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'''八丈方言'''(はちじょうほうげん)は、[[東京都]][[伊豆諸島]]に属する[[八丈島]]や[[青ヶ島]]で使用されている[[日本語の方言]]。[[東日本方言]]に含まれることもあるが、本土の日本語との差が著しいため、独立した言語('''八丈語'''、はちじょうご)とする場合もある。住民からは単に'''島言葉'''と呼ばれている。[[2009年]]([[平成]]21年)2月19日に[[国際連合教育科学文化機関|ユネスコ]]により[[危機に瀕する言語|消滅危機言語]]の「危険」(definitely endangered)と分類された<ref>[http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kokugo_sisaku/kikigengo/ 消滅の危機にある方言・言語,文化庁] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20150426003414/http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kokugo_sisaku/kikigengo/ |date=2015年4月26日 }}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://www.asahi.com/shimbun/nie/kiji/kiji/20090302.html |title=八丈語? 世界2500言語、消滅危機 日本は8語対象、方言も独立言語 ユネスコ |author= |date=2009-02-20 |work= |publisher=朝日新聞 |accessdate=2014-03-29 }}</ref>。


== 概説 ==
== 概説 ==
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[[太平洋戦争]]後、島外に就職する際に苦労しないようにと[[共通語]]教育が進められたことや、テレビの普及に伴う共通語や[[首都圏方言]]の浸透によって、八丈方言の衰退が進んでいる。ユネスコが消滅の危機にある言語であると発表したことで八丈方言への関心が高まり、八丈方言の継承活動が活発化している。

なお[[沖縄県]][[大東諸島]]は八丈島からの開拓民により、八丈方言に属す方言が話されている。[[大東諸島方言]]を参照。


== 音韻 ==
== 音韻 ==
[[アクセント]]は[[無アクセント]]である。[[母音]]の融合や[[リエゾン]]が著しく、島外者には聴き取りが難しいとされる
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特筆すべき特徴として語頭の[p]音の存在があげられる<ref>飯豊毅一ほか (1982-1986)『講座方言学』(全10冊),東京:国書刊行会</ref><ref>遠藤嘉基ほか (1961)『方言学講座』(全4冊),東京:東京堂</ref><ref>柴田武 (1988)『方言論』東京:平凡社</ref>。

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== 文法 ==
== 文法 ==
[[上代東国方言]]の特徴を受け継ぐといわれる。
本土方言のほとんどで失われた[[動詞]]・[[形容詞]]の[[終止形 (文法)|終止形]]と[[連体形]]の区別があり、特に連体形は万葉集に記録されたものと同じく「行こ時」「高け山」のように言う。動詞の終止形は「書く」のようにウ段語尾、連体形は「書こ」のようにオ段であるが、言い切りには「書く」の形はあまり使われず「書こわ」の形が使われる<ref name="大島1984">大島(1984)。</ref>。形容詞では、終止形は「たかきゃ」のように「-きゃ」、連体形は「たかけ」のように「-け」である<ref name="都竹1986">都竹(1986)。</ref>。


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動詞の打ち消しには「かきんなか」(書かない)のように連用形に「んなか」を付ける<ref name="都竹1986"/>。また過去表現に「かから」(書いた)、「たかからら」(高かった)、「静かだらら」(静かだった)のような形があり、古語で完了を表す「り」に由来するとみられる<ref name="大島1984"/>。代東国方言ではア段に「り」が付いており、これが八丈方言ではア段に「ら」が付くという形になっている。


動詞の打ち消しには「かきんなか」(書かない)のように連用形に「んなか」を付ける<ref name="都竹1986"/>。また過去表現に「かから」(書いた)、「たかからら」(高かった)、「静かだらら」(静かだった)のような形があり、古語で完了を表す「り」に由来するとみられる<ref name="大島1984"/>。代東国方言ではア段に「り」が付いており、これが八丈方言ではア段に「ら」が付くという形になっている。
推量には、「書くのーわ」のように「のー」などを使い、集落により「のー」「のう」「ぬー」「なう」と言う。これは代東国方言で推量を表した「なむ・なも」の名残とみられる<ref name="大島1984"/>。

推量には、「書くのーわ」のように「のー」などを使い、集落により「のー」「のう」「ぬー」「なう」と言う。これは代東国方言で推量を表した「なむ・なも」の名残とみられる<ref name="大島1984"/>。

== 語彙 ==
早朝を意味する「つとめて」に由来する「とんめて」、頭を意味する「つぶり」など古語を保持している。また、[[茨城弁|茨城方言]]などと同じく動物名に「~め」(いぬめ、きつねめなど)をつけるが八丈方言では茨城と比べ「~め」の用法が広い。


== 分類 ==
== 分類 ==
イアヌッチ(2019)によると、8つの方言が識別できるとされる<ref>David Joseph Iannucci (2019) [http://ling.hawaii.edu/wp-content/uploads/DavidIannucci_Final.pdf|THE HACHIJO LANGUAGE OF JAPAN PHONOLOGY AND HISTORICAL DEVELOPMENT] (訳:日本の八丈語の音韻と歴史的発展)</ref>。他に[[近代]]になってからの[[移民]]による[[大東諸島方言]]がある。
* 八丈島方言
* 八丈島方言
**末吉方言
** [[三根]]方言
**中之郷方言
** [[大賀]]方言
**樫立方言
** [[樫立]]方言
**大賀郷方言
** [[中之]]方言
**三根方言
** [[末吉 (八丈町)|末吉]]方言
* 青ヶ島方言
* [[八丈小]]の方言
** [[宇津木]]方言
** [[鳥打]]方言
* [[青ヶ島]]方言
* [[大東諸島方言]] - 八丈島から開拓民が移住


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
*[[飯豊毅一]]・[[日野資純]]・[[佐藤亮一 (言語学者)|佐藤亮一]]編『講座方言学 1 方言概説』[[国書刊行会]]、1986年
* [[飯豊毅一]]・[[日野資純]]・[[佐藤亮一 (言語学者)|佐藤亮一]]編『講座方言学 1 方言概説』[[国書刊行会]]、1986年
**都竹通年雄「文法概説」
** 都竹通年雄「文法概説」
*飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編『講座方言学 5 関東地方の方言』国書刊行会、1984年
* 飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編『講座方言学 5 関東地方の方言』[[国書刊行会]]、1984年
**大島一郎「伊豆諸島の方言」
** [[大島一郎 (言語学者)|大島一郎]]「伊豆諸島の方言」

{{See|八丈方言関連の文献一覧}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[小笠原方言]] - 八丈方言に似るが、英語との[[クレオール言語|クレオール化]]など独自の特徴を持つ。
* [[小笠原方言]] - 八丈方言に似るが、英語との[[クレオール言語|クレオール化]]など独自の特徴を持つ。
* [[金田章宏]] - [[日本語学|日本語学者]]、八丈方言の研究多数
* [[金田章宏]] - [[日本語学|日本語学者]]、八丈方言の研究多数
* [[内藤茂]] -元 [[國學院大學]]文学部講師、元八丈町立末吉中学校校長、『八丈島の方言』を出版
* [[危機に瀕する言語]]
* [[消滅危機言語の一覧]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.town.hachijo.tokyo.jp/kakuka/kyouiku/hachijo_hogen/index.html 島言葉(八丈方言)を見直そう]八丈町教育委員会(音声ファイル付き)
* [https://www.town.hachijo.tokyo.jp/kakuka/kyouiku/hachijo_hogen/index.html 島言葉(八丈方言)を見直そう] - 八丈町教育委員会(音声ファイル付き)
* [http://www.nhk.or.jp/r2bunka/nihon/0909.html 『八丈島の方言と民話』]私の日本語辞典(NHKラジオ第2、2009年9月)
* {{Wayback|url=http://www.nhk.or.jp/r2bunka/nihon/0909.html |title=『八丈島の方言と民話』 |date=20120117185613}} - 私の日本語辞典(NHKラジオ第2、2009年9月)
* {{YouTube|7r0JWbrlR24|受け継ごう!八丈方言}}、[[東京メトロポリタンテレビジョン]]


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八丈方言/八丈語
話される国 日本
地域 伊豆諸島
言語系統
日琉語族
初期形式
言語コード
ISO 639-3
Glottolog hach1239[1]
消滅危険度評価
Definitely endangered (Moseley 2010)
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八丈方言(はちじょうほうげん)は、東京都伊豆諸島に属する八丈島青ヶ島で使用されている日本語の方言東日本方言に含まれることもあるが、本土の日本語との差が著しいため、独立した言語(八丈語、はちじょうご)とする場合もある。住民からは単に島言葉と呼ばれている。2009年平成21年)2月19日にユネスコにより消滅危機言語の「危険」(definitely endangered)と分類された[2][3]

概説

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日本語の方言区分の一例で、大きな方言境界ほど太い線で示している。

八丈島と北部伊豆諸島との間には黒潮が流れており、古来海洋交通の難所であったため本土との交流が少なく、本土の他方言とは著しい方言差がある。万葉集に記録された上代東国方言の特徴を多くとどめ、さらに「~ず」の古形「にす」にさかのぼる否定形、連用形終止用法など、上代以前のものと思われる文法要素も保存されているとされる。

太平洋戦争後、島外に就職する際に苦労しないようにと共通語教育が進められたことや、テレビの普及に伴う共通語や首都圏方言の浸透によって、八丈方言の衰退が進んでいる。ユネスコが消滅の危機にある言語であると発表したことで八丈方言への関心が高まり、八丈方言の継承活動が活発化している。

なお沖縄県大東諸島は八丈島からの開拓民により、八丈方言に属す方言が話されている。大東諸島方言を参照。

音韻

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アクセント無アクセントである。母音の融合が著しい。 特筆すべき特徴として語頭の[p]音の存在があげられる[4][5][6]

方言学者の柴田武は『方言論』の中で、八丈方言について「音声印象からすると、どこか、沖縄の首里方言を思わせるものがある。」と記している。

文法

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上代東国方言の特徴を受け継ぐといわれる。

本土方言のほとんどで失われた動詞形容詞終止形連体形の区別があり、特に連体形は万葉集に記録されたものと同じく「行こ時」「高け山」のように言う。動詞の終止形は「書く」のようにウ段語尾、連体形は「書こ」のようにオ段であるが、言い切りには「書く」の形はあまり使われず「書こわ」の形が使われる[7]。形容詞では、終止形は「たかきゃ」のように「-きゃ」、連体形は「たかけ」のように「-け」である[8]

動詞の打ち消しには「かきんなか」(書かない)のように連用形に「んなか」を付ける[8]。また過去表現に「かから」(書いた)、「たかからら」(高かった)、「静かだらら」(静かだった)のような形があり、古語で完了を表す「り」に由来するとみられる[7]。上代東国方言ではア段に「り」が付いており、これが八丈方言ではア段に「ら」が付くという形になっている。

推量には、「書くのーわ」のように「のー」などを使い、集落により「のー」「のう」「ぬー」「なう」と言う。これは上代東国方言で推量を表した「なむ・なも」の名残とみられる[7]

語彙

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早朝を意味する「つとめて」に由来する「とんめて」、頭を意味する「つぶり」など古語を保持している。また、茨城方言などと同じく動物名に「~め」(いぬめ、きつねめなど)をつけるが八丈方言では茨城と比べ「~め」の用法が広い。

分類

[編集]

イアヌッチ(2019)によると、8つの方言が識別できるとされる[9]。他に近代になってからの移民による大東諸島方言がある。

脚注

[編集]
  1. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Hachijo”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/hach1239 
  2. ^ 消滅の危機にある方言・言語,文化庁 Archived 2015年4月26日, at the Wayback Machine.
  3. ^ 八丈語? 世界2500言語、消滅危機 日本は8語対象、方言も独立言語 ユネスコ”. 朝日新聞 (2009年2月20日). 2014年3月29日閲覧。
  4. ^ 飯豊毅一ほか (1982-1986)『講座方言学』(全10冊),東京:国書刊行会
  5. ^ 遠藤嘉基ほか (1961)『方言学講座』(全4冊),東京:東京堂
  6. ^ 柴田武 (1988)『方言論』東京:平凡社
  7. ^ a b c 大島(1984)。
  8. ^ a b 都竹(1986)。
  9. ^ David Joseph Iannucci (2019) HACHIJO LANGUAGE OF JAPAN PHONOLOGY AND HISTORICAL DEVELOPMENT (訳:日本の八丈語の音韻と歴史的発展)

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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