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| routes_of_administration = 経[[静脈]]投与 |
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'''プロポフォール'''({{lang-en|''Propofol''}})は、[[全身麻酔]]や[[鎮静剤|鎮静用剤]]に用いられる化合物である。[[アストラゼネカ]]から商品名'''ディプリバン'''で発売され、[[後発医薬品]]も出ている。[[医薬品医療機器等法]](旧薬事法)における[[劇薬]]、[[習慣性医薬品]]、[[処方箋医薬品]]である。[[投与日数制限]]は設けられていない<ref name="diprivan_if">{{cite web |title=医薬品インタビューフォーム(2015年1月 改訂第15版)プロポフォール - 1%ディプリバン注 |url=http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/670227_1119402A1022_1_151_1F.pdf |format=pdf |date=2015-1 |work=www.info.pmda.go.jp |publisher=[[医薬品医療機器総合機構]](PMDA) [[アストラゼネカ]]株式会社 |accessdate=2016-09-13}}</ref>。 |
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'''プロポフォール'''(Propofol)は、麻酔や鎮静に用いられる化合物である。商品名ディプリバンで[[アストラゼネカ]]から発売され、後発医薬品も出ている。 |
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== 概要 == |
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薬事法における[[劇薬]]、[[習慣性医薬品]]である、 |
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=== 歴史 === |
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; 1974年 |
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: 英国で全身麻酔用剤として開発に着手。 |
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; 1986年 |
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: 英国で「全身麻酔の導入及び維持」の効能・効果で承認された。同年、''Diprivan''として販売された。 |
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; 1988年 |
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: 日本で臨床試験が開始された。 |
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; 1995年 |
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: 日本で「全身麻酔の導入及び維持」の効能・効果で承認された。 |
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; 1999年 |
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: 日本で「集中治療における人工呼吸中の鎮静」の効能・効果で承認された。 |
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== 化学的性質 |
=== 化学的性質 === |
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無色~微黄色透明の液体で脂溶性であり、[[エタノール]]、[[ジエチルエーテル]]、[[ヘキサン]]など有機溶媒にはよく溶けるが、[[水]]にはほとんど溶けない。 |
無色~微黄色透明の液体で[[脂溶性]]であり、[[エタノール]]、[[ジエチルエーテル]]、[[ヘキサン]]など有機溶媒にはよく溶けるが、[[水]]にはほとんど溶けない。 |
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=== 作用機序 === |
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GABA<sub>A</sub>受容体 |
[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]][[アゴニスト|作動作用]]と[[NMDA型グルタミン酸受容体|NMDA受容体]][[アンタゴニスト|抑制作用]]がある。麻酔効果は主にGABA<sub>A</sub>受容体作動作用によると考えられる。GABA<sub>A</sub>受容体作動薬にはこの他に[[バルビツール酸系]]や[[ベンゾジアゼピン]]がある。 |
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== 医薬品としての利用 == |
=== 医薬品としての利用 === |
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[[ファイル:Ampoule prefilled JPN.jpg|thumb|right|日本国内で販売されているプロポフォール製剤の例]] |
[[ファイル:Ampoule prefilled JPN.jpg|thumb|right|日本国内で販売されているプロポフォール製剤の例]] |
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プロポフォールの主な用途は医療分野における[[鎮静薬]]としての使用である。プロポフォールの持つ[[中枢神経]]抑制作用を利用し[[全身麻酔]]の導入、維持に用いられる。また、[[集中治療室|集中治療]]における[[人工呼吸]]時の鎮静にも頻用される。プロポフォール自体は上記のように水に溶けづらいので販売されているプロポフォール製剤は脂肪製剤を[[乳化剤]]とした[[エマルション]]の形を取っている。投与経路は[[点滴静脈注射|点滴]]からの静脈内注入である。投与開始後速やかに作用が発現し、投与された患者は数十秒で意識を失う。また、投与を中止した場合、それまでの投与速度、投与時間にもよるが通常10分前後で患者の意識が回復し刺激に応じて開眼する。 |
プロポフォールの主な用途は医療分野における[[鎮静薬]]としての使用である。プロポフォールの持つ[[中枢神経]]抑制作用を利用し[[全身麻酔]]の導入、維持に用いられる。また、[[集中治療室|集中治療]]における[[人工呼吸]]時の鎮静にも頻用される。プロポフォール自体は上記のように水に溶けづらいので販売されているプロポフォール製剤は脂肪製剤を[[乳化剤]]とした[[エマルション]]の形を取っている。投与経路は[[点滴静脈注射|点滴]]からの静脈内注入である。投与開始後速やかに作用が発現し、投与された患者は数十秒で意識を失う。また、投与を中止した場合、それまでの投与速度、投与時間にもよるが通常10分前後で患者の意識が回復し刺激に応じて開眼する。 |
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== 注意すべき点 == |
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[[心臓]]および[[血管]]系に対して抑制効果を有するため過剰に投与した場合心拍数、血圧の低下を招く。呼吸抑制作用があり[[呼吸]]が不十分に、あるいは停止することがあり、十分な監視下で使用されなければならない。注入時の血管痛が報告されている。注入に伴い注入部位周辺に[[疼痛]]を覚えることがある。 |
[[心臓]]および[[血管]]系に対して抑制効果を有するため過剰に投与した場合心拍数、血圧の低下を招く。呼吸抑制作用があり[[呼吸]]が不十分に、あるいは停止することがあり、十分な監視下で使用されなければならない。注入時の血管痛が報告されている。注入に伴い注入部位周辺に[[疼痛]]を覚えることがある。 |
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=== 副作用 === |
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* 低血圧(5%以上)、アナフィラキシー様症状(< 0.1%)、気管支痙攣(< 0.1%)、舌根沈下(0.1~5%)、一過性無呼吸(0.1~5%)、癲癇様体動(0.1~5%)、 |
* 低血圧(5%以上)、アナフィラキシー様症状(< 0.1%)、気管支痙攣(< 0.1%)、舌根沈下(0.1~5%)、一過性無呼吸(0.1~5%)、癲癇様体動(0.1~5%)、 |
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* 重篤な徐脈(0.1~5%)、不全収縮(< 0.1%)、 心室頻拍(< 0.1%)、心室性期外収縮(0.1~5%)、左脚ブロック(< 0.1%)、 |
* 重篤な徐脈(0.1~5%)、不全収縮(< 0.1%)、 心室頻拍(< 0.1%)、心室性期外収縮(0.1~5%)、左脚ブロック(< 0.1%)、 |
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* 肺水腫(< 0.1%)、覚醒遅延(0.1~5%)、横紋筋融解症(< 0.1%)、悪性高熱類似症状(< 0.1%) |
* 肺水腫(< 0.1%)、覚醒遅延(0.1~5%)、横紋筋融解症(< 0.1%)、悪性高熱類似症状(< 0.1%) |
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; 精神神経系の副作用<ref name=diprivan_if /> |
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* 0.1%未満で「[[多幸症]](0.02%)、[[性欲抑制不能]]、[[譫妄]](0.02%)」が起こる。発現機序は不明とされる。 |
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[[小児]]に対する使用法は確立していない。[[胎盤]]移行性があり、妊婦には使用してはいけない。[[母乳]]移行性があり、授乳婦へ投与する場合は授乳を中止する必要がある。 |
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=== 依存性 === |
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サルに対する試験で「'''[[バルビタール]][[身体依存]]への[[交差耐性|交差能]]'''・'''弱い[[依存形成|身体依存形成能]]'''・'''明らかな[[強化効果]]'''」を有することが示された<ref name="diprivan_if" />。 |
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⚫ | |||
プロポフォールを高用量で長時間使用し続けると、'''プロポフォール症候群'''又は'''プロポフォール注入症候群'''と呼ばれる病態が出現する事が有る。代謝性アシドーシスに始まり、横紋筋融解・高カリウム血症・ミオグロビン尿症、治療抵抗性徐脈、急性心不全を伴う心筋症、肝肥大・脂肪肝、高脂血症等が増発し、最悪の場合死に至る<ref>{{cite web|url=http://www.maruishi-pharm.co.jp/med2/files/safe/5.pdf?1318570066|title=1%プロポフォール注「マルイシ」の適正な使用のための情報|accessdate=2015-02-10|date=2005-11|format=PDF|publisher=丸石製薬}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-3_20160325.pdf|title=麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 III 静脈関連薬|accessdate=2016-07-31|date=2012-10-31|format=PDF|publisher=日本麻酔科学会}}</ref>{{rp|98}}。ミトコンドリア障害により遊離脂肪酸の代謝不全が起こる事が原因であると考えられる。 |
プロポフォールを高用量で長時間使用し続けると、'''プロポフォール症候群'''又は'''プロポフォール注入症候群'''と呼ばれる病態が出現する事が有る。代謝性アシドーシスに始まり、横紋筋融解・高カリウム血症・ミオグロビン尿症、治療抵抗性徐脈、急性心不全を伴う心筋症、肝肥大・脂肪肝、高脂血症等が増発し、最悪の場合死に至る<ref>{{cite web|url=http://www.maruishi-pharm.co.jp/med2/files/safe/5.pdf?1318570066|title=1%プロポフォール注「マルイシ」の適正な使用のための情報|accessdate=2015-02-10|date=2005-11|format=PDF|publisher=丸石製薬}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-3_20160325.pdf|title=麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 III 静脈関連薬|accessdate=2016-07-31|date=2012-10-31|format=PDF|publisher=日本麻酔科学会}}</ref>{{rp|98}}。ミトコンドリア障害により遊離脂肪酸の代謝不全が起こる事が原因であると考えられる。 |
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*[[2014年]]2月、[[東京女子医大病院]]で頸部リンパ管腫の摘出[[手術]]を受けた2歳男児が、3日後の2月21日に[[急性循環不全]]で死亡した。術後投与されたプロポフォールが原因だった可能性があり、[[東京都]]は病院への立ち入り調査を実施、[[警視庁]]は[[業務上過失致死]]容疑で捜査し、証言により、成人用量あたりのOD(過量)での使用が確定した。[[全身麻酔]]剤であり[[人工呼吸器]]を使う際の鎮静剤としても使用されるが、過量においては[[呼吸]]や心拍が著しく低下する恐れもありまた中毒になった際の解毒剤がなくレスキュー手段がないため、特にメーカー添付文書では集中治療中の小児への投与を禁忌と明記している、また、投与に対する事前説明はなく必要とされる家族同意書も得られていなかったが、捜査により死亡小児には成人用量の2.7倍もの過量で投与されていたことが判明した<ref name="insert">{{Cite web|url=http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1119402A1022_1_17/|title=1%ディプリバン注 添付文書|accessdate=2016-07-31|date=2015-01|publisher=}}</ref><ref name="asahi">[http://www.asahi.com/articles/ASG355259G35ULBJ00G.html "首の手術受けた2歳死亡、鎮静剤が原因か 東京女子医大"]{{リンク切れ|date=2016年2月}} 朝日新聞デジタル 2014年3月5日20時37分</ref><ref name="sankei">[http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140416/crm14041608070001-n1.htm 死亡の2歳男児、鎮静剤、成人基準の2・5倍投与か 2014.4.16]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>(しかし、小児の麻酔導入・維持に必要な体重あたりのプロポフォール投与量は成人よりも多量が必要である<ref>{{cite web|url=http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-10_20160325.pdf|title=麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 X 小児麻酔薬|accessdate=2016-07-31|date=2012-10-31|format=PDF|publisher=日本麻酔科学会}}</ref>{{rp|430}})。また、同大医学部の非公式会見(大学側のトップの承認によるものではなく、むしろ内部対立が背景<ref>[http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140607/crm14060701080001-n1.htm 内部告発で“場外戦” 東京女子医大病院の男児死亡、生かされなかった教訓 2014.6.7]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>)および捜査結果からは、過去5年間にわたり、14歳未満の55人に63回ほど投与しており過量投与も常態化していたと発表された<ref name="jiji">[http://www.jiji.com/jc/zc?k=201406/2014060500838 禁止鎮静剤、子ども55人に投与]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref><ref name="sankei2">[http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140604/crm14060408140003-n1.htm 捜査関係者らによると、同院は平成21年1月~25年12月にかけて、集中治療室(ICU)で人工呼吸中だった0~14歳の男女に対し延べ63回、この状態での子供への使用が禁じられているプロポフォールを投与 2014.6.4]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>。さらには同医大理事長の会見により、詳しい死因は不明ながら、同様の小児投与事例のうち12人が最短で数日後、最長3年以内に死亡していたことも公表された<ref name="mai"/>。 |
*[[2014年]]2月、[[東京女子医大病院]]で頸部リンパ管腫の摘出[[手術]]を受けた2歳男児が、3日後の2月21日に[[急性循環不全]]で死亡した。術後投与されたプロポフォールが原因だった可能性があり、[[東京都]]は病院への立ち入り調査を実施、[[警視庁]]は[[業務上過失致死]]容疑で捜査し、証言により、成人用量あたりのOD(過量)での使用が確定した。[[全身麻酔]]剤であり[[人工呼吸器]]を使う際の鎮静剤としても使用されるが、過量においては[[呼吸]]や心拍が著しく低下する恐れもありまた中毒になった際の解毒剤がなくレスキュー手段がないため、特にメーカー添付文書では集中治療中の小児への投与を禁忌と明記している、また、投与に対する事前説明はなく必要とされる家族同意書も得られていなかったが、捜査により死亡小児には成人用量の2.7倍もの過量で投与されていたことが判明した<ref name="insert">{{Cite web|url=http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1119402A1022_1_17/|title=1%ディプリバン注 添付文書|accessdate=2016-07-31|date=2015-01|publisher=}}</ref><ref name="asahi">[http://www.asahi.com/articles/ASG355259G35ULBJ00G.html "首の手術受けた2歳死亡、鎮静剤が原因か 東京女子医大"]{{リンク切れ|date=2016年2月}} 朝日新聞デジタル 2014年3月5日20時37分</ref><ref name="sankei">[http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140416/crm14041608070001-n1.htm 死亡の2歳男児、鎮静剤、成人基準の2・5倍投与か 2014.4.16]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>(しかし、小児の麻酔導入・維持に必要な体重あたりのプロポフォール投与量は成人よりも多量が必要である<ref>{{cite web|url=http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-10_20160325.pdf|title=麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 X 小児麻酔薬|accessdate=2016-07-31|date=2012-10-31|format=PDF|publisher=日本麻酔科学会}}</ref>{{rp|430}})。また、同大医学部の非公式会見(大学側のトップの承認によるものではなく、むしろ内部対立が背景<ref>[http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140607/crm14060701080001-n1.htm 内部告発で“場外戦” 東京女子医大病院の男児死亡、生かされなかった教訓 2014.6.7]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>)および捜査結果からは、過去5年間にわたり、14歳未満の55人に63回ほど投与しており過量投与も常態化していたと発表された<ref name="jiji">[http://www.jiji.com/jc/zc?k=201406/2014060500838 禁止鎮静剤、子ども55人に投与]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref><ref name="sankei2">[http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140604/crm14060408140003-n1.htm 捜査関係者らによると、同院は平成21年1月~25年12月にかけて、集中治療室(ICU)で人工呼吸中だった0~14歳の男女に対し延べ63回、この状態での子供への使用が禁じられているプロポフォールを投与 2014.6.4]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>。さらには同医大理事長の会見により、詳しい死因は不明ながら、同様の小児投与事例のうち12人が最短で数日後、最長3年以内に死亡していたことも公表された<ref name="mai"/>。 |
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:なお、よく報道でも混同されているが、法律上でこうした使用が禁止されているわけではなく、あくまでメーカー側と臨床現場の共同での世界各国統計調査により死亡例報告が相次いだ使用ケースにおいては、説明書において使用禁忌が明記されているに留まるのが現状である。同医大においても医師判断で使えるものではなく、個別症例により他薬では代用が効かない際に学内倫理委に審査に出して承認される必要があり、家族同意書も必須である<ref name="mai">[http://mainichi.jp/select/news/20140613k0000m040102000c.html プロポフォールなどの禁止薬は通常、代わりに使える薬がない場合、病院内の倫理委員会などの了承を得たうえで、本人や家族の同意を得て使用する。厚生労働省の担当者は「法的に使用が禁止されているわけではないが、その薬しかないという合理的な理由があるときだけ例外的に使用するもの」と話す。]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>。 |
:なお、よく報道でも混同されているが、法律上でこうした使用が禁止されているわけではなく、あくまでメーカー側と臨床現場の共同での世界各国統計調査により死亡例報告が相次いだ使用ケースにおいては、説明書において使用禁忌が明記されているに留まるのが現状である。同医大においても医師判断で使えるものではなく、個別症例により他薬では代用が効かない際に学内倫理委に審査に出して承認される必要があり、家族同意書も必須である<ref name="mai">[http://mainichi.jp/select/news/20140613k0000m040102000c.html プロポフォールなどの禁止薬は通常、代わりに使える薬がない場合、病院内の倫理委員会などの了承を得たうえで、本人や家族の同意を得て使用する。厚生労働省の担当者は「法的に使用が禁止されているわけではないが、その薬しかないという合理的な理由があるときだけ例外的に使用するもの」と話す。]{{リンク切れ|date=2016年2月}}</ref>。 |
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=== 治療指数 === |
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マウスへの静脈内投与における[[ED50|50%催眠量]](HD<sub>50</sub>)は'''12.9mg/kg'''、[[50%致死量]](LD<sub>50</sub>)は'''57.9mg/kg'''、[[治療指数]](LD<sub>50</sub>/HD<sub>50</sub>)は'''4.5'''であった<ref name="diprivan_if" />。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
2016年9月13日 (火) 13:29時点における版
IUPAC命名法による物質名 | |
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| |
臨床データ | |
胎児危険度分類 |
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法的規制 | |
薬物動態データ | |
血漿タンパク結合 | 95 to 99% |
代謝 | 肝臓にてグルクロン酸抱合 |
半減期 | 30 〜 60 分 |
排泄 | 胆汁排泄 |
識別 | |
CAS番号 | 2078-54-8 |
ATCコード | N01AX10 (WHO) |
PubChem | CID: 4943 |
DrugBank | DB00818 |
ChemSpider | 4774 |
UNII | YI7VU623SF |
KEGG | D00549 |
ChEBI | CHEBI:44915 |
ChEMBL | CHEMBL526 |
化学的データ | |
化学式 | C12H18O |
分子量 | 178.271 g/mol |
| |
プロポフォール(英語: Propofol)は、全身麻酔や鎮静用剤に用いられる化合物である。アストラゼネカから商品名ディプリバンで発売され、後発医薬品も出ている。医薬品医療機器等法(旧薬事法)における劇薬、習慣性医薬品、処方箋医薬品である。投与日数制限は設けられていない[1]。
概要
歴史
- 1974年
- 英国で全身麻酔用剤として開発に着手。
- 1986年
- 英国で「全身麻酔の導入及び維持」の効能・効果で承認された。同年、Diprivanとして販売された。
- 1988年
- 日本で臨床試験が開始された。
- 1995年
- 日本で「全身麻酔の導入及び維持」の効能・効果で承認された。
- 1999年
- 日本で「集中治療における人工呼吸中の鎮静」の効能・効果で承認された。
化学的性質
無色~微黄色透明の液体で脂溶性であり、エタノール、ジエチルエーテル、ヘキサンなど有機溶媒にはよく溶けるが、水にはほとんど溶けない。
作用機序
GABAA受容体作動作用とNMDA受容体抑制作用がある。麻酔効果は主にGABAA受容体作動作用によると考えられる。GABAA受容体作動薬にはこの他にバルビツール酸系やベンゾジアゼピンがある。
医薬品としての利用
プロポフォールの主な用途は医療分野における鎮静薬としての使用である。プロポフォールの持つ中枢神経抑制作用を利用し全身麻酔の導入、維持に用いられる。また、集中治療における人工呼吸時の鎮静にも頻用される。プロポフォール自体は上記のように水に溶けづらいので販売されているプロポフォール製剤は脂肪製剤を乳化剤としたエマルションの形を取っている。投与経路は点滴からの静脈内注入である。投与開始後速やかに作用が発現し、投与された患者は数十秒で意識を失う。また、投与を中止した場合、それまでの投与速度、投与時間にもよるが通常10分前後で患者の意識が回復し刺激に応じて開眼する。
注意すべき点
心臓および血管系に対して抑制効果を有するため過剰に投与した場合心拍数、血圧の低下を招く。呼吸抑制作用があり呼吸が不十分に、あるいは停止することがあり、十分な監視下で使用されなければならない。注入時の血管痛が報告されている。注入に伴い注入部位周辺に疼痛を覚えることがある。
副作用
- 重大な副作用[2]
- 低血圧(5%以上)、アナフィラキシー様症状(< 0.1%)、気管支痙攣(< 0.1%)、舌根沈下(0.1~5%)、一過性無呼吸(0.1~5%)、癲癇様体動(0.1~5%)、
- 重篤な徐脈(0.1~5%)、不全収縮(< 0.1%)、 心室頻拍(< 0.1%)、心室性期外収縮(0.1~5%)、左脚ブロック(< 0.1%)、
- 肺水腫(< 0.1%)、覚醒遅延(0.1~5%)、横紋筋融解症(< 0.1%)、悪性高熱類似症状(< 0.1%)
- 精神神経系の副作用[1]
小児に対する使用法は確立していない。胎盤移行性があり、妊婦には使用してはいけない。母乳移行性があり、授乳婦へ投与する場合は授乳を中止する必要がある。
プラスチック製品中の化学物質の溶出が指摘されている。三方活栓や点滴の器具にはプロポフォールに対応した物を使用する。脂肪製剤は栄養価が高く細菌が繁殖しやすいため、保存する際は冷蔵保存するなど製剤の汚染には十分注意しなければならない。
依存性
サルに対する試験で「バルビタール身体依存への交差能・弱い身体依存形成能・明らかな強化効果」を有することが示された[1]。
プロポフォール(注入)症候群
プロポフォールを高用量で長時間使用し続けると、プロポフォール症候群又はプロポフォール注入症候群と呼ばれる病態が出現する事が有る。代謝性アシドーシスに始まり、横紋筋融解・高カリウム血症・ミオグロビン尿症、治療抵抗性徐脈、急性心不全を伴う心筋症、肝肥大・脂肪肝、高脂血症等が増発し、最悪の場合死に至る[3][4]:98。ミトコンドリア障害により遊離脂肪酸の代謝不全が起こる事が原因であると考えられる。
死亡例
- マイケル・ジャクソン - プロポフォールの過剰投与による副作用が原因で急性中毒による呼吸不全および心不全を起こし、ERの甲斐なく50歳で死に至った。常習性作用があり米国においては法律規制も甘く、麻薬の代わりのように使われることが横行していたため、氏もまた常習により生理機能が乱れていたと報じられている。付き添いの医師がおり、過量使用なども甘く見逃されていた模様で、死因となった投与が本人によるものなのかこの医師なのかで裁判となっている[5][6]。
- 2014年2月、東京女子医大病院で頸部リンパ管腫の摘出手術を受けた2歳男児が、3日後の2月21日に急性循環不全で死亡した。術後投与されたプロポフォールが原因だった可能性があり、東京都は病院への立ち入り調査を実施、警視庁は業務上過失致死容疑で捜査し、証言により、成人用量あたりのOD(過量)での使用が確定した。全身麻酔剤であり人工呼吸器を使う際の鎮静剤としても使用されるが、過量においては呼吸や心拍が著しく低下する恐れもありまた中毒になった際の解毒剤がなくレスキュー手段がないため、特にメーカー添付文書では集中治療中の小児への投与を禁忌と明記している、また、投与に対する事前説明はなく必要とされる家族同意書も得られていなかったが、捜査により死亡小児には成人用量の2.7倍もの過量で投与されていたことが判明した[2][7][8](しかし、小児の麻酔導入・維持に必要な体重あたりのプロポフォール投与量は成人よりも多量が必要である[9]:430)。また、同大医学部の非公式会見(大学側のトップの承認によるものではなく、むしろ内部対立が背景[10])および捜査結果からは、過去5年間にわたり、14歳未満の55人に63回ほど投与しており過量投与も常態化していたと発表された[11][12]。さらには同医大理事長の会見により、詳しい死因は不明ながら、同様の小児投与事例のうち12人が最短で数日後、最長3年以内に死亡していたことも公表された[13]。
- なお、よく報道でも混同されているが、法律上でこうした使用が禁止されているわけではなく、あくまでメーカー側と臨床現場の共同での世界各国統計調査により死亡例報告が相次いだ使用ケースにおいては、説明書において使用禁忌が明記されているに留まるのが現状である。同医大においても医師判断で使えるものではなく、個別症例により他薬では代用が効かない際に学内倫理委に審査に出して承認される必要があり、家族同意書も必須である[13]。
治療指数
マウスへの静脈内投与における50%催眠量(HD50)は12.9mg/kg、50%致死量(LD50)は57.9mg/kg、治療指数(LD50/HD50)は4.5であった[1]。
脚注
- ^ a b c d “医薬品インタビューフォーム(2015年1月 改訂第15版)プロポフォール - 1%ディプリバン注” (pdf). www.info.pmda.go.jp. 医薬品医療機器総合機構(PMDA) アストラゼネカ株式会社 (2015年1月). 2016年9月13日閲覧。
- ^ a b “1%ディプリバン注 添付文書” (2015年1月). 2016年7月31日閲覧。
- ^ “1%プロポフォール注「マルイシ」の適正な使用のための情報” (PDF). 丸石製薬 (2005年11月). 2015年2月10日閲覧。
- ^ “麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 III 静脈関連薬” (PDF). 日本麻酔科学会 (2012年10月31日). 2016年7月31日閲覧。
- ^ マイケルさんが亡くなった同日、「彼の容体が悪化した」とマーレー医師からの緊急電話を受けた一方、電話のなかでウィリアムズさんは、マーレー医師に「まだ救急車を呼ぶな」とも言われたと証言 マーレー医師が動揺した様子で「あの薬が病院にばれたらまずい。今すぐ家に連れて帰れ」と繰り返し要求
- ^ 89年に認可されて以来、医療関係者による乱用の報告が数多く上がっている。モルヒネのような規制薬物ではないため病院の保管が甘く、くすねるのが簡単だからだ。07年の調査では、プロポフォール乱用事件の18%が医師または看護師によるもので、10年前の6倍だった。医療関係者以外の乱用も増えている。プロポフォールを投与された患者の中には「気に入って、どういう薬か知りたがる」人もいると、ブライソンは言う。
- ^ "首の手術受けた2歳死亡、鎮静剤が原因か 東京女子医大"[リンク切れ] 朝日新聞デジタル 2014年3月5日20時37分
- ^ 死亡の2歳男児、鎮静剤、成人基準の2・5倍投与か 2014.4.16[リンク切れ]
- ^ “麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 X 小児麻酔薬” (PDF). 日本麻酔科学会 (2012年10月31日). 2016年7月31日閲覧。
- ^ 内部告発で“場外戦” 東京女子医大病院の男児死亡、生かされなかった教訓 2014.6.7[リンク切れ]
- ^ 禁止鎮静剤、子ども55人に投与[リンク切れ]
- ^ 捜査関係者らによると、同院は平成21年1月~25年12月にかけて、集中治療室(ICU)で人工呼吸中だった0~14歳の男女に対し延べ63回、この状態での子供への使用が禁じられているプロポフォールを投与 2014.6.4[リンク切れ]
- ^ a b プロポフォールなどの禁止薬は通常、代わりに使える薬がない場合、病院内の倫理委員会などの了承を得たうえで、本人や家族の同意を得て使用する。厚生労働省の担当者は「法的に使用が禁止されているわけではないが、その薬しかないという合理的な理由があるときだけ例外的に使用するもの」と話す。[リンク切れ]