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ゴンズイ (植物)

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ゴンズイ属から転送)
ゴンズイ
ゴンズイ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : アオイ類 malviids
: クロッソソマ目 Crossosomatales
: ミツバウツギ科 Staphyleaceae
: ミツバウツギ属 Staphylea
: ゴンズイ S. japonica
学名
Staphylea japonica (Thunb.) Mabb. (2017)[1]
シノニム
和名
ゴンズイ

ゴンズイ(権萃[3]学名: Euscaphis japonica) は、ミツバウツギ科ミツバウツギ属[注 1]に属する落葉小高木。山地に生える。秋に実る果実が真っ赤でよく目立ち、熟すと裂けて中から黒い種子を出す。

名称

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和名「ゴンズイ」の由来には諸説あり、判然としない。植物学者の清水建美 (1997) は以下の4説を挙げている[4]

  • 役に立たない魚のゴンズイになぞらえて、それと同様に材が役に立たないため。[3]
  • 熊野権現の守り札を付ける牛王杖(ごおうづえ)がなまったもの。この杖を本種で作ったため。
  • 赤い果実から真っ黒の種子が出るのが天人の「五衰の花」を思わせることから(中村浩の説)。
  • ミカン科の植物であるゴシュユに似ていることから(深津正の説)。

「日本の植物学の父」ともよばれる牧野富太郎 (1961) は魚のゴンズイ説を採り、本種にかつてニワウルシ(やはり役に立たない木)と混同されたことを根拠としてあげている[5]

なお、沖縄ではミハンチャギ[6]、ミィハジキー[7]などの方言名が伝わる。果実が裂けることに関するものと思われる。

中国名は「野鴉椿」[1]

分布と生育環境

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日本では本州関東地方茨城県)から富山県より西、四国九州琉球列島に産する[3][8]。日本国外では朝鮮南部、台湾北部、及び中国中部に分布する[9]。山地に自生し[3]、二次林や林縁部に生える[10]

特徴

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落葉広葉樹小高木[3][10]。高さは普通3 - 6メートル (m) だが[3][8]、時に10 mに達する[10]樹皮は紫黒色や黒緑色を帯びた灰褐色で、細長い割れ目状の皮目が縦に走って割れ目が入る[3][11]。樹皮の白い縦の筋は次第に黒っぽくなる[8]。一年枝は緑褐色や紫褐色で太く、無毛で白い線形の皮目がある[8]。普通は頂芽ができず、1対の仮頂芽から有花枝、あるいは無花枝を伸ばして成長する[10]。さらに側芽から枝を伸ばすことは少ない。有花枝は2 - 3対の葉と、先端に花序を付け、無花枝は2 - 3対の葉のみを付ける[10]

対生し、奇数羽状複葉で全体の長さは10 - 30センチメートル (cm) [3]、幅は6 - 12 cm。葉柄は長さ3 - 10 cmあり、複葉の軸とともに無毛[10]小葉の葉柄は、側小葉では長さ2 - 12ミリメートル (mm) 、頂小葉ではより長くて2 - 3 cm、短い毛がある[10]。時に頂小葉がない場合がある。小葉の葉身は狭卵形で、長さ4 - 9 cm[3]、幅2 - 5 cm、硬くて表面につやがあり、先端は尖り、基部は丸みを帯びるかやや広い楔形[10]。裏面の中脈や側脈の上に短い毛がある[10]葉縁には細かい鋸歯がある[3]。秋に紅葉するが、日当たりのよい木では、しばしば葉全体が濃い紫色になる[12]。これは、葉緑素の色素がなかなか抜けず、アントシアニンの赤い色素と重なって紫色に見える現象で、やがて緑色が抜ければ赤色や橙色になる[12]

花期は5 - 6月[3]。枝先から出る円錐花序は長さ15 - 20 cmで、よく分枝して多数のをつける[3]。花は淡黄緑色で、径4 - 5 mm[3]。花柄は長さ1 - 2 mm、萼裂片花弁はいずれも楕円形で長さ約2 mm[10]雄蕊雌蕊は花弁とほぼ同長、子房は2室ないし3室からなり、同数の柱頭花柱が互いに接着する[11]

果期は9 - 10月[3]果実袋果で半月形[9]、1つの花から1 - 3個生じ、長さ1 - 1.3 cmになる[10]。これは子房の心皮がその数だけに裂け、反り返ったものである[11]。果実の各部分は肉質で熟すると赤くなり[3]、鎌形に曲がって反転し、太い条がある。それが裂けると中から1 - 3個の種子が顔を出す[9]。裂けて見える子房の内側も鮮紅色で美しい[11]。種子はほぼ球形で径約5 mm、黒色で強い光沢がある[3]。また、種子は当初、赤い仮種皮に包まれている[13]。葉や実には臭気がある[9]

冬芽鱗芽で、芽鱗は暗紅紫色で2 - 4枚つく[8]。枝先に仮頂芽が2個、または1個つき、側芽は枝に対生する[8]。葉痕は半円形で、維管束痕が7 - 9個輪状に並ぶ[8]

分類

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本種は1種のみでゴンズイ属を成す。その所属するミツバウツギ科には伝統的には5属が含まれ、そのうち日本に産する3種のうち残り2種、ミツバウツギショウベンノキは、はそれぞれミツバウツギ属 Staphyleaショウベンノキ属 Turpina に含まれ、この3属をまとめてミツバウツギ亜科とする。AGPIIIではこの亜科をもってミツバウツギ科としている。そのうちショウベンノキ属は果実が肉質で裂開しない。ミツバウツギ属はやはり袋果を付け、裂開するが基部で互いに癒合して上部のみが開き、本属のように全部が裂けることはない。また本属では種子には仮種皮があるが、ミツバウツギ属ではそれがない[14]

種内変異としては以下のものがある[10]

  • E. japonica var. lanata:タネガシマゴンズイ
種子島に見られ、小葉の裏面に綿毛が一面にある。

また、果実が赤くならず白くなるものがまれにあり、これはシロゴンズイ f. eburnea とよばれる。

利用

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材は黄白色で、軽く柔らかいが割れにくい。材としての利用価値はない。キクラゲ栽培の原木には使える[15]。沖縄で枝をお祭りの際に使用したと言う[6][注 2]

庭園樹などとして栽培されることがある。若芽は食用になり、茹でてお浸しなどにされる[9]。中国では果実や種子を腹痛や下痢止めとして用いる[4]

脚注

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注釈

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  1. ^ 古いAPG体系などではゴンズイ属 (Euscaphis) に分類されていたが、2017年ミツバウツギ属 (Staphylea) に変更された[1]
  2. ^ どのような祭りかは不明

出典

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  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Staphylea japonica (Thunb.) Mabb. ゴンズイ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Euscaphis japonica (Thunb.) Kanitz ゴンズイ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 47.
  4. ^ a b 清水建美 (1997), p. 300
  5. ^ 牧野富太郎 (1961), p. 364
  6. ^ a b 池原直樹 (1979), p. 96
  7. ^ 天野鉄夫 (1982), p. 91
  8. ^ a b c d e f g 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 123
  9. ^ a b c d e 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 183.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l 佐竹義輔ほか (1989), p. 44
  11. ^ a b c d 北村四郎・村田源 (1971), p. 256
  12. ^ a b 林将之 2008, p. 61.
  13. ^ 初島住彦 (1975), p. 385
  14. ^ 佐竹義輔ほか (1989), p. 43
  15. ^ 天野鉄夫 (1982), p. 92

参考文献

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  • 天野鉄夫『琉球列島有用樹木誌』琉球列島有用樹木誌刊行会、1982年11月。 
  • 池原直樹『山地の植物』新星図書出版〈沖縄植物野外活用図鑑 第6巻〉、1979年12月。 
  • 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 木本編I』保育社〈保育社の原色図鑑 49〉、1971年11月。 
  • 佐竹義輔ほか 編『日本の野生植物 木本II』平凡社、1989年2月。ISBN 4-582-53505-4 
  • 清水建美「ゴンズイ」『朝日百科 植物の世界 3』朝日新聞社、1997年10月、300-303頁。ISBN 4-02-380010-4 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、123頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、47頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 初島住彦『琉球植物誌』(追加・訂正版)沖縄生物教育研究会、1975年。 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、183頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 牧野富太郎 著、前川文夫・原寛・津山尚 編『牧野新日本植物圖鑑』北隆館、1961年6月。