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「自動列車停止装置」の版間の差分

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以上の位置基準型の車上演算型速度照査方式、いわゆるパターン型速度照査が(停止信号)冒進のない安全なATSとしてJR東日本を中心にATS-Pとして普及し、安全度を落とさずに列車間隔を詰め線路容量を増やすことに成功した。その照査方式が[[自動列車制御装置]] (ATC) にも取り入れられDS-ATC/D-ATC/KS-ATC≒ATC-NSなどで採用されて線路容量を増やした。[[総武快速線]] - [[横須賀線]]の[[総武快速線|東京トンネル]]や埼京線池袋駅 - 新宿駅間など、[[在来線]]のATC区間をATS-Pに換装した例も現れている。また相鉄でも2014年3月30日より全路線でATS-Pを採用した。これは相鉄が2019年度にJR東日本と相互乗り入れを計画しているためである。
以上の位置基準型の車上演算型速度照査方式、いわゆるパターン型速度照査が(停止信号)冒進のない安全なATSとしてJR東日本を中心にATS-Pとして普及し、安全度を落とさずに列車間隔を詰め線路容量を増やすことに成功した。その照査方式が[[自動列車制御装置]] (ATC) にも取り入れられDS-ATC/D-ATC/KS-ATC≒ATC-NSなどで採用されて線路容量を増やした。[[総武快速線]] - [[横須賀線]]の[[総武快速線|東京トンネル]]や埼京線池袋駅 - 新宿駅間など、[[在来線]]のATC区間をATS-Pに換装した例も現れている。また相鉄でも2014年3月30日より全路線でATS-Pを採用した。これは相鉄が2019年度にJR東日本と相互乗り入れを計画しているためである。


しかし、ATS-Pはこうした非常に精密で高価な機器であることから、他のATSとの互換性は無く、独立したATSとして扱わなければならない。ATS-Pを安全かつ正確に作動させるために、専用の電源装置が必要になるほか、車上子も独立して設置しなければならない。この例として、JR東日本が保有する電気機関車[[国鉄EF65形電気機関車|EF65 501]]は、ATS-P設置の際に機器室に同電源装置を設置するスペースが確保できなかったため、運転室の助手席を撤去して設置する工事が行われている。[[蒸気機関車]]としては、同じくJR東日本が保有する「[[国鉄C58形蒸気機関車#239.E5.8F.B7.E6.A9.9F|C58 239]]」・「[[国鉄C61形蒸気機関車20号機|C61 20]]」・「[[国鉄D51形蒸気機関車498号機|D51 498]]」の3台にもATS-Pが追設されているが、車上子は先台車上部に設置したため、万一の事故に備えての防護も兼ねて、スノープラウでカモフラージュを行い、装置の存在が目立たないように配慮されている。なお、電源装置はテンダー(炭水車)に設置しているが、設置場所はそれぞれ異なっている。一方、[[ディーゼル機関車]]は一部の車両がそれらの防護策を施さず、車上子が見える状態になっている。いずれの車両も、車上子は判別化のため、白色に塗られている。
しかし、ATS-Pはこうした非常に精密で高価な機器であることから、他のATSとの互換性は無く、独立したATSとして扱わなければならない。ATS-Pを安全かつ正確に作動させるために、専用の電源装置が必要になるほか、車上子も独立して設置しなければならない。この例として、JR東日本が保有する電気機関車[[国鉄EF65形電気機関車|EF65 501]]は、ATS-P設置の際に機器室に同電源装置を設置するスペースが確保できなかったため、運転室の助手席を撤去して設置する工事が行われている。[[蒸気機関車]]としては、同じくJR東日本が保有する「[[国鉄C58形蒸気機関車#239号機|C58 239]]」・「[[国鉄C61形蒸気機関車20号機|C61 20]]」・「[[国鉄D51形蒸気機関車498号機|D51 498]]」の3台にもATS-Pが追設されているが、車上子は先台車上部に設置したため、万一の事故に備えての防護も兼ねて、スノープラウでカモフラージュを行い、装置の存在が目立たないように配慮されている。なお、電源装置はテンダー(炭水車)に設置しているが、設置場所はそれぞれ異なっている。一方、[[ディーゼル機関車]]は一部の車両がそれらの防護策を施さず、車上子が見える状態になっている。いずれの車両も、車上子は判別化のため、白色に塗られている。


JRにおける車体表記は'''P'''。また、JR東日本に乗り入れている東京メトロ05系や07系および15000系、東京臨海高速鉄道70-000形などにおいても同様の車体表記がある。なお、相鉄ではATS-P搭載車両の車体表記を特に行っていない。
JRにおける車体表記は'''P'''。また、JR東日本に乗り入れている東京メトロ05系や07系および15000系、東京臨海高速鉄道70-000形などにおいても同様の車体表記がある。なお、相鉄ではATS-P搭載車両の車体表記を特に行っていない。
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今後の予定として、東北・信越地区の主要駅(23駅)への導入が発表されているが、一定距離の区間へ連続的に設置するのではなく、中心駅の出入口へのピンポイント的な設置にとどまる。
今後の予定として、東北・信越地区の主要駅(23駅)への導入が発表されているが、一定距離の区間へ連続的に設置するのではなく、中心駅の出入口へのピンポイント的な設置にとどまる。


当該地区における車両はもちろんのこと、この他にも関東の一部の車両([[ジョイフルトレイン]]など)にもPs形が設置されている。また、JR西日本[[京都総合運転所]]所属の[[国鉄583系電車|583系]]についても、夜行急行列車[[きたぐに (列車)|きたぐに]]にて信越本線宮内駅 - 新潟駅間に乗り入れるため、[[2010年]]にPs形が取り付けられた(なお、同車は[[2012年]]3月のダイヤ改正をもって定期運用終了。同年度の冬の臨時運転をもって乗り入れが終了している)。[[2006年]](平成18年)12月より、JR東日本[[高崎車両センター]]に在籍し、P形を装備している蒸気機関車[[国鉄D51形蒸気機関車498号機|D51 498]]にも追加装備がなされた。さらに[[2007年]](平成19年)4月に[[大宮総合車両センター]]を全検出場した蒸気機関車[[国鉄C57形蒸気機関車180号機|C57 180]]も、新潟県内在籍のため追加装備がされた。[[2011年]](平成23年)3月に復活した蒸気機関車[[国鉄C61形蒸気機関車20号機|C61 20]]もPs形を取り付けたが、復元工事段階より設置された蒸気機関車としては初めてである。続けて[[2014年]](平成26年)1月に復活した「[[国鉄C58形蒸気機関車#C58 239|C58 239]]」にも、岩手県内での運行になるため復元段階より設置されている。なお、Ps形を取り付けたこれらの蒸気機関車には、[[炭水車]]の前側台車に速度検知を追設し、2011年春以降に検査に合わせて順次、伝統ある機械式速度計から国鉄型電気機関車の速度計を模した電気式速度計に変更されている。また[[JR貨物EF510形電気機関車#500.E7.95.AA.E5.8F.B0|EF510形500番台]](JR東日本・JR貨物転属車問わず)やJR貨物[[仙台総合鉄道部]]所属の[[JR貨物EH500形電気機関車|EH500形]]や[[国鉄DE10形ディーゼル機関車|DE10形]]、[[高崎機関区]]所属の[[JR貨物EH200形電気機関車|EH200形]]の一部にも搭載されているのが確認されている。[[青函トンネル]]用の[[JR貨物EH800形電気機関車|EH800形]]も在来線区間([[津軽線]]・[[江差線]]→[[道南いさりび鉄道]]。「20kV区間」)で必要になるので搭載している。JR貨物は、北日本運用向けのPF・Ps一体型の車上装置が開発されている [http://www.kyosan.co.jp/product/product08-44.html#link04]。
当該地区における車両はもちろんのこと、この他にも関東の一部の車両([[ジョイフルトレイン]]など)にもPs形が設置されている。また、JR西日本[[京都総合運転所]]所属の[[国鉄583系電車|583系]]についても、夜行急行列車[[きたぐに (列車)|きたぐに]]にて信越本線宮内駅 - 新潟駅間に乗り入れるため、[[2010年]]にPs形が取り付けられた(なお、同車は[[2012年]]3月のダイヤ改正をもって定期運用終了。同年度の冬の臨時運転をもって乗り入れが終了している)。[[2006年]](平成18年)12月より、JR東日本[[高崎車両センター]]に在籍し、P形を装備している蒸気機関車[[国鉄D51形蒸気機関車498号機|D51 498]]にも追加装備がなされた。さらに[[2007年]](平成19年)4月に[[大宮総合車両センター]]を全検出場した蒸気機関車[[国鉄C57形蒸気機関車180号機|C57 180]]も、新潟県内在籍のため追加装備がされた。[[2011年]](平成23年)3月に復活した蒸気機関車[[国鉄C61形蒸気機関車20号機|C61 20]]もPs形を取り付けたが、復元工事段階より設置された蒸気機関車としては初めてである。続けて[[2014年]](平成26年)1月に復活した「[[国鉄C58形蒸気機関車#C58 239|C58 239]]」にも、岩手県内での運行になるため復元段階より設置されている。なお、Ps形を取り付けたこれらの蒸気機関車には、[[炭水車]]の前側台車に速度検知を追設し、2011年春以降に検査に合わせて順次、伝統ある機械式速度計から国鉄型電気機関車の速度計を模した電気式速度計に変更されている。また[[JR貨物EF510形電気機関車#500番台|EF510形500番台]](JR東日本・JR貨物転属車問わず)やJR貨物[[仙台総合鉄道部]]所属の[[JR貨物EH500形電気機関車|EH500形]]や[[国鉄DE10形ディーゼル機関車|DE10形]]、[[高崎機関区]]所属の[[JR貨物EH200形電気機関車|EH200形]]の一部にも搭載されているのが確認されている。[[青函トンネル]]用の[[JR貨物EH800形電気機関車|EH800形]]も在来線区間([[津軽線]]・[[江差線]]→[[道南いさりび鉄道]]。「20kV区間」)で必要になるので搭載している。JR貨物は、北日本運用向けのPF・Ps一体型の車上装置が開発されている [http://www.kyosan.co.jp/product/product08-44.html#link04]。


==== 搭載車両 ====
==== 搭載車両 ====

2017年8月9日 (水) 18:19時点における版

自動列車停止装置(じどうれっしゃていしそうち、ATS: Automatic Train Stop)は、鉄道での衝突防止や過速度防止の安全装置(=自動列車保安装置と呼ぶ)の日本での分類の1つ。列車や軌道車両が停止信号を越えて進行しようとした場合に警報を与えたり、列車のブレーキを自動的に動作させて停止させ、衝突脱線などの事故を防ぐ装置である。

定義

日本工業規格のJIS E 3013(鉄道信号保安用語)では、以下のように定義されている。

自動列車停止装置
列車が停止信号に接近すると、列車を自動的に停止させる装置。ATSともいう。
自動列車制御装置
列車の速度を自動的に制限速度以下に制御する装置。ATCともいう。

ATSには停止信号による自動停止機能のほかに、停止信号また信号現示に関わりなく制限速度設定を超えた場合に警報・減速または停止させる機能がついたものもある。

日本の鉄道軌道法において一般的な自動列車保安装置であるが、鉄道事業者や軌道経営者によってその内容は大きく異なり、機能自体はATCと遜色のないものを使っている事業者もある。しかしながら、ATSにおいて安全走行を確保する主体は運転士であり、ATS装置は運転士のヒューマンエラーに対するバックアップが目的であるのに対し、ATCにおいてはATC装置が安全走行を確保する主体となっている点が異なる。

日本以外の国においては、安全装置の考え方が違い区分法が違うので、ATCを含め直接の対応語はない。そのため同様の機能の装置に様々な命名があり、AWSと称しているところもある。

歴史

ATSの歴史は過去に発生した鉄道事故と、その教訓による改良の繰り返しの歴史ともいえる[1]

  • 1921年大正10年) : 東海道本線汐留駅 - 品川駅間で磁気誘導式のATS試験。その後、横浜線福知山線でも別方式の試験が行われる。
  • 1927年昭和2年) : 東京地下鉄道(現在の東京メトロ銀座線)が、日本で初めてのATS実用運用路線として開業。打子式。
  • 1941年(昭和16年) : 山陽線網干駅列車衝突事故。この事故をきっかけに東海道・山陽・鹿児島線で連続コード速度照査式ATSの設置工事を開始したが、受信機が爆撃を受け全損したため頓挫する。また、戦後すぐに関門トンネルを挟む幡生駅 - 門司駅間9.8kmを部分完成させ、車上装置を4両に搭載し試験を開始したが占領軍命令で中止となった。
  • 1954年(昭和29年) : 山手線京浜東北線でB形(軌道電流式)車内警報装置を使用開始。B形車内警報装置はその後東京・大阪の国電区間に設置される。
  • 1956年(昭和31年) : 参宮線六軒事故国鉄が全線に車内警報装置を設置決定するきっかけとなる。
  • 1960年(昭和35年) : 都営地下鉄1号線(現在の浅草線)開業。相互乗り入れの京成押上線とともに軌道電流式ATS(1号型ATS)を採用。
  • 1962年(昭和37年) : 三河島事故。国鉄が全線に設置中の車内警報装置に非常制動タイマーを付加して「自動列車停止装置」=「ATS」とするきっかけとなる。
  • 1964年(昭和39年) : 名古屋鉄道新名古屋駅構内で列車追突事故が発生し、これを機に私鉄では初となる速度照査機能付ATSが翌1965年に設置される。(後述)
  • 1966年(昭和41年)
  • 1967年(昭和42年)
  • 1968年(昭和43年) : 御茶ノ水駅追突事故警報維持装置設置=ATS確認扱い2段階化。確認扱い後の注意喚起機能(確認ボタン押下後もチャイム音が鳴り続ける)を追加。
  • 1974年(昭和49年) : 関西本線でATS-Pを試験運用。多変周地上子式で現行とは異なる。
  • 1984年(昭和59年) : 西明石駅過速度大破事故。現在のATS-Pの原型であるトランスポンダを用いたH-ATS開発を決定。
  • 1986年(昭和61年) : 山陽本線西明石駅ほか3駅にトランスポンダ式H-ATS(現在のATS-P)が設置される。
  • 1988年(昭和63年)
    • 12月1日 - トランスポンダ方式の全面ATS-Pを京葉線で供用開始。関西線変周式ATS-Pは中断されており、H-ATS→ATS-P'と呼ばれていたのを正式にATS-Pとした。
    • 12月5日 - 東中野駅列車追突事故発生。JR東日本、ATS-P換装計画拡大前倒しを表明。運輸省、国電区間(ATS-B区間)など錯綜区間のATS-P換装を指導。
  • 1989年平成元年)
    • 飯田線北殿駅列車正面衝突事故阪和線天王寺駅衝突事故と、既存のATSの弱点を突いた事故が多発する。
    • JR東日本・東海がJR各社の委嘱を受けたATS-S改良のATS-SN開発。全JRに即時停止地上子123kHzを追加、警報直下地上子を換装。JR東海はさらに車上時素式速度照査108.5kHzを開発、ATS-STと呼ぶ。ST仕様はJR東海以西のJRとJR貨物(車上装置)に普及。
  • 1990年(平成2年)
    • JR東日本JR西日本でATS-Pの整備を順次実施。
    • 運輸省から中小事業者に対しATSの整備促進を指示。
  • 1997年(平成9年) : 中央線大月駅スーパーあずさ衝突転覆事故。ATS電源のハンドル投入式改造中に未改造車の誤出発を止められず
  • 2000年(平成12年) : 京福電気鉄道越前本線列車衝突事故。京福は翌年も同様の事故を起こす。
  • 2002年(平成14年) : 国土交通省から中小事業者に対し補助金を付けてATSの整備を指示。
  • 2005年(平成17年)
  • 2006年(平成18年)3月
    • 国交省令鉄道技術基準改定。安全設備設置選択を各鉄道事業者自身の責任で行うことを明記し、不設置理由として「行政指導がなかった」とは言わせない規定に改め、基準も機能規定化を図った。
    • 2006年(平成18年)6月 : JR東海、ATS-STを総て、安全性の高い「停止位置基準車上演算型ATS」≡ATS-PTへの換装を発表。保安コードはJR7社共通仕様で、尼崎事故を機に、JR西日本特認コードだった車種別の「本則+α加算」や、新設「路線最高速度」などを7社共通コードに採用するなど補強を行い、数年で換装を完了した。

ATS動作・構造概要と分類

ATSの機能としては大別して信号現示に対して働く衝突防止のATSと、信号現示とは独立に進行信号で働く過速度に対するATSがある。また、運転上の取扱い方法は大きく2タイプに分けることができる。

  • 停止信号に近づいたときに警報を発し、乗務員が警報に応じた所定の確認の取扱をしない場合に列車のブレーキを動作させる装置。(国鉄B型・S型)[注 1]
  • 乗務員が信号に従った運転取扱いを行っている場合はその運転に介入せず、乗務員の(体調不良、錯誤、故意など理由を問わず)異常な取扱いが行われた場合にだけ介入して列車のブレーキを動作させる安全装置。(上以外のタイプ)

ATS装置には、様々な構造があり、メーカーから各事業者に納入されていて、同一路線で併用・機能分担されているものもあるので事業者毎の説明にはなじまない部分があり、構造・分類を概説する。

制御方式

ATSの制御情報を地上から車上に伝える方式とその装置にはいくつかの種類がある。

連続制御・点制御

ATSの制御情報を連続的に車上に伝えるものを「連続制御」、地上子など1点で情報を伝えるものを「点制御」としている。なお、この区別は、情報の伝達に関するものであり、受けた情報に基づく速度照査の方法とは異なる。「点制御」の場合にも、速度照査に関して、地上子から受けた情報を即時に照査する「点照査」の方式と、地上子からの情報を記憶して連続して照査する「連続照査」の方式がある。

地上装置・車上装置

車上子(写真中央○部)

ATSは、基本的には以下の装置によって構成される(詳細は後述「ATS動作・構造」参照)。

地上装置
地上に設置されている、信号機の現示や速度制限などの情報を列車に送る装置。
車上装置
車両に搭載されている、地上装置が送った情報を受け取り、条件によって自動的にブレーキを動作させる装置。特に、列車の速度がある値を超えた時に自動的にブレーキを動作させる機能を速度照査機能(速照)という。

地上装置と車上装置で情報を送受信する方式には、大まかに分けると以下の方式がある。

打子(うちこ)式
信号に連動する線路上のトリップアーム(可動打子)で、機械的に列車のブレーキコックを操作する方式。(点制御)
地上子式
線路上に置かれた「地上子」を用いて、電気的に点で列車へ情報を送る方式。(点制御)
軌道回路式
レールに流した信号電流を用いて、電気的に列車へ情報を送る方式。(連続制御)

実際には、送受信の方式が同じ場合でも地上子やレールに流す信号の周波数や電文(コード)地上子の設置場所などが事業者によって異なるため、さらに細かく分けられている。地上、車上ともに信号の周波数などを含めた方式が一致して初めてATSがシステムとして有効になる。ATSの持つ「地上から列車にブレーキを動作させる」仕組みを利用したものとして、踏切防護装置、曲線速度制限装置、分岐器速度制限装置が存在する。

軌道回路

軌道回路とは左右の線路を電送線とし閉塞区間先端から入り口に向け信号電流を送り車軸が左右を短絡することで、閉塞入り口には信号電流が届かなくなって在線を検知して停止信号となり、一方車軸での短絡で1巻きのコイルを構成してこれを受電器で拾って地上から車上に情報を流す方式をいう。連続制御可能であり、信号現示の変化に対しての追従性が良い。ATS-B、1号型ATSC-ATS、阪急ATS、ATCなどで使われている。

軌道回路に流す信号電流の種類により商用周波数軌道回路、分倍周軌道回路、AF軌道回路[注 2]、と分けられる。列車在線検出のための信号電流と、信号現示を列車に伝えるための信号電流があり、ATS-Bや新幹線ATCでは両者が兼用されているが、後日ATSを拡張設置した場合などは別の信号電流として重畳するものもある。

地上子

情報を受け渡すための地上装置一般。動作原理により変周式、トランスポンダ式などがあり、これを基準に制御する場合が「点制御」となる。ただし、「点制御」で受信した速度制限値などのデータを記憶して参照する場合には点制御でも「連続照査」「連続参照」となり、単純な「点照査」に比べ保安度は高まる。

変周式(単変周・多変周)地上子

変周式とは、車上受信器である車上子が、特定の共振周波数を持つLC回路で構成される地上子の上を通過すると、電磁結合により車上子の発振周波数が地上子の共振周波数に引き上げられるので(これを変周作用という)、この周波数をフィルタ回路で検出して地上情報を得る方式を指す。

国鉄のATS-S形では、車上側では、車上子は、増幅器による帰還回路に組み込まれており、常時発振周波数105kHzを発信している、その出力の一部はフィルター回路(105kHzのみしか通過できない)を経由してリレーを扛上させている。地上側では、地上子は、内部がコイルとコンデンサが直列接続されたLC回路で構成されており、そのコイルに、地上子制御用リレー箱に繋がっているケーブルが接続されており[注 3]、地上子制御用リレー箱内では、地上子制御リレー(QRリレーと呼ばれている)の接点がケーブルに接続されていて、地上子制御リレーの配線は制御ケーブルを経由して信号機に接続されている。地上子が不動作時(信号機が停止信号以外)には、地上子制御リレーが扛上して短絡され、地上子のLC回路は構成されないが、動作時(信号機が停止信号)には、地上子制御リレーが落下して、地上子のLC回路が構成されると、130kHzの共振周波数が地上子から発信され[注 4]、そこに車上子が通過すると、車上子の発振周波数が105kHzから130kHzに引き上げられ、それにより車上側ではフィルター回路を通過できず、リレーが落下して警報器を作動させ、表示器の白色ランプが消灯し赤色ランプが点灯して停止情報を伝える。これは1情報1共振周波数方式だったから、これを特に「単変周」と呼んだが、現在では車上からの地上子良否検査を可能にするため、地上子制御用リレー箱内の制御ケーブルにコンデンサ[注 5]を接続して、地上子制御リレーが扛上し短絡されている不動作時の共振周波数103kHzを発信して[注 6]、さらにこれを強制振り子制御の位置マーカーにしており、電気的に見れば純粋な単変周地上子はなくなった。ATS-Sx、ATS-Ps地上子はそうした有効 - 無効(取消 : 103 kHz)2値型の単変周地上子である。多変周は地上子に複数の共振周波数を割り当てるもので、これに信号現示とその制限速度を割り当てたり、設置位置と併せ限界速度パターン発生に使用する。

京王、小田急、東武などの信号ATSがこの多変周方式で、東武ATS (TSP) は周波数の一部をパターン発生地上子に割り当てている(信号ATSとは別に過速度・過走防止ATSがある)。

最近の分類では意味の薄れた「多変周 - 単変周」を避け「多情報 - (単情報)」と整理されている。またATSシステムとしては多数の変周周波数を使用しても、単機能地上子として1周波数ということもある。

JR西日本が開発したATS車上装置であるATS-SW2形は脱変周式と呼ばれている共振周波数検出方式を採用しており、スペクトラム拡散方式により、車上装置から車上子にATS地上子で使用されている共振周波数帯域の複数の周波数を常に送信しており、車上子と地上子が電磁結合すると、地上子では共振電流が流れ、車上子では地上子から発信される共振周波数の信号スペクトルの受信レベルが上昇して、それをFFT方式によるスペクトル解析で共振周波数帯域の複数の周波数ごとの信号スペクトルの受信レベル変化によるピーク周波数を検知して共振周波数を検出している。

ATS-S形の構成図と常時発振周波数および共振周波数の流れ。A増幅器(105kHzを発信)、B車上子、C地上子、Dフィルター回路(105kHzだけを通過させる)、Eリレー、赤の矢印の線は、増幅器から発信される常時発振周波数105kHzの流れ、黒の矢印の線は、地上子からの共振周波数130kHzの流れ。 ATS-S形の地上子と地上子制御用リレー箱の内部結線。Aコイル、B内部抵抗、Cコンデンサー、D外付コンデンサー、E地上子制御リレー(QRリレー)の接点、F地上子制御リレー(QRリレー)、Gケーブル。
ATS-S形の構成図と常時発振周波数および共振周波数の流れ。A増幅器(105kHzを発信)、B車上子、C地上子、Dフィルター回路(105kHzだけを通過させる)、Eリレー、赤の矢印の線は、増幅器から発信される常時発振周波数105kHzの流れ、黒の矢印の線は、地上子からの共振周波数130kHzの流れ。
ATS-S形の地上子と地上子制御用リレー箱の内部結線。Aコイル、B内部抵抗、Cコンデンサー、D外付コンデンサー、E地上子制御リレー(QRリレー)の接点、F地上子制御リレー(QRリレー)、Gケーブル。

トランスポンダ式地上子

トランスポンダ(地上子)とは、鉄道ではデジタル情報送受地上子のことで、送信機能のみのものも含めて呼んでいる。ATS-P形で知られる様になったが、それ以前にも新幹線には多数使われている。元々はトランスミッタ(送信機)とレスポンダ(応答機)で構成される通信機器のことであり、問い合わせに対して応答するもの、もしくは中継器を指していて、多くの情報を高品質と高速度で伝達する機能を有している。

トランスポンダ式地上子を使用している、ATS-P形の基本的な地上設備は、符号処理器 (EC) と中継器 (RP) と地上子で構成されており、地上子と車上子との間の送受信に使用される周波数(搬送波)は、有電源地上子又は無電源地上子から車上子に送信する際は1708kHz、車上子から有電源地上子に送信する際は3000kHz、車上子から無電源地上子に送信する際は245kHz[注 7]を使用しており、変調方式はFSK変調(Frequency Shift Keying : 周波数偏移)を使用している[注 8]通信方式は双方向での情報伝達が可能なよう二重通信方式を使用しており、64kbpsの伝送速度で、ハイレベルデータリンクのフレーム構成に準拠した電文構成により、1フレームあたり88又は96ビットのデジタル信号が、繰り返し伝送されている。また、地上装置と車上装置の間では、そのデジタル信号を一旦変換(変調)してから、送受信を行う為、その変換手段としてモデムを使用しており、その変調器 (MOD) と復調器 (DEMO) を使用して、送信の際では、変調器にデジタル信号を入力して変調波を出力させ、受信の際では、復調器に変調波を入力してデジタル信号を復元させることにより、情報を得られるようになっている。

速度照査

列車の速度を計測し、その速度が許容された速度の範囲内であるか否かを照合する。これを速度照査(そくどしょうさ)と言い、速度照査の方法やその制御もいくつかに分類できる。

点照査・連続照査・パターン照査

速度照査には、ある地点でだけ照査する「点照査」と、連続して照査し続ける「連続照査」があり、さらに従前一定値だった照査速度を基準位置に対する列車の位置毎にリアルタイムで算出・照合する「パターン照査」がある。連続制御ではない点制御方式であっても速度制限コマンドを記憶して照査を続けることも「連続照査」方式という。

地上時素式過速度・過走防止装置

京王線高尾山口駅構内に設置されている過走防止用の地上子
車止めに向かって複数設置されている。線路横の数字は非常ブレーキが作動する速度上限である。

地上側に設置された列車検出のループコイルで地上子の地上タイマーを起動して一定時間停止地上子を有効にし、この間に列車が停止地上子に到達すると列車側に警報を鳴動させ、その後に非常停止させる(点照査型)方式。

時素式という照査の原理上絶対停止(0 km/h(=時間差∞))を設定できないため、終点の駅などでは過走防止装置として狭い間隔で多数の地上子を配置することに加え、末尾に絶対停止地上子を置いて過走を抑えていることが多い。地上装置に電源が必要なため原則的に分岐器過速防止・警報装置として駅構内にのみ設置されていたが、2005年平成17年)の曲線速照義務化通達で曲線にも利用されるようになった。

他の方式と併用して、低速で使用する例に小田急電鉄があったがD-ATS-P化完了によって使用を停止した。京王電鉄も同様であったがATC化された。また、JRでは分岐器速度制限装置で使用されており、ATS-S形で使用されているループ式とATS-S改良形(ATS-SN形等)で使用されている地上子式があり、前者は、列車検出のループコイルとATS-S形の地上子を設置しており、列車通過時間が設定時間より短い場合は、警報が鳴動して、その後、5秒以内に確認ボタンによる確認扱いをしなければ非常ブレーキが掛かり、後者は、列車検知用地上子[注 9]と停止用地上子[注 10]の2つの地上子を10m間隔で設置しており、その間の列車通過時間が設定時間より短い場合には、警報が鳴動すると同時に非常ブレーキが掛かり、列車通過時間が設定時間より少し短い場合には、警報が鳴動して、その後、5秒以内に確認ボタンによる確認扱いをしなければ非常ブレーキが掛かる仕組となっている[注 11]

京王電鉄の過走防止装置は時素0.5秒の速照地上子対を3 - 4対設置する方式の他に、1秒時素で15地上子を並べて地上タイマー起動コイルと停止コイルを兼用させて次々切り替える方式のものが行き止まり式の終端駅である、新宿駅・渋谷駅・高尾山口駅に設置されていた。ほぼ同等のものが小田急線新宿駅にも設置されていたがD-ATS-P化により使用停止。

車上時素式過速度・過走防止装置

単変周点制御式(点照査型)

2基一対の地上子を車上子が通過する時間を計って速度を照査する方式。変周式の場合、地上電源が要らないので地上子を置くだけで動作でき、また地上子間隔を変えることにより、任意の速度を照査できる利点があり、線路終端部での過走防護や曲線と勾配での速度制限にも対応できる。ATS-Sの改良に際しJR東海がATS-STとして独自に開発しJR東海以西のJR各社に採用された。

私鉄ATSでは速度照査が義務付けられているのでATS-Sxとは違いこの過走防止装置で高速突入事故は起こらないが、過走に対する絶対停止機能は義務づけがない。その結果、新岐阜駅事故などの低速突入事故が繰り返されている。そのため終端駅などへの進入の際には、車止めへの衝突防止などのために用心深さ(人的用件)が特に要求される。

黎明期のATS

ATSが導入される前は、「車内警報装置」(車警)という自動列車保安装置が使用されていた。この装置は文字通り「警報」を発生させるのみであり、自動的に列車を停止させる機能はなかった。

打子式ATS

線路の脇に設置された、打子式ATSのトリップアーム
(地下鉄博物館の展示物)

国鉄・JRでは実用として使用されたことはないが、打子式ATSが1927年東京地下鉄道(現在の東京メトロ銀座線)の開業時に採用された。このシステムはアメリカ・ニューヨーク市地下鉄やドイツ・ベルリンSバーンで同種のシステムが導入されていたのを参考に導入されたもので、実用的なものとしては日本で最初に採用されたATSである。帝都高速度交通営団(現在の東京地下鉄丸ノ内線大阪市交通局大阪市営地下鉄御堂筋線四ツ橋線4号線(中央線))・名古屋市交通局名古屋市営地下鉄東山線でも採用されていた。

線路の脇に設置されたトリップアーム(可動打子)を地上子、台車下部の軸箱付近に設置されたトリップコックを車上子として用いる。重複式が特徴で、2個の信号機が連続して停止現示を示し、その間のアームが立ち上がり、その状態で列車が通過するとアームがトリップコックに当たる。トリップコックはブレーキ管に接続されており、これが開かれて減圧するため非常ブレーキがかかり2個目の停止信号手前で停止する仕組み[注 12]である。

停止信号現示以外に警戒信号現示でもトリップアームが立ち上がる路線もあった。その場合、警戒現示が続いていても、列車が手前のある地点を通過してから一定時間後にトリップアームが下がるように設定されていた。つまり、列車が警戒信号に従って徐行していれば、トリップアームは既に下がっていて、そのまま通過できる。トリップアームが下がる前に進入すれば速度超過と判定されて非常ブレーキがかかる。簡潔な方法ながら確実な速度照査を行なっていた[注 13]

大阪市営地下鉄では1号線(御堂筋線)の混雑緩和を目的として建設された2号線(谷町線)東梅田-谷町四丁目間開業の際(1967年3月)にWS-ATCが導入されて以降、新規開業線区では全てATCが導入されるようになった。さらに既開業線区についても1970年の大阪万博開催に伴う輸送力増強策の一環[注 14]としてまず1969年12月に中央線で、続いて1970年2月に御堂筋線で打ち子式ATSの使用停止・撤去[注 15]とWS-ATCへの全面切り替えが実施された。最後に残った四つ橋線も1972年11月9日の玉出 - 住之江公園間がWS-ATC設置で開業するのに合わせた既開業区間へのWS-ATC導入と打ち子式ATS使用停止・撤去され、これをもって大阪市電気局による1号線開業以来の打ち子式ATSが全廃となった。

これに対し、営団地下鉄(当時)銀座線・丸ノ内線では1990年代まで、名古屋市営地下鉄東山線では2000年に入ってからも打ち子式ATSの使用が続けられていた。原始的な方式ゆえに列車密度の限界はあるが単純な機構のため信頼性が高く、これら地下鉄での衝突事故は皆無である。しかし、物理的手法の限界から列車の増発による運行の複雑化に対応することができず、銀座線では1993年平成5年)、丸ノ内線では1998年(平成10年)に使用を終了している。なお、名古屋市営地下鉄東山線が2004年(平成16年)で使用を終了したことにより、日本の鉄道事業法や軌道法に基づく鉄道で、この方式を用いたATSは全てCS-ATCに置き換えられ消滅した[注 16][注 17]

国鉄・JR(一部私鉄)のATS

日本国有鉄道JRグループ(一部の私鉄を含む)で採用されたATSには、下記のような種類がある。また、これらの路線を引き継いだ第三セクター鉄道についても、多くの場合は同様のATSを使用している。

下述の「私鉄のATS」に比べ膨大なローカル線を抱えた旧国鉄・JRに対する政策的配慮から安全面で劣る状況が認められていた。

なお、かつてはA形という形式があったが、これは(車警以来の設備の老朽化により)1970年ごろまでに廃止されてS形に置き換えられている(使用実績が乏しいため、ここでは説明を省略する)。

B形(軌道電流形)・S形(地上子形)

ATS車上表示機
(左側は電源表示灯で、ATS作動時には右側の警報表示灯が赤色に点灯する)
ATS-S地上子(ロング地上子)

いずれの方式も、ATS設置以前に使われていた車内警報装置に、5秒以内に確認操作をしなければ非常ブレーキがかかる機能を追加したものが元となっている。

B形は主に国電区間で用いられた方式で、商用周波数を利用した送電電流を2本の線路の間に流して軌道電流として用いる。B形は制御点に列車が到達したことを接近リレーで検知して、通常は流れ続けている軌道電流を一定時秒停電することにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。

S形は国電区間以外の線区で用いられた方式で、線路の線間に設置された「地上子」と、車両に設置された「車上子」の組み合わせによって構成されている。S形は「変周式」であり、車上の発振周波数が(車上子コイルを通じて)地上子の共振周波数に引き上げられることにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。国鉄が試験を行っていたC形の改良型だが機能の面での違いはなく、真空管を使った回路からトランジスタを使った回路に改良されている。

S形の場合、地上信号の停止現示に対応するロング地上子(130kHzを発振する)を通過すると運転台において警告音(ベル)が鳴り、そこで運転士が5秒以内にブレーキをかけて(重なり位置にして)、確認ボタンを押すとチャイム(いわゆる「キンコン音」、一部の車両は電子音のタイプもある)に変わる(実際にはチャイム音はベル音とともに鳴り始める。ATS-S型の電源投入時やATCからATS-S型に切り替える時にもベル音とチャイム音が鳴動する)。

また、地上タイマー式の速度照査機能も存在する。これは、1つ目の地上子を通過と同時に地上装置のタイマーを起動、一定時間後に2つ目のロング地上子の電源が切れる。このため、一定時間以内に通過(=速度超過している)した場合には運転台の警報が鳴る。(ATS-SNではロング地上子を即時停止地上子に置き換えている)

B形の場合は、上記の「ロング地上子を通過」を「軌道電流停電を検知」と読み替えるのみで、あとはS形と同じである。

この確認作業をしない場合、列車は自動的に非常ブレーキがかかる。しかし、私鉄に出した運輸省通達では必須とされた速度照査機能がなく[注 18]、いったん確認作業をしてしまうと、それ以降は停止信号を通過しても非常ブレーキがかからないという欠点がある。実際、ATS確認作業後の運転扱い誤りが原因の重大事故が幾度も発生し、国鉄は何度かの改良を加えたが、根本的な改良はATS-Pまで持ち越すこととなった。

2009年(平成21年)現在では、B形の区間は全てATCまたはP形に換装され、S形の区間はP形を追設、あるいは即時停止地上子 (123 kHz) や時素式速度照査地上子対 (108.5 kHz) による非常制動を付加したSx形などに改善された(旧来のS形をそのまま含んでSx形を構成している)。

ATS-S改良形(ATS-Sx形)

警報機能のみのS形に、全JRが即時停止機能を追加し、さらにJR東海以西の各社とJR貨物で時素式速度照査の機能を追加した方式。

即時停止機能は、確認ボタンを押して警報を解除しても、停止現示の絶対信号機直下の地上子を通過(信号冒進)すると即座に非常ブレーキをかける機能である。車上時素式速度照査機能は、二対の地上子対通過時間を車上タイマーと比較して速度照査し、速度超過時には非常ブレーキをかける機能である。

ATS-S改良形はJR各社で呼び名が異なり受信機が異なるものもあるが、北海道旅客鉄道(JR北海道)と東日本旅客鉄道(JR東日本)はSN東海旅客鉄道(JR東海)はST西日本旅客鉄道(JR西日本)はSW (SW2) (車体表記はS)、四国旅客鉄道(JR四国)はSS(SS II[注 19](一部車体表記はSS)、九州旅客鉄道(JR九州)はSK (車体表記はSKだが、「S」と「K」を四角でそれぞれ囲んである為、北海道・東日本や東海の様に一緒に記載されて居らず、独立して記載されていたが現在は一緒に記載されている。)、日本貨物鉄道(JR貨物)はSFと呼ばれている。SN形には即時停止機能のみが追加されているが、それ以外にはSNの即時停止機能に加え車上時素式速度照査機能(2つの地上子の間を0.5秒以内[注 20]で車上子が通過すると非常ブレーキが作動する)[注 21][注 22]が追加され、さらにST形には列車番号送出機能[注 23]が追加されている。また、SW形ではST形から列車番号送出機能を省略して車上装置を設計し直したもので、このSW形がほぼそのままSK形、SS形となった。SF形は当初はSN型機能だったが後日、車上に時素速照ボードを追加してST形に対応した。またロング地上子と絶対信号機直下の即時停止地上子の変周周波数は130kHzと123kHzで共通で互換性があり、車上子の常時発振周波数はSNの105kHzの他は103kHzとしている。これは車上時素式速度照査機能を追加した為の措置で、速度照査区間にSN形やS形の列車が乗り入れても、車上速度照査用の地上子の変周周波数[注 24]にST・SW・SS・SK・SF形は反応するが、SNやS形は常時発振周波数帯域[注 25]の為、反応しない。また、車上時素式速度照査機能は分岐器の速度制限にも対応できるようになっている。

車体表記は、JR北海道がSN(SとNがそれぞれ大文字が四角で囲んである)、JR東日本がSN、JR東海がST(東海管内はPに切り替わらない場合の絶対停止のみ使用)、JR西日本がS、JR四国がSSまたはS、JR九州がSK(JR北海道と同様の場合と1つに収まっている場合の2種類がある)、JR貨物がSFとなる。

JR東日本車のうち、JR東海管内へ直通運転をする運用を持つ車両には、ST形と同等の車上時素式速度照査機能を持つATS(SNと表記)を搭載している(東海管内は現在必要としない。)。

JR東日本管内に直通運転をしている伊豆急行の車両にはSiの表記があるが、呼び名が異なるだけでSN形と同じものである。ただし、伊豆急線内では地上装置として速度照査機構を設置しており、信号の現示速度を守っていればロング地上子による警報ベルは鳴動しないようになっている。

それと同様に、かつてJR西日本管内からの直通運転があり、現在でもキヤ141系などJR西日本所属の検査車両などが入線する富山地方鉄道の鉄道線では、JR西日本と同じくSW形を採用している。JR東海との関係が深い愛知環状鉄道線伊勢鉄道伊勢線東海交通事業城北線あおなみ線では、JR東海と同じST形を採用している。また、JR貨物との関係が深い水島臨海鉄道では、ATS-SFとほぼ同形(確認扱い運転がないタイプ)のATS-SMを採用している。JR線からの直通運転を行わない第三セクター鉄道でもS形からSx形に更新する事業者が増えている。

なお現状では、改良機能に対応した地上子(即時停止地上子・時素式速度照査地上子)は原則として、絶対信号機(場内・出発信号機)・線路終端部・分岐部・急曲線部のみに設置する拠点設置であり、閉塞信号機には設置されていない。ただし、例外として、JR東海の一部駅・あおなみ線の全駅の場内相当閉塞信号機には、即時停止地上子が設置されている。愛知環状鉄道線ではすべての閉塞信号機にも時素式速度照査地上子が設置され、すべての信号でロング地上子をなくしている。

ATS-S/Sx形車上子・地上子の発信・共振周波数(単位:kHz)
ATS-S ATS-Sx
Sn St SW/SS/SK/SF(新)
車上子(発信周波数) 常時発信周波数 105 103
列車番号送出 - - 360 -
地上子(共振周波数) 停止現示 130 129.3
即時停止 - 123
車上時素式速度照査 - - 108.5
進行現示 103

ATS-P形(デジタル伝送パターン形)

ATS-Pの照査パターンのグラフ図。Aが照査パターン、Bが正常な場合の運転パターン、Cがパターン発生用地上子、Dが更新用地上子、Eが信号機、赤の破線は間違った運転でのATSによるブレーキが掛かった場合の運転パターン。(見難い場合は画像をクリック)
ATS-P形有電源地上子(中継器内蔵双方向形)
ファイル:2007 03150006.JPG
蒸気機関車D51形のATS-P形・Ps形車上表示器(2007年3月15日)
ATS-P形車上表示器(JR西日本)

ATS-Pは、確認ボタンを押すと後は制御が働かなくなるATS-S形の欠点を改善するために開発されたATSである。

システム概要

地上装置・地上子から列車へのデジタル転送を用いた停止信号・速度制限の位置、勾配、距離などの情報に基づき、自車の制動性能と走行距離から刻々の上限速度すなわちパターン(その列車が制動開始から停止・減速するまでの速度変化を表す曲線)を作成し、その上限速度値を用いて速度照査を行う[2]。発生するパターンの最高速度は、車種ごとの最高運転速度+10km/hに設定されており、停止パターンが発生していない状態でも常時有効となる車両最高速度照査も行われている[2]

地上装置はJR東日本・相模鉄道(相鉄)ではI形、JR西日本では1形とも呼ばれているが、後者は列車から次の駅の停車かまたは通過かの「通停判別」とATS-P形を搭載しているとの情報を、地上装置が受信して種別による踏切の定時間制御と信号機の現示アップを行う[注 26]、地上と車上の双方向に情報を伝達するトランスポンダ式に変更されている。

以下、本記事内では便宜上、I形を「JR東日本・相鉄方式」、1形を「JR西日本方式」と記述する。

停止信号を基準位置として車上で刻々算出した制限速度値(パターン)と比較して、そこまでに徐々に減速できるため冒進は起こらず、安全のための余裕距離もほとんど不要な優れた方式である。停止信号に対する制限と、4種の速度制限を設定でき、それらのうちの最低値で速度照査を行う。ATS-S・ATS-B形とは異なり、警報ベル音がなったあとに行なう確認扱い動作は必要としない。

速度照査はATS-S改良型のような点照査ではなく、安全のための無駄がほとんど要らず、列車の制動性能が正常ならば停止信号冒進は発生しないため、車間を詰めることのできる、非常に安全性の高い方式である。

地上のシステムは、符号処理器 (EC) ・中継器 (RP) ・ATS-P形有電源地上子で構成されており、符号処理器は信号機と繋がっており、符号処理器と中継器は電源・情報回路の2つを持つ複合ケーブル、中継器と地上子は接続ケーブルがそれぞれ繋がっている。符号処理器が信号機からの現示条件により、内蔵している電文ROMから制御電文を抽出した後にケーブルにより送られ、中継器がケーブルから送られる制御電文を自分が受け持つ地上子の制御電文と合致する制御電文を蓄積した後に地上子を介して制御電文が車上に送られる。

制御方式としては、信号機から600m手前(外方とも呼ばれる)にパターン発生地上子を設置しており、信号機が停止現示の場合に、列車が手前の信号機による注意現示による速度で、その地上子に接近すると、その信号機までの距離などの情報[注 27]を地上子から送信して、それを車上子が受信して車上に送られ、車上ではそれを元に信号機までのパターンを作成・記憶する。その後、列車がそのパターンの許容速度以下で列車を減速させ停止させれば良いが、列車の速度がパターンの許容速度に接近すると[注 28]警報器が作動し、警報音鳴動[注 29]とともに運転台のATS-P車上表示器にて「パターン接近警告」を表示する。さらに列車の速度がパターン速度を超えると、直通ブレーキ系車両では常用最大ブレーキにて列車を停止させ(常用制動は緩解時間が短いので、動作しても遅延が発生しにくい、また車両によっては非常ブレーキをかけると一旦停車するまで緩解できないことがある)、自動ブレーキ車両では非常ブレーキにて停止させる。その後に復帰扱いするとブレーキが緩解する。その他にも信号機がR現示からY現示又はG現示となる現示アップの場合には、その情報を車上に送信してパターンの更新[注 30]を行う更新用地上子を信号機とパターン発生地上子の間に設置しており[注 31]、閉塞・出発信号機には3個設置[注 32]し場内信号機には6個設置[注 33]されている。またカーブや分岐器での速度制限の場合には、信号機がR現示の場合と同じく、パターン発生地上子からの情報により[注 34]、速度制限があるカーブや分岐器までとそれに続く速度制限区間のパターンを車上で作成・記憶して、列車をそのパターンに沿って減速させて速度制限区間での速度照査を実施する。

ATS-Pが優れている理由は、上述の通り車上演算パターン型照査方式の採用により冒進がなく、各列車のブレーキ性能による最適な照査パターンの作成が可能となることにより、安全かつ高密度運転が実現でき輸送容量を増やすことができる。これはトランスポンダ使用のデジタル方式採用によるものではない。変周型ATS-Sx上位互換でパターン照査を導入したATS-Psはデジタル方式ではないが、同じ点で優れている。

反面、降雪時など想定制動性能を保証できない環境下では、安全のための余裕距離がない分、適切な位置までに停止・減速できない恐れがある。現にJR西日本では特急「はるか」において、琵琶湖線で降雪下に280mの冒進事故が発生したことがあった。

地上子から情報を受信した列車は、停止現示の信号機やカーブなどの速度制限までの距離に応じてパターンを作成・記憶するが、下り勾配でR現示の信号機がある場合は、地上子から「信号パターン補正」情報[注 35]を送信してパターンを補正する。

信号関係の「保安コード(電文)」はJR各社と相鉄との共通で協議決定すると定められているため、JR各社間・相鉄およびJR東日本・相鉄方式を採用している東京臨海高速鉄道・北越急行とJR西日本方式を採用している智頭急行との相互間で互換性があるが、JR東日本・相鉄とJR西日本で異なるコードとなっているのは「列番情報(JR東日本・相鉄)」「列車選別情報(JR西日本)」「速度制限を許容不足カント量(110mm=振り子式、70mm=高速、60mm=普通、50mm=機関車列車)毎に加算するコード領域(JR西日本)[注 36]」「架線電圧切替、交直切替(JR東日本のみ[注 37][注 38])」「新幹線・在来線切替(新幹線直通電車のみ)」「高速許可(かつての北越急行)」である。

「速度制限を許容不足カント量ごとに加算するコード領域」については一部の曲線に導入されていたが、1990年(平成2年)ごろの導入以来2005年(平成17年)まで、設定値の約2/3に誤設定があり、多くは間違って共通(=JR東日本・相鉄)方式で設定していたことが尼崎事故調査委員会の指摘により判明した。共通方式設定であれば、制限速度がJR東日本・相鉄と同様に最低車種になるだけとなるため、危険はなかったが、設定作業部局がJR西日本方式として機能拡張されていたことを知らなかった。発表時には誤設定の多数が「共通方式設定」だったとは解明されず、適用ミスで35km/h超過といったミスもあって、全国の鉄道事業者に設定値の点検を求めるなど問題になった。なお、このコード領域については、2005年(平成17年)のJR福知山線脱線事故を受けての曲線速度照査義務化に伴い、JR東日本にも採用され、その後ATS-Pの使用を開始した相鉄でも、JR東日本との仕様の共通化の観点からこれを採用している。

以上の位置基準型の車上演算型速度照査方式、いわゆるパターン型速度照査が(停止信号)冒進のない安全なATSとしてJR東日本を中心にATS-Pとして普及し、安全度を落とさずに列車間隔を詰め線路容量を増やすことに成功した。その照査方式が自動列車制御装置 (ATC) にも取り入れられDS-ATC/D-ATC/KS-ATC≒ATC-NSなどで採用されて線路容量を増やした。総武快速線 - 横須賀線東京トンネルや埼京線池袋駅 - 新宿駅間など、在来線のATC区間をATS-Pに換装した例も現れている。また相鉄でも2014年3月30日より全路線でATS-Pを採用した。これは相鉄が2019年度にJR東日本と相互乗り入れを計画しているためである。

しかし、ATS-Pはこうした非常に精密で高価な機器であることから、他のATSとの互換性は無く、独立したATSとして扱わなければならない。ATS-Pを安全かつ正確に作動させるために、専用の電源装置が必要になるほか、車上子も独立して設置しなければならない。この例として、JR東日本が保有する電気機関車EF65 501は、ATS-P設置の際に機器室に同電源装置を設置するスペースが確保できなかったため、運転室の助手席を撤去して設置する工事が行われている。蒸気機関車としては、同じくJR東日本が保有する「C58 239」・「C61 20」・「D51 498」の3台にもATS-Pが追設されているが、車上子は先台車上部に設置したため、万一の事故に備えての防護も兼ねて、スノープラウでカモフラージュを行い、装置の存在が目立たないように配慮されている。なお、電源装置はテンダー(炭水車)に設置しているが、設置場所はそれぞれ異なっている。一方、ディーゼル機関車は一部の車両がそれらの防護策を施さず、車上子が見える状態になっている。いずれの車両も、車上子は判別化のため、白色に塗られている。

JRにおける車体表記はP。また、JR東日本に乗り入れている東京メトロ05系や07系および15000系、東京臨海高速鉄道70-000形などにおいても同様の車体表記がある。なお、相鉄ではATS-P搭載車両の車体表記を特に行っていない。

開発当初の経歴

1973年(昭和48年)12月26日に関西本線平野駅において、分岐器の通過制限速度を超えて進入した列車が脱線する事故が発生した。これを受けて速度照査機能付きのATSの開発が行われ、1980年(昭和55年)から多変周点制御式のATS-Pが関西本線で試用を開始された。この際に113系の一部編成に変周式ATS-Pを取り付けた。

その後、1984年(昭和59年)10月19日に山陽本線西明石駅において、寝台特急が制限速度を超過して分岐器に進入してホームに衝突して大破する西明石駅列車脱線事故が発生した。これを受けて位置基準車上演算方式(=いわゆる「パターン式」デジタル符号伝送のできるトランスポンダ式)で冒進・過速度の起こらないATSがH-ATSという名前で開発された。1986年(昭和61年)末に西明石駅・大阪駅京都駅草津駅の4駅に地上設備が設置され、寝台特急牽引用のEF66形電気機関車16両に車上設備が搭載されて、ATS-Sと併用する形で運用が始まった。このH-ATSはATS-P'とも呼ばれていた。

初めて全線すべての信号機に設置されたのは、1988年(昭和63年)末に新規開業した京葉線で、これ以降H-ATSを正式にATS-Pと定め、関西線の変周式ATS-Pの運用は打ち切った。地上装置は1型ATS-Pとされた[3]

エンコーダ方式 ATS-P 地上装置

情報伝達は従来方式のように地上→車上の一方向ではなく、地上←→車上の双方向に伝達するトランスポンダ式で開発されたものである。地上装置ではそれを利用して、列車からの列車番号や列車選別等の情報を、車上から地上の地上子と中継器を介して符号処理器に伝達され、その情報が他の各符号処理器の間で伝送されることにより、関係する信号機の現示を上げることができる現示アップ機能が可能となり、運転間隔をさらに短縮することができるようになり(H-ATS、1型、PN型地上装置ではこのような現示アップ機能は不使用)、種別による踏切の定時間制御を可能としている。

JR東日本ではII形と呼んでおり、その後は、光伝送部を符号処理器に後付けして列車の在線情報などを駅にある駅処理装置に光ファイバーで伝送できるようにしたIII形、III形の光伝送部を符号処理器に内蔵したIV形、中継器を小型化してクロージャと呼ばれる接続容器に収容したIV形、中継器をさらに小型化して地上子に内蔵することで中継器の設置場所の制約を無くしたIV (N) 形、符号処理器と光伝送部を二重化して信頼性の向上を図り、制御電文のデータ変更を内蔵された電文ROMを交換する方式から、PCカードのケース内に二重系分の電文データを記録したROMカードを使用して、PCカード書き込み装置によりデータの変更を行う方式に変更したIV (W) 形、関連機器を機器室に集約して現場機器の削減を行い、符号処理器と光伝送部の間の伝送を二重系とし、地上子の送信停止機能を追加して、保全性・信頼性・施行性を向上させた機器室集約形、IV形・IV (N) 形と互換性があり、符号処理器のブロック構成によるブロック化や二重系化などを行ったV形がある。

JR西日本では、符号処理器に閉塞信号機で使用される現場用と駅構内の信号機器室 (SH) で使用されるVEタイプ[注 39]のSH用の2つがあり、SH用には内部に8つの符号処理部と統括部があり、他の符号処理器とは統括部を介して伝送される。前述の1形のほか、中継器を一方方向伝送機能と双方向伝送機能の2つに分けて、前者は中継器を小型化して地上子内蔵形として信号機から遠方に設置し、後者は信号機に最も近い地上子に接続された2形、2形にME(マイクロエレクトロニクス)技術の進歩による装置の小型化と中継器で使用される電源が交流または直流でも符号処理器の電源ブロックを取替えることで使用可能とし、制御電文のデータ変更を内蔵された電文ROMを交換する方式から、CFカードから符号処理器のメモリに直接ロードする方式に変更した3形がある。

285系「サンライズエクスプレス」はJR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国の区間にまたがって運転されているが、車上子の設置位置がJR東海車は運転室直下であるのに対して、JR西日本車は中央だったため、入線試験時に停止定位の出発信号でパターンに当たることがあった。営業運転に際しては車上子を運転室直下に移設して本州3社のATS-P区間でトラブルが起こらないように対策した。営業運転に伴い以下のように運転することとなった。

  • JR東日本・JR東海管内(東京駅 - 米原駅間) - ATS-Pを使用(手動の切替スイッチを「P」位置に設定=P/S自動切替)
  • JR西日本・JR四国管内(米原駅以西) - ATS-P/Sxを併用して運転(切替スイッチを「S」位置=P/S併用 : 拠点Pモード)

取り扱いに関しては下り列車はJR東海の乗り継ぎ乗務員が、上り列車についてはJR東日本の乗り継ぎ乗務員がATS切替スイッチにて手動で切り替えていた。これは拠点P(=Sw扱い)の福知山線と全面Pの東西線直通列車が尼崎駅で行うP/S切替操作と同じである。後述しているが、JR東海が2010年度よりATS-PTを導入したため、熱海駅でのATS切り替えは行われなくなった。また団体輸送などでも同様の事象があるため米原駅以西を直通運転する列車についてはサンライズ同様の取り扱いをすることとなっている。

ATS-PT導入以前、JR東日本とJR東海を跨ぐその他の定期列車については丹那トンネルの東京寄りにATSの切り替え地上子があり、そこで自動的に切り替わるようになっており、下り列車の場合はS型のチャイムが鳴動し、運転士が手動にてチャイムを止める(ATS-PT搭載車は電子チャイムのみ、S型チャイムは鳴動しない)。逆に上り列車の場合はP型のチン・ベル(ATS-PT搭載車は電子チャイム)が鳴動するが特段することはなくそのまま走行する(ATS-P/Sx自動切替は伊豆急行線伊東駅構内などで常時見られる。)JR東日本では「拠点P」方式を導入していないため、P/S手動切替は無用だが、切替を間違えてもそれぞれが動作し危険な状態にはならない。

上記以外にも、ATS-Pを2重化(故障対策)やPs(SN機能付き)統合型も開発されている[4]

地上装置設置区間

SN形などの変周式とは互換性がないため、P形が搭載されていない列車が入線する可能性がある線区では、ATS-S改良形 (=Sx) を併用している[注 40]。関西空港線(りんくうタウン駅 - 関西空港駅間)は南海電気鉄道との共用区間であるため、南海のATS-PNを併用している。

ATS-P(N)(無電源地上子方式ATS-P)地上装置

ATS-P(N)(無電源地上子方式のATS-P形)の地上子

比較的列車密度の低い線区に導入されているATS-P形の地上装置であり、車上→地上への情報伝達機能を省略したものである。信号機からの現示条件により無電源地上子が電文切替リレーの切替により、内蔵した電文ROMからそれに対応した制御電文を選択して車上に送信するとしたもので、それを送信するための電源は車上側の車上子から送られる[注 41]

当初無電源地上子は最大3現示対応だったが、これを最大5現示対応と特殊条件(単線区間での方向)まで拡張しており「電文」=コードを複数持たせている。Sx地上子と同様に現示条件だけで制御できるので非常に安価に設置でき、2001年初頭から2010年にかけて、首都圏周辺部の現示アップ機能の必要ない線区約600kmに導入されている。

省略されて存在しない機器は、符号処理器・光電送部・中継器であり、存在しない機能は、車上列番受信・現示アップ・踏切定時間機能である。車上装置はすべて共通である。

設置区間

ATS-PT形(JR東海ATS-P)

ATS-PT形の地上子

JR東海がATS-STの取り替えにより、2010年度から順次導入している方式。2012年2月に全ての在来線において更新が完了した[5]

基本的構造はJR他社で導入されているATS-Pと同様であるが、常用ブレーキは使用しない。すなわち、他社のATS-Pの車上装置(自動空気ブレーキ方式の車両を除く)では常用ブレーキと非常ブレーキに基づくパターンをそれぞれ生成し、前者を超過した場合には常用最大ブレーキが作動して停止するのに対し、ATS-PTの車上装置では非常ブレーキに基づく照査パターンのみを生成し、それを超過した場合には非常ブレーキが作動し停止する[6]。これは自動空気ブレーキ方式である従前の機関車、ディーゼルカー用ATS-Pと同機能である。ATSの目的はあくまで安全確保と考え、運転支援のための機能を省略してコスト削減を実現したものと言える。また停止後に復帰扱いすれば緩解して運転を続行できるのはATS-Pと同じである。

ATS-STの地上設備はPTが動作できない場合(実際は数個のP地上子を通過して切り替える)に備えてST絶対停止を残して撤去された。なおJR西日本管内(新宮駅、米原駅[注 42]、猪谷駅構内を含む「ATS-SW」、「P・S併用」)と篠ノ井線のスイッチバック構造で後退運転する姨捨駅・桑ノ原信号場(構内のみATS-SN[注 43])、中央本線辰野支線内・辰野駅構内・大糸線の一部区間 (ATS-Ps[注 44])、関西本線亀山駅・伊勢鉄道・愛知環状鉄道(ATS-STのまま)、駅構内の一部の貨物発着線、貨物線内 (ATS-SF) などで車両側にATS-STが必要である。

運転席を立ち上げる時はATS-STで起動され、ATS-Pの地上子を通過してATS-PTに切り替わる点は、他社のATS-Pと同様である。

地上子は閉塞や単純の駅は最大5電文式の無電源地上子(東日本のATS-PNと同じ)、曲線等の速度制限は電文固定式の無電源地上子、駅構内などの複雑な箇所はエンコーダ式(フルP・有電源)地上子を設置する。

車両表記は、東海ではPT

車両別の対応状況

()内は引退またはJR東海エリアからの定期運用撤退車両、「」内は導入予定車両

  • JR東海が保有する車両
    • 211系213系311系313系383系キハ11形キハ25形キハ75形キハ85系キヤ95系キヤ97系、(117系119系371系キハ40系
      (JR東海全車両)
      • ATS-PTの車上装置を新たに設置する。2008年以降に製造された車両には、製造時から設置されている。
      • (119系は2012年3月改正で、117系は2013年3月改正で引退、371系も引退、キハ40は2016年引退)
    • 285系
      • 他社区間で使用するために設置されているATS-P車上装置をそのまま使用する。
    • 373系
      • ATS-P(東日本仕様)からATS-PT(東海仕様)に換装している。
    • DE15形)(除雪用)
      • 現在出典を得ることできない。
  • JR東日本が保有する車両
  • JR西日本が保有する車両
    • 285系(出雲所属のサンライズ)、681系683系金沢所属しらさぎ、元北越急行車含む)、(221系223系225系
      • 他社区間で使用するために設置されているATS-P (P2,P3,P4) 車上装置をそのまま使用する。モードは「P」で東海・東日本・北越急行を走行。
      • (221系、223系、225系は2016年3月25日で東海道線米原 - 大垣間から定期運用撤退)
      • C56形が2013年2月16・17日にあおなみ線内でのSL実験運行列車として入線したがあおなみ線内に残されていたATS-STを使用)
    • キハ120形亀山所属の関西本線)
      • 亀山駅構内に設置されているATS-ST地上子をそのまま使用する。
  • JR貨物が保有する車両
    • EF64形(1000番台のみ)、EF65形EF66形EF200形EF210形EF510形M250系DD51形DE10形DF200形(北海道から転籍)
      • 他社区間で使用するために設置されているATS-PF車上装置をそのまま使用する[注 45]。ただし一部の駅構内はATS-SF又はATS-Ps(北日本用)、ATS-DF(岡山県以西)(SF互換機能付き)を使用する。
      • ATS-PF未搭載車はJR西日本限定で、PF未搭載車や保安基準(運転記録装置など)未対応車を優先的に廃車にする。
      • 東京 - 下関四国間を通しで走行するにはATS-PF(兵庫県以東「近畿圏P・S併用・西モード」、JR東海・首都圏「フルP・東モード」)とSF又はDFが必要になる。
      • 本線用の保安装置を搭載していない構内入換機は本線を自走できないので無動回送が必要になる。
  • 名古屋鉄道が保有する車両
    • 小坂井駅 - 豊橋駅間に乗り入れる全ての形式(名鉄全車両)
      • 併設されているM式ATSを使用するため、ATS-PTには対応しない。
  • 小田急電鉄が保有する車両
    • (20000形)(旧・あさぎり)
      • ATS-PTを設置をせずに2012年3月16日に引退した。
    • 60000形[7][8]あさぎり
      • 6連のみATS-PTの車上装置を新たに設置する。
  • 伊勢鉄道が保有する車両
    • イセIII形
      • ATS-PTの車上装置を新たに設置する。
  • 衣浦臨海鉄道が保有する車両
    • KE65形
      • ATS-PFの車上装置を新たに設置する[9]
  • 名古屋臨海高速鉄道が保有する車両
    • 1000形
    • ATS-PTの車上装置を新たに設置する[10]
  • 愛知環状鉄道が保有する車両
    • 2000系
      • ATS-PTの車上装置を新たに設置する。
  • 東海交通事業が保有する車両
    • キハ11形
      • ATS-PTの車上装置を新たに設置する。

このほか、西濃鉄道DD40形およびDE10形、樽見鉄道ハイモ230形およびハイモ295形、名古屋臨海鉄道ND60形およびND552形が、駅構内においてJR東海の管理する線路に乗り入れているが、これらの扱いに関しては不明である。

設置区間
ATS運転方向設定

ATS-Pの車上装置は、車上で設定する運転方向スイッチの方向とATS-P地上子から発信される制御情報の中の運転方向ビット(情報)を受信して、車上で両者の運転方向条件が一致した場合のみ、その制御情報を採用する方式を取っている。運転方向設定の方式としては2種類あり、車上に運転方向条件を切替える運転方向スイッチを設置してA線とB線の切替を行ない、地上側のATS-P地上子にはA線用とB線用を設置して、A線用にはA線用の運転方向ビット(情報)が発信され、B線用にはB線用の運転方向ビット(情報)が発信される方式と車上の運転方向条件をA線又はB線に固定して、A線の方向に進路が開通した時には、地上側はA線用地上子からAB線用の運転方向ビット(情報)を発信して、B線用地上子からは無制御の運転方向ビット(情報)を発信し、逆にB線の方向に進路が開通した時には、地上側はB線用地上子からAB線用の運転方向ビット(情報)を発信して、A線用地上子からは無制御の運転方向ビット(情報)を発信する方式がある。下にJR東海での各路線のA線・B線の運転方向を示す。

JR東海管内とあおなみ線のみ記載()内は他社の行先を表す

路線名 A線 B線
東海道本線 熱海(東京・新鶴見・黒磯)向き
(JR東日本管内はAB線どちらでも走行可能)
米原(大阪以西)向き
(JR西日本管内もAB線関係同様)
御殿場線 国府津(小田急新宿)向き 沼津向き
身延線 富士向き 甲府向き
飯田線 豊橋向き 辰野(岡谷・茅野)向き
(中央東線はAB線どちらでも走行可能)
武豊線 武豊向き 大府向き
中央本線 塩尻(松本・長野「塩尻駅のホーム経由」・愛環岡崎)向き
(篠ノ井線はAB線どちらでも走行可能)
名古屋向き
稲沢線 名古屋向き 尾張一宮向き
高山本線 猪谷(富山)向き 岐阜向き
太多線 多治見向き 美濃太田向き
東海道本線
美濃赤坂支線
大垣向き 美濃赤坂向き
垂井線 垂井向き
(逆走する関ヶ原→垂井間のみ)
関ヶ原向き
関西本線 亀山(奈良)向き 名古屋向き
紀勢本線 新宮(紀伊勝浦)向き
(JR西日本管内もAB線関係同様)
亀山向き
名松線 松阪向き 伊勢奥津向き
参宮線 鳥羽向き 多気向き
あおなみ線 金城ふ頭向き 名古屋向き
  • デルタ線構造の四日市駅 - (A線→)- 亀山駅 - (A線→) - 津駅 - (伊勢鉄道PT整備外・←A線) - 四日市駅間の方向設定、また方向切り替え駅は亀山駅で、伊勢鉄道経由の列車は方向切り替えは不要。
  • 名古屋駅 - (A線→) - 塩尻駅(旅客用ホーム) - (辰野経由・みどり湖経由共←A線) - 岡谷駅 - (A線→) - 豊橋駅 - (←A線)- 名古屋駅はデルタ線構造ではないので方向切り替えは不要。
  • 2011年の身延線不通の時身延線-甲府駅-塩尻駅-名古屋駅-静岡車両区の回送では車両の向きとAB線関係で塩尻駅構内の貨物列車用東西連絡線を使用して回送された。
  • ターンテーブルがある名古屋車両区内も方向切替(キハ85形などの方向転換可能な車両)を行う、車両基地を出て名古屋駅に行く場合はB線で出る。
  • 例として311系の場合、クモハ311形はA線に、クハ310形はB線に方向設定スイッチがピンで固定されている(不正操作防止のため)。

ATS-PF形(貨物列車用ATS-P車上装置)

JR貨物の機関車にはATS-PF形車上装置が搭載されているものがあり、PFと表記されている。ATS-P形のコードが貨物列車の速度制限に対応しておらず、また、貨物列車用の車両には、ブレーキは強める一方のブレーキ操作しかできないものが多くあり、旅客列車とは減速特性が異なるため、車上装置が共用できない。そのため、貨物列車用のATS-P車上装置として開発されたものである。

貨物列車はけん引する貨物の種類によって最高速度が定められているため、車上装置側の「列車設定スイッチ」により最高頭打ち照査速度を設定する[11]。最高頭打ち照査速度は45・55・65・75・85・95・100・110km/hのほか、入換時の最高速度である25km/hから選択する。パターン超過時のブレーキ指令は非常ブレーキのみである[11]。運転台には、バーグラフ表示により現在の列車の速度と発生しているパターンの照査速度を表示する運転台表示器、電源投入時の操作・パターン発生や消去・パターン接近・復帰扱いでのブレーキ開放の時にチャイム又は女性の声でアナウンスを流す為の大型スピーカー[注 46]が設置され、機関車が重連運転の補機又は後押し補機での場合にはATSの機能を停止させる機能も搭載する[注 47][11]。また、ATS-Pを連続整備しているJR東日本およびJR東海管内と拠点P方式を採用しているJR西日本管内では運転取扱や仕様に一部相違があることを考慮し、「東モード[注 48]」と「西モード[注 49]」を備え、会社間切換地上子による自動切換機能を有する[11]。なお、EF210形セノハチ補機も含む)・EH200形EF510形EH500形EH800形(量産形)は新製時からPFを搭載している。

車両表記はPF

JR貨物は、ATS-PF・Ps統合型車上装置が開発されている[12]

拠点P

ATS-P地上装置を、絶対信号機付近や、一部の踏切、分岐器の箇所に拠点設置する方法。JR西日本と東日本で採用されている。

絶対信号機(場内・出発信号機)や、ホームに近い踏切(停車列車が行き過ぎる恐れがある時の踏切防護)、分岐器付近にATS-P地上子を設置し、基本的には閉塞信号機には設置しない。

この方式を採用した区間では、全ての信号に対してATS-SW地上子が設置してあるため、ATS-Sx (Ps・DW) のみを搭載した列車も拠点P区間へ入線可能(ATS-SWが機能)である。また、ATS-P (PT・PF) を設置した列車も、ATS-SxとATS-Pを同時に作動させて運転する(扱いは「ATS-S」となるが、ATS-PのP電源を投入状態にすることで同時作動状態にさせている[注 50])。

この方式を採用した区間では、ATS-P地上子の設置されていない閉塞信号機はATS-SWと同等の動作となるが、列車間隔の詰まる駅周辺では、ATS-P自体の位置基準速度照査方式(パターン方式)と現示アップ動作により列車間隔を詰められるので線区全体としての線路容量を増やすことができる。

閉塞信号機の区間内での曲線に対する速度照査はATS-SWの車上時素速照機能で可能だが、閉塞区間が短い路線ではATS-P速度照査地上子も設置されている。

なお、ATS-P2 (P3・P4) はJR西日本の設計した車上装置の形式であり、拠点Pを示すものではない。

2015年よりJR東日本では上越線水上駅以北の一部の駅に駅構内及び第1閉塞の直前のみ設置する拠点P運用を開始している。JR西日本とは異なり、P/S併用ではなくP/S自動切替で対応している。JR東日本の計画では新潟駅から青森駅までの日本海縦貫線でPsを設置していない駅に今後拠点設置する予定[13]

設置区間
名古屋鉄道拠点P方式

名古屋鉄道常滑線空港線のATS-Pは ミュースカイ2000系専用で一部の曲線(制限速度が異なる<高くなっている>)と中部国際空港駅に拠点P方式で設置されている(一般車と一般区間はM式ATSを使用)。

ATS-Ps形(変周地上子組合せパターン型)

ATS-Psの照査パターンのグラフ図。Aが照査パターン、Bが第1パターン発生地上子、CがATS-S形のロング地上子、Dが第2パターン発生地上子、Fが信号機、Eが直下地上子(見難い場合は画像をクリック)
ATS-Ps表示機
上から順に、パターン未生成時(走行中)、パターン生成時(走行中)、パターン生成時(停車中)
ATS-Ps地上子、機能によっては複数個を1組として設置する。
ファイル:2007 04280014.JPG
蒸気機関車C57形のATS-Ps表示機 2007年4月28日

SN形・Sx形(ST・SW・SF形など)に新たな地上子の変周周波数を追加して[注 51]その設置位置規則を車上に記憶させておくことで速度照査パターンを生成させる機能を追加し、P形に近い機能を持たせたものでSx型の上位互換であり相互乗り入れ可能である。構造・機能で分類すれば車上演算照査機能(パターン照査)が加わったSx型である。

従って、停止信号の他、カーブや分岐器や勾配などの速度制限情報やパターンによる速度照査を行うことが可能であるが、列車の速度がパターン速度を超過(=ブレーキ動作)すると[注 52]、非常制動をかけて列車を停止させる。停車後は手動でブレーキを開放させるようになっている。また、Sx形の速度照査機能もそのまま使用できる。地上子は3個あり、信号機がR現示の場合は、信号機から655m手前の第1パターン発生地上子で65km/h(機関車では55km/h)までの速度照査パターンを生成させた後、次の390m手前の2個で一対の地上子による第2パターン発生地上子で15km/hまでの速度照査パターンを車上側に生成させる「Paパターン」と閉塞区間が短い所で、場内信号機と出発信号機の間の距離が短く、出発信号機に従属するPs形の地上子が場内信号機の外方に設置されている場合、場内信号機に従属する手前の各3個の地上子の2m手前に、マーカ地上子[注 53]とよばれる識別用地上子を設置して、出発信号機が停止現示の時に、これらの地上子により前者と同じパターンを車上側に生成させる「Pbパターン」の2種類がある。両者とも、最後に15km/hパターン速度以下で信号機に接近する際には、信号機の手前20mの直下地上子によって非常ブレーキが作動する。また信号機がR現示で車上側で速度照査パターンを生成させた後に信号機がG現示となった場合(現示アップと呼ばれる)、3個の地上子の変周周波数は103kHzになり、その変周周波数を車上側が受信すると速度照査パターンは消去される[注 54]

速度制限の場合は、カーブ・分岐器・勾配・臨時の4種類の速度照査パターンを発生させ、カーブ・勾配・臨時の速度制限と分岐器速度制限の場合、前者は速度制限区間の始点から555m手前に2個のマーカ地上子を制限速度に応じて地上子間隔を変えて設置し、速度制限区間の終点に同じく2mの間隔で設置する。車上側には速度制限区間までの速度照査パターンを発生させた後に速度制限区間の終点でパターンを消去する。後者は分岐器の速度制限区間の始点から555m手前に2個のマーカ地上子を制限速度に応じて地上子間隔を変えて設置し、分岐器までの速度照査パターンを発生させた後に分岐器速度制限区間の最大長である50mの距離を通過後、自動的にパターンを消去する。

マーカ地上子は、エンコーダ方式のATS-Pと同じく、下り勾配で信号機が停止現示である場合、車上側に速度照査パターンの補正を行うことも兼ねており[注 55]、これはY現示速度以下しか対応しないATS-ST・Sx系過走防止装置とは際だった違いになっている。さらにPs形は入換信号機の地上子にも使用されており、入換信号機の停車位置に直下地上子とその手前20 - 40m以内に変周周波数の異なる2個のマーカ地上子[注 56]が3m以内の間隔で設置されており、停止現示で接近した際には、車上側に30km/hの頭打ちパターンが発生して、その後、直下地上子で非常ブレーキが動作して入換信号機を冒進できないようになっている。

Ps形はSN形・Sx形と同じく変周式のため、Ps形の各パターン生成と速度制限情報は、地上子の変周周波数・設置間隔の組み合わせにより行う。Ps形はSN形・ST形等と上位互換性が確保されているため、SN形・ST形等を搭載した車両はPs設置区間へ入線可能であり、Ps形を搭載した車両はSN・ST形等設置区間に入線可能となっている。

運転席に設置の動作モニタはP形のものとは異なり、現在の速度とパターン速度が表示できるよう改良されている(これらの速度は、2色のカラーバーLEDにより表示。P型でもモニタが信号を得てATS-Pコマンドを表示するものがある)

SN形・ST形等を搭載した車両は、信号機がR現示の場合、その手前に設置された専用のロング地上子によりS形と同じく警報を受け、警報確認後に信号機に接近すると、同じ信号機の手前20mの直下地上子に反応し非常ブレーキがかかる。さらにST形等を搭載した車両は、信号機390m手前の第2パターン発生地上子を時素式速度照査地上子として使用することにより50km/hの速度照査を列車にかけることができる、またY現示速度超過時には非常制動がかかる。

以上のことから、Ps形はSN形・Sx形との互換性があり、P形のように特別な電源装置および車上子の設置も必要が無いことから、安価で容易に導入できる新しいATSとして確立された。

車両表記はPs

設置区間

仙台地区で設置が始まり、盛岡・秋田・新潟・長野地区においても導入が進んでいる[14]。運用されている区間は以下の通り。

なお、仙台・新潟地区において、設置当初は絶対信号機(場内・出発信号機)に対してのみPs形地上子が設置されており、閉塞信号機に対しては設置されていない。曲線に対する速度照査は、仙山線において先行して速度照査が行われていたが、他の路線においても速度照査が行われている。

今後の予定として、東北・信越地区の主要駅(23駅)への導入が発表されているが、一定距離の区間へ連続的に設置するのではなく、中心駅の出入口へのピンポイント的な設置にとどまる。

当該地区における車両はもちろんのこと、この他にも関東の一部の車両(ジョイフルトレインなど)にもPs形が設置されている。また、JR西日本京都総合運転所所属の583系についても、夜行急行列車きたぐににて信越本線宮内駅 - 新潟駅間に乗り入れるため、2010年にPs形が取り付けられた(なお、同車は2012年3月のダイヤ改正をもって定期運用終了。同年度の冬の臨時運転をもって乗り入れが終了している)。2006年(平成18年)12月より、JR東日本高崎車両センターに在籍し、P形を装備している蒸気機関車D51 498にも追加装備がなされた。さらに2007年(平成19年)4月に大宮総合車両センターを全検出場した蒸気機関車C57 180も、新潟県内在籍のため追加装備がされた。2011年(平成23年)3月に復活した蒸気機関車C61 20もPs形を取り付けたが、復元工事段階より設置された蒸気機関車としては初めてである。続けて2014年(平成26年)1月に復活した「C58 239」にも、岩手県内での運行になるため復元段階より設置されている。なお、Ps形を取り付けたこれらの蒸気機関車には、炭水車の前側台車に速度検知を追設し、2011年春以降に検査に合わせて順次、伝統ある機械式速度計から国鉄型電気機関車の速度計を模した電気式速度計に変更されている。またEF510形500番台(JR東日本・JR貨物転属車問わず)やJR貨物仙台総合鉄道部所属のEH500形DE10形高崎機関区所属のEH200形の一部にも搭載されているのが確認されている。青函トンネル用のEH800形も在来線区間(津軽線江差線道南いさりび鉄道。「20kV区間」)で必要になるので搭載している。JR貨物は、北日本運用向けのPF・Ps一体型の車上装置が開発されている [1]

搭載車両

★付きは引退済

ATS-Dx (DN・DK・DF) 形

817系3000番台の運転台
時刻表差しの直下に存在する黒いコンソールがATS-DK表示機
JR九州の415系Fo124編成(クハ411-224)運転台のATS-DKのコンソール。

システム概要

ATS-Sxとの機能交換性を確保しつつ、車上にて速度照査パターンを発生させる新しい車上速度照査式ATS-Xを鉄道総研が開発を行ってきたが、このATS-Xを基本に線路条件に応じた速度制限機能に対応し、低コスト化と地上装置の省略を実現するため、車上データベース(車上DB)を導入したのがATS-Dxである。ATS-Sxと互換性があり車上速度照査機能を付加したものだが、線路条件に応じた速度照査パターンや速度制限機能を発生させるのに車上DBを使用している。

ATS-Dxは車上装置にATS-Sxの車上子を使用し[注 57]、地上装置は従来のATS-Sxと同様の変周周波数[注 58]のほか、デジタル信号を同時送信できるD形地上子を使用しており、種類としては、S形地上子の機能に加えて信号機までの距離等をデジタル情報として送信する有電源地上子、固定のデジタル情報を送信できる電源ケーブルレス地上子、現示追随性に応じて設置される速度照査パターン消去用(中間・直下)地上子、補足機能や付加機能を使用する為に必要な個所に設置される制御用地上子の4種類がある。

以上の仕様から、ATS-Dxのシステムは地上系および車上系においてATS-Sxの動作を継承しつつ機器や機能を付加更新するものであり、ATS-Sxシステムを全面的に置き換えたり、独立したシステムが併存しており走行中にシステム切替をするものではなくその点でATS-Pとは異なる。また、ATS-Dx地上子との通信が正常完了しなかったり、ATS-Dx系の車上機器に故障がある場合は、自動的にATS-Sxによる制御にダウンし、事実上のバックアップ系として動作している。(後述)

線形情報を車上DBに保持するためATS-Dxにおいては車上装置が常時自列車の絶対位置を保持しておく必要があり、これは他のパターン照査式ATS(ATS-P等)と同様に速度発電機により距離積算計測を行っており、絶対位置確定用地上子を設置併用して自列車位置補正を行っている(後述)。

車上DBの仕組みと運用

車上DBは、メンテナンスの容易化のため、車両性能DBと線路DBの2つのDBにより構成される。車両性能DBは、その車両の形式、車両最高速度、減速度性能、車両種別(振り子車両、本則、機関車等)に応じた曲線等の速度補正情報のほか、車両現在位置の計測に重要な速度発電機の諸元や、車両側車上子の取付位置まで含む。線路DBは、「絶対位置データ」として、対応する線区全体にわたり、各線区におけるキロ程情報や精密な区間長と線区ID等、さらにデータ更新情報としてバージョン情報を保持する。各線区について、具体的な線路データを駅(信号所)ごとにまとめて保持しており、これにはその線区の絶対位置情報、上下区分、信号機位置、地上子位置、速度制限情報(線区最高速度、勾配、曲線、分岐器)などを保持している。さらに各駅構内の各番線と駅の停止位置目標の情報も保持する。

車上DBはデータ入力による構築のあと、シミュレーション装置によりパターン発生の検証を行う。検証済みのDBは管理装置に登録される。運用時は、同装置からメモリカードにコピーを行い、同メモリカードをATS-Dxの車上装置にセットする事により、車上装置のDB設定が行われる。

実際の走行時には前述の速度発電機により自列車の絶対位置を計算し常時保持しているが、走行とともに実際の絶対位置とのずれが蓄積するため、各地上子を通過するごとに、車上DBに保持する該当地上子の絶対位置情報により位置補正を行っている。また、対応路線内の地上設備に変更が有った場合には、適用するべき車上DBも更新、DBの最新バージョン情報も改められ、それは管理装置に保持されている。一部の地上子では、路線の適用DBバージョン情報を送出しており、万が一車上DBにセットされているDBバージョン情報と異なる(データが古い)場合には非常ブレーキが作動する。

速度照査パターン制御

車上DBにおいて対応路線の基本情報をすべて保持しているため、線区最高速度、曲線・分岐・下り勾配等による速度制限は、諸情報による補正および列車自体の最高速度を含めて常時速度照査を行っている。各種の制限速度に掛かる時は制限速度までの減速パターン、制限区間内での制限速度パターンとの照査を行う。また、臨時徐行箇所については、その前方に電源ケーブルレス地上子を設置してそこから速度制限情報を送信し、車上側で受信後、車上DBのからの情報を元に、速度制限箇所までの速度照査パターン[注 59]と速度制限箇所での速度制限を行う。

信号機によるパターン生成に関しては、停止現示の場合には、有電源地上子が信号機までの距離情報を送信し、車上側で受信後、そこまでの速度照査パターンを発生させる「一発パターン制御方式」と一発パターン制御方式に加えて、信号機が停止信号以外の場合には、有電源地上子が車上に内方次位の信号機までの距離情報を送信し、車上側で受信後、そこまでの速度照査パターンを順次更新しながら発生させる「常時パターン制御方式」がある。

駅(信号所)手前での分岐器速度制限機能(分岐器までの速度照査パターンを発生させる)を有しており、また、駅での3つ以上の進路がある場合には、確定した進路の駅場内にある分岐器や曲線等での速度照査パターンを残す(それ以外の進路用のパターンは照査パターンからは消去する)ために、駅手前の地上側に進入番線確定用地上子を設置して車両側に送信する。

生成された速度パターンに接近すると車上装置にパターン接近警報が現示される。それでも速度を緩めずに主パターン(非常パターン)に接触した場合、非常ブレーキが自動的に作動する。

前述のとおり、ATS-Dx地上子との通信がエラーになった場合には、車上装置の発生済みパターンはそのまま保持され、ATS-Sxによる制御に自動的にダウンする。ただし、絶対位置確定地上子や進入番線確定地上子など重大な影響のある地上子についてはエラー発生で非常ブレーキを作動させる。ATS-Dxの車上装置のうち、速度発電機やDSP回路などDx専用の系統に障害が起きたがSx(共振周波数によるアナログ処理)が生きている場合も、自動的にATS-Sxによる制御にダウンする。また、前述の自列車位置補正については、各地上子を通過するごとに、その絶対位置情報と車上装置での積算位置(速度発電機による)とのずれが一定値以上(ATS-Dxの試験では±5m以内)を超えると警告ランプを表示し、これが2度連続発生した場合には非常ブレーキを作動させる。[17][18]

展開

これらの仕様に基づいたATSが、JR北海道ではATS-SNの機能も持ち合わせるATS-DNとして、JR九州ではATS-SKの機能も持ち合わせるATS-DKとして、JR貨物ではATS-SFの機能を持ち合わせながら、ATS-DNやATS-DKに対応した、ATS-DFが開発されている。今後、上記の機能のほか、ダイヤ情報に基づく駅誤通過防止機能、踏切無遮断時のパターン発生機能などを追加する構想がある[19][20]が、DN形とDK形では地上子の設置方法等が異なるほか、表示コンソールの内容が若干違うため、互換性は不明だが、DF形の表示器は、実際の運用区間にあわせてDN区間用とDK区間用の二種類が用意されている。ATS-DFには更に、進行方向と逆方向に動いた場合に非常ブレーキを掛ける後退検知機能などを独自に搭載している[21]

ATS-Dxの整備

JR北海道では、平成28年6月末までに設置が必要とされている路線において、期間内に全区間への設置を完了させた[22]。車両への整備も進み、JR北海道だけでなく、JR東日本エリアから北海道に乗り入れる予定であるTRAIN SUITE 四季島(E001形)にも装備されている[23]

JR九州では、設置対象外とされている筑肥線の103系1500番台303系305系を除いて平成27年度末に蒸気機関車を含む全車両への搭載を完了した[24]。また、平成28年6月末までに設置が必要とされている路線において、平成27年度末までに設置進捗率84%とし、平成28年6月までの設置完了を目指している[24]。また、JR九州に自社車両が乗り入れ、JR貨物が自社路線通過する肥薩おれんじ鉄道も車両及び線路にATS-DKを導入している。また、ATS-DKの検査用に、JR西日本のキヤ141系にも可搬型が搭載される。

JR貨物ではATS-DN形およびATS-DK形の運用が開始され設置の進捗が進んだことへの対応として、貨物列車用としてATS-DF形を2014年度より、設置区間を走行する車両に対して更新を始め[21]、2016年6月までには整備するべき39両すべてに搭載が完了した[25]

車両表記は、DN形はDNと、Nが小さく添えているが、DK形はDK、DF形はDFと大きく書かれる。原則的にはSxとDxは併記しているが、DNの一部にはSN表記が省略されている場合がある(キハ40 777など)

設置車両

ATS-DN形
ATS-DK形
ATS-DF形
  • 機関車
    • DE10形(苗穂車両所・門司機関区所属車)
    • DF200形(五稜郭機関区所属車)
    • ED76形(門司機関区所属車)
    • EF81形(門司機関区所属車)
    • EH500形(門司機関区所属車)

設置路線

ATS-DW (ATS-M) 形

JR西日本が2012年12月末に山陽本線横川 - 五日市間に試験導入した新型ATSである。既存のATSの機能に様々な運転支援機能が追加されているのが特徴であり、車上側に搭載されている車上データベースに登録された、路線の信号機の位置・速度制限箇所・速度制限の情報、地上子から送信される地上側の変動する情報(信号機の現示と列車の進行ルートの状況)、車輪の回転数による走行距離を基に得られる列車の位置を照合して、停止信号に対する防護、曲線・分岐器などの線路条件に対する速度制限防護、線区の最高速度に対する防護を行う。運転支援機能としては、車上データベースに登録された駅のホーム形状(ホームの左右など)と列車の両数によって異なる駅の停止位置についての情報、地上子から送信される駅の進入番線の情報を照合して、停車駅では、ホームのない側のドアの誤操作を防いだり、停止位置までの速度照査を行い、停車位置を越えた場合には、自動的にブレーキが掛かる機能を有する。その他にも、線路工事に伴う徐行区間に対する防護や車上無線機の切替時に対する音声での注意喚起などがある[26]

2012年度末まで広島支社に貸し出されていた223系(6000番台MA21編成中間2両抜き)で運用試験された。その結果、2014年9月26日の発表で227系に新型ATSとして搭載されることが発表され、報道陣への公開の中でATS-DWと表記されていた[27]システムとしては先出のATS-DN型と類似するところがある。[要出典]

2014年度よりATS-SW線区である白市 - 岩国間に導入され[28]、これに対応した新型車両である227系が2015年3月14日のダイヤ改正で運用開始した[29][30](なお現在はATS-DWは使用せず、SWのみの対応となっている)。以後、ATS-P型(拠点P)が導入されている近畿エリアへの展開も見据えている。

JR西日本ではこのATS-DWのほか、2015年時点でJR東日本仙石線に導入済みの「ATACS」をベースにした無線式列車制御システムの開発および実地試験を行っており、実用化を目指して在来線技術試験車「U@tech」による走行試験が続けられている。[31]

私鉄のATS

大手私鉄各社で採用されているATSには、1967年昭和42年)1月運輸省(現在の国土交通省通達[32]により「速度照査機能」の付加と「常時自動投入」が義務づけられたが、詳細な仕様は各社の裁量に任されたため、多くの種類が存在する。機能が強化された背景には、日本の大手私鉄の実状として、都市部を除く平均的な国鉄線区と比べ、間距離が短い、分岐器を含め急曲線が多い、高頻度運転を行う、乗車率が高いことなどがある。

設置が義務付けられた速度照査機能は、最終的な冒進速度照査を20km/h以下としているため、確認扱いさえすれば最高速度(ATS-Sx区間の運転最高速度は130km/h)で冒進可能な国鉄・JRのATS-B、ATS-S、後の改良型ATS-Sxと比較して、衝突事故に対する安全性が高い。運輸省通達ATS設置後の区間においては、運転士の停止信号見落としを原因とする重大事故が発生していない。

地方私鉄においては、JRや大手私鉄と同一・類似方式のATSが採用されていることが多い。また、独自のパターン照査を導入した例もある。しかしながら、通達の基準に該当しない中小事業者ではATS整備が遅れた所も多く、ATS未整備の路線において停止信号冒進による衝突事故が発生し、事故後にATSを導入するという後手の対策となりがちであった。1987年(昭和62年)4月に運輸省省令で全国の鉄道会社にATSの原則設置義務付けを行ない、1990年(平成2年)には全国の地方運輸局を通じて早期設置の申し入れをおこなったが、2001年(平成13年)の京福電気鉄道(現在のえちぜん鉄道)の正面衝突事故を契機に、国土交通省から中小事業者に対し、ATS整備の指示と、補助金が支給されたことにより、未設置路線へのATS設置が促進された。

1967年(昭和42年)運輸省通達は当時の国鉄には適用されず、JR発足の前日である1987年(昭和62年)3月31日付けで廃止されたため、JR各社に適用されることはなかった。一方、鉄道に関する技術上の基準を定める省令[注 60]2002年(平成14年)3月31日から施行され、ATS設置の判断が従来の認可制から届出制に変わった。また、2006年(平成18年)3月の技術基準改定で、曲線、分岐器、線路終端などの線路の条件に応じた速度照査機能が必須となったため、安全性の向上と現行ダイヤの維持を目的としたATSの改良やATC化を発表した私鉄もある。

変周式(単変周・多変周)地上子

国鉄のATS-S型に近いが、地上子を2つ並べて、その2つの地上子を通過する時間によって速照する方式である。国鉄のATS-Sの改良型に似ている。地上子の間隔により照査速度を任意に設定可能で、地上との相対速度で計測するので速度計と関与がない。名古屋鉄道京阪電気鉄道南海電気鉄道で採用。

名古屋鉄道式自動列車停止装置

M式ATS地上子
終端部の例(佐屋駅

名古屋鉄道で使用されている変周式の車上タイマー方式の自動列車停止装置である。

2つの地上子の間を0.5秒以内で通過すると動作するようになっている。

名鉄式ATS・M式ATSと略す場合が多い。

1965年(昭和40年)に須ヶ口駅 - 鳴海駅間に設置されたのを皮切りに1968年(昭和43年)までに鉄道線全線(軌道法適用区間である豊川線を含む)で設置を完了した。

地上子は共振周波数130kHzでATS-Sロング地上子と同じだが、2基1対の速度照査を構成して冒進速度を20km/h - 5 km/hに押さえており、Sxなど他の多くの変周式地上子とは異なり進行方向に向かって右側に設置されているため、名古屋本線との共用区間となるJR東海飯田線豊橋駅 - 平井信号場間にもATS-PTとともに設置されている。

グループの豊橋鉄道渥美線も1500V昇圧後の1997年(平成9年)に同型のATSを採用した。

京阪型速度照査ATS

京阪電気鉄道で使用されている自動列車停止装置の一種である。前述の名古屋鉄道方式とは速度照査などの基本的な構造はほぼ同一であるものの、速度制限などの取り扱い方法は異なる。

京阪電車の信号による速度制限は、絶対停止0km/h・警戒25km/h・注意45km/h・減速65km/h、進行の5種類である。警戒・注意・減速の現示による速度制限を5km/h上回ると直ちにATSによる非常ブレーキがかかり、完全停止するまで復旧できない。同社は、JR福知山線事故後、京阪本線枚方公園駅・淀駅 - 中書島駅・深草駅・鳥羽街道駅 - 東福寺駅間に存在する急カーブに速度照査ATSを直ちに設置した。これらの急カーブの曲線通過速度は直前の走行速度に比べ25 - 40 km/hの差がある。カーブにおける速度照査の方法はパターン照査の原理に似ている。たとえば、制限速度60km/hカーブに対し、制限開始地点200m手前で100km/h以上であれば直ちに非常ブレーキ、150m手前で90km/h以上であれば非常ブレーキ、100mで…、50mで…というように順を追って速度照査と非常ブレーキ管理をしており、制限開始地点までに「絶対減速」を試みている。オレンジのカバーがかけられているATS地上子がこれに該当する。

なお、京阪は2008年(平成20年)11月に発表したプレスリリースで、2014年(平成26年)度より多情報連続制御式「K-ATS」への切り替えを進め、2016年(平成28年)度に京阪線全線で新システムを稼働させるとしていた[33]。2015年(平成27年)12月5日より京阪本線深草駅 - 鴨東線出町柳駅間で導入され[34]が、様々な諸事情により切り替え工事が遅れているため、今のところ2020年(平成32年)度中を目途に全線で導入予定である。

多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))

地上子で車両側が信号機の現示に対応する信号を受信・記憶し、その信号に合わせた一定の速度で連続的に照査する。信号機の現示アップなどで照査速度が上がっても、次の地上子を通過して信号を受信するまでは照査を続けるか、確認ボタンを押して照査を解除する。確認ボタンが不可な会社・路線では、たとえば、警戒信号の速度制限を受けた場合、現示アップしているのにもかかわらず、長時間の低速を余儀なくされることから、タイミングによっては列車の遅延につながるという欠点がある。

近鉄には速度超過防止用(曲線区間、分岐器など)や終点用の他、転動防止用のATSもあり、これらも多変周式である。

西鉄の地上子は永久磁石(磁気飽和式地点検知装置)とコイル(AF多情報送受信器)を設置したもので、コイルが無信号の状態でも照査が行われる[35]

点制御式の多くの場合では、地上子制御リレーに異常があり制御線が断線状態となれば、地上子のLC共振回路の作用だけで特定の一意の共振周波数(多くの場合最下位現示)に自然と固定され、故障状態でフェイルセーフになる長所がある[注 61]

東武鉄道TSP式(多変周式・パターン照査型)・東京都交通局T形ATS

東武鉄道TSP式ATS地上子
(写真右、左はT-DATCトランスポンダ地上子)

多変周・点制御式ATSだが、速度照査を他の方式のように信号現示に応じて階段的に行うのではなく、車上装置で発生する2段階の速度照査パターンを用いて連続的に行い、列車速度がその速度照査パターンを超過した場合に非常ブレーキが掛かる東武鉄道独自のATS。JRのATS-Pと異なる点は、トランスポンダのように停止信号までの距離を伝送して1段階の減速パターンを発生するのではなく、信号機の現示に応じて2段階のパターン(電車の場合60km/hまで減速、15 km/hまで減速の2パターン)を用いて速度照査を行う点。なお、運転台上に減速パターンの速度照査発生時の照査速度を表示する表示灯があり、ATSによる減速パターンの速度照査が行なわれていることを確認できる。8000系の初期修繕車までは、運転台の表示灯部に60と15と書かれた表示灯があったが、6050系や8000系の1987年以降の修繕車、9000系以降では、運転台の速度計の60kmと15km付近にATCの車内信号の表示に類似した表示灯があり、丸形の15と60の表示、または、60kmと15kmの指針部分に青色の8000系の東上線・越生線用T-DATC搭載のワンマン対応車および9000系・9050系のT-DATC対応車、および10000系以降のT-DATC搭載車[注 62])で表示される。

東武鉄道や後述の西武鉄道においてパターン式を必要としていたのは、導入当時電車列車に比べて制動性能の劣る貨物列車が多数設定されていたことに対応するため。

JR東日本のATS-Psは多変周ではなく、単機能変周式地上子を組み合わせたもの。

AF軌道回路方式(連続照査型)

後に国鉄ATCでも採用されたAF軌道回路を使ってレール又は添線に連続的にある信号の現示に対応した照査速度信号を流し、列車側はATCでも使用されている受電器でこの信号を受信して連続的にこの照査速度で照査される。信号の現示がアップした際はすぐにアップした照査速度の信号を受信することができる。ただし、地上子を併用している場合は多変周式と同様次の地上子まで照査を続ける。

このうち西武と阪急の一部路線はパターン式ATSとなっている。相鉄は磁石式の地上子と併用している。また、阪神は運行時に「危険域」・「有コード」でランプ表示している。なお、相鉄は神奈川東部方面線開業およびJR東日本との直通運転に備えて、2014年3月30日に磁石式地上子方式のATSからJR東日本と同一の機能のATS-P型に更新された。

軌道電流式(半連続照査型・点照査型)

国鉄ATSのB型と同様にレールに常に電流を流し、電流を切ることによって信号を送っている。この電流を切る時間で照査速度を車両側に伝えている、また車上子はATCと同様の受電器を使用する。

東急型ATS

多摩川線で使用されている、東急ATSのキャンセルループ(添線)とその標識。

東京急行電鉄がS42通達にあわせて導入した、信号機直下に軌道に並行したキャンセルループ(添線)を備え、このキャンセルループに軌道回路による軌道電流の逆位相の電流を流すことで擬似的に軌道電流を停止した状態をつくる。そこに車上装置がそのキャンセルループを通過した際に、その時間を計測し、1秒以下であれば速度超過と判断して非常ブレーキを動作させる。速度照査は閉塞区間進入時毎に行われる点照査となる。ただし、次の信号機がR現示の場合には、警報が鳴り始め信号機直下のキャンセルループでは速度照査ができないので(0 km/h照査となるので)、信号機から60 - 80m前方にキャンセルループが設置されていて(運転士に分かるように線路脇に黄色四角の標識が設置されている)、そこで15km/h照査を行うようになっており、信号機手前で安全に停止できるようになっている。

軌道線を除く東急のほぼ全線で使用されていたが、後に運転速度が95km/h以上になる路線(東横線田園都市線目黒線大井町線)は新CS-ATC(田園都市線)あるいはATC-P(東横線・目黒線・大井町線)に変更され、現在は多摩川線池上線のみで使用されている。

1号型自動列車停止装置(1号型ATS)

京成電鉄北総鉄道芝山鉄道および新京成電鉄で使用されている。また、かつては京浜急行電鉄および東京都交通局都営地下鉄浅草線)でも使用されていた。

1960年(昭和35年)12月、都営地下鉄1号線(現在の浅草線)が京成電鉄押上線との相互乗り入れで開業するに際して採用され、1967年(昭和42年)1月の私鉄ATS通達(S42鉄運第11号)で速度照査段を増やす改良をされた方式。打子式ATS以外では日本で最初のATSでもある。ATSに関しては、上記のうち新京成以外の6者の中では、どの事業者の車両がどの事業者の線路を走っても問題なく作動する(新京成の車上装置は「絶対停止」機能があるため、京成線乗り入れ対応車には切替装置が付加されている)。古い規格ながら、保安度としてはATS-Pに準ずる優れたものである。無閉塞運転中も信号電流がなければ15km/hの速度照査が行われることが他ATSには見られない特徴であり唯一の欠点は設計当時の技術の限界により現行のC-ATS兼用の装置と新京成電鉄で採用されている「絶対停止」機能が無い事であった。

交流50Hzの軌道電流を常時流しておき、それを0.8秒間遮断することで45km/h速度照査を、3秒間遮断することで非常制動停止と15km/h速度照査を車上装置に伝達し、車上装置では、速度超過している場合に自動的にブレーキをかけ、0.8秒断では45km/h減速した時点で緩解し、3秒断では非常制動で停止し、以降15km/hで速度照査する。それ以外の速度で照査する場合には、レールに設置した2箇所1対の検知子(その間隔は照査する速度によって調整する)を列車が通過する時間差が基準以下の場合に速度超過と判定して、上記のように軌道電流を遮断する。検知子は任意の場所に設置できるので、点照査であっても連続照査と同等の機能を有する。しかし、車上装置側では、地上での照査速度が45km/h以上の場合には一律45km/h、45 km/h未満の場合には一律非常制動と15km/hの速度照査がかかってしまうので、地上装置で照査した速度に比べて必要以上に減速させてしまうことになる。そのため、下記のC-ATSの導入が進められている。

デジタルATCの技術を応用したもの

C-ATS/i-ATS/K-ATS

上記の鉄道事業者で使用されている、多情報連続速度照査パターン式のATSである[36]

C-ATSの場合、基本仕様が相互直通運転の各社局で共通 (Common) であること、1号型ATSと同じく連続 (Continuous) 制御式速度制御 (Control) であることから、頭文字をCとしている[注 65][36]。i-ATSのiについては不明。K-ATSのKは自社の会社名の頭文字である「KEIHAN」の「K」から採られている。

軌道回路からデジタル伝送(MSK変調を使用)を用いて1号型ATSより詳細な情報(無段階の速度照査、社局識別コード、上下線識別情報、勾配など)を伝達でき、パターン信号を軌道に設置した短小添線から送る機能も持つ。従来の1号型ATSと異なり、無信号の場合は瞬時に非常制動が動作することで、絶対停止機能を有する。車上装置については、地上側からの信号で1号型ATSとC-ATSを自動的に切り替え可能なものに更新済みである。

注意・減速などの信号現示に対する制御は、信号機を通過した時点から現示に応じた速度照査を連続的に行い(緑色の数字表示)超過時は常用最大制動で照査速度まで減速させる(京急では、注意信号外方のパターン信号発生点のB点で、68km/hの速度照査を行う)。停止現示に対しては、信号機外方のパターン信号発生点であるB点進入から絶対停止パターンによる照査を行い(地上からパターン制御信号を送信、橙色の数字表示)、パターンを抵触した場合は非常制動で停止させる。閉塞信号機停止現示の場合は、停止してから1分経過すると車上で自動的に15km/h照査に切り替わり、無閉塞運転が可能になる[37]。なお、信号現示が変化すると地上装置から新しい情報が送信され、上位現示の場合は確認スイッチを操作する必要がない。また出発信号機の停止現示においては、絶対停止パターンの照査範囲内で停止すると自動的に7.5 km/h照査(誤出発防護機能)に切り替わる。このほか、曲線における制御は、曲線手前にパターン信号発生点(CB点)を新たに設け、パターン制御信号を送信する。発生点通過後は速度制限パターンによる照査が行われ、「都営 : 緑色 (L)、京急 : 橙色(L表示と照査速度の交互表示)」速度超過時は非常制動又は常用最大制動が動作する。いずれのケースでも、非常制動が動作した場合は新設した非常ブレーキリセットスイッチを操作して解除する。また新たに、ノッチカット機能も搭載した。これは、制限速度以上の力行(加速)および、停止信号直下(絶対停止)では、力行操作が自動的に切られる機能である。具体的には、制限速度以上に力行した場合、チン・ベル鳴動とともに緑色の「NC」表示点滅と同時に力行が強制的に遮断される。また絶対信号機停止現示で停車した場合は、赤色の「NC」表示とともに常用最大制動が動作し、信号が上位に切り替わらない限り、力行操作が不能となる。なお京成は、信号が上位・下位に切り替わった場合、パターン信号発生・解除した場合、それぞれチンと鳴るベルが鳴動する。また、ホームドアを使用している羽田空港国際線ターミナル駅では、ホームドア開扉時に自動的にノッチカットとなる機能が付いている。

また、京急では2011年6月より踏切道防護システムの使用開始に伴い、同ATSの改修を行った。これは、停車駅直近に踏切道がある箇所において、オーバーランや停車駅誤通過により無閉鎖の踏切道へ列車が進入する事を防ぐためのものである。この条件にあてはまる停車駅においては、停車駅に接近すると停車位置までの停車パターンが発生し、停車パターン抵触の際は常用最大制動または非常制動にて停止する。停車パターンが発生した際は、表示器に緑色で「停P」が表示され、パターンに接近した際はこの表示の点滅とチンと鳴るベル3回の鳴動が発生する。さらにパターンに最接近した際はこの表示が橙色に変化し、表示の点滅とチンと鳴るベル3回の鳴動が再度発生する。この停車パターンは5km/h以下になると解除される。この踏切道防護システムの導入以降、C-ATS表示器には自列車の種別が表示されるようになった(エアポート急行とエアポート快特については、それぞれ航空機のマークに「急」または「快」で表現)。この種別表示については、信号扱所が設置されている主要駅を発車する際に、信号扱所からの発車指示合図と共にC-ATS地上装置から種別情報が伝送されることによって、初めに種別表示の点滅がATS表示灯下部に表示され、発車後5km/hを超えると表示の点滅が点灯に変わり、種別が確定する(種別情報は、停車場での植付時に異なる列車種別へ上書きが可能である)。次の信号扱所が設置されている主要駅までは、この種別情報を保持して、停車パターンが発生する。

2007年(平成19年)3月17日より都営浅草線で一部の機能が使用開始されており、全線で常時70km/h照査を行なっているが、車上装置に「C-ATS」と表示されるのは分岐設備を有する駅(押上・浅草橋・新橋・泉岳寺・西馬込駅構内)のみであり、他の区間では上段に「ATS」・下段に「70」と表示される。また、停止信号手前では車上装置に「パターン接近」(都営・京成 : P接近、京急 : P)表示が出てベルが2連打する他、停止した際も「NB」表示とともにマスコン・ブレーキハンドル位置に関わらずにブレーキがかかっている。また、2009年(平成21年)2月14日ダイヤ改正より、京浜急行電鉄全線で使用を開始した。これに伴い、曲線部や信号機(閉塞・場内・出発・入換)の一部に、C-ATSの速度制限標識(白地に赤抜きの数字)が線路脇や信号機およびまくら木に設置されている[注 66]。2009年(平成21年)3月21日からは京成電鉄でも京成上野駅構内および京成高砂駅構内下り線において使用開始され、続いて2010年(平成22年)7月3日からは京成本線(京成上野駅 - 京成高砂駅間)および京成金町線、同月17日からは同日開業の京成成田空港線(成田スカイアクセス)および一部区間で線路を共用する北総鉄道北総線でも使用開始された。なお、北総鉄道北総線および京成成田空港線では連動駅(転轍機を有する駅)のみにC-ATSを導入している[38]2011年(平成23年)2月26日からは都営浅草線の全区間にて運用が開始された[39]2014年(平成26年)6月7日からは京成本線の全区間、同年12月6日からは新京成電鉄新京成線の一部区間[40]2015年8月22日からは京成押上線、同年12月12日からは京成千葉線京成東成田線2016年12月10日からは京成千原線にて運用が開始された。これによりC-ATSを採用していないのは芝山鉄道のみとなっている。

2015年12月5日より順次京阪で採用されている新型ATS「K-ATS」もC-ATS/i-ATSとほぼ同じものとなっている[41][注 67]。K-ATSもC-ATSと同じく、運転台に車上装置が設けられている。また、パターンに最接近した際などになる音はC-ATSのチンと鳴るベルに対し、K-ATSではピコンと鳴るチャイムであるなどの相違点がある。このK-ATSは2015年12月5日より鴨東線と京阪本線の三条駅 - 深草駅間で使用を開始し、2017年2月4日より宇治線と京阪本線の深草駅 - 淀駅間でも使用を開始した[42]。京阪線区全線での使用開始は2020年度中を予定している。

D-ATS-P(デジタルATS-P)形

小田急電鉄の各路線で導入が進められているATSであり、JRのATS-Pとは互換性がない。

これまでの地上子による情報伝送の他に、軌道回路も制御に用いるもので、地上子と軌道回路の双方からの情報で制御する(この点はかつては相鉄が使用し、現在でも西鉄が使用中の地上子と軌道回路を併用しているATSと類似している)。これまで地上子で伝送していた信号現示についてはレールからの伝送とし、地上子からは2つ先の閉塞区間の距離を伝送する。信号現示による最高速度はこれまで通り(注意現示=45 km/hなど)となるほか、信号機が下位現示である場合はその現示が示す最高速度まで減速する速度パターンが車両側で生成される。そのため速度パターンは多段制御の速度パターンとなる。また踏切支障・ホーム上の非常スイッチ操作が生じた場合も自動で非常ブレーキが作動できるようになるほか、現在よりも信号現示を増やすことも検討されている。

整備が完了したことから、第1期区間として2012年(平成24年)3月31日より多摩線において使用が開始され[43]、次に第2期区間として江ノ島線において、第3 - 5期区間(3期に分割)として小田原線の新百合ヶ丘 - 小田原間において使用を開始したのち、2015年(平成27年)9月12日の新宿 - 新百合ヶ丘間での使用開始をもって小田急全線への導入が完了した[44][45]。乗り入れ先の箱根登山鉄道線(小田原 - 箱根湯本)は従来のATSのままか換装するかは不明。

トランスポンダ地上子によるデジタル情報の技術を使用したもの

T-ATS-P

東武鉄道(ATCを導入の東上本線と越生線を除く)で導入が予定されているATSであり、JRのATS-Pとは互換性がない。2013年9月現在、導入予定等の発表は行われていないが、業界誌で解説が行われている[46]

ATS-P形と同じく、トランスポンダ地上子により、当該する信号機や次の信号機の信号現示・信号機までの距離・勾配などの情報を車両側に送信して、車両側ではそれを元に信号機までの速度照査パターンを発生させる方式であるが、ATS-P形と異なり減速 - 警戒信号に対してもパターンが発生する。また曲線や分岐器での速度制限でも、同様にトランスポンダ地上子から曲線区間や分岐器までの距離とそこでの速度制限の情報が送信されて、車両側で曲線区間や分岐器までの距離に応じた速度照査パターンと曲線区間や分岐器での速度制限を発生させ速度照査を実施する。トランスポンダ地上子から線路情報が送信される為、他社線からの相互直通運転を容易にできる。また車両側の車上子は従来の変周式とトランスポンダ式を一体化した車上子を搭載している。

ATS-SP

近畿日本鉄道で導入が進められているATSである[注 68]

従来の地上子により、車両側で信号機の現示に対応する信号を受信・記憶し、その信号機に合わせた一定の速度で連続的に照査する機能の他に、分岐器・曲線区間・終端での速度制限を実施する為、新たにトランスポンダ地上子を設置して、この地上子から分岐器・曲線区間・終端までの距離情報と分岐器・曲線区間での速度制限情報を車両側が受信・記憶して、分岐器・曲線区間・終端までの速度照査パターンと分岐器・曲線区間での速度制限を発生させ速度照査を実施する。また車両側の車上子は、従来の変周式とトランスポンダ式とを一体化した車上子を搭載している。

ATS-PN

南海電気鉄道で導入が進められているATSである。

従来の地上子により、車両側で信号機の現示に対応する信号を受信・記憶し、その信号機に合わせた一定の速度で連続的に照査する機能の他に、分岐器・曲線区間・終端での速度制限を実施する為、新たに変周周波数の数を増やした地上子とトランスポンダ地上子を設置して、それらによって発信される分岐器・曲線区間・終端までの距離情報と分岐器・曲線区間での車両側で受信・記憶することにより、分岐器・曲線区間・終端までの速度照査パターンと分岐器・曲線区間での速度制限を発生させ速度照査を実施する。また車両側の車上子は、従来の変周式車上子とは別に分離する形で新たにトランスポンダ式車上子を搭載している。

軌道のATS

軌道法による軌道の場合には、新設軌道と併用軌道が混在している軌道と道路の路面以外の併用軌道については、続行運転道路上にある交通信号や、海上河川での運行上、閉塞方式自体が不要か簡略化されており、ATSなどの警報装置自体の設置が完全に義務化されていない。

ただし、過去において軌道法適用の路線・区間でも、事実上鉄道として運用されていた路線・区間において「鉄道の信号・ATS」を運用していた(京阪本線など多数)。

台湾のATS

台湾の中長距離鉄道を運営する台湾鉄路管理局の一部路線に、1970年代後半に導入されたもので[47]スウェーデンエリクソン(当時)製であった。注意信号の現示箇所を90km/hを超えて進行した場合、または停止信号の600m外方で警報が鳴動し、5秒以内にブレーキ操作をしない場合には非常ブレーキが動作する方式であった。1990年代末に、ボンバルディア製のATPが導入され、発展的解消をとげた。

中国のATS

中国の中長距離鉄道を運営する中国鉄路総公司の路線に、1980年代後半に導入されたもので、主に幹線区間を中心に導入された。規格は日本のATS-PやATCに準じている。曲線・勾配の速度照査は、ICカードに記録されている情報に基づいて行われる。

韓国のATS

韓国では1969年から鉄道庁の主要路線に、日本国有鉄道のATS-Sと同格の装置が順次導入された。さらに1974年の[48]首都圏電化に伴い運行されるようになった電車には、多変周点制御車上連続速度照査式ATSが搭載された。ブレーキ弁ハンドル挿入による電源自動投入、警報後5秒以内に常用全ブレーキにより確認扱いが可能、などの機能を有しているが[49]、減速信号現示に対する照査はない。ソウル首都圏電鉄1号線、2号線に地上設備が設けられているが、2号線ATO化される予定である。1980年代に、鉄道庁の幹線である京釜線に、5現示自動閉そく信号化に併せて、首都圏電鉄と同等の速度照査式ATSが設けられた。照査速度は高速寄りに読み替えて使用されていた。また、曲線の速度制限に対する速度照査機能も併設された。なお、京釜線、湖南線はユーロバリスを用いたATP化の途上にある。

脚注

注釈

  1. ^ 場内信号機のない終端駅でもATS地上子があるため如何を問わず確認扱いは必ずある。
  2. ^ 鉄道の場合のAF (Audio frequency) とは慣行的に電話・通信と同様300Hz - 3000Hz余の周波数を指しているが、元々は可聴周波数 (16Hz - 20,000Hz) を指すもの。分倍周は交流電化区間などノイズの多い区間に採用されて当初は電動発電機などの機械装置で供給されていてAFとは区別された。
  3. ^ ケーブルは2本あり、地上子の中のLC回路のコイルの端末と中間に接続される。
  4. ^ この回路に130kHzの周波数を流すと、LとCの抵抗成分が打消し合って無くなり、Rだけの抵抗となって、回路に最大の電流が流れるようになっている。この現象は、ある周波数の場合において、流れる電流が最大となる直列共振と呼ばれる現象であり、このような回路を直列共振回路と呼ばれている。これにより、地上子からは、130kHzの共振周波数が発信される。
  5. ^ 外付コンデンサと呼ばれている。
  6. ^ 地上子制御リレーが扛上して、LC回路が構成されるため、この回路に103kHzの周波数を流すと、直列共振現象により、直列共振回路に最大の電流が流れ、地上子から103kHzの共振周波数が発信される。
  7. ^ 電力波と呼ばれ、電力供給の無い無電源地上子から情報の供給を受ける際、車上子から電力波を無電源地上子に送信して、無電源地上子はそれをエネルギー源にして定められた内容のデジタル情報を返送する。
  8. ^ 変調後の周波数は、地上→車上1708kHz±32kHz、車上→地上(情報)3000kHz±32kHzとなる。
  9. ^ Sd形地上子と呼ばれる
  10. ^ Ss形地上子と呼ばれる
  11. ^ 作動原理としては、Sd形地上子に車両側の車上子からの常時発信周波数105kHzかそれに高減速性能車であること示す67kHzを重畳した電波を受信して、それらを速度照査装置に送り、そこで、分岐器の速度制限から高減速車か又は低減速車かの減速曲線を求めて、地上子の設置位置での速度制限を決める。
  12. ^ つまり、基本的にはブレーキ管の減圧で非常ブレーキが作用する自動空気ブレーキ機能を備えた車両の運用が前提となる保安システムである。ただし、トリップコックを非常ブレーキ制御線回路を遮断するための電気スイッチに置き換えれば電気指令式ブレーキ搭載車でも利用可能である。
  13. ^ これは、通常は停止信号を2つ重ねるべき箇所で、1つ目の信号機を警戒現示することで少しでも列車の間隔を詰められるようにするために行なわれた(クロージング・イン)。
  14. ^ 打ち子式ATSでしかも吊り掛け式の旧型車が混在し車両性能が不統一であった当時の1号線では、列車運行間隔は最短でも2分15秒でこれ以上の短縮とこれによる列車増発は不可能であった。このため新しいWS-ATC導入と同線在籍車両の全面置き換えを行って性能を統一することで最短運行間隔を15秒短縮し2分とすることが計画された。
  15. ^ ただし、四つ橋線用車両の定期検査が我孫子検車場で実施されていた関係で、同線のWS-ATC化完了までは同線との接続駅である大国町と我孫子検車場の最寄り駅である我孫子の間については御堂筋線でも例外的に四つ橋線車両用として打ち子式ATSを残し、御堂筋線車両用のWS-ATCと併用する措置がとられていた。
  16. ^ 製鉄所の構内鉄道などでは現存する。
  17. ^ 鉄道事業法適用路線として上野動物園モノレールが打子式ATSを採用している。(2012年11月現在)
  18. ^ S形では地上タイマー方式の速度照査機能があった可能性がある
  19. ^ SW2形と同様にスペクトラム拡散方式でのFFT方式によるスペクトル解析で共振周波数を検知する脱変周方式を採用しており、ATS機能のみとその機能に加えて振り子制御を行うために、車両側で地上子を検知して地点信号を出力する機能の2種類がある。
  20. ^ 電車の場合は0.50秒、機関車の場合は0.55秒で設定されており、車上で予め設定されている。
  21. ^ 列車が設定された速度以上になると非常ブレーキにより停止できるように地上側の地上子間隔を、設定された速度おいて車両側が0.5秒で通過できる間隔に設定して設置する。
  22. ^ SN形にもS形同様の地上タイマー方式の速度照査機能がある可能性がある
  23. ^ 駅付近の踏切において、列車番号情報により駅に停車するか又は通過するかを判断して踏切の警報時間の均一化を図る機能であり、車上側から車上子の常時発振周波数にその情報である360±12kHzの周波数のMSK変調波を重畳(重ねて)して地上側の地上子に送信され、地上側ではその情報を地上子で受け取り、その後、信号回路の電源ケーブルを通り電子踏切装置に送られて、駅での通過又は停車を判別して踏切の警報時間を制御する。
  24. ^ 108.5kHz。
  25. ^ 100kHz - 110kHzとの間。
  26. ^ 信号機の現示表示が警戒信号 (YY) から注意信号 (Y) に変更される
  27. ^ 信号機までの距離の他に、現示コード(その時の信号機の現示)・地上子情報(有電源地上子又は無電現地上子かの情報)・信号機種別(出発・場内・閉塞などの信号機の種類)・次の地上子までの距離の情報を送信するとともに、信号機がG現示の場合は、2つ先の信号機がR現示として仮定して(ただし必ずしもR現示ではないが)、そこまでの距離情報を車上に送信する。
  28. ^ 車上で作成・記憶されたパターンで使用される列車の速度検知と距離積算は、速度発電機からの出力パルスを使用する。
  29. ^ JR東日本・相鉄・北越急行・東京臨海高速鉄道所属車両(JR西日本681系/683系はくたか用編成、名鉄2000系、JR東日本乗り入れ時代のJR東海373系含む)ではゴング音が、JR西日本・智頭急行所属車両(JR東海所属の285系含む)では電子チャイムがそれぞれ鳴る。
  30. ^ Y現示は1つ前の信号機まで、G現示は2つ前の信号機までの距離情報を送信して、速度照査パターンの更新を行う。
  31. ^ 現示アップが発生しない場合には信号機までの距離情報又は即時停止情報か送信されるが、R現示の信号機から外方(手前)50mで停車した列車が、信号機が現示アップして運転を開始した場合には、照査パターンの更新を列車に送信する。
  32. ^ 信号機から手前180m・85m・20m。
  33. ^ 信号機から手前280m・180m・130m・85m・20m。
  34. ^ カーブでの速度制限の場合、制限速度・制限区間長・カーブまでの距離などの情報を車上に送信する。
  35. ^ 下り勾配では、勾配の大きさに応じて列車の減速度にマイナスが発生する為、その値を補正値として車上に送信する。
  36. ^ JR貨物所属の機関車は速度加算部分を無効にして走行する。
  37. ^ ただし、交直切替は交直流車のみ、架線電圧切替は新在直通用のみ搭載。異電化や非電化進入防止は不明。
  38. ^ 交流電化区間や異電圧区間の存在しない相鉄・北越急行・東京臨海高速鉄道・JR東海などではこのコード領域を無効にしている。
  39. ^ VE(バリューエンジニアリング)手法による省スペース化を図ったもの
  40. ^ ただし、2011年7月1日の鉄道に関する技術上の基準を定める省令の改正に伴い、営業運転での使用は全面禁止となった。回送列車と試運転列車などの非営業列車の場合、は事前の申請を行った上での特例が出される。
  41. ^ 電力波の245kHz
  42. ^ 導入当初は醒ヶ井駅を出て下り第2閉塞を通過後ATS-Sxに切り替わりJR西日本エリアの入口の下り第1閉塞通過後再びATS-Pに切り替わっていたが、現在は地上子の増設・交換が行われATS-Pのまま通過する
  43. ^ ATS-Pでは大幅な後退運転すると誤動作をしてしまうので、構内でATS-Sxに切り替える必要がある
  44. ^ STにPsの機能を追加する必要がある。ST・PT一体型の場合はATS-PTにPs機能追加工事、別体ならSTからPsに換装する工事が必要。
  45. ^ 機関車は曲線の速度加算部分を無効にして走行(正規の速度制限を適用。)
  46. ^ 騒音の多い環境での使用を考慮したため
  47. ^ 最高頭打ち照査速度だけは機能している。
  48. ^ JR東日本およびJR東海管内で使用
  49. ^ JR西日本管内で使用
  50. ^ JR東日本車・JR東海車はATS-P切換連動スイッチを開放、JR貨物車は西モードに設定して当該区間を走行する。
  51. ^ 車上子の常時発信周波数を103kHzから73kHzに変更し、従来の108.5kHzと123kHzと130kHzの他に、新たに80kHz・85kHz・90kHz・95kHzを地上子の変周周波数として追加。その他にも踏切鳴動開始用のバックアップ列車検知器と分岐器速度照査装置を作動させる為に、100.5kHzの周波数を73kHzに加えて地上子から送信している。
  52. ^ 車上で生成されたパターンで使用される列車の速度検知と距離積算は、ATS-P形と同じく、速度発電機からの出力パルスを用いるが、2台の速度発電機を使用することにより、より精度を上げている。
  53. ^ 90kHz又は95kHzの変周周波数を発振させる地上子。
  54. ^ Pbパターンにおいては、マーカ地上子から95kHzを受信後に走行距離3m以内で103kHzを受信後に消去される。
  55. ^ 速度照査パターンの補正は、第2パターンだけを補正する。
  56. ^ 108.5kHzと95kHzの地上子。
  57. ^ 検知方式は、車上送受信器から車上子にスペクトラム拡散信号を送信して地上子の変周周波数を検知する、脱変周方式を使用する。
  58. ^ 発振される変周周波数は、103kHz・108.5kHz・123kHz・130kHzの4種類。
  59. ^ 頭打ちパターンとよばれている。
  60. ^ JR各社を含む全鉄道事業者を対象としている。また、この省令の施行により従来の普通鉄道構造規則、鉄道運転規則、新幹線鉄道構造規則、新幹線鉄道運転規則は廃止された。
  61. ^ 変周式の基本構造は、故障状態でも不動作が無い(車上側が反応する)ことを第一の設計要件とし、地上子の電子回路に故障しやすい電源および能動素子(トランジスタやリレーなど)を必要とせず、受動素子(RLC等)のみを使用しかつ無電源で動作する方式として、旧国鉄の技術陣が発明した
  62. ^ T-DATCの車内信号表示灯の一部をATS表示灯と共用している
  63. ^ 静岡新聞の報道(Web魚拓)によると「都営地下鉄の一部でも導入されている」とあり、都営地下鉄でATSが使用されている路線は浅草線のみであるため、「i-ATS」はC-ATS/K-ATSとは、一部の機能を除き同型と検証可能である。
  64. ^ 京三製作所公式HP「京阪電気鉄道株式会社 京阪線 多情報連続式ATSシステム「K-ATS」の開発」記事で名称が「K-ATS」であることが確認できる。
  65. ^ 「多情報パターン制御式ATS『C-ATS』装置 - 相互直通運転に対応した地上データベース方式 - 」『鉄道と電気技術』 2008/10 日本鉄道電気技術協会
  66. ^ 標識の設置は変更前の数日に行われた。
  67. ^ 京阪の公式ホームページでの公式発表によると、K-ATSはC-ATSやi-ATSと同じ「多情報連続式自動列車停止装置」とあり、またこの公式発表には北総鉄道の安全報告書に掲載されているC-ATSの概念図と類似したものが掲載されていることから、K-ATSは細部こそ違うものの、C-ATS/i-ATSとほぼ同型であることが検証可能である。
  68. ^ 対応した編成の運転台に設置されている注意喚起などの音声が発せられるスピーカーに、ATS-SPと印字されてあるテプラが貼りつけられている。

出典

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  6. ^ 但し、JR東日本およびJR西日本とJR東海所属の285系電車は仕様が異なるため、常用最大がかかる。
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参考文献

  • 株式会社京三製作所 信号事業部第一技術部「初級講座 ATS-PF車上装置について」(pdf)『鉄道車両工業』第474号、日本鉄道車両工業会、2015年4月、41 - 42頁。 
  • 『信号シリーズ7 ATS・ATC』日本鉄道電気技術協会。 
  • 『ATS・ATC(改訂2版)』日本鉄道電気技術協会。 

関連項目

ATS関連の鉄道事故

外部リンク