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ニホンジカ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ホンシュウジカから転送)
ニホンジカ
ニホンジカ
ニホンジカ Cervus nippon
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 偶蹄目/鯨偶蹄目 Artiodactyla/Cetartiodactyla
: シカ科 Cervidae
: シカ属 Cervus
: ニホンジカ C. nippon
学名
Cervus nippon Temminck, 1836[2][3]
シノニム[2]

Cervus sika Temminck, 1844[4]
Sika aplodontus Heude, 1884
Sika yesoensis Heude, 1884
Cervus centralis Kishida, 1936
Cervus pulchellus Imaizumi, 1970

和名
ニホンジカ[5][6][7]
英名
Sika[4]
Sika deer[6]
Japanese Sika deer
Japanese deer

ニホンジカ (Cervus nippon) は、哺乳綱偶蹄目(鯨偶蹄目とする説もあり)シカ科シカ属に分類される偶蹄類。

形態

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体長オス90 - 190 cm(センチメートル)、メス90 - 150 cm[6]。肩高オス70 - 130 cm、メス60 - 110 cm[6]。体重オス50 - 200 kg(キログラム)[8][9]、メス25 - 80 kg[6]。日本産動物としてはベルクマンの法則が顕著に表れることで有名で、北部個体群は大型になり、南部個体群は小型になる傾向がある。臀部は白い斑紋があり、黒く縁どられる[6]

頭胴長110 - 170 cm、尾長8 - 20 cm。全身は茶色だが、尻の毛は白く縁が黒い。夏には胴体に白点が出現し、冬になるとほぼなくなる。オスは枝分かれした角(枝角)を持ち、春先になると落下し新たな角に生え換わる。

生態

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反芻動物で生活リズムは安定しないとも言われるが、日出及び日没前後の時間帯が活発になるという報告が多く[10][11][12]、いわゆる薄明薄暮性(英:crepuscular)だとみられている。無人島での実験では狩猟圧が高くなると生活リズムを夜行性に変えることが示唆されている[13]

食性は植物質の強い雑食性である。クマやサルと違って木に登ることはないために、地上及付近のものを食べている。地域によって食物は若干異なり、落葉広葉樹林に生息する個体群はイネ科の草本、ササ類の葉、木の葉、堅果、樹皮などを食べ、常緑広葉樹林に生息する個体は周年木の葉を食べる[6]。雪が深いと地上のものではなく樹皮などを食べており[14]、無積雪期でも下層植生に乏しい場合には枯葉やササの茎などの栄養的には魅力のないものを食べているという[15][16] 。同様の事例はシカが嫌う植物でも観察されている。草食動物であるシカが増えると植生は変化し、高山帯ではマルバダケブキバイケイソウ類、アセビなどは毒があるために嫌って食べず、シカが多い山ではこれらの大群落が見られることがある。周りの植生を食べつくすとこれらの植物の内一部を食べる事例が観察されている。日本におけるシカが好む植物、嫌う植物リストは橋本・藤木(2020)の総説[17]に詳しい。

解剖学及び生態学的な草食動物の分類の一つにジャーマン・ベル原理(英:Jarman Bell principle)という考え方がある[18][19]。これは分類的に近い種でも小型の種類ほど果実などの質の良い餌を少量食べ、逆に大型のものは繊維質の質の低い餌を大量に食べる方向になるというものである。両者は消化管各部の大きさなどに違いが出るとして研究者たちから注目されてきた。シカ科の中ではニホンジカはこの中間的な性質を示し、どちらの食性にも対応できるという[20]

一般に草食動物と考えられているものの、糞から大量のケバエの幼虫の死骸が出てきた事例[21]、胃の内容物からサワガニが出てきた例[22]など雑食性を示唆する報告もある。海外ではシカ類が腐肉食を行う報告や動物の骨を齧る事例が知られているが、日本ではこの辺の研究は進んでいない。

通常は雌雄分かれて群れを作って行動する。開けた草原などでは大規模な群れを、森林では小規模で流動的な群れを形成し、群れがいる場所にも雌雄差がある[23]。メスの群れは母系集団で、群れで産まれたメスとその母親で構成される[6][5]。オスは生後1 - 2年で産まれた群れから独立する[6]。生後2年以上のオスはオスのみで群れを形成する[5]

繁殖様式は胎生。9月下旬から11月に交尾を行う[6]。繁殖期になると闘いによりオスの順位が決定し、一例として優位オスの割合と年齢は奈良公園では約20 %で生後5年以上・金華山で約5 %で生後10年以上の個体が多い[5]。奈良公園や金華山では優位のオスはメスの行動圏に縄張りを形成し、縄張り内から離れようとするメスに対して先回りして攻撃し囲いこむようになる[5]。奈良公園では劣位のオスも優位のオスの縄張りの周囲や縄張り内で隙をついて繁殖期に平均0.6頭のメスと交尾を行うこともあるが、金華山では劣位のオスはほぼ交尾することはできない[5]。一方で五島列島野崎島の例では優位オスが劣位の個体に対して縄張りを形成せず、複数のオスが発情したメスに群がりオス同士で争って強いオスが交尾を行う[5]。妊娠期間は約230日[6]。5月下旬から7月下旬に1頭の幼獣を産む[6]。最高寿命はオスは約15年、メスは約20年[6]

ヨーロッパの動物園で飼育中の雄成獣による子殺しが報告されている[24]

大型動物であるシカ類の遺体は多種の腐肉食動物によって利用されていることが、海外を中心に発表されている[25]が、栃木県のニホンジカの遺体における観察を記した論文が2020年に発表された。タヌキツキノワグマを中心に、イノシシイタチ類、猛禽類などが見られ、一部の種は腐肉を食べるのに季節性が見られたという[26]

オスは「フィー」と聞こえる鳴き声を発し求愛を行う。子は生後2年で性成熟する。

分布

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北東アジアからインドシナ半島にかけて広く分布するが、大陸の分布地は細切れで絶滅した個体群も多い。ベトナム台湾朝鮮半島の野生個体群は絶滅したと考えられている。ロシア極東、中国内陸部および南部に点々と分布地があり、まとまった面積で分布しているのは日本列島のみである。日本では北海道から本州四国および九州に分布。また周辺の島にも分布する。

ヨーロッパおよびアメリカ、ニュージーランドなどに移入分布する。また、台湾は一度絶滅したものの再導入している。

人間との関係

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日本列島では、後期更新世旧石器時代)に人類が列島に到達して以降に多くの大型動物が絶滅しておりヤベオオツノジカヘラジカトナカイ[27]、カトウキヨマサジカ、ニホンムカシジカ、アキヨシムカシジカ、カズサジカ、ナツメジカ、リュウキュウジカミヤコノロジカ[28]リュウキュウムカシキョンも消え去った動物相にふくまれている[29][30]。ニホンジカ(およびエゾシカやマゲシカなどの各亜種または地域個体群)は、この大量絶滅を生き延びて日本列島に現在も自然分布している唯一のシカである。

象徴

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聖獣とされ、奈良県の春日大社、茨城県の鹿島神宮、静岡県の北口本宮冨士浅間神社のような古い神社で現代でも神鹿が飼われているのは日本人と鹿狩りの古い関わりの名残りである。

日本ではイノシシとシカでは扱いに差があることがしばしば指摘されている。縄文時代の遺跡を発掘すると、イノシシを模した土器はしばしば出土するのに対し、シカを模したものは殆ど出てこない。逆に弥生時代になると、銅鐸に描かれる絵にシカらしき動物がしばしば登場するが、この絵にはイノシシが非常に少ない。その後の古墳時代においてもシカは形象埴輪のモチーフとなっている。イノシシは水田をよく荒らす習性があるために、日本で稲作が広まるとともに扱いが下がっていったのではないかなどと推測されている。

北海道ではイノシシが自然分布しないため、シカが主要な狩猟対象獣であったと考えられている。アイヌも同様にシカ(エゾシカ)はイヨマンテなどの儀礼に使用されず、また、シカの神(カムイ)そのものも存在しないと言われている。宗谷地方などエゾシカが稀な地域を除き、シカは単なる食料の対象であったと見られている(宗谷地方でのシカの扱いについては、更科源蔵の著作でも言及されている)。他方で伝承に措いては“ユカッテカムイ”即ちシカを支配する神が居て、その神がシカの骨を地上にばら撒く、或いはシカの魂が入った袋の口を緩める事で数多くのシカが地上に齎される、或いは捕らえたシカを粗末に扱う等のタブーを犯すとこの神の逆鱗に触れ、シカが地上に齎されなくなる、などの描写が多く確認できる。2007年(平成19年)、厚真町ニタップナイ遺跡の発掘調査において6㎡の範囲に25頭の上顎頭骨が見つかり、17世紀中葉のシカ送り儀礼の痕跡が確認されている。

食用

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肉は食用にできるが流通している牛肉豚肉に比べるとやや臭く、イノシシ肉以上に好き嫌いが分かれる。豚の雄臭(英:boar taint)など、他の獣肉でもしばしば言われることだが、シカも一般に雌のほうが臭くなく美味とされることが多い。また、通常狩猟によって得られた個体であるので、止め刺しから血抜き、内蔵の処理、冷却などの一連の処理を手早く正確にできるかどうかという狩猟者の腕にも左右される。臭みの原因の一つが保存中の脂の酸化であり、雄シカを用いた試験では空気を遮断する脱気包装を行うことで臭みが抑えられた[31]

不完全な加熱を含む生食は、E型肝炎や腸管出血性大腸菌症の食中毒のリスクがあるほか、寄生虫による感染も知られている[32]

縄文時代の遺跡から発見された頭蓋骨や他の骨の観察では、酷く損傷しているものがあり、脳や骨の髄まで食べていたのではないかと見られている。江戸時代は表向き肉食を禁じていたが、ももんじ屋という獣肉専門店があったという。

アイヌは肉塊を軽く湯通しした後に薄く切り、囲炉裏の上で数日間燻して燻製にすることで保存食としても活用していた。

薬用

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生え始めのビロード状の皮膚に覆われた角(袋角)が漢方薬として利用されることもある[1]。日本では医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に基づき、ロクジョウ(鹿茸)の起源動物としてシベリアジカ(ウスリージカ)とマンシュウジカが厚生労働省の定める原材料リストに記載されている[33]。農作物を食害する、植生を破壊する害獣とみなされることもある[34]

民間信仰としてシカの体内に埋まっている鹿玉を集めると金持ちになる。シカの胎児の黒焼きを食べると産後の回復が早いなどがあるという[35]

獣害

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農林水産省がまとめた2022年(令和4年)度の鳥獣による日本の農業被害額は165億円である。動物別ではシカが65億円で首位、次いでイノシシが36億円と続く。イノシシの被害額は獣害全体の比率から見ると減少傾向を示すのに対し、シカは増加傾向を示している。都道府県別の被害額では、北海道が47億6千万円と圧倒的に多く、次いで岩手県が2億7千万円、長野県と兵庫県が1億2千万円前後で続く。作物別では飼料用作物が24憶8千万円で最も多く、次いで野菜10億円、イネ9億7千万円、果樹5億円、工芸作物4億3千万円、マメ類3億9千万円、芋類3億4千万円とまんべんなく被害が出ている。穀物類を好み、イノシシが好むイネを除けば飼料用作物、麦類、雑穀類の加害動物はシカが圧倒的に多い[36]

シカは森林・林業への被害が大きいことも特徴の一つである。苗木を食べたり樹皮を剥いだりして商品価値を落としたり木を枯らすほか、下草を食べ尽くすことにより保水力や土壌の緊縛力を低下させ山地災害を招くことがある。 2024年(令和6年)7月1日滋賀県伊吹山山麓で発生した土石流災害は、集中豪雨とシカの食害により植生が衰退していたことが原因と見られている[37]

シカが人間を攻撃することで死傷することがある。2024年(令和6年)10月9日京都府福知山市で、シカの角で胸部を刺されて死亡した男性が発見された[38]

狩猟

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過去には日本では1870年代 - 1940年代の乱獲により生息数が激減・分布域が分断化したが、1947年(昭和22年) - 1994年(平成6年)に主にメスの狩猟を厳重に規制する保護政策をとったことで生息数・分布域が増加した[39]。日本国内での国土に対する分布域の割合は1945年(昭和20年)は10 %以下、1978年(昭和53年)は約25 %、2003年(平成15年)は約40 %、2014年(平成26年)は50 %以上と推定されている[39]。2015年度末の本州以南の推定個体数は約304万頭(90 %信頼区間 約224万 - 456万頭)とされるが、2013年度末の約305万頭(90%信用区間 約194万 - 646万頭)と比較すると減少に転じた可能性があるとされている[34]。日本の環境省農林水産省はニホンジカが急速に増加し生態系や農業等に深刻な被害を与えているとして、2013年(平成25年)よりニホンジカの個体数を2023年令和5年)までに半減させる10年計画を定め、2014年(平成26年)から都道府県に捕獲を支援する交付金を与えた[40]

工芸品

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角及び毛皮は利用できる。縄文人は鹿の角を削り出し釣り針を作った。

歌謡

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日本では和歌としても詠まれた。季語としては秋である[41]。「鳴く」というのがよく出てくるが、実際に秋のシカは繁殖期で雄はよく鳴く。鳴かない雌は女鹿(めが)としてしばしば区別されており、歌に詠まれることも少ない。

  • 奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき(猿丸大夫) 『小倉百人一首』(『古今和歌集』ではこの歌は「詠み人知らず」となっている)
  • 下紅葉 かつ散る山の 夕時雨 濡れてやひとり 鹿の鳴くらむ(藤原家隆) 『新古今和歌集
  • 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる(藤原俊成) 『千載和歌集
  • 『鹿の遠音』(しかのとおね) 琴古流尺八の古典本曲として有名な曲。江戸時代より伝わる。深山に遠く響き渡る鹿の鳴き声をモチーフとしている。「連管」と呼ばれる二重奏でも奏され、この場合二つのパートが牡鹿と雌鹿に分かれ、互いに鳴き交わす様を表現するという。
  • 『秋の曲』(あきのきょく) 箏曲。幕末に活躍した 吉沢検校作曲。歌詞として古今和歌集から六首を採るが、中に「山里は 秋こそことにわびしけれ 鹿の鳴く音に目を覚ましつつ」があり、箏で鹿の鳴き声を描写した奏法が用いられている。

花札にもこの場面が描かれており、十月の札には紅葉の木の側で雌鹿を恋慕って鳴いている雄鹿が描かれている。鹿は雌雄の結束が強いために、この絵図には男女の仲と開運の願いが込められている。花札における「」「紅葉に鹿」「牡丹」の三札は合わせて、猪鹿蝶(いのしかちょう)と呼ばれて、縁起が良い代名詞になっている。また無視することをしかとというのは花札での十月の鹿(鹿十 - シカトウ)が横を向いていることに由来する。

占い

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古代日本で行われていた占いの一つに太占(ふとまに)があり、古事記日本書紀にその記述がある。この占いでは鹿の骨(卜骨 - ぼっこつ)を用いることが多く、鹿卜(かぼく)とも呼ばれる。具体的には鹿の肩甲骨(少数ながら肋骨や寛骨も)を焼き、その亀裂の形や大きさで吉凶を判断した[42]

関東地方では現在もこの風習が残っている神社があり、一之宮貫前神社群馬県)や武蔵御嶽神社東京都)の二社が知られる。このうち、貫前神社の方は「貫前神社の鹿占習俗」として1980年に無形文化財に登録されている。

保護活動

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マゲシカのオスとその後方に見える種子島
マゲシカのオスとその後方に見える種子島(馬毛島から西に望む)。

馬毛島のニホンジカ(マゲシカ)は日本の環境省によれば絶滅のおそれのある地域個体群[43]。森林伐採による生息地の破壊により生息数は減少している[44]。馬毛島は以前は国の鳥獣保護区だったが、後に鹿児島県の鳥獣保護区となっている[44]2000年(平成12年)における生息数は571頭、2010年(平成22年) - 2011年(平成23年)における生息数は255 - 277頭と推定されている[44]

分類学上の位置づけ

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タイワンジカ
Cervus nippon taiouanus
(動画) ヤクシカ

2006年平成18年)には南日本の個体群のみを種C. nipponに残し、大陸の個体群をC. hortulorum、台湾の個体群をC. taiouanus北海道を含む北日本の個体群をC. yesoensisの4種に分割する説が提唱された[1]2015年(平成27年)現在IUCNでは種の分割を認めず、12亜種(基亜種と亜種ツシマジカ。以下に英名のある10亜種)のみを認めている[1]

ミトコンドリアDNAの分子系統解析では日本の個体群は北海道から兵庫県にかけての系統と、対馬屋久島なども含めて兵庫県から西の系統に分かれるという推定結果が得られている[6]

以下の亜種の分類はGrrub (2005) に[4]、分布・和名は三浦 (1986) に[5]、英名はIUCN (2016) に従う[1]。ただし、基亜種の命名者についてはFeldhamer (1980)・谷戸ら (2022) に従った[2][3]

Cervus nippon nippon Temminck, 1836 キュウシュウジカ
日本四国九州など)
Cervus nippon aplodontus (Heude, 1884) North Honshu sika
日本(本州)。模式産地はnorth of Tokyo[2]
ホンシュウジカC. n. centralis(模式産地は日光)はシノニムとされる[2]
Cervus nippon grassianus (Heude, 1884) シャンシージカ Shansi sika(絶滅亜種[1][7]
中華人民共和国陝西省
Cervus nippon hortulorum Swinhoe, 1864 ウスリージカ
ウスリー地方。模式産地は頤和園[2]
Cervus nippon keramae (Kuroda, 1924) ケラマジカ Kerama sika, Ryukyu sika
日本(慶良間列島)。江戸時代に九州から移入された[7]
Cervus nippon kopschi Swinhoe, 1873 コプシュジカ、チャンシージカ Kopschi sika, South China sika
中華人民共和国南東部。
Cervus nippon mageshimae Kuroda & Okada, 1950 マゲシカ
マゲシカの群れ
マゲシカの群れ(鹿児島県 馬毛島)。
日本(馬毛島[44]
2個体を基に記載されたが、種子島の個体群を含んだり分類上の位置は明確でない[44]
Cervus nippon mandarinus Milne-Edwards, 1874 ネッカジカ North China sika(絶滅亜種[1][7]
中華人民共和国(河北省山東省山東省
Cervus nippon mantchuricus Swinhoe, 1864 マンシュウジカ Manchurian sika(野生絶滅亜種[7]
中華人民共和国北東部、朝鮮半島。模式産地は満州[2]
Cervus nippon pseudaxis Gervais, 1841 ベトナムジカ Tonkin sika, Viet Namese sika
ベトナム
Cervus nippon pulchellus Imaizumi, 1970 ツシマジカ
日本(対馬)。絶滅したニホンムカシジカに似る[45]
Cervus nippon sichuanicus Guo, Chen & Wang, 1978 Sichuan sika
Cervus nippon soloensis (Heude, 1888)
Cervus nippon taiouanus Blyth, 1860 タイワンジカ、ハナジカ Formosan sika, Taiwan sika(野生絶滅亜種[7]
台湾。模式産地は台湾[2]
成獣でも周年白い斑点が入る。
Cervus nippon yakushimae Kuroda & Okada, 1950 ヤクシカ
日本(屋久島
Cervus nippon yesoensis (Heude, 1884) エゾシカ Hokkaido sika
日本(北海道)。模式産地は蝦夷。

日本のニホンジカ

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エゾシカの雄
エゾシカ(北海道阿寒湖畔)
キュウシュウシカの母子(鹿児島県)

日本国内に棲息するニホンジカはエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、マゲシカ、ヤクシカケラマジカ、ツシマジカの7つの地域亜種に分類される。

一方、日本列島のニホンジカが分子系統学的に大きく南北2つのグループ-南日本グループ(九州および周辺島嶼個体群、四国西部、 山口県)と北日本グループ(四国東部、兵庫県以東、 北海道)-に分けられ、両者間の遺伝的距離がユーラシア大陸のニホンジカと同等に離れている、との説もある[46]

北の方のものほど体が大きい(ベルクマンの法則参照)。南西諸島の3亜種は特に小型であり、オスの体重で比較するとエゾジカの140 kgに対してマゲジカとヤクシカで40 kg、ケラマジカでは30 kgである。

  • エゾシカ(エゾジカ)(亜種) C.n.yesoensis 【北海道/日本固有亜種】
  • ホンシュウジカ(亜種) C.n.centralis本州/日本固有亜種】
奈良(奈良県奈良市一円)のシカは天然記念物。分子遺伝学的に異なる南北二つのグループが中国地方でオーバーラップしていることが近年明らかになった。
  • キュウシュウジカ(亜種) C.n.nippon四国、九州/日本固有亜種】
江戸時代にヨーロッパで分類に使用された亜種であるため、亜種名が「nippon」(基亜種)になっている。
  • ツシマジカ(亜種) C.n.pulchellus対馬/日本固有亜種】
独立種とする説もあったが、分子遺伝学的にホンシュウジカ(中国地方産)に極めて近いことがわかり、近年は亜種としない記述も多い。
馬毛島(まげしま)は、種子島の沖に位置する小島。10世紀の生息(狩猟)記録があり、少なくとも1000年以上にわたり小島で維持されてきたと考えられる。島全体を私企業が所有し、唯一全く保護策が講じられていないニホンジカ亜種であり、2023年1月より、島全体の大規模開発が進められている[47][48][49][50]
屋久島に12,000 - 16,000頭ほどがいると推定されている[51]。オス成獣の角が4本に枝分かれするキュウシュウジカに対して、ヤクシカは3本が普通である。起源は不明だが、有史以前から自然分布していたと考えられている。近年急激に増加し、世界遺産の島での管理のあり方が問われている。
日本哺乳類学会のレッドリスト1997年(平成9年))では危急亜種だが、環境省のレッドリストには記載されていない。ケラマジカおよびその生息地は天然記念物。江戸時代の移入個体の末裔であることが古文書などから明らかとなり、その保全のあり方が注目される。

これらのほかにタイワンジカ(C.n.taiouanus)が日本でも観光用に移入され、和歌山県友ヶ島などで野生化。本土に渡って在来亜種と交雑することが危惧されている。

瀬戸内海の 島々にはかつてはその多くにシカが棲んでいたと考えられるが、現在では淡路島鹿久居島小豆島因島生口島宮島の6島のみであり、鹿久居島因島などでは絶滅寸前とも言われる。大三島のシカはミカン栽培のために山が切り開かれた際に絶滅し、1964年昭和39年)を最後の記録とする。

名前

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シカを意味する日本語には、現在一般に使われる「しか」のほかに、「」、「かのしし」、「しし」などがある。

地名などの当て字や、「鹿の子(かのこ)」「牝鹿(めか)」などの語に残るように、古くは「」の一音でシカを意味していた。

一方、古くからの日本語で肉を意味する語に「しし」(肉、宍)があり[注釈 1]、この語はまた「肉になる(狩猟の対象となる)動物」の意味でも用いられたが、具体的にはそれは、おもに「」=シカや「」=イノシシのことであった。 後に「か」「ゐ」といった単音語は廃れ、これらを指す場合には「しし」を添えて「かのしし」「ゐのしし」と呼ぶようになった[注釈 2]が、「かのしし」の方は廃語となって現在に至っている。 さらに、「鹿威し(ししおどし)」「鹿踊り(ししおどり)」にあるように、おそらくある時期以降、「しし」のみでシカを指す用法が存在している。

こうした一方で、「しか」という語も万葉集の時代から存在した。語源については定説がないが、「か」音は前述の「」に求めるのが一般的である。一説に「せか」(「せ」(兄、夫)+「か」)の転訛と考え、もと「雄鹿」の意味であったとも、また、「しし」+「か」の変化したものかともいう。

同一の語が“けもの”を意味したり“シカ”を意味したりする現象は他の言語にも見られる。たとえば英語: deer に連なる古英語: dēor は元来“けもの”の意であったことが知られている(同源のドイツ語: Tierは現在でも"動物"の意味)。サンスクリットでも同様の現象があったという。こうした語義のゆれや変遷には多くの場合、シカが最も狩りやすく人間にとって身近な動物であったことが関係していたと考えられている。

中国語名は梅花鹿中国語版、台湾では花鹿中国語版と呼称される[7]。英名はSika(サイカ)と発音される[7]

脚注

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注釈

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  1. ^ 外来語である「獅子」とは別語。
  2. ^ ほかに、カモシカは「あおじし」であり、ウシは「たじし」などとも呼ばれた。

出典

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  1. ^ a b c d e f g Harris, R.B. 2015. Cervus nippon. The IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T41788A22155877. doi:10.2305/IUCN.UK.2015-2.RLTS.T41788A22155877.en. Downloaded on 06 September 2017.
  2. ^ a b c d e f g h George A. Feldhamer, "Cervus nippon," Mammalian Species, No. 128, American Society of Mammalogists, 1980, pp. 1-7.
  3. ^ a b 谷戸崇・岡部晋也・池田悠吾・本川雅治Illustrated Checklist of the Mammals of the Worldにおける日本産哺乳類の種分類の検討」『タクサ:日本動物分類学会誌』第53巻(号)、日本動物分類学会、2022年、31-47頁。
  4. ^ a b c Peter Grubb, "Cervus nippon,". Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 1, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, pp. 663-664.
  5. ^ a b c d e f g h 三浦慎悟 「ニホンジカ」『動物大百科 4 大型草食獣』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、90-93頁。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n 三浦慎悟 「ニホンジカ」『日本の哺乳類【改訂2版】』阿部永監修、東海大学出版会、2008年、110-111頁。
  7. ^ a b c d e f g h 大泰司紀之ニホンジカにおける分類・分布・地理的変異の概要」『哺乳類科学』第26巻 2号、日本哺乳類学会、1986年、13-17頁。
  8. ^ 『エゾシカは森の幸 人・森・シカの共生』p.63
  9. ^ Sika Deer: Biology and Management of Native and Introduced Populations. Springer Science & Business Media. (2008). pp. 28 
  10. ^ 高橋聖生・東出大志・藤田昌弘・米田政明 (2012) 岩手県北上高地における自動撮影によるニホンジカ(Cervus nippon)の日周活動性の推定. 哺乳類科学 52(2), p.193-197. doi:10.11238/mammalianscience.52.193
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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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