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座頭市

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

座頭市』(ざとういち)は、兇状持ちで盲目の侠客である座頭が、諸国を旅しながら驚異的な抜刀術で悪人と対峙する、アクション時代劇

1962年勝新太郎主演で大映によって『座頭市物語』のタイトルで映画化されて以来、26作品というシリーズが公開されている。1974年には、同じく勝主演でテレビドラマ・シリーズ勝プロダクションによって製作された。

主演の勝新太郎は、映画版、テレビシリーズともに監督業も兼任するようになり、役者としてだけではなく作品の製作に深く携わった。座頭市は勝のライフワークとも言うべき作品になった。

勝が盲目のダークヒーローを演じて新境地を開いた1960年の主演作『不知火検校』は、本シリーズの先駆け的作品と見なされている[1][2]

概要

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原作の座頭市

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子母澤寛1948年に雑誌「小説と読物」へ連載した掌編連作『ふところ手帖』の1篇『座頭市物語』が原作である。後年子母澤は語ったところによれば、江戸時代に活躍した房総地方侠客である飯岡助五郎について取材するため千葉県佐原市へ訪れた際に、飯岡にまつわる話の一つとして土地の古老から聞いた盲目の侠客座頭の市の話を元に記した。

『座頭市物語』が収録されている、子母澤寛の随筆集『ふところ手帖』は1961年に中央公論社から発売。1963年に同社から発売された子母澤寛全集へも収録、1975年には中公文庫ISBN 4122002435)、講談社から発売された子母澤寛全集へ収録されているなど、単行本の発売以来一貫して原作の閲覧・入手は容易である。

ところが、1973年に出版されたキネマ旬報社の『日本映画作品全集』において、項目執筆者の真淵哲が、(『座頭市物語』は)原作の『ふところ手帖』に1行、2行だけ記されたものであったと誤記し(実際は10ページほどある)、この誤りが様々な文献で引用されて広く信じられるようになった[3]

なお、映画化の際に、三隅研次犬塚稔といった映画人によって新たな人物像が構築され、さらに勝新太郎によってそれが脚色・肉付けされている。そのため、映画やテレビドラマを通じて流布している座頭市像と、原作とでは大幅な開きがある。

外見だけでも原作の座頭市は「もういい年配で、でっぷりとした大きな男」とされており、居合の名人なのは原作からだが「柄の長い長脇差」を差していたとされているが[4]、最大の違いは原作では市の戦闘場面が一切なく、居合も喧嘩を止める際や助五郎の元を出ていく際に脅しに使う程度で、助五郎が天保15年に別の侠客の繁蔵一家と戦った際も「目の見えねえ片輪までつれて来たと言われては、後々、飯岡一家の名折れになる」[5]と出陣しなかったとされている。

キャラクターとしての座頭市

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生まれは常陸の国、笠間。幼少の頃に病にかかった後、目が見えなくなったと本人は言う。描写等から、完全な盲目ではなく、明暗程度は判別できる。職業は揉み療治、現在でいうところのマッサージ師である。でっぷりとした中年男といわれ、演じる勝の外見そのものである。目が見えないハンデを克服するために、居合術を修め、その腕前は凄まじく、やくざの類はまったく相手にならず、剣術を極めた侍でも敵わないほどである。ただし目の見えない恐怖からか、殺気を持って近づく者は何者であっても反射的に斬ってしまう。 目が見えないためか、視覚以外の四感は非常に鋭く、勘だけで並みの人間より遥かに器用なことを行うことができるが、落とし穴など、気配のない物には弱い。 昔ながらの強きを挫き、弱きを助けるタイプのヤクザの親分からは下にも置かない待遇を受ける兄弟分だが、悪辣なヤクザからは命を狙われることも多い。「座頭市を斬れば、その価値は千両以上、関八州に名が轟く」等の理由で狙われたりすることもあるが、大概は目に余る悪行、弱い者苛めに、座頭市の方が怒って成敗する場合も多い。その鋭い感覚で、博打のサイコロの目や、花札の札を見破ることができ、イカサマの類は一切通用しない。また博打で稼いだ金は、困窮している者に快く分け与えたりもする。物腰は誰に対しても丁寧で優しい。

映画・座頭市シリーズ

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現在巷間に伝えられる座頭市の人となりは、大部分が勝新太郎主演の映画を製作する時に作られたものである。また、原作の長ドス仕込み杖としたのも勝のアイデアである。

平手造酒との甘えのない男同士の友情を底流とする1作目『座頭市物語』は三隅監督の作品となっているが、5作目以降は宿命を負わずニヒリズムも拒否した、ある種の「諦観」が勝の味となっている。

勝の主演での劇場版最大のヒット作は1970年の『座頭市と用心棒』。それまで大スターの共演はなかった座頭市シリーズだが、この作品には三船敏郎若尾文子が出演している。黒澤明の『用心棒』『椿三十郎』に出演した三船演じる用心棒と、勝の座頭市とが、敵味方に対峙して出演。当初、三船は友情出演程度のオファーであったと思っており、本当に対決するとは思わず、タイトルに「用心棒」と入っていたことに大変驚いたという。当時は「時代劇ビッグスター・頂上対決」として、大きな話題となった。三船を立てるためもあって、その盟友である岡本喜八を初の社外監督として招いての大作仕立てであったが、絵コンテを切って全構図とカッティングを自分が決めるスタイルの岡本は、大映の主ともいえる宮川一夫カメラマンの口出しを一切許さず、撮影はかなり険悪な雰囲気で行われたといわれる。時間に厳格な東宝撮影所で育った岡本と三船の二人だけが定時前に出勤し、なかなか出てこない大映スタッフに苛立つ場面も見られた。キャストにもいわゆる喜八ファミリーと呼ばれる岡本作品の常連俳優が数多く並んだが、その一人岸田森はこの後、勝とも親密な関係となった。

市の仕込み杖は15作目の刀鍛冶によって「下野の高辰」という5本の指に数えられる刀鍛冶の一人の作であることが判明する。

1960年代の映画シリーズの音楽の殆どは伊福部昭が担当した。

1989年には勝新太郎の監督による『座頭市』が公開された。しかし、立ち回りの撮影中に勝の長男である鴈龍太郎(奥村雄大)の真剣が出演者の頸部に刺さり、頸動脈切断で死亡する事故が起きたり、公開翌年には勝新太郎がコカイン所持で逮捕されるなどして、映画(および勝)の周辺にはトラブルが絶えなかった。『座頭市2』の企画がしばしば話題に出ることがあったものの、勝の逮捕が影響してか新作企画はいずれも頓挫したようであり、本作が勝新太郎による最後の製作映画となった。

大映の座頭市シリーズの人気により、他社から亜流ともいえる作品が生み出された。東映は、1963年に東千代之介主演の『めくら狼』を製作・配給[6]松竹は、松山容子主演の京都映画『めくらのお市』シリーズ3作を1969年に配給した。

映画・日本国外での評価

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黒澤明の映画を始めとする日本の時代劇は日本国外でも高く評価され、『子連れ狼』と並んで、座頭市シリーズの影響を公言する映画監督も少なくない。こうした影響力の代表的なものが、1967年に公開された『座頭市血煙り街道』を元にして、アメリカで製作された映画『ブラインド・フューリー』である。

1970年代香港で製作された多くのカンフー映画武侠映画への影響力は強いものがあった[7][8]。中でもその影響力を顕著に現したのが1971年に製作された『新座頭市・破れ!唐人剣』であった。この作品の劇中で座頭市が対峙する片腕の唐人剣士(ジミー・ウォング)は、武侠映画『片腕必殺剣』シリーズの人気キャラクターであり、盲目というハンデキャップを背負いながらも超人的な武術を体得した座頭市をモデルに創作されたものである。文字通り『新座頭市・破れ!唐人剣』は夢の共演を実現した作品であった。ブルース・リー主演の『ドラゴンへの道』についても座頭市からの影響を指摘する声がある[9]

キューバでの評価も高い。1958年のキューバ革命以後、キューバではハリウッド映画の輸入が禁じられたため、日本映画が頻繁に公開された。そのなかで1967年に初上映された『座頭市』シリーズはもっとも公開回数が多く、勝演じるハンデキャップを抱えた孤高の剣士座頭市に、キューバ国民は自らの置かれた境遇を重ね合わせ、熱狂的に支持されたという。[10]

座頭市の関連作品

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劇場版作品

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テレビドラマ

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舞台

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※主演はいずれも勝新太郎。

  • 「座頭市物語」(1962年11月)
    • 同時上演:別れ囃子、悪名、雲の別れ路
  • 「座頭市物語」(1968年9月1日 - 9月25日)
    • 名古屋・御園座、勝新太郎・朝丘雪路特別公演。同時上演:風流深川唄
  • 「座頭市喧嘩ばやし・座頭市物語」(1972年9月1日 - 9月25日)
    • 東京・明治座。同時上演:好食の草紙、風流深川唄

音楽作品

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※歌唱はいずれも勝新太郎(「不思議な夢/野良犬」を除く)。

アルバム

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シングル

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  • 座頭市の唄
  • 座頭市子守唄
  • おてんとさん 
  • 不思議な夢/野良犬(石原裕次郎

グラビア版

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1992年篠山紀信撮影による座頭市が週刊現代グラビアへ掲載された。

このグラビア版・座頭市は、勝新太郎をはじめ、太地喜和子や勝の父である杵屋勝東治などらも参加したフォトセッションであり、中には東京都庁をバックに撮影されたものも含まれた。作品の数点は、篠山が2000年に発表した写真集『アイドル』に収められている。

リメイク作品

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映画

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舞台

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その他

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パチンコ

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漫画

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エピソード

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勝新太郎主演の座頭市は、日本国外でも高い評価を得た。後に、勝がハワイで、パンツの中にコカインを隠し持って逮捕された時には、国外退去処分が決まるまでの間、マスコミ等から逃れるために、座頭市を捩ったサトイチと名乗って、雲隠れしていたといわれる。

出典

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  1. ^ 木全公彦 (2013年1月31日). “『日本映画の玉(ギョク)』 座頭市・その魅力【その1】”. 映画の國. 2024年3月26日閲覧。
  2. ^ 森一生 - KINENOTE
  3. ^ 縄田一男「総目録の名に恥じぬ大作 日本劇映画総目録」『週刊新潮』2008年10月30日号(新潮社)。
  4. ^ ふところ手帖, p. 130.
  5. ^ ふところ手帖, p. 134- 市のセリフより。
  6. ^ 笠原和夫『昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫』太田出版、2002年、p146.
  7. ^ 四方田犬彦『日本映画史100年』集英社新書、2000年、p165.
  8. ^ 轟夕起夫『轟夕起夫の映画あばれ火祭り』河出書房新社、2002年、p12.
  9. ^ 映画秘宝Vol.3 ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進』洋泉社、2001年、p183。
  10. ^ 『朝日新聞』11月6日朝刊文化欄
  11. ^ “六本木歌舞伎、新作は海老蔵&寺島しのぶ!三池崇史×リリー・フランキー版座頭市”. ステージナタリー. (2016年10月23日). https://natalie.mu/stage/news/206523 2016年10月24日閲覧。 

参考文献

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  • 子母澤寛『ふところ手帖』中央公論新社中公文庫ワイド版〉、2006年。ISBN 4-12-552209-X 

関連項目

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