 杉浦, 勢之「「経験」・「未来」・「天使」:「逓信省とは何であったか」を考えなければならない理由についてのいくつかの予備的考察」『郵政博物館研究紀要』第9巻、通信文化協会博物館部、2017年、1-19頁、NAID 40021530515 
学術書
ビジネス書
その他

脚注

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注釈

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  1. ^ 以下は人工知能研究開発者・中島秀之の論文からの引用[3]
    シンギュラリティというのは数学用語で,関数の値が定まらない特異点のことだ. … カーツワイルの呼ぶシンギュラリティが数学的な意味で正しいものだとすれば(そうは思えないのだが),シンギュラリティ以降は現在の我々の知的営みは残らないことになるし,その後を考えることも無駄だということだ. … 本稿ではカーツワイルの定義に従って議論を進めよう.
    特異点とはなにか。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来のことだ(レイ・カーツワイル:シンギュラリティは近い─人類が生命超越するとき(Kindle の位置,No.249-250)Kindle 版).
  2. ^
  3. ^ 2020年3月に分散型コンピューティングを行うFolding@homeプロジェクトが世界で初めてexaFLOPSの壁を突破した。
  4. ^ 以下はカーツワイルの自著の内容:「人間の知能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピューターでは10年以内に、パーソナル・コンピュータ程度のサイズの装置ではその次の10年以内に得られる。2020年代半ばまでに、人間の知能をモデル化した有効なソフトウェアが開発される。」「ハードとソフトの両方が人間の知能を完全に模倣できるようになれば、2020年代の終わりまでには、コンピューターがチューリングテストに合格できるようになり、コンピュータの知能が生物としての人間の知能と区別がつかなくなるまでになる。」(『ポスト・ヒューマン誕生』p.40、2005年)。
    カーツワイルが想定する2045年の世界のシナリオは、1000ドルのコンピューターが人間の脳の100億倍の演算能力を持ち、技術的特異点への土台ができている、というものであり、コンピューター一台が人間(人類)の知能を超えた瞬間に激変が起きるとは言っていない。
  5. ^ 例えば、アナログカオスな現象を扱う気象予測は、最新のスーパーコンピュータを投入し続けてようやく予測精度の向上が達成される分野である。

出典

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  3. ^ 中島秀之 2018, p. 95.
  4. ^ a b c カーツワイル 2007, p. 奥付.
  5. ^ カーツワイル 2007, pp. 37–38.
  6. ^ a b カーツワイル 2007, p. 521.
  7. ^ カーツワイル 2007, p. 520.
  8. ^ カーツワイル 2007, p. 518.
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関連項目

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外部リンク

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