ミルキークイーン
ミルキークイーンは、イネの栽培品種及び米の銘柄名の一つ。コシヒカリを基に日本で育成された低アミロース品種である。コシヒカリと同等の形態・生態的特性や栽培特性を持ち、東北地方南部が栽培の北限となっている。農林登録番号は水稲農林332号。本品種は農林水産省の「需要拡大のための新形質水田作物の開発[1]」プロジェクト(スーパーライス計画)の一環で育成開発されたもの[2]である。
食味
[編集]玄米はやや白濁している。炊飯すると光沢がよく、アミロース含量は佐藤ら(2001年)によれば9.5~11.1%[3](同研究によればコシヒカリは22.3~23.5%[3])であり粘り強い。通常の米よりも軟らかくなりやすいため加水量を10~15%ほど減らすと適度な硬さが得られ[4]、冷えた後も硬くなりにくい。炊飯米の食味は日本晴より総合的に優れており、白飯やおにぎり、炊き込みご飯の他、膨化性や風味が良くチルド米や米菓にも適しているが、粥、寿司には不向きと思われる[4]。
なお、ミルキークイーンの低アミロース性は胚乳の糯性・粳性を決定する遺伝子座「wx」にある遺伝子の変異が原因であることが判明しており[3]、原因遺伝子は「wx-mq」と名付けられた[5]。
開発の経緯
[編集]胚乳のアミロースを低下させて粘り強く食味の良い米を得るため[6]、1985年に農研機構(旧農業研究センター・稲育種法研究室)で研究が始まった。同年にコシヒカリに受精卵のメチルニトロソウレア(MNU、ニトロソウレア誘導体)突然変異原処理を行い[4][6]、5個体から650粒の種子が得られた。
翌1986年にM1世代を養成して1987年にはM2世代を圃場で栽培し、各個体から採種した穂について玄米の白濁を調べて選抜した結果、半糯突然変異の2個体を得た。これを受けて1988年から系統栽培を行ない、1990年から生産力検定試験を始めている。また1991年から一方の系統を「鴻271」と名付けて生産力および特性検定試験に供試し、1992年に「関東168号」と命名して各府県に配布して地域適応性を検討した。1995年にはM10世代が育てられ、1998年に「水稲農林332号」として品種登録された。
栽培特性
[編集]基本的に栽培特性はコシヒカリと同様で南東北以南に適応し、関東地方では出穂期・成熟期とも早生の晩に属する。倒伏しやすいため、多肥栽培を避け適期に刈入れる事が推奨されており、いもち病への耐性も弱い。耐冷性は極めて強く、穂発芽性や脱粒性は難である。収量性はコシヒカリよりやや低い。米粒の形状・サイズなど外観品質はコシヒカリ並だが、玄米は基本的に白濁し不透明となる[4]。
形態的には、稈長は長く穂長・穂数は中程度で、草型は中間型。粒着密度は中密で、先色は黄白となる。
関連品種
[編集]親戚・子孫品種
[編集]交配組合せは「母×父」の順。全てミルキークイーンと同様に変異遺伝子「wx-mq」を保有している。
親戚品種
[編集]子品種
[編集]- ミルキーサマー[8] - 和系243(出穂遺伝子Hd1を持つコシヒカリの早生同質遺伝子系統)×ミルキークイーン。出穂期が育成地では「ミルキークイーン」より13日、「あきたこまち」より3日早い"極早生"熟期。2009年公表。
- ミルキーオータム[9] - 関東HD2号(出穂を晩生化する遺伝子Hd5を持つコシヒカリの晩生同質遺伝子系統)×ミルキークイーン。育成地における出穂期が、「ミルキークイーン」よりそれぞれ8日遅く、「日本晴」並の"やや晩"である。2017年公表。
孫品種
[編集]脚注
[編集]- ^ 春原嘉弘(東北農業試験場) (1990年12月). “スーパーライス計画の背景と展望” (PDF). 東北農業研究 別号3. 東北農業試験研究協議会. pp. 5-13. 2018年7月6日閲覧。
- ^ “水稲の品種開発” (PDF). 農林水産省. p. 2 (2008年3月). 2010年4月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年7月5日閲覧。
- ^ a b c 佐藤、2001年、P.15
- ^ a b c d “イネ品種 データベース 検索システム 「 関東168号( ミルキークイーン ) 」 品種情報 ”. ineweb.narcc.affrc.go.jp. 2021年3月16日閲覧。
- ^ Sato, Hiroyuki; Suzuki, Yasuhiro; Sakai, Makoto; Imbe, Tokio (2002). “Molecular Characterization of Wx-mq, a Novel Mutant Gene for Low-amylose Content in Endosperm of Rice (Oryza sativa L.)”. Breeding Science 52 (2): 131–135. doi:10.1270/jsbbs.52.131. ISSN 1344-7610 .
- ^ a b 佐藤、2001年、P.13
- ^ 佐藤宏之, 井辺時雄, 根本博, 赤間芳洋, 堀末登, 太田久稔, 平林秀介, 出田収, 安東郁男, 須藤充, 沼口憲治, 高舘正男, 平澤秀雄, 坂井真, 田村和彦, 青木法明「低アミロース米新品種「ミルキープリンセス」の育成」『作物研究所研究報告』第9号、農業技術研究機構作物研究所、2008年3月、63-79頁、ISSN 13468480、NAID 40016082523。
- ^ “ミルキーサマー | 農研機構”. www.naro.affrc.go.jp. 2021年3月29日閲覧。
- ^ “ミルキーオータム | 農研機構”. www.naro.affrc.go.jp. 2021年3月29日閲覧。
- ^ “イネ品種 データベース 検索システム 「 ふ系228号( あさゆき ) 」 品種情報 ”. ineweb.narcc.affrc.go.jp. 2021年3月29日閲覧。
参考文献
[編集]- 佐藤宏之, 鈴木保宏, 奥野員敏, 平野博之, 井辺時雄「イネ品種「ミルキークイーン」の低アミロース性の遺伝子分析」『育種学研究』第3巻第1号、日本育種学会、2001年3月、13-19頁、doi:10.1270/jsbbr.3.13、ISSN 13447629、NAID 110001808227。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 稲「ミルキークイーン、ミルキープリンセス」 | 農研機構 (affrc.go.jp) - 品種紹介パンフレット
- (研究成果) ミルキークイーン3姉妹で作期分散 | 農研機構 (affrc.go.jp)