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ビショップ (Bishop、♗♝)は、チェスの駒の一種。僧正(もしくは象)を表す。
英語のビショップはキリスト教の聖職者である「僧正」を意味する[1]。駒の形が司教冠に似ているためであろうという[2]。
この駒は、サンスクリットでハスティン[3][4]、ペルシア語でピールと呼ばれ[5]、いずれもゾウを意味した。アラビア語はペルシア語を借用してフィールと呼んだ。現在のスペイン語の名称 alfil はアラビア語の借用である。また、ロシア語の слон スローン もゾウを意味する。シャンチーでも「象」と呼ばれる。ただし、現在のヒンディー語で हाथी ハーティー(ゾウ)と呼ばれるのはルークであり、ビショップは ऊँट ウント(ラクダ)と呼ぶ[3]。
他の西洋の言語ではさまざまな名称で呼ばれる。ドイツ語 Läufer(走者)・イタリア語 alfiere(副官)・フランス語 fou(道化)など。
インドでのこの駒の動きには、以下のいくつかの変種があったが、いずれも現在のビショップとは異なっていた[3]。
- 斜めに2歩ずつ動く(シャンチーの「象」に類似)
- 縦横に2歩ずつ動く
- 斜めまたは前に1歩ずつ動く(将棋の銀将の動き)
このうち第一のものがアラビアや西洋に伝えられた。現在のビショップの動きは15世紀末の文献に見られる[6]。ビショップはクイーンと並んで、西洋で大きく動きの変更された駒になった。
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
ビショップの初期配置
白ビショップはc1とf1、黒ビショップはc8とf8に配置する。
- 棋譜上ではBで表される。
- 白側にも黒側にも、白マスのビショップと黒マスのビショップがある[7]。
- 動きの基本
- ビショップは斜め方向に何マスでも移動できる。
- 白マスのビショップと黒マスのビショップの動き方は、全く同じである。
- しかし(その性質上)この2つが同じ色のマスに移動する事は絶対にない。
ビショップの動き方1
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
白マスのビショップの動き
ビショップの動き方2
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
黒マスのビショップの動き
- 図1 : 移動できるマスに敵の駒がある場合、その駒を取る事ができる。取った後は、その駒があったマスに移動する。
- 図2 : 味方の駒がいるマスには移動できない。
- 図3 : (敵味方に関係なく)他の駒を飛び越える事はできない。
図1
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
敵の駒を取って、そのマスに移動できる。
図2
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
味方のいるマスには移動できない。
図3
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
他の駒を飛び越える事はできない。
|
キング |
クイーン |
ルーク |
ビショップ |
ナイト |
ポーン
|
駒の価値
|
∞(無限大) |
9 |
5 |
3 |
3 |
1
|
- この評価は一般的なものであり、絶対的なものではない。チェスの局面によって駒の価値は変動する。
- ビショップが2個ともある場合の価値は、3+3=6より大きい。
- ビショップは「小駒」と呼ばれている[8]。
- ビショップは他の駒とは異なり、(何手かけても)チェスボードの半分しか移動する事ができない。白マスのビショップは白マスだけに、黒マスのビショップは黒マスだけに移動する。ポーンのアンダープロモーションによって新たにビショップが発生しない限り、同じ色のマスにビショップが2個(以上)存在することは決してない。その意味で、初期配置では「ビショップという同じ駒が2個ある」というよりも「(動きは同一ながら)白マスのビショップと黒マスのビショップという別々の駒が1個ずつある」と考えたほうがよい[要出典]。
- ビショップ特有の用語としては、「グッド・ビショップ」と「バッド・ビショップ」がある[9]。
- グッド・ビショップ: 自分と同じマスの色の味方のポーンに邪魔されず、行動範囲が広いビショップ。
- バッド・ビショップ: 自分と同じマスの色の味方のポーンに邪魔されて、身動きが取りにくいビショップ。
グッド・ビショップの例
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
d5の白ビショップが、良く働いている。次にRe7とすれば、ほぼ白勝ち。
バッド・ビショップの例
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
8 | | 8 |
7 | 7 |
6 | 6 |
5 | 5 |
4 | 4 |
3 | 3 |
2 | 2 |
1 | 1 |
| a | b | c | d | e | f | g | h | |
白は圧倒的に駒得しているが、これでは勝つ事ができない。
- ^ カトリック教会では司教、正教会や聖公会では主教と訳す。
- ^ Fergus Duniho; Hans Bodlaender (2001年12月15日). “Piececlopedia: Bishop”. chessvariants.org. 2015年8月9日閲覧。
- ^ a b c “Indian Chess Sets”. History of Chess (2012年10月1日). 2015年8月9日閲覧。
- ^ hasty と書かれているのは母音に続くときの形
- ^ Jean-Louis Cazaux (2009年12月28日). “Chatrang or Chaturanga, the oldest Chess”. History of Chess. 2015年8月9日閲覧。
- ^ 増川宏一『チェス』法政大学出版社〈ものと人間の文化史 110〉、2003年、104ff頁。
- ^ 厳密に表現すれば、明色マスのビショップ(light square bishop)と暗色マスのビショップ(dark square bishop)になる。
- ^ 英語ではマイナー・ピース(minor piece)、またはライト・ピース(light piece)となる。
- ^ それぞれの用語を、「優良ビショップ」「不良ビショップ」と訳している文献もある。
『チェス戦略大全 Ⅰ』 ルディック・パッハマン 小笠誠一 訳 評言社 ISBN 978-4-8282-0534-2
- チェス用語一覧
- 角行 - 駒の動きが同じで、英語でもBishopと訳される。
- 銀将 - 駒の動きは異なるが、起源の上ではこちらがビショップに対応する。
- アルフィル - ビショップの元になった駒