アイリッシュシチュー
アイリッシュシチュー(英: Irish stew、愛: stobhach/Stobhach Gaelach)は、アイルランドのシチューである。
概要
[編集]アイルランドにおける伝統的な料理であり、家庭の数だけレシピがある[1]。
決まっている食材は、肉とジャガイモ。肉は羊肉(マトン)が伝統的だが、子ヤギ肉あるいは牛肉でもよい。羊肉(マトン)の風味によく合う料理と言われる。伝統的にはマトンか子ヤギの肉が使われるが、手に入りにくい場合は牛肉かラム(子羊の肉)で代用する[2]。
「子羊の肉(ラム)はあまり使用されない[3]」と書かれた時期もあるが、反対に「近年では手に入れやすいラム肉でつくられることが多い[4]」とも。
肉に牛肉を選ぶとビーフシチュー(「アイリッシュ・ビーフシチュー」)になり、牛肉を入れる場合にはビールを入れて肉を柔らかくする[2]。
野菜は、ジャガイモに加えて玉ねぎも入れることは多いが、さらに他の野菜も入れるか入れないか、たとえばニンジンやネギまで入れるか入れないか、は各家庭で異なる[4]。人によってはキャベツ(1 - 2 cm幅に切ったもの)も加える。キャベツまで加えるレベルになると、この一品だけで、もう「完結した食事」となる[4]。
温まりたい時とか、「心地よさ」を感じたい時にぴったりの料理であり、年間を通して親しまれている[4]。アイルランドでは聖パトリックの祝日には皆で食べる、といった印象がある[4]。
パンを添えて食べるとぴったりで、最後に皿に残ったシチューをパンでぬぐってきれいに食べきることもできる[4]。
作り方
[編集]角切りの羊肉(主に首肉が使用される[5][3])、輪切りのタマネギ、ジャガイモ、香辛料としてタイム、パセリ 、塩コショウとスープストックで煮たシチュー。切り分けた羊肉、タマネギ、ジャガイモを交互に重ね、弱火で煮込んで完成となる[3]。
材料は炒めず、ブイヨンやルウを加えずに煮込んで白く仕上げる点が特徴である。味付けは基本的に塩コショウで簡素にされるが、家庭によっては牛乳を加えてクリームシチュー風にする場合もある[2]。伝統的には、香辛料で風味と香りを付けたムラサキキャベツのマリネが付け合せにされる[3]。
アイリッシュシチューにニンジンを入れるかどうかについてはアイルランド人の間で意見が分かれている[5]。また、カブによく似た野菜であるターニップが具材に使われることもある[1]。ニンジンやカブなど野菜は別茹でして皿に盛り付けるのが正式な食べ方とされているが[6]、これらの野菜を別茹でするかについても意見が分かれる[2]。
日本国内のアイリッシュシチュー
[編集]日本国内でアイリッシュシチューとしてメニューに出している店の大半はビーフシチュー(アイリッシュ・ビーフシチュー)であり、伝統的なマトンや子ヤギ肉やラム肉のアイリッシュシチューを出している店は特に限られる。
日本人からは、日本料理の肉じゃがに例えられることがある[1]。
1966年にハウス食品から発売された「クリームシチューミクス」(日本で最初に発売されたシチューミクス)は、開発にあたってアイリッシュシチューが参考にされており、発売当初のパッケージには「IRISH STEW 欧風煮込み料理」の文字も入っていた[7]。
脚注
[編集]- ^ a b c “食事・料理”. アイルランド政府観光庁. 2014年3月時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年10月閲覧。
- ^ a b c d 海老島均、山下理恵子編著『アイルランドを知るための70章』、p.235
- ^ a b c d 「IRISH STEW」『新ラルース料理大事典』2巻、p.580
- ^ a b c d e f Elaine Lemm (2024年3月6日). “Traditional Irish Stew”. The Spruce Eats. Dotdash Meredith. 2024年7月14日閲覧。
- ^ a b 玉村『世界の野菜を旅する』、p.84
- ^ 河野友美編『料理用語』、p.3
- ^ 柏木珠希 (2020年12月6日). “クリームシチューは日本発祥 ご飯にかける?わける?”. NIKKEI STYLE 食の豆知識. p. 1. 2024年7月14日閲覧。
参考文献
[編集]- 海老島均、山下理恵子編著『アイルランドを知るための70章』(エリア・スタディーズ, 明石書店, 2011年8月)
- 河野友美編『料理用語』(新・食品事典13, 真珠書院, 1994年6月)
- 玉村豊男『世界の野菜を旅する』(講談社現代新書, 講談社, 2010年6月)
- 「IRISH STEW」『新ラルース料理大事典』2巻、580頁(辻調理師専門学校 辻静雄料理教育研究所訳, 同朋舎メディアプラン, 1999年3月)