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「統合失調症」の版間の差分

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{{Infobox Disease
{{Infobox Disease
|Name = 統合失調症
|name = 統合失調症
|Image = Cloth embroidered by a schizophrenia sufferer.jpg
|Caption = 統合失調症患者によって施された刺繍
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}}
[[ファイル:Schizophrenia flowchart.jpg|代替文=|サムネイル|280x280ピクセル]]
[[ファイル:Schizophrenia flowchart.jpg|統合失調症の[[フローチャート]]。<br />遺伝的素因や環境や社会的・心理的な要因が重なり神経発達の異常や臨床的・神経生物学的な特徴が発生する。これにより脳の機能不全や化学的なバランスの崩れがおこり、統合失調症を発症する。|代替文=|サムネイル|280x280ピクセル]]
'''統合失調症'''(とうごうしっちょうしょう、{{lang-en|Schizophrenia}}、{{lang-de|Schizophrenie}}、[[略語|略]]: '''SZ''')は、証拠に反して信じている妄想、幻聴など五感の幻覚、混乱した思考や、陰性症状と呼ばれる活動性の低下といった症状の複数に合致する[[精神障害]]である<ref name="whofact"/>。一般に[[幻聴]]や[[幻覚]]、[[異常]]行動が見られる<ref name="whofact" />{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}。そうした症状が診断基準により、1か月や半年以上持続している。<!--出典は診断基準-->統合失調症患者の症状には、幻覚や妄想、会話や行動における統合喪失、突然興奮や大声などの'''陽性症状'''、周囲への無関心や意欲や集中力の低下といった'''陰性症状'''がある<ref>{{Cite web|和書|title=統合失調症 |url=https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-071.html |website=e-ヘルスネット 情報提供 |access-date=2023-09-15 }}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=ハートクリニック|こころのはなし |url=https://www.e-heartclinic.com/kokoro-info/special/tougou_2.html |website=www.e-heartclinic.com |access-date=2023-09-15}}</ref>。
'''統合失調症'''(とうごうしっちょうしょう)または'''スキゾフレニア'''({{lang-en|Schizophrenia}}、{{lang-fr|Schizophrénie}}、{{lang-de|Schizophrenie}}、{{lang-it|Schizofrenia}}、{{lang-da|Skizofreni}}、{{lang-es|Esquizofrenia}} '''SZ''')は、思考、知覚、感情、言語、自己の感覚、および行動における他者との歪みによって特徴付けられる症状を持つ[[精神障害]]の一つ<ref name="whofact" />である。


一般的に[[幻聴]]や[[幻覚]]、異常行動が見られるが<ref name="whofact" />{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}、患者によって症状のスペクトラムは多様である。[[エミール・クレペリン]]、[[オイゲン・ブロイラー]]、[[クルト・シュナイダー]]が共通して指摘した、当該疾患の特徴的で頻発する症状は「思考途絶(連合障害)」と「思考化声(自生思考)」である。[[日本]]では[[2002年]][[平成]]14年)まで、'''精神分裂病'''(せいしんぶんれつびょう)と呼称されていた<ref name="EB">{{Citation|和書|title=統合失調症|journal=ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典|publisher=[[コトバンク]]|accessdate=2018-06-30|url=https://kotobank.jp/word/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87-177616#E3.83.96.E3.83.AA.E3.82.BF.E3.83.8B.E3.82.AB.E5.9B.BD.E9.9A.9B.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E4.BA.8B.E5.85.B8.20.E5.B0.8F.E9.A0.85.E7.9B.AE.E4.BA.8B.E5.85.B8}}</ref>。
日本では2002年(平成14年)まで、'''精神分裂病'''(せいしんぶんれつびょう)という呼称だったが、現在の統合失調症へと改訂された<ref name="EB">{{Cite encyclopedia|df=ja|title=統合失調症|encyclopedia=ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典|publisher=[[コトバンク]]|accessdate=2018-06-30|url=https://kotobank.jp/word/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87-177616#E3.83.96.E3.83.AA.E3.82.BF.E3.83.8B.E3.82.AB.E5.9B.BD.E9.9A.9B.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E4.BA.8B.E5.85.B8.20.E5.B0.8F.E9.A0.85.E7.9B.AE.E4.BA.8B.E5.85.B8}}</ref>。統合失調症は'''統合失調症スペクトラム障害'''の一つであり、症状が進行しやすい{{Sfn|糸川|2018|pp=10-11}}。[[後天性|後天的]]に[[思春期]]以降に発症することが多く、性別では男性のほうが早い傾向にある<ref name="whofact"/>。様々な効果的な治療法があり、15年以上の追跡調査では、少なくとも3分の1の人は完全に[[治癒|寛解]]する<ref name="whofact">"[https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/schizophrenia Schizophrenia]" [[世界保健機関]]、10 January 2022. 2024年9月11日閲覧。</ref>。


== 概要 ==
<!-- 原因 -->
統合失調症は、[[精神病理学]]あるいは臨床単位上の[[精神障害]]の診断統計カテゴリーの一つである。この疾患群は、自閉症状と連合障害(認知障害)を基礎疾患とする複数の脳代謝疾患群と考えられている。各症状が同根の[[神経科学|神経生物学]]的基礎を有するか否かは、現在のところ不明である。発症のメカニズムや根本的な原因は解明されておらず、また、単一の疾患ではない可能性が指摘されており、[[病気#疾患・疾病・病気と「症候群」|症候群]]である可能性がある{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.1}}。様々な仮説が提唱されているが、未だに決定的な定説が確立されていない{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.1}}。
<!--患者によって状のスペクトラム多様である。精神病の権威である[[エミール・クレペリン]]、[[オイゲンブロイラ]]、[[クルト・シュナイダー]]が共通して指摘した、当該[[病気|疾患]]特徴的で頻発する症状は「思考途絶(連合障害)」と「思考化声(自生思考)」である。--><!-- 原因 --><!--自閉症状と連合障害(認知障害)を基礎疾患とする複数の[[]][[代謝]]疾患群と考えられている。各症状が同根の[[神経科学|神経生物学]]的基礎を有するか否かは、現在のところ不明である。-->発症のメカニズムや根本的な原因は解明されておらず、また、単一の疾患ではない可能性が指摘されており、[[症候群]]である可能性がある{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.1}}。様々な[[仮説]]が提唱されているが、未だに決定的な定説が確立されていない{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.1}}。


<!-- 疫学 -->
<!-- 疫学 -->
有病者の人数は世界で2,100万人(男性1,200万人、女性900万人)ほどで、患者の死亡率は一般人口より2.0 - 2.5倍ほど高い<ref name="whofact">{{Cite web|publisher=世界保健機関 |title=Schizophrenia - Factsheet |url=http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs397/en/ |date=2014-08 |accessdate=2015-08-01}}</ref>{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.4.1}}。成人年間有病率は0.1 - 7.5%、生涯有病率は0.1 - 1.8%と[[世界保健機関]]は報告している{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.1}}。世界の[[障害調整生命]]({{en|DALY}})のうち約1%を占める{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.4.5}}。日本では71万3千人の患者がいると推計されている<ref>{{Cite web|url=https://www.lilly.co.jp/_Assets/pdf/schizophrenia-detail.pdf|title=統合失調症について|accessdate=2018年5月9日|publisher=}}</ref>。精神疾患として深刻なもの(Severe mental disorder)とされるが、治療が可能な病気である。しかし、患者の2に1人は受診につながっていない<ref name="whofact" />。こ疾患の担当診療科は[[精神科]]であり<ref>[http://www.kmu.ac.jp/hirakata/visithing/search/sikkansyousai/d06-002.html 統合失調症 - 関西医科大学付属枚方病院]</ref>、[[精神科医]]が治療に当たる。世界保健機関は、低所得国および中所得国を対象とた計画であ {{en|Mental Health Gap Action Programme (mhGAP)}} <ref>[http://www.who.int/mental_health/mhgap/en/ WHO Mental Health Gap Action Programme (mhGAP)]</ref>を策定し、[[クリニカルパス]]び[[診療ガイドライン]]を作成、公開している<ref name="whofact" />{{Sfn|世界保健機関|2010}}。
有病者の人数は世界では2300万人ほどで<ref>[https://jp.reuters.com/article/health-mental-global-idJPKCN1MK0LY 世界で精神疾患が増加、2030年までに16兆ドル損失も=研究] ロイター 2018年10月10日配信 2022年4月11日閲覧</ref>、日本では71万3千人の患者がいると推計されている<ref>{{Cite web2|df=ja|url=https://www.lilly.co.jp/_Assets/pdf/schizophrenia-detail.pdf|title=統合失調症について|accessdate=2018年5月9日|publisher=|format=PDF}}</ref>。人の年間[[有病割合|有病率]]は0.1から7.5%、生涯有病率は0.1から1.8%と[[世界保健機関]](WHO)報告ている{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.1}}。患者の[[死亡率]]は、一般人口り2.0から2.5倍ほど高く<ref name="whofact"/>{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.4.1}}、世界の[[障害調整生命年]](DALY)のうち約1%を占める{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.4.5}}。


精神疾患として深刻なもの ({{en|Severe mental disorder}}) とされるが、治療が可能な病気である(具体的な治療法については「[[#治療]]」を参照)。この疾患の担当診療科は[[精神科]]であり<ref>[http://www.kmu.ac.jp/hirakata/visithing/search/sikkansyousai/d06-002.html 統合失調症] 関西医科大学付属枚方病院</ref>、[[精神科医]]が治療に当たる。
{{TOC limit|3}}

罹患者の90%は低所得国および中所得国に居住している<ref>{{Cite thesis|和書|author=江口里加 |url=https://hdl.handle.net/2324/2236169 |title=統合失調症の共変量としての増悪因子に関する解析 |volume=九州大学 |series=博士(臨床薬学) 17102甲第14480号 |year=2019 |hdl=2324/2236169 |id={{naid|500001355749}}}}</ref>。世界保健機関は、低所得国および中所得国を対象とした計画である世界精神保健アクションプログラム (mhGAP) <ref>[https://www.who.int/teams/mental-health-and-substance-use/treatment-care/mental-health-gap-action-programme Mental Health Gap Action Programme(mhGAP)] WHO 2022年4月20日閲覧。</ref><ref>[https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/gcoe/activities/meeting/20081009_j.html 海外学会参加報告] 長崎大学 2022年4月20日閲覧。</ref>を策定し、[[クリニカルパス]]および[[診療ガイドライン]]を作成、公開している<ref name="whofact" />{{Sfn|世界保健機関|2010}}。

== 統合失調症スペクトラム障害 ==
以下はより新しいDSM-5の診断基準だが、以前のDSM-IVの基準は[[#診断基準]]を参照。

「統合失調症スペクトラム障害」{{Sfn|橋本|安田|大井|福本|2010|p=53}}、または「統合失調症スペクトラム」{{Sfn|糸川|2018|p=10}}、「統合失調スペクトラム」{{Sfn|加藤|2012|p=56}}とは、「統合失調症およびそれに連続する[[障害]]や[[病気]]のまとまり」を指す医学用語{{Sfn|糸川|2018|p=10}}。[[精神障害の診断と統計マニュアル#DSM-5_(2013年)|DSM-5]](『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版)で定義された診断基準である{{Sfn|糸川|2018|p=10}}。

統合失調症スペクトラム障害の中心は、次の5つの症状である{{Sfn|糸川|2018|pp=10-11}}。
# 「[[妄想]]」{{Sfn|糸川|2018|p=10}}
# 「[[幻覚]]」{{Sfn|糸川|2018|p=10}}
# 「[[統合失調症#思考の障害|思考障害]]」{{Sfn|糸川|2018|p=10}}
# 「[[行動障害|まとまりのない行動]]」{{Sfn|糸川|2018|p=10}}
# 「[[#陰性症状]]」{{Sfn|糸川|2018|p=10}}

現れた症状の数や重症度によって、診断名は次のようになる{{Sfn|糸川|2018|pp=10-11}}。
{|class="wikitable" style="width: 100%; word-break: break-all; word-wrap: break-all;"
|-
! style="width: 15%;" | 大分類<br>(上位診断名)
! 小分類<br>(下位診断名)
! 症状
! 期間
|-
| rowspan="6" style="text-align:center;" | '''統合失調症スペクトラム障害'''
| '''統合失調症'''
| 5症状のうち2つ以上が現れており、かつ、それらのうち最低1つは妄想・幻覚・思考障害のどれか
| 6か月以上
|-
| [[統合失調感情障害]]
| 統合失調症と共に、[[うつ病]]や[[躁病]]が現れる(※事例としては少ない)
| (特に無し)
|-
| 統合失調症様障害
| 5症状のうち2つ以上が現れている
| 1か月以上6か月未満
|-
| 短期[[精神病性障害]]
| 陰性症状を除いた4症状のうち1つ以上が現れている
| 1日以上1か月未満
|-
| [[妄想性障害]]
| 妄想だけが現れている
| 1か月以上
|-
| [[統合失調型パーソナリティ障害]](STPD)
| 対人関係での苦手さ、風変わりな行動など
| [[成人期]]になるまで徐々に
|}

また精神医学論文では、[[スキゾイドパーソナリティ障害]](SPD、統合失調質パーソナリティ障害)も、統合失調症スペクトラム障害の一種として分類されることがある{{Sfn|橋本|安田|大井|福本|2010|p=53}}{{Sfn|加藤|2012|p=56}}。『[[メルク・アンド・カンパニー#MSDマニュアル|MSDマニュアル]]』<!--DSMではない-->では「シゾイド{{Interp|スキゾイド|原文では「シゾイドパーソナリティ障害は, … 」|和文=1}}パーソナリティ障害は,統合失調症または[[統合失調型パーソナリティ障害]]の[[病歴|家族歴]]がある人々でより多くみられる場合がある」とされている{{Sfn|Choi-Kain|2018a|p=「シゾイドパーソナリティ障害(ScPD)」}}。スキゾイドパーソナリティ障害にはしばしば[[併存症]]があり、それは例えば統合失調型パーソナリティ障害やうつ病などである{{Sfn|Choi-Kain|2018a|p=「シゾイドパーソナリティ障害(ScPD)」}}。


== 定義 ==
== 定義 ==
{{See also|精神障害#定義}}
{{See also|精神障害#定義}}
精神医学的[[障害#医学用語|障害]]の一種である。現在の統合失調症の定義は妄想・幻覚といった[[ヒト]]特有の高次脳機能(心理症候){{Efn|高次脳機能は、知覚、記憶、学習、思考、判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能の総称<ref>[https://www.normanet.ne.jp/~RPA/index2_1.html 高次脳機能障害とは] リハビリテーション心理職会 2022年4月23日閲覧。</ref>。}}に全て依存している<ref name="niigata">[https://www.bri.niigata-u.ac.jp/research/column/000121.html 統合失調症研究の今] 新潟大学脳研究所 2022年4月23日閲覧。</ref>。
精神医学的障害の一種である。


1899年、[[エミール・クレペリン]]は、感情の欠如、奇妙な歩行、筋けいれんを呈し、[[痴呆]]へと至る患者を「[[早発性痴呆]]」と記述した<ref name="RW134136">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=90-91}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=134-136}}</ref>。
1899年、[[エミール・クレペリン]]は、感情の欠如、奇妙な歩行、筋痙攣(きんけいれん)などを呈し、痴呆<ref group="注釈">ここでいう痴呆は、[[認知症]]とは全く異なり、当時、精神の不調全般に使われていた用語である。</ref>へと至る患者を「[[早発性痴呆]]」と記述した<ref name="RW134136">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=90-91}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=134-136}}</ref>。


1908年、[[オイゲン・ブロイラー]]が「schizophrenia」と名付けた<ref name="RW134136"/>。
1908年、[[オイゲン・ブロイラー]]が「schizophrenia」と名付けた<ref name="RW134136"/>。


1917年、[[w:Constantin von Economo|コンスタンチン・フォン・エコノモ]]が「{{仮リンク|嗜眠性脳炎|en|Encephalitis lethargica}}」を記述し、「schizophrenia」から「嗜眠性脳炎」が除外された<ref name="RW134136"/>。
1917年、{{ill|コンスタンチン・フォン・エコノモ|en|Constantin von Economo}}が「[[嗜眠性脳炎]]」を記述し、「schizophrenia」から「嗜眠性脳炎」が除外された<ref name="RW134136"/>。


1920年代&#x301C;30年代、精神医学の教科書の記述が変化した<ref name="RW134136"/>。従来の身体症状が全て削除され、幻覚、妄想の精神症状が残った<ref name="RW134136"/>。
1920年代&#x301C;30年代、精神医学の教科書の記述が変化した<ref name="RW134136"/>。従来の身体症状が全て削除され、幻覚、妄想などの精神症状が残った<ref name="RW134136"/>。


1937年、[[日本精神神経学会]]は、同学会における用語を「精神分裂病」とした<ref name="EB" />。
1937年、[[日本精神神経学会]]は、同学会における用語を「精神分裂病」とした<ref name="EB" />。


1968年、[[DSM-II]]の前文は最善は尽くしましたが、([[アメリカ精神医学会]]の)委員会はこの[[障害#精神医学用語としての「障害(Disorder)」|障害]]について合意を得ることができませんでした。合意できたのは診断名だけです{{refnest|group="注"|原文: “Even if it had tried, the Committee could not establish agreement about what this disorder is; it could only agree on what to call it.” <ref name="SM20111030"/><ref name="RA20130224"/>}}」(ix頁)としている<ref name="SM20111030">{{Citation|last=Staub|first=Michael|date=October 30, 2011|year=2011|title=[http://www.google.co.jp/search?hl=ja&tbo=p&tbm=bks&q=isbn:0226771490 Madness Is Civilization: When the Diagnosis Was Social, 1948-1980]|publisher=University of Chicago Press|page=181|isbn=978-0226771472}}</ref><ref name="RA20130224">{{Citation|last1=Rose|first1=Nikolas|last2=Abi-Rached|first2=Joelle M.|date=February 24, 2013|year=2013|title=[http://books.google.co.jp/books?isbn=1400846331 Neuro: The New Brain Sciences and the Management of the Mind]|publisher=Princeton University Press|pages=118-119|isbn=978-0691149608}}</ref>。
1968年、[[精神障害の診断と統計マニュアル#DSM-II_(1968年)|DSM-II]]の前文は最善は尽くしましたが、([[アメリカ精神医学会]]の)委員会はこの障害について合意を得ることができませんでした。合意できたのは診断名だけです{{Efn|原文: “Even if it had tried, the Committee could not establish agreement about what this disorder is; it could only agree on what to call it.” <ref name="SM20111030"/><ref name="RA20130224"/>}}」としている。<ref group="注釈">ix頁の記述。</ref><ref name="SM20111030">{{Cite book2|df=ja|last=Staub|first=Michael|date=October 30, 2011|year=2011|url=https://www.google.co.jp/search?hl=ja&tbo=p&tbm=bks&q=isbn:0226771490|title=Madness Is Civilization: When the Diagnosis Was Social, 1948-1980|publisher=University of Chicago Press|page=181|isbn=978-0226771472}}</ref><ref name="RA20130224">{{Cite book2|df=ja|last1=Rose|first1=Nikolas|last2=Abi-Rached|first2=Joelle M.|date=2013-02-24|url=https://books.google.co.jp/books?isbn=1400846331 |title=Neuro: The New Brain Sciences and the Management of the Mind|publisher=Princeton University Press|pages=118-119|isbn=978-0691149608}}</ref>。


1980年、[[DSM-III]]は「精神分裂病の概念の範囲は曖昧です{{refnest|group="注"|原文: “The limits of the concept of Schizophrenia are unclear” <ref name="CD200310"/><ref name="LSSAND"/>}}」(181頁)としている<ref name="CD200310">{{Citation|last=Castellano-Hoyt|first=Donald|date=October, 2003|year=2003|title=Enhancing Police Response to Persons in Mental Health Crisis: Providing Stratergies, Communication Techniques, and Crisis Intervention Preparation in Overcoming Institutional Challenges|publisher=Charles C Thomas Pub Ltd|page=45|isbn=978-0398074166}}</ref><ref name="LSSAND">Lawrence Stevens「[http://www.antipsychiatry.org/schizoph.htm SCHIZOPHRENIA A Nonexistent Disease]」反精神医学連合、2013年7月11閲覧。</ref>。また、精神障害の基本概念に関して、「精神分裂病患者(a schizophrenic)」という人間を分類する表現は誤解を招くため、「精神分裂病を有する人(an individual with Schizophrenia)」というぎこちないがより正確な表現を採用すると説明している<ref name="APA1980">{{harvnb|American Psychiatric Association|1980|pp=5-6}}.</ref>。DSM-III-R(1987年)、DSM-IV(1994年)、DSM-IV-TR(2000年)にも同説明がある<ref name="APA1980"/><ref>{{harvnb|American Psychiatric Association|1987|pp=xxii-xxiii}}.</ref><ref name="APA1994">{{harvnb|American Psychiatric Association|1994|pp=xxi-xxii}}.</ref><ref name="APA2000">{{harvnb|American Psychiatric Association|2000|pp=xxx-xxxi}}.</ref>。精神分裂病患者(schizophrenics)が存在するのではなく、精神分裂病(schizophrenic disorder)の診断基準を満たす症状を有する人々がいるだけである<ref>{{Citation|author=Elliot Valenstein|date=October 5, 1998|year=1998|title=Blaming the Brain: The Truth About Drugs and Mental Health|publisher=Free Press|page=159|isbn=978-0684849645}}.(翻訳書は {{Citation|和書|author=[[エリオット・ヴァレンスタイン]]|others=功刀浩監訳、中塚公子訳|date=2008-2-22|title=精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構|publisher=[[みすず書房]]|page=211|isbn=978-4622073611}})</ref><ref name="APA1994"/><ref name="APA2000"/>。
1980年、[[精神障害の診断と統計マニュアル#DSM-III_(1980年)|DSM-III]]は「精神分裂病の概念の範囲は曖昧です{{Efn|原文: “The limits of the concept of Schizophrenia are unclear” <ref name="CD200310"/><ref name="LSSAND"/>}}」としている<ref group="注釈">181頁の記述。</ref><ref name="CD200310">{{Cite book2|df=ja|last=Castellano-Hoyt|first=Donald|year=2003|title=Enhancing Police Response to Persons in Mental Health Crisis: Providing Stratergies, Communication Techniques, and Crisis Intervention Preparation in Overcoming Institutional Challenges|publisher=Charles C Thomas Pub Ltd|page=45|isbn=978-0398074166}}</ref><ref name="LSSAND">Lawrence Stevens「[http://www.antipsychiatry.org/schizoph.htm SCHIZOPHRENIA A Nonexistent Disease]」反精神医学連合、2013年7月11閲覧。</ref>。また、精神障害の基本概念に関して、「精神分裂病患者 (a schizophrenic) 」という人間を分類する表現は誤解を招くため、「精神分裂病を有する人 (an individual with Schizophrenia) 」というぎこちないがより正確な表現を採用すると説明している<ref name="APA1980">{{harvnb|American Psychiatric Association|1980|pp=5-6}}.</ref>。[[精神障害の診断と統計マニュアル#DSM-III-R_(1987年)|DSM-III-R]](1987年)、[[精神障害の診断と統計マニュアル#DSM-IV_(1994年)|DSM-IV]](1994年)、[[精神障害の診断と統計マニュアル#DSM-IV-TR_(2000年)|DSM-IV-TR]](2000年)にも同様の説明がある<ref name="APA1980"/><ref>{{harvnb|American Psychiatric Association|1987|pp=xxii-xxiii}}.</ref><ref name="APA1994">{{harvnb|American Psychiatric Association|1994|pp=xxi-xxii}}.</ref><ref name="APA2000">{{harvnb|American Psychiatric Association|2000|pp=xxx-xxxi}}.</ref>。精神分裂病患者 (schizophrenics) が存在するのではなく、精神分裂病 (schizophrenic disorder) の診断基準を満たす症状を有する人々がいるだけである。<ref name="APA1994"/><ref name="APA2000"/><ref>{{Cite book2|df=ja|author=Elliot Valenstein|date=October 5, 1998|year=1998|title=Blaming the Brain: The Truth About Drugs and Mental Health|publisher=Free Press|page=159|isbn=978-0684849645}}.(翻訳書は {{Cite book ja|author=[[エリオット・ヴァレンスタイン]]|others=功刀浩監訳、中塚公子訳|date=2008-2-22|title=精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構|publisher=[[みすず書房]]|page=211|isbn=978-4622073611}})</ref>。


1987年、[[DSM-III-R]]は「精神分裂病に限っては、単一の特徴をいつも示さなかったり、生じないことに注意すべきです{{refnest|group="注"|原文: “It should be noted that no single feature is invariably present or seen only in Schizophrenia”<ref name="CD200310"/><ref name="LSSAND"/>}}」(188頁)としている<ref name="CD200310"/><ref name="LSSAND"/>。
1987年、DSM-III-Rは「精神分裂病に限っては、単一の特徴をいつも示さなかったり、生じないことに注意すべきです{{Efn|原文: “It should be noted that no single feature is invariably present or seen only in Schizophrenia”<ref name="CD200310"/><ref name="LSSAND"/>}}」としている<ref group="注釈">188頁の記述。</ref><ref name="CD200310"/><ref name="LSSAND"/>。


1988年、[[ニューヨーク州立大学]]の[[トーマス・サズ]]博士は「精神分裂病はとても曖昧に定義されています。実のところ、話し手気に入らない行動のほとんど全てにしばしば適用される用語です{{refnest|group="注"|原文: “Schizophrenia is defined so vaguely that, in actuality, it is a term often applied to almost any kind of behavior of which the speaker disapproves.” <ref name="TS198803">{{Citation|author=Thomas Szasz|date=March, 1988|year=1988|title=[http://books.google.co.jp/books?isbn=0815602243 Schizophrenia: The Sacred Symbol of Psychiatry]|publisher=Syracuse University Press|page=87|isbn=978-0815602248}}</ref>}}」と述べている<ref name="TS198803"></ref>。
1988年、[[ニューヨーク州立大学]]の{{仮リンク|トーマス・サズ|en|Thomas Szasz}}博士は「精神分裂病はとても曖昧に定義されています。実のところ、話し手にとって気に入らない行動のほとんど全てにしばしば適用される用語です{{Efn|原文: “Schizophrenia is defined so vaguely that, in actuality, it is a term often applied to almost any kind of behavior of which the speaker disapproves.” <ref name="TS198803">{{Cite book2|df=ja|author=Thomas Szasz|year=1988|url=https://books.google.co.jp/books?isbn=0815602243 |title=Schizophrenia: The Sacred Symbol of Psychiatry|publisher=Syracuse University Press|page=87|isbn=978-0815602248}}</ref>}}」と述べている<ref name="TS198803" />。


1990年、{{仮リンク|メアリー・ボイル|en|Mary Boyle (psychologist)}}は、精神分裂病の指示対象について、「徐々に変化し、この診断名が最終的には、クレペリンの症状と表面的にもほとんど類似点がない集団に適用されるようになった{{refnest|group="注"|原文: “gradually changed until the diagnosis came to be applied to a population who bore only a slight, and possibly superficial, resemblance to Kraepelin's.” <ref name="RW134136"/>}}」と述べている<ref name="RW134136"/>。
1990年、{{仮リンク|メアリー・ボイル|en|Mary Boyle (psychologist)}}は、精神分裂病の指示対象について、「徐々に変化し、この診断名が最終的には、クレペリンの症状と表面的にもほとんど類似点がない集団に適用されるようになった{{Efn|原文: “gradually changed until the diagnosis came to be applied to a population who bore only a slight, and possibly superficial, resemblance to Kraepelin's.” <ref name="RW134136"/>}}」と述べている<ref name="RW134136"/>。


1994年、著名な精神分裂病研究者{{refnest|group="注"|2000年に生物科学分野で[[アメリカ国家科学賞]]を受賞している<ref>{{Cite web|title=The President's National Medal of Science: Recipient Details: Nancy C. Andreasen|publisher=[[National Science Foundation]]|accessdate=2014-06-05|url=http://www.nsf.gov/od/nms/recip_details.jsp?recip_id=20}}</ref>。}}である[[ナンシー・C・アンドレアセン]]博士は、何が精神分裂病なのか分からないと認めており、「[[ヨーロッパ]]の人々は、誰が本当に精神分裂病を持っているのか、何が本当の精神分裂病なのか、理解することによって、アメリカの科学の一助となる{{refnest|group="注"|原文: “Europeans can save American science by helping us figure out who really has schizophrenia or what schizophrenia really is.” <ref name="TS20080901"/><ref name="NA19941001"/><ref name="NA20061207"/>}}」と述べている<ref name="TS20080901">{{Citation|author=Thomas Szasz|date=September 1, 2008|year=2008|title=Psychiatry: The Science of Lies|publisher=Syracuse University Press|page=14|isbn=978-0815609100}}</ref><ref name="NA19941001">{{cite journal|author=Nancy C. Andreasen|date=October 1, 1994|title=[http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=170594 Changing concepts of schizophrenia and the ahistorical fallacy]|journal=[[w:American Journal of Psychiatry |American Journal of Psychiatry]]| volume=151|issue=10|pages=1405-1407|pmid=8092333}}</ref><ref name="NA20061207">{{cite journal|author=Nancy C. Andreasen|year=2007|title=DSM and the Death of Phenomenology in America: An Example of Unintended Consequences|journal=[[w:Schizophrenia Bulletin|Schizophrenia Bulletin]]|publisher=Oxford University Press|volume=33|issue=1|pages=108-112|doi=10.1093/schbul/sbl054}} First published online: December 7, 2006.</ref>。
1994年、著名な精神分裂病研究者{{Efn|2000年に生物科学分野で[[アメリカ国家科学賞]]を受賞している<ref>{{Cite web2|df=ja|title=The President's National Medal of Science: Recipient Details: Nancy C. Andreasen|publisher=[[National Science Foundation]]|accessdate=2014-06-05|url=http://www.nsf.gov/od/nms/recip_details.jsp?recip_id=20}}</ref>。}}である[[ナンシー・C・アンドレアセン]]は、何が精神分裂病なのか分からないと認めており、「[[ヨーロッパ]]の人々は、誰が本当に精神分裂病を持っているのか、何が本当の精神分裂病なのか、理解することによって、アメリカの科学の一助となる{{Efn|原文: “Europeans can save American science by helping us figure out who really has schizophrenia or what schizophrenia really is.” <ref name="TS20080901"/><ref name="NA19941001"/><ref name="NA20061207"/>}}」と述べている<ref name="TS20080901">{{Cite book2|df=ja|author=Thomas Szasz|date=September 1, 2008|year=2008|title=Psychiatry: The Science of Lies|publisher=Syracuse University Press|page=14|isbn=978-0815609100}}</ref><ref name="NA19941001">{{cite journal|author=Nancy C. Andreasen|date=October 1, 1994|title=[http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleID=170594 Changing concepts of schizophrenia and the ahistorical fallacy]|journal=[[:en:American Journal of Psychiatry|American Journal of Psychiatry]]| volume=151|issue=10|pages=1405-1407|pmid=8092333}}</ref><ref name="NA20061207">{{cite journal|author=Nancy C. Andreasen|year=2007|title=DSM and the Death of Phenomenology in America: An Example of Unintended Consequences|journal=[[:en:Schizophrenia Bulletin|Schizophrenia Bulletin]]|publisher=Oxford University Press|volume=33|issue=1|pages=108-112|doi=10.1093/schbul/sbl054 | issn=0586-7614}} First published online: December 7, 2006.</ref>。


2002年、日本精神神経学会は、「精神分裂病」には差別的な意味合いがるとして同学会における用語を「統合失調症」に変更した<ref name="EB"/>。
2002年、日本精神神経学会は、「精神分裂病」には[[差別]]的な意味合いが包含されているとして同学会における用語を「統合失調症」に変更した<ref name="EB"/>。

2014年、アメリカ精神医学会が、[[精神障害の診断と統計マニュアル#DSM-5_(2013年)|DSM-5]]を発行し、DSM-IVにより画期的に明確化された診断基準を受け継ぎ、5つの統合失調症の特徴を示した。すなわち、以下の症状のうち、少なくとも2つがおのおの1か月以上症状として継続して示すものを、統合失調症として、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群の一領域と定義した。
# 妄想
# 幻覚
# まとまりのない思考(発語)
# ひどくまとまりのない、または異常な運動行動(緊張病を含む)
# 陰性症状


== 症状 ==
== 症状 ==
統合失調症に共通する症状は、[[思考]]や行動、[[感情]]がまとまりにくくなることである<ref>[https://www.jspn.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=79 統合失調症とは何か]</ref>。自閉や連合障害からくる脳の疲弊によって、一部の患者では幻覚や妄想を発症する頻度が少なくない。また社会的または職業的機能の低下つまりは、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している場合がある<ref>[https://www.jspn.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=79 統合失調症とは何か]</ref>。[[認知]]、[[情動]]、意欲、行動、自我意識など、多彩な精神機能の障害が見られる。大きく陽性症状と陰性症状の二つが挙げられ、他にその他の症状に分けられる{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}。全ての患者が全ての症状を呈するのでないことに注意が必要である。[[WHO]]による国際的予備研究によれば、最も多く見られる症状は幻聴または関係念慮であり、患者の約70%に認められた{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}。
統合失調症に共通する症状は、[[思考]]や行動、[[感情]]がまとまりにくくなることである<ref name="whatsz">[https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=59 統合失調症とは何か] 日本精神神経学会</ref>。自閉や連合障害からくる[[大]]の疲弊によって、一部の患者では[[妄想]]や[[幻覚]]を発症する頻度が少なくない。また社会的または職業的機能の低下つまりは、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している場合がある<ref name="whatsz"/>。[[認知]]、[[情動]]、意欲、行動、[[自我]]意識など、多彩な精神機能の障害が見られる。大きく陽性症状と陰性症状の二つが挙げられ、他にその他の症状に分けられる{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}。全ての患者が全ての症状を呈するのでないことに注意が必要である。WHOによる国際的予備研究によれば、最も多く見られる症状は幻聴または関係念慮であり、患者の約70%に認められた{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}。


=== 陽性症状 ===
=== 陽性症状 ===
陽性症状(Positive symptoms)とは、おおよそ急性期に生じるもの。[[妄想]][[幻覚]]などが特徴的である{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}。
陽性症状 (Positive symptoms) とは、おおよそ急性期に生じるもの。妄想や幻覚などが特徴的である{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}。


==== 思考の障害 ====
==== 思考の障害 ====
思考過程の障害と思考内容の障害に分けられる。総合的に診て[[自閉症]]と重複し、誤診されることもたびたびある。統合失調症の最大の特徴はこの[[自我]]意識面での思考の障害であるとされる。
思考過程の障害と思考内容の障害に分けられる。統合失調症の最大の特徴はこの自我意識面での思考の障害であるとされる。総合的に診断して[[自閉症]]と重複し、誤診されることもたびたびある。

===== 思考過程の障害 =====
===== 思考過程の障害 =====
集中能力の喪失:テレビを視聴したり、新聞記事を読むことが困難となる<ref name="nhs" />。
* 話せない状況:思考に割り込まれると神経過敏や[[抑うつ|鬱]]状態になり、考えが押し潰されて、まとまらない話になってしまう。思考が潰れることで今までやってきたことは何だったのかという自己喪失に陥る。
* 的外れな応答:他人の質問に対し、的外れな答えを返すことがある。周囲の人間から、話をよく聞いていない人物と見なされることがある。<!--自分が自分がという自己主張をしてこなかったため、その点で満足していないのでとにかくまわりよりも自分なのである。-->
* 集中能力の喪失:テレビを視聴したり、新聞記事を読むことが困難となる<ref name="nhs" />。
*異常なほどの思考・神経機能の使い過ぎ:思考や神経の安定性・リラクゼーションが保たれず、絶えず考え・思考が浮かんでくると訴える自生思考や相手に自分の考えが知れ渡っていると解釈し思い込ませられる思考伝播、自他の境界が曖昧になる境界障害などの通常ならばあってはならない思考によって障害・邪魔されるため、時間に関係なく睡眠が安心して落ち着いて普通にできなかったり、食物を食べても、思考や神経に栄養が奪われて、結果的に食べても体重が太れないといった、体重の劇的な痩せや減量、顔の頬がすぐにこける、頭髪の細毛化、薄毛状態が引き起こされるケースもある。
: 抗精神病薬の服用によって、そうした敏感な熱思考状態や神経の過度の使い過ぎ状態が、いくぶん緩和し落ち着くこともある。
: 統合失調症は、単なる思考機能・神経の使い過ぎから起こる[[神経症]]レベルで説明がつくほど、単純な疾患ではない。重度の神経症・神経障害と同等レベルで解釈できるか否かは、区別の判断が微妙で困難極まるものがある。勿論、統合失調症患者の精神症状と、強迫神経障害患者の神経症状とを比べた時、前者の方がはるかに症状が複雑で重いとされる、今日の医学的な考え方・見解が、肯定・是認できうるものと言える。


===== 思考内容の障害(妄想) =====
===== 思考内容の障害(妄想) =====
{{Anchors|妄想}}
{{Anchors|妄想}}
[[File:Little Miss Muffet 2 - WW Denslow - Project Gutenberg etext 18546.jpg|thumb|right|被害妄想]]
[[妄想]] (Delusions) とは、客観的に見て物理的にありえないことを事実だと完全に信じていること{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}<ref name="nhs" />。以下のように分類される。
[[妄想]] (Delusions) とは、客観的に見て物理的にありえないことを事実だと完全に信じていること{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}<ref name="nhs" />。以下のように分類される。


* [[被害妄想]]:「近所の住民に嫌がらせをされる」「通行人がすれ違いざまに自分に悪口を言う」「自分の体臭を他人が悪臭だと感じている」などと思い込む<ref name="nhs" />。
* [[被害妄想]]:「近所の住民に嫌がらせをされる」「通行人がすれ違いざまに自分に悪口を言う」「自分の体臭を他人が悪臭だと感じている」などと思い込む<ref name="nhs" />。
* 関係妄想:周囲の出来事を全て自分に関係付けて考える。「あれは悪意の仄めかしだ」「自分がある行動をするたびに他人が攻撃をしてくる」などと思い込む。
* [[関係妄想]]:周囲の出来事を全て自分に関係付けて考える。「あれは悪意の仄(ほの)めかしだ」「自分がある行動をするたびに他人が攻撃をしてくる」などと思い込む。
* 注察妄想:常に誰かに見張られていると思い込む<ref name="nhs" />。「近隣住民が常に自分を見張っている」「盗聴器で盗聴されている」「思考盗聴されている」「カメラで監視されている」などと思い込む。
* 注察妄想:常に誰かに見張られていると思い込む<ref name="nhs" />。「近隣住民が常に自分を見張っている」「盗聴器で[[盗聴]]されている」「思考盗聴されている」「カメラで監視されている」などと思い込む<ref name=kasuga3>{{Cite |和書|title=援助者必携 はじめての精神科 |edition=3 |author=春日武彦 |publisher=医学書院 |date=2020 |isbn= 978-4-260-04235-2 |at=Chapt.3}}</ref>
* 追跡妄想:誰かに追われていると思い込む<ref name="nhs" />。
* 追跡妄想:誰かに追われていると思い込む<ref name="nhs" />。
* 微小妄想:自分を実際より低く評価し、劣っていると思い込む<ref name="mousou_yougo">[https://www.health.ne.jp/glossary/detail?id=106259 用語解説] HelC 2022年3月18日閲覧。</ref>。
* 心気妄想:重い体の病気にかかっていると思い込む。
* 心気妄想:重い体の病気にかかっていると思い込む<ref name="mousou_yougo"/>。
* 罪業妄想:過去に大きな罪を犯したと思い込む<ref name="mousou_yougo"/>。
* 貧困妄想:経済的に困っていると思い込む<ref name="mousou_yougo"/>。
* [[妄想#誇大妄想|誇大妄想]]:自分は実際の状態よりも、遥かに裕福だ、偉大だ、などと思い込む。
* [[妄想#誇大妄想|誇大妄想]]:自分は実際の状態よりも、遥かに裕福だ、偉大だ、などと思い込む。
* 宗教妄想:自分は神だ、などと思い込む。
* 宗教妄想:自分は神だ、などと思い込む。
* [[嫉妬妄想]]:配偶者や恋人が不貞を行っていると思い込む。
* [[嫉妬妄想]]:配偶者や恋人が[[不貞行為|不貞]]を行っていると思い込む。
* 恋愛妄想:異性に愛されていると思い込む。仕事で接する相手(自分の元を訪れるクライアントなど)が、好意を持っていると思い込む場合もある。
* [[恋愛妄想]]:異性に愛されていると思い込む。仕事で接する相手(自分の元を訪れるクライアントなど)が、好意を持っていると思い込む場合もある。
* 被毒妄想:飲食物に毒が入っていると思い込む<ref name="nhs" />。
* 血統妄想:自分は貴人の隠し子だ、などと思い込む。
* 血統妄想:自分は貴人の隠し子だ、などと思い込む。
* 家族否認妄想:自分の家族は本当の家族ではないと思い込む。
* 家族否認妄想:自分の家族は本当の家族ではないと思い込む。
* 被毒妄想:飲食物に毒が入っていると思い込む<ref name="nhs" />。
* 物理的被影響妄想:ビーム光線で攻撃されている、などと思いこむ。
* 物理的被影響妄想:ビーム光線で攻撃されている、などと思いこむ。
* 妄想気分:まわりで、何かただ事でないことが起きている感じがする、などと思いこむ。
* 妄想気分:りで、何かただ事でないことが起きている感じがする、などと思いこむ。世界が全体的に不吉であったり悪意に満ちているなどと感じる
* 世界没落体験:妄想気分の一つ、世界が今にも破滅するような感じがする、などと思いこむ。
* 世界没落体験:妄想気分の一つ、世界が今にも破滅するような感じがする、などと思いこむ。


一人の統合失調症患者においてこれら全てが見られることはで、1種類から数種類の妄想が見られることが多い。また統合失調症以外疾患に伴って妄想がみられることもある。関連語に妄想着想(妄想くこと)、妄想気分(世界が全体的に不吉であったり悪意に満ちているなどと感じること)、妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)がある。
一人の統合失調症患者においてこれら全てが見られることはまれで、1種類から数種類の妄想が見られることが多い。これらの妄想症状は突発的に起こることもあれば、数週間かけて形成されていくことある<ref name="nhs" />


また、上記の妄想に質的に似ているが、程度が軽く患者自身もその非合理性にわずかに気づいているものを「 - 念慮」という。
関連語に妄想着想(妄想を思いつくこと)、妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)がある。また、妄想に質的に似ているが、程度が軽く患者自身もその非合理性にわずかに気づいているものを「 - 念慮」という。


これら妄想状は突発的起こることもあれば、数週間をかけ形成さていくこともある<ref name="nhs" />。クレペリンは躁うつ病の特徴として迫害妄想をあげており、双極性でないことが診断に重要である。
統合失調以外の疾患伴っ妄想がみらこともある。クレペリンは双極性障害(躁うつ病の特徴として迫害妄想をあげており、双極性障害でないことが診断に重要である。


==== 知覚の障害と代表的な表出 ====
==== 知覚の障害 ====
[[File:Pink Elephant - geograph.org.uk - 1092344.jpg|thumb|right|幻視のイメージ]]
[[幻覚]] (Hallucination) とは、実在しない知覚情報を体験する症状{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}<ref name="nhs" />。以下のものがある。
[[幻覚]] (Hallucination) とは、実在しない知覚情報を体験する症状{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.2}}<ref name="nhs" />。以下のものがある。


* [[幻聴]] (''{{en|auditory hallucination}}''):[[聴覚]]の幻覚{{Refnest|group="注"|[[脳機能イメージング]]を用いた研究では、幻聴が発生した際に脳の言語野に変化が現れていることが分かっている<ref name="nhs" />。}}
* 幻聴 ({{en|auditory hallucination}}):[[聴覚]]の幻覚{{Refnest|group="注"|[[脳機能イメージング]]を用いた研究では、幻聴が発生した際に脳の言語野に変化が現れていることが分かっている<ref name="nhs" />。}}
* [[幻視]] (''{{en|visual hallucination}}''):[[視覚]]性の幻覚
* 幻視 ({{en|visual hallucination}}):[[視覚]]性の幻覚
* 幻嗅 (''{{en|olfactory hallucination}}''):[[嗅覚]]の幻覚
* 幻嗅 ({{en|olfactory hallucination}}):[[嗅覚]]の幻覚
* 幻味 (''{{en|gustatory hallucination}}''):[[味覚]]の幻覚
* 幻味 ({{en|gustatory hallucination}}):[[味覚]]の幻覚
* 体感幻覚 (''{{en|cenesthesic hallucination}}''):[[体性感覚]]の幻覚
* 体感幻覚 ({{en|cenesthesic hallucination}}):[[体性感覚]]の幻覚

統合失調症では'''幻聴が多くみられる一方<ref name="nhs" />、幻視は極めて稀'''である。また、統合失調症以外の疾患([[せん妄]]、[[てんかん]]、[[ナルコレプシー]]、[[気分障害]]、[[認知症]]など)、あるいは特殊な状況(断眠、[[感覚遮断]]、[[薬物中毒]]など)におかれた健常者でも幻覚がみられることがある。


統合失調症では幻聴が多くみられる一方<ref name="nhs" />、幻視は極めてまれである<ref name=kasuga3 />。幻聴は、人によっては親切・丁寧であることもあるが、多くの場合はしばしば悪言の内容を持つ<ref name="nhs" />。
幻覚を体験する本人は、外部から知覚情報が入っていると感じるため、実際に知覚を発生する人物や発生源が存在すると考えやすい<ref name="nhs" />。これらの幻覚の症状を説明するために、患者は[[#妄想|妄想]]を形成しているのである<ref name="nhs" />。


そのため、「悪魔が憑いた」、「狐がついた」、「神が話しかけてく」、「宇宙が交信してくる」「電磁波が聴こえる」、「頭に[[脳波]]が入って」など妄想的解釈する患者も多い。幻聴は、によっては親切・丁寧であもあるが<ref name="nhs" />、多く場合はしばしば悪言内容持ち<ref name="nhs" />、患者が「通りがりに人に悪口を言われ」、「家の壁越し悪口を言われる」「周囲の人が組織的に自分追い詰めようとしている」などと訴える例は典型的である。また、幻味、幻嗅などは被毒妄想に結びつくことがある。
幻覚を体験す外部から知覚情報が入ってると感じるため、実際知覚を発生する人物や発生源が存在すると考えやすく<ref name="nhs" />、これら幻覚症状説明するために、患者は妄想形成しているである。幻嗅、幻味などは被毒妄想に結びつくことがある。また、患者が嫌がらせや迫害を受けているなどと訴える例もある<ref name="nhs" />


統合失調症以外の疾患([[せん妄]]、[[てんかん]]、[[ナルコレプシー]]、[[気分障害]]、[[認知症]]など)、あるいは特殊な状況(断眠、[[感覚遮断]]、[[薬物中毒]]など)におかれた健常者でも幻覚がみられることがある<ref name=kasuga3 />。
なお、体感幻覚に類似するものとして、[[体感症]](''{{en|cenestopathy}}'')があるが、その異常感が常態ではみられない奇妙な性状のものであることをよくわきまえている点で、他のさまざまな体感幻覚とは異なる。


* {{ill|体感症|en|Cenesthopathy}}:体感幻覚に類似するが、その異常感が常態ではみられない奇妙な性状のものであることをよくわきまえている点で、他のさまざまな体感幻覚とは異なる。
* 知覚過敏:音や匂いに敏感になる。光がとても眩しく感じる。
* 知覚過敏:音や匂いに敏感になる。光がとても眩しく感じる。
* [[知覚変容発作]]:発作的な視覚的な変容を特徴とし、患者自身が発作であると認識していることが多い<ref>{{Cite journal|和書|author=上平忠一 |date=2001-06-30 |url=https://nagano.repo.nii.ac.jp/records/380 |title=精神分裂病における知覚変容発作の臨床的研究 : 自験例を中心にして |journal=長野大学紀要 |ISSN=0287-5438 |publisher=長野大学 |volume=23 |issue=1 |pages=10-21 |naid=40004066379 |CRID=1050564287518429952 |ref=harv}}</ref>。抗精神病薬の副作用からくる。
*[[知覚変容発作]]:抗精神病薬の副作用からくる。


==== 自我意識の障害 ====
==== 自我意識の障害 ====
自己と他者を区別することの障害である。自生思考や作為体験など、思考や行動における能動感と自他境界感の喪失がみられる。一説に{{仮リンク|自己モニタリング機能|en|Self-monitoring}}の障害と言われている<ref>浅井智久,丹野義彦、「[https://doi.org/10.4992/jjpsy.81.247 声の中の自己と他者 -幻聴の自己モニタリング仮説-]」『心理学研究』 2010年 81巻 3号 p.247-261, {{doi|10.4992/jjpsy.81.247}}</ref>。すなわち、自己モニタリング機能が正常に作動している人であれば、空想時などに自己の脳の中で生じる内的な発声を外部からの音声だと知覚することはないが、この機能が障害されている場合、外部からの音声だと知覚して幻聴が生じることになる。音声に限らず、内的な思考を他者の考えと捉えると考想伝播につながり、さらには「考えが盗聴される」などという被害妄想、関係妄想につながることになる。
[[File:The Schizophrenic House.jpg|thumb|right|当事者の自宅]]
自己と他者を区別することの障害である。一説に[[自己モニタリング機能]]の障害と言われている<ref>浅井智久,丹野義彦、「[https://doi.org/10.4992/jjpsy.81.247 声の中の自己と他者 -幻聴の自己モニタリング仮説-]」 心理学研究 2010年 81巻 3号 p.247-261, {{doi|10.4992/jjpsy.81.247}}</ref>。すなわち、自己モニタリング機能が正常に作動している人であれば、空想時などに自己の脳の中で生じる内的な発声を外部からの音声だと知覚することはないが、この機能が障害されている場合、外部からの音声だと知覚して幻聴が生じることになる。音声に限らず、内的な思考を他者の考えと捉えると考想伝播につながり、ひいては「考えが盗聴される」などという被害妄想、関係妄想につながることになる。


* 考想操作(思考操作):他人の考えが入ってくると感じる。世の中には自分を容易に操作できる者がいる、心理的に操られている、と感じる。進むと、テレパシーで操れていると感じる。
* 考想操作(思考操作):他人の考えが入ってくると感じる。世の中には自分を容易に操作できる者がいる、心理的に操られている、と感じる。進むと、[[テレパシー]]で操作されていると感じる。
* 考想奪取(思考奪取):自分の考えが他人に奪われていると感じる。自分の考えが何らかの力により奪われていると感じる。世の中には自らの考えがヒントになり、もっといい考えを出すものもいると感じる。進むと、脳に直接力がおよび考えが奪われていると感じる。
* 考想奪取(思考奪取):自分の考えが他人に奪われていると感じる。自分の考えが何らかの力により奪われていると感じる。世の中には自らの考えがヒントになり、もっといい考えを出すものもいると感じる。進むと、脳に直接力がおよび考えが奪われていると感じる。
* 考想伝播(思考伝播):自分の考えが他人に伝わっていると感じる。世の中には洞察力の優れたものがいると感じる。その人に対して敏感になっている。進むと[[テレパシー]]を発信していると感じる。
* 考想伝播(思考伝播):自分の考えが他人に伝わっていると感じる。世の中には洞察力の優れたものがいると感じる。その人に対して敏感になっている。進むとテレパシーを発信していると感じる。
* 自生思考(思考即迫):常に頭の中に何らかの考え・思考があり、うつ病患者の症例に多い「観念奔逸」と似て、思考がどんどん湧いてくる、思考が自らの意志でもっても抑えられない特有な思考の苦痛な異常状態をいう。これは、統合失調症の陽性症状の中でも最も深刻で重要な精神症状であるとされる。程度が重い患者では、頭の中が不自然な思考の熱状態で気がめいり、頭の中がとても騒がしく落ち着かないと訴え思えるな心理状態になる。
* 自生思考(思考即迫):常に頭の中に何らかの思考があり、うつ病患者の症例に多い「観念奔逸」と似て、思考がどんどん湧いてくる、思考が自らの意志でもっても抑えられない特有な思考の苦痛な異常状態をいう。これは、統合失調症の陽性症状の中でも最も深刻で重要な精神症状であるとされる。程度が重い患者では、頭の中が不自然な思考の熱状態で気がめいり、頭の中がとても騒がしく落ち着かないと訴え思えるような心理状態になる。
* 考想察知(思考察知):自分の考えは他人に知られていると感じる。世の中には自分の考えを言動から読めるものがいると感じる。進むと、自分は考えを知られてしまう特別な存在と感じる。自らのプライドを高く実際を認められずに、被害的にとらえてしまう。進むと、考想が自己と他者との間でテレパシーのように交信できるようになったと考え、波長が一致していると感じる。
* 考想察知(思考察知):自分の考えは他人に知られていると感じる。世の中には自分の考えを言動から読めるものがいると感じる。進むと、自分は考えを知られてしまう特別な存在と感じる。自らのプライドを高く実際を認められずに、被害的にとらえてしまう。進むと、考想が自己と他者との間でテレパシーのように交信できるようになったと考え、波長が一致していると感じる。
*強迫思考:自生思考と似て、ある考えを考えないと気が済まない、考えたくもない、あってはならない考えが不自然に浮かび上がり、他人に考えさせられていると感じられるな尋常ではない状態をいう。中には、読書をする際に、「この部分を何回読まないと頭に記憶されない、覚えられない」といった内容の不合理な思考が瞬間的および随伴的に浮かぶ「文字強迫」などの症状が表面化されることもある。統合失調症の患者の中には、こうした抗不安薬などの服用でも効果および治癒率が低いとされる強迫性障害(旧名:強迫神経症)を発病当初から慢性的に同時に併せ持つ型の人もいるとされる。
* 強迫思考:自生思考とて、ある考えを考えないと気が済まない、考えたくもない、あってはならない考えが不自然に浮かび上がり、他人に考えさせられていると感じられるような尋常ではない状態をいう。中には、読書をする際に、「この部分を何回読まないと頭に記憶されない、覚えられない」といった内容の不合理な思考が瞬間的および随伴的に浮かぶ「文字強迫」などの症状が表面化されることもある。統合失調症の患者の中には、こうした強迫性障害<ref group="注釈">旧名は強迫神経症。抗不安薬などの服用でも効果および治癒率が低いとされる。</ref>を発病当初から慢性的に同時に併せ持つ型の人もいるとされる。
* 作為体験:自分が外部の力によって考えさせられたり、支配されたりするように感じる<ref>[https://kotobank.jp/word/%E4%BD%9C%E7%82%BA%E4%BD%93%E9%A8%93-509536 作為体験] コトバンク 2022年4月18日閲覧。</ref>。
* [[離人症]]


==== 行動や思考の変化 ====
==== 行動や思考の変化 ====
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* 興奮:妄想などにより有頂天になっている<ref name="nhs" />。意味もなく叫ぶ<ref name="nhs" />。また自分が神か神に近きものまたは天才と思い一種の極限状況にある場合もある。
* 興奮:妄想などにより有頂天になっている<ref name="nhs" />。意味もなく叫ぶ<ref name="nhs" />。また自分が神か神に近きものまたは天才と思い一種の極限状況にある場合もある。
* 昏迷:意識障害なしに何の言動もなく、外からの刺激や要求にさえ反応しない状態。統合失調症の場合は表情や姿態が冷たく硬上、周囲との接触を拒絶反抗的であったり(拒絶症)、終始無言(無言症)、不自然な同じ姿勢をいつまでも続ける(常同姿態〈[[カタレプシー]]〉)<ref>現在精神衛生学ノート [[村田忠良]] サンパウロ 95頁</ref>。
* 昏迷:意識障害なしに何の言動もなく、外からの刺激や要求にさえ反応しない状態。表情や姿態が冷たく硬質な上、周囲との接触を拒絶反抗的であったり(拒絶症)、終始無言であったり(無言症)、不自然な同じ姿勢をいつまでも続ける(常同姿態〈[[カタレプシー]]〉)<ref>現在精神衛生学ノート [[村田忠良]] サンパウロ 95頁</ref>。
* 拒食
* 拒食


=== 陰性症状 ===
=== 陰性症状 ===
陰性症状(Negative symptoms)とは、エネルギーの低下からおこる症状で、おおよそ消耗期に生じるもの。無表情、感情的[[アパシー]]、活動低下、会話の鈍化、社会的[[ひきこもり]]、[[自傷行為]]など{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}<ref name="nhs">{{Cite web|publisher=[[国民保健サービス]] |title=Schizophrenia - Symptoms |date=2014-01-10 |url= http://www.nhs.uk/Conditions/Schizophrenia/Pages/Symptoms.aspx |accessdate=2014-02-01}}</ref><ref>山鳥重、「[https://doi.org/10.2496/hbfr.29.9 神経心理学の醍醐味]」 高次脳機能研究 (旧 失語症研究)2009年 29巻 1号 p.9-15, {{doi|10.2496/hbfr.29.9}}</ref>。
陰性症状 (Negative symptoms) とは、エネルギーの低下からおこる症状で、おおよそ消耗期に生じる。無表情、感情的[[アパシー]]、活動低下、会話の鈍化、社会的[[引きこもり|ひきこもり]]、[[自傷行為]]などがある{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}<ref name="nhs">{{Cite web2|df=ja|publisher=[[国民保健サービス]] |title=Schizophrenia - Symptoms |date=2014-01-10 |url=https://www.nhs.uk/mental-health/conditions/schizophrenia/symptoms/ |accessdate=2014-02-01}}</ref><ref>山鳥重、「[https://doi.org/10.2496/hbfr.29.9 神経心理学の醍醐味]」高次脳機能研究 (旧 失語症研究)』 2009年 29巻 1号 p.9-15, {{doi|10.2496/hbfr.29.9}}</ref>。


陰性症状は、初回発症エピソードから数年以上継続しうる<ref name="nhs" />。患者はこれらの陰性エピソードのために、家族や友人との関係にトラブルを招きやすい<ref name="nhs" />。
陰性症状は、初回発症エピソードから数年以上継続しうる<ref name="nhs" />。患者はこれらの陰性エピソードのために、家族や友人との関係にトラブルを招きやすい<ref name="nhs" />。


==== 感情の障害 ====
==== 感情の障害 ====
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==== 思考の障害 ====
==== 思考の障害 ====
* 常同的思考:無意味な思考にこだわり続けている。興味の対象が少数に限定されている。
* 常同的思考:無意味な思考にこだわり続けている。興味の対象が少数に限定されている。
* 抽象的思考の困難:物事を分類したり一般化することが困難である。問題解決においてかたくなで自己中心的。
* 抽象的思考の困難:物事を分類したり一般化することが困難である。問題解決においてかたくなで自己中心的となる


==== 意志・欲望の障害 ====
==== 意志・欲望の障害 ====
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* 意欲低下:頭ではわかっていても行動に移せず、行動に移しても長続きしない。
* 意欲低下:頭ではわかっていても行動に移せず、行動に移しても長続きしない。
* 無関心:世の中のこと、家族や友人のことなどにも無関心でよく知らない。
* 無関心:世の中のこと、家族や友人のことなどにも無関心でよく知らない。
* 引きこもり:外出意欲低下<ref name="nhs" />。
* 引きこもり:外出意欲低下する<ref name="nhs" />。


=== その他の症状 ===
=== その他の症状 ===
* [[認知障害|認知機能障害]]:統合失調症の中核をなす基礎的な障害である。クレペリンやブロイラーなどの当該疾患の定義の時代(1900年ごろ)より、統合失調症に特異的な症状群として最も注目されていた。認知機能とは、記憶力・[[集中力]]・[[注意]]などの基本的な知的能力から、計画・思考・判断・実行・問題解決などの複雑な知的能力をいう。認知機能が障害されるため、社会活動全般に支障を来たす。疾患概念より障害概念に近いものとして理解されている。この障害ゆえに、作業能力の低下、臨機応変な対処の困難、経験に基づく問題解決の困難、新しい環境に慣れにくいことがあり、また、[[発達障害]]患者の代表的な症状の一つとされる[[ディスレクシア]](読字障害、難読症)と似ている。判断力・理解力・注意力の低下・散漫さから、本・文章・文字を理解して目で追って黙読したり、記憶・暗記したりすることが困難になる。しばしば、読書が普通にできない。本・文章・文字を読んだ時に、そこに書かれている内容が一見し、ちらりと目で認知はできるが、本を読んでも全く頭に内容が入ってこない。味わい咀嚼しながら理解・認識ができないなどと訴えるなど、社会生活上多くの困難を伴い、長期の[[リハビリテーション]]が必要となる。統合失調症が、慢性の脳細胞の機能性疾患・障害であると言われるのはこのためである。
; 認知機能障害
* 感情の障害:不安感、緊張感、焦燥感、[[挑戦的行動]]{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.5}}が生じる。自分には解決するのが非常に難しい問題が沢山あるなどの理由から、抑うつ、不安になっていることもある。抑うつは現状、将来を悲観するという場合や病名から来る自分のイメージ、他者である健常者や同じ心の病を持つ者との比較からくる場合がある。一般的に、統合失調症の患者の中には、理性および感情面で、敏感と鈍感の共存状態に陥る例が多く認められると言われる。何でもできる気分になる、万能感がある、お金遣いが荒くなる、睡眠時間が少なくなる、躁状態になることがある。
: [[認知障害|認知機能障害]]は統合失調症の中核をなす基礎的な障害である。クレペリンやブロイラーなどの当該疾患の定義の時代(1900年頃)より、統合失調症に特異的な症状群として最も注目されていた。認知機能とは、記憶力、注意・集中力などの基本的な知的能力から、計画・思考・判断・実行・問題解決などの複雑な知的能力をいう。認知機能が障害されるため、社会活動全般に支障を来たす。疾患概念より障害概念に近いものとして理解されている。この障害ゆえに、作業能力の低下、臨機応変な対処の困難、経験に基づく問題解決の困難、新しい環境に慣れにくい、[[発達障害]]患者の代表的な症状の一つとされる[[ディスレクシア]](読字障害、難読症)と似ていて、判断力・理解力・注意力の低下・散漫さから、本・文章・文字を理解して目で追って黙読したり、記憶・暗記したりすることが困難になる。しばしば、読書が普通にできない、本・文章・文字を読んだ時に、そこに書かれている内容が瞬間的に一見して、ちらりと目には認知できうるが、本を読んでも全く頭に内容がスムーズに入ってこない、味わい咀嚼しながら理解・認識できないなどと訴えるなど、社会生活上多くの困難を伴い、長期の[[リハビリテーション]]が必要となる。統合失調症が、慢性の脳細胞の機能性の疾患・障害であると言われるのはこのためである。
* 不眠:統合失調症では83%が不眠症状をきたし、再発の兆候として最も見られる症状である<ref name="sleep">{{Cite journal ja|author=杉村彰悟, 福田健一郎, 小鳥居望, 室谷健太, 小鳥居湛 |title=夕方の運動プログラム導入が慢性の統合失調症圏障害患者の自覚的睡眠評価に及ぼす影響 |url=https://doi.org/10.32178/jotr.40.5_591 |journal=作業療法 |issn=02894920 |publisher=日本作業療法士協会 |year=2021 |volume=40 |issue=5 |pages=591-597 |naid=130008104348 |doi=10.32178/jotr.40.5_591 }}</ref>。統合失調症では、脳形態の持続的変化とともに睡眠にも[[レム睡眠#ノンレム睡眠|ノンレム睡眠]]の欠如といった変化が生じ、不眠治療は難渋しやすい<ref name="sleep"/>。統合失調症の症状の一つである場合と、統合失調症とは独立した[[不眠症]]を併発している場合が考えられる<ref name="fumin">{{Cite journal ja|author=稲田健 |title=統合失調症の不眠治療 : 抗精神病薬は不眠治療に有用か |url=https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1200070564.pdf |format=PDF |journal=精神神経学雑誌 |issn=00332658 |publisher=日本精神神経学会 |date=2018 |volume=120 |issue=7 |pages=564-569 |naid=40021645477 |accessdate=2022-11-05}}</ref>。
; 感情の障害
* パニック発作:統合失調症者は[[パニック障害]]に類似のパニック発作が起こることがある<ref>[https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html パニック障害・不安障害] みんなのメンタルヘルス 厚生労働省</ref><ref>パニックディスオーダー 編集上島国利 P.33 ISBN 978-4-87583-055-9</ref>。治療法はパニック障害に準じる<ref>パニック障害100のQ&A キャロル・W・バーマンMD 星和書店 P.130-131 ISBN 978-4-7911-0657-8</ref>。
不安感、焦燥感、緊張感、[[挑戦的行動]]{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.5}}が生じる。抑うつ、不安を伴うこともある。自分には解決するのが非常に難しい問題が沢山あり、抑うつ、不安になっていることもある。抑うつは現状、将来を悲観するという場合と病名から来る自分のイメージ、他者の健常者や同じ心の病の者との比較からくる場合がある。一般的に、統合失調症の患者の中には、理性および感情面で、敏感と鈍感の共存状態に陥る例が多く認められると言われる。何でもできる気分になる、万能感がある、金遣いが荒くなる、睡眠時間が少なくなるなど躁状態になることがある。
* 連合弛緩:思考が脈絡なく飛躍する。これが進行すると「[[ワードサラダ]]」となる<ref>{{Cite web2|df=ja|title=統合失調症 {{!}} さっぽろ麻生メンタルクリニック|url=https://www.asabu-mental-clinic.com/subject/04tougou.html|website=www.asabu-mental-clinic.com|accessdate=2021-11-12}}</ref>。[[連想]]が弱くなり、話の内容が度々変化してしまう。単語には連合があり、これをわかりやすく言えば、単語の意味とその関係にはグループ(連合)がある。連合弛緩は、この連合が弛緩する事で全く関係のない単語を連想してしまう。しかし、[[落語]]にあるような[[駄洒落|ダジャレ]]は連合弛緩ではない。連合弛緩は、言葉の連想と関係を無視する場合がある。
; パニック発作
* 両価性:相矛盾した心的内容を同時に持つこと<ref>{{Cite thesis ja|author=浜田(角田)京子 |title=統合失調症の両価性から観た主体の倫理的価値をめぐる構造論的問題 |url=http://hdl.handle.net/2433/126518 |year=2009 |publisher=京都大学 |volume=博士論文 |series=博士 (人間・環境学) 甲第14878号 |hdl=2433/126518 |id={{naid|500000485606}}}}</ref>。
統合失調症者は[[パニック障害]]に類似のパニック発作が起こることがある<ref>[http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html パニック障害・不安障害] みんなのメンタルヘルス 厚生労働省</ref><ref>パニックディスオーダー 編集上島国利 P.33 ISBN 978-4-87583-055-9</ref>。治療法はほぼパニック障害に準じる<ref>パニック障害100のQ&A キャロル・W・バーマンMD 星和書店 P.130-131 ISBN 978-4-7911-0657-8</ref>。
* 独言・独笑:幻聴や妄想の世界での会話である。原因には、長年にわたる投薬の影響で、認知機能が低下するとの説もある<ref>精神科セカンドオピニオン-正しい診断と処方を求めて 誤診・誤処方を受けた患者とその家族たち [[笠陽一郎]] シーニュ 2008年 190頁 ISBN 978-4-9903014-1-5</ref>。
; 連合弛緩
* [[砂糖]]の過剰摂取:統合失調症者は[[清涼飲料水]]を大量に飲むなど、砂糖を好むことが知られている<ref name=":0">{{Cite web2|df=ja|title=砂糖の取りすぎ、精神疾患のリスクに 脳の毛細血管に炎症 都医総研:朝日新聞デジタル|url=https://www.asahi.com/articles/ASPCB6G0BPCBULBJ00Q.html|website=朝日新聞デジタル|accessdate=2021-11-12|language=ja}}</ref>。
[[連想]]が弱くなり、話の内容が度々変化してしまう。単語には連合がある。わかりやすく言えば単語の意味での関係でのグループ(連合)がある。連合弛緩はこの連合が弛緩して全然関係のない単語を連想することである。しかし落語にあるようなダジャレは連合弛緩ではない。連想が関係を無視している場合がある。
* 多飲症・[[水中毒]]:過剰の水分摂取とそれにより生じる中毒<ref name="mizu"/>。著しい場合には1日に10リットル以上の水分を摂る<ref name="mizu">[https://www.ych.pref.yamanashi.jp/kitabyo/qa/1308/ 14.多飲症、水中毒とは何ですか?] 山梨県立北病院 2022年4月19日閲覧。</ref>。
; 両価性
一つの物事に対して、両極端な感情を同時に持つこと。
; 独言・独笑
幻聴や妄想の世界での会話である。原因には、長年の投薬による認知機能低下の説もある<ref>精神科セカンドオピニオン—正しい診断と処方を求めて 誤診・誤処方を受けた患者とその家族たち [[笠陽一郎]] シーニュ 2008年 190頁 ISBN 978-4-9903014-1-5</ref>。
; 言葉のサラダ
[[ワードサラダ]]とも呼ぶ。単語が並んでいるだけで正しい文章にならず、作語もある病状を指す。精神医学用語である。


== 原因 ==
== 原因 ==
[[File:Schizophrenia fMRI working memory.jpg|thumb|[[fMRI]]やその他の[[脳機能イメージング]]技術は統合失調症患者の脳活動のイメージを表すことができる。このイメージは[[fMRI]]によって[[ワーキングメモリ]]の脳活動の様子を表している。]]
[[File:Schizophrenia fMRI working memory.jpg|thumb|280px|[[fMRI]]やその他の[[脳機能イメージング]]技術は統合失調症患者の脳活動のイメージを表すことができる。このイメージはfMRIによって[[ワーキングメモリ]]の脳活動の様子を表している。]]
{{Main|統合失調症の原因}}
{{Main|統合失調症の原因}}


'''発病メカニズムは不明'''であり、明確な病因は未だに確定されておらず、いずれの報告も[[仮説]]の域を出ない。仮説は何百という多岐な数に及ぶため、特定的な原因の究明が非常に煩しく困難であるのが、今日の精神医学・[[脳科学]]の発達上の限界・壁である。
'''発病メカニズムは不明'''であり、明確な病因は未だに確定されておらず、いずれの報告も[[仮説]]の域を出ない。仮説は多岐に及ぶため、特定的な原因の究明がめて困難であ、今日の精神医学・[[脳科学]]の発達上の限界・壁となっている。現在の精神医学主流の仮説として、[[神経伝達物質]]の[[ドーパミン]]の過不足による認知機能不全を原因とする説が有力である。


根本的な原因は不明であるが、遺伝要因が大きい。遺伝の影響度は研究によって異なるが、双子を用いた研究の[[メタ分析]]では[[遺伝率]]が81%と報告されている<ref>{{cite journal |author=Sullivan et al |date=2003 |title=Schizophrenia as a complex trait: evidence from a meta-analysis of twin studies |url=http://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/208134 |journal=Archives of general psychiatry |publisher= |volume=60 |issue=12 |pages=1187 |doi= |accessdate= }}</ref>。ほか[[神経伝達物質]]のインバランス等の脳の[[代謝]]異常と心理社会的な[[ストレス (体)|ストレス]]など[[環境]]因子の相互作用が発症の発端と予想されてい。心理社会的な因子しては「[[ダブルバインド]]」や「HEE(高い感情表出家族)」などが注目されている。家庭や学校が、歪んでいたりして、本人意思や努力ではどうにもならないところで、不本意な想いをしていが多くそれが発病のきっかけなっていこともよくあるという<ref>[https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=4 岡崎祐士先生に「統合失調症」(全般)を訊く]</ref>。生物学的な因子とては、妄想および幻覚症状は[[神経伝達物質]]の[[化学的不均衡]]であるという仮説が提唱されている。主に[[ドーパミン拮抗薬]]である[[抗精神薬]]の適量の投与によって、症状の抑制が可能であるとする理論であるが、大きな成功おさめてい仮説であるとまでは言えない
根本的な原因は不明であるが、遺伝と環境の複合要因と考えられてる<ref name=":0" />。遺伝の影響度は研究によって異なるが、双子を用いた研究の[[メタ分析]]では[[遺伝率]]が81%と報告されている<ref>{{cite journal |author=Sullivan et al |date=2003 |title=Schizophrenia as a complex trait: evidence from a meta-analysis of twin studies |url=http://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/208134 |journal=Archives of general psychiatry |publisher= |volume=60 |issue=12 |page=1187 |doi= |accessdate=}}</ref>。また児法研究によると、一卵性双生児のうちの一方が統合失調症ると、もう一方も統合失調症確率は、50%であるという報告がある<ref>{{Cite book ja|author=AndreasenNancy C., 岡崎祐士, 安西信雄, 斎藤治, 福田正人|title=故障 : 脳から心の病を|publisher=紀伊国屋書店|year=1986|NCID=BN00299170|ISBN=4314004630|page=310}}</ref>
{{see also|[[進化精神医学]]}}


生物学的な因子としては、妄想および幻覚症状は脳内の神経伝達物質の[[化学的不均衡]]であるという仮説が提唱されている。主に[[ドーパミン拮抗薬]]である[[抗精神病薬]]の適量の投与によって、症状の抑制が可能であるとする理論であるが、大きな成功をおさめている仮説であるとまでは言えない。
[[精神病#物質誘発性精神病性障害|薬物誘発性精神病]]の症状は、統合失調症の症状に酷似している、熟練した精神科医でも鑑別は困難とさる<ref name="pmid28243163">{{cite journal|last1=Ham|first1=Suji|last2=Kim|first2=Tae Kyoo|last3=Chung|first3=Sooyoung|coauthors=et al.|title=Drug Abuse and Psychosis: New Insights into Drug-induced Psychosis|journal=Experimental Neurobiology|volume=26|issue=1|pages=11|year=2017|pmid=28243163|pmc=5326711|doi=10.5607/en.2017.26.1.11|url=https://doi.org/10.5607/en.2017.26.1.11 }}</ref>。症状は同様だが、薬物誘発性精神病は後天性で、統合失調症は遺伝性という点で異なる<ref name="pmid28243163"/>。


環境要因としては、心理社会的な[[ストレス (生体)|ストレス]]など環境因子の相互作用が発症の発端になると予想されている。心理社会的な因子としては、「[[ダブルバインド]]」や「HEE(高い感情表出家族)」などが注目されている。家庭や学校が、歪んでいたりして、本人の意思や努力ではどうにもならないところで、不本意な想いをしていることが多く、それが発病のきっかけになっていることもよくあるという<ref name="okazaki"/>。
薬物誘発性精神病と統合失調症の区別が曖昧なため、薬物誘発性精神病モデルは、統合失調症モデルとして研究で頻用されている<ref name="pmid28243163"/>。しかし、これが動物モデルとして理想的であるかどうかは決定されておらず、つまり、1)幻覚など陽性症状、2)平坦な感情など陰性症状、3)混乱した言語や非論理的という認知症状の、3種類の症状が統合失調症に特徴的であるが、アンフェタミンに誘発された精神病症状は陰性症状を明らかに誘発しないなど不完全であり、発症機序に関して別々であることは明らかである<ref name="pmid28243163"/>。''[[DSM-5]]''<!--出典はこれ-->においては、薬物誘発性精神病は統合失調症と区別されており、統合失調症と異なり使用をやめると症状はおさまるものだと定義されている。([[精神刺激薬精神病#鑑別診断]]も参照)


2019年、東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻の[[廣川信隆]]特任教授らのチームが、神経細胞の[[キネシン]][[分子モーター]]KIF3Bの異常が統合失調症の原因とみられると発表した<ref>[https://www.amed.go.jp/news/release_20191120.html キネシン分子モーターKIF3Bの遺伝子異常は統合失調症の原因となる] 日本医療研究開発機構 2019年11月20日配信 2022年4月19日閲覧。</ref>。2021年、[[東京都医学総合研究所]]などの研究グループが、思春期に[[砂糖]]を過剰摂取すると、脳の毛細血管の炎症により神経細胞のグルコースの取り込みを低下させ、統合失調症などの精神疾患の原因となる可能性を発表した<ref name=":0" />。
2019年、東京大学のチームは神経細胞のキネシン分子モーターKIF3Bの異常が統合失調症の原因とみられると発表した。

===心理学===
統合失調症者は甘えを知らないか怖がるという。また、統合失調症者は自他の区別が付かないという。


== 検査 ==
== 検査 ==
=== 心理検査 ===
=== 心理検査 ===
;PANSS
* PANSS ([[:en:Positive and Negative Syndrome Scale|Positive and Negative Syndrome Scale]]) での評価<ref>http://www42.atwiki.jp/galeos/pages/195.html</ref>
:PANSS([[:en:Positive and Negative Syndrome Scale|Positive and Negative Syndrome Scale]]、[[陽性・陰性症状評価尺度]])<ref>[https://w.atwiki.jp/galeos/pages/195.html PANSS] galeos@ウィキ 2022年4月21日閲覧。</ref>は、30項目の異なる精神症状につき、1点から7点までの得点をつける。最低点は30点、最高点は210点。

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;陽性尺度
; 陽性尺度
:7項目 - [[妄想]]・概念の統合障害・幻覚による行動・興奮・[[誇大性]]・[[猜疑]]・敵意
: 7項目 - 妄想・概念の統合障害・幻覚による行動・興奮・[[誇大性]]・[[Wikt:猜疑|猜疑]]・敵意
;陰性尺度
; 陰性尺度
:7項目 - 情動の平板化・情動的ひきこもり・疎通性の障害・受動性意欲低下による社会的ひきこもり・抽象的思考の困難・会話の自発性と流暢さの欠如・常同的思考
: 7項目 - 情動の平板化・情動的ひきこもり・疎通性の障害・受動性意欲低下による社会的ひきこもり・抽象的思考の困難・会話の自発性と流暢さの欠如・常同的思考
;総合精神病理評価尺度
; 総合精神病理評価尺度
:16項目 - 不安・罪責感・緊張・衒奇症と不自然な姿勢・[[抑うつ]]・運動減退・非協調性・不自然な思考内容・[[失見当識]]・注意の障害・判断力と病識の欠如・意志の障害・衝動性の調節障害・没入性・自主的な社会回避
: 16項目 - 不安・罪責感・緊張・衒奇症{{Efn|不自然でわざとらしい動作や表情をするようになる症状の一つ<ref>[https://www.health.ne.jp/glossary/detail?id=102361 衒奇症] HelC 2022年4月16日閲覧。</ref>。}}と不自然な姿勢・[[抑うつ]]・運動減退・非協調性・不自然な思考内容・[[失見当識]]・注意の障害・判断力と病識の欠如・意志の障害・衝動性の調節障害・没入性・自主的な社会回避
</blockquote>
</blockquote>
;BACS
:BACS(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia、統合失調症認知機能簡易評価尺度)は、言語性記憶、ワーキング・メモリ(作動記憶)、運動機能、注意、言語流暢性、および遂行機能を評価する検査で構成される認知機能評価尺度である<ref>[https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1405101278 統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS-J)] ISHO-JP 2022年4月21日閲覧。</ref>。


=== 生理的検査 ===
=== 生理的検査 ===
; 血液検査
; 血液検査
: [[血液検査]]は患者の血液採取を行い、薬物投与による肝機能の衰えなど([[アラニントランスアミナーゼ|ALT:GPT]]など)の副作用の有無を検査するためである。通常の場合3か月程度の間隔で行われると同時に、内分泌物質(ホルモン)や[[電解質]]の異常、[[糖尿病]]の形跡、[[低血糖症]]、[[栄養失調]]の診断にも生かされ、より正確な診断がなされる。外部委託先に[[ビタミン]]や[[ミネラル]]類の検査項目も追加できるが、そのような依頼は極めてまれである<ref>{{cite web |url=http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html |title=アーカイブさたコピー |accessdate=2012年2月20 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20130524063649/http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html |archivedate=2013年5月24 |deadlinkdate=2018年3月 }}血液検査について</ref>。
: [[血液検査]]は患者の血液採取を、薬物投与による肝機能の衰えなど([[アラニンアミノ基転移酵素|ALT (GPT)]]など)の副作用の有無を検査するために行う。通常の場合3か月程度の間隔で行われる内分泌物質(ホルモン)や[[電解質]]の異常、[[糖尿病]]の形跡、[[低血糖症]]、[[栄養失調]]の診断にも生かされ、より正確な診断がなされる。外部委託先に[[ビタミン]]や[[ミネラル]]類の検査項目も追加できるが、そのような依頼は極めてまれである<ref>{{Cite web|和書|url=http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html |title=知らざる統合失調症の薬物治療、身体合併症の発症リスク |accessdate=2012-02-20 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20130524063649/http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html |archivedate=2013-05-24 |url-status=dead}}血液検査について</ref>。
; CT・MRI検査
; CT・MRI検査
: [[コンピュータ断層撮影|CT]]・[[核磁気共鳴画像法|MRI]]にて、[[側頭葉]]・[[頭頂葉]]の[[灰白質]]の体積の減少を認める場合がある。[[白質]]の体積は減少していない。
: [[コンピュータ断層撮影|CT]]・[[核磁気共鳴画像法|MRI]]検査にて、[[側頭葉]]・[[頭頂葉]]の[[灰白質]]の体積の減少を認める場合がある。[[白質]]の体積は減少していない。人間間でも脳体積は少なくとも10%は異なるため、一度の体積測定で判定することはできない。
: 脳体積の減少は長期的な話である。人間間でも脳体積は少なくとも10%は異なるため、一度の体積測定で判定することはできない。また、[[抗精神病薬]]が脳体積を減少させることも知られている<ref>BENEDICT CAREY「[http://www.nytimes.com/2005/10/18/health/psychology/18imag.html Can Brain Scans See Depression?]」The New York Times 2005年10月18日。(邦訳は『[http://mui-therapy.org/newfinding/brain_scan.htm 脳スキャンで鬱が見えるか]』)</ref><ref>「Open Letter to the DSM-5」[[アメリカ心理学会]]、2011年10月22日。</ref><ref>{{Cite journal|last1=Ho|first1=Beng-Choon|last2=Andreasen|first2=Nancy C|last3=Ziebell|first3=Steven|last4=Pierson|first4=Ronald|last5=Magnotta|first5=Vincent|title=Long-term antipsychotic treatment and brain volumes: a longtitudinal study of first-episode schizophrenia|journal=Archives of General Psychiatry|year=2011|month=Feb.|volume=68|issue=2|pages=128?37|doi=10.1001/archgenpsychiatry.2010.199|pmid=21300943|pmc=3476840}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Radua|first1=J.|last2=Borgwardt|first2=S.|last3=Crescini|first3=A.|last4=Mataix-Cols|first4=D.|last5=Meyer-Lindenberg|first5=A.|last6=McGuire|first6=P.K.|last7=Fusar-Poli|first7=P.|title=Multimodal meta-analysis of structural and functional brain changes in first episode psychosis and the effects of antipsychotic medication|journal=Neuroscience & Biobehavioral Reviews|volume=36|issue=10|pages=2325?2333|year=2012|month=November|pmid=22910680|doi=10.1016/j.neubiorev.2012.07.012|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S014976341200125X}}</ref><ref>http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/40604888.html 抗精神病薬による脳への負の影響。その1 灰白質への影響</ref><ref>http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/40616823.html 抗精神病薬による脳への負の影響。その2 白質への影響</ref>。
: 脳体積の減少は長期的な話である。また、[[抗精神病薬]]が脳体積を減少させることも知られている<ref>BENEDICT CAREY「[http://www.nytimes.com/2005/10/18/health/psychology/18imag.html Can Brain Scans See Depression?]」The New York Times 2005年10月18日。(邦訳は『[http://mui-therapy.org/newfinding/brain_scan.htm 脳スキャンで鬱が見えるか]』)</ref><ref>「Open Letter to the DSM-5」[[アメリカ心理学会]]、2011年10月22日。</ref><ref>{{Cite journal|last1=Ho|first1=Beng-Choon|last2=Andreasen|first2=Nancy C|last3=Ziebell|first3=Steven|last4=Pierson|first4=Ronald|last5=Magnotta|first5=Vincent|title=Long-term antipsychotic treatment and brain volumes: a longtitudinal study of first-episode schizophrenia|journal=Archives of General Psychiatry|year=2011|month=Feb.|volume=68|issue=2|pages=128-137|doi=10.1001/archgenpsychiatry.2010.199|pmid=21300943|pmc=3476840}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Radua|first1=J.|last2=Borgwardt|first2=S.|last3=Crescini|first3=A.|last4=Mataix-Cols|first4=D.|last5=Meyer-Lindenberg|first5=A.|last6=McGuire|first6=P.K.|last7=Fusar-Poli|first7=P.|title=Multimodal meta-analysis of structural and functional brain changes in first episode psychosis and the effects of antipsychotic medication|journal=Neuroscience & Biobehavioral Reviews|volume=36|issue=10|pages=2325-2333|year=2012|month=November|pmid=22910680|doi=10.1016/j.neubiorev.2012.07.012|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S014976341200125X}}</ref><ref>[http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/40604888.html 抗精神病薬による脳への負の影響。その1 灰白質への影響] 場末P科病院の精神科医のblog 2022年4月26日閲覧。</ref><ref>[http://blog.livedoor.jp/beziehungswahn/archives/40616823.html 抗精神病薬による脳への負の影響。その2 白質への影響] 場末P科病院の精神科医のblog 2022年4月26日閲覧。</ref>。
: {{Seealso|抗精神病薬#副作用}}
{{Seealso|抗精神病薬#副作用}}
; SPECTによる検査
; SPECTによる検査
: [[単一光子放射断層撮影|SPECT]]にて、課題遂行中や会話時に通常見られる[[前頭前野]]の血流増加が少ないという報告がある。
: [[単一光子放射断層撮影|SPECT]]にて、課題遂行中や会話時に通常見られる[[前頭前野]]の血流増加が少ないという報告がある。
222行目: 269行目:
: 遺伝子性の疾患を特定するためのツールとして[[DNAシークエンシング]]がある。
: 遺伝子性の疾患を特定するためのツールとして[[DNAシークエンシング]]がある。
; 尿検査
; 尿検査
: 国内の精神科において[[尿検査]]を行うことはない。[[ピロール尿症]]における[[クリプトピロール]]や違法薬物の使用有無を調査することができるが、臨床試験的に尿を検査することがごく稀にある。生化学研究設備があればクリプトピロールなどの化学物質を判別できるが、そのような精神医療機関は国内には存在しない。
: 国内の精神科において[[尿検査]]を行うことはない。[[ピロール尿症]]における[[クリプトピロール]]や違法薬物の使用有無を調査することができるが、臨床試験的に尿を検査することがごく稀にある。生化学研究設備があればクリプトピロールなどの化学物質を判別できるが、そのような精神医療機関は国内には存在しない。
; NIRS脳計測装置・光トポグラフィー検査
; NIRS脳計測装置・光トポグラフィー検査
: [[NIRS脳計測装置]]や[[光トポグラフィー]]検査により、問診と同時に脳内の血流量を赤外線により測定する。[[うつ病]]、統合失調症、[[双極性障害]]の判断材料になる可能性がある現在研究中の検査手法である。国内ではわずかだが実施している。最[[先進医療]]の分野である。
: [[NIRS脳計測装置]]や[[光トポグラフィー]]検査により、問診と同時に脳内の血流量を[[赤外線]]により測定する。統合失調症、[[うつ病]]、[[双極性障害]]の判断材料になる可能性がある研究中の検査手法である。日本ではかだが実施しており、最[[先進医療]]の分野である。
: 信頼性は未だ低く、「高価なおもちゃ([[ママ (引用)|原文ママ]])」の域を出ていない<ref>NHKオンデマンド NHKスペシャル ここまで来た!うつ病治療</ref><ref>[http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/index.html 精神研ニュース] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20131019132529/http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/index.html |date=2013年10月19日 }}「[http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/no343.pdf 近赤外線を用いた光診断の可能性と限界] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20130603184735/http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/no343.pdf |date=2013年6月3日 }}」[[東京都精神医学総合研究所]]、2010年9月(第343号)。</ref>。
: 補助診断としてデータを見るものの、信頼性は未だ低く、「高価なおもちゃ([[ママ (引用)|原文ママ]])」の域を出ていない<ref>NHKオンデマンド NHKスペシャル ここまで来た!うつ病治療</ref><ref>[http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/index.html 精神研ニュース] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20131019132529/http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/index.html |date=2013年10月19日}}「{{PDFlink|[http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/no343.pdf 近赤外線を用いた光診断の可能性と限界]}} {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20130603184735/http://prit.igakuken.or.jp/Ja/News/no343.pdf |date=2013年6月3日}}」[[東京都精神医学総合研究所]]、2010年9月(第343号)。</ref>。


== 診断・分類 ==
==== ドーパミントランスポーターシンチ・DATscan(ダットスキャン)検査 ====
生物学的な指標は存在しないため{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2}}、数値的な診断はできず、心理的な症状から診断される<ref name="niigata"/>。精神科の診断に最も重視される方法は、患者の体験を言葉で語ってもらうことによる問診であるが<ref>[https://www.comhbo.net/?page_id=13149 精神科医はどうやって診断しているのか] COMHBO 2022年4月19日閲覧。</ref>、同時に他の疾患との鑑別のため、各種の血液検査や生理検査が行われる。
<blockquote>[[ドーパミン]]受容体の活性状態を[[シンチグラフィ]]で解析することで、妄想性の幻覚や幻聴症状と、そうでない場合の[[臨床]]判断とする。


精神科医師の[[診察|問診]]のみでなく、化学的検査でドーパミン放出やドーパ取り込みの減退を示した場合は妄想性とは限らず、外来性要因(例えば[[電磁波]]<ref name=":0">{{Cite web|title=統合失調症と電磁波の関係(Relation between schizophrenia and electromagnetic radiation)[1:要約・序文]|url=https://denjihajapan.wordpress.com/2010/01/17/%e7%b5%b1%e5%90%88%e5%a4%b1%e8%aa%bf%e7%97%87%e3%81%a8%e9%9b%bb%e7%a3%81%e6%b3%a2%e3%81%ae%e9%96%a2%e4%bf%82relation-between-schizophrenia-and-electromagnetic-radiation1%ef%bc%9a%e8%a6%81%e7%b4%84/|website=DenjihaJapan|date=2010-01-16|accessdate=2019-12-31|language=ja}}</ref> など)による[[脳神経|ドーパミン神経系]]の機能不全を思慮するべきである。</blockquote>


== 診断 ==
生物学的指標はない{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2}}。精神科の病気の診断に最も重視される方法は、患者の体験を言葉で語ってもらうことによる問診である<ref>[https://www.comhbo.net/?page_id=13149 精神科医はどうやって診断しているのか]</ref>。


=== 診断基準 ===
診断までには、初診よりおよそ1か月~1年以上の定期的な受診・問診経過を要する。然し、精神科医師それぞれの随意で診断と処方に及びがちな実情であるが、患者が幻覚や幻聴症状を告している場合には、[[脳波]]や[[シンチグラフィ|ダットスキャン]]など化学的検査の実施も伴い、陽性と陰性、または内因性と外因性('''電磁波影響による疾患<ref>{{Cite web|title=統合失調症と電磁波の関係(Relation between schizophrenia and electromagnetic radiation)[17:概要・結論]|url=https://denjihajapan.wordpress.com/2010/02/14/%e7%b5%b1%e5%90%88%e5%a4%b1%e8%aa%bf%e7%97%87%e3%81%a8%e9%9b%bb%e7%a3%81%e6%b3%a2%e3%81%ae%e9%96%a2%e4%bf%82relation-between-schizophrenia-and-electromagnetic-radiation17%ef%bc%9a%e6%a6%82%e8%a6%81/|website=DenjihaJapan|date=2010-02-14|accessdate=2020-01-01|language=ja}}</ref>'''<ref>{{Cite web|title=電磁波と生態|url=https://denjihajapan.wordpress.com/category/%e9%9b%bb%e7%a3%81%e6%b3%a2%e3%81%a8%e7%94%9f%e6%85%8b/|website=DenjihaJapan|accessdate=2020-01-04|language=ja}}</ref>)と判別した診断が適宜であろう。
以下は以前のDSM-IVの診断基準だが、より新しいDSM-5の基準は[[#統合失調症スペクトラム障害]]を参照。


{| class="wikitable" style="font-size:95%; margin-left:1em; width: 100%; word-break: break-all; word-wrap: break-all;"
===診断基準===
! style="width:50%;"| [[疾病及び関連保健問題の国際統計分類|ICD]]-10での診断基準{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.1}}
{| class="wikitable" style="font-size:95%; margin-left:1em"
! style="width:50%"| [[疾病及び関連保健問題国際統計分類|ICD]]-10での診断基準{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.1}}
! [[精神障害診断と統計マニュアル#DSM-IV-TR_(2000年)|DSM-IV-TR]]での診断基準{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.1}}
! [[DSM-IV]]-TRでの診断基準{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.2.1}}
|-
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* (1) 下記の症状が、1カ月以上続いてみられる。次のうち1項目以上(明白でなければ2項目以上)
* (1)
** (a) 考想反響、考想吹入、考想奪取、考想伝播、自他の境界が敏感で曖昧になる境界障害
** (a) 考想反響、考想吹入、考想奪取、考想伝播、自他の境界が敏感で曖昧になる境界障害
** (b) 他者から支配され、影響され、服従させられているという妄想で、身体、手足の動き、思考、行為、感覚に関連していること、および妄想知覚
** (b) 他者から支配され、影響され、服従させられているという妄想で、身体、手足の動き、思考、行為、感覚に関連していること、および妄想知覚
** (c) 患者の行動を注釈し続ける幻声
** (c) 患者の行動を注釈し続ける幻声
** (d) 不適切でまったくありえないような持続的妄想
** (d) 不適切でまったくありえないような持続的妄想
* (2) あるいは、次の2項目以上
* (2)
** (a) あらゆるタイプの頑固な幻覚:浮動性または未完成の妄想や優格観念(感情に強く裏づけられた観念で、その人の思考や行動を持続的に支配するもの)を伴っていたり、数週または数カ月以上、毎日続くことがある。
** (a) 1か月以上の持続的幻覚
** (b) 言語新作、支離滅裂、的れ会話
** (b) 思考連合の途絶や改ざん(滅裂思考、的はずれ会話、新語造成)
** (c) 緊張病性の行動
** (c) 緊張病性の行動(興奮、蝋屈症、拒絶症、緘黙症、昏迷など)
** (d) 陰性症状(著しい無感情、会話の貧困、感情反応の鈍化・不調和、通常は社会的引きこもりや社会的活動の低下を伴う):うつ病や神経遮断薬によらないことが明瞭なもの。
** (d) 陰性症状
** (e) 人格行動にみられる明らかな、持続性の質的変化(関心の喪失、無目的、無為、社会的な引きこもり)
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* 以下の2つ以上が各1か月以上(治療が成功した場合は短い)いつも存在する。
* (A) 以下の2つ以上が各1か月以上(治療が成功した場合は短い)いつも存在する。
*# 妄想
*# 妄想
*# 幻覚
*# 幻覚
261行目: 306行目:
*# 陰性症状
*# 陰性症状
* 社会的または職業的機能の低下
* 社会的または職業的機能の低下
* (B) 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。
* 障害の持続的な徴候が少なくとも6か月間存在
* (C) 障害の持続的な徴候が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
* (D) 統合失調感情障害と、「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下の理由で除外されていること
*# 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない
*# 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。
* (E) その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
* (F) 自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加えて少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。
|}
|}

統合失調症で一番目立つ症状は被害妄想と幻聴である。しかし必ずしも上記の症状が現れるという訳ではない。統合失調症患者が初診時に心因反応という診断名が付いている場合がある。心因反応は[[ストレス|心因性]]で統合失調症は[[精神障害|内因性]]である。

また、外因性精神疾患という外傷や被曝によるケースもある。これらは病気とは違う障害とする学説<ref>{{Cite web|title=統合失調症と電磁波の関係(Relation between schizophrenia and electromagnetic radiation)[1:要約・序文]|url=https://denjihajapan.wordpress.com/2010/01/17/%e7%b5%b1%e5%90%88%e5%a4%b1%e8%aa%bf%e7%97%87%e3%81%a8%e9%9b%bb%e7%a3%81%e6%b3%a2%e3%81%ae%e9%96%a2%e4%bf%82relation-between-schizophrenia-and-electromagnetic-radiation1%ef%bc%9a%e8%a6%81%e7%b4%84/|website=DenjihaJapan|date=2010-01-16|accessdate=2020-01-01|language=ja}}</ref>がある。(一例として、[[電磁波過敏症]]を参照。)


==== 下位分類 ====
==== 下位分類 ====
[[File:統合失調症 下位分類.jpg|thumb|right|300px|下位分類のフローチャート]]
分類は[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類|ICD]]-10により<ref name="icd10">{{Cite web|publisher=WHO |title=ICD-10 Version:2015 |date=2015|url=http://apps.who.int/classifications/icd10/browse/2015/en#/F20 |accessdate=2015-09-01}}</ref><ref name="icd10j">{{Cite web|publisher=MEDIS標準病名マスター作業班 |title=ICD10 国際疾病分類第10版(2003年改訂) |date=2016|url=http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/F00-F99.html|accessdate=2016-07-26}}</ref><ref group="注">( )内英語表記は最新のICD-10は2015年版であるが、日本では平成27年2月13日付け総務省告示第35号をもって「疾病及び関連保健問題の国際統計分類ICD-10(2013年版)」に準拠する改正が行われ、平成28年1月1日から施行されている。このため日本語はICD-10 2013年版に対応している。</ref>「妄想型」「破瓜型」「緊張型」の3つが代表的である<ref>[http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/psy/www/jp/counseling/009-028.pdf 統合失調症] 大阪大学医学系研究科・医学部</ref>。
分類は[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類|ICD]]-10により<ref name="icd10">{{Cite web2|df=ja|publisher=WHO |title=ICD-10 Version:2015 |date=2015|url=http://apps.who.int/classifications/icd10/browse/2015/en#/F20 |accessdate=2015-09-01}}</ref><ref name="icd10j">{{Cite web2|df=ja|publisher=MEDIS標準病名マスター作業班 |title=ICD10 国際疾病分類第10版(2003年改訂) |date=2016|url=http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/F00-F99.html|accessdate=2016-07-26}}</ref><ref group="注釈">( )内英語表記は最新のICD-10は2015年版であるが、日本では平成27年2月13日付け総務省告示第35号をもって「疾病及び関連保健問題の国際統計分類ICD-10(2013年版)」に準拠する改正が行われ、平成28年1月1日から施行されている。このため日本語はICD-10 2013年版に対応している。</ref>、「妄想型」「破瓜型」「緊張型」の3つが代表的である<ref>{{PDFlink|[http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/psy/www/jp/counseling/009-028.pdf 統合失調症]}} 大阪大学医学系研究科・医学部</ref>。

; 妄想型 (ICD-10 F20.0 [[:en:Paranoid schizophrenia|Paranoid schizophrenia]])
; 妄想型統合失調症 (ICD-10 F20.0 [[:en:Paranoid schizophrenia|Paranoid schizophrenia]])
: 連合障害や自閉などの基礎症状が目立たず[[妄想]][[幻覚]]が症状の中心である。統合失調症はかつて早発性痴呆症と呼ばれていたように早発(思春期から青年期)することが多いが、当該亜型は30代以降の比較的遅い発症が特徴的であるとされる。また、薬物療法に比較的感応的とされる。しかし、抗精神病薬の服薬をしても精神症状がとれず慢性的に持続する症例もある。
: 連合障害や自閉などの基礎症状が目立たず妄想・幻覚が症状の中心である。統合失調症はかつて早発性痴呆症と呼ばれていたように早発(思春期から青年期)することが多いが、当該亜型は30代以降の比較的遅い発症が特徴的であるとされる。薬物療法に比較的感応的とされる、抗精神病薬の服薬をしても精神症状がとれず慢性的に持続する症例もある。
; 破瓜型 (ICD-10 F20.1 [[:en:Hebephrenia|Disorganized schizophrenia]])
; 破瓜型統合失調症 (ICD-10 F20.1 [[:en:Disorganized schizophrenia|Disorganized schizophrenia]])
: [[破瓜]](はか)とは女子16歳のことで、破瓜型は思春期青年期に好発とされる。感情意志の鈍麻が主症状で慢性に経過し、人格荒廃に陥りやすい<ref>[http://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/09jugyou/091016%20SCZ%20summary.pdf 統合失調症について]</ref>。今日では破瓜型は社会的・精神医学的な発達の結果として、比較的軽症な程度ですみ、人格のまとまりを保症例が報告されるようになってきている。アメリカ精神医学では、この破瓜型(Hebephrenia)を「解体型(Disorganized)」と呼んでいる。
: 破瓜型(Hebephrenia)<ref group="注釈">[[破瓜]](はか)とは女子16歳のことを指す。</ref>は思春期青年期に好発とされる。感情意志の鈍麻が主症状で慢性に経過し、人格荒廃に陥りやすい<ref name="名城大学薬学部">{{PDFlink|[http://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/09jugyou/091016%20SCZ%20summary.pdf 統合失調症について]}} 名城大学薬学部薬品作用学研究室</ref>。今日では破瓜型は社会的・精神医学的な発達の結果として、比較的軽症な程度ですみ、人格のまとまりを保持する症例が報告されるようになってきている。アメリカ精神医学では、破瓜型のことを「解体型(Disorganized)」と呼んでいる。
; 緊張型(ICD-10 F20.2 [[:en:Catatonia schizophrenia|Catatonia schizophrenia]])
; 緊張型統合失調症 (ICD-10 F20.2 Catatonia schizophrenia)
: 筋肉の硬直症状が特異的で興奮・昏迷などの症状を呈する。陽性時には不自然な姿勢で静止したまま不動となったり、また逆に無目的の動作を繰り返したりする。近年では比較的その発症数は減少したと言われる場合がある。
: 筋肉の硬直症状が特異的で興奮・昏迷などの症状を呈する。陽性症状時には不自然な姿勢で静止したまま不動となったり、逆に無目的の動作を繰り返したりする。近年では比較的その発症数は減少したと言われる場合がある。
; 型分類困難 (ICD-10 F20.3 [[:en:Undifferentiated schizophrenia|Undifferentiated schizophrenia]])
; 型分類困難な統合失調症 (ICD-10 F20.3 Undifferentiated schizophrenia)
: 一般的な基準を満たしているものの、妄想型、破瓜型、緊張型のどの亜型にも当てはまらないか、二つ以上の亜型の特徴を示す状態。
: 一般的な基準を満たしている、妄想型、破瓜型、緊張型のどの亜型にも当てはまらないか、二つ以上の亜型の特徴を示す状態。
; 統合失調症後抑うつ (ICD-10 F20.4 Post-schizophrenic depression)
; 統合失調症後抑うつ (ICD-10 F20.4 [[:en:Post-schizophrenic depression|Post-schizophrenic depression]])
: 急性期の後に訪れることが多く、自殺などを招くことがある。治療法は、[[うつ病]]にほぼ準じる。急性期を脱した20% - 50% に出現する<ref>山田光子、「[https://doi.org/10.15065/jjsnr.20141018003 統合失調症患者のセルフスティグマが自尊感情に与える影響]」 日本看護研究学会雑誌 2015年 38巻 1号 p.1_85-1_91, {{doi|10.15065/jjsnr.20141018003}}</ref>。
: 急性期の後に出現することが多く、自殺などを招くことがある。急性期を脱した20%から50%に出現する<ref>山田光子、「[https://doi.org/10.15065/jjsnr.20141018003 統合失調症患者のセルフスティグマが自尊感情に与える影響]」日本看護研究学会雑誌 2015年 38巻 1号 p.1_85-1_91, {{doi|10.15065/jjsnr.20141018003}}</ref>。治療法は、[[うつ病]]にほぼ準じる
; 残遺型 (ICD-10 F20.5 Residual schizophrenia)
; 残遺型統合失調症 (ICD-10 F20.5 Residual schizophrenia)
: 陰性症状が1年以上持続したもの。陽性症状はないかあっても弱い。他の病型の後に見られる急性期症状が消失した後の安定した状態である。
: 陰性症状が1年以上持続したもの。陽性症状はないかあっても弱い。他の病型の後に見られる急性期症状が消失した後の安定した状態である。
; 単純型 (ICD-10 F20.6 Simple schizophrenia)
; 単純型統合失調症 (ICD-10 F20.6 [[:en:Simple-type schizophrenia|Simple schizophrenia]])
: 連合障害、自閉などの基礎症状が主要な症状で、幻覚妄想はないかわずかである。破瓜型の亜型に含めるケースもある。解体型に比べ内省的で[[病識]]の欠如がであるとされる。
: 連合障害、自閉などの基礎症状が主要な症状で、妄想・幻覚はないかわずかである。破瓜型の亜型に含めるケースもあるが、破瓜型に比べ内省的で[[病識]]の欠如がまれであるとされる。
; その他の統合失調症 (ICD-10 F20.8 Other schizophrenia)
; その他の統合失調症 (ICD-10 F20.8 Other schizophrenia)
: その他の統合失調症は医療診断を示すために使用することができない。
: その他の統合失調症は医療診断を示すために使用することができない。
: その他の統合失調症には、F20.81(Schizophreniform disorder)とF20.89(Other schizophrenia)の2種のコードが含まれる。
: その他の統合失調症には、F20.81(Schizophreniform disorder)とF20.89(Other schizophrenia)の2種のコードが含まれる<ref>[https://icdlist.com/icd-10/F20.8/related RELATED ICD-10-CM CODES TO F20.8]</ref>
: 遅発性統合失調症、体感症性統合失調症、統合失調様状態、急性統合失調症性エピソードの4つの下位分類がある<ref>[http://www.byomei.org/Scripts/ICD10Categories/default2_ICD.asp?CategoryID=F20.8 ICD10対応標準病名マスター F20.8 その他の統合失調症]</ref>。短期統合失調症様障害(F23.2)は除外される<ref>{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/dl/naiyou05.pdf 第Ⅴ章 精神及び行動の障害]}} 厚生労働省</ref>。
: {{節スタブ}}
: {{節スタブ}}
; 詳細不明 (ICD-10 F20.9 Schizophrenia, unspecified)
; 統合失調症,詳細不明 (ICD-10 F20.9 Schizophrenia, unspecified)
: 統合失調症、特定不能のもの。
: 統合失調症、特定不能のもの。
: モレル・クレペリン病、統合失調症の2つの下位分類がある<ref>[http://www.byomei.org/Scripts/ICD10Categories/default2_ICD.asp?CategoryID=F20.9 ICD10対応標準病名マスター F20.9 統合失調症,詳細不明]</ref>。
: {{節スタブ}}
: {{節スタブ}}


==== 先進事例 ====
==== 経過分類 ====
第5桁の数字(F20.XYのY)は、経過分類に用いる<ref name="keika">[https://kamo.hosp.go.jp/about/navi_code_f2.html F2 精神及び行動の障害(F20-F29)] 賀茂精神医療センター 2022年4月8日閲覧。</ref>。
先進的な医療、研究事例として統合失調病の判別に[[光トポグラフィー]]、[[SPECT|脳SPECT]]などの装置による画像診断をおこなうことがある<ref>「わかっているのにできない」脳〈1〉エイメン博士が教えてくれるADDの脳の仕組み/花風社</ref><ref>[http://www.amenclinics.com/blog/free-add-webinar-with-dr-amen-listen-now/ Free ADD Webinar with Dr. Amen – Listen Now!] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20150710011913/http://www.amenclinics.com/blog/free-add-webinar-with-dr-amen-listen-now/ |date=2015年7月10日 }}</ref><ref>[http://diamond.jp/articles/-/14130 問い合わせが殺到!うつ病「見える化」診断光トポグラフィー検査]</ref>。

{|class="wikitable" style="text-align:left; width: 50%; word-break: break-all; word-wrap: break-all;"
!第5桁の数字
!経過
|-
|0||持続性
|-
|1||エピソード性{{Efn|精神医学におけるエピソードは、ある状態(病状)が続いている期間を意味する<ref>[https://www.aburayama-hospital.com/blog-abu/2021-6-19 気分障害(うつ病・双極性障害)の分類] 油山病院 2022年4月20日閲覧。</ref>。}}の経過で進行性の欠陥をともなうもの
|-
|2||エピソード性の経過で固定した欠陥をともなうもの
|-
|3||エピソード性の経過で寛解しているもの
|-
|4||不完全寛解
|-
|5||完全寛解
|-
|8||その他
|-
|9||観察期間が1年未満
|-
|colspan="2"|出典:<ref name="keika"/>
|}

=== 先進事例 ===
先進的な医療、研究事例として統合失調症の判別に[[光トポグラフィー]]、[[SPECT|脳SPECT]]などの装置による画像診断をおこなうことがある<ref>「わかっているのにできない」脳〈1〉エイメン博士が教えてくれるADDの脳の仕組み/花風社</ref><ref>[http://www.amenclinics.com/blog/free-add-webinar-with-dr-amen-listen-now/ Free ADD Webinar with Dr. Amen - Listen Now!] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20150710011913/http://www.amenclinics.com/blog/free-add-webinar-with-dr-amen-listen-now/ |date=2015年7月10日}}</ref><ref>[https://diamond.jp/articles/-/14130 問い合わせが殺到!うつ病「見える化」診断光トポグラフィー検査] DIAMOND ONLINE 2011年9月26日配信 2022年4月23日閲覧。</ref>。


=== 鑑別疾患 ===
=== 鑑別疾患 ===
310行目: 385行目:
* [[統合失調感情障害]]、[[気分障害]]
* [[統合失調感情障害]]、[[気分障害]]
* [[物質乱用]]、投薬による症状、一般身体疾患
* [[物質乱用]]、投薬による症状、一般身体疾患
* [[広汎性発達障害]] {{Refnest|group="注"| アスペルガー症候群は統合失調症に似た症状がおきやすいと以前から指摘がある。アスペルガー症候群を再評価し紹介した[[イギリス]]の医師[[ローナ・ウィング]]の最初の論文(1981年発表)では報告された18人のうち1人に統合失調症様の症状があった<ref>[http://kids.gakken.co.jp/campus/jiritu/medical/backnumber/02_10/top.html 高機能広汎性発達障害と統合失調症] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20090303185454/http://kids.gakken.co.jp/campus/jiritu/medical/backnumber/02_10/top.html |date=2009年3月3日 }} [[杉山登志郎]] 2010年5月26日閲覧</ref>}}
* [[広汎性発達障害]]{{Refnest|group="注"| アスペルガー症候群は統合失調症に似た症状がおきやすいと以前から指摘がある。アスペルガー症候群を再評価し紹介した[[イギリス]]の医師[[ローナ・ウィング]]の最初の論文(1981年発表)では報告された18人のうち1人に統合失調症様の症状があった<ref>[http://kids.gakken.co.jp/campus/jiritu/medical/backnumber/02_10/top.html 高機能広汎性発達障害と統合失調症] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20090303185454/http://kids.gakken.co.jp/campus/jiritu/medical/backnumber/02_10/top.html |date=2009年3月3日}} [[杉山登志郎]] 2010年5月26日閲覧</ref>}}


[[抗NMDA受容体抗体脳炎]]も2007年に提唱された比較的新しく発見された疾患であるが、[[NMDA型グルタミン酸受容体|NMDA受容体]]機能低下による統合失調症と共通病態と考えられるため、鑑別が必要である<ref name="shinkeirinsyou2009">「抗 NMDA 受容体抗体脳炎の臨床と病態臨床神経, 49:774-778, 2009</ref>。
前述におけるプレパルス抑制および[[びっくり病]]、さらには[[糖尿病]]や[[低血糖症]]と違いを鑑別する必要がある。[[抗NMDA受容体抗体脳炎]]も2007年に提唱された比較的新しく発見された疾患であるが、[[NMDA型グルタミン酸受容体|NMDA受容体]]機能低下による統合失調症と共通病態と考えられるため、鑑別が必要である<ref name="shinkeirinsyou2009">{{Cite journal|和書 |author=飯塚高浩 |title=教育講演2 抗NMDA受容体抗体脳炎の臨床と病態 |url=https://doi.org/10.5692/clinicalneurol.49.774 |journal=臨床神経 | issn=0009918X |publisher=日本神経学会 |date=2009 |volume=49 |issue=11 |pages=774-778 |doi=10.5692/clinicalneurol.49.774 |PMID=20030207}}</ref>。


[[精神病#物質誘発性精神病性障害|薬物誘発性精神病]]の症状は、統合失調症の症状に酷似しており、熟練した精神科医でも鑑別は困難とされる<ref name="pmid28243163">{{cite journal|last1=Ham|first1=Suji|last2=Kim|first2=Tae Kyoo|last3=Chung|first3=Sooyoung|coauthors=et al.|title=Drug Abuse and Psychosis: New Insights into Drug-induced Psychosis|journal=Experimental Neurobiology|volume=26|issue=1|page=11|year=2017|pmid=28243163|pmc=5326711|doi=10.5607/en.2017.26.1.11|url=https://doi.org/10.5607/en.2017.26.1.11}}</ref>。症状は同様であるが、薬物誘発性精神病は後天性で、統合失調症は遺伝性であるという点で異なる<ref name="pmid28243163"/>。薬物誘発性精神病と統合失調症の区別は曖昧なため、薬物誘発性精神病モデルは、統合失調症モデルとして研究で頻用されているが、これが動物モデルとして理想的であるかは決定されていない<ref name="pmid28243163"/>。つまり、1.幻覚など陽性症状、2.平坦な感情など陰性症状、3.混乱した言語や非論理的という認知症状の3種類の症状が統合失調症に特徴的であるが、アンフェタミンに誘発された精神病症状は陰性症状を明らかに誘発しないなど不完全であり、発症機序に関して別々であることは明らかである<ref name="pmid28243163"/>。[[DSM-5]]においては、薬物誘発性精神病は統合失調症と区別されており、統合失調症と異なり使用をやめると症状はおさまるものだと定義されている([[精神刺激薬精神病#鑑別診断]]も参照)。
[[精神医学]]は数字で測れる指標は少ないが、主要な[[精神疾患]]については症状や経過の詳細がわかれば通常の診断能力を持つ[[精神科医]]にとって、正確に診断することは難しいものではなく、誤診も一般に思われているよりはるかに少ないとしている<ref>精神障害者をどう裁くか 岩波明,[[光文社]],2009年 ,SBN 9784334035013, 188-189頁</ref>。


[[統合失調型パーソナリティ障害]]は、人を避ける傾向にあり、統合失調症ほどには妄想や幻覚は激しくない。[[妄想性パーソナリティ障害]]は人に攻撃されている、陥れられているといった妄想があり、すぐに怒って反撃したり、いつまでも恨み許さない。
前述におけるプレパルス抑制および[[びっくり病]]、さらには[[糖尿病]]や[[低血糖症]]と差異を見出さなければならない。長時間に渡る問診と共に、[[エビデンス]]すなわち科学的な根拠を基とする判断の上で、精神科医は正確な統合失調症の症状を診断しなければならない。

[[発達障害]]の[[自閉症スペクトラム障害]] (ASD) と間違われやすい精神疾患・障害であり、見分け方かつ正反対な点としては、他者の目線を気にするか否かの点がある<ref name="発達障害"/>。ASDの場合は[[先天性]]で非進行性の疾患・障害であり、自分がどう見られているか、どう思われるかを全く気にしない<ref name="発達障害">{{Cite web|和書|title=「私、発達障害かも」の半数以上は勘違い…対人関係で悩んだときに知っておきたい「発達障害」の診断基準 |url=https://president.jp/articles/-/67102 |website=PRESIDENT Online |date=2023-03-08 |access-date=2023-03-10 |language=ja}}</ref>。

エチオピアでの、重症の精神障害の約300人の調査では統合失調症の誤診率は約24%であった<ref name="pmid33531016">{{cite journal |authors=Ayano G, Demelash S, Yohannes Z, Haile K, Tulu M, Assefa D, Tesfaye A, Haile K, Solomon M, Chaka A, Tsegay L |title=Misdiagnosis, detection rate, and associated factors of severe psychiatric disorders in specialized psychiatry centers in Ethiopia |journal=Ann Gen Psychiatry |volume=20 |issue=1 |pages=10 |date=2021-02 |pmid=33531016 |pmc=7856725 |doi=10.1186/s12991-021-00333-7 |url=https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7856725/ }}</ref>。スイスでは19%<ref name="p479">{{cite book | last=Martins | first=Daniel | last2=Egas | first2=Conceição | last3=Arrais | first3=Joel P. | title=Lecture Notes in Networks and Systems | chapter=The Impact of Schizophrenia Misdiagnosis Rates on Machine Learning Models Performance | publisher=Springer Nature Switzerland | year=2023 doi=10.1007/978-3-031-38079-2_1 | page=3–13}}</ref>。


=== 診断の問題点 ===
=== 診断の問題点 ===
統合失調症の確定診断はそもそも難しいとされる。統合失調症の性質、精神医療現場の環境が原因となって他の精神疾患や発達障害との誤診が起きる可能性があるという意見や報道もある<ref>[[読売新聞]] シリーズこころ「統合失調症」相次ぐ誤診 2008年12月26日</ref>。[[児童精神医学]]は専門外の場合がある。『児童精神科医』は約200人ほどしかいない<ref>うちの子:自閉症児とその家族/4 貧困な乳幼児期支援 [[毎日新聞]] 2004年7月5日</ref>。誤診されやすいものとしては[[双極性障害]]、統合失調感情障害、[[強迫性障害]]、びっくり病 (Hyperekplexia)、[[ナルコレプシー]]における[[情動脱力発作]] (Cataplexy) や[[アスペルガー症候群]]が挙げられている。特に双極性障害は統合失調症と遺伝子的スペクトラムをなすと仮説もあり、しばしば幻聴やてんかんを伴う。
統合失調症の確定診断はそもそも難しい。統合失調症の性質、精神医療現場の環境が原因となって他の精神疾患や発達障害との誤診が起きる可能性がある意見や報道もある<ref>[[読売新聞]] シリーズこころ「統合失調症」相次ぐ誤診 2008年12月26日</ref>。誤診されやすいものとしては[[双極性障害]]、統合失調感情障害、[[強迫性障害]]、びっくり病、[[ナルコレプシー]]における[[カタプレキシー]]や[[アスペルガー症候群]]が挙げられる。特に双極性障害は統合失調症と遺伝子的スペクトラムをなすという仮説もあり、しばしば幻聴やてんかんを伴う。


児童精神科医は約200人ほどしかおらず<ref>うちの子:自閉症児とその家族/4 貧困な乳幼児期支援 [[毎日新聞]] 2004年7月5日</ref>、[[児童精神医学]]は専門外の場合がある。
== 予防に関する論争 ==

== 予防 ==
{{Seealso|精神病#予防}}
{{Seealso|精神病#予防}}
<!-- 様々な提唱がされているが、どれも'''[[反証可能性]]がない'''。仮説羅列しない {{要出典範囲|貧困対策、大麻および違法薬物の使用の防止あるいは大麻の推奨、アルコール飲料摂取の防止、喫煙の防止、あるいは喫煙の推奨、小麦製品などの[[グルテン]]含有食品の摂取の防止 ([[統合失調症の原因#グルテン原因仮説|グルテン原因仮説]])、[[レバー]]に含まれる[[ピリドキサミン]]の積極的な摂取 ([[統合失調症の原因#カルボニルストレス説|カルボニルストレス説]])、コーヒーなどのカフェインの摂取の防止、幼少時期のトラウマ(虐待、いじめ)の防止、家族・医療関係者の高感情表出、いわゆるHIGH-EE(High expressed emotion)の防止、妊婦の[[インフルエンザ]]などの[[感染症]]の防止、睡眠不足の防止あるいは過眠の防止、過食の防止、運動不足の解消、魚介類に多く含まれる[[ω-3脂肪酸]]の積極的な摂取、朝食の摂取、[[親知らず]]の抜歯などが挙げられが、いずれも仮説である|date=2017年6月}}。-->
様々な提唱がされているが、どれも'''[[反証可能性]]がない'''{{Efn|誤りチェックできない体系の意味で、非科学的と分類される<ref group="注釈">[[反証可能性]]を参照。</ref>。}}。{{要出典範囲|貧困対策、大麻および違法薬物の使用の防止あるいは大麻の推奨、アルコール飲料摂取の防止、喫煙の防止、あるいは喫煙の推奨、小麦製品などの[[グルテン]]含有食品の摂取の防止[[統合失調症の原因#遺伝的な要素|グルテン原因仮説]]、[[レバー (食材)|レバー]]などに含まれる[[ピリドキサミン]]の積極的な摂取[[統合失調症の原因#カルボニルストレス説|カルボニルストレス説]]、コーヒーなどのカフェインの摂取の防止、幼少時期のトラウマ(虐待、いじめなど)の防止、家族・医療関係者の高感情表出、いわゆるHIGH-EE (High expressed emotion) の防止、妊婦の[[インフルエンザ]]などの[[感染症]]の防止、睡眠不足の防止あるいは過眠の防止、過食の防止、運動不足の解消、魚介類に多く含まれる[[ω-3脂肪酸]]の積極的な摂取、朝食の摂取、[[親知らず]]の抜歯などが挙げられが、いずれも仮説である|date=2017年6月}}。


[[英国国立医療技術評価機構]](NICE)は、統合失調症発症リスクの高いグループについては、個人単位での[[認知行動療法]](CBT)を提供し、かつ、パーソナリティ障害・薬物乱用・うつ病・不安障害などが見られれば、それらに診療ガイドラインに従った治療を提供するとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.2.3.1}}。発症防止・予防を目的とした、抗精神病薬の投与は行ってはならない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.2.3.2}}。
[[英国国立医療技術評価機構]](NICE)は、統合失調症発症リスクの高いグループについては、個人単位での[[認知行動療法]](CBT)を提供し、さらにもしパーソナリティ障害・薬物乱用・うつ病・不安障害などが見られれば、それらに診療ガイドラインに従った治療を提供するとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.2.3.1}}。発症防止・予防を目的とした、抗精神病薬の投与は行ってはならない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.2.3.2}}。


== 治療 ==
== 支援方針 ==
=== 支援・対処担当者 ===
英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインによれば、第一選択肢は経口[[抗精神病薬]]と[[心理療法]](個別CBTおよび家族介入)の両方を行うことを提案している{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.4}}。しかし[[プライマリケア]]医は、精神科専門医のアドバイスを得ていない限り、初回発症の段階で抗精神病薬を処方してはならないともしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.2.1}}。外来治療と入院治療に分けられる。薬物療法が大きな柱となるが、その他の治療法も病相の時期(急性期、慢性期など)に応じて適宜選択される。いずれにせよ、[[精神科医]]に受診、相談することが望ましい。
精神科医([[精神保健指定医]])・[[薬剤師]]・[[看護師]]・[[保健師]]・[[精神保健福祉士]]・[[社会福祉士]]・[[作業療法士]]・[[理学療法士]]・[[公認心理師]]・[[音楽療法士]]・[[管理栄養士]]・[[栄養士]]などの専門職が挙げられる。[[全国精神保健福祉会連合会]]が結成されている<ref>[https://seishinhoken.jp/ みんなねっと] 全国精神保健福祉会連合会 2022年4月22日閲覧。</ref>。地方自治体は家族への相談窓口などを設置していることが多い。家族の多くが精神障害者の地域生活を支えている<ref name="kazokukenkyu"/>。


===法律===
=== 援助方針 ===
統合失調症の患者の中にも病状悪化による再入院を繰り返す過程で、自分が統合失調症であることや、服薬中断が精神症状悪化につながると分かるようになっている場合もある<ref>{{Cite web|和書|title=“息子を殺してしまうかもしれない” 追い詰められる統合失調症患者の家族 - 医療と介護を考える - NHK みんなでプラス |url=https://www.nhk.or.jp/minplus/0009/topic037.html |website=NHK みんなでプラス - みんなの声で社会をプラスに変える |date=2022-06-27 |access-date=2023-09-15 |language=ja |last=日本放送協会}}</ref><ref name="kazokukenkyu">{{PDFlink|[http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publication/ningen_23/p075.pdf 統合失調症の家族研究の変遷]}} 田野中恭子 2011 立命館人間科学研究</ref><ref>{{Cite web|和書|title=拒薬をする患者さんへの対応について – 医教コミュニティ つぼみクラブ |url=https://www.ikyo.jp/commu/question/1038 |website=www.ikyo.jp |access-date=2023-09-15}}</ref><ref name="okazaki" />。いろいろなことに深刻にならずに、「病気だからそう言うこともあるんだな」と受け止めることが大事との意見がある<ref name="okazaki">{{Cite web2|df=ja|url=https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=4|title=岡崎祐士先生に「統合失調症」(全般)を訊く|date=2015年1月28日|accessdate=2018年5月13日|publisher=日本精神神経学会}}</ref>。治療の開始にあたっては、統合失調症も他の病気と同様に薬で症状をコントロールできること(特殊な病気ではないこと)を伝え、回復への見通しを持てるようにサポートする。同時に、医師や周囲の人のサポートを約束し、本人のペースを尊重しながら協同で治療に取り組んでいくことを伝え、安心感を持てるよう支援する{{sfn|伊藤順一郎|2005|p=20-21,60-61}}。精神科医は、理解しようとすること、少なくともサポートしようとしている姿勢が患者に伝わることが必要となる<ref name="okazaki"/>。
統合失調症は[[精神保健及び精神障害者福祉に関する法律]]の対象となる精神障害者である(第5条)<ref>[https://www.mhlw.go.jp/kokoro/nation/law.html 精神保健福祉士法について]</ref>。患者の申請によって、[[障害者総合支援法]]の[[自立支援医療(精神通院医療)]]が受けられる。長期間の治療に対する医療費の自己負担軽減策として、[[国民健康保険]]の3割負担に加えて、[[公費負担医療]]による医療費減額が受けられる。


患者に妄想・妄言が含まれる場合、それを否定すると孤立感が増し症状が悪化する例が多いとされ、また、逆に肯定すると妄想を補強することになり、症状が悪化する可能性がある<ref name=":2" />。話を聞かない場合においても孤立感が増すため、話を根気よく聞く必要があるが、あまりに真剣に聞きすぎると、聞き手側のストレスになり、場合によっては聞き手側にうつ病などの精神疾患をもたらすことがあるため、あまりに真剣に聞くことも推奨されない。[[介護福祉士|介護職]]の対応としては、妄想の話をしているときには、否定も肯定もせず、中立的に話を最後まで聞き、相手には真剣に聞いている態度を示しつつも、内実あまり真剣に聞かずに軽く受け流すという対応を正解としている(ただし、症例は多様であり、ケースバイケースのため専門医の指示は必須である)<ref name=":2">[[国際医療福祉大学]]医療福祉学部医療福祉・マネジメント学科『[https://books.google.co.jp/books?id=U5_yAwAAQBAJ&pg=PA106&lpg=PA106#v=onepage&q&f=false 福祉教科書 介護福祉士完全合格問題集 2015年版]』 106-107頁。</ref>。実際に、本当のことを訴えている場合、あるいは利害関係から病気に仕立てられるケースが実在するので注意が必要である<ref group="注釈">{{ill|トーマス・サズ|en|Thomas Szasz}}の警告参照。</ref>。
===支援者===
精神科医([[精神保健指定医]])・[[看護師]]・[[薬剤師]]・[[精神保健福祉士]]・[[社会福祉士]]・[[作業療法士]]・[[理学療法士]]・[[保健師]]・[[公認心理師]]・[[音楽療法士]]・[[栄養士]]・[[管理栄養士]]などの専門職が挙げられる。[[全国精神保健福祉会連合会]]が結成されている。地方自治体は家族への相談窓口などを設置していることが多い。患者同士の[[ピアサポート]]も注目されている。


[[厚生労働省]]の[[ウェブサイト]]において、患者家族に対しては「病気とそのつらさを理解する」「医療チームの一員になる」「接し方を少し工夫する」「自分自身を大切にする」ことなどを推奨しており、患者に対して非難的あるいは批判的な言動を慎み、また「原因を探すのはひとまず脇に置いて、具体的な解決策を一緒に考える、という接し方が理想的」と呼びかけている。また、心配しすぎてオロオロしないようにも勧めている<ref>[https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html みんなのメンタルヘルス統合失調症](厚生労働省)</ref>。
=== 援助の方針 ===

家族の多くが、精神障害者の地域生活を支えているが、精神障害者の保護者としての負担は大きいとされる<ref>[http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publication/ningen_23/p075.pdf 統合失調症の家族研究の変遷]</ref>。自らが病気であると認識できないケースも多いため、通院拒否する場合も多く、これも家族への負担を増加させている。いろいろなことが深刻にならずに、「病気だからそう言うこともあるんだなと」と受け止めることが大事である<ref>{{Cite web|url=https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=4|title=岡崎祐士先生に「統合失調症」(全般)を訊く|accessdate=2018年5月13日|publisher=}}</ref>。また実際に、本当のことを訴えている場合、あるいは利害関係から病気に仕立てられるケースが実在するので注意が必要である(トーマス・サズの警告参照)。患者に妄想・妄言が含まれる場合、それを否定すると孤立感を増し症状が悪化する例が多いとされる。また、反対に肯定した場合も妄想を補強することになり、症状の悪化をもたらす可能性がある。また、話を聞かない場合においても孤立感をもたらすため、話を根気よく聞く必要があるが、あまりにも真剣に聞きすぎると、聞き手側の[[ストレス (生体)|ストレス]]になり、場合によっては聞き手側に[[うつ病]]などの精神疾患をもたらすことがあるため、あまり真剣に聞くことも推奨されない。[[介護福祉士|介護職]]の対応としては、[[妄想]]の話をしているときには、否定も肯定もせず、中立的に話を最後まで聞き、相手には真剣に聞いている態度を示しつつも、内実あまり真剣に聞かずに軽く受け流すという対応を正解としている(ただし症例は多様であり、ケースバイケースのため専門医の指示は必須)<ref>[[国際医療福祉大学]]医療福祉学部医療福祉・マネジメント学科『[https://books.google.co.jp/books?id=U5_yAwAAQBAJ&pg=PA106&lpg=PA106#v=onepage&q&f=false 福祉教科書 介護福祉士完全合格問題集 2015年版]』 106-107頁。</ref>。[[厚生労働省]]のサイトにおいて、患者家族に対して「病気とそのつらさを理解する」「医療チームの一員になる」「接し方を少し工夫する」「自分自身を大切にする」事などを推奨しており、患者に対して非難的あるいは批判的な言動を慎み、また「原因を探すのはひとまず脇に置いて、具体的な解決策を一緒に考える、という接し方が理想的」と呼びかけている。また、心配しすぎてオロオロしないようにも勧めている<ref>[http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html みんなのメンタルヘルス統合失調症](厚生労働省)</ref>。治療や社会復帰をすすめるために必要な[[生活保護]]などの[[公的扶助]]制度、[[精神保健及び精神障害者福祉に関する法律]]の活用、様々なアドバイスなどの社会的援助を、精神保健福祉士などが支援する。看護師と精神保健福祉士が協働する[[訪問看護]]などもある。
[[精神保健及び精神障害者福祉に関する法律|精神保健福祉法]]、[[生活保護]]などの[[公的扶助]]制度の活用や様々なアドバイスなど治療や社会復帰をすすめるために必要な社会的援助を、精神保健福祉士などが支援する。看護師と精神保健福祉士が協働する[[訪問看護]]などもある。

== 治療 ==
外来治療と入院治療に分けられる。英国国立医療技術評価機構 (NICE) のガイドラインによれば、第一選択肢は経口[[抗精神病薬]]と[[心理療法]](個別認知行動療法および家族介入)の両方を行うことを提案している{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.4}}。しかし[[プライマリケア]]医は、精神科専門医のアドバイスを得ていない限り、初回発症の段階で抗精神病薬を処方してはならないとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.2.1}}。薬物療法が大きな柱となるが、その他の治療法も病相の時期(急性期、慢性期など)に応じて適宜選択される。いずれにせよ、[[精神科医]]を受診、相談することが望ましい。統合失調症患者の主体的な人生や生活のゴールを達成するために、患者と医師による治療内容についての[[シェアード・ディシジョン・メイキング|共同意思決定]](SDM)が関心を高めている<ref>{{Cite journal ja|author=山口創生, 熊倉陽介 |title=統合失調症患者における共同意思決定 : 新しいアプローチとシステム |url=https://search.jamas.or.jp/link/ui/2017224364 |journal=医学のあゆみ |issn=00392359 |publisher=医歯薬出版 |year=2017 |volume=261 |issue=10 |pages=941-948}} {{要購読}}</ref>。


=== 薬物療法 ===
=== 薬物療法 ===
[[ファイル:クエチアピン(Quetiapine)セロクエル25mg錠5264493.jpg|thumb|180px|right|非定型抗精神病薬の一つ「クエチアピン」]]
[[薬物療法]]によって完治することは稀であるが、[[対症療法]]にはなる。日本神経精神薬理学会が『統合失調症薬物治療ガイド』<ref>[http://www.asas.or.jp/jsnp/img/csrinfo/szgl_guide.pdf 統合失調症薬物治療ガイド - 学会支援機構]</ref>を公開している<ref>[https://www.sankei.com/life/news/180403/lif1804030009-n1.html 統合失調症の薬のガイドを学会が作成] </ref>。
[[薬物治療|薬物療法]]によって完治することはまれであるが、[[対症療法]]にはなる。
[[ファイル:クエチアピン(Quetiapine)セロクエル25mg錠5264493.jpg|thumb|170px|right|[[非定型抗精神病薬]]の一つ「クエチアピン」]]
[[ファイル:Risperidone.jpg|thumb|70px|非定型抗精神病薬の代表例「リスペリドン」]]
{{main|抗精神病薬|向精神薬}}
主に[[ドーパミン受容体|ドーパミンD<sub>2</sub>受容体]]拮抗作用を持つ[[抗精神病薬]](日本では20数種類が使用できる)の投与が、陽性症状を中心とした症状の軽減に有効である。


[[抗精神病薬]](日本では20数種類が使用できる)の投与が、陽性症状を中心とした症状の軽減に有効である。日本神経精神薬理学会が『統合失調症薬物治療ガイド』<ref>{{PDFlink|[http://www.asas.or.jp/jsnp/img/csrinfo/szgl_guide.pdf 統合失調症薬物治療ガイド - 学会支援機構]}}</ref>を公開している<ref>[https://www.sankei.com/life/news/180403/lif1804030009-n1.html 統合失調症の薬のガイドを学会が作成]</ref>。NICEは、抗精神病薬の処方は利益と副作用を考慮した上、年に一度見直すとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.5.1.3}}。
近年、従来の抗精神病薬よりも、副作用が少なく陰性症状にも有効性が高いなどの特徴をもった『[[非定型抗精神病薬]]』と呼ばれる新しいタイプの薬剤([[リスペリドン]]、[[リスパダール・コンスタ]]、[[ペロスピロン]]、[[オランザピン]]、[[クエチアピン]])が開発され、治療の主流になりつつある。さらに、最近[[アリピプラゾール]]、[[ブロナンセリン]]、[[クロザピン]]、[[パリペリドン]]が加わり、日本では現在8種類の非定型抗精神病薬が使用可能となっている。


従来の[[定型抗精神病薬]]と呼ばれる薬剤よりも、副作用が少なく陰性症状にも有効性が高いなどの特徴をもった[[非定型抗精神病薬]]と呼ばれる新しいタイプの薬剤である[[リスペリドン]]、[[ペロスピロン]]、[[オランザピン]]、[[クエチアピン]]が開発され、治療の主流になりつつある。さらに、最近[[アリピプラゾール]]、[[ブロナンセリン]]、[[クロザピン]]、[[リスパダール・コンスタ]]、[[パリペリドン]]、{{ill|アセナピン|en|Asenapine}}<ref name="asenapine">[https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2016/detail/160526_01.html 抗精神病剤「シクレスト舌下錠」新発売のお知らせ] Meiji Seika ファルマ株式会社 2016年05月26日配信 2022年4月18日閲覧。</ref>、[[ブレクスピプラゾール]]<ref name="#1">[https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2018/20180418_1.html 新規抗精神病薬「レキサルティ錠」 統合失調症の適応で国内で新発売] 大塚製薬 2018年4月18日配信 2022年4月10日閲覧。</ref>、[[ルラシドン]]<ref name="#2">{{PDFlink|[https://www.ds-pharma.co.jp/ir/news/pdf/ne20200604.pdf 非定型抗精神病薬「ラツーダ錠」の国内における新発売のお知らせ]}} 大日本住友製薬 2020年6月4日配信 2022年4月10日閲覧。</ref>が加わった。クロザピンは治療抵抗性統合失調症{{Efn|4週間以上にわたり、2種類以上の十分な用量の抗精神病薬を服用しても十分に改善しない統合失調症のこと<ref>[https://www.ncnp.go.jp/topics/2021/20211203p.html 治療抵抗性統合失調症の診断により 治療抵抗性統合失調症薬クロザピンの処方率が向上] 国立精神・神経医療研究センター 2021年11月26日配信 2022年4月18日閲覧。</ref>。}}に唯一有効な抗精神病薬であるとされる<ref>[https://www.amed.go.jp/news/release_20161104-03.html 治療抵抗型統合失調症の治療薬の作用機序の一端を発見―治療反応性を予測するバイオマーカーの開発に期待―] 日本医療研究開発機構 2016年11月4日配信 2022年4月18日閲覧。</ref>{{Efn|クロザピンはクロザリル患者モニタリングサービスを活用した安全管理を行った場合のみ使用することが可能である<ref>[http://jscnp.org/clozapine/index.html Clozapineについて] 日本臨床精神神経薬理学会 2022年4月28日閲覧。</ref>。クロザリル患者モニタリングサービスは、本剤投与中の[[好中球減少症]]・[[無顆粒球症]]、[[耐糖能異常]]といった本剤の重大な副作用を踏まえ、患者ごと早期発見および発現時の予後の重篤化抑制を目的とし、本剤を使用する医療従事者、医療機関、保険薬局および患者を登録し、患者ごとの白血球数・好中球数および血糖値などのモニタリングの確実な実施(ヒューマンエラーによる検査未実施などの回避)を支援する<ref>{{PDFlink|[http://www.clozaril-tekisei.jp/shared/pdf/cpms_4-3.pdf 運用手順]}} CPMS 2022年4月28日閲覧。</ref>。}}。ただし、非定型抗精神病薬における新たな問題もあり、副作用面では、オランザピン、クエチアピンが、[[高血糖]]・[[糖尿病]]・[[肥満]]を誘発することがある。また医療経済面では、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなどは[[薬価]]が非常に高く設定されている。こうした見解を経て、定型抗精神病薬が再考されている。
ただ、非定型抗精神病薬における新たな問題もある。副作用面では、オランザピン、クエチアピンが、稀に[[高血糖]]・[[糖尿病]]・[[肥満]]を誘発することがある。また、医療経済的に見るとオランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなどの[[薬価]]が非常に高く設定されている。こうした見解を経て、定型抗精神病薬が再考されている。


抗精神病薬の一般的な副作用として、黒質線条体系の[[ドーパミン]]拮抗作用による[[パーキンソン症候群]]、[[錐体外路症状]]、[[アカシジア]]、[[ムスカリン]]拮抗作用による便秘、口渇、眼のかすみ、[[ヒスタミン]]作用などによる眠気、体重増加など、アドレナリンα<sub>1</sub>拮抗作用による低血圧が生じることがある。また、統合失調症に抑うつ症状や強迫症状を伴う場合などに[[うつ]]を、不安症状が強い場合に[[抗不安薬]]不眠合に[[睡眠薬]]を併用することもある
抗精神病薬の一般的な副作用として、黒質線条体系の[[ドーパミン]]拮抗作用による[[パーキンソン症候群]]、[[錐体外路症状]]、[[アカシジア]]、[[悪性症候群]]、[[ムスカリン]]拮抗作用による便秘、口渇、眼のかすみ、[[ヒスタミン]]拮抗作用などによる眠気、体重増加など、アドレナリンα<sub>1</sub>拮抗作用による[[低血圧]]、[[性機能障害]]が生じることがある<ref name="名城大学薬学部"/>。抗精神病の治療の副作用対策として[[抗パーキンソン病薬]]の使用は認知機能を低下させる副作用あるため、なるべく少量の使用か、使用しな傾向にある<ref>{{Cite journal ja|author=大曽根彰 |title=統失調症の陽性症状する薬剤選択のジレンマ |url=https://doi.org/10.3999/jscpt.40.133S |journal=臨床薬理 |issn=0388-1601 |publisher=日本臨床薬理学会 |date=2009 |volume=40 |issue=3 |pages=133S-134S |naid=10026157745 |doi=10.3999/jscpt.40.133s}}</ref>


抗精神病薬の換算方法として『[[クロルプロマジン換算]]』があり、参考の一つとして利用されている。NICEは、薬剤切替時を除いて抗精神病薬を多剤投与してはならない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.6}}、急速大量抗精神病薬飽和療法(Rapid Neuroleptization) は、急性エピソード時の差し迫った暴力鎮静を除いて行ってはならないと勧告している{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.6}}{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.5}}。日本の薬物療法においては[[多剤大量処方]]という問題を抱えており、その副作用で死亡者が出るなどの事例がある<ref>[http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html 特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20130524063649/http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html |date=2013年5月24日 }}のホームページより抜粋</ref>。
NICEは、薬剤切替時を除いて抗精神病薬を多剤投与してはならない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.6}}、急速大量抗精神病薬飽和療法 (Rapid Neuroleptization) は、急性エピソード時の差し迫った暴力鎮静を除いて行ってはならないと勧告している{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.5}}{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.6}}。日本の薬物療法においては[[多剤大量処方]]という問題を抱えており、その副作用で死亡者が出るなどの事例がある<ref>[http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html 特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20130524063649/http://comhbo.net/new/report/report_20101209.html |date=2013年5月24日}}のホームページより抜粋</ref>。抗精神病薬の換算方法として[[クロルプロマジン換算]]があり、統合失調症においてはクロルプロマジン換算量600mg程度を理想としている<ref>{{Cite journal ja|author=助川鶴平 |title=抗精神病薬多剤大量投与の是正に向けて |url=https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140060696.pdf |format=PDF |journal=精神神経学雑誌 | issn=00332658 |publisher=日本精神神経学会 |year=2012 |volume=114 |issue=6 |pages=696-701}}</ref>。


統合失調症維持期の抗精神病薬治療については、継続、中止、間欠投与{{Efn|毎日薬剤を使用する代わりに、週2回、または週3回使用するなどの方法を指す<ref>[https://jata.or.jp/terminology/k_11_2.html 間欠療法] 新結核用語事典 2022年4月27日閲覧。</ref>。}}、減量・低用量の4つの戦略がある<ref name="senryaku"/>。中止については、近年各国のガイドラインは初回エピソード患者を中心に肯定的に傾いてきており、減量・低用量についても、ガイドラインは完全に否定してはいない<ref name="senryaku"/>。一方、複数エピソードを経験している患者に対しては中止は推奨されておらず、間欠投与については、いずれのガイドラインも推奨していない<ref name="senryaku">{{Cite journal ja|author=下村雄太郎, 竹内啓善 |title=統合失調症維持期の抗精神病薬治療──各国のガイドラインと最新のエビデンス |url=http://www.pieronline.jp/content/article/1343-3474/24070/673 |journal=臨床精神薬理 |issn= |publisher= |year=2021 |volume=24 |issue=7 |pages=673 - 682 |naid= }}</ref>。
また薬物療法を中断すると、やめた当初は調子がいいように感じることもあるが、多くは3か月、半年と時間が経つにつれて再発する('''怠薬''')。自己判断で止めるのではなく、精神科医の指導のもと継続して服用することが重要である<ref>{{Cite journal|和書 |author=市橋秀夫 |title=統合失調症 |volume= |issue= |year=2001 |month=8 |journal=岩田誠 他(監):新・病気とからだの読本(4)脳・神経と精神の病気 |publisher=暮しの手帖社 |location=東京 |pages=241-283 |page=263}}</ref>。NICEは、抗精神病薬の処方は利益と副作用を考慮の上、年に一度レビューするとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.5.1.3}}。


薬物療法を中断すると、中断した当初は調子がいいように感じることもあるが、多くは3か月、半年と時間が経つにつれて再発する(拒薬、怠薬{{Efn|拒薬は自己判断によって意図的に薬を飲まないこと、怠薬は無意識や記憶障害による飲み忘れを指す<ref>[https://www.ikyo.jp/commu/question/1038 拒薬をする患者さんへの対応について] つぼみクラブ 2014年10月15日配信 2022年4月19日閲覧。</ref>。}})。自己判断で中断するのではなく、精神科医の指導のもとで継続して服用することが重要である<ref>{{Cite journal ja|author=市橋秀夫 |title=統合失調症 |volume= |issue= |year=200 |journal=[[岩田誠 (医師)|岩田誠]] 他(監):新・病気とからだの読本(4)脳・神経と精神の病気 |publisher=暮しの手帖社 |location=東京 |pages=241-283}}</ref>。
統合失調症に[[柴胡加竜骨牡蛎湯]]、[[抑肝散]]、[[加味逍遥散]]、[[半夏瀉心湯]]等、漢方薬が有効なこともある。ただし、統合失調症を漢方薬のみで治療するのは難しく関連症状に対して使用される<ref>内海聡「精神疾患・発達障害に効く漢方薬―」『精神科セカンドオピニオン2 - 続・精神科セカンドオピニオンの実践から』</ref>。また、漢方の温胆湯が統合失調症に効く。短期的に全体的改善が生じる。他の抗精神病薬と比較して有効性が高いわけではないが、錐体外路症状が生じにくいことが示された。<ref>[http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD012217.pub2/full?campaign=browse-by-topic-clib-RSS Wendan decoction (Traditional Chinese medicine) for schizophrenia]</ref>


2006年、[[アラスカ州]]最高裁判所は抗精神病薬に関する訴訟の判決文で、「向精神薬は患者の心身に重大で永続的な悪影響を及ぼすことがある{{Efn|原文: “psychotropic medication can have profound and lasting negative effects on a patient's mind and body” <ref name="RW528531"/><ref name="PCG">{{harvnb|Peter C. Gøtzsche|2015|loc=§ Forced treatment must be banned}}</ref><ref name="SCA2006">{{Cite web2|df=ja|date=2006-06-30|title=Supreme Court of Alaska. No. S-11021.|url=https://caselaw.findlaw.com/ak-supreme-court/1004032.html|publisher=[[Thomson Reuters]]|accessdate=2018-07-02}}</ref><ref name="LPPR">{{Cite web2|df=ja|title=Alaska Forced Medication Case|url=http://psychrights.org/states/alaska/CaseOne.htm|publisher=Law Project for Psychiatric Rights|accessdate=2018-07-02}}</ref>}}」「数々の破壊的な副作用を引き起こす可能性があることが知られている{{Efn|原文: “are known to cause a number of potentially devastating side effects.” <ref name="RW528531"/><ref name="PCG"/><ref name="SCA2006"/><ref name="LPPR"/>}}」と説明している<ref name="RW528531">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=355-357}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=528-531}})</ref>。
{{See also|抗精神病薬#抗精神病作用が報告されている物質}}


2024年には、以上のようなドーパミン受容体への作用する抗精神病薬の強い副作用を回避すべく、種類の異なる新薬がアメリカで発売された。コリン作動性受容体に作用する[[キサノメリン-トロスピウム]](商品名コベンフィ)である。
2006年、[[アラスカ州]]最高裁判所は抗精神病薬に関する訴訟の判決文で、「向精神薬は患者の心身に重大で永続的な悪影響を及ぼすことがある{{refnest|group="注"|原文: “psychotropic medication can have profound and lasting negative effects on a patient's mind and body” <ref name="RW528531"/><ref name="PCG">{{harvnb|Peter C. Gøtzsche|2015|loc=§ Forced treatment must be banned}}</ref><ref name="SCA2006">{{Cite web|date=2006-06-30|title=Supreme Court of Alaska. No. S-11021.|url=https://caselaw.findlaw.com/ak-supreme-court/1004032.html|publisher=[[Thomson Reuters]]|accessdate=2018-07-02|}}</ref><ref name="LPPR">{{Cite web|title=Alaska Forced Medication Case|url=http://psychrights.org/states/alaska/CaseOne.htm|publisher=Law Project for Psychiatric Rights|accessdate=2018-07-02}}</ref>}}」「数々の破壊的な副作用を引き起こす可能性があることが知られている{{refnest|group="注"|原文: “are known to cause a number of potentially devastating side effects.” <ref name="RW528531"/><ref name="PCG"/><ref name="SCA2006"/><ref name="LPPR"/>}}」と説明している<ref name="RW528531">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=355-357}} (翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=528-531}})</ref>。


{{see also|抗精神病薬#統合失調症|向精神薬#精神科の薬}}
=== 食事と運動 ===
NICEは患者に対し、健康的な食事と[[運動療法|運動プログラム]]の組み合わせを提供すべきであるとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.1.3}}。


統合失調症に[[柴胡加竜骨牡蛎湯]]、[[半夏瀉心湯]]、[[加味逍遥散]]、[[抑肝散]]など、[[漢方薬]]が有効なこともある。ただし、統合失調症を漢方薬のみで治療するのは難しく関連症状に対して使用される<ref>内海聡「精神疾患・発達障害に効く漢方薬―」『精神科セカンドオピニオン2 - 続・精神科セカンドオピニオンの実践から』</ref>。また、漢方の温胆湯が統合失調症に効果があり、短期的に全体的改善が生じる<ref name="Wendan"/>。温胆湯は抗精神病薬と比較して有効性が高くはないが、錐体外路症状が生じにくいことが示されている<ref name="Wendan">[http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD012217.pub2/full?campaign=browse-by-topic-clib-RSS Wendan decoction (Traditional Chinese medicine) for schizophrenia] Cochrane Library 2017年6月28日配信 2022年4月21日閲覧。</ref>。
=== 心理社会的介入 ===
; [[認知行動療法]](CBT)
: 薬物療法と並行して、疾患の心理的な受容、疾患や治療に伴い経験した喪失体験の受容などを援助するために個人精神療法を行うこともある。異性関係のことが自分の中であまりにも整理されていない人が多いとされる。異性の気持ちになって物事を見ることも大切な心理療法である。
: NICEは、統合失調症を持つすべての人にCBTをオファーすべき{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}、その場合は個人別セッションを最低16回行うとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.7.1}}。
: 認知行動療法では、まず以下のような技法を活用して、患者が妄想・幻聴の妥当性を検証・検討することができるよう支援する<ref>デイビッド・ファウラー, フィリッパ・ガレティ, エリザベス・カイパース 東京駒場CBT研究会(訳) (2011). 統合失調症を理解し支援するための認知行動療法 金剛出版, 180-181・184-186頁. </ref>。
: a. 行動実験:ここでは、妄想の内容や幻聴の要求に逆らって行動するという行動実験が設定され、患者をサポートする。そして、妄想の内容は事実ではなく、幻聴の要求も正しくないという気づきを得て、妄想や幻聴の妥当性を否定する<ref>デイビッド・ファウラー, フィリッパ・ガレティ, エリザベス・カイパース 東京駒場CBT研究会(訳) (2011). 統合失調症を理解し支援するための認知行動療法 金剛出版, 184-186頁.</ref>。
: b. 認知再構成法・論理的分析法:協同的な治療関係が確立した後、妄想や幻聴の内容を論理的・科学的に検討したり、妄想的信念の根拠を検証したり、別の解釈の探求を行ったり、妄想や幻聴の内容に反する出来事・体験に注意を払ったりすることを通じて、患者が妄想・幻想の妥当性を検討することをサポートする<ref>ライト, J. H., バスコ, M. R., & テーゼ, M. E. 大野 宏(訳) (2007). 認知行動療法トレーニングブック 医学書院, 286頁.</ref><ref>デイビッド・ファウラー, フィリッパ・ガレティ, エリザベス・カイパース 東京駒場CBT研究会(訳) (2011). 統合失調症を理解し支援するための認知行動療法 金剛出版, 180頁. </ref>。
: c. 現実検討:大野・井上 (2009) は、認知的変容には実体験を通じた現実検討が有効であるとした。幻聴や妄想の内容を、患者が実体験・行動を通じて再検証することをサポートし、それにより得られた気づきを共有する<ref>大野 宏明・井上 桂子 (2010). [https://kwmw.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=13600&item_no=1&page_id=13&block_id=17 被害関係妄想と自生体験を主症状とした統合失調症患者への認知行動療法的介入]. 作業療法, ''29,'' 47-56. </ref>。
: d. 証拠・根拠の検討:妄想や幻聴の内容が事実であるかどうか・実在するかどうかについての証拠や根拠について、治療者と患者が協働で様々な角度から客観的に検討し、そこで得られた気づきを共有することで、妄想や幻聴は事実ではなく実在もしないと認識できるようサポートする<ref>Birchwood, M., & Jackson, C. 丹野 義彦・石垣 琢麿(訳)(2006). 統合失調症――基礎から臨床への架け橋―― 東京大学出版会, 134頁.</ref><ref>白石 弘巳(監修)(2015). 統合失調症――正しい理解とケア―― 高橋書店, 120頁.</ref><ref>エマ・ウィリアムズ 菊池 安希子(監訳)(2008). 統合失調症のための集団認知行動療法 星和書店, 103-104頁.</ref>。
: e. 代替療法:妄想や幻聴に対する合理的な他の考え方・見方を患者が見つけられるようにサポートしたり、それらを治療者が提示したりする。どちらにおいても、患者と治療者が協同して、苦痛を伴わない合理的な別の考え方を見つけていく<ref>デイビッド・ファウラー, フィリッパ・ガレティ, エリザベス・カイパース 東京駒場CBT研究会(訳) (2011). 統合失調症を理解し支援するための認知行動療法 金剛出版, 180-181頁. </ref>。
: f. フォーカシング治療:セルフモニタリングの技法などを活用して、妄想や幻聴は自分の思考(自己派生の出来事)であり、実際に外部にあるもの・外部からの声(外部からの刺激)ではないということを再認識できるようサポートし、症状による苦痛の頻度を軽減することを目的とする<ref>白石裕子,則包和也 (2004). [http://shark.lib.kagawa-u.ac.jp/chs/metadata/118 統合失調症の症状への認知行動療法の動向と展望]. 香川県立保健医療大学紀要, ''1,'' 117-122, 2004, {{naid|110004621832}}</ref>。
: g. 競合刺激の活用:たとえば、幻聴が聞こえる状態で外部聴覚刺激(音楽など)を聞くと、幻聴が少なくなることを体験することなどを通じて、幻聴は実在する外部音声ではないという認知を形成できるようサポートする<ref>エマ・ウィリアムズ 菊池 安希子(監訳)(2008). 統合失調症のための集団認知行動療法 星和書店, 14頁.</ref>。
: また、対処方略としては、妄想の考えをストップしたり幻聴を無視し聞き流したりしたあと他へ注意を向ける二段階法や、ちょっとした気晴らし行動などを用いた注意転換法を活用して、妄想・幻聴への注意を他の事柄(たとえば音楽など)に向け、そのような現実の事柄に集中していくことができるようサポートを行う<ref>渡辺 和成 (2012). 統合失調症からの回復に役立つ治療と日常生活のポイント 星和書店, 54-55頁. </ref><ref>デイビッド・ファウラー, フィリッパ・ガレティ, エリザベス・カイパース 東京駒場CBT研究会(訳) (2011). 統合失調症を理解し支援するための認知行動療法 金剛出版, 150-151・185頁.</ref>。


{{See also|抗精神病薬#抗精神病作用が報告されている物質}}2010年代後半から、陰性症状の1つである認知機能低下の改善を目指し、製薬会社各社が[[グリシントランスポーター1]]阻害薬の開発を進めている<ref name=":03">{{Cite web|和書|url=https://www.boehringer-ingelheim.com/jp/press-release/20211019-01 |title=日本ベーリンガーインゲルハイム、統合失調症の認知機能障害(CIAS)の国際共同第3相臨床試験で、国内における患者登録を開始 |access-date=2023-09-17 |publisher=ベーリンガーインゲルハイム |date=2021-10-19}}</ref><ref name="pmid24696094">{{cite journal|date=June 2014|title=Effect of bitopertin, a glycine reuptake inhibitor, on negative symptoms of schizophrenia: a randomized, double-blind, proof-of-concept study|journal=JAMA Psychiatry|volume=71|issue=6|pages=637–46|doi=10.1001/jamapsychiatry.2014.163|pmid=24696094|vauthors=Umbricht D, Alberati D, Martin-Facklam M|display-authors=etal|doi-access=}}</ref><ref name="pmid25905800">{{cite journal|year=2015|title=The discovery and characterization of the α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid (AMPA) receptor potentiator ''N''-{{(}}(3''S'',4''S'')-4-[4-(5-cyano-2-thienyl)phenoxy]tetrahydrofuran-3-yl{{)}}propane-2-sulfonamide (PF-04958242)|journal=J. Med. Chem.|volume=58|issue=10|pages=4291–308|doi=10.1021/acs.jmedchem.5b00300|pmid=25905800|vauthors=Shaffer CL, Patel NC, Schwarz J, Scialis RJ, Wei Y, Hou XJ, Xie L, Karki K, Bryce DK, Osgood SM, Hoffmann WE, Lazzaro JT, Chang C, McGinnis DF, Lotarski SM, Liu J, Obach RS, Weber ML, Chen L, Zasadny KR, Seymour PA, Schmidt CJ, Hajós M, Hurst RS, Pandit J, O'Donnell CJ}}</ref><ref name="pmid28242871">{{cite journal|year=2017|title=Attenuation of ketamine-induced impairment in verbal learning and memory in healthy volunteers by the AMPA receptor potentiator PF-04958242|journal=Mol. Psychiatry|volume=22|issue=11|pages=1633–1640|doi=10.1038/mp.2017.6|pmid=28242871|vauthors=Ranganathan M, DeMartinis N, Huguenel B, Gaudreault F, Bednar MM, Shaffer CL, Gupta S, Cahill J, Sherif MA, Mancuso J, Zumpano L, D'Souza DC|s2cid=3691566}}</ref><ref name="AdisInsight">{{cite web |url=http://adisinsight.springer.com/drugs/800032498 |title=PF 4958242 |website=AdisInsight |access-date=2017-08-30}}</ref> 。グリシントランスポーター1阻害薬は現在[[イクレペルチン]](ベーリンガーインゲルハイム)、[[ビトペルチン]](ロシュ)、[[ORG-25935]](Organon & Co.)、[[ペサンパトル]](ファイザー)が臨床試験に入っている<ref name=":03" /><ref name="pmid24696094" /><ref name="pmid25905800" /><ref name="pmid28242871" /><ref name="AdisInsight" />。
; [[心理教育]](Psycoeducation)

: 薬物療法によって陽性症状が軽減しても、自らが精神疾患に罹患しているという自覚([[病識]])を持つことは容易ではない。病識の不足は、服薬の自己中断から再発率を上昇させることが知られている。病識をもつことを援助し、疾患との折り合いの付け方を学び、治療意欲を向上させるために心理教育を行うことが望ましい。また、患者本人のみならず、家族の援助(家族教育)も行うこともある。[[精神保健福祉士]]が主に担当。
=== 心理社会的介入 ===
: 統合失調症の患者は正直すぎると言われる。なにもかも正直でなくていい、秘密があっていいということを教育する。秘密にすることで自分を守ることはマナーでもある。これを身につけることが社会復帰のために必要である。
十分な傾聴と受容を通して、妄想や幻覚の背景にある苦しみや、妄想や幻覚による苦悩を理解し、治療関係を構築した上で、次のような効果的な治療を患者と協同で進めていく<ref>{{Cite journal|author=賀古 勇輝|year=2022|title=「信じてください。私は集団ストーカーの被害を受けているんです」―妄想への同意を主治医に求めてくる統合失調症患者にどう対処するか―|journal=精神科治療学|volume=37|issue=増刊号|page=19-22}}</ref>。
; [[認知行動療法]] (CBT)
: NICEは、すべての統合失調症患者に認知行動療法を提供すべきであり{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}、その場合は個人別セッションを最低16回行うとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.3.7.1}}。英国などで有効性が証明されており、日本での認知行動療法のさらなる導入が求められている<ref>{{Cite book|title=統合失調症|year=2013|publisher=医学書院|author=日本統合失調症学会}}</ref>。
: 認知行動療法では、以下のような技法を活用して、妄想や幻聴の妥当性を検証したり機能的な考え方や行動を形成したりすることができるよう患者を支援する{{sfn|統合失調症を理解し支援するための認知行動療法|p=180-181,184-186}}。
: 1. 行動実験:妄想の内容や幻聴の要求に逆らって(もしくは無視して)行動し、その結果を検証するという行動実験を通して、患者をサポートする。行動実験により、妄想の内容は事実ではなく幻聴の要求も正しくないという気づきが得られ、妄想や幻聴の妥当性を否定でき、苦痛を和らげることができる{{sfn|統合失調症を理解し支援するための認知行動療法|p=184-186}}。
: 2. 認知再構成法・論理的分析法:協同的な治療関係が確立した後、妄想や幻聴の内容を論理的・科学的に検討したり、妄想的信念の根拠を検証したり、別の解釈の探求を行ったり、妄想や幻聴の内容に反する出来事・体験に注意を払ったりすることを通じて、患者が妄想や幻聴の妥当性を検討することをサポートする<ref>ライト, J. H., バスコ, M. R., & テーゼ, M. E. 大野 宏(訳) (2007). 認知行動療法トレーニングブック 医学書院, 286頁.</ref>{{sfn|統合失調症を理解し支援するための認知行動療法|p=180}}。
: 3. 現実検討:認知的変容には実体験を通じた現実検討が有効である<ref>大野・井上 (2009) </ref>。妄想や幻聴の内容を、患者が実体験・行動を通じて再検証することをサポートし、それにより得られた気づきを共有する<ref>{{Cite journal ja|author=大野宏明, 井上桂子 |title=◆研究論文 被害関係妄想と自生体験を主症状とした統合失調症患者への認知行動療法的介入 |url=https://doi.org/10.11477/mf.6003900922 |journal=作業療法 | issn=0289-4920 |publisher=株式会社医学書院 |year=2010 |volume=29 |issue=1 |pages=47-59 |doi=10.11477/mf.6003900922}} {{要登録}}</ref>。
: 4. 証拠・根拠の検討:妄想や幻聴の内容が事実であるかどうか・実在するかどうかについての証拠や根拠について、治療者と患者が協同で様々な角度から客観的に検討し、そこで得られた気づきを共有することで、妄想や幻聴は事実ではなく実在もしないと認識できるようサポートする<ref>Birchwood, M., & Jackson, C. 丹野 義彦・石垣 琢麿(訳)(2006). 統合失調症――基礎から臨床への架け橋―― 東京大学出版会, 134頁.</ref><ref>白石 弘巳(監修)(2015). 統合失調症――正しい理解とケア―― 高橋書店, 120頁.</ref>{{sfn|統合失調症のための集団認知行動療法|p=103-104}}。たとえば、幻聴の訴えがある場合は、何らかの録音機器を使ったサポートを通して、幻聴を裏付けるような音声が録音されないという気づきを得て、幻聴は実在する音声ではないという確信を持つことができる<ref>{{Cite book|和書 |title=認知行動療法トレーニングブック:短時間の外来診療編 |year=2011 |publisher=医学書院 |page=267 |translator=大野 裕 |author=Jesse H. Wright |author2=Donna M. Sudak |author3=Douglas Turkington |author4=Michael E. Thase}}</ref>。
: 5. 代替療法:妄想や幻聴に対する合理的な他の考え方を患者が見つけられるようにサポートしたり、治療者が提示したりする。どちらにおいても、患者と治療者が協同して、苦痛を伴わない合理的な別の考え方を見つけていく{{sfn|統合失調症を理解し支援するための認知行動療法|p=80-18}}。
: 6. [[フォーカシング|フォーカシング療法]]:セルフモニタリングの技法などを活用して、妄想や幻聴は自分の思考(自己派生の出来事)であり、実際に外部にあるもの・外部からの声(外部からの刺激)ではないということを認識できるようサポートする<ref>{{Cite journal ja|author=白石裕子, 則包和也 |date=2004 |url=https://kagawa-puhs.repo.nii.ac.jp/records/199 |title=統合失調症の症状への認知行動療法の動向と展望 |journal=香川県立保健医療大学紀要 | issn=1349-5720 |publisher=香川県立保健医療大学 |volume=1 |pages=117-122 |NAID=110004621832}}</ref>。
: 7. 競合刺激の活用:たとえば、幻聴が聞こえる状態で外部聴覚刺激(音楽など)を聞くと、幻聴が少なくなるという体験をすることなどを通じて、幻聴は実在する外部音声ではないという認知を形成できるようサポートする{{sfn|統合失調症のための集団認知行動療法 |p=14}}。
: また、対処方略としては、妄想の考えをストップしたり幻聴を無視し聞き流したりしたあと他へ注意を向ける二段階法や、ちょっとした気晴らし行動などを用いた注意転換法を活用して、妄想や幻聴への注意を他の事柄(たとえば音楽など)に向け、そのような現実の事柄に意識を向けながら生活できるようサポートを行う<ref>渡辺 和成 (2012). 統合失調症からの回復に役立つ治療と日常生活のポイント 星和書店, 54-55頁.</ref>{{sfn|統合失調症を理解し支援するための認知行動療法|p=150-151,185}}。
:<!-- バグ回避のための行 -->
; [[心理教育]] (Psycoeducation)
: 薬物療法によって陽性症状が軽減しても、自らが精神疾患に罹患しているという自覚([[病識]])を持つことは容易ではない。病識の不足は、服薬の自己中断から再発率を上昇させることが知られており、病識をもつことを援助し、疾患との折り合いの付け方を学び、治療意欲を向上させるために心理教育を行うことが望ましい。[[精神保健福祉士]]が主に担当する。統合失調症の患者は正直すぎると言われるが、なにもかも正直でなくていい、秘密があっていいということを教育する。秘密にすることで自分を守ることはマナーでもあり、社会復帰のために必要である。また、異性関係のことが自分の中であまりにも整理されていない人が多いとされ、異性の気持ちになって物事を見ることも大切な心理療法の一つである。
: また、心理教育の一環として、統合失調症の診断に対してノーマライジングを実施することにより、患者の苦痛を軽減することができる。たとえば、①統合失調症は珍しい疾患ではなく多くの人が罹患しうること、②統合失調症は患者自身や家族のせいで発病するものではないこと、③統合失調症も治療可能な病気であり多くの患者が症状を克服していけること、などを理解してもらえるよう丁寧に説明する<ref>{{Cite book ja|title=認知行動療法トレーニングブック:統合失調症・双極性障害・難治性うつ病編|year=2010|publisher=医学書院|page=65-66|author=Jesse H. Wright, Douglas Turkington, David G. Kingdon, Monica Ramirez Basco|translator=古川壽亮 監訳、木下善弘・木下久慈}}</ref>。
: 患者本人のみならず、家族の援助(家族教育)も行うこともある。家族への心理教育の再入院予防効果によって、医療コストは軽減されるといわれる<ref>{{Cite journal ja|author=三野善央, 下寺信次, 井上新平, 藤田博一 |title=統合失調症における家族心理教育の医療コスト分析 |url=https://doi.org/10.24729/00003195 |journal=社會問題研究 | issn=09124640 |publisher=大阪府立大学社会福祉学部 |year=2005 |volume=54 |issue=2 |pages=41-48 |doi=10.24729/00003195}}</ref>。
:<!-- バグ回避のための行 -->
; [[ソーシャルスキルトレーニング|ソーシャル・スキル・トレーニング]] (SST)
; [[ソーシャルスキルトレーニング|ソーシャル・スキル・トレーニング]] (SST)
: 統合失調症を有する患者は、陰性症状に起因する社会的経験の不足が散見され、自信を失いがちなことにより、社交、会話などの[[社会技能]]が不足していることが多い。それらの訓練として、ソーシャル・スキル・トレーニング (SST) を行うことがある。[[デイケア]]プログラムの一環として行われることが多い。SSTトレーナー、SST認定講師、心理の専門家が担当する。NICEは、SSTをルーチンとして実施してはならないとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。
: 統合失調症を有する患者は、陰性症状に起因する社会的経験の不足が散見され、自信を失いがちなことにより、社交、会話などの[[社会技能]]が不足していることが多い。それらの訓練として、ソーシャル・スキル・トレーニングを行うことがある。[[デイケア]]プログラムの一環として行われることが多い。SSTトレーナー、SST認定講師、心理の専門家が担当する。NICEは、SSTを統合失調症患者にルーチンとして実施してはならないとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。
:<!-- バグ回避のための行 -->
; [[作業療法]]、[[芸術療法]]、[[風景構成法]]
; [[作業療法]]、[[芸術療法]]、[[風景構成法]]
: [[絵画]]、[[]]、[[]]、[[手芸]]、[[園芸]]、[[陶芸]]、[[スポーツ]]などの作業活動を主体として行う治療。非言語的な交流がストレス解消につながったり自己価値観を高めたりする効果がある。病棟活動や[[デイケア]]プログラムの一環として行われることが多い。[[作業療法士]]が担当。急性期では、作業活動を通して幻覚・妄想などを抑え、現実世界で過ごす時間を増やしたり、生活リズムを整えることを目標とする。そのためには患者が集中できるような作業活動を見つけて適用することが必要となる。慢性期では、退院を目標とする。そのためには服薬管理や生活リズム管理など、自分のことは自分でおこない自己管理ができるようになり、作業能力と体力も向上することが必要となる。慢性期での作業療法では患者のペースで行なえる作業活動を徐々に増やしていくよう心がける。
: [[絵画]]、[[]]、[[]]、[[手芸]]、[[園芸]]、[[陶芸]]、[[スポーツ]]などの作業活動を主体として行う治療である。非言語的な交流がストレス解消につながったり自己価値観を高めたりする効果がある。病棟活動やデイケアプログラムの一環として行われることが多い。[[作業療法士]]が担当する。急性期では、作業活動を通して幻覚・妄想などを抑え、現実世界で過ごす時間を増やしたり、生活リズムを整えることを目標とし、そのためには患者が集中できるような作業活動を見つけて適用することが必要となる。慢性期では、退院を目標とし、そのためには服薬管理や生活リズム管理など、自分のことは自分でおこない自己管理ができるようになり、作業能力と体力も向上することが必要となる。慢性期での作業療法では患者のペースで行なえる作業活動を徐々に増やしていくよう心がける。
: NICEは、陰性症状の緩和のため、統合失調症を持つすべての人に芸術療法がオファーされるべきであるとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。
: NICEは、陰性症状の緩和のため、すべての統合失調症患者に芸術療法が提供されるべきであるとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。
:<!-- バグ回避のための行 -->

; その他
[[アドヒアランス]]療法は行ってはならない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。カウンセリングや支持的精神療法はルーチン実施してはならないが、しかし他の心理療法が提供できない場合などは、患者の好みに合わせて提供できる{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。
: [[アドヒアランス]]療法は行ってはならない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。[[カウンセリング]]や支持的精神療法{{Efn|精神療法の一つで、その人が現在持っている資質を十全に活かせるようにすることで適応力を挙げることを支援する治療のこと<ref>[https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=58 日本精神神経学会 精神療法委員会に「精神療法について」を訊く] 日本精神神経学会 2021年7月20日更新 2022年4月8日閲覧。</ref>。}}はルーチン実施してはならないが、他の心理療法が提供できない場合などは、患者の好みに合わせて提供できる{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.4.4}}。


==== オープンダイアローグ ====
==== オープンダイアローグ ====
薬物治療や入院治療を極力避け、対話による回復を目指す、画期的な治療法。世界的に注目されており、日本への導入が進められている<ref>{{Cite news|title=「オープンダイアローグ」とは=対話で精神病からの回復目指す|url=https://medical.jiji.com/topics/322|accessdate=2018-05-20|language=ja|work=時事メディカル}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=87749|title=『オープンダイアローグとは何か』|accessdate=2018-05-20|website=医学書院|language=ja}}</ref>。
薬物治療や入院治療を極力避け、対話による回復を目指す治療法である。世界的に注目されており、日本への導入が進められている<ref>{{Cite news|title=「オープンダイアローグ」とは=対話で精神病からの回復目指す|url=https://medical.jiji.com/topics/322|accessdate=2018-05-20|language=ja|work=時事メディカル}}</ref><ref>{{Cite web2|df=ja|url=http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=87749|title=『オープンダイアローグとは何か』|accessdate=2018-05-20|website=医学書院|language=ja}}</ref>。
{{Main|オープン・ダイアローグ}}
{{Main|オープン・ダイアローグ}}


=== その他 ===
=== 食事と運動 ===
NICEは患者に対し、健康的な食事と[[運動療法|運動プログラム]]の組み合わせを提供すべきであるとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Chapt.1.1.3}}。統合失調症の患者はファーストフード、炭水化物や脂質の多い加工食品(インスタント食品や菓子)、ソフトドリンクの摂取が多く、食物繊維や果物の摂取が少ない傾向にあり適切な量や回数の理解が必要である<ref>[https://www.gurutto-mama-yokohama.com/detail/471/news/advice-11823.html 保育・食育のプロ 長野眞弓さんからのアドバイス] ぐるっとママ横浜 2022年3月3日配信 2022年4月10日閲覧。</ref>。長期間の運動プログラムを定期的に行った統合失調症患者は、そうでない患者と比較して高いメンタルヘルスの改善が認められた<ref>{{Cite journal ja|author=泉水宏臣, 肥田裕久, 藤本敏彦, 永松俊哉 |title=精神疾患患者への運動療法―デイケア施設における実践からの提言― |url=https://doi.org/10.20793/tairyokukenkyu.109.0_9 |journal=体力研究 | issn=0389-9071 |publisher=明治安田厚生事業団 体力医学研究所 |date=2011 |volume=109 |pages=9-16 |doi=10.20793/tairyokukenkyu.109.0_9}}</ref>。また、統合失調症における精神科のリハビリテーションにおいて[[メタボリックシンドローム]]の予防を目的にした運動プログラムが盛んになった<ref>{{PDFlink|[http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/kokoronomirai/kokoro_vol.9_18-21.pdf 身体知の行方―精神科における運動療法を通して]}} 高橋英彦 2022年4月10日閲覧。</ref>。


=== その他 ===
; [[電気けいれん療法]] (ECT)
; [[電気けいれん療法|電気痙攣療法]] (ECT)
: 薬物療法が確立される以前には、電気けいれん療法(電気ショック療法)が多く用いられてきた。これは左右の額の部分から100Vの[[電圧]]、パルス電流を脳に1 - 3秒間通電して、[[けいれん]]を人工的に引き起こすものである。
: 電気けいれん療法の有効性は確立されている<ref>[http://www.nha-seishin.or.jp/?m=255 ECTの疑問にお答えします 長崎県精神医療センター]</ref>が、一方で有効性の皆無も臨床実験で報告されている<ref>{{Cite book|和書|author=エイブラム・ホッファー|translator=大沢博|title=ビタミンB-3の効果 : 精神分裂病の栄養療法|origyear=1998|url=http://www.seronjihou.co.jp/tan13.htm|accessdate=2013-05-20|date=2001-04|publisher=世論時報社|isbn=4915340511|}}</ref><ref>{{cite web |author = Dr. Cheryl Lane, PsyD |url = http://www.schizophrenic.com/content/schizophrenia/treatment/electroconvulsive-therapy-ect |title = Electroconvulsive Therapy (ECT) |date = 200X-XX-XX |accessdate = 2012-01-18 }}</ref><ref>{{cite web |author = E.Fuller Torrey |url = http://www.schizophrenia.com/family/ectshort.html |title = Surviving Schizophrenia |date = 200X-XX-XX |accessdate = 2012-01-18 }}</ref>。かつて電気けいれん療法が「患者の[[懲罰]]」に使用されていたこともあり、実施の際に患者がけいれんを起こす様子が残虐であると批判されている。
: 薬物療法が確立される以前には、電気痙攣療法(電気ショック療法)が多く用いられてきた。この療法は左右の額の部分から脳に100Vの[[電圧]]、パルス[[電流]]を1 - 3秒間通電して、[[けいれん|痙攣]]を人工的に引き起こすものである。電気痙攣療法の有効性は確立されている<ref>[http://www.nha-seishin.or.jp/?m=255 ECTの疑問にお答えします 長崎県精神医療センター]</ref>が、一方で有効性の皆無も臨床実験で報告されている<ref>{{Cite book ja|author=エイブラム・ホッファー|translator=大沢博|title=ビタミンB-3の効果 : 精神分裂病の栄養療法|origyear=1998|url=http://www.seronjihou.co.jp/tan13.htm|accessdate=2013-05-20|year=2001|publisher=世論時報社|isbn=4915340511}}</ref><ref>{{cite web |author = Dr. Cheryl Lane, PsyD |url = http://www.schizophrenic.com/content/schizophrenia/treatment/electroconvulsive-therapy-ect |title = Electroconvulsive Therapy (ECT) |date = 200X-XX-XX |accessdate = 2012-01-18}}</ref><ref>{{cite web |author = E.Fuller Torrey |url = http://www.schizophrenia.com/family/ectshort.html |title = Surviving Schizophrenia |date = 200X-XX-XX |accessdate = 2012-01-18}}</ref>。かつて電気痙攣療法が「患者の[[懲罰]]」に使用されていたこともあり、実施の際に患者が痙攣を起こす様子が残虐であると批判されている。
: に電気けいれん療法[[脊椎]][[骨折]]の危険性があるため、現在では[[麻酔]]を併用した「無痙攣電気けいれん療法」が主流である。しかし、副作用や無痙攣電気けいれん療法の実施の際には、[[麻酔科医]]との協力が必要であることなどからして、実質的に大規模な病院でしか実施できない。現在では、この治療法は主力の座を薬物療法にその座を譲ったものの、急性期の興奮状態の際などに行われることもある。
: まれに電気痙攣療法により[[脊椎]][[骨折]]などの危険性があるため、現在では[[麻酔]]を併用した「無痙攣電気痙攣療法」が主流である。しかし、副作用や実施の際には、[[麻酔科医]]との協力が必要であることなどからして、実質的に大規模な病院でしか実施できない。現在では、この治療法は主力の座を薬物療法に譲ったものの、急性期の興奮状態の際などに行われることもある。
: NICEは現在の根拠では、ECTを統合失調症の一般的管理としては推奨することはできないとしている{{Refnest|group="注"|原文: The current state of the evidence does not allow the general use of ECT in the management of schizophrenia to be recommended. <ref name="TA59">{{Cite report|publisher=英国国立医療技術評価機構 |title=TA59: Guidance on the use of electroconvulsive therapy |date=2003-04 |url=http://www.nice.org.uk/guidance/ta59 }}</ref>}}。ECTは全ての治療選択肢が失敗したか、または差し迫った生命危機の状況のみ使われるべきであるとしている<ref name="TA59" />。
: NICEは現在の根拠では、ECTを統合失調症の一般的管理としては推奨することはできないとしている{{Refnest|group="注"|原文: The current state of the evidence does not allow the general use of ECT in the management of schizophrenia to be recommended. <ref name="TA59">{{Cite report2|df=ja|publisher=英国国立医療技術評価機構 |title=TA59: Guidance on the use of electroconvulsive therapy |year=2003 |url=http://www.nice.org.uk/guidance/ta59}}</ref>}}。また、ECTは全ての治療選択肢が失敗したか、または差し迫った生命危機の状況のみ使われるべきであるとしている<ref name="TA59" />。
; [[鍼治療]]
; [[鍼治療]]
: 統合失調症の症状の軽減と関連疾患に対して鍼治療が行われることがある<ref>谷万喜子,鈴木俊明,高田あや ほか、「[http://ci.nii.ac.jp/naid/10018081931/ 統合失調症治療中に発症した重度の軸性ジストニアに対する鍼治療効果]」 精神神經學雜誌 107(8), 802-810, 2005-08-25, {{naid|10018081931}}</ref><ref>氏原輝子,福島綾子、「[http://hdl.handle.net/10592/181333 統合失調症にて加療中の腰痛患者に対する鍼治療について] 関西理学療法 2007年 7巻 p.164-166, {{hdl|10592/18133}}</ref>。
: 統合失調症の症状の軽減と関連疾患に対して鍼治療が行われることがある<ref>{{Cite journal ja|author=谷万喜子, 鈴木俊明, 高田あや |title=症例報告 統合失調症治療中に発症した重度の軸性ジストニアに対する鍼治療効果 |url=https://search.jamas.or.jp/link/ui/2006061835 |journal=精神神経学雑| issn=00332658 |publisher=日本精神神経学会 |date=2005 |volume=107 |issue=8 |pages=802-810 |naid=10018081931}} {{要購読}}</ref><ref>氏原輝子, 福島綾子、「[https://hdl.handle.net/10592/18133 統合失調症にて加療中の腰痛患者に対する鍼治療について]」『関西理学療法 2007年 7巻 p.164-166, {{hdl|10592/18133}}, {{ issn|1346-9606}}</ref>。


== 経過 ==
== 経過 ==
[[File:統合失調症 経過.jpg|thumb|right|300px|統合失調症の経過の概念図。赤線が症状、青線が活動性を表す。]]
前駆期、急性期、消耗期(休息期)、回復期と経過を分けている。
経過は、前駆期、急性期、消耗期(休息期)、回復期に分ける4区分と、前駆期、進行前駆期、精神病早期、中間期、疾患後期に分ける5区分の2種類がある。


;前駆期
; 前駆期
:かかりはじめで、妙に身辺が騒がしく感じる担がれている感じがする(神輿に乗った気分と騙されている気分の両方)、眠れない、音に敏感になるなど。過労睡眠不足に注意。
: かかりはじめの時期。妙に身辺が騒がしく感じる担がれている感じがする(神輿に乗った気分と騙されている気分の両方)、眠れない、音に敏感になるなどの状態。過労睡眠不足に注意する
;急性期
; 急性期
:症状が激しい時期。不安になりやすい不眠幻聴妄想、脳が働き過ぎの状態。
: 症状が激しい時期。不安になりやすい不眠幻聴妄想、脳が働き過ぎの状態。
;消耗期
; 消耗期
:元気がなくなる時期。眠気が強い体がだるいひきこもり意欲がないやる気がでない自信が持てない、脳がほとんど働かないなどの状態。数か月単位の休息、焦りは禁物。
: 元気がなくなる時期。眠気が強い体がだるいひきこもり意欲がないやる気がでない自信が持てない、脳がほとんど働かないなどの状態。数か月単位の休息をとり、焦りは禁物である
;回復期
; 回復期
:ゆとりがでてくる周囲への関心が増える。SST・リハビリテーションなどを行う時期である。
: ゆとりがでてくる周囲への関心が増える時期ソーシャルスキル・トレーニング、[[リハビリテーション]]などを行う時期である。
:<!-- バグ回避のための行 -->
;前駆期 (prodromal phase)
:当人は何の自覚症状も無いケースもあるが、社会的能力の障害、軽度の認知的解体または知覚の歪み、喜びや快感を経験能力の低下、全般的な対処能力の欠如などを呈する。統合失調症と診断された後に振り返って初認識されるレベルの軽度のケースもあれば、以前から社会的・学業的、職業的機能障害として顕著であった場合もある。
:<!-- バグ回避のための行 -->
;進行前駆期 (advanced prodromal phase)
:引きこもりや孤立、[[易怒性]],[[猜疑心]]の強まり、異常思考、知覚の歪み、解体などの[[不顕性]]の症状が出現することがある。統合失調症における妄想および幻覚の発症は、急激(数日または数週間)な場合もあれば,緩徐で潜行性(数年間)の場合もある。
:<!-- バグ回避のための行 -->
;精神病早期 (early psychosis phase)
:患者の症状が最も悪化している病期。
:<!-- バグ回避のための行 -->
;中間期 (middle phase)
:症状期間は断続的な同定可能な増悪および寛解を伴うケースも持続的な場合もある。機能障害は悪化する傾向がある。
:<!-- バグ回避のための行 -->
;疾患後期 (late illness phase)
:その個人ごとの疾患のパターンが確立される。能力障害は安定、悪化、軽減のどれも起こりうる<ref>{{Cite web|和書|title=統合失調症 - 08. 精神障害 |url=https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/08-%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%96%A2%E9%80%A3%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E7%BE%A4/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87 |website=MSDマニュアル プロフェッショナル版 |access-date=2023-09-15 |language=ja-JP}}</ref>。


例えば、重度の骨折をした場合、一般的に診断、治療、回復、[[リハビリ]]、[[寛解]](かんかい)という段階を経る中でもリハビリは困難を伴う一方大変重要な段階であるが、この疾患もこれと同じことが当てはまる。陽性症状は時間の経過により改善することも多、それとともに陰性症状が目立ってくる。しかし、抗精神病薬の投与をしても慢性的に陽性症状および陰性症状が持続して残る患者も多い。長期療養の結果、晩年期になると長年続いた顕著な精神症状が燃え尽きる様に寛解されるに至るという医学的な考え方もある。いわゆる「晩期寛解」のである。英国を中心とした実証的な家族研究の結論によると、確実な服薬遵守より、家族が患者に批判的な言動をするかどうかのが、患者の経過を左右するという<ref>[https://www.chiba.med.or.jp/general/millennium/pdf/millennium47_16.pdf 統合失調症について(その・家族の対応)]</ref>。
例えば、重度の骨折をした場合、一般的に診断、治療、回復、リハビリ、[[寛解]](かんかい)という段階を経るが、統合失調症もこれと同じことが当てはまり、中でもリハビリは困難を伴う一方大変重要な段階である。陽性症状は時間の経過により改善することも多いが、それとともに陰性症状が目立ってくる。しかし、抗精神病薬の投与をしても慢性的に陽性症状および陰性症状が持続して残る患者も多い。長期療養の結果、晩年期になると長年続いた顕著な精神症状が燃え尽きる様に寛解されるに至るという医学的な考え方もあり、「晩期寛解」と呼ばれる。多く統合失調症患者は加齢ともに症状が改善す<ref>{{Cite journal ja|author=西佑理 |title=高齢統合失調症患者への維持治療用量と継続の必要性 |url=http://www.pieronline.jp/content/article/1343-3474/21080/1047 |journal=臨床精神薬理 |issn= |publisher= |year=2018 |volume=21 |issue=8 |pages=1047 - 1050 |naid= }}</ref>
英国を中心とした実証的な家族研究の結論によると、確実な服薬遵守より、家族が患者に批判的な言動をするかどうかのほうが、患者の経過を左右する<ref>{{PDFlink|[https://www.chiba.med.or.jp/general/millennium/pdf/millennium47_16.pdf 統合失調症について(その3・家族の対応)]}} こころの健康 2022年4月15日閲覧。</ref>。


== 予後 ==
== 予後 ==
統合失調症の[[予後]]について、過去(特に[[薬物治療|薬物療法]]がなかった時代)と比較すると、全体的にかなり向上しているといわれている。
統合失調症の[[予後]]について「進行性の経過を取り、ほとんどが[[人格]]の荒廃状態に至る」というイメージ、ないしスティグマ([[偏見]])が残っているが{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.4.3}}、これは事実に反している。一部の人が荒廃状態に至るだけである。過去(特に[[薬物治療|薬物療法]]がなかった時代)に比べ、全体的に予後はかなり向上しているといわれている。英国のデータでは、患者は困難や将来的な再発への脆弱性を抱えながらも、一部の人々は、完治はしないが寛解するという根拠がある<ref group="注">原文:There is evidence that most people will recover, although some will have persisting difficulties or remain vulnerable to future episodes. {{Harv|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}</ref>。英国での5年追跡調査では、22%は1回の発病エピソードのみで完全寛解、35%は数回のエピソードを繰り返し軽い機能障害が見られる、8%は数回のエピソードで障害も継続、35%は数回のエピソードで障害も増悪していた{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.2}}。病型別に予後を見ると、緊張型や妄想型では、幻覚妄想などの症状の方が抗精神病薬に反応しやすく、予後がよく、破瓜型や単純型などの陰性症状には、治療の効果が得られにくいため予後が悪いと一般的に言われている。ただし、こうした傾向はあるが、妄想型などでも治療に反応しない例が稀ではなく、病型により機械的に予後が予測できるようなものではない。患者の生活態度や薬物投与を含めた環境を改善することで症状を軽減できるが、生活レベルでの具体的な改善策は得られていないのが現状である。患者にもよるが、患者本人の病気に対する問題意識が欠如していて[[フィードバック]]が効かず、患者が入退院を繰り返すなどの日本固有の問題も指摘されている。一定数一定規模における精神科では[[ソーシャルワーカー]]を設置する[[義務]]があるが、ソーシャルワーカーは患者本人の生活改善を提案・提示することなしに、[[生活保護]]の申請を勧めたり、[[障害年金]]受給の斡旋などを行っているのが現状である。{{要検証|=[[欧米諸国]]では精神疾患{{何の|date=2015年12月}}で入退院をするような事例はほんのわずかであり、通常では5-6回の通院で終わる。|date=2015年12月}}日本では[[開業医]]を除いた場合、精神科精神病棟での一定の病床数を構えるという独特な形態をとるとされており、海外からは異端視されていると同時に、商業経営化した医療と揶揄されている{{要出典|date=2018年5月}}。


家庭内の[[感情表出]]のレベルが高い(批判的、敵意、過度の感情的巻き込まれ)と、統合失調症や[[社交不安障害|社会不安障害]]などの[[精神障害|精神疾患]]を有するクライアントの[[予後]]が悪化する可能性が高まり<ref>{{Cite journal|year=1972|title=Influence of family life on the course of schizophrenic disorder: a replication|journal=British Journal of Psychiatry|volume=121|issue=562|pages=241–258|doi=10.1192/bjp.121.3.241|pmid=5073778}}</ref> <ref>{{Cite journal|year=2009|title=Exploring the relevance of expressed emotion to the treatment of social anxiety disorder in adolescence|url=https://www.academia.edu/210406|journal=Journal of Adolescence|volume=32|issue=6|pages=1371–1376|doi=10.1016/j.adolescence.2009.08.001|pmid=19762073}}</ref> 、精神疾患の発症、再発の危険因子となる<ref>{{Cite journal|date=December 2001|title=Is expressed emotion a specific risk factor for depression or a nonspecific correlate of psychopathology?|journal=J Abnorm Child Psychol|volume=29|issue=6|pages=573–83|doi=10.1023/A:1012237411007|pmid=11761289}}</ref>。
1961年、[[カリフォルニア州]]精神保健局は、18ヶ月以内の退院率について、非投薬群(88%)、投薬群(74%)と報告している<ref>{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=138-139}}</ref>。


「進行性の経過を取り、ほとんどが[[人格]]の荒廃状態に至る」というイメージやスティグマ([[偏見]])が残っているが{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.4.3}}、これは事実に反しており、一部の人が荒廃状態に至るだけである。イギリスのデータでは、患者は困難や将来的な再発への脆弱性を抱えながらも、一部の人々は、完治はしないが寛解するという根拠がある{{Efn|原文:There is evidence that most people will recover, although some will have persisting difficulties or remain vulnerable to future episodes. <ref>{{Harv|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}</ref>}}。
1977年、{{仮リンク|アメリカ国立精神衛生研究所|en|National Institute of Mental Health|}}(NIMH)の臨床研究施設における研究報告は、退院時期について、非投薬群は投薬群より早いと報告している<ref name="RW147148"/>。また、退院一年後の再発率について、非投薬群(35%)、投薬群(45%)と報告している<ref name="RW147148">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=147-148}}</ref>。


イギリスでの5年追跡調査では、22%は1回の発病エピソードのみで完全寛解、35%は数回のエピソードを繰り返し軽い機能障害が見られる、8%は数回のエピソードで障害も継続、35%は数回のエピソードで障害も増悪していた{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.2}}。病型別の予後では、妄想型や緊張型は、妄想幻覚などの症状のほうが抗精神病薬に反応しやすいため、予後がよく、破瓜型や単純型などの陰性症状には治療の効果が得られにくいため、予後が悪いと一般的に言われている。ただし、こうした傾向はあるが、妄想型などでも治療に反応しない例がまれではなく、病型により機械的に予後が予測できるものではない。患者の生活態度や薬物投与を含めた環境を改善することで症状を軽減できるが、生活レベルでの具体的な改善策は得られていないのが現状である。
1978年、モーリス・ラパポートの研究{{refnest|group="注"|NIMHの助成研究である<ref name="RW147149"/>。}}は、退院3年後の転帰について、非投薬群は投薬群より良好で再入院率も低いと報告している<ref name="RW147149">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=147-149}}</ref>。


1992年、[[世界保健機関]](WHO)の10ヵ国を対象とする研究報告は、2年後転帰について、貧困国(3分の2近く良好な転帰3分の1強慢性化)、富裕国(37%が良好な転帰、59%が慢性化)と報告している<ref name="RW160161457"/>。[[抗精神病薬]]の使用率は、貧困国(16%)、富裕国(61%)であった<ref name="RW160161457"/>。3%のインドのアグラが最も良好、使用率が最も高いモスクワが最も悪かった<ref name="RW160161457">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=160-161, 457}}</ref>。
1961年、[[カリフォルニア州]]精神保健は、18か月以内退院率について、非投薬群88%投薬群74%と報告している<ref>{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=138-139}}</ref>。


2007年、マーティ・ハロウの研究{{refnest|group="注"|NIMH助成研究である<ref name="RW166169"/>。}}は15年後の転帰について、抗精神病なし(40%回復、44%が良好な転帰16%が一様に不良)、抗精神病あり(5%回復、46%が良好な転帰、49%が一様に不良)と報告している<ref name="RW166169">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=166-169}}</ref>。
1977年、{{仮リク|アメリカ国立精神衛生研究|en|National Institute of Mental Health|}}(NIMH)臨床研究施設における研究報告は、退院時期について、非投薬群は投薬群より早いと報告している<ref name="RW147148"/>。また退院一年後の再発率について、非投35%、45%と報告している<ref name="RW147148">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=147-148}}</ref>。


1978年、モーリス・ラパポートの研究{{Efn|NIMHの助成研究である<ref name="RW147149"/>。}}は、退院3年後の転帰について、非投薬群は投薬群より良好で再入院率も低いと報告している<ref name="RW147149">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=147-149}}</ref>。
=== 死亡率 ===
統合失調症患者の死亡率は、一般人口の約2倍以上とされる{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.4}}。


1992年、世界保健機関の10ヵ国を対象とする研究報告は、2年後の転帰について、貧困国は3分の2近くが良好な転帰、3分の1強が慢性化、富裕国は37%が良好な転帰、59%が慢性化と報告している<ref name="RW160161457"/>。抗精神病薬の使用率は、貧困国が16%、富裕国が61%であり、使用率が3%のインドのアグラが最も良好、使用率が最も高いモスクワが最も悪かった<ref name="RW160161457">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=160-161, 457}}</ref>。
患者の生涯[[自殺率]]は10%以上で、これは一般人口の12倍の値であり{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.1}}、およそ5%が自殺を完遂する<ref>{{cite journal |author=Hor K, Taylor M |title=Suicide and schizophrenia: a systematic review of rates and risk factors |journal=J. Psychopharmacol. (Oxford) |volume=24 |issue=4 Suppl |pages=81?90 |year=2010 |pmid=20923923 |pmc=2951591 |doi=10.1177/1359786810385490 |url=}}</ref>。特に初発後・退院後に多く,初発退院後1年間の自殺率は一般人口に比べて100倍になっているという報告がある<ref>[https://www.nisseikyo.or.jp/opinion/kantougen/kantougen.php?id=105&bm=0 統合失調症患者の寿命]</ref>。患者が[[喫煙]]者の場合も、自殺企図の危険は有意に高くなる<ref>Rihmer Z, Dome P, Gonda X, Kiss HG, Kovacs D, Seregi K, Teleki Z. Cigarette smoking and suicide attempts in psychiatric outpatients in Hungary. Neuropsychopharmacol Hung. 2007 Jun;9(2):63-7.</ref>。


2007年、マーティン・ハロウの研究{{Efn|NIMHの助成研究である<ref name="RW166169"/>。}}は、15年後の転帰について、抗精神病薬なしは40%が回復、44%が良好な転帰、16%が一様に不良、抗精神病薬ありは5%が回復、46%が良好な転帰、49%が一様に不良と報告している<ref name="RW166169">{{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=166-169}}</ref>。
陽性症状が強い時期に、幻聴から逃れたり[[妄想]]のために自殺をする患者もいるが、陰性症状しか見られない段階でも[[思考]]の短絡化(健康な人の適切な思考でなく、例えば、会社を辞めればすむ問題なのに究極の選択である自殺を考えるように順序建てて物事を考えられない。優先順位がつけられない)によって少しの[[不安]]でも耐えられずに自殺してしまうこともある。


== 疫学 ==
== 疫学 ==
どの年齢でも発症するが、特に[[思春期]]から[[青年期]]において、自立した生活を開始したに発症することが多い{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}。[[男性]]と比較して[[女性]]は平均発症年齢が遅く、[[閉経]]後にも小さな発症のピークがある。
どの年齢でも発症するが、特に[[思春期]]から[[青年期]]において、自立した生活を開始したころに発症することが多い{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}。[[男性]]と比較して[[女性]]は平均発症年齢が遅く、[[閉経]]後にも小さな発症のピークがある。


=== 罹患率・有病率など ===
=== 罹患率・有病率など ===
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{{Seealso|メンタルヘルス#各国の精神保健}}
{{Seealso|メンタルヘルス#各国の精神保健}}
生涯発病率は約0.85%(120人に1人)であり、まれな病気ではない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}。[[米]]では、生涯罹患率は約1%<ref>Kendler KS; Gallagher TJ; Abelson JM; Kessler RC. Lifetime prevalence, demographic risk factors, and diagnostic validity of nonaffective psychosis as assessed in a US community sample. The National Comorbidity Survey. Arch Gen Psychiatry. 1996 Nov;53(11):1022-31.</ref>で年間発症者数は10万人当たり1000人<ref>Goldner EM; Hsu L; Waraich P; Somers JM. Prevalence and incidence studies of schizophrenic disorders: a systematic review of the literature. Can J Psychiatry. 2002 Nov;47(9):833-43.</ref>[[カナダ]]における12月有病率は0.61%(男性0.61%、女性0.61%<ref name="MHCcaPreval">{{Cite report |title=The Life and Economic Impact of Major Mental Illnesses in Canada |publisher=Mental Health Commission of Canada |date=2013-02-09 |url=http://www.mentalhealthcommission.ca/English/node/5024 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20151006002511/http://www.mentalhealthcommission.ca/English/node/5024 |archivedate=2015年10月6日 |deadlinkdate=2018年3月 }}</ref>であった。児童青年(5 - 18歳)においては、有病率は0.4%{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2013|loc=Introduction}}。英国の[[精神病院]]に入院する10 - 18歳のうち、24.5%は統合失調症であった{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2013|loc=Introduction}}。研究対象となった地域・[[人種]]などにより罹患率差があるが、診断基準にも左右され、その意味は明らかではない<ref>{{cite journal |author=Torrey EF |title=Prevalence studies in schizophrenia |journal=Br J Psychiatry |volume=150 |issue= |pages=598–608 |date=1987 |pmid=3307980 |doi= |url=}}</ref>。[[アイルランド]]での地方間における罹患率の差も議論の対象となっている。
生涯発病率は約0.85%(120人に1人)であり、まれな病気ではない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2014|loc=Introduction}}。アメリカ合衆国では、生涯罹患率は約1%<ref>Kendler KS; Gallagher TJ; Abelson JM; Kessler RC. Lifetime prevalence, demographic risk factors, and diagnostic validity of nonaffective psychosis as assessed in a US community sample. The National Comorbidity Survey. Arch Gen Psychiatry. 1996 Nov;53(11):1022-31.</ref>で年間発症者数は10万人当たり1,000人<ref>{{Cite journal|author=Elliot M Goldner and Lorena Hsu and Paul Waraich and Julian M Somers |title=Prevalence and INCIDence Studies of Schizophrenic Disorders: A Systematic Review of the Literature |journal=The Canadian Journal of Psychiatry |volume=47 |issue=9 |pages=833-843 |year=2002 |doi=10.1177/070674370204700904 |PMID=12500753 |url=https://doi.org/10.1177/070674370204700904}}</ref>[[カナダ]]における12月有病率は男性女性ともに0.61%<ref name="MHCcaPreval">{{Cite report |title=The Life and Economic Impact of Major Mental Illnesses in Canada |publisher=Mental Health Commission of Canada |date=2013-02-09 |url=http://www.mentalhealthcommission.ca/English/node/5024 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20151006002511/http://www.mentalhealthcommission.ca/English/node/5024 |archivedate=2015年10月6日 |url-status=dead}}</ref>であった。5歳から18歳の児童青年においては、有病率は0.4%{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2013|loc=Introduction}}、イギリスの[[精神病院]]に入院する10歳から18歳のうち、24.5%は統合失調症であった{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2013|loc=Introduction}}。研究対象となった地域・人種などにより罹患率差があるが、診断基準によっても左右され、その意味は明ではない<ref>{{cite journal |author=Torrey EF |title=Prevalence studies in schizophrenia |journal=Br J Psychiatry |volume=150 |issue= |pages=598-608 |date=1987 |pmid=3307980 |doi= |url=}}</ref>。[[アイルランド]]での地方間における罹患率の差も議論の対象となっている。

=== 死亡率 ===
統合失調症患者の死亡率は、一般人口の約2倍以上とされる{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.4}}。

患者の生涯[[自殺率]]は10%以上で、これは一般人口の12倍の値であり{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.1}}、およそ5%が[[自殺]]を完遂する<ref>{{cite journal |author=Hor K, Taylor M |title=Suicide and schizophrenia: a systematic review of rates and risk factors |journal=J. Psychopharmacol. (Oxford) |volume=24 |issue=4 Suppl |pages=81-90 |year=2010 |pmid=20923923 |pmc=2951591 |doi=10.1177/1359786810385490 |url=}}</ref>。特に初発後・退院後に多く、初発退院後1年間の自殺率は一般人口に比べて100倍になっているという報告がある<ref>[https://www.nisseikyo.or.jp/opinion/kantougen/kantougen.php?id=105&bm=0 統合失調症患者の寿命]{{リンク切れ|date=2022年8月}}</ref>。患者が[[喫煙]]者の場合も、自殺企図の危険は有意に高くなる<ref>{{Cite journal|title=Cigarette smoking and suicide attempts in psychiatric outpatients in Hungary |author=Rihmer Z, Döme P, Gonda X, Kiss HG, Kovács D, Seregi K, Teleki Z |journal=Neuropsychopharmacol Hung |volume=9 |issue=2 |pages=63-67 |year=2007 |url=https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17970528/ |pmid=17970528}}</ref>。陽性症状が強い時期に、幻聴から逃れたり妄想のために自殺をする患者もいるが、陰性症状しか見られない段階でも思考の短絡化<ref group="注釈">健康な人の適切な思考でなく、例えば、会社を辞めればすむ問題なのに、究極の選択である自殺を考えるように、順序建てて物事を考えられない。優先順位がつけられない。</ref>によって、少しの不安でも耐えられずに、自殺してしまうこともある。

統合失調症患者の生命予後(平均余命)は一般人口と比べると悪く、死因の大部分は[[心血管疾患|心血管系疾患]]によるものと言われる<ref name="metabo"/>。統合失調症患者は心疾患や[[窒息]]による不慮の突然死が多く、突然死のリスクは健常者と比較して統合失調症患者全体で4.9倍、入院療養中の統合失調症患者では6.7倍であるとされる<ref>{{Cite journal ja|author=山本敏之, 濱田康平, 清水加奈子, 小林庸子 |title=摂食・嚥下評価表による統合失調症患者の窒息リスクのスクリーニング |url=https://doi.org/10.32136/jsdr.13.3_207 |journal=日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 |issn= |publisher= |year=2009 |volume=13 |issue=3 |pages=207-214 |naid= |doi=10.32136/jsdr.13.3_207 }}</ref>。特に、メタボリックシンドロームは心血管系疾患および心血管系疾患死のリスクを上げ、原因として生活習慣、抗精神病薬による治療<ref group="注釈">統合失調症の治療薬には、副作用として体重増加をもたらすもの、糖尿病の原因となるものなどがある。</ref>{{Efn|抗精神病薬の服用は患者全体で見た場合は死亡率を低下させる<ref>{{Cite journal ja|author=須藤智志, 吉村篤, 藤井久彌子, 尾関祐二 |title=統合失調症患者のmortality gapを考える : 理由を考え対処法に至る |url=http://www.pieronline.jp/content/article/1343-3474/25040/359 |journal=臨床精神薬理 | issn=13433474 |year=2022 |volume=25 |issue=4 |pages=359-369}} {{要購読}}</ref>。}}、統合失調症の自体の影響などがある<ref name="metabo">{{Cite journal ja|author=三澤史斉 |title=統合失調症患者におけるメタボリックシンドロームと心臓突然死 |url=http://www.pieronline.jp/content/article/1343-3474/18010/61 |journal=臨床精神薬理 |issn= |publisher= |year=2015 |volume=18 |issue=1 |pages=61-67 |naid= }}</ref>。突然死リスクを減らすために対応可能な6つのリスクファクター(喫煙、高血圧、高血糖、運動不足、肥満、高脂血症)への取り組みが、発病早期から求められる<ref>{{Cite journal ja|author=藤井康男 |title=抗精神病薬治療と統合失調症患者における突然死 |url=http://www.pieronline.jp/content/article/1343-3474/18010/3 |journal=臨床精神薬理 |issn= |publisher= |year=2015 |volume=18 |issue=1 |pages=3-16 |naid= }}</ref>。


=== 合併症の疫学 ===
=== 合併症の疫学 ===
統合失調症患者の合併症で、特に多いのは抑うつと[[薬物乱用]]である{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.4}}。患者の少なくとも25%は常時抑うつであり、また米国患者では[[アルコール依存]]30%以上、麻薬25%以上、喫煙率は50%以上であった{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.4}}。
統合失調症患者の合併症で、特に多いのは[[抑うつ]]と[[薬物乱用]]である{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.4}}。患者の少なくとも25%は常時抑うつであり、また米国患者では[[アルコール依存]]30%以上、麻薬25%以上、[[喫煙率]]は50%以上であった{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.3.4}}。


また[[がん]]による死亡率が低いことが知られている。[[デンマーク]]で1980年まで行われた研究では、がん発生率は男性で[[健常者]]の67%、女性で92%であった。男性統合失調症患者の[[肺がん]]は高い[[喫煙率]]にもかかわらず、健常者の38%であった。統合失調症治療に使われる向精神薬が抗腫瘍効果をもつためであるとされている<ref>分裂病の起源I.I. ゴッテスマン ISBN 978-4-535-58036-7</ref>。さらに、統合失調症患者は[[関節リウマチ]]に罹患しにくいことが知られている。最近の研究<ref>{{cite journal |author=Pedersen M, Jacobsen S, Klarlund M, Pedersen BV, Wiik A, Wohlfahrt J, Frisch M |title=Environmental risk factors differ between rheumatoid arthritis with and without auto-antibodies against cyclic citrullinated peptides |journal=Arthritis Res. Ther. |volume=8 |issue=4 |pages=R133 |year=2006 |pmid=16872514 |pmc=1779386 |doi=10.1186/ar2022 |url=}}</ref>によれば、およそ4倍前後の差があるとされる
統合失調症患者は[[悪性腫瘍|がん]]による死亡率が低いことが知られている。[[デンマーク]]で1980年まで行われた研究では、がん発生率は健常者比較により男性で67%、女性で92%であった。男性統合失調症患者の[[肺癌|肺がん]]は高い喫煙率にもかかわらず、健常者の38%であった。統合失調症治療に使われる向精神薬が抗腫瘍効果をもつためであるとされている<ref>分裂病の起源I.I. ゴッテスマン ISBN 978-4-535-58036-7</ref>。また、統合失調症患者は[[関節リウマチ]]に罹患しにくいことが知られており<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1805356/ Negative association between schizophrenia and rheumatoid arthritis] S Vinogradov Schizophr Bull.1991;17(4):669-78</ref>、最近の研究によれば、およそ4倍程度罹患しにくいとされる<ref>{{cite journal |author=Pedersen M, Jacobsen S, Klarlund M, Pedersen BV, Wiik A, Wohlfahrt J, Frisch M |title=Environmental risk factors differ between rheumatoid arthritis with and without auto-antibodies against cyclic citrullinated peptides |journal=Arthritis Res. Ther. |volume=8 |issue=4 |pages=R133 |year=2006 |pmid=16872514 |pmc=1779386 |doi=10.1186/ar2022 |url=}}</ref>。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
[[ファイル:Eugen bleuler.jpg|thumb|upright|スキゾフレニア (Schizophrenia) という用語を創設した[[オイゲン・ブロイラー]] (1857?1939)]]
[[ファイル:Eugen bleuler.jpg|thumb|upright|180px|スキゾフレニア (Schizophrenia) という用語を創設したオイゲン・ブロイラー (1857-1939)]]
[[19世紀]]の[[ドイツ]]の精神科医[[エミール・クレペリン]]が複数の脳疾患を統一的な脳疾患カテゴリーとしてまとめ、[[早発性痴呆]]症を提唱した。[[1911年]]、[[スイス]]の精神科医[[オイゲン・ブロイラー]]が症状群の性質から、著書『早発性痴呆症あるいは精神分裂病群の集団』(『Dementia Praecox oder Gruppe der Schizophrenien』)の中でSchizophreniaを造語し定義した{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.1}}。ブロイラーによれば、当該疾患の特徴は「精神機能の特徴的な分裂(Spaltung der verschiedensten psychischen Funktionen)」であるとし、Schizo(分裂)、Phrenia(精神病)と呼称した。ここでいう精神機能とは、当時流行した連合主義心理学([[:en:Associationism]])の概念であり、また精神機能の分裂とは主に連合機能の緩みおよび自閉症状を意味する。クレペリンは死後の脳解剖から[[前頭葉]]に類似の細胞変性を観察しており、早発性痴呆群を統一的な統計カテゴリーとした。しかし、ブロイラーは相当多数の疾患群の集合からなると予想しており、現在まで決着はついていない。クレペリンおよびブロイラーが例示した疾患群は単純型痴呆、破瓜病、緊張病、妄想性痴呆の4つである。
[[ファイル:Chlorpromazine-3D-vdW.png|thumb|right| [[クロルプロマジン]](商品名コントミン)の[[分子モデル]]、1950年代に統合失調症治療に革新をもたらした。]]
[[19世紀]]の[[ドイツ]]の精神科医[[エミール・クレペリン]]が複数の脳疾患を統一的な脳疾患カテゴリーとしてまとめ、早発性痴呆症を提唱した。[[1911年]]、[[スイス]]の精神科医[[オイゲン・ブロイラー]]が症状群の性質から、著書『早発性痴呆症あるいは精神分裂病群の集団』(『Dementia Praecox oder Gruppe der Schizophrenien』)の中でSchizophreniaを造語し定義した{{Sfn|世界保健機関|1998|loc=Chapt.1}}。ブロイラーによれば、当該疾患の特徴は「精神機能の特徴的な分裂(Spaltung der verschiedensten psychischen Funktionen)」であるとし、Schizo(分裂)、Phrenia(精神病)と呼称した。ここでいう精神機能とは、当時流行した[[連合主義心理学]]の概念であり、また精神機能の分裂とは主に連合機能の緩みおよび自閉症状を意味する。クレペリンは死後の脳解剖から[[前頭葉]]に類似の細胞変性を観察しており、[[早発性痴呆]]群を統一的な統計カテゴリーとした。しかし、ブロイラーは相当多数の疾患群の集合からなると予想しており、現在まで決着はついていない。クレペリンおよびブロイラーが例示した疾患群は単純型痴呆、破瓜病、緊張病、妄想性痴呆の4つである。ここでいう痴呆は、[[認知症]]とは全く異なり、当時、精神の不調全般に使われていた用語である。


===年表===
=== 年表 ===
{{Seealso|精神保健の歴史}}
{{Seealso|精神保健の歴史}}
* [[古代ギリシア]]から統合失調症が存在したという説がある<ref>{{PDFlink|[https://www.jst.go.jp/ristex/output/files/51_utsumi2016.8.pdf 心の病の変遷 -統合失調症から自閉症スペクトラムへ-]}} 内海健 2016年8月26日 p2</ref>。
* [[古代ギリシャ]]から似たような病の存在が知られていた。
* 1852年、フランスの[[ベネディクト・モレル]]が、統合失調症を初めて公式に記述し、{{lang|fr|Demence precoce}}(「早発性痴呆」)と呼称した。
* 1852年、[[フランス]]の[[ベネディクト・モレル]]が、統合失調症を初めて公式に記述し、{{lang|fr|Demence precoce}}(「早発性痴呆」)と呼称した。
* 1871年、ドイツの[[エヴァルト・ヘッカー]]が「破瓜病」<ref group="注">{{lang-de-short|Hebephrenie}}</ref>を著す。
* 1871年、ドイツの{{仮リンク|エヴァルト・ヘッカー|en|Ewald Hecker}}が「破瓜病」<ref group="注">{{lang-de-short|Hebephrenie}}</ref>を著す。
* 1874年、ドイツの[[カール・カールバウム]]が「緊張病」<ref group="注">{{lang-de-short|Katatonie}}</ref>を著す。
* 1874年、ドイツの{{仮リンク|カール・カールバウム|en|Karl Ludwig Kahlbaum}} が「緊張病」<ref group="注">{{lang-de-short|Katatonie}}</ref>を著す。
* 1899年、ドイツの[[エミール・クレペリン]]が {{lang|de|Dementia Praecox}}(「[[早発性痴呆]]」)を著し、[[破瓜|破瓜病]]、[[緊張病]]に妄想病を加えてまとめる。
* 1899年、ドイツの[[エミール・クレペリン]]が {{lang|de|Dementia Praecox}}(「[[早発性痴呆]]」)を著し、[[破瓜|破瓜病]]、[[緊張病]]に妄想病を加えてまとめる。
* 1911年、スイスの[[オイゲン・ブロイラー]]は、必ずしも若年時に発症するとは限らず、また必ずしも痴呆に到るとは限らず、この病気の本性は観念連合の弛緩にあるとして {{lang|de|Dementia Praecox}}(「早発性痴呆」)を {{lang|de|Schizophrenie}}(旧称「精神分裂病」)と改名し疾患概念を変えた。
* 1911年、スイスの[[オイゲン・ブロイラー]]は、必ずしも若年時に発症するとは限らず、また必ずしも痴呆に到るとは限らず、この病気の本性は観念連合の弛緩にあるとして {{lang|de|Dementia Praecox}} を {{lang|de|Schizophrenie}} と改名し疾患概念を変えた。
* 1935年以降、日本では公式には1975年まで多くの人が[[ロボトミー]]([[脳]]の[[外科手術]])を受けた。
* 1935年以降、日本では公式には1975年まで多くの人が[[ロボトミー]]([[脳]]の[[外科手術]])を受けた。
* 1937年、[[日本精神神経学会]]の[[精神病学用語統一委員会]]が、{{lang|de|Schizophrenie}} の日本語訳を「精神分裂病」とする試案を提出した。それ以前は、日本国内では、「精神内界失調疾患」「精神解離症」「精神分離症」「精神分裂症」など、様々な訳語が使用されていた。
* 1937年、[[日本精神神経学会]]の[[神経精神病学用語統一委員会]]が、当疾患を「精神分裂病」と定め<ref name="yougo">[https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0621-5f.html これまでの用語変更事例] 厚生労働省 2022年4月30日閲覧。</ref>。それ以前は、日本国内では、「精神内界失調疾患」「精神解離症」「精神分離症」「精神分裂症」など、様々な訳語が使用されていた。
* 1939年以降、[[ナチス・ドイツ]]が統合失調症の患者などを虐殺した([[T4作戦]])。
* 1939年から1941年、[[ナチス・ドイツ]]が統合失調症の患者などを虐殺した([[T4作戦]])。
* 1967年、イギリスの精神科医[[デビッド・クーパー (精神科医)|デヴィッド・クーパー]]は[[反精神医学]]を提唱し、精神分裂病は存在しないと主張した。その理論は、大方の承認を得るまでには至っていない<ref>村田忠良『現代精神衛生学ノート』 1977年。122-123頁。</ref>。
* 1952年、[[フランス]]の精神科医である{{仮リンク|ジャン・ドレー|fr|Jean Delay (psychiatre, écrivain)}}と{{仮リンク|ピエール・ドニカー|en|Pierre Deniker}}が[[クロルプロマジン]]の統合失調症に対する治療効果を初めて正しく評価し、精神病に対する精神科薬物療法の時代が幕を開けた。
* 1990年、[[中安信夫]]が初期分裂病(現・初期統合失調症)という臨床単位を提唱した<ref>{{PDFlink|[https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1190100810.pdf 書評]}} 久住一郎 精神経誌(2017)119巻10号 2022年4月22日閲覧。</ref>。
* 1957年、[[ベルギー]]の薬理学者である{{仮リンク|パウル・ヤンセン|en|Paul Janssen}}が[[抗精神病薬]]の[[ハロペリドール]]を開発した。
* 1993年、「精神分裂病」という名称が、精神そのものが分裂しているというイメージを与え、患者の人格の否定や誤解、差別を生み出してきた経緯があることから、精神障害者の家族の全国連合組織である[[全国精神障害者家族会連合会]](全家連)が、日本精神神経学会に対し改名の要望を出した。
* 1967年、イギリスの精神科医[[デビッド・クーパー (精神科医)|デヴィッド・クーパー]]は[[反精神医学]]を唱え、精神分裂病は存在しないと主張した。その理論は、大方の承認を得るまでには至っていない<ref>村田忠良『現代精神衛生学ノート』 1977年。122-123頁。</ref>。
* 1984年、[[非定型抗精神病薬]]の[[リスペリドン]]が開発される。
* 1990年、[[中安信夫]]が初期分裂病(現・初期統合失調症)という臨床単位を提唱した。
* 1993年、「精神分裂病」という名称が、精神そのものが分裂しているというイメージを与え、患者の人格の否定や誤解、差別を生み出してきた経緯があることから、精神障害者の家族の全国連合組織[[全国精神障害者家族会連合会]](全家連)が、日本精神神経学会に対し改名の要望を出した。
* 1996年、非定型抗精神病薬のリスペリドンが発売された。
* 1996年、非定型抗精神病薬のオランザピンが発売された。
* 2001年、非定型抗精神病薬のクエチアピンが発売された。
* 2001年、非定型抗精神病薬のペロスピロンが発売された。
* 2002年8月、日本精神神経学会の決議で、精神分裂病は'''統合失調症'''と改名された。同月、[[厚生労働省]]が新名称の使用を認め、全国に通知した。
* 2002年8月、日本精神神経学会の決議で、精神分裂病は'''統合失調症'''と改名された。同月、[[厚生労働省]]が新名称の使用を認め、全国に通知した。
* 2005年5月、[[文部科学省]][[科学技術政策研究所]]の第8回[[デルファイ]]調査報告書によると、2022年までに統合失調症の原因が分子レベルで解明されると予測している。
* 2005年5月、[[文部科学省]][[科学技術政策研究所]]の第8回[[デルファイ]]調査報告書によると、2022年までに統合失調症の原因が分子レベルで解明されると予測している。

* 2006年、非定型抗精神病薬のアリピプラゾールが発売された。
==== 統合失調症治療薬の年表 ====
* 2008年、非定型抗精神病薬のブロナンセリンが発売された。
[[ファイル:Chlorpromazine-3D-vdW.png|thumb|right|180px|クロルプロマジンの[[分子モデル]]。1950年代に統合失調症の治療に革新をもたらした。]]
* 2011年、非定型抗精神病薬のパリペリドンが発売された。
* 1952年、フランスの精神科医である{{仮リンク|ジャン・ドレー|fr|Jean Delay (psychiatre, écrivain)}}と{{仮リンク|ピエール・ドニカー|en|Pierre Deniker}}が[[クロルプロマジン]]の統合失調症に対する治療効果を初めて正しく評価し、精神病に対する精神科薬物療法の時代が幕を開けた。
* 1957年、[[ベルギー]]の薬理学者である{{仮リンク|パウル・ヤンセン|en|Paul Janssen}}が抗精神病薬の[[ハロペリドール]]を開発した。
* 1984年、[[非定型抗精神病薬]]のリスペリドンが開発された。
* 1996年、日本で非定型抗精神病薬のリスペリドンが発売された。
* 2001年、日本で非定型抗精神病薬のオランザピンが発売された。
* 2001年、日本で非定型抗精神病薬のクエチアピンが発売された。
* 2001年、日本で非定型抗精神病薬のペロスピロンが発売された。
* 2006年、日本で非定型抗精神病薬のアリピプラゾールが発売された。
* 2008年、日本で非定型抗精神病薬のブロナンセリンが発売された。
* 2009年、日本で非定型抗精神病薬のクロザピンが発売された。
* 2009年、日本で非定型抗精神病薬持続性注射剤のリスパダール・コンスタが発売された。
* 2011年、日本で非定型抗精神病薬のパリペリドンが発売された。
* 2013年9月20日、日本で非定型抗精神病薬持続性注射剤のゼプリオンが発売された<ref>{{Cite web|和書|title=4週に1回投与の持効性注射剤 統合失調症治療薬 「ゼプリオン®水懸筋注シリンジ」製造販売承認取得のお知らせ |url=https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000006157.html |website=プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES |date=2013-09-25 |access-date=2023-09-17 |publisher=PR TIMES}}</ref>。
* 2016年5月26日、日本で非定型抗精神病薬のアセナピンが発売された<ref name="asenapine"/>。
* 2018年4月18日、日本で新規抗精神病薬の[[アリピプラゾール|ブレクスピプラゾール]]が発売された<ref name="#1"/>。
* 2019年9月10日、日本で世界初の抗精神病薬の張り薬「ロナセンテープ」が発売された<ref name=":02">{{Cite web|和書|title=非定型抗精神病薬「ロナセンテープ」新発売のお知らせ {{!}} IRニュース {{!}} 株主・投資家の皆さま {{!}} 大日本住友製薬株式会社 |url=https://www.ds-pharma.co.jp/ir/news/2019/20190903-2.html |website=www.ds-pharma.co.jp |accessdate=2020-01-11 |publisher=大日本住友製薬 |date=2019-09-03}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=統合失調症を治療するSDAに初の貼付薬が登場 |url=https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201909/562296.html |website=日経メディカル |accessdate=2020-01-11 |last=日経メディカル |publisher=日本経済新聞社 |date=2019-09-20}}</ref>。
* 2019年10月、第11回デルファイ調査報告書によると、2035年までに統合失調症の脳病態解明に基づく、社会復帰を可能にする新規治療薬の科学技術的見通しが立つと予測している<ref>{{PDFlink|[https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/1_Delphi_health.pdf 第11回科学技術予測調査 デルファイ調査結果速報]}} 文部科学省科学技術・学術政策研究所 2019年10月 2022年4月11日閲覧。</ref>。
* 2020年6月11日、日本で非定型抗精神病薬の[[ルラシドン]]が発売された<ref name="#2"/>。
* 2020年11月18日、日本で12週間投与の非定型抗精神病薬持続性注射剤のゼプリオンTRIが発売された<ref>{{Cite news |title=統合失調症治療薬に12週間隔投与製剤が登場 |newspaper=日本経済新聞社 |date=2020-11-27 |url=https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/202011/567975.html |access-date=2023-09-17}}</ref>。


=== 江戸時代の日本 ===
=== 江戸時代の日本 ===
[[江戸時代]]の日本の[[医家]]の間では、「柔狂」や「剛狂」と呼ばれる精神疾患が知られており、それぞれ[[ヨーロッパ]]での「破瓜病」、「緊張病」に相当する病状であったとされている<ref>[[北山大奈]]『あなたの難しい人?統合失調症者を理解したい人のために』ISBN 978-4-938866-49-5。222頁</ref>。中期の[[儒医]][[香川修徳]](香川修庵)は著書『一本堂行余医言』<ref>日本の医学書。同書の巻五は精神神経疾患を記述している[http://aeam.umin.ac.jp/siryouko/ikadata/kagawasyuan.html 「香川修庵」](東亜医学協会)</ref>で「[[狐憑き]]も野狐の祟りなどではない。[[被害妄想]][[誇大妄想]]、[[感情荒廃]]、[[強迫観念]]、[[自閉]]、[[不眠]]、[[幻想]]、抑うつなどは狂の症状である」との意味を記してい<ref>[[鈴木昶]]『江戸の医療風俗事典』[[東京堂出版]] ISBN 978-4-490-10561-2。35-37頁</ref>。
[[江戸時代]]の日本の[[医家]]の間では、「柔狂」や「剛狂」と呼ばれる精神疾患が知られており、それぞれ[[ヨーロッパ]]での「破瓜病」、「緊張病」に相当する病状であったとされている<ref>北山大奈『あなたの難しい人?統合失調症者を理解したい人のために』ISBN 978-4-938866-49-5。222頁</ref>。中期の[[儒医]][[香川修徳]]は著書『一本堂行余医言』(いっぽんどうこうよいげん){{Efn|日本の医学書<ref name="kagawa"/>。同書の巻五は精神神経疾患を記述している<ref name="kagawa">[http://aeam.umin.ac.jp/siryouko/ikadata/kagawasyuan.html 「香川修庵」](東亜医学協会)</ref>。}}で「[[狐憑き]]も野狐の祟りなどではない。被害妄想、誇大妄想、[[感情荒廃]]、[[強迫観念]]、自閉、[[不眠]]、[[幻想]]、抑うつなどは狂の症状である」との意味を記してい<ref>[[鈴木昶]]『江戸の医療風俗事典』[[東京堂出版]] ISBN 978-4-490-10561-2。35-37頁</ref>。


=== 病名呼称の歴史 ===
=== 病名呼称の歴史 ===
19世紀には原因は不明であり、認知症が早期に発症したものと誤解されたため[[早発性痴呆]]という名称がモレルによってつけられ浸透した。
19世紀には原因は不明であり、認知症が早期に発症したものと誤解されたため早発性痴呆という名称がベネディクト・モレルによってつけられ浸透した。[[古代ギリシア語]]の {{lang|el|σχ?ζειν}}+{{lang|el|φρ?να}}(分裂+理性、心)に由来する、[[ドイツ語]]の {{lang|de|Schizophrenie}} という言葉が作られた。
[[古代ギリシャ語]]の {{lang|el|σχ?ζειν}}+{{lang|el|φρ?να}}(分裂+理性、心) に由来し、[[ドイツ語]]の {{lang|de|Schizophrenie}} という言葉が作られた。

日本では、[[明治時代]]に'''精神分裂病'''が、ドイツ語の {{lang|de|Schizophrenie}} に対する訳語として用意された。

精神分裂病の「精神 ({{lang|de|phrenie}})」は、本来は[[心理学]]的な意味合いで用いられた単語であり、知性や理性を現す一般的な意味での精神とは意味が異なる。ところが日本では、「精神分裂病」という名称から、文字通り「精神が分裂する病気」と一般的に解釈され、ひいては「理性が崩壊する病気」と誤った解釈がされてしまうことが多々あった。


日本では、[[明治時代]]に'''精神分裂病'''が、ドイツ語の {{lang|de|Schizophrenie}} に対する[[日本語]]訳として用意された。精神分裂病の「精神 ({{lang|de|phrenie}})」は、本来は[[心理学]]的な意味合いで用いられた単語であり、知性や理性を現す一般的な意味での精神とは意味が異なる。また、「分裂 (schizo)」は、精神そのものの分裂を言うのではなく、「太陽に対して暑い」などの言語連想の分裂を指していた<ref name="yougo"/>。ところが日本では、「精神分裂病」という名称から、文字通り「精神が分裂する病気」と解釈され、さらには「理性が崩壊する病気」と誤った解釈がされてしまうことが多々あった。
統合失調症の患者の家族に対して、社会全体からの支援が必要とされておりながら、誤った[[偏見]]による患者家族の孤立<ref>田野中恭子、「[http://hdl.handle.net/10367/2664 統合失調症の家族研究の変遷]」 立命館人間科学研究 23, 75-89, 2011-07, {{naid|110008584966}}, {{hdl|10367/2664}}</ref>も多く、その偏見を助長するとして患者・家族団体等から、病名に対する苦情が多かった。また、[[医学]]的知見からも「精神が分裂」しているのではなく、脳内での情報統合に失敗しているとの見解が現れ始め、学術的にも分裂との命名が誤りとみなされてきた。そこで、2002年に、[[日本精神神経学会]]総会で Schizophrenia に対する訳語を'''統合失調症'''にするという変更がなされた<ref name="rename">佐藤光源「[https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/schizophrenia/rename.html はじめに: 呼称変更の経緯 / 統合失調症について - 精神分裂病と何が変わったのか] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20140502223824/https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/schizophrenia/rename.html|date=2014年5月2日}}」(日本精神神経学会)<!--accessdate=2014-05-03--></ref>。「病」ではなく「症状群」であるといった指摘もなされた<ref name="rename" />。


統合失調症の患者の家族に対して、社会全体からの支援が必要とされておりながら、誤った[[偏見]]による患者家族の孤立<ref>田野中恭子、「[https://hdl.handle.net/10367/2664 統合失調症の家族研究の変遷]」『立命館人間科学研究』 23, 75-89, 2011-07, {{NAID|110008584966}}, {{hdl|10367/2664}}</ref>も多く、その偏見を助長するとして患者・家族団体などから、病名に対する苦情が多かった。また、医学的知見からも「精神が分裂」しているのではなく、脳内での情報統合に失敗しているとの見解が現れ始め、学術的にも分裂との命名が誤りとみなされてきた。そこで、2002年に、[[日本精神神経学会]]総会で Schizophrenia に対する訳語を'''統合失調症'''にするという変更がなされた<ref name="rename">佐藤光源「[https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/schizophrenia/rename.html はじめに: 呼称変更の経緯 / 統合失調症について - 精神分裂病と何が変わったのか] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20140502223824/https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/schizophrenia/rename.html|date=2014年5月2日}}」(日本精神神経学会)<!--accessdate=2014-05-03--></ref>。訳出にあたっては、その訳語が当事者にとって社会的な不利をもたらさない原則を加味することや、「病」ではなく「症状群」であるといった指摘がなされた<ref name="rename" />。名称変更にかかった費用の一部は、治療に使われる抗精神病薬を販売している[[外資系企業]]から提供されたという<ref>{{Cite book ja|author=本澤二郎|title=霞ヶ関の犯罪「お上社会」腐蝕の構造|publisher=リベルタ出版|date=2002|isbn=978-4-947637-77-2|page=190}}</ref>([[全国精神障害者家族会連合会]]を参照のこと)。
名称変更にかかった費用の一部は治療に使われる[[抗精神病薬]]を販売している[[外資系企業]]から提供されたという<ref>{{Cite book|和書|author=本澤二郎|title=霞ヶ関の犯罪「お上社会」腐蝕の構造|publisherリベルタ出版=|date=2002|isbn=978-4-947637-77-2|pages=190}}</ref>。([[全国精神障害者家族会連合会]]を参照のこと。)


=== 治療史 ===
=== 治療史 ===
[[古代ギリシャ]]時代から色々な治療が試みられており、近代医療においても100年以上の歴史を有するから、膨大な種類の治療が試みられてきた。現代の主流は、薬による薬物治療が効果をあげており、それにより80 - 90%が治癒する。しかし、再発する確率も高く、治療および再発防止には家族の協力が不可欠とされる。古くは、日本において[[漢方薬]]での治療<ref>出典: 小俣和一郎 著 『精神病院の起源』</ref>が試みられた他に、西洋などでは治療不可能と判断して監禁したり、手足を拘束する、あるいは折檻する、また、近代においても脳の一部を切断するなど現代から見たら非人道的な行為が行われてきた他、長らく説得(あるいは根気よく話を聞いたり、対話したり)による治療が試みられてきたが、それらについてはあまり効果が確認できず、近代医学では掃除などの簡易作業を行わせる軽作業型の作業治療による若干の改善が認められて一時期盛んに研究され実施された。この軽作業型の作業治療は、医療現場で患者と接することが多い[[看護婦]](当時の名称)から好まれたという。しかしながら、患者を安全に作業させるには医療機関の手間・暇の負担が大きい上に、劇的に効果を確認できるものでもなく、症状が若干改善したとしても、他のストレスなどの悪化要因があれば、一進一退を繰り返すなど、根気と忍耐がいるものであり、当時は労務させられる患者や一刻も早く治癒を望むその家族からは不評であり、軽作業型の作業治療は下火となってくる。軽作業の代わりに、趣味([[園芸]]など)を行う作業治療が登場したが、患者の要望に応えるためには看護師が、その趣味を指導できる程に覚える必要があり、趣味には膨大な種類があるから患者から寄せられる数多い要望に対応できず、また、要望を出しても病院が対応できない場合は患者症状に悪化をもたらすもあるから、次第に医療現場では減っていった。しかしながら、薬ほど劇的ではないものの、確かに改善効果は認められるために、現在では専門の[[作業療法士]]制度を創設して担当している。[[1950年代]]から様々な薬が開発されると、劇的に効果を上げるようになったため、歴史的に様々な経緯を経て薬物治療がその主流に存在しており、他の治療法はその補佐的に利用されている。
古代ギリシ時代から色々な治療が試みられており、近代医療においても100年以上の歴史を有することから、膨大な種類の治療が試みられてきた。現代の主流は、薬による薬物治療が効果をあげており、それにより80 - 90%が治癒する。しかし、再発する確率も高く、治療および再発防止には家族の協力が不可欠とされる。古くは、日本において[[漢方薬]]での治療<ref>小俣和一郎 著 『精神病院の起源』</ref>が試みられ、西洋などでは治療不可能と判断して監禁したり、手足を拘束する、あるいは折檻する、また、近代においても脳の一部を切断するなど現代から見たら非人道的な行為が行われてきた長らく説得(あるいは根気よく話を聞くことや対話)による治療が試みられてきたが、それらについてはあまり効果が確認できず、近代医学では掃除などの簡易作業を行わせる軽作業型の作業治療による若干の改善が認められて一時期盛んに研究され実施された。この軽作業型の作業治療は、医療現場で患者と接することが多い[[看護婦]](当時の名称)から好まれたという。しかしながら、患者を安全に作業させるには医療機関の手間・暇などの負担が大きい上に、劇的に効果を確認できるものでもなく、症状が若干改善したとしても、他のストレスなどの悪化要因があれば、一進一退を繰り返すなど、根気と忍耐がいるものであり、当時は労務させられる患者や一刻も早く治癒を望むその家族からは不評であり、軽作業型の作業治療は下火となっていった。軽作業の代わりに、[[趣味]]([[園芸]]など)を行う作業治療が登場したが、患者の要望に応えるためには看護師が、その趣味を指導できる程に覚える必要があり、趣味には膨大な種類があることから患者から寄せられる数多い要望に対応できず、また、要望を出しても病院が対応できない場合は患者症状に悪化をもたらすこともあることから、次第に医療現場では減少した。しかしながら、薬ほど劇的ではないものの、確かに改善効果は認められるために、現在では専門の[[作業療法士]]制度を創設して担当している。[[1950年代]]から様々な薬が開発されると、劇的に効果を上げるようになったため、歴史的に様々な経緯を経て薬物治療がその主流に存在しており、他の治療法はその補佐的に利用されている。


==== かつて行われていた治療法 ====
==== かつて行われていた治療法 ====
; [[精神外科]]による[[外科手術]]
; [[精神外科]]による[[外科手術]]
: 脳の[[前頭葉]]部分の神経細胞を切断する手術で、[[ロボトミー]]と呼。向精神薬の開発と副作用、医療倫理の問題で行われなくなった。1975年(昭和50年)に、[[日本精神神経学会]]が精神外科を否定する決議を可決しており、医学上の[[禁忌]]である。
: 脳の[[前頭葉]]部分の神経細胞を切断する手術で、[[ロボトミー]]と呼ばれる。向精神薬の開発と副作用、[[医療倫理]]の問題で行われなくなった。1975年(昭和50年)に、[[日本精神神経学会]]が精神外科を否定する決議を可決しており、医学上の[[禁忌 (医学)|禁忌]]である。
; [[インスリン・ショック療法]]
; [[インスリン・ショック療法]]
: かつて行われていた治療法の一つで、患者に対して[[インスリン]]注射を行い、[[失神]]させショック状態に陥らせた後に、[[グルコース]]を投与し覚醒させる。強制的な[[低血糖]]による[[医療事故]]の危険性や、[[薬物療法]][[抗精神病薬]]の出現により、2013(平成25年)では、行われない治療法となった。
: 患者に対して[[インスリン]]注射を行い、[[失神]]させショック状態に陥らせた後に、[[グルコース]]を投与し覚醒させるというものである。強制的な[[低血糖]]による[[医療事故]]の危険性や、薬物療法・抗精神病薬の出現により、2020現在では、行われない治療法となった。
; [[信仰]]療法
: 自分が絶対ではなく、神が絶対と信じることにより、独特の考えを是正したり、謙虚に聞き入れる姿勢をもたせる。自分が絶対者でないことがわかればよいとするものである。
; [[私宅監置]]
; [[私宅監置]]
: かつて行われていた、患者の処遇の一つで1950年(昭和25年)の[[精神衛生法]]施行にて禁止された。
: 患者の処遇の一つで自宅の一室などに専用の部屋を確保して患者を監置{{Efn|監置は、[[監禁]]・[[保護]]のどちらでもなく、その中間を意味する語<ref>内務省衛生局・編『精神病者私宅監置ノ実況』本文p.134</ref>であるが、実地の運用においては監禁と解す人が多かった。}}するものであるが、1950年(昭和25年)の[[精神衛生法]]施行にて禁止された。
; 信仰療法
: 自分が絶対ではなく、神が絶対と信じることにより、独特の考えを是正したり、謙虚に聞き入れる姿勢をもたせる。自分が絶対者でないことがわかればよいとするもの。


== 社会的側面 ==
== 社会的側面など ==
=== 統合失調症患ったとされる著名人 ===
=== 統合失調症患者だった著名人・著名事件犯 ===
'''日本人'''
; 日本人
:* [[夏目漱石]] - [[小説家]]である。精神科医の[[呉秀三]]博士に妄想性痴呆(妄想型統合失調症)と診断された<ref>『天才』p.164 宮城音弥 岩波新書(青版 621)ISBN 4-00-412070-5</ref>。エピソードとして「恋愛妄想」があり、病院で出会った女性が自分との結婚を熱望しているという妄想だが、実際にそうした事実はなかった<ref name="1mental">[http://www.1mental.jp/togoshittyosho_tyomeijin_2.html 統合失調症の基礎知識] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20150202095858/http://1mental.jp/togoshittyosho_tyomeijin_2.html |date=2015年2月2日}}</ref>。
:* [[高村智恵子]] - [[画家]]である。[[彫刻家]]で[[詩人]]である[[高村光太郎]]の妻である。46歳の時に統合失調症の最初の兆候が現れた<ref>[https://www.city.nihonmatsu.lg.jp/kankou/midokoro/kankou_guidemap/adachi/takamura/page001362.html 智恵子の年譜] 二本松市</ref>。
:* [[草間彌生]] - [[芸術家]]である。少女時代に統合失調症を患い、幻覚や幻聴の症状から逃れるために絵を描き始めた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.cinematoday.jp/news/N0103100 |title=草間彌生を追ったドキュメンタリー映画、監督を直撃! |date=2018-05-25 |accessdate=2020-03-04 |publisher=CINEMATODAY}}</ref>。
:* [[松本ハウス|ハウス加賀谷]] - お笑いコンビ「[[松本ハウス]]」のメンバーである。著書『統合失調症がやってきた』の中で明らかにし、以後も罹患者としての体験をテレビ番組などで語っている<ref>{{Cite news|url=https://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/1800/188984.html|title=【出演者インタビュー】ハウス加賀谷さん「病気について話し合うきっかきになれば」|work=NHK福祉ポータル ハートネット|publisher=[[日本放送協会|NHK]]|date=2014-05-28|accessdate=2017-05-21}}</ref>。
:* [[山田花子 (漫画家)|山田花子]] - [[ガロ (雑誌)|ガロ]]で活躍した[[漫画家]]である。1992年3月統合失調症と診断される。2ヵ月半の入院生活を経て5月23日に退院するが、翌24日の夕刻、団地11階から投身自殺した。24歳没。死後に、彼女の闘病中の日記を、遺族が出版している。
:* [[卯月妙子]] - 本人による近況自伝エッセイ漫画で、自身の統合失調症体験などを描いている。
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; 日本人以外[[File:The Scream.jpg|thumb|180px|right|エドヴァルド・ムンクの代表作『[[叫び (エドヴァルド・ムンク)|叫び]]』]]
:* [[エドヴァルド・ムンク]] - [[ノルウェー]]の画家である。代表作『[[叫び (エドヴァルド・ムンク)|叫び]]』は統合失調症の前駆期の影響による世界没落体験と幻聴を絵にしたものであるとされている<ref>岡田尊司 『統合失調症』 PHP新書〈叢書〉p.99、2010年10月 ISBN 4569793061</ref><ref>[http://www.mental-navi.net/togoshicchosho/understand/celebrity/munch.html エドワルド・ムンク | 統合失調症だった著名人] 統合失調症ナビ</ref>。
[[File:Pcat4.jpg|thumb|180px|right|統合失調症を患った後のルイス・ウェインの作品]]
:* [[ルイス・ウェイン]] - [[イギリス]]の画家である。晩年の統合失調症発症後の作品で有名。もともとは、猫の画家として人気のあった職業画家であった。
:* [[フィンセント・ファン・ゴッホ]] - [[オランダ]]の画家である。発作などの症状については、数多くの仮説のうち、統合失調症であるとする説と[[てんかん]]であるとする説が有力である<ref>木下 (2002: 100)</ref><ref>木下長宏 『ゴッホ――闘う画家』 六耀社、2002年。ISBN 4-89737-423-5</ref>。
:* [[カミーユ・クローデル]] - [[フランス]]の彫刻家である。40代後半に統合失調症を発症した<ref name="Bastos2006">{{cite journal|last1=Bastos|first1=Othon|title=Camille Claudel: a revulsion of nature. The art of madness or the madness of art?|journal=Jornal Brasileiro de Psiquiatria|volume=55|issue=3|year=2006|issn=0047-2085|doi=10.1590/S0047-20852006000300012}}</ref>。
:* [[フリードリヒ・ヘルダーリン]] - [[ドイツ]]の詩人である。発病直前の時期にも作品を残しており、両価性に引き裂かれる思考の乱れが見られる<ref name="kokoronokenkou">{{PDFlink|[https://www.chiba.med.or.jp/general/millennium/pdf/millennium49_18.pdf 統合失調症について(その5・病跡学の視点)]}} こころの健康 2022年3月16日閲覧。</ref>。
:* [[アイザック・ニュートン]] - イギリスの[[物理学者]]である。30歳前後と50歳前後に、妄想型の統合失調症を患ったとする説を精神科医の[[福島章]]が述べている<ref>『天才 創造のパトグラフィー』福島章 講談社現代新書 p.193 ISBN 4-06-145721-7</ref>。
:* [[ゲオルク・カントール]] - ドイツで活躍した[[数学者]]である。後年に統合失調症を発症した<ref name="kokoronokenkou"/>。
:* [[ジョン・ナッシュ]] - [[アメリカ合衆国]]の数学者である。1994年の[[ノーベル経済学賞]]受賞者である。1959年から1980年代の後半まで統合失調症を患うが、1990年代には寛解した<ref>{{cite news|last1=Nasar|first1=Sylvia|authorlink1=Sylvia Nasar|title=The Lost Years of a Nobel Laureate|url=https://www.nytimes.com/1994/11/13/business/the-lost-years-of-a-nobel-laureate.html|website=[[The New York Times]]|access-date=May 1, 2019|location=Princeton, New Jersey|date=November 13, 1994}}</ref>。ノーベル賞の受賞理由である[[ゲーム理論]]の[[経済学]]への応用は発症以前に挙げた功績であるが、発症後も数学の研究は続けた。
:* [[バディ・ボールデン]] - アメリカ合衆国の[[コルネット]]奏者である。統合失調症の影響により[[ジャズ]]音楽のルーツを創ったと考えられている<ref>[http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/1430337.stm BBC NEWS Mental illness 'at the root of jazz']</ref>。
:* [[ダニー・ハサウェイ]] - アメリカ合衆国の[[ソウルミュージック]]歌手である。20代後半で妄想型統合失調症と診断され、その後33歳で自殺した。
:* [[アントナン・アルトー]] - フランスの[[舞踏家]]である。統合失調症を発症し<ref name="kokoronokenkou"/>、精神病院に9年間収容された。
:<!-- バグ回避のための行 -->
; 著名事件犯
:* [[日本航空350便墜落事故]] - 機長による意図的な墜落事故。精神鑑定により統合失調症と診断された。
:* [[大阪此花区パチンコ店放火殺人事件]] - 犯人は統合失調症であったが、死刑判決が確定した<ref>{{Cite web|和書|title=京アニ放火から1年、「酷似事件」に探る"先行き" |url=https://toyokeizai.net/articles/-/363686 |website=東洋経済オンライン |date=2020-07-18 |access-date=2023-09-15 |language=ja}}</ref>。
:* [[京都アニメーション放火殺人事件]] - 犯人は下着泥棒と女性への暴行事件で有罪判決を受け、30代でコンビニ強盗で実刑判決を受けた際の刑務所で統合失調症と診断されていた<ref>{{Cite web|和書|title=京アニ放火殺人事件 被告の弁護側は無罪主張 検察側は「筋違いの恨みによる復讐」と指摘 統合失調症と診断も(夕刊フジ) |url=https://news.yahoo.co.jp/articles/3fbbc9ed78a68b3cc55564dc477871f3eef6929b |website=Yahoo!ニュース |access-date=2023-09-15 |language=ja}}</ref>。


=== 病跡学との関係 ===
*[[夏目漱石]] - 日本の[[小説家]]である。精神科医の[[呉秀三]]博士に妄想性痴呆(妄想型統合失調症)と診断された<ref>『天才』p.164 宮城音弥 岩波新書(青版 621)ISBN 4-00-412070-5</ref>。エピソードとして「恋愛妄想」があり、病院で出会った女性が自分との結婚を熱望しているという妄想だが、実際にそうした事実はなかった<ref name="1mental">[http://www.1mental.jp/togoshittyosho_tyomeijin_2.html 統合失調症の基礎知識] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20150202095858/http://1mental.jp/togoshittyosho_tyomeijin_2.html |date=2015年2月2日 }}</ref>。
統合失調症を患った著名人は少なくなく、ドイツの物理学者、[[アルベルト・アインシュタイン]]の二男[[エドゥアルト・アインシュタイン]]や、イギリスの数学者・[[哲学者]]、[[バートランド・ラッセル]]の多くの家族・親類(叔父、叔母、息子、孫娘)、アイルランドの小説家・詩人、[[ジェイムズ・ジョイス]]の娘ルチアなども統合失調症を患ったため、[[病跡学]]の研究対象となっている<ref name="kokoronokenkou"/><ref>ナンシー・アンドリアセン―心を探る脳科学 (NHK未来への提言)日本放送出版協会 p.91 ISBN 978-4140812228</ref>。
*[[高村智恵子]] - [[画家]]である。[[彫刻家]]で[[詩人]]である[[高村光太郎]]の妻である。46歳の時に統合失調症の最初の兆候が現れた<ref>[http://www.city.nihonmatsu.lg.jp/site/kankou/451.html 智恵子の年譜]</ref>。
*[[松本ハウス|ハウス加賀谷]] - お笑いコンビ「[[松本ハウス]]」のメンバーである。著書『統合失調症がやってきた』の中で明らかにし、以後も罹患者としての体験をテレビ番組などで語っている<ref>{{Cite news|url=http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/1800/188984.html|title=【出演者インタビュー】ハウス加賀谷さん「病気について話し合うきっかきになれば」|work=NHK福祉ポータル ハートネット|publisher=[[日本放送協会|NHK]]|date=2014-05-28|accessdate=2017-05-21}}</ref>。


=== 統合失調症が描かれている作品 ===
'''外国人'''
* [[アデルの恋の物語]] - 『[[レ・ミゼラブル]]』などで知られるフランスの文豪、[[ヴィクトル・ユーゴー]]の二女アデルは統合失調症を患い、後に半生が映画化された。
[[File:The Scream.jpg|thumb|170px|right|[[エドヴァルド・ムンク]]『[[叫び (エドヴァルド・ムンク)|叫び]]』]]
* [[ビューティフル・マインド]] - ノーベル経済学賞受賞の数学者、ジョン・ナッシュの半生を描く物語<ref>[https://www.med.nagasaki-u.ac.jp/psychtry/cinema/cinema09.html 統合失調症を描いた第9回 「ビューティフル・マインド」(2001)] 2022年3月16日閲覧。</ref>。
* 『逃走論 ― スキゾ・キッズの冒険』([[浅田彰]])


=== 法律 ===
* [[エドヴァルド・ムンク]] - [[ノルウェー]]の[[画家]]である。代表作『[[叫び (エドヴァルド・ムンク)|叫び]]』は統合失調症の前駆期の影響による世界没落体験と幻聴を絵にしたものであるとされている<ref>岡田尊司 『統合失調症』 PHP新書〈叢書〉p.99、2010年10月<nowiki/>ISBN 4569793061</ref><ref>[http://www.mental-navi.net/togoshicchosho/understand/celebrity/munch.html エドワルド・ムンク | 統合失調症だった著名人 | 症状を知る | 統合失調症ナビ]</ref>。
統合失調症は[[精神保健及び精神障害者福祉に関する法律|精神保健福祉法]]の対象となる精神障害者である<ref>[https://www.mhlw.go.jp/kokoro/nation/law.html 精神保健福祉士法について] 厚生労働省 2022年4月3日閲覧。</ref>。統合失調症者で症状が安定し、就労可能な場合は[[障害者の雇用の促進等に関する法律|障害者雇用促進法]]の対象となる<ref>{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000029f49-att/2r98520000029f7e.pdf 障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象]}} 厚生労働省 2022年4月3日閲覧。</ref>。統合失調症は[[刑法 (日本)|日本の刑法]]における心神喪失者、心神耗弱者の要因である精神の障害に含まれる<ref>{{PDFlink|[https://www.syaanken.or.jp/wp-content/uploads/2012/05/20110_027-044.pdf 精神障害と責任能力]}} 佐伯仁志 2022年3月26日閲覧。</ref>。もっとも、日本の刑事裁判においてはうつ病という精神医学的診断(疾病診断)によって直ちに責任能力の有無が決められるものではなく、更に個々の事例における精神の障害の質や程度を判断し、その精神の障害と行為との関係についての考察に基づいて責任能力が判断されることになっている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.m.chiba-u.ac.jp/class/shakai/jp/housystem/doc/tebiki40_100108.pdf |title=刑事責任能力に関する精神鑑定書作成の手引き |accessdate=2023-08-24}}</ref>。そのため、医学的に統合失調症と診断されたとしても、それによって直ちに刑責が軽減されるわけではない。統合失調症者は[[心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律|医療観察法]]による入院対象者になりうる<ref>[https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sinsin/nyuin.html 心神喪失者等医療観察法による入院対象者の状況] 厚生労働省 2022年3月26日閲覧。</ref>。精神障害者に対する差別や虐待は[[障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律|障害者差別解消法]]および[[障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律|障害者虐待防止法]]で禁止されている<ref>[https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律] 内閣府</ref><ref>{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000129721.pdf 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律の概要]}} 厚生労働省</ref>。[[障害者手帳]]や[[障害年金]]の統合失調症の障害認定では、障害の状態に応じて1から3の等級がある<ref>[https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4615&dataType=1&pageNo=1 精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について] 厚生労働省 2022年3月6日閲覧。</ref><ref>{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000010opz-att/2r98520000010v2p.pdf 障害認定基準]}} 厚生労働省 2022年3月6日閲覧。</ref>。患者の申請によって、[[障害者総合支援法]]の[[自立支援医療 (精神通院医療)|自立支援医療(精神通院医療)]]が受けられる<ref>[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/gaiyo.html 自立支援医療制度の概要] 厚生労働省 2022年4月22日閲覧。</ref>。長期間の治療に対する医療費の自己負担軽減策として、[[国民健康保険]]の3割負担に加えて、[[公費負担医療]]による医療費減額が受けられる。統合失調症など精神上の障害により判断の能力が低下した人を支援する[[成年後見制度]]がある<ref>[https://www.kagayaki-law.jp/category/1225451.html 1.成年後見制度とはどんな制度ですか。] かがやき法律事務所 2022年9月28日閲覧。</ref>。[[民法 (日本)|日本の民法]]おいて重度の統合失調症で意思疎通が取れない場合は[[離婚#離婚原因|離婚事由]]となる<ref>[https://gentosha-go.com/articles/-/45561?page=1 裁判で問われる「離婚事由」、緊張の「元夫婦の証人尋問」の実態] 幻冬舎ゴールドオンライン 2022年9月21日配信 2022年9月28日閲覧。</ref>。統合失調症を含む精神障害はいくつかの資格免許において[[欠格|相対的欠格事由]]となっている<ref>[https://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/system63.html 「政府の欠格条項見直しで、63制度はどう変わった」] 障害者欠格条項をなくす会 2011年8月 2022年9月28日閲覧。</ref>。
* [[フィンセント・ファン・ゴッホ]] - 画家である。発作などの症状については、数多くの仮説のうち、[[てんかん]]であるとする説と統合失調症であるとする説が有力である。(木下 (2002: 100))<ref>木下長宏 『ゴッホ――闘う画家』 六耀社、2002年。ISBN 4-89737-423-5</ref>。
* [[カミーユ・クローデル]] - [[フランス]]の[[彫刻家]]である。40代後半に統合失調症を発症した<ref name="Bastos2006">{{cite journal|last1=Bastos|first1=Othon|title=Camille Claudel: a revulsion of nature. The art of madness or the madness of art?|journal=Jornal Brasileiro de Psiquiatria|volume=55|issue=3|year=2006|issn=0047-2085|doi=10.1590/S0047-20852006000300012}}</ref>。
* [[アイザック・ニュートン]] - [[イギリス]]の[[物理学者]]である。30歳前後と50歳前後に、妄想型の統合失調症を患ったとする説を[[精神科医]]の[[福島章]]が述べている<ref>『天才 創造のパトグラフィー』福島章 講談社現代新書 p.193 ISBN 4-06-145721-7</ref>。
* [[バディ・ボールデン]] - [[アメリカ合衆国]]の[[コルネット]]奏者である。統合失調症の影響により[[ジャズ]]音楽のルーツを創ったと考えられている<ref>[http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/1430337.stm BBC NEWS Mental illness 'at the root of jazz']</ref>。
* [[ジョン・ナッシュ]] - アメリカ合衆国の[[数学者]]である。1994年の[[ノーベル経済学賞]]受賞者である。1959年から1980年代の後半まで統合失調症を患うが、1990年代には寛解した<ref>{{cite news|last1=Nasar|first1=Sylvia|authorlink1=Sylvia Nasar|title=The Lost Years of a Nobel Laureate|url=https://www.nytimes.com/1994/11/13/business/the-lost-years-of-a-nobel-laureate.html|website=[[The New York Times]]|access-date=May 1, 2019|location=Princeton, New Jersey|date=November 13, 1994}}</ref>。ノーベル賞の受賞理由である[[ゲーム理論]]の[[経済学]]への応用は発症以前に挙げた功績であるが、発症後も数学の研究は続けた。
ドイツの物理学者、[[アルベルト・アインシュタイン]]の二男[[エドゥアルト・アインシュタイン]]や、イギリスの数学者・哲学者[[バートランド・ラッセル]]の多くの家族・親類(叔父、叔母、息子、孫娘)、[[ジェイムズ・ジョイス]]の娘ルチアなども統合失調症を患ったため、[[病跡学]](エピ・パトグラフィー)上の研究対象となっている<ref>ナンシー・アンドリアセン―心を探る脳科学 (NHK未来への提言)日本放送出版協会 p.91 ISBN 978-4140812228</ref>。『[[レ・ミゼラブル]]』などで知られる、フランスの[[文豪]][[ヴィクトル・ユーゴー]]の二女アデルも統合失調症を患い、映画『[[アデルの恋の物語]]』として映画化された。


== 研究事例 ==
=== コスト ===
2017年の国内の統合失調症関連の年間の医療費は男性が4602億円、女性が4869億円であり、年齢別では0歳から14歳が10億円、15歳から44歳が1703億円、45歳から64歳が3713億円、65歳以上が4045億円であった<ref>{{PDFlink|[https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/17/dl/toukei.pdf 平成29年度厚生労働省の医療費統計]}} 厚生労働省 2022年4月3日閲覧。</ref>。2008年の調査によると日本における統合失調症の社会的コストは約2兆7700億円、約7割が間接費用と推定されている<ref>[https://medical.jiji.com/news/52953 日本の統合失調症の最新有病率が明らかに] 時事メディカル 2022年6月24日配信 2022年9月21日閲覧。</ref>。[[アメリカ合衆国]]の統合失調症関連の経済的負担額は少なくとも600億ドルと見積もられている<ref>[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4762470/ Global economic burden of schizophrenia] Huey Yi Chong, etc. Neuropsychiatr Dis Treat 2022年4月22日閲覧。</ref>。


統合失調症の一日当たりの一般医療費は入院が13,745円、入院外が9,206円となっている<ref>{{PDFlink|[https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2021/210701_12.pdf 「令和2年社会医療診療行為別統計の概況」について]}} 厚生労働省 2022年4月26日閲覧。</ref><ref name="nissen">[https://www.nissen-life.co.jp/willnavi/kanwa/column/mind/mind03.html 統合失調症でも入れる・加入できる保険] ニッセンライフ 2022年4月26日閲覧。</ref>{{Efn|全額が自己負担ではなく、自己負担が3割の人、[[高額療養費]]を活用している人などがいる<ref name="nissen"/>。}}。
* '''新しい診断法'''

** 2014年11月、[[大阪大学]]大学院連合小児発達学研究科の研究グループは、統合失調症患者の眼球運動の特徴の研究の結果、統合失調症患者と健常者を88%以上判別できることを報告した。統合失調症の客観的な診断法は未だなく、[[医師]]の主観により診断していたが、客観的な診断法につながるとして精神医学界で注目され、統合失調症の補助診断法の開発に発展する可能性がある。本研究結果は、精神医学雑誌『Schizophrenia Research』電子版に掲載された(2014年11月1日)<ref name="resou.osaka">[http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20141107_3 大阪大学公式サイト - 統合失調症を判別する眼球運動特徴の発見]</ref>。
=== 記念日 ===
* '''脳研究'''
[[5月24日]]は「世界統合失調症デー」と定められている<ref>[https://sumiyoshi-kaisei.jp/blog/2019/05/22/blog-295/ 世界統合失調症デー] 住吉病院 2019年5月22日配信 2022年4月4日閲覧。</ref>。また、1992年から[[世界精神保健連盟]]により[[10月10日]]は「世界メンタルヘルスデー」と定められている<ref>[https://www.mhlw.go.jp/kokoro/mental_health_day/about.html 世界メンタルヘルスデーとは] 厚生労働省 2022年4月4日閲覧。</ref>。
** 大阪大学、[[東京大学]]のチームは患者の[[淡蒼球]]と呼ばれる部分の体積が大きくなっていることを報告した<ref>[http://www.sankei.com/west/news/160120/wst1601200036-n1.html 産経ニュース] {{リンク切れ|date=2019年2月}}</ref>。
* '''発症予測法'''
** [[富山大学]]は統合失調症の発症高リスク群のうち、のちに発症する群は、発症しない群と比較して、左後頭葉の脳回の過形成を示すことを報告した<ref>[https://www.m3.com/open/clinical/news/article/545519/ 統合失調症の発症予測法を発見] 2017年7月14日 QLifePro 医療ニュース</ref>。
* '''発症リスク'''
** [[理化学研究所]]は脳発達期の脂肪酸の摂取不良が統合失調症発症リスクに関与する可能性があると発表した<ref>[http://www.qlifepro.com/news/20170908/developmental-fatty-acid-deficiency-causes-schizophrenia-risk.html 環境要因と精神疾患をつなぐ分子や生物学的メカニズムを研究] 医療ニュース 2017年09月08</ref>。
* '''遺伝子解析'''
** [[藤田保健衛生大学]]の研究によると、統合失調症には「痩せ傾向」の遺伝子を持っている人が多いという<ref>[https://mainichi.jp/articles/20180405/k00/00e/040/284000c 統合失調症 実は「痩せ」と相関 藤田保健大が遺伝子解析] 毎日新聞(有料記事)2018年4月5日</ref>。
* '''他疾患との関連'''
** [[名古屋大学]]大学院の研究によると、統合失調症と[[自閉スペクトラム症]](ASD)は発症メカニズムにオーバーラップがあるという<ref>[https://www.amed.go.jp/news/release_20180912.html 自閉スペクトラム症と統合失調症:2つの精神疾患における発症メカニズムのオーバーラップを発見! -ゲノム医療への展開に期待-] 国立研究開発法人日本医療研究開発機構</ref>。
* '''自殺リスク'''
** [[台北医学大学]]のチームは、措置入院には、任意入院と比較し、統合失調症入院患者の自殺リスク低減に対する保護効果がないことが示唆されるとする研究を発表した<ref>[https://www.carenet.com/news/general/carenet/46625 統合失調症入院患者における措置入院と自殺に関するコホート研究]</ref>。
* '''神経細胞の変化'''
** [[金沢大学]]は、統合失調症患者の共通点として、複数の大脳皮質の部位で特定の神経細胞の変化があることを報告した<ref>[http://www.qlifepro.com/news/20180927/neurocytes-of-schizophrenia.html 統合失調症患者の複数の大脳皮質領域に共通する神経細胞の変化を解明-金沢大]</ref>。
* '''第2世代抗精神病薬持効性注射剤の治療結果'''
** [[デンマーク]]オールボー大学の調査によると、第2世代抗精神病薬持効性注射剤は支持されるという結果が出た<ref>[https://www.carenet.com/news/general/carenet/46579 統合失調症に対する第2世代抗精神病薬持効性注射剤の治療結果]</ref>。
* '''暴力行為'''
** フィンランドの研究によると、統合失調症の人物が殺人を行うリスクは、一般人口に比べて男性で8.0倍、女性で6.5倍と報告されている<ref>{{Cite journal|last=Eronen|first=M.|last2=Hakola|first2=P.|last3=Tiihonen|first3=J.|date=1996-6|title=Mental disorders and homicidal behavior in Finland|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8639032|journal=Archives of General Psychiatry|volume=53|issue=6|pages=497–501|doi=10.1001/archpsyc.1996.01830060039005|issn=0003-990X|pmid=8639032}}</ref>。
** 社会経済的状況が困難な統合失調症の入院患者の67%に、暴力行為の経験があったとされる<ref>{{Cite journal|last=Inamdar|first=S. C.|last2=Lewis|first2=D. O.|last3=Siomopoulos|first3=G.|last4=Shanok|first4=S. S.|last5=Lamela|first5=M.|date=1982-7|title=Violent and suicidal behavior in psychotic adolescents|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7091413|journal=The American Journal of Psychiatry|volume=139|issue=7|pages=932–935|doi=10.1176/ajp.139.7.932|issn=0002-953X|pmid=7091413}}</ref>。
** 若年成人の21%に入院前に暴行もしくは自殺企図があったことが明らかになっている<ref>{{Cite journal|last=Tardiff|first=K.|last2=Sweillam|first2=A.|date=1980-2|title=Assault, suicide, and mental illness|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7352848|journal=Archives of General Psychiatry|volume=37|issue=2|pages=164–169|doi=10.1001/archpsyc.1980.01780150054005|issn=0003-990X|pmid=7352848}}</ref>。
** 米国で行われた大規模調査では、統合失調症が大半を占める精神疾患を抱える者の再犯率について、15%が2年以内に有罪判決を受け、6%が暴力的攻撃で有罪となっている<ref>{{Cite journal|last=Maden|first=A.|last2=Scott|first2=F.|last3=Burnett|first3=R.|last4=Lewis|first4=G. H.|last5=Skapinakis|first5=P.|date=2004-06-26|title=Offending in psychiatric patients after discharge from medium secure units: prospective national cohort study|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15169742|journal=BMJ (Clinical research ed.)|volume=328|issue=7455|pages=1534|doi=10.1136/bmj.38075.467569.EE|issn=1756-1833|pmid=15169742|pmc=PMC437143}}</ref>。
** 1970~2009年までに行われた統合失調症患者における暴力や犯罪リスクを扱った20研究(18423人分)のデータを[[メタアナリシス|メタ分析]]した結果、統合失調症およびその他の精神病では、一般人口に比べて暴力のオッズ比が男性で1~7倍、女性で4~29倍と算出された<ref>{{Cite journal|last=Fazel|first=Seena|last2=Gulati|first2=Gautam|last3=Linsell|first3=Louise|last4=Geddes|first4=John R.|last5=Grann|first5=Martin|date=2009-8|title=Schizophrenia and violence: systematic review and meta-analysis|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19668362|journal=PLoS medicine|volume=6|issue=8|pages=e1000120|doi=10.1371/journal.pmed.1000120|issn=1549-1676|pmid=19668362|pmc=2718581}}</ref>。
** 日本で2005年から実施されてきた心神喪失者等医療観察法に関する統計によると、心神喪失などの状態で殺人、強盗、重い傷害事件、強姦、強制わいせつ、放火にあたる他害行為をして不起訴、起訴猶予、無罪、執行猶予になり、同制度で処遇を申し立てられるのが全国で年間約360人程度であり、そのうち医療観察法指定入院医療機関で治療を受けることになる者は全国で年間おおよそ240名程度で、そのうち約80%が統合失調症圏とされる<ref>{{Cite web|url=http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_hogo.html|title=保護統計調査 2011|accessdate=2019-08-31|publisher=法務省司法法制部}}</ref><ref>{{Cite web|title=心神喪失者等医療観察法にかかる申立、決定等の状況|厚生労働省|url=https://web.archive.org/web/20111220203948/http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sinsin/kettei.html|website=web.archive.org|date=2011-12-20|accessdate=2019-08-31}}</ref>。
** [[上海交通大学]]医学院は魚油の摂取と統合失調症患者の暴力行為の減少の関係を報告した<ref>[https://www.carenet.com/news/general/carenet/44675 統合失調症患者の暴力行為が魚油摂取で改善] ケアネット 2017/09/21</ref>。
*'''喫煙との因果関係'''
**統合失調症と喫煙は部分的に因果関係がある<ref>[https://www.carenet.com/news/general/carenet/49215 統合失調症リスクに対する喫煙の影響]</ref>。
*'''メタ認知トレーニングの有効性'''
**メタ認知トレーニングが統合失調症の症状改善に有効だとするエビデンスが示された<ref>[https://www.minyu-net.com/prwire/PR201912255240.php 考え方のクセをほぐして症状軽減 統合失調症に対するメタ認知トレーニングの効果を検証]</ref>。
*'''新しい治療薬候補'''
**[[理化学研究所]]の研究により、天然代謝産物[[ベタイン]]が統合失調症の新しい治療薬の候補になった<ref>[https://www.riken.jp/press/2019/20190627_1/ 統合失調症の新しい治療薬候補の発見]</ref>。


== 近縁疾患 ==
== 近縁疾患 ==
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** パラフレニー - 人格崩壊が少ない妄想型である。
** パラフレニー - 人格崩壊が少ない妄想型である。
** [[偏執病|パラノイア]] - 妄想型に類似するが、妄想の内容が異なる。悪役のような妄想がある。進んでしまうと悪魔ではないかと思ってしまう。悪魔主義的で支配者でありたいとする激しい気性がある。
** [[偏執病|パラノイア]] - 妄想型に類似するが、妄想の内容が異なる。悪役のような妄想がある。進んでしまうと悪魔ではないかと思ってしまう。悪魔主義的で支配者でありたいとする激しい気性がある。
** 敏感関係妄想 - 関係妄想を主症状とし、その原因が患者の敏感性格{{Efn|敏感性格とは感じやすく、傷つきやすい性格のことで、先天的に疲労しやすい無力性の体質の持主に多く見られる<ref name="binkan"/>。}}にあるもの<ref name="binkan">{{Cite journal ja|author=小滝信夫 |year=1963 |url=https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/2632 |title=敏感関係妄想をともなうSchool‐phobiaの症例について |journal=島根大学論集. 教育科学 |publisher=島根大学 |volume=13 |pages=1-5 |naid=120005583990}}</ref>。
** 敏感関係妄想

==医療費==
国内の統合失調症関連の年間の医療費は男性が4,604億円、女性が4,871億円であった<ref>[https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/17/dl/toukei.pdf 厚生労働省の医療費統計]</ref>。[[アメリカ合衆国]]の統合失調症関連の経済的負担額は少なくとも600億ドルと見積もられている<ref>[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4762470/ 統合失調症の経済的負担]</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
; マニュアル
; マニュアル
*{{Citation|author=[[アメリカ精神医学会|American Psychiatric Association]]|year=1980|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Third Edition (DSM-III)}}.
:* {{Cite book2|df=ja|author=[[アメリカ精神医学会|American Psychiatric Association]]|year=1980|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Third Edition (DSM-III)}}.
*{{Citation|author=[[アメリカ精神医学会|American Psychiatric Association]]|year=1987|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Third Edition-Revised (DSM-III-R)|isbn=978-0890420188}}.(翻訳書は {{Citation|和書|author=[[アメリカ精神医学会]]|others=高橋三郎訳|year=1988|title=DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4260117388}})
:* {{Cite book2|df=ja|author=American Psychiatric Association|year=1987|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Third Edition-Revised (DSM-III-R)|isbn=978-0890420188}}.(翻訳書は {{Cite book ja|author=[[アメリカ精神医学会]]|others=高橋三郎訳|year=1988|title=DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4260117388}})
*{{Citation|author=[[アメリカ精神医学会|American Psychiatric Association]]|year=1994|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition (DSM-IV)|isbn=978-0890420614}}.(翻訳書は {{Citation|和書||author=[[アメリカ精神医学会]]|others=高橋三郎・[[大野裕]]・染矢俊幸訳|year=1996|title=DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4260118040}})
:* {{Cite book2|df=ja|author=American Psychiatric Association|year=1994|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition (DSM-IV)|isbn=978-0890420614}}.(翻訳書は {{Cite book ja|author=アメリカ精神医学会|others=高橋三郎・[[大野裕]]・染矢俊幸訳|year=1996|title=DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル|publisher=医学書院|isbn=978-4260118040}})
*{{Citation|author=[[アメリカ精神医学会|American Psychiatric Association]]|year=2000|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision (DSM-IV-TR)|isbn=978-0890420256}}.(翻訳書は {{Citation|和書|author=[[アメリカ精神医学会]]|others=高橋三郎・[[大野裕]]・染矢俊幸訳|year=2004|title=DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(新訂版)|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4260118897}})
:* {{Cite book2|df=ja|author=American Psychiatric Association|year=2000|title=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision (DSM-IV-TR)|isbn=978-0890420256}}.(翻訳書は {{Cite book ja|author=アメリカ精神医学会|others=高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳|year=2004|title=DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(新訂版)|publisher=医学書院|isbn=978-4260118897}})
:* {{Cite book ja

| last = Choi-Kain
| first = Lois
| editor = Sandy Falk(編集主任)
| title = MSDマニュアルプロフェッショナル版 - The trusted provider of medical information since 1899
| chapter = シゾイドパーソナリティ障害(ScPD)
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| accessdate = 2021-12-05
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; 臨床ガイドライン
; 臨床ガイドライン
* {{Cite report|publisher=[[世界保健機関]] |title=mhGAP Intervention Guide for mental, neurological and substance use disorders in non-specialized health settings |date=2010 |isbn=9789241548069 |url=http://www.who.int/mental_health/publications/mhGAP_intervention_guide/en/ |ref={{SfnRef|世界保健機関|2010}} }}
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; 医学論文
:* {{Cite journal ja
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|title = 進化論の見地からみる統合失調症
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; その他
; その他
* {{Cite report |publisher=[[世界保健機関]] |title=Schizophrenia and Public Health - Japanese version |date=1998 |url=http://www.who.int/mental_health/resources/schizophrenia/en/ |ref={{SfnRef|世界保健機関|1998}} }}
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* 1997年『分裂病はどんな病気か』 遠山照彦 萌文社 ISBN 978-4938631673
:* 1997年『分裂病はどんな病気か』 遠山照彦 萌文社 ISBN 978-4938631673
* 2005年『統合失調症?正しい理解と治療法』 (監修)伊藤 順一郎 講談社 ISBN 978-4062593427
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* 2003年『よくわかる統合失調症』 (監修)三野善央 メディカ出版 ISBN 978-4074260584
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* {{Citation|author=Robert Whitaker|date=January 1, 2009|year=2009|title=[[w:Anatomy of an Epidemic|Anatomy of an Epidemic: Magic Bullets, Psychiatric Drugs, and the Astonishing Rise of Mental Illness in America]]|publisher=[[w:Crown Publishing Group|Crown Publishing Group]]|place=New York|asin=B004RU7U5C}}.(翻訳書は {{Citation|和書|author=ロバート・ウィタカー|others=小野善郎監訳、門脇陽子・森田由美訳|date=2010-9-19|title=心の病の「流行」と精神科治療薬の真実|publisher=福村出版|isbn=978-4571500091}})
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* 「臨床家がなぜ研究をするのか」糸川昌成 星和書店
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* {{Citation|author=[[ピーター・ゲッチェ|Peter C. Gøtzsche]]|date=2015-09-01|year=2015|title=Deadly Psychiatry and Organised Denial|publisher=ArtPeople|asin=B014SO7GHS}}.
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:* {{Cite book2|df=ja|author=デイビッド・ファウラー, フィリッパ・ガレティ, エリザベス・カイパース 著, 東京駒場CBT研究会, 石垣琢麿, 丹野義彦 |title=統合失調症を理解し支援するための認知行動療法 |publisher=金剛出版 |year=2011 |series=Challenge the CBT |NCID=BB04898933 |ISBN=9784772411790 |ref={{harvid|統合失調症を理解し支援するための認知行動療法}}}}
:* {{Cite book2|df=ja|author=エマ・ウィリアムズ, 菊池安希子 ほか |title=統合失調症のための集団認知行動療法 |publisher=星和書店 |year=2008 |NCID=BA88206897 |ISBN=9784791106899 |ref={{harvid|統合失調症のための集団認知行動療法}}}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[精神障害]] - [[精神医学]] - [[メンタルヘルス]] - [[障害者福祉]]

* [[アウトサイダー・アート]] - [[幻視芸術]]
* [[精神科医]] - [[精神保健指定医]]
* [[障害者]] - [[障害者虐待防止法]] - [[精神保健福祉法]] - [[精神障害者保健福祉手帳]]
* [[障害者福祉]]
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* [[運転免許に関する欠格条項問題]]
* [[運転免許に関する欠格条項問題]]
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* [[塵肺]]
* [[キメラ#ヒトキメラ|ヒトキメラ]]
* [[心理療法の一覧]]
* [[電磁波過敏症]]
* [[統合失調症の原因]]
* [[障害者権利条約]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
<!--Wikipedia:外部リンクの選び方 を参照して適切なものを追加してください。学術的な水準を保っているものを上のほうにしました-->
<!--Wikipedia:外部リンクの選び方 を参照して適切なものを追加してください。学術的な水準を保っているものを上にしました-->
* [https://jssr.info/ 日本統合失調症学会]
* [http://www.who.int/topics/schizophrenia/en/ Schizophrenia] - WHO
* [https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/08-精神障害/統合失調症および関連障害群/統合失調症 統合失調症] - MSDマニュアル プロフェッショナル版
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* [http://jssr.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=4746 日本統合失調症学会]
{{Spedia|Schizophrenia|Schizophrenia}}
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* [https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/08-精神障害/統合失調症および関連障害群/統合失調症 統合失調症] MSDマニュアル プロフェッショナル版
* {{脳科学辞典|記事名=統合失調症}}
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* {{脳科学辞典|記事名=統合失調症関連遺伝子|nolink=yes}}
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* {{脳科学辞典|記事名=ドーパミン仮説|nolink=yes}}
** {{脳科学辞典|記事名=ドーパミン仮説|nolink=yes}}
* [http://www.mhlw.go.jp/kokoro/disease/into.html こころの病気を詳しく知ろう 統合失調症] 厚生労働省
* [https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=tQtLd1xVUp1wHJMQ こころの情報サイト 統合失調症] - 国立精神・神経医療研究センター
* [http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html専門的な情報 統合失調症] 厚生労働省
* [https://web.archive.org/web/20130524072438/http://www.comhbo.net/familytofamily/index.html 家族支援のページ(2010年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業)]
* [https://web.archive.org/web/20130524072438/http://www.comhbo.net/familytofamily/index.html 家族支援のページ(2010年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業)]
* [https://seishinhoken.jp/ 全国精神保健福祉会連合会]
* [https://www.comhbo.net/ 地域精神保健福祉機構]


*
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2024年12月22日 (日) 11:59時点における最新版

統合失調症
概要
診療科 精神医学, 臨床心理学
分類および外部参照情報
ICD-10 F20
ICD-9-CM 295
OMIM 181500
DiseasesDB 11890
MedlinePlus 000928
eMedicine med/2072 emerg/520
Patient UK 統合失調症
統合失調症のフローチャート
遺伝的素因や環境や社会的・心理的な要因が重なり神経発達の異常や臨床的・神経生物学的な特徴が発生する。これにより脳の機能不全や化学的なバランスの崩れがおこり、統合失調症を発症する。

統合失調症(とうごうしっちょうしょう、英語: Schizophreniaドイツ語: Schizophrenie: SZ)は、証拠に反して信じている妄想、幻聴など五感の幻覚、混乱した思考や、陰性症状と呼ばれる活動性の低下といった症状の複数に合致する精神障害である[1]。一般に幻聴幻覚異常行動が見られる[1][2]。そうした症状が診断基準により、1か月や半年以上持続している。統合失調症患者の症状には、幻覚や妄想、会話や行動における統合喪失、突然興奮や大声などの陽性症状、周囲への無関心や意欲や集中力の低下といった陰性症状がある[3][4]

日本では2002年(平成14年)まで、精神分裂病(せいしんぶんれつびょう)という呼称だったが、現在の統合失調症へと改訂された[5]。統合失調症は統合失調症スペクトラム障害の一つであり、症状が進行しやすい[6]後天的思春期以降に発症することが多く、性別では男性のほうが早い傾向にある[1]。様々な効果的な治療法があり、15年以上の追跡調査では、少なくとも3分の1の人は完全に寛解する[1]

概要

[編集]

発症のメカニズムや根本的な原因は解明されておらず、また、単一の疾患ではない可能性が指摘されており、症候群である可能性がある[7]。様々な仮説が提唱されているが、未だに決定的な定説が確立されていない[7]

有病者の人数は、世界では2300万人ほどで[8]、日本では71万3千人の患者がいると推計されている[9]。成人の年間有病率は0.1から7.5%、生涯有病率は0.1から1.8%と世界保健機関(WHO)は報告している[10]。患者の死亡率は、一般人口より2.0から2.5倍ほど高く[1][11]、世界の障害調整生命年(DALY)のうち約1%を占める[12]

精神疾患として深刻なもの (Severe mental disorder) とされるが、治療が可能な病気である(具体的な治療法については「#治療」を参照)。この疾患の担当診療科は精神科であり[13]精神科医が治療に当たる。

罹患者の90%は低所得国および中所得国に居住している[14]。世界保健機関は、低所得国および中所得国を対象とした計画である世界精神保健アクションプログラム (mhGAP) [15][16]を策定し、クリニカルパスおよび診療ガイドラインを作成、公開している[1][17]

統合失調症スペクトラム障害

[編集]

以下はより新しいDSM-5の診断基準だが、以前のDSM-IVの基準は#診断基準を参照。

「統合失調症スペクトラム障害」[18]、または「統合失調症スペクトラム」[19]、「統合失調スペクトラム」[20]とは、「統合失調症およびそれに連続する障害病気のまとまり」を指す医学用語[19]DSM-5(『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版)で定義された診断基準である[19]

統合失調症スペクトラム障害の中心は、次の5つの症状である[6]

  1. 妄想[19]
  2. 幻覚[19]
  3. 思考障害[19]
  4. まとまりのない行動[19]
  5. #陰性症状[19]

現れた症状の数や重症度によって、診断名は次のようになる[6]

大分類
(上位診断名)
小分類
(下位診断名)
症状 期間
統合失調症スペクトラム障害 統合失調症 5症状のうち2つ以上が現れており、かつ、それらのうち最低1つは妄想・幻覚・思考障害のどれか 6か月以上
統合失調感情障害 統合失調症と共に、うつ病躁病が現れる(※事例としては少ない) (特に無し)
統合失調症様障害 5症状のうち2つ以上が現れている 1か月以上6か月未満
短期精神病性障害 陰性症状を除いた4症状のうち1つ以上が現れている 1日以上1か月未満
妄想性障害 妄想だけが現れている 1か月以上
統合失調型パーソナリティ障害(STPD) 対人関係での苦手さ、風変わりな行動など 成人期になるまで徐々に

また精神医学論文では、スキゾイドパーソナリティ障害(SPD、統合失調質パーソナリティ障害)も、統合失調症スペクトラム障害の一種として分類されることがある[18][20]。『MSDマニュアル』では「シゾイド〔スキゾイド〕パーソナリティ障害は,統合失調症または統合失調型パーソナリティ障害家族歴がある人々でより多くみられる場合がある」とされている[21]。スキゾイドパーソナリティ障害にはしばしば併存症があり、それは例えば統合失調型パーソナリティ障害やうつ病などである[21]

定義

[編集]

精神医学的障害の一種である。現在の統合失調症の定義は妄想・幻覚といったヒト特有の高次脳機能(心理症候)[注釈 1]に全て依存している[23]

1899年、エミール・クレペリンは、感情の欠如、奇妙な歩行、筋痙攣(きんけいれん)などを呈し、痴呆[注釈 2]へと至る患者を「早発性痴呆」と記述した[24]

1908年、オイゲン・ブロイラーが「schizophrenia」と名付けた[24]

1917年、コンスタンチン・フォン・エコノモ英語版が「嗜眠性脳炎」を記述し、「schizophrenia」から「嗜眠性脳炎」が除外された[24]

1920年代〜30年代、精神医学の教科書の記述が変化した[24]。従来の身体症状が全て削除され、幻覚、妄想などの精神症状が残った[24]

1937年、日本精神神経学会は、同学会における用語を「精神分裂病」とした[5]

1968年、DSM-IIの前文は「最善は尽くしましたが、(アメリカ精神医学会の)委員会はこの障害について合意を得ることができませんでした。合意できたのは診断名だけです[注釈 3]」としている。[注釈 4][25][26]

1980年、DSM-IIIは「精神分裂病の概念の範囲は曖昧です[注釈 5]」としている[注釈 6][27][28]。また、精神障害の基本概念に関して、「精神分裂病患者 (a schizophrenic) 」という人間を分類する表現は誤解を招くため、「精神分裂病を有する人 (an individual with Schizophrenia) 」というぎこちないがより正確な表現を採用すると説明している[29]DSM-III-R(1987年)、DSM-IV(1994年)、DSM-IV-TR(2000年)にも同様の説明がある[29][30][31][32]。精神分裂病患者 (schizophrenics) が存在するのではなく、精神分裂病 (schizophrenic disorder) の診断基準を満たす症状を有する人々がいるだけである。[31][32][33]

1987年、DSM-III-Rは「精神分裂病に限っては、単一の特徴をいつも示さなかったり、生じないことに注意すべきです[注釈 7]」としている[注釈 8][27][28]

1988年、ニューヨーク州立大学トーマス・サズ英語版博士は「精神分裂病はとても曖昧に定義されています。実のところ、話し手にとって気に入らない行動のほとんど全てにしばしば適用される用語です[注釈 9]」と述べている[34]

1990年、メアリー・ボイル英語版は、精神分裂病の指示対象について、「徐々に変化し、この診断名が最終的には、クレペリンの症状と表面的にもほとんど類似点がない集団に適用されるようになった[注釈 10]」と述べている[24]

1994年、著名な精神分裂病研究者[注釈 11]であるナンシー・C・アンドレアセンは、何が精神分裂病なのか分からないと認めており、「ヨーロッパの人々は、誰が本当に精神分裂病を持っているのか、何が本当の精神分裂病なのか、理解することによって、アメリカの科学の一助となる[注釈 12]」と述べている[36][37][38]

2002年、日本精神神経学会は、「精神分裂病」には差別的な意味合いが包含されているとして、同学会における用語を「統合失調症」に変更した[5]

2014年、アメリカ精神医学会が、DSM-5を発行し、DSM-IVにより画期的に明確化された診断基準を受け継ぎ、5つの統合失調症の特徴を示した。すなわち、以下の症状のうち、少なくとも2つがおのおの1か月以上症状として継続して示すものを、統合失調症として、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群の一領域と定義した。

  1. 妄想
  2. 幻覚
  3. まとまりのない思考(発語)
  4. ひどくまとまりのない、または異常な運動行動(緊張病を含む)
  5. 陰性症状

症状

[編集]

統合失調症に共通する症状は、思考や行動、感情がまとまりにくくなることである[39]。自閉や連合障害からくる大脳の疲弊によって、一部の患者では妄想幻覚を発症する頻度が少なくない。また、社会的または職業的機能の低下、つまりは、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している場合がある[39]認知情動、意欲、行動、自我意識など、多彩な精神機能の障害が見られる。大きく陽性症状と陰性症状の二つが挙げられ、他にその他の症状に分けられる[40]。全ての患者が全ての症状を呈するのではないことに注意が必要である。WHOによる国際的予備研究によれば、最も多く見られる症状は幻聴または関係念慮であり、患者の約70%に認められた[40]

陽性症状

[編集]

陽性症状 (Positive symptoms) とは、おおよそ急性期に生じるもの。妄想や幻覚などが特徴的である[2]

思考の障害

[編集]

思考過程の障害と思考内容の障害に分けられる。統合失調症の最大の特徴はこの自我意識面での思考の障害であるとされる。総合的に診断して自閉症と重複し、誤診されることもたびたびある。

思考過程の障害
[編集]

集中能力の喪失:テレビを視聴したり、新聞記事を読むことが困難となる[41]

思考内容の障害(妄想)
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妄想 (Delusions) とは、客観的に見て物理的にありえないことを事実だと完全に信じていること[40][41]。以下のように分類される。

  • 被害妄想:「近所の住民に嫌がらせをされる」「通行人がすれ違いざまに自分に悪口を言う」「自分の体臭を他人が悪臭だと感じている」などと思い込む[41]
  • 関係妄想:周囲の出来事を全て自分に関係付けて考える。「あれは悪意の仄(ほの)めかしだ」「自分がある行動をするたびに他人が攻撃をしてくる」などと思い込む。
  • 注察妄想:常に誰かに見張られていると思い込む[41]。「近隣住民が常に自分を見張っている」「盗聴器で盗聴されている」「思考盗聴されている」「カメラで監視されている」などと思い込む[42]
  • 追跡妄想:誰かに追われていると思い込む[41]
  • 微小妄想:自分を実際より低く評価し、劣っていると思い込む[43]
  • 心気妄想:重い体の病気にかかっていると思い込む[43]
  • 罪業妄想:過去に大きな罪を犯したと思い込む[43]
  • 貧困妄想:経済的に困っていると思い込む[43]
  • 誇大妄想:自分は実際の状態よりも、遥かに裕福だ、偉大だ、などと思い込む。
  • 宗教妄想:自分は神だ、などと思い込む。
  • 嫉妬妄想:配偶者や恋人が不貞を行っていると思い込む。
  • 恋愛妄想:異性に愛されていると思い込む。仕事で接する相手(自分の元を訪れるクライアントなど)が、好意を持っていると思い込む場合もある。
  • 血統妄想:自分は貴人の隠し子だ、などと思い込む。
  • 家族否認妄想:自分の家族は本当の家族ではないと思い込む。
  • 被毒妄想:飲食物に毒が入っていると思い込む[41]
  • 物理的被影響妄想:ビーム光線で攻撃されている、などと思いこむ。
  • 妄想気分:周りで、何かただ事でないことが起きている感じがする、などと思いこむ。世界が全体的に不吉であったり悪意に満ちているなどと感じる。
  • 世界没落体験:妄想気分の一つで、世界が今にも破滅するような感じがする、などと思いこむ。

一人の統合失調症患者においてこれら全てが見られることはまれで、1種類から数種類の妄想が見られることが多い。これらの妄想症状は突発的に起こることもあれば、数週間をかけて形成されていくこともある[41]

関連語に妄想着想(妄想を思いつくこと)、妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)がある。また、妄想に質的に似ているが、程度が軽く患者自身もその非合理性にわずかに気づいているものを「 - 念慮」という。

統合失調症以外の疾患に伴って妄想がみられることもある。クレペリンは双極性障害(躁うつ病)の特徴として迫害妄想をあげており、双極性障害でないことが診断に重要である。

知覚の障害

[編集]

幻覚 (Hallucination) とは、実在しない知覚情報を体験する症状[40][41]。以下のものがある。

  • 幻聴 (auditory hallucination):聴覚の幻覚[注釈 13]
  • 幻視 (visual hallucination):視覚性の幻覚
  • 幻嗅 (olfactory hallucination):嗅覚の幻覚
  • 幻味 (gustatory hallucination):味覚の幻覚
  • 体感幻覚 (cenesthesic hallucination):体性感覚の幻覚

統合失調症では幻聴が多くみられる一方[41]、幻視は極めてまれである[42]。幻聴は、人によっては親切・丁寧であることもあるが、多くの場合はしばしば悪言の内容を持つ[41]

幻覚を体験する本人は、外部から知覚情報が入っていると感じるため、実際に知覚を発生する人物や発生源が存在すると考えやすく[41]、これらの幻覚の症状を説明するために、患者は妄想を形成しているのである。幻嗅、幻味などは被毒妄想に結びつくことがある。また、患者が嫌がらせや迫害を受けているなどと訴える例もある[41]

統合失調症以外の疾患(せん妄てんかんナルコレプシー気分障害認知症など)、あるいは特殊な状況(断眠、感覚遮断薬物中毒など)におかれた健常者でも幻覚がみられることがある[42]

  • 体感症英語版:体感幻覚に類似するが、その異常感が常態ではみられない奇妙な性状のものであることをよくわきまえている点で、他のさまざまな体感幻覚とは異なる。
  • 知覚過敏:音や匂いに敏感になる。光がとても眩しく感じる。
  • 知覚変容発作:発作的な視覚的な変容を特徴とし、患者自身が発作であると認識していることが多い[44]。抗精神病薬の副作用からくる。

自我意識の障害

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自己と他者を区別することの障害である。自生思考や作為体験など、思考や行動における能動感と自他境界感の喪失がみられる。一説に自己モニタリング機能英語版の障害と言われている[45]。すなわち、自己モニタリング機能が正常に作動している人であれば、空想時などに自己の脳の中で生じる内的な発声を外部からの音声だと知覚することはないが、この機能が障害されている場合、外部からの音声だと知覚して幻聴が生じることになる。音声に限らず、内的な思考を他者の考えと捉えると考想伝播につながり、さらには「考えが盗聴される」などという被害妄想、関係妄想につながることになる。

  • 考想操作(思考操作):他人の考えが入ってくると感じる。世の中には自分を容易に操作できる者がいる、心理的に操られている、と感じる。進むと、テレパシーで操作されていると感じる。
  • 考想奪取(思考奪取):自分の考えが他人に奪われていると感じる。自分の考えが何らかの力により奪われていると感じる。世の中には自らの考えがヒントになり、もっといい考えを出すものもいると感じる。進むと、脳に直接力がおよび考えが奪われていると感じる。
  • 考想伝播(思考伝播):自分の考えが他人に伝わっていると感じる。世の中には洞察力の優れたものがいると感じる。その人に対して敏感になっている。進むとテレパシーを発信していると感じる。
  • 自生思考(思考即迫):常に頭の中に何らかの思考があり、うつ病患者の症例に多い「観念奔逸」と似て、思考がどんどん湧いてくる、思考が自らの意志でもっても抑えられない特有な思考の苦痛な異常状態をいう。これは、統合失調症の陽性症状の中でも最も深刻で重要な精神症状であるとされる。程度が重い患者では、頭の中が不自然な思考の熱状態で気がめいり、頭の中がとても騒がしく落ち着かないと訴え思えるような心理状態になる。
  • 考想察知(思考察知):自分の考えは他人に知られていると感じる。世の中には自分の考えを言動から読めるものがいると感じる。進むと、自分は考えを知られてしまう特別な存在と感じる。自らのプライドを高く実際を認められずに、被害的にとらえてしまう。進むと、考想が自己と他者との間でテレパシーのように交信できるようになったと考え、波長が一致していると感じる。
  • 強迫思考:自生思考と類似して、ある考えを考えないと気が済まない、考えたくもない、あってはならない考えが不自然に浮かび上がり、他人に考えさせられていると感じられるような尋常ではない状態をいう。中には、読書をする際に、「この部分を何回読まないと頭に記憶されない、覚えられない」といった内容の不合理な思考が瞬間的および随伴的に浮かぶ「文字強迫」などの症状が表面化されることもある。統合失調症の患者の中には、こうした強迫性障害[注釈 14]を発病当初から慢性的に同時に併せ持つ型の人もいるとされる。
  • 作為体験:自分が外部の力によって考えさせられたり、支配されたりするように感じる[46]
  • 離人症

行動や思考の変化

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行動が無秩序かつ予測不可能となる[41]

  • 興奮:妄想などにより有頂天になっている[41]。意味もなく叫ぶ[41]。また自分が神か神に近きものまたは天才と思い一種の極限状況にある場合もある。
  • 昏迷:意識障害なしに何の言動もなく、外部からの刺激や要求にさえ反応しない状態。表情や姿態が冷たく硬質な上、周囲との接触を拒絶反抗的であったり(拒絶症)、終始無言であったり(無言症)、不自然な同じ姿勢をいつまでも続ける(常同姿態〈カタレプシー〉)[47]
  • 拒食

陰性症状

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陰性症状 (Negative symptoms) とは、エネルギーの低下からおこる症状で、おおよそ消耗期に生じる。無表情、感情的アパシー、活動低下、会話の鈍化、社会的ひきこもり自傷行為などがある[2][41][48]

陰性症状は、初回発症エピソードから数年以上継続しうる[41]。患者はこれらの陰性エピソードのために、家族や友人との関係にトラブルを招きやすい[41]

感情の障害

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  • 感情鈍麻:感情が平板化し、外部に現れない。
  • 疎通性の障害:他人との心の通じあいがない。
  • カタレプシー:受動的にとらされた姿勢をとりつづける。
  • 緘黙:まったく口をきかない。
  • 拒絶:面会を拒否する。
  • 自閉:自己の内界に閉じ込もる。

思考の障害

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  • 常同的思考:無意味な思考にこだわり続けている。興味の対象が少数に限定されている。
  • 抽象的思考の困難:物事を分類したり一般化することが困難である。問題解決においてかたくなで自己中心的となる。

意志・欲望の障害

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  • 自発性の低下:自分ひとりでは何もしようとせず、家事や身の回りのことにも自発性がない。
  • 意欲低下:頭ではわかっていても行動に移せず、行動に移しても長続きしない。
  • 無関心:世の中のこと、家族や友人のことなどにも無関心でよく知らない。
  • 引きこもり:外出意欲が低下する[41]

その他の症状

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  • 認知機能障害:統合失調症の中核をなす基礎的な障害である。クレペリンやブロイラーなどの当該疾患の定義の時代(1900年ごろ)より、統合失調症に特異的な症状群として最も注目されていた。認知機能とは、記憶力・集中力注意などの基本的な知的能力から、計画・思考・判断・実行・問題解決などの複雑な知的能力をいう。認知機能が障害されるため、社会活動全般に支障を来たす。疾患概念より障害概念に近いものとして理解されている。この障害ゆえに、作業能力の低下、臨機応変な対処の困難、経験に基づく問題解決の困難、新しい環境に慣れにくいことがあり、また、発達障害患者の代表的な症状の一つとされるディスレクシア(読字障害、難読症)と似ている。判断力・理解力・注意力の低下・散漫さから、本・文章・文字を理解して目で追って黙読したり、記憶・暗記したりすることが困難になる。しばしば、読書が普通にできない。本・文章・文字を読んだ時に、そこに書かれている内容が一見し、ちらりと目で認知はできるが、本を読んでも全く頭に内容が入ってこない。味わい咀嚼しながら理解・認識ができないなどと訴えるなど、社会生活上多くの困難を伴い、長期のリハビリテーションが必要となる。統合失調症が、慢性の脳細胞の機能性疾患・障害であると言われるのはこのためである。
  • 感情の障害:不安感、緊張感、焦燥感、挑戦的行動[49]が生じる。自分には解決するのが非常に難しい問題が沢山あるなどの理由から、抑うつ、不安になっていることもある。抑うつは現状、将来を悲観するという場合や病名から来る自分のイメージ、他者である健常者や同じ心の病を持つ者との比較からくる場合がある。一般的に、統合失調症の患者の中には、理性および感情面で、敏感と鈍感の共存状態に陥る例が多く認められると言われる。何でもできる気分になる、万能感がある、お金遣いが荒くなる、睡眠時間が少なくなる、躁状態になることがある。
  • 不眠:統合失調症では83%が不眠症状をきたし、再発の兆候として最も見られる症状である[50]。統合失調症では、脳形態の持続的変化とともに睡眠にもノンレム睡眠の欠如といった変化が生じ、不眠治療は難渋しやすい[50]。統合失調症の症状の一つである場合と、統合失調症とは独立した不眠症を併発している場合が考えられる[51]
  • パニック発作:統合失調症者はパニック障害に類似のパニック発作が起こることがある[52][53]。治療法はパニック障害に準じる[54]
  • 連合弛緩:思考が脈絡なく飛躍する。これが進行すると「ワードサラダ」となる[55]連想が弱くなり、話の内容が度々変化してしまう。単語には連合があり、これをわかりやすく言えば、単語の意味とその関係にはグループ(連合)がある。連合弛緩は、この連合が弛緩する事で全く関係のない単語を連想してしまう。しかし、落語にあるようなダジャレは連合弛緩ではない。連合弛緩は、言葉の連想と関係を無視する場合がある。
  • 両価性:相矛盾した心的内容を同時に持つこと[56]
  • 独言・独笑:幻聴や妄想の世界での会話である。原因には、長年にわたる投薬の影響で、認知機能が低下するとの説もある[57]
  • 砂糖の過剰摂取:統合失調症者は清涼飲料水を大量に飲むなど、砂糖を好むことが知られている[58]
  • 多飲症・水中毒:過剰の水分摂取とそれにより生じる中毒[59]。著しい場合には1日に10リットル以上の水分を摂る[59]

原因

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fMRIやその他の脳機能イメージング技術は統合失調症患者の脳活動のイメージを表すことができる。このイメージはfMRIによってワーキングメモリの脳活動の様子を表している。

発病メカニズムは不明であり、明確な病因は未だに確定されておらず、いずれの報告も仮説の域を出ない。仮説は多岐に及ぶため、特定的な原因の究明がきわめて困難であり、今日の精神医学・脳科学の発達上の限界・壁となっている。現在の精神医学主流の仮説として、神経伝達物質ドーパミンの過不足による認知機能不全を原因とする説が有力である。

根本的な原因は不明ではあるが、遺伝と環境の複合要因と考えられている[58]。遺伝の影響度は研究によって異なるが、双子を用いた研究のメタ分析では遺伝率が81%と報告されている[60]。また、双生児法による研究によると、一卵性双生児のうちの一方が統合失調症に罹ると、もう一方も統合失調症に罹る確率は、50%であるという報告がある[61]

生物学的な因子としては、妄想および幻覚症状は脳内の神経伝達物質の化学的不均衡であるという仮説が提唱されている。主にドーパミン拮抗薬である抗精神病薬の適量の投与によって、症状の抑制が可能であるとする理論であるが、大きな成功をおさめている仮説であるとまでは言えない。

環境要因としては、心理社会的なストレスなど環境因子の相互作用が発症の発端になると予想されている。心理社会的な因子としては、「ダブルバインド」や「HEE(高い感情表出家族)」などが注目されている。家庭や学校が、歪んでいたりして、本人の意思や努力ではどうにもならないところで、不本意な想いをしていることが多く、それが発病のきっかけになっていることもよくあるという[62]

2019年、東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻の廣川信隆特任教授らのチームが、神経細胞のキネシン分子モーターKIF3Bの異常が統合失調症の原因とみられると発表した[63]。2021年、東京都医学総合研究所などの研究グループが、思春期に砂糖を過剰摂取すると、脳の毛細血管の炎症により神経細胞のグルコースの取り込みを低下させ、統合失調症などの精神疾患の原因となる可能性を発表した[58]

検査

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心理検査

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PANSS
PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale陽性・陰性症状評価尺度[64]は、30項目の異なる精神症状につき、1点から7点までの得点をつける。最低点は30点、最高点は210点。
陽性尺度
7項目 - 妄想・概念の統合障害・幻覚による行動・興奮・誇大性猜疑心 ・敵意
陰性尺度
7項目 - 情動の平板化・情動的ひきこもり・疎通性の障害・受動性意欲低下による社会的ひきこもり・抽象的思考の困難・会話の自発性と流暢さの欠如・常同的思考
総合精神病理評価尺度
16項目 - 不安・罪責感・緊張・衒奇症[注釈 15]と不自然な姿勢・抑うつ・運動減退・非協調性・不自然な思考内容・失見当識・注意の障害・判断力と病識の欠如・意志の障害・衝動性の調節障害・没入性・自主的な社会回避
BACS
BACS(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia、統合失調症認知機能簡易評価尺度)は、言語性記憶、ワーキング・メモリ(作動記憶)、運動機能、注意、言語流暢性、および遂行機能を評価する検査で構成される認知機能評価尺度である[66]

生理的検査

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血液検査
血液検査は患者の血液採取をし、薬物投与による肝機能の衰えなど(ALT (GPT)など)の副作用の有無を検査するために行う。通常の場合は3か月程度の間隔で行われる。内分泌物質(ホルモン)や電解質の異常、糖尿病の形跡、低血糖症栄養失調の診断にも生かされ、より正確な診断がなされる。外部委託先にビタミンミネラル類の検査項目も追加できるが、そのような依頼は極めてまれである[67]
CT・MRI検査
CTMRI検査にて、側頭葉頭頂葉灰白質の体積の減少を認める場合がある。白質の体積は減少していない。人間間でも脳体積は少なくとも10%は異なるため、一度の体積測定で判定することはできない。
脳体積の減少は長期的な話である。また、抗精神病薬が脳体積を減少させることも知られている[68][69][70][71][72][73]
SPECTによる検査
SPECTにて、課題遂行中や会話時に通常見られる前頭前野の血流増加が少ないという報告がある。
プレパルス抑制試験
プレパルス抑制英語版を参照。
遺伝子検査
遺伝子性の疾患を特定するためのツールとしてDNAシークエンシングがある。
尿検査
国内の精神科において尿検査を行うことはない。ピロール尿症におけるクリプトピロールや違法薬物の使用有無を調査することができるが、臨床試験的に尿を検査することがごく稀にある。生化学研究設備があればクリプトピロールなどの化学物質を判別できるが、そのような精神科医療機関は国内には存在しない。
NIRS脳計測装置・光トポグラフィー検査
NIRS脳計測装置光トポグラフィー検査により、問診と同時に脳内の血流量を赤外線により測定する。統合失調症、うつ病双極性障害の判断材料になる可能性がある研究中の検査手法である。日本では僅かだが実施しており、最先進医療の分野である。
補助診断としてデータを見るものの、信頼性は未だ低く、「高価なおもちゃ(原文ママ)」の域を出ていない[74][75]

診断・分類

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生物学的な指標は存在しないため[76]、数値的な診断はできず、心理的な症状から診断される[23]。精神科の診断に最も重視される方法は、患者の体験を言葉で語ってもらうことによる問診であるが[77]、同時に他の疾患との鑑別のため、各種の血液検査や生理検査が行われる。


診断基準

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以下は以前のDSM-IVの診断基準だが、より新しいDSM-5の基準は#統合失調症スペクトラム障害を参照。

ICD-10での診断基準[78] DSM-IV-TRでの診断基準[78]
  • (1) 下記の症状が、1カ月以上続いてみられる。次のうち1項目以上(明白でなければ2項目以上)
    • (a) 考想反響、考想吹入、考想奪取、考想伝播、自他の境界が敏感で曖昧になる境界障害
    • (b) 他者から支配され、影響され、服従させられているという妄想で、身体、手足の動き、思考、行為、感覚に関連していること、および妄想知覚
    • (c) 患者の行動を注釈し続ける幻声
    • (d) 不適切でまったくありえないような持続的妄想
  • (2) あるいは、次の2項目以上
    • (a) あらゆるタイプの頑固な幻覚:浮動性または未完成の妄想や優格観念(感情に強く裏づけられた観念で、その人の思考や行動を持続的に支配するもの)を伴っていたり、数週または数カ月以上、毎日続くことがある。
    • (b) 思考連合の途絶や改ざん(滅裂思考、的はずれ会話、新語造成)
    • (c) 緊張病性の行動(興奮、蝋屈症、拒絶症、緘黙症、昏迷など)
    • (d) 陰性症状(著しい無感情、会話の貧困、感情反応の鈍化・不調和、通常は社会的引きこもりや社会的活動の低下を伴う):うつ病や神経遮断薬によらないことが明瞭なもの。
    • (e) 人格行動にみられる明らかな、持続性の質的変化(関心の喪失、無目的、無為、社会的な引きこもり)
  • (A) 以下の2つ以上が各1か月以上(治療が成功した場合は短い)いつも存在する。
    1. 妄想
    2. 幻覚
    3. 解体した会話
    4. ひどく解体した行動(例:不適切な服装、頻繁に泣く)、または、緊張病性の行動
    5. 陰性症状
  • 社会的または職業的機能の低下
  • (B) 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。
  • (C) 障害の持続的な徴候が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
  • (D) 統合失調感情障害と、「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下の理由で除外されていること
    1. 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない
    2. 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。
  • (E) その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
  • (F) 自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加えて少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。

下位分類

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下位分類のフローチャート

分類はICD-10により[79][80][注釈 16]、「妄想型」「破瓜型」「緊張型」の3つが代表的である[81]

妄想型統合失調症 (ICD-10 F20.0 Paranoid schizophrenia)
連合障害や自閉などの基礎症状が目立たず妄想・幻覚が症状の中心である。統合失調症はかつて早発性痴呆症と呼ばれていたように早発(思春期から青年期)することが多いが、当該亜型は30代以降の比較的遅い発症が特徴的であるとされる。薬物療法に比較的感応的とされるが、抗精神病薬の服薬をしても精神症状がとれず慢性的に持続する症例もある。
破瓜型統合失調症 (ICD-10 F20.1 Disorganized schizophrenia)
破瓜型(Hebephrenia)[注釈 17]は思春期や青年期に好発とされる。感情や意志の鈍麻が主症状で慢性に経過し、人格荒廃に陥りやすい[82]。今日では破瓜型は社会的・精神医学的な発達の結果として、比較的軽症な程度ですみ、人格のまとまりを保持する症例が報告されるようになってきている。アメリカ精神医学では、破瓜型のことを「解体型(Disorganized)」と呼んでいる。
緊張型統合失調症 (ICD-10 F20.2 Catatonia schizophrenia)
筋肉の硬直症状が特異的で興奮・昏迷などの症状を呈する。陽性症状時には不自然な姿勢で静止したまま不動となったり、逆に無目的の動作を繰り返したりする。近年では比較的その発症数は減少したと言われる場合がある。
型分類困難な統合失調症 (ICD-10 F20.3 Undifferentiated schizophrenia)
一般的な基準を満たしてはいるが、妄想型、破瓜型、緊張型のどの亜型にも当てはまらないか、二つ以上の亜型の特徴を示す状態。
統合失調症後抑うつ (ICD-10 F20.4 Post-schizophrenic depression)
急性期の後に出現することが多く、自殺などを招くことがある。急性期を脱した20%から50%に出現する[83]。治療法は、うつ病にほぼ準じる。
残遺型統合失調症 (ICD-10 F20.5 Residual schizophrenia)
陰性症状が1年以上持続したもの。陽性症状はないかあっても弱い。他の病型の後に見られる急性期症状が消失した後の安定した状態である。
単純型統合失調症 (ICD-10 F20.6 Simple schizophrenia)
連合障害、自閉などの基礎症状が主要な症状で、妄想・幻覚はないかわずかである。破瓜型の亜型に含めるケースもあるが、破瓜型に比べ内省的で病識の欠如がまれであるとされる。
その他の統合失調症 (ICD-10 F20.8 Other schizophrenia)
その他の統合失調症は医療診断を示すために使用することができない。
その他の統合失調症には、F20.81(Schizophreniform disorder)とF20.89(Other schizophrenia)の2種のコードが含まれる[84]
遅発性統合失調症、体感症性統合失調症、統合失調様状態、急性統合失調症性エピソードの4つの下位分類がある[85]。短期統合失調症様障害(F23.2)は除外される[86]
統合失調症,詳細不明 (ICD-10 F20.9 Schizophrenia, unspecified)
統合失調症、特定不能のもの。
モレル・クレペリン病、統合失調症の2つの下位分類がある[87]

経過分類

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第5桁の数字(F20.XYのY)は、経過分類に用いる[88]

第5桁の数字 経過
0 持続性
1 エピソード性[注釈 18]の経過で進行性の欠陥をともなうもの
2 エピソード性の経過で固定した欠陥をともなうもの
3 エピソード性の経過で寛解しているもの
4 不完全寛解
5 完全寛解
8 その他
9 観察期間が1年未満
出典:[88]

先進事例

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先進的な医療、研究事例として統合失調症の判別に光トポグラフィー脳SPECTなどの装置による画像診断をおこなうことがある[90][91][92]

鑑別疾患

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以下の疾患を除外する[78]

前述におけるプレパルス抑制およびびっくり病、さらには糖尿病低血糖症と違いを鑑別する必要がある。抗NMDA受容体抗体脳炎も2007年に提唱された比較的新しく発見された疾患であるが、NMDA受容体機能低下による統合失調症と共通病態と考えられるため、鑑別が必要である[94]

薬物誘発性精神病の症状は、統合失調症の症状に酷似しており、熟練した精神科医でも鑑別は困難とされる[95]。症状は同様であるが、薬物誘発性精神病は後天性で、統合失調症は遺伝性であるという点で異なる[95]。薬物誘発性精神病と統合失調症の区別は曖昧なため、薬物誘発性精神病モデルは、統合失調症モデルとして研究で頻用されているが、これが動物モデルとして理想的であるかは決定されていない[95]。つまり、1.幻覚など陽性症状、2.平坦な感情など陰性症状、3.混乱した言語や非論理的という認知症状の3種類の症状が統合失調症に特徴的であるが、アンフェタミンに誘発された精神病症状は陰性症状を明らかに誘発しないなど不完全であり、発症機序に関して別々であることは明らかである[95]DSM-5においては、薬物誘発性精神病は統合失調症と区別されており、統合失調症と異なり使用をやめると症状はおさまるものだと定義されている(精神刺激薬精神病#鑑別診断も参照)。

統合失調型パーソナリティ障害は、人を避ける傾向にあり、統合失調症ほどには妄想や幻覚は激しくない。妄想性パーソナリティ障害は人に攻撃されている、陥れられているといった妄想があり、すぐに怒って反撃したり、いつまでも恨み許さない。

発達障害自閉症スペクトラム障害 (ASD) と間違われやすい精神疾患・障害であり、見分け方かつ正反対な点としては、他者の目線を気にするか否かの点がある[96]。ASDの場合は先天性で非進行性の疾患・障害であり、自分がどう見られているか、どう思われるかを全く気にしない[96]

エチオピアでの、重症の精神障害の約300人の調査では統合失調症の誤診率は約24%であった[97]。スイスでは19%[98]

診断の問題点

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統合失調症の確定診断は、そもそも難しい。統合失調症の性質、精神医療現場の環境が原因となって、他の精神疾患や発達障害との誤診が起きる可能性がある意見や報道もある[99]。誤診されやすいものとしては双極性障害、統合失調感情障害、強迫性障害、びっくり病、ナルコレプシーにおけるカタプレキシーアスペルガー症候群が挙げられる。特に双極性障害は、統合失調症と遺伝子的スペクトラムをなすという仮説もあり、しばしば幻聴やてんかんを伴う。

児童精神科医は約200人ほどしかおらず[100]児童精神医学は専門外の場合がある。

予防

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様々な提唱がされているが、どれも反証可能性がない[注釈 21]貧困対策、大麻および違法薬物の使用の防止あるいは大麻の推奨、アルコール飲料摂取の防止、喫煙の防止、あるいは喫煙の推奨、小麦製品などのグルテン含有食品の摂取の防止(グルテン原因仮説)、レバーなどに含まれるピリドキサミンの積極的な摂取(カルボニルストレス説)、コーヒーなどのカフェインの摂取の防止、幼少時期のトラウマ(虐待、いじめなど)の防止、家族・医療関係者の高感情表出、いわゆるHIGH-EE (High expressed emotion) の防止、妊婦のインフルエンザなどの感染症の防止、睡眠不足の防止あるいは過眠の防止、過食の防止、運動不足の解消、魚介類に多く含まれるω-3脂肪酸の積極的な摂取、朝食の摂取、親知らずの抜歯などが挙げられるが、いずれも仮説である[要出典]

英国国立医療技術評価機構(NICE)は、統合失調症発症リスクの高いグループについては、個人単位での認知行動療法(CBT)を提供し、さらに、もしパーソナリティ障害・薬物乱用・うつ病・不安障害などが見られれば、それらに診療ガイドラインに従った治療を提供するとしている[101]。発症防止・予防を目的とした、抗精神病薬の投与は行ってはならない[102]

支援方針

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支援・対処担当者

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精神科医(精神保健指定医)・薬剤師看護師保健師精神保健福祉士社会福祉士作業療法士理学療法士公認心理師音楽療法士管理栄養士栄養士などの専門職が挙げられる。全国精神保健福祉会連合会が結成されている[103]。地方自治体は家族への相談窓口などを設置していることが多い。家族の多くが精神障害者の地域生活を支えている[104]

援助方針

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統合失調症の患者の中にも病状悪化による再入院を繰り返す過程で、自分が統合失調症であることや、服薬中断が精神症状悪化につながると分かるようになっている場合もある[105][104][106][62]。いろいろなことに深刻にならずに、「病気だからそう言うこともあるんだな」と受け止めることが大事との意見がある[62]。治療の開始にあたっては、統合失調症も他の病気と同様に薬で症状をコントロールできること(特殊な病気ではないこと)を伝え、回復への見通しを持てるようにサポートする。同時に、医師や周囲の人のサポートを約束し、本人のペースを尊重しながら協同で治療に取り組んでいくことを伝え、安心感を持てるよう支援する[107]。精神科医は、理解しようとすること、少なくともサポートしようとしている姿勢が患者に伝わることが必要となる[62]

患者に妄想・妄言が含まれる場合、それを否定すると孤立感が増し症状が悪化する例が多いとされ、また、逆に肯定すると妄想を補強することになり、症状が悪化する可能性がある[108]。話を聞かない場合においても孤立感が増すため、話を根気よく聞く必要があるが、あまりに真剣に聞きすぎると、聞き手側のストレスになり、場合によっては聞き手側にうつ病などの精神疾患をもたらすことがあるため、あまりに真剣に聞くことも推奨されない。介護職の対応としては、妄想の話をしているときには、否定も肯定もせず、中立的に話を最後まで聞き、相手には真剣に聞いている態度を示しつつも、内実あまり真剣に聞かずに軽く受け流すという対応を正解としている(ただし、症例は多様であり、ケースバイケースのため専門医の指示は必須である)[108]。実際に、本当のことを訴えている場合、あるいは利害関係から病気に仕立てられるケースが実在するので注意が必要である[注釈 22]

厚生労働省ウェブサイトにおいて、患者家族に対しては「病気とそのつらさを理解する」「医療チームの一員になる」「接し方を少し工夫する」「自分自身を大切にする」ことなどを推奨しており、患者に対して非難的あるいは批判的な言動を慎み、また「原因を探すのはひとまず脇に置いて、具体的な解決策を一緒に考える、という接し方が理想的」と呼びかけている。また、心配しすぎてオロオロしないようにも勧めている[109]

精神保健福祉法生活保護などの公的扶助制度の活用や様々なアドバイスなど治療や社会復帰をすすめるために必要な社会的援助を、精神保健福祉士などが支援する。看護師と精神保健福祉士が協働する訪問看護などもある。

治療

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外来治療と入院治療に分けられる。英国国立医療技術評価機構 (NICE) のガイドラインによれば、第一選択肢は経口抗精神病薬心理療法(個別認知行動療法および家族介入)の両方を行うことを提案している[110]。しかしプライマリケア医は、精神科専門医のアドバイスを得ていない限り、初回発症の段階で抗精神病薬を処方してはならないとしている[111]。薬物療法が大きな柱となるが、その他の治療法も病相の時期(急性期、慢性期など)に応じて適宜選択される。いずれにせよ、精神科医を受診、相談することが望ましい。統合失調症患者の主体的な人生や生活のゴールを達成するために、患者と医師による治療内容についての共同意思決定(SDM)が関心を高めている[112]

薬物療法

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非定型抗精神病薬の一つ「クエチアピン」

薬物療法によって完治することはまれであるが、対症療法にはなる。

抗精神病薬(日本では20数種類が使用できる)の投与が、陽性症状を中心とした症状の軽減に有効である。日本神経精神薬理学会が『統合失調症薬物治療ガイド』[113]を公開している[114]。NICEは、抗精神病薬の処方は利益と副作用を考慮した上、年に一度見直すとしている[115]

従来の定型抗精神病薬と呼ばれる薬剤よりも、副作用が少なく陰性症状にも有効性が高いなどの特徴をもった非定型抗精神病薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤であるリスペリドンペロスピロンオランザピンクエチアピンが開発され、治療の主流になりつつある。さらに、最近アリピプラゾールブロナンセリンクロザピンリスパダール・コンスタパリペリドンアセナピン英語版[116]ブレクスピプラゾール[117]ルラシドン[118]が加わった。クロザピンは治療抵抗性統合失調症[注釈 23]に唯一有効な抗精神病薬であるとされる[120][注釈 24]。ただし、非定型抗精神病薬における新たな問題もあり、副作用面では、オランザピン、クエチアピンが、高血糖糖尿病肥満を誘発することがある。また医療経済面では、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなどは薬価が非常に高く設定されている。こうした見解を経て、定型抗精神病薬が再考されている。

抗精神病薬の一般的な副作用として、黒質線条体系のドーパミン拮抗作用によるパーキンソン症候群錐体外路症状アカシジア悪性症候群ムスカリン拮抗作用による便秘、口渇、眼のかすみ、ヒスタミン拮抗作用などによる眠気、体重増加など、アドレナリンα1拮抗作用による低血圧性機能障害が生じることがある[82]。抗精神病薬の治療の副作用対策として抗パーキンソン病薬の使用は、認知機能を低下させる副作用があるため、なるべく少量の使用か、使用しない傾向にある[123]

NICEは、薬剤切替時を除いて抗精神病薬を多剤投与してはならない[124]、急速大量抗精神病薬飽和療法 (Rapid Neuroleptization) は、急性エピソード時の差し迫った暴力の鎮静を除いて行ってはならないと勧告している[49][124]。日本の薬物療法においては多剤大量処方という問題を抱えており、その副作用で死亡者が出るなどの事例がある[125]。抗精神病薬の換算方法としてクロルプロマジン換算があり、統合失調症においてはクロルプロマジン換算量600mg程度を理想としている[126]

統合失調症維持期の抗精神病薬治療については、継続、中止、間欠投与[注釈 25]、減量・低用量の4つの戦略がある[128]。中止については、近年各国のガイドラインは初回エピソード患者を中心に肯定的に傾いてきており、減量・低用量についても、ガイドラインは完全に否定してはいない[128]。一方、複数エピソードを経験している患者に対しては中止は推奨されておらず、間欠投与については、いずれのガイドラインも推奨していない[128]

薬物療法を中断すると、中断した当初は調子がいいように感じることもあるが、多くは3か月、半年と時間が経つにつれて再発する(拒薬、怠薬[注釈 26])。自己判断で中断するのではなく、精神科医の指導のもとで継続して服用することが重要である[130]

2006年、アラスカ州最高裁判所は抗精神病薬に関する訴訟の判決文で、「向精神薬は患者の心身に重大で永続的な悪影響を及ぼすことがある[注釈 27]」「数々の破壊的な副作用を引き起こす可能性があることが知られている[注釈 28]」と説明している[131]

2024年には、以上のようなドーパミン受容体への作用する抗精神病薬の強い副作用を回避すべく、種類の異なる新薬がアメリカで発売された。コリン作動性受容体に作用するキサノメリン-トロスピウム(商品名コベンフィ)である。

統合失調症に柴胡加竜骨牡蛎湯半夏瀉心湯加味逍遥散抑肝散など、漢方薬が有効なこともある。ただし、統合失調症を漢方薬のみで治療するのは難しく関連症状に対して使用される[135]。また、漢方の温胆湯が統合失調症に効果があり、短期的に全体的改善が生じる[136]。温胆湯は抗精神病薬と比較して有効性が高くはないが、錐体外路症状が生じにくいことが示されている[136]

2010年代後半から、陰性症状の1つである認知機能低下の改善を目指し、製薬会社各社がグリシントランスポーター1阻害薬の開発を進めている[137][138][139][140][141] 。グリシントランスポーター1阻害薬は現在イクレペルチン(ベーリンガーインゲルハイム)、ビトペルチン(ロシュ)、ORG-25935(Organon & Co.)、ペサンパトル(ファイザー)が臨床試験に入っている[137][138][139][140][141]

心理社会的介入

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十分な傾聴と受容を通して、妄想や幻覚の背景にある苦しみや、妄想や幻覚による苦悩を理解し、治療関係を構築した上で、次のような効果的な治療を患者と協同で進めていく[142]

認知行動療法 (CBT)
NICEは、すべての統合失調症患者に認知行動療法を提供すべきであり[143]、その場合は個人別セッションを最低16回行うとしている[144]。英国などで有効性が証明されており、日本での認知行動療法のさらなる導入が求められている[145]
認知行動療法では、以下のような技法を活用して、妄想や幻聴の妥当性を検証したり機能的な考え方や行動を形成したりすることができるよう患者を支援する[146]
1. 行動実験:妄想の内容や幻聴の要求に逆らって(もしくは無視して)行動し、その結果を検証するという行動実験を通して、患者をサポートする。行動実験により、妄想の内容は事実ではなく幻聴の要求も正しくないという気づきが得られ、妄想や幻聴の妥当性を否定でき、苦痛を和らげることができる[147]
2. 認知再構成法・論理的分析法:協同的な治療関係が確立した後、妄想や幻聴の内容を論理的・科学的に検討したり、妄想的信念の根拠を検証したり、別の解釈の探求を行ったり、妄想や幻聴の内容に反する出来事・体験に注意を払ったりすることを通じて、患者が妄想や幻聴の妥当性を検討することをサポートする[148][149]
3. 現実検討:認知的変容には実体験を通じた現実検討が有効である[150]。妄想や幻聴の内容を、患者が実体験・行動を通じて再検証することをサポートし、それにより得られた気づきを共有する[151]
4. 証拠・根拠の検討:妄想や幻聴の内容が事実であるかどうか・実在するかどうかについての証拠や根拠について、治療者と患者が協同で様々な角度から客観的に検討し、そこで得られた気づきを共有することで、妄想や幻聴は事実ではなく実在もしないと認識できるようサポートする[152][153][154]。たとえば、幻聴の訴えがある場合は、何らかの録音機器を使ったサポートを通して、幻聴を裏付けるような音声が録音されないという気づきを得て、幻聴は実在する音声ではないという確信を持つことができる[155]
5. 代替療法:妄想や幻聴に対する合理的な他の考え方を患者が見つけられるようにサポートしたり、治療者が提示したりする。どちらにおいても、患者と治療者が協同して、苦痛を伴わない合理的な別の考え方を見つけていく[156]
6. フォーカシング療法:セルフモニタリングの技法などを活用して、妄想や幻聴は自分の思考(自己派生の出来事)であり、実際に外部にあるもの・外部からの声(外部からの刺激)ではないということを認識できるようサポートする[157]
7. 競合刺激の活用:たとえば、幻聴が聞こえる状態で外部聴覚刺激(音楽など)を聞くと、幻聴が少なくなるという体験をすることなどを通じて、幻聴は実在する外部音声ではないという認知を形成できるようサポートする[158]
また、対処方略としては、妄想の考えをストップしたり幻聴を無視し聞き流したりしたあと他へ注意を向ける二段階法や、ちょっとした気晴らし行動などを用いた注意転換法を活用して、妄想や幻聴への注意を他の事柄(たとえば音楽など)に向け、そのような現実の事柄に意識を向けながら生活できるようサポートを行う[159][160]
心理教育 (Psycoeducation)
薬物療法によって陽性症状が軽減しても、自らが精神疾患に罹患しているという自覚(病識)を持つことは容易ではない。病識の不足は、服薬の自己中断から再発率を上昇させることが知られており、病識をもつことを援助し、疾患との折り合いの付け方を学び、治療意欲を向上させるために心理教育を行うことが望ましい。精神保健福祉士が主に担当する。統合失調症の患者は正直すぎると言われるが、なにもかも正直でなくていい、秘密があっていいということを教育する。秘密にすることで自分を守ることはマナーでもあり、社会復帰のために必要である。また、異性関係のことが自分の中であまりにも整理されていない人が多いとされ、異性の気持ちになって物事を見ることも大切な心理療法の一つである。
また、心理教育の一環として、統合失調症の診断に対してノーマライジングを実施することにより、患者の苦痛を軽減することができる。たとえば、①統合失調症は珍しい疾患ではなく多くの人が罹患しうること、②統合失調症は患者自身や家族のせいで発病するものではないこと、③統合失調症も治療可能な病気であり多くの患者が症状を克服していけること、などを理解してもらえるよう丁寧に説明する[161]
患者本人のみならず、家族の援助(家族教育)も行うこともある。家族への心理教育の再入院予防効果によって、医療コストは軽減されるといわれる[162]
ソーシャル・スキル・トレーニング (SST)
統合失調症を有する患者は、陰性症状に起因する社会的経験の不足が散見され、自信を失いがちなことにより、社交、会話などの社会技能が不足していることが多い。それらの訓練として、ソーシャル・スキル・トレーニングを行うことがある。デイケアプログラムの一環として行われることが多い。SSTトレーナー、SST認定講師、心理の専門家が担当する。NICEは、SSTを統合失調症患者にルーチンとして実施してはならないとしている[143]
作業療法芸術療法風景構成法
絵画ぬりえ折り紙手芸園芸陶芸スポーツなどの作業活動を主体として行う治療である。非言語的な交流がストレス解消につながったり自己価値観を高めたりする効果がある。病棟活動やデイケアプログラムの一環として行われることが多い。作業療法士が担当する。急性期では、作業活動を通して幻覚・妄想などを抑え、現実世界で過ごす時間を増やしたり、生活リズムを整えることを目標とし、そのためには患者が集中できるような作業活動を見つけて適用することが必要となる。慢性期では、退院を目標とし、そのためには服薬管理や生活リズム管理など、自分のことは自分でおこない自己管理ができるようになり、作業能力と体力も向上することが必要となる。慢性期での作業療法では患者のペースで行なえる作業活動を徐々に増やしていくよう心がける。
NICEは、陰性症状の緩和のため、すべての統合失調症患者に芸術療法が提供されるべきであるとしている[143]
その他
アドヒアランス療法は行ってはならない[143]カウンセリングや支持的精神療法[注釈 29]はルーチン実施してはならないが、他の心理療法が提供できない場合などは、患者の好みに合わせて提供できる[143]

オープンダイアローグ

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薬物治療や入院治療を極力避け、対話による回復を目指す治療法である。世界的に注目されており、日本への導入が進められている[164][165]

食事と運動

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NICEは患者に対し、健康的な食事と運動プログラムの組み合わせを提供すべきであるとしている[166]。統合失調症の患者はファーストフード、炭水化物や脂質の多い加工食品(インスタント食品や菓子)、ソフトドリンクの摂取が多く、食物繊維や果物の摂取が少ない傾向にあり適切な量や回数の理解が必要である[167]。長期間の運動プログラムを定期的に行った統合失調症患者は、そうでない患者と比較して高いメンタルヘルスの改善が認められた[168]。また、統合失調症における精神科のリハビリテーションにおいてメタボリックシンドロームの予防を目的にした運動プログラムが盛んになった[169]

その他

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電気痙攣療法 (ECT)
薬物療法が確立される以前には、電気痙攣療法(電気ショック療法)が多く用いられてきた。この療法は左右の額の部分から脳に100Vの電圧、パルス電流を1 - 3秒間通電して、痙攣を人工的に引き起こすものである。電気痙攣療法の有効性は確立されている[170]が、一方で有効性の皆無も臨床実験で報告されている[171][172][173]。かつて電気痙攣療法が「患者の懲罰」に使用されていたこともあり、実施の際に患者が痙攣を起こす様子が残虐であると批判されている。
まれに電気痙攣療法により脊椎骨折などの危険性があるため、現在では麻酔を併用した「無痙攣電気痙攣療法」が主流である。しかし、副作用や実施の際には、麻酔科医との協力が必要であることなどからして、実質的に大規模な病院でしか実施できない。現在では、この治療法は主力の座を薬物療法に譲ったものの、急性期の興奮状態の際などに行われることもある。
NICEは現在の根拠では、ECTを統合失調症の一般的管理としては推奨することはできないとしている[注釈 30]。また、ECTは全ての治療の選択肢が失敗したか、または差し迫った生命危機の状況でのみ使われるべきであるとしている[174]
鍼治療
統合失調症の症状の軽減と関連疾患に対して鍼治療が行われることがある[175][176]

経過

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統合失調症の経過の概念図。赤線が症状、青線が活動性を表す。

経過は、前駆期、急性期、消耗期(休息期)、回復期に分ける4区分と、前駆期、進行前駆期、精神病早期、中間期、疾患後期に分ける5区分の2種類がある。

前駆期
かかりはじめの時期。妙に身辺が騒がしく感じる、担がれている感じがする(神輿に乗った気分と騙されている気分の両方)、眠れない、音に敏感になるなどの状態。過労や睡眠不足に注意する。
急性期
症状が激しい時期。不安になりやすい、不眠、幻聴、妄想、脳が働き過ぎの状態。
消耗期
元気がなくなる時期。眠気が強い、体がだるい、ひきこもり、意欲がない、やる気がでない、自信が持てない、脳がほとんど働かないなどの状態。数か月単位の休息をとり、焦りは禁物である。
回復期
ゆとりがでてくる、周囲への関心が増える時期。ソーシャル・スキル・トレーニング、リハビリテーションなどを行う時期である。
前駆期 (prodromal phase)
当人は何の自覚症状も無いケースもあるが、社会的能力の障害、軽度の認知的解体または知覚の歪み、喜びや快感を経験能力の低下、全般的な対処能力の欠如などを呈する。統合失調症と診断された後に振り返って初認識されるレベルの軽度のケースもあれば、以前から社会的・学業的、職業的機能障害として顕著であった場合もある。
進行前駆期 (advanced prodromal phase)
引きこもりや孤立、易怒性猜疑心の強まり、異常思考、知覚の歪み、解体などの不顕性の症状が出現することがある。統合失調症における妄想および幻覚の発症は、急激(数日または数週間)な場合もあれば,緩徐で潜行性(数年間)の場合もある。
精神病早期 (early psychosis phase)
患者の症状が最も悪化している病期。
中間期 (middle phase)
症状期間は断続的な同定可能な増悪および寛解を伴うケースも持続的な場合もある。機能障害は悪化する傾向がある。
疾患後期 (late illness phase)
その個人ごとの疾患のパターンが確立される。能力障害は安定、悪化、軽減のどれも起こりうる[177]

例えば、重度の骨折をした場合、一般的に診断、治療、回復、リハビリ、寛解(かんかい)という段階を経るが、統合失調症もこれと同じことが当てはまり、中でもリハビリは困難を伴う一方大変重要な段階である。陽性症状は時間の経過により改善することも多いが、それとともに陰性症状が目立ってくる。しかし、抗精神病薬の投与をしても慢性的に陽性症状および陰性症状が持続して残る患者も多い。長期療養の結果、晩年期になると長年続いた顕著な精神症状が燃え尽きる様に寛解されるに至るという医学的な考え方もあり、「晩期寛解」と呼ばれる。多くの統合失調症患者は加齢とともに症状が改善する[178]

英国を中心とした実証的な家族研究の結論によると、確実な服薬遵守より、家族が患者に批判的な言動をするかどうかのほうが、患者の経過を左右する[179]

予後

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統合失調症の予後について、過去(特に薬物療法がなかった時代)と比較すると、全体的にかなり向上しているといわれている。

家庭内の感情表出のレベルが高い(批判的、敵意、過度の感情的巻き込まれ)と、統合失調症や社会不安障害などの精神疾患を有するクライアントの予後が悪化する可能性が高まり[180] [181] 、精神疾患の発症、再発の危険因子となる[182]

「進行性の経過を取り、ほとんどが人格の荒廃状態に至る」というイメージやスティグマ(偏見)が残っているが[2][183]、これは事実に反しており、一部の人が荒廃状態に至るだけである。イギリスのデータでは、患者は困難や将来的な再発への脆弱性を抱えながらも、一部の人々は、完治はしないが寛解するという根拠がある[注釈 31]

イギリスでの5年追跡調査では、22%は1回の発病エピソードのみで完全寛解、35%は数回のエピソードを繰り返し軽い機能障害が見られる、8%は数回のエピソードで障害も継続、35%は数回のエピソードで障害も増悪していた[185]。病型別の予後では、妄想型や緊張型は、妄想幻覚などの症状のほうが抗精神病薬に反応しやすいため、予後がよく、破瓜型や単純型などの陰性症状には治療の効果が得られにくいため、予後が悪いと一般的に言われている。ただし、こうした傾向はあるが、妄想型などでも治療に反応しない例がまれではなく、病型により機械的に予後が予測できるものではない。患者の生活態度や薬物投与を含めた環境を改善することで症状を軽減できるが、生活レベルでの具体的な改善策は得られていないのが現状である。

1961年、カリフォルニア州精神保健局は、18か月以内の退院率について、非投薬群が88%、投薬群が74%と報告している[186]

1977年、アメリカ国立精神衛生研究所英語版(NIMH)の臨床研究施設における研究報告は、退院時期について、非投薬群は投薬群より早いと報告している[187]。また、退院一年後の再発率について、非投薬群が35%、投薬群が45%と報告している[187]

1978年、モーリス・ラパポートの研究[注釈 32]は、退院3年後の転帰について、非投薬群は投薬群より良好で再入院率も低いと報告している[188]

1992年、世界保健機関の10ヵ国を対象とする研究報告は、2年後の転帰について、貧困国は3分の2近くが良好な転帰、3分の1強が慢性化、富裕国は37%が良好な転帰、59%が慢性化と報告している[189]。抗精神病薬の使用率は、貧困国が16%、富裕国が61%であり、使用率が3%のインドのアグラが最も良好、使用率が最も高いモスクワが最も悪かった[189]

2007年、マーティン・ハロウの研究[注釈 33]は、15年後の転帰について、抗精神病薬なしは40%が回復、44%が良好な転帰、16%が一様に不良、抗精神病薬ありは5%が回復、46%が良好な転帰、49%が一様に不良と報告している[190]

疫学

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どの年齢でも発症するが、特に思春期から青年期において、自立した生活を開始したころに発症することが多い[2]男性と比較して女性は平均発症年齢が遅く、閉経後にも小さな発症のピークがある。

罹患率・有病率など

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2004年の100,000人あたりの統合失調症の障害調整生命年

生涯発病率は約0.85%(120人に1人)であり、まれな病気ではない[2]。アメリカ合衆国では、生涯罹患率は約1%[191]で年間発症者数は10万人当たり1,000人[192]カナダにおける12か月有病率は男性・女性ともに0.61%[193]であった。5歳から18歳の児童青年においては、有病率は0.4%[194]、イギリスの精神病院に入院する10歳から18歳のうち、24.5%は統合失調症であった[194]。研究対象となった地域・人種などにより罹患率に差があるが、診断基準によっても左右され、その意味は明確ではない[195]アイルランドでの地方間における罹患率の差も議論の対象となっている。

死亡率

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統合失調症患者の死亡率は、一般人口の約2倍以上とされる[196]

患者の生涯自殺率は10%以上で、これは一般人口の12倍の値であり[10]、およそ5%が自殺を完遂する[197]。特に初発後・退院後に多く、初発退院後1年間の自殺率は一般人口に比べて100倍になっているという報告がある[198]。患者が喫煙者の場合も、自殺企図の危険は有意に高くなる[199]。陽性症状が強い時期に、幻聴から逃れたり妄想のために自殺をする患者もいるが、陰性症状しか見られない段階でも思考の短絡化[注釈 34]によって、少しの不安でも耐えられずに、自殺してしまうこともある。

統合失調症患者の生命予後(平均余命)は一般人口と比べると悪く、死因の大部分は心血管系疾患によるものと言われる[200]。統合失調症患者は心疾患や窒息による不慮の突然死が多く、突然死のリスクは健常者と比較して統合失調症患者全体で4.9倍、入院療養中の統合失調症患者では6.7倍であるとされる[201]。特に、メタボリックシンドロームは心血管系疾患および心血管系疾患死のリスクを上げ、原因として生活習慣、抗精神病薬による治療[注釈 35][注釈 36]、統合失調症の自体の影響などがある[200]。突然死リスクを減らすために対応可能な6つのリスクファクター(喫煙、高血圧、高血糖、運動不足、肥満、高脂血症)への取り組みが、発病早期から求められる[203]

合併症の疫学

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統合失調症患者の合併症で、特に多いのは抑うつ薬物乱用である[196]。患者の少なくとも25%は常時抑うつであり、また米国患者ではアルコール依存症は30%以上、麻薬は25%以上、喫煙率は50%以上であった[196]

統合失調症患者はがんによる死亡率が低いことが知られている。デンマークで1980年まで行われた研究では、がん発生率は健常者との比較により男性で67%、女性で92%であった。男性統合失調症患者の肺がんは高い喫煙率にもかかわらず、健常者の38%であった。統合失調症治療に使われる向精神薬が抗腫瘍効果をもつためであるとされている[204]。また、統合失調症患者は関節リウマチに罹患しにくいことが知られており[205]、最近の研究によれば、およそ4倍程度罹患しにくいとされる[206]

歴史

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スキゾフレニア (Schizophrenia) という用語を創設したオイゲン・ブロイラー (1857-1939)

19世紀ドイツの精神科医エミール・クレペリンが複数の脳疾患を統一的な脳疾患カテゴリーとしてまとめ、早発性痴呆症を提唱した。1911年スイスの精神科医オイゲン・ブロイラーが症状群の性質から、著書『早発性痴呆症あるいは精神分裂病群の集団』(『Dementia Praecox oder Gruppe der Schizophrenien』)の中でSchizophreniaを造語し定義した[7]。ブロイラーによれば、当該疾患の特徴は「精神機能の特徴的な分裂(Spaltung der verschiedensten psychischen Funktionen)」であるとし、Schizo(分裂)、Phrenia(精神病)と呼称した。ここでいう精神機能とは、当時流行した連合主義心理学(en:Associationism)の概念であり、また精神機能の分裂とは主に連合機能の緩みおよび自閉症状を意味する。クレペリンは死後の脳解剖から前頭葉に類似の細胞変性を観察しており、早発性痴呆群を統一的な統計カテゴリーとした。しかし、ブロイラーは相当多数の疾患群の集合からなると予想しており、現在まで決着はついていない。クレペリンおよびブロイラーが例示した疾患群は単純型痴呆、破瓜病、緊張病、妄想性痴呆の4つである。

年表

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統合失調症治療薬の年表

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クロルプロマジンの分子モデル。1950年代に統合失調症の治療に革新をもたらした。
  • 1952年、フランスの精神科医であるジャン・ドレーフランス語版ピエール・ドニカー英語版クロルプロマジンの統合失調症に対する治療効果を初めて正しく評価し、精神病に対する精神科薬物療法の時代が幕を開けた。
  • 1957年、ベルギーの薬理学者であるパウル・ヤンセン英語版が抗精神病薬のハロペリドールを開発した。
  • 1984年、非定型抗精神病薬のリスペリドンが開発された。
  • 1996年、日本で非定型抗精神病薬のリスペリドンが発売された。
  • 2001年、日本で非定型抗精神病薬のオランザピンが発売された。
  • 2001年、日本で非定型抗精神病薬のクエチアピンが発売された。
  • 2001年、日本で非定型抗精神病薬のペロスピロンが発売された。
  • 2006年、日本で非定型抗精神病薬のアリピプラゾールが発売された。
  • 2008年、日本で非定型抗精神病薬のブロナンセリンが発売された。
  • 2009年、日本で非定型抗精神病薬のクロザピンが発売された。
  • 2009年、日本で非定型抗精神病薬持続性注射剤のリスパダール・コンスタが発売された。
  • 2011年、日本で非定型抗精神病薬のパリペリドンが発売された。
  • 2013年9月20日、日本で非定型抗精神病薬持続性注射剤のゼプリオンが発売された[211]
  • 2016年5月26日、日本で非定型抗精神病薬のアセナピンが発売された[116]
  • 2018年4月18日、日本で新規抗精神病薬のブレクスピプラゾールが発売された[117]
  • 2019年9月10日、日本で世界初の抗精神病薬の張り薬「ロナセンテープ」が発売された[212][213]
  • 2019年10月、第11回デルファイ調査報告書によると、2035年までに統合失調症の脳病態解明に基づく、社会復帰を可能にする新規治療薬の科学技術的見通しが立つと予測している[214]
  • 2020年6月11日、日本で非定型抗精神病薬のルラシドンが発売された[118]
  • 2020年11月18日、日本で12週間投与の非定型抗精神病薬持続性注射剤のゼプリオンTRIが発売された[215]

江戸時代の日本

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江戸時代の日本の医家の間では、「柔狂」や「剛狂」と呼ばれる精神疾患が知られており、それぞれヨーロッパでの「破瓜病」、「緊張病」に相当する病状であったとされている[216]。中期の儒医香川修徳は著書『一本堂行余医言』(いっぽんどうこうよいげん)[注釈 39]で「狐憑きも野狐の祟りなどではない。被害妄想、誇大妄想、感情荒廃強迫観念、自閉、不眠幻想、抑うつなどは狂の症状である」との意味を記している[218]

病名呼称の歴史

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19世紀には原因は不明であり、認知症が早期に発症したものと誤解されたため早発性痴呆という名称がベネディクト・モレルによってつけられ浸透した。古代ギリシア語σχ?ζειν+φρ?να(分裂+理性、心)に由来する、ドイツ語Schizophrenie という言葉が作られた。

日本では、明治時代精神分裂病が、ドイツ語の Schizophrenie に対する日本語訳として用意された。精神分裂病の「精神 (phrenie)」は、本来は心理学的な意味合いで用いられた単語であり、知性や理性を現す一般的な意味での精神とは意味が異なる。また、「分裂 (schizo)」は、精神そのものの分裂を言うのではなく、「太陽に対して暑い」などの言語連想の分裂を指していた[208]。ところが日本では、「精神分裂病」という名称から、文字通り「精神が分裂する病気」と解釈され、さらには「理性が崩壊する病気」と誤った解釈がされてしまうことが多々あった。

統合失調症の患者の家族に対して、社会全体からの支援が必要とされておりながら、誤った偏見による患者家族の孤立[219]も多く、その偏見を助長するとして患者・家族団体などから、病名に対する苦情が多かった。また、医学的知見からも「精神が分裂」しているのではなく、脳内での情報統合に失敗しているとの見解が現れ始め、学術的にも分裂との命名が誤りとみなされてきた。そこで、2002年に、日本精神神経学会総会で Schizophrenia に対する訳語を統合失調症にするという変更がなされた[220]。訳出にあたっては、その訳語が当事者にとって社会的な不利をもたらさない原則を加味することや、「病」ではなく「症状群」であるといった指摘がなされた[220]。名称変更にかかった費用の一部は、治療に使われる抗精神病薬を販売している外資系企業から提供されたという[221]全国精神障害者家族会連合会を参照のこと)。

治療史

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古代ギリシア時代から色々な治療が試みられており、近代医療においても100年以上の歴史を有することから、膨大な種類の治療が試みられてきた。現代の主流は、薬による薬物治療が効果をあげており、それにより80 - 90%が治癒する。しかし、再発する確率も高く、治療および再発防止には家族の協力が不可欠とされる。古くは、日本において漢方薬での治療[222]が試みられ、西洋などでは治療不可能と判断して監禁したり、手足を拘束する、あるいは折檻する、また、近代においても脳の一部を切断するなど現代から見たら非人道的な行為が行われてきた。長らく説得(あるいは根気よく話を聞くことや対話)による治療が試みられてきたが、それらについてはあまり効果が確認できず、近代医学では掃除などの簡易作業を行わせる軽作業型の作業治療による若干の改善が認められて一時期盛んに研究され実施された。この軽作業型の作業治療は、医療現場で患者と接することが多い看護婦(当時の名称)から好まれたという。しかしながら、患者を安全に作業させるには医療機関の手間・暇などの負担が大きい上に、劇的に効果を確認できるものでもなく、症状が若干改善したとしても、他のストレスなどの悪化要因があれば、一進一退を繰り返すなど、根気と忍耐がいるものであり、当時は労務させられる患者や一刻も早く治癒を望むその家族からは不評であり、軽作業型の作業治療は下火となっていった。軽作業の代わりに、趣味園芸など)を行う作業治療が登場したが、患者の要望に応えるためには看護師が、その趣味を指導できる程に覚える必要があり、趣味には膨大な種類があることから患者から寄せられる数多い要望に対応できず、また、要望を出しても病院が対応できない場合は患者症状に悪化をもたらすこともあることから、次第に医療現場では減少した。しかしながら、薬ほど劇的ではないものの、確かに改善効果は認められるために、現在では専門の作業療法士制度を創設して担当している。1950年代から様々な薬が開発されると、劇的に効果を上げるようになったため、歴史的に様々な経緯を経て薬物治療がその主流に存在しており、他の治療法はその補佐的に利用されている。

かつて行われていた治療法

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精神外科による外科手術
脳の前頭葉部分の神経細胞を切断する手術で、ロボトミーと呼ばれる。向精神薬の開発と副作用、医療倫理の問題で行われなくなった。1975年(昭和50年)に、日本精神神経学会が精神外科を否定する決議を可決しており、医学上の禁忌である。
インスリン・ショック療法
患者に対してインスリン注射を行い、失神させショック状態に陥らせた後に、グルコースを投与し覚醒させるというものである。強制的な低血糖による医療事故の危険性や、薬物療法・抗精神病薬の出現により、2020年現在では、行われない治療法となった。
信仰療法
自分が絶対ではなく、神が絶対と信じることにより、独特の考えを是正したり、謙虚に聞き入れる姿勢をもたせる。自分が絶対者でないことがわかればよいとするものである。
私宅監置
患者の処遇の一つで自宅の一室などに専用の部屋を確保して患者を監置[注釈 40]するものであるが、1950年(昭和25年)の精神衛生法施行にて禁止された。

社会的側面など

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統合失調症患者だった著名人・著名事件犯

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日本人
  • 夏目漱石 - 小説家である。精神科医の呉秀三博士に妄想性痴呆(妄想型統合失調症)と診断された[224]。エピソードとして「恋愛妄想」があり、病院で出会った女性が自分との結婚を熱望しているという妄想だが、実際にそうした事実はなかった[225]
  • 高村智恵子 - 画家である。彫刻家詩人である高村光太郎の妻である。46歳の時に統合失調症の最初の兆候が現れた[226]
  • 草間彌生 - 芸術家である。少女時代に統合失調症を患い、幻覚や幻聴の症状から逃れるために絵を描き始めた[227]
  • ハウス加賀谷 - お笑いコンビ「松本ハウス」のメンバーである。著書『統合失調症がやってきた』の中で明らかにし、以後も罹患者としての体験をテレビ番組などで語っている[228]
  • 山田花子 - ガロで活躍した漫画家である。1992年3月統合失調症と診断される。2ヵ月半の入院生活を経て5月23日に退院するが、翌24日の夕刻、団地11階から投身自殺した。24歳没。死後に、彼女の闘病中の日記を、遺族が出版している。
  • 卯月妙子 - 本人による近況自伝エッセイ漫画で、自身の統合失調症体験などを描いている。
日本人以外
エドヴァルド・ムンクの代表作『叫び
統合失調症を患った後のルイス・ウェインの作品
著名事件犯

病跡学との関係

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統合失調症を患った著名人は少なくなく、ドイツの物理学者、アルベルト・アインシュタインの二男エドゥアルト・アインシュタインや、イギリスの数学者・哲学者バートランド・ラッセルの多くの家族・親類(叔父、叔母、息子、孫娘)、アイルランドの小説家・詩人、ジェイムズ・ジョイスの娘ルチアなども統合失調症を患ったため、病跡学の研究対象となっている[234][240]

統合失調症が描かれている作品

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法律

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統合失調症は精神保健福祉法の対象となる精神障害者である[242]。統合失調症者で症状が安定し、就労可能な場合は障害者雇用促進法の対象となる[243]。統合失調症は日本の刑法における心神喪失者、心神耗弱者の要因である精神の障害に含まれる[244]。もっとも、日本の刑事裁判においてはうつ病という精神医学的診断(疾病診断)によって直ちに責任能力の有無が決められるものではなく、更に個々の事例における精神の障害の質や程度を判断し、その精神の障害と行為との関係についての考察に基づいて責任能力が判断されることになっている[245]。そのため、医学的に統合失調症と診断されたとしても、それによって直ちに刑責が軽減されるわけではない。統合失調症者は医療観察法による入院対象者になりうる[246]。精神障害者に対する差別や虐待は障害者差別解消法および障害者虐待防止法で禁止されている[247][248]障害者手帳障害年金の統合失調症の障害認定では、障害の状態に応じて1から3の等級がある[249][250]。患者の申請によって、障害者総合支援法自立支援医療(精神通院医療)が受けられる[251]。長期間の治療に対する医療費の自己負担軽減策として、国民健康保険の3割負担に加えて、公費負担医療による医療費減額が受けられる。統合失調症など精神上の障害により判断の能力が低下した人を支援する成年後見制度がある[252]日本の民法おいて重度の統合失調症で意思疎通が取れない場合は離婚事由となる[253]。統合失調症を含む精神障害はいくつかの資格免許において相対的欠格事由となっている[254]

コスト

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2017年の国内の統合失調症関連の年間の医療費は男性が4602億円、女性が4869億円であり、年齢別では0歳から14歳が10億円、15歳から44歳が1703億円、45歳から64歳が3713億円、65歳以上が4045億円であった[255]。2008年の調査によると日本における統合失調症の社会的コストは約2兆7700億円、約7割が間接費用と推定されている[256]アメリカ合衆国の統合失調症関連の経済的負担額は少なくとも600億ドルと見積もられている[257]

統合失調症の一日当たりの一般医療費は入院が13,745円、入院外が9,206円となっている[258][259][注釈 41]

記念日

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5月24日は「世界統合失調症デー」と定められている[260]。また、1992年から世界精神保健連盟により10月10日は「世界メンタルヘルスデー」と定められている[261]

近縁疾患

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  • 統合失調型パーソナリティ障害(旧称:分裂病型人格障害)- 統合失調症の患者の親族に多く、統合失調症の陽性症状に似た状態である。
  • 統合失調感情障害(旧称:分裂感情障害)- 統合失調症と気分障害(感情障害)の症状が合併した場合である。
  • 非定型精神病 - 錯乱があり、意識変容も見られる。症状は激しいが予後はいい。
  • 類破瓜病 - 異常体験や人格崩壊は目立たない。単純型に類似する。
  • 接枝統合失調症 - 知的障害者が統合失調症を発症した場合である。
  • 妄想性障害
    • パラフレニー - 人格崩壊が少ない妄想型である。
    • パラノイア - 妄想型に類似するが、妄想の内容が異なる。悪役のような妄想がある。進んでしまうと悪魔ではないかと思ってしまう。悪魔主義的で支配者でありたいとする激しい気性がある。
    • 敏感関係妄想 - 関係妄想を主症状とし、その原因が患者の敏感性格[注釈 42]にあるもの[262]

脚注

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注釈

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  1. ^ 高次脳機能は、知覚、記憶、学習、思考、判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能の総称[22]
  2. ^ ここでいう痴呆は、認知症とは全く異なり、当時、精神の不調全般に使われていた用語である。
  3. ^ 原文: “Even if it had tried, the Committee could not establish agreement about what this disorder is; it could only agree on what to call it.” [25][26]
  4. ^ ix頁の記述。
  5. ^ 原文: “The limits of the concept of Schizophrenia are unclear” [27][28]
  6. ^ 181頁の記述。
  7. ^ 原文: “It should be noted that no single feature is invariably present or seen only in Schizophrenia”[27][28]
  8. ^ 188頁の記述。
  9. ^ 原文: “Schizophrenia is defined so vaguely that, in actuality, it is a term often applied to almost any kind of behavior of which the speaker disapproves.” [34]
  10. ^ 原文: “gradually changed until the diagnosis came to be applied to a population who bore only a slight, and possibly superficial, resemblance to Kraepelin's.” [24]
  11. ^ 2000年に生物科学分野でアメリカ国家科学賞を受賞している[35]
  12. ^ 原文: “Europeans can save American science by helping us figure out who really has schizophrenia or what schizophrenia really is.” [36][37][38]
  13. ^ 脳機能イメージングを用いた研究では、幻聴が発生した際に脳の言語野に変化が現れていることが分かっている[41]
  14. ^ 旧名は強迫神経症。抗不安薬などの服用でも効果および治癒率が低いとされる。
  15. ^ 不自然でわざとらしい動作や表情をするようになる症状の一つ[65]
  16. ^ ( )内英語表記は最新のICD-10は2015年版であるが、日本では平成27年2月13日付け総務省告示第35号をもって「疾病及び関連保健問題の国際統計分類ICD-10(2013年版)」に準拠する改正が行われ、平成28年1月1日から施行されている。このため日本語はICD-10 2013年版に対応している。
  17. ^ 破瓜(はか)とは女子16歳のことを指す。
  18. ^ 精神医学におけるエピソードは、ある状態(病状)が続いている期間を意味する[89]
  19. ^ アスペルガー症候群は統合失調症に似た症状がおきやすいと以前から指摘がある。アスペルガー症候群を再評価し紹介したイギリスの医師ローナ・ウィングの最初の論文(1981年発表)では報告された18人のうち1人に統合失調症様の症状があった[93]
  20. ^ 反証可能性を参照。
  21. ^ 誤りをチェックできない体系の意味で、非科学的と分類される[注釈 20]
  22. ^ トーマス・サズ英語版の警告参照。
  23. ^ 4週間以上にわたり、2種類以上の十分な用量の抗精神病薬を服用しても十分に改善しない統合失調症のこと[119]
  24. ^ クロザピンはクロザリル患者モニタリングサービスを活用した安全管理を行った場合のみ使用することが可能である[121]。クロザリル患者モニタリングサービスは、本剤投与中の好中球減少症無顆粒球症耐糖能異常といった本剤の重大な副作用を踏まえ、患者ごと早期発見および発現時の予後の重篤化抑制を目的とし、本剤を使用する医療従事者、医療機関、保険薬局および患者を登録し、患者ごとの白血球数・好中球数および血糖値などのモニタリングの確実な実施(ヒューマンエラーによる検査未実施などの回避)を支援する[122]
  25. ^ 毎日薬剤を使用する代わりに、週2回、または週3回使用するなどの方法を指す[127]
  26. ^ 拒薬は自己判断によって意図的に薬を飲まないこと、怠薬は無意識や記憶障害による飲み忘れを指す[129]
  27. ^ 原文: “psychotropic medication can have profound and lasting negative effects on a patient's mind and body” [131][132][133][134]
  28. ^ 原文: “are known to cause a number of potentially devastating side effects.” [131][132][133][134]
  29. ^ 精神療法の一つで、その人が現在持っている資質を十全に活かせるようにすることで適応力を挙げることを支援する治療のこと[163]
  30. ^ 原文: The current state of the evidence does not allow the general use of ECT in the management of schizophrenia to be recommended. [174]
  31. ^ 原文:There is evidence that most people will recover, although some will have persisting difficulties or remain vulnerable to future episodes. [184]
  32. ^ NIMHの助成研究である[188]
  33. ^ NIMHの助成研究である[190]
  34. ^ 健康な人の適切な思考でなく、例えば、会社を辞めればすむ問題なのに、究極の選択である自殺を考えるように、順序建てて物事を考えられない。優先順位がつけられない。
  35. ^ 統合失調症の治療薬には、副作用として体重増加をもたらすもの、糖尿病の原因となるものなどがある。
  36. ^ 抗精神病薬の服用は患者全体で見た場合は死亡率を低下させる[202]
  37. ^ : Hebephrenie
  38. ^ : Katatonie
  39. ^ 日本の医学書[217]。同書の巻五は精神神経疾患を記述している[217]
  40. ^ 監置は、監禁保護のどちらでもなく、その中間を意味する語[223]であるが、実地の運用においては監禁と解す人が多かった。
  41. ^ 全額が自己負担ではなく、自己負担が3割の人、高額療養費を活用している人などがいる[259]
  42. ^ 敏感性格とは感じやすく、傷つきやすい性格のことで、先天的に疲労しやすい無力性の体質の持主に多く見られる[262]

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参考文献

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マニュアル
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  • American Psychiatric Association (2000年). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision (DSM-IV-TR). ISBN 978-0890420256.(翻訳書は アメリカ精神医学会(著)『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(新訂版)』高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳、医学書院、2004年。ISBN 978-4260118897
  • Lois Choi-Kain(著)「シゾイドパーソナリティ障害(ScPD)」。Sandy Falk(編集主任)(編)『MSDマニュアルプロフェッショナル版 - The trusted provider of medical information since 1899』(2018年5月版〔初版1899年〕版)、MSD(Merck Sharp and Dohme)、2018年、「シゾイドパーソナリティ障害(SCPD)」頁。2021年12月5日閲覧
臨床ガイドライン
医学論文
その他

関連項目

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外部リンク

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