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'''銅'''(どう、{{lang-en|copper}}、{{lang-la|cuprum}})は、[[原子番号]]29の[[元素]]。[[元素記号]]は '''Cu'''。[[周期表]]では[[金]]、[[銀]]と同じく[[第11族元素|11族]]に属する[[遷移金属]]である。[[金属]][[資源]]として人類に古くから利用され、生産量・消費量がともに多いことから[[コモンメタル]]、[[卑金属|ベースメタル]]の一つに位置づけられる{{efn|ただし、[[イオン化傾向]]が比較的低く、ジュエリー加工に用いられるといった点から、[[貴金属]]の一種として扱われることもある。}}<ref>[http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/anzenhosho/koubutsusigen.html 世界の産業を支える鉱物資源について知ろう][[資源エネルギー庁]](2018年12月8日閲覧)。</ref>。歴史的にも[[硬貨]]や表彰[[メダル]]などで金銀に次ぐ存在とされてきた。
'''銅'''(どう、{{lang-en-short|copper}}、{{lang-la-short|cuprum}})は[[原子番号]]29の[[元素]]。[[元素記号]]は '''Cu'''。


== 名称 ==
[[周期表]]では[[金]]、[[銀]]と同じく[[第11族元素|11族]]に属する[[遷移金属]]である。元素記号の Cu は、[[ラテン語]]の ''cuprum'' から。この語はさらに ''cyprium aes''([[キプロス島]]の[[真鍮]])に由来し、[[キプロス]]に[[フェニキア]]の銅採掘場があったことに由来する<ref>桜井弘「元素111の新知識」(講談社ブルーバックス)160ページ</ref>。日本語では、その色から'''赤金'''、'''銅'''(あかがね)または、'''素銅'''(すあか)と呼ばれた。'''赤銅'''(しゃくどう)は[[康煕字典]]に見える<ref>康煕字典 - 金 : 金者五色,黃金、白銀、赤銅、靑鉛、黑鐵。</ref>。
=== 語源 ===
[[ラテン語]]では {{lang|la|''cuprum''}} と言い、元素記号Cuはラテン語の読み、さらに {{lang|la|''cyprium aes''}}([[キプロス島]]の[[真鍮]])に由来し、[[キプロス]]に[[フェニキア]]の銅採掘場があったことに由来する<ref>桜井弘『元素111の新知識』(講談社[[ブルーバックス]])160ページ</ref>。

英語の {{lang|en|copper}} はラテン語の {{lang|la|cuprum}} に由来し、「カッパー」ないし「コッパー」と呼ばれる。しばしば銅を意味すると誤解される {{lang|en|'''bronze'''}}'''(ブロンズ)'''は、正確には'''[[青銅]]'''を指す。[[銅メダル]]の素材は確かに青銅であり、{{lang|en|'''Bronze Medal'''}}'''(ブロンズメダル)'''というのは正しい{{efn|ただし、[[オリンピックメダル]]の銅メダルは、[[2014年ソチオリンピック]](銅97&nbsp;%、[[亜鉛]]2.5&nbsp;%、錫0.5&nbsp;%)、[[2016年リオデジャネイロオリンピック]](銅95&nbsp;%、亜鉛5&nbsp;%)、[[2018年平昌オリンピック]](銅90&nbsp;%、亜鉛10&nbsp;%)、[[2020年東京オリンピック]](銅95&nbsp;%、亜鉛5&nbsp;%)など、青銅ではなく[[黄銅]]([[丹銅]])の採用例が増えている。}}。

=== 日本での名称 ===
日本で初めて銅が使われたのは、紀元前300年の[[弥生時代]]といわれている。国内で銅鉱石を初めて産出したのは[[698年]]([[文武]]2年)で、[[因幡国]]([[鳥取県]])から銅鉱を朝廷に献じたと伝えられてる。また[[708年]]([[慶雲]]5年)に、[[武蔵国]]([[埼玉県]])秩父から献上された銅を用いて[[貨幣]]([[和同開珎]])がつくられ、[[元号]]も[[和銅]]と改められたとなっている。

7世紀後半の飛鳥池遺跡から発見された「富本銭」は、その鋳造が700年以前に遡ることが確認された他、遺跡からの溶銅の大量出土は、7世紀後半の産銅量が既に一定の水準に達していたことを物語っている。その色あいから{{ルビ|銅|あかがね}}と呼ばれた。

[[江戸時代]]の元禄時代には、[[精錬]]技術が発展して純度の高い銅ができ、長崎から中国、ベトナム、インド、インドネシアやヨーロッパまで運ばれた。この銅は{{ルビ|棹銅|さおどう}}と呼ばれた。

明治19年までは一般的には「あかがね」と呼んでいたが、明治の初めの金工家である加納夏雄は、素材としての銅を「あか」と呼んでいた。また、明治30年に発刊された「鏨迺花」には銅を素銅(すあか)と記述していて、その後の刀剣社会のみ、銅を{{ルビ|素銅|すあか}}と呼ぶようになった。現代では{{ルビ|銅|どう}}と呼んでいる。

== 性質 ==
=== 物理的性質 ===
[[File:Cu-Scheibe.JPG|thumb|left|150px|[[連続鋳造]]および[[ウェットエッチング]]によって作られた純度99.95 %の銅ディスク]]
[[File:Copper just above its melting point.jpg|left|150px|thumb|融点以上の温度に保持された溶融銅。白熱したオレンジ色と共にピンク色の[[光沢]]が見られる。]]
[[単結晶]]の銅は軟らかく、[[電気伝導度]]および[[展延性]]が高い金属であり、これは同じ[[第11族元素]]である[[銀]]や[[金]]と共通した性質である。これは閉殻構造を取る[[d軌道]]の外側に[[s軌道]]の[[電子]]が1つだけ存在しているという、第11族元素の[[電子配置]]に起因している。このような電子配置であるためにd軌道の電子の多くは[[原子]]間の相互作用に寄与せず、原子同士を結び付ける[[金属結合]]はs軌道の電子によって支配される。そのためこれらの元素は、d軌道が閉殻でなくd軌道の電子が結合に寄与する他の金属元素と比較して[[共有結合]]性が弱く金属結合性が強い結合が形成されることとなり、高い電気伝導度や延展性といった金属結合に起因する性質が強く現れる<ref name=b1>{{cite book|author1=George L. Trigg|author2=Edmund H. Immergut|title=Encyclopedia of applied physics|date=1 November 1992|publisher=VCH Publishers|isbn=978-3-527-28126-8|pages=267–272|volume=4: Combustion to Diamagnetism}}</ref>。巨視的なスケールにおいては、結晶格子に[[結晶粒界]]のような拡張欠陥が発生して硬度が増すため、負荷応力下での流動性の妨げとなる。そのため、通常銅は単結晶形よりも強度の高い多結晶微粒子の形で供給される<ref>{{cite book|author = Smith, William F. and Hashemi, Javad |title = Foundations of Materials Science and Engineering|page = 223|publisher = McGraw-Hill Professional|year= 2003|isbn = 0-07-292194-3}}</ref>。

銅は[[室温#自然科学における室温|室温]]において、純粋な金属の中で2番目に高い電気伝導性 ({{Val|59.6|e = 6|ul = S|upl = m}})および[[熱伝導率]] ({{Val|386|u = W.m-1.K-1}}<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.sanwa-ent.co.jp/sanwahps/datasheet/metal_spec.pdf|title=各種物質の性質 金属(固体)|publisher=サンワ・エンタープライズ|accessdate=2012-04-07}}</ref>)を有する<ref name=CRC>{{cite book|author = Hammond, C. R.|title = The Elements, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition|publisher =CRC press|isbn = 0-8493-0485-7|year = 2004}}</ref>。室温における金属中での電気伝導の抵抗の大部分は結晶格子の[[熱振動]]によって電子が拡散されることに起因しており、銅のような軟らかい金属ではこの熱振動が比較的弱いということが、その原因の1つとなっている<ref name=b1/>。空気中における銅の最大許容[[電流密度]]はおよそ{{Val|3.1|ul = A|upl = m2|e = 6}}であり、それ以上になると[[ジュール熱|過熱]]する<ref>{{cite book|last=Resistance Welding Manufacturing Alliance |title=Resistance Welding Manual|year=2003|publisher=Resistance Welding Manufacturing Alliance|isbn=0-9624382-0-0|edition=4th|pages=18–12}}</ref>。銅は他の金属と同様に、他の金属と接触することで{{仮リンク|電気腐食|en|Galvanic corrosion}}を起こす<ref>{{cite web|title=Galvanic Corrosion|url=http://www.corrosion-doctors.org/Forms-galvanic/galvanic-corrosion.htm|work=Corrosion Doctors|accessdate=29 April 2011}}</ref>。

青みがかった色の[[オスミウム]]、黄色い[[セシウム]]、黄色の[[金]]と共に、銅は自然の色が灰色もしくは銀色以外の色である3つの金属元素のうちの1つである<ref>{{Cite book|last = Chambers|first = William|last2 = Chambers|first2 = Robert|title = Chambers's Information for the People|publisher = W. & R. Chambers|year = 1884|volume = L|page = 312|edition = 5th|url = https://books.google.co.jp/books?id=eGIMAAAAYAAJ&redir_esc=y&hl=ja|isbn = 0-665-46912-8}}</ref>。銅は赤橙色をした金属であるが、空気中に曝されると赤みがかった色に退色する。この特徴的な銅の色は、満たされている3d軌道と半分空になっている4s軌道の間での電子遷移に起因し、これらの電子軌道のエネルギー差が赤橙色の光と一致するためにこのような色を示す。これは金が特徴的な金色を示すメカニズムと同一のものである<ref name=b1/>。

=== 化学的性質 ===
銅は+1(第一銅)および+2(第二銅)の[[酸化数]]を取り、豊富な種類の[[化合物]]を形成する<ref name="Holleman">{{cite book |last1=Holleman |first1=A. F. |last2=Wiberg |first2=N. |title=Inorganic Chemistry |year=2001 |publisher=Academic Press |location=San Diego |isbn=978-0-12-352651-9}}</ref>。銅は水とは反応しないものの、空気中の[[酸素]]とは徐々に反応して黒褐色をした[[酸化銅]]の被膜を形成する。生じた[[錆]]によって全体が[[酸化]]されてしまう[[鉄]]とは対照的に、銅の表面に形成される[[不動態|酸化被膜はさらなる酸化の進行を防止]]する。湿った条件下では[[二酸化炭素]]の作用により[[緑青]]([[水酸化炭酸銅]])を生じ、この緑色の層は、[[自由の女神像 (ニューヨーク)|自由の女神像]]や[[高徳院]]の[[阿弥陀如来]]像([[鎌倉]][[大仏]])などのような古い銅の建造物などにおいてしばしば見られる<ref>{{cite web|title=Copper.org: Education: Statue of Liberty: Reclothing the First Lady of Metals – Repair Concerns|url=http://www.copper.org/education/liberty/liberty_reclothed1.html|work=Copper.org|accessdate=11 April 2011}}</ref><ref name=Cotton>F.A. コットン、G. ウィルキンソン著、中原 勝儼訳『コットン・ウィルキンソン無機化学』培風館、1987年</ref>。[[硫化水素]]および[[硫化物]]は銅と反応して、その表面に様々な形の[[硫化銅]]を形成する。硫黄化合物を含んだ空気に曝された際に見られるように、硫化物との反応においては銅は腐食される<ref>{{cite journal|last1=Rickett|first1=B. I.|last2=Payer|first2=J. H.|title=Composition of Copper Tarnish Products Formed in Moist Air with Trace Levels of Pollutant Gas: Hydrogen Sulfide and Sulfur Dioxide/Hydrogen Sulfide|journal=Journal of the Electrochemical Society|year=1995|volume=142|issue=11|pages=3723–3728|doi=10.1149/1.2048404}}</ref>。赤熱下では[[酸化銅(II)]]を生成し、さらなる加熱により[[酸化銅(I)]]となる<ref name=Cotton/>。酸素と[[塩酸]]によって[[塩化銅]]が、酸性条件下で[[過酸化水素]]によって2価の銅塩が形成されるように、酸素を含んだ[[アンモニア]]水は銅の水溶性錯体を与える。[[塩化銅(II)]]は銅と{{仮リンク|均化|en|Comproportionation}}して[[塩化銅(I)]]となる<ref>{{cite book|last=Richardson|first=Wayne|title=Handbook of copper compounds and applications|year=1997|publisher=Marcel Dekker|location=New York|isbn=978-0-585-36449-0|oclc=47009854}}</ref>。

銅は[[イオン化傾向]]が小さいため[[塩酸]]や[[希硫酸]]といった酸とは反応しないが、[[硝酸]]、[[熱濃硫酸]]のような[[酸化力]]の強い酸や、[[塩酸]]と[[過酸化水素]]の混合物とは反応する。
* 希硝酸との反応
: <chem>3Cu + 8HNO3 -> 3Cu(NO3)2 + 4H2O + 2NO (^)</chem>
* 濃硝酸との反応
: <chem>Cu + 4HNO3 -> Cu(NO3)2 + 2H2O + 2NO2 (^)</chem>
* 熱濃硫酸との反応
: <chem>Cu + 2H2SO4 -> CuSO4 + 2H2O + SO2</chem>

溶融銅は酸素および[[水素]]ガスを吸収し、これらの気体を吸蔵した銅は[[脆性]]が高い。そこで[[リチウム]]、[[リン]]、[[ケイ素]]が脱酸剤として用いられ、このような処理をした銅を脱酸銅と呼ぶ<ref name=nishikawa>西川精一『新版金属工学入門』アグネ技術センター、2001年</ref>。

=== 同位体 ===
{{Main|銅の同位体}}
銅には29の[[同位体]]があり、<sup>63</sup>Cuおよび<sup>65</sup>Cuは安定同位体である。天然銅のおよそ69 %が<sup>63</sup>Cu、31 %が<sup>65</sup>Cuであり、共に3/2の[[スピン角運動量]]を持つ<ref name="nubase">{{cite journal|title=Nubase2003 Evaluation of Nuclear and Decay Properties|journal=Nuclear Physics A|volume=729|page=3|publisher=Atomic Mass Data Center|year=2003|doi=10.1016/j.nuclphysa.2003.11.001|author=Audi, G|bibcode=2003NuPhA.729....3A}}</ref>。銅の他の同位体は[[放射性同位体]]であり、最も安定なものは[[半減期]]61.83時間の<sup>67</sup>Cuである<ref name="nubase"/>。7つの[[核異性体|準安定同位体]]が明らかとなっており、最も長命なもので半減期3.8分の<sup>68m</sup>Cuがある。質量数が64以上の同位体では[[ベータ崩壊|β<sup>&minus;</sup>崩壊]]によって崩壊し、64以下のものはβ<sup>+</sup>崩壊によって崩壊する。半減期12.7時間の<sup>64</sup>Cuは、β<sup>&minus;</sup>崩壊とβ<sup>+</sup>崩壊の両方法で崩壊する<ref>{{cite web |url=http://www.nndc.bnl.gov/chart/reCenter.jsp?z=29&n=35 |title=Interactive Chart of Nuclides |work=National Nuclear Data Center |accessdate=2011-04-08}}</ref>。

<sup>62</sup>Cuおよび<sup>64</sup>Cuには重要な用途がある。<sup>64</sup>CuはX線写真の[[造影剤]]として利用され、<sup>64</sup>Cuのキレート錯体は[[悪性腫瘍|癌]]の[[放射線療法]]に対して用いられる。<sup>62</sup>CuはCu(II)-pyruvaldehyde-bis(N<sup>4</sup>-methyl-thiosemicarbazone) (<sup>62</sup>Cu-PTSM) の形で[[ポジトロン断層法]]における[[放射性トレーサー]]として利用される<ref>{{Cite journal |author=Okazawa, Hidehiko ''et al.''|year=1994 |title=Clinical Application and Quantitative Evaluation of Generator-Produced Copper-62-PTSM as a Brain Perfusion Tracer for PET |journal=Journal of Nuclear Medicine |volume=35 |issue=12 |pages=1910–1915 |url=http://jnm.snmjournals.org/cgi/reprint/35/12/1910.pdf|pmid=7989968 |format=PDF}}</ref>。

== 化合物 ==
[[File:CopperIoxide.jpg|thumb|[[酸化銅(I)]]の試料]]
=== 二元化合物 ===
銅と他の元素との化合物のうち、最も単純なものは[[二元化合物]]である。主要なものは[[酸化物]]、[[硫化物]]および[[ハロゲン化物]]である。1価および2価の銅の両方の酸化物が知られている。多数の銅の硫化物の間で重要なものの例として硫化銅(I)および硫化銅(II)が含まれる。

1価の銅のハロゲン化物は[[塩素]]、[[臭素]]および[[ヨウ素]]とのものが知られており、2価の銅のハロゲン化物は[[フッ素]]、塩素および臭素とのものが知られている。2価の銅とヨウ素を反応させてもヨウ化銅(II)は合成されず、ヨウ化銅(I)とヨウ素が得られる<ref name="Holleman"/>。
:<chem>2 Cu^2+ + 4 I^- -> 2 CuI + I2</chem>

=== 錯体化学 ===
[[File:Tetramminkupfer(II)-sulfat-Monohydrat Kristalle.png|thumb|2価の銅はアンモニアを配位子とすることで濃青色の錯化合物を与える。この写真は{{仮リンク|硫酸テトラアンミン銅(II)|en|tetramminecopper(II) sulfate}}である。]]
銅は他の金属と同様に[[配位子]]との間で[[錯体]]を形成する。[[水溶液]]中において2価の銅は{{chem|[Cu(H|2|O)|6|]|2+}}の形で存在している。[[遷移金属]]の{{仮リンク|金属アコ錯体|en|Metal aquo complex}}に対する配位水の交換速度は最も早い。[[水酸化ナトリウム]]溶液を加えることで明青色の[[水酸化銅(II)]]が沈降する。
: <chem>Cu^2+ + 2OH^- -> Cu(OH)2</chem>

[[水酸化アンモニウム|アンモニア水]]を加えた場合も同様に[[沈殿]]を生じるが、アンモニア水の添加量が過剰になるとテトラアンミン銅(II)イオンを形成して沈殿が再溶解する。
: <chem>Cu(H2O)4(OH)2 + 4NH3 -> [Cu(H2O)2(NH3)4]^2+ + 2H2O + 2OH^-</chem>

多くの[[オキソアニオン]]は銅イオンとの間に錯体を形成し、それには[[酢酸銅(II)]]や[[硝酸銅(II)]]などが含まれる。[[硫酸銅(II)]]は青色の結晶の5[[水和物]]を形成し、それは研究室において最も一般的な銅化合物である。それは[[ボルドー液]]と呼ばれる[[殺菌剤 (農薬その他)|殺菌剤]]として用いられる<ref name="Boux">{{cite book|url = https://books.google.com/books?id=cItuoO9zSjkC&pg=PA623|page = 623|chapter = Nonsystematic (Contact) Fungicides|title = Ullmann's Agrochemicals|isbn = 978-3-527-31604-5|author1 = Wiley-Vch,|date = 2007-04-02}}</ref>。

[[File:Tetraamminediaquacopper(II)-3D-balls.png|thumb|right|200px|<chem>\ [Cu(NH3)4(H2O)2]^2+</chem>錯体の[[球棒モデル]]。銅(II)に典型的な[[八面体形|八面体形分子構造]]を示す。]]

複数の[[ヒドロキシ基]]を含む[[ポリオール]]は一般的に2価の銅塩と相互作用を示す。例えば、銅塩は[[還元糖]]の検出に用いられる。特に、[[ベネジクト液]]および[[フェーリング液]]を用いた糖の検出は、青色の2価の銅が赤色の1価の酸化銅(I)に還元される際の色変化によって識別される<ref>Ralph L. Shriner, Christine K. F. Hermann, Terence C. Morrill, David Y. Curtin, Reynold C. Fuson "The Systematic Identification of Organic Compounds" 8th edition, J. Wiley, Hoboken. ISBN 0-471-21503-1</ref>。[[シュバイツァー試薬]]および[[エチレンジアミン]]や他の[[アミン]]類との錯体は[[セルロース]]を分解する<ref>Kay Saalwächter, Walther Burchard, Peter Klüfers, G. Kettenbach, and Peter Mayer, Dieter Klemm, Saran Dugarmaa "Cellulose Solutions in Water Containing Metal Complexes" Macromolecules 2000, 33, 4094–4107. {{DOI|10.1021/ma991893m}}</ref>。[[アミノ酸]]は2価の銅との間で非常に安定なキレート錯体を形成する。銅イオンに関する多くの湿式反応が存在し、例えば銅イオンを含む溶液に[[フェロシアン化カリウム]]を加えることで茶色の銅(II)塩の沈殿が生じる反応がある。

=== 有機銅化合物 ===
炭素-銅結合を含む化合物は[[有機銅化合物]]として知られている。それは酸素に対する反応性が非常に高く酸化銅(I)を形成し、化学において有機銅[[試薬]]として多くの用途が存在する({{仮リンク|有機銅試薬の反応|en|Reactions of organocopper reagents}})。それは1価の銅化合物を[[グリニャール試薬]]もしくは末端[[アルキン]]、[[アルキルリチウム]]で処理することで合成され<ref>"Modern Organocopper Chemistry" Norbert Krause, Ed., Wiley-VCH, Weinheim, 2002. ISBN 978-3-527-29773-3.</ref>、特にアルキルリチウムとの反応では[[ギルマン試薬]]が合成される。これらは[[ハロゲン化アルキル]]によって[[置換反応]]を起こして[[カップリング反応|カップリング生成物]]を形成し、それらは[[有機合成化学]]の分野で重要である。[[炭化銅(I)]]は衝撃に非常に敏感であるが、[[カディオ・ホトキェヴィチカップリング]]<ref>{{cite journal|last1=Berná|first1=José|last2=Goldup|first2=Stephen|last3=Lee|first3=Ai-Lan|last4=Leigh|first4=David|last5=Symes|first5=Mark|last6=Teobaldi|first6=Gilberto|last7=Zerbetto|first7=Fransesco|title=Cadiot–Chodkiewicz Active Template Synthesis of Rotaxanes and Switchable Molecular Shuttles with Weak Intercomponent Interactions|journal=Angewandte Chemie|date=May 26, 2008|volume=120|issue=23|pages=4464–4468|doi=10.1002/ange.200800891}}</ref> や[[薗頭カップリング]]<ref>{{cite journal|title = The Sonogashira Reaction: A Booming Methodology in Synthetic Organic Chemistry|author = Rafael Chinchilla and Carmen Nájera|journal = [[Chemical Reviews]]|year = 2007|volume = 107|issue = 3|pages = 874–922|doi = 10.1021/cr050992x|pmid = 17305399}}</ref> のような反応の中間体である。[[エノン]]への[[求核共役付加反応]]<ref>{{cite journal |year=1986 |title=An Addition of an Ethylcopper Complex to 1-Octyne: (E)-5-Ethyl-1,4-Undecadiene |journal=[[Organic Syntheses]] |volume=64 |page=1 |url=http://www.orgsyn.org/orgsyn/pdfs/CV7P0236.pdf |format=PDF}}</ref> およびアルキンの{{仮リンク|カルボメタル化|en|Carbometalation}}もまた有機銅化合物を用いることで実現された。1価の銅は[[アルケン]]および[[一酸化炭素]]との間で様々な弱い錯体を形成し、それは特にアミン配位子の存在下において顕著である<ref>{{cite journal|author=Sadako Imai et al.|title= <sup>63</sup>Cu NMR Study of Copper(I) Carbonyl Complexes with Various Hydrotris(pyrazolyl)borates: Correlation between 63Cu Chemical Shifts and CO Stretching Vibrations|journal= Inorg. Chem.|year= 1998| volume =37|pages=3066–3070|doi=10.1021/ic970138r|issue=12}}</ref>。

=== 3価および4価の銅化合物 ===
3価の銅化合物は有機銅化合物の反応において中間体としてしばしば見られる。ジ銅のオキソ錯体もまた3価の銅であることを特徴とする<ref>{{cite journal |last1=Lewis |first1=E. A. |last2=Tolman |first2=W. B. |year=2004 |title=Reactivity of Dioxygen-Copper Systems |journal=Chemical Reviews |volume=104 |pages=1047–1076 |doi=10.1021/cr020633r |issue=2 |pmid=14871149}}</ref>。非常に基本的なフッ化物の配位子は高酸化状態の金属イオンを安定化させ、3価および4価の銅化合物にはK<sub>3</sub>CuF<sub>6</sub>やCs<sub>2</sub>CuF<sub>6</sub><ref name=Holleman/> のようなフッ化物との錯塩がある。紫色をした3価の銅の化合物である、ジおよびトリ[[ペプチド]]は脱プロトン化された[[アミド]]配位子によって高酸化状態が安定化されている<ref>{{cite journal |last1=McDonald |first1=M. R. |last2=Fredericks |first2=F. C. |last3=Margerum |first3=D. W. |year=1997 |title=Characterization of Copper(III)-Tetrapeptide Complexes with Histidine as the Third Residue |journal=Inorganic Chemistry |volume=36 |pages=3119–3124|doi=10.1021/ic9608713|pmid=11669966 |issue=14}}</ref>。

=== 主な銅の化合物 ===
* [[硫化銅]] (CuS)
* [[塩化銅]](I) (CuCl)
* [[塩化銅]](II) (CuCl<sub>2</sub>)
* [[酸化銅(I)]] (Cu<sub>2</sub>O)
* [[酸化銅(II)]] (CuO)
* [[硫酸銅]] (CuSO<sub>4</sub>)

== 分析 ==
=== 定性分析 ===
溶液中の銅の[[定性分析]]としては、水酸化ナトリウムを加えた際に生じる水酸化銅(II)の[[沈殿]]や、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを加えた際に生じるフェロシアン化銅の赤褐色沈殿、硫化ナトリウムを加えた際に生じる硫化銅(II)の黒色沈殿などを観察する方法がある<ref name=analysis>{{Cite book|和書|title=分析科学|author=萩中淳|year=2007|series=ベーシック薬学教科書シリーズ|pages=112-114|publisher=化学同人|isbn=4759812520}}</ref>。微量な銅イオンの定性方法としては[[アンモニア]]を加えた際に生じる[[アンミン錯体]]の青色を検出する方法が用いられ、この方法による検出限界は60 ppmである。妨害元素としては銅と同じ青色のアンミン錯体を形成するNi<sup>2+</sup>があり、Co<sup>2+</sup>などのアンミン錯体も呈色によって銅錯体の青色を検出を困難にする。またアンモニア塩基性で沈殿を生じる元素が共存していると銅が共沈してしまうため、こちらも妨害要因となる。さらに感度の高い方法として[[ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム]]との反応によって生じる黄褐色化合物を検出する方法があり、この方法による検出限界は10 ppmである。妨害元素の多くは[[エチレンジアミン四酢酸|EDTA]]の添加によってマスキングすることができるが、Bi<sup>3+</sup>が200 ppm以上共存していると銅と同様の反応を起こして妨害となる<ref name=charlot381>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 381頁。</ref>。Cu<sup>+</sup>はほとんどの化合物が難溶性であり溶液中に存在することが希である<ref>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 375頁。</ref>。

銅は青緑色の[[炎色反応]]を示すため、炎色反応の観察によっても定性分析をすることが可能である。その青緑色の輝線の波長は530&ndash;550 nmの幅を持つブロードな[[スペクトル]]である<ref name=analysis/>。

=== 定量分析 ===
銅の定量分析法のうち、古典的なものとして[[重量分析]]法と[[比色分析]]法がある<ref name=ehc2321>[[#ehc200|Environmental Health Criteria (1998)]] 2.3.2.1 Gravimetric and colorimetric methods</ref>。重量分析法では、試料を溶解させた溶液を処理して酸化銅(II)や硫化銅(II)、チオシアン酸銅(II)などの溶解度の極めて低い銅化合物を生成させて分離し、その重量を測定することで試料中の銅濃度を定量するという方法が利用される<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 188-191頁。</ref>。例えば酸化銅(II)を生成させる方法では、試料を酸性溶液に溶解させた後に[[水酸化ナトリウム]]などを加えて塩基性とした状態で加熱することで水酸化銅(II)の沈殿を生成させ、これに臭素水などを加えてさらに過熱することで水酸化銅(II)を酸化させて酸化銅(II)とする。こうして得られた酸化銅(II)をるつぼに入れて強熱した後、その重量を測定することで試料中の銅濃度を定量することができる<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 188-189頁。</ref>。酸化銅(II)を用いる方法は比較的分析精度が高いものの高濃度試料の分析には適さず、チオシアン酸銅(II)を用いる方法は様々な夾雑元素を分離できるため銅鉱石のような試料の分析に適している<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 190-191頁。</ref>。また比較的新しい方法としては、試料を溶解させた溶液を電気分解して金属銅を析出させ、その重量を測定する電解重量法も銅の重量分析法として用いられる<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 195-198頁。</ref>。電解重量法は[[国際標準化機構]]によるISO 1553:1976, ISO 1554:1976および、[[日本産業規格]]による対応規格であるJIS H 1051:2005において銅および銅合金中の銅定量方法として規格されている。この方法では、電解させた後の溶液中に銅が残存してしまうため電解残液中の銅を別の方法で測定する必要があり、その方法としてはオキザリルジヒドラジド吸光光度法や[[原子吸光|原子吸光光度法]]、[[誘導結合プラズマ|誘導結合プラズマ発光分析法]]が規定されている<ref name=JISH1051>{{Cite jis|H|1051|2005}} 付属書2 JISと対応する国際規格との対比</ref>。比色分析法では、定性分析として用いられる銅のアンミン錯体が呈する青色の発色の程度が銅濃度に比例することを利用して、目視<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 198-199頁。</ref> もしくは分光光度計を利用した分光光度法によって銅濃度を定量することができる<ref>{{Cite web|和書|title=比色分析(分光光度分析)|url=http://www.ek.u-tokai.ac.jp/dl/%E6%AF%94%E8%89%B2%E5%88%86%E6%9E%90_%E6%94%B9.pdf|page=4|publisher=東海大学工学部応用化学科|accessdate=2012-07-18}}</ref>。銅を発色させる試薬は様々な種類のものが研究されており、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン([[バソクプロイン]])を用いる方法では溶液中の銅濃度2 &mu;g/Lという検出限界が達成されている<ref name=ehc2321/>。

容量分析法もまた、銅の定量分析法として用いられる。このような方法としては、銅のアンミン錯体が青色でありシアノ錯体は無色であることを利用した錯滴定法や、酢酸酸性条件において銅が[[ヨウ化カリウム]]と反応することで遊離するヨウ素を[[チオ硫酸ナトリウム]]で滴定する酸化還元滴定法などがある<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 191-194頁。</ref>。また、重量分析法で利用されるチオシアン酸銅(II)は水酸化ナトリウム溶液中で加熱すると水酸化銅(II)と[[チオシアン酸ナトリウム]]が生成されるため、このチオシアン酸ナトリウムを濃度既知の[[過マンガン酸カリウム]]溶液で酸化還元滴定をすることによっても銅を定量することができる<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 190、195頁。</ref>。

溶液中に含まれる微量な銅の定量分析には、[[原子吸光|原子吸光光度法]] (AAS) や[[誘導結合プラズマ|誘導結合プラズマ発光分析法]] (ICP-AES)などの機器分析が利用される<ref>[[#NIES|国立環境研究所 (2001)]] 93、95頁。</ref>。試料中の銅濃度が低く検出できない場合や共存する元素によって分析結果に誤差が生じるような場合には、前処理として[[ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム]]を用いて銅錯体を形成させ、酢酸ブチルを有機層として[[溶媒抽出法|溶媒抽出]]することで銅を分離、濃縮する操作が行われる<ref>[[#NIES|国立環境研究所 (2001)]] 73、93頁。</ref>。AASでは通常アセチレン-空気炎を用いて324.8 nmの吸収波長で測定され<ref>[[#NIES|国立環境研究所 (2001)]] 93頁。</ref>、試料の原子化に黒炭炉を用いた黒炭炉原子吸光分析を利用することで分析感度を向上させることができる<ref name=ehcjp1/>。ICP-AESでは324.754 nmの発光波長で測定され、夾雑元素によるスペクトル干渉を受けやすい<ref>[[#NIES|国立環境研究所 (2001)]] 94頁。</ref>。また、[[蛍光X線|蛍光X線元素分析法]] (XRF)やイオン電極、[[ボルタンメトリー|ストリッピングボルタンメトリー]]などによる定量分析も利用される<ref name=ehcjp1>[[#ehc200jp|国際環境クライテリア (2002)]] 1頁。</ref>。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
=== 銅器時代 ===
銅は[[先史時代]]から使われてきた金属である。紀元前8800年頃作られたとされる銅製の小玉がイラクから出土しており、これが確認される最古の銅だと言われている<ref>桜井弘「元素111の新知識」(講談社ブルーバックス)159ページ</ref>。銅と[[スズ]]の[[鉱石]]は混在することから、[[メソポタミア]]では紀元前3500年頃から銅にスズを混ぜた[[青銅]]で道具を作るようになった。青銅器は[[エジプト]]、[[中国]]([[殷]]王朝)などでも使われるようになり、世界各地で[[青銅器時代|青銅器文明]]が花開いた。
{{main|銅器時代}}
[[File:Minoan copper ingot from Zakros, Crete.jpg|thumb|[[クレタ島]]の{{仮リンク|ザクロス|en|Zakros}}遺跡から発見された腐食した銅の[[インゴット]]。当時、典型的だった動物の毛皮状の成型がされている。]]
銅は[[自然銅]]として自然中に存在しており、最初期の文明のいくつかにおいても知られ[[先史時代]]から使われてきた金属である。銅の使用には少なくとも1万年の歴史があり、紀元前9000年の[[中東]]で利用され始めたと推測されている<ref name=discovery>{{cite web|url=http://www.csa.com/discoveryguides/copper/overview.php|title=CSA – Discovery Guides, A Brief History of Copper|publisher=Csa.com|accessdate=2008-09-12}}</ref>。[[イラク]]北部で紀元前8700年と年代決定された銅のペンダントが出土しており、これは確認される最古の銅だと言われている<ref>桜井弘『元素111の新知識』(講談社ブルーバックス)159ページ</ref><ref>{{cite book|page = 56|title = Jewelrymaking through History: an Encyclopedia|publisher= Greenwood Publishing Group|year = 2007|isbn = 0-313-33507-9|author = Rayner W. Hesse}}</ref>。金および[[隕鉄]](ただし鉄の溶融はできていない)だけが、人類が銅より前に使用していたという証拠がある<ref name=vander>{{cite web|url=http://elements.vanderkrogt.net/element.php?sym=Cu|title=Copper|publisher=Elements.vanderkrogt.net|accessdate=2008-09-12}}</ref>。銅の[[冶金]]学の歴史は、1. [[自然銅]]の[[冷間加工]]、2. [[焼きなまし]]、3. [[製錬]]および4. [[インベストメント鋳造]]の順序に続いて発展したと考えられる。東南[[アナトリア半島|アナトリア]]においては、これら4つの冶金技術はおよそ紀元前7500年頃の新石器時代の初めに若干重複して現れる<ref name="Renfrew1990">{{cite book|last=Renfrew|first=Colin|authorlink=コーリン・レンフリュー<!-- en:Colin Renfrew, Baron Renfrew of Kaimsthorn --> |title=Before civilization: the radiocarbon revolution and prehistoric Europe|url=https://books.google.co.jp/books?id=jJhHPgAACAAJ&redir_esc=y&hl=ja|accessdate=21 December 2011|year=1990|publisher=Penguin|isbn=978-0-14-013642-5}}</ref>。農業が世界中のいくつかの地域([[パキスタン]]、[[中国]]および[[アメリカ大陸]]を含む)でそれぞれ独立して発明されたのと同様に、銅の溶錬もいくつかの異なる地域で発明された。それはおそらく、紀元前2800年頃の中国、西暦600年頃の[[中央アメリカ]]、および西暦9から10世紀頃の[[西アフリカ]]でそれぞれ独立して発明された<ref>{{cite news|author = Cowen, R. |url = http://www.geology.ucdavis.edu/~cowen/~GEL115/115CH3.html|title = Essays on Geology, History, and People, Chapter 3: "Fire and Metals: Copper|accessdate =2009-07-07}}</ref>。[[インベストメント鋳造]]は紀元前4500から4000年頃に[[東南アジア]]で発明され<ref name=discovery/>、また、[[放射性炭素年代測定]]によって[[イギリス|英国]][[チェシャー]]の{{仮リンク|アルダリー・エッジ|en|Alderley Edge}}にある銅鉱山が紀元前2280年から紀元前1890年のものであると確かめられた<ref>{{cite book|author = Timberlake, S. and Prag A.J.N.W.|year = 2005|title = The Archaeology of Alderley Edge: Survey, excavation and experiment in an ancient mining landscape|location = Oxford|publisher = John and Erica Hedges Ltd.|page = 396 |doi=10.30861/9781841717159}}</ref>。紀元前3300年から紀元前3200年頃のものと見られる[[ミイラ]]の[[アイスマン]]は、純度99.7&nbsp;%の純銅製の[[斧]]の頭とともに発見された。彼の髪に高純度の[[ヒ素]]が見られたことから、彼が銅精錬に関わっていたのではないかと考えられている<ref name=CSA>{{cite web|title=CSA – Discovery Guides, A Brief History of Copper|url=http://www.csa.com/discoveryguides/copper/overview.php|work=CSA Discovery Guides|accessdate=29 April 2011}}</ref>。[[ミシガン州|ミシガン]]および[[ウィスコンシン州|ウィスコンシン]]の{{仮リンク|オールドカッパー文化|en|Old Copper Complex}}(古代北米における[[アメリカ州の先住民族|ネイティブ・アメリカン]]の社会。銅製の武器や道具を広く利用していた)における銅の生産は紀元前6000年から紀元前3000年の間の年代を示している<ref name=occ>Pleger, Thomas C. "A Brief Introduction to the Old Copper Complex of the Western Great Lakes: 4000–1000 BC", ''[https://books.google.co.jp/books?id=6NUQNQAACAAJ&redir_esc=y&hl=ja Proceedings of the Twenty-seventh Annual Meeting of the Forest History Association of Wisconsin]'', Oconto, Wisconsin, October 5, 2002, pp. 10–18.</ref><ref>Emerson, Thomas E. and McElrath, Dale L. ''[https://books.google.co.jp/books?id=awsA08oYoskC&pg=PA709&redir_esc=y&hl=ja Archaic Societies: Diversity and Complexity Across the Midcontinent]'', SUNY Press, 2009 ISBN 1-4384-2701-8.</ref>。これらのような銅と関わった経験が他の金属の利用の発展の助けとなり、特に、銅の溶錬から鉄の溶錬({{仮リンク|塊鉄炉|en|Bloomery}})の発見に至った<ref name=CSA />。


=== 青銅器時代 ===
耐食性の高さなどから、古来より[[貨幣]]の材料としても利用されている([[銅貨]])。日本の硬貨では[[五円硬貨|5円硬貨]]が[[黄銅]]、[[十円硬貨|10円硬貨]]が青銅、[[五十円硬貨|50円硬貨]]、[[百円硬貨|100円硬貨]]、旧[[五百円硬貨|500円硬貨]]が[[白銅]]、新500円玉が[[ニッケル黄銅]]という銅の合金である。なお、昔の100円硬貨にはさらに[[銀]]が入っていたが、現在は入っていない。
{{main|青銅器時代}}
[[File:Pu with openwork interlaced dragons design.jpg|thumb|[[春秋時代]]の青銅器]]
銅と[[スズ]]との合金である[[青銅]]の製造は銅の溶錬法の発見からおよそ4000年後に初めて行われ、その2000年後には自然銅の一般的な用途となった。[[シュメール]]の都市から発見された青銅製品や、[[古代エジプト]]の都市から発見された銅および青銅製品は紀元前3000年頃のものと見られている<ref name=hist>{{cite book|pages = 13, 48–66|title = Encyclopaedia of the History of Technology|author = McNeil, Ian |publisher = Routledge|year = 2002|location = London ; New York|isbn = 0-203-19211-7}}</ref>。[[青銅器時代]]は東南ヨーロッパで紀元前3700年から紀元前3300年頃に始まり、[[北ヨーロッパ]]では紀元前2500年頃から始まった。青銅器はまた古代のエジプトや[[中国]]([[殷]]王朝)などでも使われるようになり、世界各地で[[青銅器時代|青銅器文明]]が花開いた。それは[[鉄器時代]]の始まり([[中東]]では紀元前2000年から紀元前1000年頃、北ヨーロッパでは紀元前600年頃)によって終了した。[[新石器時代]]から青銅器時代への移行期は、[[石器]]とともに銅器が使われ始めた時代であることから、以前は銅石器時代と呼ばれていた(「[[銅器時代]]」も参照)。この用語は、世界の一部の地域では新石器時代と銅石器時代の境界が重なっているために徐々に使われなくなっていった。銅と[[亜鉛]]の[[合金]]である[[真鍮]]の起源はずっと新しい。それは[[古代ギリシア|ギリシャ人]]には知られており、[[ローマ帝国]]期の青銅の不足を補う重要な合金となった<ref name=hist/>。


=== 古代および中世 ===
[[西洋占星術]]など神秘主義哲学では、[[金星]]を象徴する金属とされた。これは、銅の産地として知られていたキプロスが、金星の守護神とされる[[アプロディテ]]の聖地でもあったことに由来する。
[[File:Venus symbol.svg|thumb|left|100px|[[錬金術]]において銅のシンボル(恐らくは枠にはめた鏡)はまた女神および[[金星]]のシンボルでもある。]]
[[File:TimnaChalcolithicMine.JPG|thumb|[[ティムナ・バレー]](イスラエル、[[ネゲヴ]])にある銅石器時代の銅鉱山]]


ギリシャでは、銅はカルコス({{Lang|el|χαλκός}}、chalkos)として知られていた。それはギリシャ人、ローマ人および他の民族にとって重要な資源であった。ローマ時代にはキュプリウム・アエス(aes Cyprium、キプロス島の銅)として知られており、アエス (aes)は多くの銅が採掘されたキプロス島からの銅合金および銅鉱石を示す一般的な[[ラテン語]]の用語である。キュプリウム・アエスというフレーズはクプルム (cuprum)と一般化され、そこから英語で銅を示すカッパー (copper)となった。銅の[[光沢]]の美しさや、古代には鏡の生産に銅が用いられていたこと、および女神を崇拝していたキプロスとの関係から、女神である[[アプロディーテー]]および[[ウェヌス]]は[[神話]]と[[錬金術]]において銅の象徴とされた。古代に知られていた7つの[[惑星]]は、古代に知られていた7つの金属と関連付けられ、[[金星]]は銅に帰されていた<ref>{{cite journal|title = The Nomenclature of Copper and its Alloys|author = Rickard, T. A. |journal = The Journal of the Royal Anthropological Institute of Great Britain and Ireland|volume = 62|year = 1932|page=281|jstor = 2843960|doi = 10.2307/2843960|publisher = The Journal of the Royal Anthropological Institute of Great Britain and Ireland, Vol. 62}}</ref>。
== 産地 ==

イギリスでの真鍮の初めての使用は紀元前3世紀から2世紀頃に起こった。[[北アメリカ大陸]]での銅鉱山は[[ネイティブ・アメリカン]]によって周辺部の採掘から始まった。自然銅は800年から1600年までの間に、原始的な石器によって[[アイル・ロイヤル国立公園|アイル・ロイヤル]]から採掘されていたことが知られている<ref>{{cite journal|title = The State of Our Knowledge About Ancient Copper Mining in Michigan|journal = The Michigan Archaeologist|volume = 41|page = 119|author = Martin, Susan R. |year = 1995|url = http://www.ramtops.co.uk/copper.html|issue =2–3}}</ref>。銅の冶金学は[[南アメリカ大陸]]、特に1000年頃の[[ペルー]]においてで盛んであった。アメリカ大陸における銅の利用の発展は他の大陸よりも非常に遅く進行した。15世紀から銅の埋葬品が見られるようになったが、金属の商業生産は20世紀前半まで始まらなかった。

銅の文化的な役割は、特に流通において重要だった([[銅貨]])。紀元前6世紀から紀元前3世紀までを通して、[[古代ローマ]]では銅の塊をお金として利用していた。初めは銅自体が価値を持っていたが、徐々に銅の形状と見た目が重要視されるようになっていった。[[ガイウス・ユリウス・カエサル]]は真鍮製のコインを作り、一方で[[アウグストゥス]]のコインは銅-鉛-スズ合金から作られた。当時の銅の年間生産量は{{gaps|15|000}}トンと推定されており、ローマの銅採掘および溶錬活動({{仮リンク|ローマにおける冶金|en|Roman metallurgy}})は[[産業革命]]の時まで凌駕されない規模に達していた。最も熱心に採掘された[[属州]]は[[ヒスパニア]]、キプロスおよび中央ヨーロッパであった<ref>{{cite journal|doi = 10.1126/science.272.5259.246|title = History of Ancient Copper Smelting Pollution During Roman and Medieval Times Recorded in Greenland Ice|pages = 246–249 (247f.)|year = 1996|last1 = Hong|first1 = S.|last2 = Candelone|first2 = J.-P.|issue = 5259|last3 = Patterson|first3 = C. C.|last4 = Boutron|first4 = C. F.|journal = Science|volume = 272|bibcode = 1996Sci...272..246H }}</ref><ref>{{cite journal|last = de Callataÿ|first = François|year = 2005|title = The Graeco-Roman Economy in the Super Long-Run: Lead, Copper, and Shipwrecks|journal = Journal of Roman Archaeology|volume = 18|pages = 361–372 (366–369)}}</ref>。現代の日本の硬貨においても、[[五円硬貨|5円硬貨]]が[[黄銅]]、[[十円硬貨|10円硬貨]]が青銅、[[五十円硬貨|50円硬貨]]、[[百円硬貨|100円硬貨]]、旧[[五百円硬貨|500円硬貨]]が[[白銅]]、新500円玉が[[ニッケル黄銅]]という銅の合金が用いられている。

日本では[[弥生時代]]より[[銅鐸]]、[[銅剣]]、[[銅鏡]]などの青銅器が鋳造されていたが、その原材料は大陸からの輸入品であった。国産の銅は[[698年]]に産出したものが始まりとされる(スズは[[700年]])。

[[エルサレム神殿]]の門は{{仮リンク|色揚げ|en|depletion gilding}}によって作られた{{仮リンク|コリント青銅|en|Corinthian bronze}}が使われた。それは錬金術が始まったと考えられる[[アレクサンドリア]]で一般的なものであった<ref>{{cite journal|url = http://www.goldbulletin.org/downloads/JACOB_2_33.PDF|title = Corinthian Bronze and the Gold of the Alchemists|author6 = Sudhölter, Ernst J. R.|author5 = Zuilhof, Han|author4 = van Dijk, Marinus|journal = Macromolecules|author3 = Barentsen, Helma M.|issue = 2|author2 = Warman, John M.|volume = 33|first = D. M.|last = Jacobson|year = 2000|page=60|doi = 10.1021/ma9904870|bibcode = 2000MaMol..33...60S}}</ref>。古代[[インド]]において銅は、医療体系である[[アーユルヴェーダ]]において外科用器具および他の医療用器具のために用いられた。紀元前2400年の古代エジプト人は傷や飲料水の殺菌のために銅を利用し、後には頭痛、火傷、かゆみにも用いられるようになった。[[はんだ]]付けされた銅製の[[シリンダー]]を持つ[[バグダッド電池]]は[[ガルバニ電池]]に類似している。年代は紀元前248年から西暦226年に遡り、これが初めての電池であるように人々に考えられているが、この主張は実証されていない<ref>{{cite web|title=World Mysteries – Strange Artifacts, Baghdad Battery|url=http://www.world-mysteries.com/sar_11.htm|work=World-Mysteries.com|accessdate=22 April 2011}}</ref>。

=== 近現代 ===
[[File:AngleseyCopperStream.jpg|right|thumb|廃坑となった{{仮リンク|パレース・マウンテン|en|Parys Mountain}}の銅鉱山から流出し、影響を及ぼしている{{仮リンク|酸性鉱山排水|en|Acid mine drainage}}]]
[[スウェーデン]]の[[ファールン]]にある{{仮リンク|大銅山|en|Great Copper Mountain}}は10世紀から1992年まで操業された銅鉱山である。大銅山は17世紀のヨーロッパの銅需要の2/3を満たし、その期間にスウェーデンが行っていた戦争において戦費の大きな助けとなった<ref>{{cite book|url = https://books.google.co.jp/books?id=4yp-x3TzDnEC&pg=PA60&redir_esc=y&hl=ja|page = 60|title = Mining in World History|isbn = 978-1-86189-173-0|author1 = Lynch, Martin|date = 2004-04-15}}</ref>。それは国の金庫と呼ばれ、スウェーデンは銅に裏打ちされた通貨を有していた({{仮リンク|スウェーデンにおける銅貨の歴史|en|History of copper currency in Sweden}})<ref name="Karen A. Mingst 1976 263–287">{{cite journal |author=Karen A. Mingst |year=1976 |title=Cooperation or illusion: an examination of the intergovernmental council of copper exporting countries |journal=International Organization |volume=30 |issue=2 |pages=263–287 |doi=10.1017/S0020818300018270}}</ref>。

また同時代の主要な銅産出国としては他に、17世紀に発見された[[足尾銅山]]や[[別子銅山]]などによって銅生産が活発になっていた[[江戸時代]]の日本が挙げられる<ref name=osawa18>[[#大澤2010|大澤 (2010)]] 18頁。</ref><ref name=sako6>[[#sako2006|酒匂 (2006)]] 6頁。</ref>。1680年代中頃には50の銅山から年間およそ5400トンの銅が産出され<ref>[[#JOGMEC2006|石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (2006)]] 52頁。</ref>、ピーク時の1697年における年間およそ6000トンという産出量は、世界一であったと推測されている<ref name=osawa18/>。

生産された銅のおよそ1/2から2/3は、[[長崎貿易]]で[[世界]]へと[[輸出]]されており、当時の日本にとって重要な輸出品目であったが、その後、日本の銅生産量は減少の一途をたどり、18世紀中旬には[[産業革命]]を迎えた[[イギリス帝国]]に抜かれて2位となった<ref name=sako6/><ref>[[#JOGMEC2006|石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (2006)]] 53-54頁。</ref>。

[[明治]]時代には、新規産業技術の導入や機械化によって、日本の銅生産は持ち直したが<ref>[[#JOGMEC2006|石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (2006)]] 57頁。</ref>、チリやアメリカ、アフリカの大規模鉱山の開発が始まると、そちらが世界の主流となっていった<ref>[[#sako2006|酒匂 (2006)]] 7、11頁。</ref>。日本の銅山はその後、[[公害]]や採算性の悪化により、1970年代頃から閉山が相次ぎ、1994年に日本最後の銅鉱山が閉山した<ref>[[#JOGMEC2006|石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (2006)]] 67頁。</ref>。

近現代における銅生産量の増加は、銅精錬の際の副産物である[[亜硫酸]]ガスの大量放出にもつながり、例えば16&ndash;17世紀にはスウェーデンの大銅山において、亜硫酸ガスの排出による影響で、周辺森林の樹木が枯死し、全滅するという大規模[[公害]]が、長期間にわたって続いていたことが記録されている<ref name=ooba>{{Cite book|和書|author=大場英樹|title=環境問題と世界史|year=1979|publisher=公害対策技術同友会|page=179|isbn=4874890032}}</ref>。

このような亜硫酸ガスによる公害は、世界中の銅山で発生していたものと推測されている<ref name=ooba/>。このような状況は産業革命以降加速し、イギリスのコーニッシュ銅山では「もし[[悪魔]]がここを通りかかったら我が家に帰ったと、錯覚するだろう<ref>[[#sako2006|酒匂 (2006)]] 8頁からの引用。</ref>」と言われるほどの深刻な公害が引き起こされ<ref>[[#sako2006|酒匂 (2006)]] 7-8頁。</ref>、主要な銅産出国であった日本においても、明治以降の近代化に伴い、[[足尾鉱毒事件]]が起こっている<ref>[[#sako2006|酒匂 (2006)]] 9-10頁。</ref>。

銅は芸術においても利用されていた。[[ルネサンス]]期の彫刻や、[[ダゲレオタイプ]]として知られる写真技術、[[自由の女神像 (ニューヨーク)]]などで用いられた。船体への{{仮リンク|銅めっき|en|Copper plating}}および{{仮リンク|銅包板|en|Copper sheathing}}の利用は広範囲におよび、[[クリストファー・コロンブス]]の船はこれを備えた最初期のものの1つであった<ref>{{cite web|title = Copper History|url = http://www.copperinfo.com/aboutcopper/history.html|accessdate = 2008-09-04}}</ref>。

1876年、{{仮リンク|ノルドドイチェ・アフィネリー|en|Norddeutsche Affinerie}}社は[[ハンブルク]]で最初の現代的な[[電気めっき]]工場による生産を始めた<ref>{{cite journal|doi = 10.1002/adem.200400403|title = Process Optimization in Copper Electrorefining|year = 2004|author = Stelter, M.|journal = Advanced Engineering Materials|volume = 6|issue = 7|page=558|last2 = Bombach|first2 = H.}}</ref>。1830年、ドイツの科学者である{{仮リンク|ゴットフリート・オサン|en|Gottfried Osann}}が金属の原子量を測定していた際に[[粉末冶金]]が発明された。その前後に、スズのような銅合金の構成元素の量と種類によってベル・トーンに影響を及ぼすことが発見された。

[[自溶炉製錬|自溶炉]]は[[フィンランド]]の{{仮リンク|オウトクンプ|en|Outokumpu}}社によって開発され、1949年に{{仮リンク|ハルハヴァルタ|en|Harjavalta}}で初めて用いられた。自溶炉はエネルギー効率が良く、世界の主要な銅生産の50&nbsp;%を占めている<ref>{{Cite web|url = http://www.outokumpu.com/files/Technology/Documents/Newlogobrochures/FlashSmelting.pdf |title = Outokumpu Flash Smelting |publisher = Outokumpu |page = 2 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110615125447/http://www.outokumpu.com/files/Technology/Documents/Newlogobrochures/FlashSmelting.pdf |archivedate=2011-06-15 |accessdate=2009-05-06|url-status=dead|url-status-date=2012-05-25 }}</ref>。

1967年、[[石油]]における[[石油輸出国機構]] (OPEC)と類似した役目を担うことを目的として、[[チリ]]、[[ペルー]]、[[ザイール]]、[[ザンビア]]によって[[銅輸出国政府間協議会]]が設立された。しかしながら、当時世界2位の銅生産国である[[アメリカ合衆国]]がメンバーに加わらなかったため、OPECのような影響力を持つことができずに、1988年に解散した<ref name="Karen A. Mingst 1976 263–287"/>。

2024年現在、[[電気自動車]]をはじめ地球温暖化対策としての社会の脱炭素化のために重要度や需要が大きく増しており、世界を見渡すと休眠銅山を再び開発するなどのケースもあり、近い将来世界的な銅の不足が深刻になったり、枯渇してしまう危険性が指摘されている<ref>[https://globe.asahi.com/article/15006386 銅が足りなくなる?争奪戦は始まっていた 休眠銅山を再び掘るカナダのスタートアップ]</ref>。

== 生産 ==
[[File:Chuquicamata-002.jpg|thumb|世界最大規模の[[露天掘り]]銅鉱山の1つである[[チリ]]の[[チュキカマタ]]鉱山。]]
{{Main|銅山}}
{{Main|銅山}}
2009年において、世界における銅の全生産量のうち50&ndash;60 %が{{仮リンク|斑岩銅鉱床|en|Porphyry copper deposit}}より産出されている。斑岩銅鉱床からは銅の他に[[モリブデン]]や[[ロジウム]]などが併産される。斑岩銅鉱床は[[プレート]]の沈み込みに関連して形成されるため、南米の[[アンデス山脈]]や東南アジアの[[フィリピン]]、[[インドネシア]]周辺などプレートの周辺部に偏在している。
銅鉱石の生産は世界全体で1510万トン(2005年現在)である。その内訳は[[チリ]]が35.2 %と大半を占め、以下[[アメリカ合衆国|米国]]7.5 %、[[インドネシア]]7.1 %、[[ペルー]]6.7 %、[[オーストラリア]]6.1 %、[[中国]]5.0 %、[[ロシア]]4.6 %と続く。かつて日本は日本三大銅山とされる[[足尾銅山]]、[[別子銅山]]、[[日立鉱山|日立銅山]]等、多くの[[鉱山]]をかかえた輸出国であったが、現在は全て廃鉱となり100 %輸入に頼っている状態である。<!--福舟鉱山が操業中?←1976廃鉱、操業しているのは鉱毒処理施設-->

斑岩銅鉱床から産出される鉱石の銅含有量は、およそ0.2&ndash;1.0 %ほどである。斑岩銅鉱床から採掘される銅鉱山の例として、[[チリ]]の[[チュキカマタ]]鉱山や[[アメリカ合衆国]][[ユタ州]]の{{仮リンク|ビンガムキャニオン鉱山|en|Bingham Canyon Mine}}などが挙げられる。斑岩銅鉱床に次いで産出量が多いのは堆積鉱染型鉱床で、銅の全生産量の20&nbsp;%を占める。

堆積鉱染型の銅鉱床からは[[銀]]が併産され、中央アフリカのものでは[[コバルト]]も併産される。堆積鉱染型鉱床は岩石の風化および堆積によって形成される[[堆積岩]]によるものであるため大陸部に偏在する。このタイプの鉱床としては、中央アフリカの[[ザンビア]]から[[コンゴ民主共和国]]にかけて伸びる[[カッパーベルト]]が最大のものであり、他に[[ポーランド]]のルビン鉱山などがある<ref name=BGS34>[[#HannisLusty2009|Hannis, Lusty (2009)]] pp. 3-4</ref>。

その他にも、[[熱水鉱床]]の一種である銅スカルン鉱床や火山性塊状硫化物鉱床、海底噴気堆積鉱床など様々な種類の銅鉱床が知られている<ref name=BGS3>[[#HannisLusty2009|Hannis, Lusty (2009)]] p. 3</ref>。これらの銅鉱山では、主に[[露天掘り]]による採掘が行われている。

他の方法として、採掘抗を掘り進める坑内採鉱や、希硫酸を鉱床に注入して銅を溶解抽出する{{仮リンク|原位置抽出法|en|In-situ leach}}も行われている。坑内採鉱では費用や安全性の問題が、原位置抽出法では採用可能な地質条件が限られているため、主流にはなっていない<ref name=BGS7>[[#HannisLusty2009|Hannis, Lusty (2009)]] p. 7</ref>。

世界の10大銅山のうちの5つはチリにあり、({{仮リンク|エスコンディーダ|en|Escondida}}、[[コデルコ|コデルコ・ノルテ]]([[チュキカマタ|チュキカマタ鉱山]]を含む)、[[コジャワシ]]、[[エル・テニエンテ]])、{{仮リンク|ロス・ペランブレス|es|Los Pelambres}})、2つがインドネシア([[グラスベルグ鉱山]]、{{仮リンク|バツビジャウ鉱山|en|Batu Hijau mine}})、1つがアメリカ(モレンシ鉱山、[[アリゾナ州]]モレンシ)、ロシア([[タイミル半島]])およびペルー({{仮リンク|アンタミナ|es|Antamina}})に存在する<ref name="Factbook">International Copper Study Group (2007), ''[http://www.icsg.org/images/stories/pdfs/2007worldcopperfactbook.pdf The World Copper Factbook 2007]'' (en inglés)</ref>。

かつて日本は、日本三大銅山の[[足尾銅山]]、[[別子銅山]]、[[日立鉱山|日立銅山]]と、多くの[[鉱山]]をかかえた輸出国であったが、現在は全て廃鉱となり、銅を100 %輸入に頼っている。<!--福舟鉱山が操業中?←1976廃鉱、操業しているのは鉱毒処理施設-->

=== 製錬 ===
銅鉱石中の銅濃度は平均して0.6 %ほどでしかなく、商業利用される鉱石の大部分は硫化物(特に[[黄銅鉱]] CuFeS<sub>2</sub>、少ない範囲では[[輝銅鉱]] Cu<sub>2</sub>S)である<ref name=G&E>{{Greenwood&Earnshaw2nd}}</ref>。これらの鉱石は粉砕され、[[泡沫浮選]]もしくは{{仮リンク|バイオリーチング|en|Bioleaching}}によって10&ndash;15 %程度にまで銅濃度が高められる<ref>{{cite journal|last=Watling|first=H. R.|title=The bioleaching of sulphide minerals with emphasis on copper sulphides — A review|journal=Hydrometallurgy|year=2006|volume=84|issue=1, 2|pages=81–108|url=http://infolib.hua.edu.vn/Fulltext/ChuyenDe/ChuyenDe07/CDe53/59.pdf|format=PDF|doi=10.1016/j.hydromet.2006.05.001}}</ref>。こうして銅が濃縮された鉱石に燃料としての[[コークス]]のほか[[融剤]]として[[石灰石]]と[[珪砂|ケイ砂]]を加えて[[乾式精錬]](溶錬炉で溶融)することで、黄銅鉱中の鉄の大部分は[[スラグ]]として除去される。この方法は鉄の硫化物が銅の硫化物よりも酸化されやすい性質を利用しており、銅よりも先に鉄がケイ砂と反応してケイ酸スラグを形成し、低比重のケイ酸スラグが溶融原料上に浮上してくることで鉄が分離される。また、ケイ砂と石灰石から[[ケイ酸カルシウム]]が生成し、これが融剤として銅の融点を下げる。
: <chem>4CuFeS2 + 9O2 -> 2Cu2S + 2Fe2O3 + 6SO2</chem>
: <chem>2Fe2O3 + C + 4SiO2 -> 4FeSiO3 + CO2</chem>
: <chem>SiO2 + CaCO_3 -> CaSiO3 + CO2</chem>

その結果得られた硫化銅から成る銅鈹({{仮リンク|マット (冶金学)|en|Matte (metallurgy)|label=マット}})を空気酸化しながら焙焼することで、銅鈹中の硫化物は酸化物へと変換され<ref name=G&E/>、[[硫黄]]は酸化除去される。
: <chem>2Cu2S + 3O2 -> 2Cu2O + 2SO2</chem>

得られた酸化第一銅は2000 {{℃}}を越える高温で加熱されることで[[還元]]され、粗銅(銅含有率は約98 %)となる。
: <chem>2Cu2O -> 4Cu + O2</chem>

[[サドバリー (オンタリオ州)|サドバリー]]鉱山で用いられているマット法では、硫化物の半分だけを酸化物とした後、酸化銅を酸素源として硫化銅と反応させることで硫黄を除去する方法が用いられている。このようにして得られた粗銅は[[電解精錬]]によって精製され、副生する[[陽極泥]]からは金や白金が回収される。この工程は銅の還元されやすさが利用され、このように電解精錬によって得られた銅は'''電気銅'''とも呼ばれる。
: <chem>Cu^{2+}{} + 2\mathit{e}^- -> Cu</chem>

そこからさらに不純物を除いて純銅を生産するための方法としては、電気銅をシャフト炉で溶解製錬を行う([[タフピッチ銅]])、リンなどの脱酸剤を加えて残留酸素を除去する([[脱酸銅]])、高[[真空]]中で溶解させることで酸素を除去する([[無酸素銅]])などの方法が挙げられる<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.kansaicenter.imr.tohoku.ac.jp/_userdata/kinzoku_copper.pdf|title=ものづくり基礎講座 金属の魅力をみなおそう 第二回 銅|author=正橋直哉、千星聡|publisher=東北大学金属材料研究所|date=2012-02-08|page=3|format=pdf|accessdate=2012-06-10}}</ref>。

=== 生産量 ===
[[File:2005copper (mined).PNG|thumb|2005年の銅生産量]]
[[File:Copper - world production trend.svg|thumb|世界の生産動向]]
2005年の銅の生産量は世界全体で1501万トンであった<ref name=BGS13>[[#HannisLusty2009|Hannis, Lusty (2009)]] p. 13</ref>。その内訳は[[チリ]]が35 %と大半を占め<ref name=BGS13/>、以下[[アメリカ合衆国]]7.5 %、[[インドネシア]]7.1 %、[[ペルー]]6.7 %、[[オーストラリア]]6.1 %、[[中華人民共和国]]5.0 %、[[ロシア]]4.6 %と続く。2011年の生産量は1610万トンとなり、チリが542万トンと世界生産量の1/3以上を占めており、それにペルー、中華人民共和国が続いている<ref name="United States Geological Survey (USGS)">{{cite web|url = http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/copper/mcs-2012-coppe.pdf|title = La producción de cobre en el mundo en 2011|author = United States Geological Survey (USGS)|date = 2012-01|work = Mineral Commodity Summaries 2012|accessdate=2012-06-10}}</ref>。2005年の製錬銅の生産量は世界全体で1658万トンであり、そのうち38 %は中華人民共和国および[[日本]]を中心とするアジア諸国が占めていた<ref name=BGS14>[[#HannisLusty2009|Hannis, Lusty (2009)]] p. 14</ref>。
{{main|銅生産量の国別一覧}}

{| class="wikitable"
|+ 2021年 銅生産量
! 順位
! 国
! 生産量(2021年){{efn|2021年の世界全体の生産量は2100万トンであった<ref name="United States Geological Survey (USGS)2022"/>。}}<br />(万トン/年)
|-
| align="center" | 1 || {{Flagicon|チリ}} [[チリ]] ||align="center"| 560
|-
| align="center" | 2 || {{Flagicon|ペルー}} [[ペルー]] ||align="center"| 220
|-
| align="center" | 3 || {{Flagicon|中国}} [[中華人民共和国]] ||align="center"| 180
|-
| align="center" | 4 || {{Flagicon|コンゴ民主共和国}} [[コンゴ民主共和国]]||align="center"| 180
|-
| align="center" | 5 || {{Flagicon|アメリカ}} [[アメリカ合衆国]] ||align="center"| 120
|-
| align="center" | 6 || {{Flagicon|オーストラリア}} [[オーストラリア]] ||align="center"| 90
|-
| align="center" | 7 || {{Flagicon|ザンビア}} [[ザンビア]] ||align="center"| 83
|-
| align="center" | 8 || {{Flagicon|ロシア}} [[ロシア]] ||align="center"| 82
|-
| align="center" | 9 || {{Flagicon|インドネシア}} [[インドネシア]] ||align="center"| 81
|-
| align="center" | 10 || {{Flagicon|メキシコ}} [[メキシコ]] ||align="center"| 72
|-
| align="center" | 11 || {{Flagicon|カナダ}} [[カナダ]] ||align="center"| 59
|-
| align="center" | 12 || {{Flagicon|カザフスタン}} [[カザフスタン]] ||align="center"| 52
|-
| align="center" | 13 || {{Flagicon|ポーランド}} [[ポーランド]]||align="center"| 39
|}
出典: U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, January 2022<ref name="United States Geological Survey (USGS)2022">{{cite web|url = https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2022/mcs2022-copper.pdf|title = Mineral Commodity Summaries 2022-copper|author = United States Geological Survey (USGS)|date = 2022-01|work = Mineral Commodity Summaries 2022|accessdate=2022-09-06}}</ref>

=== 埋蔵量 ===
銅は少なくとも一万年前から人類によって利用されてきたが、これまでに採掘、[[製錬]]された全ての銅の95 %以上は1900年以降に抽出されたものである。[[アメリカ地質調査所]]の2005年版''Mineral Commodity Summaries''を元にした[[経済産業省]][[東北地方|東北]][[経済産業局]]の報告書によれば、地球上の銅の確認埋蔵量はおよそ9億4000万トン、可産鉱量はおよそ4億7000万トンである<ref name=tohoku>{{Cite web|和書|url=http://www.tohoku.meti.go.jp/2008/kankyo/recycle/date/1.pdf|title=我が国における鉱種別 需給/リサイクル/用途等 資料2.1 銅 (Cu)|work=東北非鉄振興プラン報告書|publisher=東北経済産業局|accessdate=2012-04-14}}</ref>。また、2011年版''Mineral Commodity Summaries''では可産鉱量は6億9000万トンに増加しており、国別ではチリの1億9000万トンが最も多く全体の28 %を占めており、2位のペルーが9000万トン(13 %)とそれに続いている<ref name="United States Geological Survey (USGS)"/>。鉱業的に利用可能な銅の可産年数の様々な推定データは、銅生産量の成長率などの主な要素の仮定によって25年から60年の間で変動し<ref>{{cite book|author=Brown, Lester|title=Plan B 2.0: Rescuing a Planet Under Stress and a Civilization in Trouble|publisher=New York: W.W. Norton|year=2006|page=109|isbn=0-393-32831-7}}</ref>、2005年のデータを元に単純に可産鉱量を年間生産量で割り可産年数を算出すると32年となる<ref name=tohoku/>。そのため、銅は2040年頃に枯渇すると言われることがある<ref>[[物質・材料研究機構]] 材料ラボによるレポート</ref>。

{| class="wikitable"
|+ 2021年 銅可産埋蔵量
! 順位
! 国
! 世界の銅埋蔵量(2021年){{efn|2021年の世界全体の埋蔵量は88000万トンであった<ref name="United States Geological Survey (USGS)2022"/>。}}<br />(万トン)
! 割合
|-
| align="center" | 1 || {{Flagicon|チリ}} [[チリ]] ||align="center"| 20000 ||align="center"| 23 %
|-
| align="center" | 2 || {{Flagicon|オーストラリア}} [[オーストラリア]] ||align="center"| 9300 ||align="center"| 11 %
|-
| align="center" | 3 || {{Flagicon|ペルー}} [[ペルー]] ||align="center"| 7700 ||align="center"| 9 %
|-
| align="center" | 4 || {{Flagicon|ロシア}} [[ロシア]] ||align="center"| 6200 ||align="center"| 7 %
|-
| align="center" | 5 || {{Flagicon|メキシコ}} [[メキシコ]] ||align="center"| 5300 ||align="center"| 6 %
|-
| align="center" | 6 || {{Flagicon|アメリカ}} [[アメリカ合衆国]] ||align="center"| 4800 ||align="center"| 5 %
|-
| align="center" | 7 || {{Flagicon|ポーランド}} [[ポーランド]] ||align="center"| 3100 ||align="center"| 4 %
|-
| align="center" | 8 || {{Flagicon|コンゴ民主共和国}} [[コンゴ民主共和国]] ||align="center"| 3100 ||align="center"| 4 %
|-
| align="center" | 9 || {{Flagicon|中国}} [[中華人民共和国]] ||align="center"| 2600 ||align="center"| 3 %
|-
| align="center" | 10 || {{Flagicon|インドネシア}} [[インドネシア]] ||align="center"| 2400 ||align="center"| 3 %
|-
| align="center" | 11 || {{Flagicon|ザンビア}} [[ザンビア]] ||align="center"| 2100 ||align="center"| 2 %
|-
| align="center" | 12 || {{Flagicon|カザフスタン}} [[カザフスタン]] ||align="center"| 2000 ||align="center"| 2 %
|-
| align="center" | 13 || {{Flagicon|カナダ}} [[カナダ]] ||align="center"| 980 ||align="center"| 1 %
|}
出典: U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, January 2022<ref name="United States Geological Survey (USGS)2022"/>

=== 貿易と消費 ===
銅は[[鉄]]、[[アルミニウム]]に次いで世界で3番目に多く消費される金属であり<ref>{{cite web|url = http://www.nymex.com/cop_pre_agree.aspx|title = NYMEX.com: Copper|accessdate = 3 de mayo de 2008}}</ref>、銅の世界貿易で年間およそ300億[[USドル|ドル]]が動く重要な貿易品目でもある<ref name="Codelco_Zona">{{cite web|url = http://www.codelco.cl/comercio-mercado-del-cobre/prontus_codelco/2011-06-03/223339.html|title = Comercio: mercado del cobre|author=|publisher = [[コデルコ]]|accessdate=2012-06-10}}</ref>。

世界の銅需要は、[[国際銅協会]] (ICA) によれば2020年に2500万トンである<ref name="ICA_NetZero2023" />。またICAは2018年時点では、2050年に1億トン以上に増えると予測していた<ref>{{Cite newspaper |title=銅需要、50年までに4倍超 / 国際銅協会 リー会長に聞く / 中国堅調、EV向け増える |newspaper=[[日経産業新聞]] |date=2018-12-06 |at=環境・エネルギー・素材面}}</ref>。しかし2022年時点の予測では、2050年の世界需要を5000万トンとしている<ref>{{Cite news|和書 |title=世界の産銅大手、2050年までに温室効果ガス実質ゼロ化計画 |url=https://jp.reuters.com/article/copper-ica-emissions-idJPKBN2VA06E |work=ロイター通信 |date=2023-03-08 |access-date=2023-03-15 |language=ja}}</ref><ref name="ICA_NetZero2023">{{Cite web |url=https://copperalliance.org/wp-content/uploads/2023/02/ICA-GlobalDecarbonization-202301-Final-singlepgs.pdf |title=Copper—The Pathway to Net Zero |access-date=2023-03-25 |publisher=International Copper Association |author=International Copper Association |year=2023 |month=3 |page=9 |language=en |archive-url=https://web.archive.org/web/20230308141916/https://copperalliance.org/wp-content/uploads/2023/02/ICA-GlobalDecarbonization-202301-Final-singlepgs.pdf |archive-date=2023-03-08 |url-status=live |quote=Source: MineSpans Copper Demand Model Q3 2021)}} ([https://copperalliance.org/resource/copper-pathway-to-net-zero/ Copper—The Pathway to Net Zero]内)</ref>。

{| class="wikitable"
|+ 2006年 銅消費量
! 順位
! 国
! 製錬銅の消費量<br />(万トン/年)
|-
| align="center" | 1 || {{Flagicon|EU}} [[欧州連合]] ||align="right"| 432
|-
| align="center" | 2 || {{Flagicon|中国}} [[中華人民共和国]] ||align="right"| 367
|-
| align="center" | 3 || {{Flagicon|アメリカ}} [[アメリカ合衆国]] ||align="right"| 213
|-
| align="center" | 4 || {{Flagicon|日本}} [[日本]] ||align="right"| 128
|-
| align="center" | 5 || {{Flagicon|大韓民国}} [[大韓民国]] ||align="right"| 81
|-
| align="center" | 6 || {{Flagicon|ロシア}} [[ロシア]] ||align="right"| 68
|-
| align="center" | 7 || {{Flagicon|台湾}} [[中華民国]] ||align="right"| 64
|-
| align="center" | 8 || {{Flagicon|インド}} [[インド]] ||align="right"| 44
|-
| align="center" | 9 || {{Flagicon|ブラジル}} [[ブラジル]] ||align="right"| 34
|-
| align="center" | 10 || {{Flagicon|メキシコ}} [[メキシコ]] ||align="right"| 30
|}
出典: World Copper Factbook 2007<ref name="Factbook" />

銅の主要な産出国では、銅鉱石および製錬銅の両方を輸出している。主な輸入国は先進工業国であり、日本、中華人民共和国、インド、[[大韓民国]]およびドイツでは鉱石として、アメリカ合衆国、ドイツ、中華人民共和国、[[イタリア]]、[[中華民国]]は製錬銅として輸入している<ref name="Factbook" />。

[[File:Copper Price History USD.png|thumb|2003–2011の銅価格([[アメリカ合衆国ドル|USD]]/トン)]]
銅取引は{{仮リンク|ロンドン金属取引所|en|London Metal Exchange}}(LME)、[[ニューヨーク・マーカンタイル取引所]]、[[上海]]金属取引所の3つの主要な国際市場がある。これらの市場で日々、銅相場や[[先物取引|先物価格]]が決定される<ref name="Codelco_Zona"/>。銅の価格は歴史的に不安定であり<ref>{{cite journal|last=Schmitz|first=Christopher|title=The Rise of Big Business in the World, Copper Industry 1870–1930|journal=Economic History Review|year=1986|volume=39|series=2|issue=3|pages=392–410|jstor=2596347}}</ref>、銅のキログラム単価は1999年6月の1.32USドルから2006年5月の8.27USドルまでおよそ5倍に上昇した。2004年の銅価格の高騰は中華人民共和国をはじめとした新興国の需要の増加によるものであり<ref>[http://www.fernandoflores.cl/node/1233 Las causas del alto precio del cobre], traducción de un artículo del Wall Street Journal de marzo de 2006. Web consultada el 4 de mayo de 2008.</ref>、電気[[インフラストラクチャー|インフラ]]へのリスクが生じるような銅製品(特に銅[[ケーブル]]、[[電線]])の盗難の波が世界中で引き起こされた<ref>{{cite web|url = http://www.diariosur.es/prensa/20070306/portada/alto-precio-cobre-multiplica_20070306.html|title= = El alto precio del cobre multiplica los robos de cable|accessdate = 4 de mayo de 2008|date = 2006-03|editor = Diario Sur, de Málaga (España)}}</ref><ref>{{cite web|url = http://www.elagoradechihuahua.com/Urgente-campana-vs-robo-de-cobre,3924.html|title = Urgente campaña vs robo de cobre|accessdate = 4 de mayo de 2008|date = 2008-03|editor = El Ágora, de Chihuahua (México)}}</ref><ref>{{cite web|url = http://findarticles.com/p/articles/mi_qn4176/is_20060721/ai_n16672358|title = Copper robbers hit building site|accessdate = 4 de mayo de 2008|date = 2006-07|editor = Oakland Tribune, de California (EE.UU.)}}</ref><ref>{{cite web|url = http://www.nst.com.my/Saturday/National/2230176/Article/index_html|title = Robbers escape with five tonnes of copper|accessdate = 4 de mayo de 2008|date = 2008-05| editor = [[ニュー・ストレーツ・タイムズ|New Straits Times]], de Malaca (Malaysia)}}</ref>。それは2007年2月に5.29USドルまで下落し、そして2007年4月に7.71USドルまで反発した<ref>{{cite web|url = http://metalspotprice.com/copper-trends/|title =Copper Trends: Live Metal Spot Prices|accessdate=2012-05-14}}</ref>。2009年2月には、前年の高値から一転して世界需要の後退と物価の急な下落によって3.32USドルまで下落した<ref>{{cite news|url = http://www.forbes.com/2009/02/04/copper-frontera-southern-markets-equity-0205_china_51.html|title = A Bottom In Sight For Copper|author = Ackerman, R. |date = 02-04-2009|publisher = Forbes}}</ref>。

2010年代においても、銅相場は大消費国である中国の[[景気]]の先行きを反映しやすいことから、医師にたとえて「ドクター・カッパー」の異名を持つ<ref>{{Cite newspaper|和書|url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43370520V00C19A4SHA000/|title=【チャートは語る】Dr.カッパーの憂鬱 銅が映す中国景気の浮沈|newspaper=日本経済新聞|edition=朝刊|date=2019年4月7日|page=1|access-date=2019年4月10日}}</ref><ref>{{Cite web|和書 |title=銅の価格 “ドクター・カッパー”が世界経済の変調をいち早く診断?|url=https://web.archive.org/web/20220722083534/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220722/k10013728661000.html |website=NHKニュース |date=2022-07-24|access-date=2023-03-27}}</ref>。


=== リサイクル ===
[[リサイクル]]は主要な銅の資源となっている<ref name=Leonard2006>{{cite web|url=http://www.salon.com/tech/htww/2006/03/02/peak_copper/index.html|title=Peak copper?|publisher=Salon – How the World Works|author=Leonard, Andrew |date=2006-03-02|accessdate=2008-03-23}}</ref>。銅は[[アルミニウム]]のように、原料のままの状態であっても製品中に含まれている状態であっても関係なく、品質の損失なしに100 %リサイクルすることが可能である<ref>{{Cite web|url=http://www.copperinfo.com/environment/recycling.html |title=International Copper Association |accessdate=2009-07-22<!-- |url-status=dead|url-status-date=2012-05-15 --> |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110721210839/http://www.copperinfo.com/environment/recycling.html |archivedate=2011-07-21}}</ref>。そのため銅製品に使われている銅がリサイクルされたものかどうかを判別するのは不可能であり、銅は古来からリサイクルされてきた素材の1つである<ref name="EuroCopper">[http://www.eurocopper.org/files/presskit/dp_cuivreetdeveloppementdurable_13-03-07_fr.pdf Les atouts du cuivre pour construire un avenir durable], en el sitio de EuroCopper (en francés). Consultada el 20 de abril de 2008.</ref>。銅をリサイクルする方法は大まかに言えば銅を抽出する方法と同じであるが、必要な工程は抽出よりも少ない。高純度の銅スクラップは炉で溶融、還元された後[[ビレット]]および[[インゴット]]に鋳造され、低純度の[[スクラップ]]は硫酸浴中で[[電解製錬]]される<ref>[http://www.copper.org/publications/newsletters/innovations/1998/06/recycle_overview.html "Overview of Recycled Copper" '&#39;Copper.org'&#39;]. Copper.org (2010-08-25). Retrieved on 2011-11-08.</ref>。銅のリサイクルにはこのような製造工程の他にもリサイクル元となる原料の収集や分別といった作業が必要となるが、それでもリサイクルに必要となるエネルギー量は鉱石から銅を抽出、製錬する場合の25 %に過ぎない<ref name="EuroTour">{{cite web|url = http://www.eurocopper.org/doc/uploaded/File/SPANISH%20RECYCLING%20PAPER.pdf |title = Las naciones de la Eurozona están reciclando sus monedas nacionales |accessdate = 2008-05-28 |editor = European Copper Institute}}</ref>。大規模な銅のリサイクルの例としては、2002年に[[欧州連合]]加盟国のうち12か国が通貨を[[ユーロ]]に切り替えた際に旧通貨となった[[硬貨]]のリサイクルが挙げられる。この通貨切り替えによっておよそ{{gaps|147|496}}トンの銅が含まれた約{{gaps|260|000}}トンの硬貨が流通停止となり、これらの硬貨に含まれる銅は溶融させてリサイクルされ、新しい硬貨から様々な工業製品まで広い範囲で再利用された<ref name="EuroTour" />。

リサイクルの効率は、製品設計のような技術的要因や銅の経済的価値、[[持続可能な開発]]への社会意識の向上といった要因に依存し、また、法律も重要な要因である。現在、家電製品や電話、自動車などの銅を含有した製品における最終的な[[ライフサイクルアセスメント|ライフサイクル]]の責任ある管理を推進するために、140以上の国内もしくは国際的な法律、規制、[[政令]]およびガイドラインが定められている<ref name="Factbook"/>。[[WEEE指令|電気・電子機器の廃棄に関する欧州議会及び理事会指令]](2002/96/CE、RAEEもしくはWaste Electrical and Electronic EquipmentからWEEE指令)は、廃棄物の発生が少ない製品を生産する生産者に対する[[インセンティブ (経済学)|インセンティブ]]によって産業廃棄物および一般ごみを義務的かつ大幅に削減することを含んだ、廃棄物最小化を推進する政策である<ref>''[http://eur-lex.europa.eu/Notice.do?val=283952:cs&lang=es&list=454034:cs,283952:cs,&pos=2&page=1&nbl=2&pgs=10&hwords= Directiva 2002/96/CE del Parlamento Europeo y del Consejo, de 27 de enero de 2003, sobre residuos de aparatos eléctricos y electrónicos (RAEE)]'', Diario Oficial de la Unión Europea L 37 (13/2/2003)</ref>。

2004年の銅需要のうち9 %はリサイクルされた銅によって賄われており、鉱石から銅を生産し、製錬する過程で生じた廃棄物からの銅の回収も「リサイクル」であるとするならば、リサイクルされた銅の割合は全世界で31 %、欧州に限れば41 %にも上る<ref name="EuroCopper"/>。{{仮リンク|国際資源パネル|en|International Resource Panel}}の''Metal Stocks in Society report''によると、社会で使用中の銅を備蓄と捉えて算出した世界1人あたりの銅備蓄量は{{val|35|-|55|u=kg}}である。これらの大部分は途上国(1人当たり{{val|30|-|40|u=kg}})よりもむしろ先進国(1人あたり{{val|140|-|300|u=kg}})に存在している。

日本においては、廃棄された電気製品から銅を含む金属を回収する取り組みを[[都市鉱山]]と呼んでいる<ref>[https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/issues/17-11/17-11d/tokusyu/2.html 小型家電を集めて、メダルへ][[環境省]]『エコジン』VOLUME.61(2017年11・12月号)2018年12月8日閲覧。</ref>。


=== 銅鉱石 ===
=== 銅鉱石 ===
銅鉱石を構成する[[鉱石鉱物]]には、次のようなものがある。
[[File:Cuivre Michigan.jpg|thumb|280px|right|[[自然銅]]、米国ミシガン州]]
[[File:Cuivre Michigan.jpg|thumb|280px|right|[[自然銅]]、米国ミシガン州]]
銅鉱石を構成する[[鉱石鉱物]]には、次のようなものがある。


* [[自然銅]] (Cu)
* [[自然銅]] (Cu)
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* [[孔雀石]] (Cu<sub>2</sub>(CO<sub>3</sub>)(OH)<sub>2</sub>)
* [[孔雀石]] (Cu<sub>2</sub>(CO<sub>3</sub>)(OH)<sub>2</sub>)


== 製錬 ==
== 用途 ==
[[File:Kupferfittings 4062.jpg|thumb|[[銅管]]の[[継手]]]]
銅鉱山で得られた[[黄銅鉱]](主成分 CuFeS<sub>2</sub>)に[[コークス]]のほか[[融剤]]として[[石灰石]]と[[珪砂|ケイ砂]]を加えて溶錬炉で溶融し、鉄分を除く。銅分は'''銅マット'''や'''銅鈹'''(どうかわ。銅精製への中間製品。[[硫化銅]]と[[硫化鉄]]の化合物から成る)の形で濃縮される。同時に生じる鉄分はケイ砂によって取り除かれる。また、ケイ砂と石灰石から[[ケイ酸カルシウム]]が生成し、これが融剤として銅の融点を下げる。
銅は[[古代]]から[[人類]]とのかかわりが深く、重要な金属として扱われていた。[[日本]]でも、銅塊が発見され朝廷に献上されたことを祝い、[[年号]]が[[慶雲]]から[[和銅]]に改められた事例がある<ref>[[#大澤2010|大澤 (2010)]] 17頁。</ref>。
: <math>\rm 4CuFeS_2 + 9O_2 \longrightarrow 2Cu_2S + 2Fe_2O_3 + 6SO_2</math>
: <math>\rm 2Fe_2O_3 + C + 4SiO_2 \longrightarrow 4FeSiO_3 + CO_2</math>
: <math>\rm SiO_2 + CaCO_3 \longrightarrow CaSiO_3 + CO_2</math>


銅は、金属製品や[[硬貨]]の材料として、多くの文明で使用された。現代でも様々な場で使用されており、鉄に次いで重要な金属材料といえる。銅の主要な用途として電線 (60 %)、[[屋根]]ふき材および[[配管]] (20 %)、[[産業機械]] (15 %)が挙げられる。
そして、銅マットを[[転炉]]に入れて、空気を吹き込んで不純物([[硫黄]]、鉄など)を酸化除去し、粗銅(銅含有率は約98 %)を精錬する。このとき2000 {{℃}}を越える高温になり、還元される。
: <math>\rm Cu_2S + O_2 \longrightarrow 2Cu + SO_2</math>


銅の大部分は金属銅として利用されるが、より高硬度が求められる用途に際しては、他の元素を加えて[[真鍮]]や[[青銅]]のような[[合金]]が作られる。このように合金とされる銅は全体のおよそ5 %である<ref name=emsley>{{cite book|author=Emsley, John|title=Nature's building blocks: an A-Z guide to the elements|url=https://books.google.co.jp/books?id=j-Xu07p3cKwC&pg=PA123&redir_esc=y&hl=ja|accessdate=2 May 2011|date=11 August 2003|publisher=Oxford University Press|isbn=978-0-19-850340-8|pages=121–125}}</ref>。銅供給量のうちの少量は、栄養補助食品や[[農業]]における[[殺菌剤 (農薬その他)|殺菌剤]]のための銅化合物の生産に用いられる<ref name="Boux"/><ref name="Applications for Copper">{{cite web|title = Copper|publisher = American Elements|year = 2008|url = http://www.americanelements.com/cu.html|accessdate = 2008-07-12}}</ref>。銅の[[機械加工]]は可能であるが、通常複雑な部品を作るための良好な被削性能を得るには合金を用いる必要がある。また銅はイオン化傾向の小さい金属であるが、耐腐食性を増すため金メッキやエナメル皮膜をされることもある。
<!-- いかなる金属元素も高温にすれば還元されるのは、酸素、硫黄は気体となり粒子数が増大する方向に平衡が移動するからである。-->
その後、粗銅は[[電解精錬]]によって、99.99 %以上の純銅に精製される。電解精錬によって得られた銅は'''電気銅'''とも呼ばれる。精錬方法により、純銅は[[タフピッチ銅]]・[[脱酸銅]]・[[無酸素銅]]などと分類される。高真空中で溶融すると、含まれる[[酸化銅(I)]]が揮発して除かれ酸素含有量の少ない地金が得られる。


=== 電子工学と関連デバイス ===
== 用途 ==
[[File:Busbars.jpg|thumb|left|電力を大きな建物に分配する銅製の[[母線 (配電)|固定式母線]]({{仮リンク|バスバー|en|Busbar}})]]
銅は[[古代]]から[[人類]]とのかかわりが深く、重要な金属として扱われていた。[[日本]]でも、銅塊が発見され朝廷に献上されたことを祝い、[[年号]]が[[慶雲]]から[[和銅]]に改められた事例がある。銅は、金属製品としては勿論、[[貨幣]]の材料としても古今東西を問わず、多くの文化で使用された。現代でも様々な場で使用されており、鉄に次いで重要な金属材料といえる。
銅は工業をはじめ幅広い用途に広く用いられ、特に[[電気器具]]の[[配線]]、[[変圧器]]、[[電磁石]]のような[[デバイス]]、{{仮リンク|銅線|en|Copper wire and cable}}などの材料として用いられる。これは銅が[[銀]]に次いで[[電気抵抗]]が少なく[[電気伝導性]]に優れ、[[常温]]における伝導率が銀の94 %と遜色がない一方で、銀より価値が格段に低いためである。

また優れた電気伝導性により、希少金属の価格高騰や伝導性の改善のために、[[集積回路]]や[[プリント基板]]において金や銀、アルミニウム配線の代替としても銅が用いられる。しかしながら[[ニッケル]]や[[コバルト]]と比較しても他のプロセスへの汚染度が激しいため、同一の[[チャンバー]]やラインを使用することによる銅汚染が問題となる。また、銅装置に触れた器具や工具はもとより、エンジニアやオペレーターを介した汚染もある。そのため、[[半導体]]製造工程上は、銅が他のプロセスへの影響が出ないように隔離した状態で製造するため若干の費用がかかる。

銅は比較的高い[[熱伝導率]]を持つため熱放散能力に優れており、かつ加工性にも優れているため[[ヒートシンク]]や[[熱交換器]]のような廃熱・放熱部分にも銅が用いられる。[[真空管]]および[[ブラウン管]]、[[電子レンジ]]における[[マグネトロン]]、[[マイクロ波]]以上を伝送するための[[導波管]]にも銅が用いられている<ref>{{cite web|title=Accelerator: Waveguides (SLAC VVC)|url=http://www2.slac.stanford.edu/vvc/accelerators/waveguide.html|work=SLAC Virtual Visitor Center|accessdate=29 April 2011}}</ref>。

銅は、他の金属の電気伝導率を測る{{仮リンク|国際軟銅線標準|en|International Annealed Copper Standard}}(IACS)としても使われ、温度20&nbsp;&deg;C、長さ1&nbsp;m、断面積1&nbsp;mm<sup>2</sup>の条件における電気抵抗が{{val|0.017241|ul=&Omega;}}となる「万国標準軟銅 (IACS)」の伝導率が基準値 (100 %)とされる<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.hitachi-cable.co.jp/catalog/h-001/pdf/2011_tech.pdf|title=電線・ケーブル総合ガイドブック|page=336|format=pdf|publisher=日立ケーブル|accessdate=2012-05-30}}</ref>。

=== 電気モーター ===
銅は他の金属材料と比較して優れた電気伝導性を有しているため、[[電動機]]の電気エネルギー効率を向上させる<ref>IE3 energy-saving motors, Engineer Live, http://www.engineerlive.com/Design-Engineer/Motors_and_Drives/IE3_energy-saving_motors/22687/</ref>。電動機および電動機の駆動システムによる電気消費は世界の全電気使用量の43&ndash;46 %、工業では69 %を占めているため、電動機のエネルギー効率は重要な問題である<ref>Energy‐efficiency policy opportunities for electric motor‐driven systems, International Energy Agency, 2011 Working Paper in the Energy Efficiency Series, by Paul Waide and Conrad U. Brunner, OECD/IEA 2011</ref>。[[コイル]]内で銅の質量と断面積を増大させることで発動機の電気エネルギー効率は向上する。エネルギー節約を主要な目的とする電動機設計の新技術である銅製[[回転子]]<ref>Fuchsloch, J. and E.F. Brush, (2007), “Systematic Design Approach for a New Series of Ultra‐NEMA Premium Copper Rotor Motors”, in EEMODS 2007 Conference Proceedings, 10‐15 June,Beijing.</ref><ref>Copper motor rotor project; Copper Development Association; http://www.copper.org/applications/electrical/motor-rotor</ref> は、[[アメリカ電機工業会|NEMA]]による{{仮リンク|プレミアム効率|en|Premium efficiency}}規格を達成し、さらに上回る多目的[[誘導電動機]]の実現を可能にする<ref>NEMA Premium Motors, The Association of Electrical Equipment and Medical Imaging Manufacturers; http://www.nema.org/gov/energy/efficiency/premium/</ref>。

=== 建築及び工業 ===
[[File:A Japanese small shrine with a copper sheeting roof at Shinjuku Tokyo 2020 6 25.jpg|thumb|[[新宿住友ビル]]の銅葺きの屋外社殿]]
[[File:Minneapolis City Hall.jpg|thumb|{{仮リンク|ミネアポリス市庁舎|en|Minneapolis City Hall}}の[[緑青]]で覆われた銅の屋根]]
[[File:Copper utensils Jerusalem.jpg|left|thumb|イスラエルのレストランの古い銅製器具]]
{{main|{{ill2|建築での銅利用|en|Copper in architecture}}}}
銅はその防水性および防食性、外観の美しさために古代から多くの建物で屋根葺として用いられてきた銅瓦葺きと呼ばれる<ref>{{kotobank|銅瓦葺き}}</ref>。これらの建物の屋根に見られる緑色は長期の化学反応によるものである。

銅ははじめ酸化銅(II)に酸化された後、第一銅および第二銅の硫化物を経て最終的に緑青と呼ばれる[[塩基性炭酸銅]]となり、この緑青は、酸化腐食に対する高い耐久性を有している<ref>{{cite web|last = Berg|first = Jan|title = Why did we paint the library's roof?|url = http://www.deforest.lib.wi.us/FAQS.htm|accessdate = 2007-09-20 |archiveurl = https://web.archive.org/web/20070625065039/http://www.deforest.lib.wi.us/FAQS.htm |archivedate = 2007-06-25}}</ref>。この用途における銅は[[リン]]によって脱酸されたリン脱酸銅 (Cu-DHP)として供される<ref>[[ASTM]] B 152, ''Standard Specification for Copper Sheet, Strip, Plate, and Rolled Bar.''</ref>。

銅は他の屋根材と比べると高価なため、現代の日本では高級住宅や寺社建築などに限られる。現在では[[酸性雨]]の影響もあり、「半永久的な」耐腐食性の建材というわけではない。


[[避雷針]]は、主な建築物が破壊される代わりに電流を地面へとそらすための方法として銅が用いられる<ref>{{cite book|title = Physics 1, Jacaranda Science. 3rd Ed.|year =2009}}</ref>。銅は、優れた[[ろう付け]]性能及び[[はんだ付け]]特性を有しており、[[溶接]]することができ、最良の結果は[[マグ溶接]]によって得られる<ref>{{cite book|author = Davis, Joseph R. |title = Copper and Copper Alloys|pages = 3–6, 266|publisher = ASM International|year = 2001|isbn = 0-87170-726-8}}</ref>。
銅は工業をはじめあらゆる用途に広く用いられるが、特に[[電気器具]]の[[配線]]、部品、[[電気回路|回路]]、ケーブルの材料としてよく使われる。これは銅が銀に次いで[[電気伝導性]]に優れ、室温における伝導率が銀の94 %と遜色がない一方で、銀より[[コスト]]が格段に安いことが理由である。また、比較的高い[[熱伝導率]]を持ちながらも加工しやすく前述のようにコストが安いので熱運搬部品や[[ヒートシンク]]のような廃熱・放熱部分にも用いられる。あるいは他の金属の電気伝導性をはかる[[国際基準]]としても使われる。銅は、銅線や銅版などの形で身近に見ることができる数少ない単体金属である。帆船の船底を[[フナクイムシ]]から保護する銅包板として使われた時期もある。建築材料としては腐食に強く外観に優れていることから屋根葺に用いられてきたが、他の屋根材と比べると高価なため近年の日本ではは高級住宅や寺社建築などに限られる。尚、現在では酸性雨の影響もあり、「半永久的な」耐腐食性の建材というわけではない。


=== 生物付着防止や殺菌作用 ===
半導体分野では希少金属の価格高騰や伝導性の改善のために、Au や Ag、Al 配線の代替としての Cu 配線採用が進んでいるが、Ni や Co と比較しても他のプロセスへの汚染度が激しいため、同一のチャンバーやラインを使用することによる Cu 汚染が問題となる。また、Cu 装置に触れた器具や工具はもとより、エンジニアやオペレーターを介した汚染もある。そのため、半導体製造工程上は、Cu が他のプロセスへの影響が出ないように隔離した状態で製造するため若干のコストがかかる。
銅包板は[[フジツボ]]や[[イガイ]]、[[フナクイムシ]]など固着性の水生生物から船底を保護するための静生物性([[微生物]]が成長、増殖するのを抑制する性質。バイオスタティック)物質として長く用いられてきた。初期には純銅が用いられていたが、その後{{仮リンク|マンツメタル|en|Muntz metal}}に代替された。


銅は静生物性を有しているため、銅の表面上では[[菌類]]や[[細菌]]や[[ウイルス]]などの微生物は生育することができない。同様に、銅合金は極限状態においても{{仮リンク|抗菌性|en|Antimicrobial}}および{{仮リンク|生物付着|en|Biofouling}}防止性を有しており<ref name="autogenerated1995">Edding, Mario E., Flores, Hector, and Miranda, Claudio, (1995), Experimental Usage of Copper-Nickel Alloy Mesh in Mariculture. Part 1: Feasibility of usage in a temperate zone; Part 2: Demonstration of usage in a cold zone; Final report to the International Copper Association Ltd.</ref>、また構造材としての強さと[[腐食|防腐性]]を持つ<ref>[http://www.copper.org/applications/cuni/pdf/marine_aquaculture.pdf Corrosion Behaviour of Copper Alloys used in Marine Aquaculture]. (PDF) . copper.org. Retrieved on 2011-11-08.</ref>という特性を海洋環境において示すため、[[養殖業]]において重要な金属材料となった({{仮リンク|養殖業における銅合金|en|Copper alloys in aquaculture}})。
銅は[[化合物]]または[[触媒]]としても用途が広く、代表的な銅の化合物としては[[塩化銅(II)]]・[[酸化銅(II)]]・[[硫酸銅(II)]]などがあり、各種触媒や、[[防腐剤]]、[[殺虫剤]]、[[顔料]]などに用いられている。


=== 武器・兵器 ===
殺菌作用と導電性を活かした物として[[絨毯]]、[[マット]]などに使用されている。特に細い導線を容易に作成できるため、絨毯に織り込んで使用する。これにより、[[静電気]]の発生しにくい絨毯として、[[ホテル]]などのロビーで使用されている。
近現代に到っても[[薬莢]]([[黄銅]])、[[銃弾]]の被覆、[[銃用雷管|雷管]]のケーシング、[[砲弾]]の[[弾帯]]、[[成形炸薬弾]]のライナーなど、[[弾薬]]で重要である。鋳鉄よりも鋳造品質が安定していることから[[大砲]]は近世期まで主に青銅製であった。[[掃海艇]]は鋼鉄の帯びる磁気に反応する[[機雷]]を起爆させないよう船体は木造やFRP、エンジンは銅合金製である。


=== その他 ===
[[File:Flametest--Cu.swn.jpg|150px|right|thumb|銅の炎色反応の様子]]
[[File:Flametest--Cu.swn.jpg|150px|right|thumb|銅の炎色反応の様子]]
銅は[[花火]]の着色料としても用いられる。これは銅の化合物が[[炎色反応]]を示すことを利用したもので、青色を得るのに用いられる。炎色反応は青緑色である。ちなみに銅は[[遷移元素]]唯一反応を示す
銅は[[花火]]の着色料としても用いられる。これは銅の化合物が[[炎色反応]]を示すことを利用したもので、青色を得るのに用いられる。炎色反応は青緑色である。また、[[近代オリンピック|オリンピック]]じめ様々な大会やコンクールで、金、銀に次ぐ3位のメダルとして使われる


熱伝導と加工のしやすさから、板金状の銅を金鎚で叩いて変形させ、加熱調理用器具(鍋やフライパンなど)に応用することもできる。正確に加工された工業品は高級調理器具としても普及している。ただし、[[電磁調理器]]においては使用自体はできるが鉄鋼材に比べ加熱効率が劣る。
銅イオンは殺菌作用を持つことから、抗菌仕様の靴下や靴の中敷などによく使われている。


銅は[[殺精子剤|精子を殺す]]能力があることから[[子宮内避妊器具]](IUD)に用いられ、その効果は{{仮リンク|卵管結紮|en|Tubal ligation}}に匹敵する。
[[近代オリンピック|オリンピック]]をはじめ、様々な大会やコンクールなどで、金、銀に次ぐ3位の色として使われることでも知られている。


液体状態における銅化合物は木の防腐剤に用いられ、特に{{仮リンク|乾腐|en|Dry rot}}による損傷を修復している間に構造の元の部分を取扱う際に利用される。亜鉛と共に銅のワイヤーは[[コケ]]の成長を阻害するため、被導電性の屋根材量の上に置かれることがある。抗菌性の紡織線維を作るために銅が用いられる<ref>{{cite web|title = Antimicrobial Products that Shield Against Bacteria and Fungi|publisher = Cupron, Inc.|year = 2008|url = http://www.cupron.com/|accessdate = 2008-07-13}}</ref>。銅は細い導線を容易に作成できるため、繊維に織り込んで[[絨毯]]や[[マット]]などに使用されている。また、このような絨毯は銅の高い導電性により[[静電気]]の発生を抑制する効果も得られる。同様に銅イオンの持つ殺菌作用を利用した用途として、抗菌仕様の靴下や靴の中敷などにも利用され、陶磁器の[[釉薬]]や[[ステンドグラス]]、[[楽器]]などにも用いられる。
2006年、[[中国]]の[[北京オリンピック]]に向けた[[インフラストラクチャー|インフラ]]整備に伴う需要増により、国際的な価格高騰を起こした。

電気メッキにおいては、[[ニッケル]]のような他の金属をメッキする際の下地として銅が用いられる。

銅は[[鉛]]、銀と共に、博物館材料の保管試験である{{仮リンク|オディ試験|en|Oddy test}}と呼ばれる試験方法に用いられる3つの金属のうちの1つである。この試験において、銅は塩化物、酸化物および硫化物を検出するために用いられる。

銅は[[化合物]]または[[触媒]]としても用途が広い。代表的な銅の化合物としては[[塩化銅(II)]]・[[酸化銅(II)]]・[[硫酸銅(II)]]などがあり、各種触媒や、[[防腐剤]]、[[殺虫剤]]、[[顔料]]などに用いられている。

銅はまた装飾品にも使われる。[[民間療法]]では銅の[[ブレスレット]]は関節炎を和らげるとされるが、その証明はされていない<ref>{{cite journal|last1=Walker|first1=W. R.|last2=Keats|first2=D. M.|title=An investigation of the therapeutic value of the 'copper bracelet'-dermal assimilation of copper in arthritic/rheumatoid conditions|journal=Agents Actions|year=1976|volume=6|issue=4|pages=454–459|pmid=961545}}</ref>。また、銅鉱石のうち[[孔雀石]]などはその外観の美しさから[[宝石]]としても利用される<ref>{{Cite book|和書|title=宝石のみかた|author=崎川範行|year=1980|pages=75-76|publisher=保育社|isbn=4586505001}}</ref>。

銅は[[コバルト]]、[[マンガン]]に次ぎ、([[鉄]]よりも)[[硫黄]]と結合をする性質が強い。そのために硫黄[[架橋]]が存在する[[ゴム]]を侵すことがある(一般に(ゴムに関しての)銅害、と呼ぶ。ゴムに存在する硫黄のS-S架橋より強く自らと結合する性質があるので、このために硫黄架橋は切断され、ゴムの組織が分解・剥離することになる。このため、銅合金製のフックに輪ゴムをかけておくと輪ゴムがすぐに使えなくなったり、銅イオンを含む水が流れるパイプでは[[EPDM]]などの加硫がされたパッキンが急速に劣化して水が汚染されたり、銅の近くにゴム製品を置いておくと表面が溶けたりする。)<ref>{{PDFLink|[http://www.cerij.or.jp/cerinews/cn_pdf/cerinews_053.pdf CERI NEWS No.53 2006 May 有機化学と物理化学と]}}</ref>。この性質を用いて、物質から硫黄を吸着することが可能であるが、この応用は医療・美容分野においては銅クロロフィル([[クロロフィル]]中のマグネシウムを銅に置き換えたもの)などに見ることができる(銅クロロフィルにより、口腔などに存在する硫黄化合物を銅に吸着させて清掃することが可能である)。


== 銅合金 ==
== 銅合金 ==
純粋な銅は[[強度#降伏強さ|降伏強度]]が非常に低く (33 MPa)、軟らかい([[モース硬度]]3、[[ビッカース硬さ]]50)といった機械的に弱い物理的性質を有しているため<ref name="Matweb Cu">{{cite web|url=http://www.matweb.com/search/DataSheet.aspx?MatID=28&ckck=1 |title=''Copper annealed''|publisher=matweb|accessdate=2 de mayo de 2008}}</ref>、機械加工部品材料としては使用しにくい。このような銅の機械的な弱さとは対照的に、他の金属と[[合金]]化して'''[[銅合金]]'''とすることで非常に優れた機械的強さを示すようになるため、銅の欠点を補い利点を伸ばす銅合金としての用途も幅広い。主要な銅合金として[[青銅]]や[[黄銅]]があり<ref name=takayuki>{{Cite book|和書|author=高行男|title=自動車材料入門|year=2009|page=104|publisher=東京電機大学出版局|isbn=4501417803}}</ref>、[[ベリリウム]]や[[カドミウム]]など少量の元素を添加した[[高純度銅合金]]なども開発されている<ref>[[#冨士2009|冨士 (2009)]] 112頁。</ref>。銅はまた、銀や金の合金、宝石業界で用いられるろう材の成分として最も重要なもののうちの1つでもあり、色調の補正や、硬度や融点の調節に利用される<ref name=goldalloys>{{cite web|url = http://www.utilisegold.com/jewellery_technology/colours/colour_alloys/|accessdate = 2009-06-06|title = Gold Jewellery Alloys|publisher = World Gold Council}}</ref>。
銅はいろいろな用途に向いている面も多いが、反面、さびやすさ、柔らかさ、粘り気の強さなどで機械加工部品材料としては使用しにくい。そのため銅の欠点を補い、利点を伸ばすため合金の用途も広い。銅と[[亜鉛]]を合金させたものを一般に[[黄銅]]とよび、亜鉛の含有率を変化させることで、連続的に色彩が変化し[[融点]]が低下する。[[金管楽器]]や[[仏具]]などに使われる[[真鍮]]は黄銅の1つである。真鍮は錆びにくく、色が黄金色で美しいことから[[模造金]]や[[装身具|装飾具]]などとしてもよく見かける金属である。古代から[[武器]]や通貨などとして用いられた[[青銅]]は[[スズ]]と銅の合金であり、現在でもブロンズ像など、[[彫刻]]の材料である。しかし、最近では「青銅」という呼び名は変化してきており、一定以上のスズを含んでいるその他の銅合金や青銅と似たような色や[[結晶構造]]をもつような[[鋳造]]用合金の総称としても用いられる。また、工芸材料として用いられる[[赤銅]]、[[貨幣]]に使われる[[白銅]](キュプロニッケル)は[[ニッケル]]との合金であり、[[アルミニウム]]との合金である[[アルミニウム青銅]]は[[展延性|延性]]に富んだ黄金色であるため[[金箔]]の代わりとして使われるなどされている。


これらの多様な銅合金は一般的にISO 1190-1:1982もしくはその[[国際標準化機構|ISO規格]]に対応するローカル規格(例えばスペイン国家規格 UNE 37102:1984)によって分類され<ref>{{cite book|author=Coca Cebollero, P. y Rosique Jiménez, J.|title= Ciencia de Materiales. Teoría - ensayos- tratamientos|year=2000| edition = Ediciones Pirámide|isbn=84-368-0404-X}}</ref>、これらの規格における各合金の標準規格番号は{{仮リンク|UNS番号|en|Unified numbering system}}が使用される<ref>[http://www.matweb.com/search/SearchUNS.aspx Metal Alloy UNS Number Search] (en inglés), Matweb</ref>。
青銅や黄銅と呼ばれる銅合金で代表的なものには、[[光輝黄銅]]・[[工業用青銅]]・[[赤色黄銅]]・[[ジュエリー青銅]]・[[低濃度黄銅]]・[[カートリッジ黄銅]]・[[黄色黄銅]]・[[ムンツメタル]]・[[鉛黄銅]]・[[リン青銅]]・[[シリコン青銅]]・[[アルミニウム青銅]]・[[洋白|洋銀(洋白)]]などがあり、その性質は様々で利用分野においても簡単に分別できないほど多岐にわたっている。


=== 黄銅 ===
また、主な工業用の合金として、[[高純度銅合金]]や[[純銅]]と呼ばれる極めて高い[[純度]]の銅にごくわずかな添加物を加えた合金がある。代表的な高純度銅合金には[[カドミウム銅]]・[[クロム銅]]・[[テリウム銅]]・[[ベリリウム銅]]などがあり、工業的には機械工業を初めとした分野で[[銀含有銅]]・[[ヒ素銅]]・[[快削銅]]などが利用される。
[[File:Jug Egypt Louvre OA7436.jpg|thumb|[[エジプト]]の黄銅製の[[花瓶]]([[ルーヴル美術館]]、[[パリ]])。]]
{{main|黄銅}}
銅と[[亜鉛]]の合金は一般に[[黄銅]]とよばれる<ref name=fuji114>[[#冨士2009|冨士 (2009)]] 114頁。</ref>。亜鉛の含有率を変化させることで連続的に引っ張り強さや硬さが増大する性質を有しており<ref name=fuji114/>、銅と亜鉛の比率によって7/3黄銅や6/4黄銅などとよばれそれぞれの性質に合わせて異なる用途に用いられる<ref>[[#打越2001|打越 (2001)]] 182頁。</ref>。<!--色彩が変化し[[融点]]が低下する。-->[[金管楽器]]や[[仏具]]などに使われる[[真鍮]]は黄銅の1つである。真鍮は錆びにくく、色が黄金色で美しいことから[[模造金]]や[[装身具|装飾具]]などとしてもよく見かける金属である。


黄銅は[[海水]]などの塩類を多く含む溶液との接触によって亜鉛が溶出する脱亜鉛現象と呼ばれる腐食が起こる<ref>[[#大澤2010|大澤 (2010)]] 112頁。</ref>。このような脱亜鉛現象を防ぐためには黄銅へのスズの添加が有効である。6/4黄銅にスズを0.7&ndash;1.5 %ほど加えたネーバル黄銅とよばれるスズ入り黄銅は特に海水に強いため、船舶部品などに利用される<ref name="冨士 2009 117頁。">[[#冨士2009|冨士 (2009)]] 117頁。</ref><ref name=uchikoshi183>[[#打越2001|打越 (2001)]] 183頁。</ref>。スズ入り黄銅のように他の元素を微量に加えた黄銅を特殊黄銅とよび、鉛を加えて切削性を向上させた快削黄銅や、[[マンガン]]および微量のアルミニウム、[[鉄]]、ニッケル、スズを加えて強度や耐食性、耐摩耗性を高めた高力黄銅(またはマンガン青銅とも)などがある<ref name=uchikoshi183/>。快削黄銅では、鉛の環境負荷に配慮して鉛の代わりに[[ビスマス]]や[[セレン]]が用いられることもある<ref name=takayuki/>。
== 主な銅の化合物 ==
* [[硫化銅]] (CuS)
* [[塩化銅]](I) (CuCl)
* [[塩化銅]](II) (CuCl<sub>2</sub>)
* [[酸化銅(I)]] (Cu<sub>2</sub>O)
* [[酸化銅(II)]] (CuO)
* [[硫酸銅]] (CuSO<sub>4</sub>)


== 同位体 ==
=== 青銅 ===
[[File:Augustins - David by Antonin Mercié (D 2005 1).jpg|left|thumb|青銅製の聖[[ダビデ像]]]]
{{Main|銅の同位体}}
{{main|青銅}}
古代から[[武器]]や通貨などとして用いられた[[青銅]]は[[スズ]]と銅の合金であり、現在でもブロンズ像など、[[彫刻]]の材料である。また、[[アルミニウム青銅]]などのように、高強度、高硬度、防錆性を有するスズ以外との銅合金も総称して青銅とよばれる<ref name="冨士 2009 117頁。"/><ref name=uchikoshi183/>。青銅はスズの割合と温度によって多様な相を取り、それぞれ異なった性質を示す。例えば、スズの含有率が少ないものは加工性が良好であるが、スズの含有率が増加するとともに加工性が低下するため、スズ量の少ないもの (10 %以下) は加工用、多いものは[[鋳造]]用として利用される<ref name=uchikoshi183/>。


黄銅と同様に、他の元素を微量に加えた青銅を特殊青銅と呼ぶ。リンを加えて冷間加工性やばね性を向上させたリン青銅や、軸受けに用いられる鉛青銅、リンおよび鉛を加えて切削性を向上させた快削リン青銅、ケイ素を加えて耐酸性を向上させたケイ素青銅などがある<ref name=fuji118>[[#冨士2009|冨士 (2009)]] 118頁。</ref><ref>[[#打越2001|打越 (2001)]] 184頁。</ref>。
== 銅の反応 ==
銅は[[イオン化傾向]]が小さいため[[塩酸]]や[[希硫酸]]といった酸とは反応しないが、[[硝酸]]や[[熱濃硫酸]]のような[[酸化力]]の強い酸とは反応する。


銅に6&ndash;11 %のアルミニウムを加えた合金は、スズを含んでいないものの[[アルミニウム青銅]]とよばれる<ref name=fuji118/>。アルミニウム青銅は機械的な強度が高く耐食、耐熱、耐摩耗性にも優れた合金であり、機械部品や船舶部品などに用いられる<ref name=fuji118/>。銅とニッケルの合金も同じくスズを含んでいないものの[[ニッケル青銅]]とよばれる<ref name=uchikoshi186>[[#打越2001|打越 (2001)]] 186頁。</ref>。銅とニッケルはどのような混合比でも合金化するため、銅に10&ndash;30 %のニッケルを加えた白銅や、60 %のニッケルを加えた[[モネル]]といった幅広い組成比の合金が作られている<ref name=fuji118/><ref name=uchikoshi186/>。白銅は高温での耐食性に優れているため復水器や化学工業用の部材として利用され<ref name=fuji118/>、[[貨幣]]にも使われる<ref name=tanaka168/>。モネルは銅、ニッケルの他に3 %ほどの鉄が含まれており、耐食性および耐熱性に優れている<ref>{{cite book|author=P.Coca Rebollero y J. Rosique Jiménez|title= Ciencia de Materiales Teoría- Ensayos- Tratamientos|year=2000|publisher= Ediciones Pirámide|isbn= 84-368-0404-X}}</ref>。ニッケル含有量が45 %のニッケル青銅は[[コンスタンタン]]とよばれ、標準抵抗線や[[熱電対]]に利用される<ref>[[#大澤2010|大澤 (2010)]] 128頁。</ref>。
* 希硝酸との反応

: 3Cu + 8HNO<sub>3</sub> → 3Cu(NO<sub>3</sub>)<sub>2</sub> + 4H<sub>2</sub>O + 2[[一酸化窒素|NO]]↑
=== 洋白 ===
* 濃硝酸との反応
[[File:EierbecherWMF.jpg|thumb|洋白製の[[ゆで卵]]置き]]
: Cu + 4HNO<sub>3</sub> → Cu(NO<sub>3</sub>)<sub>2</sub> + 2H<sub>2</sub>O + 2[[二酸化窒素|NO<sub>2</sub>]]↑
{{main|洋白}}
* 熱濃硫酸との反応
銅、ニッケルおよび亜鉛の合金は洋白もしくは洋銀と呼ばれ、その組成は銅が50&ndash;70 %、ニッケルおよび亜鉛がそれぞれ13&ndash;25 %である<ref>Gandara Mario, ''[http://www.raulybarra.com/notijoya/archivosnotijoya8/8plata_alemana_alpaca.htm Plata alemana]'', Biblioteca de Joyería Ybarra. [5-4-2008]</ref>。洋白はその白銀色の外観から銀の代用として食器などに利用され、良好なばね特性を有しているためばね材や[[バイメタル]]にも用いられる<ref>[[#冨士2009|冨士 (2009)]] 119-120頁。</ref><ref>[[#大澤2010|大澤 (2010)]] 129頁。</ref>。また、洋白に1&ndash;2 %の[[タングステン]]を加えた白色の合金はプラチノイドと呼ばれ、[[電気抵抗]]線に用いられる<ref>Gandara Mario [http://www.raulybarra.com/notijoya/archivosnotijoya8/8plata_alemana_alpaca.htm Plata alemana] Biblioteca de joyería[5-4-2008]</ref><ref>{{Cite web|和書|title=電気用合金|url=http://ebw.eng-book.com/pdfs/ad14ea3cffa1cab9458e86a8b3066053.pdf|publisher=兵神装備 技術データ集|accessdate=2012-07-10}}</ref>。
: Cu + 2H<sub>2</sub>SO<sub>4</sub> → CuSO<sub>4</sub> + 2H<sub>2</sub>O + [[二酸化硫黄|SO<sub>2</sub>]]


=== その他の銅合金 ===
空気中では表面が酸化され、湿った条件化では[[二酸化炭素]]の作用により[[緑青]]を生じる。赤熱下では[[酸化銅(II)]]を生成し、更なる加熱により[[酸化銅(I)]]となる<ref name=Cotton> F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年</ref>。
主な工業用の合金として、[[高純度銅合金]]や[[純銅]]と呼ばれる極めて高い[[純度]]の銅にごくわずかな添加物を加えた合金がある。代表的な高純度銅合金には[[カドミウム銅]]、[[クロム銅]]、[[テルル銅]]、[[ベリリウム銅]]などがあり、工業的には機械工業を初めとした分野で[[銀含有銅]]、[[ヒ素銅]]、[[快削銅]]などが利用される。


また、銅に金、銀を加えた合金である[[赤銅 (合金)|赤銅]]は工芸材料として用いられる<ref name=tanaka168>{{Cite book|和書|author=田中和明|title=図解入門 よくわかる最新金属の基本と仕組み―性質、加工、生産、表面処理の基礎知識 初歩から学ぶ金属の常識|year=2006|page=168|publisher=秀和システム|isbn= 4798014869}}</ref>。<!--[[アルミニウム]]との合金である[[アルミニウム青銅]]は[[展延性|延性]]に富んだ黄金色であるため[[金箔]]の代わりとして使われるなどされている。青銅や黄銅と呼ばれる銅合金で代表的なものには、[[光輝黄銅]]、[[工業用青銅]]、[[赤色黄銅]]、[[ジュエリー青銅]]、[[低濃度黄銅]]、[[カートリッジ黄銅]]、[[黄色黄銅]]、[[ムンツメタル]]、[[鉛黄銅]]、[[リン青銅]]、[[シリコン青銅]]、[[アルミニウム青銅]]、[[洋白|洋銀(洋白)]]などがあり、その性質は様々で利用分野においても簡単に分別できないほど多岐にわたっている。-->
溶融銅は酸素および[[水素]]ガスを吸収し、これらの気体を吸蔵した銅は[[脆性]]が高い。そこで[[リチウム]]、[[リン]]、[[ケイ素]]が脱酸剤として用いられ、このような処理をした銅を脱酸銅と呼ぶ<ref name=nishikawa>西川精一 『新版金属工学入門』 アグネ技術センター、2001年</ref>。


== 生体内での働きと毒性 ==
== 生体内での働きと毒性 ==
[[File:Thylakoid membrane.png|thumb|440px|光合成は[[チラコイド]]膜の範囲内での精巧な電子伝達の連鎖によって機能する。この連鎖を結びつける中心は青色銅タンパク質と呼ばれる[[プラストシアニン]]である。]]
植物における銅の役割としては、生体内における数種類の[[酸化還元反応]]にかかわる[[酵素]]を活性化する働きや、[[光合成]]に必要な[[クロロフィル]]に銅が結合しており、クロロフィルの合成に銅が不可欠であるということが分かっている。しかし、クロロフィルの合成段階において銅がどのような役割を担っているのかなど詳しいことについてはまだわかっていない。


銅は[[微生物]]においてはそうでないが、動植物においては重要な[[微量元素#生物学における微量元素|微量元素]]である。[[銅タンパク質]]は生体内における電子伝達や酸素の輸送、Cu(I)とCu(II)の簡単な相互変換を利用したプロセスといった多様な役割を有している<ref name="Lippard">[[スティーブン・リパード]], J. M. Berg “Principles of bioinorganic chemistry” University Science Books: Mill Valley, CA; 1994. ISBN 0-935702-73-3.</ref>。銅の生物学的役割は、[[地球の大気]]における酸素の出現とともに始まった<ref>{{cite journal|pmid=10821735|author=Decker, H. and Terwilliger, N. |title=COPs and Robbers: Putative evolution of copper oxygen-binding proteins|journal= Journal of Experimental Biology |volume=203|pages=1777–1782 |year=2000|issue=Pt 12}}</ref>。銅の役割としては、[[ヘモグロビン]]を合成するために不可欠である元素であることが知られているが、ヘモグロビンそのものには銅は存在しない。銅が活性中心である酸素結合タンパク質である[[ヘモシアニン]]は[[哺乳類]]におけるヘモグロビンに相当し、ほとんどの[[軟体動物]]と、[[カブトガニ]]のような多くの[[節足動物]]において酸素輸送の役目を担う<ref name=NOAA>{{cite web|title = Fun facts|work = Horseshoe crab|publisher = University of Delaware|url = http://www.ocean.udel.edu/horseshoecrab/funFacts.html|accessdate = 2008-07-13}}</ref>。ヘモシアニンは酸素と結合して青色を呈するため、これらの生物の血は青色をしており、酸素輸送を[[ヘモグロビン]]に頼る生物のような赤い血は見られない。構造的にヘモシアニンは[[ラッカーゼ]]および[[モノフェノールモノオキシゲナーゼ]]と関係している。これらのタンパク質では、ヘモシアニンが酸素と可逆的な結合を形成する代わりに、[[ラッカー]]の形成における役割のように基質を酸化する<ref name="Lippard"/>。
[[植物]]において銅が不足すると、黄白化、光合成能力の低下、[[種子]]の形成異常あるいは枯死などが起こる。しかし、銅が過剰に存在する場合にも同様に毒性を示すため注意が必要である。[[下等植物]]の生育や増殖に少量の銅が不可欠であることが知られている。


動物においても、前項にもあるが、銅は必須微量元素の1つであり、ヒト一人当り100-150 mgの銅が含まれ主に[[骨]]や[[肝臓]]に存在する。銅の役割としては[[ヘモグロビン]]を合成するために不可欠である元であることが知られている。しかし、ヘモグロビンそのものには銅は存在しない。一方、[[節足動物]]や[[軟体動物]]において、ほ乳類ヘモグロビンに相当する酸素結合タンパク質である[[ヘモシアニン]]の活性中心は銅である。さらには、[[スーパーオキシドアニオン]]を消去する[[スーパーオキシドディスムターゼ]][[ミトコンドリア]]における[[呼吸鎖]]関連素の[[シトクロムcオキシダーゼ]]、[[コラーゲン]]合成に必須な[[モノアミンオキシダーゼ]]や[[リジルオキシダーゼ]]の活性中心である。
銅はた、素の処理関わる他のタンパク質の活性中心である。酸素を使う[[細胞呼吸]]に必要な[[シトクロムcオキシーゼ]][[ミトコンドリア]]における[[呼吸鎖]]関連しており、酸素の還元のために銅と鉄が協働する。[[コラーゲン]]合成に必須な[[モノアミンオキシダーゼ]]や[[リジルオキシダーゼ]]の活性中心も銅あり、さらに[[スーパーオキシドアニオン]]を酸素と[[過酸化水素]]に[[不均化]]することによって分解して無毒化する[[スーパーオキシドディスムターゼ]]の活性中心も銅でもある。
:<chem>2 HO2 -> H2O2\ + O2</chem>


青色銅タンパク質のようないくつかの銅タンパク質は直接[[基質 (化学)|基質]]とは反応しないため、それらは[[酵素]]ではない。それらのタンパク質は、[[電子移動反応]]とよばれるプロセスによって電子を中継する<ref name="Lippard"/>。
銅が不足することでは、鉄の吸収量が低下し[[貧血]]となることや骨異常などが起こりうる。鉄吸収量減少の少なくとも一部は、[[トランスポーター]]が鉄を細胞に取り込む際に、銅による還元が必須であることに起因する。しかし、銅は要求量がそれほど多くなく、食品中に豊富に存在するためそのようなことはまれである。ただし、特に[[反芻動物]]は銅に対して敏感な性質を持つため、家畜などにおいては銅の不足により[[神経障害]]や貧血、下痢などが発生することがある。これは飼料に銅を含んだ[[ミネラル]]分を添加することで改善される。また、[[亜鉛]]の過剰摂取は小腸細胞において金属結合性タンパク質である[[メタロチオネイン]]が誘導され、銅がこのタンパク質にトラップされる結果、銅の摂取が阻害される。


=== 摂取 ===
このように、銅は生物の代謝が正常に行われるうえで必須の元素であるが、過剰摂取すれば金属中毒を引き起こす。例えば多くの[[動物]]にとって慢性的に過剰な銅の摂取は毒性であり、反芻動物では銅の過多により[[肝硬変]]や発育不全、[[黄疸]]、などが起こりうる。また[[無脊椎動物]]の多くは過剰供給となって代謝異常を起こす閾値が[[脊椎動物]]よりも低い。例えば水槽内で海産魚を飼育するときに魚病薬として硫酸銅の水溶液を少量飼育水に添加することがあるが、この処置をいったん行った水槽は、飼育水中に微量の銅イオンが溶け出すため、もはや海産無脊椎動物の飼育には不適当といわれている。植物にとっても銅イオンの過剰供給が毒性を示すことは同様であり、そのような環境下では銅イオン耐性の強い特殊な植物が繁茂する。例えば、[[寺社]]の銅屋根を伝った水が滴るような場所には銅イオン耐性の強い[[ホンモンジゴケ]]が優占することがよく知られている。
{|class="wikitable" style="text-align:center;"
|+ 銅の食事摂取基準<br/>(日本、2015)<ref>{{cite report ja
|title=日本人の食事摂取基準(2015年版)
|url=https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
|publisher=厚生労働省}}</ref>
|-
!属性!!推奨量(RDA)<br/>mg/日!!耐容上限量(UL)<br/>mg/日
|-
|男性(18歳以上)||0.9&ndash;1.0||10
|-
|女性(18歳以上)||0.8||10
|}
{|class="wikitable" style="text-align:center;"
|+ 銅の食事摂取基準<br/>(米国、2001)<ref name="DRI2001">{{cite book
|title=Dietary Reference Intakes for Vitamin A, Vitamin K, Arsenic, Boron, Chromium, Copper, Iodine, Iron, Manganese, Molybdenum, Nickel, Silicon, Vanadium, and Zinc.
|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK222312/
|publisher=Institute of Medicine (US) Panel on Micronutrients.Washington (DC): National Academies Press (US)
|year=2001
}}</ref>
|-
!属性!!推奨量(RDA)<br/>mg/日!!耐容上限量(UL)<br/>mg/日!![[NOAEL]]<br/>mg/日
|-
|男性(19歳以上)||0.9||10||10
|-
|女性(19歳以上)||0.9||10||10
|}
2001年に出されたアメリカの報告書<ref name="DRI2001"/> によると、銅成分なしの[[輸液]]では一日あたり250&ndash;1850 &mu;gの銅が失われる。また銅の損失をゼロ(0)とするには一日あたり510 &mu;gの銅を補給することが(計算上)必要としている。


=== 一日の所要量 ===
=== 吸収、循環、排出 ===
[[File:ARS copper rich foods.jpg|thumb|銅の豊富な食品としては[[カキ (貝)|カキ]]、[[牛]]や[[ラム (子羊)|ラム]]の[[肝臓]]、ブラジルナッツ、[[糖蜜#廃糖蜜|廃糖蜜]]、[[ココア]]、黒[[コショウ]]がある。良い補給源としては[[ロブスター]]、[[種実類|ナッツ]]や[[ヒマワリ]]の種、グリーン[[オリーブ]]、[[アボカド]]、[[小麦]]の[[糠]]がある。]]
* 成人男性 1.8 mg
人体には体重1 kgあたりおよそ1.4&ndash;2.1 mgの銅が含まれている<ref name="copper.org">{{cite web|url = http://www.copper.org/consumers/health/papers/cu_health_uk/cu_health_uk.html|title = Amount of copper in the normal human body, and other nutritional copper facts|accessdate = April 3, 2009}}</ref>。銅は[[腸]]で吸収され、その後、[[肝臓]]に輸送されて[[アルブミン]]と結合する<ref>{{cite journal|last1=Adelstein|first1=S. J.|last2=Vallee|first2=B. L.|title=Copper metabolism in man|journal=New England Journal of Medicine|year=1961|volume=265|pages=892–897|doi=10.1056/NEJM196111022651806|issue=18}}</ref>。肝臓で処理された後の銅は第二段階として他の組織に分散される。ここの銅輸送プロセスでは、大多数の銅を血液中に輸送する[[セルロプラスミン]]が関与している。セルロプラスミンはまた、[[乳]]中に排出される銅を運搬し、特に銅源として効率よく吸収される<ref>{{cite journal | url = http://www.ajcn.org/content/67/5/965S.abstract | title = Copper transport | pmid = 9587137 | date = 1998-05-01 | author1 = M C Linder | journal = The American Journal of Clinical Nutrition | volume = 67 | issue = 5 | pages = 965S–971S | last2 = Wooten | first2 = L | last3 = Cerveza | first3 = P | last4 = Cotton | first4 = S | last5 = Shulze | first5 = R | last6 = Lomeli | first6 = N }}</ref>。一日あたりおよそ1 mgの銅が食品から摂取および排出されるのに対して、体内では通常一日あたりおよそ5 mgの銅が肝臓から運び出されて腸で再吸収される[[腸肝循環]]によって循環しており、必要であれば[[胆汁]]を通じて過剰な銅を体外へと排出できる<ref>{{cite journal | jstor =20170553 | pmid = 775938 | year =1976 | last1 =Frieden | first1 =E | last2 =Hsieh | first2 =HS | title =Ceruloplasmin: The copper transport protein with essential oxidase activity | volume =44 | pages =187–236 | journal =Advances in enzymology and related areas of molecular biology}}</ref><ref>{{cite journal | url =http://ajpcell.physiology.org/content/258/1/C140 | pmid =2301561 | title =Copper transport from ceruloplasmin: Characterization of the cellular uptake mechanism | date =1990-01-01 | author1 =S. S. Percival | journal =American Journal of Physiology - Cell Physiology | volume =258 | issue =1 | pages =C140–6 | last2 =Harris | first2 =ED}}</ref>。
* 成人女性 1.6 mg
* 許容上限摂取量 9 mg


=== 銅による障害 ===
欠乏、過剰症はまれ。貧血・骨異常・脳障害等が欠乏症として知られている、過剰症は[[遺伝病]]である[[肝レンズ核変性症|ウィルソン病]]等極少数。
[[膜輸送体]]が鉄を細胞に取り込むためには、銅による還元が必要である。このため[[銅欠乏症|銅の欠乏]]によって鉄の吸収量が低下し、[[貧血]]のような症状や[[好中球減少]]、骨の異常、[[低色素沈着]]、[[成長障害]]、感染症の発病率増加、[[骨粗鬆症]]、[[甲状腺機能亢進症]]、[[ブドウ糖]]と[[コレステロール]]の[[代謝]]異常などがもたらされる。しかし、銅は要求量がそれほど多くなく、食品中に豊富に存在するためそのようなことは稀である。ただし、特に[[反芻動物]]は銅に対して敏感な性質を持つため、家畜などにおいては銅の不足により[[神経障害]]や[[貧血]]、[[下痢]]などが発生することがある。これは[[飼料]]に銅を含んだ[[ミネラル]]分を添加することで改善される。また、[[亜鉛]]の過剰摂取は小腸細胞において金属結合性タンパク質である[[メタロチオネイン]]が誘導され、銅がこのタンパク質にトラップされる結果、銅の摂取が阻害される。例えば、[[ウサギ]]の健康な成長のために必要な最低限の銅摂取量は、少なくともエサ中に3 ppmは必要であることが報告されている<ref>{{cite journal|author=Hunt, Charles E. and William W. Carlton |pmid=5841854 |year=1965|title=Cardiovascular Lesions Associated with Experimental Copper Deficiency in the Rabbit|journal=Journal of Nutrition |volume=87|pages=385–394|issue=4}}</ref>。


{| class="wikitable" style="float: right;"
==枯渇問題==
|-
銅は2040年頃に枯渇すると言われる事がある<ref>物質・材料研究機構 材料ラボによるレポート</ref>。ただしこれは、現在の銅価格において、採掘コストに見合った採掘が可能な銅鉱山が枯渇するという意味であり、地球の銅埋蔵量はまだ十分にあると考えられている。当然ながらそのような事態になれば、銅価格は高騰し、現在では採算コストがあわない鉱山でも利益が確保でき、採掘が行われはずである。採掘技術の進歩や、採掘が容易な銅鉱山の発見によって、銅価格高騰が回避される可能性もある。
! style="background:#f90;"|NFPA 704
|-
| style="text-align:left;"|{{NFPA 704|Health = 2|Flammability = 0|Reactivity = 0|Other =}}
|-
| style="width:80pt;"|金属銅に対する[[NFPA 704|ファイア・ダイアモンド]]表示
|}
ヒトにおいては、体内の銅の吸収と排出を管理する銅の輸送システムのために、銅の過剰症は通常起こらない。しかしながら、銅の輸送タンパク質における[[常染色体]]の劣性突然変異によってこの輸送システムが働かなくなるため、このような欠陥遺伝子対を遺伝した人において[[肝硬変]]や銅の蓄積を伴う[[肝レンズ核変性症|ウィルソン病]]が<ref name="copper.org"/>、あるいは銅欠乏となる{{仮リンク|メンケス病|en|Menkes disease}}を発症することがある。また、グラム単位の様々な銅塩は人体に対して深刻な毒性を示すため自殺目的に用いられ、その機序はおそらく酸化還元サイクルおよび、[[デオキシリボ核酸|DNA]]に損傷を与える[[活性酸素]]種の生成によると考えられている<ref>{{cite journal|last1=Li|first1=Yunbo|last2=Trush|first2=Michael|last3=Yager|first3=James|title=DNA damage caused by reactive oxygen species originating from a copper-dependent oxidation of the 2-hydroxy catechol of estradiol|journal=Carcinogenesis|year=1994|volume=15|issue=7|pages=1421–1427|doi=10.1093/carcin/15.7.1421|pmid=8033320}}</ref>。銅換算で体重1 kgあたり30 mgに相当する量の銅塩は動物に対して毒性を示すように<ref>{{cite web|title = Pesticide Information Profile for Copper Sulfate|url = http://pmep.cce.cornell.edu/profiles/extoxnet/carbaryl-dicrotophos/copper-sulfate-ext.html|publisher = Cornell University|accessdate=2008-07-10}}</ref>、多くの[[動物]]にとって慢性的に過剰な銅の摂取は毒である。反芻動物では銅の過多により[[肝硬変]]や発育不全、[[黄疸]]、などが起こりうる。例えば、ウサギのエサ中の銅濃度が100 ppm、200 ppm、500 ppmとより高濃度になると、{{仮リンク|飼料要求率|en|Feed conversion ratio}}や成長率、枝肉の歩留まりに有意な影響がある可能性が示唆されている<ref>{{cite journal|url=http://riunet.upv.es/handle/10251/10503?locale-attribute=en|author=Ayyat M.S., Marai I.F.M., Alazab A.M. |year=1995|title=Copper-Protein Nutrition of New Zealand White Rabbits under Egyptian Conditions|journal= World Rabbit Science |volume=3|pages=113–118}}</ref>。[[無脊椎動物]]の多くは過剰供給となって代謝異常を起こす[[しきい値|閾値]]が[[脊椎動物]]よりも低い。例えば水槽内で海産魚を飼育する時に、魚病薬として硫酸銅の水溶液を少量飼育水に添加することがあるが、この処置をいったん行った水槽は、飼育水中に微量の銅イオンが溶け出すため、もはや海産無脊椎動物の飼育には不適当といわれている。


著しい銅の欠乏は血漿もしくは血清銅濃度の低下(セルロプラスミン濃度の低下)および、赤血球スーパーオキシドディスムターゼ濃度の低下の検査によって発見することができるが、これらの検査は低濃度の銅に対する感度が高くない。「白血球および血小板のシトクロムcオキシダーゼ活性」は欠乏のもう一つの要因として提示されたが、その結果は反復試験によって確かめられなかった<ref name=Bonhametal2002>{{cite journal|author=Bonham, M. ''et al.''|year=2002|title=The immune system as a physiological indicator of marginal copper status? |journal=British Journal of Nutrition|doi=10.1079/BJN2002558|pmid=12010579|volume=87|issue=5|pages=393–403}}</ref>。
== 生産量 ==
[[2007年]]


銅による[[食中毒]]例として、2020年、やかんの水に[[スポーツドリンク]]を溶かして摂取した高齢者が吐き気や下痢を訴えた例がある。やかんは[[ステンレス]]製のものであったが、長年、水道水に含まれる銅が[[水垢]]として堆積し、酸性のスポーツドリンクにより溶け出したという極端な原因であった。[[保健所]]が調査したところ、飲料から1&nbsp;Lあたり200&nbsp;mgの銅が検出されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.asahi.com/articles/ASN864F2FN7QUTIL04M.html|title= やかんの水あかで "食中毒"、水道水に含まれる銅が蓄積。学者「普通は考えられない」|publisher=朝日新聞デジタル|date=2020-08-08|accessdate=2022-03-22}}</ref>。
# {{Flagicon|チリ}} [[チリ]] - 約556万トン

# {{Flagicon|アメリカ}} [[アメリカ]] - 約120万トン
=== 植物における銅 ===
# {{Flagicon|ペルー}} [[ペルー]] - 約100万トン
植物における銅の役割としては、生体内における数種類の[[酸化還元反応]]にかかわる[[酵素]]を活性化する働きや、[[光合成]]に必要な[[クロロフィル]]に銅が結合しており、クロロフィルの合成に[[肥料]]として銅が不可欠であるということが分かっている。しかし、クロロフィルの合成段階において銅がどのような役割を担っているのかなど詳しいことについては未だ判っていない。銅の欠乏によって黄白化、光合成能力の低下、[[種子]]の形成異常あるいは枯死などが起こる。銅の過剰供給もまた植物に対して毒性を示し、そのような環境下では銅イオン耐性の強い特殊な植物が繁茂する。例えば、[[寺社]]の銅屋根を伝った水が滴るような場所には銅イオン耐性の強い[[ホンモンジゴケ]]が優占することがよく知られている。[[下等植物]]の生育や増殖に少量の銅が不可欠であることが知られている。
# {{Flagicon|中国}} [[中国]] - 約89万トン

# {{Flagicon|オーストラリア}} [[オーストラリア]] - 約86トン
=== 抗菌性 ===
# {{Flagicon|インドネシア}} [[インドネシア]] - 約80万トン
多くの[[抗菌]]効果の研究において、[[A型インフルエンザウイルス]]や[[アデノウイルス]]、[[菌類]]だけでなく、広範囲にわたる細菌を[[殺菌]]するための銅の有効性について、10年以上研究されてきた<ref name="Copper Touch Surfaces"/>。研究の結果、建物内の給水管に使用した場合、表面に生成される酸化膜や塩素化合物の影響により、短期間に不活化能力が低下する現象のほか、残留塩素の低減作用が明らかとなっており、実用上の課題として認識されている<ref>[https://doi.org/10.11236/jph.60.9_579 銅を用いた水中の微生物の不活化技術の現状と課題] 『日本公衆衛生雑誌』 Vol.60 (2013) No.9 p.579-585</ref>。
# {{Flagicon|ロシア}} [[ロシア]] - 約73万トン

# {{Flagicon|カナダ}} [[カナダ]] - 約60万トン
銅合金の表面には広範囲の微生物を不活化する固有の能力があり、例えば[[腸管出血性大腸菌]]や[[メチシリン]]耐性[[黄色ブドウ球菌]] ([[メチシリン耐性黄色ブドウ球菌|MRSA]])、[[ブドウ球菌]]、[[クロストリジウム・ディフィシル]]、[[A型インフルエンザウイルス]]、[[アデノウイルス]]などを不活化する<ref name="Copper Touch Surfaces">[http://coppertouchsurfaces.org/antimicrobial/bacteria/index.html Copper Touch Surfaces]. Copper Touch Surfaces. Retrieved on 2011-11-08.</ref><ref>岸田直裕, 島崎大, 小坂浩司 ほか、[https://doi.org/10.11236/jph.60.9_579 銅を用いた水中の微生物の不活化技術の現状と課題] 『日本公衆衛生雑誌』 2013年 60巻 9号 p.579-585, {{doi|10.11236/jph.60.9_579}}</ref>。約355の銅合金において、定期的に洗浄していれば2時間以内に病原菌の99.9 %以上が不活化されると証明された<ref name="epa.gov">[http://www.epa.gov/pesticides/factsheets/copper-alloy-products.htm EPA registers copper-containing alloy products], May 2008</ref>。
# {{Flagicon|ポーランド}} [[ポーランド]] - 約51万トン

# {{Flagicon|ザンビア}} [[ザンビア]] - 約48万トン
[[アメリカ合衆国環境保護庁]] (EPA)は「公的医療による抗菌性材料」としてこれらの銅合金の登録を承認し<ref name="epa.gov" />、登録された抗菌性銅合金で製造された、製品の明確な公衆衛生効果の主張を合法的に行うことが許可された。さらにEPAは、横木、[[手摺]]、[[蛇口]]、[[ドアノブ]]、[[洗面|洗面所]]、[[ハードウェア]]、[[キーボード (コンピュータ)]]、[[スポーツクラブ]]の器具など、抗菌性銅から作られた抗菌性銅製品の長い一覧を承認した(全品目は[[:en:Antimicrobial copper-alloy touch surfaces#Approved products]]参照)。
# {{Flagicon|メキシコ}} [[メキシコ]] - 約32万トン

# {{Flagicon|ブラジル}} [[ブラジル]] - 約20万トン
銅製のドアノブは、病院で院内感染を防ぐために用いられ、[[レジオネラ]]症は配管システムに銅管を用いることで抑制することができる<ref>{{cite journal|last1=Biurrun|first1=Amaya|last2=Caballero|first2=Luis|last3=Pelaz|first3=Carmen|last4=León|first4=Elena|last5=Gago|first5=Alberto|title=Treatment of a Legionella pneumophila‐Colonized Water Distribution System Using Copper‐Silver Ionization and Continuous Chlorination|journal=Infection Control and Hospital Epidemiology|year=1999|volume=20|issue=6|pages=426–428|doi=10.1086/501645|jstor=30141645|pmid=10395146}}</ref>。抗菌性銅合金製品は[[イギリス]]、[[アイルランド]]、[[日本]]、[[大韓民国|韓国]]、[[フランス]]、[[デンマーク]]および[[ブラジル]]において、医療施設に用いられている。また、南米チリの[[サンティアゴ (チリ)|サンティアゴ]]では、[[地下鉄]]輸送システムにおいて銅-亜鉛合金製の手摺が、2011年から2014年の間に約30の[[鉄道駅]]に取り付けられることになっている<ref>[http://www.rail.co/2011/07/22/chilean-subway-protected-with-antimicrobial-copper Chilean subway protected with Antimicrobial Copper – Rail News from]. rail.co. Retrieved on 2011-11-08.</ref><ref>[http://construpages.com.ve/nl/noticia_nl.php?id_noticia=3032&language=en Codelco to provide antimicrobial copper for new metro lines (Chile)]. Construpages.com.ve. Retrieved on 2011-11-08.</ref><ref>[http://www.antimicrobialcopper.com/media/149689/pr811-chilean-subway-installs-antimicrobial-copper.pdf PR 811 Chilean Subway Installs Antimicrobial Copper]. (PDF). antimicrobialcopper.com. Retrieved on 2011-11-08.</ref>。
# {{Flagicon|パプアニューギニア}} [[パプアニューギニア]] - 約17万トン
# {{Flagicon|モンゴル}} [[モンゴル国]] - 約13万トン


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist}}
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
*{{Cite web|title=Commodity Profile: Copper|author=S D Hannis, P A J Lusty|editor=A G Gunn|publisher=[[英国地質調査所]]|year=2009|url=http://nora.nerc.ac.uk/7977/1/OR09041.pdf|format=pdf|ref=HannisLusty2009|accessdate=2012-05-14}}
*{{Cite book|和書|author=打越二彌|title=図解機械材料|year=2001|publisher=東京電機大学出版局|isbn=4501415304|ref=打越2001}}
*{{Cite book|和書|author=大澤直|title=よくわかる最新「銅」の基本と仕組み|year=2010|publisher=秀和システム|isbn=4798026727|ref=大澤2010}}
*{{Cite book|和書|author=加藤虎郎|year=1932|title=標準定量分析法|publisher=[[丸善]]|ref=katou1932}}
*{{Cite journal|url=https://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/020.pdf|title=銅精錬技術の系統化調査|journal=国立科学博物館技術の系統化調査報告|volume=6|publisher=国立科学博物館|format=pdf|author=酒匂幸雄|date=2006|ref=sako2006|accessdate=2012-07-23}}
*{{Cite book|和書|author=G. シャルロー|others=曽根興二、田中元治 訳|title=定性分析化学II ―溶液中の化学反応|year=1974|edithion=改訂版|publisher=[[共立出版]]|ref=charlot1974}}
*{{Cite book|和書|author=冨士明良|title=工業材料入門|year=2009|publisher=東京電機大学出版局|isbn=4501418001|ref=冨士2009}}
*{{Cite web|和書|title=環境保健クライテリア No.200 銅|url=https://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum3/ehc200/ehc200.pdf|year=2002|publisher=[[世界保健機関]]、[[国連環境計画]]、[[国際労働機関]]、[[国立医薬品食品衛生研究所]](訳)|accessdate=2012-07-18|ref=ehc200jp}}(抄訳)
**{{Cite web|title=Environmental Health Criteria No.200 Copper|url=https://inchem.org/documents/ehc/ehc/ehc200.htm|year=1998|publisher=[[世界保健機関]]、[[国連環境計画]]、[[国際労働機関]]|accessdate=2012-07-18|ref=ehc200}}(原文)
*{{Cite web|和書|title=底質調査方法|work=5.3 銅|url=http://db-out3.nies.go.jp/emdb/pdfs/water/teisitutyousa/II5.01-12Metal.pdf|year=2001|publisher=[[国立環境研究所]]|accessdate=2012-07-18|ref=NIES|archiveurl=https://web.archive.org/web/20130521131814/http://db-out3.nies.go.jp/emdb/pdfs/water/teisitutyousa/II5.01-12Metal.pdf|archivedate=2013-05-21}}
*{{Cite web|和書|url=https://mric.jogmec.go.jp/public/report/2006-08/chapter2.pdf|title=銅ビジネスの歴史 第2章 我が国の銅の需給状況の歴史と変遷|date=2006-08-01|format=pdf|publisher=石油天然ガス・金属鉱物資源機構 金属企画調査部|page=52|accessdate=2012-07-23|ref=JOGMEC2006}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Sisterlinks|commons=Category:Copper}}
* [[銅山]]
* [[銅山]]
* [[赤銅]]
* [[黄銅]]
* [[黄銅]]
* [[青銅]]
* [[青銅]]
242行目: 614行目:


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [https://mric.jogmec.go.jp/ 金属資源情報] - 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
{{Commonscat|Copper}}
* {{PaulingInstitute|mic/minerals/copper Copper}}
* [http://www.jogmec.go.jp/mric_web/index.html 金属資源情報センター]
* {{hfnet|674|銅解説}}
* [http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail674.html 銅解説 -「健康食品」の安全性・有効性情報] ([[国立健康・栄養研究所]])
* {{hfnet|582|nolink=yes}}
* [http://hfnet.nih.go.jp/contents/indiv_agreement.html?582 銅 -「健康食品」の安全性・有効性情報] (国立健康・栄養研究所)
* {{Kotobank}}


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[[lbe:Дувсси]]
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[[lij:Rammo (elemento)]]
[[lt:Varis]]
[[lv:Varš]]
[[mi:Konukura]]
[[mk:Бакар]]
[[ml:ചെമ്പ്]]
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[[mr:तांबे]]
[[mrj:Вӹргеньӹ]]
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[[nah:Chīchīltic tepoztli]]
[[nap:Ramma]]
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[[os:Æрхуы]]
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[[pap:Koper]]
[[pl:Miedź]]
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[[ps:تامبه]]
[[pt:Cobre]]
[[qu:Anta]]
[[ro:Cupru]]
[[ru:Медь]]
[[rue:Мідь]]
[[sa:ताम्रम्]]
[[sah:Алтан (химия элэмиэнэ)]]
[[scn:Rami]]
[[sh:Bakar]]
[[simple:Copper]]
[[sk:Meď]]
[[sl:Baker]]
[[sq:Bakri]]
[[sr:Бакар]]
[[stq:Kooper]]
[[su:Tambaga]]
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[[uk:Мідь]]
[[ur:تانبا]]
[[uz:Mis]]
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[[xal:Зес]]
[[yi:קופער]]
[[yo:Copper]]
[[za:Doengz]]
[[zh:铜]]
[[zh-classical:銅]]
[[zh-min-nan:Tâng]]
[[zh-yue:銅]]
[[zu:Umthofu]]

2024年10月17日 (木) 00:43時点における最新版

ニッケル 亜鉛
-

Cu

Ag
Element 1: 水素 (H),
Element 2: ヘリウム (He),
Element 3: リチウム (Li),
Element 4: ベリリウム (Be),
Element 5: ホウ素 (B),
Element 6: 炭素 (C),
Element 7: 窒素 (N),
Element 8: 酸素 (O),
Element 9: フッ素 (F),
Element 10: ネオン (Ne),
Element 11: ナトリウム (Na),
Element 12: マグネシウム (Mg),
Element 13: アルミニウム (Al),
Element 14: ケイ素 (Si),
Element 15: リン (P),
Element 16: 硫黄 (S),
Element 17: 塩素 (Cl),
Element 18: アルゴン (Ar),
Element 19: カリウム (K),
Element 20: カルシウム (Ca),
Element 21: スカンジウム (Sc),
Element 22: チタン (Ti),
Element 23: バナジウム (V),
Element 24: クロム (Cr),
Element 25: マンガン (Mn),
Element 26: 鉄 (Fe),
Element 27: コバルト (Co),
Element 28: ニッケル (Ni),
Element 29: 銅 (Cu),
Element 30: 亜鉛 (Zn),
Element 31: ガリウム (Ga),
Element 32: ゲルマニウム (Ge),
Element 33: ヒ素 (As),
Element 34: セレン (Se),
Element 35: 臭素 (Br),
Element 36: クリプトン (Kr),
Element 37: ルビジウム (Rb),
Element 38: ストロンチウム (Sr),
Element 39: イットリウム (Y),
Element 40: ジルコニウム (Zr),
Element 41: ニオブ (Nb),
Element 42: モリブデン (Mo),
Element 43: テクネチウム (Tc),
Element 44: ルテニウム (Ru),
Element 45: ロジウム (Rh),
Element 46: パラジウム (Pd),
Element 47: 銀 (Ag),
Element 48: カドミウム (Cd),
Element 49: インジウム (In),
Element 50: スズ (Sn),
Element 51: アンチモン (Sb),
Element 52: テルル (Te),
Element 53: ヨウ素 (I),
Element 54: キセノン (Xe),
Element 55: セシウム (Cs),
Element 56: バリウム (Ba),
Element 57: ランタン (La),
Element 58: セリウム (Ce),
Element 59: プラセオジム (Pr),
Element 60: ネオジム (Nd),
Element 61: プロメチウム (Pm),
Element 62: サマリウム (Sm),
Element 63: ユウロピウム (Eu),
Element 64: ガドリニウム (Gd),
Element 65: テルビウム (Tb),
Element 66: ジスプロシウム (Dy),
Element 67: ホルミウム (Ho),
Element 68: エルビウム (Er),
Element 69: ツリウム (Tm),
Element 70: イッテルビウム (Yb),
Element 71: ルテチウム (Lu),
Element 72: ハフニウム (Hf),
Element 73: タンタル (Ta),
Element 74: タングステン (W),
Element 75: レニウム (Re),
Element 76: オスミウム (Os),
Element 77: イリジウム (Ir),
Element 78: 白金 (Pt),
Element 79: 金 (Au),
Element 80: 水銀 (Hg),
Element 81: タリウム (Tl),
Element 82: 鉛 (Pb),
Element 83: ビスマス (Bi),
Element 84: ポロニウム (Po),
Element 85: アスタチン (At),
Element 86: ラドン (Rn),
Element 87: フランシウム (Fr),
Element 88: ラジウム (Ra),
Element 89: アクチニウム (Ac),
Element 90: トリウム (Th),
Element 91: プロトアクチニウム (Pa),
Element 92: ウラン (U),
Element 93: ネプツニウム (Np),
Element 94: プルトニウム (Pu),
Element 95: アメリシウム (Am),
Element 96: キュリウム (Cm),
Element 97: バークリウム (Bk),
Element 98: カリホルニウム (Cf),
Element 99: アインスタイニウム (Es),
Element 100: フェルミウム (Fm),
Element 101: メンデレビウム (Md),
Element 102: ノーベリウム (No),
Element 103: ローレンシウム (Lr),
Element 104: ラザホージウム (Rf),
Element 105: ドブニウム (Db),
Element 106: シーボーギウム (Sg),
Element 107: ボーリウム (Bh),
Element 108: ハッシウム (Hs),
Element 109: マイトネリウム (Mt),
Element 110: ダームスタチウム (Ds),
Element 111: レントゲニウム (Rg),
Element 112: コペルニシウム (Cn),
Element 113: ニホニウム (Nh),
Element 114: フレロビウム (Fl),
Element 115: モスコビウム (Mc),
Element 116: リバモリウム (Lv),
Element 117: テネシン (Ts),
Element 118: オガネソン (Og),
Copper has a face-centered cubic crystal structure
29Cu
外見
光沢のある橙赤色

自然銅(約4 cm)
一般特性
名称, 記号, 番号 銅, Cu, 29
分類 遷移金属
, 周期, ブロック 11, 4, d
原子量 63.546(3) 
電子配置 [Ar] 3d10 4s1
電子殻 2, 8, 18, 1(画像
物理特性
固体
密度室温付近) 8.94 g/cm3
融点での液体密度 8.02 g/cm3
融点 1357.77 K, 1084.62 °C, 1984.32 °F
沸点 2835 K, 2562 °C, 4643 °F
融解熱 13.26 kJ/mol
蒸発熱 300.4 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 24.440 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 1509 1661 1850 2089 2404 2834
原子特性
酸化数 4, 3, 2, 1
(弱塩基性酸化物)
電気陰性度 1.90(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 745.5 kJ/mol
第2: 1957.9 kJ/mol
第3: 3555 kJ/mol
原子半径 128 pm
共有結合半径 132±4 pm
ファンデルワールス半径 140 pm
その他
結晶構造 面心立方
磁性 反磁性
電気抵抗率 (20 °C) 16.78 nΩ⋅m
熱伝導率 (300 K) 401 W/(m⋅K)
熱膨張率 (25 °C) 16.5 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(r.t.) (annealed) 3810 m/s
ヤング率 110–128 GPa
剛性率 48 GPa
体積弾性率 140 GPa
ポアソン比 0.34
モース硬度 3.0
ビッカース硬度 369 MPa
ブリネル硬度 874 MPa
CAS登録番号 7440-50-8
主な同位体
詳細は銅の同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
63Cu 69.15 % 中性子34個で安定
65Cu 30.85 % 中性子36個で安定

(どう、英語: copperラテン語: cuprum)は、原子番号29の元素元素記号Cu周期表ではと同じく11族に属する遷移金属である。金属資源として人類に古くから利用され、生産量・消費量がともに多いことからコモンメタルベースメタルの一つに位置づけられる[注釈 1][1]。歴史的にも硬貨や表彰メダルなどで金銀に次ぐ存在とされてきた。

名称

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語源

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ラテン語では cuprum と言い、元素記号Cuはラテン語の読み、さらに cyprium aesキプロス島真鍮)に由来し、キプロスフェニキアの銅採掘場があったことに由来する[2]

英語の copper はラテン語の cuprum に由来し、「カッパー」ないし「コッパー」と呼ばれる。しばしば銅を意味すると誤解される bronze(ブロンズ)は、正確には青銅を指す。銅メダルの素材は確かに青銅であり、Bronze Medal(ブロンズメダル)というのは正しい[注釈 2]

日本での名称

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日本で初めて銅が使われたのは、紀元前300年の弥生時代といわれている。国内で銅鉱石を初めて産出したのは698年文武2年)で、因幡国鳥取県)から銅鉱を朝廷に献じたと伝えられてる。また708年慶雲5年)に、武蔵国埼玉県)秩父から献上された銅を用いて貨幣和同開珎)がつくられ、元号和銅と改められたとなっている。

7世紀後半の飛鳥池遺跡から発見された「富本銭」は、その鋳造が700年以前に遡ることが確認された他、遺跡からの溶銅の大量出土は、7世紀後半の産銅量が既に一定の水準に達していたことを物語っている。その色あいからあかがねと呼ばれた。

江戸時代の元禄時代には、精錬技術が発展して純度の高い銅ができ、長崎から中国、ベトナム、インド、インドネシアやヨーロッパまで運ばれた。この銅は棹銅さおどうと呼ばれた。

明治19年までは一般的には「あかがね」と呼んでいたが、明治の初めの金工家である加納夏雄は、素材としての銅を「あか」と呼んでいた。また、明治30年に発刊された「鏨迺花」には銅を素銅(すあか)と記述していて、その後の刀剣社会のみ、銅を素銅すあかと呼ぶようになった。現代ではどうと呼んでいる。

性質

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物理的性質

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連続鋳造およびウェットエッチングによって作られた純度99.95 %の銅ディスク
融点以上の温度に保持された溶融銅。白熱したオレンジ色と共にピンク色の光沢が見られる。

単結晶の銅は軟らかく、電気伝導度および展延性が高い金属であり、これは同じ第11族元素であると共通した性質である。これは閉殻構造を取るd軌道の外側にs軌道電子が1つだけ存在しているという、第11族元素の電子配置に起因している。このような電子配置であるためにd軌道の電子の多くは原子間の相互作用に寄与せず、原子同士を結び付ける金属結合はs軌道の電子によって支配される。そのためこれらの元素は、d軌道が閉殻でなくd軌道の電子が結合に寄与する他の金属元素と比較して共有結合性が弱く金属結合性が強い結合が形成されることとなり、高い電気伝導度や延展性といった金属結合に起因する性質が強く現れる[3]。巨視的なスケールにおいては、結晶格子に結晶粒界のような拡張欠陥が発生して硬度が増すため、負荷応力下での流動性の妨げとなる。そのため、通常銅は単結晶形よりも強度の高い多結晶微粒子の形で供給される[4]

銅は室温において、純粋な金属の中で2番目に高い電気伝導性 (59.6×106 S/m)および熱伝導率 (386 W⋅m−1⋅K−1[5])を有する[6]。室温における金属中での電気伝導の抵抗の大部分は結晶格子の熱振動によって電子が拡散されることに起因しており、銅のような軟らかい金属ではこの熱振動が比較的弱いということが、その原因の1つとなっている[3]。空気中における銅の最大許容電流密度はおよそ3.1×106 A/m2であり、それ以上になると過熱する[7]。銅は他の金属と同様に、他の金属と接触することで電気腐食英語版を起こす[8]

青みがかった色のオスミウム、黄色いセシウム、黄色のと共に、銅は自然の色が灰色もしくは銀色以外の色である3つの金属元素のうちの1つである[9]。銅は赤橙色をした金属であるが、空気中に曝されると赤みがかった色に退色する。この特徴的な銅の色は、満たされている3d軌道と半分空になっている4s軌道の間での電子遷移に起因し、これらの電子軌道のエネルギー差が赤橙色の光と一致するためにこのような色を示す。これは金が特徴的な金色を示すメカニズムと同一のものである[3]

化学的性質

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銅は+1(第一銅)および+2(第二銅)の酸化数を取り、豊富な種類の化合物を形成する[10]。銅は水とは反応しないものの、空気中の酸素とは徐々に反応して黒褐色をした酸化銅の被膜を形成する。生じたによって全体が酸化されてしまうとは対照的に、銅の表面に形成される酸化被膜はさらなる酸化の進行を防止する。湿った条件下では二酸化炭素の作用により緑青水酸化炭酸銅)を生じ、この緑色の層は、自由の女神像高徳院阿弥陀如来像(鎌倉大仏)などのような古い銅の建造物などにおいてしばしば見られる[11][12]硫化水素および硫化物は銅と反応して、その表面に様々な形の硫化銅を形成する。硫黄化合物を含んだ空気に曝された際に見られるように、硫化物との反応においては銅は腐食される[13]。赤熱下では酸化銅(II)を生成し、さらなる加熱により酸化銅(I)となる[12]。酸素と塩酸によって塩化銅が、酸性条件下で過酸化水素によって2価の銅塩が形成されるように、酸素を含んだアンモニア水は銅の水溶性錯体を与える。塩化銅(II)は銅と均化英語版して塩化銅(I)となる[14]

銅はイオン化傾向が小さいため塩酸希硫酸といった酸とは反応しないが、硝酸熱濃硫酸のような酸化力の強い酸や、塩酸過酸化水素の混合物とは反応する。

  • 希硝酸との反応
  • 濃硝酸との反応
  • 熱濃硫酸との反応

溶融銅は酸素および水素ガスを吸収し、これらの気体を吸蔵した銅は脆性が高い。そこでリチウムリンケイ素が脱酸剤として用いられ、このような処理をした銅を脱酸銅と呼ぶ[15]

同位体

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銅には29の同位体があり、63Cuおよび65Cuは安定同位体である。天然銅のおよそ69 %が63Cu、31 %が65Cuであり、共に3/2のスピン角運動量を持つ[16]。銅の他の同位体は放射性同位体であり、最も安定なものは半減期61.83時間の67Cuである[16]。7つの準安定同位体が明らかとなっており、最も長命なもので半減期3.8分の68mCuがある。質量数が64以上の同位体ではβ崩壊によって崩壊し、64以下のものはβ+崩壊によって崩壊する。半減期12.7時間の64Cuは、β崩壊とβ+崩壊の両方法で崩壊する[17]

62Cuおよび64Cuには重要な用途がある。64CuはX線写真の造影剤として利用され、64Cuのキレート錯体は放射線療法に対して用いられる。62CuはCu(II)-pyruvaldehyde-bis(N4-methyl-thiosemicarbazone) (62Cu-PTSM) の形でポジトロン断層法における放射性トレーサーとして利用される[18]

化合物

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酸化銅(I)の試料

二元化合物

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銅と他の元素との化合物のうち、最も単純なものは二元化合物である。主要なものは酸化物硫化物およびハロゲン化物である。1価および2価の銅の両方の酸化物が知られている。多数の銅の硫化物の間で重要なものの例として硫化銅(I)および硫化銅(II)が含まれる。

1価の銅のハロゲン化物は塩素臭素およびヨウ素とのものが知られており、2価の銅のハロゲン化物はフッ素、塩素および臭素とのものが知られている。2価の銅とヨウ素を反応させてもヨウ化銅(II)は合成されず、ヨウ化銅(I)とヨウ素が得られる[10]

錯体化学

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2価の銅はアンモニアを配位子とすることで濃青色の錯化合物を与える。この写真は硫酸テトラアンミン銅(II)英語版である。

銅は他の金属と同様に配位子との間で錯体を形成する。水溶液中において2価の銅は[Cu(H2O)6]2+の形で存在している。遷移金属金属アコ錯体英語版に対する配位水の交換速度は最も早い。水酸化ナトリウム溶液を加えることで明青色の水酸化銅(II)が沈降する。

アンモニア水を加えた場合も同様に沈殿を生じるが、アンモニア水の添加量が過剰になるとテトラアンミン銅(II)イオンを形成して沈殿が再溶解する。

多くのオキソアニオンは銅イオンとの間に錯体を形成し、それには酢酸銅(II)硝酸銅(II)などが含まれる。硫酸銅(II)は青色の結晶の5水和物を形成し、それは研究室において最も一般的な銅化合物である。それはボルドー液と呼ばれる殺菌剤として用いられる[19]

錯体の球棒モデル。銅(II)に典型的な八面体形分子構造を示す。

複数のヒドロキシ基を含むポリオールは一般的に2価の銅塩と相互作用を示す。例えば、銅塩は還元糖の検出に用いられる。特に、ベネジクト液およびフェーリング液を用いた糖の検出は、青色の2価の銅が赤色の1価の酸化銅(I)に還元される際の色変化によって識別される[20]シュバイツァー試薬およびエチレンジアミンや他のアミン類との錯体はセルロースを分解する[21]アミノ酸は2価の銅との間で非常に安定なキレート錯体を形成する。銅イオンに関する多くの湿式反応が存在し、例えば銅イオンを含む溶液にフェロシアン化カリウムを加えることで茶色の銅(II)塩の沈殿が生じる反応がある。

有機銅化合物

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炭素-銅結合を含む化合物は有機銅化合物として知られている。それは酸素に対する反応性が非常に高く酸化銅(I)を形成し、化学において有機銅試薬として多くの用途が存在する(有機銅試薬の反応英語版)。それは1価の銅化合物をグリニャール試薬もしくは末端アルキンアルキルリチウムで処理することで合成され[22]、特にアルキルリチウムとの反応ではギルマン試薬が合成される。これらはハロゲン化アルキルによって置換反応を起こしてカップリング生成物を形成し、それらは有機合成化学の分野で重要である。炭化銅(I)は衝撃に非常に敏感であるが、カディオ・ホトキェヴィチカップリング[23]薗頭カップリング[24] のような反応の中間体である。エノンへの求核共役付加反応[25] およびアルキンのカルボメタル化英語版もまた有機銅化合物を用いることで実現された。1価の銅はアルケンおよび一酸化炭素との間で様々な弱い錯体を形成し、それは特にアミン配位子の存在下において顕著である[26]

3価および4価の銅化合物

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3価の銅化合物は有機銅化合物の反応において中間体としてしばしば見られる。ジ銅のオキソ錯体もまた3価の銅であることを特徴とする[27]。非常に基本的なフッ化物の配位子は高酸化状態の金属イオンを安定化させ、3価および4価の銅化合物にはK3CuF6やCs2CuF6[10] のようなフッ化物との錯塩がある。紫色をした3価の銅の化合物である、ジおよびトリペプチドは脱プロトン化されたアミド配位子によって高酸化状態が安定化されている[28]

主な銅の化合物

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分析

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定性分析

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溶液中の銅の定性分析としては、水酸化ナトリウムを加えた際に生じる水酸化銅(II)の沈殿や、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムを加えた際に生じるフェロシアン化銅の赤褐色沈殿、硫化ナトリウムを加えた際に生じる硫化銅(II)の黒色沈殿などを観察する方法がある[29]。微量な銅イオンの定性方法としてはアンモニアを加えた際に生じるアンミン錯体の青色を検出する方法が用いられ、この方法による検出限界は60 ppmである。妨害元素としては銅と同じ青色のアンミン錯体を形成するNi2+があり、Co2+などのアンミン錯体も呈色によって銅錯体の青色を検出を困難にする。またアンモニア塩基性で沈殿を生じる元素が共存していると銅が共沈してしまうため、こちらも妨害要因となる。さらに感度の高い方法としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムとの反応によって生じる黄褐色化合物を検出する方法があり、この方法による検出限界は10 ppmである。妨害元素の多くはEDTAの添加によってマスキングすることができるが、Bi3+が200 ppm以上共存していると銅と同様の反応を起こして妨害となる[30]。Cu+はほとんどの化合物が難溶性であり溶液中に存在することが希である[31]

銅は青緑色の炎色反応を示すため、炎色反応の観察によっても定性分析をすることが可能である。その青緑色の輝線の波長は530–550 nmの幅を持つブロードなスペクトルである[29]

定量分析

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銅の定量分析法のうち、古典的なものとして重量分析法と比色分析法がある[32]。重量分析法では、試料を溶解させた溶液を処理して酸化銅(II)や硫化銅(II)、チオシアン酸銅(II)などの溶解度の極めて低い銅化合物を生成させて分離し、その重量を測定することで試料中の銅濃度を定量するという方法が利用される[33]。例えば酸化銅(II)を生成させる方法では、試料を酸性溶液に溶解させた後に水酸化ナトリウムなどを加えて塩基性とした状態で加熱することで水酸化銅(II)の沈殿を生成させ、これに臭素水などを加えてさらに過熱することで水酸化銅(II)を酸化させて酸化銅(II)とする。こうして得られた酸化銅(II)をるつぼに入れて強熱した後、その重量を測定することで試料中の銅濃度を定量することができる[34]。酸化銅(II)を用いる方法は比較的分析精度が高いものの高濃度試料の分析には適さず、チオシアン酸銅(II)を用いる方法は様々な夾雑元素を分離できるため銅鉱石のような試料の分析に適している[35]。また比較的新しい方法としては、試料を溶解させた溶液を電気分解して金属銅を析出させ、その重量を測定する電解重量法も銅の重量分析法として用いられる[36]。電解重量法は国際標準化機構によるISO 1553:1976, ISO 1554:1976および、日本産業規格による対応規格であるJIS H 1051:2005において銅および銅合金中の銅定量方法として規格されている。この方法では、電解させた後の溶液中に銅が残存してしまうため電解残液中の銅を別の方法で測定する必要があり、その方法としてはオキザリルジヒドラジド吸光光度法や原子吸光光度法誘導結合プラズマ発光分析法が規定されている[37]。比色分析法では、定性分析として用いられる銅のアンミン錯体が呈する青色の発色の程度が銅濃度に比例することを利用して、目視[38] もしくは分光光度計を利用した分光光度法によって銅濃度を定量することができる[39]。銅を発色させる試薬は様々な種類のものが研究されており、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(バソクプロイン)を用いる方法では溶液中の銅濃度2 μg/Lという検出限界が達成されている[32]

容量分析法もまた、銅の定量分析法として用いられる。このような方法としては、銅のアンミン錯体が青色でありシアノ錯体は無色であることを利用した錯滴定法や、酢酸酸性条件において銅がヨウ化カリウムと反応することで遊離するヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定する酸化還元滴定法などがある[40]。また、重量分析法で利用されるチオシアン酸銅(II)は水酸化ナトリウム溶液中で加熱すると水酸化銅(II)とチオシアン酸ナトリウムが生成されるため、このチオシアン酸ナトリウムを濃度既知の過マンガン酸カリウム溶液で酸化還元滴定をすることによっても銅を定量することができる[41]

溶液中に含まれる微量な銅の定量分析には、原子吸光光度法 (AAS) や誘導結合プラズマ発光分析法 (ICP-AES)などの機器分析が利用される[42]。試料中の銅濃度が低く検出できない場合や共存する元素によって分析結果に誤差が生じるような場合には、前処理としてジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを用いて銅錯体を形成させ、酢酸ブチルを有機層として溶媒抽出することで銅を分離、濃縮する操作が行われる[43]。AASでは通常アセチレン-空気炎を用いて324.8 nmの吸収波長で測定され[44]、試料の原子化に黒炭炉を用いた黒炭炉原子吸光分析を利用することで分析感度を向上させることができる[45]。ICP-AESでは324.754 nmの発光波長で測定され、夾雑元素によるスペクトル干渉を受けやすい[46]。また、蛍光X線元素分析法 (XRF)やイオン電極、ストリッピングボルタンメトリーなどによる定量分析も利用される[45]

歴史

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銅器時代

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クレタ島ザクロス英語版遺跡から発見された腐食した銅のインゴット。当時、典型的だった動物の毛皮状の成型がされている。

銅は自然銅として自然中に存在しており、最初期の文明のいくつかにおいても知られ先史時代から使われてきた金属である。銅の使用には少なくとも1万年の歴史があり、紀元前9000年の中東で利用され始めたと推測されている[47]イラク北部で紀元前8700年と年代決定された銅のペンダントが出土しており、これは確認される最古の銅だと言われている[48][49]。金および隕鉄(ただし鉄の溶融はできていない)だけが、人類が銅より前に使用していたという証拠がある[50]。銅の冶金学の歴史は、1. 自然銅冷間加工、2. 焼きなまし、3. 製錬および4. インベストメント鋳造の順序に続いて発展したと考えられる。東南アナトリアにおいては、これら4つの冶金技術はおよそ紀元前7500年頃の新石器時代の初めに若干重複して現れる[51]。農業が世界中のいくつかの地域(パキスタン中国およびアメリカ大陸を含む)でそれぞれ独立して発明されたのと同様に、銅の溶錬もいくつかの異なる地域で発明された。それはおそらく、紀元前2800年頃の中国、西暦600年頃の中央アメリカ、および西暦9から10世紀頃の西アフリカでそれぞれ独立して発明された[52]インベストメント鋳造は紀元前4500から4000年頃に東南アジアで発明され[47]、また、放射性炭素年代測定によって英国チェシャーアルダリー・エッジ英語版にある銅鉱山が紀元前2280年から紀元前1890年のものであると確かめられた[53]。紀元前3300年から紀元前3200年頃のものと見られるミイラアイスマンは、純度99.7 %の純銅製のの頭とともに発見された。彼の髪に高純度のヒ素が見られたことから、彼が銅精錬に関わっていたのではないかと考えられている[54]ミシガンおよびウィスコンシンオールドカッパー文化英語版(古代北米におけるネイティブ・アメリカンの社会。銅製の武器や道具を広く利用していた)における銅の生産は紀元前6000年から紀元前3000年の間の年代を示している[55][56]。これらのような銅と関わった経験が他の金属の利用の発展の助けとなり、特に、銅の溶錬から鉄の溶錬(塊鉄炉英語版)の発見に至った[54]

青銅器時代

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春秋時代の青銅器

銅とスズとの合金である青銅の製造は銅の溶錬法の発見からおよそ4000年後に初めて行われ、その2000年後には自然銅の一般的な用途となった。シュメールの都市から発見された青銅製品や、古代エジプトの都市から発見された銅および青銅製品は紀元前3000年頃のものと見られている[57]青銅器時代は東南ヨーロッパで紀元前3700年から紀元前3300年頃に始まり、北ヨーロッパでは紀元前2500年頃から始まった。青銅器はまた古代のエジプトや中国王朝)などでも使われるようになり、世界各地で青銅器文明が花開いた。それは鉄器時代の始まり(中東では紀元前2000年から紀元前1000年頃、北ヨーロッパでは紀元前600年頃)によって終了した。新石器時代から青銅器時代への移行期は、石器とともに銅器が使われ始めた時代であることから、以前は銅石器時代と呼ばれていた(「銅器時代」も参照)。この用語は、世界の一部の地域では新石器時代と銅石器時代の境界が重なっているために徐々に使われなくなっていった。銅と亜鉛合金である真鍮の起源はずっと新しい。それはギリシャ人には知られており、ローマ帝国期の青銅の不足を補う重要な合金となった[57]

古代および中世

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錬金術において銅のシンボル(恐らくは枠にはめた鏡)はまた女神および金星のシンボルでもある。
ティムナ・バレー(イスラエル、ネゲヴ)にある銅石器時代の銅鉱山

ギリシャでは、銅はカルコス(χαλκός、chalkos)として知られていた。それはギリシャ人、ローマ人および他の民族にとって重要な資源であった。ローマ時代にはキュプリウム・アエス(aes Cyprium、キプロス島の銅)として知られており、アエス (aes)は多くの銅が採掘されたキプロス島からの銅合金および銅鉱石を示す一般的なラテン語の用語である。キュプリウム・アエスというフレーズはクプルム (cuprum)と一般化され、そこから英語で銅を示すカッパー (copper)となった。銅の光沢の美しさや、古代には鏡の生産に銅が用いられていたこと、および女神を崇拝していたキプロスとの関係から、女神であるアプロディーテーおよびウェヌス神話錬金術において銅の象徴とされた。古代に知られていた7つの惑星は、古代に知られていた7つの金属と関連付けられ、金星は銅に帰されていた[58]

イギリスでの真鍮の初めての使用は紀元前3世紀から2世紀頃に起こった。北アメリカ大陸での銅鉱山はネイティブ・アメリカンによって周辺部の採掘から始まった。自然銅は800年から1600年までの間に、原始的な石器によってアイル・ロイヤルから採掘されていたことが知られている[59]。銅の冶金学は南アメリカ大陸、特に1000年頃のペルーにおいてで盛んであった。アメリカ大陸における銅の利用の発展は他の大陸よりも非常に遅く進行した。15世紀から銅の埋葬品が見られるようになったが、金属の商業生産は20世紀前半まで始まらなかった。

銅の文化的な役割は、特に流通において重要だった(銅貨)。紀元前6世紀から紀元前3世紀までを通して、古代ローマでは銅の塊をお金として利用していた。初めは銅自体が価値を持っていたが、徐々に銅の形状と見た目が重要視されるようになっていった。ガイウス・ユリウス・カエサルは真鍮製のコインを作り、一方でアウグストゥスのコインは銅-鉛-スズ合金から作られた。当時の銅の年間生産量は15000トンと推定されており、ローマの銅採掘および溶錬活動(ローマにおける冶金英語版)は産業革命の時まで凌駕されない規模に達していた。最も熱心に採掘された属州ヒスパニア、キプロスおよび中央ヨーロッパであった[60][61]。現代の日本の硬貨においても、5円硬貨黄銅10円硬貨が青銅、50円硬貨100円硬貨、旧500円硬貨白銅、新500円玉がニッケル黄銅という銅の合金が用いられている。

日本では弥生時代より銅鐸銅剣銅鏡などの青銅器が鋳造されていたが、その原材料は大陸からの輸入品であった。国産の銅は698年に産出したものが始まりとされる(スズは700年)。

エルサレム神殿の門は色揚げ英語版によって作られたコリント青銅英語版が使われた。それは錬金術が始まったと考えられるアレクサンドリアで一般的なものであった[62]。古代インドにおいて銅は、医療体系であるアーユルヴェーダにおいて外科用器具および他の医療用器具のために用いられた。紀元前2400年の古代エジプト人は傷や飲料水の殺菌のために銅を利用し、後には頭痛、火傷、かゆみにも用いられるようになった。はんだ付けされた銅製のシリンダーを持つバグダッド電池ガルバニ電池に類似している。年代は紀元前248年から西暦226年に遡り、これが初めての電池であるように人々に考えられているが、この主張は実証されていない[63]

近現代

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廃坑となったパレース・マウンテン英語版の銅鉱山から流出し、影響を及ぼしている酸性鉱山排水英語版

スウェーデンファールンにある大銅山英語版は10世紀から1992年まで操業された銅鉱山である。大銅山は17世紀のヨーロッパの銅需要の2/3を満たし、その期間にスウェーデンが行っていた戦争において戦費の大きな助けとなった[64]。それは国の金庫と呼ばれ、スウェーデンは銅に裏打ちされた通貨を有していた(スウェーデンにおける銅貨の歴史英語版[65]

また同時代の主要な銅産出国としては他に、17世紀に発見された足尾銅山別子銅山などによって銅生産が活発になっていた江戸時代の日本が挙げられる[66][67]。1680年代中頃には50の銅山から年間およそ5400トンの銅が産出され[68]、ピーク時の1697年における年間およそ6000トンという産出量は、世界一であったと推測されている[66]

生産された銅のおよそ1/2から2/3は、長崎貿易世界へと輸出されており、当時の日本にとって重要な輸出品目であったが、その後、日本の銅生産量は減少の一途をたどり、18世紀中旬には産業革命を迎えたイギリス帝国に抜かれて2位となった[67][69]

明治時代には、新規産業技術の導入や機械化によって、日本の銅生産は持ち直したが[70]、チリやアメリカ、アフリカの大規模鉱山の開発が始まると、そちらが世界の主流となっていった[71]。日本の銅山はその後、公害や採算性の悪化により、1970年代頃から閉山が相次ぎ、1994年に日本最後の銅鉱山が閉山した[72]

近現代における銅生産量の増加は、銅精錬の際の副産物である亜硫酸ガスの大量放出にもつながり、例えば16–17世紀にはスウェーデンの大銅山において、亜硫酸ガスの排出による影響で、周辺森林の樹木が枯死し、全滅するという大規模公害が、長期間にわたって続いていたことが記録されている[73]

このような亜硫酸ガスによる公害は、世界中の銅山で発生していたものと推測されている[73]。このような状況は産業革命以降加速し、イギリスのコーニッシュ銅山では「もし悪魔がここを通りかかったら我が家に帰ったと、錯覚するだろう[74]」と言われるほどの深刻な公害が引き起こされ[75]、主要な銅産出国であった日本においても、明治以降の近代化に伴い、足尾鉱毒事件が起こっている[76]

銅は芸術においても利用されていた。ルネサンス期の彫刻や、ダゲレオタイプとして知られる写真技術、自由の女神像 (ニューヨーク)などで用いられた。船体への銅めっき英語版および銅包板英語版の利用は広範囲におよび、クリストファー・コロンブスの船はこれを備えた最初期のものの1つであった[77]

1876年、ノルドドイチェ・アフィネリー英語版社はハンブルクで最初の現代的な電気めっき工場による生産を始めた[78]。1830年、ドイツの科学者であるゴットフリート・オサン英語版が金属の原子量を測定していた際に粉末冶金が発明された。その前後に、スズのような銅合金の構成元素の量と種類によってベル・トーンに影響を及ぼすことが発見された。

自溶炉フィンランドオウトクンプ英語版社によって開発され、1949年にハルハヴァルタ英語版で初めて用いられた。自溶炉はエネルギー効率が良く、世界の主要な銅生産の50 %を占めている[79]

1967年、石油における石油輸出国機構 (OPEC)と類似した役目を担うことを目的として、チリペルーザイールザンビアによって銅輸出国政府間協議会が設立された。しかしながら、当時世界2位の銅生産国であるアメリカ合衆国がメンバーに加わらなかったため、OPECのような影響力を持つことができずに、1988年に解散した[65]

2024年現在、電気自動車をはじめ地球温暖化対策としての社会の脱炭素化のために重要度や需要が大きく増しており、世界を見渡すと休眠銅山を再び開発するなどのケースもあり、近い将来世界的な銅の不足が深刻になったり、枯渇してしまう危険性が指摘されている[80]

生産

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世界最大規模の露天掘り銅鉱山の1つであるチリチュキカマタ鉱山。

2009年において、世界における銅の全生産量のうち50–60 %が斑岩銅鉱床より産出されている。斑岩銅鉱床からは銅の他にモリブデンロジウムなどが併産される。斑岩銅鉱床はプレートの沈み込みに関連して形成されるため、南米のアンデス山脈や東南アジアのフィリピンインドネシア周辺などプレートの周辺部に偏在している。

斑岩銅鉱床から産出される鉱石の銅含有量は、およそ0.2–1.0 %ほどである。斑岩銅鉱床から採掘される銅鉱山の例として、チリチュキカマタ鉱山やアメリカ合衆国ユタ州ビンガムキャニオン鉱山英語版などが挙げられる。斑岩銅鉱床に次いで産出量が多いのは堆積鉱染型鉱床で、銅の全生産量の20 %を占める。

堆積鉱染型の銅鉱床からはが併産され、中央アフリカのものではコバルトも併産される。堆積鉱染型鉱床は岩石の風化および堆積によって形成される堆積岩によるものであるため大陸部に偏在する。このタイプの鉱床としては、中央アフリカのザンビアからコンゴ民主共和国にかけて伸びるカッパーベルトが最大のものであり、他にポーランドのルビン鉱山などがある[81]

その他にも、熱水鉱床の一種である銅スカルン鉱床や火山性塊状硫化物鉱床、海底噴気堆積鉱床など様々な種類の銅鉱床が知られている[82]。これらの銅鉱山では、主に露天掘りによる採掘が行われている。

他の方法として、採掘抗を掘り進める坑内採鉱や、希硫酸を鉱床に注入して銅を溶解抽出する原位置抽出法英語版も行われている。坑内採鉱では費用や安全性の問題が、原位置抽出法では採用可能な地質条件が限られているため、主流にはなっていない[83]

世界の10大銅山のうちの5つはチリにあり、(エスコンディーダ英語版コデルコ・ノルテチュキカマタ鉱山を含む)、コジャワシエル・テニエンテ)、ロス・ペランブレススペイン語版)、2つがインドネシア(グラスベルグ鉱山バツビジャウ鉱山英語版)、1つがアメリカ(モレンシ鉱山、アリゾナ州モレンシ)、ロシア(タイミル半島)およびペルー(アンタミナスペイン語版)に存在する[84]

かつて日本は、日本三大銅山の足尾銅山別子銅山日立銅山と、多くの鉱山をかかえた輸出国であったが、現在は全て廃鉱となり、銅を100 %輸入に頼っている。

製錬

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銅鉱石中の銅濃度は平均して0.6 %ほどでしかなく、商業利用される鉱石の大部分は硫化物(特に黄銅鉱 CuFeS2、少ない範囲では輝銅鉱 Cu2S)である[85]。これらの鉱石は粉砕され、泡沫浮選もしくはバイオリーチング英語版によって10–15 %程度にまで銅濃度が高められる[86]。こうして銅が濃縮された鉱石に燃料としてのコークスのほか融剤として石灰石ケイ砂を加えて乾式精錬(溶錬炉で溶融)することで、黄銅鉱中の鉄の大部分はスラグとして除去される。この方法は鉄の硫化物が銅の硫化物よりも酸化されやすい性質を利用しており、銅よりも先に鉄がケイ砂と反応してケイ酸スラグを形成し、低比重のケイ酸スラグが溶融原料上に浮上してくることで鉄が分離される。また、ケイ砂と石灰石からケイ酸カルシウムが生成し、これが融剤として銅の融点を下げる。

その結果得られた硫化銅から成る銅鈹(マット英語版)を空気酸化しながら焙焼することで、銅鈹中の硫化物は酸化物へと変換され[85]硫黄は酸化除去される。

得られた酸化第一銅は2000 °Cを越える高温で加熱されることで還元され、粗銅(銅含有率は約98 %)となる。

サドバリー鉱山で用いられているマット法では、硫化物の半分だけを酸化物とした後、酸化銅を酸素源として硫化銅と反応させることで硫黄を除去する方法が用いられている。このようにして得られた粗銅は電解精錬によって精製され、副生する陽極泥からは金や白金が回収される。この工程は銅の還元されやすさが利用され、このように電解精錬によって得られた銅は電気銅とも呼ばれる。

そこからさらに不純物を除いて純銅を生産するための方法としては、電気銅をシャフト炉で溶解製錬を行う(タフピッチ銅)、リンなどの脱酸剤を加えて残留酸素を除去する(脱酸銅)、高真空中で溶解させることで酸素を除去する(無酸素銅)などの方法が挙げられる[87]

生産量

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2005年の銅生産量
世界の生産動向

2005年の銅の生産量は世界全体で1501万トンであった[88]。その内訳はチリが35 %と大半を占め[88]、以下アメリカ合衆国7.5 %、インドネシア7.1 %、ペルー6.7 %、オーストラリア6.1 %、中華人民共和国5.0 %、ロシア4.6 %と続く。2011年の生産量は1610万トンとなり、チリが542万トンと世界生産量の1/3以上を占めており、それにペルー、中華人民共和国が続いている[89]。2005年の製錬銅の生産量は世界全体で1658万トンであり、そのうち38 %は中華人民共和国および日本を中心とするアジア諸国が占めていた[90]

2021年 銅生産量
順位 生産量(2021年)[注釈 3]
(万トン/年)
1 チリの旗 チリ 560
2 ペルーの旗 ペルー 220
3 中華人民共和国の旗 中華人民共和国 180
4 コンゴ民主共和国の旗 コンゴ民主共和国 180
5 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 120
6 オーストラリアの旗 オーストラリア 90
7 ザンビアの旗 ザンビア 83
8 ロシアの旗 ロシア 82
9 インドネシアの旗 インドネシア 81
10 メキシコの旗 メキシコ 72
11 カナダの旗 カナダ 59
12 カザフスタンの旗 カザフスタン 52
13 ポーランドの旗 ポーランド 39

出典: U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, January 2022[91]

埋蔵量

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銅は少なくとも一万年前から人類によって利用されてきたが、これまでに採掘、製錬された全ての銅の95 %以上は1900年以降に抽出されたものである。アメリカ地質調査所の2005年版Mineral Commodity Summariesを元にした経済産業省東北経済産業局の報告書によれば、地球上の銅の確認埋蔵量はおよそ9億4000万トン、可産鉱量はおよそ4億7000万トンである[92]。また、2011年版Mineral Commodity Summariesでは可産鉱量は6億9000万トンに増加しており、国別ではチリの1億9000万トンが最も多く全体の28 %を占めており、2位のペルーが9000万トン(13 %)とそれに続いている[89]。鉱業的に利用可能な銅の可産年数の様々な推定データは、銅生産量の成長率などの主な要素の仮定によって25年から60年の間で変動し[93]、2005年のデータを元に単純に可産鉱量を年間生産量で割り可産年数を算出すると32年となる[92]。そのため、銅は2040年頃に枯渇すると言われることがある[94]

2021年 銅可産埋蔵量
順位 世界の銅埋蔵量(2021年)[注釈 4]
(万トン)
割合
1 チリの旗 チリ 20000 23 %
2 オーストラリアの旗 オーストラリア 9300 11 %
3 ペルーの旗 ペルー 7700 9 %
4 ロシアの旗 ロシア 6200 7 %
5 メキシコの旗 メキシコ 5300 6 %
6 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 4800 5 %
7 ポーランドの旗 ポーランド 3100 4 %
8 コンゴ民主共和国の旗 コンゴ民主共和国 3100 4 %
9 中華人民共和国の旗 中華人民共和国 2600 3 %
10 インドネシアの旗 インドネシア 2400 3 %
11 ザンビアの旗 ザンビア 2100 2 %
12 カザフスタンの旗 カザフスタン 2000 2 %
13 カナダの旗 カナダ 980 1 %

出典: U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, January 2022[91]

貿易と消費

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銅はアルミニウムに次いで世界で3番目に多く消費される金属であり[95]、銅の世界貿易で年間およそ300億ドルが動く重要な貿易品目でもある[96]

世界の銅需要は、国際銅協会 (ICA) によれば2020年に2500万トンである[97]。またICAは2018年時点では、2050年に1億トン以上に増えると予測していた[98]。しかし2022年時点の予測では、2050年の世界需要を5000万トンとしている[99][97]

2006年 銅消費量
順位 製錬銅の消費量
(万トン/年)
1 欧州連合の旗 欧州連合 432
2 中華人民共和国の旗 中華人民共和国 367
3 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 213
4 日本の旗 日本 128
5 大韓民国の旗 大韓民国 81
6 ロシアの旗 ロシア 68
7 中華民国の旗 中華民国 64
8 インドの旗 インド 44
9 ブラジルの旗 ブラジル 34
10 メキシコの旗 メキシコ 30

出典: World Copper Factbook 2007[84]

銅の主要な産出国では、銅鉱石および製錬銅の両方を輸出している。主な輸入国は先進工業国であり、日本、中華人民共和国、インド、大韓民国およびドイツでは鉱石として、アメリカ合衆国、ドイツ、中華人民共和国、イタリア中華民国は製錬銅として輸入している[84]

2003–2011の銅価格(USD/トン)

銅取引はロンドン金属取引所英語版(LME)、ニューヨーク・マーカンタイル取引所上海金属取引所の3つの主要な国際市場がある。これらの市場で日々、銅相場や先物価格が決定される[96]。銅の価格は歴史的に不安定であり[100]、銅のキログラム単価は1999年6月の1.32USドルから2006年5月の8.27USドルまでおよそ5倍に上昇した。2004年の銅価格の高騰は中華人民共和国をはじめとした新興国の需要の増加によるものであり[101]、電気インフラへのリスクが生じるような銅製品(特に銅ケーブル電線)の盗難の波が世界中で引き起こされた[102][103][104][105]。それは2007年2月に5.29USドルまで下落し、そして2007年4月に7.71USドルまで反発した[106]。2009年2月には、前年の高値から一転して世界需要の後退と物価の急な下落によって3.32USドルまで下落した[107]

2010年代においても、銅相場は大消費国である中国の景気の先行きを反映しやすいことから、医師にたとえて「ドクター・カッパー」の異名を持つ[108][109]


リサイクル

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リサイクルは主要な銅の資源となっている[110]。銅はアルミニウムのように、原料のままの状態であっても製品中に含まれている状態であっても関係なく、品質の損失なしに100 %リサイクルすることが可能である[111]。そのため銅製品に使われている銅がリサイクルされたものかどうかを判別するのは不可能であり、銅は古来からリサイクルされてきた素材の1つである[112]。銅をリサイクルする方法は大まかに言えば銅を抽出する方法と同じであるが、必要な工程は抽出よりも少ない。高純度の銅スクラップは炉で溶融、還元された後ビレットおよびインゴットに鋳造され、低純度のスクラップは硫酸浴中で電解製錬される[113]。銅のリサイクルにはこのような製造工程の他にもリサイクル元となる原料の収集や分別といった作業が必要となるが、それでもリサイクルに必要となるエネルギー量は鉱石から銅を抽出、製錬する場合の25 %に過ぎない[114]。大規模な銅のリサイクルの例としては、2002年に欧州連合加盟国のうち12か国が通貨をユーロに切り替えた際に旧通貨となった硬貨のリサイクルが挙げられる。この通貨切り替えによっておよそ147496トンの銅が含まれた約260000トンの硬貨が流通停止となり、これらの硬貨に含まれる銅は溶融させてリサイクルされ、新しい硬貨から様々な工業製品まで広い範囲で再利用された[114]

リサイクルの効率は、製品設計のような技術的要因や銅の経済的価値、持続可能な開発への社会意識の向上といった要因に依存し、また、法律も重要な要因である。現在、家電製品や電話、自動車などの銅を含有した製品における最終的なライフサイクルの責任ある管理を推進するために、140以上の国内もしくは国際的な法律、規制、政令およびガイドラインが定められている[84]電気・電子機器の廃棄に関する欧州議会及び理事会指令(2002/96/CE、RAEEもしくはWaste Electrical and Electronic EquipmentからWEEE指令)は、廃棄物の発生が少ない製品を生産する生産者に対するインセンティブによって産業廃棄物および一般ごみを義務的かつ大幅に削減することを含んだ、廃棄物最小化を推進する政策である[115]

2004年の銅需要のうち9 %はリサイクルされた銅によって賄われており、鉱石から銅を生産し、製錬する過程で生じた廃棄物からの銅の回収も「リサイクル」であるとするならば、リサイクルされた銅の割合は全世界で31 %、欧州に限れば41 %にも上る[112]国際資源パネル英語版Metal Stocks in Society reportによると、社会で使用中の銅を備蓄と捉えて算出した世界1人あたりの銅備蓄量は35–55 kgである。これらの大部分は途上国(1人当たり30–40 kg)よりもむしろ先進国(1人あたり140–300 kg)に存在している。

日本においては、廃棄された電気製品から銅を含む金属を回収する取り組みを都市鉱山と呼んでいる[116]

銅鉱石

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自然銅、米国ミシガン州

銅鉱石を構成する鉱石鉱物には、次のようなものがある。

用途

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銅管継手

銅は古代から人類とのかかわりが深く、重要な金属として扱われていた。日本でも、銅塊が発見され朝廷に献上されたことを祝い、年号慶雲から和銅に改められた事例がある[117]

銅は、金属製品や硬貨の材料として、多くの文明で使用された。現代でも様々な場で使用されており、鉄に次いで重要な金属材料といえる。銅の主要な用途として電線 (60 %)、屋根ふき材および配管 (20 %)、産業機械 (15 %)が挙げられる。

銅の大部分は金属銅として利用されるが、より高硬度が求められる用途に際しては、他の元素を加えて真鍮青銅のような合金が作られる。このように合金とされる銅は全体のおよそ5 %である[118]。銅供給量のうちの少量は、栄養補助食品や農業における殺菌剤のための銅化合物の生産に用いられる[19][119]。銅の機械加工は可能であるが、通常複雑な部品を作るための良好な被削性能を得るには合金を用いる必要がある。また銅はイオン化傾向の小さい金属であるが、耐腐食性を増すため金メッキやエナメル皮膜をされることもある。

電子工学と関連デバイス

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電力を大きな建物に分配する銅製の固定式母線バスバー英語版

銅は工業をはじめ幅広い用途に広く用いられ、特に電気器具配線変圧器電磁石のようなデバイス銅線英語版などの材料として用いられる。これは銅がに次いで電気抵抗が少なく電気伝導性に優れ、常温における伝導率が銀の94 %と遜色がない一方で、銀より価値が格段に低いためである。

また優れた電気伝導性により、希少金属の価格高騰や伝導性の改善のために、集積回路プリント基板において金や銀、アルミニウム配線の代替としても銅が用いられる。しかしながらニッケルコバルトと比較しても他のプロセスへの汚染度が激しいため、同一のチャンバーやラインを使用することによる銅汚染が問題となる。また、銅装置に触れた器具や工具はもとより、エンジニアやオペレーターを介した汚染もある。そのため、半導体製造工程上は、銅が他のプロセスへの影響が出ないように隔離した状態で製造するため若干の費用がかかる。

銅は比較的高い熱伝導率を持つため熱放散能力に優れており、かつ加工性にも優れているためヒートシンク熱交換器のような廃熱・放熱部分にも銅が用いられる。真空管およびブラウン管電子レンジにおけるマグネトロンマイクロ波以上を伝送するための導波管にも銅が用いられている[120]

銅は、他の金属の電気伝導率を測る国際軟銅線標準英語版(IACS)としても使われ、温度20 °C、長さ1 m、断面積1 mm2の条件における電気抵抗が0.017241 Ωとなる「万国標準軟銅 (IACS)」の伝導率が基準値 (100 %)とされる[121]

電気モーター

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銅は他の金属材料と比較して優れた電気伝導性を有しているため、電動機の電気エネルギー効率を向上させる[122]。電動機および電動機の駆動システムによる電気消費は世界の全電気使用量の43–46 %、工業では69 %を占めているため、電動機のエネルギー効率は重要な問題である[123]コイル内で銅の質量と断面積を増大させることで発動機の電気エネルギー効率は向上する。エネルギー節約を主要な目的とする電動機設計の新技術である銅製回転子[124][125] は、NEMAによるプレミアム効率英語版規格を達成し、さらに上回る多目的誘導電動機の実現を可能にする[126]

建築及び工業

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新宿住友ビルの銅葺きの屋外社殿
ミネアポリス市庁舎英語版緑青で覆われた銅の屋根
イスラエルのレストランの古い銅製器具

銅はその防水性および防食性、外観の美しさために古代から多くの建物で屋根葺として用いられてきた銅瓦葺きと呼ばれる[127]。これらの建物の屋根に見られる緑色は長期の化学反応によるものである。

銅ははじめ酸化銅(II)に酸化された後、第一銅および第二銅の硫化物を経て最終的に緑青と呼ばれる塩基性炭酸銅となり、この緑青は、酸化腐食に対する高い耐久性を有している[128]。この用途における銅はリンによって脱酸されたリン脱酸銅 (Cu-DHP)として供される[129]

銅は他の屋根材と比べると高価なため、現代の日本では高級住宅や寺社建築などに限られる。現在では酸性雨の影響もあり、「半永久的な」耐腐食性の建材というわけではない。

避雷針は、主な建築物が破壊される代わりに電流を地面へとそらすための方法として銅が用いられる[130]。銅は、優れたろう付け性能及びはんだ付け特性を有しており、溶接することができ、最良の結果はマグ溶接によって得られる[131]

生物付着防止や殺菌作用

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銅包板はフジツボイガイフナクイムシなど固着性の水生生物から船底を保護するための静生物性(微生物が成長、増殖するのを抑制する性質。バイオスタティック)物質として長く用いられてきた。初期には純銅が用いられていたが、その後マンツメタル英語版に代替された。

銅は静生物性を有しているため、銅の表面上では菌類細菌ウイルスなどの微生物は生育することができない。同様に、銅合金は極限状態においても抗菌性および生物付着英語版防止性を有しており[132]、また構造材としての強さと防腐性を持つ[133]という特性を海洋環境において示すため、養殖業において重要な金属材料となった(養殖業における銅合金英語版)。

武器・兵器

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近現代に到っても薬莢黄銅)、銃弾の被覆、雷管のケーシング、砲弾弾帯成形炸薬弾のライナーなど、弾薬で重要である。鋳鉄よりも鋳造品質が安定していることから大砲は近世期まで主に青銅製であった。掃海艇は鋼鉄の帯びる磁気に反応する機雷を起爆させないよう船体は木造やFRP、エンジンは銅合金製である。

その他

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銅の炎色反応の様子

銅は花火の着色料としても用いられる。これは銅の化合物が炎色反応を示すことを利用したもので、青色を得るのに用いられる。炎色反応は青緑色である。また、オリンピックをはじめ、様々な大会やコンクールで、金、銀に次ぐ3位のメダル色として使われる。

熱伝導と加工のしやすさから、板金状の銅を金鎚で叩いて変形させ、加熱調理用器具(鍋やフライパンなど)に応用することもできる。正確に加工された工業品は高級調理器具としても普及している。ただし、電磁調理器においては使用自体はできるが鉄鋼材に比べ加熱効率が劣る。

銅は精子を殺す能力があることから子宮内避妊器具(IUD)に用いられ、その効果は卵管結紮英語版に匹敵する。

液体状態における銅化合物は木の防腐剤に用いられ、特に乾腐英語版による損傷を修復している間に構造の元の部分を取扱う際に利用される。亜鉛と共に銅のワイヤーはコケの成長を阻害するため、被導電性の屋根材量の上に置かれることがある。抗菌性の紡織線維を作るために銅が用いられる[134]。銅は細い導線を容易に作成できるため、繊維に織り込んで絨毯マットなどに使用されている。また、このような絨毯は銅の高い導電性により静電気の発生を抑制する効果も得られる。同様に銅イオンの持つ殺菌作用を利用した用途として、抗菌仕様の靴下や靴の中敷などにも利用され、陶磁器の釉薬ステンドグラス楽器などにも用いられる。

電気メッキにおいては、ニッケルのような他の金属をメッキする際の下地として銅が用いられる。

銅は、銀と共に、博物館材料の保管試験であるオディ試験英語版と呼ばれる試験方法に用いられる3つの金属のうちの1つである。この試験において、銅は塩化物、酸化物および硫化物を検出するために用いられる。

銅は化合物または触媒としても用途が広い。代表的な銅の化合物としては塩化銅(II)酸化銅(II)硫酸銅(II)などがあり、各種触媒や、防腐剤殺虫剤顔料などに用いられている。

銅はまた装飾品にも使われる。民間療法では銅のブレスレットは関節炎を和らげるとされるが、その証明はされていない[135]。また、銅鉱石のうち孔雀石などはその外観の美しさから宝石としても利用される[136]

銅はコバルトマンガンに次ぎ、(よりも)硫黄と結合をする性質が強い。そのために硫黄架橋が存在するゴムを侵すことがある(一般に(ゴムに関しての)銅害、と呼ぶ。ゴムに存在する硫黄のS-S架橋より強く自らと結合する性質があるので、このために硫黄架橋は切断され、ゴムの組織が分解・剥離することになる。このため、銅合金製のフックに輪ゴムをかけておくと輪ゴムがすぐに使えなくなったり、銅イオンを含む水が流れるパイプではEPDMなどの加硫がされたパッキンが急速に劣化して水が汚染されたり、銅の近くにゴム製品を置いておくと表面が溶けたりする。)[137]。この性質を用いて、物質から硫黄を吸着することが可能であるが、この応用は医療・美容分野においては銅クロロフィル(クロロフィル中のマグネシウムを銅に置き換えたもの)などに見ることができる(銅クロロフィルにより、口腔などに存在する硫黄化合物を銅に吸着させて清掃することが可能である)。

銅合金

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純粋な銅は降伏強度が非常に低く (33 MPa)、軟らかい(モース硬度3、ビッカース硬さ50)といった機械的に弱い物理的性質を有しているため[138]、機械加工部品材料としては使用しにくい。このような銅の機械的な弱さとは対照的に、他の金属と合金化して銅合金とすることで非常に優れた機械的強さを示すようになるため、銅の欠点を補い利点を伸ばす銅合金としての用途も幅広い。主要な銅合金として青銅黄銅があり[139]ベリリウムカドミウムなど少量の元素を添加した高純度銅合金なども開発されている[140]。銅はまた、銀や金の合金、宝石業界で用いられるろう材の成分として最も重要なもののうちの1つでもあり、色調の補正や、硬度や融点の調節に利用される[141]

これらの多様な銅合金は一般的にISO 1190-1:1982もしくはそのISO規格に対応するローカル規格(例えばスペイン国家規格 UNE 37102:1984)によって分類され[142]、これらの規格における各合金の標準規格番号はUNS番号英語版が使用される[143]

黄銅

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エジプトの黄銅製の花瓶ルーヴル美術館パリ)。

銅と亜鉛の合金は一般に黄銅とよばれる[144]。亜鉛の含有率を変化させることで連続的に引っ張り強さや硬さが増大する性質を有しており[144]、銅と亜鉛の比率によって7/3黄銅や6/4黄銅などとよばれそれぞれの性質に合わせて異なる用途に用いられる[145]金管楽器仏具などに使われる真鍮は黄銅の1つである。真鍮は錆びにくく、色が黄金色で美しいことから模造金装飾具などとしてもよく見かける金属である。

黄銅は海水などの塩類を多く含む溶液との接触によって亜鉛が溶出する脱亜鉛現象と呼ばれる腐食が起こる[146]。このような脱亜鉛現象を防ぐためには黄銅へのスズの添加が有効である。6/4黄銅にスズを0.7–1.5 %ほど加えたネーバル黄銅とよばれるスズ入り黄銅は特に海水に強いため、船舶部品などに利用される[147][148]。スズ入り黄銅のように他の元素を微量に加えた黄銅を特殊黄銅とよび、鉛を加えて切削性を向上させた快削黄銅や、マンガンおよび微量のアルミニウム、、ニッケル、スズを加えて強度や耐食性、耐摩耗性を高めた高力黄銅(またはマンガン青銅とも)などがある[148]。快削黄銅では、鉛の環境負荷に配慮して鉛の代わりにビスマスセレンが用いられることもある[139]

青銅

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青銅製の聖ダビデ像

古代から武器や通貨などとして用いられた青銅スズと銅の合金であり、現在でもブロンズ像など、彫刻の材料である。また、アルミニウム青銅などのように、高強度、高硬度、防錆性を有するスズ以外との銅合金も総称して青銅とよばれる[147][148]。青銅はスズの割合と温度によって多様な相を取り、それぞれ異なった性質を示す。例えば、スズの含有率が少ないものは加工性が良好であるが、スズの含有率が増加するとともに加工性が低下するため、スズ量の少ないもの (10 %以下) は加工用、多いものは鋳造用として利用される[148]

黄銅と同様に、他の元素を微量に加えた青銅を特殊青銅と呼ぶ。リンを加えて冷間加工性やばね性を向上させたリン青銅や、軸受けに用いられる鉛青銅、リンおよび鉛を加えて切削性を向上させた快削リン青銅、ケイ素を加えて耐酸性を向上させたケイ素青銅などがある[149][150]

銅に6–11 %のアルミニウムを加えた合金は、スズを含んでいないもののアルミニウム青銅とよばれる[149]。アルミニウム青銅は機械的な強度が高く耐食、耐熱、耐摩耗性にも優れた合金であり、機械部品や船舶部品などに用いられる[149]。銅とニッケルの合金も同じくスズを含んでいないもののニッケル青銅とよばれる[151]。銅とニッケルはどのような混合比でも合金化するため、銅に10–30 %のニッケルを加えた白銅や、60 %のニッケルを加えたモネルといった幅広い組成比の合金が作られている[149][151]。白銅は高温での耐食性に優れているため復水器や化学工業用の部材として利用され[149]貨幣にも使われる[152]。モネルは銅、ニッケルの他に3 %ほどの鉄が含まれており、耐食性および耐熱性に優れている[153]。ニッケル含有量が45 %のニッケル青銅はコンスタンタンとよばれ、標準抵抗線や熱電対に利用される[154]

洋白

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洋白製のゆで卵置き

銅、ニッケルおよび亜鉛の合金は洋白もしくは洋銀と呼ばれ、その組成は銅が50–70 %、ニッケルおよび亜鉛がそれぞれ13–25 %である[155]。洋白はその白銀色の外観から銀の代用として食器などに利用され、良好なばね特性を有しているためばね材やバイメタルにも用いられる[156][157]。また、洋白に1–2 %のタングステンを加えた白色の合金はプラチノイドと呼ばれ、電気抵抗線に用いられる[158][159]

その他の銅合金

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主な工業用の合金として、高純度銅合金純銅と呼ばれる極めて高い純度の銅にごくわずかな添加物を加えた合金がある。代表的な高純度銅合金にはカドミウム銅クロム銅テルル銅ベリリウム銅などがあり、工業的には機械工業を初めとした分野で銀含有銅ヒ素銅快削銅などが利用される。

また、銅に金、銀を加えた合金である赤銅は工芸材料として用いられる[152]

生体内での働きと毒性

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光合成はチラコイド膜の範囲内での精巧な電子伝達の連鎖によって機能する。この連鎖を結びつける中心は青色銅タンパク質と呼ばれるプラストシアニンである。

銅は微生物においてはそうでないが、動植物においては重要な微量元素である。銅タンパク質は生体内における電子伝達や酸素の輸送、Cu(I)とCu(II)の簡単な相互変換を利用したプロセスといった多様な役割を有している[160]。銅の生物学的役割は、地球の大気における酸素の出現とともに始まった[161]。銅の役割としては、ヘモグロビンを合成するために不可欠である元素であることが知られているが、ヘモグロビンそのものには銅は存在しない。銅が活性中心である酸素結合タンパク質であるヘモシアニン哺乳類におけるヘモグロビンに相当し、ほとんどの軟体動物と、カブトガニのような多くの節足動物において酸素輸送の役目を担う[162]。ヘモシアニンは酸素と結合して青色を呈するため、これらの生物の血は青色をしており、酸素輸送をヘモグロビンに頼る生物のような赤い血は見られない。構造的にヘモシアニンはラッカーゼおよびモノフェノールモノオキシゲナーゼと関係している。これらのタンパク質では、ヘモシアニンが酸素と可逆的な結合を形成する代わりに、ラッカーの形成における役割のように基質を酸化する[160]

銅はまた、酸素の処理に関わる他のタンパク質の活性中心でもある。酸素を使う細胞呼吸に必要なシトクロムcオキシダーゼミトコンドリアにおける呼吸鎖に関連しており、酸素の還元のために銅と鉄が協働する。コラーゲン合成に必須なモノアミンオキシダーゼリジルオキシダーゼの活性中心も銅であり、さらにスーパーオキシドアニオンを酸素と過酸化水素不均化することによって分解して無毒化するスーパーオキシドディスムターゼの活性中心も銅でもある。

青色銅タンパク質のようないくつかの銅タンパク質は直接基質とは反応しないため、それらは酵素ではない。それらのタンパク質は、電子移動反応とよばれるプロセスによって電子を中継する[160]

摂取

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銅の食事摂取基準
(日本、2015)[163]
属性 推奨量(RDA)
mg/日
耐容上限量(UL)
mg/日
男性(18歳以上) 0.9–1.0 10
女性(18歳以上) 0.8 10
銅の食事摂取基準
(米国、2001)[164]
属性 推奨量(RDA)
mg/日
耐容上限量(UL)
mg/日
NOAEL
mg/日
男性(19歳以上) 0.9 10 10
女性(19歳以上) 0.9 10 10

2001年に出されたアメリカの報告書[164] によると、銅成分なしの輸液では一日あたり250–1850 μgの銅が失われる。また銅の損失をゼロ(0)とするには一日あたり510 μgの銅を補給することが(計算上)必要としている。

吸収、循環、排出

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銅の豊富な食品としてはカキラム肝臓、ブラジルナッツ、廃糖蜜ココア、黒コショウがある。良い補給源としてはロブスターナッツヒマワリの種、グリーンオリーブアボカド小麦がある。

人体には体重1 kgあたりおよそ1.4–2.1 mgの銅が含まれている[165]。銅はで吸収され、その後、肝臓に輸送されてアルブミンと結合する[166]。肝臓で処理された後の銅は第二段階として他の組織に分散される。ここの銅輸送プロセスでは、大多数の銅を血液中に輸送するセルロプラスミンが関与している。セルロプラスミンはまた、中に排出される銅を運搬し、特に銅源として効率よく吸収される[167]。一日あたりおよそ1 mgの銅が食品から摂取および排出されるのに対して、体内では通常一日あたりおよそ5 mgの銅が肝臓から運び出されて腸で再吸収される腸肝循環によって循環しており、必要であれば胆汁を通じて過剰な銅を体外へと排出できる[168][169]

銅による障害

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膜輸送体が鉄を細胞に取り込むためには、銅による還元が必要である。このため銅の欠乏によって鉄の吸収量が低下し、貧血のような症状や好中球減少、骨の異常、低色素沈着成長障害、感染症の発病率増加、骨粗鬆症甲状腺機能亢進症ブドウ糖コレステロール代謝異常などがもたらされる。しかし、銅は要求量がそれほど多くなく、食品中に豊富に存在するためそのようなことは稀である。ただし、特に反芻動物は銅に対して敏感な性質を持つため、家畜などにおいては銅の不足により神経障害貧血下痢などが発生することがある。これは飼料に銅を含んだミネラル分を添加することで改善される。また、亜鉛の過剰摂取は小腸細胞において金属結合性タンパク質であるメタロチオネインが誘導され、銅がこのタンパク質にトラップされる結果、銅の摂取が阻害される。例えば、ウサギの健康な成長のために必要な最低限の銅摂取量は、少なくともエサ中に3 ppmは必要であることが報告されている[170]

NFPA 704
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2
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金属銅に対するファイア・ダイアモンド表示

ヒトにおいては、体内の銅の吸収と排出を管理する銅の輸送システムのために、銅の過剰症は通常起こらない。しかしながら、銅の輸送タンパク質における常染色体の劣性突然変異によってこの輸送システムが働かなくなるため、このような欠陥遺伝子対を遺伝した人において肝硬変や銅の蓄積を伴うウィルソン病[165]、あるいは銅欠乏となるメンケス病英語版を発症することがある。また、グラム単位の様々な銅塩は人体に対して深刻な毒性を示すため自殺目的に用いられ、その機序はおそらく酸化還元サイクルおよび、DNAに損傷を与える活性酸素種の生成によると考えられている[171]。銅換算で体重1 kgあたり30 mgに相当する量の銅塩は動物に対して毒性を示すように[172]、多くの動物にとって慢性的に過剰な銅の摂取は毒である。反芻動物では銅の過多により肝硬変や発育不全、黄疸、などが起こりうる。例えば、ウサギのエサ中の銅濃度が100 ppm、200 ppm、500 ppmとより高濃度になると、飼料要求率英語版や成長率、枝肉の歩留まりに有意な影響がある可能性が示唆されている[173]無脊椎動物の多くは過剰供給となって代謝異常を起こす閾値脊椎動物よりも低い。例えば水槽内で海産魚を飼育する時に、魚病薬として硫酸銅の水溶液を少量飼育水に添加することがあるが、この処置をいったん行った水槽は、飼育水中に微量の銅イオンが溶け出すため、もはや海産無脊椎動物の飼育には不適当といわれている。

著しい銅の欠乏は血漿もしくは血清銅濃度の低下(セルロプラスミン濃度の低下)および、赤血球スーパーオキシドディスムターゼ濃度の低下の検査によって発見することができるが、これらの検査は低濃度の銅に対する感度が高くない。「白血球および血小板のシトクロムcオキシダーゼ活性」は欠乏のもう一つの要因として提示されたが、その結果は反復試験によって確かめられなかった[174]

銅による食中毒例として、2020年、やかんの水にスポーツドリンクを溶かして摂取した高齢者が吐き気や下痢を訴えた例がある。やかんはステンレス製のものであったが、長年、水道水に含まれる銅が水垢として堆積し、酸性のスポーツドリンクにより溶け出したという極端な原因であった。保健所が調査したところ、飲料から1 Lあたり200 mgの銅が検出されている[175]

植物における銅

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植物における銅の役割としては、生体内における数種類の酸化還元反応にかかわる酵素を活性化する働きや、光合成に必要なクロロフィルに銅が結合しており、クロロフィルの合成に肥料として銅が不可欠であるということが分かっている。しかし、クロロフィルの合成段階において銅がどのような役割を担っているのかなど詳しいことについては未だ判っていない。銅の欠乏によって黄白化、光合成能力の低下、種子の形成異常あるいは枯死などが起こる。銅の過剰供給もまた植物に対して毒性を示し、そのような環境下では銅イオン耐性の強い特殊な植物が繁茂する。例えば、寺社の銅屋根を伝った水が滴るような場所には銅イオン耐性の強いホンモンジゴケが優占することがよく知られている。下等植物の生育や増殖に少量の銅が不可欠であることが知られている。

抗菌性

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多くの抗菌効果の研究において、A型インフルエンザウイルスアデノウイルス菌類だけでなく、広範囲にわたる細菌を殺菌するための銅の有効性について、10年以上研究されてきた[176]。研究の結果、建物内の給水管に使用した場合、表面に生成される酸化膜や塩素化合物の影響により、短期間に不活化能力が低下する現象のほか、残留塩素の低減作用が明らかとなっており、実用上の課題として認識されている[177]

銅合金の表面には広範囲の微生物を不活化する固有の能力があり、例えば腸管出血性大腸菌メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)、ブドウ球菌クロストリジウム・ディフィシルA型インフルエンザウイルスアデノウイルスなどを不活化する[176][178]。約355の銅合金において、定期的に洗浄していれば2時間以内に病原菌の99.9 %以上が不活化されると証明された[179]

アメリカ合衆国環境保護庁 (EPA)は「公的医療による抗菌性材料」としてこれらの銅合金の登録を承認し[179]、登録された抗菌性銅合金で製造された、製品の明確な公衆衛生効果の主張を合法的に行うことが許可された。さらにEPAは、横木、手摺蛇口ドアノブ洗面所ハードウェアキーボード (コンピュータ)スポーツクラブの器具など、抗菌性銅から作られた抗菌性銅製品の長い一覧を承認した(全品目はen:Antimicrobial copper-alloy touch surfaces#Approved products参照)。

銅製のドアノブは、病院で院内感染を防ぐために用いられ、レジオネラ症は配管システムに銅管を用いることで抑制することができる[180]。抗菌性銅合金製品はイギリスアイルランド日本韓国フランスデンマークおよびブラジルにおいて、医療施設に用いられている。また、南米チリのサンティアゴでは、地下鉄輸送システムにおいて銅-亜鉛合金製の手摺が、2011年から2014年の間に約30の鉄道駅に取り付けられることになっている[181][182][183]

脚注

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注釈

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  1. ^ ただし、イオン化傾向が比較的低く、ジュエリー加工に用いられるといった点から、貴金属の一種として扱われることもある。
  2. ^ ただし、オリンピックメダルの銅メダルは、2014年ソチオリンピック(銅97 %、亜鉛2.5 %、錫0.5 %)、2016年リオデジャネイロオリンピック(銅95 %、亜鉛5 %)、2018年平昌オリンピック(銅90 %、亜鉛10 %)、2020年東京オリンピック(銅95 %、亜鉛5 %)など、青銅ではなく黄銅(丹銅)の採用例が増えている。
  3. ^ 2021年の世界全体の生産量は2100万トンであった[91]
  4. ^ 2021年の世界全体の埋蔵量は88000万トンであった[91]

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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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