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フランス犯罪小説大賞

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

フランス犯罪小説大賞(フランスはんざいしょうせつたいしょう、Prix du Roman d'Aventures)は、フランス推理小説の賞。

概要

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パリのシャンゼリゼ出版社でマスク叢書fr)の刊行を始めたアルベール・ピガス(Albert Pigasse)により1930年に創設され、基本的に年に1回授与されている。対象となるのはマスク叢書の編集者が企画した作品(翻訳作品を含む)。受賞作は5万部の刊行が保証される。

選考は当初はジョゼフ・ケッセルなど著名な小説家が担当していたが、のちに映画やテレビの関係者も加わるようになった。

また当初はフランス語で書かれた推理小説のみを対象にしていたが、1982年にイギリスのルース・レンデルが受賞したのを皮切りに、翻訳作品の受賞も増えている。なお、ルース・レンデルの受賞以前の1969年に、例外的にフィンランドの推理作家マウリ・サリオラが受賞している。

フランス冒険小説大賞と呼ばれることも多く、2000年刊行の『海外ミステリー事典』でも項目名は「冒険小説大賞」(記事執筆:権田萬治)とされているが、のちに権田萬治自身が、「Roman d'Aventures」は直訳すると冒険小説だが実際には心理サスペンス小説という意味が強いとして、「犯罪小説大賞」に言い換えている[1]。そのため、ここではそれに従った。また、ロマン・アバンチュール大賞と表記されることもある。

日本の作品の受賞

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1989年に、夏樹静子の『第三の女』のフランス語訳版"La Promesse de l'ombre"(暗闇の中の約束)がこの賞を受賞している。このことについて文芸評論家の権田萬治は、桐野夏生が2004年にアメリカ探偵作家クラブ(MWA)主催のエドガー賞 長編賞にノミネートされて大きく報道されたのに比して、夏樹静子がこの賞を受賞したことは余り話題にならなかったが、これは日本の推理小説の海外進出という意味で歴史的な快挙であると述べている。[2]

受賞作一覧

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フランス語作品については日本での出版年、出版社、翻訳者を示す。

著者 フランス語タイトル (原題) 出版された日本語訳
1930 ピエール・ヴェリー Le Testament de Basil Crookes 『絶版殺人事件』(上野三郎訳、『新青年』1937年11月増刊号に掲載)
1931 スタニスラス=アンドレ・ステーマン Six hommes morts 『六死人』(三輪秀彦訳、創元推理文庫、1984年)
1932 Jean-Toussaint Samat L'Horrible mort de Miss Gildchrist
1933 Simone d'Erigny L'Étrange Volonté de professeur Lorrain
1934 Jean Bommart Le Poisson chinois
1935 P.A. Fernic La Bête aux sept manteaux
1936 Yves Dartois Week-end au Touquet
1937 ピエール・ノール Terre d'angoisse 『抵抗の街』(山口年臣訳、ハヤカワ・ミステリ、1965年)
1938 ピエール・ボアロー Le Repos de Bacchus 『三つの消失』(松村喜雄訳、『大密室』晶文社、1988年 に収録)
1939 Pierre Apestéguy Le Roi des sables
1946 ルネ・ギヨ Les Équipages de Peter Hill
1947 Armand Ziwès
Erik J. Certön
La Meute de minuit
1948 トーマ・ナルスジャック La Mort est du voyage 『死者は旅行中』(松村喜雄訳、『大密室』晶文社、1988年 に収録)
1949 Henri David Jeux de plomb
1950 イヴ・デルメーズ Souvenance pleurait
1951 オリヴィエ・セシャン
イゴール・B・マスロフスキー
Vous qui n'avez jamais été tués 『まだ殺されたことのない君たち』(木々高太郎槙悠人共訳、東都書房、1962年)
1952 Jean Kéry Qui est à l'appareil?
1953 Ray Lasuye Le Boiteux du pont Guillian
1954 Maurice Bastide Réactions en chaîne
Maurice-Charles Renard L'Inconnu des îles
1955 Émile Pagès Ricochets
1956 Paul Alexandre
Maurice Roland
Voir Londres et mourir
1957 Jacques Chabannes L'Assassin est en retard
1958 シャルル・エクスブライヤ Vous souvenez-vous de Paco ? 『パコを憶えているか』(小島俊明訳、ハヤカワ・ミステリ、1967年)
1959 Jacques Ouvard L'assassin est dans le couvent
1960 Robert Bruyez Crimes sur ondes courtes
1961 André Benzimra Le Couloir de la mort
1962 Pierre Caillet Cette mort tant désirée
1963 Pierre Jardin Agnès et les vilains messieurs
1964 Henri Lapierre Le Mort du lac
1965 André Picot Il faut mourir à point
1966 Jean Marcillac Tapis vert et tentures noires
1967 Maurice Ellabert Le Provocateur
1968 Raymond Blanc Un pauvre type
1969 フィンランドの旗 マウリ・サリオラ Un printemps finlandais (Lavean tien laki) ヘルシンキ事件
1970 Denis Lacombe La Morte du Causse Noir
1971 André Saint-Briac Secrets de famille
1972 Jean Bonnefond Marchand de fumée
1973 Max Nicet Requiem pour une rose
1974 Claude Marais Trois cœurs contrés
1975 Hélène de Monaghan La Mauvaise Part
1976 ルー・デュラン Un amour d'araignée
1977 Gilbert Picard Les Vendredis de la Part-Dieu
1978 Paul Kinnet Voir Beaubourg et mourir
1979 ピエール・サルヴァ Des clients pour l'enfer
1980 Michel Guibert Le Vieux Monsieur aux chiens
1981 カトリーヌ・アルレー À cloche-cœur 『理想的な容疑者』(荒川浩充訳、創元推理文庫、1981年)
1982 イギリスの旗 ルース・レンデル Le Maître de la lande (Master of the Moor) 荒野の絞首人
1983 イギリスの旗 ジューン・トムスン Claire... et ses ombres (Shadow of a Doubt)
1984 フランスの旗 アレクシス・ルカーユ Le Témoin est à la noce
1985 Bachellerie L'Île aux muettes
1986 フランスの旗 ミシェル・グリゾリア Les Sœurs du nord
1987 イギリスの旗 ピーター・ラヴゼイ Le Médium a perdu ses esprits (A Case of Spirits) 降霊会の怪事件
1988 フランスの旗 ポール・アルテ Le Brouillard rouge 『赤い霧』(平岡敦訳、ハヤカワ・ミステリ、2004年)
1989 日本の旗 夏樹静子 La Promesse de l'ombre (第三の女)
1990 アメリカ合衆国の旗 スチュアート・M・カミンスキー Le Flic qui venait du froid (A Cold Red Sunrise) ツンドラの殺意
1991 イギリスの旗 レジナルド・ヒル Un amour d'enfant (Child's Play) 子供の悪戯
1992 アメリカ合衆国の旗 パトリシア・コーンウェル Postmortem (Postmortem) 検屍官
1993 イギリスの旗 フィリップ・カー L'Été de cristal (March Violets) 偽りの街
1994 フランスの旗 セルジュ・ブリュソロ Le Chien de minuit 『真夜中の犬』(長島良三訳、角川文庫、1998年)
1995 イギリスの旗 リンダ・ラ・プラント Suspect numéro un (Prime Suspect) 第一容疑者
1996 アメリカ合衆国の旗 ウォルター・サタスウェイト Escapade (Escapade) 名探偵登場
1997 アメリカ合衆国の旗 ネヴァダ・バー Le Feu du ciel (Firestorm) 山火事
1998 イギリスの旗 ヴァル・マクダーミド Mauvais signes (Star Struck)
1999 フランスの旗 Florence Bouhier Portrait de l'artiste en assassin
2000 アメリカ合衆国の旗 Penny Mickelbury Un chemin solitaire (Where to Choose)
2001 フランスの旗 J・P・アンドルヴォン L'Œil derrière l'épaule
2002 フランスの旗 Jean-Luc Bizien La Mort en prime time
2003 フランスの旗 ベルトラン・ピュアール La Petite fille, le coyote et la mort
2004 アメリカ合衆国の旗 レベッカ・ローゼンバーグ La Mort à la dent de lion (The Dandelion Murders)
2005 アメリカ合衆国の旗 スティーヴン・W・フライ Délits d'initiés (The Insider)
2006 アメリカ合衆国の旗 グレッグ・ルッカ Traquée par son passé (A Fistful of Rain) わが手に雨を
2007 Philippe Kleinmann
Sigolène Vinson
Bistouri blues
2008 ジャック・ミリエズ L'Inconnue du musée de l'Homme 『人類博物館の死体』(香川由利子訳、ハヤカワ文庫NV、2009年)
2009 トルコの旗 Larif Marsik Tremblement de terre : Istanbul, 17 août 1999
2010 フランスの旗 David Agrech Deux mille kilomètres avec une balle dans le coeur
2011 ベルギーの旗 Patrick Weber L'aiglon ne manque pas d'aire
2012 フランスの旗 Patricia Parry Sur un lit de fleurs blanches

脚注

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  1. ^ 権田萬治「斬新なミステリー・ロマン」p.358-359より引用:「夏樹静子の長編推理小説『第三の女』は、(中略)フランス犯罪小説大賞を受賞した作品である。(中略)フランスの犯罪小説大賞は、もともとはPrix du Roman d'Aventuresという名称で、Roman d'Aventuresはそのまま訳すと、冒険小説である。そのため、これまではそのまま冒険小説大賞と訳されて来たが、心理サスペンス小説という意味が強いので、わかりやすく犯罪小説大賞とした。」
  2. ^ 権田萬治「斬新なミステリー・ロマン」p.359 参照。

参考文献

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  • 権田萬治「冒険小説大賞」権田萬治監修『海外ミステリー事典』新潮社、2000年、p.314
  • 権田萬治「斬新なミステリー・ロマン」(夏樹静子『第三の女 新装版』(2007年、光文社文庫)解説)

関連項目

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