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ミヤマスミレ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ミヤマスミレ
花をつけたミヤマスミレ、両白山地の白山(岐阜県大野郡白川村)にて、2013年6月25日撮影
ミヤマスミレ、白山岐阜県大野郡白川村)、2013年6月
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
: キントラノオ目 Malpighiales
: スミレ科 Violaceae
: スミレ属 Viola
: ミヤマスミレ V. selkirkii
学名
Viola selkirkii Pursh ex Goldie[1]
和名
ミヤマスミレ
品種
  • Viola selkirkii Pursh ex Goldie f. alba Tatew. シロバナミヤマスミレ[2]
  • Viola selkirkii Pursh ex Goldie f. subglabra (W.Becker) M.Mizush. ハダカミヤマスミレ[3]
  • Viola selkirkii Pursh ex Goldie f. variegata (Nakai) F.Maek. フイリミヤマスミレ[4]

ミヤマスミレ(深山菫、学名Viola selkirkii Pursh ex Goldie[1])は、スミレ科スミレ属分類される多年草の1[5][6][7][8][9][10]

特徴

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地上はなく、細長い根茎から花後に匐枝を出し[6]、先端に新苗をつける[7]。3-5個[10]根生葉は薄く、淡緑色、長さ2-3 cm、幅2-2.8 cm、先端が尖り、基部は深く湾入し、状に張り出した部分がくっきり互いに重なる場合もある[5]。縁に粗い波状の鋸歯がある[5]葉身はハート形[6]。基部には皮針形の托葉がある[10]葉柄は長さ3-10 cm、花茎は根生葉の間から伸びて高さ5-8 cm、薄紅紫色のやや大きい[8]を1個つける[5]花弁は長さ1.2-1.5 cm、5弁、2個上弁は斜立ち、2個の側弁は斜めに垂れ無毛、唇弁は側弁とほぼ同長で濃紫色の線があり[9]は長さ6-8 mmと長い[5]片は5個、長さ5-7 mm[10]、披針形[8]。葉柄、花柄と萼片にまばらに毛があるをつける[7]。花期は5-6月[6][7][8]蒴果は長い楕円形、長さ8-10 mm、熟すと3裂して種子を散らす[10]染色体数は2n=12、24(2倍体、4倍体)[6]ホソバヒョウモンカラフトヒョウモンなどの幼虫食草としている[11]

学名に関して

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本種の種小名である selkirkii は「Selkirk氏の」の意味に取れ、つまりSelkirkという人物にちなんで命名した、と取れる。この人名が誰であるかについては2説がある。1つはロビンソン・クルーソーのモデルとなったとされるアレキサンダー・セルカークとするもので、もう1つはスコットランド、セルカーク州の領主、トーマス・ダグラス・セルカーク伯に由来するというものだ。後者は囲い込み運動で土地を奪われたスコットランドの貧しい農民のためにカナダに広大な植民地を建設したことでよく知られている[12]

牧野の図鑑では前者が採用されているように見える。昭和15年の版では本種の記述には種小名については何も述べていない[13]が、後の版、例えば牧野(1986)では種小名について「ロビンソン・クルーソーのセルカークにちなんでいるという説もある」と述べた後に何故か「原産地はカーク卿が所有した山」との、他の部分との関連が不明な一文が付随している。

ただしこの部分は最新のものでは手が加えられており、牧野原著(2017)ではやはりアレクサンダー・セルカークを元とするとの説明と共に「この種が人里離れた深山に生息」している事によるとの理由付けを書いてある。が、同時に原産地についてはセルカーク卿の所有する山であったと書いており、むしろこちらが「その名の起源であろう」としている[14]。この加筆がどのような由来を持つかは不明であるが、最初から「カーク卿」の語が含まれていたことから見ると、牧野は両方の説を知っていたのであろう。

いがりまさし(2008)では前者についてはまったく触れず、後者のみが取り上げられている。それによるとこの種の記載はゴールディーによるが、その同定フレデリック・パーシュにより、彼はこの学名をゴールディーに指示したという。パーシュとセルカーク伯は3歳違いの同年代であり、当然パーシュは伯を知っていたろうといがりまさしは推定しているが[† 1]、それ以上の事情については明確な記述はない[12]

分布と生育環境

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山地上の林縁に生育するミヤマスミレ

北半球北部(ヨーロッパシベリア北アメリカなど[8])の温帯から亜寒帯にかけて広く分布する[5][7][16][9]基準標本は、カナダケベック州モントリオール付近のもの[5][6]

日本では、北海道本州中部地方以北、広島県)、四国徳島県[7])、九州(中部[7])に分布する[5]

亜高山帯から山地帯にかけての明るい[6]やや湿り気のある[10]林縁や草地に生育する[5]

分類

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以下の品種が知られている。

  • シロバナミヤマスミレ(白花深山菫、学名:Viola selkirkii Pursh ex Goldie f. alba Tatew.[2] - 白色の花をつける品種[5][6]
  • ハダカミヤマスミレ(裸深山菫、学名:Viola selkirkii Pursh ex Goldie f. subglabra (W.Becker) M.Mizush.[3] - 基準型は葉の表面と裏面の脈上に粗毛が散生し、葉柄や花柄、萼片にもまばらに毛があるが、葉身の基部と葉柄の上端のみに短毛がある品種[5][6]
  • フギレミヤマスミレ(学名:Viola selkirkii Pursh ex Goldie f. lacinaata}) - 葉の縁の切れ込みが深いものを本品種として扱われることがある[5]
  • フイリミヤマスミレ(斑入深山菫、学名:Viola selkirkii Pursh ex Goldie f. variegata (Nakai) F.Maek.[4] - 葉脈に沿って白い斑紋のある品種[6]変種(var. variegata)として扱われることもある[5]。基準標本は朝鮮半島北部と北海道のもの[5]

種の保全状況評価

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日本では以下の都道府県で、レッドリストの指定を受けている。静岡県奥大井県立自然公園の特別地域などで、捕獲や採取等を規制する植物の指定を受けている[17]

脚注

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注釈

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  1. ^ 実際に、1816年にパーシュはセルカーク伯のレッド・リバー・バレーへの探検に博物学者として同行する契約をしている[15]

出典

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  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ミヤマスミレ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2018年5月27日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “シロバナミヤマスミレ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2018年5月27日閲覧。
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ハダカミヤマスミレ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2018年5月27日閲覧。
  4. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “フイリミヤマスミレ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2018年5月27日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n 豊国 (1988)、324-325頁
  6. ^ a b c d e f g h i j 清水 (2014)、187頁
  7. ^ a b c d e f g 林 (2009)、339頁
  8. ^ a b c d e 佐竹 (1982)、248頁
  9. ^ a b c 小野 (1987)、363頁
  10. ^ a b c d e f 前沢 (1970)、63頁
  11. ^ 須田 (2012)、189頁
  12. ^ a b いがりまさし(2008),p.170
  13. ^ 牧野(1977),p.314
  14. ^ 牧野原著(2017),p.719
  15. ^ Ewan, Joseph (Oct. 15, 1952). “Frederick Pursh, 1774-1820, and His Botanical Associates”. Proceedings of the American Philosophical Society. 5 96: 599–628. 
  16. ^ 牧野 (1982)、345頁
  17. ^ 奥大井県立自然公園特別地域で捕獲や採取等を規制する動植物” (PDF). 静岡県. pp. 2. 2018年5月27日閲覧。
  18. ^ 徳島県版レッドデータブック(レッドリスト)”. 徳島県. 2018年5月27日閲覧。
  19. ^ 山梨県 レッドデータブックの改訂 (平成30年3月公開)”. 山梨県. 2018年5月27日閲覧。
  20. ^ 静岡県版レッドリスト2017、レッドリスト植物” (PDF). 静岡県. pp. 3. 2018年5月27日閲覧。
  21. ^ 埼玉県レッドデータブック2011 植物編” (PDF). 埼玉県. pp. 126. 2018年5月27日閲覧。
  22. ^ レッドデータブック東京”. 東京都. 2018年5月27日閲覧。
  23. ^ 高知県レッドリスト(植物編):2010年改訂版<アイウエオ順>” (PDF). 高知県. pp. 46. 2018年5月27日閲覧。
  24. ^ 愛媛県レッドデータブック2014、「ミヤマスミレ」”. 愛媛県. 2018年5月27日閲覧。

参考文献

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  • 小野幹雄、林弥栄(監修) 編『原色高山植物大図鑑』北隆館、1987年3月30日。ISBN 4832600079 
  • 清水建美、門田裕一、木原浩『高山に咲く花』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑8〉、2014年3月22日。ISBN 978-4635070300 
  • 須田真一、永幡嘉之、中村康弘、長谷川大、矢野勝也 著、日本チョウ類保全協会 編『日本のチョウ』誠文堂新光社〈フィールドガイド〉、2012年4月30日。ISBN 978-4416712030 
  • 豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月。ISBN 4-635-09019-1 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年3月17日。ISBN 458253502X 
  • 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421 
  • 前沢秋彦『高山植物』保育社〈標準原色図鑑全集 11〉、1970年1月。ISBN 4586320117 
  • 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZENCID BN00811290全国書誌番号:85032603https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001728467-00 
  • 牧野富太郎、『復刻版 牧野日本植物圖鑑』、(1977)、北隆館
  • 牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
  • いがりまさし、『山渓ハンディ図鑑6 増補改訂 日本のスミレ』、(2008)、山と渓谷社

関連項目

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外部リンク

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