低アミロース米
低アミロース米(ていアミロースまい)とは、通常のうるち米に比べてアミロースの含有量が少ない米である。アミロースは少ないがアミロペクチンが多いため、粘りが強く、冷めてもあまり食味が低下しないのが特徴である。なお、イネの胚乳の形質は「粳(うるち)」か「糯(もち)」で分類されるため、あくまでも「うるち米のうち、アミロース含有量が少ないもの」が低アミロース米である。
概要
[編集]低アミロース米ではない、通常のうるち米のアミロース含有量は17 - 23%とされるが、低アミロース米のアミロース含有率は5 - 13%ほどとされる[1]。
しかし、アミロース含有量は気候変動の影響を受け、高温年だと低く低温年だと高くなる傾向があり、必ずしも同一品種なら同じアミロース含有量であるとは限らないため、アミロース含有量は一つの目安である[2][3]。
なお、もち米のアミロースは気候変動にかかわらずほぼ0%である。
低アミロース米を指して「半糯(もち)」、「半もち」と呼称する事がある[4]ため、一部で「糯(モチ)品種の血が混じっている(モチ系の品種)」と誤解されることがある。イネの胚乳の粳・糯性は「wx座」と呼ばれる遺伝子座にある一対の対立遺伝子「Wy(粳)」と「wx(糯)」によって支配されており、粳は糯に対して顕性(優性)である[5][3]。「Wy」には複数の種類があるが(インディカ種で見られる、高アミロースになるWya、ジャポニカ種で見られる比較的アミロース量が少なめになるWyb[3]等)、いずれも、wx(糯性)に対して完全優性であり交雑しても中間的な形質にはならない[6]。低アミロース性は粳・糯とは異なったwx座上の変異した対立遺伝子、もしくは全く別の遺伝子座「du座」上の対立遺伝子によって引き起こされるものである[5]。
低アミロース性の原因遺伝子がwx座上にある例としては「ミルキークイーン」及びその親戚・子孫品種[5]の低アミロース遺伝子「wx-mq」、「北海287号[7]」の子孫品種(おぼろづき、ゆめぴりか等)の「Wx1-1」等があり、その他の遺伝子座にあるものとしては「NM391」の子孫品種(彩,はなぶさ等)のdu遺伝子[5]、「北海PL9号」の子孫品種(ゆきむつみ等)の「qAC9.3」[7]等がある。
アミロースとアミロペクチン
[編集]米のデンプンはアミロースとアミロペクチンに分けられる。アミロースが少ない米は相対的にアミロペクチンが多くなる。アミロペクチンが多いとデンプンの粘性は高まる。
低アミロース米の品種
[編集]- 彩(あや) - 低アミロース米の奨励品種としては元祖の品種。
- ミルキークイーン
- ミルキープリンセス
- ゆきむすび
- 淡雪こまち
- 柔小町
- ほっかりん
- たきたて
- スノーパール
- シルキーパール
- ねばり勝ち
- ねばりごし
- 夢ごこち
- ゆめぴりか
- おぼろづき
- あやひめ
- 姫ごのみ
- はなぶさ
- 朝つゆ
- 秋雲
- 夏雲
- 秋音色
- 金のいぶき
- だて正夢
- あさゆき
- きらほ
- ぴかまる
- ソフト158
- LGCソフト
- まどか180
- いわた15号
高アミロース米
[編集]高アミロース米とは、通常においてアミロース含有率が25%を超えるものを指す[1]。アミロースが多いと米飯は硬く、粘りが少なくなる。通常の家庭用炊飯には適していないが、東南アジアの料理やピラフなどに向くほか、米粉や麺などの加工品として利用される。また、アミロースが多い米は栽培が難しく収量も少なくなる欠点がある。
代表的な品種は、「さち未来」「ホシユタカ」「越のかおり」「夢十色」「ホシニシキ」「ゆきひかり」「あきたぱらり」など。
脚注
[編集]- ^ a b 大坪研一「新形質米の特性とその利用例」『日本調理科学会誌』第35巻第4号、日本調理科学会、2002年、393-398頁、doi:10.11402/cookeryscience1995.35.4_393、ISSN 1341-1535、NAID 130004401033、NDLJP:10814501。
- ^ 舘山元春, 坂井真, 須藤充「イネ低アミロース系統の登熟気温による胚乳アミロース含有率変動の系統間差異」『育種学研究』第7巻第1号、日本育種学会、2005年3月、1-7頁、doi:10.1270/jsbbr.7.1、ISSN 13447629、NAID 110001818673。
- ^ a b c “平成 17年度「高度先進技術研修」 水稲研究開発の現状と今後の方向 : 米の品質構成要素の特性” (PDF). 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構. 2021年4月2日閲覧。
- ^ “暖地向き半糯水稲新品種「柔小町」 | 農研機構”. www.naro.go.jp. 2021年4月2日閲覧。
- ^ a b c d 佐藤宏之, 鈴木保宏, 奥野員敏, 平野博之, 井辺時雄「イネ品種「ミルキークイーン」の低アミロース性の遺伝子分析」『育種学研究』第3巻第1号、日本育種学会、2001年3月、13-19頁、doi:10.1270/jsbbr.3.13、ISSN 13447629、NAID 110001808227。
- ^ 榎本中衞「水稻に於ける粳糯性の突然變異」『遺伝學雑誌』第5巻第1-2号、日本遺伝学会、1929年、49-72頁、doi:10.1266/jjg.5.49、ISSN 0021-504X、NAID 130000059646。
- ^ a b “水稲系統「北海287号」「北海PL9」の低アミロース性遺伝子と選抜マーカー”. www.naro.affrc.go.jp. 2021年4月2日閲覧。