「日本の医療」の版間の差分
Forestales (会話 | 投稿記録) 編集の要約なし |
m 外部リンクの修正 http:// -> https:// (www.med.or.jp) (Botによる編集) |
||
(58人の利用者による、間の121版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
[[File: |
[[File:OECD health expenditure per capita by country.svg|thumb|right|400px|OECD各国の一人あたり保健支出(青は公的、赤は私的){{Sfn|OECD|2013}}]] |
||
[[File: |
[[File:Healthcare expenditures in Japan by Age.svg|thumb|right|400px|日本の一人あたり[[医療費]](千円単位)および医師受診回数。年齢別・科目別データ。グレーは後期高齢者医療制度。]] |
||
{{日本の一般政府歳出}} |
|||
'''日本の医療'''(にほんのいりょう, Healthcare in Japan)では、[[日本]]における[[医療]]制度について述べる。 |
|||
'''日本の医療'''(にほんのいりょう、{{lang-en|Healthcare in Japan}})は、複数提供者制の[[社会保険]]による[[ユニバーサルヘルスケア]]が実現されており、[[厚生労働省]]が所管している。2012年の[[国内総生産|GDP]]に占める保健支出は10.3%であった(OECD平均は9.3%){{Sfn|OECD|2015|p=128}}。人口高齢化、一人あたり支出の増加、医薬品・医療機器の高度化によって支出は増加する傾向にある{{Sfn|OECD|2015|p=129}}。 |
|||
{{See also|日本の健康}} |
|||
[[医療]]制度は「[[ユニバーサルヘルスケア|国民皆保険制度]]{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}」「フリーアクセス{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}」「自由[[開業医]]制{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}」「[[診療報酬]]出来高払い{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}」に特徴づけられる。[[医療保険]]は1961年に[[ユニバーサルヘルスケア]]が実現され{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.2}}、原則として市町村が運営する[[国民健康保険]]への強制加入となり、要件を満たす者は代わって職域保険([[被用者保険]]や[[国民健康保険|国保組合]]など)への加入を可能としている{{Sfn|財務総合政策研究所|2010|at=資料編}}。医療制度の効率性については、2000年の[[世界保健機関]]調査では日本は世界10位とし<ref>{{Cite book | editor-last = Haden | editor-first = Angela | editor2-last = Campanini | editor2-first = Barbara | title = The world health report 2000 - Health systems: improving performance | year = 2000 | place = Geneva, Switzerland | publisher = [[世界保健機関]] | url = http://www.who.int/whr/2000/en/whr00_en.pdf | isbn = 92-4-156198-X | author = World Health Organisation, World Health Staff |ref=harv}}</ref>、[[ブルームバーグ (企業)|ブルームバーグ]]では世界3位と評価している<ref>{{Cite web|date=|url=http://www.bloomberg.com/visual-data/best-and-worst/most-efficient-health-care-countries|title=Most Efficient Health Care: Countries|publisher=[[ブルームバーグ (企業)|ブルームバーグ]]|accessdate=2013-08-31|archiveurl=https://web.archive.org/web/20130830044647/http://www.bloomberg.com/visual-data/best-and-worst/most-efficient-health-care-countries|archivedate=2013-08-30|url-status=dead|url-status-date=2017-10}}</ref>。 |
|||
== 概要 == |
|||
{{See also|医師#日本の医師}} |
|||
[[日本]]では、[[国民健康保険]]制度により[[ユニバーサルヘルスケア]]が実現されている。 |
|||
医療はフリーアクセス制であり、保険医療機関であれば受診前に保険組合への照会を必要としない。 |
|||
平成22年度の人口1人当たり国民医療費は、292,200円であった<ref name="kosei2010" />。 |
|||
医療機関は公営・民営それぞれが存在し、[[日本]]最大の病院グループは独立行政法人[[国立病院機構]]である。国民1人あたりの生涯の[[医療費]]は、男性で2,600万円、女性で2,800万円であり、その50%は70歳以上のステージで発生している(2016年推計)<ref>{{Cite report|publisher=厚生労働省 |author=保険局調査課 |title=医療保険に関する基礎資料 生涯医療費 平成28年度|url=https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/iryouhoken/database/zenpan/kiso.html |date=2019-03-13}}</ref>。 |
|||
受診者の自己負担額(一部負担金)は、70歳以上は2割負担、70歳未満は3割負担、[[生活保護者]]については0割である([[健康保険法]]第七十四条)。日本の生活保護の医療扶助額は年間約1.5兆円に上り、[[多剤大量処方|医薬品の過剰処方]]などの問題が指摘されている<ref>http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/121125/waf12112518000025-n1.htm</ref>。 |
|||
日本社会は[[高齢化]]が進んでおり、2013年の高齢化率は'''24.1%'''まで上昇し、高齢社会白書では「我が国は世界のどの国も経験したことのない高齢社会を迎えている」と述べられた<ref>{{Cite |和書|publisher=内閣府|title=平成25年版 高齢社会白書 |date=2013 |isbn=978-4904681053 |url=https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html }}</ref>。GDPにおける医療費割合の増加スピードも激しく、また同時に[[少子化]]も進行し、2030年の将来にはGDP比+3%増加すると推定され、医療財政の構造は困難に直面している{{Sfn|財務総合政策研究所|2010|at=資料編}}{{Sfn|OECD|2009|p=99}}{{Sfn|OECD|2015|p=128}}。2019年度の医療費総額「[[国民医療費]]」は毎年右肩上がりであり、前年度より'''9946億円'''(2・3%増)増えた44兆3895億円となっており、年齢別では「0 - 14歳」が'''16万4300円'''、「15 |
|||
日本の医療制度は、世界的に見て効率性が高いとされ、[[世界保健機関]]は2000年の調査で、日本の医療制度の効率性を世界10位とした<ref>{{PDFlink|[http://www.who.int/whr/2000/en/whr00_en.pdf Health Systems: Improving Performance]}} - [[世界保健機関]]</ref>。[[ブルームバーグ (企業)|ブルームバーグ]]は、日本の医療制度の効率性を世界3位と評価している<ref>{{Cite web |date= |url=http://www.bloomberg.com/visual-data/best-and-worst/most-efficient-health-care-countries |title=Most Efficient Health Care: Countries |publisher=[[ブルームバーグ (企業)|ブルームバーグ]]|accessdate=2013-8-31}}</ref>。 |
|||
- 44歳」が'''12万6千円'''、「45 - 64歳」が'''28万5800円'''、「65歳以上」が'''75万4200円'''となっている<ref>{{Cite web|和書|title=医療費、3年連続で過去最高に 2019年度は44兆円(朝日新聞デジタル)|url=https://news.yahoo.co.jp/articles/d51658a029a8317be79b29a5b83943be0d4095e3|website=Yahoo!ニュース|accessdate=2021-11-15|language=ja}}</ref>。 |
|||
{{For2|国民皆保険の歴史|日本の福祉#歴史}} |
|||
{| class="wikitable" style="float:left; margin-right:2em; font-size:85%" |
|||
{{TOC limit|3}} |
|||
|+ 診療種類別 日本の国民[[医療費]](平成22年度)<ref name="kosei2010">{{Cite report |publisher=厚生労働省 |date=2010-09-27 |title=平成22年度 国民医療費の概況 |url=http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/10/index.html}}</ref> |
|||
== 保健状態 == |
|||
{{Main|日本の健康}} |
|||
世界的な[[平均余命]]については、WHO [[世界保健機関|World health Statistics]]によると、先進国の平均寿命は80歳(2011年度){{Sfn|WHO|2013|loc=pp49-59, Part3 Grobal health Indicators>1. Life expectancy and mortality}}、先進国の平均健康寿命は70歳(2007年度)であり<ref name="who2010-pp45">{{Cite report|url=http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/EN_WHS10_Full.pdf |publisher=WHO |title=World Health Statistics 2010 |at=pp,45-57, Part2 Grobal health Indicators>1. Mortality and burden of disease |date=2010}}</ref>、一方で日本の平均寿命は83歳(2011年度){{Sfn|WHO|2013|loc=pp49-59, Part3 Grobal health Indicators>1. Life expectancy and mortality}}、平均健康寿命は76歳(2007年度)であった<ref name="who2010-pp45" />。 |
|||
日本の三大死因は、2013年人口動態調査によると[[悪性腫瘍|悪性新生物]](28.7%)、[[心疾患]]、[[脳血管疾患]]であった<ref name="jinkou">{{Cite report|publisher=厚生労働省|title=平成24年 人口動態調査, 第7表 |date=2013-09-05 |url=https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html }}</ref>。[[肥満率]]は世界最小の低さである。 |
|||
[[File:Population pyramid of Japan.svg|thumb|left|200px|日本の[[人口ピラミッド]]]] |
|||
死亡率についても世界で低位のグループであり、WHOの2013年統計では、[[妊産婦死亡率]]・[[周産期死亡率]]・[[新生児死亡率]]・[[乳児死亡率]]・[[乳幼児死亡率]]・成人(15-60歳)死亡率らは、世界平均や先進国平均よりも著しく低いものであった{{Sfn|WHO|2013|loc=pp.61-71, Part3 Grobal health Indicators>2. Cause-specific mortality and morbidity}}。これらは1900年(明治43年)前後に統計を取り始めて以後、単年度の増減はあるが10年推移では必ず減少し、2011年度では史上最少値または史上最少値の近似値であり、妊産婦死亡率・周産期死亡率・新生児死亡率・乳児死亡率・乳幼児死亡率は生物的な限界値近くまで減少していて、2000年代以後の減少率はゼロに近くなっている<ref>{{Cite report|url=https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2013.asp?chap=5&title1=%87X%81D%8E%80%96S%81E%8E%F5%96%BD |publisher=[[国立社会保障・人口問題研究所]] |title=人口統計資料集 2013年度版 |at=Ⅴ.死亡・寿命 |date=2013}}</ref>。 |
|||
{{-}} |
|||
{| class="wikitable" style="font-size:85%; text-align:right; margin-left:1em" |
|||
|+ OECD各国の医療サービス比較 |
|||
! !! 病床数{{Sfn|OECD|2015|loc=Assessment and recommendations}} |
|||
! トータル<br />平均入院日数{{Sfn|OECD|2015|loc=Assessment and recommendations}} |
|||
! 急性期<br />平均入院日数{{Sfn|OECD|2015|loc=Assessment and recommendations}} |
|||
! 長期病床数{{Sfn|OECD|2013}} |
|||
! 医師数{{Sfn|OECD|2013}} |
|||
! 看護師数{{Sfn|OECD|2013}} |
|||
! 医師の<br />年間診察数{{Sfn|OECD|2013}} |
|||
! 市民のの<br />年間受診数{{Sfn|OECD|2015|loc=Assessment and recommendations}} |
|||
! 薬剤費<br />(PPP米ドル){{Sfn|OECD|2013}} |
|||
|- style="font-weight:bold" |
|||
|{{rh}} | 日本 || 13.4 || 31.2 || 17.5 || 36.7 || 2.2 || 10.0 || 5,916 || 13.0 || 648 |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| OECD平均 || 4.8 || 8.4 || 7.4 || 49.1 || 3.2 || 8.8 || 2,385 || 6.7 || 483 |
|||
!rowspan=4| 医科診療<br>272,228億円<br> (72.7%) |
|||
|rowspan=2|入院 <br>140,908億円 (37.7%)|| [[病院]]||136,416億円 (36.5%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| 上位国 || 13.4 || 31.2 || 17.5 || 79.5 || 6.1 || 16.6 || 6,482 || 14.3 || 985 |
|||
| 一般[[診療所]]||4,4192億円 (1.2%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| 下位国 || 1.6 || 3.9 || 3.9 || 18.6 || 0.2 || 0.9 || 777 || 2.7 || 178 |
|||
| rowspan=2|入院外 <br> 131,320億円 (35.1%)||病院||51,860億円 (13.9%) |
|||
|- style="font-size:70%; background:#ddd" |
|||
|- |
|||
| 単位値 || 人口1000人 || || || 高齢者人口1000人 || 人口1000人 || 人口1000人 || 医師1人 || 人口1人 ||人口1人 |
|||
| 一般診療所||79,460億円 (21.2%) |
|||
| |
|} |
||
!colspan=3| [[歯科]]診療 |
|||
しかし自らを[[健康]]と考える人は少なく、健康だと答える人はOECD中で最低であった{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.1.9}}。また[[日本における自殺|自殺率の高さ]]が指摘されており、OECDは「[[日本の精神保健|日本の精神医療]]制度はOECD諸国の中で、精神病床の多さと[[自殺率]]の高さなど悪い意味で突出している」と報告している<ref>{{Cite report |df=ja |title=Making Mental Health Count The Social and Economic Costs of Neglecting Mental Health Care |publisher=[[OECD]] |date=July 2014 |doi=10.1787/9789264208445-en}}</ref>。 |
|||
| 26,020億円 (7.0%) |
|||
<gallery widths="300px" heights="220px"> |
|||
File:Life Expectancy in OECD.svg|OECD各国の[[平均余命]] |
|||
File:oecd-goodhealth.svg|OECD各国における成人の健康自己申告。「How is your health in general?」にgoodまたはbetterと回答した割合(%){{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.1.9}}。 |
|||
</gallery> |
|||
== 医療制度 == |
|||
{{For2|各国との比較|医療制度}} |
|||
=== 医療保険 === |
|||
[[File:Oecd-healthfinancing.svg|thumb|400px|right|OECD各国の財源別保健支出{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.7.6}}。<br>水色は政府一般歳出、紫は社会保険、赤は自己負担、橙は民間保険、緑はその他]] |
|||
{| class="wikitable" style="float:right; margin-left:1em; font-size:80%; text-align:right" |
|||
|+ 日本の医療保険加入者数(2013年){{Sfn|厚生労働白書|2013|loc=資料編pp26}} |
|||
! 保険者 !! 加入者数(万人) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| [[国民健康保険]] || 3,831 |
|||
!colspan=3| [[薬局]]調剤 |
|||
| 62,412億円 (16.4%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| [[全国健康保険協会]] || 3,502 |
|||
!colspan=3| 入院時食事 |
|||
| 8,297億円 (2.2%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| 健保組合・共済など || 3,869 |
|||
!colspan=3| [[訪問介護]] |
|||
| 740億円 (0.2%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| [[後期高齢者医療制度]] || 1,473 |
|||
!colspan=3| [[療養費]]など |
|||
| 5,505億円 (1.5%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| (参考) [[第三分野保険|民間医療保険]]<ref name="prifr" /> || 1,586万契約 |
|||
!colspan=3| 総額 !! 37兆4,202億円 |
|||
|} |
|} |
||
{{See also|公的医療保険制度}} |
|||
{| class="wikitable" style="float:left; font-size:85%" |
|||
日本の公的医療保険は、都道府県単位の[[国民健康保険]](国保)が運営されており、原則として強制加入となる<ref name="prifr" />。保険給付は現物支給([[療養の給付]])が原則であり<ref name="ndl609" />、現金給付([[療養費]])はあくまでやむを得ない場合に限られる<ref group="注釈">法制上の建前は「療養の給付」以外の保険給付はすべて現金給付であるが、その多くで実際には現物給付としての運用がなされている。</ref>。 |
|||
|+ 財源別 日本の国民医療費(平成22年度)<ref name="kosei2010" /> |
|||
!rowspan=2| 公費 <br>142,562億円 (38.1%) |
|||
* 所定の要件を満たす事業主に[[雇用]]された場合は被用者保険に加入することなり、保険者は事業主及び被用者それぞれの要件により、[[全国健康保険協会]]・[[健康保険組合]]・[[船員保険]]・[[共済組合]]等のいずれかとなる。被用者に[[扶養]]されている者は被扶養者として、被保険者と同一の保険に加入する。 |
|||
| 国庫||97,037億円 (25.9%) |
|||
* 75歳以上となった場合は[[後期高齢者医療制度]]に移行となる。後期高齢者医療制度の保険者は、都道府県単位で設置される[[後期高齢者医療広域連合]]である。 |
|||
公的医療保険者間では、現役世代が加入する各医療保険者からの後期高齢者医療制度への支援金など複雑な資金移転が行われている。現役世代が加入する医療保険者間でについては、65-74歳の加入者数により[[リスク構造調整]]が行われている(これを行う仕組みは、[[前期高齢者医療制度]]と呼ばれている)。 |
|||
また民間の医療保険市場も存在し[[第三分野保険]]と呼ばれるが、諸外国に比べて発達していない。理由について[[財務総合政策研究所]]は、日本の公的保険診療は公定価格制となっている点、および諸外国では歯科・眼科・外来処方箋が公的保険対象外となっていることが多いが日本では給付対象となっている点、[[混合診療]]が禁止となっている点を挙げている<ref name="prifr">{{Cite journal|publisher=[[財務総合政策研究所]] |journal=フィナンシャル・レビュー |title=日本の公的医療制度の課題と民間医療保険の可能性 |volume=111 |date=2012-09-01 |url=http://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list6/fr111.htm }}</ref>。 |
|||
=== 医療費負担の補助制度 === |
|||
医療保険による補助 |
|||
* [[高額療養費]] - 世帯の月間自己負担が一定額(世帯収入により変化)を超える場合、その部分を保険者が負担する<ref name="ndl609">{{Cite journal|1=和書|title=医療費における自己負担と医療アクセス - 保険給付と高額療養費、難病対策その他の公費医療|author=泉眞樹子|publisher=国立国会図書館|journal=レファレンス|volume=60|issue=9|pages=91-116,|date=2010-09|url=https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3050291|naid=40017320355}}</ref> |
|||
* [[特定疾病|長期高額疾病]](特定疾病)に指定された疾病<ref name="ndl609" /> |
|||
公費による補助 |
|||
* [[公費負担医療#日本の制度|公費負担医療]] - 該当ケースにより負担額は様々<ref name="ndl609" /> |
|||
* [[特定疾患治療研究事業]]または[[小児慢性特定疾患治療研究事業]]に指定された難病<ref name="ndl609" /> |
|||
税制による補助 ([[確定申告]]控除) |
|||
* [[医療費控除]] - 10万円を超える自己負担額(保険償還額を除く)の控除<ref name="ndl609" /> |
|||
* [[社会保険料控除]] - 公的な医療保険・介護保険に対しての控除 |
|||
* [[生命保険料控除]] - 私的な生命保険・医療保険・介護保険に対しての控除 |
|||
医療機関による補助 |
|||
* [[社会福祉法]]に基づき[[無料低額診療事業]]を実施する医療機関もあり、自治体や医療法人によって条件は様々<ref group="注釈">[[社会福祉法]]第2条第3項第9号 - “生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業” (第二種社会福祉事業)</ref> |
|||
=== 医療事故 === |
|||
{{Main|医療事故調査|医療訴訟}} |
|||
2014年の[[医療法]]改正により、「[[医療事故]]が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査を行わなければならない(第6条の11)」と規定されている。同法の対象となる事故は、医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産で、かつ管理者が予期しなかったものである。 |
|||
なお医薬品の[[副作用]]による被害については、独立行政法人[[医薬品医療機器総合機構]](PMDA)による[[医薬品副作用被害救済制度]]が存在する。 |
|||
== 医療供給体制 == |
|||
{{日本の医療機関}} |
|||
{{Main|医療計画|医療法|病院#日本|医業の広告規制}} |
|||
日本は自由[[開業医]]制となっており、[[診療所]](クリニック)は[[医療法]]その他の関連法令に基づく設置基準を満たせばどこでも自由に開業できる制度である{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}。 |
|||
[[File:Hospital beds in OECD.svg|250px|thumb|left|OECD諸国の人口あたりベット数(機能別){{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.4.3}}]] |
|||
日本は人口あたりの[[病床]]数が世界一であり、OECD平均の2倍以上であった{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.4.3}}。人口あたりの[[コンピュータ断層撮影|CT]]設置台数、[[MRI]]設置台数についてもそれぞれ世界1位であった{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.4.2}}。 |
|||
地域ごとの[[医師]]偏在は小さいとされ、日本を10地域ブロック別に見た場合、人口1000人あたり医師数が最少なのは[[東海地方]]で1.9人、最多なのは[[四国地方]]で2.6人であった{{Sfn|OECD|2013|loc=6.3}}。 |
|||
{{-}} |
|||
=== 医療機関 === |
|||
法令等により定義されていないものの、医療機関には一次医療機関、二次医療機関、三次医療機関の区分が存在する<ref>[http://www.toyookahp-kumiai.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/kumiai/uid000002_323031303039323972656E6B65696B61696769362E706466#:~:text=%E2%91%A1%EF%BC%92%E6%AC%A1%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%A9%9F%E9%96%A2%E3%83%BB%E3%83%BB%E3%83%BB,%E3%82%92%E6%8F%90%E4%BE%9B%E3%81%99%E3%82%8B%E7%97%85%20%E9%99%A2%E3%80%82 医療の1次・2次・3次について] . 公立豊岡病院組合. 2020年8月17日閲覧。</ref><ref>[https://cdn-naikaprod.pressidium.com//wp-content/uploads/2017/02/19.Emergency.pdf 『内科専門研修カリキュラム』] . 日本内科学会. 2020年8月17日閲覧。</ref>。 |
|||
# 一次医療機関 - 外来処置のみで帰宅できる患者への対応 |
|||
# 二次医療機関 - 経過観察を含め入院治療や手術が必要な患者への対応 |
|||
# 三次医療機関 - 二次医療機関では対応できない重症度・緊急度ともに高く集中治療室管理が必要な患者への対応 |
|||
=== 救急医療 === |
|||
[[File:Superambulance-fuso.jpg|thumb|150px|東京消防庁の高規格[[日本の救急車|救急車]]]] |
|||
{{Main|日本の救急医療|救急救命士|日本の救助隊}} |
|||
救急医療は、[[消防法]]および[[救急病院等を定める省令]](昭和三十九年二月二十日厚生省令第八号)により都道府県知事に指定された[[救急指定病院]]が担う。救急の[[緊急通報用電話番号]]は[[119番]]。 |
|||
# 初期救急医療 - 入院の必要がなく外来で対処しうる帰宅可能な患者への対応 |
|||
# 二次救急医療 - 入院治療を必要とする患者に対応 |
|||
# [[救命救急センター|三次救急医療]] - 二次救急医療では対応できない患者に対応 |
|||
一部の自治体(東京都と大阪府と愛知県と奈良県)では救急相談センターを設けており、電話番号は#7119番である。 |
|||
=== 医療専門職 === |
|||
[[File:Doctors in G20 countries.svg|thumb|right|OECD諸国の人口あたり医師数{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.3.1}}]] |
|||
{{See also|医師#日本の医師の医師制度|日本の医療・福祉・教育に関する資格一覧}} |
|||
日本の[[人口]]1万人に対する医師数は平均21.4人であり{{Sfn|WHO|2013|loc=pp120-129 >Part3 Grobal health Indicators>6. Health Systems}}、OECD平均を3割以上ほど下回っている{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.3.1}}。一方、人口あたり[[看護師]]はOECD平均を若干上回っており{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.3.7}}人口1万人あたり平均41.4人で{{Sfn|WHO|2013|loc=pp120-129 >Part3 Grobal health Indicators>6. Health Systems}}、そのため医師一人あたりの看護師比率はOECD最多で第1位であった{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.3.7}}。 |
|||
このような[[医師不足]]状態を受け、2008年[[安心と希望の医療確保ビジョン]]会議では医師定数の増員が提言された{{Sfn|厚生労働白書|2013|p=305}}。2013年厚生労働白書では、医師数・歯科医師数・薬剤師数・看護師数について人口比で毎年増大していると述べている{{Sfn|厚生労働白書|2013|loc=資料編 pp.44-45}}。 |
|||
世界的な比較では、World Health Statistics 2013年版によると、2005-2012年度の先進国の[[人口]]1万人に対する医師数の平均値は27.1人、看護師数の平均値は72.4人、中高所得国(Upper Middle Income Countries)の医師数は平均17.8人、看護師数は平均35.4人であった{{Sfn|WHO|2013|loc=pp120-129 >Part3 Grobal health Indicators>6. Health Systems}}。 |
|||
=== 医療資源の偏り === |
|||
[[File:Physicians and Doctor consultants in OECD.svg|thumb|right|OECD諸国の人口あたり医師数(横軸)と一人あたり年間受診回数(縦軸){{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.4.1}}]] |
|||
{{See also|過剰診療|コンビニ受診}} |
|||
日本の医療は[[過剰診療]]が指摘されており、人口一人あたりの受診回数はOECD平均の2倍(OECD各国で2位)、医師一人あたりの診療回数についてはOECD各国で2位であった{{Sfn|OECD|2013}}。患者から寄せられる共通した苦情は「3時間待ちの3分診療」であり{{Sfn|OECD|2009|pp=106}}{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}、長い受診予約リストは深刻な問題だとOECDは報告している{{Sfn|OECD|2009|pp=106}}。 |
|||
また日本の[[生活保護]]の[[医療扶助]]額は年間約1.5兆円に上る。社会的孤立から[[頻回受診]]に陥る者の存在<ref>{{Cite web |url=https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8841&dataType=1 |title=○頻回受診者に対する適正受診指導について |publisher=厚生労働省 |date=2002 |accessdate=2024-11-26}}</ref>や[[多剤大量処方|医薬品の過剰処方]]などの問題が指摘されている<ref>{{Cite news|newspaper=産経 |date=2012-11-25 |title=生活保護の病巣 利権・練金道具と化す「医療扶助」の闇 |url=https://web.archive.org/web/20121125142041/http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/121125/waf12112518000025-n1.htm}}</ref>。 |
|||
一方でOECDによれば、26%の人は前年に健康問題を指摘されながら費用を惜しんで医療を受診しておらず、この傾向は低所得層のほうがより高くなっていた{{Sfn|OECD|2009|pp=126-128}}。また人口の4割をカバーする国民健康保険は、2009年には保険料未納率が12%まで達し<ref name="kyodo110204">{{Cite news|newspaper=共同 |title=国保納付率88%、最低更新 09年度、景気悪化で |date=2011-02-04 |url=https://web.archive.org/web/20111126052608/http://www.47news.jp/CN/201102/CN2011020401000501.html}}</ref>{{Sfn|OECD|2009|pp=126-128}}、また国保において被用者保険対象外となる[[パートタイマー]]労働者の比率は32.4%まで上昇していた{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}。そのためOECDは[[非常勤|パートタイマー]]に対しても現在の[[国民健康保険]]ではなく[[被用者保険]]に加入させるべき、また低所得者を考慮して自己負担割合を段階的に適切に設定すべきと勧告し{{Sfn|OECD|2009|pp=126-128}}、2012年には被用者保険適用を拡大させる法案が成立し、2016年12月に施行されている<ref>{{Cite report ja|publisher=厚生労働省 |title=平成24年版厚生労働白書|date=2012 |url=https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12/ |pages=363}}</ref>([[健康保険#短時間労働者]]も参照)。 |
|||
{{-}} |
|||
== 財政 == |
|||
{{Seealso|医療費#日本の医療費}} |
|||
日本の保険医療は[[公定価格]]制であり、[[厚生労働大臣]]が[[中央社会保険医療協議会]](中医協)の答申を受けて決定する([[健康保険法]]第76-77,82条)。 |
|||
{| class="wikitable" style="float:left; font-size:80%; margin-left:1em; text-align:right" |
|||
|+ 診療種類別 日本の国民[[医療費]](平成25年度) <ref name="kosei2013" /> |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}} rowspan=4| 医科診療<br />28兆7447億円<br />(71.8%) |
|||
| 地方||45,525億円 (12.2%) |
|||
|rowspan=2|入院<br />14兆9667億円<br />(37.4%) |
|||
| [[病院]] || 14兆5523億円<br />(36.3%) |
|||
|- |
|- |
||
| 一般[[診療所]] || 4144 億円 (1.0%) |
|||
!rowspan=2| 保険料 <br>181,319億円 (48.5%) |
|||
|事業主||75,380億円 (20.1%) |
|||
|- |
|- |
||
| rowspan=2|入院外<br />13兆7780億円<br />(34.4%) |
|||
|被保険者 |
|||
| |
|病院 || 5兆5894 億円 (14.0%) |
||
|- |
|- |
||
| 一般診療所 || 8兆1886億円 (20.4%) |
|||
!colspan=2| 患者負担 |
|||
|47,573億円 (12.7%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}} colspan=3| [[歯科]]診療 || 2兆7368億円 (6.8%) |
|||
!colspan=2| その他 |
|||
|2,749億円 (0.7%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}} colspan=3| [[薬局]]調剤 || 7兆1118 億円 (17.8%) |
|||
|- |
|||
|{{rh}} colspan=3| 入院時食事 || 8082億円 (2.9%) |
|||
|- |
|||
|{{rh}} colspan=3| [[訪問介護]] || 1086億円 (0.3%) |
|||
|- |
|||
|{{rh}} rowspan=4 colspan=2| [[療養費]]など<br />5509億円 (1.4%) |
|||
| 補装具 || 442億円 (0.1%) |
|||
|- |
|||
| [[柔道整復]] || 3893億円 (1.0%) |
|||
|- |
|||
| [[あんま]][[マッサージ]] || 640億円 (0.2%) |
|||
|- |
|||
| [[はり]]・[[きゅう]] || 367億円 (0.1%) |
|||
|- |
|||
|- style="font-weight:bold; background:#eee" |
|||
|colspan=3| 総額 || 40兆610億円 |
|||
|} |
|} |
||
{{日本の医療財政}} |
|||
{{-}} |
{{-}} |
||
=== 公費負担率 === |
|||
{| class="wikitable" style="font-size:85%" |
|||
受診者の自己負担額([[療養の給付#一部負担金|一部負担金]])は、未就学児及び70歳以上は2割負担(70歳以上で一定以上の所得を有する者は3割)、70歳未満は3割負担([[健康保険法]]第74条、[[国民健康保険法]]第42条)である。[[公費負担医療]]を受ける者についてはそれぞれ所定の自己負担割合が定められている。 |
|||
|+ 制度区分別 日本の国民医療費(平成22年度)<ref name="kosei2010" /> |
|||
厚生労働白書の平成25年版によると、日本の医療費と国民所得比は毎年増大し、医療費の公費負担額と国民所得比も制度変更年を例外として毎年増大している{{Sfn|厚生労働白書|2013|loc=資料編 pp.21-22, 詳細データ1 社会保障給付費の部門別推移}}{{Sfn|厚生労働白書|2013|loc=資料編 pp.33-34, 詳細データ3 国民医療費及び構成割合の推移}}。 |
|||
{| class="wikitable" style="font-size:80%; float:left; margin-left:1em; text-align:right" |
|||
|+ World health Statisticsによる指標(2010年度){{Sfn|WHO|2013|at=pp131-141, Part3 Grobal health Indicators, 7. Health Expenditure}} |
|||
! !! GDPに対する<br />医療費比率!!医療費総額に対する<br />平均公費負担率 |
|||
|- style="font-weight:bold" |
|||
|{{rh}}| 日本 || 9.2% || 80.3% |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| 先進国(High Income Countries)平均 ||12.4%||61.8% |
|||
!colspan=3| [[公費負担医療]]給付分 |
|||
|26,353億円(7.0%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| 中高所得国(Upper Middle Income Countries) 平均||6.0%||55.5% |
|||
!colspan=3| 軽減特例措置 |
|||
|1,872億円 (0.5%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| 中低所得国(Lower Middle Income Countries) 平均||4.3%||36.1% |
|||
!colspan=3| [[後期高齢者医療]]給付分 |
|||
|116,876億円 (31.2%) |
|||
|- |
|- |
||
|{{rh}}| 低所得国(Low Income Countries)||5.3%||38.5% |
|||
!rowspan=6| 医療保険等給付分<br> 178,950億円 <br>(47.8%) |
|||
|} |
|||
|rowspan=4| 被用者保険<br> 84,348億円 (22.5%)||[[協会けんぽ]]||41,936億円 (11.2%) |
|||
|- |
|||
{| class="wikitable" style="float:left; font-size:85%; margin-left:1em; text-align:right" |
|||
|[[健保組合]]||31,906億円 (8.5%) |
|||
|+ 財源別 日本の国民医療費(平成25年度)<ref name="kosei2013" /> |
|||
|- |
|- |
||
| |
! rowspan=2| 公費<br />15兆5319億円 (38.8%) |
||
| 国庫 || 10兆3636億円 (38.8%) |
|||
|- |
|- |
||
| |
| 地方 || 5兆1683億円 (12.9%) |
||
|- |
|- |
||
!rowspan=2| 保険料<br />19兆5218億円 (48.7%) |
|||
| 事業主 || 8兆1282億円 (20.3%) |
|||
|- |
|- |
||
| 被保険者 || 11兆3986億円 (28.5%) |
|||
|- |
|- |
||
!colspan= |
!colspan=2| 患者負担 |
||
| |
| 4兆7076億円 (11.8%) |
||
|- |
|- |
||
!colspan= |
!colspan=2| その他 |
||
| 2996億円 (0.7%) |
|||
|- style="font-weight:bold; background:#eee" |
|||
| colspan=2| 総額 || 39兆2117億円 |
|||
|} |
|} |
||
{{-}} |
{{-}} |
||
== 救急医療 == |
|||
[[File:Superambulance-fuso.jpg|thumb|東京消防庁の高規格[[日本の救急車|救急車]]]] |
|||
{{Main|救急医療#日本の救急医療|救急救命士|日本の救助隊}} |
|||
日本の公的保険は社会保険に基づいているが、保険料賦課は医療費の半分以下に抑えられており、3分の1以上は公費負担となっている<ref name="prifr" />。先進国の中で、公的資金(社会保険料+税)による負担率が最も高いグループに属する([[デンマーク]]・[[スウェーデン]]・[[ノルウェー]]・[[アイスランド]]・[[イギリス]]・[[ニュージーランド]]などと共に80%台){{Sfn|OECD|2015|pp=131-132}}{{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.7.3}}{{Sfn|WHO|2013|at=pp131-141, Part3 Grobal health Indicators, 7. Health Expenditure}}(公的資金負担率が100%の国は存在せず、90%台の国も少数の例外であり、先進国で公的資金負担率が最も高いグループの国でも80%台の前半から半ばである{{Sfn|WHO|2013|at=pp131-141, Part3 Grobal health Indicators, 7. Health Expenditure}})。 |
|||
救急医療は、[[消防法]]および[[救急病院等を定める省令]](昭和三十九年二月二十日厚生省令第八号)により都道府県知事に指定された[[救急指定病院]]が担う。 |
|||
== 医療制度改革 == |
|||
# 初期救急医療 - 入院の必要がなく外来で対処しうる帰宅可能な患者への対応 |
|||
{{See also|日本の福祉#課題|介護保険#課題}} |
|||
# 二次救急医療 - 入院治療を必要とする患者に対応 |
|||
# 三次救急医療 - 二次救急医療では対応できない患者に対応 |
|||
{{-}} |
|||
==医療制度改革== |
|||
{{出典の明記|date=2012-01|section=1}} |
|||
{{See also|医療訴訟|防衛医療|医療自由化}} |
|||
=== 背景 === |
=== 背景 === |
||
[[File:Population of Japan since 1872.svg|thumb|right|250px|[[日本の人口統計]]。2009年現在(1872-2009)と将来予測(2010-)]] |
|||
[[先進国]]においては、医学や医療技術の向上により平均寿命が上昇し、出生率は低下し、人口に占める高齢者の割合が増大し、国民医療費は年々増加してる。国民医療費の増大率は[[国内総生産]]や[[国民所得]]の増大率を上回るようになった。国家の経済や財政において、市民の生存権や医療を受ける権利を維持しながら、それに必要な費用をどのように負担していくかが重大な問題になっている。そのな問題を解決するために、医療費の伸びの抑制、医療の効率化、[[医療保険]]制度の財政的強化を含めた[[医療制度改革]]が必要と考えられているが、有効な解決策を見いだせない状況である。。 |
|||
[[File:Social expenditure of Japan.svg|thumb|right|250px|日本の社会的支出(兆円)。緑は医療、赤は年金、紫はその他<ref>[https://www.ipss.go.jp/site-ad/index_Japanese/security.html 社会保障費用統計], 厚生労働省</ref>]] |
|||
{{See also|医療費亡国論|防衛医療}} |
|||
[[先進国]]においては、医学や医療技術の向上により平均寿命が上昇し、出生率は低下し、人口に占める高齢者の割合が増大し、国民医療費は年々増加している{{Sfn|OECD|2009|p=99}}。国民医療費の増大率は[[国内総生産]]や[[国民所得]]の増大率を上回るようになった{{Sfn|OECD|2009|p=99}}。国家の経済や財政において、市民の生存権や医療を受ける権利を維持しながら、それに必要な費用をどのように負担していくかが重大な問題になっている。そのような問題を解決するために、医療費の伸びの抑制、医療の効率化、[[医療保険]]制度の財政的強化を含めた医療制度改革が必要と考えられているが、有効な解決策を見いだせない状況である。 |
|||
{| class="wikitable" style="margin-left:2em; text-align:right; font-size:90%" |
|||
|+ 2000年-2012年における医療費増減 {{Sfn|OECD|2015|p=129}} |
|||
! colspan=2 style="min-width:14em"| 要因別 |
|||
! colspan=2 style="min-width:14em"| 種目別 |
|||
|- |
|||
|{{rh}}| 高齢化の影響 || 6.2兆円 ||{{rh}}| 入院 || 3.3兆円 |
|||
|- |
|||
|{{rh}}| 一人あたりコスト || 5.4兆円 ||{{rh}}| 外来 || 1.7兆円 |
|||
|- |
|||
|{{rh}}| 医療費改定 || ▲2.5兆円 ||{{rh}}| 薬剤 || 3.9兆円 |
|||
|- |
|||
|colspan=2| ||{{rh}}| 歯科 || 0.2兆円 |
|||
|- style="background:#eee; font-weight:bold" |
|||
|colspan=4| 総計 9.1兆円の増加 |
|||
|} |
|||
2009年のOECD対日審査報告では、医療制度改革に一節が割かされている{{Sfn|OECD|2009}}。日本はGDP増加を上回るペースで医療費が増加しており、老人医療費の上昇に対して若者世代の負担を抑えながら対応することが鍵であるとしている{{Sfn|OECD|2009|p=99}}。2012年では、医療支出34.6兆円(GDP比7.3%)、介護支出8.4兆円(1.8%)であるが、2025年には、医療支出54兆円(8.9%)、介護支出19兆円(3.2%)となると推定されている{{Sfn|OECD|2015|p=126}}。 |
|||
[[File:Health spending percent of GDP in G20 countries.svg|thumb|none|400px|G20各国のGDPに占める保健支出割合の推移]] |
|||
=== 医療財政の建て直しの手段 === |
=== 医療財政の建て直しの手段 === |
||
{{See also |
{{See also|医療経済学}} |
||
==== 患者自己負担額の増加 ==== |
==== 患者自己負担額の増加 ==== |
||
{{See also|老人福祉法#制定と廃止の背景}} |
|||
患者の自己負担分が増加した分、公的医療保険制度からの支出が減らせる。また自己負担分が大きければ、受診抑制による[[医療費]]の減少、自己の治療に関心を更に持つことができ、故意による頻繁な受診などの[[モラルハザード]]が防止することができる。さらに、受益者負担という視点からはより公平になるといえる。また、国民の健康維持と疾病予防への関心が高まることが期待できる。 |
|||
問題点としては自己負担分が大きすぎると、医療を必要とする患者が十分な医療を受けられない可能性がある。特に、低所得者への影響がより大きくその対策が必要である。ただし、日本には[[生活保護]]受給者の医療費免除制度、乳幼児や障害者に対する自己負担減免制度、所得水準別の[[高額医療費]]の自己負担限度額制度、[[高額療養費]]の還付制度があり、必要な医療は受けられる。診療ごとに支払う自己負担額に対して年間保険料負担が大きく、保険料を未納のまま放置して症状が出るたびに自費診療を受けた方が、結果的に安く付くケースも存在する。そのため自営業者などでは保険料の納付率が著しく下がり、またサラリーマン層や低所得層を中心に、救命不可能な状態に病状が悪化するまで診察を受けないケースも散見されるようになった<ref>[http://www.iryoseido.com/slide/slide_hon/14.html 医療経済がIT経済に与える影響]</ref>。これ以上の自己負担増は国民の理解が得にくく、政治的に実現しにくい。 |
|||
{{Seealso|高齢者の医療の確保に関する法律#法改正}} |
|||
患者の自己負担分が増加した分、公的医療保険制度からの支出が減らせる。また自己負担分が大きければ、受診抑制による[[医療費]]の減少、自己の治療に関心を更に持つことができ、故意による[[無駄な医療|濃厚診療]]などの[[モラルハザード]]を防止することができる<ref name="ndl609" />{{Sfn|OECD|2009}}。さらに、受益者負担という視点からはより公平になるといえる。また、国民の健康維持と疾病予防への関心が高まることが期待できる<ref name="ndl609" />。 |
|||
1969年に秋田県と東京都が高齢者医療費を無料化すると、各地の地方自治体も真似し、1972年時点で2県以外の全国で行われた。東京都の[[美濃部亮吉|美濃部都政]]など革新自治体が急増し、これら高齢者医療費無料化を推進した。革新自治体の急増に対する自民党の危機感は強く、1971年時点の「老人の生活と健康を守るために国の施策として一番力をいれてもらいたい」ことを問うた世論調査でも、高齢者医療費無料化(44%)が1位であった。これらを受けて、日本政府は国の施策として、1973年に施行させた。高齢者医療費の無料化で医療費は爆増し、70歳以上の受療率も、1970 年-1975年の5年間で1.8倍となった。これらは高齢者の多い国民健康保険の財政を窮迫した。以後は財政救済のために、何度も自己負担額を増やす制度改正が行われている<ref>{{Cite web |title=高齢者医療費の負担を考える |url=https://www.yomiuri.co.jp/choken/kijironko/ckmedical/20221028-OYT8T50042/ |website=読売新聞オンライン |date=2022-11-09 |access-date=2023-12-03 |language=ja}}</ref>。受益者負担の問題点としては自己負担分が大きすぎると、医療を必要とする患者が十分な医療を受けられない可能性がある<ref name="ndl609" />。特に、低所得者への影響がより大きくその対策が必要であるが、ただし日本には[[#医療費負担の補助制度]]があり必要な医療は受けられる。 |
|||
[[File:Medical cost and copayment rate in Japan.svg|thumb|right|300px|年齢別の年間医療費、および患者自己負担率(2020年)]] |
|||
[[2003年]]4月には[[小泉内閣]]医療改革において現役世代(69歳以下)の自己負担率が21年ぶりに引き上げられ、2割から3割へ引上げられている。70歳以上の高所得者(夫婦世帯で年収約621万円以上)についても2割から現役世代と同じ3割へ上げられた。OECDは負担割合が既に3割に達しているため、3割以上の増額は低所得者への影響が大きいと勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=118-119}}。 |
|||
また70-74歳の自己負担率を1割としている特例措置について、2013年の[[社会保障国民会議]]では、世代間の公平を図るために廃止すべきと勧告している<ref name="shahokaigi08" />。[[後期高齢者医療制度]](75歳-)では一定以上所得のある高齢者は軽減がなされず、自己負担は3割となる。2015年のOECD勧告においても、75歳以上人口の半数には負担能力があり、かつ日本の自己負担割合はOECD平均以下であるため、70-74歳の負担割合を2割とするよう勧告し、政府の方針を支持している{{Sfn|OECD|2015|pp=131-132}}。 |
|||
[[2022年]]10月から75歳以上も年収200万円以上は2割に上がった。 |
|||
==== 保険料や税の増額 ==== |
==== 保険料や税の増額 ==== |
||
[[File:OECD Tax revenue.svg|thumb|right|400px|OECD各国税収のタイプ別GDP比(%)。<br>水色は国家間、青は連邦・中央政府、紫は州、橙は地方、緑は社会保障基金{{Sfn|OECD|2014}}。]] |
|||
保険料を増税すると、公的医療保険制度の収入が増える。しかも、医療技術の発達などによる医療費の増大にも対応できるため、医療の質を保つという点では大変好ましい。間接的に医療収入が増えて医療機関が潤い、雇用促進につながる。しかし、経済全体が冷え込んでいる不況時に保険料を上げれば他の消費がますます冷え込む可能性がある。現在日本は、先進国の中で対[[国内総生産|GDP]]比で[[医療費]]は少ない方であるが、国民の間接負担を増やすのは、国民の理解が得がたく政治的に困難である。また、保険料納付率が低下しており、増額したとしても滞納額が増えるだけに終わる可能性もある。そのため、消費税などの保険料以外を増税して資金を確保し、一般会計から公的医療保険に国庫負担金を繰り入れることも考えられている。 |
|||
[[File:Social security contributions of Japan.svg|thumb|right|400px|日本の社会保障拠出負担の推移。<br>青はGDPに占める比率(%)、橙は総税収に占める比率(%)<ref>{{Cite report |df=ja |publisher=OECD |title=Revenue Statistics 2014 |date=2014 |doi=10.1787/rev_stats-2014-en-fr |ref={{SfnRef|OECD|2014}} }}</ref>。]] |
|||
{{Seealso|日本の福祉#財源の確保|日本の租税}} |
|||
[[社会保険|社会保険料]]を値上げすると、公的健保の収入が増える。しかも医療技術の発達などによる医療費の増大にも対応できるため、医療の質を保つという点では大変好ましい。間接的に医療収入が増えて医療機関が潤い、雇用促進につながる。しかし、経済全体が冷え込んでいる不況時に保険料を上げれば他の消費がますます冷え込む可能性がある。現在日本は、先進国の中で対[[国内総生産|GDP]]比で[[医療費]]は少ない方であるが、国民の間接負担を増やすのは、国民の理解が得がたく政治的に困難である。 |
|||
==== [[診療報酬]]点数の減額 ==== |
|||
受診時の自己負担が減るため医療従事者以外の国民理解を得やすい。医療機関の経営効率化に対する意欲を刺激できる。しかし、国際的水準では低価格で供給されている医療をさらに引き下げると、医療機関が経営困難となり、医療の質が犠牲になる可能性がある<ref>[http://www.iryoseido.com/toukou/02_001.html 医療制度研究会 現場が感じる矛盾]</ref>。総合病院における不採算専門科の閉鎖や、病院の赤字の拡大、廃業を余儀なくされる医療機関が続出する、製薬業など医療関連産業が衰退する可能性がある。 |
|||
また保険料納付率が低下しており、増額したとしても滞納額が増えるだけに終わる可能性もある(2009年の国保未納率は約12%まで上昇<ref name="kyodo110204" />{{Sfn|OECD|2009|pp=126-128}})。診療ごとに支払う自己負担額に対して年間保険料負担が大きいと、保険料を未納のまま放置して症状が出るたびに自由診療を受けた方が結果的に安く付くケースも存在し、そのため自営業者などの多い国保で保険料納付率が著しく下がっている{{Sfn|OECD|2009|p=118-119}}。またサラリーマン層や低所得層を中心に、救命不可能な状態に病状が悪化するまで診察を受けないケースも散見されるようになった{{Sfn|OECD|2009|p=118-119}}。OECDは医療費財政を社会保険に頼ることは、労働コストを上昇させ[[労働市場]]に悪影響を及ぼすとしている{{Sfn|OECD|2009|p=119}}(現在は賃金の8%が保険料であるが、増税なき場合には2035年度の保険料は24%まで上昇するとの試算{{Sfn|OECD|2009|p=119}})。 |
|||
そのため増税によって原資確保し、政府[[一般会計]]から公的社会保険に国庫負担金を繰り入れることも考えられている。OECDは2009年に、高齢化を見据えた財源確保および労働コスト上昇回避のため、医療費財源を一般会計へ移行し、その増税は[[付加価値税|消費税]]などの[[間接税]]がベストな選択だと勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=119}}。2013年の[[社会保障国民会議]]においては、医療・介護の充実のために2015年度には消費税率換算で+1%強、2025年度には+3%弱ほどの財源が必要との最終報告がなされた<ref name="syahokai">{{Cite report ja|publisher=[[社会保障国民会議]] |title=社会保障国民会議 最終報告 |date=2013-11-04 |url=https://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyoukokuminkaigi/}}</ref>(社会保障と税の一体改革)。2014年4月には消費税が8%に、2019年10月には10%に引上げられている。 |
|||
==== 診療報酬点数の減額 ==== |
|||
[[診療報酬]]は[[中央社会保険医療協議会]]の答申により決定されている。減額は受診時の自己負担が減るため医療従事者以外の国民理解を得やすい。医療機関の経営効率化に対する意欲を刺激できる。 |
|||
しかしOECDは診療報酬公示価格制によって医療費総額を管理することに否定的見解を示しており<ref name="prifr" />、医療機関が経営困難となり、医療の質が犠牲になる可能性がある<ref name="prifr" />。総合病院における不採算専門科の閉鎖や、病院、診療所の赤字の拡大、病院勤務の待遇悪化による[[勤務医]]から[[開業医]]への人材流出<ref name="prifr" />、製薬業など医療関連産業が衰退する可能性がある。 |
|||
==== 混合診療を認める ==== |
==== 混合診療を認める ==== |
||
{{See also|混合診療}} |
{{See also|混合診療|ドラッグ・ラグ}} |
||
患者の経済力に応じた選択権が与えられる。診療報酬点数を大きく減額しなくてもよく、保険料自体も大きく増税しなくてもよい。また利用者負担が大きくなり高度な医療を適正価格で受けるため公平さも増す。医療機関 |
自由診療において、患者の経済力に応じた選択権が与えられる。診療報酬点数を大きく減額しなくてもよく、保険料自体も大きく増税しなくてもよい。また利用者負担が大きくなり高度な医療を適正価格で受けるため公平さも増す。医療機関は自由診療部分で最新医療を提供しようとし競争が活性化する{{Sfn|OECD|2009|pp=123-126}}。しかし、医療保険制度の基本である「平等の理念」に抵触する恐れがある。保険対象外となる治療において、患者の経済力の格差が受けられる医療の質に影響する{{Sfn|OECD|2009|pp=123-126}}。 |
||
2004年の[[規制改革会議|規制改革・民間開放推進会議]]でも混合診療の解禁が議題となったが、この改革案には厚生労働省と[[日本医師会]]が主に平等位の面から強く反発し{{Sfn|OECD|2009|pp=123-126}}、最終的に混合診療は全面解禁せず、代わりに[[特定療養費]](現在の[[保険外併用療養費]])の範囲を拡大することで政治上の合意がなされた{{Sfn|OECD|2009|pp=123-126}}<ref>{{Cite journal|publisher=[[財務総合政策研究所]] |journal=フィナンシャル・レビュー |title=混合診療及び保険外併用療養費制度が医療制度に与える影響に関する研究 |volume=111 |date=2012-09-01 |url=http://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list6/fr111.htm |pages=56-57}}</ref>。 |
|||
2009年のOECD勧告では、この規制は日本独自のもので英国での同様規制は撤廃されたことを挙げ、混合診療を認める範囲を拡大すべきと勧告している{{Sfn|OECD|2009|pp=123-126}}。また、医療製品の認可ラグ([[ドラッグ・ラグ]])の長さについては、かつて平均して1,417日間(2004年)である状況を他国並みに改善すべきと勧告されていたが{{Sfn|OECD|2009|pp=123-126}}、2015年の報告ではスピードアップが図られたとされている{{Sfn|OECD|2015|p=128}}。 |
|||
==== ジェネリック医薬品の推進 ==== |
|||
{{Double image aside|right|OECD pharmaceuticals expenditure.svg|250|OECD generic pharmaceuticals share.svg|250|左:OECD各国の人口あたり医薬品消費額{{Sfn|OECD|2013}}<br>右:OECD諸国の医薬品市場における後発医薬品シェア。青は金額比、赤は数量比{{Sfn|OECD|2013|loc=4.11}} }} |
|||
{{See also|後発医薬品}} |
|||
人口一人あたりの医薬品購買額について、日本は世界3位であり、OECD平均よりも56%も多い(2012年){{Sfn|OECD|2015|pp=128-130}}。一方でジェネリック医薬品のシェアは28%に過ぎず、OECD平均の44%よりも低い(2013年、量的ベース){{Sfn|OECD|2015|pp=128-130}}<ref group="注釈">2008年では、ジェネリック購買額シェアでは、北米で52%、欧州5か国で30%、日本は3%であった。数量比シェアも、米国は59%、日本は19%であった。製品価格面でも、米国では先発薬の20-30%であるが日本ではおおよそ半額ほどに留まる{{Harv|OECD|2009|pp=115-116}}。</ref>。また大多数の患者はジェネリック処方を希望するが、医師の9%しか同意せず、それは医師収入への影響と薬剤品質への懸念が理由であるとOECDは報告している{{Sfn|OECD|2009|pp=115-116}}。 |
|||
2009年にOECDは、米国並みにジェネリック医薬品を普及させることで総医療費を7%(GDPで0.5%相当)削減できるとし、2012年までにシェアを最低でも30%とするよう勧告した{{Sfn|OECD|2009|pp=115-116}}。厚労省と保険者はジェネリック推進の取り組みを開始しており、2011年には数量比で23%までに普及させた{{Sfn|OECD|2013|loc=4.11}}。厚労省の2013年目標では2018年までに普及率60%を目指すとしている{{Sfn|厚生労働白書|2013|pp=308-309}}。また[[生活保護]]における[[医療扶助]]について、ジェネリック処方を基本とするよう検討を行っている<ref>{{Cite news|newspaper=共同|title=生活保護受給者、後発薬基本に 厚労省が検討 |date=2013-01-19 |url=https://web.archive.org/web/20130122003915/http://www.47news.jp/CN/201301/CN2013011901001618.html}}</ref>。 |
|||
2015年にもOECDは、米国並みにシェア84%、かつ価格10%ダウンを達成することができれば、日本は医薬品費用を半減させることができると試算している{{Sfn|OECD|2015|pp=128-130}}。政府は2017年までにシェア34%を目指すことで医療費を0.4兆円削減できるとしている{{Sfn|OECD|2015|pp=128-130}}。 |
|||
==== 診療報酬に包括払い制度の導入 ==== |
==== 診療報酬に包括払い制度の導入 ==== |
||
{{See also|包括払い制度|診断群分類包括評価}} |
{{See also|包括払い制度|診断群分類包括評価}} |
||
診療報酬を包括払いにすれば、医療機関が医療を経済的に効率よく行い、公的医療保険からの無駄な支出が減らせる。しかし |
診療報酬を包括払いにすれば、医療機関が医療を経済的に効率よく行い、公的医療保険からの無駄な支出が減らせる{{Sfn|OECD|2009|pp=113-115}}。しかし[[無駄な医療|過診過療]]を削減した方が収益上有利であるために、十分な医療を行わない可能性もある。OECDは[[出来高払い制度]]を廃止することで、一人あたりの医師受診回数がOECD平均の2倍となっている状況を削減できると勧告している{{Sfn|OECD|2015|p=131}}。民主党マニュフェストでは包括払いの制定が公約されたが、実現には至らなかった<ref name=dpj />。 |
||
2003年より[[特定機能病院]]における急性期入院医療を対象として[[診断群分類包括評価|DPC]]制度が導入されており{{Sfn|OECD|2009|pp=113-115}}、平成24年時点では全一般病床の約53.1%を占めている<ref name="gaiyo">{{Cite press release|和書|title=平成24年度診療報酬改定の概要(DPC制度関連部分) |publisher=厚生労働省 |date=2013-04-25 |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002909e-att/2r985200000290dw.pdf}}</ref>。しかしこれは、DPC払いと出来高払いを組み合わせた一般的でない制度だとOECDは指摘し{{Sfn|OECD|2009|pp=113-115}}、また医療機関は「計画的な患者再入院」「[[アップコーディング]]不正請求」「入院前の外来検査」などの手法でDPC制度を弄んでいるとOECDは指摘している{{Sfn|OECD|2009|pp=113-115}}。OECDはDPC制度が適切に運用されるよう、DPC適用の再入院は減額算定すべき、また外来検査をDPC算定に含めるよう勧告している{{Sfn|OECD|2009|pp=113-115}}。 |
|||
==== 医療費の |
==== 国民医療費の総額管理制度の導入 ==== |
||
医療費の総額を制限することによって、公的医療保険制度からの支出を直接管理でき、財政建て直し効果が大きい。国民所得に連動させれば、所得に応じた医療費を設定することができる。問題点は経済的な要因が優先され、国民の医療需要の変化に十分応じられない可能性がある。また国民所得に連動させると経済が縮小に転じた場合、十分な医療を提供できない可能性がある。 |
[[台湾の医療]]などで導入されている。医療費の年間支出総額を制限することによって、公的医療保険制度からの支出を直接管理でき、財政建て直し効果が大きい<ref name="mizuho">{{Cite journal|journal=みずほリポート |publisher=みずほ総合研究所|title=医療費の総額管理制度の導入をどう考えるか |date=2005-08-24 |url= http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report05-0824.pdf }}</ref>。国民所得に連動させれば、所得に応じた医療費を設定することができる。問題点は経済的な要因が優先され、国民の医療需要の変化に十分応じられない可能性がある。また国民所得に連動させると経済が縮小に転じた場合、十分な医療を提供できない可能性がある。 |
||
==== 健康づくり ==== |
|||
=== 医療供給体制の問題点 === |
|||
{{See also|健康づくり|健康増進法}} |
|||
医療供給体制にも問題があり、この問題は医療財政の問題と深くリンクしている。 |
|||
2008年より公的保険にて[[特定健診・特定保健指導]]が導入され、[[生活習慣病]]の予防が進められている{{Sfn|厚生労働白書|2013|pp=310}}。しかし市町村国保において検診受診率は2008年度で28.3%と低く、さらなる改善が求められている<ref name="ndl609" />。 |
|||
またOECDは[[たばこ]]の重税化と低[[喫煙率]]には関係性があり{{Sfn|OECD|2009|pp=116-117}}、[[たばこ税]]増税により禁煙を推進すべきと勧告している{{Sfn|OECD|2009|pp=116-117}}<ref group="注釈">[[日本医療政策機構]]の調査では現在一箱あたり300円前後の課税を少なくとも600円まで増税することに74%が賛成している{{Harv|OECD|2009|pp=116-117}}</ref>。また[[健康増進法]]では[[受動喫煙]]防止措置を求めている(第25条)。 |
|||
==== 各[[医療圏]]での競合 ==== |
|||
[[病院]]と[[診療所]]の機能分化が不十分である。例えば、病院の外来治療費が診療所より安い事、診療所に専門検査機器が無いため病院に検査紹介され患者としては二度手間になる事などにより病院へ外来患者が集中し易くなっている。元来の医療計画での病院は、急性期医療と高度医療を受け持っているのだが、経過観察が必要な慢性期医療の患者も多く受診し、病状による区別が不明確になっている。また、他の先進国に比べて人口比での病床数が多い。反面、病床あたりの医療スタッフは他の先進国に比べ少ない。行政は平成16年度の診療報酬改定で機能分化を誘導しようとしている。 |
|||
=== 医療供給側の課題 === |
|||
医療供給体制([[医療計画]])にも問題があり、この問題は医療財政の問題と深く関わっている。 |
|||
医療費の地域差が非常に大きい。都道府県間で最大1.5倍の較差がある。地域差の要因は病床数や医師数など地域における医療供給の実態の差異のほか、患者の受診行動、診療パターンの差異が存在する。この現実を受けて、地方の特性を活かした医療供給体制の構築が求められる。 |
|||
==== |
==== 総合診療医の整備 ==== |
||
{{See also|総合診療医|プライマリケア|主治医|ドクターショッピング}} |
|||
医療機関のマネジメント手法が未熟である。従来医療機関の収入は[[医療保険制度]]で十分に確保されてきたが、医療費抑制政策や医薬分業政策などで経営が厳しくなっている。最近では、患者による選択が拡大しているが、そのための情報開示、治療の標準化([[EBM]])、IT化([[電子カルテ]]、オーダリングシステム、[[PACS]]、[[グループウェア]]などがよく検討されている。)が不十分である。風聞だけでなく、[[臨床指数]](年間手術件数、治療成績など)、医療スタッフの専門性や技術力に関する情報、医療機関の経営状態などを検証するための情報システムの構築が必要である。 |
|||
患者は[[診療所]]よりも[[病院|大病院]]を好み、また診療所の医師を信用していないため、大病院の専門医を頻繁に受診する傾向があり{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}{{Sfn|OECD|2009|pp=117}}、「患者は単なる風邪で長時間待ってでも大学病院を受診することがある」と報告されている{{Sfn|OECD|2009|pp=117}}。OECD国の多くでは、患者が専門医を受診するには先ず[[プライマリケア]]を担当する[[総合診療医]](GP)から[[紹介 (医療)|紹介]]を受けなければならないが{{Sfn|OECD|2009|pp=117}}、日本にはこのような直接受診を防ぐゲートキーパー制度がなく<ref group="注釈">かつての1959年に厚生大臣へ提出された医療保障委員会最終答申では、[[イギリスの医療]]([[ベヴァリッジ報告書]])を参考にGP医制度の実現を強く求めていた。これを日本医師会は「医療の国営化、人頭割制度につながる」として反対した{{Harv|新村拓|2011|pp=193-194}}</ref>、そのため患者は総合医・専門医を問わず、医学的に必要があろうとなかろうと、どの医療機関にも自由に全額保険適用で受診できる現状にある(フリーアクセス)<ref name=ib1209>{{Cite journal|和書|title=「かかりつけ医」をめぐる議論 |author=亀澤 明彦 |journal=調査と情報 |volume=1209 |page=1-10 |date=2022-12-08 |id={{NCID|BN08201599}}}}</ref>{{Sfn|OECD|2009|pp=117}}{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}。[[応召義務]]もあって医師の負荷は高く「3時間待ちの3分診療」を引き起こしている{{Sfn|OECD|2009|pp=117}}{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}。 |
|||
また[[病院]]と[[診療所]]の機能分化が不十分である{{Sfn|OECD|2009}}。例えば、病院の外来治療費が診療所より安い事、診療所に専門検査機器が無いため病院に検査紹介され患者としては二度手間になる事などにより病院へ外来患者が集中し易くなっている。元来の医療計画において、病院は急性期医療と高度医療を受け持っているのだが、経過観察が必要な慢性期医療の患者も多く受診し、病状による区別が不明確になっている<ref group="注釈">1970年代に日本医師会会長[[武見太郎]]は、開業医が病床を持つことに反対し、開業医は外来・往診・予防医療などの[[家庭医]]に専従すべきだとしていた{{Harv|新村拓|2011|pp=73-74}}。</ref>。不必要な専門医受診を防ぐゲートキーパー制度を導入し、また総合診療医の数を増やし、かつ専門医の役割を明確にするようOECDは勧告している{{Sfn|OECD|2009|pp=117}}<ref name="lancet" />。 |
|||
==== 療養費の受領委任払いの廃止 ==== |
|||
{{Main|療養費の不正請求}} |
|||
[[会計検査院]]の調査によれば、接骨院・整骨院による[[レセプト]]請求の過半数において、接骨院・整骨院では保険適用できない慢性的な肩こり・腰痛・関節痛・リウマチ等に対してマッサージ等の施術を行い、傷病名を急性の「捻挫」「打撲」と偽り保険療養費請求する行為が行われており、平成21年に会計検査院から厚労省に対し改善要求が出されている<ref>{{Cite report |publisher=[[会計検査院]] |date=2009| |title=柔道整復師の施術に係る療養費の支給について |url=http://report.jbaudit.go.jp/org/h21/2009-h21-0357-0.htm }}</ref><ref name="nikkei">{{Cite journal|journal=日経メディカル |title=柔道整復療養費にメス? 厚労省が不正請求への対処に本腰 |date=2012-07 |url=http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201207/525775.html}}</ref>。[[健康保険組合連合会|健保連]]大阪連合会は厚生労働省近畿厚生局に対して、療養費支給適正化の観点から「不正・不当請求が後を絶たない」として、「受領委任払いの廃止」「領収書発行の義務付け」「療養費支給申請書の記載厳格化」を要請する文章を政府に要請している<ref>{{Cite press|publisher=健保連大阪連合会 |date=2009-11 |url=http://www.kenpo.gr.jp/osaka/kakehasi/458/sidou_yousei.htm |title=けんぽれん大阪連合会 広報誌「かけはし」 2009年11月 No.458}}</ref><ref name="nipporen">{{Cite web|url=http://www.nipporen.jp/?p=279 |accessdate=2013-08-25 |publisher=日本保険鍼灸マッサージ協同組合連合会 |date=2010年11月22日 |title=柔道整復師問題、「ここ数年が戦いの最終局面」}}</ref><ref name="m3">{{Cite news|newspaper=M3.com |url=http://www.m3.com/open/iryoIshin/article/128044/ |title=柔道整復師問題、「ここ数年が戦いの最終局面」 日本臨床整形外科学会シンポ、「日医声明は脅迫電話で頓挫」 |date=2010年11月9日}}</ref>。 |
|||
2013年には[[社会保障国民会議]]が、紹介状なしの大病院受診に対して初診料自己負担を課すことで機能分化を誘導するよう勧告し<ref name="shahokaigi08" />、[[保険外併用療養費]]制度が設定された。これは保険より給付されない自己負担である。2014年の診療報酬改定では[[主治医]]機能に対しての算定が新設され(地域包括診療)<ref name=ib1209 />、さらに[[医療法]]改定にて「国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努めなければならない(第6条の2)」と定められた。2021年医療法改正では、紹介患者の受診を基本とする「紹介受診重点医療機関」制度が定められた<ref name=ib1209 />。[[骨太の方針]]2022では、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが明記された<ref name=ib1209 />。 |
|||
=== 小泉内閣による改革 === |
|||
{{See also|聖域なき構造改革#医療制度改革}} |
|||
医療制度改革は[[小泉内閣]]の政権公約であった。小泉内閣は医療費の自己負担率を2割から3割へ引上げた。70歳以上の高所得者(夫婦世帯で年収約621万円以上)について医療費の窓口負担が2割から現役世代と同じ3割へ上げた。2014年度からは70-74歳で今は1割負担の人も2割負担になる予定である。 |
|||
==== 病床への長期入院を減らす ==== |
|||
== 保健と医療の指標 == |
|||
[[File:OECD Length of hospital stay.svg|thumb|right|250px|OECD各国の急性期病棟の平均入院日数]] |
|||
=== 医療費と公費負担率 === |
|||
{{See also|社会的入院|介護保険}} |
|||
[[世界保健機関]]が発行しているWorld health Statistics 2013年版によると、2010年度の先進国(世界保健機関や[[世界銀行]]の分類では、High Income Countries)の[[国内総生産|GDP]]に対する医療費の比率の平均値は12.4%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は61.8%<ref name="who-world-health-statistics-2013-expenditure">[http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/EN_WHS2013_Full.pdf WHO>World Health Statistics 2013>131~141ページ>Part3 Grobal health Indicators>7. Health Expenditure]</ref>、中高所得国(Upper Middle Income Countries)の[[国内総生産|GDP]]に対する医療費の比率の平均値は6.0%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は55.5%<ref name="who-world-health-statistics-2013-expenditure" />、中低所得国(Lower Middle Income Countries)の[[国内総生産|GDP]]に対する医療費の比率の平均値は4.3%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は36.1%<ref name="who-world-health-statistics-2013-expenditure" />、低所得国(Low Income Countries)の[[国内総生産|GDP]]に対する医療費の比率の平均値は5.3%、医療費総額に対する公費負担率の平均値は38.5%<ref name="who-world-health-statistics-2013-expenditure" />、日本の[[国内総生産|GDP]]に対する医療費の比率は9.2%、医療費総額に対する公費負担率は80.3%であり<ref name="who-world-health-statistics-2013-expenditure" />、先進国の平均値と比較して、GDPに対する医療費の比率は低いが、医療費総額に対する公費負担率は、[[デンマーク]]、[[スウェーデン]]、[[ノルウェー]]、[[アイスランド]]、[[イギリス]]、[[ニュージーランド]]などとともに、最も高いグループに属している<ref name="who-world-health-statistics-2013-expenditure" />。公費負担率が100%の国は存在せず、90%台の国も少数の例外であり、先進国で公費負担率が最も高いグループの国でも80%台の前半から半ばである<ref name="who-world-health-statistics-2013-expenditure" />。。 |
|||
日本の医療は平均入院日数の長さが指摘され、急性病棟ではOECD平均の2倍(OECD中で1位){{Sfn|OECD|2013|loc=Chapt.4.5}}、トータルではOECD平均の4倍で、共にOECD中で最長であった{{Sfn|OECD|2015|loc=Assessment and recommendations}}。医療上の必要がなく入院し、病院を事実上の介護施設とすることは「[[社会的入院]]」と呼ばれている{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}{{Sfn|OECD|2009|pp=106-108}}。OECDは「患者を入院させたままにすることは病院収入を増やす簡単な方法である」と指摘し{{Sfn|OECD|2009|pp=106-108}}、患者の入院区分を正確に分類し、かつ料金スケジュールを見直すことで、病床への長期入院を減らすよう勧告している{{Sfn|OECD|2009|pp=106-108}}。2013年の社会保障国民会議の最終報告では、急性病床への平均入院日数を12-16日にまで短縮し、代わりに[[介護]]における居住系サービスの充実化(約3割増加)および在宅系サービスの充実化を提案している<ref name="syahokai" /> |
|||
また小規模病院は空床の活用に苦労しているが患者は大規模病院を好む傾向にあるため、OECDは小規模病院に介護療養に参加するインセンティブを与えるべきだと勧告している{{Sfn|OECD|2009|pp=106-108}}。厚労省は医療費適正化計画を策定し、療養病床について[[老人保健施設]]や居住系サービス施設への転換を推進している{{Sfn|厚生労働白書|2013|pp=310}}。 |
|||
厚生労働白書の平成25年版によると、日本の医療費と国民所得比は毎年増大し、医療費の公費負担額と国民所得比も制度変更年を例外として毎年増大している<ref>[http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13-2/dl/01.pdf 厚生労働白書>平成25年版>資料編>保健医療>21~22ページ>詳細データ1 社会保障給付費の部門別推移]</ref><ref>[http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13-2/dl/02.pdf 厚生労働白書>平成25年版>資料編>保健医療>33~34ページ>詳細データ3 国民医療費及び構成割合の推移]</ref>。 |
|||
2015年にも再びOECDより、最も優先度が高い課題は、先進国平均の4倍も長い長期入院の削減であると勧告されている{{Sfn|OECD|2015|loc=Assessment and recommendations}}。2014年医療法改正では病床機能報告制度が設けられ、病棟について高度急性期、[[急性期]]、回復期、[[慢性期]]のうち、どの医療機能を担うかを毎年都道府県知事に報告する義務が定められた<ref>[[医療法]] 第6条の3</ref>。 |
|||
=== 医療専門職 === |
|||
世界保健機関が発行しているWorld health Statistics 2013年版によると、2005~2012年度の先進国の[[人口]]1万人に対する医師数の平均値は27.1人、看護師数の平均値は72.4人<ref name="who-world-health-statistics-2013-health-systems">[http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/EN_WHS2013_Full.pdf WHO>World Health Statistics 2013>120~129ページ>Part3 Grobal health Indicators>6. Health Systems]</ref>、中高所得国(Upper Middle Income Countries)の[[人口]]1万人に対する医師数の平均値は17.8人、看護師数の平均値は35.4人<ref name="who-world-health-statistics-2013-health-systems" />、中低所得国(Lower Middle Income Countries)の[[人口]]1万人に対する医師数の平均値は7.8人、看護師数の平均値は13.4人<ref name="who-world-health-statistics-2013-health-systems" />、低所得国(Low Income Countries)の[[人口]]1万人に対する医師数の平均値は5.1人、看護師数の平均値は14.9人である<ref name="who-world-health-statistics-2013-health-systems" />、日本の[[人口]]1万人に対する医師数の平均値は21.4人、看護師数の平均値は41.4人である<ref name="who-world-health-statistics-2013-health-systems" />。 |
|||
==== 医療機関の統合集約化 ==== |
|||
厚生労働白書の平成25年版によると、日本の医師数、歯科医師数、薬剤師数、看護師数と人口比は毎年増大している<ref>[http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13-2/dl/02.pdf 厚生労働白書>平成25年版>資料編>保健医療>44~45ページ>詳細データ1 医師数の推移、詳細データ2 歯科医師数の推移、詳細データ3 薬剤師数の推移、詳細データ4 看護職員数の推移]</ref>。 |
|||
{{See also|医師不足}} |
|||
日本の医療機関はOECD各国と比較して「'''人口あたりの病床数は最多、病床あたりの医師数は最小'''」に特徴づけられ{{Sfn|OECD|2009|p=105}}、病棟従事者を疲弊させている{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}。このような医療機関の散在は、医療財政と医療の質の面でマイナスであるとOECDは報告している{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。たとえば[[自治体病院]]の75%では2007年は赤字決算であり、自治体財政に重い負担をかけている{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。2013年の社会保障国民会議の最終報告では、急性期病床を4割〜8減削減し、代わりに急性期の医療従事者数を58〜116%増員させる提案がなされている<ref name="syahokai" />。 |
|||
またOECD調査によれば、大病院のほうが医師・病院ともによいパフォーマンスを上げているが、民間病院は小規模で質が低いとしている{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。民間病院・診療所の[[株式]]による資金調達を解禁し{{Sfn|OECD|2009|p=33}}、M&Aにより医療機関の大規模化を進めるようOECDは勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。また医療機関は[[医師]]により経営されなければならないとする規制を緩和することで、より高度なマネジメントがなされ経営が改善されるとOECDは勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。 |
|||
=== 死亡率と平均寿命 === |
|||
世界保健機関が発行しているWorld health Statistics 2013年版によると、2011年度の先進国の平均寿命は80歳<ref name="who-world-health-statistics-2013-life-expectancy">[http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/EN_WHS2013_Full.pdf WHO>World Health Statistics 2013>49~59ページ>Part3 Grobal health Indicators>1. Life expectancy and mortality]</ref>、World health Statistics 2010年版によると、2007年度の先進国の平均健康寿命は70歳<ref name="who-world-health-statistics-2010-life-expectancy">[http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/EN_WHS10_Full.pdf WHO>World Health Statistics 2010>45~57ページ>Part2 Grobal health Indicators>1. Mortality and burden of disease]</ref>、中高所得国(Upper Middle Income Countries)の平均寿命は74歳<ref name="who-world-health-statistics-2013-life-expectancy" />、平均健康寿命は61歳<ref name="who-world-health-statistics-2010-life-expectancy" />、中低所得国(Lower Middle Income Countries)の平均寿命は66歳<ref name="who-world-health-statistics-2013-life-expectancy" />、平均健康寿命は61歳<ref name="who-world-health-statistics-2010-life-expectancy" />、低所得国(Low Income Countries)の平均寿命は60歳<ref name="who-world-health-statistics-2013-life-expectancy" />、平均健康寿命は49歳<ref name="who-world-health-statistics-2010-life-expectancy" />、日本の2011年度の平均寿命は83歳<ref name="who-world-health-statistics-2013-life-expectancy" />、平均健康寿命は76歳である<ref name="who-world-health-statistics-2010-life-expectancy" />。 |
|||
==== 医療マネジメントの未熟さ ==== |
|||
世界保健機関が発行しているWorld health Statistics 2013年版によると、[[妊産婦死亡率]]・[[周産期死亡率]]・[[新生児死亡率]]・[[乳児死亡率]]・[[乳幼児死亡率]]・[[成人(15~60歳)死亡率]]は、世界の平均値や先進国の平均値よりも著しく低く、世界で最も低いグループである<ref>[http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/EN_WHS2013_Full.pdf WHO>World Health Statistics 2013>61~71ページ>Part3 Grobal health Indicators>2. Cause-specific mortality and morbidity]</ref>。 |
|||
{{See also|健康情報学|根拠に基づく医療|診療ガイドライン}} |
|||
医療機関のマネジメント手法が未熟である<ref name="lancet">{{Cite journal|title=Japan: Universal Health Care at 50 Years |journal=[[ランセット]] |volume=378|issue=9796 |page=1049,|date=2011 |pmid=21885103 |doi=10.1016/S0140-6736(11)60274-2 |url=http://download.thelancet.com/flatcontentassets/series/japan/series3.pdf }}</ref>。従来医療機関の収入は公的医療保険制度で十分に確保されてきたが、医療費抑制政策や医薬分業政策などで経営が厳しくなっている<ref name="lancet" />。最近では患者による選択が拡大しているが([[インフォームド・コンセント]])、そのための情報開示、[[診療ガイドライン|治療の標準化]]([[根拠に基づく医療|EBM]])、IT化([[電子カルテ]]、オーダリングシステム、[[PACS]]、[[グループウェア]]などがよく検討されている。)が不十分である。風聞だけでなく、[[臨床指数]](年間手術件数、治療成績など)、医療スタッフの専門性や技術力に関する情報、医療機関の経営状態などを検証するための医療情報システムの構築が必要である{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。ランセット誌には、日本は都道府県知事の医療計画に対する権限を強化すべきであるとした論文が掲載された<ref name="lancet" />。民主党マニュフェストでは[[クリニカルパス]]の制定が公約されたが、実現には至らなかった<ref name=dpj />。 |
|||
=== 保険者側の課題=== |
|||
厚生労働省の人口動態資料の2013年版によると、日本の妊産婦死亡率・周産期死亡率・新生児死亡率・乳児死亡率・乳幼児死亡率・[成人(15~60歳)死亡率は、1900(明治43)年前後に統計を取り始めて以後、単年度の増減はあるが10年単位の推移では必ず減少し、2011年度では史上最少値または史上最少値の近似値であり、妊産婦死亡率・周産期死亡率・新生児死亡率・乳児死亡率・乳幼児死亡率は生物的な限界値近くまで減少していて、2000年代以後の減少率はゼロに近くなっている<ref>[http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2013.asp?chap=5&title1=%87X%81D%8E%80%96S%81E%8E%F5%96%BD 厚生労働省>人口問題研究所>人口統計資料集>2013年度版>Ⅴ.死亡・寿命]</ref>。 |
|||
いくつかの国では公的保険の保険者を自由に選択することができ、保険者間の管理競争が行われている([[オランダの医療]]、[[ドイツの医療]]など)。 |
|||
==== 保険者の統合集約化 ==== |
|||
{{See also|健康保険組合#財政問題|国民健康保険#市町村国保の財政危機}} |
|||
[[被用者保険]]は、小規模な[[健康保険組合]]が多数存在する状況で財政が悪化しており{{Sfn|OECD|2009|p=118}}、さらに[[前期高齢者医療制度]]と[[後期高齢者医療制度]]拠出金が負担を重くしている。OECDは保険者の効率性を高めるため、保険者を統合し総数を減らすよう勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。2006年の[[健康保険法]]改正では都道府県単位となる地域型健保組合制度が創設され、保険者の統合集約化を図っている。 |
|||
[[国民健康保険]]も同様で、加入者における無職者・低所得者・高齢者の比率が高まっており{{Sfn|厚生労働白書|2011|loc=Chapt.3}}、2009年には国保の約半数が赤字となっている<ref name="kyodo110204" />。OECDは国保制度を市町村別から都道府県別に移行し、規模の拡大を図るよう勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=118}}<ref name="lancet" />。2013年の[[社会保障国民会議]]においても同様に勧告された<ref name="shahokaigi08">{{Cite report ja |title=社会保障制度改革国民会議 報告書(概要) |publisher=社会保障国民会議 |date=2013-08-05 |url=https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/pdf/houkokusyo_gaiyou.pdf }}</ref>。これらの流れを受け、2018年4月より国民健康保険は都道府県と市町村が共同で保険者となる仕組み(都道府県が財政運営・調整を担い、市町村が実際の保険給付・保険料の徴収を担う)に改められた。 |
|||
==== 請求審査機能の強化 ==== |
|||
{{See also|医療技術評価|無駄な医療|レセプト#電算化|医療詐欺}} |
|||
保険者による医療報酬請求の審査機能を強化することで、[[過剰診療]]および[[医療詐欺|不正請求]]を削減し医療費の増大を防ぐことができる{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。こういった請求審査の効率化には事務電子化が欠かせず<ref>{{Cite journal|和書|title=レセプト(レセプトのオンライン請求義務化)とは| journal= 日経ガバメントテクノロジー |date=2007-10-18|url=https://xtech.nikkei.com/it/article/Keyword/20071010/284186/}}</ref>、OECDは事務コスト削減および医療の質(EBM)向上のため、保険事務の電子化を推進するよう勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。だが完全義務化について、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会は反対声明を出し<ref>{{Cite press release|和書|publisher=日本医師会 |title=レセプトオンライン請求の完全義務化撤廃を求める共同声明 |date=2008-11-20 |url=https://www.med.or.jp/nichinews/n201120a.html}}</ref>、2009年には反対する医師グループにより集団訴訟が行われた<ref>{{Cite news|newspaper=共同 |date=2009-01-21|url=https://web.archive.org/web/20131216081849/http://www.47news.jp/CN/200901/CN2009012101000752.html |title=レセプトのオンライン義務化違憲 35都府県の医師らが提訴}}</ref>。[[民主党 (日本 1998-2016)|民主党]]政策集(INDEX2009)では完全義務化から原則化に改めると公約され<ref name="dpj">{{Cite press release|和書|publisher=民主党 |title= 民主党政策集INDEX2009 - 医療政策 |url=http://www1.dpj.or.jp/policy/koseirodou/index2009_medic.html |date=2009-07-23 |quote=レセプトオンライン請求の原則化}}</ref>、政権交代によって全施設への導入は撤回されたため<ref>{{Cite news|newspaper=共同 |title=レセプトオンライン請求1年猶予 零細病院に配慮し厚労省 |date=2009-04-21 |url=http://www.47news.jp/CN/200904/CN2009042101000535.html}}</ref>、訴訟は取り下げられたという経緯がある<ref>{{Cite news |title=レセプト訴訟取り下げへ オンライン義務化撤回で |newspaper=共同|date=2010-02-13 |url=https://web.archive.org/web/20131216082117/http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010021301000503.html}}</ref>。しかし2013年には、レセプト電子化率は[[社会保険診療報酬支払基金]]によれば医科で96%、歯科で60%、調剤で99%まで浸透した<ref>{{Cite press release|和書|title=レセプト電算処理システム年度別普及状況 |publisher=[[社会保険診療報酬支払基金]] |date=2013-10 |url=http://www.ssk.or.jp/rezept/rezept_01.html}}</ref>。 |
|||
また被用者保険の支払審査を行う[[社会保険診療報酬支払基金]]について、複数による競争原理を導入すべきとOECDは勧告している{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。[[協会けんぽ]]では2009年より保険料を全国一律から都道府県別に移行し、競争力を高めようとしている{{Sfn|OECD|2009|p=118}}。 |
|||
==== 療養費の受領委任払いの廃止 ==== |
|||
{{Main|療養費の不正請求}} |
|||
[[会計検査院]]の調査によれば、[[接骨院]]・整骨院による[[レセプト]]請求の過半数において、接骨院・整骨院では保険適用できない慢性的な肩こり・腰痛・関節痛・リウマチ等に対してマッサージ等の施術を行い、傷病名を急性の「捻挫」「打撲」と偽り保険療養費請求する行為が行われており、平成21年に会計検査院から厚労省に対し改善要求が出されている<ref>{{Cite report ja |publisher=[[会計検査院]] |date=2009 |title=柔道整復師の施術に係る療養費の支給について |url=https://report.jbaudit.go.jp/org/h21/2009-h21-0357-0.htm }}</ref><ref name="nikkei">{{Cite journal|journal=日経メディカル |title=柔道整復療養費にメス? 厚労省が不正請求への対処に本腰 |date=2012-07-10 |url=https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201207/525775.html}}</ref>。[[健康保険組合連合会|健保連]]大阪連合会は厚生労働省近畿厚生局に対して、療養費支給適正化の観点から「不正・不当請求が後を絶たない」として「受領委任払いの廃止」「領収書発行の義務付け」「療養費支給申請書の記載厳格化」を政府に要請している<ref>{{Cite press release|和書|publisher=健保連大阪連合会 |date=2009-11 |url=http://www.kenpo.gr.jp/osaka/kakehasi/458/sidou_yousei.htm |title=けんぽれん大阪連合会 広報誌「かけはし」 2009年11月 No.458}}</ref><ref name="nipporen">{{Cite web|和書|url=http://www.nipporen.jp/?p=279 |accessdate=2013-08-25 |publisher=日本保険鍼灸マッサージ協同組合連合会 |date=2010-11-22 |title=柔道整復師問題、「ここ数年が戦いの最終局面」}}</ref><ref name="m3">{{Cite news|newspaper=M3.com |url=http://www.m3.com/open/iryoIshin/article/128044/ |title=柔道整復師問題、「ここ数年が戦いの最終局面」 日本臨床整形外科学会シンポ、「日医声明は脅迫電話で頓挫」 |date=2010-11-09}}</ref>。 |
|||
== 脚注 == |
== 脚注 == |
||
{{脚注ヘルプ}} |
|||
<references/> |
|||
=== 注釈 === |
|||
{{Reflist|group="注釈"}} |
|||
=== 出典 === |
|||
{{Reflist|2|refs= |
|||
<ref name="kosei2013">{{Cite report ja |publisher=厚生労働省 |date=2012-10-08 |title=平成25年度 国民医療費の概況 |url=http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/13/index.html }}</ref> |
|||
}} |
|||
== 参考文献 == |
|||
; 政府機関 |
|||
:* [[医療法]] |
|||
:* {{Cite web|和書|url=https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=323CO0000000326 |title=医療法施行令(昭和二十三年政令第三百二十六号)|website=e-Gov法令検索 |publisher=総務省行政管理局 |date=2018-7-27 |quote=2018年12月1施行分|accessdate=2020-1-22}} |
|||
:* {{Cite |和書|url= https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/ |title=厚生労働白書 平成25年版 |publisher=厚生労働省 |year=2013 |ref={{SfnRef|厚生労働白書|2013}} }} |
|||
:* {{Cite |和書|url= https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/11/ |title=厚生労働白書 平成23年版 |publisher=厚生労働省 |year=2011 |ref={{SfnRef|厚生労働白書|2011}} }} |
|||
:* {{Cite report ja |url=https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk087.htm |title=「医療制度の国際比較」報告書について |date=2010-06-30|publisher=[[財務総合政策研究所]] |ref={{SfnRef|財務総合政策研究所|2010}} }} |
|||
:<!-- バグ回避のための行。[[Help:箇条書き]]を参照。 --> |
|||
; 国際機関 |
|||
:* {{Cite report |df=ja |url=http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/en/ |title=World Health Statistics |publisher=[[WHO]] |date=2013 |ref={{SfnRef|WHO|2013}} }} |
|||
:* {{Cite |publisher=OECD |date=2013-11-21 |title=Health at a Glance 2013 |doi=10.1787/health_glance-2013-en |isbn=9789264219984 |ref={{SfnRef|OECD|2013}} }} |
|||
:* {{Cite |publisher=OECD |date=2009-08-13 |title=OECD Economic Surveys: Japan 2009 |doi=10.1787/eco_surveys-jpn-2009-en |isbn=9789264054561 |at=Chapt.3 |ref={{SfnRef|OECD|2009}} }} |
|||
:* {{Cite report |df=ja |publisher=OECD |title=OECD Reviews of Health Care Quality - Japan |date=2014 |doi=10.1787/22270485 |ref={{SfnRef|OECD|2014}} }} |
|||
:* {{Cite |title=OECD Economic Surveys: Japan 2015 |date=2015-04 |publisher=OECD |doi=10.1787/eco_surveys-jpn-2015-en |isbn=9789264232389 |ref={{SfnRef|OECD|2015}} }} |
|||
:<!-- バグ回避のための行 --> |
|||
; その他 |
|||
:* {{Cite |和書|title=国民皆保険の時代 : 1960,70年代の生活と医療 |author=新村拓 |publisher=法政大学出版局 |date=2011-11 |isbn=9784588312113 |ref=harv}} |
|||
== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
||
{{Commonscat|Healthcare in Japan}} |
|||
* [[医療]]、[[医療費]]、[[医療経済学]]、[[社会保障]] |
|||
* [[日本の |
* [[日本の福祉]] |
||
* [[医療制度]] - [[ユニバーサルヘルスケア]] |
|||
* [[医師]]、[[歯科医師]]、[[看護師]]、[[助産師]]、[[保健師]]、[[薬剤師]]、[[臨床心理士]] |
|||
* [[医学]] |
|||
* [[理学療法士]]、[[作業療法士]]、[[言語聴覚士]]、[[診療放射線技師]]、[[臨床検査技師]] |
|||
* [[医療]]、[[医療費]]、[[医療経済学]]、[[社会保障]]、[[医療費亡国論]] |
|||
* [[:Category:日本の医療関係者]] / [[日本の医療・福祉・教育に関する資格一覧]] |
|||
* [[:Category:日本の医療関連の職能団体]] |
|||
== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
||
* [ |
* [https://www.who.int/data/gho/publications/world-health-statistics World Health Statistics]{{en icon}} - WHO |
||
* [ |
* [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/ 医療保険] - 厚生労働省 |
||
* [https://www.med.or.jp/ 公益社団法人 日本医師会] |
|||
* [http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/ 厚生労働省>厚生労働白書] |
|||
* [https://www.jda.or.jp/ 公益社団法人 日本歯科医師会] |
|||
* [http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2013.asp?chap=0 厚生労働省>人口問題研究所>人口統計資料集] |
|||
* [ |
* [https://www.nurse.or.jp/ 公益社団法人 日本看護師協会] |
||
* [ |
* [https://www.midwife.or.jp/ 公益社団法人 日本助産師会] |
||
* [ |
* [https://www.nichiyaku.or.jp/ 公益社団法人 日本薬剤師会] |
||
* [ |
* [https://www.jsccp.jp/ 一般社団法人 日本臨床心理士会] |
||
* [http://www. |
* [http://www.hospital.or.jp/ 一般社団法人 日本病院会] |
||
* [ |
* [https://www.zenhokyo.jp/ 一般社団法人 全国保健師教育機関協議会] |
||
* [http://www.jsccp.jp/ 一般社団法人 日本臨床心理士会] |
|||
* [http://www.hospital.or.jp/ 一般社団法人 日本病院会] |
|||
{{日本関連の項目}} |
{{日本関連の項目}} |
||
{{アジアの題材|医療|mode=3}} |
{{アジアの題材|医療|mode=3}} |
||
{{Normdaten}} |
|||
{{DEFAULTSORT:にほんのいりよう}} |
{{DEFAULTSORT:にほんのいりよう}} |
||
[[Category:日本の医療|*]] |
[[Category:日本の医療|*]] |
||
[[en:Health care system in Japan]] |
|||
[[lt:Japonijos sveikatos apsaugos sistema]] |
|||
[[ro:S?n?tatea in Japonia]] |
|||
[[ru:Здравоохранение в Японии]] |
2024年12月1日 (日) 13:19時点における最新版
日本の医療(にほんのいりょう、英語: Healthcare in Japan)は、複数提供者制の社会保険によるユニバーサルヘルスケアが実現されており、厚生労働省が所管している。2012年のGDPに占める保健支出は10.3%であった(OECD平均は9.3%)[3]。人口高齢化、一人あたり支出の増加、医薬品・医療機器の高度化によって支出は増加する傾向にある[4]。
医療制度は「国民皆保険制度[5]」「フリーアクセス[5]」「自由開業医制[5]」「診療報酬出来高払い[5]」に特徴づけられる。医療保険は1961年にユニバーサルヘルスケアが実現され[6]、原則として市町村が運営する国民健康保険への強制加入となり、要件を満たす者は代わって職域保険(被用者保険や国保組合など)への加入を可能としている[7]。医療制度の効率性については、2000年の世界保健機関調査では日本は世界10位とし[8]、ブルームバーグでは世界3位と評価している[9]。
医療機関は公営・民営それぞれが存在し、日本最大の病院グループは独立行政法人国立病院機構である。国民1人あたりの生涯の医療費は、男性で2,600万円、女性で2,800万円であり、その50%は70歳以上のステージで発生している(2016年推計)[10]。
日本社会は高齢化が進んでおり、2013年の高齢化率は24.1%まで上昇し、高齢社会白書では「我が国は世界のどの国も経験したことのない高齢社会を迎えている」と述べられた[11]。GDPにおける医療費割合の増加スピードも激しく、また同時に少子化も進行し、2030年の将来にはGDP比+3%増加すると推定され、医療財政の構造は困難に直面している[7][12][3]。2019年度の医療費総額「国民医療費」は毎年右肩上がりであり、前年度より9946億円(2・3%増)増えた44兆3895億円となっており、年齢別では「0 - 14歳」が16万4300円、「15 - 44歳」が12万6千円、「45 - 64歳」が28万5800円、「65歳以上」が75万4200円となっている[13]。
保健状態
[編集]世界的な平均余命については、WHO World health Statisticsによると、先進国の平均寿命は80歳(2011年度)[14]、先進国の平均健康寿命は70歳(2007年度)であり[15]、一方で日本の平均寿命は83歳(2011年度)[14]、平均健康寿命は76歳(2007年度)であった[15]。
日本の三大死因は、2013年人口動態調査によると悪性新生物(28.7%)、心疾患、脳血管疾患であった[16]。肥満率は世界最小の低さである。
死亡率についても世界で低位のグループであり、WHOの2013年統計では、妊産婦死亡率・周産期死亡率・新生児死亡率・乳児死亡率・乳幼児死亡率・成人(15-60歳)死亡率らは、世界平均や先進国平均よりも著しく低いものであった[17]。これらは1900年(明治43年)前後に統計を取り始めて以後、単年度の増減はあるが10年推移では必ず減少し、2011年度では史上最少値または史上最少値の近似値であり、妊産婦死亡率・周産期死亡率・新生児死亡率・乳児死亡率・乳幼児死亡率は生物的な限界値近くまで減少していて、2000年代以後の減少率はゼロに近くなっている[18]。
病床数[19] | トータル 平均入院日数[19] |
急性期 平均入院日数[19] |
長期病床数[1] | 医師数[1] | 看護師数[1] | 医師の 年間診察数[1] |
市民のの 年間受診数[19] |
薬剤費 (PPP米ドル)[1] | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
日本 | 13.4 | 31.2 | 17.5 | 36.7 | 2.2 | 10.0 | 5,916 | 13.0 | 648 |
OECD平均 | 4.8 | 8.4 | 7.4 | 49.1 | 3.2 | 8.8 | 2,385 | 6.7 | 483 |
上位国 | 13.4 | 31.2 | 17.5 | 79.5 | 6.1 | 16.6 | 6,482 | 14.3 | 985 |
下位国 | 1.6 | 3.9 | 3.9 | 18.6 | 0.2 | 0.9 | 777 | 2.7 | 178 |
単位値 | 人口1000人 | 高齢者人口1000人 | 人口1000人 | 人口1000人 | 医師1人 | 人口1人 | 人口1人 |
しかし自らを健康と考える人は少なく、健康だと答える人はOECD中で最低であった[20]。また自殺率の高さが指摘されており、OECDは「日本の精神医療制度はOECD諸国の中で、精神病床の多さと自殺率の高さなど悪い意味で突出している」と報告している[21]。
医療制度
[編集]医療保険
[編集]保険者 | 加入者数(万人) |
---|---|
国民健康保険 | 3,831 |
全国健康保険協会 | 3,502 |
健保組合・共済など | 3,869 |
後期高齢者医療制度 | 1,473 |
(参考) 民間医療保険[24] | 1,586万契約 |
日本の公的医療保険は、都道府県単位の国民健康保険(国保)が運営されており、原則として強制加入となる[24]。保険給付は現物支給(療養の給付)が原則であり[25]、現金給付(療養費)はあくまでやむを得ない場合に限られる[注釈 1]。
- 所定の要件を満たす事業主に雇用された場合は被用者保険に加入することなり、保険者は事業主及び被用者それぞれの要件により、全国健康保険協会・健康保険組合・船員保険・共済組合等のいずれかとなる。被用者に扶養されている者は被扶養者として、被保険者と同一の保険に加入する。
- 75歳以上となった場合は後期高齢者医療制度に移行となる。後期高齢者医療制度の保険者は、都道府県単位で設置される後期高齢者医療広域連合である。
公的医療保険者間では、現役世代が加入する各医療保険者からの後期高齢者医療制度への支援金など複雑な資金移転が行われている。現役世代が加入する医療保険者間でについては、65-74歳の加入者数によりリスク構造調整が行われている(これを行う仕組みは、前期高齢者医療制度と呼ばれている)。
また民間の医療保険市場も存在し第三分野保険と呼ばれるが、諸外国に比べて発達していない。理由について財務総合政策研究所は、日本の公的保険診療は公定価格制となっている点、および諸外国では歯科・眼科・外来処方箋が公的保険対象外となっていることが多いが日本では給付対象となっている点、混合診療が禁止となっている点を挙げている[24]。
医療費負担の補助制度
[編集]医療保険による補助
公費による補助
- 公費負担医療 - 該当ケースにより負担額は様々[25]
- 特定疾患治療研究事業または小児慢性特定疾患治療研究事業に指定された難病[25]
税制による補助 (確定申告控除)
- 医療費控除 - 10万円を超える自己負担額(保険償還額を除く)の控除[25]
- 社会保険料控除 - 公的な医療保険・介護保険に対しての控除
- 生命保険料控除 - 私的な生命保険・医療保険・介護保険に対しての控除
医療機関による補助
医療事故
[編集]2014年の医療法改正により、「医療事故が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査を行わなければならない(第6条の11)」と規定されている。同法の対象となる事故は、医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産で、かつ管理者が予期しなかったものである。
なお医薬品の副作用による被害については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による医薬品副作用被害救済制度が存在する。
医療供給体制
[編集]病院 | 一般診療所 | 歯科診療所 | 計 | |
---|---|---|---|---|
国 | 316 | 535 | 4 | 855 |
公的医療機関 | 1,181 | 3,663 | 248 | 5,092 |
社会保険関係団体 | 46 | 405 | 4 | 455 |
医療法人 | 5,632 | 47,479 | 16,946 | 70,057 |
個人 | 99 | 38,859 | 49,135 | 88,093 |
その他 | 801 | 14,358 | 399 | 15,558 |
計 | 8,075 | 105,299 | 66,736 | 180,110 |
日本は自由開業医制となっており、診療所(クリニック)は医療法その他の関連法令に基づく設置基準を満たせばどこでも自由に開業できる制度である[5]。
日本は人口あたりの病床数が世界一であり、OECD平均の2倍以上であった[27]。人口あたりのCT設置台数、MRI設置台数についてもそれぞれ世界1位であった[28]。
地域ごとの医師偏在は小さいとされ、日本を10地域ブロック別に見た場合、人口1000人あたり医師数が最少なのは東海地方で1.9人、最多なのは四国地方で2.6人であった[29]。
医療機関
[編集]法令等により定義されていないものの、医療機関には一次医療機関、二次医療機関、三次医療機関の区分が存在する[30][31]。
- 一次医療機関 - 外来処置のみで帰宅できる患者への対応
- 二次医療機関 - 経過観察を含め入院治療や手術が必要な患者への対応
- 三次医療機関 - 二次医療機関では対応できない重症度・緊急度ともに高く集中治療室管理が必要な患者への対応
救急医療
[編集]救急医療は、消防法および救急病院等を定める省令(昭和三十九年二月二十日厚生省令第八号)により都道府県知事に指定された救急指定病院が担う。救急の緊急通報用電話番号は119番。
- 初期救急医療 - 入院の必要がなく外来で対処しうる帰宅可能な患者への対応
- 二次救急医療 - 入院治療を必要とする患者に対応
- 三次救急医療 - 二次救急医療では対応できない患者に対応
一部の自治体(東京都と大阪府と愛知県と奈良県)では救急相談センターを設けており、電話番号は#7119番である。
医療専門職
[編集]日本の人口1万人に対する医師数は平均21.4人であり[33]、OECD平均を3割以上ほど下回っている[32]。一方、人口あたり看護師はOECD平均を若干上回っており[34]人口1万人あたり平均41.4人で[33]、そのため医師一人あたりの看護師比率はOECD最多で第1位であった[34]。
このような医師不足状態を受け、2008年安心と希望の医療確保ビジョン会議では医師定数の増員が提言された[35]。2013年厚生労働白書では、医師数・歯科医師数・薬剤師数・看護師数について人口比で毎年増大していると述べている[36]。
世界的な比較では、World Health Statistics 2013年版によると、2005-2012年度の先進国の人口1万人に対する医師数の平均値は27.1人、看護師数の平均値は72.4人、中高所得国(Upper Middle Income Countries)の医師数は平均17.8人、看護師数は平均35.4人であった[33]。
医療資源の偏り
[編集]日本の医療は過剰診療が指摘されており、人口一人あたりの受診回数はOECD平均の2倍(OECD各国で2位)、医師一人あたりの診療回数についてはOECD各国で2位であった[1]。患者から寄せられる共通した苦情は「3時間待ちの3分診療」であり[38][5]、長い受診予約リストは深刻な問題だとOECDは報告している[38]。
また日本の生活保護の医療扶助額は年間約1.5兆円に上る。社会的孤立から頻回受診に陥る者の存在[39]や医薬品の過剰処方などの問題が指摘されている[40]。
一方でOECDによれば、26%の人は前年に健康問題を指摘されながら費用を惜しんで医療を受診しておらず、この傾向は低所得層のほうがより高くなっていた[41]。また人口の4割をカバーする国民健康保険は、2009年には保険料未納率が12%まで達し[42][41]、また国保において被用者保険対象外となるパートタイマー労働者の比率は32.4%まで上昇していた[5]。そのためOECDはパートタイマーに対しても現在の国民健康保険ではなく被用者保険に加入させるべき、また低所得者を考慮して自己負担割合を段階的に適切に設定すべきと勧告し[41]、2012年には被用者保険適用を拡大させる法案が成立し、2016年12月に施行されている[43](健康保険#短時間労働者も参照)。
財政
[編集]日本の保険医療は公定価格制であり、厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)の答申を受けて決定する(健康保険法第76-77,82条)。
医科診療 28兆7447億円 (71.8%) |
入院 14兆9667億円 (37.4%) |
病院 | 14兆5523億円 (36.3%) |
一般診療所 | 4144 億円 (1.0%) | ||
入院外 13兆7780億円 (34.4%) |
病院 | 5兆5894 億円 (14.0%) | |
一般診療所 | 8兆1886億円 (20.4%) | ||
歯科診療 | 2兆7368億円 (6.8%) | ||
薬局調剤 | 7兆1118 億円 (17.8%) | ||
入院時食事 | 8082億円 (2.9%) | ||
訪問介護 | 1086億円 (0.3%) | ||
療養費など 5509億円 (1.4%) |
補装具 | 442億円 (0.1%) | |
柔道整復 | 3893億円 (1.0%) | ||
あんまマッサージ | 640億円 (0.2%) | ||
はり・きゅう | 367億円 (0.1%) | ||
総額 | 40兆610億円 |
公費負担医療給付 | 3兆1222億円( | 7.3%)||
後期高齢者医療給付 | 15兆2868億円( | 35.3%)||
医療保険等給付 19兆3653億円 (45.1%) |
被用者保険 10兆2934億円 (24.0%) |
協会けんぽ | 5兆7040億円( | 13.3%)
健康保険組合 | 3兆5259億円( | 8.2%)||
船員保険 | 184億円( | 0.0%)||
共済組合 | 1兆 | 450億円( 2.4%)||
国民健康保険 | 8兆7628億円( | 20.4%)||
その他労災など | 3091億円( | 0.7%)||
患者等負担 | 5兆1922億円( | 12.2%)||
総額 | 42兆9665億円(100.0%) |
公費負担率
[編集]受診者の自己負担額(一部負担金)は、未就学児及び70歳以上は2割負担(70歳以上で一定以上の所得を有する者は3割)、70歳未満は3割負担(健康保険法第74条、国民健康保険法第42条)である。公費負担医療を受ける者についてはそれぞれ所定の自己負担割合が定められている。
厚生労働白書の平成25年版によると、日本の医療費と国民所得比は毎年増大し、医療費の公費負担額と国民所得比も制度変更年を例外として毎年増大している[46][47]。
GDPに対する 医療費比率 |
医療費総額に対する 平均公費負担率 | |
---|---|---|
日本 | 9.2% | 80.3% |
先進国(High Income Countries)平均 | 12.4% | 61.8% |
中高所得国(Upper Middle Income Countries) 平均 | 6.0% | 55.5% |
中低所得国(Lower Middle Income Countries) 平均 | 4.3% | 36.1% |
低所得国(Low Income Countries) | 5.3% | 38.5% |
公費 15兆5319億円 (38.8%) |
国庫 | 10兆3636億円 (38.8%) |
---|---|---|
地方 | 5兆1683億円 (12.9%) | |
保険料 19兆5218億円 (48.7%) |
事業主 | 8兆1282億円 (20.3%) |
被保険者 | 11兆3986億円 (28.5%) | |
患者負担 | 4兆7076億円 (11.8%) | |
その他 | 2996億円 (0.7%) | |
総額 | 39兆2117億円 |
日本の公的保険は社会保険に基づいているが、保険料賦課は医療費の半分以下に抑えられており、3分の1以上は公費負担となっている[24]。先進国の中で、公的資金(社会保険料+税)による負担率が最も高いグループに属する(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・アイスランド・イギリス・ニュージーランドなどと共に80%台)[49][50][48](公的資金負担率が100%の国は存在せず、90%台の国も少数の例外であり、先進国で公的資金負担率が最も高いグループの国でも80%台の前半から半ばである[48])。
医療制度改革
[編集]背景
[編集]先進国においては、医学や医療技術の向上により平均寿命が上昇し、出生率は低下し、人口に占める高齢者の割合が増大し、国民医療費は年々増加している[12]。国民医療費の増大率は国内総生産や国民所得の増大率を上回るようになった[12]。国家の経済や財政において、市民の生存権や医療を受ける権利を維持しながら、それに必要な費用をどのように負担していくかが重大な問題になっている。そのような問題を解決するために、医療費の伸びの抑制、医療の効率化、医療保険制度の財政的強化を含めた医療制度改革が必要と考えられているが、有効な解決策を見いだせない状況である。
要因別 | 種目別 | ||
---|---|---|---|
高齢化の影響 | 6.2兆円 | 入院 | 3.3兆円 |
一人あたりコスト | 5.4兆円 | 外来 | 1.7兆円 |
医療費改定 | ▲2.5兆円 | 薬剤 | 3.9兆円 |
歯科 | 0.2兆円 | ||
総計 9.1兆円の増加 |
2009年のOECD対日審査報告では、医療制度改革に一節が割かされている[52]。日本はGDP増加を上回るペースで医療費が増加しており、老人医療費の上昇に対して若者世代の負担を抑えながら対応することが鍵であるとしている[12]。2012年では、医療支出34.6兆円(GDP比7.3%)、介護支出8.4兆円(1.8%)であるが、2025年には、医療支出54兆円(8.9%)、介護支出19兆円(3.2%)となると推定されている[53]。
医療財政の建て直しの手段
[編集]患者自己負担額の増加
[編集]患者の自己負担分が増加した分、公的医療保険制度からの支出が減らせる。また自己負担分が大きければ、受診抑制による医療費の減少、自己の治療に関心を更に持つことができ、故意による濃厚診療などのモラルハザードを防止することができる[25][52]。さらに、受益者負担という視点からはより公平になるといえる。また、国民の健康維持と疾病予防への関心が高まることが期待できる[25]。
1969年に秋田県と東京都が高齢者医療費を無料化すると、各地の地方自治体も真似し、1972年時点で2県以外の全国で行われた。東京都の美濃部都政など革新自治体が急増し、これら高齢者医療費無料化を推進した。革新自治体の急増に対する自民党の危機感は強く、1971年時点の「老人の生活と健康を守るために国の施策として一番力をいれてもらいたい」ことを問うた世論調査でも、高齢者医療費無料化(44%)が1位であった。これらを受けて、日本政府は国の施策として、1973年に施行させた。高齢者医療費の無料化で医療費は爆増し、70歳以上の受療率も、1970 年-1975年の5年間で1.8倍となった。これらは高齢者の多い国民健康保険の財政を窮迫した。以後は財政救済のために、何度も自己負担額を増やす制度改正が行われている[54]。受益者負担の問題点としては自己負担分が大きすぎると、医療を必要とする患者が十分な医療を受けられない可能性がある[25]。特に、低所得者への影響がより大きくその対策が必要であるが、ただし日本には#医療費負担の補助制度があり必要な医療は受けられる。
2003年4月には小泉内閣医療改革において現役世代(69歳以下)の自己負担率が21年ぶりに引き上げられ、2割から3割へ引上げられている。70歳以上の高所得者(夫婦世帯で年収約621万円以上)についても2割から現役世代と同じ3割へ上げられた。OECDは負担割合が既に3割に達しているため、3割以上の増額は低所得者への影響が大きいと勧告している[55]。
また70-74歳の自己負担率を1割としている特例措置について、2013年の社会保障国民会議では、世代間の公平を図るために廃止すべきと勧告している[56]。後期高齢者医療制度(75歳-)では一定以上所得のある高齢者は軽減がなされず、自己負担は3割となる。2015年のOECD勧告においても、75歳以上人口の半数には負担能力があり、かつ日本の自己負担割合はOECD平均以下であるため、70-74歳の負担割合を2割とするよう勧告し、政府の方針を支持している[49]。
2022年10月から75歳以上も年収200万円以上は2割に上がった。
保険料や税の増額
[編集]社会保険料を値上げすると、公的健保の収入が増える。しかも医療技術の発達などによる医療費の増大にも対応できるため、医療の質を保つという点では大変好ましい。間接的に医療収入が増えて医療機関が潤い、雇用促進につながる。しかし、経済全体が冷え込んでいる不況時に保険料を上げれば他の消費がますます冷え込む可能性がある。現在日本は、先進国の中で対GDP比で医療費は少ない方であるが、国民の間接負担を増やすのは、国民の理解が得がたく政治的に困難である。
また保険料納付率が低下しており、増額したとしても滞納額が増えるだけに終わる可能性もある(2009年の国保未納率は約12%まで上昇[42][41])。診療ごとに支払う自己負担額に対して年間保険料負担が大きいと、保険料を未納のまま放置して症状が出るたびに自由診療を受けた方が結果的に安く付くケースも存在し、そのため自営業者などの多い国保で保険料納付率が著しく下がっている[55]。またサラリーマン層や低所得層を中心に、救命不可能な状態に病状が悪化するまで診察を受けないケースも散見されるようになった[55]。OECDは医療費財政を社会保険に頼ることは、労働コストを上昇させ労働市場に悪影響を及ぼすとしている[59](現在は賃金の8%が保険料であるが、増税なき場合には2035年度の保険料は24%まで上昇するとの試算[59])。
そのため増税によって原資確保し、政府一般会計から公的社会保険に国庫負担金を繰り入れることも考えられている。OECDは2009年に、高齢化を見据えた財源確保および労働コスト上昇回避のため、医療費財源を一般会計へ移行し、その増税は消費税などの間接税がベストな選択だと勧告している[59]。2013年の社会保障国民会議においては、医療・介護の充実のために2015年度には消費税率換算で+1%強、2025年度には+3%弱ほどの財源が必要との最終報告がなされた[60](社会保障と税の一体改革)。2014年4月には消費税が8%に、2019年10月には10%に引上げられている。
診療報酬点数の減額
[編集]診療報酬は中央社会保険医療協議会の答申により決定されている。減額は受診時の自己負担が減るため医療従事者以外の国民理解を得やすい。医療機関の経営効率化に対する意欲を刺激できる。
しかしOECDは診療報酬公示価格制によって医療費総額を管理することに否定的見解を示しており[24]、医療機関が経営困難となり、医療の質が犠牲になる可能性がある[24]。総合病院における不採算専門科の閉鎖や、病院、診療所の赤字の拡大、病院勤務の待遇悪化による勤務医から開業医への人材流出[24]、製薬業など医療関連産業が衰退する可能性がある。
混合診療を認める
[編集]自由診療において、患者の経済力に応じた選択権が与えられる。診療報酬点数を大きく減額しなくてもよく、保険料自体も大きく増税しなくてもよい。また利用者負担が大きくなり高度な医療を適正価格で受けるため公平さも増す。医療機関は自由診療部分で最新医療を提供しようとし競争が活性化する[61]。しかし、医療保険制度の基本である「平等の理念」に抵触する恐れがある。保険対象外となる治療において、患者の経済力の格差が受けられる医療の質に影響する[61]。
2004年の規制改革・民間開放推進会議でも混合診療の解禁が議題となったが、この改革案には厚生労働省と日本医師会が主に平等位の面から強く反発し[61]、最終的に混合診療は全面解禁せず、代わりに特定療養費(現在の保険外併用療養費)の範囲を拡大することで政治上の合意がなされた[61][62]。
2009年のOECD勧告では、この規制は日本独自のもので英国での同様規制は撤廃されたことを挙げ、混合診療を認める範囲を拡大すべきと勧告している[61]。また、医療製品の認可ラグ(ドラッグ・ラグ)の長さについては、かつて平均して1,417日間(2004年)である状況を他国並みに改善すべきと勧告されていたが[61]、2015年の報告ではスピードアップが図られたとされている[3]。
ジェネリック医薬品の推進
[編集]人口一人あたりの医薬品購買額について、日本は世界3位であり、OECD平均よりも56%も多い(2012年)[64]。一方でジェネリック医薬品のシェアは28%に過ぎず、OECD平均の44%よりも低い(2013年、量的ベース)[64][注釈 3]。また大多数の患者はジェネリック処方を希望するが、医師の9%しか同意せず、それは医師収入への影響と薬剤品質への懸念が理由であるとOECDは報告している[65]。
2009年にOECDは、米国並みにジェネリック医薬品を普及させることで総医療費を7%(GDPで0.5%相当)削減できるとし、2012年までにシェアを最低でも30%とするよう勧告した[65]。厚労省と保険者はジェネリック推進の取り組みを開始しており、2011年には数量比で23%までに普及させた[63]。厚労省の2013年目標では2018年までに普及率60%を目指すとしている[66]。また生活保護における医療扶助について、ジェネリック処方を基本とするよう検討を行っている[67]。
2015年にもOECDは、米国並みにシェア84%、かつ価格10%ダウンを達成することができれば、日本は医薬品費用を半減させることができると試算している[64]。政府は2017年までにシェア34%を目指すことで医療費を0.4兆円削減できるとしている[64]。
診療報酬に包括払い制度の導入
[編集]診療報酬を包括払いにすれば、医療機関が医療を経済的に効率よく行い、公的医療保険からの無駄な支出が減らせる[68]。しかし過診過療を削減した方が収益上有利であるために、十分な医療を行わない可能性もある。OECDは出来高払い制度を廃止することで、一人あたりの医師受診回数がOECD平均の2倍となっている状況を削減できると勧告している[69]。民主党マニュフェストでは包括払いの制定が公約されたが、実現には至らなかった[70]。
2003年より特定機能病院における急性期入院医療を対象としてDPC制度が導入されており[68]、平成24年時点では全一般病床の約53.1%を占めている[71]。しかしこれは、DPC払いと出来高払いを組み合わせた一般的でない制度だとOECDは指摘し[68]、また医療機関は「計画的な患者再入院」「アップコーディング不正請求」「入院前の外来検査」などの手法でDPC制度を弄んでいるとOECDは指摘している[68]。OECDはDPC制度が適切に運用されるよう、DPC適用の再入院は減額算定すべき、また外来検査をDPC算定に含めるよう勧告している[68]。
国民医療費の総額管理制度の導入
[編集]台湾の医療などで導入されている。医療費の年間支出総額を制限することによって、公的医療保険制度からの支出を直接管理でき、財政建て直し効果が大きい[72]。国民所得に連動させれば、所得に応じた医療費を設定することができる。問題点は経済的な要因が優先され、国民の医療需要の変化に十分応じられない可能性がある。また国民所得に連動させると経済が縮小に転じた場合、十分な医療を提供できない可能性がある。
健康づくり
[編集]2008年より公的保険にて特定健診・特定保健指導が導入され、生活習慣病の予防が進められている[73]。しかし市町村国保において検診受診率は2008年度で28.3%と低く、さらなる改善が求められている[25]。
またOECDはたばこの重税化と低喫煙率には関係性があり[74]、たばこ税増税により禁煙を推進すべきと勧告している[74][注釈 4]。また健康増進法では受動喫煙防止措置を求めている(第25条)。
医療供給側の課題
[編集]医療供給体制(医療計画)にも問題があり、この問題は医療財政の問題と深く関わっている。
総合診療医の整備
[編集]患者は診療所よりも大病院を好み、また診療所の医師を信用していないため、大病院の専門医を頻繁に受診する傾向があり[5][75]、「患者は単なる風邪で長時間待ってでも大学病院を受診することがある」と報告されている[75]。OECD国の多くでは、患者が専門医を受診するには先ずプライマリケアを担当する総合診療医(GP)から紹介を受けなければならないが[75]、日本にはこのような直接受診を防ぐゲートキーパー制度がなく[注釈 5]、そのため患者は総合医・専門医を問わず、医学的に必要があろうとなかろうと、どの医療機関にも自由に全額保険適用で受診できる現状にある(フリーアクセス)[76][75][5]。応召義務もあって医師の負荷は高く「3時間待ちの3分診療」を引き起こしている[75][5]。
また病院と診療所の機能分化が不十分である[52]。例えば、病院の外来治療費が診療所より安い事、診療所に専門検査機器が無いため病院に検査紹介され患者としては二度手間になる事などにより病院へ外来患者が集中し易くなっている。元来の医療計画において、病院は急性期医療と高度医療を受け持っているのだが、経過観察が必要な慢性期医療の患者も多く受診し、病状による区別が不明確になっている[注釈 6]。不必要な専門医受診を防ぐゲートキーパー制度を導入し、また総合診療医の数を増やし、かつ専門医の役割を明確にするようOECDは勧告している[75][77]。
2013年には社会保障国民会議が、紹介状なしの大病院受診に対して初診料自己負担を課すことで機能分化を誘導するよう勧告し[56]、保険外併用療養費制度が設定された。これは保険より給付されない自己負担である。2014年の診療報酬改定では主治医機能に対しての算定が新設され(地域包括診療)[76]、さらに医療法改定にて「国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努めなければならない(第6条の2)」と定められた。2021年医療法改正では、紹介患者の受診を基本とする「紹介受診重点医療機関」制度が定められた[76]。骨太の方針2022では、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが明記された[76]。
病床への長期入院を減らす
[編集]日本の医療は平均入院日数の長さが指摘され、急性病棟ではOECD平均の2倍(OECD中で1位)[78]、トータルではOECD平均の4倍で、共にOECD中で最長であった[19]。医療上の必要がなく入院し、病院を事実上の介護施設とすることは「社会的入院」と呼ばれている[5][79]。OECDは「患者を入院させたままにすることは病院収入を増やす簡単な方法である」と指摘し[79]、患者の入院区分を正確に分類し、かつ料金スケジュールを見直すことで、病床への長期入院を減らすよう勧告している[79]。2013年の社会保障国民会議の最終報告では、急性病床への平均入院日数を12-16日にまで短縮し、代わりに介護における居住系サービスの充実化(約3割増加)および在宅系サービスの充実化を提案している[60]
また小規模病院は空床の活用に苦労しているが患者は大規模病院を好む傾向にあるため、OECDは小規模病院に介護療養に参加するインセンティブを与えるべきだと勧告している[79]。厚労省は医療費適正化計画を策定し、療養病床について老人保健施設や居住系サービス施設への転換を推進している[73]。
2015年にも再びOECDより、最も優先度が高い課題は、先進国平均の4倍も長い長期入院の削減であると勧告されている[19]。2014年医療法改正では病床機能報告制度が設けられ、病棟について高度急性期、急性期、回復期、慢性期のうち、どの医療機能を担うかを毎年都道府県知事に報告する義務が定められた[80]。
医療機関の統合集約化
[編集]日本の医療機関はOECD各国と比較して「人口あたりの病床数は最多、病床あたりの医師数は最小」に特徴づけられ[81]、病棟従事者を疲弊させている[5]。このような医療機関の散在は、医療財政と医療の質の面でマイナスであるとOECDは報告している[82]。たとえば自治体病院の75%では2007年は赤字決算であり、自治体財政に重い負担をかけている[82]。2013年の社会保障国民会議の最終報告では、急性期病床を4割〜8減削減し、代わりに急性期の医療従事者数を58〜116%増員させる提案がなされている[60]。
またOECD調査によれば、大病院のほうが医師・病院ともによいパフォーマンスを上げているが、民間病院は小規模で質が低いとしている[82]。民間病院・診療所の株式による資金調達を解禁し[83]、M&Aにより医療機関の大規模化を進めるようOECDは勧告している[82]。また医療機関は医師により経営されなければならないとする規制を緩和することで、より高度なマネジメントがなされ経営が改善されるとOECDは勧告している[82]。
医療マネジメントの未熟さ
[編集]医療機関のマネジメント手法が未熟である[77]。従来医療機関の収入は公的医療保険制度で十分に確保されてきたが、医療費抑制政策や医薬分業政策などで経営が厳しくなっている[77]。最近では患者による選択が拡大しているが(インフォームド・コンセント)、そのための情報開示、治療の標準化(EBM)、IT化(電子カルテ、オーダリングシステム、PACS、グループウェアなどがよく検討されている。)が不十分である。風聞だけでなく、臨床指数(年間手術件数、治療成績など)、医療スタッフの専門性や技術力に関する情報、医療機関の経営状態などを検証するための医療情報システムの構築が必要である[82]。ランセット誌には、日本は都道府県知事の医療計画に対する権限を強化すべきであるとした論文が掲載された[77]。民主党マニュフェストではクリニカルパスの制定が公約されたが、実現には至らなかった[70]。
保険者側の課題
[編集]いくつかの国では公的保険の保険者を自由に選択することができ、保険者間の管理競争が行われている(オランダの医療、ドイツの医療など)。
保険者の統合集約化
[編集]被用者保険は、小規模な健康保険組合が多数存在する状況で財政が悪化しており[82]、さらに前期高齢者医療制度と後期高齢者医療制度拠出金が負担を重くしている。OECDは保険者の効率性を高めるため、保険者を統合し総数を減らすよう勧告している[82]。2006年の健康保険法改正では都道府県単位となる地域型健保組合制度が創設され、保険者の統合集約化を図っている。
国民健康保険も同様で、加入者における無職者・低所得者・高齢者の比率が高まっており[5]、2009年には国保の約半数が赤字となっている[42]。OECDは国保制度を市町村別から都道府県別に移行し、規模の拡大を図るよう勧告している[82][77]。2013年の社会保障国民会議においても同様に勧告された[56]。これらの流れを受け、2018年4月より国民健康保険は都道府県と市町村が共同で保険者となる仕組み(都道府県が財政運営・調整を担い、市町村が実際の保険給付・保険料の徴収を担う)に改められた。
請求審査機能の強化
[編集]保険者による医療報酬請求の審査機能を強化することで、過剰診療および不正請求を削減し医療費の増大を防ぐことができる[82]。こういった請求審査の効率化には事務電子化が欠かせず[84]、OECDは事務コスト削減および医療の質(EBM)向上のため、保険事務の電子化を推進するよう勧告している[82]。だが完全義務化について、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会は反対声明を出し[85]、2009年には反対する医師グループにより集団訴訟が行われた[86]。民主党政策集(INDEX2009)では完全義務化から原則化に改めると公約され[70]、政権交代によって全施設への導入は撤回されたため[87]、訴訟は取り下げられたという経緯がある[88]。しかし2013年には、レセプト電子化率は社会保険診療報酬支払基金によれば医科で96%、歯科で60%、調剤で99%まで浸透した[89]。
また被用者保険の支払審査を行う社会保険診療報酬支払基金について、複数による競争原理を導入すべきとOECDは勧告している[82]。協会けんぽでは2009年より保険料を全国一律から都道府県別に移行し、競争力を高めようとしている[82]。
療養費の受領委任払いの廃止
[編集]会計検査院の調査によれば、接骨院・整骨院によるレセプト請求の過半数において、接骨院・整骨院では保険適用できない慢性的な肩こり・腰痛・関節痛・リウマチ等に対してマッサージ等の施術を行い、傷病名を急性の「捻挫」「打撲」と偽り保険療養費請求する行為が行われており、平成21年に会計検査院から厚労省に対し改善要求が出されている[90][91]。健保連大阪連合会は厚生労働省近畿厚生局に対して、療養費支給適正化の観点から「不正・不当請求が後を絶たない」として「受領委任払いの廃止」「領収書発行の義務付け」「療養費支給申請書の記載厳格化」を政府に要請している[92][93][94]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 法制上の建前は「療養の給付」以外の保険給付はすべて現金給付であるが、その多くで実際には現物給付としての運用がなされている。
- ^ 社会福祉法第2条第3項第9号 - “生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業” (第二種社会福祉事業)
- ^ 2008年では、ジェネリック購買額シェアでは、北米で52%、欧州5か国で30%、日本は3%であった。数量比シェアも、米国は59%、日本は19%であった。製品価格面でも、米国では先発薬の20-30%であるが日本ではおおよそ半額ほどに留まる(OECD 2009, pp. 115–116)。
- ^ 日本医療政策機構の調査では現在一箱あたり300円前後の課税を少なくとも600円まで増税することに74%が賛成している(OECD 2009, pp. 116–117)
- ^ かつての1959年に厚生大臣へ提出された医療保障委員会最終答申では、イギリスの医療(ベヴァリッジ報告書)を参考にGP医制度の実現を強く求めていた。これを日本医師会は「医療の国営化、人頭割制度につながる」として反対した(新村拓 2011, pp. 193–194)
- ^ 1970年代に日本医師会会長武見太郎は、開業医が病床を持つことに反対し、開業医は外来・往診・予防医療などの家庭医に専従すべきだとしていた(新村拓 2011, pp. 73–74)。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h OECD 2013.
- ^ OECD Economic Surveys: Japan 2021 (Report). OECD. 2019. doi:10.1787/6b749602-en。
- ^ a b c OECD 2015, p. 128.
- ^ a b OECD 2015, p. 129.
- ^ a b c d e f g h i j k l m 厚生労働白書 2011, Chapt.3.
- ^ 厚生労働白書 2011, Chapt.2.
- ^ a b 財務総合政策研究所 2010.
- ^ World Health Organisation, World Health Staff (2000). Haden, Angela; Campanini, Barbara. eds. The world health report 2000 - Health systems: improving performance. Geneva, Switzerland: 世界保健機関. ISBN 92-4-156198-X
- ^ “Most Efficient Health Care: Countries”. ブルームバーグ. 2013年8月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年8月31日閲覧。
- ^ 保険局調査課 (13 March 2019). 医療保険に関する基礎資料 生涯医療費 平成28年度 (Report). 厚生労働省.
- ^ 『平成25年版 高齢社会白書』内閣府、2013年。ISBN 978-4904681053 。
- ^ a b c d OECD 2009, p. 99.
- ^ “医療費、3年連続で過去最高に 2019年度は44兆円(朝日新聞デジタル)”. Yahoo!ニュース. 2021年11月15日閲覧。
- ^ a b WHO 2013, pp49-59, Part3 Grobal health Indicators>1. Life expectancy and mortality.
- ^ a b World Health Statistics 2010 (PDF) (Report). WHO. 2010. pp,45-57, Part2 Grobal health Indicators>1. Mortality and burden of disease.
- ^ 平成24年 人口動態調査, 第7表 (Report). 厚生労働省. 5 September 2013.
- ^ WHO 2013, pp.61-71, Part3 Grobal health Indicators>2. Cause-specific mortality and morbidity.
- ^ 人口統計資料集 2013年度版 (Report). 国立社会保障・人口問題研究所. 2013. Ⅴ.死亡・寿命.
- ^ a b c d e f OECD 2015, Assessment and recommendations.
- ^ a b OECD 2013, Chapt.1.9.
- ^ Making Mental Health Count The Social and Economic Costs of Neglecting Mental Health Care (Report). OECD. 2014年7月. doi:10.1787/9789264208445-en。
- ^ OECD 2013, Chapt.7.6.
- ^ 厚生労働白書 2013, 資料編pp26.
- ^ a b c d e f g “日本の公的医療制度の課題と民間医療保険の可能性”. フィナンシャル・レビュー (財務総合政策研究所) 111. (2012-09-01) .
- ^ a b c d e f g h i j 泉眞樹子「医療費における自己負担と医療アクセス - 保険給付と高額療養費、難病対策その他の公費医療」『レファレンス』第60巻第9号、国立国会図書館、2010年9月、91-116,、NAID 40017320355。
- ^ 2024年 医療施設動態調査況 (Report). 厚生労働省. 2024.
- ^ a b OECD 2013, Chapt.4.3.
- ^ OECD 2013, Chapt.4.2.
- ^ OECD 2013, 6.3.
- ^ 医療の1次・2次・3次について . 公立豊岡病院組合. 2020年8月17日閲覧。
- ^ 『内科専門研修カリキュラム』 . 日本内科学会. 2020年8月17日閲覧。
- ^ a b OECD 2013, Chapt.3.1.
- ^ a b c WHO 2013, pp120-129 >Part3 Grobal health Indicators>6. Health Systems.
- ^ a b OECD 2013, Chapt.3.7.
- ^ 厚生労働白書 2013, p. 305.
- ^ 厚生労働白書 2013, 資料編 pp.44-45.
- ^ OECD 2013, Chapt.4.1.
- ^ a b OECD 2009, pp. 106.
- ^ “○頻回受診者に対する適正受診指導について”. 厚生労働省 (2002年). 2024年11月26日閲覧。
- ^ “生活保護の病巣 利権・練金道具と化す「医療扶助」の闇”. 産経. (2012年11月25日)
- ^ a b c d OECD 2009, pp. 126–128.
- ^ a b c “国保納付率88%、最低更新 09年度、景気悪化で”. 共同. (2011年2月4日)
- ^ 『平成24年版厚生労働白書』(レポート)、厚生労働省、2012年、363頁。
- ^ a b 『平成25年度 国民医療費の概況』(レポート)、厚生労働省、2012年10月8日。
- ^ 『令和2(2020)年度 国民医療費の概況』(レポート)厚生労働省、2022年11月30日 。
- ^ 厚生労働白書 2013, 資料編 pp.21-22, 詳細データ1 社会保障給付費の部門別推移.
- ^ 厚生労働白書 2013, 資料編 pp.33-34, 詳細データ3 国民医療費及び構成割合の推移.
- ^ a b c WHO 2013.
- ^ a b OECD 2015, pp. 131–132.
- ^ OECD 2013, Chapt.7.3.
- ^ 社会保障費用統計, 厚生労働省
- ^ a b c OECD 2009.
- ^ OECD 2015, p. 126.
- ^ “高齢者医療費の負担を考える”. 読売新聞オンライン (2022年11月9日). 2023年12月3日閲覧。
- ^ a b c OECD 2009, p. 118-119.
- ^ a b c 『社会保障制度改革国民会議 報告書(概要) (PDF)』(レポート)、社会保障国民会議、2013年8月5日。
- ^ OECD 2014.
- ^ Revenue Statistics 2014 (Report). OECD. 2014年. doi:10.1787/rev_stats-2014-en-fr。
- ^ a b c OECD 2009, p. 119.
- ^ a b c 『社会保障国民会議 最終報告』(レポート)、社会保障国民会議、2013年11月4日。
- ^ a b c d e f OECD 2009, pp. 123–126.
- ^ “混合診療及び保険外併用療養費制度が医療制度に与える影響に関する研究”. フィナンシャル・レビュー (財務総合政策研究所) 111: 56-57. (2012-09-01) .
- ^ a b OECD 2013, 4.11.
- ^ a b c d OECD 2015, pp. 128–130.
- ^ a b OECD 2009, pp. 115–116.
- ^ 厚生労働白書 2013, pp. 308–309.
- ^ “生活保護受給者、後発薬基本に 厚労省が検討”. 共同. (2013年1月19日)
- ^ a b c d e OECD 2009, pp. 113–115.
- ^ OECD 2015, p. 131.
- ^ a b c 『民主党政策集INDEX2009 - 医療政策』(プレスリリース)民主党、2009年7月23日 。「レセプトオンライン請求の原則化」
- ^ 『平成24年度診療報酬改定の概要(DPC制度関連部分)』(プレスリリース)厚生労働省、2013年4月25日 。
- ^ “医療費の総額管理制度の導入をどう考えるか”. みずほリポート (みずほ総合研究所). (2005-08-24) .
- ^ a b 厚生労働白書 2013, pp. 310.
- ^ a b OECD 2009, pp. 116–117.
- ^ a b c d e f OECD 2009, pp. 117.
- ^ a b c d 亀澤 明彦「「かかりつけ医」をめぐる議論」『調査と情報』第1209巻、2022年12月8日、1-10頁、NCID BN08201599。
- ^ a b c d e “Japan: Universal Health Care at 50 Years”. ランセット 378 (9796): 1049,. (2011). doi:10.1016/S0140-6736(11)60274-2. PMID 21885103 .
- ^ OECD 2013, Chapt.4.5.
- ^ a b c d OECD 2009, pp. 106–108.
- ^ 医療法 第6条の3
- ^ OECD 2009, p. 105.
- ^ a b c d e f g h i j k l m OECD 2009, p. 118.
- ^ OECD 2009, p. 33.
- ^ 「レセプト(レセプトのオンライン請求義務化)とは」『日経ガバメントテクノロジー』2007年10月18日。
- ^ 『レセプトオンライン請求の完全義務化撤廃を求める共同声明』(プレスリリース)日本医師会、2008年11月20日 。
- ^ “レセプトのオンライン義務化違憲 35都府県の医師らが提訴”. 共同. (2009年1月21日)
- ^ “レセプトオンライン請求1年猶予 零細病院に配慮し厚労省”. 共同. (2009年4月21日)
- ^ “レセプト訴訟取り下げへ オンライン義務化撤回で”. 共同. (2010年2月13日)
- ^ 『レセプト電算処理システム年度別普及状況』(プレスリリース)社会保険診療報酬支払基金、2013年10月 。
- ^ 『柔道整復師の施術に係る療養費の支給について』(レポート)、会計検査院、2009年。
- ^ “柔道整復療養費にメス? 厚労省が不正請求への対処に本腰”. 日経メディカル. (2012-07-10) .
- ^ 『けんぽれん大阪連合会 広報誌「かけはし」 2009年11月 No.458』(プレスリリース)健保連大阪連合会、2009年11月 。
- ^ “柔道整復師問題、「ここ数年が戦いの最終局面」”. 日本保険鍼灸マッサージ協同組合連合会 (2010年11月22日). 2013年8月25日閲覧。
- ^ “柔道整復師問題、「ここ数年が戦いの最終局面」 日本臨床整形外科学会シンポ、「日医声明は脅迫電話で頓挫」”. M3.com. (2010年11月9日)
参考文献
[編集]- 政府機関
-
- 医療法
- “医療法施行令(昭和二十三年政令第三百二十六号)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2018年7月27日). 2020年1月22日閲覧。 “2018年12月1施行分”
- 『厚生労働白書 平成25年版』厚生労働省、2013年 。
- 『厚生労働白書 平成23年版』厚生労働省、2011年 。
- 『「医療制度の国際比較」報告書について』(レポート)、財務総合政策研究所、2010年6月30日。
- 国際機関
-
- World Health Statistics (Report). WHO. 2013年.
- Health at a Glance 2013, OECD, (2013-11-21), doi:10.1787/health_glance-2013-en, ISBN 9789264219984
- OECD Economic Surveys: Japan 2009, OECD, (2009-08-13), Chapt.3, doi:10.1787/eco_surveys-jpn-2009-en, ISBN 9789264054561
- OECD Reviews of Health Care Quality - Japan (Report). OECD. 2014年. doi:10.1787/22270485。
- OECD Economic Surveys: Japan 2015, OECD, (2015-04), doi:10.1787/eco_surveys-jpn-2015-en, ISBN 9789264232389
- その他
-
- 新村拓『国民皆保険の時代 : 1960,70年代の生活と医療』法政大学出版局、2011年11月。ISBN 9784588312113。
関連項目
[編集]- 日本の福祉
- 医療制度 - ユニバーサルヘルスケア
- 医学
- 医療、医療費、医療経済学、社会保障、医療費亡国論
- Category:日本の医療関係者 / 日本の医療・福祉・教育に関する資格一覧
- Category:日本の医療関連の職能団体