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2019年11月11日 (月) 01:09時点における版
ゲンゴロウ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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保全状況評価 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
絶滅危惧II類(環境省レッドリスト) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Cybister chinensis Motschulsky, 1854 [1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ゲンゴロウ[RL 1] |
ゲンゴロウ(Cybister chinensis[注 1]、竜蝨・源五郎[書籍 1]。ナミゲンゴロウ・オオゲンゴロウなどの別名あり)は、コウチュウ目ゲンゴロウ科ゲンゴロウ亜科ゲンゴロウ属の水生昆虫[書籍 2]。日本産のゲンゴロウ類[書籍 1]・および水生甲虫類としては最大種である[書籍 3]。
かつて日本では一部地方で食用にされるほど高密度で生息し、秋に多産する生息池の水を落とした際には多数採集できた[書籍 3]。このようにかつて身近な昆虫だった本種はタガメと並び「日本の水田の昆虫」の代表格として挙げられたが[書籍 4][書籍 5]、2019年現在は生息環境破壊・侵略的外来種の侵入・乱獲などにより日本全国で著しく減少し絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)に指定されている[RL 1]。
名称
本種は漢字で「源五郎」と表記するが、その語源には以下の説がある[書籍 6]。
- 江戸時代後期・1834年(天保5年)に大石千引が記した語源解説書『言元梯』によれば[書籍 7]、本種の名称「ゲンゴロウ」は「玄甲」もしくはその読み下し「げんがはら」が語源とされる[書籍 6]。ゲンゴロウの姿・小動物を捕食する生態が「玄甲」に見立てられたと考えられる[書籍 6]。
- 増井金典は「でんぐりかえろ」(旋回する、の意味)が「ゲンゴロウ」の語源と推測している[書籍 8]。
- 「語源は不明」とする説もある[書籍 9]。この語源不明説を扱った文献では「『源五郎』と称する生物名には他に『源五郎狐』『源五郎鮒』がおり、前者は『毛黒狐』(けぐろきつね)の訛りという説があるほか、後者は『大言海』にて人名由来説・『夏頃(けごろ)』の延という説の2説が紹介されているが、いずれも確かな語源はわからない」と解説されている[書籍 9]。
なお本種の和名は単に「ゲンゴロウ」ではあるが、「ゲンゴロウ」の名称は本種に限らずゲンゴロウ類(ゲンゴロウ科)の総称としても用いられる[書籍 10]。そのため特に普通種だった本種を指す場合はゲンゴロウ類全体と区別できるよう「タダゲンゴロウ」「ナミゲンゴロウ」と呼称されていたが、後述のように生息数が激減しているために近年では「オオゲンゴロウ」「ホンゲンゴロウ」などの名称で呼ばれるようになっている[書籍 11]。
都築・谷脇・猪田(2003)は「漢字で『源五郎』と書く人名のような和名が大変親しみやすい印象を与えており『他の水生昆虫の名前を知らなくても“ゲンゴロウ”の名前は知っている』人も多い」と述べているほか[書籍 12]、三木卓も自著で「この虫をかつて愛した人たちの親愛感が『源五郎』という名前に残っている」と形容している[書籍 13]。
また竜蝨(りゅうしつ)の異名があるほか[書籍 10]、一部地方ではヘビトンボの幼虫と同じく本種幼虫を孫太郎虫(まごたろうむし)と呼称する場合がある[書籍 14]。
このほかかつて食用に用いていた長野県ではガムシとともにトウクロウ・秋田県では同じくヒラツカという方言で呼ばれたほか[書籍 15]、新潟県の方言では成虫をガムシとともに「ガメ」「ガメムシ」「ガマ」「ワッパムシ」など、幼虫を「キイキムシ」と呼称した[3]。
分布
日本本土各地(北海道・本州・四国・九州)・朝鮮半島(大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国)・中華人民共和国(中国)・台湾[書籍 2]・ロシア連邦シベリア南部に分布するが[書籍 16]、九州南部ではより南方に生息するコガタノゲンゴロウが優占しており、近縁種のフチトリゲンゴロウ・ヒメフチトリゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウが生息する南西諸島には分布しない[書籍 16]。大韓民国(韓国)では1991年にゲンゴロウの切手が発行されている[書籍 16]。元来は亜熱帯から温帯へ分布を拡大した南方系の種類で[書籍 17]、南方種群の代表格である本種はゲンゴロウ属として最も北方まで分布している[書籍 16]。
垂直分布範囲も幅広く[書籍 2]、本来は平野部 - 山間部にかけて生息する種だが[RL 1][書籍 18]、後述のように平野部ではほぼ絶滅している[RL 1]。
特徴
成虫
成虫の体は全長34 - 42ミリメートル(mm)の比較的平たい卵形で[書籍 2]、体の線がほぼ段差なくつながり水の抵抗を極力抑えた流線形になっている[書籍 19]。世界各地のゲンゴロウ類で最大級の部類に入る[書籍 20]。
背面から見た体色は緑色もしくは暗褐色で[書籍 2]、上翅には3条の点刻列(点線)があり[書籍 2][書籍 21]、光加減で緑色に輝くが雌雄で以下のような違いがある[書籍 5]。
- ♂成虫の背面(前胸背板・上翅)は前述の点刻列および「前胸背の前縁部に点刻がある」点を除き全体的に滑らかで、♀より強い光沢がある[書籍 2]。
- ♀成虫の背面(前胸背板および翅端部を除く上翅)には[書籍 2]、全面的に細かい溝[書籍 21]・しわが多数あり[書籍 22]、光沢は♂より弱い[書籍 2]。
体の縁(頭楯・前頭両側・上唇・前胸背および上翅側縁部)は黄色 - 淡黄褐色である[書籍 2]。また前頭両側の黄色部内方には浅い窪みがあり触角・口枝は黄褐色である[書籍 2]。
歩脚は黄褐色 - 赤褐色(腿節・脛節・跗節(フ節)はやや暗色)で[書籍 2]、前脚・中脚は強大な後脚と比較して小さめだが前脚に2本の爪(♂の場合はさらに後述の吸盤)を持ち[書籍 23]、この鋭い爪を用いて獲物を捕食する[書籍 24]。後脚はオールのような形状で[書籍 1]、その両側に遊泳毛が生え[書籍 2]、太短く遊泳に適した形となっている[書籍 25]。前脚に関しては雌雄で以下のような違いがあり、これが本種における最大の雌雄判別方法となる[書籍 26]。
- ♂の前脚跗節は第1 - 3節が楕円形に[書籍 25]大きく膨らんで円盤状になっており[書籍 22]、交尾の際はその裏にある吸盤で♀の背面に吸着するが[書籍 27]、
- ♀は♂と異なり前脚は膨らんでおらず細長くなっている[書籍 22]。
腹面は黄色 - 黄褐色で光沢が強いが前胸腹板突起・後胸内方・後基節内方は黒色で、♂の交尾器中央片先端部は単純で急に細くなる[書籍 2]。
他種との区別方法
本種のように縁取りのような黄褐色部分を持つゲンゴロウ属の種は他にコガタノゲンゴロウ・マルコガタノゲンゴロウ・フチトリゲンゴロウ・ヒメフチトリゲンゴロウがいるが[書籍 28]、本種の縁取りは肩部を除いて側縁に達さず翅端に向かって徐々に細くなり、翅端部には不明瞭な雲状の紋があることから区別できる[書籍 2]。なお本種を含めゲンゴロウ類は主に肉食であることから一般的な昆虫標本製作時に使用される酢酸エチルなどで殺虫すると各節の隙間から脂が漏出し、特にこの黄色い縁取りが変色して真っ黒になってしまい同定が困難になる場合がある[書籍 29]。
また腹面から見ると本種は黄色 - 黄褐色だがコガタノゲンゴロウは黒色・フチトリゲンゴロウは暗赤褐色・ヒメフチトリゲンゴロウは「前半部が黄褐色・後半部が黒褐色」・マルコガタノゲンゴロウは赤褐色であるためそれぞれ区別できる[書籍 26]。
なおゲンゴロウモドキ属は♂の前脚跗節だけでなく中脚跗節の第1 - 3節も膨らんで吸盤を持つが、本種を含むゲンゴロウ属は膨らまない[書籍 30]。
幼虫
幼虫は背面から見ると細長い紡錘形の体形で[論文 2]、体色は黒斑点が散在する灰褐色 - 黄褐色で3齢幼虫(終齢幼虫)の体長は63.7 - 77.9mmである[論文 3]。
- 頭部・前胸および腹部第7・8節の硬化した部分は黄褐色あるいは暗褐色を帯びた白色 - 灰白色で、脚は黄褐色である[論文 3]。
- 頭部は亜方形でゲンゴロウ属幼虫の特徴である「頭楯前縁のW字型切れ込み」の両端隆起が他種に比べて強い[論文 3]。頭部には6対の単眼・細長い[論文 2]9節の触角[論文 3]・鎌形の大顎[論文 2]・9節の小顎ひげ・4節の下唇ひげを持つ[論文 4]。
- 中胸部 - 腹部第8節には背面中央部に白色条線を持つほか、背面両端に黒い帯があるが硬化した部分以外は不明瞭で、側面・腹面は白色 - 灰白色である[論文 3]。
- 脚の跗節および腹部第7・8節に遊泳毛を持つ[論文 4]。
生態
水生植物が豊富な止水域環境を好み[書籍 2]、やや水深のある池沼[RL 1]・ため池・水田および水田脇の水たまり・休耕田[RL 1]・湿地[書籍 2]・流れの緩やかな用水路などに生息する[書籍 18]。生息水域はヒルムシロ・ヒシ・コウホネ・ミクリ・ヒツジグサ[書籍 16]・オモダカ[書籍 2]・ジュンサイ[RL 1]・ガマなど水生植物が繁茂し、周辺に樹林地が広がるような場所で、特にモリアオガエル・イモリが多産する場所に多い[書籍 31]。
成虫は主にため池など水深の深い水域に好んで生息する一方、水田・放棄水田など浅い水域では繁殖期を除いて確認できないことが多い[書籍 32]。これは水田・放棄水田など水深の浅い水域にはサギ・カラスなど鳥類をはじめ天敵が多いため、それら天敵から身を守るためと考えられる[書籍 33]。一方で幼虫はため池・放棄水田のどちらでも確認できるため[書籍 33]、水生植物が多数茂る山里の池では成虫・幼虫ともに観察できる[書籍 16]。
谷津田に隣接してため池があるような場所では繁殖目的で池と水田を往復する成虫の生態を観察することができる[書籍 16]。
成虫
ゲンゴロウ類の成虫は遊泳に向いた流線形もしくは卵形(水の抵抗が少ない形)の体形をしているが[書籍 34]、本種成虫は水生昆虫の中でも特に遊泳能力に優れており、遊泳用に発達した2本の後脚をボートのオールを漕ぐように同時に動かして活発に泳ぎ回る[書籍 35]。その動きは池などで一度逃げられると再び捕獲することが困難になるほど素早く[書籍 26]、タガメ・タイコウチなどが植物の繁茂する水際域を生活圏としている反面、本種は水際だけでなく水草の少ない池の中央部なども日常的な生活圏としている[書籍 11]。
成虫は肉食性であるがタガメの前脚・消化液ほど強力な武器を持たないため、生きた魚類などを捕食することはあまり得意ではない[書籍 18]。そのため健康な子ブナ・ドジョウなどを襲って捕食する力はなく[書籍 36]、幼虫とは異なり死んで間もなかったり弱ったりした小魚などの小動物・昆虫を摂食することが多いが[書籍 18]、メダカなどの小魚・ヤゴ[書籍 37]・動きの鈍い獲物・水面に落下した昆虫などは生きていても捕食することができる[書籍 18]。
- 成虫は爪のある前脚・中脚で弱った小魚・甲殻類・水生小動物などの獲物を捕獲し、強力な顎で肉をかじって食べる[書籍 38]。
- また本種を含む大型のゲンゴロウ類(ゲンゴロウ属・ゲンゴロウモドキ属など)と小型のゲンゴロウ類(シマゲンゴロウ・ハイイロゲンゴロウなど)を同じ水槽で飼育すると、小型のゲンゴロウ類は本種などに捕食されてしまう[書籍 37][書籍 36]。
- 成虫は水槽に血液を1滴垂らしただけで血液の匂いに反応して獲物を探し回るほど強い嗅覚を持ち[書籍 39]、水中で傷ついた魚など獲物の匂いを感じ取ると鋭い嗅覚・遊泳力で餌にありつく[書籍 36]。成虫は口の顎で餌を齧りながら食べるが[書籍 36]、その顎の力は非常に強く口から消化液を吐き出して獲物を溶かしながら齧り取る[書籍 37]。
- なお成虫は貪欲な食欲の持ち主ではあるが餌を食べすぎると体が重くなりすぎて浮上できなくなる場合があり、その場合は大量の糞をしたり食べたものを吐き出したりして浮上する[書籍 1]。
夜間は活発に飛び回り、水系間を移動したり(正の走光性により)水銀灯などの灯火などにも飛来したりするが、いったん上陸してからでないと飛翔できない[書籍 40]。内山(2013)は「初めて野生の本種を観察した生息池では水温が上昇する5月初旬にゲンゴロウをはじめとした水生昆虫が忽然と姿を消し、9月初旬ごろから再び姿が見られるようになった。『夏季は水温が低い深い場所に移動しているのではないか?』と考えて池の深い場所を探してみてもゲンゴロウたちはいなかったが、周辺ではゲンゴロウなどが街頭に飛来したり幼虫類が水田で確認できたりしたことから『ゲンゴロウは季節に応じて生活場所を移動し“越冬に適した深い池”と“繁殖・摂餌などに適した水田など浅い水域”を使い分けている』と推測した」と述べている[書籍 41]。
成虫で越冬する[書籍 40]。成虫は水生昆虫の中でも長寿命であり飼育下では約2年 - 3年生き、長いものでは約6年近くにわたって生きた記録もある[書籍 20]。野生個体の越冬に関して詳しい生態は判明していないが[書籍 40]、以下のような考察がある。
- 都築・谷脇・猪田(2003)は「湧水などがあり真冬でも水面以外が凍らない池沼などを選んでおり、多数の個体が集まって越冬することも多いようだ」と述べられいる[書籍 11]。
- 内山(2007)で市川は「水中の枯葉の下・泥の中などで冬眠しているようだ」と考察している[書籍 42]。
多くの水生昆虫は飛翔行動前に体を乾かして体温を上昇させるために上陸して甲羅干しを行う習性があるが、タガメ以外の水生カメムシ類(水生半翅目)の多くが日常的な甲羅干しを必要としないのに対しゲンゴロウ類など水生甲虫類の場合はミズカビ発生を防ぐなど飛翔目的以外のため日常的に甲羅干しをよく行い[書籍 43]、長い時では約2時間ほどにおよぶ[書籍 44]。甲羅干しは日光浴[書籍 36]・体温調節・殺菌のためと考えられており[書籍 45]、飼育下でこの行動を阻害すると[書籍 43]体表[書籍 36]・後脚付け根部分にミズカビが発生したり[書籍 43]、水生菌による感染症を起こしやすくなる[書籍 45]。
成虫は魚のような鰓呼吸ではなく他の陸上昆虫と同様に気門から空気呼吸をするが、人間が空気を貯蔵したタンクを用いて行うスクーバダイビングのように上翅の下(腹部背面との間の空間)に空気を貯蔵して潜水する[書籍 36]。 成虫の上翅下には飛翔用の後翅が畳まれて収納されているほか、腹部の背側(上翅の下・尾端近く)に気門が開いている[書籍 46]。成虫は腹端(尾端)を水面上に突き出して上翅と腹部背面の間にあるわずかな空間に新鮮な空気を貯蔵して潜水し、水中で気門から貯蔵空気中の酸素を吸収しつつ活動する[書籍 46]。人間がスクーバダイビングで使う空気ボンベは使用すれば酸素濃度が減少するだけだが[書籍 36]、ゲンゴロウの場合はそれとは異なり貯蔵空気中の酸素分圧(酸素濃度)が下がり二酸化炭素分圧が上がると水中に二酸化炭素が溶け出してその分だけ酸素が気泡の空気中に入り込むため、いったん上翅の下に空気を取り込んで潜水するとそこに元々含まれていた量以上の酸素を得て長く潜水活動をすることができる[書籍 36][書籍 46]。酸素消費量・運動量が少ない冬季はガス交換のため水中に上がってくる頻度が低下する一方[書籍 36][書籍 46]、水温が高く水中酸素溶存量が少ない夏季は頻繁に水面でガス交換を行う[書籍 36]。
自然下における成虫の天敵はブラックバス(オオクチバス)・アメリカザリガニ・ウシガエル・コイなど侵略的外来種のほか[RL 1]、在来種でもサギ・ツル[書籍 36]・カラス[書籍 33]など鳥類・ナマズがいる[書籍 47]。幼虫はイモリ・水生昆虫類などに捕食されるほか[書籍 48]、3齢幼虫では成虫時の天敵に加えてタガメ・タイコウチがいるが、タガメ・タイコウチ・ナマズはゲンゴロウと同様に水田から姿を消したため、現在はブラックバスなど外来種とサギが主な成虫の天敵となっている[書籍 47]。
身の危険を感じると頭部と胸部の間から白濁した液体を分泌させるが[書籍 33]、この液体は昆虫標本に加工しても鼻を突く臭いが消えないほど強い臭いを持つ[書籍 31]。また人間がこの液体を舐めるとかなり苦く感じることから「天敵の鳥類に襲われて捕食されそうになった際に逃げる手段」「近くの仲間に危険を知らせる警戒フェロモンのような働きをしている」などと考察されている[書籍 33]。
繁殖活動
成熟した成虫は冬季を除いて頻繁に交尾するが[書籍 18]、内山(2007)で市川は「産卵期は4月中旬・下旬ごろに始まり約2か月間続く。5月中旬になると水田・溝などで幼虫の姿が観察できるようになる」と述べている一方[書籍 42]、都築・谷脇・猪田(2003)は「産卵に至るのは6月 - 8月ごろの夏季に限られている」と述べている[書籍 18]。交尾行動は昼夜を問わず頻繁に行われるがゲンゴロウの産卵には温度以外に日照時間が大きな条件となっており、水温が25℃以上あっても日照時間が12時間以下の場合は♀が産卵行動に至らず、日照時間が13時間を超える場合に産卵する[書籍 49]。
♂は少しでも多くの子孫を残そうと1頭でも多くの♀と交尾しようとするが[書籍 27]、♀はタガメとは違い産卵の度に交尾する必要はなく交尾後数か月間にわたり体内の貯精嚢(受精嚢)内に♂の精子を活性を保ったまま貯め込むことができ[書籍 50]、2回も交尾すれば体内に蓄えられた精子でそのシーズンに産むほとんどの卵を受精させることができる[注 2]ことに加え、交尾中は後述のように十分な酸素を取り込むことができないことから、交尾後時間の経っていない♀は♂が近づくと水草や水底の枯葉の下などに逃げようとする[書籍 27]。これに対して♂は前脚の吸盤を♀の背中に付着させ、逃げられないように重なる[書籍 27]。交尾そのものの時間は短いが、♂が♀を捕まえている時間は10分ほど - 2時間超とばらつきが大きく[書籍 49]、市川・北添(2010)では「14回の交尾時間を測定したところ交尾時間の平均は162分だった」と発表されている[書籍 51]。♂は長い時間をかけて、♀の交尾器内に精包を作るが、長い交尾中は大抵の場合♂が上になるため♀は腹端を通して新しい空気を間接的に取り入れなければならない[書籍 51]。雌雄ともに腹端を水面上に出せる場合もあるが[書籍 51]、♀は大抵の場合交尾中に呼吸器を水面に出すこともままならず十分な酸素を取り込むことができないため窒息死する場合があり[書籍 49]、繁殖期に♀の死亡率が上昇する[書籍 51]。都築・谷脇・猪田(2003)によれば実際に死亡した♀の遺体をいつまでも離さず交尾を強いる♂の姿が観察されている[書籍 49]。
成虫は活動期の春 - 秋ごろ(水温が25℃前後に上昇する4月ごろから)に交尾し[書籍 52]、♀成虫はいわゆる水田雑草を含む水生植物の茎に直径約2 - 4mmの円形の噛み傷を付け[書籍 52]、長い産卵管を噛み傷に挿入して[書籍 50]茎内部の組織内に1,2個産卵する[書籍 53][書籍 52][書籍 2]。この時♀成虫が選ぶ植物は「茎表面があまり固くなく、中にスポンジ状の組織が詰まっているか中央の空洞が狭い種類の水草」で[書籍 54]、茎の直径は5mm前後を好む[書籍 52]。都築・谷脇・猪田(2003)は本種が内部がスポンジ状になった水草を好む理由を「長い産卵管を植物の茎に突き刺す際に都合がよいため」と考察している[書籍 55]。
- 池ではコウホネ・カンガレイなどに産卵する[書籍 56]。
- 水田・湿地ではオモダカ類[書籍 52][書籍 56](ヘラオモダカなど)[書籍 57]・コナギ・セリなどに産卵する[書籍 56]。なお市川・北添(2010)による調査で「タガラシ・コナギは若い茎に産卵するほか、フトヒルムシロ・セリの茎は齧って穴を開けたものの産卵しなかった」という結果が出ている[書籍 54]。
- ホテイアオイの浮嚢・トチカガミの葉など一部が広がって内部がスポンジ状になっている植物には次々と産卵する[書籍 54]。
- イネの茎は「表面が固すぎること」「中空(ストロー状)で産み付けた卵が茎の中に留まらないこと」から産卵しない[書籍 53]。市川・北添(2010)による調査の結果「イネ(コシヒカリ)の茎は♀成虫が齧ることすらなく、古代米の茎は穴を開けたものの産卵しなかったが、茎内部が中空な植物でも卵が落下するほどのスペースがなければ産卵する」ことが判明した[書籍 54]。
♀成虫は飼育下で餌を十分に与えられている場合、1シーズンに約30個 - 60個産卵するが、飼育密度が高いと♀1頭あたりの産卵数・孵化率が目減りする[書籍 38]。♀の腹端には出し入れできる左右に扁平な産卵管があり、それを噛み傷に挿し込み産卵する[書籍 53]。植物組織が腐敗して繊維だけになっても卵は孵化できるため、植物組織内に産卵する理由は「卵が魚などの天敵に捕食されることを避けるため」と考えられる[書籍 56]。
卵・幼虫
卵は幅約1mm・長さ約13mmの細長い形で、水温28℃の場合産卵後約2週間程度で孵化する[書籍 52]。幼虫は細長い体をしており、孵化直後の1齢幼虫は体長約25mm(卵の全長の約2倍)で脱皮して体長約40mmの2齢幼虫に変態し、さらにもう1回脱皮して体長約60mmの3齢幼虫(終齢幼虫)に変態する[書籍 58]。幼虫も成虫と同じく水面上に尾部の呼吸器(尾端にある気門)を水面上に突き出して呼吸するが、水深が浅い場所では水底から尾部を突き出して呼吸するものの、基本的には水中の水草に掴まって呼吸する[書籍 59]。また幼虫は腹部の尾部に生えている長い毛束を用いて泳ぐが[書籍 59]、成虫と異なり泳ぎはあまり上手くない[書籍 59][書籍 60]。
脱皮は水中で行い、まず胸部の背中側が中心から割れ、その割れ目が前後に広がるとともに幼虫の胸部・頭部が抜け殻から抜け出し、最後に腹部が抜けて脱皮完了となる[書籍 58]。終齢幼虫(3齢幼虫)は成虫の体長のほぼ2倍(上陸直前では胴径約10mm・体長約80mm)にまで成長する[書籍 61][書籍 58]。
幼虫期間は孵化 - 上陸まで約40日間だが、水温が低かったりエサが不足すると長期化するほか、幼虫期間中に生息地の田んぼなどの水が干上がると乾燥死する[書籍 58]。また幼虫はイモムシ型の体形をしているため、後述のような獰猛な性格とは裏腹に外敵からの攻撃に対しては無防備であり、同一容器で複数飼育すれば共食いが起きるほか[書籍 62]、貪欲な食欲を持つ一方で移動能力に乏しい[書籍 63]。そのため本種幼虫たちが成長し、本種が個体群を維持していくためには幼虫たちの食欲を満たすだけの大量・豊富な種類の生き物が同所的に集中して生息している必要がある[書籍 64][書籍 63]。
幼虫も肉食性ではあるが成虫と異なり非常に凶暴なプレデターで[書籍 18]、脱皮の前後1日以外は大変旺盛な食欲を発揮し[書籍 65]、動くものならなんでも頭部の鋭い大顎で襲って捕食するばかりか[書籍 18]同種間でも激しく共食いをする[書籍 64][書籍 38]。その凶暴性から英語ではWater Tiger(水中のトラ)・Water Devil(水中の悪魔)と呼ばれるほか[書籍 18]、日本でも凶暴性・体躯がムカデを連想させることから「田のムカデ」[書籍 60]・「水ムカデ」などの異名で呼ばれる[書籍 66]。
- 1齢幼虫 - 主にミジンコ・アカムシ(ユスリカの幼虫)・ボウフラ・イトトンボ類のヤゴなどを食べる[書籍 67]。
- 2齢幼虫・3齢幼虫 - ホウネンエビ・小魚(ドジョウ・メダカ・キンギョなど)・オタマジャクシ(カエル類の幼生)および小さなカエル・水生昆虫類(ヤゴなど)・水面に落ちた昆虫類を食べる[書籍 67]。
なお飼育下ではバッタ・コオロギなどの昆虫類を与えないと羽化率(成虫まで育つ割合)が低下する[書籍 67]。大庭は「ゲンゴロウ・クロゲンゴロウの幼虫はヤゴのみを与えて育てても成長可能であるが、オタマジャクシのみでは幼虫期間が長期化し生存率も低下する」という自身の実験結果から「ゲンゴロウ・クロゲンゴロウの生息地保全には豊富な水生昆虫が存在する水田を維持・管理する必要がある」と述べている[論文 5]。
なお都築・谷脇・猪田(2003)は「自然下の繁殖地で成虫を捕獲するためにマグロの刺身を仕掛けて設置したところ、しばらくしてゲンゴロウの幼虫が寄ってきて摂食した」という観察記録から「幼虫は動きだけでなく成虫と同様に餌の匂いにも反応するようだ」と推測している[書籍 65]。幼虫はかつて(タガメなどと同様に)養魚場を荒らす害虫とされていた[RL 3]。一方でゲンゴロウ類幼虫はボウフラ(様々な感染症を媒介する衛生害虫であるカの幼虫)を捕食する天敵(益虫)としての側面もかねてから期待されていたが、大庭が様々なゲンゴロウ類幼虫を使用して行ったボウフラ(コガタアカイエカの4齢幼虫)の捕食実験では「ゲンゴロウのような大型種(幼虫の体長20mm以上)はハイイロゲンゴロウ・ヒメゲンゴロウ・コシマゲンゴロウなど中型種(幼虫の体長10mm前後)ほどボウフラを捕食しない」という結果が出ている[論文 6]。
幼虫は自然下の浅い水域では植物の茎などに逆さまに掴まり、目の前を通る獲物を待ち伏せして捕食する[書籍 64]。幼虫の大顎はタガメ幼虫の前脚よりかなり小さいため自分より大きな獲物を捕らえることは難しいが、一度獲物を捕まえれば逃すことはなく、強力な消化液で確実に仕留められるようになっている[書籍 65]。大顎は注射針状になっており、生きた獲物に鋭い大顎で食いつくと獲物を麻痺させる毒・消化液を大顎内の管から同時に体内に注入して[書籍 68]、獲物の体液・消化されて液状化した筋肉・内臓などの組織を注入に使われた大顎内の管から吸収して口の入り口の毛で固形物を濾過して除き、液体化した組織を消化管に飲み込む[書籍 68]。これを体外消化と呼ぶが[書籍 65]、顎で獲物の肉を齧り取って食べる成虫とは異なりタガメなど水生カメムシ類に近い摂餌方法で[書籍 60]、幼虫に食べられた獲物の死骸は骨・皮しか残らない[書籍 66]。幼虫に噛まれると非常に強い痛みを感じるため[書籍 60]、安易に素手を近づけることは控え[書籍 68]、噛まれないよう細心の注意が必要である[書籍 69]。
蛹化・羽化
水中に適応したゲンゴロウでも一生の全てを水中で過ごすわけではなく、成熟した終齢幼虫は孵化から約40日ほど経つと日没後約1, 2時間後に上陸する[書籍 58]。野生下で上陸が始まるのは6月下旬 - 7月初めごろで[書籍 42]、蛹化直前の幼虫(体長約80mm)は上陸が近づくと餌に見向きもしなくなり、飼育下では飼育容器の中を泳ぎ周り出たがる様子を見せる[書籍 61]。適当な場所を見つけると固くなった頭部と胸部をスコップのように使って土中に潜り[書籍 58]、直径40mmほどの球形の蛹室を形成してから[書籍 58]蛹室内で前蛹になる[書籍 62]。幼虫が潜った後の地表にはほとんど痕跡が残らないため、幼虫が潜った場所を特定することは困難となる[書籍 58]。蛹化に際しては水際から20センチメートル(cm) - 30cm程度の土中などあまり水際から離れない場所の土に潜るほか、内山りゅうの記録により「飼育環境下では斜面が土であればかなりの角度でも登る」ことが判明している[書籍 64]。
蛹室内で約10日間の前蛹期を経て[書籍 62]、地中に潜ってから約8日 - 10日後に脱皮して蛹化する[書籍 70]。蛹化する際は2齢幼虫が3齢幼虫へ脱皮する際と同様に頭部・胸部の背中側の中央が割れ、中から真っ白な蛹の頭部・胸部が現れ、蛹化開始から約25分後に腹部が幼虫の抜け殻から抜け出して蛹化完了となる[書籍 70]。
蛹は蛹化後約10日 - 2週間後に約2時間の脱皮で羽化する[書籍 71]。幼虫が土に潜ってから羽化するまでは約20日間で[書籍 72]、羽化直前の蛹を観察すると複眼・大顎の部分が黒く変色するほか、前日には脚が赤っぽく色づいている[書籍 71]。羽化に際してはまず脚を少しずつ動かしながら腹部を動かしてうつぶせの姿勢になり、腹部の皮の襞が伸びて余分な皮が腹部後ろに集まる[書籍 73]。その後翅が伸び始めるとともに体幅が広がり、頭部・胸部の背中側の殻が割れて成虫の頭部が現れ、約2時間以上をかけて翅を伸ばしつつ蛹の殻を脱ぎ捨てると最後に脚が抜け出して羽化完了となる[書籍 73]。羽化直後の新成虫は真っ白な色をしているが、羽化完了から約2時間後には淡褐色に変色し、その後は徐々に色が濃くなり翌日には緑色 - 暗褐色の体色になる[書籍 73]。
羽化直後の新成虫はまだ体が柔らかく外敵から身を守れないため体が硬化するまでしばらく地中に留まり[書籍 73]、羽化後1週間前後経過すると地上に這い出してくる[書籍 71]。羽化直後の新成虫は体表が水を弾くためか、しばらくは水中にうまく潜れずミズスマシのように水面を泳ぎ回ることがある[書籍 72]。新成虫は野生下では8月初め[書籍 42] - 10月にかけて出現し[書籍 2]、間もなく池に移動して11月初旬ごろまで活動するが[書籍 42]、新成虫の繁殖は来年以降に持ち越される[書籍 74]。
人間との関わり
日本では池・水田が身近であり、そこに棲む本種は1950年代ごろまでは日本各地の池・水田に普通に生息していたことから[書籍 38][書籍 3]平地 - 丘陵の良好な水辺環境の指標種とされており[RL 1]、1978年に実施された分布調査で本種は栃木県・山梨県・奈良県など8府県で特定昆虫として取り上げられていたほか[3]、1980年代ごろまでは小学校の教科書でも身近な昆虫として扱われていた[書籍 3]。
現在でこそ絶滅の危機に瀕している本種だがかつては日本人にとって身近な昆虫で、一部地域では食用・民間療法における薬用としても用いられていたほどだった[書籍 12]。
食用
本種を含めゲンゴロウ類(ほかコガタノゲンゴロウ・クロゲンゴロウなど)は日本各地においてかなり昔から食用とされており[書籍 75]、本種は三宅恒方が1919年(大正8年)に取りまとめた『食用及薬用昆虫に関する調査』(農事試験場特別報告第31号)によれば「岩手県・秋田県・福島県・千葉県・山梨県・長野県・岐阜県などで、尾端を取り串焼きにして醤油をつけて食べたり、油炒めや塩煮に調理して食されていた」と記録されている[書籍 76]。また岩手県・山形県・長野県ではガムシもゲンゴロウと同様に食用としていた記録がある[書籍 77]。
食べ方は主に醤油の漬け焼きが一般的だったが、そのほかにも油炒め・塩茹でなどに調理したり焼いて味噌を付けたりして食していた[書籍 15][書籍 77]。各地域における食べ方は以下の通り。
- 長野県 - 現在の上小地域(上田市・小県郡長和町)・佐久地域(佐久市・北佐久郡立科町)・諏訪地域(岡谷市・諏訪市・茅野市・諏訪郡下諏訪町)・上伊那地域(上伊那郡辰野町・南箕輪村・宮田村)などでゲンゴロウ(方言:トウクロウ)を塩炒り・煮付けで食用としていた記録が確認されている[論文 7]。
- 福島県 - 角田猛による1957年の記録によれば「翅・脚をむしり取り油で炒め、塩を振りかけてお茶請け・酒の肴として食べていた」とされる[書籍 15]。
- 秋田県 - 「ゲンゴロウを救荒食物として食べた」「現在の横手市で食されていた」などの記録がある[論文 8]。県内では翅・脚を取って串刺しにしたものを醤油をつけて焼いて食べるのが一般的で、香ばしく美味だったとされる[書籍 15]。
都築・谷脇・猪田(2003)は「かつてゲンゴロウを食用としていた地域の人の話では『硬い前翅を取り除いて食べたがかなり苦く、食べるのが辛かった』そうだ」と述べている[書籍 12]。
1940年代の長野県においては食用目的でゲンゴロウを大量に捕獲する方法としてイヌ・ネコの死体、もしくはヘビの皮やウシ・ウマなどの腸を池などに沈めて約10日間放置し、集まったゲンゴロウを死体ごと引き上げて捕獲する方法があったほか、同年代の秋田県ではイワシの頭・クジラの脂身を布で包んだものに浮きを付けて池・沼に入れておき、ゲンゴロウが集まったところを網で掬って捕獲していた[書籍 78]。このほか近代的な採集方法としては生息池付近に青色蛍光灯を照らしておき飛来した成虫を捕獲する方法(ライトトラップ)もある[書籍 78][書籍 79]。ゲンゴロウは腐肉食性であるため、捕獲してから1, 2日間は清水中で餌を与えずに飼育して腸内の食べ物を排泄させてから調理していた[書籍 15]。
本種は日本国外でも中国(広東省・広西チワン族自治区)にてフチトリゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウ・トビイロゲンゴロウなど近縁種やガムシ類などとともに食用にされており[書籍 80][書籍 81]、三橋淳は1999年に広州市のホテルに宿泊した際にゲンゴロウ・ガムシがロビーで食用として生きたまま水槽に入れられて売られていたのを確認している[書籍 82]。本種は標準的な中国語(普通話)で「龍虱(ロンシー、「龍のシラミ」の意味)」、広東省では「水ゴキブリ」という意味の地方名で呼ばれており、広東省では生きたものを下茹でしてから塩・山椒・八角・桂皮などとともに3分間ほど煮込み、翅を取り除いてその下の白い身を食べる方法が一般的である[4]。広東省でも本種は「夜尿症改善に効果がある」とされ食用に養殖されているが、♂より♀のほうが「より栄養価が高い」とされ高値で取引される傾向にある[4]。
また1922年には日本統治時代の朝鮮(→現在の大韓民国)・忠清北道でも翅・脚を取り除き焼いて食べていた記録がある[書籍 83]。
薬用
本種は「小児の疳の病に効果がある」とされ[注 3][書籍 84]、三宅恒方が1919年に取りまとめた『食用及薬用昆虫に関する調査』(農事試験場特別報告第31号)では「本種は茨城県・愛知県・福井県で胃腸病・疳の薬として用いられている。胆嚢を取り除き菓子類とともに食したり、黒焼きにして用いる」と記載されている[書籍 85]。
疳の薬としてゲンゴロウ類を黒焼きにしたものが用いられたほか「焼くか生のまま潰した液がジフテリア・百日咳に効き、煮た物は喘息に効く。また、幼虫はそのまま飲み込むことで肺病の薬になる」とされており[書籍 84][書籍 85]、本種だけでなくクロゲンゴロウ・コガタノゲンゴロウなども前述の用途に加えて胃腸病の治療・通経などの用途で用いられていた[書籍 86]。またゲンゴロウ類・ガムシ類は中国では漢方薬「龍虱」(りゅうしつ)として老人・小児の夜間頻尿への薬および「䗪虫」(しゃちゅう)[注 4]の類似品として用いられていたほか[書籍 89]、台湾ではゲンゴロウ・ガムシ類を「䗪虫」として用いていた[書籍 88]。
保全状況
前述のように本種は日本人にとって身近な昆虫であり[書籍 12]、例えば愛知県内では高度経済成長期前まで現在の名古屋市港区・千種区でも生息が確認されていた[書籍 90]。
しかし近年は「生息環境破壊」「農法の変化・農薬による死滅」「侵略的外来種の侵入」「採集圧の影響」[RL 1]「生活排水・工業排水などの流入による水質汚染」「休耕田・放棄水田の増加」などにより激減し[書籍 91]、かなりの珍品となってしまった[書籍 12][RL 1]。現在は「山間部の人里にほど近い場所にあり、自然が保たれている池沼」で見られる程度で「本種を探す」意気込みがないと発見は困難な状況で[書籍 38]、特に西日本[書籍 92](近畿地方以西)の大半では山里の池沼に行かなければその姿を見ることはできない[書籍 16]。
本種は1991年の環境省の環境省レッドリストには記載されていなかったが、2000年・2007年の改訂でそれぞれ準絶滅危惧(NT)(環境省レッドリスト)に指定された後[RL 1]、2019年現在は(2012年改訂版)絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)に指定されている[RL 4][RL 1]。環境省レッドデータブックでは「全国的に激減しており、特に西日本ではわずかで太平洋側各県の生息地数はわずか数ヶ所にまで減少。南関東では絶滅・平野部でもほぼ絶滅した」と評価されている[RL 1]。環境省レッドリスト・レッドデータブックのみならず以下のように多くの都道府県別レッドリストで「絶滅種」もしくは「絶滅の危険性が高い高位の絶滅危惧種(I類からII類)」などに選定されている[書籍 41]。
- レッドリスト・レッドデータブックで絶滅種とされている都道府県 - 千葉県[RL 5][注 5]・東京都[RL 6][注 6]・神奈川県[RL 8][注 7]・滋賀県[報道 2][注 8]・鹿児島県[RL 9][注 9]
- 近年は生息が確認できず絶滅した可能性が高い府県 - 埼玉県[RL 11][注 10]・富山県[RL 3][注 11]・大阪府[RL 12][注 12]・和歌山県[RL 13][注 13]・徳島県[RL 14][RL 15][注 14]・香川県[RL 16][RL 17][注 15]・愛媛県[RL 18][注 16]・福岡県[RL 19][注 17]・佐賀県[RL 20][注 18]
- 条例で採集などが禁止されている県 - 群馬県[条例 1][注 19]・長崎県[条例 4][注 20]
本種と同様にゲンゴロウ属の近縁種も減少が著しく、特にマルコガタノゲンゴロウ・フチトリゲンゴロウは絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づき国内希少野生動植物種に指定されている。
北海道[書籍 92]・東北地方(青森県・秋田県など)[書籍 16]・甲信越地方(長野県・山梨県・新潟県)など一部の地域においてはまだ多くの産地が残っており[書籍 92]、平地の沼・水田でも本種の姿を見ることができる場合があるが[書籍 16]、「東北地方・北陸地方の山間の池」「農薬が入り込まない谷津田奥のため池・放棄水田」などの良好な残存生息域を含めて2000年以降の減少が著しい[RL 1]。
減少の背景
減少の主な原因は以下のようなものである[RL 1]。
- 生息環境破壊
- 本種を始めゲンゴロウ類は生息域となる水辺環境(本種の場合は池沼・水田など)がまとまって存在することが個体群存続に必要だが[書籍 93]、池沼の開発および灯火・ゴルフ場造成は本種の生息域を破壊し[RL 1]、様々な環境悪化が複合的に組み合わさったことで生息地が分断される現象も発生している[書籍 91]。
- 水田の畔など水辺の岸は本種の幼虫が蛹になるために非常に重要な場所だが[書籍 64]、畔のコンクリート化・水田全体を囲む波板設置[書籍 64]が都市近郊だけでなく山間部の水田でも行われたため、本種幼虫が蛹化場所を失っていった[書籍 94]。現在では恵まれた環境の池を除くと「水田の横に素掘りの溝が残っているような棚田」でしか生息できなくなったが、その溝も圃場整備が進み消えつつある上[書籍 94]、後述のように繁殖場所として利用していた水苗代も利用できなくなった[書籍 95]。
- 都築・谷脇・猪田(2003)は本種が激減した要因として「完全変態で蛹を経由するゲンゴロウなど水生甲虫類は不完全変態であるタガメなど水生カメムシ類(半翅目)とは違い、蛹化する場所として土の陸上部分が必要である。本種は仮に汚染されていない水・豊富な餌があってもゴムシート張りのため池・コンクリート護岸の池沼では全く繁殖できず、繁殖場所の消滅がそのまま種の絶滅に直結する可能性が高い」と指摘している[書籍 11]。
- また仮にコンクリート護岸でなく土が露出していても、崩壊を防ぐため土木機械で硬く固められた畔の土にはゲンゴロウ・ヘイケボタルなど土中に潜って蛹化する水生昆虫の幼虫が潜れない[論文 9]。またそのような土は同じく土に潜って産卵するシュレーゲルアオガエルも潜れないほか、土が柔らかくなるまで草がほとんど生えないため生態系に悪影響を与える[論文 9]。
- 都築・谷脇・猪田(2003)は本種が激減した要因として「完全変態で蛹を経由するゲンゴロウなど水生甲虫類は不完全変態であるタガメなど水生カメムシ類(半翅目)とは違い、蛹化する場所として土の陸上部分が必要である。本種は仮に汚染されていない水・豊富な餌があってもゴムシート張りのため池・コンクリート護岸の池沼では全く繁殖できず、繁殖場所の消滅がそのまま種の絶滅に直結する可能性が高い」と指摘している[書籍 11]。
- 過疎化・高齢化・減反政策により増加した休耕田・放棄水田は水が溜まれば一時的にはゲンゴロウの生息地となるが、水はけの悪い場所を除くと1年 - 2年程度で乾燥してしまうため全体としては水辺環境自体の減少につながる[書籍 96]。またため池の管理放棄・放棄水田の植生遷移も本種の生存を脅かしており[RL 1]、定期的な水抜きによる底泥の除去・堤の草刈りなどがなされなくなると底泥が溜まり、樹木に覆われて暗くなることで生き物が生息しにくくなる[書籍 96]。
- ため池の改修・宅地開発による生息域の埋め立ても脅威となっている[書籍 90]。これに加えて本種やタガメは水銀灯などの街灯設置により街灯の光に誘引されて発生地から離れ戻れなくなることで死亡する個体も多く、これも個体数原因の重大な要因である[RL 14]。
- 農薬汚染
- 本種・タガメは有機的な汚染には強いが[書籍 33]農薬・洗剤など化学的な汚染には弱い[書籍 97]。1950年代 - 1960年代[書籍 94]、および1970年代初めにかけて強毒性農薬(ベンゼンヘキサクロリド(BHC)・ピレスロイド系・パラチオンなど)が[書籍 3]空中散布を含めて大量に使用されたため[RL 1]、本種は大きなダメージを受け[書籍 3][書籍 94]、それとほぼ同時期に多くの地域から絶滅した[RL 8]。本種を含めた多くの水生昆虫は多くの種が初夏 - 夏場に新成虫と旧成虫の世代交代がなされるが、その時期に農薬を散布されると新成虫・旧成虫ともに多くが死滅するほか、仮に旧成虫だけが死滅して新成虫が生き残ったとしても農薬に汚染された水生動物を食べれば死に直結する[書籍 98]。
- 1970年代以降は農薬の毒性・効果持続性ともに低下したものの、1990年代ごろからは「人間に対する毒性は弱いがゲンゴロウ類に対しては毒性が強い」殺虫剤が田植えと同時期に使用されるようになっており、市川・北添(2010)は「その影響かどうかは不明だが、それとほぼ同時期からコシマゲンゴロウなどの小型種を含めたゲンゴロウ類が急速に減少している」と指摘している[書籍 99]。また殺虫剤のみならず水田に生える稲以外のすべての植物・畔の草を水田雑草として駆除するため水田に除草剤が散布されると、ゲンゴロウは仮に殺虫剤が使用されていなくても産卵床となるオモダカ・コナギなどの水草が枯死しているためその水田では繁殖できない[書籍 99]。
- 農法の変化
- 農薬の災禍を免れて生き残ったゲンゴロウも圃場整備による水田の乾田化・水田脇の水たまりの消失により減少した[RL 1]。
- かつては4月上旬から水苗代に稲の種籾を蒔いて苗を生育させた上で手植えを行っており、本種・カエルなどが水苗代を繁殖場所として利用していたが、田植機が普及すると稲の苗をビニールハウスの苗箱の中で栽培するようになったため、水苗代は姿を消し、水田に水が張られるのは4月下旬以降となった[書籍 95]。そのため水田への湛水(水張り)はそれまでより約1か月遅れるようになり、ゲンゴロウは産卵期初期に産卵できる場所を失うこととなった[論文 10]。
- また水田への湛水 - 土用干し(中干し[注 21])までの期間が約30日 - 45日程度に短縮された結果[論文 10]、田植え後に産卵され孵化した幼虫は上陸前に水がなくなって乾燥死してしまうようになったため[注 22]、水田ではゲンゴロウの生活史をカバーできなくなった[書籍 94]。
- 市川・北添(2010)はゲンゴロウ類の保護活動・保護を重視した稲作などに関して「『完全な無農薬で水田を耕さず土用干し(中干し)もしない』自然農法の水田がゲンゴロウ類にとって最も理想的だが、この農法は収穫量減少などデメリットが伴うためすぐに実行することは難しい。しかしゲンゴロウ類の保護を観点に入れると『ゲンゴロウが産卵・孵化してから成虫が羽化するまで』の4月 - 7月ごろまでは減農薬・無農薬にして土用干しも控えめにし、畔際に素掘りの溝(ひよせ)を設けて土用干しの際にゲンゴロウ類などが逃げ込める場所を作ることから始めるとよい」と提言している[書籍 100]。
- 侵略的外来種の存在
- 生息地に侵入したブラックバス(オオクチバスなど)・アメリカザリガニ・ウシガエルといった侵略的外来種や放逐されたコイの存在[RL 1]。これら外来種による食害も本種の減少に拍車をかけており、実際に秋田県で駆除のために捕獲されたオオクチバスの胃から本種成虫やガムシ・オオコオイムシなど水生昆虫が出てきている[書籍 94]。
- 西原(2008)は「かつて教科書などで水生生物の代表格として挙げられていたタガメ・ゲンゴロウなど水生昆虫が取り上げられなくなり、逆に外来種であるアメリカザリガニが代表種として取り上げられたことが増えたことは水辺環境の危機的状況を映し出している。『アメリカザリガニは侵略的外来種だ』とはほとんど認識されておらず、幼稚園・小学校で学校教材として利用までされていることは大問題だ」と指摘している[書籍 101]。その上でゲンゴロウ類保護の提言の1つとして「オオクチバスが侵入してしまったため池では3年間は継続して水抜き・駆除を行うことが必要だ。またアメリカザリガニは学校教材・ペットとして扱うべきではなく、1日も早く特定外来生物に指定すべきだ」と述べている[書籍 102]。
- 採集圧・乱獲
- 前述のような理由だけでなく、近年はペットショップなどで高値で取引されるため[書籍 90]、業者・マニアによる無秩序な採集も脅威になっている[RL 1]。1990年代以降にカブトムシ・クワガタムシ類と同様にゲンゴロウ類もペットとしての需要が高まったことで、特に高価に売買される希少な種類を中心に[書籍 103]収集・販売目的の捕獲が行われ[RL 21]、個体群の再生産能力を上回る採集圧・捕獲圧の悪影響を受けているほか[RL 22]、残った生息地でも環境破壊による絶滅・個体数の激減が起きている[書籍 103]。
- 無秩序な採集者(乱獲者)の中には1度に100頭単位で捕獲する者・限られた場所で何度も徹底して捕獲する者がいることからその地域の希少種を絶滅に追い込むだけでなく、最終目的で水辺に何度も踏み込むことで泥をかき回し、水生植物を痛めつけたことで水辺環境が悪化した例もある[書籍 103]。各地域で出されている昆虫目録・レッドデータブックで希少生物の生息地が公表されるとそれが「採集のための案内」となってしまうほか、インターネット上で貴重な生息地の情報が拡散されることも問題となっている[書籍 103]。
- 矢崎充彦は『豊田の生きものたち』(2009年・豊田市)にて「人気種であるゆえに生息地が明らかになると乱獲にさらされ、保全すべき場所すら公表しにくい自体が起きており、それが希少生物の保護をより難しくしている」と指摘している[書籍 90]。
- また一部の愛好者の間ではチョウ・ホタルなどと同様にゲンゴロウ類の放流も行われているが、他地域のゲンゴロウを人為的に移入することは遺伝子攪乱の要因となるため[書籍 103]、西原(2008)は「今後はトキ・コウノトリのようにゲンゴロウ類でも絶滅・激減した地域や再生された生息地で飼育個体を放流する『野生復帰』が行われる可能性があるが、その際には他地域のものではなくその地域の個体を放流すべきだ」と提言している[書籍 104]。
保護対策
有効な保護対策としては以下のようなものが挙げられ[RL 1]、新潟県では個体数が回復するなど[RL 23]その効果が一部で出始めているが[RL 1]、未だ絶滅の危機を回避するには至っていない。
- 稲作における対策 - 無農薬および減農薬栽培・中干し期の水域確保もしくは夏季湛水・谷津田奥のため池再生・やや深い池の創出[RL 1]
- その他対策 - 侵略的外来種のモニタリングと排除・コイの放逐防止・採集圧対策・系統保存[RL 1]
西原(2008)は「現在は研究者・学校・行政が中心となってゲンゴロウ類など環境指標種の生息状況調査が行われているが、地域の人々が地元の水辺環境を『地域の宝』と認識して保全活動を続けていくことが望ましい」と提言している[書籍 104]。
2018年1月時点では日本全国の動物園・水族館・昆虫館・博物館などの施設にて本種やタガメの飼育・繁殖・展示が行われているが[書籍 105]、近親交配が進むと繁殖成功率が低くなるため[書籍 106]、少ない個体数では長くて5年で繁殖できなくなってしまう[報道 5]。琵琶湖博物館(滋賀県草津市)では他府県産の個体を繁殖・展示し続けてきたが、滋賀県下のゲンゴロウが既に絶滅しており野生個体の導入による血の入れ替えができなかったため[書籍 106]、2015年9月1日から本種・タガメの生体展示を中止しており、他施設でも飼育・展示の継続が困難になることが懸念されている[報道 6]。
飼育
森文俊は本種の飼育に関して「本種は育成が容易な種だから各地の小中学校で地元産の個体を繁殖するなど保護・繁殖活動が拡大すれば種の保存につなげられるだろう」[書籍 38]「本種に限らず水生昆虫類の保護には前述のような情操教育が必要だろう」と提言している[書籍 107]。
またゲンゴロウ類の自家繁殖・繁殖個体の販売を行っている関山恵太は「ゲンゴロウ類の繁殖は根気が必要なので『飼育者自身が飼育に飽きてしまうこと』が累代途絶の最大の原因だろうから、それを防ぐためにも同じく飼育・繁殖を楽しんでいる飼育仲間と『飼育に関する情報交換』『繁殖個体の交換』『採集に同行する』などつながりを持ちモチベーションを維持することが繁殖への成否を分けるほど重要な要素になるだろう。1つの種類を系統保存するためには一個人よりも仲間とスクラムを組んだほうが有利だと思う」と述べている[書籍 108]。
飼育用水
ゲンゴロウ属に限らず水生昆虫の多くは一部種類を除き農薬・洗剤など化学的汚染はともかく有機的な汚染には強いものが多く、前述のように「化学的汚染がない自然の土の岸が残る水域」ならば淀んだ水域でも多数の水生昆虫がみられる[書籍 109]。そのためゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ)などゲンゴロウ属の昆虫を飼育する際には観賞魚類ほど水質に神経質になる必要はなく、餌用魚類(メダカ・ワキンなど)が状態よく飼育できる程度の水質ならば全く問題ないが、水を換える場合は地域・季節により水道水内の塩素濃度が変化するため、水道水100%の水は必ずしも安全とは保証できない[書籍 109]。それに加え濾過装置内の濾過用バクテリア・餌用魚類が塩素で死滅するおそれがあること・水草に悪影響が出る可能性があることから水道水を直接飼育容器に入れることは避け、1日以上汲み置きした水を使うことが望ましい[書籍 109]。
水を汲み置く場合は可能な限り飼育容器と同じ場所で汲み置けば、飼育水と汲み置き水の温度がほぼ同じになり換水時の急激な温度変化を抑えることができる[書籍 109]。換水は成虫の場合一度に全量行ってもよいが、ろ過装置用バクテリア・餌用魚類・水草に配慮すると一度に全体3分の1 - 2分の1程度を交換することが望ましい[書籍 109]。
なおカルキ抜き剤などは容量を間違えると水生昆虫に悪影響が出る可能性がある上、鑑賞魚用の病気治療剤・コケ防止剤も多くのものが水生昆虫生体に影響を与えるため、都築・谷脇・猪田(2003)では「いずれも使用しない方が無難。もし使用する場合は直接メーカーに問い合わせて安全性を確認した上で使用すべき」と解説されている[書籍 109]。
成虫飼育
ペットとしてペットショップなどで販売されている[書籍 22]。丈夫・長寿な昆虫であることから飼育は容易で[書籍 38]、本種を含むゲンゴロウ属の成虫は丈夫で生き餌を必要としないため、水生昆虫の飼育に初めて挑戦する初心者に最適の種類である[書籍 20]。
ゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ)の場合は少なくとも幅45cm以上、できれば60cm以上の飼育容器で泳ぎ回るスペースを確保してゆったりと飼育することが適切であり、ある程度水深のあるため池などに好んで生息するため水深は20cm - 60cm程度確保することが望ましい[書籍 32]。飼育容器には水槽・プラスチックケース・衣装ケースなどが使用できるが「水深を確保した上でゆったりと飼育する」観点ではガラスおよびアクリル製の水槽が最適とされる[書籍 32]。
本種の場合は大型の飼育ケース(幅約40cm)で5, 6頭、幅約60cmの観賞魚用大型水槽の場合は7, 8頭程度が飼育可能数の目安である[書籍 110]。さらに多頭飼育することも可能だが、水がすぐに汚れるため推奨されない[書籍 110]。日本本土に生息する本種の場合は特に保温装置は必要ないが[書籍 40]、急激な水温の変化を防ぐため直射日光は避け、季節に合わせた日照時間を考えて昼夜の明暗がはっきりしており、かつゲンゴロウに不要なストレスを与えないため人の出入りが少ない静かな場所に容器を設置する[書籍 111]。そのような観点から考えると室内では直射日光が当たらない窓辺・風通しの良い廊下など、屋外では屋根付きのベランダ・テラス・直射日光の当たらない軒下などに飼育容器を設置することが好ましい[書籍 111]。また繁殖行動には日照時間・温度などの要素が影響するため「昼は照明装置・日光などで適度の明るさを保ち、夜は真っ暗にする」「夏は暑く冬は寒くし、季節に合わせた温度管理をする」ことが望まれる[書籍 111]。
餌は煮干し・田作り(いずれも醤油・食塩などによる味付けがされていないもの)など入手が容易で保存性が良いものを主に与え、摂食状態を観察しつつ数種類をローテーションで与えることが好ましい[書籍 112]。このほか以下のようなものが餌として使用できる。
- クリル(熱帯魚餌用の乾燥オキアミ) - タンパク質の含有量が多く特に推奨される[書籍 40]。栄養価が高い上に食いつきも良いが殻の部分が食べ残されやすく、容器内に破片が散らばるとミズカビ発生の原因になるため注意が必要である[書籍 113]。
- 熱帯魚用の冷凍赤虫・乾燥赤虫 - クリルと同様に食いつきがよいが食べ残すと水槽に散らばりミズカビ発生の原因になるため与える量を調節する[書籍 113]。
- 関山恵太は「釣具店で販売されている活赤虫を与えると直後に大量死したことがある。可能性の一つとして薬剤の残留が考えられる」と指摘している[書籍 114]。
- コオロギ・ミールワームなど昆虫類 - 弱らせて与える[書籍 110]。
- 死んで間もない川魚や金魚[書籍 113]・脂肪分の少ない赤身魚(マグロの赤身など)やイカの刺身なども食べるが、すぐに体液が流出して水を白濁させ、水質悪化につながるため注意が必要である[書籍 113]。
- またタンクメイトとして生きたドジョウなどを飼育容器に入れておくとゲンゴロウの食べ残しを食べてくれるため水槽の掃除屋として役立つ[書籍 113]。
体表[書籍 45]・後脚の付け根にミズカビが生えてしまい、水替えをしてもなかなか消えない場合は塩分濃度約0.5%程度の食塩水で数日間にわたり塩水浴をさせればミズカビが死滅する[書籍 33]。また水槽内には直接空気中の酸素を取り入れるため飼育容器の水面が油膜などで覆われないように注意すべきだが、ゲンゴロウ類は餌の肉質をかじり取って食べるために餌の破片が水中に散らばって水質が悪化しやすいため、水替えを頻繁に行ったり濾過装置を設置したりして水質の悪化を抑えることが望ましい[書籍 33]。
ミズカビ発生防止などの観点から甲羅干しができるように水面上に少なくとも10cmぐらいの空間ができるように水を入れ、流木・ヘゴの支柱などを水面上に先端が突き出るように立てて「甲羅干しができるような足場」を作ることが望ましいが[書籍 40]、タガメより深い水深で飼育することが多いゲンゴロウの飼育容器に合った大型の流木は高価で入手が難しいため、中型の流木を釣り糸などで容器の縁から吊り下げ半分ほど水に浸かった状態で使うことで代用することもできる[書籍 43]。また飼育下では流木の下にできた隙間・ホテイアオイの根の下などに押し合うようにして集まっていることが多い[注 23]ため、飼育容器内には足場としての流木を利用するだけでなく、ゲンゴロウが体ごと潜り込めるような隙間を作ることが推奨される上、水草を入れる際もオオカナダモなど沈水植物を多く入れることで、ゲンゴロウが体ごと水草に引っかかるようにして水中で休めるような環境を作るとよい[書籍 43]。
水質安定・足場としての目的に加えて本来の生息域が水草の豊富な環境であるため、繁殖の有無を問わず飼育容器には水草も入れるのが望ましいが[書籍 110]、ペットショップ・観賞魚店でなどで購入した水草は残留薬物に注意する必要があるほか[書籍 114]、♀は産卵期が近づくと頻繁に植物を齧り細い水草をすぐボロボロにしてしまうため高価な水草を入れることは控えたほうが良い[書籍 40]。肉食性が故に水が汚れやすいため飼育容器には濾過装置の設置が望ましいが、その場合でも水質が悪化した場合は水替えが必要である[書籍 115][書籍 40]。
ゲンゴロウ類の成虫は幼虫やタガメなどとは異なりいわゆるプレデターではなくスカベンジャーであり、生きた他のゲンゴロウ・魚を積極的に襲うことは少ないため[書籍 40]、元気な個体同士が同種間で共食いすることは少ない[書籍 116][注 24]。そのため自由に泳ぎ回ることができるスペースが確保できる場合はタガメなどと違い複数飼育が可能な水生昆虫である[書籍 116]。また他種ゲンゴロウ類・小魚(ドジョウ・メダカなど)との混泳も可能だが、長期間餌を切らしたり、弱っていたりすると小型種・弱った個体・行動の鈍い魚などは食べられてしまうこともあるため注意する[書籍 40]。
11月を過ぎるとゲンゴロウ類は活動が鈍るようになり餌の摂食量も減るため、そのような状態になったら飼育容器内に隠れ場所となる水草・流木などを多めに入れた上で容器を温度の安定した場所に移動して越冬させる[書籍 113]。ただし本種は冬季でも完全な冬眠状態にはならず活動し続けているため様子を見ながら餌を与える必要があり、冬が明けて3月ごろになると活発に活動するようになるため再び餌を多めに与える[書籍 113]。都築・谷脇・猪田(2003)は「自身の経験では本種の越冬・産卵の関係を考えると、産卵をうまく成功させるためにはタガメの場合とは違い一定期間は低温で飼育して越冬させる必要がある」と評価している[書籍 113]。
人工繁殖
成虫の飼育は容易である反面、タガメなど水生カメムシ類(半翅目)と比較すると繁殖は難しい[書籍 20]。
前述のように♀は1回の交尾で数か月にわたり有精卵を生むことができる上[書籍 50]、交尾中に呼吸もままならず窒息死してしまう場合があるため、複数飼育の場合でも成熟した♂は繁殖を狙わない場合♀と別容器で飼育することが望ましい[書籍 49]。
産卵床とする水草はヘラオモダカなどオモダカ類・ホテイアオイ(浮嚢部分に産卵する)など[書籍 117]「植物内部がスカスカのスポンジ状になったもの」[書籍 55]が使用できるが、細いと♀が噛み千切ったり、産卵しても齧られた部分から腐敗することがあるため、茎の太さは最低でも3mm - 4mm程度の直径が必要であり、5mm以上が推奨される[書籍 117]。都築・谷脇・猪田(2003)は産卵床植物の種類に関して以下のように考察した上で「いずれの植物でも蛍光灯程度の人工照明では植物そのものの長期育成が難しいため、産卵床に使う植物は小鉢に植えて屋外で栽培した上で屋外・飼育容器間をローテーションするなどの工夫が望ましい」と評価している[書籍 117]。
- 人工照明下では主にヘラオモダカ・ホテイアオイを利用している[書籍 117]。都築らの経験の一例としてホテイアオイ1株から40近い幼虫を得た場合がある[書籍 55]。
- オモダカ及びその改良品種であるクワイなども産卵床として適しているが大きくなりすぎるため利用しにくい[書籍 117]。
- 他に利用可能な植物としてフトイ・アサザ・コウホネ・スイレン類・コナギなどミズアオイ類を挙げているが、コウホネ・スイレン類・ミズアオイ類などは「強い照明を用いても産卵時にかじられた部分から溶けるように植物組織が腐敗し、卵が孵化するまで植物が持たないことが多いため利用を避けたほうが無難」と評価している[書籍 117]。
- またセリなどに関しては「茎が固いためにうまく産卵しないことがある」と評価している[書籍 117]。この他熱帯魚用のバコパ・アマゾンソードプラントなどのうち茎の太いものを利用することもできる[書籍 55]。
産卵された植物はそのまま繁殖用容器に入れておくと親成虫が植物ごと卵を齧って食べてしまったり、孵化直後の幼虫を捕食したりしてしまう可能性があるため、必ず親成虫と別々に管理する必要がある[書籍 55]。ゲンゴロウの産卵はタガメと違いだらだらと続くため、親成虫を別容器に移すよりも植物ごと卵を別容器に移し替え、産卵用容器には新しい植物を入れることが望ましい[書籍 55]。産卵が確認できた植物はそのまま切り花のようにペットボトルを半分に切った容器など別容器に移動させておけば、孵化までの2週間ほどは枯れずに維持できる[書籍 117]。
孵化した幼虫は飼育容器壁面・水草などに掴まって水面から尾端の呼吸器を出している場合が多いため、孵化時期が近づいたら注意深く容器内を観察して別容器に移し替える[書籍 62]。
幼虫飼育
幼虫は生き餌専食であるため成虫に比べて飼育が厄介で、共食いを防ぐため1頭ずつ分けて単独で飼育しなければならないほか[書籍 62]、餌も生きた獲物を用意しなければならない[書籍 68]。タガメの幼虫のように一斉に100頭近い幼虫が孵化するわけではないため比較的幼虫の管理はしやすいが、一通りの孵化が終わると1ペアから数十頭の幼虫が得られるため、その個別飼育にはそれなりの手間・労力を要する[書籍 62]。
- 1齢幼虫には主にボウフラ[書籍 68]・アカムシ・小さめのメダカ・川魚の稚魚・孵化直後のオタマジャクシなどを与える[書籍 65]。
- 2・3齢幼虫には小魚(メダカ・小さい和金・川魚)[書籍 65]・オタマジャクシ・ヨーロッパイエコオロギなどを与える[書籍 68]。
- マグロなど赤身の刺身を代用食として利用することができるが、体液がすぐ水に溶け出すために水質の悪化が早くかえって生き餌より手間がかかる[書籍 65]。
- なおオタマジャクシは生物濃縮により農薬が蓄積されている場合があり、市川(2018)では「無農薬で稲を栽培している水田以外で採集したオタマジャクシをタガメに与えると死亡する可能性がある」と指摘されている[書籍 118]。
- 関山恵太は「成虫・幼虫を問わず水田脇などで採集された小魚・オタマジャクシなどには残留農薬が含まれており与えると死亡する危険性がある。観賞魚店で販売されているメダカなども魚病薬などゲンゴロウに有害な薬剤が残留している恐れがあるため、数日間はストックして体内の残留薬剤を排出させてから使用したほうがいい」と指摘している[書籍 114]。
- またイモリ・サンショウウオなど有尾類の両生類も有毒である場合があり、実際に都築・谷脇・猪田(2003)は「かつて飼育していたタガメ成虫にイモリ成体を与えたところ死亡した失敗経験がある。死因が必ずしも毒のせいとは言えないが、念のため有尾類の両生類は成体・幼体を問わず水生昆虫の餌には使用しないほうが良い」と述べている[書籍 119]。
本種の幼虫を含め1齢・2齢幼虫の期間がそれぞれ1週間以上ある種類の場合、毎日餌を与えなくても1,2日おきに餌を与えれば餓死することはない[書籍 120]。
ゲンゴロウは幼虫も生育可能温度範囲が比較的広いが、水温が低いと発育が遅れる反面、高すぎると水質悪化が早くなり死亡率も上昇するため、幼虫飼育時には極端な温度変化を避けて23℃ - 28℃の範囲を目安に維持する[書籍 121]。飼育容器はプラケースなども使用可能だが餌の捕獲しやすさ・管理のしやすさなどの観点から小さめのプラスチックカップなどが推奨される[書籍 121]。脱皮に必要な広さを考えると1齢幼虫では直径5cm、2齢幼虫では直径7cm、3齢幼虫では直径10cm程度の大きさが望ましいが、浅すぎる容器では幼虫が這い上がって脱走するリスクがあるため幼虫の体長に応じて5cm - 10cm程度の深さの容器を選び、容器に蓋をすることが推奨される[書籍 121]。
ゲンゴロウ幼虫は尾端の呼吸器から直接大気中の空気を体内に取り込んで呼吸するため、タガメほど水質悪化による窒息死は多くなく水質悪化には比較的強いが、2・3齢幼虫はともかく1齢幼虫では水面が汚れ・油膜などで覆われると窒息死しやすいため注意が必要である[書籍 122]。また水が汚れると体表にミズカビが生えて脱皮に失敗する場合もある[書籍 122]。個別飼育が必要なゲンゴロウ幼虫はすべての幼虫を1頭ずつ濾過装置付きの飼育容器で飼育することはまず不可能だが、飼育頭数が少ない場合・設備面で余裕がある場合は底面フィルター・投げ込み式フィルターなど水流・水面の揺れが少ない濾過装置を使用した上で水草を多めに入れて飼育することもできる[書籍 122]。いずれの場合でも水質悪化を防ぐため食べ残しはピンセットで取り除く必要があるほか[書籍 115][書籍 110]、濾過装置がない場合・水の汚れが著しい場合は毎日水を全量交換する必要がある[書籍 68][書籍 40]。また薬品類については成虫以上に弱いため注意が必要である[書籍 122]。
水深は幼虫の体長に応じるが、「1齢幼虫で1cm程度、2齢幼虫で2cm、3齢幼虫で3cm程度」の水深ならば幼虫は脚を水底に着けた状態で呼吸器を水面上に出すことができる[書籍 121]。ただし水深が浅いとそれだけ水温変動・水質悪化が著しいため注意を要する[書籍 121]。水深を深くすれば水質悪化を抑える場合ができるが、その場合は水草など足場が必要となる[書籍 121]。足場用の水草としては有茎植物(1齢幼虫ではカボンバ・マツモなど細めのもの、2・3齢幼虫ではクロモ・オオカナダモなど太めのもの)が適切である[書籍 121]。水草を入れる場合は脱皮の障害にならない程度に入れ、水深は5cm程度にする[書籍 68]。
なお幼虫は大型である上に毒牙を持つため噛まれると危険であり取り扱いには注意が必要であるが、脱皮が近い時期に幼虫を落とすなどして強いショックを与えると脱皮できずに死亡するおそれがあるため、世話をする際は必ず熱帯魚用のサランネットなどで幼虫を受け止める必要がある[書籍 68]。
蛹化・羽化時の管理
本種は土中で蛹化するため、3齢幼虫の飼育時には「柔らかくて粘りがあり、アリなどの小動物・微生物が混入していない湿った土」やピートモスなどで飼育容器内に陸地を作るか、土の入った容器に幼虫を移すなどして上陸させる必要がある[書籍 61]。使用する土は自然下から採取した場合はカビ・細菌を駆除するため日光消毒を行う必要があることから、園芸用のピートモスなどを使用する方が簡単である[書籍 123]。しかしどのような土でも複数回使い回せばカビが発生しやすいため、毎回新しいものと交換するか、使用後は日光消毒を行ってから再度使用すべきである[書籍 123]。
3齢幼虫が体長約80mmほどにまで成長して餌を食べなくなったところが上陸のタイミングであり、餌を食べなくなってから1日程度の間に上陸させないと蛹化できずに溺死するため、幼虫の体長・摂食量を注意深く観察しつつ上陸のタイミングを見計らう必要がある[書籍 65]。上陸させて一晩経過しても土に潜らない場合はまだ準備ができていない証であるため、再び水の入った飼育容器に戻して餌を与えて様子を見る[書籍 65]。土・ピートモスは水分が多すぎると柔らかすぎて蛹室が作れず、少なすぎると固すぎて幼虫がうまく潜れないため[書籍 123]、「水を含ませ手で握ったときにわずかに水滴が落ちる程度」の水分量が好ましい[書籍 61]。また幼虫は土に潜るのがそれほど得意ではないため、土の固さは「指を差し込んでみて簡単に指が沈み込む程度」の柔らかさが好ましく[書籍 61]、土に潜ろうとしてもうまく潜れない場合は湿り具合を調節する必要がある[書籍 65]。
幼虫が土に潜ってから成虫へ羽化するまでには約20日間かかるが、個体差および温度などの条件によりさらに10日ほど要する場合がある[書籍 72]。その間に蛹室内の様子を見ようと蛹室に穴を開けてしまうと土が崩れて羽化不全になったり乾燥死することが多い上にカビの発生率も上昇するため、不用意に蛹室の中を覗く行為は避けるべきである[書籍 72]。観察・記録目的でやむを得ず中を見るときは土を崩さないように慎重に穴をあけ、観察後はプラスチック板などで蓋をすることが好ましい[書籍 72]。激しい温度変化・蛹への振動などは羽化不全などの原因になるため、蛹化用容器の保管場所は「直射日光の当たらない温度の安定した場所」が適しており、羽化まではなるべく容器を動かしたり振動を与えたりしないようにする[書籍 72]。
羽化後は5日 - 1週間程度は蛹室に留まってから地上に這い出して活動を開始する[書籍 71]。活動開始後は水を入れた飼育ケースに移して飼育するが、羽化直後の新成虫は体が完全に硬化していないため、他のゲンゴロウとともに飼育すると捕食されるおそれがある[書籍 71][書籍 72]。この「羽化直後の新成虫」が「共食いの少ないゲンゴロウにとって最も共食いが起きやすい時期」であり、実際に都築らは「羽化直後の新成虫を前年生まれの成虫を同居させたところ一晩で捕食され、本来は硬くて食べ残されるはずの腹部・前翅・後脚まできれいに食べつくされてしまった」と記録している[書籍 72]。そのため羽化してから体が完全に硬化するまでは餌を十分に与えて単独で飼育し[書籍 71]、活動開始から1 - 2週間程度経過してから[書籍 72]翅を軽く触ってみて硬くなったことを確認してから他個体とともに飼育する[書籍 71]。
脚注
注釈
- ^ 本種は1873年にデヴィッド・シャープが日本・九州で採集された個体に基づきCybister japonicus (Sharp, 1873) として記載したが[3]、その学名は2007年に「Cybister chinensis (Motschulsky, 1854) のシノニムである」とされた[論文 1]。そのためITISの登録データにおいても「C. japonicus はC. chinensis のシノニムである」と記載されており[1]、2017年版まで「Cybister japonicus」の学名で記載されていた環境省レッドリストでも2018年以降は「Cybister chinensis」に学名を変更した上で記載されている[RL 2]。なおC. chinensis は Motschulsky が1854年に清朝時代の中国・北京で初記録した[論文 1]。
- ^ 飼育下では1度しか交尾しなかった♀がシーズン後半に未受精卵を産むようになった[書籍 27]。
- ^ 『広辞苑 第七版』では「幼虫が疳の薬になる」と記載されている[書籍 10]。
- ^ サツマゴキブリ・シナゴキブリなどを用いた漢方薬で瘀血への効用(打撲傷・内出血の痛みを治すなど)および通経の効能があるが、堕胎作用があるため妊婦には禁忌である[書籍 87]。ゲンゴロウ類はゴキブリ類と成分がほとんど同一であり両者ともパルミチン酸メチルの含有量が多いが、ゲンゴロウ類はゴキブリ類の2倍以上を含有していた[書籍 88]。
- ^ 清澄山(1983年)が最後の記録[RL 5]。
- ^ 東京都区部(23区内)およびその周辺では1940年代[RL 6]、多摩地域でも1970年代の記録が最後の記録とされており、2010年のレッドリスト改訂で絶滅種となった[RL 6][RL 7][報道 1]。
- ^ 県内で最後まで確実に生息していた厚木市内のため池で1990年代初めに行われた改修工事により絶滅してからは記録されておらず、県内の池沼に本種が生息可能な環境は残っていないことから絶滅したと考えられる[RL 8]。
- ^ 県内では1990年代の確認が最後とされており2016年の改訂で絶滅種となった[報道 2]。滋賀県の地方紙『京都新聞』(京都新聞社)は2016年6月22日に社説でこの改訂を「生物多様性の喪失に対するゲンゴロウからの警鐘」などと表現した[報道 3]。
- ^ 1990年に吉松町立吉松小学校(当時の姶良郡吉松町。現:姶良郡湧水町)内の溝で1個体が採集されたことを最後に採集・生息記録がなく[RL 10]、2014年改訂のレッドリストでは「絶滅種」となっている[RL 9]。
- ^ 最後まで生息が確認されていた秩父山地でも既知生息地すべてで絶滅した状態となり、2008年改訂の県レッドデータブックで「絶滅危惧IA類」に指定されている[RL 11]。
- ^ 1995年に生息状況調査が実施された際には県内数か所で生息が確認されたが、2012年時点のレッドデータブックでは「現在はいずれの生息地でも再確認されていない」として「絶滅危惧I類」に指定されている[RL 3]。
- ^ 府内唯一の産地として[RL 12]茨木市北部の湿地が知られていたが、1991年に「野尻湖昆虫グループ」(大阪市立自然史博物館に事務所所在)の調査による生息確認を最後に[報道 4]その生息地が消滅したことから[RL 12]、翌1992年以降は府内で確実な生息記録が確認されておらず2000年の府レッドデータブックで「絶滅危惧I類」に指定されている[RL 12]。
- ^ 1990年ごろに「県内における唯一の確実な生息地」になっていた生息地が改修工事により環境が激変したため絶滅し、2012年版県内レッドデータブックでは「絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)」に指定されている[RL 13]。
- ^ 県内ではかつて普通種だったが2001年発行のレッドデータブックで「県内で生息が確認されているのはわずか1か所のみと、産地が非常に局地的で個体数も少ない」として「絶滅危惧I類」に指定されており[RL 14]、さらに2013年改訂版レッドデータブックでは「近年確認されていない」として「絶滅危惧IA類」に指定されている[RL 15]。
- ^ 県内では最後に生息が確認されていた場所でも1999年以降の5年間にわたり生息が確認されておらず、2004年3月刊行のレッドデータブックで「絶滅危惧I類(CR+EN)」に指定されている[RL 17]。
- ^ 1990年代に生息が確認されていた既知生息地でもそのご確認できなくなり、新たな生息地も発見できないことから「絶滅危惧1類(CR+EN)」に指定されている[RL 18]。
- ^ 県内では1960年の採集記録を最後に記録されておらず、2014年版県内レッドデータブックで「絶滅危惧IA類」に指定されている[RL 19]。
- ^ 1992年までは脊振山地などに4産地が知られていたが、その後生息地の破壊・荒廃により確認できなくなり2003年版県レッドデータブックでは「絶滅危惧I類種」に指定されている[RL 20]。
- ^ 県レッドリストで「絶滅危惧I類」に指定されており[RL 21]、2015年8月11日以降は[条例 2]「群馬県希少野生動植物の種の保護に関する条例」に基づき「特定県内希少野生動植物種」に指定され「許可なく捕獲・採取・殺傷・損傷するなどの行為」が禁止されている[条例 1][条例 3]。
- ^ 全県で2017年(平成29年)3月28日より[条例 5]「長崎県未来につながる環境を守り育てる条例」に基づき「希少な野生動植物」に指定され無許可で捕獲・採取・殺傷・損傷するなどの行為が禁止されている[条例 4]。
- ^ 6月下旬ごろ[書籍 95]、イネの根の張りを強固にする目的で田表にひび割れができるほど田を乾燥させること[論文 10]。
- ^ ゲンゴロウは産卵 - 3齢幼虫上陸まで約50日間を要するため、現代日本の水田では仮に湛水直後に産卵しても幼虫は中干しまでに上陸できず乾燥死してしまう[論文 10]。また中干しまでの期間短縮はトノサマガエルのオタマジャクシ(変態には孵化後1か月半にわたり水が必要)の生育にも悪影響を及ぼしており、トノサマガエルを主な餌とするタガメも影響を受けている[論文 10]。
- ^ 天敵である鳥類などから身を隠す目的の習性であるとともに、呼吸のために貯めた空気による浮力で体が水面に浮き上がることを抑えるためとされる[書籍 43]。都築・谷脇・猪田(2003)はゲンゴロウがこの行動を取る理由を「体の浮上を抑える際には物に掴まるより何かの下に潜ったほうが体力の消耗が少ないからだろう」と推測している[書籍 43]。
- ^ 複数飼育した場合は稀に仲間の死体を食べる姿が観察されたり、食べられてバラバラになった死体が水底に沈んでいたりする場合があるが、これは「共食い」ではなく何らかの原因で弱ったり死亡したりした個体が食べられたものである場合が多い[書籍 116]。
出典
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- 今森光彦『水辺の昆虫』 18巻(初版第1刷)、山と渓谷社〈ヤマケイポケットガイド〉、2000年3月20日、246-249頁。ISBN 978-4635062282。
- 内山りゅう『増補改訂新版 田んぼの生き物図鑑』(初版第1刷)山と渓谷社、2013年3月5日(原著2005年7月1日)、112-115頁。ISBN 978-4635062862。
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- 三橋淳『世界昆虫食大全』(初版第1刷)八坂書房、2008年11月25日。ISBN 978-4896949209。
- 西原昇吾『よみがえれ ゲンゴロウの里』 1巻(初版第1刷)、童心社〈守ってのこそう!いのちつながる日本の自然〉、2008年11月28日。ISBN 978-4494011582。
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- 三橋淳『昆虫食文化事典』(初版第1刷)八坂書房、2012年6月20日。ISBN 978-4896949971。
- 関慎太郎『ポケット図鑑 田んぼの生き物400』(初版第1刷)文一総合出版、2012年7月30日、225頁。ISBN 978-4829983010。
- 森文俊、渡部晃平、関山恵太、内山りゅう『水生昆虫観察図鑑 その魅力と楽しみ方』(初版第1刷)ピーシーズ、2014年7月30日。ISBN 978-4862131096。
- 市川憲平『タガメとゲンゴロウの仲間たち』 4巻(初版第1刷)、サンライズ出版〈琵琶湖博物館ブックレット〉、2018年3月27日。ISBN 978-4883256341。
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