コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

川上弘美

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
川上 弘美
(かわかみ ひろみ)
2023年6月20日、デンマークにて
誕生 山田 弘美(やまだ ひろみ)
(1958-04-01) 1958年4月1日(66歳)
日本の旗 日本東京都
職業 小説家
言語 日本語
国籍 日本の旗 日本
教育 学士(理学)
最終学歴 お茶の水女子大学理学部生物学科
活動期間 1994年 -
ジャンル 小説随筆
代表作蛇を踏む』(1996年)
『溺レる』(1999年)
センセイの鞄』(2001年)
真鶴』(2006年)
水声』(2014年)
『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』(2023年)
主な受賞歴 パスカル短篇文学新人賞(1994年)
芥川龍之介賞(1996年)
紫式部文学賞(1999年)
ドゥマゴ文学賞(1999年)
伊藤整文学賞(2000年)
女流文学賞(2000年)
谷崎潤一郎賞(2001年)
芸術選奨(2007年)
読売文学賞(2015年)
泉鏡花文学賞(2016年)
紫綬褒章(2019年)
野間文芸賞(2023年)
デビュー作 『神様』(1994年)
配偶者 離婚
子供 あり
ウィキポータル 文学
テンプレートを表示

川上 弘美(かわかみ ひろみ、旧姓:山田、1958年4月1日 - )は、日本小説家東京都生まれ。大学在学中よりSF雑誌に短編を寄稿、編集にもたずさわる。高校の生物科教員などを経て、1994年、短編「神様」でパスカル短篇文学新人賞を受賞。1996年「蛇を踏む」で芥川賞受賞。

幻想的な世界と日常が織り交ざった描写を得意とする。作品のおりなす世界観は「空気感」と呼ばれ、内田百閒の影響を受けた独特のものである[1]。その他の主な作品に『溺レる』、『センセイの鞄』、『真鶴』、『水声』など。

俳人でもあり(デビューと前後し、ネットで知り合った仲間と俳句を始めた[1]小澤實主宰の『澤』に投句しているほか、長嶋有らとともに句誌『恒信風』で句作活動をしている。

経歴

[編集]

東京都に生まれる。父親は東京大学教授(生物学)の山田晃弘[2]。3歳のときに杉並区に移る[3]。5歳から7歳までを父親の赴任先であるアメリカ合衆国で過ごす。公立小学校3年生のときに1学期間を休む病気にかかり、このときに家で児童文学を読み始めたことから読書家になる[4]。5年生のときに雙葉小学校の編入試験を受け入学[5]雙葉中学校・高等学校を卒業後、お茶の水女子大学理学部生物学科に入学し、「お茶水女子大学SF研究会」に所属。同時期に松尾由美、のちの漫画家湯田伸子がメンバーにいた。

1980年、大学在学中に山野浩一発行・山田和子編集のニュー・ウェーブSF雑誌『季刊NW-SF』第15号にて、「小川項」名義の短編「累累」を掲載。次号第16号で旧姓「山田弘美」名義の短編「双翅目」を発表、また「女は自ら女を語る」という座談会にも編集者として加わっていた。

1980年に大学を卒業し、NW-SF社で働くが1982年『季刊NW-SF』が第18号で休刊。そのため、同年に田園調布雙葉中学校・高等学校生物教員となる。1986年までの4年間を勤め、退職。結婚・出産(息子が2人いる[6])ののち主婦を経て、1994年に「神様」でパソコン通信を利用したASAHIネット主催の第1回パスカル短篇文学新人賞を受賞。この回の選考委員は、井上ひさし小林恭二筒井康隆。なお、2009年に離婚している。

次いで1995年に「婆」が第113回芥川龍之介賞候補作品となり、翌1996年に「蛇を踏む」で第115回芥川龍之介賞を受賞。1999年、『神様』で第9回紫式部文学賞、第9回Bunkamuraドゥマゴ文学賞(審査員:久世光彦)。2000年、『溺レる』で第11回伊藤整文学賞、第39回女流文学賞を受賞。

2001年に第37回谷崎潤一郎賞を受賞した『センセイの鞄』では、中年女性と初老の男性との淡い恋愛を描きベストセラーとなった。同作品はWOWOWのオリジナルドラマ制作プロジェクト「ドラマW」により、久世光彦監督の演出、小泉今日子柄本明の共演でテレビドラマ化されている[7]

2007年、『真鶴(まなづる)』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。なお、本作は箱入りの装幀が話題となり、担当した大久保明子は第38回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞している[8]

2013年発表の2012年マン・アジア文学賞Man Asian Literary Prize)において『センセイの鞄』の英訳(The Briefcase)が、ノーベル文学賞受賞者のオルハン・パムクSilent Houseなど4作品と共に最終候補に残ったが、受賞は逃した[9][10]

2007年の第137回芥川賞から選考委員に就任。2023年現在、谷崎潤一郎賞の選考委員も務めている。また三島由紀夫賞の選考委員を、2007年度(第21回)~2018年度(第32回)まで務めた[11]

2015年、『水声』で第66回読売文学賞を受賞。 2016年、『大きな鳥にさらわれないよう』で第44回泉鏡花文学賞を受賞。 2019年紫綬褒章受章[12]2023年、『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』で第76回野間文芸賞を受賞[13]

作品

[編集]

小説・物語

[編集]

単行本

[編集]
  • 『物語が、始まる』中央公論社、1996年(中公文庫穂村弘解説、1999年)
  • 『蛇を踏む』文藝春秋、1996年(文春文庫松浦寿輝解説、1999年)
  • 『いとしい』幻冬舎、1997年(幻冬舎文庫宮田毬栄解説、2000年) - 書き下ろし
  • 『神様』中央公論社、1998年(中公文庫、佐野洋子解説、2001年)
  • 『溺レる』文藝春秋、1999年(文春文庫、種村季弘解説、2002年)
  • 『おめでとう』新潮社、2000年(新潮文庫池田澄子解説、2003年/文春文庫、2007年)
  • 『椰子・椰子』 (山口マオ絵)小学館、1998年(新潮文庫、南伸坊解説、2001年) - 文庫版には書き下ろし作品「ぺたぺたさん」収録
  • センセイの鞄平凡社、2001年(文春文庫、木田元解説、2004年/新潮文庫、斎藤美奈子解説、2007年)
  • 『パレード』(吉富貴子絵)平凡社、2002年(新潮文庫、鶴見俊輔解説、2007年) - 『センセイの鞄』の番外編
  • 『龍宮』文藝春秋、2002年(文春文庫、川村二郎解説、2005年)
  • 『光ってみえるもの、あれは』中央公論新社、2003年(中公文庫、2006年)
  • ニシノユキヒコの恋と冒険』新潮社、2003年(新潮文庫、藤野千夜解説、2006年)
  • 『古道具 中野商店』新潮社、2005年(新潮文庫、2008年)
  • 『夜の公園』中央公論新社、2006年(中公文庫、2009年)
  • 『ざらざら』マガジンハウス、2006年(新潮文庫、吉元由美解説、2011年)
  • 『ハヅキさんのこと』講談社、2006年(講談社文庫、2009年)
  • 真鶴』文藝春秋、2006年(文春文庫、2009年)
  • 『風花』集英社、2008年(集英社文庫小池真理子解説、2011年)
  • 『どこから行っても遠い町』新潮社、2008年(新潮文庫、松家仁之解説、2011年)
  • 『これでよろしくて?』中央公論新社、2009年(中公文庫、2012年)
  • 『パスタマシーンの幽霊』マガジンハウス、2010年(新潮文庫、高山なおみ解説、2013年)
  • 句集『機嫌のいい犬』集英社、2010年
  • 『天頂より少し下って』小学館、2011年(小学館文庫平松洋子解説、2014年)
  • 『神様 2011』講談社、2011年
  • 『七夜物語』朝日新聞出版、2012年(朝日文庫にて上・中・下、村田沙耶香解説、2015年)
  • 『なめらかで熱くて甘苦しくて』新潮社、2013年(新潮文庫、辻原登解説、2015年)
  • 『猫を拾いに』マガジンハウス、2013年(新潮文庫、壇蜜解説、2018年)
  • 水声』文藝春秋、2014年(文春文庫、2007年)
  • 『大きな鳥にさらわれないよう』講談社、2016年(講談社文庫、岸本佐知子解説、2019年)
  • 『このあたりの人たち』スイッチ・パブリッシング、2016年(文春文庫、古川日出男解説、2019年)
  • 『ぼくの死体をよろしくたのむ』小学館、2017年(新潮文庫、2022年)
  • 『森へ行きましょう』日本経済新聞出版社、2017年(文春文庫、皆川明解説、2020年)
  • 『某』幻冬舎 2019年(幻冬舎文庫、2021年)
  • 『三度目の恋』中央公論新社、2020年(中公文庫、千早茜解説、2023年)
  • 『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』講談社、2023年
  • 『明日、晴れますように 続七夜物語』朝日新聞出版、2024年

選集収録

[編集]
  • 「横倒し厳禁」 『LOVERS安達千夏ほか共著、祥伝社、2001年6月(祥伝社文庫、2003年9月)
  • 「一実ちゃんのこと」『Teen Age』 角田光代ほか共著、双葉社、2004年11月 - 初出『小説推理』2001年6月号、双葉社
  • 「ミナミさん」『人魚の鱗 Short Fantasy Stories ファンタジーの宝箱 vol.1』 産経新聞文化部編、全日出版、2004年9月
  • 「天頂より少し下って」『恋愛小説』 新潮社、2005年1月(新潮文庫、2007年2月) - 初刊はサントリーウイスキーのおまけ『新潮ハーフブック』新潮社、2004年11月
  • 「夜のドライブ」『あなたと、どこかへ。 eight short stories』 吉田修一ほか共著 文藝春秋、2005年5月 - 初出は日産TEANAスペシャル・サイト
  • 「不本意だけど」『空を飛ぶ恋 ケータイがつなぐ28の物語』 新潮社編、新潮文庫、2006年6月
  • 「アクティビティー太極拳」『Seven Stories 星が流れた夜の車窓から』井上荒野ほか共著 文藝春秋、2023年4月

評論・随筆

[編集]

単行本(評論・随筆)

[編集]
  • 『あるようなないような』 中央公論新社、1999年11月(中公文庫、2002年10月)
  • 『なんとなくな日々』 岩波書店、2001年3月(新潮文庫、2009年)
  • 『ゆっくりさよならをとなえる』 新潮社、2001年11月(新潮文庫、2004年12月)
  • 『此処 彼処(ここ かしこ)』 日本経済新聞社、2005年10月(新潮文庫、2009年9月)
  • 『晴れたり曇ったり』 講談社、2013年7月(講談社文庫、2017年)
  • 『わたしの好きな季語』NHK出版、2020年11月

選集収録(評論・随筆)

[編集]
  • 「へへん。」『花祭りとバーミヤンの大仏 ベスト・エッセイ2003』 日本文藝家協会編、光村図書出版、2003年
  • 「うしろ頭」『母のキャラメル』 日本エッセイスト・クラブ編、文春文庫、2004年
  • 「町内十番以内」『犬のため息 ベスト・エッセイ2004』 日本文藝家協会編、光村図書出版、2004年
  • 「茗荷谷の鳥おじさん」『成り行きにまかせて ベスト・エッセイ2005』 日本文藝家協会編、光村図書出版、2005年
  • 「ふいうち」『意地悪な人 ベスト・エッセイ2006』 日本文藝家協会編、光村図書出版、2006年

日記

[編集]
  • 東京日記 卵一個ぶんのお祝い。』 (門馬則雄絵) 平凡社、2005年9月
  • 東京日記2 ほかに踊りを知らない。』 (門馬則雄絵) 平凡社、2007年11月
    • 『東京日記1+2:卵一個ぶんのお祝い。/ ほかに踊りを知らない。』集英社文庫、沼田真佑解説、2018年。
  • 東京日記3 ナマズの幸運。』 (門馬則雄絵) 平凡社、2011年1月
  • 東京日記4 不良になりました。』 (門馬則雄絵) 平凡社、2014年2月
  • 東京日記5 赤いゾンビ、青いゾンビ。』 (門馬則雄絵) 平凡社、2017年4月
  • 東京日記6 さよなら、ながいくん。 』 (門馬則雄絵) 平凡社、2021年3月
  • 『東京日記7 館内すべてお雛さま。 』 (門馬則雄絵) 平凡社、2023年3月

対談

[編集]
  • 「面白さをきわめたい」『筒井康隆かく語りき』筒井康隆著、文芸社、1997年 - 筒井康隆との対談
  • 「昆虫のお話」『経験を盗め』糸井重里著、中央公論新社、2002年 - 矢島稔、糸井重里との対談
  • 武田百合子河出書房新社KAWADE夢ムック〉2004年 - 村松友視との対談
  • 「心の行方――科学的見方と宗教の人間観」『山折哲雄こころ塾』山折哲雄述、読売新聞大阪本社編、東方出版、2004年 - 山折哲雄との対談
  • 「憧れの寿司屋の暖簾をくぐる幸福」『畏敬の食』小泉武夫著、講談社、2006年 - 小泉武夫との対談
  • 「恋愛小説家の仕事」『田辺聖子全集 別巻 1』 田辺聖子ほか共著、2006年

文庫解説・書評

[編集]
  • 『暗闇のスキャナー』サンリオSF文庫フィリップ・K・ディック著)1980年7月 - 山田弘美名義
  • 『パプリカ』 中公文庫 (筒井康隆著) 1997年4月
  • 『すいかの匂い』 新潮文庫 (江國香織著) 2000年7月
  • 『謎の母』 新潮文庫 (久世光彦著) 2001年7月
  • 『百鬼園随筆』 新潮文庫 (内田百閒著) 2002年5月
  • 『ターン』 新潮文庫 (北村薫著) 2007年7月
  • 『偶然の祝福』 角川文庫 (小川洋子著) 2004年1月
  • 『パレード』 幻冬舎文庫 (吉田修一著) 2004年4月
  • 『花芯』 講談社文庫 (瀬戸内寂聴著) 2005年2月
  • 『大好きな本:川上弘美書評集』朝日新聞社、2007年9月/文春文庫、2010年。 - 朝日新聞、読売新聞での書評他を収録

翻訳

[編集]

作品提供

[編集]

映画

[編集]

テレビドラマ

[編集]

関連資料

[編集]

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b 「内田百閒から文体、俳句から言葉の扱い方を学んだ」…川上弘美さん”. 読売新聞オンライン (2023年9月22日). 2023年12月20日閲覧。
  2. ^ 日本経済新聞2023年4月12日朝刊44面「リケジョの先輩」加藤美砂子
  3. ^ インタビュー 作家 川上弘美さん東京弁護士会
  4. ^ 川上弘美さん、子供時代の病気から本好きに…愛読したのは「赤毛のアン」”. 読売新聞オンライン (2023年9月8日). 2023年12月20日閲覧。
  5. ^ 新中学生へのメッセージ 川上 弘美さん | 朝日小学生新聞 特別増刊号 WILLナビNext(首都圏版)
  6. ^ 新中学生へのメッセージ 川上 弘美さん | 朝日小学生新聞 特別増刊号 WILLナビNext(首都圏版)”. willnavi.jp. 2023年12月20日閲覧。
  7. ^ "ドラマ「センセイの鞄」"WOWOW
  8. ^ "装丁家・大久保明子さん:一冊一冊を記憶に残すベストセラーのデザイン."web「好書好日」2021年3月21日付. 2024年3月14日閲覧。
  9. ^ Alison Flood (January 9, 2013). “Man Asian literary prize shortlist stages Booker re-match”. The Guardian. September 4, 2014閲覧。
  10. ^ Joyce Lau (January 10, 2013). “The Last Man Asian Literary Prize”. The New York Times. September 4, 2014閲覧。
  11. ^ "三島由紀夫賞受賞作・候補作一覧."web文学賞の世界.2024年3月14日閲覧。
  12. ^ 【紫綬褒章】作家の川上弘美さん「違う世界見える瞬間書きたい」 - 産経新聞ニュース - 2019年4月20日 2019年4月20日閲覧
  13. ^ 野間文芸賞に川上弘美さん 新人賞に朝比奈秋さんと九段理江さん”. 毎日新聞 (2023年11月6日). 2023年11月7日閲覧。
  14. ^ "書誌情報"国立国会図書館サーチ. 2024年3月14日閲覧。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]

「ほぼ日」上のページ