利用者:Kazov/授業における Wikipedia 利用の適切性
この文書は私論です。一部のウィキペディアンが助言や意見を記したものです。広く共有されている考え方もあれば、少数意見の見解もあります。内容の是非については慎重に検討してください。 |
この文書では、大学または小中高校の授業でウィキペディアの記事を提示することが適切かどうかを検討しています。
もちろん、誰でも、この記事に追加・修正などの編集ができます。
批判的な意見と反論
[編集]授業でウィキペディアを利用することに対して、次のような理由に基づく批判的な意見があります。
- 匿名の不特定多数が編集できるので、信頼がおけない。
- 情報が正しくないかもしれない。
- いつでも編集ができるので、教師が見たときと受講生が見たときとで内容が異なる可能性がある。
- 直接調べたデータではなく、編集者が集めてきた間接的なデータである。
これらの意見に対する反論を、下に示します。
匿名で不特定多数の執筆者
[編集]1. 匿名の不特定多数が編集できるので、信頼がおけない。
「匿名の不特定多数」については、嫌悪感にすぎないでしょう。コンピュータネットワークとウィキぺディア・プロジェクトがなかった昔には、ウィキペディアのようなプロダクトはありませんでした。 できあがった記事の内容が問題でしょう。
2021年現在は、ウィキペディアの記事はかなり信頼できます。過去には「信頼がおけない」記事も多くありました。 現在でも、分野によっては、信頼性の低い記事があるでしょう。 ただし、例えば「経営科学」のような専門的な分野の記事は、編集している人が限られているので、信頼できるでしょう。
情報の正しさ
[編集]2. 情報が正しくないかもしれない。
上述のとおり、専門的な分野に限っては、かなり正確です。 参照している記事中の誤りや難解な箇所は、教師が事前に修正することもできます。
情報が固定していない
[編集]3. いつでも編集できるので、教師が見たときと受講生が見たときとで内容が異なる可能性がある。
これは、Wiki の性質上、しかたがありません。 しかし、上述のとおり専門的な分野に限っては、編集している人が少ないので、更新は頻繁ではありません。 もし教師が見て不適切と思う編集が加わっていれば、授業前に教師が修正することもできます。 もちろん、過去のある時点の版を指定して参照することもできます。しかし、ほとんどの場合、その必要はないでしょう。
間接的なデータ
[編集]4. 直接調べたデータではなく、編集者が集めてきた間接的なデータである。
百科事典は全て間接的なデータです。だから、信頼がおけるのです。 誰かが書いた本も、論文も、内容のほとんどが間接的なデータです。 それらに掲載されているデータのうち、著者のオリジナルであるものは少ないのです。 それは、途中の参照記号や、末尾の参考文献リストを見ればわかるでしょう。 間接的なデータには出典を明記し、それに少しのオリジナルを付け加えて、論文や書籍ができています。 間接的かどうかが問題ではなく、適切かどうかが問題でしょう。
ウィキペディア内にある自身への批判的な記事
[編集]ウィキペディアには、こういう批判的な項目もあります。
- ウィキペディアへの批判 - とくに、第2節 日本語版への批判。
- よくある批判への回答 - 疑問の多くは、ここで解決できるでしょう。
- なぜウィキペディアは素晴らしくないのか
英語版ウィキペディアには、こんな批判と回答の項目もあります。
- Wikipedia:Criticisms - 出版物に掲載された記名の批判に対する回答集
- ほとんどが 2004, 2005 年の意見です。英語版ウィキペディアは、これらの批判に耐え、そのいくつかを基に改良されてきました。ウィキペディア日本語版も、それに少し遅れて追随してきました。現在(2021年)のウィキペディアに対する批判は、過去の批判を鵜呑みにした人々のものかもしれません。
批判的な意見への反対意見
[編集]「事典としてGoogleやWikipediaを信用してはいけない」と教える教師を信用してはいけない、という逆の意見もあります[1]。 記事のコメント中に、「どうせならダメと言う教授陣でWikipediaを修正するプロジェクトぐらいやってほしいものですね」(ドクトルS, 2012年10月17日10:58)があります。 それを実践している大学教授もいます。
授業で提示する情報の適切さ
[編集]教師が授業で提示する情報が適切かどうかが、問題の本質でしょう。 教師は、自分が見て適切と思った Web ページにリンクしたり、引用したりしているはずです。 授業のうち大きな部分は、教師が適切と判断する情報を提示することでしょう。
過去には(現在も)、教師は書籍や印刷物やプレゼンテーションソフトウェア (PowerPoint) で情報を提示してきました。 現在は、それに eラーニングシステム内も含む Web ページが加わっています。 提示する Web ページの中に、教師が適切と認めたウィキペディアの記事が含まれていてもよいでしょう。 その情報が適切かどうかが、問題の本質でしょう。
授業では、教師が信頼できると思ったウィキペディアの記事だけを紹介するはずです。 ウィキペディアの記事が不足していると思えば加筆できるし、記事がなければ教師が執筆することもできます。 例えば、「対移動平均比率法」は、大学教授が(2014年に)4日間をかけて初版の全てを書いています。もちろん、出典は明記されています。
ウィキペディアのメリット
[編集]ウィキペディアには、次のメリットがあります。
- 解説が、きちんとした文章になっている。
- 記事の内容は、完全な文章になっていて、独学でも分かりやすいでしょう。
- 解説中にある知らない用語が引ける。
- 参照している記事中の分からない用語は、リンクを開いて解説が読めます。
- 最新の情報が得られやすい。
- 編集が可能である。
- 不適切と判断した部分を、教師が修正できます。
- 出典表示が明確である。
- ウィキペディア日本語版では、出典表示はまだ途上です。英語版では、かなり明確になっています。日本語版も、やがて明確になるでしょう。
- 独自研究は掲載できない。
- 誰かが公表したものを別の誰かが掲載することしかできません。そこにある程度の客観性が生じます。
- リンク切れが発生しない。
- ウィキペディアは、基本的に記事ページが消滅することがない[注 2]ので、全くリンクを張り直す必要がなく、安心して使えます。
これらのメリットのそれぞれについて、下に詳細を示します。
解説が完全な文章
[編集]ウィキペディアの記事の内容は、完全な文章になっていて、分かりやすいのです。 とくに、予習・復習や試験前の再復習、そして授業を欠席したときに便利です。 授業で PowerPoint のようなプレゼンテーションソフトウェアを使った場合、長い文章を載せるよりもキーワードに近い短い句を羅列する傾向があります。 印刷物を配布するにしても、通常はあまり枚数が増えないように、短縮してしまいます。 その点で、ウィキペディアの記事は完全な文章になっているし、文字数の制限もないので、分かりやすいのです。
知らない用語が引ける
[編集]参照している記事中に分からない用語があった場合、とくに検索をしなくてもリンクを開くだけで用語の解説が読めます。 これは、電子化された百科事典や用語辞典の特徴です。
授業の受講者の知識レベルは様々です。したがって、一律な情報の提供では、全受講者に過不足なく情報を提供することは不可能でしょう。 しかし、ウィキペディアなら、受講者は授業中にもストレスなく知らない用語を必要なレベルまでたどって調べることができます。 これは、書籍や板書やプレゼンテーションソフトウェアでは実現できない長所です。
最新の情報
[編集]ウィキペディアは、最新の情報が反映されやすいメディアです。 日本での書籍の百科事典は、2007年の平凡社『改訂新版世界大百科事典』[注 3]が最後でしょう。その後、どの出版社の百科事典も、次の版は出ていません。
通常の書籍は、著者が書き上げてから出版されるまで、1年ほどかかります。 コンピュータ科学などの進歩が速い分野では、書籍が出版されたときには陳腐化していることがよくあります。 その点、ウィキペディアは最新の情報が反映されやすいのです。
編集可能性
[編集]もし授業の資料で参照している内容に不適切な部分があれば、教師は授業中にそれを注意できます。 残念ながら、他人の Web ページを参照している場合は、内容の修正ができません。教科書でも論文でも、修正はできません。 しかし、ウィキペディアなら、修正ができます。まさに「誰でも[注 4]自由に書ける」から、教師にも修正ができるのです。
出典表示が明確
[編集]ウィキペディアでは、出典が明らかな箇所には、それが示してあります[注 5]。 逆に、出典が書いていない箇所は、信頼できないと分かります。 信頼できるかどうか分からない情報が羅列される Web ページや授業資料よりも、出典があるかどうかが判別できるほうがよいのではないでしょうか。
授業中に、出典を全て明示している授業がどれだけあるでしょうか。 ある教師が言ったからといって、必ずしもその教師のオリジナルな意見ではありません。 良心的な教師は出典を明らかにしますが、出典を明示しない教師もかなりいるでしょう。
出典がはっきり示していない部分を含む書籍は多数あり、出典がはっきり示してあるウィキペディアの記事も多数あります。 ウィキペディアの記事「松本紘佳」(バイオリニスト)では、ほとんどのデータについて出典が2件以上示してあります。論文や書籍もこう書くべきでしょう。英語版ウィキペディアもこれに近いくらい多くの出典が明示されています。
独自研究の排除
[編集]ウィキペディアでは、独自研究の掲載は禁止されています。 自分で執筆した書籍でも、その内容が全て著者の意見ではありません。むしろ、先人の努力の結果を利用していることがほとんどです。執筆者の独自な点が記述してあっても、それは一部にしかすぎないのです。 逆に、全てが独自では、世の中から認められません。 授業では、そんな独善的な内容を講義してはならないでしょう(少なくとも、自然科学や社会科学の授業では)。
リンク切れが発生しない
[編集]リンク切れが発生しないのは、授業をする教師側の保守管理上のメリットです。 ウィキペディアの記事への参照は、基本的に参照不能になることがありません。 通常の Web ページは、1年で1割ほどがリンク切れになります。したがって、毎年「授業用のWebページ」内のリンク先(およびその先のリンク)をチェックし、存在しなければ検索して、リンクを張り直さなければなりません。運の悪い場合には、先週はあったページが、今週にはなくなっていることがあります。
しかし、ウィキペディアは、通常はページが消滅することがないので、リンクを張り直す必要がなく、安心して使えます。 もし記事の表題が変更された場合には、自動的に新しい記事へのリンクが生成され(ページの改名)、元の記事名でも参照できます。 まれに記事が削除される[注 2]ことがあり、その場合はリンクが切れます。しかし、授業で参照するような記事では、そういう事態が発生することはまずないでしょう。
ウィキペディアの進化
[編集]2020年の英語版は、出典がかなり明記されています。ただし、2010年ごろはそうではありませんでした。
英語版は、こう進化しました。
- 記事の羅列・増殖 → 記事の分割・統合 → 記事の充実 → 出典の明記(2010年ごろから)
日本語版も同様に進化するでしょう。もし同様に進化するなら、2025年になれば、出典はかなり整うでしょう。 ただし、初出や出典を重んじる欧米と日本との文化の違いによって、なかなかそうはならないのかもしれません。
授業でのウィキペディアの利用方法
[編集]授業でのウィキエディアの利用方法には、少なくとも次の3形態があります。授業中にウィキペディアの記事を提示するだけでなく、学生がウィキペディアの記事を編集する授業もあります。
- ウィキペディアを参照するコンテンツを提示する授業
- ウィキペディアをコピーしたレジュメによる授業
- ウィキペディアの各記事を編集する授業
ウィキペディアを参照するコンテンツを提示する授業
[編集]教師が授業の資料として、ウィキペディアの記事を次のようにして参照することがあります。
- 授業中にスクリーン、画面などに(プレゼンテーションソフトウェアを経由して)提示する。
- ウィキペディアの記事を eラーニングシステムのコンテンツから参照する。
- ウィキペディアの記事を参照するリンクを掲載したウェブページを提示する。[2][3][4]
ウィキペディアをコピーしたレジュメによる授業
[編集]教師が、ウィキペディアの記事をコピーしてレジュメを作成し、授業に用いています。
「Wikipedia をコピペしてレジュメを作る大学教員」に関する質問と意見[5](2012年)があります。 出典を ウィキペディアと明記しないのは、著作権法違反です。 出典さえ明記すれば、ウィキペディアの記事を授業で用いても著作権法上の問題はありません。
中学校・高等学校の教師で「ウィキペディアの情報を元に授業の準備をしている教師は87%」というアメリカの調査[6](2013年)がありました。 英語版は、2013年の時点でそれだけ信頼性が高くなっていたということでしょう。
ウィキペディアを編集する授業
[編集]教師の指導の下で、学生がウィキペディアの記事を作成したり、編集したりする授業があります。
- アメリカでは、ウィキペディアの記事を編集する授業があります。2013年12月に、カリフォルニア大学サンフランシスコ校が医学部として初の試みをし、単位を出しています[7]。
- 「英日翻訳ウィキペディアン養成セミナー」は、英語版の記事から翻訳した日本語版の作成を課題とする授業です。2015年度に開始し、2020年度現在も継続していて[注 6]、成果の記事数は258件になっています[8]。
- 西村和夫セミナー[9]では、授業科目「演習」において、2013年度から2020年度現在までウィキペディアの記事の編集を行っています。この授業では、文章の書き方の習得を目的としています[10][注 7]。
この文書の作成の経緯と活用の歴史
[編集]作成の経緯
[編集]この文書の初版の作成者は、大学における次の科目の授業用 Web ページおよび eラーニングシステム内で、ウィキペディアの記事をいくつも提示しています。
授業でウィキペディアを利用することに対して、受講生から(授業用の eラーニングシステムによる受講者内での)公開質問がありました(2015年12月)。
作成者は、授業用のシステム内で回答せずに、ウィキペディア上で回答しました。理由は、次の三つです。
- 回答が、かなり長くなる。
- 公開文書にすれば、きっと同様の教師の役に立つ。
- ウィキペディアのことは、ウィキペディアでするのがよい。
歴史的に、この記事の第1節「批判的な意見と反論」は、受講生から提示された「ウィキペディアを用いてはいけない理由」に対する反論でした。
活用の歴史
[編集]- 2015年12月 - この文書の初版を作成。内容は、2021年2月の版とほとんど同じだった。
- 2016年 6月 - 「Wikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆する」に参考項目として掲載。
- 2016年 9月 - 「Wikipedia:オフラインミーティング/研究者・教員向けウィキペディア記事の書き方講習会2016」で参考リンクとして提示。
- 2017年11月 - 「Wikipedia:オフラインミーティング/人文研究者・教員向けウィキペディアの書き方ワークショップ2017」で参考リンクとして提示。
- 2021年 3月 - この文書を名前空間 "Wikipedia" に移動することを提案し、そのための準備として内容を整備した(汎用的な記述、節の入替え、箇条書きの削減など、大幅な変更をする)。しかし、移動は実施しなかった。
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脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 良い例は、生存する人物の記事(これをウィキペディアでは存命人物の伝記という)です。その人が生存しているかどうかを調べるのは容易ではありません。ウィキペディアでは、掲載している人が死亡した場合にはすぐに死亡年月日が掲載されます。
- ^ a b 積極的な記事の削除が行われた場合は、記事ページが消滅します。
- ^ 『改訂新版世界大百科事典』の項目数は約9万です。一方、ウィキペディア日本語版の項目数は2016年1月19日に100万項目に達し、現時点では1,441,289項目にまで達しています。
- ^ 正確に言うと、ウィキペディアは、「基本方針に同意している人だけ」が記事を編集したり作成したりできます。
- ^ 出典を明示しなければ著作権の侵害になります。
- ^ 2015年度は東京大学で行いましたが、2016年度からは武蔵大学で行っています[さえぼー (2015年12月21日). “来学期から東京大学非常勤を辞めることになりました”. Commentarius Saevus. はてなダイアリー. 2021年3月21日閲覧。]。
- ^ 2013年度だけは英日翻訳をしました。
出典
[編集]- ^ 新井克弥「「事典としてGoogleやWikipediaを信用してはいけない」と教える教員を信用してはいけない!」『BLOGOS』Livedoor ニュース、2012年10月16日。2016年2月23日閲覧。
- ^ a b 西村和夫 (2008年). “情報セキュリティ A/B”. 駒澤大学. 2021年3月23日閲覧。
- ^ a b 西村和夫 (2010年). “経営科学概論 A/B”. 駒澤大学. 2021年3月23日閲覧。
- ^ a b 西村和夫 (2012年). “新入生セミナー”. 駒澤大学. 2021年3月23日閲覧。
- ^ ru0404kk、miomark21、benngitekinaidmusic、nnn_n_k、ottantanspica (2012年3月18日). “Wikipediaをコピペしてレジュメをつくる大学教員”. Yahoo!知恵袋. Yahoo!. 2021年3月23日閲覧。
- ^ 吉住沙羅 (2013年3月1日). “ウィキペディアの情報を元に授業の準備をしている教師は87%:米調査”. IRORIO. 株式会社マッシュメディア. 2016年2月23日閲覧。
- ^ 「Wikipediaの医学関係記事を編集する授業 カリフォルニア大学サンフランシスコ校が初の試み(米国)」『カレントアウェアネス-R』国立国会図書館、2013年10月1日。2021年3月21日閲覧。
- ^ 利用者:さえぼー/英日翻訳ウィキペディアン養成プロジェクト成果記事一覧。
- ^ 西村和夫 (1998年). “西村和夫セミナー”. 駒澤大学. 2021年3月21日閲覧。
- ^ 西村和夫. “西村和夫セミナーの教材”. 演習1(5月). 駒澤大学. 2021年3月21日閲覧。
関連項目
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